サイト内検索|page:141

検索結果 合計:4907件 表示位置:2801 - 2820

2801.

男女の排尿時間はどちらが長いか?~日本抗加齢医学会総会

 「あなたは自分が何秒間おしっこしているか知っていますか?」 男女別の排尿時間という、これまで泌尿器科、婦人科の世界できちんと検証されてこなかったシンプルな疑問を明らかにしたのは、旭川医科大学病院臨床研究支援センターの松本 成史氏。5月25日~27日に大阪で開催された日本抗加齢医学会のシンポジウム中でその研究成果を発表した。男女とも排尿時間は加齢とともに有意に延長 ヒトの排尿に関する数値としては、1回20~30秒、1回200~400mL、1日1,000~1,500mL、1日5~7回などが標準とされている。しかし、「ヒトの本当の1回の排尿時間を実際に測定して分析した研究報告はこれまでなかった」(松本氏)。一方で、すべての哺乳類の平均排尿時間は、体の大きさに関係なく、21±13秒と結論付けられており、この研究論文は2015年のイグ・ノーベル賞を受賞している(Yang PJ, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014;111:11932-11937.)。 松本氏は、これら排尿に関する数値を日本人で実証すべく、本研究を行った。 排尿時間の調査対象は、NHKの番組企画に協力してくれた20歳以上の3,719人(男性2,373人、女性1,336人)。「通常の尿意」の際の排尿時間(尿が実際に出始め、出終わるまでの時間)を自己計測し、高血圧、糖尿病、腎機能障害の有無、過活動膀胱症状スコア、国際前立腺症状スコアとQOLスコア(男性のみ)などとともに自己申告で記載してもらった。 その結果、平均排尿時間は、男性(平均63.36±11.72歳)で29.00±20.62秒、女性(平均52.63±13.05歳)で18.05±12.48秒と、男性のほうが10秒以上上回った。排尿時間は、尿道が長い男性のほうが女性より長いと一般的に考えられており、それを裏付ける結果となった。 年齢との関係を見ると、男女とも排尿時間は加齢とともに有意に延長。自己申告に基づく高血圧、腎機能障害等の有病者と健常者の比較では、有病者グループのほうが男女とも有意に長かった。 排尿時間の哺乳類標準である「21秒」との乖離について松本氏は、「(排尿時間を延長させる)前立腺肥大の影響がないと考えられる20~50歳に限ると、男性の平均は21.98±17.87秒である」とし、先行研究と矛盾しない結果だと説明する。それも踏まえ、「排尿時間は自己測定が容易であり、アンチエイジング、疾病早期発見の1つの指標になりえる。とくに男性については、[21秒]はわかりやすい数値だ」と話している。

2802.

リアルワールドエビデンスを活用したSGLT2阻害薬の治療ゴールとは

 2018年5月15日、アストラゼネカ株式会社は、「リアルワールドデータから見えるSGLT2阻害剤による糖尿病治療の新たなステージ~日本人を含むCVD‐REAL2研究の結果によって示唆される日本人糖尿病患者さんのベネフィットや真の治療ゴールとは~」をテーマとしたプレスセミナーを開催した。香坂 俊氏(慶應義塾大学医学部 循環器内科 講師)と門脇 孝氏(東京大学医学部付属病院 特任研究員・帝京大学医学部 常勤客員教授)の2名が講師として招かれ、リアルワールドエビデンス(RWE)の未来と糖尿病治療のエビデンスへの活用についてそれぞれ解説した。安全性確立の時代からランダム比較化試験(RCT)へ 香坂氏によると、1960~70年代に世界を震撼させたサリドマイド事件をきっかけに臨床試験の重要性やそれに基づく認可システムに警鐘が鳴らされ、比較対照試験が一般的となった。さらに、この事件を踏まえ、1990年代からランダム化比較試験(RCT)が一般化されるようになるが、 「基礎研究が安全性の検証のみ」「比較対照がプラセボ」 「効果の実証」についての問題点が議論されるようになり、根拠に基づく医療(EBM)、客観的な医療的介入が治療方針として提唱されるようになった。RCTの限界 さらに、2000年代になるとRCT中心の医療から薬剤間の比較研究へと変わったが、患者の予後に差がつく薬剤に淘汰されていく。その中で、「副作用検出に症例数が少ない(Too Few)」「適応疾患が限定(Too Narrow)」「高齢者が除外(Too Median-Aged)」のような、いわゆる「RCTの5Toos」の問題が指摘されるようになった。なぜRWEなのか? これらの問題を踏まえ、登場したのが「リアルワールドエビデンス(RWE)」である。コホートあるいはデータベース研究、症例対照研究を利活用するため、相対的に「早く」「広く」「安く」結論が得られることが最大のメリットであり、臨床データで選ばれないような特定集団に着目することができる(ビッグデータの活用)点も大きな特徴である。 一方で、「『バイアスを完全に除くことができない』『登録されている情報が限定的』『コントロール(比較対照群)を設定できない』ため、データの信憑性に欠ける点が今後の解決すべき課題である」と同氏は語る。CVD-REAL2:RCTとRWEの方向性が合致した研究 ここで、事例としてRWEを使ったCVD-REAL2が示された。この研究は、世界主要3地域の2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬もしくは他の血糖降下薬による治療において、全死亡、心不全による入院、全死亡または入院の複合解析、心筋梗塞、そして脳卒中との関係性を比較した試験である。そして、SGLT2阻害薬の大規模なRWEの中でも、同薬がより良好な心血管ベネフィットを示したと注目を浴びている。 このほかにRWEが活用された例として、『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』の事例を紹介し、同氏は「これは非常にRWEの特性が活かせた事例」と述べ、「データ活用の発展に伴い、RCTの結果のみを鵜呑みにして医療を行うのではなく、その場面や領域に即したRWEを活用しながら診断の方針を確定させることが必要」と強調した。SGLT2阻害薬に対する意識変化 続いて、門脇氏が糖尿病専門医の視点からSGLT2阻害薬でのRWEの活用を説明した。SGLT2阻害薬は発売直後、「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が策定され、服用により通常体液量が減少するので脱水、脳梗塞への注意喚起が行われた治療薬である。 ところが2015年9月にEMPA-REG OUTCOME試験での非致死的脳卒中の減少が報告されたことから、SGLT2阻害薬は糖尿病専門医だけでなく循環器科専門医の間でも、その可能性に期待が高まるようになった。DECLARE-TIMI58のもたらす結果とは 今回、門脇氏が講演で紹介したDECLARE-TIMI58試験は、2型糖尿病(6.5%≦HbA1c<12%)かつ、心血管疾患既往のある40歳以上、または1つ以上の心血管リスク因子を保有する男性(55歳以上)あるいは女性(60歳以上)の患者、約1万7,000例が登録され、試験期間が中央値4.5年の研究である。同試験では、心不全の抑制を評価するために、これまでの試験では副次評価項目としてしか評価されてこなかった、心血管死または心不全による入院の複合や心血管死、心筋梗塞、虚血性脳卒中の複合が主要評価項目となっている。同氏は「この研究でRWEを活用し、糖尿病治療の最終目標をより多くの医師が意識し達成することを期待したい」と伝えている。また、「この研究結果は2018年の後半に発表される予定で、重要な役割を果たす可能性があるのでぜひ注目してほしい」とも述べている。■参考アストラゼネカ株式会社 プレスリリースDECLARE-TIMI 58試験スキーム■関連記事SGLT2阻害薬で心血管リスク低下~40万例超のCVD-REAL2試験SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

2803.

