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脳梗塞発症後4.5時間以内、tenecteplase vs.アルテプラーゼ/JAMA

 発症後4.5時間以内の静脈内血栓溶解療法が適応となる急性虚血性脳卒中患者において、90日後の機能的アウトカムに関してtenecteplaseはアルテプラーゼに対して非劣性であることが認められ、安全性プロファイルも同様であった。中国・National Clinical Research Center for Neurological DiseasesのXia Meng氏らが、同国の55施設で実施した無作為化非盲検(評価者盲検)第III相非劣性試験「ORIGINAL試験」の結果を報告した。tenecteplaseはアルテプラーゼの遺伝子組み換え体で、フィブリン特異性が高く半減期が長いことから、単回ボーラス投与が可能である。tenecteplaseはアルテプラーゼと比較して、90日後の機能的アウトカム、死亡率、症候性頭蓋内出血の発生率が同等であることが報告されているが、中国人の急性虚血性脳卒中患者に対するtenecteplase 0.25mg/kgの有効性に関するエビデンスは限られていた。著者は、「本試験の結果は、脳梗塞発症後4.5時間以内の静脈内血栓溶解療法として、tenecteplaseはアルテプラーゼに代わる適切な治療法であることを支持するものである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年9月12日号掲載の報告。90日後のmRSスコア0または1の割合を比較 研究グループは、脳卒中重症度評価スケール(NIHSS)スコアが1~25で測定可能な神経学的欠損を有し、症状が30分以上持続しており、症状発現後4.5時間以内の18歳以上の急性虚血性脳卒中患者を、tenecteplase(0.25mg/kg静注)群とアルテプラーゼ(0.9mg/kg静注)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時に修正Rankinスケール(mRS)スコア0または1を達成した患者の割合で、非劣性マージンはリスク比(RR)の95%信頼区間(CI)の下限が0.937とした。安全性アウトカムは、試験薬投与終了後36時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の全死亡、90日時のmRSスコア5または6であった。 2021年7月14日~2023年7月14日に1,504例がスクリーニングされ、このうち1,489例が無作為化された(tenecteplase群744例、アルテプラーゼ群745例)。tenecteplaseの非劣性を検証、症候性頭蓋内出血および90日全死亡は同等以下 1,489例のうち、治療を受けなかった21例と、無作為化手続き完了前に治療を開始したことが判明した3例を除く、計1,465例が有効性の解析対象集団となった。患者背景は、年齢中央値66.0歳、女性446例(30.4%)であった。 90日時にmRSスコア0または1を達成した患者の割合は、tenecteplase群72.7%(532/732例)、アルテプラーゼ群70.3%(515/733例)で、tenecteplaseのアルテプラーゼに対する非劣性が検証された(RR:1.03、95%CI:0.97~1.09、p=0.003)。 症候性頭蓋内出血は、各群で9例(1.2%)に発生し(RR:1.01、95%CI:0.37~2.70)、そのうち、tenecteplase群の3例、アルテプラーゼ群の5例が死亡した。 90日死亡率は、tenecteplase群4.6%(34/732例)、アルテプラーゼ群5.8%(43/733例)であった(RR:0.80、95%CI:0.51~1.23)。

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糖尿病患者は喘息リスクが2倍近く高い可能性

 2型糖尿病患者は喘息を発症する可能性がほぼ2倍であり、一方で喘息患者の糖尿病リスクも高いことを示唆する研究結果が報告された。台北医学大学(台湾)のNam Nguyen氏らが、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表した。 糖尿病や喘息は、世界規模で重大な健康課題となっているが、両者の関連性については十分研究されていない。Nguyen氏らは、2型糖尿病と喘息の関連の実態と、その関連の潜在的な原因やメカニズムの探求を目指すステップとして、システマティックレビューとメタ解析を実施した。 PubMed、EMBASE、Scopus、Web of Scienceという4件の文献データベースに2023年10月31日までに収載された論文を対象として、このトピックに関する報告を検索。ヒットした3万8,861報から重複削除後の3万2,707報をスクリーニングし、81報に絞り込み全文精査を行い、14件の研究報告をレビュー対象として抽出。そのうち11件をメタ解析の対象とした。研究対象者数は合計約1700万人だった。なお、糖尿病の病型が明確でない報告は除外した。 解析の結果、両者に強固な相関が認められ、いずれかの疾患を診断した際には、もう一方の疾患のスクリーニングと予防的な介入を行うことの重要性が示された。 具体的には、2型糖尿病患者における喘息リスクを検討していた5件の研究は全て有意な結果を報告しており、メタ解析からは、2型糖尿病患者ではそうでない人よりも喘息のオッズが83%高いことが示された(オッズ比〔OR〕1.83〔95%信頼区間1.08~3.10〕)。また、喘息患者における2型糖尿病リスクを検討していた6件の研究のうち4件が有意な結果を報告しており、メタ解析からは、喘息患者はそうでない人よりも2型糖尿病のオッズが28%高いことが示された(OR1.28〔同1.00~1.63〕)。 Nguyen氏は、「2型糖尿病や喘息の患者、およびそれらの患者に接する医療従事者の双方が、この関連性に対する認識を深めるべきだ」と述べている。研究グループでは、「明らかになったこの事実は、喘息と糖尿病に同一の原因があるか、または共通の修飾因子が関係している可能性がある。両者の潜在的な関連について、今後より深く研究を進める必要がある」としている。 またNguyen氏は、「喘息患者の2型糖尿病リスクを下げるための予防戦略を探るべきだ。例えば、喘息患者が2型糖尿病を発症してしまう前に、前糖尿病の検査や予防的介入を速やかに行うことが推奨される。ほかにも、喘息管理のためにステロイドを全身投与することは、一時的な高血糖だけでなく2型糖尿病リスクの上昇にもつながるため、慎重に検討すべきだろう」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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CAR-T細胞療法により二次がんリスクは上昇しない

 自家キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法製品の添付文書には、CAR-T細胞療法後に二次性のT細胞性悪性腫瘍が発生するリスクがあるとの警告が記載されている。しかし、新たな研究で、CAR-T細胞療法後のそのような二次がんの発生頻度は、標準治療後の二次がん発生頻度と同程度であることが示された。米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKC)成人骨髄移植サービス分野のKai Rejeski氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Cancer Research」に9月11日掲載された。 米国がん協会(ACS)の説明によると、CAR-T細胞療法は、患者の血液から採取したT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させるための遺伝子を導入し、特定のがん細胞を攻撃できるようにした上で患者の体内に戻す治療法である。ACSは、「CAR-T細胞療法は、ある種のがんに対して、たとえ他の治療法が効かなくなった場合でも、非常に有効な可能性がある」と述べている。 しかし、米食品医薬品局(FDA)は2024年1月、FDAの有害事象報告システムのデータに基づき、CAR-T細胞療法製品の添付文書に、治療対象となったB細胞リンパ腫や多発性骨髄腫などとは無関係に新たなT細胞性悪性腫瘍(二次がん)が発生する可能性について警告を表示するよう要求した。これに対し、Rejeski氏らは、FDAのデータでは、二次がん発生に影響を及ぼす可能性のある他の因子、例えば年齢、他に受けた治療、追跡期間などが考慮されていない点を指摘する。同氏は、「患者は、この警告の追加についてのニュースを読んでおり、当然のことながら、医療提供者に安全性について質問している。われわれは、潜在的なリスクを理解するとともに、データを慎重に解釈して患者に説明する必要がある」と話す。 今回の研究でRejeski氏らは、リンパ腫または多発性骨髄腫の患者5,517人を対象とした18件の臨床試験と7件のリアルワールド研究のデータの分析を行った。対象者は、現在承認されている6種類のCAR-T細胞療法のうちのいずれかを受けていた。 中央値21.7カ月に及ぶ追跡期間中に5.8%の患者に326件の二次がんが発生していた。解析の結果、CAR-T細胞療法前に受けた別の治療の回数が3回以上だった患者では、3回以下だった患者に比べて二次がんリスクの高いことが示された。CAR-T細胞療法を受けた患者と標準治療を受けた患者の転帰を比較した4件の研究(対象者の総計1,253人)を対象にした解析では、二次がんが発生した患者の割合は、CAR-T細胞療法を受けた患者で5%、標準治療を受けた患者で4.9%であり、両群間に有意な差は認められなかった。また、二次がんリスクは、治療対象となるがんの種類や受けたCAR-T細胞療法の種類によって変わらないことも明らかになった。さらに、326件の二次がんのサブタイプを調べたところ、T細胞性悪性腫瘍はわずか5件(0.09%)を占めるに過ぎず、T細胞性悪性腫瘍と患者のCAR-T細胞療法で使用されたT細胞との遺伝的関連については、3件のうちの1件でのみ陽性と判定されていた。 こうした結果を受けてRejeski氏は、「これらの結果は、標準治療に比べてCAR-T細胞療法が二次がんリスクを上昇させることを示唆するものではない」と結論付けている。同氏はさらに、「CAR-T細胞療法により患者の生存期間は延びるが、それは同時に新たながんが発生する期間も延びることを意味する」と指摘し、「CAR-T細胞療法は、自身の成功の犠牲になっている可能性がある」と述べている。 Rejeski氏は、「過去20年以上を振り返ると、難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療法で、標準治療以上に患者の生存率を向上させたのはCAR-T細胞療法だけだ。CAR-T細胞療法での二次がんリスクは極めて低いため、この治療を決して控えるべきではない」とアドバイスしている。

