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自壊創への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第91回

自壊創への対応がん患者の緩和ケアでは、皮膚症状の対応が求められることもあります。中でもがん患者の「自壊創」は、経験がないと対応に苦慮することが多いでしょう。今回は、この自壊創の対応について考えます。今回の質問今度、訪問診療で新たに担当する乳がん患者がいます。紹介状では自壊創があり、訪問看護など定期的な創処置が必要とのことです。経験がないのですが、どのような対応や経過が想定されるのでしょうか?緩和ケアを実践していると、悪性腫瘍による自壊創を経験します。乳がんがその代表例ですが、ほかにも喉頭がんや子宮頸がんの患者さんもいました。腫瘍が増大して表層に露出した場合、そこが自壊創として難治性の潰瘍となります。ほかにも、頸部や鼠径部のリンパ節転移が増大して自壊創になったケースもありました。どのがん種でも、自壊創が引き起こす問題はある程度共通しています。出血、滲出液、そして悪臭です。そしてこれらは直接見えるため、患者本人や家族にとってつらい問題となります。私の経験では、滲出液や悪臭のために外出することすらできなくなってしまった患者さんもいました。このような創に対しては1)洗浄2)滲出液のドレッシング3)適切な薬剤の使用が基本的なアプローチとなります。自壊創は常にじわじわと滲出液が染み出しており、かつ創部には壊死組織があるため、定期的に洗浄することが有効です。そのうえで滲出液の多い部位に、吸水性のある被覆材でドレッシングします。創部が滲出液で湿ったままになると、そこが嫌気性菌などの繁殖源となり、悪臭が発生します。定期的な洗浄と適切なドレッシングで、まずはこれを阻止します。薬剤は疾患の状態によって使い分けますが、緩和ケアの面からは2つの軟膏について知っておくと良いでしょう。1)メトロニダゾール軟膏自壊創の悪臭は滲出液と壊死組織により繁殖した嫌気性菌が原因です。なので、嫌気性菌をカバーする抗菌薬であるメトロニダゾールを含む軟膏を創部に塗るというのは理にかなっていますよね。以前は薬剤部での製剤が必要でしたが、今はロゼックスゲルという製品が登場しており、そのまま使えて便利です。2)モーズ軟膏これは聞いたことがない方が多いかもしれません。塩化亜鉛による腐食作用により、自壊創のタンパク質を硬化することで効果を発揮します。化学的に熱傷をつくるような作用ですので、使用することで腫瘍塊も徐々に小さくなるケースも見られます。また圧迫で止血されない、じわじわとした出血を止める効果もあります。ただ、モーズ軟膏については、私は皮膚科の先生に対応をお願いしています。モーズ軟膏は刺激が非常に強く、正常皮膚に付くとその部位が化学的熱傷を起こしてしまいます。また、塩化亜鉛を溶かした軟膏の硬さは水分と亜鉛華デンプンの配合バランスで調節するのですが、これがなかなか難しく経験を要します。これらの理由から、使い慣れてない中で処置するのは危険もあるため、ぜひ専門の先生と相談しながら活用してください。今回のTips今回のTipsたまに遭遇する自壊創の対応、皮膚科の知識を身に付けて対応しましょう。

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1月9日 風邪の日【今日は何の日?】

【1月9日 風邪の日】〔由来〕寛政7(1795)年の旧暦の今日、第4代横綱で63連勝の記録を持つ谷風 梶之助が風邪で亡くなったことに由来して制定。インフルエンザや風邪が流行する季節でもあることから、医療機関や教育機関で風邪などへの予防啓発で周知されている。関連コンテンツこじれた風邪には…【漢方カンファレンス】風邪で冷えてきつい…【漢方カンファレンス】風邪の予防・症状改善に亜鉛は有用か?~コクランレビュー“風邪”への抗菌薬処方、医師の年齢で明確な差/東大小児の風邪への食塩水点鼻、有症状期間を2日短縮か/ERS2024

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第129回 「脳外科医竹田くん」在宅起訴

2025年になりました。今年も医療に関するホットな話題をお届けできればと思っています。内部告発漫画?『脳外科医竹田くん』さて、『脳外科医竹田くん』という漫画をご存じでしょうか。もう知らない人はいないですよね。『脳外科医 竹田くん あり得ない脳神経外科医 竹田くんの物語』未熟な外科技術により複数の医療事故を起こす脳神経外科医である竹田くんの診療風景を描いたWEB漫画であり、漫画の内容と、実際の医療事故の話(被害者ブログや報道内容)が酷似しており、あまりにリアルな内容から内部告発の漫画だろうとして話題を集めました。先日、この漫画のモデルになったと思われる方が、在宅起訴になったことが報道されました。関わった手術のうち、少なくとも8件で患者が死亡または後遺障害が残る医療事故が発生したと報道されており、業務上過失傷害罪の時効5年までで残り1ヵ月を切ったタイミングで起訴となっています。手術で助手を務め、2024年7月に竹田くんと共に書類送検された上司の科長は不起訴となっています。「在宅起訴」は、刑事事件を起こした被疑者の身柄を拘束せずに検察官が起訴することです。刑事事件といえば、基本的に逮捕されて身柄を拘束されることが一般的ですが、在宅での起訴もありえます。身体拘束を受けたまま起訴されると、保釈が認められなければ仕事などができなくなりますが、在宅起訴の場合は生活を続けながら刑事事件と向き合うことが可能です。また、この訴訟に関しては、被害者やその代理人が公判に出席して被告人に直接質問が可能な「被害者参加制度」が適用される見通しです。被害者家族のブログ私の知る限り、神経を誤って切断し後遺障害を負わせた女性の家族と、維持透析目的で搬送された病院で透析をされなかった男性の家族の2人が、被害者としてのブログを立ち上げています(リンクは貼りません)。今回の件を受けて、それぞれ、「執刀した医師を厳罰に処していただき、医療過誤を起こした医師が繰り返し手術したり不適切な診療を続けることのないよう、医道審議会には厳しい行政処分を下していただけますよう強く望みます」「明らかな医療事故を起こした父のケースに対し、裁判ではどのように判断してくださるのか、興味を持っています」と厳しいコメントを寄せています。家族たちの声には、医療者として考えさせられるものがあります。医療行為が刑事事件として問われるのは、明らかな注意義務違反や重大な過失がある場合に限られるのが一般的です。しかし、今回は地検側が手術映像を専門家に見てもらい検証した結果、刑事責任を問えると判断しました。このような形での起訴は珍しいケースですね。

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うつ病や不安症の予防に有効な飲み物を年齢別に分析

 メンタルヘルスには食習慣が関連しており、独立したリスク因子であることが示唆されている。しかし、飲料摂取とメンタルヘルスとの関連を年齢別に評価したエビデンスは限られている。中国・温州医科大学のJiali Xie氏らは、6種類の飲料とうつ病および不安症との関連を推定するため、UKバイオバンクのデータを用いて検討を行った。Journal of Affective Disorders誌2025年2月15日号の報告。 食事に関するアンケートを1回以上回答したベースライン時にうつ病および不安症でなかった参加者18万8,355人をUKバイオバンクデータより抽出した。分析には、Cox比例ハザードモデルおよび置換分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・平均フォローアップ期間11.15年の間にうつ病を発症した参加者は5,884例(3.12%)、不安症を発症した参加者は6,445例(3.42%)であった。・60歳未満では、1日1杯以上の砂糖入り飲料(ハザード比[HR]:1.14、95%信頼区間[CI]:1.02〜1.28)および人工甘味料入り飲料(HR:1.23、95%CI:1.09〜1.38)の摂取は、うつ病リスク上昇と関連していた。・一方、純粋な果物/野菜ジュース(HR:0.81、95%CI:0.72〜0.92)およびコーヒー(HR:0.88、95%CI:0.81〜0.96)の摂取は、うつ病リスク低下と関連していた。・60歳以上では、純粋な果物/野菜ジュースおよびコーヒーの摂取量が多いほど、うつ病および不安症リスクの低下が認められた。・60歳未満では、砂糖入り飲料を純粋な果物/野菜ジュースまたはコーヒーに変更すると、うつ病および不安症リスクが軽減し、60歳以上では、ミルクを純粋な果物/野菜ジュースまたはコーヒーに変更すると、うつ病および不安症リスクが軽減した。 著者らは「飲料とうつ病および不安症との関係は、年齢により異なることが示唆された、メンタルヘルスのリスク軽減において、慎重な飲料選択が重要であろう」と結論付けている。

