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高まる「脳ドック」ニーズ、認知症を予測できるか?【外来で役立つ!認知症Topics】第7回

先日久しぶりに心が折れる診察をした。認知症疑いで初診した母と娘さんの診察の途中で、その母は「個人情報をなぜ言わねばならない」と立腹され、席を立たれたのだ。そこで娘さんに残ってもらい、認知症診断の道筋を説明したが、納得されなかった。「問診されるのはここだけでなくどこでもそうか? どうして血液やMRIなどの画像検査で診断できないのか?」と質問されてから帰られた。要は、「個人情報になることに触れられたくない人がいる。当方には不可欠な質問でも、虎の尾を踏みかねない」ということだ。われわれには当然過ぎるが、生活の自立困難、従来のレベルからの低下が認知症診断のコアである。だから個人情報レベルに立ち入らざるを得ない。しかしこれは自分たち医療者に限った常識と思わなくてはいけないか?と考えた。これまでの脳ドックの課題この画像診断だが、件の母娘の発言に出るように、世間では浸透し、高く信頼されているようだ。だから基本的にMRIとMRAを基本とした脳ドック施設が全国に1,000以上もあるのも頷ける。ただ従来は、その診断内容は比較的限られていた。脳出血や梗塞のような脳血管障害、脳萎縮には私も関心がある。しかし実際には、奇形や腫瘍などもときにあるが、数が一番多いのは副鼻腔炎だそうだ。またMRAでは未破裂動脈瘤がしばしば発見されるが、これはありがたい。ところで私の周囲に関する限りでは、脳ドックに行くことで認知症の危険性を知りたいという声が実は大きい。ところがこれは、従来アンメットニーズであったようだ。というのは、まず受診者の年齢が主に30~50代と比較的若い。それだけに海馬を始めとする側頭葉内側の萎縮などは時期尚早であろう。それ以上に、脳ドックの医師、多くは脳外科や脳神経内科さらに放射線科の医師にとって、認知症はこれまでは馴染みが薄かったと思われる。つまりアルツハイマー病、レビー小体型認知症、あるいは前頭側頭型認知症などは、ドックの診察において数も重要性もさほど大きなものではなかったかもしれない。それだけに従来はレポート作成において注目が少なかったかもしれない。30代から始まる脳萎縮さて先ごろ、ジョンズ・ホプキンス大学放射線科の森 進氏と『認知症を止める 「脳ドック」を活かした対策 異変(萎縮・血管)をつかんで事前に手を打つ』という書を出版した。この本では、森氏が日本人2万5,000人の脳健診データを基に作成した健康人の脳MRI/MRA画像データが基本になっている。ここには、中年期からの脳健康管理には、画像の数値化が不可欠とする森氏の考え方が基盤にある。アルツハイマー病など認知症の脳画像所見が検討されるときには、海馬を始めとする側頭葉内側、あるいは脳幹背側の萎縮などが問われがちだ。しかし森氏の考え方は、これらとは違う。脳全体としての萎縮は30代に前頭葉から始まり、また側頭葉や海馬は60代になって萎縮が目立ってくるという。そこで皮質(灰白質)だけではなく、白質を含めた脳全体の変化に注目したそうだ。そして脳構造の総和が反映され、撮影条件の差の影響を受けにくい脳室の容積が指標にされた。だから森進式の脳ドックのレポートには、脳質容積の測定結果を基にした結果が示される。ここが最大の特徴だろう。「認知症基本法」成立、予防のためのMRI/MRA活用へところで、この6月「認知症基本法」が成立した。これは今後認知症施策の根幹になっていくだろう。この特徴は、「予防」と「共生」にあるといわれてきた。ところが、さまざまにアイデアが出てきている「共生」に対して、「予防」は、その効果やエビデンスが弱いとされてきた。アルツハイマー病なら予防の本星は、脳脊髄液中のアミロイドβや、そのPET画像であろう。しかし患者さんの身体的負荷や経済的負担から、それらは容易ではない。だからそれらが少ないMRI/MRAは注目されるだろう。しかも「世界中で健常者のMRI/MRA所見が沢山あって正常が確立しているのは日本だけだろう」と森氏は言う。そうはいっても、まだ個人の数十年にわたる縦断的なMRI/MRA所見がそろっているわけではない。言うまでもなく望ましいのは、同一個人の縦断データ、つまり正常段階から認知症段階までの経時的な脳画像である。私は地域で、10年余り、MRI/MRA所見など認知症発症のリスクの縦断調査をしたことがある。その時の経験からして、ざっくり15年、1,000人以上の縦断データがあれば、認知症予測が多少とも正確にできるのではないかと思う。それが整えば、中年期以降のある一時点における脳画像所見があれば、将来の認知症発症をある程度の精度で予測することが可能になるかもしれないという意味である。おわりに、冒頭に紹介した母娘さんが期待するような、いわばオールマイティの診断能力を有するMRI/MRA所見の判読とその臨床応用は、そう簡単ではないだろう。けれども脳ドックにおいて自分のMRI/MRA所見を知り、中年期から生活習慣病等のリスクに備えていくなら、認知症予防とまで行かずとも、その発症の先延ばしは可能になると考える。

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コロナ入院患者の他疾患発症、インフルと比較

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化した人は、急性期後も心血管疾患、神経疾患、精神疾患、炎症性疾患や自己免疫疾患などを発症するリスクが高まり、Long COVIDとして問題になっている。しかし、それはほかの感染症と比較した場合にも、リスクが高いと言えるのだろうか? カナダ・トロント大学のKieran L Quinn氏らはカナダのオンタリオ州において、臨床データベースと医療行政データベースをリンクさせた集団ベースのコホート研究を実施し、研究結果はJAMA Internal Medicine誌オンライン版2023年6月20日号に掲載された。 2020年4月1日~2021年10月31日にCOVID-19で入院した全成人を試験群とし、「過去にインフルエンザで入院」「過去に敗血症で入院」した人を対照群とした。さらにパンデミック中に治療パターンや入院の閾値が変化した可能性を考慮するため「期間中に敗血症で入院」も対照群に加え、年齢、性別、過去5年内の肺炎による入院、COVID-19ワクチン接種状況などの交絡因子を調整した。 アウトカムは入院後1年以内の虚血性および非虚血性の脳血管障害、心血管障害、神経障害、関節リウマチ、精神疾患など、事前に規定した13疾患の新規発症だった。 主な結果は以下のとおり。・試験群として期間中のCOVID-19入院:2万6,499例、対照群として過去にインフルエンザで入院:1万7,516例、過去に敗血症で入院:28万2,473例、期間中に敗血症で入院:5万2,878例が登録された。年齢中央値75(四分位範囲[IQR]:63~85)歳、54%が女性だった。・COVID-19入院は、インフルエンザ入院と比較して、入院1年以内の静脈血栓塞栓症(VTE)の発症リスク上昇と関連していた(調整ハザード比:1.77、95%信頼区間:1.36~2.31)。しかし、インフルエンザまたは敗血症コホートと比較して、その他の規定された13疾患の発症リスクは上昇しなかった。 研究者らは「COVID-19入院後は、他疾患の発症リスクが高まると考えられるが、その程度はVTEを除けば他感染症と同じであった。このことは、COVID-19の急性期以降のアウトカムの多くは、SARS-CoV-2感染による直接的な結果ではなく、入院を必要とする重症の感染症に罹患したことに関連している可能性がある」としている。

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急速に進行する認知症(後編)【外来で役立つ!認知症Topics】第6回

急速に進行する認知症(後編)「うちの家族の認知症は進行が速いのでは?」と問われる付き添い家族の対応には、とくに注意して臨む。筆者が働く認知症専門のクリニックでよくある急速進行性認知症(RPD:Rapid Progressive Dementia)は、やはり基本的にアルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)が多いようだ。こうした質問に対する説明では、次のようにお答えする。まず変わった治療や指導法をしているわけではないこと。また一言でADやDLBと言っても、進行速度などの臨床経過は多彩であること。そのうえで、処方薬の変更などの提案をする。しかし、時に難渋する例がある。それは、aducanumabやlecanemabなど新規薬の治験を行っている症例が、たまたまRPDだったと考えざるを得ないケースである。こちらが何を言おうと、ご家族としては治験薬に非があるという確固とした思いがある。筆者は経験的に、ADでは個人ごとにほぼ一定の進行速度があり、肺炎や大腿骨頸部骨折などの合併症がない限りは、速度はそうそう変わらないと思ってきた。つまり、固有の速さでほぼ直線的に落ちると考えていた。今回、RPDを論じるうえで、改めてADの臨床経過を確認してみた。まずあるレビュー論文によれば、認知機能の低下具合は、病初期はゆっくりと立ち上がり、その後ほぼ直線的に経過し終末期には水平に近づくことが示されていた1)。次に神経心理学所見のみならず、バイオマーカーの観点からも、ADの経過の多彩性を扱った論文があった。ここでは、「代償的なメカニズムも働くが、進行具合は遺伝子が強く規定している」と述べられていた2)。とすると、筆者の経験則は「当たらずとも遠からず」であろう。単純にADもしくはDLBで急速悪化する例では、その速度はプリオン病ほど速くはないが、半年ごとの神経心理学テストで、「えーっ、こんなに低下した?」と感じる。こういうケースは一定数あるし、そんな例にはこれという臨床的な特徴がないことが多いと思ってきた。それだけに低下速度は遺伝子により強く規定されているという報告には、なるほどと思う。そうはいっても、RPDのADには中等度から強度のアミロイドアンギオパチーが多いと述べられていた。このことは、血管障害が発生する危険性が高いと解釈される。なお有名なAPOE4遺伝子の保有との関りも述べられていたが、非RPDのものと変わらないとする報告が多く、なかには有意に少ないとする研究もあるとのことであった。ADに別の疾患を併発することで急速悪化することもADなどの変性疾患に別の疾患が加わることもある。上に述べた脳血管障害や硬膜下血腫の場合には、かなり急性(秒から週単位)に悪化する。麻痺や言語障害など目立った神経学的徴候があればわかりやすいが、必ずしもそうではない。また、せん妄など意識障害が前景に立つ場合も少なくない。こうした例では、せん妄の特徴である急性増悪と意識障害の変動への注目が重要である。次に、正常圧水頭症は、潜行性に失禁、歩行障害が現れてくる。その「いつの間にか」の進行ゆえに、ある程度長期に診ていると、逆に合併の出現には気付きにくくなることに要注意である。一方であまり有名でないが、よく経験するのが夏場の熱中症、あるいは脱水である。7月の梅雨明け頃から9月下旬にかけて、「このごろ急に認知症が悪化した」とご家族が申告される例は多い。主因は、当事者が暑いと感じにくくなっていて窓開けやエアコン使用など環境調整ができないこと、また高齢化とともに進行しがちな喉の渇きを感知しにくくなることによる水分摂取の低下である。典型的な熱中症ではない、比較的軽度な例が多いので、家族からは「認知症が最近になって悪化した」と訴えられやすい。なお初歩的かもしれないが、若い時からうつ病があった人では、老年期に至って新たなうつ病相が加わることがある。これが半年から1年も続くとRPDと思われるかもしれない。ごくまれながら、認知症に躁病が加重されることもあって、周囲はびっくりする。なお誤嚥性肺炎、複雑部分発作のようなてんかんもRPDに関与しうる。どのように悪化したかを聞き出すことが第一歩さて、これまでADやDLBとして加療してきた人が、RPDではないかと感じたり、家族から訴えられたりした時の対応が問題である。多くの家族は「悪化した、進んだ」という言い方をされるので、何がどのように悪いのかを聞き出すことが第一歩だろう。普通は記憶や理解力などの低下だろうが、たとえば正常圧水頭症が加わった場合なら、失禁や歩行障害という外から見て取れる変化なのかもしれない。次に治療法の変更は、本人や家族が安心されるという意味からもやってみる価値があるだろう。まずは薬物の変更、あるいは未使用ならデイサービス、デイケアも有効かもしれない。さらに大学病院の医師等への紹介という選択肢もある。それには、まずプリオン病など希少疾患の検索依頼の意味がある。またADのRPDかと思われるケースでは、認知症臨床に経験豊かな先生に診てもらうことは、患者・家族のみならず、非専門医の先生にとっても良いアドバイスが得られるだろう。参考1)Hermann P, et al. Rapidly progressive dementias - aetiologies, diagnosis and management. Nat Rev Neurol. 2022;18:363-376.2)Koval I, et al. AD Course Map charts Alzheimer’s disease progression. Sci Rep. 2021 13;11:8020.

