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高齢者診療の困ったを解決するヒントは「老年医学」にあり!【こんなときどうする?高齢者診療】第1回

今回のテーマは、「なぜ今、老年医学が必要なのか?」です。このような症例に出会ったことはありませんか?85歳女性。自宅独居。糖尿病、高血圧、冠動脈疾患の既往有。呼吸苦を主訴に救急外来を受診。肺炎と診断し入院にて抗菌薬加療。肺炎の治療は適切に行われ呼吸苦症状も改善したが、自力歩行・経口摂取が困難になり自宅への帰宅不可能に。適切な診断と治療をして疾患は治ったにもかかわらず状況が悪化してしまう-高齢者診療でよく遭遇する場面かもしれません。老年医学はこうしたジレンマに向かい合うきっかけを提供し、すべての高齢者に対してQOLの維持・向上を図ること、また同時に心や体のさまざまな症状をコントロールするために体系化された学問です。老年医学の原則とアプローチ(「型」)を実践することで、困難事例に解決の糸口をみつけることができるようになります。老年医学の原則:コモンなことはコモンに起きる-老年症候群と多疾患併存日本における平均寿命と健康寿命はいずれも延伸していますが、平均寿命と健康寿命のギャップは医療の進歩にも関わらず顕著には短縮しておらず、女性で約12年、男性で約7~8年あります。1)この期間に多くの高齢者が抱える問題が2つあります。ひとつは老年症候群。たとえば記憶力の低下や抑うつ、転倒や失禁などの認知・身体機能の低下など、高齢者にコモンに起きる症状・兆候を「老年症候群」と総称します。もうひとつは、多疾患併存(multimorbidity)です。年齢に比例して併存疾患の数が多くなり、60歳以降では約20%が3つ以上の疾患を有しているという調査があります。2)高齢者の治療やケアをする場合、老年症候群と多疾患併存があるという前提で診察やケアにあたることが大切です。老年医学の型:5つのM老年症候群があり、多疾患併存状態にある高齢者の診療は、疾患の診断-治療という線形思考で解決しないことがほとんどです。そこで、複雑な状況を俯瞰するために「5つのM」というフレームを使います。要素は、大切なこと(Matters most)、薬(Medicine)、認知機能・こころ(Mind)、身体機能(Mobility)、複雑性・落としどころ(Multi-complexity)の5つです。今回のケースを5つのMを使って考えてみましょう。ポイントはMatters mostから考え始めること。「生きがい」・「大切なこと」といったことでもよいのですが、「今、患者/家族にとって一番の困りごとは何か、肺炎を治療した先の日々の生活に期待することは何か?」を入院加療の時点で考えられると、行うべき介入がさまざまな角度から検討できるようになります。今回のケースでは、肺炎治療後に自宅に帰り、自立した生活をできる限り続けることがゴールだったと考えてみましょう。そうすると、肺炎治療に加えて1人で歩行するための筋力維持が必要だと気付くでしょう。また筋力を維持するためには栄養状態にも気を配らなければなりません。それに気付けば理学療法士や管理栄養士など、その分野の専門職に相談するという選択肢もあります。また、肺炎治療中の絶対安静や絶食は、筋力や栄養状態の維持を同時に叶えるために適切な選択だろうか?本当に必要なのだろうか?と立ち止まって考えることもできます。しかし命に係わるかもしれない肺炎の治療は優先事項のひとつですから、落としどころとして、安静期間をできる限り短くできないか検討する、あるいはリハビリテーションの開始を早める、誤嚥のリスクを見極めて経口摂取を早期から進めていく、といった選択肢が出てくるかもしれません。100%正しい選択肢はありません。ですが5つのMで全体像を俯瞰すると、目の前の患者に対して、提供できる医療やケアの条件の中で、患者のゴールに近づく落としどころや優先順位を考えることができます。高齢者にかかわるすべての医療者で情報収集し共有する今回のケースでは、例として理学療法士や管理栄養士を出しましたが、その他にもさまざまな専門職が高齢者の医療に携わっています。医師は診断・治療といった医学的介入を職業の専門性として持つ一方で、患者とコミュニケーションできる時間が少ないために十分な「患者―医師関係」が構築しにくく、患者・家族が本当に大切にしていることが届きにくい場合があります。そのため、協働できる多職種の方とともに患者の情報を得る、そして彼らの専門性を活かして介入の方法やその分量のバランスをとること、落としどころを見つけることが医師に求められるスキルのひとつです。参考1)内閣府.令和5年度版高齢社会白書(全体版).第1章第2節高齢期の暮らしの動向.2)Miguel J. Divo,et al. Eur Respir J. 2014; 44(4): 1055–1068.

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うっ血やLVEFの低下がある急性心筋梗塞では、SGLT2阻害薬の追加により心不全入院を予防できる可能性(解説:原田和昌氏)

 心不全ステージBである急性心筋梗塞(MI)患者では心不全(HF)発症リスクが高く、とくにうっ血やLVEFの低下がある場合は予後不良とされる。SGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、2型糖尿病、CKD、HF患者における心血管イベント抑制効果が示されており、MI後の心不全発症の予防も期待される。Butler氏らは、MI後のHF発症に対するエンパグリフロジン上乗せの有効性と安全性を検証する国際共同第III相多施設ランダム化並行群間プラセボ対照優越性試験EMPACT-MI試験を行った。 急性心筋梗塞(STEMIまたはNSTEMI)発症後14日以内でLVEFが45%未満、またはうっ血が認められる18歳以上のHF高リスク患者6,522例が対象で、慢性HFの既往、1型糖尿病、eGFR 20mL/分/1.73m2未満などは除外した。2型糖尿病31.9%、心筋梗塞の既往13.0%、STEMI 74.3%、三枝病変31.0%、心房細動10.6%などであった。RAS阻害薬、β遮断薬、MRA、スタチン、抗血小板療法などの標準治療がなされ、血行再建術は89.3%に行われた。主要評価項目は複合イベント(HFによる初回入院または全死亡)の発生であった。 17.9ヵ月の追跡期間中にHFによる初回入院または全死亡の発生について、エンパグリフロジン群の優越性は認められなかった。副次評価項目のうち全入院または全死亡の発生は、プラセボ群に比べてエンパグリフロジン群で有意に少なかったが(HR:0.87)、その他の副次評価項目に有意差は認められなかった。評価項目の構成要素別の解析では、エンパグリフロジン群でプラセボ群に比べHFによる初回入院までの期間(HR:0.77)、HFによる入院は有意に良好だった(RR:0.67)。安全性プロファイルは既報のデータと一貫していた。 主要評価項目において、エンパグリフロジン群はプラセボ群に対する優越性が認められなかった。その理由としてはイベントの数が少なかったこと、PCIを施行されたMI後のLVEFの低下は一部気絶心筋によるためSGLT2阻害薬の効果が出にくかった可能性が考えられる。なお、Butler氏はACC.24でHFに対するSGLT2阻害薬の有効性に関するシステマティックレビューとメタ解析を行い、HFによる初回入院までの期間を検討したRCT 12件、HFによる入院の発生を検討したRCT 8件において、EMPACT-MI試験と同様の「29%、30%のリスク低減が確認された」と述べた。 同様な患者を対象とした2021年のPARADISE-MI試験で、サクビトリル・バルサルタン400mgはラミプリル10mgと比較して、心血管死亡とHF入院を減らさなかった。一方、2023年のDAPA-MI試験では、MI後でLVEFの低下した糖尿病のない患者を、ダパグリフロジン10mgまたはプラセボに無作為に割り付けた。主要アウトカムは、死亡、HFによる入院、非致死的MI、心房細動/粗動、2型糖尿病、最終来院時のNYHA機能分類、最終来院時の5%以上の体重減少の階層的複合で、ダパグリフロジンのwin ratioはプラセボよりも有意に高かった。ダパグリフロジンは階層的複合の改善に関して有意なメリットがあったが、心血管死またはHFによる入院はプラセボと比較して有意な差はなかった。DAPA-MI試験はレジストリーベースの無作為化試験であり、イベント発生が少なかったため、途中で試験デザインがwin ratioに変更されたうえ、有意な結果は追加された心代謝系アウトカムによっていた。MI後のHF高リスク患者に対するSGLT2阻害薬のエビデンスとしては合わせ技一本ということかもしれない。さらに、EMPACT-MI試験がNEJMで、DAPA-MI試験がNEJM evidence(臨床試験の結果、方法論、分析に焦点)である点も興味深いところである。