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高血圧患者の家庭脈拍数、66bpm以上で死亡リスク2倍超/帝京大

 診察室脈拍数は、心血管疾患の発症リスクや全死亡リスクと関連することが知られている。しかし、家庭脈拍数との関連は明らかになっていない。そこで、大久保 孝義氏(帝京大学医学部公衆衛生学講座 主任教授)、木村 隆大氏(帝京大学医学部附属溝口病院)らの研究グループは、高血圧を有する患者の家庭脈拍数と死亡、心血管イベントとの関連を検討した。その結果、家庭脈拍数が高いと全死亡リスクも高いことが示された。本研究結果は、Journal of the American Heart Association誌2024年12月17日号で報告された。 本研究は、日本人の家庭血圧の適正な降圧目標値を検討した無作為化比較試験「HOMED-BP試験」1)のサブ解析として実施された。対象患者は、心房細動や脳心血管疾患の既往歴のない40~79歳の高血圧(収縮期血圧135 mmHg以上または拡張期血圧85 mmHg以上)患者3,022例とした。家庭脈拍数は、降圧治療開始前5日間の測定結果の平均値をベースライン値とし、ベースライン値で5群(41.6~61.1bpm、61.2~66.1bpm、66.2~70.5bpm、70.6~76.2bpm、76.3~108.6bpm)に分類した。主要評価項目は全死亡、副次評価項目は主要心血管イベント(MACE)であった。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の平均年齢は59.4歳、女性の割合は50.2%(1,518/3,022例)、ベースライン時の家庭脈拍数の平均値は69.0bpmであった。・追跡期間中央値は7.3年であった。・ベースライン時の家庭脈拍数が高いと、全死亡リスクが高かった(bpm 1SD増加当たりのハザード比[HR]:1.52、95%信頼区間[CI]:1.24~1.92)。・治療中についても同様で、治療中の家庭脈拍数が高いと全死亡リスクが高かった(bpm 1SD増加当たりのHR:1.70、95%CI:1.39~2.08)。・全死亡リスクをベースライン時の家庭脈拍数別にみると、66.2~70.5bpm以上の3群でリスクが上昇した。各群のHRは以下のとおり。 41.4~61.1bpm:1.00(対照) 61.2~66.1bpm:1.00 66.2~70.5bpm:2.49 70.6~76.2bpm:2.21 76.3~108.6bpm:2.89・家庭脈拍数と診察室脈拍数の両者を含めた多変量解析では、家庭脈拍数が全死亡の有意な関連因子であったが、診察室脈拍数には有意な関連がみられなかった。・MACEと家庭脈拍数には有意な関連は認められなかった。 著者らは「家庭脈拍数が死亡リスクを予測する有用な指標であり、臨床において家庭脈拍に注意することの重要性を示した。高脈拍数と関連する改善可能な生活習慣(喫煙、座りがちな生活など)の特定や是正、指導の一助となることが期待される」とまとめた。

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ザヌブルチニブ、再発/難治慢性リンパ性白血病などB細胞性悪性腫瘍に承認/BeiGene Japan

 BeiGene Japanは、2024年12月27日、新たなBTK阻害薬ザヌブルチニブ(商品名:ブルキンザ)が、慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫含む)、原発性マクログロブリン血症およびリンパ形質細胞リンパ腫を適応症として厚生労働省より承認されたことを発表した。 今回の承認は、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)患者を対象にザヌブルチニブの有用性を評価したALPINE試験とSEQUOIA試験、原発性マクログロブリン血症/リンパ形質細胞リンパ腫(WM/LPL)患者を対象としたASPEN試験の3つの第III相臨床試験に基づいている。さらに、日本人患者を対象とした第I/II相臨床試験(BGB-3111-111)の結果は、ザヌブルチニブのプロファイルを裏付けるものであった。 再発・難治CLL/SLL患者652例を対象に行われた海外第III相臨床試験ALPINE試験では、ザヌブルチニブ群のイブルチニブ群に対する非劣性および優越性が示された。 未治療のCLL/SLL 患者589例を対象に行われたザ海外第III相臨床試験SEQUOIA 試験では、ザヌブルチニブ群のベンダムスチン/リツキシマブ(BR)群に対する優越性が示された。 WM/LPL患者229例を対象に行われた海外第III相臨床試験ASPEN試験では、ザヌブルチニブ群のイブルチニブ群に対する優越性は示されなかった。 ザヌブルチニブは、バイオアベイラビリティ、半減期、選択性を最適化することにより、BTKタンパクを完全かつ持続的に阻害するよう設計された経口投与のBTK阻害薬。同剤は他のBTK阻害薬とは異なる薬物動態を示し、多くの疾患関連組織において悪性B細胞の増殖を阻害することが報告されている。

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外科医は器用?バズワイヤーゲームで評価/BMJ

 バズワイヤーゲーム(イライラ棒ゲーム)を用いた評価の結果、外科医は他の病院スタッフと比較して、手先が器用であったが不快な言葉を発する割合も高かった。一方、看護師および非臨床スタッフは、いら立ちの声を発する割合が高かった。英国・リーズ大学のTobin Joseph氏らが、前向き観察研究「Tremor研究」の結果を報告した。著者は、「病院スタッフの職種によって多様なスキルセットがあることが浮き彫りとなった。今後のトレーニングでは、器用さとストレス管理の両方を強化するためファミリーゲームを取り入れることが有用かもしれない。また、今後の募金活動では、外科医のswear jar(不快な言葉への罰金箱)の実施を検討すべきある」とまとめている。BMJ誌オンライン版2024年12月20日号掲載の報告。バズワイヤーゲームを使用、器用さと併せてイライラ具合も評価 研究グループは、2024年6月25日~7月16日の3週間、英国のリーズ教育病院NHSトラストにて参加者を募集し、バズワイヤーゲームを用いて手先の器用さを評価する前向き観察研究を行った。 参加者は、内科医、外科医、看護師、非臨床スタッフ(病棟クラーク、秘書、内部職員など)であった。 参加者は、金属ループが着いた棒を、曲がりくねった金属ワイヤーに触れないよう経路の端から端まで動かした。ループがワイヤーに触れた場合は、ブザーがなり、スタート地点に戻らなければならなかった。ゴールは、ブザーを鳴らさずにコース全体を完了することであった。 主要アウトカムは、5分以内にバズワイヤーゲームを完了した参加者の割合、副次アウトカムは、英国のテレビで午後9時以前の放送には不適切と定義されている不快な言葉やため息、うめき声、つぶやきなどいら立ちの声を発した参加者の割合であった。 計254人のスタッフが参加し、内訳は内科医60人、外科医64人、看護師69人、非臨床スタッフ61人であった。外科医は、最も成功割合が高いが不快な言葉を発する割合も高い 5分以内にバズワイヤーゲームを完了した参加者の割合は、外科医84%、内科医57%、看護師54%、非臨床スタッフ51%であり、外科医が有意に高かった(p<0.001)。イベント発生までの時間分析の結果、外科医は他の集団と比較して、年齢や性別に関係なく、バズワイヤーゲーム完了までの時間が最も短いことが示された。 ゲーム中に不快な言葉を発した参加者の割合は、外科医が50%で最も高く、次いで看護師30%、内科医25%、非臨床スタッフ23%の順であった(p=0.004)。また、いら立ちの声を発した参加者の割合は非臨床スタッフが75%と最も高く、次いで看護師68%、外科医58%、内科医52%の順であった(p=0.03)。