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急速に進行する認知症(前編)【外来で役立つ!認知症Topics】第5回

急速に進行する認知症(前編)患者さんが認知症だと診断されたら、その次にご家族が期待されるのは治療効果である。つまり進行しないこと、進行が遅いことである。認知症の進行ぶりを客観的に評価するために、私のクリニックでは、定期的にMMSEや改訂長谷川式などの神経心理学的なテストをやっていただく。普通は緩徐に低下していくが、3、4割の人では意外ながらも前回よりも高得点が得られる。それを伝えると本人はにっこりされる。だが家族は怪訝そうな表情で、「家では、やることなすことみな悪化したのに」と述べられる。こうした経験から、とくにMCI(軽度認知障害)レベルでは、臨床経過において認知機能と日々の生活機能(IADL:道具的な日常生活機能)は平行しないと考えるようになった。対応に最も窮するのは、ご家族から、「うちの場合、認知症の進行がとくに速いのではないか?」と言われることだ。こうした場合、当方への批判や不信感がありありと伝わってくる。このとき筆者の胸に浮かぶのは、少なからず経験する急速進行性のアルツハイマー病や、まれながら絶対に見逃せないプリオン病である。そこで過去のカルテを読み返すが、症状や脳画像所見が否定型的だったり、どうも普通とは違うなと思われる過去の記述を発見したりした場合、「やだな」と不吉な思いが走る。確かに急速に進行する認知症(RPD:Rapid Progressive Dementia)という用語に合致しそうなケースはある。RPDの定義の1つに、MMSE得点の年間低下が6点以上というものがある。平均的な低下は2~3点(調査によって1.8点~4.5点と大きな開き)とされるだけに、確かに6点以上だと速いと実感する。急速進行性認知症に多い3タイプRPDにはいくつかタイプがある。まずこれまで4例経験したのが、古典的な狂牛病など致死的なプリオン病である。次に脳炎など炎症性疾患である。さらに、確かにアルツハイマー病など変性疾患なのに、というものである。これは2つに大別され、まず脳血管障害、硬膜下血種や正常圧水頭症などほかの病理が加わってくるもの、次にそうしたものがないのにぐんぐん悪化するものである。さて2022年のNature Reviews Neurology誌でRPDに関するレビューがあった1)。それを参考に概要をまとめた。まずその定義は最初の異常から認知症の診断までが1年以下としたものが多い。認知症一般を扱う病院からの報告で、RPDが認知症全体に占める割合を3.7%としたものがあった。当院の経験でも5%以内かと思う。またRPDの基礎疾患としては、プリオン病、変性疾患、炎症性疾患はそれぞれ3分の1を占めるとされる。そこで以下では、認知症一般を診る医師の立場で、こうしたRPDの鑑別のプロセスを示してみたい。プリオン病プリオン病では、自験例で早いものでは数ヵ月で死に至ったこともあり、まず早期の致死が基本である。当初はアルツハイマー病など普通の認知症と思えても、数ヵ月以内に認知機能も身体症状も急速に悪化する。担当医としては、ここで「おかしい、違うぞ!」と思わなければならない。診断根拠としてほぼ確実なのは、早期から見られるMRIの拡散強調画像における大脳皮質の高信号である。なお教科書的に有名な脳波の周期性同期性放電は中・後期にならないと認められない。そこでプリオン病が疑わしいと思ったら、放射線専門医に、皮質の変化を中心に読影してほしいと紹介状を依頼すべきだろう。炎症性脳炎次に各種の脳炎である。最も多いヘルペス脳炎、帯状疱疹脳炎は定型的な症状をもって急性発症することが多いが、ときにRPDのような認知症の1タイプを思わせるケースもある。炎症性疾患として古典的な神経梅毒は近年増加しているのに、見逃されがちであり、無治療例も多いとされる。さらにあるメタアナリシスでは、ヘルペス脳炎患者の42.6%に認知障害が見られると報告している。自己免疫性脳炎免疫介在性の脳炎は、全脳炎の20%余りにも上るとしたイギリスの報告があるように、RPDの鑑別疾患として重要である。自己免疫性脳炎は、その病態に自己免疫学的な機序が介在する脳炎・脳症である。腫瘍を合併し(腫瘍随伴性)、その遠隔効果、すなわち傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome)として発症するものもある。これは、腫瘍に関連する神経筋障害のうち、免疫介在性の機序によるものをいう。傍腫瘍性免疫介在性は、神経抗原を異所性に発現した腫瘍に対する液性免疫反応(自己抗体)と細胞性免疫反応(細胞傷害性T細胞)が自己の神経組織を傷害すると考えられている。自己抗体には、細胞内抗原を認識する抗体、シナプス受容体、細胞膜表面抗原に対する抗体がある。いずれの自己免疫性脳炎においても、早期の腫瘍検索と腫瘍に対する治療が重要であることに変わりはない。そのほかでは、中枢神経領域の悪性腫瘍、繰り返す低血糖、また重度の甲状腺機能低下症などもRPDになりうることに留意したい。最後に、アルコール性認知症は代謝性のRPDとして最も重要ではないかと思われる。これはいわゆる若年性認知症の1割を占め、栄養の偏りや低栄養を伴うことも多い。筆者の経験でも、飲酒をやめてもこうした変性性認知症を思わせるような急速悪化が続いた印象深い症例がある。参考1)Hermann P, et al. Rapidly progressive dementias - aetiologies, diagnosis and management. Nat Rev Neurol. 2022 Jun;18(6):363-376.

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NHK「おかあさんといっしょ」(前編)【歌うと話しやすくなるの?(発声学習)】Part 1

今回のキーワード感覚性言語(側頭葉のウェルニケ野)運動性言語(前頭葉のブローカー野)ミラーリング前適応失語症「言語遺伝子」(FOXP2遺伝子)発達性言語障害声認識(声紋)NHKの「おかあさんといっしょ」は、誰もが知っている幼児向けの音楽番組ですよね。子供は、テレビの前で、出演しているお友達たちと一緒に歌って踊りながら楽しく言葉を覚えています。どうやら歌と言葉は密接に結びついているようです。今回は、このテレビ番組をヒントに、発語(発声学習)のメカニズムを解き明かし、その起源に迫ります。どうやって言葉が出てくるの?最初に出てくる言葉(初語)は、1歳前後で、だいたい「まんま」「ぱっぱ」などです。「まんま」のように「ご飯食べたい」や「ママ来て」というさまざまな意味を持つ初語は、文としても成り立つため、一語文とも呼ばれます。そして、2歳で「でんしゃ、きた」「パパ、かいしゃ」などの二語文になっていきます。そして、4歳までには日常的な話し言葉(三語文)になっていきます。それでは、どうやって言葉が出てくるのでしょうか? ここから、発語(発声学習)のメカニズムを2つに分けて考えてみましょう。(1)発音を聞き分ける1つ目のメカニズムは、母音と子音のそれぞれの発音(音素)を聞き分けることです。このプロセスは、ちょうど1歳の初語が出てくるまで行われます。逆に、1歳以降は新しい発音の自然な学習が難しくなります。たとえば、日本語にない英語のLとRの発音は、その学習を1歳以降にしても、自然な聞き分けが難しくなります1)。逆に言えば、1歳になるまでの赤ちゃんは、英語のLとRを潜在的に聞き分ける能力を持っていると言えます。つまり、音素を聞き分ける能力の臨界期は1歳までということになります。臨界期があるのは、1歳以降は、1つ1つの音素を聞き分けるのではなく、すでに学習した音素の連続したかたまり(言葉)を聞き取ることに脳がエネルギーを注ぐ必要があるからであると考えられます。脳科学的に言えば、これらは感覚性言語(側頭葉のウェルニケ野)の発達です。(2)発音をまねる2つ目のメカニズムは、発音(音素)をまねることです。その前段階が喃語(乳児が発する意味のない声)です。そして、1歳前後になると発音しやすい音素から試すようになります。それが「ま」や「ぱ」なのです。初語が「ママ」であるのは、ママがママと呼ばせようとしたからというよりも、赤ちゃんが発音しやすいからでしょう。実際に、ほとんど言語の幼児語としての親の呼び名は「ママ」「パパ」のように呼びやすいものです。日本語の古語でも、母(はは)は「ぱぱ」「ふぁふぁ」、父(ちち)は「てて」「てぃてぃ」です2)。呼びやすさの観点から、昔の日本人はママを「ぱぱ」と呼んでいたのは納得できます。また、「ママ」のように音素を2回繰り返すのは、その方が赤ちゃんにとってインパクトがあり、また「て・に・を・は」などの機能語と区別できて、学習しやすいからであると考えられます。だからこそ、「手」「目」ではなく「おてて」「おめめ」なのです。よって、幼児期は「ないないするよ」「バイバイね」などの幼児語を周りが好んで使う方が、言葉の学習は進むでしょう。さらには、赤ちゃんが言った言葉を親などが繰り返すこと(ミラーリング)で、赤ちゃんの発音にフィードバックが働きます。こうして、言葉の発音を学んでいくのです。まさに、「学ぶ」の語源の「まねぶ」に通じます。なお、ミラーリングの詳細については、関連記事1をご覧ください。1歳以降は、音素の連続したかたまり(言葉)を聞き取るだけでなく、それを発することに脳がエネルギーを注ぐようになります。脳科学的に言えば、これは運動性言語(前頭葉のブローカー野)の発達です。こうして、音素を次々と切り替え素早く並べて、言葉にすることができるようになっていくのです。歌と言葉の関係は?「おかあさんといっしょ」では、「みんな~おっどろ~!」とリズムで呼びかけたり、歌のリズムに合わせてしりとりや言葉遊びをしています。このように、とくに発声学習の観点では、歌と言葉は切っても切り離せないようです。それは、なぜでしょうか?この答えは、進化の歴史から、発語は、歌の発声が進化の土台(前適応)になっていると考えられているからです3)。前適応とは、ある機能が進化の過程で別の機能に転用されている場合、もとの機能を指す用語です。たとえば、揚力を生み出す鳥の羽の前適応は、もともと羽毛による保温であったと考えられています3)。また、コイがほかの魚と違って高い音を聞き取ることができるのは、浮くための浮袋が内耳とつながるよう進化したからでした。つまり、コイの聴覚の前適応は浮袋による浮上だったと考えられています。同じように、歌うこと(発声)がまず先にあって、その後に話すこと(発語)が生まれたと考えられます。実際に、脳血管障害による失語症では、話せなくなったけど歌えるという場合があります。これは、言語の領域が左脳で優位であるのに対して、歌唱の領域は右脳を含め広範囲だからです。つまり、脳の機能としても、話すこと(発語)は、歌うこと(発声)をベースとしていることがわかります。このことからも、失語症へのリハビリとして、歌うことが注目されています4)。また、このことから、外国語を話せるようになるためには、まずその外国語の歌を歌うと学習の効果が上がりそうです。なお、歌の起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。次のページへ >>

