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お腹や腕の脂肪は神経変性疾患リスクと関連

 お腹や腕の周りの脂肪が増えたという人は、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の発症リスクが高い可能性のあることが、四川大学(中国)のHuan Song氏らによる研究で示唆された。一方で、筋力が強い人では筋力が弱い人と比べて神経変性疾患のリスクが低い可能性のあることも示された。この研究結果は、「Neurology」に7月24日掲載された。 Song氏らは今回、UKバイオバンクの参加者41万2,691人(登録時の平均年齢56.0歳、女性55.1%)の健康上および身体上の特徴を平均で9.1年追跡したデータを分析した。参加者は研究登録時に、ウエストやヒップのほか、握力や骨密度、脂肪量、除脂肪体重などの測定を受けていた。 追跡期間中に8,224人がアルツハイマー病やその他のタイプの認知症、パーキンソン病などの神経変性疾患を発症していた。高血圧や喫煙、飲酒、糖尿病など脳に影響を与える可能性のある健康上のリスク因子を調整して分析した結果、お腹周りの脂肪量が多い(中心性肥満)人では、脂肪量が少ない人と比べて神経変性疾患のリスクが13%高いことが示された。また、腕周りの脂肪量が多い人も、脂肪量が少ない人と比べてリスクが18%高いことが判明した。その一方で、筋力が強い人では筋力が弱い人と比べてこれらの神経変性疾患のリスクが26%低いことが示された。 Song氏は、「この研究は、体組成を改善することで、これらの疾患の発症リスクを抑制できる可能性があることを浮き彫りにした」と話す。また同氏は、「健康的な筋肉を育てながらお腹や腕の周りの脂肪を減らすことにターゲットを絞った介入は、一般的な体重コントロールよりもこれらの疾患に対する予防効果が高いかもしれない」と付け加えている。 さらに媒介分析からは、腕や腹部の脂肪量が多いことと神経変性疾患との関連には、脳に有害な影響を与え得る心疾患や脳卒中のような心血管疾患が部分的に関与している可能性も示されたという。この点についてSong氏は、「アルツハイマー病やパーキンソン病、そのほかの神経変性疾患の発症を予防したり、発症を遅らせたりするには、こうした心血管疾患の管理が重要であることを明確に示したものだ」と「Neurology」の発行元である米国神経学会(AAN)のニュースリリースの中で指摘している。

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MASLD患者の飲酒は肝線維化リスクが高い

 過体重、糖尿病、脂質異常症などの代謝異常とアルコール摂取はどちらも脂肪性肝疾患(steatotic liver disease:SLD)の原因となるが、肝線維化に対するそれらの影響は不明である。今回、スペイン・バレンシア大学のINCLIVA Health Research Instituteに所属するDavid Marti-Aguado氏らは、代謝異常関連脂肪性肝疾患*(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease:MASLD)患者においてアルコール摂取量が中程度の場合、代謝リスク因子との相加効果を超え、肝線維化進展リスクが指数関数的に増加したことを示唆し、MASLD and increased alcohol intake(MetALD)患者と同程度に病気の進行リスクが高まることを明らかにした。Journal of Hepatology誌オンライン版2024年7月4日号掲載の報告。*日本語名は仮の名称。現在、日本消化器病学会、日本肝臓学会で検討されている。 研究者らは、アルコール摂取量がSLDの重症度に与える影響と代謝疾患との関連性を評価するため、スペイン(導出コホート)および米国(検証コホート)で登録された集団のうち肝臓検査装置フィブロスキャンでMASLDと診断された患者のエラストグラフィデータを用いて研究を行った。SLDは超音波減衰量(Controlled Attenuation Parameter:CAP)を測定してCAP≧275dB/mと定義。また、心代謝系リスク因子が1つ以上ある患者をMASLDと定義し、MASLD患者のうち、アルコール低摂取群は平均5~9杯/週、中等度摂取群は女性が10~13杯/週、男性が10~20杯/週、高摂取群(MetALD)は女性が14~35杯/週、男性が21~42杯/週とした。肝線維化は肝硬度測定(Liver Stiffness Measurement:LSM)でLSM≧8kPaとし、肝線維化進展リスクを有するmetabolic dysfunction-associated steatohepatitis(MASH)はFASTスコア≥0.35**と定義した。**肝線維化進展NASH患者の可能性を予測するスコア1) 主な結果は以下のとおり。・導出コホートにはMASLD患者2,227例(低摂取群:9%、中程摂取群:14%)とMetALD患者 76例が含まれた。・全体的な有病率として、肝線維化は7.6%、肝線維化進展リスクを有するMASHは14.8%であった。・多変量解析によると、アルコール摂取量は肝線維化および肝線維化進展リスクを有するMASHと独立して関連していた。・肝線維化および肝線維化進展リスクを有するMASHの有病率は、1週間の飲酒量と心代謝リスク因子の数で用量依存的に増加した。・検証コホートにはMASLD患者1,732例が含まれ、そのうち肝線維化があった患者は17%、肝線維化進展リスクを有したMASH患者は13%だった。・検証コホートでは、アルコールの中等度摂取と肝線維化進展リスクを有するMASLDとの関連が検証され、オッズ比は1.69(95%信頼区間:1.06~2.71)であった。 研究者らは「代謝異常があるMASLD患者の場合、毎日のアルコール摂取量に安全な範囲はない」とも結論付けている。 なお、昨年に欧州肝臓学会で発表され、国内でも病名や診断基準の検討が進められている(1)MASLD、(2)MetALD、(3)alcoholic liver disease[ALD]、(4)cryptogenic SLD、(5)specific aetiology SLDは、アルコール摂取量、代謝異常などに基づき区分されている。

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若年者の砂糖入り飲料摂取、世界的な動向は?/BMJ

 世界185ヵ国の小児・思春期児(3~19歳)における砂糖入り飲料(sugar sweetened beverage、SSB)の摂取量は、1990~2018年の間に23%増加しており、このことと同年齢層における世界的な肥満症有病率の上昇が対応していることを、米国・タフツ大学のLaura Lara-Castor氏らがGlobal Dietary Databaseを用いた検討で明らかにした。また、世界の小児・思春期児のSSB摂取量は、年齢や親の教育レベル、都市居住か否かによりばらつきがみられたという。BMJ誌2024年8月7日号掲載の報告。1990~2018年の185ヵ国の小児と思春期児について分析 研究グループはGlobal Dietary Databaseを用いた連続横断分析で、世界の小児・思春期児におけるSSB摂取量と経時的な傾向を定量化した。1990~2018年の185ヵ国の3~19歳を、年齢、性別、親の教育レベル、および地方または都市居住によって地域レベルで層別化し分析した。世界の若者人口の10.4%が7サービング/週以上を摂取 2018年において、世界の平均SSB摂取量は3.6(95%不確定区間:3.3~4.0)サービング/週であり(標準化サービング=248g[8オンス])、地域別にみると、南アジアの1.3(1.0~1.9)サービング/週から中南米・カリブ海地域の9.1(8.3~10.1)まで大きくばらついていた。 SSB摂取量は、年少児よりは年長児で、地方居住者よりは都市居住者で、両親の教育レベルは低レベル群よりは高レベル群で高かった。 1990~2018年に、世界の平均SSB摂取量は0.68サービング/週(22.9%)増加していた。最も増加していたのはサハラ以南のアフリカ諸国で2.17サービング/週(106%)であった。 解析に含んだ185ヵ国のうち、56ヵ国(30.3%)の平均SSB摂取量は≧7サービング/週であった。これら摂取群には小児・思春期児2億3,800万人、世界の若者人口の10.4%が含まれる。 結果を踏まえて著者は、「本研究は、とくに中南米とカリブ海地域の都市および地方居住で、教育レベルを問わずSSB摂取量が多い若者へのSSB摂取量を減らすための政策や、サハラ以南のアフリカ諸国において拡大しているSSBの問題に役立つだろう」とまとめている。

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就寝前の運動も睡眠の妨げにならない?

