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ショーシャンクの空に【心の抵抗力(レジリエンス)】[改訂版]

「あ~もう嫌になる!」みなさんは、仕事や人間関係でうまくいかなかったり、移った職場で慣れなくて居心地が悪かったりして、「あ~もう嫌になる!」と絶望的になったことはありませんか?そんな時、みなさんの心に何が起きているのでしょうか?そして、どうしたらこの気持ちから救われるのでしょうか?これらの疑問を踏まえて、今回は、映画「ショーシャンクの空に」を取り上げてみました。舞台は、1940年代後半から1960年代頃までの、とあるアメリカの刑務所。主人公の20年の歳月をかけた刑務所での生活が描かれています。このストーリーを追いながら、メンタルヘルスの視点で、心の抵抗力(レジリエンス)について、いっしょに考えていきましょう。ストレス因子―心の風邪ウイルス主人公のアンディは、もともと若くして有能な銀行員で、妻といっしょに裕福な暮らしをしていました。しかし、彼の妻は不倫をしており、しかも彼女の愛人とともに何者かに銃殺されてしまったのです。そして、彼は、身に覚えのないまま、状況証拠から、妻とその愛人を殺害した罪で終身刑を言い渡され、ショーシャンク刑務所に収容されてしまいます。刑務所では、所長に「命を私に預けろ」と宣告され、全裸にされ乱暴に消毒薬の粉をかけられ、そのまま独房が並ぶ廊下を歩かされます。囚人虐待を予感させます。その後、アンディは男色の囚人たちに目を付けられ、集団で暴行されレイプされます。看守たちは見て見ぬふりの無法状態です。そして、それが刑務所の日常業務の1つのようにして繰り返されるのでした。時には反撃しますが、暴行はとどまるところがなく、まさに絶望的なのでした。アンディのストレスとなる原因(ストレス因子)として、妻の裏切りと喪失、濡れ衣、終身刑、囚人虐待、集団レイプがあげられます。彼はくじけそうになり、精神的に限界に達しようとしていました。私たちも、彼ほどではないにしても、日々の生活の中で、このストレス因子という心の風邪ウイルスにより、心の風邪(うつ)をひいて、ふさぎ込むことはあります。このストレス因子を整理して見ると、対人関係、環境変化、燃え尽き(過剰適応)の3つに大きく分けられます(表1)。表1 ストレス因子の例対人関係環境変化燃え尽き(過剰適応)例職場・学校・地域・家庭でのトラブル離婚、結婚(「マリッジブルー」)喪失、死別(「ペットロス」なども含む)就職(5月病)、退職、解雇、昇進転居、転勤、転職、転校カルチャーショック施設症身体疾患(疼痛、不自由など)育児ノイローゼ介護疲れ(介護ノイローゼ)新人(新入生や新入社員)の張り切り過ぎ(4月病)レジリエンス―心の抵抗力アンディが受けた囚人たちからのレイプの関係とは対照的に、調達屋で友人のレッドとの友情が引き立ちます。この映画の醍醐味の1つとも言えます。アンディはレッドに趣味の鉱物集めのためにとロックハンマーを調達してもらいます。刑務所の中の時間はゆっくりと流れていきます。2年後のある時に、屋根掃除のボランティアが募られました。この時、レッドは「このままだと彼は廃人同然になる」と思い、彼の計らいで、メンバーにアンディが引き抜かれます。レッドはアンディを何とか救いたいと思ったのでした(ソーシャルサポート)。屋根掃除をしているさなか、たまたま看守が遺産相続で愚痴をこぼしているのを小耳にはさんだアンディは、もともと銀行員であった知識を生かし資産運用をアドバイスします。その見返りとして、なんと意を決して、掃除メンバーにビールを振る舞うように申し出るのです(積極性)。まさに、アンディ自身が囚人たちにとっての「救世主」となるのです。アンディの狂気に陥りそうになる中での人間らしさを求める気持ちが伝わってきます。それは、彼を思いやるレッドの存在と同時に、彼がレッドを含め多くの仲間たちへの思いやりです(愛他主義)。ビールを片手に、メンバーたちは、アンディに感謝すると同時に一目置くようになります。その後、その能力を買われたアンディは刑務所職員たちの税理士となり、所長にも大目に見られるようになります。刑務所職員からも一目置かれる存在になり、強姦魔たちは排除されます。アンディは生き生きとし自尊心を取り戻し、図書室の改造や刑務所全体にオペラを流すなど、様々なことに精力的に力を注いでいきます。オペラの歌声が響き渡り、荒みきった囚人たちの心がひと時、潤されるシーンは感動的です。アンディが様々な苦難にくじけずに乗り越えてきた理由が、ストーリーを追っていくうちに見えてきます。それは、彼には、苦難という心の風邪ウイルス(ストレス因子)を撥ね返す心の抵抗力(レジリエンス)が強かったからでした。これから、このレジリエンスという心の抵抗力の要素を、他の登場人物と比べながら、もっと掘り下げていきましょう。スキーマ―生き様という心の習慣図書室の係員であるブルックスは50年という歳月を刑務所で過ごしてきました。一番の古株です。その彼に仮釈放処分が許可されたところから事態が急展開します。彼は出所を拒む気持ちから、仮釈放取り消しを望んで、気が動転して、なんと仲間にナイフを振り回してしまいました(衝動性)。あまりにも長い年月、塀の中にいると逆にその居心地が良くなってしまうのです。もはや塀の外でやっていくだけの自信がないのでした。レッドも気付きます。「ブルックスはここでは教養があり大事にされているが、外ではただの老いた元服役因だ」「あの塀は、最初に憎み、やがて慣れ、最後に頼るようになる」「これは施設慣れ(施設症)だ」(表1)と。ブルックスが刑務所での役割を見出し、そこが自分の居場所であると確信していました。ちょうど風邪ウイルスから体を守るために、マスク、手洗い、うがいをする習慣のように、心の風邪ウイルス(ストレス因子)から心を守るために、私たちはそれぞれが良しとしている心の習慣を持っています(スキーマ)。それは、考え方の癖、生き方、生き様、人生観があります。そして、この心の習慣(スキーマ)が周りから見てあまりにも偏っている場合は、問題が起きてしまいます(認知の歪み)。それはちょうど、風邪を予防しなければならない時に、あえてマスクを付けなかったり、手洗いやうがいをいい加減にしてしまうようなものです。適応障害―心の風邪(うつ)結局ブルックスは出所します。半世紀を経て外の世界が大きく変わったことに驚きます。与えられた仕事であるスーパーマーケットのレジ係に慣れず、上司からは嫌われ、気遣ってくれる仲間もいなくて、新しい生活を送ることがつらくなっていきます。また、「悪夢で眠れない」「不安から解放されたい」と思い詰めていきます。出所後の慣れない生活環境 (ストレス因子)が心の習慣(スキーマ)に合わず、心の風邪をひいています(適応障害)。そして最後は、「おさらばすることにしました」とあっけなく(衝動性)、自宅アパートで首を吊ってしまいます。レッドが後に「ここ(刑務所)で死なせてやりたかった」と言ったように、ブルックスほどにもなると、もはや居場所は刑務所しかなかったのかもしれません。ブルックスは、もともとの衝動性や「刑務所が自分の本当の居場所」という凝り固まり偏った考え(認知の歪み)に、出所後の孤独が重なり、心の抵抗力はとても弱くなっていた(脆弱性)と考えられます(表2)。実際に最近の日本でも、出所しても社会での居場所がないため軽犯罪を繰り返し、再び入所するケースが問題視されています。出所後、彼らにどういう適応環境が提供されるか(ソーシャルサポート)、また彼らがどういう適応環境を見出すことができるか(認知再構築)が大きな課題です。実は、この問題は、精神科病院に長期入院をしている患者にも通じることです。入院期間が年単位の患者ともなると、病院生活がいかに楽かうすうす気付いてしまい、むしろ安住し、居付いてしまうのです。そして、地域や病院の手助けがあるのに、自分で生きていくことを拒むようになります。また、家族も本人が家庭にいないことが当たり前になってしまい、今の生活を続けたいと思い、家族も受け入れに対して強い抵抗を示すようになります。仮に退院しても、本人が新しい生活に慣れず、すぐ再入院してしまうケースも多く、医療関係者の頭を悩ませる1つになっています。表2 脆弱性とレジリエンスの比較脆弱性レジリエンス意味ストレスへの心の脆さ、弱さストレスを撥ね返す心の抵抗力(立ち直る力、打たれ強さ)要素本人(個人)衝動性偏った考え方(認知の歪み)マイナス思考消極性無力感、受身自己本位客観視ユーモア希望を持つプラス思考積極性他者への思いやり(愛他主義)助けを求める能力(社交性)周り(社会)つながりなし(孤独)家族、仲間、地域、職場とのつながりアスピレーション―心のワクチン20年の月日が流れ、新入りトミーが入所します。憎めないトミーにアンディは父親のように接し、勉強を教え、高校卒業資格を取らせます。その後、奇遇にも、トミーはたまたまアンディの妻とその愛人を殺害した真犯人の話を知っていました。ついに、アンディの無実が明るみになります。アンディは、所長に掛け合いますが、所長は全く取り合ってくれません。所長に金銭面での違法な便宜を図り悪事を支えているアンディは、所長にとって、なくてはならない存在にまでなっていたからです。その直後、トミーは密かに射殺されます。そして、アンディは監禁房に入れられてしまいます。アンディが2ヵ月間も監禁房にいて正気が保てたのは、ひとえに彼を希望が支えていたからでした。彼の希望とは、脱獄し、ジワタネホという楽園に行くことでした。このように、「自分の人生をどうしたいのか」というはっきりとした希望、目標、生きがいがあること(アスピレーション)は、苦難を生き抜くための大きな原動力になります。このアスピレーションは、ちょうど、風邪をひかないために、ある一定期間に免疫力を高めるワクチン予防接種のように、心の抵抗力を高める心のワクチンと言えます。レッドが昔、アンディに「希望は危険だ」「塀の中では禁物だ」「正気を失わせる」と言い諭したことがありましたが、非常に対照的です。セルフモニタリング―心を鍛えるようやく監禁房から出た後、アンディは、レッドに漏らします。「自分が妻を死に追いやったも同然だと思う」「こんな私が彼女を死なせた」「そして、もう十分すぎるほどの償いをした」と。自分の運命を受け入れているという前向きな発言です(プラス思考)。「私は運が悪いな」「不運は誰かの頭上に舞い降りるけど、今回は私だった」「それだけのことだけど、油断しちゃったな」とユーモアも交えています。これらの考え方の基になるのは、彼が自分自身を冷静に見つめ直し、客観視していることです(セルフモニタリング)。このセルフモニタリングの能力は、ちょうど、風邪をひかないように体を鍛えて血の巡りをよくするのと同じく、心の風邪をひかないよう心を鍛えて心の血の巡りをよくしていくことであると言えそうです。ただ、この心の鍛えることは、「スポ根(スポーツ根性)」のような単に無理に我慢すること(忍耐力)とは違います。その理由は、単なる我慢強さは、燃え尽き(過剰適応)に陥るリスクを高めてしまうからです(表1)。自分の独房に戻った時、アンディは思い立ちます。脱獄する時が来たと。かつてレッドに調達してもらった大きなポスターが貼られてある独房の壁の向こうには、彼が小さなロックハンマーで密かに20年の歳月をかけて地道に掘った穴が続いていたのです。彼は、自分の運命を受け入れ、さらに時間をかけて打開しようとしていたのでした(積極性)。その穴の向こうには確実に希望がありました。小さな穴道を必死に這いつくばり、最後は塀の外の下水管から這い出ていきます。そして、汚物まみれのアンディは恍惚とします。祝福の雷雨に、汚物と過去に背負ってきた全てのものを洗い流されながら。この映画のクライマックスと言えるシーンです。その後すぐに、アンディの告発によって、所長の悪事が明るみになります。所長は、様々な聖書の一節を引用する偽善者でしたが、駆けつけてくる警察車両を彼は窓から見つつ、壁に刺繍で書かれた聖書の一節が眼に飛び込んできます。「主の裁きは下る。いずれ間もなく」と。見ている私たちには、してやったりの瞬間です。追い詰められた所長は咄嗟にピストル自殺します。ソーシャルサポート―人薬という心のビタミン剤アンディが去った刑務所で喪失感を感じるレッドにも、やがて仮釈放処分が下ります。そして、かつて自殺したブルックスと同じ道を辿っていきます。ブルックスが住んだアパートに住み、ブルックスと同じスーパーマーケットのレジ係の仕事に就きます。長年、刑務所で調達屋としての地位を築いていた彼は、塀の一歩外に出てしまうとただのスーパーのレジ係に過ぎず、自分を必要としてくれる仲間はそこにはいません。レッドは塀の外に出て初めて、ブルックスと同じように正気を失いかけていました。彼は、ブルックスと自分を重ね合わせて思います。「毎日が恐ろしい」「おびえなくて済む安心できる場所へ行きたい」と。その時、かつてアンディが脱獄前に言った言葉を思い出しました。ある場所に行けと。そこは二人が出会う約束の場所でした。それは、まさにレッドにとっての一筋の希望(アスピレーション)でした。希望は、正気を失いかけていたレッドも救ったのでした。希望とは、ポジティブな見通しであり、心の抵抗力(レジリエンス)としてとても重要であることが分かります。また、自分とつながっている人がいること (ソーシャルサポート)も大切であることが分かります。これは、風邪をひかないためのビタミン剤のように、心の風邪をひかないための「人薬(ひとぐすり)」という心のビタミン剤と言えます。ブルックスと比べて、レッドの状況は大きく違っています。アンディが待っていると気付いたことで、レッドは初めて本当の自由を実感したのでした。そして、「希望には永遠の命がある」と思うまでになりました。ブルックスにも、地域で行きつけのお店ができて、顔馴染みの知り合いでもできれば、また状況は変わったかもしれません。表3 心の抵抗力(レジリエンス)の違いブルックスレッドアンディレジリエンス×衝動的×認知の歪み×出所後に孤独△出所後に一時孤独◎アンディとの約束○冷静○仲間思い◎希望を持つ心の抵抗力を高める具体的なコツ私たちは、アンディから心の抵抗力(レジリエンス)を高める様々なコツを学ぶことができました。これらは、それぞれ連動し合い、強め合っています。これから、それらを大きく3つに分けて整理し、具体的に私たちにもできることを考えていきましょう。(1)心を鍛える(セルフモニタリング)1つ目は、心を鍛える、つまりは、自分を冷静に見つめ直す癖を付けること、つまり自己客観視です(セルフモニタリング)。具体的には、自分自身の行動や気持ちを記録したり日記をつけて、心の風邪ウイルス(ストレス因子)を書き出して、言葉にすることです(外在化)。これは、例えば、「神様にいつも見守られている(=いつも見られている)」という信者が神様の視点で自分自身を見る心理でもあります。また、カリスマ歌手である矢沢永吉の熱烈なファンが、「自分は困った時、『永ちゃんだったらどうするんだろう』っていつも考えるんだよ」と語る発想にも似ています。尊敬する人の視点で自分自身を見ることにより、自分自身への気付きを高めていると言えます。また、気持ちが揺らいできたら、そこでわざと自分を実況生中継して、自分自身への気付きを高めるのも手です(マインドフルネス)。例えば、あなたは今お腹が空いてイライラしてレストランで注文した食事を待っているという状況。「『お腹が空いた』と○○(自分の名前)はいら立っている」「なぜかと言うと・・・」と実況中継します。すると、どうでしょう?自分じゃない誰かの視点に立つことで、自分自身の心から距離が取れた感覚(メタ認知)になりませんか?このように、もやもやとした感情を理性的な言葉にすること(外在化)で、理性が、感情の手綱を握ることができるようになります。さらには、お笑いネタのように自分自身に突っ込みを入れること(ユーモア)も良いです。これらは、車の運転や楽器の習い事のように、理屈を頭で理解すると同時に、別の視点や様々な発想(認知パターン)を感覚的に刷り込むトレーニングです。こうして、心を鍛えることで、やがていら立ちも意識しにくくなっていきます。(2)アスピレーション2つ目は、はっきりとした希望、目標、生きがいを持つことです(アスピレーション)。自分は「こうしたい」や「こうなりたい」(ロールモデル)という強い気持ちがあることで、人生をより前向きに(プラス思考)、より積極的に生きて行こうという発想になります。これは、1つ目のコツの自己客観視(セルフモニタリング)が基になっています。例えば、誰かのために何かをした時、「いいように使われた」と損得勘定だけでマイナスに思ってしまったら(外発的動機付け)、同時に「自分を役立てることができた喜びと楽しさがあった」「お仕えすることができて幸せだ」との前向きで積極的な発想も持ち、そして強めていくことです(内発的動機付け)。また、苦しい状況の中に意味を見出すのもコツです。例えば、「あっ、今、自分は試されている」「これは自分の目標に達するための試練だ」と発想を切り替えることです。これらの発想は、全てアスピレーションという希望や目標があることで支えられていると言えます。(3)ソーシャルサポートそして、3つ目は、家族や仲間とのつながりを保つこと、つまりは人薬です(ソーシャルサポート)。そのためには、まず家族や仲間への思いやりが大切であることが分かります。独りぼっちには思いの外、危うさがあります。そして、つながっていることで、自分の役割を見つけ、居場所を見いだすことができます。これらは、アスピレーションである希望や目標をより硬く力強いものにしてくれます。表4 心の抵抗力(レジリエンス)を高めるコツ例心を鍛える(セルフモニタリング)自己客観視言葉にする(外在化)自分への気付きを高める(マインドフルネス)心のワクチン(アスピレーション)希望、目標、生きがい、ロールモデルを持つプラス思考積極性人薬(ソーシャルサポート)家族や仲間とのつながり家族思い、仲間思い自分の役割と居場所の確保自分らしく生き生きと生きる二人が再会するラストシーンは、かつて共に過ごしていた高い塀に囲まれた暗く行き場のない刑務所から一転して、視界が限りなく広がった真っ青な海のビーチです。このシーンは強烈なインパクトで、最高のコントラストでした。もはや見ている私たちにも深い感動と、そして癒しを与えてくれます。私たちの生活に置き換えてみると、私たちも「日常生活」という塀の中にいるのかもしれません。そして、何かに立ち向かっている時や苦しんでいる時に、この映画は心地よく励みになります。「必死に生きるか、必死に死ぬか」とのアンディのセリフがありますが、それは塀の中でも外でも同じことで、いかに自分らしく生き生きと生きるかが大事だというメッセージです。私たち自身も、心の抵抗力(レジリエンス)を高めることで、より生き生きと生きていけるのではないでしょうか?1)「臨床精神医学、レジリエンスと心の科学」(アークメディア)2012年2月号2)「マインドフルネスそしてACTへ」(星和書店) 熊野宏昭

