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第121回 高額過ぎて新型コロナワクチン接種が進まない

各学会から見解2024年10月に、日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会の3学会から合同で、「2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解」が発出され1)、「高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨」と記載されました。そして、日本小児科学会から「2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」も発出され2)、「生後6ヵ月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)が望ましい。特に、重症化リスクが高い基礎疾患のある児への接種を推奨」という文面になりました。こうした学会の見解は、これまでのエビデンスに裏付けられたものであり、一定の合理性を感じます。「変異ウイルスに効かない説」いまだによく聞く言説として、今年のワクチンはもう新しいKP.3系統に効果がないというものがあります。これは誤解です。確かに、従来のワクチン(起源株の1価ワクチン、BA.4・BA.5を含む2価ワクチン、XBB.1.5の1価ワクチン)やXBB以前の獲得免疫については、現在の主流株であるKP.3にはやや劣る側面があるかもしれません。しかし、現在定期接種で用いられているJN.1の1価ワクチンは、ここよりも下位系統に対して中和抗体の誘導が可能で、現在主流のKP.3系統も含めて発症予防効果があると考えられています3)。この冬に流行するのは、おそらくXEC株というものですが、これはKS.1.1(JN.13.1.1.1)とKP.3.3(JN.1.11.1.3.3)の組み換え体であるため4)、これもJN.1対応の現行ワクチンで効果があると思われます。ちなみに、JN.1対応ワクチンを接種した場合、KP.3株およびXEC株に対する中和抗体価は、JN.1株ほどではないものの有意に向上したという査読前論文があります5)。この冬に流行しそうな株は、現行ワクチンで十分と考えられます。現状、過去のワクチン接種の後、効果がなくなってしまった人がほとんどなので、とくに定期接種対象者についてはどこかで接種を検討する形でよいかと理解しています。高額過ぎて打てない自治体によって対応に差はありますが、ほとんどの子供は定期接種対象者ではありません。そのため、新型コロナワクチンの接種費用はガチでかかります。約1万5,000円です。家族4人で打つと6万円ということになるので、それなら感染予防を心掛けて今年の冬を乗り切ろうというご家庭が多いかもしれません。この費用負担が、新型コロナワクチンの接種を妨げる一因ともいえます。インフルエンザワクチンは接種するものの、コロナワクチンは見送る──そんなご家庭が増えているのが現状です。さらに、レプリコンワクチンに関する誤情報も影響している可能性があります。実際、Meiji Seika ファルマは、こうしたデマに対して訴訟を起こすなど、厳しい対応を行っています。諸外国では無料で接種できる国も多く、日本の現状は「予防医学の理想」からは遠い位置にあります。将来的にインフルエンザとの混合ワクチンが実現する際には、この費用の問題も解決されることが期待されます。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会, 日本呼吸器学会, 日本ワクチン学会. 2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(2024年10月17日)2)日本小児科学会. 2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2024年10月27日)3)厚生労働省. 第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会資料. 資料1「2024/25シーズン向け新型コロナワクチンの抗原組成について」(2024年5月29日)4)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 XEC variant. bioRxiv. 2024 Oct 17. [Preprint]5)Arona P, et al. Impact of JN.1 booster vaccination on neutralisation of SARS-CoV-2 variants KP.3.1.1 and XEC. bioRxiv. 2024 Oct 04. [Preprint]

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第237回 「新たな地域医療構想」の議論本格化、どんどん増える“協議”する項目、元々機能していなかった地域医療構想調整会議のさらなる形骸化が心配

四病協が新たな地域医療構想における「医療機関機能」のイメージ案に再考求めるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンも終わってしまいました。米国のMLBは、大谷 翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースが4年ぶりのワールドシリーズ優勝を決めました。前の優勝は4年前、2020年です。このときはコロナ禍の真っ只中、レギュラーシーズンの試合数はわずか60試合で、ワールドシリーズも両チーム(相手はタンパベイ・レイズ)の本拠地でもないテキサス州のグローブライフ・フィールドで行われました。しかも、試合のとき以外は選手全員がホテルに缶詰めとなって全試合を戦うバブル方式(まとまった泡の中で開催する、という意味)でした。さらに、ジャスティン・ターナー選手が新型コロナウイルス陽性なのに出場して物議を醸すなど、優勝にちょっとしたケチも付きました。たった4年前ですが、コロナ禍というのはいろんなことが異常だったなと改めて思います。そのドジャース、今年は年間162試合をフルに戦い、ポストシーズンでさらに16試合、最後は宿敵ニューヨーク・ヤンキースを破っての優勝(しかもパレード付き)ということで、文句のつけようがない正真正銘の世界一です。選手にとってもファンにとっても喜びはひとしおでしょう。それにしても、ワールドシリーズ第5戦の5回表、ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手、アンソニー・ボルピー選手、ゲリット・コール投手が連続して守備のミスを連発、5点差を逆転され自滅していったのには驚きました。それも高校生でもしないような単純ミスばかりです。王者ヤンキースの選手も普通の人間で、大舞台では緊張したり、うっかりしたりするということですね。いやはや、野球は面白いです。さて、今回は厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」で議論されている「医療機関機能」のイメージ案に対して、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会で構成)が再考を求めたことについて書いてみたいと思います。四病協はいったい何が不満だったのでしょうか。入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む医療提供体制全体の課題解決を図る「新たな地域医療構想」厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」は、2025年を目標年とする現在の地域医療構想の「次」について検討を進める会です。2040年を目処に、それまでにどのような医療提供の姿を作っていくのかが、多面的に議論されています。2024年3月29日に第1回が開かれて以降、10月17日までに10回を数えました。8月26日に開かれた第7回では、厚労省が“中間取りまとめ”として「新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療について」と題する資料を提示、次のような基本的な考え方が示され、委員の了承も得て本格的な議論に入りました。85歳以上の高齢者の増加や人口減少がさらに進む2040年以降においても、全ての地域・全ての世代の患者が、適切な医療・介護を受け、必要に応じて入院し、日常生活に戻ることができ、同時に、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制を実現する必要がある。このため、入院医療だけでなく、外来医療・在宅医療、介護との連携等を含め、地域における長期的に共有すべき医療提供体制のあるべき姿・目標として、地域医療構想を位置づける。人口や医療需要の変化に柔軟に対応できるよう、二次医療圏を基本とする構想区域や調整会議のあり方等を見直した上で、医療・介護関係者、都道府県、市区町村等が連携し、限りある医療資源を最適化・効率化しながら、「治す医療」を担う医療機関と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、「地域完結型」の医療・介護提供体制を構築する。端的に言えば、今の地域医療構想が、病床の機能分化・連携のみに重点を置いていたのに対し、次の地域医療構想は、入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む、医療提供体制全体の課題解決を図るため大幅にバージョンアップを図る、ということです。四病協での指摘はちょっと神経質過ぎる気もさて、四病院団体協議会は、厚労省が示した構想区域で求められる「医療機関機能のイメージ案」が誤解を生みかねないなどとして、11月にも書き換えを求める意見を出す方針を決めました。これは、四病協が10月23日に開いた記者会見で、日本病院会の相澤 孝夫会長が明らかにしたものです。「医療機関機能のイメージ案」とは、9月30日と10月17日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」で厚労省が示したものです。下図のように、医療機関に報告を求める機能の類型について、(1)高齢者救急の受け皿となり地域への復帰を目指す機能、(2)在宅医療を提供し、地域の生活を支える機能、(3)救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能、の3項目と「その他地域を支える機能」を提示しています。新たな地域医療構想等に関する検討会(令和6年10月17日)提出資料より10月23日付のキャリアブレインマネジメントなどの報道によれば、四病協では、(1)の病院は高齢者の救急医療のみに対応すればよいのか、という指摘があったほか、(3)の病院は3次救急医療だけを提供すればよいのか、といった意見が出て、「誤解を生む」との声が上がったとのことです。相澤氏は記者会見で、「イメージ案を書き直してもらうようにしたらどうかということで、四病協としての意見をまとめて厚労省に提出していく」と述べたとのことです。確かに、この図をぼーっと眺めると、「高齢者救急の受け皿」と「救急医療等の急性期の医療」は別の医療機関が担うように見えるかもしれません。ただ、「医療機関」と書かれているのではなく「医療機関機能」と、「機能」という言葉が付いています。四病協の指摘はちょっと神経質過ぎる気もします。とは言え、適当に書かれたポンチ絵が一人歩きしてしまうこともよくあります。まだ何も決まっていないので、誤解を生まない表現に変えておくことは大切かもしれません。地域医療構想調整会議も見直さないと次の地域医療構想も“絵に描いた餅”で終わりかねない私自身がこの「新たな地域医療構想」で気になるのは、検討すべき(あるいは協議すべき)項目が多岐に渡り、多過ぎる点です。病床の機能分化・連携推進だけが目的だった今の地域医療構想ですら、地域医療構想調整会議(いわゆる協議の場)の多くはほとんど機能しなかったと言われています。結果、多くの構想区域で病床の機能分化は進まず、急性期病床は思うようには減らず、回復期病床が足りない状況を招いたわけです。地域医療構想調整会議という組織には、現状、大きな強制力はありません。ダラダラ協議をして、何も決めなくても罰則もありません。唯一、地域医療構想調整会議での協議が整わないときに、都道府県知事は公的医療機関には「不足する医療機能を提供することを指示」でき、民間医療機関には「不足する医療機能を提供することを要請」できるくらいです。都道府県知事の医療機関に対する「要請」はほとんど意味がなく、実質機能しないことはコロナ禍で実証済みです。「新たな地域医療構想」に向けて、地域医療構想調整会議の位置付けや強制力、権限、さらには都道府県知事の権限も見直さないと、「地域医療構想」はまた“絵に描いた餅”で終わりかねません。これからの「検討会」の議論の行方に注目したいと思います。

