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甘味料エリスリトールに心血管リスク、想定される機序は?

 人工甘味料は砂糖の代用として広く使用されているが、人工甘味料の摂取が2型糖尿病や心血管疾患と関連するという報告もある。米国・クリーブランドクリニック・ラーナー研究所のMarco Witkowski氏らは、アンターゲットメタボロミクス研究において、糖アルコールに分類される甘味料エリスリトール(多くの果物や野菜に少量含まれる)が3年間の主要心血管イベント(MACE:死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発生と関連していることを発見し、その後の米国および欧州の2つのコホートを用いた研究でも、その関連は再現された。また、エリスリトールはin vitroにおいて血小板反応性を亢進し、in vivoにおいて血栓形成を促進することを明らかにした。健康成人にエリスリトールを摂取させたところ、血小板反応性の亢進および血栓形成の促進についての閾値を大きく超える血漿中エリスリトール濃度の上昇が引き起こされた。Nature Medicine誌オンライン版2023年2月27日号の報告。 米国において、心臓カテーテル検査を受けた患者1,157例を対象として、アンターゲットメタボロミクスにより3年間のMACE発生と関連のある物質を検討し、エリスリトールが同定された。その結果を受けて、米国において同様に2,149例(上記の1,157例とは重複しない)を対象に、血清中エリスリトール濃度で四分位に分類し、3年間のMACE発生との関係を検討した。また、欧州において慢性冠症候群の疑いで待機的冠動脈造影検査を受けた833例を対象に、血清中エリスリトール濃度で四分位に分類し、3年間のMACE発生との関係を検討した。さらに、米国の18歳以上の健康成人8人を対象に、エリスリトール30g(市販の人工甘味料入り飲料1缶、ケトアイス1パイントなどに相当)入りの飲料を摂取させ、血漿中のエリスリトール濃度を7日間測定した。 エリスリトールの血小板への作用を検討するため、健康成人の多血小板血漿(PRP)を用いて血小板凝集反応とエリスリトール濃度の関係を検討した。また、血小板を分離し、エリスリトールの血小板機能への影響も検討した。エリスリトールの血栓形成への影響は、ヒト全血における血小板の接着、頸動脈損傷モデルマウスにおける血栓形成率および血流停止までの時間により評価した。 主な結果は以下のとおり。・アンターゲットメタボロミクス研究において、血清中エリスリトール濃度第4四分位群は第1四分位群と比べて有意にMACE発生リスクが高く(調整ハザード比[aHR]:2.95、95%信頼区間[CI]:1.70~5.12、p<0.001)、MACE関連候補分子の中で非常に上位に位置していた。・米国および欧州のコホート研究においても、血清中エリスリトール濃度第4四分位群は第1四分位群と比べて有意にMACE発生リスクが高く、aHR(95%CI)はそれぞれ1.80(1.18~2.77)、2.21(1.20~4.07)であった(それぞれp=0.007、p=0.010)。・エリスリトール濃度とMACE発生リスクの関連は、米国および欧州のコホート研究において男女問わず観察され、年齢(70歳以上/未満)、高血圧の有無、eGFR(60mL/min/1.73m2以上/未満)などのサブグループ解析においても同様であった。・ADPまたはTRAP6存在下で、エリスリトールは用量依存的にPRPにおける血小板凝集反応を増加させ、トロンビン(0.02U/mL)曝露後の血小板の細胞内Ca2+濃度を増加させた。また、ADP(2μM)存在下の血小板において、エリスリトールは用量依存的にP-セレクチンの発現およびGP IIb/IIIaの活性化を増加させた(いずれもin vitro)。・ヒト全血においてエリスリトールは血小板の接着を増加させ(in vitro)、頸動脈損傷モデルマウスにおいて血栓形成率を上昇、血流停止までの時間を短縮させた(in vivo)。・健康成人にエリスリトールを摂取させた研究では、摂取後数時間は血漿中濃度がベースライン(中央値3.84μM)より千倍以上高い状態(30分後の中央値5.85mM)が続き、血小板反応性の亢進および血栓形成の促進についての閾値を大きく超えていた。すべての被験者において、ベースラインからの増加は2日以上継続した。 本論文の著者らは、「エリスリトールおよび人工甘味料の長期的な安全性を評価する試験が必要であることが示唆された。エリスリトールへの曝露後、血栓形成のリスクが高まる可能性のある期間が持続することが示され、これは心血管疾患の発症リスクの高い患者(糖尿病、肥満、CVDの既往、腎機能障害を有する患者)における懸念事項である」とまとめた。

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線溶薬を変えても結果は変わらないかな?(解説:後藤信哉氏)

 ストレプトキナーゼによる心筋梗塞症例の生命予後改善効果が示された後、フィブリン選択性のないストレプトキナーゼよりもフィブリン選択性のあるt-PAにすれば出血リスクが減ると想定された。分子生物学に基づく遺伝子改変が容易な時代になったので各種の線溶薬が開発された。しかし、循環器領域ではフィブリン選択性の改善により出血イベントリスク低減効果を臨床的に示すことはできなかった。本研究ではt-PAよりもさらに修飾されたtenecteplaseとの有効性、安全性の差異が検証された。tenecteplaseは野生型のt-PAよりも血液中の寿命が長いとされた。しかし、臨床試験にて差異を見出すことができなかった。 分子を開発しても効果を予測することは難しい。

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広範囲脳梗塞、血栓回収療法の併用で身体機能が改善/NEJM