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(57)〕 重ね着にメリットなし、かえって風邪をひくかも-ACE阻害薬とARB併用に効果増強みられず-

 Renin-angiotensine(RA)系抑制薬として、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)そして直接的レニン阻害薬 アリスキレン(商品名:ラジレス)が実用に供されているが、これらのうち2種類の併用を“dual blockade”と称する。最近このdual blockade 治療を検証したONTARGET試験やALTITUDE試験などで、その有用性が相次いで否定されている。 本試験はこれまで発表されたDual Blockade Therapy(DBT)に関する33のランダム化試験約6万8,000人のメタ解析である。その結果は、DBTは単独治療に比べて全死亡を減らすことはなく、高カリウム血症や低血圧、腎不全などの有害事象を増加させたというものである。本試験は、各トライアルの患者の臨床背景が不一致であるというメタ解析一般にみられるlimitationを差し引いても妥当な結果といえよう。 過剰なRA系の抑制は、かえって生体の代償機転を損ねる可能性が示唆されるが、今後保険上の縛りをいれることで、RA系同士の併用が処方されることのないようにわが国の臨床医に啓蒙していく必要があろう。

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第11回 転医義務:「妊婦たらい回し事件」から考える周産期救急体制とは!

■今回のテーマのポイント1.転医義務には、大きく分けて(1) 医療連携のための転医義務、(2) 専門外診療時の転医義務、(3) 診療不能時の転医義務の3種類がある2.転医義務は手段債務(転医先を探すこと)であり、結果債務(転医先を見つけること)ではない3.救急医療の整備・確保は、医師個人の努力によってカバーするものではなく、国や地方自治体の最も基本的な責務である事件の概要32歳女性(X)。妊娠41週2日。出産予定日を渡過したため、分娩目的にてY病院に入院しました。ところが、Xは午前0時頃からこめかみの痛みを訴え、同0時14分頃に意識消失しました。産科医であるA医師は、当直していた内科医であるB医師に診察を依頼したところ、B医師は失神であると診断し、経過観察をするよう助言しました。しかし、経過観察をしていたところ、午前1時37分頃、血圧上昇(200/100mmHg)に引き続きけいれん発作が生じたため、A医師は、救急車を要請しました。ところが、深夜の上に意識障害を伴う妊婦の処置ができる施設は限られていることから、転送先の確保に時間がかかり、結局、県外にある転送先病院(D病院)がみつかるまで約3時間かかってしまいました。Xは、D病院に搬送され、脳出血と診断され開頭血腫除去術および帝王切開術が行われました。しかし、児は無事に娩出されましたが、母体(X)の脳出血は脳室穿破しており、血腫除去は行われたものの、8日後に死亡しました。Xの夫および子は、Y病院およびA医師に対し、「Xの転院が遅延した過失がある」として約8,900万円の損害賠償請求を行いました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過32歳女性(X)。妊娠41週2日。出産予定日を渡過したため、分娩目的にてY病院に入院しました。ところが、Xは午前0時頃からこめかみの痛みを訴え、同0時14分頃に意識消失しました。産科医であるA医師は、当直していた内科医であるB医師に診察を依頼しました。B医師はXのJCS100~200点であるものの、神経所見に異常はなく、バイタルサインも問題なかったことから、陣痛による精神的な反応から来る心因的意識喪失発作であり、このまま様子をみるのが相当と判断しました。その後、モニターを設置し、助産師が10分おきに経過観察をしていました。その間、Xは、意識がない状態が続いていたものの、バイタルサインに問題はなく、陣痛発作時に四肢を動かしたり、顔をしかめたりしていました。しかし、午前1時37分頃、モニター上、血圧が上昇したことから、助産師と看護師がXのもとに赴いたところ、Xは、いびきをかいており、四肢をつっぱったような形で反り返ったような姿勢を示しており、血圧は200/100mmHgでした。助産師は直ちにA医師に連絡し、駆け付けたA医師が診察したところ、Xの瞳孔は中程度の散大固定をしており、対光反射は消失していました。応援に駆け付けたB医師は、A医師に対し、頭部CT検査を行うか尋ねましたが、Y病院では、夜間にCT検査を行う場合、実際に撮影するまでに40~50分程度かかることから、A医師は、検査をするより、直ちに転送した方がよいと考え、午前1時50分頃、同県の周産期医療情報システムに則って、C大学病院に受け入れ依頼をしました。ところが、C大学病院は、ベッド満床のため受入れ不能であったことから、C大学病院の方で、他の病院を探して見つかった時点でY病院に連絡することとなりました。しかし、通常は、長くても1時間程度で搬送先が決まっていたところ、1時間たっても2時間たっても見つかりませんでした。結局、4時半頃になり、隣県のD病院が受け入れ可能であるとの連絡があり、Xは、搬送されることとなりましたが、その時点で舌根沈下が生じていたことから、気管内挿管がなされ、午前4時49分に搬送開始となりました。午前5時47分に、Xは、D病院に到着し、頭部CT検査を行ったところ、右被殻から右前頭葉に及ぶ巨大脳内血腫(約7×5.5×6 cm)が認められ、著明な正中偏位があり、脳室穿破し、脳幹部にも出血が認められると診断されました。臨床症状、CT所見とも脳ヘルニアが完成した状態であり、Xの救命は極めて厳しいと考えられましたが、Xの夫らからの強い希望もあり、午前7時55分頃、緊急開頭血腫除去術および帝王切開術が行われました。しかし、児は無事に娩出されたものの、母体(X)は、8日後に死亡しました。事件の判決問題となるのは、原告らが主張するように、頭部CT検査をしなかったために、脳出血の診断が遅れ、脳圧下降剤を投与する機会を逸したことをもって過失といえるかという点である。確かに、午前1時37分ころには脳に何らかの異常が生じていることを認識することは可能であり、現に被告A医師らにおいて認識していたと考えられるのであるから、通常直ちにCT検査を実施すべきであったといえる。しかし、被告A医師において、午前1時37分ころの時点で、一刻を争う事態と判断し、CT検査に要する時間を考慮すると、高次医療機関にできるだけ迅速に搬送することを優先させ、直ちにC大学病院に対し受入れの依頼をしているところであって、頭部CT検査を実施せずに搬送先を依頼したことが不適切であったといえるものではない。もっとも、結果的には、午前1時50分ころにC大学病院に対し受入れの依頼をし、D病院への搬送が開始されたのは午前4時49分であるから、約3時間を要しているところ、被告病院においてCT検査は40~50分程度で実施可能であることからすると、CT検査を行うことができたということができ、それにより脳に関する異常を発見してグレノール(脳圧下降剤)の投与等の措置をとることができた可能性は否定できない(ただし、本件ほどの血腫の場合、脳圧下降剤の効果があるかは疑問視される)。しかし、被告A医師のそれまでの経験では搬送先が決まるまで長くても1時間程度であったことからすると、CT検査を実施すると、その実施中に搬送先が決まる可能性が高く、その場合には、CT検査の実施が早期の搬送の妨げとなることも考えられるところであって、CT検査を実施するよりも早期に搬送することを選択した被告A医師の判断は、十分な合理性を有しているということができる。そして、CT検査は極めて有用ではあるが、検査に出室させることによるリスクや検査中不測の事態をも考慮し施行時期を慎重に選択することが重要であるとされているところであって、まず受入れを依頼し、搬送先の病院に検査をゆだねた被告A医師の判断が不適切であったということはできない。・・・・・・・(中略)・・・・・・・原告らは、Xが8日午前零時14分ころに意識を消失してから数分経過した時点で頭部CT検査を実施していれば、午前1時までには脳出血の存在が明らかになっており、脳外科救急機関は数多くあることから、搬送先を確保することは困難ではなく、より早期に治療を受けることができたとして、転送を遅延させた過失を主張し、N意見も同旨を述べる。しかしながら、CT検査を実施し、脳出血であるとの診断ができたとしても、現に分娩進行中であるから、産婦人科医の緊急措置が必須であることに変わりはなく、子癇の疑いとして搬送先を探した場合に比べて受入施設の決定がより容易であったとはいいがたい。仮に、原告において、脳外科の医療機関を希望したとしても、現に分娩が進行中であり、脳外科医が分娩を放置してXの脳出血の治療のみに専念するとは考えがたく、脳外科と産婦人科の双方の対応が可能な医療機関に転送することがやはり必要であり、CT検査を実施し、脳出血であるとの診断がついていたとしても、早期に搬送先の病院が決まったということはできない。以上のとおり、被告A医師らにおいてCT検査を実施せず、転送が遅れた過失を認めることはできない。(大阪地判平成22年3月1日判タ1323号212頁)ポイント解説今回は、転医義務についてです。医療法1条の4第3項は、「医療提供施設において診療に従事する医師及び歯科医師は、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携に資するため、必要に応じ、医療を受ける者を他の医療提供施設に紹介し、その診療に必要な限度において医療を受ける者の診療又は調剤に関する情報を他の医療提供施設において診療又は調剤に従事する医師若しくは歯科医師又は薬剤師に提供し、及びその他必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と定めています。皆さんご存知の通り、病院には、その診療機能別に一次医療機関(風邪等軽症の患者の対応をする施設(診療所等))、二次医療機関(入院、手術が必要な患者の対応をする施設(病院))、三次医療機関(重症であり、高度の医療を必要とする患者の対応をする施設(特定機能病院等))に分けられており、各医療機関が相互に連携することでそれぞれの役割を十全に果たすことが求められています。転医義務にはこのような、患者の病態が重篤であること等からより高次の医療機関へ患者を紹介する場合((1) 医療連携のための転医義務)だけでなく、「保険医は、患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるとき、又はその診療について疑義があるときは、他の保険医療機関へ転医させ、又は他の保険医の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければならない。」(療担規則16条)というような場合((2)専門外診療時の転医義務)や、入院ベッド満床や医師が他の患者の診療にあたっている等物的・人的診療能力に欠く場合((3) 診療不能時の転医義務)等があります。