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座位時間を毎日1時間減らすと腰痛の悪化は防げるか

 ソファや椅子に座って過ごす時間を短くすることは、腰痛の悪化を防ぐ効果的な方法であるかもしれない。腰痛リスクのある人が6カ月間、毎日わずかでも座位時間を減らすことで、腰痛の悪化を抑えられる可能性を示唆した研究結果が報告された。論文の筆頭著者であるトゥルク大学(フィンランド)のJooa Norha氏は、「腰痛や座位時間が長過ぎる傾向があり、腰の健康が心配な人は、仕事中や余暇中の座位時間を減らす方法を考えてみるとよいだろう」と助言している。研究結果の詳細は、「BMJ Open」に9月28日掲載された。 Norha氏らによると、座位時間の長さが背中の健康と腰痛に与える影響については、あまり研究されていないという。この点を明らかにするために、今回の研究で同氏らは、過体重または肥満でメタボリックシンドロームを有する40〜65歳の成人64人を対象に、6カ月にわたる座位時間を減少させる介入が腰痛と腰痛関連の障害、傍脊柱筋(脊柱起立筋と横突棘筋)のインスリン感受性(グルコース取り込み)および脂肪含有率に及ぼす影響を調べた。対象者のうち、33人は座位時間を毎日1時間減らすことを目指す群(介入群)、残る31人は通常通りに過ごす群(対照群)にランダムに割り付けられた。 その結果、対照群では介入群に比べて腰痛の強度は有意に増加していたが、介入群では変化が認められなかった。また、試験期間中に、痛みに関連する障害は両群で増加していた。しかし、痛みに関連する障害、オスヴェストリー能力指数(Oswestry Disability Index;ODI、腰痛・下肢痛による日常生活動作への影響を測定する尺度)、脊柱起立筋のグルコース取り込みおよび脂肪含有率の変化に関しては、有意な群間差は認められなかった。 Norha氏はこれらの結果について、「驚きはなかった」と話す。同氏は、「本研究の対象者は、座位時間が長く、運動をほとんど行わない、やや体重の増えたごく普通の中年成人だった。これらの要因は、心血管疾患のリスクだけでなく腰痛リスクも高める」と話す。 ただし、活動量を増やすことで腰痛が抑制されるメカニズムは明らかにされていない。本研究では、対象者の背筋のMRI検査が実施されたが、「腰痛の変化と、背筋の脂肪量や糖代謝の変化との間に関連は認められなかった」とNorha氏は説明している。 Norha氏は、腰痛持ちの人に対して運動を行うことを勧めている。同氏は、「ただ立っているだけよりも、歩行やより活発な運動などの身体活動の方が効果的であることに留意することが重要だ」とトゥルク大学のニュースリリースで述べている。

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「見つけました!PubMedで自分の名前を!」初めての症例報告【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第77回

初めてPubMedに名前が載った!「見つけました! 自分の名前を見つけたんです!」循環器内科の専攻医が興奮した様子で報告に来ました。医師免許を取得して3年目の若手です。彼が経験した特徴的な経過を示した症例の報告を執筆し、英文ジャーナルに掲載されたのです。投稿から採択されるまでには多くの困難がありました。自分の名前が筆頭著者として記載された英語論文を、初めて手にしたときの喜びは理解できます。本当に嬉しそうです。こちらも嬉しくなります。若手医師の笑顔は自分にとって栄養剤です。専攻医は、自分の名前をPubMedで検索してみました。自らの名前がある論文が表示されます。何度も繰り返します。PubMedは、アメリカ国立医学図書館(NLM:National Library of Medicine)が提供する、無料の医学関連分野の文献検索サービスです。主たる情報源は、MEDLINEという医療データベースで、世界中の5,000誌以上の主要な医学雑誌に掲載された学術論文を調べることができます。タイトル、著者名、雑誌名、抄録などのデータを収録しています。PubMedで名前を検索すれば、自己の業績が表示されるという観点では、ノーベル生理学・医学賞の受賞者と同じ土俵に立ったといえます。端くれとはいえ立派な研究者です。苦労して英語の論文を執筆しても、自分の論文や名前がPubMedに表示されないことを嘆く若手の医師に出会うことがあります。PubMedに論文が登録されるには、その論文を出版したジャーナルがMEDLINEに収載されている必要があります。MEDLINEに収載されていないのであれば、出版論文はPubMedでは検索できません。投稿する前に確認しておく必要があります。若手の初成功の鍵は、上級医の粘り強い指導症例報告は、まれな疾患や治療法の発見、診断・治療の新たな知見を周知することで、医学の発展に寄与します。また、実臨床での経験をほかの医療者と共有する重要な役割を果たします。珍しい疾患だからという理由だけで症例報告するわけではありません。報告に値する症例は、明確な「学ぶ点」を呈示できることです。症例報告を記載するには、数多くのステップが必要です。適切な症例を選択することから始まり、文献の検索、正確な症例の記述、投稿、査読者への適切な返答が要求されます。一連の過程が若い医師に学びの経験をもたらし、彼らの研究者キャリアを始動させるのです。英語で執筆することが大切です。英語は科学界における共通言語となっており、世界中の医学者や研究者が英語を使うことで、効率的に情報を共有できます。日本語よりも英語であることで影響力が高まります。英語がネイティブでない日本人にとって、執筆のハードルは高く、時間を消費します。若い医師に「症例報告を書こう」と話しても形にならず、挫折する者も多くいます。まず初稿を書き上げられないのです。いきなり抄録やイントロダクションから執筆を開始すると頓挫しやすいです。症例報告では、その症例記述から執筆し始めることをお勧めします。何よりも必要なのは、相談でき、粘り強く指導してくれる上級医です。若手医師の熱意だけに頼るのは酷なことで、指導医により英文論文が具現化します。一度成功すれば、次からは自己努力だけで大丈夫な場合がほとんどです。ネコ語に「言語バイアス」はあるか?ある特定の言語がほかの言語よりも優先されたり、優遇されたりすることで、情報の受け取り方や発信の機会が不公平になる現象を「言語バイアス」といいます。優先されている言語は、もちろん英語です。こうして、症例報告の英語執筆から言語バイアスについて考えていると、わが家の愛猫のレオが膝に乗ってきました。なんとかわいいのでしょうか。猫同士のコミュニケーションで用いられる「ネコ語」には、言語バイアスという概念は存在するのかについて考察することにします。まず、ネコ語とは何かを考えます。猫は、鳴き声(「ニャー」など)、ボディランゲージ(尾の動きや耳の位置)、匂い(フェロモン放出)などを用いてコミュニケーションを取ります。これらの手段は、猫同士でのコミュニケーションにおいても、人間との対話においても重要な役割を果たします。これらの言語に優先されるものが存在するのでしょうか? ある猫種や地域の猫が、ほかの猫よりも「標準的」とされるネコ語を話すという形での言語バイアスは考えにくいです。人間と猫との間に言語バイアスが存在する可能性があります。ある鳴き声が「かわいい」とされ、ほかの鳴き声が「うるさい」と感じられることがあります。こうした評価の差異は、人間が猫の表現に対して持つ偏見の一種ともいえます。猫が本来持つコミュニケーション手段の多様性が、人間の目には標準と異質に分けられてしまうという形で、言語バイアスが存在している可能性があるのです。人間と一緒に暮らす猫は、鳴き声を通じて人間から反応を引き出すことを学びます。このプロセスで、特定の音調や鳴き声が人間の注意を引きやすい場合、猫はそれを優先的に使用するようになる可能性があります。猫における言語バイアスは、猫が人間に対して行うコミュニケーションの中に存在するのかもしれません。深夜にこんな瞑想に時間を費やす自分は変人です。

