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小児の創傷処置【すぐに使える小児診療のヒント】第6回

小児の創傷処置子供は日々、転んだりぶつけたりして小さなけがを繰り返します。診療所で出会う「擦り傷」「切り傷」は一見軽症に見えることもありますが、保護者の不安は強く、処置や家庭での経過観察の仕方について「どう説明すべきか」と迷うことは少なくありません。症例5歳、男児。公園で走って遊んでいたら転倒して前額部に創傷を負ったため、受診。父親「血が出ていてびっくりしたので、とりあえず絆創膏を貼ってきました。消毒したほうがよいでしょうか?」小児の創傷処置の基本1.消毒は不要かつては「まず消毒」というのが常識でした。しかし、アルコールやヨードは殺菌効果を有する一方で、健常な細胞まで障害し、創傷治癒を遅らせることが知られています。NEJMの総説(Singer, 2008)でも一般的な創傷に対して消毒は推奨されておらず、流水による十分な洗浄が最も重要です。2.乾燥ではなく湿潤環境「かさぶたを作って自然に治す」という従来の考え方は、実は治癒を遅らせ、瘢痕も残りやすいことが明らかになっています。湿潤環境を維持すると血管新生やコラーゲン合成が促進され、その結果、上皮化が進み早く治癒します。疼痛が少なく、創面がきれいに治ることも多くの臨床試験で示されています。創面は適切な被覆材で覆い、乾燥させないことが原則です。3.基本的に抗菌薬は不要小さな創傷には必ずしも抗菌薬を投与する必要はありません。むしろ耐性菌リスクや副作用の観点から投与すべきではないとも言えます。ただし、動物咬傷や深い創傷、汚染創では抗菌薬の投与を検討します。また、破傷風リスクの評価も重要です。三種・四種・五種混合ワクチンには、破傷風ワクチンが含まれています。母子手帳を確認してワクチン歴が不明・不十分であれば破傷風トキソイドの接種を考慮します。■破傷風トキソイド・免疫グロブリン製剤の投与基準■破傷風リスクの評価低リスク汚染がなく小さい創傷高リスク土壌や糞便・唾液で汚染されたもの、動物咬傷、熱傷、刺傷、挫滅創、皮膚欠損を伴うものなど縫合や特別な処置が必要な創傷の見分け方「この創は縫合すべきか」は診療の現場で迷いやすいポイントです。以下に、縫合や病院への紹介を考慮すべき目安をまとめます。圧迫しても止血が得られない皮膚の離開を伴う(寄せても傷口が自然に開いてしまう)皮弁や段差を伴う関節に及ぶ深い創、筋膜や脂肪層が露出している顔など整容上重要な部分汚染が強く、十分な洗浄が難しいガラス片や砂利など皮下異物が疑われる爪床損傷基本的に皮下に達する場合は縫合が必要になることが多いです。また処置の「Golden period」の目安は四肢では6~10時間程度、頭皮や顔面では24時間程度とされています。それを超えてはならないというほど厳密なものではありませんが、受傷から時間が経つと縫合が難しくなったり、縫合した場合の感染リスクが上がったりしてしまうため、迷う場合は早めの処置または紹介が望ましいでしょう。一方で、手技として縫合が可能であっても、創が大きい・複雑な形状・強い汚染を伴う場合、縫合が難しい部位(眼瞼、耳介、口唇、陰部など)、体動の抑制が難しく安全に処置できない場合は、より専門的な施設に紹介したほうが安心です。小児では鎮静下での処置が必要となるケースもあり、施設ごとの体制などに応じて判断することが大切です。紹介先については、小児専門病院が近くにない地域では、形成外科医院、または形成外科や救急科を有する総合病院などへの紹介が現実的です。地域の医療資源に応じて適切な連携先を把握しておくことが望まれます。紹介の際には「受傷からの時間」「洗浄の有無」「止血の状態」を伝えると、2次施設での処置が円滑になります。被覆材の種類と使い分け被覆材は「創傷を乾燥させない」ためのものであり、滲出液の量や部位に応じて選ぶことが多いです。保護者には「貼りっぱなしではなく、1日1回は観察し、汚れたり剥がれたりしたら交換してください」と伝えるとよいでしょう。一般的な絆創膏:浅い擦過傷や小切創に。最も身近。乾燥はしやすい。フィルム材(例:オプサイト):滲出液が少ない浅い創に。透明なので観察はしやすい。ハイドロコロイド材(例:デュオアクティブ):滲出液の多い擦過傷や浅い潰瘍に。滲出液を吸収すると親水性ゲルになり、創面に固着せず湿潤環境を維持できる。疼痛も少ない。柔軟なので指尖部や鼻翼など凹凸のある部位にフィットしやすい。アルギネート材(例:カルトスタット)やハイドロファイバー材:滲出液が多い創に。吸収性に優れる。止血効果もある。ガーゼ+ワセリン:固着を防ぐ。ガーゼは非固着性のもの(例:デルマエイド)を使用するとよりよい。冒頭の症例では、まず創部を流水で洗浄しました。創部の離開はなく、擦過傷で縫合の必要性はありませんでした。滲出液が多かったためハイドロコロイド材で被覆し、経過観察を指示しました。四種混合ワクチンの定期接種が完了していたため、破傷風トキソイドも不要と判断しました。保護者への説明の工夫子供がけがをして受診する保護者の多くは、「痛がっていてかわいそう」「この傷はきれいに治るのだろうか」「傷跡が残ってしまわないか」「自分が目を離していたせいではないか」と、不安や自責の気持ちを抱えて来院します。だからこそ、どんなに小さな傷でも傷の状態を的確に評価し、適切なケア方法をわかりやすく伝えることが非常に重要です。説明の際には、保護者を責めるのではなく、まずは「見せに来てくれてありがとうございます」と声をかけることで、安心感を与えることができます。こうした一言が、その後の信頼関係を築く大切なきっかけになるように感じます。まとめ小児の創傷処置において大切なのは、1.消毒ではなく流水洗浄2.乾燥ではなく湿潤環境3.抗菌薬は原則不要、咬傷や汚染創では適応を判断4.処置が必要と考えられる症例はためらわず紹介5.被覆材は創の性状に応じて選択保護者が根拠に基づいたケアを実践できるように説明するとともに、縫合や特殊処置が必要な場合は迅速に紹介する必要があります。子供のけがは日常の中でなかなか避けられない出来事ですが、適切な初期対応と説明によって、子供と保護者双方の安心につなげることができます。次回は、食物蛋白誘発胃腸炎(消化管アレルギー)についてお話します。 1) Singer AJ, et al. N Engl J Med. 2008;359:1037-1046. 2) Junker JP, et al. Adv Wound Care. 2013;2:348-356. 3) Nuutila K, et al. Adv Wound Care. 2021;10:685-698. 4) Trott AT原著. 岡 正二郎監訳. ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード 原著第4版. 羊土社;2019. 5) Minnesota Department of Health:Summary Guide to Tetanus Prophylaxis in Routine Wound Management

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老年医学のトビラ

何となくではなく そろそろちゃんと勉強したい皆さん 5Mでひらく高齢者診療へようこそ目の前には常に高齢の患者さんがいます。老年医学の「トビラ」は、現在の高齢者診療の複雑な問題の象徴です。本書はこのトビラを開く鍵となる「5つのM」に沿って解説しています。5つのMとは、Mobility(身体機能)、Mind(認知機能・精神的側面)、Medications(薬剤)、Multicomplexity(複雑性・多疾患併存)、Matters Most(最も大切なこと)。これを軸に、転倒やせん妄、認知症、うつ病・不眠、薬剤、フレイル、尿失禁・便秘、さらに高齢者の「見えない」「聞こえない」「においがわからない」「食べられない」の訴えにアプローチしていきます。スクリーニング・予防,事前指示、ケアのゴール設定も含めて1冊で勉強できる、これが老年医学入門の「新定番」です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する老年医学のトビラ定価4,840円(税込)判型A5版頁数276頁発行2025年8月監修山田 悠史ご購入はこちらご購入はこちら電子版はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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厳格な血圧コントロールは心臓の健康だけでなく費用対効果も改善

