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不眠症の診断治療に関する最新情報~欧州不眠症ガイドライン2023

 2017年以降の不眠症分野の進歩に伴い、欧州不眠症ガイドラインの更新が必要となった。ドイツ・フライブルク大学のDieter Riemann氏らは、改訂されたガイドラインのポイントについて、最新情報を報告した。Journal of Sleep Research誌2023年12月号の報告。 主なポイントは以下のとおり。・不眠症とその併存疾患の診断手順に関する推奨事項は、臨床面接(睡眠状態、病歴)、睡眠アンケートおよび睡眠日誌(身体検査、必要に応じ追加検査)【推奨度A】。・アクチグラフ検査は、不眠症の日常的な評価には推奨されないが【推奨度C】、鑑別診断には役立つ可能性がある【推奨度A】。・睡眠ポリグラフ検査は、他の睡眠障害(周期性四肢運動障害、睡眠関連呼吸障害など)が疑われる場合、治療抵抗性不眠症【推奨度A】およびその他の適応【推奨度B】を評価するために使用する必要がある。・不眠症に対する認知行動療法は、年齢を問わず成人(併存疾患を有する患者も含む)の慢性不眠症の第1選択治療として、対面またはデジタルにて実施されることが推奨される【推奨度A】。・不眠症に対する認知行動療法で十分な効果が得られない場合、薬理学的介入を検討する【推奨度A】。・不眠症の短期(4週間以内)治療には、ベンゾジアゼピン系睡眠薬【推奨度A】、ベンゾジアゼピン受容体作動薬【推奨度A】、daridorexant【推奨度A】、低用量の鎮静性抗うつ薬【推奨度B】が使用可能である。利点と欠点を考慮して、場合により、これら薬剤による長期治療を行うこともある【推奨度B】。・いくつかのケースでは、オレキシン受容体拮抗薬を3ヵ月以上使用することができる【推奨度A】。・徐放性メラトニン製剤は、55歳以上の患者に対し最大3ヵ月間使用可能である【推奨度B】。・抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、即放性メラトニン製剤、ラメルテオン、フィトセラピーは、不眠症治療に推奨されない【推奨度A】。・光線療法や運動介入は、不眠症に対する認知行動療法の補助療法として役立つ可能性がある【推奨度B】。

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錠剤サイズのデバイスで心拍数などをモニタリングする研究が前進

 新たな「ハイテク錠剤」によって体内でバイタルサインのモニタリングを安全に行えることが、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院の消化器内科医で米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学分野のGiovanni Traverso氏らの研究で示された。この研究結果は、「Device」11月17日号に発表された。 このバイタル・モニタリング・ピル(以下、VMピル)は、呼吸や心拍に伴う体内のわずかな振動を追跡することで機能するデバイスだ。もし、VMピルを飲み込んだ人の呼吸が止まれば、VMピルはそれを検知することができる。そのため、VMピルからオピオイド過剰摂取のリスクがある患者の情報をリアルタイムで得られる可能性もあるという。 Traverso氏は、「入院することなくさまざまな疾患の診断やモニタリングができるようになれば、患者は医療にアクセスしやすくなり、治療のサポートにもつながる」と話す。Traverso氏らは今回の研究の背景情報を説明する中で、VMピルのようなインジェスティブルデバイス(経口摂取型デバイス)は、ペースメーカーのような植込み型デバイスとは異なり、外科的処置が不要なため使いやすいと説明している。現在、多くのインジェスティブルデバイスが開発段階にある。その一例として、通常であれば病院で鎮静薬を使用する必要のある大腸内視鏡検査に錠剤サイズのインジェスティブルカメラが用いられている。 論文の共著者で、マサチューセッツ州に本社を置く医療機器開発企業のCelero Systems社の創立者でもあるBenjamin Pless氏は、「医師がこれらのカプセルを処方し、患者はそれを飲み込むだけで良いというのが、インジェスティブルデバイス使用の考え方だ。患者は錠剤を飲むことに慣れている。また、インジェスティブルデバイスを使う方が、従来の医療処置を行うよりもコストを大幅に抑えられる」と説明している。 研究グループは、麻酔をかけたブタの胃にVMピルを入れ、呼吸停止をもたらす量のフェンタニル(鎮痛薬)を投与し、ヒトがフェンタニルを過剰摂取した際に起こるのと似た状態を作り出した。その結果、VMピルはブタの呼吸数を測定して研究グループに警告を発したため、研究グループは過剰摂取からブタを回復させることができた。 VMピルをヒトに使う試験も行われた。この試験では、米ウェストバージニア大学で睡眠時無呼吸の検査対象者10人に、VMピルを飲み込んでもらった。睡眠時無呼吸は、睡眠中に呼吸の一時的な停止と再開を繰り返す疾患だ。バイタルサインをモニタリングするデバイスで異常が検出された場合には、実験室で眠っている間に対象者を観察する必要があるため、診断が難しい疾患と見なされている。Pless氏は、「われわれはオピオイドの安全性に関心を持っていたため、オピオイドによる呼吸抑制と同じ症状がよく生じる睡眠時無呼吸に着目した」と説明している。 その結果、VMピルは飲み込んだ人の呼吸停止を検出し、呼吸数のモニタリングの全体的な正確性は92.7%であることが示された。また、心拍数のモニタリングの正確性は96.2%で、VMピルは数日以内に安全に排出された。 論文の上席著者で米ウェストバージニア大学ロックフェラー神経科学研究所のAli Rezai氏は、「これらの測定値の精度と相関性は、われわれが睡眠実験室で行った、臨床的にゴールドスタンダードとされる方法による研究と比べても優れていた。ワイヤーやリード線を使わず、医療技術者も必要とせず、患者の重要なバイタルサインを遠隔で監視するVMピルの機能は、クリニックや病院ではなく、通常の環境で患者のモニタリングを行う道を開く可能性がある」と付け加えている。 なお、現バージョンのVMピルは約1日をかけて体内を通過するが、Traverso氏は、「より長期間のモニタリングを行うために、体内により長くとどまるようVMピルを改良できるだろう」と話している。

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動物病院での猫の不安を軽減する薬を米FDAが承認

 猫を飼っている人なら、猫を獣医師のもとへ連れていくことが猫と飼い主の双方にとっていかにストレスとなるかを経験的によく知っているだろう。米食品医薬品局(FDA)は11月17日、このような猫の不安を軽減する新薬を承認したことを発表した。FDAは、Bonqatと呼ばれるこの抗不安薬は、「移動中や動物病院での診察時に猫が感じる不安や恐怖を和らげるように設計されている」とニュースリリースで説明している。 Bonqatは、過活動状態にある神経を鎮める薬物であるプレガバリンを含む、初のFDA承認薬だ。FDAの説明によると、同薬は、猫を連れて移動するか、または動物病院で診察を受ける1時間半ほど前に経口投与すればよい。投与は2日間連続で可能である。 米VCA動物病院の情報によると、猫の中には、行き先を問わず、移動中に重度の不安を感じたり、ひどい乗り物酔いを起こす個体がいる。そのような猫には、ニャーニャーと鳴く、唇を鳴らす、よだれを垂らすといったものから、ストレスによる乗り物酔いで排尿や排便を起こすものまで、さまざまな症状が現れる。 Bonqatは、この薬を製造するフィンランドのOrion社が実施した実地調査の結果に基づき承認された。試験では、動物病院を受診した際に恐怖や不安を感じたことのある猫の飼い主に、5〜10日の間に2回に分けて猫を診察のために動物病院に連れてくるよう依頼した。初回は、治療前に試験に登録するためのスクリーニング訪問とし、2回目の訪問時には、訪問に先立ち、Bonqatまたはプラセボが猫に投与された。移動中の猫の不安や恐怖は飼い主が、身体診察中の猫の不安や恐怖は獣医師が評価した。 その結果、Bonqatを投与された猫(108匹)の半数強は移動中と動物病院受診中の両方で良好、または優れた反応を示したのに対して、プラセボを投与されたネコ(101匹)では、その割合が約3分の1にとどまったことが明らかになった。さらに、2回の診察の間に恐怖と不安のレベルに改善が認められたのは、Bonqatを投与された猫では77%(83匹)であったのに対し、プラセボを投与された猫では46%(46匹)にとどまっていた。Bonqatの投与により生じた副作用は、軽度の鎮静、運動失調、嗜眠などであった。 FDAは、Bonqatは、人が誤用する可能性があるため、資格を有する獣医師の処方を通じてのみ入手可能と述べている。また、製品を安全に使用するためには、正確な投与量や適切な投与方法などに関する医師の専門知識と監視が必要だとしている。FDAはまた、猫の飼い主に対しても、「薬剤が人の皮膚や目、その他の粘膜に触れないように気を付けるなど、薬の取り扱いに注意する必要がある」と注意喚起している。