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コロナ罹患後症状、研究指標をアップデート/JAMA

 米国・スタンフォード大学のLinda N. Geng氏らは、米国国立衛生研究所(NIH)によるRECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)Initiativeの一環であるRECOVER-Adult studyにおいて、追加の参加者のデータを含めた最新解析を行い、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後の持続的な症状であるLong COVID(LC)の研究指標を報告した。著者は、「LCの理解が進むに従って指標の継続的な改善が必要で、LC研究指標2023年版を更新した2024年版は、研究者がLCとその症状サブタイプを分類するのに役立つ」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年12月18日号掲載の報告。追加参加者を含めRECOVER成人コホートのデータを解析 研究グループは、米国およびプエルトリコの83施設において、SARS-CoV-2感染歴の有無にかかわらず18歳以上の成人を登録し、90日ごとに症状について調査した。 感染歴がある場合は、初回SARS-CoV-2感染から4.5ヵ月後以降に少なくとも1回来院しており、再感染から30日以内ではない者とした。 研究の対象とした来院期間は、2021年10月~2024年3月であった。 主要アウトカムはLCの有無と参加者が報告した52の症状で、LASSO回帰を用いた重み付けロジスティック回帰分析により、LCを特定する症状と各症状のスコアを算出した。2024年版では11症状で評価 解析対象は1万3,647例(SARS-CoV-2感染が確認されている人1万1,743例、感染歴が確認されていない人1,904例)で、年齢中央値は45歳(四分位範囲:34~69)、73%が女性であった。 LC研究指標2024年版では、2023年版で特定された12症状から3つの症状(性的欲求・性機能の変化、消化管症状、異常行動)が除外され、2つの症状(息切れ、いびきまたは睡眠時無呼吸)が追加された。その結果、LC研究指標は労作後倦怠感、疲労、ブレインフォグ、浮動性めまい、動悸、嗅覚・味覚の喪失または変化、口渇、慢性咳嗽、胸痛、息切れ、いびきまたは睡眠時無呼吸の11症状となった。 また、重度のLC症状を有する患者を特定するためのスコアの閾値は11点以上であった。 LC研究指標2024年版では、既知のSARS-CoV-2感染歴がある参加者の20%、既知の感染歴がない参加者の4%が「LCの可能性が高い」と分類され(2023年版ではそれぞれ21%、5%)、既知の感染歴がある参加者の39%が、2024年版で新たに追加されたカテゴリーである「LCの可能性あり」(スコアが1以上11未満)と分類された。 クラスター分析の結果、生活の質(QOL)を追跡するLC症状サブタイプとして、嗅覚または味覚の変化(サブタイプ1)、慢性咳嗽(サブタイプ2)、ブレインフォグ(サブタイプ3)、動悸(サブタイプ4)、労作後倦怠感・めまい・消化器症状(サブタイプ5)の5つが特定された。その中で、多系統症状で負荷の大きいサブタイプ5は、他のサブタイプよりも、QOL、身体の健康、日常機能が悪いと報告する頻度が高かった。

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肝臓手術前の瀉血療法は輸血リスクを低減する

 カナダ、オタワ在住の2児の母であるRowan Laddさん(46歳)は、2022年、予定されている肝臓に転移したがんを摘出する手術を開始する前に、血液を採取して保存する可能性があると医師から説明を受けた際、不思議には思ったが害はないだろうと考えた。Laddさんは、「肝臓には血管がたくさんあるので大出血のリスクがあることは手術前の説明で聞いている。研究者達がそのリスクを低減させるために努力しているのは素晴らしいことだと思った」と振り返る。 実際、Laddさんが参加した臨床試験の結果によると、このような採血により肝臓手術中に必要となる輸血のリスクが半減することが明らかになった。この研究結果は、「The Lancet Gastroenterology & Hepatology」に12月9日掲載された。論文の筆頭著者で、オタワ大学(カナダ)肝膵胆道研究部長のGuillaume Martel氏は、「大規模な肝臓手術の直前に血液を患者から採取することは、出血量と輸血を減らすための方法としてこれまでわれわれが見出した中で最良の方法だ」と述べている。 Martel氏らは、肝臓手術を受けた患者の4分の1から3分の1は、過度の出血のため輸血が必要になると指摘する。肝臓手術の最も一般的な理由はがんであるが、残念ながら輸血ががんの再発リスクを高める可能性があるという。 Martel氏らは、2018年から2023年の間にカナダの4つの病院で、肝切除を受ける予定がある患者486人を登録し、循環血液量減少を目的とした瀉血療法を受ける群(245人、瀉血療法群)と通常のケアを受ける群(241人、通常ケア群)にランダムに割り付けた。瀉血療法群は、肝切除前に体重1kg当たり7~10mLの全血を採取された。 最終的に、瀉血療法群223人(平均年齢61.4歳、男性61%)と通常ケア群223人(平均年齢62.1歳、男性51%)を対象に解析が行われた。ランダム化後30日以内の赤血球輸血率は、瀉血療法群で8%(17/223人)、通常ケア群で16%(36/223人)であった。群間差は−8.8(95%信頼区間−14.8〜−2.8)、調整リスク比(aRR)は0.47(同0.27〜0.82)であり、瀉血療法群では輸血リスクが有意に低下していた。また、30日以内に重篤な合併症が生じた割合(瀉血療法群17%、通常ケア群16%)と、あらゆる合併症の発生率(それぞれ、61%、52%)に両群間で有意な差は認められなかった。 Martel氏は、循環血液量減少を目的とした瀉血療法について、「肝臓の血圧を下げることで効果を発揮する。この方法は安全で、簡単で、費用もかからないことから、出血リスクの高い肝臓手術では必ず検討すべきだ」と述べている。 Laddさんの手術は、輸血を必要とすることなく終わり、2年が経過した今もがんは再発していない。Laddさんはこの臨床試験について、「私が選ばれて本当に良かったと思うし、それが他の人の助けになることにも喜びを感じている。この手術は、私の命を救ってくれたと感じている。私は仕事を辞めて、リラックスし、自分のことを大事にするようになった。がんになったのは不運だったが、それが私の目を覚まさせてくれた。以前はただ生きているだけだったが、今は自分の人生を心から楽しんでいる」と話している。 研究グループは、瀉血療法は大幅なコスト削減につながることも指摘している。カナダでは、輸血には350ドル(1ドル154円換算で5万3,900円)以上かかるが、瀉血療法に使われる血液バッグとチューブのコストは20ドル(同3,080円)程度に過ぎない。研究グループは、この手順は現在、肝臓移植の手術で試験されているが、大量の出血を伴いがちな他の手術でも試験的に検討されるべきだとの考えを示している。論文の共著者であるモントリオール大学(カナダ)輸血医学部長のFrançois Martin Carrier氏は、「一度実施してみれば、医療従事者はこの処置の容易さが分かるし、それが手術に与える影響は劇的だ。これは現在、試験に参加した4つの病院で標準治療となっている。この研究結果が公表されれば、世界中の他の病院でもこの処置を採用し始めるはずだ」と述べている。

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肥満は服薬遵守と独立した負の関連因子―国内CVD患者対象研究

