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尿アルブミン/クレアチニン比の基準値、30mg/gCr未満は適切?

 尿アルブミン/クレアチニン比(UACR、単位:mg/gCr)の基準値は30未満とされているが、基準値範囲内であっても、全死亡および心血管疾患リスクに影響を及ぼすことが示唆された。イスラエル・ヘブライ大学のDvora R. Sehtman-Shachar氏らの研究グループは、UACR 30未満の範囲で、全死亡および心血管疾患との関連を調査した研究を対象として、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、UACRが基準値範囲内であっても正常高値では、心血管疾患および全死亡のリスクが上昇した。本研究結果は、Diabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2024年7月17日号に掲載された。 PubMedおよびEmbaseを用いて、2024年4月12日までに登録された研究のうち、UACR 30未満の範囲でUACRと全死亡、心血管疾患との関連を調査した研究を検索した。その結果、22件の文献が抽出され、15件についてメタ解析を実施した。UACRを2つのカテゴリー(10未満vs.10以上30未満)または3つのカテゴリー(5未満vs.5以上10未満vs.10以上30未満)に分けて解析した。 主な結果は以下のとおり。・UACR 10未満と比較して、10以上30未満では全死亡(ハザード比[HR]:1.41、95%信頼区間[CI]:1.15~1.74)および冠動脈疾患発症(同:1.56、1.23~1.98)のリスクが上昇した。・UACR 5未満と比較して、5以上10未満でも全死亡(HR:1.14、95%CI:1.05~1.24)および心血管死(同:1.50、1.14~1.99)のリスクが上昇した。10以上30未満では、心血管死のリスクが2倍以上に上昇した(同:2.12、1.61~2.80)。 本研究結果について、著者らは「UACR正常高値(10以上30未満)を心血管疾患リスクの高い集団として定義することを提案する。この集団に対する腎保護薬の効果を検証する研究が必要である」とまとめた。

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診療科別2024年上半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Post-trial monitoring of a randomised controlled trial of intensive glycaemic control in type 2 diabetes extended from 10 years to 24 years (UKPDS 91)Adler AI, et al. Lancet. 2024;404:145-155.<UKPDS 91>:早期からの血糖強化管理による糖尿病合併症低減効果は24年間持続する血糖の早期強化管理により合併症リスクが有意に低減し、その効果が長期にわたり持続する(メタボリックメモリー)ことを実証したUKPDSのさらなる延長報告です。まさに「鉄は熱いうちに打て」です。その効果はメトホルミンでもインスリン・SU薬でも認められました。Dapagliflozin in Myocardial Infarction without Diabetes or Heart FailureJames S, et al. NEJM Evid. 2024;3:EVIDoa2300286.<DAPA-MI>:急性心筋梗塞で入院した心不全・糖尿病のない患者において、ダパグリフロジンはプラセボと比較して総死亡・心不全入院のリスク低減効果に有意差なしSGLT2阻害薬は冠動脈疾患2次予防や心不全入院リスク低減の効果を有することが実証されていますが、それぞれのハイリスク者に限定した効果であることが示唆されました。同時期に、エンパグリフロジンでも同様の結果が報告されています(Butler J, et al. N Engl J Med. 2024;390:1455-1466)。Semaglutide in Patients with Obesity-Related Heart Failure and Type 2 Diabetes.Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2024;390:1394-1407.<STEP-HFpEF DM>:2型糖尿病を有する肥満関連心不全(HFpEF)患者において、セマグルチドはプラセボと比較して有意に症状スコア(KCCQ-CSS)を改善体重減少が心不全症状改善の主因だと思われますが、 GLP-1受容体作動薬による血行動態改善作用も関与したことが想定されています。本研究では心不全入院や心不全急性増悪といった臨床的アウトカムを評価できるほどの検出力はありませんでした。非糖尿病患者においても同様の結果が報告されています(Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084)。Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes Perkovic V, et al. N Engl J Med. 2024;391:109-121.<FLOW>:2型糖尿病を有するCKD患者において、セマグルチドはプラセボと比較して有意にCKD進展を抑制GLP-1受容体作動薬には腎保護作用があることが期待されており、その機序として体重減少の他に、抗炎症・抗酸化ストレス・抗線維化作用が想定されています。本研究はCKD進展抑制を実証した点で臨床的意義が大きいでしょう。ただし、低リスク者での効果やSGLT2阻害薬等との併用効果を実証した質の高いエビデンスはまだありません。Effect of Fenofibrate on Progression of Diabetic RetinopathyPreiss D, et al. NEJM Evid. 2024:EVIDoa2400179.<LENS>:フェノフィブラートはプラセボと比較して早期糖尿病網膜症の進展を有意に抑制フェノフィブラートが中性脂肪低下作用とは独立して網膜保護効果を有することが示されました(本研究での中性脂肪中央値は138mg/dL)。本剤は腎機能低下者では投与禁忌である点や日本では網膜症への保険適用がない点に気をつけましょう。

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生成AI、医師がChatGPTのほかに利用しているのは/医師1,000人アンケート

 2022年11月の対話型AI「ChatGPT」の公開を皮切りに、さまざまな生成AIサービスがリリース&アップデートされ、活用が進んでいる。論文検索や翻訳、スライド作成など、医師の仕事にも活用の可能性が広がる中、CareNet.comでは会員医師1,026人を対象に、生成AIの現在の使用状況についてアンケートを実施した(2024年6月25日実施)。「現在使用している」と回答した医師は約2割、年代による差も 生成AIの現在の使用状況について聞いた結果、「現在使用している」と回答したのは21%。「使用経験はあるが、現在は使用していない」が22%、「過去、現在ともに使用していない」が57%であった。年代別にみると、「現在使用している」と回答した割合は20代・30代では28~29%だったのに対し、40代では19.8%、50代では15.2%と年代が高くなるごとに減少した。 診療科別にみると、「現在使用している」と回答した割合は救急科(50.0%)、総合診療科(36.4%)、神経内科・血液内科・リハビリテーション科(いずれも33.3%)で高かったのに対し、腎臓内科(3.2%)、耳鼻咽喉科(7.1%)、産婦人科(11.1%)などでは低い傾向がみられた。使用していない理由で最も多かったのは「使いこなすのが難しそう/難しいと感じた」 「現在使用していない」と回答した医師に対し、その理由を聞いたところ、「使いこなすのが難しそう/難しいと感じた」が44.5%と最も多く、「習得に時間がかかりそう/かかると感じた」が28.0%、「必要性を感じない」が25.2%と続いた。 「現在使用している」と回答した医師に対し、生成AIを実際どんな作業に活用しているかについて聞いたところ、「論文検索・データベース化」が45.8%と約半数を占め、「論文要約」(44.4%)、「翻訳」(36.0%)、「文章校正」(31.3%)、「抄録・論文の文案作成」(22.9%)と続き、その他の自由記述欄では「アイデア出し」や「シフト表作成」なども挙がった。 一方で「現在使用していない」と回答した医師に生成AIをどんな作業に活用したいかについて聞いた結果、「論文検索・データベース化」(11.9%)、「論文要約」(11.6%)、「翻訳」(10.8%)、「文章校正」(7.1%)と現在使用している医師と同様の傾向がみられたが、その次に多かったのは「スライド作成」(5.9%)であった。実際使用している生成AIサービスは? 「現在使用している」と回答した医師に対し、実際使用しているサービスを聞いたところ、「ChatGPT」は87.4%とほとんどの医師が使用しており、「Microsoft Copilot」(18.2%)、「Claude」(12.1%)、「Gemini」(11.7%)、「Perplexity」(8.4%)と続いた。「LUMIERE」、「Runway」、「Midjourney」、「Stable diffusion」などの動画・画像生成系は使用者が少なかった。 「現在使用していない」と回答した医師に使用したいサービスを聞いた結果、同じく「ChatGPT」が56.0%と最も多く、「Microsoft Copilot」(6.5%)、「Gemini」(5.0%)、「Claude」(4.6%)とおおよその傾向は現在使っている医師と同様であったが、「使ってみたいサービスはとくにない」との回答も37.8%みられた。有料版は使用していないとの回答が6割、一方で月額1万円以上との回答も 「現在使用している」と回答した医師に対し有料版使用の有無を聞いたところ、64.2%が「有料版は使用していない」と回答した一方、月額3,000円未満を支払っていると回答したのは15.1%、3,000円以上5,000円未満が14.2%、5,000円以上1万円未満が4.7%、1万円以上が1.9%だった。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。「生成AI、いま実際どのくらい使っていますか?」 医師1,000人に聞きました

