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高血圧、脂質異常症、糖尿病で服薬遵守率が高い疾患は?

 高血圧、脂質異常症および糖尿病患者の服薬遵守率を、同一対象内で比較した結果が報告された。慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室の松元美奈子氏、武林亨氏らの研究によるもので、詳細は「Pharmacoepidemiology and Drug Safety」に8月15日掲載された。服薬非遵守の関連因子が、疾患ごとに異なることも明らかにされている。 過去にも服薬遵守率に関する研究報告は少なくない。しかし、異なる診療環境で治療を受けている多数の患者集団を対象として、複数の疾患治療薬の服薬遵守率を比較検討した研究は限られている。これを背景として松元氏らは、山形県鶴岡市で進行中の鶴岡メタボロームコホート研究(TMCS)のデータを医療請求データにリンクさせて、心血管疾患の主要リスク因子である、高血圧、脂質異常症、糖尿病の患者の服薬遵守状況に関する検討を行った。 TMCSは2012~2014年度に、35~74歳の鶴岡市内の住民コホートおよび被雇用者コホート、計1万1,002人が参加登録し、非感染性疾患のリスクに関する追跡調査が続けられている。なお、同市に居住している当該年齢人口の89%がTMCSの住民コホートに参加している。 今回の研究では、TMCS住民コホートのうち、2016~2019年度の追跡調査に参加し、データ欠落のない7,538人から、前記3疾患いずれかの治療薬が処方され継続的に受診していた3,693人を解析対象とした。そのうち男性が47.5%で、65歳以上の高齢者が80.9%であり、BMI25以上の肥満が36.5%、高血圧が73.2%、脂質異常症が57.2%、糖尿病が17.9%だった。また、自記式質問票に含まれていた既往症を問う質問に対して、処方薬に一致した病名が正しく回答されていた場合を「服薬理解度良好」と判定したところ、87.4%がこれに該当した。 服薬遵守率は、追跡開始から1年以内の処方日数カバー比率(PDC)で評価した。PDCは、ある期間において患者が処方薬を受け取った日数の比率であり、1(100%)であれば患者は飲み忘れることなく服用を続けていると推測される。心血管疾患リスク因子の管理において、PDC0.8以上をアドヒアランス良好の目安とすることが多いため、本研究でも0.8以上/未満で遵守/非遵守と二分した。なお、服薬の中断が連続180日以上の場合は「休薬」と判断した。ただしその該当者は51人とわずかだった。 解析の結果、併存疾患がない患者では、高血圧のみの場合の服薬遵守率が90.2%で最も高く、次いで糖尿病のみが81.2%、脂質異常症のみが80.8%であり、高血圧のみの患者と脂質異常症のみの患者の服薬遵守率に有意差が認められた。併存疾患のある患者における服薬遵守率は86.7~89.0%の範囲で有意差は見られず、一部の組み合わせの遵守率は脂質異常症のみの患者よりも有意に高かった。 次に、多変量解析により、性別、高齢(65歳以上)、自記式質問票で把握した生活習慣や服薬理解度などを説明変数とした上で、3疾患それぞれの服薬非遵守に独立して関連する因子を検討したところ、以下の結果が得られた。 まず、高血圧については、朝食欠食が非遵守の正の関連因子であり(調整オッズ比〔aOR〕1.90〔95%信頼区間1.13~3.21〕)、服薬理解度良好は負の関連因子であった(aOR0.48〔同0.26~0.89〕)。脂質異常症については、男性(aOR0.71〔0.52~0.97〕)、併存疾患あり(aOR0.64〔0.49~0.82〕)、心疾患の既往(aOR0.51〔0.33~0.79〕)という三つが、全て負の関連因子として抽出された。糖尿病については、睡眠の質が良くないこと(aOR2.06〔1.02~4.16〕)と朝食欠食(aOR2.89〔1.19~7.00〕)の二つが、いずれも正の関連因子だった。喫煙・飲酒・運動習慣、教育歴、行動変容ステージ、摂食速度、夕食の時間帯などは、いずれの治療薬の非遵守とも独立した関連はなかった。 著者らは、本研究では被雇用者コホートの医療費請求データを利用できなかったため、解析対象が高齢者の多い住民コホートのみであったことなどを研究の限界点として挙げた上で、「高血圧、脂質異常症、糖尿病に対する治療薬は、全体として高い服薬遵守率が示されたが、治療状況による違いも認められた。また、非遵守に関連する因子は、疾患によって異なった。これらの知見は、服薬アドヒアランスを高めるサポートに生かせるのではないか」と結論付けている。 なお、朝食欠食が高血圧と糖尿病における服薬非遵守の関連因子であったことについて、「欠食習慣のある患者では『朝食後に服用』と指示すると遵守率が低下する懸念がある。低血糖を来し得る薬剤を除き、『食事を食べない朝も服用してよい』と伝えることが推奨される」といった考察が述べられている。

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糖尿病合併症があると歯周病がより起こりやすい

 糖尿病でその合併症がある場合、歯周病のリスクがより高まることを示すデータが報告された。オーフス大学(デンマーク)のFernando Valentim Bitencourt氏らの論文が「Journal of Dental Research」に8月5日掲載され、また欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表された。 糖尿病が歯周病のリスク因子であることはよく知られている。しかし、糖尿病の細小血管合併症(網膜症や神経障害など)を有する場合に、歯周病のリスクがより高まるのかについては、これまでに行われた研究は研究対象者数が少なく、調整されていない交絡因子が存在するといった限界点があり、結論が得られていない。Bitencourt氏らはこれらの点について、デンマークの大規模疫学研究(Health in Central Denmark study)のデータを用いた検討を行った。 解析対象は2型糖尿病患者1万5,922人。社会人口統計学的因子、生活習慣関連因子、健康状態などの潜在的な交絡因子を調整した統計解析の結果、網膜症(オッズ比〔OR〕1.21〔95%信頼区間1.03~1.43〕)および神経障害(OR1.36〔同1.14~1.63〕)の存在が、中等度から重度の歯周病と有意な関連のあることが明らかになった。また、網膜症と神経障害が併存している場合はそのオッズ比がより高かった(OR1.51〔1.23~1.85〕)。脂質異常症がある場合に、重度の歯周病が増加することも示された。 歯周病は自覚症状が乏しい病気だが、その影響について研究者らは、「治療せずに放置すると、歯を支えている組織が破壊され、最終的には歯を失う結果につながる」と解説。また論文の筆頭著者で歯科医師であるBitencourt氏は、「歯を失うと、噛む、話すといった基本的な機能に影響するだけでなく、自尊心にも影響する可能性がある。その結果として生活の質(QOL)が著しく低下してしまい、社会的交流に支障を来すこともある。よって、歯周病のリスクがより高い集団の特徴を見いだし、早期介入することが非常に重要だ」と、本研究の背景を語っている。 今回の結果について研究者らは、糖尿病によって生じる細小血管のダメージと、中等度から重度の歯周病との明確な関連を示すものと解釈している。両者の関連のメカニズムについてBitencourt氏は、「糖尿病が適切にコントロールされていない場合、高血糖によって炎症が起こり、時間の経過とともに目にも炎症が波及して網膜症を引き起こしたり、足などの神経に波及して神経障害を引き起こしたりする。そのような過程で、歯周組織にも炎症が起こり、歯周病の発症につながる可能性がある」と解説。また、「歯周病の所見を口の中の健康問題として考えるのではなく、全身の炎症反応が亢進している人や糖尿病細小血管合併症のリスクが高い人を特定するのに役立てることが重要だ」と追加している。 さらに同氏は、「われわれの研究結果は、歯科医師が糖尿病患者の口腔状態に細心の注意を払う必要があることを示している。歯科と内科の医療従事者が協力することで、2型糖尿病患者、特に糖尿病合併症のリスクが高い患者が、より包括的な口腔ケアを受けられるようになり、その結果、口腔と全身の健康の双方が改善されるのではないか」と述べている。

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DPP-4iとBG薬で糖尿病性合併症発生率に差はない――4年間の後方視的解析

