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おいしいスイカの怖い話(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者 最近、血糖が高くて…医師 何か、はまっているものとかありませんか?患者 そうですね…スイカが大好きで、塩を少しだけかけて食べています。医師 なるほど。スイカは水っぽいのであまり血糖が上がらないと思っている人も多いですね。けど、このくらいの1切れで、ごはん半分のカロリー、糖質は20gくらいあるのでコップ1杯のジュースと同じですね。画 いわみせいじ患者 えっ、そうなんですか。3切れ、いやもっと食べていました。塩をかけたら血糖が下がるかと思って…(気づきと勘違い)。医師 ハハハ…塩をかけても糖分の量は変わりません。対比効果で甘くなりますけどね。患者 了解です。スイカの食べ過ぎには気を付けます。ポイントスイカ1切れ(約200g、炭水化物≒20g)でも血糖が上がりやすいことをわかりやすく説明します。Copyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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キシリトールの摂取は心血管イベントのリスクを高める

 糖アルコールのキシリトールの摂取量が多いと、心筋梗塞や脳卒中などの主要心血管イベント(MACE)の発生リスクが高まる可能性のあることが、米クリーブランドクリニック、ラーナー研究所のStanley Hazen氏らによる研究で明らかにされた。米国とヨーロッパの3,000人以上の患者を対象に解析した結果、キシリトールの高血中濃度は3年間のMACEの発生リスク上昇と関連することが示されたという。この研究の詳細は、「European Heart Journal」に6月6日掲載された。 キシリトールは砂糖と同程度の甘さだが、砂糖よりもカロリーの低い糖アルコールの一種で、あめやガム、焼き菓子、歯磨き粉などによく使われている。過去10年の間に、加工食品では、砂糖に代わる健康的な甘味料として糖アルコールなどの人工甘味料の使用が大幅に増加している。Hazen氏らは2023年に発表した研究で、米国ではキシリトールよりも使用頻度の高い糖アルコールのエリスリトールが心血管リスクと関連することを報告していた。今回の研究で同氏らは、キシリトールとMACEとの関連を調査した。 まず、選択的心機能評価を受ける発見コホート1,157人から夜間断食後に採取した血漿サンプルを用いて非標的メタボロミクスを行った。その結果、暫定的にキシリトールと見なしたポリオールの循環レベルが、3年間のMACEの発生リスクと関連することが明らかになった。次に、発見コホートとは重複しない検証コホート(2,149人)の血漿サンプルを用いて、安定同位体希釈液体クロマトグラフィータンデム質量分析を実施したところ、キシリトールとMACEの発生リスクとの関連が確認された。血液中のキシリトール濃度に応じて対象者を3群に分けた場合、最も高い群のMACEの発生リスクは最も低い群の1.57倍と推定された。 補完的な研究として、分離されたヒト血小板、多血小板血漿、全血、および動物モデルを用いて、キシリトールが血小板の反応性および体内の血栓形成に与える影響を調べた。その結果、空腹時血漿中のキシリトールが、血小板の反応性および体内の血栓形成の複数の指標を増強することが示された。最後に、健康な人10人を対象に、キシリトールを甘味料とする飲料の摂取が血小板の機能にもたらす影響を検討したところ、全ての対象者において、血漿中のキシリトール濃度が顕著に上昇し、血小板の反応性に関する複数の機能的指標が増強することが確認された。 Hazen氏は、「過去の研究に続きこの研究でも、糖アルコールなどの人工甘味料、特に肥満や糖尿病のような疾患と闘っている患者に対して推奨され続けている人工甘味料を今すぐにでも調査する必要があることが示された」と話す。同氏は、「キシリトール入りの歯磨き粉を捨てろというわけではないが、高濃度のキシリトールを含む製品を摂取することで血栓関連イベントの発生リスクが高まる可能性があることを認識しておく必要がある」と付け加えている。 研究グループは、人工甘味料の使用も含め、食品の選択について医師や認定栄養士に相談することを勧めている。

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プラネタリーヘルスダイエットは地球と人間の健康を促進する

 地球を救うために考案された、植物性食品をベースにした食事法であるプラネタリーヘルスダイエット(planetary health diet;PHD)は人々の命をも救うことが、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の疫学・栄養学教授であるWalter Willett氏らによる大規模研究で確認された。Willett氏は、「食生活を変えることで気候変動のプロセスを遅らせることができる。地球にとって最も健康的なことは、人間にとっても最も健康的なことなのだ」と述べている。米国立衛生研究所(NIH)からの研究助成金を受けて実施されたこの研究の詳細は、「The American Journal of Clinical Nutrition」に6月10日掲載された。 PHDは、加工度の低い植物性食品の摂取を重視し、魚や肉、乳製品の摂取は控えめにする食事法である。植物性食品ベースの食事が地球と人間の双方に有益であることは他の研究でも示されているが、そのほとんどは短期的な視点で検討したものである。それに対し、今回の研究では、20万人以上の男女を最長で34年にわたって追跡調査を行い、PHDの有益性を検討した。 対象は、Nurses’ Health Study(1986〜2019年)の参加女性6万6,692人、Nurses’ Health Study II(1989〜2019年)の参加女性9万2,438人、およびHealth Professionals Follow-up Study(1986〜2018年)の参加男性4万7,274人で、ベースライン時にがん、糖尿病、主要な心血管疾患に罹患している者はいなかった。研究グループは、PHDの遵守状況を評価するためのPHDインデックス(PHDI)を作り出し、4年おきに実施した半定量的食物摂取頻度調査票を基に対象者のPHDIを算出した。 追跡期間中に、女性3万1,330人と男性2万3,206人が死亡していた。PHDIに基づき対象者を5群に分けて解析したところ、PHDIが最も高い群では最も低い群に比べて、あらゆる原因による死亡リスクが23%(調整ハザード比0.77、95%信頼区間0.75〜0.80)低いことが明らかになった。主要な死因(がん、心血管疾患、呼吸器系疾患、神経変性疾患)ごとに検討しても同様の結果であった。さらに、PHDIが最も高い群では、最も低い群に比べて温室効果ガスの排出量が29%、肥料の必要量が21%、農地の使用量が51%少なかった。このことは、PHDの遵守が環境にも好影響を与えることを示している。 研究グループは、「気候変動に拍車をかける温室効果ガスを削減する上で鍵となるのは森林の再生であり、そのためには、食糧生産に使用する土地を減らすことが重要だ」と話す。また、Willett氏はハーバード大学のニュースリリースの中で、「この研究結果は、人間と地球の健康が密接に関連していることを示すものだ。健康的な食生活は環境の持続可能性を高め、環境の持続可能性は地球上の全ての人の健康と幸福に不可欠なものなのだ」と述べている。

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メトホルミンに追加すべき薬剤はSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬それともSU薬?(解説:住谷哲氏)

 GRADE(Glycemia Reduction Approaches in Diabetes: A Comparative Effectiveness Study)研究1)は、メトホルミン単剤で血糖管理目標を達成できない患者に追加する血糖降下薬としてインスリン(グラルギン)、SU薬(グリメピリド)、GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)またはDPP-4阻害薬(シタグリプチン)の有用性を比較検討したランダム化比較試験である。その結果は、HbA1c低下作用はグラルギンとリラグルチドが他の2剤に比べて優れており、体重減少効果はリラグルチドが最も優れていた。 米国が国家予算を投入したGRADE研究であるが、メトホルミンに追加する2剤目として経口血糖降下薬ではなく注射薬(グラルギンまたはリラグルチド)を選択することは実臨床においてそれほど多くない。さらに2剤目の追加薬剤の選択肢にSGLT2阻害薬が含まれていないのが、この研究の結果を実臨床に反映しにくい理由の1つである。 本研究は新しい解析手法であるtarget trial emulation(標的試験模倣と訳すべきか。概要については過去の本連載を参考されたい2])を用いて、メトホルミンに追加する薬剤としてSGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬およびSU薬のいずれが優れているかを英国CPRD(Clinical Practice Research Datalink)のデータを対象にして検討したものである。結果は、HbA1c低下作用、BMI減少作用、収縮期血圧低下作用においてSGLT2阻害薬が他の2剤に比較して優れていた。さらにSGLT2阻害薬は、心不全による入院抑制はDPP-4阻害薬に比較して優れており、腎疾患の進行抑制はSU薬に比較して優れていた。 臓器保護薬としてのSGLT2阻害薬の有用性は、高リスク患者を対象としたランダム化比較試験で明らかにされてきた。したがって多くのガイドラインでは、心不全または慢性腎臓病を有する2型糖尿病患者への積極的投与が推奨されている。しかし、われわれが通常外来で診察している低リスク患者に対する有用性はこれまで不明であった。本研究の結果は、低リスク患者においても血糖降下作用、BMI減少作用、収縮期血圧低下作用においてSGLT2阻害薬がDPP-4阻害薬、SU薬と比較して優れていることを示した点でインパクトが大きい。ただし本研究はメトホルミン投与患者への追加薬剤としての検討であり、この点には留意する必要がある。