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侵襲的⼈⼯呼吸を要したCOVID-19患者は退院半年後も健康状態が不良

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化してICUで長期にわたる侵襲的人口呼吸(IMV)を要した患者は、退院後6カ月経過しても、身体的な回復が十分でなく、不安やふさぎ込みといった精神症状も高率に認められることが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野の春日井大介氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に9月4日掲載された。 IMVの離脱後には身体的・精神的な後遺症が発生することがある。COVID-19急性期にIMVが施行された患者にもそのようなリスクのあることが、既に複数の研究によって明らかにされている。ただし、それらの研究の多くはICU退室または退院直後に評価した結果であり、かつ評価項目が限られており、COVID-19に対するIMV施行後の長期にわたる身体的・精神的健康への影響は不明。春日井氏らは、同大学医学部附属病院ICUに収容されたCOVID-19患者を対象とする前向き研究により、この点を検討した。 2021年3~9月に同院ICUにてIMVが24時間以上施行された患者から、18歳未満、気管挿管がなされなかった患者、ICU死亡などを除外した64人を研究対象とした。なお、酸素投与量が4L/分未満となった時点で、ICUからCOVID-19一般病棟に転棟されていた。64人全員についてICU退室時に身体機能と精神症状が評価された上、32人は退院時にもそれらが評価された。さらに全員に対して退院6カ月後に、健康状態を確認するためのアンケートを郵送し、42人から回答を得た。 解析対象者の主な特徴は、年齢中央値60歳(四分位範囲52~66)、男性85.9%で、ICU患者の重症度の指標であるSOFAは同10(8~11)、APACHE IIは21(19~24)、IMV施行期間は9日(6~15)だった。IMV施行期間9日以下/超で二分し比較すると、年齢、男性の割合、BMI、基礎疾患有病率、SOFA、APACHE II、および腎機能、炎症マーカー、凝固マーカーなどには有意差はなかった。ただし、IMV施行期間9日超の群(以下、長期IMV群)は、体外式膜型人工肺(ECMO)や気管切開の施行率と、肺のダメージを表すKL-6が高く、鎮静期間が長いという有意差があった。 ICU退室時点の状態を比較すると、長期IMV群は、MRCという全身の筋力を評価するスコアが低く(60点満点で51対60点)、握力が弱い(10.6対18.0kg)という有意な群間差が見られた。抑うつや痛み、倦怠感などの9種類の身体的・精神的症状を評価するESASというスコアには、有意差がなかった。 退院時の状態については、MRCスコアはICU退室時と同様に長期IMV群の方が有意に低かった(56対60点)。一方、ICU退室時には有意差がなかったESASスコアは、長期IMV群が高値で有意な群間差が認められた〔90点満点で17対4点(ESASはスコアが高いほど状態が良くないことを意味する)〕。 退院6カ月後の状態は、EQ-5D-5LというアンケートとEQ-VASという指標で評価。その結果、EQ-5D-5Lでは5項目の評価項目(移動の程度、身の回りの管理、普段の活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込み)のうち、痛み/不快感を除く4項目は全て長期IMV群の方が不良であることを示し、総合評価(0.025~1の範囲で評価)にも有意差が存在した〔0.82対0.89(P=0.023)〕。また、0~100の範囲で健康状態を自己評価するEQ-VASでも有意差が確認された〔80対90(P=0.046)〕。 著者らは、「本研究には、単一施設の研究でありサンプル数が十分でないといった限界点がある」とした上で、「COVID-19急性期に長期間IMVを要した患者は退院時に十分回復しておらず、さらに6カ月後にも健康状態の改善が不十分だった。重症COVID-19患者に対しては長期間のフォローアップと、積極的かつ学際的な治療アプローチが必要と考えられる」と述べている。

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認知症入院患者におけるせん妄の発生率とリスク因子

 入院中の認知症高齢者におけるせん妄の発生率および関連するリスク因子を特定するため、中国・中日友好病院のQifan Xiao氏らは本調査を実施した。その結果、入院中の認知症高齢者におけるせん妄の独立したリスク因子として、糖尿病、脳血管疾患、ビジュアルアナログスケール(VAS)スコア4以上、鎮静薬の使用、血中スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)レベル129U/mL未満が特定された。American Journal of Alzheimer's Disease and Other Dementias誌2023年1~12月号の報告。 対象は、2019年10月~2023年2月に総合病棟に入院した65歳以上の認知症患者157例。臨床データをレトロスペクティブに分析した。対象患者を、入院中のせん妄発症の有無により、せん妄群と非せん妄群に割り付けた。患者に関連する一般的な情報、VASスコア、血中CRPレベル、血中SODレベルを収集した。せん妄の潜在的なリスク因子の特定には単変量解析を用い、統計学的に有意な因子には多変量ロジスティック回帰分析を用いた。ソフトウェアR 4.03を用いて認知症高齢者におけるせん妄発症の予測グラフを構築し、モデルの検証を行った。 主な結果は以下のとおり。・認知症高齢者157例中、せん妄を経験した患者は42例であった。・多変量ロジスティック回帰分析では、入院中の認知症高齢者におけるせん妄の独立したリスク因子として、糖尿病、脳血管疾患、VASスコア4以上、鎮静薬の使用、血中SODレベル129U/mL未満が特定された。・5つのリスク因子に基づく予測ノモグラムをプロットしたROC曲線分析では、AUCが0.875(95%信頼区間:0.816~0.934)であった。・予測モデルはブートストラップ法で内部検証し、予測結果と実臨床結果はおおむね一致していることが確認された。・Hosmer-Lemeshow検定により、予測モデルの適合性と予測能力の高さが実証された。 著者らは「本予測モデルは、入院中の認知症高齢者におけるせん妄を高精度で予測可能であり、臨床応用する価値がある」と述べている。

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NSAIDなどを服用している高齢者、運転に注意

 認知機能が正常な高齢者の服用薬と、長期にわたる運転パフォーマンスとの関連を調査した前向きコホート研究の結果、抗うつ薬や睡眠導入薬、NSAIDsなどを服用していた高齢者は、非服用者と比べて時間の経過とともに運転パフォーマンスが有意に低下していたことを、米国・ワシントン大学のDavid B. Carr氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2023年9月29日号掲載の報告。 米国運輸省と米国道路交通安全局は、90種類以上の薬剤が高齢ドライバーの自動車事故と関連していることを報告している。しかし、自動車事故リスクの上昇が薬剤の副作用によるものなのか、治療中の疾患によるものなのか、ほかの薬剤や併存疾患によるものなのかを判断することは難しい。そこで研究グループは、認知機能が正常な高齢者において、特定の薬剤が路上試験における運転パフォーマンスと関連しているかどうかを前向きに調査した。 参加者は、有効な運転免許証を持ち、ベースライン時およびその後の来院時の臨床的認知症尺度のスコアが0(認知機能障害がない)で、臨床検査、神経心理学的検査、路上試験、投薬データが入手可能であった65歳以上の198人(平均年齢72.6[SD 4.6]歳、女性43.9%)であった。データは、2012年8月28日~2023年3月14日に収集され、2023年4月1~25日に分析された。 主要アウトカムは、Washington University Road Testによる路上試験の成績(合格または限界/不合格)であった。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、運転に支障を来す可能性のある薬剤の服用と、路上試験の成績との関連性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間5.7(SD 2.45)年で、70人(35%)が路上試験で限界/不合格の評価を受けた。・非服用者と比べて、すべての抗うつ薬(調整ハザード比[aHR]:2.82、95%信頼区間[CI]:1.69~4.71)、SSRI/SNRI(aHR:2.68、95%CI:1.54~4.64)、鎮静薬/睡眠導入薬(aHR:2.72、95%CI:1.41~5.22)、NSAIDs/アセトアミノフェン(aHR:2.72、95%CI:1.31~5.63)の服用は、路上試験で限界/不合格となるリスクの増加と有意に関連していた。・脂質異常症治療薬を服用している参加者は、非服用者に比べて限界/不合格となるリスクが低かった。・抗コリン薬や抗ヒスタミン薬と成績不良との間に統計学的に有意な関連は認められなかった。 これらの結果より、研究グループは「この前向きコホート研究では、特定の薬剤の服用が経時的な路上試験の運転パフォーマンスの低下と関連していた。臨床医はこれらの薬剤を処方する際には、この情報を考慮して患者に適宜カウンセリングを行うべきである」とまとめた。

