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甲状腺疾患と円形脱毛症の間に遺伝的関連がある可能性

 甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎(橋本病)、亜急性甲状腺炎と円形脱毛症(AA)の間には有意な関連性があることを示す研究結果が、「Skin Research & Technology」に9月27日掲載された。 Heping Hospital Affiliated to Changzhi Medical College(中国)のYue Zhao氏らは、2標本のメンデルランダム化解析を用いた研究で、AAと甲状腺疾患の潜在的な因果関係を検証した。甲状腺機能低下症、橋本病、甲状腺機能亢進症、亜急性甲状腺炎、バセドウ病が曝露因子として選択され、AAが結果変数とされた。データはゲノムワイド関連解析(GWAS)から取得された。 解析の結果、甲状腺機能低下症(逆分散加重オッズ比1.40)、橋本病(同1.39)、亜急性甲状腺炎(同0.73)について、AAが統計的に有意な遺伝的予測を示すことが示された。多面性のエビデンスは見られなかった。関連の安定性と頑健性は、leave-one-outテストを使用して実証された。 著者らは、「私たちの研究結果は、甲状腺機能低下症、橋本病、亜急性甲状腺炎が、AAとの間に有意な関連性があることを示しており、内分泌の健康状態と皮膚病理の複雑な相互作用に関する新たな視点を示唆している。これらの発見は、甲状腺疾患とAAの発症機序との関係を示す新たなエビデンスを提供するだけでなく、特にAAの潜在的な治療法を探る上で、将来の研究に新たな方向性を示している」と述べている。

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3年ぶりのオンライン英会話【Dr. 中島の 新・徒然草】(563)

五百六十三の段 3年ぶりのオンライン英会話ここのところ、異常な寒さが続いています。表示される摂氏○度というのはそんなに低くないのですが。天気予報には実際の気温のほかに体感温度も示されます。それによれば、体感気温は実際の気温よりもかなり低く出ていました。やっぱり!さて、私にとって永遠の課題である英語です。久しぶりにオンライン英会話をやってみようと思って調べたら、最後のレッスンが2022年1月。一応休会手続きはしていたものの、実に3年間もの空白が!やはり生身の人間相手に場数を踏むことも大切ですね。そう思って再開しました。時々やってくる外国人患者さんの外来診療を想定してのレッスンです。今回の講師は60代の女性。中島「そちらが患者役で私が医師役ということで、ロールプレイをしてくれませんか?」講師「お医者さんといっても専門がいろいろあるんでしょう?」中島「私は脳外科ですが、主訴は何でもいいですよ」講師「難しいなあ」中島「良かったらご自身の健康問題の相談に乗りましょうか」講師「私、悪いところがいっぱいあるから」ということで、始まったのが講師自身の糖尿病の相談でした。薬をもらって飲んでいるのだそうです。でも、ご自分のHbA1cの数値なんかはまったく知らないようでした。中島「検査をしたら必ずHbA1cの値をチェックしてください」講師「わかったわ」中島「糖尿病を放置したらどうなるかご存じですか?」講師「知らなーい」中島「失明したり腎臓を悪くしたりして透析になってしまいますよ」講師「そうなの!」中島「週2回とか3回とか病院に行くことになりますから」講師「そうなったら旅行に行けないじゃない!」もはや英語のレッスンというよりも健康相談ですね。講師「何か食べてはいけない物とか、注意することある?」中島「ジュースばっかり飲むとか、ドカ食いするとかはやめたほうがいいですね」講師「フィリピンは果物が美味しいのよ。だからついたくさん食べてしまうんだけど」中島「マンゴーでもバナナでも、1口ずつ味わって食べましょう」講師「わかったわ。ほかに何かある?」中島「夕食を摂ったあと、まだもう少し欲しいと思うことがありますよね」講師「あるある!」中島「そんな時は10分だけ待ちましょう。そうしたら食べること自体に興味がなくなりますから」講師「そうなの?」中島「満腹になっても、そのことを脳が感じ取るまで少し時間がかかるんですよ」これをどう英語で表現したものか?後でChatGPTに聞いてみました。There is a time gap between your stomach being full and feeling full.うまいなあ!というわけで、60代の講師の場合は多くの健康問題を抱えている分、若い講師よりも診察ロールプレイには向いていたというお話です。目標としては、1回のレッスンで新しい英語の知識を最低3つ得る、というところにしたいと思います。読者の皆さんの参考になれば幸いです。最後に1句厳寒の 英語の授業は 糖尿病

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いざお見合いへ!オンラインvs.対面【アラサー女医の婚活カルテ】第6回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆前回は、結婚相談所(以下、相談所)での婚活の事前準備についてご紹介しました。今回は、実際のお見合いでの経験をシェアしたいと思います。「長期戦」となったマイ婚活プロフィールページを見て、双方が「会ってみたい」と思えば、いよいよ次のステップ、すなわち「お見合い」に進みます。大手の「連盟」(連盟については第3回参照)であるIBJが発行した「2023年度版 成婚白書」を見てみましょう。「年齢別『お見合い数』比較」では、成婚に至った女性のお見合い数(中央値)は、25~29歳の場合は9.0回、30~34歳の場合は11.0回だったそうです1)。では、私自身のお見合い回数はどうだったか…というと、なんと自分自身も驚きの「31回」でした!婚活の「活動期間」としても、成婚に至った女性の「在籍日数」(中央値)が25~29歳が205.0日、30~34歳が252.0日であるのに対し、「約1年半」でしたから、同年代に比べて長めだったことがわかります。われながら、よく頑張ったものです。ちまたの婚活マニュアルや、SNS上の「婚活アドバイザー」たちは、短期間での成婚を推奨する傾向があるようです。年齢が上がれば上がるほど成婚しづらくなるため、「とにかく誰かと結婚すること」を最優先に考えるのであれば、私の活動は褒められたものではないでしょう。しかし、前回にも触れたように、私は結婚相手に求める条件が比較的多く、「とにかく結婚したい」というよりは「結婚はあくまで人生の通過点。子どもは欲しいけれど、合わない相手と無理して結婚するよりは、独身のままのほうが良い」と思っていました。また、相手を医師に限定せずに活動しており、相手よりも私のほうが高年収である場合、「合わない相手と結婚して、その後離婚したら、財産分与で多額のお金を支払う羽目になる」という懸念も、頭の片隅にありました(笑)。そのため、夫と出会うまで、結果的に長期戦の婚活をすることになりました。「オンラインお見合い」は使いよう婚活業界では、2020年、日本結婚相手紹介サービス協議会がコロナ禍を考慮して「『オンライン』で出来ることは、『オンライン』で実施しましょう」との声明2)を出したことで、多くの連盟・相談所でオンラインお見合いが活発化しました。私も、活動開始当初はオンラインお見合いを多く活用していました。私なりに、オンラインお見合いと、対面のお見合いとを比較してみます。オンラインのメリットオンラインお見合いのメリットその1は、「感染の心配がない」ことです。職業柄、コロナに感染したら欠勤などで周りに迷惑を掛けてしまいますし、患者さんを感染させてしまったともなれば大問題ですから、オンラインお見合いの仕組みがあって助かりました。メリットその2は、「移動の手間・交通費やお茶代がかからない」ことです。オンコールがない休日に、30分程度の短いインターバルを置いて、同じ日に複数件のお見合いを組んだこともありました(精神的に疲れるのであまりお勧めはしませんが……)。メリットその3は、「遠方の人とも会える」ことです。前回触れたように、私にとって「将来的に同じ県内で生活できること」が結婚相手に求める条件の1つだったため、基本的には遠方在住の方とお会いすることはあまりありませんでしたが、ありがたいことに「成婚すればこん野さんの職場近くに移住してもよい」と言ってくれる方が時々いて、何度かお見合いしました。一番遠かったのは、なんとシンガポール在住の方でした!(ご縁はありませんでしたが…)。オンラインお見合いのデメリット一方、私が思うオンラインお見合いの最大のデメリットは、対面で会うときに比べて「お相手の雰囲気がわかりづらい」ことです。オンラインお見合いは、対面のお見合いに比べて、次のステップである「仮交際」に進む確率が高い、という記事3)を読みましたが、おそらくオンラインお見合いでは、完全に「なし」と判定したお相手以外は、いったん「交際希望」を出す場合が多いのではないかと思います。私の場合も、オンラインお見合いで「あり」か「なし」かの判断に迷ったら、取りあえず仮交際に進んでみて、仮交際のデート1回目で判断する場合が多かったです。結果として、直接会うよりも時間が取られることが多いと感じます。デメリットその2は、「回線トラブルが起こりうる」ことでした。一度、お相手が予定時刻を30分過ぎてもお見合いのオンラインミーティングに入室してこなかったことがありました。後日、回線トラブルだったので日程の再設定をとの依頼が来ましたが、トラブル時の対応力もその方の一面だと思ったので、お断りしました。デメリットその3は、「追加料金が発生しうる」ことでした。お相手の相談所のシステム次第では、オンラインお見合いの場合、1回当たり数千円の追加料金が徴収されることがあったようで、お見合い後にお断りする際、申し訳ない気持ちになりました。上記のようなメリット、デメリットを踏まえ、オンラインお見合いと対面でのお見合いを使い分けると良いと思います。おまけ~オンラインお見合いのコツ余談ですが、オンラインお見合いの際は、画面に映る印象がとても大切ですから、服装やメイクだけではなく、部屋の調光やインテリアにも気を配ると良いようです。私は、顔を明るく照らしてくれる、いわゆる「女優ライト」を活用していました。学会のWeb発表などでも使えるので、なかなか良い買い物でした。いかがでしたか?今回は、筆者自身のお見合い回数や、オンラインお見合いと対面でのお見合いの比較について書きました。次回も引き続き、お見合いでの体験談をお届けしたいと思います。お楽しみに。参考1)成婚白書/IBJ1)新型コロナウイルス感染症拡大防止に向けた結婚相手紹介サービス業界ガイドライン/JMIC 1)「オンラインお見合い」で約半数が仮交際へ。IBJ日本結婚相談所連盟、自宅での婚活を支援。/IBJ