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糖尿病診療GL改訂、運動療法では身体活動量の評価と増加に注目/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会より、5年ぶりの改訂となる『糖尿病診療ガイドライン2024』1)が5月23日に発表された。5月17~19日に第67回日本糖尿病学会年次学術集会が開催され、シンポジウム9「身体活動増加を可能にする社会実装とは何か?」において、本ガイドラインの第4章「運動療法」を策定した加賀 英義氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 糖尿病・内分泌内科)が本章の各項目のポイントについて解説した。 本ガイドライン第4章「運動療法」の構成は以下のとおり。・CQ4-1糖尿病の管理に運動療法は有効か?・Q4-2運動療法を開始する前に医学的評価(メディカルチェック)は必要か?・Q4-3具体的な運動療法はどのように行うか?・Q4-4運動療法以外の身体を動かす生活習慣(生活活動)は糖尿病の管理にどう影響するか? ※今回の改訂でQ4-4の項目が新たに追加された。CQ4-1糖尿病の管理に運動療法は有効か? 本ガイドラインではCQを作成する場合、基本的にメタ解析(MA)やシステマティックレビュー(SR)を行う必要がある。ただし、運動療法に関しては既存の有益なMA/SRが存在していたため、それらのアンブレラレビューにて評価された。 加賀氏は本発表にて、ガイドライン策定に当たり参考とした論文を紹介した。2型糖尿病患者の運動の効果については、有酸素運動またはレジスタンス運動のどちらもHbA1cを低下させる。とりわけ2011年のJAMA誌掲載の論文で、週150分以上の運動は、週150分未満と比較し、HbA1c低下効果が有意に高いという結果が示されており2)、現状、週150分が目安となっている。ただし、今回のアンブレラレビューに用いられた研究では、糖尿病の血糖コントロールに関しては、週100分以上の量反応関係はそれほどなく、週100分程度の運動でもHbA1cの低下効果が期待できるという結果が示されている3)。 近年、筋力トレーニングやレジスタンス運動に関するMA/SRが増え、エビデンスが蓄積しているという。レジスタンス運動をすることは、運動しない場合と比較すると、血糖コントロール、フィットネスレベル、体組成、脂質、血圧、炎症、QOLなどを有意に改善することが示されている。一方、レジスタンス運動群と有酸素運動群を比較すると、血糖コントロールに関しては有酸素運動のほうが効果が高く、筋量増加についてはレジスタンス運動のほうが効果的であることなどが示されている4)。 1型糖尿病に関しては、血糖コントロールに運動療法が有効かどうかは、成人と小児共に一定の見解が得られていないため「推奨グレードU」としている。1型糖尿病の場合、インスリン分泌能の残存度合いが異なることにより、運動療法の効果が個人間で異なる可能性がある。ただし、成人では体重、BMI、LDL-C、最大酸素摂取量、小児では総インスリン量、ウエスト、LDL-C、中性脂肪について、運動療法により有意に改善がみられたとする研究もあったという5)。Q4-2運動療法を開始する前に医学的評価(メディカルチェック)は必要か? Q4-2は基本的に2019年版を踏襲している。糖尿病の運動療法を開始する際に懸念されるのが有害事象であるが、とくに3大合併症の網膜症、腎症、神経障害についてきちんと評価し、整形外科的疾患の状態を把握して指導することが必要だと、加賀氏は解説した。心血管疾患のスクリーニングに関しては、軽度~中等度(速歩きなど日常生活活動の範囲内)の運動であれば必要ないが、普段よりも高強度の運動を行う場合や、心血管疾患リスクの高い患者、普段座っていることがほとんどの患者に対しては、中等度以上の強度の運動を開始する際はスクリーニングを行うのが有益な可能性もある。加賀氏は、低強度の運動から始めることが合併症を防ぐために最も有用な方法だと考えられると述べた。 運動療法を禁止あるいは制限したほうがよい場合については、『糖尿病治療ガイド2022-2023』に記載のとおりである6)。とくに注意すべきは、増殖前網膜症以上の場合と、高度の自律神経障害の場合であり、運動療法開始前にその状態を把握しておく必要がある。Q4-3具体的な運動療法はどのように行うか? Q4-3のポイントとして、有酸素運動は、中強度で週150分かそれ以上、週3回以上、運動をしない日が2日間以上続かないように行い、レジスタンス運動は、連続しない日程で週に2~3回行うことがそれぞれ勧められ、禁忌でなければ両方の運動を行うということが挙げられた。有酸素運動は、心肺機能の向上を主な目的とするため、最初は低強度から始め、徐々に強度と量を上げていく。高齢者においては柔軟・バランス運動がとくに重要となるという。Q4-4運動療法以外の身体を動かす生活習慣(生活活動)は糖尿病の管理にどう影響するか? 2024年版で新たにQ4-4が追加された。「身体活動量=生活活動+運動」であり、生活活動は「座位時間を減らす」という言葉に置き換えることが可能だという。本項のポイントは、現在の身体活動量を評価し、生活活動量を含めた身体活動の総量を増加させることにある。そのためには、日常の座位時間が長くならないように、合間に軽い活動を行うことが勧められる。 参考となる研究によると、食後に軽度の運動をすることで血糖値の改善効果を得られる。30分ごとに3分間、歩行やレジスタンス運動をすることによって、食後の血糖値が改善できる7)。CGMを用いた研究では、1日14時間の座位時間を、30分ごとに10分程度の立位や歩行で約4.7時間少なくすると血糖値が改善したことが示されている8)。国内における2型糖尿病患者の運動療法の実施率を調べた研究によると、患者の運動療法の実施率は約半数であり9)、糖尿病がある人の身体活動量を増やすことが課題となっている。 加賀氏は、米国糖尿病学会が毎年発表している「糖尿病の標準治療(Standards of Care in Diabetes)」を参考として挙げ10)、身体活動に対する指針の項目で、「現在の身体活動量および座位時間を評価し、身体活動ガイドラインを満たしていない人に対しては、身体活動量を現在より増やすこと」という記載が近年追加されたことを指摘した。2024年版から「2型糖尿病における24時間を通した身体活動の重要性(Importance of 24-hour Physical Behaviors for Type 2 Diabetes)」を示した表も掲載されており、座位/座り過ぎの解消、運動、身体機能の向上、筋力の強化、歩行/有酸素運動、睡眠の質や量といった24時間を通した評価が重視されている。運動療法ガイドラインの未来 加賀氏は講演の最後に、「現在、スマートフォンやスマートウォッチでかなり正確に生活活動量を測定できるため、まず自身の身体活動量を測定することから開始し、その次に行動することが重要であると考えている。今後は、ゲームやVRを使った運動について、2型糖尿病患者を対象としたRCTが増えれば、ガイドラインに組み込まれることになるかもしれない。そのほか、2型糖尿病患者の運動療法の老年疾患に関するMA/SRの充実、スポーツジムの有効な活用法など、エビデンスの蓄積に期待したい」と、運動療法ガイドラインの未来について見解を述べた。■参考文献1)日本糖尿病学会編著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂;2024.2)Umpierre D, et al. JAMA. 2011;305:1790-1799.3)Jayedi A, et al. Sports Med. 2022;52:1919-1938.4)Acosta-Manzano P, et al. Obes Rev. 2020;21:e13007.5)Ostman C, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2018;139:380-391.6)日本糖尿病学会編著. 糖尿病治療ガイド2022-2023. 文光堂;2022.7)Dempsey PC, et al. Diabetes Care. 2016;39:964-972.8)Duvivier BM, et al. Diabetologia. 2017;60:490-498.9)佐藤祐造ほか. 糖尿病. 2015;58:850-859.10)American Diabetes Association Professional Practice Committee. Diabetes Care. 2024;47:S77-S110.

