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DPP-4iとBG薬で糖尿病性合併症発生率に差はない――4年間の後方視的解析

 血糖管理のための第一選択薬としてDPP-4阻害薬(DPP-4i)を処方した場合とビグアナイド(BG)薬を処方した場合とで、合併症発生率に差はないとする研究結果が報告された。静岡社会健康医学大学院大学(現在の所属は名古屋市立大学大学院医学研究科)の中谷英仁氏、アライドメディカル株式会社の大野浩充氏らが行った研究の結果であり、詳細は「PLOS ONE」に8月9日掲載された。 欧米では糖尿病の第一選択薬としてBG薬(メトホルミン)が広く使われているのに対して、国内ではまずDPP-4iが処方されることが多い。しかし、その両者で合併症の発生率に差があるかは明らかでなく、費用対効果の比較もほとんど行われていない。これを背景として中谷氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的解析を行った。 2012年4月~2021年9月に2型糖尿病と診断され、BG薬またはDPP-4iによる治療が開始された患者を抽出した上で、心血管イベント・がん・透析の既往、糖尿病関連の入院歴、インスリン治療歴、遺伝性疾患などに該当する患者を除外。性別、年齢、BMI、HbA1c、併存疾患、腎機能、肝機能、降圧薬・脂質低下薬の処方、喫煙・飲酒・運動習慣など、多くの背景因子をマッチさせた1対5のデータセットを作成した。 主要評価項目は脳・心血管イベントと死亡で構成される複合エンドポイントとして、イベント発生まで追跡した。副次的に、糖尿病に特異的な合併症の発症、および1日当たりの糖尿病治療薬剤コストを比較した。追跡開始半年以内に評価対象イベントが発生した場合はイベントとして取り扱わなかった。 マッチング後のBG薬群(514人)とDPP-4i群(2,570人)の特徴を比較すると、平均年齢(68.39対68.67歳)、男性の割合(46.5対46.9%)、BMI(24.72対24.67)、HbA1c(7.24対7.22%)、収縮期血圧(133.01対133.68mmHg)、LDL-C(127.08対128.26mg/dL)、eGFR(72.40対72.32mL/分/1.73m2)などはよく一致しており、その他の臨床検査値や併存疾患有病率も有意差がなかった。また、BG薬、DPP-4i以外に追加された血糖降下薬の処方率、通院頻度も同等だった。 中央値4.0年、最大8.5年の追跡で、主要複合エンドポイントはBG薬群の9.5%、DPP-4i群の10.4%に発生し、発生率に有意差はなかった(ハザード比1.06〔95%信頼区間0.79~1.44〕、P=0.544)。また、心血管イベント、脳血管イベント、死亡の発生率を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。副次評価項目である糖尿病に特異的な合併症の発生率も有意差はなく(P=0.290)、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。さらに、年齢、性別、BMI、HbA1c、高血圧・脂質異常症・肝疾患の有無で層別化した解析でも、イベント発生率が有意に異なるサブグループは特定されなかった。 1日当たり糖尿病治療薬剤コストに関しては、BG薬は60.5±70.9円、DPP-4iは123.6±64.3円であり、平均差63.1円(95%信頼区間56.9~69.3)で前者の方が安価だった(P<0.001)。 著者らは、本研究が静岡県内のデータを用いているために、地域特性の異なる他県に外挿できない可能性があることなどを限界点として挙げた上で、「2型糖尿病患者に対して新たに薬物療法を開始する場合、BG薬による脳・心血管イベントや死亡および糖尿病に特異的な合併症の長期的な抑制効果はDPP-4iと同程度であり、糖尿病治療薬剤コストは有意に低いと考えられる」と総括している。

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高血圧治療用アプリの臨床的意義【治療用アプリの処方の仕方】第2回

臨床試験成績について国内第III相HERB-DH1試験において、主要評価項目である12週時の自由行動下血圧測定(ABPM)による24時間の収縮期血圧のベースラインからの変化量は、アプリ介入群は-4.9mmHgであったのに対し、対照群では-2.5mmHgであり、群間差-2.4mmHgでアプリ介入群において有意な降圧効果が認められました(p=0.026)。副次的評価項目である起床時の家庭血圧(収縮期)は、それぞれ-10.6mmHg、-6.2mmHgで群間差は-4.3mmHgでした(p<0.001)。エビデンスのある行動改革というのはやはり重要で、その中でも減塩と減量が降圧に深く関係していました。これまでの試験で、尿中Naの変化と降圧が関連していることがわかっていましたが、本試験では塩分チェックシートによる本人の主観的な塩分スコアで評価しており、最初はスコアが高くてもより下がった人では、より降圧効果が高いという結果になりました。体重も同様で、最初は重くても減量に至った人で降圧効果がより認められました。「-4.3mmHg」の臨床的意義本臨床試験は、薬物治療を未実施の患者さんを対象にしていますので、薬剤の効果や服薬アドヒアランスの影響はありません。そういう集団で血圧が統計学的に有意に下がりました。対照群も、家庭血圧計が配られて血圧測定を継続し、医師の診察も1ヵ月に1回受けて頑張っていますが、それでもやはり有意差をもってアプリの降圧効果が示されました。なかでも、起床時の家庭血圧の4.3mmHgの差というのは、心不全や冠動脈疾患、脳卒中のリスクを有意に低減させるインパクトを持っています。なお、臨床試験は65歳未満の患者さんが対象となっていましたが、リアルワールドデータでは高齢者も含まれていて、高齢者でもきちんと血圧が下がっています。年齢に関係なく、正しい知識を得て、行動を変容させるとやはり効果は現れるようです。適する患者像実臨床では、140~160mmHgの薬物療法未実施の患者さんであればまず治療用アプリを勧めています。180mmHg以上であれば悠長なことを言っていられないのですぐに薬物療法を検討します。160mmHg以上の人も薬物療法になろうかと思いますが、このプログラムでできるだけ減塩がうまくできればよいと考えます。もうすでに薬物治療を始めている患者さんでも、薬物治療だけで下がりきっていない場合や増量を検討し始めた場合に、生活習慣を見直すために導入することもあります。私たちも一生懸命に生活指導を行っていますが、やはり細かいところまでは行き届いていないこともあるためです。降圧効果だけを考えると、腎デナベーションなどのデバイス治療は高い効果が期待できる一方で侵襲的という問題がありますが、治療用アプリには手軽に導入できるというメリットがあります。次回は、これからの高血圧治療について、話題のトピックなどを紹介します。

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新規3剤配合降圧薬の効果、標準治療を大きく上回る

 血圧がコントロールされていない高血圧患者を対象に、新たな3剤配合降圧薬であるGMRx2による治療と標準治療とを比較したところ、前者の降圧効果の方が優れていることが新たな臨床試験で明らかにされた。George Medicines社が開発したGMRx2は、降圧薬のテルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの3剤配合薬で、1日1回服用する。アブジャ大学(ナイジェリア)心臓血管研究ユニット長のDike Ojji氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月31日掲載された。 成人の高血圧患者は世界で10億人以上に上り、患者の3分の2は低・中所得国に集中していると推定されている。高血圧は死亡の最大のリスク因子であり、年間1080万人が高血圧が原因で死亡している。 今回の臨床試験は、未治療または単剤の降圧薬を使用中で血圧がコントロールされていない黒人患者300人(女性54%、平均年齢52歳)を対象に、ナイジェリアで実施された。対象者は、6カ月にわたってGMRx2による治療を受ける群と、標準治療を受ける群にランダムに割り付けられた。GMRx2には、テルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの4分の1用量(同順で、10/1.25/0.625mg)、2分の1用量(同20/2.5/1.25mg)、標準用量(同40/5/2.5mg)の3種類があり、治療は低用量から開始された。標準治療は、ナイジェリアの高血圧治療プロトコルに従い、アムロジピン5mgから開始された。有効性の主要評価項目は、ランダム化から6カ月後に自宅で測定した平均収縮期血圧の低下、安全性の主要評価項目は、副作用による治療の中止だった。 対象者の試験開始時の自宅で測定した平均血圧は151/97mmHg、病院で測定した平均血圧は156/97mmHgだった。300人中273人(91%)が試験を完了した。ランダム化から6カ月後の追跡調査時における自宅で測定した平均収縮期血圧の低下の幅は、GMRx2群で31mmHgであったのに対し標準治療群では26mmHgであり、両群間に統計学的に有意な差のあることが明らかになった(調整群間差は−5.8mmHg、95%信頼区間〔CI〕−8.0〜−3.6、P<0.001)。研究グループは、ジョージ研究所のニュースリリースの中で、収縮期血圧が5mmHg低下するごとに、脳卒中、心筋梗塞、心不全などの主要心血管イベントの発生リスクは10%低下することが報告されていると説明している。 また、ランダム化から1カ月後の時点でGMRx2群の81%、標準治療群の55%が医療機関での血圧コントロール目標(<140/90mmHg)を達成していた。この改善効果は6カ月後も持続しており、達成率は、GMRx2群で82%、標準治療群で72%だった。安全性については、副作用により治療を中止した対象者はいなかった。 こうした結果についてOjji氏は、「標準治療は現行のガイドラインに厳密に従い、より多くの通院を必要としたにもかかわらず、3剤配合降圧薬による治療は標準治療よりも臨床的に有意な血圧低下をもたらした」と話す。同氏は、「高血圧の治療により血圧コントロールを達成するのは、低所得国では治療を受けた人の4人に1人未満であり、高所得国でも50〜70%にとどまっている。そのことを考えると、わずか1カ月で80%以上の患者が目標を達成できたことは印象的だ」と付言する。 なお、George Medicines社は、米食品医薬品局(FDA)にGMRx2の承認申請を行ったとしている。

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眼圧が基準範囲内でも高ければ高血圧発症の危険性が高くなる