 血糖管理のための第一選択薬としてDPP-4阻害薬(DPP-4i)を処方した場合とビグアナイド(BG)薬を処方した場合とで、合併症発生率に差はないとする研究結果が報告された。静岡社会健康医学大学院大学(現在の所属は名古屋市立大学大学院医学研究科)の中谷英仁氏、アライドメディカル株式会社の大野浩充氏らが行った研究の結果であり、詳細は「PLOS ONE」に8月9日掲載された。 欧米では糖尿病の第一選択薬としてBG薬(メトホルミン)が広く使われているのに対して、国内ではまずDPP-4iが処方されることが多い。しかし、その両者で合併症の発生率に差があるかは明らかでなく、費用対効果の比較もほとんど行われていない。これを背景として中谷氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的解析を行った。 2012年4月~2021年9月に2型糖尿病と診断され、BG薬またはDPP-4iによる治療が開始された患者を抽出した上で、心血管イベント・がん・透析の既往、糖尿病関連の入院歴、インスリン治療歴、遺伝性疾患などに該当する患者を除外。性別、年齢、BMI、HbA1c、併存疾患、腎機能、肝機能、降圧薬・脂質低下薬の処方、喫煙・飲酒・運動習慣など、多くの背景因子をマッチさせた1対5のデータセットを作成した。 主要評価項目は脳・心血管イベントと死亡で構成される複合エンドポイントとして、イベント発生まで追跡した。副次的に、糖尿病に特異的な合併症の発症、および1日当たりの糖尿病治療薬剤コストを比較した。追跡開始半年以内に評価対象イベントが発生した場合はイベントとして取り扱わなかった。 マッチング後のBG薬群(514人)とDPP-4i群(2,570人)の特徴を比較すると、平均年齢(68.39対68.67歳)、男性の割合(46.5対46.9%)、BMI(24.72対24.67)、HbA1c(7.24対7.22%)、収縮期血圧(133.01対133.68mmHg)、LDL-C(127.08対128.26mg/dL)、eGFR(72.40対72.32mL/分/1.73m2)などはよく一致しており、その他の臨床検査値や併存疾患有病率も有意差がなかった。また、BG薬、DPP-4i以外に追加された血糖降下薬の処方率、通院頻度も同等だった。 中央値4.0年、最大8.5年の追跡で、主要複合エンドポイントはBG薬群の9.5%、DPP-4i群の10.4%に発生し、発生率に有意差はなかった(ハザード比1.06〔95%信頼区間0.79~1.44〕、P=0.544)。また、心血管イベント、脳血管イベント、死亡の発生率を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。副次評価項目である糖尿病に特異的な合併症の発生率も有意差はなく(P=0.290)、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。さらに、年齢、性別、BMI、HbA1c、高血圧・脂質異常症・肝疾患の有無で層別化した解析でも、イベント発生率が有意に異なるサブグループは特定されなかった。 1日当たり糖尿病治療薬剤コストに関しては、BG薬は60.5±70.9円、DPP-4iは123.6±64.3円であり、平均差63.1円(95%信頼区間56.9~69.3)で前者の方が安価だった(P<0.001)。 著者らは、本研究が静岡県内のデータを用いているために、地域特性の異なる他県に外挿できない可能性があることなどを限界点として挙げた上で、「2型糖尿病患者に対して新たに薬物療法を開始する場合、BG薬による脳・心血管イベントや死亡および糖尿病に特異的な合併症の長期的な抑制効果はDPP-4iと同程度であり、糖尿病治療薬剤コストは有意に低いと考えられる」と総括している。

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第235回 第III相試験の壁高し~スタチンの多発性硬化症治療効果示せず

第III相試験の壁高し~スタチンの多発性硬化症治療効果示せず第III相試験の壁は高く、第II相試験結果から期待されたスタチンの多発性硬化症(MS)治療効果が認められませんでした1,2)。スタチンは脂質異常症を治療し、心血管や脳の虚血疾患を予防するのに広く使われています。それらの効果にはコレステロール低下に加えて、コレステロールとは独立した働きもどうやら寄与しているようです。免疫調節作用がその1つで、スタチンは炎症性細胞が血液脳関門(BBB)を通れるようにするタンパク質ICAMのリガンドであるLFA-1を阻害します。また、自己攻撃性T細胞が作るサイトカインを炎症促進から抗炎症のものに変えることも示されています。スタチンは細胞保護作用や脳血管の血行改善作用などもあり、MSの初期の炎症のみならず脳実質細胞や血管を障害するより進行した段階の患者にも有効と目されました。そのような期待を背景にして、スタチンの1つであるシンバスタチンの二次性進行型MS(secondary progressive MS)治療効果を調べた第II相MS-STAT試験は2008年に始まりました。試験には二次性進行型MS患者140例が参加し、半数(70例)ずつ高用量(80mg)のシンバスタチンかプラセボを投与する群に割り振られました。結果は遡ること10年前の2014年にLancet誌に掲載され、本サイトの同年の記事でも紹介されているとおり、脳萎縮を遅らせるシンバスタチンの有望な効果が認められました3)。また、体の不自由さの進行を抑制する効果も示唆されました。検査2つ(EDSSとMSIS-29)の2年時点での比較でシンバスタチン投与群がプラセボに有意に勝りました。ただし、別の身体機能検査MSFCはプラセボと有意差がつきませんでした。また、新規/拡大脳病変の発生率や再発率もプラセボと有意差がありませんでした。とにかく主な目的であった脳萎縮の抑制効果が認められたことを受け、著者のロンドン大学のJeremy Chataway氏らは第III相試験での検討が必要と結論しています。Chataway氏らが引き続き率いた第III相MS-STAT2試験は第II相試験結果のLancet誌掲載から4年後の2018年3月末に英国の患者団体MS Societyなどの協力の下で始まりました4)。その翌々月5月から2021年9月までの2年半弱に英国の31の病院から被験者が集められ、二次性進行型MS患者964例がシンバスタチンかプラセボ投与群に1対1の割合で割り振られました5)。主要アウトカムは第II相試験でも使われたEDSSに基づく身体障害の進行率でした。ベースラインのEDSSが6点未満だった患者はEDSSの1点以上の上昇、ベースラインのEDSSが6点以上だった患者はEDSSの0.5点以上の上昇が身体障害の進行と判定されました。その結果は上述したとおりで、シンバスタチンは二次性進行型MS患者の身体障害の悪化を遅らせることはできませんでした1)。残念な結果ではありますが、英国のMSコミュニティーが大規模で高品質の臨床試験を担えることをMS-STAT2試験は知らしめました。30年前は皆無だったMS治療は今や幸い増えているもののまだ不十分です。進行性MSに効きそうな薬一揃いを検討しているOctopus6)のような高品質の臨床試験に引き続き投資する、とMS Societyの臨床試験部門リーダーEmma Gray氏は言っています7)。参考1)Cholesterol drug found to be ineffective for treatment of multiple sclerosis / UCL 2)Simvastatin Fails to Reduce Disease Progression in Phase 3 MS-STAT2 Trial of Secondary Progressive Multiple Sclerosis / NeurologyLive3)Chataway J, et al. Lancet. 2014;383:2213-2221.4)Multiple Sclerosis-Simvastatin Trial 2(MS-STAT2)5)Evaluating the effectiveness of simvastatin in slowing the progression of disability in secondary progressive multiple sclerosis(MS-STAT2 trial):a multicentre, randomised, placebo-controlled, double-blind phase 3 clinical trial / ECTRIMS 2024 6)Octopus: Optimal Clinical Trials Platform for Multiple Sclerosis7)MS-STAT2 trial shows that simvastatin is not an effective treatment for secondary progressive MS / Multiple Sclerosis Society.

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眼圧が基準範囲内でも高ければ高血圧発症の危険性が高くなる

 眼圧と高血圧リスクとの関連性を示すデータが報告された。眼圧は基準範囲内と判定されていても、高い場合はその後の高血圧発症リスクが高く、この関係は交絡因子を調整後にも有意だという。札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座の古橋眞人氏と田中希尚氏、佐藤達也氏、同眼科学講座の大黒浩氏と梅津新矢氏らの共同研究によるもので、詳細は「Circulation Journal」に7月24日掲載された。 眼圧が高いことは緑内障のリスク因子であり、21mmHg以上の場合に「高眼圧」と判定され緑内障の精査が行われる。一方、これまでの横断研究から、高血圧患者は眼圧が高いことが知られている。ただし縦断研究のエビデンスは少なく、現状において眼圧の高さは高血圧のリスク因子と見なされていない。そのため眼圧は短時間で非侵襲的に評価できるにもかかわらず、もっぱら緑内障の診断や管理という眼科領域でのみ測定されている。この状況を背景として古橋氏らの研究チームは、健診受診者の大規模データを用いた後方視的縦断研究によって、眼圧と高血圧リスクとの関連を検討した。 解析対象は、札幌市内の渓仁会円山クリニックで2006年に健診を受けた2万8,990人のうち、10年後の2016年までに1回以上再度健診を受けていて、眼圧と血圧の経時的データがあり、ベースライン時に高血圧と診断されていなかった7,487人。主な特徴は、ベースライン時において年齢48±9歳、BMI22.8±3.2、収縮期血圧112±13mmHg、拡張期血圧72±9mmHgで、眼圧(両眼の平均)は中央値13mmHg(四分位範囲11~15mmHg)で大半が基準値上限(21mmHg)未満の正常眼圧だった。 血圧140/90mmHg以上または降圧薬の処方開始で高血圧の新規発症を定義したところ、平均6.0年(範囲1~10年)、4万5,001人年の追跡で、1,602人がこれに該当した(男性の24.3%、女性の11.5%)。ベースラインの眼圧の三分位で3群に分けカプランマイヤー法で比較すると、高血圧の累積発症率は第3三分位群(眼圧14mmHg以上)、第2三分位群(同12~13mmHg)、第1三分位群(同11mmHg以下)の順に高く、有意差が認められた(P<0.001)。 次に、高血圧の新規発症に対する眼圧との関連を、交絡因子(年齢、性別、収縮期血圧、肥満、腎機能、喫煙・飲酒習慣、高血圧の家族歴、糖尿病・脂質異常症の罹患)で調整した多変量Cox比例ハザード解析を施行。その結果、年齢や収縮期血圧、肥満、喫煙・飲酒習慣、高血圧の家族歴、糖尿病の罹患とともに、高眼圧が高血圧発症の独立した危険因子として採択された(第1三分位群を基準として第3三分位群のハザード比が1.14〔95%信頼区間1.01~1.29〕)。さらに制限付き3次スプライン曲線での解析により、ベースラインの眼圧が高いほど高血圧発症リスクが徐々に上昇するという現象が確認された。 これらの結果から著者らは、「眼圧が基準範囲内であっても高ければ、その後の高血圧発症リスクが高くなるということが、大規模な縦断研究の結果として明らかになった。眼圧高値を緑内障の診断・管理目的のみでなく、心血管疾患の危険因子として捉え、内科と眼科は綿密に連携をとって評価する必要があるのではないか」と結論付けている。なお、高眼圧や緑内障と高血圧の関連のメカニズムについては、先行研究からの考察として、「眼圧を規定する房水の産生には交感神経活性の亢進が関与していて、緑内障には活性酸素種の産生亢進が関与している。それらのいずれも血圧を押し上げるように働く」と述べられている。

