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GLP-1受容体アゴニストの減量に対する長期の効果と糖尿病予防効果の強固さ(解説:名郷 直樹氏)

 GLP-1受容体アゴニストを72週投与し、体重減少を1次アウトカムとした二重盲検ランダム化比較試験SURMOUNT-1研究1)の対象者に対し、176週まで治療を継続し、さらに治療中止後に17週の追跡を追加した2次解析結果の報告である2)。 BMI 30以上、または糖尿病以外の肥満関連のリスクを持つBMI 27以上の肥満者を対象として、チルゼパチド5mg、10mg、15mgの週1回投与とプラセボを比較して、176週後、193週時点の体重変化と糖尿病の発症をアウトカムに設定している。 176週時点で、チルゼパチド群の体重の平均変化率は、5mg投与群で-12.3%、10mg投与群で-18.7%、15mg投与群で-19.7%に対し、プラセボ群では-1.3%である。それぞれの変化率の差は、5mg用量で-11.1%(95%信頼区間[CI]:-14.4〜-7.8)、10mg用量で-17.5%(95%CI:-23.6〜-11.3)、15mg用量で-18.4%(95%CI:-22.2〜-14.7)と報告されている。 2型糖尿病の診断を受けた患者は、176週時点でチルゼパチド群1.3%、プラセボ群13.3%、ハザード比0.07(95%CI:0.0~0.1)、さらに治療中止の17週後でもハザード比0.12(95%CI:0.1~0.2)と同様の結果である。 統計学的には仮説生成的解析である2次解析の結果とはいえ、体重の変化率の差で10%を超える効果があり、投与量の増加に比例した効果の増大を示す量反応関係も示されており、3年程度の長期にわたる効果も十分認められると解釈できる結果である。 また糖尿病と診断された患者の率も、176週時点のハザード比で0.07、95%CIの上限でも0.1、同様に17週の治療中止後でもハザード比0.12、95%CIの上限でも0.2と大きな効果を示している。その反面、量反応関係では、投与量の増加に対する効果の増大は示されていないが、95%CIの上限でもハザード比0.2という大きな効果は、この結果の妥当性を強固なものにしている。 統計学的な解釈としては、1次アウトカムの結果以外は仮説生成的であるというのが一般的であるが、この論文で示された2次解析結果は、体重減少の変化率に対する量反応関係を伴う大きな効果と、糖尿病診断減少の大きな効果を考えれば、BMIが30を超える高度肥満者、高リスクのBMI 27を超える対象に対する臨床的な効果は、十分妥当な結果と言っていいと思われる。ただ、より痩せを志向する日本の現状では、その適用が軽度の肥満やむしろ痩せの人に拡大されることに注意が必要かもしれない。

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人工股関節置換術前の検査【日常診療アップグレード】第18回

人工股関節置換術前の検査問題73歳女性。変形性股関節症の治療のため入院中である。3日後に左の人工股関節置換術が予定されている。出血量は300~500mLと予想される。既往歴として高血圧と甲状腺機能低下症がある。エナラプリル(ACE阻害薬)、アムロジピン(Ca拮抗薬)、レボチロキシン(甲状腺ホルモン薬)、アセトアミノフェン(鎮痛薬)を内服している。バイタルサインは異常なし。疼痛のため、左股関節の可動域に制限がある。2ヵ月前にTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定していて異常はない。術前検査として、全血球計算(CBC)と腎機能に加えTSHとFT4をオーダーした。

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糖尿病を有する終末期がん患者におけるシックデイ時の薬物療法を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第63回

 今回は、胃がん終末期の患者に関して、食事摂取量低下時の重篤な副作用を予防するために薬剤師から能動的に処方調整を提案した事例を紹介します。終末期がん患者では、病勢の進行に伴う全身状態の変化に応じたきめ細やかな薬物療法の調整がとくに重要となります。患者情報85歳、男性基礎疾患胃底部がん(門脈腫瘍塞栓あり)、2型糖尿病(罹患歴35年)、第12腰椎圧迫骨折ADL移乗・移動は全介助、食事は自立、オムツ使用生活環境ホスピス入所中、24時間看護体制下で療養食事摂取量通常の2割程度(1週間前は5割)介入時の検査値HbA1c 7.1%処方内容1.メトホルミン錠500mg 1錠 分1 朝食後2.シタグリプチン錠25mg 1錠 分1 朝食後3.デキサメタゾン錠4mg 1錠 分1 朝食後4.ランソプラゾール錠15mg 1錠 分1 朝食後5.アンブロキソール錠15mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイント終末期がんによる全身状態の悪化に伴い、食事摂取量が5割から2割へと急激に低下しました。現行処方を確認したところ、以下の懸念点が浮かび上がりました。メトホルミンによる乳酸アシドーシスのリスク高齢(85歳)食事摂取量の著明な低下がん終末期による全身状態悪化血糖コントロールに影響を与える因子デキサメタゾンによる血糖上昇作用食事摂取量低下による血糖値の変動リスク終末期における治療方針の検討QOLを重視した血糖管理目標の設定低血糖リスクの回避医師への提案と経過以下の内容について情報提供を行いました。【現状報告】食事摂取量:5割→2割に低下がんの進行状況(門脈腫瘍塞栓あり)デキサメタゾン併用による血糖変動リスク【懸念事項】乳酸アシドーシスのリスク因子→食事摂取量低下、がん終末期による代謝異常、高齢終末期における治療方針→症状緩和優先の方針、QOLを考慮した血糖管理目標の設定【提案内容】メトホルミンの中止シタグリプチンによる血糖管理の継続症状観察の強化・継続医師には提案を採用いただき、メトホルミンの中止が決定しました。施設スタッフに状況を説明し、食事摂取状況や血糖値の推移、全身状態の変化、苦痛症状がないかどうかを観察いただくよう伝えました。中止1週間後でも重篤な血糖上昇や乳酸アシドーシス症状はなく、QOLは維持していました。考察本症例では、以下の点が適切な介入につながったと考えています。1.終末期における薬物療法の考え方:QOLを重視した処方調整、リスク・ベネフィットバランスの見直し、過少・過剰医療の回避2.多職種連携の重要性:医師との適切な情報共有、施設スタッフとの密な連携、観察ポイントの明確化3.先制的な介入の意義:重篤な副作用の予防、終末期QOLの維持、安全な薬物療法の実現終末期がん患者の薬物療法管理では、病勢の進行に応じた柔軟な対応が求められます。とくに食事摂取量の変化など、全身状態に影響を与える因子については、早期に気付いて対応することが重要です。本事例は、薬剤師による予防的な処方調整提案が、終末期患者のQOL維持に貢献した例と言えます。ホスピスにおける薬剤師の役割として、患者の状態変化を予測した先制的な介入の重要性を再認識させられた症例となりました。

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大戦中の砂糖配給制の影響を胎児期に受けた人は糖尿病や高血圧が少ない