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慢性疾患の増加は腎機能を低下させる

 高齢者における多疾患併存は腎機能低下と強く関連しており、慢性疾患の数が増えるほど腎機能の低下度も大きくなることが、新たな研究で明らかになった。研究論文の筆頭著者であるカロリンスカ研究所(スウェーデン)のGiorgi Beridze氏は、「われわれの研究結果は、高齢者の腎機能低下のリスクを評価する際に、慢性疾患の全体的な負担だけでなく、疾患間の複雑な相互作用も考慮した包括的な評価の重要性を強調するものだ」と述べている。この研究の詳細は、「Journal of the American Geriatrics Society(JAGS)」に12月17日掲載された。 この研究でBeridze氏らは、老化研究(Swedish National study on Aging and Care in Kungsholmen;SNAC-K)の一環として、スウェーデンの高齢者3,094人(平均年齢73.9歳)の健康状態を15年間にわたって追跡調査した。多疾患併存として慢性疾患の数を調査してそのパターンを特定し、経時的な推算糸球体濾過量(eGFR)の絶対的変化および相対的変化(ベースラインからの25%以上の低下)との関連を検討した。対象者の87%が多疾患併存に該当した。 解析の結果、慢性疾患の数とeGFRの絶対的な低下および相対的な低下との間には独立した容量依存関係が認められることが明らかになった。具体的には、慢性疾患が1つ増えるごとに、eGFRは年平均0.05mL/分/1.73m2低下し、ベースラインからeGFRが25%以上低下するリスクは23%増加すると推定された。 多疾患併存には、「非特異的な低負荷パターン」「非特異的な高負荷パターン」「認知機能障害や感覚障害を特徴とするパターン」「精神疾患や呼吸器疾患を特徴とするパターン」「心代謝性疾患を特徴とするパターン」の5つが特定された。「非特異的な低負荷パターン」を基準として、それぞれのパターンとeGFRとの関連を解析した結果、「非特異的な高負荷パターン」および「心代謝性疾患を特徴とするパターン」は、eGFRの絶対的および相対的な低下と有意に関連することが示された。具体的には、「非特異的な高負荷パターン」では、慢性疾患が1つ増えるごとにeGFRは年平均0.15mL/分/1.73m2低下し、ベースラインからeGFRが25%以上低下するリスクが45%増加すると推定された。また、「心代謝性疾患を特徴とするパターン」では、eGFRは年平均0.77mL/分/1.73m2低下し、25%以上低下するリスクは245%増加すると推定された。さらに、「認知機能障害や感覚障害を特徴とするパターン」では、eGFRが25%以上低下するリスクが53%増加することも推定された。 研究グループは、「高血圧や心疾患などの慢性疾患は糖尿病と関連しているため、あるいは臓器にダメージを与える炎症を引き起こすため、腎臓にダメージを与える可能性がある」との見方を示している。そして、「加齢に伴うこのような疾患パターンを追跡し、慢性疾患を管理することが、腎臓の健康を維持するのに役立つ可能性がある」と結論付けている。 Beridze氏は、「高齢者で、高リスクの多疾患併存パターンに該当する患者には、腎機能のモニタリングを強化し、健康的なライフスタイルを推進し、タイムリーな薬理学的介入を行うことで患者にベネフィットがもたらされる可能性がある」と話している。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(糖尿病・代謝・内分泌内科編)

Intensive Blood-Pressure Control in Patients with Type 2 DiabetesBi Y, et al. N Engl J Med. 2024 Nov 16. [Epub ahead of print]<BPROAD試験>:2型糖尿病において、目標収縮期血圧を120mmHg未満にすることで心血管イベントリスクが低減2型糖尿病における至適な血圧目標値は、一般に130/80mmHg未満とされています。心血管疾患高リスクの2型糖尿病を有する中国人を対象とした本研究(RCT)では、収縮期血圧120mmHg未満を目標にすることにより、心血管イベントが統計学的に有意に低下することが示されました。Randomized Trial for Evaluation in Secondary Prevention Efficacy of Combination Therapy-Statin and Eicosapentaenoic Acid (RESPECT-EPA)Miyauchi K, et al. Circulation. 2024;150:425-434.<RESPECT-EPA>:EPAをスタチンに上乗せ投与しても心血管イベントリスクは低減しないEPA(eicosapentaenoic acid)は動脈硬化を抑制することが想定されています。しかしながら、ハイリスクの日本人冠動脈疾患患者にEPAをスタチンに上乗せ投与しても心血管イベントリスクは有意には低減しませんでした。一方、心房細動リスクが有意に上昇しました。Insulin Efsitora versus Degludec in Type 2 Diabetes without Previous Insulin TreatmentWysham C, et al. N Engl J Med. 2024;391:2201-2211.<QWINT-2>:肥満2型糖尿病において、efsitoraの効果はデグルデクに非劣性大きな期待がかけられているweeklyタイプのインスリン・efsitora。肥満2型糖尿病患者において、efsitoraの効果と安全性はインスリン・デグルデクと比較し非劣性であることが示されました。低血糖や体重増加は両剤とも同等でした。Once-weekly insulin efsitora alfa versus once-daily insulin degludec in adults with type 1 diabetes (QWINT-5): a phase 3 randomised non-inferiority trialBergenstal RM, et al. Lancet. 2024;404:1132-1142.<QWINT-5>:1型糖尿病において、efsitoraの効果はデグルデクに非劣性1型糖尿病患者を対象としたRCTで、インスリン・デグルデクに対するインスリン・efsitoraによる血糖降下作用の非劣性が示されたものの、中等度~重度の低血糖リスクが有意に上昇しました。1型糖尿病におけるインスリン・イコデク(weekly製剤)投与に伴う低血糖リスクも同様であったことが報告されています(Russell-Jones D, et al. Lancet. 2023;402:1636-1647.)The Effect of Denosumab on Risk for Emergently Treated Hypocalcemia by Stage of Chronic Kidney Disease : A Target Trial EmulationBird ST, et al. Ann Intern Med. 2024 Nov 19. [Epub ahead of print]<デノスマブによる低カルシウム血症>:重症低カルシウム血症リスクはCKD病期と関連CKD進展に伴い、ビスフォスフォネートと比較しデノスマブで重症低カルシウム血症のリスクが高まることが示唆されました。デノスマブを投与する際には、デノタス®(カルシウム/天然型ビタミンD3/マグネシウム配合剤)の投与と血清カルシウム値のモニタリングが重要です。