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主要な精神疾患に伴う抑うつ症状に主観的な不眠が関与

 精神疾患の患者に高頻度で見られる抑うつ症状に、不眠が影響を及ぼしていることを表すデータが報告された。大うつ病性障害だけでなく、統合失調症や不安症などの主要な精神疾患の抑うつ症状が不眠と関連しており、そのことが疾患の重症度に影響を及ぼしている可能性も考えられるという。日本大学医学部精神医学系の中島英氏、金子宜之氏、鈴木正泰氏らの研究によるもので、「Frontiers in Psychiatry」に4月24日掲載された。 精神疾患で現れやすい抑うつ症状は、生活の質(QOL)や服薬アドヒアランスの低下、飲酒行動などにつながるだけでなく、自殺リスクの上昇との関連も示唆されている。一方、精神疾患に不眠が併存することが多く、大うつ病性障害(MDD)患者では不眠への介入によって抑うつ症状も改善することが報告されている。ただし、MDD以外の精神疾患での抑うつ症状と不眠の関連はよく分かっていない。MDDと同様にほかの精神疾患でも抑うつ症状と不眠が関連しているのであれば、不眠への介入によって抑うつ症状が改善し、予後に良好な影響が生じる可能性も考えられる。鈴木氏らはこの仮説に基づき、以下の検討を行った。 この研究は、うつ病の客観的評価法を確立するために行われた研究の患者データを用いて行われた。解析対象は、日本大学医学部附属板橋病院と滋賀医科大学医学部附属病院の2017年度の精神科外来・入院患者のうち、研究参加に同意し解析に必要なデータがそろっている144人。疾患の内訳は、MDDが71人、統合失調症25人、双極性障害22人、不安症26人。 不眠は、アテネ不眠尺度(AISスコア)を用いた主観的な評価(24点中6点以上を臨床的に有意な不眠と定義)、および睡眠脳波検査による客観的な評価によって判定した。抑うつ症状の評価には、ベック抑うつ質問票を用い、研究目的から睡眠に関する項目を除外したスコア(mBDIスコア)で評価した。mBDIスコアは高値であるほど抑うつ症状が強いと判定される。このほか、各疾患の症状評価に一般的に用いられているスケールによって重症度を評価した。 AISスコアで評価した臨床的に有意な主観的不眠は全体の66.4%であり、疾患別に見るとMDDでは77.1%、統合失調症で36.0%、双極性障害で63.6%、不安症で69.2%だった。不眠の有無でmBDIスコアを比較すると、以下のように4疾患のいずれも、不眠のある群の方が有意に高値だった。MDDでは25.6±10.7対12.1±6.9(P<0.001)、統合失調症では22.8±8.6対11.1±7.0(P=0.001)、双極性障害では28.6±9.5対14.5±7.4(P=0.009)、不安症では23.9±10.4対12.5±8.8(P=0.012)。 一方、睡眠脳波検査から客観的に不眠と判定された割合は78.0%だった。疾患別に客観的不眠の有無でmBDIスコアを比較した結果、統合失調症でのみ有意差が認められた(18.1±9.3対9.9±7.1、P=0.047)。 次に、抑うつ症状と各精神疾患の重症度の関連を検討した。すると、mBDIスコアと統合失調症の重症度(PANSSスコア)との間に、正の相関が認められた(r=0.52、P=0.011)。これは、抑うつ症状が重度であるほど、統合失調症の症状も重いことを意味する。同様に、mBDIスコアと不安症の状態不安(一過性の不安を評価するSTAI-Iスコア)との関係はr=0.63(P=0.001)、特性不安(不安を抱きやすい傾向を評価するSTAI-IIスコア)との関係はr=0.81(P=<0.001)であり、いずれも有意な正の相関が認められた。 著者らは以上の結果を、「MDDだけでなく主要な精神疾患の全てで、主観的な不眠と抑うつ症状との関連が認められた」とまとめるとともに、「不眠に焦点を当てた介入によって、精神疾患の予後を改善できる可能性があり、今後の研究が求められる。例えば、各精神疾患の治療において、鎮静作用を有する薬剤を選択することが予後改善につながるかもしれない」と述べている。 なお、不眠の客観的な評価よりも主観的な評価の方が、より多くの精神疾患の抑うつ症状に有意差が観察されたことに関連し、「病状に対する悲観的な認識が睡眠状態の過小評価につながった可能性が考えられるが、抑うつ症状に関連した睡眠障害を検出するという目的では、主観的評価の方が適しているのではないか」との考察を加えている。

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英語で「難しい天秤です」は?【1分★医療英語】第93回

第93回 英語で「難しい天秤です」は?I wonder if we should stop anticoagulation given recent GI bleeding.(最近あった消化管出血を考えると、抗凝固薬をやめるべきなのか悩んでいます) It is a difficult balancing act between risks and benefits.(それはリスクとベネフィットの難しい天秤ですよね)《例文1》The decision to proceed with the surgery requires a careful balancing act.(手術に進むかの決断には注意深いバランスが必要です)《例文2》We need to think about a delicate balancing act between pain control and sedation.(疼痛コントロールと鎮静の間で繊細な天秤を考える必要があります)《解説》医療現場では、相反する2つの事実を天秤に掛け、バランスを取らなければならないことはしばしばです。治療の益と害、手術をすべきかどうか。そんなときに、「対立する2つの間でバランスを取らなければならない=難しい天秤に掛けなければならない」という状況に置かれます。そういった際、患者さんへの説明、あるいは医療者同士の議論の場で有用な表現が、この“balancing act”です。“balancing act”は、本来は「曲芸における綱渡り」を意味する言葉だそうです。綱渡りは、絶妙なバランスを取りながら綱の上を渡る曲芸。医療者にも医療上の絶妙なバランスを求められることがありますが、そのようなバランスを取って決断していくことを“balancing act”という言葉で表現し、「両立させること」「バランスを取ること」という意味を持ちます。たとえば、冒頭の会話のシチュエーションはこのような感じです。心房細動の既往があり、血栓症のリスクが高い患者に消化管出血が起こった。血栓のリスクも、出血のリスクも高く、今後の抗凝固薬をどうすべきか…。この血栓リスク、出血リスクの両者は難しい天秤だと思いますが、それらを慎重に測りながら、どこかに線引きをして決断をしなければなりません。そんなシチュエーションを表現するのに、この“It is a balancing act”は最適な表現です。一般英会話の教科書で見ることは少ないかもしれませんが、医療現場ではよく登場する表現ですので、そのまま覚えてしまうとよいでしょう。講師紹介