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オールシングスマストパス~高齢者の抗うつ薬の選択についての研究の難しさ(解説:岡村毅氏)

 従来のRCTの論文とはずいぶん違う印象だ。無常(All Things Must Pass)を感じたのは私だけだろうか。この論文、老年医学を専門とする研究者には、突っ込みどころ満載のように思える。とはいえ現実世界で大規模研究をすることは大変であることもわかっている。 順に説明していこう。2種類の抗うつ薬に反応しないものを治療抵抗性うつ病という。こういう場合、臨床的には「他の薬を追加する増強療法」(augmentation)か「他の種類の薬剤への変更」(switch)のどちらを選択するべきかというのは臨床的難問だ。これに対して、うつ病一般においてはSTAR*Dなどの大規模な研究が行われてきた。本研究はOPTIMUM研究と名付けられ、やはりNIH主導で大規模に行われた。 結果であるが、アリピプラゾールの増強療法が比較的優れた効果を示した。とはいえ、ステップ1で比較されているbupropionは本邦未承認であるから日本の臨床家への示唆はあまりない。なおステップ2で比較対象となっているのはリチウムの増強療法とノルトリプチリンへの変更であるが、これらは本邦でも使用できる。 以下は、この論文を批判的に眺めた感想である。 第1にプロトコルがまったく安定していない。途中までステップ2への直接参加が可能になっているが、途中から禁じられた。参加基準も当初PHQ-9で6点以上であったのが、途中から10点以上になっている。さまざまな横やりがあったことが推測される。 第2に参加者は普通に薬局で薬をもらっているので、増強(追加)されているのか変更されているのかがわかってしまう。単純化すると、前者は錠剤が1錠増えるし、後者は増えない。プラセボで良くなる高齢者が多いから、この点は重要だ。 第3に認知機能の検査は一応しているが(supplementaryの隅まで読んでようやく書いてあったが、これは最も重要な点ではないか?)、Short blessed testで10点以上はダメというあまりにも粗い基準だ。さまざまな認知機能の人が含まれているに違いない。 第4に脳梗塞に伴う治療抵抗性うつ病も含まれているはずだが、これはdepression-executive dysfunctionともいい、高齢期のうつ病の難問の一つである。生活障害が大きく、むしろ非薬物治療が効果的とされる。この群は何をやっても変わらないだろうが、期間中に良いデイケアに行き始めたら劇的に回復することだろう。この議論が抜け落ちている。 第5に、アウトカムは「健やかさ」(wellbeing)になっている。これは当事者団体の意見等を反映させたということである。「症状は外から見ると減ったようです、でも本人は苦しいです」というのでは意味がないのだから良いことともいえる。薬剤の効果を症状だけで見るのは「古い」医学者であり、リカバリーのようなより主観的なものが現在好まれる。しかし薬剤の効果をwellbeingで見ることは、拡大した医療化であり、危険をはらんでいると個人的には思っている。というのは、高齢者ではとくにそうだが、さまざまな出来事(人間関係、出会いと別れ、とくに死別、体調、他の疾患の状態など)によりwellbeingは大きく影響を受けるのだ。公平を期すために、この研究でも「社会参加」も測定されていることは述べておく。 第6に、結果的には、bupropion変更組とリチウム増強組では、きちんと定められた分量までいって寛解している者は10%もいないとのことであり、とても低いところで比較しているというのは否めまい。 第7に転倒が多い。対照がないので、高齢者とはそういうものだと言われればそれまでだが、良い結果の治療でも3人に1人は転倒しているし、最も悪い群は55%が転倒している。この研究は増強vs.変更を比較しているので、これを言ってしまうとちゃぶ台返しになってしまうが…「この人はうつ病で、薬で治すべし」という大前提がここでは間違っているんじゃないか。この際、漢方薬に変えて、生活も変えてみてはどうかと提案する(たとえば地域の集まりや運動に行くとか、それこそお寺に行ってみるとか)というのが日本の小慣れた臨床医の対応ではないだろうか。 第8に…これくらいでやめておこう。 僕らはRCTで少しでも科学的に妥当な知見を手に入れて、患者さんにより妥当な治療を提案し、結果的に多くの患者さんを幸せにしたいという根源的な欲求がある。しかし高齢者を対象にしたこの論文を読むと、さまざまな現実のノイズにより、非常に読みにくく、苦しい印象を受けた。RCT、メタアナリシス、さらにネットワークメタアナリシスに心躍らされた時代はもしかしたら、長い歴史の中のそよ風なのかもしれず(Times They Are A-Changin)、無常(All Things Must Pass)を感じる。一方で、批判だけするつもりはない。医療者の主観や勘に頼った時代に戻ってよいわけはない。なんか苦しいなあと思いながら、批判的に読み、そしてこのような大規模研究を苦しみながら遂行した仲間に最大の敬意を払いつつも、この知見が目の前の患者さんに適応できるかどうかを考え続けるしかないのではないか。 考えてみれば、この薬が一番いいですという単純な世界(うつ病ですか、じゃあエスシタロプラムかゾロフトでしょうみたいな)なら、医師なんていらないではないか。目の前の患者さんが、医療の対象にするべきことが何割で、医療が対象にしてはいけないことが何割かを判断する必要があるし、どの見方を採用するか(たとえば高齢者の抑うつ症状なら、感情障害、認知機能障害、脳血管障害といったさまざまな次元がある)を常に選択する必要がある。患者の高齢化に伴い、臨床はより頭を使う仕事になってきたように感じる。

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高度アルツハイマー型認知症にも使用できるドネペジル貼付薬「アリドネパッチ27.5mg/55mg」【下平博士のDIノート】第116回

高度アルツハイマー型認知症にも使用できるドネペジル貼付薬「アリドネパッチ27.5mg/55mg」今回は、アルツハイマー型認知症治療薬「ドネペジル経皮吸収型製剤(商品名:アリドネパッチ27.5mg/同55mg)、製造販売元:帝國製薬」を紹介します。本剤は、軽度~高度のアルツハイマー型認知症患者に使用することができる貼付薬であり、アドヒアランス向上や投薬管理の負担軽減が期待されています。<効能・効果>アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制の適応で、2022年12月23日に製造販売承認を取得しました。なお、既存のドネペジル経口薬には、レビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制の適応が追加されていますが、本剤にはこの適応はありません。<用法・用量>通常、軽度~中等度のアルツハイマー型認知症患者にはドネペジルとして、1日1回27.5mgを貼付します。高度のアルツハイマー型認知症患者には、27.5mgで4週間以上経過後に55mgに増量しますが、症状により27.5mgに減量することができます。本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付し、24時間ごとに貼り替えます。なお、他のコリンエステラーゼ阻害作用を有する同効薬(ドネペジル塩酸塩、リバスチグミン、ガランタミン)とは作用機序が重複するため併用することはできません。<安全性>国内第III相試験において、382例中214例(56.0%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主なものは、適用部位そう痒感95例(24.9%)、適用部位紅斑93例(24.3%)、接触皮膚炎48例(12.6%)などでした。なお、重大な副作用として、QT延長(1~3%未満)、心室頻拍(torsade de pointesを含む)、心室細動、洞不全症候群、洞停止、高度徐脈、心ブロック(洞房ブロック、房室ブロック)(0.1~1%未満)、失神、心筋梗塞、心不全、消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)、十二指腸潰瘍穿孔、消化管出血、肝炎、肝機能障害(0.1~1%未満)、黄疸、脳性発作(てんかん、痙攣など)、脳出血、脳血管障害、錐体外路障害、悪性症候群(Syndrome malin)、横紋筋融解症、呼吸困難、急性膵炎、急性腎障害、原因不明の突然死、血小板減少が設定されています(発現率の記載のないものはいずれも頻度不明)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内の神経伝達物質を分解する酵素の働きを抑えることで、認知症症状の進行を遅らせます。2.アルツハイマー型認知症によって機械操作能力が低下する可能性があります。また、本剤によって意識障害、めまい、眠気などが現れることがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械の操作には従事しないようにしてください。3.皮膚刺激を避けるため、貼付部位は毎回変更し、同一部位への貼付は7日以上の間隔を空けてください。4.光線過敏症を避けるため、貼付部位を衣服で覆うなど直射日光を避けてください。また、本剤を剥がした後も、貼付していた部位への直射日光を避けてください。<Shimo's eyes>わが国では、軽度~高度のアルツハイマー型認知症(AD)の治療薬であるドネペジル経口薬(商品名:アリセプトなど)の他、軽度~中等度ADの治療薬としてリバスチグミン貼付薬(同:リバスタッチ、イクセロンなど)やガランタミン経口薬(同:レミニールなど)、中等度~高度ADの治療薬としてメマンチン経口薬(同:メマリーなど)が承認されています。本剤は、高度ADにも適応を有する初の経皮吸収型製剤です。ドネペジル経口薬と同じく軽度~高度ADの適応を有しているため、認知症の早期から使用可能であるとともに、リバスチグミン貼付薬の投与対象とならない高度ADに対しても使用が可能です。有効成分はドネペジル経口薬の体内における活性本体です。経皮吸収型製剤は、多剤を経口服薬している患者や、嚥下困難や寝たきり状態の患者であっても治療継続がしやすく、アドヒアランスの向上が期待されています。また、介護者にとっても投薬管理の負担軽減だけでなく、貼付の有無や投与量の視認が可能であるため投与過誤のリスクも低減することができます。また、食事の有無や時間に関係なく投与ができることもメリットと言えます。本剤は既存の内服薬であるドネペジル塩酸塩錠5mgおよび10mgを1日1回経口投与したときと、本剤27.5mgおよび55mgを貼付したときに同等の効果を得られるように設計されています。経口薬と比較して血中薬物濃度の上昇が緩やかであるため、経口薬と異なり軽度~中等度ADでは漸増せずに投与が可能です。副作用では、胃腸障害の発現状況は、下痢や悪心を除き、本剤群と経口薬群で明らかな差は認められませんでした。しかし、全身性の有害事象とともに、貼付薬に特有の適用部位の有害事象にも注意する必要があります。

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トリグリセライドの新基準と適切なコントロール法/日本動脈硬化学会