 就寝前の運動が、必ずしも睡眠を妨げるわけではないとする研究結果が報告された。短時間のレジスタンス運動で睡眠時間が長くなり、睡眠中の目覚め(中途覚醒)を増やすこともないという。オタゴ大学(ニュージーランド)のJennifer Gale氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」に7月16日掲載された。 従来、激しい運動は体温や心拍数を上昇させて睡眠を妨げる可能性があるため、就寝時間が近づいてきたら運動を控えた方が良いと言われることが多かった。しかし本研究の結果、短時間のレジスタンス運動を行うことで、ソファでゆっくりするよりも睡眠が改善される可能性のあることが分かった。 短時間のレジスタンス運動とは、立った状態で片足の膝を上げたり、つま先立ちをしたり、椅子を使ってスクワットをしたり、股関節を延ばしたりといったことで、これらをそれぞれ3分間、就寝前の4時間の間に30分間隔で行うと、睡眠時間がほぼ30分長くなるという。論文の筆頭著者であるGale氏は、「睡眠に関するこれまでの推奨事項とは反対に、夜間の運動は睡眠の質を損なわないことを示すエビデンスが増えてきているが、われわれの研究結果もそれを支持する新たなエビデンスである」と述べている。 この研究では、18~40歳で日中に通常5時間以上、夕方以降に2時間以上を座位で過ごすという生活を送っている28人に対して、二つの異なる条件で睡眠の時間や質を比較した。一つ目の条件では就寝前の4時間、ソファに座って過ごしてもらい、二つ目の条件では前述のような3分間の簡単なレジスタンス運動を30分間隔で行ってもらった。これら二つの試験は、6日以上の間をおいて実施された。 その結果、レジスタンス運動を行う条件の方が、睡眠時間が平均28分長くなっていた。また、中途覚醒の回数や睡眠効率(就床時間に占める睡眠時間の割合)は、条件間で差がなかった。著者らは、「長時間の座位行動中に、周期的に短時間の身体活動を差し挟むことは、複数のメカニズムを通じて心臓代謝関連の健康を改善する可能性のある有望な方法である」と、ジャーナル発のニュースリリースで述べている。また、このような短時間のレジスタンス運動は、代謝を適度に高めて血糖値を下げることで、睡眠を改善する可能性があるとの推測も付け加えている。 著者らによると、「成人は座位で過ごす時間が長くなりやすく、かつ、1日の摂取エネルギー量のほぼ半分を夕方に摂取する。糖尿病でない人の場合、この時間帯にインスリン感受性が低下する傾向があることも、これらの生活パターンの負の影響を強めてしまう」という。一方で著者らは、本研究に用いられた筋力トレーニングは「器具が不要で簡単に行え、テレビを見ながらでも実践可能であり、多くの人々の就寝前の習慣として簡単に取り入れられるのではないか」と、この方法の長所を挙げている。

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第224回 トップダウンで醸成された小林製薬の企業体質、記者控室でも明らかに

紅麹サプリによる健康被害が発覚した3月末以来、一度も記者会見を開催していなかった小林製薬。8月8日、同社の2024年第2四半期決算会見に併せ、この問題に関する会見が開かれた。実に4ヵ月ぶりである。この間、対外的に会見が不必要な状況だったとは到底思えない。6月末には同社の紅麹サプリ関連で死亡の疑いがある消費者が3月末時点の5人から一気に76人にのぼることが明らかになったほか、7月末には今回の件を巡る弁護士による第三者委員会「事実検証委員会」の報告書公表と創業家出身の代表取締役会長・小林 一雅氏の退任、代表取締役社長・小林 章浩氏の取締役補償担当への降格、専務取締役サステナビリティ経営本部長・山根 聡氏の代表取締役社長への昇格というトップ人事もあったからだ。ただ、同社は毎年第2四半期(以下、上半期)決算については、8月上旬に発表と同時に会見を行っており、どんなに遅くともこのタイミングで会見を行うことは必至と考えられた。例年と異なり会見なしで済ませれば、“敵前逃亡”のそしりは免れないからだ。7月の段階で同社の上半期決算発表は8月8日に決定していた。私は7月26日に同社広報・IR部に連絡を入れた。この辺は記者クラブ所属ではない私の弱みでもある。担当者によると会見開催は決まっているものの、日時・場所は未定という。再度私から連絡する旨を伝えてこの時は電話を切った。同時に記者クラブ所属メディアの知人記者には会見のお知らせが届いた場合に連絡をお願いしていたものの、8月5日時点でも知人記者らから情報は入ってこない。意を決して同社に再び連絡したところ、まだ決まっていなかった。上半期決算発表は3日後である。この間、記者会見を開いていない以上、その場でこれまでの紅麹サプリ問題に関して記者から追及されることは目に見えていた。時々、不祥事などを起こした企業の決算会見で「質問はあくまで決算内容(いわば数字)に限らせていただく」と宣言することもあるが、これは筋違いも甚だしい。企業の業績はそのサービスや製品だけでなく、企業そのものの立ち居振る舞いも反映された結果であり、決算会見とは数字も含め社業についてあらゆることを質問できる場であるのが当然である。直前まで日時・場所が決まっていない現実を肯定的に受け止めるならば、同社は紅麹サプリ事件について答える用意がある、それゆえ会見の規模・時間を直前まで慎重に考えて日時設定をするつもりだったと解釈できる。逆に否定的に受け止めるならば、直前になってもまだ迷いがあるとなる。根は真面目、だがちょっとずれている翌6日午前11時過ぎ、知人記者たちから一斉に同社会見の日時・場所について連絡がきた。念のため広報・IR部に連絡、メールアドレスを伝えると直後に案内が届いた。案内文には「本説明会においては、当社の決算発表および紅麹関連製品の事案に関わる説明と質疑を予定しております」と太字・下線付きで明記されていた。私個人の雑感を言うと、この企業は基本的に真面目である。以前の本連載でも触れたが、「悪意なき危機感の欠如」がこの会社の特徴と私は捉えている。真面目であり、何もしていないわけではないのだが、取り組みの的が若干外れている。例えて言うならば、学生時代に周囲に1人はいた「勉強しているのに成績は中の下の同級生」のような感じだ。そしてこの“的の外れ”具合は実は会見当日、会見開始前に発生していた。私は会見に備えて前日に関西入りし、当日は会見開始2時間前に会場に到着した。2時間前に行ったのは、相当数の参加者が来場すると予想していたからである。現に前回3月末の会見時は受付開始1時間前でも会場のビル1階ではメディア各社が行列をなしていた。会場に到着すると、すでに1番乗りしていた大手メディアの記者と広報・IR部の担当者が何やらやり取りしていた。私は2番手である。担当者からは用意している控室で待機して欲しいと案内され、到着順に着席した。他方でテレビクルーは別途整理券を発行して対応すると説明を受けていた。この辺はメディア業界と縁遠い人にはわかりにくいかもしれないが、テレビカメラが入る記者会見では、テレビカメラ設置エリアが設けられ、そこの中で各社がベストポジションを巡って争奪戦を繰り広げる。時にこれで会場が混乱することもあるくらいだ。このためセッティングに時間を要するテレビカメラクルーを最初に、その後に記者が先着順で会場に案内されることが少なくない。小林製薬の広報・IR部の対応はある意味、教科書通りだ。ところが、控室に入ってくる記者・テレビクルーが徐々にあちこちへ雑然と座り始めた。明らかにカオスになりかけていたので、広報・IRの担当者に状況を伝え、正しく並んで座ってもらうよう呼び掛けをお願いした。担当者はすぐに了承し、室内に呼びかけてくれ、直後に控室に案内された記者も順番に壁際の椅子に腰を下ろした。ところが十数分も経つとなし崩しになった。私は再び担当者に状況を伝え、案内を徹底してくれるようお願いした。その担当者の退室直後、私の次に着席していた関西地元メディアの記者が「もう、この会社いつもこんな感じですよ。問い合わせをしても禅問答状態で…」と話しかけてきた。私も苦笑するしかなかった。しかし、間もなくテレビクルーと合流するテレビ記者も到着し始め、整理券保持するクルーと合流して順番を意識することなく座りだした。私が恐れていたのはこれだ。テレビクルーを先に案内するのは、カメラ・音声といったテレビ映像配信のための準備に時間がかかるためで、同じテレビでも記者は別だ。時にはこの手法を無意識に“悪用”して、クルーとともに先に会場入りして自分の席取りをしてしまうテレビ記者もいる。あるいは先にセッティングのために会場入りしたクルーが記者のための席取りをしてしまう。これでは早い時間から入場待ちしているペン記者にとっては不公平となる。実はこうした現象は時々あり、3月末の小林製薬の会見でも起きていた。私は仕方なく座っていた席に荷物を置いて廊下に出て、担当者に上記のような事情を話して善処を依頼した。担当者は了承し、その後控室まで来て受付にテレビクルーが自社の記者の席取りをしないようクルーの入場の際に伝えると説明してくれた。少し安心はしたものの、依然、控室では指示通り順番に座らない状態が横行していたので、この件についても再度お願いをした。この担当者が退室後、件の隣席に座る記者が「本当にもう…」と呟いた。受付開始15分前になっても状況は変わらなかった。仏ではない自分はもはや限界だった。私は廊下に出て担当者を呼び止めて言った。「もう一度、控室内で並び方について説明してください」担当者は「はい、はい」と言うものの、固まったままだ。「ですから、テレビ記者でクルーと一緒に座って記者席に先着順に座っていない方々がいらっしゃるんです」担当者は相変わらず「はい、はい」と固まっている。後から考えれば、やや大人げなかったが、ここで私は声を荒げた。「だから、すぐ入って案内し直してください。こんなことだから、あんな事件起こすんですよ!」ここで担当者はようやく控室内に駆け込んで再度案内を始めた。後述するように、声を荒げたことはこの担当者に謝ったが、私は「あんな事件…」は今も言い過ぎたとは思っていない。同族企業やトップダウンの色彩の強い企業では、末端の社員は上から下ってきた指示の忠実な執行には長けている反面、その場の状況に合わせて現場で意思決定や提案することは不得手なことが多い。これは前述の「悪意のない危機感の欠如」とも共通する。現場で意思決定が難しいものは現場サイドに危機感がなければ半ば放置されてしまう。その結果、不祥事につながった事例はこの件に限らず自分は目にしてきている。他者を慮る想像力が弱かったさて会見開始1時間前に受付が始まり、自分なりのベストポジションである最前列の会見者雛壇目前の席を確保した。この席をベストポジションと考えるのは、司会者が質問のための挙手を無視しにくいからだ。自分の場合、自腹を切って大阪まで飛んで行って、2時間前から受付待ちをしているのに、質疑で指名を受けられなかったら半ば意味がなかったと同じなのである。そしてこのポジション確保後、廊下にいた件の担当者のところにいって名刺を差し出して挨拶し、先ほど声を荒げたことを詫びるとともに前述の背景事情も説明した。さらにこの間の案内に尽力していた別の担当者にも同様に挨拶し、会見の流れを事前確認した。それによると、記者1人につき質問は2問まで、予定時間の2時間から十数分は延長できるかもしれないこと、さらに指名されるかどうかは別にして質問後に再度の挙手は構わないとのことだった。自席に戻ると、会見の資料が配布された。その内容は紅麹事業からの撤退に関するもの、特別損失計上に関するもの、剰余金配当(中間配当)のお知らせ、サプリ摂取者の保障関連、上半期決算の補足資料の5点。これらの中身まで一通り目を通し終わった直後、ちょうど会見開始となった。出席者は新社長の山根氏、前社長の小林氏、佐藤 圭氏(執行役員・保障対応本部 本部長)、中川 由美氏(執行役員・CFOユニット ユニット長)、3月末の会見でも登壇した山下 健司氏(執行役員・製造本部 本部長)、梶田 恵介氏(ヘルスケア事業部食品カテゴリー カテゴリー長)に加え、渡邊 純氏(執行役員・信頼性保証本部 本部長)はオンライン参加した。冒頭、山根社長が口を開き、被害者や関係者への謝罪の言葉を述べた後、次のように語った(一部抜粋)。「最初の症例を受けたのが1月。それから2ヵ月、なぜ公表できなかったのか。今から思えば、経営陣以下、原因究明に傾注してしまい、目の前で起こっている事態が、誰にどういう結果をもたらすのか、その想像力を働かすことが弱かった。それが真の原因ではないかというふうに思います。健康に貢献することを存在意義としている小林製薬において、他者を慮る想像力、これが事業の出発点であります。これを見失っていた、弱くしてしまっていた。この現実に直面した今、当社の歴史においても最大の難局にあるというふうに私は思います。(中略)当社がこれから経営を続けていく上での考え方、これは根本から入れ替えなければならないと思います。1人1人が1つ1つの仕事を我が事として、他者を慮る想像力を発揮する。その当たり前を1人1人の心に根付かせなければならない、こういうふうに思います」こうして2時間16分に及ぶ会見が始まった。

