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eGFRは心臓突然死のリスク予測因子

 推算糸球体濾過値(eGFR)は、心不全患者の心臓突然死の独立予測因子であり、リスク予測において左室駆出率(LVEF)にeGFRを追加することが有用であるという研究結果が発表された。藤田医科大学ばんたね病院循環器内科の祖父江嘉洋氏らが行った前向き研究の成果であり、「ESC Heart Failure」に6月10日掲載された。 心不全患者の心臓突然死の予防において、LVEFおよびNYHA心機能分類に基づき植込み型除細動器(ICD)の適応が考慮される。ただ、軽度から中等度の慢性腎臓病(CKD)を有する患者に対するICDの有用性に関して、これまでの研究の結果は一貫していない。そこで著者らは今回、心臓突然死における腎機能の役割を検討するため、2008年1月から2015年12月に非代償性心不全で入院したNYHA分類II~III度の患者を対象として、心臓突然死の発生を追跡し、心臓突然死の予測因子を検討する前向き研究を行った。 入院中に死亡した患者や透析患者などを除外した結果、解析対象患者は1,676人だった。対象患者の平均年齢は74±13歳、男性の割合は56%で、平均LVEFは40±15%、ほとんどの患者(87%)は退院時のNYHA分類がII度だった。 追跡期間中央値25カ月(四分位範囲4~70カ月)の間に、198人(11.8%)が心臓突然死により死亡した。退院から心臓突然死までの期間の中央値は17カ月であり、退院後3カ月以内の心臓突然死が23%を占めた。心臓突然死患者は生存患者と比較して、若年、男性、糖尿病、脂質異常症、虚血性心疾患の有病割合が高い、QRS時間が長い、LVEFが低い、抗血小板薬やアミオダロンの使用率が高いといった特徴が認められた。 対象患者のうち、eGFR(mL/分/1.73m2)によるCKDステージ1(eGFR 90以上)の人は122人(7.3%)、ステージ2(eGFR 60~89)は337人(20.1%)、ステージ3(eGFR 30~59)は793人(47.3%)、ステージ4(eGFR 30未満)は424人(25.3%)だった。また、ステージ1の人のうち死因が心臓突然死だった人の割合は6%、ステージ2では33%、ステージ3は24%、ステージ4は23%だった。 患者の臨床背景を調整して多変量Cox比例ハザード回帰分析を行った結果、心臓突然死の独立予測因子として、男性(ハザード比1.61、95%信頼区間1.03~2.53)、eGFR 30未満(同1.73、1.11~2.70)、LVEF 35%以下(同2.31、1.47~3.66)が抽出された。心臓突然死の予測モデルにおいて、LVEFにeGFRを追加することで心臓突然死の予測能は有意に向上した。このeGFRの予測能は、2年間で時間依存的に低下した。 今回の研究の結論として著者らは、「NYHA分類II~III度の心不全患者において、心臓突然死の予測能はeGFR 30未満を加えることで改善した」としている。また、患者の4分の1が退院後3カ月以内に心臓突然死を発症していたことに言及し、退院後3カ月間は着用型自動除細動器(WCD)を用いた介入が有効である可能性があると述べている。

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“記憶のための薬”で治療してほしい【こんなときどうする?高齢者診療】第3回

老年医学の型「5つのM」で診察をするときに、「認知機能」は1つ目のMとして重要な項目です。皆さんもこんなケースに出合っていませんか?80歳男性。他院で軽度認知機能障害(MCI)と診断されている。2年前に受けた画像検査で「全体的な脳萎縮と脳室周囲白質に中等度の高信号」が認められている。日常生活動作(IADL)のうち、とくに金銭や自分の内服薬をマネジメントすることがより困難になり、妻とともにサービス付き高齢者住宅への転居を検討中。持病は高血圧、高脂血症。“記憶のための薬”で治療できるか知りたいと来院。認知機能に関して、治療薬に期待する患者や家族は少なくありません。患者の疑問に答える前に、軽度認知機能障害と認知症の違いを押さえておきましょう。軽度認知障害:約10%が認知症に移行軽度認知機能障害(Mild Cognitive Impairment)は、以前と比べて認知機能の低下がある状態を指します。具体的には、本人・家族から認知機能低下の訴えがあるものの、日常生活機能はほぼ正常で、ADLは自立しており、認知症ではないものとされています。1)MCIの段階から認知機能の維持や回復が見込める場合もありますが、1年の間にMCI患者の約10%、10人に1人は認知機能障害が進行し、認知症に移行する2)ことは疫学的に重要な視点です。認知症:進行性かつ不可逆。いずれ死に至る病認知症の診断基準はDSM-5に譲り3)、認知症患者を診るときに役立つ3つの特徴を押さえておきましょう。まず、認知症は物忘れとイコールではありません。記憶障害のみならず、注意、言語、時間や空間の認知、他人の感情を察知する能力など多岐にわたる認知機能に障害が出現します。2つ目に、認知症は進行性です。“子どもの成長の逆回し”と捉えるとわかりやすいでしょう。子どもは成長とともに日常生活の中で1人でできることが増えていきますが、認知症ではできないことが増えていきます。誰かのためにしていた仕事や家事、次に金銭や薬の管理といった日々の活動、続いて入浴や衣服の着脱など自分の身の回りのことと、サポートが必要となることが増えていき、最終的には食事を口に運ぶことや、嚥下や排泄などの生きるために最低限必要なことが、1人でできなくなっていくプロセスです。3つ目に、認知症は不可逆でいずれ死に至る病です。現在のところ薬剤や非薬剤的な介入で認知機能障害の進行を緩徐にすることはできても、根本的に認知症を治すことはできません。薬の効果は限定的。ではどうするか?薬を使うかどうかに関わらず、老年医学の型「5つのM」を用いて、現状を俯瞰してみましょう。Matters Most(本人が困っていること、大切にしていること、心配なことなど)に注目し、詳しく話を聞いてみることがよいきっかけになります。薬への期待以上によい介入をするためには、患者が何に困っているか、何が心配なのかなどの解像度を上げることが重要です。そのヒントは、認知症は「認知機能が働きにくくなったために生活上の問題が生じ、暮らしにくくなっている状態」4)と捉えることです。この表現の引用元である「認知症世界の歩き方」は医学書ではありませんが、認知症患者がどのような生活をしているか具体的にわかりやすく描かれています。私自身も読んでみて、患者の生活をより想像しやすくなり、診療・ケアがしやすくなるヒントがたくさんちりばめられていた、おすすめの一冊です。認知症、MCIいずれであっても、 “暮らしにくくなっていること”に注目すると、その原因や本人と家族が困っていることを想像しやすくなります。ここをスタート地点に介入やサポートの方法を探ると、薬剤投与以外にできることが見えやすくなります。このようなケースでも5つのMを活用してみてください!おすすめ図書認知症世界の歩き方 筧裕介 ライツ社.2021参考1)厚生労働省.生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット.2)M Bruscoli, et al. Int Psychogeriatr. 2004 Jun;16(2):129-140.3)American Psychiatric Association. Diagnosticand statistical manual of mental disorders, Fifth Editon.DSM-5 Arlington, VA. American Psychiatric Association. 20134)筧裕介.認知症世界の歩き方.ライツ社.2021

