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レポーター紹介はじめにASCO2023の年次総会(6月2日~6日)は、ようやくCOVID-19が感染症法上の5類扱いとなったことで海外への渡航もしやすくなり、米国シカゴで現地参加された日本人の先生方もおられたと思います。今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年と同様に、現地まで行かずに通常の病院業務をしながら、業務の合間や終了後に時差も気にせず、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年も10の演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連4演題、多発性骨髄腫関連3演題、白血病/MDS関連3演題を紹介します。悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連SWOG S1826, a randomized study of nivolumab(N)-AVD versus brentuximab vedotin(BV)-AVD in advanced stage (AS) classic Hodgkin lymphoma (HL). (Abstract #LBA4)本臨床試験は、プレナリーセッションで発表された注目演題である。昨年のASCO2022にて、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、それまでの標準治療であったABVD療法と、ブレンツキシマブ ベドチンとブレオマイシンを置き換えたA-AVD療法を比較したECHELON-1試験の6年のフォローアップの結果が示され、全生存率でもA-AVDがABVDよりも優れていたという結果が発表された。今回の試験では、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、抗PD-1抗体薬ニボルマブとAVDを併用したN-AVDと、新たな標準治療となったA-AVDを比較した試験の中間解析結果が報告された。N-AVD(496例)、A-AVD(498例)に割り付けられた。本試験では、ECHELON-1試験には組み入れられなかった12~17歳の未成年患者が約4分の1含まれていた。主要評価項目のPFS(1年時点)は、94%と86%でHRは0.48と有意にN-AVDが優れていた。また、副作用として、G-CSFの1次予防の実施がA-AVDではほぼ全例、N-AVDでは約半数だったことで、好中球減少はN-AVDで多く認められたが、感染症の発症率はほぼ同等であった。末梢性神経障害はA-AVDで多く認められた一方、ニボルマブによる免疫関連の副作用(IrAE)は、ほとんど問題なかった。今後、フォローアップを継続し、晩期の副作用の発現や再発後の治療選択なども見ていく必要がある。Results of a phase 3 study of IVO vs IO for previously untreated older patients (pts) with chronic lymphocytic leukemia (CLL) and impact of COVID-19 (Alliance). (Abstract #7500)未治療高齢CLL患者に対し、イブルチニブ(I)とオビヌツズマブ(O)併用後のI治療継続(IO)と、IOにベネトクラクス(V)を12ヵ月間併用し、MRD陰性の場合は治療を終了し、MRDが残存する場合はI治療を継続する(IVO)治療を比較する第III相試験の中間解析結果が報告された。465例(IO群:232例、IVO群233例)がエントリーされ、18ヵ月時点でのPFSは、IO群87%、IVO群85%で差を認めなかった。14サイクル終了時点でのCR率とMRD陰性率は、IO群で31.3%と33.3%、IVO群で68.5%と86.8%であり、IVO群で高かった。18ヵ月時点でのIVO群のMRD陰性例と陽性例のPFSには差がみられなかった。有害事象としては、両群ともCOVID-19による死亡例が最も多く(IVO群>IO群)、COVID-19の流行により、臨床試験の結果は大きな影響を受けることとなった。今後、長期のフォローアップにより、MRD陰性例(治療中止例)のPFSのデータが出た時点で、Vの併用の意義が明らかになると考える。A phase 2 trial of CHOP with anti-CCR4 antibody mogamulizumab for elderly patients with CCR4-positive adult T-cell leukemia/lymphoma. (Abstract #7504)日本からの発表。同種移植の適応とならない高齢アグレッシブCCR4陽性ATL患者に対するモガムリズマブ(Moga)とCHOP-14の併用療法(Moga-CHOP-14)の第II相試験の結果である。アグレッシブATLは難治性の疾患であり、同種移植の適応とならない患者の生命予後はきわめて不良である。寛解導入療法のCHOP療法は、奏効率も低く、生命予後の改善も乏しい。50例のATL患者(年齢中央値74歳)にMoga-CHOP-14×6サイクル+Moga×2サイクルが実施された。1年PFSが36.2%、ORRが91.7%(CRが64.6%)、1年OSが66.0%であった。主な有害事象は、血球減少とFN(G3以上64.6%)、皮疹(G3以上20.8%)であった。