ESUS後の脳卒中再発予防、リバーロキサバン vs.アスピリン/NEJM

 塞栓源不明の脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source:ESUS)の初発後の、脳卒中の再発予防において、リバーロキサバンにはアスピリンを上回るベネフィットはないことが、カナダ・マックマスター大学のRobert G. Hart氏らが実施した「NAVIGATE ESUS試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年5月16日号に掲載された。塞栓源不明の脳塞栓症は、虚血性脳卒中の20%を占め、高い再発率と関連する。抗凝固薬は、心房細動患者の脳塞栓症の予防に有効であることから、塞栓源不明の脳塞栓症後の脳卒中の再発予防において、抗血小板薬よりも高い効果が得られる可能性があるとの仮説が提唱されている。NAVIGATE ESUS試験は31ヵ国459施設に7,213例を登録 NAVIGATE ESUS試験は、日本を含む31ヵ国459施設が参加した国際的な無作為化第III相試験である(BayerとJanssen Research and Developmentの助成による)。 NAVIGATE ESUS試験の対象は、脳塞栓に起因すると推定されるが、動脈の狭窄やラクナ梗塞はなく、心内塞栓源が同定されない虚血性脳卒中の患者であった。被験者は、リバーロキサバン(15mg、1日1回)またはアスピリン(100mg、1日1回)を投与する群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要アウトカムは、time-to-event解析における脳卒中(虚血性、出血性、未定義の脳卒中)の初回再発または全身性塞栓症の発症であった。安全性の主要アウトカムは、大出血の発生率とした。 2014年12月~2017年9月の期間に、7,213例が登録され、リバーロキサバン群に3,609例が、アスピリン群には3,604例が割り付けられた。 2017年10月5日の2回目の中間解析で、再発抑制に関してベネフィットが得られる可能性がほとんどなく、リバーロキサバン群は出血リスクが高いと判定され、データ・安全性監視委員会の勧告により、本試験は早期に終了した。年間再発率:5.1 vs.4.8%、年間大出血発生率:1.8 vs.0.7% ベースラインの全体の平均年齢は67歳、62%が男性であった。高血圧が77%、糖尿病が25%、脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の既往は18%に認められた。また、卵円孔開存が7%(リバーロキサバン群:259例、アスピリン群:275例)にみられた。 NAVIGATE ESUS試験の早期終了まで、中央値で11ヵ月の追跡が行われた。有効性の主要アウトカムは、リバーロキサバン群172例(年間発生率:5.1%)、アスピリン群160例(4.8%)に認められ、ハザード比(HR)は1.07(95%信頼区間[CI]:0.87~1.33)と、両群間に有意な差はみられなかった(p=0.52)。 虚血性脳卒中の再発は、リバーロキサバン群158例(年間発生率:4.7%)、アスピリン群156例(4.7%)(HR:1.01、95%CI:0.81~1.26)であり、出血性脳卒中の再発はそれぞれ13例(0.4%)、2例(0.1%)(6.50、1.47~28.8)、全身性塞栓症は1例(<0.1%)、2例(0.1%)(0.50、0.05~5.51)であった。 事前に規定された探索的サブグループ解析では、東アジア人(中国、日本、韓国)および推定糸球体濾過量>80mL/分の患者は、アスピリン群のほうが、有効性の主要アウトカムの年間発生率が有意に低かったが、イベント数が少なく十分な検出力はなかった。 大出血は、リバーロキサバン群62例(年間発生率:1.8%)、アスピリン群23例(0.7%)に認められ、HRは2.72(1.68~4.39)と、リバーロキサバン群で有意に高頻度であった(p<0.001)。また、生命を脅かす出血/致死的出血(p=0.004)、臨床的に重要な非大出血(p=0.004)、症候性頭蓋内出血(p=0.003)は、いずれもリバーロキサバン群で有意に頻度が高かった。 現在、NAVIGATE ESUS試験と同様の患者を対象に、他の抗凝固薬とアスピリンを比較する無作為化試験が進行中だという。

2804.

伏在静脈グラフト病変、DES vs.BMS/Lancet

 新規伏在静脈グラフト(SVG)病変にステントを留置した患者を12ヵ月間追跡した結果、薬剤溶出ステント(DES)とベアメタルステント(BMS)で、アウトカムに有意差はないことが確認された。米国・テキサス大学サウスウエスタン医療センターのEmmanouil S. Brilakis氏らが、新規SVG病変に対するDESとBMSを比較検証した無作為化二重盲検試験「DIVA試験」の結果を報告した。これまで、新規SVG病変に対するステント留置術において、BMSとDESの有効性を比較した研究はほとんどなかった。著者は、「今回の結果は、価格が低いBMSが、安全性や有効性を損なうことなくSVG病変に使用可能であることを示唆しており、米国のようなDESの価格が高い国では経済的に重要な意味がある」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年5月11日号掲載の報告。ステント留置が必要な新規SVG病変を有する患者を退役軍人施設で登録 研究グループは、25ヵ所の米国退役軍人施設において、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を必要とする1ヵ所以上の新規SVG病変(50~99%狭窄、SVG直径2.25~4.5mm)を有する18歳以上の患者を登録し、DES群またはBMS群に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化は、糖尿病の有無およびPCIを必要とする標的SVG病変の数(1ヵ所または2ヵ所以上)により各参加施設内で層別化して行われた。患者、委託医師、コーディネーター、アウトカム評価者は、割り付けに関して盲検化された。 主要評価項目は、標的血管不全(TVF)(心臓死、標的血管の心筋梗塞、標的血管血行再建術[TVR]の複合エンドポイントと定義)の12ヵ月の発生率で、intention-to-treat解析で検討した。標的血管不全の発生率、DES群17% vs.BMS群19%で有意差なし 2012年1月1日~2015年12月31日に、599例が無作為化され、同意取得が不適切であった2例を除く597例が解析対象となった。患者の平均年齢は68.6歳(SD 7.6)、595例(>99%)が男性であった。ベースラインの患者背景は、両群でほぼ類似していた。 12ヵ月後のTVF発生率は、DES群17%(51/292例)、BMS群19%(58/305例)であった(補正ハザード比:0.92、95%信頼区間[CI]:0.63~1.34、p=0.70)。主要評価項目の構成要素、重篤な有害事象、ステント血栓症の発生についても、両群間で有意差は確認されなかった。目標症例数762例に達する前に、試験への患者登録は中止された。 著者は研究の限界として、退役軍人施設の患者を対象とした試験であるため、ほとんどが男性であること、目標症例数に達する前に試験中止となったことなどを挙げている。

2805.