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手術前はオゼンピックやウゴービの使用を控えるべし

 米国麻酔科学会(ASA)が6月29日、話題の肥満症治療薬であるオゼンピックやウゴービ(いずれも一般名はセマグルチド)の使用者で、全身麻酔を伴う手術を受ける予定のある人は、手術前日、または手術当日にこれらの薬剤の使用を控えるべきだとする指針を提示した。 糖尿病治療薬として知られるオゼンピックやウゴービを含むGLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌を促すとともに食欲抑制効果を有することから、肥満症治療薬としても注目を浴びている。GLP-1受容体作動薬には、胃の消化運動を抑制して摂取した食べ物をより長く胃の中にとどめておく作用がある。そのため、この薬剤を使用すると、食べる量が減り、それが減量につながる。 しかし、全身麻酔や深鎮静に際しては、胃の中に残存している食べ物は患者の嘔吐リスクを増大させる。ASA会長のMichael Champeau氏は、「胃の中に食べ物が残っていないはずなのに、手術の直前に患者が嘔吐したことが報告されている。そのような事例報告や症例報告を耳にしてすぐに、われわれは、GLP-1受容体作動薬の作用や効果に思い当たった」と話す。 ASAは、GLP-1受容体作動薬を使用している人には、手術前に使用を中止するよう勧めている。例えば、同薬剤を1日1回使用している場合には、手術当日の朝に1日分の使用を、週に1回使用している場合には、手術が終わるまで使用を控えるべきだという。「GLP-1受容体作動薬を毎週日曜日に使用している人が水曜日に手術を受けるのなら、手術前の日曜日には使用してはならない。週1回の使用なら、少なくとも手術の前の週から中止しなければならない」とChampeau氏は補足している。 患者が手術前日に夕食を控えるよう指示されるのには理由があるという。Champeau氏は、「麻酔薬が最初に発見された1840年代には、エーテルで眠らせた患者が嘔吐し、肺に吸い込まれた吐瀉物がひどい肺炎を起こしたり、患者が死んでしまうことが何度も起きた。当時、胃の中に食べ物が残っていると、このようなことが起こり得ることを、誰も知らなかったからだ。これは、全身麻酔の主要な合併症であり、その発生を最小限にとどめるための方法を見つけ出さなければならないことが、非常に早い段階で明らかになった」と説明する。 以上のような理由から、麻酔科医は手術前の絶食時間にこだわる。Champeau氏は、「われわれ麻酔科医は、常に人々をいら立たせているといっても過言ではない。患者が与えられた指導に従わず、手術当日の朝、サンドイッチやトースト、卵などを食べてから手術に臨むと、患者と外科医の双方をいら立たせることになる。なぜなら、基本的にはそうした患者には手術を開始せず、決められた時間、待たせることにしているからだ」と話す。 Champeau氏は、糖尿病をコントロールするためにGLP-1受容体作動薬を使用している患者について、「同薬剤の使用を所定の期間を超えて控える場合には、別の糖尿病治療薬に変更して糖尿病をコントロールしなければならないため、糖尿病を管理している医師のところに行く必要があるだろう」と説明している。 なお、米ジョンズ・ホプキンス大学によれば、GLP-1受容体作動薬にはオゼンピックやウゴービの他に、デュラグルチド(商品名トルリシティ)、エキセナチド(商品名バイエッタ)、リラグルチド(商品名ビクトーザ)、リキシセナチド(アドリキシン、日本での販売名はリキスミア)などがある。

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産後7日以内のオピオイド処方は乳児の短期予後に悪影響なし(解説:前田裕斗氏)

 産後の疼痛に対するオピオイド利用は、母乳に移行することで乳児に鎮静や呼吸抑制などの有害事象を及ぼす可能性があり、これまでにいくつかの報告がなされていた。一方、母乳に移行する量はごく少量であることがわかっており、本当に母体のオピオイド利用が乳児に対して有害事象をもたらすのか、短期的影響について確かめたのが本論文である。 出産後7日以内のオピオイド処方と、乳児の30日以内の有害事象の関係が検討された。結果として、主要アウトカムである再入院率に差は認められず、オピオイド処方群で救急受診は有意に高かったものの、乳児への有害事象はいずれについても両群で差を認めなかったことから、母体へのオピオイド処方は乳児に明らかな有害事象をもたらさないと結論付けられた。 研究手法は傾向スコアマッチングを用いた後ろ向きコホート研究であり、サイズも十分大きく、マッチング後の両群のバランスも取れていることから、今回計測されたTable 1に記載がある因子に関するバイアスは除けている。結果に信頼性のある研究ではあるが、本論文のDiscussionにもあるように、カナダ・オンタリオ州ではオピオイド(コデイン)が一般に購入できるとのことで、非オピオイド群でのオピオイド使用が実際には含まれていた可能性があり、他国で同様の研究が求められる。 日本では産後の疼痛にオピオイドを処方することはまずなく、処方のハードルも高いため本研究の結果を適用する機会は少ない。しかし、今回の研究結果から示されたように、オピオイドの処方が乳児に悪影響を及ぼさないのであれば、今後、日本でも産後疼痛の切り札としてオピオイドを使用する日が来るかもしれない。産科の臨床現場で誰しも一度は経験したことがあるような、疼痛が強く離床が全く進まない、育児技術の習得が大幅に遅れる例、特に喘息などでNSAIDが利用できない患者に対してオピオイドはよい適応となるだろう。

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不眠症治療について日本の医師はどう考えているか

 ベンゾジアゼピンや非ベンゾジアゼピンは、安全性への懸念や新規催眠鎮静薬(オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬)の承認にもかかわらず、依然として広く用いられている。秋田大学の竹島 正浩氏らは、日本の医師を対象に処方頻度の高い催眠鎮静薬およびその選択理由を調査した。その結果、多くの医師は、オレキシン受容体拮抗薬が効果的かつ安全性が良好な薬剤であると認識していたが、安全性よりも有効性を重要視する医師においては、ベンゾジアゼピンや非ベンゾジアゼピンを選択することが確認された。Frontiers in Psychiatry誌2023年2月14日号の報告。 2021年10月~2022年2月に、日本プライマリ・ケア連合学会、全日本病院協会、日本精神神経科診療所協会に所属する医師962人を対象にアンケート調査を実施した。調査内容には、処方頻度の高い催眠鎮静薬およびその選択理由を含めた。 主な結果は以下のとおり。・処方頻度の高い催眠鎮静薬は、オレキシン受容体拮抗薬(84.3%)、非ベンゾジアゼピン(75.4%)、メラトニン受容体作動薬(57.1%)、ベンゾジアゼピン(54.3%)の順であった。・ロジスティック回帰分析では、オレキシン受容体拮抗薬の処方頻度の高い医師は、そうでない医師と比較し、有効性(オッズ比[OR]:1.60、95%信頼区間[CI]:1.01~2.54、p=0.044)および安全性(OR:4.52、95%CI:2.99~6.84、p<0.001)への関心が高かった。・メラトニン受容体作動薬の処方頻度の高い医師は、そうでない医師と比較し、安全性への関心が高かった(OR:2.48、95%CI:1.77~3.46、p<0.001)。・非ベンゾジアゼピンの処方頻度の高い医師は、そうでない医師と比較し、有効性をより重要視していた(OR:2.43、95%CI:1.62~3.67、p<0.001)。・ベンゾジアゼピンの処方頻度の高い医師は、そうでない医師と比較し、有効性に最も関心が高く(OR:4.19、95%CI:2.91~6.04、p<0.001)、安全性にはあまり関心を持っていなかった(OR:0.25、95%CI:0.16~0.39、p<0.001)。・多くの医師は、オレキシン受容体拮抗薬が効果的かつ安全性が良好な薬剤であると認識していたが、安全性よりも有効性を重要視する医師においては、ベンゾジアゼピンや非ベンゾジアゼピンを選択することが確認された。

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抗精神病薬とプロラクチンレベル上昇が骨折リスクに及ぼす影響