Moga-CHOP-14療法は、高齢ATL患者に対する治療オプションとして有用と考えられる。Epcoritamab + R2 regimen and responses in high-risk follicular lymphoma, regardless of POD24 status. (Abstract #7506) 再発・難治の濾胞性リンパ腫(FL)に対し、CD20×CD3の二重特異性抗体薬epcoritamab(Epco)とリツキシマブ・レナリドミド(R2)を併用した治療の第II相試験(Epcoの投与スケジュールが異なる2群)の統合解析結果が報告された。2つの試験の対象となった111例が解析された。患者の年齢中央値は65歳で、CS III/IVが22%/60%であり、FLIPIの3〜5が58%であった。57%は前治療のライン数が1であり、POD24は38%が該当した。全奏効率は98%、完全代謝奏効(CMR)は87%であった。POD24に該当するハイリスク患者においてもそれぞれの奏効率は98%/75%と、治療効果は良好であった。有害事象は、CRSと好中球減少をそれぞれ48%で認めたが、CRSは46%がGrade1〜2であり、Grade3は2%であった。また、有害事象によって治療中止となった例はなかった。現在、第III相試験(EPCORE FL-1試験、EPCORE NHL-2試験)が行われている。多発性骨髄腫関連Carfilzomib, lenalidomide, and dexamethasone (KRd) versus elotuzumab and KRd in transplant-eligible patients with newly diagnosed multiple myeloma: Post-induction response and MRD results from an open-label randomized phase 3 study. (Abstract #8000)未治療の多発性骨髄腫(MM)患者に対するKRd療法とエロツズマブ(E)を併用したE-KRd療法の第III相比較試験(DSMM XVII試験)が行われた。試験デザインは6サイクルの寛解導入後、1回の自家移植(CRが得られない場合あるいはハイリスク染色体異常の場合は2回)を実施し、4サイクルの地固め実施後、レナリドミド(R)あるいはエロツズマブ+レナリドミド(ER)の維持療法を行うこととなっている。579例がランダム化された。寛解導入後の効果について、主要評価項目の1つでもあるVGPR以上でMRD陰性例の割合は、KRd/E-KRdで、35.4/49.8%であり、Eの併用効果を認めた。Grade3以上の有害事象もE併用により、66.3%から75.3%に増えているが、感染症による死亡例はそれぞれ0.3/1.2%で差はなく、COVID-19例も4.4/3.2%で差を認めなかった。未治療MMに対し、Eの併用の有用性が初めて示された試験である。First results from the RedirecTT-1 study with teclistamab (tec) + talquetamab (tal) simultaneously targeting BCMA and GPRC5D in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM). (Abstract #8002)トリプルクラス抵抗性のMM患者の生命予後は、きわめて不良であり、それらの患者に二重特異性抗体薬が高い有効性を示すことが報告され、欧米では承認されている。標的分子が異なるそれらの治療薬を併用することで、さらなる治療効果の増強が期待される。本発表では、BCMA×CD3の二重特異性抗体薬のteclistamab(Tec)とGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)の併用治療の第Ib相試験(RedirecTT-1試験)の結果が報告された。93例の再発・難治MM患者(前治療のライン数:4、33.3%がハイリスクの染色体異常を有し、79.6%がトリプルクラスレフラクトリー、37.6%が髄外腫瘤を有していた)が参加している。本試験は用量設定試験であり、用量は4段階あるが、有効性は全奏効率が86.6%、CR以上が40.2%であり、第II相の推奨用量(Tec:3.0mg/kg+Tal:0.8mg/kg Q2W)では、全奏効率が96.3%、CR以上が40.7%と、優れた治療成績が示された。また、CRSや骨髄抑制などの有害事象は単剤治療とほぼ変わりなかった。今後のさらなる開発が期待される。Talquetamab (tal) + daratumumab (dara) in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM): Updated TRIMM-2 results. (Abstract #8003)再発・難治MM患者に対するGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)とダラツムマブ(Dara)を併用した試験(TRIMM-2試験)のアップデート成績が報告された。65例(前治療のライン数:5、トリプルクラス抵抗性:60%、抗CD38抗体薬抵抗性:78%、二重特異性抗体薬抵抗性:23%、BCMA標的治療歴:54%)が参加した。