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地中海食で女性の全死亡リスクが23%低下

 地中海式ダイエットを遵守している女性は全死亡リスク、がんや心血管疾患による死亡リスクが低く、この関連にはホモシステインなどの低分子代謝物質の多寡が寄与していることが明らかにされた。米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のSamia Mora氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に5月31日掲載された。 地中海式ダイエットは、植物性食品(ナッツ、種子、果物、野菜、全粒穀物、豆類)を中心に、魚、鶏肉、乳製品、卵などのタンパク源とアルコールを適度に取り、油脂類はオリーブオイルから摂取し、赤肉、加工食品、菓子などは控えるという食事スタイル。既に多くの研究によって、地中海式ダイエットが健康リスクの抑制に有用であることが示されているが、全死亡リスクに関する長期間の追跡データは限られている。また、地中海食がどのように健康リスクを抑制するのかというメカニズムの理解はまだ不足している。これらの疑問点を明らかにするためMora氏らは、同院と米ハーバード大学により女性医療従事者対象に行われている疫学研究(Women's Health Study;WHS)のデータを用いた解析を行った。 解析対象はWHS参加者のうちデータ欠落などのない2万5,315人(平均年齢54.6±7.1歳、白人94.9%)。地中海式ダイエットの遵守状況は、131項目の質問から成る食物摂取頻度調査票の回答を基に0~9点の範囲にスコア化し、0~3点の群(39.0%)を低遵守、4~5点の群(36.3%)を中遵守、6~9点の群(24.7%)を高遵守と判定した。対象全体のスコアの中央値は4.0(四分位範囲3.0~5.0)だった。24.7±4.8年の追跡期間中に、心血管死935人、がん死1,531人を含む3,879人が死亡していた。 年齢と摂取エネルギー量、および、WHSの初期段階で実施された介入に用いた薬剤の影響を調整後、低遵守群を基準とする全死亡リスクは中遵守群〔ハザード比(HR)0.84(95%信頼区間0.78~0.90)〕、高遵守群〔HR0.77(同0.70~0.84)〕ともに有意に低く、遵守率が高いほど全死亡リスクが低いという関連が認められた(傾向性P<0.001)。また、高遵守群では心血管死〔HR0.86(0.69~0.99)、傾向性P=0.033〕、がん死〔HR0.80(0.69~0.92)、傾向性P=0.002〕のリスク低下も認められた。調整因子に喫煙・飲酒・運動習慣、閉経前/後、ホルモン補充療法の施行を追加すると関連性はやや弱くなったが、全死亡リスクについては引き続き有意な関連があった〔中遵守群がHR0.92(同0.85~0.99)、高遵守群はHR0.89(0.82~0.98)、傾向性P=0.001〕。 次に、地中海式ダイエットと全死亡リスク低下の関連に対する各種バイオマーカーの寄与度を検討。その結果、低分子代謝物質(ホモシステインやアラニンなど)と炎症マーカーの寄与が大きく、それぞれの寄与割合は14.8%、13.0%と計算された。その他の寄与因子としては、トリグリセライドが豊富なリポ蛋白(寄与割合は10.2%)、BMI(同10.2%)、インスリン抵抗性(7.4%)などが抽出された。 この結果についてMora氏は、「われわれの研究結果は、長生きをしたい女性は食生活に気をつける必要があることを示している」と話している。

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糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024」発行/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17~19日に東京国際フォーラムなどで開催された。 2024年1月1日に石川県をはじめとする北陸地方を襲った「能登半島地震」は記憶に新しい。災害時に糖尿病患者やその家族へのサポートなどはどのようにあるべきであろう。 本稿では「災害時の糖尿病診療支援と糖尿病対策推進会議の活動」より「災害時糖尿病診療マニュアル2024の概要 総論」(講演者:荒木 栄一氏[熊本大学名誉教授/菊池郡市医師会立病院/熊本保健科学大学健康・スポーツ教育研究センター 特任教授])をお届けする。災害で糖尿病患者は簡単に弱者になる 地震、洪水などわが国は災害が多く、1,000人以上の犠牲者が発生した災害が多数ある。現在では南海トラフ地震や首都直下型地震、線状降水帯による水害などへの備えがなされている。しかし、それでもこうした災害時には、糖尿病患者は容易に代謝失調やインスリンの不足などにより災害弱者となりうる。 とくに食事療法での栄養の偏りや治療薬の確保が懸念されている。そこで、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の2つの学会は『糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024』を制作し、発行した。これは2014年に日本糖尿病学会「東日本大震災から見た災害時の糖尿病医療体制構築のための調査研究」委員会が作成した災害時の診療マニュアルを10年ぶりに改訂したもので、熊本地震での知見の追加のほか、新規糖尿病治療薬など最新の診療状況にも対応し、「糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)」についても触れたもので、今回日本糖尿病協会も参画し、広く知見が記述されている。4章立てで災害時の糖尿病診療、平時の準備を説明 本マニュアルは大きく4章立てで構成され、荒木氏が説明した総論部分は下記のとおりである。〔I 総論 災害に対する備え〕「1 ライフラインと情報の整備」では、ライフラインの確保、災害時の連絡体制、バックアップを記載している。「2 食量や医薬品の備蓄」では、平時からの備蓄食料のローテーション消費や主治医と医薬品の備蓄や調達方法の相談を記載している。「3 医療機関の災害対応マニュアル、訓練」では、マニュアル整備とその見直し、災害時の人材の確保、院内の備品や食品の管理、地域との連携や訓練などを記載している。「4 地域の医療連携」では、連携の問題点と課題、災害時の医療連携を記載している。「5 災害時糖尿病医療従事者の教育」では、医療者への教育、平時の備えの指導(とくにシックデイ)、薬の調整や防災教育を記載している。「6 糖尿病患者への啓発」では、平時からの備えの啓発としてリーフレットの活用や正しい情報を得るための教育が記載されている。 また、総論以降の内容は次のとおりである。〔II 害時の糖尿病医療者の役割〕 災害派遣医療チーム(DMAT)、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)や医師やそのほかの医療従事者の役割などが記されている。〔III 個々の糖尿病病態への対応〕 全体的な注意事項、各治療(インスリン、経口薬、食事・運動療法のみ)での注意事項、合併症のある患者での対応、特別な配慮が必要な患者(妊婦、高齢者など)へのサポートが記されている。〔IV 患者の備え〕 避難所の確認や薬剤の備蓄、妊婦・高齢者などの特殊な患者への対応などが記されている。 その他コラムでは「シックデイ対策/インスリンポンプ使用者/COVID-19」などが記されている。 将来発生が危惧される大災害に対応するためにも、一読し、今できることから備えておきたい。

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社会・環境的な逆境的曝露が心臓病、脳卒中のリスクを上昇

 社会的および環境的に逆境的地域に住む人々は、心臓病や脳卒中の発症リスクが高いという研究結果が、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に3月27日掲載された。 米Lahey Hospital & Medical CenterのSumanth Khadke氏らは、社会的および環境的曝露が、心血管リスクに及ぼす複合的な影響について検討した。分析には、2022年のEnvironmental Justice Index(EJI)、socio-environmental justice index(SE-EJI)、米国の国勢統計区の環境負荷モジュールランクが用いられた。 解析の結果、EJIの最高四分位群は、最低四分位群と比較して、冠動脈疾患(率比1.684)と脳卒中(同2.112)の発症率が高いことが分かった。さらに環境負荷モジュールランクの、最高四分位群は最低四分位群と比べて、冠動脈疾患(同1.143)と脳卒中(同1.118)の発症率が、有意に高かった。同様の結果は、慢性腎臓病、高血圧、糖尿病、肥満、高コレステロール、健康保険未加入、睡眠時間が1日7時間未満、余暇の身体活動なし、過去1カ月間に14日以上の心身の健康障害、でも見られた。 著者らは、「心血管疾患とそのリスク因子の有病率は、社会的および環境的な逆境的曝露の増大と大きく関連しており、逆境的環境曝露は社会的因子とは独立して、重要な役割を果たしている」と述べている。 なお1人の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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手術前でもGLP-1受容体作動薬の使用は安全?