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新型コロナによる死者数とその年齢構成

新型コロナウイルス感染症による年間死亡者数と年齢構成(5類感染症移行後)2023年5月~2024年4月の死亡者数(インフルエンザとの比較)死亡者の年齢構成30~40代 0.5%3万2,576人29歳以下 0.2%50代 1.2%60代 3.8%70代約15倍90歳以上15.9%38.6%80代2,244人新型コロナウイルス感染症インフルエンザ39.8%n=3万2,573人(年齢不明の3人除く)厚生労働省「人口動態統計」より2023年5~12月(確定数)、2024年1~4月(概数、2024年10月30日閲覧)のデータを集計Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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レトロウイルス感染症-基礎研究・治療ストラテジーの最前線-/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が京都市で開催され、12日のPresidential Symposiumでは、Retrovirus infection and hematological diseasesに関し5つの講演が行われた。本プログラムでは、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の発がんメカニズムや、ATLの大規模全ゲノム解析の結果など、ATLの新たな治療ストラテジーにつながる研究や、ATLの病態解明に関して世界に先行し治療開発にも大きく貢献してきた日本における、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)関連疾患の撲滅といった今後の課題、AIDS関連リンパ腫に対する細胞治療や抗体療法の検討、HIVリザーバー細胞を標的としたHIV根治療法など、最新の話題が安永 純一朗氏(熊本大学大学院生命科学研究部 血液・膠原病・感染症内科学)、片岡 圭亮氏(慶應義塾大学医学部 血液内科)、石塚 賢治氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 人間環境学講座 血液・膠原病内科学分野)、岡田 誠治氏(熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター 造血・腫瘍制御学分野)、白川 康太郎氏(京都大学医学部附属病院 血液内科)より報告された。ATLの発がんメカニズムに関与するHTLV-1 bZIP factor(HBZ)およびTax HTLV-1はATLの原因レトロウイルスであり、細胞間感染で感染を起こす。主にCD4陽性Tリンパ球に感染し、感染細胞クローンを増殖させる。HTLV-1がコードするがん遺伝子にはTaxおよびHBZ遺伝子が含まれ、Taxはプラス鎖にコードされ一過性に発現する。一方、HBZはマイナス鎖にコードされ恒常的に発現する。これらの遺伝子の作用により、感染細胞ががん化すると考えられる。HBZはATL細胞を増殖させ、HBZトランスジェニックマウスではT細胞リンパ腫や炎症が惹起される。また、HBZタンパクをコードするだけでなく、RNAとしての機能など多彩な機能を有している。HBZトランスジェニックマウスではHBZが制御性Tリンパ球(Treg)に関連するFoxp3、CCR4、TIGITなどの分子の発現を誘導、TGF-β/Smad経路を活性化してFoxp3発現を誘導し、この経路の活性化を介し、HTLV-1感染細胞をTreg様に変換し、HTLV-1感染細胞、ATL細胞の免疫形質を決定していると考えられる。 ATL症例の検討では、TGF-β活性化により、HBZタンパク質は転写因子Smad3などを介しATL細胞核内に局在し、がん細胞の増殖が促進される。HBZ核内局在はATL発症において重要であり、TGF-β/Smad経路はATL治療ストラテジーの標的になりうると考えられる。Taxはウイルスの複製やさまざまな経路の活性化因子であり、宿主免疫の主な標的であり、ATL細胞ではほぼ検出されない。ATL細胞株のMT-1はHTLV-1抗原を発現するが、MT-1細胞ではTaxの発現は一過性である。また細胞発現解析では、Tax発現が抗アポトーシス遺伝子の発現増加と関連し、細胞増殖の維持に重要であることが示された。ATL症例では約半数にTaxの転写産物が検出され、Taxの発がんへの関与が考えられる。発がんメカニズムに関与するHBZおよびTax遺伝子の多彩な機能の解析がATLの治療ストラテジーの開発につながると考えられる。ATLの全ゲノム解析―遺伝子異常に基づく病態がより明らかに ATLは、HTLV-1感染症に関連する急速進行性末梢性T細胞リンパ腫(PTCL:peripheral T-cell lymphoma)であり、ATL発症時に重要な役割を果たす遺伝子異常について、全エクソン解析や低深度全ゲノム解析など網羅的解析が行われてきた。しかし、構造異常やタンパク非コード領域における異常など、ATLのゲノム全体における遺伝子異常の解明は十分ではなかった。 今回実施された、ATL150例を対象とした大規模全ゲノム解析は、腫瘍検体における異常の検出力がこれまでの解析より高い高深度全ゲノム解析(WGS)である。タンパクコード領域および非コード領域における変異、構造異常(SV)、コピー数異常(CNA)を解析した結果、56個のドライバー遺伝子が同定され、56個中CICなど11個の新規ドライバー遺伝子があり、このうちCIC遺伝子はATL患者の33%が機能喪失型の異常を認め、CIC遺伝子の長いアイソフォームに特異的な異常(CIC-L異常)であり、ATLにおいて腫瘍抑制遺伝子として機能していた。さらに、CIC遺伝子とATN1遺伝子異常の間には相互排他性が見られ、CIC-ATXN1複合体はATL発症に重要な役割を果たすと考えられた。また、CIC-LノックアウトマウスではFoxp3陽性T細胞数が増加しており、CIC-LがT細胞の分化・増殖を制御するうえで選択的に作用すると考えられた。 また、ATL新規ドライバー遺伝子RELは、遺伝子後半が欠損する異常をATL患者の13%に認め、遺伝子の構造異常はATL同様、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)でも高頻度に認められた。REL遺伝子の構造異常はREL発現上昇やNF-κB経路の活性化と関連し、腫瘍化を促進すると考えられた。 ATLにおけるタンパク非コード領域、とくにスプライス部位の変異の集積が免疫関連遺伝子を中心に繰り返し認められ、ATLのドライバーと考えられた。今回の解析で得られたドライバー遺伝子異常の情報をクラスタリングし、2つのグループに分子分類した結果、両群の臨床病型や予後が異なることが示された。全ゲノム解析研究はATLの新たな診断および治療薬の開発につながると考えられる。ATL治療の今後 ATLは、aggressive ATL(急性型、リンパ腫型、予後不良因子を有する慢性型)とindolent ATL(くすぶり型、予後不良因子を有さない慢性型)に分類され、それぞれ異なる治療戦略が取られる。aggressive ATLの標準治療(SOC)は多剤併用化学療法であり、VCAP-AMP-VECP(ビンクリスチン+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾロン―ドキソルビシン+ラニムスチン+プレドニゾロン―ビンデシン+エトポシド+カルボプラチン+プレドニゾロン)の導入により、最終的に生存期間中央値(MST)を1年以上に延長することが可能となった。同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)はHTLV-1キャリアの高齢化に伴い、全身状態が良好な70歳未満の患者におけるSOCとして施行される。2012年以降、日本ではモガムリズマブ、レナリドミド、ブレンツキシマブ ベドチン、ツシジノスタット、バレメトスタットの5剤が新規導入され、初発例に対するモガムリズマブおよびブレンツキシマブ ベドチン+抗悪性腫瘍薬の併用や、再発・難治例に対する単剤療法として使用されている。indolent ATLに対しては日本では無治療経過観察であるが、海外では有症候の場合IFN-αとジドブジン(IFN/AZT)の併用が選択される。しかし、いずれもエビデンス不足であり、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は両群の治療効果を確認する第III相試験を進行中であり、結果は2026年に公表予定である。 日本の若年HTLV-1感染者は明らかに減少し、新規に診断されたATL患者は高齢化し、70歳以上と予測される。この動向は2011年から開始された母乳回避を推奨し、母子感染を抑止する全国的なプログラムによりさらに推進されると考えられる。今後は高齢ATL患者に対するより低毒性の治療法の確立と、全国プログラムの推進によるHTLV-1感染、およびATLなどHTLV-1関連疾患の撲滅が課題である。AIDS関連悪性リンパ腫の現状 リンパ腫はAIDSの初期症状であり、AIDS関連悪性リンパ腫はHIV感染により進展し、AIDS指標疾患として中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)および非ホジキンリンパ腫が含まれる。悪性腫瘍は多剤併用療法(cART)導入後もHIV感染者の生命を脅かす合併症であり、リンパ腫はHIV感染者の死因の最たるものである。HIV自体には腫瘍形成性はなく、悪性腫瘍の多くは腫瘍ウイルスの共感染によるものである。 エプスタイン・バーウイルス(EBV)およびカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)はAIDS関連リンパ腫の最も重要なリスクファクターであり、HIV感染による免疫不全、慢性炎症、加速老化、遺伝的安定性はリンパ腫形成を亢進すると考えられている。AIDS関連リンパ腫ではEBV潜伏感染が一般的に見られ、EBV感染はDLBCL発症と深く関連するが、予後不良な形質芽球性リンパ腫(PBL)、原発性滲出性リンパ腫(PEL)との関連は不明である。バーキットリンパ腫(BL)、およびPBLは最近増加している。BLおよびホジキンリンパ腫(HD)の治療成績と予後はおおむね良好である。 AIDS関連悪性リンパ腫の治療はこれまで抗腫瘍薬と、プロテアーゼインヒビター(PI)のCYP3A4代謝活性阻害による薬物相互作用の問題があった。近年、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)の導入によりCYP3A4阻害が抑えられ、AIDS関連悪性リンパ腫患者の予後は非AIDS患者と同等になっている。 高度免疫不全マウスにヒトPEL細胞を移植したPELマウスモデルでは、PELにアポトーシスが誘導された。AIDS関連リンパ腫に対する細胞療法や抗体療法の効果が期待される。リザーバー細胞を標的としたHIV根治療法 抗レトロウイルス療法(ART)により、HIVは検出不可能なレベルにまで減少できるが、ART中止数週間後に、HIVは潜伏感染細胞(リザーバー)から複製を開始する。HIV根治達成には、HIVリザーバーの体内からの排除が必要である。 HIV根治例は2009年以来、現在まで世界で7例のみである。全例が白血病など悪性腫瘍を発症し、同種造血幹細胞移植(SCT)を受け、数年はARTなしにウイルス血症のない状態を維持した。最初のHIV根治例はCCR5Δ32アレルに関してホモ接合型(homozygous)であるドナーからSCTを受けた症例であり、5例がこのSCTを受けた。 キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法はHIV感染症領域への応用が期待されている。そこで、アルパカを免疫して作製したVHH抗体をもとに、より高効率にHIVに対する中和活性を示す抗HIV-1 Env VHH抗体を開発した。新たなHIV感染症の治療として、CAR-T療法への応用などを試みている。 HIVリザーバー細胞を標的として排除するアプローチとして、latency reversal agents(LRA)によるshock and killが提唱され、HIV根治のためのLRA活性を有するさまざまな薬剤の研究、開発が進められている。HIV潜伏感染細胞モデル(JGL)を用いたCRISPRスクリーニングにより、4つの新規潜伏感染関連遺伝子、PHB2、HSPA9、PAICS、TIMM23が同定され、これら遺伝子のノックアウトによりHIV転写の活性化が誘導され、潜伏感染細胞中にウイルスタンパクの発現が認められた。また、PHB2、HSPA9、TIMM23のノックアウトにより、ミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)が誘導された。Mitophagy activatorのウロリチンA(UA)およびその他のマイトファジー関連化学物質は、潜伏細胞実験モデルにおいてHIV転写を再活性することが示され、in vivoにおけるHIV再活性化の誘導についての臨床試験が検討されている。 ウイルス酵素をターゲットとする最近のART療法ではHIV根治は望めず、ウイルス産生が可能なリザーバー細胞を標的としたHIV根治療法が求められている。 本プログラムでは、ATLやAIDS関連リンパ腫などの病態解明や治療法について最新の話題が報告され、今後の治療ストラテジーの開発につながることが期待される。

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第235回 コロナワクチン否定のための引用論文、実は意外な結論だった

つくづく新型コロナウイルス感染症のワクチン問題は説明が難しいと感じている。つい先日、知人と久しぶりに会った時に「新型コロナウイルスのスパイクタンパク質って毒性あるの?」と尋ねられ、「なんかそう言っている話もあるけどね」と確たる答えを返せなかった。確かにSNS上では、mRNAワクチンで産生されるスパイクタンパク自体に毒性があり、ワクチン接種そのものに問題があるという指摘は、ワクチン批判派の人たちからはよく流されている。私がこうした指摘にこれまで気にも留めなかったのは、脂質ナノ粒子にくるまれて細胞内に入り込んだmRNAワクチン成分がそこでスパイクタンパク質を作り出しても、スパイクタンパク質自体やmRNAが入り込んでスパイクタンパク質を産生している細胞は、ワクチン接種で誘導された免疫反応で排除されるのが、このワクチンの理論的な作用機序だと考えているからだ。とはいえ、知人の指摘する話の原典には当たったことはなく、後日実際に検索しているうちに、ワクチン批判派があちこちで引用する2021年3月のCirculation Research誌に掲載されたLetter1)に行き着いた。ワクチン否定派の引用論文×自身が気になった論文これはスパイクタンパク質をつけた疑似ウイルスをハムスターに接種した実験で、スパイクタンパク単体でも細胞表面のACE2受容体のダウンレギュレーションを通じて血管内皮細胞に障害を与える可能性があるとの研究。これ自体は当然ながら一定の信憑性はあるのだろう。もっともこの論文の最後を読んで、申し訳ないが笑ってしまった。というのも、結論は「ワクチン接種により産生される抗体や外因性の抗Sタンパク質抗体は、新型コロナウイルスの感染だけでなく、内皮障害も保護する可能性が示唆される」というものだったからだ。ワクチン批判派の人たちは、論文を読まずに拡散していたということにほかならない。もっとも私自身の中でことはこれで終わりにはならなかった。前出の論文検索中にCirculation誌の2023年1月に掲載されていた論文2)を見つけたからだ。この論文が記述していたのはmRNAワクチン接種約100万回当たり1回程度生じるといわれる心筋炎の副反応に関する研究である。その中身は「新型コロナワクチン接種後に心筋炎の副反応を経験した若年者と年齢をマッチングさせたワクチン接種経験のある健常ボランティアの血液を分析した結果、心筋炎発症集団の血中でのみワクチン接種により産生された抗体が結合しきれていないスパイクタンパク質が高濃度で検出された」という内容である。ちなみにこの研究では「抗体産生や新型コロナウイルス特異的T細胞などの免疫応答についても解析し、両集団に差がなかった」ことも記述している。この論文では、「こうしたワクチンによる抗体が掴まえきれない、血中を遊離するワクチン由来のスパイクタンパク質が心筋炎発症に関与する可能性が示唆される」と結論付けている。もっとも前述のように両者の免疫応答に差がなく、心筋炎発症集団で高濃度に検出された遊離スパイクタンパク質も33.9±22.4pg/mLと量そのものの絶対値で見れば微量にすぎない。となると、新型コロナワクチン接種者で発症する心筋炎に関しては、遊離スパイクタンパク質はリスクファクターではあるものの、何らかの内因性のファクターが関与していると見るのが妥当だと個人的には考えている。友人の意外な反応さて、そんなこんなを前述の知人に伝えたところ、「だとするならやっぱり危ないんじゃないのかな?」との反応。「いやいや、そうではなくて…」と私は語り掛け、合計1時間半にもおよぶ長電話になってしまった。私が話した内容の大半は、リスクとベネフィットのバランスである。もっともここで“約100万回に1回”という心筋炎の発症頻度が非常にわかりにくいことも改めて思い知らされた。確率に直せば0.000001ということになるので、そう説明すると知人もようやく「まあ、そんなに低いのね。何度もコロナで苦しむリスクを減らすなら、ワクチンもコスパが良いのか?」と言い出した。ちなみに本人は今年61歳。過去に2度の感染で苦しんでもいる。しかし、本当にリスクの伝え方は難しいと改めて感じている。とくに今回、私が経験したケースは入口となるファクトそのものは間違いではない。ただ、ワクチンに批判的な人たちがそこをフックに針小棒大に語っていると、こちらも医療に詳しくない一般人に説明する際はのっけから苦労する。つまり、ワクチン批判派は入口のファクトは一定の信頼性があるものを使っているため、彼らが伝える“ある種の妄想”と言っても差し支えないその先の解釈までもが、何も知らない人は“信憑性を帯びている”と無意識に受け止めているということだ。ここへさらにヒトの中に無意志に備わっているゼロリスク願望が加わると、より確かな情報を理解してもらうハードルが一気に高まってしまう。そしてSNS上で次世代mRNAワクチン、通称・レプリコンワクチンに関する異常とも言えるデマのまん延を見るにつけ、医療従事者の皆さんは私以上に苦労しているのだろうと思わずにはいられない。参考1)Lei Y, et al. Circ Res. 2021;128:1323-1326.2)Yonker LM, et al. Circulation. 2023;147:867-876.

