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亜鉛欠乏症、日本人の特徴が明らかに

 亜鉛欠乏症*は、免疫機能の低下、味覚障害、嗅覚障害、肺炎、成長遅延、視覚障害、皮膚障害などに影響を及ぼすため、肝疾患や慢性腎臓病などをはじめとするさまざまな疾患を管理するうえで、血清亜鉛濃度の評価が重要となる。今回、横川 博英氏(順天堂大学医学部総合診療科学講座 先任准教授)らが日本人患者の特徴と亜鉛欠乏との相関関係を調査する大規模観察研究を行った。その結果、日本人の亜鉛欠乏患者の特徴は、男性、入院患者、高齢者で、関連する病態として呼吸器感染症や慢性腎臓病などが示唆された。Scientific reports誌2024年2月2日号掲載の報告。*「亜鉛欠乏症」は亜鉛欠乏による臨床症状と血清亜鉛値によって診断されるとされている。これに対し、「低亜鉛血症」は亜鉛欠乏状態を血清亜鉛値から捉えたもの。 研究者らは2019年1月~2021年12月の期間、メディカル・データ・ビジョン(MDV)が保有する日本全国のレセプトデータベースを使用して、遡及的かつ横断的観察研究を実施した。研究母集団のうち、20歳未満の患者、亜鉛含有薬剤の処方後に血清亜鉛濃度が評価された患者を除く、外来および入院患者1万3,100例の血清亜鉛データを解析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は69.0歳、男性は48.6%であった。・血清亜鉛濃度の平均値±SDは65.9±17.6μg/dLで、4,557例(34.8%)が亜鉛欠乏症(60μg/dL未満)に、5,964例(45.5%)が潜在性亜鉛欠乏(60~80μg/dL)に該当した。・亜鉛欠乏症との有意な関連がみられたのは、男性(オッズ比[OR]:1.165)、高齢者(OR:1.301)、入院患者(OR:3.367)だった。男性の亜鉛欠乏症の割合は50代を境に高くなったが、80代では男女共に40%以上が亜鉛欠乏症であった。・亜鉛欠乏症の割合が高い併存疾患について、年齢と性別による多変量解析後の調整オッズ比(aOR)は、肺臓炎で2.959、褥瘡や圧迫で2.403、サルコペニアで2.217、新型コロナウイルス感染症で1.889、慢性腎臓病で1.835だった。・また、亜鉛欠乏症と有意な関連がみられた薬剤のaORは、スピロノラクトンが2.523、全身性抗菌薬が2.419、フロセミドが2.138、貧血治療薬が2.027、甲状腺ホルモンが1.864、と明らかになった。

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重症ARDS、ECMO中の腹臥位は無益/JAMA

 重症急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で静脈脱血・静脈送血の体外式膜型人工肺(VV-ECMO)による治療を受けている患者において、腹臥位療法は仰臥位療法と比較し、ECMO離脱成功までの期間を短縮しなかった。フランス・ソルボンヌ大学のMatthieu Schmidt氏らが、同国14施設の集中治療室(ICU)で実施した医師主導の無作為化並行群間比較試験「PRONECMO試験」の結果を報告した。腹臥位療法は重症ARDS患者の転帰を改善する可能性が示唆されているが、VV-ECMOを受けているARDS患者に対して、仰臥位療法と比較し臨床転帰を改善するかどうかは不明であった。JAMA誌オンライン版2023年12月1日号掲載の報告。ECMO施行48時間未満の重症ARDS患者を無作為化、60日以内のECMO離脱成功を比較 研究グループは2021年3月3日~12月7日に、ICUにてVV-ECMO施行開始から48時間未満の18歳以上75歳未満の重症ARDS患者を、腹臥位ECMO群または仰臥位ECMO群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 腹臥位ECMO群では、腹臥位療法の早期中止基準を満たさない限り、最初の4日間に16時間の腹臥位を少なくとも4回行い、仰臥位ECMO群ではECMO施行中の腹臥位を60日目まで禁止した。 主要アウトカムは、無作為化後60日以内のECMO離脱成功までの期間。離脱成功は、ECMO中止後30日間、ECMOまたは肺移植を受けず生存した場合と定義した。副次アウトカムは、無作為化後90日時点の全死亡、ECMOおよび人工呼吸器非装着期間、ICU在室および入院期間などであった。また、有害事象(無作為化後7日間の褥瘡を含む)および重篤な有害事象についても評価した。腹臥位療法と仰臥位療法で、主要アウトカムおよび副次アウトカムに有意差なし 適格性を評価された250例のうち170例が無作為化され(腹臥位ECMO群86例、仰臥位ECMO群84例)、全例が追跡調査を完了した。 170例の年齢中央値は51歳(四分位範囲[IQR]:43~59)、女性は60例(35%)。170例中159例(94%)は、ARDSの主な原因が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎であった。ECMO開始前に164例(96%)が腹臥位で、呼吸器系コンプライアンス中央値は15.0mL/cm H2O(IQR:10.7~20.6)であった。 無作為化後60日以内にECMO離脱に成功した患者は、腹臥位ECMO群86例中38例(44%)、仰臥位ECMO群84例中37例(44%)であった(群間リスク差:0.1%[95%信頼区間[CI]:-14.9~15.2]、部分分布ハザード比:1.11[95%CI:0.71~1.75]、p=0.64)。 また、無作為化後90日以内に腹臥位ECMO群で44例(51%)、仰臥位ECMO群で40例(48%)が死亡し(絶対群間リスク差:2.4%、95%CI:-13.9~18.6、p=0.62)、90日以内のECMO装着期間(日数)の平均値はそれぞれ27.51および32.19(絶対群間差:-4.9、95%CI:-11.2~1.5、p=0.13)であり、すべての副次アウトカムで両群間に有意差はなかった。 重篤な有害事象については、心停止の発生率は腹臥位ECMO群より仰臥位ECMO群で有意に高かったが(3.5% vs.13.1%、絶対群間リスク差:-9.6%[95%CI:-19.0~-0.2]、相対リスク:0.27[95%CI:0.08~0.92]、p=0.05)、それ以外の重篤な有害事象の発現率は両群で同等であり、両群とも不測のECMO脱血管、予定外の抜管および重度の喀血の発生は認められなかった。

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10月20日 床ずれ予防の日【今日は何の日?】

【10月20日 床ずれ予防の日】〔由来〕「床(10)ずれ(20)」の語呂合わせならびに日本褥瘡学会の定期的な褥瘡有病率全国調査が10月に実施されることなどから、同学会が社会に「床ずれ(褥瘡)」に対する理解を深めてもらうことを目的に2016年に制定。同学会では、適切な予防・管理のための情報提供やさまざまな活動を実施している。関連コンテンツ思わぬ情報収集から服薬直前の抗菌薬の変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第3回 褥瘡治療 処方提案のポイントは?【コクシで学ぼう(1)】褥瘡(床ずれ)【患者説明用スライド】第11回 陰部・肛門部の痛み【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

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084)創傷治癒に感じる若さのチカラ【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第84回 創傷治癒に感じる若さのチカラゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆老若男女、さまざまな年齢層を診る皮膚科の外来。下は赤ちゃんから、上は高齢者まで。年齢ごと、ありがちな症状、辿りがちな経過などありますが、とくに創傷治癒に関しては、年代による差を感じます。漫画で例に挙げた高齢者の褥瘡と、若者の熱傷では、受傷の経緯も治癒の環境も異なるため、比較対象としては適切ではないかもしれませんが、やはり全体的に高齢になるほど治りが悪く、若いほど治りが良い印象があります。とくに感じるのが、赤ちゃんや幼児の傷。こちらの予想を上回る治癒力で回復することが多々あり、その度に「やっぱり、若いってスゴい!」と思ってしまいます。個人的な話ですが、「年々、自分の傷の治りが遅くなっているな〜」と感じることもあり、こんなところでも年齢の影響を感じてしまったり…。大好きなランニングで、脚を痛めてしまうことがたまにあるのですが、年々治りが遅くなっていくことを考えると、今後ますます故障には気を付けたいなと思います。創傷治癒に感じる若さの力についての記事でした〜。それでは、また次の連載で。