成長ホルモン治療を継続させる切り札

 2018年5月18日ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、ノルディトロピン(一般名:ソマトロピン)承認30周年を記念し、プレスセミナーを開催した。 セミナーでは、成長ホルモン治療の現状、問題点とともに医療者と患者・患者家族が協働して治療の意思決定を行う最新のコミュニケーションの説明が行われた。成長ホルモン治療でアドヒアランスを維持することは難しい セミナーは、「成長ホルモン治療の Shared Decision Making ~注射デバイスの Patient Choiceと Adherence」をテーマに、高澤 啓氏(東京医科歯科大学 小児科 助教)を講師に迎え行われた。 現在、成長ホルモン(以下「GH」と略す)治療は、保険適用の対象疾患としてGH分泌不全性低身長、ターナー症候群、ヌーナン症候群、プラダー・ウィリー症候群、慢性腎不全、軟骨異栄養症(ここまでが小児慢性特定疾患)、SGA性低身長がある。これらは未診断群も含め、全国で約3万人の患児・患者が存在するという。診断では、通常の血液、尿検査のスクリーニングを経て、負荷試験、MRI、染色体検査などの精密検査により確定診断が行われる。そして、治療ではソマトロピンなどのGH治療薬を1日1回(週6~7回)、睡眠前に本人または家族が皮下注射している。 GH治療の課題として、治療が数年以上の長期間にわたることで患者のアドヒアランスが低下し、維持することが難しいとされるほか、治療用の注射デバイスが現状では医師主導で選択されていることが多く、患者に身体的・精神的負担をかけることが懸念されているという。患者の怠薬を防ぐ切り札 これらの課題を解決する手段として提案されるのが「Shared Decision Making(協働意思決定)」(以下「SDM」と略す)だという。 SDMとは、「意思決定の課題に直面した際に医師と患者が、evidenceに基づいた情報を共有し、選択肢の検討を支援するシステムにのっとり、情報告知に基づいた選択を達成する過程」と定義され、従来のインフォームドコンセントと異なり、患者の視点が医療者に伝わることで医療の限界や不確実性、費用対効果の共有が図られ、治療という共通問題に向き合う関係が構築できるという。 実際この手法は、欧米ですでに多数導入され、専任のスタッフを設置している医療機関もあり、SDMがアドヒアランスに与える影響として、患者の治療意欲の向上、怠薬スコアの改善といった効果も報告されているという1)。日本型SDMの構築の必要性 実際に同氏が、川口市立医療センターで行ったSDM導入研究(n=46)を紹介。その結果として、「患者が自己決定することで(1)患者家族の理解および治療参加が促進された、(2)アドヒアランスの維持に寄与した、(3)治療効果を促進する可能性が示唆された」と報告した。また、「SDMによる患者の自己決定は、意思疎通の過程で有用であり、治療への家族参加や自己効力感を高めうるだけでなく、簡便な手法ゆえ施設毎での応用ができる」と意義を強調した。 最後に同氏は、今後のわが国での取り組みについて「SDMの有効性から必要性への啓発、サポートする体制作り、日本式のSDMの在り方の構築が求められる」と展望を語り、セミナーを終了した。

2806.

SGLT2阻害薬は死亡率、心血管イベントの低減に最も有用(解説:吉岡成人氏)-856

2型糖尿病の治療薬の選択 糖尿病の治療薬の選択に対して、日本糖尿病学会では患者の病態に応じて薬剤を選択することを推奨しているが、米国糖尿病学会ではメトホルミンを第一選択薬とし、心血管疾患の既往がある患者では、SGLT2阻害薬ないしはGLP-1受容体阻害薬を併用することを推奨している。その背景には、EMPA-REG OUTCOME試験、CANVASプログラム、LEADER試験、SUSUTAIN-6などの臨床試験によって、これらの薬剤が心血管イベントに対して一定の抑制効果を示したことが挙げられる。 それでは、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体阻害薬との比較ではどうなのか、日本で最も使用されているDPP-4阻害薬と比較した場合はどうなのだろうかという疑問に答える論文が報告された。ネットワークメタ解析での比較 通常のメタ解析では治療介入を行ったランダム化比較試験(RCT)を統合して介入の効果を検証するが、3種類以上の介入の効果を比較検討することはできない。Zheng SLらはネットワークメタ解析の手法を用いて、実際のhead-to-headの試験を行うことなく、多数のRCTの結果を統計学的に併合して直接的、間接的な比較を行った結果を報告している。本論文では各薬剤を使用して12ヵ月間以上観察された236件のRCTを抽出し、各薬剤とコントロール群、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬とSGLT2阻害、GLP-1受容体阻害薬とSGLT2阻害の各群において、全死亡を主要アウトカム、心血管死、心不全、心筋梗塞と不安定狭心症、脳卒中を二次アウトカムとして薬剤間の有用性を検証している(Zheng SL, et al. JAMA. 2018 Apr 17;319: 1580-1591. )。SGLT2阻害の有用性が明らかに 各群における対象患者の平均年齢は50代前半から後半までと比較的若く、HbA1cも8.2%前後で、罹病期間が長く血糖コントロールが不良な患者は多く含まれてはいない。しかし、全死亡については、GLP-1受容体阻害薬とSGLT2阻害薬はコントロール群、およびDPP-4阻害薬投与群に比較して有意に減少させており、GLP-1受容体作動薬投与群とSGLT2阻害薬投与群との間には有意差はなかった。この傾向は心血管死亡率についても同様であった。一方、心不全イベントについては、SGLT2阻害の有用性が最も高く、コントロール群、DPP-4阻害薬投与群に対してのみならず、GLP-1受容体投与群に対しても有意に心不全イベントの抑制効果を示していた。 欧米では、2型糖尿病の治療に対して、低血糖や体重増加を来しにくい薬剤が推奨されており、メトホルミンが第一選択薬となっている。今回の結果は、心血管イベントによる死亡が多い欧米人にあっては、SGLT2阻害が第二選択薬としてのポジションをより強固なものにした印象を与える。日本でも、虚血性心疾患のハイリスク患者、心不全患者、糖尿病腎症の患者などでは積極的に、SGLT2阻害薬が使用されつつある。しかし日本人の糖尿病患者では欧米に比較して心血管イベントは少なく、65歳以上の高齢者が多く、インスリン分泌も低い。これらの点を考慮すると、現在広く用いられているDPP-4阻害が重用される現状はしばらく続くのかもしれない。

2807.