 心血管疾患(CVD)患者を対象に、服薬遵守状況(アドヒアランス)を主観的指標と客観的指標で評価した研究結果が報告された。客観的指標に基づきアドヒアランス良好/不良に分けた2群間で主観的指標には有意差がないこと、および、肥満がアドヒアランス不良に独立した関連のあることなどが明らかにされている。福岡大学筑紫病院薬剤部の宮崎元康氏らの研究によるもので、詳細が「Pharmacy」に10月6日掲載された。 慢性疾患では服薬アドヒアランスが低下しやすく、そのことが予後不良リスクを高めると考えられる。しかし服薬アドヒアランスを評価する標準的な手法は確立されておらず、主観的な手法と客観的な手法がそれぞれ複数提案されている。例えば主観的評価法の一つとして国内では、12項目の質問から成るスケールが提案されている。ただし、そのスケールでの評価結果と、残薬数から客観的に評価した結果との関連性は十分検討されておらず、今回の宮崎氏らの研究は、この点の検証、およびCVD患者の服薬アドヒアランス低下に関連のある因子を明らかにするために実施された。 研究の対象は2022年6~12月に同院循環器科外来へ2回以上受診していて、残薬数に基づき客観的にアドヒアランスの評価が可能な患者のうち、研究参加協力を得られた94人。医師-患者関係の違いによる影響を除外するため、1人の医師の患者のみに限定した。 前述のように主観的な評価には12項目のスケールを採用。これは60点満点でスコアが高いほどアドヒアランスが良好と判断する。一方、客観的な評価に用いた残薬カウント法は、評価期間中の2回目の受診時の残薬数を前回の処方薬数から減算した値が、処方薬数に占める割合を算出して評価するもので、残薬がゼロであれば遵守率100%となる。本研究では100%をアドヒアランス良好、100%未満を不良と定義した。 解析対象者の主な特徴は、年齢中央値74歳(四分位範囲67~81)、男性55.3%、肥満(BMI25以上)36.2%であり、処方薬数は中央値4(同2~7)で、降圧薬(84.0%)、脂質低下薬(59.6%)、抗血栓薬(38.3%)、血糖降下薬(29.8%)などが多く処方されていた。また17.0%の患者への処方は、1包化(1回に服用する薬剤を1袋にすること)されていた。 94人のうち49人が、客観的手法である残薬カウント法により、アドヒアランス良好と判定された。アドヒアランス良好群の主観的評価スコアは中央値51点(四分位範囲44~56)であり、対してアドヒアランス不良群の主観的評価スコアは同50点(45~54)で、有意差が見られなかった(P=0.426)。 次に、残薬カウント法に基づくアドヒアランス良好群と不良群の背景因子を比較すると、単変量解析では肥満(P=0.014)と喫煙歴(P=0.043)に有意差が認められ、いずれもアドヒアランス不良群にそれらの該当者が多かった。この2項目のほかに、非有意ながら大きな群間差(P<0.1)が認められた因子(日常生活動作〔ADL〕、独居、狭心症治療薬の処方)、およびアドヒアランスの主観的評価スコアを独立変数とし、残薬カウント法によるアドヒアランス不良を従属変数として、ロジスティック回帰分析を施行。その結果、肥満のみが有意な関連因子として抽出された(オッズ比3.527〔95%信頼区間1.387~9.423〕)。喫煙歴(P=0.054)と狭心症治療薬の処方(P=0.052)の関連はわずかに有意水準未満であり、主観的評価スコアは関連が認められなかった(P=0.597)。 以上の総括として著者らは、「主観的な手法と客観的な手法による服薬アドヒアランスの評価が矛盾する結果となった。よって臨床においては双方の指標を使用したモニタリングが必要と考えられる。また、肥満は残薬カウント法で判定したアドヒアランス不良に独立した関連のある因子であり、肥満を有するCVD患者には特に入念なモニタリングが求められる」と述べている。

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経口SERDとCDK4/6阻害薬併用の有用性(解説:下村昭彦氏)

 ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)乳がんに対する選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)は注射剤であるフルベストラントが唯一の薬剤であったが、投与経路の問題から多くの経口SERDが開発されている。単剤療法としてはelacestrantがESR1変異を有するHR+HER2-進行乳がんにおいてフルベストラントを含む主治医選択ホルモン療法に対する優越性を示し、海外では承認されている(Shah M, et al. J Clin Oncol. 2024;42:1193-1201.)。一方、現在のホルモン療法はCDK4/6阻害薬、AKT阻害薬、PI3K阻害薬などの分子標的薬との併用が主となっており、経口SERDにおける有効性の結果が待たれていた。 EMBER-3試験は経口SERDであるimlunestrant単剤ならびにCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブとの併用の有効性を検討した試験である。EMBER-3試験では、標準治療であるアロマターゼ阻害薬±CDK4/6阻害薬に抵抗性となったHR+HER2-進行乳がん患者を、imlunestrant単剤、主治医選択ホルモン療法、imlunestrant+アベマシクリブに1:1:1に割り付けた。主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)は、ESR1変異を有する集団においてimlunestrant群5.5ヵ月vs.主治医選択ホルモン療法3.8ヵ月であり、imlunestrant群において良好であった。また全集団においてPFSは5.6ヵ月vs.5.5ヵ月と両群間の差を認めなかった。全集団におけるimlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant単独群の比較では、PFSは9.4ヵ月vs.5.5ヵ月と有意にimlunestrant+アベマシクリブ群で良好であった。 以上から、imlunestrantは単剤においてはelacestrantと同様、ESR1変異のある集団において有効であり、またアベマシクリブとの併用においてはCDK4/6阻害薬のbeyond PD(病勢進行)の有効性が、postMONARCH試験(Kalinsky K, et al. J Clin Oncol. 2024 Dec 18. [Epub ahead of print])と同様であった(再現された)といえよう。 経口SERDは薬剤によってelacestrantやimlunestrantのように開発に成功しているものもあれば、amcenestrantのように開発を中止したものもある。開発戦略、試験デザインの影響も少なくないと考えられるが、薬剤そのものの特性も異なる可能性がある。今後複数の経口SERDが臨床で用いられるようになると考えられ、複数の薬剤をどのように使い分けていくか、臨床現場での新たな課題に取り組む必要がある。

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乾癬性関節炎〔PsA:psoriatic arthritis〕