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超加工食品の食べ過ぎは早死につながる

 超加工食品の摂取量が多いと死亡リスクが高くなることを示すデータが報告された。特に、心臓病や糖尿病に関連した死亡のリスクが顕著に上昇する可能性があるという。米国立がん研究所(NCI)のErikka Loftfield氏らの研究によるもので、結果の詳細は米国栄養学会年次総会(NUTRITION 2024、6月29日~7月2日、シカゴ)で発表された。 この研究では、高齢者を平均23年間追跡し、超加工食品の摂取量の多寡で死亡リスクを比較した。その結果、摂取量により最大約10%のリスク差が観察された。Loftfield氏は、「ホットドッグやソフトドリンク、あるいはソーセージやコールドカット(薄切りにされた肉で通常は成型肉)などの高度に加工された肉類は、死亡リスクと強く関連している。それらの超加工食品を控えることは既に、健康の維持・増進のための推奨事項の一つとなっている」と話す。 超加工食品は、自然食品から抽出した素材を利用し、それに添加糖、着色料、乳化剤、香料、安定剤などのさまざまな添加物を加えることで、味を変えたり保存性を高めたりした食品のこと。例として、砂糖入りのシリアルや、ほとんど手を加えずそのまま食べられるよう高度に加工された食品などが挙げられる。 Loftfield氏らの研究には、50~71歳の54万人以上の人々の食習慣と健康関連データが用いられた。これらのデータは1990年代半ばに収集されたものであり、現在、研究参加者の半数以上は既に死亡している。解析の結果、死亡リスクに影響を及ぼし得る因子を調整後にも、超加工食品の摂取量が最も多い群は、最も少ない群よりも早期に死亡するリスクが高いという関係が見いだされた。特に、心臓病や糖尿病に伴う死亡リスクが超加工食品の摂取量の多いことと強固に関連しており、一方、がんのリスクは超加工食品の摂取量との関連が見られなかった。 Loftfield氏は、「われわれの研究結果は、これまでに報告されてきた、超加工食品の摂取が健康と寿命に悪影響を与えることを示す疫学研究のエビデンスを、より強固にするものと言えるだろう」と述べている。過去の研究の一例としては、昨年「Advances in Nutrition」に掲載された、システマティックレビューとメタ解析の報告があり、その研究では超加工食品の摂取量の多さが、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満のリスクと関連していることが明らかにされていた。ただ、Loftfield氏は、「超加工食品がどのような経路で健康リスクをもたらすのかなど、まだ未解明の点が多く残されている」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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チルゼパチドの体重減少作用は東アジア人においても認められた(解説:住谷哲氏)

 2型糖尿病を合併していない肥満患者におけるチルゼパチドの体重減少作用については、すでにSURMOUNT-1研究で報告されている1)。しかしその対象患者のほとんどは欧米人で、平均BMIも38.0kg/m2であり、そこまで肥満の強くない日本人を含む東アジア人でのチルゼパチドの有効性は明らかではなかった。一方、中国では2030年には人口の約70%、8億人が肥満または過体重になると予測されており、肥満患者の増加が重大な健康問題となっている(中国ではBMI 28kg/m2以上が肥満、24kg/m2以上が過体重と定義されている2))。そこで本研究では、東アジア人である中国人におけるチルゼパチドの体重減少作用が検討された。 本研究ではBMI 28kg/m2以上または24kg/m2以上で体重に関連する疾患(高血圧症、脂質異常症、心血管病など)を有する患者を対象として、チルゼパチド10mgまたは15mgの体重減少作用が検討された。平均BMIは32.3kg/m2であった。その結果は、15mg投与群において試験終了時の体重減少率は17.5%であり、85.8%の患者に5%以上の体重減少が認められた。有害事象についてもこれまでの報告と同じく、ほとんどが消化器症状であった。 予想どおりの結果ではあるが、東アジア人でも欧米人と同様の結果が得られたことには意義がある。現在わが国でチルゼパチドの適応は2型糖尿病患者のみであるが、米国では抗肥満薬「Zepbound」としてすでに使用されている。体重減少にはカロリー制限が王道であるが、現実にはそれだけでは5%の体重減少を達成できないことが多い。チルゼパチドが抗肥満薬としてわが国でも承認されることが期待される。

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anemia(貧血)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第8回

言葉の由来貧血は英語で“anemia”といい、「アニィーミア」のように発音します。これはギリシャ語の“anaimia”に由来しています。単語の成り立ちは、「否定」を表す接頭辞である“an”と、「血液の状態または血液中に“あるもの”が多量に存在すること」を意味する接尾辞の“-emia”がくっついてできたもので、「血液がない状態」を表します。医学用語の多くは接頭辞と接尾辞を含んでおり、これらを知っておくと英語の医学用語を覚えたり理解したりすることがぐっとラクになります。たとえば、否定を表す接頭辞の“a-”や“an-”を使った医学に関連する用語としては以下のようなものがあります。aplastic無形成性の(例:aplastic anemia 再生不良性貧血)anoxic無酸素症の(例:anoxic brain injury 低酸素脳症)asymptomatic無症候性の(例:asymptomatic bacteriuria 無症候性細菌尿)atypical非定型の(例:atypical pneumonia 非定型肺炎)また、接尾辞の“-emia”を使った用語の例として、以下のようなものがあります。hyperlipidemia脂質異常症bacteremia菌血症hyperuricemia高尿酸血症hyperbilirubinemia高ビリルビン血症このように、1つの単語の接頭辞や接尾辞を意識して勉強することで、芋づる式に多くの単語を覚えることができ、新しい英単語を見たときにも意味が理解しやすくなります。さらに多くの接頭辞や接尾辞を勉強したいという方は、ウエストフロリダ大学のウェブサイトに医学用語に関連した接頭辞や接尾辞が詳しくまとまっており、参考になるでしょう。併せて覚えよう! 周辺単語多血症polycythemia白血球減少leukopenia血小板減少thrombocytopenia白血球増多症leukocytosis血小板増多症thrombocytosisこの病気、英語で説明できますか?Anemia is a condition where the body lacks enough healthy red blood cells or hemoglobin to carry adequate oxygen to the body's tissues. Red blood cells contain hemoglobin, an iron-rich protein that binds to oxygen and transports it from the lungs to all other organs and tissues in the body.講師紹介

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重要性を増すゲノム診療科、その将来ビジョン/日本動脈硬化学会