第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

2808.

認知症の薬はいったいいつできるのか? バプティスト史観から(解説:岡村毅氏)-855

本論文はメルク社の研究チームからの直球の論文である。アルツハイマー型認知症の病理の中核にアミロイドがあるが、それをつくる酵素(BACE)の阻害薬を軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の方に投与したが、効果はみられなかったというものだ。21世紀に入りアルツハイマー型認知症に関して、多くの薬がパイプラインに乗ったという報告がなされた。近い将来(つまり2018年の今ごろ?)根本治療薬が開発されるのではと思った方も多かったのでは。しかしここ数年、失敗の報告が相次いでいる。ファイザー社は中枢神経系の開発自体を諦めてしまった。いったいいつできるのか? あるいは、できないのか? 21世紀の前半を生きる私たちの立ち位置を改めて眺めてみよう。(1)アルツハイマー型認知症に関して現在ある薬は、アミロイドの病理とはまったく関係なく、アセチルコリン系を賦活して脳の働きを活発にする対症療法薬である。アミロイド自体に介入する薬は失敗が続いている。(2)しかし国際的な大規模縦断観察研究(ADNI)が明らかにしたように、症状が出た時点ではアミロイドはすでに蓄積している。診断されてからアミロイドに介入しても無意味なのかもしれない。(3)現在、症状はないが、脳内にアミロイドがたまっているプレクリニカル期で研究が行われている。ここでBACE阻害薬やAβ抗体が効果を示す可能性は十分にある。以上はアミロイド中心主義(ベータアミロイド[β-amyloid]からバプティスト[Baptists]などと言われる)史観ともいえるだろう。私は根本治療薬の開発を支持するが、さらに広い視野で眺めてみよう。(A)先進国ではアルツハイマー型認知症の発症率は低下しており、教育年数との関連が示されている。また糖尿病がアルツハイマー型認知症の発症の危険因子であることもわかってきた。公衆衛生的アプローチは効果的だ。(B)レビー小体病、前頭側頭葉変性症の根本治療薬に関しては、まったくめどが立っていない。(C)予防薬の開発も重要だが、それのみが強調されると、すでに認知症と診断された人には救いがない。診断後支援やケアラー支援の重要性がようやく認められつつある。Living well with dementiaは知っておくべき言い回しだろう。(D)認知症を持つ人も、当たり前だが、私たちと同じ人間であり、同じ権利を持つのだから、彼ら自身の選択を尊重しようという考え方もようやく共有されてきた。当事者の発信も増えている。障害の領域でのNothing about us without usに対応。(E)脱施設の流れは加速するが、地縁血縁の弱体化、長寿化(と格差の拡大)、家族形態の変化および独居の増加、プライバシーの保護などは、むしろ地域ケアへの挑戦かもしれない。一方でITやロボットなどが急激に実用化に向かいつつある。21世紀の半ばにはわが国の人口の10%程度が認知症を有する可能性もある。今後数十年、認知症の専門家は嵐のような日々であろう。今回は現在の私たちの立ち位置を備忘録的に記した。知っておいて損はないと思う。

2809.

高齢者の処方見直しで諸リスク低減へ

 2018年5月11日、日本老年医学会は、「高齢者とポリファーマシー」に関するメディアセミナーを都内で開催した。本学会が策定した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」を踏まえ、医療現場でポリファーマシー対策に取り組む3人の演者が講演を行った。ポリファーマシーが老年症候群に拍車をかける? はじめに、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科 加齢医学 教授)が、ポリファーマシー対策の動向について語った。わが国では6剤以上がポリファーマシーと定義され、薬剤性老年症候群などの原因として懸念されている。老年症候群は、転倒、記憶障害、意欲低下や排泄機能障害など、加齢・疾患によるものも含まれるが、その症状がポリファーマシーにより助長されている可能性を秋下氏は指摘した。 同氏は、「ポリファーマシーは、例えればさまざまなお酒を一度に飲むと悪酔いするようなもので、多剤服用のみを指すのではない。薬を減らす際には生活習慣の是正など、非薬物療法がより重要になる。医師・薬剤師を中心に、医療スタッフが連携する必要がある」と語った。3剤以上の見直しでリスク低減の可能性 次に、溝神 文博氏(国立長寿医療研究センター 薬剤部)が、院内でポリファーマシーを提案する「高齢者薬物療法適正化チーム」の活動について紹介した。チームは、内科・循環器内科の医師、薬剤師を中心に構成され、週1回カンファレンスを実施している。 チーム介入症例の解析では、薬物有害事象などが疑われる58症例に対し、平均4剤の見直し提案を行った。対象薬は降圧薬が最も多く、次いで消化器薬、糖尿病薬、スタチン系が多かった。結果、3剤以上削減した群で薬物有害事象の発生頻度が53%から9%と7日間で有意に減少し、60日後まで維持されていた。一方で、3剤未満の削減だと有意差がなく、60日後には再燃する傾向がみられた。 溝神氏は、「チーム結成によって意識変化が起こり、慎重に処方を行う医師が増加した。しかし、服薬環境も適正化されないと十分ではない。患者・家族への説明でポリファーマシーへの正しい理解を促し、地域レベルで対策する必要がある」と語った。短時間の睡眠が不眠症とは限らない? 最後に、水上 勝義氏(筑波大学大学院 人間総合科学研究科 教授)が、向精神薬の適正使用について説明した。回復可能な認知症の原因として、1位がうつ病、2位が薬剤性という報告1)を挙げ、原則として非薬物療法を優先し、向精神薬は慎重に使用するよう呼びかけた。 高齢者が訴える不眠症に対し、水上氏は、「高齢になると深睡眠が減る傾向にある。しかし、日中の生活に支障がなければ、睡眠時間が短くても不眠症にならない」と指摘した。また、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)などに使用される抗精神病薬には、新規投与後6ヵ月まで死亡リスクが上昇するという報告2)があるという。同氏は、漢方薬の過剰投与にも言及し、「十分な治療効果が認められた患者では減量・中止を検討すべきだ」と語った。 さらに、スルピリドによる錐体外路症状、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)によるアパシーの発現などの副作用を例に挙げ、「頻用される薬でも、高齢者には注意が必要。薬剤によって諸症状が出ている可能性も考慮すべき」と締めた。 本学会は、エビデンスが少ない高齢者医療における課題などに対し、具体的にどのような対応をするのか明確にするため、「健康長寿達成を支える老年医学推進5か年計画」を策定した。2018年6月、学術集会で発表予定。■参考文献1)Weytingh MD, et al. J Neurol. 1995;242:466-471.2)Arai H, et al. Alzheimers Dement. 2016;12:823-830.■参考一般社団法人 日本老年医学会第60回日本老年医学会学術集会■関連記事身体能力低下の悪循環を断つ診療

2810.