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AI搭載超音波デバイス、妊娠週数を正確に推定/JAMA

 超音波検査の訓練を受けていない初心者でも、AI搭載超音波デバイスを用いた低コストのポイント・オブ・ケア検査なら、認定超音波検査技師が高性能機器を用いて行う標準的な測定と同等の精度で、妊娠14~27週の妊娠週数(GA)が推定できることを、米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のJeffrey S. A. Stringer氏らが前向き診断精度研究の結果で報告した。GAの正確な評価は適切な妊娠ケアに不可欠であるが、多くは超音波検査が必要であり、医療資源の少ない環境では利用できない場合があった。JAMA誌オンライン版2024年8月1日号掲載の報告。初心者によるAI搭載超音波デバイスと、認定技師による高性能機器でのGA推定を比較 研究グループは、2022年7月27日~2023年4月10日に、ザンビアのルサカおよびノースカロライナのチャペルヒルにおいて、健康で単胎妊娠の異常のない妊娠初期女性400例を登録し、有資格の超音波検査技師が経膣頭殿長測定によりGAの「基準値」を確定した。 参加者には、妊娠14週0日~27週6日の主要評価期間を含む観察期間中に、無作為に割り当てられた時期に受診してもらい、初心者がAI搭載超音波デバイスを用いて母体の腹部を盲目的にスキャンするとともに(試験検査)、資格のある超音波検査技師が高性能機器を使用して胎児の測定を実施した(標準検査)。 主要アウトカムは、試験検査と標準検査の平均絶対誤差(MAE)とした。各検査の推定値を事前に確定されたGAと比較して算出し、その差が事前に規定した±2日のマージン内に収まる場合は同等とみなした。MAEの差は0.2日であり、精度は同等 主要評価期間(妊娠14~27週)において、MAE(SE)はAI搭載超音波デバイス3.2(0.1)日、標準検査3.0(0.1)日、群間差0.2日(95%信頼区間:-0.1~0.5)であり、事前に規定された同等性の基準を満たした。また、GAの「基準値」との差が7日以内の割合は、AI搭載超音波デバイス90.7%、標準検査92.5%であり、同等であった。 結果は、ザンビアとノースカロライナのコホート、高BMIグループなど、サブグループで一貫していた。 なお、本研究は一般的な妊婦集団を対象としており、高血圧、糖尿病、高度肥満などのハイリスク妊婦におけるAI搭載超音波デバイスの性能評価を目的としていないこと、2ヵ国3施設で実施したものでありより多くの地理的場所を含めることで一般化の可能性が改善される可能性があること、胎児の異常が判明した参加者は除外されていること、などを研究の限界として挙げたうえで、「今回の結果は、医療資源の少ない環境での産科ケアに直接的な影響を及ぼすものであり、すべての妊婦のGAを超音波検査で推定するという世界保健機関の目標の達成を前進させるものである」とまとめた。

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糖尿病の第6の合併症は歯周病(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者医師患者医師今、歯科にかかっています。それはいいですね。いつまでも食事を楽しむには、お口の健康が大切ですからね。それに…。それに?「歯周病」は神経障害・網膜症・腎症の3大合併症、心疾患や脳卒中などの動脈硬化性疾患に次いで6番目の合併症と言われています。糖尿病の人は歯周病に2倍以上なりやすいというデータもあります。患者 糖尿病の6番目の合併症!医師 そうなんです。糖尿病になると歯周病になりやすくなり、歯周病が原因で歯を失うと硬いものが食べられなくなってバランスの悪い食事になります。それに食感が変わっておいしく食べられないし、表情が変わったり、喋りにくくなる人もいますからね。画 いわみせいじ患者 確かに、野菜とかは食べにくくなりますね。医師 逆に、お口のケアを上手にすると血糖コントロールもよくなるそうです。患者 えっ、そうなんですか。それなら、きっちりと歯の治療をしておかないといけませんね。医師 よろしくお願いしますね。ポイント高血糖だと歯周病が進行し、歯周病になると血糖コントロールが悪くなる負の連鎖があることをわかりやすく説明します。Rをカ行(関連性、危険性、効果、懸念、繰り返し)で覚えておくと便利です。Copyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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臓器不全の重篤患者、ICU治療にSGLT2阻害薬追加は有益か?/JAMA

