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乳児期の保湿剤使用でアトピー性皮膚炎の発症率低下、非高リスク集団ほど

 リスクに基づく選別を行っていない乳児集団における、アトピー性皮膚炎の1次予防を目的とした保湿剤(emollient)による介入を評価した研究はほとんどない。今回、リスクに基づく選別のない米国の代表的な乳児集団において、生後9週未満から毎日保湿剤を全身に塗布することで、生後24ヵ月時点におけるアトピー性皮膚炎の累積発症率が低下することが示された。米国・Oregon Health & Science UniversityのEric L Simpson氏らによるJAMA Dermatology誌オンライン版2025年7月23日号掲載の報告。 研究者らは、米国の4州におけるプライマリケア診療ネットワーク(practice-based research networks)に属する25の小児科・家庭医診療所から、1,247組の乳児と保護者を対象に、プラグマティック無作為化分散型臨床試験を実施した。参加者の募集は2018年7月~2021年2月に行い、追跡調査は2023年2月までに完了した。 乳児と保護者のペアは、1)生後9週目未満までに毎日の全身への保湿剤塗布を開始した保湿剤使用群、あるいは2)保湿剤の塗布を控える対照群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、生後24ヵ月までに患者の診療記録に記載された医師診断によるアトピー性皮膚炎の発症。参加者は3ヵ月ごとに電子アンケートに回答し、有害事象の報告やアトピー性皮膚炎診断の有無を研究チームに通知した。訓練を受けた研究コーディネーターが、参加者の診療記録から情報を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・1,247人の乳児のうち、553人(44.3%)が女児で、無作為化時の平均(SD)日齢は23.9日(16.3)であった。・24ヵ月時点でのアトピー性皮膚炎の累積発症率(SE)は、保湿剤使用群で36.1%(2.1)、対照群で43.0%(2.1)であり、相対リスク(RR)は0.84(95%信頼区間[CI]:0.73~0.97、p=0.02)であった。また、アトピー性皮膚炎の非高リスク集団では、より高い効果がみられた(RR:0.75、95%CI:0.60~0.90、p=0.01)。・また、家庭内に犬がいる場合には保護効果が有意に増強された(RR:0.68、95%CI:0.50~0.90、p=0.01)。・皮膚に関連する有害事象の発生率に群間差は認められなかった。

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慢性蕁麻疹に最も効果的な治療薬は何?

 皮膚に強いかゆみを伴う隆起した膨疹(みみず腫れ)が生じる蕁麻疹のうち、発症後6週間以上が経過したものを慢性蕁麻疹という。このほど新たな研究で、慢性蕁麻疹のかゆみや腫れの軽減に最も効果的な治療法は、注射用抗体薬のオマリズマブと未承認の錠剤remibrutinib(レミブルチニブ)であることが示された。マクマスター大学(カナダ)医学部のDerek Chu氏らによるこの研究結果は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology(JACI)」に7月15日掲載された。 蕁麻疹は、アレルギー反応の一環として皮膚の肥満(マスト)細胞がヒスタミンを放出することで生じる。ヒスタミンは血管の透過性を高め、毛細血管から血漿成分が皮膚に漏れ出すことで膨疹が現れる。 Chu氏らは今回、論文データベースから抽出した慢性蕁麻疹に対する全身性免疫調整薬による治療に関する93件の研究(対象者の総計1万1,398人、ランダム化比較試験83件、非ランダム化比較試験10件)を対象に、その安全性と有効性を比較検討した。これらの研究に含まれていた慢性蕁麻疹の治療法は42種類に及んだ。評価項目は、蕁麻疹活動スコア(かゆみおよび膨疹)、血管性浮腫の活動性、健康関連の生活の質(QOL)、および有害事象であった。 その結果、評価項目に対する有効性が最も高いとされた治療薬はオマリズマブ(4週おきに標準用量300mg)とremibrutinibであった。ただし、remibrutinibの安全性に関するエビデンスの確実性は低かった。また、注射薬のデュピルマブは、蕁麻疹活動性の抑制効果は認められたがQOLの改善効果は不明であり、血管性浮腫に対する効果は検討されていなかった。シクロスポリンは、蕁麻疹活動性の抑制に有効な可能性がある一方で、腎臓障害や高血圧などの有害事象の発生頻度が最も高まる可能性が示唆された。そのほか、アザチオプリン、ダプソン、ヒドロキシクロロキン、ミコフェノール酸、スルファサラジン、ビタミンDもアウトカム改善に有効な可能性が示唆された。一方、ベンラリズマブ、キリズマブ、テゼペルマブについては、有効性が確認されなかった。 Chu氏は、「慢性蕁麻疹に対する全ての先進的な治療選択肢を対象とした今回の初めての包括的な分析により、患者と臨床医が選択できる、明確でエビデンスに基づいた『治療選択肢のメニュー』を提示することが可能になった」と述べている。 研究グループは、「本研究結果は蕁麻疹の治療に関する新たな国際臨床ガイドラインの作成に役立つだろう」と述べている。

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8月7日 鼻の日【今日は何の日?】

【8月7日 鼻の日】〔由来〕「は(8)な(7)」の語呂合わせから、鼻の病気を減らすことを目的に、1961年に日本耳鼻咽喉科学会が制定。同会では、この日に全国各地で専門医の講演会や無料相談会などを行っている。関連コンテンツ長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効【バイオの火曜日】鼻血を繰り返す患児、最初にするべき検査は?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは/日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会1日1杯の緑茶が花粉症を抑制か~日本人大規模コホート鼻茸を伴う難治性慢性副鼻腔炎、テゼペルマブ追加が有効/NEJM

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小児用ワクチン中のアルミニウム塩は慢性疾患と関連しない

 120万人以上を対象とした新たな研究で、小児用ワクチンに含まれるアルミニウム塩と自閉症、喘息、自己免疫疾患などの長期的な健康問題との間に関連は認められなかったことが示された。アルミニウム塩は、幼児向け不活化ワクチンの効果を高めるためのアジュバントとして使用されている。スタテンス血清研究所(デンマーク)のAnders Hviid氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に7月15日掲載された。 アルミニウム塩はワクチンのアジュバントとして長年使われているものの、アルミニウム塩が慢性自己免疫疾患やアトピー性皮膚炎、アレルギー、神経発達障害のリスクを高めるのではないかとの懸念から、ワクチン懐疑論者の標的にもなっている。 今回Hviid氏らは、デンマークで1997年から2018年の間に生まれ、2歳時にデンマークに居住していた122万4,176人の児を対象に、ワクチン接種によるアルミニウム塩への累積曝露量と慢性疾患との関連を検討した。対象児は2020年まで追跡された。アルミニウム塩の累積曝露量は生後2年間に接種したワクチンに含まれる成分から推算し、曝露量1mg増加ごとのリスクを検討した。アウトカムとした慢性疾患は、以下の3つの疾患グループに分類される50種類の疾患であった。すなわち、自己免疫疾患として皮膚・内分泌・血液・消化管に関わる疾患とリウマチ性疾患が36疾患、アトピー性またはアレルギー性疾患として喘息、アトピー性皮膚炎、鼻結膜炎、アレルギーなど9疾患、神経発達障害として自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症など5疾患である。 その結果、生後2年間のアルミニウム塩の累積曝露量は、対象とした50種類の疾患のいずれについても、発症率の増加とは関連していないことが示された。疾患グループ別に見ると、アルミニウム塩曝露量が1mg増加するごとの調整ハザード比は、自己免疫疾患で0.98(95%信頼区間0.94~1.02)、アトピー性・アレルギー性疾患で0.99(同0.98~1.01)、神経発達障害で0.93(同0.90~0.97)であった。 Hviid氏は、「これらの結果は、アルミニウム塩に対する懸念の多くに対処し、小児用ワクチンの安全性について明確かつ強固なエビデンスを提供している」と述べるとともに、「この結果は、親が子どもの健康のために最善の選択をする必要があることを示すエビデンスでもある」と付け加えている。 なお、この研究は、2022年に米疾病対策センター(CDC)の資金提供を受けて実施された、アルミニウム塩含有ワクチンと喘息の関連性を示唆した研究に対する反論として実施された。同研究はその後、ワクチンに含まれるアルミニウム塩と、食品、水、空気、さらには母乳など他の発生源由来のアルミニウムを区別できていなかったとして批判されている。  米フィラデルフィア小児病院ワクチン教育センター所長のPaul Offit氏も、「ワクチンによるアルミニウム塩曝露量が多い人と少ない人を比較する場合、交絡因子をコントロールし、これらの人が摂取したアルミニウム塩供給源がワクチンに限定されていることを知る必要がある」と指摘している。 米国では、アルミニウム塩はジフテリア・破傷風・百日咳(DTaP)ワクチンのほか、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)、B型肝炎ワクチン、肺炎球菌ワクチンにも使用されている。接種したアルミニウム塩は大部分が2週間以内に体内から排出されるが、微量のアルミニウム塩は何年も体内に残ることがある。専門家らは、単一の研究で何かが安全であると証明することはできないものの、この研究は、ワクチンに含まれるアルミニウム塩が無害であることを示してきた過去の研究成果に加わるものであるとの見解を示している。