転医義務についての判例としては、本判決以外にも「開業医の役割は、風邪などの比較的軽度の病気の治療に当たるとともに、患者に重大な病気の可能性がある場合には、高度な医療を施すことのできる診療機関に転医させることにある」(最判平成9年2月25日民集51巻2号502頁)や、「患者の上記一連の症状からうかがわれる急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る、高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ患者を転送し、適切な治療を受けさせるべき義務があったものというべき」(最判平成15年11月11日民集57巻10号1466頁)としたもの等があります。本事例は、「妊婦たらい回し事件」としてマスコミにより大々的に報道され世間の耳目を集めました。地方の医療提供体制の不備という医療政策上の問題を現場の医師の怠慢のように報道した本件報道により産科医療は大きな被害を受けました。実際、本事例を契機に同病院では、分娩の扱いを中止しており、その結果、本判決がでた時点(平成22年)においてまで同県南部には分娩施設がないという状況が生まれました。本件訴訟においては、転医義務が争われましたが、「事件の判決」で引用したように転医義務違反が認められなかったばかりか、原告が主張する午前1時37分時点で除脳硬直が生じていたとすると、その時点ですでにXの救命は著しく困難となりますので、原告の主張をすべていれてもXは救命不能であったという何とも不可思議な訴訟でした。ただ、本判決の重要な意義として転医義務は、より高度な医療が必要な場合や専門家の診療が必要な場合等に「適切な転医先を探そうとする義務」であり、適時に転医先を探し始めた以上、結果として転医先が見つからなかった又は、見つかるのが遅れたとしても、直ちに転医義務違反になることはないということです。これを法的に表現すると転医義務は手段債務(転医先を探すこと)であり、結果債務(転医先を見つけること)ではないということになります。また、本判決の特徴として、通常、裁判所が書く判決には、個別具体的な紛争解決に必要かつ最小限を記載するにとどまるところ、本件事件を含めたマスメディアや司法による医療バッシングにより、現実に医療が崩壊したことを受け、付言として、下記の様にわが国の救急医療体制や1人医長制度について言及していることがあげられます。本事件及び福島大野病院事件を契機に裁判所がようやく医療に対して本質的理解をするよう努力し始めたという点で、本判決は歴史的な判決ということができます。■判決付言「現在、救急患者の増加にもかかわらず、救急医療を提供する体制は、病院の廃院、診療科の閉鎖、勤務医の不足や過重労働などにより極めて不十分な状況にあるともいわれている。医療機関側にあっては、救急医療は医療訴訟のリスクが高く、病院経営上の医療収益面からみてもメリットはない等の状況がこれに拍車をかけているようであり、救急医療は崩壊の危機にあると評されている。社会の最も基本的なセイフティネットである救急医療の整備・確保は、国や地方自治体の最も基本的な責務であると信じる。重症患者をいつまでも受入医療機関が決まらずに放置するのではなく、とにかくどこかの医療機関が引受けるような体制作りがぜひ必要である。救急医療や周産期医療の再生を強く期待したい」*   *   *「本件で忘れてはならない問題がもう一つある。いわゆる1人医長の問題である。被告病院には常勤の産科医は被告A医師のみであり、出産時の緊急事態には被告A医師のみが対処していた。1人医長の施設では連日当直を強いられるという過重労働が指摘されている。本件で、被告A医師は夜を徹して転送の手続を行い、救急車に同乗してD病院まで行った後、すぐに被告病院に戻り、午前中の診察にあたっている。平成20年に日本産科婦人科学会が実施した調査では、当直体制をとっている産婦人科の勤務医は月間平均で295時間在院している。こうした医療体制をそのままにすることは、勤務医の立場からはもちろんのこと、過労な状態になった医師が提供する医療を受けることになる患者の立場からしても許されないことである。近時、このような状況改善の目的もあって、医師数が増加されることになったが、新たな医学生が臨床現場で活躍するまでにはまだ相当な年月を要するところであり、それまでにも必要な措置を講じる必要があるものと思う。近年女性の結婚年齢や出産年齢が上がり、相対的に出産の危険性が高まることになる。より安心して出産できる社会が実現するような体制作りが求められている。愛妻を失った原告の悲しみはどこまでも深い。Xは我が子を抱くことも見ることもなくこの世を去った。子は生まれた時から母親がいない悲しみを背負っている。Xの死を無駄にしないためにも、産科等の救急医療体制が充実し、1人でも多くの人の命が助けられることを切に望む」*   *   *本件においては、原告、病院、医師にとって非常に残念な経緯を辿りましたが、これを契機に、司法と医療の相互理解の促進が一歩ずつでも進んでいくことが強く望まれます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)大阪地判平成22年3月1日判タ1323号212頁最判平成9年2月25日民集51巻2号502頁最判平成15年11月11日民集57巻10号1466頁

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直伝!Dr.守屋の素人独学漢方<上巻>

第1回「素人独学漢方の世界へようこそ!」第2回「まずは体験!漢方的診療」第3回「キーワード ①漢方脳 ②モデル」第4回「キーワード③方剤=症候群」第5回「漢方理論の概観」第6回「桂枝湯から始める4段階独学法」 第1回「素人独学漢方の世界へようこそ!」先ずは、漢方診療の基本となる4つの用語を解説。「生薬」と「方剤」の違いは何?「証」って何?そして、漢方医学の歴史を知っておきましょう。実は、私たちが接する日本の漢方は、起源となる中国の漢方とは似て非なる発展を遂げてきたのです!第2回「まずは体験!漢方的診療」漢方診療の入口として、第一回は基本となる用語の解説と漢方医学の歴史を紹介。第二回では“西洋医学”的診療と“漢方”的診療のアプローチを比較。一体、どこが違うのか?先ずは、独学に必要な基本知識を身につけましょう!第3回「キーワード ①漢方脳 ②モデル」漢方を独学しようとするとき、大きな壁として立ちはだかるのが、漢方特有の“曖昧”さ。西洋医学からかけ離れたこの世界に足を踏み入れる際、心にしっかりと留めておくべき3つのキーワードがあります。1つ目のキーワードは「漢方脳」。“分析的”思考の対極にある“感覚的”思考が、漢方の理解には欠かせません。そして、2つ目のキーワードは「モデル」。抽象化/簡略化をベースとするモデル診断&治療を身につけて、漢方独学の壁を乗り越えましょう!第4回「キーワード ③方剤=症候群」<3つのキーワード>と<4段階独学法>でマスターする守屋式漢方。今回は、3つ目のキーワード「方剤=症候群」について解説します。漢方を理解する上で欠かせない概念的なキーワード「漢方脳」と「モデル」に対して、「方剤=症候群」は実践的なコツをつかむためのキーワードです。例えば、桂枝湯が適応となる風邪の症状を“桂枝湯症候群”と名付けることで、桂枝湯にまつわる漢方理論を個別に学んでいきます。つまり、特定の“方剤”が有効な症状の集まりを“症候群”という枠でくくって、とらえどころのない漢方を少しずつマスターしていくのです。第5回「漢方理論の概観」“漢方理論”の把握に欠かせない6つのキーワードを網羅!①八綱(はっこう)→患者さんの症状を<寒・熱><表・裏>など、二項分類で把握。②六病位(ろくびょうい)→疾患の進行度を6段階に分類。③気血水(きけつすい)→体内の循環バランスが崩れると疾病状態に。④五臓(ごぞう)→人体の機能を、5つの<臓>=<肝心脾肺腎>に割り当てて解釈。⑤四診(ししん)→漢方流の問診・診察手技。⑥生薬・方剤(しょうやく・ほうざい)→漢方流の薬理学。これらの理論を念頭に、いよいよ実践に臨みましょう!第6回「桂枝湯から始める4段階独学法」“桂枝湯症候群”をサンプルとして、漢方流アプローチを具体的に紐解いていきましょう。患者さんに悪寒はありますか?関節痛は?咳は?熱は?舌苔は?・・・それらの有無で決まる分類の違いは何でしょうか?悪寒の有無は<八綱>の寒熱、関節痛や咳は<八綱>の表裏・・・等々、桂枝湯がもっとも効果的な症例を一つマスターするだけで、漢方理論の大枠がスラスラと頭に入ってきます!

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ワクワク ! 臨床英会話

1.受付対応2.初めての問診 3.家族の病気 4.生活習慣  5.出産歴 6.女性特有の問題 7.アレルギー 8.薬 9.予防接種 10.風邪  11.頭痛12.呼吸困難13.腹痛  14.糖尿病 15.便秘 16.腰痛  17.関節痛 18.骨折 もしも英語しか話せない患者さんが来院したらドキドキしませんか?この教材は、ドキドキを“ワクワク”に変えてもらおうと企画されました。特に外来で使える英語を重視して、ネイティブが自然に理解出来る表現を多数紹介しています。そして、プログラムの一番の特長はパペットたちと一緒に「練習」するコーナー。楽しみながら、何度も練習できるので、いつの間にか自然な表現が身についてしまいます。もちろん、伊藤彰洋先生の「日本人が間違えやすい医学英語」のワンポイント解説も見逃せません。すぐに使える臨床英会話を楽しくマスターしましょう !収録タイトル1. 受付対応 Reception ~笑顔が大切、受付対応~2. 初めての問診 History Taking ~初めての問診~3. 家族の病気 Family History ~ご家族の病気も教えてください~4. 生活習慣 Social History ~もっと知りたいあなたの生活習慣~5. 出産歴 OB History ~出産経験はありますか?~6. 女性特有の問題 GYN History ~女性の悩み、知っていますか?~7. アレルギー Allergies ~アレルギーはありますか?~8. 薬 Medication ~どんなお薬を使ってますか?~9. 予防接種 Immunization ~予防接種は受けましたか?~10 .風邪 Cold ~よくある風邪だと思うんですが・・・~11. 頭痛 Headache ~頭痛って、意外と心配です~12. 呼吸困難 Difficulty Breathing ~息が苦しくて、苦しくて~13. 腹痛 Abdominal Pain ~お腹が痛いんです~14. 糖尿病 Diabetes Mellitus ~糖尿病が気になるこの頃~15. 便秘 Constipation ~便秘の予防にイイことは?~16. 腰痛 Back Pain ~腰が痛くて、痛くて~17. 関節痛 Joint Pain ~関節痛で仕事もできず…~18. 骨折 Fracture ~骨が折れた!~

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マッシー池田の神経内科快刀乱麻!

