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添付文書改訂:ジャディアンスに慢性腎臓病の適応が追加【最新!DI情報】第10回

添付文書改訂:ジャディアンスに慢性腎臓病の適応が追加<対象薬剤>エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠10mg、製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム)<改訂年月>2024年2月<改定項目>[追加]効能・効果慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)[追加]効能・効果に関連する注意eGFRが20mL/min/1.73m2未満の患者では、本剤の腎保護作用が十分に得られない可能性があること、本剤投与中にeGFRが低下することがあり、腎機能障害が悪化する恐れがあることから、投与の必要性を慎重に判断すること。<ここがポイント!>エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠)は、2014年に「2型糖尿病」の効能・効果で承認され、2021年には「慢性心不全」の適応が追加されていましたが、2024年2月、「慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)」に対する適応も新たに追加承認されました。慢性腎臓病は、腎機能低下や蛋白尿などの尿異常が慢性的に持続する疾患です。慢性腎臓病が進行すると、腎移植や透析療法が必要となるため、腎機能の低下を抑えて末期腎不全への進行を遅らせることが重要です。SGLT2阻害薬は糖尿病治療薬として開発されましたが、腎イベントを抑制することが明らかとなり、慢性腎臓病に対しても適応が拡大されました。国内では2021年8月にダパグリフロジン(同:フォシーガ錠)が慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の効能・効果の追加承認を取得し、2022年6月にカナグリフロジン(同:カナグル錠)が2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(末期腎不全または透析施行中の患者を除く)の追加承認を取得しました。エンパグリフロジンは2型糖尿病の合併有無にかかわらずに使用できるダパグリフロジンと同様の適応です。腎疾患進行のリスクのある慢性腎臓病患者を対象とした国際共同第III相試験(EMPA-KIDNEY試験)において、腎疾患進行または心血管死が発現した患者の割合は、本剤群(430/3,292例、13.1%)でプラセボ群(553/3,289例、16.8%)より低く、エンパグリフロジンにより腎疾患進行または心血管死の発現リスクはプラセボに比べて有意に低下しました(ハザード比:0.73、99.83%信頼区間:0.59~0.89)。また、ベースラインの糖尿病合併の有無別では、糖尿病合併の有無にかかわらず本剤群とプラセボ群の間で有意な差が認められました(糖尿病合併のハザード比:0.64、p<0.0001、糖尿病非合併のハザード比:0.83、p=0.0443、Cox回帰モデル)。

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やはり高頻度だったデノスマブの透析高齢女性への投与における重症低Ca血症(解説:浦信行氏)

 デノスマブは、破骨細胞の活性化に関与すると考えられているNF-κB活性化受容体リガンド(Receptor activator of nuclear factor-κB ligand:RANKL)と結合することによって、骨破壊に起因する病的骨折等の骨関連事象の発現を抑制する、ヒト型モノクローナル抗体である。 腎不全の病態では腸管からのCa吸収が低下するため、そのCaの濃度を維持しようとして、二次性副甲状腺機能亢進を来した状態である。そのような高回転骨の状態にデノスマブを使用すると、破骨細胞性骨吸収が抑制されるが、その一方で類骨での一次石灰化は続くため、細胞外液から骨にCaが一方的に流入し、高度の低Ca血症が引き起こされると考えられる。腎不全の高齢女性の場合は、その発現頻度増加と程度が重症となる可能性が早くから指摘されていた。 米国・食品医薬品局(FDA)では、昨年11月22日にFDA主導の別の予備研究からも入院や死亡リスクが高まることを指摘していた。このたびの試験は、後ろ向き研究ではあるが1,523例を対象とし、1,281例の経口ビスホスホネート製剤群を対照に置き、頻度と重症度を比較したこれまでにない大規模研究である。 結果の詳細は2024年2月26日公開のジャーナル四天王(透析高齢女性へのデノスマブ、重度低Ca血症が大幅に増加/JAMA)をご覧いただきたいが、頻度はデノスマブ群で40%前後と著明な高値で、対照群の20倍程度多かった。また、重度低Ca血症発症から30日以内のデノスマブ群の発症者の5.4%が、痙攣や心室性不整脈と診断され、1.3%が死亡していた。デノスマブ群1,523例中、重篤な副作用は13例、死亡3例となる。ちなみに対照群では、このような転帰は皆無であった。 これまでも同様の研究がいくつか行われているが、いずれも少数例の試験であるため、発現頻度に関しては報告間で大きな差がある。また、わが国の各種の医薬品安全性情報を見ても、このような症例での報告はいずれも数十例を対象とした報告であり、透析高齢女性を対象とした報告は、少数例の成績も見当たらない。このような重要な情報は早期に提示する必要があると考える。

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透析高齢女性へのデノスマブ、重度低Ca血症が大幅に増加/JAMA

 65歳以上の透析女性患者において、デノスマブは経口ビスホスホネート製剤と比べて、重度~きわめて重度の低カルシウム血症の発現率がきわめて高率であることが、米国・食品医薬品局(FDA)のSteven T. Bird氏らによる検討で示された。透析患者は骨折を引き起こす割合が高いが、エビデンスのある最適な治療戦略はない。今回の結果を踏まえて著者は、「透析患者にきわめて一般的に存在する骨病態生理の診断の複雑さや、重度の低カルシウム血症のモニタリングおよび治療に複雑な戦略を要することを踏まえたうえで、デノスマブは、慎重に患者を選択し、十分なモニタリング計画を立てたうえで投与すべきである」と述べている。JAMA誌2024年2月13日号掲載の報告。デノスマブvs.経口ビスホスホネートのリスクを評価 研究グループは、骨粗鬆症治療を受ける透析患者における重度の低カルシウム血症の発現率とリスクを調べるため、デノスマブと経口ビスホスホネート製剤を比較する後ろ向きコホート研究を行った。対象は、2013~20年にデノスマブ(60mg)または経口ビスホスホネート製剤による治療を開始したメディケアに加入している65歳以上の透析女性患者とした。 毎月の血清カルシウム値を含む臨床パフォーマンスの指標を、透析や腎移植を受ける末期腎臓病患者に関するデータを集めたConsolidated Renal Operations in a Web-Enabled Network(CROWN)データベースを介して入手。 重度の低カルシウム血症は、アルブミン値補正後の総血清カルシウム値が7.5mg/dL(1.88mmol/L)未満、または一次病院や救急部門での低カルシウム血症診断(緊急治療)と定義し、きわめて重度の低カルシウム血症(血清カルシウム値が6.5mg/dL[1.63mmol/L]未満または緊急治療)とともに、骨粗鬆症治療の開始後12週間における逆確率治療重み付け(IPTW)累積発現率、重み付けリスク差、重み付けリスク比を算出し評価した。重度の低カルシウム血症、デノスマブ群は経口ビスホスホネート群の20.7倍 非重み付けコホートにおいて、重度の低カルシウム血症の発現は、デノスマブ治療群1,523例中607例、経口ビスホスホネート治療群1,281例中23例で認められた。 重度の低カルシウム血症の12週時における重み付け累積発現率は、デノスマブ群41.1% vs.経口ビスホスホネート群2.0%だった(重み付けリスク差:39.1%[95%信頼区間[CI]:36.3~41.9]、重み付けリスク比:20.7[13.2~41.2])。 きわめて重度の低カルシウム血症の12週時における重み付け累積発現率は、デノスマブ群10.9% vs.経口ビスホスホネート群0.4%だった(重み付けリスク差:10.5%[95%CI:8.8~12.0]、重み付けリスク比:26.4[9.7~449.5])。

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第199回 「想定外を想定せよ」が活きた恵寿総合病院の凄すぎる災害対策

同じテーマが続いて恐縮だが、今回も能登半島地震のことについて触れたいと思う。敢えてこうして連続で触れるのは、ある考えがあってのことだからだ。一言で言うと、「とかく人は熱しやすくて冷めやすいもの」と思っている。これはメディアの世界に身を置いていると痛切に感じることである。ある種の大きな災害が起きると、人は一瞬その情報に釘付けになる。ところが早ければ1ヵ月、長くとも3ヵ月も経つと、たとえどんなに大きな災害であっても当事者以外にとっては他人事になってしまう。もっとも私は大上段から「常に能登半島のことを思え」などと言うつもりは毛頭ない。被災地以外の人が常に被災地のことを考え、心理的に落ち込んでしまえば、世の中は回らない。実はこの事は被災地の人も同じである。それに関連して思い出すのが、東日本大震災の取材中、ある避難所で出会った高齢男性のことだ。ちなみに私にとって災害取材で一番苦手な取材現場が避難所である。あの場所にズケズケ入って「お話聞かせてください」はかなり気が引ける。よく「メディアは無神経に…」と言われることが多いが、被災地で出会うメディア関係者同士の雑談でも「実は自分も苦手で」という人は少なくない。ただ、やはり時間に迫られながらインタビューを取る必要がある時はそうせざるを得ない。しかし、自分にとってはいつまで経っても慣れることはない。避難所取材の時、私が屋内に入る代わりに赴く場所がある。避難所屋外に設置された喫煙所である。そこにはたいてい数人がたむろしている。報道腕章を付けていくと、結構な確率で「あんたらもご苦労さんだね」とそこにいる被災者から声がかかる。それを糸口に会話を始めると、実質的に取材となることが多いのだ。私が時折、思い出す前述の高齢男性もそのような形で出会った。その時の喫煙所には彼しかいなかった。彼は私を見るなり、独り言のように語り始めた。「俺さ、母ちゃん(妻)が津波で流されてしまってさ。んでも、避難所で若い綺麗なボランティアの女の子を見ると、ついそっち見るしな、時間が経てば腹も減るんだよな。兄ちゃん、俺は頭おかしいのかね?」一瞬戸惑ったが、避難所が地元の宮城県だったこともあり、私は地元訛りで次のように返した。「ほだごとねえんでねえの(そんなことないんじゃないの)? 津波のことばっか考えていられねえべさ」男性は一瞬目を丸くした。経験上、地方での災害取材時に被災者は「報道記者=東京の人」のような思い込みがあり、記者が訛りのある言葉を話すとは思っていないのだ。男性は丸くした目を普通に戻して、タバコをもう一度口にして煙を吐きながらこう言った。「んだがもな(そうかもしれない)」発災時ですらその場にいる人は、今起きていることが異常ではないと考えようとする「正常性バイアス」が働くもの。まして発災から時間が経てば、個人差はあっても常に災害の事だけを考えているわけにはいかない。というか、過度に気落ちしないために意図的に考えようとしないことも多い。そして被災地から離れた場所では半ば“忘れてしまう”のも無理はないと思っている。それでも私が再び能登半島地震について触れようとするのは、被災地外の人に防災対策を伝えるためには、まだ記憶が生々しい時期のほうが頭に入りやすいと思うからだ。神野 正博氏が伝える災害に負けない病院経営さて前置きが長くなってしまったが、先日、私が所属する日本医学ジャーナリスト協会で「能登半島地震~災害でも医療を止めない!病院のBCPと地域のBCP」と題して、現地の七尾市にある恵寿総合病院理事長の神野 正博氏にオンライン講演をお願いした。神野氏と言えば、全日本病院協会の副会長でもあり、医療業界では著名人である。あの大地震で426床を有する能登半島唯一の地域医療支援病院である恵寿総合病院も無傷でいられるわけもなく、本館以外に2つある鉄筋コンクリート造の病棟は物品が散乱し、本館と各病棟をつなぐ連絡通路も各所で破損した。断水は講演時点の2月13日時点でも継続中だった。しかし、発災翌日の1月2日には産科での分娩を行い、4日に通常外来、6日に血液浄化センターを再開している。マグニチュード7クラスの地震の被災地で、これが可能だったことは極めて驚くべきことである。そしてその理由は「事業継続マネジメント(BCM)」「事業継続計画(BCP)」を策定し、事前に入念な対策をしていたからだった。神野氏の口から語られた事前対策の肝は「基本は二重化」。具体例を以下に列挙する。本館で免震建築+液状化対策水道と井戸水による上水の二重化2ヵ所の変電所より受電夜間離発着設備も有した屋上ヘリポートも含めて避難経路二重化全国の病院との非常時相互協力協定全国の医療物資物流センター31ヵ所とバックアップ協定免震棟上層階にサーバー室設置震度5以上で自動発信するALSOKの職員安否確認・非常招集システム採用ゼネコン系設備管理会社24時間365日常駐神野氏によると「井戸水は平時に保健所に定期的な水質検査を実施してもらい、水道停止後ただちに井戸水に切り替え、医療用水・生活用水にいつでも利用できるようにしておいた」という念の入れようだ。もっとも120人の透析を行う別棟は、井戸水を上水利用する設備がなく、陸上自衛隊による1日15トンの給水支援を受けて再開にこぎつけている。変電所も北陸電力に依頼し2回線受電をしており、今回、実際に1つの変電所が瞬停して非常用自家発電に切り替わったものの、すぐにもう1つの正常だった変電所からの受電に切り替えて事なきを得ている。また、ゼネコン系設備管理会社24時間365日常駐は一瞬何のことかわからない人もいるかと思うが、この点について神野氏は次のように語った。「常駐者がいることで水道管の破裂などはすぐに復旧した。また、大手ゼネコンなので1月2日にはゼネコンの関係者が駆付け、復旧には大きな役割を果たした。よく病院の経営コンサルタントは、医業収益改善のためにまず清掃会社と設備管理会社をより安価なところに変更することを提案するが、私たちはそういうことは聞かずにやってきて本当に良かったと思っている」このような対策を聞くと、「いったいそのお金はどこから?」との疑問が浮かんでくるだろう。神野氏は「あくまで平時の診療報酬による収益の範囲内で準備をしてきた。災害対策を予算化したのではなく、都度都度、非常時対策を考えてのメンテナンスの一環として行ってきた」という趣旨の発言をした。これについてはかなり頷いてしまった。こうした大規模災害が起こると「いざ災害対策を!」のような掛け声があちこちから挙がる。しかし、人という生き物は概して納得尽くでないとお金は投じられない生き物でもある。災害・防災関連もテーマとする私はこうした大災害発生時に週刊誌などからコメントを求められることが多いのだが、その際にいつも言うことは「どんな小さなことでも良いから思いついたときに思いついたことに手を染め、必ずその点については完遂し、可能ならば日常化する」と伝えている。これだけだと、よくわからない人もいるかもしれないので、具体例を挙げると、自分の場合、災害現場の取材も少なくないので、がれきなどを踏んで負傷することを防止するため、平時から履いている靴には踏み抜き防止インソールを入れっぱなしにしている。たまにそのことを忘れ、空港の金属探知機でブザーが鳴ってしまうこともあるが、これは忘れるほど日常化している証でもある。また、国内の大災害ニュースに接した際、過去2年間を振り返り、破傷風ワクチンを追加接種していない場合は、現場取材に赴くか否かにかかわらず、医療機関に追加接種に行く。これ以外にも行っている対策はいくつかあるがここでは省略しておく。いずれにせよ災害対策とは、それが効果的だったかの答え合わせは、被災時にしかできない無慈悲な世界である。やはり「思い立ったが吉日」なのだと、今回再認識させられている。