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「お元気そうですね」に患者さんの顔が曇るワケ【もったいない患者対応】第16回

「お元気そうですね」に患者さんの顔が曇るワケ病院に定期通院されている患者さんや、入院中の患者さんに「お元気そうですね」という言葉を使い、不快な思いをさせてしまう人がいます。患者さんが実際に元気で、ご本人が「調子が良い」と思っている状況であれば、「お元気そうですね」という言葉でスムーズに会話を始めることはできるでしょう。しかし、見た目は元気そうでも、実際にはそうではないケースは多々あります。注意すべきシチュエーションとくに、痛みやつらさをあまり表に出さない患者さんに対して「お元気そうですね」と言ってしまうと、「実際には苦痛を感じているのに、わかってもらえていない」と感じさせてしまうおそれがあります。患者さんの性格にかかわらず、そもそも外観に現れにくい病状は多くあります。一見すると元気なようでも、実はそうではなく、本人は自分の健康状態に問題を感じている、といったケースがあることに注意が必要です。また、「お元気そうですね」という言葉は、相手の健康状態をこちらの主観で判断し、「ね」という語尾で、その感想を相手に押しつけるようなニュアンスのあるセリフです。あるいは、「元気であってほしい」というような、医療者の利己的な期待感が表出したセリフだともいえます。医療者が患者さんに対して発するのであれば、やはり、「調子はいかがですか?」というオープンクエスチョンであるべきでしょう。「少し具合が悪そうですね」はOK明らかに調子が悪そうに見えたときに、「少し具合が悪そうですね。どうなさいましたか?」と聞くことは問題ないだろうと考えます。「自分の不調をきちんと見抜いてくれた」とポジティブな捉え方をしてもらえるからです。お互い何度も会ったことのある関係であっても、医療者と患者さんとの間柄では、会話を始めるときの最初の一言は大切です。不用意な一言で、のっけから嫌な気分にさせてしまわないよう注意しましょう。

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第235回 麻酔薬を巡る2つのトピック、アナペイン注供給不足と芸人にプロポフォール使用の配信番組で麻酔科学会大忙し(前編)

東京女子医大新学長に国際医療福祉大の山中寿教授こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。同窓会組織・至誠会と学校法人の不適切な資金支出や、寄付金を重視する推薦入試や人事のあり方などが問題視され、8月に前任理事長が解任された東京女子医大ですが、10月18日に理事会が開かれ、理事会の全理事と監事が辞任、新しい学長には国際医療福祉大の山中 寿教授(70)が選任されました。東京女子医大については、本連載でも「第226回 東京女子医大 第三者委員会報告書を読む(前編)『金銭に対する強い執着心』のワンマン理事長、『いずれ辞任するが、今ではない』と最後に抗うも解任」などで度々書いてきましたが、結局、経営陣は総入れ替えになりそうです。新しく学長に就任した山中氏はリウマチ学の権威で、1983年から東京女子医大に在籍、2003~18年には同大附属の膠原病リウマチ痛風センターなどで教授を務めていました。どういった経緯で山中氏が選ばれたのかは不明ですが、女子医大の内実をよく知り、かつ同大病院の名物センターの一つ、膠原病リウマチ痛風センターを切り盛りしていた実績が買われたのでしょう。山中氏は国際医療福祉大の教授であり、同大関連の医療法人財団順和会山王メディカルセンターの院長でもありました。国際医療福祉大が、厚生労働省官僚の主要“天下り先”であることを考えると、国、厚生労働省の意向も少なからず反映されたのかもしれません。70歳という年齢はやや行き過ぎている感は否めませんが、正常かつ公正な大学運営が行われることを期待したいと思います。供給不足が社会問題化していたアナペイン注に不足解消の兆しさて今回は麻酔薬を巡るトピックを2つ紹介します。まずは、6月以降限定出荷が続き、供給不足が社会問題化していた局所麻酔薬のアナペイン注(一般名:ロピバカイン塩酸塩水和物)ですが、不足解消の兆しが見えてきました。アナペイン注の供給不足については、10月2日付のNHKニュースでも大きく報じられました。同ニュースは、「国立がん研究センター中央病院では、がんの手術にアナペインを使っています。ところが出荷制限でことし6月ごろから減少し始め、8月になってからはほとんど入荷しなくなりました。このため臨床試験や大腸がんの手術に使用を限定しているということです」と報じ、さらに「産婦人科の中には出産の際に麻酔で陣痛を抑える無痛分べんに応じきれなくなることを心配する声も聞かれます」と、市中の産科での混乱も伝えていました。そのアナペイン注ですが、製造販売元のサンドは10月9日、「アナペイン注2mg/mL」について「10月8日、製造所追加の承認を取得いたしました」と、翌9日には「アナペイン注7.5mg/mL」について「10月9日、製造所追加の承認を取得いたしました」と発表しました。いずれも初回出荷に向けた最終確認、調整に入っているとのことです。なお、「アナペイン注10mg/mL」については製造所追加の承認取得の手続きを進めているとのことです。また、福岡 資麿厚生労働大臣は10月8日の閣議後会見で、「アナペイン注」の限定出荷が続いている現状を踏まえ、今年8月に薬事承認されたテルモの後発品が年内にも供給開始される見込みだと説明しました。海外生産のリスクを回避しようと国内生産に切り替えようとしたことが裏目にそもそもなぜ、アナペイン注は供給不足に陥ったのでしょうか。サンドは5月に出した「アナペイン注2mg/mL,7.5mg/mL,10mg/mL(10管、1バッグ)供給に関するお詫びとご案内」で、「製造委託先変更に伴う、逸脱による製造遅延が発生し、調査および品質・安全確保のために製造を停止しております」と理由を説明していました。NHKなどの報道によれば、製造を行っている関連会社が製造所を海外から国内に移そうとしたところ技術移転に時間がかかることが明らかになり、国内製造を延期せざるを得なくなったとのことです。海外で製造される医薬品が海外の工場などの事情で供給不足に陥った事例については、本連載でも「第74回 膵がん治療に欠かせないアブラキサン10月供給停止へ、学会、患者会が他工場製品の緊急承認要望」で取り上げました。このときは、米国の1工場の不具合により、進行膵がんの1次化学療法薬として使われるアブラキサンが供給停止となった問題を取り上げ、海外製造に依存するリスクについて書きました。しかし、今回のアナペイン注は、そうしたリスク回避のため国内生産に切り替えようとしたことが裏目に出たわけです。企業の経営戦略は間違ってはいないものの、詰めが甘かったということでしょう。「逸脱による製造遅延」の「逸脱」って?サンドの「お詫びとご案内」に出てくる「逸脱による製造遅延」の「逸脱」は日常あまり聞かない単語です。これは、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(通称GMP省令)」で定めた製造手順から「逸脱」しており、製造工場が承認されなかったことを意味します。「アナペイン注2mg/mL」と「アナペイン注7.5mg/mL」については「逸脱」は解決され、製造所の承認も得たとのことなので、現場の医療機関はあとは出荷が軌道に乗るのを待てばいい、ということになります。なお、日本麻酔科学会は「長時間作用性局所麻酔薬が安定供給されるまでの対応について」1)という告知で、日本産科麻酔学会は「理事長メッセージ」2)で、アナペイン注が安定供給されるまでの対応策として、使用の優先順位を策定することやほかの鎮痛方法の検討などを推奨しています。もうしばらくは、学会の提言に従って麻酔薬を使うしかなさそうです。麻酔科学会が配信バラエティ番組で安易にプロポフォールが使われたことを強く非難ところで、日本麻酔科学会は「アナペイン注7.5mg/mL」の製造所追加の承認取得を同学会のサイトで会員に伝えた同じ10月16日、別件の興味深い理事長声明を出しています。「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」と題されたその声明3)は、「10月14日配信開始の番組において、 プロポフォールが内視鏡クリニックを舞台に使用され、何らかの外科的処置を必要としない人物を意図的に朦朧状態にするという内容が含まれていることを知り、深い憂慮を抱いております」として、配信されたバラエティ番組で芸能人に対して安易にプロポフォールが使われたことを強く非難してしています。調べてみると、麻酔科学会が問題視したのは、Amazon Prime Videoで10月14日から配信が始まった番組「KILLAH KUTS(キラーカッツ)」中の1エピソード、「EPISODE2 麻酔ダイイングメッセージ」でした(この項続く)。参考1)長時間作用性局所麻酔薬が安定供給されるまでの対応について/日本麻酔科学会2)理事長メッセージ/日本産科麻酔学会3)静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について/日本麻酔科学会