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超加工食品の食べ過ぎは早死につながる

 超加工食品の摂取量が多いと死亡リスクが高くなることを示すデータが報告された。特に、心臓病や糖尿病に関連した死亡のリスクが顕著に上昇する可能性があるという。米国立がん研究所(NCI)のErikka Loftfield氏らの研究によるもので、結果の詳細は米国栄養学会年次総会(NUTRITION 2024、6月29日~7月2日、シカゴ)で発表された。 この研究では、高齢者を平均23年間追跡し、超加工食品の摂取量の多寡で死亡リスクを比較した。その結果、摂取量により最大約10%のリスク差が観察された。Loftfield氏は、「ホットドッグやソフトドリンク、あるいはソーセージやコールドカット(薄切りにされた肉で通常は成型肉)などの高度に加工された肉類は、死亡リスクと強く関連している。それらの超加工食品を控えることは既に、健康の維持・増進のための推奨事項の一つとなっている」と話す。 超加工食品は、自然食品から抽出した素材を利用し、それに添加糖、着色料、乳化剤、香料、安定剤などのさまざまな添加物を加えることで、味を変えたり保存性を高めたりした食品のこと。例として、砂糖入りのシリアルや、ほとんど手を加えずそのまま食べられるよう高度に加工された食品などが挙げられる。 Loftfield氏らの研究には、50~71歳の54万人以上の人々の食習慣と健康関連データが用いられた。これらのデータは1990年代半ばに収集されたものであり、現在、研究参加者の半数以上は既に死亡している。解析の結果、死亡リスクに影響を及ぼし得る因子を調整後にも、超加工食品の摂取量が最も多い群は、最も少ない群よりも早期に死亡するリスクが高いという関係が見いだされた。特に、心臓病や糖尿病に伴う死亡リスクが超加工食品の摂取量の多いことと強固に関連しており、一方、がんのリスクは超加工食品の摂取量との関連が見られなかった。 Loftfield氏は、「われわれの研究結果は、これまでに報告されてきた、超加工食品の摂取が健康と寿命に悪影響を与えることを示す疫学研究のエビデンスを、より強固にするものと言えるだろう」と述べている。過去の研究の一例としては、昨年「Advances in Nutrition」に掲載された、システマティックレビューとメタ解析の報告があり、その研究では超加工食品の摂取量の多さが、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満のリスクと関連していることが明らかにされていた。ただ、Loftfield氏は、「超加工食品がどのような経路で健康リスクをもたらすのかなど、まだ未解明の点が多く残されている」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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チルゼパチドの体重減少作用は東アジア人においても認められた(解説:住谷哲氏)

 2型糖尿病を合併していない肥満患者におけるチルゼパチドの体重減少作用については、すでにSURMOUNT-1研究で報告されている1)。しかしその対象患者のほとんどは欧米人で、平均BMIも38.0kg/m2であり、そこまで肥満の強くない日本人を含む東アジア人でのチルゼパチドの有効性は明らかではなかった。一方、中国では2030年には人口の約70%、8億人が肥満または過体重になると予測されており、肥満患者の増加が重大な健康問題となっている(中国ではBMI 28kg/m2以上が肥満、24kg/m2以上が過体重と定義されている2))。そこで本研究では、東アジア人である中国人におけるチルゼパチドの体重減少作用が検討された。 本研究ではBMI 28kg/m2以上または24kg/m2以上で体重に関連する疾患(高血圧症、脂質異常症、心血管病など)を有する患者を対象として、チルゼパチド10mgまたは15mgの体重減少作用が検討された。平均BMIは32.3kg/m2であった。その結果は、15mg投与群において試験終了時の体重減少率は17.5%であり、85.8%の患者に5%以上の体重減少が認められた。有害事象についてもこれまでの報告と同じく、ほとんどが消化器症状であった。 予想どおりの結果ではあるが、東アジア人でも欧米人と同様の結果が得られたことには意義がある。現在わが国でチルゼパチドの適応は2型糖尿病患者のみであるが、米国では抗肥満薬「Zepbound」としてすでに使用されている。体重減少にはカロリー制限が王道であるが、現実にはそれだけでは5%の体重減少を達成できないことが多い。チルゼパチドが抗肥満薬としてわが国でも承認されることが期待される。

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便通異常症 慢性下痢(8)生薬と下痢【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q119

便通異常症 慢性下痢(8)生薬と下痢Q119『便通異常症診療ガイドライン2023 慢性下痢症』でも下痢と関連のある薬剤として取り上げられる漢方薬の生薬「山梔子(サンシシ)」。腸管膜静脈硬化症により、慢性下痢になる機序が説明されているが、発症までの期間、累積投与量の報告がある。最低何年間で発症しうるか?発症までの累積量は?

