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レジオネラ症への効果、キノロン・マクロライド・2剤併用で比較

 レジオネラ症は、レジオネラ肺炎を引き起こす。レジオネラ肺炎は市中肺炎の1~10%を占め、致死率は6.4%という報告もある1)。『JAID/JSC感染症治療ガイド2023』では、第1選択薬として、キノロン系抗菌薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、ラスクフロキサシン、パズフロキサシン)、マクロライド系抗菌薬(アジスロマイシン)が推奨されている2)。しかし、これらの薬剤による単剤療法や併用療法の有効性の違いは明らかになっていない。そこで、忽那 賢志氏(大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学 教授)らの研究グループは、DPCデータを用いて、レジオネラ症に対するキノロン系抗菌薬単独、マクロライド系抗菌薬単独、これらの併用の有効性を比較した。その結果、併用療法と単剤療法には有効性の違いがみられなかった。本研究結果は、International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2024年2月15日号で報告された。 研究グループはDPCデータを用いて、2014年4月1日~2021年3月31日までにレジオネラ症により入院した3,560例の患者情報を分析した。対象患者を入院から2日以内に投与された抗菌薬に基づき、キノロン系単独群(2,221例)、マクロライド系単独群(775例)、併用群(564例)に分類した。傾向スコアを用いた逆確率重み付け法により、併用群を対照として院内死亡率、入院期間、入院費用を比較した。 主な結果は以下のとおり。・調整後の院内死亡率は、キノロン系単独群4.6%、マクロライド系単独群3.1%、併用群4.5%であり、併用群と各単独群との間に有意差は認められなかった。・調整後の入院期間は、それぞれ12日、11日、13日であり、併用群と各単独群との間に有意差は認められなかった。・調整後の入院費用は、それぞれ53万4千円、50万9千円、55万7千円であり、併用群と各単独群との間に有意差は認められなかった。 著者らは、本研究結果について「レジオネラ症の治療において、キノロン系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬を併用しても、単独療法と比較して大きな利点がないことが示唆された。副作用が増加する可能性を考慮すると、併用療法を選択する際には慎重な検討が必要である」とまとめた。

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第201回 2024年診療報酬改定の内容決まる(前編) 武見厚労大臣の言う「メリハリ」ある改定とは?

本体0.88%引き上げ分の大半が賃上げに割り当てられるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連休は山仲間数人で、毎年恒例の八ヶ岳の冬山登山に行ってきました。小海線側、海ノ口から杣添尾根をひたすら登り、横岳まで日帰りピストンというコースです。連休の中日、24日だけ快晴だったので、横岳頂上では、富士山から南アルプス、中央アルプス、北アルプス、浅間山まですべてを見渡せる360度の眺望を楽しんで来ました。ただ、日頃不摂生の中高年パーティーのスピードは遅く(ほとんどのパーティーに抜かれました)、麓の駐車場に着いたのは17時過ぎで薄暮になってしまいました。連休中、横岳の北にある硫黄岳では遭難騒ぎも起こっていたようです。冬山は夏山に比べ危険が多く、相応の体力と技術、緊張感が要求されます。我々も厳冬期の登山はそろそろ潮時かなと皆で反省した次第です。さて、2月14日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、2024年度診療報酬改定の答申が行われ、項目の詳細と点数が明らかになりました。今回の改定では、医師の技術料や医療従事者の人件費となる「本体」は0.88%の引き上げ、「薬価」は1%の引き下げ、全体の改定率は0.12%のマイナスとなっています。本体0.88%引き上げ分の大半が賃上げに割り当てられました。物価高騰などを踏まえ、医療従事者の賃上げに向けて初診料が3点、再診料と外来診療料が2点引き上げられ、さらに新たな評価料となる外来・在宅ベースアップ評価料や入院ベースアップ評価料が新設されました。これらによって、初診時、再診時の診療報酬や、入院基本料といった医療機関の基本報酬が引き上げられることになりました。厚生労働省は2024年度で2.5%、2025年度で2%の医療従事者のベースアップを目指す考えで、医療機関に賃上げに関する計画や実績の報告を求めるなどして、引き上げた報酬が確実に賃上げに回るようチェックする、としています。管理料等の効率化・適正化等を行ったことで「メリハリある内容になっている」と武見厚労大臣今回の診療報酬改定について、武見 敬三厚生労働大臣は2月16日の閣議後の記者会見で、「医療従事者の賃上げ」「医療DX等による質の高い医療の実現」「医療・介護・障害福祉サービスの連携強化」の3つの課題の評価の充実と併せ、「生活習慣病等を中心とした管理料等の効率化・適正化を行」ったことで、「メリハリある内容になっている」と語ったとのことです。“メリハリ”は、漢字で「減り張り」と書き、緩めることと張ることを意味します。この言葉、かつて診療報酬改定のたびに、厚労省の担当官や中医協委員が「評価した分と、厳格化した分がはっきり分かれている」という時によく使っていました。個人的には診療報酬改定の時にしか聞かない言葉です。以前の本コラム「第179回 驚きの新閣僚人事、武見厚労相は日医には大きな誤算?“ケンカ太郎”の息子が日医とケンカをする日」でも書いたように、当初、その実行力に疑問符が付いていただけに、ある意味、“自画自賛”の意味を込めての“メリハリ”発言だったのかもしれません。なお、日本医師会の松本 吉郎会長は、2月14日に開かれた日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の三師会合同記者会見で、本体プラス0.88%は、「医療界が一体・一丸となって対応した結果と考えている。物価・賃金の動向を踏まえれば、十分に満足できるものとは言えない部分もあるが、さまざまな主張や議論も踏まえた結果であり、多くの方々にご尽力頂いたものでもあり、まずは素直に評価をさせて頂く」と述べたとのことです。こちらも、ほぼほぼ賃上げ原資となってしまうとは言え、本体プラス改定を勝ち取ったことに対する“自画自賛”と言えなくもありません。「これでは『病院の経営安定』『病院の赤字解消』にはつながらない」と日病・相澤会長一方で、賃上げに重点が置かれた分、とくに病院経営には厳しい改定になったとの見方もあります。日本病院会の相澤 孝夫会長は2月20日に開いた定例記者会見で、「今改定は病院経営の安定化につながる内容にはなってない」との見解を示しています。2月20日付のGemMedの報道によれば、定例記者会見で相澤会長は、「確かに点数引き上げはなされているが、そのほとんどは『人件費・賃上げに充当せよ』との縛りが設けられている。これでは『病院の経営安定』『病院の赤字解消』にはつながらない」と語り、さらに診療報酬による賃上げについても、「現在の医療人材不足・他業界への人材流出を食い止める水準にはなっておらず、部分的な効果にとどまるのではないか」とコメントしています。昨年秋からの今改定の議論の過程では、財務省が「診療所の初・再診料を中心に報酬単価を引き下げることなどにより、診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当だ」と主張し、大きな話題となりました。このとき、財務省は病院経営の厳しさについては理解を示しつつ、診療所の経営状況の好調さに言及していました。結局、財務省の言い分は通らず、今改定では診療所、病院の区別なく初・再診料が上がりました。仮に診療所の初・再診料を本当に下げて、その分を病院の診療報酬に回していたら、松本会長、相澤会長、それぞれのコメントも変わっていたかもしれません。「特定疾患療養管理料」の対象疾患から糖尿病、脂質異常症、高血圧を除外の衝撃では、2024年度診療報酬改定の内容のうち、本連載でも過去に取り上げた項目などを中心に、いくつかその内容を見てみたいと思います。武見厚労相もメリハリの例として挙げた「生活習慣病の管理」に関する診療報酬、「特定疾患療養管理料」ですが、対象疾患から糖尿病と脂質異常症、高血圧が除外されます。また、脂質異常症や高血圧症、糖尿病を主病とする患者への総合的な治療管理を評価する「生活習慣病管理料」と「外来管理加算」の併算定を認めない、などの厳格化が図られます。診療所、中小病院にはそれなりの打撃となりそうです。厚労省は、3疾患については新設する生活習慣病管理料(II)に移行を促す、としていますが、同報酬は「患者に対し、患者の同意を得て治療計画を策定し、その計画に基づいて生活習慣に関する総合的な治療管理を行う」ことを求めており、特定疾患療養管理料よりも算定要件のハードルが高くなっています。これまで糖尿病患者などに大した“管理”も行わず、処方箋を書くだけで漫然と算定できていた報酬がなくなったわけで、そうした意味でもまさに“メリ”と言えるでしょう。また、かかりつけ医機能の評価である「地域包括診療料」等の見直しも注目されます。かかりつけ医と介護支援専門員との連携の強化、かかりつけ医の認知症対応力の向上、リフィル処方及び長期処方の活用、人生の最終段階における適切な意思決定支援、医療DXの推進などが要件となります。かかりつけ医機能は2023年5月に改正医療法が成立し、現在は制度整備を議論中ですが、新たな制度を後押しする報酬体系に変更されるわけです。10年ぶりの新入院料、「地域包括医療病棟入院料」病院関係の最大のトピックは、高齢者救急への対応を目的に「地域包括医療病棟入院料」が新設されることでしょう。新たな入院料が設定されるのは、2014年度改定の「地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料」以来10年ぶりとなります。今改定に至る議論では、当初、「生活機能が低下した高齢者(高齢者施設の入所者を含む)に一般的である誤嚥性肺炎をはじめとした疾患について、地域包括ケア病棟や介護保険施設等での受け入れを推進する」ことが論点になっていました。しかし、その後の中医協の議論において、診療側委員から「救急搬送時点で患者の重症度は判断できない」「看護配置13対1の病棟で救急医療に対応することは困難」などの意見が出され、結果、地域包括ケア病棟などでの受け入れ推進は慎重論が大勢を占め、地域包括医療病棟入院料の新設に至ったわけです。救急医療提供体制を整える負担を考慮し、地域包括ケア病棟入院料1(40日以内)の2,838点よりも高い3,050点となります(各種加算をすべて取得すると4,000点弱の点数設定)。施設基準は看護配置10対1の他、常勤の理学療法士、作業療法士または言語聴覚士が2人以上、専任で常勤の管理栄養士が1人以上配置されていることや、入院早期からのリハビリを行うのに必要な構造設備を有していることなどで、平均在院日数は21日以内です。7対1の維持が厳しくなった場合の移行先としても期待地域包括医療病棟入院料新設のもう1つのポイントは、2006年の診療報酬改定による看護配置基準の引き上げで登場し、その後激増した7対1看護病棟の削減に一役買うのではないかということです。実際、2月14日に開かれた日本医師会・四病院団体連絡協議会の合同記者会見では、病院団体幹部から、急性期病床の重症度、医療・看護必要度の見直しによって、7対1看護配置の急性期一般入院料1を維持できない病院が相当数に上る可能性がある、との懸念が示されています。2月15日付のメディファクスによれば、全日本病院協会の猪口 雄二会長は、7対1の維持が厳しくなった場合の移行先について、新設の地域包括医療病棟が選択肢になることが「あり得る」と語ったとのことです。また、中医協委員も務める医療法人協会の太田 圭洋副会長は、同病棟について、「必要度が厳しめに設定されている」との認識を示しつつ、7対1からの受け皿になれるかどうかは「これから地域の各病院の先生がさまざま考えながら、(算定要件に)対応しきれるかというところにかかってくる」と話したとのことです。地域包括医療病棟は、これからの高齢社会において地域の高齢者救急に対応する、という本来の役割に加え、今後の地域の医療機関の役割分担や再編・統合、そして2025年以降の次の“地域医療構想”のあり方にも大きな影響を及ぼしそうです。(この項続く)