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高用量ベンゾジアゼピン使用の特徴とは

 フィンランド・トゥルク大学のHanna Sarkila氏らは、新たにベンゾジアゼピン(BZD)を使用した患者におけるBZDの高用量使用と関連する社会人口学的および臨床的要因を調査した。BJPsych Open誌2024年9月23日号の報告。 対象は、2004〜05年にBZD未使用で、2006年に使用を開始した18〜65歳の新規BZD使用患者。フォローアップ期間は、5年または死亡までとした。BZDの用量は、PR E2DUP法に基づき、開始後6ヵ月ごとに1日当たりの定義済み1日用量(DDD)とし、ポイント推定値を算出した。用量カテゴリーに関連する社会人口学的および臨床的要因は、多項ロジスティック回帰を用いて調査した。 主な結果は以下のとおり。・5年間のフォローアップ期間中、BZDの超高用量使用(ジアゼパム換算量30mg以上)率は7.4%(3,557例)、中程度の高用量使用(ジアゼパム換算量10〜29mg)率は25.5%(1万2,266例)であった。・超高用量使用は、女性(4.6%)よりも男性(10.9%)で多く認められた。・超高用量使用パターンは、とくに若年層(18〜25歳)で多かった。・クロナゼパム(調整オッズ比[aOR]:3.86、95%信頼区間[CI]:3.24〜4.60)、ジアゼパム(aOR:2.05、95%CI:1.78〜2.36)、アルプラゾラム(aOR:1.76、95%CI:1.52〜2.03)で治療を開始すると、oxazepamで開始した場合と比較し、超高用量使用のオッズ比が上昇した。・中程度の高用量および超高用量によるBZD使用は、教育レベルの低さと関連が認められた。・全体として、超高用量使用の58%は、一般開業医で最初に処方されたBZD使用患者でみられた。 著者らは「クロナゼパム、ジアゼパム、アルプラゾラムを処方する場合には、用量増加リスクに注意する必要がある」と結論付けている。

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ついに始まったTAV in TAV、見えてきた課題と新アプリの役割/日本心不全学会

 大動脈弁狭窄症(AS)の非侵襲的治療としてカテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)が日本で使用されるようになり、今年で11年目を迎える。従来TAVIの適応は80歳以上の高齢者や、バイパス術などの開胸術の既往を有するなどの高リスク症例が対象であったが、低リスク症例への適応拡大や世界的に平均寿命が延伸する昨今、弁機能不全を呈して再治療を必要とする患者が増加傾向にある。2023年には再治療の選択肢として本邦でもSAPIEN3(以下、S3)によるTAV in TAV(現在はS3 in S3に限定)が承認されたことで、TAV in TAVの課題理解は急務とも言える。一方で、外科的大動脈弁置換術(SAVR)の時点でも、将来のTAV in SAVの可能性を踏まえた弁選択が問われるところである。 今回、Redo TAVアプリ1)の開発に携わった岡田 厚氏(国立循環器病研究センター心不全・移植部門/Minneapolis Heart Institute Foundation, Valve Science Center)が『ついに始まったTAV in TAV~見えてきた新たな課題とRedo-TAVアプリの役割~』と題し、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のシンポジウムで、現状の課題と解決策について解説した。見えてきた2つの課題 一見簡単そうに見えるTAV in TAVだが、実際の症例を目の当たりにした同氏には2つの課題(Feasibility[実現可能性]、planningの複雑性)が見えてきたという。1つ目の課題である “安全に施行できる可能性”について、S3 in S3あるいはEvolut in S3は57~70%、S3 in EvolutあるいはEvolut in Evolutでは18~77%と報告2-7)されており、「以前にTAVIを受けた患者さんのうち約20~30%にはTAV in TAVが行えない可能性」に直面していると同氏はコメントした。また、2つ目の課題については、「TAV in SAVと比べると、TAV in TAVでは弁のデザインがさまざまで、留置の深さが症例ごとに異なる、in vitroとin vivoでは形や広がり方が異なる、組み合わせごとにプランニングが変わる」などを指摘し、TAV in TAV時に冠動脈血流へのリスクを理解するためには「透視で見えないLeaflet/Skirtの挙動を十分考える必要があるなど、入念なプランニングを要する」と同氏は説明した。新たな言葉がさまざま登場 また、TAV in TAVを安全に施行可能かFeasibilityの評価を行うためには、以下に示す新たな用語や概念を押さえておく必要もあり、その一部を以下に示す。◯Neoskirt/Neoskirt plane TAV in TAV後、1つ目の弁のLeafletが”pinned open”されることによって形成される、血流もカテも通らない筒状の構造物。Tube graftと表現されることもある。冠動脈血流との干渉を評価するために必須で、弁の組み合わせごとにNeoskirtの高さ(Neoskirt plane)は変わり、Feasibility評価の肝となる。◯Leaflet overhang 主にShort in Tallの組み合わせ(主にS3 in Evolut)で起きうる現象。Leafletがsecond TAVの上に乗り出した状態。ベンチテストでは弁機能への影響は少ないとされているが、実臨床でのデータはまだ十分ではない。◯Sinus sequestration Sequestrationという単語は隔離・没収を意味し、Neoskirt planeがsinotubular junction(STJ)より上になり、かつVTSTJ(後述で説明)が短い場合に、Valsalva洞全体の血流が途絶する現象。◯VTSTJ Neoskirt(もしくは弁)からSTJまでの距離。Sinus sequestrationのリスク評価の際には、冠動脈入口部との距離(VTC)ではなく、VTSTJが重要となる。 TAV in TAVが安全に施行可能か評価するためには、上記のような比較的新しい用語・概念の理解が必要であり、Redo TAVアプリ内には、用語の解説や実例などの教育的コンテンツもふんだんに含まれていると紹介した。新しい「Redo TAVアプリ」コンテンツの活用 今年にTAV in TAVに関する情報をまとめたRedo TAVアプリが追加され、Vinayak N. Bapat氏らのチームにより作成された4作目のアプリとなった。その中でも本アプリの特徴として、「Procedure guideセクションには手技動画や注意点に加え、メーカーの垣根を超えて各TAVI弁の情報を集約している。CT Planningセクションではあらゆる弁の組み合わせに対応したシステマティックなリスク評価が可能で、最後のStepで解剖学的な位置関係とリスクが一目でSummarizeされるように仕上がっている」と、1つのアプリで情報収集から手技のシミュレーションまで一貫してできる点を説明した。 最後に、同氏は「今後は、初回のTAVI治療の前から、将来の再治療(TAV in TAV)の可能性まで視野に入れた大動脈弁疾患のLifetime managementが重要となる」と発表を締めくくった。■参考1)Minneapolis Heart Institute Foundation:Digital Apps for Physicians2)Okada A, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2024;17:e013903.3)Fukui M, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2023;16:e013497.4)Miyawaki N, et al. JACC Asia. 2024;4:25-39. 5)Kawamura A, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2024;168:76-85.6)Ochiai T, et al. JACC Interv. 2023;16:1192-1204.7)Ishizu K, et al. Am J Cardiol. 2022;165:72-80.