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思わぬ情報収集から服薬直前の抗菌薬の変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第55回

 今回は、抗菌薬の服薬直前に患者さんから飛び出た思わぬ発言から処方変更につなげた症例を紹介します。患者さんの話をしっかり聞き、気になることは深掘りすることが大事だと改めて感じた事例です。患者情報50歳、男性(施設入居中)基礎疾患多発性血管炎性肉芽腫、脊髄梗塞、仙骨部褥瘡既往歴半年前に総胆管結石性胆管炎副作用歴シロスタゾールによる消化管出血疑い処方内容1.アザルフィジン錠50mg 1錠 朝食後2.プレドニゾロン錠5mg 2錠 朝食後3.ランソプラゾールOD錠15mg 1錠 朝食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1C 朝食後6.アピキサバン錠5mg 2錠 朝夕食後7.マクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム散 13.7046g 朝食後本症例のポイント訪問診療に同行したところ、この患者さんは褥瘡の状態が悪く、処置後の感染リスクを考慮して抗菌薬が処方されることになりました。アモキシシリン・クラブラン配合薬+アモキシシリン単剤(オグサワ処方)が処方となり、緊急対応の指示で当日中の服薬開始となりました。薬を準備して再度訪問した際に、患者さんより「過去に抗菌薬でひどい目にあったと思うんだよなぁ」と発言がありました。お薬手帳や過去の診療情報提供書には抗菌薬による副作用の記載はなく、その症状はいつ・何があったときに服用した薬なのかを患者さん確認してみると、「胆管炎を起こして入院したとき、抗菌薬を服用して2日目くらいに悪心と発疹が出て具合がものすごく悪くなった。医師に相談したら薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)のようなものを行ったら抗菌薬が原因だということで治療内容が変更になったことがある」とのことでした。準備した薬は服薬させず、過去に胆管炎で入院した病院に連絡し、病院薬剤師に詳細を確認することにしました。担当薬剤師によると、副作用の登録はシロスタゾールしかありませんでしたが、カルテの詳細な経過を追跡調査してもらうことにしました。すると、胆管炎時に使用したアンピシリン・スルバクタムを投与したところ、アナフィラキシー様反応があったという医師記録があり、投与を中止して他剤へ変更したことがわかりました。処方提案と経過病院薬剤師から得たペニシリン系抗菌薬アレルギーの結果をもとに、医師にすぐ電話連絡をして事情を話しました。そこで、代替薬として皮膚移行性が良好かつ表層菌をターゲットにできるドキシサイクリンを提案しました。医師より変更承認をいただき、ドキシサイクリン100mg 2錠 朝夕食後へ変更となり、即日対応で開始となりました。施設スタッフおよび本人には、過去に副作用が生じた抗菌薬とは別系統で問題ない旨を伝えて安心してもらいました。お薬手帳にも今後の重要な情報なのでペニシリンアレルギーの記載を入れ、臨時で受診などがある場合は必ずこのことを伝えるように共有しました。変更対応後に皮疹や悪心、下痢、めまいなどが出現することなく経過し、皮膚症状も悪化することなく無事に抗菌薬による治療は終了となりました。

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緩和ケアの「質」、どう評価する?【非専門医のための緩和ケアTips】第51回

第51回 緩和ケアの「質」、どう評価する?医療マネジメントにおいて「質の評価」はメジャーな分野ですが、“質の高い緩和ケア”って何なのでしょう? なかなか難しいテーマですが、考えてみたいと思います。今日の質問いろいろな分野で医療の質の重要性が議論されていると思うのですが、緩和ケアの質はどう評価するのでしょうか?「在宅看取りの数」が重要な指標とされているようですが、一概に「在宅で看取ることができたら、緩和ケアの質が高い」とも言えない気がするのです。どのように考えるとよいのでしょうか?今回は難しい質問を頂きました。「緩和ケアの質評価」という研究分野があって、さまざまな取り組みがなされています。一方、緩和ケアを提供する場は、急性期病院から慢性期病院まで、在宅医療でも自宅や施設で過ごす方などさまざまです。このように幅広い緩和ケアの在り方に共通する、唯一の指標はありません。それでもあえて設定するとしたら、緩和ケアは「QOLの向上」を目的としていますので、患者さんおよびその家族のQOLを精密に測定できるのであれば、それが妥当な指標かもしれません。QOLの評価ツールはもちろん存在するのですが、それをすべての患者さんに運用するのも現実的ではないですよね。結果として、現状では代替指標で質を評価し、改善しています。では、ベストでないまでも、現状、ある程度妥当だと思われている緩和ケアの質評価手法には、どのようなものがあるのでしょうか? 日本の緩和ケアの「QI:Quality Indicator(質の評価指標)」に関する論文を見ると、さまざまな切り口のQIが示されています。データベースから抽出するQI診療記録から抽出するQIICUにおける終末期に関するQIナーシングホームにおける医師のケアをパフォーマンスモニタリングするインジケーター地域ベースのQIこれらを見るだけでも、冒頭で述べたように、診療の状況によってさまざまなQIが検討されていることがご理解いただけるかと思います。今回、ご質問いただいた先生は在宅医療に関わっているようですので、ナーシングホームにおける医師のQIを見てみましょう。1)患者の希望や事前指示が記録されているか2)痛みがある場合は、それが医師の記録にあり、疼痛緩和に積極的な試みがなされているか3)呼吸困難がある場合は、それが記録にあり、それを最小限にする試みがなされているか4)痛みがある場合、鎮痛治療の効果が継続評価されて、痛みが緩和されているか5)深い症状が医師の記録にあり、緩和する試みがなされているか6)心理、社会的サポートが記載されているか7)患者が望まない治療処置がされていないか8)衛生状態が医師の記録にあるか(失禁、清潔、褥瘡、尊厳)9)患者・家族が医師のカウンセリングを受けているか10)死別後のケアについて医師から提案・提供されているかいかがでしょう? こういった指標を厳密に運用するのはなかなか大変ですし、現状の課題にマッチしたものではないなど課題もあると思います。それでも、私は時々QIを見返し、現状の改善につながる指標として活用できるものはないかと考える機会を持つようにしています。皆さんも活用方法を考えてみるとよいかもしれませんね。今回のTips今回のTips緩和ケア領域のQI指標を眺めてみよう。宮下光令ほか. Palliat Care Res. 2007;2:401-415.