1 疾患概要■ 定義乾癬に関節炎(炎症性関節症)を伴ったもの。「関節症性乾癬」とも呼ばれる。乾癬は尋常性(局面型)乾癬が最も多いが、乾癬性紅皮症や汎発性膿疱性乾癬に関節炎が合併することもある。■ 疫学国内外でいくつもの疫学データがあり、乾癬患者の10%以下から多いものでは40%を超えるとする報告もある1)。日本乾癬学会の疫学データでは、乾癬患者の15.2%が2)、また、リウマチ科主導で行われた多施設共同のデータでは14.3%が乾癬性関節炎を有していた。 したがって、紹介患者を受け入れる基幹病院では、乾癬患者のおおよそ14~15%が乾癬性関節炎と推定される。東アジアにおける疫学をみると、乾癬患者における乾癬性関節炎の占める割合は、韓国は9~14.1% 、中国は5.3~7.1% と報告されている3)。働き盛りの青壮年期に多く、わが国では乾癬、乾癬性関節炎ともに男性が多い。■ 病因関節リウマチが滑膜炎であるのに対し、乾癬性関節炎は付着部炎がprimaryな変化と考えられている。付着部は、筋肉や腱が骨に付着する部位で、微細な外的刺激が繰り返し加わることにより付着部に炎症が惹起される。乾癬性関節炎でも二次的な滑膜炎がみられることもある。■ 症状皮膚症状と関節症状があり、皮膚症状は落屑性紅斑(乾癬)で、好発部位は頭、肘、膝、臍などだが、頭の先から足のつま先までどこにみられても不思議ではない。関節症状は末梢関節が侵される頻度が高いが、大関節(頸椎、腰椎、仙腸関節など)が侵されることもまれではない。末梢関節が侵されると、罹患関節の腫脹や変形がみられることもある。また、乾癬性関節炎の中には、皮膚症状が目立たない(非常に軽度の)場合もある。そのほか、爪乾癬(爪の点状陥凹、肥厚、白濁など)がみられることが多く、爪の変化とその近傍の第一関節の痛みや腫れが一緒にみられることもある。皮膚症状(乾癬)が先行、または皮膚症状と関節症状がほぼ同時期に出現する場合が9割以上を占め、関節炎が先行する頻度は少ない4)。■ 分類関節症状により、以下の5群に分けられている (Moll&Wrightの分類)5)。(1)非対称性関節炎型(Oligo-arthritis type)(2)関節リウマチ類似の対称性関節炎型(Poly-arthritis type)(3)定型的関節炎型(DIP type)(4)ムチランス型(5)強直性脊椎炎型(Ankylosing spondylitis[AS]type)■ 予後乾癬においてはさまざまな併存症がみられる。乾癬性関節炎においても、肥満、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症などの生活習慣病が多い。さらに、動脈硬化症や心筋梗塞の心血管病変が予後に影響することが多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)CASPAR(Classification criteria for psoriatic arthritis)の分類基準がある。炎症性関節症があるのが前提で、3点以上で乾癬性関節炎と診断するとあるが、そもそも患者は皮膚症状がないと皮膚科を受診しないので、乾癬があれば2点、爪乾癬がある(1点)かリウマトイド因子が陰性(1点)であれば、それだけで3点を超えてしまう。他の項目に、指趾炎と呼ばれる手や足の指の芋虫状の腫れ(1点)と、手足の単純X線所見で関節周囲の骨新生像(1点)があるが、どちらも早期にみられる所見ではない。乾癬性関節炎を診断するいくつかの特徴的な症状に、付着部炎や指趾炎があるが、これらがみられるときはすでに早期ではない。したがって早期診断はきわめて難しい。■ 鑑別診断高齢者は膝や腰を始め関節の痛みを訴えることが多い。変形性関節症や関節リウマチを始め、リウマチ性多発筋痛症、痛風、偽痛風など関節の痛みや変形を来すさまざまな疾患との鑑別を要する。とくに手指の変形性関節症を鑑別する必要がある。変形性関節症は、手指DIP関節の変形だけのものは容易だが、痛みを伴うinflammatory osteoarthritis、 erosive osteoarthritisは、乾癬性関節炎との鑑別が難しい。関節リウマチ患者は女性に多く、罹患関節数が少ないこと、DIP関節が罹患することはまれで、同一レベルの関節が侵されるのに対し(横方向)、乾癬性関節炎では同じ指の異なる関節が縦方向に侵され、“Ray distribution”と呼ばれる。血清リウマチ因子や抗CCP抗体は、乾癬性関節炎の1割程度でも陽性にみられる。関節滑膜の増殖は関節リウマチの方が強く、それを反映し両者の差異を検出しうる関節エコーが有用とされる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)乾癬性関節炎は、皮膚症状が優位な症例、関節症状が優位な症例、どちらも症状が顕著な症例などがある。したがって、皮膚、関節それぞれの重症度をまず評価する。GRAPPAのガイドラインでは、乾癬性関節炎の症状を、末梢関節炎、体軸性関節炎、付着部炎、指趾炎、乾癬、爪病変の6つのドメインに分け、それぞれの症状ごとに、外用薬、非ステロイド系消炎鎮痛薬、理学療法、ステロイド局注などでコントロール不十分な症例に対しての内服薬(synthetic DMARD)や注射薬(biologic DMARD)の治療法を提示している。内服薬は、通常の非ステロイド系消炎鎮痛薬に加え、メトトレキサートとアプレミラスト(商品名:オテズラ錠)が、乾癬性関節炎に使われる代表的な薬剤である。メトトレキサートは、骨髄抑制と肝障害が頻度の高い注意すべき副作用で、間質性肺炎やHBV再活性化なども頻度は少ないが注意しなくてはならない。アプレミラストは、消化器症状、頭痛の頻度の高い副作用ではあるが、重篤な症状は少ないので高齢者にも使いやすい。新規内服薬としてJAK阻害剤が登場したほか、乾癬性関節炎の関節変形の進行を抑制するには生物学的製剤が中心的に使用されている。生物学的製剤は、TNF、IL-17に対する抗体製剤が使われることが多いが、ほかにIL-23の標的薬もある。4 今後の展望乾癬の治療薬の進歩は目覚ましく、生物学的製剤やJAK阻害剤内服薬が、適応拡大も含めて今後も新規に参入してくると思われる。5 主たる診療科皮膚科、リウマチ内科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報日本乾癬患者連合会(患者とその家族および支援者の会)1)山本俊幸. Visual Dermatology. 2017;16:690-693.2)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2017;44:e121.3)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2018;45:273-278.4)Yamamoto T, et al. J Dermatol. 2016;43:1193-1196.5)山本俊幸. 日皮会誌. 2022;132;19-25.公開履歴初回2025年1月8日

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カルテの診療記録によく見る間違い【もったいない患者対応】第21回

カルテの診療記録によく見る間違いカルテを見ていると、間違った記載をよく発見します。医師は(あるいは他のコメディカルも含め)、カルテの書き方を体系的に学ぶ機会はありません。医学生時代は医学知識の吸収に学習の大部分を費やし、国家試験に合格して現場に出た途端、見よう見まねでカルテを書くことになるのです。ほとんどの医師が、先輩のカルテを見て、それを真似する形で自分のスタイルを築き上げていると思います。こうした事情もあって、間違った記載法が先輩から後輩へ、気付かれないまま引き継がれているケースがあります。カルテ記載は、医療者間のコミュニケーションを円滑にするうえで重要な情報源ですから、正確な記載を心がける必要があります。ここでは、カルテでよく見る間違い表現を3つ紹介します。番号のついていない「#(ナンバー)」カルテに「#」の記号を使うことがよくあります。これは「ナンバー」と読み、プロブレムリストを列記したいときに「#1、#2、#3……」と後ろに番号をつける形で使います。しかし、これを単なる印として番号をつけず、#. 蜂窩織炎のように書いてしまう例をよく見かけます。「ナンバー」ですから、番号がないとまったく意味が通りません。書いた本人は「・」や「●」のような記号として使っているつもりなのかもしれません。ちなみに、これを「シャープ」だと誤解している人もいますが、シャープは「♯」で、楽譜に使う記号です。五線紙に書いたとき線に重なって見にくくならないよう、横棒が水平ではなくやや斜め右上を向いており、縦棒は垂直になっているのが特徴です。手術で「PEG」?PEGは「Percutaneous Endoscopic Gastrostomy=経皮的内視鏡的胃ろう造設術」の略です。かつて、すべての胃ろうを外科医が開腹手術で造設していた時代がありました(私が医師になる前の話です)。しかし近年は、内視鏡(胃カメラ)の技術が進歩し、全身麻酔下の手術を行わずに、内科医が胃ろうを造設するのが一般的です。この手法を、従来の胃ろう造設術と対比させ、「PEG」」すなわち、“内視鏡的な”胃ろう造設術と呼んでいます(いまでも手術適応となる症例は一部あります)。ところが、近年ではほとんどの胃ろうが内視鏡的に造設されているせいで、胃ろうそのものを「ペグ」と便宜上呼ぶことが多いように思います。そうした影響か、ときどき手術でPEG造設予定というとんでもない誤りを見ることがあります。PEGは、手術ではなく「内視鏡を使った胃ろう造設」だとわざわざ表現している言葉ですから、「“手術”でPEG」は完全に矛盾した表現です。また、「PEG造設」「上腹部にPEGあり」「PEGより経腸栄養剤注入」もよく見ますが、厳密にはこれも正しくはないでしょう。PEG=胃ろう造設術という「術式名」だからです。現場で誤解なく伝われば問題ありませんが、カルテに記載をする以上は誤解を招くことのないよう注意しなければなりません。「do.」は「行う」?「処置do」や「do処方」のように、現状の治療方針を継続するときなどに「do」という言葉が使われます。これを英語の動詞「do(行う)」だと誤解している人がいます。正しくは、イタリア語が起源の英語“ditto”の略で、日本語に訳すと「同上」です。略語なので、「do.」とピリオドをつけるのが正確です。同一語句の省略に用いるときに使う言葉で、記号で表すときは「〃」ですね。発音は[dítou]です。こちらも、誰から教わったわけでもなく、他の医師の見よう見まねで深く考えずに使ってきた言葉ではないでしょうか。意味がわかればいいと言えばそれまでですが、やはり正確な知識はもっておくべきでしょう。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(循環器内科編)