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Hibを追加した乳幼児の5種混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」【最新!DI情報】第9回

Hibを追加した乳幼児の5種混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」今回は、沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合ワクチン(商品名:ゴービック水性懸濁注シリンジ、製造販売元:阪大微生物病研究会)」を紹介します。本剤は、既存の4種混合ワクチンの抗原成分にインフルエンザ菌b型(Hib)の抗原成分を加えた5種混合ワクチンであり、乳幼児期のワクチン接種回数が減少することで、乳幼児および保護者の負担軽減が期待されています。<効能・効果>百日せき、ジフテリア、破傷風、急性灰白髄炎およびHibによる感染症の予防の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>初回免疫として、小児に通常0.5mLずつを3回、いずれも20日以上の間隔をおいて皮下または筋肉内に接種します。追加免疫では、初回免疫後6ヵ月以上の間隔をおいて、通常0.5mLを1回皮下または筋肉内に接種します。<安全性>国内第III相試験(BK1310-J03)において、皮下接種後の副反応は91.7%に認められました。そのうち、接種部位の主な副反応として、紅斑78.9%、硬結46.6%、腫脹30.1%、疼痛13.5%が認められました。全身性の主な副反応は、発熱(37.5℃以上)57.9%、易刺激性27.1%、過眠症24.1%、泣き23.3%、不眠症13.5%、食欲減退13.5%でした。<患者さんへの指導例>1.このワクチンは、5種混合ワクチンです。2.百日せき、ジフテリア、破傷風、急性灰白髄炎およびHibによる感染症の予防の目的で接種されます。3.生後2ヵ月から接種を開始し、計4回の定期接種を行います。4.明らかに発熱(通常37.5℃以上)している場合は接種できません。5.接種後30分間は接種施設で待機するか、ただちに医師と連絡がとれるようにしておいてください。6.接種後は健康状態によく気をつけてください。接種部位の異常な反応や体調の変化、高熱、けいれんなどの異常を感じた場合は、すぐに医師の診察を受けてください。<ここがポイント!>本剤は、既存の4種混合ワクチン(百日せき、ジフテリア、破傷風、不活性化ポリオ混合ワクチン)の成分に加えて、インフルエンザ菌b型ワクチンの成分を混合した5種混合ワクチンです。百日せきは、乳幼児早期から罹患する可能性があり、肺炎や脳症などの合併症を起こし、乳児では死に至る危険性があります。ジフテリアの罹患患者は、1999年以降は日本で確認されていませんが、致死率の高い感染症です。破傷風は、菌が産生する神経毒素によって筋の痙攣・硬直が生じ、治療が遅れると死亡することもあります。急性灰白髄炎(ポリオ)は、脊髄性小児麻痺として知られており、主に手や足に弛緩性麻痺が生じ、永続的な後遺症が残る場合や呼吸困難で死亡することもあります。インフルエンザ菌b型はヒブ(Hib)とも呼ばれ、この菌が何らかのきっかけで進展すると、肺炎、敗血症、髄膜炎、化膿性の関節炎などの重篤な疾患を引き起こすことがあります。これらの感染症はワクチンの接種によって予防が可能で、日本では予防接種法で定期接種のA類疾病に該当します。しかし、乳幼児期には、これら以外の感染症に対するワクチンの接種も必要なため、保護者の負担の大きさや接種スケジュール管理の煩雑さが問題となっています。本剤は、百日せき、ジフテリア、破傷風、ポリオおよびHib感染症に対する基礎免疫を1剤で同時に付与できるため、乳幼児への注射の負担および薬剤の管理を軽減できるメリットがあり、2024年4月から定期接種導入が予定されています。また、本剤は皮下接種だけでなく、筋肉内接種も可能です。生後2ヵ月以上43ヵ月未満の健康乳幼児267例を対象とした国内第III相試験(皮下接種)において、本剤接種後における初回免疫後の各抗体保有率は、ジフテリアが99.2%、その他は100%であり、追加免疫後はすべて100%でした。追加免疫後では、すべての抗原に対して初回免疫後よりも高い免疫原性を示すことが確認されました。

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2月14日 予防接種記念日【今日は何の日?】

【2月14日 予防接種記念日】〔由来〕1790(寛政2)年の今日、秋月藩(福岡県朝倉市)の藩医・緒方春朔が、初めて天然痘の人痘種痘を行い成功させたことから、「予防接種は秋月藩から始まった」キャンペーン推進協議会が制定した。関連コンテンツインフルエンザ【今、知っておきたいワクチンの話】肺炎球菌ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】インフルエンザワクチン(1)鶏卵アレルギー【一目でわかる診療ビフォーアフター】コロナワクチン、2024年度より65歳以上に年1回の定期接種へ/厚労省新型コロナワクチン、午前に打つと効果が高い?

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令和6年度コロナワクチン接種方針を発表、他ワクチンと同時接種が可能に/厚労省

 厚生労働省は2月7日の「新型コロナワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会」1)にて、令和6年度(2024年度)の接種方針を発表した。2月5日に開催された第55回生科学審議会予防接種・ワクチン分科会2)の議論を踏まえ、2024年3月末まで特例臨時接種が実施されている新型コロナワクチンは、4月以降、インフルエンザや高齢者の肺炎球菌感染症と同じ定期接種のB類疾病に位置付け、高齢者等に対して個人の発病または重症化を予防し、併せて蔓延予防に資することを目的とした接種を実施することとした。対象は65歳以上、もしくは60歳~64歳で心臓、腎臓、呼吸器のいずれかの機能の障害、またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有する者。定期接種開始は9月以降となる。他ワクチンとの同時接種も可能に 新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの接種間隔については、特例臨時接種となっている現在は、インフルエンザの予防接種は同時接種可能であるが、その他の予防接種との間隔は13日以上空けることとされている。4月以降は定期接種実施要領の規定どおり、注射生ワクチン以外のワクチンにおいては接種間隔を定めず、医師がとくに必要と認めた場合は同時接種を行うことが可能とした。この方針は、諸外国における新型コロナワクチンと他疾病ワクチンとの同時接種を可能とする状況も参考にされた。秋冬接種はWHO推奨株を基本に 接種に使用するワクチンについて、これまでは流行株の状況やワクチンの有効性等に関する知見に加え、諸外国の動向も踏まえて決定し、その後、ワクチンの製造販売業者による薬事申請等がなされ供給されていた。また、世界保健機関(WHO)は2023年以降、株構成に関する専門家会議を少なくとも年2回開催する方針を示している。直近では2023年12月に開催された3)。これらを踏まえ、令和6年度の秋冬接種に用いられるワクチンの検討については、最新のWHOの推奨株を用いることを基本とした。選択肢の確保の観点から、mRNAワクチン以外にもさまざまなモダリティのワクチンを開発状況に応じて用いることとし、具体的な対応株の検討などは、インフルワクチン同様に、研究開発及び生産・流通部会にて行われる。

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洗剤誤飲【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第11回