 急性臓器不全を呈した重篤患者に対し、標準的なICU治療にSGLT-2阻害薬ダパグリフロジンを追加しても臨床アウトカムは改善しなかった。一方で、信頼区間(CI)値の範囲が広く、ダパグリフロジンに関連する有益性または有害性を排除できなかったという。ブラジル・Hospital Israelita Albert EinsteinのCaio A. M. Tavares氏らDEFENDER Investigatorsが多施設共同無作為化非盲検試験「DEFENDER試験」の結果を報告した。SGLT-2阻害薬は、糖尿病、心不全、慢性腎臓病(CKD)を有する患者のアウトカムを改善するが、臓器不全を呈した重篤患者のアウトカムへの効果は不明であった。JAMA誌2024年8月6日号掲載の報告。ダパグリフロジン10mg+標準ICU治療vs.標準ICU治療のみ DEFENDER試験は、ブラジルの22ヵ所のICUで行われた。2022年11月22日~2023年8月30日に、少なくとも1つ以上の臓器不全(呼吸器、心血管、腎臓)を呈した予定外のICU入室患者を登録し、2023年9月27日まで追跡調査した。 被験者は、ダパグリフロジン10mg+標準ICU治療を受ける群(ダパグリフロジン群)または標準ICU治療のみを受ける群(対照群)に無作為化され、最長14日間またはICU退室のいずれかの初発まで治療を受けた。 主要アウトカムは院内死亡率、腎代替療法の開始、および28日間のICU入室の階層的複合で、解析にはWin Ratio法(win比で評価)を用いた。 副次アウトカムは、主要アウトカムの各項目、臓器サポートを要さない日数、ICU入室期間、入院期間などで、ベイズ回帰モデルを用いて評価した。主要複合アウトカム、ダパグリフロジン群で有意に減少せず 507例が無作為化された(ダパグリフロジン群248例、対照群259例)。平均年齢は63.9歳(SD 15)、女性は46.9%。39.6%は感染症の疑いによるICU入室であった。ICU入室から無作為化までの期間中央値は1日(四分位範囲:0~1)。 最長14日間のダパグリフロジン10mgの使用は、主要複合アウトカムの発生を有意に減少しなかった。無作為化後28日間のダパグリフロジン群のwin比は1.01(95%CI:0.90~1.13、p=0.89)であった。 すべての副次アウトカムにおいて、ダパグリフロジンの有益性の確率が最も高かったのは、腎代替療法の使用に関するものであった。腎代替療法導入の報告は、ダパグリフロジン群27例(10.9%)、対照群39例(15.1%)であった(ダパグリフロジンの有益性の確率0.90)。

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1型糖尿病の子どもたちは「糖尿病の苦痛」にさらされている

 1型糖尿病の子どもは、いくつかのメンタルヘルス上の問題を抱えることが多いとする研究結果が報告された。英ケンブリッジ大学およびチェコ共和国国立精神保健研究所のTomas Formanek氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Mental Health」に7月17日掲載された。 報告された研究によると、1型糖尿病の子どもは糖尿病のない子どもに比べて、気分障害を発症する可能性が2倍以上高く、不安症に苦しむ可能性は50%高く、また摂食障害や睡眠障害などの行動上の問題が発生する可能性は4倍以上高いという。ただし、この研究結果は同時に、このようなメンタルヘルス疾患が、1型糖尿病という病態が原因で引き起こされるものではないことも示唆しており、「子どもたちが抱えるこのようなリスクは、むしろ慢性疾患を継続的に管理し続けることに伴う『糖尿病の苦痛』が原因のようだ」と、著者らは述べている。 1型糖尿病は、インスリンを生成している膵臓のβ細胞を免疫系が攻撃することで発症する。β細胞がダメージを受けると、インスリンを生成する能力が失われるため、生存のためにインスリン療法が必要となる。治療は生涯にわたり、日々、絶え間ない自己管理の負担に直面する。また、偏見や差別、自己効力感の低下、将来の合併症の不安、経済的な負担などによるストレスが生じやすく、これらを「糖尿病の苦痛(diabetes distress)」と呼ぶことがある。これまでにもこのような糖尿病の苦痛が、1型糖尿病の子どもたちのメンタルヘルス状態を悪化させたり、自己管理に悪影響を及ぼしたりする可能性が指摘されていた。 Formanek氏らの研究では、チェコ共和国の1型糖尿病の子どもたち4,500人以上の患者登録データが用いられた。データ解析の結果、1型糖尿病の子どもたちに見られるメンタルヘルス関連の問題は、この病気を発症後には常に食事の摂取量を判断したり、血糖値をチェックしたり、インスリンを注射したりしなければならないといった、生活に大きな変化を強いられることに起因するものである可能性が見いだされた。また、社交行事へ参加する機会が減ったり、ほかの子どもたちや教師、さらには家族からも孤立していると感じたりすることも少なくないという実態が明らかになった。 その影響もあって前述のように、1型糖尿病の子どもたちの間で、不安症や摂食障害、睡眠障害などが多く見られた。ただし、統合失調症などの精神疾患を発症するリスクは低く、同年代の子どもたちの約2分の1だった。 論文の上席著者であるケンブリッジ大学のBenjamin Perry氏は、「1型糖尿病患者は『糖尿病の苦痛』を経験しやすいことが知られている。その苦痛には、血糖値に対する極度のフラストレーションや孤立感なども含まれると考えられ、成人でも燃え尽き症候群や絶望感、あるいはコントロールの放棄につながる可能性がある。そのため、1型糖尿病の子どもたちが成人するまでの間に、メンタルヘルス上の問題が顕在化するリスクが高いとしても、不思議なことではない」と述べている。

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ドライフルーツは2型糖尿病リスクを上げる?下げる?

 ドライフルーツの摂取が2型糖尿病の発症に及ぼす影響については、議論が分かれている。そこで、中国・西安交通大学のJianbin Guan氏らはメンデルランダム化解析を用いた研究を実施した。その結果、ドライフルーツの摂取は2型糖尿病の発症リスク低下と関連することが示された。本研究結果は、Nutrition & Metabolism誌2024年7月10日号で報告された。 本研究では、ドライフルーツの摂取に関連する遺伝子データは、UKバイオバンクに登録された約50万例のうち、ドライフルーツの摂取に関するデータが得られた42万1,764例から取得した。2型糖尿病に関する遺伝子データは、IEU GWASデータベースに登録された2型糖尿病患者6万1,714例、対照59万3,952例から取得した。主な解析方法として、逆分散加重(IVW)法を用いて、ドライフルーツの摂取と2型糖尿病のリスクとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・ドライフルーツの摂取と関連があり、操作変数の条件を満たす一塩基多型(SNP)が36個抽出された。・IVW法を用いた解析において、ドライフルーツの摂取は2型糖尿病リスクを有意に低下させた(ドライフルーツの摂取量が1標準偏差増加するごとのオッズ比[OR]:0.392、95%信頼区間[CI]:0.241~0.636、p=0.0001)。・加重中央値法を用いた解析においても、ドライフルーツの摂取は2型糖尿病リスクを有意に低下させた(OR:0.468、95%CI:0.306~0.717、p=0.0003)。・感度分析において、36個のSNPには異質性がみられたが、水平多面発現(horizontal pleiotropy)によるバイアスは認められず、leave-one-out解析ではいずれのSNPを1個除外しても解析結果に影響を及ぼさなかったため、メンデルランダム化解析の頑健性が確認された。

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第205回 ポストコロナ時代、地域医療の存続に向けた病院の新たなアプローチとは?