 今年7月に発刊された『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』。今回の改訂点の1つとして「随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値」が設定された。これらの基準をもとに動脈硬化性疾患のリスクとしての高TG血症を確認するが、トリグリセライド値の低下だけではイベントを減らせないため、高トリグリセライド血症の原因となる生活習慣を改善させ適切な治療介入により動脈硬化を抑制するという観点から複合的に行う必要がある。今回、日本動脈硬化学会プレスセミナーにおいて、増田 大作氏(りんくう総合医療センター循環器内科部長)が「高トリグリセライド血症とその治療」と題し、日本人疫学に基づいたトリグリセライドの適切なコントロール法について解説した。動脈硬化抑制のためには、脂質異常値だけをコントロールするのは不十分 「動脈硬化」は虚血性心疾患や脳血管障害などの血管疾患の引き金になる。だからこそ、生活習慣病の改善を行う際には動脈硬化の予防も視野に入れておかねばならならない。本ガイドライン(GL)では脂質異常症の診断基準値の異常をきっかけに「動脈硬化が増えるリスク状態」であることをほかの項目も含めて“包括的リスク評価”を行い動脈硬化がどの程度起こるかを知ることが重要とされる。それに有用なツールとして、増田氏はまず、『動脈硬化性疾患発症予測・脂質管理目標設定アプリ』を紹介。「これまではLDLコレステロール(LDL-C)など単独の検査値のみで患者への注意喚起を行うことが多く、漠然とした指導に留まっていた。だが、本アプリを用いると、予測される10年間の動脈硬化性疾患発症リスクが“同年齢、同性で最もリスクが低い人と比べて〇倍高くなる”ことが示されるため、説得力も増す」と説明した。また、「単に“〇〇値”が高い、ではなくアプリへ入力する際に患者個人が持っているリスク(冠動脈疾患、糖尿病などの既往があるか)を医師・患者とも見直すことができ、治療介入レベルや管理目標などの目指すゴールが明確になる」とも話した。トリグリセライドの基準値に随時採血の基準も採用 今回のガイドライン改訂でトリグリセライドの基準値に随時採血(175mg/dL以上)の基準も採用された。これは、「トリグリセライドは食事によって20~30mg/dL上昇する。食後においてこれを超えてトリグリセライドが高いことが心血管疾患のリスクになっていることが本邦の疫学研究1)でも明らかになっている。コレステロール値が正常であっても、随時トリグリセライド値が166mg/dL以上の参加者は84mg/dL未満の者と比較すると、その相対リスクは冠動脈疾患が2.86倍、心筋梗塞は3.14倍、狭心症は2.67倍、突然死は3.37倍に上昇することが報告された。海外のガイドラインでの基準値も踏まえてこれが改訂GLにおける非空腹時トリグリセライドの基準値が設けられた」と日本人に適した改訂であることを説明。また、今の日本人の現状として「肥満に伴い耐糖能異常・糖尿病を罹患し、トリグリセライドが上昇傾向になる。単にコレステロールの管理だけではなく複合的に対応していくことが求められている」と述べ、「糖尿病患者ではLDL-C上昇だけでなくトリグリセライドの上昇もリスクが上昇する(1mmol/L上昇で1.54倍)。糖尿病患者における脂質異常症を放置することは非常に危険」とも強調した。高トリグリセライドは安易に下げれば良い訳ではない そこで、同氏は本GLにも掲載されている動脈硬化性疾患の予防のための投薬として、LDL-Cの管理目標値を目指したコントロール後のトリグリセライド(non-HDL-C)の適切なコントロールを以下のように挙げた。●高リスク(二次予防や糖尿病患者)+高トリグリセライドの人:スタチンでLDL-Cが適切にコントロールされた場合にイコサペント酸エチルの併用●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチン投与有無に関わらずトリグリセライド低下療法(イコサペント酸エチル・フィブラート系/選択的PPARα)●高トリグリセライド+低HDL-Cの人:スタチンにさらにフィブラート系/選択的PPARαでのトリグリセライド低下療法 なお、以前は横紋筋融解症を助長させる可能性からスタチンとフィブラート系の併用は禁忌とされていたが、多くのエビデンスの蓄積の結果平成30年より解除されている。また、選択的PPARαモジュレータにおける腎障害の禁忌も同様に本年8月に解除されているので、処方選択肢が広くなっている。 最後に同氏は「高トリグリセライドの人はさまざまな因子が絡んでいるので、安易に下げれば良い訳ではない。漫然処方するのではなく、血糖や血圧などの管理状態を見て、適切な治療薬を用いてコントロールして欲しい」と改めて強調した。

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コロナ感染後の手術、間隔が長いほど術後の心血管疾患リスク減

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染から手術までの間隔が長くなるほど、術後の主要心血管イベント複合転帰のリスクが低くなることを、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのJohn M. Bryant氏らが単一施設の後ろ向きコホート研究によって明らかにした。JAMA Netw Open誌2022年12月14日号掲載の報告。コロナ感染後、手術までの期間が長くなるほど複合転帰の発生率が低下これまで、複数の研究によってコロナ感染と手術後の死亡率増加の関連が報告されているが、コロナ感染から手術までの期間と死亡率の関連性についてはまだ不十分であった。そこで研究グループは、コロナ感染から手術までの期間が短いほど、術後の心血管イベントの発生率が上がると仮説を立て、手術後30日以内の心血管イベントリスクを評価することにした。 対象は、PCR検査によるコロナ感染歴があり、かつ2020年1月1日~2021年12月6日にヴァンダービルト大学医療センターで手術を行った3,997例(年齢中央値51.3歳、女性55.6%、白人74.8%)であった。主要エンドポイントは、手術後30日以内の深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳血管障害、心筋損傷、急性腎障害、または死亡の複合転帰であった。データ分析は2022年3月29日に実施された。 コロナ感染から手術までの期間と心血管イベント発生率の関連性について評価した主な結果は以下のとおり。・コロナ感染の診断から手術までの期間の中央値は98日(四分位範囲[IQR]:30~225日)で、3,997例中1,394名(34.9%)が7週以内に手術を受けていた。・手術の内訳は、消化器系25.1%、整形外科系14.3%、頸部・頸部10.4%、産婦人科系9.6%、腹部全般9.3%、循環器系5.8%、泌尿器科系5.8%などであった。・術後30日以内に485例(12.1%)で主要心血管イベントが確認された。急性腎障害は363例(9.1%)、心筋損傷は116例(2.9%)、深部静脈血栓症は61例(1.5%)、脳血管障害は29例(0.7%)、肺塞栓症は16例(0.4%)、死亡は79例(2.0%)であった。・多変量ロジスティック回帰分析の結果、コロナ感染から手術までの期間が長くなるほど、主要心血管イベントの複合転帰の発生率は低くなった(10日あたり調整オッズ比[aOR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.98~1.00、p=0.006)。・高齢、男性、黒人/アフリカ系、全身状態不良、泌尿器科系手術、併存症を既往している患者などでは、主要心血管イベントの複合転帰の発生率が高かった。・新型コロナ感染症の症状の有無、ワクチン接種の有無にかかわらず、陽性診断から手術までの経過日数と複合転帰の発生率は同様の傾向を示した。 研究グループは、これらの結果から「コロナ感染の診断から手術までの間隔の延長が、術後の重大な心血管疾患イベントの低減と関連していた。コロナ感染歴のある患者の手術タイミングと転帰の議論に役立ててほしい」とまとめた。

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誤嚥性肺炎と緩和ケア【非専門医のための緩和ケアTips】第42回

第42回 誤嚥性肺炎と緩和ケア誤嚥性肺炎は、主に高齢者を中心に誤嚥を契機とした肺炎を繰り返す病態です。プライマリ・ケアや在宅医療では必ず遭遇するでしょう。病院勤務をしていると、繰り返し入院してくる患者さんもいます。こうした誤嚥性肺炎に対する緩和ケアにはどのようなポイントがあるのでしょうか?今日の質問訪問診療で長年診ている患者さん。ここ1年で誤嚥性肺炎を2回発症し、入院しています。ときどき発熱もあり、そうした時に肺炎を起こしていたのかもしれません。すでに90歳、終末期の話し合いが必要かとも感じているのですが、何に注意するとよいでしょうか?球麻痺を来す神経難病や、脳血管障害のようにさまざまな病態が誤嚥性肺炎の原因となります。頭頸部がんや手術の影響で嚥下機能が障害されることもあります。ただ、今回のような訪問診療では、認知症とフレイルが進行した高齢者が、栄養摂取が困難となっている中での誤嚥性肺炎に最も多く遭遇するでしょう。「発熱の度に絶食し、抗菌薬の点滴治療」というのが、よくある対応でしょう。ただ、発熱の度に絶食をしていると栄養状態はどんどん悪化していきます。これは難しい問題ですよね。さて、ここで皆さんに質問です。あなた自身が、「食べたら肺炎を起こすかもしれないので、経口摂取は止めておきましょう」と言われたとしたら、どのように感じますか?「肺炎はつらいので食べるのは我慢します」と言う方もいれば、「いやいや、肺炎は気になるけど、できるだけ口から食べたいです」と言う方もいるでしょう。それはさまざまな経験や状況によっても変わるでしょう。嚥下機能の改善が難しい状況や、終末期を視野に入れた誤嚥性肺炎の緩和ケアでは、こうした「何を目指すか」を考えることが大切です。一言で言えば「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)が大切です」といった感じですが、これってなかなか実践するのが難しいですよね。とくに、在宅医療の現場だと、言語聴覚士などの専門職の意見を参考にすることも難しい場面が多いでしょう。ここでは、急性期病院に入院した際の話し合いを在宅退院する際に共有する、などの工夫が求められます。そうした話し合いの先に、患者さんごとに、「この方の場合は、在宅での点滴加療が最善だろう」と関係者間で共有されます。誤嚥性肺炎の緩和ケアは、増悪を繰り返し、時に入院も要する疾患の特性上、医療機関を超えた地域レベルでの連携が求められる分野なのです。今回のTips今回のTips誤嚥性肺炎の緩和ケアは、複数の医療機関の多職種で連携しながら取り組むことがポイント。

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高TG血症合併2型糖尿病患者を対象としたRCT研究(ペマフィブラート投与群 vs.対照群)の結果からTGレベルが十分に低下しても心血管イベントの抑制効果に差はみられなかった!―(解説:島田俊夫氏)

