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腎疾患治療に格差、130ヵ国調査で明らかに/JAMA

 カナダ・アルバータ大学のAminu K. Bello氏らが、世界130ヵ国を対象に腎疾患への対応能力などについて調べた結果、地域間および地域内で、サービスや人的資源について顕著なばらつきが認められることが判明した。本研究は、「腎疾患は世界中で医療・公衆衛生上の重大な課題になっているが、ケアに関して入手できる情報は限定的である」として行われたが、結果を踏まえて著者は、「今回の調査の結果が、現在の各国の腎疾患治療の現状を正確に反映しているものならば、その質的改善に努めるよう知らしめるのに有用なものとなるだろう」と述べている。JAMA誌オンライン版2017年4月21日号掲載の報告。ISN加盟130ヵ国にアンケート調査 研究グループは、現在の腎疾患治療提供に関する準備(readiness)、キャパシティ、能力(competence)について、各国および各地域の情報を集めるアンケート調査を行った。国際腎臓学会(ISN)を通じて、国および地域の腎臓病学のリーダーと特定された、ISN加盟130ヵ国の主要ステークホルダー(国の腎臓学会リーダー、方針の策定者、患者団体代表)に対し2016年5月~9月に実施した。 主要評価項目は、腎疾患治療についての国のキャパシティおよびレスポンスの中心エリアとした。透析・移植設備や、ガイドライン整備などで顕著な格差 回答があったのは、130ヵ国のうち125ヵ国(96%)、個人の回答率は289/337人(85.8%、回答者中央値は2[四分位範囲:1~3])で、これは世界人口73億人のうち推定で93%(68億人)の回答率を示すものであった。 結果、世界各国のサービス供給に関する準備、キャパシティ、レスポンスや、資金、従事者、情報提供システム、およびリーダーシップやガバナンスは大きなばらつきがあることが認められた。 全体で、血液透析設備があるのは119ヵ国(95%)、腹膜透析設備は95ヵ国(76%)、腎移植設備は94ヵ国(75%)であった。対照的にアフリカ各国では、血液透析設備があるのは33ヵ国(94%)、腹膜透析設備は16ヵ国(45%)、腎移植設備は12ヵ国(34%)にあるという状況であった。 慢性腎臓病(CKD)のプライマリケアにおけるモニタリングで、血清クレアチニンとともに推定糸球体濾過量(eGFR)および尿蛋白測定報告が入手できたのは、それぞれわずか21ヵ国(18%)、9ヵ国(8%)であった。 血液透析、腹膜透析、移植医療について、公的資金が投じられ制限なく治療が受けられるのは、それぞれ50ヵ国(42%)、48ヵ国(51%)、46ヵ国(49%)であった。腎臓専門医の数にもばらつきがみられ、アフリカ、中東、南アジア、オセアニア、東南アジア(OSEA)地域で少なかった(100万当たり10人未満)。 健康情報システム(腎登録)の利用は限定的で、とくに急性腎障害(8ヵ国[7%])、非透析CKD(9ヵ国[8%])で顕著だった。また各国の急性腎障害およびCKDのガイドラインについて、利用可能と報告したのは、それぞれ52ヵ国(45%)、62ヵ国(52%)であった。 とりわけ開発途上国では、臨床研究に取り組む能力が相対的に低いことが認められた。

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FFRジャーナルClub 第4回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第4回目の今回は、2017年3月ACCにて発表されたDEFINE-FLAIR試験の結果に関する論文がNEJMに掲載されたので紹介します。第4回 iFRの臨床的有用性を検証したDEFINE-FLAIR study19ヵ国49施設(日本から5施設)が参加し、iFR guide PCIとFFR guide PCIを前向きランダム化試験により比較検討した研究である。同様のプロトコルで行われたスウェーデン、デンマーク、アイスランドのnational registryを利用したSWEDEHEARTの結果も同時に発表された。DEFINE-FLAIR試験Davies JE, et al. Use of the instantaneous wave-free ratio or fractional flow reserve in PCI. N Engl J Med. 2017 March 18.SWEDEHEART試験Gotberg M, et al. nstantaneous wave-free ratio versus fractional flow reserve to guide PCI. N Engl J Med. 2017 March 18.まずiFRの概念と、FFRとの違いについて解説します。FFRは全心周期の平均圧、平均血管抵抗から平均血流を推測する方法であるのに対し、iFRは拡張期のある一定の期間(Wave free period:WFP)の、大動脈圧と冠動脈遠位部圧の瞬時の比を取るものである。iFRの概念は次の2つの理論的背景に基づく。WFPにおいては、心収縮などの影響を受けず圧に対し受動的に冠血流が流れている時相であり、圧-血流関係が直線的となるため、圧の比から血流の比を算出しうる。また、高度狭窄となるまで安静時血流は一定に保たれている。この2つの理論・仮定の範囲内であれば、iFRはFFR同様、狭窄重症度を定量的に評価しうることになる。FFRとの大きな違いとしては、最大充血にする必要がないので、最大充血惹起に伴うコスト(アデノシンのコストは国により異なるが高額である)や、時間、副作用を減らすことが可能である。一方で、安静時の計測のため、安静時血流が変動しているようなタイミング(造影剤やニトログリセリンの投与直後、PCIによる虚血の直後)や安静時血流が変化する病態(容量負荷疾患、大動脈弁狭窄症、透析患者、急性心筋梗塞患者、頻拍・高血圧状態など)では圧較差(iFR値)も影響を受ける。FFRとiFRの診断一致率は80%程度と良好であるが、さらに一致率を上げるために、hybrid approachが提唱されていた。これは、まずiFRを計測し、iFR値が0.86〜0.93であればアデノシンゾーンとしてFFRを計測する、それ以上・それ以下であれば、それぞれ虚血陰性・陽性としてその結果を採用するというものである。この手法を採用することにより、診断一致率は94%となり、またアデノシンの使用は61%減らすことが可能となる1)。しかしこれはあくまでFFRをgold standardとし、それにiFRの結果を合わせようとするものであり、iFRに独自の虚血域値を設定した場合の臨床的有用性を明らかにしよう、というのが今回のDEFINE-FLAIR studyの目的である。この研究では、少なくとも1病変以上に中等度狭窄と判断された病変を有する2,492例が登録され、前向きにFFR群とiFR群に1:1でランダム割り付けされた。急性冠症候群症例も組み込まれているが、非責任病変のみが登録可能であり、責任病変に対する血行再建治療が終了後に残枝に対する計測が行われた。FFR群ではFFRのみ、iFR群ではiFRのみ計測可能である。FFR 0.80以下、iFR 0.90未満(0.89以下)の病変は血行再建が行われ、それ以外の病変に対してはdeferが選択された。主要評価項目は、1年間のMACE(死亡、非致死性心筋梗塞、予定されていない冠血行再建の施行)である。対象患者の平均年齢は65歳、76%が男性で、80%が安定狭心症症例であった。症例あたりの計測枝数はiFR:1.27±0.61、FFR:1.29±0.63、計測値の平均はiFR:0.91±0.09、FFR:0.83±0.09。機能的に有意と判断された病変数(計測枝数に占める割合)はiFR:28.6%、FFR:34.6%とFFRで有意に多かった(p=0.004)。有意狭窄を1枝以上に認めた症例数は、iFR:426例(34.3%)、FFR:486例(38.9%)で、FFR群で多かった(p=0.02)。その結果、血行再建を受けた症例数は、iFR:590例(47.5%)、FFR:667例(53.4%)と、有意にFFR群で多かった(p=0.003)。PCI数が有意病変を有する症例数より多いのは、急性冠症候群などで機能的評価を行わずに施行されたPCI数も含まれているためである。1年後までに主要評価項目のイベントを生じたのはiFR群で78例(6.8%)、FFR群で83例(7.0%)であり、iFRはFFRに対し非劣性であった。画像を拡大するそれぞれの評価項目も2群間に有意差はなかった。この対象群における冠血行再建施行は、iFR 4.0% vs.FFR 5.3%、死亡+心筋梗塞は、iFR 4.6% vs.FFR 3.5%であった。画像を拡大する手技に伴う副次効果・症状は、iFR群39例(3.1%)、FFR群385例(30.8%)と、iFR群で有意に少なかった(p