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ヘモクロマトーシス、HFE C282Yホモ接合体は糖尿病リスク高い/BMJ

 トランスフェリン飽和度またはフェリチンが正常、あるいはこれら両方が正常のヘモクロマトーシス患者は、ほとんどのガイドラインでHFE遺伝子型の判定が推奨されていないという。デンマーク・コペンハーゲン大学のMathis Mottelson氏らが、HFE遺伝子C282Yホモ接合体を有するヘモクロマトーシス患者は糖尿病のリスクが増加しており、糖尿病でC282Yホモ接合体の非保有者と比較して、糖尿病でC282Yホモ接合体の保有者は死亡率が高く、この集団の死亡の3割近くは糖尿病に起因する可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2024年12月9日号で報告された。デンマークの3つの集団の前向きコホート研究 研究グループは、血漿中の鉄、トランスフェリン飽和度、フェリチン濃度が正常であっても、HFE遺伝子C282Yホモ接合体を保有するヘモクロマトーシス患者は、糖尿病、肝疾患、心疾患のリスクが高いか否かを検証し、これらの疾患を持つC282Yホモ接合体の非保有者と比較して、保有者は死亡率が高いか否かについて検討する目的で、前向きコホート研究を行った(Capital Region of Denmarkなどの助成を受けた)。 解析には、デンマークの3つのコホート研究(Copenhagen City Heart Study、Copenhagen General Population Study、Danish General Suburban Population Study)のデータを用いた。 HFE遺伝子のC282Y変異およびH63D変異の有無を評価した13万2,542例(このうち422例がC282Yホモ接合体)を対象とし、研究への登録から最長27年間、前向きに追跡した。トランスフェリン飽和度、フェリチンが正常でも糖尿病リスクが高い C282Yホモ接合体の非保有者と比較した保有者の疾患別罹患率のハザード比(HR)は、糖尿病が1.72(95%信頼区間[CI]:1.24~2.39、p=0.001)、肝疾患が2.22(1.40~3.54、p<0.001)で、心疾患は1.01(0.78~1.31、p=0.96)であった。 年齢層別の5年間の糖尿病絶対リスクは、C282Yホモ接合体を保有する女性で0.54~4.3%、非保有女性で0.37~3.0%、保有男性で0.86~6.8%、非保有男性で0.60~4.8%であった。 試験登録時に得られた1回の血液サンプルの鉄、トランスフェリン飽和度、フェリチン濃度の値に基づく解析では、C282Yホモ接合体を有する集団は、トランスフェリン飽和度が正常(HR:2.00、95%CI:1.04~3.84)、またはフェリチンが正常(3.76、1.41~10.05)であっても糖尿病のリスクが上昇しており、フェリチンとトランスフェリン飽和度の両方が正常(6.49、2.09~20.18)でも糖尿病リスクが高かった。糖尿病による死亡の人口寄与割合は27.3% 糖尿病でC282Yホモ接合体を保有する集団では、糖尿病で非保有の集団よりも全死因死亡のリスクが高かったが(HR:1.94、95%CI:1.19~3.18)、糖尿病のないC282Yホモ接合体保有集団では死亡率は増加しなかった。 C282Yホモ接合体を保有する集団の死亡のうち、特定の疾患を有する集団における超過死亡を除外した場合に理論的に予防が可能な死亡の割合(人口寄与割合)は、糖尿病で27.3%(95%CI:12.4~39.7)、肝疾患で14.4%(3.1~24.3)であった。 一方、糖尿病や肝疾患のリスクは、H63Dヘテロ接合体、H63Dホモ接合体、C282Yヘテロ接合体、C282Y/H63D複合ヘテロ接合体を保有する集団では増加しなかった。 著者は、「これらの結果は、将来の遺伝性ヘモクロマトーシスの診療ガイドラインでは、C282Yホモ接合体を保有する集団においては糖尿病の発見と治療を優先することが重要となる可能性を示すものである」としている。

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過去30年間の世界の糖尿病有病率と治療率の推移(解説:住谷哲氏)

 2024年に国連が発表した世界人口は約82億人で、今世紀中には100億人を突破するようだ。今から30年ほど前の1990年の世界人口は約53億人だったので、この30年間に約30億人増加したことになる。そこで、この30年間に世界の糖尿病患者数と治療率がどう推移したかを検討したのが本論文である。 世界中から収集した18歳以上の1億4,100万人のデータに基づく解析であるから、現時点での最も詳細な疫学データと思われる。従来実施された同様の研究では糖尿病の診断に主としてFPGが用いられたが、本解析ではHbA1cまたは糖尿病治療歴の有無も使用されているので精度の点でも優れている。 結果は、2022年の糖尿病患者数は8億2,800万例で有病率は女性13.9%、男性14.3%であった。これは1990年と比較すると約6億3000万例増加しており、過去30年間に世界の糖尿病患者数は約4倍以上増加したことがわかる。問題は中・低所得国での増加が著しく、その傾向がますます強くなっている点である。治療率の推移をみても同様の傾向であり、中・低所得国では患者数の増加に比較して治療率の上昇が認められていない。 健康の社会的決定要因(SDOH:social determinants of health)と糖尿病とが深く関係することは、すでに明らかとなっている1)。これは本論文が示す世界規模でも、われわれの日常臨床においても同様である。糖尿病患者一人ひとりが置かれた社会的環境を考慮したマネジメントが、ますます重要となっている。 

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高ナトリウム血症の治療【日常診療アップグレード】第21回

高ナトリウム血症の治療問題82歳男性。頻回の下痢による高ナトリウム血症のため、3日前に入院となった。生理食塩水を3L点滴した。意識混濁があり、経口で水分を摂取することはできない。今日の血圧は132/76mmHg、脈拍は82/分である。他のバイタルサインには異常はない。血液検査所見はNa 157mEq/L、K 3.3mEq/Lである。胃管を挿入して水分を補給した。