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60歳以上へのRSVワクチン、承認後初のシーズンの有効性/Lancet

 RSウイルス(RSV)ワクチン承認後最初のシーズンである2023~24年の米国において、同ワクチンの接種は、60歳以上のRSV関連入院および救急外来受診の予防に有効であったことが示された。米国疾病予防管理センターのAmanda B. Payne氏らが報告した。2023年に初めて使用が推奨されたRSVワクチンは、臨床試験で下気道疾患に有効であることが確認されているが、実臨床での有効性に関するデータは限られていた。Lancet誌2024年10月19日号掲載の報告。RSV関連入院および救急外来受診に対するRSVワクチンの有効性を解析 研究グループは、米国8州の電子カルテに基づくネットワーク(Virtual SARS-CoV-2, Influenza, and Other respiratory viruses Network:VISION)において、2023年10月1日~2024年3月31日にRSV検査を受けた60歳以上の成人におけるRSV様疾患による入院および救急外来受診に関して、検査陰性デザインを用いた解析を実施した。 受診時のRSVワクチン接種状況は、電子カルテ、州および市の予防接種登録、一部の施設では医療請求記録から取得した。 ワクチンの有効性は、RSV陽性症例群と陰性対照群でワクチン接種のオッズを比較し、年齢、人種/民族、性別、暦日、社会的脆弱性指数、呼吸器系以外の基礎疾患数、呼吸器系の基礎疾患の有無および地理的地域で調整し、免疫不全状態別に推定した。免疫正常者における有効性、RSV関連入院に対し80%、救急外来受診に対し77% 60歳以上、免疫正常者のRSV様疾患による入院は2万8,271例で、RSV関連入院に対するワクチンの有効性は80%(95%信頼区間[CI]:71~85)、RSV関連重篤疾患(ICU入院/死亡、または両方)に対するワクチンの有効性は81%(95%CI:52~92)であった。 60歳以上、免疫不全状態の患者のRSV様疾患による入院は8,435例で、RSV関連入院に対するワクチンの有効性は73%(95%CI:48~85)であった。 60歳以上、免疫正常者のRSV様疾患による救急外来受診3万6,521例において、RSV関連救急外来受診に対するワクチンの有効性は77%(95%CI:70~83)であった。 ワクチンの有効性の推定値は、年齢層や製剤の種類によらず同様であった。 著者は研究の限界として、RSV陽性患者の受診がRSV感染症以外の理由で受診していた可能性を否定できないこと、予防接種登録、電子カルテ、医療請求記録では、投与されたRSVワクチンの投与量をすべて特定できない可能性があること、残余交絡の可能性などを挙げている。

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重症の新型コロナ感染者の心臓リスクは心疾患既往者のリスクと同程度

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、心筋梗塞や脳卒中、全死亡などの主要心血管イベント(MACE)リスクを高め、その程度はCOVID-19に罹患していないが心疾患の既往歴がある人のリスクとほぼ同程度であることが、米クリーブランドクリニック・ラーナー研究所心血管代謝学部長のStanley Hazen氏らによる新たな研究から明らかになった。この研究ではまた、重症度にかかわらず、COVID-19罹患は、その後3年間のMACEリスクを2倍に高めることも示されたという。この研究結果は、「Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology」に10月9日掲載された。 Hazen氏は、「この研究結果から、COVID-19は上気道感染症である一方で、さまざまな健康リスクを伴う疾患であり、心血管疾患の予防に関する計画や目標を策定する際には、COVID-19の既往歴を考慮すべきことを強く示したものだ」と述べている。 COVID-19パンデミックの初期には、新型コロナウイルスへの感染が血栓や心臓の問題のリスクを高めることが示されていた。しかし、このような高リスク状態がいつまで続くのか、どのような要因が影響するのかについては十分に解明されていないとHazen氏らは言う。 そこでHazen氏らは、2020年の2月1日から12月31日までの間に英国でCOVID-19の診断を受けた患者1万5人のデータを分析し、心血管の健康状態をCOVID-19に罹患していない21万7,730人と比較した。 その結果、COVID-19への罹患者では、重症度とは無関係に、1,003日の追跡期間にわたってMACEリスクが2倍以上に上昇することが明らかになった(ハザード比2.09、95%信頼区間1.94〜2.25、P<0.0005)。このようなリスク上昇は、COVID-19罹患により入院を要した人で顕著だった(同3.85、3.51〜4.24、P<0.0005)。また、心血管疾患の既往歴がないCOVID-19罹患者でのMACEリスクは、心血管疾患の既往はあるがCOVID-19罹患歴がない人よりも20%以上高かったことから(同1.21、1.08〜1.37、P<0.005)、COVID-19による入院が冠動脈疾患(CAD)と同等のリスク(CAD risk equivalent)をもたらすことが確認された。 さらにHazen氏らは、そのリスクの程度が血液型によって異なることも突き止めた。血液型がA型、B型、AB型の人では、O型の人と比べてCOVID-19による入院を経験した後の血栓イベント(心筋梗塞と脳卒中)のリスクが有意に高いことが示されたのだ。このことは、新型コロナウイルスへの感染後の心疾患リスクには、その人の遺伝的特徴が影響している可能性を示唆していると、Hazen氏らは指摘している。 論文の上席著者で、米南カリフォルニア大学ケック医学校ポピュレーションヘルス・公衆衛生科学および生化学・分子医学教授のHooman Allayee氏は、「われわれは、この結果を説明できる要因が他にあるかどうかを確認しようとしているところだが、実際に、特定の血液型では、生物学的な何らかのメカニズムが作用しているようだ」と話している。また同氏は、「われわれの観察の結果と、世界の人口の60%はO型以外の血液型である事実を踏まえると、われわれの研究は、個々の患者の遺伝的特徴を考慮した、より積極的な心血管リスク低減策を検討すべきかどうかという重要な問題を提起するものだ」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。 Allayee氏は、医師は新型コロナウイルスへの感染を全般的な心臓のリスクの一部としてとらえる必要があると主張する。同氏は、「現時点で疑問として残るのは、本研究結果と今後の研究結果により、心疾患の既往がない人に対する心臓の予防医療に関するガイドラインが、COVID-19の心臓への影響を考慮したものに変更されるのかということだ」と話している。

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第二の、はたまた初めての血友病B遺伝子治療fidanacogene elaparvovec(解説:長尾梓氏)

 このたび、NEJM誌にファイザーの血友病B遺伝子治療であるfidanacogene elaparvovecの第III相試験のデータが公表された。投与から最長15ヵ月まで安定した第IX因子活性の発現がみられた。同量を投与した第I/II相試験では、6年程度まで安定した第IX因子発現のデータが報告されている(学会発表のみ)。 fidanacogene elaparvovecは2023年12月にカナダ、2024年4月にFDA、同年7月にはEMAですでに承認を得ている。商品名はBeqvezだそう。元はSpark Therapeuticsによって開発が始まり、2014年にファイザーが権利を取得し開発を引き継いでいる。 血友病B遺伝子治療には、2022年11月にFDAで承認を得たのを皮切りにカナダ、EUでも承認されているetranacogene dezaparvovec(商品名:Hemgenix、製造販売:CSL Behring)があり、fidanacogene elaparvovecは世界的には第二の血友病B遺伝子治療といえる。日本では治験開始時期が異なるため、最初の遺伝子治療になる可能性が高い(「はたまた初めての」)。ちなみに、2つの遺伝子治療の値段は米国では同じだそうだ。 2つの遺伝子治療のFDAの適応症(indication)を調べてみた。fidanacogene elaparvovec:中等度~重度の血友病Bの成人において・現在、第IX因子の予防療法を使用している、または・現在、または過去に生命を脅かす出血を経験している、または・繰り返し、深刻な自然出血エピソードを経験している、かつアデノ随伴ウイルスAAVRh74varカプシドに対する中和抗体をFDA承認の検査で持っていない場合etranacogene dezaparvovec:血友病Bの成人において・現在、第IX因子の予防療法を使用している、または・現在、または過去に生命を脅かす出血を経験している、または・繰り返し深刻な自然出血エピソードを経験している場合 あくまでもFDAのindicationではあるが、AAV抗体の有無で適応が異なってくることに注意が必要である。日本人のAAV抗体陽性率は20~30%程度とされており、年齢が上がるにつれて陽性率も上がる(Kashiwakura Y, et al. Mol Ther Methods Clin Dev. 2022;27:404-414.)。これらを踏まえて、適応を検討することになるだろう。 血友病の遺伝子治療といえば、気になることとして「どれくらい持続するのか」「グルココルチコイドの使用(安全性も含む)」が挙がる。[どれくらい持続するのか] 投与後の第IX因子活性は期間などが違うので比較はできないが、参考までに提示しておくと以下のとおりとなる。「結構いい感じ」と言っても差し支えないだろう。fidanacogene elaparvovec:承認用量5×1011vg/kg投与15ヵ月時の平均FIX活性:26.9%(中央値:22.9%、範囲:1.9~119.0)etranacogene dezaparvovec:承認用量2×1013gc/kg投与3年後のFIX活性(平均±SD[中央値:範囲、症例数]):38.6 IU/dL±17.8(36.0:4.8~80.3、48)[グルココルチコイドの使用]fidanacogene elaparvovec:使用人数:45例中28例投与開始までの期間:中央値37.5日(範囲:11~123)投与期間:中央値95.0日(範囲:41~276)etranacogene dezaparvovec:使用人数:54例中9例投与開始までの期間:中央値6.1週(範囲:3.14~8.71週)投与期間:中央値74.0日(範囲:51〜130日) グルココルチコイドの使用については、実臨床において投与を受けた方の肝機能に最も注意すべき期間を示しているため、関係者は絶対に押さえておく必要がある。これを知らずに肝機能の悪化を見逃してしまうと、せっかく投与した遺伝子治療が水の泡となるかもしれず、患者負担、医療費など、さまざまな面でもったいないことになってしまう。 血友病の遺伝子治療は近々日本でも発売される見込みであるが、投与の体制がしっかり整っているとは言い難い状況である。学会を含め、全医療者で取り組む課題である。

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“風邪”への抗菌薬処方、医師の年齢で明確な差/東大

 日本における非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬の処方実態を調査した結果、高齢院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では抗菌薬を処方する割合が高く、とくに広域スペクトラム抗菌薬を処方する可能性が高かったことを、東京大学大学院医学系研究科の青山 龍平氏らがJAMA Network Open誌2024年10月21日号のリサーチレターで報告した。 日本では2016年より薬剤耐性(AMR)対策アクションプランなど、適切な抗菌薬処方を推し進める取り組みが行われているが、十分な成果は出ていない。そこで研究グループは、急性呼吸器感染症が不適切な抗菌薬処方を受けることが多い疾患の1つであることに注目し、非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬処方とそれに関連する診療所の特性を調査した。 研究グループは、電子カルテデータベースを用いて、2022年10月1日~2023年9月30日に非細菌性の急性呼吸器感染症(ICD-10のJ00~J06またはJ20~J22)と診断された外来の成人患者を抽出し、診療所の特性(院長の年齢や性別、患者数、グループ診療か単独診療か)と抗菌薬処方との関連を分析した。なお、成人のプライマリケアに従事する診療所に焦点を当てるため、耳鼻咽喉科および小児科の診療所と、研究期間中の非細菌性の急性呼吸器感染症の診療が100例未満の診療所は除外した。 主な結果は以下のとおり。・1,183軒の診療所を受診した97万7,590例(平均年齢:49.7[SD 20.1]歳、女性:56.9%)の非細菌性の急性呼吸器感染症患者を解析した。・抗菌薬は17万1,483例(17.5%)に処方され、広域スペクトラム抗菌薬は抗菌薬処方全体の88.3%を占めた。・最も多く処方されたのはクラリスロマイシン(30.7%)で、レボフロキサシン(12.2%)、セフジトレン(11.2%)、アジスロマイシン(11.1%)、セフカペン(9.2%)、アモキシシリン(7.9%)と続いた。・高齢の院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では、抗菌薬の処方が有意に多かった。 【院長の年齢が60歳以上vs.45歳未満】調整オッズ比(aOR):2.14、95%信頼区間(CI):1.56~2.92、p<0.001 【患者数が年間中央値58例/日以上vs.35例/日以下】aOR:1.47、95%CI:1.11~1.96、p=0.02 【グループ診療vs.単独診療】aOR:0.71、95%CI:0.56~0.89、p=0.01・院長の性別では統計学的に有意な差は認められなかった。・広域スペクトラム抗菌薬の処方に限定した解析でも、上記すべての特性で同様の傾向が認められた。 研究グループは「患者数の多い診療所は、時間的なプレッシャーや決断疲れのために抗菌薬を過剰に処方している可能性がある」と示唆したうえで、「今回の結果は抗菌薬の適正使用に向けて、より的を絞った介入の実施に役立つだろう」とまとめた。