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これでイノカ(INOCA)?これでいいのだ!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第76回

狭窄や閉塞のない原因不明の胸痛「本当に胸が痛いんです」外来の診察室で患者さんが話します。他病院を受診していたのですが、経過が思わしくなく当方を受診されたようです。「○○病院の循環器内科のお医者さんは、相手にしてくれないんです。本当に痛みがあるのに、心療内科に紹介するというのです。神経質だからとか、不安症だからという訳ではないんです。本当に胸が痛いんです。悔しいやら、情けないやら、先生、助けてください」患者は50歳の女性で、3ヵ月前から始まった胸痛を主訴に来院しました。胸痛は主に運動時に出現し、階段の上り下りや家事中に誘発されるそうです。前胸部に鈍痛として感じられ、締め付けられるような感覚を伴います。痛みは夜間にも現れることがあり、数分から10分程度持続します。全体的に疲れやすく、活動時に息苦しさもあるとの訴えです。○○病院を受診し、初診時の心電図や心エコーでは明らかな異常は認められませんでしたが、狭心症の疑いがあるからとの説明で心臓CT検査を受けました。その結果、冠動脈に狭窄や閉塞はなく大丈夫と言われたそうです。心臓CTを受ける前に、もし冠動脈に詰まりかけている部位があれば、入院してカテーテル治療が必要かもしれないと説明を受けたとのことでした。この時点までの医師の対応は、優しく患者に寄り添い、訴えにも親身に耳を傾けてくれたそうです。ところが、冠動脈に狭窄病変がないと結果が判明したときから、医師の対応が冷たくなり、症状を訴えても相手にしてくれなくなりました。近年注目されるINOCAこの患者さんのように、原因不明とされる胸痛に悩まされている方は、実は多く存在します。注目を集めている病態があります。目視できるサイズの冠動脈に閉塞や狭窄がない狭心症という意味で、虚血性非閉塞性冠疾患(Ischemic Non-obstructive Coronary Artery disease)といい、スペルの頭文字からINOCAと略され、「イノカ」と発音します。高血圧・糖尿病・脂質異常症などの動脈硬化リスクの高い患者では、冠動脈に明らかな閉塞・狭窄がみられます。一方で、動脈硬化リスクが低い患者では冠動脈が正常にみえることから、検査をしても異常なしとされることが多くありました。近年、INOCAを診断するための新しい検査機器が開発され、今まで診断することができなかった原因不明の胸痛に対する確定診断の道筋ができたのです。従来法の冠動脈造影検査が正常であっても、本当は心臓が血流障害のために悲鳴を上げている病態です。詳細は述べませんが、冠攣縮性狭心症や微小血管狭心症の可能性があります。微小血管狭心症とは、肉眼では見えない髪の毛ほどの太さ(100μm以下)の微小な冠動脈の動脈硬化や拡張不全、収縮亢進のために胸痛が生じるのです。この患者さんの場合、専用のカテーテル検査機器と解析ソフトを用いて微小血管の血流や抵抗値を測定し、微小血管狭心症の診断が確定しました。その病態に応じて内服薬を調整し、胸痛から開放されました。難しい症例は共感が薄れる?この例を通じて多くの考えることがありました。診断が難しい、あるいは治療が困難な症例に直面すると、医師は精神的な負担を感じやすくなります。これにより患者に対する対応が冷たくなったり、共感が薄れたりするのです。治療が順調に進み見通しが良い場合に、より共感的に対応することは簡単です。反対に、診断がつかない、治療の見込みがない場合には、距離を置いてしまう傾向があります。紹介した症例で最初に対応した○○病院の循環器内科医を責めている訳ではありません。医師であれば、誰でも思い当たる感情の揺らぎなのです。また「後医は名医」というように、情報が集約された時間的に後から診療する医師のほうが優位な立場にあることは明白です。とはいえ、どのような状況でも心の平静を保ち、フラットに対応できる精神力を維持することの大切さを学んだのでした。自分は、INOCAの症例に出会うたびに自問自答する呪文があります。「これでイノカ?」カンファレンスの場で声に出すと恥ずかしいので、心の中で唱えます。「これでいいのだ!」ご存じのように、バカボンのパパのあまりにも有名な決めセリフです。ザ・昭和のギャグアニメの主人公にして、私も最も敬愛する人物であるバカボンのパパは、バカ田大学を主席で卒業し、定職に就かず「これでいいのだ!」を合い言葉に、日々楽しく自由に生きる男です。美人の妻と、バカボンとはじめちゃんという2人の息子がいます。バカボンのパパの名言を紹介します。「わしはバカボンのパパなのだ。わしはリタイヤしたのだ。すべての心配からリタイヤしたのだ。だからわしは疲れないのだ。どうだ、これでいいのだ。やっぱり、これでいいのだ」バカボンという名前の由来は、サンスクリット語の仏教用語「薄伽梵(ばぎゃぼん)」という言葉という説もあるそうです。「これでいいのだ」は、お釈迦さまの「すべてをありのままに受け容れる」という悟りの境地に到達していることを示す言葉なのです。話が脱線したようですが、患者さんの訴える症状を否定することなく受け容れることが、INOCAの診断の鍵であることは間違いありません。「これでイノカ? やっぱり、これでいいのだ!」

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15の診断名・11の内服薬―この薬は本当に必要?【こんなときどうする?高齢者診療】第5回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年8月に扱ったテーマ「高齢者への使用を避けたい薬」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。老年医学の型「5つのM」の3つめにあたるのが「薬」です。患者の主訴を聞くときは、必ず薬の影響を念頭に置くのが老年医学のスタンダード。どのように診療・ケアに役立つのか、症例から考えてみましょう。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)病気のデパートのような診断名の多さです。薬の数は、5剤以上で多剤併用とするポリファーマシーの基準1)をはるかに超えています。この症例を「これらの診断名は正しいのか?」、「処方されている薬は必要だったのか?」このふたつの点から整理していきましょう。初診の高齢者には、必ず薬の副作用を疑った診察を!私は高齢者の診療で、コモンな老年症候群と同時に、さまざまな訴えや症状が薬の副作用である可能性を考慮にいれて診察しています。なぜなら、老年症候群と薬の副作用で生じる症状はとても似ているからです。たとえば、認知機能低下、抑うつ、起立性低血圧、転倒、高血圧、排尿障害、便秘、パーキンソン症状など2)があります。症状が多くて覚えられないという方にもおすすめのアセスメント方法は、第2回で解説したDEEP-INを使うことです。これに沿って問診する際、とくにD(認知機能)、P(身体機能)、I(失禁)、N(栄養状態)の機能低下や症状が服用している薬と関連していないか意識的に問診することで診療が効率的になります。処方カスケードを見つけ、不要な薬を特定するさて、はっきりしない既往歴や薬があまりに多いときは処方カスケードの可能性も考えます。薬剤による副作用で出現した症状に新しく診断名がついて、対処するための処方が追加されつづける流れを処方カスケードといいます。この患者では、変形性膝関節症に対する鎮痛薬(NSAIDs)→NSAIDsによる逆流性食道炎→制酸薬といったカスケードや、NSAIDs→血圧上昇→高血圧症の診断→降圧薬(アムロジピン)→下肢のむくみ→心不全疑い→利尿薬→血中尿酸値上昇→痛風発作→痛風薬→急性腎不全という流れが考えられます。このような流れで診断名や処方薬が増えたと想定すると、カスケードが起こる前は以下の診断名で、必要だったのはこれらの処方薬ではと考えることができます。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)減薬の5ステップ減らせそうな薬の検討がついたら以下の5つをもとに減薬するかどうかを考えましょう。(1)中止/減量することを検討できそうな薬に注目する(2)利益と不利益を洗い出す(3)減薬が可能な状況か、できないとするとなぜか、を確認する(4)病状や併存疾患、認知・身体機能本人の大切にしていることや周辺環境をもとに優先順位を決める(第1回・5つのMを参照)(5)減薬後のフォローアップ方法を考え、調整する患者に利益をもたらす介入にするために(2)~(4)のステップはとても重要です。効果が見込めない薬でも本人の思い入れが強く、中止・減量が難しい場合もあります。またフォローアップが行える環境でないと、本当は必要な薬を中断してしまって健康を害する状況を見過ごしてしまうかもしれません。フォローアップのない介入は患者の不利益につながりかねません。どのような薬であっても、これらのプロセスを踏むことを減薬成功の鍵としてぜひ覚えておいてください! 高齢者への処方・減量の原則実際に高齢者へ処方を開始したり、減量・中止したりする際には、「Stand by, Start low, Go slow」3)に沿って進めます。Stand byまず様子をみる。不要な薬を開始しない。効果が見込めない薬を使い始めない。効果はあるが発現まで時間のかかる薬を使い始めない。Start lowより安全性が高い薬を少量、効果が期待できる最小量から使う。副作用が起こる確率が高い場合は、代替薬がないか確認する。Go slow増量する場合は、少しづつ、ゆっくりと。(*例外はあり)複数の薬を同時に開始/中止しない現場での実感として、1度に変更・増量・減量する薬は基本的に2剤以下に留めると介入の効果をモニタリングしやすく、安全に減量・中止または必要な調整が行えます。開始や増量、または中止を数日も待てない状況は意外に多くありませんから、焦らず時間をかけることもまたポイントです。つまり3つの原則は、薬を開始・増量するときにも有用です。ぜひ皆さんの診療に役立ててみてください! よりリアルな減薬のポイントはオンラインサロンでサロンでは、ふらつき・転倒・記憶力低下を主訴に来院した8剤併用中の78歳女性のケースを例に、クイズ形式で介入のポイントをディスカッションしています。高齢者によく処方される薬剤の副作用・副効果の解説に加えて、転倒につながりやすい処方の組み合わせや、アセトアミノフェンが効かないときに何を処方するのか?アメリカでの最先端をお話いただいています。参考1)Danijela Gnjidic,et al. J Clin Epidemiol. 2012;65(9):989-95.2)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 33. 2020. 丸善出版3)The 4Ms of Age Friendly Healthcare Delivery: Medications#104/Geriatric Fast Fact.上記サイトはstart low, go slow を含めた老年医学のまとめサイトです。翻訳ソフトなど用いてぜひ参照してみてください。実はオリジナルは「start low, go slow」だけなのですが、どうしても「診断して治療する」=検査・処方に走ってしまいがちな医師としての自分への自戒を込めて、stand by を追加して、反射的に処方しないことを忘れないようにしています。

