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第106回 肺炎球菌ワクチン、「プレベナー20」一強時代の到来か

「プレベナー20」とは成人・小児共に最も有効かつエビデンスがある肺炎球菌ワクチンは「プレベナー20®水性懸濁注」(PCV20)です。小児における、「肺炎球菌(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、8、9V、10A、11A、12F、14、15B、18C、19A、19F、22F、23F及び33F)による侵襲性感染症の予防」を効能または効果として、2024年10月から定期接種される見込みです。え…?10月…ッ!!?( ゚д゚) …   (つд⊂)ゴシゴシ  (;゚ Д゚) …!?ええっと、今7月ですよね。医療機関の契約変更、医師会やクリニックの調整、そして予診票…、もろもろの準備、間に合うんでしょうか。その想定を受けて水面下で定期接種の話が進んでいたものと推察されるので、ちゃんと間に合わせてくるのかもしれません。プレベナー13(PCV13)はPCV20の入れ替わりのような形で供給が終了になっていくものと予想されます。どちらもファイザー社製品なので、供給のバランスを取ればいいだけです。本当は、成人にも使いたいできれば成人にもPCV20を使いたいところです。――というのも、海外ではPCV20を接種するのが当たり前になっているためです。国際的には、肺炎球菌感染症のリスクが高い成人については、基本的にPCV20が推奨されています。これまで定期接種に長らく使われてきたニューモバックス(PPSV23)は、2024年4月から助成の範囲が縮小されました。5の倍数の年齢ごとにチャンスがあったものが、65歳固定になりました。基礎疾患がある場合は、60~64歳と広めに対象が設定されていますが、「チャンスが減った」ということで今後も接種率は低くなっていくかもしれません。…まあ、もともと接種率が低いんですけど…。現在、新しい肺炎球菌ワクチンとして、バクニュバンス(PCV15)が小児および成人を対象として用いられています。ただ、国際的にはPCV15を接種する場合、1年後にPPSV23を追加接種するほうが予防効果が高いとされています。現在65歳の方は、助成をフルに活用するならPPSV23→PCV15の順番で接種することが望ましいかもしれません。ただ、1回のワクチンが1万円→数千円になるくらいの助成なので、そこまでこだわらなくてもよいのではないかと思っていますが。いずれにしても、PCV15+PPSV23の連続接種が完了すると、PCV20単独よりも3つの血清型に追加防御が生じるため、こちらのほうを好む専門家もいます1)。PCV13は成人にも使用することができますが、PCV13の代わりにPCV20を導入することで、医療費の削減効果は2,039億円あるとされており、労働産生的な損失も加味すると、費用削減としては約3,526億円の効果が期待できるとされています2)。画像を拡大する図. 3種のワクチン接種プログラム(人口当たり)の費用対効果(文献2より引用、CC BY 4.0)図は、右軸にQALYの増加、縦軸に費用の増加をプロットしており、PCV13から他ワクチンに置き換わった場合の効果および費用の増分を算出しています。医薬品のアプレイザル(総合評価)では、かなりポジティブなデータとなっています。…なので、どの方向に転んでも、現時点でのエビデンスでは「PCV20推し」となるわけです。さて、肺炎球菌ワクチンは今後どうなるのか、要注目です!ちなみに、私は肺炎球菌ワクチンに関して、開示すべきCOIはありません!参考文献・参考サイト1)Mt-Isa S, et al. Matching-adjusted indirect comparison of pneumococcal vaccines V114 and PCV20 Expert Rev Vaccines. 2022 Jan;21(1):115-123.2)Shinjoh M, et al. Cost-effectiveness analysis of 20-valent pneumococcal conjugate vaccine for routine pediatric vaccination programs in Japan. Expert Rev Vaccines. 2024 Jan-Dec;23(1):485-497.

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統合失調症の肺炎リスクと抗精神病薬や抗コリン負荷との関連

 観察研究において、抗精神病薬は肺炎リスクと関連していることが示唆されているが、抗精神病薬の使用が肺炎リスクにどの程度影響を及ぼすのか、用量反応性、各薬剤と特異的に関連するかは不明である。オランダ・アムステルダム大学のJurjen J. Luykx氏らは、特定の抗精神病薬に関連する肺炎リスクを推定し、多剤併用療法、投与量、受容体結合特性が統合失調症患者の肺炎と関連しているかを調査した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2024年6月26日号の報告。 対象は、1972〜2014年のフィンランドレジストリデータより特定された、16歳以上の統合失調症または統合失調感情障害患者。診断、入院治療、専門外来治療に関するデータは退院レジストリ、外来での治療薬に関するデーは処方箋レジストリより収集した。フォローアップ期間は1996〜2017年、データ分析は2022年11月4日〜2023年12月5日に実施した。抗精神病薬の使用量は、用量別に低用量群(WHOが定義する1日用量[DDD]:0.6未満)、中用量群(DDD:0.6〜1.1)、高用量群(DDD:1.1以上)に分類した。特定の抗精神病薬単剤療法、多剤併用療法、抗コリン負荷に応じて、低、中、高に分類した。主要アウトカムは、肺炎発症による入院とした。肺炎リスクは、抗精神病薬未使用の場合を基準とし、調整済み個別(within-individual)Cox比例ハザード回帰モデルを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、統合失調症患者6万1,889例、平均年齢は46.2±16.0歳、男性の割合は50.3%(3万1,104例)であった。・22年間のフォローアップ期間中に、肺炎で1回以上入院した患者は8,917例(14,4%)、入院後30日以内に死亡した患者は1,137例(12.8%)であった。・全体では、抗精神病薬使用患者は、抗精神病薬未使用患者と比較し、肺炎リスクとの関連は認められなかった(調整ハザード比[aHR]:1.12、95%信頼区間[CI]:0.99〜1.26)。・抗精神病薬単剤療法では、抗精神病薬未使用患者と比較し、用量依存的に肺炎リスクの増加との関連が認められたが(aHR:1.15、95%CI:1.02〜1.30、p=0.03)、多剤併用療法では関連が認められなかった。・抗コリン負荷別に分類した場合、抗コリン負荷の高い抗精神病薬の使用と肺炎リスクとの関連が認められた(aHR:1.26、95%CI:1.10〜1.45、p<0.001)。・肺炎リスクの増加と関連していた抗精神病薬は次のとおりであった。【高用量クエチアピン】aHR:1.78(95%CI:1.22〜2.60)、p=0.003【高用量クロザピン】aHR:1.44(95%CI:1.22〜1.71)、p<0.001【中用量クロザピン】aHR:1.43(95%CI:1.18〜1.74)、p<0.001【高用量オランザピン】aHR:1.29(95%CI:1.05〜1.58)、p=0.02 著者らは「統合失調症患者の肺炎リスクと関連する抗精神病薬は、クロザピン(180mg/日以上)だけでなくクエチアピン(440mg/日以上)やオランザピン(11mg/日以上)も含まれることが示唆された。さらに、抗精神病薬単剤療法および抗コリン負荷の高い抗精神病薬の使用は、用量依存的に肺炎リスクを増加させる可能性がある。本知見は、肺炎リスクの高い抗精神病薬による治療を必要とする患者に対する予防戦略の必要性を示唆している」としている。

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anemia(貧血)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第8回

言葉の由来貧血は英語で“anemia”といい、「アニィーミア」のように発音します。これはギリシャ語の“anaimia”に由来しています。単語の成り立ちは、「否定」を表す接頭辞である“an”と、「血液の状態または血液中に“あるもの”が多量に存在すること」を意味する接尾辞の“-emia”がくっついてできたもので、「血液がない状態」を表します。医学用語の多くは接頭辞と接尾辞を含んでおり、これらを知っておくと英語の医学用語を覚えたり理解したりすることがぐっとラクになります。たとえば、否定を表す接頭辞の“a-”や“an-”を使った医学に関連する用語としては以下のようなものがあります。aplastic無形成性の(例:aplastic anemia 再生不良性貧血)anoxic無酸素症の(例:anoxic brain injury 低酸素脳症)asymptomatic無症候性の(例:asymptomatic bacteriuria 無症候性細菌尿)atypical非定型の(例:atypical pneumonia 非定型肺炎)また、接尾辞の“-emia”を使った用語の例として、以下のようなものがあります。hyperlipidemia脂質異常症bacteremia菌血症hyperuricemia高尿酸血症hyperbilirubinemia高ビリルビン血症このように、1つの単語の接頭辞や接尾辞を意識して勉強することで、芋づる式に多くの単語を覚えることができ、新しい英単語を見たときにも意味が理解しやすくなります。さらに多くの接頭辞や接尾辞を勉強したいという方は、ウエストフロリダ大学のウェブサイトに医学用語に関連した接頭辞や接尾辞が詳しくまとまっており、参考になるでしょう。併せて覚えよう! 周辺単語多血症polycythemia白血球減少leukopenia血小板減少thrombocytopenia白血球増多症leukocytosis血小板増多症thrombocytosisこの病気、英語で説明できますか?Anemia is a condition where the body lacks enough healthy red blood cells or hemoglobin to carry adequate oxygen to the body's tissues. Red blood cells contain hemoglobin, an iron-rich protein that binds to oxygen and transports it from the lungs to all other organs and tissues in the body.講師紹介