第1回「どうしてキライ?神経内科」第2回「頭痛の診断にCTは役に立たない?」第3回「発熱・頭痛、それってホントに風邪?」 第1回「どうしてキライ?神経内科」誰も調べたことはないけれど、プライマリケア医に最も「苦手」で「きらい」な科を尋ねたら、常に神経内科はそのトップを争うのではないでしょうか。学生時代に点数が取れなかったいやな思い出を持つ方もたくさんいらっしゃることでしょう。第1回はまず、どうして神経内科が医師の間で「苦手」と思われているのか、その理由と背景を分析、そしてそれらの多くは誤解であり、克服できることを証明します。第2回「頭痛の診断にCTは役に立たない?」「このタイトルを見て『そんなことあたり前じゃないか』と思う方は、見ていただかなくて結構。」と池田先生。確かに私たちは、日々漫然とCTを撮ってしまっているのが現状かもしれません。しかし、“頭痛ですか?ではCTでも撮りましょう”という安易な考え方が、日本に必要以上に多くのCTをもたらし、医療費を圧迫する大きな原因の一つになっているのだと池田先生は指摘します。それでは頭痛、例えば、くも膜下出血を疑うような頭痛の患者さんが来院したとき、プライマリ・ケアとしてはどう対処すればいいのでしょうか? 頭痛を引き起こす疾患は無数にあり、一つ一つを鑑別することは難しいかも知れません。しかし、少なくとも見落としてはいけない疾患、命に関わるような病気には機敏に反応できる技術を持っておきたいもの。そんな疑問をマッシー池田先生が一刀両断します!第3回「発熱・頭痛、それってホントに風邪?」「熱が出て頭が痛いんです」そんな患者さん、日々何人もの患者さんが来院されることでしょう。そんな時、「風邪ですね。お薬を出しておきましょう」と簡単にすませていませんか? もちろん多くの場合、風邪であることがほとんどなのですが、似たような症状でも実は、髄膜炎やくも膜下出血、慢性硬膜下血腫、脳出血、側頭動脈炎などの急を要する疾患であったり、あるいは緑内障ということも、無きにしもあらずなのです。かといってこれらの病気の症候を丁寧にとったり、ましてや神経学的所見をひとつ一つとるなんて「非現実的!」と思われることでしょう。それでも、やはり髄膜炎くらいは最低限見逃さないようにしなくてはなりません。 今回も池田先生がそんな疑問にお答えします。すべての疾患を完璧にルールアウトというわけにはいきませんが、忙しい外来診療の中でどうやって診察を絞り込み、短時間でどう実践するか、数々のデータに基づき現実的な診察の流れを伝授します。

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Dr.岩田の感染症アップグレード―外来シリーズ―

第1回「風邪ですね…ですませない、気道感染マネジメント(1)」第2回「風邪ですね…ですませない、気道感染マネジメント(2)」第3回「スッキリ解決!外来の尿路感染」第4回「その下痢に抗菌薬使いますか?」 第1回「風邪ですね…ですませない、気道感染マネジメント(1)」日々迷うことの多い外来診療での感染症マネジメント能力をぜひアップグレードしてください。外来で一番目にする感染症といえば、やはり「風邪」。カルテには「上気道炎」などと書いていることが多いでしょう。しかし、その風邪に対して何となく抗菌薬を出したり出さなかったりと、あやふやな診療をしていませんか? 「「風邪」と一括りにしてはいけません、きちんと分類する必要があります」と岩田先生。症状に合わせて気道感染を7つ(コモンコールド、咽頭炎、副鼻腔炎、中耳炎、インフルエンザ、気管支炎、肺炎)に分類。この分類をすることで抗菌薬を使うのか使わないのか、自ずとわかってきます。今回は、コモンコールド、咽頭炎、副鼻腔炎、中耳炎について解説します。第2回「風邪ですね…ですませない、気道感染マネジメント(2)」風邪には原則的に抗菌薬の必要はありません。しかしそうは言っても本当に大丈夫なのかよくわからず、その結果漠然と抗菌薬を出したり出さなかったりと、あやふやな診療をしてしまっている方は多いです。今回も岩田式気道感染の分類法を伝授。第1回で解説した4症状に続き、残りのインフルエンザ、気管支炎、肺炎を詳しく解説します。いろいろと議論されているタミフルの使い方にも一石を投じる、岩田式の明解な外来診療術をご堪能ください !第3回「スッキリ解決!外来の尿路感染」尿路感染は外来ではとても頭を悩ませる症状です。泌尿器科や婦人科に紹介するのも一考ですが、実は、尿路感染の治療自体はそれほど難しくはありません。ただ、男性と女性では全くマネジメントが異なるため、そこをよく理解しておかなければなりません。そして病気の治療だけでなく、その周辺にある原因や生活習慣を指導していくことが重要で、ここにプライマリ・ケアの意味があります。また外来で役立つ患者さんへの接し方なども合わせてお伝えします。第4回「その下痢に抗菌薬使いますか?」下痢は、外来でよく診る症状ですが、下痢診断の難しさはその原因の多さにあります。いわゆる食中毒といっても原因微生物は多種多様、慢性の下痢にも多くの疾患が考えられます。忙しい外来では、どう考えればいいのでしょうか?「原因を突き詰めるより、臨床に則して考えましょう」と岩田先生。その下痢に便培養は必要か、抗菌薬は必要か、止痢薬は必要か。この3点を判断することが重要です。そして、その決め手となるのはやはり「病歴」です。この病歴の取り方から、患者さんのケアまで詳しく解説します。

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Dr.浅岡のもっと楽しく漢方!

第4回「見えない檻」第5回「美食の報酬」第6回「逆転の構図」 第4回「見えない檻」「檻」とは猛獣などが逃げ出さないように設けるもの。つまり空間を隔てるために用意されるものです。我々人間の間でも「世界を隔てる」という意味でいつも檻をつくられ、内と外を区別しようとします。はっきりと意識して檻に入ったり、檻の外へ出たり、そんな時もあります。しかし時には無意識のうちに「見えない檻」に囲まれることもあるかもしれません・・・。第5回「美食の報酬」美食を嫌う人はまずいないでしょう。しかしその「報酬」は…?「美食」を「薬」に置き換えても同じことが言えます。「楽になりたいから薬を」→「でも副作用は嫌だ」→「漢方なら安心」→「だから漢方治療で」という図式は、漢方薬の人気を支えている一つの要素です。しかし漢方薬も薬ですから、その「結果」について考えておかなければいけません。第6回「逆転の構図」東洋医学の重要な考え方に「寒熱」があります。もちろん寒と熱は反対側に位置するもの。しかし、だからといって無関係であるとは言い切れません。女性に多くみられる「冷え症」、これは実際に冷える部分(足など)に触れてみると確かに冷たくなっています。したがって、診断は「寒」。一方で、風邪をひいた時の診断として知られる「表寒」の時には、多くの場合、体表は冷えてはおらず、反って発熱。つまり体表は温かくなっているのに診断は「寒」。これはいったいどういうことなのでしょうか?

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ワクワク ! 臨床英会話

19.胸痛 20.高血圧 21.高脂血症22.花粉症 23.喘息  24.湿疹 25.意識障害 26.めまい 27.不眠  28.不正出血 29.妊娠30.性感染症 31.バイタルサイン32.採血 33.尿検査  34.禁煙外来35.退院指示書 36.処方箋 外来ですぐに使える英語表現が満載のシリーズ第2弾。胸が痛いとき、胸を押さえて訴える人もいれば、胃のあたりを押さえながら異常を訴える人もいる。めまいには目が回る場合とふらっとする場合、風邪の咳と喘息様の咳など、それぞれ違う英語の表現方法を知っていれば余裕を持って対応できるようになります。パペットたちと一緒に練習するコーナーも更にパワーアップ!楽しみながら自然な表現が身につきます。婦人科に限らず知っておきたい女性患者向けの表現や「日本人が間違えやすい医学英語」のワンポイントも多数紹介します。収録タイトル19. 胸痛 Chest Pain ~胸が痛くて息切れが…~20. 高血圧 Hypertension ~ストレスだらけの毎日で…~21. 高脂血症 Hyperlipidemia ~善玉、悪玉コレステロールって?~22. 花粉症 Hay Fever ~ツライ季節がやって来た~23. 喘息 Asthma ~咳が止まりません~24. 湿疹 Eczema ~痒い、かゆい、カユイ!~25. 意識障害 Confusion ~あなたのお名前は?~26. めまい Dizziness ~そのめまい、どんなめまい?~27. 不眠 Insomnia ~羊が?匹~28. 不正出血 Vaginal Bleeding ~検査、受けてますか?~29. 妊娠 Pregnancy-first prenatal visit ~コウノトリがやって来た!~30. 性感染症 STI ~つけ忘れのないように~31. バイタルサイン Vital Signs ~少し熱がありますね~32. 採血 Blood Test ~じっとしていてくださいね~33. 尿検査 Urine Test ~紙コップの1/3まで…~34. 禁煙外来 Smoking Cessation ~一日に何箱吸いますか?~35. 退院指示書 Discharge Instructions ~おだいじに!~36. 処方箋 Prescription ~その薬、どんな薬?~

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Dr.林の笑劇的救急問答4

第1回「一皮むけるECGのTips」第2回「熱性痙攣はコワイ?」 第1回「一皮むけるECGのTips」今回のテーマは心電図について。とはいっても教科書的な心電図の読解ではなく臨床で役に立つ、知っているとちょっと自慢になるようなTipsとピットフォールについてお届けします。 53歳男性 「胃が重い」と救急外来を受診。心電図で心筋梗塞を疑い研修医はMONAを実施したが突然患者の血圧が低下 ! さぁどうする !? 40歳男性 重度うつ病で入院中。自殺企図が強いためトイレと洗面以外は抑制されていたが前日から2度にわたり失神を起こしたため救急外来を受診。主治医は肺炎を疑い胸部X線を実施したが影はない。第2回「熱性痙攣はコワイ?」小児の救急車要請の頻度が最も高い疾患として熱性痙攣があります。医師として誰もがきちんと診ることができなければならない疾患ですが、実際に痙攣を起こしている患児をみると、どうしても慌ててしまう事も多いでしょう。その為あまりにも慎重になり過ぎたり、逆に何度も経験すると「たかが熱性痙攣」と甘くみてしまい、思わぬ落とし穴にハマることにもなりかねません。 そこで、腰椎穿刺を行うべき症例や、そこまで必要のない症例の見分け方のポイントを学びます。今回の症例ドラマもツブ揃いの名演技、どうぞお見逃しなく! 1歳3ヶ月男児 自宅で痙攣を起こし救急車搬送された。痙攣は初発であるとの事。研修医は髄膜炎の鑑別診断のため腰椎穿刺を実施しようとするが母親に拒否され…。 8歳男児 数日前から風邪をひいていたが夜中に痙攣を起こしたため救急車搬送された。熱性痙攣の既往ありという母親の言葉を研修医は鵜呑みにしてしまうが指導医であるDr.林の診断は!?

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Dr.林の笑劇的救急問答6

第1回 「目指せ ! 腰痛ソムリエ」第2回 「CT or Not CT,それが問題だ…軽症頭部外傷」 第1回 「目指せ ! 腰痛ソムリエ」腰痛の中でも特に外来でよく診る急性腰痛症に焦点を当てます。急性腰痛症は、なかなか良いエビデンスがない上に古い迷信が信じられていたりと、治療は難しいものです。そこで腰痛を3つのタイプに分けて対応する事を提案。その3つのタイプとは何か? 迫真の症例ドラマと濃密な講義で構成された内容は救急医ならずとも見逃せません! 77歳男性 早朝4時に徒歩で救急外来に来院。患者は5日前から風邪をひいているにも関わらず漬物石を持ち上げたため腰痛が発症したと説明。研修医はそれを鵜呑みにしてしまうがDr.林は納得しない。さて本当の病名は!? 35歳男性 家業である酒屋の仕事中に急性腰痛症を発症し救急車来院。動けなくなるほどの症状は2度目。X線検査を実施しようとする研修医をDr.林は「必要ない」と止める…第2回 「CT or Not CT,それが問題だ…軽症頭部外傷」頭部を打撲して来院する患者は意外と多いもの。緊急手術が必要なほど重症ではない、でも万全を期すためにCT を撮るべきか、あるいは必要ないのかと悩む事はありませんか? 特に小児の場合は親御さんの心配解消のため、そして医師自身の「安心」のために、必要も無いのにCT を撮るケースが多く見られます。ガイドラインでも様々な解釈があることから結局ほぼ全例にCT 撮影を行っている…という人もいるのではないでしょうか。そのCT が本当に必要かどうか、改めて整理して考えてみましょう。 1歳6ヶ月男児 ショッピングセンターのカートから転落して両親とともに救急車来院した。頭から落ちて「たんこぶ」が出来ている。母親は頭部CT撮影による診断を強く要望するが…。 16歳男性 ラグビーのクラブ活動中に他の選手とぶつかり脳震盪を起こした。数分の意識消失、受傷機転の記憶の欠如、健忘が見られる。