毎週月曜日に先週にあった行政や学会、地域の医療に関する動きを伝える「まとめる月曜日」。今回は特別編として「すこし未来の地域医療の姿」について井上 雅博氏にご寄稿いただきました。新型コロナが医療・介護にもたらした影響とは今春、6年に1度のタイミングで医療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの報酬が同時に改定されました。今回の改定では、医療と介護の連携の必要性を強く求めると同時に、マイナンバーカードの普及により医療情報の利活用を促進し、高血圧、脂質異常症、糖尿病を中心に診療を行っていた医療機関では「療養計画書」の作成などの対応に追われました。改定後、全国の病院関係者からは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大時に救急患者の受け入れや転院、退院支援で苦労したのが、第11波の現在では、患者不足で病床が埋まらず、病床稼働率の低下が囁かれるようになったという声が聞かれます。もちろん、COVID-19のワクチン接種による軽症化や治療薬の開発による早期治療開始による早期退院が可能となったことが大きいとは思います。しかし、それ以外の原因として、感染拡大によって定期的な健康診断やがん検診によって発見された手術適応患者の紹介の減少が目立っていることが挙げられます。さらに、後期高齢者の場合、入院しても手術適応とならない方が増えている可能性があります。私が以前勤務していた広島県福山市の脳神経センター大田記念病院では、最新の統計によれば中央値では過去5年間大きな変動はないものの、高齢者層の増加(とくに90歳以上)が報告されています。じわじわと来る診療報酬改定の影響現在、病院が直面している経営課題は、昨年秋以降、コロナ対策の医療機関への病床確保基金などの制度が廃止され、以前の診療報酬体制に戻ったにも関わらず、患者の受診行動が変化してしまい、COVID-19拡大が落ち着いても元通りにならなかったという点です。このため、病床稼働率低下に加え、今春の改定で厳しくなった重症度、医療・看護必要度の対応で、10月からの病床再編や加算の対応に頭を悩ませている病院が多いと思います。さらに、原油高やエネルギー価格高騰に加え、デフレからインフレへの転換による経営環境の変化、人件費の増加といった影響も大きく、経営環境が激変しています。診療報酬改定では医療・介護職員の処遇改善のために賃上げの財源としてベースアップ評価料の算定が可能になりましたが、目新しい加算項目は少なく、サイバーセキュリティの強化など追加支出が求められているため、医療機関にとっては厳しい状況です。また、医療機関で問題となっているのは人手不足です。介護系サービス事業者は、高齢者の増加に備え設備投資を行い、施設を増やしてきましたが、現場に投入する医療・介護人材が必要となるため、医療機関よりも賃上げを先行して実施しており、同じ職種でも介護サービス事業者の賃金が高い状態になっています。さらに都市部では、コロナ禍にサービスを縮小していたホテル、飲食業などのサービス業界での人材不足が深刻化し、異業種との人材獲得競争も厳しくなっています。医療機関に求められる新たな「医療の形」病床稼働率の低下という現状を乗り切るための唯一の解決方法は、患者のニーズに応えることです。しかし、急性期の医療機関は専門医が多く、スペシャリストとして専門診療は得意である一方、後期高齢者のように2つ以上の慢性疾患が併存し、診療の中心となる疾患の設定が難しい「Multimorbidity(多疾患併存)」の場合、診療科ごとに縦割り構造のため、患者をチームで診ていると言いながら、病院内で診療科間の連携が取れていない、かかりつけ医や介護サービス事業者との連携協力が不十分なため、退院後にも内服薬の治療中断や退院前の指導不足による病状の悪化など、同じ患者が何回も入退院を繰り返す例が少なくありません。今後は、高度な急性期の医療機関は変わる必要がありそうです。とくに、在宅医やかかりつけ医との退院前のカンファレンスの開催や紹介状の内容の充実、情報共有の進化が必要ですが、多忙な急性期病院の医師がこれらを行うのは難しいと感じています。現状の解決手段としては、医師事務補助作業者の活用による書類作成の充実、退院サマリーや紹介状の作成業務のクオリティの向上が考えられます。また、今後は電子カルテにAIを導入し、カルテ内容の要約自動化を進めることや連携医療機関とカルテの開示を進めることが求められます。さらに、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟のある医療機関から退院する場合に、退院後のケアを担当する医療、福祉職へのわかりやすい指導(たとえば体重が〇kg以上増えたら早期に専門医に受診、食事や体重が減ったらインスリンは〇単位減量など)が求められると考えます。政府が模索する「新たな地域医療構想」の時代へ厚生労働省は、社会保障制度改革国民会議報告書に基づき、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年に向けて、地域医療構想を策定するよう各都道府県に働きかけてきました。厚労省は地域医療構想を「中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの」と定義しています。現状、2025年を目指していた「地域医療構想」はほぼ完成形に近付いているように思います。高度急性期、急性期、回復期、慢性期の病床区分は、各医療機関の立ち位置を明確にし、担うべき役割と連携協力機関をはっきりさせることで、独立した医療機関が有機的に医療・介護連携を行い、全国の2次医療圏内で完結できるよう基盤整備を進めてきました。厚労省は、今後の日本が迎える「高齢者が増えない中、むしろ労働人口が減少していく」2040年を見据え、今年3月から「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げました。地域によっては高齢化の進行によって外来患者のピークを過ぎた2次医療圏も増えています。これは国際医療福祉大学の高橋 泰教授らが作成した2次医療圏データベースシステムからも明らかになっています。これまで、医師や看護師といった人材リソースを増やすことで充実させてきた医療のあり方が変わる中、その地域でいかに残っていくのかを考える必要があります。そのために、最近読んでいる本を紹介します。今後の病院、クリニック運営を考える際の一助になりましたら幸いです。『病院が地域をデザインする』発行日2024年6月14日発行クロスメディア・パブリッシング発売インプレス定価1,738円(1,580円+税10%)https://book.cm-marketing.jp/books/9784295409861/著者紹介梶原 崇弘氏(医学博士/医療法人弘仁会 理事長/医療法人弘仁会 板倉病院 院長/日本大学医学部消化器外科 臨床准教授/日本在宅療養支援病院連絡協議会 副会長)千葉県の船橋市にある民間病院である板倉病院(一般病床 91床)の取り組みとして、救急医療、予防医療、在宅医療の提供、施設や在宅との連携を通して「地域包括ケア」の展開や患者に求められる医療機関の在り方など先進的な取り組みが、とても参考になります。ぜひ一度、手に取ってみられることをお勧めします。参考1)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)社会保障制度改革国民会議報告書(同)3)外来医療計画関連資料(同)4)診療報酬改定2024 「トリプル改定」を6つのポイントでわかりやすく解説!(Edenred)5)2次医療圏データベースシステム(Wellness)5)医療の価格どう変化? 生活習慣病、医師と患者の「計画」で改善促す(朝日新聞)

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事例005 生活習慣病管理料の算定の流れ【斬らレセプト シーズン4】

解説令和6(2024)年度診療報酬改定にて、「B001-3 生活習慣病管理料」(以下「管理料」)の算定方法が緩和されました。従来の包括報酬を管理料(I)とし、出来高算定ができる「B001-3-3 管理料(II)」も設定されました。特定疾患対象である「脂質異常症」、「高血圧症」、「糖尿病」が「B000 特定疾患療養管理料」の算定要件から外されたこと、施設基準が設定されたことを理由に、算定方法に対する質問が多く寄せられています。とくに多くの医師から管理料(II)を採用したいと問い合わせがあります。管理料(II)は、従来の特定疾患療養管理料と特定疾患処方管理加算を加えた点数とほぼ変わりません。比較的簡単かつ手厚い診療が可能となる点数です。今回は、規定に則り算定をされるための留意事項をお届けいたします。1)算定前に次の内容の院内掲示が必要です。(1)生活習慣病管理料の算定を行っている医療機関であること(2)28日分以上の長期処方とリフィル処方箋の発行が可能であること2)3つの該当疾患のうち1つを主病としている患者に対して、生活習慣病管理の対象となることを告げて管理開始の了解を口頭で得ます。診療録にその旨を必ず記載します。3)療養計画書(別紙様式9)にて指定された検査を医学的必要性に応じて行い、その結果を参照して、疾患の改善を行うための初回の療養計画書を作成します。4)次回、再診時以降に療養計画の説明を行います。療養計画の説明は、必ず医師が行い患者の申し出事項(たとえば運動するなど)を追記、患者からその場で承諾の署名*をいただいてください。サイン入り療養計画書を診療録に添付して算定開始です。医師の説明以降に看護師や管理栄養士などからの補足説明も推奨されています。糖尿病を主病とする場合は、歯科の受診を勧めることが必須となります。いずれも診療録に簡潔な記録が必要です。*補足説明後署名でも良いのですが、医師の前で署名するほうが効果があるため。5)2回目以降の療養計画は別紙様式9の2を使用して4ヵ月に1度以上の説明が必要です。診療録への添付と記載は必須です。2回目以降には患者サインの必要はありません。6)施設基準が設定されていますが、届出の必要はありません。施設基準を満たしていることは、公的機関から求められたときに診療録を提示して示します。診療録への必要充分な記録が認められない場合は、診療報酬の返還を求められる場合があります。7)管理料は、医療機関内で管理料(I)と管理料(II)の混在ができます。患者の状態に応じた使い分けができます。ただし、管理料(I)から(II)への変更には(I)の算定後6ヵ月以上を経過しないと(II)が算定できないことに留意をお願いします。

