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高齢者診療の困ったを解決するヒントは「老年医学」にあり!【こんなときどうする?高齢者診療】第1回

今回のテーマは、「なぜ今、老年医学が必要なのか?」です。このような症例に出会ったことはありませんか?85歳女性。自宅独居。糖尿病、高血圧、冠動脈疾患の既往有。呼吸苦を主訴に救急外来を受診。肺炎と診断し入院にて抗菌薬加療。肺炎の治療は適切に行われ呼吸苦症状も改善したが、自力歩行・経口摂取が困難になり自宅への帰宅不可能に。適切な診断と治療をして疾患は治ったにもかかわらず状況が悪化してしまう-高齢者診療でよく遭遇する場面かもしれません。老年医学はこうしたジレンマに向かい合うきっかけを提供し、すべての高齢者に対してQOLの維持・向上を図ること、また同時に心や体のさまざまな症状をコントロールするために体系化された学問です。老年医学の原則とアプローチ(「型」)を実践することで、困難事例に解決の糸口をみつけることができるようになります。老年医学の原則:コモンなことはコモンに起きる-老年症候群と多疾患併存日本における平均寿命と健康寿命はいずれも延伸していますが、平均寿命と健康寿命のギャップは医療の進歩にも関わらず顕著には短縮しておらず、女性で約12年、男性で約7~8年あります。1)この期間に多くの高齢者が抱える問題が2つあります。ひとつは老年症候群。たとえば記憶力の低下や抑うつ、転倒や失禁などの認知・身体機能の低下など、高齢者にコモンに起きる症状・兆候を「老年症候群」と総称します。もうひとつは、多疾患併存(multimorbidity)です。年齢に比例して併存疾患の数が多くなり、60歳以降では約20%が3つ以上の疾患を有しているという調査があります。2)高齢者の治療やケアをする場合、老年症候群と多疾患併存があるという前提で診察やケアにあたることが大切です。老年医学の型:5つのM老年症候群があり、多疾患併存状態にある高齢者の診療は、疾患の診断-治療という線形思考で解決しないことがほとんどです。そこで、複雑な状況を俯瞰するために「5つのM」というフレームを使います。要素は、大切なこと(Matters most)、薬(Medicine)、認知機能・こころ(Mind)、身体機能(Mobility)、複雑性・落としどころ(Multi-complexity)の5つです。今回のケースを5つのMを使って考えてみましょう。ポイントはMatters mostから考え始めること。「生きがい」・「大切なこと」といったことでもよいのですが、「今、患者/家族にとって一番の困りごとは何か、肺炎を治療した先の日々の生活に期待することは何か?」を入院加療の時点で考えられると、行うべき介入がさまざまな角度から検討できるようになります。今回のケースでは、肺炎治療後に自宅に帰り、自立した生活をできる限り続けることがゴールだったと考えてみましょう。そうすると、肺炎治療に加えて1人で歩行するための筋力維持が必要だと気付くでしょう。また筋力を維持するためには栄養状態にも気を配らなければなりません。それに気付けば理学療法士や管理栄養士など、その分野の専門職に相談するという選択肢もあります。また、肺炎治療中の絶対安静や絶食は、筋力や栄養状態の維持を同時に叶えるために適切な選択だろうか?本当に必要なのだろうか?と立ち止まって考えることもできます。しかし命に係わるかもしれない肺炎の治療は優先事項のひとつですから、落としどころとして、安静期間をできる限り短くできないか検討する、あるいはリハビリテーションの開始を早める、誤嚥のリスクを見極めて経口摂取を早期から進めていく、といった選択肢が出てくるかもしれません。100%正しい選択肢はありません。ですが5つのMで全体像を俯瞰すると、目の前の患者に対して、提供できる医療やケアの条件の中で、患者のゴールに近づく落としどころや優先順位を考えることができます。高齢者にかかわるすべての医療者で情報収集し共有する今回のケースでは、例として理学療法士や管理栄養士を出しましたが、その他にもさまざまな専門職が高齢者の医療に携わっています。医師は診断・治療といった医学的介入を職業の専門性として持つ一方で、患者とコミュニケーションできる時間が少ないために十分な「患者―医師関係」が構築しにくく、患者・家族が本当に大切にしていることが届きにくい場合があります。そのため、協働できる多職種の方とともに患者の情報を得る、そして彼らの専門性を活かして介入の方法やその分量のバランスをとること、落としどころを見つけることが医師に求められるスキルのひとつです。参考1)内閣府.令和5年度版高齢社会白書(全体版).第1章第2節高齢期の暮らしの動向.2)Miguel J. Divo,et al. Eur Respir J. 2014; 44(4): 1055–1068.

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“ロコトレ”とは?(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者医師患者医師患者医師患者医師患者“ロコトレ”ってどんな運動ですか?片足立ちとスクワットのことです。片足立ちはバランス能力をつける運動ですが、ポイントがあります。ちょっと立ってもらえますか? 眼を開けてしっかり立ちます。転倒しないようにテーブルに手をついておいてください。(開眼と転倒予防について説明)…こんな感じですか?画 いわみせいじそうです。次に、床につかない程度に左足を上げます。これを1分間。次に、右足を上げて1分間。これで1セットです。(片足立ちの方法について説明)結構簡単にできますね。これを1日に何回やればいいですか?慣れてきたら、1日に3セットをお願いします。毎日、続けるとバランス能力がついて転倒しにくくなることが期待できますよ。なるほど。けど、毎日は続くかなぁ…。(不安そうな声)カレンダーに〇をつけるといいですよ! 1セットしたら1つ〇とかね。なるほど。3セットできたら、三重丸の花丸にします!(うれしそうな表情)ポイント診察室で実践してもらい、自宅でも簡単にできることを説明します。カレンダーの活用など、ロコトレを毎日続けるコツも伝えましょう。Copyright© 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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第212回 新規開業の落とし穴(前編) 診療所の大型化・重装備化、複数医師開業というトレンドの背後にあるもの

コロナ禍が過ぎて、各地で診療所の新規開業が活発化こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、愛知県で一人暮らしをしている父親の様子を見に行ってきました。先月、洗濯物の取り込み中に転倒し、顔面を強打、血だらけになってしまったと電話で話していたので心配しての帰省です。久しぶりに会ってみると、「おまえ、喋り方が下手になった。聞きづらいのでもっときちんと喋れ!」と話す92歳の父親は、自分の耳のせいだとはまったく考えていないようです。顔だけではなく頭も打ったのかな、と思ったのですが、土曜昼間にテレビで放送されていた、広島・中日戦での中日ドラゴンズの戦いぶりを観て、「中田 翔はもう少し打点がほしい」、「マルティネスは時々打たれるが、防御率ゼロは大したもんだ」と意外と的確な評価をしていたので、頭はまだ大丈夫そうだ、とひと安心した次第です。さて今回は、いつもの事件や医療行政の話題から少し離れて、新規開業の最近の動きについて書いてみたいと思います。というのも、医療業界で働く知人から「コロナ禍が過ぎて、各地で新規の開業が活発化しているようだ」と聞いたからです。実際、コロナ禍が過ぎて、新規開業は再び増え始めているようです。各地で活発化している病院の再編統合や、医師の働き方改革を背景に、病院での実際の働き方にやたら制約ができて、“バイト”も気軽にできなくなっていることも、勤務医生活に見切りを付けるきっかけになっているのかもしれません。2022年医療施設調査では、無床診療所は1,101施設増最近の大まかな開業動向は、厚生労働省が発表している「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」1)で確認できます。それによれば、2022年10月1日現在の一般診療所は10万5,182施設。うち無床診療所は 9万9,224 施設(一般診療所総数の94.3%)で、前年に比べて 1,101 施設増加しました。一方、有床診療所は5,958 施設(同5.7%)で、前年に比べ211 施設減少しました。この無床診療所1,101増という数字は、廃止・休止を差し引いた純増数です。同調査によれば新規開設は7,803施設でした。コロナ禍もあって前年2021年の9,503、2020年の8,250に比べると少ないですが、それでも年間8,000近い診療所の新規開業があり、その数は廃止・休止を上回っているのです。開業当初からMRIなど高額な医療機器を導入するところもこうした新規開業、最近の一つの傾向として言われているのは、「診療所の大型化・重装備化」、「複数医師による開業」です。以上の2点を背景に「開業費の増大」も指摘されています。昨年末、ある開業コンサルタントの話を聞く機会があったのですが、たとえば整形外科診療所では、開業当初からMRIなど高額な医療機器を導入するところが少なくないそうです。複数医師による開業は在宅専門診療所によくみられる傾向ですが、在宅医療ではない診療分野でも、最初から複数医師の共同開業や複数医師による診療体制を整えるところが増えているようです。国のかかりつけ医の議論の中で、かかりつけ医の体制は単独で構築するだけではなく、複数で一人の患者をフォローしていく体制も今後は望ましいと言及されたことも影響しているのかもしれません。一方、開業費は増大の一途です。大型化・重装備化で必然的に必要資金が増えることに加え、建築資材の高騰や、都市部での不動産マーケットの好況を背景に賃料が値上がりしていることなどもその要因です。戸建て開業では億単位の資金が必要になるケースは少なくないですし、大都市のテナント開業でも、そこそこの医療機器を揃えれば、億に近い資金が必要になってきます。そうした多額の開業資金を金融機関から借り入れる場合、相応の返済期間が必要になってきます。50代、60代になってからの新規開業は厳しく、勢い30代、40代という比較的若年での開業が増えていくことになります。開業の成否は二の次に、大規模・重装備、複数医師開業を提案するコンサルタントもただ、これから開業を考える医師が注意しなければならないのは、こうしたトレンドは、先程も書いたように金融機関や開業コンサルタント側の事情も多分に関係している、という点です。とくに地方では、企業や事業者数そのものが限られており、有望かつ融資金額が大きい案件はそんなにありません。というわけで、地方銀行や信用金庫にとって病院や診療所などの医療機関は願ってもない上顧客ということになります。融資金額を最大限に増やしたい金融機関や、コンサルタント料に加え診療所の管理業務を受託したい、関連企業で門前薬局を経営したい、と考える開業コンサルタントの中には、開業の成否は二の次に、大規模・重装備の診療所で、複数医師による病院並みの外来運営を企画・提案するところもあると聞きます。「医療機関が潰れたら、金融機関側も困るのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、債務を負うのは医師です。仮に経営が破綻し診療所を畳むことになったとしても、金融機関側は「僻地の診療所などで10年も働いてもらえば億のお金でも返済してもらえる」と考えます。さらに、複数医師開業で債務者が複数いれば、返済期間も短くなります。そういった意味でも金融機関にとって医師は願ってもない上顧客なのです。最初、患者として勤務医に近づく開業コンサルタントもそうした状況下、開業志望の医師の相談や悩みに親身になって対応してくれる金融機関やコンサルタントがいる一方で、医師を単なる“カモ”としか見ない悪いやつもいます。結果、経営に疎い医師が騙される、という事態も発生します。「第176回 虫垂がんを宣告されたある医師の決断(後編) 田舎の親の病医院を継ぎたくない勤務医にも参考になる『中小病院が生き残るための20箇条』」で紹介した『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』(東謙二著、日経メディカル開発)の中には典型的なエピソードが紹介されています。同書の「中小病院が生き残るための20箇条」の章の20箇条目、「医師は世間知らず、開業で騙されないために」の項では、「熊本界隈でも新規開業したばかりの診療所の閉院が増えている」として、40代の公的病院勤務医の開業失敗話が紹介されています。最初、患者として勤務医が働く病院の外来にやってきた男が、親密になると「開業コンサルタントである」と打ち明けます。その後、地方銀行員と組んで言葉巧みかつ強引に勤務医を新規開業に導いていく展開は、モダンホラーさながらです。コンサルタントの“悪魔の囁き”、「先生なら開業すれば患者さんがたくさん集まるでしょうね」この本には、「先生なら開業すれば患者さんがたくさん集まるでしょうね」、「開業資金のことなら心配要りません」、「開業までのことはすべてお任せください」といったコンサルタントの“悪魔の囁き”の例もいくつか紹介されています。この勤務医は結局、「開業後、自腹を切りながら経営を続けたものの、結局は多額の借金を背負い閉院した」とのことです。なお、東氏は「医師をはじめ、医療従事者はほとんどが『性善説』の中で仕事をしているが、世の中には『性悪説』を基本に対処していかないとすぐに騙されてしまう世界もあるのである」と書くとともに、「だから開業するな、と言っているわけではない。自分の所有する土地があり、運転資金も十分にあるならば多くのリスクは回避できる。しかし、土地から購入して、全てが一から開業となれば、自分はかなりギャンブル性の高い勝負に出るのだと理解してほしい。もちろん全ての業者が悪徳ではないし、親身になってくれる経営コンサルタント会社や銀行もあるだろう」と結んでいます。収益が出ないと不正請求すれすれの無理な診療に手を染めるところも少し話が脱線してしまいました。診療所の大型化・重装備化、複数医師開業の話に戻りましょう。大型化・重装備化は開業費がかかり、複数医師開業は医師の人件費が倍になります。収入は増えますが、支出も当然増えます。患者数をこなしてもこなしても収益がなかなか出ないとなると、不正請求すれすれの無理な診療に手を染めるところも出てきます。私が昨年秋にかかった都内の整形外科はまさにそんな診療所でした(この項続く)。参考1)令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況/厚生労働省