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体重増加による血管への悪影響、年齢で異なる

 歳とともに体重が増えることによる血管への悪影響は60歳未満で顕著であり、60歳を超えると有意なリスク因子でなくなる可能性を示唆するデータが報告された。名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科の田野翔氏、小谷友美氏らの研究結果であり、詳細は「Preventive Medicine Reports」7月号に掲載された。 BMIで評価される体重の増加が、動脈硬化性疾患のリスク因子であることは広く知られている。しかし、体重増加の影響力は人によって異なり、体重管理により大きなメリットを得られる集団の特徴は明らかでない。田野氏らは、動脈硬化の指標である心臓足首血管指数(CAVI)とBMIの変化との関連を検討することで、体重増加の影響が大きい集団の特定を試みた。 この研究は、愛知県で複数の医療施設を運営しているセントラルクリニックグループでの企業健診受診者データを用いて行われた。2015年から2019年(新型コロナウイルス感染症パンデミックにより人々のBMIなどに変化が生じる前)に年間BMI変化量を評価でき、かつ2019年にCAVIが測定されていた459人(男性71.9%)を解析対象とした。 459人中53人(11.5%)が、2019年時点のCAVIが9以上であり、動脈硬化の進展が疑われた。CAVI9以上/未満で比較すると、9以上の群は高齢で男性が多く、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの動脈硬化リスク因子の保有率が高いという有意差が認められた。一方、BMIは2015年と2019年のいずれの時点でも有意差がなかった。ランダムフォレストモデルという統計学的手法により、CAVIが9以上であることに寄与する因子として、年齢が最も重要であり(重要度を表す値が17.09)、次いで脂質異常(総コレステロールが同7.86、HDL-コレステロールは7.04)で、その次が体重(現在〔2019年時点〕のBMIが6.09、年間BMI変化量が5.98)であることが分かった。 次に、交絡因子(年齢、性別、現在のBMI、年間BMI変化量、血圧、糖・脂質代謝指標など)の影響を調整し、2019年時点のCAVIと関連のある因子を重回帰分析で検討すると、独立した正の関連因子として、年齢と中性脂肪とともに、年間BMI変化量(β=0.09)が抽出された。反対に、独立した負の関連因子として、性別が女性であることと、現在のBMI(β=-0.34)が抽出された。 続いて年齢60歳未満/以上で層別化した上で、CAVI9以上に関連する因子を検討した。その結果、60歳未満の群では、年齢(調整オッズ比〔aOR〕1.32〔95%信頼区間1.15~1.52〕)以外では、年間BMI変化量(aOR11.98〔同1.13~126.27〕)のみが有意な関連因子として抽出された。性別や血清脂質および現在のBMIとの関連は有意でなかった。一方、60歳以上の群における有意な関連因子は年齢(aOR1.44〔同1.17~1.76〕)のみであり、現在のBMIや年間BMI変化量を含むその他の因子は独立した関連が示されなかった。なお、60歳以上における年齢の影響を性別に比較した場合、有意水準に至らないものの、女性の方がより大きな影響を及ぼしていた。 著者らは本研究で明らかになった主なポイントとして、第一にCAVIに最も影響を及ぼす因子は年齢であること、第二に年間BMI変化量はCAVIと正の関連があった一方で現在のBMIは負の関連があること、第三に60歳未満では年間BMI変化量がCAVI9以上の関連因子であるが60歳以上ではそうでないことを挙げている。中でも60歳未満で年間BMI変化量がCAVI高値の独立した関連因子であるという点は、肥満と動脈硬化進展に関する新たな知見だとしている。現在のBMIとCAVIとの関連が負であることについては、肥満が健康リスク因子であるにもかかわらず、生命予後に対して保護的に働くという、いわゆる「肥満パラドックス」を表しているのではないかと考察されている。 なお、本研究は観察研究のため、介入によって体重管理を行った場合にCAVI上昇が抑制されるかは不明なことなどが、解釈上の注意点として付記されている。

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仕事のストレスで心房細動に?

 職場で強いストレスにさらされていて、仕事の対価が低いと感じている場合、心房細動のリスクがほぼ2倍に上昇することを示す研究結果が報告された。ラヴァル大学(カナダ)のXavier Trudel氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に8月14日掲載された。 心房細動は不整脈の一種で、自覚症状として動悸やめまいなどを生じることがあるが、より重要な点は、心臓の中に血液の塊(血栓)が形成されやすくなることにある。形成された血栓が脳の動脈に運ばれるという機序での脳梗塞が起こりやすく、さらにこのタイプの脳梗塞は梗塞の範囲が広く重症になりやすい。 これまでに、仕事上のストレスや職場の不当な評価の自覚が、冠動脈性心疾患(CHD)のリスクを高めることが報告されている。しかし、心房細動のリスクもそのような理由で高まるのかは明らかでない。この点についてTrudel氏らは、カナダのケベック州の公的機関におけるホワイトカラー労働者対象疫学研究のデータを用いて検討した。 解析対象は、ベースライン時に心血管疾患の既往のない5,926人で、平均年齢45.3±6.7歳、女性が51.0%を占めていた。この人たちの医療記録を平均18年間にわたり追跡したところ、186人が心房細動を発症していた。心房細動を発症した人の19%は、アンケートにより「仕事上のストレスが強い」と回答した人だった。また25%は「自分の仕事が正当に評価されず対価が低すぎる」と感じていた。そして10%の人は、それら両者に該当した。 心房細動のリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、飲酒・喫煙・運動習慣、BMI、教育歴、高血圧、糖尿病、脂質異常症、降圧薬の処方、心血管疾患の家族歴)を調整後、仕事上のストレスを強く感じている人はそうでない人に比べて、心房細動のリスクが83%高いことが分かった(ハザード比〔HR〕1.83〔95%信頼区間1.14〜2.92〕)。また、仕事の評価や対価が低いと感じている人はそうでない人より、心房細動のリスクが44%高かった(HR1.44〔同1.05〜1.98〕)。そして、それら両者に該当する人の心房細動リスクは97%高かった(HR1.97〔同1.26~3.07〕)。 この結果について著者らは、「仕事上のストレスや職場での不当な評価の自覚は、CHDだけでなく心房細動のリスク増大とも関連している。職場での心理社会的ストレスをターゲットとした疾患予防戦略が必要ではないか」と述べている。そのような予防戦略の具体的な施策としてTrudel氏は、大規模なプロジェクトはその進行ペースを落として労働者の負担を軽減すること、柔軟な勤務体系を導入すること、管理者と労働者が定期的に日常の課題について話し合うことなどを挙げている。 米国心臓協会(AHA)によると、心房細動は心臓関連の死亡リスクを2倍にし、脳卒中のリスクを5倍に高めるという。また、米国内の心房細動の患者数は2030年までに、1200万人以上に拡大することが予想されているとのことだ。