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痛みの原因はがんとは限らない【非専門医のための緩和ケアTips】第46回

第46回 痛みの原因はがんとは限らないどの分野でも診断は大切ですが、緩和ケアでも同様に大切です。診断なくして適切な症状緩和なし! です。といっても、なかなか診断が難しいときも多いのですが、今回はそのような緩和ケアにまつわる診断エラーの話題です。今日の質問進行した大腸がん患者が腹痛を訴え、オピオイドのレスキューを使ってもらったのですが、改善がないということで往診の依頼がありました。これまで良好な疼痛緩和ができていたため、おかしいと思い診察したら、何と尿閉になっておりました。もともと腹水もあって腹部が膨隆していたので気付きにくかったのですが、危うく見逃すところでした。がん患者で注意すべき、痛みの原因になる非がん疾患はどのようなものがあるのでしょうか?今回質問をいただいた先生は、丁寧な診察もあって気付くことができたのでしょう。「腹痛の原因ががんではなく、尿閉だった」というのは、時々経験することです。とくに今回の腹水のように、診断に影響を与える修飾因子がある場合は、さらに疑うことが難しくなります。そうした意味では、今回の例はよく気付いた、といえるでしょう。後から言われれば簡単なことに思えるかもしれませんが、現場できちんと疑うのは難しいものです。最近では「診断エラー」の話題が取り上げられることが増えてきました。誤診の要因やうまく診断できなかった事例を分析して防止策を考えるのが診断エラー学の分野です。緩和ケア領域における診断エラーは、まとまった知見はないと思いますが、今回のように終末期に近くなると多くの症状が複雑に絡むため、診断エラーが生じる要素も増えます。私の経験では、同様に腹痛に対してオキシコドンを使用していた患者さんに、尿閉が生じたことがありました。実は、オピオイドであまり知られていない副作用に尿道括約筋の収縮による尿閉があるのです。そういった意味では尿閉は遭遇する可能性が比較的高い疾患なのです。ほかに気を付けたい痛みの伴う非がん疾患としては、高齢患者も多いため筋骨格系の疾患が挙げられます。変形性関節症はもちろん、ベッド上で動けないことによる関節の拘縮なども痛みの原因になります。褥瘡も心配する必要がありますし、知らない間に病的骨折をしていた、ということもあります。後は、診察しないとわからない帯状疱疹といった原因もあります。まずは、患者さんが痛みを訴えている部位をきちんと診察することが基本です。こうしてみると、緩和ケアには一般的な診断と治療の知識も大切だとわかります。主に内科的な知識ですが、しっかり勉強を続けることが求められます。今回のTips今回のTipsがん患者の痛みの原因として、非がん疾患も忘れない。

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4人に1人近くの患者が入院中に有害事象を経験

 入院患者のほぼ4分の1が入院中に有害事象を経験することが、新たな研究で明らかにされた。このような有害事象の多くは、薬剤の副作用や手術リスクに起因するものであるため、防止することは困難だという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のDavid Bates氏らが実施したこの研究の詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」1月12日号に掲載された。 Bates氏らは、患者の診療録データを用いて後ろ向きコホート研究を実施し、入院中の患者に生じた有害事象の発生頻度、予防可能性、および重症度を検討した。対象は、米マサチューセッツ州の11施設の病院に2018年に入院した患者からランダムに抽出した2,809人(平均年齢59.9歳)とした。 その結果、対象患者の23.6%(663人)が入院中に1件以上の有害事象を経験していたことが明らかになった。生じた有害事象の総数は978件で、そのうちの222件(22.7%)は予防可能であり、316件(32.3%)は重症度が重篤、またはそれ以上(生命を脅かすもの、致死的なもの)と判断された。対象患者のうちの191人(6.8%)に予防可能な有害事象が1件以上生じ、29人(1.0%)の患者に予防可能な重篤で生命を脅かすあるいは致死的な有害事象が1件以上生じていた。死亡件数は7件で、そのうちの1件は予防可能と考えられた。有害事象として最も多かったのは薬剤に関連するもので39.0%、次いで手術やその他の処置に関連する有害事象が30.4%を占めていた。そのほか、転倒や褥瘡などの患者のケアに関わる有害事象が15.0%、ケアに関連して生じた感染症が11.9%発生していた。 Bates氏は、「これらの数字は残念ではあるが、衝撃的なものではない」とし、「これらの結果は、われわれがなすべきことがまだ山積みであることを如実に示すものだ」と話す。 感染症に関わる有害事象の発生率に関しては、過去数十年の発生率に鑑みれば、大きな改善だと研究グループは述べている。それでもBates氏は、「入院中の有害事象が深刻な問題の一つであることに変わりはない」と強調する。 米ジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院保健サービス・研究成果センターのディレクターであるAlbert Wu氏は、「われわれは、有害事象の原因のいくつかを排除した。だが、効果の高い新薬や新しい処置に関連して、これまでにないタイプの有害事象が生じている」と指摘する。 他の専門家たちもWu氏に同意を示す。そのうちの一人である、本研究論文の付随論評を執筆した、ボストンの医療改善研究所の名誉会長兼シニアフェローであるDonald Berwick氏は、「1991年と比較すると、今日では利用可能な薬剤が豊富になった。ただ、いくつかの薬剤は、治療効果と危険な用量の差である治療マージンが小さい」と懸念を示している。

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米国の介護施設での褥瘡発生率に過少報告の可能性

 米国で身内の人を介護施設に入所させる際には、公的機関のwebサイトの品質評価を頼りにせず、自分自身で十分に検討する必要があるかもしれない。「Medical Care」に8月4日掲載された論文によると、褥瘡(床ずれ)の発生率が過少報告されている可能性があるという。米シカゴ大学のPrachi Sanghavi氏らが報告した。 米国の公的医療保険であるメディケアおよびメディケイドのサービスセンター(CMS)は、1990年代に介護施設の質を比較可能なwebサイトを立ち上げ、現在も公開している。しかし、論文の上席著者であるSanghavi氏によると、その情報は不正確であり、「2020年に報告された、転倒事故が過少報告されていることを指摘した研究と、同様のことが起きている」とのことだ。 Sanghavi氏らは、2011~2017年の介護施設居住者の褥瘡による入院の医療費請求データと、CMSのサイトに公開されているデータを比較検討した。その結果、CMSのサイトに公開されている数値は、介護施設の短期滞在者では治療件数の70.2%に相当し、長期滞在者では59.7%に相当する数値だった。つまり、短期滞在者では実際の褥瘡件数の約3割、長期滞在者では約4割がCMSサイトのデータに反映されていなかった。なお、論文中に研究背景として述べられている情報によると、転倒事故も約4割の乖離が見られるとのことだ。 「CMSが公開しているデータは大幅に過少報告されたものであり、施設居住者の安全確保のために、より客観的な指標を確立する必要がある」とSanghavi氏は述べている。また同氏は、「2017年に褥瘡による入院治療を要した居住者の割合が高かった第5五分位群(上位20%)のうち21.6%の施設が、5段階評価の4つ星または5つ星という高い評価を受けていた」と指摘している。 CMSによると、サイトに掲載している情報は各施設から3カ月ごとに報告されるデータを基に編集したものだという。Sanghavi氏は、「CMSで公開されたデータを見て利用者は施設を選択する。各施設はそれぞれ他の施設と競合関係にある。よって介護施設が褥瘡や転倒事故などを故意に過少報告することがあると考えられる」と推測する。ただし、「事務手続きのミスなどで誤った情報が掲載されることもあり得る」と付け加えている。 また同氏は、「さまざまなことが起きていると考えられる。これらの問題は簡単に解決できることではない」としながら、CMSが、同氏らの研究手法に類似したアプローチをとることによって、より実態に近いデータを公開できるのではないかと提案している。「新規のシステムを一から開発する必要はない。各施設から報告されたデータを医療費請求データと比較し、適宜、補足または置き換えれば良いことだ。そのようにして精度の高い情報が公開されるようになるまで、介護施設の選択に際しては比較サイトに頼るのではなく、他の情報を自分で確認する必要がある」とSanghavi氏は語っている。 この研究発表に対して、米国ヘルスケア協会/生活支援センター(AHCA/NCAL)の医療部門の責任者であるDavid Gifford氏は、「米国の介護施設は過去10年で劇的に質が改善した。また、居住者の生活の質(QOL)の向上に今も努力している。介護施設の進歩は評価されるべきだ」と述べている。また、「われわれは医療政策担当者や政治家と協議を重ね、ケアをさらに改善し、常に変化していく必要がある」と付け加えている。 なお、Sanghavi氏らの研究グループでは現在、介護施設における尿路感染症と肺炎の発生率に関するデータの正確性を検証しているという。尿路感染症と肺炎は介護施設において、最も頻繁に見られる感染症だ。研究結果は来年に論文発表する予定とのことだ。

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介護施設での看取りにどう対応するか【非専門医のための緩和ケアTips】第31回