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足の親指が腫れて痛みます【漢方カンファレンス2】第2回

足の親指が腫れて痛みます以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代男性主訴左母趾の痛み既往高血圧、高尿酸尿症、痛風発作病歴数日前から左母趾に違和感があった。1日前から腫れて痛みを伴うようになったため手持ちのNSAIDsを内服したが痛みがつらく、歩行困難が続くため発症から2日目に受診した。現症身長162cm、体重75kg。体温36.8℃、血圧140/80mmHg、脈拍70回/分 整。左母趾に熱感・腫脹あり。経過初診時ロキソプロフェン錠60mg 3錠 分3を継続し、「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!)2日後腫れがひいて、痛みは半分程度まで軽減した。5日後痛みはほとんどなくなって普通に歩けるようになった。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 入浴ではお湯に長く浸かりますか? 暑がりです。 冷えの自覚はありません。 長風呂ではありません。 患部に熱感を感じますか? 冷水で冷やすと痛みはどうですか? 入浴で温めるとどうですか? 左母趾を中心に体全体が熱っぽいです。 冷ますと痛みが楽です。 あまりお風呂で温めたくありません。 <飲水・食事> のどが渇きますか? 冷たい飲み物と温かい飲み物のどちらを飲みたいですか? 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 胃腸は弱いですか? のどが渇いて冷たい水が飲みたいです。 1日およそ1.5L程度です。 食欲はあります。 もともと胃は丈夫です。 <汗・排尿・排便> 汗はかいていますか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便は毎日出ますか? 便秘や下痢はありませんか? 少し汗ばみます。 尿は1日4〜5回です。 夜間にトイレは行きません。 毎日、形のある便が出ます。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 足がむくみませんか? 倦怠感はありませんか? 足はつりませんか? 足の痛みでよく眠れません。 左足が腫れてむくみっぽいです。 倦怠感はありません。 足はつりません。 ほかに困っている症状はありますか? 困っているのは足の痛みだけです。腫れているので靴が履けません。 【診察】顔色はやや紅潮。脈診ではやや浮・やや強の脈。また、舌は乾燥した白黄苔が中等量、舌下静脈の怒張あり、腹診では腹力は中等度より充実、腹直筋の緊張を認めた。皮膚は発汗し湿潤傾向で、患部は紅斑・腫脹・熱感があった。カンファレンス 今回の診断は既往にもある痛風発作ですね。NSAIDsを内服しているので標準的治療はすでに行っています。アレルギーや消化性潰瘍などのためNSAIDsが用いにくい場合はプレドニゾロンという選択肢もあります。 痛風発作の治療は現代医学的な治療で十分でしょう…と思いたくなりますね。とはいえここは漢方カンファレンス、痛風発作を漢方だけで治療というわけにはいきませんが、漢方薬の併用も考えていきましょう。さあ、漢方診療のポイントに沿ってみていきましょう。 漢方診療のポイント(1)の病態の陰陽は、暑がり、体熱感があり、冷水を好む、患部にも熱感があることなどから陽証です。 今回のような急性疾患では慢性疾患より陰陽の判断がわかりやすいね。一般的に病気の発症初期は、熱が主体の陽証で始まることが多いといえるよ。ただし急性の腰痛などで、温めたほうが気持ちがよいという場合は陰証の場合もあるから注意が必要だね。 漢方診療のポイント(2)の虚実は闘病反応の程度だからわかりやすいですね。今回のように患部の局所反応が盛んな症例は闘病反応が充実していると考えて、実証と考えてよいでしょう。 今回の症例は、暑がり、冷えの自覚なし、冷水を好む、患部の熱感などから陽証、さらに局所反応も熱感や腫脹がありますし、脈:やや強、腹力:充実と実証ですね。 そうですね。さらに冷水で冷ますと痛みが楽というのも前回の症例の「入浴で温めると楽になる痛み」とは逆で陽証ですね(陽証については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。現代医学的にも、足関節捻挫で、氷で冷やしたり、冷湿布を貼ったりして治療します。足関節捻挫の急性期にお風呂で温めても楽にはならないですね。 前回の帯状疱疹後神経痛と同じく足関節捻挫もよい例だね。局所の炎症反応は時間の経過とともに消退して、古傷になると熱感や腫脹はなくなるけど冷えると悪化するなどという特徴が出てくれば、陰証・虚証になっていくとイメージできるね。 漢方治療では同じ足関節捻挫でも、陰陽に応じて治療が変わるのが特徴です。冷湿布を使うか、温湿布を使うかのイメージでしょうか。 そうだね。どちらの湿布を貼りたいかという情報も陰陽の判断に使えるかもね。ただし温湿布は皮膚がかぶれてしまう人が多いから、漢方で温めた方がよいよね。 症例に戻りましょう。陽証・実証まで確認できました。漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうですか? 患部の腫脹や下肢の浮腫は水毒です。舌下静脈の怒張があるので瘀血です。食欲不振や倦怠感はないので気虚はないようです。 尿の回数が4〜5回/日と少なめなことは尿不利、口渇があることも水毒としてよいでしょう。 今回の症例をまとめよう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?顔面やや紅潮、暑がり、冷水を好む、患部の熱感→陽証(2)虚実はどうか脈:やや強、腹:やや充実、強い局所反応→実証(3)気血水の異常を考える尿不利・口渇、患部の腫脹・下肢浮腫→水毒、舌下静脈の怒張→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む局所の熱感・腫脹解答・解説【解答】本症例は、陽証・実証で熱と水毒に対応する越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)で治療しました。【解説】越婢加朮湯は、関節の紅斑・腫脹・熱感が使用目標になります。越婢加朮湯には麻黄(まおう)、石膏(せっこう)、朮(じゅつ)が含まれ、熱を冷ましながら浮腫を改善させる作用(清熱利水[せいねつりすい]作用)があります。石膏を含むため、自汗傾向・口渇などの自覚症状も使用目標です。陽証・実証の水毒に対する漢方薬で、体表面を主とする水毒、体内に熱がこもった状態と考えて六病位では太陽病〜少陽病に分類されます。本症例のような急性関節炎、蜂窩織炎、帯状疱疹などに歴史的に活用されており、膝関節炎に用いた症例1)やNSAIDsが無効、または投与困難な急性腰痛症やcrowned dens syndromeなどの整形外科の疼痛性疾患に対して越婢加朮湯と大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)の併用が有効であった2)とする症例報告があります。使用上の注意点として、麻黄が含まれることから胃弱、虚血性心疾患の既往、前立腺肥大など尿閉のリスクがある場合は慎重投与です。今回のポイント「陽証」の解説漢方治療では生体に外来因子が加わった際の生体反応の形式について、熱性の病態を「陽証」、寒性の病態を「陰証」の2型に分類します。寒熱のほか、陽証では活動性、発揚性、陰証では非活動性、沈降性などの特徴があります。大まかに寒熱≒陰陽と考えてよいですが、一般的に寒熱は局所の病態を表し、陰陽では体全体の性質を総合的に判断します。一方、病因と生体の闘病反応の程度・病態の充実度を虚実とよびます。闘病反応が充実している場合を実証、闘病反応が乏しい病態が虚証です。主に虚実は脈や腹壁の反発力・緊張度により判定しますが、本症例のように局所反応の程度も参考になり、患部の熱感や腫脹などの局所の炎症が強い場合も実証を示唆します。陽証は、太陽病、少陽病、陽明病の3つに分類でき、病位は、太陽病が体表面の表(ひょう)、陽明病では裏(り)、少陽病はその中間の半表半裏(はんぴょうはんり)になります。一方、陰証の太陰病・少陰病・厥陰病ではすべて病位は裏になります。陽証では体力も充実していることから実証となりやすい傾向にありますが、体力が低下して闘病反応が弱い陽証・虚証の漢方薬も数多く存在します。陽明病は、熱の極期で闘病反応が充実していることから実証のみになります。今回の鑑別処方越婢加朮湯以外にも陽証の関節・皮膚疾患に用いる漢方薬を紹介します。越婢加朮湯よりもややマイルドな作用の桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいっとう)は長期投与に向きますが、エキス剤がないため桂枝湯と越婢加朮湯で代用します。黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は浮腫や腫脹(水毒)が目立たず、熱感と暗赤色の紅斑が主体の皮膚疾患に適応になります。柴苓湯(さいれいとう)は、小柴胡湯(しょうさいことう)と五苓散(ごれいさん)を組み合わせた漢方薬で、抗炎症作用と利水作用をもちます。少陽病ですから体表面より少し病気が侵入した場合に用いるのが典型ですが、蕁麻疹やリンパ浮腫に対してしばしば使用されています。麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)は、石膏が含まれず、清熱作用は弱くなりますが、利水作用をもつ薏苡仁(よくいにん)が含まれ、熱感や腫脹があまり目立たない関節痛や筋肉痛に用いられます。本症例も時間が経過して局所反応が軽減したものの痛みが持続する場合は麻杏薏甘湯の適応になるでしょう。また麻杏薏甘湯は経験的に疣贅や頭のフケなどの皮膚疾患にも使用されます。薏苡仁湯(よくいにんとう)はさらに慢性化した関節痛や筋肉痛に適応となります。足底腱膜炎やアキレス腱炎など筋腱の痛みによいとされます。さらに皮下出血を認める打撲や局所の血流障害を伴う場合は瘀血と考えて治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)を用いる、もしくは併用する場合もあります。 1) 星野綾美 ほか. 日東医誌. 2008;59:733-737. 2) 福嶋祐造 ほか. 日東医誌. 2019;70:35-41.