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新たな「血小板スコア」で脳卒中や心筋梗塞リスクを予測

 実験段階にある遺伝子検査によって、命に関わることもある血栓症のリスクを予測できる可能性のあることが、米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医科大学院心血管疾患予防センターのJeffrey Berger氏らの研究で示された。この新たな検査でスコアが高かった末梢動脈疾患(PAD)患者は、下肢血行再建術(足の閉塞した動脈を広げて血流を取り戻す治療)後の心筋梗塞や脳卒中、下肢切断のリスクが2倍以上であることが示されたという。この研究結果は、「Nature Communications」に8月20日掲載された。 この検査は、血小板の機能(反応性)が亢進状態であるかどうかを評価するもの。血小板は最も小さな血液細胞であり、傷ついた血管からの出血を検知すると凝集して血栓を形成する。本研究の背景情報によると、心臓専門医の間ではこれまで、一部の人で血小板機能が亢進し、心筋梗塞や脳卒中、PADなどを引き起こす血栓が形成されやすくなることが知られていた。しかし、血小板機能を調べるために日常的に行われている血小板凝集検査は、検査機関により結果が異なり、有用性は高くなかったという。 本研究ではまず、下肢血行再建術前にエピネフリン0.4μMを用いた血小板凝集能の測定を受けた254人のPAD患者を対象に、血小板機能の亢進と心筋梗塞や脳卒中、下肢切断の複合エンドポイント(MACLE)との関連が検討された。その結果、血小板機能亢進(凝集率60%超と定義)と判定された17.5%の患者での下肢血行再建術後30日以内のMACLEの発生リスクは、血小板機能亢進が認められなかった患者の2倍以上であることが明らかになった(37.2%対15.3%、HR 2.76、95%信頼区間1.5〜5.1)。 次にBerger氏らは、下肢血行再建術前に129人の患者(うち、血小板機能亢進が確認された患者は19人〔22.6%〕)から採取されていたサンプルを用いて血小板のRNAシーケンシングを行い、血小板機能亢進が認められなかった患者とは異なる451の遺伝子を特定した。その上で、バイオインフォマティクスを用いてこれらの遺伝的な差異に重み付けを行い、各患者の「Platelet Reactivity ExpreSsion Score(PRESS);血小板反応性発現スコア」を算出した。その上で、血小板機能亢進患者の特定について、このスコアの性能を評価したところ、PRESSは、PAD患者においても(交差検証によるROC曲線下面積〔AUC〕0.81、95%信頼区間0.68〜0.94)、健康な参加者の独立コホートにおいても(AUC 0.77、95%信頼区間0.75〜0.79)、良好に機能することが示された。さらに、別のPAD患者の集団でPRESSの精度を検証した。その結果、PRESSのスコアが中央値を上回っていた患者では、中央値を下回っていた患者と比べて心筋梗塞や脳卒中のリスクが90%有意に高いことが示された。 「われわれの研究の結果は、血小板を中心に据えた新しいスコアリングシステムによって、血小板機能亢進とそれに関連する心血管イベントのリスクを、高い信頼性をもって予測できることを示している」とBerger氏は言う。同氏らによると、この血小板のスコアによって、心筋梗塞のリスクが高い疾患のある人だけでなく、健康な人についても血小板機能亢進の有無を判定できるのだという。 Berger氏はこの新たな検査について、「抗血小板療法の対象を、同療法の恩恵を受ける可能性が最も高い、血小板機能亢進を伴う患者に限定する助けとなる可能性がある」と付言している。 Berger氏はNYUのニュースリリースの中で、「現在、医師は血小板の機能とは直接関係のない脂質異常症や高血圧などのリスク因子に基づいて、血小板の活性を阻害する薬剤であるアスピリンを処方している」と説明。しかし同氏らは、アスピリンにより危険な出血リスクが高まる可能性のあることを指摘している。 NYUランゴン医学・病理学部助教のTessa Barrett氏は、「現在の診療では、心筋梗塞や脳卒中の初発予防に抗血小板療法をルーチンで行うことは推奨されていない。しかし、血小板をベースとした検査によってリスクの最も高い患者や、抗血小板療法による心血管イベントの予防において最大の恩恵が見込める患者を特定できる可能性がある」と話し、「このスコアにより、心血管疾患リスク抑制の個別化が進展する可能性がある」との展望を示している。

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LCAT欠損症〔Lecithin-cholesterol acyltransferase deficiency〕

1 疾患概要■ 概念・定義1966年、角膜混濁、貧血、蛋白尿を呈し、慢性腎炎の疑いで33歳の女性がノルウェー・オスロの病院でみつかった。腎機能は正常ではあるが、血清アルブミンはやや低く、血漿総コレステロール、トリグリセリドが高値で、コレステロールのほとんどはエステル化されていなかった。腎生検では糸球体係蹄に泡沫細胞が認められた。その後、患者の姉妹に同様の所見を認め、遺伝性の疾患であることが疑われた。その後、ノルウェーで別の3家系がみつかり、後にこれらの患者は同一の遺伝子異常を保有していた。患者は血中のレシチン:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)活性を欠損しており、NorumとGjoneによりこの疾患が家族性LCAT欠損症(Familial LCAT deficiency:FLD)と名付けられた。後にCarlsonとPhilipsonによって魚眼病(Fish eye disease:FED)が報告された。LCATは、血漿リポタンパク質上のコレステロールのエステル化反応を触媒し、この反応はHDL上とアポリポ蛋白(アポ)B含有リポ蛋白(LDLとVLDL)上の両方で起こる。前者をα活性、後者をβ活性と呼ぶ。LCAT蛋白のα活性とβ活性の両者を欠損する病態がFLD、α活性のみを欠損する病態がFEDと定義されている。現在これらはいずれもLCAT遺伝子の変異による常染色体潜性遺伝性疾患であることが知られており、LCAT機能異常を原因とする脂質代謝異常とリポ蛋白異常を介してさまざまな合併症を引き起こす1-3)。わが国では、2015年7月1日に指定難病(259)として認定されている。■ 疫学FLDおよびFED症例の大部分はヨーロッパで報告されており、FLD症例報告数は男性が多い。ヘテロ接合体の地理的分布は、FEDとFED患者にみられる分布と同じである。興味深いことに、ヘテロ接合体の性別分布は、FED変異とFLD変異のヘテロ接合体の男女比は同等であると報告されている。角膜混濁はほぼすべてのFLDおよびFED患者に認められる。HDL-C値は、FLDとFEDの両者で一様に低く、ほとんどの患者で10mg/dL未満である。FLD症例の85%以上は報告時に蛋白尿を呈しているが、FED症例では蛋白尿は報告されていない。FLD患者のほとんどは貧血を合併している。臨床学的に明らかな動脈硬化性心血管疾患は、FLD患者の10%程度、FED患者の25%程度で報告されている。■ 病因第16番染色体短腕に存在するLCAT遺伝子の変異が原因である。単一遺伝子(LCAT遺伝子)の変異による先天性疾患であり、常染色体潜性遺伝形式をとり、既報では100万人に1人程度の頻度であると述べられている。わが国において同定されている遺伝子変異は20種類程度ある。■ 症状LCAT欠損症の典型的な臨床所見を表に記載した。表 LCAT欠損症の典型的臨床所見画像を拡大するLCAT活性測定法は外因性(HDL様)基質を用いる方法でα活性を評価できる。内因性基質を用いる方法では、血中の総エステル化活性(Cholesterol esterification rate:CER)が評価できる。これらを併用することで、FLDとFEDの鑑別が可能である。1)脂質代謝異常LCATによる血漿リポ蛋白上のコレステロールのエステル化反応は、アポA-IやEなどのアポリポ蛋白の存在を必要とする。FLDやFEDにおけるLCAT活性の低下はHDL-Cの顕著な減少を引き起こし、未熟なHDLが血漿中に残り、電子顕微鏡観察で連銭形成として現れる。このHDLの成熟や機能の障害に伴ってさまざまな合併症が引き起こされる。2)眼科所見角膜混濁はしばしば本症で認識される最初の臨床所見であり、幼少期から認められる。患者角膜実質に顕著な遊離コレステロールとリン脂質の蓄積が観察される。FLDよりもFEDにおいてより顕著である。本症では中心視力は比較的保たれているものの、コントラスト感度の低下が顕著であり、患者は夜盲、羞明といった自覚症状を訴えることがある。3)血液系異常赤血球膜の脂質組成異常により標的赤血球が出現し溶血性貧血が認められる。赤血球の半減期が健常人の半分程度である。また、溶血のため血糖値と比較してHbA1cが相対的に低値となる。4)蛋白尿、腎機能障害幼少期から重篤になるケースは報告されていないが、蛋白尿から進行性の腎不全を発症する。FEDでは一般に認められない。患者LDL分画に異常リポ蛋白が認められ、それが腎機能障害と関連することが示唆されている。5)動脈硬化前述のように動脈硬化性心血管疾患を合併することがある。しかし、これまでに行われている研究の範囲では、LCAT欠損が動脈硬化性心血管疾患のリスクとなるかどうかはどちらとも言えず、はっきりとした結論は得られていない。■ 予後本症の予後を規定するのは、腎機能障害であると考えられる。特定のFLD変異を有する1家系を中央値で12年間追跡調査した研究によると、ホモ接合体ではeGFRが年平均3.56mL/min/1.73m2悪化したのに対し、ヘテロ接合体では1.33mL/分/1.73m2、対照では0.68mL/min/1.73m2であった4)。また、これまでの症例報告をまとめた最近の総説において、FLD患者は年平均6.18mL/min/1.73m2悪化していると報告されている3)。18例のFLD患者を中央値で12年間追跡調査した研究では、腎イベント(透析、腎移植、腎合併症による死亡)は中央値46歳で起こると報告されている5)。これらの報告から、典型的な症例では、蛋白尿を30歳頃から認め、腎不全を40〜50歳で発症すると考えられる。FLDとFEDに共通して、角膜混濁の進行による患者QOLの低下も大きな問題である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査角膜混濁、低HDL-C血症が本症を疑うべき主な臨床所見である。さらにFLDでは蛋白尿を認める場合がある。HDL-Cはほとんどの症例で10mg/dL未満である。LCATがコレステロールのエステル化を触媒する酵素であることから、総コレステロールに占めるエステル化コレステロールの割合(CE/TC)が低下する。CE/TCはFLDで著減するのに対し、α活性のみが欠損するFEDは大きく低下することはない。■ 特殊検査1)脂質検査HDLの主要なアポリポ蛋白であるアポA-I、A-IIが低下する。血清または血漿中LCAT活性の低下が認められる。LDL分画を中心として異常リポ蛋白が同定される。2)眼科検査Slit-lamp examination(細隙灯検査)により上皮を除く角膜層に灰白色の粒状斑が観察される。本症の患者の中心視力は、比較的保たれているケースが多い一方で、コントラスト感度検査で正常範囲から逸脱することが報告されている。■ 腎生検FLDが疑われる場合は腎生検が有用である。糸球体基底膜、血管内皮下への遊離コレステロールとリン脂質の沈着が認められる。泡沫細胞の蓄積、ボーマン嚢や糸球体基底膜の肥厚が観察される。電子顕微鏡観察では毛細管腔、基底膜、メサンギウム領域に高電子密度の膜構造の蓄積が認められる。■ 確定診断遺伝子解析においてLCAT遺伝子変異を認める。以下に本症の診断基準を示す。<診断基準>本邦におけるLCAT欠損症の診断基準を難病情報センターのホームページより引用した(2024年7月)。最新の情報については、当該ホームページまたは原発性脂質異常症に関する調査研究班のホームページで確認いただきたい。A.必須項目1.血中HDLコレステロール値25mg/dL未満2.コレステロールエステル比の低下(60%以下)B.症状1.蛋白尿または腎機能障害2.角膜混濁C.検査所見1.血液・生化学的検査所見(1)貧血(ヘモグロビン値<11g/dL)(2)赤血球形態の異常(いわゆる「標的赤血球」「大小不同症」「奇形赤血球症」「口状赤血球」)(3)異常リポ蛋白の出現(Lp-X、大型TG rich LDL)(4)眼科検査所見:コントラスト感度の正常範囲からの逸脱D.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。他の遺伝性低HDLコレステロール血症(タンジール病、アポリポタンパクA-I欠損症)、続発性LCAT欠損症(肝疾患(肝硬変・劇症肝炎)、胆道閉塞、低栄養、悪液質など蛋白合成低下を呈する病態、基礎疾患を有する自己免疫性LCAT欠損症)二次性低HDLコレステロール血症*1(*1 外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月以内のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む))E.遺伝学的検査LCAT遺伝子の変異<診断のカテゴリー>必須項目の2項目を満たした例において、以下のように判定する。DefiniteB・Cのうち1項目以上を満たしDの鑑別すべき疾患を除外し、Eを満たすものProbableB・Cのうち1項目以上を満たしDの鑑別すべき疾患を除外したもの3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 臓器移植腎移植は一時的な腎機能改善には効果があるが、再発のリスクがある。角膜移植も同様である。■ 食事および薬物治療低脂肪食により腎機能障害の進展が遅延した症例がある。腎機能の増悪の予防や改善を目的とした薬物療法が行われた症例がある。いずれも対症療法であり、長期の進展予防効果や再発の可能性は明らかでない。■ 人工HDL(HDL-mimetic)人工HDLの輸注により腎機能の低下が遅延し、腎生検では脂質沈着がわずかに減少したと報告されている。■ 酵素補充療法組換え型LCAT蛋白の輸注によるものと、遺伝子治療による酵素補充療法が考えられる。1)組換え型LCAT製剤米国で組換え型LCATの臨床試験が1例実施され、脂質異常の改善とともに貧血、腎機能の改善が認められたが、その効果は2週間程度であった。繰り返し投与が必須であり、また、臨床試験期間中に組換え型LCATの供給が不足し、当該患者は透析治療に移行したと報告されている。2)遺伝子治療遺伝子治療は、より持続的な酵素補充が可能であると考えられる。LCAT遺伝子発現アデノ随伴ウイルスベクターが動物実験で評価されている。わが国で脂肪細胞を用いたex vivo遺伝子細胞治療が、臨床試験段階にある。投与された1例において、LCAT活性は臨床試験期間を通じて患者血清中に検出されている。これらは長期の有効性が期待される。4 今後の展望FLDとFEDの診断には、代謝内科、眼科、腎臓内科など複数の診療科の関与が必要であること、また、本疾患が自覚症状に乏しいことなどにより診断が遅れる、もしくは診断に至っていない患者がいると考えられる。わが国では、現状LCAT活性の測定や遺伝子検査は保険適用対象外であり、このことも医師が患者を診断することを困難にしている。現在、遺伝子組換え製剤の輸血や遺伝子・細胞治療によるLCAT酵素補充療法が開発中である。近い将来、これらの治療法が実用化され、患者のQOLが改善されることが期待される。5 主たる診療科代謝内科、眼科、腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業(原発性脂質異常症に関する調査研究)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会ガイドライン「低脂血症の診断と治療 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版」(2023年6月30日発行)(医療従事者向けのまとまった情報)千葉大学医学部附属病院【動画】LCAT欠損症について【動画】LCAT欠損症の治療について未来開拓センター(いずれも一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報LCAT欠損症患者会(患者とその家族および支援者の会)1)Santamarina-Fojo S, et al. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th edn. 2001;2817-2833.2)Kuroda M, et al. J Atheroscler Thromb. 2021;28:679-691.3)Vitali C, et al. J Lipid Res. 2022;63:100-169.4)Fountoulakis N, et al. Am J Kidney Dis. 2019;74:510-522.5)Pavanello C, et al. J Lipid Res. 2020;61:1784-1788.公開履歴初回2024年9月12日