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糖尿病と腎臓病の併発は心臓病発症を大幅に早める

 2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)は、ともに心臓病のリスク因子だが、両者が併存していると、心臓病発症が大幅に早まるとする研究結果が報告された。米ノースウェスタン大学および同ボストン大学のVaishnavi Krishnan氏らが、米国心臓協会(AHA)の科学セッション(AHA Scientific Sessions 2024、11月16~18日、シカゴ)で発表した。 Krishnan氏らの研究には、AHAが構築した心血管疾患(CVD)イベント予測ツール「Predicting Risk of cardiovascular disease EVENTs(PREVENT)」が用いられた。PREVENTは、2011~2020年の米国国民健康栄養調査のデータに基づき開発されたもので、糖尿病やCKD、または喫煙習慣の有無、降圧薬や脂質低下薬の服用などの情報を基に、向こう10年間のCVDイベントの発症リスクを予測できる。通常、リスクが7.5%以上の場合に「CVDハイリスク」状態と判定する。 このPREVENTを使い、30~79歳の各年齢の人が、推定糸球体濾過量44.5mL/分/1.73m2以下(CKDステージ3に該当)のCKDのみを有する場合、2型糖尿病のみを有する場合、および、それら両者を有する場合、両者とも有さない場合に、CVDハイリスクと判定される年齢を割り出した。 その結果、2型糖尿病とCKDをともに有さない場合にCVDハイリスクと判定される年齢は、女性68歳、男性63歳だった。それに対して、CKDのみを有する場合、女性は60歳、男性は55歳でハイリスクと判定され、女性・男性ともに8年早くリスクが高まると予測された。また、2型糖尿病のみを有する場合は、女性は59歳、男性では52歳でハイリスクと判定され、女性は9年、男性は11年早くリスクが上昇すると予測された。 そして、CKDと2型糖尿病が併存している場合は、女性は42歳、男性は35歳でハイリスクと判定されることが分かった。つまり、2型糖尿病とCKDを有さない人に比べて、女性は26年、男性は28年も早く、CVDリスクが高い状態になると予測された。 Krishnan氏は、「われわれの研究により、CVDリスク因子が組み合わさることによる影響の大きさが明らかになり、実際に何歳からハイリスク状態になるのかを分かりやすく理解することが可能になった」と述べている。また、「例えば、血圧や血糖値が境界域まで上昇し腎機能がやや低下しているものの、高血圧、糖尿病、CKDとは診断されていない状態では、本人は自分のCVDリスクの高さを認識していないことが少なくない。そのような場合に、本研究のような手法によってリスクをはっきり自覚することは、その後の疾患管理に役立つだろう」と付け加えている。 ただし、研究者らは、この結果が一般人口のデータに基づきシミュレーションされたものであることを、解釈上の留意点として挙げている。本研究を主導した米ノースウェスタン医科大学のSadiya Khan氏も、「今回の報告は、疾患リスクモデルがどのくらい有用かを理解する最初のプロセスに当たる」としている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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MRIで膵臓がんの前駆病変を検出可能か

 膵臓がんは、膵臓自体が体の奥深くに位置しているため、生命を脅かすようになる前の早期段階で検出することは難しいことから、サイレントキラーと呼ばれている。しかし、拡散テンソル画像法(DTI)と呼ばれるMRI画像技術の一種が、膵臓がんのより早期の発見に役立つ可能性のあることが新たな研究で明らかになった。シャンパリモー臨床センター(ポルトガル)の放射線科医であるCarlos Bilreiro氏らによるこの研究結果は、「Investigative Radiology」に12月13日掲載された。研究グループは、これらの結果は膵臓がんリスクがある人の早期診断につながる可能性があると述べている。 膵臓がんは、米国ではがん関連死の第3位の原因である。膵臓がんの5年生存率は、早期に発見できれば44%だが、他臓器に転移すると約3%にまで急落する。残念なことに、膵臓がんの症状は、原因不明の体重減少、糖尿病の発症、黄疸など、他の病気の症状と混同されやすい。 研究グループの説明によると、膵臓がんの約95%は膵管腺がん(PDAC)と呼ばれるものであり、その多くは膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)と呼ばれる前駆病変から発生するが、これらの病変は、通常のスキャン方法では検出が容易ではない。しかし、研究グループは、DTIを使えばその検出が可能になるのではないかと考えた。論文の上席著者で、シャンパリモー・リサーチのNoam Shemesh氏は、「DTIは、組織内の水分子の拡散を利用する方法だ。これにより放射線科医は組織の微細構造を観察できる」と説明する。DTIは30年前に開発され、主に脳の画像診断に使用されている。Shemesh氏は、「DTIは新しい方法ではない。ただ、これまで膵臓がんの前駆病変の検出には使われていなかっただけだ」と話している。 この研究では、実験用マウス(PanINモデルマウス4匹、PDACモデルマウス6匹、対照6匹)のDTI画像によりPanINの検出とその特徴を識別できるかが検証された。まず、生体内でDTIを実施した後、膵臓組織を用いて超高磁場のMR顕微鏡でDTIおよびT2強調画像を取得し、組織学的な検証を行った。 その結果、DTIによりPanINとPDACを正確に検出できることが明らかになった。具体的には、拡散異方性の程度を表すFA(fractional anisotropy)、および主軸に垂直な方向への拡散性を表すRD(radial diffusivity)による判別能力を示す曲線下面積(AUC)は0.983(95%信頼区間0.932〜1.000)であった。また、平均拡散能を表すMD(mean diffusivity)および主軸方向への拡散性を表すAD(axial diffusivity)によるAUCは1.000(同1.000〜1.000)であった。さらに、MR顕微鏡と組織学的解析からは、MR画像で観察されるコントラストが、膵臓の微細構造の特徴に由来することが判明した。一方、DTIとT2強調画像との相関の検討では、特にADが病変の広がりや重症度と強い相関を示した。最後に、この結果を人に適応する可能性を検討するために、5人のヒトの膵臓組織を用いて観察を行った。その結果、マウスでの結果と同様に、PanINと正常膵臓との間に顕著なコントラストが確認された。 Shemesh氏は、「われわれは、患者から膵臓組織のサンプルを入手して調査し、マウスで得られた結果が人間にも当てはまることを確認した」と述べている。一方、Bilreiro氏は、「この研究は、膵臓がんの前駆病変の研究における画期的な出来事だと考えている」と話している。 ただし研究グループは、「人間の膵臓がんの検査にこの技術を適用できるようになるまでには、さらなる研究を行い、技術を磨く必要がある」との見方を示している。Shemesh氏は、「これは概念実証研究であり、すでに基本手段として用いられている方法を活用して実際に人間や患者を対象に試験を行うための基礎を提供したに過ぎない」と述べている。

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抗精神病薬誘発性体重増加にGLP-1受容体作動薬セマグルチドが有効

 抗精神病薬誘発性体重増加は、患者および臨床医にとって重要な臨床課題であり、抗精神病薬使用患者の体重増加を予防または回復するための適切な介入が求められる。最近、肥満管理の新たなアプローチとしてGLP-1受容体作動薬が大きな注目を集めている。GLP-1受容体作動薬セマグルチドは、顕著な体重減少をもたらすことが明らかとなっている薬剤である。オランダ・マーストリヒト大学のBea Campforts氏らは、抗精神病薬誘発性体重増加に対してもセマグルチドが同等の体重減少効果を示すかを調査した。BMC Psychiatry誌2024年11月30日号の報告。 日常的な外来診療における抗精神病薬誘発性体重増加の治療に対するセマグルチドの有効性および安全性を評価するため、プロスペクティブ非ランダム化コホート研究を実施した。その後、メトホルミンを使用している抗精神病薬誘発性体重増加患者を対照群として、結果を比較した。 主な結果は以下のとおり。・16週間後の体重減少は、セマグルチド群(10例)で4.5kg(95%信頼区間[CI]:−6.7〜−2.3、p<0.001)、メトホルミン群(26例)で2.9kg(95%CI:−4.5〜−1.4、p<0.001)。・この結果は、平均体重減少率がセマグルチド群で4%、メトホルミン群で2.5%に相当する。・セマグルチド群におけるBMIの減少は−1.7kg/m2(95%CI:−2.4〜−1.0、p<0.001)、ウエスト周囲径の減少は−6.8cm(95%CI:−9.7〜−3.8、p<0.001)。・メトホルミン群におけるBMIの減少は−0.8kg/m2(95%CI:−1.4〜−0.3、p=0.001)、ウエスト周囲径の減少は−3.4cm(95%CI:−5.4〜−1.3、p=0.001)。・両群間で、統計学的に有意な差は認められなかった。・両群ともに副作用は、典型的に軽度、一時的であり、主な副作用は悪心であった。・さらに、精神症状の軽減、QOL向上が認められた。 著者らは「セマグルチドは、精神疾患患者の抗精神病薬誘発性体重増加に対し実行可能で効果的かつ安全な治療オプションであることが示唆された。これらの結果を裏付けるためにも、さらなる調査が求められる」と結論付けている。