握力が5kg低いと全死亡リスクが2割高い/BMJ

 握力と健康アウトカムの関連が指摘されている。英国・グラスゴー大学のCarlos A. Celis-Morales氏らは、UK Biobankのデータを解析し、握力は全死因死亡のほか、心血管疾患、呼吸器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、がんの発生やこれらの疾患による死亡と関連し、従来の診察室ベースのリスク因子に加えると、死亡や心血管疾患の予測能を改善することを明らかにした。研究の成果は、BMJ誌2018年5月8日号に掲載された。筋機能が低下するほど、死亡率や罹患率が増加することが多くの研究で示されている。また、低い握力は不良な健康アウトカムの範囲の拡大と関連し、年齢や性別に握力測定を加えると、死亡の予測能が強化されることが報告されている。50万人以上で、疾患別の発生率、死亡率との関連を評価 研究グループは、握力と疾患別の発生率、死亡率の関連を評価し、測定項目に加えることでリスクスコアの予測能を増強するかを検証するために、地域住民ベースの前向き研究を行った。 2007年4月~2010年12月の期間に、年齢40~69歳の地域住民がUK Biobankに登録され、このうち握力のデータがある50万2,293例を解析に含めた。被験者は、握力の強さで4群に分類された(Q1:最も弱い群、Q2:2番目に弱い群、Q3:2番目に強い群、Q4:最も強い群)。 握力の強さと、全死因死亡、心血管疾患、呼吸器疾患、COPD、がん(全がん、大腸、肺、乳房、前立腺)の発生率、死亡率の関連を解析した。握力の5kg低下ごとに、死亡リスクが女性で20%、男性で16%増加 全体の平均年齢は56.5(SD 8.1)歳、54.5%が女性であった。平均フォローアップ期間は7.1年(範囲:5.3~9.9)で、この間に1万3,322例(2.7%)が死亡した。 握力が5kg低下するごとに、全死因死亡のハザード比(HR)は男女とも有意に上昇した(女性のHR:1.20、p<0.001、男性のHR:1.16、p<0.001)。同様に、心血管死(1.19、p<0.001、1.22、p<0.001)、呼吸器疾患死(1.31、p<0.001、1.24、p<0.001)、COPD死(1.24、p=0.01、1.19、p<0.001)、全がん死(1.17、p<0.001、1.10、p<0.001)、大腸がん死(1.17、p=0.01、1.18、p<0.001)、肺がん死(1.17、p<0.001、1.08、p=0.001)、乳がん死(1.24、p<0.001)のHRも、握力5kg低下ごとに男女とも有意に上昇したが、前立腺がん死のHR(1.05、p=0.29)には有意な差を認めなかった。これらの関連は、全般に若い年齢層のほうが、わずかに強かった。 筋力低下(女性:握力<16kg、男性:握力<26kg)は、女性の大腸がん、男性の前立腺がん、男女の肺がんを除き、健康アウトカムのハザードの上昇と関連した。 また、従来の診察室で測定するリスク因子(年齢、性別、糖尿病、BMI、収縮期血圧、喫煙)に、握力測定を加えると、C-indexの変化で評価した予測能が、全死因死亡(C-indexの変化:0.013、95%信頼区間[CI]:0.011~0.015、p<0.001)、心血管死(0.012、0.007~0.017、p<0.001)、心血管疾患の発症(0.009、0.007~0.010、p<0.001)に関して有意に改善された。 著者は、「握力の潜在的な臨床的有用性を確立するには、リスクスコアやリスクスクリーニングにおける握力測定の導入に関して、さらなる検討が求められる」と指摘している。

2811.

日本糖尿病学会 「女性糖尿病医のフロントランナー」: 田嶼 尚子氏の記事を公開

 日本糖尿病学会「女性糖尿病医サポートの取り組み」ホームページでは、「女性糖尿病医のフロントランナー」コーナーに 田嶼 尚子氏(東京慈恵会医科大学 名誉教授)の記事を掲載した。 田嶼氏は、日本のみならず世界の疫学研究の中心的存在として貢献し、日本糖尿病学会「女性糖尿病医をpromoteする委員会」 初代委員長として、同学会における男女参画の礎を築いた(同ホームページより)。 同コーナーは、「日本の糖尿病学において、女性医師として道を開拓、そして現在も牽引されている先生方よりご寄稿をいただき、ご紹介させていただくコーナー」で、第1回(2015年6月)として 大森 安恵氏(海老名総合病院 糖尿病センター長/東京女子医科大学 名誉教授)、第2回(2016年1月)として 伊藤 千賀子氏(グランドタワー メディカルコート 理事長)の記事が掲載されている。 同ホームページでは、さまざまな女性医師を紹介するコーナーとして「キラリ☆女性医師!」も設けており、2018年4月に 鈴木 佐和子氏(千葉大学医学部附属病院)の記事を公開している。 各記事は以下関連リンクより閲覧可能。■関連リンク「田嶼 尚子 先生 :女性糖尿病医のフロントランナー」「キラリ☆女性医師!」(日本糖尿病学会ホームページ「女性糖尿病医サポートの取り組み」)

2812.