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オミクロン対応2価コロナワクチン、半年後の予防効果は?/感染症学会・化学療法学会

 第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会が、6月27~29日に神戸国際会議場および神戸国際展示場にて開催された。本学会では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する最新知見も多数報告された。長崎大学熱帯医学研究所の前田 遥氏らの研究チームは、2021年7月から国内での新型コロナワクチンの有効性を長期的に評価することを目的としてVERSUS研究1)を開始しており、これまで断続的にその成果を報告している。今回は、2023年4月1日~11月30日の期間(XBB系統/EG.5.1流行期)における、オミクロン株BA.1およびBA.4-5対応2価ワクチンの有効性についての結果を発表した。本結果によると、2価ワクチンの入院予防効果について、接種から半年後でも高い有効性が持続することなどが明らかとなった。 本研究では、コロナワクチンの発症予防の有効性および入院予防の有効性を評価している。発症予防については、全国9都県15施設でCOVID-19を疑う症状で医療機関を受診した16歳以上を対象とした。入院予防については、全国10都府県12施設で呼吸器感染症を疑う症状が2つ以上ある、または新たに出現した肺炎像を認め、医療機関に入院した60歳以上を対象に調査を行った。検査陰性デザイン(test-negative design:TND)を用いた症例対照研究で、ワクチン未接種と比較した2価ワクチン接種の有効性(回数によらない)を推定している。ワクチン接種歴不明、ワクチンの種類不明の場合(起源株対応の従来型のワクチンか2価ワクチンか不明の場合)は解析から除外した。 主な結果は以下のとおり。【発症予防の有効性】・全体で7,494例が解析対象となった。年齢中央値44歳(四分位範囲[IQR]:28~63)、男性45.2%、基礎疾患のある人27.5%。・コロナワクチンの接種歴は、ワクチン接種なし13.1%、起源株対応の従来型ワクチンのみ接種41.6%、オミクロン株BA.1/BA.4-5対応2価ワクチン接種45.2%であった。・16~64歳での2価ワクチンの発症予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では22.9%(95%信頼区間[CI]:-4.8~43.2)、91~180日では32.3%(7.7~50.4)、181日以上では2.9%(-21.5~22.5)となり、接種から半年間の有効性の低下が顕著であった。・65歳以上での2価ワクチンの発症予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では40.8%(95%CI:6.1~62.7)、91~180日では52.2%(21.7~70.8)、181日以上では40.8%(3.8~63.5)であった。【入院予防の有効性】・60歳以上の1,170例が解析対象となった。年齢中央値83歳(IQR:75~89)、男性57.1%、高齢者施設入居者29.7%、基礎疾患のある人76.5%。・コロナワクチンの接種歴は、ワクチン接種なし16.3%、起源株対応の従来型ワクチンのみ接種22.9%、オミクロン株対応2価ワクチン接種60.8%であった。・2価ワクチンの入院予防の有効性は、ワクチン接種なしと比較して、接種から7~90日では59.6%(95%CI:31.2~76.2)、91~180日では69.4%(45.6~82.8)、181日以上では55.3%(19.1~75.3)であった。入院時呼吸不全あり、CURB-65で判断した重症度で入院時の重症度が中等症以上、入院時肺炎ありといったより重症の場合でも、ワクチンの有効性は全入院予防の有効性と比較して同等かそれ以上であった。 本研究により、オミクロン対応2価コロナワクチンの有効性について、発症予防はとくに若年者において低い値であったが、サンプルサイズは限られるものの、入院予防は接種から半年後も高い有効性が保たれていることが認められた。前田氏は、「ただし、より長期的に評価すると、接種から時間が経つにつれ効果は下がってくる可能性があるため、追加接種の必要性を考えるためにも継続して評価が必要である」と見解を示し、「新型コロナワクチン政策や流行株は各国で異なるため、国内におけるワクチンの有効性を評価することは、国内のワクチン政策を考慮する際にとくに重要であり、現在使用されているXBB.1.5対応ワクチンなどについても、今後も継続して評価をしていく」と語った。

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診療科別2024年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Clarithromycin for early anti-inflammatory responses in community-acquired pneumonia in Greece (ACCESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trialGiamarellos-Bourboulis EJ, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:294-304.<ACCESS試験>:全身性炎症反応を認める市中肺炎においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライドの追加は早期臨床反応を改善市中肺炎の治療においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライド追加の上乗せ効果については、観察研究で証明されてきました。今回、全身性炎症反応症候群、SOFAスコア2点以上、プロカルシトニン0.25ng/mL以上を有する市中肺炎の入院成人患者を対象として、無作為化比較試験としては初めて、マクロライドの有益性が示されました。Perioperative Nivolumab in Resectable Lung CancerCascone T, et al. N Engl J Med. 2024 May 16;390:1756-1769.<CheckMate 77T試験>:非小細胞肺がんへの術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤で無イベント生存期間を改善切除可能な非小細胞肺がん患者を対象とした無作為化比較試験で、術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤投与が、無イベント生存期間を有意に改善することが明らかとなりました。新たな安全性シグナルは認められませんでした。Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 InflammationBhatt SP, et al. N Engl J Med. 2024 May 20.<NOTUS研究>:タイプ2炎症を有するCOPDにおいてデュピルマブで増悪が減少タイプ2炎症を有するCOPD患者に対するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピルマブの有効性を評価した二重盲検無作為化比較試験です。末梢血好酸球数300/uL以上のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中等度または重度の増悪の減少と有意に関連していました。Bisoprolol in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease at High Risk of Exacerbation: The BICS Randomized Clinical TrialDevereux G, et al. JAMA. 2024 May 19.<BICS研究>:ハイリスクCOPD患者へのビソプロロールで増悪は減少せずCOPD患者において、β1受容体選択性遮断薬ビソプロロールがCOPD増悪を減少させるかどうかを検証した無作為化比較試験です。増悪リスクの高いCOPD患者において、ビソプロロールによる治療はCOPD増悪を減少させませんでした。しかし、呼吸器系を含む有害事象の増加をビソプロロールで認めることはなく、ビソプロロールの安全性が示されました。Morphine for treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis (PACIFY COUGH): a prospective, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trialWu Z, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:273-280. <PACIFY COUPH試験>:特発性肺線維症患者においてモルヒネで咳嗽が減少特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)患者の咳嗽に対する低用量徐放性モルヒネの効果を検証した無作為化比較試験です。モルヒネはプラセボと比較して、客観的覚醒時咳嗽頻度を39%減少させました。この研究は、IPF患者の咳嗽に対するモルヒネの有用性を報告した初めての研究です。

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PPIのpantoprazole、侵襲的換気患者の上部消化管出血を予防/NEJM