 広範囲脳梗塞患者の治療において、血管内血栓回収療法と標準的な内科的治療の併用は内科的治療単独と比較して、身体機能が有意に改善する一方で、手技に関連した血管合併症の増加を伴うことが、米国・ケース・ウエスタン・リザーブ大学のAmrou Sarraj氏らが実施した「SELECT2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年2月10日号に掲載された。中間解析で有効中止 SELECT2試験は、米国、カナダ、欧州、オーストラリア、ニュージーランドの31施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2019年9月~2022年9月の期間に患者のスクリーニングが行われた(Stryker Neurovascularの助成を受けた)。 対象は、年齢18~85歳、内頸動脈または中大脳動脈M1セグメント、あるいはこれら双方の閉塞による急性期脳梗塞で、発症から24時間以内であり、虚血コア体積が大きい(Alberta Stroke Program Early CTスコア[ASPECTS、0~10点、点数が低いほど梗塞が広範囲]が3~5点)、あるいはCT灌流画像またはMRI拡散強調画像でコア体積が50mL以上、脳梗塞発症前の修正Rankin尺度スコア(0~6点、点数が高いほど機能障害が重度、6点は死亡)が0または1点(機能障害なし)の患者であった。 被験者は、血管内血栓回収療法+内科的治療を行う群、または内科的治療のみを受ける群に無作為に割り付けられた。主要アウトカムは、90日の時点での修正Rankin尺度スコアであった。 本試験は、中間解析の結果に基づくデータ・安全性監視委員会の勧告により、有効中止となった。機能的独立や独立歩行も良好、症候性頭蓋内出血は1例のみ 352例(年齢中央値66.5歳[四分位範囲[IQR]:58~75]、女性41.2%)が登録され、178例が血栓回収療法群、174例は内科的治療群に割り付けられた。全体のNIHSSスコア中央値は19点(IQR:15~23)、最終健常確認時刻から無作為化までの間隔の中央値は9.31時間(IQR:5.66~15.33)、ASPECTS中央値は4点(IQR:3~5)、平均推定虚血コア体積は80mLであった。 90日時の修正Rankin尺度スコア中央値は、血栓回収療法群が4点(IQR:3~6)、内科的治療群は5点(4~6)であった。修正Rankin尺度スコアの分布が、血栓回収療法群でより良好な方向へと転換する一般化オッズ比(OR)は1.51(95%信頼区間[CI]:1.20~1.89)であり、統計学的に有意だった(p<0.001)。 90日時に機能的独立(修正Rankin尺度スコア:0~2点)が達成された患者の割合は、血栓回収療法群が20.0%、内科的治療群は7.0%であった(相対リスク[RR]:2.97、95%CI:1.60~5.51)。また、独立歩行(修正Rankin尺度スコア:0~3点)は、それぞれ37.9%、18.7%で達成された(RR:2.06、95%CI:1.43~2.96)。血栓回収療法群の再灌流成功割合は79.8%だった。 90日時の全死因死亡率は、血栓回収療法群が38.4%、内科的治療群は41.5%であった(RR:0.91、95%CI:0.71~1.18)。24時間以内の症候性頭蓋内出血は、それぞれ1例(0.6%)、2例(1.1%)と、両群とも少なかった(RR:0.49、95%CI:0.04~5.36)。 血栓回収療法群では、約2割の患者で手技に関連した合併症が発生した。動脈アクセス部位の合併症が5例(閉塞3例[1.7%]、血腫1例[0.6%]、感染症1例[0.6%])で、血管の解離が10例(5.6%)、脳血管の穿孔が7例(3.9%)、一過性の血管攣縮が11例(6.2%)で認められた。 著者は、「これらの結果は、ベースラインの画像所見で虚血コアが大きい広範囲脳梗塞患者への血栓回収療法の適応拡大を支持するものと考えられる」としている。

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広範囲脳梗塞にも24h以内の血管内治療が有効/NEJM

 中国で行われた試験で、主幹動脈閉塞を伴う梗塞が大きい患者において、発症後24時間以内の血管内治療と薬物治療の併用は薬物治療のみと比較して、頭蓋内出血の発生は多かったものの3ヵ月後の機能予後は良好であった。中国・Beijing Tiantan HospitalのXiaochuan Huo氏らが、無作為化非盲検試験「ANGEL-ASPECT試験」の結果を報告した。日本で行われたRESCUE-Japan LIMITでは、ASPECTS(Alberta Stroke Program Early Computed Tomographic Score)が3~5の患者において血管内治療の有効性が示されていた。ANGEL-ASPECT試験も、従来の試験とは異なり大きな梗塞を有する急性期虚血性脳卒中患者における血管内治療の有効性の検証が目的であった。NEJM誌オンライン版2023年2月10日号掲載の報告。ASPECTSが3~5、またはASPECTS 0~2かつ梗塞領域容積70~100mLの患者を対象 研究グループは、中国の46施設において、18~80歳、発症から24時間以内、NIHSSが6~30(範囲:0~42、スコアが高いほど神経学的症状の重症度が重い)、後ろ向きに評価した発症前のmRSスコアが0~1で、中大脳動脈(M1部、M2部)または内頸動脈(ICA)の主幹動脈閉塞が確認された患者を、最終健常確認から24時間以内に血管内治療(ステントリトリーバーまたは吸引システムによる血栓除去術、必要に応じてバルーン形成術、ステント留置、動脈内血栓溶解療法)+薬物治療群と薬物治療単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 画像所見の適格基準は、発症後24時間以内の非造影CTに基づくASPECTSが3~5(範囲:0~10、スコアが低いほど梗塞が大きい)、またはASPECTSが0~2かつ梗塞領域容積が70~100mL、とした。 主要アウトカムは90日後のmRSスコアで、90日後のmRSスコアの分布のずれについて仮定のない順序数解析によりウィルコクソン-マン・ホイットニー一般化オッズ比(OR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。副次アウトカムは90日後のmRSスコア0~2の割合、mRSスコア0~3の割合など、安全性の主要評価項目は無作為化後48時間以内の症候性頭蓋内出血(Heidelberg出血分類に基づく)などであった。90日後のmRSスコアの分布は血管内治療群が良好 2020年10月2日~2022年5月18日の間に計456例が登録され、231例が血管内治療群に(うち1例は無作為化直後に同意を撤回したため、解析から除外)、225例が薬物治療単独群に割り付けられた。患者背景は年齢中央値68歳、女性が176例(38.7%)であった。両群とも約28%の患者に静脈内血栓溶解療法が行われた。 事前に計画された第2回中間解析(2022年5月17日)において、血管内治療の有効性が認められたため、試験は早期中止となった。最終追跡調査日は2022年8月13日である。 90日後のmRSスコアの分布は、薬物治療単独群より血管内治療群が有意に良好であることを示していた(一般化OR:1.37、95%CI:1.11~1.69、p=0.004)。90日後のmRSスコア0~2の割合は血管内治療群30.0%、薬物治療単独群11.6%(相対リスク[RR]:2.62、95%CI:1.69~4.06)、mRSスコア0~3の割合はそれぞれ47.0%、33.3%(RR:1.50、95%CI:1.17~1.91)であった。 48時間以内の症候性頭蓋内出血は、血管内治療群で230例中14例(6.1%)、薬物治療単独群で225例中6例(2.7%)に認められた(RR:2.07、95%CI:0.79~5.41、p=0.12)。48時間以内のすべての頭蓋内出血はそれぞれ113例(49.1%)、39例(17.3%)に発生した。

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脳卒中治療は心筋梗塞治療の後追いをしているね(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞症例の院内死亡がアスピリン、ストレプトキナーゼにて減少できることは、ISIS-2試験により示された。原因が血栓なので、フィブリン選択的線溶薬を使い、各種抗凝固薬、抗血小板薬を併用したが、有効性イベントの減少を明確に示すことはできなかった。アルガトロバンは日本が開発した世界に誇る選択的トロンビン阻害薬である。経静脈投与できるので急性期の症例に使いやすい。線溶薬に抗トロンビン薬を追加すれば、急性脳梗塞を起こした血栓は再発しにくいと想定されるが、臨床試験ではアルガトロバン追加の効果を明確に示すことができなかった。 本研究は中国一国にて施行されたランダム化比較試験である。巨大な人口を要する中国から、今後も世界の医療にインパクトを与える臨床試験の結果が報告される可能性は高いと思う。