 オゼンピックやウゴービなどのGLP-1受容体作動薬を使用している患者が、全身麻酔や鎮静を伴う手術の前に同薬を使用すると、胃の中の残存物を手術中に誤嚥し、窒息する危険性があるとして、手術前に同薬を使用することの安全性に対する懸念が高まりつつある。こうした中、そのような危険性はないことを明らかにしたシステマティックレビューとメタアナリシスの結果が報告された。この研究では、GLP-1受容体作動薬使用患者における胃排出の遅延は36分程度であり、手術中に危険をもたらすほどではないことが示されたという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のWalter Chan氏らによるこの研究結果は、「The American Journal of Gastroenterology」6月号に掲載された。 Chan氏は、「GLP-1受容体作動薬は消化管の運動(胃の蠕動運動)に影響を及ぼすものの、その影響力は、これまで考えられていたほど大きくはない可能性がある」と述べ、「誤嚥の潜在的なリスクを最小化するために、麻酔や鎮静が必要な手術・処置の前の1日間は固形食を控えるなどの軽微な予防策を講じれば、GLP-1受容体作動薬の使用を続けても安全性に問題はないように思われる」と述べている。 研究グループは、手術前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインはまちまちだと指摘する。米国麻酔科学会(ASA)は、患者は選択的手術や処置の前には、最長で1週間、GLP-1受容体作動薬の使用を中止するよう推奨している。一方、米国消化器病学会(AGA)は、固形食の摂取を控えるなどの標準的な術前予防措置を講じた上で予定通りの手術を行うことを勧めている。このように、GLP-1受容体作動薬使用患者の周術期のケアについては統一見解が得られておらず、また確定的なデータも欠如しているのが現状である。 Chan氏らは今回、胃排出能を測定した15件のランダム化比較試験(RCT)のデータを解析した。これらのRCTのうち、胃排出シンチグラフィーにより胃排出能が評価されていた5件のRCT(解析対象者247人)を対象に解析した結果、胃内容物が半減するまでの時間(平均)は、GLP-1受容体作動薬群で138.4分であったのに対し、プラセボ群では95.0分であり、統合された平均差は36.0分であることが明らかになった。一方、残りの10件のRCT(解析対象者411人)ではアセトアミノフェン法を用いて胃排出能の評価を行っていた。これらのRCTを対象にした解析でも、アセトアミノフェンの薬物動態のパラメーター〔血中濃度が最大に達するまでの時間(Tmax)、4時間後および5時間後の薬物血中濃度時間曲線下面積(AUC)〕について、GLP-1受容体作動薬群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった。また、胃排出の遅延が原因で「肺誤嚥を経験した研究参加者はいなかった」と研究グループはブリガム・アンド・ウイメンズ病院のニュースリリースで説明している。 研究論文の筆頭著者である同病院のBrent Hiramoto氏は、「本研究結果に基づき、内視鏡的処置を受けるGLP-1受容体作動薬使用者に対しては、ガイドラインの内容を、『GLP-1受容体作動薬による治療を継続し、手術の前日には流動食のみを摂取し、麻酔を伴う手術前の絶食に関する標準的な指針に従うべきである』という内容に更新することを勧めたい。固形食の摂取に関するより多くのデータが得られるまでは、治療を継続しながら流動食を取るという保守的なアプローチが望ましい」と述べている。

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「生活習慣病管理料」算定に適した指導・効率的な方法は?

 6月の診療報酬改定後もなお話題になっている、生活習慣病に係る医学管理料の見直し。今回の改定では、▽生活習慣病管理料(II)の新設(検査などを包括しない生活習慣病管理料 II[330点、月1回])▽生活習慣病管理料の評価および要件の見直し(療養計画書の簡素化、電子カルテ情報共有サービスの活用など)▽特定疾患療養管理料の見直し(対象疾患から生活習慣病である糖尿病、脂質異常症、高血圧症が除外)といった点が変更された1)。とくに高血圧症などの生活習慣病患者に対し、これまでの特定疾患療養管理料に近い点数を生活習慣病管理料で算定していくためには、療養計画書の作成、診療ガイドラインに基づいた疾患管理、リフィル処方箋に関する掲示、多職種連携推奨…といった要件が多く、今回の改定による医師の負担増は免れない。そこで今回、谷川 朋幸氏(CureAppメディカル統括取締役/聖路加国際病院 医師)は患者を効果的な生活改善へと導き、医師が効率的に療養計画書を作成するために、高血圧治療補助アプリを活用した打開策をCureApp主催メディアセミナーにて紹介した。生活習慣病患者への算定、改訂前より10点減点 これまでも生活習慣病管理料自体は存在していたが、特定疾患療養管理料と違い、療養計画書の作成や患者へ署名を求める点などがハードルとなり、生活習慣病管理料の算定件数割合は特定疾患療養管理料に比してたった数%に留まっていた。それが今回の改定では、政府が“効率的で効果的な疾患管理”を推進するために、従来の療養計画書を簡素化させたり、毎月受診の要件を廃止したりといった歩み寄りをしたうえで、生活習慣病患者の管理料を新たな生活習慣病管理料(I)および(II)へと変更した。その結果、200床未満の施設で生活習慣病管理料を算定する場合、以下のような追加業務が発生することになる。・療養計画書により丁寧な説明を行い、同意を得た証拠として患者から署名をもらうこと・計画書の写しを診療録に添付しておくこと・継続して算定する場合、内容に変更がなくともおおむね4ヵ月に1回以上は計画書を交付すること そして、診療報酬改定後に生活習慣病管理料(II)を算定すると、1診療につき333点(オンライン診療は290点)と改訂前に比べ10点近くもの減点となるため、これまでの生活習慣病患者への算定に対し発生するマイナス部分をどのように補填するかは大きな問題である。ここで谷川氏は「CureApp HT高血圧治療補助アプリ(以下、本アプリ)を活用することで、新設したプログラム医療機器等指導管理料(90点)などを算定2)できるため、むしろプラスに転じることが可能。また、患者さんにとっても指導内容が充実するため、本アプリの活用は医療者・患者さん双方にとって生活習慣病管理料(II)の穴埋め以上の効果をもたらすことができる」と説明した。電カルとの連携、患者の生活習慣見える化とカルテ入力に効果 本アプリに関連するその他のメリットとして、「患者さんに対し、生活習慣病の管理記録を簡単に作成できるツールを提供できると共に、生活習慣の改善(減量・減塩ができる、薄味に慣れるなど)が患者さんのみならず家族にも影響を及ぼし、降圧作用以外のベネフィットとなる」とコメントした。一方で、医師にとっては本アプリと電子カルテを連携させることでカルテ入力の負担軽減につながる点がポイントになる。「生活習慣指導について、内科系医師の86.0%は必須と考える一方で“うまくいっている”と回答したのは39.5%と半数に留まっていた。このギャップが生まれた理由として、患者さんの生活習慣を見える化することができない点が医師らの課題として挙がったが、本アプリを導入している医師らはアプリが生活習慣管理の動機付けにぴったりであり、なおかつ生活習慣の見える化にも有効と回答している」と話した。生活習慣改善の継続に寄り添える だが、生活習慣の改善は口で言うほど実際にその継続は容易ではない。患者が自力で改善させるとなると2人に1人は継続できないという報告3)もあるようだ。このような現状を踏まえ、CureAppは健康的な生活習慣を身に付けながら高血圧治療に取り組むためのプログラム『CureApp HT 血圧チャレンジプログラム』*を6月から新たにスタートさせている。このプログラムを開始するにあたり、患者アプリの情報を基に療養計画書(患者レポート)を作成できる機能を医師側のアプリに実装させており、「これまで敬遠されがちな事務作業の効率化はもちろん、医師の指導内容が可視化されて患者さんにとってもわかりやすいレポートが作成される」と同氏はコメントした。*高血圧治療補助アプリと医師による診察のほか、アプリで入力した取り組み内容を可視化できる患者レポート・療養計画書の同時作成や『血圧チャレンジキット』と称した「みんなのレシピ集(減塩レシピ)」や「CureApp血圧チャレンジプログラム スタートブック」の配布に加え、血圧計購入支援などのカスタマーサポートサービスを受けることができるプログラム4) 最後に谷川氏は、「今回の取り組みが患者さんと医療現場の双方にとって価値のあるものになることを目指している。次回2026年の診療報酬改定に向けて、医療DX推進の流れは強化されるだろう。日常診療により溶け込み、なくてはならないシステムとなるよう進化を続けたい」とも説明した。