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染毛剤の成分が網膜症を引き起こすことも

 使用した染毛剤の成分により視力低下を伴う網膜症を発症したフランス人女性の症例が、エドゥアール・エリオ病院(フランス)のNicolas Chirpaz氏らにより、「JAMA Ophthalmology」に9月12日報告された。網膜症の原因となった成分は芳香族アミンと呼ばれる化合物で、女性がこの成分を含まない染毛剤の使用に切り替えると、視覚機能は回復したという。 Chirpaz氏らは、「この症例はまれなケースかもしれないが、芳香族アミンの危険性に対する認識を広めることで、すぐにこの成分を含む染毛剤の使用を控えることを考える人も出てくるだろう。そうなれば、目は恒久的な損傷を受けずに済む」と述べている。 研究グループが報告書の中で指摘しているように、染毛剤と網膜症とが関連付けられたのは、今回が初めてではない。2022年には、芳香族アミン含有の染毛剤に曝露した3人の中年女性が網膜症を発症したことが報告されている。 今回の症例は、病歴のない61歳の女性に関するもの。この女性は、染毛剤で髪を染めた数日後に両目の視界が徐々にぼやけてきたため、医師の診察を受けたという。女性の使用した染毛剤は市販のもので、パラフェニレンジアミンと呼ばれる芳香族アミンを含有していた。 検査の結果、両目の後極部を中心に複数の漿液性網膜剥離が確認された。また、OCT(光干渉断層計)画像では、複数の漿液性網膜剥離と神経網膜のびまん性肥厚が認められた。網膜の黄斑部の中心に位置する中心窩での脈絡膜の厚さは250μmで、網膜色素上皮剥離や中心性漿液性脈絡網膜症と関連付けられている異常に拡張した脈絡膜血管は認められなかった。眼底自家蛍光検査では、漿液性網膜剥離が低蛍光領域として映し出された。 漿液性網膜剥離の原因を特定するために、血液検査や胸部CTスキャン、脳MRIなど広範な検査が行われたが、結果は全て正常であった。女性の症状が染毛剤の使用と時間的に一致することやOCT検査などの結果から、女性は染毛剤に関連する再発性急性血管障害(recurrent acute hair dye-associated angiopathy;RAHDAA)と診断された。 その後、女性は染毛剤のブランドを変えた。4カ月後の検査で、女性の視力は正常(20/20)に戻っていた。4年後の時点で、女性は芳香族アミンを含まない染毛剤を使用しており、RAHDAAの再発は生じていないという。 研究グループは、芳香族アミンが、網膜色素上皮細胞と呼ばれる細胞の健康に不可欠な神経化学経路を「破壊する」ことで、網膜症が引き起こされたのではないかと考えている。また、「RAHDAA症例は依然としてまれではあるが、患者に原因が容易に突き止められない網膜症が認められた場合には、医師はRAHDAAの可能性に注意する必要がある」と述べている。

1965.