異物誤飲は救急外来で遭遇する機会の多い疾患の1つです。高齢者の義歯が取れて飲み込んでしまった、コップに洗剤を入れていたことを忘れてそれを飲んでしまった…など。わが国の誤飲頻度の正確なデータはありませんでしたが、単施設での報告によると65歳以上の高齢者の頻度が多く、1位:薬剤の包装紙、2位:義歯、3位:魚骨でした1,2)。一方、消費者庁によると2020年度の65歳以上の高齢者の誤飲・誤食の事故情報は318件寄せられており、医薬品の包装シート、義歯・詰め物、洗剤や漂白剤が多いそうです3)。洗剤や漂白剤を誤飲してしまったときの対処法を記載した医学書やレビューは少ないため、実際に私も救急外来で「誤って洗剤を飲んでしまったが、かかりつけ医に相談したところ救急外来を受診するよう指示されたので来た」という話を聞くことがあります。私は年に数回「誤って洗剤を飲んでしまった」という電話相談もしくは診察をすることがありますが、私の経験では成人が洗剤や漂白剤を誤飲したとしても何か特別な処置が必要なケースは限られていて、ほとんどが何もすることなく終わっています。だからといって全部大丈夫というわけではないため、日本石鹸洗剤工業会の「誤飲・誤用の応急処置(公益財団法人 日本中毒情報センター監修)」を参考に、私の診療過程を症例をもとに紹介します。なお、今回は認知症のない成人で台所用洗剤に重点を置きます。<症例>70歳女性主訴誤って台所用洗剤を飲んだ。昼の12時ごろ台所のコップに入っていた水を飲んだところ変な味がした。娘に確認したところコップを洗剤につけて茶渋を取っていたとのこと。口腔内に違和感があるため受診。既往歴高血圧上記は救急外来にフラッとやって来た患者さんです。順を追って対処しましょう。(1)バイタルサイン、嘔吐の有無の確認こういった洗剤などの誤飲で問題になってくるのは、嘔吐して誤嚥してしまうことです。洗剤は当然飲むものではなく、強い味や香りのため飲めたものではありません。万が一飲んでしまった場合、その味や香りで嘔吐して誤嚥することがあります。そのため、まずは誤嚥性肺炎を生じていないか確認しましょう。この患者さんは、嘔吐もなく、SpO2は室内気で98%でした。(2)洗剤の種類の確認台所用洗剤の種類は大きく分けて合成洗剤、食器洗い機専用洗剤、台所用石けん、台所用漂白剤(塩素系)、台所用漂白剤(酸素系)、クレンザーとなります。いずれの中毒量(マウス)は液状だと5mL/kgとなっています。体重が50kgの人だと250mL程度になりますが、原液を10mL飲むのも困難であり、私は意識がはっきりしている人で大量の原液を誤飲した症例の経験はありません。しかし、洗剤の誤飲は少量であれば問題にならないのかというとそうでもありません。第9回の化学眼外傷のときに紹介したとおり、強い酸性orアルカリ性の物質の場合は強い粘膜障害が生じる懸念があります。それらを誤飲した場合は、腐食性食道炎が生じ食道穿孔などが生じるリスクがあり、内視鏡検査や入院治療が必要になり注意が必要です4,5)。本症例は、茶渋をとるために強アルカリ(pH11.0~12.0)の次亜塩素酸塩配合の台所用漂白剤(キッチンハイター)を入れていたそうです。(3)誤飲状況の詳細と症状を確認では、強アルカリの物質を誤飲してしまった場合、すべて消化器内科を受診して入院が必要なのでしょうか? そんなことはありません。腐食性食道炎を生じるには、それなりの量が必要です。何mL飲めば生じる可能性が上がるという根拠は見つかりませんでしたが、先述のとおり洗剤は通常飲めないようにできています。ハイターの臭いをかいだことがあればわかると思いますが、あの匂いのものを間違えてごくごく飲むのはかなり無理があります。私は味わったことがないですが、誤飲した人に聞いたところ「苦いけど苦いとも言えない味、刺激が強い」とのことでした。意識がある人が飲めるものではありません。実際に腐食性食道炎を生じている患者が強酸性or強アルカリ性の物質を摂取した理由は自殺が最も多く、私が和文文献を探していて唯一自殺以外であったのが「酩酊状態の誤飲」でした4-6)。また症状としては、粘膜障害が生じるため咽頭痛、嗄声、嘔吐、心窩部痛が2~3時間以内に急激に生じます。今回の症例の場合、水で薄めたハイターをコップに入れていて、患者は一口飲んで吐き出したので飲んだには飲んだがほんの少しだけでした。症状としては口に苦い感じがするとのことでした。飲んだ量も少なく、濃度も薄い、さらに症状もほとんどありません。1時間ほど外来で経過をみましたが何もないため経過観察としました。治療に関しては、今回のようなケースではとくにすることはありません。少量誤飲してすぐの状態であれば、口をゆすいだ後に水を飲んでもらうくらいです。昔から食器用洗剤を誤飲した場合は牛乳がよいと言われていますが、効果のほどは定かではありません。プロトンポンプ阻害薬やアルギン酸を粘膜保護を目的に投与している施設もありますが、今回のようなほぼ無症状の人に対して投与する明確な根拠はありません。少なくとも私は中性洗剤の場合であれば処方はせず、帰宅後に何らかの症状が出現すれば再診としています。今回のような粘膜障害を生じうる洗剤を飲んだ場合は症状に合わせて3日分処方することもありますが、もし電話相談で「ハイターを飲んでしまった。症状はない」という相談が来たときに、プロトンポンプ阻害薬とアルギン酸を処方するために受診させたりはしません。今回は、台所用洗剤の誤飲に重点を置いて紹介しました。まとめますと、「意識がはっきりしている人が洗剤を誤飲したとして、大量に誤飲した可能性は低いためさほど恐れることはない」ということです。特殊なものを除き、家庭にあるほとんどの洗剤は同じストラテジーで対処できます。ただし、強い症状(嚥下時痛、嗄声、心窩部痛など)があれば内視鏡や胃洗浄などを行いますので、高次医療機関に相談してください。教科書や論文のレビューが少ないテーマなので経験がない人は不安になるかもしれませんので参考になればと思います。1)岡 陽一郎ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2007;68:2449-58.2)山本 龍一ほか. 埼玉医科大学雑誌. 2010;37:11-14. 3)消費者庁:高齢者の誤飲・誤食事故に注意しましょう! 4)松村 英樹ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2015;76:714-719.5)De Lusong MAA, et al. World J Gastrointest Pharmacol Ther. 2017;8:90-98. 6)佐藤 雄亮ほか. 日本臨床外科学会雑誌. 2008;69:1658-1662.

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COVID-19外来患者において高用量フルボキサミンはプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮せず(解説:寺田教彦氏)

 フルボキサミンは、COVID-19流行初期の臨床研究で有効性が示唆された比較的安価な薬剤で、COVID-19治療薬としても期待されていた。しかし、その後有効性を否定する報告も発表され、昨年のJAMA誌に掲載された研究では、軽症から中等症のCOVID-19患者に対するフルボキサミンの投与はプラセボと比較して症状改善までの期間を短縮しなかったことが報告されている1,2)。 同論文では、症状改善までの期間短縮を示すことができなかった理由として、ブラジルで実施されたTOGETHERランダム化プラットフォーム臨床試験3)等よりもフルボキサミンの投与量が少ないことを可能性の1つとして指摘しており、今回の研究では、COVID-19外来患者に対して高用量フルボキサミンの投与により症状改善までの期間を短縮するかの評価が行われた。 本研究では、30歳以上でCOVID-19発症から7日以内の外来患者を、高用量のフルボキサミン群とプラセボ群に無作為に割り付けて比較した。結果は、主要アウトカムである症状改善までの期間短縮は認めず(調整ハザード比:0.99、95%信頼区間:0.89~1.09、有効性のp=0.40)、副次アウトカムの28日以内死亡例は両群ともに0例で、入院や救急外来/救急診療部受診ではフルボキサミン群14例(2.4%)に対してプラセボ群21例(3.6%)とフルボキサミン群での医療介入イベントは3分の1程度少なかったが、事前に定めた基準を満たすほどの差はなかった4)。 また、忍容性の観点では、「調子が悪いため、薬を飲むつもりはない」と報告した患者は、フルボキサミン群6.4%に対してプラセボ群は2.1%と、以前から想定されていた高用量フルボキサミンにおける忍容性の低さが示されたと考える。以上より、昨年の論文に続き、本研究でもCOVID-19に対するフルボキサミン投与の有効性は示されなかった。 今回の主要アウトカムであるCOVID-19の症状改善までの期間短縮では、有意差を示した過去の報告は乏しく、COVID-19に対して死亡率低下や重症化予防効果を示したニルマトレルビルやモルヌピラビルでさえほとんどない。 統計学的に有意な症状改善効果を示した薬剤にはエンシトレルビルがあり、プラセボに比較して症状消失までの時間を約24時間短縮させている5)。本邦で重症化リスクは低いが症状の強い患者から対症療法以外の薬剤も処方希望がある場合は、フルボキサミンを処方するよりもエンシトレルビルを処方するほうが理にかなっているだろう。 ただし、昨今のCOVID-19診療では、流行株の変化やワクチン接種の効果により、死亡率や重症化率は低下傾向で、外来患者の症状もデルタ株流行時よりも軽減しているように感じている。流行株が変遷した現在において、症状改善までの期間短縮のメリットが薬価や副作用・ウイルス耐性化のリスクといったデメリットに勝る薬剤を発見・開発することは、今後もなかなか難しいかもしれない。 さて、現在の医療現場でCOVID-19に関する問題として残っていることには、施設入所や入院中の患者で発生するCOVID-19クラスターがある。執筆時点で、COVID-19に対する発症予防効果が期待されている薬剤は、ワクチンや抗体療法を除くと証明されておらず、現在の流行株によるクラスター対策で即時に有用な薬剤はない。COVID-19は、重症化リスクの乏しい患者においては、インフルエンザウイルスなどと近い重症度になりつつある6)が、現在でも感染力は強く、施設内・院内感染におけるクラスターはいまだに施設や医療機関に負荷をかける原因となっている。 しかし、COVID-19に対して重症化予防が証明された抗ウイルス薬でも、発症予防効果が証明された薬剤はなく、症状改善までの期間短縮の薬剤よりも発症予防効果のある薬剤のほうが医療現場でのニーズは高いかもしれない。■参考1)McCarthy MW, et al. JAMA. 2023;329:269-305.2)CareNet.comジャーナル四天王「フルボキサミン、軽~中等症コロナの症状回復期間を短縮せず/JAMA」(2023年1月30日)3)Reis G, et al. Lancet Glob Health. 2022;10:e42-e51.4)CareNet.comジャーナル四天王「コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA」(2024年1月12日)5)日本感染症学会 COVID-19治療薬タスクフォース「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第15.1版」(2023年2月14日)6)Xie Y, et al. JAMA. 2023;329:1697-1699.

