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添付文書改訂:アクテムラが新型コロナ中等症II以上に適応追加/ジャディアンスに慢性心不全追加/エフィエントに脳血管障害の再発抑制追加/アジルバに小児適応追加/レルミナに子宮内膜症の疼痛改善追加【下平博士のDIノート】第92回

アクテムラ点滴静注用:新型コロナ中等症II以上に適応追加<対象薬剤>トシリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:アクテムラ点滴静注用80mg/200mg/400mg、製造販売元:中外製薬)<承認年月>2022年1月<改訂項目>[追加]効能・効果SARS-CoV-2による肺炎酸素投与、人工呼吸器管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うこと。[追加]用法・用量通常、成人には、副腎皮質ステロイド薬との併用において、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを点滴静注します。症状が改善しない場合には、初回投与終了から8時間以上の間隔をあけて、同量を1回追加投与できます。<Shimo's eyes>本剤は、国産初の抗体医薬品として、2005年にキャッスルマン病、2008年に関節リウマチの適応を取得して、現在は世界110ヵ国以上で承認されているヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体です。今回、新型コロナによる肺炎の効能が追加されました。これまで中等症II以上の患者に適応を持つ、レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用)、バリシチニブ(同:オルミエント錠)、デキサメタゾン(同:デカドロン)の3製剤に本剤が加わり、新たな治療選択肢となります。新型コロナ患者の一部では、IL-6を含む複数のサイトカインの発現亢進を特徴とする炎症状態により呼吸不全を起こすことが知られており、同剤投与による炎症抑制が期待されています。参考中外製薬 薬剤師向けサイト アクテムラ点滴静注用80mg・200mg・400mgジャディアンス:慢性心不全(HFrEF)の適応追加<対象薬剤>エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠10mg、製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム)<承認年月>2021年11月<改訂項目>[追加]効能・効果慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。[追加]用法・用量通常、成人にはエンパグリフロジンとして10mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与します。<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬としては、すでにダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が慢性心不全の適応を2020年11月に追加しており、本剤は2剤目の薬剤となります。2022年1月現在、添付文書には「左室駆出率の保たれた慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者(HFrEF)に投与すること」と記載されていますが、HFpEF患者を対象とした第III相試験においても、2021年8月に良好な結果1)が報告されています。なお、本剤25mg錠には慢性心不全の適応はありません。参考エンパグリフロジンの慢性心不全への承認取得/日本ベーリンガーインゲルハイム・日本イーライリリー1)エンパグリフロジン、糖尿病の有無を問わずHFpEFに有効/NEJMエフィエント:脳血管障害後の再発抑制が追加<対象薬剤>プラスグレル塩酸塩(商品名:エフィエント錠2.5mg/3.75mg、製造販売元:アストラゼネカ)<承認年月>2021年12月<改訂項目>[追加]効能・効果虚血性脳血管障害(大血管アテローム硬化または小血管の閉塞に伴う)後の再発抑制(脳梗塞発症リスクが高い場合に限る)[追加]用法・用量通常、成人には、プラスグレルとして3.75mgを1日1回経口投与する。<Shimo's eyes>『脳卒中治療ガイドライン2021』では、非心原性脳梗塞の再発抑制に対しては抗血小板薬(クロピドグレル、アスピリンまたはシロスタゾール)の投与が勧められていますが、本剤の適応は、「大血管アテローム硬化または小血管の閉塞を伴う虚血性脳血管障害後の再発抑制」に限定されました。なお、適応追加の対象は2.5mg錠および3.75mg錠のみです。今回の改訂で、空腹時は食後投与と比較してCmaxが増加するため、空腹時の投与は避けることが望ましい旨の記載が追記されました。用法に「食後投与」は明記されていないので注意しましょう。既存薬のクロピドグレルは、主にCYP2C19によって代謝されるため、遺伝子多型による影響を受けやすいことが懸念されていますが、本剤は、ヒトカルボキシルエステラーゼ、CYP3AおよびCYP2B6などで代謝されて活性体となるプロドラッグであり、遺伝子多型の影響を受けにくいとされています。参考第一三共 医療関係者向けサイト エフィエント錠アジルバ:小児適応追加、新剤型として顆粒剤が登場<対象薬剤>アジルサルタン(商品名:アジルバ顆粒1%、同錠10mg/20mg/40mg、製造販売元:武田薬品工業)<承認年月>2021年9月<改訂項目>[追加]用法・用量<小児>通常、6歳以上の小児には、アジルサルタンとして体重50kg未満の場合は2.5mg、体重50kg以上の場合は5mgを1日1回経口投与から開始します。なお、年齢、体重、症状により適宜増減が可能ですが、1日最大投与量は体重50kg未満の場合は20mg、体重50kg以上の場合は40mgです。<Shimo's eyes>アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるアジルサルタンに、小児に対する用法および用量が追加されました。また、新剤型として顆粒剤も発売されました。顆粒剤は、成人にも小児にも適応がありますが、小児の開始用量である2.5~5mgを投与する際に便利です。参考武田薬品工業 医療関係者向けサイト アジルバレルミナ:子宮内膜症に基づく疼痛改善の適応が追加<対象薬剤>レルゴリクス(商品名:レルミナ錠40mg、製造販売元:あすか製薬)<承認年月>2021年12月<改訂項目>[追加]効能・効果子宮内膜症に基づく疼痛の改善<Shimo's eyes>本剤は、経口GnRHアンタゴニストであり、2019年1月に子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善で承認を取得しています。子宮筋腫に続き、子宮内膜症患者を対象とした第III相試験の結果が報告されたことから、今回新たな適応が承認されました。本剤は下垂体のGnRH受容体を阻害することにより、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を阻害します。その結果、エストロゲンおよびプロゲステロンが抑制され、子宮内膜症の主な症状である骨盤痛を改善します。参考あすか製薬 医療関係者向け情報サイト レルミナ錠40mg

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小声の患者さん、実は“ふるえ”が潜んでる!?【Dr.山中の攻める!問診3step】第11回

第11回 小声の患者さん、実は“ふるえ”が潜んでる!?―Key Point―安静時の振戦はパーキンソン病でみられる両上肢を前方に挙上するときに観察される姿勢時振戦は本態性振戦で起こる治療可能なふるえを見逃さない症例:75歳 男性主訴)右手がふるえる現病歴)3年前から両手のふるえを自覚するようになった。1年前から次第に手のふるえがひどくなっている。2週間前、役所で書類にサインを求められたが、手がふるえて字がうまく書けなかった。既往歴)高血圧症薬剤歴)アムロジピン生活歴)焼酎1合を週に2回、喫煙なし身体所見)体温:36.7℃ 血圧:128/62mmHg 脈拍:86回/分 呼吸回数:16回/分 SpO2:96%(室内気)安静時振戦なし。両上肢を前方に挙上させると両手に振戦を認める。自分の名前を書かせると、右手に振戦が出現し字が大きく乱れる。経過)パーキンソン症候群を疑う症状と身体所見なし。本体性振戦と診断しプロプラノロールを処方した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!病的振戦では本態性振戦が最も多く、次にパーキンソン病が多い書字やコップを使用して飲水する時に起こる運動時振戦は、日常生活に支障をきたすリチウム、バルプロ酸Na、テオフィリン、カフェイン、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などは薬剤性振戦を起こす1)【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】振戦を分類する2)(1)安静時振戦安静時にみられる。左右差が見られることが多い。動作により振戦は消失する。姿勢保持後、10秒くらいして振戦が再出現することがある(re-emergent tremor)。暗算負荷などの精神的緊張で増悪する。パーキンソン病、パーキンソン症候群が代表疾患(2)動作時振戦(a)姿勢時振戦両上肢を前方に挙上するときに観察される。重力に抗した姿勢で出現しやすい。代表疾患は本態性振戦、生理的振戦、甲状腺機能亢進症で、薬剤性やアルコール離脱などが原因で生じることもある。(b)運動時振戦書字やコップで水を飲む時に起こる。日常生活に支障をきたす。本態性振戦、小脳疾患、脳血管障害で起こる(c)企図振戦 目標に近づくほど振戦が増大する。小脳障害、多発性硬化症、ウィルソン病でみられる*本態性振戦とパーキンソン病の患者ビデオ(Stanford Medicine 25)【STEP3-1】本態性振戦とパーキンソン病の特徴的症状があるかを確かめる2)病的な振戦では本態性振戦(有病率:2.5~10%)とパーキンソン病(有病率:0.1%)が多い。画像を拡大するパーキンソン病の安静時振戦は逆N字型(またはN字型)に進行する。たとえば、右手→右足→左手→左足(下図参照)(図)パーキンソン病では無動、固縮(歯車現象、鉛管様固縮)を認める。非運動症状(レム睡眠行動異常、うつ症状、嗅覚低下、倦怠感、起立性低血圧)がある3)本態性振戦は小脳失調を合併することがある本態性振戦からパーキンソン病に進展するケースもある【STEP3-2】ほかの鑑別診断を考える徐々に発症するときは生理的振戦、本態性振戦を考える●生理的振戦緊張すると姿勢時振戦を起こす。低振幅、高振動数。カフェイン、β刺激薬で悪化●ジストニア特定の姿勢や動作で誘発される。書痙●心因性振戦突然発症する。気をそらせると消失●二次性振戦甲状腺機能亢進症、低血糖、尿毒症、薬剤(リチウム、バルプロ酸Na、テオフィリン、カフェイン、SSRI)、中毒(マンガン、鉛、水銀)●アルコールやベンゾジアゼピンの離脱症状としても振戦が起こる【治療】ストレスを軽減させる生活指導振戦のため書字が困難なら、できるだけ太いペンを使用する本態性振戦にはアロチノロール、プロプラノロール(商品名:インデラル)、プリミドンを処方するパーキンソン病には抗コリン薬が有効なことがあるが、幻覚や認知機能障害が出現する場合があるMRガイド下集束超音波治療(FUS)<参考文献>1)Elias WJ, et al. JAMA. 2014;311:948-954. 2)望月秀樹. 日本内科学会雑誌. 2017;107: 464-468.3)Kalia LV, et al. Lancet. 2015;386:896-912.