 第二次世界大戦中と終戦後しばらく、砂糖が配給制だった時期に生まれた人には、2型糖尿病や高血圧が少ないとする、米南カリフォルニア大学(USC)ドーンサイフ経済社会研究センターのTadeja Gracner氏らの研究結果が「Science」に10月31日掲載された。2型糖尿病リスクは約35%、高血圧リスクは約20%低いという。この結果は、現代の人々が砂糖のあふれた環境によって、いかに大きな健康被害を受けているかを示しているとも言えそうだ。 この研究では、第二次世界大戦中に英国で行われた砂糖配給制に焦点が当てられた。英国では1942年に砂糖が配給制となり、国民の砂糖摂取量は1日当たり平均40g(ティースプーンで約8杯分)となった。ちなみに、現在流通している一般的な加糖飲料の中には50gほどの砂糖が使われているものもある。英国の砂糖配給制は戦後もしばらく継続され、1953年9月になって終了した。それとともに砂糖の摂取量は平均80gへと倍増した。 このように、配給制度下で砂糖摂取量が限られていた時期に胎児期から乳幼児期(受胎後の最初の1,000日)を過ごした人と、配給制が終了して砂糖摂取量が急増した時期に、受胎後の最初の1,000日を過ごした人とで、成人後の糖尿病や高血圧のリスクに差があるかが検討された。検討には、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータが用いられた。 解析の結果、砂糖摂取量が少ない環境で受胎後の最初の1,000日を過ごした人は、そうでない人に比べて、2型糖尿病のリスクが約35%低く、高血圧リスクは約20%低いことが明らかになった。また、それらを発症した人の発症年齢は、前者の群で2型糖尿病については4年、高血圧については2年遅かった。この結果から、砂糖摂取量の少ない母親の子宮内環境への暴露は、糖尿病や高血圧に対する保護効果を持つと考えられた。また、出生後に固形食が始まったと思われる、生後6カ月以降に砂糖摂取量が限られていたことで、その保護効果はより強化されていた。子宮内環境のみによるリスク低減効果は、全体の約3分の1を占めていた。 Gracner氏は、「胎児期から乳幼児期の栄養摂取の影響を調査するランダム化比較試験の実施には高いハードルがあり、かつ、50年後、60年後にその差を検証することも困難だ」と解説。その上で、「われわれは、配給制の実施と終了という社会的な変化を利用してそれらの課題をクリアし、自然実験を行った」と述べている。また、論文の共著者の1人である米シカゴ大学およびマギル大学(カナダ)のClaire Boone氏は、「この研究は、幼い頃の砂糖摂取を減らすことが、子どもの生涯にわたる健康増進に向けた強力な一歩であるという因果関係を指し示す、初のエビデンスである」としている。

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セマグルチド2.4mg、MASHで有意な改善示す(ESSENCE)/ノボ ノルディスク

 GLP-1受容体作動薬のセマグルチドは代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)に有益であることが実証されているが、主要評価項目を「肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失」「MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善」とする第III相ESSENCE試験1)のPart Iで得られた結果がAASLD 2024 The Liver Meeting(米国肝臓学会議)において発表された。 本発表内容は11月25日付けでノボ ノルディスク ファーマがプレスリリースし、セマグルチド2.4mg(以下、セマグルチド群)のプラセボに対する優越性が報告された。 本試験の主要評価項目「肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失」「MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善」について、セマグルチド群でプラセボと比較し統計学的に有意な差が認められ、72週時で肝線維化の悪化を伴わないMASHの消失が認められたのは、セマグルチド群62.9%、プラセボ群34.1%だった。また、MASHの悪化を伴わない肝線維化の改善が認められたのは、セマグルチド群37.0%、プラセボ群22.5%であった。 副次評価項目である肝機能検査(ALT、AST、γ-GT[γ-GTP])やELFスコアも改善が示され、セマグルチド群の32.8%でMASHの消失と肝線維化の改善の両方が認められた。なお、プラセボ群では16.2%であった。 本試験の治験責任医師である米国・VCU School of MedicineのArun J. Sanyal氏は「本データからセマグルチド2.4 mgはMASHの進行を遅らせ、既存の肝機能障害を回復させることが明らかになった」とコメントしている。ESSENCE試験とは ESSENCE試験は、肝線維化が中等度~高度(ステージF2またはF3)の成人MASH患者を対象に、セマグルチド2.4 mg週1回皮下投与の効果を評価する第III相試験で、2つのパートから成る。被験者1,200例をセマグルチド2.4 mgまたはプラセボに2:1の割合で無作為に割り付け、標準治療に上乗せして240週間投与する。Part Iでは、無作為割付した最初の800例において、72週時点の肝生検の組織学的所見がセマグルチド2.4 mg投与により改善するかを検証した。Part IIは、セマグルチド2.4 mgによりプラセボと比較して240週時における肝関連事象の発現リスクが低下するかを検証することを目的としている。

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チルゼパチドのHFpEFを有する肥満患者への有効性/NEJM

 駆出率が保たれた心不全(HFpEF)を有する肥満の患者において、チルゼパチドはプラセボと比較し、心血管死または心不全増悪の複合リスクを低減し、健康状態を改善することが示された。米国・ベイラー大学医療センターのMilton Packer氏らが、9ヵ国129施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「SUMMIT試験」の結果を報告した。肥満は、HFpEFのリスクを高める。チルゼパチドは、体重減少をもたらすが、心血管アウトカムへの有効性に関するデータは不足していた。NEJM誌オンライン版2024年11月16日号掲載の報告。チルゼパチド群vs.プラセボ群、52週間投与 研究グループは、40歳以上でBMI値≧30、左室駆出率(LVEF)≧50%の慢性心不全患者(NYHA心機能分類クラスII~IV)を、チルゼパチド群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、通常の治療に加えて少なくとも52週間、週1回皮下投与した。投与量は、2.5mg/週から開始し、4週ごとに2.5mg/週ずつ、20週後に15.0mg/週となるまで増量した。 主要エンドポイントは2つあり、当初は(1)全死因死亡または心不全増悪イベント(試験期間全体について評価)と、52週時のカンザスシティ心筋症質問票の臨床サマリースコア(KCCQ-CSS:0~100、高スコアほど生活の質が高い)および6分間歩行距離のベースラインからの変化量を組み合わせた階層的複合エンドポイント、および(2)52週時点での6分間歩行距離の変化量であった。しかし、2023年8月に発表されたSTEP-HFpEF試験の結果を受け、米国食品医薬品局(FDA)との協議も踏まえて修正され、心血管死または心不全増悪イベント(time-to-first-event解析で評価)の複合と52週時のKCCQ-CSSの変化量とされた。主要複合アウトカム発生のHRは0.62 2021年4月20日~2023年6月30日の間に計731例が無作為に割り付けられた(チルゼパチド群364例、プラセボ群367例)。追跡期間中央値は104週間であった。 心血管死または心不全増悪イベントの発生は、チルゼパチド群で36例(9.9%)、プラセボ群で56例(15.3%)に認められた(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.41~0.95、p=0.026)。心不全増悪イベントはそれぞれ29例(8.0%)、52例(14.2%)であったが(HR:0.54、95%CI:0.34~0.85)、心血管死はそれぞれ8例(2.2%)、5例(1.4%)(1.58、0.52~4.83)であった。 52週時のKCCQ-CSSの変化量(最小二乗平均値±SE)は、チルゼパチド群で19.5±1.2であったのに対し、プラセボ群は12.7±1.3であった(群間差中央値:6.9、95%CI:3.3~10.6、p<0.001)。 治験薬投与の中止に至った有害事象は、チルゼパチド群で23例(6.3%)、プラセボ群で5例(1.4%)に認められた。胃腸症状による投与中止はチルゼパチド群でのみ15例(4.1%)が報告された。