 脂質異常症が動脈硬化に悪影響を与えていることは以前から想定されているが、裏付けるエビデンスが乏しい。一方で高LDLコレステロール血症が動脈硬化を促進することは周知の事実となっている。また、コレステロールは細胞膜形成に不可欠な成分であり、ステロイドホルモンや胆汁酸の原料でもある。生命維持に必要不可欠な物質であることを忘れてはならないが、過剰なコレステロール血症の存在は動脈硬化、冠動脈疾患のリスクを増加させることは遍く認識されている。 これまでの多数のスタチンを使った大規模研究でLDLコレステロール値を下げることで、動脈硬化、冠動脈疾患のリスクが下げられることは証明済みである。 しかしながら、糖尿病、メタボ症候群などで高TG血症を随伴することも周知の事実であり、これらの随伴脂質異常症(TG-リッチリポ蛋白、小型高密度リポ蛋白などの増加)の是正が冠動脈疾患や脳血管障害リスク低下に寄与するか否かは定かではない。 今回、タイミングよくNEJM誌2022年11月24日号に掲載された米国・ブリガム&ウィメンズ病院のAruna D. Pradhan氏らが発表した「PROMINENT」試験1):「2型糖尿病患者を対象としたRCT研究で高レムナント血症、高TG血症(200~499mg/dL)、低HDLコレステロール血症(40mg/dL以下)があり、高LDLコレステロール血症がスタチン投与等により比較的良好(100mg/dL以下)にコントロールされている対象を2群にランダム割り付けを行い、コントロール群とペマフィブラート(pemafibrate[PF])投与群に群分けし、心血管イベントがPF群で有意に低下するかを主要評価項目とした多施設共同二重盲検ランダム比較試験」の結果が掲載された。「PROMINENT」試験では治療効果を数年間(中央値3.4年)追跡し、primary outcomeを評価した。 つまり、高TG血症絡みの病態をPFで治療することで心血管発作が抑制できるか否かをprimary outcomeとして評価した研究であり、多くの方が関心を示すと考え、紹介する。 これまでの状況証拠としては高TG血症絡みの病態は糖尿病、メタボ症候群などでよくみられる脂質異常症であり、動脈硬化や血栓症をベースに血管疾患の発生に深く関与していると想定されているが、釈然としない。 本試験でのPFの心血管イベント抑制効果はハザード比[HR]:1.03(p=0.67)でPF投与群とプラセボ群(対照群)間に差はなかった。率直に言えば、目的としたイベント抑制効果はなかった。若干の懸念としては、これまでの論争がこれで完全に氷解したと考えるには臨床家としては多少の違和感を禁じ得ない。また、腎臓有害事象の発生率(HR:1.12[p=0.004])、静脈血栓症の発生率(HR:2.05[p<0.001])はPF群で有意に多かった。一方で、非アルコール性脂肪肝の発生率についてはPF群で有意に低かった(HR:0.78[p=0.02])。しかしながら、これらは副次的な情報と捉えるべきである。 PF群に認められたLDLコレステロール値上昇がTGやレムナント低下などのメリットを相殺した可能性も否定はできないが、つじつま合わせの印象は免れない。 いずれにしても“主テーマであった心血管イベントの抑制効果の差は、PFの上乗せにより得られなかった”というのが本論文の結論である。(2022年12月20日 記事を修正いたしました)

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筋肉量減少に、睡眠の満足感・夕食時刻・朝食の有無が関連/日本抗加齢医学会

 加齢とともに減少する筋肉量がどのような生活習慣と関連するのか、東海大学の増田 由美氏らが比較的健康な成人男子を調査し解析した結果、睡眠の満足感との有意な関連が示された。睡眠時間との関連は有意ではなかったという。さらに、60歳未満では20時までの夕食摂取、60歳以上では毎日の朝食摂取が筋肉量の維持に効果的であることが示唆された。第22回日本抗加齢医学会総会(6月17~19日)で発表した。筋肉量は睡眠障害の自覚レベルと飲酒に有意に関連 本研究の対象は、2014年4月1日~2020年6月30日に東海大学医学部付属東京病院で抗加齢ドックを受診した成人男性160名のうち、睡眠時無呼吸症、脳血管障害、肝機能障害の治療中の5名を除いた155名。In-bodyによる筋肉量、BMI、HDLコレステロール、LDLコレステロール、アディポネクチンを検査し、自記式質問票による睡眠時間(6時間未満/6時間以上)、睡眠障害の自覚レベル、喫煙習慣・飲酒習慣・運動習慣・朝食の有無、夕食開始時刻(18時以前/18~20時/20時以降)、入眠剤の服用の有無について、筋肉量との関係を相関分析および重回帰分析で検討した。さらに、60歳未満76名と60歳以上79名の2群に分け、各群において睡眠、朝食摂取、夕食時刻と筋肉量との関係を調べた。 筋肉量が睡眠などの生活習慣とどのように関連するのか調査し解析した主な結果は以下のとおり。・年齢、BMI、入眠剤の服用、喫煙習慣を調整した場合、睡眠障害の自覚レベル(睡眠の満足感)、飲酒が筋肉量と有意に関連していた。・60歳未満では、睡眠障害の自覚レベルが悪いほど、また夕食開始時刻が遅いほど、筋肉量が有意に減少した。・60歳以上では、睡眠障害の自覚レベルが悪いほど、また朝食を毎日摂取していない場合に筋肉量が有意に減少した。 増田氏は、本研究の結果から良質な睡眠による筋肉疲労の回復を示唆する可能性、睡眠の満足感が睡眠リズムの障害を反映している可能性を考察している。睡眠リズムの障害があると成長ホルモンの分泌低下や、グリア細胞の機能低下があることが報告されているという。なお本研究の限界として、横断研究であり、対象者数が少なく、運動強度を設定していないことなどを挙げている。

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甲状腺クリーゼ〔Thyrotoxic storm or crisis〕

1 疾患概要■ 概念・定義甲状腺クリーゼ(Thyrotoxic storm or crisis)とは、甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し、これに何らかの強いストレスが加わったときに、甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥った結果、生命の危機に直面した緊急治療を要する病態をいう。■ 疫学甲状腺クリーゼはまれな病態で、入院した甲状腺中毒症の1~2%を超えないと言われている。日本甲状腺学会と日本内分泌学会の共同委員会(赤水班)による2009年の全国調査では、わが国での発生率は入院患者10万人あたり0.2人であり、推計患者数は確実例が約150人/年、疑い例が約40人/年と算出された。致死率は約11%である。■ 病因病因は不明であり、クリーゼの発症は必ずしも甲状腺ホルモンの血中濃度によらない。急激な甲状腺ホルモンの放出や、交感神経系の活性化、重症疾患でみられる甲状腺ホルモンの感受性上昇や蛋白結合能の低下などの関与が考えられている。甲状腺疾患としてバセドウ病が最も頻度が高いが、機能性甲状腺腫瘍、アイソトープ治療、甲状腺手術、破壊性甲状腺疾患などでも報告されている。甲状腺外の誘因としては、感染症、外傷、妊娠・分娩、副腎皮質機能不全、糖尿病ケトアシドーシス、虚血性心疾患、ヨード系造影剤の投与、強いストレスなど多岐にわたる。■ 症状甲状腺クリーゼでは複数臓器の機能不全が起きるが、代表的な症状は以下の通りである。1)甲状腺腫バセドウ病ではびまん性腫大を示すことが多く、結節性の甲状腺機能亢進症では、結節を触知することがある。亜急性甲状腺炎では局所の圧痛を示す。2)中枢神経症状甲状腺クリーゼの中心的な症状であり、意識障害、不穏、譫妄、精神異常、傾眠、痙攣、昏睡がある。3)発熱基礎代謝亢進にともない、発熱(38℃以上)とともに多汗を生じる。4)循環器症状高度の頻脈、心房細動、心不全症状、ショックを起こすことがある。5)消化器症状腸管蠕動運動亢進による下痢、嘔気・嘔吐、肝障害に伴う黄疸を示すことがある。また、肝機能不全による肝障害・黄疸を呈することがある。■ 予後現在においても致死率は高く、10~75%と言われていたが、わが国での全国疫学調査の結果では致死率10%以上であった。死因は、多臓器不全、腎不全、呼吸不全などで、また不可逆的な神経学的障害が残存することもある。予後規定因子として、ショック、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全があり、入院時に重症度に応じて予後が不良となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)甲状腺クリーゼの診断には、古くからのBurch-Wartofskyの診断スコアが使用されてきたが、必ずしも科学的エビデンスに裏付けされたものではなかった。より一層科学的根拠に基づく診断基準を求めて、わが国では、赤水らによる甲状腺クリーゼの診断基準が策定された。必須項目は甲状腺中毒症の存在であり、(1)中枢神経症状、(2)発熱、(3)頻脈、(4)心不全症状、(5)消化器症状の5項目が主要な症状・症候として選択された(表1)。表1 甲状腺クリーゼの診断基準画像を拡大する甲状腺中毒症の存在下に、「中枢神経症状+他の症状項目が1つ以上あるもの」か、「中枢神経症状以外の症状項目が3つ以上あるもの」を、甲状腺クリーゼ確実例とする。中枢神経症状以外の症状項目2つ、または夜間・休日など甲状腺中毒症が確認できない状況下で、甲状腺疾患の既往、眼球突出、甲状腺腫の存在があり、確実例の条件を示す者を疑い例とする。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)診断基準の確定の後、甲状腺クリーゼの予後改善を目指して、診療ガイドライン2017年版が作成された。甲状腺クリーゼと診断された場合、二次ABCDE評価(Airway, Breathing, Circulation, Dysfunction of central nervous system, and Exposure & environmental control)を行ない、Acute Physiologic Assessment and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアに基づき集中治療の要否を判断する。冷却・解熱剤の投与とともに抗甲状腺薬、無機ヨードならびに副腎皮質ステロイドを開始する(図)。また、APACHEIIスコア9以上では集中治療室(ICU)での管理が勧められる。図 甲状腺クリーゼ治療のアルゴリズム画像を拡大する甲状腺クリーゼに至った誘因の除去を行い、感染症などの合併に関しては個別に治療を行なう。中枢神経症状に対する治療は精神科救急医療ガイドラインなどに準じて行うが、器質的疾患(脳血管障害・髄膜炎・代謝異常・中毒など)がクリーゼの誘因となりうるので鑑別診断を必ず行う。心拍数150/分以上の洞性頻脈や頻拍性心房細動を認める場合、β1選択性短時間作動型β遮断薬やジギタリス製剤で心拍数を管理し、必要に応じて電気的除細動も考慮する(表2)。表2 甲状腺クリーゼの各々の病態に対する治療の概要画像を拡大するその他、うっ血性心不全、急性肝不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)、急性腎不全、横紋筋融解症、成人型呼吸促拍症候群(ARDS)などがみられる場合があり、予後不良となるので、各々の病態に応じた集学的治療が必要とされる。甲状腺クリーゼにおける治療的血漿交換の絶対的適応は、急性肝不全合併例で、相対的適応はクリーゼに対する治療開始24~48時間後においてもコントロール不能の甲状腺中毒症である。APACHEIIスコアならびにSOFA(Sepsis-related Organ Failure Assessment)スコアが予後と関連する。4 今後の展望今回のガイドライン作成にあたり、国内の多くの施設に症例報告収集の支援をいただいたが、ガイドライン発行後、治療の方法ならびに生存率なども変化しているため、現在日本甲状腺学会により前向きの全国調査が行われている。5 主たる診療科内分泌・代謝内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会 甲状腺クリーゼ(一般利用者向けのまとまった情報)難病情報センター 甲状腺中毒クリーゼ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本甲状腺学会 甲状腺クリーゼの診断基準(第2版)(医療従事者向けのまとまった情報)日本甲状腺学会 甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017年版Digest版(医療従事者向けのまとまった情報)1)Akamizu T, et al. Thyroid. 2012;22:661-679.2)Burch HB, et al. Endocrinol Metab Clin North Am. 1993;22:263-277.3)Isozaki O, et al. Clin Endocrinol(Oxf). 2016;84: 912-918.4)Satoh T, et al. Endocr J. 2016;63:1025-1064.5)日本甲状腺学会・日本内分泌学会. 甲状腺クリーゼガイドライン2017.南江堂,2017.公開履歴初回2022年5月26日

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第103回 大津市民病院の医師大量退職事件、「パワハラなし」、理事長引責辞任でひとまず幕引き