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超加工食品の利便性・時短性のとりこになる危険に警鐘を鳴らす!(大規模コホート研究)―(解説:島田俊夫氏)

超加工食品に関する論文の見解の流れ 超加工食品に関する報告によれば、総じて全死因死亡(全死亡)リスクを高めるとの結論で一致しています1,2)。ただし、これまでのところ心血管疾患に関しては、リスクを高めることは全面的に肯定されているわけではありません(当論文において有意差を認めていないが否定するものではありません)。 食事を楽しむことができないような忙しい生活の中で、利便性や時短性に優れた超加工食品が重宝される傾向はわからないわけではありませんが、超加工食品への極端な嗜好は健康長寿と相反しており、将来の健康に懸念を抱かざるを得ません。 最近、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のZhe Fang氏らが、30年超えの長期にわたる医療従事者対象の男女別の2コホート研究から超加工食品の問題点を取り上げました。食事評価を繰り返したデータを担保する大規模コホート研究に基づく、超加工食品の全死亡への影響を仔細に検討した論文がBMJ誌2024年5月8日号に掲載されました。大規模かつ長期間にわたり追跡されたコホートデータに基づく信頼性の高い論文は数少なく、本論文についてコメントします。本論文概要 本研究では、米国11州の女性正看護師コホートと同国50州の男性医療従事者コホート中、心血管疾患・糖尿病歴のない女性7万4,563例と男性3万9,501例(計:11万4,064例、男/女比:0.53)を対象として、超加工食品摂取(4年ごとに実施された食物摂取頻度調査を使用)と死亡の関係を中心に調査・検討した。主要アウトカム:全死亡、副次アウトカム:がん、心血管死、その他による死亡として、多変量Cox比例ハザードモデルを用い超加工食品摂取量との関連を分析した。超加工食品の最低四分位数群vs.最高四分位数群比較では、全死亡リスクは最高四分位数群で4%有意に高かった。がん、心血管疾患に関しては、有意差はなかった。その他の死亡に関しては9%有意に高かった。 超加工食品サブグループ別解析では、肉/鶏肉/魚介類ベースの調理済みインスタント食品(加工肉)が全死亡と最も強い関連(HR:1.13、95%CI:1.10~1.16、傾向のp<0.001)を示し、砂糖または人工甘味料入り飲料(1.09、1.07~1.12)、乳製品ベースのデザート(1.07、1.04~1.10)、超加工パン・朝食用食品(1.04、1.02~1.07)(ただし、全粒穀物を除く)も、全死亡リスクの増加に関連していた。コメント 超加工食品は利便性と時短性から多忙な生活の中では重宝され、多くの人に愛され、利用されていると考えると恐ろしい気持ちがします。食事による健康被害が超加工食品により起こっていることが多数報告されており、その評価の信ぴょう性も高まっています。食物は自然の状態に近い形(whole food)で食べるのが健康的であると考えるのがごく自然です。健康を犠牲にする可能性が高い超加工食品の持つ利便・時短といった魅力のとりこになるのはきわめて危険です。ただちにやれることは、超加工食品の魅力のとりこになることを回避する理解・努力が必要だと考えます。命を削って利便性や時短性の犠牲になるのを回避する努力がいかに大事か、自問自答してください。この論文は超加工食品の利便性・時短性の背後に潜む健康被害に警鐘を鳴らす論文として素直に受け止めましょう。

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抗肥満薬使用時に推奨される食事療法

 GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)を中心とする抗肥満薬を使用する際の栄養上の推奨事項をまとめた論文が、「Obesity」に6月10日掲載された。米イーライリリー社のLisa Neff氏らの研究の結果であり、同氏は「本報告は、抗肥満薬による治療を行う臨床医に対して、最適な栄養と介入効果を患者にもたらすための知識とツールを提供することを目指した」と語っている。なお、イーライリリー社は米国において、GLP-1RAであるチルゼパチドを抗肥満薬「zepbound」として販売しており、国内でも承認申請中。 近年、体重が15%以上も減ることもあるGLP-1RAが肥満治療に用いられるようになり、さらに新たな作用機序による抗肥満薬の開発も進められている。これらの薬剤により食事摂取量が減少すると、栄養バランスが崩れて微量栄養素が不足するなどのリスクも生じる。現状において、抗肥満薬治療を受けている患者の最適な食事スタイルに関するエビデンスは少ない。しかし、減量・代謝改善手術後の患者や超低カロリー食による減量中の患者の食事療法に関しては、一定のエビデンスが蓄積されてきている。Neff氏らは、文献検索によりそれらの報告をレビューすることで、抗肥満薬使用中の食事療法に関する推奨事項を総括した。 主な推奨事項は以下のとおり。・エネルギー量:個別に設定する必要があるが、通常は女性1,200~1,500kcal/日、男性1,500~1,800kcal/日。・タンパク質:通常は体重1kg当たり1.5g以下だが、1日に60~75g以上は確保するために、人によっては1.5g/kgを超える量が必要なこともある。推奨される食品は、豆類、魚介類、赤肉、鶏肉、低脂肪乳製品、卵など。・炭水化物:総摂取エネルギー量の45~65%で、添加糖は10%未満とする。全粒穀物、果物、野菜、乳製品などが推奨される。・脂質:総摂取エネルギー量の20~35%で、飽和脂肪酸は10%未満とする。ナッツ、種子、アボカド、植物油、脂肪分の多い魚などが推奨される。抗肥満薬使用に伴う消化器症状を来しやすくなることがあるため、揚げ物や高脂肪食品を避ける。・食物繊維:女性は21~25g/日、男性は30~38g/日。果物、野菜、全粒穀物などが推奨される。食事のみではこの推奨量を満たすことができない場合は、サプリメントの利用を検討。・水分:2~3L/日を摂取。水、低カロリー飲料、低脂肪乳製品などが推奨され、カフェイン入り飲料は控えるか摂取しない。 このほかに、微量栄養素の不足が生じないように、マルチビタミンやカルシウム、ビタミンDなどのサプリメントを適宜摂取することを推奨している。また臨床医に対する推奨として、抗肥満薬使用中の患者では栄養状態のモニタリングの必要があると記している。 本研究には関与していない米エモリー大学のJessica Alvarez氏は、「減量効果のみに焦点を当てた肥満治療は不完全だ。本論文は、抗肥満薬による治療に際して徹底した栄養評価を行う必要性を述べた重要なガイドと言える。抗肥満薬の使用中には、適切な栄養を確保して栄養失調を避け、筋肉量の減少を防ぐため、何をどれだけ食べるべきかといった詳細な患者指導が求められる」と語っている。

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「生活習慣病の療養指導計画」の減量目標の設定にとまどっている患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第47回