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患者説明をわかりやすく!病態や治療の説明文作成術【誰でも使えるChatGPT】第4回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。第3回では、国際的な診療ガイドラインとの比較方法をご紹介しました。今回は、日常診療で最も時間を要する業務の1つである「患者さんへの説明」にChatGPTを活用する方法をご紹介します。「この病気について、もっと詳しく知りたい」「なぜこの薬を使うのか教えてほしい」―、患者さんからこうした要望を受けることは日常茶飯事です。限られた診療時間の中で、医学的に正確でありながら、患者さんにとってわかりやすい説明をすることは容易ではありません。今回は、ChatGPTを「患者教育アシスタント」として活用し、さまざまな知識レベルの患者さんに合わせた説明文を効率的に作成する方法をお伝えします。関連サイトChatGPTケース1:新しく診断された疾患の説明30代女性が尋常性乾癬と診断されました。「乾癬って何ですか?」と不安そうに質問されました。あなたは患者さんに寄り添う皮膚科専門医です。30代女性の患者さんに「尋常性乾癬」について初めて説明します。以下の要素を含めて、わかりやすく説明してください。含めるべき内容:1.どんな病気か(専門用語を避けて)2.原因(遺伝や生活習慣との関係)3.症状の特徴4.日常生活への影響5.治療の見通し6.よくある誤解の解消(感染しないことなど)条件:中学生でも理解できる言葉で不安を和らげる温かい口調で全体で400字程度最後に「一緒に治療していきましょう」というメッセージをChatGPTからの回答例 乾癬は、皮膚の細胞が通常より早く生まれ変わってしまう病気です。健康な皮膚は約1ヵ月で新しくなりますが、乾癬では数日で変わるため、古い皮膚が積み重なって赤く盛り上がり、白い粉のようなものが付きます。この病気は体質的なもので、ストレスや風邪などがきっかけで出ることがあります。大切なのは、ほかの人にうつる病気ではないということです。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しますが、今は優れた治療法がたくさんあります。塗り薬から始めて、必要に応じてほかの治療も選べます。乾癬は慢性の病気ですが、適切な治療で普通の生活を送っている方がたくさんいらっしゃいます。あなたの生活スタイルに合った治療法を見つけて、一緒に治療していきましょう。何か心配なことがあれば、いつでもご相談ください。ケース2:治療法の選択肢を比較説明アトピー性皮膚炎の患者さんに、新しい治療選択肢(JAK阻害薬の内服)を提案する際の説明が必要です。あなたは、わかりやすい説明が得意な皮膚科医です。中等症のアトピー性皮膚炎患者さん(40代男性、会社員)に、新しい治療選択肢を説明する文章を作成してください。現在の治療ステロイド外用薬(ストロングクラス)提案する治療JAK阻害薬(リンヴォック)の内服以下の形式で説明してください:1.なぜ新しい治療を提案するのか2.JAK阻害薬とは(仕組みを簡単に)3.期待できる効果4.起こりうる副作用と対策5.費用の目安6.今の治療との違い(メリット・デメリット)条件:専門用語には必ず説明を付ける箇条書きを効果的に使う判断材料となる具体的な情報を含めるChatGPTからの回答例 【新しい治療法のご提案について】なぜ新しい治療をお勧めするのか。現在の塗り薬だけでは、かゆみのコントロールが十分でなく、お仕事にも影響が出ているとのことでしたので、より強力な治療法をご提案したいと思います。JAK阻害薬(リンヴォック)とは体の中で過剰な炎症反応を起こす信号をブロックする飲み薬です1日1回の内服で、全身のアトピー症状を改善します2021年に承認された比較的新しいお薬です期待できる効果多くの方が2週間~1ヵ月で効果を実感かゆみが早期に改善(数日~1週間)全身の皮疹が改善し、塗り薬の量を減らせる可能性注意すべき副作用感染症にかかりやすくなる(定期的な血液検査でチェック)にきびができやすくなることがあるまれに:帯状疱疹、血栓症費用について3割負担で月額約1万5,000円(薬代のみ)高額療養費制度の対象【大塚からの追加コメント】実はこの薬価情報は正確ではありません。リンヴォック(15mg)の実際の薬価は1錠約4,300円で、3割負担だと月額約3万6,590円(2025年7月現在)になります。これはChatGPTが薬価を正確に把握していないことを示す良い例です。現在の治療との比較【メリット】◎全身に効果がある◎塗る手間が省ける◎効果が早い【デメリット】×定期的な検査が必要×費用が高い×妊娠希望時は中止が必要ご不明な点があれば、お気軽にご質問ください。ケース3:検査結果の説明パッチテストの結果を患者さんに説明する必要があります。複数のアレルゲンが陽性でした。あなたは検査結果をわかりやすく説明する皮膚科医です。パッチテストの結果を患者さん(50代女性、主婦)に説明する文章を作成してください。検査結果:ニッケル:強陽性(++)コバルト:陽性(+)香料ミックス:陽性(+)ゴム系物質:陰性(-)説明に含める内容:1.パッチテストとは何か(簡潔に)2.陽性の意味3.日常生活で注意すべき具体的な物品4.今後の対策5.前向きなメッセージ条件:不安をあおらない表現具体的な生活指導を含めるイラストで示すようなわかりやすさChatGPTの回答例 【パッチテスト結果のご説明】検査の結果について今回の検査で、皮膚のかぶれの原因となる物質がわかりました。これは「どの物質に触れると皮膚が反応するか」を調べる検査です。見つかったアレルギー物質【ニッケル】★★(強い反応)アクセサリー(とくに安価なもの)時計、ベルトのバックル、メガネのフレーム硬貨、鍵【コバルト】★(反応あり)青色の染料を含む製品ビタミンB12を含むサプリメント【香料ミックス】★(反応あり)香水、化粧品芳香剤、柔軟剤日常生活での工夫◎アクセサリーは「チタン」「プラチナ」「18金以上」を選ぶ◎化粧品は「無香料」表示のものを◎金属部分が肌に触れる場合は、透明マニキュアでコーティング◎手袋(綿やビニール)で直接触れないように前向きに過ごすために原因がわかったことは大きな前進です。これらを避けることで、皮膚トラブルは確実に減っていきます。完全に避けることが難しい場合もありますが、工夫次第で快適に過ごせます。一緒に対策を考えていきましょう。患者説明のプロンプト作成のコツ1)患者さんの背景を具体的に設定年齢、性別、職業、生活環境などを明確にすることで、より適切な説明文が生成されます。2)説明のレベルを明確に指定「中学生でもわかる」「専門用語を避けて」など、具体的な指示を入れましょう。3)感情面への配慮を忘れずに「不安を和らげる」「前向きなメッセージ」など、心理的サポートの要素も重要です。4)構造化された出力を求める箇条書きや見出しを使うよう指示することで、読みやすい説明文になります。注意点1)医学的正確性の確認ChatGPTが生成した内容は必ず医学的に正しいか確認し、必要に応じて修正してください。2)個別性への配慮生成された説明文はあくまでテンプレート。患者さんの理解度や心理状態に応じて調整が必要です。3)定期的な更新治療ガイドラインや薬剤情報は変更されることがあるため、定期的に内容を見直しましょう。AIの薬価情報に関する重要な教訓ケース2で示したリンヴォックの薬価は、実際とは大きく異なっていました。これは医療現場でChatGPTを使用する際の重要な教訓を示しています。薬価・費用に関する情報はとくに注意が必要ChatGPTは薬価改定や最新の保険適用情報を把握していません。具体的な金額を患者さんに伝える前に、必ず最新の薬価を確認しましょう。「おおよその目安」として伝える場合も、実際の金額との乖離に注意します。確認すべき情報のチェックリスト◎薬価(最新の薬価基準で確認)◎用法・用量(添付文書で確認)◎保険適用の条件(適応症、施設基準など)◎併用禁忌・注意(最新の情報で確認)このような具体的な数値や規制に関わる情報は、ChatGPTの回答をうのみにせず、必ず1次情報源で確認することが患者さんの信頼を得るために不可欠です。まとめ患者説明は医療の質を左右する重要な要素です。ChatGPTを活用することで、わかりやすく、思いやりのある説明文を効率的に作成できます。ポイントは:患者さんの立場に立った言葉選び医学的正確性とわかりやすさのバランス不安を和らげる配慮これらの説明文を印刷して渡したり、診察室でタブレットを使って見せたりすることで、患者さんの理解度と満足度の向上が期待できます。

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アトピー性皮膚炎患者、「治療で症状が良くなると思う」と回答したのは3割のみ/リリー

 日本イーライリリーは7月8日、「アトピー性皮膚炎に関する最新事情~中等症以上の患者さんの治療実態を調査結果から読み解く~」と題したメディアセミナーを開催。同社が実施した中等症以上のアトピー性皮膚炎患者1,015例を対象としたインターネット調査結果を中心に、大塚 篤司氏(近畿大学医学部皮膚科学教室)、俳優の岸谷 五朗氏が講演とトークセッションを行った。治療に対する満足度と新しい治療法への認知度の低さが浮き彫りに 2018年にアトピー性皮膚炎に対する治療薬としては10年ぶりに生物学的製剤が発売されて以降、続々と新薬が登場し治療選択肢が増えている。大塚氏は、「これまでステロイド外用薬だけでは治療がうまくいかなかった患者さんに対して、これらの薬剤をうまく活用することでかゆみのない状態・肌がきれいな状態にもっていくことができるようになっている」と話す。 しかし、今回実施されたアンケート調査では、現在のアトピー性皮膚炎の治療薬に対して「満足している・やや満足している」と回答した患者は37%にとどまり、治療をしていくことでアトピー性皮膚炎の症状が良くなると思うかを聞いた質問では「そう思う・ややそう思う」と答えた患者の割合は31%であった。 さらに、インターネットや本などで最後にアトピー性皮膚炎の治療薬を調べた時期を聞いた質問では、「直近5年よりも前/調べたことはない」との回答が58%を占めた。直近5年間に発売されたアトピー性皮膚炎の新しい全身療法(飲み薬や注射薬など)についてよく知っていると思うかとの質問には、「そう思う・ややそう思う」と回答した患者の割合は12%と低かった。「ベッドに手を縛り付けて寝たことも」岸谷五朗氏が語る生活への影響 幼少期にアトピー性皮膚炎を発症し、現在も治療を続けているという岸谷氏は、「物心ついたときから痒みに悩まされており、寝ている間にかいてしまって起きたときに血だらけだったこともある。高校生のころはかいてしまわないようにベッドの上の部分に手を縛り付けて寝ていた」と話し、化粧をしたり汗をかくことも多い舞台俳優という仕事をするうえでずっと悩まされてきたという。今回の調査でも、「アトピー性皮膚炎により仕事や学業に支障を来したことがある(あてはまる・ややあてはまる)」と回答した割合は57%に上り、睡眠について聞いた質問では「月に10日以上、痒みで睡眠途中に起きてしまう」という回答が29%を占めた。 また、「アトピー性皮膚炎により恋愛に消極的になったことがある(あてはまる・ややあてはまる)」と回答した割合は46%で、「アトピー性皮膚炎の症状が気になって、家族や恋人とのスキンシップをためらったことがある(あてはまる・ややあてはまる)」との回答も45%を占めた。岸谷氏は「幼稚園のフォークダンスのときに、自分の手がガサガサで相手の女の子が驚くことがとても苦痛だった」というエピソードを語り、大塚氏も「症状の出ている手が気になると話す患者さんは多く、それにより対人関係に影響が出ていることもあると思う」と話した。 今回の調査で治療に対する満足度が低かったことについて、岸谷氏自身は現在満足しているとしたうえで、外用薬の種類がたくさんあり、持ち歩かなくてはいけないことはストレスになっていると吐露。大塚氏は、「新しい薬剤を上手く使うことで、外用薬がほとんど必要なくなった患者さんもいる」と話し、認知度が低いことでそれらの治療にたどり着かないケースがあり、その点を改善していくことが今後の課題とした。【調査概要】調査主体:日本イーライリリー株式会社実査:株式会社インテージヘルスケア調査手法:インターネット調査調査地域:日本全国実施期間:スクリーニング調査 2025年3月5日~3月13日本調査 2025年3月28日~4月4日解析対象:18~79歳の中等症以上のアトピー性皮膚炎患者(POEMスコア8点以上、直近1年間にアトピー性皮膚炎の治療を目的とした医師からの処方歴あり)有効回答数:1,015例監修:近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授 大塚 篤司氏

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乳児期の犬への曝露は幼少期のアトピーリスクを低下させる?