第31回 介護施設での看取りにどう対応するか在宅医療に関わる方であれば、介護施設における訪問診療を担当される方も多いと思います。そうすると、たびたび直面するのが「施設での看取り」です。長く過ごした施設で最期まで過ごさせてあげたい…。そんな家族やスタッフの気持ちの反面、在宅での看取りとは別の難しさもあります。今日の質問訪問診療で担当している施設の患者さんが、そろそろお看取りが近そうです。施設のスタッフはお看取りの経験がありませんが、長く過ごされていた患者さんであり、「最期まで施設で過ごさせてあげたい」という気持ちが強いようです。こうしたケースで注意するべき点は何でしょうか?私も施設への訪問診療をしています。長く過ごした施設で、スタッフの方の暖かなケアを受けながら最期まで過ごされ、良いお看取りになったと感じる患者さんもいらっしゃいました。その一方で、さまざまな理由で、看取りに対応するのが難しい施設もあります。「最後は入院してもらわないと…。こちらでは対応できません」といったやりとりもしばしば経験します。施設と一言で言っても、その種類や抱える事情はさまざまです。その中でわれわれ医療者ができることは何でしょうか?それは、「施設スタッフもケアの対象」と捉え、対話することです。看護師が在籍する施設でも、休日夜間は介護スタッフを中心に対応している施設が大半です。介護スタッフは介護のスペシャリストです。寝たきりの患者さんが褥瘡もなく、肌も綺麗にしているのは彼らの提供する介護やケアの賜物です。しかし、看取りが近い方について介護スタッフの方と話すと、多かれ少なかれ不安を感じています。「今後どうなるかわからない」「心配する家族から何か聞かれたらどうしよう」など、医療のプロでない彼ら彼女らが不安になるのは当然でしょう。緩和ケアにおいては、「ケアを提供する方もケアの対象」です。皆さんが施設での看取りに関わることがあったら、ぜひ施設スタッフの方への声掛けをお願いします。そして、取り組んでいるケアについて言語化し、ねぎらいましょう。私がよくする声掛けとしては、「お肌がすごく綺麗でびっくりしました。いつもケアしてくださってるんですよね?」といった、具体的なケアで気付いたことや、「ご本人はすごく穏やかな表情ですね。皆さんを信頼されてるんでしょうね。今、ご心配なことはないですか?」といったものがあります。施設での看取りについては、ぜひ施設スタッフもケアの対象として、関わってみてください。今回のTips今回のTips施設での看取りは、施設スタッフもケアの対象として声掛けや対話をする。

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第112回 規制改革推進会議答申で気になったこと(前編)タスクシフトへの踏み込みが甘かった背景

「新型コロナは医療関連制度の不全を露呈させた」と答申こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週の過酷な皇海山登山の身体へのダメージがことのほか大きかったため、今週末は街で、映画を2本観て過ごしました。話題の2作、「シン・ウルトラマン」と「トップガン マーヴェリック」です。「シン・ウルトラマン」は庵野 秀明氏が企画・脚本・総監修ということで期待して観たのですが、今一つでした。「ウルトラマンの内面にまで迫った」と高く評価する映画評もありますが、個人的には少々理屈っぽく、かつ怪獣(禍威獣)も宇宙由来のものが主体で、これではウルトラマンではなくウルトラセブンではないか、と落胆した次第です。一方の「トップガン マーヴェリック」は、前作から36年ぶりの新作ですが、トム・クルーズの立ち位置(前回はやんちゃな戦闘機乗り、今回はやんちゃな若者を導く教官)や、前回エピソードの活かし方、圧倒的な空中戦のシーンなど、素晴らしい出来でした。時節柄、戦争や“敵国”の描き方への批判もあるようです。しかし、娯楽作としては群を抜いた映画だと感じました。映画評論家(で時代劇研究家)の春日 太一氏は、5月27日付の日本経済新聞夕刊の「シネマ万華鏡」で、「『トップガン』のファンなら誰もがそう夢想する何もかもを、本作は最高レベルで提示してくれる」と激賞しています。まったく同感です。個人的には、冒頭場面で主人公マーヴェリックが、36年前も乗っていたカワサキのオートバイ、GPZ900Rに今も乗っていることに、映画の作り手のこだわりを感じました。この映画はできるだけスクリーンが大きいIMAXシアターで観ることをお勧めします。さて、今回は政府の規制改革推進会議(議長:夏野 剛・近畿大学特別招聘教授/情報学研究所長)が5月27日に取りまとめた答申、「規制改革推進に関する答申~コロナ後に向けた成長の「起動」~」1)について書いてみたいと思います。同答申は、医療改革のためだけのものではありませんが、「新型コロナは医療デジタル化の遅れをはじめ医療関連制度の不全を露呈させた」と指摘、医療や介護に関する規制改革の項目が大きな柱となっています。医療DXの基盤整備に重点「医療・介護・感染症対策」については、表のような内容です。画像を拡大する表:規制改革推進会議答申に盛り込まれた「医療・介護・感染症対策」に関する項目「医療DXの基盤整備(在宅での医療や健康管理の充実)」のため、オンライン診療については、1)デジタルが不得意な高齢者らがデイサービス施設や公民館など、自宅以外でも受診できるようにする、2)患者の本人確認手続きを簡略化する…、ことなどを求めています。また、コロナ対応で特例的に認めている薬局での抗原検査キット販売の本格解禁も求めています。事前のオンライン注文を条件に、販売資格を持つ人がいないコンビニなどでも一般用医薬品を受け取れる制度の検討も要請しました。いずれも、コロナ禍で問題となった自宅での検査・療養態勢の充実のためです。政府は近く、この答申を反映した規制改革実施計画を閣議決定、同計画が今後の規制改革の指針となります。ワーキング・グループ委員は在宅医療寄り規制改革推進会議は、企業や医療現場などの生産性向上に向け、首相の諮問に応じて規制の緩和を議論する場です。内閣府に設置されており、行政改革推進会議などと併せてデジタル臨時行政調査会が統括しています。テーマごとにワーキング・グループを設けて関係省庁や有識者が参加して改革案をつくります。現在は「人への投資」「医療・介護・感染症対策」「デジタル基盤」など、5つの部会があります。医療・介護・感染症対策ワーキング・グループには5人の専門委員がおり、印南 一路・慶應義塾大学総合政策学部教授、大石 佳能子・株式会社メディヴァ代表取締役社長、佐々木 淳・医療法人社団悠翔会理事長・診療部長らが構成メンバーです。臨床の現場で働いているのは在宅医である佐々木氏のみです。大石氏は在宅医療も展開する用賀アーバンクリニックなどを運営する医療法人プラタナスの経営に関わるコンサルタント会社、メディヴァの社長ですが医師ではありません。ということで、専門委員は在宅医療の関係者に少々偏っている印象を受けます。タスクシェアは在宅現場の薬剤師の業務拡大のみそれはさておき、今回の答申で気になった点が2つあります。一つは、「医療人材不足を踏まえたタスクシフト/タスクシェアの推進」の項目です。タスクシフト/タスクシェアは、医師をはじめとする医療現場の働き方改革を進めていく中でとても重要な施策と考えられています。今回の規制改革推進会議の答申でも、人手不足が見込まれる介護施設で人員配置の基準緩和や、薬剤師などが看護の仕事の一部を担う「タスクシフト/タスクシェア」を求めてはいます。しかし、実際の医療現場の改革については、「在宅医療を受ける患者宅において必要となる点滴薬剤の充填・交換や患者の褥瘡への薬剤塗布といった行為を、薬剤師が実施すること」の検討を厚生労働省に求めたくらいで、特段踏み込んだ内容とはなっていません。「聖域になっていた医師の業務独占にもメスを入れるべきだ」と日経新聞医療関係職種のタスクシフト/タスクシェアについては、「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」でも詳しく書きました。2021年5月に成立した医療法等改正法によって、医師の負担軽減を目的に、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士の4職種の資格法が改正され、それぞれの職種の業務範囲が同年10月から拡大されました。昨年の規制改革推進会議の答申では、これらのタスクシフトの動きについて「規制改革実施計画通りの進捗を確認した。今後も引き続きフォローアップを行っていく」としていました。今回の答申についても、その先の大改革の提案を期待した向きもあったようですが、物足りない内容に終わっています。日本経済新聞の6月1日付の社説は「医療人材生かす幅広いタスクシェアを」というタイトルで、「医療従事者のタスクシェアはこれに限らず広く実現していくべきだ。例えば米国やカナダで、ワクチンを打つのは薬局の薬剤師の仕事だ。日本でも再教育を受けた薬剤師が打ち手になれば、感染症危機への対応力が高まる」、「聖域になっていた医師の業務独占にもメスを入れるべきだ。日本の看護師は医師の指示がないと湿布を貼ることすらできない。(中略)能力のある看護師は自らの裁量で一定の医行為を行えるよう法改正すべきだ」と、今回の答申の不十分さを厳しく指摘しています。診療看護師が医師の指示なしで診療行為ができるようになれば答申でタスクシフト/タスクシェアの項目が在宅における薬剤師の業務範囲拡大だけに留まったのは、夏の参議院選挙を前に日本医師会を刺激したくなかったから、との見方もあるようです。また、内容が在宅医療関係だけに絞られたのは、先述したようにワーキング・グループのメンバーに在宅医療の関係者が多かったことも関係しているかもしれません。私自身は、日医が“内紛”や会長選でバタバタしている今こそ、大胆なタスクシフト/タスクシェアの内容を盛り込むべきではなかったかと考えます。特に重要なのは、看護師業務の大胆な拡大でしょう。2017年4月に厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が報告書を取りまとめました。同報告書は医師と他の医療職間で行う「タスク・シフティング(業務の移管)、タスク・シェアリング(業務の共同化)」を提言、新たな診療看護師(NP)の養成や、薬剤師による調剤業務の効率化、フィジシャン・アシスタント(PA)の創設などを盛り込みました。しかし、日本における診療看護師の制度自体はそれから大きくは変わっていません。今でも、2015年に創設された「特定行為に係る看護師の研修制度」に基づき、あらかじめ作成した手順書に沿って、特定行為をはじめとする診療行為しか行うことはできません。医師の働き方改革が叫ばれる中、多忙な医師の業務を軽減するには、診療看護師に相当の業務をシフトし、米国などにならって医師の指示がなくても一部の診療行為や医薬品の処方までできるようにすることだと思いますが、皆さんどう思われますか。併せて、老健施設の施設長も看護師が担えるようにすれば、介護の現場も大きく変わると思うのですが……。今回の答申で気になったもう一つは、薬(処方薬の市販化、SaMD)に関してです。それについては次回で。(この項続く)参考1)規制改革推進に関する答申 ~コロナ後に向けた成長の「起動」~/規制改革推進会議