■外来NGワード「体重を減らしなさい」(あいまいな設定)「もっと食事に気を付けなさい」(あいまいな食事療法)「間食を止めなさい」(達成不可能な行動目標の設定)■解説2024年6月1日から診療報酬が改定となり、糖尿病・高血圧・脂質異常症が特定疾患療養管理料の対象疾患から除外され、「生活習慣病管理料(II)」となりました。外来の診察の中で、管理目標(体重、HbA1c、血圧、脂質)を各学会の診療ガイドラインなどに従って決定し、個々の患者さんに応じた目標設定や生活指導を行い、診察終了後に療養計画書を渡し、署名(サイン)してもらうことになります。ただし、在宅自己注射指導管理料などを算定している患者さんは除きます。具体的な減量目標や行動目標を患者さんとともに設定することが、生活習慣病の療養指導につながります。また、管理目標や行動目標を設定する手順をフォーマット化しておくことで、医師の負担軽減にもつながります。生活習慣病の療養指導計画について説明した後、肥満を伴う生活習慣病患者の場合、減量目標を設定します。3%減、5~10%減、10~15%減、15%減以上など目的に応じて設定を変えます。まずは、「目標とする体重はどれくらいですか?」と理想とする大きな減量目標を尋ねます。その減量目標がすぐに達成不可能と考えられる場合には、3ヵ月とか期限を区切り、現実的な減量目標を再設定します。そして、その減量目標を達成するために必要なエネルギー摂取量の減少の目安について説明します。古くは1ポンド(約450g)減で3,500kcal減のエネルギー収支とする“Wishnofsky's rule”というのがありますが、たまに食べ過ぎることもあるので「3ヵ月で3kg減なら300kcal減」(2kg減なら200kcal減、1kg減なら100kcal減)と伝えおくと、何をすればよいか患者さんもイメージしやすくなります。このように患者さんに尋ねながら、目標を患者さんと共に計画を立てることで、治療の満足度も上がります。■患者さんとの会話でロールプレイ医師〇〇さん、今年の6月から国の診療報酬が改定となり、「療養指導計画」を作ることになりました。患者「療養指導計画」、それは何ですか?医師これです。(療養指導計画をみせながら)今からいくつか質問していきますね。患者いいですよ。先生も大変ですね。(気遣ってくれる言葉)医師いえいえ、ありがとうございます。最初の質問は、目標とする体重はいくつくらいですか?(減量目標の設定)患者そうですね。今は70kgですが、若い頃は痩せていたので…50kg台にはなりたいです。医師なるほど。それはいいですね。大きな目標はそれにして、3ヵ月だとどうですか?(期間を限定する)患者3ヵ月ですか…(少し考えてから)それなら、2kg減にします。医師それは、いい目標ですね。2kg減量すれば、血液検査の結果も良くなると思いますよ。(肥満体重の3%減の効果を説明)患者そうですか。それなら頑張らなきゃ…。医師3ヵ月で2kg減なら、1日当たり200kcal減らすといいですよ。(食事制限の目安を提示)患者なるほど。200kcal減ですか…。ご飯は気を付けているし、やっぱり間食ですかね。(気付きの言葉)医師それでしたら、「間食を控える」ことを目標にしましょうか。次回は、間食を控える工夫についてお話ししますね。患者はい。頑張って、やってみます。(嬉しそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「目標とする体重はいくらくらいですか?」(大きな減量目標の設定)「3ヵ月なら、どのくらいの減量目標になりますか?」(現実的な減量目標の再設定)「3ヵ月で3kg痩せるなら、1日当たり300kcal減するといいですよ!」(減らすべきエネルギー量の提示) 1)Ryan DH, et al. Curr Obes Rep. 2017;6:187-194.2)WISHNOFSKY N. Metabolism. 1952;1:554-555.3)坂根直樹編著. 朝晩ダイエットでスマートライフ.2023;東京法規.

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「良かった!」と言われる教育講演やメンタルヘルス研修のコツ【実践!産業医のしごと】

産業医には、衛生委員会やメンタルヘルス研修など、多岐にわたる契約企業に対する教育活動の機会があります。そのうちの1つである「衛生講話」は、産業医が健康管理や衛生管理を目的に、安全衛生委員会で行う短時間の研修です。衛生講話には法的な実施義務はなく、事業所で独自に行う活動です。私も契約企業から毎月の衛生講話の依頼を受けており、最初は毎月何を話すか悩むこともありました。効果的な教育内容を提供するためには、適切な教育設計が重要です。そこで今回は、教育効果を高めるためのポイントや、忙しい中でも効率的に資料を作成する方法を紹介します。1. 教育活動は産業医を知ってもらう「チャンス」産業医が教育活動を行う機会は多く、代表的なものには安全衛生委員会、新入社員研修、ラインケア研修、労働衛生教育などがあります。産業医の通常活動である相談や面談は個別対応が多いため、実際に接するのは全社員の数%、ということが多いでしょう。一方で、教育は多くの社員に情報を伝える絶好の機会です。職場全体の安全意識やヘルスリテラシーを向上させるためには、教育研修の機会を積極的に活用することが重要です。教育活動には、資料作成などの準備が必要ですが、産業医を知ってもらう良い機会でもあります。産業医活動は予防医学であり、教育を通じて職場全体に健康や安全の重要性を伝えることができます。このチャンスを逃さないようにしましょう。2. ポイントは「計画」と「設計」効果的な教育には、事前の「計画」と「設計」が欠かせません。以下のステップを踏んで資料を作成しましょう。1)受講者は「誰か」まず、受講者がどのような人なのかを考えます。受講者の中には業務命令で参加する人も多く、モチベーションの低い人もいます。また年齢や性別、役職などによっても、話の内容は変わります。受講者のニーズを意識するためにも、対象者の分析は重要です。2)受講者は「何を」知りたいか産業医が伝えたいことを一方的に話すだけでは、学習効果は高まりません。受講者が「自分に関係のある内容だ」と感じることで、講義への興味やモチベーションが高まります。とくに業務命令で参加するモチベーションの低い受講者に対しては、彼らが直面する具体的な課題や問題を取り上げ、それに対する解決策を提示することで、講義の価値を感じてもらうことができます。3)受講者に「どうなって」ほしいのか教育の目的と具体的な学習のゴールを設定します。ゴールとは、「何を、どのような条件で、どれくらいできるようになるか」を考えることです。たとえば、睡眠に関する教育を行う場合、受講者に知識を得てもらうよりも、「自らの睡眠を改善する行動をとれるようになる」ことをゴールに設定します。その場合、研修の初めに「睡眠をチェックした結果を振り返りながら、最後に良い睡眠のための行動目標を1つ決めましょう」と具体的なゴールを設定しておくと、受講者が研修を通じて何を考えるべきかが明確になります。4)受講者にも「参加」してもらう効果的な研修を行うためには、アクティブラーニングの導入が重要です。アクティブラーニングとは、参加者が主体的に学習に関与する教育手法であり、学習効果を高める効果があるとされています。受動的な講義よりも、研修の中にグループディスカッションやロールプレイングといった受講者が参加するステップを入れることで、高い学習効果をもたらします。時間の制約などで受動的な講義になる場合にも、簡単なアクティブラーニングを入れる工夫をしましょう。講義中に質問を投げ掛けてグー・チョキ・パーの3択で回答してもらう、考えを1分で紙に書いてもらう、隣の人と話し合う・意見交換する、などのステップを取り入れるだけでも大きな効果があります。より具体的には、糖尿病の衛生講話をする場合であれば、「1日の必要カロリーを計算してもらう」「おにぎり1個に必要なウォーキング時間を3択で回答してもらう」などのアクティブラーニングを取り入れることで、参加者が積極的に学び、学習内容が定着しやすくなります。3. 信頼できる「ネタ元」を確保する毎月衛生講話の資料を作成するのは大変ですが、信頼できる情報源を活用することで効率化できます。厚生労働省や学会のサイト、製薬会社や医師向け情報サイトなど、信頼性の高い情報源を利用しましょう。また、健康教育や労働衛生教育に関する資料を提供している書籍や研修会を活用することも有効です。たとえば、『使える! 健康教育・労働衛生教育65選』(森 晃爾 編、日本労務研究会、2020年)という書籍には、版権フリーで使用できるパワーポイントデータが収載されています。また、産業医アドバンスト研修会のサイトでは、産業医のスキルアップのためのオンライン勉強会として、毎月衛生講話の資料が提供されています。これらのリソースを活用することで、資料作成の手間を省くことができます。まとめ産業医として効果的な労働衛生教育を行うことは、幅広い労働者に予防活動を提供するために重要です。しかし、教育の準備が不十分であれば、ゆですぎた麺のように歯応えがなく、がっかりされるかもしれません。一方で、教育の質を向上させる工夫を続けることで、皆が「この産業医、頼りになるな!」と思ってくれるはずです。皆さんと一緒に、良い教育を通じて、労働者の健康と安全を守っていきましょう!参考柴田 喜幸. 産業保健スタッフのための教え方26の鉄則 イケてる健康教育はインストラクショナルデザインで作る!. 中央労働災害防止協会;2020.