 犬を飼っている家庭の乳児は、幼少期にアトピー性皮膚炎(AD)を発症するリスクが、犬を飼っていない家庭の児よりも低い傾向があるようだ。新たな研究で、乳児期に犬に曝露することで、ADの発症に関与する遺伝子の影響が軽減される可能性が示された。英エディンバラ大学皮膚科教授のSara Brown氏らによるこの研究結果は、「Allergy」に6月4日掲載された。 Brown氏は、「遺伝子の組み合わせが小児のAD発症リスクに影響を与えることは分かっていたし、過去の研究でも、犬を飼うことがAD発症の予防に有効な可能性が示されている。しかし、分子レベルでその仕組みを示したのはこの研究が初めてだ」と述べている。 ADは、皮膚のバリア機能が低下することで刺激物やアレルゲンが侵入しやすくなり、それによって免疫反応が引き起こされ、湿疹、かゆみ、炎症などの症状が生じる疾患で、遺伝的要因と環境要因が関与するとされている。研究グループによると、遺伝的にADを発症しやすい人がいることは判明しているものの、遺伝子と環境がどのように相互作用してADリスクを増大させたり低下させたりしているのかは明確になっていないという。 Brown氏らは今回、ヨーロッパで実施された16件の研究データを分析し、ADに関連する既知の24種類の遺伝的バリアントと、母親の妊娠中および児の生後1年間における18種類の環境要因の相互作用を調べた。 その結果、犬の飼育を含む7つの環境要因と少なくとも1つのAD関連遺伝的バリアントとの間に14の相互関係が示唆された。また、25万4,532人を対象とした追加解析から、犬への曝露と第5染色体に位置する遺伝的バリアント「rs10214237」との間に統計学的に有意な相互作用が認められた(相互作用のオッズ比0.91、95%信頼区間0.83〜0.99、P=0.025)。rs10214237は、免疫応答の調節に関与するインターロイキン(IL)-7受容体をコードする遺伝子の近傍に位置する。 次いで、実験室でのテストにより、rs10214237と犬アレルゲン曝露との相互作用がADの発症リスクにどのように影響するのかを検討した。その結果、犬への曝露はこの遺伝的バリアントの影響を変化させて皮膚の炎症を抑え、AD発症リスクを抑制している可能性が示唆された。 研究グループは、今回の研究で得られた結果を確認し、今後の研究で犬が人間の遺伝子に与える影響についての理解を深める必要があるとしている。Brown氏は、「われわれの研究は、臨床の現場で問われる『なぜうちの子はADなのか』『赤ちゃんを守るために何ができるのか』などの最も難しい質問に答えることを目的としている」と話す。同氏はさらに、「さらなる研究が必要だが、本研究結果は、アレルギー疾患の増加に介入し、将来の世代を守るチャンスがあることを意味する」と述べている。

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だ~まにゅ Dermatology Manual

必要なとこだけ、ムダなく最短で診療へ「皮膚科の臨床」67巻6号(2025年5月臨時増刊号)“迷わず使える”皮膚科マニュアル『だ~まにゅ Dermatology Manual』登場! 新薬・治療法の最新情報をキャッチアップできる「治療薬・治療法一覧」、エキスパートによる治療の実践法がわかる「治療実践マニュアル」など、皮膚科診療に必要なエッセンスを疾患ごとにぎゅっと凝縮。治療法に迷ったときや最新情報を確認したいとき、手軽に参照できる診療の即戦力!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するだ~まにゅ Dermatology Manual定価8,800円(税込)判型B5判頁数224頁発行2025年6月編集「皮膚科の臨床」編集委員会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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スマホ画像からAIモデルがアトピー性皮膚炎の重症度を評価

 アトピー性皮膚炎患者は近い将来、スマートフォン(以下、スマホ)のアプリに自分の皮疹の画像を投稿することで、その重症度を知ることができるようになるかもしれない。慶應義塾大学医学部皮膚科学教室・同大学病院アレルギーセンターの足立剛也氏らが、患者が撮影した画像からアトピー性皮膚炎の重症度を評価するAIモデル「AI-TIS」を開発したことを発表した。この研究結果は、「Allergy」に5月19日掲載された。 足立氏は、「多くのアトピー性皮膚炎患者が、自分の皮疹の重症度を評価するのに苦労している。われわれが開発したAIモデルを使えば、スマホだけで疾患をリアルタイムで客観的に追跡することが可能になり、病状管理の改善につながる可能性がある」と慶應大学のニュースリリースで述べている。 研究グループによると、アトピー性皮膚炎は再発を繰り返す傾向があり、長期にわたる監視と治療の調整が必要になる。しかし、患者から報告される皮膚のかゆみや睡眠不足などの症状は、肉眼で見た皮疹の状態と必ずしも一致するわけではないという。 足立氏らは、皮疹の重症度を解析・評価するAIモデルを構築するために、日本のアトピー性皮膚炎患者2万8,000人以上が使用している投稿型アプリに蓄積された5万7,429枚の画像データから、自己申告のかゆみスコアが記録された9,656枚(900人分)の画像を抽出した。まず、身体部位の検出、皮膚病変の検出、および重症度の評価のアルゴリズムを880枚の画像セットで学習させて統合した。このモデルは、全身画像ではなく代表的な皮疹画像を解析対象とするため、紅斑、浮腫/丘疹、ひっかき傷を基に局所的な重症度を0〜9点で評価する3項目重症度(Three Item Severity;TIS)スコアが採用された。次に、別の220枚の画像セットでモデルの性能を評価した。 その結果、このモデルの身体部位の同定率は98%、皮疹部位の同定率は100%であり、重症度評価についても認定皮膚科医やアレルギー専門医によるスコアと強い相関を示した。一方、残る8,556枚の画像を用いて、AIモデルと患者の自己評価によるかゆみスコア(Itch-NRS-5)との関係を検討したところ、相関は低いことが示された。研究グループは、「これは、AI-TISによる皮疹の重症度の客観的評価とItch-NRS-5によるかゆみの主観的評価が、必ずしも一致しないことを示唆する結果である」としている。 足立氏らは今後、より多様なスキンタイプ(肌の色や質)と年齢層のデータに加え、皮疹の他の臨床スコアリングシステムからの追加機能も組み込んで、AIモデルをトレーニングする予定であるという。同氏らは、「本研究で開発されたAIモデルは、アトピー性皮膚炎患者が皮膚の状態を客観的に評価し、適切なタイミングで適切な治療を受けることを促進する可能性を秘めている。本研究は、AIを活用した皮膚評価の今後の進歩の基盤となり、患者ケアと臨床研究の両方を向上させるだろう」と述べている。

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第248回 骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府