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糖尿病患者支援に地域版新資格制度発足

 2017年3月29日、都内において東京糖尿病療養指導士認定機構設立準備委員会は、今夏より発足する「東京糖尿病療養指導士(東京CDE)」「東京糖尿病療養支援士(東京CDS)」に関するプレスセミナーを開催した。 糖尿病療養指導士(CDE)とは、糖尿病とその療養指導全般に関する正しい知識を持ち、医師の指示の下、患者に療養指導を行うことができる熟練した経験を持ち、試験に合格した一定の医療スタッフ(看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士)のことで、患者の生活指導のエキスパートである(平成28年6月時点で全国に19,062名)。今回の資格制度発足は、東京地域に特化した新しい認定資格制度となる。 はじめに東京糖尿病療養指導推進機構の代表理事である本田 正志氏(西川クリニック)が、「糖尿病の臨床現場では、合併症など病状が進行してから受診する患者もいる。そのため患者が重症化する前に身近な人に相談できる、支援できて発症予防に役立つ組織があればと考え、今回資格制度発足となった。今後、糖尿病患者(予備群も含め)2,000万人のために組織を発展させ、糖尿病の重症化を予防できるように支援をお願いしたい」とあいさつを行った。医療スタッフのスキルアップが糖尿病診療体制を強化する 次に東京糖尿病療養指導士認定機構の代表幹事である菅原 正弘氏(菅原医院 院長)が、「東京における糖尿病患者の増加と治療の実態」と題して基調講演を行った。 講演では、東京都の糖尿病患者の動向について全国と比較し、男女ともに糖尿病患者が全国平均より増えていることを指摘した。また、糖尿病の合併症について触れ、以前から知られている網膜症や腎症などに加え、最近では、歯周病、がん、認知症などが糖尿病関連とも報告されている。なかでも介護原因となる疾患の脳卒中(1位)、認知症(2位)が糖尿病に絡む疾患であることから、「介護者にも糖尿病の知識が必要な時代が来た」と警鐘を鳴らす。 糖尿病合併症の数が増えると、その医療費も増える。たとえば腎症を発症し透析まで進展した場合、1人年間500万円以上の医療費が必要なことを考えると、医療経済の面からも早期受診、診療介入によるサポートが必要となる。そのためにも、医療スタッフ、とくにクリニックなどのスタッフのスキルアップが望まれ、「こうした新資格制度の活用で層の厚い診療体制が構築されることを希望する」と抱負を語った。52万人の専門職が糖尿病の発症、重症化を防ぐ 続いて同機構の事務局長である内潟 安子氏(東京女子医科大学 糖尿病センター長)が、「東京糖尿病療養指導士とは」と題し、その発足の意義と活動、今後の展望について説明した。 全国版である日本糖尿病療養指導士(CDEJ)は、臨床現場でよく認知されているが、今回の資格は、全国的にみて患者数が多い東京地域に特化し、地域の事情や問題を加味し、自己管理を指導する医療スタッフを育成するものであるという。 具体的に「東京CDE」は、医療専門職として主に糖尿病患者の指導にあたるスタッフで、CDEJの職種に加え保健師、准看護師、健康運動指導士、作業療法士などを対象に資格の取得を目指すとする。 また、「東京CDS」は幅広い職種から成り、主に健康増進・糖尿病発症予防や福祉、介護など、患者よりも予備群、一般生活者を対象に疾患啓発、予防にあたるスタッフである。対象は、栄養士、介護支援専門員、介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士、歯科衛生士、登録販売者、保健・健康増進担当の自治体職員などが想定されている。両方の有資格者は東京都だけで約52万人以上と予想されている。 資格取得者は、糖尿病の病態と療養に関する体系的な知識を、職域で専門的に活かせ、医師やCDEJなどの指導対象者にとっては信頼して患者指導を任すことができる。また、資格者が施設にいることで、クリニックならばスタッフの再教育、継続教育につながるほか、健保組合なら糖尿病発症予防、重症化予防に最新の疾患知識を指導に役立てることができるという。 内潟氏は説明の中で、「臨床現場では、患者は医師に直接聞けないことを周りの看護師などのスタッフに尋ねている。そのときに答えられないと、患者の信頼を得ることはできない。糖尿病診療では、日ごろのコミュニケーションが大事であり、スタッフがこの資格を通じてスキルアップすることで、患者への適切な指導ができるようになってもらいたい」と新資格の意義を強調した。 今後の予定として8、9月に受験者用研修会の実施、10月に認定試験が開催され、2018年初頭には第1号の資格者が誕生する(資格更新は5年ごとの予定)。 両資格に関する詳しい内容は、下記のサイトを参考にしていただきたい。関連サイト東京糖尿病療養指導士認定機構東京糖尿病療養指導推進機構