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認知症・老衰の患者さんに、病状経過を説明するなら…【非専門医のための緩和ケアTips】第21回

第21回 認知症・老衰の患者さんに、病状経過を説明するなら…身体機能の変化を時間軸で示す「病みの軌跡」というグラフ、これまでがん患者・臓器障害患者向けをご紹介してきました。今回の質問は、認知症や老衰の方の経過に関連したものです。どのようなポイントを意識して診療するとよいのでしょうか。ここでも「病みの軌跡」が使えます。今日の質問かかりつけの患者さん。認知症が進行し、外来通院が家族の負担となってきたため、今後は訪問診療で関わることになりました。介護負担も大きく、そのうち寝たきりになりそうです。終末期について、本人・ご家族とどう話し合えばよいのでしょうか?高齢化が進む中、認知症患者も増えています。厚生労働省の人口動態統計(2020年)によれば、老衰は主要死因の第3位です。脳血管障害と肺炎を追い抜いて3位になったのは2018年のことでした。こうした背景から、認知症・老衰の臨床像とケアについて、どんな立場の医療者も基本を理解しておきたいところです。認知症・老衰の身体機能の変化を時間軸で示した、「病みの軌跡」は下のようなパターンとなります。この軌跡から読み取れるのは、「身体機能がふらつきながら、緩徐に低下していく」ことです。私は、終末期までの経過予測が一番難しいのがこのパターンだと感じています。悪性疾患の場合には「5年生存率」など統計学的な指標があり、心不全などの臓器障害の場合には心機能などの客観的指標が参考になります。しかし、認知症が進行して老衰となった高齢者には予後予測に役立つ明確な指標がなく、かつ本人が自分の体調の変化を説明できないケースも多くなります。「食事量が減ったなあ」とか「寝ている時間が長くなってきましたね」といったように医療者と家族が様子を見ながら、そろそろお別れが近いかなと思った段階で話し合いを続けるしかありません。そして、それから何年も同じような状態が続くこともあれば、予想外に早いタイミングで亡くなることもあります。この臨床像の高齢者の多くは、身体機能や認知機能の低下とともに、通院が困難になっていきます。今回のご質問のように早めに訪問診療を提案したり、紹介したりすることも大切です。予測の難しい「病みの軌跡」に対し、医療者には何が求められるのでしょうか。一概には言えませんが、まずは「不確実で個別性の高い経過となる」ことを、家族を含めた関係者で共有することが大切です。そして、注意してほしいポイントも共有します。たとえば、「食事量が低下した場合、体力の低下につながるかもしれませんので、教えてください」といった具合です。高齢者の場合、医療者・家族だけでなく、介護職をはじめとしたさまざまな方が関わるケア提供体制をつくることが大切です。立場の異なる方との話し合いに、ぜひ「病みの軌跡」を活用してください。今回のTips今回のTips認知症・老衰の「病みの軌跡」は、経過予測が難しい。その難しさを関係者と共有しつつ、定期的な評価を繰り返すことが重要です。1)Murray SA, et al. BMJ. 2005;330:1007-1011.

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NNKよりPPK、理解不能の方はGGRKSでEOM【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第44回

第44回 NNKよりPPK、理解不能の方はGGRKSでEOM「人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢幻の如くなり」歴史ドラマなどで、織田信長が能を舞いながら謡う有名な一節を耳にしたことがあると思います。人の寿命は延び続け、50歳でも若造呼ばわりされる可能性があるのが日本です。今では人生100年に手が届こうとしています。一方で、健康寿命が平均寿命より男性は約9年、女性は約12年も短いことが分かっています。健康寿命は、日常生活に制限なく自立して過ごせる期間です。寿命が延びても、寝たきりではつまらない、元気で長生きしたいと望むことは当然です。診察室で出会う多くの高齢の方々は、亡くなる直前まで元気で過ごし、コロッと逝きたいと話します。これが「ピンピンコロリ:PPK」です。現実には、残念ながら寝たきりとなり終焉を迎える方もいます。これが「ネンネンコロリ:NNK」です。100歳近くの年齢で、ピンピンして健康な長寿の人はそんなに多くはありません。介護が必要となる主な原因としては、認知症・脳血管障害・高齢による衰弱・骨折・転倒などが挙げられます。その背景にあるのが、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病です。平素からの生活習慣の改善や、必要な治療をしっかり受けることは大切です。どんなに気を付けても加齢現象を回避できないことは事実です。PPKを具現化できることは非常に稀であり、宝くじに当選するようなことなのです。自分は、高齢者が自ら支援を忌避せざるを得ない雰囲気を日本の社会が醸成していることに問題があると考えます。認知症や障害を持っても、安心して生き、そして旅立つことができる社会の確立が必要なのでしょう。閑話休題お年寄りの聖地、おばあちゃんの原宿と呼ばれる巣鴨の地蔵通り商店街を歩く方々の、全員がPPKやNNKの意味を知っていると思います。それだけ人口に膾炙する略語です。略語は、長い語を簡潔に呼ぶためにつくるもので、「高等学校」を「高校」、「ストライキ」を「スト」などとする場合や、また、ローマ字の頭文字だけを並べたものもあります。「日本放送協会」を「NHK」などです。仲間内だけのことばとして、隠語として用いることもあります。医学・医療の世界で生きていく場面でも、略語はもはや必須です。とくにチャットやメールでは、長いスペルを短縮すべく、英語でも略語が盛んに利用されます。略語はカジュアルな場面だけでなく、英語のビジネスメールや、論文投稿や学会参加の文書にも頻繁に登場します。紹介してみましょう。TBA=to be announced=後日発表TBD=to be determined=未定TBS=to be scheduled=調整中FYI=for your information=参考までASAP=as soon as possible=できるだけ早くこれらは頻用される有名なものです。EOMはend of messageの略で、「メッセージの終わり」を意味します。メールの件名の最後に付けると、メールの本文はないことが伝わります。メールの件名に「本日の会議16時30分大会議室、EOM」とすれば件名だけで本文は空っぽで大丈夫です。自分は、少しヒョウキンな笑いを誘う略語を使ってしまいます。オヤジギャグ好きの悪い癖です。TGIFは、Thank God, It's Friday! の意味で、金曜日の夕方のメールの最後に相応しいです。花の金曜日を楽しみましょう! を意味します。土曜日にも仕事がある方には使用しないようにしましょう。GGRKSは、「ググれカス」の略で、少し調べればわかることを質問する人に対して、「それぐらいグーグルで検索しろ(ググれ)、カス」という意味で使われる下品な略語です。GGRKSは、数年前に「現代用語の基礎知識」に収録もされ流行しましたが、今では目にする機会は激減しています。では最後にクイズです。GN8, TNTわかりますか? GN8=good n eight=good night=おやすみなさい。TNT=till next time=また会いましょう。

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更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第88回