<先週の動き> 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省 1.骨太方針の「OTC類似薬見直し」診療現場や患者からは懸念の声も/政府政府は、医療費削減の一環として「OTC類似薬(市販薬と成分・効果が類似する医療用医薬品)」の保険適用見直しを検討しており、6月13日に閣議決定された「骨太の方針2025」にその方針が盛り込まれた。自民・公明・日本維新の会の3党が合意し、社会保障費抑制と現役世代の保険料軽減を目的としている。見直し対象は、花粉症薬や解熱鎮痛薬、保湿剤、湿布などで、最大で7,000品目とされる。仮に保険給付から除外されれば、患者の自己負担は数千円~数万円単位で跳ね上がる。とくに慢性疾患や難病患者、小児、在宅患者への影響が懸念されている。日本医師会の松本 吉郎会長は18日の記者会見で、「医療提供が可能な都市部と異なり、へき地では市販薬へのアクセスも困難。経済性を優先しすぎれば、患者負担が重くなり、国民皆保険制度の根幹が揺らぐ」と指摘。医療機関での診療や処方の自由度が制限されることにも懸念を示した。また、現場の開業医からも、「処方薬が保険適用外となれば、治療選択肢が狭まり、医師としての判断が制限される」「市販薬への誘導が誤用や副作用を招きかねない」との声が上がっている。とくに皮膚疾患やアレルギー疾患、疼痛管理においては、治療の中核となる薬剤が影響を受けるとされる。6月18日には、難病患者の家族らが約8万5千筆の署名とともに厚生労働省に保険適用継続を要望。厚労省は「具体的な除外品目は未定で、医療への配慮を踏まえて議論する」としているが、今後の制度設計次第で現場への影響は甚大となる可能性がある。次期診療報酬改定との整合性も含め、制度の動向を注視しつつ、患者支援の観点から声を上げていくことが求められる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025(内閣府) 2) 市販薬と効果似た薬の保険外し、患者に懸念 医療費節約で自公維合意(日経新聞) 3) 日医会長、3党合意のOTC類似薬見直しに懸念 骨太方針は高評価、次期診療報酬改定に期待(CB news) 4) 「命に関わる」保湿剤・抗アレルギー薬などの“OTC類似薬”保険適用の継続を求め…難病患者ら「8.5万筆」署名を厚労省に提出(弁護士JPニュース) 5) 「OTC類似薬」保険適用の継続を 難病患者家族が厚労省に要望書(NHK) 2.コロナワクチンの接種の遅れ、孤独感や誤情報、公衆衛生の新たな課題/東京科学大など新型コロナウイルス感染症におけるワクチン接種の効果と課題が、複数の研究から改めて浮き彫りになっている。東京大学の古瀬 祐気教授らの推計によれば、2021年に国内で行われたワクチン接種がなければ、死者数は実際より2万人以上増えていたとされる。ワクチン接種の開始が3ヵ月遅れた場合、約2万人の追加死亡が生じた可能性があり、接種のタイミングが公衆衛生に与える影響の大きさが示された。一方、接種を妨げた要因として「誤情報」と「孤独感」の影響が注目されている。同チームの調査では、誤情報を信じた未接種者が接種していれば、431人の死亡を回避できたとの推計もなされている。さらに、東京科学大学らの研究では、若年層のワクチン忌避行動に「孤独感」が強く影響していたことが判明した。都内の大学生を対象とした調査では、孤独を感じる学生は、感じない学生と比べてワクチンをためらう傾向が約2倍に上った。社会的孤立(接触頻度)とは異なり、孤独感という主観的要因がワクチン行動に与える心理的影響が独立して存在することが示された。東京都健康長寿医療センターの研究でも、「孤独感」はコロナ重症化リスクを2倍以上高めるとの結果が示されており、孤独感が接種率の低下だけでなく、重症化リスクの増大にも寄与している可能性がある。今後の感染症対策では、誤情報対策だけでなく、心の健康や社会的つながりを強化する施策が、接種率の向上および重症化予防の両面において重要になると考えられる。次のパンデミックに備えるためにも、若年層に対する心理的支援や信頼形成のアプローチが不可欠である。 参考 1) 若年層のワクチン忌避、社会的孤立より“孤独感”が影響(東京科学大学) 2) ワクチン接種をためらう若者 孤独感が影響 東京科学大など調査(毎日新聞) 3) 接種遅れればコロナ死者2万人増 21年、東京大推計(共同通信) 4) 「孤独感」はコロナ感染症の重症化リスクを高める、今後の感染症対策では「心の健康維持・促進策」も重要-都健康長寿医療センター研究所(Gem Med) 3.「かかりつけ医機能」の再設計へ、次期改定で評価を見直し/中医協厚生労働省は、6月18日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、2026年度の診療報酬改定に向け、「かかりつけ医機能」の診療報酬評価の見直しについて検討した。今年の医療法改正により医療機関機能(高齢者救急・地域急性期機能、在宅医療等連携機能、急性期拠点機能など)報告制度が始まったことを踏まえ、「機能強化加算」や地域包括診療料などの体制評価が現状に即しているかが問われている。厚労省は6月に開かれた「入院・外来医療等の調査・評価分科会」で、医療機関が報告する「介護サービス連携」「服薬の一元管理」などの機能は診療報酬で評価されているが、「一次診療への対応可能疾患」など一部機能は報酬上の裏付けがない点を指摘。これに対し支払側委員からは、既存加算は制度趣旨に適さず、17領域40疾患への対応や時間外診療など実態に即した再評価を求める声が上がった。また、診療側からは、看護師やリハ職の配置要件など「人員基準ありきの報酬」が現場に過度な負担を強いており、患者アウトカムや診療プロセスを評価軸とすべきとの意見も強調された。とりわけリハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算は基準が厳しく、取得率が1割未満に止まっている現状が報告された。今後の改定論議では、「構造(ストラクチャー)」評価から「プロセス」「アウトカム」重視への段階的な移行とともに、新たな地域医療構想や外来機能報告制度との整合性が問われる。かかりつけ医機能の再定義とそれを支える診療報酬のあり方は、地域包括ケア時代における制度の根幹をなす論点となる。 参考 1) 第609回 中央社会保険医療協議会 総会(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」の診療報酬見直しへ 機能強化加算など、法改正や高齢化踏まえ(CB news) 3) 診療側委員「人員配置の要件厳し過ぎ」プロセス・アウトカム重視を主張(同) 4) 2026年度診療報酬改定、「人員配置中心の診療報酬評価」から「プロセス、アウトカムを重視した診療報酬評価」へ段階移行せよ-中医協(Gem Med) 4.オンライン診療1.3万施設まで増加、精神疾患が主領域に/厚労省2025年4月時点でオンライン診療を厚生労働省に届け出た医療機関数が1万3,357施設に達し、前年より2,250件増加したことが厚労省の報告で明らかになった。届け出数は、初診からのオンライン診療が恒久化された2022年以降増加傾向にあり、対面診療全体に占める割合も2022年の0.036%から2023年は0.063%に上昇した。厚労省の分析によれば、オンライン再診では精神疾患の割合が高く、2024年7月の算定データでは「適応障害」が最多で8,003回(9.1%)、次いで高血圧症や気管支喘息、うつ病などが続いた。とくに対面診療が5割未満の施設では、再診での適応障害(22.2%)やうつ病、不眠症など精神科領域の算定が顕著だった。この結果から中央社会保険医療協議会(中医協)の分科会では、「オンラインと対面での診療内容の差異を調査すべき」との指摘もあった。こうした中、日本医師会は6月18日、「公益的なオンライン診療を推進する協議会」を発足。郵便局などを活用した地域支援型の導入モデルを想定し、医療関係4団体や自治体、関係省庁、郵政グループとともに初会合を行った。松本 吉郎会長は「利便性や効率性のみに偏らず、安全性と医療的妥当性を担保した導入が不可欠」と強調し、とくに医療アクセスに困難を抱える地域、在宅医療、災害・感染症時の手段としての有効性に言及した。郵便局のインフラを活用した実証事業も一部地域で始動しており、診療報酬制度の課題、患者負担への配慮、医師会・自治体との連携が今後の焦点となる。 参考 1) オンライン診療に1.3万施設届け出 厚労省調べ、4月時点(日経新聞) 2) オンライン再診、精神疾患の割合が高く 厚労省調べ(CB news) 3) オンライン診療で医産官学の協議会発足 郵便局など活用で連携を強化(同) 5.病床転換助成、利用率わずか1%台 延長か廃止かで紛糾/厚労省厚生労働省は6月19日、医療療養病床から介護施設などへの転換を支援する「病床転換助成事業」の今後の在り方について、社会保障審議会・医療保険部会で実態調査結果を報告した。2008年度に開始され、これまでに7,465床の転換に活用されたが、今後の活用予定医療機関は2025年度末時点で1.4%、2027年度末でも3.0%に止まり、活用実績も病院7.3%、有床診療所3.7%と低迷している。事業延長については委員の間で意見が分かれ、健康保険組合連合会の佐野 雅宏委員らは既存支援策との重複や利用率の低さを理由に廃止を主張。一方、日本医師会の城守 国斗委員は、申請手続きの煩雑さや認可の遅れがネックとなっていると指摘し、当面の延長と支援対象の拡大を提案した。今後、厚労省は部会の意見を整理し、年度内に方針を提示する見通し。地域医療の再編を進める上で、同事業の位置付けと実効性が改めて問われている。 参考 1) 病床転換助成事業について(厚労省) 2) 病床転換の助成事業、活用予定の医療機関1-3% 事業の延長に賛否 医療保険部会(CB news) 6.ハイフ施術でやけど多発、違法エステ横行に警鐘/厚労省痩身やリフトアップ目的で人気を集めるHIFU(高密度焦点式超音波)による美容医療で、違法施術により重篤な被害を受けた事例が再び注目を集めている。2021年に東京都内のエステサロンで医師免許のない施術者からHIFUを受け、重度のやけどを負った女性が損害賠償を求め提訴。2025年6月、エステ側が謝罪し、解決金を支払う形で和解が成立した。厚生労働省は2024年6月、「HIFU施術は医師による医療行為であり、非医師が行うことは医師法違反」と明確化したにもかかわらず、違法施術による健康被害は依然として後を絶たない。美容医療に起因する健康被害の相談件数は2023年度に822件と、5年前の1.7倍に増加。熱傷、重度の形態異常、皮膚壊死などの深刻な合併症が報告されている。こうした背景から、東京・新宿の春山記念病院では、美容医療トラブル専門の救急外来を本格的に開始。美容クリニックと施術情報の事前共有を行うなど、連携体制を整備している。厚労省も、美容医療を提供する医療機関に対し、合併症時の対応マニュアル整備や他院との連携構築、相談窓口の報告を義務化する方向で検討を進めている。医師が美容医療に携わる場合は、医療行為の厳密な定義のもと、適切な説明責任とアフターフォロー体制の構築が不可欠である。また、美容分野に参入する無資格者の排除に加え、トラブル患者の受け皿となる救急医療体制との連携も、今後の制度整備における重要課題となる。 参考 1) 「やせる」美容医療でやけど、エステ店側と和解 被害「氷山の一角」(朝日新聞) 2) 医師以外の「ハイフ施術」でやけど エステサロンと被害女性が和解(毎日新聞) 3) “美容施術 HIFUでやけど” 会社が謝罪し解決金で和解成立(NHK) 4) 美容医療トラブルに特化した救急外来が本格開始 東京 新宿(同)

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マウステーピングは睡眠の質を改善する?

 最近、ソーシャルメディアを席巻しているトレンドの一つであるマウステープの使用について、残念な研究結果が報告された。睡眠時にテープなどで口を閉じた状態にすること(マウステーピング)は、口呼吸を防いで鼻呼吸をサポートし、口腔内の乾燥を防ぎ、いびきや睡眠時の一時的な呼吸停止(睡眠時無呼吸)を防ぐことで睡眠の質を高めるとされている。しかし新たな研究で、マウステーピングが実際に睡眠の質の改善に有効であることを示すエビデンスは限定的であり、場合によっては窒息のリスクを高める可能性のあることが明らかにされた。ロンドン健康科学センター(カナダ)耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野のBrian Rotenberg氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に5月21日掲載された。 女優のグウィネス・パルトローはInstagramでマウステープについて、「これはおそらく最近見つけた中で最高の健康ツールだわ。一晩中、鼻呼吸をすると、体内がアルカリ性に傾き、質の高い睡眠を促すそうよ」と述べたことをUs Weeklyは伝えている。しかしRotenberg氏は、「ソーシャルメディアで大量に喧伝されているマウステーピングの効果はエビデンスに乏しく、重度の鼻詰まりの人には有害な影響さえもたらす可能性がある」と述べている。 この研究では、1999年2月から2024年2月の間に発表されたマウステーピングの効果に関する既存の研究から10件の研究を抽出し、そのレビューが行われた。これらの研究では、サージカルテープやマウスピースなどさまざまな器具を用いたマウステーピングが検討されており、対象者の総計は213人に上った。 その結果、マウステーピングが無呼吸低呼吸指数(AHI)や酸素飽和度低下など睡眠時無呼吸の指標に対して統計学的に有意な改善を示した研究は、10件中わずか2件にとどまることが明らかになった。それ以外の研究では、マウステーピングの効果は何も確認されず、それどころか、鼻づまりがある状態でマウステーピングを行うと窒息のリスクが生じる可能性のあることが示唆されていた。 研究グループは、「例えば、花粉症や風邪、鼻中隔湾曲、扁桃腺肥大などの症状がある人は、鼻から十分な酸素を取り込めないため口呼吸をしている可能性がある」と指摘している。また、マウステーピングにより口が閉じられていると、睡眠中に嘔吐した際に吐瀉物で窒息する危険性もあるとしている。 その上で研究グループは、「マウステーピングは、有名人が推奨することの多い現代的な習慣だが、その効果は必ずしも科学的に証明されたものではない。マウステーピングに適さない人も多く、場合によっては深刻な健康被害のリスクにつながる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 一方で研究グループは、「本研究で対象とした研究は一貫して高品質ではなかったため、さらなる調査が必要だ」とも述べている。

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アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」新薬5剤を含む治療アルゴリズムの考え方は