2剤併用の新レジメンで腎細胞がん患者の生存期間が倍増

 進行性腎がんに対する治療において、パゾパニブ(商品名ヴォトリエント)にベバシズマブ(商品名アバスチン)を組み合わせることで患者の生存期間を延長できる可能性が、第2相臨床試験で示された。米ロズウェルパーク総合がんセンターのSaby George氏らが実施したこの試験の結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2024、9月13〜17日、スペイン・バルセロナ)で発表された。 パゾパニブは、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)として知られる抗がん薬の一種である。血管内皮細胞表面に存在する血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)とがん細胞が分泌する血管内皮増殖因子(VEGF)が結合すると、シグナルが血管内皮細胞内に伝達され、血管新生が促される。TKIは、VEGFRの働きを阻害してVEGFRとVEGFの結合を抑制することにより血管新生を阻止し、がん細胞の増殖を抑制する。米食品医薬品局(FDA)がパゾパニブ承認の根拠とした以前の臨床試験では、腎がんと診断された患者の無増悪生存期間(PFS)は平均11カ月強であることが示されていた。 今回の研究では、治療歴のない淡明細胞型の転移性腎細胞がん患者51人(年齢中央値65.6歳、男性70.6%)に、新規レジメンであるパゾパニブとベバシズマブによる治療を行い、12カ月後の臨床的有効率(clinical benefit rate;CBR、完全奏効、部分奏効、安定の割合を合計したもの)を調べた。治療方法は、1〜28日目にパゾパニブ800mgを1日1回投与し、10週間サイクルの36日目と50日目にベバシズマブ10mg/kgを投与するというものだった。研究グループによると、パゾパニブによる治療ではVEGFが増加し、それによりがん細胞が薬剤に耐性を持つ可能性があるという。そこで、治療サイクルの中程でVEGFを中和する作用のあるベバシズマブを投与する治療法を考え出したと説明する。 治療の結果、12カ月時点で51人中40人(78%)にCBRが認められた。中央値33.1カ月の追跡期間における客観的奏効率(完全奏効+部分奏効)は54.9%、CBRは98%、PFS中央値は22.1カ月、全生存期間(OS)中央値は62.9カ月であった。副作用としては、下痢(70%)、高血圧(54%)、疲労(69%)、吐き気(51%)が認められた。 進行性腎細胞がん患者の中には強力な免疫療法を提案される人もいるが、研究グループは、一部の患者にとっては免疫療法よりもパゾパニブとベバシズマブによる併用療法の方が安全性の高い選択肢となり得ると指摘する。 George氏は、「他のリスクグループの患者には免疫療法の選択肢もあったため、今回の第2相臨床試験には、より低リスクのカテゴリーに属する患者が多く含まれていた。この有望な結果は、パゾパニブとベバシズマブの交互投与が、低リスクの腎細胞がん患者に対して有望な治療レジメンとなり得ることを示唆している」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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ESMO2024レポート 肺がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日にかけて、ESMO2024がスペインのバルセロナで開催された。肺がん領域でも多くの注目される内容が発表されたが、その中でもとくに現在や近未来の日常臨床に影響を与えそうなものについていくつか紹介したい。すでに報告されているpositive試験のアップデート内容がある一方で、期待された第III相試験のnegativeデータも複数報告されていたことも印象的であった。LBA48:CCTG BR.31試験試験概要BR.31試験は、完全切除された非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する補助療法としてのデュルバルマブの有効性と安全性を評価する第III相二重盲検プラセボ対照試験である。試験デザイン患者は完全切除後に原則プラチナベースの化学療法を受けた後、2:1の割合でデュルバルマブ(20mg/kgを4週ごとに1年間)またはプラセボの投与を受けた。PD-L1発現が25%以上の患者で、EGFRおよびALKの遺伝子変異を持たない患者での無病生存期間(DFS)が主要評価項目であり、副次評価項目として全生存期間(OS)、生活の質(QOL)、および安全性が評価された。結果PD-L1発現が25%以上の患者群では、デュルバルマブを投与された群とプラセボ群でDFSに有意な差は認められなかった。DFS中央値はデュルバルマブ群で69.9ヵ月、プラセボ群で60.2ヵ月であり、ハザード比は0.935(p=0.642)であった。また、安全性プロファイルは従来の知見と一致しており、重大な有害事象(Grade3/4)の発生率は23.5%であった。結論完全切除後のNSCLC患者に対して、デュルバルマブはDFSの延長に寄与しないことが示された。治療関連有害事象(TRAE)は発生したものの、全体的な安全性は許容範囲内とされた。コメント本試験は、本邦も西日本がん研究機構(WJOG)を介して参加したグローバル試験であり、その結果も注目されたが、結果はnegativeであり残念であった。NSCLCの術後補助療法では、これまでにアテゾリズマブやペムブロリズマブの良好な結果が示されていたが、それらとの結果の違いの原因については明らかではない。デュルバルマブについては後述の術前・術後にデュルバルマブを使用するAEGEAN試験は良好な結果であったため、やはり免疫療法は術後投与よりも術前投与のほうが有利であることが示唆された。LBA49:AEGEAN試験研究概要AEGEAN試験において、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)のクリアランスが術前治療中の病理学的効果および無イベント生存期間(EFS)に与える影響を評価することを目的とした。研究デザインこの研究では、手術可能なNSCLC患者(IIA~IIIB期)が対象となり、デュルバルマブ1,500mgとプラチナベースの化学療法を4サイクル行い、その後、12サイクルのデュルバルマブまたはプラセボを投与した。試験の探索的エンドポイントとして、ctDNAクリアランスと病理学的完全奏効(pCR)、EFSとの関連が評価された。結果ctDNAクリアランスが得られた患者では、pCR率が大幅に改善した。とくに、術前治療4サイクル後にctDNAがクリアされた患者では、EFSが有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.23、p<0.05)。また、ctDNAクリアランスが得られた患者の5年EFS率は73.4%に達し、予後良好な患者群であることが示された。結論手術可能なNSCLC患者において、術前のctDNAクリアランスはpCRおよびEFSの改善と強く関連しており、治療効果の早期予測指標として有望である。コメントAEGEANレジメンは本邦ではまだ承認されていないが、今後承認が期待されている。ctDNAクリアランスを含めた術前治療後の評価により高率にpCRを予測できるようになれば、術前療法のみで治癒し、手術を必要としない患者も将来的には予測できるようになるかもしれない。また、リキッドバイオプシーにより術後療法の必要性も判断できるようになることを期待したい。1208MO:NEJ034試験試験概要この第III相試験は、特発性肺線維症(IPF)を伴う肺がん患者に対する周術期ピルフェニドン療法の有効性と安全性を評価することを目的とした。ピルフェニドンは抗線維化および抗炎症作用を持つ薬剤であり、術後の急性増悪を予防できるかどうかが検証された。試験デザイン患者は、周術期にピルフェニドンを4週間投与された群と投与されなかった群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は、術後30日以内に発生した急性増悪の割合であった。結果ピルフェニドン群で急性増悪の発生率は6.1%、対照群では10.3%と報告されたが、この差は統計学的に有意ではなかった(p=0.339)。ピルフェニドンの投与が急性増悪の予防に明確な効果を示すことはできなかった。結論日本人患者を対象としたこの試験では、ピルフェニドンが術後の急性増悪を防ぐ効果は示されなかった。コメント本邦における肺がん手術では手術関連死はほとんどなく、世界的にもきわめて良好であるが、間質性肺炎合併肺がん患者においては術後急性増悪が発生するとその致死率は約50%とされているため、本試験の結果は注目されていた。結果はnegativeであり残念であった。間質性肺炎合併肺がん患者に対する、より安全な治療法の開発が期待される。1243MO:JCOG1914試験試験概要この第III相試験は、切除不能な局所進行NSCLCを有する高齢者(75歳以上)に対する週1回のカルボプラチン(CBDCA)+nab-パクリタキセル(nab-PTX)療法と毎日の低用量CBDCA療法を比較したものである。試験デザイン患者はCBDCA+nab-PTXまたは低用量CBDCAを放射線療法と併用して投与された。化学放射線療法(CRT)後はデュルバルマブによる維持療法が推奨された。主要評価項目はOSであり、副次評価項目として無増悪生存期間(PFS)、奏効率、患者報告アウトカム(PROs)、および安全性が評価された。結果PFSの結果では、1年PFS率はCBDCA+nab-PTX群で55.5%、低用量CBDCA群で59.0%と報告され、OSに関してもCBDCA+nab-PTX群で79.6%、低用量CBDCA群で87.3%であり、ともに有意差は確認されなかった。TRAE(Grade3/4)は両群ともに比較的多く報告され、CBDCA+nab-PTX群での治療関連死も観察された。結論高齢の日本人患者において、CBDCA+nab-PTX療法は、低用量CBDCA療法に対して優位性を示さなかった。コメント本試験は中間解析の結果、将来的にもCBDCA+nab-PTX群のOSでの優越性が示される可能性はきわめて低いと判断され、無効中止となった。本邦においては、高齢者に対するcCRTにおいて標準的な化学療法レジメンは引き続き低用量CBDCAということになる。LBA54:MARIPOSA-2試験試験概要この第III相試験は、EGFR遺伝子変異を有する進行NSCLC患者において、オシメルチニブ治療後のアミバンタマブ+化学療法併用に与える影響を評価することを目的としており、今回はアップデートされたOSが発表された。試験デザイン患者は、アミバンタマブ+化学療法、または化学療法単独の群に無作為に割り付けられた。主要評価項目はPFS、副次評価項目としてOS、治療後の症状進行までの時間(TTSP)、治療中断までの時間(TTD)、および安全性が評価された。結果2回目の中間解析では、アミバンタマブ+化学療法併用群は化学療法単独群と比較してOSの延長傾向が示された(HR:0.73)。また、TTSPやTTDの観点からもアミバンタマブ併用群のほうが優れており、副作用プロファイルは既存のデータと一致していた。結論オシメルチニブ治療後の進行EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対して、アミバンタマブ+化学療法は全体的な生存率を改善し、今後の標準治療の1つとなる可能性がある。コメントMARIPOSA-2試験におけるアミバンタマブ+化学療法併用群と化学療法単独群の比較について報告された。2回目の中間解析でOSの延長傾向が報告された。オシメルチニブ治療後増悪時の治療選択は課題であり、本レジメンの本邦での承認が期待される。LBA55:MARIPOSA試験(抵抗性メカニズムの解析)研究概要この試験は、進行NSCLC患者に対する1次治療としてのアミバンタマブ+lazertinibの併用療法と、オシメルチニブ単独療法における獲得抵抗性メカニズムを比較することを目的としている。試験デザインEGFR変異陽性の局所進行または転移のあるNSCLC患者を対象に、アミバンタマブ+lazertinib群(429例)とオシメルチニブ群(429例)で比較した。主要評価項目はPFSであり、副次評価項目としてOS、客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、および安全性が評価された。結果ctDNAを用いたGuardant360 CDx がん遺伝子パネルにより、アミバンタマブ+lazertinib群とオシメルチニブ群では抵抗性メカニズムの違いが明らかになった。とくに、MET増幅がオシメルチニブ群では9.3%の患者に認められたのに対し、アミバンタマブ+lazertinib群では1.8%と低かったことが確認された。さらに、EGFRの二次性耐性変異発生率も、アミバンタマブ+lazertinib群のほうが低かったことが報告された。結論EGFR変異を有する進行NSCLC患者において、アミバンタマブ+lazertinibはオシメルチニブと比較して、EGFRおよびMETに関連した耐性メカニズムの発生率を有意に低下させた。コメントアミバンタマブの作用機序として期待通りの結果である。とくに、治療前と治療終了時のctDNAの比較により獲得耐性メカニズムを研究した点は興味深い。アミバンタマブ+lazertinib療法も本邦での承認が期待されている。LLBA81:ADRIATIC試験研究概要ADRIATIC試験は、限局型小細胞肺がん(LS-SCLC)患者を対象に、デュルバルマブ療法の有効性を評価したものである。とくに、cCRTの使用レジメンおよび予防的頭蓋照射(PCI)の影響に焦点を当てた。試験デザイン限局型SCLC患者において、cCRT後にデュルバルマブを投与した群と標準治療を比較した。PCIの使用も含めて、治療後のOSおよびPFSに与える影響が検討された。結果デュルバルマブ併用療法は、cCRT後の生存率を改善することが示されたが、PCIの有無やcCRTの内容にかかわらず、その効果は持続した。TRAE(Grade3/4)は両群で同様に発生し、安全性において大きな差は認められなかった。結論限局型SCLC患者に対するデュルバルマブ併用療法は、標準治療に比べて統計学的に有意な生存利益をもたらした。とくに、PCIの使用にかかわらず良好な結果が示されており、今後の標準治療として採用される可能性がある。コメント現在、限局型SCLCに対して免疫チェックポイント阻害薬は本邦では承認されていないが、ADRIATIC試験の結果により本邦での承認も期待される。今回の内容は限局型SCLCに対する本レジメンの標準的な使用をサポートすることになると考えられる。

1967.