心房細動の発症、リスク1つでも明らかに上昇/BMJ

 心房細動の生涯リスクは、指標年齢(55歳、65歳および75歳)にかかわらず、リスク因子を有していない場合で約5分の1、1つ以上のリスク因子があると約3分の1強に上昇することが、米国・ボストン大学のLaila Staerk氏らによるフラミンガム心臓研究を基にした解析の結果、明らかにされた。これまで、心房細動の生涯リスクは40歳以上で約4分の1と推定されてきた。心房細動の短期的なリスク因子は確立されているが、リスク因子の負荷が心房細動の生涯リスクにどれほど影響するかは不明であった。結果を踏まえて著者は、「心房細動の疾病負担を減らす予防的な取り組みは、修正可能な境界域および明らかなリスク因子を目標とし、複数の併存疾患を考慮すべきであろう」と述べている。BMJ誌2018年4月26日号掲載の報告。55歳、65歳、75歳時点での心房細動生涯リスクを推定 研究グループは、指標年齢55歳、65歳および75歳時に心房細動が認められなかったフラミンガム心臓研究の登録例を解析対象とした。 指標年齢時のリスク因子(喫煙、飲酒、BMI、血圧、糖尿病、心不全または心筋梗塞の既往)のプロファイルから、至適リスク(全リスク因子が至適:喫煙未経験、飲酒は男性で週14単位以下、女性で7単位以下、BMI 25未満、収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満、空腹時血糖値100mg/dL未満または随時血糖値140mg/dL未満、心不全または心筋梗塞の既往歴なし)、境界リスク(境界域のリスク因子はあるが、それ以外は至適)、および高リスク(明らかなリスク因子が1つ以上ある)の3群に分類し、指標年齢別に心房細動以外の死亡の主な原因を調整した指標年齢時から95歳時までの心房細動の生涯リスクを算出した。年齢を問わず、高リスク群が至適リスク群よりも一貫して高値 指標年齢55歳群の解析対象は5,338例(男性2,531例、47.4%)で、このうち247例(4.6%)は至適リスク、1,415例(26.5%)が境界リスク、3,676例(68.9%)が高リスクであった。高リスクの割合は、指標年齢の上昇に伴い徐々に増加した。 指標年齢55歳において、心房細動の生涯リスクは37.0%(95%信頼区間[CI]:34.3~39.6%)であった。リスクカテゴリー別では、至適リスク群で23.4%(95%CI:12.8~34.5%)、境界リスク群で33.4%(95%CI:27.9~38.9%)、高リスク群で38.4%(95%CI:35.5~41.4%)であった。明らかなリスク因子を1つ以上有している場合、心房細動の生涯リスクは少なくとも37.8%であった。 指標年齢65歳群および75歳群においても、リスク因子の負荷と心房細動の生涯リスクとの関連に同様の傾向が確認された。指標年齢65歳群(4,805例)では、心房細動の生涯リスクは全体33.7%、至適リスク群18.1%、境界リスク群26.1%、高リスク群35.8%で、75歳群(3,199例)ではそれぞれ30.8%、15.4%、23.6%、32.2%であった。

2813.

日本糖尿病学会 第61回年次学術集会 :シンポジウム 「甦れβ細胞よ! ~女性研究者が糖尿病を克服する~」 を開催[5月25日(金)]

 日本糖尿病学会「女性糖尿病医をpromoteする委員会」は、第61回年次学術集会(2018年5月24日(木)~26日(土))内で以下のシンポジウムを開催する。「甦れβ細胞よ! ~女性研究者が糖尿病を克服する~」:シンポジウム20 (日本糖尿病学会 第61回年次学術集会)【日時】2018年 5月25日(金) 14:20 ~ 17:20【会場】JPタワー 4F: ホール1+2 (東京)(第61回年次学術集会: 第16会場)【座長】植木 浩二郎氏(国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター)成瀬 桂子氏(愛知学院大学 歯学部内科学講座)【講演】The changing beta cellSusan Bonner Weir, PhD (Harvard Medical School/Joslin Diabetes Center)ヒト iPS 細胞から膵臓β細胞への分化誘導の技術開発粂 昭苑氏(東京工業大学生命理工学院)アクティブゾーンタンパク質ELKSのインスリン分泌における役割今泉 美佳氏(杏林大学医学部生化学)蛍光技術を活用した生理活性物質放出機構の解析高橋 倫子氏(北里大学医学部生理学)膵β細胞からα細胞への変換メカニズム小谷 紀子氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)【総合討論】「Women, be ambitious ! 」テーマ1: 女性研究者として研究を続け、キャリアップするために、何が重要かテーマ2: 女性研究者を育てるために、重要なこと■関連リンク「女性医師応援ライブラリ」 (日本糖尿病学会ホームページ 「女性糖尿病医サポートの取り組み」)

2814.

スタチンと認知症・軽度認知障害リスクに関するメタ解析

 すべての認知症、アルツハイマー型認知症、血管性認知症や軽度認知障害のリスクとスタチン使用との関連について、台湾・Kaohsiung Veterans General HospitalのChe-Sheng Chu氏らが、システマティックレビュー、メタ解析を実施した。Scientific reports誌2018年4月11日号の報告。 2017年12月27日までの、成人におけるスタチンの使用と認知機能低下に関する研究を、主要な電子データベースより検索を行った。各研究の効果量を統合するため、相対リスク(RR)を算出するランダム効果メタ解析を実施した。スタチン使用はすべての認知症リスクの有意な低下と関連 成人におけるスタチンの使用と認知機能低下に関する研究の主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たしていた研究は、25報であった。・スタチン使用と認知症リスクとの関連は以下のとおり。 ●すべての認知症リスクの有意な低下と関連(16報、調整RR:0.849、95%CI:0.787~0.916、p=0.000) ●アルツハイマー型認知症リスクの有意な低下と関連(14報、調整RR:0.719、95%CI:0.576~0.899、p=0.004) ●軽度認知障害リスクの有意な低下と関連(6報、調整RR:0.737、95%CI:0.556~0.976、p=0.033) ●血管性認知症と有意な関連は認められなかった(3報、調整RR:1.012、95%CI:0.620~1.652、p=0.961)・サブグループ解析では、水溶性スタチンは、すべての認知症リスク低下と関連が認められ(調整RR:0.877、95%CI:0.818~0.940、p=0.000)、アルツハイマー型認知症リスクが低くなる可能性が示唆された(調整RR:0.619、95%CI:0.383~1.000、p=0.050)。・脂溶性スタチンは、アルツハイマー型認知症リスク低下と関連が認められたが(調整RR:0.639、95%CI:0.449~0.908、p=0.013)、すべての認知症との関連は認められなかった(調整RR:0.738、95%CI:0.475~1.146、p=0.176)。 著者らは「本メタ解析では、スタチンの使用は、すべての認知症、アルツハイマー型認知症、軽度認知障害のリスク低下と関連が認められたが、血管性認知症リスク低下との関連は認められなかった」としている。

2815.