 近年新規薬剤の発売が相次ぐアトピー性皮膚炎について、2024年10月に3年ぶりの改訂版となる「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」が発表された。外用薬のホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬ジファミラスト、注射薬の抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブおよび抗IL-13受容体抗体トラロキヌマブ、経口JAK阻害薬ウパダシチニブおよびアブロシチニブの5剤が、今版で新たに掲載されている。ガイドライン策定委員会メンバーである常深 祐一郎氏(埼玉医科大学皮膚科)に、新薬5剤を含めた治療アルゴリズムの考え方について話を聞いた。いかに寛解導入に持っていくか、アトピー治療のPDCAサイクルの回し方 前版である2021年版のガイドラインで、治療アルゴリズムの骨格が大きく変更された。全身療法(注射薬と経口薬)の位置付けについて、寛解維持療法の選択肢に一部が加えられたほか、使用対象がその前の2018年版アルゴリズムの「重症・最重症・難治性状態」から「中等症以上の難治状態」に変更されている。そして各段階で「寛解導入できたか」という問いが加えられ、そのyes/noに応じて治療のPDCAサイクルを回していく構成となっている。この背景には、使用できる薬剤が増えたことが何よりも大きいと常深氏は話し、PDCAサイクルを回してこれらの薬剤を活用し、必ず寛解導入すること(Treat to Target)が重要とした。 アルゴリズムでは診断と重症度評価に続いて、「疾患と治療の目標(ゴール)の説明・共有」を行うことが推奨されており、末尾の“共有”という言葉が2024年版で追記された。常深氏は「説明は医療者から患者さんへの一方的なものだが共有は違う。この言葉が入ったことにはとても大きな意味があり、“とりあえず治療を始めてみましょう”ではなく“どんな状態をゴールとして目指すか”を共有したうえで治療をスタートしてほしい」とこの言葉の意図を説明した。寛解導入のメインはまず“ステロイドの適切な使用”で変わりない ジファミラストを含む非ステロイド系外用薬の選択肢が増えている。寛解導入での位置付けについて常深氏は「軽い皮疹の場合に非ステロイド系で寛解導入もありうるが、メインはやはりステロイド系外用薬」と話し、ランクの選択を含めてステロイドをどう適切に使えるかが非常に重要とした。「顔だから、年齢が低いからという理由で皮疹の重症度に見合わない弱いランクを選んでしまうケースがみられるが、重症度評価に応じたランクのステロイドを自信をもって選択してほしい」とし、落ち着いたらランクを下げるもしくは非ステロイド系に切り替えるといった使い方が望ましいと話した。  一方、ステロイド系外用薬は局所的な副作用が出るなど長期使用には向かないため、寛解維持の外用療法のメインとしては非ステロイド系外用薬が適しているが、常深氏は「非ステロイド系外用薬のなかでどの薬剤をどのタイミングで行うとよいかは明確になっていない」とし、「患者さんごとに使ってみて使いやすいものを選ぶといった考え方もよいのではないか」と柔軟な対応を提案した。全身療法の使いどころ、使い分けは? 全身療法は中等症以上の多くのアトピー性皮膚炎患者に対して推奨されており、「決してしきいの高いもの・最後の切り札ではない」と常深氏。「必ずしもとことん外用療法をやりきってから全身療法という考え方ではなく、患者さんが外用療法に疲れてしまったり時間をかけてQOLが下がってしまったりという状況になる前に、使用ガイダンスで示された条件を満たしたうえで1,2)早めに全身療法に切り替えるのも1つの選択肢」と私見を交えて解説した。 注射薬である抗体製剤(デュピルマブ、トラロキヌマブ、ガイドライン改訂後に登場したレブリキズマブ)の特徴として、常深氏は、投与前後の検査不要で安全性が高いこと、幅広い患者に有効性があることを挙げた。それに対して経口JAK阻害薬(バリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブ)は、使用ガイダンス2)に示されるように投与後も画像を含めた検査が必要であり、効き始めは早いがレスポンダーとノンレスポンダーが分かれる傾向があるという。「経口がやはり楽という患者さんもいるし、数週間おきの注射のほうがむしろ楽という患者さんもいる」とし、上記の特徴も踏まえた選択が重要と話した。 抗体製剤やJAK阻害薬には治療費の問題がある。同氏は治療費がハードルになるケースでは、従来からの全身療法薬であるシクロスポリンをしっかりと使っていくことも大事と指摘。「悪くなりかけた際にシクロスポリンを使うという使い方で、短期の使用であれば副作用の可能性も低い」とした。アトピーはいまや“すごくよくなる”疾患、患者も医療者もイメージを変えていく必要 アトピー性皮膚炎には以前から“なかなか治らない疾患”というイメージが根強くあり、そもそも医療機関にかかっていない患者も多い。しかし有効な薬剤が複数登場し、適切な治療により、アルゴリズムで治療のゴールとして示された「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない」状況を実現することができるようになっている。  常深氏は、医師を含む医療者が“アトピーは外用薬しかない”、あるいは“改善の難しい疾患だからあまりよくならなくても仕方がない”と思っていたらそこで治療は止まってしまうとし、「抗体製剤使用のハードルは決して高くなく、要件を満たせば1)クリニックでも使用できる。また自院で使用しなくても、必要性を感じた場合は専門医に積極的につないでほしい」と話した。

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第15回 身近な抗アレルギー薬に思わぬリスク?長期服用後の中止で激しいかゆみ、FDAが警告

花粉症やじんましんなど、アレルギー症状を抑えるために日常的にアレルギーの薬を服用している方は多いでしょう。その中でも広く使われている「セチリジン」(商品名:ジルテック)や「レボセチリジン」(商品名:ザイザル)を含むアレルギー治療薬について、米国食品医薬品局(FDA)が2025年5月16日、重要な安全情報を発表しました1)。長期間にわたってこうした薬を連用した後に突然中止すると、重度の激しいかゆみが発生する可能性があるというのです。これは、処方薬だけでなく、薬局などで購入できる市販薬(OTC医薬品)も対象となる話です。長期間の服用を中止した後に、耐え難い「かゆみ」が?FDAの発表によると、この「かゆみ」は、セチリジンやレボセチリジンを毎日、典型的には数ヵ月から数年にわたって服用していた人が、服用を突然中止した後に報告されています。もともとアレルギー症状の一環としてかゆみがあったわけではなく、薬を飲み始める前にはかゆみがなかった患者さんでも確認されているのが特徴です。報告された症例はまれではあるものの、中には日常生活に大きな支障を来すほど広範囲で激しいかゆみが生じ、医療機関での治療が必要になったケースもあったということです。FDAが2017年4月~2023年7月に確認した209例では、かゆみは薬の中止後、中央値2日(1~5日の範囲)で発生していました。また、報告された深刻なケースには、「深刻なかゆみで寝たきりになる」といった人や、入院、さらには自殺を考える人もいたようです。対象となる薬とFDAの対応セチリジンやレボセチリジンは、アレルギー反応の原因となる体内物質「ヒスタミン」の働きをブロックする抗ヒスタミン薬です。花粉症や通年性のアレルギー性鼻炎、慢性じんましんなどの治療に用いられます。こうした新たな報告を受け、FDAは製造業者に対し、処方薬の添付文書にこのかゆみのリスクに関する新たな警告を記載するよう指示しています。さらに、市販薬についても同様の警告を製品の医薬品情報ラベルに追加するよう要請する方針です。患者さんはどうすれば良い? 自己判断せず専門家への相談をもし、同種の薬を長期間服用していて中止した後に、経験したことのないような激しいかゆみを感じた場合は、速やかに医師や薬剤師などの専門家に相談する必要があります。FDAの調査によると、この副作用を経験した人の多くは、薬の服用を再開することでかゆみの症状が治まったと報告されています。また、再開後に薬の量を徐々に減らしていく「漸減療法」によって症状が改善した人もいたとのことです。これからアレルギーの薬を長期間(数ヵ月以上)にわたって使おうと考えている方、またはすでに内服されている方は、今後の服用のスケジュールについて、かかりつけの医師や薬剤師とよく話し合うことが重要です。また、本薬に限らず、すべての薬にいえることですが、どんなに正しく使用していても副作用は出てしまう可能性があります。また、一部の薬には、慎重に少しずつやめるべきものがあります。今回のFDAの発表は、抗アレルギー薬のような身近な薬でも、副作用や中止の仕方に配慮する必要があり、薬の取り扱いについて患者さんが薬剤師や医師と連携する重要性を改めて示すものといえるのではないでしょうか。参考文献・参考サイト1)FDA requires warning about rare but severe itching after stopping long-term use of oral allergy medicines cetirizine or levocetirizine (Zyrtec, Xyzal, and other trade names). 2025 May 16.

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5月19日 IBDを理解する日【今日は何の日?】

【5月19日 IBDを理解する日】〔由来〕「世界IBDデー」に准じ、クローン病や潰瘍性大腸疾患などの「炎症性腸疾患」(IBD)への理解促進のため、IBDネットワークとアッヴィの共同で2013年に制定。関連コンテンツ第82回「IBD診療ブラッシュアップ」【診療よろず相談TV】アトピー性皮膚炎の成人・小児はIBD高リスク活動期クローン病の導入・維持療法、ミリキズマブが有効/Lancet中等症~重症の潰瘍性大腸炎、グセルクマブは有効かつ安全/Lancet中等症~重症の潰瘍性大腸炎、抗TL1A抗体tulisokibartが有望/NEJM

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HAE患者さんの発作不安を解消するガラダシマブ発売/CSLベーリング

