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今回は施設内でめまいを訴える患者さんを診察した経験を紹介します。めまいを診る機会は多くありますが、どのようなアプローチが必要なのか復習しましょう。内容が多いので2回に分け、前半では良性発作性頭位めまい症(BPPV)を紹介します。<症例>82歳、女性主訴めまい施設入所中の患者。朝ベッドから起き上がるとめまいを訴え、立てなくなった。昼ごろまで様子をみたが改善しないため臨時往診を依頼。アレルギーなし服用薬高血圧の薬、認知症の薬既往歴高血圧、高脂血症、認知症ベッド上で横になっている。血圧:142/82、脈拍:82、体温:36.2℃さて、皆さんならどのようにアプローチしますか? まず重要なのは、患者さんの訴えが医学的な「めまい」であるかどうかを判断することです。なぜなら、一般的には「立ちくらみ」もめまいと表現されることがあるからです。初めにそのめまいが「中枢性/末梢性めまい」か「前失神」かを区別して、調べるべき内容を検討します。この患者さんは認知症がありましたが、自身の症状については正確に訴えており、起き上がらなくてもめまいを感じているようです。この情報から、前失神ではないと判断できます。(1)STANDINGアルゴリズムSTANDINGアルゴリズムを使ってめまいの種類を鑑別していきます。STANDINGアルゴリズムは救急医でも簡易にできる中枢性めまいを否定するアルゴリズムで、陰性的中率は99%(95%信頼区間:97~100)です。図1を見てください1)。図1 STANDINGアルゴリズム画像を拡大するまず初めにするのはNystagmus(眼振の出方)です。何を鑑別しようとしているかといいますと、BPPVとそれ以外のめまいです。BPPVはまったく発症様式が異なり、特定の向きの頭位変換で潜時(5~6秒)を経てめまいが出現し、1分程度持続して止まる、というのが特徴です。私の経験では、一定の体位をとったまま動きたがらず、動かなければめまいがない、というのが特徴と考えます。今回の患者さんは、頭を動かすとめまいが生じ、動かなければ症状がないとのことで、BPPVが強く疑われました。(2)BPPVの鑑別BPPVは三半規管(図2)に耳石が落下して生じるといわれています。三半規管は前半規管、後半規管、外側半規管に分かれ、前半規管は垂直に立っているため耳石は落下しにくいです。図2 三半規管画像を拡大するまれに「頭を振ったらめまいが強くなる」ということでBPPVと診断している医師がいますがそれは違います。めまいがある人が頭を振ると気持ち悪くなるのは普通のことです。BPPVのめまいの特徴は、「特定の頭位変換で数秒した(潜時)後にめまいが出現し、1分以内に消失する」です。めまいが生じた後に吐き気が残存しますが、それは別です。BPPVは外側半規管型と後半規管型に分かれます。頻度としては後半規管型のBPPVの頻度が多いといわれています。私は簡便性から、外側半規管型を否定してから後半規管型のBPPVの診断に移っています(理由は後述)。<外側半規管型BPPV>外側半規管型BPPVは、耳石が外側半規管に落下することにより症状が生じます。頭を左右に動かすと症状が誘発されます。患側の耳側に頭を向けると、患側方向に強い眼振が出現し、反対側を向けると健側に弱い眼振が出現します。端的に言うと、左右に頭を振るとどちらでも床向きの眼振が誘発され、眼振が強いほうが患側です(図3)。この試験をSupine roll test といいます。図3 Supine roll test(右外側半規管型BPPVの眼振の向きと強度) 注:頭だけ振る画像を拡大する私が先に外側半規管型を否定するのは、BPPVの患者はたいてい横になっているので、そのまま仰向けになってもらえればSupine roll testがすぐに実行できるからです。外側半規管型と診断されればBBQ Roll Maneuver (Lampert method)を実施します(図4)2)。図4 BBQ Roll Maneuver画像を拡大するBBQ roll maneuverは臥位になり、1.患側に頭を傾ける、2.健側に頭を傾ける、3.腹ばいになる、4.患側に側臥位になる、5.仰向けになる、を行います。多くの文献でそれぞれの頭位を30~90秒としていますが、私は耳石がしっかりと確実に流れるようにするため、2分ごとにしています。