 厳格な血圧コントロールは心血管疾患のリスクが高い患者の健康だけでなく、医療費の費用対効果にも良い影響をもたらすことが、新たな研究で示された。収縮期血圧(SBP)の目標値を120mmHg未満に設定することは、それよりも高い目標値を設定する場合と比べて、より多くの心筋梗塞や脳卒中、心不全、そのほかの心疾患の予防につながるほか、費用対効果もより優れていることが明らかになったという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のKaren Smith氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に8月19日掲載された。 論文の筆頭著者であるSmith氏は、「この研究は、心血管リスクが高い患者やその診療に当たっている医師にとって、厳格な血圧目標値の達成に向けて取り組むことにさらなる自信を与えるはずだ」とマス・ジェネラル・ブリガム(MGB)のニュースリリースの中で述べている。また同氏は、「われわれの研究結果は、SBPが120mmHg未満という厳格な目標値が、より多くの心血管イベントを予防し、かつ費用対効果も優れていることを示唆している。さらに、このことは測定値が必ずしも完璧でない場合でも当てはまる」と説明している。 現行の血圧管理のガイドラインでは、SBPが130mmHg以上の場合を高血圧と定義している。米国心臓協会(AHA)によると、正常血圧はSBPが120mmHg未満であり、120~129mmHgの場合は血圧上昇とされている。 Smith氏らはこの研究で、画期的な臨床試験として知られるSystolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)などの既存の臨床試験や文献のデータ(2013~2018年)を収集・統合した。その上で、そのデータを用いて、50歳以上の心血管疾患のリスクが高い患者がSBPの目標値を、1)120mmHg未満、2)130mmHg未満、3)140mmHg未満に設定した場合の生涯にわたる心臓の健康リスクをシミュレーションした。また、降圧薬による重度の副作用のリスクや、日常的な血圧測定における一般的な誤差も考慮に入れた。 その結果、血圧測定値に誤差が含まれていても、SBPの目標値を120mmHg未満に設定する方が、130mmHg未満に設定する場合よりも多くの心血管疾患を予防できることが示された。一方、降圧の目標値をより厳格に設定することで、処方薬や通院回数が増え、医療費も高くなり、また転倒や腎障害、低血圧、徐脈など治療関連の有害事象の発生頻度も高まることが明らかになった。それでもなお、目標値を120mmHg未満に設定することは、目標値をより高く設定した場合と比べて費用対効果に優れていた。例えば、目標値を120mmHg未満とすることは、質調整生存年(QALY)1年当たり4万2,000ドル(1ドル147円換算で約617万円)のコストと関連していたが、この額は130mmHg未満を目標とした場合と比べてわずか1,300ドル(同約19万円)高いだけであった。 ただしSmith氏は、「降圧薬に伴う有害事象のリスクを考慮すると、厳格な血圧コントロールが全ての患者に適しているとは言えない」と述べ、慎重な解釈を求めている。さらに同氏は、「患者の希望に基づき、患者と医師が協力して適切な治療強度を見極めることが重要だ」と強調している。

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システム統合型の転倒予防プログラムは高齢者に有効か/JAMA

 世界的に高齢化が急速に進む中、医療資源に乏しい地域に居住する高齢者における効果的な転倒予防戦略のエビデンスは十分ではないとされる。中国・Harbin Medical UniversityのJunyi Peng氏らは、同国農村部の転倒リスクがある高齢者において、プライマリヘルスケアのシステムに組み込まれた転倒予防プログラムの有効性を評価する、12ヵ月間の実践的な非盲検クラスター無作為化並行群間比較試験「FAMILY試験」を実施し、転倒のリスクが有意に低減したことを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年8月25日号で報告された。128の農村で、バランス・機能訓練の転倒予防効果を評価 本研究は、2023年9月19日~11月15日に中国の4省128農村で被験者を登録して行われた(Harbin Medical Universityなどの助成を受けた)。これらの農村を、プライマリヘルスケアのシステムに統合された転倒予防介入として、参加者にバランス・機能訓練と地域参加型の健康教育を行う群(介入群)、または地域の積極的な関与がない通常ケアとして健康教育のみを行う群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 解析には、年齢60歳以上で、過去12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を経験、または転倒の懸念があると自己報告した2,610例(介入群[64農村]1,311例、対照群[64農村]1,299例)が含まれた。平均追跡期間は、介入群358.4(SD 31.5)日、対照群357.7(31.1)日であった。ベースラインの参加者全体の年齢中央値は70.0歳(四分位範囲:66.4~74.2)で、1,553例(59.5%)が女性だった。1年1回以上の転倒報告が有意に少ない 主要アウトカムである、介入後12ヵ月間に少なくとも1回の転倒を報告した参加者の割合は、対照群が38.3%(497/1,298例)であったのに対し、介入群は29.7%(388/1,308例)と有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.67[95%信頼区間[CI]:0.48~0.91、p=0.01)。 6つの副次アウトカムのうち、次の5つは対照群に比べ介入群で有意に良好であった。(1)1人年当たりの平均転倒件数:介入群0.8(SD 2.4)件vs.対照群1.4(3.5)件、率比(RR):0.66(95%CI:0.46~0.94)、p=0.02 (2)転倒による身体の損傷:15.2%vs.21.6%、OR:0.65(95%CI:0.48~0.88)、p=0.005 (3)30秒椅子立ち上がりテスト(CST:≦12回で転倒リスク上昇):10.4(SD 3.8)回vs.9.9(4.0)回、RR:1.06(1.02~1.09)、p=0.003 (4)4段階バランステスト(FSBT:徐々に難しくなる4つの姿勢をそれぞれ10秒ずつ保持。臨床的に意義のある最小差[MCID]の設定はない)のすべてを完遂した参加者の割合:33.7%vs.26.5%、OR:1.49(95%CI:1.20~1.84)、p<0.001 (5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア):0.89(SD 0.19)点vs.0.85(0.22)点、β:0.03(95%CI:0.02~0.05)、p<0.001 ただし、(3)30秒CSTは、MCID(2回)を満たさなかった。(5)QOL(平均EQ-5D-5Lスコア)は、高齢者の転倒予防のMCID(0.03点)を満たした。TUGテストには差がない もう1つの副次アウトカムであるTimed Up and Go(TUG)テスト(椅子から立ち上がって10フィート[3メートル]歩き、向き直って椅子に戻り座る一連の動作。所要時間≧13.5秒で転倒リスク上昇)では、機能的移動能力を評価した。平均所要時間は、介入群13.3(SD 4.6)秒、対照群13.2(5.6)秒(β:0.18[95%CI:-0.26~0.62]、p=0.42)であり、両群間に差を認めなかった(MCIDは2秒の短縮)。 著者は、「プライマリヘルスケアシステムへの転倒予防プログラムの統合が、中国農村部の高齢者の自己報告による転倒のリスクを有意に低減することが明らかとなった」「このバランス訓練と機能訓練、さらに地域参加型の健康教育から成る介入は、人口の高齢化と医療資源の制約の両方に直面する低・中所得国で拡大する可能性がある」としている。

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看護師の燃え尽きがインシデントを招く?データが示す実態【論文から学ぶ看護の新常識】第28回

看護師の燃え尽きがインシデントを招く?データが示す実態看護師の燃え尽き症候群(バーンアウト)が、患者の転倒や投薬エラーといったインシデントの発生と関連していることが、最新の大規模メタアナリシスで示された。Lambert Zixin Li氏らによる研究で、JAMA Network Open誌2024年11月4日号に掲載された。看護師のバーンアウトと患者の安全、満足度、ケアの質との関連:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、看護師のバーンアウトと、患者の安全、満足度、ケアの質との関連の大きさと、その調整因子を評価することを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。Web of Scienceなどの7つのデータベースを用いて、1994年1月1日から2024年2月29日までの研究を検索した。主な結果は以下の通り。32ヵ国、28万8,581名の看護師を含む85件の研究が対象となった。患者の安全への影響:看護師のバーンアウトは、患者の安全に関する以下の指標の悪化と関連していた。安全文化・風土の低下(標準化平均差[SMD]:−0.68、95%信頼区間[CI]:−0.83~−0.54)患者安全評価グレードの低下(SMD:−0.53、95%CI:−0.72~−0.34)院内感染の増加(SMD:−0.20、95%CI:−0.36~−0.04)患者の転倒の増加(SMD:−0.12、95%CI:−0.22~−0.03)投薬エラーの増加(SMD:−0.30、95%CI:−0.48~−0.11)有害事象や患者安全インシデントの増加(SMD:−0.42、95%CI:−0.76~−0.07)看護ケアの未実施の増加(SMD:−0.58、95%CI:−0.91~−0.26)(褥瘡の頻度との有意な関連はなかった)患者満足度への影響:看護師のバーンアウトは、患者満足度の評価の低下と関連していた(SMD:−0.51、95%CI:−0.86~−0.17)。(患者からの苦情や患者虐待の頻度とは有意に関連しなかった。)ケアの質への影響:看護師のバーンアウトは、看護師自身が評価したケアの質の低下と関連していた(SMD:−0.44、95%CI:−0.57~−0.30)。(標準化死亡率とは有意に関連しなかった。)関連の強さ:上記の関連は、看護師の年齢、性別、職務経験、地域によらず一貫しており、年数が経過しても持続していた。患者安全のアウトカムでは、バーンアウトの「個人的達成感の低さ」は、「情緒的消耗感」や「脱人格化」よりも関連が小さく、また「大学教育を受けた看護師」においても関連が小さかった。看護師のバーンアウトは、医療の質と安全性の低下、そして患者満足度の低下と関連していることが明らかになった。最新のシステマティックレビューとメタアナリシスから、看護師のバーンアウトが患者の安全、満足度、そしてケアの質に直接影響を与えることが明らかになりました。これは、看護師個人の情緒的消耗や脱人格化といった問題にとどまらず、医療現場における安全文化の低下、院内感染の増加、転倒、投薬エラー、看護ケアの未実施など、具体的なインシデントに直結することがデータで示されています。この「バーンアウトと、患者安全・満足度・ケアの質の低下」という重要な関連は、看護師の年齢や性別、職務経験、働く国や地域によらない、普遍的な課題であることが示されました。さらに、バーンアウトによる患者安全への悪影響は過去30年間改善されることなく続いており、ケアの質への悪影響は、時代と共に強まっているという深刻な実態も明らかになりました。これらの結果は、臨床現場でインシデントが増加している場合、その原因を看護師個人の問題として叱責したり、表面的な要因の追求だけで終わらせるべきではないことを示しています。むしろ、スタッフの精神的な疲労やバーンアウトが根底にある可能性をぜひ考慮してみてください。この視点を持つことで、問題への介入方法が大きく転換し、看護師のウェルビーイング向上だけでなく、患者さんへの安全で質の高いケアの提供に直接繋がることが、本研究でも示唆されています。さらには、本研究結果を通して、エッセンシャルワーカーである私たち看護師の労働環境や待遇の改善について、組織や行政が改めて考える一つのきっかけになることを願います。論文はこちらLi LZ, et al. JAMA Netw Open. 2024;7(11):e2443059.