 2023年に議員立法として成立した“良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律”、通称「ゲノム医療推進法」。詳細についての議論はこれから進んでいく模様だが、循環器領域においては、2022年度の診療報酬改定により動脈硬化に関連する難病への遺伝学的検査の対象疾患が拡大され、4疾患(家族性高コレステロール血症、原発性高カイロミクロン血症、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症1[ホモ接合体])の遺伝学的検査を含む複数の脂質異常症疾患が保険適用された。 そこで今回、厚生労働省のゲノム医療推進法基本計画ワーキンググループ委員である吉田 雅幸氏(東京医科歯科大学遺伝子診療科 科長/日本動脈硬化学会副理事長)が『我が国におけるゲノム医療と動脈硬化性疾患の遺伝子診断』と題し、遺伝子診断で直面する課題や将来展望について、プレスセミナーで話をした(主催:日本動脈硬化学会)。遺伝診断の将来ビジョン もしも、自分の家族が遺伝性大腸がんや遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)、希少な遺伝性疾患に罹患したら、ご自身の遺伝子検査をどの施設で受けられるかご存じだろうか。あるいは患者から遺伝子検査の相談を受けたら、紹介先などを即答できるだろうか-。一般的に遺伝性疾患の多くは原因不明で、仮に遺伝子疾患が疑われても患者はどこの病院や診療科へ受診するのが適切なのかわからないことが多い。吉田氏は「ゲノム医療の現場で生じている診断・治療に至る長い道のり“Diagnostic Odessey”に多くの時間を費やすのは、原因不明な希少疾患や未診断疾患で苦しむ患者やその家族。そのうえ、患者側が遺伝子診断の可能な施設を見つける手立てもない」と述べ、遺伝専門医にすぐにたどり着けない現状が希少疾患や難病などの早期診断・治療の足かせになっているとして問題提起した。 現在、政府が主導となりゲノム医療等実現推進協議会からタスクフォースを設置し、オールジャパン体制の下でゲノム医療の社会実装のために10万人の全ゲノムを解析して医療へ応用させることを目的とした「全ゲノム解析等実行計画2022」プロジェクトが進められている。策定計画によると、“全ゲノム解析等を実施し、解析結果の日常診療への導入による患者への還元をはじめ、質の高い情報基盤を構築することで、がん・難病などの克服に繋げていくこと”が狙いである。その一方で、100万人規模のゲノム解析研究を目指す英国などの諸外国と水準をそろえていくこと、ゲノム医療の社会実装には、患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI)や倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)の推進も併せて望まれるため、法令上の措置を含めた具体的な方策が必要とされている。患者-医療者双方のため、遺伝子検査の実績を可視化させよう このプロジェクトを実装していくためには、国民のゲノム医療へのアクセス確保が急務とされることから、同氏は「▽ゲノム医療の標榜診療科の制定、▽ゲノム医療関連人材の育成、▽患者・市民のゲノム医療・研究への参画」の3つを挙げた。たとえば、昨今の診療報酬点数表に収載されている遺伝性疾患数は、約10年前と比較し191疾患と大幅に増加しているにもかかわらず、ゲノム診療科を標榜する施設の開示がなされていない。同氏は「診療実績を可視化させることでその実績が院内でも周知され、診療科間の連携強化につながる。また、現在では診療報酬の請求からDPCへ反映されるため、そうなればNDB(National Database)におけるゲノム医療の利活用促進にもつながる」と強調した。また、日本動脈硬化学会のホームページに掲載されている『家族性高コレステロール血症(FH)の紹介可能な施設等一覧』では、FHに限られるが、遺伝学的検査の実施有無に関して近隣施設を検索することが可能であるため、「患者に外部施設を紹介する際などに参考になる」ことを説明した。  なお、同氏の所属施設である東京医科歯科大学の場合、遺伝子診療科において内科各科、小児科、外科、腫瘍センター、女性診療科、泌尿器科、耳鼻科が連携を取り、“横串”を通す診療各科横断的な遺伝子診療を実施している。遺伝専門医や認定カウンセラー不足、他県や他施設で補い合う ゲノム医療では、リスクなどがわかるように説明する必要があるため、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー(非医師)による説明が欠かせない。ところが、前者は総医師数(医療施設従事者数:約31万人)のわずか0.53%(1,894人、2024年2月時点)、カウンセラーに至っては389人、5県で不在、9県で1人ずつしか在籍していないという。「このような人材不足をカバーするために、他県や関連病院との連携もさることながら、オンライン診療を駆使していく予定」と説明し、「将来的な治療との結びつきのためにも遺伝子解析は必要。循環器領域でいうPCSK9の遺伝子変異解析がそれにあたるが、エクソソーム解析(全ゲノムの5%)自体が砂金を探すようなプロジェクトとも言えるため、遺伝性疾患に対する治療薬の開発、遺伝学的検査の保険収載が進みつつあるなか、標榜診療科の策定や人材育成が必要となるだろう」とまとめた。

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おいしいスイカの怖い話(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者 最近、血糖が高くて…医師 何か、はまっているものとかありませんか?患者 そうですね…スイカが大好きで、塩を少しだけかけて食べています。医師 なるほど。スイカは水っぽいのであまり血糖が上がらないと思っている人も多いですね。けど、このくらいの1切れで、ごはん半分のカロリー、糖質は20gくらいあるのでコップ1杯のジュースと同じですね。画 いわみせいじ患者 えっ、そうなんですか。3切れ、いやもっと食べていました。塩をかけたら血糖が下がるかと思って…(気づきと勘違い)。医師 ハハハ…塩をかけても糖分の量は変わりません。対比効果で甘くなりますけどね。患者 了解です。スイカの食べ過ぎには気を付けます。ポイントスイカ1切れ(約200g、炭水化物≒20g)でも血糖が上がりやすいことをわかりやすく説明します。Copyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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「生活習慣病管理料」算定に適した指導・効率的な方法は?