 眼圧と高血圧リスクとの関連性を示すデータが報告された。眼圧は基準範囲内と判定されていても、高い場合はその後の高血圧発症リスクが高く、この関係は交絡因子を調整後にも有意だという。札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座の古橋眞人氏と田中希尚氏、佐藤達也氏、同眼科学講座の大黒浩氏と梅津新矢氏らの共同研究によるもので、詳細は「Circulation Journal」に7月24日掲載された。 眼圧が高いことは緑内障のリスク因子であり、21mmHg以上の場合に「高眼圧」と判定され緑内障の精査が行われる。一方、これまでの横断研究から、高血圧患者は眼圧が高いことが知られている。ただし縦断研究のエビデンスは少なく、現状において眼圧の高さは高血圧のリスク因子と見なされていない。そのため眼圧は短時間で非侵襲的に評価できるにもかかわらず、もっぱら緑内障の診断や管理という眼科領域でのみ測定されている。この状況を背景として古橋氏らの研究チームは、健診受診者の大規模データを用いた後方視的縦断研究によって、眼圧と高血圧リスクとの関連を検討した。 解析対象は、札幌市内の渓仁会円山クリニックで2006年に健診を受けた2万8,990人のうち、10年後の2016年までに1回以上再度健診を受けていて、眼圧と血圧の経時的データがあり、ベースライン時に高血圧と診断されていなかった7,487人。主な特徴は、ベースライン時において年齢48±9歳、BMI22.8±3.2、収縮期血圧112±13mmHg、拡張期血圧72±9mmHgで、眼圧(両眼の平均)は中央値13mmHg(四分位範囲11~15mmHg)で大半が基準値上限(21mmHg)未満の正常眼圧だった。 血圧140/90mmHg以上または降圧薬の処方開始で高血圧の新規発症を定義したところ、平均6.0年(範囲1~10年)、4万5,001人年の追跡で、1,602人がこれに該当した(男性の24.3%、女性の11.5%)。ベースラインの眼圧の三分位で3群に分けカプランマイヤー法で比較すると、高血圧の累積発症率は第3三分位群(眼圧14mmHg以上)、第2三分位群(同12~13mmHg)、第1三分位群(同11mmHg以下)の順に高く、有意差が認められた(P<0.001)。 次に、高血圧の新規発症に対する眼圧との関連を、交絡因子(年齢、性別、収縮期血圧、肥満、腎機能、喫煙・飲酒習慣、高血圧の家族歴、糖尿病・脂質異常症の罹患)で調整した多変量Cox比例ハザード解析を施行。その結果、年齢や収縮期血圧、肥満、喫煙・飲酒習慣、高血圧の家族歴、糖尿病の罹患とともに、高眼圧が高血圧発症の独立した危険因子として採択された(第1三分位群を基準として第3三分位群のハザード比が1.14〔95%信頼区間1.01~1.29〕)。さらに制限付き3次スプライン曲線での解析により、ベースラインの眼圧が高いほど高血圧発症リスクが徐々に上昇するという現象が確認された。 これらの結果から著者らは、「眼圧が基準範囲内であっても高ければ、その後の高血圧発症リスクが高くなるということが、大規模な縦断研究の結果として明らかになった。眼圧高値を緑内障の診断・管理目的のみでなく、心血管疾患の危険因子として捉え、内科と眼科は綿密に連携をとって評価する必要があるのではないか」と結論付けている。なお、高眼圧や緑内障と高血圧の関連のメカニズムについては、先行研究からの考察として、「眼圧を規定する房水の産生には交感神経活性の亢進が関与していて、緑内障には活性酸素種の産生亢進が関与している。それらのいずれも血圧を押し上げるように働く」と述べられている。

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HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)

 ESC2024はHFpEFの新たなエビデンスの幕開けとなった。HFpEFに対する臨床試験はCHARM-preserved、PEP-CHF、TOPCAT、PARAGONと有意差を検出できず、エビデンスのある薬剤はないという時代が続いた。 CHARM-preservedはプラセボ群の一部にACE阻害薬が入っていてなお、プライマリーエンドポイントの有意差0.051と大健闘したものの2003年時点ではmortality benefitがない薬剤なんて顧みられず、PEP-CHFはペリンドプリルは1年後まで順調に予後改善していたのにプラセボ群にACE阻害薬を投与される例が相次ぎ、2年後には予後改善効果消失、TOPCATはロシア、ジョージアの患者のほとんどがおそらくCOPDでイベントが異常に少なく、かつ実薬群に割り付けられてもカンレノ酸を血中で検出できない例がロシア人で多発したなど試験のqualityが低かった、PARAGONではなぜか対照にプラセボでなくARBの高用量を選んでしまうなど、数々の不運または不思議が重なってきた。 その後ここ数年でSGLT2阻害薬がHFmrEF/HFpEFにもmortality benefitこそ示せなかったが心不全入院の抑制は明らかにあることがわかり、初のHFpEFに対するエビデンスとなったことは記憶に新しい。今回のFinearts-HF試験は、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するMRA、フィネレノンがHFmrEF/HFpEFを対象に検討された。ここで、ステロイド骨格のMRAとフィネレノンとの相違の可能性について、まず説明する。 アルドステロンが結合したミネラルコルチコイド受容体は、cofactorをリクルートしながら核内に入って転写因子として炎症や線維化を誘導する遺伝子の5’-regionに結合して、心臓や腎臓の臓器障害を招くとされてきた。ステロイド骨格のMRAではアルドステロンを拮抗的に阻害するものの、ミネラルコルチコイド受容体がcofactorをリクルートすることは抑制できず、わずかながらではあっても炎症や線維化を促進してしまうことが知られている。このことがステロイド系MRAに腎保護作用が明確には認めづらい原因かといわれてきた。 一方、フィネレノンはもともとCa拮抗薬の骨格から開発された非ステロイド系MRAであり、cofactorのリクルートはなく、アルドステロン依存性の遺伝子発現はほぼ完全にブロックされるといわれている。FIDELIO-DKD試験ですでに示されているように糖尿病の合併があるCKDに限定されているとはいえ、フィネレノンには腎保護作用が明確にある。さらに、フィネレノンの体内分布はステロイド系MRAに比較して腎臓より心臓に多く分布しているようであり、腎臓の副作用である高カリウム血症が少なくなるのではないかという期待があった。このような背景においてHFmrEF/HFpEF患者を対象に、心不全入院の総数と心血管死亡の複合エンドポイントの抑制をプライマリーとして達成したことはSGLT2阻害薬に続く快挙である。カプランマイヤー曲線はSGLT2阻害薬並みに早期分離があり、フィネレノン20mgをDKDに使用している現状では血圧や尿量にさほどの変化を感じないが、早期に効果があるということは、やはり血行動態的に作用しているとしか考えられず、40mgでの降圧や利尿に対する効果を今一度検証する必要があると感じた。またかというか、HFpEFでは心血管死亡の発症率が低いため、mortalityに差がついていないが、これはもともと6,000人2年の規模の試験では当初から狙えないことが明らかなので、もうあまりこの点をいうのはやめたほうがいいかと思われる。 ちなみに死亡のエンドポイントで事前に有意差を出すための症例数を計算すると、1万5,000人必要だそうである。しかし、高カリウム血症の頻度は依然として多く、非ステロイド系MRAとしての期待は裏切られた格好になっている。もっとも、プロトコル上、eGFR>60の症例にはターゲット40mg、eGFR<60ではターゲット20mgとなっており、腎機能の低い症例に高カリウムが多いのか、むしろ高用量にした場合に一定程度高カリウムになっているのか、など細かい解析は今後出てくる予定である。腎保護の観点でもAKIはむしろフィネレノンで多いという結果であり、DKDで認められたeGFR slopeの差などがHFpEFでどうなのかも今後明らかになるであろう。このように、現状では非ステロイド系という差別化にはいまだ明確なデータはないようであり、それもあってTOPCAT Americasとのメタ解析が出てしまうことで、MRA一般にHFpEFに対するクラスエフェクトでI/Aというような主張も米国のcardiologistから出ている。 しかし、前述のようにいかにロシア、ジョージアの症例エントリーやその後のマネジメントに問題があったとはいえ、いいとこ取りで試験結果を解釈するようになればもう前向きプラセボ対照RCTの強みは消失しているとしかいえず、あくまでもTOPCAT全体の結果で解釈すべきで、ここまで長年そういう立場で各国ガイドラインにも記述されてきたものを、FINEARTS-HF試験の助けでスピロノラクトンの評価が一変するというのは、さすがに多大なコストと時間と手間をかけた製薬企業に残酷過ぎると思う。 少なくともFINEARTS-HF試験の結果をIIa/B-Rと評価したうえで、今後フィネレノン自体がHFrEFにも有効であるのか、または第III相試験中の他の非ステロイド系MRAの結果がどうであるかなどを合わせて、本当に非ステロイド系MRAが既存のステロイド系MRAに取って代わるかの結論には、まだ数年の猶予は必要であろうか。