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1日3杯以上のコーヒーがメタボの重症度を低下

 コーヒーの摂取がメタボリックシンドローム(MetS)の総合的な重症度の低下と関連している一方で、カフェインレスコーヒーや紅茶ではその関連が認められなかったことを、中国・Peking Union Medical College HospitalのHe Zhao氏らが明らかにした。European Journal of Nutrition誌オンライン版2024年5月4日号掲載の報告。 これまでの研究により、コーヒー摂取がMetSに良い影響をもたらすことが示唆されているが、いまだ議論の余地がある。そこで研究グループは、2003~18年の米国疾病予防管理センター(CDC)の国民健康栄養調査のデータ(1万4,504例)を用いて、コーヒーやカフェインレスコーヒー、紅茶摂取とMetSの重症度との関係を線形回帰で分析した。MetSの重症度はMetS zスコアとして総合的に評価した。サブグループ解析では、NCEP/ATP III基準を用いてMetS群と非MetS群に分類して解析した。 主な結果は以下のとおり。・3杯/日以上のコーヒー摂取は、MetS zスコアの低下と有意に関連していた(p<0.001)。MetS群(p<0.001)および非MetS群(p=0.04)ともに低下していた。・連日のコーヒー摂取は、BMI値(p=0.02)、収縮期血圧(p<0.001)、インスリン抵抗性(HOMA-IR)(p<0.001)、トリグリセライド値(p<0.001)の低下と関連するとともに、HDLコレステロール値(p=0.001)の上昇と関連していた。・カフェインレスコーヒーと紅茶の摂取では、MetS zスコアとの関連は認められなかった。

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怒りっぽい人は心血管疾患のリスクが高い?

 怒りの感情は血管が拡張する能力を一時的に制限し、長期的には心血管疾患の発症リスクを高める可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米コロンビア大学アービング医療センターの循環器専門医であるDaichi Shimbo氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に5月1日掲載された。Shimbo氏は、「怒りっぽい人は、血管に慢性的な傷を負っている可能性がある」と話している。 Shimbo氏らは、18歳以上の健康な成人280人を対象にランダム化比較試験を実施し、誘発された怒り、不安、悲しみの感情が血管内皮機能に与える影響を調べた。対象者の中に、心血管疾患患者、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの心血管疾患のリスク因子を有する人、喫煙者、常用薬の使用者、精神病・気分障害・人格障害の診断歴を有する人は含まれていなかった。 対象者は、怒り(72人)、不安(72人)、悲しみ(69人)、中立的な感情(69人)を誘発するタスクを行う4群にランダムに割り付けられた。怒り誘発群と不安誘発群は、怒りと不安の感情を呼び起こす個人的な経験について8分間想起し、悲しみ誘発群は、悲しみの感情を誘発するように作られた簡潔な文言を8分間読み、中立的感情群(対照群)は、8分間数字を声に出して数えることで、それぞれに割り当てられた感情を誘発した。各タスクの実施前後、およびタスク終了の3、40、70、100分後に、対象者の血圧と心拍数の測定を行い、また、エンドパット2000による反応性充血指数の算出とフローサイトメトリーによる内皮細胞由来の微小粒子と血管内皮前駆細胞の測定により血管内皮機能を評価した。 その結果、怒り誘発群では、血管の拡張機能が対照群に比べて有意に低下しており、このような機能低下はタスク終了から最長40分後まで持続することが明らかになった。一方、不安誘発群や悲しみ誘発群ではこのような血管の機能低下は認められなかった。研究グループは、血管の拡張機能障害は、しばしば動脈硬化として知られる動脈壁への危険な脂肪蓄積の前兆であると指摘している。このような脂肪の蓄積は、心筋梗塞や脳卒中のリスクを上昇させる可能性がある。 この研究に資金を提供した国立心肺血液研究所(NHLBI)臨床応用・予防部門のプログラムオフィサーであるLaurie Friedman Donze氏は、「これまでに実施された観察研究の結果から、怒りが心臓に悪影響を及ぼす可能性が長い間疑われてきた。健康な成人を対象にした本研究の結果は、怒りが実際に、心臓にどのような影響を与えるのかを示したものであり、欠けていた知識を埋めるのに役立つ」と言う。 ただし、怒りがどのようにして血管の拡張機能を障害するのかは明らかになっていない。Shimbo氏は、「おそらくは、自律神経系、ストレスホルモンや動脈の炎症の活性化が関与している」と述べ、「今後の研究で、その正確な機序が明らかになるだろう」と付け加えている。 研究グループは、本研究結果が、「米国人の主要な死因である心血管疾患の抑止に有効な可能性のある方法として、アンガーマネジメントの介入を促進する道を開くものだ」との見方を示している。またDonze氏は、「運動、ヨガ、深呼吸、認知行動療法などは全て、生活の中での怒りを減らすための有効な方法となり得る」と述べている。

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どうにも止まらない(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじスナック菓子の袋を開ける→最後まで食べる→後悔するCopyright© 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者頑張ってダイエットしていたんですけど…食べ始めると止まらなくて。医師 なるほど。スイッチが入ってしまったんですね。(共感)患者 そうなんです。(がっくりした顔)医師 具体的には、どんなものをよく食べますか?画 いわみせいじ患者 やっぱり、スナック菓子が多いですね。医師 あっ、それは危険ですね。食べ過ぎを防ぐいい方法がありますよ!患者 それはどんな方法ですか?(興味津々)医師 袋菓子は開けたら必ず食べ切ってしまうと考えて、最初から小袋のお菓子にするんです。そして、食べる時は一気に食べずに、ひとつずつつまむ。「たまに食べると美味しいな!」なんてしゃべりながら食べてもいいですね。患者 なるほど。私、無心で食べていました。これからは気を付けます…。ポイント袋菓子は小袋や個包装のものを選んで、食べ過ぎを防ぎます。ついでに、満足度の上がる食べ方についても説明しましょう。Copyright© 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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糖尿病、レオ何にも心配ないぞ!任せておけ【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第72回

愛猫のレオ、オシッコの量が多過ぎる…?妻「レオのオシッコの量が多い気がするけど大丈夫なの?」わが家の愛猫のレオのことで、妻が私に話しかけます。中川「オシッコが沢山出るのは良いことで、何の心配もないよ」実際の尿量を確認することもなく、自分は自信を持って返答しました。なにしろ自分は医師であり、日本内科学会総合内科専門医です。人間さまの診察や治療を行っているのです。猫の健康の管理などは簡単なことと、高をくくっていたのです。妻「やっぱりレオのオシッコの量が多過ぎるのよ、変よ。それにたくさん水を飲むのよ」ようやく自分もレオのトイレを確認しました。固まる猫砂のトイレを愛用しています。鉱物の1種であるベントナイトを主成分としたタイプの猫砂です。排尿後に懸命に排泄物を隠すように埋めます。これまでは、オシッコを吸った猫砂は片隅で小さくガッチリ固まっていました。ところが今は、粘土状の状態からもっと固くなることがなく、オシッコの巨大な塊となって積み上がっています。体重5kgほどの猫としては直感的にもあり得ない尿量なのです。中川「すぐに獣医さんに行こう」嫌がるレオを猫用のキャリーケースに押し込んで、かかりつけの獣医さんを受診しました。病状を説明すると、採血することになりました。猫用の駆血帯で右前足を巻いて、獣医さんが採血します。針を刺されてもレオは神妙な顔をしています。しばらく待っていると採血結果が明らかとなりました。何と血糖値が508mg/dLでした。糖尿病です。高血糖から浸透圧利尿がかかり、多飲多尿に陥っていたのです。糖尿病とは、膵臓からのインスリンの分泌量が減ってしまう、あるいはインスリンに対する反応が低下し、細胞内に糖分が吸収されず、血糖値が下がらず高血糖が持続する病態です。腎臓から再吸収量を超えてしまった糖分が尿に出て、尿糖となるのです。このコラムの読者の医療関係者には釈迦に説法のような話で申し訳ありません。このような尿の成分の変化によって鉱物系のベントナイトは固まりが悪くなるそうです。尿量の問題だけでなく、食べても身体の中で糖分が細胞のエネルギーとして使えないため、細胞の中でエネルギーは不足し飢餓状態となっているのです。猫糖尿病、インスリン治療開始種々の検査の後にインスリン治療が開始されることになりました。幸いにも腎機能は維持されており糖尿病性腎症といった状態ではないようです。入院の提案もありましたが、かわいいレオと離れて暮らすことは考えられません。朝晩に獣医さんに連れて行き、血糖値を測定し、インスリン量を決めていくことになりました。何よりも自分がインスリン用の注射器の扱いにも慣れていることが強みです。外来でのインスリン導入となりました。高血糖も困りますが、低血糖を一度でも起こしてしまうと最悪です。少量のインスリンでスタートして、何度も血糖値を測定し、投与回数や投与量を調整しました。現状はランタスというインスリンを朝夕2単位ずつ注射しています。治療前のような多飲多尿は見られなくなりました。食欲も安定しています。猫という生き物は、柔らかな毛並みや優雅な仕草だけでなく、人間の心の一部を奪い去る能力を持っています。飼い主として、レオは単なるペットではありません。家族の一員であり、時には心の支えなのです。しかし、その愛する相手が病気になったとき、言葉には表せない痛みを感じました。決断をしました。レオの治療とケアを最優先に考えるのです。獣医さんの指示に従い、毎日のインスリン注射を行うことがその第一歩でした。幸いにもインスリン注射はさほど痛くない様子です。妻と私のレオへの愛情は以前よりも深まり、レオへの責任感はより強くなりました。レオの健康状態について常に心配し、できる限りのことをするのです。大切な家族が病気になったときの気持ち今回、猫が糖尿病の診断を受け、改めて自分自身が理解したことがあります。自分にとって愛する子供や両親、大切な人が病気となった場合の家族の気持ちです。家族の感情に共感し、サポートを提供することが大切なのです。家族が不安や恐れを感じていることを理解し、それに対して優しく接することが必要なのです。医者を長くやっていると病気に慣れてしまっている自分がいたのです。明日からの自らの診療における反省材料です。猫は非常に俊敏で運動神経が良く、高い場所にも身軽に飛び移ることができます。レオも食器棚やタンスの上まで、見事なジャンプを披露していました。先日、床からテーブルの上に飛び乗ろうとして失敗しました。跳力が不足し後足がひっかかったのです。若く元気なころのレオには、跳ぶという範疇にも入らない簡単なことであったはずです。自分が見ている前で、この失敗をした時に見せたレオの表情が忘れられません。恥ずかしそうに照れ隠しをするようなしぐさで、目線をそらしたのです。レオ「見なかったことにしてくれニャ!俺は元気だよ!」そうレオの眼が語りかけてきます。自分はレオの心を読むことができるのです。自分も見なかったことにしました。中川「レオよかったなぁ、飼い主がお医者さんで!」朝のインスリン注射を完了した自分が、レオを撫でながら話しかけます。妻「何よ、オシッコが多いといっても、大丈夫と言っていたくせに、誤診だよね。この藪医者め」妻から叱責を受けます。その通りです。毎日の猫の世話のほとんどを行っている妻の観察が正しかったのです。自分も照れ隠しをするようにレオに話しかけます。中川「レオ心配ないぞ!」