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医療従事者、PPE着用時の皮膚病リスクと低減戦略

 シンガポール・国立皮膚疾患センターのWen Yang Benjamin Ho氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける最前線の医療従事者を対象に、個人用防護具(PPE)着用と職業性皮膚病(OD)との関連を明らかにする疫学調査を行い、リスク因子と低減戦略を検討した。 対象者416例のうち73.8%がPPE関連OD(PROD)を有したと回答。そのエビデンスベースに基づく推奨事項として、着用から1時間ごとに休憩を予定する、さまざまなPPEを試してみることなどの知見が得られたと報告した。JAAD International誌オンライン版2022年4月8日号掲載の報告。 研究グループは、PRODは医療従事者にとって重大な職業上の負荷であり、その疫学を理解することは低減戦略を策定するうえで不可欠として、医療従事者におけるPRODの有病率を明らかにし、その症状を特徴付け、リスク因子を特定し、医療従事者の行動変容を断面調査法にて評価した。 調査は、オンライン質問法を用いて、2020年7月~9月に行われた。累積で少なくとも2週間、COVID-19患者と直接的に接触した医療従事者に参加を促した。 主な結果は以下の通り。・有効回答者416例において、PROD有病率は73.8%(307/416例)であった。・最も一般的な原因は、フェイスマスク(93.8%、288例)であった。・フェイスマスク、保護眼鏡、ヘアネット、ガウン、手袋と関連する最も頻度の高いPRODは、ざ瘡(71.5%、206/288例)、圧迫創傷(70.7%、99/140例)、頭皮のかゆみ(53.3%、16/30例)、かゆみ/発疹(78.8%、26/33例)および乾皮症(75.0%、27/36)であった。・1時間超のPPE着用で、PRODのオッズ比は4.8倍増加した。・医療従事者の大半は、PROD軽減のために行動を変更していた。・以上のエビデンスに基づき、医療従事者に強く推奨するべきこととして、(1)PPE着用時は1時間ごとに休憩をとる、(2)さまざまなPPEモデルを試着する、(3)配置前に既存の皮膚病のスクリーニングを行う、(4)PRODに見舞われた場合の低減戦略/支援手段について教育を受けておくことが示された。

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第95回 救急も機能分化を、軽~中等症患者の受け皿になり得る「慢性期多機能病院」とは