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発作性夜間ヘモグロビン尿症に経口治療薬が登場/ノバルティス

 ノバルティス ファーマは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の単剤経口薬イプタコパン(商品名:ファビハルタ)の発売と適正使用の推進に向けて都内でメディアセミナーを開催した。 PNHは、後天性の遺伝子異常により赤血球が補体の攻撃を受けやすくなるまれな血液疾患。わが国には約1,000例程度の患者が推定されている。進行は緩徐であるが、溶血発作を繰り返すことで血栓症や造血不全になることもあり、脳卒中や臓器障害といった重篤な合併症を引き起こすリスクがある。 イプタコパンは、新たな作用機序により、現在使われている補体C5阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られないPNH患者のヘモグロビン(Hb)値とQOLを改善する単剤で使用できる唯一の経口治療薬。血管内外の溶血を抑制し、Hb値を改善することでPNHの課題に対処するとともに、患者を輸血などの侵襲的な処置を伴う治療から解放する有効な治療選択肢として期待されている。本セミナーでは、PNHの診療ならびに今後の治療への展望、患者の体験談などが講演された。PNHの治療と課題 はじめに「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療と課題」をテーマに西村 純一氏(大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科 招聘教授)が講演を行った。 PNHは後天性のまれな造血器疾患であり、わが国に中等症以上の指定難病の受給者証所持者が約1,000例(軽症例も含めると約2,000例は推定される)おり、年々増加している。有病率はアジア圏で高く、診断時年齢はわが国では45歳であり、性差はない。 発症は、補体活性の制御不能により引き起こされ、補体第二経路が介在することが知られている。典型的な症状として、貧血・めまい、疲労、息切れ・呼吸困難、ヘモグロビン尿症、黄疸、腹痛、嚥下困難、男性機能不全などがみられる。そして、3大徴候として「溶血、血栓症、骨髄不全」がみられ、とくに骨髄不全の有無が、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群との鑑別でのメルクマールとなる。 PNHでは、慢性溶血によりNOが枯渇し、ヘモジデリンが腎臓尿細管に沈着するために腎機能が障害される。そのためにPNH患者の64%が慢性腎臓病(CKD)であり、21%がステージ3~5であるという報告もある1)。 また、血栓症についてPNHでは、血管内溶血などにより血栓症を合併する。その多くは静脈血栓症であるが、動脈血栓症も発症し、顆粒球のクローンサイズや溶血の程度が大きいほど血栓症リスクは増加する。 PNHの診断フローチャートによれば、溶血所見を確認後、PNHを疑う場合、フローサイトメトリー検査でPNHかそうでないかを診断する。 PNHの治療については、溶血が主体か(古典的PNH)、骨髄不全が主体か(骨髄不全型PNH)で分けて考えられている。骨髄不全が主体の場合、再生不良性貧血の診療が参照となる。一方、溶血が主体の場合、重症、中等症、軽症に分けて治療が行われる。 溶血の治療では、2010年に登場した補体C5阻害薬のエクリズマブから最新の補体B因子阻害薬のイプタコパンまで数種類の治療薬が現在使用できる(ただし抗補体療法は中等症[LDH値が正常の3倍以上、年に1~2回肉眼的ヘモグロビン尿症認知、腎障害、胸痛、腹痛などの症状あり]以上が適応)。 補体C5阻害薬の使用により、血管内溶血の抑制、貧血の改善、患者のQOLの改善、血栓症の予防、ステロイドの減量・中止、抗凝固薬の減量・中止、妊娠の管理ができるなどの効果が得られる。その一方で、持続性貧血の残存2)、輸血依存、疲労感などのQOL不良、治療薬に抵抗性のある患者への対応などの課題もある。 西村氏は「PNH患者のQOL向上のために、溶血に伴う持続性貧血だけでなく、疲労の改善も今後は考える必要がある」と語り、説明を終えた。イプタコパンは貧血に伴う疲労感の改善に期待される PNHに関して、患者の生命予後は良くなったが、患者のQOLの改善は課題とされている。そこで、イプタコパンがどういう効果を及ぼすか、また、今後の治療をどう考えるかについて「国際共同第III相試験の結果から考えるPNH治療の展望」をテーマに、植田 康敬氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科 学内講師)が、イプタコパンのAPPLY-PNH試験の概要を説明した。 イプタコパンの国際共同第III相試験のAPPLY-PNH試験では、主要評価項目として、無輸血で126~168日目にHb値がベースラインから2g/dL以上増加するか、無輸血で126~168日目にHb値12g/dL以上となるかの2項目が評価された。また、副次評価項目として輸血回避、FACIT-Fatigueスコア(日常生活および機能に疲労が及ぼす影響を評価する患者報告アウトカムの指標、がん患者で頻用されている)3)のベースラインからの変化量、網状赤血球数のベースラインからの変化量などが評価された。 試験デザインとして、補体C5阻害薬投与下で貧血を呈するPNH患者97例(日本人9例を含む)について、主要評価期(24週間)にはイプタコパン群62例(日本人6例を含む)と補体C5阻害薬群35例(日本人3例を含む)に分け実施、継続投与期(24週間)には全員がイプタコパンを投与された。 その結果、血液学的奏効ではHb値の改善はイプタコパン群が82.3%だったのに対し、補体C5阻害薬では2.0%だった。また、輸血回避(無輸血)はイプタコパン群が94.8%だったのに対し、補体C5阻害薬では25.9%だった。LDH値の対ベースライン比は、イプタコパン群と補体C5阻害薬はほぼ変わらなかった。これは、血管内溶血の抑制維持を示すものとされる。 副次評価項目であるFACIT-Fatigueスコアでは、イプタコパン群が8.59だったのに対し、補体C5阻害薬では0.31だった(点数が低いほど疲労が大きい)。また、臨床的ブレイクスルー溶血の発現はイプタコパン群が2例(3.2%)だったのに対し、補体C5阻害薬では6例(17.1%)だった。 安全性面について、主な副作用として両群ともに頭痛、悪心、関節痛が報告されているが、死亡などの重篤なものは報告されなかった。 48週後の効果についてもイプタコパン群は、血液学的奏効、輸血回避も効果が持続し、FACIT-Fatigueスコアも高いまま効果が保たれ、安全面でも24週時と同様の結果だった。 植田氏は、「PNH合併症の貧血からくる疲労感が、患者のQOLや予後不良4)、認知機能に大きな影響を与えている。PNHでは貧血だけでなく、この疲労感の改善も考える必要がある。今回発売されたイプタコパンが、今後、これらの患者の疲労感の改善を促し、経口薬という身体に負担の少ない治療によりQOLが改善することを期待する」と述べ、説明を終えた。 最後にPNH患者の体験談として、「当初は15分の徒歩通勤も大変だったこと、最初のころの点滴治療がつらかったこと、現在では経口薬の治療により活動的になったことなど」が語られた。 なお、イプタコパンは、2024年6月24日に製造販売承認を取得し、同年8月15日に薬価基準収載、発売されている。効能・効果は発作性夜間ヘモグロビン尿症。用法・用量は、通常、成人に1回200mgを1日2回経口投与。薬価は7万3,218.10円となっている。