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危険なめまいを患者に伝える

患者さん、その症状はめまい ですよ!めまい(目眩)とは、以下のような症状を伴います。□自分やまわりがぐるぐる回る□物が二重に見える□ふわふわしている□不安感□気が遠くなりそうな感じ□動悸□眼前暗黒感□吐き気◆とくに注意‼ 脳梗塞が疑われる「めまい」• まわりの景色がぐるぐる回る(回転性めまい)症状が続き、まったく歩けなければ、病院の救急科への受診が必要です• 動脈硬化のリスク(高齢、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、喫煙)や血栓症のリスク(心房細動…)がある• 物が二重に見える(複視)、話しにくい(構音障害)、飲み込みにくい(嚥下障害)、意識が悪い(意識障害)などの症状がある出典:日本神経学会:脳神経内科の主な病気(症状編)めまい監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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めまい(BPPV以外)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第18回

前回は良性発作性頭位めまい症(BPPV)の患者さんの対応を紹介しました。今回は、続きとしてBPPV以外のめまいの対応を紹介します。再度STANDINGアルゴリズムを見てください(図1)。図1 STANDINGアルゴリズム画像を拡大する頭位変換でめまいが誘発されず、継続して眼振がある(Spontaneous)症例を提示します。私は自発性眼振は在宅や施設では経験がないので、救急外来に運ばれてきた症例を提示します。<症例>68歳、女性主訴めまい現病歴朝起床時から、ふわふわする感じがあった。その後、次第に回転性めまいとなり増悪。めまいのため体動困難となり救急要請。既往歴高血圧、高脂血症BP:132/80、HR:84、SPO2:99%(室内気)身体所見めまいが強くて開眼や診察が困難ではステップを追って診察してみましょう。(1)まずは治療を行うこの患者さんのようにめまい症状が強いと、独歩で受診したり、施設内で診察したりすることが難しいため救急搬送となります。こういった場合、私は治療と検査を優先します。まず「目を開けたらめまいがする」という病歴の時点でBPPVの可能性は否定的で、中枢性めまいと末梢性めまいを鑑別することが重要です。めまいや悪心が強い場合は満足に診察できません。まず治療を行いましょう。末梢性めまいに対する治療は多数あります。その中で比較的エビデンスがあるのが、抗ヒスタミン薬とメトクロプラミドであり、点滴静注を実施します1)。頭部CTはどうするか悩みますが、私は基本的に撮影しています。まともに診察ができない状況ですので脳出血が否定できないためです。この患者さんはCT撮影で出血は否定され、薬が効いてきたのか開眼できるようになりました。(2)眼振の方向(Nystagmus direction)を確認眼振ですが、基本的に1.方向交代性、2.垂直成分の有無、を評価します。私は、前庭神経障害による眼振の発生機序を説明する際に、林 寛之先生のSTEP beyond resident2)を基にした図を用いています(図2)。図2 眼振の発生機序画像を拡大する図に示すように前庭神経は左右から眼球を押しています。左が障害されると、正中を保てなくなり左に寄ります。しかし、正中を見るために右へ素早く戻る、それが右水平方向性の眼振となります。前庭神経が障害された場合、垂直成分はありません。また、両側同時に障害されることはないため、振り子のように左右均等に出たり、時間によって眼振の向きが変わったりすることもありません。この患者さんの眼振は右水平方向性の眼振で垂直成分はなく、方向交代もありませんでした。よって、左の前庭神経障害が疑われます。(3)Head impulse testよく勘違いされるのですが、Head impulse testを問題なく実施できた場合、「中枢性の可能性がある」となります。図3をみてください。図3 Head impulse test(Aはスムーズに行えており、Bは遅れている)画像を拡大する指を示して正中を注視してもらいながら、頭部を右に回旋します。すると眼球が左に動きます。もし右の前庭神経障害があれば、眼球を左へ動かす動きが障害されてしまい眼球の運動がやや遅れます。Head impulse testの問題なく行えれば前庭神経の障害ではないため「中枢性の可能性が高い」(図3のA)となり、少し遅れる場合は前庭神経の障害がありそうで「末梢性の可能性が高い」(図3のB)となります。この遅れは非常に微細で、Slowカメラなどを用いて撮影する必要があります。一度YouTubeなどでHead impulse testを見てみてださい。(4)立って歩けるか確認最後が問題なく歩けるかどうか? です。これは体感失調の有無を評価しています。「最後の最後に歩けるかどうかかよ~」と思うかもしれませんがかなり重要です。小脳梗塞を生じている患者さんはまともに歩けません。これを評価するためには「めまいで歩けない状態から改善する」必要がありますので、早期のめまい治療を実施しています。本症例はHead impulse testをするときには症状が大分改善していて、問題なく歩けました。何らかの末梢性めまいとして帰宅とし、症状が続くようであれば耳鼻科受診を勧めました。2回にわたってめまいの対処法を紹介しました。めまいは苦手意識が高い人が多く、MRIがないと不安になります。これらの内容が少しでも役に立てばと思います。 1)Muncie HL, et al. Am Fam Physician. 2017;95:154-162.2)林 寛之. Step Beyond Resident 3. 羊土社;2006.