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)新規感染者数が1日10万人を超えているのに伴い、重症者数や救急搬送件数も増え、医療現場の負荷は段々限界に近付いている。ましてこの時期は、感染症だけでなく脳卒中や心筋梗塞などによる救急搬送も増える時期。コロナ対応シフトのしわ寄せは通常医療にも及んでいる。このような状況下、日本慢性期医療協会(日慢協)の武久 洋三会長は1月13日の定例記者会見で、重症患者は高度急性期病院で、軽~中等症患者は地域多機能病院でと、症状に応じて受け入れる医療機関を分けることを提案した。慢性期多機能病院の基となる「慢性期救急」の概念は、医療法人社団永生会の安藤 高夫理事長(前自民党衆議院議員、日慢協副会長)が2005年に提唱したもの。在宅や施設で慢性期療養中の患者が、誤嚥性肺炎や尿路感染症、低栄養、脱水、褥瘡、その他の感染症などで急性増悪した場合、慢性期治療病棟で入院治療を行うというもの。ただし、心筋梗塞や脳卒中発作、骨折、急性腹症、悪性新生物などは急性期救急で受け入れるとした。救急搬送された高齢者の9割は軽症・中等症消防庁が2021年に公表した「令和3年版 救急・救助の現状」によると、事故種別の搬送人員のトップは「急病」(65.2%)で、2位の「一般負傷」(16.4%)を大きく引き離している。「急病」の中身を傷病程度別・年齢区分別に見てみると、「高齢者(65歳以上)」では87.2%が軽症(外来診療)・中等症(入院診療)だった。年齢区分別の搬送人員の推移を見ても、平成12年の37.3%から令和2年の62.3%へと高齢者の割合は増加している。成年以下がこの20年間で20%減少する一方、高齢者は25%も増加している。この傾向に関して、武久会長は「高齢者の軽度救急患者が増えたのは、運転免許返納制度が大きく影響している」と話す。内閣府の令和3年版高齢社会白書によると、65歳以上の単独世帯もしくは夫婦のみの世帯は61.1%で、その割合は40年間で倍増。運転免許の返納により、軽症でも救急車を呼ぶようになったと考えられるわけだ。高齢者の軽症患者が救命救急センターに押し寄せたら、重症患者の受け入れに影響を及ぼすことになるのは必至だ。診療報酬は医療機関の救急受け入れの現状を反映せず救急に関する加算に、救急医療管理加算がある。救急搬送された重篤な患者を受け入れ、早期検査や治療の必要性を踏まえた入院基本料加算で、加算1(950点)と加算2(350点)がある。同加算は一般病床しか算定できないが、実際には救急指定を受けている療養病床を中心とした地域多機能病院(急性期多機能病院、慢性期多機能病院)でも地域の救急患者を受け入れている。しかし、療養病床では同加算は算定できない。算定対象患者以外の患者でも、数多くの急変症状の患者が24時間365日間、救急指定病院を受診している。同加算は「入院時に重篤な状態の患者に対してのみ算定できるもの」とされているが、算定対象患者の状態や判断基準にばらつきがあるといったことが問題視されてきた。そこで、2020年度診療報酬改定の際、レセプト摘要欄に該当する状態や、それぞれの入院時の状態に関する指標として、意識レベル(JCS)や血圧など、該当する状態を算定根拠として記載することなどが要件化された。2021年11月に開かれた中央社会保険医療協議会(中医協)の資料から同加算の内訳を見てみると、加算1の場合、10の該当項目のうち、「呼吸不全又は心不全で重篤な状態」と「緊急手術、緊急カテーテル治療・検査又はt-PA療法を必要とする状態」の2項目で全体の約半数を占めていた。加算2の場合、「その他の重篤な状態」が最も多く、60%以上を占めていた。救急患者別の受け入れを提案する武久日慢協会長このような結果から、武久会長は「軽~中等度の緊急処置が必要な高齢患者や、高度な技術を要する手術の必要がない軽症患者は、地域の中で、地域多機能病院で解決できる問題だ」と指摘。救急の二極分化に対処するため、本来の重症緊急救急患者は高度急性期病院に、軽~中等度の緊急処置が必要な高齢患者や、手術が不要な患者は地域多機能病院で受け入れるという方法を提案した。救急医療提供体制別に年間救急搬送件数を見ると、高度救命救急センターや救命救急センターは5,000件以上が最も多かったが、2次救急医療機関は分布がばらついていた(2019年開催の中医協資料より)。救急部門はあるが、いずれにも該当しない医療機関は500件未満が最も多かった。2020年度診療報酬改定で新設された加算に、地域医療体制確保加算がある。地域で救急患者を受け入れている2次救急病院などで医師の長時間労働が懸念されていることを受け、適切な労務管理の実施を前提に、「年間2,000件以上の救急搬送患者の受け入れ」など一定の実績を有する医療機関を評価する加算だ。医療機関のインセンティブになる制度改正をこれに対し武久会長は、「要件を緩和して1,000件以上にすべきではないか」と提案する。似たような救急搬送看護体制加算1の施設基準が年間1,000件以上であること、地域の急性期病院は1日3件程度であることが背景にある。このようにして、病床規模が200床未満の中小病院を中心とした「地域救急」患者の受け入れ病院に対する手厚い評価をすれば、軽~中等症患者を積極的に受け入れるインセンティブになる。オミクロン株の感染拡大に伴い、COVID-19患者が急増しているなか、軽~中等症患者までもが3次救命救急センターに押し寄せたら、本当に緊急処置が必要な患者に対応できない事態が起こり得る。救急の機能分化はそれを防ぐ手立てとなるだろう。

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擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)【漫画でわかる創傷治療のコツ】第2回

第2回 擦り傷の治療(洗浄、異物除去、被覆材の選択)《解説》創傷には、急性創傷(外傷など)と慢性創傷(褥瘡など)がありますが、今回は急性創傷の中から、擦過傷(さっかしょう)をテーマに取り上げました。主な外傷は、ほかに切創(せっそう)、裂挫創(れつざそう)、刺創(しそう)、咬傷(こうしょう)などがあります。擦過傷とは、いわゆる擦り傷のことで、道路や塀などに擦り付けられ、皮膚が擦りむけた状態の創傷です。損傷自体は浅く、真皮層などに留まることが多いです(皮下組織まで達している場合は、擦過創になります)。通常、軽度の場合は自然治癒しますが、傷に土や砂などが入り込んだまま上皮化すると、外傷性刺青といって皮膚に異物の色が残ってしまうことがあるため、初期治療で異物を取り除くことが非常に大事です。それでは、実際の処置の流れを説明していきます。(1)洗浄擦過傷に限らず、外傷の処置はまず汚染を取り除くこと、つまり洗浄が第一です。創部の直接消毒は創傷治癒を邪魔してしまうので、現在ではほとんどの場合推奨されません。洗浄水は、基本的に水道水でよい1)ですが、深部組織の場合は生理食塩水のほうがよいです。汚染が強い場合には、せっけんも使用可。十分な水で洗浄し、創部に付着している細菌を減らすことが大事です。洗浄はスタッフにも手伝ってもらいましょう。剃毛は、はさみなどで処置の妨げになる部分を取り除く程度の最低限で構いません。疼痛が強い場合は、創部の麻酔を考慮します。《局所麻酔の方法》表面麻酔  患部に麻酔クリームを塗ってラップをのせ、10~30分置く。例)リドカイン・プロピトカイン配合クリーム(商品名:エムラクリーム)、リドカイン塩酸塩ゼリー(同:キシロカインゼリー)など局所浸潤麻酔患部付近の皮内に穿刺して丘疹を作り、そこから広げて麻酔薬を浸潤させる。27~30Gのできるだけ細い針を使用。注入後、3~5分待つ。例)1%エピネフリン含有リドカインなど(2)異物除去次に、異物を徹底的に取り除きます。病院ではガーゼ、滅菌した歯ブラシなどを使用します。取れないものは異物セッシなどを使用することもあります。ここで少しでも異物が残ってしまうと、外傷性刺青の要因となります。周辺組織が壊死している場合は、壊死組織を除去しますが、判断が難しい場合は形成外科にそのまま引き渡していいと思います(原則翌日の対応をお願いします!)。(3)創傷被覆洗浄・異物除去が終わったら、創傷が治る環境にしましょう!一概にどの方法がよいとは言えない部分もありますが、基本として、湿潤環境を整えて創傷治癒を促すことが大切です。湿潤環境とは:創面を乾燥させず、浸出液が適度に保たれた状態。浸出液には創傷治癒に必要な因子が含まれるため、それを保持することで上皮化が早くなります。昔の創傷処置は、感染を恐れて創部を乾燥させていました。以下に、漫画で紹介した被覆材のメリット・デメリットを示します。湿潤環境の形成を目的とした製品もあります。アルギン酸塩+フィルム◎浸出液・血液などの吸収力が高く、止血促進効果がある。△剥がす時に張り付いて取れにくい(貼付時に創面が乾いていたら生理食塩水で湿らせる)。白色ワセリン+ガーゼ◎どこの病院でも取り扱っており、安価。△乾燥し過ぎる傾向にあり、剥がす時に痛みが出ることも。ハイドロコロイド(材)など◎防水性が高く、湿潤環境を保持でき、痛みも少ないため小児に使いやすい。△感染徴候がある場合や浸出液が多い創には向かない。高価で交換時期の判断が難しい。(◎:メリット/△:デメリット)いずれにせよ、専門外で対応する場合は、後日専門医に創部をチェックしてもらう前提で選びましょう。できるだけ近日中(翌日か数日以内)に、形成外科を受診してもらうようにしてください!自宅処置については、交換時にしっかり流水で洗浄してもらうことを指導します。なお、交換時期については自己判断が難しい場合もあり、形成外科では基本的に通院してもらっています。傷が治ってきたら、傷跡をできるだけきれいに治すために、上皮化後の遮光、保湿など、上皮化後に行う後療法の指導も行います。参考1)Fernandez R, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Feb 15.2)波利井清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書I 形成外科の基本手技1. 克誠堂出版;2016.3)日本形成外科学会, 日本創傷外科学会, 日本頭蓋顎顔面外科学会編. 形成外科診療ガイドライン2 急性創傷/瘢痕ケロイド. 金原出版;2015.