しかし、この患者さんにSupine roll testを実施しましたが、誘発されませんでした。よって外側半規管型BPPVは否定的と判断しました。<後半規管型BPPV>外側半規管型BPPVでなければ、後半規管型BPPVの可能性が高くなります。後半規管型BPPVはDix Hallpike法で診断します(図5)3)。右(または左)45度頸部捻転位から右(または左)45度懸垂頭位に頭位変換し、めまいが誘発されるかをみます。誘発された側が患側です。図5 Dix Hallpike法画像を拡大する患側でめまいが誘発され、床向きの回旋成分がある眼振が出現します。うまく誘発されたらEpley法を実施します(図6)。図6 Epley法画像を拡大する手順としては、1.座位をとり、患側に頭を向ける、2.そのまま後ろへ倒れ、頭を下垂した状態にする、3.健側に頭を傾ける、4.健側向きに側臥位になる(この際頭は床に向いてもらう)、5.座る、となります。Epley法を実施する際に私が工夫していることが2つあります。1つ目は、手順1と2がDix Hallpike法とまったく同じですので、私はDix Hallpike法で明らかに誘発された場合、そのままEpley法に移行して2から開始しています。2つ目は、4の側臥位になった際、頭位を真横にするとかなりの頻度で嘔吐する/しそうになるため、必ず床を向くように意識しています。誤嚥もしにくくなります。この患者さんは、Dix Hallpike法で右側の陽性となりました。そのままEpley法を実施したところ、普通に歩けるようになりました。そして、認知症のため先ほどまで歩けなかったことを忘れ、ご飯を食べに行ってしまいました。しかし、施設職員からは感動され「BPPVをしっかり勉強します」というお言葉をいただきました。以上がBPPVになります。次回はBPPV以外のめまいで、STANDINGアルゴリズムを用いて中枢性と末梢性を鑑別する方法を紹介します。<クプラ結石型>あまり聞きなれない名称かもしれませんが、日本のめまいガイドラインにも記載されており、三半規管の膨大部にあるクプラと呼ばれるゼラチン状の部位で、頭の傾きを感知しています。そこに耳石が付着して頭位変換によりクプラが変位し、めまいが誘発されるといわれています4)。特徴としては持続時間が1分以上と長く、先述したEpley法やBBQ maneuverで治癒しにくいことが挙げられます。英語ではcupulolithiasisと表現されますが、PubMedで検索しても英語の論文ではほとんど触れられておらず、エビデンスは限られているようです。しかし、実際に診療していると、BPPVの病歴だけれど妙に持続時間が長く、治療でも改善しないことがあります。その際はクプラ結石型を疑いましょう。クプラ結石型に対してはエビデンスのある治療はないですが、Gufoni法が効くのではという報告があります5)。<HINTS method>中枢性めまいと末梢性めまいの鑑別にHINTS methodという方法があるのですが、時折BPPVに使用している医師を目撃します6)。前提としてHINTs methodはBPPVには使用できません。HINTsのNである、「方向交代性眼振ありで中枢性の疑い」ですが、BPPVは方向交代性の眼振が特徴です。その点を踏まえてもSTANDINGアルゴリズムの最初にBPPVかどうかを見分けるのは非常に重要と考えます。 1)Vanni S, et al. Acta Otorhinolaryngol Ital. 2014;34:419-426.2)Hwu V, et al. Cureus. 2022;14:e24288. 3)You P, et al. Laryngoscope Investig Otolaryngol. 2018;4:116-123.4)日本めまい平衡医学会診断基準化委員会編. Equilibrium Research. 2009;68:218-225. 5)武田 憲. めまいのリハビリテーション 耳石置換法と平衡訓練. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 2017;120:9-14.6)Gerlier C, et al. Acad Emerg Med. 2021;28:1368-1378.