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MI後のスピロノラクトンの日常的使用は有益か?/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた心筋梗塞(MI)患者において、スピロノラクトンはプラセボと比較し、心血管死または心不全の新規発症/増悪の複合イベント、あるいは心血管死、MI、脳卒中、心不全の新規発症/増悪の複合イベントの発生を低減しなかった。カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR investigatorsが、14ヵ国の104施設で実施した無作為化比較試験「CLEAR試験」の結果を報告した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は、うっ血性心不全を伴うMI患者の死亡率を低下させることが示されているが、MI後のスピロノラクトンの日常的な使用が有益であるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2024年11月17日号掲載の報告。スピロノラクトンvs.プラセボ投与を比較 研究グループは、PCIを受けたST上昇型MIまたは1つ以上のリスク因子(左室駆出率[LVEF]≦45%、糖尿病、多枝病変、MIの既往または60歳以上)を有する非ST上昇型MI患者を、2×2要因デザインによりスピロノラクトン+コルヒチン、コルヒチン+プラセボ、スピロノラクトン+プラセボ、またはプラセボのみを投与する群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 コルヒチン群とプラセボ群を比較した結果は別途報告されている。本論ではスピロノラクトン群とプラセボ群の比較について報告された。 主要アウトカムは2つで、(1)心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合と、(2)MI、脳卒中、心不全の新規発症または増悪および心血管死の複合であった。2つの主要アウトカムについて有意差なし 2018年2月1日~2022年11月8日に、7,062例が無作為化され、3,537例がスピロノラクトン、3,525例がプラセボの投与を受けた。今回の解析時点で、45例(0.6%)の生命転帰が不明であった。 追跡期間中央値3.0年において、1つ目の主要アウトカムである心血管死および心不全の新規発症または増悪の複合イベントは、スピロノラクトン群で183件(100患者年当たり1.7件)、プラセボ群で220件(100患者年当たり2.1件)が報告された。非心血管死の競合リスクを補正したハザード比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.69~1.21、p=0.51)であった。 2つ目の主要アウトカムの複合イベントの発生率は、スピロノラクトン群で7.9%(280/3,537例)、プラセボ群で8.3%(294/3,525例)が報告され、競合リスク補正後ハザード比は0.96(95%CI:0.81~1.13、p=0.60)であった。 重篤な有害事象は、スピロノラクトン群で255例(7.2%)、プラセボ群で241例(6.8%)に報告された。

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九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)【大学医局紹介~がん診療編】

加藤 光次 氏(准教授)山内 拓司 氏(助教)大村 洋文 氏(助教)近藤 萌 氏(大学院生)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちが目指す医療は、目の前の患者さんを助けること、そして将来の患者さんを救うことであり、深い洞察を伴う臨床と研究を通じて、この2つの役割を果たすことができる“Physician Scientist”の育成に、医局として力を入れています。九州大学医学部第一内科は、5つの診療研究グループ(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)で構成され、各医師が専門領域に精通しつつ、人・全身を総合的に診る力を重視しています。当科では、全体回診を継続するなど、グループや臓器別診療の垣根を越え、全人的に診療できる総合内科医の臨床力を自ずと身に付けることができる土壌が育まれています。さらに、当科の専門であるがんや免疫の領域では、奇跡的とも言える最近の基礎研究から臨床開発への応用を容易に目の当たりにすることができます。このことは、第一内科ならではの特徴で、基礎研究や臨床開発における成果を、専門性を越えて異なる視点やアプローチから学ぶことが可能です。すぐ近くに、自らの視野を広げてくれる環境が整っています。さまざまなグループの垣根を越えた組織の活力は「自由」から生まれ、第一内科開講以来100年以上もの間、それを大切にしてきました。第一内科に息づく「自分のやりたいことがやれる自由度の高さ、そしてそれを支える歴史と伝統」を引き継ぎ、臨床力・研究力・人間力のバランスが取れた“Physician Scientist”を目指す若い皆さまに是非教室にご参加いただき、それぞれがもつ夢を実現して欲しいと思います。全体回診を行い、グループの垣根を越えて診療力を入れている治療/研究テーマ九州大学病院血液内科では、移植推進拠点病院として年間約50件の造血幹細胞移植を実施しています。また、難治性悪性リンパ腫や多発性骨髄腫に対する新規治療であるCAR-T細胞療法も、いち早く導入され、年間50件以上の実施件数を誇っています。研究面では、白血病や悪性リンパ腫を中心とした基礎研究に加え、臨床現場での疑問点を出発点とした研究や、基礎研究から臨床応用を目指すトランスレーショナルリサーチも推進しています。たとえば、白血病幹細胞に発現するTIM3を世界に先駆けて発見し、これをターゲットとした治療薬の開発を進めています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、細胞治療に関する豊富な臨床経験を積むことができるほか、臨床と研究の距離感が近い環境が整っています。血液がんは一般的に予後が不良な疾患ですが、その治療法は日進月歩で進展しており、新たな治療法の開発に取り組むことができるのが大きな魅力です。血液がんと診断された患者さんは、多大なショックや不安を抱えていますが、少しでも安心できる未来を目指し、共に治療を進めていきましょう。カンファレンスの様子同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力私たち腫瘍グループは、がん治療の最前線で、多職種や複数の診療科と連携し、患者さん一人ひとりに最適な治療を届けることを目指しています。消化器がん、軟部肉腫、原発不明がんなど、幅広いがん種に対し、最新のエビデンスに基づく薬物療法を実践しています。時には合併症で悩むこともありますが、他のグループの先生方にいつでも気軽に相談できるので、心強いサポートを感じています。このように臓器の枠組みを越えた連携が、「全人的に診る」総合内科としての第一内科の強みであり魅力でもあります。患者さんに寄り添い、時に笑い合い、悩みながらも一緒に歩んでいく―それがやりがいであり、私が第一内科に入局した理由でもあります。さらに、研究設備も非常に充実しており、関連病院の先生方と協力しながら存分に研究を行うことも可能ですし、学位取得のチャンスも広がっています。また日本臨床腫瘍学会の認定研修施設として、「がん薬物療法専門医」の資格取得を目指すための高度な教育環境が整っています。臨床、研究、教育のいずれも充実したこの環境で、私たちと一緒に最先端のがん医療に取り組んでみませんか?これまでの経歴山口大学を卒業後、九州大学第一内科(心血管グループ)に入局し、内科専門医・循環器専門医を取得しました。現在は腫瘍循環器診療を行うとともに、がん治療と心血管疾患に関する基礎・臨床研究に力を入れています。同医局を選んだ理由当科は血液、腫瘍、循環器、膠原病、感染症など多様な診療グループがあり、各診療グループ間の垣根がないため、内科医としての知識を幅広く学べる環境が整っています。指導医の先生方は豊富な知識を持ち、患者さんに真摯に向き合っており、その姿勢に惹かれて入局を決意しました。所属する先生方のキャリアは多様で、各々のニーズに応じた働き方やスキル習得が可能です。私もがんと循環器領域の両方に興味を持ち、入局後にがん診療に従事した後、心血管グループに所属しています。現在学んでいること現在は大学院で、がん治療に関連する心血管障害の基礎研究を進めつつ、造血器腫瘍と心血管有害事象、腫瘍循環器リハビリテーションの臨床研究も行っています。がん治療は日々進歩し続けており、その中で患者さんに少しでも良い診療を提供できるよう研鑽を重ねています。九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)住所〒812-858 福岡県福岡市東区馬出3-1-1問い合わせ先ikyoku1intmed1@gmail.com医局ホームページ九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)専門医取得実績のある学会日本内科学会、日本血液学会、日本輸血・細胞治療学会、日本移植学会、日本臨床腫瘍学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本不整脈心電学会、日本アレルギー学会、日本リウマチ学会、日本感染症学会、日本臨床検査医学会、日本救急医学会、日本糖尿病学会 など研修プログラムの特徴(1)血液内科・腫瘍内科・心血管内科・膠原病内科・感染症内科と複数のグループが連携して診療にあたっており、充実したサポート体制のもとさまざまな分野の症例が経験できます。(2)治験や臨床試験をはじめ最先端の治療を実施しており、将来の治療開発に繋がる基礎研究にも精力的に取り組んでいます。希望があれば海外留学も支援します。(3)休日当番制を敷いて、ライフワークバランス実現に取り組んでいます。産休・育休から復帰した女性医師のキャリア支援にも力を入れています。詳細はこちら