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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終末期介護施設入居者の救急搬送や入院、多くは回避可能

 入院や救急外来(ED)受診は、介護施設入居者、特に重度の障害を抱えているか終末期にある人にとっては大きな負担となり費用もかさむ。しかし、介護施設入居者が病院へ搬送されることは少なくない。このほど新たな研究で、このような脆弱な状態にある介護施設入居者によるED受診の70〜80%、また入院の約3分の1は回避可能であった可能性のあることが示された。米フロリダ・アトランティック大学シュミット医科大学老年医学教授のJoseph Ouslander氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Directors Association(JAMDA)」7月7日号に掲載された。 Ouslander氏らは、終末期の介護施設入居者が入院に至った原因として多かったのは、肺炎、尿路感染症、敗血症であったが、介護施設での医療と管理の質がもっと良ければ、それらの入院は必要なかったはずだと主張している。同氏は、「これらの健康問題は、施設でのケアを改善するために実行可能な手段があることを明示している。既存のガイドライン、ケアパス、予防戦略を用いれば、これらの問題は適切に管理できる。適切なツールと人員を整えることでED受診や入院の多くは回避可能であり、入居者の苦痛と不必要な医療費の両方を減らすことができる」と述べている。 今回の研究は、264カ所の介護施設において12カ月間の質改善プログラムを実施することで潜在的に回避可能な入院(possibly avoidable hospitalization;PAH)やED受診を減らせるかを検討した研究データを二次解析したもの。対象は、重度の障害を持つ6,011人(重度障害群)と終末期状態にある5,810人(終末期群)の介護施設入居者であった。 解析の結果、重度障害群の34%はあらゆる原因による入院を1回以上経験しており、その3分の1はPAHの基準を満たすことが明らかになった。また、18%はEDを1回以上受診しており、そのうちの70%は潜在的に回避可能性だったと判断された。一方、終末期群の14%があらゆる原因による入院を1回以上経験しており、そのうちの31%はPAHの基準を満たしていた。また、8%はEDを1回以上受診しており、そのうちの80%は潜在的に回避可能だったと判断された。 PAHと関連した診断として多かったのは、肺炎やその他の感染症、息切れや呼吸不全、精神状態の変化であった。一方、潜在的に回避可能なED受診で多かった診断は、重度障害群では経管栄養チューブに関する問題、終末期群では転倒による外傷であった。 Ouslander氏らは、より明確な治療プロトコルとタイムリーな症状管理によって、こうした入院の多くは防ぐことができる可能性があると述べている。同氏らはまた、家族や入居者と医療に関する希望を伝えることも大きな違いを生む可能性があり、ケアに関する希望を文書化しておくことで危機的な状況下での意思決定を回避し、不必要な搬送を減らすのに役立つとしている。 Ouslander氏は、「PAHやED受診を減らすためには、介護施設スタッフの能力を強化し、熟練した医療責任者や臨床医の積極的な関与を確保しなければならない。これは、個人の努力だけで解決できるものではなく、介護施設、介護や医療の提供団体、そして政策立案者からの支援が欠かせない。実際的な国家レベルの人員配置基準、複雑なケアに対応できるより充実した施設のリソース、さらに最も脆弱な入居者に対する質の高い、患者中心のケアを支えるための報酬制度の構築など、大胆な改革が必要だ」と述べている。

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患者の“〇〇〇〇”で見極める、尿失禁、介入のタイミング【こんなときどうする?高齢者診療】第13回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回は高齢者診療で大切にしたい『5つのM』のうち、“身体機能(Mobility)”に関するテーマとして、尿失禁を取り上げます。まず考えてみましょう。この2つの症例、どちらに介入が必要でしょうか?症例A85歳女性 ADL自立。認知機能正常。独居。今までなかった外出中の尿漏れを訴えて来院。症例B75歳女性 進行したアルツハイマー型認知症。夫・子どもたちによる在宅介護。3年前から尿失禁あり。本人は尿漏れに気付くが不快感はない様子。ベッド・床・衣服などを工夫しシーツや衣類の取り換え回数は最小限で済んでいる。皮膚荒れはなく、家族も尿失禁のケアに慣れたといっている。2つ目のM-身体機能の中で、尿失禁はきわめて重要な項目です。答えを急がず、まずは尿失禁の重要性とアセスメントのポイントを確認していきましょう。尿失禁、軽視してはいけない3つの理由尿失禁は「自分の意思とは関係なく、または意思に反して尿が漏れること」です。高齢者診療において、尿失禁に注目すべき理由は以下の3つです。ひとつめは、高い頻度です。尿失禁は排泄機能障害のなかで最もコモンで、65歳以上の女性では約30~50%が何らかの形で尿失禁を経験しているといわれています。ふたつめは、患者のQOLに与える深刻な影響です。例えばADLが自立している高齢者では、尿失禁を心配して外出が億劫になると、活動量の低下につながります。抑うつを助長したり、転倒リスクを高めたりする可能性もあります。認知症患者では、尿失禁による不快感をうまく言葉で表現できないため、不穏やせん妄につながることもあります。最後に、見落とされやすい失禁症状です。医師が診察で聞きそびれていることが多く、簡易高齢者アセスメント「DEEP-IN」では、“失禁(Incontinence)”が独立した評価項目となっています。効果的な問診のコツ:ノーマライゼーションの視点と失禁の時間軸尿失禁について話しにくいと感じる患者・聞きにくいと感じる医療者双方のハードルを下げるコツは、「誰にでも起こりうること」として扱うノーマライゼーションの視点を持つことです。問診にノーマライゼーションを取り入れると「尿漏れは若い方にもとても多いのですが、相談する機会がなく困っている方がたくさんいるようです。たとえば○○さんもお困りのことはありますか?」のようになります。このように聞くことで、本人の自尊感情への配慮も可能になります。失禁があることが問診で明らかになったら、次に重要なのは時間軸の把握です。聴取時は以下の分類を意識しましょう。新規発症の尿失禁長期継続している慢性の尿失禁急性増悪した慢性の尿失禁例えば、1日1~2回程度だった尿失禁が急に回数増加した場合、背後に特定の原因があることを疑う必要があります。治療可能な尿失禁を見逃さない:DIAPPERS鑑別高齢者の新しい症状は、まず薬の副作用を疑う。この原則は尿失禁でも同様です。薬剤以外の原因も含めて、以下の鑑別疾患をチェックしましょう。尿失禁の鑑別疾患 DIAPPERS画像を拡大する介入の見極めは、患者・家族が「ごきげん」かどうかDIAPPERSによる急性原因を除外しても尿失禁が続く場合、あるいは原因が除去できない場合に介入するかどうかを決めるポイントは、患者・家族・介護者が「ごきげんかどうか」です。ここで冒頭のクイズの答えに移りましょう。ここまで読んでくださった皆さんは、冒頭のクイズの回答がおわかりですね。Bの患者は“ごきげん”に過ごせているため、積極的な介入は不要と考えることができるのです。もちろん長期に繰り返す尿失禁では、陰部の清潔が保てなくなることや、褥瘡リスクが増加してしまうことがあるため、継続的なモニタリングは必要です。しかし、尿失禁があっても患者や周囲の人の負担が許容範囲に収まるようであれば、「無理に介入をする必要がない場合もある」という視点を持つことで、失禁診療の幅が広がります。一方、Aの患者は、尿漏れが主訴に挙がっている時点でごきげんではありません。DIAPPERSのような鑑別疾患の除外あるいは介入からはじめ、それでも尿失禁が続く場合は失禁があっても「ごきげん」でいられるようなケアを考えることが治療になります。その場合は、ごきげんでいられるために何が必要かをすり合わせるために、何がその方にとって大切なのか、耐えられること、耐えられないことといった、価値観や優先順位(Matters Most)を丁寧に聞き取ることから始めましょう。 ※今回のトピックは、2022年6月度、2023年度3月度、2024年4月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。より詳しい解説、実際のケースディスカッション、Dr.樋口との質疑応答は、CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でご覧いただけます。