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職場巡視のコツ:オフィス編【実践!産業医のしごと】

産業医として働き始めると、職場巡視の役割に戸惑うことがあるかもしれません。職場巡視とは、産業医が事業場を見回り、業務内容や作業環境が労働者に有害な影響を与える恐れがないかを確認することです。労働安全衛生規則では、産業医は月に1回、職場巡視を実施することが義務とされています。私自身も、最初は医師がオフィスを巡回する意義に疑問を持ち、その役割に違和感を覚えていました。しかし、今ではこの活動は産業医の職務の“核”となる、重要な業務の1つだと認識しています。本稿では、オフィス環境における職場巡視の要点を解説します。職場巡視は産業医にとっても意義深い職場巡視は法令により定められた産業医の職務です。適切な職場巡視は、見過ごされがちなリスクを発見し改善することで、職場の生産性向上と従業員の満足度向上に寄与します。一方で、職場を直接観察することは、産業医自身にとっても非常に有意義な経験です。嘱託産業医として、健康管理室での月1回の面談だけで、従業員の働く環境や職務内容を十分に把握することは困難です。職場巡視で従業員の表情や働く環境を目の当たりにすることで職場に関する理解を深め、貴重な情報を得ることができます。また、休職者対応をしているタイミングであれば、職場復帰後の環境をよりリアルに想像でき、精緻な就業判断を下すことができます。職場巡視ではテーマを決める職場巡視は、「テーマ」を設定して行うことをお勧めします。確認すべきことは多く、全項目を毎回チェックすることは非現実的であり、巡視の質を低下させる原因にもなります。「オフィスレイアウトの変更」「直近で発生した労働災害」など、特定のトピックに焦点を当てることで、漫然としがちなオフィスの職場巡視を、目的意識を持って行えるようになります。そうした大きなトピックがないときでも、「避難経路」「転倒防止対策」「腰痛対策」など、都度テーマを決めておくことで職場巡視の焦点が定まります。オフィスの職場巡視で確認すべきポイントオフィスの職場巡視で確認すべきポイントは、大きく分けて「作業環境」と「災害(安全)対策」です。具体的なチェック項目を以下に記載します。画像を拡大する職場巡視結果の指摘の方法にもポイントがある職場巡視の結果を指摘する際にもポイントがあります。たとえば、「たこ足配線が危ない」と伝えるだけでは、何がどう危ないのか、どう改善すればよいのかまでは伝わりません。「1つのコンセントの差込口の消費電力は1,500ワットまでです。それ以上になると火災の危険が高まります。たこ足配線を解消して1,500ワット以下にしてください」と伝えれば、指摘を受けた側も理解しやすいでしょう。リスクと望ましい状態を、具体的に示すようにしましょう。さらに、改善策については、産業医よりも現場に知恵があるため、現場も巻き込んで検討するようにしましょう。産業医はしばしば理想的な提案をしがちですが、ここでは実現可能な対策を提案することが重要です。改善後は安全衛生委員会や職場巡視で結果を確認し、必要に応じて再提言を行います。オンライン職場巡視は認められていない現在、オンラインでの職場巡視は認められていません。私自身の実感でも、オンラインでは職場の雰囲気や従業員の様子を観察し、その空気を感じ取ることは難しいと思います。職場巡視は五感をフルに活用して行うべき活動であり、実際に職場に足を運び、衛生管理者や職場関係者とコミュニケーションを取ることで、見落とされがちな問題を発見しやすくなります。産業医は「職場に足を運ぶ姿勢」を大切にしましょう。職場巡視は、産業医にとって職場の安全と健康を守るうえで不可欠な活動であり、産業医自身にとっても有意義な情報を得られる機会です。この役割を積極的に果たすことを通じて、職場改善におけるリーダーシップを発揮し、従業員がより健康で安全な環境で働けるよう貢献しましょう。

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身体診察【とことん極める!腎盂腎炎】第2回

CVA叩打痛って役に立ちますか?Teaching point(1)CVA叩打痛があっても腎盂腎炎と決めつけない(2)CVA叩打痛がなくても腎盂腎炎を除外しない(3)他の所見や情報を合わせて総合的に判断する1.腎盂腎炎と身体診察腎盂腎炎の身体診察といえば肋骨脊柱角叩打法(costovertebral angel tenderness:CVA tenderness)が浮かぶ方も多いのではないだろうか。発熱、膿尿にCVA叩打痛があれば腎盂腎炎と診断したくなるが、CVA叩打痛は腎臓の周りの臓器にも振動が伝わり、肝胆道や脊椎の痛みを誘発することがあるため、肝胆道系感染症や化膿性脊椎炎を腎盂腎炎だと間違えてしまう場合がある。身体所見やその他の所見と組み合わせて総合的に判断する必要がある。2.CVA叩打痛と腎双手診CVA叩打痛は腎盂腎炎を示唆する身体所見として広く知られている。図1のように、胸椎と第12肋骨で作られる角に手を置き、上から拳で叩打し、左右差や痛みの誘発があるかどうかを観察する。なお腎臓は左の方がやや頭側に位置しているため、肋骨脊柱角の上部・下部とずらして叩打痛の確認をする。もし左右差や痛みがあれば腎盂腎炎を示唆する所見となるが、第1回で紹介したとおり、所見がないからといって腎盂腎炎を否定することはできず、ほかの所見と合わせて診断を考える必要がある。画像を拡大するその他の身体診察として腎双手診がある。腎臓のある側腹部を両手で挟み込み、痛みを生じるかどうかを確かめる診察であり尿管結石でも陽性となり得るが、腎盂腎炎においてCVA叩打痛陰性であっても腎双手診は陽性となる症例も散見される。CVA叩打痛は脊椎の痛みを反映している場合もある一方で腎双手診(図2)は大腸の病変を触れている可能性もある。CVA叩打痛が圧迫骨折などの脊椎の痛みを誘発していないか確かめるために、棘突起を押して圧痛を生じないか確かめることが有用である。棘突起を押して圧痛を生じるようであれば、椎体の病変の可能性が高くなる。画像を拡大するこのように、腎臓の位置は肉眼では把握しづらく、痛みを生じているのが腎臓なのか、その周囲の臓器なのかわかりにくい。裏技のような方法になるが、エコーで腎臓を描出しながらプローブで圧痛が生じるか確認する、いわばsonographic Murphy’s signの腎臓バージョンもある1)。3.自身が体験した非典型的なプレゼンテーション最後に自身が体験した非典型なプレゼンテーションを述べる。糖尿病の既往がある90歳の女性で、転倒後の腰痛で体動困難となり救急搬送された。身体診察・画像検査からは腰椎の圧迫骨折が疑われ、鎮痛目的に総合診療科に入院となった。その夜に39℃台の発熱を生じfever work upを行ったところ、右の双手診で側腹部に圧痛があり、尿検査では細菌尿・膿尿を認めた。圧迫骨折後の尿路感染症として治療を開始し、後日、尿培養と血液培養より感受性の一致したEscherichia coliが検出された。本人によく話を聞くと、転倒した日は朝から調子が悪く、来院前に悪寒戦慄も生じていたとのことだった。ERでは腰痛の診察で脊椎叩打痛があることを確認していたが、その後脊椎を一つひとつ押しても圧痛は誘発されず、腎双手診のみ再現性があった。腰椎圧迫骨折は陳旧性の物であり、急性単純性腎盂腎炎後の転倒挫傷だったのである。転倒後という病歴にとらわれ筋骨格系の疾患とアンカリングしていたが、そもそも転倒したのが体調不良であったから、という病歴を聞き取れれば初診時に尿路感染症を疑えていたかもしれない。この症例から高齢者の腎盂腎炎は転倒など一見関係なさそうな主訴の裏に隠れていること、腰痛の診察の際に腎双手診は脊椎の痛みと区別する際に有用であることを学んだ。4.腎盂腎炎診断の難しさ腎盂腎炎の診断は難しい。それは、腎盂腎炎の診断が非典型的な症状、細菌尿・膿尿の解釈、側腹部痛の身体所見、他疾患の除外など、さまざまな情報を統合して総合的に判断しなければならないからである。正しい診断にこだわることはもちろん重要だが、腎盂腎炎がさまざまな症状を呈し、また、どの身体所見も腎盂腎炎を確定診断・除外できないことを念頭に置き、柔軟に対応することが必要なのではないだろうか。たとえ典型的な症状や所見が揃っていなくても、できる限り他疾患の可能性について考慮したうえで、患者の余力も検討し腎盂腎炎として抗菌薬を開始することが筆者はリーズナブルであると考える。重要なことは治療を始めた後も、経過を観察し、合わない点があれば再度、腎盂腎炎の正当性について吟味することである。多種多様な鑑別疾患と総合的な判断が求められる腎盂腎炎は臨床医の能力が試される疾患である。1)Faust JS, Tsung JW. Crit Ultrasound J. 2017;9:1.