 抗精神病薬による治療が必要な患者は、骨粗鬆症関連の脆弱性骨折を含む骨折リスクが高いといわれている。これには、人口統計学的、疾患関連、治療関連の因子が関連していると考えられる。インド・National Institute of Mental Health and NeurosciencesのChittaranjan Andrade氏は、抗精神病薬治療と骨折リスクとの関連を調査し、プロラクチンレベルが骨折リスクに及ぼす影響について、検討を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2023年1月30日号掲載の報告。 主な結果は以下のとおり。・たとえば、認知症患者では、認知機能低下や精神運動興奮により転倒リスクが高く、統合失調症患者では、身体的に落ち着きがない、身体攻撃に関連する外傷リスクが高く、抗精神病薬服用患者では鎮静、精神運動興奮、動作緩慢、起立性低血圧に関連する転倒リスクが高くなる。・抗精神病薬は、長期にわたる高プロラクチン血症により生じる骨粗鬆症に関連する骨折リスクを高める可能性がある。・高齢者中心で実施された36件の観察研究のメタ解析では、抗精神病薬の使用が大腿骨近位部骨折リスクおよび骨折リスクの増加と関連していることが示唆された。この結果は、ほぼすべてのサブグループ解析でも同様であった。・適応疾患と疾患重症度の交絡因子で調整した観察研究では、統合失調症患者の脆弱性骨折は、1日投与量および累積投与量が多く、治療期間が長い場合に見られ、プロラクチンレベルを維持する抗精神病薬よりも、上昇させる抗精神病薬を使用した場合との関連が認められた。また、プロラクチンレベル上昇リスクの高い抗精神病薬を使用している患者では、アリピプラゾール併用により保護的に作用することが示唆された。・骨折の絶対リスクは不明だが、患者の年齢、性別、抗精神病薬の使用目的、抗精神病薬の特徴(鎮静、精神運動興奮、動作緩慢、起立性低血圧に関連するリスク)、1日投与量、抗精神病薬治療期間、ベースライン時の骨折リスク、その他のリスク因子により異なると考えられる。・社会人口統計学的、臨床的、治療に関連するリスク因子に関連する転倒および骨折リスクは、患者個々に評価し、リスクが特定された場合には、リスク軽減策を検討する必要がある。・プロラクチンレベルの上昇リスクの高い抗精神病薬による長期的な治療が必要な場合、プロラクチンレベルをモニタリングし、必要に応じてプロラクチンレベルを低下させる治療を検討する必要がある。・骨粗鬆症が認められた場合には、脆弱性骨折を予防するための調査やマネジメントが求められる。

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服薬拒否の強いBPSD患者に適応外でブロナンセリンテープを提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第52回

 今回は、環境変化により不穏となり、服薬拒否で経口投与が困難となった認知症患者さんについてです。ブロナンセリン貼付薬を導入することで、徐々に興奮や幻覚症状などが改善し、状態を安定させることができました。患者情報90歳、男性(施設入居)基礎疾患アルツハイマー型認知症、胃がん(積極的治療は希望せず)、鉄欠乏性貧血、前立腺がん(尿閉があり尿道カテーテル留置)、腎後性慢性腎不全介護度要介護1服薬管理施設職員が管理処方内容1.ランソプラゾールOD錠15mg 1錠 分1 朝食後2.クエン酸第一鉄錠50mg 4錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、施設入居の際に環境の変化から不穏になり、興奮や幻覚症状が現れ、帰宅願望も強くみられました。また、尿道バルーンが留置されていましたが、安静を守れず自己抜去するリスクがありました。入居当日に初回の訪問診療があったので、同行することにしました。診察前に看護師と患者さんの状況を確認しようとしたところ、患者さんはすでにベッドから転落しており、尿道カテーテルを引っ張って抜去する寸前でした。訴えを傾聴すると、「とんでもない牢獄に押し込まれた!」と大変興奮して落ちつかない状況でした。服薬・食事・移乗介助しようにも暴言と暴力行為があり介護抵抗が強かったため、看護師から不穏時の頓服薬の要望がありました。処方提案現状を踏まえると、認知症の行動・心理症状(BPSD)が強く、安静を維持できないことから治療の見直しが必要と考えました。とくに服薬拒否が強いため外用薬による治療コントロールが望ましいように思いました。そこで、抗精神病薬のブロナンセリンテープ20mgの導入を医師に提案することを検討しました。ブロナンセリンテープは、1日1回の長時間作用型の薬剤であり、抗幻覚作用も十分で、非鎮静系であることから認知機能や代謝系への影響が少ないとされている薬剤です1)。また、貼付薬ですので、内服薬の拒否・困難なケースでも安定した血中濃度を維持することができ、このような患者さんでは使いやすい薬剤です。しかし、BPSDに対する治療は保険適用外になるため、患者背景や治療適応について多職種と十分なコンセンサスを得る必要があります。<ブロナンセリンテープの提案理由>(1)ブロナンセリンテープは薬理学的プロファイルとして、ドパミンD2、D3受容体および5HT2A受容体への選択的拮抗作用を示し、それ以外のアドレナリンα1、5HT2c、ヒスタミンH1、ムスカリンM2受容体への親和性をほとんど持たない。そのため眠気、過鎮静、起立性低血圧、ふらつきなどの有害事象リスクが低いのが特徴であり2)、この患者への妥当性があると考えた。(2)貼付薬であるため、a.消化管吸収の影響による初回通過効果を回避、b.長時間作用型として安定した血中濃度を維持、c.嚥下困難、服薬拒否、経口摂取不可の患者にも投与可能、d.目視での服薬確認が容易、などの特徴がある2)。(3)有害事象としては、貼付部位の皮膚掻痒感、紅斑などに注意が必要だが、施設職員の協力を得てコントロールは可能と考えた。初診と経過初診が始まり、医師の状況考察からも環境調整のみでは対応が難しく、短期的にでも薬剤調整が必要という判断になりました。医師よりリスペリドン内用液はどうかと相談があったので、服薬拒否も介護抵抗も強く、安定した治療効果が必要なことを考えるとブロナンセリンテープ20mgがよいのではないかと提案しました。医師の承認の上、それでも発作的に症状が出るときは、リスペリドン0.5mgを頓用するという指示でまとまりました。すぐに医師より、患者および家族に今の心理状況や状態、ブロナンセリンテープの必要性の説明があり、承認が得られたため、当日届き次第の開始となりました。投与開始から3日目までは頓用のリスペリドンを使いながらですが徐々に興奮や幻覚症状などが改善し、7日目には穏やかな様子で皮膚症状もなく介護抵抗などもなくなりました。現在はリスペリドンの内服は終了し、ブロナンセリンテープ20mg単独で症状がコントロールできています。1)ブロナンセリンテープインタビューフォーム2)岩崎真三ほか. 最新精神医学, 2022;27:53-60.

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統合失調症・うつ病の頓服を含む退院時処方~EGUIDEプロジェクト

 さまざまなガイドラインにおいて、統合失調症やうつ病の薬物治療では、単剤療法が推奨されている。定期処方による治療はいくつかの研究で報告されているが、頓服使用を含む薬物療法に関する報告は十分ではない。北里大学の姜 善貴氏らは、頓服使用を含む薬物療法の内容を評価し、定期処方との関連を明らかにするため、本研究を実施した。その結果、向精神薬の頓服使用を考慮すると、統合失調症およびうつ病に対する退院時の薬物治療において単剤療法率および他の向精神薬未使用率は減少することが報告された。著者らは、高い単剤療法率および定期処方での他の向精神薬の未使用は、向精神薬の頓服使用の減少につながる可能性があるとしている。Annals of General Psychiatry誌2022年12月26日号の報告。 「精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)」のデータを用いて、退院時における薬物カテゴリごとの向精神薬の頓服使用の有無を調査し、その割合を診断疾患別に評価した。統合失調症患者における退院時の抗精神病薬単剤療法率および他の向精神薬未使用率、うつ病患者における退院時の抗うつ薬単剤療法率および他の向精神薬未使用率を、向精神薬の頓服使用を含む定期処方ごとに医療の質指標(QI)として算出した。各診断疾患における定期処方のQI値、定期処方と頓服使用を含む処方のQI比を算出するため、スピアマン順位相関係数を用いた。 主な結果は以下のとおり。・退院時の向精神薬の頓服使用率は、統合失調症で28.7%、うつ病で30.4%であり、診断疾患による有意な差は認められなかった。・薬物カテゴリごとの頓服使用率は、統合失調症では抗精神病薬と抗パーキンソン薬が有意に高く、うつ病では抗不安薬と催眠鎮静薬が有意に高かった。・QIは、両疾患ともに、定期処方よりも頓服使用を含む退院時処方で低かった。・定期処方のQI値と、定期処方と頓服使用を含む処方のQI比との間に、正の相関が認められた。

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せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです【非専門医のための緩和ケアTips】第37回