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画期的AI活用法!【Dr. 中島の 新・徒然草】(593)

五百九十三の段 画期的AI活用法!8月7日の立秋を境に、厳しい暑さが少し和らいできました。まもなく迎える終戦記念日は、戦後80年の節目でもあります。太平洋戦争をアメリカ側から見れば、真珠湾への奇襲攻撃を行った日本を正義の鉄槌で無条件降伏させ、占領後に民主国家へと生まれ変わらせた……そんな「美しい物語」ではないでしょうか。しかし、日本には日本の正義があったはず。敗者になったがために戦勝国に言われ放題なのは、やはり複雑な思いがあります。とはいえ、これはあくまでも私の感じていることであり、他の人に自分の考えを押しつけるつもりは毛頭ありません。ただ一つ心掛けたいのは、あの戦争で命を落とした先祖に恥じない生き方をしなくては、ということです。さて、本題の「画期的AI活用法」に移ります。私は以前からChatGPTを利用してきましたが、最近になって臨床現場での非常に有効な使い方を見つけました。それは、薬剤処方のチェックです。高齢患者に10種類前後の薬を処方することは珍しくありません。いわゆるポリファーマシーですね。しかし多剤併用には大きく2つの課題があります。1つは薬物相互作用による副作用リスク。たとえば10種類の薬なら、2剤間の組み合わせは10C2=45通りにものぼります。もう1つは、副作用が疑われた際に原因薬を特定する難しさ。外来の限られた診察時間内でこれを突き止めるのは、きわめて困難です。ここでAIの出番!たとえば、ある80代男性(架空症例)に以下の薬を処方していたとします。アムロジピン、ワルファリン、アトルバスタチン、メコバラミン、ソリフェナシン、ゾルピデム、プレガバリン、レボドパ・ベンセラジド、ブロモクリプチン、ミコナゾールChatGPTに「この中でリスクの高い薬剤の組み合わせは?」と尋ねると瞬時に以下の回答が返ってきました(簡略化しています)。高リスクワルファリン+ミコナゾール(重篤な出血リスク)中リスクゾルピデム+プレガバリン(転倒・せん妄・呼吸抑制)、ゾルピデム+レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(認知機能悪化・転倒)、ソリフェナシン+パーキンソン薬(便秘・尿閉・せん妄)実際、私はワルファリン+ミコナゾールで口腔内出血や血尿を来した症例を経験したことがあります。次に「この患者さんの言動が急におかしくなって薬剤有害事象を疑った場合の被疑薬をリスクで順位付けしてください」と尋ねると、これまた即座に以下の結果が返ってきました。1位:ゾルピデム(せん妄・幻覚・記憶障害)2位:プレガバリン(めまい・傾眠・意識変容)3位:レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(幻覚・妄想・衝動制御障害)4位:ソリフェナシン(せん妄・記憶障害)5位:ワルファリン+ミコナゾール(脳出血による意識変容)これらの副作用は私も実際に経験したことがあり、いずれも薬剤中止によって改善しました。プレガバリンやソリフェナシンの中枢神経症状は意外に思われるかもしれませんが、私はそれぞれ複数症例で見たことがあります。なので決して珍しいものではありません。また、このように被疑薬の候補が多い場合でも、症状出現と薬剤開始の時期を照らし合わせることによって、絞り込むことが可能かと思います。このような形でAIを使う時に注意すべきは、薬剤名を商品名でなく一般名で入力すること。商品名で試してみると、似た名称のまったく異なる薬が他国にあるためか、しばしば見当外れの答えが返ってきたからです。ということで、ポリファーマシーが避けられない現代、AIは非常に心強い味方ですね。読者の皆さまも、どうぞご活用ください。最後に一句 盆来たる AI我らの 戦友ぞ

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1日7,000歩で死亡リスクが半減!?

 ウォーキングが健康に良いことが知られているが、具体的な歩数についてはさまざまな報告があり、明確な目標値は定まっていない。そこで、オーストラリア・シドニー大学のDing Ding氏らの研究グループは、成人の1日の歩数と死亡や疾患の発症、健康アウトカムとの関連を検討することを目的として、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、1日7,000歩でも死亡リスクが低下し、心血管疾患や認知症などの疾患の発症リスクも低下することが示された。本研究結果は、Lancet Public Health誌2025年8月号で報告された。 研究グループは、PubMedおよびEBSCO CINAHLを用いて、2014年1月~2025年2月に発表された文献を検索した。そのなかで、1日の歩数と死亡、心血管疾患(発症・死亡)、がん(発症・死亡)、2型糖尿病発症、認知症発症、うつ症状、身体機能、転倒との関連を検討した前向き研究を抽出した。57研究(35コホート)が抽出され、そのうち31研究(24コホート)をメタ解析に組み入れた。1日2,000歩を対照とし、歩数増加に伴う各アウトカムのリスクの変化を評価した。 主な結果は以下のとおり。・1日2,000歩を対照とした場合、1日7,000歩の歩行により、死亡やさまざまな疾患の発症、健康アウトカムのリスクが低下した。詳細は以下のとおり(ハザード比[95%信頼区間]、エビデンスの確実性を示す)。 死亡:0.53(0.46~0.60)、中程度 心血管疾患発症:0.75(0.67~0.85)、中程度 心血管死:0.53(0.37~0.77)、低い がん発症:0.94(0.87~1.01)、低い がん死亡:0.63(0.55~0.72)、中程度 2型糖尿病発症:0.86(0.74~0.99)、中程度 認知症発症:0.62(0.53~0.73)、中程度 うつ症状:0.78(0.73~0.83)、中程度 転倒:0.72(0.65~0.81)、非常に低い・死亡、心血管疾患(発症・死亡)、がん死亡、認知症発症、転倒のリスクと歩数の関連は非線形であり、歩数増加に伴うリスク低下の効果は、1日5,000~8,000歩程度で鈍化する傾向がみられた。・がん発症、2型糖尿病発症、うつ症状のリスクと歩数の関連は線形であった。 著者らは、本研究結果について「1日7,000歩という歩数は現実的な目標であり、調査したほとんどの健康アウトカムのリスク低下と関連した」とまとめた。

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アルコールを一滴も飲んでいないのに「飲酒運転」で逮捕【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第287回