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急性脳梗塞の血栓溶解、tenecteplase vs.アルテプラーゼ/Lancet

 標準的な経静脈的血栓溶解療法の適応であるが血管内血栓除去術の対象外あるいは拒否した急性虚血性脳卒中患者において、tenecteplaseはアルテプラーゼに対して非劣性であることが、中国・首都医科大学のYongjun Wang氏らによる第III相無作為化非盲検非劣性試験「Tenecteplase Reperfusion therapy in Acute ischaemic Cerebrovascular Events-2 trial:TRACE-2試験」の結果、示された。アルテプラーゼに代わる急性虚血性脳卒中に対する望ましい血栓溶解療法として、tenecteplaseへの関心が高まっていた。Lancet誌オンライン版2023年2月9日号掲載の報告。血管内血栓除去術は適さない急性虚血性脳卒中患者1,430例を無作為化 研究グループは、2021年6月12日~2022年5月29日の期間に中国53施設において、標準的な経静脈的血栓溶解療法の適応ではあるが血管内血栓除去術は適さない急性虚血性脳卒中(発症後4.5時間以内、mRSスコア1以下、NIHSSスコア5~25)の成人(18歳以上)患者1,430例を登録し、tenecteplase(0.25mg/kg、最大25mg)静脈投与群(716例)またはアルテプラーゼ(0.9mg/kg、最大90mg)静脈投与群(714例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。患者および治療担当医師は割り付けについて盲検化されなかったが、アウトカム評価医師は盲検化された。 有効性の主要アウトカムは、修正intention-to-treat(ITT)集団(無作為化され割り付けられた治験薬の投与を受けた全患者)における90日後のmRSスコアが0~1の患者の割合で、リスク比(RR)の非劣性マージンを0.937とした。安全性の主要アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血で、治験薬の投与を受け安全性評価が可能であった全患者を解析対象集団とした。tenecteplaseはアルテプラーゼに対して非劣性 無作為化された患者のうちtenecteplase群の6例およびアルテプラーゼ群の7例は治験薬が投与されず、tenecteplase群の5例とアルテプラーゼ群の11例は90日時点の追跡調査が行われなかった。 修正ITT集団において、主要アウトカムである90日後のmRSスコアが0~1の患者の割合は、tenecteplase群62%(439/705例)、アルテプラーゼ群58%(405/696例)であった。RRは1.07(95%信頼区間[CI]:0.98~1.16)であり、RRの95%CI下限値は非劣性マージンを上回っていた。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、tenecteplase群で711例中15例(2%)、アルテプラーゼ群で706例中13例(2%)に発現した(RR:1.08、95%CI:0.56~2.50)。90日死亡は、tenecteplase群46例(7%)、アルテプラーゼ群35例(5%)が確認された(RR:1.31、95%CI:0.86~2.01)。

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急性脳梗塞、rt-PAへのアルガトロバン併用は有用?/JAMA

 急性虚血性脳卒中の患者へのアルガトロバン+アルテプラーゼ併用投与は、アルテプラーゼ単独投与と比べて、90日後の優れた(excellent)機能的アウトカム達成に関して有意差をもたらす可能性はないことが示された。中国・General Hospital of Northern Theatre CommandのHui-Sheng Chen氏らが、808例を対象に行った多施設共同非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験の結果を、JAMA誌オンライン版2023年2月9日号で発表した。先行研究では併用療法のベネフィットが示唆されたが、サンプルサイズが大きな試験では確たるエビデンスは得られていなかった。90日後の修正Rankinスケールスコア0~1の達成率を比較 研究グループは2019年1月18日~2021年10月30日に、中国の50病院を通じて、急性虚血性脳卒中の患者を対象に試験を行った。最終フォローアップは2022年1月24日。 試験適格被験者を発症から4.5時間以内に、アルガトロバンとアルテプラーゼを併用投与する群(併用群402例)またはアルテプラーゼのみを投与する群(単独群415例)に無作為に2群に割り付けた。併用群には、アルガトロバンを投与(100μg/kgを3~5分でボーラス投与の後、毎分1.0μg/kgで48時間静注)し、その後1時間以内にアルテプラーゼを投与(0.9mg/kgで最大投与量は90mg、10%を1分でボーラス投与、残りを1時間静注)。単独群にはアルテプラーゼのみを同用量、同様の方法で静脈内投与した。 両群ともに、ガイドラインに沿った治療を併せて行った。 主要エンドポイントは優れた機能的アウトカムで、90日後の修正Rankinスケールスコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])が0~1と定義した。修正RSS 0~1のアウトカム達成、両群ともに64~65% 被験者817例は、年齢中央値65歳(四分位範囲[IQR]:57~71)、女性238例(29.1%)、NIH脳卒中スケール中央値9(IQR:7~12)。760例(93.0%)が試験を完了した。 90日時点で優れた機能的アウトカムを達成したのは、併用群329例中210例(63.8%)、単独群367例中238例(64.9%)だった(群間リスク差:-1.0%、95%信頼区間[CI]:-8.1~6.1、リスク比:0.98、95%CI:0.88~1.10、p=0.78)。 症候性頭蓋内出血を呈した患者は併用群2.1%(8/383例)、単独群1.8%(7/397例)、2型脳内血腫はそれぞれ2.3%(9/383例)、2.5%(10/397例)、全身性の大出血はそれぞれ0.3%(1/383例)、0.5%(2/397例)だった。

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経皮的脳血栓回収術後の血圧管理について1つの指標が示された(解説:高梨成彦氏)

 経皮的脳血栓回収術はデバイスの改良に伴って8割程度の再開通率が見込まれるようになり、再開通後に出血性合併症に留意して管理する機会が増えた。急性期には出血を惹起する薬剤を併用する機会が多く、これには血栓回収術に先立って行われるアルテプラーゼ静注療法、手術中のヘパリン静注、術後の抗凝固薬・抗血小板薬の内服などがある。 出血性合併症を避けるためには降圧を行うべきであるが、どの程度の血圧が適切であるかについてはわかっていない。そのため脳卒中ガイドライン2021では、脳血栓回収術後には速やかな降圧を推奨しており、また過度な降圧を避けるように勧められているが具体的な数値は挙げられていない。 本研究は血栓回収術後の血圧管理について1つの指標となる重要な結果を示したものである。再開通を果たした患者において収縮期血圧120mmHg未満を目標とした群は、140~180mmHgを目標とした群と比較して、機能予後が悪化していた。 血栓回収術施行中、再開通前の低血圧が予後の悪化と関連していたという報告があるが(Petersen NH et al. Stroke. 2019;50:1797-1804.)、本研究は両群ともにTICI2b以上の患者を対象としているうえに8割以上が完全再開通TICI3の患者である。血管撮影上は灌流障害が解消されたと判断するところであるが、強い降圧によって機能予後が悪化するということは、急性期には画像上は指摘しえない微小な循環障害が残存している可能性が示唆されて、興味深い結果である。 ただし両群共に心原性脳塞栓症の患者は3割弱で、降圧強化群の44%と対照群の53%が動脈硬化性閉塞であったと報告されており、本邦で行われている血栓回収術の対象患者に比べると心原性脳塞栓症患者が少ない。閉塞機序は低灌流への耐性に影響する可能性があるので、結果を参考にするときには注意が必要だろう。