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下垂体性PRL分泌亢進症

1 疾患概要■ 定義希少疾病である「下垂体性プロラクチン(PRL)分泌亢進症」(指定難病74)は表1の診断基準にある「1の1)の(1)~(3)」のうち1項目以上を満たし、1の2)を満たし、2の鑑別疾患を除外したもの」と定義される。すなわち、表2-1-1)のPRL産生腫瘍(プロラクチノーマ)が本疾患に該当する(表2)。表1 下垂体性PRL分泌亢進症の診断基準<診断基準>1.主要項目1)主症候(1)女性:月経不順・無月経、不妊、乳汁分泌のうち1項目以上(2)男性:性欲低下、インポテンス、女性化乳房、乳汁分泌のうち1項目以上(3)男女共通:頭痛、視力視野障害(器質的視床下部・下垂体病変による症状)のうち1項目以上2)検査所見血中PRLの上昇*2.鑑別診断薬剤服用によるPRL分泌過剰、原発性甲状腺機能低下症、視床下部・下垂体茎病変、先端巨大症(PRL同時産生)、マクロプロラクチン血症、慢性腎不全、胸壁疾患、異所性PRL産生腫瘍3.診断のカテゴリーDefinite:1の1)の(1)~(3)のうち1項目以上を満たし、1の2)を満たし、2の鑑別疾患を除外したもの*血中PRLは睡眠、ストレス、性交や運動などに影響されるため、複数回測定して、いずれも施設基準値以上であることを確認する。マクロプロラクチノーマにおけるPRLの免疫測定においてフック効果(過剰量のPRLが、添加した抗体の結合能を妨げ、見かけ上PRL値が低くなること)に注意すること。難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症より引用表2 高PRL血症を来す病態1.下垂体病変1)PRL 産生腫瘍(プロラクチノーマ)2)先端巨大症(GH-PRL同時産生腫瘍)2.視床下部・下垂体茎病変1)機能性2)器質性(1)腫瘍(頭蓋咽頭腫・ラトケ嚢胞・胚細胞腫・非機能性腫瘍・ランゲルハンス細胞組織球症など)(2)炎症・肉芽腫(下垂体炎・サルコイドーシスなど)(3)血管障害(出血・梗塞)(4)外傷3.薬物服用(腫瘍以外で最も多い原因は薬剤である。詳細は表3を参照)4.原発性甲状腺機能低下症5.マクロプロラクチン血症*6.他の原因1)慢性腎不全2)胸壁疾患(外傷、火傷、湿疹など)3)異所性PRL産生腫瘍*PRLに対する自己抗体とPRLの複合体形成による。高PRL血症の15~25%に存在し、高PRL血症による症候を認めない。診断には、ゲルろ過クロマトグラフィー法、ポリエチレングリコール(PEG)法、抗IgG抗体法を用いて高分子化したPRLを証明する。(間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会、「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班、日本内分泌学会 編. 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版. 日内分泌会誌. 2023;99:1-171.より引用・作成)■ 疫学平成11(1999)年度の厚生労働省研究班による全国調査では、1998年1年間の推定受療患者数が、PRL産生腫瘍を含むPRL分泌過剰症で1万2,400人と報告されている1)。2005~2008年の脳腫瘍統計によると、原発性脳腫瘍のうち、下垂体腫瘍は19%であり、非機能性が57%、機能性が43%(PRL産生は12%)であった2)。PRL産生腫瘍は、男女比は1:3.6と女性に多く、男性では大きい腫瘍サイズで診断されることが多い1)。発症年齢は、女性では21~40歳に多く、男性では20~60歳にかけて認められる1)。■ 病因下垂体腫瘍によるPRL産生亢進が本症の病因である。■ 症状先述の表1-1の主症候(1)、(2)に記した高プロラクチン血症による症状と、(3)に記した下垂体腫瘍による症状が認められる。高プロラクチン血症の状態では視床下部でのキスペプチン分泌が減少し、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)ニューロン(ゴナドトロピンニューロン)からのGnRHの脈動的分泌が抑制される。その結果、性腺刺激ホルモンおよび性ホルモンの分泌異常が生じて種々の症状が出現する。■ 予後脳腫瘍統計の追跡調査によると、2005~2008年のPRL産生腫瘍の5年生存率(および5年無増悪生存率)は98.7%(94.8%)だった2)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)間脳下垂体機能障害に関する調査研究班が策定した本症の診断基準は先述の表1を参照していただきたい。本症は高PRL血症を呈するが、高PRL血症は先述の表2に記された種々の病態によっても生じるため鑑別を要する。高PRL血症の病態把握のためにはPRLの分泌調節を知っておくことが重要である。PRLは下垂体前葉に存在するPRL産生細胞より分泌される。視床下部から分泌されるドパミンは、下垂体門脈を介して下垂体に直接流入し、PRL分泌を抑制的に調節している。また、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)はPRL放出因子の1つである。高PRL血症の原因として、下垂体病変、視床下部・下垂体病変、薬剤、原発性甲状腺機能低下症、マクロプロラクチン血症、その他(慢性腎不全、胸壁疾患、異所性PRL産生腫瘍)が挙げられる(表2)。下垂体病変では、PRL 産生腫瘍(プロラクチノーマ)と先端巨大症(GH-PRL同時産生腫瘍)によるPRL分泌亢進が認められる。視床下部・下垂体病変では、視床下部のドパミン産生低下あるいは下垂体門脈から下垂体へのドパミンの輸送障害を介したPRL分泌抑制の減弱によってPRL分泌が亢進する。薬剤性では、ドパミンD2受容体受容体拮抗薬、ドパミン産生抑制作用のある降圧薬、ドパミン活性の抑制作用があるエストロゲンなどによりPRL分泌が亢進する(表3)。原発性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの低下により視床下部のTRH産生が亢進し、TRHによるPRL分泌亢進が生じる。表3 高PRL血症を来す薬剤画像を拡大する3 治療下垂体性PRL分泌亢進症の治療は、ドパミン作動薬による薬物療法が第1選択であり、PRL値の低下効果および腫瘍縮小効果が期待される3)。具体的には、カベルゴリン、ブロモクリプチン、テルグリドを使用する。カベルゴリンまたはブロモクリプチンを用いる。カベルゴリンの場合、週1回就寝前、0.25mg/回より開始し、PRL値により漸増する(上限は1mg/回)。ブロモクリプチンの場合、2.5mg/回、夕食後より開始しPRL値により5~7.5mg/日、分2~3に漸増する4)。注意すべき点としてドパミン作動薬には、嘔気、嘔吐、起立性低血圧に加え、病的賭博、病的性欲亢進、強迫性購買、暴食などを呈する衝動制御障害が報告されており、本障害を認めた場合、ドパミン作動薬の減量または投与中止を考慮する必要がある4)。また、患者および家族などに上記衝動制御障害の可能性について説明しておく。カベルゴリンを高用量で長期間投与する場合(週2.5mgを超える場合)には、心臓弁膜症の発生に注意する必要があり、心エコーで評価を行う。ドパミン作動薬は胎盤を通過するため、妊娠判明時に薬物療法を中止することが勧められる。薬物療法中止により腫瘍が増大する可能性があるため、妊娠前に腫瘍縮小、規則的月経発来まで薬物治療を行う。薬物療法に抵抗性の場合や副作用で服薬できない場合は、外科的治療を選択する。外科治療後には髄液鼻漏(髄膜炎)を来す可能性があることに注意する。4 今後の展望薬物治療が第1選択である本症において、薬物治療を終了する基準を明らかにすることが重要である。2011年に発表された米国内分泌学会のガイドラインでは、「最低2年間ドパミン作動薬にて治療され、血中PRLの上昇がなく、頭部MRI所見で上腫瘍残存を認めない場合、注意深い臨床的、生化学的な経過観察の下で、ドパミン作動薬の減量、中止ができる可能性がある」と記されている5)。しかしながら、ドパミン作動薬を中止すると血中PRL の再上昇を認める場合も多い。わが国の診療ガイドラインでは、「薬物療法の最少量で血中PRL値が正常に維持され、画像上腫瘍が認められなくなったミクロプロラクチノーマ(微小PRL産生腫瘍)の場合、薬物療法の中止を提案する。【推奨の強さ:弱(合意率100%)、エビデンスレベル:C】」4となっており、今後のエビンデンスの構築が期待される。5 主たる診療科内分泌内科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症2)横山徹爾. 下垂体疾患診療マニュアル 改訂第3版. 診断と治療社;2021.p.96-100.3)日本内分泌学会・日本糖尿病学会 編集. 内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック. 診断と治療社;2023.p.5-30.4)間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会、「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班、日本内分泌学会 編. 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版. 日内分泌会誌. 2023;99:1-171.5)Melmed S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:273-288.公開履歴初回2024年9月26日