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自己免疫性溶血性貧血〔AIHA: autoimmune hemolytic anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は、赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮(溶血)し、貧血を来す。AIHAは、自己抗体の性状によって温式抗体によるものと、冷式抗体によるものに2大別される。温式抗体(warm-type autoantibody)による病型を単に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼ぶことが多い。冷式抗体(cold-type autoantibody)による病型には、寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある。温式抗体は体温付近で最大活性を示し、原則としてIgG抗体である。一方、冷式抗体は体温以下の低温で反応し、通常4℃で最大活性を示す。IgM寒冷凝集素とIgG二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が代表的である。時に温式抗体と冷式抗体の両者が検出されることがあり、混合型(mixed type)と呼ばれる。■ 疫学AIHAの推定患者数は100万人対3~10人、年間発症率は100万人対1~5人で、病型別比率は、温式AIHA90.4%、CAD7.7% 、PCH1.9%とされている。温式AIHAの特発性/続発性は、ほぼ同数に近いと考えられる。特発性温式AIHAは、小児期のピークを除いて二峰性に分布し、若年層(10~30歳で女性が優位)と老年層(50歳以後に増加し70代がピークで性差はない)に多くみられる。全体での男女比は1~2:3で女性にやや多い。CADのうち慢性特発性は40歳以後にほぼ限られ男性に目立つが、続発性は小児ないし若年成人に多い。PCHは、現在そのほとんどは小児期に限ってみられる。■ 病因自己抗体の出現機序として次のように整理されている。1)免疫応答機構は正常だが患者赤血球の抗原が変化して、異物ないし非自己と認識される。2)赤血球抗原に変化はないが、侵入微生物に対して産生された抗体が正常赤血球抗原と交差反応する。3)赤血球抗原に変化はないが、免疫系に内在する異常のために免疫的寛容が破綻する。4)すでに自己抗体産生を決定付けられている細胞が、単または多クローン性に増殖または活性化され、自己抗体が産生される。■ 症状1)温式AIHA臨床像は多様性に富み、発症の仕方も急激から潜行性まで幅広い。とくに急激発症では発熱、全身衰弱、心不全、呼吸困難、意識障害を伴うことがあり、ヘモグロビン尿や乏尿も受診理由となる。急激発症は小児や若年者に多く、高齢者では潜行性が多くなるが例外も多い。受診時の貧血は高度が多く、症状の強さには貧血の進行速度、心肺機能、基礎疾患などが関連する。黄疸もほぼ必発だが、肉眼的には比較的目立たない。特発性でのリンパ節腫大はまれである。脾腫の触知率は32~48%で、サイズも1~2横指程度が多い。温式AIHAの5~10%程度に直接クームス試験が陰性のものがあり、クームス陰性AIHAと呼ばれる。クームス試験が陽性にならない程度のIgG自己抗体が赤血球に結合しており、診断には赤血球結合IgG定量が有用である。クームス陽性AIHAと同様にステロイド反応性は良好である。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する場合をエヴァンス症候群と呼び、特発性AIHAの10~20%程度を占める。2)寒冷凝集素症(CAD)臨床症状は溶血と末梢循環障害によるものからなる。感染に続発するCAD は、比較的急激に発症し、ヘモグロビン尿を伴い貧血も高度となることが多い。マイコプラズマ感染では、発症から2~3週後の肺炎の回復期に溶血症状を来す。血中には抗マイコプラズマ抗体が出現し、寒冷凝集素価が上昇する時期に一致する。溶血は2~3週で自己限定的に消退する。EBウイルス感染に伴う場合は症状の出現から1~3週後にみられ、溶血の持続は1ヵ月以内である。特発性慢性CADの発症は潜行性が多く慢性溶血が持続するが、寒冷曝露による溶血発作を認めることもある。循環障害の症状として、四肢末端・鼻尖・耳介のチアノーゼ、感覚異常、レイノー現象などがみられる。これは皮膚微小血管内でのスラッジングによる。クリオグロブリンによることもある。皮膚の網状皮斑を認めるが、下腿潰瘍はまれである。脾腫はあっても軽度である。3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)現在ではわずかに小児の感染後性と成人の特発性病型が残っている。以前よくみられた梅毒性の定型例では、寒冷曝露が溶血発作の誘因となり、発作性反復性の血管内溶血とヘモグロビン尿を来す。寒冷曝露から数分~数時間後に、背部痛、四肢痛、腹痛、頭痛、嘔吐、下痢、倦怠感に次いで、悪寒と発熱をみる。はじめの尿は赤色ないしポートワイン色調を示し、数時間続く。遅れて黄疸が出現する。肝脾腫はあっても軽度である。このような定型的臨床像は非梅毒性では少ない。急性ウイルス感染後の小児PCHは5歳以下に多く、男児に優位で、季節性、集簇性を認めることがある。発症が急激で溶血は激しく、腹痛、四肢痛、悪寒戦慄、ショック状態や心不全を来したり、ヘモグロビン尿に伴って急性腎不全を来すこともある。発作性・反復性がなく、寒冷曝露との関連も希薄で、ヘモグロビン尿も必発とはいえない。成人の慢性特発性病型はきわめてまれである。気温の変動とともに消長する血管内溶血が長期間にわたってみられる。■ 分類AIHAは臨床的な観点から、有意な基礎疾患ないし随伴疾患があるか否かによって、続発性(2次性)と特発性(1次性、原発性)に、また臨床経過によって急性と慢性とに区分される。基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患とリンパ免疫系疾患が代表的である。マイコプラズマや特定のウイルス感染の場合、卵巣腫瘍や一部の潰瘍性大腸炎に続発する場合などでは、基礎疾患の治癒や病変の切除とともにAIHAも消退し、臨床的な因果関係が認められる。 ■ 予後温式AIHAで基礎疾患のない特発例では、治療により1.5年までに40%の症例でクームス試験の陰性化がみられる。特発性AIHAの生命予後は5年で約80%、10年で約70%の生存率であるが、高齢者では予後不良である。続発性の予後は基礎疾患によって異なり、リンパ系疾患に比べてSLEなどの自己免疫性疾患に続発する場合のほうが良好である。CADは感染後2~3週の経過で消退し、再燃しない。リンパ増殖性疾患に続発するものは基礎疾患によって予後は異なるが、この場合でも溶血が管理の中心となることは少ない。小児の感染後性のPCH は発症から数日ないし数週で消退する。強い溶血による障害や腎不全を克服すれば一般に予後は良好であり、慢性化や再燃をみることはない。梅毒に伴う場合の多くは、駆梅療法によって溶血の軽減や消退をみる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)(図1 AIHAの診断フローチャート)最初に溶血性貧血としての一般的基準を満たすことを確認し、次いで疾患特異的な検査によって病型を確定する。溶血性貧血の診断基準と自己免疫性溶血性貧血の診断基準を表1と表2に示す。画像を拡大する血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑った場合は、直接クームス試験を行い、陽性の場合は特異的クームス試験で赤血球上のIgG と補体成分を確認する。補体のみ陽性の場合は、寒冷凝集素症(CAD)や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)の鑑別のため、寒冷凝集素価測定とDonath-Landsteiner(DL)試験を行う。寒冷凝集素は、凝集価が1,000 倍以上、または1,000 倍未満でも30℃以上で凝集活性がある場合には病的意義があるとされる。スクリーニング検査として、患者血清(37~40℃下で分離)と生食に懸濁したO型赤血球を混和し、室温(20℃)に30~60分程度放置後、凝集を観察する。凝集が認められない場合は病的意義のない寒冷凝集素と考えられる。凝集がみられた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。凝集素価が低値でもアルブミン法などで30℃以上での凝集が認められる場合は低力価寒冷凝集素症とする。DL 抗体の検出は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。直接クームス試験が陰性であったり、特異的クームス試験で補体のみ陽性の場合でも、症状などから温式AIHA が疑われる場合やほかの溶血性貧血が否定された場合は、赤血球結合IgG 定量を行うとクームス陰性AIHA と診断できることがある。温式AIHAと寒冷凝集素症が合併している場合は、混合型AIHA の診断となる。表1 溶血性貧血の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。2)以下の検査所見がみられる。(1)へモグロビン濃度低下(2)網赤血球増加(3)血清間接ビリルビン値上昇(4)尿中・便中ウロビリン体増加(5)血清ハプトグロビン値低下(6)骨髄赤芽球増加3)貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。4)1)、2)によって溶血性貧血を疑い、3)によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。表2 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)溶血性貧血の診断基準を満たす。2)広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。3)同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。4)1)~3)によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の(1)と、冷式(4℃)の(2)および(3)に区分する。(1)温式自己免疫性溶血性貧血臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は(2)、(3)の除外によってもよい。(2)寒冷凝集素症(CAD)血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームス試験では補体成分が検出される。(3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。5)以下によって経過分類と病因分類を行う。急性推定発病または診断から6ヵ月までに治癒する。慢性推定発病または診断から6ヵ月以上遷延する。特発性基礎疾患を認めない。続発性先行または随伴する基礎疾患を認める。6)参考(1)診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。(2)温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。(3)特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(エヴァンス症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。(4)寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。(5)自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。(6)基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。(7)薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 温式AIHAの治療(図2 特発性温式AIHAの治療フローチャート)画像を拡大する特発性の温式AIHAの治療では、副腎皮質ステロイド薬、摘脾術、免疫抑制薬が三本柱であり、そのうち副腎皮質ステロイド薬が第1選択である。特発性の80~90%はステロイド薬単独で管理が可能と考えられる。1)急性期:初期治療(寛解導入療法)ステロイド薬使用に対する重大な禁忌条件がなければ、プレドニゾロン換算で1.0mg/kgの大量(標準量)を連日経口投与する。高齢者や随伴疾患があるときは、減量投与が勧められる。約40%は4週までに血液学的寛解状態に達する。AIHAでは輸血はけっして安易に行わず、できる限り避けるべきとするのが一般的であるが、薬物治療が効果を発揮するまでの救命的な輸血は、機を失することなく行う必要がある。その場合、生命維持に必要なヘモグロビン濃度の維持を目標に行う。安全な輸血のため、輸血用血液の選択についてあらかじめ輸血部門と緊密な連携を取ることが勧められる。2)慢性期:ステロイド減量期ステロイド薬の減量は、状況が許すならば急がず、慎重なほうがよく、はじめの1ヵ月で初期量の約半量(中等量0.5mg/kg/日)とし、その後は溶血の安定度を確認しながら2週に5mgくらいのペースで減量し、10~15mg/日の初期維持量に入る。減量期に約5%で悪化をみるが、その際はいったん中等量(0.5mg/kg/日)まで増量する。3)寛解期:維持療法・治療中止時期ステロイド薬を初期維持量まで減量したら、網赤血球とクームス試験の推移をみて、ゆっくりとさらに減量を試み、平均5mg/日など最少維持量とする。直接クームス試験が陰性化し、数ヵ月以上経過しても再陽性化や溶血の再燃がみられず安定しているなら、維持療法をいったん中止して追跡することも可能となる。4)増悪期:再燃時、ステロイド不応例維持療法中に増悪傾向が明らかならば、早めに中等量まで増量し、寛解を得た後、再度減量する。ステロイド薬の維持量が15mg/日以上の場合、また副作用・合併症の出現があったり、悪化を繰り返すときは、2次・3次選択である摘脾や免疫抑制薬、抗体製剤の採用を積極的に考える。ステロイドによる初期治療に不応な場合は、まず悪性腫瘍などからの続発性AIHAの可能性を検索する。基礎疾患が認められない場合は、特発性温式AIHAとして複数の治療法が考慮されるが、優先順位や適応条件についての明確な基準はなく、患者の個別の状況により選択され、いずれの治療法もAIHAへの保険適用はない。唯一、摘脾とリツキシマブについては短期の有効性が実証されており、摘脾が標準的な2次治療として推奨されている。(1)摘脾脾臓は感作赤血球を処理する主要な臓器であり、自己抗体産生臓器でもある。わが国では特発性AIHAの約15%(欧米では25~57%)で摘脾が行われており、短期の有効性は約60%と高い。ステロイド投与が不要となる症例や20%程度に治癒症例もみられることから、ステロイド不応性AIHAの2次治療として推奨されている。(2)リツキシマブステロイド不応性温式AIHAに対する新たな治療法として注目されている。短期の有効性について多くの報告はあるが、まだ保険適用ではない。標準的治療としては375mg/m2を1週間おきに4回投与する。80%の有効率が報告されている。安全性に関しても大きな問題はない。短期間のステロイド投与を併用した低用量のリツキシマブ(100mg、4週ごと投与)も試みられている。(3)免疫抑制薬ステロイドに次ぐ薬物療法の2次選択として、シクロホスファミドやアザチオプリンなどが用いられる。主な作用は抗体産生抑制で、有効率は35~40%で、ステロイド薬の減量効果が主である。免疫抑制、催奇形性、発がん性、不妊症など副作用に注意が必要であり、有効であったとしても数ヵ月以上の長期投与は避ける。■ 冷式AIHAの治療保温が最も基本的である。室温、着衣、寝具などに十分な注意を払い、身体部分の露出や冷却を避ける。輸血や輸液の際の温度管理も問題となる。CADに対する副腎皮質ステロイド薬の有効性は温式AIHAに比しはるかに劣るが、激しい溶血の時期には短期間用いて有効とされることが多い。貧血が高度であれば、赤血球輸血も止むを得ないが、補体(C3d)を結合した患者赤血球が溶血に抵抗性となっているのに対し、輸注する赤血球はむしろ溶血しやすい点に留意する。摘脾は通常適応とはならない。リンパ腫に伴うときは、原疾患の化学療法が有効である。マイコプラズマ肺炎に伴うCADでは適切な抗菌薬を投与するが、溶血そのものに対する効果とは別であり、経過が自己限定的なので、保存療法によって自然経過を待つのが原則である。特発性慢性CADの治療として、リツキシマブ単独療法やリツキシマブ+フルダラビン併用療法が報告されている。■ PCHの治療小児で急性発症するPCHは、寒冷曝露との関連が明らかではないが、保温の必要性は同様である。急性溶血期を十分な支持療法で切り抜ける。溶血の抑制に副腎皮質ステロイド薬が用いられ、有効性は高い。小児PCHでは、摘脾を積極的に考慮する状況は少ない。貧血の進行が急速なら赤血球輸血も必要となるが、DL抗体はP特異性を示すことが多く、供血者赤血球は大多数がP陽性なので、溶血の悪化を招く恐れもある。急性腎不全では血液透析も必要となる。4 今後の展望AIHAの治療では、リツキシマブが登場したことで、ステロイド不応例などでの治療選択の幅が広がった。今後、自己抗原反応性T細胞などを対象にした疾患特異的な治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 自己免疫性溶血性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成26年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班.(参照2015.4.17)2)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成28年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班. (参照2017)公開履歴初回2015年05月26日更新2017年04月04日

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血液透析下SHPTの新規治療薬「エテルカルセチド」―有効性、安全性は?

 二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)は、慢性腎疾患に伴う骨・ミネラル代謝異常の中で高頻度に発症し、生命予後やQOLに影響を与える病態である。 本研究では、SHPTを有する日本の血液透析患者における新規静脈内投与カルシウム受容体作動薬エテルカルセチド(商品名:パーサビブ、国内未発売)の有効性と安全性が検討された。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2017年1月5日号掲載の報告。エテルカルセチドは血液透析下におけるSHPTの新たな治療選択肢<試験デザイン> 国内第III相プラセボ対照二重盲検比較試験<方法> 試験対象は、血液透析下の血清インタクト副甲状腺ホルモン(iPTH)濃度が300 pg/mL以上のSHPT患者155例。 対象者をエテルカルセチド群、プラセボ群に無作為に割り付けた。 エテルカルセチドおよびプラセボを初回用量5mg投与開始し、その後4週間隔で2.5〜15mgの範囲で用量調整を行い、週3回合計12週間、静脈投与した。 主要評価項目は、日本透析医学会が定めるiPTH 濃度の管理指針(60~240pg/mL)を達成した患者の割合とした。 副次評価項目は、ベースラインから血清iPTHが30%以上減少した患者の割合とした。 SHPTを有する血液透析患者におけるエテルカルセチドの有効性を検討した主な結果は以下のとおり。・主要評価項目に合致したSHPT患者の割合は、エテルカルセチド群で有意に高かった(エテルカルセチド群59.0%、プラセボ群1.3%)。・副次評価項目に合致したSHPT患者の割合も、エテルカルセチド群で有意に高かった(エテルカルセチド群76.9%、プラセボ群5.2%)。・血清アルブミン補正カルシウム、リンおよびインタクト線維芽細胞増殖因子23の濃度は、エテルカルセチド群で減少した。・エテルカルセチド群において認められた悪心、嘔吐および低カルシウム血症は軽度であった。・エテルカルセチドに関連する重大な有害事象は認められなかった。 本研究において、エテルカルセチドの有効性および安全性が実証された。エテルカルセチドは唯一の静脈内投与カルシウム感受性受容体作動薬として、血液透析下におけるSHPTの新たな治療選択肢となりうる。

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重症下肢虚血に対する足首以下への血行再建の効果は?