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第200回 脳神経外科の度重なる医療過誤を黙殺してきた京都第一赤十字病院、背後にまたまたあの医大の影(後編)派遣先の医局員の技術向上や医療安全には無頓着だった府立医大

幾度も警鐘が鳴らされていたにもかかわらず、まったく改善策が取られなかった背景こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2月16日、植村 直己冒険賞の発表がありました。同賞は冒険家・植村 直己氏の功績と精神を後世に継承するために設けられた賞で、自然を相手に創造的な勇気ある行動をした人、または団体に贈呈されてきました。主催は植村氏の出身地、兵庫県豊岡市です。今年は4人が選ばれましたが、そのうち、大西 良治氏と田中 彰氏はネパールのヒマラヤ山中にある人跡未踏の谷「セティ・ゴルジュ」を探検した功績が評価されました。昨年7月に放送された、NHKスペシャル「ヒマラヤ“悪魔の谷”〜人跡未踏の秘境に挑む〜」に登場した2人です。水位が下がる真冬に400メートル以上の谷底にロープで降下、激流を探検する姿はテレビで見ても生きた心地がしませんでした。その大西氏は私の大学時代の山のクラブの後輩です。卒業後、特に沢登りの世界で頭角を現し、北アルプスで前人未踏として知られた称名ゴルジュ(称名滝とその上のゴルジュ帯)の単独遡行がとくに有名です(興味がある方は大西氏の著書『渓谷登攀』《山と溪谷社刊》をどうぞ)。我々のクラブは、宮城・山形県境に位置する二口(ふたくち)山塊の沢で沢登りのトレーニングを積んでいたのですが、その二口での沢の経験が、植村 直己冒険賞にまでつながるとは……。大西氏受賞のニュースを聞いて、感慨深く感じました。さて前回は、京都市保健所が京都第一赤十字病院(京都市東山区、池田 栄人院長)に対して医療法25条による立ち入り調査を行い、改善を求める行政指導を行ったというニュースについて、どのような事案が問題とされ、どういった指導が行われたかについて、新聞報道や「月刊Hanada」(飛鳥新社)の記事などを基に書きました。今回は多発していた医療過誤、医療事故に対して幾度も警鐘が鳴らされていたにもかかわらず、改善策がまったく取られずに事故が続いた背景について、独自に取材した内容も交えながら書きます。脳腫瘍ではない正常脳の一部を摘出、脳圧が高まっている患者では禁忌の腰椎穿刺を研修医が単独で実施京都市保健所が不適切と判断した事例は、いずれも同病院の脳神経外科で確認されたものです。たとえば、2020年に行われた70代女性に対する脳腫瘍摘出手術は、一度目の手術で執刀医は箇所を間違えて開頭、脳腫瘍ではない正常な脳の一部を摘出していました。また、2021年に起きた研修医の医療処置を受けた患者が死亡した事例は、静脈洞血栓症が疑われる20代女性に対し、脳圧が高まっている状態では禁忌とされる腰椎穿刺を、研修医が独断かつ単独で行い、患者を死に至らしめていました。いずれのケースも患者や家族に実際の治療経過は正しくは伝えられず、腰椎穿刺の事例は院内の安全対策委員会でも調査委員会は設置されませんでした。こうした一連の、過誤もみ消しとも取れる対応について、京都市保健所は1月17日、診療録の記載方法、治療法などについての患者への説明方法、患者の遺族に対する診療経過の説明方法、死亡診断書の記載方法、医療安全管理委員会の運用方法などに関する指導を行いました。さらに、医療安全部門での把握や医療事故対応等について12件を再検証し保健所に報告するよう求めました(再検証のみ求められたものも49件)。元第一脳神経外科部長が10月に市に公益通報を行い京都市が動く立ち入り調査のきっかけとなったのが、2023年9月26日発売の「月刊Hanada」の11月号の記事、「告発スクープ!正常脳を切除、禁忌の処置で死亡 医療事故を放置 日本赤十字社の闇」です。この報道を契機として、第一日赤の元第一脳神経外科部長(以下、元部長)が10月に市に公益通報を行い、京都市が動いたのです。公益通報とは、「労働者が、不正の目的でなく、その労務提供先又はその役員・従業員等について一定の法令違反行為が生じ、またはまさに生じようとしていることを、その労務提供先や行政機関、外部機関に対して通報すること」とされています。企業の法令違反行為などを行政機関等に通報する際に活用される仕組みで、通報者は公益通報者保護法によって公益通報をしたことを理由とした解雇や、その他の不利益な取り扱いから保護されます。他大学脳神経外科の傘下となると府立医大脳神経外科傘下とする第二脳神経外科が新設第一日赤の元脳神経外科の部長が脳神経外科で起こっていた事故を公益通報する、とは一体どういうことでしょうか。取材によれば、第一日赤で事故が多発していた2019〜2020年当時、同病院には脳神経外科が2つ存在していました(現在は1つ)。元々、同病院の脳神経外科は1つでした。同科は2016年以降、京都府立医科大学脳神経外科の傘下でした。しかし、医師補充をスムーズにすることを目的に、2019年2月に府立医大から離れ、他大学の脳神経外科の傘下となりました。すると、同年3月、京都府立医科大学脳神経外科傘下の第二脳神経外科が新設されたのです。背景には、「第103回 大津市民病院の医師大量退職事件、『パワハラなし』、理事長引責辞任でひとまず幕引き」などでも書いた、府立医大のジッツ戦略があったとみられます。幾度も注意喚起を行うも事態は是正されず「月刊Hanada」の報道にもあるように、その後、第二脳神経外科で事故が多発しました。第一脳神経外科の元部長は、病院幹部に医療事故が頻発していること等の是正を求める文書を提出するなど、幾度も注意喚起を行いましたが、一向に事態は是正されませんでした。脳腫瘍摘出手術で開頭部位を間違えて正常脳を摘出してしまった事案や、研修医が脳圧が高まっている状態では禁忌とされる腰椎穿刺を行った事案は、注意喚起後に起こっています。同部長は同病院の経営陣だけでなく、日本赤十字社本社、さらには府立医大の脳神経外科などにも注意喚起を行い、改善を求めたものの、事態が改善されることはなかったとのことです。第一脳神経外科は2022年3月に解体、元部長らは第一日赤を自主退職「月刊Hanada」によれば、元部長は府立医大の脳神経外科の教授に医師の再教育や再発防止などへの協力を要請していますが、「別病院のことなので介入できない」と一蹴されています。ただ一方で、2021年夏には、同部長に他病院への異動を要請、同科のもう一人の医師に対しても、府立医大脳神経外科の医局に所属した上での他病院への異動を求めていました。なお、その後、第一脳神経外科は2022年3月に解体され、元部長と同科にもう一人いた医師は第一日赤を自主退職しています。元部長が事故を起こした第二脳神経外科の医師に科を越えて指導したことがパワハラと捉えられたり、注意喚起を目的に実際に起きた医療事故数例を学会発表したことが他科の症例写真の無許可使用とされたことなどが、第一脳神経外科解体と自主退職を余儀なくされた理由とみられます。最終的に、第一日赤の脳神経外科では、医療事故を注意喚起してきた第一脳神経外科の医師たちが放逐され、事故を頻発してきた府立医大脳神経外科系列の第二脳神経外科が「脳神経外科」として残ることになりました。その後も、同科による事故は続き、事態が一向に改まらなかったことを憂いた元部長が、「月刊Hanada」の報道をきっかけに公益通報を敢行、京都市保健所の立ち入り検査に至ったわけです。医療の質・安全学会学術集会で脳圧亢進時の処置による死亡例3例を示し注意喚起も発表取り下げ取材したところ、元部長が注意喚起を目的に学会発表していたのは、2021年11月の第16回医療の質・安全学会学術集会でのことでした。「医学の細分化の果てに忘れ去られつつある医学の常識:恐れを知らない医師と流される看護師-医療安全を阻むものとの戦い-」と題された発表では、「うっかりミスや技能の未熟が原因ではない医療事故は、連続し、防止するのが極めて困難」として、脳ヘルニア時の腰椎ドレナージによる死亡例(処置した医師が禁忌であることを知らなかったと思われる事例)、小脳腫脹時の腰椎穿刺による死亡例(研修医がCT読影ができなかった事例、前述の20代女性の事例)、脳圧亢進時の血液透析による死亡例(脳圧亢進時の透析は呼吸が止まる危険性があることを知らなかった事例)の3例の詳細が発表されていました。いずれも脳圧亢進時の処置による死亡で、3例目は腰椎穿刺は関係なく、透析による不均衡症候群(病院はICU入室中の窒息と診断)でした。「死亡事例から学ぶことが、救命できなかった患者さんに対する医療者としての責務」発表では、医療安全を阻む要素として、「医師の傲慢さ」、「看護師の臆病さ」(知っていても声をあげない点など)、「病院幹部の無関心」を指摘、「まとめ」において「一つの死亡事故の真の原因を解明することは同じ原因で起こる次の事故を未然に防ぐことになる」「表面的には隠された、重大な医療事故が起こっている組織を安全にするためには、その組織の文化にまでメスを入れ、従来の価値観、やり方を大きく変える必要がある」と医療事故調査の重要性や組織体制の見直しの必要性を指摘、「死亡事例から学ぶことが、救命できなかった患者さんに対する医療者としての責務」と結んでいます。なお、この発表のスライドは2週間程度学会のWebサイトで閲覧できましたが、その後、第一日赤の池田 栄人院長より取り下げの依頼があり、取り下げられています。「判断を医療機関のみに委ねるのではなく、明確な指針が必要だ」として遺族などが医療事故調査制度見直しを提言医療事故が起こっても、院内事故調査委員会を設置して原因究明をしようとせず、患者や家族には虚偽の説明を繰り返して来た第一日赤。その悪質さは度を越しており、現行の医療事故調査制度の欠点を改めてあぶり出したと言えるでしょう。医療事故調査制度は、すべての医療機関に対して、医療事故で患者が死亡した場合、第三者機関である医療事故調査・支援センターに報告することや、原因を調査することなどを義務付けています。しかし、報告や調査を行うケースに該当するかどうかは医療機関の院長等の判断に任されています。そうした運用ルールが過誤や事故の隠蔽につながっていることが最近問題視されています。先週の2月12日には、医療事故の遺族などが都内でシンポジウムを開き、医療事故調査制度の課題や改善策について意見を交わしています。NHKなどの報道によれば、「医療過誤原告の会」の宮脇 正和会長は、団体に相談があったおよそ60件について、医療事故として報告されたのは14%に留まり、アンケートでは報告されなかった遺族の9割以上が「納得できなかった」と答えたと紹介、その上で宮脇会長は、「判断を医療機関のみに委ねるのではなく、明確な指針が必要だ」として、医療事故調査制度を見直す必要があると語ったとのことです。ジッツ拡大には注力するも派遣先の医局員の技術向上や医療安全にはまったくもって無頓着だった府立医大それにしても、事故を頻発していた科を温存し、警鐘を鳴らしていた科を閉鎖してしまうとは、普通では考えられない病院運営と言えます。そこまで、府立医大に依存しないと第一日赤はやっていけないということなのでしょうか。加えて、医師を派遣する府立医大が、ジッツ拡大には注力するものの、派遣先の医局員の技術向上や医療安全にはまったくもって無頓着だったことにも驚きます。京都市保健所が、第一日赤に対して再検証し、保健所に報告するよう求めた期限は3月18日です。第一日赤がどこまで事故や過誤の詳細を詳らかにし、患者や家族への説明・謝罪に真摯に対応するかが注目されます。