「今日はどうされましたか?」の使い道はない?【もったいない患者対応】第15回

「今日はどうされましたか?」の使い道はない?問診を始めるとき、まず最初にどんな言葉を発していますか? 研修医の先生であれば「今日はどうされましたか?」から始めるもの、と思っている方が多いかもしれません。教科書的には、このようなオープンクエスチョンが理想的だとされていますし、私自身も最初はそうしていました。ところが、この質問は実際の一般外来においては使いにくいケースがほとんどです。患者さんはすでに受付で事務員や看護師から同様の質問を何度も受け、受診の動機をさんざん話した後であり、かつ問診票にも書いているからです。突き放したセリフに聞こえてしまうことも患者さんは「問診票を見ればわかる」と思っているでしょうし、医師と会う前に詳細に話したのだからスタッフを通じて概要くらいは当然申し送られているはずだ、と考える方も多いはずです。患者さんは、たいてい問診票を書いた後ずいぶん長い間待合室で待たされています。なかには「またイチから話すのか」と顔をしかめる方もいるでしょう。「今日はどうしましたか?」というセリフは、それまでの自分の説明がまったくの無駄であったかのように、突き放した質問に聞こえる可能性があります。もちろん、医師は患者さんが待合室で待っている間に他の患者さんを忙しく診療していて、次の患者さんの “問診の準備”をしているわけではありません。必ずしも情報をすべて把握したうえで患者さんを部屋に呼び入れているわけではないでしょう。実際、問診票にぎっしり文字を書き込んでいる患者さんがいれば、そこから訴えを読み取ろうとするより、先に患者さんを迎え入れて本人の口から聞いたほうがスムーズなこともあります。「記載してある訴え」から会話を始めてみようそこで「今日はどうされましたか?」という完全なオープンクエスチョンではなく、問診票から患者さんの訴えを読み取っていることを示すうえで、「熱が出てるんですね、3日前からですね? つらいですよね」といった自然な会話から入るのがおすすめです。右肩を打撲した患者さんであれば、「えーっと、右肩ですよね? どのあたりでしょうか?」といった形で入るのもよいでしょう。「今日病院に来た理由はすでに私に伝わっています」「問題を一緒に解決するスタートラインに私はもう立った状態で、あなたを診察室に迎え入れました」という姿勢をとることが大切なのです。とくに初診の患者さんの場合は診察室で初対面ですから、医師との信頼関係はまだできていません。診察室に入って最初に医師と交わす会話は、その点で非常に重要です。教科書的には正しくても、一辺倒のオープンクエスチョンばかりを使うのではなく、状況に応じてアレンジし、自然な会話を心がけてみましょう。

1968.

高血圧治療用アプリの臨床的意義【治療用アプリの処方の仕方】第2回

臨床試験成績について国内第III相HERB-DH1試験において、主要評価項目である12週時の自由行動下血圧測定(ABPM)による24時間の収縮期血圧のベースラインからの変化量は、アプリ介入群は-4.9mmHgであったのに対し、対照群では-2.5mmHgであり、群間差-2.4mmHgでアプリ介入群において有意な降圧効果が認められました(p=0.026)。副次的評価項目である起床時の家庭血圧(収縮期)は、それぞれ-10.6mmHg、-6.2mmHgで群間差は-4.3mmHgでした(p<0.001)。エビデンスのある行動改革というのはやはり重要で、その中でも減塩と減量が降圧に深く関係していました。これまでの試験で、尿中Naの変化と降圧が関連していることがわかっていましたが、本試験では塩分チェックシートによる本人の主観的な塩分スコアで評価しており、最初はスコアが高くてもより下がった人では、より降圧効果が高いという結果になりました。体重も同様で、最初は重くても減量に至った人で降圧効果がより認められました。「-4.3mmHg」の臨床的意義本臨床試験は、薬物治療を未実施の患者さんを対象にしていますので、薬剤の効果や服薬アドヒアランスの影響はありません。そういう集団で血圧が統計学的に有意に下がりました。対照群も、家庭血圧計が配られて血圧測定を継続し、医師の診察も1ヵ月に1回受けて頑張っていますが、それでもやはり有意差をもってアプリの降圧効果が示されました。なかでも、起床時の家庭血圧の4.3mmHgの差というのは、心不全や冠動脈疾患、脳卒中のリスクを有意に低減させるインパクトを持っています。なお、臨床試験は65歳未満の患者さんが対象となっていましたが、リアルワールドデータでは高齢者も含まれていて、高齢者でもきちんと血圧が下がっています。年齢に関係なく、正しい知識を得て、行動を変容させるとやはり効果は現れるようです。適する患者像実臨床では、140~160mmHgの薬物療法未実施の患者さんであればまず治療用アプリを勧めています。180mmHg以上であれば悠長なことを言っていられないのですぐに薬物療法を検討します。160mmHg以上の人も薬物療法になろうかと思いますが、このプログラムでできるだけ減塩がうまくできればよいと考えます。もうすでに薬物治療を始めている患者さんでも、薬物治療だけで下がりきっていない場合や増量を検討し始めた場合に、生活習慣を見直すために導入することもあります。私たちも一生懸命に生活指導を行っていますが、やはり細かいところまでは行き届いていないこともあるためです。降圧効果だけを考えると、腎デナベーションなどのデバイス治療は高い効果が期待できる一方で侵襲的という問題がありますが、治療用アプリには手軽に導入できるというメリットがあります。次回は、これからの高血圧治療について、話題のトピックなどを紹介します。

1969.