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高リスク2型DM患者の降圧目標、120mmHg未満vs.140mmHg未満/NEJM

 心血管リスクを有する収縮期血圧(SBP)が高値の2型糖尿病患者において、目標SBPを120mmHg未満とする厳格治療は、140mmHg未満とする標準治療と比較して、主要心血管イベント(MACE)のリスクが低下したことが示された。中国・Shanghai Institute of Endocrine and Metabolic DiseasesのYufang Bi氏らBPROAD Research Groupが、中国の145施設で実施した無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Blood Pressure Control Target in Diabetes:BPROAD試験」の結果を報告した。2型糖尿病患者におけるSBP管理の有効な目標値ははっきりとしていない。NEJM誌オンライン版2024年11月16日号掲載の報告。主要アウトカムは、非致死的脳卒中・心筋梗塞、心不全入院/治療、心血管死の複合 研究グループは、50歳以上の2型糖尿病患者で、SBP高値(降圧薬服用患者130~180mmHg、非服用患者140mmHg以上)および心血管疾患リスクが高い患者を、目標SBPを120mmHg未満とする厳格治療群または140mmHg未満とする標準治療群に無作為に割り付け、最長5年間治療を行った。 主要アウトカムは、MACE(非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞、心不全による入院または治療、または心血管死の複合)とし、欠測の場合は多重代入法を用いて補完し解析した。 2019年2月~2021年12月に、1万2,821例が登録された(厳格治療群6,414例、標準治療群6,407例)。患者背景は、5,803例(45.3%)が女性で、平均(±SD)年齢は63.8±7.5歳であった。MACEの発生頻度は100人年当たり1.65 vs.2.09 平均SBPは、厳格治療群および標準治療群でそれぞれベースラインでの140.0mmHg、140.4mmHgから、1年後は121.6mmHgおよび133.2mmHgに低下した。 追跡期間中央値4.2年において、MACEは厳格治療群で393例(100人年当たり1.65件)、標準治療群で492例(同2.09件)に認められた(ハザード比:0.79、95%信頼区間:0.69~0.90、p<0.001)。 重篤な有害事象の発現率は、厳格治療群36.5%、標準治療群36.3%であり、両群で同等であった。しかし、症候性低血圧および高カリウム血症の発現率は、厳格治療群と標準治療群でそれぞれ0.1% vs.0.1%未満、2.8% vs.2.0%であり、厳格治療群で高頻度に認められた。

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第240回 3年間で612施設、43.6%も増えた美容外科、背景にはコロナ禍での過酷な長時間労働と「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求も