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65歳未満の心房細動患者は想定よりも多い

 心房細動と呼ばれる危険な心臓のリズム障害が中高年に増えつつあることを警告する研究結果が発表された。米ピッツバーグ大学医療センター(UPMC)で過去10年間に心房細動の治療を受けた患者の4分の1以上が65歳未満であったことが明らかになったという。UPMCの心臓電気生理学者であるAditya Bhonsale氏らによるこの研究結果は、「Circulation: Arrhythmia and Electrophysiology」に4月22日掲載された。 これは、高齢者以外の患者における心房細動の有病率とされている2%よりはるかに高い数値である。Bhonsale氏は、「循環器医の間では、65歳未満の人に心房細動が生じることはまれであり、発症してもそれほど有害ではないというのが常識である。しかし、それを裏付けるデータはこれまで存在しなかった」と話す。同氏はさらに、「UPMCでは近年、若年の心房細動患者を診察することが増えていることから、これらの患者の実際の臨床経過を理解することに興味があった」と同大学のニュースリリースで述べている。 今回の研究では、2010年1月から2019年12月までの間にUPMCで心房細動の治療を受けた患者6万7,221人(平均年齢72.4±12.3歳、女性45%)の電子カルテを用いて、65歳未満での心房細動と全死亡リスクとの関連が検討された。対象患者の26%近く(1万7,335人)が65歳未満であり、その大半が男性だった(男性の割合は50歳未満で73%、50〜65歳で66.3%)。 65歳未満の患者には、現喫煙者、肥満、高血圧、糖尿病、心不全、冠動脈疾患、脳卒中の既往歴などの心血管疾患のリスク因子を有している人が多かった。これらの患者の入院理由としては、心房細動、心不全、心筋梗塞が多く、50歳未満では同順で31%、12%、2.7%、50〜65歳では38%、19%、4.7%を占めていた。平均5年超に及ぶ追跡期間中に、50歳未満で204人(6.7%)、50〜65歳で1,880人(13.1%)の計2,084人が死亡していた。 解析の結果、心房細動のない内部患者コホート(91万8,073人)と比べて、心房細動のある65歳未満の患者では死亡リスクの増加が有意であった。死亡のハザード比は、50歳未満の男性で1.49(95%信頼区間1.24〜1.79)、女性で2.40(同1.82〜3.16)、50〜65歳の男性で1.34(同1.26〜1.43)、女性で1.75(同1.60〜1.92)であり(全てP<0.001)、女性のリスクの方がはるかに高いことが示された。 論文の上席著者であるUPMC心血管研究所のSandeep Jain氏は、「本研究で得られた知見が今後、心房細動患者に対する最適な治療法を評価する研究の実施を促すものと期待している」と話している。

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第215回 高脂肪食とがんを関連付ける腸内細菌を発見

高脂肪食とがんを関連付ける腸内細菌を発見肥満ががんの進展を促すことに寄与しているらしい腸内細菌を中国の研究チームが発見しました。乳がんの新たな治療手段を導く可能性を秘めたその結果によると、高脂肪食はマウスの腸のデスルホビブリオ(Desulfovibrio)属の細菌を増やし、それが免疫系を抑制してがんの増殖が亢進します。研究成果は中国の広東省の広州にある病院(SunYat-Sen Memorial Hospital)の乳がん外科医Erwei Song氏らの手によるもので、今月始めにPNAS誌に掲載されました1)。Song氏らは、BMI値が高い肥満の乳がん患者の生存率が低いことをまず確認したうえで、乳がん患者の腸内細菌の検討を始めました。同病院の治療開始前の乳がん患者61例の検体を調べたところ、肥満の目安としたBMI値24以上の女性の腸にはBMI値が24未満の女性に比べてデスルホビブリオ細菌がより多く認められました。続いてマウスを使ってデスルホビブリオ細菌とがんを関連付けうる仕組みが調べられました。ヒトの肥満を模すものとしてしばしば使われる高脂肪食マウスには肥満の乳がん女性と同様にデスルホビブリオ細菌が多く、免疫系を抑制することで知られる骨髄由来抑制細胞(MDSC)の増加も認められました。よってデスルホビブリオ細菌が多いことと免疫系の抑制は関連すると示唆され、どうやらその関連にアミノ酸の1つであるロイシンが寄与していることが続く検討で示されました。高脂肪食マウスの腸内微生物叢はロイシンを多く放ち、血中にはロイシンが多く巡っていました。そのロイシンがmTORC1経路を活性化してMDSCの生成を誘うことが突き止められ、デスルホビブリオ細菌を死なす抗菌薬をマウスに投与したところ、ロイシンとMDSCのどちらも正常水準に落ち着きました。ヒトでもどうやら同様なことが乳がん患者から採取した血液検体の検討で示唆されました。その検討の結果、BMI値が24以上の肥満水準であることは高脂肪食マウスと同様にロイシンやMDSCがより多いことと関連しました。以上の結果によると高脂肪食の恩恵にあずかるデスルホビブリオ細菌のせいでロイシンが過剰に作られ、その結果MDSCが急増して免疫系が抑制されてがんの増殖が許されてしまうようです。腸の細菌は地域や食事によって異なり、腸内細菌研究の結果は調べた集団が違うと一致しないことがよくあります2)。よって今回と同様の仕組みが他の集団でも認められるかどうかを今後調べる必要があります。もし高脂肪食が招くがんの進行にデスルホビブリオ細菌を発端とする免疫抑制が確かに関連しているなら、その経路を断ち切る新たな乳がん治療の道が開けそうです。参考1)Chen J, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2024;121:e2306776121.2)Gut microbes linked to fatty diet drive tumour growth / Nature