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降圧薬を開始・追加した高齢者は〇〇に注意?

 高齢者は転倒リスクの1つである起立性低血圧が生じやすい。そこで、米国・Rutgers UniversityのChintan V. Dave氏らの研究チームは、降圧薬が高齢者の骨折リスクへ及ぼす影響を検討した。その結果、降圧薬の開始・追加は骨折や転倒、失神のリスクを上昇させた。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年4月22日号で報告された。 研究チームは、2006~19年に長期介護施設へ入所した米国の退役軍人2万9,648人を対象に、target trial emulationの手法を用いた後ろ向きコホート研究を実施した。50個以上の共変量について1:4の割合で傾向スコアマッチングを行い、降圧薬の開始・追加後30日以内の骨折の発生リスクを評価した。認知症の有無、収縮期血圧(140mmHg以上/未満)、拡張期血圧(80mmHg以上/未満)、降圧薬の使用歴、年齢(80歳以上/未満)別のサブグループ解析も実施した。さらに、入院または救急受診を要する重度の転倒、失神のリスクも評価した。なお、降圧薬の開始・追加は、過去4週間以内に降圧薬を使用していない患者の降圧薬の使用、または過去4週間に使用している降圧薬とは別のクラスの降圧薬の追加と定義した。 主な結果は以下のとおり。・100人年当たりの30日以内の骨折の発生率は、対照群が2.2であったのに対し、降圧薬開始・追加群は5.4であり、有意に骨折リスクが高かった(ハザード比[HR]:2.42、95%信頼区間[CI]:1.43~4.08)。・降圧薬開始・追加群は、対照群と比較して入院または救急受診を要する重度の転倒(HR:1.80、95%CI:1.53~2.13)、失神(同:1.69、1.30~2.19)のリスクが高かった。・サブグループ解析の結果、認知症あり、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧80mmHg以上、過去4週間以内の降圧薬の使用歴なしの集団において、降圧薬開始・追加による骨折リスクの数値的な上昇がみられた。一方、年齢による差はみられなかった。サブグループ別の対照群に対するHRおよび95%CIは以下のとおり。 -認知症あり:3.28、1.76~6.10 -認知症なし:1.61、0.63~4.11 -収縮期血圧140mmHg以上:3.12、1.71~5.69 -収縮期血圧140mmHg未満:1.89、1.01~3.53 -拡張期血圧80mmHg以上:4.41、1.67~11.68 -拡張期血圧80mmHg未満:1.89、1.01~3.53 -過去4週間以内の降圧薬の使用歴なし:4.77、1.49~15.32 -過去4週間以内の降圧薬の使用歴あり:1.27、0.76~2.12 -80歳以上:2.07、1.08~3.95 -80歳未満:2.29、1.10~4.79 本研究結果について、著者らは「降圧薬の開始・追加は、とくに介護施設に入所する高齢者において、骨折リスクを増加させる可能性がある。このことから、降圧薬開始後という骨折リスクの高い期間は、注意深く観察することが勧められる」とまとめた。

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自分でトイレに行きたい【非専門医のための緩和ケアTips】第75回

第75回 自分でトイレに行きたい緩和ケアの仕事を始めた当初、患者にとって排泄の問題はこんなにも大切なのか! とびっくりする経験がいくつかありました。とくにADLが低下し、身の回りのことができなくなってくると、こうした問題はより頻繁に発生します。今回の質問訪問診療で担当している、がん終末期の患者さんの悩みです。自力でトイレに行きたがるのですが、呼吸困難が強く、自力歩行は危険と判断してオムツでの排泄をお願いしています。そのように何度も説明しているのですが、「トイレに行く」と聞いてもらえません。こうした場合、どう対応すればよいでしょうか?これは非常によくある、悩ましい状況ですね。客観的には自立して排泄することは難しいけれど、患者さんが自分で行きたがる…。緩和ケアをやっていると関係者で必ず話題になるトピックです。医師はもちろん、看護師や介護士はさらに頻繁に遭遇しているでしょう。呼吸困難低減を優先するならば、オムツや尿道カテーテル留置がシンプルな対応法でしょうが、医療者としてもなかなか割り切れない部分があります。そもそも、なぜ患者さんは自身でトイレに行きたいのでしょうか? 「自立したい」という気持ちは誰にとっても大切です。また、「迷惑を掛けたくない」という気持ちが強い方も多くいます。私はご本人がお話しできるコンディションであれば、率直にお尋ねします。「症状を考えると少し負担が大きいのではと心配しています。『トイレは自分で…』というのは、どういうお気持ちからですか?」といった感じです。もう一方の論点として、なぜ私たち医療者は、患者さんが自力でトイレに行くことを心配するのでしょうか? 「何よりも患者の希望を優先する」のであれば、そんなに悩まずに従っておけばよい、という考え方もあるはずです。この点についてもいろいろ議論はあるでしょうが、私自身の「ちゅうちょする理由」を挙げれば、「患者さんの呼吸困難を最小限にしたい」「転倒して、さらにQOLが下がることを避けたい」といったあたりが大きいと思います。このテーマは、患者さんの意向の深掘りや医学的状況の検討、関係者の思いなどの擦り合わせが必要となり、臨床倫理的な観点も重要です。「患者の希望通りにしておけばいい。転倒しても仕方がない!」というのはちょっと極端ですし、「転倒したら医療側の責任なので、絶対にオムツにしてください!」というのもケアの質に疑問を感じます。こうした生活に近い問題は、ケースごとに、対話を基盤としながらその場その場で最適な落とし所を考える必要があります。まずは「自分で排泄したい」「他者に迷惑を掛けたくない」といった多くの人が大切にしていることを前提として理解し、一緒に最適解を考えていく態度が大切です。結果として、医療者目線では心配であっても、「自力でトイレに行くのを見守る」といった対応もありえるでしょう。個別性を尊重したケアは大変さもありますが、緩和ケアのやりがいにもつながる部分です。皆さんはどのように考えますか?今回のTips今回のTips「自力でトイレに」…。患者が大切する価値観を理解し、関係者と一緒にベストなケアを考えよう。

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緑内障は「幸福と感じていない」ことと関連、特に男性で顕著

 国内7県の地域住民を対象とした研究で、自己申告による緑内障の既往歴がある人は、主観的に「幸福と感じていない」割合が高いという結果が示された。この緑内障で幸福と感じていない割合が高い傾向は、特に40~59歳の男性で顕著だったという。これは慶應義塾大学医学部眼科学教室と国立がん研究センターなどとの共同研究による結果であり、「BMJ Open Ophthalmology」に2月19日掲載された。 これまでの研究で、ドライアイや老眼と幸福度の低さとの関連が報告されている。緑内障は、眼圧(目の硬さ)が高い状態が続くことなどにより視神経が障害され、徐々に視野の障害が広がる病気だ。緑内障患者は、テレビの視聴や読書などの楽しみが減少し、転倒リスクが高まるなど、日常生活に悪影響を及ぼし、視覚関連QOLが大きく損なわれる可能性がある。 そこで著者らは、2011~2016年に開始された次世代多目的コホート研究「JPHC-NEXT」のデータを用いて、自己申告による緑内障の既往歴と幸福度との関連を解析した。対象は、国内7県(岩手、秋田、長野、茨城、高知、愛媛、長崎)の計16市町村の地域住民(40〜74歳)のうち、がん、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、糖尿病、うつ病の既往歴のある人などを除外した、計9万2,397人。質問紙により緑内障の既往歴(医師の診断)を調べた。全体的に幸せな状態かどうかの質問に関する4つの選択肢(幸せでない、どちらとも言えない、幸せ、大変幸せ)のうち、「幸せでない」または「どちらとも言えない」と回答した人を「幸福と感じていない」とした。 その結果、緑内障の既往歴のある人は1,733人(1.9%)であり、男性が635人(1.6%)、女性が1,098人(2.1%)だった。緑内障の既往歴がある人は、緑内障の既往歴がない人と比べて年齢が有意に高かった(平均63.0±8.3対57.5±9.6歳)。 年齢のほか、地域、教育レベル、世帯収入、喫煙、飲酒量、身体活動の差を調整した上で、男性における「幸福と感じていない」のオッズを解析した結果、緑内障の既往歴がある人の方が、緑内障の既往歴がない人よりも有意に高かった(オッズ比1.26、95%信頼区間1.05~1.51)。女性でも、「幸福と感じていない」割合と緑内障の既往歴が関連する傾向にあったが、関連は有意ではなかった(同1.05、0.90~1.23)。 さらに、年齢層を分けて解析すると、「幸福と感じていない」割合と緑内障の既往歴との関連が最も強かったのは40〜59歳の男性であることが明らかとなった(同1.40、1.04~1.88)。一方、60〜74歳の男性(同1.20、0.96~1.51)、40〜59歳の女性(同1.21、0.92~1.59)、60〜74歳の女性(同0.99、0.83~1.20)では、有意な関連は認められなかった。 以上から著者らは、「特に男性において、緑内障の既往歴は幸福と感じていない割合と関連する」と結論。性別や年齢層で差があったことの背景として、社会的に求められる役割や雇用状況、視野の障害による仕事への支障などの可能性を挙げている。また、緑内障は日本の中途失明の原因として最も多い病気だが、「診断と治療を早い段階で行えば、進行速度を遅らせ、機能障害を最小限に抑えることができる」と述べている。