 重症下肢虚血(CLI)は予後は悪く、保存的療法後1年の大切断は73~95%という報告がある。CLIの救肢において、バイパス手術および血管内治療(EVT)による動脈血行再建は重要である。バイパス手術は、救肢率、創傷治癒率共に高いものの、その侵襲性から適応となる患者は多くない。そのような中、侵襲性の低さとバイパス手術に匹敵する救肢率からEVTが注目され始めている。一方、CLIでは足首以下の病変の合併が多く、この足首以下の病変の存在は、創傷治癒率を低下させ、創傷治癒遅延(DH)をもたらすことが明らかになっている。EVTによる足首以下の病変への補助的な血行再建(PAA)は、創傷治癒を改善させる可能性があり、有効性を示す単施設の研究も報告されている。しかしながら、EVTの創傷治癒率は高いとはいえない。そこで、多施設によるPAAの効果を評価するため、RENDEZVOUS(Retrospective Analysis for the Clinical Impact of Pedal Artery Revascularization Strategy for Patients With Critical Limb Ischemia) レジストリ研究が宮崎市郡医師会病院 仲間達也氏らにより行われ、JACC Cardiovascular Interventions誌で報告された。 RENDEZVOUSレジストリでは、国内の経験豊富な循環器センター5施設でEVTを施行した、膝下動脈と足首以下に病変を有する新規CLI患者257例(257肢)が、PAA施行群140例と非施行群117例の2群に分類され、後ろ向きに評価された。主要評価項目は、1年後の創傷治癒率と創傷治癒までの時間。副次的有効性評価項目は、救肢率、大切断回避生存率、再血行再建回避率。副次的安全性評価項目は、PAA成功率、手技関連合併症であった。また、創傷治癒遅延の独立危険因子を多変量解析で求め、危険因子の数から創傷治癒遅延スコア(DHスコア)を規定。DHスコア(危険因子数)0を低リスク、DHスコア1~2を中等度リスク、DHスコア3を高リスクに層別化し、各リスク群でのPAAによる1年後の創傷治癒率を評価した。PAA追加の基本的な適応は、1)標的血管血行再建後の血流が確認されない、2)足動脈のランオフ不良によるimpaired flow現象、3)広範囲な創傷、救肢と創傷治癒のために大量の血液供給が必要になる感染、とした。 主な結果は以下のとおり。・患者の平均年齢は73.2歳、男性が68.1%、51.4%が自立歩行不能、62.3%が透析患者、77.8%の患肢がRutherford分類5であった。・全体の救肢率は88.5%、大切断回避生存率は73.5%、創傷治癒率は49.5%であった。・主要評価項目である創傷治癒率は、PAA群57.5%、非PAA群37.3%とPAA群で有意に高かった(p=0.003)。・同じく主要評価項目の創傷治癒までの時間は、PAA群211日、非PAA群365日とPAA群で有意に短かった(p=0.008)。・副次的安全性評価項目であるPAA手技の成功率は88.6%、手技関連合併症は17例(6.6%)。PAA群と非PAA群で差はみられなかった。・副次的有効性評価項目はいずれも両群間で差はみられなかった。・DHの危険因子は、歩行不能、創傷の深さ(UTグレード2以下)、透析であった。・低リスク群の創傷治癒率は、PAA群93.3%、非PAA群69.2%とPAA群で高かったが、統計学的有意には至らなかった(p=0.184)。・中等度リスク群の創傷治癒率は、PAA群59.3%、非PAA群33.9%とPAA群で有意に高かった(p=0.001)。・高リスク群の創傷治癒率は、PAA群29.4%、非PAA群35.7%と、PAAによる創傷治癒への影響はみられなかった(p=0.477)。 PAAによる介入は、救肢率や大切断回避生存率、再血行再建回避率には影響を及ぼさなかったものの、創傷治癒に関連するアウトカムには重要な影響を及ぼした。また、PAAの介入は、創傷治癒遅延中等度リスク群でとくに有効であった。当研究は後ろ向き非無作為化研究であったが、今後はさらに前向きの無作為化研究の実施が望まれる。(ケアネット 細田 雅之)原著および論説はこちらNakama T, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2017;10:79-90.Mustapha JA,et al. JACC Cardiovasc Interv. 2017;10:91-93.関連コンテンツ【CVフロントライン】CLIの創傷治癒を改善した足首以下の血行再建「RENDEZVOUSレジストリ」

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食生活パターンとCKDの関係は?

 慢性腎臓病(CKD)患者の食生活パターンが、生存率と関連していることを示す新たなエビデンスが報告された。 CKD進行症例を対象とした前向きコホート研究において、食習慣と腎関連の臨床アウトカムとの関係が評価された。Journal of Renal Nutrition誌オンライン版2016年12月8日掲載の報告。<試験方法> 外来の腎臓クリニック3施設(オーストラリア、クイーンズランド州)に通院するステージ3または4(推定糸球体濾過量15~59mL/分/1.73m2)の成人CKD患者145例を対象に、前向きコホート研究を行った。 食事摂取量は、24時間思い出し法と、調理習慣および食物摂取群に関する食事パターン10項目を評価するHeartWise Dietary Habits Questionnaire(DHQ)を用いて測定した。 主要評価項目は、複合エンドポイント(全死亡率、透析療法の開始、血清クレアチニンの倍増)とした。 副次評価項目は、全死亡率のみとした。多変量cox回帰分析を用いて、DHQドメインと複合アウトカムの発生の関連についてのハザード比を算出し、合併症および腎機能を含む交絡因子の調整を行った。 主な結果は以下のとおり。・36ヵ月の中央値フォローアップ中、32%(n=47)が複合エンドポイントに達し、21%(n=30)が死亡した。・DHQスコアの上昇は、複合エンドポイントのリスク低下と関連していた。・DHQスコアの上昇は、果物や野菜の摂取量増加(ハザード比:0.61、95%信頼区間:0.39~0.94)およびアルコール摂取の制限(ハザード比:0.79、95%信頼区間:0.65~0.96)と関連していた。・副次評価項目の全死亡率については、果物や野菜の適切な摂取と有意に関連していた(ハザード比:0.35、95%信頼区間:0.15~0.83)。 適量の果物や野菜の摂取とアルコール摂取量制限による、健康的な食生活を送ることで、透析療法の開始を遅らせ、ステージ3または4のCKD患者においては生存率を改善することが示唆された。

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透析にコエンザイムQ10、どう関係する?

 酸化ストレスは、末期腎疾患患者の心血管リスク増大に関連している。酸化ストレスを軽減する治療は、透析患者の心血管イベント発生を改善する可能性がある。そこでコエンザイムQ 10(CoQ10)が維持血液透析下の患者の酸化ストレスを抑制するかが検討された。American Journal of Kidney Diseases誌オンライン版2016年12月4日号掲載の報告。<試験デザイン> プラセボ対照、3アーム、二重盲検、無作為化、臨床試験<方法> 試験対象は週に3回の維持血液透析を受けている患者65例。 対象者を、CoQ101日1回600mg投与群、1,200mg投与群、プラセボ群に無作為かつ均等に割り付けた。 ベースラインおよび1、2、4ヵ月目に、F2-イソプロスタンおよびイソフランを酸化ストレスの血漿マーカーとして、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチドおよびトロポニンTを心臓バイオマーカーとして測定した。 主要評価項目は、血漿中F2-イソプロスタン濃度として定義された、血漿中の酸化ストレスとした。 副次評価項目は、血漿イソフラン、心臓バイオマーカーのレベル、透析前の血圧および安全性/忍容性とした。 主な結果は以下のとおり。・4ヵ月時点のCoQ101,200mg投与群では、プラセボ群と比較して、血漿中F2-イソプロスタン濃度が有意に低下した(調整平均変化は、1,200mg投与群:-10.7[95%信頼区間、-7.1~-14.3]pg/mL[p<0.001]、プラセボ群:-8.3[95%信頼区間、-5.5~-11.0]pg/mL[p=0.1])。・血漿イソフラン、心臓バイオマーカー、透析前の血圧においては、CoQ10治療の有意な効果は認められなかった。・治療に関連した重大な有害事象は発生しなかった。 維持血液透析下の患者において、CoQ101,200mgを毎日摂取することで酸化ストレスのマーカーである血漿中F2-イソプロスタン濃度の減少が認められた。また安全性も認められた。 今回の試験では無作為化グループ間のベースライン特性の差異があるため、小さな治療効果は検出しなかった。そのため、今後はCoQ10の摂取により臨床的アウトカムが改善されるか検討がなされるべきである。

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外来の夫婦喧嘩【Dr. 中島の 新・徒然草】(150)