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true worldにおけるAMI治療の実態を考える(解説:野間重孝氏)

 1月27日に掲載したコメントにつきまして、論文の内容について私が誤解していた部分がありましたため、コメントの一部を書き換えました。皆さまにご迷惑をお掛けしましたことを深くおわび申し上げます。 急性心筋梗塞(AMI)の治療成績・予後の決定因子としては、発生から冠動脈再開通までの時間(total ischemic time:TIT)のほか、年齢、基礎疾患や合併症、血管閉塞部位と虚血領域の大きさ、血行動態破綻の有無などが挙げられる。この中でもっぱら時間経過が改善項目として議論されるのは、他の因子は医療行為によっては動かすことができず、時間経過のみが可変因子であるからである。 治療行為の迅速性を表す指標としてもっぱら使用されてきたのがdoor to balloon(D2B)timeであった。ここで注意すべきなのは、D2Bは本来治療に当たった病院のシステム、ガバナンスの整備、術者の技量を評価するための指標であって、TITとは無関係とまではいわないまでも別途議論されるべき数値である点である。肝心のTITが指標として用いられる機会が少ない理由はAMIの場合onset timeがどうしても正確に同定できないからである。これは有症状性の脳梗塞と比較するとわかりやすい。脳梗塞の場合、虚血発生と同時に特徴的な症状が発現し、しかもその自覚に個人差が少ない。AMIの場合は初発症状が突然の激しい胸痛であるのはむしろ例外であり、漠然とした胸部不快感や胸部違和感である例がほとんどで、その発生時期が正確に同定できず、かつ自覚にも個人差が大きい。その歴史は比較的新しく、90年代に提唱され、本格的に問題にされるようになったのは2000年以降である。  それでもD2Bが治療に関する有力な指標として議論されてきたのは、90年代終わりから2000年代初めにかけて、米国を中心とする各急性期治療施設がD2B短縮に努力を傾けた結果、著しい治療成績の改善が見られたからである。しかしこれに対して、D2Bが施設評価の基準であって、その短縮によって見込まれる治療成績の改善には限界があることを明確に示したのが、Daniel S. Menees氏らによってNEJM誌に2013年に発表された論文だった。この論文はこの「ジャーナル四天王」でも取り上げられ(PCIを病院到着から90分以内に施行することで院内死亡率は改善したか?/NEJM)、奇縁にも評者が論文評を担当した(健全な批判精神を評価(コメンテーター:野間 重孝 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(138)より-)。同氏らは除外基準を厳しく設定し、biasとなる因子を持たない症例のみを対象として検討を行った結果、確かにD2B短縮に伴い治療成績は向上するがある程度のところで頭打ちになること、さらに高齢者、前壁中隔梗塞、心原性ショックなどの複雑重症例ではD2Bと治療成績に相関が見られないことを示し、さらなる治療成績の向上には別途の改善努力(たとえば患者搬送の体制など)が必要であるとした。この論文はD2Bがどのような指標であるかをあらためて明示した論文だったといえる。 本研究はこのような経緯を踏まえ、症状発現からPCI開始までの時間、救急隊員による評価からカテ室起動までの時間、最初の医療連絡から検査室起動までの時間、最初の医療連絡からデバイス準備までの時間、病院到着からPCI開始までの時間などさまざまな指標を取り混ぜて現場の実態を把握することを試みたものである。患者到着の仕方も救急搬送もあれば自家用車や徒歩での来院、他施設からの搬送などさまざまである。実際ST上昇型のAMI(STEMI)といえども診断に手間取る例もないとはいえないし、PCIの準備にしても急性期治療を標榜する施設であったとしても24時間完全スタンバイという組織ばかりではないのが実態だろう。さらに急性期施設はAMIのみを扱っているわけではなく、他疾患の影響も考えられなければならない(たとえばこの論文の検討の後半ではコロナ禍)。 この結果はサマリー(STEMIの治療開始までの時間と院内死亡率、直近4年で増加/JAMA)でもお読みのとおりである。確かに症状発現からPCI開始まで時間の短い症例では治療成績が良好であるが、肝心の全体としての種々の指標が思うように短縮しないどころか諸事情によりむしろわずかではあるものの延長してしまっていたのである。来院形態にかかわらずほとんどの四半期でシステム目標が達成されておらず、とくに病院間搬送症例では目安とされた120分以内のPCI開始例がわずか17%にすぎなかった。著者らはlimitationsの1番にレジストリのデータが自己申告制であることを挙げているが、上記で有症状型の脳梗塞と比較した例でもわかるようにAMIのonset timeの同定は難しい。しかしtrue worldに実態に迫ろうと考えた場合、ある程度のデータのズレは致し方がないものなのだろう。また、これはそれぞれの指標の目標値が妥当であるかどうかという問題にも通じる。こういった数多くの指標を用いた疫学調査の設計と解釈の難しい点である。 今回の結果をどのように解釈すべきなのだろうか。評者としては正直米国のAMI治療システムもさまざまな問題を抱えていることに驚いたのであるが、しかし振り返って考えるとき、この問題は米国に限った問題ではないことに気付かされる。形を変えてではあるが、わが国にも当てはまる問題であるのだと思う。90年代から2000年代にかけてAMIの治療成績には著しい進歩が見られた。しかし現在AMIの治療成績の向上はplateauに達しており、この状態を脱するためにはかなり根本的な改革が必要であると誰もが感じているのではないだろうか。これは実はMenees氏らが早期に指摘した内容とも合致する。同氏らはAMIの治療成績向上のためにはD2Bのようなわかりやすい院内指標の改善だけでは不十分だと指摘した。まさにそのとおりのことが本論文で指摘し直されたともいえるのである。本研究結果をややまとまりを欠いたものと受け止めた方も多いと思うが、現実はそう単純なものではないことを示して余りあるものだったと評価すべきではないかと考えるものである。