 集中治療室(ICU)で侵襲的機械換気を受けている患者では、プラセボと比較してプロトンポンプ阻害薬pantoprazoleは、臨床的に重要な上部消化管出血のリスクを有意に低下させ、その一方で死亡率には影響を及ぼさないことが、カナダ・マクマスター大学のDeborah Cook氏らが実施した「REVISE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年6月14日号に掲載された。8ヵ国の68のICUが参加した無作為化試験 REVISE試験は、8ヵ国68施設で実施した医師主導の無作為化試験であり、2019年7月~2023年10月に患者を登録した(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、68ヵ所のICUで侵襲的機械換気を受けている重症患者4,821例(平均[±SD]年齢58.2[±16.4]歳、女性36.3%)を登録し、pantoprazole(40mg、1日1回)の静脈内投与を行う群に2,417例、プラセボ群に2,404例を無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、90日の時点におけるICUでの臨床的に重要な上部消化管出血。安全性の主要アウトカムは、90日までに発生した全死因死亡とした。臨床的に重要な上部消化管出血:プラセボ群3.5% vs.pantoprazole群1.0% ベースラインの全体の平均APACHE IIスコア(ICUにおける重症度分類の指標)は21.7(±8.3)で、全例が侵襲的機械換気を受けており、3,389例(70.3%)が変力作用薬または昇圧薬の投与を、308例(6.4%)が腎代替療法を受けていた。試験薬の投与期間中央値は5日(四分位範囲[IQR]:3~10)だった。 90日時の臨床的に重要な上部消化管出血は、プラセボ群が2,377例中84例(3.5%)で発生したのに対し、pantoprazole群は2,385例中25例(1.0%)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.30、95%信頼区間[CI]:0.19~0.47、p<0.001)。 一方、90日時の死亡は、pantoprazole群が2,390例中696例(29.1%)、プラセボ群は2,379例中734例(30.9%)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(HR:0.94、95%CI:0.85~1.04、p=0.25)。患者にとって重要な上部消化管出血の頻度がプラセボより低い 副次アウトカムであるICUにおける換気関連の肺炎(pantoprazole群23.2% vs.プラセボ群23.8%、p=0.93)、Clostridioides difficileの院内感染(1.2% vs.0.7%、p=0.50)、ICUでの腎代替療法の新規導入(6.1% vs.6.0%、p=0.98)、ICU内死亡(20.3% vs.21.5%、p=0.94)、院内死亡(26.3% vs.28.4%、p=0.91)は、いずれも両群間に有意な差を認めなかった。 一方、患者にとって重要な上部消化管出血(輸血、昇圧薬投与、診断のための内視鏡検査、CT血管造影、手術を要する出血、および死亡、障害、入院の延長に至った出血と定義)は、プラセボ群が2,377例中100例(4.2%)で発生したのに対し、pantoprazole群は2,385例中36例(1.5%)と有意に良好であった(HR:0.36、95%CI:0.25~0.53、p<0.001)。 著者は、「上部消化管出血は、患者とその家族にとって重要とされたアウトカムであったが、臨床的に重要な出血よりも頻度は高かった」と指摘。そのうえで「先行研究では、プロトンポンプ阻害薬はClostridioides difficile感染や再発リスクの増加と関連し、死亡リスクの増加を伴うとされていたが、本試験では明確な関連を認めなかった」としている。

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間質性肺炎合併肺がん【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第6回

第6回:間質性肺炎合併肺がんパーソナリティ日本鋼管病院 田中 希宇人 氏ゲスト神奈川県立循環器呼吸器病センター 池田 慧 氏※番組冒頭に1分ほどDoctors'PicksのCMが流れます参考1)Ikeda S et.al,Nintedanib plus Chemotherapy for Small Cell Lung Cancer with Comorbid Idiopathic Pulmonary Fibrosis. Ann Am Thorac Soc.2024;21:635-643.関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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亜鉛の測定が推奨される症状・タイミングは?

 近年、健康維持に重要な栄養素として注目を浴びる亜鉛。小児の発育や味覚異常に影響することはよく知られているが、ここ数十年で国内外の研究報告からさまざまな生理作用に関与していることが明らかになっている。先般、国内レセプトデータを解析して日本人の亜鉛不足者の特徴を発表1)した横川 博英氏(順天堂大学医学部総合診療科学講座 先任准教授)が「一般集団・患者群の血清亜鉛濃度の実際と低亜鉛血症患者の頻度やその臨床像」と題し、日本人の亜鉛欠乏の現状や検査の必要性について、6月4日に開催されたノーベルファーマのプレスセミナーにおいて解説した。亜鉛不足はなぜ起こる?年齢や性差は? 横川氏らが報告した研究1)からは、▽疾病の治療を受けている日本人の3人に1人は亜鉛欠乏症(60μg/dL)、▽加齢に伴い血清亜鉛濃度は低下、▽誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、慢性腎臓病(CKD)を併存する患者の50%以上が亜鉛欠乏症で、その関連は誤嚥性肺炎、褥瘡、サルコペニア、COVID-19、CKDの順に高い、▽利尿薬、甲状腺ホルモン治療薬、貧血治療薬、全身性抗菌薬による治療患者の50%以上が亜鉛欠乏症で、その関連は利尿薬、全身性抗菌薬、貧血治療薬、甲状腺ホルモン治療薬の順に高い、などが示唆され、この結果に対し「これらの治療薬を使わなければならない患者の状態では亜鉛欠乏を引き起こすことが多い、と解釈するのが妥当」と同氏は補足した。 また、性別や年齢でこの結果を振り返ると、男性の場合は60歳以上から、女性では70歳以上から血清亜鉛濃度の低下が顕著になっている。加えて、厚生労働省の国民健康・栄養調査報告2)おける亜鉛摂取データによると、男性は全年齢において亜鉛摂取量が不足しているのに対し、女性では50代までは摂取量が不足しているも60~70代の摂取量は推奨量と同等であった。 これを踏まえると、栄養素や健康に対する意識の差が血清亜鉛濃度にも表れている可能性がある。実際に日本人の亜鉛不足には摂取食品の変化が影響しており、「日本人が低亜鉛に陥っている原因の1つは、元来の主食である米の消費量が減り、米や雑穀から得られる亜鉛などの摂取量が低下していること。米飯(精白米)の100gあたりの亜鉛含有量は多くはない(0.6mg)ものの、主食の役割を考えるとその影響は大きい。このほかにも亜鉛を多く含む上記3品には牡蠣(13.2mg)、豚レバー(6.9mg)、牛肩ロース(5.6mg)がある3)ので、これらの摂取を意識した食生活が重要」と食事に対する意識を促した。亜鉛不足による症状 そもそも亜鉛とは、生体内の300種以上の酵素、サイトカイン、ホルモンなどに関与している栄養素で、主に筋肉(60%)、骨(20~30%)、皮膚・毛髪(8%)、肝臓(4~6%)、消化管・膵臓(2.8%)、脾臓(1.6%)などに分布している。そのため、小児の身長の伸びや味覚の維持をはじめ、皮膚代謝、生殖機能、骨格の発達、精神・行動、免疫機能にまでその影響は及ぶ。そして、亜鉛不足に関連する症状を以下のように列挙すると、身長の伸びを除き、実は高齢者にみられる症状の多くと合致することから、横川氏は「“加齢によるもの”に留めてしまうのではなく、このような症状がある場合には、一度、亜鉛測定することを推奨する」と注意喚起した。<亜鉛不足に関連する症状>味がわからない、食欲がない、皮膚炎、生殖機能の低下、脱毛、傷が治りにくい、元気がない、貧血、骨粗鬆症、口内炎、風邪をひきやすい、下痢、身長の伸びが悪い亜鉛を測定するタイミング この10年で医療機関での亜鉛の検査数4)は加速度的に増加し、メディカル・データ・ビジョンの急性期病院の医療情報データベースを用いて亜鉛を検査した診療科比率を算出したところ、外来では内科(19%)、小児科(10%)、外科(8%)で、入院では内科(27%)、腎臓内科(7%)、外科(6%)で主に検査が行われており、「褥瘡管理や経管栄養などを行っている患者への栄養アセスメントの観点から検査件数が増加傾向にある」と見解を示した。では、前述のような亜鉛欠乏を想起するような症状がない場合、亜鉛を測定するタイミングはあるのだろうか? 横川氏によれば、「特徴的な症状がなく、一見、不定愁訴のような訴えの場合でも、まず亜鉛欠乏も疑ってみることが、診断のきっかけになることもあり得る」と説明した。 最後に同氏は、「血清亜鉛濃度の低下は、腎疾患や肝疾患はもちろんのこと、加齢による亜鉛の消化管吸収低下が原因で生じることもある。そのため、消化器領域の診療においても上述のような症状がみられる患者に遭遇した際には、低亜鉛を意識した検査を行ってほしい。そして、亜鉛欠乏にも配慮した併存疾患の治療を行ってほしい」と締めくくった。

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言ってませんか?必要以上に責める「なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?」【もったいない患者対応】第9回