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糖尿病は過活動膀胱の有病率を押し上げる

 糖尿病や糖代謝関連マーカーと過活動膀胱(OAB)の有病率が、有意に正相関するとする研究結果が報告された。この関連の背景として、全身の慢性炎症が関わっているという。福建医科大学第二付属病院(中国)のQingliu He氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に4月29日掲載された。 近年、糖尿病とOABとの潜在的な関連を示唆する研究報告が散見される。この関連のメカニズムとして、全身性慢性炎症の関与を指摘する報告もある。ただし、大規模な疫学研究のデータはまだ不足しており、両者の関連の機序の詳細も明らかでない。これを背景としてHe氏らは、糖尿病や高血糖とOAB有病率の関連、およびその関連に慢性炎症が及ぼす影響を検討した。 この研究には、2007~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータが利用された。NHANESでは、過活動膀胱症状スコア(OABSS)が調査に用いられており、OABSSが3点以上の場合にOABと定義した。解析対象はデータ欠落のない2万3,863人(平均年齢49.7±17.6歳、男性49.7%、BMI29.3±7.0)で、このうち4,894人(20.5%)がOABと判定された。 OAB群と非OAB群を比較すると、前者は高齢で女性が多く、BMIが高値という有意差があった。また、HbA1c(6.2±1.4対5.7±1.0%)、空腹時血糖値〔FPG(120.6±46.8対108.0±32.4mg/dL)〕、インスリン値(15.6±19.0対13.4±17.5μU/mL)という糖代謝関連指標も、全てOAB群の方が高値だった(全てP<0.001)。 年齢、性別、BMI、人種、教育歴、喫煙・飲酒習慣、座位時間、所得、高血圧・虚血性心疾患・心不全・脳卒中などを調整後、糖尿病(HbA1c6.5%以上などで定義)ではOABのオッズ比(OR)が77%高く〔OR1.77(95%信頼区間1.62~1.94)〕、前糖尿病(HbA1c6.0~6.4%などで定義)でもOABが多く見られた〔OR1.26(同1.06~1.53)〕。また、HbA1c、FPG、インスリン値のいずれも、高値であるほどOABのオッズ比が上昇するという有意な非線形の関連が認められた。 次に、糖代謝関連指標とOABとの関連に全身性慢性炎症が関与している可能性を想定し、炎症マーカー(白血球、好中球、リンパ球、血小板数)の寄与度を媒介分析で検討した。その結果、白血球はOABとHbA1c、FPG、インスリン値との関連の、それぞれ7.23%、8.08%、17.74%を媒介し、好中球は同順に6.58%、9.64%、17.93%を媒介していることが分かった。リンパ球と血小板数については、有意な媒介効果が見られなかった。続いて行った機械学習を用いた検討により、HbA1cがOABを予測する最も重要な指標であることが示された。 著者らは、「これらの結果に基づきわれわれは、糖尿病は全身性の慢性炎症を惹起し、それによってOABのリスクを高める可能性があるという仮説を立てている」と述べている。

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尿検体の迅速検査【とことん極める!腎盂腎炎】第5回

尿検査でどこまで迫れる?【後編】Teaching point(1)尿定性検査の白血球陽性反応の細菌尿に対する感度は70〜80%程度であり、白血球反応陰性で尿路感染症を除外しない(2)硝酸塩を亜硝酸塩に変換できない(もしくは時間がかかる)微生物による尿路感染症もあり、亜硝酸塩陰性で尿路感染症を除外しない(3)尿pH>8の際にはウレアーゼ産生菌の関与を考える《今回の症例》70代女性が昨日からの悪寒戦慄を伴う発熱を主訴に救急外来を受診した。いままでも腎盂腎炎を繰り返している既往がある。また糖尿病のコントロールは不良である。腎盂腎炎を疑い尿定性検査を提出したが、白血球反応は陰性、亜硝酸塩も陰性であった。今回は腎盂腎炎ではないのだろうか…?はじめに尿検査はさまざまな要因による影響を受けるため解釈が難しく、尿検査のみで尿路感染症を診断することはできない。しかし尿検査の限界を知り、原理を深く理解すれば重要な情報を与えてくれる。そこで、あえて尿検査でどこまで診断に迫れるかにこだわってみる。前回、「尿検体の採取方法と検体の取り扱い」「細菌尿と膿尿の定義や原因」について紹介した。今回は引き続き、迅速に細菌尿を検知するための検査として有用な尿定性検査(試験紙)や尿沈渣、グラム染色などの詳細を述べる。1.白血球エステラーゼ(試験紙白血球反応)尿定性検査での白血球の検出は、好中球に存在するエステラーゼが特異基質(3-N-トルエンスルホニル-L-アラニロキシ-インドール)を分解し、生じたインドキシルがMMB(2-メトキシ-4-Nホルモリノ-ベンゼンジアゾニウム塩)とジアゾカップリング反応し、紫色を呈することを利用している。そのため顆粒球しか検出できず、リンパ球には反応しない。多少崩壊した好中球や腟分泌物で偽陽性となりうる。糖>3g/dL、タンパク>500mg/dL、高比重、酸性化物質の混入(ケトン尿)などで偽陰性となる1)。尿試験紙を保存している容器の蓋が開いた状態で2週間以上放置すると試薬が変色し、約半数で亜硝酸は偽陽性となる2)のため注意が必要である。日本で市販されている白血球反応は、(±):10〜25個/μL、(1+):25〜75個/μL、(2+):75〜250個/μL、(3+):500個/μLに相当する(尿沈渣鏡検での陽性と判定するWBC≧5/HPFは20個/μL相当)。2.亜硝酸塩尿定性検査の亜硝酸塩は、細菌の存在を間接的に評価する方法である。細菌が硝酸塩を還元し、亜硝酸塩とすることを利用して検出している。細菌の細胞質内に亜硝酸をつくる硝酸還元酵素もあるが、主にNap(periplasmic dissimilatory nitrate reductase)と呼ばれる酵素を有する細菌がperiplasmic space(細胞膜と細胞外膜の間)に亜硝酸塩を作った場合に検出できると考えられている3)。食品などから摂取した硝酸塩が尿中に存在すること、前述のような菌種が膀胱内に存在すること、尿路への貯留時間が4時間以上あることが必要である4)。腸内細菌目細菌やStaphylococcus属は硝酸塩を亜硝酸塩に還元でき、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)も還元できるが還元するのに時間がかかり、レンサ球菌や腸球菌は還元できない5)。硝酸塩を亜硝酸塩に変換できない微生物、pH<6.0、ウロビロノーゲン陽性、ビタミンC(アスコルビン酸)が存在する場合に偽陰性となる1)。血清ビリルビン値が高いときは、機序不明だが偽陽性が報告されている6)。3.尿pH意外に思われるかもしれないが、実は尿路感染症の診断において、尿定性検査での尿pHも有用である。尿pH<4.5もしくは>8.0の場合は生理的範囲では説明できない。尿路感染症の場合に酸性尿となることもあるが、臨床的意義が高いのはアルカリ尿のほうである。尿pH>8であれば、ウレアーゼ産生菌の関与を考える。細菌のもつウレアーゼが尿素を加水分解し、アンモニアが生成され尿pHが上昇する(図)7)。画像を拡大する代表的菌種はProteus mirabilis、Klebsiella pneumoniae、Morganella morganiiなど8)である。また、Corynebacterium属もウレアーゼを産生する。Escherichia coliはウレアーゼを産生することはなく、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterococcus属も産生率は低い。尿路感染症での尿pHと培養結果を検討した研究では、pHが高いほどProteus mirabilisの頻度が高かったという報告もあり、実臨床でも起因菌の推定に有用である9)。また、尿pHが高いことは、リン酸マグネシウムアンモニウム結石(ストルバイトとも呼ばれる)ができやすいことにも関連する10)。グラム染色や尿沈渣でこれらを確認することで間接的に尿pHを予測することもできる。閉塞性尿路感染症+意識障害ではウレアーゼ産生菌による高アンモニア血症を鑑別する必要がある。4. 迅速検査の組み合わせから尿路感染症を診断するここまで各種検査の詳細について述べてきたが、いずれも単独で尿路感染症を診断できるものではない。しかしながら各種検査を正確に解釈し、組み合わせることで診断に迫ることができる。各種検査とその組み合わせによる診断特性についてまとめると表1~311-16)となる。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する白血球反応は膿尿検出の感度・特異度は比較的高いが、陽性であれば尿路感染症であるというわけではなく、また白血球反応が陰性で尿路感染症状がある患者では、尿沈渣や尿培養を検討する必要がある。亜硝酸塩は感度が低く、陰性でも尿路感染症を否定できないが、陽性なら尿路感染症を強く疑う根拠とはなる。逆に白血球エステラーゼと亜硝酸塩がともに陰性であれば尿路感染症の可能性を下げる。尿沈渣は簡便性に劣るが信頼性が高く、白血球数や細菌数によって尿路感染症の可能性を段階的に評価できる。尿グラム染色は迅速に施行することができ、得られる情報量も多く、診断特性が高い検査の1つである。とくに尿沈渣の検査を夜間・休日に施行できない施設では大きな武器となる。おわりに逆説的ではあるが、あくまで検査所見のみをもって尿路感染症を診断することができないことは繰り返し述べておく。検査を適切に解釈し、病歴・身体診察と組み合わせることでより正確な診断に迫れることは忘れないでほしい。本項が検査の解釈の一助となれば幸いである。《今回の症例の診断》昨日より頻尿を認めており、左CVA叩打痛も陽性であった。尿グラム染色ではレンサ状のグラム陽性球菌を認めた。尿定性での白血球反応陽性の感度が70%程度であること、腸球菌やレンサ球菌では亜硝酸塩は陰性になることを鑑みて、臨床所見とあわせて腎盂腎炎の疑いで入院加療とした。翌日、尿培養からB群溶連菌を認め、これに伴う腎盂腎炎と診断した。1)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.2)Gallagher EJ et al. Am J Emerg Med. 1990;8:121-123.3)Morozkina EV, Zvyagilskaya RA. Biochemistry. 2007;72:1151-1160.4)Wilson ML, Gaido L. Clin Infect Dis. 2004;38:1150-1158.5)Sleigh JD. Br Med J. 1965;1:765-767.6)Watts S, et al. Am J Emerg Med. 2007;25:10-14.7)Burne RA, Chen YY. Microbes Infect. 2000;2:533-542.8)新井 豊ほか. 泌尿器科紀要 1989;35:277-281.9)Lai HC, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2021;54:290-298.10)Daudon M, Frochot V. Clin Chem Lab Med. 2015;53:s1479-1487.11)Ramakrishnan K, Scheid DC. Am Fam Physician. 2005;71:933-942.12)Zaman Z, et al. J Clin Pathol. 1998;51:471-472.13)Williams GJ, et al. Lancet Infect Dis. 2010;10:240-250.14)Whiting P, et al. BMC Pediatr. 2005;5:4.15)Meister L, et al. Acad Emerg Med. 2013;20:631-645.16)Ducharme J, et al. CJEM. 2007;9:87-92.