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肥満は服薬遵守と独立した負の関連因子―国内CVD患者対象研究

 心血管疾患(CVD)患者を対象に、服薬遵守状況(アドヒアランス)を主観的指標と客観的指標で評価した研究結果が報告された。客観的指標に基づきアドヒアランス良好/不良に分けた2群間で主観的指標には有意差がないこと、および、肥満がアドヒアランス不良に独立した関連のあることなどが明らかにされている。福岡大学筑紫病院薬剤部の宮崎元康氏らの研究によるもので、詳細が「Pharmacy」に10月6日掲載された。 慢性疾患では服薬アドヒアランスが低下しやすく、そのことが予後不良リスクを高めると考えられる。しかし服薬アドヒアランスを評価する標準的な手法は確立されておらず、主観的な手法と客観的な手法がそれぞれ複数提案されている。例えば主観的評価法の一つとして国内では、12項目の質問から成るスケールが提案されている。ただし、そのスケールでの評価結果と、残薬数から客観的に評価した結果との関連性は十分検討されておらず、今回の宮崎氏らの研究は、この点の検証、およびCVD患者の服薬アドヒアランス低下に関連のある因子を明らかにするために実施された。 研究の対象は2022年6~12月に同院循環器科外来へ2回以上受診していて、残薬数に基づき客観的にアドヒアランスの評価が可能な患者のうち、研究参加協力を得られた94人。医師-患者関係の違いによる影響を除外するため、1人の医師の患者のみに限定した。 前述のように主観的な評価には12項目のスケールを採用。これは60点満点でスコアが高いほどアドヒアランスが良好と判断する。一方、客観的な評価に用いた残薬カウント法は、評価期間中の2回目の受診時の残薬数を前回の処方薬数から減算した値が、処方薬数に占める割合を算出して評価するもので、残薬がゼロであれば遵守率100%となる。本研究では100%をアドヒアランス良好、100%未満を不良と定義した。 解析対象者の主な特徴は、年齢中央値74歳(四分位範囲67~81)、男性55.3%、肥満(BMI25以上)36.2%であり、処方薬数は中央値4(同2~7)で、降圧薬(84.0%)、脂質低下薬(59.6%)、抗血栓薬(38.3%)、血糖降下薬(29.8%)などが多く処方されていた。また17.0%の患者への処方は、1包化(1回に服用する薬剤を1袋にすること)されていた。 94人のうち49人が、客観的手法である残薬カウント法により、アドヒアランス良好と判定された。アドヒアランス良好群の主観的評価スコアは中央値51点(四分位範囲44~56)であり、対してアドヒアランス不良群の主観的評価スコアは同50点(45~54)で、有意差が見られなかった(P=0.426)。 次に、残薬カウント法に基づくアドヒアランス良好群と不良群の背景因子を比較すると、単変量解析では肥満(P=0.014)と喫煙歴(P=0.043)に有意差が認められ、いずれもアドヒアランス不良群にそれらの該当者が多かった。この2項目のほかに、非有意ながら大きな群間差(P<0.1)が認められた因子(日常生活動作〔ADL〕、独居、狭心症治療薬の処方)、およびアドヒアランスの主観的評価スコアを独立変数とし、残薬カウント法によるアドヒアランス不良を従属変数として、ロジスティック回帰分析を施行。その結果、肥満のみが有意な関連因子として抽出された(オッズ比3.527〔95%信頼区間1.387~9.423〕)。喫煙歴(P=0.054)と狭心症治療薬の処方(P=0.052)の関連はわずかに有意水準未満であり、主観的評価スコアは関連が認められなかった(P=0.597)。 以上の総括として著者らは、「主観的な手法と客観的な手法による服薬アドヒアランスの評価が矛盾する結果となった。よって臨床においては双方の指標を使用したモニタリングが必要と考えられる。また、肥満は残薬カウント法で判定したアドヒアランス不良に独立した関連のある因子であり、肥満を有するCVD患者には特に入念なモニタリングが求められる」と述べている。

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乾癬性関節炎〔PsA:psoriatic arthritis〕