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第182回 診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協

<先週の動き>1.診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協2.「地域包括医療病棟」を新設、病床再編で高齢者救急患者の受け皿を開設/厚労省3.医療DXを診療報酬改定でさらに推進、マイナ保険証の普及促進で患者負担増/厚労省4. 医療機関の倒産件数は高水準のまま横ばい、負債総額は過去最大を記録/帝国データバンク5.リピーター医師、透析治療せずに患者が死亡、遺族が病院に訴え/大阪6.昇圧薬の補充遅延で患者が死亡、神戸徳洲会病院の安全体制問題が再び問題に/兵庫1.診療報酬改定を答申、賃上げの実現を主眼とするも医療費抑制も視野に/中医協厚生労働省は、2月14日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開き、2024年度の診療報酬改定について答申を行った。今回の診療報酬改定は、医療従事者の賃上げを進めつつ、医療費抑制という2つの目標を達成しようとする「メリハリ」のある内容を特徴としている。とくに生活習慣病に関する管理料の適正化が注目されている。これにより医療費の国費負担の一部抑制が図られたが、全体抑制額は200億円に止まり、医療費全体の増大傾向に対する根本的な解決には至っていないとする声もある。今回の改定により、医療従事者への賃上げが実施され、とくに40歳未満の勤務医や看護職員、薬剤師らの待遇改善が図られている。これには、外来・在宅ベースアップ評価料の新設や初診料、再診料の増額などが含まれている。しかし、生活習慣病に関する報酬の適正化には、糖尿病や高血圧、脂質異常症を特定疾患療養管理料の対象から除外するなどの措置が含まれ、これによりプライマリケアを提供する開業医の収入に影響が出る可能性がある。また、介護報酬の改定では、訪問介護の基本報酬が削減される一方で、介護職員の賃上げを目的とした加算の設定が行われた。しかし、小規模事業者からは報酬減による経営の危機やサービス提供能力の低下が懸念されている。精神科訪問看護に関しても、報酬の取得条件が厳格化され、不正や過剰請求への対策が強化された。参考1)中央社会保険医療協議会(第584回) 総会(厚労省)2)「めりはり」ある診療報酬改定、武見厚労相が総括 生活習慣病の管理料など適正化(CB news)3)開業医の改革道半ば 診療報酬改定 医療費の国費負担12兆円 200億円抑制、生活習慣病が軸(日経新聞)4)訪問介護 異例の報酬削減 小規模事業者、撤退の危機(東京新聞)2.「地域包括医療病棟」を新設、病床再編で高齢者救急患者の受け皿を開設/厚労省2024年度の診療報酬改定のうち、入院診療では、高齢者救急患者への対応強化を目的とした「地域包括医療病棟入院料」の新設が注目されている。厚生労働省は、以前から急性期一般入院料1(旧7対1病床)の病床削減が進まないことを問題視しており、急性期病床の削減のため急性期一般入院料1の平均在院日数を16日以内にすることで、病床の再編を病院に促している。厚労省は、後期高齢者が増加するのに合わせて、病気の治療に加えて、早期のリハビリや栄養管理で身体機能の低下を抑え、退院支援を行う目的で1日当たり3,050点の「地域包括医療病棟」を新たに設けた。看護配置は「10対1」で、リハビリテーションや栄養管理、口腔管理を含む包括的なサービス提供が施設基準の条件。地域包括医療病棟の要件としては、平均在院日数は21日以内、在宅復帰率が8割以上としているほか、特定機能病院や急性期充実体制加算を届け出ている高度急性期病院は算定できないなど制限も設けられている。地域包括医療病棟の新設で、急性期医療の機能分化を促進し、中小病院などに少なくない影響が及ぶ可能性があり、地域医療への影響が大きくなると予想されている。今回の改定により、地域包括医療病棟が高齢者救急の受け皿として機能強化されることが期待されているが、急性期医療の再編や地域医療提供体制の整備と連携が今後の課題となる。参考1)令和6年度診療報酬改定について(厚労省)2)厚労省 早期のリハビリで退院を支援する病棟新設を後押しへ(NHK)3)24年度改定 急性期の機能分化へ「地域包括医療病棟入院料」新設 中小病院など地域医療への影響大きく(ミクスオンライン)4)地域包括医療病棟入院料を新設 10対1看護配置、急性期一般入院料からの転換が進むか(日経メディカル)5)地域包括医療病棟入院料は3,050点 リハ・栄養・口腔連携加算80点、24年度改定(CB news)3.医療DXを診療報酬改定でさらに推進、マイナ保険証の普及促進で患者負担増/厚労省2024年度の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げを支援し、医療のデジタル化(医療DX)を推進するための複数の措置が導入された。とくに、マイナンバーカードを活用した「マイナ保険証」の利用促進が後押しされ、救急搬送時の情報確認などに活用される方針だ。しかし、このデジタル化推進は患者の負担増につながり、障害者団体からは現行の健康保険証廃止に対する懸念の声が上がっている。新たに設けられる「医療DX推進体制整備加算」により、マイナ保険証や電子処方箋の利用を促進する医療機関に対して、初診時に80円、歯科で60円、調剤で40円が加算され、患者の自己負担が増加する。また、政府は、救急搬送時にマイナ保険証を用いることで、患者かかりつけ医や服薬歴などの情報を迅速に確認し、効率的な救命活動をする計画を立てている。一方で、障害者団体は、マイナ保険証の1本化により、支援が必要な障害者が置き去りにされる恐れがあると指摘し、現行の保険証も残すべきだと訴えている。政府は、現行の健康保険証を2024年12月に原則廃止し、マイナ保険証への完全移行を計画しており、利用率の向上に努めているが、現在の利用率は4.29%と低調。今回の改定で、医療DXの推進やマイナ保険証の普及に向けた取り組みが強化されるが、患者負担の増加や障害者の利便性の問題など、新たな課題も提起されている。参考1)マイナ保険証の利用促進なども後押し 診療報酬改定 患者は負担増に(朝日新聞)2)マイナ保険証、救急搬送時に活用へ 服薬歴など確認(日経新聞)3)マイナ保険証への一本化で障害者が置き去りに…「誰のためのデジタル化か」当事者団体が国会議員に訴え(東京新聞)4.医療機関の倒産件数は高水準のまま横ばい、負債総額は過去最大を記録/帝国データバンク2023年、医療機関の倒産件数は41件で、前年と同数だったが、負債総額は253億7,200万円と過去10年で最大となったことが、帝国データバンクの調査で明らかとなった。この負債総額の増加は、大きな負債を抱えていた「八千代病院」(八千代市)などを運営する医療法人社団心和会(負債132億円)と「東京プラス歯科矯正歯科」などを運営していた医療法人社団友伸會(負債37億円)の影響が大きい。倒産した医療機関のうち、「病院」が3件、「診療所」が23件、「歯科医院」が15件で、大部分が5億円未満の負債。帝国データバンクは、2024年も医療機関の倒産が高水準で推移すると予想しており、とくに診療所では経営者の高齢化や健康問題が影響し、過剰債務などを理由に法的整理を選択するケースが増える可能性を指摘している。参考1)病院などの「医療機関」、倒産が2年連続で40件超え 今後は診療所の動向に注目(ITmedia)2)帝国データバンク 2024年 1月報(帝国データバンク)5.リピーター医師、透析治療せずに患者が死亡、遺族が病院に訴え/大阪透析治療を受けていた90歳男性が、新型コロナウイルス感染で転院したにもかかわらず、必要な治療を受けられずに死亡した事件で、遺族が病院運営法人に約5,000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。男性は、大阪府内のクリニックで週3回の透析治療を受けていたが、新型コロナウイルス陽性と診断された後、同系列の医誠会病院に転院した。転院後は抗ウイルス薬のみ投与され、透析治療は一切行われなかったとされている。数日後に男性は、窒息による低酸素脳症で死亡した。遺族は病院が透析治療可能であるとクリニックに返答し、クリニックが診療情報を引き継いだにもかかわらず治療が行われなかったと主張している。問題は、過去に赤穂市民病院で医療過誤を含む複数の医療事故に関与し、依願退職した後に医誠会病院へ転職した40代の男性医師が関与した可能性があり、この医師は患者の透析治療が必要であるにもかかわらず、適切な対応を怠ったとされている。遺族は、医師の初動対応の不備と病院の管理体制の欠如が死に直結したと主張し、医療法人「医誠会」に対し約5,000万円の損害賠償を求めている。この訴訟は、医療機関の責任と医師個人の過去の問題が患者の命にどのような影響を及ぼしたかという点で、病院側の安全体制の責任を問いかけている。遺族は、真実を求めるとともに、同様の悲劇が再発しないよう医療機関の体制改善を訴えている。参考1)腎不全で透析治療の男性 新型コロナ陽性で転院するも透析治療されず死亡 遺族が約5,000万円の賠償を求め病院側を提訴 大阪地裁(MBS)2)元市民病院脳外科医 転職先でも医療トラブル 透析治療せず患者死亡か(赤穂民報)6.昇圧薬の補充遅延で患者が死亡、神戸徳洲会病院の安全体制問題が再び問題に/兵庫神戸徳洲会病院(神戸市垂水区)で今年1月、心肺停止状態から回復した90代の男性患者が、昇圧薬が切れた直後に死亡していたことが判明した。報道によると、患者に投与していた昇圧薬が切れた直後、薬剤の補充が準備されておらず、必要な治療が提供されなかったため、薬が切れた直後に患者は亡くなった。病院側は「死期を早めた可能性がある」として家族に謝罪し、神戸市は医療安全体制に不備がなかったか調査を行っている。同院は、去年カテーテル治療後の患者死亡事案や適切な治療が行われず糖尿病患者が亡くなった事案が発覚しており、医療安全体制の問題で神戸市から行政指導を受けていた。今回の事案を受け、神戸市は改善命令を出す方針であり、病院は救急患者の受け入れを一時中止し、院内で原因調査と適切な対応を進めている。参考1)神戸徳洲会病院 投与の薬剤追加されず その後 患者死亡(NHK)2)薬剤の補充分なく、薬切れた直後に90歳代患者が死亡…神戸徳洲会病院「死期早めた可能性」(読売新聞)3)神戸徳洲会病院、薬剤の追加を怠り患者が死亡 警告音が鳴り、家族が訴えるも対応されず(神戸新聞)