更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」今回は、天然型黄体ホルモン製剤「プロゲステロン(商品名:エフメノカプセル100mg、製造販売元:富士製薬工業)」を紹介します。本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状のホルモン補充療法(HRT)に使用される卵胞ホルモン剤による子宮内膜増殖症の発症を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制の適応で、2021年9月27日に承認され、同年11月29日に発売されました。<用法・用量>卵胞ホルモン剤との併用において、以下のいずれかを選択します。持続的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日からプロゲステロンとして100mgを1日1回就寝前に経口投与。周期的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日を1日目として、卵胞ホルモン剤の投与15~28日目までプロゲステロンとして200mgを1日1回就寝前に経口投与。これを1周期とし、以後この周期を繰り返す。<安全性>国内第III相試験において報告された主な副作用は、不正子宮出血117例(33.5%)、乳房不快感16例(4.6%)、頭痛11例(3.2%)、下腹部痛、浮動性めまい各10例(2.9%)、腹部膨満、便秘各8例(2.3%)、腟分泌物7例(2.0%)などでした。なお、重大な副作用として、血栓症(頻度不明)が報告されており、心筋梗塞、脳血管障害、動脈または静脈の血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症または肺塞栓症)、血栓性静脈炎、網膜血栓症が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、更年期障害などに伴う症状を軽減する目的で投与される卵胞ホルモン剤とともに服用することで、卵胞ホルモン剤による子宮内膜への影響を軽減します。2.ふくらはぎの痛み・腫れ、手足のしびれ、鋭い胸の痛み、突然の息切れなどの症状が現れた場合、血栓症を引き起こしている可能性があるので、直ちに医師・薬剤師に連絡してください。自己判断での中止や量の調節はしないでください。3.眠気や浮動性めまいを引き起こすことがあるので、自動車などの危険を伴う機械の操作には注意してください。4.突然服用を中止すると、不安や気分変化を引き起こす恐れがあります。<Shimo's eyes>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制を目的とした天然型黄体ホルモン製剤です。経口投与では吸収されにくい天然型黄体ホルモンをマイクロナイズド化(微粒子化)することで吸収率を上げています。ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲン欠乏に伴う更年期障害などの諸症状や疾患の予防・治療に有用です。しかし、エストロゲン製剤を単独投与すると、子宮内膜増殖作用により子宮内膜がんを発症する懸念が高まります。エストロゲン製剤に黄体ホルモン製剤を併用することで、子宮内膜がんの発症が抑制されるという報告を踏まえ、現在では子宮を有する患者にHRTを行う際には、黄体ホルモン製剤を併用することが一般的です。国際閉経学会などでは、天然型黄体ホルモンは乳がんリスクや血栓症リスクが低いことが示唆されています。しかし、わが国では子宮内膜増殖抑制に関する適応のある経口剤はなく、これまで適応外で合成黄体ホルモン製剤が使用されてきました。このような背景から、日本産科婦人科学会および日本更年期医学会(現:日本女性医学学会)から開発の要望書が提出され、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の評価に基づき、厚生労働省が製薬企業を募集し、開発されました。用法としては、エストロゲン製剤と本剤を初めから併用する「持続的投与法」と、最初の2週間はエストロゲン製剤単独で、あとの2週間は本剤も併用する「周期的投与法」のいずれかを選択します。本剤は食後投与では絶食下に比べてAUCとCmaxが上昇し、服用後1~3時間は一過性の傾眠・めまいを起こす可能性があるため、就寝前に服用します。副作用では、不正性器出血が高い頻度で報告されています。継続服用に伴い徐々に軽減してゆくので、服薬を中断しないように前もって説明する必要があります。重大な副作用としては、血栓症に注意が必要です。血栓症の初期症状について説明するほか、定期的に体を動かしてこまめに水分補給をするなどの生活上の工夫も伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 エフメノカプセル100mg

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アタマにやさしい冠動脈血行再建法は?(解説:今中和人氏)-1406

 心原性ショックなどの一部を除き、冠動脈血行再建法は長期成績に基づいて選択されるべき時代に入って久しい。医療者側は生命と心臓アウトカムを重視しがちな一方、当事者たちの最大の関心事の1つは認知機能低下である。患者さんの家族に「心臓を治してもらってからボケが進んじゃって…」という意味のことを言われて複雑な気持ちになった経験が、循環器系の医師なら誰しも一度や二度、いや、何度もあるのではないだろうか。 本論文は、2年ごとに米国の50歳以上の成人の健康状態を聞き取り調査する、Health and Retirement Study(HRS)という前向きプロジェクトに参加したメディケア加入者2万3,860例のうち、医療費支払い記録を基に65歳以上で冠血行再建を受けた患者1,680例(CABG 665例[うちオフポンプ168例]、PCI 1,015例。両方受けた患者は、初回の血行再建法で分類)を抽出し、治療前後にわたる記銘力の推移を検討している。諸因子を補正して両群とも約75歳、男性6割、白人85%強、糖尿病28%台、脳梗塞既往13%台で、治療前に平均2.3回、治療後に平均3.2回、合計5.5回の聞き取り調査を実施した。ただ実際は、CABG群もPCI群も14%強と、約7人に1人は血行再建後の評価が行われなかった(うち9割前後は死亡か辞退のため)。 記銘力評価には単語記憶テストを用い、72歳以上の一般HRS参加者の成績を基準にz値でスコア化した。この母集団の加齢に伴う記銘力低下は1SD相当の0.048memory unit/年以内(循環器領域では必ずしもなじみのない指標だが)とし、治療後については、その2倍を超える経年低下を高度、1~2倍の低下を軽度の記銘力障害の出現と定義し、定性的評価を追加した。また臨床的に認知症が疑われる状態を副次アウトカムとした。 記銘力低下のスコア評価は、PCI群は治療前0.064→治療後0.060memory unit/年の低下、CABG群は治療前0.049→治療後0.059memory unit/年の低下で、群間でも治療前後でも有意差がなかった。だがCABG群をオンポンプとオフポンプに分けてサブ解析すると、オンポンプの術前0.055→術後0.054memory unit/年に比し、オフポンプでは術前0.032→術後0.074memory unit/年とむしろ記銘力低下が顕著で、オフポンプ群の治療前後の変化はPCI群での変化と比べ、有意に近い悪化であった。 定性的評価では、高度記銘力障害の出現がCABG群6.4%、PCI群4.8%、軽度はCABG群20%、PCI群16%で、高度と軽度に分けると有意差がつかないが、合算するとCABG群に有意に多かった(p=0.03)。副次評価は治療後5年の時点でCABG群の10.5%、PCI群の9.6%が臨床的な認知症疑い状態と判断され、有意差はなかった。 要約すると、PCIでもCABGでも遠隔期の認知機能はほぼ同等だが、オフポンプCABG後は記銘力の低下が目立つ、というのが本論文の結論である。 かねてよりCABG術後に認知機能障害が多いとされてきたが、今回の研究でPCIと有意差がなかったことについて、両群とも記銘力スコアの低下が一般HRS参加者より顕著だったことも含め、著者らは血行再建を要するほどの冠動脈疾患を持つ、この母集団の特性による帰結であろうと論じており、首肯できる考察だと思われる。一方、オフポンプCABGの結果が悪かったことについては、文献的に(今回の調査対象ではなく)オフポンプCABGでは不完全血行再建症例が多いせいではないかと推論しているが、こちらは異論があるであろう。オフポンプCABGのメリットが想像以上に乏しいことが明らかになるなか、周術期脳血管障害だけは、ほぼすべての臨床研究でオフポンプのほうが少ないし、PCIとCABGを比較したほぼすべての臨床研究でも、PCIは早期脳血管障害が少ない。これらは遠隔期の認知機能に大きな影響があるはずで、本論文の結論と整合しない。 本論文のピットフォールの可能性として、本論文の記銘力評価には治療後も調査に参加している必要があるが、主に死亡と辞退のため7人に1人で治療後調査が行われていない。早期脳血管障害と、それに準じる状態の患者さんがこの脱落群に高率に含まれ、CABG群やオフポンプ群の評価が修飾された、つまり、まずまずの経過だった方だけが評価対象となり、気の毒な転帰をたどった方が除外された可能性があると思われる(このバイアスをうまく回避できる方法を提案できないが)。 「アタマにやさしい冠動脈血行再建法」は循環器診療の一大テーマである。本論文の結論に若干の違和感はありつつも、長期的な認知機能という観点から特定の血行再建法を勧めるほどの大差はない、とはいえそうである。

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世界初、がん疼痛に使える経皮吸収型NSAIDs「ジクトルテープ75mg」【下平博士のDIノート】第76回