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熱中症予防の味方となる補水液は自家製で(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話医師患者医師患者医師患者医師患者医師患者最近、HbA1cの値が高いようですね。何か、思い当たることはありませんか?そうですね…熱中症予防と思って、毎日、スポーツドリンクを飲むようになりました。もしかすると、汗をかくような運動をしていないときも?はい。エアコンをかけて、涼しい部屋でゴロゴロしているときも飲んでいます。なるほど。まずは、飲んでいるスポーツドリンクの糖質量を確認してみてください。多いものは500mLで糖分が30gを超えるものもあります。まずは、糖質量のチェックですね…メモメモ。スポーツドリンクには糖質だけでなくナトリウム、つまり塩分も含まれていますのでとり過ぎるとむくみます。毎日、体重を測定して頂いてとり過ぎていないかどうかを確認してみてください。画 いわみせいじ体重測定ですね…。あと、糖質が気になるようなら自分で経口補水液を作ることもできます。500mLのボトルに小さじ4分の1(1.5g)の適度な糖分、そして味付けにゆずなどお好きな果汁を加えてみてください。自家製・経口補水液で検索すると、いろいろなレシピが出てきますよ。はい。わかりました。(嬉しそうな顔)ポイント熱中症予防のためにと、スポーツドリンクを摂り過ぎない工夫や自家製でも経口補水液が作れることを伝えます。Copyright© 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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重要性を増すゲノム診療科、その将来ビジョン/日本動脈硬化学会

 2023年に議員立法として成立した“良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律”、通称「ゲノム医療推進法」。詳細についての議論はこれから進んでいく模様だが、循環器領域においては、2022年度の診療報酬改定により動脈硬化に関連する難病への遺伝学的検査の対象疾患が拡大され、4疾患(家族性高コレステロール血症、原発性高カイロミクロン血症、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症1[ホモ接合体])の遺伝学的検査を含む複数の脂質異常症疾患が保険適用された。 そこで今回、厚生労働省のゲノム医療推進法基本計画ワーキンググループ委員である吉田 雅幸氏(東京医科歯科大学遺伝子診療科 科長/日本動脈硬化学会副理事長)が『我が国におけるゲノム医療と動脈硬化性疾患の遺伝子診断』と題し、遺伝子診断で直面する課題や将来展望について、プレスセミナーで話をした(主催:日本動脈硬化学会)。遺伝診断の将来ビジョン もしも、自分の家族が遺伝性大腸がんや遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)、希少な遺伝性疾患に罹患したら、ご自身の遺伝子検査をどの施設で受けられるかご存じだろうか。あるいは患者から遺伝子検査の相談を受けたら、紹介先などを即答できるだろうか-。一般的に遺伝性疾患の多くは原因不明で、仮に遺伝子疾患が疑われても患者はどこの病院や診療科へ受診するのが適切なのかわからないことが多い。吉田氏は「ゲノム医療の現場で生じている診断・治療に至る長い道のり“Diagnostic Odessey”に多くの時間を費やすのは、原因不明な希少疾患や未診断疾患で苦しむ患者やその家族。そのうえ、患者側が遺伝子診断の可能な施設を見つける手立てもない」と述べ、遺伝専門医にすぐにたどり着けない現状が希少疾患や難病などの早期診断・治療の足かせになっているとして問題提起した。 現在、政府が主導となりゲノム医療等実現推進協議会からタスクフォースを設置し、オールジャパン体制の下でゲノム医療の社会実装のために10万人の全ゲノムを解析して医療へ応用させることを目的とした「全ゲノム解析等実行計画2022」プロジェクトが進められている。策定計画によると、“全ゲノム解析等を実施し、解析結果の日常診療への導入による患者への還元をはじめ、質の高い情報基盤を構築することで、がん・難病などの克服に繋げていくこと”が狙いである。その一方で、100万人規模のゲノム解析研究を目指す英国などの諸外国と水準をそろえていくこと、ゲノム医療の社会実装には、患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI)や倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)の推進も併せて望まれるため、法令上の措置を含めた具体的な方策が必要とされている。患者-医療者双方のため、遺伝子検査の実績を可視化させよう このプロジェクトを実装していくためには、国民のゲノム医療へのアクセス確保が急務とされることから、同氏は「▽ゲノム医療の標榜診療科の制定、▽ゲノム医療関連人材の育成、▽患者・市民のゲノム医療・研究への参画」の3つを挙げた。たとえば、昨今の診療報酬点数表に収載されている遺伝性疾患数は、約10年前と比較し191疾患と大幅に増加しているにもかかわらず、ゲノム診療科を標榜する施設の開示がなされていない。同氏は「診療実績を可視化させることでその実績が院内でも周知され、診療科間の連携強化につながる。また、現在では診療報酬の請求からDPCへ反映されるため、そうなればNDB(National Database)におけるゲノム医療の利活用促進にもつながる」と強調した。また、日本動脈硬化学会のホームページに掲載されている『家族性高コレステロール血症(FH)の紹介可能な施設等一覧』では、FHに限られるが、遺伝学的検査の実施有無に関して近隣施設を検索することが可能であるため、「患者に外部施設を紹介する際などに参考になる」ことを説明した。  なお、同氏の所属施設である東京医科歯科大学の場合、遺伝子診療科において内科各科、小児科、外科、腫瘍センター、女性診療科、泌尿器科、耳鼻科が連携を取り、“横串”を通す診療各科横断的な遺伝子診療を実施している。遺伝専門医や認定カウンセラー不足、他県や他施設で補い合う ゲノム医療では、リスクなどがわかるように説明する必要があるため、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー(非医師)による説明が欠かせない。ところが、前者は総医師数(医療施設従事者数:約31万人)のわずか0.53%(1,894人、2024年2月時点)、カウンセラーに至っては389人、5県で不在、9県で1人ずつしか在籍していないという。「このような人材不足をカバーするために、他県や関連病院との連携もさることながら、オンライン診療を駆使していく予定」と説明し、「将来的な治療との結びつきのためにも遺伝子解析は必要。循環器領域でいうPCSK9の遺伝子変異解析がそれにあたるが、エクソソーム解析(全ゲノムの5%)自体が砂金を探すようなプロジェクトとも言えるため、遺伝性疾患に対する治療薬の開発、遺伝学的検査の保険収載が進みつつあるなか、標榜診療科の策定や人材育成が必要となるだろう」とまとめた。