百五十の段 外来の夫婦喧嘩先日、外来を受診した御夫婦。70歳くらいの奥さんのほうが患者さん。何の病気だったか忘れました。いきなり御主人に対する愚痴を聞かされます。奥さん「もう旦那に腹が立って腹が立って」中島「どないしたんですか」奥さん「ポテトチップスを置いていたらね、袋を開けて1枚だけ食べているのよ」中島「開けましたか」奥さん「私はね、後で皆で食べるときに開けたらいいと思っていたのに」中島「1枚だけねえ」奥さん「ああ、腹が立つ!」確か御主人は週3回透析をしておられます。奥さん「しょうもないことや、ということはわかっているのよ」中島「確かにそうですね」奥さん「だいたい夫婦ってのは、しょうもないことでもめるのよ。大事なことではもめへんけど」中島「それ、名言ですね! カルテに書いておきます」横には何か言いたそうな御主人が。中島「しかし御主人も透析しているんだから、ポテトチップス1袋を全部食べるってわけにはイカンでしょう」御主人「そうですねん」中島「ポテトチップス食いたいけど食ったらアカン。でも食いたい、という葛藤があったんですよね」奥さん「でもね、袋を開けて1枚だけ食べるっていうのも……」中島「御主人も葛藤の末にそうされたんですよ。まさしく命の1枚、魂の1枚じゃないですか!」御主人「そうや、そうや」中島「ポテトチップスの1枚くらい、食べさせてあげましょうよ」形勢逆転です。奥さん「そう言われれば、そうかな」中島「御主人は透析開始してどのくらいですかね」御主人「始まったばっかりですわ」中島「じゃあ5年ほどのことですから、そないに夫婦喧嘩せんでもエエんと違いますか」奥さん「そうねえ」御主人「その、5年ってのは何でっか?」中島「いや、その」腎臓内科の先生が、透析患者さんの平均余命は5年くらいと言っておられたのを思い出したので、つい余計なことを言ってしまいました。中島「とにかくですね、透析が始まったらこれまで以上に清く正しく生きていくことが大切ですよ」奥さん「私はね、この人のために野菜を一生懸命食べさせているんですよ」中島「ええっ? 野菜を食べ過ぎるのはマズイんじゃなかったかな」御主人「なんか野菜にはカリウムが入っていると聞いたんですけど」奥さん「とにかく茹でてね、栄養分を抜いて食べさせているんです」中島「栄養分を抜く?」後で調べてみると、野菜を茹でて水にさらすと、カリウムを抜くことができるのだとか。奥さんのおっしゃる理屈は変ですが、行動は正しいようです。中島「とにかくですね、ポテトチップスの1枚くらい、大目に見てあげたらいいじゃないですか」奥さん「それもそうね」中島「夫婦喧嘩の原因がポテトチップスの1枚って」御夫婦「……」中島「それ、どう考えても世間様に恥ずかしいですよ」御夫婦「あっはっはっは!」中島「じゃあ次の外来は半年後。奥さんがどれだけ人間的に成長したか、それを見せてもらいましょう」奥さん「ぜひお願いします。今日は来て良かった!」というわけで、喜んで帰られました。今、カルテで調べてみると、奥さんは良性脳腫瘍の術後で、私が3人目の外来担当医だったようです。どうも私の外来は、肝心の病気をほったらかして余談になってしまうことが多いのですが、患者さんが明るく前向きになるというのも大切なことだと思い、日々続けております。ということで本年最後の1句大笑い 明日から再び 頑張ろう!1年間ありがとうございました。皆さま、良いお年をお迎えください。

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東日本大震災後の透析対応の実際は?

 東日本大震災が発生した2011年3月11日から今年で5年。2016年は地震が多く、4月に発生した熊本地震が甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しい。災害時の停電や断水などによって、命の危険にさらされるのが人工透析を受けている患者である。 そこで今回、相馬中央病院 小柴 貴明氏らが報告した、東日本大震災後の福島県、相馬中央病院における血液透析患者の増加と医療スタッフの不足を検討した調査を紹介する。Therapeutic Apheresis and Dialysis誌2016年4月号掲載の報告。 福島県の相双地区は、他の地域と隔てられており、震災前から慢性的な医療スタッフ不足であった。震災後は福島第一原子力発電所(以下、原発)の事故の影響で周辺地域が避難地域などに指定され、医療スタッフ不足はより一層深刻となった。さらに、避難区域に含まれた相双地区の透析センター6施設のうち、2施設が閉鎖した。 震災後、相双地区においてCKD患者の増加が顕著であり、透析へ移行するケースも増え、透析患者増加と医療スタッフ不足の不均衡が顕著となった。そのため、同センターでは、持続的に増加する透析患者への対応が困難となり、2014年11月に新患の受け入れを中止せざるを得なくなった。 上述した背景を踏まえ、筆者らは震災による医療スタッフの負担増大をはかる指標を振り返り、再評価した。【評価方法】 震災前後(2010年1月~2014年12月)の患者数、医療スタッフ数(看護師、臨床工学技士)、透析回数、医療スタッフの勤務日数を比較し、合計透析回数/総勤務日数を努力指標とした。【主な結果】 震災前の同センターの患者数は40~45名であったが、避難した患者や津波被害で亡くなった患者もおり、震災直後は31名となった。その後、閉鎖した透析施設の患者も受け入れ、2011年の夏までに50名に増加した。2012年末~2013年半ばにかけて、患者数は震災前と同程度となったが、2013年半ば~2014年半ばにかけて患者数が増加し、2014年後半には54名となった(表1)。<表1>2010年~2014年の平均透析患者数 2013年末から患者増加を見越して、経皮的バスキュラーアクセス拡張術(VAIVT)、2014年春にはバスキュラーアクセスの外科的再建術(VA)を開始したが、医療スタッフ数には大きな変化はなく(表2)、2014年には医療スタッフの平均勤務日数が減少していき、努力指標は相変わらず高いままであった(表3)。その結果、同センターの患者許容を超えてしまったため、同年の11月に新患の受け入れを中止した。<表2>2010年~2014年の平均医療スタッフ数<表3>2010年~2014年の努力指標 2014年夏には医療スタッフの負担が増加し、努力指標の比率は3.5と高かった。この数字は、震災前の2010年初めに医療スタッフへの負担が増大した際、2名のスタッフが追加される前の努力指標の比率3.6と同程度であったが、患者数、医療スタッフ数は各年で異なっていた。 この指標は、2010年初め~2014年末の間に筆者らが経験した患者数と医療スタッフ数の不均衡を反映していると思われる。 今回、筆者らが提案した努力指標は、医療スタッフの負担が軽減されているかを評価する参考になると考えられる。今後、その正確性を慎重に検討していく必要がある、と述べている。

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なぜ必要? 4番目のIFNフリーC肝治療薬の価値とは

 インターフェロン(IFN)フリーのジェノタイプ1型C型肝炎治療薬として、これまでにダクラタスビル/アスナプレビル(商品名:ダクルインザ/スンベプラ)、ソホスブビル/レジパスビル(同:ハーボニー)、オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル(同:ヴィキラックス)の3つが発売されている。そこに、今年3月の申請から半年後の9月に承認されたエルバスビル/グラゾプレビル(同:エレルサ/グラジナ)が、11月18日に発売された。治療効果の高い薬剤があるなかで、新薬が発売される価値はどこにあるのか。11月29日、MSD株式会社主催の発売メディアセミナーにて、熊田 博光氏(虎の門病院分院長)がその価値について、今後の治療戦略とともに紹介した。患者背景によらず一貫した有効性 エレルサ/グラジナは、国内第III相試験において、SVR12(投与終了後12週時点のウイルス持続陰性化)率が慢性肝炎患者で96.5%、代償性肝硬変患者で97.1%と高いことが認められている。また、サブグループ解析では、前治療歴、性別、IL28Bの遺伝子型、ジェノタイプ(1a、1b)、耐性変異の有無にかかわらず、一貫した有効性が認められており、慢性腎臓病合併患者、HIV合併患者においても、海外第III相試験で95%以上のSVR12率を示している。IFNフリー治療薬4剤の効果を比較 しかしながら、すでにIFNフリー治療薬が3剤ある状況で、新薬が発売される価値はあるのかという疑問に、熊田氏はまず4剤の効果を治験成績と市販後成績で比較した。 薬剤耐性(NS5A)なしの症例では、治験時の各薬剤の効果(SVR24率)は、ダクルインザ/スンベプラが91.3%、ハーボニーが100%、ヴィキラックスが98.6%、エレルサ/グラジナが98.9%であり、実臨床である虎の門病院での市販後成績でも、ダクルインザ/スンベプラが94.0%、ハーボニーが98.2%、ヴィキラックスが97.7%(SVR12率)と、どの薬剤も良好であった。 一方、薬剤耐性(NS5A)保有例の治験時の成績は、ダクルインザ/スンベプラが38%、ハーボニーが100%、ヴィキラックスが83%、エレルサ/グラジナが93.2%であり、虎の門病院の市販後成績では、ダクルインザ/スンベプラが63.7%、ハーボニーが89.6%、ヴィキラックスが80.0%(SVR12率)であった。熊田氏は、「治験時の100%よりは低いがハーボニーが3剤の中では良好であるのは確かであり、実際に使用している患者も多い」と述べた。副作用はそれぞれ異なる 次に、熊田氏は虎の門病院での症例の有害事象の集計から、各薬剤の副作用の特徴と注意点について説明した。 最初に発売されたダクルインザ/スンベプラは、ALT上昇と発熱が多く、風邪のような症状が多いのが特徴という。 ハーボニーは、ALT上昇は少ないが、心臓・腎臓への影響があるため、高血圧・糖尿病・高齢者への投与には十分注意する必要があり、熊田氏は「これがエレルサ/グラジナが発売される価値があることにつながる」と指摘した。 ヴィキラックスは、心臓系の副作用はないが、腎障害やビリルビンの上昇がみられるのが特徴である。また、Ca拮抗薬併用患者で死亡例が出ているため、高血圧症合併例では必ず他の降圧薬に変更することが必要という。 発売されたばかりのエレルサ/グラジナについては、今後、症例数が増えてくれば他の副作用が発現するかもしれないが、現在のところ、ALT上昇と下痢が多く、脳出血や心筋梗塞などの重篤な副作用がないのが特徴、と熊田氏は述べた。 このように、各薬剤の副作用の特徴は大きく異なるため、合併症による薬剤選択が必要となってくる。今後の薬剤選択 熊田氏は、各種治療薬の薬剤耐性の有無別の治療効果と腎臓・心臓・肝臓への影響をまとめ、「エレルサ/グラジナは、耐性変異の有無にかかわらず、ハーボニーと同等の高い治療効果を示すが、ハーボニーで注意すべき腎臓や心臓への影響が少なく、ここに新しい薬剤が発売される価値がある」と述べた。 また、今後の虎の門病院におけるジェノタイプ1型C型肝炎の薬剤選択について、「耐性変異なし、心臓・腎臓の合併症なし」の患者にはハーボニーまたはヴィキラックスまたはエレルサ/グラジナ、「NS5A耐性変異あり」の患者にはハーボニーまたはエレルサ/グラジナ、「腎障害」のある患者にはヴィキラックスまたはエレルサ/グラジナ(透析症例はダクルインザ/スンベプラ)という方針を紹介した。さらに、「NS5A耐性変異あり」の患者には、「これまではハーボニー以外に選択肢がなかったが、今後はエレルサ/グラジナが使用できるようになる。とくに心臓の合併症がある場合には安全かもしれない」と期待を示した。

