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認知症における抗精神病薬処方を合理化するための介入

 認知症介護施設の入居者に対する不適切な抗精神病薬投与は問題となっている。この問題に対処するため、施設スタッフの教育やトレーニング、アカデミック・ディテーリング、新たな入居者評価ツールで構成された「認知症に対する抗精神病薬処方の合理化(RAPID:Rationalising Antipsychotic Prescribing in Dementia)」による複合介入が開発された。アイルランド・ユニバーシティ・カレッジ・コークのKieran A. Walsh氏らは、認知症介護施設の環境下におけるRAPID複合介入の利用可能性および受容性を評価するため、本研究を実施した。また、向精神薬の処方、転倒、行動症状に関連する傾向についても併せて評価した。その結果、RAPID複合介入は広く利用可能であり、関係者の受容性も良好である可能性が示唆された。著者らは、今後の大規模研究で評価する前に、実装改善のためのプロトコール変更やさらなる調査が必要であるとしている。Exploratory Research in Clinical and Social Pharmacy誌2022年10月10日号の報告。 2017年7月~2018年1月にアイルランドの大規模介護施設において、混合法による利用可能性介入研究を実施した。介護施設のスタッフおよび一般開業医によるフォーカスグループと半構造化インタビューを3ヵ月のフォローアップ期間終了後に実施し、参加者を評価した。定量測定には、介入前後の評価および向精神薬の処方率を含めた。 主な結果は以下のとおり。・2日間のトレーニング研修に介護施設スタッフ16人が参加し(参加率:21%)、一般開業医4人がアカデミック・ディテーリングセッションに参加した(参加率:100%)。・フォーカスグループとインタビューに参加した18人は、教育およびトレーニングが自身の業務に有益であると認識し、本調査完了後も新規スタッフの教育を継続したいと回答した。・しかし、施設入居者評価ツールの使用は限定的であった。・参加者からは、介入を強化するための推奨事項も挙げられた。・定期的な抗精神病薬の処方が行われていた認知症入居者の割合は、介入前3ヵ月間45%(18例)、ベースライン時44%(19例)であったが、介入3ヵ月後では36%(14例)とわずかな減少が認められた。・認知症入居者に投与される1ヵ月当たりの向精神薬頓服処方の絶対数は、ベースライン時の90から介入3ヵ月後の69へと大幅に減少した。

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第134回 介護人材不足のツケは医療者に!?知っておきたい業界のリアル

 最近、医療・介護の人材不足に関連してさまざまなデータに触れる機会があった。その中であまりの介護人材不足に改めて愕然とした。2022年7月末現在の最新データによると、介護保険に伴う要介護(要支援)認定者数は697万1,000人。実に65歳以上の約19.0%、つまり高齢者の5人に1人は何らかの介護や介護予防が必要な状況である。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では65歳以上の高齢者は2042年のピーク時3,935万人まで増加の一途をたどる見込みで、当然ながら要介護(要支援)認定者数も当面は増加し続けることになる。そして実際の介護保険サービス利用者の現状と将来については、厚生労働省(以下、厚労省)が今年3月に社会保障審議会介護保険部会に提出した資料によると、2020年度の介護保険サービス利用者の実績値は509万人。将来の利用者は2025年度に577万人、2040年度に672万人と推計されている。この介護保険サービス利用者の将来予測に対して介護職員の必要数推計は、第8期介護保険事業計画策定時の試算で2025年度に約243万人、2040年度に約280万人。2019年度時点の介護職員実数が211万人なので、2025年時点で約32万人の不足となる。2025年度とはわずか3年後のことだ。もちろん厚労省の推計は、ある程度腰だめ的な側面もあるだろう。しかし、もはや“尻に火がつく”などというレベルを超えている。だが、厚労省が調査した最新版の「令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況」を見ると、より深刻なことがわかる。介護老人福祉施設(いわゆる特養)の介護職員数を見ると、2019年度比で3,600人強増加はしている。ただし、2020年度の介護老人福祉施設数は8,306施設なので、概算すると1施設当たり平均で0.4人増。しかし、2019年度から72施設増なので、この点を加味すると、2019年度からある既存の介護老人福祉施設の平均では実質の人員増加はほぼゼロといっても過言ではない。さらに訪問介護で働く介護職員初任者研修修了者(旧ホームヘルパー2級)は、2020年度が21万7,049人だが、前年度の2019年度は23万3,322人で、1万6,000人以上も減少している。初任者研修は介護領域での入門資格で、この上位には介護福祉士実務者研修があるが、2020年度の訪問介護に従事する実務者研修修了者は2万8,100人と前年度比で約2,100人の増加に留まる。通所介護で働く介護職員はこの両年度間で微増に過ぎず、この初任者研修修了者の大幅な減少は単純な離職と考えるほか説明がつかない。これほど深刻な介護職の人手不足に対して厚労省が行っている主な取り組みを調べて列挙すると以下のようになる。介護に関する入門的研修実施人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度介護現場における多様な働き方導入モデル事業介護の仕事の魅力発信などによる普及啓発ちなみに一番上の入門的研修とは2018年にスタートした制度で、前述の初任者研修の一段階前のもので、この研修を修了すると初任者研修の一部が免除されるというものだ。だが、全体的に見てやや厳しい言い方となるが、どれも掛け声中心で介護人材確保の実効性には疑問符が付く。そもそも、介護が魅力的な仕事でなければ新たな人材確保は難しい。一応、厚労省の施策の最後にもそうしたものを意識した取り組みはあるが、前述の初任者研修修了者のかなりの減少を見れば、現実にはそうはなっていないのだろう。そんなこんなを聞こうとして、大学受験浪人時代からの友人にLINEで連絡を取ってみた。彼は介護福祉士の資格を有し、ほぼ一貫して介護業界で働いている。ちょうど今年の夏に有料老人ホームに転職したという話を聞いていたばかりだ。ところが彼からの一言目に「え?」となった。「ミスマッチで辞めたよ」と返ってきたからだ。勤務期間は3ヵ月に満たない。そんな彼の訴えを箇条書きにすると以下のようになる。「社則とか復唱するし、館内はゴキブリやねずみが頻発するし」「勿論、夜勤ありだよ。賞与は2ヵ月の話だったが、実際は1ヵ月ももらっていないと、現場の介護職員は言ってたよ」「夜勤の時は看護師はいない。ナースへのオンコールもなし。急変の時は地域の提携しているクリニックに上申はするけど」「夜勤は16時半〜9時半まで。朝食介助もして、居室にまた戻してと非人間的労働だわ」「3フロアなのに、2人夜勤だし。監視カメラあるし。でも、ずり落ちや転倒の事故は頻発だし」「自立の利用者で訴えが無視されていた人もいたよ」「(利用者の)朝食は7時半、夕食は5時15分には開始でおやつはなし」いやはや聞けば聞くほど暗澹とする内容ばかりだった。まあ、民営の有料老人ホームであるため、介護の質よりも経営効率が優先される悪質事例の典型だったのかもしれないが、それにしても酷すぎると感じるのは私の錯覚なのだろうか? 特養などで勤務する人などと話をしていてもやはり労働環境、介護の質に関する愚痴を聞かされることは少なくない。介護保険創設から20年が経過した今、厚労省も「科学的介護」という名称で介護の質的向上の取り組みはしている。だが、それだけに留まらず労働環境も含めた質担保に早急に取り組むべきではないだろうか? 医療に関しては驚くほど箸の上げ下げのようなところまで口を突っ込む割に、介護に対してはその点は緩いと傍目には映る。一応、前述の厚労省の取り組みを見ると、それっぽいものはあるものの、なんとも頼りない感じのものばかり。これでより多くの人材を確保しようなど土台無理な話である。そして介護保険創設は、それまで存在していた医療への過度な依存を軽減するのが大きな目的であったはず。だが、このままの質の担保が不十分な介護の付けを払わされるのは利用者と家族であり、また医療側である。

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高齢者におけるポリピル(スタチン、ACE阻害薬、アスピリン)の使用が通常処方よりも心筋梗塞後の患者の予後を改善する(解説:石川讓治氏)

 高齢者においては、年齢と共にポリファーマシーが増加し、薬物有害事象や転倒のリスクが増加するだけではなく、認知機能や生活の質の低下、独居などが誘因となり、服薬アドヒアランスが低下することも問題になっている。服薬アドヒアランスの低下した患者においては、処方の単純化、合剤による服薬数の減少などが有効であるとされており、家族や訪問介護者などを介し服薬アドヒアランスを改善させることが可能になるとされている。 本研究は、心筋梗塞後(平均8日後)の65歳以上の高齢者に対して、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンといった心筋梗塞後の患者に対する推奨度の高い内服薬を、ガイドラインに沿って主治医がテーラーメードで別々に処方するよりも、ポリピル(合剤)として投与するほうがプライマリーエンドポイントを減少させたことを報告した。ポリピル群と通常投与群の間では、スタチン、心保護薬、抗血小板薬、他の薬剤の投与率や、血圧やLDLコレステロールのコントロールレベルにはまったく有意差がなかったにもかかわらず、ポリピル群のほうが服薬アドヒアランスや患者満足度が有意に高く、そのことが予後の改善につながったのではないかと推測されている。 日常臨床においては、合剤の使用時には投与量の調整が厄介になる。わが国で現在、使用可能なスタチンとカルシウムチャネル阻害薬の合剤は、番号でそれぞれの投与量の組み合わせを変更できるようになっているが、慣れるまでは投与時に番号と投与量の差を確認する必要があって、処方する側としては少しわずらわしさを感じることがある。本研究のポリピル群においても、スタチンとACE阻害薬の投与量を6つのパターンで変更しながらポリピルが調整されるプロトコールになっている。実際の臨床では、同じ配合薬の6つの投与量のパターンを覚えて使い分けることは容易ではないことが推測される。少し簡便に投与量が調整できる仕組みが、将来的にはできればいいと感じた。本研究の高齢者は、ほとんどが仕事をリタイアした患者であった。現在のわれわれの日常臨床では、服薬アドヒアランスの改善のため薬局で内服薬の一包化をしてもらうことがあるが、一包化とポリピルで差があるのか疑問が残った。「良薬は口に苦し」ということわざがあるが、内容が同じであれば、処方は数が少なく飲みやすいのがいいようである。