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悪寒戦慄の重要性【とことん極める!腎盂腎炎】第3回

悪寒戦慄ってどれくらい重要ですか?Teaching point(1)悪寒戦慄は菌血症を予測する症状である(2)重度の悪寒戦慄をみたら早期に血液培養を採取すべし《今回の症例》基礎疾患に糖尿病と高血圧、脂質異常症がある67歳女性が半日前に発症した発熱と寒気で救急外来を受診した。トリアージナースより、体温以外のバイタルは落ち着いているが、ガタガタ震えていて具合が悪そうなので準緊急というより緊急で診察をしたほうがよいのでは、という連絡を受け診察開始となった。症状としては頭痛、咽頭痛、咳嗽、喀痰、腹痛、下痢、腰痛などの症状はなく、悪寒戦慄と全身の痛み、倦怠感を訴えていた。general appearance:ややぐったり、時折shiveringがみられる意識清明、体温:39.4℃、呼吸数:18回/分、血圧:152/84mmHg、SpO2 99%、心拍数:102回/分頭頸部、胸腹部、四肢の診察で目立った所見はない。簡易血糖測定:242mg/dLqSOFAは陰性ではあるが、第1印象はぐったりしていて、明確な悪寒と戦慄がある。診察上は明確な熱源が指摘できない。次にどうするべき?1.悪寒戦慄は菌血症の予測因子である菌血症は、感染症の予後不良因子であり、先進国の主要な死因の上位7番目に位置する疾患である1)。具体的には、市中感染型菌血症の1ヵ月率は10~19%、院内血流感染症の死亡率は17~28%である2)。したがって菌血症の早期予測は、迅速な治療開始を助け、臨床転帰の改善につながるため重要である。そして悪寒や戦慄、いわゆる“chill”は発熱以外で菌血症の鑑別かつ有効な予測因子として報告がある唯一の症状である。では悪寒はどれくらい菌血症を予測できるのだろうか?まとめて調べた文献によると3)、発熱がある患者:陽性尤度比(LR+)=2.2、陰性尤度比(LR−)=0.56発熱がない患者:LR+=1.6、LR−=0.84といわれている。そして徳田らの報告4)では、shaking chill(厚い毛布にくるまっていても全身が震え、寒気がする悪寒):LR+=4.7moderate(非常に寒く、厚手の毛布が必要な程度の悪寒):LR+=1.7mild(上着が必要な程度の悪寒):LR+=0.61のように悪寒の重症度がより菌血症に関連することを報告されている。したがって、悪寒や戦慄の病歴聴取は重要だが、shaking chillかどうかまで踏み込んでの病歴聴取が望ましいといえる。さらに、悪寒のあと2時間以内が血液培養が陽性になりやすいという報告5)もあるので、悪寒や戦慄をみかけたらすかさず血液培養を採取するのがおすすめだ。なお、腎盂腎炎においても悪寒は菌血症の予測因子といわれている6)が、何事にも例外はあり、インフルエンザで悪寒を経験した読者もいるであろう。悪性リンパ腫や薬剤熱でも悪寒は来すので過信は禁物となる。2.悪寒戦慄は腎盂腎炎診療でも大事な症状である腎臓は血流豊富な臓器であり、急性腎盂腎炎において42%で血液培養が陽性になるといわれている7)。そして側腹部痛か叩打痛があり、膿尿か細菌尿があれば腎盂腎炎は適切な鑑別診断といえるが8)、腎盂腎炎は下部尿路症状(排尿時痛、頻尿、恥骨部の痛み)、上部尿路症状(側腹部痛やCVA叩打痛陽性)を来す頻度は多いとはいえない。実地臨床では悪寒戦慄、ぐったり感(toxic appearance)、嘔気や倦怠感という症状が主訴になる腎盂腎炎は少なくなく、その場合は血液培養が腎盂腎炎の診断に役立つ8)。合併症のない腎盂腎炎における血液培養に関しては議論の分かれることではあるが9,10)、それは腎盂腎炎の検査前確率が高いという臨床状況においての話であり、前述のように尿路症状がなく悪寒戦慄やぐったり感(toxic appearance)がメインでの場合は敗血症疑いであれば1h bundleの達成、すなわち感染症のfocus同定とバイタルの立て直しと血液培養採取と抗菌薬投与を早急に行わなければならない11)。また、菌血症疑いの状況であっても血液培養の取得は必要になる。したがって悪寒戦慄のチェックは重要であるといえる。3.菌血症の疫学を抑える菌血症の頻度が多い疾患はどのようなものだろうか?血液培養で何が陽性になったか、患者の基礎疾患や症状にもよるが全体的な頻度としては尿路感染症22〜31%、消化管9〜11%、肝胆道7〜8%、気道感染(上下含む)9〜20%、不明18〜23%が主な頻度となる12-14)。このデータと各感染症の臨床像から考えるに、明確な随伴症状やfocusがなく悪寒戦慄があり、菌血症を疑う患者で想定すべきは尿路感染、胆道系感染、血管内カテーテル感染といえるだろう。逆に肺炎は発熱の原因としては頻度が高いが血液培養が陽性になりにくい感染症であり、下気道症状がなく症状が発熱と悪寒のみの状況であれば肺炎の可能性はかなり低いと考えられる。4.血液培養採取のポイントを抑える血液培養の予測ルールに関してはShapiroらのルールの有用性が報告されている。やや煩雑だが2点以上で血液培養の適応というルールである。特異度は29〜48%だが、感度は94〜98%と高く外的妥当性の評価もされているのが優れている点になる(表)15,16)。画像を拡大するその他、簡易的なものとしては白血球の分画で時折みられるband(桿状好中球)が10%以上(bandemia)であれば感度42%、特異度91%、オッズ比7.15で菌血症を予測するという報告もある2)。そのためbandemiaがあれば血液培養採取を考慮してもよいと思われる。1)Goto M, Al-Hasan MN. Clin Microbiol Infect. 2013;19:501-509.2)Harada T, et al. Int J Environ Res Public Health. 2022;19:22753)Coburn B, et al. JAMA. 2012;308:502-511.4)Tokuda Y, et al. Am J Med. 2005;118:1417.5)Taniguchi T, et al. Int J Infect Dis 2018;76:23-28.6)Nakamura N, et al. Intern Med. 2018;57:1399-1403.7)Kim Y, et al. Infect Chemother. 2017;49:22-30.8)Johnson JR, Russo TA. N Engl J Med. 2018;378:48-59.9)Long B, Koyfman A. J Emerg Med. 2016;51:529-539.10)Karakonstantis S, Kalemaki D. Infect Dis(Lond). 2018;50:584-5911)Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:e1063-e1143.12)Larsen IK, et al. APMIS. 2011;119:275-279.13)Pedersen G, et al. Clin Microbiol Infect. 2003;9:793-802。14)Sogaard M, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:61-69.15)Shapiro NI, et al. J Emerg Med. 2008;35:255-264.16)Jessen MK, et al. Eur J Emerg Med. 2016;23:44-49.