大量退職の責任を取って理事長は3月末で辞任こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。東京都心では、週末の雨のせいもあって、あっという間に桜が散ってしまいました。私は先週末、少々用事があって京都と東京・浅草を訪れました。どちらの街も、コロナ禍前のように観光客でごった返していました。ひとつ気になったのは、京都、浅草ともに、どう見ても似合っていない着物を纏った多くの若い女性が、慣れない草履を履いてよろよろと街を歩いていたことです。昔は見なかった光景です。どうやら、春休み、レンタル着物で観光するのが流行っているようです。それはそれで風情のあることですが、春とは言ってもまだ風が冷たい中、浴衣に毛が生えたような薄手の着物で歩く女性たちはとても寒そうで、風邪をひくのではないかと心配になってしまいました。さて、今回は、「第99回 背景に府立医大と京大のジッツ争い?滋賀・大津市民病院で医師の大量退職が発覚」で書いた、地方独立行政法人・市立大津市民病院(401床)の医師大量退職に関する続報です。京都大学からの派遣医師の大量退職の原因をつくったとされる北脇 城理事長は混乱の責任を取って3月末で辞任しました。北脇理事長の医師に対するパワハラの有無について調べていた第三者委員会も3月末に報告書をとりまとめ、公表しました。ただ、その報告書は北脇理事長がかなり強引な診療科再編を行おうとしたにもかかわらず、「パワハラはなかった」とするもので、事件の早期の幕引きを狙ったとしか見えない内容でした。外科・消化器外科・乳腺外科、脳神経外科、泌尿器科、計19人が退職意向経緯を簡単におさらいしておきます。大津市民病院では今年2月初旬に外科・消化器外科・乳腺外科の医師9人が3月末~6月末に退職する意向であることが発覚。その後、脳神経外科の全医師5人が4月以降に、さらには泌尿器科の5人も9月末までに退職することが明らかになりました。退職の意向を示したのはいずれも京大医学部から派遣されていた医師です。京都府立医科大学出身の北脇理事長(当時)が各診療科に対して行った再編提案などに納得できなかった京大側の関係医局が医師派遣取り止めを決断した、という構図です。19人もの医師の大量退職は全国メディアでも大きく報道され、大津市議会や滋賀県議会でも診療への影響が問題視されました。その後、代わりの医師確保も難航し、混乱は一向に収束しませんでした。年度末が近づいた3月24日、佐藤 健司・大津市長は記者会見において、北脇理事長が「大きな混乱を招いた責任は大きい」として31日付で辞任すると明らかにしました。同理事長は辞任、4月1日以降、理事長職は空席となっています。なお、退職意向を示した医師のうち4人が北脇理事長らからパワハラがあったと訴えており、事が表沙汰になった後、病院が弁護士2人で構成された第三者委員会を設置し、関係者へのヒアリングなどを進めてきました。その検証結果の報告書が理事長辞任報道の4日後の3月28日に公表された、というわけです。報告書の要旨については、大津市民病院のホームページにも掲載されました。「『パワーハラスメント』に該当するような言動は認められない」報告書は、外科医師からのハラスメントと脳外科医師からのハラスメントを分けて、別々に検証しています。外科医師からのハラスメント申告について報告書は、2021年9月に「理事長が副院長(外科系医師)に対し、外科の業績不振を理由に挙げて、京都府立医科大学から消化管チームを招聘することを決断したとして、副院長ほか複数名の医師が退職することを求めたことが認められる」としています。そしてこの際、「『業績不振』の原因が現外科チームにあることや、現外科チームでは今後改善の見込みがないことについて合理的根拠が示されず、また現外科チームに問題があると考えるのであれば、先に派遣元である京都大学から別のチームに交替してもらうよう打診するという選択肢があったにもかかわらず、先に京都府立医科大学から消化管チームを招聘する話を持ち出した」とし、このことが「外科チームや京都大学側の不信感を招いた。このような話の進め方が、後の混乱につながったものと考えられる」と、北脇理事長の話の進め方の不合理さを指摘しています。一方の脳神経外科医師からのハラスメント申告については、「理事長が脳神経外科の診療部長に対し、脳血管障害の科を新設して外部から医師を招聘することを提案し、それに併せて現脳神経外科チームの人員削減を求めたことが認められる」「理事長から、脳神経外科の『業績不振』について診療部長の責任を問う発言があった」としています。その上で、「新設する科への医師の招聘は、理事長らからまず現脳神経外科チームの派遣元である京都大学に対し人員派遣を要請したものの、断られたため京都府立医科大学からの招聘を念頭に話を進めており、話の進め方に特段問題となる点は見当たらない。ただ、外科の事案で醸成された不信感が、脳神経外科にも派生したと考えられる」としています。報告書は、全体として北脇前理事長の、各診療科の運営等に関する言動がさまざまな混乱をもたらしたこことを認めつつも、「退職を求めるにあたって人格を否定するような言動や、過度に威圧的な言動がなされたとは認められず、『パワーハラスメント』に該当するような言動は認められない」(外科)、「時に表現がきつくなった場面もあったが、人格を否定するような内容はなく、面談全体を通して診療部長の医師としての技量への敬意も表されていることからすると、『パワーハラスメント』とまでは認められない」(脳神経外科)とし、それぞれ、パワーハラスメントの存在がなかったと結論付けています。「内部検証手続きの進め方に不備も規定違反はなし」なお、ハラスメント申告の内部検証手続きの進め方についても、「申告者である副院長からヒアリングを行わなかったことは、音声記録の検証によって足りるとの判断に基づくものではあったが、内部統制推進室が作成して法人内に周知している手続フロー図に反しており、少なくとも当該フロー図と異なる手順で進めることについて副院長に丁寧に説明すべきであった」「申告者においてハラスメントの当事者と認識していた院長を、検証者の人として選んだことは、検証の公平性に疑問を抱かせる点で不適切であった。また、申告者に調査結果を伝える際、ハラスメントに該当しないという結論のみ伝え、理由の説明が一切なかったことも、申告者の納得性の点にもう少し配慮が必要であった」と、全体の手続きの問題点を指摘はしています。しかし、こちらも「内部検証手続において、法令および内部規程の違反は認められない」と結論付けています。なお、同報告書を受けて、大津市民病院は同日、「調査報告においては、第三者委員会から、公平かつ中立な視点に立って、『ハラスメントか否か』ということだけではなく、当院の再建およびより良い地域医療構築のための具体的な提言をいただいております。第三者委員会からのご提言につきましては、重く受けとめ、今後の法人運営に活かしてまいります」「4月1日から外科医師4名が着任することが決まっております。外科以外の診療科におきましても、患者の皆様をはじめ市民の皆様が安心していただける診療体制の確保に引き続き努めてまいります」とのコメントを発表しています。また、佐藤市長は、「市民や患者に不安を招いた法人の責任は極めて重いとの認識に変わりはない。法人と診療科の双方責任者との間で意思疎通を図り、互いが信頼できる関係づくりに注力することを求める」とコメントしています。府立医大のジッツを広げたいという強い意向が働いていた可能性混乱の張本人だった北脇元理事長が辞任し、第三者委員会も「パワハラなし」の調査結果を出したことで、世間的には早期に幕引きを図ったように見えます。できるだけ早く事態を収め、新体制での医師確保を急ぎたかった独立行政法人の出資者である大津市の意向も強く働いたに違いありません。仮にパワハラが存在せず、純粋に経営的な観点からの派遣医局変更だったとすれば、北脇元理事長が辞任する必要はないわけで、そこには「業績不振」を理由にしてまで自身の出身母体である府立医大のジッツを広げたい、という強い意向が働いていた可能性は否定できません。実際、北脇元理事長が就任した2021年春の時点で、府立医大の脳神経外科が大津市民病院をジッツにしようとしていたとの証言もあります。ただ、今回、北脇元理事長を“パワハラ有罪”としてしまっては、府立医大と大津市民病院との関係が悪化し、京大のみならず府立医大からの医師派遣にも支障を来しかねません。その意味で、「パワハラなし」の認定は大津市民病院の医療体制を安定化させるためには不可欠だったと言えるでしょう。新理事長にどこの大学出身者を選ぶか?とは言え、産経新聞等の報道によれば、報告書本体ではジッツ争いに対する苦言ともとれる指摘もなされています。「現外科チームでは今後改善の見込みがないことについて合理的根拠が示されず、先に京都府立医科大学から消化管チームを招聘する話を持ち出した」ことに対して、「理事長、院長が京都府立医大の『医局』の出身者であることと相まって、病院における京都府立医大の勢力を高めるため理不尽に退職を迫っているとの不信感を抱かせた」とし、「理事長の話の進め方は、病院、地域医療の発展のため努力・貢献してきた外科医師の心情に対する配慮が不十分で、京都大学側の不信感を醸成して今日の混乱につながった」と、強く非難しているのです。こうした問題点の指摘を踏まえ、大津市と地方独立行政法人・大津市民病院が次の新理事長にどこの大学出身者を選ぶかが注目されます。再度、府立医大出身者を理事長に招けば、同じような事態が起こる可能性もあります。そうした意味では、歴史的な背景から、京阪神では圧倒的なジッツの多さを誇るとされる府立医大の今後の動きも、気になるところです。

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添付文書改訂:アクテムラが新型コロナ中等症II以上に適応追加/ジャディアンスに慢性心不全追加/エフィエントに脳血管障害の再発抑制追加/アジルバに小児適応追加/レルミナに子宮内膜症の疼痛改善追加【下平博士のDIノート】第92回