アルコールを一滴も飲んでいないのに「飲酒運転」で逮捕46歳の健康な建設業者が2011年、拇指外傷の治療でセファレキシンを3週間服用しました。抗菌薬終了後まもなく、記憶障害、集中力低下、攻撃的行動が現れ、温厚だった彼は別人のようになりました。そして、2014年のある朝、彼は飲酒運転で逮捕されました。「アルコールは一滴も飲んでいない」と訴えましたが、血中アルコール濃度はきわめて高い結果でした。医療スタッフも警察も、「飲んでいない」という彼の言葉を信じませんでした。Malik F, et al. Case report and literature review of auto-brewery syndrome: probably an underdiagnosed medical condition. BMJ Open Gastroenterol. 2019 Aug 5;6(1):e000325.その後6年間、複数の専門医を受診しても原因は不明。症状悪化により転倒して頭蓋内出血を起こし、入院中も血中アルコール濃度が高い状態で変動していました。「隠れてお酒を飲んでいるんでしょう」と疑っている人も多かったそうです。転機は、叔母がインターネットで見つけた類似症例の情報でした。2015年、オハイオ州の医師を訪れた彼に、ついに「自動醸造症候群」の診断が下されました。―――自動醸造症候群(Auto-brewery syndrome)。聞いたことありますか? これは、摂取した炭水化物が腸管内の真菌によってアルコールに変換される、きわめてまれな疾患です。患者は文字通り「体内で酒を造る」状態となります。便検査により醸造酵母であるSaccharomyces cerevisiaeとSaccharomyces boulardiiが検出されました。炭水化物チャレンジテストでは、50g摂取後8時間で血中アルコール濃度が57mg/dLまで上昇。彼の腸内で文字どおり「酒造り」が行われていたのです。2017年の精密検査では、内視鏡で採取した腸管分泌物からCandida albicansとCandida parapsilosisも検出されました。複数の真菌が入れ替わりながら、継続的にアルコールを産生していた可能性が示唆されました。何らかの理由により腸内細菌叢が破綻し、通常は抑制されている酵母菌が胃や上部小腸で異常増殖したことが推察されます。摂取した炭水化物(米、パン、パスタ)が腸内の真菌によってアルコールに変換され、血中に吸収されて酔っ払うという症状を引き起こしていました。治療としていろいろな抗真菌薬が試されましたが、最終的に6週間のミカファンギン点滴により真菌は完全除去されました。治療後は、炭水化物摂取でも血中アルコール濃度は上昇しなくなりました。現在、彼は正常な食事を摂り、仕事に復帰しているそうです。めでたし、めでたし。というわけで、「体内で酒を造る人間」というSFのような病態があることを、私たちは知っておく必要があります。

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加熱式タバコの使用が職場における転倒発生と関連か

 運動習慣や長時間座っていること、睡眠の質などの生活習慣は、職場での転倒リスクに関係するとされているが、今回、新たに「加熱式タバコ」の使用が職場における転倒発生と関連しているとする研究結果が報告された。研究は産業医科大学高年齢労働者産業保健センターの津島沙輝氏、渡辺一彦氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に6月6日掲載された。 転倒は世界的に重大な公衆衛生上の懸念事項である。労働力の高齢化の進む日本では、高齢労働者における職場での転倒の増加が深刻な安全上の問題となっている。この喫緊の課題に対し、政府は転倒防止のための環境整備や、労働者への安全研修の実施などの対策を講じてきた。しかし、労働者一人ひとりの生活習慣の改善といった行動リスクに着目した戦略は、これまで十分に実施されてこなかった。また、運動習慣や睡眠などの生活習慣が職場での転倒リスクと関連することは、複数の報告から示されている。一方で、紙巻タバコや加熱式タバコなどの喫煙習慣と転倒リスクとの関連については、全年齢層を対象とした十分な検討がなされていないのが現状である。このような背景を踏まえ、著者らは加熱式タバコの使用と職業上の転倒との関連を明らかにすることを目的として、大規模データを用いた全国規模の横断研究を実施した。 本研究では、「日本における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS Study)」のデータを用いた。主要評価項目は過去1年間の職場における転倒、副次評価項目は転倒関連骨折とした。発生率と95%信頼区間(CI)は、ロバスト分散を用いた2階層のマルチレベル・ポアソン回帰モデルにより推定された。 本研究の解析対象は18,440人(平均年齢43.2歳)であり、女性は43.9%含まれた。全体のうち、7.3%が過去1年間に職場における転倒を経験し、2.8%で転倒関連骨折を報告していた。年齢や性別などの交絡因子、喫煙状況、飲酒習慣、睡眠といった行動因子を調整した結果、職場における転倒発生率は、現在喫煙している人の方が、非喫煙者より高かった(IR 1.36、95%CI 1.20~1.54、P<0.05)。この傾向は、加熱式タバコのみ使用している人(IR 1.78、95%CI 1.53~2.07、P<0.05)、紙巻きたばこと加熱式タバコの両方を使用している人(IR 1.64、95%CI 1.40~1.93、P<0.05)で顕著だった。転倒関連骨折においても同様の傾向が示された。その他の生活習慣では、極端な睡眠時間(0~5時間または10時間以上)、併存疾患(高血圧、脂質異常症、糖尿病)、睡眠薬または抗不安薬の常用、などが転倒発生率の上昇と関連していた。年齢別にみると、喫煙と転倒および転倒関連骨折との関連は若年労働者(20~39歳)で顕著だった。特に加熱式タバコを使用している若年層でこの傾向がより強くみられた。 本研究について責任著者である財津將嘉氏は、「本研究では、若年労働者においても加熱式タバコを含む喫煙が職場での転倒や関連骨折と関連していることが明らかとなった。実際に観察された転倒の半数以上は若年層で発生しており、従来高齢者に焦点が当てられてきた転倒予防策を、若年層にも広げる必要性が示唆された。若年労働者は転倒リスクの高い職場に配属されやすく、年齢や職場環境の影響を考慮することが重要である。また、禁煙を促すナッジ戦略も有効と考えられる」と述べている。

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第36回 重症熱中症には“Active Cooling”を!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識レベルと体温に注目し、重症度を瞬時に見極めよう!2)重症熱中症では、まず「冷やす」ことが最優先!3)冷却しながら、見逃してはいけない背景病態にも目を向けよう!【症例】74歳女性。自宅の庭で倒れているのを発見され救急要請。救急隊到着時、以下のようなバイタルサインであった。●受診時のバイタルサイン意識200/JCS血圧108/54mmHg脈拍128回/分呼吸25回/分SpO296%(RA)体温40.5℃既往歴不明内服薬不明熱中症2025今年は昨年を上回る勢いで熱中症が発生しています。梅雨がいつ明けたのかわかりませんが、とにかく暑く、気温の乱高下が激しく大変ですよね。電車内や屋内は、冷房の影響で寒く、外はうだるような暑さ、この差にも身体が堪え、これまで以上に身体に負担がかかっていることと思います。救急外来にも6月後半から熱中症患者が来院し、日に日に増加しています。多くの方は帰宅可能ですが、中には入院を要する重篤な転帰を辿る方もいます。暑熱順化が大切であり、熱中症を発症しないことが何よりも大切ですが、起こってしまった場合には然るべき対応を淡々と行うしかありません。そのためには、熱中症を早期に見抜き、重症度を見誤ることなく対応することが必要不可欠です。熱中症の重症度について「第33回 熱中症、初動が大事!」でも取り上げましたが、熱中症の重症度分類は従来の3段階から4段階へと変更されました(表1、2)1)。重要なポイントは、発生場所などの病歴から熱中症を早期に疑い、重症度の高いIV度やqIV度の症例に対して、迅速に介入することです。表1 熱中症の重症度分類画像を拡大する表2 熱中症の重症度分類(最重症群)画像を拡大する“Cool First,Transport Second!”重症度の高い熱中症に対しては、何よりも冷却が重要です。もちろん、バイタルサインを安定させることが最優先ですが、それと並行して積極的に冷却を行う必要があります。冷やした輸液を投与しただけで安心してはいけません。重症例では“Active cooling”が推奨されており、冷却輸液のような“Passive cooling”では効果が不十分とされています。最も効果的な冷却手段を選択し、迅速に実施することが求められます。冷却方法『熱中症診療ガイドライン2024』(日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会編)には、「CQ3-02:熱中症の治療において、いずれの冷却法が有用か?」というClinical Question(CQ)が提示されています。選択肢として、以下の10の方法が挙げられています。1)冷水浸水 (Cold water immersion)2)蒸散冷却法(Evaporative plus convective cooling)3)胃洗浄(Cold water gastric lavage)4)膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation)5)血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management)6)体外式膜型人工肺 (Extracorporeal membranous oxygenation:ECMO)7)腎代替療法 (Renal replacement therapy)8)ゲルパッド法による水冷式体表冷却(The Arctic Sun temperature management system)9)クーリングブランケット(Cooling blankets)10)局所冷却(Ice packs)このCQに対して、ガイドラインでは「熱中症診療における特定の冷却法について、明確な推奨は提示しない」と記載されています。その理由としては、特定の冷却法を支持する明確な根拠が乏しく、エビデンスの強さも十分ではないこと、また、それぞれの方法における有益性と有害性のバランスが明確でないと判断されたためです。では、どの冷却法を選べばよいのでしょうか。大切なのは、「安全に実施できること」および「自施設で対応可能であること」です。そうした手段を用いて最善を尽くすことが望ましいと考えられます。 私のお勧めは冷水浸潤(Cold water immersion:CWI)です。冷却効果が最も高く、スタッフが協力すれば安全に実施可能です(治療の詳細は後述します)。 たとえ体外式膜型人工肺(ECMO)や腎代替療法が理論的に有効であっても、すぐに準備できるわけではありませんし、これらは保険適用外である点も考慮が必要です。また、血管内体温管理療法は徐々に普及しつつあるものの、中心静脈穿刺が必要であり、治療コストも高いため、すべての医療機関で実施できるわけではありません。CWIの実際みなさんの施設では、CWIを実施しているでしょうか。手技自体はシンプルに見えますが、導入には意外と多くの準備や配慮が必要です。CWIとは、患者さんを水風呂のような冷水に浸し、体温を下げる方法です。 意識のはっきりしている若年者であれば、比較的容易に施行できますが、重症度の高い熱中症、とくに本症例のような高齢者の場合には、いくつか注意すべき点があります。(1)場の確保通常の診察室内での実施は困難です。CWIには専用のプールのような設備が必要であり、当院では空気で膨らませるタイプの介護用浴槽を使用しています。また、大量の水と氷を使用するため、水回りの環境も重要です。当院では、スペースと水の確保がしやすい除染室を使用しています。(2)人手の確保CWIが必要となるのは、重症度III~IV度の重篤な熱中症であり、気道管理を含む全身管理が必要となることが多く、人手を要します。医師や看護師を数名ずつ確保することが望ましいですが、手技の流れを理解しているスタッフであれば、医療職以外の協力も可能です。(3)深部体温のモニタリングqIV度では深部体温による重症度評価は必須ではありませんが、CWI中に過冷却を起こすリスクがあるため、深部体温(たとえば膀胱温など)をモニターしながらの介入が望まれます。(4)氷の確保水道水の温度は季節によっては高く、単独では十分な冷却効果が得られないことがあります。そのため、氷を用いて水温を下げる必要があります。あらかじめ準備手順を整備し、速やかに対応できるようにしておきましょう。クーラーボックスなどを常備しておくと便利です。(5)シミュレーションの実施CWIを年間に何十例も施行する施設はまれであり、個人単位でみると経験はごく少数に止まることが想定されます。そのため、実施機会に備えて事前にチーム全体でシミュレーションを行っておくことが重要です。毎年実施していても、その年の最初の1例目では混乱しやすいものです。新規スタッフの教育も兼ねて、定期的なトレーニングをお勧めします。※なお、当院ではCWIの実施に備えて定期的にシミュレーションを行っており、その様子を収めた簡易的な動画もあります。詳細な手技の解説までは含まれていませんが、実際の雰囲気をつかむには十分かと思いますので、ぜひご参考になさってください。早期に意識すべき3つの原因熱中症を疑うこと自体は比較的容易ですが、意識障害や体温の上昇が必ずしも熱中症だけを原因とするとは限りません。熱中症単独であれば、体温管理と輸液によって症状の改善が期待できますが、そもそも熱中症に至った背景に他の原因がある場合には、当然ながらその病態への介入が不可欠となります。 原因は多岐にわたりますが、まずは以下の3つを早期に意識しておくことが重要です。1)敗血症2)脳卒中3)外傷たとえば、敗血症により体動が困難となり熱中症を併発したケース、脳卒中を発症して動けなくなり熱中症を来したケース、あるいは熱中症による症状で転倒し、外傷を負った(あるいはその逆)ケースなど、救急外来ではしばしば遭遇します。これらのケースでは、抗菌薬の投与をはじめとした、それぞれの病態に応じた適切な対応が必要となります。 とはいえ、「原因検索を行ってから冷却を開始する」のでは遅すぎます。重症度の高い熱中症では、こうした原因を意識しつつも、冷却を迅速に開始することが求められます。CWIを実施することができれば、数十分のうちに目標体温に到達することも可能です。ぜひ実践してみてください。 1) 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2024