第37回 せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです「せん妄」って緩和ケアに限らず、どの分野でも遭遇しますよね。でも、緩和ケアではとくにせん妄の対応って大切なのです。今回は緩和ケアで必ず対応が必要になる、せん妄のお話です。今日の質問看取りにも対応する在宅医療を行っています。先日、終末期の患者さんが興奮した様子となり、家族が驚いてしまいました。「在宅療養の継続は難しい」と判断して緊急入院となりました。もともと家族は「自宅で最後まで過ごさせてあげたい」と言っており、「本当に入院してよかったのか」と感じます。こういった場合、どのように対応しますか?在宅緩和ケアでは、しばしばこういった難しい状況に直面します。ご質問からの推測になりますが、終末期せん妄の状態だったのでは、と感じます。入院や在宅で緩和ケアを実践していると、よく遭遇する徴候です。皆さんは終末期患者さんがどの程度、せん妄を発症するかご存じでしょうか? データにもよるのですが、「がん患者が亡くなる数日前には88%に発症する」と言われています。これ、すごく高頻度ですよね。なので、日単位の予後のがん患者さんに意識の変容が生じた場合は、せん妄である可能性が非常に高いのです。せん妄に対しては重要な点がたくさんあるのですが、その一つが「気付く」ことです。今回のように興奮が強いタイプのせん妄は気付きやすいのですが、活気がないように見えるタイプのせん妄については、気付きにくいことが知られています。せん妄に対しての介入は、まずは「原因となっている身体疾患の中で改善できるものがないか」を考えます。たとえば、高カルシウム血症のような電解質異常がせん妄を助長しているのであれば、補正を検討します。ただ、予後日単位の状況だと、現実的になかなか改善が難しいことが多いですね。薬物療法としては、ハロペリドール(商品名:セレネース)などの抗精神病薬を用います。それでも興奮が強い時には、より鎮静作用の強い薬剤を用いることもあります。さらに、せん妄は家族のつらさも助長します。「大切な家族が、人が変わったようになってしまった…」というのは、せん妄患者の家族からよく聞かれる嘆きです。死別が近いことによる悲嘆の中にある家族にとって、さらにつらさを増す状況であることは想像するに難くありません。そうした意味では、せん妄は在宅療養の継続が難しくなる徴候の一つです。興奮の強いせん妄の場合、私自身も薬物療法をしながら、入院の相談をすることがよくあります。近年、せん妄に対しては書籍やガイドラインが増えました。それだけ医療現場では切実な問題なのでしょう。どれもお薦めなのですが、日本サイコオンコロジー学会の「がん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版」(金原出版)が2022年6月に改訂されていますので、まずはこれから読んでみてはいかがでしょうか?今回のTips今回のTipsせん妄への対応は、緩和ケアの分野でも重要なスキルです。

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医師のがん検診受診状況は?/1,000人アンケート

 定番ものから自費で受ける最先端のものまで、検査の選択肢が多様化しているがん検診。CareNet.comが行った『がん検診、医師はどの検査を受けている?/医師1,000人アンケート』では、40~60代の会員医師1,000人を対象に、男女別、年代別にがん検診の受診状況や、検査に関する意見を聞いた。その結果、主ながん種別に受ける割合の多い検査が明らかとなったほか、今後受けたい検査、がん検診に感じる負担など、さまざまな角度から意見が寄せられた(2022年8月26~31日実施)。40代男性医師の約半数、がん検診を受けていない Q1「直近の健康診断や人間ドックで、どのがん検査を受けましたか?(複数選択)」では、男性ではどの年代でも、胃がん(40代41%、50代52%、60代59%)、大腸がん(同28%、同41%、同50%)の順に検査を受けた割合が多かった。「がん検診を受けていない」と回答した人は年代で大きく差があり、40代が47%、50代が31%、60代が23%となっており、40代男性の約半数が、がん検診を受けていないことが明らかになった。 女性では、40代と50代では、ともに乳がん(40代53%、50代47%)の検査を受けた割合が最も多く、次いで40代では子宮頸がん(52%)、胃がん(45%)、50 代では胃がん(45%)、子宮頸がん(44%)の順に多かった。60代は、胃がんが最多(64%)で、次いで乳がん(52%)、子宮頸がん(42%)の順となっている。「がん検診を受けていない」と回答した人は、どの年代も20%台で大きな差はなかった。女性の場合、乳がんや子宮頸がんといった若年層でも比較的リスクが高いとされるがんが多いことが、この結果に影響しているかもしれない。胃がん検診で最も多いのは経口内視鏡検査 Q2「胃がん検診の際に受けた検査はどれですか?(複数選択)」では、男女どの年代も経口内視鏡検査を受けた割合が最も多かった(男性29%、女性31%)。自由回答で、胃がん検診に対して寄せられたコメントとして、バリウムX線検査や内視鏡検査について、以下のようなものがあった。・バリウムではなくて内視鏡をファーストチョイスにしてほしい。(心臓血管外科、40代、女性)・胃のバリウム造影はあまり意味がないのではないでしょうか。(泌尿器科、40代、男性)・経口内視鏡の苦痛の軽減方法は鎮静以外にないものか、今後の技術の進歩に期待。(内科、60代、女性)・胃カメラは経鼻が入らないので、さらに細径の内視鏡開発を望みます。(泌尿器科、50代、男性)コメントが多く寄せられた「乳がん検診の痛み」 Q3では、男女で別の質問項目を設けた。男性に対しては前立腺がんについて聞いたところ、年代が上がるにつれて検査を受けた割合が増加し、40代ではわずか9%だが、50代では33%、60代では48%がPSA検査を受けていた。 女性に対しては乳がんについて聞いた。マンモグラフィ検査を受けた割合は各年代とも50%を超えており、超音波検査は30%前後であった。乳がん検診の痛みに対する以下のようなコメントが10件ほど寄せられた。・マンモグラフィはもっと痛みの少ない撮影法が開発されてほしい。毎回憂うつです。(眼科、40代、女性)・乳がん検診はMRIが最適だろうに、なぜ広がらないのかわかりません。そもそもマンモグラフィは非常に痛みが強く、その割に感度特異度とも不十分で改善点ありまくりなのに、まったく改善する見込みなし。(内科、50代、女性)・マンモグラフィが痛すぎるので、それに代わる痛くない検査がいい。(精神科、50代、女性)自費で受けた検査、今後受けたい検査 Q5では、自費で受けたことがある検査について聞いた。最も多かったのは腫瘍マーカー検査で、男女ともにどの年代も10%以上あり、最多の60代男性では24%だった。続いて脳ドックが男女ともに各年代10%前後であった。 Q6の自由回答のコメントでは、今まで受けたことはないが今後積極的に受けたい検査として、下部消化管内視鏡検査を挙げた人が14人、がん遺伝子検査が11人、がん線虫検査が10人、PET検査が9人、腫瘍マーカー検査が3人だった。ただし、線虫検査や腫瘍マーカー検査については、検査の精度に対して以下のような懐疑的な意見もいくつか寄せられた。・線虫検査などは偽陰性が問題だと思う。(泌尿器科、40代、女性)・腫瘍マーカーで早期発見は無理で、普段偽陽性ばかり見ているので、しっかりと有用性の評価をしないといけないと思う。(呼吸器内科、50代、男性)コロナ禍で検診を受けにくい状況も がん検診を受けにくい理由として、忙しくて受ける余裕がないという意見が多数寄せられた。具体的には、内視鏡検査や婦人科がんの検診は予約が取りづらいといったことや、週末に受診できる施設が少ないといった理由のほか、コロナ禍で検診を受けにくくなったという声も複数上がった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。がん検診、医師はどの検査を受けている?/医師1,000人アンケート

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国内初、遅発性ジスキネジアの不随意運動を改善する「ジスバルカプセル40mg」【下平博士のDIノート】第103回