“直美”の時代、もう「白い巨塔」は映像化できないこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先々週からウィークデイのお昼に、フジテレビの地上波でテレビドラマの「白い巨塔」を再放送していたので、何回か観てみました(全21回で11月26日まで放送)。1978年の田宮 二郎版ではなく、2003年に放映された唐沢 寿明版です。唐沢が演じる財前 五郎は、田宮に比べて小柄で、白衣がダブダブなのと演技の迫力が違うのはまあ玉に瑕として、今でも十分に鑑賞に耐え得るドラマだと思いました。田宮 二郎は1978年のフジテレビのドラマ以前に、1966年に映画「白い巨塔」(山本 薩夫監督)でも財前を演じていますが、それについては本連載の「181回 大学病院への“甘さ”感じる文科省『今後の医学教育の在り方に関する検討会』中間取りまとめ、“暴走”する大学病院への歯止めは?」でも書きましたので、興味のある方はそちらをお読みください。さて、唐沢版の「白い巨塔」ですが、2003年放映で医学技術や医療事情も2000年代前半に合わせているはずですが、わずか20年前なのに相当な時代のズレを感じるシーンが散見され、興味深かったです。まず驚くのは財前が助教授室でタバコを吸ってる場面です。義父で産婦人科の財前 又一(西田 敏行が怪演)が財前に高級ライターをプレゼントする場面も違和感があります。また、財前の上司の東 貞蔵教授(石坂 浩二)が「開業医は医学の世界では負け犬だ」と、開業医を強烈にディスる場面も今ではコンプライアンス的にNGかもしれません。さらに言えば、教授回診のシーンに代表される、医学部教授を頂点とする大学医局の厳然たるヒエラルキーの存在自体も、新医師臨床研修制度(2004年スタート)の定着や、今進められている医師の働き方改革などによって、相当希薄になってきてるのではないかと感じます。おそらく、今の医療界を舞台に「白い巨塔」を映像化することは、非現実的ゆえに不可能なのではないかと思います。医局入局などそっちのけで、“直美”(初期研修を終えた後、すぐに美容医療界に進むこと)を選択する医師が急増している今となっては、なおさらです。美容外科、3年間で612施設・43.6%も増え、増加率は全43科目で最も高い数字その美容外科ですが、11月22日に厚生労働省が発表した「医療施設静態調査」の2023年版1)を見ると、数字の上でも最近の急増が明らかとなっています。医療施設静態調査は3年に1度、各年10月1日時点での医療施設を対象に調査するものです。それによれば、美容外科を標榜する診療所は2023年に2,016施設と2020年調査と比較して612施設、43.6%も増えました。増加率は全43科目で最も高く、増加数も2位でした。なお、増加数1位は皮膚科で775施設、3位は内科で604施設、4位は精神科で538施設、5位は糖尿病内科(代謝内科)で451施設、6位は形成外科で324施設でした。形成外科は増加率も高く15.0%でした。ちなみに、減少数の1位は小児科で1,020施設減、2位が消化器内科(胃腸内科)で703施設減、3位が外科で632施設減でした。この調査は複数科を標榜する場合は重複計上となっています。美容外科と併せて標榜する皮膚科や、関連して標榜する形成外科が多くなるのは当然の結果と言えそうです。それにしても、2020年から3年間で美容外科が4割増とは驚くべき数字です。コロナ後の日本における美容外科需要の高まりと、並行しての“直美”トレンドの定着にはいろいろな意味で恐ろしさを感じます。実際、美容医療で起きる医療事故は急増しています。国民生活センターなどに寄せられた美容医療による合併症や施術のトラブルなどの相談件数は、2023年度に約800件と2018年度から約2倍に増えており、大きな社会問題ともなっています。「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書も公表、年1回定期的な報告を求める仕組みの導入や診療録等への記載を徹底へ医療施設静態調査の結果が公表された11月22日には、厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書も公表されています。2024年6月から開催されてきた同検討会では、美容医療の患者や医療機関を対象とした実態調査や関係学会等からヒアリングなどを踏まえて、美容医療が抱えるさまざまな課題と対応策が議論されてきました。同報告書では、具体的な対応策として、「安全管理措置の実施状況等について年1回の頻度で都道府県知事等に対して定期的な報告を求める仕組みの導入」「医師法や保助看法等への違反疑いのある事例に対する保健所等による立入検査や指導のプロセス・法的根拠の明確化」「美容医療に関して必要な内容の診療録等への記載の徹底」「関係学会によるガイドラインの策定」などが提言されました。今後、こうした対応策が講じられることで、美容医療の質や安全対策は向上していくでしょうが、いわゆる“直美”や、ある程度技術が備わってからの美容医療への転身(「逃散」と言えるかもしれません)の傾向自体を止めることはできないでしょう。そこにはもっと深い構造的な問題があるからです。医局から派遣された病院での長時間労働で疲弊し美容医療の世界に11月22付日付でYahoo!ニュースに掲載された、共同通信とYahoo!ニュースによる共同連携企画の記事「『保険診療はもう限界』追い詰められた若手医師、次々に美容整形医へ…残った医師がさらに長時間労働の『悪循環』」は、まさにそうした「逃散」の現状をレポートしており読み応えがありました。同記事には、2010年代はじめに国立大学の医学部に入学、卒業後に外科医局に入った男性医師が、医局から派遣された病院での長時間労働で疲弊し、さらには奨学金返済に追われたことも手伝って適応障害を発症、美容医療の世界に転身した経緯が書かれています。「年収は約2,000万円。以前に比べて大幅に増えた上、十分に休みも取れるようになった」というこの医師の「医師の中には毎日、残業を何時間しても大丈夫という人がいる。敬意は持っています。でも反対に、そんな人でないと医局には残れないです」という言葉からは、お金のためでもあるけれど、「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求が、美容医療選択の背景にあることがうかがい知れます。コロナ禍は美容医療のブームのきっかけともなったが、同時に若手医師たちを疲弊させる原因ともなった同様のケースは多そうです。医療関係で働く私の友人の知り合いのある若手医師も、呼吸器内科で後期研修を終えたばかりなのに、美容外科への転身を考えているそうです。友人によれば、その医師は、コロナ禍での過酷な長時間労働に心身共に疲れ切ってしまったのだそうです。結婚して子どもも生まれたのに、一家団欒とは程遠い生活が続くことに疑問を覚え、妻の勧めもあって美容外科への転職の検討に入っているとのことでした。コロナ禍は、国内の美容医療のブームのきっかけになりましたが、同時に若手医師たちを疲弊させる原因にもなっていたわけです。その友人が教えてくれたもう一つの興味深いケースは、自らの開業資金を貯めるための美容医療への一時的就職です。普通の勤務医を続けるよりはラクで、かつ貯金できる金額も多いため、一定期間、美容医療に身を置いてまとまったお金を稼ごうというわけです。一時期、体力のある若者が短期集中で大金を稼ぐため、過酷ではあるけれど高給が保証される配送ドライバーになっていたことがありましたが、若手医師にとって美容医療がそうした位置付けにもなっているわけです。永遠に美容医療の世界で働くわけではないという点では少々“救い”はあるかもしれません。ただ、後期研修も受けていない“直美”の医師がお金を貯め、内科などで開業するのであれば心配です。中学生、高校生には「医者は理数系の就職先の中では負け犬だ」くらいのアピールをして、本当に医学の道に進みたい人材を医学部に厚生労働省は今、年末公表予定の「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」立案の最後の調整に入っています。その対策パッケージには、医師が多い地域での新規開業の抑制や、公立病院長になるのに地方勤務の経験を求める要件の拡大など、規制的な手法も盛り込まれる見込みです(「第233回 40年前の“駆け込み増床”を彷彿とさせる“駆け込み開業”が起こる?診療所が多い地域で新規開業を許可制にする案を厚労省が提起」参照)。しかし、こうしたさまざまな対策をもってしても、「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求に応えることは不可能でしょう。そもそも、医療の世界に限らずあらゆる業界において、20~30代の若者の「働くこと」に対する意識は、昭和の時代にモーレツに働いてきた今の管理職の50~60代とは大きく異なっています。昼夜働くことを厭わず、自らの医療技術向上を最優先するような若者はもはや一握りですし、仕事優先で子育て含めて家庭のことは配偶者任せ、というような夫婦も絶滅しつつあります。医師偏在是正や“直美”問題解決などのためには、そうした若者の意識変化に対応した施策も必要だと言えるでしょう。また、先に紹介したYahoo!ニュースの記事も指摘していますが、高校で成績の良い生徒にとりあえず医学部受験を勧める傾向の是正も必要だと考えます。「医師は高給で、生活は安定、皆から尊敬されるし、モテる」といった旧来のイメージを取っ払い、中学生、高校生には「医者は理数系の就職先の中では負け犬だ」くらいの強烈なアピールをして、本当に医学の道に進みたい人材を医学部に送り込むことが、長い目でみたら一番重要ではないかと思います。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況/厚生労働省