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ハイテク靴下で高リスク患者の転倒を予防

 米国では年間70万~100万人の患者が入院中に転倒を経験する。転倒はさらなる健康悪化のきっかけとなることが多い。しかし、これまで転倒減少につながる有効な方法はほとんどなかった。こうした中、入院患者がベッドから起き上がろうとすると、ソックスに内蔵された圧力センサーが反応してアラートを送信する「スマートソックス」が入院患者の転倒防止に有効である可能性を示した新たな研究結果が報告された。米オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのTammy Moore氏らによるこの研究結果は、「Journal of Nursing Care Quality」に8月19日掲載された。 この研究では、転倒リスクの高い入院患者569人がスマートソックスを履いて過ごした。スマートソックス以外の転倒予防システムは使用されなかった。スマートソックスは、内蔵されたセンサーが患者の立ち上がろうとする動きを検知して、最も近い位置にいる3人の看護師にウェアラブル型のスマートバッジを介してアラーム音で警告するというシステムだ。バッジを付けた看護師が患者の部屋に入ると、アラームは自動的に解除される。警告を受けた看護師が1分以内に一人も対応しなかった場合には、次に近い場所にいる3人の看護師に警告が伝えられる。それでも90秒以内に誰も対応しなければ、スマートバッジを装着している全ての看護師に警告が発信される。 13カ月間にわたる研究期間中に、スマートソックスによるアラーム音が合計5,010回鳴った。このうちの11回は誤検知例であったことから、立ち上がろうとする患者の行動を正確に検知して看護師に送信されたアラーム音の割合は99.8%に上ることが分かった。この期間中に、スマートソックスを履いていた入院患者で転倒した人はいなかった。スマートソックスを履いた場合の転倒の発生率は1,000患者日当たり0であり、これは、通常の入院患者における転倒の発生率(1,000患者日当たり4)よりも低かった。 スマートソックスから送信された警告を受けてから看護師が対応するまでにかかった時間は平均24秒で、最短で1秒、最長で約10分だった。なお、従来の転倒防止策である、ベッドや椅子の圧力センサーを用いた場合に看護師が対応するまでにかかる時間については、情報がなかったため比較できなかったという。 Moore氏は、「さらなる研究が必要ではあるが、スマートソックスを病院の入院患者や介護施設、リハビリ施設の患者に使用できる可能性はあると考えている」と述べる。なお、この研究はPalarum's PUP (Patient is Up) Smart Socksの資金提供を受けて実施されたが、Moore氏らの研究チームと同社の間に金銭的関係はない。 米ラッシュ大学医療センターのMegan Dunning氏は、今回のMoore氏らの研究結果を受けて、「研究期間中、スマートソックスを使用したユニットでは転倒が生じなかったという点で、この論文で示されたエビデンスの価値はかなり大きい。また、看護師は偽陽性の可能性が低いと分かっていたため、アラーム音が鳴ってから対応するまでの時間が短かったという点にも期待が持てる」と話す。その一方で、病院がこの種のシステムの導入を検討する際には費用が問題となる可能性のあることを指摘。さらに、「これまでに転倒を確実に減らせることが示されている方法の1つは歩き回ることだ」と付け加えている。 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の老年医学の専門医であるCatherine Sarkisian氏もまた、患者に起床や歩行を促すことは極めて重要だと話す。その上で、スマートソックスが患者をベッドから動かないようにしてしまう可能性があると指摘。「ベッドに居続けることは、入院中の高齢患者に新たな障害をもたらす要因となる。スマートソックスは、院内での転倒を防ぐかもしれないが、より多くの障害やフレイルの原因になるかもしれない。そうなると、患者はより弱った状態で退院することになるため、自宅での転倒の危険性が増す」としている。それでも同氏は、入院中に転倒する患者は極めて多く、毎年、転倒によって負傷するだけでなく命を落とす患者もいることを指摘。Moore氏らの研究は、「この大きな問題に取り組んだものだ」と評価している。

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老化を前向きに捉えている人は健康で長生き―AHAニュース

 エイジング(老化)に対する考え方が、健康に影響を及ぼす可能性を示唆する研究報告が増えてきた。老化を肯定的に捉えている人は否定的に捉えている人よりも、健康で長生きするのではないかとする論文が、過去20年間で複数発表されている。 今年2月にも「JAMA Network Open」に、全米の50歳以上の約1万4,000人を対象として、老化を前向きに考えることと身体的な健康、健康につながる行動、心理的幸福との関係を調査した結果が掲載された。その結果は、老化に対する満足度が最も高い人は、満足度が最も低い人に比べて、4年間の追跡期間中の全死亡リスクが43%低いというものだった。また、老化に対する満足度が高い人は、糖尿病、脳卒中、がん、心臓病などの慢性疾患のリスクが低く、認知機能も優れていて、身体活動量が多い傾向にあり、睡眠障害は少なかった。さらに、そのような人は仲間が多く、楽観的で、より強い目的意識を持っていた。 この論文の上席著者であり、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)と米ハーバードT. H.チャン公衆衛生大学院に所属しているEric Kim氏は、「老化の捉え方と健康行動は両方向性の関係にある」と説明する。例えば以前に「Preventive Medicine」に掲載された、同氏らによる別の研究では、50歳以上で自分の老化に満足している人は健診受診率が高いことが示されたという。それとは反対に、「老化によって健康が害されることは避けられないと考えている人は、老化を抑制する行動を取ろうとしない傾向も浮かび上がった」とのことだ。 一方、老化の捉え方と健康や幸福感との関連を研究している、米アリゾナ州立大学のHannah Giasson氏は、「人々の老化の捉え方は不変ではなく、変化することがある。これは、現時点で老化を否定的に考えている人にとっては朗報と言える」と述べている。Kim氏とGiasson氏は、老化を前向きに捉えるために、以下のようにアドバイスしている。目的意識を持ち続ける 「退職後に何をしたら良いか分からない」という人がいるが、そのような場合には、価値観に合った何らかの計画を立てることをKim氏は提案する。「人生の目的は人それぞれだ。家族の優先度が高い人は孫の世話を手伝うなど、家族に貢献できることを見つけてほしい。環境問題に関心があるのなら、環境保全活動に参加すると良い。ボランティア活動は、目的意識を持ち続けるという点でも素晴らしい方法だ」と同氏は語る。老化に対するネガティブな考え方を取り払う 老化に対する否定的な観念は、人の生涯にわたって内面化され、歳をとるにつれて身体的、精神的な健康に害を及ぼす可能性が高まる。Giasson氏は、「そのようなネガティブな考え方の潜在的リスクを理解して、それを取り払う必要がある」と話す。「高齢になったら身体的不調は避けられないから、アクティブな生活を送ろうとしても無駄だ」と考える人がいるかもしれない。しかし、米国立老化研究所によると、運動は心血管疾患、高血圧、2型糖尿病のリスクを低下させ、睡眠を改善し、転倒のリスクを抑制する可能性がある。「健康的な行動を実践することは、何歳であっても健康増進に役立つということを認識してほしい」と同氏は述べている。社会的な絆を維持する 歳を重ねるにつれて、配偶者、家族、友人などの愛する人を失う可能性が増す。その結果、社会的に孤立してしまうと、身体的および精神的健康が損なわれ、心臓発作や脳卒中のリスクが高まり、さらに人生の満足度が低下したり、日常生活が困難になることがある。それに対して、社会的なつながりを維持することが、健康に良い影響を与える可能性が示されている。そのための具体的な方法としてKim氏は、「失ったものを、何か新しいものに置き換えることが重要だ。例えば、地域のコミュニティーに参加して友人を増やしたり、かつての仲間に会いに行くといったことだ」と解説する。何歳からでも新しいことに挑戦 人は齢とともに運動能力が低下し、若い頃に喜びを感じていた活動に参加できなくなることがある。そのような加齢による変化への対処としてGiasson氏は、「身体的な負担の少ない新しいことを学ぶと良い」と提案する。ある研究によると、新しいスキルを習得した高齢者は、記憶力、自尊心、そして生活の質(QOL)が向上することが示された。「新しいことに挑戦するのに遅すぎるということはない。また、新しい興味の対象を追求するのにも年齢は関係ない」と同氏は語っている。[2022年8月19日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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米国の介護施設での褥瘡発生率に過少報告の可能性