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1月20日 血栓予防の日【今日は何の日?】

【1月20日 血栓予防の日】〔由来〕「大寒」に前後する、この時季は血栓ができやすいという背景と「20」を「ツマル」と語呂合わせして日本ナットウキナーゼ協会が制定。「ナットウキナーゼ」が血栓を溶解し、脳梗塞や心筋梗塞を予防する効果があることを啓発している。関連コンテンツ「脳卒中診療の最新知見」【診療よろず相談TV】冬の救急編:心筋梗塞はいつ疑う!?【救急診療の基礎知識】その血栓症、CATの可能性は?【知って得する!?医療略語】リバーロキサバン延長で、静脈血栓塞栓症の再発リスク低減/BMJコロナvs.インフル、入院患者の血栓塞栓症リスク/JAMA

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脳卒中後の職場復帰状況は?/BMJ

 手厚い福利厚生と支援システムを有するデンマークでは、主に軽症の脳梗塞成人患者の約3分の2が、診断から2年後には労働市場に参加している一方で、脳出血患者は脳梗塞やくも膜下出血の患者に比べ職場復帰の確率が低いことが、デンマーク・オーフス大学病院のNils Skajaa氏らの調査で示された。職場復帰をしていない理由で最も多かったのは、病気休暇の取得と障害年金の受給であったという。研究の成果は、BMJ誌2023年1月3日号で報告された。デンマークの全国的なマッチドコホート研究 研究グループは、脳卒中のサブタイプ別に、労働市場への参加と退職の状況を検討する目的で、全国的な人口ベースのマッチドコホート研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 解析には、デンマークの全病院が参加する脳卒中レジストリ(Danish Stroke Registry)と、その他の全国的なレジストリのデータ(2005~18年)が使用された。 対象は、年齢18~60歳の労働市場で活動している初発脳卒中患者2万2,907例(脳梗塞1万6,577例[72.4%]、脳出血2,025例[8.8%]、くも膜下出血4,305例[18.8%])と、年齢、性別、暦年でマッチさせた一般住民13万4,428人であった。 主要アウトカムとして、労働市場への参加、病気休暇給付金の受給、障害年金の受給、任意早期退職、公的年金、死亡に関して、重み付けなしの発生率を、週ごとに、脳卒中の診断から最長5年間算出した。どのサブタイプも半数以上が病気休暇を取得 脳卒中群(2万2,907例)と一般住民群(9万8,007人)は、いずれも年齢中央値が51歳、男性が62%で、脳卒中群のScandinavian Stroke Scale(45~58:軽症、30~44:中等症、0~29:重症/きわめて重症)スコア中央値は55だった。 診断から3週間以内に脳卒中群の多くが病気休暇に入っており、サブタイプ別では脳梗塞患者が62%、脳出血患者が69%、くも膜下出血患者は52%であった。病気休暇の発生率は、診断から6ヵ月の時点では脳梗塞患者が39.8%、マッチさせた一般住民は2.6%、2年時はそれぞれ15.8%および3.8%であった。 労働市場参加の発生率は、6ヵ月時が脳梗塞患者で56.6%、一般住民で96.6%、2年時はそれぞれ63.9%および91.6%であった。また、障害年金受給の発生率は、6ヵ月時が脳梗塞患者で0.9%、一般住民で0.1%、2年時はそれぞれ12.2%および0.6%だった。 傾向スコアによる重み付けで、脳卒中群と、マッチさせた一般住民群の社会経済的な差と併存疾患の差を補正しても、両群の対比にはほとんど影響はなかった。 一方、脳出血患者は、他のサブタイプに比べ病気休暇取得率(6ヵ月時:53.9%、2年時:18.0%)や障害年金受給率(1.5%、23.2%)が高く、労働市場への参加(33.8%、42.5%)が少なかった。くも膜下出血患者は、病気休暇取得(6ヵ月時:34.3%、2年時:13.4%)、障害年金受給(0.7%、9.6%)、労働市場への参加(51.9%、61.2%)が、脳梗塞患者と同程度であった。

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第Xa因子阻害剤による出血時の迅速な薬剤特定システムを構築/AZ

 アストラゼネカとSmart119は、12月14日付のプレスリリースで、医療機関と救急隊における第Xa因子阻害剤服用中の出血患者を対象とした情報共有システムを構築し、病院到着時に患者の服用薬剤を特定することで、迅速かつ適切な処置を目指すと発表した。 直接作用型第Xa因子阻害剤を含む抗凝固薬は、非弁膜症性心房細動患者の脳梗塞予防や静脈血栓塞栓症の治療・再発予防を目的として広く使用されている。その一方で、服用中は通常より出血が起こりやすい状態となるため、事故や転倒などのきっかけで、大出血につながるリスクが高くなる。抗凝固薬服用中の患者において大出血が発現した際、抗凝固薬の中和剤を止血処置の一環として投与することで、出血の増大を抑えられる可能性がある。中和剤を適切に使用するためには、患者の服薬情報の把握が必要となるが、現状、救急隊の病院到着時に約30%の患者で、服用薬剤が特定できないと報告されている。  この現状を改善する1つの策として、アストラゼネカとSmart119の2社は、あらかじめ患者の服薬情報をデータベースに集約し、出血発現時に救急隊がSmart119を通じ、これらの情報を把握、搬送先の医療機関と迅速に情報共有できるシステムを構築するという。このシステムの構築は、i2.JP(アイツー・ドット・ジェイピー:Innovation Infusion Japan)―「患者中心」の実現に向けて、医療・ヘルスケア業界はどうあるべきか、といった難題の解決策を探るべく発足―というオープンなコミュニティにおいて、Smart119が運用する救急医療情報システム「Smart119」を活用するというアイデアから生まれた。 アストラゼネカは、「患者中心」の実現を目指す中で、抗凝固薬服用患者に対して、有事の際に一刻も早く適切な処置を届けることができるようSmart119と協力しながら取り組んでいく、としている。