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スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と関連

 日本人高齢者を対象とした大規模研究により、スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と有意に関連することが明らかとなった。LIFE Study(研究代表者:九州大学大学院医学研究院の福田治久氏)のデータを用いて、大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室の北村哲久氏、戈三玉氏らが行った研究の結果であり、「Brain Communications」に6月4日掲載された。 パーキンソン病は年齢とともに罹患率が上昇し、遺伝的要因や環境要因などとの関連が指摘されている。また、脂質異常症治療薬であるスタチンとパーキンソン病との関連を示唆する研究もいくつか報告されているものの、それらの結果は一貫していない。血液脳関門を通過しやすい脂溶性スタチンと、水溶性スタチンの違いについても、十分には調査されていない。 そこで著者らは、LIFE Studyの2014年~2020年の健康関連データを用いて、コホート内症例対照研究を行った。65歳以上の高齢者で、追跡中にパーキンソン病を発症した人を症例、症例1人に対してコホート参加時の年齢、性別、市町村、参加年をマッチさせた対照5人を選択し、解析対象は症例9,397人と対照4万6,789人とした(女性53.6%)。スタチンは脂溶性(アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン)と水溶性(プラバスタチン、ロスバスタチン)に分類し、コホート参加時からの累積投与量の指標として、標準化1日投与量の合計(total standardized daily dose;TSDD)を算出した。 条件付きロジスティック回帰を用い、先行研究に基づいて併存疾患の有無を調整して解析した結果、スタチン使用は非使用と比較して、パーキンソン病リスクの低下(オッズ比0.61、95%信頼区間0.56~0.66)と有意に関連していることが明らかとなった。この関連は性別にかかわらず、男性(同0.62、0.54~0.70)と女性(同0.60、0.54~0.68)ともに認められた(交互作用P=0.71)。また、年齢層ごとに検討した場合も、65~74歳(同0.57、0.49~0.66)、75~84歳(同0.60、0.53~0.68)、85歳以上(同0.73、0.59~0.92)のいずれも同様の関連が認められた(交互作用P=0.17)。 全体として、スタチンの累積投与量が多いほどパーキンソン病リスクが低いことも明らかとなった。具体的には、TSDD 0(投与なし)の人と比較して、TSDD 1~30ではリスク上昇(同1.30、1.12~1.52)と関連していた一方で、TSDD 31~90(同0.77、0.64~0.92)、TSDD 91~180(同0.62、0.52~0.75)、TSDD 181以上(同0.30、0.25~0.35)ではリスク低下と関連していた。また、脂溶性スタチン(同0.62、0.54~0.71)と水溶性スタチン(同0.62、0.55~0.70)のどちらも、パーキンソン病リスク低下と関連していることが示された。 以上から著者らは、「日本人高齢者において、スタチン使用とパーキンソン病リスク低下との間に有意な関連が認められた。スタチンの累積投与量が多いほど、パーキンソン病の発症に対して予防効果を示した」と述べている。スタチンによる予防効果のメカニズムについては、脳動脈硬化の低下やドーパミン作動性神経細胞の生存などによる可能性が考えられるとして、この予防効果をより正確に評価するため、さらなる研究の必要性を指摘している。

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COPD・喘息の早期診断の意義(解説:田中希宇人氏/山口佳寿博氏)

 COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)は2021年の統計で1万6,384例の死亡者数と報告されており、「健康日本21(第三次)」でもCOPDの死亡率減少が目標として掲げられている。気管支喘息も、年々死亡者数は減少しているとはいえ、同じく2021年の統計で1,038例の死亡者数とされており、ガイドラインでも「喘息死を回避する」ことが目標とされている。いずれも疾患による死亡を減少させるために、病院に通院していない、適切に診断されていないような症例をあぶり出していくことが重要と考えられている。しかしながら、疾患啓発や適正な診断は容易ではない。現在、COPD前段階ということで、「Pre COPD」や「PRISm」といった概念が提唱されている。閉塞性換気障害は認めないが画像上での肺気腫や呼吸器症状を認めるような「Pre COPD」や、同じく1秒率が閉塞性換気障害の定義を満たさないが、%1秒量が80%未満となるような「PRISm」であるが、それらの早期発見や診断、そして治療介入などが死亡率の減少に寄与しているかどうかについては明らかになっていない。 今回NEJM誌から取り上げるカナダ・オタワ大学からの「UCAP Investigators」が行った報告では、症例発見法を用いたCOPD・気管支喘息の診断と治療により、呼吸器疾患に対する医療の利用が低減することが示された。約3万8,000例の中から、595例の未診断のCOPD・喘息が発見され、介入群と通常治療群に分けられ、呼吸器疾患による医療利用の発生率が評価されている。ガイドラインによる治療を順守するような呼吸器専門医の介入により、被検者の医療利用は有意に低下することが報告された。早期診断・治療を受けることにより、SGRQスコアとCATスコアや1秒量が改善することが示され、症例の健康維持に寄与することが期待されている。また、早期診断することにより、自らの病状の理解や自己管理の重要性を認識することも重要と考えられる。 一見、病気はすべて早期発見・早期治療が良いように思われるが、いくつかの問題点も考えられる。1つは軽症や無症状の症例が診断されることにより、生命予後に寄与しない治療が施される可能性がある。診断された患者は不安や精神的・心理的なストレスを抱えることも懸念される。2つ目に、限りある医療資源を消費してしまうことが推測される。呼吸器専門医や呼吸器疾患に携わる医療者は本邦でも潤沢にいるわけではなく、呼吸器専門医が不在の医療機関も少なくない。より重症や難治例のために専門医の意義があるわけで、軽症例や無症状の症例に対してどこまで介入できるか、忙しい日本の臨床の現場では現実的ではない部分が大きい。3つ目には薬物療法の早期開始により、副作用リスクがメリットを上回る可能性も不安視される。とくに吸入ステロイドによる局所の感染症や糖尿病や骨粗鬆症のリスクは、長期使用となると見逃すことはできないのだろう。 いずれにしても症例発見法は簡便であり多くの医療機関で導入可能と筆者は訴えているが、COPD・喘息の早期診断・早期介入が医療利用の低減のみならず、長期予後や死亡率の減少などにつながるかどうか、より長期的な検討が必要なのだろう。

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何はさておき記述統計 その7【「実践的」臨床研究入門】第46回