 米国で身内の人を介護施設に入所させる際には、公的機関のwebサイトの品質評価を頼りにせず、自分自身で十分に検討する必要があるかもしれない。「Medical Care」に8月4日掲載された論文によると、褥瘡(床ずれ)の発生率が過少報告されている可能性があるという。米シカゴ大学のPrachi Sanghavi氏らが報告した。 米国の公的医療保険であるメディケアおよびメディケイドのサービスセンター(CMS)は、1990年代に介護施設の質を比較可能なwebサイトを立ち上げ、現在も公開している。しかし、論文の上席著者であるSanghavi氏によると、その情報は不正確であり、「2020年に報告された、転倒事故が過少報告されていることを指摘した研究と、同様のことが起きている」とのことだ。 Sanghavi氏らは、2011~2017年の介護施設居住者の褥瘡による入院の医療費請求データと、CMSのサイトに公開されているデータを比較検討した。その結果、CMSのサイトに公開されている数値は、介護施設の短期滞在者では治療件数の70.2%に相当し、長期滞在者では59.7%に相当する数値だった。つまり、短期滞在者では実際の褥瘡件数の約3割、長期滞在者では約4割がCMSサイトのデータに反映されていなかった。なお、論文中に研究背景として述べられている情報によると、転倒事故も約4割の乖離が見られるとのことだ。 「CMSが公開しているデータは大幅に過少報告されたものであり、施設居住者の安全確保のために、より客観的な指標を確立する必要がある」とSanghavi氏は述べている。また同氏は、「2017年に褥瘡による入院治療を要した居住者の割合が高かった第5五分位群(上位20%)のうち21.6%の施設が、5段階評価の4つ星または5つ星という高い評価を受けていた」と指摘している。 CMSによると、サイトに掲載している情報は各施設から3カ月ごとに報告されるデータを基に編集したものだという。Sanghavi氏は、「CMSで公開されたデータを見て利用者は施設を選択する。各施設はそれぞれ他の施設と競合関係にある。よって介護施設が褥瘡や転倒事故などを故意に過少報告することがあると考えられる」と推測する。ただし、「事務手続きのミスなどで誤った情報が掲載されることもあり得る」と付け加えている。 また同氏は、「さまざまなことが起きていると考えられる。これらの問題は簡単に解決できることではない」としながら、CMSが、同氏らの研究手法に類似したアプローチをとることによって、より実態に近いデータを公開できるのではないかと提案している。「新規のシステムを一から開発する必要はない。各施設から報告されたデータを医療費請求データと比較し、適宜、補足または置き換えれば良いことだ。そのようにして精度の高い情報が公開されるようになるまで、介護施設の選択に際しては比較サイトに頼るのではなく、他の情報を自分で確認する必要がある」とSanghavi氏は語っている。 この研究発表に対して、米国ヘルスケア協会/生活支援センター(AHCA/NCAL)の医療部門の責任者であるDavid Gifford氏は、「米国の介護施設は過去10年で劇的に質が改善した。また、居住者の生活の質(QOL)の向上に今も努力している。介護施設の進歩は評価されるべきだ」と述べている。また、「われわれは医療政策担当者や政治家と協議を重ね、ケアをさらに改善し、常に変化していく必要がある」と付け加えている。 なお、Sanghavi氏らの研究グループでは現在、介護施設における尿路感染症と肺炎の発生率に関するデータの正確性を検証しているという。尿路感染症と肺炎は介護施設において、最も頻繁に見られる感染症だ。研究結果は来年に論文発表する予定とのことだ。

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老犬の聴力低下は認知症リスク増大に関連

 犬は聴力の衰えに伴い知能も低下することが、新たな研究で明らかにされた。老犬の聴力低下と認知症との関連を示した今回の研究結果は、感覚喪失がイヌ科動物の認知機能に及ぼす影響を知る上で役立ち、治療の向上にもつながる可能性がある。米ノースカロライナ州立大学獣医学教授のNatasha Olby氏らが実施したこの研究の詳細は、「Journal of Veterinary Internal Medicine」に8月6日掲載された。 Olby氏は、「ヒトの場合、65歳以上の3人に1人は加齢により聴力が低下し、そのような人では認知力の低下速度が約30~40%速いことが示されている。また、聴力低下が高血圧や肥満などの因子よりも認知症リスクに大きな影響を及ぼすことも明らかにされている。しかし、犬でも同じことが言えるのかどうかは明らかになっていなかった」と研究背景について説明している。 今回の研究では、39頭の老犬を対象に聴力と認知機能のテストを実施するとともに、飼い主に犬の認知機能(canine dementia scale;CADESで評価、高スコアほど認知機能低下が進んでいる)と生活の質(QOL、canine owner-reported quality of life;CORQで評価、高スコアほどQOLが高い)に関する質問票に回答してもらった。次に、犬が聞き取れる音のレベルにより、50dB群(19頭、平均年齢141±14カ月)、70dB群(12頭、平均年齢160±16カ月)、90dB群(8頭、平均年齢172±15カ月)の3グループに犬を分類し、認知機能、QOL、および加齢による聴力低下との関連を検討した。なお、50dBの音の大きさとは静かな冷蔵庫の出す音と同程度であり、70dBの音は食器洗浄機と、90dBの音は離陸する飛行機の出す音とおおよそ同程度である。 その結果、聴力の低下に伴い、CORQの4つのドメインのうちの活力(vitality)と交友(companionship)のスコアが有意に低下することが明らかになった〔活力のスコア:50dB群6.6点、90dB群で5.4点(P=0.03)、交友のスコア:50dB群6.9点、90dB群で6.2点(P=0.02)〕。 また、CADESスコアに異常値が認められたのは、90dB群では8頭全て、70dB群では12頭中9頭、50dB群では19頭中8頭であった。認知機能テストの結果についても同様のパターンが見られ、聴力が低下するほど成績が低かった。また、多変量解析の結果から、CADESスコアの高さは聴力の低下と有意に関連することも示された。 Olby氏は、「ヒトの場合、聴力低下は認知症の最大の予測因子の1つだ。感覚喪失は運動技能の低下に関連するため、聴力低下は高齢者の転倒にも影響する。このことから、ヒトの身体の衰えと神経の衰えが関連することは明らかだ」という。その上で同氏は、「この研究から、老犬にもヒトと同じ関連が見られることが明らかになった。老犬の神経学・生理学的変化を定量化することにより、それをペットの診断や治療に応用できる可能性がある。また、同じ問題を抱えるヒトに応用できるモデルを作製することにもつながるのではないか」と述べている。

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患者さんの訴えには耳を傾けよう【Dr. 中島の 新・徒然草】(441)

四百四十一の段 患者さんの訴えには耳を傾けよう急に涼しくなりましたね。まだ8月が終わったばかりというのにもう秋です。さて、最近、考えさせられる症例があったので紹介したいと思います。その女性は70代。数ヵ月前に転倒して頭を打ちました。以来、物が覚えられなくなったとのこと。それだけでなく、疲れやすくなって1日のうちの大半寝ているとか、便秘になって困るとか。そのような不定愁訴的なことをおっしゃっていました。あまりにも便のことばかり言うので、「ウンコの事はウンコの病院で言うこと」と当時のカルテに私は書いています。で、その後に何度か脳外科外来を受診しているのですが、その都度、いろいろな訴えをされるわけです。ふらつきがある。耳鳴りがする。物忘れがあるのでメモをするが、そのメモを失くす。電話の内容も直後に忘れてしまうので、かけ直して確認する。薬を飲み忘れる等々。同伴の息子さんに尋ねてみると、「確かに母に質問しても意図したことと違う答えが返ってくることが多いです」とのこと。さらに、訴えは続きます。股関節が痛い、足趾が腫れる、耳鳴りがする、ふらつきがある、道に迷う、手が痛い、先生(中島のこと)の名前を思い出せない、家事に時間がかかる、髪の毛が抜けて仕方ない、等々。4年ほど前に当院の循環器内科にかかっているのですが、「その他の愁訴については近医受診を」とカルテに書いてあります。やっぱり循環器内科の先生も、この人の訴えに苦しめられていたのか、とちょっと安心しました。ん?4年ほど前にということは、症状と頭を打ったのは無関係かな、もしかして。ずっと前からいろいろな愁訴があったのでしょうか?物忘れがある、便秘がひどい、髪の毛が抜ける、疲れやすいって。それひょっとして甲状腺機能低下症じゃないですか。で、慌てて血液検査の結果を確認してみました。FT4 1.06ng/dL(1.10~1.80)TSH 4.43μIU/mL(0.27~4.20)括弧内は当院の基準値です。FT4もTSHも、それぞれ基準値をわずかに外れています。これをもって異常といっていいのか?でも、症状からはまさしく甲状腺機能低下症。「頭を打ってから」というご本人の申告に惑わされていました。で、本来なら内分泌の専門家に診察を依頼するところでしょう。でも、自らの恥ずかしい事は、人にバレないうちに何とかしたいというのが人情というもの。それで私は処方しましたよ、レボチロキシンを。その後、まだ次の診察日は来ていないので、私の処方が効果あったのかはわかりません。が、別の疾患で眼科に入院していて、看護記録に「ふらつかなくなった」「理解良好」とあったので、もしかしてうまくいっているのかも。というわけで、不定愁訴などと決めつけずに、虚心坦懐に患者の訴えに耳を傾けるべし、というお話でした。初診で患者さんに偉そうに言ってしまって、今思えば恥ずかしい限り。でも、確かに本人は頭打ってから調子悪いって言ってたんですけどね。ということで最後に1句秋風に 思い出したり 謙虚さを

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早期パーキンソン病へのcinpanemab、進行抑制効果は認められず/NEJM

 早期パーキンソン病患者へのcinpanemabはプラセボと比較して、52週時点の疾患進行の臨床指標および脳SPECT画像の変化への効果について差は認められなかった。カナダ・トロント大学のAnthony E. Lang氏らが、357例の患者を対象に行った第II相の多施設共同二重盲検無作為化試験の結果を報告した。パーキンソン病の病因において、α-シヌクレイン凝集は重要な役割を果たしているとされることから、α-シヌクレインと結合するヒト由来モノクローナル抗体cinpanemabは、新たなパーキンソン病の疾患修飾治療薬として評価が行われていた。NEJM誌2022年8月4日号掲載の報告。cinpanemabを3用量、52週間投与 研究グループは、早期パーキンソン病患者を無作為に2対1対2対2の割合で割り付け、プラセボ(対照)、cinpanemab 250mg、同1,250mg、同3,500mgをそれぞれ4週ごとに52週間、点滴静注した。その後、最長112週目まで、用量を盲検化し実薬を投与した。 主要エンドポイントは、運動障害疾患学会・改訂版パーキンソン病統一スケール(MDS-UPDRS)総スコア(範囲:0~236、高スコアほどパーキンソン病症状が進行)のベースラインから52週および72週の変化とした。副次エンドポイントは、MDS-UPDRSサブスケールスコア、ドパミントランスポーター単光子放射型断層撮影(DaT-SPECT)で評価した線条体結合などだった。MDS-UPDRSスコア、DaT-SPECT画像の変化もプラセボと同等 登録被験者357例のうち、対照群は100例、cinpanemab 250mg群は55例、1,250mg群は102例、3,500mg群は100例だった。試験は72週時点で行われた中間解析後、有効性の欠如により中止された。 MDS-UPDRSスコアの52週までの変化は、対照群10.8ポイント、250mg群10.5ポイント、1,250mg群11.3ポイント、3,500mg群10.9ポイントだった。対照群との補正後平均差はそれぞれ-0.3ポイント(p=0.90)、0.5ポイント(p=0.80)、0.1ポイント(p=0.97)だった。 試験開始から72週までcinpanemabを投与した患者と、52週以降にcinpanemabを投与した患者の統合群の、72週時点で評価したMDS-UPDRSスコアの補正後平均差は、250mg群-0.9ポイント(95%信頼区間[CI]:-5.6~3.8)、1,250mg群0.6ポイント(-3.3~4.4)、3,500mg群-0.8ポイント(-4.6~3.0)だった。 副次エンドポイントの結果も、主要エンドポイントと類似していた。52週時点のDaT-SPECT画像は、対照群とすべてのcinpanemab群で差は認められなかった。 cinpanemab群で認められた頻度の高い有害事象は、頭痛、鼻咽頭炎、転倒だった。