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亜鉛欠乏でコロナ重症化リスクが上昇か/順天堂大

 亜鉛は免疫機能に重要な役割を果たす微量元素であり、亜鉛欠乏が免疫系を弱体化させる可能性があることが知られている。順天堂大学の松元 直美氏らの研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者における血清亜鉛濃度とCOVID-19の重症度との関連を調査したところ、患者の40%近くが血清亜鉛欠乏状態であり、血清亜鉛濃度が低いほど、COVID-19の重症度が高いことが判明した。本研究は、International Journal of General Medicine誌2024年10月16日号に掲載された。 本研究では、2020年4月~2021年8月にCOVID-19で入院した467例(18歳以上)を対象に、入院時の血清亜鉛濃度を測定した。血清亜鉛濃度が60μg/dL未満を欠乏、≧60~<80μg/dLを境界欠乏、80μg/dL以上を正常とした。COVID-19の重症度は、WHOの基準に基づき、軽症、中等症、重症の3段階に分類した。多変量ロジスティック回帰分析を使用し、血清亜鉛欠乏とCOVID-19の重症度の関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象者の平均年齢(SD)は、重症例(n=40)が68.1(13.0)歳、軽症/中等症例(n=427)が58.8(18.3)歳であった。性別は、重症例では男性72.5%、軽症/中等症例では男性64.6%であった。・血清亜鉛濃度の平均値(SD)は、重症例では51.9(13.9)μg/dL、軽症/中等症例では63.2(12.3)μg/dLであった。・血清亜鉛欠乏(<60μg/dL)の割合は、女性で39.5%、男性で36.4%であった。さらに、境界欠乏(≧60~<80μg/dL)は、女性で54.3%、男性で57.0%だった。・血清亜鉛欠乏は、境界欠乏および正常(≧60μg/dL)と比較して、COVID-19の重症化と有意に関連していた(調整オッズ比:3.60、95%信頼区間:1.60~8.13、p<0.01)。・COVID-19の重症度の上昇は血清亜鉛濃度の上昇と逆相関しており、血清亜鉛濃度が低いほどCOVID-19の重症度が高かった(傾向のp<0.01)。 本研究により、血清亜鉛濃度がCOVID-19の重症度と有意に関連することが示された。血清亜鉛濃度が低い患者はとくに重症化リスクが高いため、COVID-19の治療において血清亜鉛濃度を考慮することの重要性が示唆されている。

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第238回 妊娠はウイルス様配列を目覚めさせて胎児発育に必要な造血を促す

妊娠はウイルス様配列を目覚めさせて胎児発育に必要な造血を促す体内の赤ちゃんを育てるにはいつもに比べてかなり過分な血液が必要で、赤血球は妊娠9ヵ月の終わりまでにおよそ2割増しとなって胎児や胎児を養う胎盤の発達を支えます1)。その赤血球の増加にホルモンが寄与していますが、ヒトやその他の哺乳類が妊娠中に赤血球をどういう仕組みで増やすかはよくわかっていませんでした。先週24日にScienceに掲載された研究で、哺乳類ゲノムにいにしえより宿るウイルス様要素が妊娠で目覚め、免疫反応を誘発して血液生成を急増させるという思いがけない仕組みが判明しました2,3)。それらのウイルス様配列はトランスポゾンや動く遺伝子(jumping gene)としても知られます。トランスポゾンは自身をコピーしたり挿入したりしてゲノム内のあちこちに移入できる遺伝配列で、ヒトゲノムの実に半数近くを占めます。哺乳類の歴史のさまざまな時点でトランスポゾンのほとんどは不活性化しています。しかしいくつかは動き続けており、遺伝子に入り込んで形成される長い反復配列や変異はときに体を害します。トランスポゾンは悪さをするだけの存在ではなく、生理活性を担うことも示唆されています。たとえば、トランスポゾンの一種のレトロトランスポゾンは造血幹細胞(HSC)を助ける作用があるらしく、炎症反応を生み出すタンパク質MDA5の活性化を介して化学療法後のHSC再生を促す働きが先立つ研究で示唆されています4)。妊娠でのレトロトランスポゾンの働きを今回発見したチームははなからトランスポゾンにあたりをつけていたわけではありません1)。University of Texas Southwestern Medical Centerの幹細胞生物学者Sean Morrison氏とその研究チームは、妊娠中に増えるホルモン・エストロゲンが脾臓の幹細胞を増やして赤血球へと発達するのを促すことを示した先立つ取り組みをさらに突き詰めることで今回の発見を手にしました。研究チームはまず妊娠マウスとそうでないマウスの血液幹細胞の遺伝子発現を比較しました。その結果、幹細胞はレトロトランスポゾンの急増に応じて抗ウイルス免疫反応に携わるタンパク質を生み出すようになり、やがてそれら幹細胞は増え、一部は赤血球になりました。一方、主だった免疫遺伝子を欠くマウスは妊娠中の赤血球の大幅な増加を示しませんでした。また、レトロトランスポゾンが自身をコピーして挿入するのに使う酵素を阻止する逆転写酵素阻害薬を投与した場合でも妊娠中に赤血球は増えませんでした。研究はヒトに移り、妊婦11人の血液検体の幹細胞が解析されました。すると妊娠していない女性(3人)に比べてレトロトランスポゾン活性が高い傾向を示しました。HIV感染治療のために逆転写酵素阻害薬を使用している妊婦6人からの血液を調べたところヘモグロビン濃度が低下しており、全員が貧血になっていました。逆転写酵素阻害薬を使用しているHIV患者は妊娠中に貧血になりやすいことを示した先立つ試験報告5)と一致する結果であり、逆転写酵素阻害薬使用はレトロトランスポゾンがもたらす自然免疫経路の活性化を阻害することで妊婦の貧血を生じ易くするかもしれません。より多数の患者を募った試験で今後検討する必要があります。他の今後の課題として、妊娠がどういう仕組みでレトロトランスポゾンを目覚めさせるのかも調べる必要があります。レトロトランスポゾンを目覚めさせる妊娠以外の要因の研究も価値がありそうです。たとえば、細菌が皮膚細胞(ケラチノサイト)の内在性レトロウイルスを誘って創傷治癒を促す仕組みが示されており6)、組織損傷に伴って幹細胞のレトロトランスポゾンが活性化する仕組みがあるかもしれません。また、組織再生にレトロトランスポゾンが寄与している可能性もあるかもしれません。参考1)Pregnancy wakes up viruslike ‘jumping genes’ to help make extra blood / Science 2)Phan J, et al. Science. 2024 Oct 24. [Epub ahead of print]3)Children’s Research Institute at UT Southwestern scientists discover ancient viral DNA activates blood cell production during pregnancy, after bleeding / UT Southwestern 4)Clapes T, et al. Nat Cell Biol. 2021;23:704-717.5)Jacobson DL, et al. Am J Clin Nutr. 2021;113:1402-1410.6)Lima-Junior DS, et al. Cell. 2021;184:3794-3811.