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第208回 都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省

<先週の動き>1.都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省2.マイナ保険証の利用が低迷、医療機関への働きかけ強化へ/政府3.少子化の深刻化続く、2024年上半期の出生数が最少記録/厚労省4.75歳以上高齢者に2割負担導入で、医療費が3~6%減少/厚労省5.2022年度の体外受精児、過去最多の7.7万人に/日本産科婦人科学会6.独居高齢者の孤独死が2万8000人超に、2024年上半期/警察庁1.都市部での新規開業を制限、医師の偏在是正の対策案を発表/厚労省厚生労働省は、8月30日に地域ごとの医師の偏在を是正するための総合対策を発表した。医師が多い都市部での新規開業を抑制するため、法令改正を含む一連の措置を検討しており、都道府県知事の権限を強化する予定。武見 敬三厚生労働大臣は30日の記者会見で、医師の偏在を是正するため、省内に「医師偏在対策推進本部」を設置、9月には初会合を開くことを発表した。具体的には、新規開業希望者に対して、救急医療や在宅医療などの地域で不足している医療サービスを提供するよう要請する法的枠組みを整え、開業を事実上制限することが柱となっている。さらに、地方の医療機関への財政支援を強化し、医師不足地域への医師派遣を推進するためのマッチング支援を行うことが検討されている。これには、医師が少ない地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関の拡大、大学医学部卒業後地元で働くことを条件に医学部入学を認める「地域枠」の再配置も含まれる。厚労省内では、部局横断の推進本部が新設され、年末までに具体的な対策パッケージがまとめられる予定。また、この対策は「近未来健康活躍社会戦略」の一環として、国民皆保険の維持や医療・介護産業の発展を目指している。今後、25年度予算案への反映や通常国会での法改正も視野に入れ、医師の偏在是正に向けた取り組みが本格化する見通し。参考1)武見大臣会見概要[令和6年8月30日](厚労省)2)今後の医師偏在対策について(同)3)近未来健康活躍社会戦略(同)4)医師偏在是正へ開業抑制、都道府県の権限強化 厚労省案(日経新聞)5)医師多い地域で開業抑制、厚労省が偏在是正へ対策骨子案 地方医療機関へ財政支援強化(産経新聞)6)医師偏在是正「多数区域」の知事権限強化など 厚労省が対策具体案、年末までに具体化(CB news)2.マイナ保険証の利用が低迷、医療機関への働きかけ強化へ/政府厚生労働省は、8月30日に社会保障審議会医療保険部会を開き、「マイナ保険証」の利用促進策について検討した。2024年7月時点でのマイナ保険証の利用率は11.13%と低迷し、政府が掲げる現行健康保険証の12月廃止に向けた利用促進には課題が残っていることが明らかになった。とくに利用率が低い医療機関や薬局に対しては、厚労省が地方厚生局を通じて個別に事情を確認し、利用促進を図るための支援を行う方針を明らかにした。厚労省は「消極的な利用は療養担当規則違反の恐れがある」としているが、医療機関側からは威圧的との批判も寄せられている。政府はマイナ保険証の利用率を引き上げるため、医療機関に対して一時金の支給や補助金の期間延長などのインセンティブを提供してきたが、利用率については最高の富山県で18.0%、最下位の沖縄県で4.75%と依然として利用率が伸び悩んでいる状況。今後、政府は利用促進策をさらに強化し、国民の不安を解消するための広報活動にも力を入れる予定。さらに総務省と厚労省は、マイナンバーカードの利用拡大を図るための一連の新対策として、マイナンバーカードの暗証番号をコンビニエンスストアやスーパーで再設定できるサービスを開始し、従来の自治体窓口に出向く必要をなくした。変更にはスマートフォンの専用アプリを使用して事前手続きを行い、イオングループの店舗やセブン-イレブンの一部店舗内のマルチコピー機端末で再設定が可能となり、今後さらに広がる予定。マイナンバーカードの普及と利用促進に向けた政府の取り組みが進んでいるが、現場の課題や地域差が浮き彫りになっており、さらなる対策が求められている。参考1)マイナ保険証の利用促進等について(厚労省)2)マイナ保険証 利用率低い医療機関や薬局に聞き取りへ 厚労省(NHK)3)マイナ保険証利用増へ追加策 厚労省、個別に働きかけ(日経新聞)4)マイナ保険証、利用実績低い施設に働き掛けへ 7月の利用率11.13%、新たな利用促進策(CB news)3.少子化の深刻化続く、2024年上半期の出生数が最少記録/厚労省厚生労働省が発表した2024年1~6月の人口動態統計(速報値)によると、出生数は前年同期比5.7%減の35万74人で、1969年の統計開始以来、上半期として最少を更新した。この減少は、少子化の深刻さを浮き彫りにしている。前年同期比で約2万人の減少がみられ、これで3年連続して40万人を下回る結果となった。また、2014年と比べると出生数は約3割減少しており、長期的な低下傾向が続いている。加えて、2024年の年間出生数が70万人を下回る可能性が高まっており、少子化対策の重要性が一層強調されている。婚姻数は、前年同期比で若干の増加がみられたが、新型コロナウイルス感染症の影響による晩婚化や晩産化が、今後の出生数減少に拍車をかける可能性がある。厚労省は、若い世代の減少や晩婚化により、出生数が今後も中長期的に減少する可能性が高いとし、少子化対策は待ったなしの危機的状況であると強調する。政府は、児童手当の拡充などの対策を進めているが、これまでの施策だけでは減少を食い止められていない状況。参考1)人口動態統計速報(令和6年6月分)(厚労省)2)上半期の出生数速報値で35万人余 統計開始以来最少に(NHK)3)1~6月の出生数は35万74人、上半期で過去最少 厚労省統計(朝日新聞)4)出生数1~6月最少、5.7%減の35万人 年70万人割れの恐れ(日経新聞)4.75歳以上高齢者に2割負担導入で、医療費が3~6%減少/厚労省厚生労働省は、8月30日に社会保障審議会医療保険部会を開き、一定の所得がある75歳以上の高齢者の窓口負担割合を、2022年10月から医療費の窓口負担を1割から2割に引き上げられた影響で、1人当たりの1ヵ月の医療費が3~6%減少したことが明らかにした。この調査は、2割負担の高齢者と1割負担のままの高齢者の診療報酬データを比較して行われ、医療サービスの利用が減少したことが確認された。とくに、糖尿病や脂質異常症などの一部の疾病で外来利用が顕著に減少しており、負担増が受診控えに繋がった可能性が示唆されている。厚労省が行った厚労科学研究の結果、負担増に伴う「駆け込み需要」も一部でみられたことが報告された。調査では、2割負担への移行後に医療サービスの利用日数が約2%減少し、医療サービス全体の利用が約1%減少したことが確認された。これにより、高齢者の医療費総額が減少し、特定の疾病での外来受診が減る傾向がみられた。一方、負担増が高齢者の健康にどのような影響を与えているかについては、さらに詳しい調査が必要とされ、社会保障審議会委員からも健康影響の検証を求める声が上がっている。今後、厚労省は、この調査結果を基に、後期高齢者医療制度の窓口負担割合の見直しを検討する方針。この調査結果は、高齢者の医療費負担増が医療サービスの利用にどのような影響を及ぼしているかを理解する上で重要な資料となり、これからの政策立案に役立てられることが期待されている。参考1)後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しの影響について(厚労省)2)受診控えで医療費3~6%減 窓口負担1割→2割に増の75歳以上 厚労省調査(産経新聞)3)75歳以上で窓口負担2割、1ヵ月の医療費3%減少 1割負担者と比べ 厚労科研で検証(CB news)5.2022年度の体外受精児、過去最多の7.7万人に/日本産科婦人科学会日本産科婦人科学会が、2024年8月30日に発表した調査結果によると、2022年に国内で実施された不妊治療の一環である体外受精によって誕生した子供は、過去最多の7万7,206人に達した。これは、前年よりも7,409人増加し、全出生数の約10人に1人が体外受精で生まれたことを意味している。2022年の総出生数は約77万人であり、体外受精による出生がこれまでで最も多くなったことが確認された。体外受精の治療件数も過去最多の54万3,630件に上り、前年から4万5,000件以上増加した。とくに42歳の女性での治療件数が突出して多く、4万6,095件に達した。これは、2022年4月から体外受精に対する公的医療保険の適用が始まり、費用面でのハードルが下がったことが大きく影響したと考えられている。保険適用の対象は43歳未満の女性であるため、この年齢までに治療を行いたいと考える人が増加したとされている。また、体外受精の治療件数は2021年の約50万件からさらに増加し、前年の45万件台の横ばい傾向から再び上昇に転じた。この増加傾向は、2021年に続く大規模なもので、新型コロナウイルス感染症の影響による一時的な減少を除けば、近年は一貫して増加していることが示されている。その一方で、適齢期の女性の人口が減少していることから、今後もこの増加傾向が続くかどうかは不透明であり、専門家からは、医療保険適用による一時的な増加が影響している可能性が高く、今後の動向については引き続き注視が必要だとしている。参考1)2022年体外受精・胚移植等の臨床実施成績(日本産科婦人科学会)2)22年の体外受精児、10人に1人で過去最多 識者「保険適用でハードル下がった」(産経新聞)3)体外受精児、最多7.7万人 22年、10人に1人の割合(日経新聞)4)2022年に国内で実施の体外受精で生まれた子ども 年間で最多に(NHK)6.独居高齢者の孤独死が2万8,000人超に、2024年上半期/警察庁警察庁は、2024年上半期(1~6月)に全国で自宅死亡した独居高齢者(65歳)が2万8,330人に達したことを初めて発表した。これは、同期間に全国の警察が取り扱った自宅で死亡した1人暮らしの人が、全国で3万7,227人(暫定値)いた中の約76.1%を占めている。この統計は、政府が進める「孤独死・孤立死」の実態把握の一環として行われ、今後の対策の議論に活用される予定。この中で孤独死は、85歳以上の高齢者が7,498人と最も多く、次いで75~79歳の5,920人、70~74歳の5,635人と、高齢者の孤独死が顕著だった。また、男女別では男性が2万5,630人、女性が1万1,578人と、男性の方が圧倒的に多い傾向がみられた。地域別では東京(4,786人)が最も多く、続いて大阪、神奈川といった都市部での高齢者の孤独死が目立っている。さらに、死亡から警察が認知するまでの期間が1日以内のケースが全体の約4割に当たる1万4,775人であった一方で、15日以上経過したケースも19.3%に達し、孤立した生活の中で発見が遅れる事例が少なくないことが浮き彫りとなった。政府は昨年8月から「孤独死・孤立死」の問題に対応するためのワーキンググループを設置し、今年4月には「孤独・孤立対策推進法」が施行された。この統計結果は、今後の政策立案や社会支援の強化に向けた貴重な資料として活用されることが期待されている。参考1)令和6年上半期(1~6月分)(暫定値)における死体取扱状況(警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者)について(警察庁)2)独居高齢者、今年上半期に2万8,000人が死亡 7,000人超が85歳以上 警察庁まとめ(産経新聞)3)高齢者の「孤独死」、今年1~6月で2万8,330人…警察庁が初めて集計(読売新聞)4)高齢者の「孤独死」、半年で2万8千人 死後1ヵ月以上経ち把握も(朝日新聞)