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スタチンが致死的な脳内出血リスクを低減する可能性

 コレステロール低下薬のスタチンは、心臓を守るだけでなく、出血性脳卒中の一種である脳内出血のリスクを低減する可能性のあることが、新たな研究で示された。南デンマーク大学(デンマーク)のDavid Gaist氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に12月7日掲載された。 脳内出血は、動脈または静脈が破れることで生じる。米国脳神経外科学会(AANS)によると、脳内出血は脳卒中の15~30%を占めており、死亡率も極めて高い。また、出血そのものが脳を損傷するだけでなく、出血による頭蓋内の圧力の上昇が脳にさらなる悪影響を及ぼすこともある。Gaist氏は、「スタチンは脳梗塞のリスクを低減することが明らかにされているが、初回の脳内出血リスクに与える影響については、見解が一致していなかった」と述べている。 今回の研究では、デンマークの医療記録を使用し、2009年から2018年の間に初めて脳葉領域に出血を来した55歳以上の患者989人(平均年齢76.3歳、女性52.2%)を特定した。脳葉領域には前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉などの大脳の大部分が含まれる。これらの患者を、脳内出血の既往がなく、年齢、性別、その他の因子が類似する3万9,500人と比較した。さらに、脳葉領域以外の領域(大脳基底核、視床、小脳、脳幹など)に出血を起こした患者1,175人(平均年齢75.1歳、女性46.5%)についても、脳内出血の既往がなく、年齢、性別、その他の因子が類似する4万6,755人と比較した。スタチンの使用状況は処方データを用いて判断した。 その結果、高血圧、糖尿病および飲酒などの因子を考慮しても、スタチンを使用していた患者では、脳葉領域の脳内出血リスクが17%、脳葉領域以外の領域の脳内出血リスクが16%低いことが明らかになった。いずれの脳領域でも脳内出血リスクの低さはスタチン使用歴の長さと関連を示し、5年以上使用している患者においては、脳葉領域でのリスクは33%、脳葉領域以外の領域でのリスクは38%低かった。 Gaist氏は、「われわれは、脳葉領域とそれ以外の領域に着目し、スタチン使用と初回の脳内出血リスクに部位が関わっているのかを検討した。その結果、スタチンを使用していた患者では、いずれの脳領域でも脳内出血のリスクが低いことが分かった。スタチンを長期間使用している場合のリスクは、さらに低かった」と説明する。 その上でGaist氏は、「スタチンが脳梗塞だけでなく脳内出血のリスクも低減させ得るというこの結果は、同薬剤を使用する人にとって心強いニュースだ」と述べる。その一方で同氏は、「ただしこの研究は、主にヨーロッパ系の人から成るデンマークの人のみを対象にしたものだった。ヨーロッパ系以外の集団を対象に、研究を重ねる必要がある」と話している。

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脂質管理目標値設定(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q45

脂質管理目標値設定(2)Q45脂質異常症の管理目標値を設定するうえで、リスクの層別化をすることは従来どおりである。冠動脈疾患、脳梗塞、糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患など血管系の既往がない患者は、スコアリングをしてリスクの層別化を図る。「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」2022年版から新しく採用された、そのスコアの名前は?

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高齢者におけるアスピリンによる消化性潰瘍出血の1次予防に対するピロリ除菌の影響(解説:上村直実氏)

 心筋梗塞や脳梗塞の予防に用いられている抗血栓薬の中でも、使用頻度が最も高い低用量アスピリン(LDA)の最大の課題は有害事象である消化性潰瘍出血であり、LDAにより出血性潰瘍が増加することがよく知られている。予防に関しては、出血性潰瘍の既往歴を有する患者の再発性潰瘍出血がヘリコバクターピロリ(ピロリ)除菌により抑制されることもメタアナリシスで確かめられているが、出血の1次予防に対する除菌の影響に関しては一定の見解が得られていない。 今回、1次予防に対するピロリ除菌の効果に関する新たな知見が、2022年11月のLancet誌に発表された。一般医家でフォローされている60歳以上のLDA常用者のうち、尿素呼気試験で判定されたピロリ陽性者5,367例を対象として除菌群と非除菌群に分けた大規模な無作為化比較試験(RCT)の結果、除菌後の追跡期間が2.5年未満では潰瘍出血による入院を有意に抑制したが、その後、機序は不明であるが、その予防効果は次第に失せていったというものである。 今回の研究はプライマリケア医が中心となって施行した大規模なRCTであるが、除外基準や併用薬剤の禁止など、厳密に規定された研究デザインで行われる臨床薬理試験と異なり、主治医の判断によりLDAの休薬や非ステロイド消炎剤(NSAID)やPPIの使用も許されるといった、実際の日常診療に即したものである。試験のデザインが緩やかなものであっても、精度の低さを補う実臨床に役立つ臨床研究論文がトップジャーナルに掲載されうることを示すものといえる。 今回の研究結果と従来の厳密な研究デザインにより得られた薬理学的エビデンスを総合的に判断すると、高齢のアスピリン常用者に関しては、通常の場合、黒色便に注意することを患者に指導するとともに定期的に貧血の検査を行いつつ診療し、消化性潰瘍出血が致命的となりうる患者や潰瘍リスクの高い潰瘍既往歴を有する者やNSAID併用者に対しては、除菌治療に加えてPPIなどの酸分泌抑制薬を加えた管理が必要と考えられた。 最後に、高齢者におけるポリファーマシーに関して一般的な注意点として、NSAIDが消化性潰瘍自体を惹起し治癒を遷延化する作用を有するのに対して、LDAは潰瘍出血を促進・遷延することなど、使用薬剤の薬理作用に精通した診療が重要である。

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女性の心房細動患者はアブレーション治療関連の有害事象が多い

 心房細動の治療法の一つに、血管カテーテルを用いたアブレーションと呼ばれる方法があるが、この処置に伴う有害事象の発生率に性差があることが報告された。女性患者で発生率が高いという。米イェール大学のJames Freeman氏らの研究によるもので、詳細は「Heart」に9月14日掲載された。 心房細動は不整脈の一種で、米国人の15~20%が発症すると考えられている。動悸や息切れなどの症状が現れることがあり、また、それらの症状が現れない場合にも脳梗塞のリスクが上昇する。薬物療法としては、脳梗塞予防のための抗凝固薬と、不整脈に対して抗不整脈薬が使用される。 一方、カテーテルアブレーション治療は、不整脈を起こしている電気信号の発生箇所を、高周波エネルギーで焼灼したり凍結させたりする治療法。過去10年の間にこのアブレーション治療の安全性は向上してきている。例えば、より正確な場所をアブレーションするために電気信号の把握に加えて超音波で確認したり、穿孔を防ぐためにカテーテルに加わった力を術者が感じ取れるような機器が開発されたり、周術期の抗凝固薬の投与量をより適切に調節できるようになった。また、女性と男性の解剖学的な違い(女性の心臓が小さいことの手技への影響など)の理解も深まった。 しかし、これまでの小規模な研究から、アブレーション治療に伴う有害事象のリスク因子の一つとして、性別(女性)が該当する可能性が示唆されている。そこでFreeman氏らは、アブレーション治療の有害事象の発生率やベースライン特性の性差などを、多施設共同研究の大規模なサンプルで検討した。 研究には、米国内で実施されている心臓血管手術のレジストリのデータから、心房細動に対するアブレーション治療を受けた患者を抽出して用いた。2016年1月~2020年9月に、150カ所の医療機関で706人の医師により、5万8,960人がアブレーション治療を受けていた。そのうち女性は34.6%だった。 治療を受ける前のベースラインデータを比較すると、女性は男性より高齢で(68対64歳、P<0.001)、併存疾患が多く、心房細動関連の生活の質(QOL)のスコアが低かった(51.8対62.2点、P<0.001)。また男性では持続性心房細動が多いのに比べて、女性では発作性心房細動が多く、複数回の受療行動が記録されていた。自覚症状に関しても、女性は動悸、胸痛、めまい、疲労感などの訴えが多かった。 アブレーション治療関連の有害事象に関しては、全有害事象〔調整オッズ比(aOR)1.57(95%信頼区間1.41~1.75)〕、および、重大な有害事象〔aOR1.60(同1.33~1.92)〕の発生率が、女性は男性よりも有意に高いことが示された。また、1泊を超える入院を要した割合にも有意差があり、女性で高かった〔aOR1.41(同1.33~1.49)〕。 女性に多く発生していた有害事象として、心臓の周りに血液がたまって心臓の働きが低下する心嚢液貯留、恒久的なペースメーカーを必要とする徐脈、呼吸困難につながる横隔神経障害、血管損傷、出血などが該当した。ただし、院内死亡や意図しない急性肺静脈隔離の発生率には差がなかった。 Freeman氏は、「これまで行われてきた研究では十分に把握されていなかった、アブレーション治療関連の多くの有害事象を評価し得たことは、本研究の大きな成果の一つ」と述べている。また、「アブレーション治療に伴う有害事象への認識は深まっているものの、いまだに術後の長期間持続する症状の発生が認められる」と問題点を指摘。「アブレーション治療は確かに患者のQOLを改善するが、われわれは引き続きリスク軽減のための努力を続けていかなければならない」と語っている。同氏は、今後もアブレーション治療後の患者モニタリングを継続していくことを計画している。