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ICU入室期間、専門医療チームによる遠隔医療vs.通常ケア/JAMA

 集中治療室(ICU)に入室した成人重症患者では、通常ケアと比較して、専門医資格を持つ集中治療医が主導し現地の集学的医療チームと行う遠隔医療による毎日の集学的回診は、ICU入室期間(ICU LOS)を短縮せず、患者レベルおよびICUレベルのアウトカムにも改善を認めないことが、ブラジル・Hospital Israelita Albert EinsteinのAdriano J. Pereira氏らが実施した「TELESCOPE試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年10月9日号で報告された。ブラジルのICUのクラスター無作為化試験 TELESCOPE試験は、ICUにおける遠隔医療が重症患者の臨床アウトカムを改善するか評価することを目的とする非盲検クラスター無作為化対照比較試験であり、2019年6月~2021年4月の期間にブラジルの30ヵ所のICUで患者を登録した(ブラジル保健省などと提携した)。 専門医資格を有する集中治療医の主導による毎日の集学的回診が日常的に行われていない30ヵ所のICUを、月~金曜日に集中治療医が主導し現地の集学的医療チームと行う遠隔医療により集学的回診を行う群(遠隔ICU群、15施設)、または通常ケアを行う群(通常ケア群、15施設)に無作為に割り付けた。遠隔ICU群では、集中治療医主導の集学的遠隔回診のほか、ICUの能力に関する指標について議論するための月1回の監査とフィードバック会議を開催し、エビデンスに基づく臨床プロトコールが提供された。 司法関連の問題がある患者を除き、参加ICUに入室したすべての成人(年齢18歳以上)患者を対象とした。 主要アウトカムは、患者レベルでのICU LOS(ICU入室から退室[他の介護施設または病院への転院]またはICUでの死亡までの期間)とした。サブグループ解析でも差はない 1万7,024例(ベースライン期間1,794例[遠隔ICU群909例、通常ケア群885例]、介入期間1万5,230例[7,471例、7,759例])を登録した。全体の平均年齢は61(SD 18)歳、44.7%が女性で、SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコア中央値は6点(四分位範囲:2~9)であり、45.5%が入室時に侵襲的機械換気を受けていた。 ベースライン評価で補正した平均ICU LOSは、遠隔ICU群が8.1(SD 10.0)日、通常ケア群は7.1(9.0)日と、両群間に有意な差を認めなかった(変化率:8.2%[95%信頼区間[CI]:-5.4~23.8]、群間差中央値:0日[-2~3]、p=0.24)。 感度分析および事前に規定されたサブグループにおいても、統計学的な有意差はみられなかった。副次アウトカムにも差はない 8項目の患者レベルの副次アウトカムにも両群間に有意差はなく、たとえば院内死亡率は遠隔ICU群が41.6%、通常ケア群は40.2%であった(オッズ比:0.93、95%CI:0.78~1.12)。また、ICUレベルの副次アウトカムにも差はなかった。 著者は、「遠隔医療の恩恵を受けるICUとはどのようなものかを含め、ICU患者のアウトカムを改善するための遠隔医療提供の最良のモデルは、いまだに定義されていない」としている。

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感染症学会ほか、コロナワクチン「高齢者の定期接種を強く推奨」

 日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会の3学会は、10月21日に「2024年新型コロナワクチン定期接種に関する見解」を共同で発表した。3学会は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザより高く、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨している。本見解は、接種を検討する際の参考となる科学的根拠を提供している。 学会の見解によると、新型コロナワクチンは、世界では2020年12月からの1年間にCOVID-19による死亡を1,440万例防ぎ1)、日本では、もし新型コロナワクチンが導入されていなかったら、2021年2~11月の期間の感染者数は報告数の13.5倍、死亡者数は36.4倍に及んでいたと推定されている2)。また、2023年秋のXBB.1.5対応ワクチンは、日本の高齢者のCOVID-19による入院を44.7%減少させた3)ことが、過去の研究より判明している。 オミクロン株はXBB.1.5、JN.1、KP.3と数ヵ月ごとに変異し、変異のたびに免疫回避力が強まっている。そのため流行を繰り返しており、今冬には再び大きな流行が予想される。このような中、日本の高齢者は若年層に比べてCOVID-19に罹ったことのない人が多く、引き続きワクチンによる免疫の獲得が重要となる。高齢者のCOVID-19の重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上 2024年の流行では、高齢者のCOVID-19による入院が増え、高齢者施設の集団感染も続いている。国の死亡統計では、5類感染症移行後1年間のCOVID-19による死亡者数は2万9,336例で、新型コロナ出現前の60歳以上のインフルエンザ年間死亡者数1万908例より多く4)、COVID-19の疾病負荷は依然として大きい状況だ。 新型コロナワクチンの発症予防効果は、ウイルスの変異の影響もあり、数ヵ月で減衰するため、流行株に対応した新たなワクチンの接種が必要となる。日本では、2024年10月からJN.1対応ワクチンが新たに使用されている。なお、現在流行しているKP.3はJN.1の派生株で、JN.1対応ワクチンはKP.3に対しても一定の効果が期待される。 毎シーズン変異を繰り返すインフルエンザウイルスに対して、毎年新しいインフルエンザワクチンが高齢者に定期接種として使用されているように、新型コロナウイルスに対しても新たな流行株に対応した新型コロナワクチンを少なくとも年に1回は接種することが必要であるという。3学会は、高齢者には新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨している。ワクチンの利益とリスクの大きさを科学に基づいて正しく比較し、接種対象者自身が信頼できる医療従事者とよく相談して、接種するかどうかを判断することが望まれるという見解を示している。5種類のJN.1対応ワクチン、有効性・安全性のエビデンスを明記 定期接種として用いられるJN.1対応ワクチンは、ファイザーの「コミナティ筋注シリンジ12歳以上用」、モデルナの「スパイクバックス筋注」、武田薬品工業の「ヌバキソビッド筋注」、第一三共の「ダイチロナ筋注」、Meiji Seika ファルマの「コスタイベ筋注用」の5種類だ。いずれも有効な免疫誘導と安全性が臨床試験で確認されている。これらのワクチンはすべて一過性の副反応があるが、臨床試験ではワクチンと関連した重篤な健康被害は認められなかった。本見解には、各ワクチンの詳細なデータが記載されている。 なお、Meiji Seika ファルマのレプリコンタイプ(自己増幅型)の次世代mRNAワクチンである「コスタイベ筋注用」については、SNSなどで科学的根拠に基づかない情報が流布し、一部の人から強い懸念の声が挙がっている。この状況に対して本見解では、「自己増幅されるのはスパイクタンパク質のmRNAだけであり、感染力のあるウイルスや複製可能なベクターはコスタイベに含まれていません。また、被接種者が周囲の人に感染させるリスク(シェディング)はありません」と、安全性を裏付けるデータとともに提示している。■参考日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本ワクチン学会:2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(概要版)1)Watson OJ, et al. Lancet Infect Dis. 2022;22:1293-1302.2)Kayano T, et al. Sci Rep. 2023;13:17762.3)長崎大学熱帯医学研究所. 新型コロナワクチンの有効性に関する研究(VERSUS study)〜国内多施設共同症例対照研究〜. 第11報.4)Noda T, et al. Ann Clin Epidemiol. 2022;4:129-132.