世界初、がん疼痛に使える経皮吸収型NSAIDs「ジクトルテープ75mg」今回は、持続性がん疼痛治療薬「ジクロフェナクナトリウム経皮吸収型製剤(商品名:ジクトルテープ75mg、製造販売元:久光製薬)」を紹介します。本剤は、がん疼痛に適応を有する世界初の経皮吸収型NSAIDs製剤であり、簡便かつ効率的に疼痛をコントロールすることが期待されています。<効能・効果>本剤は、各種がんにおける鎮痛の適応で、2021年3月23日に承認され、5月21日に発売されました。<用法・用量>通常、成人に対し、1日1回2枚(ジクロフェナクナトリウムとして150mg)を胸部、腹部、上腕部、背部、腰部または大腿部に貼付し、1日(約24時間)ごとに貼り替えます。なお、症状や状態により1日3枚(ジクロフェナクナトリウムとして225mg)まで増量可能です。本剤使用時はほかの全身作用を期待する消炎鎮痛薬との併用は可能な限り避け、やむを得ず併用する場合は必要最小限の使用にとどめ、患者の状態に十分注意する必要があります。<安全性>国内臨床試験において、臨床検査値異常を含む主な副作用として、適用部位そう痒感(5%以上)、適用部位紅斑、上腹部痛、AST上昇、ALT上昇、クレアチニン上昇(1~5%未満)などが報告されています。重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、出血性ショックまたは穿孔を伴う消化管潰瘍、消化管の狭窄・閉塞、再生不良性貧血、溶血性貧血、無顆粒球症、血小板減少症、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(SJS)、紅皮症(剥脱性皮膚炎)、急性腎障害(間質性腎炎、腎乳頭壊死など)、ネフローゼ症候群、重症喘息発作(アスピリン喘息)、間質性肺炎、うっ血性心不全、心筋梗塞、無菌性髄膜炎、重篤な肝機能障害、急性脳症、横紋筋融解症、脳血管障害が設定されています(いずれも頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.1日1回、通常2枚を、胸、おなか、上腕、背中、腰、太もものいずれかの部位に貼って使用します。症状によって枚数が増えることもありますが、医師から指示された枚数を守り、一度に3枚を超えないように使用してください。2.創傷面または湿疹・皮膚炎などが見られる部位および放射線照射部位への貼付は避けてください。皮膚への刺激を減らすために、貼り替える際は、前回とは異なる部位を選択してください。3.この薬は1枚ずつ包装されています。貼る直前まで開封しないでください。途中で薬がはがれ落ちた場合は、ただちに新しいものを貼り、次の貼り替え予定時間には、再度新しいものに貼り替えてください。4.使用中に眠気、めまいが生じたり、かすみがかったように見えたりする場合は、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には従事しないでください。貼った部位に赤みや痒みが出るなどつらいことがありましたら、早めにご相談ください。5.自己判断によるほかの消炎鎮痛薬との併用は避けてください。市販の風邪薬などを使用する場合は事前に相談してください。6.過去に風邪薬や消炎鎮痛薬を使用して喘息のような症状が現れたことがある方や、妊婦または妊娠している可能性のある女性は使用できません。<Shimo's eyes>本剤は、世界初のNSAIDsの経皮吸収型持続性がん疼痛治療薬です。同成分を含む局所作用型製剤ジクロフェナクナトリウムテープ(商品名:ボルタレン)とは異なり、全身投与型の製剤です。有効成分が全身の血中に移行するため、禁忌はジクロフェナク経口薬とほぼ同じように設定されています。NSAIDsなどの非オピオイド鎮痛薬は、「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」において、軽度のがん疼痛に対する導入薬として推奨されています。中等度~高度のがん疼痛で、オピオイド鎮痛薬では十分な鎮痛効果が得られない、または有害事象のためオピオイド鎮痛薬を増量できない場合などでは、非オピオイド鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬の併用が推奨されています。本剤は、1日1回の貼り替えで持続的な効果が期待できるため、患者・介護者の双方にとって利便性が高いと考えられます。3枚貼付時のジクロフェナクの全身曝露量が、同成分の徐放性カプセル剤(商品名:ナボールSRカプセル37.5)と同程度ですが、血中濃度が定常状態に達するまで7日ほどかかるため、効果判定のタイミングに注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 ジクトルテープ75mg

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「ミオナール」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第55回

第55回 「ミオナール」の名称の由来は?販売名ミオナール®錠50mgミオナール®顆粒10%一般名(和名[命名法])エペリゾン塩酸塩(JAN)効能又は効果○下記疾患による筋緊張状態の改善頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、腰痛症○下記疾患による痙性麻痺脳血管障害、痙性脊髄麻痺、頸部脊椎症、術後後遺症(脳・脊髄腫瘍を含む)、外傷後遺症(脊髄損傷、頭部外傷)、筋萎縮性側索硬化症、脳性小児麻痺、脊髄小脳変性症、脊髄血管障害、スモン(SMON)、その他の脳脊髄疾患用法及び用量錠50mg通常成人には1日量として3錠(エペリゾン塩酸塩として150mg)を3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。顆粒10%通常成人には1日量として1.5g(エペリゾン塩酸塩として150mg)を3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年6月9日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2015年12月改訂(改定第8版)医薬品インタビューフォーム「ミオナール®錠50mg/ミオナール®顆粒10%」2)Medical.eisai.jp:製品情報

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インサイド・ヘッド(続編・その2)【意識はどうやって生まれるの?】Part 2

(2)モニター装置-「ワイプ画面」によって自分は自分であると思い込ませる5人の小人たちは、スクリーンを通してライリーを見ています。一方、ライリーは小人たちが見えるようには描かれていません。その理由は、おそらく、この映画の演出上、頭の中を小人たちに擬人化させているため、ライリーに小人たちが見えてしまうと、視聴者が混乱するからでしょう。実際は、11歳であれば、何となくぼんやりと頭の中の小人たちのせめぎ合いが、スクリーンに映し出されるワイプ画面に「見えて」います。たとえば、ライリーが転校先の教室で自己紹介をしている時に急に泣き出すシーンで、小人たちは右往左往していますが、ライリーは、周りの生徒たちを見ながら、きっと「さっきまでミネソタの楽しい思い出を話していたのに、急に悲しくなっちゃった」と「見えて」(思って)いるでしょう。ライリーのママやパパなら、もっとはっきりとしたワイプ画面に小人たちの会議が「見えて」いるでしょう。つまり、大人になればなるほど、テレビのワイプ画面を見るように、小人たちの働きぶりを自分の意識の中で俯瞰(モニター)するようになります。2つ目は、モニター装置です。意識が見ているのは、自分の心と体そのものではなく、脳がつくったモニター(ワイプ画面)ということです。このモニター装置によって、自分と周り(他人)の違いに注意が向き(自他境界)、自分は周り(他人)とは違う存在である(自己覚知)、つまり自分は自分であると思い込まされています(自己意識)。これは、このモニター装置の「故障」によって、確認することができます。たとえば、脳血管障害により片側の大脳半球(主に右半球)が機能しなくなった場合、麻痺している反対側(左側)の手足の認識(身体感覚)に注意が向かなくなり(無視するようになり)、その半側でぶつかったり転びやすくなります(半側空間無視)。中には、注意を向けられないという病識自体がなかったり、麻痺していること自体が分からなくなり、麻痺していないと言い張るようになることもあります(病態失認)。さらには、麻痺しているその手足が自分のものであると分からなくなり、自分のものではないと言い張るようになることもあります(身体失認)。つまり、片側(主に右側)の大脳半球が働かなくなると、その大脳半球が支配していた手足はモニターされず、そもそも存在しないことになってしまうのです。また、前頭葉(主に右前頭葉)の障害で、我慢ができなくなる脱抑制がみられます。これは、自分の行動をモニターできないために、脳が短絡的になっていると考えられます。逆に、このモニター装置が過剰に作動すれば、誰かに見られているという感覚(被注察感)や誰かに操られているという感覚(統合失調症の作為体験)になるでしょう。このモニター装置が分離して作動すれば、頭の中に複数の人格が共存している多重人格(解離性同一性障害)になるでしょう。そう考えれば、これらの精神症状は、それほど不思議な現象ではないことも分かります。実際に、自己の顔認知の実験によって、このモニター装置(自己を感じる脳活動)の部位が判明しています。この実験では、「私は考える」という言葉が添えられた自分の顔写真と、「彼は考える」という言葉が添えられた有名人の顔写真を見比べた時の、fMRIにおける脳の部位の活動性の違いを評価しました。すると、自分の顔写真を見た時に、より高い活動性が見られたのは、右前頭葉でした。この結果は、先ほどの半側空間無視、病態失認、身体失認、そして脱抑制が右半球の障害で多いことに合致します。つまり、自分が自分であると思わせるモニター装置は、主に右前頭葉で生まれるということです。ちなみに、このモニター装置を心理療法に応用したのが、マインドフルネスです。これは、自分の体感や五感を意識的に研ぎ澄ますことで、モニター装置をフルに作動させます。そうすることで、さらに舞台装置もフルに作動させて、意識レベル(覚醒度)を上げるという取り組みです。なお、マインドフルネスの詳細については、関連記事2をご覧ください。 << 前のページへ | 次のページへ >>

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緩和ケアの基盤となるのはナラティブなやりとり、日常診療の範囲内で取り組めます!【非専門医のための緩和ケアTips】第3回