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きちんと診察したのに、後日見逃しを疑われてしまった【もったいない患者対応】第5回

きちんと診察したのに、後日見逃しを疑われてしまった登場人物<今回の症例>20代男性自転車で走行中に自己転倒両下肢に複数の擦過傷、右膝に3cm程度の裂創あり、来院<負傷したときの状況を聞き出します>どんなふうに転びましたか?前を走っていた車が急に曲がったので慌ててブレーキをかけたんですが、その拍子に転んで溝にはまってしまって…。そんなにスピードは出ていなかったので大したことはないと思います。そうでしたか。右膝の怪我は縫わないといけませんが、それ以外の傷は、洗って軟膏を塗るだけで大丈夫そうですよ。膝だけですか、よかったです。(全身を診察しながら)他に痛いところはありませんか?ありません。大丈夫です。~3日後~昨日出張中にどうしても右手が痛くなって近くのクリニックに行ったら、骨折していました。先生、見逃したんですか?全身診察してくれましたよね?骨折ですか!?いや、痛いところはないとおっしゃっていたので…。ちゃんと診てくださいよ。クリニックの先生にも「なんで最初に診た先生がこの骨折を処置していないんだ」って言われましたよ!【POINT】唐廻先生は、外傷患者に対してきちんと全身診察をして「他に痛いところはないか」と聞いていました。「大したことはない」「他に痛いところはない」と言われ、唐廻先生も半ば油断していたようです。ところが、別の病院で骨折を指摘され、患者さんから不信感を抱かれてしまいました。初診時の対応のどこに問題があったのでしょうか?とっさの事故では、正確な情報が得づらい外傷患者に対する問診では受傷機転の確認が最も大切です。しかし、交通外傷などはとくにそうですが、患者さん本人の受傷時の記憶があいまいなことはよくあります。頭部打撲による逆行性健忘がありうる、という意味ではありません。単に“とっさのことで、どんな姿勢で転んだか、どこを打撲したか、が自分でもよくわからない”という意味です。つまり、患者さんの受傷機転に関する報告からは得られない情報があるかもしれない、ということに注意が必要なのです。本人から受傷したとの訴えがなかった部位に、後から外傷が判明することもあります。初診時に全身を診察し、こうした隠れた外傷を見抜くことができればベストですが、本人の訴えがまったくなく、かつ体表面に所見が乏しいときはそう簡単ではありません。後から悪化するケースがあることを伝えようそこで、患者さんには「突然のことで、どこを怪我したか自分でもわからないのが普通です。後から思いもよらぬ場所が痛くなってくるかもしれません。そのときは再度受診してください」と、あらかじめきちんと伝えておくことが肝要です。場合によっては「最初はなんともなかったのに、翌日になって腕が痛くなって検査したら骨折が見つかったケースもありますからね」と、具体例を提示してみるのもいいでしょう。こうした説明があるだけで、後から検査をして別の外傷が見つかっても「初診医が見逃した」と考える可能性は低くなります。重度の外傷が潜んでいることも外傷診療では“distracting pain”という概念があります。直訳すると“気をそらすような痛み”です。痛みの大きな部位に気を取られ、痛みは軽いものの、本来は治療を優先すべき重度の外傷を見逃してしまうことを意味します。今回のケースとは少し異なりますが、患者さんの痛みの訴えだけに頼りすぎると重要な情報を見逃す危険性があるため、注意が必要です。これでワンランクアップ!どんなふうに転びましたか?前を走っていた車が急に曲がったので慌ててブレーキをかけたんですが、その拍子に転んで溝にはまってしまって…。そんなにスピードは出ていなかったので大したことはないと思います。そうでしたか。でも、突然のことでどこをどんなふうに怪我したか、ご自身でもあまりよくわからないですよね。後から思いもよらぬ場所が痛くなってくるかもしれません※1ので、そのときは再度受診してくださいね。場合によっては、数日後に初めて骨折がわかる、なんてこともあるんです※2。※1:今後起こり得る可能性を伝える。※2:具体例をあげると、より理解してもらいやすい。そういうこともあるんですね。いまのところ大丈夫そうですが、気をつけておきます。

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1日30分座位時間を減らすと高齢者の血圧が低下

 高齢者に対し、座って過ごす時間を減らすためのシンプルな介入を6カ月間実施したところ、1日当たりの座位時間を30分以上減らすことに成功し、収縮期血圧も低下したとする研究結果が報告された。米カイザーパーマネンテ・ワシントン・ヘルスリサーチ研究所のDori Rosenberg氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に3月27日掲載された。 今回の研究の背景情報によると、高齢者は通常、起きている時間の65〜80%を座位で過ごしている。このような座位中心の生活は、心疾患や糖尿病を招きかねない。 Rosenberg氏らは今回、60〜89歳でBMIが30〜50の成人283人(試験開始時の平均年齢68.8歳、女性65.7%)を対象にランダム化比較試験を実施し、座位時間を減らし、血圧を改善することを目的にした介入の効果を検討した。対象者は、6カ月にわたってI-STANDと呼ばれる介入を受ける群(140人、介入群)と、そうした介入を受けない対照群(143人)にランダムに割り付けられた。I-STANDは座位行動を減らすために励ましや個別の目標設定を提供するもので、介入群に割り当てられた人は、健康的な生活に関する10回のコーチングセッションを受けたほか、ワークブックやスタンディングデスク、活動量計を提供された。また、試験開始時とその3カ月後には活動量計のデータに関するフィードバックも受けた。一方、対照群も健康的な生活に関するコーチングセッションを10回受けたが、その内容に立位や活動量を増やすことは含まれていなかった。 試験開始時には、147人(51.9%)が高血圧の診断を受けており、97人(69.3%)が1種類以上の降圧薬を服用していた。介入群での1日当たりの座位時間は、試験開始から3カ月後には平均31.44分、6カ月後には31.85分減少していた。また、介入群では6カ月後に収縮期血圧も平均3.48mmHg低下していた。 Rosenberg氏は、「これらの結果は非常に期待の持てるものだ。なぜなら、特に慢性的な痛みや身体能力の低下など、さまざまな制限を抱えて生活している可能性が高い高齢者にとって、座位時間を減らすことは身体活動を増やすよりも容易な変化だからだ」と話している。 研究グループは、今回の研究で得た知見をさらに進展させる可能性のあるいくつかのフォローアップ研究を検討しており、特に、この介入法を簡略化しても同様の効果が見込めるのかどうかに高い関心を抱いている。Rosenberg氏は、「どの要素が最も影響力があるのかは不明だ。座位時間を減らすために、スタンディングデスクや活動量計、10回のコーチングセッションの全てが必要なのか。それとも、そうした要素が一つか二つあれば間に合うのか。こうしたことを明らかにすることは、リソースの限られた医療現場でこの介入法を効果的に導入するための方法を検討する際に役立つだろう」と話している。研究グループはさらに、こうした介入が高齢者の転倒リスクや脳の健康に与える影響について調査することにも関心を示している。

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医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(3)――人員確保には、人気の科に偏らないマッチングの仕組みも必要【臨床留学通信 from NY】第59回

第59回:医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(3)前々回、前回に引き続き、医師の働き方改革と財源確保について、米国の医療保険制度から考える第3回です。医師の働き方改革は重要です。長過ぎる労働時間は、現在の若手の負担になっているのは事実です。昔はそうだった、という時代ではありません。しかしながら結局は財源が変わらず、患者さんに対する診察時間などが変わらなければ、解決しようがなく名ばかりと言えるでしょう。当直があたかも働いていないかのように虚偽の申告をせざるを得ないという、本末転倒になりかねません。米国では保険制度側がカルテをチェックする財源に関しては、以前に比べて高齢者が増え、若手が減っている高齢化社会のため、高齢者の負担を変えるのはやむを得ないでしょう。また、前回述べたように、安定している患者さんの不必要な診察を減らすべきです。場合によっては、国民皆保険であるため国側がカルテを閲覧できるようにしてもいいのではないでしょうか。米国では、保険会社(政府の公的保険も含む)がカルテを照会してクレームを入れることもよくあるので、それを参考にしてもよいでしょう。また、日本の高額療養費の負担保証ですが、緊急疾患であり、救命に直結するものであればすべてカバーするのがいいと思います。しかしながら、ここでは個々に対しては言及しづらいのですが、高額な医療で緊急ではないものに関しては、やはり公的保険にある程度制限を設け、すべて高額医療費としてカバーするのではなく米国のようなプライベート保険がもっと普及してもいいかもしれません。公的保険のみでカバーするのは限界です。財源をしっかり確保し、とくに緊急疾患に対する医療費を上げて、そこに人的資源が割けるようにすべきです。財源確保は人員確保につながる私が循環器内科だからというわけではないのですが、緊急疾患、夜間が多い科の成り手を確保することは、国として命題です。病院で働く時間が長過ぎて、バイトもできず、給料は減るだけでは、成り手も減る一方です。やはり、ある程度同じ病院の中でも働く時間や夜間などの緊急が多い人にはより給料を多く払う仕組みや、オンコールも医師を縛り付けているので、相応の対価も必要です。最終的には病院の集約化も必須となってくるかと思いますが、そこは簡単ではないでしょう。名ばかりの専門医制度ではなく、米国のように、人気の科では専門医資格がないと仕事ができないようにし、かつその科への受け入れ人数を制限し、医療が各地域に分配されるようにしないと、医師数が多くてもうまく回りません。米国では、日本のように研修一般をマッチングにするのではなく、専門的な内科や外科レジデント、循環器フェロー、心臓外科フェローになれる人数が決まっていて、かつ病院当たりのフェローの数などに制限を設けて、マッチングの仕組みで採用しています。それらを経ないと専門医を取得できず、基本的に専門医資格がないとその科で働けません。米国で人気の形成外科、皮膚科、眼科、整形外科は、稼ぎも良いのですが、競争が激しくUSMLEの点数も高得点が求められます。より良い大学を卒業する必要があり、全員が全員希望の専門医にはなれません。働き方改革は、単に時間を制限するだけではなく、財源の確保、人員の再分配が必要だと思います。