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ビタミンD補給、中高年において骨折予防効果なし/NEJM

 ビタミンD欠乏症、骨量低下、骨粗鬆症を有していない概して健康な中高年以上の集団では、ビタミンD3を摂取してもプラセボと比較し骨折リスクは有意に低下しないことが、米国・ハーバード・メディカル・スクールのMeryl S. LeBoff氏らが行った「VITAL試験」の補助的研究で示された。ビタミンDサプリメントは、一般集団において骨の健康のために広く推奨されている。しかし、骨折予防に関するデータは一貫していなかった。NEJM誌2022年7月28日号掲載の報告。米国人男性50歳以上、女性55歳以上の計2万5,871例で骨折発生をプラセボと比較 VITAL試験は米国の50歳以上の男性と55歳以上の女性を対象に、ビタミンD3(2,000 IU/日)、n-3系脂肪酸(1g/日)、またはその両方の摂取により、がんや心血管疾患を予防できるどうかをプラセボと比較した2×2要因デザインの無作為化比較試験である。選択基準にビタミンD欠乏症、骨量低下、骨粗鬆症は含まれていない。 年1回、質問票によりレジメンの遵守、副作用、他のサプリメント(例:カルシウム、ビタミンD)や薬剤の使用、大きな病気、骨粗鬆症または関連する危険因子、身体活動、転倒、および骨折について調査し、骨折を報告した参加者にはさらに詳細な質問票を送付して調査するとともに、骨折の治療を行った施設から医療記録(股関節または大腿骨骨折の場合は放射線画像を含む)を入手し、中央判定を行った。 主要評価項目は全骨折、非椎体骨折、股関節骨折の初回発生で、intention-to-treat集団を解析対象として比例ハザードモデルを用いて治療効果を推定した。 計2万5,871例(女性50.6%、黒人20.2%)がビタミンD3+n-3系脂肪酸、ビタミンD3+プラセボ、n-3系脂肪酸+プラセボ、プラセボ+プラセボの4群に無作為に割り付けられた。全骨折、非椎体骨折および股関節骨折、いずれもプラセボ群と有意差なし 追跡期間中央値5.3年において、1,551例に1,991件の骨折が確認された。 初発全骨折は、ビタミンD群(ビタミンD3+n-3系脂肪酸群およびビタミンD3+プラセボ群)で1万2,927例中769例、プラセボ群(n-3系脂肪酸+プラセボ群およびプラセボ+プラセボ群)で1万2,944例中782例に認められた(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.89~1.08、p=0.70)。同様に非脊椎骨折はそれぞれ721例および744例(0.97、0.87~1.07、p=0.50)、股関節骨折は57例および56例(1.01、0.70~1.47、p=0.96)に認められ、いずれもビタミンD群とプラセボ群で有意差はなかった。 年齢、性別、人種/民族、BMI、血清25-ヒドロキシビタミンD値などベースラインの患者背景は、この結果に影響しなかった。 また有害事象は親試験で評価されたとおり、両群間で差はなかった。 なお、著者は研究の結果は限定的なものであり、骨粗鬆症または骨軟化症患者、高齢の施設入所者には一般化されない可能性があるとしている。

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片足で10秒立てる中高年者は長寿かも?

 簡単そうに思うかもしれないが、片足で10秒間立ち続けるのは意外に難しい。それができるかできないかが、10年以内の死亡リスクの評価指標となり得るとする、新たな論文が報告された。運動医学クリニックCLINIMEX(ブラジル)のClaudio Araujo氏らの研究によるもので、詳細は「British Journal of Sports Medicine」に6月21日掲載された。 Araujo氏によると、有酸素運動能力や筋力、柔軟性などが加齢とともに徐々に低下していくのとは異なり、バランス能力は60歳ぐらいまでかなりよく維持されているという。しかしその後、急速に低下するとのことだ。同氏らは、「10秒間の片足立ちで静的バランスを簡便に評価できる。高齢者の定期健診に組み込むべきだ」と提案している。 この研究の解析対象者は、1994年にスタートしたCLINIMEX運動科学研究の参加者のうち、2008~2020年に登録された51~75歳の中高年者1,702人(平均年齢61.7±6.8歳、男性68%、BMI27.6±4.5)。起立して両手を下げた状態で何にもつかまらず、片足を上げて、その足の甲をもう一方の足(地についている方)のふくらはぎの裏につけ、その姿勢を10秒間維持できるか否かを評価した。 その結果、20.4%がこれをできなかった。10秒間片足立ちができなかった群は、できた群に比べて、肥満、心臓病、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病などの有病率が有意に高かった。特に糖尿病の有病率に関しては、3倍もの差が存在していた(12.6対37.9%)。 10秒間片足立ちができなかった人の割合を年齢層別に見ると、51~55歳は4.7%、56~60歳は8.1%、61~65歳は17.8%、66~70歳では36.8%であり、71~75歳は半数以上(53.6%)だった。つまり、50歳以降の20年強の年齢差で、このテストができない人の割合が11倍以上に広がっていた。 このテストを行った後、7年間(中央値)追跡したところ、7.2%の死亡が確認された。死亡原因は、がん32%、心臓病30%、呼吸器疾患9%、新型コロナウイルス感染症7%などであり、10秒間片足立ちができたか否かは、このような死亡原因の傾向に影響を及ぼしていなかった。ただし、10秒間片足立ちができた人の死亡率は4.6%であるのに対して、できなかった人は17.5%だった。 ログランク検定により、両群の生存率の推移に有意差が確認された(P<0.001)。また、年齢、性別、BMI、併存疾患の影響を調整後に全死亡リスクを比較すると、10秒間片足立ちができない群は84%高リスクだった〔ハザード比1.84(95%信頼区間1.23~2.78)、P<0.001〕。 著者らは、本研究は観察研究のため、10秒間片足立ちの検査結果と死亡リスクとの因果関係に言及することはできないとしている。また、研究参加者は全員、白人系ブラジル人であり、この結果をほかの地域・民族へ適用するには、その集団での検証が必要という。さらに、過去の転倒歴、食事・喫煙・運動習慣、バランス能力を低下させ得る薬剤の服用などの影響を評価していないことも、本研究の限界として挙げている。 論文ではそれら解釈上の留意点を述べた上で、「10秒間片足立ち検査は静的バランス能力を簡便に評価でき、中高年者の死亡リスクに関する有用な情報を得られる」と結論付けている。

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介護保険による住宅改修の実情―視覚・認知機能障害へのサポートが不足

 介護保険の住宅改修費給付制度の利用状況を調査した結果が報告された。医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構の土屋瑠見子氏らの研究によるもの。認知機能障害や視覚障害による要支援者は、他の理由による要支援者よりも、住宅改修を行う割合が有意に低いことなどが明らかになった。詳細は、「BMC Geriatrics」に5月20日掲載された。 何らかの機能障害がある場合、その障害のタイプや程度に応じて住宅改修を行うことにより、転倒などによる受傷リスクが低下し生活の質(QOL)が維持され、死亡リスクが低下することが報告されている。介護保険制度でも、要支援・要介護認定を受けた場合には、住宅改修コストの1~3割、最大20万円まで助成され、手すりの設置、段差解消、便器の取替えなどが可能だ。土屋氏らは、この制度の利用状況と、障害のタイプ、性別、世帯収入などとの関連を詳細に検討した。 解析には、首都圏にある人口約49万人の都市の2010~2017年度の介護保険関連データを用い、要支援認定を受けた人の住宅改修状況を調べた。前記期間に要支援認定を受けた1万1,229人から、転居者や解析に必要なデータの欠落者などを除外した1万372人を解析対象とした。なお、この都市の高齢化率は27.4%で、調査実施時点の全国平均(28.1%)とほぼ一致している。 解析対象者のうち、要支援認定の翌年までに住宅改修の助成を申請したのは15.6%であり、認定から申請までの期間は平均4.0±2.7カ月、最頻値は2カ月(改修した人の26.8%)だった。6.2%の人は改修を2回行っていた。助成額は大半が17万5,000~18万7,500円(自治体支払い分)の範囲だった。 要支援1と2を比較すると後者、性別では女性の方が住宅改修の実施割合が高く、生活保護受給者は改修実施割合が低かった。機能障害のタイプ別に見ると、下肢障害やバランス障害による要支援者は改修実施割合が高く、認知機能障害や視覚障害による要支援者は実施割合が低かった。多変量ロジスティック回帰分析により、住宅改修実施割合に有意な関連の認められた因子は以下の通り。 まず、調整オッズ比(aOR)が有意に高い因子として、女性〔男性に対してaOR1.182(95%信頼区間1.026~1.361)〕、下肢障害〔aOR1.290(同1.148~1.449)〕、バランス障害〔何らかのサポートにより立位保持可能でaOR1.724(1.429~2.080)、立位保持不能でaOR2.176(1.608~2.945)〕などが抽出された。 反対に、調整オッズ比の有意に低い因子は、認知機能障害〔認知症高齢者の日常生活自立度のランクIでaOR0.774(0.690~0.868)、IIa以上でaOR0.553(0.434~0.704)〕、視覚障害〔aOR0.861(0.741~0.999)〕、生活保護受給〔aOR0.147(0.092~0.235)〕で認められた。なお、聴覚障害や上肢障害では、有意なオッズ比の上昇や低下は見られなかった。 このほか、住宅改修コストについても、視覚障害による改修では中央値12万5,304円に対して、視覚障害以外による改修では13万8,047円で前者の方が有意に低いことなどが分かった(P=0.018)。 これらの結果をもとに論文では、「認知機能や視機能に障害のある高齢者の住宅改修実施割合が相対的に低いことが明らかになった」と結論付けられている。著者によると、例えば温度の上限設定が可能な給湯システムへの改修によって認知機能障害のある要支援者の熱傷を防いだり、屋内の危険な箇所の素材変更や照明の設置により視覚障害者の受傷を防ぐことが可能という。ただし、これらの改修コストは、現時点では給付対象にならないことから、論文では「政策立案者は、給付制度の改善を検討する必要があるのではないか」とも述べられている。 なお、生活保護受給者の住宅改修割合が低い理由としては、「その88.1%が賃貸住宅に居住しているため、必要があっても改修できないケースがあると考えられる」との考察を加えている。