言ってませんか?必要以上に責める「なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?」登場人物<今回の症例>40代男性発熱、上気道症状あり、自宅近隣のクリニックで総合感冒薬と解熱薬を処方され、経過観察されていた。症状が改善しないため、当院受診体温38.2℃、SpO2 92%(room air)<胸部単純X線検査を行ったところ、肺炎像が認められました>先生、いかがでしょうか?いやぁこれ、肺炎ですよ。なんでこんなふうになるまで放っておいたんですか?え…肺炎?重症ですか?重症も何も…。これ入院が必要ですよ!えぇっ、近くの先生はただの風邪だって言ってましたよ!?これで風邪って言ったんですか?…信じられないな。もっと早くうちに来てくれたら入院せずに外来でも治療できたと思うんですけどねぇ。そんな…。【POINT】上気道炎として経過観察されていた患者さんが、肺炎を併発してしまったようですね。胸部X線では、誰が見てもわかるような肺炎像。唐廻先生も、「軽症の段階で受診していれば外来治療もできたのに」という思いから、「なんでこんなふうになるまで受診しなかったのか」と思わず声を荒げてしまいました。どうやら前医に対しても怒りがあるようですね。しかしこの説明、絶対にNG!です。責める言葉はかえって自分の信頼を落とす今回の唐廻先生の説明には2つの問題点があります。1つ目は、「こんなふうになるまでなぜ受診しなかったのか?」と言って患者さんを責めると、修復不能なほどに患者さんとの信頼関係が崩れる危険性があることです。患者さんのなかには、軽い症状でも心配だから病院に行っておく、という人から、しばらく我慢して悩んだ末に受診する、という人まで、“受診のハードル”に個人差があります。症状を悪化させてやってくる患者さんは後者に多く、散々迷った挙げ句、重い腰を上げて病院を受診することも多いでしょう。受診するときは、症状が悪化していることを自分でも認識しているでしょうし、恐怖心を抱いている可能性もあります。今回のケースのように他院に通院していた患者さんの場合は、病院を替えることに対して引け目を感じている可能性もあるでしょう。そんな心理状態の患者さんに対し、「なぜもっと早く来なかったのか」と責め立てると、患者さんをより一層追い込むことになります。すでに起きてしまった過去を非難しても、何も解決しません。患者さんには、これからどういう治療を行うべきか今後、体にどんなことが起こりうるかといった、先のことを伝える必要があります。「今後同じようなことが起きたときにどうすればいいか」を考えるのももちろん大切なことですが、初診時での優先順位は低いでしょう。適切な治療を行って病態が改善し、患者さんの不安がある程度軽くなったタイミングで伝えればよいことです。後医は名医。「後出しじゃんけん」で前医を批判しないこと2つ目の問題点は、唐廻先生の説明が前医への批判につながることです。今回のように、近隣の医療機関で治療中の患者さんが自院を受診されたケースで「なぜこんなふうになるまで放っておいたのか」と言ってしまうと、患者さんは「前医の治療方針が間違っていたのか」「前医は自分の肺炎を見逃して、風邪だと誤診していたのか」と、前医に対して不信感を抱く可能性があるのです。ひとたび不信感を抱いてしまうと、二度とその医療機関に通うことができなくなるかもしれません。“後医は名医”という言葉をご存じでしょうか?後から診る医師は、病態の経時的変化や、治療に対する反応など、最初に診察した医師よりはるかに多くの情報を得たうえで患者さんを診察するため、正しい診断に至りやすく“名医”になりやすい、という意味です。医師としての能力に差はなくても、単に後から診察するだけで、すでに大きなヒントをもらった状態なのです。また、この言葉は、前医がたどり着けなかった答えに後医がたどり着いても、前医を非難してはならない、という戒めの言葉としても使われます。当然ながら、経過観察中に予想外の速度で病態が悪化するようなタイプの病気もあります。前医がどれだけ腕の良い医師であっても、今回のような事態を防げないことはあります。今回、患者さんの目の前で前医を批判してしまった唐廻先生は、こうした診断プロセスの難しさを認識していない点でも、未熟だと言わざるをえないでしょう。これでワンランクアップ!先生、いかがでしょうか?レントゲンの結果ですが、肺炎を併発しているようです。えぇっ!近くの先生はただの風邪だって言ってましたよ!? 肺炎を見逃したんですか?おそらくその先生が診られたときは、風邪という判断でよかった※1のだと思いますよ。肺炎のように急激に悪化するような病気は、軽い段階では見つけるのが難しいこともあるんです※2。※1:まずは前医への不信感を取り除こう。※2:理由も伝えると納得してもらいやすい。そんなに急に悪くなるものなんですか?前回風邪だと言われたのなら、そのときからいままでの間に肺炎が一気に悪くなったことが推測できますね※3。もしいまの状況で診ていれば、前の先生もきっと肺炎だと診断するでしょう。※3:あくまでも冷静に経過を伝える。

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局所進行食道がんの術前補助療法、3剤併用がOSを改善/Lancet

 局所進行食道扁平上皮がん(OSCC)の術前補助療法において、シスプラチン+フルオロウラシルによる2剤併用化学療法(NeoCF)と比較して、これにドセタキセルを追加した3剤併用化学療法(NeoCF+D)が全生存率を有意に改善し、日本における新たな標準治療となる可能性がある一方で、NeoCFに比べNeoCF+放射線(NeoCF+RT)では全生存率の有意な改善効果を認めないことが、国立がん研究センター中央病院の加藤 健氏らが実施した「JCOG1109試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年6月11日号に掲載された。日本の44施設の無作為化第III相試験 JCOG1109試験は、日本の44施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2012年12月~2018年7月に参加者を募集した(日本医療研究開発機構[AMED]などの助成を受けた)。 年齢20~75歳、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)が0または1で、未治療の局所進行OSCC(StageIB、II、III[T4は含まない])の患者601例を登録し、NeoCF群に199例(年齢中央値65歳[範囲:38~75]、女性11%)、NeoCF+D群に202例(64歳[41~75]、12%)、NeoCF+RT群に200例(65歳[30~75]、14%)を無作為に割り付けた。 NeoCF群ではCF療法を2コース、NeoCF+D群ではCF+D療法を3コース、NeoCF+RT群ではCF療法を2コース施行後に総線量41.4Gyの放射線照射を行った。引き続き、全例で食道切除術と局所リンパ節郭清を実施した。 主要評価項目は、ITT集団における全生存率とした。無増悪生存率、客観的奏効率、病理学的完全奏効率も良好 追跡期間中央値50.7ヵ月の時点における3年全生存率は、NeoCF群が62.6%(95%信頼区間[CI]:55.5~68.9)であったのに対し、NeoCF+D群は72.1%(65.4~77.8)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.68、95%CI:0.50~0.92、p=0.006)。一方、NeoCF+RT群の3年全生存率は68.3%(95%CI:61.3~74.3)であり、NeoCF群の62.6%(55.5~68.9)に比べ有意な差を認めなかった(HR:0.84、95%CI:0.63~1.12、p=0.12)。また、全生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で5.6年であった。 3年無増悪生存率は、NeoCF群の47.7%(95%CI:40.6~54.4)に比べNeoCF+D群は61.8%(54.7~68.1)と良好であった(HR:0.67、95%CI:0.51~0.88)。無増悪生存期間中央値は、NeoCF+D群で未到達、NeoCF群で2.7年だった。 測定可能病変を有する患者における客観的奏効率は、NeoCF群の42.4%(95%CI:30.3~55.2)と比較して、NeoCF+D群は76.4%(64.9~85.6)と高率であり、病理学的完全奏効の割合も、NeoCF群の2.0%(95%CI:0.6~5.1)に対しNeoCF+D群は19.8%(14.5~26.0)と良好だった。手術前後の安全性プロファイルはNeoCF+Dで比較的管理しやすい Grade3以上の発熱性好中球減少は、NeoCF群で193例中2例(1%)、NeoCF+RT群で191例中9例(5%)に発現したのに比べ、NeoCF+D群では196例中32例(16%)と頻度が高かった。また、術前補助療法の中止の原因となった治療関連有害事象は、NeoCF群(8/199例[4%])およびNeoCF+RT群(12/200例[6%])に比べNeoCF+D群(18/202例[9%])で高頻度であった。術後補助療法期間中の治療関連死は、NeoCF群で3例(2%)、NeoCF+D群で4例(2%)、NeoCF+RT群で2例(1%)に認めた。 Grade2以上の術後の肺炎、食道吻合部漏出、反回神経麻痺が、NeoCF群で185例中それぞれ19例(10%)、19例(10%)、28例(15%)に、NeoCF+D群で183例中18例(10%)、16例(9%)、19例(10%)に、NeoCF+RT群で178例中23(13%)、23例(13%)、17例(10%)に発現した。術後の院内死亡は、NeoCF群3例、NeoCF+D群2例、NeoCF+RT群1例であった。 著者は、「手術前後のNeoCF+D群の安全性プロファイルは、NeoCF群やNeoCF+RT群よりも管理しやすいものであった。本試験の目的は、NeoCF+D群とNeoCF+RT群の直接比較ではなく、この2つの群の優越性を認めた場合に、より大規模な比較試験に進む計画であった」と述べたうえで、「各治療群のリスクとベネフィットを明らかにするには、より長期の追跡による最新のデータの解析が必要である」としている。