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現場の断捨離、始めませんか?~働き方改革に先行した日本医科大学の実例

医師の働き方改革がついに始まった。それでも、今もなお議論が絶えないのが、診療行為以外にあたる“研究や自己研鑽時間”の捉え方である。厚生労働省が2024年1月15日に『医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について』を発出したものの、これまで根付いてきた労働環境に対するパラダイムシフトは、そう簡単なものではないはずだ。今回、臨床研究法や大規模臨床試験のDx化などに力を入れている松山 琴音氏(日本医科大学医療管理学 特任教授/学校法人日本医科大学研究統括センター副センター長)に治験効率化の視点から医師の働き方改革のヒントになるポイントを聞いた。土日対応の治験、働き方にメス小児への新型コロナワクチン普及が遅れている日本の状況を危惧し、今後の再流行に備えるべく、小児のワクチン接種の有効性・安全性の証明や国産ワクチン開発の進展に尽力する―。その活動を担う一人である松山 琴音氏は日本医科大学とその付属病院をはじめとするさまざまな臨床研究の基盤整備やDx化に力を注ぐ。その松山氏が所属する日本医科大学は、新型コロナワクチンの大規模接種会場運営の応需や、小児5,000例を対象とした『新型コロナワクチン(国産不活化)とインフルエンザワクチンの同時接種に関する大規模臨床試験』(現在、募集中)を行うなどしている1)。しかし、こういった取り組みは土日の業務対応が必須であり、治験においても治験の責任は大学病院の医師らが担う必要があるため、時間外労働は当たり前となる。「この治験では、パンデミック下に構築された大規模職域接種の仕組みを再利用し、医師、看護師や担当のスタッフは正当な対価の支払いを受けられるようにした」と話した。一方、病院経営には当然ながら収益が求められるが、それには医療者という人材がなくてはならない。「治療を担う医師の確保もさることながら、入院患者の受け入れ人数は看護師の人員配置基準によって決定付けられる。コンプライアンスの達成のみならず病床数確保のための人員確保が病院としての課題」と述べ、コロナパンデミックの発生によって医療者の“働き型”に少しずつ変化が見られたことを契機に、臨床研究の視点から同氏らは医師の働き方の課題解決に乗り出した。治験開始までを効率化させ、医療者の満足度up臨床試験や治験業務にはさまざまな医療者が関わり、当たり前のように時間外勤務も発生する。なかでも治験業務の大半を病院職員の1人である治験コーディネーター(CRC:Clinical Research Coordinator)が担うわけだが、CRCの時間内業務が達成されれば、医師を含むそのほかの職員の業務も効率化を図ることができるため、まずこの目標達成に向け、日本医科大学は治験運用ルールを設定し長時間労働是正のための断捨離を決行した。「一般的な治験業務で最も問題なのは、プロセスばかりが冗長で人材を掛け過ぎていること。無駄な対人業務を断捨離すれば、国内治験のスピードが加速しジャパンバッシングが起こらなくなる」と松山氏は国内の治験の在り方を指摘した。その課題解決策として、同氏はビッグデータの利活用のために、『SmarTrial』(Activade株式会社)と共同開発した費用算定機能を導入したことを明かした。「治験に登録可能な症例データはレセプトデータ、いわゆるビッグデータを活用することでフィージビリティ調査への対応をいち早く完了させ、治験責任医師や院内チームとともに早期からリクルートプランの作成やグローバル標準であるベンチマークコスト導入に向けた対応ができる」。また、治験の症例管理が可能である『SmarTrial』を導入したことで、「自施設では治験者ごとのToDo管理と試験全体のToDo管理を臨床開発モニター(CRA:Clinical Research Associate)と参加施設間で共有・完了確認できるシステムを導入し、費用算定機能と連結させた。治験の進捗状況が一覧化され、請求情報が紐付けられれば、CRA・CRC・医療者、そして医事課のスタッフの知っておくべき情報が統合され、登録症例ごとに治験のどの段階まで進んでいるのかが見えるようになった」と話した。さらにその結果として、「CRCの業務時間が週あたり1時間半も削減できた」というから驚きだ。「このシステムを利用することで候補被験者を事前に共有し、治験の状況の予測を立てられたり患者のvisit予定が把握できたりするため、医師のワークロード軽減にも貢献できた」と述べ、来るべき分散化臨床試験(DCT:Decentralized Clinical Trial)やサイトレス試験を見据えてDx化してきたことが、働き方改革に通じる取り組みであったことを説明した。画像を拡大する業務効率のポイント「丸抱えしない」「業務を見える化」また、“時間内”に業務を収めるポイントとして、「1人で業務を丸抱えしない」「業務プロセスを見える化」することだと述べ、リクルートマネージャーの設置、トヨタのかんばん方式にならった各治験の進捗管理を“見える化”のためのダッシュボードの導入が課題解決に繋がったことを説明した。リクルートマネージャーの設置画像を拡大する治験業務の場合、外部モニターからの進捗状況などの問い合わせや院内調整に多くの時間を割かれ、サテライト医療機関から紹介された患者が治験による受診をすると、窓口がはっきりせずに院内をたらい回しにされるリスクもある。リクルートマネージャーという外部対応に特化、患者の治験同意などを介在する人材を配置したことで、CRCは治験の質向上に向けたquality managerという新たな役割を果たし、ほかの院内スタッフの労力を軽減させることに繋がった。ダッシュボードの活用画像を拡大する治験の複雑さが招く業務過多を見える化画像を拡大する直接的な治験状況の確認、やるべきこと・問題点を早期に可視化、ワークロードを可視化するために、1)IRB・必須文書の電子化、2)Delegation listや教育研修記録の作成、3)フェアバリュー方式への対応、4)契約書における手順書の標準化、5)想定される症例数の調査、6)混み具合や収支に関する情報を収集・見える化した。このような取り組みのために、幾度となく病院経営層との対話を繰り返し、実行に至るまでに数年を要したそうだが、その苦労の甲斐もあり、今では某グローバル企業の治験において、日本医科大学系列全体での症例登録数は世界2位を誇るまでに至っている。同氏らは将来展望として、「病院ごとの仕組みのバラつきを統一し、情報を集約するための管理機能を研究統括センターに組み入れた。この取り組みを日本医科大学のある種のブランディングと捉え、“治験ブランディングチーム”と称して活動していく」と話した。また、「治験施設に足を運ばなくてもリジットなコミュニケーションを円滑に実行していくためにはこのようなリモート環境の整備が重要で、VRの利活用を検証するための実証実験や治験に対する社会の理解を進めるための患者市民参画に向けた活動も始めている」と、コロナ禍で定着し始めたリモート環境の更なる可能性を引き出すために奮闘している。働き方改革の“一歩先行く”国内のドラッグラグ・ロス問題が喫緊の課題となる日本。働き方改革が臨床研究の足かせになり研究を担う人材の確保に苦戦しては本末転倒である。今を生きる、そして次世代のための医療基盤として臨床研究の根を絶やさぬためも、リモート環境整備の加速化の波に乗り、医療全体の質の向上を目指す松山氏らによる取り組みが、患者、臨床研究を担う医師・医療者や製薬企業、ひいては日本国の未来を照らす手立てになるのではないだろうか。(取材・文:ケアネット 土井 舞子)参考1)日本医科大学治験サイト日本医科大学 研究統括センター厚生労働省:「医師の働き方改革」.jp講師紹介

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活性型ビタミンD3がサルコペニアを予防/産業医大

 前糖尿病と糖尿病はサルコペニアの独立した危険因子であることが報告されている1)。今回、前糖尿病患者への活性型ビタミンD3投与がサルコペニアを予防するかどうか調べた結果、筋力を増加させることでサルコペニアの発症を抑制し、転倒のリスクを低減させる可能性があることが、産業医科大学病院の河原 哲也氏らによって明らかにされた。Lancet Healthy Longevity誌オンライン版2024年2月29日号掲載の報告。 これまでの観察研究では、血清25-ヒドロキシビタミンD値とサルコペニア発症率との間に逆相関があることが報告されている2)。しかし、ビタミンDによる治療がサルコペニアを予防するかどうかは不明である。そこで研究グループは、活性型ビタミンD3製剤エルデカルシトールによる治療が前糖尿病患者のサルコペニアの発症を抑制するかどうかを評価するため、「Diabetes Prevention with active Vitamin D study(DPVD試験)※」の付随研究を実施した。※DPVD試験:前糖尿病の成人における2型糖尿病の1次予防として、活性型ビタミンD治療の効果を調査した多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照試験。国内32施設で実施された。 対象は、耐糖能異常(75g経口ブドウ糖負荷試験で空腹時血糖値<126mg/dLおよび負荷後2時間値140~199mg/dL、かつHbA1c<6.5%)を有し、サルコペニアではない30歳以上の男女1,094例であった。エルデカルシトール(0.75μgを1日1回経口投与)群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、ITT集団における3年間のサルコペニア発症率で、その定義は握力が弱い(男性28kg未満、女性18kg未満)、骨格筋指数が低い(生体電気インピーダンス分析で男性7.0kg/m2未満、女性5.7kg/m2未満)こととした。副次評価項目は、3年間の転倒の発生率、握力と体組成の変化であった。 主な結果は以下のとおり。・解析にはエルデカルシトール群548例、プラセボ群546例が組み込まれた。平均年齢60.8歳、女性44.2%、平均BMI値24.5、2型糖尿病の家族歴があったのは59.5%であった。・約3年間の追跡期間中にサルコペニアを発症したのは、エルデカルシトール群4.6%、プラセボ群8.8%であり、エルデカルシトールによる治療は有意なサルコペニア予防効果を示した(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.31~0.83、p=0.0065)。・転倒の発生は、エルデカルシトール群24.6%、プラセボ群32.8%で有意差が認められた(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.0283)。・BMIと腹囲径の変化は両群で有意差は認められなかったものの、エルデカルシトール群ではプラセボ群よりも脂肪量指数が有意に減少し(-0.15% vs.0.31%、p=0.028)、骨格筋指数が有意に増加し(0.45% vs.-1.72%、p<0.0001)、握力も増加した(1.85% vs.0.45%、p=0.0003)。・有害事象の発生率は両群間で有意差は認められなかった。 これらの結果より、研究グループは「活性型ビタミンD3製剤エルデカルシトールの治療によって、骨格筋量および筋力を増加させることにより、前糖尿病患者のサルコペニアの発症を予防し、転倒のリスクを大幅に減少させる可能性を見出した。今後はサルコペニアや前糖尿病の有無にかかわらず高齢者を対象とした臨床試験を実施する予定である」とまとめた。

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転倒リスクが低減する運動は週何分?