第233回 40年前の“駆け込み増床”を彷彿とさせる“駆け込み開業”が起こる?診療所が多い地域で新規開業を許可制にする案を厚労省が提起

「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」に関する議論進むこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのポストシーズンが盛り上がっています。10月6日(日本時間)のナショナルリーグ地区シリーズ、ドジャースvs.パドレス戦は、NHKはなんと地上波でライブで放送していました。第2戦は大谷 翔平選手と、ダルビッシュ 有投手の対戦が見応えがありました。大谷選手は3打数無安打で、ダルビッシュ投手の多彩な変化球に完全に抑えられていました。ダルビッシュ投手は2017年のポストシーズン、ロサンゼルス・ドジャースの投手としてワールドシリーズ進出に貢献、しかしその本番のワールドシリーズで、ヒューストン・アストロズとの戦いで2敗を喫し、ファンからは“戦犯”とまで非難され、同年にFA(フリーエージェント)で退団しています。ドジャースに対しては複雑な思いもあるであろうダルビッシュ投手のこの日の勝利は、いちファンとして感慨深いものがありました。サンディエゴ・パドレス、このまま上まで行くかもしれませんね。さて、今回は本格化してきた「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」に関する議論について書きます。この問題については、本連載でも幾度か取り上げてきました。「第229回 武見厚労相最後の大仕事か?『医師偏在是正に向けた総合的な対策』の議論本格化」では現在議論されている骨子案の内容を紹介しました。この「対策パッケージ」、厚生労働省(以下、厚労省)のいろんな検討会等で議論が行われていますが、一体どこが主導してまとめていくのか見えづらいです。最終的には厚労省内の官僚チームがエイヤッとまとめ上げ、大して誰も傷まない中途半端なパッケージが出来上がるのではないかと心配です。9月30日にこのテーマが議論されたのは、第9回「新たな地域医療構想等に関する検討会」(座長:遠藤 久夫・学習院大学長)でした。ここでは、診療所が多い「外来医師多数区域」におけるさまざまな規制的手法が厚労省から提起され議論されました。新規開業時に足りない医療機能を要請できる仕組みを法制化規制的手法の案でとくに注目されたのは、診療所が多い「外来医師多数区域」において、開業希望者に地域で足りない医療機能を要請したり、新規開業を許可制にしたりするという案です。現状、診療所は免許を持つ医師が地方自治体に届け出れば、原則自由に開業できます。その点は、医療計画で2次医療圏ごとに病床数が規制されている病院よりもハードルは極めて低いと言えるでしょう。また、開業できる診療科も自由です。都道府県が開業を希望する医師に救急対応など足りない医療機能を設けることを要請できる仕組みが指針(外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン1))ベースでありますが、法律に規定されているわけではありません。つまり、在宅医療など地域に不足している医療機能の提供を開業希望者に強制することはできないのです。そこで今回、厚労省が「外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等の仕組みの実効性の確保」を目的に提起したのは、『指針』の仕組みの医療法での位置付け(法制化)です。それによって、外来医師多数区域の新規開業希望者に対して、事前に診療所で提供する予定の医療機能を記載した届け出を求め、都道府県はその届け出の内容を踏まえて、不足している医療機能の提供を要請できるようにするわけです。要請に従わない場合は勧告・公表などのペナルティも設けるとしています。また、外来医師多数区域での開業を許可制とし、開業の上限を定める案も提起しました。なお、検討に当たっては、憲法上の職業選択の自由・営業の自由との関係、規制の合理性、既存診療所との公平性および新規参入抑制による医療の質等について留意して検討を進めるとしています。「『営業の自由』に抵触する可能性も高く、規制的手法はまったく馴染まない」と日医常任理事こうした提起に対して、同検討会では賛成論、反対論の両方が出ました。10月1日付けのGemMed(旧メディ・ウォッチ)などの報道によれば、「医師偏在を強力に是正するためには規制を強める必要がある。優先すべき外来医師多数区域での新規開業対策である」(土居 丈朗・慶應義塾大学経済学部教授)、「医師多数区域に医師が集まる背景を分析して過剰集中を規制的に解決しなければ偏在は解消しない」(河本 滋史・健康保険組合連合会専務理事)といった積極的な賛成論が構成員から出ました。しかし一方で、「“日本国憲法第22条第1項から導かれる『営業の自由』”に抵触する可能性も高く、規制的手法はまったく馴染まない」(江澤 和彦・日本医師会常任理事)、「規制的手法を実行したとしても、医師は医師少数区域には行かず、医師多数区域の近隣に動くだけである」(伊藤 伸一・日本医療法人協会会長代行)といった反対論も、日本医師会をはじめとする医療提供側から出ました。ある構成員から、「都道府県が要請する機能を提供しない場合は保険医療機関の指定を取り消すなどの強い対応をすべき」との意見が出ましたが、日本医師会の江澤氏は、開業を希望する勤務医と地域の医師会などによる『協議の場』を作ることを提案、保険医療機関の指定取り消しなどの対応には反対したとのことです。地域の病院で働く医師を増やすために本当に効果があるかどうかは疑問私自身も、何らかの規制的手法の導入はもはや避けられないことだと思います。人口減少が急速に進む地方では、どんどん診療所や中小病院が閉鎖しています。そんなところに新規開業する医師はいませんから、早めに医療機関を集約して、基幹病院を中心とした医療・介護のネットワークを作っておかなければなりません(地方での診療所開業を促す策は、医療機関の集約化が喫緊の課題である現状では無意味でしょう)。しかし、その病院で働く医師がいないことにはネットワークも作れません。地方の病院で働く医師を半ば強制的に生み出す仕組みがまず必要です。現在検討されている医師偏在是正に向けたさまざまな対策には、そうした地域で働く医師を増やすための方策が多数盛り込まれており、それらがどこまで実効性のある仕組みにできるかがポイントと言えます。そのポイントの一つが、ベースとなる医師数の確保策であり、「外来医師多数区域」において足りない医療機能を要請して開業を牽制したり、新規開業を許可制にしたりする案もその一環ということになりますが、果たしてこれらの案が地域の病院で働く医師を増やすために本当に効果があるかどうか疑問です。「駆け込み増床」のように「駆け込み開業」が起きるかもとくに開業を許可制とし、開業の上限を定める案などは、医療計画の法制化で1980年代後半に起こった「駆け込み増床」のように「駆け込み開業」が起きるかもしれず、現実的ではないでしょう。現実的ではない、ということではこんな案はどうでしょう。そもそも医学部教育、医師の養成には、他学部の学生に比べて比較にならないほどの多額の税金が投入されています。ここはもう、“徴兵制”に匹敵するほどの厳しい勤務年限(自治医大や医学部地方枠のような)をすべて(か相当割合)の医学生に課すという案です。併せて医学部の授業料の無償化も進めていいかもしれません。いずれにせよ、「現実的ではない」と批判されるくらいの方策でないと、医師偏在対策の特効薬にはならないでしょう。今後の議論の行方に注目したいと思います。参考1)厚生労働省:外来医療について

1970.

ビタミンC摂取と片頭痛との関係

 これまでの研究で、ビタミンCが片頭痛の発症や重症度の低下と関連している可能性が示唆されているが、サンプル数が少なく、このエビデンスは限られている。中国・Sichuan Mental Health CenterのDehua Zhao氏らは、一般集団における食事中のビタミンC摂取と片頭痛との関連を明らかにするため、横断的研究を実施した。Journal of Human Nutrition and Dietetics誌オンライン版2024年9月10日号の報告。 1999〜2004年の国民健康栄養調査(NHANES)データを用いた。過去3ヵ月以内に重度の頭痛または片頭痛を経験した患者を、片頭痛患者として分類した。食事中のビタミンC摂取量は、24時間食事想起システムを用いて評価した。食事中のビタミンC摂取量と片頭痛との関連を評価するため、ロジスティック回帰モデル、制限付き3次スプライン(RCS)回帰、層別分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・本研究の参加者4,101例中、片頭痛患者は702例(17.12%)であった。・人口統計学的共変量、ライフスタイル共変量、臨床検査値、身体検査、身体活動、食事共変量、合併症で調整した後、食事中のビタミンC摂取と片頭痛との間に逆相関があることが明らかとなった(オッズ比[OR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.83〜0.96、p=0.002)。・ビタミンC摂取量で分類すると、ビタミンC摂取量が最も多い(Q4)場合、最も少ない場合(Q1)と比較し、片頭痛の調整済みORは0.64(95%CI:0.49〜0.84)であった(p=0.001)。・RCS回帰分析では、食事中のビタミンC摂取量と片頭痛との間に、直線的な逆相関が認められた(Pnon-linearity=0.449)。・結果には一貫性が認められ、異なるグループ間で有意な相互作用が認められなかった。 著者らは「食事中のビタミンC摂取量と片頭痛との逆相関が認められ、その関連性は、直線的な負の相関であることが明らかとなった」と結論付けている。

1971.

HR+/HER2-転移乳がんへのSG、アジア人での第III相試験(EVER-132-002)

 転移/再発のHR+/HER2-乳がんへのサシツズマブ ゴビテカン(SG)の有用性を検討したTROPiCS-02試験において、SGが化学療法に比べ無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善したことが報告されているが、本試験にはアジア人患者が3%しか登録されていない。今回、アジア人患者を対象とした無作為化第III相試験(EVER-132-002)で、SGが化学療法と比べPFSおよびOSの有意かつ臨床的意義のある改善を示したことを、中国・Chinese Academy of Medical Sciences & Peking Union Medical CollegeのBinghe Xu氏らが報告した。Nature Medicine誌オンライン版2024年10月1日号に掲載。・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンによる治療を1ライン以上、化学療法を2~4ライン受けたアジア(中国・台湾・韓国)人の患者・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg静注、3週ごと)・対照群:医師選択による化学療法(エリブリン、カペシタビン、ゲムシタビン、ビノレルビンから選択)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]OS、BICRによる奏効率(ORR)・奏効期間(DOR)・臨床的有用率(CBR)、安全性、QOLなど 主な結果は以下のとおり。・2020年12月9日~2022年12月2日にスクリーニングされた485例中、331例がSG群(166例)と化学療法群(165例)に無作為に割り付けられた。・追跡期間中央値は、患者全体で13.4ヵ月(範囲:0.1~28.7)、SG群で14.5ヵ月(同:1.3~27.8)、化学療法群で12.7ヵ月(同:0.1~28.7)だった。・PFSはSGで改善し(ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.52~0.87、p=0.0028)、中央値はSG群が4.3ヵ月、化学療法群が4.2ヵ月だった。・OSもSGで改善し(HR:0.64、95%CI:0.47~0.88、p=0.0061)、中央値はSG群が21.0ヵ月、化学療法群が15.3ヵ月だった。・ORRはSG群が20%、化学療法群が15%、DOR中央値はSG群が5.3ヵ月、化学療法群が5.2ヵ月だった。・Grade3以上の治療関連有害事象で多かったのは、好中球減少、白血球減少、貧血であった。 著者らは「本試験におけるSG の有効性と安全性はTROPiCS-02 試験の結果と一致しており、アジア人の内分泌療法抵抗性で既治療の転移/再発のHR+/HER2-乳がん患者における新たな治療選択肢としてSGを投与することを支持している」とまとめている。

1972.