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第215回 新型コロナ5類移行後も死者3万人超、インフルエンザの15倍、高齢者に脅威/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ5類移行後も死者3万人超、インフルエンザの15倍、高齢者に脅威/厚労省2.医師臨床研修マッチング、大学病院離れが加速、地方志向強まる/厚労省3.心臓移植、余命1カ月の患者を最優先へ 待機期間中の死亡減目指す/厚労省4.第50回総選挙、医師資格保持者17人が議席獲得5.がん予防の細胞療法で重症感染症 都内クリニックに停止命令/厚労省6.根拠不明の薬でがん患者死亡 遺族が自由診療のクリニックを提訴/大阪1.新型コロナ5類移行後も死者3万人超、インフルエンザの15倍、高齢者に脅威/厚労省新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症に移行して以降も、死者数は依然として高い水準にあることが判明した。厚生労働省の人口動態統計によると、2023年5月~2024年4月までの1年間で、COVID-19による死者は計3万2,576人に上り、季節性インフルエンザの約15倍に達した。死亡者の大部分は65歳以上の高齢者で、全体の約97%を占めていた。男女別では男性が1万8,168人、女性が1万4,408人と、男性の方が多い傾向がみられた。専門家は、COVID-19が次々と変異を繰り返して高い感染力を持つ一方で、病原性はあまり低下していないことが、高齢者を中心に多くの死亡者が出ている原因だと指摘している。COVID-19の5類移行に伴い、行動制限などは解除されたが、感染拡大防止に向けた個々人の意識が重要となる。東北大学の押谷 仁教授(感染症疫学)は、「大勢が亡くなっている事実を認識し、高齢化社会の日本で被害を減らすために何ができるのかを一人一人が考えないといけない」と訴えている。押谷教授は、社会経済活動を維持しながら死亡者数を減らすためには、「高齢者へのワクチン接種や高齢者施設における検査などの費用を国が負担すべきだ」と指摘している。参考1)コロナ死者年間3万2千人 5類移行後、インフル15倍 高齢者ら今も脅威 冬の流行、専門家懸念(東京新聞)2)新型コロナ死者、年間3万2,576人 5類移行後、インフルの15倍(毎日新聞)3)コロナ死者年間3万2,000人超 5類移行後、インフルの15倍 高齢者らには今も脅威(産経新聞)2.医師臨床研修マッチング、大学病院離れが加速、地方志向強まる/厚労省2024年度の医師臨床研修マッチングの結果が10月24日に発表され、地方での研修を希望する医師が増加傾向にある一方、第1希望の研修プログラムへのマッチ率が前年度より低下したことが明らかになった。厚生労働省によると、マッチングに参加した医学生は1万136人で、うち9,868人が希望順位表を登録した。研修先がマッチングしたのは9,062人で、マッチ率は91.8%。研修先は、市中病院が64.7%、大学病院が35.3%と、市中病院での研修を希望する医師が大多数だった。また、地方病院での研修希望も増加傾向にあり、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、福岡県の6都府県を除く41道県でのマッチ率は60.1%で、前年度より1.1ポイント増加した。その一方で、第1希望の研修プログラムにマッチした人の割合は62.5%で、前年度より1.8ポイント減少した。第3希望までにマッチした人は88.7%で、こちらも前年度より1.0ポイント減少した。マッチングの結果、大学病院本院で定員充足率が100%となったのは19大学であり、とくに関西医科大学は10年連続、昭和大学は9年連続でフルマッチを達成していた。そのほか、自大学出身者のマッチ割合が高い大学も多く、金沢医科大学、旭川医科大学など9校では、マッチ者の全員が自大学出身者だった。参考1)令和6年度の医師臨床研修マッチング結果をお知らせします(厚労省)2)2025年4月からの医師臨床研修、都市部6都府県「以外」での研修が60.1%、大学病院「以外」での研修が64.7%に増加-厚労省(Gem Med)3)医師臨床研修マッチング、63%が第1希望に内定 前年度比1.8ポイント減 厚労省(CB news)4)市中病院にマッチした医学生は64.7% マッチング最終結果、フルマッチは19校(日経メディカル)3.心臓移植、余命1カ月の患者を最優先へ 待機期間中の死亡減目指す/厚労省心臓移植を希望する患者の待機期間が長期化する中、厚生労働省は10月23日、余命1ヵ月以内と予測される60歳未満の患者を最優先に対象とする新たな方針を決定した。従来の心臓移植の優先順位は、血液型や体重、人工心臓の装着の有無などを基準とし、条件が同じ場合は待機期間が長い患者が優先されていた。しかし、医療技術の進展により、約7割の患者が同じ優先枠で待機できるようになり、より切迫した緊急性が考慮されない状況だった。このため、病状が悪化しても待機順位が上がらず、移植を受けられないまま死亡するケースも少なくなかった。新たな方針では、余命1ヵ月以内と予測される60歳未満の患者を最優先枠に設定し、待機期間中の死亡を減らすことを目指す。対象となる患者は、日本循環器学会に設置される専門部会が審査を行う予定。また、厚労省では、心臓移植以外の臓器移植についても、優先順位の見直しを進める方針。一方、臓器提供者側の対応については、あっせん機関である日本臓器移植ネットワークの業務を分割し、ドナー家族への対応などを新組織や医療機関の院内コーディネーターに委嘱する体制見直し案も提示された。参考1)心臓移植「余命1ヵ月最優先」 厚労省、待機中の死亡減目指す(毎日新聞)2)緊急性の高い患者に心臓移植を 厚労省、優先順位の基準見直しへ(朝日新聞)3)心臓移植 緊急度の高い患者に優先枠 厚労省の専門委が承認(NHK)4)心臓移植断念、5年で34人 待機長期化、緩和医療を選択 切迫患者を最優先の動き(産経新聞)4.第50回総選挙、医師資格保持者17人が議席獲得第50回衆議院議員総選挙で、医師資格を持つ候補者36人が立候補し、そのうち17人が当選を果たした。自民からは6人が当選し、維新は5人、立民から4人、公明と国民民主からは各1人ずつが議席を獲得した。残る19人は惜しくも落選となり、選挙戦を制することはできなかった。注目の当選者には、立憲民主党の阿部 知子氏(神奈川12区)がおり、医師資格保持者の中で最多の9回目の当選となった。また、日本維新の会から立候補した梅村 聡氏(大阪5区)は、参議院議員から鞍替え出馬での立候補で、衆議院への転身が実現した。無所属で立候補した三ツ林 裕巳氏(埼玉13区)は、自民党からの公認が得られず落選という結果になった。今回の選挙では、前回の第49回衆院総選挙の当選者は12人に比べて、医師資格保持者が17名と増加したことが特徴的で、医療や福祉政策への関心の高まりが反映されているとみられる。【医師資格を持つ今回の当選者】国光 文乃:自民 比例当選/新谷 正義:自民 比例当選/今枝 宗一郎:自民 愛知14区/松本 尚:自民 千葉13区/安藤 高夫:自民 比例当選/仁木 博文:自民 徳島1区/岡本 充功:立民 愛知9区/中島 克仁:立民 山梨1区/阿部 知子:立民 神奈川12区/米山 隆一:立民 新潟4区/沼崎 満子:公明 比例当選/梅村 聡:維新 大阪5区/伊東 信久:維新 大阪19区/猪口 幸子:維新 比例当選/阿部 圭史:維新 比例当選/阿部 弘樹:維新 比例当選/福田 徹:国民 愛知16区(敬称略)5.がん予防の細胞療法で重症感染症、都内クリニックに停止命令/厚労省東京都内のクリニックで再生医療を受けた患者2人が重大な感染症を発症し、厚生労働省が当該医療機関に医療提供一時停止の緊急命令を出した事態を受け、一般社団法人再生医療安全推進機構は10月27日、厚労省に再生医療政策の見直しを求める陳情書を提出した。10月25日、厚労省は、医療法人輝鳳会が運営する「THE KCLINIC」(東京都中央区)で、がん予防を目的とした自由診療の細胞療法を受けた患者2人が、重大な感染症で入院したと発表した。2人は「NK細胞」と呼ばれる細胞の加工物の投与を受けており、その細胞加工物から感染症の原因とみられる微生物が確認された。厚労省は、再生医療安全性確保法に基づき、同クリニックと、NK細胞の培養を行った「池袋クリニック培養センター」(東京都豊島区)に対し、同様の再生医療の提供などを一時的に停止させる緊急命令を出した。同機構は、この事件を受け、自由診療下における再生医療ビジネスの増加と、医療機関内での細胞培養加工の安全性に対する懸念を表明。厚労省に対し、再生医療政策の抜本的な見直しを求める陳情書を提出した。陳情書では、臨床現場のニーズを反映した政策立案、審査ガイドラインの策定、法規制の更新、監視体制の強化などを求めている。とくに、医療機関内で行う細胞培養加工施設の運用基準の明確化、細胞外小胞を用いた治療など、法規制の枠外にある再生医療に対する規制強化を訴えている。同機構は、今回の陳情を機に、再生医療の安全性確保と健全な発展に向けた議論が深まることに期待を寄せている。参考1)再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について(厚労省)2)再生医療政策の抜本的見直しを求める陳情書を厚生労働省に提出(PR TIMES)3)再生医療後に重大な感染症で2人が入院 厚労省、医院に医療提供一時停止の緊急命令(産経新聞)4)再生医療で重大な感染症 医療提供一時停止の緊急命令 厚労省(NHK)6.根拠不明の薬でがん患者死亡 遺族が自由診療のクリニックを提訴/大阪大阪市内のクリニックで「がん細胞が死ぬ」と勧められた自由診療の薬を投与された後、容体が悪化し死亡した男性の遺族が、クリニックの院長を相手取り、損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。訴状によると、男性は2021年4月、前立腺または精嚢がんと診断され、一般病院で抗がん剤治療を受けながら、並行してクリニックで自由診療を受けていた。クリニックの院長は、公的医療保険が適用されない自由診療の薬を「アメリカ製の治療薬で、日本製よりパワーがある」と勧め、男性は「ガスダーミンE」という薬の点滴を受けることにした。しかし、点滴投与後、男性の容体は悪化。その後、院長から「『ガスダーミンE』ではなく『ガスダーミンRNA』を投与していた」と告げられたが、明確な説明はなく、男性は2022年4月、がん性腹膜炎で死亡した。遺族は、院長が十分な説明をせず正体不明の薬を投与し、病状を悪化させたとして、935万円の損害賠償を求めている。治療の同意書はみつかっておらず、遺族は「ずさんな対応」と訴えている。一方、院長は「納得の上で同意を得ていたが、同意書は作成していなかった。使った薬はガスダーミンEで間違いなかった」と反論している。専門家は、自由診療は科学的根拠が不十分な場合が多く、高額な費用がかかるにもかかわらず、効果が保証されない点に注意が必要だと指摘している。参考1)がん自由診療2日後に容体悪化、半年後に死亡…「副作用説明なかった」遺族が医師を提訴へ(読売新聞)2)「『がん細胞が死ぬ』と勧められた自由診療の薬で容体悪化」死亡した男性の遺族がクリニック院長を提訴(読売テレビ)3)提訴:「がん細胞死ぬ」点滴後死亡 自由診療クリニック 遺族が提訴へ(毎日新聞)

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インフルエンザウイルス曝露後抗ウイルス薬の有効性(解説:寺田教彦氏)

 インフルエンザウイルス曝露者に対する抗ウイルス薬の有効性を評価したシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果が、2024年8月24日号のLancet誌に報告された。本研究では、MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govを用いて、11,845本の論文と関連レビューから18件の研究を確認し、このうち33件の研究をシステマティックレビューに含めている。概要は「季節性インフル曝露後予防投与、ノイラミニダーゼ阻害薬以外の効果は?/Lancet」のとおりでザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、重症化リスクの高い被験者において、季節性インフルエンザ曝露後、速やか(48時間以内)に投与することで症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆され、重症化リスクの低い人では、症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された。 過去には、2017年のインフルエンザウイルス曝露者に対する予防投与のシステマティックレビューで、オセルタミビルまたはザナミビルの曝露後予防投与により有症状のインフルエンザ発生を減少させる効果が報告されていたが(Doll MK, et al. J Antimicrob Chemother. 2017;72:2990-3007)、エビデンスの質や確実性は評価されていなかった。当時は、これらのエビデンスを参考に、WHOやIDSAのガイドライン(Uyeki TM, et al. Clin Infect Dis. 2019;68:e1-e47.)では、インフルエンザウイルス曝露後に、合併症のリスクが非常に高い患者に対して、抗ウイルス薬の予防投与が推奨された。本邦の現場でも、インフルエンザウイルス曝露後の予防投与は保険適用外だが、病院や医療施設内で曝露者が発生したときなどに、重症化や合併症リスクを参考に、個々の患者ごとに適応を検討していた。 本研究の結果から、2024年9月17日にWHOのガイドラインが更新されており、抗インフルエンザ薬(バロキサビル、ラニナミビル、オセルタミビル、ザナミビル)の曝露後予防投与は、ワクチン接種の代わりにはならないが、きわめてリスクの高い患者(85歳以上の患者、または複数のリスク要因をもつ若年者)には曝露後48時間以内の投薬が推奨されている。 さて、われわれのプラクティスについて考えてみる。本研究では、曝露後予防投与で入院や死亡率の低下を確認することはできていないが、曝露後予防投与はインフルエンザ重症化リスクの高い患者群では発症抑制(確実性は中程度)の効果が期待でき、重症化リスクの低い人では、季節性インフルエンザに曝露後、速やかに投与しても症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された(確実性は中程度)。インフルエンザ重症化リスクの高い患者群では、インフルエンザに罹患することで重症化やADL低下につながることが予測され、適切な患者を選定して曝露後予防投与を行うことはメリットがあるだろう。 そのため、インフルエンザウイルス曝露後予防は、これまでどおりインフルエンザの重症化や合併症リスクを個々の症例で検討することが良いと考える。 曝露後予防投与時の抗ウイルス薬では、オセルタミビルやザナミビルに加えて、本研究では、ラニナミビルやバロキサビルも有効性を確認することができた。ラニナミビルやバロキサビルは、オセルタミビルやザナミビルに対して、単回投与が可能という強みをもつため、抗ウイルス薬の複数回投与が困難な環境ならば使用を考慮してもよいのかもしれない。しかし、オセルタミビルのように、過去の使用実績が豊富で安価な薬剤を選択できる場合は、これまでどおりこれらの薬剤を選択してよいと考える。

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第234回 医療政策のレベル高し?立憲、公明党、国民民主党、社民党の公約