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Dr.名郷のコモンディジーズ常識のウソ

第1話「NSAIDsで胃薬を欲しがる患者さん」第2話「風邪で抗菌薬を欲しがる患者さん」特別篇「101人目の患者 〜EBMの常識のウソ〜」 第1話「NSAIDsで胃薬を欲しがる患者さん」「痛み止めのNSAIDs薬を常用している患者さんが、胃痛を訴えて来院する」というのは日常診療でよくあること。それでは・・・と惰性で粘膜保護剤を出す前に、「ちょっと待った!その処方に根拠はありますか?」と名郷先生。こういう場合、どんな薬を出すのが最も適切であると言えるのでしょうか? 前編では、主にコンクランライブラリー記載の臨床試験データを勉強し、個々の患者に最適な処方とは何かを考え、後編では、クリニカルエビデンスをもとに、臨床現場でEBMを具体的に使っていく方法を学んでいきます。「薬剤の副作用にまた別の薬剤をもって対処する」ことを求められた時、医師は一体何を考え、どのように行動すべきなのか?診療に対する考えが、更に一歩深まるはずです。第2話「風邪で抗菌薬を欲しがる患者さん」一般に感冒はウィルスに感染することによりおこり、抗菌薬は無効であると知られています。その一方で、風邪に罹った患者さんが「抗生物質」を欲しがることは非常に多く、かなりの医師が(後ろめたい気持ちを抱きつつも)実際に抗菌薬を処方しています。そこには、「もし処方せずに患者が肺炎に罹ったら大変」というリスク回避の論理が強く働いていることでしょう。本番組では、このテーマについて掘り下げ、「風邪に抗菌薬は無効」というのは本当に正しいのか?もし多少なりとも効果があるのであれば、それはどの程度のものなのか? 膿性鼻汁、水溶性鼻汁ではどうなのか?Dr.名郷が驚きのデータとともに解説していきます。特別篇「101人目の患者 〜EBMの常識のウソ〜」多くの人がEBMについて抱くイメージとは、“大規模臨床試験に基づく論文など外部の客観的情報から臨床判断を行う”というものでしょう。しかし、元来EBMのプロセスでは、先に述べた外部情報だけでなく、むしろ個々の患者にじかに接することによって得られた情報が重要で、両者を統合して臨床判断に至ることこそが求められていたはずです。この「特別篇」では、ゲストにマッシー池田先生をお招きし、「狂牛病」の話題を枕に「EBMそのもの」の常識のウソに迫ります。「100人の患者を相手にした場合、101人目の患者がいることに気がつくんですよ」と、なぞの言葉をつぶやく名郷先生。硬い脳ミソを打ち砕き、目からウロコのお話の数々!御出演の先生方と一緒に(グラス片手に)どうぞお楽しみください。

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聖路加GENERAL 【一般診療に役立つ腫瘍内科学】

第1回「がんの一般情報について」第2回「Oncologic emergenciesとがん性疼痛管理について」 第1回「がんの一般情報について」「日本人の約3人に1人はがんで死亡する」「日本人の約2人に1人はがんに罹る」という言葉からは、「がんの恐ろしさ」だけではなく、「がんにかかっても一定数は治っている」ことが読み取れます。がんを治すためには、早期発見が原則です。しかしながら、がんは初期症状が出ないのが特徴。では、一体どこからがんを疑えばよいのでしょうか。脳腫瘍の場合は、「頭痛」「嘔吐」「うっ血乳頭」が三徴として知られていますが、実際にはそのような明確な徴候よりもむしろ、「だるい」「調子が悪い」「食欲がない」などと訴えてくることがほとんどです。つまり、どんな患者さんに対しても、がんの可能性を意識することが第一歩となるのです。がんの早期発見のためのポイントをはじめ、がん治療中患者が風邪などで来院した場合の注意点や、performancestatus に基づくがんの治療方針など、プライマリ・ケア医が知っておくべき、がん情報のエッセンスを届けます。第2回「Oncologic emergenciesとがん性疼痛管理について」がんは慢性疾患のひとつと捉えられますが、救急処置が必要な「Oncologicemergencies」という病態があります。たとえばSAIDH は、肺がんなど、がん自体に起因するほかプラチナ系のシスプラチンなどの治療薬が原因となることもあります。また、がんの既往がある患者に脊髄圧迫による疼痛や高カルシウム血症などが発症した場合は、すぐに病院に送る必要のある症状かどうかの見極めが重要です。まずOncologic emergenciesの具体的な対処法について、そして後半は、がんの疼痛管理についてお伝えします。薬のおかげで痛みが減って、“我慢できるようになった”ではダメ。痛み“0”を目指すためには、積極的な麻薬の使用が必要です。現場ではなかなか使われない麻薬について、その使い方と注意点を解説します。

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聖路加GENERAL 【内分泌疾患】

第4回「糖尿病の悪化だと思ったら・・・」第5回「ただ風邪といっても」第6回「2次性高血圧を見逃さない ! 」 第4回「糖尿病の悪化だと思ったら・・・」人間ドックにおいて、糖尿病の疑いということで精査を勧められていた68歳の男性。肥満も家族歴もないことから受診していませんでしたが、急な体重減少をきっかけに初めて検査を受けたところ、A1Cが13.7%と、急激に上昇していることが判明。高血糖の要因は、I型II型糖尿病以外にも、膵炎、膵がん、ヘモクロマトーシス、Cushing症候群、先端肥大症、PCOSなどさまざまなものがあります。本症例の患者さんは、急な体重減少もあることから膵臓のCTを撮影したところ、膵がんが発見されました。血糖の悪化が膵がん発見のきっかけになり、膵がんが糖尿病治療のきっかけになったという例を通して、糖尿病の裏に隠れている内分泌系の異常をどのようにして見抜くか、そしてその対応について解説します。第5回「ただ風邪といっても」もともと健康な21歳の女子大生。発熱、咽頭痛など、感染症の症状を呈したため近医で受診しました。数種類の抗菌薬を処方されましたが改善せず、ついには意識低下で救急コール。糖尿病の既往のある78歳の男性。家族が訪ねて行ったら、すでに意識がなく倒れていた。いずれも意識障害が出る危険な状態ですが、その裏には糖尿病がありました。意識障害の鑑別AIUEO tipsから始まって、DKA(糖尿病性ケトアシドーシス)、遷延性の低血糖による意識障害など、難度の高い診断について解説します。第6回「2次性高血圧を見逃さない ! 」最終回は、高血圧の裏に隠れた内分泌疾患を紹介します。10年間高血圧があるも、降圧薬が効かない60歳女性。特に目立った所見はないものの、低Kから原発性アルドステロン症をつきとめました。内分泌性高血圧もさまざまなものがありますが、まずは患者をよく観察することがポイントです。たとえば、「クッシング症候群」ではにきび、肥満、多毛、「アクロメガリー」では大きな鼻顎手足、「腎血管性高血圧」では腎周囲の血管雑音など。その後、症状によって、所定の検査をおこなうことで診断します。ともすれば、見逃して放置されてしまう可能性もある内分泌性高血圧を、具体的な症例を呈示して解説します。

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聖路加GENERAL 【Dr.大曲の感染症内科】

第1回「咽頭炎」第2回「尿路感染症」 第1回「咽頭炎」「のどが痛い」と訴えてくる患者は多数いますが、その原因はさまざま。最も多いのが、急性上気道炎や伝染性単核球症などの感染症。その他に、扁桃周囲膿瘍や急性咽頭蓋炎など、頻度は低いものの緊急性の高いもの、あるいはアレルギー性鼻炎、胃・食道逆流など感染症以外の要因によるものもあります。今回は、咽頭炎をテーマに、緊急性の高い症例の鑑別法をはじめ、風邪と溶連菌の見分け方、Modified Centor Scoreによる溶連菌の判定、溶連菌感染症と伝染性単核球症の見分け方など診断のポイント、治療法について解説します。第2回「尿路感染症」65歳の女性は、発熱が5日経っても下がらず受診するが、それ以外には特に症状はありません。このように、発熱のみで他に症状がほとんどない感染症には、尿路感染、腹腔内感染、稀に循環器系の感染性心内膜炎などがあります。逆に、他に症状がない時にこそ、急性腎盂腎炎など尿路感染症を疑うことがポイント。高齢になるほど増加するのはなぜか?クランベリージュースが予防に効果がある?エストロゲンクリームは?主に急性腎盂腎炎について、その症状の特徴と鑑別法、画像診断、治療法、またリスクのある患者として妊婦が罹患した場合の診断と治療についてもお伝えします。