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ジャディアンス、慢性腎臓病で国内製造販売承認(一部変更)取得/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムおよび日本イーライリリーは2024年2月9日付のプレスリリースで、SGLT2阻害薬ジャディアンス錠10mg(一般名:エンパグリフロジン)について、日本ベーリンガーインゲルハイムが、慢性腎臓病に対する効能・効果*および用法・用量に係る医薬品製造販売承認事項一部変更承認を、厚生労働省より取得したことを発表した。 慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、腎障害を示す所見や腎機能の低下が慢性的に持続する疾患である。死亡や心筋梗塞、脳卒中、心不全などの心血管疾患のリスクファクターであり、進行すると末期腎不全に至り、透析療法や腎移植術が必要となることもある。慢性腎臓病の治療目的は、腎機能の低下を抑え末期腎不全への進行を遅らせること、および心血管疾患の発症を予防することである。 今回の製造販売承認(一部変更)は、慢性腎臓病患者におけるSGLT2阻害薬の臨床試験としては大規模・広範囲の臨床試験であり、糖尿病の有無やアルブミン尿の有無を問わず、日常診療でよくみられる6,609例(うち日本人612例)の慢性腎臓病患者を対象としたEMPA-KIDNEY第III相臨床試験のデータから得られた結果に基づく。同試験では、エンパグリフロジンの投与により、主要評価項目である慢性腎臓病の進行または心血管死のリスクがプラセボ投与群に比べて28%低下し、統計学的有意差が認められた(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.64~0.82、p<0.000001)。また、慢性腎臓病患者を対象としたSGLT2阻害薬の臨床試験としては初めて、試験計画書で事前規定された主な検証的副次評価項目の1つであるすべての入院を有意に減少(14%)した試験となった (HR:0.86、95%CI:0.78~0.95、p=0.0025)。同試験における重篤な有害事象の発現割合は、プラセボ投与群で35.3%、エンパグリフロジン群で32.9%であった。 今回の承認により、ジャディアンス錠10mgは、2型糖尿病、慢性心不全*、慢性腎臓病*の3つの適応症を有することになった。両社は、慢性腎臓病患者の新たな治療選択肢を提供し、より幅広い治療に貢献できるものと考えている、としている。*慢性腎臓病もしくは慢性心不全に対する効能・効果は、それぞれ「慢性腎臓病(ただし、末期腎不全または透析施行中の患者を除く)」および「慢性心不全(ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)」。

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末期腎不全治療選択(ETC)モデル導入で人種格差・地域格差などの解消になるのか?(解説:浦信行氏)

 米国では1972年の社会保障法の改正により、翌年から慢性腎不全治療としての透析や腎移植がメディケアの給付対象となり、連邦政府が総費用の80%を負担することとなった。その後、負担軽減の幾度かの改正を経て、2010年のヘルスケア改革法に基づき、数年の準備を経て2014年に本格的に、この改革法が実行された。いわゆるオバマケアである。基本骨格は低所得者を対象としたメディケイドと基本的に高齢者を対象としたメディケアであり、両方の有資格者をメディケア・メディケイド二重資格者としている。 末期腎不全(ESRD)はすべての年齢でメディケアの対象であるが、日本と違い一定の保険料を払う義務がある。これを改良し、利用者負担に保険料納付の上限を設けて、より低負担でより広範囲な医療を受けられるようにしたのが、メディケアアドバンテージプランである。しかしESRD患者は、その医療費負担が自治体や保険会社に過大であると判断され、2020年までは適応対象とはならなかった。2021年1月に、ようやく適応対象とされ、ESRDの患者にとって必要な医療がより受けやすくなった。 Kevin H. Nguyenら(JAMA. 2023;329:810-818.)は、ESRD患者の加入状況をその前後の1年間で比較した。その結果、加入率は24.8%から37.4%と1.5倍になった。内訳は黒人で72.8%、ヒスパニックで44.8%、二重資格者で73.6%の増加を見た。これによる人種格差、経済状態による格差、医療サービス内容の格差の是正を期待させるものである。そこで、実際に在宅透析の利用、腎移植待機リストへの登録や移植の受療などの格差が、解消に向かっているのかを担当施設に経済的インセンティブ(賞与もしくは罰金)を与える、施設への支払い方法の末期腎不全治療選択(ETC)モデルを導入し、格差是正の現状を評価した。 その結果の詳細は、ジャーナル四天王の記事(「米国透析施設の新たな支払いモデル、人種・経済格差の影響は?/JAMA」2024年1月18日配信)をご覧頂きたいが、やはり人種や経済状態による格差は有意に残っていた。腎移植施行率にも格差はあったが、以前の他の報告に示されていた待機期間の人種差の現状も気がかりな部分ではある。

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何はさておき記述統計 その1【「実践的」臨床研究入門】第40回

いきなり!多変量解析?臨床研究における統計解析というと、みなさんはいきなり多変量解析を行ったり、臨床研究といえば多変量解析というようなイメージを持っていないでしょうか。重回帰分析、ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析などの多変量解析のさまざまな手法を用いたことがある方や、学会などでこれらの統計解析手法を聞いたこと、論文で目にしたことがある方は多いでしょう。しかし、統計解析手法を正しく選択するためには、変数やアウトカム指標の型をよく知ることが必要となります。また、いきなり多変量解析に飛びつく前に、まずは変数やアウトカム指標の型を意識して正しく記述すること(記述統計)が重要です。今回からは、具体的な統計解析手法について、筆者らが行い英文論文化された臨床研究の実例などを引用して解説します。また、架空の臨床シナリオを元に立案したClinical Question(CQ)とResearch Question(RQ)に基づいた仮想データ・セットを用いて、統計解析の実際についても実践的に説明したいと思います。まずはここで、これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQの研究デザイン、セッティング、およびPECOについて整理します。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかD(研究デザイン):(後ろ向き)コホート研究S(セッティング):単施設外来P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者組み入れ基準:診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者除外基準:ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者E(曝露要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満C(比較対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出O(アウトカム):1)末期腎不全(慢性透析療法への導入もしくは先行的腎移植)*打ち切り(末期腎不全発症前の死亡、転院、研究参加同意撤回などによる研究からの離脱)2)糸球体濾過量(GFR)低下速度われわれのRQのプライマリアウトカムは末期腎不全であり、アウトカム指標はその発生率となります。発生率は下記の計算式で求められるのでした(連載第37回参照)。発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計実際の臨床研究論文では、発生率は人年法という手法を用いて、1,000人を1年間観察すると(1,000人年)何件アウトカム(イベント)が発生したか、という形式で記述されることが多いです。以下に、筆者らが2023年に出版した臨床研究論文2)の実際の記述を示します。CKD患者において血清鉄代謝マーカーの1つであるトランスフェリン飽和度(TSAT)レベルと心血管疾患(CVD)およびうっ血性心不全(CHF)の発生リスクの関連を検討した論文です。Resultsの”Incidence of outcome measures"という小見出しで以下のように記載しました。"Supplementary Fig. S1 shows the incidence rates of CVD and CHF events based on serum TSAT levels. The overall incidence rates of CVD and CHF in the analysed participants were 26.7 and 12.0 events/1000 person-year, respectively. Participants with TSAT 40% (17.2 and 6.2 events/1000 person-year, respectively)."「補足図S1は、血清TSAT値に基づくCVDおよびCHFイベントの発生率を示している。全解析対象者におけるCVDおよびCHFの発生率は、それぞれ26.7および12.0イベント/1,000人年であった。TSATが20%未満の参加者でCVDおよびCHFの発生率が最も高かった(それぞれ33.9と16.5イベント/1,000人年)。一方、CVDとCHFの発症率はTSATが40%以上の患者で最も低かった(それぞれ17.2および6.2イベント/1,000人年)。(筆者による意訳)」この論文記載のポイントは、血清TSAT値20%未満(診療ガイドライン3)で鉄補充療法開始が推奨される基準値)のCKD患者において、CVDおよびCHFの発症率が最も高い、という記述統計の結果がまず示されたということです。次回からは仮想データ・セットを用いて、具体的な統計解析方法についても解説をしていきます。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社;2023.2)Hasegawa T, et al. Nephrol Dial Transplant. 2023;38:2713-2722.3)日本透析医学会編集.2015 年版 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン.

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進行慢性疾患の高齢入院患者、緩和ケア相談は有益か?/JAMA

 進行した慢性疾患を有する高齢患者の入院時に、緩和ケア相談がデフォルトでオーダーされていても在院日数を短縮しなかったが、緩和ケア提供の増加や迅速化ならびに終末期ケアの一部のプロセスは改善した。米国・ペンシルベニア大学のKatherine R. Courtright氏らによる、プラグマティックなステップウェッジクラスター無作為化試験の結果が報告された。入院患者への緩和ケア提供の増加が優先課題となっているが、その有効性に関する大規模で実験的なエビデンスは不足していた。JAMA誌2024年1月16日号掲載の報告。入院当日(デフォルト設定)vs.医師選択実施で在院日数を評価 研究グループは、2016年3月21日~2018年11月14日に、米国の非営利医療システム「アセンション(Ascension)」の地域病院で緩和ケアプログラムが確立されている11施設において、65歳以上の進行した慢性閉塞性肺疾患患者(過去1年以内に2回以上の入院歴または長期酸素療法患者)、腎不全患者(長期透析患者)または認知症患者(胃瘻・空腸瘻栄養、または過去1年以内に2回以上の入院歴)を入院時に登録し、無作為に決定された順で介入または通常ケアを行った。 介入群では最初の入院日(full hospital day)の午後3時に緩和ケア相談がデフォルトでオーダーされ(医師がキャンセルすることは可能)、通常ケア群では医師がいつでも緩和ケア相談をオーダーすることができた。 主要アウトカムは在院日数、副次アウトカムは緩和ケア相談受診率、蘇生処置拒否指示、ホスピスへの退院、院内死亡率等とした。アウトカムデータの収集終了は2019年1月31日。在院日数に差はないが、緩和ケア相談受診率は44% vs.17% 合計3万4,239例が登録され、このうち入院期間が72時間以上であった2万4,065例(女性1万3,338例[55.4%]、平均年齢77.9歳)を主要解析対象集団とした(介入群1万313例vs.通常ケア群1万3,752例)。 介入群では通常ケア群と比較して、緩和ケア相談を受けた患者の割合が高く(43.9% vs.16.6%、補正後オッズ比[aOR]:5.17、95%信頼区間[CI]:4.59~5.81)、緩和ケア相談までの時間が26.7%短かったが(入院後の平均[±SD]日数:3.4±2.6日vs.4.6±4.8日、p<0.001)、在院日数は両群で差がなかった(4.9日vs.5.0日、在院日数中央値の変化量[%]の差:-0.53%[95%CI:-3.51~2.53])。 また、介入群は通常ケア群と比較して、退院時の蘇生処置拒否指示(aOR:1.40[95%CI:1.21~1.63])およびホスピスへの退院(1.30、1.07~1.57)の割合が高かったが、院内死亡率は同程度であった(4.7% vs.4.2%、aOR:0.86[95%CI:0.68~1.08])。