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ふくらはぎが細くなったら筋量減少のサインかも?

 骨格筋量の減少は中年期から始まり、加齢とともに進行する。筋量の低下は、高齢者における転倒やさまざまな疾患の発症リスクにつながるため、早期の発見と予防が重要である。今回、ふくらはぎ周囲長の変化で筋量の変化を簡易評価できるとする研究結果が報告された。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化は筋量の変化と正の相関を示したという。研究は公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏、早稲田大学スポーツ科学学術院の谷澤薫平氏らによるもので、詳細は「Clinical Nutrition ESPEN」に5月28日掲載された。 ふくらはぎ周囲長は高齢者の栄養状態や骨格筋量の簡便な指標とされているが、その変化と筋量変化との関連を直接検討した縦断研究は存在しない。そこで著者らは、日本人成人を対象に、2回のコホート研究のデータを用いて両者の関連を検証する縦断研究を行った。 解析対象は、2015年3月から2024年9月の間に計2回のWASEDA’S Health Studyに参加した40~87歳の日本人成人227名(男性149名、女性78名)とした。ふくらはぎ周囲長は立位で左右それぞれ2回ずつ計測し、その平均値を解析に用いた。また専用機器(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いて両腕両脚の筋量(四肢筋量)を測定し、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係を解析した。ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化との相関を評価するため、ピアソンの相関係数を算出した。さらに、年齢および肥満の影響を評価するため、対象者を年齢(中年〔60歳未満〕と高齢〔60歳以上〕)および体脂肪率(非肥満と肥満)で二分し、サブグループ解析を行った。 解析対象の平均年齢は男性が55±10歳、女性が51±7歳で、平均追跡期間は8.0±0.4年だった。ベースラインから追跡期間終了までのふくらはぎ周囲長と四肢筋量の平均変化量は、それぞれ-0.1±1.2cmと-0.7±1.0kgだった。ふくらはぎ周囲長と四肢筋量の変化量は男性および女性の両方で正の相関を示した(それぞれ相関係数r=0.71)。主要解析と同様に、年齢および肥満に基づくサブグループ解析においても、ふくらはぎ周囲長と四肢筋量との間に正の相関が示された(中年、高齢、非肥満、および肥満成人でそれぞれr=0.70、0.67、0.69、および0.72)。 本研究について著者らは、「本研究は、ふくらはぎ周囲長の変化と筋量変化の関連を世界で初めて縦断的に示した研究である。年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化には正の相関が確認された。ふくらはぎ周囲長のモニタリングにより、誰でも簡便に筋量の減少に気づける可能性が示唆され、サルコペニアの早期発見・予防につながる。筋量や筋力の低下はQOLの低下を招くが、年齢を問わず改善は可能であり、本研究は健康寿命の延伸に大きく貢献する知見となるだろう」と述べている。 本研究の限界については、解析対象が早稲田大学の卒業生とその配偶者に限られており、人口全体を代表していない可能性があること、サブグループ解析においては対象数が少なかったことなどを挙げている。

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高齢の日本人男性で腸内細菌叢がサルコペニアと相関か

 我々の腸内には、約1,000種類・100兆個にも及ぶ細菌が存在している。これらの細菌は、それぞれ独自のテリトリーを維持しながら腸内細菌叢(GM)という集団を形成している。近年では、GMが全身疾患と関連していることが明らかになってきた。今回、日本の高齢者を対象とした研究において、男性サルコペニア(SA)患者では、非SA患者に比べてGMのα多様性が有意に低下しβ多様性にも有意な違いを認めることが報告された。研究は順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科の浅岡大介氏らによるもので、詳細は「Nutrients」に5月21日掲載された。 SAは、加齢に伴い骨格筋量、筋力、身体機能が低下する病気だ。SAを患う患者は転倒、入院、死亡のリスクが高まるため、早期発見と適切な介入が不可欠となる。また、近年、SAの発症にはGMが関与することが示唆されている。GMの細菌構成が乱れた状態(ディスバイオシス)では、腸管透過性が亢進し、いわゆる「リーキーガット(腸管壁侵漏)」による炎症が引き起こされ、結果としてSAの進行につながっている可能性がある。日本人は独特な食習慣の影響で、他の集団とは著しく異なるGMプロファイルを持つことが知られている。しかし、特に高齢の日本人集団におけるGMとSAの関係については、まだ十分に解明されていない。このような背景から著者らは、アジアにおけるSA診断基準としては2019年に改訂された最新のアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)2019基準で診断された高齢者のSAとGMプロファイルとの関係を検討した。 本研究では、2022年6月から2023年1月にかけて、順天堂東京江東高齢者医療センター消化器内科に外来通院していた65歳以上の患者から採取した便検体を用い、前向きの横断研究を実施した。SAはAWGS2019診断基準に基づき、握力、歩行速度、DXA法による骨格筋量指数(SMI)に基づき診断された。GMプロファイルは16S rRNA遺伝子シーケンス解析を用いて解析し、(1)SAに関するGMのα多様性(個体内のGMでどの種がどの位均等に存在しているか)・β多様性(個体間のGMでどれ位多様性が異なるか)・性差、(2)SAに関連する腸内細菌属の占有率や検出率、(3)SMI、握力、歩行速度と腸内細菌属との相関を調査した。 本研究の最終的な解析対象は356名(男性144名、女性212名)であり、このうちSAは50名(男性35名、女性15名)含まれた。β多様性は男女間で有意に異なっていたため、性別によるサブグループ解析を実施した。その結果、男性のSA群ではα多様性のいくつかの指標が低かった(ディスバイオシスの状態)。男性のGMのβ多様性は、SA群と非SA群で有意な違いが認められた。一方で女性の場合は、α多様性およびβ多様性のいずれにも有意な違いは認められなかった。 次に、SAに関連する腸内細菌属の占有率を調べたところ、6種の細菌属(Eubacterium I、Fusicatenibacter、Holdemanella、Unclassified Lachnospira、Enterococcus H、Bariatricus)の腸内占有率が男性のSA群で低いことが明らかになった。一方で、女性のSA群と非SA群の細菌構成比に明らかな違いは認められなかった。スピアマンの順位相関係数を用いて、これらの細菌属と筋力に関連する指標との相関を調べたところ、男性の検体において、Unclassified Lachnospiraは握力と、FusicatenibacterおよびEnterococcus Hは握力および歩行速度との間に有意な正の相関を示した。HoldemanellaはSMIと正の相関を示していた。しかし、女性の検体ではこれらの菌属とSMI、握力または歩行速度との間に有意な相関は認められなかった。 本研究について著者らは、「本研究は、日本で初めて臨床において高齢者集団のGM組成とAWGS2019診断基準で診断されたSAとの関連を調査した研究である。今回の結果から、高齢の日本人男性において、GMの組成がSAと関連することが示された。これは、日本の高齢男性におけるSA予防のために、腸内細菌をターゲットとした戦略が有効である可能性を示唆している」と述べている。