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悪寒戦慄の重要性【とことん極める!腎盂腎炎】第3回

悪寒戦慄ってどれくらい重要ですか?Teaching point(1)悪寒戦慄は菌血症を予測する症状である(2)重度の悪寒戦慄をみたら早期に血液培養を採取すべし《今回の症例》基礎疾患に糖尿病と高血圧、脂質異常症がある67歳女性が半日前に発症した発熱と寒気で救急外来を受診した。トリアージナースより、体温以外のバイタルは落ち着いているが、ガタガタ震えていて具合が悪そうなので準緊急というより緊急で診察をしたほうがよいのでは、という連絡を受け診察開始となった。症状としては頭痛、咽頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、下痢、腰痛などの症状はなく、悪寒戦慄と全身の痛み、倦怠感を訴えていた。general appearance:ややぐったり、時折shiveringがみられる意識清明、体温:39.4℃、呼吸数:18回/分、血圧:152/84mmHg、SpO2 99%、心拍数:102回/分頭頸部、胸腹部、四肢の診察で目立った所見はない。簡易血糖測定:242mg/dLqSOFAは陰性ではあるが、第1印象はぐったりしていて、明確な悪寒と戦慄がある。診察上は明確な熱源が指摘できない。次にどうするべき?1.悪寒戦慄は菌血症の予測因子である菌血症は、感染症の予後不良因子であり、先進国の主要な死因の上位7番目に位置する疾患である1)。具体的には、市中感染型菌血症の1ヵ月率は10~19%、院内血流感染症の死亡率は17~28%である2)。したがって菌血症の早期予測は、迅速な治療開始を助け、臨床転帰の改善につながるため重要である。そして悪寒や戦慄、いわゆる“chill”は発熱以外で菌血症の鑑別かつ有効な予測因子として報告がある唯一の症状である。では悪寒はどれくらい菌血症を予測できるのだろうか?まとめて調べた文献によると3)、発熱がある患者:陽性尤度比(LR+)=2.2、陰性尤度比(LR−)=0.56発熱がない患者:LR+=1.6、LR−=0.84といわれている。そして徳田らの報告4)では、shaking chill(厚い毛布にくるまっていても全身が震え、寒気がする悪寒):LR+=4.7moderate(非常に寒く、厚手の毛布が必要な程度の悪寒):LR+=1.7mild(上着が必要な程度の悪寒):LR+=0.61のように悪寒の重症度がより菌血症に関連することを報告されている。したがって、悪寒や戦慄の病歴聴取は重要だが、shaking chillかどうかまで踏み込んでの病歴聴取が望ましいといえる。さらに、悪寒のあと2時間以内が血液培養が陽性になりやすいという報告5)もあるので、悪寒や戦慄をみかけたらすかさず血液培養を採取するのがおすすめだ。なお、腎盂腎炎においても悪寒は菌血症の予測因子といわれている6)が、何事にも例外はあり、インフルエンザで悪寒を経験した読者もいるであろう。悪性リンパ腫や薬剤熱でも悪寒は来すので過信は禁物となる。2.悪寒戦慄は腎盂腎炎診療でも大事な症状である腎臓は血流豊富な臓器であり、急性腎盂腎炎において42%で血液培養が陽性になるといわれている7)。そして側腹部痛か叩打痛があり、膿尿か細菌尿があれば腎盂腎炎は適切な鑑別診断といえるが8)、腎盂腎炎は下部尿路症状(排尿時痛、頻尿、恥骨部の痛み)、上部尿路症状(側腹部痛やCVA叩打痛陽性)を来す頻度は多いとはいえない。実地臨床では悪寒戦慄、ぐったり感(toxic appearance)、嘔気や倦怠感という症状が主訴になる腎盂腎炎は少なくなく、その場合は血液培養が腎盂腎炎の診断に役立つ8)。合併症のない腎盂腎炎における血液培養に関しては議論の分かれることではあるが9,10)、それは腎盂腎炎の検査前確率が高いという臨床状況においての話であり、前述のように尿路症状がなく悪寒戦慄やぐったり感(toxic appearance)がメインでの場合は敗血症疑いであれば1h bundleの達成、すなわち感染症のfocus同定とバイタルの立て直しと血液培養採取と抗菌薬投与を早急に行わなければならない11)。また、菌血症疑いの状況であっても血液培養の取得は必要になる。したがって悪寒戦慄のチェックは重要であるといえる。3.菌血症の疫学を抑える菌血症の頻度が多い疾患はどのようなものだろうか?血液培養で何が陽性になったか、患者の基礎疾患や症状にもよるが全体的な頻度としては尿路感染症22〜31%、消化管9〜11%、肝胆道7〜8%、気道感染(上下含む)9〜20%、不明18〜23%が主な頻度となる12-14)。このデータと各感染症の臨床像から考えるに、明確な随伴症状やfocusがなく悪寒戦慄があり、菌血症を疑う患者で想定すべきは尿路感染、胆道系感染、血管内カテーテル感染といえるだろう。逆に肺炎は発熱の原因としては頻度が高いが血液培養が陽性になりにくい感染症であり、下気道症状がなく症状が発熱と悪寒のみの状況であれば肺炎の可能性はかなり低いと考えられる。4.血液培養採取のポイントを抑える血液培養の予測ルールに関してはShapiroらのルールの有用性が報告されている。やや煩雑だが2点以上で血液培養の適応というルールである。特異度は29〜48%だが、感度は94〜98%と高く外的妥当性の評価もされているのが優れている点になる(表)15,16)。画像を拡大するその他、簡易的なものとしては白血球の分画で時折みられるband(桿状好中球)が10%以上(bandemia)であれば感度42%、特異度91%、オッズ比7.15で菌血症を予測するという報告もある2)。そのためbandemiaがあれば血液培養採取を考慮してもよいと思われる。1)Goto M, Al-Hasan MN. Clin Microbiol Infect. 2013;19:501-509.2)Harada T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:22753)Coburn B, et al. JAMA. 2012;308:502-511.4)Tokuda Y, et al. Am J Med. 2005;118:1417.5)Taniguchi T, et al. Int J Infect Dis 2018;76:23-28.6)Nakamura N, et al. Intern Med. 2018;57:1399-1403.7)Kim Y, et al. Infect Chemother. 2017;49:22-30.8)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.9)Long B, Koyfman A. J Emerg Med. 2016;51:529-539.10)Karakonstantis S, Kalemaki D. Infect Dis(Lond). 2018;50:584-5911)Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:e1063-e1143.12)Larsen IK, et al. APMIS. 2011;119:275-279.13)Pedersen G, et al. Clin Microbiol Infect. 2003;9:793-802。14)Sogaard M, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:61-69.15)Shapiro NI, et al. J Emerg Med. 2008;35:255-264.16)Jessen MK, et al. Eur J Emerg Med. 2016;23:44-49.