アクテムラ点滴静注用:新型コロナ中等症II以上に適応追加<対象薬剤>トシリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:アクテムラ点滴静注用80mg/200mg/400mg、製造販売元:中外製薬)<承認年月>2022年1月<改訂項目>[追加]効能・効果SARS-CoV-2による肺炎酸素投与、人工呼吸器管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うこと。[追加]用法・用量通常、成人には、副腎皮質ステロイド薬との併用において、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを点滴静注します。症状が改善しない場合には、初回投与終了から8時間以上の間隔をあけて、同量を1回追加投与できます。<Shimo's eyes>本剤は、国産初の抗体医薬品として、2005年にキャッスルマン病、2008年に関節リウマチの適応を取得して、現在は世界110ヵ国以上で承認されているヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体です。今回、新型コロナによる肺炎の効能が追加されました。これまで中等症II以上の患者に適応を持つ、レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用)、バリシチニブ(同:オルミエント錠)、デキサメタゾン(同:デカドロン)の3製剤に本剤が加わり、新たな治療選択肢となります。新型コロナ患者の一部では、IL-6を含む複数のサイトカインの発現亢進を特徴とする炎症状態により呼吸不全を起こすことが知られており、同剤投与による炎症抑制が期待されています。参考中外製薬 薬剤師向けサイト アクテムラ点滴静注用80mg・200mg・400mgジャディアンス:慢性心不全(HFrEF)の適応追加<対象薬剤>エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠10mg、製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム)<承認年月>2021年11月<改訂項目>[追加]効能・効果慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。[追加]用法・用量通常、成人にはエンパグリフロジンとして10mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与します。<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬としては、すでにダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が慢性心不全の適応を2020年11月に追加しており、本剤は2剤目の薬剤となります。2022年1月現在、添付文書には「左室駆出率の保たれた慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者(HFrEF)に投与すること」と記載されていますが、HFpEF患者を対象とした第III相試験においても、2021年8月に良好な結果1)が報告されています。なお、本剤25mg錠には慢性心不全の適応はありません。参考エンパグリフロジンの慢性心不全への承認取得/日本ベーリンガーインゲルハイム・日本イーライリリー1)エンパグリフロジン、糖尿病の有無を問わずHFpEFに有効/NEJMエフィエント:脳血管障害後の再発抑制が追加<対象薬剤>プラスグレル塩酸塩(商品名:エフィエント錠2.5mg/3.75mg、製造販売元:アストラゼネカ)<承認年月>2021年12月<改訂項目>[追加]効能・効果虚血性脳血管障害(大血管アテローム硬化または小血管の閉塞に伴う)後の再発抑制(脳梗塞発症リスクが高い場合に限る)[追加]用法・用量通常、成人には、プラスグレルとして3.75mgを1日1回経口投与する。<Shimo's eyes>『脳卒中治療ガイドライン2021』では、非心原性脳梗塞の再発抑制に対しては抗血小板薬(クロピドグレル、アスピリンまたはシロスタゾール)の投与が勧められていますが、本剤の適応は、「大血管アテローム硬化または小血管の閉塞を伴う虚血性脳血管障害後の再発抑制」に限定されました。なお、適応追加の対象は2.5mg錠および3.75mg錠のみです。今回の改訂で、空腹時は食後投与と比較してCmaxが増加するため、空腹時の投与は避けることが望ましい旨の記載が追記されました。用法に「食後投与」は明記されていないので注意しましょう。既存薬のクロピドグレルは、主にCYP2C19によって代謝されるため、遺伝子多型による影響を受けやすいことが懸念されていますが、本剤は、ヒトカルボキシルエステラーゼ、CYP3AおよびCYP2B6などで代謝されて活性体となるプロドラッグであり、遺伝子多型の影響を受けにくいとされています。参考第一三共 医療関係者向けサイト エフィエント錠アジルバ:小児適応追加、新剤型として顆粒剤が登場<対象薬剤>アジルサルタン(商品名:アジルバ顆粒1%、同錠10mg/20mg/40mg、製造販売元:武田薬品工業)<承認年月>2021年9月<改訂項目>[追加]用法・用量<小児>通常、6歳以上の小児には、アジルサルタンとして体重50kg未満の場合は2.5mg、体重50kg以上の場合は5mgを1日1回経口投与から開始します。なお、年齢、体重、症状により適宜増減が可能ですが、1日最大投与量は体重50kg未満の場合は20mg、体重50kg以上の場合は40mgです。<Shimo's eyes>アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるアジルサルタンに、小児に対する用法および用量が追加されました。また、新剤型として顆粒剤も発売されました。顆粒剤は、成人にも小児にも適応がありますが、小児の開始用量である2.5~5mgを投与する際に便利です。参考武田薬品工業 医療関係者向けサイト アジルバレルミナ:子宮内膜症に基づく疼痛改善の適応が追加<対象薬剤>レルゴリクス(商品名:レルミナ錠40mg、製造販売元:あすか製薬)<承認年月>2021年12月<改訂項目>[追加]効能・効果子宮内膜症に基づく疼痛の改善<Shimo's eyes>本剤は、経口GnRHアンタゴニストであり、2019年1月に子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善で承認を取得しています。子宮筋腫に続き、子宮内膜症患者を対象とした第III相試験の結果が報告されたことから、今回新たな適応が承認されました。本剤は下垂体のGnRH受容体を阻害することにより、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を阻害します。その結果、エストロゲンおよびプロゲステロンが抑制され、子宮内膜症の主な症状である骨盤痛を改善します。参考あすか製薬 医療関係者向け情報サイト レルミナ錠40mg

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小声の患者さん、実は“ふるえ”が潜んでる!?【Dr.山中の攻める!問診3step】第11回

第11回 小声の患者さん、実は“ふるえ”が潜んでる!?―Key Point―安静時の振戦はパーキンソン病でみられる両上肢を前方に挙上するときに観察される姿勢時振戦は本態性振戦で起こる治療可能なふるえを見逃さない症例:75歳 男性主訴)右手がふるえる現病歴)3年前から両手のふるえを自覚するようになった。1年前から次第に手のふるえがひどくなっている。2週間前、役所で書類にサインを求められたが、手がふるえて字がうまく書けなかった。既往歴)高血圧症薬剤歴)アムロジピン生活歴)焼酎1合を週に2回、喫煙なし身体所見)体温:36.7℃ 血圧:128/62mmHg 脈拍:86回/分 呼吸回数:16回/分 SpO2:96%(室内気)安静時振戦なし。両上肢を前方に挙上させると両手に振戦を認める。自分の名前を書かせると、右手に振戦が出現し字が大きく乱れる。経過)パーキンソン症候群を疑う症状と身体所見なし。本体性振戦と診断しプロプラノロールを処方した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!病的振戦では本態性振戦が最も多く、次にパーキンソン病が多い書字やコップを使用して飲水する時に起こる運動時振戦は、日常生活に支障をきたすリチウム、バルプロ酸Na、テオフィリン、カフェイン、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などは薬剤性振戦を起こす1)【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】振戦を分類する2)(1)安静時振戦安静時にみられる。左右差が見られることが多い。動作により振戦は消失する。姿勢保持後、10秒くらいして振戦が再出現することがある(re-emergent tremor)。暗算負荷などの精神的緊張で増悪する。パーキンソン病、パーキンソン症候群が代表疾患(2)動作時振戦(a)姿勢時振戦両上肢を前方に挙上するときに観察される。重力に抗した姿勢で出現しやすい。代表疾患は本態性振戦、生理的振戦、甲状腺機能亢進症で、薬剤性やアルコール離脱などが原因で生じることもある。(b)運動時振戦書字やコップで水を飲む時に起こる。日常生活に支障をきたす。本態性振戦、小脳疾患、脳血管障害で起こる(c)企図振戦 目標に近づくほど振戦が増大する。小脳障害、多発性硬化症、ウィルソン病でみられる*本態性振戦とパーキンソン病の患者ビデオ(Stanford Medicine 25)【STEP3-1】本態性振戦とパーキンソン病の特徴的症状があるかを確かめる2)病的な振戦では本態性振戦(有病率:2.5~10%)とパーキンソン病(有病率:0.1%)が多い。画像を拡大するパーキンソン病の安静時振戦は逆N字型(またはN字型)に進行する。たとえば、右手→右足→左手→左足(下図参照)(図)パーキンソン病では無動、固縮(歯車現象、鉛管様固縮)を認める。非運動症状(レム睡眠行動異常、うつ症状、嗅覚低下、倦怠感、起立性低血圧)がある3)本態性振戦は小脳失調を合併することがある本態性振戦からパーキンソン病に進展するケースもある【STEP3-2】ほかの鑑別診断を考える徐々に発症するときは生理的振戦、本態性振戦を考える●生理的振戦緊張すると姿勢時振戦を起こす。低振幅、高振動数。カフェイン、β刺激薬で悪化●ジストニア特定の姿勢や動作で誘発される。書痙●心因性振戦突然発症する。気をそらせると消失●二次性振戦甲状腺機能亢進症、低血糖、尿毒症、薬剤(リチウム、バルプロ酸Na、テオフィリン、カフェイン、SSRI)、中毒(マンガン、鉛、水銀)●アルコールやベンゾジアゼピンの離脱症状としても振戦が起こる【治療】ストレスを軽減させる生活指導振戦のため書字が困難なら、できるだけ太いペンを使用する本態性振戦にはアロチノロール、プロプラノロール(商品名:インデラル)、プリミドンを処方するパーキンソン病には抗コリン薬が有効なことがあるが、幻覚や認知機能障害が出現する場合があるMRガイド下集束超音波治療(FUS)<参考文献>1)Elias WJ, et al. JAMA. 2014;311:948-954. 2)望月秀樹. 日本内科学会雑誌. 2017;107: 464-468.3)Kalia LV, et al. Lancet. 2015;386:896-912.

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認知症・老衰の患者さんに、病状経過を説明するなら…【非専門医のための緩和ケアTips】第21回

第21回 認知症・老衰の患者さんに、病状経過を説明するなら…身体機能の変化を時間軸で示す「病みの軌跡」というグラフ、これまでがん患者・臓器障害患者向けをご紹介してきました。今回の質問は、認知症や老衰の方の経過に関連したものです。どのようなポイントを意識して診療するとよいのでしょうか。ここでも「病みの軌跡」が使えます。今日の質問かかりつけの患者さん。認知症が進行し、外来通院が家族の負担となってきたため、今後は訪問診療で関わることになりました。介護負担も大きく、そのうち寝たきりになりそうです。終末期について、本人・ご家族とどう話し合えばよいのでしょうか?高齢化が進む中、認知症患者も増えています。厚生労働省の人口動態統計(2020年)によれば、老衰は主要死因の第3位です。脳血管障害と肺炎を追い抜いて3位になったのは2018年のことでした。こうした背景から、認知症・老衰の臨床像とケアについて、どんな立場の医療者も基本を理解しておきたいところです。認知症・老衰の身体機能の変化を時間軸で示した、「病みの軌跡」は下のようなパターンとなります。この軌跡から読み取れるのは、「身体機能がふらつきながら、緩徐に低下していく」ことです。私は、終末期までの経過予測が一番難しいのがこのパターンだと感じています。悪性疾患の場合には「5年生存率」など統計学的な指標があり、心不全などの臓器障害の場合には心機能などの客観的指標が参考になります。しかし、認知症が進行して老衰となった高齢者には予後予測に役立つ明確な指標がなく、かつ本人が自分の体調の変化を説明できないケースも多くなります。「食事量が減ったなあ」とか「寝ている時間が長くなってきましたね」といったように医療者と家族が様子を見ながら、そろそろお別れが近いかなと思った段階で話し合いを続けるしかありません。そして、それから何年も同じような状態が続くこともあれば、予想外に早いタイミングで亡くなることもあります。この臨床像の高齢者の多くは、身体機能や認知機能の低下とともに、通院が困難になっていきます。今回のご質問のように早めに訪問診療を提案したり、紹介したりすることも大切です。予測の難しい「病みの軌跡」に対し、医療者には何が求められるのでしょうか。一概には言えませんが、まずは「不確実で個別性の高い経過となる」ことを、家族を含めた関係者で共有することが大切です。そして、注意してほしいポイントも共有します。たとえば、「食事量が低下した場合、体力の低下につながるかもしれませんので、教えてください」といった具合です。高齢者の場合、医療者・家族だけでなく、介護職をはじめとしたさまざまな方が関わるケア提供体制をつくることが大切です。立場の異なる方との話し合いに、ぜひ「病みの軌跡」を活用してください。今回のTips今回のTips認知症・老衰の「病みの軌跡」は、経過予測が難しい。その難しさを関係者と共有しつつ、定期的な評価を繰り返すことが重要です。1)Murray SA, et al. BMJ. 2005;330:1007-1011.