切除可能NSCLC、周術期ペムブロリズマブの追加が有効(KEYNOTE-671)/Lancet

 未治療の切除可能な早期非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、術前化学療法単独と比較し、術前ペムブロリズマブ+化学療法と術後ペムブロリズマブ療法を行う周術期アプローチは、3年全生存率が有意に優れ、無イベント生存期間が延長し、安全性プロファイルも良好であることが、カナダ・マギル大学ヘルスセンターのJonathan D. Spicer氏らが実施した「KEYNOTE-671試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年9月28日号で報告された。国際的な無作為化プラセボ対照第III相試験 KEYNOTE-671試験は、日本を含む世界189施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年5月~2021年12月に参加者の無作為化を行った(Merck Sharp & Dohmeの助成を受けた)。 年齢18歳以上、未治療の切除可能なStageII、IIIA、IIIB(N2)のNSCLCで、全身状態はECOG PSが0または1の患者を対象とした。 術前にペムブロリズマブ(200mg、3週ごとに静脈内投与)+シスプラチンベースの化学療法を4サイクル行った後に手術を施行し、術後ペムブロリズマブ(200mg、3週ごとに静脈内投与)療法を13サイクル行う群(ペムブロリズマブ群)、または術前にプラセボ(3週ごとに静脈内投与)+シスプラチンベースの化学療法を4サイクル行った後に手術を施行し、術後にプラセボ(3週ごとに静脈内投与)を13サイクル投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は2つで、ITT集団における全生存期間(無作為化から全死因による死亡までの期間)および無イベント生存期間(無作為化から、予定された手術を不可能にする局所進行、手術時の切除不能腫瘍の存在、RECIST version 1.1に基づく担当医評価の病勢進行または再発、全死因死亡、いずれかが最初に発生するまでの期間)とした。全生存期間中央値は未到達 797例を登録し、ペムブロリズマブ群に397例(年齢中央値63歳、女性118例[30%]、東アジア人123例[31%])、プラセボ群に400例(64歳、116例[29%]、121例[30%])を割り付けた。2回目の中間解析時の追跡期間中央値は36.6ヵ月だった。 Kaplan-Meier法による36ヵ月全生存率は、プラセボ群が64%であったのに対し、ペムブロリズマブ群は71%と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.56~0.93、p=0.0052[片側])。全生存期間中央値は、ペムブロリズマブ群では未到達であり、プラセボ群では52.4ヵ月であった。 また、無イベント生存期間中央値は、プラセボ群の18.3ヵ月に比べ、ペムブロリズマブ群では47.2ヵ月と延長した(HR:0.59、95%CI:0.48~0.72)。新たな安全性シグナルの出現はない as-treated集団の解析では、治療関連有害事象はペムブロリズマブ群で97%(383/396例)、プラセボ群で95%(381/399例)に認めた。Grade3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で45%(179例)、プラセボ群で38%(151例)に、重篤な治療関連有害事象はそれぞれ18%(73例)および15%(58例)に発現した。 ペムブロリズマブ群では、死亡に至った治療関連有害事象が1%(4例)(心房細動、免疫介在性肺疾患、肺炎、心臓突然死、各1例)、すべての治療の中止に至った治療関連有害事象が14%(54例)で発生した。免疫介在性有害事象およびインフュージョンリアクションは、ペムブロリズマブ群で26%(103例)にみられた。 著者は、「周術期ペムブロリズマブの効果に関する有益性は、健康関連QOLの長期的な低下を伴わず、新たな安全性シグナルは出現しなかったことである」とし、「これらの知見は、切除可能なStageII~IIIB(N2)NSCLCに対する術前化学療法への周術期ペムブロリズマブの追加は、標準治療の選択肢となる可能性があることを支持するものである」と述べている。

1973.

重度の便秘、メタン生成菌の過剰増殖が原因か

 重度の便秘の原因は、メタンを生成する腸内微生物(メタン生成菌)の過剰な増殖である可能性が、新たな研究で明らかになった。腸内細菌叢のバランスが崩れて腸内メタン生成菌異常増殖症(IMO)が引き起こされている人では、IMOがない人に比べて重度の便秘が生じるリスクが約2倍高いことが明らかになったという。米シーダーズ・サイナイ消化管運動プログラムの医療ディレクターを務めるAli Rezaie氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に8月13日掲載された。 人間の腸内には、細菌、ウイルス、真菌、古細菌など、数兆個もの微生物が生息している。このような腸内微生物は、食物の消化の促進や免疫反応の管理など、健康の維持に重要な役割を果たしている。しかし、有害な微生物が有益な微生物を駆逐して健康上の問題を引き起こすこともある。例えば、Clostridioides difficileという細菌が腸内に定着すると、ひどい下痢を引き起こすことがある。 メタン生成菌は、細菌や真菌とは異なる微生物の一種である古細菌に分類され、IMOは便秘などのさまざまな病気の発症機序に関与していることが示唆されている。このことからRezaie氏らは今回、IMOの症状の特徴を明らかにするために、19件の研究(対象は、IMO患者1,293人、IMOのない対照3,208人)を対象にシステマティックレビューとメタアナリシスを行い、IMOのある人とない人の消化器症状の発生率と重症度を比較した。 IMO患者には、膨満感(78%)、便秘(51%)、下痢(33%)、腹痛(65%)、吐き気(30%)、おなら(56%)など、さまざまな消化器症状が認められた。解析の結果、IMO患者は対照に比べて、便秘の発生率が有意に高かったが(47%対38%、オッズ比〔OR〕2.04、95%信頼区間〔CI〕1.48〜2.83、P<0.0001)、下痢の発生率は低いことが明らかになった(37%対52%、OR 0.58、95%CI 0.37〜0.90、P=0.01)。また、IMO患者は対照に比べて、便秘の重症度は有意に高いが(標準化平均差〔SMD〕0.77、95%CI 0.11〜1.43、P=0.02)、下痢の重症度は有意に低いことも示された(SMD −0.71、95%CI −1.39〜−0.03、P=0.04)。 便秘は一般的に、食物繊維の摂取不足や薬の副作用などが原因とされるが、研究グループは、腸内細菌の構成も便秘の一因である可能性を疑っていたという。Rezaie氏は、「われわれの研究により、IMO患者は便秘、特に重度の便秘になりやすい一方で、重度の下痢になる可能性は低いことが明らかになった」と述べている。 研究グループは、IMOを原因とする便秘の治療には、抗菌薬と腸内細菌の健康促進を目的とした特別な食事療法を組み合わせる必要があると話す。最も一般的な方法である下剤による治療は、症状を一時的に緩和するものの、問題の根本的な解決にはならない。そのため研究グループは、まずは呼気検査によりIMOの有無を確認することが重要だと話す。 Rezaie氏によると、IMOは簡単な呼気検査で確認できるという。同氏は、「腸内に古細菌が過剰に存在するとメタンの生成が増え、その一部が血流に入り込んで肺に運ばれ、呼気として排出される。IMOの診断テストは、そのような呼気中のメタンを利用して行われる。基本的に、メタンが過剰に存在する人は、便秘、鼓腸、腹部膨満感、下痢など、多くの消化器症状を呈する」と説明する。 Rezaie氏は、「将来的には、IMOを原因とする便秘に悩む人を対象に、特定の治療法や個別化された治療法の開発を進めたいと考えている。そのための最初のステップは、呼気検査により過剰なメタン生成を特定し、古細菌の過剰増殖を検出することだ。それが、最終的にはより的を絞った治療法の開発につながる可能性がある」と話す。同氏はさらに、「これは、一般的な下剤による治療から脱却するための大きな一歩だ」と付言している。

1974.