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063)「あと5分」の駆け込み受診あるある【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第63回 「あと5分」の駆け込み受診あるあるゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆連日暑い日が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。梅雨も明け、皮膚科の繁忙期(夏)がいよいよ本番といった今日この頃ですが、これを書いているいま現在は、暑過ぎるせいか意外と外来の患者数は控えめな印象です。家から出られないほどの暑さ…!? 熱中症、要注意ですね。それはさておき、先日の外来のお話。スタッフと「ここのところ外来が落ちついていますねー」などと言いながら、半ば休憩の支度をしつつ受付終了時間を待っていた時のこと。もうあと数分、「午前診はこれでおしまい!」と確信したその瞬間、まさかの飛び込み受診が入り、しかも顔面挫創。聞くと、先行する友達の自転車とぶつかり、転倒してしまったのだとか。未来ある若者の顔面、傷を残すわけにいきません。結局そのまま処置に入り、30分ほど超過して午前の外来を終えました。受付終了間際の飛び込み処置、外来あるあるですね。お久しぶりな患者さんの重症例や、重めの新患も飛び込みで来がち~~!(時間外で来ることもある…)「最後の最後まで気が抜けないな!」と、あらためて思ったのでした。それでは、また〜!

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ないがしろにできない高齢者の関節痛、その注意点は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第15回

第15回 ないがしろにできない高齢者の関節痛、その注意点は?―Key Point―急性の単関節炎では、化膿性関節炎、結晶性関節炎(痛風/偽痛風)、関節内出血(外傷、血友病)を考える結晶性関節炎と化膿性関節炎は合併することがある関節液の白血球が5万/μL以上なら化膿性を示唆するが、それ以下でも否定はできない症例:81歳 男性主訴)左膝関節痛現病歴)2週間前に左肘関節痛あり。整形外科でシャント感染を疑われたが、治療ですぐに軽快。昨日深夜の転倒後から左膝関節腫脹を伴う関節痛あり。夕方からは発熱もあった。本日近医の検査でCRP 22だったため、救急室に紹介受診となった。既往歴)アルツハイマー型認知症、糖尿病腎症:3年前に血液透析を開始身体所見)意識清明、体温38.6℃、血圧149/61mmHg、脈拍108回/分、呼吸回数20回/分、SpO2 100%(室内気)眼瞼結膜は軽度の蒼白あり、胸腹部に異常所見なし、左膝関節に腫脹/熱感/圧痛あり経過)血液検査でWBC 12,000/μL、Hb 10.8 g/dL、Cr 6.15 mg/dL、CRP 23.9 mg/dLであった左膝関節のレントゲン写真では半月板に線状の石灰化を認めた関節穿刺を施行し、やや混濁した黄色の関節液を採取した(図1)。関節液のWBCは 9,000/μL(好中球86%)であった。白血球に貪食された菱形および長方形の結晶を認めた(図2)グラム染色および関節液培養では細菌を検出しなかった偽痛風と診断しNSAIDsにて軽快した画像を拡大する◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!高齢者における関節痛の訴えは多い化膿性関節炎を見逃すと関節の機能障害が起こる急性vs.慢性、単関節vs.多関節、炎症性vs.非炎症性を区別することで、鑑別診断を絞り込むことができる【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】症状を確認する急性発症か慢性発症か。急性は2週間以内、慢性は6週間以上の症状持続である単関節炎か多関節炎か。単関節炎は1つの関節、多関節炎は5関節以上の関節に炎症がある【STEP2-2】炎症性か非炎症性か炎症性では30分以上続く朝のこわばり(多くは1時間以上)、安静後に増悪、体を動かしていると次第に改善する関節に熱感、発赤、腫脹があれば炎症性である炎症性は血沈やCRP上昇を認める【STEP3】鑑別診断を絞り込む2)3)脊椎関節炎には反応性関節炎、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、強直性脊椎炎、分類不能脊椎関節炎が含まれる(表1)画像を拡大する<参考文献・資料>1)MKSAP19. Rheumatology. 2022. p1-17.2)Harrison’s Principles of Internal Medicine. 21th edition. 2022 p2844-2880.3)山中 克郎ほか. UCSFに学ぶできる内科医への近道. 南山堂. 2012. p211-221.

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地域一般住民におけるフレイルな高齢者に対する多因子介入が運動機能障害を予防する(解説:石川讓治氏)

 日本老年医学会から提唱されたステートメントでは、Frailtyとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態で、筋力の低下により動作の俊敏性が失われて転倒しやすくなるような身体的問題のみならず、認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、独居や経済的困窮などの社会的問題を含む概念であるとされている。わが国においてはフレイルと表現され、要介護状態や寝たきりになる前段階であるだけでなく、健康な状態に戻る可逆性を含んだ状態であると考えられている。フレイルの原因は多面的であり、運動、栄養改善、社会的なサポート、患者教育、ポリファーマシー対策といった多因子介入が必要であるとされているが、加齢という最大のフレイルのリスク要因が進行性であるため、フレイルの要介護状態への進行の抑制は困難を要する場合も多い。 SPRINTT projectは、欧州の11ヵ国16地域における1,519人の一般住民(70歳以上)を対象として、SPPBスコア3~9点、四肢骨格筋量低下、400m歩行機能などから身体的フレイルやサルコペニアと見なされた759人に対して、多因子介入(中等度の身体活動をセンターにおいて1週間に2回および家庭において週に4回、身体活動量の測定、栄養に関するカウンセリング)を行った群とコントロール群(1ヵ月に1回の健康的な老化に関する教育)を比較した。1次評価項目は運動機能低下(400mを15分未満で歩行困難)、副次評価項目は運動機能低下持続(400m歩行機能、身体機能、筋力、四肢骨格筋量の24~36ヵ月後の変化)であった。1次評価項目はSPPBスコア3~7の対象者において評価され、追跡期間中に身体機能低下は多因子介入群で46.8%、コントロール群で52.7%に発症し、多因子介入によって22%(p=0.005)の有意なリスク低下が認められた。運動機能低下持続は多因子介入群で21.0%、コントロール群で25.0%に認められ、多因子介入によって21%のリスク低下が認められる傾向があった(p=0.06)。 本研究の結果は、フレイルやサルコペニアを有する地域一般住民に対する多因子介入の有用性を示したものであり、地方自治体などが行っている“通いの場”、“集いの場”などでの運動教室や栄養教室をサポートするエビデンスになると思われる。またデイサービスなどの老人福祉施設においても、本研究の介入方法は参考になると思われる。比較的健康であると思われた地域一般住民のデータにおいても、約3年の間に対象者の約半数が運動機能低下を来しており、心不全(7.2%)、がん(13.4%)、糖尿病(22.4)など併存疾患の多いことが驚きであった。現在、病院に通院中で何らかの疾患を要するフレイル患者の場合、6ヵ月以上の慢性期リハビリ介入は、医療保険診療では困難な場合が多い。そのため、病院通院中の患者でありながら、フレイルに対する多因子介入は老人保健施設にお願いせざるを得ない状況がある。病院でフレイル患者を診療する医師としては、医療機関においても慢性期リハビリが継続できるような医療保険システムの構築を願っている。 本研究において、運動機能低下の発症がコックスハザードモデルで評価されているが、登録時はフレイルで、運動機能低下の発症後に、多因子介入で健常に戻った場合でも、運動機能低下発症ありと評価されていることに多少の違和感がある。フレイルは可逆性のある状態であるにもかかわらず、解析上はあたかもエンドポイントであるかのように評価されている。定義上、フレイルは可逆性で、要介護状態は非可逆の要素が多いとされているが、日常臨床では可逆性と非可逆の境界を見極めるのは困難な場合が多い。身体機能低下は悪化と改善を繰り返しながら、徐々に要介護状態へ進行していく。本研究の運動機能低下は、400m歩行が15分以内に困難な状態として定義されているが、これをもって運動機能低下(不可逆なポイント)と定義していいのかどうかも疑問が残った。日常臨床上における要介護状態は、介護保険制度の要介護度を用いて判断される場合が多いが、基本的ADLの低下をもって判断され、本研究の運動機能低下の判定基準とは異なることに注意が必要である。

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第107回 急性期病院で増える要介護高齢者、介護力強化の具体策とは?