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心臓カテーテル検査前に絶食は必要か

 鎮静下で実施する心臓カテーテル検査では、検査前に長時間、絶食する必要はない可能性が、新たな研究で示唆された。米パークビュー心臓研究所の看護部長であるCarri Woods氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Critical Care」に1月1日掲載された。 心臓カテーテル検査は、カテーテルと呼ばれる細い管を血管から心臓まで通して心臓の圧を測定したり、心臓の機能や血管の状態を調べるための検査である。この検査を受ける患者は通常、検査前の午前0時以降は何も口にしないように言われる。Woods氏は、「麻酔ガイドラインでは何十年も前から、意識下鎮静法を要する処置では、処置を受ける全ての患者に6時間以上の絶食を求めてきた」と説明する。絶食は患者に、不快感やイライラ感、脱水、喉の渇きと空腹感の増加、低血糖症などの悪影響をもたらす。しかし、低度から中等度のリスクの患者に対する心臓カテーテル検査で絶食が必要なことを裏付けるエビデンスはない。 今回の研究では、同心臓研究所で待機的心臓カテーテル検査を受ける197人の成人患者を対象に、検査前の絶食の必要性が検討された。対象者は、検査前に心臓に良い食事(脂肪やコレステロール、ナトリウムの含有量が低く酸性食品の少ない食事)を摂取してもよい群(食事摂取群、100人)と、検査前の深夜以降は飲食物を何も口にしない群(絶食群、97人)にランダムに割り付けられた。絶食群は、薬を飲む際には少量の水を飲むことができた。食事摂取群と絶食群との間で検査の安全性を比較するとともに、検査に対する患者の快適さや満足度についても評価した。 処置後に肺炎、低血糖、誤嚥が生じたり気管挿管が必要になった患者はいなかった。また、血糖値、胃腸の問題、疲労度、抗血小板薬の投与量も両群間で同等であった。その一方で、絶食群に比べて食事摂取群では、処置前の食事に関する満足度が有意に高く、また、処置前後で喉の渇きや空腹感を覚えた人も少なかった。 こうした結果を受けてWoods氏は、「われわれが得た結果は、心臓カテーテル検査を受ける全ての患者に絶食が必要なわけではないことや、検査においては患者の満足度を第一に考えても安全性は確保されることを示している」とパークビュー心臓研究所のニュースリリースで述べている。 この研究結果を受けて、同心臓研究所では、意識下鎮静前の患者にも食事を摂取させるように心臓外科手術のプロトコルを更新したという。

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つらい咳症状への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第68回

第68回 つらい咳症状への対応肺がんや呼吸器疾患などの代表的な症状である咳。ご本人のつらさはもちろん、周りで見ているのもつらい症状です。緩和するために、どういったことができるのでしょうか?今日の質問外来の肺がん終末期患者さん、咳が最もつらい症状のようです。咳込み始めるとなかなか止まらず、眠れないときもあるそうです。一般的な咳止め薬は処方しているのですが、ほかにできることはないでしょうか?緩和ケアの専門家として、もう少し症状の和らぐ薬ができてほしいと思う症状の1つが咳です。私も時々、上気道炎などの後に咳が長引くことがありますが、本当につらいものです。日中の咳は、仕事にまったく集中できなくなってしまいますし、夜間に咳がでると眠れないですよね。慢性の呼吸器疾患や肺がんのような病態による咳の苦しさは、想像もしたくないです。また、咳の難しい点が、ご質問のように咳止め薬を処方しても症状の改善が乏しいところです。細菌性肺炎のような感染症や、心不全のような病態であれば、それぞれに合わせた治療が基本となります。一方、進行した肺がんのように治療が難しい場合は、対症療法としての薬物療法やケアが中心になります。薬物療法は、デキストロメトルファンのような鎮咳薬を用いますが、効果が十分でない場合は、悪性腫瘍が原因であればオピオイドを用いる場合も多いです。コデイン、モルヒネを中心に使っていることが多いと思います。オピオイドの適切な投与量は確立していないものの、呼吸困難に準じて投与するエキスパートが多いでしょう。薬以外の対処としては、呼吸リハビリテーションが1つの選択肢です。気道を刺激しないように呼吸をゆっくり行う練習や、咳き込んだ後の息を整える練習などが効果を発揮する場合があります。そのほか、乾性咳嗽はアメやハチミツなどの甘いものを摂取したり、吸入などで喉などが乾燥しないようにしたりします。「何かをしたらすぐ改善した」というケースはあまりないのですが、いろいろな対処法を知っておくことは重要です。患者や家族にとって、医療者が悩みながら一緒に対処を考えてくれた、ということも大切なのだと思います。私も悩みながら対応しています。難しい症状である咳、皆さんはどのようにされているでしょうか?今回のTips今回のTips咳は難しい症状の1つ。薬が効きにくいので、薬以外の対応も工夫しながら取り組みましょう。

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市中肺炎、β-ラクタム系薬へのクラリスロマイシン上乗せの意義は?

 市中肺炎に対するβ-ラクタム系抗菌薬とマクロライド系抗菌薬の併用の有効性が報告されているが、これらは観察研究やメタ解析によるものであった。そこで、ギリシャ・National and Kapodistrian University of AthensのEvangelos J. Giamarellos-Bourboulis氏らは、無作為化比較試験により、β-ラクタム系抗菌薬へのクラリスロマイシン上乗せの効果を検討した。その結果、クラリスロマイシン上乗せにより、近年導入された評価基準である早期臨床反応が有意に改善した。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2024年1月3日号で報告された。 本研究の対象は、18歳以上の市中肺炎患者278例であった。主な適格基準は、敗血症の評価に用いられるSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア2点以上、プロカルシトニン値0.25ng/mL以上などであった。対象患者を標準治療薬(第3世代セファロスポリン静注またはβ-ラクタム系薬+β-ラクタマーゼ阻害薬静注)で治療を行うプラセボ群、標準治療薬にクラリスロマイシン(500mgを1日2回)を併用するクラリスロマイシン群に1対1に無作為に割り付け、7日間投与した。主要評価項目は、早期臨床反応※であった。※:治療開始から72時間後において、以下の(1)と(2)を両方満たすこと。(1)呼吸器症状の重症度スコアが50%以上低下(2)SOFAスコアが30%以上低下またはプロカルシトニン値が良好(ベースラインから80%以上低下または0.25ng/mg未満) 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の解析には、プラセボ群133例、クラリスロマイシン群134例が組み入れられた。・主要評価項目の早期臨床反応を達成した患者の割合は、プラセボ群が38%であったのに対し、クラリスロマイシン群は68%であり、クラリスロマイシン群が有意に改善した(群間差:29.6%、オッズ比[OR]:3.40、95%信頼区間[CI]:2.06~5.63)。・新たな敗血症はプラセボ群24%、クラリスロマイシン群13%に認められ、クラリスロマイシン群で有意に少なかった(ハザード比:0.52、95%CI:0.29~0.93、p=0.026)。・重篤な有害事象はプラセボ群53%、クラリスロマイシン群43%に発現した(群間差:9.4%、OR:1.46、95%CI:0.89~2.35)。重篤な有害事象は、いずれも治療薬との関連は認められなかった。

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歯磨きは入院患者の肺炎リスクを低下させる

 院内肺炎(hospital acquired pneumonia;HAP)は入院患者に発生する肺の感染症で、死亡率の上昇や入院期間の延長、医療費の増大などを招く恐れがある。しかし、毎日、歯を磨くことでHAP発症リスクを低減できる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。集中治療室(ICU)入室患者では、歯磨きにより死亡リスクが有意に低下する傾向も示された。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院内科のMichael Klompas氏と米ハーバード大学医学大学院Population Medicine分野のSelina Ehrenzeller氏によるこの研究結果は、「JAMA Internal Medicine」に12月18日掲載された。 Klompas氏は、「歯磨きが死亡リスク低下に対して驚くほど効果的なことが示唆された」と述べ、「病院での予防医学において、このような安価なのに高い効果を見込める方法は珍しい。今回の研究結果は、新しい機器や薬剤ではなく、歯磨きのような簡単なことが患者の転帰に大きな違いをもたらす可能性があることを示唆するものだ」との考えを示している。 Klompas氏らは、毎日の歯磨きが入院患者のHAP罹患やその他の患者転帰に与える影響を検討するために、総計1万742人の対象者(ICU入室患者2,033人、ICU非入室患者8,709人)から成る15件のランダム化比較試験を抽出。ICU以外の患者を対象にしたクラスターランダム化試験を有効なサンプルサイズに削減し、最終的に2,786人の患者を対象にメタアナリシスを行った。 その結果、毎日歯を磨いた患者ではHAP発症リスクが有意に低下し(リスク比0.67、95%信頼区間0.56〜0.81)、またICU入室患者では、歯を磨くことで死亡リスクも有意に低下することが明らかになった(同0.81、0.69〜0.95)。人工呼吸器装着の有無で分けて歯磨きによるHAP発症リスクの低下を見ると、人工呼吸器装着患者ではリスク低下は有意だったが(同0.68、0.57〜0.82)、非装着患者では有意ではなかった(同0.32、0.05〜2.02)。さらに、ICU入室患者では、歯磨きを行った患者では、歯磨きを行わなかった患者と比べて、人工呼吸器装着期間(平均差−1.24日、95%信頼区間−2.42〜−0.06)とICU入室期間(同−1.78、−2.85〜−0.70)が有意に短縮していた。 研究グループは、「肺炎は、口腔内の細菌が気道に吸い込まれて肺に感染することで発症する。フレイル状態にある患者や免疫力が低下している患者は、入院中に肺炎を発症するリスクが特に高まる。歯を毎日磨くことで口腔内の細菌量が減少し、肺炎の発症リスクが低下する可能性がある」と述べている。 また、研究グループは、「今回のレビューで対象とした研究のほとんどがICUで人工呼吸器を装着している患者を対象としていたものの、歯磨きの肺炎予防効果は他の入院患者にも当てはまるはずだ」との考えを示している。 Klompas氏は、「本研究で得られた知見は、入院患者に歯磨きを含む口腔衛生をルーチンで実施することの重要性を強調するものだ。われわれの研究が、入院患者が毎日確実に歯を磨くようにするための政策やプログラムのきっかけになることを願っている。患者が自分で歯を磨けない場合は、患者のケアチームのメンバーがサポートすると良いだろう」と話している。