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減量の鍵は摂取時間帯の制限ではなく摂取カロリーの減少

 減量のためのダイエット法の一つとして近年「時間制限食」が人気だが、減量にとって重要なのは摂取時間帯を制限することではなく、摂取カロリーの減少であることを示すデータが報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部のNisa Maruthur氏らの研究結果であり、米国内科学会年次総会(ACP2024、4月18~20日、ボストン)で4月19日に発表されるとともに、論文が「Annals of Internal Medicine」に同時掲載された。 時間制限食(time-restricted eating;TRE)が減量に役立つとする報告が増えているが、その効果が、摂取時間帯を制限することに伴う摂取カロリーの減少から独立したものであるのかどうかは依然として明らかになっていない。そこでMaruthur氏らは、摂取カロリーを一定にした上で、TREと通常の食事パターン(usual eating pattern;UEP)の減量効果を比べる無作為化比較試験を行った。なお、研究背景として述べられているところによると、肥満成人が食事摂取の時間帯を1日4~10時間に制限すると、摂取カロリーが自然に約200~550kcal減少して、2~12カ月間にわたって体重低下が続くというエビデンスがあるという。 この研究の参加者は、肥満のある前糖尿病または食事療法を行っている糖尿病の成人41人(平均年齢59歳、女性93%、平均BMI36)。無作為に1:1で2群に分け、TRE群は食事摂取可能な時間帯を10時間以内に限定し、午後1時までに1日の摂取カロリーの80%を摂取することとした。一方のUEP群は食事摂取可能な時間帯を16時間以内として、午後5時以降に1日の摂取カロリーの50%以上を摂取することとした。1日の摂取カロリーと栄養バランスは両群で等しくなるように設定した。介入前の体重は、TRE群95.6kg(95%信頼区間89.6~101.6)、UEP群103.7kg(同95.3~112.0)で、介入期間は12週間だった。 主要評価項目である介入期間中の減量幅は、TRE群が2.3kg(同1.0~3.5)、UEP群は2.6kg(同1.5~3.7)であり、平均差は0.3kg(同-1.2〜1.9)であって、減量効果は同等と考えられた。また、副次的評価項目として設定されていた血糖関連指標の変化も有意差がなかった。この結果を基に研究者らは、「TREが流行しているが、日々の摂取カロリーを減らせば、いつ食べても体重は減少する」と結論付けている。 この論文に対して、米イリノイ大学のKrista Varady氏、Vanessa Oddo氏が付随論評を寄せている。両氏はMaruthur氏らの研究報告を高く評価した上で、「それでも肥満者がTREを試みる価値がある」としている。具体的には、「TREの人気の高まりは、その容易さによるものである可能性が最も高い。つまり、カロリー計算が必要ないということが、支持される理由だ。摂取可能な時間枠を設けることは、それだけで1日の摂取量を減らすのに役立ち、結果として減量に効果的である」と述べている。

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5月17日 高血圧の日【今日は何の日?】

【5月17日 高血圧の日】〔由来〕日常的な血圧測定や定期健診を促すことで、高血圧による疾病リスクを低減するために「世界高血圧デー」に準じ、2007年に日本高血圧学会と日本高血圧協会によって制定された。また、毎月17日は、高血圧の原因となる食塩の過剰摂取を防ぐために「減塩の日」として諸活動を行っている。関連コンテンツ体重増加は糖尿病や高血圧のリスク【患者説明用スライド】降圧薬治療による認知症リスク低下、超高齢やフレイルでも日本人の降圧薬アドヒアランス、低い患者とは?週3個以上の卵が脂肪性肝疾患と高血圧を予防?10項目の要点確認で災害高血圧を防ぐ/日本高血圧学会

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取り過ぎた塩分を出す「排塩コントロール」と具体的な指導方法

 10年ほど前に話題になったDASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)食。それが今、塩分を排出させる食事として再注目されているようだ。DASH食とは、飽和脂肪とコレステロールの少ない果物、野菜、ナッツ・豆類、低脂肪乳製品、全粒穀類を豊富に摂取することで降圧効果が期待される“塩分の排出に重点を置いた食事療法”で、米国・国立衛生研究所(NIH)などが考案したのを契機に、国内の高血圧治療ガイドライン2019年版1)でも推奨されている。また、この食事療法に減塩を組み合わせたものはDASH-sodium食と呼ばれ、これまでに十分なエビデンスが報告されている2,3)。 しかし、日本人の食事パターンの観点から、塩分の取り過ぎを抑える“減塩”に重点が置かれる傾向にあり、「排塩を意識した高血圧対策」が進んでいないのが現状である。そこで今回、有馬 久富氏(福岡大学医学部衛生・公衆衛生学 主任教授)が、日本特有の四季折々の食事「和食」(日本人の伝統的な食文化)4)を大切にしながら、旬の食材を用いた排塩コントロールの実践を促すために、塩分の排泄を促すカリウムや食物繊維、血圧調整を担うカルシウム、血圧上昇抑制に影響するマグネシウムなどが豊富に含まれている初夏~夏の食材を紹介した。●カリウム トマト、レタス、なす、ズッキーニ、きゅうり、オクラ、ししとう、新じゃが、ゴーヤ、枝豆、アボカド●カルシウム とうもろこし、オクラ、ししとう、つるむらさき、モロヘイヤ、アジ、アユ●マグネシウム とうもろこし、オクラ、ししとう、ゴーヤ、枝豆、アボカド、わかめ、冷ややっこ●食物繊維 とうもろこし、なす、オクラ、ゴーヤ、セロリ、枝豆、アボカド、くらげ●タンパク質 カツオ(戻りカツオ)、枝豆、そら豆<お薦めの調理方法>・トマト、ズッキーニ、なすなどの夏野菜をトマト缶+少量だしで煮込む(ピザ用チーズや鶏肉を追加してもおいしい)・刻んだきゅうりをもずくに入れて、冷ややっこにかける・オクラ、なす、ししとうをゆがき(電子レンジでチンでも)、めんつゆとおかかで和える・トマトとモッツァレラチーズにオリーブオイルとペッパー/バジルを少しかける・初夏であれば、新じゃがを牛乳で煮込む・生で食べられるトマト、きゅうり、とうもろこしにツナ缶を和える(豆腐を入れても) 調理時の注意点としては、「調味料(だしやしょうゆ、塩など)を入れ過ぎない。夏野菜カレーを作る場合は、ルーを入れ過ぎない。また、ゆでるより電子レンジでチンしたほうがカリウムをそのまま取りやすい。マグネシウムの観点から、きゅうりとわかめの酢の物などで海藻類を取るとよい」と同氏はコメントした。 なお、旬の食材を取り入れた食事について、医師が患者へ啓発する際には以下のように「患者の行動変容のステージングに応じて使い分けるのがよい」とも説明した。無関心期⇒情報提供(例)「食事を見直すことで血圧が下がりますよ。今の季節は○○(レシピ名)を使うと、旬の野菜をおいしく食べながら血圧を下げられますよ」関心期⇒動機付け(例)「どのような食事だと血圧が下がると思いますか? 今の季節は○○(レシピ名)を使うと、旬の野菜をおいしく食べながら血圧を下げられますよ」準備期⇒行動案・目標設定(例)「朝も昼も晩も野菜を取るようにしましょうか。今の季節は○○(レシピ名)を使うと、旬の野菜をおいしく食べながら血圧を下げられますよ」実行期⇒意欲強化(例)「食事に気を付けられているようで素晴らしいですね。今の季節は○○(レシピ名)がお薦めですよ」 また、この排塩による高血圧対策のプレスリリースを配信したCureApp5)は「高血圧患者さんがアプリの利用を開始すると、最初のステップとして、高血圧の知識を学ぶ。アプリ内のキャラクターが減塩や体重管理、運動などさまざまな項目の中のコンテンツを通じ、減塩のコツなどを教えてくれる。さらに、行動の実践と記録として、降圧に関わる具体的な行動をアプリで提示し、患者さんができそうなものを自ら選択・実践してアプリに記録することができ、その中で減塩や排塩に関する行動も提示される。患者さんがアプリで実践した行動は医師の端末で確認でき、指導に役立てることができる」とアプリの役割についてコメントした。

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超加工食品、摂取量が多いと死亡リスク増大~30年超の調査/BMJ