Transcatheter Edge-to-Edge Repair for Severe Isolated Tricuspid RegurgitationDonal E, et al. JAMA. 2024 Nov 27. [Epub ahead of print]<Tri.Fr試験>:重症三尖弁逆流のカテーテル治療の時代がくるか?重症三尖弁逆流へのカテーテル治療であるedge-to-edge修復術(T-TEER)を至適薬物療法(OMT)に併用することによって、アウトカムが改善するかを検討。T-TEER+OMT療法はOMT単独療法と比較して、1年後の患者報告アウトカム指標と臨床イベントからなる複合スコアを改善しました。TriClip®による三尖弁カテーテル治療の適応について本邦でも議論が進むものと期待されます。Beta-Blocker Interruption or Continuation after Myocardial InfarctionSilvain J, et al. N Engl J Med. 2024;391:1277-1286.<ABYSS試験>:心筋梗塞既往患者でβ遮断薬の開始ではなく中断を検討、継続すべし薬剤の有効性と安全性を検討し、ポジティブな結果であれば新規の内服開始を薦めるという研究が多くなっています。しかしいったん開始した薬剤は永久に必要なのでしょうか。合併症のない心筋梗塞既往患者において、β遮断薬の長期中断について検討した本研究は興味深いものです。結果として、β遮断薬の中止は安全であると示すことはできませんでした。単純に解釈すれば継続投与が必要となります。β遮断薬を再評価する複数の臨床試験が進行中で、議論が続くと思われます。Pulmonary Vein Isolation vs Sham Intervention in Symptomatic Atrial FibrillationDulai R, et al. JAMA. 2024;332:1165-1173.<SHAM-PVI試験>:心房細動アブレーションの実手技vs.シャム(偽手技)、究極のランダマイズ試験これまでにも心房細動へのアブレーション治療についてのランダマイズ試験は存在し、改善効果を示してきました。しかしアブレーション実施の有無は、医師や患者本人には盲検化されていないため、QOLの改善が実手技を受けた患者のプラセボ効果ではないかとの批判がありました。実手技vs.シャム手技を比較する試験を計画し実施した著者に敬意を表します。シャム手技まで必要とするかとの意見もあると思われます。Finerenone in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection FractionSolomon SD, et al. N Engl J Med 2024;391:1475-1485.<FINEARTS-HF試験>:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノンは、HFmrEFとHFpEFに有効フィネレノンは、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。HFmrEFとHFpEFで、総心不全増悪イベントと心血管系による死亡の複合アウトカムを有意に抑制。SGLT2阻害薬に続いて、この患者群でイベント抑制効果を達成したことは興味深いものです。死亡に至った高カリウム血症はないものの、入院に至った高カリウム血症はフィネレノン群で多いことには注意が必要です。Rivaroxaban for 18 Months Versus 6 Months in Patients With Cancer and Acute Low-Risk Pulmonary Embolism: An Open-Label, Multicenter, Randomized Clinical Trial (ONCO PE Trial)Yamashita Y, et al. Circulation. 2024 Nov 18. [Epub ahead of print]<ONCO PE Trial>:がん合併の低リスク肺塞栓症患者には長期間のDOAC投与を ONCO PE試験は、リスクの低い肺塞栓症を合併したがん患者を対象に、直接経口抗凝固薬(DOAC)であるリバーロキサバンの投与期間を検討した研究。2024年11月に米国シカゴで開催されたAHA2024のLate Breakingで発表され、Circulation誌に同時掲載されました。DOACの投与期間は18ヵ月間投与群のほうが、6ヵ月間投与群より再発が少なく優れていました。

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第245回 「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」まとまる、注目された「規制的手法」は大甘、「経済的インセンティブ」も実効性に疑問