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ミロガバリン、ペマフィブラートなど4剤に「重大な副作用」追加/厚労省

 厚生労働省は8月27日、ミロガバリン、ペマフィブラートなどの添付文書について、「重大な副作用」の新設などに伴い、使用上の注意改訂指示を発出した。タリージェ「腎機能障害」、パルモディア「肝機能障害、黄疸」が重大な副作用に追加 神経障害性疼痛治療薬であるミロガバリンベシル酸塩(商品名:タリージェ、タリージェOD)の重大な副作用として、新たに「腎機能障害」が新設された。これは、MID-NET(R)を用いた腎機能検査値異常リスクに関する調査結果の概要1,2)、市販後の腎機能障害関連症例および同作用機序を有する薬剤の国内外の注意喚起状況を踏まえ、当該リスクがあると判断されたためである。◯腎機能障害関連症例*†の国内症例の集積状況【転帰死亡症例】 26例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例3例)【死亡3例(うち、医薬品と事象による死亡との因果関係が否定できない症例0例)】 *:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例 †:以下の条件にて抽出した症例  ・MedDRA ver.27.0 SMQ「急性腎不全」(広域)またはSOC「腎および尿路障害」に該当する症例  ・本剤投与期間の記載がある症例  ・本剤投与開始後の血清クレアチニン値が男性1.07mg/dL、女性0.79mg/dL以上、GFR推定値/クレアチニンクリアランスが90mL/min/1.73m2未満、蛋白尿2+または尿蛋白/クレアチニン比>0.5(有害事象共通用語規準[CTCAE] ver.5.0のGrade1相当以上)に該当する症例 高脂血症治療薬のペマフィブラート(同:パルモディア、パルモディアXR)については、肝機能障害関連の症例を評価し、症例の因果関係評価および使用上の注意の改訂要否について、専門委員の意見を聴取。その結果、本剤と肝機能障害との因果関係が否定できない症例が集積し、当該症例に黄疸を認める症例が含まれていることから、使用上の注意を改訂し、「肝機能障害、黄疸」を追記することが適切と判断された。◯肝機能障害関連*†の国内症例の集積状況【転帰死亡症例】 25例(うち、医薬品と事象との因果関係が否定できない症例9例。当該9例のうち3例は黄疸も認めた症例)【死亡0例】 *:医薬品医療機器総合機構における副作用等報告データベースに登録された症例 †:MedDRA ver.27.0 SMQ「薬剤に関連する肝障害-包括的検索(SMQ)」で抽出した症例のうち、CTCAE ver.5.0 Grade3以上に該当する症例を抽出 このほかに、パイナップル茎搾汁精製物(同:ネキソブリッド)には「適用部位出血」が、イオジキサノール(同:ビジパーク)には「急性汎発性発疹性膿疱症」が新たに重大な副作用として追加された。

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MASLD患者の飲酒は肝線維化リスクが高い

 過体重、糖尿病、脂質異常症などの代謝異常とアルコール摂取はどちらも脂肪性肝疾患(steatotic liver disease:SLD)の原因となるが、肝線維化に対するそれらの影響は不明である。今回、スペイン・バレンシア大学のINCLIVA Health Research Instituteに所属するDavid Marti-Aguado氏らは、代謝異常関連脂肪性肝疾患*(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)患者においてアルコール摂取量が中程度の場合、代謝リスク因子との相加効果を超え、肝線維化進展リスクが指数関数的に増加したことを示唆し、MASLD and increased alcohol intake(MetALD)患者と同程度に病気の進行リスクが高まることを明らかにした。Journal of Hepatology誌オンライン版2024年7月4日号掲載の報告。*日本語名は仮の名称。現在、日本消化器病学会、日本肝臓学会で検討されている。 研究者らは、アルコール摂取量がSLDの重症度に与える影響と代謝疾患との関連性を評価するため、スペイン(導出コホート)および米国(検証コホート)で登録された集団のうち肝臓検査装置フィブロスキャンでMASLDと診断された患者のエラストグラフィデータを用いて研究を行った。SLDは超音波減衰量(Controlled Attenuation Parameter:CAP)を測定してCAP≧275dB/mと定義。また、心代謝系リスク因子が1つ以上ある患者をMASLDと定義し、MASLD患者のうち、アルコール低摂取群は平均5~9杯/週、中等度摂取群は女性が10~13杯/週、男性が10~20杯/週、高摂取群(MetALD)は女性が14~35杯/週、男性が21~42杯/週とした。肝線維化は肝硬度測定(Liver Stiffness Measurement:LSM)でLSM≧8kPaとし、肝線維化進展リスクを有するmetabolic dysfunction-associated steatohepatitis(MASH)はFASTスコア≥0.35**と定義した。**肝線維化進展NASH患者の可能性を予測するスコア1) 主な結果は以下のとおり。・導出コホートにはMASLD患者2,227例(低摂取群:9%、中程摂取群:14%)とMetALD患者 76例が含まれた。・全体的な有病率として、肝線維化は7.6%、肝線維化進展リスクを有するMASHは14.8%であった。・多変量解析によると、アルコール摂取量は肝線維化および肝線維化進展リスクを有するMASHと独立して関連していた。・肝線維化および肝線維化進展リスクを有するMASHの有病率は、1週間の飲酒量と心代謝リスク因子の数で用量依存的に増加した。・検証コホートにはMASLD患者1,732例が含まれ、そのうち肝線維化があった患者は17%、肝線維化進展リスクを有したMASH患者は13%だった。・検証コホートでは、アルコールの中等度摂取と肝線維化進展リスクを有するMASLDとの関連が検証され、オッズ比は1.69(95%信頼区間:1.06~2.71)であった。 研究者らは「代謝異常があるMASLD患者の場合、毎日のアルコール摂取量に安全な範囲はない」とも結論付けている。 なお、昨年に欧州肝臓学会で発表され、国内でも病名や診断基準の検討が進められている(1)MASLD、(2)MetALD、(3)alcoholic liver disease[ALD]、(4)cryptogenic SLD、(5)specific aetiology SLDは、アルコール摂取量、代謝異常などに基づき区分されている。

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