 6月の診療報酬改定後もなお話題になっている、生活習慣病に係る医学管理料の見直し。今回の改定では、▽生活習慣病管理料(II)の新設(検査などを包括しない生活習慣病管理料 II[330点、月1回])▽生活習慣病管理料の評価および要件の見直し(療養計画書の簡素化、電子カルテ情報共有サービスの活用など)▽特定疾患療養管理料の見直し(対象疾患から生活習慣病である糖尿病、脂質異常症、高血圧症が除外)といった点が変更された1)。とくに高血圧症などの生活習慣病患者に対し、これまでの特定疾患療養管理料に近い点数を生活習慣病管理料で算定していくためには、療養計画書の作成、診療ガイドラインに基づいた疾患管理、リフィル処方箋に関する掲示、多職種連携推奨…といった要件が多く、今回の改定による医師の負担増は免れない。そこで今回、谷川 朋幸氏(CureAppメディカル統括取締役/聖路加国際病院 医師)は患者を効果的な生活改善へと導き、医師が効率的に療養計画書を作成するために、高血圧治療補助アプリを活用した打開策をCureApp主催メディアセミナーにて紹介した。生活習慣病患者への算定、改訂前より10点減点 これまでも生活習慣病管理料自体は存在していたが、特定疾患療養管理料と違い、療養計画書の作成や患者へ署名を求める点などがハードルとなり、生活習慣病管理料の算定件数割合は特定疾患療養管理料に比してたった数%に留まっていた。それが今回の改定では、政府が“効率的で効果的な疾患管理”を推進するために、従来の療養計画書を簡素化させたり、毎月受診の要件を廃止したりといった歩み寄りをしたうえで、生活習慣病患者の管理料を新たな生活習慣病管理料(I)および(II)へと変更した。その結果、200床未満の施設で生活習慣病管理料を算定する場合、以下のような追加業務が発生することになる。・療養計画書により丁寧な説明を行い、同意を得た証拠として患者から署名をもらうこと・計画書の写しを診療録に添付しておくこと・継続して算定する場合、内容に変更がなくともおおむね4ヵ月に1回以上は計画書を交付すること そして、診療報酬改定後に生活習慣病管理料(II)を算定すると、1診療につき333点(オンライン診療は290点)と改訂前に比べ10点近くもの減点となるため、これまでの生活習慣病患者への算定に対し発生するマイナス部分をどのように補填するかは大きな問題である。ここで谷川氏は「CureApp HT高血圧治療補助アプリ(以下、本アプリ)を活用することで、新設したプログラム医療機器等指導管理料(90点)などを算定2)できるため、むしろプラスに転じることが可能。また、患者さんにとっても指導内容が充実するため、本アプリの活用は医療者・患者さん双方にとって生活習慣病管理料(II)の穴埋め以上の効果をもたらすことができる」と説明した。電カルとの連携、患者の生活習慣見える化とカルテ入力に効果 本アプリに関連するその他のメリットとして、「患者さんに対し、生活習慣病の管理記録を簡単に作成できるツールを提供できると共に、生活習慣の改善(減量・減塩ができる、薄味に慣れるなど)が患者さんのみならず家族にも影響を及ぼし、降圧作用以外のベネフィットとなる」とコメントした。一方で、医師にとっては本アプリと電子カルテを連携させることでカルテ入力の負担軽減につながる点がポイントになる。「生活習慣指導について、内科系医師の86.0%は必須と考える一方で“うまくいっている”と回答したのは39.5%と半数に留まっていた。このギャップが生まれた理由として、患者さんの生活習慣を見える化することができない点が医師らの課題として挙がったが、本アプリを導入している医師らはアプリが生活習慣管理の動機付けにぴったりであり、なおかつ生活習慣の見える化にも有効と回答している」と話した。生活習慣改善の継続に寄り添える だが、生活習慣の改善は口で言うほど実際にその継続は容易ではない。患者が自力で改善させるとなると2人に1人は継続できないという報告3)もあるようだ。このような現状を踏まえ、CureAppは健康的な生活習慣を身に付けながら高血圧治療に取り組むためのプログラム『CureApp HT 血圧チャレンジプログラム』*を6月から新たにスタートさせている。このプログラムを開始するにあたり、患者アプリの情報を基に療養計画書(患者レポート)を作成できる機能を医師側のアプリに実装させており、「これまで敬遠されがちな事務作業の効率化はもちろん、医師の指導内容が可視化されて患者さんにとってもわかりやすいレポートが作成される」と同氏はコメントした。*高血圧治療補助アプリと医師による診察のほか、アプリで入力した取り組み内容を可視化できる患者レポート・療養計画書の同時作成や『血圧チャレンジキット』と称した「みんなのレシピ集(減塩レシピ)」や「CureApp血圧チャレンジプログラム スタートブック」の配布に加え、血圧計購入支援などのカスタマーサポートサービスを受けることができるプログラム4) 最後に谷川氏は、「今回の取り組みが患者さんと医療現場の双方にとって価値のあるものになることを目指している。次回2026年の診療報酬改定に向けて、医療DX推進の流れは強化されるだろう。日常診療により溶け込み、なくてはならないシステムとなるよう進化を続けたい」とも説明した。

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「生活習慣病の療養指導計画」の減量目標の設定にとまどっている患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第47回

■外来NGワード「体重を減らしなさい」(あいまいな設定)「もっと食事に気を付けなさい」(あいまいな食事療法)「間食を止めなさい」(達成不可能な行動目標の設定)■解説2024年6月1日から診療報酬が改定となり、糖尿病・高血圧・脂質異常症が特定疾患療養管理料の対象疾患から除外され、「生活習慣病管理料(II)」となりました。外来の診察の中で、管理目標(体重、HbA1c、血圧、脂質)を各学会の診療ガイドラインなどに従って決定し、個々の患者さんに応じた目標設定や生活指導を行い、診察終了後に療養計画書を渡し、署名(サイン)してもらうことになります。ただし、在宅自己注射指導管理料などを算定している患者さんは除きます。具体的な減量目標や行動目標を患者さんとともに設定することが、生活習慣病の療養指導につながります。また、管理目標や行動目標を設定する手順をフォーマット化しておくことで、医師の負担軽減にもつながります。生活習慣病の療養指導計画について説明した後、肥満を伴う生活習慣病患者の場合、減量目標を設定します。3%減、5~10%減、10~15%減、15%減以上など目的に応じて設定を変えます。まずは、「目標とする体重はどれくらいですか?」と理想とする大きな減量目標を尋ねます。その減量目標がすぐに達成不可能と考えられる場合には、3ヵ月とか期限を区切り、現実的な減量目標を再設定します。そして、その減量目標を達成するために必要なエネルギー摂取量の減少の目安について説明します。古くは1ポンド(約450g)減で3,500kcal減のエネルギー収支とする“Wishnofsky's rule”というのがありますが、たまに食べ過ぎることもあるので「3ヵ月で3kg減なら300kcal減」(2kg減なら200kcal減、1kg減なら100kcal減)と伝えおくと、何をすればよいか患者さんもイメージしやすくなります。このように患者さんに尋ねながら、目標を患者さんと共に計画を立てることで、治療の満足度も上がります。■患者さんとの会話でロールプレイ医師〇〇さん、今年の6月から国の診療報酬が改定となり、「療養指導計画」を作ることになりました。患者「療養指導計画」、それは何ですか?医師これです。(療養指導計画をみせながら)今からいくつか質問していきますね。患者いいですよ。先生も大変ですね。(気遣ってくれる言葉)医師いえいえ、ありがとうございます。最初の質問は、目標とする体重はいくつくらいですか?(減量目標の設定)患者そうですね。今は70kgですが、若い頃は痩せていたので…50kg台にはなりたいです。医師なるほど。それはいいですね。大きな目標はそれにして、3ヵ月だとどうですか?(期間を限定する)患者3ヵ月ですか…(少し考えてから)それなら、2kg減にします。医師それは、いい目標ですね。2kg減量すれば、血液検査の結果も良くなると思いますよ。(肥満体重の3%減の効果を説明)患者そうですか。それなら頑張らなきゃ…。医師3ヵ月で2kg減なら、1日当たり200kcal減らすといいですよ。(食事制限の目安を提示)患者なるほど。200kcal減ですか…。ご飯は気を付けているし、やっぱり間食ですかね。(気付きの言葉)医師それでしたら、「間食を控える」ことを目標にしましょうか。次回は、間食を控える工夫についてお話ししますね。患者はい。頑張って、やってみます。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「目標とする体重はいくらくらいですか?」(大きな減量目標の設定)「3ヵ月なら、どのくらいの減量目標になりますか?」(現実的な減量目標の再設定)「3ヵ月で3kg痩せるなら、1日当たり300kcal減するといいですよ!」(減らすべきエネルギー量の提示) 1)Ryan DH, et al. Curr Obes Rep. 2017;6:187-194.2)WISHNOFSKY N. Metabolism. 1952;1:554-555.3)坂根直樹編著. 朝晩ダイエットでスマートライフ.2023;東京法規.