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低脂肪食がうつ病リスクに及ぼす影響〜メタ解析

 低脂肪食がうつ病リスクに及ぼす影響を調査するため、イラン・Shahid Sadoughi University of Medical SciencesのSepideh Soltani氏らは、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Nutrition Reviews誌オンライン版2024年6月19日号の報告。 2023年6月7日までに公表されたRCTをPubMed、ISI Web of Science、Scopus、CENTRALデータベースより検索し、低脂肪食(脂肪摂取量がエネルギー摂取量の30%以下)がうつ病スコアに及ぼす影響を調査した試験を特定した。低脂肪食がうつ病リスクに及ぼす影響のプールされた効果(Hedges g)を推定するため、ランダム効果メタ解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・10件のRCT(5万846例)を分析に含めた。・低脂肪食と通常食との比較において、うつ病スコアに有意な違いは認められなかった(Hedges g=−0.11[95%信頼区間[CI]:−0.25〜0.03]、p=0.12、I2=70.7%[95%CI:44〜85])。・タンパク質含有量が摂取カロリーの15〜20%の場合、低脂肪食(5件、Hedges g=−0.21[95%CI:−0.24〜−0.01]、p=0.04、I2=0%)と通常食(3件、Hedges g=−0.28[95%CI:−0.51〜−0.05]、p=0.01、I2=0%)のいずれにおいても、有意な改善が認められた。・感度分析では、ベースラインでうつ病でない患者において、低脂肪食介入後にうつ病スコアの改善が認められた。 著者らは、「メンタルヘルスが良好な参加者を対象とした研究において、低脂肪食はうつ病スコアに対し、わずかに有益である可能性が示唆された。うつ病スコアの改善には、食事中の脂肪量を調整するよりも、タンパク質を十分に摂取したほうがよいと考えられるが、この効果が長期間持続するかは不明である」としている。

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週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位」【最新!DI情報】第19回

週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位」今回は、週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液「インスリン イコデク(遺伝子組換え)(商品名:アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、世界初の週1回投与の基礎インスリン製剤であり、QOLやアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>インスリン療法が適応となる糖尿病の適応で、2024年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人では1週間に1回皮下注射します。初期は通常1回30~140単位とし、患者の状態に応じて適宜増減します。他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、通常1週間あたり30~560単位ですが、必要により上記用量を超えて使用することもあります。<安全性>重大な副作用として、低血糖やアナフィラキシーショック(頻度不明)があります。低血糖は臨床的に回復した場合にも再発することがあるので、継続的な観察が必要です。とくに、本剤は週1回投与の持続性がある薬ですので、回復が遅延する恐れがあります。その他の主な副作用として、糖尿病性網膜症、体重増加(1~5%未満)、注射部位反応、空腹、浮動性めまい、悪心・嘔吐、多汗症、筋痙縮(0.2~1%未満)などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、生理的なインスリンの基礎分泌を補充する目的で使用される自己注射薬です。週1回投与する注射薬ですので、同一曜日に投与してください。2.自己判断で使用を中止したり、量を加減したりせず、医師の指示に従ってください。3.高所での作業や自動車の運転など、危険を伴う作業に従事しているときに低血糖を起こすと事故につながる恐れがありますので、とくに注意してください。4.他のインスリン製剤と併用することがあります。この薬と他のインスリン製剤を取り違えないように、毎回注射する前にラベルなどを確認してください。<ここがポイント!>本剤は、世界で初めてとなる週1回投与の基礎インスリン製剤です。従来のインスリン製剤では、1日1回もしくは2回の皮下注射が必要だったので、投与回数が大幅に減少し、患者さんの負担軽減により、生活の質やアドヒアランスの向上が期待できます。インスリン イコデクは、投与後に強力かつ可逆的にアルブミンと結合し、その後、緩徐にアルブミンから解離することで、血糖降下作用が1週間にわたって持続します。インスリン治療歴のない2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 1試験)において、主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与後52週までの変化量を、本剤とインスリン グラルギンで比較しています。本剤とインスリン グラルギンの変化量はそれぞれ-1.55%および-1.35%(群間差:-0.19[95%信頼区間:-0.36~-0.03]、p<0.001)であり、本剤のインスリン グラルギンに対する非劣性が確認されました(非劣性マージン:0.3%)。同様に、HbA1cのベースラインから投与後26週までの変化量について、基礎インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 2試験:インスリン デグルデクとの比較)、基礎・追加インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 4試験:インスリン グラルギンとの比較)、1型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 6試験:インスリン デグルデクとの比較)において、いずれも既存の持効型インスリン製剤に対する非劣性が証明されています(非劣性マージン:0.3%)。