 高齢女性7,000人超を対象としたコホート研究によって、150分/週以上の余暇の運動を行っている場合、けがを伴う転倒とけがを伴わない転倒の両方のリスクが有意に低減したことを、オーストラリア・シドニー大学のWing S. Kwok氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年1月31日号掲載の報告。 世界保健機関(WHO)は、心身の健康のために150~300分/週の中強度の運動を行うことを推奨している。しかし、これまでのシステマティックレビューおよびメタ解析では、運動量と転倒または転倒に伴うけがとの関連に一貫性がない。そこで研究グループは、高齢女性における余暇の運動量・種類と、けがを伴わない転倒およびけがを伴う転倒との間に関連性があるかどうかを調べるため、一般集団ベースのコホート研究を行った。 研究グループは、オーストラリア女性の健康に関する縦断研究(ALSWH)のデータをレトロスペクティブに解析した。解析には、1946~51年生まれで、2016年と2019年の追跡調査票に記入した7,139人(平均年齢[SD]:67.7[1.5]歳)が含まれた。2016年の調査では、運動の種類(早歩き、中強度の運動[軽いテニスや水泳など]、高強度の運動[呼吸が荒くなるようなエアロビクス、サイクリング、ランニングなど])と1週間当たりの運動量(0分、1~150分未満、150~300分未満、300分以上)を聴取した。2019年の調査では、過去12ヵ月間の転倒転倒に伴うけがの有無を聴取した。 主な結果は以下のとおり。・7,139人中2,012人(28.2%)が過去12ヵ月間に転倒した。996人がけがを伴わない転倒、1,016人がけがを伴う転倒であった。・運動をしなかった(0分/週)群と比較して、1~150分/週群のけがを伴わない転倒のオッズ比(OR)は0.88(95%信頼区間[CI]:0.71~1.10)で有意な関連は認められなかった。150~300分/週群は0.74(0.59~0.92)、300分以上/週群は0.66(0.54~0.80)で関連が認められた。・けがを伴う転倒のORは、1~150分/週群が0.87(95%CI:0.70~1.09)で同じく関連が認められず、150~300分/週群は0.70(0.56~0.88)、300分以上/週群は0.77(063~0.93)で関連が認められた。・運動の種類別にみると、早歩き(OR:0.83[95%CI:0.70~0.97])、中強度の運動(0.81[0.70~0.93])および中~高強度の運動(0.84[0.70~0.99])を行っている集団では、けがを伴わない転倒のリスクが低減した。高強度の運動はリスク低減傾向にあったが有意ではなかった(0.87[0.74~1.01])。・すべての運動の種類とけがを伴う転倒との間には統計学的に有意な関連は認められなかった。

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第183回 新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省2.アルコールは少量でも要注意、飲酒ガイドラインを公表/厚労省3.SNSが暴いた入試ミス、PC操作ミスによる不合格判定が発覚/愛知医大4.専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センターを現地調査へ/専門医機構5.医師らの未払い時間外手当、小牧市が8億円支給へ/愛知県6.診療報酬改定で人気往診アプリ『みてねコールドクター』が終了へ/コールドクター1.新型コロナ公費支援は3月末で終了、通常の医療体制へ/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する医療費の公費支援を2024年3月末で終了し、4月から通常の医療体制に完全移行する方針を発表した。これまで、COVID-19の治療薬や入院医療費に関しては、患者や医療機関への一部公費支援が継続されていたが、4月からは他の病気と同様に保険診療の負担割合に応じた自己負担が求められるようになる。COVID-19への公費支援は、治療薬の全額公費負担が2021年10月より始まり、昨年10月には縮小された。また、患者は年齢や収入に応じ、3,000~9,000円の自己負担をしていた。4月からは、たとえば重症化予防薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)を使用する場合、1日2回5日分の処方で約9万円のうち、3割負担であれば約28,000円を自己負担することになる。また、月最大1万円の入院医療費の公費支援や、コロナ患者用病床を確保した医療機関への病床確保料の支払いも終了する。COVID-19の感染状況は改善傾向にあり、定点医療機関当たりの感染者数が12週ぶりに減少している。これらの背景から、政府は公費支援の全面撤廃と通常の診療体制への移行が可能と判断した。さらに、次の感染症危機に備え、公的医療機関などに入院受け入れなどを義務付ける改正感染症法が4月から施行される。参考1)新型コロナの公費負担、4月から全面撤廃へ…治療薬に自己負担・入院支援も打ち切り(読売新聞)2)新型コロナ公費支援 3月末で終了 4月からは通常の医療体制へ(NHK)3)新型コロナ公費支援、3月末で完全廃止 厚生労働省(日経新聞)2.アルコールは少量でも要注意、飲酒ガイドラインを公表/厚労省厚生労働省は、飲酒による健康リスクを明らかにするため、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表した。初めて作成されたこの指針では、純アルコール量に着目し、疾患別に発症リスクを例示している。大腸がんのリスクは1日20g以上の純アルコール摂取で高まり、高血圧に関しては少量の飲酒でもリスクが上昇すると指摘されている。純アルコール量20gは、ビール中瓶1本、日本酒1合、またはウイスキーのダブル1杯に相当。ガイドラインによると、脳梗塞の発症リスクは、男性で1日40g、女性で11gの純アルコール摂取量で高まる。女性は14gで乳がん、男性は20gで前立腺がんのリスクが増加する。さらに、男性は少量の飲酒でも胃がんや食道がんを発症しやすいと報告されている。とくに女性や高齢者は、体内の水分量が少なくアルコールの影響を受けやすいため、注意が必要。また、女性は少量や短期間の飲酒でもアルコール性肝硬変になるリスクがあり、高齢者では認知症や転倒のリスクが一定量を超えると高まる。ガイドラインでは、不安や不眠を解消するための飲酒を避け、他人への飲酒を強要しないこと、飲酒前や飲酒中の食事の摂取、水分補給、週に数日の断酒日の設定など、健康への配慮としての留意点も挙げている。厚労省の担当者は、「体への影響は個人差があり、ガイドラインを参考に、自分に合った飲酒量を決めることが重要だ」と強調している。参考1)健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(厚労省)2)ビールロング缶1日1本で大腸がんの危険、女性は男性より少量・短期間でアルコール性肝硬変も(読売新聞)3)飲酒少量でも高血圧リスク 健康に配慮、留意点も 厚労省が初の指針(東京新聞)3.SNSが暴いた入試ミス、PC操作ミスによる不合格判定が発覚/愛知医大愛知医科大学(愛知県長久手市)は、大学入学共通テストを使用した医学部入学試験の過程で、PC操作ミスにより本来2次試験の受験資格を有していた80人の受験生を誤って不合格としていたことを発表した。この問題は、SNS上で受験生間の投稿を通じて疑問が提起され、その後の大学による確認作業で明らかになった。受験生は、自己採点結果から「自分より点数が低い友人が合格している」といった内容をSNSに投稿していた。操作ミスは、大学入試センターから提供された成績データを学内システムに転記する際に発生したもので、一部受験生の点数が実際よりも低く記録されてしまったことが原因。発覚後、同大学は該当する80人の受験生に対し、予定されていた2次試験への参加資格があることを通知し、さらに受験できない者のために別の日程も設定した。この事態を重くみた大学は、「受験生に混乱を招いたことを深くお詫びする」との声明を発表し、今後のチェック体制の見直しを約束し、2度と同様のミスが発生しないようにするとしている。参考1)令和6年度医学部大学入学共通テスト利用選抜(前期)における 第2次試験受験資格者の判定ミスについて(愛知医大)2)愛知医科大学 医学部入試で80人を誤って不合格に PC操作ミスで(NHK)3)愛知医科大、PC操作ミスで80人誤って不合格…SNSで結果疑う投稿相次ぎ大学が確認し判明(読売新聞)4)「自己採点で自分より低い友人が合格」愛知医科大、判定ミスで80人不合格に(中日新聞)4.専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センターを現地調査へ/専門医機構日本専門医機構は、2024年2月19日の定例記者会見で、2024年度に研修を開始する専攻医の採用予定数が9,496人と発表し、過去最多であることを明らかにした。2023年度の9,325人から増加し、とくに整形外科で93人、救急科で66人の増加がみられる一方、皮膚科では51人、外科では25人の減少が確認された。同機構理事長の渡辺 毅氏は、外科専攻医の減少は問題であると指摘している。専攻医数の増加は、東北医科薬科大学や国際医療福祉大学の医学部新設とその卒業生の専攻医登録が影響しているとされ、とくに医師不足が指摘されている外科は微減傾向にあるものの、救急科では増加が予想されている。また、専攻医の過労自死問題を受け、甲南医療センター(神戸市)でのサイトビジット(現地調査)を実施する予定であり、専攻医の心身の健康維持や時間外勤務の上限明示などの環境整備が適切に行われているかを目的に調査が行われる。渡辺氏は、「得られた知見を将来の専攻医研修プログラムや専門医制度の整備指針の改善に生かしたい」と述べている。専攻医遺族が甲南医療センター側を提訴しているため、訴訟に影響が出ないような日程での実施を目指している。参考1)2024年度専攻医、整形外科や救急科で増加(日経メディカル)2)来年度の専攻医、昨年度比150人増の9,500人(Medical Tribune)5.医師らの未払い時間外手当、小牧市が8億円支給へ/愛知県小牧市民病院(愛知県)が、医師や薬剤師を含む約277人の職員に対して、夜勤や土日祝日の当直業務で適切に支払われていなかった時間外勤務手当の差額約8億円を支給することを発表した。これは、病院の医師の働き方改革を機に勤務や手当の見直しが行われた際に、複数の医師からの指摘を受けて発覚、本来、労働実態に応じて支給されるべき時間外手当が、一律の定額で支給されていたことが問題となったもの。病院側は、2023年4月からこの問題を調査し、約4年分の差額を医師、薬剤師、放射線技師などの職員に支払うことを決定した。また、3月以降は時間外勤務手当を適切に支給する制度に改めることも発表した。これまでの誤った運用は「慣例に従っていた」との理由から起こったとしている。さらに、病院は夜間や休日の手当の見直しも発表し、2020年4月~2024年2月までの間に当直業務に従事した職員に対して、法律で定められた賃金よりも過小だった手当の差額を支給する。病院側はこれまで、労働基準法に基づいた時間外勤務手当の支給が必要な場合、特例措置として「宿日直許可」を労働基準監督署に申請する必要があることを知らなかったと述べている。この措置により、病院は正規の時間外勤務手当とこれまで支給してきた手当との差額を職員に支給し、法律に準拠した形での勤務条件の改善を目指す。差額の支払いについては、市議会定例会に補正予算案を提出し、支払いは5月下旬に行われる予定。参考1)時間外手当、差額8億円支払いへ 医師ら277人に 愛知の市民病院(朝日新聞)2)小牧市民病院、夜間・休日手当見直しへ 20年以降の差額も支給(中日新聞)6.診療報酬改定で人気往診アプリ『みてねコールドクター』が終了へ/コールドクター夜間や休日に医師の往診をWebやアプリから依頼できるサービス「みてねコールドクター」が、診療報酬の改定により条件が厳格化されるため、3月31日をもって終了することが発表された。このサービスは、子供の医療助成制度適用で都内では自己負担0円(交通費別)で利用が可能で、約400人の医師が登録・在籍し、夜間・休日の急病時に最短30分で自宅に医師を派遣し、その場で薬を渡すことができた。2022年にはミクシィとの資本業務提携を経て、サービス名に「みてね」のブランドを冠し、とくに子育て世代から高い評価を得ていた。今回の診療報酬改定では、医療従事者の賃上げなどに充てるための基本報酬の引き上げが注目されていたが、往診サービスについては「普段から訪問診療を受けていない患者」への緊急往診や夜間往診の診療報酬が低下し、この変化に伴い「みてねコールドクター」はサービスの終了を決定した。同社は、今後の市場の変化を見据えての決定であると説明しており、オンライン診療や医療相談サービスは継続する。診療報酬の改定では、救急搬送の不必要な減少や医療現場の負担軽減を期待していたが、実際には小児科領域の往診が主であり、コロナ禍での特殊な状況下では多くの人にとって救いとなった。しかし、保険診療の方向性としては、緊急時のみに駆けつける医師ではなく、日常を支えるかかりつけ医の強化が求められている。参考1)往診のサービス提供終了のお知らせ(コールドクター)2)往診アプリ「みてねコールドクター」往診終了 診療報酬改定で(ITmedia NEWS)3)「みてねコールドクター」の往診サービスが終了に(Impress)4)人気の“往診サービス”が突然の終了、理由は「診療報酬改定」なぜ?(Withnews)