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第198回 吸引して尿を調べるだけの手間いらずな肺がん診断法を開発

吸引して尿を調べるだけの手間いらずな肺がん診断法を開発初期肺がんの検診といえば低線量CT(LDCT)が標準となりつつあり、LDCT検診と肺がん患者の生存改善の関連が臨床試験で裏付けられています。しかしLDCTが普及している低~中所得国は少なく、普及している国であっても誰もが容易にLDCTを受けることができるというわけではありません。それに、本来不要な侵襲的検査を招く偽陽性も少なくはありません。そこで米国・マサチューセッツ工科大学(MIT)のSangeeta N. Bhatia氏らが率いるチームは、LDCTのような大掛かりな装置がなくとも初期肺がんを検出しうる簡便な検査法を開発し、その検査法で初期肺がんを正確に検出しうることをマウスでの検討で裏付けました1)。開発された検査は大きく分けて吸入と尿検査の2つの手順で構成されます。まず微粒子を吸入し、試験紙による尿検査でその微粒子由来の成分を検出します。吸い込む微粒子はポリマーの粒とそれを覆うDNAでできています。肺がんと関連するプロテアーゼによって切り離されたDNAは血中をめぐり、やがては尿中に排泄されて試験紙で検出することができます。初期肺がん(stageIの肺腺がん)と関連するプロテアーゼに対応する20種類の微粒子をヒトのような肺がんを発現するマウスに投与し、得られた測定結果を人工知能技術(機械学習)で解析したところ、最も正確な4種類が同定されました。その4種類の組み合わせの検出感度は84.6%、特異度は100%でした。開発された手段は非侵襲的で体を傷つける必要がなく、まず吸ってもらってしばらくしてから尿を採取するだけで事足ります。センサー役の微粒子は肺全体にくまなく行き届き、吸ってから尿検査までの時間もそれほどかかりません。マウスの検討では投与から2時間後に尿が採取されています。Bhatia氏らのチームはマウスの検討で見つかった4種類の組み合わせがヒトのがんも同様に検出しうるかどうかを、まずはヒトの生検検体を使って調べることを予定しています2)。がんの検出以外の使い道も検討されており、Bhatia氏らは肺炎の原因がウイルス、細菌、真菌のいずれなのかを同技術を利用して識別する取り組みを始めています3)。また、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などのほかの肺疾患の診断にも使えるかもしれません。Bhatia氏らは同技術の臨床試験をやがては実施することを目指していますが、同氏らが開発した似た技術による肝疾患2種・肝がんと非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の診断の検討はすでに臨床試験段階に至っています。ほかでもないBhatia氏を設立者の1人とするSunbird Bio社が第I相試験を実施しています2)。参考1)Zhong Q, et al. Sci Adv. 2024;10:eadj9591.2)Inhalable sensors could enable early lung cancer detection / Eurekalert3)How a Simple Urine Test Could Reveal Early-Stage Lung Cancer / MDedge

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第178回 COVID-19の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症

<先週の動き>1.COVID-19の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症2.大学病院勤務医の教育・研究の「研鑽」は労働時間と通知/厚労省3.保険医療機関に対する指導・監査、不正請求で19.7億円返還/厚労省4.救急車の過剰利用に対策、非入院患者に7,700円徴収開始/松坂市5.脳神経外科の不適切な手術記録や説明不十分な日赤病院に対して改善指示/京都市6.糖尿病を見落とし患者死亡、神戸徳洲会病院に改善命令/神戸市1.新型コロナウイルス感染症の後遺症、倦怠感が最多、女性に多く発症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が国内で初めて確認されてから4年が経過し、ウイルス感染後の後遺症が重要な課題となっている。世界保健機関(WHO)は「症状が少なくとも2ヵ月以上続き、ほかの病気の症状として説明がつかないもの」と定義し、通常はCOVID-19発症から「3ヵ月たった時点にもみられるもの」とされている。後遺症には疲労感、呼吸困難、集中力の低下など200以上のさまざまな症状が報告されており、北野病院の調査によると、後遺症患者のうち女性は68.8%で、男性は31.2%と女性が多かった。とくに働き盛りの年代で発症しやすい傾向があることが判明している。後遺症の原因としては、持続感染、免疫機能の異常、腸の具合の悪化などが指摘されている。また、後遺症の患者の約7割が女性であり、主な症状には倦怠感が最も多いことがわかってきた。後遺症のメカニズムについて、免疫機能に関わる物質の変化や、コルチゾールの減少、リンパ球の増加、ヘルペスウイルスの再活性化などが関連していることが示されている。ただ、後遺症の予防には、ワクチン接種が有効であり、ワクチン接種によって後遺症の発症を抑える効果があることが報告されている。一方で、治療法はまだ確立されておらず、対症療法が主になっている状況。後遺症の患者支援に、時短勤務や産業医の支援などが必要とされている。参考1)新型コロナ 国内で初確認から4年 感染と後遺症への対策が課題(NHK)2)多様なコロナ後遺症 国内発生4年 不明だった実態、徐々に明らかに(朝日新聞)3)コロナ後遺症、発症者の7割が女性 倦怠感が最多 民間病院調査(毎日新聞)4)働き盛りの女性がコロナ後遺症になりやすく 予防するには?(同)2.大学病院勤務医の教育・研究の「研鑽」は労働時間と通知/厚労省厚生労働省は、1月15日に「大学病院に勤務する医師の教育・研究活動に関連する「研鑽」を労働時間に含めるべき」とする通知を改正した。これは、医師の働き方改革の一環として行われたもので、2024年4月から勤務医の時間外労働に上限が設けられることに伴う措置。改正された通知では、大学病院勤務医の教育・研究活動が本来の業務に含まれることを明示し、これに関連する研鑽も労働時間に該当するとされた。具体的には、医学部生への講義、試験問題の作成・採点、学生の論文指導、入学試験や国家試験に関する事務などが含まれる。この改正は、教育・研究活動が自己研鑽として扱われることによる時間外労働の問題を解決するためのもので、医師と上司間のコミュニケーションを重視し、正しい理解を促すことを目的としている。参考1)医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について(厚労省)2)医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方についての運用に当たっての留意事項について」の一部改正について 新旧対照表(同)3)大学病院勤務医、教育・研究の「研鑽」は労働に該当 厚労省が明示(朝日新聞)3.保険医療機関に対する指導・監査、不正請求で19.7億円返還/厚労省厚生労働省は、2022年度の保険医療機関と薬局に対する指導・監査の結果、不正請求などで保険指定が取り消された施設は計18件(取り消し相当を含む)であったことを明らかにした。厚労省の指導・監査によって、医療機関や薬局からの返還総額は約19.7億円となり、コロナ感染拡大の影響もあり前年度からは約28.7億円減少していた。取り消し処分を受けた施設の内訳は、医科7件、歯科9件、薬局2件で、医療保険者や医療機関の従事者からの通報・情報提供が処分のきっかけとなったケースが多かった。また、保険医や保険薬剤師の登録取り消しは計14人に上った。不正請求の内容は架空請求、付増請求、振替請求など多岐にわたり、監査は診療内容や診療報酬の請求に不正やいちじるしい不当が疑われる場合に実施された。指導・監査の実施件数は、個別指導が1,505件、新規個別指導が6,742件、適時調査が2,303件、監査が52件となっている。参考1)令和4年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(厚労省)2)保険医療機関・薬局の指定取消計18件 22年度、返還19.7億円(CB news)3)不正請求等で18件・14人の医師等が保険指定取り消し等の処分、診療報酬20億円弱を返還-2022年度指導・監査(Gem Med)4.救急車の過剰利用に対策、非入院患者に7,700円徴収開始/松坂市三重県松阪市は、2024年6月1日から、市内の3つの基幹病院(松阪中央総合病院、済生会松阪総合病院、松阪市民病院)に救急搬送されたが入院に至らなかった患者に対し、保険適用外の「選定療養費」として1件あたり7,700円(税込み)を徴収することを発表した。この措置は、救急車の過剰利用に歯止めをかけるために行われる。松坂市の救急車の出動件数は、2023年に過去最多の1万6,180件に達し、市は現行の医療体制が限界に近付いていると判断した。この新しい制度は、軽症者に救急車以外の選択肢を促し、医療従事者の負担軽減と緊急患者への適切な医療提供を目指している。ただし、紹介状を持参した患者や公費負担医療制度の対象者、医師の判断で必要とされる場合は徴収対象外とされる。参考1)6月から1件7,700円を徴収 救急車“便利使い”歯止め 三重・松阪市(夕刊三重)2)救急車はもはや“有料化”すべき? 出動件数「過去最高」というハードな現実、賛否渦巻くワケとは(Merkmal)3)三重・松坂の救急搬送、入院しなかったら「7,700円」徴収へ…出動急増で「助かる命が助からない」(読売新聞)5.脳神経外科の不適切な手術記録や説明不十分な日赤病院に対して改善指示/京都市京都市の京都第一赤十字病院の脳神経外科で、手術の説明や記録が不十分だった事例が発覚し、京都市は同病院に対して改善を求める行政指導を行った。この問題は、病院関係者からの通報を受け、京都市が立ち入り検査を実施した結果、明らかになったもの。市の調査では、脳腫瘍やくも膜下出血などの手術において、患者や家族への説明の不備や、医療安全管理委員会への報告不足が確認された。さらに、手術や治療後に患者が死亡した12件の重大なケースについても、市は再検証を要求している。京都第一赤十字病院は、行政指導を真摯に受け止め、適切に対応する意向を示している。参考1)手術説明不十分、京都第一赤十字病院に行政指導 患者死亡の重大事例12件も(産経新聞)2)京都第一赤十字病院、手術の説明や記録で不適切対応 京都市が行政指導(京都新聞)3)手術の説明や記録不十分 京都市が病院に改善求める行政指導(NHK)6.糖尿病を見落とし患者死亡、神戸徳洲会病院に改善命令/神戸市神戸市の神戸徳洲会病院で、70代の男性患者が糖尿病の治療を受けずに死亡した問題について、神戸市は医療法に基づく改善命令を出す方針を固めた。この患者は新型コロナウイルス感染症に感染し、肺炎の悪化により一時的に大学病院に転院した後、徳洲会病院に戻ったが、糖尿病の持病があるにも関わらず、主治医である院長がこれを見落とし、インスリンの投与などの必要な治療が行われていなかった。同病院は、この事態を内部で検証したが、結論を出さずに放置していたとされている。神戸徳洲会病院は、以前から安全管理体制に問題があり、昨年8月にはカテーテル治療を受けた別の患者が複数死亡した事件に関連して行政指導を受けていた。兵庫県内で医療法に基づく改善命令が出されるのはこれが初めて。参考1)糖尿病既往歴見落とし、入院患者死亡 神戸徳洲会病院に改善命令へ(毎日新聞)2)神戸徳洲会病院に市が改善命令へ 入院患者に糖尿病治療行わず(NHK)