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脂質低下薬が糖尿病網膜症の進行を抑制する可能性

 脂質低下薬のフェノフィブラートが、糖尿病による目の合併症を抑制することを示唆するデータが報告された。網膜症の進行、それによる治療を要するリスクが、プラセボに比べて27%低下するという。英オックスフォード大学人口保健研究所のDavid Preiss氏らが米国糖尿病学会年次学術集会(ADA2024、6月21~24日、オーランド)で発表するとともに、論文が「NEJM Evidence」に6月21日掲載された。 Preiss氏は、「糖尿病網膜症は依然として視力喪失の主要な原因であり、その進行を抑えるために、広く利用可能なシンプルな戦略を必要としている」と解説。また本研究の結果について、「フェノフィブラートは糖尿病網膜症の患者に対して、有益な追加効果をもたらす可能性があることを示唆している」としている。なお、糖尿病網膜症は、高血糖の持続により眼球の奥の血管がダメージを受けることで発症し、血管から血液成分が漏れ出したりすることによって視野が欠けたり視力が低下して、最終的には失明することもある病気。一方、脂質低下薬であるフェノフィブラートは、糖尿病患者の心血管イベント抑制を主要評価項目として検証した複数の臨床試験で、網膜症を抑制するという副次的な効果を有することが示唆されている。 この研究は、英スコットランドの12歳以上の糖尿病患者を対象に実施されている糖尿病眼スクリーニングプログラムのデータを用いて行われた。眼科的治療を要さない初期の糖尿病網膜症、または黄斑症(網膜の中でも視力にとって特に重要な黄斑に異常が生じる病気)を有する成人糖尿病患者1,151人を無作為に2群に分け、1群をフェノフィブラート群、他の1群をプラセボ群とした。投与量は145mg/日で、腎機能が低下している場合は隔日投与とし、糖尿病網膜症や黄斑症の進行またはそれらの治療(レーザー光凝固、硝子体内注射、硝子体切除術)で構成される複合エンドポイントの発生率を比較した。 中央値4.0年の追跡で、フェノフィブラート群では576人のうち131人(22.7%)、プラセボ群では575人のうち168人(29.2%)にエンドポイントが発生し、前者の方が27%低リスクであることが示された(ハザード比〔HR〕0.73〔95%信頼区間0.58~0.91〕、P=0.006)。評価項目を個別に見ると、網膜症または黄斑症が進行した患者数は、フェノフィブラート群が185人(32.1%)、プラセボ群が231人(40.2%)、治療を要した患者数は同順に17人(3.0%)、28人(4.9%)だった。視力や生活の質(QOL)の群間差は非有意だった。 介入期間中の平均推定糸球体濾過率は、フェノフィブラート群の方がプラセボ群より7.9mL/分/1.73m2(95%信頼区間6.8~9.1)低値だった。重篤な有害事象は、フェノフィブラート群の208人(36.1%)、プラセボ群の204人(35.5%)で発生した。 研究者らは、「フェノフィブラートが健康に及ぼす長期的な影響をより深く理解するため、今後も研究参加者を継続的に追跡する予定」と述べている。

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米国におけるGLP-1RA治療開始後の中止の実態

 米国でGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)による治療を開始した糖尿病または肥満患者のうち、3分の1以上が12カ月でその治療を中止しているという実態が報告された。米エバーノース研究所のDuy Do氏らによる研究の結果であり、詳細は「JAMA Network Open」に5月24日、レターとして掲載された。 この研究は、2021~2023年の医療情報データベース(Komodo Healthcare Map)を用いて行われた。解析対象は、2型糖尿病または肥満治療のために、医療保険(民間保険、メディケア、メディケイド)を利用してGLP-1RA(デュラグルチド、エキセナチド、リラグルチド、セマグルチド)の処方を受けた18歳以上の患者19万5,915人(平均年齢53.8±12.5歳、女性58.9%)。 GLP-1RAの最初の処方日から3、6、12カ月後の処方状況を把握し、各時点から135日以内に再度GLP-1RAが処方されていなかった場合を、GLP-1RAの処方が中止されたケースと定義した。その間、処方が途切れていた期間があったとしても、断続的に続いていた場合は中止に含めなかった。なお、処方間隔が135日以内という設定は、処方期間の長い(90日)処方箋が全体の5.3%とわずかであり、その90日よりもさらに長く追跡することで、使用が中止に至ったことを厳格に判断するために設定された。 解析の結果、GLP-1RAの中止率は、3カ月時点で26.2%、6カ月時点で30.8%、12カ月時点で36.5%と計算された。12カ月時点の中止率を治療目的別に見ると、肥満のみの患者に対するGLP-1RA処方での中止率が高かった。具体的には、2型糖尿病患者での中止率は35.8%、2型糖尿病と肥満の双方を有する患者での中止率は34.2%と、いずれも3分の1強であるのに対して、肥満のみの患者では50.3%と過半数を占めていた。 ロジスティック回帰分析の結果、2型糖尿病のみの患者を基準として、肥満のみの患者の中止のオッズ比(OR)は1.79(95%信頼区間1.74~1.85)、2型糖尿病と肥満を有する患者はOR0.91(同0.89~0.93)となった。性別に関しては、女性より男性で中止のオッズ比が高かった〔OR1.02(1.00~1.04)〕。年齢に関しては、35歳以上に比し18~34歳の若年層でオッズ比が高く、加入保険については民間保険よりメディケアやメディケイドの場合にオッズ比が有意に高かった。 このほかに、消化器症状の出現〔OR1.04(1.02~1.06)〕や薬剤費自己負担額の高さ〔1%高いごとにOR1.02(1.02~1.03)〕も、中止率の高さと有意に関連していた。また、ベースラインで心不全〔OR1.09(1.05~1.14)〕や心血管疾患〔OR1.08(1.05~1.11)〕を有する場合にも、中止のオッズ比が有意に高かった。一方、慢性腎臓病〔OR1.03(0.99~1.06)〕は有意な関連がなかった。 以上に基づき著者らは、「GLP-1RAの中止には、使用目的の差異や人口統計学的因子が関連している」とまとめている。なお、研究の限界点として、肥満者での中止における減量効果の違いや副作用の関与の程度を詳細に検討できていないこと、および新規GLP-1RAであるチルゼパチドの処方ケースが評価されていないことを挙げている。

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7月12日 人間ドックの日【今日は何の日?】

【7月12日 人間ドックの日】〔由来〕1954(昭和29)年7月12日、国立東京第一病院(現:国立国際医療研究センター)で初めて「人間ドック」が行われたことから、「人間ドック」の受診を促すことで病気の早期発見につなげ、国民の健康増進に寄与することを目的に日本人間ドック・予防医療学会が制定。関連コンテンツ英語で「健診で来院しました」は?【1分★医療英語】体重が増えたときの症状チェック【患者説明用スライド】体重が減ったときの症状チェック【患者説明用スライド】少し高い血圧でも脳・心血管疾患のリスクは2倍/横浜市大検診で寿命が延びるがんは?