1 疾患概要■ 定義乾癬に関節炎(炎症性関節症)を伴ったもの。「関節症性乾癬」とも呼ばれる。乾癬は尋常性(局面型)乾癬が最も多いが、乾癬性紅皮症や汎発性膿疱性乾癬に関節炎が合併することもある。■ 疫学国内外でいくつもの疫学データがあり、乾癬患者の10%以下から多いものでは40%を超えるとする報告もある1)。日本乾癬学会の疫学データでは、乾癬患者の15.2%が2)、また、リウマチ科主導で行われた多施設共同のデータでは14.3%が乾癬性関節炎を有していた。 したがって、紹介患者を受け入れる基幹病院では、乾癬患者のおおよそ14~15%が乾癬性関節炎と推定される。東アジアにおける疫学をみると、乾癬患者における乾癬性関節炎の占める割合は、韓国は9~14.1% 、中国は5.3~7.1% と報告されている3)。働き盛りの青壮年期に多く、わが国では乾癬、乾癬性関節炎ともに男性が多い。■ 病因関節リウマチが滑膜炎であるのに対し、乾癬性関節炎は付着部炎がprimaryな変化と考えられている。付着部は、筋肉や腱が骨に付着する部位で、微細な外的刺激が繰り返し加わることにより付着部に炎症が惹起される。乾癬性関節炎でも二次的な滑膜炎がみられることもある。■ 症状皮膚症状と関節症状があり、皮膚症状は落屑性紅斑(乾癬)で、好発部位は頭、肘、膝、臍などだが、頭の先から足のつま先までどこにみられても不思議ではない。関節症状は末梢関節が侵される頻度が高いが、大関節(頸椎、腰椎、仙腸関節など)が侵されることもまれではない。末梢関節が侵されると、罹患関節の腫脹や変形がみられることもある。また、乾癬性関節炎の中には、皮膚症状が目立たない(非常に軽度の)場合もある。そのほか、爪乾癬(爪の点状陥凹、肥厚、白濁など)がみられることが多く、爪の変化とその近傍の第一関節の痛みや腫れが一緒にみられることもある。皮膚症状(乾癬)が先行、または皮膚症状と関節症状がほぼ同時期に出現する場合が9割以上を占め、関節炎が先行する頻度は少ない4)。■ 分類関節症状により、以下の5群に分けられている (Moll&Wrightの分類)5)。(1)非対称性関節炎型(Oligo-arthritis type)(2)関節リウマチ類似の対称性関節炎型(Poly-arthritis type)(3)定型的関節炎型(DIP type)(4)ムチランス型(5)強直性脊椎炎型(Ankylosing spondylitis[AS]type)■ 予後乾癬においてはさまざまな併存症がみられる。乾癬性関節炎においても、肥満、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病が多い。さらに、動脈硬化症や心筋梗塞の心血管病変が予後に影響することが多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)CASPAR(Classification criteria for psoriatic arthritis)の分類基準がある。炎症性関節症があるのが前提で、3点以上で乾癬性関節炎と診断するとあるが、そもそも患者は皮膚症状がないと皮膚科を受診しないので、乾癬があれば2点、爪乾癬がある(1点)かリウマトイド因子が陰性(1点)であれば、それだけで3点を超えてしまう。他の項目に、指趾炎と呼ばれる手や足の指の芋虫状の腫れ(1点)と、手足の単純X線所見で関節周囲の骨新生像(1点)があるが、どちらも早期にみられる所見ではない。乾癬性関節炎を診断するいくつかの特徴的な症状に、付着部炎や指趾炎があるが、これらがみられるときはすでに早期ではない。したがって早期診断はきわめて難しい。■ 鑑別診断高齢者は膝や腰を始め関節の痛みを訴えることが多い。変形性関節症や関節リウマチを始め、リウマチ性多発筋痛症、痛風、偽痛風など関節の痛みや変形を来すさまざまな疾患との鑑別を要する。とくに手指の変形性関節症を鑑別する必要がある。変形性関節症は、手指DIP関節の変形だけのものは容易だが、痛みを伴うinflammatory osteoarthritis、 erosive osteoarthritisは、乾癬性関節炎との鑑別が難しい。関節リウマチ患者は女性に多く、罹患関節数が少ないこと、DIP関節が罹患することはまれで、同一レベルの関節が侵されるのに対し(横方向)、乾癬性関節炎では同じ指の異なる関節が縦方向に侵され、“Ray distribution”と呼ばれる。血清リウマチ因子や抗CCP抗体は、乾癬性関節炎の1割程度でも陽性にみられる。関節滑膜の増殖は関節リウマチの方が強く、それを反映し両者の差異を検出しうる関節エコーが有用とされる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)乾癬性関節炎は、皮膚症状が優位な症例、関節症状が優位な症例、どちらも症状が顕著な症例などがある。したがって、皮膚、関節それぞれの重症度をまず評価する。GRAPPAのガイドラインでは、乾癬性関節炎の症状を、末梢関節炎、体軸性関節炎、付着部炎、指趾炎、乾癬、爪病変の6つのドメインに分け、それぞれの症状ごとに、外用薬、非ステロイド系消炎鎮痛薬、理学療法、ステロイド局注などでコントロール不十分な症例に対しての内服薬(synthetic DMARD)や注射薬(biologic DMARD)の治療法を提示している。内服薬は、通常の非ステロイド系消炎鎮痛薬に加え、メトトレキサートとアプレミラスト(商品名:オテズラ錠)が、乾癬性関節炎に使われる代表的な薬剤である。メトトレキサートは、骨髄抑制と肝障害が頻度の高い注意すべき副作用で、間質性肺炎やHBV再活性化なども頻度は少ないが注意しなくてはならない。アプレミラストは、消化器症状、頭痛の頻度の高い副作用ではあるが、重篤な症状は少ないので高齢者にも使いやすい。新規内服薬としてJAK阻害剤が登場したほか、乾癬性関節炎の関節変形の進行を抑制するには生物学的製剤が中心的に使用されている。生物学的製剤は、TNF、IL-17に対する抗体製剤が使われることが多いが、ほかにIL-23の標的薬もある。4 今後の展望乾癬の治療薬の進歩は目覚ましく、生物学的製剤やJAK阻害剤内服薬が、適応拡大も含めて今後も新規に参入してくると思われる。5 主たる診療科皮膚科、リウマチ内科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報日本乾癬患者連合会(患者とその家族および支援者の会)1)山本俊幸. Visual Dermatology. 2017;16:690-693.2)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2017;44:e121.3)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2018;45:273-278.4)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2016;43:1193-1196.5)山本俊幸. 日皮会誌. 2022;132;19-25.公開履歴初回2025年1月8日

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医師の学会発表と急性心筋梗塞の院内死亡率が関連~日本の後ろ向き研究

 臨床医が日本循環器病学会で発表している病院で治療された心筋梗塞患者は、発表していない病院で治療された患者より院内死亡率が低く、また、エビデンスに基づく薬剤処方が多かったことが京都大学の高田 大輔氏らによる後ろ向き研究でわかった。PLoS One誌2024年12月9日号に掲載。 本研究では、QIP(Quality Indicator/Improvement Project)に参加している日本の急性期病院の管理データベースを解析した。2014年4月1日~2018年12月31日に急性心筋梗塞で入院した患者を、入院した病院の医師がその年の日本循環器学会年次学術集会で発表があった患者(学会発表群)と、学会発表のなかった病院に入院した患者(対照群)に分け比較した。5つのモデル(未調整モデル、モデル1:性別・年齢・Killip分類・喫煙・救急車の使用・高血圧・心房細動・陳旧性心筋梗塞・糖尿病・腎臓病・慢性閉塞性肺疾患で調整、モデル2:モデル1に加え、入院年と各病院の年間入院数で調整、モデル3:病院コードでクラスター化し、モデル1と同じ変数で調整したマルチレベル分析、モデル4:モデル1に加え、因果媒介分析によりEvidence-based Practiceで調整)における院内全死亡リスクを、多変量ロジスティック回帰分析を用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・Killip分類または救急車の使用に関するデータがなかった3,544例を除外し、384の急性期病院における5万6,923例のデータを解析した。・エビデンスに基づく薬剤の処方は、学会発表群が対照群より有意に多かった。・モデル4を除いて、学会発表が低い院内死亡率と有意に関連していた。各モデルのオッズ比(95%信頼区間)は以下のとおり。 未調整モデル:0.68(0.65~0.72) モデル1: 0.73(0.68~0.79) モデル2:0.76(0.70~0.82) モデル3:0.84(0.76~0.92) モデル4:1.00(0.92~1.09) 著者らは「学会発表は院内死亡率の低下と関連しており、医師が学会発表を行う病院では患者がより多くのエビデンスに基づく診療の恩恵を受ける傾向がある」と結論した。一方、本研究の限界として、学会発表を日本循環器学会学術集会のみとしていること、今回調整していない組織文化や循環器医師のモチベーションなど、病院および個人の交絡因子があることを挙げている。

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炭水化物制限で糖尿病患者のβ細胞機能が改善

 2型糖尿病患者を対象に、炭水化物制限食と高炭水化物食で介入した結果、前者において膵β細胞機能が改善したとする論文が、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月22日掲載された。米アラバマ大学バーミンガム校のBarbara A. Gower氏らが行った、12週間にわたるランダム化比較試験の結果として報告された。 この研究は、エネルギー量が等しい炭水化物制限(carbohydrate-restricted;CR〔炭水化物由来のエネルギーが約9%、脂質由来が約65%〕)食と、高炭水化物(higher carbohydrate;HC〔炭水化物由来が約55%、脂質由来が約20%〕)食が、2型糖尿病患者のβ細胞機能に与える影響を比較するために実施された。対象は、糖尿病診断からの経過が10年以内でHbA1cが8%以下のインスリン療法を行っていない、アフリカ系米国人(African American;AA)および欧州系米国人(European American;EA)の成人2型糖尿病患者57人。なお、AAは人種的にβ細胞の脆弱性がEAより高いと考えられている。 介入前後のデータが欠落しておらず解析対象とされたのは51人(CR群25人、HC群26人)だった。ベースライン時において、年齢、性別の分布、BMI、HbA1c、およびβ細胞機能(disposition index;DI)に有意差はなかった。HbA1cは、CR群が6.9±0.72%、HC群が6.7±0.47%であり、糖代謝異常の程度は比較的軽度の患者群だった。 血糖降下薬は介入前に中止され、介入中に3日連続で空腹時血糖が200mg/dLを超えた場合には投薬が再開された。食事は全てを支給し、宅配サービスによって参加者の自宅に届けられた。ベースライン時点と介入12週間後に、75g経口ブドウ糖負荷試験およびアルギニンを用いたグルコースクランプ法にて、糖代謝と膵β細胞機能を評価した。 12週後、急性C-ペプチド反応(アルギニン投与開始30分以内の上昇)は、CR群ではHC群に比べて約2倍に増加し有意な群間差が認められたが、人種別に見た場合、EAでは有意差がなかった。最大C-ペプチド反応はCR群では22%有意に増加し、HC群との間に有意差が認められたが、人種別に見た場合、AAでは有意差がなかった。DIはCR群では32%有意に上昇したが、これを人種別に見た場合、EAでは有意差がなかった。 著者らは、「われわれの研究は、エネルギー量が等しいCR食が、HC食に比べて急性および最大C-ペプチド反応の双方を含む、β細胞機能の指標に有益な影響をもたらすことを示唆しており、臨床的に重要な結果と言える。CRの継続が困難な患者が存在する可能性がある点は否めないが、CR食によって、軽度の2型糖尿病患者は投薬を中止し食事を楽しみながら、β細胞機能を改善できるのではないか」と総括している。なお、AAとEAで反応に差が見られた点について、「この反応の差の一部は人種固有のβ細胞機能の違いに起因するものと考えられる」と説明している。