浜松駅前、20年以上放置の4,600m2の更地に驚くこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年始年末は実家のある愛知に帰り、正月明けに大学時代の友人が住む浜松で新幹線を途中下車、一杯飲んで帰って来ました。浜松は数年に1度、この友人と飲むために訪れるのですが、年を追うごとにさびれて活気がなくなっている印象を受けます。今回、駅前を歩いて驚いたのは飲み屋街の近辺にある広大な更地です。今まで気が付かなかったのが不思議なくらいの異常な広さです。友人が言うには、20年以上前に老舗百貨店が潰れ、そこが更地になった後、さまざまな開発計画が持ち上がったもののその都度立ち消えとなり、土地活用の計画はまったく進んでいないとのことでした。調べてみるとその広さは実に4,600m2。仮に開発計画がまとまったとしても、最近の建築コスト増などで、今からの実現はほぼ不可能と言えるでしょう。東北地方や日本海側の町の不景気振り、凋落振りについてはこの連載でも度々書いてきましたが、太平洋側で新幹線沿線、しかも自動車やオートバイ、楽器などの製造でほかの地方都市より元気であるはずの浜松ですらこの有り様なのかと、ため息をつきながら帰りの新幹線に乗りました。さて、厚生労働省の2024年の最大の宿題でもあった「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」が年末にやっとまとまり、同省の医師偏在対策推進本部が 12月25日に公表しました。武見 敬三・前厚生労大臣が昨年4月のNHKの番組で「医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことを我が国もやらなければならない段階に入ってきた」と突如発言したことをきっかけに検討がスタートし、「骨太方針2024」にも「24年末までに策定」と明記された今回の医師の偏在対策。8ヵ月かけてパズルを解くように厚労省がひねり出した「総合的な対策パッケージ」は、果たして実効性のあるものになったのでしょうか。医師確保計画の実効性の確保、地域の医療機関の支え合いの仕組みなど5本の柱、通常国会に医療法改正案提出の見込み「経済的インセンティブ、地域の医療機関の支え合いの仕組み、医師養成過程を通じた取り組みなどを総合的に組み合わせ、若手医師だけではなく、中堅・シニア世代を含む全ての世代の医師にアプローチするとともに、従来のへき地対策を超えた取り組みも実施する」という基本方針の下、策定された総合的な対策パッケージは次の5つの柱からなっています(図参照)。(1)医師確保計画の実効性の確保(2)地域の医療機関の支え合いの仕組み(3)地域偏在対策における経済的インセンティブ等(4)医師養成過程を通じた取組(5)診療科偏在の是正に向けた取組 医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ(概要)画像を拡大する※厚生労働省資料より今回の対策は、医療法に基づく「医療提供体制確保の基本方針」に位置付けるという方針も示され、今年の通常国会に医療法改正案が提出され、2026年度から実施される見込みです。そして、対策施行後5年を目処に効果を検証し、必要に応じ追加対策を講じる、としています。外来医師過多区域で都道府県の要請を受け入れずに開業した場合、診療報酬を下げる対応もまた、12月25日開かれた厚労省と財務省の大臣折衝では、「外来医師過多区域における要請等を受けた診療所に必要な対応を促すための負の動機付けとなる診療報酬上の対応とともに、その他の医師偏在対策の是正に資する実効性のある具体的な対応について更なる検討を深める」ことなども合意されました。「負の動機付けとなる診療報酬上の対応」とは穏やかではない表現ですが、具体的な方策については書かれていません。たとえば、外来医師過多区域で都道府県の要請を受け入れずに開業した場合、その医療機関だけ診療報酬単価を下げる、あるいは「外来医師過多区域減算」といったかたちで患者の診療報酬から一定点数減算する、などの対応が考えられます。いずれにせよ、「開業を止めたくなる」ような「負の動機付け」が、診療報酬の仕組みの中に導入されるわけです。外来医師過多区域での規制的手法は新規開業だけが対象さて、総合的なパッケージの中の具体策は先の図に示したように多岐に渡っていますが、まず注目されるのは、「(2)地域の医療機関の支え合いの仕組み」の中に盛り込まれた「2)外来医師過多区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等」です。都道府県の権限が今まで以上に強化され、都道府県は外来医師過多区域で新たに開業する医師に対し、診療内容を要請できるようになります。訪問診療や夜間・休日の救急対応など地域に足りない診療のほか、医師が不足する地域で土日の診療にあたることも対象となります。応じない場合、勧告や医療機関名の公表、補助金の不交付や前述したように診療報酬の引き下げも可能としました。また、要請に応じない場合などは、保険医療機関としての指定を通常の半分の3年とするなどの対策も盛り込まれました。武見前厚労相が強調していたいわゆる「規制的手法」です。しかし、既存の医療機関はそのままに、新規だけを対象としている点に対策の限界を感じます。また、訪問診療など足りない医療機能の提供を求めると言っても、そうした機能を”外部委託”するなどして、いくらでも抜け道はできそうです。財務省は元々、都道府県の要請に応じない場合は保険医療機関に指定しない措置を提案しており、規制的手法にしても11月の財政制度等審議会では「既存の保険医療機関も含めて需給調整をする仕組みの創設」が必要だと主張していました。今回の案を厚生労働省が日本医師会に配慮した結果と見る向きは多く、12月27日付の東京新聞は、「『医師の偏在』解消案を阻むラスボス・日本医師会」と題する記事で、「保険医療機関の不指定が見送られたのは『日医(日本医師会)の会長(松本吉郎)が最後まで首を縦に振らなかったからだ』」と書いています。既存の開業医のみならず、新規の開業医をも守ろうとする日医には、医師偏在を本気で解消しようという考えはさらさらないようです。重点医師偏在対策支援区域で承継・開業する診療所の施設整備への支援は税金の無駄遣い大甘の「規制的手法」に対して、「経済的インセンティブ」の内容はどうでしょうか。「(3)地域偏在対策における経済的インセンティブ等」の中に盛り込まれた「1)経済的インセンティブ」には、重点医師偏在対策支援区域において、承継・開業する診療所の施設整備・設備整備に対する支援、一定の医療機関に対する派遣される医師及び従事する医師への手当増額の支援、一定の医療機関に対する土日の代替医師確保等の医師の勤務・生活環境改善の支援、医療機関に医師を派遣する派遣元医療機関に対する支援などが盛り込まれました。「医師の手当増額」はまだ理解できますが、「重点医師偏在対策支援区域で承継・開業する診療所の施設整備への支援」はどうでしょう。一見すれば意味があるように見えますが、そもそも人口減で患者が少なく、医師不足になっている地域で今さら新規開業や承継開業を増やすのはナンセンスと言えます。10年、20年先にほぼ潰れることがわかっている医療機関への税金投入は、無駄遣い以外の何物でもありません。そもそも、地域で医療機関の再編を進める地域医療構想の考え方とも相容れません。5年目の見直しは必至だが、その時にはもういろんなことが手遅れになっているかもというわけで、今回の「総合的な対策パッケージ」、「規制的手法」にしても「経済的インセンティブ」にしても、全体的な詰めが甘く、付け焼き刃にもならない対策が多い印象です。パッケージには図にあるように、(4)医師養成過程を通じた取組、(5)診療科偏在の是正に向けた取組医師養成過程を通じた取組なども含まれ、それこそ総合対策という体裁になっていますが、5年、10年先にこれで医師偏在が解消されているかと言えば、なかなか難しいだろうというのが正直な感想です。日本経済新聞の12月30日の社説は「医師の偏在がこの対策で是正されるのか」のタイトルでこの問題を取り上げ、「担い手不足の地域で働く人材への経済支援の強化を打ち出す一方、医師が選択する勤務地や診療分野を制限する施策は弱い。2026年度からの実施で効果が出るのか不安が募る内容だ」と書いています。また、読売新聞の1月4日付の社説は「医師の偏在対策 実効性ある開業規制が要る」のタイトルで、「対策を議論した有識者会議では、医師が要請に応じない場合は保険医療機関への指定を許可しない、といった厳しい措置も一時検討されていた。だが、日本医師会が『職業選択の自由』などを理由に反発したため、見送られた。(中略)今回の規制も実効性に乏しかった場合には、さらなる措置に踏み切るべきだろう。誰もが一度は地方勤務を経験するような仕組みも含めて、多角的な対策が必要ではないか」と書いています。「総合的な対策パッケージ」はその効果を施行後5年目途に検証し、十分な効果が生じていない場合には、さらなる医師偏在対策を検討することになっています。個々の対策を見る限り、5年目(2031年)の見直しは必至と言えそうです。既存の医療機関も含めた本当の意味での「規制的手法」の導入は、それからになるかもしれませんが、その時には、開発の時期を完全に逸した浜松駅前の広大な更地のように、もういろいろなことが手遅れになっている気がしてなりません。

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高齢者の術後せん妄予防に最も効果的な薬剤は〜ネットワークメタ解析

 高齢患者における術後せん妄の発生率および死亡率は高く、予防戦略の必要性が求められている。さまざまな薬理学的予防戦略が有効であることが報告されているものの、高齢者を対象としたベネフィットや安全性は、依然として明らかになっていない。台湾・Chi Mei Medical CenterのTing-Hui Liu氏らは、高齢者患者における術後せん妄予防に対するさまざまな薬理学的介入の有効性をシステマティックに評価し、ランク付けするため、ネットワークメタ解析を実施した。Journal of Psychiatric Research誌2025年1月号の報告。 2023年8月1日までに公表されたランダム化比較試験(RCT)をPubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、PsycINFO、Google Scholarより検索した。対象RCTには、高齢患者における術後せん妄の薬理学的予防効果を調査した研究を含めた。事前に定義した事項に沿ってデータを抽出するため、PRISMAガイドラインを用いた。主要アウトカムは、術後せん妄の発生率とした。副次的アウトカムは、忍容性とし、すべての原因による中止または脱落率、すべての原因による死亡率により評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象RCT44件、対象患者1万1,178例をメタ解析に含めた。・これらの研究のうち、26件のRCTはプラセボのみとの比較試験であった。・プラセボと比較し、せん妄の発生率が有意に低かった薬剤は、次のとおり。【非定型抗精神病薬】オッズ比(OR):0.27、95%信頼区間(CI):0.12〜0.58【ハロペリドール】OR:0.42、95%CI:0.25〜0.71【デクスメデトミジン】OR:0.51、95%CI:0.37〜0.71【メラトニン受容体作動薬】OR:0.57、95%CI:0.33〜0.98・最も効果的な治療としてランク付けされた薬剤は、非定型抗精神病薬であった。・忍容性に関しては、プラセボまたは各薬理学的治療群において、脱落率およびすべての原因による死亡率に統計学的な差は認められなかった。 著者らは「高齢患者における術後せん妄に対する薬理学的介入は、非定型抗精神病薬、デクスメデトミジン、メラトニン受容体作動薬、ハロペリドールが効果的であることが特定された。とくに、非定型抗精神病薬は最も評価が高かった」とし「これらの結果をさらに確認するためにも、RCTの必要性が示唆された」と結論付けている。

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医師の学会発表と急性心筋梗塞の院内死亡率が関連~日本の後ろ向き研究