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口腔健康状態が誤嚥性肺炎の入院期間に影響/東京医科歯科大

 誤嚥性肺炎などでは、転帰に患者の口腔健康状態が関係することがよく知られている。それでは、その影響がさらにどのように作用するのであろうか。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の山口 浩平氏らの研究グループは、誤嚥性肺炎高齢患者の入院時口腔健康状態が院内転帰に及ぼす影響を前向きコホート研究で実施し、結果を報告した。口腔健康状態の悪い患者の入院期間は長くなる可能性があるというものだった。European Geriatric Medicine誌オンライン版2024年1月12日号の報告。誤嚥性肺炎では口腔内の健康状態も重要 高齢の誤嚥性肺炎患者で、入院時の口腔衛生状態が入院中の転帰に及ぼす影響と、入院中に口腔衛生状態がどのように変化するかを調査した。 対象は、誤嚥性肺炎と診断され急性期病院に入院した65歳以上の患者であった。患者の基本的健康情報、入院期間(LOS)、口腔健康評価ツール(OHAT)、機能的口腔摂取尺度(FOIS)、肺炎重症度指数および臨床的虚弱度尺度スコアを記録した。患者をOHATスコアの中央値に基づいて2群に分け、群間変化を時間関数として解析し、LOS、退院時のFOISスコア、入院時のOHATスコアの関係を重回帰分析にて検討した。 主な結果は以下のとおり。・89例(52例が男性、平均年齢84.8±7.9歳)のうち75例が退院した。・口腔衛生状態はOHATによる初回評価後3週間にわたり毎週測定され、スコアの中央値は7点で、有意な群間差が認められた。・OHATスコアは両群とも入院期間を通じて改善した。・入院時のOHATスコアは、LOSと独立して関連していた(B=5.51、p=0.009)。 山口氏は「入院時の口腔衛生状態の不良は入院期間の延長と関連していた。高OHAT群と低OHAT群の両方でOHATスコアの改善が認められた。口腔健康状態は、誤嚥性肺炎の発症予防および治療において重要」と結論付けている。

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第80回 外来で増えた「私も抗MDA5抗体ですか?」

Unaplashより使用八代 亜紀さんが、抗MDA5抗体陽性の間質性肺炎増悪のため逝去されました。東日本大震災のときに被災地に行って歌っていたのが印象的でした。彼女が亡くなってからというもの、膠原病関連間質性肺疾患で通院している患者さんから「私も八代 亜紀さんのように肺炎が急速に悪化しないでしょうか?」「私も抗MDA5抗体陽性でしょうか?」という質問が増えました。確かに心配になりますよね。ただ、現在通院している人が実は抗MDA5抗体陽性でした、ということは今の日本の診療ではほとんどないと思います。たぶん。抗MDA5抗体陽性の皮膚筋炎は通称、CADM(Clinically amyopathic dermatomyositis:筋症状のない皮膚筋炎)と呼ばれていますが、その他の膠原病と比較して重症の間質性肺炎を起こしやすい特徴があります。この抗体が陽性になった場合、「スイッチが入る」と表現する医師が多いです。同抗体が測定されないと診断しようがないのは事実ですが、皮膚筋炎をみたときにはチェックしておきたいですし、手の潰瘍やGottron徴候・逆Gottron徴候があるのに抗核抗体が陰性ならば疑う必要があります1)。そして、この疾患を診療していくうえで、とにかく重要なのはフェリチンと考えられます。抗MDA5抗体陽性例では、フェリチン高値(≧500ng/mL)は死亡リスクが高くなり、高いほど予後不良になっていきます2)。「同じ病気」で死去したとされるのが美空 ひばりさんです。Wikipediaによると、最後の1年では「脚の激痛と息苦しさで、歌う時はほとんど動かないままの歌唱であった。この頃すでに、ひばりの直接的な死因となった『間質性肺炎』の症状が出始めていたとされており、立っているだけでも限界であったひばりは、歌を歌い終わるたびに椅子に腰掛け、息を整えていたという。」と記載されています。当時は抗MDA5抗体なんて知る由もなかった時代ですし、膠原病関連間質性肺疾患でさえ存在があまり知られていなかったと思われます。ただ、彼女は肝硬変やCOPDも合併していましたし、亡くなる数年前から症状が出ていることから、「同じ病気」とは断定できないと思っております。参考文献・参考サイト1)Chen F, et al. Anti-MDA5 antibody is associated with A/SIP and decreased T cells in peripheral blood and predicts poor prognosis of ILD in Chinese patients with dermatomyositis. Rheumatology international. 2012;32:3909-3915.2)Goto T, et al. Clinical manifestation and prognostic factor in anti-melanoma differentiation-associated gene 5 antibody-associated interstitial lung disease as a complication of dermatomyositis. Rheumatology. 2010 Sep;49(9):1713-1719.