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off-pump CABG vs.on-pump CABG、5年後も有意差なし/NEJM

 off-pump冠動脈バイパス術(CABG)は、on-pump CABGと比較して5年後の死亡・脳卒中・心筋梗塞・腎不全・再血行再建術の複合アウトカムに差はなく、両手法の有効性や安全性が同等であることが示された。カナダ・マクマスター大学のAndre Lamy氏らが、CABG Off or On Pump Revascularization Study(CORONARY)試験の最終結果を報告した。CORONARY試験では、off-pump CABGとon-pump CABGとで、30日後および1年後のいずれも臨床アウトカム(死亡・脳卒中・心筋梗塞・腎不全)に有意差はないことが報告されていた。NEJM誌オンライン版2016年10月23日号掲載の報告。19ヵ国79施設で約4,800例をoff-pump群とon-pump群に無作為化 CORONARY試験は、2006年11月~2011年10月に19ヵ国79施設で単独CABGが予定されている患者4,752例を登録し、off-pump CABG(off-pump群:2,375例)とon-pump CABG(on-pump群:2,377例)を比較した大規模無作為化試験である。 長期予後の主要評価項目は、死亡・非致死的脳卒中・非致死的心筋梗塞・透析を要する非致死的腎不全新規発症・再血行再建術(CABGまたは経皮的冠動脈インターベンション[PCI])の複合アウトカムで、intention-to-treat集団におけるCox回帰を用いたtime to event解析により評価が行われた。5年後の複合アウトカム発生率やQOLは両群で有意差なし 平均追跡期間4.8年において、複合アウトカム発生率はoff-pump群23.1%、on-pump群23.6%で、両群に有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.87~1.10、p=0.72)。 再血行再建術の施行率はoff-pump群2.8%、on-pump群2.3%(HR:1.21、95%CI:0.85~1.73、p=0.29)で有意差はなく、このほかの複合アウトカムの各イベントの発生率も両群で有意差はなかった。 また、副次評価項目である患者1人当たりの医療費も、群間差は認められなかった(off-pump群1万5,107ドル、on-pump群1万4,992ドル、群間差:115ドル、95%CI:-697~927ドル)。QOLも両群で差はなかった。 著者は研究の限界として、医療費解析にCABG専用の備品(off-pumpの開創器または人工心肺回路)が含まれていないことや、QOL評価が任意であったことなどを挙げている。

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トイレに待ち受けていた、まさかの○○アレルギー【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第78回

トイレに待ち受けていた、まさかの○○アレルギー FREEIMAGESより使用 うちの長男は幼稚園に通い始めて半年くらいたつのですが、なかなか便座に座って大便ができないので悩んでいます。便器に座るよりも、オムツのほうがいいって言うんですよね。いやいや、幼稚園で便意を催したらどうするのよって言ってやりたいですよ。でも親譲りの頑固な性格のせいか、なかなか言うことを聞いてくれません。どうしたらいいですかね。え? ここは育児相談室ではない? スイマセン。 Heilig S, et al.Persistent allergic contact dermatitis to plastic toilet seats.Pediatr Dermatol. 2011;28:587-590.6歳のグアテマラ人の女の子が、大腿後面の皮膚炎がよくならないということで紹介されてきました。当初はステロイド軟膏で軽快していたものの、次第に皮膚炎の悪化がひどくなり、紹介受診に至ったとのことです。実はこの皮膚炎が出始めたころ、ちょうど彼女はトイレトレーニングを始めたばかりということでした。よくよくみると、大腿後面の皮膚炎は便座の位置と一致しています。「ま、まさか便座アレルギーか!」そう疑った主治医によってパッチテストが行われ、トイレの便座だけでなく学校の座席にも接触性皮膚炎のアレルゲンが含まれることがわかりました。トイレの便座はプラスチック製です。実は、ポリウレタンによって接触性皮膚炎を来した事例が2011年にも報告されています1)。また、硬化や劣化を起こしにくく、張力が強いポリウレタンが使われているカテーテルもあり、血液透析の内シャントに用いたカテーテルで重症の接触性皮膚炎を起こした事例も報告されています2)。とはいえ、ラテックスアレルギーの際に代替策としてポリウレタンが登場するくらいですから、かなりまれなアレルギーのようです。参考資料1)Turan H, et al. Pediatr Dermatol. 2011;28:731-732.2)大野晃ほか. 日本透析医学会雑誌. 2006;39:145-149.インデックスページへ戻る

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冠動脈de novo病変に対する「ステントレスPCI」

 薬剤溶出ステント(以下、DES:Drug Eluting Stent)の再狭窄率は低い。しかし、ステント血栓症、ステントフラクチャー、neo-atherosclerosisなどいくつかの問題が残る。一方、バルーン単独の経皮的冠動脈インターベンション「ステントレスPCI」はいまだに根強く、薬物溶出バルーン(DCB:Drug Coated Balloon)の臨床応用により注目されており、その有効性を支持する臨床試験もある。獨協医科大学 循環器内科の西山直希氏らは、de novo冠状動脈狭窄病変の治療におけるDCBの有効性を評価することを目的とした研究を行っている。International Journal of Cardiology誌2016年11月1日号の報告。 2014年5月~15年6月に待機的な経皮的PCIを受けた慢性冠動脈疾患患者から透析患者、再狭窄患者、重度石灰化、左主幹部、慢性完全閉塞病変を除外した60例を登録し、無作為にステントレス群(n=30)とステント群(n=30)に割り付けた。ステントレス群では初期拡張で至適径に拡張できた患者にDCBを施行、拡張できなかった患者にはDESを用いた。ステントレス群の3例はステント留置となり、結果的に、ステントレス群27例、ステント群33例となった。評価項目は8ヵ月後の標的病変再血行再建(TLR:Target Lesion Revascularization)率および晩期内腔損失(Late Lumen Loss)である。 主な結果は以下のとおり。・TLR率は両群で同等であった(ステントレス群:0.0%、ステント群:6.1%、p =0.169)。・PCI直後の最小血管径(MLD:Minimal Lumen Diameter)と初期獲得径(Acute gain)はステントレス群で有意に小さかった(MDLはステントレス群:2.36mm±0.46、DES群:2.64mm±0.37、p=0.011、Acute Gainはステントレス群:1.63±0.41mm、DES群:2.08±0.37mm、p<0.0001)。・しかし、PCI後8ヵ月のMLDおよびLate Lumen Lossについては、両群で有意な差はなかった(MLDは2.12±0.42mm vs. 32±0.52mm、p=0.121、Late Lumen Loss は0.25±0.25mm vs. 0.37±0.40mm、p=0.185)。 ケアネットの取材に対し、西山氏と共著者の小松孝昭氏、田口功氏は以下のように述べた。現在の試験の状況は? 登録数は倍以上となっている。しかしながら、DCBによるステントレスPCI群での再狭窄例は依然としてゼロである。実臨床でステントレスPCIの適応となる割合はどの程度? 透析患者、重度石灰化、左主幹部、慢性完全閉塞病変、病変長30mm以上などの病変は除外しているが、現在ではde novo症例の4割を超えている。初期拡張に用いるバルーンは? NSEバルーンを用いている。スコアリングによりプラークに亀裂を入れることで、解離ができずきれいに拡張できる。また、炎症も少なく再狭窄の予防につながると考えている。ステントレスPCIのメリットはどのようなものか? ステントという異物を入れることで、ステント血栓症や長期的にはステントに起因するneo-atherosclerosis、またステントフラクチャーによるイベントの可能性もある。ステントを入れないで済む患者にはDCBを用いることで、このようなイベントを避けることができると考えられる。また、抗血小板薬の減量または中止が可能であることもステントレスPCIのメリットだと考えられる。 バルーンで拡張し、ステントを留置するというのが現在のPCIの一連の流れであるが、その中にステントを入れないで済む患者が存在する。DES時代の中、これからもステントレスPCIの有用性を評価して臨床応用につなげていくべきであろう。それは、患者さんのQOLおよび予後の改善につながると考えられる、と田口氏は言う。