 CSLベーリングは、遺伝性血管性浮腫(HAE)の急性発作の発症抑制にガラダシマブ(商品名:アナエブリ)が4月18日に販売されたことに合わせ、プレスセミナーを都内で開催した。プレスセミナーでは、ガラダシマブの概要やHAE治療の課題と展望などが説明された。HAE患者のニーズに応える治療薬ガラダシマブ 「HAE長期予防のための新たな選択肢『アナエブリ皮下注 200mgペン』の製品概要」をテーマにローズ・フィダ氏(研究開発本部長)が、ガラダシマブの開発の経緯や国際共同第III相試験であるVANGUARD試験の概要について説明した。 HAEは、常染色体顕性遺伝の遺伝性希少疾患であり、腹部や顔面、喉などの部位への浮腫やこれに伴う痛みなどを特徴とする。とくに喉が腫れた場合、呼吸の阻害により生命に関わることもある疾患である。  本症は、発症のタイミング、重症度、浮腫の部位の予測は困難であり、浮腫は通常12~24時間かけて悪化し、2~5日間持続する。 HAEの治療では、病期に応じてオンデマンド治療、短期発作抑制治療、長期発作抑制治療が行われている。とくに長期発作抑制治療では、患者は予測できない発作への不安と従来の治療アクセスへの負荷やコンプライアンスの難しさのため新しい治療薬の要望があり、今回研究・開発されたのがガラダシマブである。 ガラダシマブは、HAEの急性発作の発症抑制を効果効能とした月1回投与のプレフィルドペン製剤であり、通常、成人および12歳以上の小児には初回400mgを皮下投与し、以降は200mgを月1回皮下投与する。ガラダシマブは活性化されたFXIIを阻害することでカリクレイン・キニン系の開始部分を阻害し、それに続くブラジキニンの生成を抑制する。 国際共同第III相試験であるVANGUARD試験は、6ヵ月間の治療期における月間のHAE発作回数を主要評価項目に行われた。ガラダシマブ群39例、プラセボ群25例であった。 その結果、主要評価項目では、1ヵ月当たりのHAE発作回数の中央値(平均値)は、ガラダシマブで0.00回(0.27)に対し、プラセボ群では1.35回(2.01)で有意に低かった(p=0.001、両側Wilcoxon検定)。  副次評価項目である6ヵ月間の治療期のレスポンダー割合(HAE発作回数が50%以上減少した患者)はガラダシマブ群94.9%およびプラセボ群33.3%、治療中に無発作(発作減少率100%)の割合はそれぞれ61.5%および0%だった。 また、探索的項目として患者報告アウトカム質問票(AE-QoL[Angioedema Quality of Life Questionnaire]合計スコア)について、初回投与開始後からQOLの指標となったAE-QoL合計スコアの改善が認められ、その傾向は6ヵ月間持続した。 そのほか、安全性に関して重篤な有害事象、過敏症、アナフィラキシー、血栓症、出血の報告は認められず、注射部位反応はガラダシマブ群、プラセボ群ともに2例だけだった。主な有害事象は、ガラダシマブ群で上気道感染、上咽頭炎、頭痛などがみられた。HAEと確定診断されるまで平均15.6年という課題 「HAE治療における課題と期待、患者さんのQOLの向上を目指して」をテーマに秀 道広氏(広島市立広島市民病院 病院長)が、HAEの病態と診療での課題、今後の展望について説明した。 HAEは、血管中のC1蛋白分解酵素阻害因子(C1-INH)が低下し、ブラジキニンが上昇することで生じる限局性の浮腫で、一定時間(日数)後に跡形なく消失する。症状は蕁麻疹に似ているが、発症の機序は異なるため蕁麻疹の治療薬は効果がない(最近、C1-INH活性が正常なHAE3型というまれな病型も報告されている)。 HAEの診断は『遺伝性血管浮腫(HAE)診断ガイドライン 改訂 2023年版』(日本補体学会編)のアルゴリズムに基づいて行う。HAEを疑った場合、先述のC1-INH活性測定とC4測定の検査から診断を行うことができるが、「医療者などがHAEに気付くことができるか」という点が課題だという。 HAEは出現部位、浮腫の程度、頻度がさまざまであり、気付かれにくい疾患である。実際、わが国の研究で2016~17年に実施されたアンケート調査で121例のHAE患者は確定診断まで平均15.6年を要し、胃腸炎、虫垂炎、血管性浮腫などの他の疾患と診断されていた。また、HAEの症状出現から治療にかかるまでの時間は平均で87.4分という報告がある1)。 発作の出現部位では、胴体が72.4%、消化管が60.3%、四肢が31.0%の順で多く、夕方~早朝に出現が多いことが報告されている2)。 HAEの治療では年々治療薬が進化し、C1-INH点滴から始まり、急性発作時のイカチバント、長期発作抑制治療薬のベロトラルスタット、ラナデルマブとC1-INH皮下注製剤が登場している。 治療の目標は先述のガイドラインには「疾病負荷のない日常生活を可能な限り目指すことである」と記されているが、長期発作抑制治療中のHAE患者へのAE-QoLでは、発作頻度は低くても発作への恐れや恥ずかしさ、うつや不安傾向は変わっていないという報告もある3)。 以上から残された課題として、(1)いつ発作が起こるかわからない(2)発作治療は早いほうが効果的だがすぐに注射できるとは限らない(3)診断の遅れによる適正治療の遅れについて医療、製薬メーカー、患者会などが連携し、解決していく必要がある。

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アトピー性皮膚炎への新規外用薬、既存薬と比較~メタ解析

 アトピー性皮膚炎に対する治療薬として、2020年1月にデルゴシチニブ、2021年9月にジファミラストが新たに承認された。長崎大学の室田 浩之氏らは、これらの薬剤と既存の標準的な外用薬について、臨床的有効性および安全性を評価するためシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施し、結果をDermatology and Therapy誌2025年5月号で報告した。 Medline、Embase、Cochrane、ならびに医中誌から対象となる文献を選定し、有効性の評価項目として、Eczema Area and Severity Index(EASI)スコアおよびInvestigator Global Assessment(IGA)スコアを使用した。安全性の評価項目には、重篤な有害事象、ざ瘡、および皮膚感染症が含まれた。 固定効果モデルを用いたベイジアン多重処理ネットワークメタ解析が実施され、アトピー性皮膚炎に対する各種外用薬(プラセボを含む)の転帰を比較するために、オッズ比(OR)および95%信用区間(CrI)が用いられた。 主な結果は以下のとおり。・アトピー性皮膚炎の成人患者(重症度は異なる)を対象とした、11件の無作為化比較試験がネットワークメタ解析に組み入れられた。・システマティックレビューの結果、ジファミラスト0.3%および1%、タクロリムス0.1%においてEASIスコアの改善が認められた。また、ジファミラスト1%、デルゴシチニブ3%、およびタクロリムス0.1%でIGAスコアの改善が認められた。・ネットワークメタ解析の結果、4週時点において、ジファミラスト1%(1日2回投与、BID)はプラセボと比較して、IGAスコアおよびベースラインからのEASIスコア変化率のいずれにおいても有意な改善を示した。一方で、ほかの治療薬との比較においては、点推定値は数値的にはジファミラスト1%に有利であったものの、統計学的な有意差は認められなかった。・ジファミラスト1%(BID)は、デルゴシチニブ0.3%(BID)と比較して、ざ瘡の発生率が有意に低かった。・重篤な有害事象、ざ瘡、および皮膚感染症の発生率において、プラセボやほかの治療薬との間で統計学的に有意な差は認められなかった。

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触覚フィードバックで軽度アトピー性皮膚炎患者における夜間掻痒が軽減

 軽度のアトピー性皮膚炎に対する触覚フィードバックは、患者の夜間掻痒を軽減させる非薬理学的介入として使用できる可能性があるという研究結果が、「JAMA Dermatology」に2月5日掲載された。 米ミシガン大学アナーバー校のAlbert F. Yang氏らは、単アーム2段階コホート試験を実施し、クローズドループ・触覚フィードバックを備えた人工知能(AI)対応ウェアラブルセンサーについて、軽症アトピー性皮膚炎の夜間掻痒症状に対する検出精度および軽減効果を検討した。試験には、中等度~重度の掻痒行動を自己申告した軽症アトピー性皮膚炎患者が対象者として登録された。手に装着したウェアラブルセンサーから送られる触覚フィードバックは、AIアルゴリズムによって夜間掻痒症状が検出されたときに発せられる。対象者は、まず検出機能のみ作動させたセンサーを7日間装着し、その後触覚フィードバックも作動させた状態でセンサーを7日間装着した。 対象者10人について、合計104回、831時間の夜間睡眠がモニタリングされた。追跡期間中に試験から脱落した対象者はいなかった。解析の結果、第2週目に触覚フィードバックを作動させると、1夜当たりの掻痒イベント平均回数が28%有意に減少し(45.6回対32.8回)、睡眠1時間当たりの掻痒平均時間に50%の有意差が認められた(15.8秒対7.9秒)。総睡眠時間の減少はなかった。 著者らは、「この技術は、全身治療の適応でない、あるいはステロイド外用薬の使用を希望しないが掻痒行動が多いと訴える軽症AD患者において、掻痒行動を減少させるための単独、あるいはより現実的には補助的な治療機器として役立つ可能性がある」と述べている。 なお複数の著者が、本研究の一部助成を行い、特許を出願中であるマルホ社と、1人の著者がアッヴィ社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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気候変動はアレルギー性鼻炎を悪化させる?

 アレルギー性鼻炎を持つ人にとって、春は、涙目、鼻づまり、絶え間ないくしゃみなどの症状に悩まされる季節だが、近年の地球温暖化はこのようなアレルギー性鼻炎を悪化させる可能性があるようだ。新たな研究で、気候変動が進むにつれ、花粉アレルギーのシーズンはいっそう長くなり、アレルギー性鼻炎の症状もより重症化することが予想された。米ジョージ・ワシントン大学医学部のAlisha Pershad氏らによるこの研究結果は、「The Laryngoscope」に4月9日掲載された。 気候変動が健康にもたらす悪影響は、世界的な問題として深刻化している。地球温暖化は炎症性上気道疾患、中でもアレルギー性鼻炎に影響を与えることが示されており、耳鼻咽喉科領域での影響は特に顕著である。このことを踏まえてPershad氏らは、データベースから選出した30件の研究結果のレビューを実施し、気候変動が世界の成人および小児におけるアレルギー性鼻炎にどのような影響を与え得るかを調査した。 30件の研究のうち16件では、気候変動に関連する花粉シーズンの延長と花粉濃度の上昇のいずれか、またはその両方について報告されていた。このうち、米国で実施された研究では、花粉シーズンが最大19日間長くなり、花粉の年間飛散量は16〜40%増加すると予測されていた。 本研究で判明したその他の主な結果は以下の通りである。・ブタクサは、二酸化炭素などの温室効果ガスの影響が大きい都市部では成長と開花が速く、より多くの花粉を生産する傾向にある。・花粉の飛散量の増加に伴い、アレルギー性鼻炎の症例も増加する。・花粉の飛散量の増加に伴い、アレルギー性鼻炎の症状も重くなる。・医師は花粉シーズンに変化が生じていることと、それがアレルギー性鼻炎の増加につながっていることに気付いている。 Pershad氏らは、「アレルギー性鼻炎は不快で煩わしい症状に過ぎないと思われがちだが、実際には医療資源に深刻な負担をかけており、気候変動が進むにつれてその負担は大きくなるばかりだ」と指摘する。同氏らは、具体的な負担額は年間34億ドル(1ドル140円換算で4340億円)に上り、そのほとんどは、処方薬と外来診療にかかる費用だと説明した上で、「医療専門家には十分に理解されていないかもしれないが、この増加傾向にある疾患の経済的負担は過小評価できるものではない」と述べている。 Pershad氏は、「医師は、アレルギー性鼻炎が患者の転帰に与える影響を直接目にする立場にあり、気候変動の激化に合わせて診療を適応させることができる。地域住民から信頼される立場にある者として、医師は最前線での経験を活かし、気候危機への取り組みにおいて意義ある変化を訴えるべきだ」と述べている。