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尿検体の採り方と取り扱い【とことん極める!腎盂腎炎】第4回

尿検査でどこまで迫れる?【前編】Teaching point腎盂腎炎を疑う場合の尿検体は、排尿しながら途中の尿を採取する(排尿は途中で止めない)《今回の症例》70代女性が昨日からの悪寒戦慄を伴う発熱を主訴に救急外来を受診した。いままでも腎盂腎炎を繰り返している既往がある。また糖尿病のコントロールは不良である。腎盂腎炎を疑い尿定性検査を提出したが、白血球反応は陰性、亜硝酸塩も陰性であった。今回は腎盂腎炎ではないのだろうか…?はじめに尿検査はさまざまな要因による影響を受けるため解釈が難しく、尿検査のみで尿路感染症を診断することはできない。しかし尿検査の限界を知り、原理を深く理解すれば重要な情報を与えてくれる。そこで、あえて尿検査でどこまで診断に迫れるかにこだわってみる。今回は、「尿検体の採取方法と検体の取り扱い」「細菌尿と膿尿の定義や原因」について取り上げ、次回、迅速に細菌尿を検知するための検査の詳細を紹介する。1.尿検体の採取方法と検体の取り扱い読者の皆さんは自身がオーダーした尿検体がどのように採取されているか述べることができるだろうか。尿検査を電子カルテの画面でオーダー、その結果を確認するだけになっていないだろうか。尿検査の奥深さは尿検体の採取方法から始まる。基本的には排尿時の最初の数mLは採取せず、排尿しながら途中の尿(=中間尿)を採取する。排尿は途中で止めない。従来は排尿前に陰部を洗浄、清拭することが推奨されていた。しかし成人女性では清拭を省いた中間尿でも、同等のコンタミネーション率という報告(表1)1)などもあり、検体の質を改善しないため、現在は推奨されていない。画像を拡大する女性は陰部を広げて、男性は包皮を後方にずらし外尿道口に触れないようにして中間尿を採取する。中間尿が取れないときは、カテーテル(導尿)で採取する1)。例外として、クラミジア(Chlamydia trachomatis)や淋菌(Neisseria gonorrhoeae)などによる尿道炎を疑った場合は初尿を採取する。また、慢性細菌性前立腺炎を疑った際には、2杯分尿法(前立腺マッサージ前後の尿検体を採取)、もしくは、4杯分尿法([1]初尿10mLを捨てた後の尿、[2]中間尿、[3]前立腺液(中間尿採取後に前立腺マッサージを行い採取)、[4]マッサージ後10mL捨てた後の尿の4検体を採取)も報告されている2)。膀胱留置カテーテルが入っている場合は、蓄尿バッグにたまっている尿ではなく、検体採取用ポートから注射器で採取する。カテーテルのバイオフィルムに定着している菌と、真の感染の菌を区別するため、原則としてカテーテルをいったん抜去もしくは交換して採尿する。とくに2週間以上留置されており、まだカテーテルが必要な患者では交換後の採尿が推奨されている3)。長期(>30日)留置カテーテルのサンプリングポートから採取した尿とカテーテル再挿入後の尿を比べた研究では、前者では平均2菌種が検出され、多剤耐性菌は63%、後者では平均1菌種が検出され、多剤耐性菌は18%であった4)。また、カテーテルの先端培養は環境に生息する菌が検出されるだけなので提出しない。尿培養を行う検体は2時間以内に微生物検査室に搬送する。できない場合は4℃で24時間まで保存可能である。嫌気性菌は通常原因とならないので、嫌気培養を行う必要はない。2.細菌尿と膿尿尿路感染症は症候に細菌尿を組み合わせて臨床診断を行う。そのため尿培養は尿路感染症の診断において極めて重要な検査であるが尿路感染症と診断するための細菌尿の定義は論文によりさまざまである。尿中の細菌が105CFU/mL以上であることが細菌尿の一般的な定義だが、尿路感染症であっても105CFU/mL を下回ることも少なくない。尿路症状を呈する女性の下部尿路感染の診断において105CFU/mL以上では感度は51%のみであり、102CFU/mL以上とすると感度95%、特異度85%となる5)。米国感染症学会の尿路感染症の抗菌薬治療についてのガイドラインでは、女性の場合、膀胱炎で102CFU/mL以上、腎盂腎炎で104CFU/mL以上を採用している6)。コンタミネーションが少ない無症候性の男性の場合、1回の培養であっても103CFU/mL以上で感染を疑い、105CFU/mL以上で細菌尿と定義している7)。さらに無症候の場合に導尿で提出された検体ではコンタミネーションの機会がより少ないため、男性も女性も102CFU/mLと定義される7)。カテーテル関連尿路感染症の診断基準では、1種類以上の細菌が103CFU/mL以上の検出と定義されている3)。尿路感染症では、基本的に膿尿を伴う。膿尿とはWBC 10/μL(mm3)以上が一般的なコンセンサスとされる。尿中白血球数は、好中球減少患者や尿路の完全閉塞のある患者では低くなり、乏尿/血尿がある場合は高くなる。しかし、尿路感染症ではなくとも膿尿や細菌尿を認めることが、尿路感染症の診断を難しくする原因の1つである。細菌尿と膿尿の有無のそれぞれの組み合わせによる原因をまとめると表28, 9)のようになる。また、培養を用いた定義では細菌が発育するまで尿路感染症の診断ができない。そこで、迅速に細菌尿を検知するための検査として、尿定性検査(試験紙)や尿沈渣、グラム染色などが有用であり、次回詳細を述べる。画像を拡大する1)Carroll KC. Manual of Clinical Microbiology. ASM press. 2019:p.302-3302)Schaeffer AJ、Nicolle LE. N Engl J Med. 2016;374:562-571.3)Hooton TM, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:625-663.4)Shah PS, et al. Am J Health Syst Pharm. 2005;62:74-77.5)Stamm WE, et al. N Engl J Med. 1982;307:463-468.6)Warren JW, et al. Clin Infect Dis. 1999;29:745-758.7)Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis. 2005;40:643-654.8)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.9)LaRocco MT, et al. Clin Microbiol Rev. 2016;29:105-147.

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新型コロナ、感染から完全回復までにかかる期間は?

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の回復期間の評価と、90日以内の回復に関連する要因を特定するため、米国・コロンビア大学Irving Medical CenterのElizabeth C. Oelsner氏らは、米国国立衛生研究所(NIH)に登録された14のコホートを用いて前向きコホート研究を実施した。その結果、感染から回復までにかかった期間の中央値は20日で、90日以内に回復しなかった人が推定22.5%いたことなどが判明した。JAMA Network Open誌2024年6月17日号に掲載。 この前向きコホート研究では、1971年よりNIHが参加者を登録し追跡してきた進行中の14のコホートにおいて、2020年4月1日~2023年2月28日にSARS-CoV-2感染を自己申告した18歳以上の4,708例(平均年齢61.3歳[SD 13.8]、女性62.7%)に対してアンケートを実施した。アンケートでは回復するまでの日数を聞き、90日以内に回復した群と、90日超あるいは未回復である場合は、90日時点で未回復の群に分類した。回復までの期間と関連する潜在的要因は各コホートから事前に選択された。90日以内に回復しない確率および平均回復時間は、Kaplan-Meier曲線を用いて推定され、90日以内の回復と多変量調整後の関連性をCox比例ハザード回帰分析にて評価した。 主な結果は以下のとおり。・全4,708例中3,656例(77.6%)が完全に回復し、回復までの期間の中央値は20日(四分位範囲[IQR]:8~75)だった。・回復までの期間の中央値は、第1波(野生株)では28日だが、次第に短縮し、第6波(オミクロン株)におけるワクチン未接種者では18日、ワクチン接種者では15日であった。・参加者の22.5%(95%信頼区間[CI]:21.2~23.7)が90日以内に回復しなかった。オミクロン株以前は23.3%(22.0~24.6)、オミクロン株以降は16.8%(13.3~20.2)であった。・制限平均回復時間は35.4日(95%CI:34.4~36.4)だった。・重篤な入院での平均回復時間は57.6日(95%CI:51.9~63.3)であり、外来受診の場合は32.9日(31.9~33.9)だった。・90日以内に回復する確率は、感染前にワクチン接種済のほうが未接種よりも高かった(ハザード比[HR]:1.30、95%CI:1.11~1.51)。・90日以内に回復する確率は、第6波(オミクロン株)のほうが第1波(野生株)よりも高かった(HR:1.25、95%CI:1.06~1.49)。・90日以内に回復する確率は、女性のほうが男性よりも低かった(HR:0.85、95%CI:0.79~0.92)。・90日以内に回復する確率は、パンデミック前に臨床心血管疾患(CVD)を有する人のほうが、CVDがない人よりも低かった(HR:0.84、95%CI:0.71~0.99)。・肥満、低体重、COPDは、有意ではないものの回復率が低かった。年齢、教育水準、パンデミック前の喫煙、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、喘息、抑うつ症状との関連は認められなかった。 本結果により、SARS-CoV-2に感染した成人の5人に1人が、感染から3ヵ月以内に完全に回復しなかったことが判明した。とくに、女性とCVDを有する人では、90日以内に回復する確率は低かった。著者らは本結果について、ワクチン接種による急性感染の重症度を軽減するための介入が、持続症状のリスクを軽減するのに役立つ可能性があるとまとめている。