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更年期にホットフラッシュの多い女性は糖尿病リスクが高い

 更年期にホットフラッシュや寝汗などの症状を頻繁に経験した女性は、その後、2型糖尿病を発症する可能性が高いことが報告された。米カイザー・パーマネンテのMonique Hedderson氏らの研究によるもので、「JAMA Network Open」に10月31日、レターとして掲載された。 更年期には、ホットフラッシュ(突然の体のほてり)や寝汗(睡眠中の発汗)など、血管運動神経症状(vasomotor symptoms;VMS)と呼ばれる症状が現れやすい。このVMSは肥満女性に多いことが知られており、また心血管代謝疾患のリスクと関連のあることが示唆されている。ただし、糖尿病との関連はまだよく分かっていない。Hedderson氏らは、米国の閉経前期または閉経後早期の女性を対象とする前向きコホート研究(Study of Women’s Health Across the Nation;SWAN)のデータを用いて、VMSと糖尿病リスクとの関連を検討した。 SWANの参加者は2,761人で、平均年齢は46±3歳。人種/民族は、白人が49%、黒人が27%を占め、日本人も9.6%含まれている。そのほかは中国人が8.5%、ヒスパニックが6.5%。全体の28%は2週間に1~5日のVMSを報告し、10%は同6日以上のVMSを報告していた。追跡期間中に2型糖尿病を発症したのは338人(12.2%)だった。 VMSの出現パターンに基づき全体を4群に分け、交絡因子(年齢、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、教育歴、閉経ステージ〔閉経前期/閉経後早期〕、研究参加地点など)を調整後に、一貫してVMSが現れなかった群を基準に2型糖尿病発症リスクを解析。すると、一貫してVMSが頻繁に(2週間に6日以上)現れていた群は、50%ハイリスクであることが分かった(ハザード比〔HR〕1.50〔95%信頼区間1.12~2.02〕)。VMSの出現頻度が閉経ステージの前半のみ高かった群や、後半のみ高かった群は、一貫してVMSが現れなかった群とのリスク差が非有意だった。 論文の筆頭著者であるHedderson氏は、「更年期にVMSが頻繁に現れる女性は、ほかの健康リスクも抱えているというエビデンスが増えている」と話す。ただし、その関連のメカニズムはよく分かっていないとのことだ。論文の上席著者である米ピッツバーグ大学のRebecca Thurston氏も、「われわれの研究結果は、女性の心血管代謝の健康に対するVMSの重要性、特にその症状が長期間続く女性での重要性を示しており、さらなる研究が求められる。ホットフラッシュは、単なる不快な症状にとどまるものではないのかもしれない」と述べている。 研究グループによると、VMSが糖尿病のリスクを高める理由はまだ明確に説明できないが、VMSが心臓病のリスク増加につながるというエビデンスはあるという。そして、心臓病と糖尿病は、慢性炎症や睡眠の質の低下、体重増加が併存することが多いなどの共通点があると指摘している。 なお、Hedderson氏は、「女性の70%は更年期のどこかの時点で何らかのVMSを経験するが、われわれの研究で明らかになった糖尿病リスクの上昇が認められるのは、そのような女性のごく一部だ」と付け加えている。

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第242回 脂肪細胞の肥満記憶がリバウンドを引き起こすらしい

脂肪細胞の肥満記憶がリバウンドを引き起こすらしい体重を減らして代謝をよくし、体重絡みの不調をなくすことが肥満治療の主な目標です。しかし減った体重を維持するのは容易ではありません。治療で落ちた体重のおよそ30~35%は1年もすると復活(リバウンド)し、2人に1人は体重減少から5年目までにもとの体重に戻ってしまいます1)。米国疾病管理センター(CDC)の調査で、10%以上の体重減少を少なくとも1年間維持できたことがある太り過ぎや肥満の人の割合は、ほんの6人に1人ほど(約17%)に限られました2)。ヒトの体は体重が減っても持続する肥満時の特徴、いわば肥満記憶を維持していて、それがリバウンドに寄与しているようです。チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)のLaura C. Hinte氏らのヒトやマウスの新たな研究3)によると、そのような肥満記憶は脂肪細胞の核内のDNAの取り巻きの変化(後成的変化)によってどうやら支えられているようです。Hinte氏らは肥満の20例の肥満手術直前と手術の甲斐あって体重が少なくとも4分の1減った2年後の脂肪組織を解析しました。また、正常体重の18例の脂肪組織も検討しました。脂肪細胞のRNAの推移を調べたところ、肥満者では正常体重者に比べて100を超えるRNAが増えるか減っており、肥満手術で体重が減った2年時点も同様でした。その変化は体重を増えやすくすることと関連する炎症を促進し、脂肪の貯蔵や燃焼の仕組みを損なわせるらしいと研究を率いたFerdinand von Meyenn氏は言っています4)。そういうRNAの変化が体重のリバウンドに寄与するかどうかがマウスを使って次に検討されました。まず、体重を減らした肥満マウスにヒトに似たRNA変化が持続していることが確かめられました。続いて、体重を減らしたかつて肥満だったマウスと非肥満マウスに高脂肪食を1ヵ月間与えました。すると、非肥満マウスの体重増加は5gほどだったのに対して、かつて肥満だったマウスの体重は14gほども増加しました。かつて肥満だったマウスの脂肪細胞を取り出して調べたところ、脂肪や糖を非肥満マウスに比べてより取り込みました。そして、マウス脂肪細胞の肥満に伴うDNA後成的変化は体重が減ってからも維持されていました。その後成的変化が肥満と関連するRNA変化を生み出し、後の体重増加の火種となるようです。マウスのDNA後成的変化がヒトにも当てはまるのかどうかを今後の研究で調べる必要があります。また、脂肪細胞が肥満の記憶をどれほど長く維持するのかも調べる必要があります。Hinte氏によると脂肪細胞は長生きで、新しい細胞と入れ替わるのに平均10年もかかります5)。肥満の記憶を保持するのは脂肪細胞だけとは限らないかもしれません。脳、血管、その他の臓器の細胞も肥満を覚えていて体重リバウンドに寄与するかもしれません。研究チームは次にその課題を調べるつもりです。細胞の核内の体重関連後成的変化を薬で手入れし、肥満の後成的記憶を消すことは今のところ不可能です5)。しかし、やがてはそういう薬ができて肥満治療に役立つようになるかもしれません。参考1)Sarwer DB, et al. Curr Opin Endocrinol Diabetes Obes. 2009;16:347-352.2)Kraschnewski JL, et al. Int J Obes (Lond). 2010;34:1644-1654.3)Hinte LC, et al. Nature. 2024 Nov 18. [Epub ahead of print] 4)We're starting to understand why some people regain weight they lost / NewScientist5)Cause of the yo-yo effect deciphered / ETH Zurich

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糖尿病治療ガイド2024』発刊、GIP/GLP-1受容体作動薬を追加/糖尿病学会

 日本糖尿病学会は、糖尿病診療で頻用されている『糖尿病治療ガイド』の2024年版を11月に発刊した。本書は、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までをわかりやすくまとめ、専門医だけでなく非専門の内科医、他科の医師、医療スタッフなどにも、広く活用されている。今回の改訂では、GIP/GLP-1受容体作動薬の追加をはじめ、2024年10月現在の最新の内容にアップデートされている。【主な改訂のポイント】・「糖尿病診療ガイドライン2024」に準拠しつつ、診療上必要な専門家のコンセンサスも掲載。・GIP/GLP-1受容体作動薬の追加など、最新の薬剤情報にアップデート。・「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」に基づいた経口薬療法および注射薬療法の解説。・緩徐進行1型糖尿病の診断基準や糖尿病患者の脂質管理目標値、糖尿病性腎症の病期分類など、最新の基準・目標値の内容を反映。※アドボカシー活動の進展による言葉の変更は、いまだ適切な基準がないため、全面的な変更は見送った。 編集委員会は序文で「日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と期待を述べている。