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あらゆる“傷”のプロフェッショナルといえば?【漫画でわかる創傷治療のコツ】第1回

第1回 あらゆる“傷”のプロフェッショナルといえば?こんにちは! 田舎の病院で形成外科医をしている「びたみん」と申します。形成外科というと、学生時代にそこまで詳しく習う機会もなく、国家試験にもほとんど出てこず、あまりぴんとこない人も多いかもしれません。しかしながら、医療現場では決して珍しくない外傷や褥瘡に対し、プロフェッショナルとして対応している診療科です!外来で、外傷の初期対応に困ったことはありませんか? 後医への引き継ぎは問題なかったでしょうか? 本連載では、マイナーなようで実は基本手技のノウハウが満載の形成外科知識を中心に、知って役立つ創傷治療のコツを、オリジナルキャラクターの「肉芽ちゃん」と共に紹介していきたいと思います。次回は、小児の擦り傷処置について解説する予定です。

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第49回 新型コロナと東日本大震災(後編) あの時の医療支援は、被災地の医療をどう変えたか?

東北沿岸部の医療を進化させた在宅医療の支援こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。3月11日を境に、東日本大震災の関連報道も一気に下火となりました。NHKは、先々週はドラマが主軸でしたが、11日を迎えた先週はドキュメンタリー中心で、考えさせられる番組も多かった印象です。中でも、3月11日の夜に放送された「定点映像 10年の記録〜100か所のカメラが映した“復興”〜」は、被災3県100カ所で定期的に撮影してきた映像を基につくられたドキュメンタリーで、被災地によって復興の歩みに大きな違いがあり、そこに住む人々の思いや生活も多様であることを、改めて我々に気づかせてくれる内容でした。番組の最後で被災地を取材してきたNHKの記者が、「被災地では一般の方々は復興という言葉をほぼ使わない。使っているのは行政であり、政治家であり、われわれマスコミ」と語り、「行政の復興は、基本は住まい。被災された方は住まいも大事だが、そこがゴールとは思っていない。復興という言葉をめぐる行政と一般の方々のズレが広がっている」と指摘していたのが印象的でした。さて、今回も引き続き、東日本大震災が医療に及ぼした影響について考えてみたいと思います。東日本大震災では、前回(第48回 新型コロナと東日本大震災(前編) あの時の経験は今、医療現場でどう役に立っているか?)書いたDMAT以外にも、さまざまな医療支援チームが被災地に入りました。日本医師会のJMAT、日本プライマリ・ケア連合学会のPCATなどは、急性期医療だけではなく、亜急性期や慢性期の患者にも臨機応変に対応しました。そんな中、被災地のそれまでの医療提供体制を一気に進化させた支援もありました。それは、東北沿岸部のいくつかの町で展開された「在宅医療」です。日本の10年後だった東北沿岸部東日本大震災は、高齢化が進んだ東北沿岸部を襲ったことにより、病院や介護施設など入院・入所“施設”主体であった日本の医療提供体制の問題点を浮き彫りにしました。今から10年前の2011年、日本人口はちょうど減少傾向に入ったばかりでした(日本の人口のピークは2008年の1億2,800万人)。当時、日本全体の高齢化率は23%(現在は約29%)。それに対し、東北沿岸部の市町村の多くは30%前後に達していました。つまり、震災当時の東北沿岸部は日本の10年後の姿だった、とも言えるわけです。震災直後は津波で道路が寸断され、自動車も流されて、病院に通えない患者が続出しました。また、停電が続いたことで電動ベッドが動かず、自宅や施設で褥瘡が悪化する患者が続出しました。その時、自宅や施設において渇望されたのは、病院での医療でなく、在宅医療でした。しかし、当時、東北沿岸部の多くの市町村において、在宅医療はまだ十分に普及・定着していませんでした。医療支援チームと一体になって在宅専門部隊を組織一例として、宮城県の沿岸部最北に位置する気仙沼市では、震災前までは基幹病院である気仙沼市立病院が市民の医療の最後の砦として、急性期から慢性期まで対応しており、同病院で死を迎える人も多かったと言われています。震災前から同病院でも急性期医療への特化が模索されてはいましたが、地域で在宅医療が定着しておらず、回復期の機能を持った病床も未整備で、急性期後の患者の退院先探しには難渋していました。そんな状況の中、東日本大震災が起こり、在宅医療のニーズが急速に高まったわけです。その危機をどう乗り越えたのか……。気仙沼では全国から集った医療支援チームと地元の開業医、市立病院の医師らが一体となって、急遽、「気仙沼巡回療養支援隊」が組織され、突発的な在宅医療のニーズに対応したのです。同支援隊の活動は約6ヵ月続き、地元の開業医に在宅患者を引き継ぐ形で終了しましたが、在宅医療や口腔ケア・摂食嚥下のサポートは着実に普及・定着していきました。10年経った今、気仙沼周辺は、在宅医療だけではなく、多職種連携でも先進地域となっています。それは、大震災で気仙沼巡回療養支援隊の活動をベースに、地元の医療機関や介護事業所のスタッフたちが、研修や交流などを継続し、連携を深めてきた結果だと言えます。2017年に新築移転した気仙沼市立病院も、病床を震災時の451床から340床(一般336床〈うち回復期リハビリ病床48床〉、感染症4床)まで一気にスリム化し、地域の医療機関との連携にも力を入れはじめている、とのことです。なお、気仙沼のように、地元のリソースで在宅医療を定着させた地域がある一方で、宮城県の石巻市や登米市などでは関東を本拠とする医療法人が在宅専門診療所を開設し、やはり在宅医療や医療連携の定着・普及に寄与しています。在宅医療のニーズ拡大はコロナ禍と似ている震災によって“弱者”である高齢者が自宅に留まらざるを得なくなって、在宅医療・介護のニーズが拡大した状況は、現在のコロナ禍と似ています。今、感染防止の観点から医療機関の受診を控える高齢者が増えています。また、がん手術後の患者や末期患者なども、病院ではなく自宅療養を選択する人が増加しています。コロナ患者についても、重症病床から回復期病床、在宅への流れがきちんと定まっていなかったことが、病床逼迫の一因であったことは確かです。今後の第4波の襲来に備え、通常診療の在宅医療での対応拡大や、コロナ回復患者の在宅医療での対応なども考えておく必要があるでしょう。そうした仕組みづくりには、ひょっとすると、気仙沼巡回療養支援隊をはじめとした被災地での在宅医療の展開事例が参考になるかもしれません。

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皮膚科医デルぽんのデルマな日常

連載でおなじみのデルぽん先生が放つ、笑いありタメになる話ありのコミックエッセイ!!皮膚科といえば、医療界いちのジミ(?)な存在。いまだテレビドラマの主役になったことはなく、命のやり取りをすることもほぼなし。そんな脇役に甘んじていた皮膚科ですが、ここに笑撃の一冊が誕生しました。著者のデルぽん先生は CareNet.comの連載でもおなじみの現役の女医さん。大の漫画好きが高じて、「医療あるある」をテーマにブログを始めたところ、大人気になりました。そんな4年にわたるブログ漫画を「皮膚科医vs.患者さん」「皮膚科のお仕事」「華麗なる(!?)医者の世界」「皮膚科医からのアドバイス」の章に分けて再構成し、新たにエッセイや漫画を書き下ろしたのが本書。皮膚科のみならず、他科のお医者さんや看護師さんにもぜひ読んでいただきたい一冊!著者・デルぽんより発刊のご挨拶皮膚科外来のオモシロ事件簿や、医療業界あるある話、皮膚科女医の日常と妄想など、患者さんに馴染みの深い皮膚科の世界を赤裸々に綴る、業界初(?)4コマコミックエッセイ本。日常診療に役立つ皮膚科豆知識や、患者さんによく訊かれる話題もとりあげています! エッセイあり、実用あり、笑いながらためになる(?) 外来の片隅に一冊、いかがでしょうか?画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。 皮膚科医デルぽんのデルマな日常定価1,300円 + 税判型A5判頁数128頁 発行2020年7月著者デルぽんAmazonでご購入の場合はこちら