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主治医は大病院です! さぁ困った!【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第8回

主治医は大病院です! さぁ困った!Point多疾患併存では多職種連携、専門医とプライマリ・ケア医(かかりつけ医)の連携が重要。予後予測や再入院予測ツールをうまく使って患者の状態の概要を把握しよう。患者の身体機能や価値観や嗜好を聞き取り、治療やケアの方針決定に役立てよう。患者側の能力と治療による負荷のバランスから手掛かりを探ろう。症例84歳男性が某大学病院救急外来に失神したと来院した。少し離れて別居している息子が付き添いで一緒に来院した。かかりつけ医は大学病院だという。心筋梗塞でステント留置後、心房細動、慢性心不全で循環器内科にかかり、COPDで呼吸器内科に、陳旧性多発ラクナ梗塞と認知症で脳神経内科に、変形性膝関節症と腰部脊柱管狭窄症で整形外科に、大腸がん(手術適応はなく経過観察)で消化器外科にかかり、なんと5科にまたがり通院中であった。ここ1年で心不全の増悪で3回入院している。内服処方は抗凝固薬・抗血小板薬含め合計15剤もあり、失神を起こしやすい薬剤も数種類含んでいた。すべての薬剤を俯瞰的にみてくれる「かかりつけ医」は不在の状況であった。貧血を認めるものの以前とは大きく変化はなかった。頭部CTで軽度の左慢性硬膜下血腫を認め、脳神経外科にコンサルトするも、血腫の大きさや全身状態から入院や手術の適応はないとのこと。ダメ元で他科のDr.と相談するも「それはうちでの入院の適応じゃないですねぇ」と予想どおりのお返事。本人は以前の入院時に体幹抑制された経験から入院したくないとの希望だが、息子は憔悴した様子で「家は段差も多くて、年々歩き方もぎこちなくなり、また転倒しそうなので、何とか入院させてほしいのですが…」と入院を希望し、苛立ち始めている。主科が決まらず方針は絶賛迷走中。救急で担当した研修医、上級医は途方に暮れていた。おさえておきたい基本のアプローチマルモってなんだ!?主治医が大病院であるときに起きやすい問題にはどんなものがあるだろうか。慢性疾患で在宅ケア・緩和ケアへの移行を考慮する事例。慢性疾患が複数あり(多疾患併存)、各科に担当医がいて(ポリドクター)方針がまとまらない事例。ポリドクターのために起こるポリファーマシー(たとえば別の担当医の薬剤に対する副作用に薬剤が処方されるなど)。老年医学のアプローチが必要だが介入できていない事例。主治医が多忙ゆえに多職種連携がうまく機能していない事例。上記に加え心理・社会・家族問題が絡み合う複雑・困難な事例などだ。ここでは、主に多疾患併存とそこから起きる問題を論ずる。皆さんは多疾患併存という言葉があることはご存じだろうか? 筆者自身それについて学生時代に講義を受けた記憶はなく、最初「マルチモビディティ」と聞いたらなんか強そうだなというイメージをもった。マルサなら国税局査察部、マルボウなら暴力団の事案を取り扱う警視庁組織犯罪対策部、マルモはマルチモビディティ(多疾患併存:multimorbidity)のこと。歴史をひもとくと、おおよそ2003年ごろから急激に出版物でみられるようになった。多疾患併存の定義は、長期にわたり2つ以上の慢性疾患が併存している状態である1)。「疾患とその合併症のことでしょう?」と誤解されがちだ。たとえば、糖尿病が悪化して、末梢神経障害や網膜症、腎障害を合併した事例の場合は中心に糖尿病、そのほかは治療コントロール不良で発症した合併症という関係だから、多併存疾患とは異なる。多疾患併存の場合、罹患期間の長短あれども慢性疾患が併存している状態を指す。言葉は知らなくても、多疾患併存の患者は皆さんの外来にもよく来るはずだ。日本では外来患者に多疾患併存患者が占める割合は52.3%にのぼり、ポリファーマシーとの強い相関を認める2)。併存疾患が2つの多疾患併存患者は全く慢性疾患のない患者と比較しER受診は1.28倍、併存疾患が4つ以上で2.55倍になり、また入院も多疾患併存患者全体では2.58倍高くなる3)。多疾患併存患者の医療コストは、概して倍以上に膨れ上がっており、今後多疾患併存患者への対応は医療経済における大きな課題だ。家庭医をかかりつけ医にするメリット多疾患併存患者は俯瞰的・総合的にみてくれるかかりつけ医の存在が大きい。家庭医の定義ともいえるACCCAは保たれているだろうか(表1)。今後高齢化社会が進み、大病院志向の患者が途方に暮れる機会も増えてくるだろう。表1 家庭医をもつメリットと大病院を主治医にもつデメリット画像を拡大する多疾患併存患者で困難な症例では、家庭医をかかりつけ医にもつのが一番よい。疾患の性格上、大病院にかからざるを得ない場合は、予後に最も影響を与え中心となる慢性疾患の担当医に主治医の役割を果たしてもらうか、多疾患併存患者対応が得意な医師(場合によっては別の病院や診療所の医師でもよい)にかかりつけ医となってもらうことがお勧めだ。責任の所在がわからないと、患者や家族はたらい回しにされたと感じ不快に思うだろう。現代の医原病ともいえる。マルモ(Multi-morbidity)のアプローチ法多疾患併存患者のアプローチ法は、Up to dateやNICE guideline、米国老年学会でそれぞれ紹介されているが、筆者はアリアドネの原則をお勧めする4)(図1)。ギリシア神話の逸話(テセウスを迷宮から脱出させるのにアリアドネが糸で手助けした)より、そのように名付けられた由緒正しい(?)アプローチ法だ。日本ではさしづめ、蜘蛛の糸アプローチもしくは、芥川アプローチとでもいえようか(いや全然違うし、ネーミングに絶望感が漂っている泣)。図1 アリアドネの原則画像を拡大するまず、このアプローチのポイントは、実現可能な治療目標を、患者、医師、多職種間で共有していくことだ。多疾患併存の患者のケアに乗り出すきっかけは、併存する疾患、もしくはそれらの治療薬の相互作用が生じてしまったときだ。実現可能な治療目標を考えるときに、まず患者の心身状態や治療の相互作用を評価するところから始まる。その評価には、性格などの心理的問題、住環境や社会的サポートのレベル、孤独などの社会的環境、患者自身の疾患への理解も影響する。次に、患者の嗜好を考慮に入れたうえで、患者の健康問題への治療介入の優先順位を付ける。多疾患併存の患者では、各科担当医がそれぞれの疾患に対し治療方針を立てるが、それらが競合することはしばしばある。治療の優先順位付けには、患者の予後のみならず、患者の価値観、嗜好も考慮に入れねば、治療目標を患者、医療者の双方が納得して共有することはできない。そして、優先順位を付けた治療介入を患者に最適化したマネジメントまで高める。この段階では介入によって予測される利益が有害事象より勝っているかに注目する。こうして評価、問題の優先順位付け、マネジメントを実行し、必ずフォローアップする。また、新たな状況の変化(たとえば、新たな病気への罹患や周囲の環境の変化)によって、再度評価からアプローチが必要になる。多疾患併存患者へのアプローチは流動的に千変万化するんだ。女心と秋の空、そして多併存疾患患者は状況が変わりやすい。ここまでアプローチの原則について解説してきたが、思い起こせば何十年も前から出来上がった多疾患併存患者の複雑な事例だ。救急外来での一期一会で解決できるようなことはめったにない。しかし、少しでも問題を解きほぐす手助けなら救急外来でもできるはずだ。そのために重要なポイントを学んでおこう。落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「既往症も内服薬もたくさんあったので難治性の便秘かと思って経過観察にしたら、大腸がんでした」多疾患併存患者が救急外来に今までになかった症状で来院すると、併存疾患や内服薬の影響ではないかと思考がとらわれやすい。