2022年度以降、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり始めた。社会の負担も増加する中、急性期医療・高度急性期医療病床においても、転倒骨折や脳梗塞・急性心筋梗塞などにより、高齢者が入院するケースが増えている。高齢患者は介護や介助が必要になることが少なくないが、急性期病院では介護職員が極めて不足し、介護需要に十分対応できないことで患者の状態悪化を招き、要介護高齢者が増加。そのため、「要介護者は急性期病棟で作られている」と、日本慢性期医療協会(日慢協)の武久 洋三会長は指摘する。4月14日の定例記者会見では、急性期病院における介護力強化の具体的な対策を提案した。要介護者の増加に対し介護人材は不足武久氏は「急性期病院において介護力を強化することが必要不可欠」とし、要介護者を増やさない施策をとらなければ、介護現場の人材不足はいつまでたっても解消しないとの認識を述べた。そのうえで、「介護体制危機」に対処するために、現状と対策を3つの方向性に分けて以下のように示した。(1)病院に高齢患者が増えているのに、介護職員(看護補助者)が来てくれない(2)介護業務内容によって3つの職種に分けてはどうか(3)急性期病院での介護職員不足による要介護者の増加を食い止めなければならない介護補助者の業務の明確化と適切な処遇を(1)については次のように認識を示した。介護職員は、病院では「看護補助者」と呼ばれ、国家資格者である「介護福祉士」でもその専門性が認められず、看護補助者として、看護師の命令・指示・管理のもとに業務を遂行している。介護保険施設に勤務する介護職員には、処遇改善給付金があるが、病院勤務には処遇改善加算はなく、給与面でも差がある。そのため、医療現場では介護職員が集まらず、看護師がみなし看護補助者として介護業務にあたっているのが実情だ。しかし、看護師は主に看護業務に偏りがちで、介護業務の適正施行に問題がある。そこで、武久氏は「国は病院で勤務してくれる介護専門職を集めることに最大の努力をすべき」と述べ、「病院で勤務する介護職員に対しても処遇改善給付金などの対応をする」および「プライドを持って働けるように、『看護補助者』という職名を、もっと主体性を持った実態に沿ったものにする」ことを提案。介護分野だけでなく、医療分野においても介護福祉士や介護専門職を適切に評価すべきと強調した。(2)の「3つの職種」に関しては、看護補助者のうち、患者の直接的なケアを担う職員は「介護職員」、患者に直接接することのない周辺業務を担う職員は「介護助手」、診療にかかわる事務業務を担う職員は「看護事務」などと、業務内容に応じた名称に変更することを提案。また、介護ケアの国家資格取得者である介護福祉士は急性期病棟に配置すべきと述べた。そのうえで、介護職員を介護福祉士、専門介護職、介護助手と大きく3つに分けることを提案した。「急性期病棟が要介護者を作っている」背景とは(3)に対して、武久氏は「要介護者を作っているのは急性期病棟」と述べた。その理由として、急性期病棟では介護職員が十分に配置されていないことから、認知症状がみられる患者や、歩行不安定な患者に対して身体抑止を行ったり、膀胱留置バルーンカテーテルを挿入したりすることで、介護業務を減らしている実態を指摘。臥床状態が続くことで筋力が低下、廃用が生じ、要介護状態になる因果関係を示した。そのうえで、現在、病院で働く介護職員の2倍以上の介護職員を配置しなければ、安易なバルーン挿入や身体抑制行為はなくならないと予想した。診療報酬上の対応策として病院にも基準介護の導入を人材確保には診療報酬上の対応が必要になる。「看護配置7対1以上」などの基準看護があるが、武久氏は「介護配置〇対1以上」などの基準介護の導入が病院にも必要であるとの見解を示した。ちなみに、2040年には団塊の世代は92歳前後になる。92歳前後は女性の死亡年齢の最頻値で、2040年の要介護者数は806万人と推計されている。介護保険サービス・施設に従事する介護職員だけで、現在より約70万人多い、約280万人が必要といわれる。さらに病院で従事する必要介護職員数を合わせると、もっと多くの介護職員を確保しなければならない。確保の展望はどうか。2040年に20歳になる人口は約80万人。現在、20歳は約120万人だが、今年の介護福祉士国家試験合格者数はわずか6万人で5%を占めている。2040年は人口比で現在以上の数を確保できるはずもない。周辺国も、あと20年もすると若年労働者が減って、日本に来て働いてくれなくなる可能性がある。新たに要介護者になる人を減らさないと、日本の介護がパンクするのは時間の問題となっている。

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コロナ禍の運動不足や孤独対策、どうするか【コロナ時代の認知症診療】第14回

“couch potato”な生活スタイルが高齢者にも?わが国ではCOVID-19(コロナ)が流行り始めた2020年の春頃から、自粛が進んだ。当初から高齢者では運動不足や活動範囲の制限による心身機能低下のへの注意が喚起されてきた。そして世界中での遷延化とともに、高齢者における活動量や身体機能をコロナ前後で比較し、その低下を報告した研究が相次いでいる。そして最近では、こうした研究のレビュー報告もでてきている。それらのレビューは当然ながら、いずれも運動量、活動範囲、消費エネルギーの低下などを報告している。このような低下が、下肢筋力の減少や、運動能力あるいは心肺機能さらにはバランスにまで影響することは、言うまでもない。新しい観点として、座りがちな生活(sedentary lifestyle)が指摘されている。数十年前から有名になったcouch potatoという英語俗語があった。これはカウチ(寝椅子)にくつろいでポテトチップをかじりながらテレビやビデオを見て過ごす自分の殻にこもった生活スタイルを意味する。このような状態は本来、青年や中年層のライフスタイルと思われたが、最近ではこれが高齢者でもみられるようだ(というよりカウチ青・中年が老年に至ったのか?)。実際、私の外来に来られる高齢患者のご家族がそうした指摘をされる。意外にローテクな方法が効果的な場合も?高齢者の運動不足解消また、階段の昇降段数も減っている。階段の上りの重要性はともかく、下りも大切だ。降ろした足が下のステップに着く際に、踵に重力がかかることで骨粗鬆症防御の役割も果たすのだそうだ。運動量や身体機能が下がっているのは当然としても、知的機能低下や社会交流の減少も同時に進行している。それだけに、この時代において、いかにして運動量やその関連要因の低下がもたらす弊害に対処するかの策が問題になる。多くの医学関連雑誌や行政から、コロナ禍で身体活動量を増やすことだけでなく、メンタルヘルスや社会交流の促しも視野に入れて具体的な提言などもなされている。現実的には、高齢者のITリテラシーを考慮するならローテクであろうか? たとえば週1回の電話利用、あるいは家庭訪問である。運動の分野ではこうした活動によって運動の実践を促し、転倒の危険性を少なくするように推奨されている。またハイテクならWeb利用だが、ノルウェーから自治体主催の包括的ITサービスの実例なども報告されている1,2)。PCやタブレットを用いて双方向性にコミュニケーションができるシステムである。実はこうしたサービスをわが国でもコロナ以前から実践してきた自治体もある3)。この実装のポイントは、面倒な契約などなく、クラウドや通信をひっくるめたインフラ込みの提供にあると思う。具体的には民生委員が関わるような事柄、たとえば見守りとか緊急連絡などに代表される高齢者への包括的なサービスを行ってきたようだ。世界初「孤独担当大臣」を置く英国での孤独対策コロナ禍により、飛沫感染を避けるためディスタンスは当たり前になった。そしてマスク、フェイスシールドを介してのコミュニケーションとなり、会話しながらの食事はもってのほかとなった。筆者は、見知らぬもの同士がすぐに仲良くなれる秘訣は、飲食を共にすることだと思う。その逆で、「孤食の害」はわかっていてもそうならざるを得ないのが現状である。諸悪の根源は「孤独」にあるとも言える。つまり老年心理学の観点に立つなら、「孤独」とは自分が他者から必要とされているとは思えない状態だと筆者は考えるからである。ところで英国は2018年「孤独担当大臣」を世界で初めて設けた。孤独は、肥満や1日15本の喫煙以上に体に悪く、孤独な人は、そうでない人に比べ、天寿を全うできないリスクが1.5倍に上がるとされる。そして孤独で生じる経済的損失は、約4.8兆円(日本の年間予算100兆円強)に達するとされている。そこで全国各地には、孤独対策に取り組む無数の草の根活動的な慈善団体があって、読書、音楽、スポーツなどのグループを作っている。男性の孤独解消に効果が高いと注目されるものに、mens’shed(メンズ・シェッド:男たちの集い処)がある。ここでは主に定年退職した男性が定期的に集まって、大工仕事などを一緒に行う。たとえばテーブルやベンチを作って公園に置いたり、学校に手作りの遊具を寄付したりする。皆で一緒にものを作ることで一体感が生まれ、そこからコミュニティとの絆が生まれる。さらに感謝の言葉もかけられれば、他者から自分は必要とされていると思え、生き甲斐に通じるのだそうだ。それなら確かに孤独解消につながるだろうと思われる。孤独を和らげ、身体活動や社会交流を促すためのポイントとして、屋内は駄目でも、屋外ならいいのではと考えている。というのは、コロナ禍の今でも大勢の人が集まる場所としてはゴルフ場がある。最近は市場空前の大盛況だと聞く。広々としたグリーンなら、少々喋っても構わないということである。地域でのゲートボールやグランドゴルフはこれに準ずるだろう。古典的ながら根強いのが、ラジオ体操である。基本は朝の6時頃に一定の公園など戸外に集い短時間の運動をしてあいさつ程度の言葉を交わすだけだ。けれども往復のウォーキングも加えると、コロナの時代に最低限の運動量は確保される。太極拳や自彊術であっても同様。小規模ながら、注目すべきものに老人会が主催するような公園等の清掃や環境整備が、また小学生の集団登校の見守り等もある。いずれも戸外で、マスクはしても比較的遠慮なくしゃべれる。また社会的な交流ができる。さらには自分のした仕事に対して、感謝や労いの言葉が向けられるところが重要である。お金ではない、こうした報酬が運動量を促すかもしれない。参考1)Sogstad M, et al.Health Serv Insights. 2020 Jun 8;13:1178632920922221.2)Rostad HM,et al.J Med Internet Res. 2021 Aug 16;23:e22316.3)アイラ株式会社プレスリリース

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血管収縮作用を伴わない経口片頭痛発作治療薬「レイボー錠50mg/100mg」【下平博士のDIノート】第95回