 臨床医が日本循環器病学会で発表している病院で治療された心筋梗塞患者は、発表していない病院で治療された患者より院内死亡率が低く、また、エビデンスに基づく薬剤処方が多かったことが京都大学の高田 大輔氏らによる後ろ向き研究でわかった。PLoS One誌2024年12月9日号に掲載。 本研究では、QIP(Quality Indicator/Improvement Project)に参加している日本の急性期病院の管理データベースを解析した。2014年4月1日~2018年12月31日に急性心筋梗塞で入院した患者を、入院した病院の医師がその年の日本循環器学会年次学術集会で発表があった患者(学会発表群)と、学会発表のなかった病院に入院した患者(対照群)に分け比較した。5つのモデル(未調整モデル、モデル1:性別・年齢・Killip分類・喫煙・救急車の使用・高血圧・心房細動・陳旧性心筋梗塞・糖尿病・腎臓病・慢性閉塞性肺疾患で調整、モデル2:モデル1に加え、入院年と各病院の年間入院数で調整、モデル3:病院コードでクラスター化し、モデル1と同じ変数で調整したマルチレベル分析、モデル4:モデル1に加え、因果媒介分析によりEvidence-based Practiceで調整)における院内全死亡リスクを、多変量ロジスティック回帰分析を用いて推定した。 主な結果は以下のとおり。・Killip分類または救急車の使用に関するデータがなかった3,544例を除外し、384の急性期病院における5万6,923例のデータを解析した。・エビデンスに基づく薬剤の処方は、学会発表群が対照群より有意に多かった。・モデル4を除いて、学会発表が低い院内死亡率と有意に関連していた。各モデルのオッズ比(95%信頼区間)は以下のとおり。 未調整モデル:0.68(0.65~0.72) モデル1: 0.73(0.68~0.79) モデル2:0.76(0.70~0.82) モデル3:0.84(0.76~0.92) モデル4:1.00(0.92~1.09) 著者らは「学会発表は院内死亡率の低下と関連しており、医師が学会発表を行う病院では患者がより多くのエビデンスに基づく診療の恩恵を受ける傾向がある」と結論した。一方、本研究の限界として、学会発表を日本循環器学会学術集会のみとしていること、今回調整していない組織文化や循環器医師のモチベーションなど、病院および個人の交絡因子があることを挙げている。

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早期/局所進行TNBCの術前補助療法、camrelizumab追加でpCR改善/JAMA

 早期または局所進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者の術前補助療法において、化学療法単独と比較して化学療法に抗PD-1抗体camrelizumabを追加すると、病理学的完全奏効(pCR)の割合を有意に改善し、術前補助療法期に新たな安全性シグナルは発現しなかったことが、中国・復旦大学上海がんセンターのLi Chen氏らが実施した「CamRelief試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年12月13日号に掲載された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 CamRelief試験は、早期または局所進行TNBCの術前補助療法におけるcamrelizumab追加の有益性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年11月~2023年5月に中国の40病院で患者を登録した(Jiangsu Hengrui Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18~75歳、StageIIまたはIIIの浸潤性TNBCの女性(性別は自己申告)で、乳がんに対する全身治療を受けておらず、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance-status(ECOG PS、0~5点、点数が高いほど機能障害が重度)のスコアが0または1点の患者を対象とした。 これらの患者を、術前補助療法(24週間)として、化学療法(2週ごと)との併用でcamrelizumab(200mg、2週ごと)またはプラセボの静脈内投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。化学療法は、最初の16週間はnab-パクリタキセル(100mg/m2)とカルボプラチン(曲線下面積[AUC]1.5)を28日間(1サイクル)の1、8、15日目に投与し、次の8週間はエピルビシン(90mg/m2)とシクロホスファミド(500mg/m2)を2週ごとに投与した。その後、手術を行い、術後補助療法として、camrelizumab群はcamrelizumab 200mgを2週ごとに最長1年間投与+標準治療、プラセボ群は標準治療のみを受けた。 主要評価項目はpCRで、両乳房とリンパ節に浸潤性腫瘍がない状態(ypT0/Tis ypN0)と定義した。副次評価項目のデータは不十分 441例(年齢中央値48歳[範囲:22~75]、StageIII 158例[35.8%]、リンパ節転移あり331例[70.5%])を、camrelizumab群(222例)またはプラセボ群(219例)に無作為に割り付けた。camrelizumab群の198例(89.2%)とプラセボ群の200例(91.3%)が手術を受けた。無作為化後の追跡期間中央値は14.4ヵ月(範囲:0.0~31.8)だった。 pCRを達成した患者は、プラセボ群で98例(44.7%)であったのに対し、camrelizumab群では126例(56.8%)と有意に達成患者割合が高かった(達成率の群間差:12.2%、95%信頼区間[CI]:3.3~21.2、片側p=0.004)。 データカットオフ(2023年9月30日)の時点で、副次評価項目である無イベント生存、無病生存、遠隔無病生存のデータは不十分であったが、18ヵ月無イベント生存率はcamrelizumab群86.6%、プラセボ群83.6%(ハザード比:0.80、95%CI:0.46~1.42)、12ヵ月無病生存率はそれぞれ91.9%および87.8%(0.58、0.27~1.24)、12ヵ月遠隔無病生存率は91.9%および88.4%(0.62、0.29~1.33)だった。 また、手術前の画像上の奏効は、camrelizumab群が194例(87.4%)、プラセボ群は181例(82.6%)で達成された(群間差:4.7%、95%CI:-1.8~11.1)。術後補助療法期にも新たな安全性シグナルは認めない 術前補助療法期に、Grade3以上の有害事象はcamrelizumab群198例(89.2%)、プラセボ群182例(83.1%)に発現した。両群とも血液毒性が主で、白血球数の減少がそれぞれ73.4%および67.6%、好中球数の減少が80.2%および77.2%、貧血が30.2%および21.9%に認めた。また、重篤な有害事象は、それぞれ77例(34.7%)および50例(22.8%)に発現し、camrelizumab群で致死的有害事象を2例(0.9%)に認めた。 camrelizumab群では、205例(92.3%)に免疫関連有害事象を認め、21例(9.5%)がGrade3以上であった。最も頻度が高かったのはreactive capillary endothelial proliferation(195例[87.8%])で、このうちGrade3以上は5例(2.3%)だった。 また、術後補助療法期のcamrelizumabの継続投与では、Grade3以上の有害事象、重篤な有害事象、免疫関連有害事象に関して、新たな安全性シグナルは認めなかった。 著者は、「これらの結果を先行研究と統合すると、とくに高リスクの患者における強力化学療法レジメンと併用した場合のcamrelizumabの有益性が示され、早期または局所進行TNBCの新たな治療選択肢となる可能性を支持する知見と考えられる」としている。

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抗CD20/CD3二重特異性抗体モスネツズマブ、再発/難治濾胞性リンパ腫に承認/中外

 中外製薬は、抗CD20/CD3二重特異性抗体モスネツズマブ(商品名:ルンスミオ)について、過去に少なくとも2つの標準治療を受けたことのある再発又は難治性の濾胞性リンパ腫を適応として、2024年12月27日、厚生労働省より製造販売承認を取得したことを発表した。 モスネツズマブはCD20/CD3に対するT細胞誘導性二重特性抗体で、高い奏効割合と持続的な寛解が期待できる。治療期間は患者の治療効果に応じ、約半年または1年間と設定されている。 今回の承認は、過去に少なくとも2つの標準治療を受けたことのある再発/難治濾胞性リンパ腫患者を対象に実施した国内第I相臨床試験の拡大コホート(FLMOON-1試験)および、同患者集団を対象とした海外第I/II相臨床試験の成績に基づいている。 FLMOON-1試験は19例の日本人患者に対して行われた。主要評価項目である独立評価機関評価による完全奏効(CR)割合は68.4%を示し、主な副作用はリンパ球数減少、サイトカイン放出症候群、ALT増加、好中球数減少およびAST増加、インフージョンリアクションであった。海外第I/II相臨床試験は90例の患者に対して行われ、主要評価項目である独立評価機関評価によるCR割合57.8%を示し、主な副作用はサイトカイン放出症候群、発熱、疲労、そう痒症、好中球減少および低リン血症であった。

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