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15の診断名・11の内服薬―この薬は本当に必要?【こんなときどうする?高齢者診療】第5回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年8月に扱ったテーマ「高齢者への使用を避けたい薬」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。老年医学の型「5つのM」の3つめにあたるのが「薬」です。患者の主訴を聞くときは、必ず薬の影響を念頭に置くのが老年医学のスタンダード。どのように診療・ケアに役立つのか、症例から考えてみましょう。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)病気のデパートのような診断名の多さです。薬の数は、5剤以上で多剤併用とするポリファーマシーの基準1)をはるかに超えています。この症例を「これらの診断名は正しいのか?」、「処方されている薬は必要だったのか?」このふたつの点から整理していきましょう。初診の高齢者には、必ず薬の副作用を疑った診察を!私は高齢者の診療で、コモンな老年症候群と同時に、さまざまな訴えや症状が薬の副作用である可能性を考慮にいれて診察しています。なぜなら、老年症候群と薬の副作用で生じる症状はとても似ているからです。たとえば、認知機能低下、抑うつ、起立性低血圧、転倒、高血圧、排尿障害、便秘、パーキンソン症状など2)があります。症状が多くて覚えられないという方にもおすすめのアセスメント方法は、第2回で解説したDEEP-INを使うことです。これに沿って問診する際、とくにD(認知機能)、P(身体機能)、I(失禁)、N(栄養状態)の機能低下や症状が服用している薬と関連していないか意識的に問診することで診療が効率的になります。処方カスケードを見つけ、不要な薬を特定するさて、はっきりしない既往歴や薬があまりに多いときは処方カスケードの可能性も考えます。薬剤による副作用で出現した症状に新しく診断名がついて、対処するための処方が追加されつづける流れを処方カスケードといいます。この患者では、変形性膝関節症に対する鎮痛薬(NSAIDs)→NSAIDsによる逆流性食道炎→制酸薬といったカスケードや、NSAIDs→血圧上昇→高血圧症の診断→降圧薬(アムロジピン)→下肢のむくみ→心不全疑い→利尿薬→血中尿酸値上昇→痛風発作→痛風薬→急性腎不全という流れが考えられます。このような流れで診断名や処方薬が増えたと想定すると、カスケードが起こる前は以下の診断名で、必要だったのはこれらの処方薬ではと考えることができます。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)減薬の5ステップ減らせそうな薬の検討がついたら以下の5つをもとに減薬するかどうかを考えましょう。(1)中止/減量することを検討できそうな薬に注目する(2)利益と不利益を洗い出す(3)減薬が可能な状況か、できないとするとなぜか、を確認する(4)病状や併存疾患、認知・身体機能本人の大切にしていることや周辺環境をもとに優先順位を決める(第1回・5つのMを参照)(5)減薬後のフォローアップ方法を考え、調整する患者に利益をもたらす介入にするために(2)~(4)のステップはとても重要です。効果が見込めない薬でも本人の思い入れが強く、中止・減量が難しい場合もあります。またフォローアップが行える環境でないと、本当は必要な薬を中断してしまって健康を害する状況を見過ごしてしまうかもしれません。フォローアップのない介入は患者の不利益につながりかねません。どのような薬であっても、これらのプロセスを踏むことを減薬成功の鍵としてぜひ覚えておいてください! 高齢者への処方・減量の原則実際に高齢者へ処方を開始したり、減量・中止したりする際には、「Stand by, Start low, Go slow」3)に沿って進めます。Stand byまず様子をみる。不要な薬を開始しない。効果が見込めない薬を使い始めない。効果はあるが発現まで時間のかかる薬を使い始めない。Start lowより安全性が高い薬を少量、効果が期待できる最小量から使う。副作用が起こる確率が高い場合は、代替薬がないか確認する。Go slow増量する場合は、少しづつ、ゆっくりと。(*例外はあり)複数の薬を同時に開始/中止しない現場での実感として、1度に変更・増量・減量する薬は基本的に2剤以下に留めると介入の効果をモニタリングしやすく、安全に減量・中止または必要な調整が行えます。開始や増量、または中止を数日も待てない状況は意外に多くありませんから、焦らず時間をかけることもまたポイントです。つまり3つの原則は、薬を開始・増量するときにも有用です。ぜひ皆さんの診療に役立ててみてください! よりリアルな減薬のポイントはオンラインサロンでサロンでは、ふらつき・転倒・記憶力低下を主訴に来院した8剤併用中の78歳女性のケースを例に、クイズ形式で介入のポイントをディスカッションしています。高齢者によく処方される薬剤の副作用・副効果の解説に加えて、転倒につながりやすい処方の組み合わせや、アセトアミノフェンが効かないときに何を処方するのか?アメリカでの最先端をお話いただいています。参考1)Danijela Gnjidic,et al. J Clin Epidemiol. 2012;65(9):989-95.2)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 33. 2020. 丸善出版3)The 4Ms of Age Friendly Healthcare Delivery: Medications#104/Geriatric Fast Fact.上記サイトはstart low, go slow を含めた老年医学のまとめサイトです。翻訳ソフトなど用いてぜひ参照してみてください。実はオリジナルは「start low, go slow」だけなのですが、どうしても「診断して治療する」=検査・処方に走ってしまいがちな医師としての自分への自戒を込めて、stand by を追加して、反射的に処方しないことを忘れないようにしています。

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仕事のストレスで心房細動に?

 職場で強いストレスにさらされていて、仕事の対価が低いと感じている場合、心房細動のリスクがほぼ2倍に上昇することを示す研究結果が報告された。ラヴァル大学(カナダ)のXavier Trudel氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に8月14日掲載された。 心房細動は不整脈の一種で、自覚症状として動悸やめまいなどを生じることがあるが、より重要な点は、心臓の中に血液の塊(血栓)が形成されやすくなることにある。形成された血栓が脳の動脈に運ばれるという機序での脳梗塞が起こりやすく、さらにこのタイプの脳梗塞は梗塞の範囲が広く重症になりやすい。 これまでに、仕事上のストレスや職場の不当な評価の自覚が、冠動脈性心疾患(CHD)のリスクを高めることが報告されている。しかし、心房細動のリスクもそのような理由で高まるのかは明らかでない。この点についてTrudel氏らは、カナダのケベック州の公的機関におけるホワイトカラー労働者対象疫学研究のデータを用いて検討した。 解析対象は、ベースライン時に心血管疾患の既往のない5,926人で、平均年齢45.3±6.7歳、女性が51.0%を占めていた。この人たちの医療記録を平均18年間にわたり追跡したところ、186人が心房細動を発症していた。心房細動を発症した人の19%は、アンケートにより「仕事上のストレスが強い」と回答した人だった。また25%は「自分の仕事が正当に評価されず対価が低すぎる」と感じていた。そして10%の人は、それら両者に該当した。 心房細動のリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、飲酒・喫煙・運動習慣、BMI、教育歴、高血圧、糖尿病、脂質異常症、降圧薬の処方、心血管疾患の家族歴)を調整後、仕事上のストレスを強く感じている人はそうでない人に比べて、心房細動のリスクが83%高いことが分かった(ハザード比〔HR〕1.83〔95%信頼区間1.14〜2.92〕)。また、仕事の評価や対価が低いと感じている人はそうでない人より、心房細動のリスクが44%高かった(HR1.44〔同1.05〜1.98〕)。そして、それら両者に該当する人の心房細動リスクは97%高かった(HR1.97〔同1.26~3.07〕)。 この結果について著者らは、「仕事上のストレスや職場での不当な評価の自覚は、CHDだけでなく心房細動のリスク増大とも関連している。職場での心理社会的ストレスをターゲットとした疾患予防戦略が必要ではないか」と述べている。そのような予防戦略の具体的な施策としてTrudel氏は、大規模なプロジェクトはその進行ペースを落として労働者の負担を軽減すること、柔軟な勤務体系を導入すること、管理者と労働者が定期的に日常の課題について話し合うことなどを挙げている。 米国心臓協会(AHA)によると、心房細動は心臓関連の死亡リスクを2倍にし、脳卒中のリスクを5倍に高めるという。また、米国内の心房細動の患者数は2030年までに、1200万人以上に拡大することが予想されているとのことだ。

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IGTからの糖尿病発症を4年防げば長期予後が改善する

 耐糖能異常(IGT)該当者が食事・運動療法によって糖尿病未発症の状態を4年間維持できれば、長期予後が改善することを示すデータが報告された。ただし、未発症期間が4年よりも短い場合、この効果は得られないという。中国医学科学院・北京協和医学院(中国)のXin Qian氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS Medicine」に7月9日掲載された。 IGTなどの糖尿病予備群の状態から生活習慣を改善し糖尿病発症を防ぐことで、将来の合併症リスクが低下することは、既に複数の研究によって示されている。しかし、糖尿病発症を何年先延ばしにすればそのような効果を期待できるのかは、これまで明らかにされていない。そこでQian氏らは、中国・大慶市(Da Qing)在住のIGT該当者に対する6年間の食事・運動介入による糖尿病抑制効果を検討した「大慶糖尿病予防研究(DQDPS)」のデータを事後解析し、この点を検討した。 解析対象は、75gブドウ糖負荷試験によりIGTと判定されていた540人。これらDQDPS参加者は、食事療法群、運動療法群、食事療法と運動療法の併用群、および、どちらの介入も行わない対照群に割り付けられた。耐糖能は2年ごとに評価され、2年目に糖尿病と診断された人は13.0%、4年目では33.0%、6年目では48.9%だった。今回の研究ではDQDPS終了から30年間追跡し、死亡、心血管イベント、細小血管症というエンドポイントの発生で長期予後を比較した。 結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙、BMI、血圧、血清脂質、血糖値、DQDPSにおける介入の割り付け、および降圧薬、脂質改善薬、血糖降下薬の処方)を調整後の解析で、IGTから糖尿病の発症までの期間が4年以上であった場合には、長期予後が良好であることが明らかになった。 例えば、4年目に糖尿病を発症していなかった人は発症していた人に比べて、全死亡のハザード比(HR)が0.74(95%信頼区間0.57~0.97)であり、心血管イベントはHR0.63、細小血管症はHR0.62であって、いずれも有意なリスク低下が観察された。心血管死リスクについては、4年目の糖尿病の有無では有意差がなかったが(HR0.84〔同0.58~1.22〕)、6年目にも糖尿病未発症だった人は有意に低リスクであった(HR0.56〔同0.39~0.81〕)。一方、2年目の糖尿病の有無での比較では、いずれのエンドポイントの発生率も、有意差が見られなかった。 この結果から著者らは、「IGTの人は糖尿病の発症を先延ばしするほど、長期的な健康状態が良くなることが示唆される。IGTから糖尿病の発症、および糖尿病関連の血管合併症を抑制するために、効果的な介入を検討すべきだ」と述べている。

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保険適用の高血圧治療用アプリとは?【治療用アプリの処方の仕方】第1回