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重症敗血症へのβ-ラクタム系薬投与、持続と間欠の比較(BLING III)/JAMA

 重症敗血症患者に対するβ-ラクタム系抗菌薬による治療では、間欠投与と比較して持続投与は、90日の時点での死亡率に有意差を認めないことが、オーストラリア・Royal Brisbane and Women's HospitalのJoel M. Dulhunty氏らが実施した「BLING III試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年6月12日号で報告された。7ヵ国104のICUで無作為化第III相試験 BLING III試験は、7ヵ国の104の集中治療室(ICU)で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2018年3月~2023年1月に参加者を登録し、2023年4月に90日間の追跡を完了した(オーストラリア・国立保健医療研究評議会などの助成を受けた)。 年齢18歳以上、ICUに入室し、無作為化前の24時間以内にタゾバクタム・ピペラシリンまたはメロペネムの投与を開始した敗血症患者7,031例(平均年齢59[SD 16]歳、女性35%)を登録し、処方された抗菌薬を持続静注する群に3,498例、間欠静注する群(対照群)に3,533例を無作為に割り付け、担当医が決定した期間またはICU退室のいずれか早い期日まで投与した。 主要アウトカムは、無作為化から90日以内の全死因死亡とした。90日死亡率、持続投与群24.9% vs.間欠投与群26.8%で有意差なし 最も頻度の高い主要感染部位は肺(4,181例、59.5%)で、次いで腹腔内(916例、13.0%)、血液(562例、8.0%)、泌尿器(380例、5.4%)の順であった。投与期間中央値は、持続投与群が5.8日(四分位範囲[IQR]:3.1~10.2)、間欠投与群は5.7日(3.1~10.3)だった。 90日以内に、持続投与群の3,474例中864例(24.9%)、間欠投与群の3,507例中939例(26.8%)が死亡し(絶対群間差:-1.9%[95%信頼区間[CI]:-4.9~1.1]、オッズ比[OR]:0.91[95%CI:0.81~1.01])、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.08)。 事前に定義した5つのサブグループ(肺感染[あり、なし]、β-ラクタム系抗菌薬の種類[タゾバクタム・ピペラシリン、メロペネム]、年齢[65歳未満、65歳以上]、性別、APACHE IIスコア[25点未満、25点以上])のいずれにおいても、90日死亡率に関して持続投与群と間欠投与群に有意な差はなかった。臨床的治癒率は持続投与群で良好 副次アウトカムである14日の時点までに臨床的治癒を達成した患者は、間欠投与群が3,491例中1,744例(50.0%)であったのに対し、持続投与群は3,467例中1,930例(55.7%)と有意に良好であった(絶対群間差:5.7%[95%CI:2.4~9.1]、OR:1.26[95%CI:1.15~1.38]、p<0.001)。 また、他の3つの副次アウトカム(14日以内の新規感染/菌定着/多剤耐性菌またはClostridioides difficile感染、全死因によるICU内死亡、全死因による院内死亡)は、いずれも両群間に有意な差を認めなかった。 有害事象は、持続投与群で10件(0.3%)、間欠投与群で6件(0.2%)発生した。このうち重篤な有害事象は持続投与群の1件で認めた脳症で、誤嚥性肺炎と心停止をもたらし、敗血症性ショックで死亡した。このイベントは、担当医によってメロペネムに関連する可能性があると評価された。 著者は、「効果推定値のCIには、この患者集団におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与には重要な効果がない可能性と、臨床的に重要な有益性がある可能性の両方が含まれる」としている。

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発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応【1分間で学べる感染症】第5回

画像を拡大するTake home message発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応を7つ覚えよう。発熱性好中球減少症は対応が遅れると致死率が高いため、迅速な対応が求められます。入院中の患者の場合、基本的には緑膿菌のカバーを含めた広域抗菌薬の投与が初期治療として推奨されていますが、それに加えてグラム陽性菌に対するカバーを追加するかどうかは悩みどころです。そこで、今回はガイドラインで推奨されている以下の7つの適応を理解するようにしましょう。1)血行力学的不安定または重症敗血症の場合2)血液培養からグラム陽性菌が陽性の場合3)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の保菌がある場合4)重症粘膜障害(フルオロキノロン系抗菌薬予防内服)の場合5)皮膚軟部組織感染症を有する場合6)カテーテル関連感染症を臨床的に疑う場合7)画像上、肺炎が存在する場合上記のうち、1)2)に関してはとくに疑問なく理解できると思います。3)に関しては、患者のこれまでの記録をカルテで確認することで、そのリスクを判断します。4)5)6)に関しては、身体診察でこれらを疑う場合には、すぐに追加を検討します。6)はカテーテル局所の発赤や腫脹、疼痛などがあれば容易に判断できますが、血液培養が陽性となるまでわからないこともあるため注意が必要です。7)に関してはMRSAによる肺炎を懸念しての推奨です。グラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応に関しては、上記7つをまずは理解したうえで、その後のde-escalationを行うタイミングや継続の有無に関しては、その後の臨床経過や検査結果から総合的に判断しましょう。1)Freifeld AG, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e56-e93.

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小児急性中耳炎診療ガイドライン 2024年版 第5版

大幅アップデートの最新版登場!6年ぶりの改訂となる2024年版では、以下多くのアップデートがなされています。肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)のエビデンスの強化や、従来からの抗菌薬適正使用に基づいた一部抗菌薬の用量・選択候補薬の見直し、軽症・中等症・重症のアルゴリズムを合体した「アルゴリズムのまとめ」の追加、重症度判定などの参考用の鼓膜画像の更新など、本ガイドラインの「中耳炎診療の基本を伝える」使命に則った大改訂版となりました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する小児急性中耳炎診療ガイドライン 2024年版 第5版定価2,860円(税込)判型B5判頁数116頁(図数:4枚、カラー図数:2枚)発行2024年5月編集日本耳科学会日本小児耳鼻咽喉科学会日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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日本における市中感染と院内感染の罹患率と死亡率~全国7千万例超のデータ

 細菌および真菌感染症の罹患率や死亡率の現状と年次傾向について、市中感染と院内感染の観点から報告した研究はほとんどない。今回、千葉大学の高橋 希氏らが日本の全国保険請求データベースに登録された7千万例超の入院患者のデータを調べたところ、院内死亡率は院内感染のほうが市中感染よりも有意に高かったが、両群とも死亡率は低下傾向であることが示された。BMC Infectious Diseases誌2024年5月23日号に掲載。 著者らは、全国保険請求データベースから、2010年1月~2019年12月に入院し培養検査が実施され抗菌薬が投与された患者を抽出し、罹患率と院内死亡率の年次推移を患者の年齢で4群に分けて算出し評価した。 主な結果は以下のとおり。・7,396万2,409例の入院患者のうち、市中感染は9.7%、院内感染は4.7%であった。これらの罹患率は両群とも経年的に増加する傾向にあった。・感染症で入院した患者のうち、85歳以上では有意な増加(市中感染:+1.04%/年、院内感染:+0.94%/年、p<0.001)がみられたが、64歳以下では有意な減少(市中感染:-1.63%/年、院内感染:-0.94%/年、p<0.001)がみられた。・院内死亡率は、市中感染より院内感染で有意に高かった(市中感染:8.3%、院内感染:14.5%、調整平均差:4.7%)。・院内感染群は、臓器サポートや患者当たりの医療費が高く、入院期間も長かった。・死亡率は両群で減少傾向が認められた(市中感染:-0.53%/年、院内感染:-0.72%/年、p<0.001)。 今回の日本の大規模請求データベースの解析から、とくに85 歳以上において市中感染と院内感染の両方で入院が増加傾向にあること、院内感染は高齢社会の入院患者にとって大きな負担となっていることが示された。

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INSPIRE Pneumonia Trial:肺炎に対する抗菌薬選択改善を促すオーダーエントリーシステム(解説:小金丸博氏)