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世界初の低侵襲処置で鼓膜の再生を促す治療剤「リティンパ耳科用250μgセット」【下平博士のDIノート】第45回

世界初の低侵襲処置で鼓膜の再生を促す治療剤「リティンパ耳科用250μgセット」今回は、鼓膜穿孔治療薬「トラフェルミン製剤(商品名:リティンパ耳科用250μgセット、製造販売元:ノーベルファーマ)」を紹介します。本剤は、自然閉鎖が見込めない鼓膜穿孔患者に対し、低侵襲な処置で鼓膜の再生を促し、聴力を回復させることが期待されています。<効能・効果>本剤は鼓膜穿孔の適応で、2019年9月20日に承認され、2019年12月9日より販売されています。<用法・用量>鼓膜用ゼラチンスポンジに100μg/mLトラフェルミン溶液全量を浸潤させて成形し、鼓膜穿孔縁の新鮮創化後、鼓膜穿孔部を隙間なくふさぐように留置します。本剤の投与4週間後を目安に鼓膜穿孔の閉鎖の有無を確認し、完全に閉鎖しなかった場合は、必要に応じて片耳あたり合計4回まで同様の投与を行うことができます。ただし、再投与にあたっては、各投与前に鼓膜、鼓室などの状態を確認した上で、穿孔の閉鎖傾向が認められないなど、本剤による鼓膜の閉鎖が見込まれない場合には、ほかの治療法への切替えを考慮する必要があります。<安全性>鼓膜穿孔6ヵ月以上経過した自然閉鎖が認められない鼓膜穿孔患者を対象とした臨床試験では、全解析対象例20症例中13例(65.0%)に、臨床検査値異常を含む有害事象が認められました(承認時)。主な有害事象は、耳漏7例(35.0%)、耳咽頭炎3例(15.0%)、喘息2例(10.0%)でした。なお、重篤な有害事象、中止に至った有害事象および死亡に至った有害事象は認められていません。<患者さんへの指導例>1.穿孔が生じた鼓膜を再生し、閉鎖するための治療法です。鼓膜細胞の増殖と鼓膜への血流量増加によって鼓膜の再生を促します。2.耳だれ、全身発赤、冷や汗、立ちくらみなどが起こる場合は受診してください。3.鼻を強くかんだり、すすったりするなど、耳に圧力がかかるようなことはしないでください。くしゃみ、咳は我慢せず自然に行い、鼻を手で押さえないでください。4.飛行機、高層エレベーターなどの気圧が大きく変化する乗り物はできるだけ避けてください。5.必要以上に耳に触れず、洗髪や入浴時は耳に水が入らないようにしてください。6.ゼラチンスポンジが外れたり、薬剤が溶け出したりすると、鼓膜の再生ができなくなることがあるので、処置後4週間はとくに注意してください。<Shimo's eyes>本剤は、世界初の鼓膜穿孔治療薬です。主成分のトラフェルミンを含有する外用薬としては、褥瘡・皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍)治療薬(商品名:フィブラストスプレー)、歯周組織再生薬(同:リグロス)がすでに承認されています。鼓膜穿孔は、中耳炎、鼓膜チューブ挿入術、外傷などが原因で生じ、通常は自然に閉鎖します。状態によっては自然閉鎖が見込めない場合があり、その際は鼓膜形成術、鼓膜穿孔閉鎖術などが行われていますが、侵襲性が高いこと、聴力が低下する恐れがあること、複雑な形状の穿孔や大きな穿孔を閉鎖することができないなどの課題がありました。本剤を用いた治療は、従来必要とされていた外科手術を受けずとも、さまざまな穿孔の大きさや形状に幅広く対応することができます。使用方法は、鼓膜用ゼラチンスポンジに溶液を浸潤させて成形し、鼓膜穿孔縁の新鮮創化後、鼓膜穿孔部を隙間なく塞ぐように留置します。本剤の投与4週間後を目安に鼓膜穿孔の閉鎖の有無を確認し、閉鎖していない場合は片耳につき4回まで投与が可能です。鼓膜穿孔6ヵ月以上経過した自然閉鎖が認められていない鼓膜穿孔患者20例を対象とした国内第III相試験において、観察期16週目における鼓膜穿孔閉鎖の有無に基づく鼓膜閉鎖割合は75.0%、観察期16週目の聴力改善割合は100.0%でした。また、慢性鼓膜穿孔患者56例63耳を対象としたプラセボ対照比較試験において、鼓膜閉鎖割合は実薬群で98.1%、プラセボ群で10.0%であり、実薬群は、1回⽬で⿎膜閉鎖を認めた割合は77.4%、2回⽬は13.2%、3回⽬が5.7%、4回⽬が1.9%でした。元の状態に近い聴力の回復が見込めるため、鼓膜穿孔によって聞こえにくさや補聴器の効果不足を感じていた患者さんにとっては、非常に喜ばしいことでしょう。なお、海外において耳科用剤として本薬が承認されている国はありません。(2020年2月現在)参考1)PMDA リティンパ耳科用250μgセット

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服薬負担を考慮した剤形・服用回数の変更提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第15回

 今回は患者さんの服薬負担を考慮した処方提案を紹介します。さまざまな薬の剤形や規格を把握している薬剤師だからこそ提案できる場面は多くあります。薬学的な判断を行いつつ、患者さんの想いも実現できるように寄り添いましょう。患者情報90歳、女性(施設入居)体  重:50kg基礎疾患:心房細動、閉塞性動脈硬化症、高血圧症、糖尿病、褥瘡既 往 歴:とくになし直近の血液検査:TG:151mg/dL処方内容1.ジゴキシン錠0.125mg 1錠 分1 朝食後2.エソメプラゾールカプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 2錠 分1 朝食後4.アピキサバン錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後5.トコフェロールニコチン酸エステルカプセル200mg 2カプセル 分2 朝夕食後6.ニコランジル錠5mg 3錠 分3 毎食後7.イコサペント酸エチルカプセル300mg 6カプセル 分2 朝夕食後8.ポラプレジンク口腔内崩壊錠75mg 2錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、以前より両下肢の冷感と違和感を自覚しており、定期訪問診療で閉塞性動脈硬化症による血流障害を指摘され、イコサペント酸エチル(以下EPA)が開始となりました。EPAには300mgの軟カプセル(直径約18mm)と、300mg/600mg/900mgの3規格の小さな粒状カプセル(直径約4mm)の分包包装があります。今回、軟カプセルが処方されたのは、いつもの定期薬と一包化することで服薬アドヒアランスに影響を与えることなく治療が可能と判断されたためです。処方提案と経過しかし、実は患者さんはこれ以上薬を増やすことが嫌で、大きい薬は服用が難しいということを話されていました。また、併用注意のアピキサバンを服用していることから、EPA1,800mg/日では出血に関わる副作用を助長する可能性があり、開始用量も慎重に検討したほうがいいと考えました。そこで、患者さんの想いに沿って、負担の少ない剤形と用法用量への変更を医師に提案することにしました。医師への疑義照会を電話で行い、アピキサバンの出血リスクからEPAは900mg/日に減量し、患者さんの心理的負担を軽減するために小さい粒状カプセルに変更して1日1回服用にまとめるのはどうか提案しました。その結果、出血リスクを懸念した医師に提案を承認してもらうことができました。現在、患者さんはEPA900mgを夕食後に1包服用しており、薬剤は増えたものの問題なく服薬を続けて症状は改善傾向にあります。

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