第3回 緩和ケアの基盤となるのはナラティブなやりとり、日常診療の範囲内で取り組めます!前回までに、緩和ケアを実践する際に、患者さんと医学情報だけでなく、物語的(ナラティブ)なやりとりをすることも大切、ということをお話ししました。一方で、実際に取り組もうとすると、なかなか難しく感じる方も多いと思います。では、どうやって毎日の診療に緩和ケアを“実装する”とよいのでしょうか? 頂いた質問から見てみましょう。今日の質問緩和ケアが大切なのはわかるんですが、とにかく時間がありません…。患者さんの話を30分近く聞いたりする時間をとるのは無理です。うちは診療所なので、緩和ケアだけに取り組むスタッフを配置するわけにもいきません…。「時間がないから、緩和ケアができない」問題ですね。この方がおっしゃるように、緩和ケアを実践する中では、ベッドサイドで30分以上お話を伺ったり、ご家族を交えて今後の療養について話し合ったりすることがあります。これぞ「The 緩和ケア」って感じですよね。皆さんが目にする、ドラマなどでの緩和ケアのシーンの多くも、こういった“ガッツリとした”緩和ケアではないでしょうか?確かに、こうした「ガチ緩和ケア」もありますが、私たち専門家も、患者さん全員にいつでもこうしたケアを行っているわけではありません。重要なのは「必要な人」に「必要なタイミング」で「必要なスタイル」の緩和ケアを提供することです。だって、外来で「いつもの薬、もらいに来ました〜」みたいなテンションの患者さんに「今から1時間、あなたの話を聞かせてください!」なんて言ったところで、びっくりされちゃいますよね。では、どうすればいいのでしょうか?それは、「患者さんがナラティブ(物語的)な話をしたいときに、短時間でよいので遮らずに聞き、医療者側もその話に関心があることを伝える」というものです。先日、私の内科の外来で、患者さんに新型コロナの生活への影響について聞いたところ、「以前はよく旅行に行っていたけど、すっかり行けなくなってしまって…」という話になりました。その方は脳血管障害後の片麻痺があり、旅行に出るのはそれなりに大変なはずです。そこに話を向けると「家族がサポートしてくれるので」「これまで行ったところでよかったのは阿蘇ですね。あの景色は今でも思い出します」など、旅行の思い出や家族への感謝の言葉が出てきました。その方にとって旅行というイベントがいかに大切なものか、障害を抱えながらもご家族に支えられてきたことを振り返り、共有してもらった時間でした。このやりとりによってすぐに医学的な介入が変化するわけではありません。ただ、「どういったことを大切にしてきた方か」「何に価値を感じる方か」といった情報を知り、そのやりとりを積み重ねていくことが、その後、人生における大切で難しい決断を本人・家族と医療者が一緒にしていく基盤となるのです。今回の旅行のお話、聞いていたのは3分程度でしょうか。そんなに長い時間ではありません。他の医学的な治療説明のほうが、時間がかかりませんか? たとえば、インスリン導入の注意点を説明する場合、私は3分では到底終わりません。もしかしたら、患者さんにとっては詳し過ぎる医学的な説明を少し少なめにして、その分で話を聞く、というやり方もよいかもしれません。もちろん、私も外来の患者さん全員とこうした話をしているのではなく、治療以外のことに話題が及ぶのは1日の外来で1、2人程度です。患者さんも毎回、雑談を期待しているわけではないでしょう。あくまでも両者にとって無理のない範囲で、「時々は医学的なこと以外の話をしてみよう」と思って取り組むくらいで十分だと思います。「急がないけれど大切なこと」を「タイミングが合ったときに聞く」というスタンスが、外来など継続性のある医療の中での緩和ケアの実践になるのです。というわけで、物語的(ナラティブ)なやりとりは、時間がかかるものもあれば、もっと手軽に日常診療の範囲内で取り組めるものもある、ということをご理解いただければと思います。今回のTips今回のTips緩和ケアの基盤となるナラティブなやりとり、日常診療の範囲内で取り組める!

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「高齢者糖尿病の血糖管理目標(HbA1c値)」と死亡リスクの関係

 日本糖尿病学会と日本老年医学会は「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」を公表し、患者を3つのカテゴリーに分類している。しかしその妥当性に関して本邦の縦断研究に基づくエビデンスは不足していた。東京都健康長寿医療センターの荒木 厚氏・大村 卓也氏らはJ-EDIT研究のデータを用い、認知機能、手段的ADL、基本的ADL、併存疾患による種々のカテゴリー分類と死亡リスクとの関連を検討。身体機能と認知機能に基づく分類および併存疾患数に基づく分類が死亡リスクの予測因子となることに加え、8つの簡便な質問項目でカテゴリー分類が可能となることが明らかとなった。Geriatrics & gerontology international誌オンライン版4月22日号の報告より。 J-EDIT研究で6年間追跡した高齢糖尿病患者843例(平均年齢71.9±4.7歳、男性384例/女性459例)を対象に、カテゴリーと全死亡との関連を評価した。認知機能はベースラインのMMSE(カットオフ値27/26~22/21)、手段的ADLは老研式活動能力指標(カットオフ値12/11)、基本的ADLはBarthel Index(カットオフ値19/18)の各質問票を用いて評価し、カテゴリーI~IIIに分類した(モデル1)。 モデル1の分類に加えて、網膜症、腎症、神経障害、虚血心性疾患、脳血管障害、悪性疾患、肝疾患、うつの8個の併存疾患の中から4個以上を有する場合にはカテゴリーIIIとする分類でも同様に解析を行った(モデル2)。さらに因子分析により老研式活動能力指標とBarthel Indexから抽出した8項目(買い物、食事の支度、預金管理、新聞を読む、友人の訪問、食事、トイレ使用、歩行)からなる「生活機能質問票8」の点数で3つのカテゴリーに分類し、死亡との関連を評価した(モデル3)。 ハザード比と95%信頼区間は、年齢、性別、体格指数、HbA1c、総コレステロール、推定糸球体濾過量、重度低血糖の頻度を共変量として使用し、Cox回帰分析により算出された。 主な結果は以下のとおり。・6年間のフォローアップ中に、64件の全死因死亡が発生した。・カテゴリーIに対するカテゴリーIIの死亡率のハザード比(共変数で調整後)は1.8(95%信頼区間[CI]:1.1~3.1)、カテゴリーIIIは3.1(95%CI:1.1~8.3)であった(モデル1)。・併存疾患数を考慮したモデル2でも、カテゴリーが進むにつれてハザード比が上昇した。・「生活機能質問票8」を用いたモデル3でも同様の結果が得られた。・層別解析では低血糖をきたす可能性のある薬剤(SU薬、インスリン)の使用群でとくに、カテゴリーが進むほど死亡リスクが上昇した。

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第55回 透析しながらフィットネス/血栓症をAZ社ワクチン副作用と欧州が判断

透析中の自転車漕ぎ運動で心臓の調子が改善透析患者は年々増えており、2019年の調査では日本人のおよそ1,000人に3人(100万人当たり2,732人)が慢性透析患者でした1)。それら透析頼りの患者の死亡原因で最も多かったのは心不全であり、死亡原因の22.7%を占め、心不全に加えて脳血管障害と心筋梗塞も含む心血管疾患全般は死亡原因の約1/3の32.3%を占めました。慢性疾患患者の心血管疾患予防には運動が良いことが報告されています。血液透析頼りの末期腎疾患(ESRD)患者はとくにじっとしていがちであり、運動で心血管機能や体調の改善が期待できるでしょう。とはいえ透析に出向いて4時間透析を受けて帰宅することを多くの場合週に3回繰り返す患者がその他のことをする時間は非常に限られています2)。ではその長い透析の最中に運動してもらったらいいじゃないかということで実施されて好成績を収めた無作為化試験の結果が国際腎臓学会(ISN)発行のKidney International誌に掲載されました3)。試験は英国の血液透析センター3ヵ所で実施され、130人が参加しました。半数の65人は週3回の透析中に30分間自転車漕ぎ運動をしてもらい、残り半数はいつもの治療を受けました。6ヵ月後のMRI写真を調べたところ自転車漕ぎ運動をした患者の心臓の大きさは正常化しており、心臓の瘢痕が減っていました。血管にも良い影響を及ぼしたらしく大動脈硬化の指標が改善しました。また、自転車漕ぎ運動をした患者の入院はより減り、1人当たりの6ヵ月間の医療費はそうしなかった患者に比べて諸費用・装置導入や人件費(理学療法士の給与)差し引きで1,418ポンド少なくて済みました4)。透析の都度自転車漕ぎ運動をすれば否が応でも運動習慣を身につけることができ、長い透析がより有意義なものになるでしょう2)。透析中の自転車漕ぎ運動は心血管の調子を改善するようであり、果ては生存改善につながるかどうかを今後の試験で調べる必要があると著者は言っています。血栓症をAZ社ワクチンの非常に稀な副作用と欧州が判断~J&Jワクチンでも同様の血栓症が発生血小板減少を伴う普通じゃない血栓症をAstraZeneca社COVID-19ワクチンVaxzevria(AZD1222)の非常に稀な副作用と欧州医薬品庁(EMA)が結論しました5,6)。およそ2,500万人がAstraZenecaワクチン接種済みの欧州地域から主に自主的に3月22日までに報告された脳静脈洞血栓症(CVST)62例と内臓静脈血栓症(splanchnic vein thrombosis)24例を詳しく調べてEMAはその結論に至りました。欧州連合(EU)の薬剤安全性データベースEudraVigilanceに集まったそれら86例のうちおよそ5例に1例(18例)は死亡しています。その約2週間後の4月4日時点でのEudraVigilanceへのCVST報告数は3月22日までより3倍近い169例、内臓静脈血栓症は2倍以上の53例に増えています。とはいえ血小板減少を伴う血栓症は非常に稀であり、AstraZenecaワクチンのCOVID-19予防効果は副作用リスクを上回るとEMAは依然として考えています。先週紹介したヘパリン起因性血小板減少症(HIT)様の免疫反応を原因の一つとEMAは想定しています。心配なことにJ&JのCOVID-19ワクチンでも同様の血栓症が発生してEMAは調査を開始しています7)。また、AstraZenecaワクチンの別の安全性懸念・毛細管漏出症候群の調査も始まっています。毛細管漏出症候群は血管の液漏れを特徴とし、組織を腫らして血圧低下を招きます。参考1)新田孝作ほか. 透析会誌. 53:579~632,2020 2)Cycling study transforms heart health of dialysis patients / Eurekalert 3)Matthew P.M.et al. Kidney International. April 08, 2021. [Epub ahead of print]4)Daniel S. M.et al.Kidney International. April 08, 2021.[Epub ahead of print]5)AstraZeneca’s COVID-19 vaccine: EMA finds possible link to very rare cases of unusual blood clots with low blood platelets / EMA6)Blood Clots a Very Rare Side Effect of AstraZeneca Vaccine: EMA / TheScientists7)Meeting highlights from the Pharmacovigilance Risk Assessment Committee (PRAC) 6-9 April 2021 / EMA