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GLP-1受容体作動薬が消化管の内視鏡検査に影響か

 上部消化管内視鏡検査(以下、胃カメラ)や大腸内視鏡検査では、患者の胃の中に食べ物が残っていたり腸の中に便が残っていたりすると、医師が首尾よく検査を進められなくなる可能性がある。新たな研究で、患者がオゼンピックやウゴービといった人気の新規肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬)を使用している場合、このような事態に陥る可能性の高くなることが明らかになった。米シダーズ・サイナイ病院の内分泌学者で消化器研究者のRuchi Mathur氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。 GLP-1受容体作動薬には胃残留物の排出を遅延させる作用があり、便秘を引き起こすこともある。このため、この薬の使用者では、全身麻酔を必要とする処置を受ける際に食べ物を「誤嚥」するリスクが増加する可能性のあることが指摘されている。Mathur氏らは、GLP-1受容体作動薬使用者では消化管に残留物が見られることがあり、それが内視鏡検査で鮮明な画像を得る上で障害になる可能性があると考えた。 そこでMathur氏らは、2023年1月1日から6月28日の間に胃カメラか大腸内視鏡検査、またはその両方を受けた過体重または肥満の患者209人のデータを後ろ向きに解析した。209人中70人がGLP-1受容体作動薬使用者(GLP-1群、平均年齢62.7歳、女性36人)、残りの139人は非使用者(対照群、平均年齢62.7歳、女性36人)であった。胃カメラのみを受けたのはGLP-1群23人、対照群46人、大腸内視鏡検査のみを受けたのはGLP-1群23人、対照群45人、両方の検査を受けたのはGLP-1群24人、対照群48人だった。 胃カメラのみを受けた対象者のうち胃残留物が認められた者の割合は、GLP-1群で17.4%(4人)であった。これに対し、対照群と、胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者で、胃残留物が認められた対象者はいなかった。 また、大腸内視鏡検査または胃カメラと大腸内視鏡検査の両方を受けた患者のうち、「腸管の準備が不十分」(便が残存しているなど腸管洗浄が不十分な状態)であった者の割合は、GLP-1群で21.3%(10/47人)に上ったのに対し、対照群では6.5%(6/93人)であった。 ただし、研究グループは良い知らせとして、GLP-1受容体作動薬使用の有無に関係なく、対象患者において誤嚥、呼吸困難、誤嚥性肺炎は発生しなかったことを挙げている。 それでも研究グループは、「胃や腸に食物や便が残留するリスクの上昇は憂慮すべきことだ」と注意を促す。なぜなら、そのような状態での内視鏡検査は、「病変の見逃しや患者の不満、処置のキャンセル、医療資源の浪費といった重大なリスク」をもたらすからだという。 研究グループは、「本研究結果は、内視鏡検査前のGLP-1受容体作動薬の使用に関するガイドラインの更新が必要かどうかを判断するために、さらなる研究が必要であることを示唆するものだ」との見方を示している。

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頬の内側の細胞を使った検査で寿命の予測が可能に?

 頬の内側を軽くこすって採取した口腔粘膜細胞を利用するCheekAgeと呼ばれる検査によって、寿命を予測できるようになる可能性があるとする研究結果が報告された。米ニューヨークの企業であるTally Health社とウェルカム・トラストの助成を受けて、Tally Health社計算生物学・データサイエンス部門の部門長であるMaxim Shokhirev氏らが実施したこの研究の詳細は、「Frontiers in Aging」10月1日号に掲載された。 CheekAge検査は「エピジェネティック・クロック」の一種で、頬の内側をこすって採取した細胞に含まれる特定のDNAメチル化の分析により、生涯を通じた環境や生活習慣が遺伝子の機能に影響を与える仕組み(エピジェネティクス)を調べるものである。DNAのメチル化は、エピジェネティクスの重要なメカニズムであり、遺伝子の塩基配列を変えることなくその働きに影響を与えるDNA領域での分子変化のことをいう。 この検査を開発しているTally Health社の研究者らによると、本研究では、DNAの特定のメチル化パターンは余命に関連している可能性が示されたという。Shokhirev氏は、「特定のメチル化の部位がこの関連に特に重要であり、特定の遺伝子やプロセスが、われわれのエピジェネティック・クロックで予測された死亡率と潜在的に関連している可能性のあることが明らかになった」と説明している。 Shokhirev氏らの研究は、英エジンバラ大学のロージアン出生コホート(Lothian Birth Cohorts)プログラムのデータに基づいたもの。このプログラムでは、1921年から1936年の間に生まれた1,513人(男性712人、女性801人)のスコットランド人の生活習慣、遺伝的特徴、健康状態を追跡している。研究参加者は3年ごとに血液細胞を用いたDNAメチル化の検査を受けた。検査では、参加者のゲノム上のおよそ45万カ所のメチル化の部位が分析された。最後に取得された参加者のメチル化データと死亡状況を組み合わせて、CheekAgeと死亡リスクの関連を評価した。 その結果、CheekAgeは縦断的データセットにおいて死亡率と有意に関連し、CheekAgeが1標準偏差上昇するごとに全死亡リスクが21%上昇することが示された。CheekAgeのパフォーマンスは、本研究で比較のためにテストした、血液データなどのデータセットで訓練された第一世代のどのクロックよりも優れていたという。 現在の標準的なエピジェネティクスの検査は血液ベースであるが、当然のことながら、血液を採取するよりも頬の内側を拭うだけのシンプルな検査の方が、患者にとっては抵抗が少ない。 Shokhirev氏らはまた、人がいつ死ぬかに関して最も重要な鍵を握っていると考えられるメチル化の部位についても検討した。その結果、そのような遺伝子部位はPDZRN4とALPK2で、前者はがんの抑制に、後者はがんと心臓の健康に関係していると考えられた。そのほかのメチル化部位は、骨粗鬆症や炎症、メタボリックシンドロームと関係しているという。 Shokhirev氏は、「今回の研究結果を踏まえれば、CheekAgeは血液検査の結果と一致しているようだ」と話す。同氏は、「頬の内側の細胞で訓練されたわれわれのエピジェネティック・クロックが、血液細胞のメチル化パターンを測定した際の死亡率を予測するという事実は、組織間で共通の死亡シグナルが存在することを示唆している。このことは、シンプルで非侵襲的な頬の粘膜を採取するこの検査が、老化の生物学的な仕組みの研究や調査における貴重な代替手段になり得ることを示唆している」と述べている。