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悪寒戦慄の重要性【とことん極める!腎盂腎炎】第3回

悪寒戦慄ってどれくらい重要ですか?Teaching point(1)悪寒戦慄は菌血症を予測する症状である(2)重度の悪寒戦慄をみたら早期に血液培養を採取すべし《今回の症例》基礎疾患に糖尿病と高血圧、脂質異常症がある67歳女性が半日前に発症した発熱と寒気で救急外来を受診した。トリアージナースより、体温以外のバイタルは落ち着いているが、ガタガタ震えていて具合が悪そうなので準緊急というより緊急で診察をしたほうがよいのでは、という連絡を受け診察開始となった。症状としては頭痛、咽頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、下痢、腰痛などの症状はなく、悪寒戦慄と全身の痛み、倦怠感を訴えていた。general appearance:ややぐったり、時折shiveringがみられる意識清明、体温:39.4℃、呼吸数:18回/分、血圧:152/84mmHg、SpO2 99%、心拍数:102回/分頭頸部、胸腹部、四肢の診察で目立った所見はない。簡易血糖測定:242mg/dLqSOFAは陰性ではあるが、第1印象はぐったりしていて、明確な悪寒と戦慄がある。診察上は明確な熱源が指摘できない。次にどうするべき?1.悪寒戦慄は菌血症の予測因子である菌血症は、感染症の予後不良因子であり、先進国の主要な死因の上位7番目に位置する疾患である1)。具体的には、市中感染型菌血症の1ヵ月率は10~19%、院内血流感染症の死亡率は17~28%である2)。したがって菌血症の早期予測は、迅速な治療開始を助け、臨床転帰の改善につながるため重要である。そして悪寒や戦慄、いわゆる“chill”は発熱以外で菌血症の鑑別かつ有効な予測因子として報告がある唯一の症状である。では悪寒はどれくらい菌血症を予測できるのだろうか?まとめて調べた文献によると3)、発熱がある患者:陽性尤度比(LR+)=2.2、陰性尤度比(LR−)=0.56発熱がない患者:LR+=1.6、LR−=0.84といわれている。そして徳田らの報告4)では、shaking chill(厚い毛布にくるまっていても全身が震え、寒気がする悪寒):LR+=4.7moderate(非常に寒く、厚手の毛布が必要な程度の悪寒):LR+=1.7mild(上着が必要な程度の悪寒):LR+=0.61のように悪寒の重症度がより菌血症に関連することを報告されている。したがって、悪寒や戦慄の病歴聴取は重要だが、shaking chillかどうかまで踏み込んでの病歴聴取が望ましいといえる。さらに、悪寒のあと2時間以内が血液培養が陽性になりやすいという報告5)もあるので、悪寒や戦慄をみかけたらすかさず血液培養を採取するのがおすすめだ。なお、腎盂腎炎においても悪寒は菌血症の予測因子といわれている6)が、何事にも例外はあり、インフルエンザで悪寒を経験した読者もいるであろう。悪性リンパ腫や薬剤熱でも悪寒は来すので過信は禁物となる。2.悪寒戦慄は腎盂腎炎診療でも大事な症状である腎臓は血流豊富な臓器であり、急性腎盂腎炎において42%で血液培養が陽性になるといわれている7)。そして側腹部痛か叩打痛があり、膿尿か細菌尿があれば腎盂腎炎は適切な鑑別診断といえるが8)、腎盂腎炎は下部尿路症状(排尿時痛、頻尿、恥骨部の痛み)、上部尿路症状(側腹部痛やCVA叩打痛陽性)を来す頻度は多いとはいえない。実地臨床では悪寒戦慄、ぐったり感(toxic appearance)、嘔気や倦怠感という症状が主訴になる腎盂腎炎は少なくなく、その場合は血液培養が腎盂腎炎の診断に役立つ8)。合併症のない腎盂腎炎における血液培養に関しては議論の分かれることではあるが9,10)、それは腎盂腎炎の検査前確率が高いという臨床状況においての話であり、前述のように尿路症状がなく悪寒戦慄やぐったり感(toxic appearance)がメインでの場合は敗血症疑いであれば1h bundleの達成、すなわち感染症のfocus同定とバイタルの立て直しと血液培養採取と抗菌薬投与を早急に行わなければならない11)。また、菌血症疑いの状況であっても血液培養の取得は必要になる。したがって悪寒戦慄のチェックは重要であるといえる。3.菌血症の疫学を抑える菌血症の頻度が多い疾患はどのようなものだろうか?血液培養で何が陽性になったか、患者の基礎疾患や症状にもよるが全体的な頻度としては尿路感染症22〜31%、消化管9〜11%、肝胆道7〜8%、気道感染(上下含む)9〜20%、不明18〜23%が主な頻度となる12-14)。このデータと各感染症の臨床像から考えるに、明確な随伴症状やfocusがなく悪寒戦慄があり、菌血症を疑う患者で想定すべきは尿路感染、胆道系感染、血管内カテーテル感染といえるだろう。逆に肺炎は発熱の原因としては頻度が高いが血液培養が陽性になりにくい感染症であり、下気道症状がなく症状が発熱と悪寒のみの状況であれば肺炎の可能性はかなり低いと考えられる。4.血液培養採取のポイントを抑える血液培養の予測ルールに関してはShapiroらのルールの有用性が報告されている。やや煩雑だが2点以上で血液培養の適応というルールである。特異度は29〜48%だが、感度は94〜98%と高く外的妥当性の評価もされているのが優れている点になる(表)15,16)。画像を拡大するその他、簡易的なものとしては白血球の分画で時折みられるband(桿状好中球)が10%以上(bandemia)であれば感度42%、特異度91%、オッズ比7.15で菌血症を予測するという報告もある2)。そのためbandemiaがあれば血液培養採取を考慮してもよいと思われる。1)Goto M, Al-Hasan MN. Clin Microbiol Infect. 2013;19:501-509.2)Harada T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:22753)Coburn B, et al. JAMA. 2012;308:502-511.4)Tokuda Y, et al. Am J Med. 2005;118:1417.5)Taniguchi T, et al. Int J Infect Dis 2018;76:23-28.6)Nakamura N, et al. Intern Med. 2018;57:1399-1403.7)Kim Y, et al. Infect Chemother. 2017;49:22-30.8)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.9)Long B, Koyfman A. J Emerg Med. 2016;51:529-539.10)Karakonstantis S, Kalemaki D. Infect Dis(Lond). 2018;50:584-5911)Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:e1063-e1143.12)Larsen IK, et al. APMIS. 2011;119:275-279.13)Pedersen G, et al. Clin Microbiol Infect. 2003;9:793-802。14)Sogaard M, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:61-69.15)Shapiro NI, et al. J Emerg Med. 2008;35:255-264.16)Jessen MK, et al. Eur J Emerg Med. 2016;23:44-49.