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急性脳梗塞で血管内治療後の降圧コントロール、厳格vs.標準/Lancet

 頭蓋内主要動脈閉塞による急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去術で再灌流に成功した成人患者に対し、収縮期血圧目標値を120mmHg未満とする厳格な降圧コントロールは、140~180mmHgとする降圧コントロールに比べ、90日後の機能回復などのアウトカムは不良であることが、中国・海軍軍医大学のPengfei Yang氏らが、821例を対象に行った無作為化比較試験の結果、示された。急性虚血性脳卒中に対する血管内血栓除去後の至適収縮期血圧については不明であったが、結果を踏まえて著者は、「機能回復のためには厳格な降圧コントロールは避けるべき」とまとめている。Lancet誌2022年11月5日号掲載の報告。90日後の機能回復をmRSで評価 研究グループは、血管内治療による再灌流後に血圧が上昇した患者において、厳格vs.標準の降圧コントロール治療の安全性と有効性を比較する非盲検・エンドポイント盲検化の無作為化比較試験を実施した。試験は中国44ヵ所の3次医療機関を通じて行われた。 頭蓋内主要動脈閉塞による急性虚血性脳卒中で血管内血栓除去術による再灌流に成功後、収縮期血圧値が持続的に高値(140mmHg以上が10分超)の18歳以上の患者を適格とした。 被験者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け(中央で最小化アルゴリズムを備えたウェブベースのプログラムによる)、一方には厳格な降圧治療(収縮期血圧値の目標値を<120mmHg)を、もう一方には標準的な降圧治療(140~180mmHg)を、各目標値が1時間以内に達成され、72時間持続するよう行った。 主要有効性アウトカムは機能回復で、90日時点で修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])の分布に従い評価した。解析は、修正ITTにて行われた。有効性解析は、比例オッズロジスティック回帰法にて行われた。治療割り付け(固定効果として)、部位(ランダム効果として)、ベースライン予後因子で補正が行われ、主要アウトカム評価に利用可能なデータが入手でき、同意が得られていた無作為化を受けた全患者が対象に含まれた。 安全性解析は、無作為化を受けた全患者を対象とした。治療効果は、オッズ比(OR)で示された。不良な機能アウトカム、厳格降圧群が標準降圧群の1.37倍 2020年7月20日~2022年3月7日に、821例の被験者が無作為化を受けた。2022年6月22日のアウトカムレビュー後、有効性と安全性への永続的な懸念が認められことから同試験は中止となった。同時点で厳格降圧群に407例が、標準降圧群に409例が割り付けられており、そのうち主要アウトカムデータが得られたのは、404例と406例だった。 不良な機能アウトカムは、厳格降圧群のほうが標準降圧群より多い可能性が認められた(共通OR:1.37、95%信頼区間[CI]:1.07~1.76)。また、標準降圧群に比べて厳格降圧群は、早期の神経症状増悪例が多く(1.53、1.18~1.97)、90日時点の重度の障害例も多かった(2.07、1.47~2.93)が、症候性頭蓋内出血については有意な群間差はなかった。重度有害イベントや死亡についても、両群で有意差はなかった。

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線維組織に対する追加焼灼 - 心房細動アブレーションはさらに進化したか?(解説:香坂俊氏)

(1)加齢と線維化と心房細動 心房細動は心筋組織の「線維化」にその根本原因があるとされている。実はどこの臓器でも加齢と線維化の進行は表裏一体であり、心臓の場合、その典型的な表現型が心房細動であるという言い方もできる(下記参照)。―――――――――――――――――――・線維化が進んだ心房では、洞房結節からの信号が線維組織に邪魔されたり、ほかの場所からの信号が混ざったりして、その結果小さな不規則なリエントリー回路が形成される。・加えて、線維化が進んだ心臓は急速に大きくなっていき(リモデリング)、余計に伝導が房室結節に伝わりにくくなり、さらに心房細動が起きやすくなる。『極論で語る循環器内科 第3版』1章より許可を得て抜粋―――――――――――――――――――(2)線維組織をターゲットとするアブレーションは有効か? 近年、この線維組織がMRIによって可視化することができるようになっている。今回執筆を依頼いただいたDECAAF II試験では、心房細動カテーテルアブレーション(焼灼)治療を行う際に、追加でこの線維組織を「焼く」ことによって、治療成績を向上させることができるかどうか、ランダム化によって検討している。 しかし、結果から先に申し上げると、線維組織を追加焼灼した群と通常焼灼群を比較しても、90日の心房細動の再発率に差は認められず(43.0% vs.46.1%、P=0.63)、一方で手技関連の合併症(とくに脳梗塞)は増えてしまった(1.5% vs.0%)。同論文の著者たちは結語に率直に「この研究結果は MRIガイド下のカテーテル焼灼術の使用を支持しない(findings do not support the use of MRI-guided fibrosis ablation)」と記している。(3)DECAAF II試験がもたらしたもの 意欲的なデザインであり、線維組織を焼灼のターゲットとするということも非常に理に適っていたように考えられたのだが、予想されるような結果はもたらされなかった。心房細動アブレーションは優れた手技であり、心房細動のリズムコントロール治療に革命的な変化をもたらしたが、その基本手技から再発率をさらに下げることは容易ではない(とくに今回対象とされた永続性心房細動に対しては)。 しかし、自分はこのDECAAF II試験が実施されたことには大きな意義があったと考えている。「線維組織周辺を焼いたほうがよいような気がする」という、理には適っているが仮説にすぎない命題を、多施設共同RCTに落とし込み、検証を行う姿勢というのは見習うべきではないかと思う。最終的に10ヵ国44施設から843例の患者さんを登録したと記載されているが、こうした方々の協力があってこそ、いわゆる標準治療は真に「標準(スタンダード)」であると広く認知されるのではないだろうか。