多疾患併存患者では一般外来において診断エラーが1.83倍起こりやすいとの報告がある5)。とくに、高齢患者には多疾患併存患者の割合が多く、悪性腫瘍の見逃しは避けたいところだ。Point多疾患併存患者は診断エラーが起こりやすい!「多疾患併存患者の状態や治療の評価って、忙しい救急外来で何をしたらよいのでしょう?」多疾患併存患者の状態評価を、多忙な救急外来でどのようにしていけばよいのか? 前述のとおり、多疾患併存患者は高齢者に多いので、高齢者総合評価(comprehensive geriatric assessment:CGA)は全体像の評価に有効だろう。しかし、忙しい救急外来で初診患者にくまなく行うことは難しい。ここではより簡略化したstart up CGAを紹介する(表2)。評価可能なものからやってみて、必要があれば外来主治医や入院担当医に引き継いで評価してもらおう。表2 start up CGA画像を拡大するPoint救急外来では多疾患併存患者の包括的評価はstart up CGAで簡潔に行うべし「多疾患併存患者の評価には心理・社会的問題も大事らしいけど、どのように評価すれば…?」多疾患併存患者の状態には心理・社会的問題も大きな影響を及ぼす。多疾患併存患者に精神疾患を合併すると救急外来への頻回受診が大きく増加すると報告されている6)。また、ホームレスの多疾患併存の患者の割合は一般人口の60代に相当し、救急外来受診率も一般人口と比べて60倍近くあると報告されている7)。救急外来で心理的問題を評価するにはMAPSO問診やPHQ-4が使いやすいだろう。また、社会的問題の把握にはsocial vital signs(HEALTH+P)がもれなく把握できて有用だよ8,9)(表3)。表3 social vital signs(HEALTH+P)(https://drive.google.com/file/d/1MZJRnd8ruUpE4kNjNO6ZmOOQ_50s_Yee/view)より改変画像を拡大するPoint多疾患併存患者の心理・社会的問題の評価にはMAPSO問診、PHQ-4やHEALTH+Pを使うべし多疾患併存患者の治療目標には予後予測が大事って聞くけど、どうすればいい?それぞれの慢性疾患が下降期(たとえば、急性増悪による入退院を繰り返す状態)でなければ、10年間の予測死亡率を算出する有用なツールがある。ePrognosisというサイト内でSuemoto indexが計算できる10)。サイトで患者の診療セッティングと、居住地で米国以外を選択すると入力画面が表示される。それぞれの項目を選択すると算出してくれる。一方、慢性疾患下降期で急性増悪を繰り返す場合、再入院を予測するツールとしてLACE indexがある11)。表4に算出方法を示す。A-scoreの重症か否かの判断は救急外来からの入院かどうかでする。4点以下が低リスク、5〜9点が中等度のリスク、10点以上が高リスクと判断する。表4 LACE index画像を拡大する終末期では予後に最も影響する疾患の予後予測ツールを用いるのがよい。一方で、複数臓器の障害ではPalliative Prognostic Scoreで30日死亡率をある程度予測可能だ12)。いずれの予測ツールも、ある程度イメージをつけるためと割り切って利用する。そこから、主治医や多職種で話し合い、在宅医療へ移行したり、advance care planningにつなげたりすればよいのだ。Point疾患ステージに合う予後予測ツールで状況を把握してよりきめ細やかなケアにつなげよう「前回救急受診した患者がまた来院しました。どうやら受診科、内服薬が多かったため、いくつかを勝手にやめていたようです」多疾患併存患者では治療負担(treatment burden)の増大が、自分の能力(capability)の許容量を越えてしまい病状が悪化することがある。かぜのときに毎食前に漢方薬を飲むだけでも飲み忘れてしまう筆者からすれば、毎食後に10剤近く間違えずに内服できる人はマジリスペクトです。内服薬だけでお腹いっぱいになってご飯が食べられない人、よくみるよねぇ。多疾患併存患者かつ内科病棟入院患者の約4割が薬剤関連の問題が原因で入院し、とくに薬剤の副作用やアドヒアランスの問題がきっかけだった13)。また、救急外来から入院した多疾患併存患者の約半数に治療上の対立を認めた(たとえば抗凝固薬を内服した患者に消化管出血を認めたなど)14)。お薬手帳にところせましと並べられた大量の薬剤名の記載をみると、カルテへの記録も面倒くさくなる。しかし、とくに多疾患併存患者では丁寧にチェックしないと足元をすくわれる。「くすりもリスク」、整理できる薬剤は主治医や処方医に依頼して減らすことで、患者の内服アドヒアランスも向上し有害事象も減って患者も医療者もハッピーになること請け合いだ。また、患者の能力に見合わない過度な生活習慣の指導がなされていることがある。多疾患併存患者にはガイドラインどおりにすべての生活指導を行うと、それがかえって治療負担となり逆にアドヒアランスが悪くなることがある。想像してみても、生活するために毎日朝から晩まで仕事をしながら、毎食後に血糖を測定しながら、毎日8,000歩を歩いて、週3で有酸素運動、食事は塩分制限…となると、患者も医療者もアンハッピーになる。優先順位に従い実現可能な生活習慣から指導するようにしよう。患者の生活を守るために生活指導をするのであって、生活指導して患者の生活が台なしになったのならとても笑えないのだ。Point内服アドヒアランスや薬剤有害事象に目を光らせ、治療対立が起きないように注意しよう「有害事象があったから薬剤中止ね。え? 薬が一包化されてる!?」薬剤有害事象が起きたので、その薬剤中止を患者に説明し主治医にも報告、まではよかったが、詰めが甘〜い! キャラメルマキアートの上の部分くらい甘〜い!! あなたがもし一包化されたものから色と印字を手がかりに目的の薬剤のみ取り出すことができるなら、海賊王にだってなれるはず!? 独居や老老介護で、周囲のサポートが得られない場合には絶望しかない。「〇〇えもん、たすけて〜」、「大丈夫だよ、□□太くん。多職種連携〜」。そう、こんなときのための多職種連携。ケアマネジャーやソーシャルワーカーから薬剤師や看護師、ヘルパーに連絡を取り、これ以上の薬剤有害事象を防ごう。とくに大病院の主治医で、訪問診療をした経験がない場合、どんなに想像力をたくましくしても、自宅で患者がどんな生活して、どんなことで困っているのかは診察室からは計り知れないものだ。実際に、自宅で患者と会っているケアマネジャーやヘルパー、訪問看護師の声に耳を傾けよう。ちなみに、多疾患併存患者に多職種連携とテレメディスンとを組み合わせることで救急外来で一泊入院するのと比較して22%コスト削減できたという15)。安い、早い、うまい! 多職種連携って本当に素晴らしいですね!Point多職種との連携を密にして、重要な指示をチームでもれなく伝えて不要な受診を防ごうワンポイントレッスン患者の対応能力と治療負担のバランス患者の対応能力(capability)と治療負担(treatment burden)のバランスに注目するとアプローチしやすい。どのようなバランスかを図2、表5に示す。図2 患者の対応能力と治療負担のバランス画像を拡大する表5 患者の対応能力と治療負担患者の対応能力を上げて、治療負担を減らす方向に働きかけることで崩れかけたバランスをもち直すことができる。どの要素が負担になっているのか、もしくは対応能力が足りないのかを把握することで、複雑な事例のなかでレバレッジポイントを見出し問題解決の糸口がつかめる。何事もバランスが大事だ。遊びも勉強も大事。お金も大事だが、学際的な仕事をすることも大事。給料が安いなんて文句言わないで、勉強できる環境で仕事ができることをありがたいと思おう、ネ、〇〇センセ!?勉強するための推奨文献 Farmer C, et al. 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