血管収縮作用を伴わない経口片頭痛発作治療薬「レイボー錠50mg/100mg」今回は、セロトニン(5-HT)1F受容体作動薬「ラスミジタンコハク酸塩錠(商品名:レイボー錠50mg/100mg、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、5-HT1F受容体に選択的に作動する世界初のジタン系薬剤であり、血管収縮作用を伴わないことから、従来の片頭痛発作治療薬が使えなかった患者への効果も期待できます。<効能・効果>本剤は、片頭痛の適応で、2022年1月20日に承認されました。<用法・用量>通常、成人にはラスミジタンとして1回100mgを片頭痛発作時に経口投与します。ただし、患者の状態に応じて1回50mgまたは200mgを投与することができます。頭痛の消失後に再発した場合は、24時間当たりの総投与量が200mgを超えない範囲で再投与可能です。なお、本剤は片頭痛発作時のみに使用し、予防的には使用できません。<安全性>片頭痛患者を対象とした日本人および外国人の臨床試験(併合)において、本剤の服用後48時間以内に発現した副作用は、評価対象4,625例中1,884例(40.7%)に認められました。主な副作用は、浮動性めまい863例(18.7%)、傾眠317例(6.9%)、錯感覚276例(6.0%)、疲労201例(4.4%)、悪心200例(4.3%)、無力症107例(2.3%)、感覚鈍麻96例(2.1%)、筋力低下93例(2.0%)、回転性めまい89例(1.9%)などでした。なお、重大な副作用としてセロトニン症候群(0.1%未満)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、セロトニン受容体に作用して片頭痛を改善します。片頭痛発作が起こり始めたら、我慢せず早めに服用しましょう。発作の予防には使用しないでください。2.服用後にいったん片頭痛が治まり、もし再び痛みが戻ってきた場合、再度このお薬を服用することができます。その場合は、24時間で合計200mgを超えないようにしてください。3.眠気、めまい等が現れることがあるので、本剤服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事しないようにしてください。4.この薬は苦味を感じることがあるため、噛んだり割ったり砕いたりせず、そのまま服用してください。5.飲酒によって鎮静作用などが強まる可能性があるので、ご注意ください。 <Shimo's eyes>本剤は、血液脳関門を通過し、5-HT1F受容体に選択的に結合する世界初のジタン系薬剤です。中枢での疼痛情報の伝達を抑制し、末梢では三叉神経からの神経原性炎症や疼痛伝達に関わるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やグルタミン酸などの放出を抑制することで、片頭痛発作に対する作用を示すと考えられています。現在、片頭痛の急性期治療薬として、軽度~中等度の片頭痛発作に対してはアセトアミノフェン、NSAIDsなどが使用され、中等度以上の片頭痛発作に対してはトリプタン系薬剤などが使用されています。2000年以降、トリプタン系薬剤の登場により画期的に進歩しましたが、トリプタン系薬剤は有効性を示さない症例も認められます。また、トリプタン系薬剤の持つ血管収縮作用により、脳梗塞や心筋梗塞、血管狭窄などがある脳血管疾患の患者には禁忌となっています。これに対し、本剤は血管収縮作用を示さないことから、脳心血管疾患の既往または合併症を有するなどでトリプタン系薬剤が使えなかった片頭痛患者にも使用できます。効果発現は投与30分~1時間後と比較的早期であり、服用24時間後の頭痛消失の持続において、プラセボ群との間に有意差が認められました。また、片頭痛患者を対象とした外国第III相CENTURION試験において、トリプタン系薬剤では効果不十分であった患者集団で服用2時間後に頭痛消失および頭痛改善が認められた割合は、本剤投与群とプラセボ群との間に有意差が認められました。一方で、本剤は中枢神経抑制作用を有することから、とくに高齢者では浮動性めまい、傾眠などによる転倒に注意が必要です。また、本剤を服用中の飲酒は中枢神経抑制作用を強める恐れがあり、なるべく避けるべきでしょう。SSRIやSNRI、三環系抗うつ薬などのセロトニン作動薬やMAO阻害薬などは、セロトニン症候群の発症リスクから併用注意となっています。今後、脳心血管疾患を有する患者には本剤を使用し、中枢神経抑制作用を有する薬剤を使用している患者では、トリプタン系薬剤を考慮するなどの薬剤選択が考えられます。片頭痛は日常生活および社会活動に大きな支障を来す疾患のため、生活習慣の改善を踏まえたサポートを心掛けましょう。参考1)PMDA 添付文書 レイボー錠50mg/レイボー錠100mg