レジリエンスの高さは長寿と関連

 困難に対処する能力の高い人ほど長生きする可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。50歳以上の1万人以上を対象にしたこの研究では、レジリエンス(精神的回復力)のレベルが最も高い人は最も低い人に比べて、今後10年以内に死亡するリスクが53%低いことが示されたという。中山大学公共衛生学院(中国)疫学分野のYiqiang Zhan氏らによるこの研究は、「BMJ Mental Health」に9月3日掲載された。 レジリエンスは、性別やホルモン、身体のストレス反応を制御する遺伝子など、さまざまな要因の影響を受ける動的で活発なプロセスであることが示唆されている。また、レジリエンスはライフサイクルのさまざまな時期にわたって進化し、変化すると考えられている。Zhan氏らは、「保護要因の観点からレジリエンスが議論されることが多いように、レジリエンスが備わっている人では、大きな混乱を引き起こす出来事に直面しても、相対的な安定を維持することができる」と説明する。 高齢者では、適切なコーピングスキル(ストレスに対処する能力)が、長期的な健康問題やそれに伴う障害の影響を軽減する助けになることがある。また、病気や外傷から身体的に回復する能力は、老化の遅延や死亡リスクの低下に関連していることが知られている。しかし、レジリエンスにも同様の効果があるのかどうかは明らかになっていない。 そこでZhan氏らは、50歳以上の人を対象とした米国の「健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)」のデータを用いて、レジリエンスとあらゆる原因による死亡(全死亡)との関連を検討した。HRSは1992年に開始された研究だが、本研究では、調査内容にレジリエンスが含められた2006年以降の2回分(2006〜2008年)の調査データが用いられた。調査参加者は、忍耐力、冷静さ、目的意識、自立心などの資質を測定する尺度により評価されたレジリエンスのスコアに応じて、最も低いQ1群から最も高いQ4群の4群に分類された。解析は、調査データが全てそろった1万569人(平均年齢66.95歳、女性59.84%)を対象に行われた。対象者の死亡については、2021年5月まで追跡された。 追跡期間中に確認された全死亡件数は3,489件だった。解析の結果、レジリエンスと全死亡はほぼ線形関係にあることが明らかになった。10年間の生存率は、Q1群で61.0%、Q2群で71.9%、Q3群で77.7%、Q4群で83.9%であった。到達年齢、性別、人種、BMIを調整した解析からは、Q4群ではQ1群に比べて全死亡リスクが53%有意に低いことが示された(ハザード比0.473、95%信頼区間0.428〜0.524、P<0.0001)。交絡因子に糖尿病や心臓病、がん、高血圧などの基礎疾患を含めて解析すると、この関連は弱まって46%の低下に、さらに喫煙状況や運動習慣、婚姻状況も含めた場合には38%の低下となった。 研究グループは、「この研究は、交絡因子を考慮した後でも、高齢者や退職者のレジリエンスと全死亡リスクとの間に統計学的に有意な関連を認めた点でユニークだ」と述べている。また、「得られた結果は、死亡リスクを軽減するためのレジリエンスの促進を目的とした介入の潜在的な有効性を明示するものだ」との見方を示している。

1975.

高齢男性の筋肉量、食事摂取量に左右されず?

 地域在住高齢者の筋肉量の多寡と食事・栄養素摂取量の関係を、性別に検討した結果が報告された。女性で筋肉量の少ない人は食事摂取量が少ないが、男性はそのような差がないという。順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の加賀英義氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に7月18日掲載された。著者らは、性差に配慮したサルコペニア予防戦略の必要性を指摘している。 高齢社会の進展とともにサルコペニア(筋肉量や筋力低下)対策が公衆衛生上の喫緊の課題となっている。筋肉量や筋力を高めるために、タンパク質を中心とする十分な栄養素摂取が推奨されているが、高齢者の筋肉量と栄養素摂取量の関連については不明点も残されている。そこで加賀氏らは、都市在住高齢者コホート研究である「文京ヘルススタディ」のベースラインデータを横断的に解析し、詳細な検討を行った。 解析対象は東京都文京区に住む65~84歳の高齢者1,618人(平均年齢73.1±5.4歳、男性42.0%)。生体インピーダンス法で測定した四肢骨格筋量を基に骨格筋量指数(SMI)を算出し、アジアのサルコペニア診断基準(男性は7.0kg/m2未満、女性は5.7kg/m2未満)に基づいて二分すると、男性の31.1%、女性の43.3%が低SMIと判定された。男性・女性ともに低SMI群は、年齢が高く、BMIが低値だった。ただし体脂肪率については、女性は低SMI群で低値だったが(29.6対32.7%、P<0.001)、男性は有意差がないという(24.3対24.6%、P=0.544)、性別による違いが認められた。 食事・栄養素摂取量は、簡易型自記式食事歴質問票で調査した。年齢、身長、体重、身体活動量で調整後、女性は低SMI群の方が、摂取エネルギー量と主要栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)の摂取量が有意に少なく、また微量栄養素(ビタミン、ミネラル)についてもその多くで、低SMI群の摂取量が有意に少なかった。その一方、男性では、低SMI群と高SMI群とで摂取エネルギー量や主要栄養素の摂取量に有意差がなく、また大半の微量栄養素の摂取量も有意差がなかった(マンガンと銅のみ低SMI群で低値)。 食品の摂取量を比べた場合、男性は全ての食品群で差が観察されなかった。女性では、脂肪分の多い魚や豆腐、油揚げは低SMI群の摂取量が少なく、反対に小麦製品の摂取量は高SMI群の方が少なかった。 著者らは本研究が横断研究であるという限界点を挙げた上で、「都市在住高齢者の筋肉量の多寡と食事・栄養素摂取量の関係には性差が存在しており、サルコペニア予防のための栄養介入では性別を考慮する必要があるのではないか。女性に対しては摂取エネルギー量を全体的に増やすようにアドバイスすることが重要と考えられる」と結論付けている。他方、男性については低SMI群と高SMI群とで摂取エネルギー量および、ほぼ全ての栄養素・食品の摂取量に有意差が認められなかったため、「サルコペニアの予防法を探るさらなる研究が必要」としている。 なお、論文の考察では、男性において食事や栄養素の摂取量に差がないにもかかわらずSMIに差が生じるメカニズムとして、消化・吸収や体タンパク質の同化・異化の違いなどが関与している可能性が述べられている。また、有意水準未満ながら、低SMI群では米の摂取量が少ない一方でパンの摂取量が多く、さらに動物性タンパク質の摂取量も非有意ながら低SMI群で少なかったことなどが記されている。

1976.

長期間のSU薬使用が低血糖の認識力の低下と関連

 SU薬が長期間処方されている2型糖尿病患者は、低血糖の認識力が低下した状態(impaired awareness of hypoglycemia;IAH)の頻度が高いとする研究結果が報告された。国立成功大学(台湾)のHsiang-Ju Cheng氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Family Medicine」の7・8月号に掲載された。 IAHに関する研究は一般的にインスリン使用者、特に1型糖尿病患者を対象に行われることが多いため、インスリン分泌促進薬(主としてSU薬)を使用中の2型糖尿病患者におけるIAHの実態は不明点が少なくない。これを背景としてCheng氏らは、台湾でインスリンまたはSU薬による治療を受けている2型糖尿病患者を対象として、薬剤の使用期間とIAHの有病率との関係を調査した。 薬局や診療所などを利用している2型糖尿病患者898人が研究登録された。このうちインスリン使用者が41.0%、SU薬使用者が65.1%であり、平均年齢は59.9±12.3歳、女性が50.7%、罹病期間14.0±9.8年だった。IAHの有無は、Goldらにより開発された質問票(Gold-TW基準)、およびClarkeらにより開発された質問票(Clarke-TW基準)の中国語版を用いて判定。そのほかに、社会人口統計学因子、治療歴、健康状態などの情報を収集し、多重ロジスティック回帰モデルにて、薬剤使用期間とIAHとの関係を検討した。 インスリン使用者におけるIAHの有病率は、Gold-TW基準では41.0%(95%信頼区間37.0~45.0)、Clarke-TW基準では28.2%(同24.6~31.8)であった。一方、SU薬使用者では同順に65.3%(60.4~70.2)、51.3%(46.2~56.4)であった。SU薬使用者では、使用期間が長いほど有病率が上昇していたが、インスリン使用者では反対に、使用期間が長いほど有病率が低下していた。 潜在的な交絡因子を調整後、5年以上のSU薬の使用は、IAHのオッズ比(OR)の有意な上昇と関連していた(Gold-TW基準でOR3.50〔2.39~5.13〕、Clarke-TW基準でOR3.06〔同2.11~4.44〕)。なお、定期的な血糖検査や眼底検査の施行は、インスリン使用者およびSU薬使用者の双方において、オッズ比の低下と関連していた。 著者らは、「2型糖尿病患者においてSU薬の使用期間の長さはIAHのリスク上昇と関連していた。一方で定期的な検査を受けている患者ではIAHのリスクが低いことが示され、医療モニタリングの遵守が有益な影響を及ぼす可能性のあることが示唆された」と総括。また、「インスリンとSU薬とでなぜIAHリスクが異なるのかという点を明らかにするとともに、2型糖尿病患者の低血糖認識力を改善するための介入法を確立するため、医師の治療方針とIAHリスクとの間にある因果関係を証明し得るデザインでの研究が必要とされる」と述べている。

1977.