変数の型とデータ記述方法の使い分け前回は交絡因子について解説し、われわれのResearch Question(RQ)の交絡因子として下記の要因を挙げました(連載第45回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値今回からは、仮想データ・セットからこれらの交絡因子のデータを「低たんぱく食厳格遵守群」と「低たんぱく食非厳格遵守群」に分けて記述し、表を作成していきます。これは論文の表1として示されることの多い、いわゆる「患者背景表」となります。実際に表を作成してみる前に、まずは変数の型とデータ記述方法の使い分け、について説明します。変数の型は連続変数とカテゴリ変数に大別されます。連続変数は量を表す変数です。前述した交絡因子では年齢や血圧などの測定値、eGFR、蛋白尿定量、ヘモグロビン値や血清アルブミン値という臨床検査値、が連続変数です。カテゴリ変数は性質を表す変数で、名義変数、順序変数が該当します。今回挙げた交絡因子のうち性別と糖尿病の有無、が順序のない2値(1 or 0)の名義変数となります。ここからは、無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)の操作手順を含めて解説します(連載第43回参照)。表1の作成に必要な仮想データ・セットを以下の手順でEZRに取り込んでみましょう。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」取り込んだ仮想データ・セットの内訳を下記に示します。A列:id 患者IDB列:treat 比較群分け(カテゴリ変数 1;低たんぱく食厳格遵守群、0;低たんぱく食非厳格遵守群)C列:age 年齢(連続変数)D列:sex 性別(カテゴリ変数 1;男性、0;女性)E列:dm 糖尿病の有無(カテゴリ変数 1;糖尿病あり、0;糖尿病なし)F列:sbp 収縮期血圧(連続変数)G列:eGFR (連続変数)H列:UP 蛋白尿定量 (連続変数)I列:albumin 血清アルブミン値(連続変数)J列:hemoglobin ヘモグロビン値(連続変数)それでは、連続変数のデータ記述方法について説明します。連続変数データの代表値としては平均値(Mean)や中央値(Median)が使われます。また、連続変数データのばらつきを示す値としては標準偏差(Standard deviation:SD)や範囲(Range)、もしくは四分位範囲(Inter-quartile range:IQR)を用いる場合があります。それぞれの使い分けについては、実際にEZRを操作しながら説明します。連続変数を記述する際、まずはヒストグラム(度数分布図)を確認してみましょう。EZRでは下記の手順でヒストグラムを描くことができます。「グラフと表」→「ヒストグラム」を選択すると、ポップアップウィンドウが開きますので、まずは下記のとおりに変数や設定を選択してみてください。年齢のヒストグラムが比較群分けごとに示されています。想定のとおり、低たんぱく食厳格遵守群(treat=1)は、低たんぱく食非厳格遵守群(treat=0)より年齢の分布が若干若いようです(連載第45回参照)。このヒストグラムのように、その連続変数データの分布が一峰性(ひとやま)でおおむね左右対称で正規分布に近似している場合は、その代表値を平均値(Mean)で、そのばらつきを標準偏差(SD)で記述することができます。しかし、臨床研究における連続変数のデータは正規分布に近似するものばかりではありません。たとえば、下記のように「ヒストグラム」のポップアップウィンドウで蛋白尿定量であるUPを選択し、「OK」ボタンをクリックしてみてください。ネフローゼ症候群の患者は対象から除外されていることもあり(連載第40回参照)、多くのデータがUP2g/日以下に偏り、右に裾を引いたようなヒストグラムになっています。このような形状のデータ分布の場合、代表値としては中央値(Median)、データのばらつきを示す値としては四分位範囲(IQR)、もしくは最小値から最大値という範囲(Range)で示すことが望まれます。なお、カテゴリ変数データの記述方法は簡単です。カテゴリ変数はカテゴリ別の頻度か割合で報告しますが、データ数の大きさによって、下記に示したような使い分けが慣例的に推奨されています。データ数が100以上:小数点以下1桁までの割合(%)データ数が100未満20以上:整数の割合(%)データ数が20未満:割合は使用せず、頻度の実数

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運動不足気味の糖尿病患者さんへの運動指導(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)

患者さん用画 いわみせいじCopyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.説明のポイント(医療スタッフ向け)診察室での会話患者医師患者医師患者医師患者医師患者医師患者最近、血糖値が上がってきて…。確かに、空腹時の血糖値はいいのですが、平均血糖値のHbA1cが高いので食後に血糖値が上がっているかもしれませんね。なるほど。どうやったら、血糖値が下がりますか?そうですね。確か〇〇さんの仕事はデスクワークが中心でしたね。そうです。デスクワークが中心で運動不足気味です…。なるほど。家での過ごし方はいかがですか?家でもスマホをみながら、ゴロゴロしていることが多いです。なるほど。座る時間が長くなると、血糖値が上がりやすくなると言われていますからね。やっぱり、座り過ぎがよくないんですね。そうですね。30分に1回、立ち上がって軽い運動ができるといいですね。わかりました。30分に1回ですね。頑張って立ち上がってみます。画 いわみせいじポイント食後に30分おきに軽い運動を行うことで、食後高血糖が改善することを説明します。Copyright© 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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中年期~高齢期の血漿バイオマーカー、認知症発症との関連を解析/JAMA

 米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のYifei Lu氏らは、中年期から高齢期にかけての血漿バイオマーカーの変化とすべての認知症との関連を、米国で行われた前向きコホート試験「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)試験」の参加者データを用いて後ろ向き解析にて調べた。アルツハイマー病(AD)の神経病理、神経損傷、アストログリオーシスを示す血漿バイオマーカー値は加齢とともに上昇し、既知の認知症リスク因子と関連していた。また、AD特異的バイオマーカーと認知症の関連は中年期に始まり、高齢期のAD、神経損傷、アストログリオーシスの血漿バイオマーカー測定値は、すべてが認知症と関連していた。血漿バイオマーカーは、AD病理と神経変性に関する費用対効果の高い非侵襲的なスクリーニングになると大きな期待が寄せられているが、発症前に関しては十分に解明されておらず、多様な集団や生涯にわたる追加の調査が必要とされていた。JAMA誌オンライン版2024年7月28日号掲載の報告。Aβ42/Aβ40比、p-tau181、GFAPを評価 研究グループは、ARIC試験の参加者1,525例について、参加者全員および地域で暮らすサブグループにおける、血漿バイオマーカーの経時的変化および、それらとすべての認知症との関連を後ろ向き解析にて評価した。 血漿バイオマーカーは、中年期(1993~95年、平均年齢58.3歳)と高齢期(2011~13年、平均年齢76.0歳、フォローアップ:2016~19年、平均年齢80.7歳)に採取された保存検体を用いて測定。中年期のリスク因子(高血圧、糖尿病、脂質、冠動脈性心疾患[CHD]、喫煙、身体活動)を評価し、それらと血漿バイオマーカーの経時的変化との関連を評価した。また、バイオマーカーとすべての認知症発症との関連を、2011~13年に認知症を発症しておらず1993~95年および2011~13年にバイオマーカー測定を受けたサブグループ(1,339例)で評価した。 血漿バイオマーカーは、アミロイドβ(Aβ)42/Aβ40比、phosphorylated tau at threonine 181(p-tau181)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)を、Quanterix Simoaプラットフォームを用いて測定した。 すべての認知症の発症は、2012年1月1日~2019年12月31日の期間に、神経心理学的評価、半年ごとの参加者または情報提供者との接触および医療記録サーベイランスによって確認した。中年期のAD特異的バイオマーカー、高齢期認知症と長期に関連 参加者1,525例(平均年齢58.3歳[SD 5.1])のうち、914例(59.9%)が女性、394例(25.8%)が黒人であった。総計252例(16.5%)が認知症を発症した。 中年期から高齢期にかけて、Aβ42/Aβ40比の減少、p-tau181、NfLおよびGFAPの上昇が観察された。これらバイオマーカーの変化は、アポリポタンパク質Eε4(APOEε4)アレルを持つ参加者でより急速だった。 また、中年期から高齢期のバイオマーカーの変化率は、中年期に高血圧を有する参加者のほうが有さない参加者と比べてより大きかった(NfLの変化率の群間差:0.15 SD/10年など)。中年期に糖尿病を有する参加者は有さない参加者と比べて、NfL(変化率の群間差:0.11 SD/10年)、GFAP(同0.15 SD/10年)の変化が急速だった。 中年期ではAD特異的バイオマーカーのみが、高齢期認知症と長期にわたって関連していた(Aβ42/Aβ40比の1 SD低下当たりのハザード比[HR]:1.11[95%信頼区間[CI]:1.02~1.21]、p-tau181の1 SD上昇当たりのHR:1.15[95%CI:1.06~1.25])。 高齢期のすべての血漿バイオマーカーは、高齢期認知症と統計学的有意に関連しており、NfLとの関連が最も大きかった(HR:1.92、95%CI:1.72~2.14)。

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忽那氏が振り返る新型コロナ、今後の対策は?/感染症学会・化学療法学会