さて前回に引き続き、衆院選の各党の政策紹介と独断と偏見に基づくその評価の第二段である。ちなみに現在の各種報道を参照すると、与党である自民党・公明党による過半数獲得が微妙とのこと。正直、個人的には予想外である。久々に目が離せない選挙となった。さて今回は前回予告したように、公示前議席数で偶数順位の政党を順に取り上げる。立憲民主党(2位:98議席)もはや説明も要らぬ野党第1党である。以前紹介した代表選の結果、党内でも保守色が強い元首相の野田 佳彦氏が代表に就任。報道各社の情勢分析によると、かなり議席を増やす可能性があるらしい。その意味ではあくまで同党はチャンスであるためか、「7つの約束 政権交代こそ、最大の政治改革。」を掲げる。さて同党の200ページ超の分厚い政策集から主なものを拾ってみた。『デジタル・IT』の項目ではマイナ保険証に関して以下のような記述となっている。医療DXの推進は喫緊の課題であるものの、「不安払拭なくしてデジタル化なし」です。国民の不安を払拭し、国民皆保険の下、誰もが必要なときに、必要な医療が受けられる体制を堅持するために、2024年12月の健康保険証の廃止を延期し、一定の条件が整うまで現在の健康保険証を存続させます。現行法においてマイナンバーカードの取得が申請主義であることを踏まえ、マイナ保険証の利用は、リスクと便益を自分で判断して決めるべきであり、本人の選択制とします。ちなみに『厚生労働』の医療保険制度関連で「レセプト審査の効率化、医療ビッグデータのさらなる活用によって、保険者機能の強化、医療費適正化、健康課題への活用を推進します」とあることも考慮すれば、マイナ保険証にむしろ内心では肯定的な見解もうかがえる。マイナ保険証全否定の日本共産党、れいわ新撰組、社民党と比べれば、かなり穏健かつ現実的な方向性に舵を切っていると言える。この辺からもこれら3党との共闘は、野田氏の代表就任から衆院選まで時間があったとしても難しかっただろうと推察できる。一方で社会保険料負担に関しては「上限額を見直し、富裕層に応分の負担を求めます」とある。これだけでは具体性に欠くのだが、後段では「世代間公平に配慮しつつ、重点化と効率化によって、子どもから高齢者にわたる、持続可能で安心できる社会保障制度を構築します」「被用者保険からの大幅な拠出金が課題となっている高齢者医療制度については、医療保険制度の持続可能性の強化と現役世代のさらなる負担軽減を含めて、抜本的な改革を目指します」などの記述があるため、日本維新の会や後述の国民民主党とかなり似た制度設計が念頭にあるのだろう。また、『経済政策』『厚生労働』では創薬・バイオ、ゲノム医療を成長分野に位置付けており、以下のような関連項目の記述がある。ワクチン開発を支援し、日本企業の国際競争力を高めます。iPS細胞を利用した再生医療研究等の促進、創薬への支援や創薬の環境整備を進め、日本の先進医療、画期的な新薬などの医療技術を海外に輸出するための産業育成、発信力強化を図ります開発途上国が必要とする医薬品の開発を支援し、日本の医薬品が海外で使用される基盤づくりを進めます後発医薬品の質の確保、先発品の特許切れ後の値下げを進めます。漢方薬など伝統的医薬品は、現行の薬価改定方式では薬価が下がり続けるばかりであることから、生産を維持するための歯止めを設けます。医薬品の安定供給、イノベーション創出の基盤を強固にし、国民に品質の高い医薬品を安定して供給できるようにするため、中間年薬価改定を廃止し、2年に1度の改定とします。まあ、この中では漢方薬に言及したのは、各政党の中で唯一なのだが、そもそもこの点については、OTC類似薬の保険給付の是非も含めて議論すべきことかと私見ながら思う。しかし、「ワクチン国産化」「iPS細胞研究の推進」は、率直に言ってやや時代遅れではないだろうか? 創薬の世界的潮流や実態を知らないのだろう。ちなみにワクチンに関連して、「新型コロナウイルス感染症のワクチン対策」と称して、ワクチン接種体制の円滑な確保と同時に▽リスクコミュニケーション強化▽新型コロナワクチンの副反応に特化した検討会議体の設置▽健康被害救済制度の周知▽死亡事例に関する認定審査体制の充実、などを掲げている。これを読むと、「うわっ、反ワクチンか!」と思う人もいるだろうが、こうした副反応対策やリスクコミュニケーション強化は、少なくとも今後のワクチン接種を進めていくためには必須のことと個人的には考えている。現状は少なくともSNSでワクチンに批判的言説が多く出回っている以上、放置するのは最悪である。もっともここまで是々非々で考えられるなら、ワクチンに関する陰謀論をSNSで拡散する同党の一部議員を何とかしてほしいと思うのだが…。公明党(4位:32議席)ご存じ、日蓮正宗系宗教法人・創価学会を支持母体とする政党である。過去からの政策を見ると、とにかく「現物・現金支給」に著しく偏り、自民党よりもバラマキ色が強い政党という印象がある。今回の「2024公明党 衆院選重点政策」は全部で10の大項目を掲げる。まず、『1 物価高克服へ、暮らしを守る!所得向上!』では、「医療・介護等の持続的な賃上げ・処遇改善」で、“医療・介護・障がい福祉・保育など公的に価格が決まる部門で働く方々の賃金については、引き続き、物価上昇を上回る引き上げ分を確保するとともに、さらなる処遇改善に向けて取り組みます“と謳っている。この辺は他党もおおむね同じである。社会保障、医療・介護については「3 健康・命を守る、高齢者支援」の項目で掲げられている中項目を一部抜粋する。健康な暮らしの確保と健康寿命延伸による高齢者のウェルビーイング(満足度)の向上医療提供体制の充実医療DX の推進がんとの共生社会を創るがん医療提供体制の充実メンタルヘルスケアが社会の当たり前に医薬品の安定供給・品質の確保帯状疱疹ワクチンの円滑な接種地域包括ケアシステムの推進難聴に悩む高齢者等に対する支援介護人材の確保各項目とも詳細な説明があるものの、中身は定性的なものがほとんどで、ですます調の官僚文書を読んでいるかのような印象がある。この中で私自身が注目したのは「難聴に悩む高齢者等に対する支援」。これも昨今、盛んに言及されるようになったことだが、認知症のリスクファクターの1つに難聴が指摘され、早期の補聴器使用が軽度認知障害への進行速度を低下させるなどの報告もある。公明党はこの政策の中で、「加齢による聴力低下を早期に発見し、適切な支援につなげるため、身近なところで聴力チェックが受けられる体制」「難聴に悩む高齢者が医師や言語聴覚士などの助言のもとで、自分にあった聴覚補助機器等を使用する体制」の整備と必要な財政的な支援も検討することを掲げた。認知症に関連した難聴対策の必要性は専門医も訴え始めており、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は「加齢性難聴・聴こえ8030運動」を展開している。実は同学会には補聴器相談医という制度も設けて啓蒙に努めているが、まだ広がりは見せていない。その意味で公明党のこの政策はかなり着眼点が良いとは言える。しかし、2021年の衆院選の政策比較で掲げた新型コロナウイルス感染症後遺症対策の時も触れたが、現金・現物給付以外は本気度が低いという同党の傾向が玉にきずである。国民民主党(6位:7議席)東京都知事の小池 百合子氏が国政進出を狙って2017年に希望の党を設立した際、旧民主党の後継政党・旧民進党がこれに合流を宣言したことは、まだ記憶にある人は多いだろう。結局、希望の党は国政でまともに議席を確保できず、合流組の一部が後に希望の党から分党して国民党を創設した。これが旧民進党残留組と合併して設立したのが第一次の国民民主党である。ただ、現在の国民民主党は、第一次国民民主党が2020年に立憲民主党との合併を決めた際に、不参加だった者たちで構成される第二次の国民民主党である。公示前議席数では第6位だが、報道に基づく終盤の情勢調査では3倍以上に議席を積み増す可能性が指摘されている。エネルギーや安全保障に関する政策がより保守色、言い換えれば現実路線に近いことが有権者から受けがよい理由なのだろう。さて今回の同党の政策パンフレット2024では『手取りを増やす』と何ともシンプルなメッセージの下に政策柱4つを掲げる。この4つのうち筆頭に来るのが「給与・年金が上がる経済を実現」で、ここでは“社会保険料の軽減”を主張し、負担能力に応じた窓口負担、公費投入増による後期高齢者医療制度に関する現役世代の負担軽減を明示している。前者は現在、財政制度審議会や社会保障制度審議会で議論が続けられている高齢者での負担増、後者は同制度での現役世代が加入する健保組合からの拠出金を指しているのは明らかだ。日本維新の会なども主張しているのと同様の、いわば現役世代向け政策の典型である。もっとも高齢者での負担増と後期高齢者制度への公費投入はおそらく連動しているのだろう。マニフェストの細部では「年齢ではなく能力に応じた負担」として後期高齢者の自己負担を原則2割、現役並みの所得者は3割とし、その際には金融所得・金融資産も反映させるとしている。また、富裕層の保有資産への課税も検討すると記述している。つまり真の公費投入額は、「拠出金―自己負担増分―富裕層資産課税」以内で収まるという制度設計のようだ。失礼ながら、この辺は日本共産党が同制度への1兆円の公費投入を唱えつつ、高齢者負担増阻止も主張する“冷暖房同時稼働”のような経済・財政オンチぶりとは異なる。柱の3番手「人づくりこそ、国づくり」では「ひとり一人に寄り添うダブルケアラー対策、ビジネスケアラー対策」「尊厳死の法制化を含めた終末期医療の見直し」が記述されている。ここで出てくる「ダブルケアラー」とは育児、介護の両方に取り組む人、「ビジネスケアラー」は主に働きながら高齢の親の介護に取り組む人のことである。少子高齢化が進展する社会では、極めて重要な視点で、ほかの政党にはない着眼点である。同党はまずは実態調査、そのうえで「ダブルケアラー支援法」の制定を訴えている。もっとも「尊厳死の法制化」については、わからないわけではないが、極めて多様な死生観なども関わる問題だけにサラッと書いてしまうのはやや軽すぎるとも感じてしまう。そしてより細部の政策では以下のようなものも掲げている。保険給付範囲の見直しヘルスリテラシー教育の推進セルフメディケーションの推進中間年薬価改定の廃止予防医療・リハビリテーションの充実医療提供体制の充実地域医療のあり方の見直し・日本版GP制度の創設地域における患者アクセスの確保と医療経営の安定強化医療DXの推進による保険医療勤務医の働き方改革介護サービス・認知症対策の充実介護研修費用補助介護福祉士国家試験に母国語併記ケアマネジャー更新研修の廃止、負担軽減これらを概観すると、とくに薬剤関係ではかなり玄人はだしである。たとえば、保険給付範囲の見直しやセルフメディケーション推進ではOTC類似薬の保険外し、医療提供体制の充実では日本版CPCF(Community Pharmacy Contractual Framework、薬剤師の権限が大きいイギリスの薬局制度)、地域における患者アクセスでは地域フォーミュラリの導入推進、そして中間年薬価改定の廃止を唱える。また、4大柱の2番目『自分の国は自分で守る』では経済安全保障の観点からジェネリック医薬品安定供給や今春に一部緩和された薬価の再算定時の共連れルール(再算定対象の医薬品の類似薬も同時に薬価を引き下げるルール)の廃止まで言及している。ざっと同党所属国会議員を見回してみても、これらの政策理論を唱えそうな人物は見当たらない。誰がこの政策立案の頭脳を担っているのかは、個人的に興味津々である。さらに日本版GP(General Practitioner)制度の創設では「診療報酬の包括支払制度や人頭払制度等について検討」と、日本医師会が最も毛嫌いしそうな政策まで言及している。社民党(8位:1議席)社民党の源流組織である1945年創設の旧日本社会党は、1947年に衆院の第1党となり政権を奪取するも1年余りで下野したが、1993年の第40回衆院選までは野党第1党であり続けた。しかし、その後継組織である社民党は現有1議席にまで凋落した。個人的には時代はここまで変わったのかと改めて思ってしまう。さて同党のマニフェスト(余談ながらリンク先のページは異常に重い)『日本を立て直す 社民党6つのプラン』というキャッチフレーズを掲げているが、その中の「02 税金はくらしに!軍事費増税NO!」で以下のような記述がある。高齢者が安心して暮らせる年金を受給できるようにしていきます。また、75歳以上の後期高齢者医療費負担を1割に戻し、高齢者の健康を守ります。訪問介護の報酬減額をやめさせます。介護制度の立て直しは急務です。医療・介護・保育などケア労働者を支援します。病床削減、公立・公的病院の統廃合に反対し、地域医療を守ります。マイナ保険証強要に反対し、現行の健康保険証を残します。保険証や運転免許証などとのマイナンバーカード一体化・国による管理強化に反対します。さて、もうこれらについては他党の政策に対する吟味の際に言ってきたことだが、一番目の負担増に関して改めて言及しておく。現在日本での租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率は2023年度実績値で46.1%。欧米先進国と比べて低いほうなのだが、欧米はおおむね日本よりも所得が高く、結果として日本の世帯当たりの可処分所得は低めである。この状況で増加し続ける高齢者への医療・介護給付を少子化で減る現役世代からの税収で現状通り継続することが“無理ゲー”である。いずれにせよこの先は(1)現役層の負担率引き上げ(2)給付水準の引き下げ(3)現役層以外の負担率引き上げを適度に組み合わせながら行っていくしかない。社民党の今回の主張は後期高齢者医療制度での負担率引き下げを謳っている以上、(3)の選択肢は端からないことは明らかだ。また、後段で訪問介護の基本報酬減額に反対姿勢を示していることやこれまでの同党の主張からは(2)も選択肢にはないだろう。ということは残るは(1)となるが、たぶんこれも彼らの念頭にはない。となると、どこに財源を見いだそうとしているかだが、前述の政策一覧を見ればわかることだが、増加する国防費の削減や年々増加する企業の内部留保への課税を主張しており、社民党はこの辺を財源として考えているのだろう。毎度お馴染みという感じだが、これで中長期的に解決がつくとは到底思えない。公立・公的病院の統廃合とマイナ保険証への反対については、前回、日本共産党、れいわ新撰組の政策で述べたとおりだ。さて長々となってしまったが、週明けにはもしかしたら世の中が一変してしまうのだろうか?