国内初、遅発性ジスキネジアの不随意運動を改善する「ジスバルカプセル40mg」今回は、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害剤「バルベナジントシル酸塩カプセル(商品名:ジスバルカプセル40mg、製造販売元:田辺三菱製薬)」を紹介します。本剤は、わが国で初めて遅発性ジスキネジア治療薬として承認されました。これまで治療法がなかった遅発性ジスキネジアによる不随意運動の改善効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、遅発性ジスキネジアの適応で、2022年3月28日に承認され、同年6月1日に発売されました。なお、「遅発性ジスキネジア」の診断は、米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』および『統合失調症治療ガイドライン第3版』が参考とされます。<用法・用量>通常、成人にはバルベナジンとして1日1回40mgを経口投与します。なお、症状により1日1回80mgを超えない範囲で適宜増減できます。増量については、1日1回40mgを1週間以上投与し、忍容性が確認され、効果不十分な場合にのみ検討します。<安全性>遅発性ジスキネジア患者を対象とした国内第II/III相試験で認められた主な副作用は、傾眠、流涎過多、アカシジア、倦怠感などでした。重大な副作用として、傾眠(16.9%)、流涎過多(11.2%)、振戦(7.2%)、アカシジア(6.8%)、パーキンソニズム(2.4%)、錐体外路障害(2.0%)、鎮静、運動緩慢(いずれも1.2%)、落ち着きのなさ、姿勢異常(いずれも0.8%)、重篤な発疹、ジストニア、表情減少、筋固縮、筋骨格硬直、歩行障害、突進性歩行、運動障害(いずれも0.4%)、悪性症候群、蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫(いずれも頻度不明)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、過剰になった脳内の神経刺激伝達を抑えることで、自分の意志とは無関係に体が動いてしまう、または無意識に口や舌を動かしてしまうなどの症状が出る遅発性ジスキネジアを改善します。2.眠くなったり、ふらついたりすることがあるので、自動車の運転などの危険を伴う機械の操作は行わないでください。3.抑うつや不安などの精神症状が現れることがあるので、体調の変化に気が付いた場合には連絡してください。4.飲み合わせに注意が必要な薬があるため、ほかの薬を使用している場合や新しい薬を使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。5.不整脈が起きていないか確認するために、心電図検査が行われることがあります。<Shimo's eyes>画像:重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚労省)より本剤は、わが国初の遅発性ジスキネジア治療薬であり、1日1回服用の経口剤です。遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬などを長期間服用することで起こる不随意運動を特徴とした神経障害であり、ドパミン受容体の感受性増加などが原因と考えられています。症状は、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせるなど、顔面に主に現れますが、手や足が動いてしまうなど四肢や体幹部でも認められます。また、重症になれば嚥下障害や呼吸困難を引き起こす可能性もあります。本剤は、神経終末に存在する小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)を阻害することにより、ドパミンなど神経伝達物質のシナプス前小胞への取り込みを減らし、不随意運動の発生に関わるドパミン神経系の機能を正常化させます。遅発性ジスキネジアを有する統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害または抑うつ障害の患者を対象とした国内第II/III相プラセボ対照二重盲検比較試験(MT-5199-J02)において、本剤40mg/日または80mg/日を投与した結果、両群で用量依存的な異常不随意運動の改善効果が認められました。本剤は重症度を問わず処方が可能です。ただし、遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬の長期使用に関連して発現するとされているため、原因薬剤の減量または中止を検討する必要があります。したがって、本剤の投与対象となるのは抗精神病薬など原因薬剤の減量や中止ができない、あるいは減量や中止を行っても遅発性ジスキネジアが改善しない患者さんとなります。投与に関しては相互作用が多いため併用薬の厳格なチェックが欠かせません。本剤はプロドラッグであり、未変化体はP糖タンパク質(P-gp)を阻害します。また、体内では主にCYP3Aによって代謝された後、活性代謝物は主にCYP2D6およびCYP3Aで代謝されます。本剤とパロキセチンを併用したとき、未変化体の変化は認められませんでしたが、活性代謝産物のCmaxおよびAUCはそれぞれ1.4倍、1.9倍に上昇したことが報告されています。本剤は、強いCYP2D6阻害剤(パロキセチン、キニジン、ダコミチニブ等)や、強いCYP3A阻害剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、エリスロマイシン等)を使用中、または遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者さんなどでは、投与量を1日40mgから増量しないこととされています。なお、これらの条件が2つ以上重なる場合は、活性代謝物の血中濃度が上昇し、過度なQT延長などの副作用を発現する恐れがあるため、本剤との併用は避けることとされています。一方、中程度以上のCYP3A誘導剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等)を使用中の場合には、作用が弱まることを考慮して投与量を検討します。また、P-gpの基質薬剤(ジゴキシン、アリスキレン、ダビガトラン等)と併用するとこれらの血中濃度が上昇する恐れがあるので注意しましょう。中等度、あるいは高度の肝機能障害患者についても投与量に制限がかけられています。活性代謝産物の血中濃度が上昇した場合にはQT延長を引き起こす恐れがあるので、遺伝的にCYP2D6の活性が欠損している患者さん、QT延長を起こしやすい患者さん、相互作用に注意すべき薬剤を併用している患者さんでは定期的に心電図検査を行う必要があります。これまで、遅発性ジスキネジアについては原因薬の中止や他薬剤への変更に代わる対処法がありませんでした。よって、本剤の臨床的意義は高いと考えられます。なお、本剤は食事の影響を受けやすく、空腹時に服用すると食後投与と比較して血中濃度が上昇する恐れがあるため、副作用モニタリングと共に服用タイミングについても順守できているか確認しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ジスバルカプセル40mg

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高齢患者の「薬が飲めなくなった」という状況に使えるのは?【非専門医のための緩和ケアTips】第30回

第30回 高齢患者の「薬が飲めなくなった」という状況に使えるのは?緩和ケアを実践していると、よく遭遇するのが「薬が飲めなくなった」という状況です。こんなとき、皆さんはどうしていますか? 症状緩和に必要な薬剤の投与を継続するための強い味方、皮下投与に関するお話です。今日の質問終末期、多くの患者さんは内服が難しくなります。がん疼痛などでオピオイドを使用していると、静脈投与に切り替えようと思っても末梢ルートが取れないことも多いです。貼付剤もあるのは知っていますが、レスキューが必要な場合、どのように対応すればよいのでしょうか?今回いただいた質問のような状況は、非常に多く経験します。終末期であれば内服ができなくなるのは当然のことです。また、がん患者や高齢者では、抗がん剤の影響や皮膚の脆弱性によって末梢ルートの確保が難しいこともよくあります。何度もルート確保に失敗すると、苦痛緩和のために行う処置が苦痛の原因になってしまう……。避けたい事態です。では、そんな時にどのようにすればよいのでしょうか? 緩和ケア領域では、しばしば皮下投与が行われます。今回の状況であれば、モルヒネやオキシコドンの注射薬がありますので、それらの持続皮下投与が使えます。皮下投与は静脈ルートの確保が必要ないので、手技的には非常に簡便です。認知症高齢者やせん妄患者が自己抜去してしまった際も、出血が少ないので安全です。また、投与可能な薬剤もオピオイドだけでなく、ハロペリドールや腸閉塞に対して使用するオクトレオチド、セフトリアキソンといった一部の抗菌薬も皮下投与が可能です。皮下投与には注意が必要な面もあります。一つは、静脈投与に比べて効果発現までに時間がかかる、という点です。非常に強い症状に対して急速な鎮静が必要、といった場合には向きません。また、皮下投与が可能な薬剤の多くは適応外使用となります。「経験上、安全かつ有効な投与が可能と見なされる」という位置づけで、この点は理解しておく必要があります。このあたりは皮下投与に限らず、緩和ケア領域で使用する薬剤では常に出てくる懸念です。オピオイドを皮下投与で行う場合は、少量ずつ持続投与します。そのために皮下投与用のデバイスが必要となり、多くの施設の緩和ケア病棟で利用されています。在宅医療の場合には、持続皮下投与のためのシリンジポンプが必要です。皮下投与が使えると、緩和ケアの対応の幅がぐっと広がります。デバイスが必要にはなりますが、ぜひ活用してください。今回のTips今回のTips内服が難しくなった患者さんには、皮下投与が有効です。