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高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 原著論文 Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults./NEJM―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2023年夏以降、急性呼吸器感染症として新型コロナに加え、季節性インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)の3種類のウイルス感染に注意すべき新時代に突入した。興味深い事実として、新型コロナが世界に播種した2020年度にはインフルエンザ、RSVの感染は低く抑えられていたが、2021年度以降、両ウイルス感染は2019年以前のレベルに戻りつつある。この場合、インフルエンザは11月~1月、RSVは7月~8月に感染ピークを呈した。 本邦にあっては、RSVは主として幼児/小児の感染症として位置付けられており、ウイルス感染症の有意な危険因子である高齢者に対する配慮が不十分であった。本論評では、高齢者RSV感染に適用される新たな遺伝子組み換えProtein-based vaccine(RSVPreF3 OA、商品名:アレックスビー筋注用、グラクソ・スミスクライン)とGene-based vaccine(mRNA-1345、Moderna)に関する治験結果を基に、高齢者RSV感染症の全体像について考察する。RSVの分子生物学 RSVは1956年に同定されたParamyxovirus科のPneumovirus属に分類されるウイルスである。エンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示す一本鎖(-)RNAウイルスで、10種の遺伝子をコードする15,000個の塩基からなる。RSVにあって宿主細胞との接着、侵入を司るのがウイルス表面に発現する1,345個のアミノ酸配列を有するF蛋白(膜融合前F蛋白)である(コロナウイルスのS蛋白に相当)。RSVは表面抗原であるG蛋白の違いによってA型とB型の2種類の亜型に分類されるが、両者の膜融合前F蛋白には明確な差を認めない。RSVの自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。高齢者RSV感染の疫学 すべての新生児において母親と同程度のRSV抗体(母体からの移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し、生後7ヵ月目以降のRSV抗体は生後に起こった新規自然感染に由来する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、生涯を通して再感染を繰り返す。RSV感染の最大の脅威は生後3ヵ月以内の乳児、未熟児、先天性心疾患を有する小児であることは間違いないが、近年、成人、とくに、高齢者におけるRSV感染の重要性が指摘されている。 欧米の検討では、看護施設に入所中の高齢者のうち年間で5~10%がRSVに罹患、うち10~20%が肺炎を合併、2~5%が死亡すると報告されている。さらに、65歳以上の高齢者にあってA型インフルエンザによる死亡が毎年3.7万人であるのに対し、RSVによる死亡は毎年1万人(インフルエンザの約30%)に達すると報告されている。18歳以上の成人を対象とした検討では、基礎疾患として喘息、COPD、糖尿病、冠動脈疾患、うっ血性心不全を有する人のRSV感染による入院比率は、基礎疾患を有さない人に比べ有意に高いことが示されている。高齢に加え、上記の基礎疾患は新型コロナ、季節性インフルエンザ感染の増悪因子としても作用するので、ウイルス性呼吸器感染症の普遍的危険因子として念頭に置く必要がある。インフルエンザ感染との比較において、RSV感染のほうが入院した症例の肺炎合併頻度、基礎疾患として存在する喘息、COPDの増悪頻度が高いことが示されている。 本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、本邦独自の成人データは集積されていない。2024年以降、3種のウイルスによる急性呼吸器感染症の本邦における重要性を確立するためには、RSV感染症に関する情報収集は成人を含めた広範囲な対象に広げる必要があり、早期の法的整備を望むものである。先進国のデータからの外挿値ではあるが、本邦の60歳以上の高齢者におけるRSV感染による入院者数は毎年6.3万人、死亡者数は4.5千人と推定されている(Savic M, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2023;17:e13031.)。RSVワクチン開発の軌跡 RSVに対するワクチン製造は1960年代に開始され、当初は不活化されたRSVを生体に導入する不活化ワクチンが中心であった。しかしながら、不活化ワクチンを用いた臨床治験の結果は悲惨なものであった。失敗の原因は、不活化ワクチンの導入によってウイルス殺傷能力の低い不適切IgG抗体が産生され抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)が発生したためである。それ以降の検討で、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的な働きをする膜融合前F蛋白の重要性が明らかにされ、それを標的として20世紀後半から現在に通じるモノクローナル抗体薬(mAb)、ワクチンの製造が開始された。まず初めに、膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えmAbであるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のハイリスクを有する新生児、乳児、幼児のRSV感染に伴う下気道感染の重症化阻止治療薬として使用されている(本邦承認:2002年1月)。現在、パリビズマブの半減期を延長させたニルセビマブの開発が進行中である。 新型コロナ発生に伴い、高度の蛋白・遺伝子工学手法を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、1つ目はGene-based vaccineであり、標的S蛋白をコードするmRNAをヒトに直接導入するもの(ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックスなど)、2つ目はProtein-based vaccineあるいはSubunit vaccineと定義されるもので、S蛋白に関する遺伝子情報をヒト以外の細胞に導入しS蛋白を生成、それをヒトに接種するものであった(ノババックス[武田]のヌバキソビッドなど)。2017年以降、以上と質的に同様のワクチンが、RSVの膜融合前F蛋白を標的として作成され始めた。高齢者に対する治験結果が報告されているProtein-based vaccineとしては、アレックスビー筋注用(GSK)とアブリスボ筋注用(ファイザー)がある。アレックスビー筋注用は2023年9月に、60歳以上の高齢者に対するRSV予防ワクチンとして本邦で製造承認された(米国での承認は2023年5月)。2023年12月、GSKはアレックスビー筋注用の適用を50歳以上の成人に拡大する申請を厚労省に提出した。 米国においては、アブリスボ筋注用も60歳以上の高齢者に使用可能である(2023年8月承認)。しかしながら、アブリスボ筋注用の特記事項は、本ワクチンを妊娠24~36週の妊婦に1回接種し、母体で作られた抗体を胎児に移行させるという斬新な方法が提示されたことである(米国での承認:2023年8月)。この方法によって新生児のRSV感染に由来する重症下気道感染を予防できるようになった(生後3ヵ月以内のRSV感染による重症化予防率:81.8%、生後6ヵ月以内の重症化予防率:69.4%)。本邦にあっては、アブリスボ筋注用は母体/新生児用として認可されているが(2023年11月)、高齢者用としては認可されていないことに注意する必要がある。 RSV膜融合前F蛋白を標的とした高齢者用のGene-based vaccineとしてmRNA-1345(Moderna)の開発が進められている。2023年現在、本ワクチンは、米国、スイス、オーストラリアなどにおいて製造承認の申請が始まっているが、本邦においても2024年度内に製造申請がなされるものと予測される。高齢者におけるRSVワクチンの予防効果 Papiらは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験の結果を報告した(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。中央値が6.7ヵ月の追跡期間においてRSVの下気道感染全体に対する有効率(予防効果)は82.6%であった。RSV感染の重症化因子(COPD、喘息、慢性心不全、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患)を有する対象での下気道感染症に対する有効率は94.6%であった。これらの結果は、アレックスビー筋注用が高齢者のRSV感染全体に対して臨床的に意義ある予防効果を発揮することを示す。RSV-A型に対する下気道感染に対する有効率は84.6%、RSV-B型に対する有効率は80.9%と両亜型間でほぼ同等の有効率を示した。 Wilsonらは60歳以上の高齢者3万5,541例を対象としたmRNA-1345に関する国際共同無作為化二重盲検第III相試験の結果を発表した(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。追跡期間の中央値は3.7ヵ月でRSV関連下気道感染に対する予防有効率は83.7%であった。基礎疾患の有無、RSV亜型による予防有効率に明確な差を認めなかった。以上より、Gene-based vaccineであるmRNA-1345のRSV感染抑制効果はProtein-based vaccineアレックスビー筋注用と同等であり、2024年度内に本邦を含め世界各国で承認されるものと期待される。 高齢者に対するRSVワクチンにあって今後の課題の1つがワクチンの年間接種回数である。しかしながら、RSVにあっては年1回の流行ピークが同定されているので、その時期に合わせた年1回のワクチン接種で十分だと論者らは考えている。RSVに関するもうひとつの課題は抗ウイルス薬の確立で早期の開発が望まれる。

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チャットGPTとの連携で医師の診断精度は向上する?

 医師は優れた意思決定者であるが、それでも、チャットGPTの確率に基づく推論を考慮することが診断に大いに役立つ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのAdam Rodman氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に12月11日掲載された。 Rodman氏は同センターのニュースリリースで、「人間は確率的推論、つまり確率を計算した上で決断を下すことに苦労している。確率的推論は診断を下す際に不可欠な要素の一つであるが、そのプロセスはさまざまな認知的戦略を必要とし、極めて複雑だ。その一方で、確率的推論は人間がサポートを利用できる領域でもある。それゆえ、われわれは確率的推論を単独で評価することにした」と研究背景を説明する。 この研究では、過去の調査データを用いて、医師による確率的推論とOpenAI社が開発した大規模言語モデル(LLM)であるGPT-4による確率的推論の比較が行われた。調査データは、2018年6月1日から2019年11月26日の間に収集されたもので、553人の医師が5つの症例について確率的推論を行い、診断を下していた。症例には、肺炎の胸部X線画像、乳がんのマンモグラフィの画像、冠動脈疾患のストレステスト、尿路感染症の尿培養などの医療検査の情報が含まれていた。Rodman氏らは同じ情報をGPT-4にも与え、温度(AIが生成する内容のランダム性や創造性を調整するパラメーターで、高いほど出力内容が多様になる)1.0の設定で症例ごとにLLMを100回実行。その結果から推定値の中央値を算出し、人間のパフォーマンスと比較した。 その結果、GPT-4は5つの症例全てで、検査結果が陰性だった場合の検査前確率と検査後確率において、人間よりも誤差が小さいことが明らかになった。例えば、無症候性の細菌感染症例の場合、検査前確率はGPT-4で26%、人間で20%、平均絶対誤差(平均絶対パーセンテージ誤差)はそれぞれ、26.2(5240%)と32.2(6450%)であり、GPT-4の方が人間よりも予測精度が高かった。Rodman氏はこの結果を受け、「人間は、検査での陰性判定後にリスクを実際よりも高く見積もることがあり、それが過剰治療や検査数の増加、薬剤の過剰投与につながることがある」と説明している。 また、全体的に見て、GPT-4は人間よりも、特に検査で陰性が判明した症例において予測のばらつきが少なく、より一貫性のある予測を行っていることがうかがわれた。さらに、GPT-4の検査での陽性判明後の検査後確率は、2症例では人間よりも正確であり、別の2症例での正確度は同等であり、1症例では人間の方が正確だった。 研究グループは、将来的には医師がAIと連携して、患者の診断をより正確に行えるようになる可能性があるとの見方を示す。Rodman氏はその見通しを「胸躍るような未来」と話す。同氏は、「まだ不完全ではあるが、チャットボットは使いやすく、また臨床ワークフローに組み込みやすいことを考えると、理論的には、人間がより的確な判断を下すのに有用だろう。人間とAIの連携に焦点を当てた研究が急務である」と述べている。

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非典型症例と類似疾患を知ってCommon Diseaseを極める

Common Diseaseの画像所見を整理し深く理解「臨床放射線」68巻12号(2023年12月臨時増刊号)日々の診療でよく目にする疾患、Common Diseaseであっても、非典型的な所見を知らないと正しい診断にたどり着けないことがあります。また、典型的所見であっても、画像診断を行ううえで類似の所見を示す他の疾患との鑑別は欠かせません。そこで本年の臨時増刊号は「非典型症例と類似疾患を知ってCommon Diseaseを極める」と題し、放射線科の関係者が日々取り組むCommon Diseaseの画像診断に役立つ特集を企画しました。日常診療のレベルアップにご用立てください。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    非典型症例と類似疾患を知ってCommon Diseaseを極める定価9,350円(税込)判型B5判頁数270頁発行2023年12月編集「臨床放射線」編集委員会電子版でご購入の場合はこちら

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第194回 能登半島地震、被災地の医療現場でこれから起こること、求められることとは~東日本大震災の取材経験から~