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2型糖尿病発症予防のためにダークチョコレートを毎日食べますか?(解説:住谷哲氏)

 チョコレートの主成分であるカカオには抗酸化物質の一種であるフラバノール(flavan-3-ol)が豊富に含まれている。抗酸化物質を含む食品を摂取することの健康ベネフィットはこれまでに多く報告されているが、本論文はダークチョコレートの摂取が2型糖尿病発症予防に関連することを大規模前向きコホート研究の結果を用いて明らかにした。 解析に用いたのは米国の医療従事者を対象としたNHS、NHSII、HPFSの3つの大規模前向きコホートであり、これまでにも多くの食品と健康ベネフィットとの関連を研究する目的で使用されてきている。解釈する際の注意点としては、対象がすべて医療従事者であり、さらにNHS、NHSIIは対象が看護師なので、全体として健康意識の高い女性を中心とした対象から得られた結果であることである。 結果は、ダークチョコレートを1 serving週5回以上摂取する群はそうでない群に比べて2型糖尿病の発症が21%減少していた。これは1 serving/週の摂取によって2型糖尿病の発症が3%減少することに相当する。一方でミルクチョコレートには、そのような関連は認められなかった。 筆者もチョコレートは好きなので朗報であるが、そもそもダークチョコレート(dark chocolate、ビターチョコレートbitter chocolateともいわれる)はどのようなチョコレートを指すのだろうか? またservingは日本ではなじみがないが欧米でよく使用される摂取量単位であり、チョコレート1 serving=約30gとされている。日本でのチョコレート販売量トップクラスの「明治」のホームページを見ると、「ダークチョコレートはカカオマス、ココアバター、砂糖、レシチン、香料などで作られたチョコレートです。カカオマスが40〜60%以上あり乳製品が入っていないため、カカオ独特の苦味と渋味、香りがあるのが特徴です。スイートチョコレートやビターチョコレートと呼ばれることもあります。さまざまな健康効果があることで注目されている高カカオチョコレートもダークチョコレートの一つで、一般的にカカオ分が70%以上のものを指します。」とある1)。カカオマスを40%以上含むチョコレート(理想的には70%以上)が一般にダークチョコレートと考えてよいようだ。昔からある明治ブラックチョコレート1枚50g(カカオ分35~40%含有)であれば2日に1枚食べる計算になる。 筆者の外来に通院している2型糖尿病患者さんが、ある時の外来で血糖コントロールが著明に悪化していることがあった。よくよく話を聞いてみるとテレビで脂肪肝の改善にはチョコレートが良い、と言っていたのでそれから毎日食べていたとのことであった。本論文の結果から、ダークチョコレートを毎日摂取することと2型糖尿病発症予防とに関連があることは明らかにされたが、因果関係は不明である。筆者としては、たまにチョコレートを食べるならミルクチョコレートではなく苦みのあるダークチョコレートにするくらいがちょうど良いように思われる。

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第248回 GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連

GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)とてんかん発作を生じにくくなることの関連が新たなメタ解析で示されました1)。たいてい60~65歳過ぎに発症する晩発性てんかん(late-onset epilepsy)を生じやすいことと糖尿病やその他いくつかのリスク要因との関連が、米国の4地域から募った45~64歳の中高年の長期観察試験で示されています2)。近年になって使われるようになったGLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬を含む新しい血糖降下薬は多才で、糖尿病の治療効果に加えて神経保護や抗炎症作用も担うようです。たとえば血糖降下薬とパーキンソン病を生じ難くなることの関連が無作為化試験のメタ解析で示されており3)、血糖降下薬には神経変性を食い止める効果があるのかもしれません。米国FDAの有害事象データベースの解析では、血糖降下薬と多発性硬化症が生じ難くなることが関連しており4)、神経炎症を防ぐ作用も示唆されています。晩発性てんかんは神経変性と血管損傷の複合で生じると考えられています。ゆえに、神経変性を食い止めうるらしい血糖降下薬は発作やてんかんの発生に影響を及ぼしそうです。そこでインドのKasturba Medical CollegeのUdeept Sindhu氏らはこれまでの無作為化試験一揃いをメタ解析し、近ごろの血糖降下薬に発作やてんかんを防ぐ効果があるかどうかを調べました。GLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬の27の無作為化試験に参加した成人20万例弱(19万7,910例)の記録が解析されました。血糖降下薬に割り振られた患者は半数強の10万2,939例で、残り半数弱(9万4,971例)はプラセボ投与群でした。有害事象として報告された発作やてんかんの発生率を比較したところ、血糖降下薬全体はプラセボに比べて24%低くて済んでいました。血糖降下薬の種類別で解析したところ、GLP-1 RAのみ有益で、GLP-1 RAは発作やてんかんの発生率がプラセボに比べて33%低いことが示されました(相対リスク:0.67、95%信頼区間:0.46~0.98、p=0.034)。発作とてんかんを区別して解析したところ、GLP-1 RAと発作の発生率の有意な低下は維持されました。しかし、てんかん発生率の比較では残念ながらGLP-1 RAとプラセボの差は有意ではありませんでした。試験の平均追跡期間は2.5年ほど(29.2ヵ月)であり、てんかんの比較で差がつかなかったことには試験期間が比較的短かったことが関与しているかもしれません。また、試験で報告されたてんかんがInternational League Against Epilepsy(ILAE)の基準に合致するかどうかも不明で、そのことも有意差に至らなかった理由の一端かもしれません。そのような不備はあったもの、新しい血糖降下薬が発作やてんかんを防ぎうることを今回の結果は示唆しており、さまざまな手法やより多様で大人数のデータベースを使ってのさらなる検討を促すだろうと著者は言っています1)。とくに、脳卒中患者などのてんかんが生じる恐れが大きい高齢者集団での検討を後押しするでしょう。参考1)Sindhu U, et al. Epilepsia Open. 2024;9:2528-2536.2)Johnson EL, et al. JAMA Neurol. 2018;75:1375-1382.3)Tang H, et al. Mov Disord Clin Pract. 2023;10:1659-1665.4)Shirani A, et al. Ther Adv Neurol Disord. 2024;17:17562864241276848.