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入院リスクが高い主訴は?

 救急外来(emergency department:ED)で疲労感などの非特異的な訴え(non-specific complaints:NSC)をする高齢患者は、入院リスクならびに30日死亡率が高いことが明らかになった。この結果はスウェーデン・ルンド大学のKarin Erwander氏らがNSCで救急外来を訪れた高齢者の入院と死亡率を、呼吸困難、胸痛、腹痛など特定の訴えをした患者と比較した研究より示唆された。加えて、NSC患者はEDの滞在時間(length of stay:LOS)が長く、入院率が高く、そして入院1回あたりの在院日数が最も長かった。BMC Geriatrics誌2024年1月3日号掲載の報告。 本研究は2016年にRegion HallandのEDを1回以上受診した65歳以上の患者1万5,528例のうち、NSCおよび特定の主訴(呼吸困難、胸痛、腹痛)を抱えて救急外来を訪れた4,927例を対象とした後ろ向き観察研究。NSCとして疲労、意識障害、全身の脱力感、転倒の危険性を定義付けた。主要評価項目は入院と30日死亡率であった。 主な結果は以下のとおり。・4,927例の主訴の内訳は胸痛1,599例(32%)、呼吸困難1,343例(27%)、腹痛1,460例(30%)、NSC525例(11%)であった。なお、本施設全体におけるEDを受診する主訴TOP10は外傷、胸痛、腹痛、呼吸困難、骨格筋系の痛み、感染症、神経内科領域、不整脈、めまい、NSCの順であった。・NCS患者の平均年齢は80歳であった。・入院率は呼吸困難(79%)、NSC(70%)、胸痛(63%)、腹痛(61%)の順に高かった。・NSC患者の平均LOSは4.7時間で、これは胸痛、呼吸困難、腹痛を訴えた患者と比較して有意に高かった(p<0.001)。また、72時間以内に再入院する割合も高かった。・全集団の平均病床日数が4.2日であったのに対し、NSC患者では5.6日であった。・NSCおよび呼吸困難を訴えた患者は30日死亡率が最も高かった。 本研究では、NSCを有する高齢患者を評価することの難しさなどを示し、EDのスタッフが患者一人ひとりに対し最適なケアを行うためには、さらなる研究が必要としている。

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医療者へのワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第6回

はじめここでは特定のワクチンではなく、医療機関で働く医療者に対して接種が推奨されるワクチンを一括して扱う。本稿の対象は、医療機関で働き患者と対面での接触がある職員(医師、看護師、各種技師、受付事務員など)に加え、医療現場で実習を行う医療系学生(医学生、看護学生など)である。以降は、まとめて「医療職員」と記載する。医療職員は、常にさまざまな病原体にさらされている。伝染性疾患の患者は、そうと知らずに治療を求めて病院を訪れるし、易感染性状態にある免疫弱者も同じ空間に密集しうる。これら両者に対応する医療職員も、また、常に病原微生物に曝露されている。したがって、医療職員が感染すると、自身が感染症患者になるだけでなく、無関係な来院者や入院患者へ2次感染を起こす原因にもなりうる。これを回避するためにワクチンがある(ワクチンで予防できる)感染症(VPD)については最大限に対策する必要がある。以上の観点から、対象となるのは以下のVPDとなる。1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD2.接触感染または針刺しが原因となるVPD3.一部の医療従事者で必要となるVPD4.曝露後対応を要するVPDワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)1.空気感染もしくは飛沫感染するVPD1)麻疹、風疹、ムンプス、水痘(1)いずれも代表的なVPDで、飛沫やエアロゾルによる強烈な感染力がある。ムンプス以外は定期接種に指定されているが、海外からの持ち込みなどもあり根絶には程遠い状況にある。(2)近年は医学部などの卒前教育課程でワクチン接種が推奨される医療系学生も増えてきたが、記録の確認は確実に行っておく必要がある。医療資格を持たない事務系職員も忘れずに対応する必要がある。2)季節性インフルエンザ(1)インフルエンザウイルスによる流行性感冒。A型とB型があり、それぞれ流行の度に表面抗原も微妙に異なる。(2)わが国では晩秋から春にかけて流行することが多いが、沖縄を含む熱帯地方では年間を通じて循環している。海外との往来や温暖化により、流行時期は増えている。(3)感染既往やワクチン接種による免疫は発症を予防するほど十分でないため、ワクチンを接種しても罹患するなど個人レベルでは恩恵を実感しにくいが、集団としてはワクチン接種率が高いほど疾病負荷が減るため有益性がある。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)2019年末から世界的パンデミックを起こしたコロナウイルス。2023年現在はオミクロン株派生型が主流で、軽症にとどまることが多いもののエアロゾル感染を起こすため強い感染力がある。4)百日咳(1)飛沫により感染する細菌感染症。成人が感染すると乾性咳が長く続き、新生児が感染すると致死的な経過を取ることがある。以上から、新生児と接触がある成人に免疫付与するコクーニング(cocooning)による新生児感染予防が推奨されている。2.接触感染または針刺しが原因となるVPD1)B型肝炎(1)ヒトのあらゆる体液(汗を除く)から感染するウイルス性疾患で、15年以上の経過で肝硬変や続発する肝がんの原因となる。(2)世界保健機関(WHO)が1992年からuniversal vaccinationキャンペーンを展開して感染抑制が進んだ地域も多い中、わが国は定期接種化が2016年と世界的には後発であり、高齢者の陽性キャリアはいまだ多い。3.一部の医療者のみ考慮の対象となるVPD1)破傷風(1)土中の芽胞菌である破傷風菌が損傷皮膚に感染して起こす疾患で、発症後の死亡率は30%と高い。肉眼で確認できない微細な損傷でも感染が成立する。(2)屋外で転倒する可能性を考えれば全住民に免疫付与が望まれるが、医療機関での業務として考えた場合、土壌に触れる業務がある職員(清掃職員、園芸療法に関わる者など)で接種完遂が求められる。2)髄膜炎菌(1)飛沫感染によって細菌性髄膜炎を起こす。集団生活や人の密集状態で、時に集団発生することが知られている。(2)救急外来や病理検査室のように、曝露を受ける可能性が高い部署では職員に対して接種を勧める。4.曝露後対応を要するVPD(曝露後緊急接種に用いる)1)MR、水痘(1)麻疹と水痘への曝露があった場合、すみやかに追加接種(72時間以内だが早いほど良い)することで、免疫がなくても高い発症阻止効果が期待できる。(2)風疹とムンプスでは曝露後接種の有効性は示されていないが、曝露の時点でワクチン接種歴が明らかでなければ将来利益も考慮して接種を推奨する。2)HBV(B型肝炎ウイルス)(1)接種未完了者がHBV陽性体液に曝露された場合、免疫グロブリンに加えてHBVワクチン1シリーズ(3回)接種を開始することで感染を予防できる可能性がある。3)破傷風(1)屋外での外傷により発症リスクが懸念される場合、追加接種を行う。医療職員が未接種である可能性は低いが、その場合は免疫グロブリン投与も必要となる。ワクチンの概要(効果、副反応、生または不活化、定期または任意・接種方法)1)MR、ムンプス、水痘(1)上記いずれも生ワクチンであり、MRと水痘は現在国の定期接種となっているが、1回接種だった時代もあり、接種回数が不足している可能性がある。2)季節性インフルエンザ(1)4価の不活化ワクチン(A型2価+B型2価)が最も一般的。成人はシーズン前に1回接種。(2)上記の通り、個々人の発症や重症化を予防する効果は高くないが、集団発生の確率を減らすことで疾病負荷を軽減するために接種が推奨される。3)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)パンデミック対策として各種ワクチンが緊急開発・供給された中、初めて実臨床使用されたmRNAワクチンが、現時点までもっとも安全かつ有効なワクチンである。(2)2023年現在、野生株とオミクロン株の2価ワクチンが流通している。(3)伝統的なワクチンに比べて発熱や疼痛などが強い傾向はあるものの、重篤な副反応はとくに多いとはいえず、安全性は他のワクチンと大差はない。4)百日咳、破傷風(1)3種または4種混合として定期接種化されている不活化ワクチン。(2)免疫能を維持するために10年ごとの追加接種が望ましいとされているが、追加分は定期接種に設定されていないため、可能なら医療機関で職員の接種時期を把握しておき、接種を知らせたい。接種のスケジュールや接種時の工夫いずれのワクチンについても、接種歴を確実に記録し、必要な追加接種が遅れずに実施できるように努める。1)MR、ムンプス、水痘(1)「生後1年以降に2回の接種」が完遂の条件。間隔が長くても問題ない。(2)上記を満たさない・記録が確認できない場合は、不足分を接種する。(3)2回接種が必要な場合、1ヵ月以上時間を空ける。(4)混合ワクチンにより3回以上の接種となる成分があっても問題ない。(5)接種前後での抗体検査は必要ない。2)百日咳、破傷風(1)小児期の基礎免疫が完遂している場合、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(商品名:トリビック)を1回接種する。(2)小児期の基礎免疫が不明なら、基礎免疫として0、1、2ヵ月で3回接種する。(3)破傷風の単独ワクチンを接種していても、百日咳の免疫付与が必要ならトリビックを接種して良い。3)季節性インフルエンザ(1)一般的な4価の不活化ワクチンは、流行前に1回接種する。(2)添付文書上は皮下注とされているが、効果や副作用の観点からは筋注が望ましいため、実臨床では「深い皮下注」を心がけると良い。4)SARS-CoV-2(COVID-19)(1)院内感染対策の一環として、医療職員は都度すみやかに接種を行うことが望ましい。日常診療で役立つ接種ポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫など)業務上の必要性から職員へ接種を勧める観点から、以下の点に留意したい。職種により事前の説明を調整する接種費用は医療機関が負担する接種記録は人事記録として保管する妊娠や治療などが接種不可の理由になることから、ワクチン接種情報はプライバシー保護の対象として対応する。たとえば、「集団一斉接種をしない」、「接種対象者名簿を公開しない」など。年次健康診断や新人オリエンテーションと一緒に接種するなど、業務への影響を最小限に抑える工夫をする曝露後接種の取り扱いは、あらかじめ院内感染予防マニュアルに手順を明記しておく。そうすることで、発生報告からワクチン接種まで迅速に処理され接種時期を逃さない。参考となるサイト環境感染学会医療者のためのワクチンガイドライン 第2版/第3版こどもとおとなのワクチンサイト講師紹介