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認知症、脳・心血管疾患、1型糖尿病などがCOVID-19重症化リスクに追加/CDC

 米国疾病予防管理センター(CDC)は、3月29日、成人において新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクとなる病状リストにいくつかの新しい項目を追加した。以前から可能性が指摘されていた、「1型糖尿病(2型糖尿病に追加)」「中等度~重度の喘息」「肝疾患」「認知症またはその他の神経学的疾患」「脳卒中・脳血管疾患」「HIV感染症」「嚢胞性線維症」「過体重(肥満に追加)」のほか、新しく「薬物依存症」がリストアップされた。新しいリストでは、特定のカテゴリごとに病状が記載されている。COVID-19重症化リスクとなる成人の病状リスト(アルファベット順)・がん・慢性腎臓病・慢性肺疾患:慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息(中等度~重度)、間質性肺疾患、嚢胞性線維症、肺高血圧症など・認知症またはその他の神経学的疾患・糖尿病(1型または2型)・ダウン症・心臓病(心不全、冠状動脈疾患、心筋症、高血圧など)・HIV感染・免疫不全状態(免疫力の低下)・慢性肝疾患:アルコール性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患[NAFLD]、とくに肝硬変、肝線維化など・過体重と肥満:BMI>25(過体重)、BMI>30(肥満)、BMI>40(重度の肥満)・妊娠・鎌状赤血球症またはサラセミアなどの異常ヘモグロビン症・喫煙(現在または以前)・臓器または造血幹細胞の移植・脳卒中または脳血管障害・薬物依存症(アルコール、オピオイド、コカインの中毒など) CDCは、これらの病状がある人は、周りの人の協力を得ながら注意深く安全に管理することが重要だとし、「現在の処方・治療計画の継続」「(病状に対応できる)常温保存食品の用意」「病状悪化のトリガーを避ける」「ストレスへの対処」「異変があった場合の迅速な救急要請」などを呼び掛けている。

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COVID-19の重症度、現在より過去の喫煙が関連か/日本疫学会

 喫煙者の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化リスクについては、海外から相反する結果が報告されている。また、過去喫煙者と現在喫煙者では重症化リスクが異なるとの報告もある。日本人COVID-19入院患者を対象に、喫煙歴と重症度の関連を検討した結果を、1月27~29日にオンライン開催された第31回日本疫学会学術総会で、大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター長)が発表した。 解析に使われたのは、国立国際医療研究センターが中心となり日本全国の施設からCOVID-19入院症例を登録するレジストリ研究COVIREGI-JP1)のデータ。2021年1月12日時点で、872施設から2万4,017例が登録されている。このうち、日本国籍を有し、転院・転送例を除く20~89歳の患者1万853例が解析対象とされた。 重症度は入院中の治療等により0~5の6段階で定義された(重症度0:酸素投与なし、重症度1:非侵襲的な酸素投与、重症度2:ハイフロー・NIPPV、重症度3:侵襲的機械換気[ECMO以外]、重症度4:ECMO、重症度5:死亡[治療内容は問わず])。 主な結果は以下の通り。・解析対象患者の属性は、男性6,321例、女性4,532例。20代が2,091例と最も多く、50代(1,917例)、40代(1,729例)、30代(1,534例)と続く。・喫煙歴は、[男性]現在喫煙者:1,581例(28.8%)、過去喫煙者:1,717例(31.2%)、喫煙歴なし:2,198例(40.0%)[女性]現在喫煙者:574例(15.0%)、過去喫煙者:453例(11.8%)、喫煙歴なし:2,803例(73.2%)・重症度は、[男性]0:4,655例(73.6%)、1:1,186例(18.8%)、2:132例(2.1%)、3:100例(1.6%)、4:15例(0.2%)、5:233例(3.7%)[女性]0:3,783例(83.5%)、1:598例(13.2%)、2:40例(0.9%)、3:15例(0.3%)、4:0%、5:96例(2.1%)・男女ともに年齢が上がるほど重症化リスクが高い傾向がみられた。・年齢で調整後も、女性より男性で重症化リスクが高い傾向がみられた。・心血管疾患、COPD、糖尿病、肥満などの既報にて重症化との関連が指摘されている併存疾患を有する場合、併存疾患なしの場合と比較して重症化リスクが有意に増加していた。・男性では、とくに重症度1および4/5との比較において、過去の喫煙者で重症化リスクが高まる傾向がみられた(重症度0を対照群、喫煙歴なしを基準としたオッズ比):[重症度1(1,186例)]現在喫煙者:年齢調整後0.88(95%信頼区間:0.73~1.07)、年齢・併存疾患調整後0.84(0.69~1.03)過去喫煙者:年齢調整後1.28(1.09~1.52)、年齢・併存疾患調整後1.23(1.04~1.46)[重症度2(132例)]現在喫煙者:年齢調整後0.62(0.36~1.07)、年齢・併存疾患調整後0.60(0.35~1.04)過去喫煙者:年齢調整後1.14(0.76~1.71)、年齢・併存疾患調整後1.08(0.72~1.64)[重症度4/5(248例)]現在喫煙者:年齢調整後0.97(0.55~1.69)、年齢・併存疾患調整後0.88(0.48~1.62)過去喫煙者:年齢調整後1.61(1.11~2.33)、年齢・併存疾患調整後1.29(0.86~1.93)・女性では、男性でみられたような傾向はみられなかった。・現在喫煙者と比較して過去喫煙者のほうが、うっ血性心不全、脳血管障害、高血圧症、重症糖尿病などの併存疾患を有する割合が高かった。 これらの結果から、大曲氏は喫煙歴とCOVID-19重症化リスクについて、下記のように考察した:1.過去喫煙者は何らかの疾患に罹患したことで禁煙した可能性がある2.過去喫煙者は禁煙したものの、併存疾患により重症化リスクが高いのではないか3.現在喫煙者はまだこれらの疾患に罹患していないために、重症化リスクが上がらないのではないか4.現在の喫煙そのものは現在の重症化リスクとは直接関係しないが、他の疾患に罹患することで将来COVID-19に罹患した場合には重症化リスクが高まるのではないか また、女性では過去の喫煙と重症度との間に関連がみられなかったことについて、女性では全体として喫煙者が少なく、検出力が不足していた可能性を指摘した。

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SGLT2阻害薬とGLP-1作動薬の有効性と有害事象をレビュー(解説:桑島巖氏)-1349