 超加工食品の摂取量が多いほど、がんおよび心血管疾患以外の原因による死亡率がわずかに高く、その関連性は超加工食品のサブグループで異なり、肉/鶏肉/魚介類をベースとした調理済みインスタント食品のサブグループでとくに強い死亡率との関連性が認められたという。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のZhe Fang氏らによる、追跡期間30年超のコホート研究で示された。超加工食品は健康に悪影響を及ぼすことが示唆されているが、長期間にわたり食事評価を繰り返し行う大規模コホートでの超加工食品摂取による死亡率への影響に関するエビデンスは限られていた。BMJ誌2024年5月8日号掲載の報告。米国の女性看護師と男性医療従事者、合計約11万4,000例を追跡 研究グループは、米国11州の女性正看護師が対象のNurses' Health Study(1984~2018年)、全50州の男性医療従事者が対象のHealth Professionals Follow-Up Study(1986~2018年)を基に、ベースラインでがん、心血管疾患、糖尿病の既往がない女性7万4,563例および男性3万9,501例を対象として、超加工食品の摂取と死亡との関連を調べた。 超加工食品の摂取量は、4年ごとに実施される食物摂取頻度調査で評価した。 主要アウトカムは全死因死亡、副次アウトカムはがん、心血管疾患、その他の原因(呼吸器疾患、神経変性疾患を含む)による死亡で、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて超加工食品摂取量との関連について、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定し評価した。がん、心血管疾患による死亡とは関連なし 追跡期間中央値34年間において、計4万8,193例(女性3万188例、男性1万8,005例)の死亡が記録された。死因別では、がん1万3,557例、心血管疾患1万1,416例、呼吸器疾患3,926例、神経変性疾患6,343例であった。 超加工食品摂取量の最低四分位範囲(中央値3.0サービング/日)群と比較して、最高四分位範囲(中央値7.4サービング/日)群では、全死因死亡リスクが4%高かった(HR:1.04、95%CI:1.01~1.07、傾向のp=0.005)。一方で、がん(0.95、0.91~1.00)ならびに心血管疾患(1.05、0.99~1.11)による死亡との関連は認められなかった。その他の原因による死亡リスクは9%有意に高かった(1.09、1.05~1.13、傾向のp<0.001)。 超加工食品摂取量の最低四分位範囲群および最高四分位範囲群の全死因死亡率は、それぞれ10万人年当たり1,472例および1,536例であった。 超加工食品のサブグループ別では、肉/鶏肉/魚介類をベースとした調理済みインスタント食品(加工肉など)が最も全死因死亡リスクとの関連が強く(HR:1.13、95%CI:1.10~1.16)、砂糖または人工甘味料入り飲料(1.09、1.07~1.12)、乳製品ベースのデザート(1.07、1.04~1.10)、全粒穀物を除く超加工パン・朝食用食品(1.04、1.02~1.07)も、全死因死亡リスクの増大と関連していた。 Alternative Healthy Eating Index-2010(AHEI-2010)スコアで評価した食事の質と超加工食品摂取量については、AHEIスコアの各四分位範囲内では超加工食品の摂取量と死亡率との間に一貫した関連は観察されなかったが、超加工食品摂取量の各四分位範囲内では、食事の質と死亡率との間に逆相関が認められた。

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“ロコトレ”とは?(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者医師患者医師患者医師患者医師患者“ロコトレ”ってどんな運動ですか?片足立ちとスクワットのことです。片足立ちはバランス能力をつける運動ですが、ポイントがあります。ちょっと立ってもらえますか? 眼を開けてしっかり立ちます。転倒しないようにテーブルに手をついておいてください。(開眼と転倒予防について説明)…こんな感じですか?画 いわみせいじそうです。次に、床につかない程度に左足を上げます。これを1分間。次に、右足を上げて1分間。これで1セットです。(片足立ちの方法について説明)結構簡単にできますね。これを1日に何回やればいいですか?慣れてきたら、1日に3セットをお願いします。毎日、続けるとバランス能力がついて転倒しにくくなることが期待できますよ。なるほど。けど、毎日は続くかなぁ…。(不安そうな声)カレンダーに〇をつけるといいですよ! 1セットしたら1つ〇とかね。なるほど。3セットできたら、三重丸の花丸にします!(うれしそうな表情)ポイント診察室で実践してもらい、自宅でも簡単にできることを説明します。カレンダーの活用など、ロコトレを毎日続けるコツも伝えましょう。Copyright© 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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2型DM、メトホルミンに追加するなら?/BMJ

 日常診療における2型糖尿病患者の2次治療として、メトホルミンに追加する3種の一般的な経口血糖降下薬(SU薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬)の有効性を比較する検討が、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のPatrick Bidulka氏らにより行われた。SGLT2阻害薬は、SU薬およびDPP-4阻害薬と比較してHbA1c、BMI、収縮期血圧を低下させ、心不全による入院(対DPP-4阻害薬)および腎臓病の進行による入院(対SU薬)のリスクを抑制した。なお、その他の臨床エンドポイントでは差があるとのエビデンスは示されなかった。BMJ誌2024年5月8日号掲載の報告。SGLT2阻害薬vs.SU薬vs.DPP-4阻害薬、1年時点のHbA1c変化の絶対値を評価 研究グループは、有効性比較試験を模倣したコホート研究(target trial emulation)で、メトホルミンに追加する3種の一般的な経口血糖降下薬(SU薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬)の有効性を比較した。 2015~21年のイングランドにおけるプライマリケア、病院、死亡のデータを結び付け、メトホルミンにSU薬、DPP-4阻害薬またはSGLT2阻害薬を追加して経口血糖降下薬による2次治療を開始した、2型糖尿病の成人患者7万5,739例を対象とした。 主要アウトカムは、ベースラインからフォローアップ1年時点までのHbA1c変化の絶対値であった。副次アウトカムは、1年時点および2年時点のBMI、収縮期血圧、eGFRの変化、2年時点のHbA1cの変化、eGFRが40%以上低下するまでの期間、主要有害腎イベント、心不全による入院、主要有害心血管イベント(MACE)、全死因死亡などであった。操作変数法を用いて、ベースラインの欠測による交絡リスクを軽減して評価した。SGLT2阻害薬併用が、他の2種併用よりも優れる 7万5,739例が経口血糖降下薬による2次治療を開始した。SU薬追加は2万5,693例(33.9%、SU薬群)、DPP-4阻害薬追加は3万4,464例(45.5%、DPP-4阻害薬群)、SGLT2阻害薬追加は1万5,582例(20.6%、SGLT2阻害薬群)であった。 ベースラインからフォローアップ1年時点までのHbA1c低下の平均値は、SGLT2阻害薬群がDPP-4阻害薬群やSU薬群よりも大きく、SGLT2阻害薬がより有効であることが示された。操作変数解析後、HbA1c変化の平均群間差は、SGLT2阻害薬群vs.SU薬群が-2.5mmol/mol(95%信頼区間[CI]:-3.7~-1.3)、SGLT2阻害薬群vs.DPP-4阻害薬群は-3.2mmol/mol(-4.6~-1.8)であった。 BMIおよび収縮期血圧の低下においても、SGLT2阻害薬がSU薬またはDPP-4阻害薬よりも有効であることが示された。ただし、いくつかの副次エンドポイントで、SGLT2阻害薬がより有効であるとのエビデンスは示されなかった。たとえば、MACEに関するハザード比(HR)は、対SU薬で0.99(95%CI:0.61~1.62)、対DPP-4阻害薬で0.91(0.51~1.63)であった。 SGLT2阻害薬は、DPP-4阻害薬(HR:0.32、95%CI:0.12~0.90)やSU薬(0.46、0.20~1.05)と比較して、心不全による入院のリスクを低下させた。 eGFR 40%以上低下について、SGLT2阻害薬がSU薬よりも保護効果があることが示された(HR:0.42、95%CI:0.22~0.82)。DPP-4阻害薬との比較では、推定HR(0.64、0.29~1.43)に高い不確実性が認められた。