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米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)※は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。全166ページの報告書となっている。本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。 本定義によると、「Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する」としている。 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。主な症状は以下のように記載されている。・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。 報告書によると、新たなLong COVIDの定義は、臨床ケアと診断、医療サービス、保険適用、障害給付、学校や職場の宿泊施設の適格性、公衆衛生、社会サービス、政策立案、疫学とサーベイランス、民間および公的研究、とくに患者とその家族や介護者に対する一般の認識と教育など、多くの目的に適用できるという。※NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

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便通異常症 慢性下痢(6)イオン交換樹脂製剤と下痢【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q117

便通異常症 慢性下痢(6)イオン交換樹脂製剤と下痢Q117高カリウム血症治療に用いられる陽イオン交換樹脂製剤(ポリスチレンスルホン酸カルシウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)は、慢性下痢症の治療に使用することができる?

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第217回 迫る日医会長選、「もう日医の力は昔ほどではない」と元自民党医系議員、松本会長は再選後も“茨の道”か?

日医松本会長が2期目を目指し、再び会長選に出馬こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思いますこの週末は久しぶりに昔の山仲間と奥秩父に行って来ました。コースは山梨県の広瀬湖から入り雁峠、雁坂峠(日本三大峠の1つです)、テント泊してそのまま下山というマイナーなコース。有名な山が1つもないので、とても静かな山行を楽しめました(夜は鹿の鳴き声と大雨で眠れませんでしたが…)。個人的には雁峠、雁坂峠間を歩いたことで、雲取山から甲武信岳を経て十文字峠に至る奥多摩、奥秩父の長大な縦走路の赤線(既歩行区間)がやっとつながりました。だからなんだ、と言われそうですが、いつの日か一気に奥多摩駅から十文字峠まで大縦走をしてみたいものです。さて、今回は今週末に迫った日本医師会の会長選挙について書いてみたいと思います。1期を務め上げた松本 吉郎会長が2期目を目指し、再び会長選に出馬しました。2024年の診療報酬改定については、どうにか本体プラス改定を勝ち取ったことで、松本会長は「医療界が一体・一丸となって対応した結果と考えている。(中略)まずは素直に評価をさせて頂く」と自画自賛しました。しかし、日医の会員(とくに開業医)たちに大きな恩恵をもたらすものではなかった、との声がもっぱらです。医療制度のさまざまな改革について財務省の声が一層高まる中、再選された後も相当な困難が待ち受けていそうです。「松本氏vs.松原氏」という会長選は前回選挙と同じ構図6月1日、日本医師会は次期役員選挙の立候補届け出を締め切りました。会長選挙は現職の松本氏(69)と元副会長の松原 謙二氏(67)が届け出ました。松本氏は埼玉県医師会所属、山口県出身で浜松医大卒の皮膚科医。一方の松原氏は、大阪府医師会所属、広島県出身で広島大医学部卒の内科医です。思い起こせば、2年前、2022年の日医会長選では、5月に松原副会長(当時)が、長年日医が反対してきたリフィル処方箋導入を診療報酬改定で“飲ん”でしまった中川 俊男会長(当時)を批判する文書を送るなど、内紛が起こり、その後「ポスト中川」の会長候補を擁立する動きが活発化しました。コロナ禍の真っ只中に会長を務めた中川氏は、国民に外出自粛を呼びかける一方で、自身は政治資金パーティーを開催したり、銀座で女性と会食したことがメディアで報じられたりなど、世間の評判は芳しくありませんでした。さらに、日医内でのワンマンぶりも災いして次第に孤立し、最終的に出馬断念を余儀なくされました。「ポスト中川」として多くの都道府県医師会の支持を集めた松本氏が、松原氏と会長選を争い、結果、圧倒的な票数を獲得(代議員375票のうち310票)し、新会長に選ばれました。というわけで、今年の「松本氏vs.松原氏」という会長選は、前回選挙と同じ構図です。今週末、6月22日に開かれる定例代議員会で投開票が行われ、新会長と新キャビネットが決まります。「なかなか日医からの提案が出せない、あるいは出しにくいものもある」と松本会長現職の松本氏ですが、6月2日に都内で選挙対策本部事務所開きを行いました。メディファクスやエムスリーなどの報道によれば、松本氏は「なかなか日医からの提案が出せない、あるいは出しにくいものもある」と本音を述べつつ、「次の2年間は本当に大事な2年間だと思っている」と決意表明。また、松本氏を推薦した東京都医師会の尾崎 治夫会長は、「これからの2年間は勝負の年になる。松本氏の真価が問われる。日医を『攻めの姿勢』に変えていってもらいたい」と激励したとのことです。一方の松原氏ですが、6月3日付のメディファクスによれば、同紙の取材に対し「国家統制による英国式の包括制家庭医制度の入り口になる特定疾患療養管理料の改悪に反対する」と説明、2024年度診療報酬改定で対象外となった3疾患を「元に戻すかどうか」を会長選の争点に挙げています。松原氏の言う「特定疾患療養管理料の改悪」とは、「第201回 2024年診療報酬改定の内容決まる(前編) 武見厚労大臣の言う『メリハリ』ある改定とは?」でも書いた「生活習慣病の管理」に関する診療報酬の見直しです。対象疾患から糖尿病と脂質異常症、高血圧が除外され、脂質異常症や高血圧症、糖尿病を主病とする患者への総合的な治療管理を評価する「生活習慣病管理料」と「外来管理加算」の併算定を認めないなどの厳格化が図られました。松原氏は前回会長選では「リフィル処方箋導入」を批判し、今回は「特定疾患療養管理料見直し」を批判しています。日医執行部にとってはなかなか痛いところを突いていると言えるでしょう。2024年改定、内科系の診療所に大きなダメージ6月3日付の東京新聞は「自民の有力スポンサー日本医師会『地元政治家との関係強化を』会員医師らに『政治』のススメ」の記事の中で、3月末に開かれた日医の代議員会での「みな内科系の診療所は怒り心頭に発しているという感じです」というある代議員の質疑応答での発言や、東京都内の開業医の「プラス改定の大部分は若手医師や医療従事者らの賃上げに充てることになっている。逆に生活習慣病の管理料や処方箋料などの適正化(引き下げ)として盛り込まれたマイナス0.25%(1,222億円)は大部分が診療所向けだ」という不満のコメントを紹介、今改定の開業医へのダメージがいかに大きかったかについて報じています。日医の“力”そのものが確実に低下してきている前回リフィル処方導入を余儀なくされ、今回は特定疾患療養管理料の見直しを受け入れたことや、今回の改定の議論における「診療所経営は儲かっている」という財務省調査データの“暴露”(第190回 財務省調査に続き医療経済実態調査も診療所黒字の結果に、病院・診療所の『分断』をここまで広げてしまった張本人とは?)、そして地域別診療報酬実現に向けた財務省一連のアピールなどを見ていると、日医の“力”(政治的影響力)そのものが確実に低下してきていると感じます。最近、ある元自民党医系議員を取材したばかり知人の記者と飲んだのですが、こんな話をしていました。「その元議員はあるドラスティックな政策に関わっており、『その政策、日医が猛反対しそうですね』と聞いたんだ。すると、元議員は『そうなんだけど、正直言ってもう日医の力は昔ほどではない。反対を表明することはできても、どこまで心底反対し切れるか』と言っていたよ」。2024年改定を見る限り「医政活動の強化」の効果は見えずそうした“力”の低下を自覚している日医は、昨年6月、常任理事を4人増員、医政活動の強化に乗り出しました(「第165回 NP制度化、かかりつけ医機能認定制……、開業医常任理事を4人増員し、とにかく反対し続ける日医に未来はあるのか?」参照)。医師会員を増やし、自民党員を増やし、自民党議員とのつながりを強め、選挙における日医の力(集票力)を復活させるための常任理事増員でした。先の東京新聞の記事でも、今年の代議員会で長島 公之常任理事が代議員らに、「都道府県医師会の先生方には今後の日本の医療のために、医師会の組織力強化、日ごろからの地元選出国会議員との関係強化、何より来年の参議院選挙への協力を、ぜひともよろしくお願い申し上げます」と医政活動を強めるよう呼び掛けたと報じています。2024年改定の内容等を見る限り、「医政活動の強化」の効果は目に見える形では表れていません。長島常任理事の言葉からもその苦戦振りが伝わってきます。尾崎・東京都医師会会長が「これからの2年間は勝負の年」と語ったように、かかりつけ医機能の制度整備、次期地域医療構想、医師偏在是正など、今後10年、20年の日本の医療の方向性を決める政策の検討が今後2年間に目白押しです。そうした重要な政策決定の過程で、日医は果たして今までのような強烈なプレゼンスを発揮し続けられるでしょうか。松本会長の再選は濃厚ですが、その先に待っているのは、政治的影響力が低下する中、財務省が提案してくるさまざまな政策に翻弄され続ける、という“茨の道”かもしれません。