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エキスパートに聞く!「糖尿病」Q&A

CareNet.comでは11月の糖尿病特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より糖尿病診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、糖尿病の専門医である3人の先生にご回答いただきました。本宮哲也(もとみや・てつや)氏(もとみや内科クリニック 院長)http://www.motomiya-clinic.jp/専門医が行っている、DPP-4阻害薬と他剤との併用例を教えてください。また、DPP-4阻害薬間での効果の差異や使い分けの基準などがあれば同じくお願いします。1)シタグリプチンは、SU薬、BG薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、インスリン注射、2)アログリプチンとアナグリプチンは SU薬、BG薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、3)ビルダグリプチンおよびリナグリプチンはSU薬、4)テネリグリプチンはSU薬とチアゾリジン薬との併用が可能で症例に応じて薬剤を選択します(2012年11月時点での適応に基づく)。また、Aroda氏ら1)が行った効果の差異検討では、DDP-4阻害薬の最大維持用量の投与によるHbA1c改善率は、ビルダグリプチン -1.06%、アログリプチン -0.69%、シタグリプチン -0.67% という結果でしたが、分析内容が不十分とされ、再検討待ちです。使い分けについては、シタグリプチンは現時点では腎不全には使用できず、アログリプチンは腎不全の程度に応じて用量の調節が必要です。アナグリプチン、ビルダグリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチンは腎不全には慎重投与ですが、用量の制限はありません。1)Aroda.VR et al:Clin Ther.2012;34:1247-1258膵臓疾患のある方へのDPP-4阻害薬の投与時の注意点について、教えてください。膵疾患のある方へのDDP-4阻害薬の投与は、急性膵炎と慢性膵炎を区別して考える必要があります。FDA(アメリカ食品医薬品局)は、2006年10月16日から2009年2月9日におけるDDP-4阻害薬の市販後調査で88例(出血性や壊死性の膵炎2例を含む)に急性膵炎が発症した報告を受け、急性膵炎への投与は禁忌とし、使用中に膵炎の発現が疑われた場合は使用を中止するよう推奨しています。しかし、膵炎の既往がある患者さんへのDDP-4阻害薬の使用については、検討や研究はされていないとしています(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部発行 医薬品安全性情報Vol.7 No.23)。また、飲酒家で慢性膵炎で血糖が上昇してきた患者さんへDDP-4阻害薬を使用した場合に、慢性膵炎が悪化したデータや報告は、今のところないようですが、このような患者さんへの投与は慎重に行い、どうしても投与しなければならない時には、膵炎に関する適切なモニタリングが必要と考えます。経口薬治療はどこまで続けるべきなのでしょうか?また、最大何剤まで増やして治療された経験がありますか?第1に、2型糖尿病では腎症の程度により禁忌となる経口糖尿病薬があり、基本的に透析患者、ならびにCcr30mL/分 以下では一部のDDP-4 阻害薬やα-グルコシダーゼ阻害薬を除き、経口糖尿病薬は原則禁忌となります。第2に、複数の経口糖尿病薬を併用しても血糖コントロールが改善せず、内因性インスリン分泌の低下が著明になった場合には、インスリン注射療法へ変更することになります。2012年の ADA/EASD が発表した推奨される2型糖尿病の血糖降下療法によればメトホルミンで治療を開始し、血糖コントロールの改善度、副作用、体重などを3ヵ月毎に慎重に観察しながら、2剤、3剤と経口糖尿病薬を併用し、目標が達成できない場合にインスリン注射療法の導入を勧めています。私は、DDP-4阻害薬をベースに少量のSU薬やメトホルミン、α-グルコシダーゼ阻害薬の追加で3剤まで増やしても良好な血糖コントロールにならない場合、インスリン自己注射が可能で、承諾の得られた患者さんにはインスリン療法を導入しております。梅澤慎一(うめざわ・しんいち)氏(医療法人 うめざわクリニック 院長)http://www5d.biglobe.ne.jp/~umecli/index.htmHbA1c7%前後の軽症例への第1選択薬は、どのような選択肢が考えられるでしょうか?HbA1c7%(NGSP値)前後の軽症例の第1選択薬とは、HbA1c値を0.5%程度(良の中央値)下げられる、できるだけ安価で副作用の少ない薬剤を意味するものと解釈します。したがって注射製剤は今回除くこととします。インタビューフォームに記載されていたほとんどの経口血糖降下薬のHbA1c低下効果は、その治験対象の治療前HbA1c値が高いため(8.0% 前後)、軽症例に投与しても添付文書のようには低下しません。万人に単剤でしっかり0.5%下げられる能力が期待できると私が考える薬は、速効型インスリン分泌促進薬のレパグリニド〔商品名:シュアポスト〕(1.5mg/日)、DPP-4阻害薬のビルダグリプチン〔商品名:エクア〕(100mg/日)、テネリグリプチン〔商品名:テネリア〕(20mg/日)、シタグリプチン〔商品名:グラクティブ〕(100mg/日)、〔商品名:ジャヌビア〕(100mg/日)、 アログリプチン〔商品名:ネシーナ〕(25mg/日)、リナグリプチン〔商品名:トラゼンタ〕(5mg/日)、SU薬のグリメピリド〔商品名:アマリール〕(0.5~1.0mg/日)などが該当します。いずれも初回の規定投与量を遵守し、忍容性を見極めての増量が基本です。臓器合併症がない人に限っては、ピオグリタゾンとメトホルミンなどのBG薬が期待できますが、どちらも効果は個人差が強いといえます。病識のない患者さんへの教育・指導のコツやポイントを教えてください。最も重症な病識欠如は通院中断者であることは間違いないでしょう。定期的に中断者リストを作成して、再診を促すハガキを出すことができれば理想的です。診療所など地域に根差した施設では、家族の受診の付き添いで来院する際や風邪などで再初診する機会にさりげなく「最近、糖尿病の方はどうかな?」と声掛けをすることで通院再開に成功するケースもあると思います。内服・注射アドヒアランスの低下などは処方薬の選択、投与法の工夫など医師の役割部分が大きく、認知症などによる飲み忘れ対策では家族の教育(看護師)、一包化調剤の利用(薬剤師)などの多職種との連携が必要になるでしょう。食事運動療法、節酒・禁煙ができないなどの病識の欠如は、個人的な事情もあるので、万人に有効な処方箋はありません。私は“その人が今できることを探して、具体的な方法を提示し、できたら少しでも賛美し、結果にむすびついたら一緒に喜ぶ”、“合併症がでたら大変という脅しはしない”の2項目を念頭に、辛抱強く向かい合うようにしております。BOT導入に際し、スタッフへの教育をどう進めるべきか教えてください。まずはBOTの概念をスタッフに理解してもらうことが大事です。BOTで使用するインスリングラルギン(商品名:ランタス)やインスリンデテミル(商品名:レベミル)などの持効型インスリンの本来の使用目的は、インスリン強化療法の基礎分泌(basal)部分を担うことにありました。そのため持効型インスリンは、速効または超速効型インスリン食前3回投与と組み合わせた使用が一般的です。その後、経口血糖降下剤で効果不十分な2型糖尿病に少量の持効型インスリンを追加する(basal + oral therapy)ことにより、内因性インスリン分泌が回復し、血糖コントロールが改善する事例報告が多く認められ、新たな治療法の概念となっていったものです。 BOTはすでに今行われている治療法を変更しないで、1日1回のインスリン注射を加えることで実行できるため、患者も医療者側も治療法の変更という大きな心理的不安を緩和することができるのです。注射時刻は各薬剤の添付文書に基づきますが、毎日一定の時間に投与すればよく、SU薬を併用しているケースでは1回抜けたくらいで急性代謝失調に陥ることはないという安心感が維持できます。田中啓司(たなか・けいじ)氏(田中内科クリニック)http://www.tanakanaika-clinic.com/BG薬はどのような患者に使うべきでしょうか?また、副作用のマネジメント(乳酸アシドーシスへの対応等)についても教えてください。BG薬は、肝臓で乳酸からの糖新生の抑制、脂肪や筋肉への糖の吸収促進、腸管での糖の吸収抑制、食欲低下作用などが報告されています。適応患者としては、肥満の2型糖尿病で、ある程度コントロールのよい例をよりよくする目的のほか、SU薬やインスリンを多量に使ってもコントロール不良例での改善、さらにそれら薬剤を減量させる目的などで投与することが多いです。乳酸アシドーシスの重大な副作用症状は、「意識障害、嘔吐、倦怠感、過呼吸、腹痛など」です。日本糖尿病学会の「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」は、乳酸アシドーシスに至った例は、各剤の添付文書において禁忌や慎重投与となっている事項に違反した例がほとんどであると報告しています。「腎機能障害患者(透析患者を含む)、過度のアルコール摂取、シックデイ、脱水などの例、心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、高齢者」とのことです。乳酸アシドーシスへの対応というよりは、投与してよい例か否かを慎重に検討して、乳酸アシドーシスを起こさないことが重要と考えられます。75歳以上の高齢者のHbA1c管理目標値は、他の年代の方と同様でよいでしょうか?また、食事指導は実施すべきでしょうか?日本糖尿病学会では、高齢者の血糖管理目標値を空腹時血糖140mg/dL、HbA1c 7.4%以下(NGSP値)としています。しかし一方で、患者の状態を詳細に把握して個別的な対応を行うことも重要と呼びかけています。高齢者糖尿病は多様性があることを理解して、高齢者でも、非常に元気な例もあれば、予後の限られた例もある。もちろん肥満例では足腰に負担がかかり、ADL低下に至る可能性もあるので食事療法は必要です。しかし、食が細くなっている高齢者もいますので、本人や家族からの聴き取り調査が必要です。また、高齢者糖尿病例は代謝の低下に伴い、突然低血糖になる例もあります。一方で、風邪をひいて急に高血糖になる例もあります。大血管障害は別として、血糖にこだわり細小血管障害を心配するよりも、低血糖や高血糖性昏睡などの直接命に関わる急性合併症を回避することが大切で、全身を診る医療が最も重要と考えます。最近、話題の「糖質制限食」(メリット/デメリットなど)について教えてください。〔メリット〕減量効果:3度の食事の糖質(主食:ごはん、パンなど)を減らすことにより、摂取カロリーが減ります。例えばごはん、大盛り300g → 並200gに変更することにより100g(160Kcal) × 3回 × 30日 = 14,400Kcalとなり、1ヵ月で約2kgの減量につながります。食後血糖改善効果:糖質は、タンパク質や脂肪に比べて吸収が速く、食後の血糖値が高くなります。ひいては血糖コントロール改善効果があります。〔デメリット〕間食が多くなる:ごはん、パンなどは腹もちがよく、極端に減らすことにより次の食事までの間に空腹感が出て、その結果、間食をしてしまう患者さんが多く、肥満や血糖コントロールの乱れにつながります。心血管・内臓負担:当然のことながら、肉や魚の量が増えてしまいます。そのため、タンパク質や脂肪の摂取過剰になります。タンパク質を多く摂ると腎臓に負担がかかり(腎不全では禁忌)、脂肪を多く摂るとコレステロールが高くなり動脈硬化性疾患である心臓病や脳卒中になりやすい可能性があります。

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生活保護受給者の「医療費一部負担案」、いかがお考えですか?