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第111回 患者に聞かれたら、何をもって新型コロナ収束と答える?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の全国での新規陽性者報告は、ゴールデン・ウイーク直後にごく一時的に増加局面に入ったものの、今週前半には2万人台前半まで減少してきた。この数字は今年1月7日に新型インフルエンザ等特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置(まん防)」が導入された直後の水準である。背景には2月中旬~3月中旬にかけて新型コロナワクチンの3回目接種が加速し、現在では全人口の約6割が3回接種を完了済みであること、まん防の発出から5月末までに延べ約677万人が感染したという幸と不幸の両面から「集団免疫」を確立した結果と見るのが妥当だろう。そして、最近では日本政府による外国人の入国制限緩和措置や諸外国での同様の措置により、国内外をまたぐ人流も増加しつつある。6月から観光ビザ発給を再開した東京都港区の韓国大使館領事部前には初日の開館前に1,000人を超える申請者が行列を作ったという。そんな最中、周囲からは「これで新型コロナのパンデミックは収束するのか?」とよく聞かれるようになった。正直、これは非常に答えにくい。医療従事者の皆さんは同じ質問にどう答えるのだろうか? 私自身は「今年いっぱいはまだ警戒する必要があるのではないか」と答えるようにしている。理由は極めて単純である。まず、現在の感染状況の鎮静化に一定の効果があっただろうとされるのが新型コロナワクチンの3回目接種である。すでに各種研究で報告されているように、オミクロン株に対するワクチン3回接種直後の発症予防の有効率は60~70%台。そしてこの効果は一部研究では約5ヵ月でほとんどなくなると言われている。さらに高齢者や基礎疾患保有者を対象に始まった4回目の追加接種の有効率は、発症予防で55%、重症化予防で62%との報告があり、当然ながらこの有効率も経時的に減衰していく。これらの報告から推察するに、3回目接種の実施件数のピークが今年3月であったから、その効果がほぼなくなるのは8月くらいだろう。また、4回目接種については、高齢者などの3回目接種のピークが2~3月、4回目接種の適応がそこから5ヵ月以上となるため、4回目接種件数のピークは7~8月ぐらいになるだろう。4回目接種後の抗体価の変化が、2回目や3回目と同様に半年程度で低下すると仮定した場合、そのタイミングは年末年始あたりとなる。このように考えると、今後の判断の山は今秋から年末にかけてだろう。この時点で医療ひっ迫や社会経済状況に大きな影響を与える感染動向にならなければひとまずは収束へ向けた大きな壁を一つ越えたと言える。もっとも最終的な感染の収束、すなわち社会に過度な負荷がなく新型コロナウイルスと共存できる状況と考えると、もう少し先になるだろう。それを決定付けるのは重症化リスクの有無にかかわらず使える汎用治療薬とより効果持続期間の長いワクチンの登場である。あとはこの間に厄介な新規変異株が登場しないことを願うのみである。

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第104回 国産コロナ治療薬のネガティブ情報が流出、策士の仕業か!?

なんとも騒がしい。そんなに騒ぐべきことなのか? 何のことかというと以下の記事だ。「コロナの新飲み薬、動物実験で胎児に異常 塩野義『妊婦への使用は推奨されない』」(東京新聞)新聞記事を見ればわかるが、大元は共同通信の記事である。塩野義製薬が2月に条件付き早期承認制度で申請を行った新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の経口薬で3CLプロテアーゼ阻害薬(開発番号:S-217622)の動物実験で、催奇形性が確認されたという内容だ。その後の続報でこれが妊娠ウサギで起きていたことがわかっている。そしてこの件を報道各社が一斉に報じたことで13日に塩野義製薬がコメントを発表。その内容を見ても第一報は共同通信らしきことがうかがえる。コメントでは一般的な非臨床試験での結果であること、すでに厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告済みで、前述の承認申請でもデータを提出済みとしている。また、確認された催奇形性は臨床用量を上回るものだったことも記述がある。そもそも多くの方がご存じのように非臨床試験での催奇形性試験は、だいたい臨床用量・曝露量の10倍程度が一つの目安で、それ以内で催奇形性が認められた場合はおおむね添付文書に記載がされ、妊婦への投与が禁忌になる。そして、これまたすでにご存じのように特例承認されたMSDの新型コロナ治療薬のモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)でも催奇形性は報告されている。モルヌピラビルはプロドラッグなので、体内での主要代謝物のN-ヒドロキシシチジン(NHC)になり細胞に取り込まれる。非臨床試験では、NHC臨床曝露量の8倍相当量で妊娠ラットの器官形成期に催奇形性と胚・胎児致死、3倍相当量以上で胎児の発育遅延、NHC臨床曝露量の18倍相当量で妊娠ウサギの器官形成期の胎児体重の低値が認められている。このため妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌で、妊娠可能な女性は投与中と最終投与後一定期間は適切な避妊を行うよう求められている。塩野義製薬が申請中のS-217622では、実際に臨床用量の何倍でこうした結果が出たかは現時点では不明。しかし、報道の影響で塩野義製薬の株価は12日終値の1株7,440円から、翌13日には最安値で6,252円まで1,000円以上下落。14日になってやや持ち直したが、株価は6,000円台後半をウロウロしている。塩野義製薬にとっては半ば迷惑な話だろう。そして今回の報道でSNS上などを見ていると、医師のアカウントから「これで発売されても使いにくくなった」という趣旨の発言は少なからず見受けられる。ちなみに過去の本連載(第101回)で触れたようにS-217622は現時点では有効性もまだ十分に示せているとは言えない。催奇形性が報告されていないファイザーのニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)がすでに発売されているため、そのような反応も当然だろう。もっともニルマトレルビル/リトナビルについては、いまだ供給量が少なく、院外処方の対応薬局は東京都内ですら10軒程度と言われる点が泣き所になっているようだ。さてその一方で一般人の反応を見ると、これはこれで悩ましい。やはり以前の本連載(第95回)でも記述したが、SNS上でやたらと「国産新型コロナ治療薬」にこだわる発言をする人などは、S-217622に期待を寄せていることが多い。またこうした人はドラッグ・リポジショニングで注目されながら、いまだ有効性を示す決定打のデータがない新型インフルエンザ治療薬ファビピラビル(商品名:アビガン)や駆虫薬のイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)を早く承認すべきと声高に叫ぶ人たちと重なる。そうした人たちが今回どんな反応をしているか覗いてみると、「やっぱりアビガンのほうがましだったということはないですか」や「塩野義には悪いけど、やっぱりイベルメクチン」といった反応が散見される。しかしだ。ファビピラビルは臨床曝露量同程度かそれを下回る用量でサル、マウス、ラット、ウサギ、イベルメクチンも最高推奨用量の0.2倍でマウス、ラット、ウサギでの催奇形性がそれぞれ認められている。いずれも催奇形性だけ見れば、むしろS-217622やラゲブリオよりも慎重に扱わなければならない薬だ。このようなSNS上の動向を見るにつけ、ため息が出てしまう。そして今回、私が何とも奇妙だと思っていることがある。それは今回の第一報が「関係者への取材でわかった」とされている点だ。現在申請中であることを考えれば、催奇形性のデータを知っているのは(1)厚生労働省の医薬生活衛生局、(2)PMDA、または(3)塩野義製薬の内部ということになる。記者としての経験から推論すると、この中で情報を流した可能性が最も低いのは(3)塩野義製薬内部である。記者にしてみれば、この丈夫を流すのに何のメリットもないどころか今回の過剰反応のようなデメリットのほうが大きいからだ(ただ、前述の本連載でこの新薬候補に触れた時の状況を考えると可能性はなくもない)。となると残る2者がリーク元として考えられる。だとすると、なぜこの時期にこの情報を出したのだろうか? と正直いぶかってしまう。もしかして「早期承認の声が大きいことを懸念して鎮静化させるためのリークか?」とも勘ぐってしまう。ちなみに私は陰謀論がかなり嫌いなほうだ。そうした私自身が勘ぐってしまうほど、今回のリークは常道で考えれば誰にとってもメリットがない。「関係者」が悪気なく口走ったのだとするなら、少しは控えてはどうかと言ってしまうのは上から目線すぎるだろうか?

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