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身体診察【とことん極める!腎盂腎炎】第2回

CVA叩打痛って役に立ちますか?Teaching point(1)CVA叩打痛があっても腎盂腎炎と決めつけない(2)CVA叩打痛がなくても腎盂腎炎を除外しない(3)他の所見や情報を合わせて総合的に判断する1.腎盂腎炎と身体診察腎盂腎炎の身体診察といえば肋骨脊柱角叩打法(costovertebral angel tenderness:CVA tenderness)が浮かぶ方も多いのではないだろうか。発熱、膿尿にCVA叩打痛があれば腎盂腎炎と診断したくなるが、CVA叩打痛は腎臓の周りの臓器にも振動が伝わり、肝胆道や脊椎の痛みを誘発することがあるため、肝胆道系感染症や化膿性脊椎炎を腎盂腎炎だと間違えてしまう場合がある。身体所見やその他の所見と組み合わせて総合的に判断する必要がある。2.CVA叩打痛と腎双手診CVA叩打痛は腎盂腎炎を示唆する身体所見として広く知られている。図1のように、胸椎と第12肋骨で作られる角に手を置き、上から拳で叩打し、左右差や痛みの誘発があるかどうかを観察する。なお腎臓は左の方がやや頭側に位置しているため、肋骨脊柱角の上部・下部とずらして叩打痛の確認をする。もし左右差や痛みがあれば腎盂腎炎を示唆する所見となるが、第1回で紹介したとおり、所見がないからといって腎盂腎炎を否定することはできず、ほかの所見と合わせて診断を考える必要がある。画像を拡大するその他の身体診察として腎双手診がある。腎臓のある側腹部を両手で挟み込み、痛みを生じるかどうかを確かめる診察であり尿管結石でも陽性となり得るが、腎盂腎炎においてCVA叩打痛陰性であっても腎双手診は陽性となる症例も散見される。CVA叩打痛は脊椎の痛みを反映している場合もある一方で腎双手診(図2)は大腸の病変を触れている可能性もある。CVA叩打痛が圧迫骨折などの脊椎の痛みを誘発していないか確かめるために、棘突起を押して圧痛を生じないか確かめることが有用である。棘突起を押して圧痛を生じるようであれば、椎体の病変の可能性が高くなる。画像を拡大するこのように、腎臓の位置は肉眼では把握しづらく、痛みを生じているのが腎臓なのか、その周囲の臓器なのかわかりにくい。裏技のような方法になるが、エコーで腎臓を描出しながらプローブで圧痛が生じるか確認する、いわばsonographic Murphy’s signの腎臓バージョンもある1)。3.自身が体験した非典型的なプレゼンテーション最後に自身が体験した非典型なプレゼンテーションを述べる。糖尿病の既往がある90歳の女性で、転倒後の腰痛で体動困難となり救急搬送された。身体診察・画像検査からは腰椎の圧迫骨折が疑われ、鎮痛目的に総合診療科に入院となった。その夜に39℃台の発熱を生じfever work upを行ったところ、右の双手診で側腹部に圧痛があり、尿検査では細菌尿・膿尿を認めた。圧迫骨折後の尿路感染症として治療を開始し、後日、尿培養と血液培養より感受性の一致したEscherichia coliが検出された。本人によく話を聞くと、転倒した日は朝から調子が悪く、来院前に悪寒戦慄も生じていたとのことだった。ERでは腰痛の診察で脊椎叩打痛があることを確認していたが、その後脊椎を一つひとつ押しても圧痛は誘発されず、腎双手診のみ再現性があった。腰椎圧迫骨折は陳旧性の物であり、急性単純性腎盂腎炎後の転倒挫傷だったのである。転倒後という病歴にとらわれ筋骨格系の疾患とアンカリングしていたが、そもそも転倒したのが体調不良であったから、という病歴を聞き取れれば初診時に尿路感染症を疑えていたかもしれない。この症例から高齢者の腎盂腎炎は転倒など一見関係なさそうな主訴の裏に隠れていること、腰痛の診察の際に腎双手診は脊椎の痛みと区別する際に有用であることを学んだ。4.腎盂腎炎診断の難しさ腎盂腎炎の診断は難しい。それは、腎盂腎炎の診断が非典型的な症状、細菌尿・膿尿の解釈、側腹部痛の身体所見、他疾患の除外など、さまざまな情報を統合して総合的に判断しなければならないからである。正しい診断にこだわることはもちろん重要だが、腎盂腎炎がさまざまな症状を呈し、また、どの身体所見も腎盂腎炎を確定診断・除外できないことを念頭に置き、柔軟に対応することが必要なのではないだろうか。たとえ典型的な症状や所見が揃っていなくても、できる限り他疾患の可能性について考慮したうえで、患者の余力も検討し腎盂腎炎として抗菌薬を開始することが筆者はリーズナブルであると考える。重要なことは治療を始めた後も、経過を観察し、合わない点があれば再度、腎盂腎炎の正当性について吟味することである。多種多様な鑑別疾患と総合的な判断が求められる腎盂腎炎は臨床医の能力が試される疾患である。1)Faust JS, Tsung JW. Crit Ultrasound J. 2017;9:1.

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2型DMへのGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬、併用vs.単剤/BMJ

 2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬の併用は、これらの薬剤クラスの単剤投与と比較して、主要有害心血管イベント(MACE)および重篤な腎イベントのリスクを低減することが、英国・バーミンガム大学のNikita Simms-Williams氏らが実施したコホート研究で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年4月25日号に掲載された。英国のコホート研究 本研究では、2013年1月~2020年12月に集積した英国の2型糖尿病患者の2つのコホートのデータを使用した(カナダ保健研究機構[CIHR]の助成を受けた)。 1つは、GLP-1受容体作動薬で治療を開始し、SGLT2阻害薬を追加した6,696例(平均年齢56.7歳、男性54.5%)、もう1つはSGLT2阻害薬で治療を開始し、GLP-1受容体作動薬を追加した8,942例(57.6歳、52.3%)のコホートであった。併用群は、個々の基礎治療薬(GLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬の単剤投与)とその投与期間が同じ患者と、傾向スコアでマッチングを行った。 主要アウトカムは、MACE(心筋梗塞、脳梗塞、心血管死)および重篤な腎イベントとし、GLP-1受容体作動薬+SGLT2阻害薬の併用と2つの基礎治療薬単剤をそれぞれ比較した。併用により、単剤に比べMACEリスクが約3割低下 GLP-1受容体作動薬単剤と比較して、GLP-1受容体作動薬+SGLT2阻害薬の併用では、MACEのリスクが30%低下(1,000人年当たりのイベント数:併用群7.0件vs.単剤群10.3件、ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.49~0.99)し、重篤な腎イベントのリスクは57%減少(2.0件vs.4.6件、0.43、0.23~0.80)した。 また、SGLT2阻害薬単剤に比べ、GLP-1受容体作動薬+SGLT2阻害薬の併用では、MACEのリスクが29%低下(1,000人年当たりのイベント数:併用群7.6件vs.単剤群10.7件、HR:0.71、95%CI:0.52~0.98)したのに対し、重篤な腎イベントのリスクのCIは範囲が広かった(1.4件vs.2.0件、0.67、0.32~1.41)。MACEの各項目には大きな差はない MACEの各項目については、GLP-1受容体作動薬単剤との比較では、心筋梗塞(HR:0.73、95%CI:0.45~1.17)、脳梗塞(0.90、0.48~1.67)に併用群との差はなく、心血管死(0.35、0.15~0.80)は併用群で良好であったもののCIの範囲が広かった。心不全(0.57、0.35~0.91)も併用群で良好だったが、CIの範囲は広く、全死因死亡(0.71、0.49~1.02)には差を認めなかった。 また、SGLT2阻害薬単剤との比較では、併用群で心筋梗塞(HR:0.73、95%CI:0.48~1.12)、脳梗塞(0.86、0.46~1.59)、心血管死(0.54、0.29~1.01)に差はなく、心不全(0.70、0.40~1.23)、全死因死亡(0.73、0.52~1.01)にも差を認めなかった。 著者は、「これらの知見は、2型糖尿病の治療における、心血管イベントおよび腎イベントの予防において、これら2つの有効な薬剤クラスの併用の潜在的な有益性を強調するものである」としている。

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コーヒーが早食いによるメタボリックシンドロームを予防?

 早食いは肥満につながるとされ、健康のためにゆっくり食べることが推奨される。そんな中、新たに日本人を対象として行われた研究によると、1日1杯のコーヒーを飲むことで、早食いによるメタボリックシンドロームを予防できる可能性があるという。これは京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学の小山晃英氏らによる研究結果であり、「Healthcare」に3月7日掲載された。 メタボリックシンドロームは死亡やさまざまな疾患のリスクを上昇させる。食事のスピードとメタボリックシンドロームの関連が報告されているが、一度身に付いた習慣を変えるのは簡単なことではない。著者らは今回、カフェインやポリフェノール(クロロゲン酸)を含み、さまざまな健康効果が報告されているコーヒーに着目して、コーヒー摂取量、食事のスピード、メタボリックシンドロームの関連について調べた。 この研究は、「日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)」の京都における追跡調査(2013~2017年)に参加した3,881人(平均年齢57.5±9.9歳、女性2,498人、男性1,383人)を対象に行われた。「ろ過またはインスタントのコーヒー」と「缶、ペットボトル、パック入りのコーヒー」に分けて、コーヒー摂取量、食事のスピード(遅食い、普通、早食い)のほか、生活習慣や既往歴などが質問票により調査された。 対象者のうち、15.3%(595人)がメタボリックシンドロームに該当した。また、早食いに該当した人は女性の33.8%(845人)、男性の39.8%(550人)だった。 年齢や性別、運動・喫煙・飲酒、既往歴による影響を調整して、まずはコーヒー摂取量とメタボリックシンドロームとの関連が検討された。その結果、ろ過またはインスタントのコーヒーでは、摂取量が1日1杯以上の人は1日1杯未満の人と比較して、メタボリックシンドロームのオッズが有意に低く(オッズ比0.695、95%信頼区間0.570~0.847)、男女別に見ても同様だった。一方、缶・ペットボトル・パック入りのコーヒーでは、女性に関して反対の結果が得られ、1日1杯以上の女性はメタボリックシンドロームのオッズが有意に高かった(同2.056、1.110~3.811)。食事のスピードとの関連については、早食いの人は遅食いの人と比べてメタボリックシンドロームのオッズが有意に高く(同1.689、1.227~2.324)、男女とも同様の結果だった。 次に、ろ過またはインスタントのコーヒー摂取量と食事のスピードを組み合わせて、メタボリックシンドロームとの関連が分析された。コーヒー摂取量が1日1杯未満で早食いの人と比べた結果、1日1杯未満で遅食いの人ではメタボリックシンドロームのオッズが有意に低かった(同0.502、0.296~0.851)。一方、コーヒーを1日1杯以上飲む人では、遅食い(同0.448、0.289~0.693)、普通(同0.482、0.353~0.658)、早食い(同0.684、0.499~0.936)のいずれの場合でも、メタボリックシンドロームのオッズが有意に低いことが明らかとなった。 今回の研究について著者らは、コーヒーの詳細(カフェインレスかどうか、砂糖やミルクの有無など)や、飲むタイミングなどは評価していないことを説明。その上で、結論として「ろ過またはインスタントのコーヒーを1日1杯以上飲むことで、早食いによるメタボリックシンドロームの予防に役立つ可能性が示唆された」と述べている。