木造家屋の倒壊の多く死因は圧死や窒息死こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。元日に起きた、最大震度7を観測した能登半島地震から9日が経過しました。最も被害が大きかった石川県では、1月9日現在、死者202人、負傷者565人、安否不明者102人と発表されています。1月8日現在の避難者数は2万8,160人とのことです。テレビや新聞などの報道をみていると、木造家屋の倒壊の多いことがわかります。その結果、死因は圧死や窒息死が大半を占めているようです。道路の寸断などによって孤立している集落がまだ数多く、避難所の中にも停電や断水が続いているところもあります。さらには、避難所が満員で入所できない人も多いようです(NHKニュースではビニールハウスに避難している人の姿を伝えていました)。本格的な冬が訪れる前に、被災した方々が、まずは一刻でも早く、ライフラインや食料が整った避難所やみなし避難所(宿泊施設等)への避難できることを願っています。東日本大震災との大きな違い1995年に起きた阪神・淡路大震災では、約80%が建物倒壊による圧死や窒息死でした。このときの教訓をもとに組織されたのがDMATです。しかし、2011年に起きた東日本大震災では津波の被害が甚大で、死亡者の8〜9割が溺死でした。震災直後、私は被災地の医療提供体制を取材するため宮城県の気仙沼市や石巻市に入りましたが、阪神・淡路と同じような状況を想定して現地入りしたDMATの医師たちが、「数多くの溺死者の前でなすすべもなかった」と話していたのを覚えています。今回の地震は、津波の被害より建物倒壊の被害が圧倒的に多く、その意味で震災直後のDMATなどの医療支援チームのニーズは大きいと考えられます。ただ、道路の寸断などで、物資や医療の支援が行き届くまでに相当な時間が掛かりそうなのが気掛かりです。これから重要となってくるのは“急性期”後、“慢性期”の医療支援震災医療は、ともすれば被災直後のDMATなどによる“急性期”の医療支援に注目が集まりますが、むしろ重要となってくるのは、その後に続く、“慢性期”の医療支援だということは、今では日本における震災医療の常識となっています。外傷や低体温症といった直接被害に対する医療提供に加え、避難所等での感染症(呼吸器、消化器)や血栓塞栓症などにも気を付けていかなければなりません。その後、数週間、数ヵ月と経過するにつれて、ストレスによる不眠や交感神経の緊張等が高血圧や血栓傾向の亢進につながり、高血圧関連の循環器疾患(脳梗塞、心筋梗塞、大動脈解離、心不全など)が増えてくるとされています。そのほか、消化性潰瘍や消化管穿孔、肺炎も震災直後に増えるとのデータもあります。DMAT後の医療支援は、東日本大震災の時のように、日本医師会(JMAT)、各病院団体や、日本プライマリ・ケア連合学会などの学会関連団体が組織する医療支援チームなどが担っていくことになると思われますが、過去の大震災時と同様、単発的ではなく、長く継続的な医療支援が必要となるでしょう。ちなみに厚生労働省調べでは、1月8日現在、石川県で活動する主な医療支援チームはDMAT195隊、JMAT8隊、AMAT(全日本病院医療支援班)9隊、DPAT(災害派遣精神医療チーム)14隊とのことです。避難所や自宅で暮らす高齢者に対する在宅医療のニーズが高まる医療・保健面では、高血圧や糖尿病、その他のさまざまな慢性疾患を抱えて避難所や地域で暮らす多くの高齢者の医療や健康管理を今後どう行っていくかが大きな課題となります。そして、避難所や自宅で暮らす住民に対する在宅医療の提供も必要になってきます。東日本大震災では、病院や介護施設への入院・入所を中心としてきたそれまでの医療提供体制の問題点が浮き彫りになりました。震災被害によって被災者が病院・診療所に通えなくなり、在宅医療のニーズが急拡大したのです。この時、気仙沼市では、JMATの医療支援チームとして入っていた医師を中心に気仙沼巡回療養支援隊が組織され、突発的な在宅医療のニーズに対応。その支援は約半年間続き、その時にできた在宅医療の体制が地域に普及・定着していきました。奥能登はそもそも医療機関のリソースが少なかった上に、道路が寸断されてしまったこと、地域の高齢化率が50%近いという状況から、地域住民の医療機関への「通院」は東日本大震災の時と同様、相当困難になるのではないでしょうか。東日本大震災が起こった時、気仙沼市の高齢化率は30%でした。今回、被害が大きかった奥能登の市町村の高齢化率は45%を超えています(珠洲市50%、輪島市46% 、いずれも2020年)。「気仙沼は日本の10年先の姿だ」と当時は思ったのですが、奥能登は20年、30年先の日本の姿と言えるかもしれません。テレビ報道を見ていても、本当に高齢者ばかりなのが気になります。東日本大震災では、被災直後からさまざまな活動に取り組み始めた若者たちがいたのが印象的でした。しかし、これまでの報道を見る限り、被災者たちは多くが高齢で“受け身”です。東日本大震災や熊本地震のときよりも、個々の被災者に対する支援の度合いは大きなものにならざるを得ないでしょう。プライマリ・ケア、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、多職種による医療・介護の連携これからの医療提供で求められるのは、プライマリ・ケアの診療技術であり、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、そしてさまざまな多職種による医療・介護の連携ということになるでしょう。東日本大震災、熊本地震、そして新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで日本の医療関係者たちは多くのことを学んできたはずです。日本医師会をはじめとする医療関係団体の真の“力”が試される時だと言えます。ところで、被災した市町村の一つである七尾市には、私も幾度か取材したことがある、社会医療法人財団董仙会・恵寿総合病院(426床)があります。同病院は関連法人が運営する約30の施設と共に医療・介護・福祉の複合体、けいじゅヘルスケアシステムを構築し、シームレスなサービスを展開してきました。同病院も大きな被害を被ったとの報道がありますが、これまで構築してきたけいじゅヘルスケアシステムという社会インフラは、これからの被災地医療の“核”ともなり得るでしょう。頑張ってほしいと思います。耐震化率の低さは政治家や行政による不作為にも責任それにしても、なぜあれほど多くの木造住宅が倒壊してしまったのでしょうか。1月6日付の日本経済新聞は、その原因は奥能登地方の住宅の低い耐震化率にある、と書いています。全国では9割近くの住宅が耐震化しているのに対して、たとえば珠洲市では2018年末時点で基準をクリアしたのは51%に留まっていたそうです。ちなみに輪島市は2022年度末時点で46%でした。耐震化は都市部で進んでいる一方、過疎地では大きく遅れているのです。その耐震基準ですが、建築基準法改正で「震度5強程度で損壊しない」から「震度6強〜7でも倒壊しない」に引き上げられたのは1981年、実に40年以上も前のことです。きっかけは1978年の宮城県沖地震(当時の基準で震度は5、約7,500棟の建物が全半壊)でした。仙台で学生生活を送っていた私は、市内で地震に遭遇、ブロック塀があちこち倒れまくった住宅街の道路を自転車で下宿まで帰ってきた記憶があります。各地域(家の建て替えがないなど)や個人の事情はあるとは思いますが、法改正後40年経っても耐震化が進んでおらず、被害が大きくなってしまった理由として、政治家(石川県選出の国会議員)や行政による不作為もあるのではないでしょうか。もう引退しましたが、あの大物政治家は石川県にいったい何の貢献をしてきたのでしょうか。お金をかけてオリンピックを開催しても、過疎地の住民の命は守れません。いずれにせよ、全国各地の過疎地の住宅の耐震化をしっかり進めておかないと、また同じような震災被害が起こります。政府にはそのあたりの検証もしっかりと行ってもらいたいと思います。

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65歳未満の成人に対する遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性(解説:小金丸博氏)

 65歳未満の成人に対する遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの有効性を鶏卵由来の従来ワクチンと比較したクラスターランダム化比較試験の結果が、NEJM誌2023年12月14日号に報告された。研究対象集団には18歳から64歳までのワクチン接種者163万328例が含まれた(組み換えワクチン群63万2,962例、従来ワクチン群99万7,366例)。研究期間中に組み換えワクチン群で1,386例、従来ワクチン群で2,435例のインフルエンザがPCR検査で診断された。50~64歳の参加者では、従来ワクチン群では925例(1,000例当たり2.34例)がインフルエンザと診断されたのに対し、組み換えワクチン群では559例(1,000例当たり2.00例)がインフルエンザと診断された(相対的なワクチン有効性15.3%、95%信頼区間:5.9~23.8、p=0.002)。組み換えワクチンは従来ワクチンと比べて、インフルエンザ関連の入院に対する予防効果は有意に高くはなかった。 50~64歳の成人において、遺伝子組み換えインフルエンザワクチンは鶏卵由来の従来ワクチンと比較して感染予防効果が有意に高いことが示された。従来ワクチンと比べて相対リスクで15.3%低下させたという結果は、従来ワクチンの感染予防効果がおおむね40~60%程度ということを考えると、上乗せ効果として決して低い数字ではないと考える。インフルエンザ関連の入院や市中肺炎による入院を有意に減少させる効果は示されなかったが、どちらも16%程度の相対的な有効性を認めた。試験対象者の入院率が決して高くない年齢層であることを考えると、一定の効果を示したと思われる。 遺伝子組み換えインフルエンザワクチンの特徴として、従来の鶏卵由来のインフルエンザワクチンの3倍量のヘマグルチニン蛋白を含んでいることが挙げられる。過去の研究では、高齢者において高用量のインフルエンザワクチンのほうが標準用量のワクチンと比べて感染予防効果が高いことが示されており、今回、65歳未満の成人を対象とした本研究でも有効性が示された。ワクチンに含まれる抗原量が増えることで、免疫原性が高まると考えられている。 また、遺伝子組み換えワクチンでは鶏卵由来のワクチンの製造中に生じる抗原変異(antigenic drift)の影響を受けないことも特徴の1つである。本研究で遺伝子組み換えワクチンの有効性が鶏卵由来のワクチンより改善した理由についてはよくわからないが、この点も寄与した可能性は考えられる。 本研究のLimitationとして、2シーズンに限定された試験であること、インフルエンザの診断にPCR検査のみを用いたこと、入院や死亡など65歳未満の成人では頻度の低い転帰を検討するには検出パワーが限られていたことなどが挙げられる。これらの点が本研究結果の一般化を制限する可能性がある。 遺伝子組み換えインフルエンザワクチンは本邦ではまだ認可されていないタイプのワクチンであり、今後の国内導入に向けて話が進むかどうか注目したい。

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