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過去1年に転倒、骨折リスクがより高いのは男性?女性?

 転倒するとその後の骨折リスクが上昇することはよく知られている。今回、オーストラリア・Australian Catholic UniversityのLiesbeth Vandenput氏らが、日本のコホートを含む46の前向きコホートにおけるデータの国際的なメタ解析で、転倒歴とその後の骨折リスクとの関連、性別、年齢、追跡期間、骨密度との関連について評価した。その結果、男女とも骨密度にかかわらず、過去1年間の転倒歴が骨折リスクを上昇させ、また女性より男性のほうがリスクが高まることが示唆された。Osteoporosis International誌オンライン版2024年1月17日号に掲載。 本研究は、46の前向きコホートから得られた90万6,359人の男女(女性が66.9%)を対象とした。転倒歴は、43コホートでは過去1年間の転倒と定義され、残りの3コホートでは質問構成が異なっていた。転倒歴と骨折(すべての臨床的骨折、骨粗鬆症性骨折、主要骨粗鬆症性骨折、大腿骨近位部骨折)リスクとの関連は、各コホートで性別ごとにポアソン回帰モデルの拡張を用いて検討し、次いで重み付けベータ係数のランダム効果メタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・過去1年間の転倒は21.4%で報告された。910万2,207人年の追跡期間中に8万7,352件の臨床的骨折が発生し、うち1万9,509件は大腿骨近位部骨折であった。・転倒歴は、女性(ハザード比[HR]:1.42、95%信頼区間[CI]:1.33~1.51)と男性(HR:1.53、95%CI:1.41~1.67)のいずれにおいても、すべての臨床的骨折のリスク増加と有意に関連していた。骨粗鬆症性骨折、主要骨粗鬆症性骨折、大腿骨近位部骨折についてもHRは同程度であった。・転倒歴と骨折リスクとの関連は男女で有意に異なり、男性のほうが女性より予測値が高かった。たとえば、骨粗鬆症性骨折のHRは、男性が1.53(95%CI:1.27~1.84)、女性が1.32(95%CI:1.20~1.45)だった(交互作用のp=0.013)。・骨折リスクにおける転倒と骨密度との交互作用は認められなかった。・男女とも転倒歴が増えるごとに主要骨粗鬆症性骨折のリスクが増加した。

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知らなかった、代理寄付!【Dr. 中島の 新・徒然草】(511)

五百十一の段 知らなかった、代理寄付!2024年は1月1日に令和6年能登半島地震、1月2日に羽田空港での衝突事故と立て続けに大変なことが起こりました。亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。さて、能登半島地震に対しては大阪医療センターからもDMATと災害医療班が出発しました。災害医療班については、あらかじめ日によって決められた当番医師のリストがあります。そのリストに従って、出発日の当番医師が看護師・薬剤師・事務職とともに派遣されるわけです。私も当番リストに名前がありましたが、今回は出発日から4日ずれていたので派遣されませんでした。別の形で被災地にできることはないかと考え「こんな時こそ被災地にふるさと納税だ!」と思い付きました。で、いつも愛用しているサイトから、ふるさと納税をしようと被災自治体を調べてみたら、受け付けが一時中止になっています。被害が甚大過ぎて返礼品どころではない、ということなのでしょう。しかし、返礼品なしであれば寄付することができるようなので、早速、震源地に近い数ヵ所の自治体にふるさと納税を行いました。ついでにいろいろ調べてみると、代理寄付という制度があるようです。その制度を詳しく述べたページを読んでみると、そこには衝撃の記載が……「被災自治体って本当に大変なんです。それはもう、寄付金を受け取ることもできないほどに」以下、代理寄付の制度についての説明が続いていました。ふるさと納税の寄付金を自治体が受け取ると、納税証明書を発行して支援者に郵送するわけですが、被災直後にはこの事務作業自体が被災自治体の負担になってしまうとのこと。しかもこの納税証明書の発行は自治体にしかできない業務なので業者に委託できません。そこで立ち上がったのが「代理寄付自治体」の制度で、代理寄付自治体が代わりに納税証明書発行の業務を行い、寄付金を被災自治体に届けるという自治体同士の助け合いシステムなのだそうです。まったく知りませんでした。良かれと思った寄付金が、かえって被災自治体の職員の負担になるのでは本末転倒。そこで、私も代理寄付の制度を利用することにしました。ふるさと納税サイトの中でも、この制度を使えるところと使えないところがあるので、まずは代理寄付を扱っているサイトを選ぶ必要があります。その上で、金額を記入してボタンを押す、ただそれだけ。手続き自体は何ら難しいことはありません。ただし、被災地の自治体1つに対し、日本全国にある数ヵ所の自治体が代理寄付を受け付けているので、どこにするかを迷います。結局、私は自宅近くの馴染みのある名前の自治体に送りました。後で知ったのですが、この制度は2016年4月16日に発生した熊本地震に対して茨城県境町が代理寄付を申し出たのが最初だということです。当時の橋本 正裕町長の発案で、熊本に対するふるさと納税の受け付けと納税証明書の発行を代理で行い、わずか15日間で1億円以上の寄付金を集め、被災地に届けることができたとのこと。その後、多くの自治体が賛同し、今ではすっかり定着しています。いつも私は返礼品目当てのふるさと納税ばかりですが、こういった形の寄付もいいですね。被災地の一刻も早い復興をお祈りいたします。最後に1句新春に 頭をひねって 寄付をする

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レカネマブ薬価決定、アルツハイマー病治療薬として12月20日に発売/エーザイ

 エーザイとバイオジェンは12月13日付のプレスリリースにて、アルツハイマー病の新たな治療薬であるヒト化抗ヒト可溶性アミロイドβ凝集体モノクローナル抗体のレカネマブ(商品名:レケンビ点滴静注200mg、同500mg)について、薬価基準収載予定日である12月20日より、日本で発売することを発表した。米国に次いで2ヵ国目となる。薬価は200mgが4万5,777円/バイアル、500mgが11万4,443円/バイアル。用法・用量は、10mg/kgを2週間に1回、約1時間かけて点滴静注で、患者が体重50kgの場合、年間約298万円になる。保険適用となり、さらに、治療費が高額になった場合は高額療養費制度も利用できる。 本薬は、2023年9月25日に「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」の効能・効果で製造販売承認を取得し、12月13日の中央社会保険医療協議会総会において、薬価基準収載および最適使用推進ガイドラインが了承された1)。エーザイが本剤の製造販売元として販売を行い、エーザイとバイオジェン・ジャパンが共同販促を行う。 本薬の承認は、エーザイが実施した大規模グローバル臨床第III相試験であるClarity AD試験のデータに基づく。主要評価項目の全般臨床症状の評価指標であるCDR-SBにおいて、18ヵ月時点の臨床症状の悪化をプラセボと比較して27%抑制した。副次評価項目として、患者が自立して生活する能力を介護者が評価する指標のADCS MCI-ADLにおいて、プラセボと比較して37%の統計学的に有意なベネフィットが認められた。なお、投与群で最も多かった有害事象(10%以上)は、Infusion reaction、ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、脳出血、脳表ヘモジデリン沈着)、ARIA-E(浮腫/浸出)、頭痛および転倒であった。本結果は、NEJM誌2023年1月5日号に掲載2)。 本薬の承認条件に従い、一定数の症例データが集積されるまでの間は、投与されたすべての患者を対象に特定使用成績調査(全例調査)が実施される。また両社は、医療関係者に対するアミロイド関連画像異常(ARIA)の管理とモニタリングの推進に向けた研修資材の提供をはじめ、添付文書や最適使用推進ガイドラインに則した適正使用を推進する。 本薬の概要は以下のとおり。製品名:レケンビ点滴静注200mg、レケンビ点滴静注500mg一般名:レカネマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制用法及び用量:通常、レカネマブ(遺伝子組換え)として10mg/kgを、2週間に1回、約1時間かけて点滴静注する。薬価(12月20日収載予定):200mg 4万5,777円/バイアル、500mg 11万4,443円/バイアル

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