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レプリコンワクチンvs.従来のmRNAワクチン、接種1年後の免疫原性を比較

 追加接種としての新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)ARCT-154は、従来のmRNAワクチンであるBNT162b2と比較して優れた初期免疫応答を示し、接種後12ヵ月まで持続することが、50歳以上を含む日本人成人において確認された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年10月7日号CORRESPONDENCEに掲載の報告より。 日本の11臨床施設において、少なくとも3回のmRNAワクチン接種歴のある成人(最後の接種は3ヵ月以上前)825人が登録され、ARCT-154群(417人)またはBNT16b2群(408人)に無作為に割り付けられた。接種前のベースライン、および接種後1、3、6、12ヵ月時点で、すべての適格参加者から血清サンプルを採取し、武漢株(Wuhan-Hu-1)およびオミクロン株BA.4/5に対する中和抗体価を測定した。また、ベースラインからその後すべての時点でSARS-CoV-2陰性であった各群30人によるサブセットにおいて、デルタ株、オミクロン株BA.2、BA.2.86、およびXBB.1.5.6に対する中和抗体価が測定された。参加者は18~49歳(<50歳)と50歳以上(≧50歳)の2つの年齢グループに層別化された。 結果は、中和抗体価の幾何平均(GMT)と両群間のGMT比、ベースラインの中和抗体価(定量下限未満の場合は定量下限の1/2)から4倍以上の上昇を示した割合で定義される中和抗体応答率で表された。 主な結果は以下のとおり。・既報のとおり、接種1ヵ月後までに、どちらのワクチンも両株に対して年齢によらず中和抗体価を上昇させた。・接種後1ヵ月時点におけるARCT-154群の武漢株およびオミクロン株BA.4/5に対する反応はBNT162b2群よりも高く、<50歳ではGMT比が1.45(95%信頼区間[CI]:1.22~1.71、武漢株)および1.31(1.01~1.71、オミクロン株BA.4/5)、≧50歳では1.42(1.18~1.72)および1.29(0.96~1.73)であった。・GMTは時間の経過とともに両群で低下したが、12ヵ月の追跡期間中に両群間の差は拡大し、<50歳ではGMT比がそれぞれ1.79(95%CI:1.41~2.29、武漢株)、1.68(1.15~2.45、オミクロン株BA.4/5)、≧50歳では2.06(1.55~2.75)、2.14(1.40~3.27)であった。・ARCT-154のBNT162b2に対する優越性は、両年齢層における中和抗体応答率の一貫した正の差によって裏付けられた。・4つの変異株に対しても、BNT162b2群と比較してARCT-154群で優れた反応と持続性が確認され、GMT、GMT比、血清中和抗体応答率について同様の傾向がみられた。・BNT162b2接種後12ヵ月時点で、デルタ株、オミクロン株BA.2、およびXBB.1.5.6に対するGMTはベースラインと同等であったが、ARCT-154群ではデルタ株およびオミクロン株BA.2に対するGMTはベースラインよりも高いままで、オミクロン株XBB.1.5.6に対するGMTもベースラインよりわずかに高かった(152[95%CI:83〜281]vs.106[52〜215])。

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感染症学会ほか、コロナワクチン「高齢者の定期接種を強く推奨」

 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会は、10月21日に「2024年新型コロナワクチン定期接種に関する見解」を共同で発表した。3学会は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザより高く、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨している。本見解は、接種を検討する際の参考となる科学的根拠を提供している。 学会の見解によると、新型コロナワクチンは、世界では2020年12月からの1年間にCOVID-19による死亡を1,440万例防ぎ1)、日本では、もし新型コロナワクチンが導入されていなかったら、2021年2~11月の期間の感染者数は報告数の13.5倍、死亡者数は36.4倍に及んでいたと推定されている2)。また、2023年秋のXBB.1.5対応ワクチンは、日本の高齢者のCOVID-19による入院を44.7%減少させた3)ことが、過去の研究より判明している。 オミクロン株はXBB.1.5、JN.1、KP.3と数ヵ月ごとに変異し、変異のたびに免疫回避力が強まっている。そのため流行を繰り返しており、今冬には再び大きな流行が予想される。このような中、日本の高齢者は若年層に比べてCOVID-19に罹ったことのない人が多く、引き続きワクチンによる免疫の獲得が重要となる。高齢者のCOVID-19の重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上 2024年の流行では、高齢者のCOVID-19による入院が増え、高齢者施設の集団感染も続いている。国の死亡統計では、5類感染症移行後1年間のCOVID-19による死亡者数は2万9,336例で、新型コロナ出現前の60歳以上のインフルエンザ年間死亡者数1万908例より多く4)、COVID-19の疾病負荷は依然として大きい状況だ。 新型コロナワクチンの発症予防効果は、ウイルスの変異の影響もあり、数ヵ月で減衰するため、流行株に対応した新たなワクチンの接種が必要となる。日本では、2024年10月からJN.1対応ワクチンが新たに使用されている。なお、現在流行しているKP.3はJN.1の派生株で、JN.1対応ワクチンはKP.3に対しても一定の効果が期待される。 毎シーズン変異を繰り返すインフルエンザウイルスに対して、毎年新しいインフルエンザワクチンが高齢者に定期接種として使用されているように、新型コロナウイルスに対しても新たな流行株に対応した新型コロナワクチンを少なくとも年に1回は接種することが必要であるという。3学会は、高齢者には新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨している。ワクチンの利益とリスクの大きさを科学に基づいて正しく比較し、接種対象者自身が信頼できる医療従事者とよく相談して、接種するかどうかを判断することが望まれるという見解を示している。5種類のJN.1対応ワクチン、有効性・安全性のエビデンスを明記 定期接種として用いられるJN.1対応ワクチンは、ファイザーの「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」、モデルナの「スパイクバックス筋注」、武田薬品工業の「ヌバキソビッド筋注」、第一三共の「ダイチロナ筋注」、Meiji Seika ファルマの「コスタイベ筋注用」の5種類だ。いずれも有効な免疫誘導と安全性が臨床試験で確認されている。これらのワクチンはすべて一過性の副反応があるが、臨床試験ではワクチンと関連した重篤な健康被害は認められなかった。本見解には、各ワクチンの詳細なデータが記載されている。 なお、Meiji Seika ファルマのレプリコンタイプ(自己増幅型)の次世代mRNAワクチンである「コスタイベ筋注用」については、SNSなどで科学的根拠に基づかない情報が流布し、一部の人から強い懸念の声が挙がっている。この状況に対して本見解では、「自己増幅されるのはスパイクタンパク質のmRNAだけであり、感染力のあるウイルスや複製可能なベクターはコスタイベに含まれていません。また、被接種者が周囲の人に感染させるリスク(シェディング)はありません」と、安全性を裏付けるデータとともに提示している。■参考日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(概要版)1)Watson OJ, et al. Lancet Infect Dis. 2022;22:1293-1302.2)Kayano T, et al. Sci Rep. 2023;13:17762.3)長崎大学熱帯医学研究所. 新型コロナワクチンの有効性に関する研究(VERSUS study)〜国内多施設共同症例対照研究〜. 第11報.4)Noda T, et al. Ann Clin Epidemiol. 2022;4:129-132.

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関節炎を診るときの鑑別診断【1分間で学べる感染症】第13回

画像を拡大するTake home message関節炎を診る際には「急性・慢性」「単関節・多関節」の組み合わせで4つにカテゴリー分けをしたうえで診断を進める。皆さんは関節炎を訴える患者さんを診る際、どのように問診や検査を進めていきますか?今回は、関節炎をカテゴリーに分けてその特徴を学んでいきましょう。関節炎は、その臨床経過や関与する関節の数に基づいて分類され、この分類結果が診断や治療の方針決定に役立ちます。具体的には「急性」か「慢性」か、1つの関節だけに起こる「単関節炎」か、多くの関節に起こる「多関節炎」か、これらの組み合わせで4つのカテゴリーに分類します。I. 急性単関節炎急性単関節炎では、主な原因として細菌性関節炎、結晶誘発性関節炎、外傷性関節炎が考えられます。【細菌性関節炎】細菌性関節炎には非淋菌性と淋菌性があり、非淋菌性関節炎の原因菌としては一般的に黄色ブドウ球菌が最多で、それにβ溶血性連鎖球菌が続きます。また、頻度は高くないものの、高齢者や免疫抑制患者ではグラム陰性桿菌も考えられます。一方、淋菌性関節炎は性行為を介して感染し、移動性の関節痛がみられることが特徴です。【結晶誘発性関節炎】臨床上、細菌性と判断が難しいケースが多いです。痛風と偽痛風があり、偽痛風は、ピロリン酸カルシウムが関節に沈着し炎症を引き起こし、高齢者に多い傾向があります。【外傷性関節炎】外傷や過度の運動によるもの。このほかの急性単関節炎の鑑別としては、反応性関節炎や急性多関節炎の初期段階などが挙げられます。II. 急性多関節炎急性多関節炎では、主な原因として細菌性関節炎、ウイルス性関節炎が考えられます。【細菌性関節炎】感染性心内膜炎を含めた全身性の血行性感染や淋菌性関節炎などが含まれます。感染性心内膜炎は歯科治療歴や心雑音などを診断の手掛かりとします。また、淋菌性関節炎ではリスクのある性交渉歴がポイントとなります。全例ではないものの、移動性の関節痛がみられるのも特徴です。【ウイルス性関節炎】インフルエンザやCOVID-19などを含めた呼吸器感染症のほか、ヒトパルボウイルスB19感染では皮疹や小児との接触歴が重要な診断の手掛かりです。とくに急性HIV感染症はリスクが高く、早期の診断が重要です。また、肝炎ウイルスによるものも報告されており、輸血歴や性交渉歴、刺青がリスクファクターとして挙げられます。このほかの急性多関節炎の鑑別としては、慢性多関節炎の初期段階などが挙げられます。III. 慢性単関節炎慢性単関節炎では、まれであるものの抗酸菌性関節炎や大腿骨頭壊死、悪性腫瘍などが鑑別診断として考えられます。MRIによる画像診断やそのほかのリスクを考慮する必要があります。このほかに、慢性多関節炎の早期段階などが挙げられます。IV. 慢性多関節炎慢性多関節炎では、関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)、リウマチ性多発筋痛症を含めた自己免疫疾患をまず検討します。ほかには変形性関節症などが鑑別診断として挙げられます。そのほかの症状や身体所見、家族歴、各種スクリーニング検査などを総合的に判断し診断を進める必要があります。これらの4つのカテゴリーを大まかに理解しながら、さらなる追加問診や該当関節以外の身体所見を加えて、診断のための次なる検査をスムーズに進めていくようにしましょう。1)Earwood JS, et al. Am Fam Physician. 2021;104:589-597.2)Horowitz DL, et al. Am Fam Physician. 2011;84:653-660.3)McBride S, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:271-279.4)Lin WT, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2017;50:527-531.

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インフルワクチンの日本人の心不全に対する影響~PARALLEL-HF試験サブ解析/日本心不全学会

 呼吸器感染症に代表されるインフルエンザ感染は、心筋へウイルスが移行する直接作用、炎症惹起性サイトカイン放出による全身反応などによって心血管障害を及ぼす。また、プラークの不安定化、炎症による心拍数の不安定化への影響なども報告されているが、海外研究であるPARADIGM-HF試験1)が検証したところによると、インフルエンザワクチン接種が心不全患者の死亡リスク低下と関連する可能性を示唆している。 そこで筒井 裕之氏(国際医療福祉大学大学院 副大学院長)らはPARADIGM-HF試験に準じて行われた国内でのPARALLEL-HF試験2)の後付けサブ解析として『国内心不全患者のインフルエンザワクチン接種と心血管イベントの関連性』について検証、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のLate breaking sessionで報告した。なお、本研究はCirculation reports誌2024年9月10日号に掲載3)された。 本研究は、日本国内の左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)に対するサクビトリルバルサルタンの臨床試験であるPARALLEL-HF試験に登録された患者について、インフルエンザワクチンの接種率ならびに心血管イベントとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者223例のうち97例(43%)がインフルエンザワクチン接種を受けていた。・ワクチン接種群を非接種群と比較した場合の特徴として、高齢、BMI・収縮期血圧・eGFR低値があった。また、NYHA、LVEF、NT-proBNP、薬物治療について有意差はみられなかった。・ワクチン接種群の全死亡(調整ハザード比[HR])は0.83(95%信頼区間[CI]:0.41~1.68)、心肺またはインフルエンザに関連した入院/死亡は調整HRが0.80(95%CI:0.52~1.22)と低い傾向がみられた。・研究限界として、解析対象者が少数、ワクチン接種と予後との関連を解析している、ワクチンの詳細情報(種類、接種回数など)不十分などがあった。 日米欧の各診療ガイドラインでは“肺炎は心不全の増悪因子の1つ”と記されており、「日本国内では感染予防のため(クラスI、エビデンスレベルA)、米国では死亡率低下のためにreasonableである(クラスIIa、エビデンスレベルB)、欧州では心不全死亡低下のために[肺炎球菌ワクチンなども含めて]should be considered(クラスIIa、エビデンスレベルB)と推奨が記されている。接種目的は各国で異なるが欧米諸国の接種率は高い」と説明した。日本における心不全患者のインフルエンザワクチン接種率は国内の全体接種率が55.7%であることを見ても、低い傾向にあることが本研究より明らかになった。これを踏まえ、同氏は「本結果は海外のPARADIGM-HF試験のサブ解析と同様の結果を示した。現在、国内のHFrEF患者のインフルエンザワクチン接種率は不十分であるが、ワクチン接種による臨床的利益が期待できることが示された」と述べ、「ワクチン接種を推奨する医療の役割分担が不明瞭(かかりつけ医/一般内科/循環器専門医、クリニック/病院などの連携の必要性)、副反応による懸念、広報が不十分などの解決が喫緊の課題」と締めくくった。