不正受給問題に端を発し、生活保護のあり方が議論されている中、現在窓口負担がゼロである医療費について患者の一部負担を求める、あるいは後発医薬品の使用を義務付けるという案も出ています。今回の「医師1,000人に聞きました!」ではこれを踏まえ、現場の立場でこの問題がどのようにとらえられているのか尋ねてみました。コメントはこちら結果概要医師の7割以上が生活保護受給者の医療費一部負担に賛成医療費一部負担案に賛成したのは全体の73.1%。勤務形態別に見ると病院医師では76.2%、一般診療所医師では64.9%と、窓口業務まで管理する立場である一般診療所医師は若干低い結果となった。賛成派からは「年金生活者や、働きながら保険料を納め医療費の一部負担をしている低所得者がいることを考えると、生活保護受給者のみ全て無料というのは不公平」といった意見が見られた。「違った方法を考えるべき」医師、『いったん支払い、後日返還しては』など次いで15.6%の医師が「違った方法を考えるべき」と回答。コスト意識を持ってもらうために『いったん支払ってもらい返還する形に』、複数の施設を回って投薬を受ける患者や、悪用する施設の存在を踏まえた『受診施設の限定』などが挙げられた。「現状のままで良い」医師、『理念を維持しながら受給認定を厳密に』一方「現状のままで良い」とした11.3%の医師からは、『生活保護の本質まで変えるべきではない』『受給認定を厳格にすることで対応すべき』といった意見のほか、『現実に支払ができなければ病院の負担になるのが見えているので』といった医師もいた。"後発医薬品の使用義務付け"、病院医師の約6割が賛成、一般診療所医師では意見割れる薬の処方にあたり、生活保護受給者へは価格の安い後発医薬品を義務付けるという案に対しては全体の54.1%が賛成、「現状のままで良い」とした医師は28.9%であったが、一般診療所医師に絞ると賛成40.3%、現状維持37.3%と割れる結果となった。賛成派からは、『後発品は国が「先発品と同等」としているので問題ない』、現状維持派からは『必ずしも薬効が同じとは限らないと考えるため』『院内処方で扱いがない場合がある』『処方の裁量権は医師にある』といったコメントが寄せられた。設問詳細生活保護受給者の医療費負担についてお尋ねします。現在、生活保護受給者が医療サービスを受ける場合、その費用は直接医療機関に支払われ本人負担はありません。市町村国保の被保険者などと比べて生活保護受給者1人当たりの医療費のほうが高いことなどを理由に、適正化のための取り組みを強化すべきだという意見も挙がっています。これに関し、10月23日の日本経済新聞では『三井辨雄厚生労働相は23日の閣議後の記者会見で、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることに関して「自己負担を導入すれば必要な受診を抑制する恐れがあり、慎重な検討が必要だ」と述べた。価格が安い後発医薬品の使用を義務付けることについては「一般の人にも義務付けられていないのに生活保護受給者だけに義務付けるのは難しい」との認識を示した。 生活保護受給者の医療費は全額公費で負担しており、生活保護費の約半分は医療費が占める。財務省は22日の財政制度等審議会の分科会で、医療費を抑制するために医療費の一部自己負担の導入と後発医薬品の使用を受給者に義務付けることを提案していた。』と報じられています。そこで先生にお伺いします。Q1. 医療費適正化のため、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることについて、いかがお考えですか。賛成違った方法を考えるべき現状のままで良いQ2. 生活保護受給者に後発医薬品の使用を義務付けることについて、いかがお考えですか。賛成違った方法を考えるべき現状のままで良いQ3. コメントをお願いします(Q1・2の選択理由、「違った方法を考えるべき」とした方は代替案、その他患者さんとの具体的なエピソード、など、どういったことでも結構です)2012年10月26日(金)実施有効回答数:1,000件調査対象:CareNet.com医師会員CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「先発品と後発品の効果がまったく同じと保証できない現状では後発品の義務は困難。感冒薬程度なら問題ないが高度医療を必要とするような患者さんでは問題が出ると思う。」(50代診療所勤務,消化器科)「全くの無料は無駄の原因。工夫の余地をなくす。」(50代病院勤務,内科)「後発品をとるか否かは自由意志とすべき、その代り 医薬品の5%(0.5割負担)でも徴収すべきと思う。そうすれば、安い方を望むなら自ら選択することになる。」(60代以上病院勤務,血液内科)「一部負担は、真面目な方には受診抑制になって、重症化する可能性が出る。生活保護に甘えている方は病院で怒って現場の混乱を生むだけで何の意味もない。それよりは、医療費の適正化をすすめるべきである。求められても不要なお薬は出さない。出さないからと暴れたり、怒ったりする方へのペナルティを明確化する方が良い。後発品義務付けは、治療内容の権利の侵害に当たる可能性があるので勧奨程度にすべき。例えば、糖尿病の治療であっても同じようにHbA1cを下げる薬はあるが、合併症などを防ぐそいう視点で新薬が使用できない場合、将来の合併症を増やし結局医療費の高騰につながる」(40代病院勤務,呼吸器科)「一部負担にしたとして、お金を払ってくれない人を診療拒否できるのなら生保の負担金をつくっても良い。」(50代診療所勤務,内科)「不正受給ばかりが報道されているが、大多数の受給者は後ろめたさから声を上げられないと思います。もちろんどんな医療機関にもフリーに何度でも受診できるということは良くないので、受診可能な機関を一定の生活圏内に制限することや、通院手段を制限するなどの方策も考えられます。」(40代病院勤務,内科)「救急外来への頻繁な来院はペナルティがあっても良い。」(50代診療所勤務,小児科)「負担がないことですべて許されていると考えている受給者が多く、一人ひとりに理解させることは極めて困難であり、一律に決めるべきである」(50代病院勤務,外科)「受給金をパチンコで使い果たし無料で入院、なんてことができないよう方策を考えてほしい。」(50代診療所勤務,腎臓内科)「医療費の負担増加とこれに対する原資の増加を期待する事の難しい情勢からみてやむを得ない事と思います。逆にそのことで負担が少しでも軽減されるのではないかと思います。」(50代病院勤務,産婦人科)「抗けいれん剤を後発品に変更して、ずっと起こっていなかった発作が起こったことがある。後発品を義務づけるなら、特定の薬品に限定すべきと思う。」(50代病院勤務,リハビリテーション科)「一部負担といっても幅があるのでどの程度負担させるのかによって意見が違うと思う」(60代以上病院勤務,腎臓内科)「先発薬と後発薬両方を揃えるのは医療機関に負担となるので反対。」(40代診療所勤務,腎臓内科)「一般の患者は医療費負担は上限ありになっている。生活保護者も基本的には同じ枠組みで良い。上限額に配慮するとか、いったん支払いさせて申請後(部分的に)返ってくるとか。」(40代病院勤務,耳鼻咽喉科)「自己負担をつけても支払いをたぶんしないで病院の負担になるので、現状のままでよい」(50代病院勤務,循環器科)「一律というのは如何か。生活保護を必要としてないのに受給されている人と 本当に必要な人がいることがそもそもおかしいのだが。この両者は区別して、必要ない人は切って欲しい」(40代病院勤務,消化器科)「医療費一部負担は受診抑制に繋がる。また、後発品を使用していない当院では、診察できないことになる。いまだに後発品に不安要素がある事を先に改善すべき。」(50代診療所勤務,内科)「最低保証賃金より保護費の方が高い現状は異常。ワーキングプアの方々が強いられている窮状は、生活保護の方々にも受け入れていただく必要がある。」(40代病院勤務,精神・神経科)「当院受診の生活保護者の半分は疑問に感じる人が多いのは事実、「魚釣りに行って風邪をひいた、点滴をしてくれ」などざら」(50代病院勤務,神経内科)「目に余るケースがあるから、と言って生活保護の本質まで変えるべきではない。取り締まるには人件費などかかるので、現状のままのほうがよい。」(60代以上診療所勤務,精神・神経科)「服薬指導を徹底させ、薬の無駄を少なくすることが大切だと思います。みんながその費用を負担していることを自覚する必要があります。生保患者さんが立て替えで支払うことも一つの案だと思います。」(50代診療所勤務,内科)「後期高齢の生活保護者は無料のままで、若年者は就労を図る意味でも有料化すべき。」(60代以上診療所勤務,内科)「今ほど生保の継続が必要な時期はない」(50代診療所勤務,内科)「他の患者さん同様に窓口負担分をとって、還付を検討すべきでしょう。」(40代病院勤務,内科)「『生活保護で自己負担がないから先発品を処方してくれ』と堂々と言う患者がいて腹が立った」(50代診療所勤務,整形外科)「生活保護でも本当に働きたい人もおり、そういう方はむしろ病気があってもギリギリまで我慢してしまう傾向が強いと思います。元々自分は生保でもそうでなくても基本的に必要不可欠なことしかせず、差はつけていない。この議論自体がおかしいと思う。」(40代診療所勤務,内科)「薬代がタダなので、あまり必要の無い薬を「念のため・・」などと言ってもらって無駄にしていることが有る。」(40代病院勤務,内科)「受診できる病院を限定するとか、カルテを1つにするとか、不正な薬剤処方をなくしたり、不要な受診を減らしたりの工夫が必要」(30代以下病院勤務,小児科)「コンビニ受診は避けるべきだが、本当に加療の必要なひとには受診萎縮にならないようすべき」(50代診療所勤務,口腔外科)「低収入であるが故に受診を控えて病状の悪化を招いたり、経済的理由で後発医薬品しか選択できない勤労者が存在することを考えれば、生活保護受給者が何の躊躇もハンディも無く医療を求めることは問題である」(40代診療所勤務,呼吸器科)「行政側から患者(生保受給者)に説明し、後発品使用を了解(同意)させ、医療機関にその旨「書面で」申し出る。しかし、その場合も最終的には医師の処方権は留保される。」(60代以上診療所勤務,消化器科)「小額でも一部負担とすることで、毎日不要な点滴をしたりする方は減るでしょう。」(40代病院勤務,内科)「薬品は、好みもあり人によっては効果の違いもあるので、義務付けは賛成しかねます。」(50代病院勤務,整形外科)「働ける様な若者も生活保護を受け、日中ぷらぷらしやたらと必要以上に病院へ来る方、結構見かけます。生活保護を受ける基準や負担額なども細かく等級を設けて、等級に応じて設定したらいいのではないか。」(40代診療所勤務,内科)「生活保護を受けている割に子供にピアス、アクセサリーがジャラジャラ・・・本当に必要な家族への受給を充実させ、このような家庭へ受給はしないようにしっかりした制度設計をやり直すべき」(40代病院勤務,小児科)「『どうせタダなんだから薬だしてよ、検査してよ、病院のもうけになるんでしょ』という患者もいる。町のドラッグストア感覚(それよりも手軽)みたいに思っている。一部でも自己負担させるべき。後発品は合う・合わないもあるので義務づけはちょっと乱暴。」(40代診療所勤務,内科)「どの医院も薬局もすべてのものに対応できるものではないので、義務付けではなく、やはり努力目標にせざるを得ないと思う」(50代診療所勤務,泌尿器科)「生活保護になりやすくなっている状態を検討すべき。ならなくていい人もなっている感じと一度生活保護になってしまった人がぬけたくなるような部分も必要なのではないか」(40代病院勤務,血液内科)「『おいしい』ことはなるべく少なくしていくことで、本当に必要な人が「仕方なく受ける」最後の砦にするべき。」(40代病院勤務,内科)「薬を貰うために何軒も医療機関を回るので、公的な指定医療機関を設置しては」(50代診療所勤務,循環器科)「生活保護一歩手前の患者様(化学療法中)を何人か診ているが、その方のほうが、よっぽど生活は苦しいと思います。高額の治療を断念している方もおられます。生活保護受給者は、医療に関しては恵まれすぎ!です。生保以外の方で後発薬を希望される方は多いですし、私自身も抵抗はありません。一部でも自分で負担できないなら後発薬で我慢するべきだし、一時金を払うことは、むやみな受診の抑制に効果あると思います。 上記のような何らかの対策をとらないと、さらに他の人たちの負担が増えてしまうと思います」(40代病院勤務,外科)「一部負担といっても現実に負担できない患者がいれば、それは結局支払われずに病院の負担になる。末端の医療機関への責任転嫁である。現状の後発品制度には多大な問題がある。制度自体に根本的な議論がなされない限り簡単に賛成とはいえない。」(50代病院勤務,循環器科)「国策として後発医薬品の使用を推進するのであれば、先発品にこだわる必要はないはず。生活保護とはあくまでも援助なのだから受給者に選択権はないはずである。」(40代病院勤務,皮膚科)「一旦納付→後日給付にすべき.疾患によっては(アレルギー疾患等)後発薬を使うことは避けるべきで全て義務付けというのは不適切」(40代病院勤務,内科)「風邪などの軽症疾患は自己負担を導入し、慢性疾患や重症疾患はこれまでどおりにしては。」(30代以下病院勤務,小児科)「生活保護が本当に必要な人もいることを忘れてはいけない。」(40代病院勤務,精神・神経科)「働いて健康保険料などを納め、医療費の一部負担をしている、生活保護とあまり年収のかわらない人もいるのだから、何らかの負担は必要と思います」(50代診療所勤務,内科)「ともに、大いに賛成です。 現場の目から見て、「生保だから必要のない受診を気軽に繰り返している人がいる」ということは明白。必要な受診を抑制する可能性も皆無とは言えませんが、本当に必要な場合には、収入や家庭環境などについて綿密な精査を行った上で、自己負担金の免除を決める制度を別途設ければ良いと思います。 もっといえば、不適切受診の内容や明らかに贅沢な生活実態などを医師側から通報できる制度があれば良い」(30代以下病院勤務,循環器科)「基本は後発品とし、医師の判断で変更できればと思います。一部負担で受診抑制を心配するのであれば、その前にワーキングプアといわれきちんと保険料を収めているのに窓口負担を心配して受診できない方々に補助すべきだ。生活保護は最低限の生活を保証すればよいのだから、そうしたものをもらわず働くワーキングプアの方々以上の保護は要らないはず。」(30代以下病院勤務,小児科)「一部の不心得者のために、真に保護が必要な人への援助を削るべきではない。マクロの視点しか持っていない役人やマスコミの怠慢が世の中をどんどん歪めている。不正受給をなくすべく、役人がきっちりと精査することだ」(50代診療所勤務,内科)「生活に必要なお金を受給されているのだから、医療機関の受診、薬代も他の方と同様に支払うべきである。」(40代病院勤務,内科)「不必要に多くの薬をもらって余っていてもなくなったと主張し、さらに多く持って帰る患者がいる。量や種類の制限は必要と思う。」(30代以下病院勤務,整形外科)「経済的理由からジェネリックを希望する人が多い中、全額免除の人だけが高い薬を使うのはヒトとして納得できない。」(30代以下病院勤務,呼吸器科)「生活保護受給者は高価な治療薬を使えるが、通常の被保険者はお金の関係で使いたい薬も使わないでいることがある。何かおかしいです。」(50代病院勤務,呼吸器科)「生活保護受給者が時間外に不必要な受診をすることが度々みうけられるので、時間外受診料などに自己負担を導入すればよいと思う」(30代以下病院勤務,整形外科)「多くの人に不正がないと信じるが、隣人などから薬をもらうよう頼まれてくる人もいるようである。」(50代診療所勤務,内科)「望ましいことではないが、すべてのことについて性悪説にたった制度が必要になってきていると思う。」(50代病院勤務,内科)「生活保護がsafety-netとしての役割を担っていることを考えると、生活保護の医療費の一部を受給者に負担させることは少し賛成しにくい。しかし生活保護を延々と受け取って無料であることを良いことに薬の処方を欲しがる患者がいることは事実であり、それを悪用して薬を無駄に処方させている病院があるのも事実なので、必要以上の処方を行なっていると判断された医師に厳罰が発生するような仕組みのほうが抑制効果があるのではないかと思う。ただし、その基準を明確にする必要があるが、その基準は非生活保護受給者よりも厳しい基準であるべきだと思う。」(30代以下病院勤務,外科)「生活保護の患者さんがブランド物のバッグをもって受診しましたが、このような人に私たちが支払った税金が使われていると思うと、憤りを感じます。」(50代診療所勤務,内科)「もともと、病気で仕事ができないことによる生保受給が多く、一般人に比べ医療費が高くなるのは当然だと思います。 むしろ、何万円ものタクシー代や、飛行機利用を許した対応など、自治体側の対応の仕方が不適切なことの方が問題かと思います。」(50代診療所勤務,消化器科)「医療費の膨張に歯止めをかけるためにはやむを得ないと思う。ただ、原疾患で働けなくて生活保護になっている人は別に扱う事が必要。」(50代診療所勤務,皮膚科)「後発品の場合、特に呼吸器系後発医薬品に変更した際に効果が落ちる例も経験している。効果が落ちた場合は、受診回数の増加や時間外受診の発生などに繋がる場合があるので、義務づけはあまり賛成できない。」(30代以下その他医師,呼吸器科)「奈良の山本病院の事例を含め悪用が目に余り歯止めが利かない」(50代診療所勤務,内科)「利益を享受する分の負担は当然」(30代以下病院勤務,神経内科)「本当に医療を必要とする患者の医療費公費負担と、無料をよいことに安易に行なわれる受診やそれを食い物にする医療機関を選別する方法が必要である。」(50代病院勤務,内科)「低所得者、年金生活者などの方たちは、少ない収入の中で保険料も払い、さらに医療費の何割かを負担している。生活費を切りつめてもいるわけで、生活保護費を丸々自由に使える生活保護者と比べると非常に不公平。 後発医薬品は、無料であるならば選択の自由はなくしてもいいと思っています。厚労省の認可していない薬ならいざ知らず、認可されている薬品なので義務付けてもいいのではないでしょうか。 」(50代病院勤務,泌尿器科)「薬を多めにもらっては売って酒代に換える患者がいますし、月の前半でパチンコをして下旬はお金がなくなり栄養失調の病名で入院、月が変わった受給日には必ず退院する無料の宿泊施設としている患者もいます。ごくごくわずかでも良いので自己負担とすれば少しは抑制できるのでは。本当に必要な人の負担にならないくらいわずかな手数料が必要。」(30代以下病院勤務,脳神経外科)「無料では不必要受診を生む。昔のお年寄りの健康保険無料化のときと同じ弊害。 後発医薬品は薬効が低いというわけではないので、生活保護に関しては当然安い薬に限定するべきでしょう。」(50代病院勤務,その他診療科)「生活保護に限らずまるっきりただはよくない。 ワンコインでも負担すべき」(50代病院勤務,小児科)「タダだからとビタミン剤や感冒薬、睡眠薬などの無駄な薬や検査など何でも要求してくる。負担金を取ったほうが医療費の抑制になる。」(50代病院勤務,内科)

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被災地で心を病む人々と、ともに生きる―不幸な人?挑戦者? ―