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第261回 なぜ鳥居薬品を?塩野義製薬の買収戦略とは

製薬業界は世界的に見ると、再編が著しい業界である。いわゆる老舗の製薬企業同士の合併・買収という意味では、2020年の米国・アッヴィによるアイルランド・アラガンの買収が近年では最新の動きと言えるだろうが、欧米のメガファーマによるバイオベンチャー買収は日常茶飯事の出来事と言ってよい。これに対し日本の製薬企業でも、上位企業によるメガファーマ同様のバイオベンチャー買収が一昔前と比べて盛んになったことは事実だ。ただ、新薬開発能力のある製薬企業は売上高で4兆円超の武田薬品を筆頭に下は500億円規模まで約30社がひしめく、世界的に見ても稀なほど“過密”な業界でもある。このためアナリストなどからは、1990年代から判で押したように「国内再編が必至」と言われてきた。その中で国内の製薬企業同士の合併や経営統合などが盛んだったのが2005~07年にかけてである。藤沢薬品工業と山之内製薬によるアステラス製薬、第一製薬と三共による第一三共、大日本製薬と住友製薬による大日本住友製薬(現・住友ファーマ)、田辺製薬と三菱ウェルファーマによる田辺三菱製薬はいずれもこの時期に誕生している。上場製薬企業あるいは上場企業の製薬部門の合併で言うと、もっとも直近は2008年の協和発酵キリン(現・協和キリン)だろう。あれから15年間、国内製薬企業は“沈黙”を続けてきたが、それが突如破られた。ゴールデンウイーク明けのつい先日、5月7日に塩野義製薬が「日本たばこ産業(JT)の医薬事業を約1,600億円で買収する」と発表したのだ。JTと鳥居薬品の歴史JTの医薬事業というのはやや複雑な構造をしているが、それを解説する前にJTの沿革について簡単に触れておきたい。JTはかつてタバコ・塩・樟脳(しょうのう)※の専売事業を行っていた旧大蔵省外局の専売局が外郭団体・日本専売公社として分離独立し、それが1985年に民営化されて誕生した。すでに1962年に樟脳の専売制度は廃止され、民営化時点ではタバコと塩の専売事業を引き継いだが、塩の製造販売は1997年に自由化され、すでにJTの手を離れている。※クスノキの根や枝を蒸留して作られ、香料や医薬品、防虫剤、セルロイドなどの原料となる。ただ、民営化直後からたばこ事業の将来性には一定のネガティブな見通しは持っていたのだろう。民営化直後から事業開発本部を設置し、1990年7月までに同本部を改組し、医薬、食品などの事業部を新設。1993年9月には医薬事業の研究体制の充実・強化を目的に医薬総合研究所を設置した。ただ、衆目一致するように医薬、いわゆる製薬事業は自前での研究開発から製品化までのリードタイムは最短で10数年とかなり気の長い事業である。そうしたことも影響してか、1998年に同社は国内中堅製薬企業の鳥居薬品の発行済株式の過半数を、株式公開買付(TOB)により取得し、連結子会社化した。子会社化された鳥居薬品は国内製薬業界では中堅でやや影が薄いと感じる人も少なくないだろうが、1872年創業の老舗である。たぶん私と同世代の医療者は同社の名前から連想するのは膵炎治療薬のナファモスタット(商品名:フサンほか)や痛風・高尿酸血症治療薬のベンズブロマロン(商品名:ユリノームほか)だろうか? 近年では品薄で供給制限が続いているスギ花粉症の減感作療法薬であるシダキュアが有名である。JTによる買収後は、研究開発機能がJT側、製造・販売が鳥居薬品という形で集約化されていた。余談だが、私が専門誌の新人記者だった頃、当時の上司は“鳥居薬品は研究開発力が高く、将来の製薬企業再編のキーになる”ことを予言していた…。塩野義の買収計画さて、今回の塩野義によるJT医薬事業の買収は以下のようなスキームだ。現在、鳥居薬品の株式の54.78%はJTが保有し、残る45.22%が株式市場で売買されている。まず、塩野義はこの45.22%を2025年5月8日~6月18日までの期間、1株6,350円、総額約807億円でTOBする。これが終了した後に鳥居薬品のJT持ち株分を鳥居薬品自身が約700億円で取得し、9月までの完全子会社化を目指す。この後さらに2025年12月までにJT医薬事業は会社分割して54億円で塩野義、JTの米国・子会社のAkros Pharmaを36億円で塩野義の米国・子会社Shionogi Incがそれぞれ買収する。JTの医薬事業は塩野義に吸収されるが、米Akros Pharma社はShionogi Incの完全子会社となる。なぜJTを?今回の買収は、昨年、塩野義からJTに対しオファーがあったことから始まったという。会見後に塩野義製薬代表取締役社長の手代木 功氏にこの点を尋ねたところ、「ここ数年、低分子創薬領域でのメディシナルケミスト(創薬化学者)の確保を念頭に薬学部だけでなく、農学部など幅広い領域への浸透を図り、米国・カリフォルニア州サンディエゴに細菌感染症治療薬の研究開発拠点の開設も目指していた。しかし、昨年買収したキューペックス社でも人材確保が思うように進まなかった」とのこと。そうした中でメディシナルケミストの層が厚いJTグループに注目したのがきっかけだったと話した。また、手代木氏はJT・鳥居の研究開発拠点が横浜市と大阪府高槻市にあり、とくに後者は塩野義の研究開発拠点である大阪府豊中市に近いことも大きな利点だったと語った。実際、会見の中でも手代木氏は「(研究拠点の近さも)大きなリストラなく進められる。研究所勤務者は異動、転勤などに不慣れだが、ここも非常にフィットすると考えた」と強調した。この辺は、研究開発畑出身の手代木氏らしい考えでもある。一方のJT側は「近年、新薬創出のハードルが上昇しているうえに、グローバルメガファーマを中心に国際的な開発競争が激化している。当社グループの事業運営では、医薬事業の中長期的な成長が不透明な状況だった」(JT代表取締役副社長・嶋吉 耕史氏)、「JTプラス鳥居という体制でこのまま事業を継続するよりも、より早く、より大きく、より確実に事業を成長させることができるのではないかと考えられた」(鳥居薬品代表取締役社長・近藤 紳雅氏)と語った。このJTと鳥居薬品側の説明は、ある意味、当然とも言える。現在のメガファーマの年間研究開発費は上位で軽く1兆円を超え、日本トップで世界第14位の武田薬品ですら7,000億円。しかし、JT・鳥居薬品のそれはわずか30億円強である。ちなみに塩野義の年間研究開発費は1,000億円超である。もっともメガファーマとの研究開発費規模の違いは、メガファーマの多くが高分子の抗体医薬品に軸足を置いているのに対し、塩野義や鳥居は低分子化合物が中心であるという事情も考慮しなければならない。とはいえ、JT・鳥居に関しては成長のドライバーとなる新薬を生み出す源泉の規模がここまで異なると、もはや「小さくともキラリと光る」ですらおぼつかないと言っても過言ではないのが実状だろう。今後の成長戦略さて今後は買収をした塩野義側がこれを土台にどう成長していくか? という点に焦点が移る。同社は2023~30年度の中期経営計画「STS2030 Revision」で2030年度の売上高8,000億円を目標に掲げている。現在地は2024年3月期決算での4,351億円である。単純計算すると、今回の買収でここに約1,000億円が上乗せされるが、新薬創出の不確実さを踏まえれば、2030年の目標はかなりハードルが高いと言わざるを得ない。しかも、同社は感染症領域が主軸であるため、どうしても製品群が対象とする感染症そのものの流行に業績が左右される。こうしたこともあってか前述の中期経営計画では「新製品/新規事業拡大」を強調し、既存の感染症領域のみならずアンメッド創薬などポートフォリオ拡大を掲げてきた。今回、JT・鳥居を買収することでアレルゲン領域・皮膚疾患領域へとウイングを広げることは可能になった。国内製薬業界では従来から塩野義の営業力への評価は高いだけに、今回の買収で今後のJT・鳥居の製品群の売上高伸長が予想される。とくに鳥居側には現在需要に供給が追い付かずに出荷制限となっている前述のシダキュアがあり、皮膚領域では2020年に発売されたばかりだが業績が好調なアトピー性皮膚炎治療薬のJAK阻害薬の外用剤・デルゴシチニブ(商品名:コレクチム軟膏)もある。塩野義と言えば、アトピー性皮膚炎治療薬ではある種の定番とも言われるステロイド外用薬のベタメタゾン吉草酸エステル(商品名:リンデロンVクリームほか)を有している企業でもある。実際、手代木氏も会見で「皮膚領域は今でこそそこまで強くないものの、かつてはステロイド外用薬の企業として一世を風靡し、現状でもそれなりの取り扱いはあり、このあたりの営業のフィットも非常に良い」と述べた。とはいえ、現状の両社業績をベースにJT・鳥居の製品群に対する塩野義の営業力強化を折り込んでも今後2~3年先までは売上高6,000億円規模ぐらいが限界ではないだろうか? その意味では同社が8,000億円という目標に到達するには、今後上市される新製品の売上高をかなりポジティブに予想しても、もう一段の再編は必要になるかもしれない。一方、何度も手代木氏が強調した研究開発力の強化では、塩野義の100人プラスアルファというメディシナルケミスト数にJTグループの約80人が組み込まれ、「全盛期の数にもう一度戻れる」(手代木氏)ことを明らかにするとともに、自社の研究開発リソースでは強化が及ばなかった免疫領域・腎領域にも手が届くようになるとも語った。同時に手代木氏が会見の中で語ったのは買収に至るデューディリジェンスでわかったJTのAI創薬と探索研究のレベルの高さである。「AI創薬のプラットフォームは正直に言って当社よりはるかに上で、日本の中でも相当進化している。当社の人間が見させていただいてすぐにでも一緒にやりたいと言ったほど。また、JTはフェーズ2ぐらいでのメガカンパニーへのライセンス・アウトを念頭にどうやったらそれが可能か意識をした前臨床・初期臨床試験を進めている。この点では多分当社より上を行く」以前の本連載でも私自身は日本の製薬業界は低分子創薬の世界ですらもはや後進国になりつつあると指摘したが、今回、手代木氏は“新生”塩野義製薬について「“グローバルでNo.1の低分子創薬力”を有する製薬企業となる」と大きなビジョンを掲げた。今回の件が国内製薬企業の再編へのきっかけと低分子創薬の復権につながるのか? 慎重に見守っていきたいと思う。参考1)JT

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