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第220回 1型糖尿病患者が細胞移植治療でインスリン頼りを脱却

1型糖尿病患者が細胞移植治療でインスリン頼りを脱却幹細胞から作るVertex Pharmaceuticals社の膵島細胞VX-880移植治療の有望な第I/II相FORWARD試験結果がこの週末の米国糖尿病協会(ADA)年次総会で報告されました。VX-880が投与された1型糖尿病(T1D)患者のインスリン使用が減るか不要となっており、1回きりの投与でインスリンに頼らずとも済むようになる可能性が引き続き示されています1,2)。最近の調査結果によると、先進の技術使用にもかかわらず、T1D患者の6%ほどが低血糖の自覚困難で誰かの助けを要する深刻な低血糖を繰り返し被っています3)。低血糖はT1D患者にしばしば認められます。しかしT1D患者は時と共にその自覚が困難になることがあり、その症状を感じられなくなる恐れがあります。自覚なく治療されずじまいの低血糖はやがて混乱、昏睡、発作、心血管疾患などの深刻な低血糖イベント(SHE)を招き、下手すると死に至ります。FORWARD試験は先立つ1年間のSHE回数が2回以上で、低血糖の自覚が困難なT1D患者を募って実施されています。当初の被験者数は17例でしたが、良好な結果が得られていることを受けてさらに約20例が試験に加わることになっています。当初の予定人数の17例はすでに組み入れ済みで、そのうち14例はVX-880投与に至っています。VX-880はヒト幹細胞から作られる膵島細胞を成分とし、試験では被験者の肝門脈に注入されました。VX-880が投与された14例のうち、目標用量(full dose)が1回きり投与された12例の経過は良好で、全員に膵島細胞が定着しました。投与前には生来のインスリン分泌の指標であるCペプチドが空腹時に検出できませんでしたが、VX-880投与後90日までに糖に応じたインスリン生成が確認されています。12例中11例はインスリン投与が減るか不要になりました。経過180日を過ぎた10例のうち7例はインスリン投与が不要となり、2例は日々のインスリン使用がおよそ70%少なくて済むようになりました。最終観察時点で12例全員のHbA1cは米国糖尿病協会(ADA)が掲げる目標である7%未満に落ち着いており、常時測定の糖濃度は70%超のあいだ目標範囲である70~180mg/dLに収まっていました。少なくとも1年間が経過した3例はSHEなしで90日目以降を過ごせており、インスリンに頼ることなくHbA1c 7%未満を達成しています。主だった血糖指標一揃いの大幅な改善、SHEの抑制、インスリン投与頼りの脱却の効果をみるに、VX-880はT1Dの治療を根底から変え、患者の負担を大幅に軽減しうると試験医師の1人Piotr Witkowski氏は言っています2)。玉に瑕なことにVX-880投与患者は免疫抑制治療を続ける必要があります。VX-880で備わった膵島細胞を守って免疫に排除されずに居続けられるようにするためです。そこでVertex社は免疫抑制治療不要の細胞治療VX-264の開発も進めています。VX-264はVX-880に免疫から守る覆いをつけたものであり、VX-880と同様に第I/II相試験が進行中です4)。参考1)Expanded FORWARD Trial Demonstrates Continued Potential for Stem Cell-Derived Islet Cell Therapy to Eliminate Need for Insulin for People with T1D / PRNewswire2)Vertex Announces Positive Results From Ongoing Phase 1/2 Study of VX-880 for the Treatment of Type 1 Diabetes Presented at the American Diabetes Association 84th Scientific Sessions / BUSINESS WIRE 3)Sherr JL, et al. Diabetes Care. 2024;47:941-947.4)NCT05791201(ClinicalTrials.gov)

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医師が年収アップのために行っていることは?/医師1,000人アンケート

 ケアネットでは、2月20日(火)に会員医師1,004人を対象に、「年収に関するアンケート」を実施した。その中で、自身のワークライフバランスの希望や、年収を増やすために行ったこと/行っていることについて尋ねた。 調査では、年収とワークライフバランスの希望について、(1)勤務時間は大きく増えてもよいので、年収を大きく増やしたい、(2)勤務時間は少し増えてもよいので、年収を少し増やしたい、(3)年収は少し減ってもよいので、勤務時間を少し減らしたい、(4)年収は大きく減ってもよいので、勤務時間を大きく減らしたい、の4つから最も近いものを選んでもらった(以下、それぞれ「勤務時間大きく増/年収大きく増」、「勤務時間やや増/年収やや増」、「勤務時間やや減/年収やや減」、「勤務時間大きく減/年収大きく減」)。年収を増やすために行ったこと/行っていることはフリーコメントで記載してもらった。年収3,000万円以上はさらに大きく年収アップを希望 全体では、「勤務時間大きく増/年収大きく増」が11%、「勤務時間やや増/年収やや増」が47%、「勤務時間やや減/年収やや減」が38%、「勤務時間大きく減/年収大きく減」が3%で、約60%の医師が年収アップを優先していた。「勤務時間大きく増/年収大きく増」を最も多く希望していたのは、最高年収帯であった年収3,000万円以上の医師(20%)であった。年代別では、年代が上がるほど勤務時間の減少を希望していた。「勤務時間大きく増/年収大きく増」は男性で顕著 男女別にみると、男性では「勤務時間大きく増/年収大きく増」が12%、「勤務時間やや増/年収やや増」が48%、「勤務時間やや減/年収やや減」が36%、「勤務時間大きく減/年収大きく減」が4%であった一方、女性ではそれぞれ5%、43%、49%、3%であり、男女差が明確になった。男性のほうが「勤務時間大きく増/年収大きく増」を望む傾向は、どの年代でも同様であった。「勤務時間大きく増/年収大きく増」を最も希望するのは総合診療科 病床数別では、「勤務時間大きく増/年収大きく増」および「勤務時間やや増/年収やや増」と回答したのは、20床未満が51%、20床以上が61%であった。勤務先別では、一般診療所が55%、一般病院が57%、大学病院が73%であった。「勤務時間大きく増/年収大きく増」と回答した割合が多かった診療科は、総合診療科(36%)、呼吸器外科(25%)、耳鼻咽喉科(24%)であった。年収を増やすために行ったこと/行っていることは? 最後に、これまで年収アップのために行ったこと/行っていることをフリーコメントで回答してもらった。残業やアルバイトが圧倒的に多かったが、長期的な年収アップを目指して資格取得や留学、技術習得に励むなど、多岐にわたる回答が寄せられた。また、人脈を広げたり、外勤先のスタッフ/職員との関係を良好に保ったりするなど、人間関係の重要性も伺えた。 その他、年代ごとの男女別、病床数別、勤務先別などの詳細な年収分布については、以下のページで結果を発表している。医師の年収に関するアンケート2024【第5回】ワークライフバランス

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米国アカデミー、Long COVIDの新たな定義を発表

 米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM)※は6月11日、「Long COVIDの定義:深刻な結果をもたらす慢性の全身性疾患(A Long COVID Definition A Chronic, Systemic Disease State with Profound Consequences)」を発表した。Long COVID(コロナ罹患後症状、コロナ後遺症)の定義は、これまで世界保健機構(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などから暫定的な定義や用語が提案されていたが、共通のものは確立されていなかった。そのため、戦略準備対応局(ASPR)と保健次官補室(OASH)がNASEMに要請し、コンセンサスの取れたLong COVIDの定義が策定された。全166ページの報告書となっている。本定義は、Long COVIDの一貫した診断、記録、治療を支援するために策定された。 本定義によると、「Long COVIDは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後に発生する感染関連の慢性疾患であり、1つ以上の臓器系に影響を及ぼす継続的、再発・寛解的、または進行性の病状が少なくとも3ヵ月間継続する」としている。 本疾患は、世界中で医学的、社会的、経済的に深刻な影響を及ぼしているが、現在、いくつかの定義が混在しており、共通の定義がなかった。合意のなされた定義がないことは、患者、臨床医、公衆衛生従事者、研究者、政策立案者にとって課題となり、研究が妨げられ、患者の診断と治療の遅れにつながっているという。報告書を作成した委員会は、学際的な対話と患者の視点に重点を置き、策定に当たり1,300人以上が関わった。 Long COVIDの徴候、症状、診断可能な状態を完全に挙げると200項目以上に及ぶという。主な症状は以下のように記載されている。・息切れ、咳、持続的な疲労、労作後の倦怠感、集中力の低下、記憶力の低下、繰り返す頭痛、ふらつき、心拍数の上昇、睡眠障害、味覚や嗅覚の問題、膨満感、便秘、下痢などの単一または複数の症状。・間質性肺疾患および低酸素血症、心血管疾患および不整脈、認知障害、気分障害、不安、片頭痛、脳卒中、血栓、慢性腎臓病、起立性調節障害(POTS)およびその他の自律神経失調症、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、線維筋痛症、結合組織疾患、脂質異常症、糖尿病、および狼瘡、関節リウマチ、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患など、単一または複数の診断可能な状態。 Long COVIDの主な特徴は以下のとおり。・無症状、軽度、または重度のSARS-CoV-2感染後に発生する可能性がある。以前の感染は認識されていた場合も、認識されていなかった場合もある。・急性SARS-CoV-2感染時から継続する場合もあれば、急性感染から完全に回復したようにみえた後に、数週間または数ヵ月遅れて発症する場合もある。・健康状態、障害、社会経済的地位、年齢、性別、ジェンダー、性的指向、人種、民族、地理的な場所に関係なく、子供と大人両方に影響を及ぼす可能性がある。・既存の健康状態を悪化させたり、新たな状態として現れたりする可能性がある。・軽度から重度までさまざま。数ヵ月かけて治まる場合もあれば、数ヵ月または数年間持続する場合もある。・臨床的根拠に基づいて診断できる。現在利用可能なバイオマーカーでは、Long COVIDの存在を決定的に証明するものはない。・仕事、学校、家族のケア、自分自身のケアなどの能力を損なう可能性がある。患者とその家族、介護者に深刻な精神的、身体的影響を及ぼす可能性がある。 報告書によると、新たなLong COVIDの定義は、臨床ケアと診断、医療サービス、保険適用、障害給付、学校や職場の宿泊施設の適格性、公衆衛生、社会サービス、政策立案、疫学とサーベイランス、民間および公的研究、とくに患者とその家族や介護者に対する一般の認識と教育など、多くの目的に適用できるという。※NASEMは、科学、工学、医学に関連する複雑な問題を解決し、公共政策の決定に役立てるために、独立した客観的な分析とアドバイスを国に提供する非営利の民間機関。同アカデミーは、リンカーン大統領が署名した1863年の米国科学アカデミーの議会憲章に基づいて運営されている。