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血圧変動と心血管疾患・死亡との関連が判明/BMJ

 血圧の長期的変動(診察室血圧測定による)は心血管および死亡のアウトカムと関連し、平均血圧の効果を上回るものであることが、英国・オックスフォード大学のSarah L Stevens氏らによる、システマティックレビューとメタ解析の結果、明らかにされた。中期的(家庭血圧)、短期的(24時間ABPM)変動も同様の関連が示されたという。これまでに血圧高値の患者は、将来的な心血管疾患リスクが高いことは確立されている。また、血圧変動が大きい患者は、平均血圧値が保たれている患者と比べてリスクが高いことも示唆されていたが、血圧変動の測定の違いによるリスクについては不明であり、平均血圧または治療による変化に正しく触れた検討はほとんどなかったという。BMJ誌オンライン版2016年8月9日号掲載の報告。血圧測定法の違いを考慮し、アウトカムとの関連をメタ解析 研究グループは、システマティックレビューにより、血圧の長期的(診察室で測定)、中期的(家庭で測定)、短期的(24時間ABPM)な変動を、平均血圧と独立して、心血管疾患イベントおよび死亡との関連を定量化する検討を行った。 Medline、Embase、Cinahl、Web of Scienceを2016年2月15日時点で検索。英語のフルテキスト論文で、成人を対象とした前向きコホート試験または臨床試験を適格とした。血液透析を受けている患者、また血圧変動に直接的な影響を及ぼす可能性がある状態の患者を含むものは除外した。 交絡リスクが少ないものについて標準化ハザード比を抽出し、ランダム効果メタ解析法を用いて主要解析に統合した。アウトカムには、全死因死亡、心血管死、心血管疾患イベントを含んだ。変動については、標準偏差、変異係数、平均から独立したばらつき、真の平均変動などを測定し、夜間ディッピングや日中-夜間変動は測定しなかった。変動増大とリスク増大との関連を確認 41論文を選定し、観察コホート研究19件、臨床試験コホート17件、解析46件のデータを特定した。 血圧の長期的変動の検討は24論文で、中期的変動は4論文、短期的変動は15論文(2論文は長期と短期の両者を検討していた)で行った。解析のうち23件は、交絡リスクが高く主要解析から除外した。 結果、収縮期血圧値の長期的変動の増大は、全死因死亡(ハザード比[HR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.09~1.22)、心血管疾患死(1.18、1.09~1.28)、心血管疾患イベント(1.18、1.07~1.30)、冠動脈疾患(1.10、1.04~1.16)、脳卒中(1.15、1.04~1.27)のリスク増大と関連することが認められた。 同様に、全死因死亡との関連が、中期的(1.15、1.06~1.26)および短期的(1.10、1.04~1.16)変動でも認められた。 著者は、「血圧の長期的変動は心血管および死亡のアウトカムと関連し、平均血圧の効果を上回るものであった。その関連の大きさは、コレステロール値と心血管疾患と同程度であった。またデータは限定的であったが、中期的、短期的変動でも同様の関連が認められた」と述べ、「さらなる検討では、血圧変動評価の臨床的意味に焦点を合わせ、これまでよく見られたありふれた交絡ピットフォールは回避しなければならない」とまとめている。

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第3回 ビグアナイド薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第3回】ビグアナイド薬による治療のキホン-ビグアナイド薬による治療のポイントを教えてください。 ビグアナイド(BG)薬は、主に肝での糖新生を抑制し血糖を低下させる、インスリン抵抗性改善系の薬剤です。そのほかに、消化管からの糖の吸収を抑制したり、末梢組織でのインスリン感受性を改善させるといった作用があります。非常に古くから使われている薬剤で、以前は、日本では1日最大用量750mgのメトホルミンしか使用できませんでしたが、海外での使用実績を踏まえ、それまでのメトホルミンの用法・用量を大きく見直し、高用量処方を可能としたメトホルミン(商品名:メトグルコ)が2010年から使用できるようになりました。 上記の作用でインスリン抵抗性を改善し、体重増加を来さないというメリットがあるので、とくに肥満の糖尿病患者さんや食事療法が守れない患者さんに適しています。 腎機能低下例、高齢者、乳酸アシドーシス、造影剤投与に関しては注意が必要ですが、単独で低血糖を起こしにくい薬剤ですので、注意が必要な点を守りながら投与すれば使いやすい薬剤です。-初期投与量と投与回数を教えてください。 通常、1日500mg(1日2~3回に分割)から開始します(各製品添付文書より)。食後投与のものと食前・食後いずれも投与可能な薬剤がありますが、最も異なる点は1日最大用量で、750mg/日(商品名:グリコラン、メデット)と2,250mg/日(同:メトグルコ)があります。メトグルコは通常、750~1,500mg/日が維持用量です。 メトホルミンの主な副作用として消化器症状がありますが、程度には個人差があるように感じています。消化器症状は用量依存性に増加するので、投与初期と増量時に注意し、消化器症状の発現をできるだけ少なくするために、増量する際は1ヵ月以上空けるとよいでしょう。-どの程度の腎障害および肝障害の時、投与を控えたほうがよいでしょうか。 メトグルコを除くBG薬は、腎機能障害患者さん(透析患者含む)には禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、腎機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に腎機能を確認して慎重に投与することとされており、中等度以上の腎機能障害および透析中の患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、血清クレアチニン値が「男性:1.3mg/dL、女性:1.2mg/dL以上」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。 ただし、高齢患者さんの場合、血清クレアチニン値が正常範囲内であっても、実際の腎機能は低下していることがあるので(潜在的な腎機能低下)、eGFR(推定糸球体濾過量)も考慮して腎機能を評価したほうがよいでしょう。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスとの関連から、腎機能の評価としてeGFRを用い、「eGFRが30mL/分/1.73m2未満の場合にはメトホルミンは禁忌、eGFRが30~45mL/分/1.73m2の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする」としています2)。 メトグルコを除くBG薬は、肝機能障害患者さんには禁忌です(各製品添付文書より)。メトグルコは、肝機能障害がある患者さんに投与する場合、定期的に肝機能を確認して慎重に投与することとされており、重度の肝機能障害患者さんが禁忌となっています1)。国内臨床試験で、「ASTまたはALTが基準値上限の2.5倍以上の患者さんおよび肝硬変患者さん」が除外基準になっているので1)、それを目安にするとよいでしょう。-造影剤と併用する時のリスクはどのくらい高いですか? 尿路造影検査やCT検査、血管造影検査で用いられるヨード造影剤との併用によるリスクの程度に関する報告はありませんが、ヨード造影剤は、腎機能を低下させる可能性があるため、乳酸アシドーシスを避けるために、使用する場合は「検査の2日前から検査の2日後の計5日間(緊急の場合を除く)」は服用を中止します3)。また、検査の2日後以降に投与を再開する際には、患者さんの状態に十分注意をする必要があります。-乳酸アシドーシスの頻度と、予防・管理の方法を教えてください。 BG薬による乳酸アシドーシス発現例が多く報告された1970年代を中心とする調査では、フェンホルミン(販売中止)で10万人・年当たり20~60例、メトホルミンでの頻度は10万人・年当たり1~7例程度と報告されています4)。 日本糖尿病学会による「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2016年5月12日改訂)」(旧:ビグアナイド薬の適正使用に関するRecommendation)では、乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴として、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4.高齢者 を挙げています2)。 腎機能や心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、高齢者といった点は、医療従事者側が留意すべきことですが、脱水やシックデイ、過度のアルコール摂取といった点については、これらが乳酸アシドーシスのリスクになるということを患者さんにお伝えしたうえで指導する必要があります。 とくに、脱水には注意が必要です。夏場、室内でも脱水を起こす可能性があること、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振などを来すシックデイのときには脱水を起こす可能性があるため、服薬を中止し、かかりつけ医に相談するなど、患者さんに指導する必要があります。炎天下で農作業を行う方も注意が必要です。とりわけ高齢者は脱水に気付きにくいという特徴があります。また、利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)を服用している場合にも注意が必要です。-高齢者に投与する際の用量について知りたいです。そのまま使い続けてよいのでしょうか。 メトホルミンは、高齢者では、腎・肝機能が低下していることが多く、脱水も起こしやすいため、乳酸アシドーシスとの関連から慎重投与するとされています。高齢者については、青壮年に発症し、すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合と、高齢になってから発症した場合に分けて考えます。すでにメトホルミンを服用している患者さんが高齢になった場合は、とくに問題がなければ、メトホルミンによって得られる効果を考慮して継続しますが、定期的に腎・肝機能については観察すること、また、用量についても、高用量は使用せず、私は500~750mg/日で維持するようにしています。 高齢になって発症した場合、とくに75歳以上では、慎重な判断が必要とされていますが2)、基本的には推奨されません。1)メトグルコ製品添付文書(2016年3月改訂)2)日本糖尿病学会. メトホルミンの適正使用に関する Recommendation(2016年5月12日改訂)3)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド20156-2017. 文光堂;2016.4)Berger W. Horm Metab Res Suppl. 1985;15:111-115.

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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eGFRが30未満は禁忌-メトホルミンの適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。 わが国では、諸外国と比較し、頻度は高くないもののメトホルミン使用時に乳酸アシドーシスが報告されていることから2012年2月にRecommendationを発表、2014年3月に改訂を行っている。とくに今回は、米国FDAから“Drug Safety Communication”が出されたことを受け、従来のクレアチニンによる腎機能評価から推定糸球体濾過量eGFRによる評価へ変更することを主にし、内容をアップデートしたものである。メトホルミン使用時の乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴1)腎機能障害患者(透析患者を含む)2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者4)高齢者 高齢者だけでなく、比較的若年者でも少量投与でも、上記の特徴を有する患者で、乳酸アシドーシスの発現が報告されていることに注意。メトホルミンの適正使用に関するRecommendation まず、経口摂取が困難な患者や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以下の事項に留意する。1)腎機能障害患者(透析患者を含む) 腎機能を推定糸球体濾過量eGFRで評価し、eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の場合にはメトホルミンは禁忌である。eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用などではeGFRが急激に低下することがあるので注意を要する。eGFRが30~60の患者では、ヨード造影剤検査の前あるいは造影時にメトホルミンを中止して48時間後にeGFRを再評価して再開する。なお、eGFRが45以上また60以上の場合でも、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので注意を要する。2)脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者への注意・指導が必要な状態 すべてのメトホルミンは、脱水、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐などの胃腸障害のある患者、過度のアルコール摂取の患者で禁忌である。利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬など)との併用時には、とくに脱水に対する注意が必要である。 以下の内容について患者に注意・指導する。また、患者の状況に応じて家族にも指導する。シックデイの際には脱水が懸念されるので、いったん服薬を中止し、主治医に相談する。脱水を予防するために日常生活において適度な水分摂取を心がける。アルコール摂取については、過度の摂取を避け適量にとどめ、肝疾患などのある症例では禁酒する。3)心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者 すべてのメトホルミンは、高度の心血管・肺機能障害(ショック、急性うっ血性心不全、急性心筋梗塞、呼吸不全、肺塞栓など低酸素血症を伴いやすい状態)、外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)前後の患者には禁忌である。また、メトホルミンでは軽度~中等度の肝機能障害には慎重投与である。4)高齢者 メトホルミンは高齢者では慎重に投与する。高齢者では腎機能、肝機能の予備能が低下していることが多いことから定期的に腎機能(eGFR)、肝機能や患者の状態を慎重に観察し、投与量の調節や投与の継続を検討しなければならない。とくに75歳以上の高齢者ではより慎重な判断が必要である。「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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急性腎障害、低所得国ほど市中感染が原因に/Lancet