日本人の学歴・職歴と認知症の関連に糖尿病は関与するか

 欧米では、低い社会経済的地位(SES)と認知症との関連は生活習慣病(糖尿病)を介すると報告されている。しかし、わが国では低SESと認知症の関連は研究されていない。今回、敦賀看護大学(福井県)の中堀 伸枝氏らの研究から、低SESと認知症の間のメディエーターとして、生活習慣病の役割はきわめて小さいことが示唆された。BMC Geriatrics誌2018年4月27日号に掲載。 本研究は、富山県認知症高齢者実態調査のデータを用いた後ろ向き症例対照研究である。富山県在住の65歳以上(入院および非入院)の人をサンプリングレート0.5%で無作為に選択、うち1,303人が参加に同意した(回答率84.8%)。全体として、認知症137人および認知症ではない対照1,039人を同定した。必要に応じて、参加者と家族または代理人との構造化インタビューを実施し、参加者の病歴、生活習慣(喫煙および飲酒)、SES(学歴および職歴)を調査した。Sobel検定を用いて、低SESが生活習慣病を介した認知症の危険因子である可能性を調べた。 主な結果は以下のとおり。・認知症のオッズ比(OR)は、低学歴(6年以下)の参加者で高学歴の参加者より高く(年齢・性別での調整OR:3.27、95%CI:1.84~5.81)、また、事務の職歴より肉体労働の職歴を持つ参加者で高かった(年齢・性別での調整OR:1.26、95%CI:0.80~1.98)。・職歴について調整後、低学歴の参加者における認知症のORは3.23~3.56であった。・以前の習慣的な飲酒歴および糖尿病・パーキンソン病・脳卒中・狭心症/心血管疾患の病歴が、認知症リスクを増加させることが認められた。・学歴は、飲酒、喫煙、糖尿病、パーキンソン病、脳卒中、心血管疾患に関連していなかった。・職歴は、糖尿病および脳卒中に関連していた。・低学歴と認知症の関連における糖尿病の役割は、きわめて限られていることが示された。

2816.

non HDL-コレステロールが特定健診の新たな基準に導入された

 non HDL-コレステロール(non HDL-C)は、動脈硬化を促進するリポ蛋白を総合的に評価することが期待されている。総コレステロール(TC)値からHDL-コレステロール(HDL-C)値を減じた簡便な指標(non HDL-C=TCーHDL-C)であり、食事の影響を受けにくいとされる。 2018年4月24日、日本動脈硬化学会が都内でセミナーを開催し、岡村 智教氏(慶應義塾大学医学部 衛生学公衆衛生学 教授)が講演を行った。本セミナーでは「特定健診におけるLDL・non-HDLコレステロール」について、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』の内容を踏まえ、解説された。新たな基準、non HDL-コレステロールとは? 2018年度から、特定健診の項目にnon HDL-コレステロールが加わった。本学会のガイドラインでは、LDL-コレステロール(LDL-C)の管理目標値が達成された後の2次目標として、non HDL-Cの管理目標値が設定された(LDL-C管理目標値+30mg/dL未満)。LDL-Cとnon HDL-C両方の管理目標値を達成した場合、動脈硬化性疾患発症のリスクが最も低くなるという報告1)があり、循環器領域の新しい指標として注目されている。non HDL-コレステロールについて2017年版ガイドラインから解説 特定健診でスクリーニングされる「メタボリックシンドローム」は、高LDLコレステロール血症とは独立したハイリスク状態である。メタボの診断基準項目にLDL-C値が含まれないことから、LDL-C値は重要でないという誤った認識の医療者、患者がいる可能性が指摘された。メタボリックシンドロームの治療・予防には、脂質異常症と同様に、LDL-C値を含めた検査項目による生活習慣の改善が必要である。ガイドライン改訂で問題は是正されるも、残される課題 2012年版ガイドラインにおける脂質異常症の診断基準は、LDL-C値をFriedewald式(TC-HDL-C-中性脂肪[TG]値/5)で計算する規定だった。しかし、TG値が400mg/dL以上の場合は計算できず、特定健診が未受診扱いになるという問題があった。 2017年の改訂では、LDL-C直接測定法の値もしくはnon HDL-C値を用いて評価した場合でも、LDL-Cの判定が可能となった。これにより、わが国における問題点は改善されたが、国際的にはTC値でのスクリーニング、Friedewald式で計算したLDL-C値による判定が治療の主流であり、世界への情報発信にLDL-C直接測定法による値とnon HDL-C値は使いにくいという課題が残されている。 講演の最後に、岡村氏は「特定健診や日常診療でのスクリーニング基準として、脂質異常症の診断基準を定めている。診断確定後、すぐに服薬治療を開始するための基準ではないことに留意してほしい」とまとめた。

2817.

「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」通知へ:厚労省

 厚生労働省の高齢者医薬品適正使用検討会は 5月7日の会合で、「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」について大筋で了承した。本指針では65歳以上の高齢者、とくに平均的な服薬薬剤数が増加する75歳以上に重点をおいて、処方見直しの基本的な考え方や評価・減薬までの流れ、よく使われる薬剤の高齢者における留意点などをまとめている。 早ければ5月中旬を目途に、関連団体や都道府県宛に通知が発出される見通し。また、同検討会では引き続き、主に急性期での対応をまとめた本指針の追補として、外来・在宅などの療養環境別の特徴を踏まえた「高齢者の医薬品適正使用の指針(詳細編)」の作成を開始し、2018年度中のとりまとめを目指す。 本指針は多剤服用やポリファーマシーといった言葉の概念から、処方見直し時のポイントや進め方のフローチャート、減薬する際の注意点などをまとめた本文と、薬効群ごとの薬剤処方における留意点、慎重な投与を要する薬物リストなどの別表から構成される。別表1「高齢者で汎用される薬剤の基本的な留意点」では、A~Lの12の薬効群ごと(下記参照)に薬剤選択や投与量・使用法に関する注意点、他の薬剤との相互作用に関する注意点が一覧化されている。A.催眠鎮静薬・抗不安薬B.抗うつ薬(スルピリド含む)C.BPSD 治療薬D.高血圧治療薬E.糖尿病治療薬F.脂質異常症治療薬G.抗凝固薬H.消化性潰瘍治療薬 I.消炎鎮痛剤J.抗微生物薬(抗菌薬・抗ウイルス薬)K.緩下薬L.抗コリン系薬剤 なお、詳細編では認知症や骨粗鬆症、COPDなどについても取り上げることが検討されている。■参考厚生労働省「高齢者医薬品適正使用検討会」

2818.