 最近の2型糖尿病治療薬の進歩は目覚ましい。DPP-4阻害薬登場によってHbA1cのコントロールは容易になったが、大規模臨床試験では心血管イベント抑制効果は見いだせなかった。しかし、その後登場したSGLT2阻害薬とGLP-1作動薬については、血糖値低下のみならず、心血管イベント、腎障害進展や死亡を抑制するという臨床試験の成績が相次いで発表されている。そして両薬剤は、いまや単に糖尿病治療薬の域を越え、心・腎・脳血管障害予防薬としての地位を確保しつつある。 本論文は、SGLT2阻害薬とGLP-1作動薬に関して、プラセボや従来治療、その他の血糖降下薬とを比較した764トライアル、約42万人についてのsystematic reviewとメタ解析のレビューである。その結論としては、SGLT2阻害薬は心不全による入院と死亡の回避という点でGLP-1作動薬よりも優れており、一方、非致死的脳卒中予防においてはGLP-1作動薬のほうが優れていたというものである。また有害事象に関しては、SGLT2阻害薬は、高率に生殖器感染を惹起する一方、GLP-1作動薬は重症な消化管イベントを惹起したという。 SGLT2阻害薬、GLP-1作動薬に関しては信頼性の高いプラセボ対照無作為ランダム化試験の成績がいくつか発表されており、上記の両薬剤の心血管イベント抑制効果に関する有効性はすでに明らかになっている。 それらは、SGLT2阻害薬の心血管アウトカム試験としては、エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)のEMPA-REG OUTCOME研究、カナグリフロジン(同:カナグル)のCANVAS研究、ダパグリフロジン(同:フォシーガ)のDECLARE-TIMI 58研究、ertugliflozin(本邦未発売)のVERTIS CV研究、sotagliflozin(同)のSOLOIST-WHF研究が発表されている。またGLP-1作動薬の心血管アウトカム試験としては、リラグルチドのLEADER研究、リキシセナチドのELIXA研究、デュラグルチドのREWIND研究、セマグルチドのSUSTAIN-6研究などである。 これらのランダム化試験の結果から、SGLT2阻害薬は高リスク症例で、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中は抑制しないものの、心不全の入院と死亡を減少させることがクラスエフェクトとして明らかになっている。これはSGLT2阻害薬の利尿作用とそれに伴う血圧低下、心負荷の軽減が心不全の抑制につながっている。 一方、GLP-1作動薬は心不全による入院や死亡の抑制効果は認められないが、死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合エンドポイントは有意に抑制するという結果が発表されている。しかし、その機序については不明である。 しかしながら、本論文の膨大な数の比較試験を収集したメタ解析は、その異質性、多様性ゆえに、おおよその両薬剤の有効性、有害性をまとめるうえでは有用であっても、エビデンスレベルはランダム化試験のほうが上である。 しかし両薬剤が単に血糖値を下げるだけの薬剤ではなく、心血管保護薬として心血管疾患を有している症例の2次予防治療薬として有望であることを、あらためて示した点では意味がある。

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極論で語る神経内科 第2版

大胆なモデルチェンジ、パワーアップした河合節、これができるのは「極論」だけ!神経内科といえば、変性疾患ばかり扱うみたいなイメージがありませんか? ですが本来、神経内科の守備範囲は広く、「認知症」「脳血管障害」「頭痛」「脊髄疾患」「末梢神経障害」などのコモンな疾患の知識も必要とされます。また、古典的な神経内科疾患にも新知見や治療法がどんどん加わっています。さらに「めまい」や「睡眠」といったコモンな症候もカバーします。そんな新しい神経内科の軸を踏まえた「極論」らしい大改訂となりました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    極論で語る神経内科 第2版定価3,500円 + 税判型A5判、並製頁数208頁発行2021年1月著者河合 真監修者香坂 俊

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「ω-3多価不飽和脂肪酸、ビタミンD、筋力トレーニング運動による治療は効かない」ってほんと?(解説:島田俊夫氏)-1341

 ω-3多価不飽和脂肪酸の中でもEPA、DHAが、心脳血管障害、がんの予防に効果があるか否かについては、議論の多いところである1)。しかしながら、ちまたではこれらのサプリメントへの嗜好が強くなっている。さらにビタミンDに関しても実臨床の中で、すでに骨粗鬆症の治療にあまねく使用されている2)。また、筋力トレーニングの運動プログラムは健康改善に寄与する3)との考えが生活の中に定着している。 このような状況の中で今回取り上げる2020年JAMA誌324巻18号に掲載されたBischoff-Ferrari HA等による論文は、有効と信じられている3つの因子を考慮した、二重盲検2×2×2要因無作為ランダム化比較試験デザインに基づく臨床研究論文である。研究対象者は、研究開始5年前から大病の既往のない70歳以上の、スイスとドイツからの健康成人2,157例であった。 介入はω-3脂肪酸投与、ビタミンD投与、筋力トレーニング運動プログラム実施のそれぞれの3因子の有/無を考慮した8グループ(コントロールを含む)で行われた。 標的アウトカムとして6項目が取り上げられた。3年間にわたる収縮期および拡張期血圧、運動能力(SPPB)、認知機能(MoCA)、非脊椎骨骨折および感染の発生頻度の6項目について評価された。2,157例(平均年齢74.9歳、女性が61.7%)中1,990例(88%)が研究を完遂した。観察期間の中央値は2.99年で、約3年にわたり、標的6アウトカムに関して個別または組み合わせ介入に対して、いずれのアームでも統計学的に有意な利便性を認めなかった。全体で25例の死亡が確認されたが、全アームにおいてもほぼ同様の結果であった。 大きな合併症のない70歳以上の成人中、ビタミンD、ω-3脂肪酸の補充療法、筋力トレーニング運動プログラムの実施グループでは、収縮期および拡張期血圧、非脊椎骨骨折、身体能力、感染率、認知機能の改善に統計学的有意差は認めなかった。これらの知見は、標的アウトカムに対する3つの介入の有効性を支持する結果と一致しなかった。 しかしながら、上記の結論を必ずしもうのみにすべきではない。 サプリメントを補充する類の研究では、対象者がビタミンD、ω-3脂肪酸欠乏、運動不足が背景にあるか否かで結果が大きく左右される。対象者がいわゆる高齢健常者である場合、欠乏状態は相対的に軽いと考えられる。このため、3つの要因のすべての組み合わせを考慮しても欠乏がわずかであれば研究対象として必ずしも適切ではなく、結果に差がないから有効でないと結論するのは早計である。 研究デザインを考えるときに、補充療法の効果を判定したければ欠乏確認済対象で研究するのが必要であり、今回の研究は3つの要因の臨床的利便性を否定するのに十分なデザインではない。本論文の結論は、欠乏の軽微な対象では効果が出にくいとのメッセージとして受け止めるべきではないか。

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筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する多剤併用試験の意義(解説:森本悟氏)-1331

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロン障害による筋萎縮、筋力低下、嚥下障害、呼吸不全等を特徴とする神経難病であり、有効な治療法はほとんど存在しない。 しかし今回、ALSの有効な治療薬として、フェニル酪酸ナトリウム(sodium phenylbutyrate)-taurursodiol合剤が報告された(Paganoni S, et al. N Engl J Med. 2020.383:919-930. )。 フェニル酪酸ナトリウムは、本邦では尿素サイクル異常症治療薬として使用されている。この薬剤は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としても働き、低分子シャペロンである熱ショックタンパク質(HSP)を増加させる。それにより、ALSの病態として重要なタンパク質(TDP-43)の異常蓄積を防ぎ、小胞体ストレスによる神経毒性を低減する。一方、taurursodiol(ウルソデオキシコール酸[ウルソジオール]のタウリン抱合体)は漢方薬の原料である熊胆の成分であり、小胞体ストレスを軽減するとともに、ミトコンドリアにおけるBax蛋白の膜移行を阻害し、細胞死を防ぐ働きがある。 従来の数多くの基礎研究により、小胞体ストレス、ミトコンドリア機能不全、あるいは小胞体-ミトコンドリア接触部(MAM)の破綻などがALSにおける重要な病態であるということが提唱されてきたが、今回の臨床試験の報告により、これらの仮説が証明された。さらに本治験患者を長期観察した続報として、ALSにおける運動機能改善のみならず、投薬患者はプラセボ群と比較して6.5ヵ月長い生存期間中央値(無作為化後最大35ヵ月間のフォローアップ)を認めた(Paganoni S, et al. Muscle Nerve. 2021;63:31-39.)。 これまで、脳血管障害や結核治療のように複数の薬剤を併用することで、“multi-target”および“synergistic effect”も含めて有効性を高められる可能性が言われてきたが、今回の報告は、ALSに対する“多剤併用試験”の先駆的な成功例である。 一方で、最近の話題として、ALSを含む多くの神経変性疾患に対する治療開発戦略において、“iPS細胞創薬”が台頭してきている(Okano H, et al. Trends Pharmacol Sci. 2020;41:99-109. )。このコンセプトにより、これまでの動物モデルでは成しえなかった“孤発性疾患モデル”が現実的なものとなり、神経変性疾患の大部分を占める孤発性患者を直接的なターゲットとした創薬が可能となりつつある。 近年、ALSに対する創薬(研究)の報告が相次いでおり、一刻も早くALSが克服されることを切に願ってやまない。

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「ハルシオン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第23回