 2024年8月2日の政府の発表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点当たりの報告数は14.6人で、昨夏ピーク時(第9波)の20.5人に迫る勢いで12週連続増加し、とくに10歳未満の感染者数が最も多く、1医療機関当たり2.16人だった。週当たりの新規入院患者数は4,579人で、すでに第9波および第10波のピークを超えている1)。 大阪大学医学部感染制御学の忽那 賢志氏は、これまでのコロナ禍を振り返り、パンデミック時に対応できる医師が不足しているという課題や、患者数増加に伴う医師や看護師のバーンアウトのリスク増加など、今後のパンデミックへの対策について、6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて発表した。日本ではオミクロン株以前の感染を抑制 忽那氏は、コロナ禍以前の新興感染症の対策について振り返った。コロナ禍以前から政府が想定していた新型インフルエンザ対策は、「不要不急の外出の自粛要請、施設の使用制限等の要請、各事業者における業務縮小等による接触機会の抑制等の感染対策、ワクチンや抗インフルエンザウイルス薬等を含めた医療対応を組み合わせて総合的に行う」というもので、コロナ禍でも基本的に同じ考え方の対策が講じられた。 欧米では、オミクロン株が出現した2021~22年に流行のピークを迎え、その後減少している。オミクロン株拡大前もしくはワクチン接種開始前に多くの死者が出た。一方、日本での流行の特徴として、第1波から第8波まで波を経るごとに感染者数と死亡者数が拡大し、とくにオミクロン株が拡大してからの感染者が増加していることが挙げられる。忽那氏は「オミクロン株拡大までは感染者数を少なく抑えることができ、それまでに初回ワクチン接種を進めることができた。結果として、オミクロン株拡大後は、感染者数は増えたものの、他国と比較して死亡者数を少なくすることができた」と分析した。新型コロナの社会的影響 しかし、他国よりも感染対策の緩和が遅れたことで、新型コロナによる社会的な影響も及んでいる可能性があることについて、忽那氏はいくつかの研究を挙げながら解説した。東京大学の千葉 安佐子氏らの日本における婚姻数の推移に関する研究では、2010~22年において、もともと右肩下がりだった婚姻数が、感染対策で他人との接触が制限されたことにより、2020年の婚姻数が急激に減少したことが示されている2)。また、超過自殺の調査では、新型コロナの影響で社会的に孤立する人の増加や経済的理由のために、想定されていた自殺者数よりも増加していることが示された3)。忽那氏は、「日本は医療の面では新型コロナによる直接的な被害者を抑制することができたが、このようなほかの面では課題が残っているのではないか。医療従事者としては、感染者と死亡者を減らすことが第一に重要だが、より広い視点から今回のパンデミックを振り返り、次に備えて検証していくべきだろう」と述べた。パンデミック時、感染症を診療する医師をどう確保するか コロナ禍では、医療逼迫や医療崩壊という言葉がたびたび繰り返された。政府が2023年に発表した第8次医療計画において、次に新興感染症が起こった時の各都道府県の対応について、医療機関との間に病床確保の協定を結ぶことなどが記載されている。ただし、医療従事者数の確保については欠落していると忽那氏は指摘した。OECDの加盟国における人口1,000人当たりの医師数の割合のデータによると、日本は38ヵ国中33位(2.5人)であり医師の数が少ない4)。また、1994~2020年の医療施設従事医師数の推移データでは、医師全体の数は1.47倍に増えているものの、各診療科別では、内科医は0.99倍でほぼ横ばいであり、新興感染症を実際に診療する内科、呼吸器科、集中治療、救急科といった診療科の医師は増えていない5)。 感染症専門医は2023年12月時点で1,764人であり、次の新興感染症を感染症専門医だけでカバーすることは難しい。また、岡山大学の調査によると、コロナパンデミックを経て、6.1%の医学生が「過去に感染症専門医に興味を持ったことがあるが、調査時点では興味がない」と回答し、3.7%の医学生が「コロナ禍を経て感染症専門医になりたいと思うようになった」、11.0%の医学生が「むしろ感染症専門医にはなりたくない」と回答したという結果となった6)。医療従事者のバーンアウト対策 日本の医師と看護師の燃え尽きに関する調査では、患者数が増えると医師と看護師の燃え尽きも増加することが示されている7)。米国のMedscapeによる2023年の調査では、診療科別で多い順に、救急科、内科、小児科、産婦人科、感染症内科となっており、コロナを診療する科においてとくに燃え尽きる医師の割合が高かった8)。そのため、パンデミック時の医師の燃え尽き症候群に対して、医療機関で対策を行うことも重要だ。忽那氏は、所属の医療機関において、コロナの前線にいる医師に対して精神科医がメンタルケアを定期的に実施していたことが効果的であったことを、自身の経験として挙げた。また、業務負荷がかかり過ぎるとバーンアウトを起こしやすくなるため、診療科の枠を越えて、シフトの調整や業務分散をして個人の負担を減らすなど、スタッフを守る取り組みが大事だという。 忽那氏は最後に、「感染症専門医だけで次のパンデミックをカバーすることはできないので、医師全体の感染症に対する知識の底上げのための啓発や、感染対策のプラクティスを臨床現場で蓄積していくことが必要だ。今後の新型コロナのシナリオとして、基本的には過去の感染者やワクチン接種者が増えているため、感染者や重症者は減っていくだろう。波は徐々に小さくなっていくことが予想される。一方、より重症度が高く、感染力の強い変異株が出現し、感染者が急激に増える場合も考えられる。課題を整理しつつ、次のパンデミックに備えていくことが重要だ」とまとめた。■参考1)内閣感染症危機管理統括庁:新型コロナウイルス感染症 感染動向などについて(2024年8月2日)2)千葉 安佐子ほか. コロナ禍における婚姻と出生. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年12月2日.3)Batista Qほか. コロナ禍における超過自殺. 東京大学BALANCING INFECTION PREVENTION AND ECONOMIC. 2022年9月7日4)清水 麻生. 医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2021およびOECDレポートより-. 日本医師会総合政策研究機構. 2022年3月24日5)不破雷蔵. 増える糖尿病内科や精神科、減る外科や小児科…日本の医師数の変化をさぐる(2022年公開版)6)Hagiya H, et al. PLoS One. 2022;17:e0267587.7)Morioka S, et al. Front Psychiatry. 2022;13:781796.8)Medscape: 'I Cry but No One Cares': Physician Burnout & Depression Report 2023

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一部の糖尿病用薬の処方が認知症リスクの低さと関連

 メトホルミンやSGLT2阻害薬(SGLT2i)と呼ばれる糖尿病用薬の処方が、認知症やアルツハイマー病(AD)のリスクの低さと関連していることが報告された。慶煕大学(韓国)のYeo Jin Choi氏らの研究によるもので、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に5月3日掲載された。 2型糖尿病は多くの国で重大な健康問題となっており、世界中で約5億3000万人が罹患していて、その罹患によって認知機能障害や認知症のリスクが50%以上上昇する可能性が示されている。認知症もまた、高齢化に伴い世界的な健康問題となっており、患者数はすでに4000万人以上に上るとされている。 2型糖尿病がADのリスクを押し上げるメカニズムについて、インスリン抵抗性に伴う慢性炎症、酸化ストレス、血管障害の関与などが考えられており、一部の糖尿病用薬はインスリン抵抗性改善作用などを介してADリスクを低下させる可能性がある。ただし、糖尿病用薬のタイプによって認知症やADのリスクが異なるのかという点は、十分明らかにはなっていない。Choi氏らは、比較されている薬剤の組み合わせが異なる過去の複数の研究データを統合して、多くの薬剤の影響を比較可能とするベイジアンネットワークメタ解析により、この点を検討した。 文献データベースであるCENTRAL、MEDLINE(PubMed)、Scopus、Embaseのスタートから2024年3月までに収載された論文を対象とする検索により、16件の研究報告を抽出。それらの研究参加者数は合計156万5,245人で、7種類の治療レジメン(メトホルミン、SU薬、α-グルコシダーゼ阻害薬〔α-GI〕、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2i、非薬物治療)が含まれていた。16件中7件は米国、3件はカナダで行われ、そのほかは英国、台湾、中国、香港、韓国などで行われていた。 第一選択薬として用いられていた薬剤のうち最も多くの研究で比較されていたのはSU薬とメトホルミンであり、後者は前者に比べて認知症リスクが有意に低かった(リスク比〔RR〕0.53〔95%信頼区間0.44~0.64〕)。第二選択薬として用いられていた薬剤について、SU薬を基準として比較すると、SGLT2iのみ有意なリスク低下が認められた(RR0.39〔同0.16~0.88〕)。 第一・第二選択薬を区別せずにSU薬を基準として解析すると、メトホルミン(RR0.53〔0.44~0.63〕)とSGLT2i(RR0.41〔0.25~0.66〕)、および非薬物治療(RR0.73〔0.56~0.97〕)でリスクが低く、α-GIはリスクが高かった(RR2.4〔1.2~5〕)。ADリスクについても対SU薬で、メトホルミンとSGLT2iのみ、リスク低下が示された。なお、年齢を75歳未満/以上に二分した層別解析では、SGLT2iによる認知症リスク低下は75歳以上でのみ有意だった。 著者らは、「メトホルミンとSGLT2iが用いられている糖尿病患者は、他の糖尿病用薬が用いられている場合に比較し認知症リスクが低いことが示された。ただし、患者固有の要因がこの関係に影響を及ぼしている可能性がある。例えばメトホルミンは一般的に、合併症が少ない非高齢期に処方が開始される傾向がある。これらの理由により、本研究の結果の解釈は慎重に行われる必要があり、また将来の大規模な臨床試験が必要とされる」と述べている。

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