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脳保護デバイスでTAVRの周術期脳梗塞は解決するか?(解説:上妻謙氏)

 重症大動脈弁狭窄症(AS)に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、低侵襲かつ有効な治療のためAS単独手術患者に関して標準的な医療となった。しかし周術期脳卒中の合併率は、最近の治療技術、デバイスの進歩によってある程度低下してきたものの依然として1~2%で発生している1)。脳卒中の合併率は外科手術と同等であるが、この脳卒中の問題が克服されればASの治療としてTAVRは外科手術に対して圧倒的に安全となる。本論文は北米、欧州、オーストラリアの51施設で行われたtransfemoral TAVR施行時の脳保護デバイス(cerebral embolic protection=CEP)の有効性を検証するメーカースポンサーの前向きランダマイズスタディである2)。3,000例のASを登録して行われたが、2,100例の登録終了時点で中間解析が行われ、脳卒中の合併率がCEP群2.2%、対照群2.4%であったため、サンプルサイズは予定された3,000例と決定された。主要エンドポイントは72時間以内の脳卒中の発生率で、CEP群2%、対照群4%の脳卒中合併率で90%の検出力で計算された。CEP群の94.4%でこのデバイス留置に成功し、デバイスに起因する合併症は1例(0.1%)のみで安全に施行できることが示された。しかし結果としては対照群2.9%に対しCEP群2.3%と残念ながら脳保護デバイスの有効性を証明することはできなかった(p=0.3)。死亡率、TIA、せん妄、急性腎障害も差がなかったが、modified Rankin Scale 2点以上の後遺症を残す脳卒中だけはCEP群0.5%、対照群1.3%と有意に脳保護デバイスを使用した群で少なくなった。サブグループ解析では人工弁のタイプや局所麻酔、前拡張や後拡張の有無などすべての要素でCEPの優位性を示す患者群を同定することができなかった。 このCEPはSentinelと呼ばれる2つのフィルターを備えた6Frのデバイスで、右の橈骨動脈か上腕動脈から挿入し、腕頭動脈と左総頸動脈でフィルターを展開して留置するデバイスで、比較的簡便かつ安全に使用できるためとても期待されていたが、大規模ランダマイズスタディではnegativeな結果となった。しかしこういったフィルターはどうしても血管壁との隙間が空くので、すべてのdebrisをブロックできるわけではなく、大きなdebrisをキャッチできればよいので、大きな脳梗塞が減少したというのは妥当な結果といえる。軽症の脳梗塞を減らすものではなく、重症の脳梗塞を減少させるデバイスと捉えると有用性は高いといえる。NEJM誌は科学的に最初の仮説を立証したものしか優位性を述べることを認めないため、完全に有用性が示されない形での論文となっているが、後遺症を残す脳梗塞というのは患者さん自身にとってはきわめて重要な問題である。少なくとも自分が患者であればこのデバイスを使用してもらいたいと思える結果であった。

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発症6h以降の脳底動脈閉塞、血栓除去術で脳出血が増加か/NEJM

 脳底動脈閉塞に起因する脳梗塞の症状発現から6~24時間が経過した患者では、血栓除去術は内科的治療と比較して、90日時の機能状態が良好な患者の割合が高かったが、手技に伴う合併症と関連し、脳出血を増加させたことが、中国・首都医科大学宣武医院のTudor G. Jovin氏らが実施した「BAOCHE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年10月13日号に掲載された。中国の無作為化対照比較試験 BAOCHE試験は、中国の医師主導非盲検無作為化対照比較試験であり、アウトカムの評価は盲検下に行われた(中国科学技術部の助成を受けた)。参加者は、2016年8月~2021年6月の期間に登録された。 対象は、年齢18~80歳、脳底動脈閉塞に起因する脳梗塞で、症状発現から6~24時間が経過し、修正Rankin尺度(mRS、0[まったく症状がない]~6[死亡]点)のスコアが0または1点、米国国立衛生研究所(NIH)脳卒中評価尺度(NIHSS、0~42点、点数が高いほど神経学的症状の重症度が重い)のスコアが10点以上の患者であった。 被験者は、血栓除去術+標準的な内科的治療または標準的な内科的治療単独(対照)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、当初、90日の時点におけるmRSスコア0~4点であったが、良好な機能状態(mRSスコア0~3点)に変更された。安全性の主要アウトカムは、24時間時点の症候性頭蓋内出血および90日死亡率であった。当初の主要アウトカムには差がない 217例が登録され、血栓除去術群に110例、対照群に107例が割り付けられた。全体の年齢中央値は65歳、女性が27%で、無作為化の時点での症状発現後の経過時間中央値は663分、NIHSSスコア中央値は20点だった。アルテプラーゼの静脈内投与が、血栓除去術群の14%、対照群の21%で行われた。事前に規定された中間解析で、血栓除去術群の優越性が確認されたため、その時点で参加者の登録が中止された。 90日時における良好な機能状態の達成率は、血栓除去術群が46%(110例中51例)と、対照群の24%(107例中26例)に比べ有意に優れた(補正後率比:1.81、95%信頼区間[CI]:1.26~2.60、p<0.001)。当初の主要アウトカムであるmRSスコア0~4点の達成率は、それぞれ55%および43%だった(1.21、0.95~1.54)。 90日時のmRSスコア0~2点の達成率は、血栓除去術群が39%、対照群は14%であった(補正後率比:2.75、95%CI:1.65~4.56)。また、EQ-5D-3Lの質問票(-0.149~1.00点、点数が高いほどQOLが良好)で評価した患者報告による健康状態も、血栓除去術群のほうが良好であった(0.78点vs.0.46点[中央値]、平均群間差:0.24点[95%CI:0.10~0.39])。 血栓除去術群における再灌流成功率は88%であった。24時間の時点での脳底動脈開存率は、血栓除去術群が92%、対照群は19%だった。 24時間時点で症候性頭蓋内出血は、血栓除去術群が6%(102例中6例)、対照群は1%(88例中1例)で発現した(補正後率比:5.18、95%CI:0.64~42.18)。90日死亡率は、それぞれ31%および42%だった(0.75、0.54~1.04)。また、血栓除去術群では、手技に伴う合併症が11%で認められた。 著者は、「プロトコルのデザイン時には入手できなかった他の試験のデータに基づき、試験中にプロトコルが修正され、とくに主要アウトカムが変更されたことは、この試験の限界である」としている。

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