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第210回 GLP-1製剤の品薄状態、危惧する人と安堵する人

以前、こちらで取り上げたGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1製剤)のダイエット目的の濫用とそれが原因の1つであると思われる供給不安問題。品薄はダイエット目的で使いやすいであろう週1回製剤のセマグルチド(商品名:オゼンピックなど)、デュラグルチド(商品名:トリルシティ)、チルゼパチド(商品名:マンジャロ)に集中していたが、今年1月15日にセマグルチド、4月22日にデュラグルチドが限定出荷から通常出荷に切り替わり、残すはチルゼパチドのみが品薄状態となっている。そして2023年のメガファーマ各社の決算内容が明らかになっているが、この3製剤の中で最も売上高が高いセマグルチドの2型糖尿病に適応をもつ注射薬「オゼンピック」の2023年売上高は138億ドル(日本円換算で2兆1,126億円、ノボ ノルディスク社の決算はデンマーク・クローネでの発表のため、ドル・円の売上高は現行レートで換算)となった。ちなみに同じセマグルチドを成分とし、同じく2型糖尿病の適応をもつ経口薬「リベルサス」は27億ドル(同4,204億円)、肥満症の適応をもつ注射薬「ウゴービ」は45億ドル(同7,025億円)。セマグルチド成分括りにした2023年総売上高は210億ドル(同3兆2,355億円)である。2023年の医療用医薬品の製品別売上高は、世界第1位が免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の250億ドル(同3兆8,911億円)、世界第2位が新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチン「コミナティ」の153億ドル(同2兆3,814億円)で、オゼンピックが世界第4位。だが、セマグルチド括りでの売上高は世界第2位となる。日本の製薬企業で考えると、国内第2位のアステラス製薬と第3位の第一三共の2024年3月期決算で発表された売上高の合算を1成分の売上高で超えてしまっているのだ。なんとも驚くべきことである。オゼンピックは2017年末のアメリカでの発売から1年強で、全世界売上高10億ドル以上のブロックバスター入りを果たし、過去4年ほどで全世界売上高は9倍以上に急伸長している。糖尿病治療薬は患者数の多さゆえにブロックバスター入りしやすいが、オゼンピックは糖尿病治療薬としては、ほぼ史上最高売上高を記録している。糖尿病治療薬の売上高を更新、“注射製剤”のなぜこの背景には、これまでブロックバスター入りした糖尿病治療薬がほぼ経口薬であり、それと比べて注射薬のオゼンピックは薬価が高いという事情はあるだろう。しかし、それだけではないはずだ。余計な一言を言えば、オゼンピックの売上高が2型糖尿病患者への処方のみで形成されていると思うウブな関係者はいないだろう。たぶんここには世界的に見ても、ダイエット・美容目的の適応外処方による売り上げが含まれていると考えられる。さて、供給不安はかなり解消されたとは言え、現場ではまださまざまな不都合が生じている模様だ。たとえば薬局薬剤師に話を聞くと、実際の週1回GLP-1製剤の処方箋は1ヵ月分、すなわち製剤としては注射キット4本の処方が多いという。しかし、市中の保険薬局では今でも入庫がスムーズではなく、処方箋受け取り時には2本のみを患者に渡し、残り2本は後日に再来局をお願いするか、配送するケースも目立つという。この背景には通常出荷になっても供給が綱渡りということもあれば、自由診療クリニックへの横流しを警戒して必要量を医薬品卸が適宜配送しているという事情もあるらしい。このようなケースで薬局側が患者宅に配送をする際は、人が直接届けるかクール便を使うという。ある薬剤師は「(薬局への)納入価に配送の人件費やクール便費用を上乗せしたら赤字になる」とため息をついていた。この現状は患者にとっても薬局にとっても迷惑千万な話だろう。この状況の解消まで考えると、完全な通常流通まではまだ時間がかかりそうだ。しかし、あまのじゃくな私は、危惧すべきは完全な通常流通が実現した後ではないか? と考えてしまう。少なくとも現状はGLP-1製剤を必要とする2型糖尿病や肥満症の患者に薬が届かないという最悪の状況は避けられている。ただ、前述のように受け取りに多少の手間暇がかかっている。その一方で、いわば「メディカルダイエット」と称したダイエット・美容目的の自由診療でのGLP-1製剤の適応外処方が極端に廃れたなどという話は、少なくとも私個人はまったく耳にしていない。ネット広告では今でもこの手の広告がじゃんじゃん表示される。余談になるが、どうやら年齢・性別の属性では中高年男性もGLP-1製剤のターゲットにされているらしく、最近は私に対してもこの種の広告と薄毛治療の広告が頻繁に表示される。そして、ご存じのように自由診療での適応外処方を法令で取り締まることはできない。つまるところGLP-1製剤で完全な通常流通が実現するということは、本当に必要な患者が困らないだけではなく、適応外処方の自由診療も栄えるということだ。通常流通を危惧する理由こんなことを考えてしまったのは、先日ある開業医と話をしていて、ため息が出るような事例を聞いてしまったからだ。この医師は都内の繁華街近くで内科クリニックを開業している。そのクリニックに昨春、強い吐き気で路上にうずくまっていたという若い女性が通行人に付き添われて来院したという。「場所柄もあり『昨夜、かなり飲みましたか?』と尋ねても本人は元々飲めないと答えるし、昼時だったので食中毒を疑って直近の食事状況を聞いたら、朝からお茶を飲んだのみで、とくに何かを食べたわけでもないと言うんですよ。そこでピンと来ました」結局、問診の結果、オンラインの自由診療でGLP-1製剤の処方を受けていたことがわかった。医師は女性にGLP-1製剤では悪心・嘔吐の副作用頻度が高いことなどを伝え、中止を促すとともに、最低限の対症療法の処方箋を発行。女性は「こんなに副作用がひどいとは思わなかった。すぐに止めます」と応じたという。ちなみに問診時に身長、体重を尋ねたところBMIは18にも満たなかったとのこと。その後、女性は来院していないため、本当に彼女がGLP-1製剤を止めたかどうかは定かではない。この医師は私に「自由診療の副作用で苦しんでいる患者でも助けなければならないとは考える。でもね、それを保険診療で対応しなければならないのはねえ…」とぼやいた。至極真っ当な指摘である。この話を聞いて私が反応してしまったのは、「朝から何も食べていない」という話だった。痩身願望のある人が我流の食事制限などを行っていることは少なくない。GLP-1製剤は、その性格上、低血糖になりにくいことがウリの一つである。しかし、それはごく普通の食生活を送っていることが前提で、その場合でもほかの血糖降下薬を併用している場合には低血糖は発生している。ということは、今後、自由診療が野放しのまま完全流通が実現すれば、この医師が経験した副作用の悪心・嘔吐レベルだけではなく、重大な低血糖発作の報告事例が増加してしまうのではないだろうか?そしてオンライン診療でかなりの適応外処方が行われている実態を考えれば、車社会である地方都市在住者でも適応外で使われることが増えるだろう。運転の最中に低血糖発作が起きたらどうなるのだろうと考えてしまった。これは私の妄想だろうか? それとも考え過ぎだろうか?

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