治療前のLDL-コレステロール値でLDL-コレステロール低下治療の効果が変わる?(解説:平山篤志氏)-852

 2010年のCTTによるメタ解析(26試験、17万人)でMore intensiveな治療がLess intensiveな治療よりMACE(全死亡、心血管死、脳梗塞、心筋梗塞、不安定狭心症、および血行再建施行)を減少させたことが報告された。ただ、これらはすべてスタチンを用いた治療でLDL-コレステロール値をターゲットとしたものではないこと、MACEの減少も治療前のLDL-コレステロール値に依存しなかったことから、2013年のACC/AHAのガイドラインに“Fire and Forget”として動脈硬化性血管疾患(ASCVD)にはLDL-コレステロールの値にかかわらず、ストロングスタチン使用が勧められる結果になった。 しかし、CTT解析後にスタチン以外の薬剤、すなわちコレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブを用いたIMPROVE-IT、さらにはPCSK9阻害薬を用いたFOURIER試験など、非スタチンによるLDL-コレステロール低下の結果が報告されるようになり、今回新たな34試験27万人の対象でメタ解析の結果が報告された(CTTの解析に用いられた試験がすべて採用されているわけではない)。 その結果、More intensiveな治療がLess intensiveな治療よりアウトカムを改善したことはこれまでの解析と同じであったが、全死亡、心血管死亡において治療前のLDL-コレステロール値が高いほど有意に死亡率低下効果が認められた。心筋梗塞の発症も同様の結果であったが、脳梗塞については治療前の値の差は認められなかった。治療前のLDL-コレステロール値について、CTTによれば値にかかわらず有効であるとされていたが、本メタ解析の結果はLDL-コレステロール値が100mg/dL以上であれば死亡率も低下するということを示している。 近年、IMPROVE-ITもFOURIER試験も心筋梗塞や脳梗塞の発症は有意に低下させるが、死亡率低下効果がないのは、治療前のLDL-コレステロール値が100mg/dLであることが要因であると推論している。 このメタ解析は、LDL-コレステロール値の心血管イベントへ関与を示唆するとともに、“Lower the Better”を示したものである点で納得のいくものである。しかし、4Sが発表された1994年とFOURIERが発表された2017年の20年以上の間に、急性心筋梗塞の死亡率が再灌流療法により減少したこと、心筋梗塞の定義がBiomarkerの導入で死亡には至らない小梗塞まで含まれるようになったことも、LDL-コレステロール減少効果で死亡率に差が出なくなった原因かもしれない。 今後のメタ解析は、アウトカムが同一であるというだけなく、時代による治療の変遷も考慮した解析が必要である。

2819.

LCZ696に腎機能保持の新解析結果

 2018年4月16日、ノバルティス(スイス・バーゼル)は、左室駆出率(LVEF)の低下した心不全(HFrEF)患者に、LCZ696(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)投与が推算糸球体濾過量(eGFR)を指標とする腎機能の保持に役立つという、PARADIGM-HF試験の新たな事後解析結果を発表した1)。 本剤は1日2回投与で、機能不全に陥った心臓の負荷を軽減する薬剤。本剤を投与されたHFrEF患者では、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬エナラプリルを投与された患者と比較し、eGFR低下の抑制が示された1)。また、糖尿病を合併したHFrEF患者のサブグループでは、その効果が2倍高いことが示された。この結果は、The lancet. Diabetes & endocrinology誌に掲載された。LCZ696は糖尿病合併患者の腎機能保持に役立つ PARADIGM-HF試験に参加した糖尿病合併のないHFrEF患者では、一般集団に比べ、腎機能の低下が2倍速いことが示された1)。糖尿病を合併したHFrEF患者では腎機能低下の速さはさらに顕著で、糖尿病のないHFrEF患者に比べて2倍の速さで腎機能低下がみられた1)。 HFrEF患者において、本剤投与は、エナラプリル群と比較し、腎機能低下を有意に抑制した(ベースラインからの変化量:-1.3 vs.-1.8mL/分/1.73m2/年)1)。 糖尿病を合併したHFrEF患者では、LCZ696による治療で、糖尿病のないHFrEF患者に比べ2倍のベネフィットが得られた(ベースラインからの変化量の投与群間差(95%信頼区間):0.6(0.4~0.8)vs.0.3(0.2~0.5)mL/分/1.73m2/年)1)。 これにより本剤による治療は、心血管死および心不全による入院リスクの低下という確立されたベネフィットに加え、とくに糖尿病合併患者の腎機能保持に役立つと期待される。LCZ696について 1日2回投与する薬剤で、心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進すると同時に、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害な影響を抑制することで、機能不全に陥った心臓の負荷を軽減する。 欧州ではLVEFの低下した成人患者の症候性慢性心不全を適応とし、米国では収縮不全を伴う心不全(NYHAクラスII~IV)患者の治療を適応としている。わが国では、慢性心不全患者を対象とした第III相臨床試験を実施中。■参考文献1)Packer M, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2018 Apr 13. [Epub ahead of print]■参考ノバルティス プレスリリース

2820.

“2008年rosiglitazoneの呪い”は、いつまで続くのか?(解説:石上友章氏)-851

 2008年12月18日に、米国食品医薬品局(FDA)が出した通達によって、以後抗糖尿病薬については、心血管イベントをアウトカムにしたランダム化臨床試験(CVOT: cardiovascular outcome trial)を行うことが、義務付けられた。以来、これまでに抗糖尿病薬については、複数のCVOTが行われて発表されている。従来薬のCVOTの結果が非劣性にとどまることが多かったのに対して、SGLT2阻害薬を対象にした、EMPA-REG OUTCOME試験では、試験薬であるempagliflozin群に、心血管複合エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)を有意に抑制する効果が証明された(エンパグリフロジン、心血管死リスクを有意に低下/NEJM)。心血管死については、約40%もの抑制が認められ、一躍脚光を浴びた。PPARγアゴニストの1つである、rosiglitazoneのもたらした教訓1)が、すべての抗糖尿病薬についてのCVOTを義務化させた。 Whiteらの手による、Cardiovascular Safety of Febuxostat and Allopurinol in Patients with Gout and Cardiovascular Morbidities (CARES)試験は、こうした背景の下、CVOTの適応を抗高尿酸血症薬にまで拡大した結果、行われた臨床試験である。新薬であるfebuxostatにおける、従来薬であるallopurinolに対する非劣性、すなわち安全性が証明された。CVOTについては、EMPA-REG OUTCOME試験のように、予期せぬ幸運のような、想定外の結果が得られる場合もあるが、例外的である。大規模ランダム化試験のコストは、薬価に反映されるのは間違いないので、CVOTの義務化にも功罪がある2,3)。市販後調査(観察研究)を効率化し、草の根のようなシステムを構築することで、より迅速に、より的確に、安全性・有効性についての情報を収集することで代用できるのではないか?

検索結果 合計:4907件 表示位置:2801 - 2820