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NNKよりPPK、理解不能の方はGGRKSでEOM【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第44回

第44回 NNKよりPPK、理解不能の方はGGRKSでEOM「人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢幻の如くなり」歴史ドラマなどで、織田信長が能を舞いながら謡う有名な一節を耳にしたことがあると思います。人の寿命は延び続け、50歳でも若造呼ばわりされる可能性があるのが日本です。今では人生100年に手が届こうとしています。一方で、健康寿命が平均寿命より男性は約9年、女性は約12年も短いことが分かっています。健康寿命は、日常生活に制限なく自立して過ごせる期間です。寿命が延びても、寝たきりではつまらない、元気で長生きしたいと望むことは当然です。診察室で出会う多くの高齢の方々は、亡くなる直前まで元気で過ごし、コロッと逝きたいと話します。これが「ピンピンコロリ:PPK」です。現実には、残念ながら寝たきりとなり終焉を迎える方もいます。これが「ネンネンコロリ:NNK」です。100歳近くの年齢で、ピンピンして健康な長寿の人はそんなに多くはありません。介護が必要となる主な原因としては、認知症・脳血管障害・高齢による衰弱・骨折・転倒などが挙げられます。その背景にあるのが、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病です。平素からの生活習慣の改善や、必要な治療をしっかり受けることは大切です。どんなに気を付けても加齢現象を回避できないことは事実です。PPKを具現化できることは非常に稀であり、宝くじに当選するようなことなのです。自分は、高齢者が自ら支援を忌避せざるを得ない雰囲気を日本の社会が醸成していることに問題があると考えます。認知症や障害を持っても、安心して生き、そして旅立つことができる社会の確立が必要なのでしょう。閑話休題お年寄りの聖地、おばあちゃんの原宿と呼ばれる巣鴨の地蔵通り商店街を歩く方々の、全員がPPKやNNKの意味を知っていると思います。それだけ人口に膾炙する略語です。略語は、長い語を簡潔に呼ぶためにつくるもので、「高等学校」を「高校」、「ストライキ」を「スト」などとする場合や、また、ローマ字の頭文字だけを並べたものもあります。「日本放送協会」を「NHK」などです。仲間内だけのことばとして、隠語として用いることもあります。医学・医療の世界で生きていく場面でも、略語はもはや必須です。とくにチャットやメールでは、長いスペルを短縮すべく、英語でも略語が盛んに利用されます。略語はカジュアルな場面だけでなく、英語のビジネスメールや、論文投稿や学会参加の文書にも頻繁に登場します。紹介してみましょう。TBA=to be announced=後日発表TBD=to be determined=未定TBS=to be scheduled=調整中FYI=for your information=参考までASAP=as soon as possible=できるだけ早くこれらは頻用される有名なものです。EOMはend of messageの略で、「メッセージの終わり」を意味します。メールの件名の最後に付けると、メールの本文はないことが伝わります。メールの件名に「本日の会議16時30分大会議室、EOM」とすれば件名だけで本文は空っぽで大丈夫です。自分は、少しヒョウキンな笑いを誘う略語を使ってしまいます。オヤジギャグ好きの悪い癖です。TGIFは、Thank God, It's Friday! の意味で、金曜日の夕方のメールの最後に相応しいです。花の金曜日を楽しみましょう! を意味します。土曜日にも仕事がある方には使用しないようにしましょう。GGRKSは、「ググれカス」の略で、少し調べればわかることを質問する人に対して、「それぐらいグーグルで検索しろ(ググれ)、カス」という意味で使われる下品な略語です。GGRKSは、数年前に「現代用語の基礎知識」に収録もされ流行しましたが、今では目にする機会は激減しています。では最後にクイズです。GN8, TNTわかりますか? GN8=good n eight=good night=おやすみなさい。TNT=till next time=また会いましょう。

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更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第88回

更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」今回は、天然型黄体ホルモン製剤「プロゲステロン(商品名:エフメノカプセル100mg、製造販売元:富士製薬工業)」を紹介します。本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状のホルモン補充療法(HRT)に使用される卵胞ホルモン剤による子宮内膜増殖症の発症を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制の適応で、2021年9月27日に承認され、同年11月29日に発売されました。<用法・用量>卵胞ホルモン剤との併用において、以下のいずれかを選択します。持続的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日からプロゲステロンとして100mgを1日1回就寝前に経口投与。周期的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日を1日目として、卵胞ホルモン剤の投与15~28日目までプロゲステロンとして200mgを1日1回就寝前に経口投与。これを1周期とし、以後この周期を繰り返す。<安全性>国内第III相試験において報告された主な副作用は、不正子宮出血117例(33.5%)、乳房不快感16例(4.6%)、頭痛11例(3.2%)、下腹部痛、浮動性めまい各10例(2.9%)、腹部膨満、便秘各8例(2.3%)、腟分泌物7例(2.0%)などでした。なお、重大な副作用として、血栓症(頻度不明)が報告されており、心筋梗塞、脳血管障害、動脈または静脈の血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症または肺塞栓症)、血栓性静脈炎、網膜血栓症が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、更年期障害などに伴う症状を軽減する目的で投与される卵胞ホルモン剤とともに服用することで、卵胞ホルモン剤による子宮内膜への影響を軽減します。2.ふくらはぎの痛み・腫れ、手足のしびれ、鋭い胸の痛み、突然の息切れなどの症状が現れた場合、血栓症を引き起こしている可能性があるので、直ちに医師・薬剤師に連絡してください。自己判断での中止や量の調節はしないでください。3.眠気や浮動性めまいを引き起こすことがあるので、自動車などの危険を伴う機械の操作には注意してください。4.突然服用を中止すると、不安や気分変化を引き起こす恐れがあります。<Shimo's eyes>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制を目的とした天然型黄体ホルモン製剤です。経口投与では吸収されにくい天然型黄体ホルモンをマイクロナイズド化(微粒子化)することで吸収率を上げています。ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲン欠乏に伴う更年期障害などの諸症状や疾患の予防・治療に有用です。しかし、エストロゲン製剤を単独投与すると、子宮内膜増殖作用により子宮内膜がんを発症する懸念が高まります。エストロゲン製剤に黄体ホルモン製剤を併用することで、子宮内膜がんの発症が抑制されるという報告を踏まえ、現在では子宮を有する患者にHRTを行う際には、黄体ホルモン製剤を併用することが一般的です。国際閉経学会などでは、天然型黄体ホルモンは乳がんリスクや血栓症リスクが低いことが示唆されています。しかし、わが国では子宮内膜増殖抑制に関する適応のある経口剤はなく、これまで適応外で合成黄体ホルモン製剤が使用されてきました。このような背景から、日本産科婦人科学会および日本更年期医学会(現:日本女性医学学会)から開発の要望書が提出され、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の評価に基づき、厚生労働省が製薬企業を募集し、開発されました。用法としては、エストロゲン製剤と本剤を初めから併用する「持続的投与法」と、最初の2週間はエストロゲン製剤単独で、あとの2週間は本剤も併用する「周期的投与法」のいずれかを選択します。本剤は食後投与では絶食下に比べてAUCとCmaxが上昇し、服用後1~3時間は一過性の傾眠・めまいを起こす可能性があるため、就寝前に服用します。副作用では、不正性器出血が高い頻度で報告されています。継続服用に伴い徐々に軽減してゆくので、服薬を中断しないように前もって説明する必要があります。重大な副作用としては、血栓症に注意が必要です。血栓症の初期症状について説明するほか、定期的に体を動かしてこまめに水分補給をするなどの生活上の工夫も伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 エフメノカプセル100mg

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アタマにやさしい冠動脈血行再建法は?(解説:今中和人氏)-1406

 心原性ショックなどの一部を除き、冠動脈血行再建法は長期成績に基づいて選択されるべき時代に入って久しい。医療者側は生命と心臓アウトカムを重視しがちな一方、当事者たちの最大の関心事の1つは認知機能低下である。患者さんの家族に「心臓を治してもらってからボケが進んじゃって…」という意味のことを言われて複雑な気持ちになった経験が、循環器系の医師なら誰しも一度や二度、いや、何度もあるのではないだろうか。 本論文は、2年ごとに米国の50歳以上の成人の健康状態を聞き取り調査する、Health and Retirement Study(HRS)という前向きプロジェクトに参加したメディケア加入者2万3,860例のうち、医療費支払い記録を基に65歳以上で冠血行再建を受けた患者1,680例(CABG 665例[うちオフポンプ168例]、PCI 1,015例。両方受けた患者は、初回の血行再建法で分類)を抽出し、治療前後にわたる記銘力の推移を検討している。諸因子を補正して両群とも約75歳、男性6割、白人85%強、糖尿病28%台、脳梗塞既往13%台で、治療前に平均2.3回、治療後に平均3.2回、合計5.5回の聞き取り調査を実施した。ただ実際は、CABG群もPCI群も14%強と、約7人に1人は血行再建後の評価が行われなかった(うち9割前後は死亡か辞退のため)。 記銘力評価には単語記憶テストを用い、72歳以上の一般HRS参加者の成績を基準にz値でスコア化した。この母集団の加齢に伴う記銘力低下は1SD相当の0.048memory unit/年以内(循環器領域では必ずしもなじみのない指標だが)とし、治療後については、その2倍を超える経年低下を高度、1~2倍の低下を軽度の記銘力障害の出現と定義し、定性的評価を追加した。また臨床的に認知症が疑われる状態を副次アウトカムとした。 記銘力低下のスコア評価は、PCI群は治療前0.064→治療後0.060memory unit/年の低下、CABG群は治療前0.049→治療後0.059memory unit/年の低下で、群間でも治療前後でも有意差がなかった。だがCABG群をオンポンプとオフポンプに分けてサブ解析すると、オンポンプの術前0.055→術後0.054memory unit/年に比し、オフポンプでは術前0.032→術後0.074memory unit/年とむしろ記銘力低下が顕著で、オフポンプ群の治療前後の変化はPCI群での変化と比べ、有意に近い悪化であった。 定性的評価では、高度記銘力障害の出現がCABG群6.4%、PCI群4.8%、軽度はCABG群20%、PCI群16%で、高度と軽度に分けると有意差がつかないが、合算するとCABG群に有意に多かった(p=0.03)。副次評価は治療後5年の時点でCABG群の10.5%、PCI群の9.6%が臨床的な認知症疑い状態と判断され、有意差はなかった。 要約すると、PCIでもCABGでも遠隔期の認知機能はほぼ同等だが、オフポンプCABG後は記銘力の低下が目立つ、というのが本論文の結論である。 かねてよりCABG術後に認知機能障害が多いとされてきたが、今回の研究でPCIと有意差がなかったことについて、両群とも記銘力スコアの低下が一般HRS参加者より顕著だったことも含め、著者らは血行再建を要するほどの冠動脈疾患を持つ、この母集団の特性による帰結であろうと論じており、首肯できる考察だと思われる。一方、オフポンプCABGの結果が悪かったことについては、文献的に(今回の調査対象ではなく)オフポンプCABGでは不完全血行再建症例が多いせいではないかと推論しているが、こちらは異論があるであろう。オフポンプCABGのメリットが想像以上に乏しいことが明らかになるなか、周術期脳血管障害だけは、ほぼすべての臨床研究でオフポンプのほうが少ないし、PCIとCABGを比較したほぼすべての臨床研究でも、PCIは早期脳血管障害が少ない。これらは遠隔期の認知機能に大きな影響があるはずで、本論文の結論と整合しない。 本論文のピットフォールの可能性として、本論文の記銘力評価には治療後も調査に参加している必要があるが、主に死亡と辞退のため7人に1人で治療後調査が行われていない。早期脳血管障害と、それに準じる状態の患者さんがこの脱落群に高率に含まれ、CABG群やオフポンプ群の評価が修飾された、つまり、まずまずの経過だった方だけが評価対象となり、気の毒な転帰をたどった方が除外された可能性があると思われる(このバイアスをうまく回避できる方法を提案できないが)。 「アタマにやさしい冠動脈血行再建法」は循環器診療の一大テーマである。本論文の結論に若干の違和感はありつつも、長期的な認知機能という観点から特定の血行再建法を勧めるほどの大差はない、とはいえそうである。

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