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米国透析施設の新たな支払いモデル、人種・経済格差の影響は?/JAMA

 米国のメディケア・メディケイドの運営主体Centers for Medicare & Medicaid Services (CMS)は2021年1月1日、米国内の透析施設の30%をランダムに選択し、在宅透析の利用、腎移植待機リストへの登録や移植の受領に基づき経済的インセンティブ(賞与もしくは罰金)を与える支払い方法「末期腎不全治療選択(ETC)モデル」を導入した。背景には、人種や社会経済的状況により、在宅透析導入や移植受領などに格差がみられたことがある。先行研究で、同モデル導入による在宅透析利用の増加の報告(全成人透析導入患者において)や変化なしという報告(66歳以上の従来メディケア受給者において)があるが、腎不全治療の公平性に対する影響については検討されていなかった。今回、米国・ブラウン大学のKalli G. Koukounas氏らは、透析施設を透析導入患者の社会的リスクで層別化し、ETCモデル導入初年度のパフォーマンススコアと罰金を評価した。JAMA誌2024年1月9日号掲載の報告。全米2,191の透析施設の複合社会的リスクスコアとパフォーマンスの関連を検証 研究グループは、2021年1月1月~12月31日にETCモデルに参加した米国内透析施設2,191ヵ所を対象に横断的研究を行った。 透析導入患者の集団特性について、非ヒスパニック系黒人、ヒスパニック系、極度の貧困地域に居住、透析開始時に無保険またはメディケイド受給者の構成割合を調査。そのうえで、複合社会的リスクスコアとして、各項目患者の割合について最高五分位に該当する項目数が0、1、2以上かで各施設を分類し、在宅透析の利用、腎移植待機リストへの登録、移植の受領、モデルのパフォーマンススコア、罰金との関連を評価した。社会的リスク高い施設、パフォーマンスや賞与率は低く、罰金率は高い傾向 透析導入患者12万5,984例(年齢中央値65歳[四分位範囲[IQR]:54~74、女性41.8%、黒人28.6%、ヒスパニック11.7%)のデータを用いて解析した。 試験対象2,191ヵ所のうち、複合社会的リスクスコアが0の透析施設が1,071ヵ所(48.9%)、同スコア2以上が491ヵ所(22.4%)だった。 ETCモデルを導入した初年度に、複合社会的リスクスコアが0だった透析施設と比較して、2以上だった透析施設の平均パフォーマンススコアは有意に低く(3.4 vs. 3.6、p=0.002)、在宅透析の実施率も有意に低かった(14.1% vs.16.0%、p<0.001)。 これらの透析施設は罰金を課された割合が有意に高く(18.5% vs.11.5%、p<0.001)、最高率5%の支払い額の削減を受けた割合も有意に高かった(2.4% vs.0.7%、p=0.003)一方で、最高率4%の賞与を受けた割合は有意に低かった(0% vs.2.7%、p<0.001)。 すべてのその他の透析施設と比較して、無保険者やメディケイド受給者の割合が最高五分位に該当する透析施設は、罰金を課される割合が有意に高く(17.4% vs.12.9%、p=0.01)、同様に黒人患者の割合が最高五分位に該当する透析施設も罰金を課される割合が有意に高率だった(18.5% vs.12.6%、p=0.001)。

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無羊水症への羊水注入、新生児の予後を改善するか/JAMA

 胎児の両側性腎無形成に起因する妊娠初期の無羊水症は、新生児に致死的な肺低形成を引き起こすが、連続的な羊水注入により羊水を回復させることで、胎児の肺の発達を促し、生存が可能になると示唆されている。米国・ジョンズ・ホプキンス大学のJena L. Miller氏らは、連続的な羊水注入は新生児の致死的肺低形成を軽減するが、早産の増加と関連し、退院までの生存率は低いことを示した。研究の詳細は、JAMA誌2023年12月5日号で報告された。米国9施設の非無作為化臨床試験 本研究は、米国の9施設が参加した非盲検前向き非無作為化臨床試験であり、2018年12月~2022年7月に行われた(米国・ユーニス・ケネディ・シュライバー国立小児保健・人間発達研究所[NICHD]の助成を受けた)。 孤立性両側性腎無形成による無羊水症が確認され、他の先天性異常のない21組の母体・胎児を対象とした。妊娠26週までに、超音波ガイド下で経皮的に、等張液を用いた羊水注入を開始した。注入の頻度は、妊娠期間に応じて正常な羊水レベルを維持するよう個別に設定した。 主要アウトカムは、新生児の生後14日以上の生存と、透析導入の複合とした。主要アウトカムは生児出産17例中14例で達成 介入の有効性が示されたものの、主要アウトカムの領域を超える新生児の合併症と死亡が懸念されたため、18組の母体・胎児の中間解析に基づき、本試験は早期中止となった。 生児出産は17例(94%)で、分娩時の妊娠期間中央値は32週4日間(四分位範囲[IQR]:32~34週)と全般に早産であった。全参加者が37週までに出産していた。 生後14日以上の生存と透析導入は、17例の新生児のうち14例(82%)で達成された(95%信頼区間[CI]:44~99)。 主要アウトカムの生後14日以上の生存と関連する因子として、(1)羊水注入の回数(中央値)が多い(生存例14回vs.非生存例5回、p=0.01)、(2)初回羊水注入から早産期前期破水(PPROM)までの期間(中央値)が長い(66.0日vs.13.0日、p=0.04)、(3)妊娠期間が32週より長い(14例[100%]vs.1例[25%]、p=0.005)、(4)出生時体重が重い(2,010g vs.1,350g、p=0.03)が挙げられた。生存退院は6例(35%)のみ 生後24週(中央値、範囲:13~32週)の時点で長期の腹膜透析を受けており、自宅へと生存退院した新生児は、17例中6例(35%)のみだった。 その後、2例が死亡した。1例は2歳時に透析関連の感染性合併症による死亡、1例は生後4ヵ月時に自宅で心停止後の死亡であった。3例(50%)が脳卒中を発症し、2例は長期生存している。 著者は、「退院までの生存率の低さは、肺機能とは別に、付加的な死亡負担が存在することを強調するものである」と指摘し、「生存している新生児のアウトカムの特性を完全に明らかにし、合併症と死亡の負担を評価するためには、さらなる長期データが求められる」としている。

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透析そう痒症を改善する初の静注薬「コルスバ静注透析用シリンジ」【最新!DI情報】第7回

透析そう痒症を改善する初の静注薬「コルスバ静注透析用シリンジ」今回は、静注透析そう痒症改善薬「ジフェリケファリン酢酸塩注射液(商品名:コルスバ静注透析用シリンジ17.5μg/25.0μg/35.0μg、製造販売元:丸石製薬)」を紹介します。本剤は、透析治療を受ける慢性腎不全患者に多く認められるかゆみを治療するわが国初の静注薬であり、患者QOLの向上が期待される新たな治療選択肢です。<効能・効果>血液透析患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)の適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得し、同年12月13日に発売されています。<用法・用量>通常、成人にはジフェリケファリンとして、ドライウェイト時における下記用量を週3回、透析終了時の返血時に透析回路静脈側に注入します。45kg未満:17.5μg45kg以上65kg未満:25.0μg65kg以上85kg未満:35.0μg85kg以上:42.5μg<安全性>国内の血液透析患者を対象とした試験(MR13A9-3、MR13A9-4およびMR13A9-5試験)における本剤投与群の副作用の発現割合は19.7%(50/254例)で、2.0%以上に発現した主な副作用は、傾眠(2.8%)、浮動性めまい(2.4%)、便秘(2.0%)および血圧低下(低血圧との合算で2.0%)でした。自動車運転および機械操作に対する影響または精神機能の障害に対する試験は実施していませんが、主な副作用として傾眠と浮動性めまいが確認されたことから、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には従事させないよう注意喚起が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血液透析における既存治療で効果が不十分なかゆみの改善に用いられます。2.抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬などが効きにくいかゆみを抑えます。3.眠気、めまいなどが現れることがありますので、車の運転など危険を伴う機械の操作には従事しないでください。4.妊婦または妊娠している可能性のある人、授乳中の人は、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>皮膚そう痒症は、血液透析治療を受ける慢性腎不全患者に多く認められる疾患で、かゆみの原因となる明らかな皮膚病変がないにもかかわらず、全身のあらゆる場所にかゆみが生じます。かゆみは断続的に生じてQOLを低下させるばかりでなく、睡眠障害やうつ病、死亡リスクの上昇などの悪影響を引き起こすこともあります。血液透析患者におけるそう痒症の緩和には、一般的に保湿剤やステロイド剤の外用治療、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬による外用または内服治療が行われます。これらの治療でも効果不十分の場合は、かゆみを抑制するκオピオイド受容体(KOR)の作動薬であるナルフラフィンが内服で用いられています。しかし、血液透析患者の約40%は、これらの治療を受けても中等度~重度のそう痒症が残存します。ジフェリケファリンは、ナルフラフィンに次ぐKOR作動薬であり、透析終了後の返血時に透析回路からボーラス投与するわが国初の静注のプレフィルドシリンジ製剤です。静注薬なので、透析患者の水分摂取制限や嚥下機能低下に影響されず、透析時に医師の管理のもとに投与されるため服薬アドヒアランスにも影響されません。既治療のそう痒症を有する血液透析患者178例を対象とした国内第III相臨床試験(MR13A9-5)の二重盲検期において、主要評価項目である「4週時の平均かゆみNRS(numerical rating scale)スコアのベースラインからの変化量」は、本剤投与群-2.06、プラセボ投与群-1.09、群間差-0.97(95%信頼区間:-1.52~-0.42)であり、プラセボ投与群に対して本剤投与群の優越性が示されました(p

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第177回 災害派遣医療チーム(DMAT)182隊が派遣、災害関連死防止のため患者を移送へ/能登半島地震