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新剤形追加・添付文書改訂:クリームタイプのアレルギー性結膜炎治療薬/エンレストに粒状錠小児用規格追加【最新!DI情報】第17回

アレジオン眼瞼クリーム0.5%<対象薬剤>エピナスチン塩酸塩(商品名:アレジオン眼瞼クリーム0.5%、製造販売元:参天製薬)<発売年月>2024年5月<改訂項目>[承認]新剤形医薬品1日1回塗布のクリーム剤<ここがポイント!>既存のエピナスチン点眼液は1日4回、エピナスチンLX点眼液は1日2回の点眼が必要でしたが、エピナスチン眼瞼クリームは1日1回眼周囲(上下眼瞼)の塗布で、有効性が終日にわたり維持します。点眼が苦手な小児や高齢者に加え、日中の点眼でメイクが落ちるのが気になる人に対しても、就寝前や夜のスキンケア時の塗布で効果が期待できるため、利便性が高いと考えられます。クリームタイプのアレルギー性結膜炎治療薬は世界初であり、眼瞼皮膚を通過して眼球・眼瞼結膜に成分が分布します。第III相CAC試験(スギ花粉抗原を用いた結膜抗原誘発試験)において、アレルギー性結膜炎の眼そう痒感および結膜充血スコアをプラセボに比べて有意に抑制しました。また、第III相長期投与試験(環境試験)において、本剤の安全性および有効性が確認されています。エンレスト粒状錠小児用12.5mg/31.25mg<対象薬剤>サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物(商品名:エンレスト粒状錠小児用12.5mg/31.25mg、製造販売元:ノバルティス ファーマ)<発売年月>2024年5月<改訂項目>[追加]規格粒状錠小児用12.5mg/31.25mg<ここがポイント!>小児慢性心不全は、病状が進むと心肥大や心拡大などが進行し、不整脈や突然死を引き起こすことがあります。サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物錠50mg/100mg/200mgは2024年2月9日に1歳以上の小児慢性心不全の効能・効果で承認を取得しました。しかし、体重が50kg未満の場合、薬剤師が粉砕懸濁して用量の調整を行う必要がありました。粒状錠小児用12.5mg/31.25mgは、用量を組み合わせることでさまざまな体重に対応することができ、調剤の簡便化が可能になります。粒状錠は、小児でも飲みやすい小さな粒状の錠剤ですので、カプセル型容器から取り出した錠剤を食べ物に混ぜて服用できます。粒状錠小児用は、カプセル型容器に充填したあと、PTP包装しています。パルモディアXR錠0.2mg/0.4mg<対象薬剤>ペマフィブラート(商品名:パルモディアXR錠0.2mg/0.4mg、製造販売元:興和)<発売年月>2023年11月<改訂項目>[承認]新剤形医薬品1日1回投与の徐放性製剤<ここがポイント!>高脂血症治療薬のペマフィブラート錠0.1mgは1日2回投与の即放性製剤でしたが、新剤形として1日1回投与のマルチプルユニット型徐放性製剤が2023年11月に販売されました。服用回数の増加は服薬アドヒアランスの低下に関連することが報告されているため、徐放性製剤の発売でアドヒアランスの向上が期待できます。第III相検証試験(K-877-ER-02)において、徐放性製剤0.2mgおよび0.4mgは、既存の即放性製剤と比較し、空腹時血清TGのベースライン値からの変化率が非劣性であることが確認されています。販売名のXRは徐放性(Extended Release)製剤であることを示しています。レキサルティ錠1mg/2mg、OD錠0.5mg/1mg/2mg<対象薬剤>ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ錠1mg/2mg、OD錠0.5mg/1mg/2mg、製造販売元:大塚製薬)<改訂年月>2023年12月<改訂項目>[追加]効能又は効果うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)[追加]用法及び用量通常、成人にはブレクスピプラゾールとして1日1回1mgを経口投与する。なお、忍容性に問題がなく、十分な効果が認められない場合に限り、1日量2mgに増量することができる。[追加]効能又は効果に関連する注意(一部抜粋)本剤の併用は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤等による適切な治療を複数回行っても、十分な効果が認められない場合に限り、本剤による副作用(アカシジア、遅発性ジスキネジア等の錐体外路症状)や他の治療も考慮した上で、その適否を慎重に判断すること。[追加]効能又は効果に関連する注意(一部抜粋)本剤は選択的セロトニン再取り込み阻害剤、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤又はミルタザピンと併用すること。(本剤単独投与での有効性は確認されていない)<ここがポイント!>本剤の適応症は統合失調症のみでしたが、2023年12月に「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」が追加されました。成人では1日1回1mg投与しますが、忍容性に問題なく、十分な効果が認められない場合に限り、1日量2mgに増量できます。中等症および重症の大うつ病性障害には、SSRI、SNRI、ミルタザピンが第1選択として用いられますが、これらの薬剤による治療でも十分な効果を示さない症例も多く存在します。本剤は、アリピプラゾールに次ぐ抗うつ効果増強療法に用いる非定型抗精神病薬で、SSRI、SNRIまたはミルタザピンと併用して使用します。