 急性腎障害(AKI)は、その約6割が市中感染で、低所得国や低中所得国ではその割合は8割と高いことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRavindra L. Mehta氏らによる、世界72ヵ国、約4,000例のデータを対象に前向きに収集して行った国際横断研究「International Society of Nephrology Global Snapshot」の結果、明らかになった。治療7日目の死亡率は、低所得国・低中所得国では12%と、高所得国や高中所得国より高率だったという。Lancet誌オンライン版2016年4月13日号掲載の報告より。289医療施設、322人の医師が前向きに症例を報告 研究グループは2014年9月29日~12月7日にかけて、72ヵ国、289の医療施設(病院、非病院含む)の322人の医師から前向きに報告された、AKIの確定診断をした4,018例の小児・成人患者データを集めて分析した。報告を受けたのは、初回診察時の徴候や症状、併存疾患、AKIのリスク因子、治療プロセス、また治療7日目、退院時、死亡時のいずれか早い時点における透析の必要性、腎機能回復、死亡率についてだった。 集めたデータを基に、被験者居住国の2014年の1人当たり国民総所得に応じて、「高所得国」「高中所得国」「低中所得国と低所得国」の3群に分類し、AKIの原因やアウトカムを比較した。最も多い原因は低血圧症と脱水 被験者全体のうち、58%(2,337例)が市中感染性AKIだった。その割合について所得国別にみると、低中所得国・低所得国は80%(889/1,118例)、高中所得国は51%(815/1,594例)、高所得国は51%(663/1,241例)だった(高所得国 vs.高中所得国のp=0.33、その他のすべての比較はp<0.0001で有意差あり)。 AKIの原因として、最も多かったのは低血圧症(40%)と脱水(38%)だった。それぞれの原因について所得国別にみると、脱水は低中所得国・低所得国で46%と最も高率で、高中所得国では32%、高所得国では39%だった。一方、低血圧症は、高所得国で45%と最も高率で、高中所得国、低中所得国・低所得国はいずれも38%だった。 治療7日目の全体の死亡率は11%だった。所得国別にみると低中所得国・低所得国が12%と、高所得国の10%、高中所得国の11%に比べ高率だった。 研究グループは、「今回の研究で、国際的に共通する因子を特定した。それはAKI治療の早期発見と治療に関する標準的アプローチにかなうものとなるかもしれない」と述べる一方、試験は被験者が少数であることや低所得での本来のAKIの要因を過小評価している可能性などがあり限定的であると指摘。「地域医療におけるAKI検出のさらなる戦略を、とくに低所得国で開発する必要がある」と述べている。

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DPP-4阻害薬は2型糖尿病患者における重度腎不全のリスクを増加させる可能性がある(解説:住谷 哲 氏)-520

 DPP-4阻害薬は、わが国で最も多く処方されている血糖降下薬である。しかし、DPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の心血管イベントを抑制する可能性は、TECOS試験1)などの3つのランダム化比較試験(RCT)の結果からほぼ否定された。同時に、これら3つのRCTにおいて、DPP-4阻害薬が他の血糖降下薬に比較して心血管イベントを増加させる可能性もほぼ否定された。つまり、少なくとも心血管イベント発症に対する安全性は担保されたことになる。しかし、DPP-4阻害薬が細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)に及ぼす影響については、これまでほとんど報告されていない。そこで著者らは、real worldにおいてDPP-4阻害薬が2型糖尿病患者の細小血管障害のリスクを減少させるか否かを検討した。その結果は、DPP-4阻害薬がメトホルミンと比較して重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆しており、DPP-4阻害薬が多用されているわが国の2型糖尿病診療に及ぼす影響は少なくない。 英国プライマリケアのデータベースであるQResearchデータベースを用いて、2007年4月1日から2015年1月31日の間に、2型糖尿病と診断された患者46万9,688例(25~84歳)をオープンコホートに組み込み、DPP-4阻害薬(80%はシタグリプチン)、チアゾリジン薬(90%はピオグリタゾン)、メトホルミン、SU薬、インスリン、その他の血糖降下薬(αGI薬、グリニド薬、SGLT2阻害薬)と5つの臨床アウトカム(失明、高血糖、低血糖、下肢切断、重度腎不全)との関連を検討した(ここで下肢切断は神経障害と考えられている点に注意が必要である)。血糖降下薬は、単剤、2剤併用、3剤併用のすべての組み合わせについてそれぞれ検討した。重度腎不全は、透析導入、腎移植、CKD ステージ5(eGFR<15 mL/min/1.73m2)のいずれかと定義した。それぞれのアウトカムに対するハザード比(HR)を、Cox比例ハザードモデルにより計算した。それぞれの薬剤への暴露(exposure)は、たとえば、ある患者がコホートに組み込まれた最初12ヵ月間はメトホルミンのみ、その後メトホルミンとチアゾリジン薬との併用24ヵ月、その後投薬なし6ヵ月の時点でイベントを発症した場合はメトホルミン単剤12ヵ月、メトホルミン+チアゾリジン薬24ヵ月、無投薬6ヵ月としてモデルに組み込まれた。 観察期間中に、27万4,324例(58.4%)が何らかの血糖降下薬を処方された。そのうちメトホルミンが25万6,024例(投薬群の93.3%)に処方された。一方、DPP-4阻害薬は3万2,533例(投薬群の11.9%)に処方された。その結果は表3に示されているように、メトホルミンのみが失明(HR:0.70、95%信頼区間:0.66~0.75、以下同様)、高血糖(0.65、0.62~0.67)、低血糖(0.58、0.55~0.61)、下肢切断(0.70、0.64~0.77)、重度腎不全(0.41、0.37~0.46)とすべてのアウトカムのリスクを減少させた。 これに基づいて、各薬剤群(単剤、2剤併用、3剤併用)および無投薬群のメトホルミン単剤投与群に対する、それぞれの5つのアウトカムの調整HRが表5にまとめられている。DPP-4阻害薬単剤投与群においては、失明(1.39、0.66~2.93)、高血糖(1.44、0.85~2.43)、低血糖(0.83、0.21~3.33)、下肢切断(1.03、0.33~3.20)、重度腎不全(3.52、2.04~6.07)であり、重度腎不全のリスクのみがメトホルミン単剤投与群に比較して3.52倍増加していた。この重度腎不全のリスク増加は、メトホルミン+DPP-4阻害薬の2剤併用群では消失(0.59、0.28~1.25)していたが、SU薬+DPP-4阻害薬の2剤併用群では残存(3.21、2.08~4.93)していた。さらに、メトホルミン+DPP-4阻害薬+SU薬の3剤併用群においては重度腎不全リスクの増加は認められなかった(0.68、0.39~1.20)。 本論文の結果は、DPP-4阻害薬単剤投与は2型糖尿病患者において重度腎不全のリスクを約3.5倍に増加させる可能性を示唆する。しかし、本論文はRCTではなくコホート研究であるため、因果関係を厳密に証明することは困難である。糖尿病罹病期間、血清クレアチニン値、HbA1c、合併症の有無をはじめとした26の潜在的交絡因子で調整した結果であるが、未知の交絡因子の残存は否定できない。著者らも本論文の限界として、recall bias、indication bias、channelling biasについて論じているが、DPP-4阻害薬を単剤投与された患者(おそらく何らかの理由でメトホルミンが投与できなかった患者)が、重度腎不全発症の高リスク群であった可能性が残るであろう。 単純には、これらの患者は最初から腎機能が悪かったのではないかと考えられるが、表2のbaseline characteristicsを見る限り、血清クレアチニン値はメトホルミン投与群(84.8 μmol/L、0.96 mg/dL)、DPP-4阻害薬投与群(84.9 μmol/L、0.96 mg/dL)であり、両群に差は認められていない。さらに、コホートに組み込まれた時点ですでに腎疾患(kidney diseaseと記載されているが詳細は不明)を有する患者から発症した重度腎不全は解析から除外されている。 DPP-4阻害薬が、尿中アルブミン排泄量を減少させるとの報告は散見されるが2)、病態生理学的および薬理学的にDPP-4阻害薬が重度腎不全を来すメカニズムは説明困難であると思われる。しかし、シタグリプチンの添付文書には重大な副作用に急性腎不全(頻度不明)が記載されている3)4)。したがって、本論文の結果は医薬品安全性監視(pharmacovigilance)の観点から解釈される必要がある。つまり、real worldで発生するDPP-4阻害薬の有害事象シグナルは微小であり、本論文のような膨大なデータの解析によって初めて明らかになったと考えられる。 英国においてはメトホルミンが第1選択薬とされていることから、DPP-4阻害薬の単剤投与はきわめて例外的であるが、わが国においては、メトホルミンではなくDPP-4阻害薬のみを投与されている患者はきわめて多く存在している。メトホルミンとの併用では重度腎不全の発症リスクが増加しないことから、DPP-4阻害薬は第1選択薬ではなく、メトホルミンへの追加薬剤としての位置付けが適切である。

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