<先週の動き>1.災害派遣医療チーム(DMAT)182隊が派遣、災害関連死防止のため患者を移送へ/能登半島地震2.2024年度の診療報酬改定、高齢者の救急搬送を受け入れる病棟の新設へ/厚労省3.大学病院の対応能力を超過、臓器移植の体制整備が急務/移植学会4.処方箋なしで病院の薬が買える「零売薬局」を規制強化/厚労省5.3次救急病院において救急救命士への指示拒否やパワハラが発覚/鳥取県6.高齢化と後継者不足で約半数の開業医が10年以内に引退へ、地域医療が危機/山形県1.災害派遣医療チーム(DMAT)182隊が派遣、災害関連死防止のため患者を移送へ/能登半島地震能登半島地震の影響で石川県の高齢者施設では、災害関連死のリスクが高まっている。過去の災害では、多くの災害関連死が高齢者施設や自宅で発生しており、現在も同様の状況が懸念されている。神戸協同病院の上田 耕蔵院長は、施設の現状が「限界を超えた状態」にあると指摘している。東日本大震災のデータによると、災害関連死の25%が発生から1週間以内に起きており、能登半島地震でも同様の事態が発生している可能性がある。被災地では、1月14日現在、災害派遣医療チーム(DMAT)182隊が活動しており、災害支援ナースも複数の自治体から派遣されている。また、熊本地震でも活躍したモバイルファーマシーも活動を開始している。しかし、高齢者施設や自宅での災害関連死のリスクは依然として高く、とくに高齢者の健康状態に問題があるため、自宅にとどまっている人々に対する支援が重要となっている。東日本大震災の事例を分析した結果、関連死の8割は震災後3ヵ月以内に発生し、死因の多くは呼吸器疾患や心血管疾患であった。能登半島地震の被災地では、避難所のトイレ、食事、寝床の改善が重要であり、とくに高齢者に対するケアが必要とされている。災害関連死を防ぐためには、ライフラインの復旧とともに、弱っている人々を早急にみつけ、適切な医療や支援を提供することが求められている。このため石川県は災害関連死を防ぐため、被災した人たちの2次避難や広域避難を急いでいる。なお、厚労省は能登地震への対応について「まとめサイト」を設けており、地震に関する情報を掲載して、随時更新している。参考1)石川県能登地方を震源とする地震について(厚労省)2)石川県能登地方を震源とする地震による被害状況等について(同)3)「まだまだ水が足りない」 石川・被災地の総合病院、人工透析もできず(神奈川新聞)4)病院や施設でも高齢者に命の危機 半島部から350人以上を移送(毎日新聞)5)災害関連死、発生のピークは1~2週間後 東日本大震災の事例を分析(朝日新聞)6)災害関連死、施設や自宅で起きている恐れ もう「限界を超えた状態」(同)2.2024年度の診療報酬改定、高齢者の救急搬送を受け入れる病棟の新設へ/厚労省2024年度の診療報酬改定に向けた議論が大詰めを迎えている。1月12日、武見 敬三厚生労働大臣は中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問を行った。改定の基本方針は、医療関係職種の賃上げと働き方改革の推進に重点を置いたものとなっており、診療報酬の本体は0.88%引き上げられ、そのうち0.61%分が看護職員や病院薬剤師の賃上げに、0.28%分が若手勤務医や事務職員の賃上げに充てられる。中医協では、この前提に基づいて点数配分を議論し、改定案を答申する予定である。入院医療の評価に関しては、高齢者の救急搬送を受け入れる病棟の新設や、急性期入院医療の評価項目の見直しが焦点となっている。また、外来医療では、地域包括診療料の算定要件と評価の見直し、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応、介護との連携強化が議論されている。賃上げを実現するため、入院基本料などの評価の見直しも検討され、外来診療での感染防止対策や職員の賃上げに対する評価の見直しも含まれている。また、栄養管理体制基準明確化や、患者への身体的拘束を組織的に最小化にする体制整備なども追加された。医療DXによる情報連携や医療・介護連携の推進も、2024年度同時改定の重要ポイントとされている。これには、オンライン資格確認体制整備や、遠隔医療の推進、医療保険と介護保険との給付調整見直し、医療・介護のリハビリ連携強化などが含まれている。質の高い医療サービスの実現に向けては、がん医療や小児医療の充実、食材料費や光熱費の高騰への対応、医療安全対策の強化などが議論されている。また、医療保険財政逼迫を踏まえ、長期収載品の患者特別負担の適正化や、後発医薬品の使用促進なども検討されている。この改定は、医療人材の確保と賃上げ、医療サービスの質の向上、医療DXの推進など、多岐にわたる分野に影響を及ぼすとみられており、今後、個別改定項目の論議を経て、中医協総会は2月上旬に武見厚労相へ答申を行う予定。参考1)これまでの議論の整理(案)について(厚労省)2)2024年度診療報酬改定を諮問、厚労相 中医協の議論大詰めへ(CB news)3)賃上げで入院基本料などの「評価見直す」24年度改定議論の整理、中医協了承(同)4)2024年度診療報酬改定の項目固まる!病院の機能分化、処遇改善、医療・介護連携、医療DX推進など診療報酬で推進!-中医協総会(Gem Med)3.大学病院の対応能力を超過、臓器移植の体制整備が急務/移植学会昨年、国内の主要な大学病院において臓器移植手術の断念が急増していることが読売新聞の報道で明らかになった。2023年、東京大学、京都大学、東北大学の3大学病院では、人員や病床不足のため、60件以上の臓器移植を受け入れることができなかった。とくに東京大学では35件の受け入れを断念し、前年の4倍に急増していた。他の大学でも同様の事態が発生している。この背景には、脳死ドナーからの臓器提供が増加していることがある。2023年は132件と過去最多となり、提供件数が大きく伸びた結果、限られた移植施設に要請が集中した。また、臓器摘出手術が休日に偏って行われることも、施設の対応能力を超える一因となっている。土日祝日に摘出手術が行われた割合は、2020年以降61%に増加している。心臓と肺の移植手術は特定の病院に集中しており、東京大、国立循環器病研究センター、大阪大の3施設で心臓移植の約70%、京都大、東北大など4施設で肺移植の約75%を占めている。移植手術の実績がある施設に患者が集まる傾向があり、結果的に臓器の受け入れ先に選ばれやすい状況が生じている。このような状況に対し、医療関係者からは「救える命が救えなくなる」という危機感が表明され、市民団体や専門家らは、ドナー増を見据えた移植体制の整備を国に求めている。東京大学の佐藤 雅昭教授は、看護師や臨床工学技士の不足により、1日に行える移植手術が限られている現状を指摘し、病状が悪化した患者が移植の順番が回って来たにもかかわらず、別の緊急手術に人員が割かれたために移植を断念し、その後患者が亡くなった事例を挙げている。国立循環器病研究センターでは、2023年に32件の心臓移植を実施し、1施設あたりの年間心臓移植件数で過去最多を記録したが、ドナーの増加に伴い、3件同時に要請が来た場合の対応が難しくなるとの懸念を示している。日本移植学会の小野 稔理事長は、現在持ちこたえている移植施設でも早晩深刻な状況に陥ることが予想されるとし、臓器移植の体制充実を求める要望書を国に提出するなど対策を求める方針を明らかにした。参考1)臓器移植見送り、東大・京大・東北大で昨年60件超…提供集中で「対応できる限界超え」(読売新聞)2)移植見送り相次ぎ「救える命救えなくなる」…ドナー増加で体制整備急務(同)3)臓器摘出手術の曜日に偏り、対応能力超え…休日に60%(同)4)臓器移植の体制充実を求める要望書、学会が国に提出へ…東大などで受け入れ断念相次ぎ(同)4.処方箋なしで病院の薬が買える「零売薬局」を規制強化/厚労省厚生労働省は、一部の医療用医薬品を処方箋なしで販売する「零売薬局」に対する規制を強化する方針を示した。現行法では、約2万種類ある医療用医薬品のうち、7,000種類の医薬品を処方箋なしで販売する「零売薬局」について、近年は、「処方箋なしで病院の薬が買える」などと利便性を訴えて増加しており、都市部を中心に全国で約100店の零売薬局があることが問題視されてきた。このため、厚労省は「医薬品の販売制度に関する検討会」を2023年2月から定期的に開催し、具体的な問題点や新たな規制のあり方について検討を重ねてきた。これまで厚労省は、災害時の受診困難や市販薬での代替が難しい場合など、正当な理由がある場合に限り、必要な受診勧奨を行った上での販売を認めていたが、法的拘束力はなかった。その結果、日常的に販売を行う薬局が存在し、不適切な広告を行う薬局が確認されていた。新たな規制では、このようなメリットのみを強調する広告も禁止される。厚労省は、来年以降の法改正を目指し、昨年12月に医薬品の販売制度に関する検討会で改正案をまとめ、厚生科学審議会(医薬品医療機器制度部会)での議論を経て、法改正が進められる予定。参考1)処方箋なしで病院の薬「零売薬局」規制へ 緊急時のみ(日経新聞)2)「医薬品の販売制度に関する検討会」の「とりまとめ概要資料」(厚労省)3)第11回医薬品の販売制度に関する検討会(同)5.3次救急病院において救急救命士への指示拒否やパワハラが発覚/鳥取県鳥取市の鳥取県立中央病院と県東部消防局の関係が、救急搬送を巡る問題で悪化している。昨年12月5日~14日の間、病院の救命救急センター長が消防局に対し、救急救命士からの医療行為指示要請に応じないと通知。この拒否は、院長の許可なく行われ、10日間続いていた。廣岡 保明院長は、「県の手順書が不十分なため、医師が責任を問われる可能性があったため、救命救急センター長が独断で指示要請を拒否した」と説明している。この間、救急救命士は他の病院の医師の指示を受けながら患者を中央病院に搬送した。さらに消防局側は、搬送時に病院医師からパワーハラスメントを受けたと訴え、病院に調査を要請している。廣岡院長は今回の問題について記者会見を開いて陳謝し、再発防止策を講じる意向を示した。また、救急隊員に対するパワハラ行為を認め、消防局側からの約20件の調査要請についても明らかにした。現在、病院側は通常通り救急車を受け入れ、12月15日以降は、指示要請にも応じてとしている。県東部消防局は、地域住民への救急サービスが低下しないよう努めるとコメントした。今回の事件は、医療機関と消防の間の連携に影響を与え、地域住民への医療提供にも影響を与えかねない深刻な事態となっている。神戸大学の小谷 穣治教授は、「医療事故のリスクを抑えるために、医療機関と消防の円滑な連携が求められる」と指摘している。参考1)救急隊の医療行為指示要請医師が拒否 県立中央病院の院長陳謝(NHK)2)救急救命士への指示拒否 鳥取県立中央病院、医師のパワハラ認める(毎日新聞)3)県立病院と消防局の関係が悪化、医師が救急救命士への指示を一時拒否…消防側「搬送時にパワハラも」(読売新聞)4)県民の皆様へ(マスコミ報道について)(鳥取県立中央病院)6.高齢化と後継者不足で約半数の開業医が10年以内に引退へ、地域医療が危機/山形県山形県内の開業医の高齢化が進み、後継者不足が深刻化していることが明らになった。山形県医師会が行ったアンケートによると、約半数の開業医が10年以内に引退する可能性が高いと回答し、後継者が決まっている医師はわずか20.6%にとどまった。とくに60代以上の医師が多く、地域医療を支える現役医師の高齢化が顕著だった。この状況は、地域医療の崩壊をまねく恐れがあり、県医師会は危機感を示している。過去10年で診療所の減少が顕著な地域もあり、とくに最上地域では7診療所が新たに開設された一方で、14診療所が閉院している。また、酒田地区医師会の調査では、半数近くの診療所が10年以内に閉院する可能性があると回答している。医師不足に対応するため、山形県と県医師会は2024年度に「医業承継事業」を実施する方針を立てている。この事業では、開業を希望する医師と後継者不足に悩む診療所を結ぶマッチング専用のホームページを開設し、マッチングの提案や支援制度の紹介を行う予定。新年度予算案には関連費用として1,530万円が計上されている。この取り組みは、地域医療の維持と後継者問題の解決に向けた重要な一歩となる見込み。参考1)高齢化進む開業医 半数余“10年以内に引退の可能性“と回答(NHK)2)診療所の6割「後継者決まっていない」…山形県医師会「地域医療が崩壊しかねない」(読売新聞)

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第192回 能登半島地震から考える、医療現場のインフラ対策