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脳刺激療法で頭部外傷後の手や腕の機能が回復か

 脳卒中や外傷性脳損傷(TBI)で手や腕の機能を失った患者に対し、脳深部刺激療法(DBS)を施行することで一部の機能が回復する可能性のあることが、米ピッツバーグ大学物理療法学助教のElvira Pirondini氏らの研究で示された。この研究結果は、「Nature Communications」に10月1日掲載された。 DBSは、手術で脳に電極を植え込み、特定の活動を制御している脳領域に電気信号を送って刺激を与える治療法で、パーキンソン病による運動障害の治療目的で施行されることが多い。Pirondini氏は、「腕や手の麻痺は、世界の何百万人もの人々の生活の質(QOL)に大きな影響を与えている。現在、脳卒中やTBIを経験した患者に対する効果的な解決策はないが、脳を刺激して上肢の運動機能を改善するニューロテクノロジーへの関心が高まりつつある」と説明する。 脳損傷は、随意運動の制御に不可欠な脳領域である運動皮質と筋肉との間の神経接続を障害する可能性がある。これらの接続が弱まると、筋肉の効果的な活性化が妨げられ、腕や手の部分麻痺や完全麻痺などの運動障害が生じる。研究グループは、弱まった神経の接続を活性化させるためにはDBSが有効ではないかと考えた。DBSは、過去数十年にわたり、パーキンソン病などの神経疾患の治療に革命をもたらしてきた。 Pirondini氏らは、脳卒中患者の腕の機能を回復するために脊髄の電気刺激を使用して成功したピッツバーグ大学の別のプロジェクトからヒントを得て、運動制御の重要な中継ハブとして機能する運動性視床核と呼ばれる部分をDBSで刺激すると、物をつかむなど日常生活に不可欠な動作を回復できるのではないかとの仮説を立てた。 ただ、この脳領域へのDBSが実際に行われたことがなかったため、まずサルにDBSを施行する実験を行った。サルは人間と同様に、運動皮質と筋肉が神経経路を通じて連携しているため、実験対象として適当と考えられたのだという。その結果、刺激を加え始めるとすぐにサルの筋肉の活動性と握力が著しく改善することが確認された。不随意運動は認められなかった。 そこで、両腕に高度の麻痺をもたらした脳損傷に起因する腕の震えを改善する目的で、DBSの植え込み手術を予定していた人間のボランティアを対象に、サルの実験のときと同じ設定でDBSを行った。その結果、研究参加者にDBSの刺激を加えると、コップを取ろうと手を伸ばす、つかむ、持ち上げるといった動作を、刺激を加えなかった場合よりも効率的かつスムーズに行えるようになることが示され、人間でもDBSにより運動の範囲や強度が改善することが確認された。 論文の共著者でピッツバーグ大学てんかん・運動障害プログラムのJorge Gonzalez-Martinez氏は、「DBSは多くの患者にとって人生を変える治療法となってきた。DBSは世界中の数百万人もの人々に新たな希望を与える治療法だ」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 Gonzalez-Martinez氏らの研究グループは現在、DBSの長期的な効果を検証し、刺激を継続することでTBIまたは脳卒中の患者の腕や手の機能をさらに改善できるかどうかを確かめるための研究を行っている。

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後発品ロードマップが改訂、新目標は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第140回

後発医薬品の使用促進が新たなフェーズに入ったようです。2013年に策定された「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」が改訂され、名称も「安定供給の確保を基本として、後発医薬品を適切に使用していくためのロードマップ」と変更されました。厚生労働省は9月30日、さらなる後発品使用促進に向けた「ロードマップ」改訂版を発表した。数値目標についてはこれまで示してきた内容を記載。29年度末までに全都道府県で数量シェア80%以上を確保し、23年時点で56.7%だった金額シェアは65%以上に引き上げる。バイオシミラー(BS)も数量80%を占める成分数を、全体の60%以上にする。(2024年10月1日付 RISFAX)先発医薬品から後発医薬品に替えて後発医薬品の数量を増やそう! という2005年ごろのイケイケドンドンの時期は過ぎ、昨今の後発医薬品の流通状況やそれに関連する医療機関の対応などを踏まえて、今回のロードマップの名称変更に至ったのだろうと推察します。現状で使用促進だけを推奨すると各所からクレームが出るであろうという配慮もあるかもしれません。大きな変更として、新たにバイオ後続品(バイオシミラー)の使用促進を目的とした数量目標が設定されたことが挙げられます。ここで少しだけ、ロードマップと後発医薬品の今までの歩みについて触れたいと思います。さかのぼること17年ほど前の2007年6月、政府は医療費削減を目的とし、後発医薬品の数量シェアを2012年度までに30%以上にするという目標を閣議決定しました。厚生労働省は、2007年10月に「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」を策定し、患者さんや医療者が安心して後発医薬品を選択することができるよう取り組みましたが、その数値目標は未達成となりました。この状況を打破するべく、社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)で「後発医薬品のロードマップ」が策定され、診療報酬上の評価、患者さんへの情報提供、処方箋様式の変更、医療関係書の信頼性向上のための品質確保など、総合的な使用促進が図られました。その後もロードマップはそのときの状況に応じて細かな改訂を重ねてきています。バイオシミラーの数値が副次目標に今回の新目標では、がんなどの成長領域かつ高額な分野の医療費抑制で効果が高いと考えられる先行バイオ医薬品からバイオシミラーへの置き換えを促すために、バイオシミラーの数値目標も副次目標として設定されました。これを踏まえ、ロードマップの別添として、「バイオ後続品の使用促進のための取組方針」も策定されています。なお、数値目標は主目標として、医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品の数量シェアを2029年度末までにすべての都道府県で80%以上(旧ロードマップから継続)にするとあります。副次目標1は2029年度末までにバイオシミラーが80%以上を占める成分数を全体の60%以上にすると設定され、副次目標2は後発医薬品の金額シェアを2029年度末までに65%以上にすると設定されました。バイオシミラーに関しては、高額療養費制度の対象となることで患者さんが使用メリットを実感できないケースもあることなどから、今後の使用促進に向けて2024年10月スタートの長期収載品の選定療養を参考にしつつ「保険給付のあり方について検討を行う」方針であるとも付け加えられています。今回改訂されたロードマップには「2026年度末を目途に状況を点検し必要に応じ目標も在り方を検討」と記載があるので約2年の間にどの程度進んだのかを確認されるのでしょう。今年10月から長期収載品の選定療養が始まり、後発医薬品の使用はすでに増えているようですが、一方で安定供給への不安は払しょくされていません。今後、市場のニーズに応えられるだけの後発医薬品が供給されるのかという点が目標達成のポイントになると思われます。

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英語で「異なるケアレベルに移行する」は?【1分★医療英語】第153回

第153回 英語で「異なるケアレベルに移行する」は?《例文1》The patient has stabilized, so we are transitioning him to an alternate level of care.(患者の状態が安定したので、異なるケアレベルに移行します)《例文2》We need to discuss an ALOC option for Mrs. Johnson as she no longer requires acute hospital care.(ジョンソン夫人はもはや急性期の入院治療を必要としないので、ALOCの選択肢について話し合う必要があります)《解説》“We are transitioning him/her to an alternate level of care.”という表現は、患者のケアレベルを変更する際に使用される医療用語です。この文脈での“alternate level of care”とは、「現在の治療レベルとは異なる、より適切なケアレベルへの移行」を意味します。急性期病院でこの言葉を使う場合は、「患者が安定し、急性期治療が必要な状態を脱したために退院を待つフェーズに入った」ことを意味します。“alternate level of care”は略して“ALOC”とも呼ばれます。この概念は、患者の医療ニーズに適したケアを提供し、医療資源を効率的に利用するために、病院システム内で患者のケアレベルを適切に変更することを目的としています。“ALOC”は、急性期病院から亜急性期施設、リハビリテーション施設、長期療養型施設、在宅ケアなど、さまざまなレベルのケアへの変更を意味する可能性がありますが、一般的には急性期病院内で退院待機の間にケアのレベルを下げ、1日おきに診療するようなレベルへの変更を意図する際に用いられます。日本ではあまりなじみがないものかもしれません。医療現場では、患者の状態や利用可能な医療資源に応じて、適切なケアレベルを選択することが重要です。“alternate level of care”や“ALOC”を適切に使用することで、より効果的な患者ケアとリソース管理が可能になります。米国の臨床現場ではよく耳にする言葉として紹介しました。講師紹介

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スタチンが必要、でも継続できない患者の対処法【脂質異常症診療Q&A】第22回

スタチンが必要、でも継続できない患者の対処法Q22LDL-C 220mg/dLなのでスタチンでの治療を試みていますが、どのスタチンを投与してもLDL-Cはあまり下がりませんし、さらにどのスタチンでもCKが800~1,200U/Lに上昇するので、スタチンを継続できません。どのように対応すればよいでしょうか?