われわれ自治医科大学とCureAppは、高血圧症治療補助プログラム「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ(以下、アプリ)」を開発し、成人の本態性高血圧症の治療補助の適応で2022年に保険適用されました。これは患者アプリと医師アプリで構成されています。患者アプリでは知識の習得、行動の実践、行動の習慣化などの生活習慣の修正支援が最大6ヵ月間行われます。医師アプリでは患者から提供された患者アプリのデータが表示され、診療時に医師がそれを用いて薬剤の調整や適切なアドバイスを行います。私はその際に、「次の1ヵ月はこれをやりましょう」「これを目標にしましょう」など、患者さんと一緒に約束ごとを決めています。臨床試験を始めるにあたって、アプリでどこまで人の行動や考えが変わるのか、という不安はありました。しかし、医師が診察するのは3ヵ月に1回程度で、診察時に行動や食事のことなどを一生懸命話しても、やはりその場で終わってしまいます。最近は多くの人がスマートフォンをずっと持ち歩いているので、自宅でもアプリを通じてずっと介入し続けることでどれくらい人の行動が変わるのだろう、というのを見てみたくて臨床試験を始めました。治療用アプリの特徴無料の健康アプリとは異なり、このアプリは医療用のアプリであり、ランダム化比較試験で降圧効果が認められています。指導内容は高血圧治療ガイドライン2019に準拠しており、患者さんにはまず減塩、体重管理、運動、睡眠、ストレスマネジメント、アルコール管理の6項目についてエビデンスのある教育を受けてもらい、自身の生活習慣を振り返ってもらいます。初めに正しい知識を身に付けてもらうことが大事で、「なぜ行動を変化させなければならないのか/なぜ血圧を管理しなければならないのか」を学習してから、具体的な課題をいくつかの項目の中から自分で選択して行動に移してもらいます。できるところから自分の意思で選択することが重要です。その行動をリアルな医師やアプリ内のバーチャルなキャラクターがレビューすることで、「自分でもできる」という自己効力感を高めつつ成功体験を積んでいってもらい、それを持続・定着させます。このように、このアプリは医師の役目を簡便化するものではなく、高血圧治療の質を変えるというものです。点の治療を線の治療へ6項目の教育の中枢を担うのは減塩です。減塩を行うことで血圧が下がるということは以前の臨床研究で確認しているのでわかっていました。また、栄養士さんによる減塩指導で塩分の摂取が少なくなって血圧が下がることも示されているため、医師が診察でちょこっと指導するよりもプロフェッショナルの指導が重要であるということもわかっていました。降圧のためには減塩指導の質を上げるか減塩指導の量を増やす必要がありますが、医師だけでは両方とも難しいのが現状です。アプリで日常生活にずっと介入し続けることで、「点の治療」を「線の治療」に置き換えるというのがコンセプトであり、アプリならではのメリットです。毎日アプリにアクセスして介入が行われることで、患者さんのやる気も継続します。患者さんへの説明方法アプリを導入した患者さんの反応は非常によいものでした。やり始めたらきちんと勉強もしていますし、毎回バーチャルキャラクターの反応があるので続けなくてはと思っているようです。患者さんの金銭的な負担もありますが、短期集中型のコースと説明しています。「最初に正しい知識をきちんと身につけて、正しい行動の仕方を身につけてください。これは一生ものですよ」と。習字も最初にきちんと習ったら、ずっときれいですよね。理想的な方法があるのでまず実践してみて、それから自分のやり方をアプリが提供してくれる中から見つけてください、という風に話をしています。次回は、臨床試験の結果や適する患者像についてお話しします。

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降圧薬の服用タイミング、5試験のメタ解析結果/ESC2024

 8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のホットラインセッションで、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のRicky Turgeon氏が降圧薬の服用タイミングに関する試験のメタ解析結果を報告し、服用タイミングによって主要な心血管イベント、死亡の発生率や安全性に差はみられなかったことを明らかにした。 本研究では、すべての降圧薬の服用タイミング(夕あるいは朝の服用)を比較するすべてのランダム化並行群間比較試験(RCT)の系統的レビューおよびメタ解析を実施。収集基準は、心血管系アウトカムが1つ以上、追跡期間が500患者年以上、追跡期間中央値が12ヵ月以上で、Cochrane Risk of Bias Tool ver.2を使用して評価を行った。主要評価項目は、主要有害心血管イベント(MACE:全死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全増悪の複合)で、副次評価項目は、MACEのそれぞれの要因、全入院の原因、特定の安全なイベント(骨折、緑内障関連、認知機能の悪化)であった。 主な結果は以下のとおり。・4万6,606例を対象とした5件のRCTが解析対象となった(BedMed試験、BedMed-Frail試験、TIME試験、Hygia試験、MAPEC試験)。ただし、BedMed試験、BedMed-Frail試験、TIME試験は全体的にバイアスリスクが低いと判断された一方で、Hygia試験とMAPEC試験は、ランダム化プロセスに関してバイアスの懸念がいくつかみられた。・MACEの発生率は、5試験すべてにおいて夕方服用と朝方服用による影響を受けなかった(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.43~1.16)。・バイアスリスクによる感度分析の結果、バイアスが低いと判断された3つの試験では夕方服用と朝方服用のMACEのHRは0.94(95%CI:0.86~1.03)で、バイアスの懸念がある2つの試験のHRは0.43(95%CI:0.26~0.72)だった。・夕方服用と朝方服用による全死亡に差はみられなかった(HR:0.77、95%CI:0.51~1.16)。同様に、骨折、緑内障、認知機能に関するイベントなど、そのほかすべての副次評価項目においても、服用タイミングによる影響はみられなかった。 本結果から同氏は「本結果は夕方服用と朝方服用に違いがないという決定的な証拠を示す。また、患者は自分の都合に最適な時間に1日1回の降圧薬を服用できる」と結論付けた。

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大手術の周術期管理、ACE阻害薬やARBは継続していい?/ESC2024

 周術期管理における薬剤の継続・中止戦略は不明なことが多く、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)もその1つである。RASI継続が術中の血圧低下、術後の心血管イベントや急性腎障害につながる可能性もあるが、Stop-or-Not Trialのメンバーの1人である米国・カルフォルニア大学サンフランシスコ校のMatthieu Legrand氏は、心臓以外の大手術を受けた患者において、術前のRASI継続が中止と比較して術後合併症の発生率の高さに関連しないことを示唆した。この報告は8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)のホットラインセッションで報告され、同時にJAMA誌オンライン版2024年8月30日号に掲載された。 研究者らは、心臓以外の大手術前でのRASIの継続あるいは中止が、術後28日時点での合併症の減少につながるかどうかを評価するため、フランスの病院40施設において、2018年1月~2023年4月にRASIによる治療を3ヵ月以上受け、心臓以外の大手術を受ける予定の患者を対象にランダム化比較試験を実施した。 対象患者は、手術当日までRASIの使用を継続する群(n=1,107)と手術48時間前にRASIの使用を中止する群(最終服用は手術3日前、n=1,115)に無作為に割り付けられた。主要評価項目は術後28日以内の全死亡と主な術後合併症の複合。副次評価項目は術中の血圧低下、急性腎障害、術後臓器不全、術後28日間の入院期間とICU滞在期間。 主な結果は以下のとおり。・対象患者2,222例は平均年齢±SDが67±10歳、男性が65%だった。また、患者全体の 98%が高血圧症、9%が慢性腎臓病、8%が糖尿病、4%が心不全の治療を受けており、ベースライン時点での降圧薬治療の内訳はACE阻害薬が46%、ARBが54%であった。・全死亡および主な術後合併症の発生率は、RASI中止群で22%(1,115例中245例)、RASI継続群で22%(1,107例中247例)であった(リスク比[RR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.87~1.19、p=0.85)。・術中の血圧低下は、RASI中止群の41%に発生し、RASI継続群の54%に発生した(RR:1.31、95%CI:1.19~1.44)。・平均動脈圧が60mmHg未満の持続時間中央値(四分位範囲)は、中止群で6分(4~12)、継続群で9分(5~16)だった(平均差:3.7分、95%CI:1.4~6.0)。・試験結果において、そのほかの差はみられなかった。

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臨床意思決定支援システム導入で、プライマリケアでの降圧治療が改善/BMJ

 中国のプライマリケアでは、通常治療と比較して臨床意思決定支援システム(clinical decision support system:CDSS)の導入により、ガイドラインに沿った適切な降圧治療の実践が改善され、結果として血圧の緩やかな低下をもたらしたことから、CDSSは安全かつ効率的に高血圧に対するよりよい治療を提供するための有望なアプローチであることが、中国・National Clinical Research Centre for Cardiovascular DiseasesのJiali Song氏らLIGHT Collaborative Groupが実施した「LIGHT試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年7月23日号で報告された。中国の94プライマリケア施設でのクラスター無作為化試験 LIGHT試験は、中国の4つの都市部地域の94施設で実施した実践的な非盲検クラスター無作為化試験であり、2019年8月~2021年に患者を登録した(Chinese Academy of Medical Sciences innovation fund for medical scienceなどの助成を受けた)。 94のプライマリケア施設のうち、46施設をCDSSを受ける群に、48施設を通常治療を受ける群(対照)に無作為に割り付けた。CDSS群では、電子健康記録(EHR)に基づき、降圧薬の開始、漸増、切り換えについて特定のガイドラインに準拠したレジメンを患者に推奨し、通常治療群では同じEHRを用いるが、CDSSを使用せずに通常治療を行った。 対象は、ACE阻害薬またはARB、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬のうち0~2種類のクラスの降圧薬を使用し、収縮期血圧<180mmHg、拡張期血圧<110mmHgの高血圧患者であった。 主要アウトカムは、高血圧関連の受診のうちガイドラインに準拠した適切な治療が行われた割合とした。適切な治療が行われた受診の割合が15.2%高い 1万2,137例を登録した。CDSS群が5,755例(総受診回数2万3,113回)、通常治療群は6,382例(2万7,868回)であった。全体の平均年齢は61(SD 13)歳、42.5%が女性だった。平均収縮期血圧は134.1(SD 14.8)mmHgで、92.3%が少なくとも1種類のクラスの降圧薬を使用していた。 追跡期間中央値11.6ヵ月の時点で、適切な治療が行われた受診の割合は、通常治療群が62.2%(1万7,328/2万7,868回)であったのに対し、CDSS群は77.8%(1万7,975/2万3,113回)と有意に優れた(絶対群間差:15.2%ポイント[95%信頼区間[CI]:10.7~19.8、p<0.001]、オッズ比:2.17[95%CI:1.75~2.69、p<0.001])。<140/90mmHg達成割合も良好な傾向 最終受診時の収縮期血圧は、通常治療群がベースラインから0.3mmHg上昇したのに比べ、CDSS群は1.5mmHg低下し、その差は-1.6mmHg(95%CI:-2.7~-0.5)とCDSS群で有意に良好であった(p=0.006)。また、血圧コントロール率(最終受診時の<140/90mmHgの達成割合)は、CDSS群が69.0%(3,415/4,952回)、通常治療群は64.6%(3,778/5,845回)であり、群間差は4.4%ポイント(95%CI:-0.7~9.5、p=0.07)だった。 患者報告による降圧薬治療関連の有害事象はまれであり、発現頻度は両群間で同程度であった。 著者は、「CDSSは、高血圧に対する質の高い治療へのアクセスと公平性を改善するための、低コストで効率的、かつ拡張性に優れ、持続可能な手段として機能する可能性がある」と述べ、「高血圧の管理にCDSSを用いる戦略は、とくに中国のような心血管疾患の負担が大きく、医療資源に制約のある地域にとって、質の高い高血圧治療を効率的かつ安全に提供する有望なアプローチになると考えられる」としている。

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高K血症によるRA系阻害薬の中止率が低い糖尿病治療薬は?

