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食物アレルギーは食べ物に含まれるタンパク質がアレルゲンとなり、抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象と定義されている。食物アレルギーに関わるアレルゲンは、食べ物以外のこともあり、その侵入経路もさまざまであることが知られている。免疫学的機序によりIgE依存性と、非IgE依存性に分けられるが、IgE依存性食物アレルギーの多くは即時型反応を呈することが多い。IgE依存性食物アレルギーはいくつかの病型に分けられており、食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎、即時型症状、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis:FDEIA)、口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)に分類される(『食物アレルギー診療ガイドライン2021』)。 食物アレルギーによって皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、神経、循環器など、さまざまな臓器に症状が現れる。それらの症状は臓器ごとに重症度分類を用いて評価し、重症度に基づいた治療が推奨されている。IgE依存性食物アレルギーのうち、FDEIAは複数臓器・全身性にアレルギー症状が出現し、いわゆるアナフィラキシーショックを引き起こす可能性が比較的高いことが知られている。食物アレルギーの原因食物は鶏卵・牛乳・小麦とされていたが、最新の調査「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業」の報告書では第3位にナッツ類が含まれる結果であった。一般的にナッツ類は種子が硬い殻で覆われたアーモンド・クルミ・カシューナッツ・マカダミアナッツなどが含まれ、マメ科のピーナッツは含まれない。この報告書では食物アレルギーの85%に皮膚症状、36%に呼吸器症状、31%に消化器症状を認めたとし、ショック症状は11%であった。 食物アレルギーは特定の食べ物を摂取することによりアレルギー症状が誘発され、特異的IgE抗体などの免疫学的機序を介することが確認できれば診断される。とくにアレルゲンの摂取と誘発される症状の関連を細かく問診することが重要であり、採血による特異的IgE抗体や皮膚プリックテストだけで食物除去を安易に指導しないことと『食物アレルギー診療ガイドライン2021』上は指摘している。 今回紹介する「OUtMATCH試験」は、複数の食物アレルギーに対するヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体であるオマリズマブの有効性や安全性を見た報告である。複数の食物アレルギーを持つ1~55歳の180例を対象に、オマリズマブを16週投与してアレルゲンに対する反応閾値の改善効果が示された。本邦でオマリズマブは2024年4月現在、気管支喘息、季節性アレルギー性鼻炎、特発性の慢性蕁麻疹の3つの適応疾患がある。いずれも既存治療によるコントロールが難しい難治例や重症例に限るとされている。オマリズマブは血中遊離IgEのCε3に結合し、マスト細胞などに発現する高親和性IgE受容体とIgEの結合を阻害することにより効果を発揮する生物学的製剤である。IgEとの結合を抑えることにより、一連のI型アレルギー反応を抑制し、気管支喘息では気道粘膜内のIgE陽性細胞や高親和性IgE受容体陽性細胞の減少、末梢血中の好塩基球に存在する高親和性IgE受容体の発現も低下するとされている。気管支喘息に対する効果は8つのプラセボ比較試験のメタアナリシスで、増悪頻度を43%減少させることが報告されている(Rodrigo GJ, et al. Chest. 2011;139:28-35.)。別の報告では、1秒量、QOL、症状スコアやステロイドの減量、入院頻度の減少なども示されている(Alhossan A, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2017;5:1362-1370.)。オマリズマブは長期使用例ほどQOL改善効果が得られ、5年以上の使用で経口ステロイドの減量や治療ステップダウンを達成できる症例が増えるとされている(Sposato B, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2017;44:38-45.)。 本研究でのオマリズマブは体重と被検者のIgE値によって投与量が決められている。ピーナッツタンパクを1回600mg以上の摂取でアレルギー症状がない症例がオマリズマブ群で67%、プラセボ群で7%であった。副次評価項目でもカシューナッツ、牛乳、卵で評価されたが、同様のオマリズマブ群でアレルギー反応が出ない症例が有意に増加した。このピーナッツタンパク600mgはピーナッツ約2.5個分に相当するが、これは誤ってナッツ類を1~2個摂取してもアレルギー反応に耐えうることを示唆している。もちろん本研究が報告された後も、オマリズマブが投与されたとはいえ、自身に害を及ぼすアレルゲンは避ける必要があり、自己注射用アドレナリンは手放せない。また筆者らも指摘しているが、本研究は白人が60%以上含まれており、すべての人種での検討ではない。今回の「OUtMATCH試験」の結果を受け、米国FDAでは2024年2月にIgEに関連する食物アレルギーに対するオマリズマブを承認した。実臨床で幅広く多様な年齢や人種に対してこのオマリズマブを活用し、その結果を検討することが肝要である。