相馬中央病院 副院長小柴 貴明2012年8月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。被災地 相馬市にある相馬中央病院周辺には、心の風邪に罹った患者さんが多い。風邪の程度は、軽いものから、かなりの重症まである。こういった患者さんは、診察室に入って来られた瞬間の表情が、どこか違う。うつむき加減で、来られる患者さん。険しい表情の患者さん。落ち着きのない患者さん。私は、仙台市の精神科医の友人から、相双地区から、多くの心を病む人が診察に来られるとの話を聞いた。震災以後、相双地区には、相当数の心を病む人がいるにも、かかわらず、そのような患者さんを専門に診る医者がほとんどいないのだという。このような、事情から相馬中央病院で、不眠や、不安、不定愁訴を訴える患者さんに、私は臓器移植やHIV感染症に携わってきた臨床医、研究者でありながら、精神科医のアドバイスを受け、心理医学療法を開始した。この仕事を始めようと考えた一つのきっかけは、あるサイコセラピストから、教わった、とても興味深い話。人の感情には、楽しい、うれしいなどのポジティブな感情と、悲しみ、怒り、恐怖などのネガティブな感情がある。人は、ポジティブな感情は、机の上に、ネガティブな感情は整理もせず、引き出しにしまってしまう。例えば、職場で嫌いな人への怒りを抑えなければ、人間関係に歪が入ったりする。しかし、ネガティブな感情をあるとき、敢えて引き出しから出して、整理する必要があるというのだ。ネガティブな感情を自分でも気づかないでいる人すらある。いつまでも、ネガティブな感情から逃げるのではいけない。自分のために認めてあげることで、病んだ心は少しずつ和らぐのだと、そのサイコセラピストは言う。仙台の精神科医の友人も、同意見であった。私は、最低30分の時間をかけて、心の風邪に罹った患者さんの机の引き出しを開き、封じ込まれたネガティブな感情を患者さんに認めてもらうように、努めている。7月25日は、朝9時から、夕方6時まで、昼食を取る間もなく、診察に来られる患者さんに、心の引き出しを開いて頂いた。そうして、新たなことに気付いた。受診される患者さんは、50代以降の高齢者。多くの人は、懸命に何十年もの間、悲しみ、怒り、恐怖 (例えば、幼少期の嫌な思い出、苦痛な人間関係) と戦ってきた。しかし、3.11 が起きて以降、これまでの長年の我慢の糸がプツンと切れてしまい、ついに心の病気となってしまったかのように見える。この世に生を受けた全ての人は、死を迎え永遠の休息を得るまで、必ず何かの苦悩を抱えて生きている。実に、3.11は、被災地の全ての人々の苦悩に、大きな追いうちをかけていたのだ。診察を受けられた患者さんには、家族、家が津波に流された人、仮設住宅に移って何時になったら元の家に戻れるかわからない人、仕事を失った人がおられる。私が封印された感情を引き出すと、多くの患者さんが咽び泣かれた。そして、この日、私の外来についてくれた 寺島和美看護師も、また、患者さんと一緒に涙を流した。はたして、患者さんの引き出しにしまわれていたネガティブな感情とは、なんだったのか?悲しみ?否。 怒り?否。 恐怖?否。私には、そのどれでもなく、もっともっと深遠なもの。言葉で表すことのできないほどの激しいものではないかと思われた。くたくたになって、帰宅してベッドに入った。しかし、その夜、私は、長時間にも亘る壮大な悲劇的シンフォニーを聞いたような興奮で、眠られぬ夜を過ごした。翌日、寺島看護師は、私に点滴を勧めた。彼女も同じく、眠れなかったという。彼女は細やかな心遣を、患者さんにだけではなく、私にも向けてくれた。点滴の最後の一滴が落下したとき、元気を取り戻した私は、彼女にこう言った。「私たちが、患者さんと共に、肩を落としてはいけない。私たちは、医療のプロ。咽び泣く患者さんは、不幸な人ではない。これから、立ち上がろうとする挑戦者。長距離ランナーが、疲れて、しばし道端に座りこんでいる。私たちは、懸命に生きる挑戦者たちと、ここでまた懸命にともに生きる。」その瞬間、私と同じく、睡眠不足で疲れきった表情をしていた寺島看護師の眼が、突如、キラッと輝いた。これからも、被災地の人々と、医療スタッフの果敢な挑戦は続く。

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教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

1956年3月21日東京都生まれ。1981年東京慈恵会医科大学卒業。84年同大学第1解剖学専攻博士課程修了、自治医科大学第1解剖学講座国内留学。85年東京慈恵会医科大学第1解剖学講座講師。87年ペンシルバニア州立大学分子細胞生物学講座留学。95年東京慈恵会医科大学カリキュラム委員。97年Harvard-Macy Program:Physician Educators修了。99年同大学医学教育研究室助教授。01年同大学同教授。07年同大学教育センター長。(社)日本医学教育学会副理事長、(財)日本医学教育振興財団運営委員・編集委員長、(財)柔道整復試験研修財団理事長。繰り返される医師不足と地域偏在第二次世界大戦後、日本の医学部定員は1万人を超えていました。GHQは医師養成のあり方をみて「医師粗製乱造だ」と、発言しました。当時は戦時下の軍医養成のため教育年限が短く、臨床のトレーニングが十分なされないまま、医師となって巣立っていきました。医師のレベルが下がるということは、日本の医療レベルが下がるとして、定員の削減を断行しました。3 千数名の入学定員とすれば、需要と供給が保たれるうえに医学教育の質も保てるとし、このときにシステムを確立してしまったのです。ですが、昭和36年に国民皆保険が実施されたことによって、安定供給のバランスが崩れます。すべての国民が医療へのアクセスが楽になり、徐々に医師不足が騒がれ始めます。そこで行われたのが、昭和45年3校の私立医科大学、秋田大学医学部設立と1県1医大政策です。なぜ秋田に医大をつくったかというと、今でもそうですが東北地方は慢性的に医師不足だったからです。つまり、診療科の偏在、地域偏在、研究医が少ない、基礎医学に進む医学部出身者がいないという現在と同じことが、昭和30年代にも起きていたのです。問題は、いきなり医大を増やしたので、教員が足りなくなってしまったことです。特に基礎医学を教えられる人材が不足してしまった。当然ですが、十分な教育なくして医師は育ちません。医学生の教育体制を考慮せずに、不十分なままに、定員を増やしてしまったことを反省すべきでしょう。結局のところ、地域偏在だ、診療科偏在だ、医師不足だといって医大をつくってはみたものの、実際に問題の解消にはなりませんでした。 医療現場の変化を捉えシステムを構築する医師不足問題を解決するためには、医療現場がどのように変化しているかを適格に捉えることです。現在医師不足といわれる最大の理由は、専門分化しすぎたからです。昔は内科医だったら、呼吸器、腎臓、心臓の悪い患者さんを分け隔てなく診ていました。一人の患者さんが複数の疾患に罹患していた場合でも、昔は一人の医師でカバーしていました。ですが今は、疾患ごとに専門医が必要になっています。つまり、一人当たりに必要な医師の数が増えているのです。高齢化社会が進めば、多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えて、医師の数はもっと必要になるでしょう。すると医師の数は青天井に必要となるのです。これは高度医療の現場で増えているわけです。国民皆保険というフリーアクセスの現状では、どんなささいな病気でも専門家に診てもらいたくなる。それを許してきた。医療に対してフリーアクセスを許してきた日本、患者さんに対して医療レベルの振り分けをしませんでした。高度医療においては、疾患ごとに専門医が細分化されています。多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えれば、一人の患者さんに対して必要な医師はますます増えることになります。これから高齢化社会が進むにつれ、医師の数がどれほど必要になるのかを算出するのは難しいことです。医学先進国のほとんどが、高度医療が必要な患者さんとそうでない患者さんを一次医療で振り分けているのは、本当に必要な医療を必要な患者さんが速やかに受けられるようにするためです。ですが、国民皆保険の日本では、極端にいえば単なる風邪であっても、高度医療の現場にいる専門医への受診もフリーアクセスを許してきました。では、何が必要かというと一次医療、二次医療、三次医療のシステム化を体制としても供給する側としても、階層性を構築することが求められています。たとえばイギリスのジェネラルプラテクショナー[General Practitioner (GP)]のようにかかりつけ医がいて、すべての患者さんはそこで診察を受けなければ、二次医療、三次医療には進めない。GPがゲートコントローラーの役割を果たせれば、患者さんは高度医療が本当に必要な人のみが受診し、非常に高度な医療に携わる医師は、その医師にしかできない治療に専念できるのです。大学の存在意義は社会への貢献である大学の存在意義とは、高度な学術や技能を持った人を社会に供給することによって、国民のために存在するものであると考えます。つまり地域に貢献するために存在しているのです。東京慈恵会医科大学の理念は明確で『国民のための医者をつくること』です。ところが各々の大学が社会に対する責任を考えてきたかというと疑問があります。日本はドイツから大学制度を持ってくるのですが、学問の自由とか大学の自治は受け入れたが、なぜそれらが大学にとって必要なのかは忘れてきてしまった。大学とは社会的存在であるという理念を置き忘れてきてしまいました。医師不足についても、ただ増やせばよいのではなく、医療システムそのものを見直さなければ、医療は社会的共通資本であり、つまり国民が守るものだという意識をつくっていかない限り、また同じ過ちを繰り返すだけです。医療はこれからも変化していくでしょう。10年前のデータを基に医師数を算出できても、明日では無理。なぜならば、医学生が独り立ちするまでに11年かかります。つまり、11年後の需要供給計画など立つわけがないのです。地域の教育力を活かす医療者教育私は1年生を地域医療実習へ送り出す前に「君たちは医者になる。医者になったら診る患者の半数は女性で、1.2%は統合失調症で2~3%は知的障害者だ。そして診る患者の10%には人格に偏りがある」と言います。まず1年生には授産・厚生施設へ1週間行かせます。2年生は、重症心身障害児療育体験を1週間実施した次の週に、児童館や幼稚園、保育園などで地域子育て支援体験実習に行かせます。これには理由があって、重度の病気を持つ子どもと元気な子どもをみることによって、病気とは何かを考えてほしいからです。病気であるがゆえに、人間としての活動を障害するとはどのようなことなのかを知ってほしい。医療とは患者さんがその人らしい人生を送れるように、すべてをサポートすることです。病気だけ診ればいいのか……そこで我が校の理念「病気を診ずして病人を診よ」につながるわけです。3年生には医学部なのに訪問看護ステーションで実習してもらいます。ある学生が言いました。「同じ認知症でも、家庭によって違う」。たとえ同じレベルの認知症であっても、その家庭環境が違えば、治療の方法もサポートも変わります。つまり、患者さんを取り巻く環境によって求められる医療のニーズは違うことを学んでほしいのです。それぞれの患者さんのバックグラウンドまでを知り、日常生活を想像した上で治療のできる医師を育成したいのです。4年生では院内の看護部や栄養部、薬剤部などの他職種に配属されます。5年生になると学内の臨床実習だけでなく、家庭医実習というのがあります。これは地域の開業医の下に1週間実習に行かせ、大学病院とは違った医療の現場を見てもらいます。これは、3年次の訪問看護による在宅ケア実習につながるわけです。また、医大の付属病院は高度医療を求めた患者さんが来院するところです。高度医療を必要としている患者さんは1,000分の1に過ぎません。まして、この中に予防医学は入っていないのです。では、あとの999をどこで学ぶか。それは学外で学ぶしかないのです。この実習の実現のために大変だったのは、よい開業医を探すことでした。よい医師でなければ、良い教育はできないからです。そのためは、学閥も何ものにも縛られることなく、高い理想を持った師となっていただく方を探し、お会いし、お願いしました。今では65名の先生にご賛同いただきご協力いただいています。医師は患者さんに貢献して幸せになれる職業臨床の場でわれわれが直接教えることはできません。けれども、学ぶ環境を提供することはできます。その環境をどう活かすかは学生次第です。1年生をいきなり外に出すのは、学びは現場にこそあるからです。現場にいて、自分に何ができて何ができないかを自覚させるためです。また、学生の学びのために臨床実習をさせているのではなく、患者さんへの貢献をするためなのだと教えています。病棟に学生がいたら「まずは、患者さんのベッド下の掃除でもやってなさい」と言う。これは、感染防御の第一です。 学生が臨床実習で何をするか? それはできることの最大限の力で、患者さんに貢献することです。採血ができなくても、ベッドの下の掃除はできる。看護師が荷物運びに難儀していたら、率先して手伝えばいい。このように職場の中でできる責任を果たしていきながら、できることが増えていく。すなわち、患者貢献が拡大していくのです。 医師育成のために国が税金を使うのは、医師がいなくては国民が困るからです。解剖の献体にしても、臨床実習にしても、医師を育てているのは国民なのです。あらゆる助成を国民から受けているのだから、医学を学ぶ者に自由はない。学ぶ義務があるだけなのです。質問と回答を公開中!

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避難場所における【感染予防のための8ヵ条】 東北感染症危機管理ネットワークより

診断学分野のご厚意により転載させていただきます。避難場所では、インフルエンザや風邪、嘔吐下痢症の流行が心配されています。【感染予防のための8ヵ条】vol.1.0 ~可能な限り守っていただきたいこと~(1)食事は可能な限り加熱したものをとるようにしましょう(2)安心して飲める水だけを飲用とし、きれいなコップで飲みましょう(3)ごはんの前、トイレの後には手を洗いましょう(水やアルコール手指消毒薬で洗ってください)(4)おむつは所定の場所に捨てて、よく手を洗いましょう~症状があるときは~(5)咳が出るときには、周りに飛ばさないようにクチを手でおおいましょう(マスクがあるときはマスクをつけてください)(6)熱っぽい、のどが痛い、咳、けが、嘔吐、下痢などがあるとき、特にまわりに同じような症状が増えているときには、医師や看護師、代表の方に相談してください。(7)熱や咳が出ている人、介護する人はなるべくマスクをしてください。(8)次の症状がある場合には、早めに医療機関での治療が必要かもしれません。医師や看護師、代表の方に相談してください。 ・咳がひどいとき、黄色い痰が多くなっている場合 ・息苦しい場合、呼吸が荒い場合 ・ぐったりしている、顔色が悪い場合 ※特に子供やお年寄りでは症状が現れにくいことがありますので、まわりの人から見て何かいつもと様子が違う場合には連絡してください。東北大学大学院内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野東北大学大学院 感染症診療地域連携講座東北感染制御ネットワーク 平成23年3月17日東北感染症危機管理ネットワークホームページ 東北関東大震災感染症ホットラインよりその他の情報はこちら東北感染症危機管理ネットワークhttp://www.tohoku-icnet.ac/

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