 高血圧治療中の2型糖尿病患者が高カリウム血症になった場合、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RA系阻害薬)を降圧薬として服用していたら、その使用を控えざるを得ない。最近の報告によれば、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は尿中カリウム(K)排泄を増加させ、高K血症のリスクを軽減させる可能性があることが示唆されている。今回、中国・北京大学のTao Huang氏らは2型糖尿病患者の治療において、GLP-1RAは高K血症の発生率が低く、DPP-4阻害薬と比較してRA系阻害薬が継続できることを示唆した。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年8月12日号掲載の報告。 本研究はGLP-1RAとDPP-4阻害薬の新規処方患者における高K血症の発生率ならびにRA系阻害薬の継続率を比較するため、2008年1月1日~2021年12月31日の期間にGLP-1RAまたはDPP-4阻害薬による治療を開始したスウェーデン・ストックホルム地域の2型糖尿病の成人を対象に行ったコホート研究。解析期間は2023年10月1日~2024年4月29日。主要評価項目は、高K血症全体(K濃度>5.0mEq/L)および中等度~重度の高K血症(K濃度>5.5mEq/L)を発症する時間と、ベースラインでRA系阻害薬を使用している患者でのRA系阻害薬の中止までの時間であった。特定された交絡因子が70を超えたため、治療の逆確率重み付け法を用いた限界構造モデルによりプロトコルごとのハザード比(HR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・ 対象者は3万3,280例で、その内訳はGLP-1RAが1万3,633例、DPP-4阻害薬が 1万9,647例、平均年齢±SDは63.7±12.6歳、男性は1万9,853例(59.7%)だった。・治療期間の中央値と四分位範囲(IQR)は3.9ヵ月(IQR:1.0~10.9)だった。・GLP-1RAはDPP-4阻害薬と比較して高K血症全体(HR:0.61、95%信頼区間[CI]:0.50~0.76)、中等度~重度の高K血症(HR:0.52、95%CI:0.28~0.84)の発生率の低さと関連していた。・RA系阻害薬を使用していた2万1,751例のうち、1,381例がRA系阻害薬を中止した。・GLP-1RAはDPP-4阻害薬と比較して、RA系阻害薬の中止率の低さと関連していた(HR:0.89、95%CI:0.82~0.97)。・本結果は、ITT解析および年齢、性別、心血管合併症、ベースライン時点の腎機能の層に渡って一貫していた。 研究者らは「糖尿病治療としてGLP-1RAを使用すれば、高血圧のガイドラインで推奨されている降圧薬をより広く使用できるかもしれない」としている。

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AHA開発のPREVENT計算式は、ASCVDの1次予防に影響するか/JAMA

 米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)の現行の診療ガイドラインは、pooled cohort equation(PCE)を用いて算出されたアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の10年リスクに基づき、ASCVDの1次予防では降圧薬と高強度スタチンを推奨しているが、PCEは潜在的なリスクの過大評価や重要な腎臓および代謝因子を考慮していないなどの問題点が指摘されている。米国・ハーバード大学医学大学院のJames A. Diao氏らは、2023年にAHAの科学諮問委員会が開発したPredicting Risk of cardiovascular disease EVENTs(PREVENT)計算式(推算糸球体濾過量[eGFR]を導入、対象年齢を若年成人に拡大、人種の記載が不要)を現行ガイドラインに適用した場合の、スタチンや降圧薬による治療の適用、その結果としての臨床アウトカムに及ぼす影響について検討した。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年7月29日号に掲載された。米国の30~79歳の7,765例を解析 研究グループは、現行のACC/AHAの診療ガイドラインの治療基準を変更せずに、ASCVDリスクの計算式をPCEの代わりにPREVENTを適用した場合に、リスク分類、治療の適格性、臨床アウトカムに変化が生じる可能性のある米国の成人の数を推定する目的で、横断研究を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成を受けた)。 2011~20年にNational Health and Nutrition Examination Surveys(NHANES)に参加した30~79歳の7,765例(年齢中央値53歳、女性51.3%)のデータを解析した。 主要アウトカムは、予測される10年ASCVDリスク、ACC/AHAリスク分類、スタチンまたは降圧薬による治療の適格性、予測される心筋梗塞または脳卒中の発症とし、PCEを用いた場合とPREVENTを用いた場合の差を評価した。10年ASCVDリスクは、PREVENTで低下する PCEとPREVENTの双方から有効なリスク推定値が得られた参加者は、心筋梗塞、脳卒中、心不全の既往歴のない40~79歳の集団であった。この集団では、PREVENTを用いて算出した10年ASCVDリスク推定値は、年齢、性別、人種/民族のすべてのサブグループにおいてPCEで算出した値よりも低く、この予測リスクの差は低リスク群で小さく、高リスク群で大きかった。 PREVENT計算式を用いると、この集団の約半数がACC/AHAリスク分類の低リスク群(53.0%、95%信頼区間[CI]:51.2~54.8)に分類され、高リスク群(0.41%、0.25~0.62)に分類されるのは、きわめて少数と推定された。スタチン、降圧薬とも減少、心筋梗塞、脳卒中が10万件以上増加 スタチン治療を受けているか、あるいは推奨されるのは、PCEを用いた場合は818万例であるのに対し、PREVENTを用いると675万例に減少した(群間差:-143万例、95%CI:-159万~-126万)。また、降圧薬治療を受けているか、あるいは推奨されるのは、PCEでは7,530万例であるのに比べ、PREVENTでは7,270万例に低下した(-262万例、-321万~-202万)。 PREVENTにより、スタチンまたは降圧薬治療のいずれかの推奨の適格性を失うのは、1,580万例(95%CI:1,420万~1,760万)と推定される一方、10年間で心筋梗塞と脳卒中を10万7,000件増加させると推定された。この適格性の変動の影響は、女性に比べ男性で約2倍に達し(0.077% vs.0.039%)、また、黒人は白人より高率であるものの大きな差を認めなかった(0.062% vs0.065%)。 著者は、「PREVENTは、より正確で精度の高い心血管リスク予測という重要な目標に進展をもたらすが、推定される変化の大きさを考慮すると、意思決定分析または費用対効果の枠組みを用いて、現在の治療閾値を慎重に見直す必要がある」としている。

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第219回 解消しない医薬品不足に厚労大臣が放った“迷言”とは?