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コーヒー・紅茶と認知症リスク、性別や血管疾患併存で違い

 コーヒーや紅茶の摂取は、認知症リスクと関連しているといわれているが、性別および血管疾患のリスク因子がどのように関連しているかは、よくわかっていない。台湾・国立台湾大学のKuan-Chu Hou氏らは、コーヒーや紅茶の摂取と認知症との関連および性別や血管疾患の併存との関連を調査するため、本研究を実施した。Journal of the Formosan Medical Association誌オンライン版2024年5月6日号の報告。 対象は3施設より募集したアルツハイマー病(AD)の高齢患者278例、血管性認知症(VaD)患者102例、対照者468例は同期間に募集した。コーヒーや紅茶の摂取頻度および量、血管疾患の併存の有無に関するデータを収集した。コーヒーや紅茶の摂取と認知症リスクとの関連性を評価するため、多項ロジスティック回帰モデルを用いた。性別および血管疾患の併存により層別化して評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・コーヒーや紅茶の摂取において、さまざまな組み合わせおよび量は、AD、VaDに対する保護効果が認められた。・1日当たり3杯以上のコーヒーまたは紅茶の摂取は、AD(調整オッズ比[aOR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.22〜0.78)およびVaD(aOR:0.42、95%CI:0.19〜0.94)に対する予防効果が認められた。・層別化分析では、多量のコーヒーおよび紅茶の摂取によるADの保護効果は、女性および高血圧症患者でより顕著であった。・コーヒーまたは紅茶の摂取は、糖尿病患者におけるVaDリスク減少と関連していた(aOR:0.23、95%CI:0.06〜0.98)。・脂質異常症は、コーヒーまたは紅茶の摂取とADおよびVaDリスクとの関連性を変化させた(各々、p for interaction<0.01)。 著者らは、「コーヒーおよび紅茶の摂取量が増加すると、ADおよびVaDリスクが低下することが示唆され、性別や高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの血管疾患の併存により違いが見られることが明らかとなった」としている。

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うつ病と心血管疾患発症の関連、女性でより顕著

 日本人400万人以上のデータを用いて、うつ病と心血管疾患(CVD)の関連を男女別に検討する研究が行われた。その結果、男女とも、うつ病の既往はCVD発症と有意に関連し、この関連は女性の方が強いことが明らかとなった。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏らによる研究であり、「JACC: Asia」2024年4月号に掲載された。 うつ病は、心筋梗塞、狭心症、脳卒中などのCVD発症リスク上昇と関連することが示されている。うつ病がCVD発症に及ぼす影響について、性別による違いを調べる研究はこれまでにも行われているものの、その明確なエビデンスは得られていない。 そこで著者らは、日本の外来・入院医療のレセプト情報データベース(JMDC Claims Database)より、2005年1月~2022年5月における健診データが利用でき、18~75歳の人のうちCVDや腎不全の既往のある人などを除いた412万5,720人(年齢中央値44歳、男性57%)を対象とする後方視的コホート研究を行った。初回健診以前にうつ病と診断されていた人を、うつ病の既往ありと定義した。CVDには心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、心房細動を含め、これらの複合を主要評価項目として男女別に解析した。 対象者のうち、うつ病の既往のあった人は男性が9万9,739人(4.2%)、女性が7万8,358人(4.5%)だった。平均追跡期間1,288±1,001日(最短1日~最長5,534日)において、CVDは男性で11万9,084件(1万人年当たり発症率140.1)、女性で6万1,797件(同111.0)発症した。 うつ病とCVD発症との関連について、年齢、BMI、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒、運動不足の影響を統計学的に調整して解析した結果、うつ病の既往のCVD発症に対するハザード比は、男性で1.39(95%信頼区間1.35~1.42)、女性では1.64(同1.59~1.70)であり、男女ともに有意な関連が認められた。この関連には性別の影響が認められ、女性の方が男性と比べて関連が強いことが明らかとなった(交互作用P<0.001)。また、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、心房細動のそれぞれとうつ病との関連、および性別の影響を解析した場合も、同様の結果が得られた(全て交互作用P<0.05)。 さらに、サブグループ解析として50歳以上と50歳未満に分けて検討した結果と、肥満の有無で分けて検討した結果のいずれにおいても、うつ病の既往とCVD発症との関連は、女性の方が強いことが明らかとなった。また、複数の感度分析を行った結果も一貫していた。 今回の研究により、うつ病とその後のCVD発症の関連は、女性の方がより顕著であることが示された。著者らは、考えられるメカニズムの一つとして、妊娠や閉経など、ホルモンが変化する重要な時期にうつ病を経験しやすいため、女性では心血管系への影響がより大きくなる可能性があると説明。一方で、男女差が生じるメカニズムの完全な解明には、さらなる研究が必要だとしている。著者らは、「うつ病とCVDの関連についての性差をよりよく理解し、うつ病の男性と女性のそれぞれに最適なケアを提供することで、心血管系の健康につながる可能性がある」と述べている。

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