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悪寒戦慄ってどれくらい重要ですか?Teaching point(1)悪寒戦慄は菌血症を予測する症状である(2)重度の悪寒戦慄をみたら早期に血液培養を採取すべし《今回の症例》基礎疾患に糖尿病と高血圧、脂質異常症がある67歳女性が半日前に発症した発熱と寒気で救急外来を受診した。トリアージナースより、体温以外のバイタルは落ち着いているが、ガタガタ震えていて具合が悪そうなので準緊急というより緊急で診察をしたほうがよいのでは、という連絡を受け診察開始となった。症状としては頭痛、咽頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、下痢、腰痛などの症状はなく、悪寒戦慄と全身の痛み、倦怠感を訴えていた。general appearance:ややぐったり、時折shiveringがみられる意識清明、体温:39.4℃、呼吸数:18回/分、血圧:152/84mmHg、SpO2 99%、心拍数:102回/分頭頸部、胸腹部、四肢の診察で目立った所見はない。簡易血糖測定:242mg/dLqSOFAは陰性ではあるが、第1印象はぐったりしていて、明確な悪寒と戦慄がある。診察上は明確な熱源が指摘できない。次にどうするべき?1.悪寒戦慄は菌血症の予測因子である菌血症は、感染症の予後不良因子であり、先進国の主要な死因の上位7番目に位置する疾患である1)。具体的には、市中感染型菌血症の1ヵ月率は10~19%、院内血流感染症の死亡率は17~28%である2)。したがって菌血症の早期予測は、迅速な治療開始を助け、臨床転帰の改善につながるため重要である。そして悪寒や戦慄、いわゆる“chill”は発熱以外で菌血症の鑑別かつ有効な予測因子として報告がある唯一の症状である。では悪寒はどれくらい菌血症を予測できるのだろうか?まとめて調べた文献によると3)、発熱がある患者:陽性尤度比(LR+)=2.2、陰性尤度比(LR−)=0.56発熱がない患者:LR+=1.6、LR−=0.84といわれている。そして徳田らの報告4)では、shaking chill(厚い毛布にくるまっていても全身が震え、寒気がする悪寒):LR+=4.7moderate(非常に寒く、厚手の毛布が必要な程度の悪寒):LR+=1.7mild(上着が必要な程度の悪寒):LR+=0.61のように悪寒の重症度がより菌血症に関連することを報告されている。したがって、悪寒や戦慄の病歴聴取は重要だが、shaking chillかどうかまで踏み込んでの病歴聴取が望ましいといえる。さらに、悪寒のあと2時間以内が血液培養が陽性になりやすいという報告5)もあるので、悪寒や戦慄をみかけたらすかさず血液培養を採取するのがおすすめだ。なお、腎盂腎炎においても悪寒は菌血症の予測因子といわれている6)が、何事にも例外はあり、インフルエンザで悪寒を経験した読者もいるであろう。悪性リンパ腫や薬剤熱でも悪寒は来すので過信は禁物となる。2.悪寒戦慄は腎盂腎炎診療でも大事な症状である腎臓は血流豊富な臓器であり、急性腎盂腎炎において42%で血液培養が陽性になるといわれている7)。そして側腹部痛か叩打痛があり、膿尿か細菌尿があれば腎盂腎炎は適切な鑑別診断といえるが8)、腎盂腎炎は下部尿路症状(排尿時痛、頻尿、恥骨部の痛み)、上部尿路症状(側腹部痛やCVA叩打痛陽性)を来す頻度は多いとはいえない。実地臨床では悪寒戦慄、ぐったり感(toxic appearance)、嘔気や倦怠感という症状が主訴になる腎盂腎炎は少なくなく、その場合は血液培養が腎盂腎炎の診断に役立つ8)。合併症のない腎盂腎炎における血液培養に関しては議論の分かれることではあるが9,10)、それは腎盂腎炎の検査前確率が高いという臨床状況においての話であり、前述のように尿路症状がなく悪寒戦慄やぐったり感(toxic appearance)がメインでの場合は敗血症疑いであれば1h bundleの達成、すなわち感染症のfocus同定とバイタルの立て直しと血液培養採取と抗菌薬投与を早急に行わなければならない11)。また、菌血症疑いの状況であっても血液培養の取得は必要になる。したがって悪寒戦慄のチェックは重要であるといえる。3.菌血症の疫学を抑える菌血症の頻度が多い疾患はどのようなものだろうか?血液培養で何が陽性になったか、患者の基礎疾患や症状にもよるが全体的な頻度としては尿路感染症22〜31%、消化管9〜11%、肝胆道7〜8%、気道感染(上下含む)9〜20%、不明18〜23%が主な頻度となる12-14)。このデータと各感染症の臨床像から考えるに、明確な随伴症状やfocusがなく悪寒戦慄があり、菌血症を疑う患者で想定すべきは尿路感染、胆道系感染、血管内カテーテル感染といえるだろう。逆に肺炎は発熱の原因としては頻度が高いが血液培養が陽性になりにくい感染症であり、下気道症状がなく症状が発熱と悪寒のみの状況であれば肺炎の可能性はかなり低いと考えられる。4.血液培養採取のポイントを抑える血液培養の予測ルールに関してはShapiroらのルールの有用性が報告されている。やや煩雑だが2点以上で血液培養の適応というルールである。特異度は29〜48%だが、感度は94〜98%と高く外的妥当性の評価もされているのが優れている点になる(表)15,16)。画像を拡大するその他、簡易的なものとしては白血球の分画で時折みられるband(桿状好中球)が10%以上(bandemia)であれば感度42%、特異度91%、オッズ比7.15で菌血症を予測するという報告もある2)。そのためbandemiaがあれば血液培養採取を考慮してもよいと思われる。1)Goto M, Al-Hasan MN. Clin Microbiol Infect. 2013;19:501-509.2)Harada T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:22753)Coburn B, et al. JAMA. 2012;308:502-511.4)Tokuda Y, et al. Am J Med. 2005;118:1417.5)Taniguchi T, et al. Int J Infect Dis 2018;76:23-28.6)Nakamura N, et al. Intern Med. 2018;57:1399-1403.7)Kim Y, et al. Infect Chemother. 2017;49:22-30.8)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.9)Long B, Koyfman A. J Emerg Med. 2016;51:529-539.10)Karakonstantis S, Kalemaki D. Infect Dis(Lond). 2018;50:584-5911)Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:e1063-e1143.12)Larsen IK, et al. APMIS. 2011;119:275-279.13)Pedersen G, et al. Clin Microbiol Infect. 2003;9:793-802。14)Sogaard M, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:61-69.15)Shapiro NI, et al. J Emerg Med. 2008;35:255-264.16)Jessen MK, et al. Eur J Emerg Med. 2016;23:44-49.