「それはちょっとないんじゃないの?」と思わず、PCでニュース記事の画面を開きながら口を突いて出そうになった。7月4日に厚生労働大臣の武見 敬三氏がジェネリック医薬品企業(以下、GE企業)13社のトップを呼び、業界再編を促したと報じられたことについてだ。鎮咳薬不足の時も同じように製造企業を厚生労働省(以下、厚労省)に呼んで要請している武見氏に失礼かもしれないが、ややパフォーマンスじみているとしか言いようがない。民業であるGE企業トップを“呼びつけ”て「再編せい!」と号令をかけるのは、国務大臣として越権行為にすら映ってしまう。この日、武見氏は「薬の成分ごとの供給社数は、理想は5社程度」と具体的な数字を挙げている。確かに一つの目安かもしれないが、大臣という立場の人が口にすると一人歩きする懸念もあり、この辺は慎重な発言が求められる。そもそもこの件に関しては、武見氏に限らず、「雨後の筍のごとく存在するGE企業同士が合併してしまえばいいではないか?」と思う人は意外と多いのではないだろうか? だが、これは簡単ではない。以前、CareNeTV LIVEで講演した時にもお話ししたことだが、GE業界は近代経済学の世界でいう「完全競争」状態である。「完全競争」とは主に(1)市場に多数の企業がおり、どの企業も市場価格に影響を与えられない、(2)その市場への新規参入・撤退に障壁がない、(3)企業の提供する製品・サービスが同業他社と同質、の3条件を満たす市場を指している。完全競争市場の最大の特徴は、過当競争の結果、最悪は「企業の超過利潤がゼロ」状態に陥ることだ。再編となると避られない茨の道GE企業では完全競争の主要条件のうち(3)が再編を阻む大きな要因となる。その理由は、GE企業は複数社で同一成分の医薬品を提供しているからだ、たとえば降圧薬アムロジピンを製造するGE企業A社とB社が合併した場合、合併後の新会社がA社ブランドのアムロジピンとB社ブランドのアムロジピンを製造することはあり得ず、どちらかに統一する。よく企業同士の合併では「シナジー(相乗効果)」という言葉が聞かれるが、これは相互補完となるサービス(製品)がある場合のことだ。品目統合が必至のGE企業同士ではこの面でシナジーはほとんどない。しかも、公的薬価制度に則って販売されている医薬品では、重複品目の統合を企業が「一抜けた」的に行えるわけではない。通常、供給停止の場合、企業側は厚労省にまず「供給停止品目の事前報告書」を提出する。ここでは供給停止が医療上の不都合をもたらさないかが判断される。ちなみに事前報告書の提出時点で、製薬企業側は関連学会などから供給停止に関してすでに事前了承を取り付けていることが前提となっている。同報告書上、厚労省が供給停止に問題ないと判断してもことが済むわけではない。実はこの先に日本医師会の疑義解釈委員会があり、ここに厚労省が供給停止希望品目情報を上程し、同委員会に参集する医学系学会の全会一致で供給停止しても差し支えないと決定して初めて供給停止ができるという、やや不思議な慣例がわが国では続いている。同委員会が何をもって供給停止を了承するかの明文規定はなく、一方で従来から「不採算という理由だけで供給停止は認めない」との不文律があると言われる。おそらく国民の目から見ると、厚労省の先に日医の疑義解釈委員会という屋上屋があることは不可解極まりないだろうが、これが慣例なのだ。しかも、こうした手続きの間にさまざまな労力とコスト(金)が発生している。もしGE企業同士が合併するならば、数十~数百品目についてこの作業を行わなければならない。これ以外にも当然ながら企業同士の合併では、給与なども含めた社内制度、ソフト・ハード両面での物流や販売などの社内システムなどの統合も必要だ。製薬企業の場合、取引している医薬品卸が異なれば、その調整も必要である。企業同士の主要取引銀行が異なれば、この点もまとめねばならない。実はこの取引銀行の調整は、合併企業同士の主要取引銀行が都銀や地銀のライバル行同士の場合はかなり難儀な作業となる。また、合併する企業同士が規模に差がある場合、規模の大きい企業のほうが社内管理システムなどにおいて優れていることが多い。率直に言ってしまえば、規模の大きい側からすると、小さい側のシステムや管理部門の人材はほとんど不要と言ってもよい。つまるところ、GE企業同士の合併では、「スクラップ&ビルド」ではなく、「スクラップ&スクラップ」になる。持ち出しコストのほうが上回り、強いて言えば、そのシナジーは工場という製造部門くらいしかない。極端な話、中小GE企業が大手GE企業に買収される場合は、中小側が工場以外の人員整理、金融機関への債務返済、重複品目の薬価削除まで完了して、「あとはどうぞ」と差し出すくらいでなければ、大手側にメリットはほとんどない。しかも、日本の中堅GE企業は売上高で100~200億円くらいの規模はある。これをまともに買収するならば、将来価値の目減り分を折り込んでも、買収金額は最低数十億円になるだろう。しかし、国内大手GE企業の東和薬品や沢井製薬ですら、決算からわかる通り、現預金保有高は300億円に満たない。また、両社とも近年の医薬品供給不足に対応し、金融機関からの借り入れなどで400~500億円規模の工場新設をすでに行っている。これで企業再編を行えというのは無理筋である。厚労省が考える再編モデル、どれがいい?厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」が5月末にまとめた報告書では、GE企業の協業について、▽大手企業が他の後発医薬品企業を買収し、品目統合や生産・品質管理を集約する等の効率化を実現▽後発品企業が事業の一部または全部を他の企業に譲渡▽ファンドが介在して複数の後発品企業や事業の買収を行って統合▽複数の後発医薬品企業が新法人を立ち上げ、屋号統一化の下、品目・機能を集約・共有、という4つのモデルを示している。しかし、前述のような事情を考えれば、どのモデルも容易ではない。そもそも同報告書では、こうした再編について政府による金融・財政支援などの必要性を強調しているが、これついて具体策はまだ出ていない。冒頭で取り上げた武見氏とGE企業トップとの懇談の場では、武見氏が国として支援策を講じていくとも口にしたらしいが、その支援策を用意したうえで呼びかけるのが筋ではなかろうか?同時に、報じられた記事の中で武見氏が「過度な低価格競争からも脱却する必要がある」と発言した点については、厚労相として形式的には言わねばならないのだろうが、「それ、言う?」と思ってしまった。現行の薬価制度とGE企業の性格上、低価格競争が起こるのは必然である。確かに2024年度薬価改定では、一部の不採算品目の薬価引き上げは行われた。しかし、これは対症療法に過ぎない。もっとも現行の薬価制度の薬価調査に基づく引き下げは仕組みとして理解はできる。これがなければ国民は高止まりの医薬品の入手を強いられることになるからだ。ただ、制度上で必然として起こっていることをGE企業だけのせいにするかのように発言するのは、これまたいかがなものかと思ってしまう。いずれにせよ、今、国に求められているのは業界再編がしやすい支援策の早急な策定である。掛け声だけの再編要請なぞ、国家権力によるパワハラに等しい。そしてこの間にも医薬品不足というツケを払わされているのは患者という名の国民一人一人であることを忘れてほしくはない。

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高リスク高血圧患者の降圧目標、140mmHg未満vs.120mmHg未満/Lancet

 心血管リスクの高い高血圧患者では、糖尿病や脳卒中の既往によらず、収縮期血圧(SBP)の目標を120mmHg未満とする厳格降圧治療は、140mmHg未満とする標準降圧治療と比較して、主要心血管イベントのリスクが低下したことが示された。中国・Fuwai HospitalのJiamin Liu氏らESPRIT Collaborative Groupが無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Effects of Intensive Systolic Blood Pressure Lowering Treatment in Reducing Risk of Vascular Events trial:ESPRIT試験」の結果を報告した。SBPを120mmHg未満に低下させることが140mmHg未満に低下させることより優れているかどうかは、とくに糖尿病患者や脳卒中の既往患者でははっきりしていなかった。Lancet誌オンライン版2024年6月27日号掲載の報告。主要アウトカムは、心筋梗塞、血行再建術、心不全入院、脳卒中、心血管疾患死の複合 研究グループは、中国の病院または地域医療機関116施設において、50歳以上の心血管高リスク患者(心血管疾患既往、または主要な心血管リスク因子を2つ以上有し、SBPが130~180mmHg)を、診察室SBPが120mmHg未満を目標とする厳格降圧治療群、または140mmHg未満を目標とする標準降圧治療群に、最小化法を用いて無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、主要心血管イベント(心筋梗塞、血行再建術、心不全による入院、脳卒中、心血管疾患死の複合)で、ITT解析を実施した。 2019年9月17日~2020年7月13日に、1万1,255例(糖尿病患者4,359例、脳卒中既往3,022例)が厳格降圧治療群(5,624例)または標準降圧治療群(5,631例)に割り付けられた。平均年齢は64.6歳(SD 7.1)であった。主要イベントの発生率は9.7% vs.11.1% 追跡期間中の平均SBP(最初の用量漸増期間3ヵ月を除く)は、厳格降圧治療群119.1mmHg(SD 11.1)、標準降圧治療群134.8mmHg(SD 10.5)であった。 追跡期間中央値3.4年において、主要心血管イベントは厳格降圧治療群で547例(9.7%)、標準降圧治療群で623例(11.1%)に認められた(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.78~0.99、p=0.028)。糖尿病の有無、糖尿病の罹病期間、あるいは脳卒中の既往歴による有効性の異質性は認められなかった。 重篤な有害事象の発現率は、失神については厳格降圧治療群0.4%(24/5,624例)、標準降圧治療群0.1%(8/5,631例)であり、厳格降圧治療群で高率であったが(HR:3.00、95%CI:1.35~6.68)、低血圧、電解質異常、転倒による傷害、急性腎障害については両群間で有意差は認められなかった。

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網膜症は認知症リスクと関連

 福岡県久山町の地域住民を対象とする久山町研究の結果が新たに発表され、網膜症のある人は、網膜症のない人と比べて認知症の発症リスクが高いことが明らかとなった。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治氏らと同大学眼科分野の園田康平氏らの共同研究グループによる研究成果であり、「Scientific Reports」に5月26日掲載された。 網膜症は糖尿病や高血圧などの特定の原因に限らず、網膜の微小血管瘤、微小血管の出血、滲出などと関連しており、眼底検査で確認することができる。また、網膜と脳は、解剖学や発生学などの観点から類似している。これまでの研究で、網膜の微小血管異常と認知症との関連が示唆されているものの、追跡調査の成績を用いて縦断的にそれらの関係を検討した研究は限られ、その結果は一貫していなかった。 そこで著者らは、網膜症と認知症の発症リスクとの関連を調べるために、2007-2008年に久山町の生活習慣病健診を受診した60歳以上の地域住民のうち、認知症がなく、眼底検査のデータが得られた1,709人を対象として認知症の発症の有無を前向きに追跡した(追跡期間:中央値10.2年、四分位範囲9.3~10.4年)。網膜症の有無は、眼底写真を用いて複数の眼科専門医が診断した。認知症の発症リスクの算出にはCox比例ハザードモデルを用い、多変量解析により年齢と性別の影響や臨床背景の違いを統計学的に調整した。 その結果、追跡開始時に網膜症のあった人は174人(平均年齢71.8±7.5歳、男性47.7%)、網膜症のなかった人は1,535人(同71.3±7.6歳、42.9%)であった。網膜症のある人はない人と比べ、BMIが高く、血圧が高く、糖尿病の人が多く、脳卒中の既往のある人の割合が高かった一方、総コレステロール値は低いなどの特徴があった。 10年間の追跡期間中に374人(男性136人、女性238人)が認知症を発症した。認知症の累積発症率は、網膜症のある人の方が網膜症のない人と比べて有意に高かった。網膜症のある人では、ない人に比べ認知症の発症リスク(年齢調整後)は1.56倍(95%信頼区間1.15~2.11)有意に高いことが明らかとなった。さらに、影響を及ぼし得る他の臨床背景(教育レベル、収縮期血圧、降圧薬の使用、糖尿病、総コレステロール値、BMI、脳卒中の既往、喫煙、飲酒、運動習慣)の違いを多変量解析にて調整しても、同様の結果が得られた(発症リスク1.64倍〔95%信頼区間1.19~2.25〕)。 また、高血圧と糖尿病は網膜症のリスク因子であることから、高血圧または糖尿病の有無で分けて検討した。網膜症に高血圧または糖尿病を合併した人では、網膜症がなく高血圧も糖尿病もない人に比べ、認知症の発症リスク(多変量調整後)は1.72倍(95%信頼区間1.18~2.51)有意に高かった。さらに、網膜症があるが高血圧も糖尿病もない人の認知症の発症リスクも2.44倍(同1.17~5.09)有意に高いことが明らかとなった。 著者らは、今回の研究の結論として、「日本人の一般高齢者集団の前向き縦断的データを解析した結果、網膜症は、認知症の発症と有意に関連していた」としている。また、「眼底検査により網膜の微小血管の徴候を非侵襲的かつ簡便に可視化することができ、高リスク者の同定に有用であることが示唆された」と述べている。