新年早々、何とも言えない気分である。元日に発生した令和6年能登半島地震のことだ。当日、私は地元の仙台市に滞在していた。飲酒・飲食の機会が多い正月は体が鈍る可能性が高くなってしまうので、実家を出てスポーツジムに向かおうと仙台市中心部のアーケード街を歩いていた。元日ということもあり、さすがに普段と比べ人通りは少なかった。ふとスマートフォンからYahooニュースアプリのニュース速報通知が着信したことに気付いた。「石川県能登で最大震度7…」という通知文字が流れて行った。職業柄、ニュース速報はリアルタイムで着信通知をする設定にしている。「うわ、規模がでかい」と内心で思った直後だった。自分のスマホだけでなく、アーケード街を歩く人たちのスマホからも一斉に緊急地震速報の警報音が「グワッ、グワッ、グワッ」と鳴り始めた。「ニュース速報が緊急地震速報に先んじることもあるのか?」と驚きながら、とりあえず私は目の前のコンビニエンスストア内に駆け込んだ。アーケード上部から何かが落下してくるかもしれないと考えたからだ。駆け込んだコンビニは1階が店舗、2階がイートインになっていることは前から知っており、2階のイートインならば比較的安全だろうと考え、入り口そばにある階段を駆け上がった。ちょうど2階に到着した時点で、ゆるやかな揺れを感じた。私はそのまま構わずイートインフロア内でアーケードから一番遠い奥まで移動した。妻の実家に帰省中の娘から「そっち大丈夫?」とのLINEが着信。「軽く揺れた気がする。そっちは?」に「揺れたけど平気」と返信がきた。この頃には揺れも収まっていたので、私は再び外に出て駆け足でジムに向かった。トレッドミルで走りながら、そこに付属するテレビでニュースを確認しようと思ったからだ。ジムに到着し、更衣室で着替え中、津波警報が発令されているニュース速報を知った。すぐにトレッドミルに移動し、NHKニュースをつけながら走り始めた。そこで目に飛び込んできたのは、津波高予想が最大3m(後に5mまで引き上げられたが)ということ。さすがにこれはただ事では済まないと思いながら、現在までニュースをウォッチしている次第だ。さて、厚生労働省が発表している地震の被害状況に目を通していると、最新の第12報(1月4日14 時30分現在)でも、石川県、富山県の合計14医療機関で断水が続いている。すでに現地では大量の水が必要になる透析患者の一部が金沢市内の医療機関などに搬送されたという。また、第8報(1月2日16時00分現在)時点までは停電していた医療機関も1ヵ所あった。この現実はこれだけの規模の災害時にはやむを得ない事態であり、誰にも責任はない。このうち電気に関しては、医療機関の場合、消防法と建築基準法により防災電源としての自家発電設備の設置が義務とされている。ただ、これとは別に医療機関の場合は電気設備の状態が人命に関わるため、日本産業規格(JIS規格)の定める「病院電気設備の安全基準」により非常用自家発電設備の整備基準が示されているものの、これには拘束力はない。一方、災害拠点病院指定要件では、通常時の 6 割程度の発電容量のある自家発電機などを保有し、3 日分程度の備蓄燃料を確保しておく旨が通知されている。今回は幸いにして現状では被災地域での医療機関の停電は解消されているものの、災害規模によっては3日間程度では収まらないことも想定しなければならない。だが、実のところ医療機関にとって災害対策は、日常業務プラスのエクストラな対応が必要になり、余裕を持った対策は、予算の観点からもなかなか難しい。今回のニュースに接した時に私が思い出したエピソードの1つが、東日本大震災を取材した際のある医療機関の事務担当者による話だ。この方は「正直、3日経っても電気の回復が見込めず、慌てて非常用発電装置用の燃料確保に走ったが、物流も途絶し、一時は電源喪失を覚悟した」と語っていた。こうした際に燃料として使われるのは軽油や重油だが、前者は保管から半年、後者は3ヵ月も経過すると酸化などによる劣化が進むため、厳密な運用では廃棄せねばならず、災害対策の悩みの種の1つだとも呟いていた。しかも燃料の場合、備蓄量によっては消防法上で備蓄方法の規制もある。今回の能登半島地震では、もともと道路網がやや貧弱な中で、各地で道路の損傷も報じられている。こうなると物はあっても運びきれないという隔靴掻痒な事態も発生するし、現に一部報道では避難所への物資輸送が道路状況の悪化で困難な状況も伝えられている。日本の場合、全国どこでも地震発生の危険がある国土という意味で、もともとがディフェンシブな条件を抱えている。こうした点について、国による全国一律かつより強靭な対策の拡充が不可避だと改めて感じている。

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フレイルを考える【Dr. 中島の 新・徒然草】(508)

五百八の段 フレイルを考える急に風が冷たくなりました。外は人が歩いていないし、道路の脇の木は坊主だし。すっかり年末年始の風景になってしまいました。さて、先日に当院であったのが「おおさか健康セミナー」という市民講座です。テーマはフレイルで、その最初に私がしゃべることになっていました。担当の師長さんに言われて仰天したのですが、実は半年前に依頼されていたのです。でも、そんな昔のことは忘れていますよね、普通は。「フレイルのことなんて何も知らないのに、よくも安請け合いしたもんだ」と半年前の自分に呆れてしまいます。が、引き受けた以上、市民の皆さんに有難いお話をするしかありません。というわけでまずは勉強です。その結果、自分なりの結論に達しました。フレイルというのは、いわゆる「生老病死」という四苦のうちの「老」ではないかということです。これまで、われわれ医師はもっぱら「病」を相手にしてきました。でも、いつのまにか「病」だけでなく「老」も相手にすることになったのではないでしょうか。「病」と「老」は似ているので、なかなか区別が付きません。でも、例を挙げるとわかりやすい気がします。つまり、病脳梗塞、心筋梗塞、透析、喘息、がん、リウマチ、肺炎など老腰が痛い、目が見えにくい、おしっこが近い、眠れない、耳が遠い、ふらつく、物忘れするといったところでしょうか。「老」で挙げた症状はすべて「年のせいだよ!」で片付けられそうですね。でも、われわれ医師も、これらの症状に真面目に取り組む時代になったといえましょう。おおさか健康セミナーでは、管理栄養士さんや理学療法士さんの講演もありました。フレイル予防のための栄養や運動は彼らに任せるとなると、私の話は物忘れ対策が中心になります。私自身も物忘れが気になる年齢なので、自分自身の工夫を伝授しました。カメラ機能や録音機能を利用して、忘れそうなことはスマホに記憶させておく。なるべく物を捨てて、シンプル・ライフを心掛ける。年を取っても新しいことを勉強する。などですね。講演後の質疑応答では「認知症を予防する生活習慣はどうすればいいですか」という直球が来ました。中島「まずは喫煙をやめ、飲酒をほどほどにしましょう」聴衆「そんなことは当たり前やないか!」さすが、大阪の高齢者は元気ですね。中島「わかっておられるのであれば、あとは実行あるのみですよ」さらに付け加えました。認知症というは、多かれ少なかれ、血管性の要素があるのではないかと私は思っているからです。中島「血圧や血糖、コレステロールに注意して、動脈硬化を予防しましょう」当たり前のことの羅列なのですが、皆さん感心して聴いておられます。中島「歩くというのは血圧にも血糖にも効果があります」そして私が最も言いたいこと。中島「薬の副作用で物忘れが出ることがありますからね。ご自分の服用している薬の効果と副作用を必ずチェックしておきましょう」これができている人が少ないですね。後発品全盛の昨今、コロコロ変わる薬品名を覚えるのすら至難の業なのかもしれません。ということで、盛況だったおおさか健康セミナー。管理栄養士さんや理学療法士さんの話を聴くことによって、自らも勉強になった1日でした。最後に1句フレイルに 歩いて打ち勝つ 冬日向

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高K血症の治療は心腎疾患患者のRAASi治療継続に寄与するか?/AZ

 アストラゼネカは2023年11月24日付のプレスリリースにて、リアルワールドエビデンス(RWE)の研究となるZORA多国間観察研究の結果を発表した。本結果は、2023年米国腎臓学会(ASN)で報告された。 世界中に、慢性腎臓病(CKD)患者は約8億4,000万人、心不全(HF)患者は6,400万人いるとされ、これらの患者における高カリウム血症発症リスクは2~3倍高いと推定されている1-4)。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(RAASi)治療は、CKDの進行を遅らせ、心血管イベントを低減させるためにガイドライン5-7)で推奨されているが、高カリウム血症と診断されると、投与量が減らされる、あるいは中止されることがある6-9)。このことが患者の転帰に影響を与えることは示されており、RAASiの最大投与量で治療を受けている患者と比較して、漸減または中止されたCKDおよびHF患者の死亡率は約2倍であった10)。7月の同社の発表では、米国および日本の臨床現場において、高カリウム血症発症後にRAASi治療の中止が依然として行われていることが示されている。 ZORA研究は、現行の高カリウム血症管理およびその臨床的影響について検証している世界規模のRWEプログラムである。ZORA研究「高カリウム血症発症後におけるジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC)によるRAASi治療継続に関する研究」では、高カリウム血症発症後にRAASi治療を受けたCKDおよび/またはHFの患者を対象とし、ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC、商品名:ロケルマ)の投与を120日以上受けた患者565例(米国)、776例(日本)、56例(スペイン)がSZC投与コホートに組み入れられ、カリウム吸着薬なしコホートには、カリウム吸着薬の処方を受けなかった患者2,068例(米国)、2,629例(日本)、203例(スペイン)が組み入れられた。2つ目のZORA研究「高カリウム血症を発症したCKD患者におけるRAASiの減量とESKDへの進行との関連性」では、CKDステージ3または4で、ベースライン時にRAASiを使用しており、高カリウム血症を発症した患者1万1,873例(米国)および1,427例(日本)が組み入れられた11)。高カリウム血症発症の前後3ヵ月におけるRAASiの処方状況に基づき、患者はRASSi減量群、中止群、維持群に分類された12)。 主な結果は以下のとおり。・高カリウム血症に対してSZCによる治療を行ったCKDまたはHFの患者は、治療されなかった患者と比較して、高カリウム血症の発症から6ヵ月後において、RAASi治療を維持できるオッズ比が約2.5倍となった(オッズ比:2.56、95%信頼区間:1.92~3.41、p<0.0001)11)。・末期腎不全(ESKD)※への進行リスクは、RAASi治療の維持群と比較し、中止群では73%増加、減量群で60%増加した12)。これらの結果は、高カリウム血症発症によるRAASi投与量の減量により、CKDまたはHFの患者における心腎イベントおよび死亡のリスクが増加することを示す過去のデータを裏付けた。・国別にみると、中止群におけるESKDへの進行リスクは維持群と比べて、米国では74%増加、日本では70%増加していた。なお、米国の対象患者(24.8%)に比べて日本の対象患者(62.6%)ではCKDステージ4の割合が高かったという違いがあったが、本研究により示されたRAASi治療が中止された患者におけるESKDへの進行リスクは、国によらず一貫していた。※高カリウム血症発症後6ヵ月以内に、CKDステージ5として診断あるいは透析開始と定義した。 UCLA HealthのAnjay Rastogi氏は、「高カリウム血症を積極的に管理することにより、ガイドライン5-7)で推奨されているRAASi治療を最適用量で維持することが可能となり、CKDまたはHFの患者の転帰を改善できることが明らかになった。しかし、本研究は、臨床現場で高カリウム血症発症後の心腎疾患患者に実際に起きていること、また、RAASiの減量や中止により重大な結果がもたらされ、転帰の悪化と死亡率の増加につながりうることについて、直視すべき実態を提示している」とコメントした。 AstraZeneca(英国)のエグゼクティブバイスプレジデント兼バイオファーマビジネスユニットの責任者であるRuud Dobber氏は、「今回のデータは、高カリウム血症が適切に管理されなければ、RAASiの減量や中止により、心血管疾患や腎疾患の転帰が悪化したり死亡率が増加したりする可能性があるという、過去に発表したエビデンスをさらに裏付けるものである。ロケルマは、高カリウム血症というしばしば緊急処置を要することのある疾病負荷に対応するための重要な治療戦略となる可能性がある。AstraZenecaは、ガイドライン5-7)で推奨されているRAASi治療を実施できるよう、また、より強力な心腎保護効果を患者に届けられるよう、引き続き医療従事者と協力していく」と述べている。■参考文献1)Jain N, et al. Am J Cardiol. 2012;109:1510-1513.2)Sarwar, CM. et al. J Am Coll Cardiol. 2016;68:1575-1589.3)Jager KJ, et al. Nephrol Dial Transplant. 2019;34:1803-1805.4)GBD 2016 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators. Lancet. 2017; 390:1211-1259.5)Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2020;98:S1-S115.6)Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2022;102:S1-S127.7)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021;42:3599-3726.8)Heidenreich PA, et al. J Am Coll Cardiol. 2022;79:e263-e421.9)Collins AJ, et al. Am J Nephrol. 2017;46:213-221.10)Epstein M, et al. Am J Manag Care. 2015;21:S212-S220.11)Rastogi A, et al. ZORA: Maintained RAASi Therapy with Sodium Zirconium Cyclosilicate Following a Hyperkalaemia Episode: A Multi-Country Cohort Study, presented at American Society of Nephrology Kidney Week, 1-5th November 2023, Philadelphia, PA, USA.12)Rastogi A, et al. ZORA: Association between reduced RAASi therapy and progression to ESKD in hyperkalaemic CKD patients, presented at American Society of Nephrology Kidney Week, 1-5th November 2023, Philadelphia, PA, USA.