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高リスク高血圧患者の降圧目標、140mmHg未満vs.120mmHg未満/Lancet

 心血管リスクの高い高血圧患者では、糖尿病や脳卒中の既往によらず、収縮期血圧(SBP)の目標を120mmHg未満とする厳格降圧治療は、140mmHg未満とする標準降圧治療と比較して、主要心血管イベントのリスクが低下したことが示された。中国・Fuwai HospitalのJiamin Liu氏らESPRIT Collaborative Groupが無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Effects of Intensive Systolic Blood Pressure Lowering Treatment in Reducing Risk of Vascular Events trial:ESPRIT試験」の結果を報告した。SBPを120mmHg未満に低下させることが140mmHg未満に低下させることより優れているかどうかは、とくに糖尿病患者や脳卒中の既往患者でははっきりしていなかった。Lancet誌オンライン版2024年6月27日号掲載の報告。主要アウトカムは、心筋梗塞、血行再建術、心不全入院、脳卒中、心血管疾患死の複合 研究グループは、中国の病院または地域医療機関116施設において、50歳以上の心血管高リスク患者(心血管疾患既往、または主要な心血管リスク因子を2つ以上有し、SBPが130~180mmHg)を、診察室SBPが120mmHg未満を目標とする厳格降圧治療群、または140mmHg未満を目標とする標準降圧治療群に、最小化法を用いて無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、主要心血管イベント(心筋梗塞、血行再建術、心不全による入院、脳卒中、心血管疾患死の複合)で、ITT解析を実施した。 2019年9月17日~2020年7月13日に、1万1,255例(糖尿病患者4,359例、脳卒中既往3,022例)が厳格降圧治療群(5,624例)または標準降圧治療群(5,631例)に割り付けられた。平均年齢は64.6歳(SD 7.1)であった。主要イベントの発生率は9.7% vs.11.1% 追跡期間中の平均SBP(最初の用量漸増期間3ヵ月を除く)は、厳格降圧治療群119.1mmHg(SD 11.1)、標準降圧治療群134.8mmHg(SD 10.5)であった。 追跡期間中央値3.4年において、主要心血管イベントは厳格降圧治療群で547例(9.7%)、標準降圧治療群で623例(11.1%)に認められた(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.78~0.99、p=0.028)。糖尿病の有無、糖尿病の罹病期間、あるいは脳卒中の既往歴による有効性の異質性は認められなかった。 重篤な有害事象の発現率は、失神については厳格降圧治療群0.4%(24/5,624例)、標準降圧治療群0.1%(8/5,631例)であり、厳格降圧治療群で高率であったが(HR:3.00、95%CI:1.35~6.68)、低血圧、電解質異常、転倒による傷害、急性腎障害については両群間で有意差は認められなかった。

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網膜症は認知症リスクと関連

 福岡県久山町の地域住民を対象とする久山町研究の結果が新たに発表され、網膜症のある人は、網膜症のない人と比べて認知症の発症リスクが高いことが明らかとなった。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治氏らと同大学眼科分野の園田康平氏らの共同研究グループによる研究成果であり、「Scientific Reports」に5月26日掲載された。 網膜症は糖尿病や高血圧などの特定の原因に限らず、網膜の微小血管瘤、微小血管の出血、滲出などと関連しており、眼底検査で確認することができる。また、網膜と脳は、解剖学や発生学などの観点から類似している。これまでの研究で、網膜の微小血管異常と認知症との関連が示唆されているものの、追跡調査の成績を用いて縦断的にそれらの関係を検討した研究は限られ、その結果は一貫していなかった。 そこで著者らは、網膜症と認知症の発症リスクとの関連を調べるために、2007-2008年に久山町の生活習慣病健診を受診した60歳以上の地域住民のうち、認知症がなく、眼底検査のデータが得られた1,709人を対象として認知症の発症の有無を前向きに追跡した(追跡期間:中央値10.2年、四分位範囲9.3~10.4年)。網膜症の有無は、眼底写真を用いて複数の眼科専門医が診断した。認知症の発症リスクの算出にはCox比例ハザードモデルを用い、多変量解析により年齢と性別の影響や臨床背景の違いを統計学的に調整した。 その結果、追跡開始時に網膜症のあった人は174人(平均年齢71.8±7.5歳、男性47.7%)、網膜症のなかった人は1,535人(同71.3±7.6歳、42.9%)であった。網膜症のある人はない人と比べ、BMIが高く、血圧が高く、糖尿病の人が多く、脳卒中の既往のある人の割合が高かった一方、総コレステロール値は低いなどの特徴があった。 10年間の追跡期間中に374人(男性136人、女性238人)が認知症を発症した。認知症の累積発症率は、網膜症のある人の方が網膜症のない人と比べて有意に高かった。網膜症のある人では、ない人に比べ認知症の発症リスク(年齢調整後)は1.56倍(95%信頼区間1.15~2.11)有意に高いことが明らかとなった。さらに、影響を及ぼし得る他の臨床背景(教育レベル、収縮期血圧、降圧薬の使用、糖尿病、総コレステロール値、BMI、脳卒中の既往、喫煙、飲酒、運動習慣)の違いを多変量解析にて調整しても、同様の結果が得られた(発症リスク1.64倍〔95%信頼区間1.19~2.25〕)。 また、高血圧と糖尿病は網膜症のリスク因子であることから、高血圧または糖尿病の有無で分けて検討した。網膜症に高血圧または糖尿病を合併した人では、網膜症がなく高血圧も糖尿病もない人に比べ、認知症の発症リスク(多変量調整後)は1.72倍(95%信頼区間1.18~2.51)有意に高かった。さらに、網膜症があるが高血圧も糖尿病もない人の認知症の発症リスクも2.44倍(同1.17~5.09)有意に高いことが明らかとなった。 著者らは、今回の研究の結論として、「日本人の一般高齢者集団の前向き縦断的データを解析した結果、網膜症は、認知症の発症と有意に関連していた」としている。また、「眼底検査により網膜の微小血管の徴候を非侵襲的かつ簡便に可視化することができ、高リスク者の同定に有用であることが示唆された」と述べている。

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