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診療科別2024年上半期注目論文5選(循環器内科編)

Microaxial flow pump or standard care in infarct-related cardiogenic shockMøller JE, et al. N Engl J Med 2024;390:1382-1393.<DanGer Shock>:心原性ショックのSTEMI患者で、Impellaは死亡を減らすが合併症を増やす経皮的左室補助装置であるImpellaにより、標準治療に比して全死亡を18%減らすことが示されました。心原性ショックのSTEMI患者は、虚血性心疾患治療に残された課題であっただけに、この肯定的なデータは意義深いと思われます。一方で、重度の出血、四肢虚血、溶血、機器故障、または大動脈弁逆流の悪化などの安全性評価のイベントは4倍に増加しており、この合併症低減がいっそうの普及の鍵となるでしょう。RNA Interference With Zilebesiran for Mild to Moderate Hypertension: The KARDIA-1 Randomized Clinical TrialBakris GL, et al. JAMA. 2024;331:740-749.<KARDIA-1>:zilebesiranをシランと!高血圧治療のゲームチェンジャーとなるか血圧調節の重要な経路であるレニン-アンジオテンシン系の最上流の前駆体であるアンジオテンシノーゲンの肝臓での合成を標的とするRNA干渉治療薬がzilebesiranです。RNA干渉治療薬は「~シラン」と呼称され各領域で開発が進展しており、2023年以降zilebesiranの有効性と安全性が実証する試験結果が続いています。降圧治療のゲームチェンジャーとして心臓病や腎臓病の治療に役立つ可能性が示されました。Long-term outcomes of resynchronization-defibrillation for heart failureSapp JL, et al. N Engl J Med. 2024;390:212-220.<RAFT Long-Term>:心不全患者に対するCRT-DはICDのみに比して心不全患者予後を長期的に改善するNYHAクラスIIまたはIIIのEF<30%でQRS幅広の心不全患者で、CRT-Dによる心臓再同期療法はICD単独よりも中央期間14年にわたる長期追跡においても予後改善を持続することが報告されました。一方で、デバイスまたは手技に関連した合併症発生率が高いことや、CRT-DはICDに対する費用対効果などの課題もあります。Intravascular imaging-guided coronary drug-eluting stent implantation: an updated network meta-analysisStone GW, et al. Lancet. 2024;403:824-837.<Intravascular imaging-guided PCI, メタ解析>:血管内イメージングを用いたPCIの有効性がメタ解析で示されたIVUSやOCTなどの血管内イメージングをガイドにすることで、血管造影のみをガイドにするよりもPCIの安全性と有効性を改善することが報告されました。このメタ解析の素材の各研究は、日本に加えて中国や韓国などアジア諸国からのデータも多く含まれています。血管内イメージングガイド下のPCIは日常臨床で定着し、日本のお家芸ともいえるものです。その領域のエビデンス構築においては日本のイニシアチブを期待します。Randomized Trial for Evaluation in Secondary Prevention Efficacy of Combination Therapy-Statin and Eicosapentaenoic Acid (RESPECT-EPA)Miyauchi K, et al. Circulation. 2024 Jun 14. [Epub ahead of print]<RESPECT-EPA>:日本発のエビデンス、スタチン上乗せのEPA製剤は心血管イベントを減少させるも有意差なし慢性冠動脈疾患でEPA/AA比の低い日本人患者で、スタチンに追加投与の高純度EPAによる心血管イベント再発予防の可能性を検討した試験です。心血管イベントは減少したものの、統計学的に有意に至る差異はありませんでした(HR:0.79、95%CI:0.62~1.00、p=0.055)。冠動脈イベントの複合は、EPA群で有意に少なかったものの、心房細動の新規発症は有意に増加していました。今後の詳細なサブ解析に注目したいところです。

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「生活習慣病管理料」算定に適した指導・効率的な方法は?

 6月の診療報酬改定後もなお話題になっている、生活習慣病に係る医学管理料の見直し。今回の改定では、▽生活習慣病管理料(II)の新設(検査などを包括しない生活習慣病管理料 II[330点、月1回])▽生活習慣病管理料の評価および要件の見直し(療養計画書の簡素化、電子カルテ情報共有サービスの活用など)▽特定疾患療養管理料の見直し(対象疾患から生活習慣病である糖尿病、脂質異常症、高血圧症が除外)といった点が変更された1)。とくに高血圧症などの生活習慣病患者に対し、これまでの特定疾患療養管理料に近い点数を生活習慣病管理料で算定していくためには、療養計画書の作成、診療ガイドラインに基づいた疾患管理、リフィル処方箋に関する掲示、多職種連携推奨…といった要件が多く、今回の改定による医師の負担増は免れない。そこで今回、谷川 朋幸氏(CureAppメディカル統括取締役/聖路加国際病院 医師)は患者を効果的な生活改善へと導き、医師が効率的に療養計画書を作成するために、高血圧治療補助アプリを活用した打開策をCureApp主催メディアセミナーにて紹介した。生活習慣病患者への算定、改訂前より10点減点 これまでも生活習慣病管理料自体は存在していたが、特定疾患療養管理料と違い、療養計画書の作成や患者へ署名を求める点などがハードルとなり、生活習慣病管理料の算定件数割合は特定疾患療養管理料に比してたった数%に留まっていた。それが今回の改定では、政府が“効率的で効果的な疾患管理”を推進するために、従来の療養計画書を簡素化させたり、毎月受診の要件を廃止したりといった歩み寄りをしたうえで、生活習慣病患者の管理料を新たな生活習慣病管理料(I)および(II)へと変更した。その結果、200床未満の施設で生活習慣病管理料を算定する場合、以下のような追加業務が発生することになる。・療養計画書により丁寧な説明を行い、同意を得た証拠として患者から署名をもらうこと・計画書の写しを診療録に添付しておくこと・継続して算定する場合、内容に変更がなくともおおむね4ヵ月に1回以上は計画書を交付すること そして、診療報酬改定後に生活習慣病管理料(II)を算定すると、1診療につき333点(オンライン診療は290点)と改訂前に比べ10点近くもの減点となるため、これまでの生活習慣病患者への算定に対し発生するマイナス部分をどのように補填するかは大きな問題である。ここで谷川氏は「CureApp HT高血圧治療補助アプリ(以下、本アプリ)を活用することで、新設したプログラム医療機器等指導管理料(90点)などを算定2)できるため、むしろプラスに転じることが可能。また、患者さんにとっても指導内容が充実するため、本アプリの活用は医療者・患者さん双方にとって生活習慣病管理料(II)の穴埋め以上の効果をもたらすことができる」と説明した。電カルとの連携、患者の生活習慣見える化とカルテ入力に効果 本アプリに関連するその他のメリットとして、「患者さんに対し、生活習慣病の管理記録を簡単に作成できるツールを提供できると共に、生活習慣の改善(減量・減塩ができる、薄味に慣れるなど)が患者さんのみならず家族にも影響を及ぼし、降圧作用以外のベネフィットとなる」とコメントした。一方で、医師にとっては本アプリと電子カルテを連携させることでカルテ入力の負担軽減につながる点がポイントになる。「生活習慣指導について、内科系医師の86.0%は必須と考える一方で“うまくいっている”と回答したのは39.5%と半数に留まっていた。このギャップが生まれた理由として、患者さんの生活習慣を見える化することができない点が医師らの課題として挙がったが、本アプリを導入している医師らはアプリが生活習慣管理の動機付けにぴったりであり、なおかつ生活習慣の見える化にも有効と回答している」と話した。生活習慣改善の継続に寄り添える だが、生活習慣の改善は口で言うほど実際にその継続は容易ではない。患者が自力で改善させるとなると2人に1人は継続できないという報告3)もあるようだ。このような現状を踏まえ、CureAppは健康的な生活習慣を身に付けながら高血圧治療に取り組むためのプログラム『CureApp HT 血圧チャレンジプログラム』*を6月から新たにスタートさせている。このプログラムを開始するにあたり、患者アプリの情報を基に療養計画書(患者レポート)を作成できる機能を医師側のアプリに実装させており、「これまで敬遠されがちな事務作業の効率化はもちろん、医師の指導内容が可視化されて患者さんにとってもわかりやすいレポートが作成される」と同氏はコメントした。*高血圧治療補助アプリと医師による診察のほか、アプリで入力した取り組み内容を可視化できる患者レポート・療養計画書の同時作成や『血圧チャレンジキット』と称した「みんなのレシピ集(減塩レシピ)」や「CureApp血圧チャレンジプログラム スタートブック」の配布に加え、血圧計購入支援などのカスタマーサポートサービスを受けることができるプログラム4) 最後に谷川氏は、「今回の取り組みが患者さんと医療現場の双方にとって価値のあるものになることを目指している。次回2026年の診療報酬改定に向けて、医療DX推進の流れは強化されるだろう。日常診療により溶け込み、なくてはならないシステムとなるよう進化を続けたい」とも説明した。

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