追跡期間中央値16ヵ月時点の成績は、全奏効率81%(VGPR以上:70%、CR以上:50%)であり、奏効が得られた症例の80.9%で、12ヵ月時点で奏効が持続しており、PFSの中央値は19.4ヵ月、1年PFS率は70%、1年OS率は92%であった。有害事象は既知のものであり、CRSも78%で認められたが、すべてGrade1〜2であった。TalとDaraの併用は、トリプルクラス抵抗性(とくに抗CD38抗体薬抵抗性)のMMに対し、新たな治療オプションとして注目される。白血病/MDS関連Efficacy and safety results from the COMMANDS trial: A phase 3 study evaluating lus patercept vs epoetin alfa in erythropoiesis-stimulating agent (ESA)-naive transfusion dependent (TD) patients (pts) with lower-risk myelodysplastic syndromes (LR-MDS). (Abstract #7003)赤血球輸血依存のLow-リスクMDS患者に対するluspatercept(Lus)とエリスロポエチン製剤(ESA)との第III相比較試験の中間解析結果が報告された。対象となった患者は、IPSS-RでのLow-リスクであり、環状鉄芽球の有無は問わず、血清Epo値が500U/L未満であり、ESAの投与歴がない輸血依存(4~12単位の輸血を8週間以上継続している)状態の患者であった。Lusは3週に1回の皮下注、ESAは週1回の皮下注にて投与され、24週以上継続した。Lusは178例、ESAは176例の患者が割り付けられた。主要評価項目である開始24週以内における12週以上の輸血非依存の達成率(Hb 1.5g/dL以上上昇を伴う)は、Lusで58.5%、ESAで31.2%であった。治療薬関連の副作用は、Lusで30.3%、ESAで17.6%に認められ、副作用による中止はLusで4.5%、ESAで2.3%であった。また、AMLへの進行は、それぞれ2.2%と2.8%であった。Lusは、輸血依存のLow-リスクMDSに対し、貧血の改善効果がESAよりも優れていることが示された。A first-in-human study of CD123 NK cell engager SAR443579 in relapsed or refractory acute myeloid leukemia, B-cell acute lymphoblastic leukemia, or high-risk myelodysplasia. (Abstract #7005)CD123(IL-3レセプターのα鎖)を発現している細胞とNK細胞を結び付けるSAR443579(SAR)の再発・難治AML、およびCD123陽性HighリスクMDS、B-ALL患者に対する第I/II相試験の結果が発表された。SARは、週2回と週1回の静脈内投与で2週間投与され(10~3,000μg/kg/dose)、その後、週1回(100~3,000μg/kg)の投与スケジュールとなり、寛解導入期は3ヵ月、その後、維持療法期には約28日ごとの投与となる。23例の患者(全員AMLの診断)が登録され、最高用量の3,000μg/kgまで用量制限毒性は認められなかった。有害事象で最も多かったのはIRR(13例)であり、CRSは1例(Grade1)のみに認められた。有効性は、3例でCR/CRiが得られており、その3例は1,000μg/kgの投与量であった(1,000μg/kgでは8例中3例がCR/CRi:37.5%)。新たなNK細胞エンゲージャー治療薬の今後の開発の進展が期待される。Chemotherapy-free treatment with inotuzumab ozogamicin and blinatumomab for older adults with newly diagnosed, Ph-negative, CD22-positive, B-cell acute lymphoblastic leukemia: Alliance A041703. (Abstract #7006)未治療Ph陽性のALLに対し、TKIとブリナツモマブ(Blina)を併用したケモフリーレジメンの有用性が示されているが、本研究では、未治療Ph陰性、CD22陽性のB-ALLの同種移植の適応とならない高齢患者に対し、イノツズマブ オゾガマイシン(Ino)とBlinaの併用によるケモフリーレジメンが試験されている。Inoを1~2サイクル投与し、その後、Blinaで地固めを行う。33例(年齢中央値:71歳)が試験に参加し、最良治療効果のCRcは96%、1年EFS率が75%、1年OS率が84%であった。主な有害事象は骨髄抑制(Grade3以上の好中球減少:87.9%、血小板減少:72.7%)で、FNは21.2%にみられ、有害事象での死亡例は2例(脳症と呼吸不全)のみにみられた。通常の化学療法と比較し、とくに寛解期での死亡例が少なく、移植非適応のPh陰性ALL患者には、安全性の高い治療法である。おわりに以上、ASCO2023で発表された血液腫瘍領域の演題の中から10演題を紹介しました。ASCO2021、ASCO2022でも10演題を紹介しましたが、今年も昨年、一昨年と同様、どの演題も今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2024にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、円安が続く今日この頃[笑])。