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●今回のPoint1)冬場は常に疑い、深部体温を測定しよう!2)復温を速やかに行いながら初療を徹底しよう!3)原因検索とともに再発予防を行おう!【症例】81歳・男性ある日の朝方、自宅のベッド脇で倒れているところを同居の家族が発見し、呼びかけに対して反応が乏しいため救急要請。救急隊到着時以下のようなバイタルサイン。四肢は冷たく、SpO2、体温は測定できない。●搬送時のバイタルサイン意識100/JCS血圧76/56mmHg脈拍54回/分呼吸18回/分SpO2error体温error既往歴不明内服薬不明冬の救急外来インフルエンザが猛威を振るっています。今年も筆者が勤務する病院では、年末年始の救急外来が大混雑しました。心筋梗塞や脳卒中といった冬季に多発する疾患に加え、火災による一酸化炭素中毒や気道熱傷、さらには餅による窒息など、冬特有の症例も頻発し、現場は多忙を極めていました。さらに近年では、今回の症例のように低体温症の患者も増加しており、どのようなセッティングであっても初療の基本をしっかり把握しておく必要性がますます高まっています。偶発性低体温症(accidental hypothermia)とは低体温症(hypothermia)は、深部体温(直腸温、膀胱温、食道温、肺動脈温など)が35℃以下に低下した状態を指します。なお、事故や不慮の事態に起因する低体温を、低体温療法や低体温麻酔のように意図的に低体温とした場合と区別するために、「偶発性低体温症」と呼びます。水難事故や山岳避難など、環境要因のみが原因と想起される場合には、復温することに全集中すればよいですが、感染症や脳卒中、外傷などをきっかけに動けなくなり、結果として低体温が引き起こされている場合(二次性低体温)には、原因に対する介入を行わなければ改善は期待できません。熱中症と同様に、体温管理とともに原因検索を同時並行で行い対応する必要があるのです。二次性低体温の原因は、体温調節機能の障害、熱喪失の増加に大別され、それぞれ多岐に渡りますが、意識障害の原因検索に準じて行うとよいでしょう(参照:意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule)。低体温の重症度低体温症の重症度分類としては、Swiss分類(Swiss Staging System)が広く知られています(表1)1)。この分類は、症状をもとに深部体温と重症度を推定できるよう設計されています。表1 偶発性低体温症重症度分類低体温症を確定診断するためには、深部体温の測定が不可欠です。腋窩体温で判断するのではなく、必ず深部体温を測定しましょう。これは熱中症の場合と同様で、体温が著しく低い(または高い)状況では、腋窩体温と深部体温の乖離が大きく、正確性を欠くためです2)。深部体温の測定方法としては、食道温が最も正確とされていますが、現場の実用性を考慮すると、温度センサー付きの尿道バルーンを使用し、膀胱温を尿量と併せて確認・管理する方法が推奨されます。一方で、深部体温の測定が困難な場合もあるでしょう。そのような場合には、意識状態に注目して重症度を推定することが重要です。意識状態が重度であるほど、低体温症の重症度は高くなり、予後が不良であることが明らかになっています3)。ショック+徐脈ショックでは通常、頻脈がみられますが、血圧が低下しているにもかかわらず脈拍が上昇しない、または徐脈である場合には、表2に示すような病態を考慮する必要があります4)。とくに冬など寒冷環境下では、低体温の関与を積極的に疑い、適切に対応しましょう。表2 ショック+徐脈Rescue collapse低体温患者、とくに重症度が高い場合、心臓の易刺激性により心室細動や無脈性心室頻拍が起こりやすいと報告されています。これはアシドーシスなどの影響が考えられますが、刺激や体動なども不整脈を惹起する可能性が示唆されており、この現象を“rescue collapse”と呼びます5)。過度な刺激は避け、愛護的な対応が必要です。実際〇℃以上になれば安全という絶対的な基準はありませんが、不整脈が起こりやすい状態であることを共通認識とし、復温や原因検索を行いながらバイタルサインを安定させることが重要です。「病着後、ある程度復温されない状態では患者を動かさない方がよい」というのは、皆さんの病院でも暗黙のルールになっているのではないでしょうか。これは、前述のrescue collapseを危惧した対応だと思われます。実際、体温が30℃未満ではリスクが高いとされていますが、30℃以上に上昇しても不整脈を完全に防ぐことができるわけではありません。また、根本的な原因に対する適切な介入を行わなければ、事態が改善しないことも多々あります。このため、注意深く観察しながら、精査を進める必要があります。仮にrescue collapseが発生した場合でも、周囲の人などからの目撃があれば蘇生率は比較的高いことが知られているため、慎重に経過を診ながら介入を行うのが現実的な対応といえるでしょう。低体温の治療脳卒中や外傷、低体温など、原因に対する治療も当然重要ですが、何よりも復温を急ぐ必要があります。原因検索を優先するあまり、復温のタイミングを逃してはなりません。 低体温と認識した段階で迅速に介入を開始しましょう。復温方法としては、以下のように3つの方法が挙げられます。1)受動的復温体温喪失を防ぐために、着替えや毛布、温かい飲み物を使用する。2)能動的体外復温ベアーハガーやArctic Sunなどの加温ブランケット、40~44℃の加温輸液を使用する。3)能動的体内復温 膀胱洗浄、血液透析、体外式膜型人工肺(ECMO)などを利用する。多くの症例では、体外復温で十分対応可能です。最も重要なのは、低体温であることを早期に認識し、迅速に介入することです。そのため、ECMOが行えないという理由で搬送を拒否するのではなく、まずは受け入れた上で復温を早期に開始することを徹底すべきです。低体温の予防救急外来で経験する低体温症の多くは、高齢者の自宅で発生した事例です。冒頭の症例のように、倒れているところを発見され、搬送されるケースが後を絶ちません。このような症例は、年々増加しているのではないでしょうか。高齢者、とくにフレイルの患者では死亡率が高いことが知られており6)、夏の熱中症と同様に、低体温への対策が急務です。基礎疾患の管理は当然ですが、暖房の適切な設置や、とくに発生しやすい朝の安否確認など、事前に対策を講じておくことが重要です。1)Paal P, et al. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2016;24:111.2)Niven DJ, et al. Ann Intern Med. 2015;163:768-777.3)Fukuda M, et al. Acute Med Surg. 2022;9:e730.4)坂本 壮. 救急外来ただいま診断中 第2版. 中外医学社. 2024.5)Frei C, et al. Resuscitation. 2019;137:41-48.6)Takauji S, et al. BMC Geriatr. 2021;21:507.