 肺炎は入院を要する最も一般的な感染症であり、米国では毎年150万人以上の成人が肺炎で入院している。肺炎で入院した患者の約半数で不必要に広域なスペクトラムの抗菌薬を投与されていると推定されており、広域抗菌薬の過剰使用を抑制するための効果的な戦略を特定することが求められている。 今回、患者ごとの多剤耐性菌感染リスク推定値を提供するコンピュータ化されたプロバイダーオーダーエントリー(CPOE)システムが、非重症肺炎で入院した患者における経験的広域抗菌薬の使用を減らすことができるかを検討したランダム化比較試験の結果がJAMA誌オンライン版2024年4月19日号に報告された。CPOE介入群では通常の抗菌薬適正使用支援に加えて、多剤耐性菌による肺炎のリスクが10%未満と推定された症例に対して標準的なスペクトラムの抗菌薬を推奨した。また臨床医に対して教育とフィードバックも同時に行った(有効と考えられる複数の方法を組み合わせて行うバンドルといわれる戦略を採用)。その結果、入院最初の3日間の広域抗菌薬の投与日数は通常介入群と比較して28.4%減少した(リスク比:0.72、95%信頼区間:0.66~0.78)。両群においてICU転室までの日数や入院期間に関して差を認めず、安全に広域抗菌薬の使用を抑制できることが示された。 これまで肺炎に対する抗菌薬処方を改善する戦略は、微生物検査の結果が得られて患者の状態が安定した後に、抗菌薬の投与期間を短縮するか、または広域抗菌薬を狭域抗菌薬に変更することに焦点が当てられてきた。しかし、そのような戦略では微生物検査の結果が得られる前に使用された不必要な広域抗菌薬には対処できていなかった。広域抗菌薬に短期間曝露しただけでも、多剤耐性菌感染症、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症、その他の抗菌薬に関連した副作用のリスクが高まる可能性がある。本試験は、微生物検査の結果が得られる前に広域抗菌薬の使用を減らすことに焦点を当てているのが新しい視点である。 肺炎で入院する患者のほとんどは、緑膿菌や多剤耐性菌をカバーしない標準的なスペクトラムの抗菌薬で安全に治療できると考えられるが、耐性菌に感染している可能性があるという懸念から広域抗菌薬を選択してしまう臨床医も多く存在する。CPOEシステムを導入することによって、おそらく臨床医が人口全体における薬剤耐性菌の感染リスクが比較的低いことをより明確に認識できるようになり、最初の抗菌薬の選択が広域から標準スペクトラムの抗菌薬へ変更された。本試験では、多剤耐性菌感染症の「低リスク」に分類するための閾値が10%未満に設定されたが、適切な閾値ははっきりしていないと思われる。耐性菌による肺炎のリスクが低い患者をリアルタイムで特定することによって広域抗菌薬の投与が減少する可能性があり、本試験で有効性が示されたCPOEシステムによる介入の効果を本邦でも評価されることを期待したい。

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統合医療システムにおけるプロトンポンプ阻害薬の過剰使用を減らすための大規模な多要素介入の影響:差分の差分法研究 (解説:上村直実氏)

 わが国では、ピロリ菌感染率の低下や食べ物の欧米化などにより胃がんが減少している。一方、胃酸分泌が亢進する傾向とともに食道・胃逆流症(GERD)の増加とともにGERDに対する薬物治療として頻用されているプロトンポンプ阻害薬(PPI)が長期使用されるケースが増加しているのが現状である。 最近、PPI長期投与による副作用に関する欧米からの研究報告が散見されている。すなわち、市中肺炎や骨折のリスク増加、胃酸分泌抑制に伴って生ずる腸内細菌叢の変化に起因するClostridium difficile(CD)腸炎など腸内感染症の増加、腎機能の低下などが報告されている。日本人を対象とした精度の高い臨床研究によるエビデンスはないが、PPIの過剰投与に関する副作用や不必要なPPIの処方による医療費の増大にも注意するべき時代となっている。 今回、PPIの過剰使用を減らすための薬剤師による介入が医師の処方パターンや臨床転帰にどのように影響するかを検証する差分の差分法による研究のRCTがBMJ誌に掲載された。大規模な薬局ベースの介入試験であり、GERDなど適切な適応がないと思われる患者に対するPPIの制限やH2ブロッカーの推奨、および臨床医と患者に対する教育を行った介入群と介入を行わなかった対照群の両群における介入前後の副作用の発現率と医療費を差分の差分法により検証した結果、PPIの処方を受ける患者が7.3%減少し、さらに処方期間の短縮も認められた。一方、介入前後で市中肺炎や骨折の増加など副作用の発現率の割合には影響しなかった。 われわれは日本人のGERD患者を対象として、PPIとさらに酸分泌抑制力が強力なP-CABの長期5年間投与による安全性を検証する試験(VISION研究)を行い、現在投稿中であるが重大な副作用の発現は認めていない。しかし、診療現場では不要と思われるPPIの処方もみられることから、今回示された薬剤師による介入試験は重要と思われる。 わが国の医師法ではPPIを処方する医師に対して、薬剤師が薬剤の減量や処方の変更を推奨することは難しいと思われる。PPIなど広範に処方されている薬剤によって生ずる副作用や医療費の増大に対する有用な臨床研究が必要であり、実際に検証する方法を模索する必要性を感じさせる研究論文である。

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第213回 60歳以上へのRSワクチン、打つならどれ?

ここ数年、感染症のワクチンというと新型コロナウイルス感染症のワクチン開発ばかり注目されてきたが、近年、それと同時に目覚ましい進展を遂げているのがRSウイルス(RSV)ワクチンである。ご存じのようにRSVは2歳までにほぼ100%の人が感染し、発熱、鼻汁などの風邪様症状から重い肺炎までさまざまな症状を呈する。生後6ヵ月以内の初感染では細気管支炎、肺炎などに重症化しやすいほか、再感染を繰り返す中で呼吸器疾患などの基礎疾患を有する高齢者などでも重症化しやすいことが知られている。世界保健機関(WHO)の報告によると、小児の急性呼吸器感染症のうちRSV感染症は63%と筆頭となっているほか、英国・エディンバラ大学の報告では、生後60ヵ月までの死亡の50件に1件がRSVに関連すると指摘されている。一方の高齢者では、日本国内での推計値として、RSV感染症を原因とする入院は年間約6万3,000例、死亡は約4,500例と算出されている(ただし、この推計値は製薬企業グラクソ・スミスクライン[GSK]によるもの)。RSウイルスは古典的なウイルス感染症だが、ワクチン開発の試みは初期に手痛い失敗に終わっている。1960年代に行われた不活化ワクチンの臨床試験では、抗体依存性感染増強により、小児のRSV初感染時の入院率が接種群で80%、非接種群で2%と惨憺たる結果に終わり、接種群では2人の死亡者まで発生するという悲劇まで招いた。もっともこの事案からウイルスタンパク質のより詳細な構造解明の研究が行われ、昨今の新規RSVワクチンの登場に結び付いた。3つのRSワクチンを比較さて国内で見ると、2023年9月、60歳以上の高齢者を適応とするGSKの遺伝子組換えタンパクワクチンである「アレックスビー」、2024年1月には母子免疫、3月には60歳以上の高齢者も対象となったファイザーの遺伝子組換えタンパクワクチンの「アブリスボ」が承認を取得。ちょうど昨日5月30日には、モデルナがやはり60歳以上を対象としたメッセンジャーRNAワクチン「mRNA-1345」の製造販売承認の申請を行い、ほぼ役者が出そろった形だ。当然、各社とも今後は定期接種化を狙ってくるだろうと思われる。個人的にも若干興味が湧いたので、各ワクチンの第III相試験結果を改めて調べてみた。なお、有効率は接種後のRSV関連急性呼吸器疾患の予防に対する有効率で統一してみた。この有効率で統一したのは、おそらく一般の接種希望者がまずは期待するのがこのレベルだと考えたからだ。◆アレックスビーすでに市販されている。60歳以上の2万4,966例を対象に行われた第III相試験「AReSVi-006」1)の結果によると、追跡期間中央値6.7ヵ月でのプラセボ対照単回接種での有効率は71.7%。◆アブリスボ60歳以上の3万4,284 例を対象とした第III相試験「RENOIR」の中間解析結果2)によると、追跡期間中央値7ヵ月でのプラセボ対照単回接種での有効率は66.7%。◆mRNA-134560歳以上の3万5,541例を対象とした第II/III相試験「ConquerRSV」の中間解析結果3)によると、追跡期間中央値112日でプラセボ対照単回接種での有効率は68.4%。一方でワクチン接種群での有害事象の発現率を概観してみる。アレックスビーでは局所性が62.2%、全身性が49.4%。アブリスボでは局所性が12%、全身性が27%。mRNA-1345は局所性が58.7%、全身性が47.7%。いずれも主なものは局所性で注射部位疼痛、全身性で疲労感ということで共通している。このように概観してみると、有効性はほぼ同等、安全性ではややアブリスボが優位となる。なぜアブリスボで有害事象発現率が低いのかは現時点では不明である。ちなみにワクチンの有効性に関しては、ここではRSV関連急性感染症で紹介したが、論文などで紹介されている有効率は、2つ以上の徴候や症状を呈するRSV関連下気道疾患をメインで示しており、そのデータに関連してアレックスビーに比べてm-RNAワクチンのmRNA-1345は有効性の低下が早いという話も報じられている。これら3つのワクチンの登場は、これまでかなりメジャーであったものの手の施しようがなかったRSV感染症に対するブレイクスルーであることは間違いない。そしてワクチンに関して言えば、私自身は少なくとも当初は複数のモダリティによる製品があるほうが安定供給などの点から望ましいとも考えている。今後、有効性・安全性の観点から臨床現場の自然な選択が進めばよいことである。とりあえず興味と頭の整理も考えて、今回概観してみた。ちなみにワクチンマニアを自称する私はまだ50代半ばなので、接種できるのはまだ先になるが(笑)。参考1)Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.2)Walsh EE, et al. N Engl J Med. 2023;388:1465-1477.3)Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.