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軽い健康問題なら薬剤師による治療が低コストの選択肢に

 薬剤師が軽症の疾患を治療できるようにすることで、患者の治療費を抑えられるとともに、より多くの人が医療にアクセスできるようになり、何百万ドルもの医療費を削減できる可能性のあることが、米ワシントン州立大学薬物療法学准教授のJulie Akers氏らの研究で示された。研究結果は、「ClinicoEconomics and Outcomes Research」に5月3日掲載された。 この研究で検討の対象となった米ワシントン州では、1979年以降、医師から特定の医薬品を処方および投与する許可を得た薬剤師には、患者を治療する法的権利が認められている。薬剤師はその教育の一環として、日常的によく見られる疾患の臨床評価の研修を受けており、OTC医薬品(市販薬)で治療可能な疾患についての助言を行っている。薬剤師が関与できるレベルをさらに上げて、患者を治療する権利である「処方権」を与えれば、薬剤師は、OTC医薬品では不十分な場合に医療用医薬品を処方することも可能になる。 Akers氏らは今回の研究で、2016~2019年にワシントン州の46の薬局で計175人の薬剤師から治療を受けた496人の患者のデータを分析した。同氏らは、患者が薬局を受診した30日後に追跡調査を行い、治療効果を評価した。次に、同様の疾患で診療所や緊急医療クリニック(urgent care clinic)、救急救命室(ER)を受診し、医師による治療を受けた患者の保険データと比較した。患者が治療を求めた原因として最も多かったのは、避妊、喘息、尿路感染症、アレルギー、頭痛の順であった。 その結果、検討したほぼ全ての軽症疾患で、薬局での治療が有効であることが明らかになった。また、軽症疾患は、診療所や緊急医療クリニックの医師が治療するよりも薬局で治療した方が、治療費が平均で約278ドル(1ドル155円換算で約4万3,000円)低くなると推定された。具体的な例を挙げると、合併症のない尿路感染症に対して抗菌薬による治療を行った場合の平均的な費用は、診療所の医師による治療では約121ドル(同約1万8,800円)、ERでの治療では約963ドル(同約14万9,300円)であったが、薬局での治療であれば30ドル(同約4,700円)だった。本研究の3年間の調査期間において、通常の医療機関で治療された全ての軽症疾患が地域の薬剤師によって治療されていた場合、医療費は推定2300万ドル(同約36億5500万円)節約できたものと推算された。 こうした結果を踏まえた上でAkers氏らは、「薬剤師に軽症疾患を治療する権限を与えることは、農村部などの医師へのアクセスが限られている地域に恩恵をもたらす可能性がある」と結論付けている。 Akers氏は、「薬剤師は、特に地域の外来医療において、われわれの州および国が抱える医療アクセスの問題の一部に実行可能な解決策をもたらす」と言う。その上で、「薬剤師はこの仕事ができるように訓練を受け、それを行う資格を持っているが、残念なことに十分に活用されていない場合が多い。しかし薬剤師は、患者がいかに早く医療にアクセスできるかに大きな影響を与え得る。患者が早い段階で医療にアクセスできれば、疾患の複雑化や進行を最小限に抑えられる可能性がある」と付け加えている。 Akers氏はさらに、「われわれは、治療へのアクセスが得られずに苦労している患者が徐々に増えていくのを目の当たりにしている。過去数十年の間、緊急医療クリニックや救急外来などでの医療サービスが不必要な患者がそうしたサービスを利用するのを見てきた」と言う。もし、より多くの州、あるいは連邦政府がこのアプローチを受け入れれば、人々は、薬局でワクチンを接種するのと同じように、この種の医療サービスも薬局に期待できるようになるのではないかとの展望をAkers氏らは示している。 今後の研究では、薬局の医療費請求への移行の支援について検討する予定であるという。Akers氏らは、そのような支援があれば経済的に治療費の自己負担が難しい人々の医療へのアクセスが大幅に向上する可能性があるとの見方を示している。

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睡眠時無呼吸は将来の入院リスクと関連

 睡眠時無呼吸を有する50歳以上の人では症状がない人に比べて、将来、病気で入院するオッズが21%高いことが新たな研究で明らかになった。この研究を実施した米フロリダ大学医学部のChristopher Kaufmann氏は、「この結果は、過体重、健康不良、うつ病といった医療サービス利用の増加に寄与する可能性のある因子を考慮した後でも変わらなかった」と話している。この研究結果は、米国睡眠学会および睡眠研究学会の年次総会(SLEEP 2024、6月1〜5日、米ヒューストン)で発表され、要旨が「Sleep」5月増刊号1に掲載された。 睡眠時無呼吸は、睡眠中に呼吸停止が繰り返し起こることで眠りが妨げられる症状を指し、閉塞性睡眠時無呼吸と中枢性睡眠時無呼吸に大別される。症例が多いのは閉塞性睡眠時無呼吸であり、睡眠中に空気の通り道である上気道が閉塞して呼吸が停止することで発生する。睡眠時無呼吸を未治療でおくと、高血圧、冠動脈疾患、心房細動、脳卒中、2型糖尿病などの健康問題を招く恐れがあることが知られている。 Kaufmann氏らの研究では、加齢に伴い生じる健康問題に関する研究であるHealth and Retirement Studyの2016年と2018年の調査に参加した50歳以上の成人2万115人のデータが分析された。調査参加者は、2016年の調査で睡眠時無呼吸も含めた睡眠障害の有無について、2018年の調査では、その後の医療サービスの利用(入院、在宅医療、ナーシングホームの利用など)の有無について尋ねられていた。参加者の11.8%が睡眠時無呼吸を有していることを報告していた。 人口統計学的属性やBMI、健康状態、抑うつ症状の有無で調整して解析した結果、2016年の時点で睡眠時無呼吸を有していた人では有していなかった人に比べて、2018年に医療サービスの利用を報告するオッズが21%有意に高いことが明らかになった(調整オッズ比1.21、95%信頼区間1.02〜1.43)。医療サービスの中では、入院のオッズが有意に高かったが(同1.21、1.02〜1.44)、在宅医療の利用に有意差は認められなかった(同1.23、0.99〜1.54)。 Kaufmann氏は学会のニュースリリースの中で、「われわれの研究では、睡眠時無呼吸を有する50歳以上の人では有していない人に比べて、将来的に医療サービスを利用する可能性の高いことが示唆された」と述べた上で、「睡眠時無呼吸に対処することは、個人の健康状態を改善するだけでなく、医療資源への負担を軽減し、より効率的かつ効果的な医療提供につながる可能性がある」との考えを示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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