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Ca拮抗薬・NSAID・テオフィリンと逆流性食道炎リスク/国立国際医療研究センター

 逆流性食道炎の有病率と薬剤などの危険因子について調査した結果、カルシウム拮抗薬、テオフィリン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使用が逆流性食道炎の独立した予測因子であることが示唆された。国立国際医療研究センターの植田 錬氏らが、BMJ Open Gastroenterology誌2024年12月16日号で報告した。 この後ろ向き横断研究は、2015年10月~2021年12月に国立国際医療研究センターで食道・胃・十二指腸内視鏡検査を受けた患者を対象とし、質問票を用いて患者の特徴、病歴、喫煙・飲酒歴、内視鏡検査時に服用していた薬剤に関するデータを収集した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者1万3,993例中、逆流性食道炎の有病率は11.8%であった。・多変量ロジスティック回帰分析により、以下の因子が逆流性食道炎の独立した予測因子であることが示された。それぞれのオッズ比(95%信頼区間)は以下のとおり。- 男性:1.52(1.35〜1.72)、p<0.001- 肥満(BMI≧25):1.57(1.40〜1.77)、p<0.001- 喫煙:1.19(1. 02~1.38)、p=0.026- 飲酒:1.20(1.07~1.35)、p=0.002- 糖尿病:1.19(1.02~1.39)、p=0.029- 食道裂孔ヘルニア:3.10(2.78~3.46)、p<0.001- 重症萎縮性胃炎なし:2.14(1.77~2.58)、p<0.001- カルシウム拮抗薬の使用:1.22(1.06~1.40)、p=0.007- テオフィリンの使用:2.13(1.27~3.56)、p=0.004- NSAIDの使用:1.29(1.03~1.61)、p=0.026

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健康な高齢者では高用量ビタミンDで糖尿病リスクは低下しない

 たとえ高用量のビタミンDサプリメントを摂取したとしても、糖代謝異常がない高齢者の場合、2型糖尿病の発症リスク低下にはつながらないとする研究結果が発表された。東フィンランド大学のJyrki K. Virtanen氏らが行ったプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験によるもので、詳細は「Diabetologia」に12月2日掲載された。 過去の観察研究からは、血中ビタミンD濃度が低い場合に2型糖尿病の発症リスクが高いという関連が示されている。しかし、観察研究の結果のみでは、ビタミンDサプリの摂取が糖尿病リスク抑制につながるかどうかは不明。他方、既に血糖値がやや高い前糖尿病の人を対象に行われた研究では、ビタミンDサプリ摂取が糖尿病への移行リスクをわずかに抑制する可能性も示唆されているが、健康な集団での有用性のエビデンスはない。これを背景としてVirtanen氏らは、フィンランドの一般住民を対象にビタミンDサプリ摂取の影響を検討した大規模研究(FIND)のデータを用いた解析を行った。 FINDの参加者は60歳以上の男性と65歳以上の女性で、心血管疾患やがん、腎障害などの既往がなく、摂取している全てのサプリに含まれているビタミンDが合計20μg/日以下などの条件を満たす2,495人。一次評価項目として心血管疾患、二次評価項目としてがん、三次評価項目として2型糖尿病の発症が設定されていた。ビタミンDの中用量(40μg/日)群、高用量(80μg/日)群、およびプラセボ群の3群に、1対1対1でランダムに割り付け、平均4.2年間介入した。 全参加者のうちベースライン時点で血糖降下薬が処方されていた224人を除外した2,271人が、三次評価項目の解析対象とされた。この対象者の平均年齢は68.2±4.5歳、女性が43.9%、BMIは26.8±4.0であり、食事からのビタミンD摂取量は10.7±7.9μg/日で、66.0%はビタミンDサプリを摂取していなかった。解析対象者のうち504人は血中ビタミンD濃度(25〔OH〕D3)が測定されていて、その平均は29.8±7.2ng/mLだった。 追跡期間中に105人が2型糖尿病を発症。各群の発症者数は、ビタミンD中用量群が31人、高用量群36人、プラセボ群38人であり、100人年当たりの罹患率は同順に0.97、1.11、1.19だった。年齢と性別を調整後、プラセボ群を基準とする発症ハザード比は、中用量群が0.81(95%信頼区間0.50~1.30)、高用量群が0.92(同0.58~1.45)であり、ビタミンDの用量にかかわらず有意なリスク低下は観察されなかった。 追跡開始2年目までに2型糖尿病を発症した人を除外した解析や、性別、年齢層別、BMI別に層別化したサブグループ解析でも、ビタミンDサプリ摂取が2型糖尿病リスク低下につながる集団は特定されなかった。また、血糖値、血中インスリン値、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、BMI、ウエスト周囲長の変化も検討されたが、いずれもビタミンD摂取による有意な影響は観察されなかった。 これらの結果から著者らは、「健康な高齢者を対象としたわれわれの研究では、中用量または高用量のビタミンDサプリの長期摂取による2型糖尿病の発症抑止効果は示されなかった」と結論付けている。

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GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドは、駆出率の保たれた心不全肥満患者に有効(解説:佐田政隆氏)

 左室駆出率が40%未満の心不全を「左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)」、左室駆出率が50%以上の心不全を「左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)」、左室駆出率が40%以上50%未満の心不全は「左室駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)」と定義されている。 HFrEFに対する薬物療法では、この30年ほどの間に著明な進歩があった。β遮断薬、ACE阻害薬/ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)もしくはARNI (アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、そして最近はSGLT2阻害薬の上乗せが予後をさらに改善することが証明された。現在、β遮断薬、ARNI、MRA、SGLT2阻害薬はfantastic fourと呼ばれ、HFrEF患者の予後改善のために1ヵ月以内に早期に導入することが強く推奨されている。 一方、HFpEFに対しては、β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ARNI、MRAを用いて各種大規模臨床研究が行われてきたが、いずれも予後を改善することは証明できなかった。近年、HFrEFよりHFpEFが増加しているという報告もあり、今後予想される心不全パンデミックに備えて、HFpEFに対する有効な治療法の開発が望まれていた。 この数年、SGLT2阻害薬がHFrEFのみでなくHFpEFに対しても有効性があることが証明され、ダパグリフロジンとエンパグリフロジンは糖尿病がなくても心不全治療薬として承認されている。しかし、HFpEF患者の予後改善のためには、さらなる追加の治療法が求められていた。 2023年、肥満を有するHFpEF患者において、セマグルチド2.4mgによる治療によって、プラセボと比較して、症状と身体的制限が軽減し、運動機能が改善し、体重が減少することがSTEP-HFpEF試験で報告された。 小腸から分泌されて膵臓に作用するインクレチン製剤としては長年GLP-1受容体作動薬が用いられてきたが、昨今、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドが糖尿病治療薬として開発され、その強力な血糖降下作用と体重減少効果から、本邦でも急速に普及している。 本論文では、BMI 30以上の肥満をもったHFpEF患者(2型糖尿病患者はおよそ48%)に対するチルゼパチドの効果を検討した。主要評価項目である104週間での「心血管死と心不全増悪」を、チルゼパチドでプラセボと比較して有意に減少させた。また、カンザスシティ心筋症質問票臨床サマリースコア(KCCQ-CSS:スコア範囲は0~100で、数値が高いほど症状と身体的制限が少ないことを示す)と6分間歩行距離を改善した。体重減少は、チルゼパチド群で-13.9%、プラセボ群で-2.2%であった。注目すべきことには、高感度CRPがチルゼパチド群でなんと-38.8%低下し、プラセボ群では-5.9%であった。この抗炎症効果は、体重減少だけでは説明がつかないと思われ、膵臓以外の臓器へのチルゼパチドの多面的な作用の関与が大きいと思われる。 米国ではチルゼパチドは肥満症治療薬として2023年11月にすでに承認されているが、日本においてもセマグルチドに続いて2024年12月27日に承認された。肥満を有するHFpEF患者に対するチルゼパチドの効果のメカニズム、GLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1受容体作動薬でHFpEFに対してどちらがより効果的なのか、肥満のないHFpEFにも有効なのかと疑問は尽きないが、今後の臨床研究、基礎研究で解明されていくことが期待される。

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