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日本におけるアルツハイマー病への多剤併用と有害事象との関連〜JADER分析

 アルツハイマー病は、世界的な健康関連問題であり、有病率が増加している。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)やNMDA受容体拮抗薬などによる現在の薬物治療は、とくに多剤併用下において、有害事象リスクと関連している。香川大学の大谷 信弘氏らは、アルツハイマー病治療薬の組み合わせ、併用薬数と有害事象発生との関係を調査した。Medicina誌2024年10月6日号の報告。 日本の医薬品副作用データベース(JADER)より、2004年4月〜2020年6月のデータを分析した。対象は、AChEI(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)またはNMDA受容体拮抗薬メマンチンで治療された60歳以上のアルツハイマー病患者2,653例(女性の割合:60.2%)。有害事象とアルツハイマー病治療薬の併用および併用薬数との関連を評価するため、ロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・JADERに報告されたアルツハイマー病治療薬の使用状況は、ドネペジル単剤療法41.0%、リバスチグミン25.0%、ガランタミン17.3%、メマンチン7.8%、メマンチン+AChEI 8.9%であった。・併用薬数は、併用薬なし17.5%、1種類10.2%、2種類8.6%、3種類10.0%、4種類6.1%、5種類以上47.7%であった。・主な併存疾患の内訳は、高血圧35.2%、脂質異常症13.6%、糖尿病12.3%、脳血管疾患10.7%、睡眠障害7.4%、虚血性心疾患6.1%、うつ病4.7%、パーキンソン病4.3%、悪性腫瘍3.1%。・有害事象の頻度は、徐脈6.4%、肺炎4.6%、意識変容状態3.6%、発作3.5%、食欲減退3.5%、嘔吐3.5%、意識喪失3.4%、骨折3.4%、心不全3.2%、転倒3.0%。・メマンチン+AChEI併用療法は、徐脈リスク上昇と関連していた。・ドネペジル単独療法は、骨折、転倒リスク低下との関連が認められた。・多剤併用療法は、有害事象、とくに意識変容状態、食欲減退、嘔吐、転倒の発生率上昇と有意な相関が認められた。・5種類以上の薬剤を使用した場合としなかった場合の調整オッズ比は、意識変容状態で10.45、食欲減退で7.92、嘔吐で4.74、転倒で5.95であった。 著者らは「アルツハイマー病治療における有害事象発生率は、アルツハイマー病治療薬の既知の有害事象や併用パターンとは無関係に、併用薬数と関連している可能性が示唆された」と結論付けている。

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結核が再び最も致命的な感染症のトップに

 世界保健機関(WHO)は10月29日に「Global Tuberculosis Report 2024」を公表し、2023年に世界中で820万人が新たに結核と診断されたことを報告した。この数は、1995年にWHOが結核の新規症例のモニタリングを開始して以来、最多だという。2022年の新規罹患者数(750万人)と比べても大幅な増加であり、2023年には、世界で最も多くの死者をもたらす感染症として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を抑えて再びトップに躍り出た。 WHOのテドロス事務局長(Tedros Adhanom Ghebreyesus)は、「結核の予防・検出・治療に有効な手段があるにもかかわらず、結核が依然として多くの人を苦しめ、死に至らしめているという事実は憤慨すべきことだ」とWHOのニュースリリースで述べている。同氏は、「WHOは、各国が、これらの手段を積極的に活用し、結核の撲滅に向けて約束した取り組みを確実に実行するよう求めている」と付言している。 2023年の世界の結核患者数は1080万人に上り、男性の方が女性よりも多く(55%対33%)、12%は子どもと思春期の若者だった。また、HIV感染者が全罹患者の6.1%を占めていた。結核患者数には地域的な偏りが見られ、インド(26%)、インドネシア(10%)、中国(6.8%)、フィリピン(6.8%)、パキスタン(6.3%)の上位5カ国だけで56%に上り、これら5カ国にナイジェリア、バングラデシュ、コンゴ民主共和国を含めた8カ国が世界全体の感染者の3分の2を占めていた。 結核の新規罹患者の多くは、栄養不足、HIV感染、アルコール使用障害、喫煙(特に男性)、糖尿病の5つの主要なリスク因子が原因で結核を発症していた。WHOは、これらのリスク因子と貧困などの他の社会的決定要因に対処するには、協調的なアプローチが必要だと主張する。WHO世界結核プログラムディレクターのTereza Kasaeva氏は、「われわれは、資金不足、罹患者にのしかかる極めて大きな経済的負担、気候変動、紛争、移住と避難、COVID-19パンデミック、そして薬剤耐性結核など、数多くの困難な課題に直面している」と指摘。「全てのセクターと利害関係者が団結し、これらの差し迫った問題に立ち向かい、取り組みを強化することが不可欠だ」とWHOのニュースリリースで述べている。 一方、報告書には明るい兆しも見えた。結核による死亡者数は世界的に減少傾向にあり、新規罹患者数も安定し始めているという。それでもWHOは、「多剤耐性結核(MDR-TB)は依然として公衆衛生上の危機だ」と指摘し、「MDR-TBまたはリファンピシン耐性結核(RR-TB)の治療成功率は現在68%に達している。しかし、MDR/RR-TBを発症したと推定される40万人のうち、2023年に診断され治療を受けたのは44%に過ぎない」と懸念を示している。 結核は空気中の細菌によって引き起こされ、主に肺を侵す。WHOによると、世界人口の約4分の1が結核菌に感染していると推定されているが、そのうち症状が現れるのは5%から10%に過ぎないという。結核菌感染者は体調不良を感じないことも多く、感染力も低い。WHOは、「結核の症状は数カ月間、軽度のままで推移することがあるため、知らないうちに簡単に他人に病気を広めてしまう」と指摘している。主な結核の症状は、長引く咳(出血を伴うこともある)、胸痛、衰弱、倦怠感、体重減少、熱、寝汗などである。WHOは、「症状は感染部位により異なる。好発部位は肺だが、腎臓、脳、脊椎、皮膚にダメージを与える可能性もある」と付け加えている。

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全身性免疫炎症指数はCKDの死亡率に関連

 慢性腎臓病(CKD)患者における全身性免疫炎症指数(SII)のレベルと全死亡率の間にはJ字型の関連があることが、「Immunity, Inflammation and Disease」に9月10日掲載された。 上海中医薬大学(中国)のMeng Jia氏らは、CKD患者におけるSIIと全死亡率の関連性を検討した。分析には、1999~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)の対象者であったCKD患者9,303人が含まれた。 解析の結果、中央値86カ月の追跡期間において、SIIレベルと全死亡率との間に明確なJ字型の関連が示された。最低値は、第2四分位数内のSIIレベル478.93で確認された。SIIが478.93を超えると、SIIレベルの標準偏差が1増加するごとに全死亡率のリスクが上昇した(ハザード比1.13)。CKD患者では、SIIの上昇と全死亡率のリスク上昇との間に関連性が見られた(第4四分位数対第2四分位数のハザード比1.23)。SIIとCKDによる死亡率の相関は、60歳以上の対象者および糖尿病患者において特に顕著であった。SIIの極端な5%の外れ値を除外すると、SIIと全死亡率との間には線形の正の関連が見られた。 著者らは、「SII指数は、血小板、好中球、リンパ球の数を網羅しており、炎症状態と宿主免疫応答の間のバランスをより包括的に表す」と述べている。