家庭用血圧計のカフのサイズは上腕囲に合っている?

 高血圧患者に対しては自宅での血圧モニタリングが推奨されているが、米国成人の約7%に当たる1700万人以上で、家庭用血圧計に付属のカフのサイズが上腕囲に合っていないため、血圧を正確に測定できていない可能性のあることが明らかになった。米ジョンズ・ホプキンス大学疫学分野の松下邦洋氏らによるこの研究結果は、米国心臓協会(AHA)のHypertension Scientific Sessions 2024(9月5〜8日、米シカゴ)で発表されるとともに、「Hypertension」に9月5日掲載された。 AHAによると、米国の成人のほぼ半数が高血圧と診断されている。コントロールされていない高血圧は、心筋梗塞、脳卒中、心不全などの発生リスクを高める。AHAは、高血圧患者に対して、家庭用血圧計による血圧の測定・記録を推奨しており、その際に使う血圧計は、手首で測るタイプよりも上腕で測るタイプの方が望ましいとの見解を示している。 今回の研究では、大手オンライン小売業者を通じて販売されている最も一般的な10種類の血圧計のカフの評価が行われた。それぞれの血圧計に付属のカフは、10種類中9種類が22〜42cmの上腕囲に、残る1種類は22〜40cmの上腕囲に対応するものだった。次いで、2015年から2020年の間の1万3,826人(平均年齢47歳)を対象とした米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、対象者の上腕囲を調べた。 その結果、米国成人の約7%に相当する1730万人において、カフのサイズが上腕囲と合っていないことが明らかになった。そのような人の大半(米国成人の6.4%に相当する1650万人)は上腕囲が42cmを超えていた。また、カフのサイズが上腕囲と合っていなかった人は、黒人で特に多かった(黒人12%、白人7%、ヒスパニック系5%)。松下氏は、「黒人の成人での高血圧罹患率はもともと高めな上に、今も上昇傾向にあることを考えると、このカフサイズにおける不公平は特に懸念すべきことだ」とAHAのニュースリリースの中で述べている。 研究グループは、一部のメーカーは追加のカフサイズを提供しているものの、それを手に入れるためには余分な費用がかかると指摘する。松下氏は、「公平性を高めるために、家庭用血圧計のメーカーは、上腕囲が42cmを超える人でも測定できる血圧計の開発と手頃な価格での販売を優先すべきだ。また医療従事者も、家庭用血圧計を購入する際に患者が適切なカフサイズを選択できるよう、患者の上腕囲を測定するべきだ。機器設計におけるサイズの不公平に対処することは、高血圧の診断・管理の質と公平性にとって非常に重要だ」と主張する。 本研究には関与していない、米チューレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のPaul Whelton氏は、「この研究は、高血圧患者にとって実用的な情報を提供している」と話す。同氏は、「サイズの合わないカフの使用は、血圧測定中に予測可能な誤差が生じる重要な原因の一つだ」と指摘する。 Whelton氏は本研究で、カフのサイズが小さ過ぎた例(1650万例)の方が大き過ぎた例(80万例)よりも圧倒的に多かったことに言及し、「これは、標準的なサイズのカフを使用すると、高血圧を過小評価するよりも過大評価する可能性の方がはるかに高いことを意味する。最善の解決策は、さまざまなサイズのカフを用意して、患者が自分に適したサイズのカフを選択できるようにすることだ」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

1978.

後発品使用(調剤)加算の特例措置、7回目の延長へ【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第139回

まだまだ後発医薬品の流通が適正化されません。2024年9月24日付事務連絡「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が出され、いわゆる後発医薬品使用(調剤)体制加算などにおける臨時的な取り扱いが半年間延長されました。後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて(抜粋)一部の供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品について、後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に除外しても差し支えないものとする。2025年3月31日を終期とする。除外対象となる医薬品は102成分825品目。この通知は半年ごとに出されており、もう7回目になります。もうそんなになるのか…と遠い目をしている人も少なくないでしょう。後発医薬品製造会社である小林化工(現在は業を廃止)のGMP違反が発覚したのが2020年末で、後発医薬品の欠品や出荷調整などの供給不安が薬局運営に影を落とし始めたのが2021年春ごろでした。そのような状況を受け、2021年9月21日に最初の通知が出され、一部の供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品は、後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に除外してもよいとされました。新たな通知を出すことでこの臨時的な取り扱いを半年間延ばし続けています。もう3年以上もこの通知が出続けているということは、後発医薬品の在庫が足りず、薬局において在庫を確保する負担がゆうに3年以上かかり続けているということです。そろそろいい加減にしてくれよと言いたくなります。一番大変だったときと比べると少しは改善している気もしますが、来年の3月末までに解消している気はしないので、また半年延長になるんでしょ…という半ばあきらめの予測をせざるを得ません。一方で、10月から選定療養が始まりました。後発医薬品のある先発医薬品(いわゆる長期収載品)を希望した場合、その後発医薬品の差額の4分の1相当を患者さんが自己負担する仕組みです。長期収載品を希望する理由は人それぞれですが、患者さんの中には「なんとなく安全そうだから」というざっくりとしたイメージから希望している人も少なくなく、「では、差額を頂戴します」と言われると「じゃあ後発医薬品で」となることは安易に想像できます。結果として後発医薬品の使用割合がさらに上がり、後発医薬品の在庫調達問題はより厳しくなることは間違いないでしょう。また半年後にしれっと延長の通知が出るのか、何か根本的に改善されるような一手が打たれるのか。後者を期待しながら、日々の在庫調達に励むしかないのかな…と思うところです。

1979.

10月8日 骨と関節の日【今日は何の日?】

【10月8日 骨と関節の日】〔由来〕ホネの「ホ」の文字が「十と八」に分かれ、10月8日が「体育の日」に近いことから、骨の健康にふさわしい季節として1999(平成11)年に日本整形外科学会が制定。「骨と関節の日」制定の目的は、整形外科の医療内容の理解の啓発、骨と関節を中心とした運動器官の健康がどれだけ健康維持に大切かを社会に認知してもらうこと。この日を中心にさまざまな行事が全国で行われている。関連コンテンツ関節痛への対応【日常診療アップグレード】骨折多発地帯はどこ?【患者説明用スライド】植物ベースの食事、内容で骨折リスクは変わるか?20代より身長4cm以上低下、椎体骨折を疑う/日本整形外科学会過去1年に転倒、骨折リスクがより高いのは男性?女性?

1980.

英語で「触知可能です」は?【1分★医療英語】第151回

第151回 英語で「触知可能です」は?《例文1》Palpable cervical lymph nodes were found on physical exam.(身体診察で触知可能な頸部リンパ節が見付かりました)《例文2》Left supraclavicular lymph node was palpable, and we should discuss this case further.(触知可能な左鎖骨上リンパ節があり、この症例についてさらに検討する必要があります)《解説》今回は身体診察の所見の表現方法を解説します。「触知可能である」は形容詞の“palpable”という単語で表現します。動詞に“-able”と語尾に付けることで「~が可能である」という意味の形容詞になります。今回の場合、“palpate”(触診する)という動詞に“-able”を付けることで“palpable”、「触知可能である」という意味になるわけです。このように“-able”を語尾に付けることで動詞から変化した形容詞はほかにも多くあります。たとえば、“movable”は「可動性がある」という形容詞ですが、こちらも動詞の“move”(動く)に“-able”を付けた形です。文章にすると、“The lymph node is movable.”(このリンパ節は可動性があります)といった表現になります。実際の医療の場面でも使えますね。“lymph node(s)”という単語は「リンパ節」という意味です。せっかくですので、主要なリンパ節の英語表現も挙げておきましょう。cervical lymph nodes頸部リンパ節axillary lymph nodes腋窩リンパ節inguinal lymph nodes鼠径リンパ節mediastinal lymph nodes縦隔リンパ節supraclavicular lymph nodes鎖骨上リンパ節ぜひ、リンパ節とそれに付随する所見の表現方法を覚えてください。講師紹介

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