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子供がコロナで入院すると子供も親も精神衛生に影響/国立成育医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連するスティグマは、抑うつ、不安、孤独感などの心身の苦痛を引き起こすことが世界的な問題となっている。しかし、COVID-19のスティグマと、それに関連する子供や親のメンタルヘルスへの影響を調査した研究はほとんどないのが現状である。 国立成育医療研究センター総合診療部の飯島 弘之氏らの研究グループは、COVID-19に感染した子供とその親に対して、COVID-19に関わるスティグマ(患者に対する「差別」や「偏見」)と、メンタルヘルスへの影響について調査を実施した。その結果、主観的スティグマがある子供と推定スティグマがある親は、1ヵ月後もメンタルヘルスにネガティブな影響がみられた。本研究結果は、Pediatrics International誌2024年1~12月号に掲載された。COVID-19に感染した親子は1ヵ月後も精神衛生に影響 対象は2021年11月~2022年10月までにCOVID-19に感染し、国立成育医療研究センターに入院した4~17歳の子供および0~17歳の子供の親。COVID-19に関わるスティグマとメンタルヘルス(抑うつ、不安、孤独感)に関する質問票調査を実施した。 対象者は47例の子供と111例の親で、そのうち入院中の調査では子供43例(91%)と親109例(98%)が質問票に回答し、1ヵ月後の追跡調査では、それぞれ38例(81%)と105例(95%)が回答した。 スティグマについては、隠ぺいスティグマ(ここでは覆い隠すことによって偏見や差別を回避しようとするスティグマのことを指す)と回避スティグマ(ここでは個人や集団が感染を回避しようとするスティグマのことを指す)についてそれぞれに、主観的スティグマと推定スティグマを確認するアプローチを採用した。メンタルヘルスを評価する質問として、抑うつ、不安、孤独について調査した。 主な結果は以下のとおり。【スティグマの保有】・入院中の調査では、COVID-19に感染した子供の79%、親の68%が高スティグマに該当し、1ヵ月後の調査でも、子供の66%、親の64%が高スティグマに該当していた。・推定スティグマの方が、主観的スティグマよりも、高スティグマグループの割合が高くなっていた。【メンタルヘルスへの影響】・子供の抑うつと孤独感、親の抑うつと不安は、いずれも、入院中と比べ、1ヵ月後の追跡調査で有意に低下していた。しかし、次のとおり、主観的スティグマがある子供と推定スティグマがある親においては、1ヵ月後においても、メンタルヘルスにネガティブな影響がみられた。(1)子供のスティグマと孤独感・抑うつとの関係・子供の主観的スティグマは、入院中の孤独感(平均差[MD]:2.32、95%信頼区間[CI]:0.11~4.52)と1ヵ月後の追跡調査での抑うつ(MD:2.44、95%CI:0.40~4.48)と関連していた。・推定スティグマは、メンタルヘルスとの間に有意な関係はみられなかった。(2)親のスティグマと抑うつ・不安・孤独感との関係・親の推定スティグマは、1ヵ月後の追跡調査で抑うつ、不安、孤独感と関連していた(MD:2.24[95%CI:0.58~3.89]、1.68[0.11~3.25]、1.15[0.08~2.21])。・主観的スティグマとメンタルヘルスとの間に有意な関係はみられなかった。 研究グループは、これらの調査結果から、「COVID-19に関連するスティグマは、退院後1ヵ月以上にわたって精神衛生に影響を及ぼし続けること、スティグマが精神衛生に与える影響は子供と親で異なることが示された」と結論付けている。

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第214回 美容医療のトラブル増加、専門医資格の有無など報告義務化へ/厚労省

<先週の動き>1.美容医療のトラブル増加、専門医資格の有無など報告義務化へ/厚労省2.かかりつけ医機能報告制度、2026年夏から公表開始へ/厚労省3.新たな地域医療構想、急性期病院の集約化と外来医療の確保が課題に/厚労省4.2022年度、国民医療費46兆円超と過去最大、高齢化とコロナで増加/厚労省5.救急搬送で選定療養費徴収へ 軽症者増加で救急医療ひっ迫/茨城県6.新学長に山中 寿氏 不透明資金問題で理事ら総辞職/東京女子医大1.美容医療のトラブル増加、専門医資格の有無など報告義務化へ/厚労省美容医療に関するトラブルが増加していることを受け、厚生労働省は10月18日に「美容医療の適切な実施に関する検討会」を開き、医療機関に対し、安全管理状況の定期報告を義務付ける案を提示した。厚労省案では、美容医療などを行っている病院やクリニックに対し、安全管理状況を年1回、自治体に報告することを義務付ける事項などを検討した。国民生活センターなどへの美容医療に関する相談件数は、2023年度に5,507件と5年間で3倍以上に増加している。おもな相談内容は、皮膚障害などの健康被害や料金に関するものが多く、中には、カウンセラーや受付スタッフが施術を行っていたというケースも報告されている。このほか、医療機関に対して行った実態調査の結果、施術技術に関する研修や、施術後の管理についてのルールがないと回答した医療機関が多く、とくに麻酔下施術を行う医師に対する麻酔・全身管理に関する研修がないと回答した医療機関は60%を超えていた。こうした現状を受け、厚労省は報告の義務化を打ち出した。具体的には、専門医資格の有無や、副作用などの問題が起きた場合の相談窓口などを報告し、自治体がその内容を公表するとしている。また、検討会では、医療機関が遵守すべき法令や、医療事故発生時の対応などをまとめたガイドライン策定の必要性も議論された。さらに、保健所による立ち入り検査の法的根拠を明確化し、指導を強化する方針も示された。厚労省は、年内にも新たな対策をまとめる方針。参考1)第3回美容医療の適切な実施に関する検討会(厚労省)2)美容医療、安全管理体制報告・公表を検討 都道府県に年1回、厚労省案(CB news)3)美容医療 “受付スタッフが施術”のケースも 厚労省の被害調査(NHK)4)美容医療、安全管理状況の報告義務を議論 厚労省検討会、健康被害やトラブル増加(産経新聞)2.かかりつけ医機能報告制度、2026年夏から公表開始へ/厚労省厚生労働省は10月18日、自治体向け説明会を開催し、2025年4月から始まる「かかりつけ医機能報告制度」の詳細を明らかにした。この制度は、慢性疾患を持つ高齢者など地域住民が、身近な医療機関で継続的な医療を受けられる体制を強化することを目的としている。対象となるのは、特定機能病院と歯科医療機関を除くすべての医療機関。医療機関は「日常的な診療を総合的・継続的に行う機能」の有無や、時間外診療、入院・退院支援、在宅医療、介護との連携といった機能の提供状況を、毎年都道府県に報告する必要がある。初回の報告は2026年1~3月に行われ、都道府県は報告内容を確認した上で、2026年夏頃から順次公表する予定としている。報告された情報は、地域の関係者による協議の場で活用され、地域のかかりつけ医機能確保に向けた具体的な方策が検討される。そのため協議には、地域の実情に精通したキーパーソンを参加させることが重要となる。厚労省は、この制度を通じて、地域医療の充実と住民の健康増進に繋がることに期待を寄せている。参考1)かかりつけ医機能報告制度に係る第1回自治体向け説明会 資料(厚労省)2)「かかりつけ医機能」報告結果、26年夏ごろから公表 都道府県が順次(CB news)3.新たな地域医療構想、急性期病院の集約化と外来医療の確保が課題に/厚労省厚生労働省は、2040年頃を見据えた新たな地域医療構想の策定に向けて検討会で議論を進めている。10月17日に「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開き、医療機関の機能分化と外来医療の確保について討論した。2040年までに高齢化の進展によって、医療需要は増加する一方、医療従事者の確保は困難になることが予想されている。とくに、救急医療や手術など高度な医療を提供する急性期病院においては、質の高い医療を提供し続けるために、一定の症例数を確保することが重要となる。検討会では、急性期病院の機能を明確化し、医療の質やマンパワー確保の観点から、都道府県への報告に当たり、一定の基準を設けることが提案された。具体的には、救急搬送の受け入れ件数や高度手術の実施件数などを基準とする案が示された。しかし、急性期病院の集約化は、一部病院の急性期からの撤退を意味し、病院経営や地域住民の医療アクセスへの影響も懸念されている。この課題を解決しつつ、地域の実情に応じた集約化を進めることが求められる。さらに2040年には、診療所医師の高齢化や医師不足により、診療所のない市区町村が342ヵ所に増加する可能性が指摘されている。地域住民が身近な場所で医療を受けられるよう、外来医療の確保も重要な課題となっている。また、検討会では、かかりつけ医機能を持つ医療機関と、紹介受診重点医療機関との連携強化、地域医療の確保、医療資源の有効活用などが議論された。具体的には、オンライン診療を含む遠隔医療の活用、医師派遣、巡回診療、診療所と病院の連携などが提案された。厚労省は、これらの議論を踏まえ、年内に新たな地域医療構想の大枠をまとめる予定。参考1)第10回 新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)新たな地域医療構想、病院機能を【急性期病院】と報告できる病院を医療内容や病院数等で絞り込み、集約化促す-新地域医療構想検討会(Gem Med)3)265市区町村で診療所なくなる可能性、40年までに 医師が75歳で引退なら、厚労省集計(CB news)4.2022年度、国民医療費46兆円超と過去最大に/厚労省2022年度の国民医療費は、過去最大の46兆6,967億円に達したことが明らかになった。高齢化の進展に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、前年度比3.7%増と大幅な伸びとなった。厚生労働省が10月11日に発表した「国民医療費の概況」によると、1人当たり医療費は37万3,700円。65歳以上は1人当たり77万5千円と、医療費全体の6割以上を占めていた。医療費の財源は、国民や企業が負担する保険料が約半分、公費が約4割、患者の自己負担が約1割。高齢化による医療費増加や団塊の世代の後期高齢者入りにより、75歳以上の医療費が増加傾向にあった。また、1人当たり医療費は、最高額の高知県と最低額の埼玉県で1.44倍の格差があり、依然として地域間での偏りがみられている。高齢者の医療費の伸びは、65歳未満と比べて低い水準に抑えられており、後発医薬品の使用促進などの効果と考えられる。一方、がん医療費は、65歳未満、65歳以上ともに、シェアは減少していたが、コロナの影響で検診などが控えられた可能性があるため、今後の高齢化の進行とともに新しい技術導入などで増加も予想されている。今後の課題としては、高齢化の進展に伴う医療費増加への対応、地域格差の解消、医療費の適正化などが挙げられている。参考1)「令和4(2022)年度 国民医療費」を公表します-46兆6,967億円、人口一人当たり37万3,700円-(厚労省)2)22年度の医療費、46兆円超 過去最大、コロナも影響(共同通信)5.救急搬送で選定療養費徴収へ 軽症者増加で救急医療ひっ迫/茨城県茨城県は、救急搬送件数の増加と軽症者の利用による救急医療現場のひっ迫を受け、2024年12月2日から救急搬送における選定療養費の徴収を開始すると発表した。救急車で搬送された患者のうち、救急要請時の緊急性が低いと判断された場合の搬送が対象となる。具体的には、軽度の切り傷や擦り傷、微熱のみ、風邪の症状のみなどが該当する可能性があるが、意識障害や痙攣、大量出血を伴う怪我などは、これまで通り緊急性が高いと判断される。選定療養費は、紹介状を持たずに大病院を受診する際に患者側が負担する。今回の制度見直しにより、救急搬送であっても、緊急性が低いと判断された場合には、この選定療養費が徴収されることになる。対象となる病院は、県内22病院で、金額は病院によって異なる。県は、この制度導入により、軽症者の安易な救急車利用を抑制し、重症患者の搬送を優先することで、救急医療体制の確保を目指す。なお、緊急性の判断に迷う場合は、「茨城県救急電話相談」(#7119または#8000)に相談するよう呼びかけている。参考1)救急搬送における選定療養費の徴収について(茨城県)2)茨城県、12月に救急搬送時の選定療養費徴収を開始、独自の工夫でデメリット解消を目指す(日経メディカル)3)救急搬送時の「選定療養費」県が大規模病院ごとの徴収額公表(NHK)6.新学長に山中 寿氏 不透明資金問題で理事ら総辞職/東京女子医大東京女子医科大学は、同窓会組織を巡る不透明な資金の動きがあった問題で、ガバナンス機能不全の責任を取り、理事会の全理事と監事が辞任したと発表した。新たに選任された学長は、国際医療福祉大学の山中 寿教授(70)で、就任日は10月23日。山中氏は、1983~2018年まで女子医大に在籍しており、臨床と研究両面で高い実績を上げていた。選考委員会は、山中氏を「学長にふさわしい」と判断し、全会一致で選出した。女子医大では、同窓会組織の一般社団法人「至誠会」を巡る不透明な資金の動きが発覚し、当時の理事長だった岩本 絹子氏が今年8月に解任されており、今回の理事・監事の総辞職と新学長の選任は、この問題を受けた組織改革の一環とみられている。参考1)新生東京女子医科大学のための学長候補者の選考報告について(東京女子医大)2)東京女子医大の全理事・幹事11人が寄付金問題で引責辞任、新学長に国際医療福祉大の山中寿教授(読売新聞)3)東京女子医大、理事ら辞任 新学長選任、不透明資金で(東京新聞)

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