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非肥満2型糖尿病患者の心血管障害へのSGLT2阻害薬の効果は/京大

 糖尿病の薬物治療で頻用されているSGLT2阻害薬。しかし、SGLT2阻害薬の有効性を示した過去の大規模臨床研究の参加者は、平均BMIが30を超える肥満体型の糖尿病患者が多数を占めていた。 わが国の実臨床現場ではBMIが25を下回る糖尿病患者が多く、肥満のない患者でも糖分を尿から排泄するSGLT2阻害薬が本当に有効なのかどうかは、検証が不十分だった。そこで、森 雄一郎氏(京都大学大学院医学系研究科)らの研究グループは、協会けんぽのデータベースを活用し、わが国のSGLT2阻害薬の効果検証を行った。その結果、肥満傾向~肥満の患者ではSGLT2阻害薬の有効性が確認できたが、BMI25未満の患者では明らかではなかったことがわかった。本研究の結果はCardiovascular Diabetology誌2024年10月22日号に掲載された。肥満者にSGLT2阻害薬の主要アウトカムの効果はみられた一方で非肥満者ではみられず この研究は、2型糖尿病でBMIが低~正常の患者におけるSGLT2阻害薬の心血管アウトカムに対する有効性を、従来の試験よりも細かい層別化を用いて検討することを目的に行われた。 研究グループは、2015年4月1日~2022年3月31日の協会けんぽのデータベースを活用し、3,000万例以上の現役世代の保険請求記録および健診記録を用い、標的試験エミュレーションの枠組みを用いたコホート研究を行った。 SGLT2阻害薬の新規使用者13万9,783例とDPP-4阻害薬の使用者13万9,783例をBMI区分(20.0未満、20.0~22.4、22.5~24.9、25.0~29.9、30.0~34.9、35.0以上)で層別化し、マッチングした。主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全。 主な結果は以下のとおり。・参加者の17.3%(4万8,377例)が女性で、31.0%(8万6,536例)のBMIが低~正常だった(20.0未満:1.9%[5,350例]、20.0~22.4:8.5%[2万3,818例]、22.5~24.9:20.5%[5万7,368例])。・追跡期間中央値24ヵ月で、主要なアウトカムは参加者の2.9%(8,165例)に発現した。・SGLT2阻害薬は全集団において主要アウトカムの発生率低下と関連していた(ハザード比[HR]:0.92[95%信頼区間[CI]:0.89~0.96])。・BMIが低~正常の集団では、SGLT2阻害薬は主要アウトカム発生率の低下と関連しなかった(20.0未満のHR:1.08[95%CI:0.80~1.46]、20.0~22.4のHR:1.04[95%CI:0.90~1.20]、22.5~24.9のHR:0.92[95%CI:0.84~1.01])。 この結果から研究グループは、「2型糖尿病患者の心血管イベントに対するSGLT2阻害薬の効果は、BMIが低いほど低減するようであり、BMIが低~正常(25.0未満)の患者では有意ではなかった。これらの結果はSGLT2阻害薬の投与開始時にBMIを考慮することの重要性を示唆している」と述べている。

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いよいよ多変量解析 その2【「実践的」臨床研究入門】第49回

多変量解析手法の選択と留意点臨床研究における多変量解析の主な目的の1つは交絡因子の調整です(連載第40回参照)。交絡因子は、Research Question(RQ)のE(要因)とC(対照)との「理想的な」比較を歪める因子、と説明しました(連載第45回参照)。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQ(簡略版)を下記に再掲します(連載第40回参照)。P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者E(要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満C(対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上O(アウトカム):1)末期腎不全 2)糸球体濾過量(GFR)低下速度また、これまでの先行研究の知見や医学的観点から、下記の因子をわれわれのRQの交絡因子として挙げてデータを収集し(連載第45回参照)、その仮想データ・セットを用いた記述統計の結果を、論文の表1としてEZR(Eazy R)で作成しました(連載第46回、第47回参照)。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、eGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値臨床研究では、多変量解析の代表的な手法として種々の回帰分析が行われます。回帰分析は、アウトカム指標を表す1つの変数(目的変数)と1つ以上の説明変数(交絡因子)との関係をいろいろな数式で表現し、モデル化します。どのような回帰分析モデルを選択するかはアウトカム指標の種類、すなわち目的変数の型で決まります。アウトカム指標の種類、目的変数の型は生存時間(連載第42回参照)および連続変数とカテゴリ変数に大別されるのでした(連載第46回参照)。前述したわれわれのRQ(簡略版)のOで挙げられている末期腎不全(の発症までの時間)は生存時間であり、GFR低下速度は連続変数となります。末期腎不全というアウトカムの発症までの時間は考慮せず、発症の有無のみで扱う場合はカテゴリ(2値)変数となります。生存時間は「打ち切り」も考慮したカテゴリ(2値)変数という捉え方もできます(連載第37回、第41回、第42回参照)。アウトカム指標(目的変数)の型の違いによって、それぞれ対応する回帰分析モデルは下記のようになります。連続変数:線形回帰(重回帰)カテゴリ(2値)変数:ロジスティック回帰生存時間:Cox比例ハザード回帰交絡因子の調整を多変量解析で行う際、サンプルサイズに比してあまり多くの説明変数(交絡因子)を回帰分析モデルに投入すると、モデルが不安定となります。そのため、回帰分析モデルごとに、投入可能な説明変数(目的変数)の数の目安が下記のように示されています。線形回帰(重回帰):説明変数(交絡因子)1つにつき、サンプルサイズ15例ロジスティック回帰:説明変数(交絡因子)1つにつき、アウトカム指標(目的変数)の少ない方のカテゴリ10例Cox比例ハザード回帰:説明変数(交絡因子)1つにつき、イベント数10例それでは、計画している交絡因子の調整が、われわれの仮想データ・セットで可能かどうか確認してみましょう。説明変数(交絡因子)の数は前述したように計8変数となります。まず、Oの1)末期腎不全(の発症までの時間)は生存時間ですので、Cox比例ハザード回帰分析を用います。説明変数(交絡因子)1つにつき、イベント数10例、すなわち8×10=80例が必要ですが、仮想データ・セットから計算した総イベント数は185例ですので(連載第41回参照)、充分です。Oの2)GFR低下速度は連続変数であり、線形回帰(重回帰)分析で必要なサンプルサイズの目安は8×15=120例です。作成した表1をみると、仮想データ・セットのサンプル数の総計は638例ですので(連載第47回参照)、こちらも大丈夫そうです。次回からは、それぞれの回帰分析モデルを用いた多変量解析の実際について、仮想データ・セットを使用したEZRの操作方法を交えて解説していきます。

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