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医師の命狙う凶悪事件に何を思う【在宅医インタビュー】

 医師の命を狙った、卑劣な事件が相次いでいる。記憶に新しいところでは、今年1月27日、埼玉県ふじみ野市で、男(66)が死亡した母親の訪問診療を担当していた在宅クリニック関係者を自宅に呼び出し、散弾銃を発砲。担当医(44)を殺害したほか、同行していた理学療法士(41)に大けがを負わせた。男は自宅内に立てこもった末、殺人および殺人未遂容疑などで逮捕、送検された。さいたま地検は3月3日より鑑定留置を行い、男の刑事責任能力の有無などを調べている。 昨年12月には、大阪・北新地で、雑居ビル4階の心療内科・精神科の医療機関に、男(61)がガソリンを撒いて放火。中にいた医師やスタッフ、患者合わせて26人が殺害された。いずれの容疑者も、相識の医師らを巻き込み自殺を企図したとみられる背景が共通しており、「拡大自殺」などとも言われているが、後者は事件後に死亡しており、全容の解明は不可能になってしまった。 命を救ってくれる、あるいは治療により社会活動に適応できる状態にしてくれるはずの医師が、期待に応えてくれなかったことへの報いか、あるいは処罰感情か―。 こうした事件の報に触れるたびに、医師がみずからの身の安全を守ることと、応召義務を果たすことの難しさを感じる。また、何か事が起こるたびに安全マニュアルや設備点検の徹底が叫ばれるが、それは本質的な解決につながるのだろうかと疑問を感じていた。 社会を動揺させる事件が起きても、現場の在宅医は今日も担当する患者宅を訪問し、心療内科では疾患を抱える患者の診療に忙しい。しかし、その胸中では何を思っているのか。今回、匿名を条件に1人の在宅医に話を聞くことができた。前述のふじみ野市の事件で亡くなった鈴木医師と同年代。答えづらい内容の質問に対しても、慎重に言葉を選びながら真摯に応じていただいた。<今回取材した医師プロフィール>40歳(男性)の訪問診療医。麻酔科医として4年間の病院勤務の後、在宅診療所を設立。東京西部エリアにて、主に末期がん患者の終末期ケアや神経難病患者の訪問診療を行っている。◇◇◇ ふじみ野の事件で亡くなった鈴木 純一先生と直接の面識はなく、人となりも想像するしかできませんが、志をもって在宅医療に携わり、患者さんを大事に考えていらっしゃったということを報道などで見聞きし、そういう実直な人柄の先生がこのような事件で命を落とされたことは、同じ在宅医療に携わる同士として、ただただ悲しく、同時に憤りも感じました。 事件に対する一般の方たちの意見として、医師が亡くなった患者の弔問に行ったことについて疑問視するような声もありましたが、ケースバイケースだと思います。 当院では行っていませんが、規模の大きな診療所では、遺族会をつくり、家族を看取った後の精神的なケア(グリーフケア)をやっているところもあります。診療時はもちろん患者さんのケアが最優先ですが、在宅医療は同時に家族もケアしていくことになるので、そうしたつながりで、亡くなった後に線香を上げに行くということとイコールではないですが、弔問のようなことを絶対にしないということはないと思います。――患者が亡くなった時点で関係が断たれるということではなく、グリーフケアなどで引き続き関係性が継続することはあるということ? その通りです。当院では、亡くなった後ご家族と継続的に連絡を取ることはありませんが、夫婦のどちらかをお看取りしたことのご縁で、何年か後にその連れ合いの方から看てほしいと依頼されるケースもありますし、親族や知り合いの診療を依頼されることもあり、必ずしも完全に関係が切れるというわけではない。それは、在宅じゃなくても地域の診療所ではよくあることではないでしょうか。こういう事件があると、亡くなった患者家族と関わらないほうがいいという世論や、学会や関連団体の指針が出ることがあるかもしれませんが、本来、人と人との関係性なので、やみくもに規制すればいいわけではないと思います。 ただ、クレームを収めることを目的に弔問に行くのは危ないことだということは、改めて認識しました。あくまで報道を見聞きする範囲ですが、今回のケースに限って言えば、生前から関係性が良好で、とくに思い入れの強い患者さんだからというよりは、当初からトラブルを解決する目的の訪問だったように見受けられます。相手もそのつもりで待ち構えていて、結果的に重大な事件に発展してしまいました。 どうすれば防ぎ得たのか。私も100点の答えは持ち合わせていません。患者さんや、家族との関係性次第というところでしょうか。あとは対面する目的。今回のように、不満を持った遺族に呼び出されたような経緯であるならば、なおさら慎重な対応が必要なのだろうとは思います。――自身の診療経験で、実際に危害を加えられたり、危険を感じたりしたことはある? 自身で言うと、後になって納得がいかないというクレームを受けた経験はありますが、直接的な危害の経験はありません。見聞きする範囲ですが、医師に直接という人は少ないものの、看護師などに暴力を振るったとか、そういうケースはよく聞きますね。ただ、精神的に警戒した、ちょっと怖いなと思ったことはありました。明らかに精神的・医学的に異常を感じる方で、言っていること、考えることが噛み合わないケースです。だからといって具体的に何か危害を加えられたわけではないですが、やはりそういう場合はこちらも警戒するというか、物理的に背中を向けないで対面を心掛けるなど、そういうことは気を付けました。 私の場合、往診はまったくの1人。これは診療所によって大きく異なるところで、中には診療所付のドライバーや看護師がいて、常に複数人での往診ができるところもあります。訪問診療は、特別な事情がないかぎり診療所から半径16キロ以内と法的に決まっていますが、32キロ圏内というのはかなり広いです。1人ひとりに時間が掛かることもあり、私の場合は1日に平均8~10件を車で往診しています。麻酔科が専門というのもあり、末期のがん患者さんを多く診ています。それ以外には、ALSなどの神経難病、老衰、脳梗塞後の方なども。そういった事情もあり、入った時点で1年以内に亡くなる患者さんが多く、何年も診療が継続する方は少数です。診療所としては、年間で70人くらいの方をお看取りしていて、感覚としては、3ヵ月から半年というケースが多いように思います。――在宅を選ぶ方、選ばざるを得ない方とは? 人生の最期が視野に入ってきたとき、病院か家かと聞かれたら家を選ぶ人は多いです。ある程度家族がいて受け入れられる場合は、とくに家を望まれます。がん治療で急性期病院に通った後に家かホスピスかという選択になり、ホスピスを選びたいが相当な費用が掛かる。そういう経済的な理由もあって、家で最期を迎える人もいます。――整った条件で在宅を選ぶか、消去法として家を選ばざるを得ないという二極化している? それはあるかもしれないですね。でも、独居の患者さんを家で看取るというケースも多いですよ。看護師やヘルパーに毎日入ってもらって、それでも誰もいない時間帯に亡くなっているケースはもちろんありますが、孤独死で何日も発見されないというような最悪の状態にならずとも、家で最期を迎える方も多くいます。消去法的な選択肢であっても、家にいたいという方にとっては価値ある、有意義なことなのかなと。これは在宅医をやってみるまではわからなかったことです。――訪問診療では、患者さんや家族とどのようなコミュニケーションを? やはり、在宅のほうが家族も含めた密なコミュニケーションになってくると思います。ただ、これもやってみてわかったことですが、在宅医療というのは、完全に治るとか治すということより、家でいかにして苦痛を少なくして楽しく過ごせるかというところを手伝う側面が強いと思います。したがって、病を治すことよりも心身の状態のケアが在宅にはより強く求められる。それは病院でも診療所でも大切なことには変わりないのですが、患者のみならず、家族も含めて行うことが大事です。そうなると、医学的に妥当なこと、正しいこと以上に、最期を見据えた患者の思いに寄り添うことが大事になってくる。あくまで極端な例ですが、末期がんで余命も長くない患者さんが、酒やタバコを楽しみたいという思いがあれば、病院だと止められるのは当然だが、家ならばそれで1日、2日寿命が仮に短くなったとしても、好きな酒を飲み、タバコも吸っても構わないと考えます。もちろん、患者さんの望みを何でもやみくも聞くというわけではないし、そうした望みを患者さんが持っていることを家族に丁寧に説明することも大事です。私は在宅医歴10年くらいですが、やっていく中で1つひとつ気付いて軌道修正を加えて行った感じで、当初はちょっと慣れないところもありました。在宅の中でも、厳格な先生はもちろんいらっしゃいます。そこは、患者さんとの関係なども含めた総合的な判断、ケースバイケースです。私自身は、患者さんが家で過ごす時間をいかに楽しく有意義にできるかというところが、1日でも1分でも長く命を生かすことより大事だと思うので、ある程度楽しく過ごせるように緩めるところは緩めるという考え方ですね。――在宅であっても医療は医療として、患者や家族からの期待感があると思う。それに対する責任は重くない? たしかに重い部分もありますが、家族と頻回に顔を合わせているからこそ、患者さんが弱っていくことを徐々に受け入れていってもらい、最期の看取りの瞬間に着地することができる。もちろん、頻回に顔を合わせているからこそのしんどさはあるけれど、逆にあまり会わずにコミュニケーションも少ない中で残念な結果になった場合のしんどさもあるので、どちらがいいとも言えないですね。――看取りを多く経験して、先生自身が患者さんの死に対する「慣れ」を自覚することは? 正直なところ、それはあると思います。とくに在宅を始めた最初のころの看取りの気持ちを考えると、今は自分の中でも冷静で、気持ちがそれほど乱れることもないし、看取りをすることに慣れてきているという自覚はあります。ただ、ご遺族にとっては唯一の関係性の肉親であったり家族であったりする人との別れです。そういう中で掛けるべき言葉は慎重に選ぶように心掛けています。それもやはり患者さん1人ひとり、それぞれの家族との関係性によります。基本的には、家族の方が看取りをやり切ったと思える気持ちになるよう前向きな言葉掛けを意識しています。――自宅を訪問すると、その家が抱えている問題なども見えてくるのでは? なかなかうまく社会的な関わりを持てないご家族や患者さんはたしかにいらっしゃいます。在宅はチーム医療の側面が大きく、ケアマネや訪問看護師も関わってくるので、実務的な部分では訪問看護師のほうが、訪問頻度が高いです。普段の話し相手という部分ではケアマネの役割もとても大きい。皆でみて、精神的なケア、悩みを一緒に解決することは多いです。ただ、そこからはみ出してしまう人もいて、相手側からもう関わらないでほしい、来ないでほしいと拒絶されるケースはある。そういう形で、訪問が続かなくなるケースも少なくありません。 いずれにしても、お宅に入ってみて初めてわかることですが、社会的関わりのみならず、家庭内の人間関係も成り立っていない、破綻しているご家庭も少なからずある。そういった場合は、ケアマネなどと連携しながらあらゆるアプローチは試みてはみるものの、結局は受け入れられずにみずから関係を断って、支援の枠から飛び出してしまう方は少なくないというのが実感です。 家族関係のケアはとくに難しいです。医療者として訪問して、どこまで踏み込んでいいのか迷うし、入って来るなと拒絶されることで、医療的にもケアできなくなってしまうのは本末転倒なので。――今回の事件を巡り、メディアではさまざまな課題が提起された。危機管理対策や、そのための人員確保やマニュアル整備、また、そもそも在宅医療に携わる人員不足に言及する内容も。在宅医として、この事件に対するメディアや世間の捉え方に対し思うことは? 何より、鈴木先生を悼み、故人の尊厳がきちんと守られていたのは妥当だと思いました。先生の人柄がよく、ただそれが故に理不尽にも凶弾に倒れてしまったという内容がほとんどでした。ゴシップ的な記事だと、襲撃された側にも問題があったのではないかというような、無関係なことまで根掘り葉掘り書かれるようなものもあったりしますから。ただ、在宅医が足りないというような視点は…半分は正しく、半分は当たっていないかもしれない。それを言えば、場所にもよるし、産婦人科医が足りないとか、離島には医師そのものが足りないという事情もあるので、在宅医だけがことさら不足しているという論調はどうなのかな、とは思います。たしかに十分ではないですが、この事件に絡めて論じる問題ではないかな。 安全対策が手薄だったから起きたという報道もありました。これも、在宅医療に携わるすべての人が、より手厚く安全が守られるようになればいいなと思う反面、例えば、警備スタッフのような人が同行したとしても、いきなり攻撃されたのでは避けられないケースもあります。 病院、診療所、在宅、いずれも同じようなリスクは常にあると思います。ただし、相手のホームに入っていく以上、その分のリスクの高さはたしかにあるのでしょう。ならば、訪問をやめれば安心かというと、そういうものでもない。それはもう臨床をやっている以上は逃れられないことです。私としては、あるかもしれない危険にどう備えるかというところを考えるしかないかなと思います。 たとえば警察官同行のような強い実効力があるルール整備をしたら解決なのか―。ちょっと極端かもしれませんが、一時期ストーカー規制が叫ばれ、さまざまな法整備も進められてきましたが、現実を見ると、それでも結局命を失うケースが後を絶ちません。医療におけるルール、法整備もそれと似ている部分があると思っていて、完全に犯行を実行しようと相手が決意をしたら、なかなかその危害を未然に防ぐことは難しいというのが現実だと考えます。患者とは一切接触しないオンライン診療のみに振り切るとか、患者との対面頻度を極端に減らして、大勢の目がある中でしか診療しないとか、そこまでやれば防げることもあるかもしれませんが、現実的ではない。在宅をやっている以上、調子が悪いと連絡を受ければすぐに往診するし、物理的なルール、マニュアル整備では難しく、いかに人間関係を構築するかということや、こういう人は高リスクと、より注意をして対応することで、少しでも可能性のパーセンテージを減らすことに尽きると思うのです。 ちょっと飛躍的かもしれませんが、議論を突き詰めていくと、この国における死生観というところと関連があるのではないかと私は考えます。ある程度年老いて衰えてくると、死は避けられない、仕方のないことなのだということを、もっと社会や政治が考えることが大事なのではないかと思うのです。医療が進展し、健康寿命が延びることは喜ばしいけれども、医療費の問題もさらに加速するでしょう。豊かな人はどんどん医療を受け、貧しい人は諦めざるを得ないという格差も、より拡がるかもしれない。死が理不尽なものと考えれば、「拡大自殺」という形で他者を巻き込んだ攻撃にもなってしまう。しかし、どんな人であっても避けることはできず、等しく訪れる「死」というものに対し、どう向き合うのかということは、社会全体でもっと真剣に考えてもいいのではないかと思います。そして、生きた長さよりも、心の充足、どういう人生を生きたかというところを重視することを、医師も考えながら医療をしたほうがいいのではないかと―。在宅医療に従事する中で、私はそう強く思うようになりました。

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高齢者に対するベンゾジアゼピン使用の安全性

 高齢者に対するベンゾジアゼピン(BZD)使用については、とくに長期使用に関して、各ガイドラインで違いが認められる。カナダ・トロント大学のSimon Jc Davies氏らは、高齢者に対する継続的または断続的なBZD使用に関連するリスクの比較を、人口ベースのデータを用いて実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2022年2月1日号の報告。 医療データベースよりBZDの初回使用で抽出されたカナダ・オンタリオ州の66歳以上の成人を対象に、人口ベースのレトロスペクティブコホート研究を実施した。初回使用から180日間の継続的および断続的なBZD使用は、性別、年齢、傾向スコアでマッチ(比率1:2)させ、その後最大360日フォローアップを行った。主要アウトカムは、転倒に伴う入院および救急受診とした。アウトカムのハザード比(HR)は、Cox回帰モデルを用い算出した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、継続的なBZD使用患者5万7,041例およびマッチさせた断続的なBZD使用患者11万3,839例。・フォローアップ期間中の転倒に伴う入院および救急受診率は、継続的なBZD使用患者で4.6%、断続的なBZD使用患者で3.2%であった(HR:1.13、95%信頼区間:1.08~1.19、p<0.0001)。・股関節骨折、入院および救急受診、要介護による入院、死亡などのほとんどの副次的アウトカムリスクは、継続的なBZD使用患者で有意に高かった。手首の骨折では、有意な差は認められなかった。・BZD使用量の調整により、HRへの影響を最小限に抑制することが可能であった。 著者らは「継続的なBZD使用は、断続的なBZD使用と比較し、BZD関連の有害リスクが有意に上昇することが示唆された。有害リスクの評価は、BZDの使用期間が症状に対する合理的な選択肢であるかを検討するうえで、患者および臨床医の意思決定に役立つ可能性がある」としている。

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