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新規機序でリン吸収を阻害する高リン血症薬「フォゼベル錠」【最新!DI情報】第5回

新規機序でリン吸収を阻害する高リン血症薬「フォゼベル錠」今回は、高リン血症治療薬「テナパノル塩酸塩錠(商品名:フォゼベル錠5mg/10mg/20mg/30mg、製造販売元:協和キリン)」を紹介します。本剤は、腸管からのリン吸収を阻害することで高リン血症を改善する新たな作用機序の薬剤です。1日2回投与で服薬負荷を軽減し、長期的なリン管理が可能になると期待されています。<効能・効果>本剤は、透析中の慢性腎臓病患者における高リン血症の改善の適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得しました。なお、本剤は血中リンの排泄を促進する薬剤ではないので、食事療法などによるリン摂取の制限を考慮する必要があります。<用法・用量>通常、成人にはテナパノルとして1回5mgを開始用量として、1日2回、朝食および夕食直前に経口投与します。以後、症状や血清リン濃度の程度により適宜増減することができます。最高用量は1回30mgです。血液透析中に排便を催すことが懸念される患者では、透析直前での投与を控え、朝夕以外の食直前の投与も可能です。<安全性>透析中の慢性腎臓病患者を対象とした国内第III相臨床試験において、本剤投与群全体の76.6%(331/432例)に有害事象が発現しました。最も多く発現した有害事象は下痢で、61.3%(265/432例)に生じました。重症度は軽度のものが大半で、重篤な下痢は認められませんでしたが、下痢によって脱水に至る恐れがあるため注意が必要です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、食事に含まれるリンの吸収を抑制し、血中のリン濃度を低下させます。2.服用後に食事をとらなかった場合には、この薬の効果は期待できません。3.血中のリンの排泄を促す薬ではないので、リンを多く含む食事の制限が必要です。4.下痢に伴う口渇や手足のしびれ、強い倦怠感、血圧低下などが現れた場合は速やかにご連絡ください。5.透析中に排便を催す懸念があるときは、事前に申し出てください。<ここがポイント!>従来、透析患者における高リン血症の治療として、リン吸着薬が用いられてきました。リン吸着薬には、副作用として嘔気や下痢などの消化管障害、高カルシウム血症、鉄過剰症が現れることがあるため、リン輸送を阻害するリン吸収抑制薬が開発されました。本剤は腸管で局所的にナトリウム/プロトン交換輸送体3(NHE3)を阻害し、消化管からのNa+の吸収を低下させ、腸管上皮細胞内のH+濃度を上昇させます。細胞内のpHが低下するとリン吸収の主要経路である傍細胞経路(細胞間隙経路)からのリンの透過性が低下し、腸管からのリン吸収が低下します。本剤は、高リン血症治療に伴う既存のリン吸着薬による服薬負荷を軽減しつつ、長期間のリン管理が可能です。血液透析施行中の高リン血症患者を対象とした第III相プラセボ対照二重盲検ランダム化並行群間比較試験(試験番号:7791-004)において、主要評価項目である投与開始8週後の血清リン濃度のベースラインからの変化量の最小二乗平均値は、プラセボ群で0.05mg/dL(95%信頼区間:−0.25~0.36)、本剤群で−1.89mg/dL(同:−2.19~−1.60)でした。プラセボ群と本剤群との変化量の差(本剤群−プラセボ群)は、−1.95mg/dL(同:−2.37~−1.53)であり、本剤群ではプラセボ群に比べて血清リン濃度が有意に低下しました。なお、テナパノルは米国では便秘型の過敏性腸症候群(IBS-C)に対する治療薬として承認されていますが、わが国では未承認です。

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AHAでJ-PCI registry解析結果を発表、セマグルチドも話題に【臨床留学通信 from NY】第54回

第54回:AHAでJ-PCI registry解析結果を発表、セマグルチドも話題に秋の学会シーズンということで、前回はTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)についてでしたが、今回はフィラデルフィアで11月11~13日に開催されたAHA(American Heart Association)です。AHAは米国心臓病協会の学会で、ACC(American College of Cardiology)と2大循環器学会となります。TCTからわずか3週間後の開催です。カテーテル治療系の目玉となるトライアルは、多くがTCTで発表される傾向があります。一方、AHAはカテーテル治療も取り上げられるものの、どちらかというと予防医学などに重点を置いている傾向があります。今回のAHAでは、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)の「J-PCI registry」というNational registryにおいて、透析患者に対する橈骨動脈アプローチに関して研究計画書を提出して採用されたことから、統計解析の結果をポスターセッションで発表しました1)。そしてほぼ同時に、European Heart Journal誌の姉妹誌であるEHJ Open誌に掲載されました2)。一般的にカテーテル治療は橈骨動脈から施行したほうが、大腿動脈より施行するよりリスクが低いとされます。しかし、シャントを有する透析患者は、出血リスクが高いにもかかわらず、橈骨動脈閉塞の危険性があることから、大腿動脈から施行することが通例です。それに関して、私が日本にいたときから、透析患者であっても橈骨からできないかというパイロット研究をしていました3)。症例は100人に満たない人数ですが、一般病院で倫理委員会を通し、腎臓内科の先生とも共同し、橈骨動脈が閉塞しているかどうかもきちんと調べて論文化したテーマです。これをNational registryを使って研究させていただいたのは貴重な経験でした。次のステップとして、米国のNational registryである「NCDR CathPCI registry」というデータベースが公募しているので、今回のEHJ Open誌のデータを示して挑戦したいと思います。ニューヨークからフィラデルフィアまでは近いこともあり、前もって購入すれば往復40ドルの電車賃だけで世界的な学会に参加できます。今回は週末のみの滞在で、日本人の方々とお話をしていたら学会が終わってしまったという印象です。ただその中でも、セマグルチドの肥満症に対する心血管イベント抑制効果を検討した「SELECT 試験」が最も話題になりました。日本でも11月22日に薬価収載され、はたして日本で適応となる人はどれくらいでしょうか。ここ肥満大国アメリカで本薬が適応となるのは人口の約5%に相当するとされ、製薬会社の争奪戦となっているようです。しかし、保険の縛りが強く、なかなか患者さんの手に入らないとも言われており、医療格差が広がる一方ではないかという危惧もあります。参考1)Kuno T, et al. Abstract 13387: Transradial Intervention in Dialysis Patients Undergoing Percutaneous Coronary Intervention: A Japanese Nationwide Registry Study. Circulation. 2023;148:A13387.2)Kuno T, et al. Transradial Intervention in Dialysis Patients Undergoing Percutaneous Coronary Intervention: A Japanese Nationwide Registry Study. Eur Heart J Open. 2023 Nov 14.3)Kuno T, et al. A Transradial Approach of Cardiac Catheterization for Patients on Dialysis. J Invasive Cardiol. 2018;30:212-217.Column私が指導している初期研修医、後期研修医相当(米国1年目)の先生方が、TCT やAHAで海外学会デビューされ、頼もしい限りです。私は学会発表が卒後6年目以降、海外学会は7年目以降、そして12年目にようやく渡米したこともあり、キャリアの早い段階で臨床留学を達成、またそれに挑戦している若手の刺激を受けて、まだまだ頑張らなければと思う日々です。【後輩の先生方の研究】Kiyohara Y, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;82:B135–B136.Kiyohara Y, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;82:B74.Watanabe A, et al. Circulation. 2023;148:A13383.Watanabe A, et al. J Med Virol. 2023;95:e28961.Shimoda T, et al. Circulation. 2023;148:A14832.

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生体吸収型ステントの再挑戦やいかに(解説:野間重孝氏)

 日本循環器学会と日本血管外科学会の合同ガイドライン『末梢動脈疾患ガイドライン』が、昨年(2022年)改訂された。この記事はCareNet .comでも紹介されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思う。 冠動脈疾患以外のすべての体中の血管の疾患を末梢動脈疾患(PAD)と呼び、さらに下肢閉塞性動脈疾患をLEAD、上肢閉塞性動脈疾患をUEADに分ける。脳血管疾患はこの分類からいけばUEADということになるが、こちらは通常別途議論される。そうするとPADの中で最も多く、かつ重要な疾患がLEADということになる。その危険因子としては4大危険因子である高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙が挙げられるが、腎透析が独立した危険因子であることは付け加えておく必要があるだろう。 そのLEADの中でとくに下肢虚血、組織欠損、神経障害、感染など肢切断リスクを持ち、早急な治療介入が必要な下肢動脈硬疾患がとくに「chronic limb-threatening ischemia :CLTI」と呼称され、「包括的高度慢性下肢虚血」と訳される。ガイドラインにもあるように速やかに血行再建術が施行される場合がほとんどであるため、その自然歴の報告は大変少ないものの、血行再建術が非適応ないし不成功だったCLTI患者の6ヵ月死亡率は、20%に上ることが報告されている。 今回の他施設共同研究では主要エンドポイントがスキャフォールド群で173例中135例、血管形成群で88例中48例となっているが、これは研究の対象患者が膝窩動脈疾患とはいってもCLTI例ばかりではなく、有症状ながらもそれほどの重症例ではないものも組み入れられていたためと考えられる。この結果は生体吸収型のステントにかなり有利なものになっているが、一方で批判的な見方も忘れてはならないと思う。 血管内治療に携わったことのある医師ならば、以前生体吸収型の冠動脈ステントがやはり今回のスポンサーであるアボットから発売されて一時話題になったが、血栓症のリスクが高いことが問題となり、現在はこの技術の開発や普及がほぼ中断された状態になっていることをご存じだと思う。 一方足の血管において、とくに膝窩動脈の治療においてはステントが血管内に残留していることによる足の可動制限が大きな問題となる。膝窩動脈の治療は、下肢動脈の他の部位の治療とは違った見方がされる必要があるのである。さらに足の血管は冠動脈に比して血流が遅く、血管内の炎症が進行しやすいため、血栓症のリスクが高まると考えられている。その点生体吸収型ステントは、一定期間で分解・吸収されるため、血管内に留まる時間が短く血栓症のリスクを下げるばかりでなく、可動制限が一定期間で解消されるのではないかと期待が持たれている。 しかしその一方、生体吸収性ステントは、金属製ステントよりも血栓の発症そのものは起こりやすく、また金属ステントに比して厚みのある構造になっていることから、留置後の血管治癒反応が起こりにくく、血管内腔にデバイスの一部が浮いた状態となる「遅発性不完全圧着」が生じ、これがさらに血栓症の危険を高めるのではないかとも危惧されている。 評者は今回の試みを評価するものではあるが、もうしばらくフォローアップ期間を置いて判断する必要があるのではないかと思う。また、重症例に絞った結果も知りたいところである。そして何といっても、外科的な治療との比較が行われることが重要なのではないかと考えるものである。評者は内科医であるから外科領域について軽々に言及することは控えなければならないが、あえていえば、最近末梢血管治療を手掛ける外科医(下肢の血管は血管外科医だけでなく形成外科でも一部手掛けられている)が、どんどん減少していること、それもあってか新しい術式の開発が積極的になされていないことが気になるところである。 なお、今回の研究は動脈硬化性狭窄を対象としているが、はっきり動脈瘤を形成している場合は、現在でも外科手術が第一選択であることは付け加えておかなければならないだろう。

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