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島根県の呼吸器診療の未来を支えるクラウドファンディングを開始/島根大学

 島根大学医学部 呼吸器内科が中心となり「島根県の呼吸器診療の未来を支えるクラウドファンディング」を開始した。進む高齢化、不足する呼吸器専門医 島根は全国的にも高齢化が進んでいる県であり、令和4年の高齢化率は34.7%で全国第7位である1)。高齢者は免疫機能が低下していることもあり、感染症やがんなど呼吸器疾患の発症率も高い。それに対して、島根では全県的に呼吸器専門医が不足しており、地域によっては専門医がいないという深刻な状況だ。このまま地域の呼吸器専門医が不在の状態が続くと呼吸器診療体制が形成できず、早期診断、疾患予防の輪が広がらないとされる。 そのような中、島根大学医学部の呼吸器内科教授である礒部 威氏をプロジェクトリーダーとして、「呼吸器専門医の育成」「非専門医師の呼吸器疾患の知識向上」「一般の方むけの啓発」をサポートするクラウドファンディングがスタートした。難易度高い呼吸器専門メディカルスタッフの育成 高齢者は複数の慢性疾患を抱えていることが多い。高齢者が多い島根では「内科全般の知識を有する」呼吸器専門医の育成が重要な課題だ。また、呼吸器専門医の診療範囲は、感染症、がん、気管支喘息、睡眠時無呼吸症候群など多岐に及ぶ。専門性の維持・向上には、多くの専門資格の取得を目指してキャリアを積んでいく必要がある。 そのため、呼吸器専門医を目指すには、研修や学会への参加、自己研鑽が必要となる。医師の金銭的、時間的な負担は大きい。クラウドファンディングの資金で、県内の呼吸器研修医がアクセス可能なITを活用した講習会セミナーを開く予定だ。非専門医への呼吸器疾患を啓発して診療連携 呼吸器疾患は早期発見が重要となる。そのためには呼吸器専門医と非専門医の連携が重要である。非専門医の最新の呼吸器疾患の知識の補充は欠かせない。とはいえ、多忙な診療の中、専門外の知識を学習するのは容易ではない。クラウドファンディングで、非専門医が呼吸器疾患の情報をキャッチアップできるHPを作成する。呼吸器疾患の予防にカギとなる一般大衆の知識向上 呼吸器疾患は禁煙、ワクチン、検診など予防が効果的であり、一般大衆の疾患知識は予防に重要である。しかし、実際は呼吸器疾患やその予防について学ぶ機会はほとんどない。 また、高齢化が進む島根県においては、適正な医療を提供しQOLを向上するため「高齢者機能評価」の普及が重要である。 一般大衆の呼吸器疾患の予防医学や高齢者機能評価の必要性について知識を得る機会を増やすため、市民公開講座などの啓発活動もクラウドファンディングで集まった資金を使って積極的に行っていきたいという。・目標金額:400万円・資金使途:生涯教育支援費用、広報用HP作成、Zoom使用料 、啓発活動、事務局人件費・運営費、クラウドファンディング手数料 など

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高齢者診療の困ったを解決するヒントは「老年医学」にあり!【こんなときどうする?高齢者診療】第1回

今回のテーマは、「なぜ今、老年医学が必要なのか?」です。このような症例に出会ったことはありませんか?85歳女性。自宅独居。糖尿病、高血圧、冠動脈疾患の既往有。呼吸苦を主訴に救急外来を受診。肺炎と診断し入院にて抗菌薬加療。肺炎の治療は適切に行われ呼吸苦症状も改善したが、自力歩行・経口摂取が困難になり自宅への帰宅不可能に。適切な診断と治療をして疾患は治ったにもかかわらず状況が悪化してしまう-高齢者診療でよく遭遇する場面かもしれません。老年医学はこうしたジレンマに向かい合うきっかけを提供し、すべての高齢者に対してQOLの維持・向上を図ること、また同時に心や体のさまざまな症状をコントロールするために体系化された学問です。老年医学の原則とアプローチ(「型」)を実践することで、困難事例に解決の糸口をみつけることができるようになります。老年医学の原則:コモンなことはコモンに起きる-老年症候群と多疾患併存日本における平均寿命と健康寿命はいずれも延伸していますが、平均寿命と健康寿命のギャップは医療の進歩にも関わらず顕著には短縮しておらず、女性で約12年、男性で約7~8年あります。1)この期間に多くの高齢者が抱える問題が2つあります。ひとつは老年症候群。たとえば記憶力の低下や抑うつ、転倒や失禁などの認知・身体機能の低下など、高齢者にコモンに起きる症状・兆候を「老年症候群」と総称します。もうひとつは、多疾患併存(multimorbidity)です。年齢に比例して併存疾患の数が多くなり、60歳以降では約20%が3つ以上の疾患を有しているという調査があります。2)高齢者の治療やケアをする場合、老年症候群と多疾患併存があるという前提で診察やケアにあたることが大切です。老年医学の型:5つのM老年症候群があり、多疾患併存状態にある高齢者の診療は、疾患の診断-治療という線形思考で解決しないことがほとんどです。そこで、複雑な状況を俯瞰するために「5つのM」というフレームを使います。要素は、大切なこと(Matters most)、薬(Medicine)、認知機能・こころ(Mind)、身体機能(Mobility)、複雑性・落としどころ(Multi-complexity)の5つです。今回のケースを5つのMを使って考えてみましょう。ポイントはMatters mostから考え始めること。「生きがい」・「大切なこと」といったことでもよいのですが、「今、患者/家族にとって一番の困りごとは何か、肺炎を治療した先の日々の生活に期待することは何か?」を入院加療の時点で考えられると、行うべき介入がさまざまな角度から検討できるようになります。今回のケースでは、肺炎治療後に自宅に帰り、自立した生活をできる限り続けることがゴールだったと考えてみましょう。そうすると、肺炎治療に加えて1人で歩行するための筋力維持が必要だと気付くでしょう。また筋力を維持するためには栄養状態にも気を配らなければなりません。それに気付けば理学療法士や管理栄養士など、その分野の専門職に相談するという選択肢もあります。また、肺炎治療中の絶対安静や絶食は、筋力や栄養状態の維持を同時に叶えるために適切な選択だろうか?本当に必要なのだろうか?と立ち止まって考えることもできます。しかし命に係わるかもしれない肺炎の治療は優先事項のひとつですから、落としどころとして、安静期間をできる限り短くできないか検討する、あるいはリハビリテーションの開始を早める、誤嚥のリスクを見極めて経口摂取を早期から進めていく、といった選択肢が出てくるかもしれません。100%正しい選択肢はありません。ですが5つのMで全体像を俯瞰すると、目の前の患者に対して、提供できる医療やケアの条件の中で、患者のゴールに近づく落としどころや優先順位を考えることができます。高齢者にかかわるすべての医療者で情報収集し共有する今回のケースでは、例として理学療法士や管理栄養士を出しましたが、その他にもさまざまな専門職が高齢者の医療に携わっています。医師は診断・治療といった医学的介入を職業の専門性として持つ一方で、患者とコミュニケーションできる時間が少ないために十分な「患者―医師関係」が構築しにくく、患者・家族が本当に大切にしていることが届きにくい場合があります。そのため、協働できる多職種の方とともに患者の情報を得る、そして彼らの専門性を活かして介入の方法やその分量のバランスをとること、落としどころを見つけることが医師に求められるスキルのひとつです。参考1)内閣府.令和5年度版高齢社会白書(全体版).第1章第2節高齢期の暮らしの動向.2)Miguel J. Divo,et al. Eur Respir J. 2014; 44(4): 1055–1068.

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