第23回 「ハルシオン」の名称の由来は?販売名ハルシオン®0.125mg錠ハルシオン®0.25mg錠一般名(和名[命名法])トリアゾラム(JAN)効能又は効果○不眠症○麻酔前投薬用法及び用量○不眠症通常成人には1回トリアゾラムとして0.25mgを就寝前に経口投与する。高度な不眠症には0.5mgを投与することができる。なお、年齢・症状・疾患などを考慮して適宜増減するが、高齢者には1回0.125mg~0.25mgまでとする。○麻酔前投薬手術前夜:通常成人には1回トリアゾラムとして0.25mgを就寝前に経口投与する。なお、年齢・症状・疾患などを考慮し、必要に応じ0.5mgを投与することができる。警告内容とその理由【警告】本剤の服用後に、もうろう状態、睡眠随伴症状(夢遊症状等)があらわれることがある。また、入眠までの、あるいは中途覚醒時の出来事を記憶していないことがあるので注意すること。理由国内において“もうろう状態”“健忘”等の副作用報告があり、このような状態下においては重大な事故につながる危険性があるため【警告】を設け特に注意を喚起した。更に、2007年3月14日に米国食品医薬品局(FDA)は本剤を含む睡眠剤について、十分に覚醒しないまま、車の運転、食事等を行い、その出来事を記憶していないとの報告があることを踏まえて、当該薬剤の米国添付文書の改訂指示を行っていることから、本剤においても注意喚起することとした。禁忌内容とその理由【禁忌(次の患者には投与しないこと)】(1)本剤に対し過敏症の既往歴のある患者(2)急性狭隅角緑内障のある患者(3)重症筋無力症の患者[筋弛緩作用により、症状を悪化させるおそれがある。](4)次の薬剤を投与中の患者:イトラコナゾール、フルコナゾール、ホスフルコナゾール、ボリコナゾール、ミコナゾール、HIVプロテアーゼ阻害剤(インジナビル、リトナビル等)、エファビレンツ、テラプレビル【原則禁忌(次の患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与すること)】肺性心、肺気腫、気管支喘息及び脳血管障害の急性期等で呼吸機能が高度に低下している患者[呼吸抑制により炭酸ガスナルコーシスを起こしやすいので投与しないこと。やむを得ず投与が必要な場合には、少量より投与を開始し、呼吸の状態を見ながら投与量を慎重に調節すること。]※本内容は2020年10月28日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2018 年12月改訂(第11版)医薬品インタビューフォーム「ハルシオン®0.125mg錠/ハルシオン®0.25mg錠」2)Pfizer PROFESSIONALS

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コルヒチンの冠動脈疾患2次予防効果に結論を出した論文(解説:野間重孝氏)-1300

 評者は今回の論文に関連した他論文の論文評を昨年12月にこの欄に掲載しているため(「今、心血管系疾患2次予防に一石が投じられた」)、解説部分が前回と一部重複することを、まずご容赦いただきたい。また、先回の論文評の中で今回の論文のスタディデザイン報告をした論文(Nidorf SM, et al. Am Heart J. 2019;218:46-56.)に言及し、評者の早とちりから彼らがすでに結論を出してしまったような誤解を与える記述をしてしまいました。この点につき、この場をお借りして陳謝させていただきます。 動脈硬化が炎症と深い関係があるとする動脈硬化炎症説は、1976年にRossらが「障害に対する反応」仮説を提出したことに始まる(Ross R, et al. N Engl J Med. 1976;295:369-377.、420-425.、二部構成)。以後さまざまな仮説が提出され、議論が繰り返されたが、結局確定的なメカニズムの解明には至っていない。 コルヒチンはイヌサフラン科のイヌサフラン(Colchicum autumnale)の種子や球根に含まれるアルカロイドで、長く痛風の薬として使用されてきた。主な作用として、細胞内微小管(microtubule)の形成阻害、細胞分裂の阻害のほかに、好中球の活動を強力に阻害することによる抗炎症作用が挙げられる。ところが皮肉なことに、ここにコルヒチンが動脈硬化の進展予防に何らかの作用を持つと考えられなかった理由がある。というのは、動脈硬化炎症説を考える人たちは単球やマクロファージ、免疫系細胞には注目するが、好中球には関心を示さなかったからだ。ちなみに好中球、多核球に対してこれだけ強力な抑制作用を持つ薬剤は、現在コルヒチン以外に知られていない。結局、今世紀に至るまでコルヒチンが動脈硬化性疾患の進展予防に何らかの効果を持つとは誰も考えなかったのである。 しかし突破口は意外な方面から開かれた。ニューヨーク大学のリウマチ研究室の研究者たちが奇妙な事実に気付き報告したのだ。痛風患者に対してコルヒチンを使用していると心筋梗塞の有病率が低いというのである(Crittenden DB, et al. J Rheumatol. 2012;39:1458-1464.)。 この結果にいち早く注目したのが本論文の著者であるHeart Care Western AustraliaのNidorf SMらのグループだった。彼らは通常の治療に加え、コルヒチン錠を1日当たり0.5mg投与する治療群(282例、66歳、男性率89%)とコントロール群(250例、67歳、男性率89%)の計532例を中央値で3年間フォローアップした結果(主要アウトカムは、急性冠症候群、院外心停止、非心臓塞栓性虚血性脳卒中)、ハザード比(HR)は0.33(95%信頼区間[CI]:0.18~0.60)、NNT 11で2次予防が可能であるという驚くべき結果を得た(LoDoCo試験、Nidorf SM, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;61:404-410.)。この試験は登録数が少ないこと、open labelで検討されていることからあくまでpilot studyだったのだが、一部の関係者の注目を集めるには十分だった。 いち早くLoDoCo pilot studyに注目したのがカナダ・モントリオール心臓研究所のグループであり、前回評者が論文評を担当した論文がこれだった(Tardif JC, et al. N Engl J Med. 2019;381:2497-2505.)。彼らは、登録日前30日以内に心筋梗塞を発症し、経皮的血行再建術を受けた症例4,745例を2群に分け、両群にいわゆる内科的至適療法(OMT)を行うとともに、一方の群にコルヒチン0.5mg/日を、もう一方にplaceboを追加投与する二重盲検試験を行った。エンドポイントを心血管死、心停止後の蘇生、心筋梗塞、脳卒中、血行再建とし、コルヒチン群で有意に発生率が低いことを証明した。この研究は注目すべきものではあったが、問題点もあった。複合エンドポイントのうち、差が出たのは脳卒中と血行再建だけで、脳卒中ではっきり差が出ていなければかなりきわどい結果になっていた可能性があったからだ。また心筋梗塞後30日以内の患者という対象設定にも問題があった。 一方、先回のpilot studyから確信を得たNidorfらのグループは、LoDoCo2試験を立ち上げた。コルヒチンが安全に投与できることが確かめられた安定狭心症5,522例を対象としてコルヒチン0.5mg/日とplaceboによる二重盲検試験を行った。この試験のデザインは前述したように、昨年別途報告された(Nidorf SM, et al. Am Heart J. 2019;218:46-56.)。そのLoDoCo試験の最終報告となるのが本論文である。この試験にも複合エンドポイントに脳卒中が含まれていたが、31%の発生減を報告できたことには十分な説得力がある(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.57~0.83、p<0.001)。また、サブ解析でも明らかな心事故発生の減少が報告された。この試験の意味深い点は、臨床的にとくに問題のない安定狭心症を対象として2次予防の成績を提出したことにある。評者が題名に「結論」という文言を使用したゆえんである。 今回の試験で著者らは対象患者の性別に偏りがあったこと、血圧や脂質など他の危険因子のデータ収集が不完全であったことを挙げているが、評者にはこれらが大きな限界とは考えられない。冠動脈疾患は典型的な多因子的疾患であり、2次予防効果をみるためには一つひとつの因子をつぶしていく必要がある。すべての因子を包括した研究が事実上不可能である以上、どれか確定的な因子(もしくは治療法)が証明できればそれは充分な前進であると評価されなければならないと考えるからである。 評者が不満に思うことを挙げるとすれば、前述のカナダのグループにおいても同様なのだが、冠動脈疾患の2次予防の検定になぜ脳卒中を複合エンドポイントに入れなければならないのか、という点である。冠動脈疾患は何度も述べているように典型的な多因子疾患である。一方、脳血管障害は、確かに危険因子は多数指摘できるが、その中において血圧の重要性が圧倒的に高く、同じ多因子疾患といっても冠動脈疾患とはその性格を大きく異にし、その進展過程・機序にも差があるからである。今回の試験においても、前回のカナダのグループの試験においても、コルヒチンは明らかに脳卒中の発生率を低下させている。だから確かに効果があることに異論はないのだが、その機序については別の議論が必要であろう。 このところコルヒチンを用いた研究が各方面で活発化していることは、J-CLEARの論文紹介に目を通していらっしゃる方々はよくご承知ではないかと思う。しかし評者の知る限り、わが国ではあまり関心が持たれていない印象がある。わが国でもこの新しい発見を有効に利用しようという動き(もしくは検証しようという動き)が早く出ることを願うものである。

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