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関節炎を診るときの鑑別診断【1分間で学べる感染症】第13回

画像を拡大するTake home message関節炎を診る際には「急性・慢性」「単関節・多関節」の組み合わせで4つにカテゴリー分けをしたうえで診断を進める。皆さんは関節炎を訴える患者さんを診る際、どのように問診や検査を進めていきますか?今回は、関節炎をカテゴリーに分けてその特徴を学んでいきましょう。関節炎は、その臨床経過や関与する関節の数に基づいて分類され、この分類結果が診断や治療の方針決定に役立ちます。具体的には「急性」か「慢性」か、1つの関節だけに起こる「単関節炎」か、多くの関節に起こる「多関節炎」か、これらの組み合わせで4つのカテゴリーに分類します。I. 急性単関節炎急性単関節炎では、主な原因として細菌性関節炎、結晶誘発性関節炎、外傷性関節炎が考えられます。【細菌性関節炎】細菌性関節炎には非淋菌性と淋菌性があり、非淋菌性関節炎の原因菌としては一般的に黄色ブドウ球菌が最多で、それにβ溶血性連鎖球菌が続きます。また、頻度は高くないものの、高齢者や免疫抑制患者ではグラム陰性桿菌も考えられます。一方、淋菌性関節炎は性行為を介して感染し、移動性の関節痛がみられることが特徴です。【結晶誘発性関節炎】臨床上、細菌性と判断が難しいケースが多いです。痛風と偽痛風があり、偽痛風は、ピロリン酸カルシウムが関節に沈着し炎症を引き起こし、高齢者に多い傾向があります。【外傷性関節炎】外傷や過度の運動によるもの。このほかの急性単関節炎の鑑別としては、反応性関節炎や急性多関節炎の初期段階などが挙げられます。II. 急性多関節炎急性多関節炎では、主な原因として細菌性関節炎、ウイルス性関節炎が考えられます。【細菌性関節炎】感染性心内膜炎を含めた全身性の血行性感染や淋菌性関節炎などが含まれます。感染性心内膜炎は歯科治療歴や心雑音などを診断の手掛かりとします。また、淋菌性関節炎ではリスクのある性交渉歴がポイントとなります。全例ではないものの、移動性の関節痛がみられるのも特徴です。【ウイルス性関節炎】インフルエンザやCOVID-19などを含めた呼吸器感染症のほか、ヒトパルボウイルスB19感染では皮疹や小児との接触歴が重要な診断の手掛かりです。とくに急性HIV感染症はリスクが高く、早期の診断が重要です。また、肝炎ウイルスによるものも報告されており、輸血歴や性交渉歴、刺青がリスクファクターとして挙げられます。このほかの急性多関節炎の鑑別としては、慢性多関節炎の初期段階などが挙げられます。III. 慢性単関節炎慢性単関節炎では、まれであるものの抗酸菌性関節炎や大腿骨頭壊死、悪性腫瘍などが鑑別診断として考えられます。MRIによる画像診断やそのほかのリスクを考慮する必要があります。このほかに、慢性多関節炎の早期段階などが挙げられます。IV. 慢性多関節炎慢性多関節炎では、関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)、リウマチ性多発筋痛症を含めた自己免疫疾患をまず検討します。ほかには変形性関節症などが鑑別診断として挙げられます。そのほかの症状や身体所見、家族歴、各種スクリーニング検査などを総合的に判断し診断を進める必要があります。これらの4つのカテゴリーを大まかに理解しながら、さらなる追加問診や該当関節以外の身体所見を加えて、診断のための次なる検査をスムーズに進めていくようにしましょう。1)Earwood JS, et al. Am Fam Physician. 2021;104:589-597.2)Horowitz DL, et al. Am Fam Physician. 2011;84:653-660.3)McBride S, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:271-279.4)Lin WT, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2017;50:527-531.

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嚥下障害診療ガイドライン 2024年版[Web動画付] 第4版

6年ぶり大改訂で解説もCQも大幅アップデートの最新版登場!アルゴリズム、総論・CQなど、全編にわたって大改訂されました。総論には嚥下圧検査の解説が追加され、臨床実践のブラッシュアップが期待できます。CQは全13項目設定され、呼吸筋訓練、神経筋電気刺激療法、栄養管理などの近年の臨床課題にも対応しています。また、特設サイトで嚥下内視鏡検査・造影検査の動画を視聴でき、より実践に近い形で学ぶことができます。総合的かつ実践的なガイドラインとして進化し続けています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する嚥下障害診療ガイドライン 2024年版[Web動画付] 第4版定価3,960円(税込)判型B5判頁数108頁発行2024年9月編集日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会ご購入はこちらご購入はこちら

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第237回 血糖値に応じて働くか休む“スマート”インスリンを開発

血糖値に応じて働くか休む“スマート”インスリンを開発血中のブドウ糖濃度(血糖値)に応じて自ずと働くか休む賢いインスリンをNovo Nordiskの研究チームが開発し、低血糖を引き起こすことなく血糖値をほどよく下げうることがブタへの投与実験で確認されました1)。低血糖は糖尿病のイスリン治療の難題の1つです。ひとたび投与したインスリンはたとえ血糖値が正常化しても働き続け、血糖値を危険水準まで下げてしまう恐れがあります。それゆえインスリン投与量は血糖値を正常域にする範囲を超えないように調節する必要があります。しかし絶えず変化する血糖値にインスリン用量を合わせるのは難儀で、必要量よりちょっとばかり多めに投与しただけで低血糖が生じる恐れがあります。低血糖は軽~中等度でも不安、脱力、混乱などを招き、ひどければ意識消失や発作などの重症症状を引き起こし、最悪の場合死に至りさえします。低血糖を避けるために多くの糖尿病患者はインスリン用量を控えめにします。そうすると今度は血糖値が十分に下がらず、高血糖が続くことに起因する合併症が生じ易くなります。“素”のインスリンを使うのではなく、血糖値の変化に応じる仕組みを備えたインスリン治療なら低血糖の心配なく血糖値をよい頃合いに保てそうです。そのような付加価値付きのインスリンを作る試みは結構長い歴史があり、1970年代から続いています1)。血糖値上昇に応じてインスリンを放出する皮下投与ポリマーの開発がそういう取り組みのこれまでの主流でした。しかし糖が皮下に行き着くまでや皮下から血中へのインスリンの到達はより時間を要し、時宜にかなわないという欠点があります。それに、インスリンは皮下から一方的に放出されるのみで、ひとたび放出されたインスリンはもはや糖に応じることはなく働き続けるのみです。そこでNovo Nordiskはインスリンの放出をどうにかするのではなく、ブドウ糖に反応する仕組みを備えた賢いインスリンの開発に取り組み、その有望な成果を先週16日のNature誌の報告で披露しました。Novo Nordiskが開発した賢いインスリンはNNC2215と呼ばれ、血糖値に応じて働くか休むかが切り替わります。その切り替え機能はインスリン本体の両端についた2つの分子が担います。その1つはブドウ糖から生じる分子・グルコシドです。もう1つは大環状分子(macrocycle)で、その名のとおりいわばドーナツに似た環状構造をしています。血糖値が低いとグルコシドが大環状分子に収まってインスリンを不活性な状態に保ちます。一方、血糖値が高いとグルコシドではなくブドウ糖が大環状分子に収まり、インスリンは開放状態となって働けるようになります。ブタやラットで調べたところNNC2215の血糖値を下げる効果が認められました。特筆すべきことにブタへの投与実験では目下のインスリン治療で生じるような低血糖をどうやら生じずに済むらしいことが示されました。ただし、検討されたのは糖尿病患者の典型的な血糖値より広いブドウ糖濃度範囲でのNNC2215の活性です2)。今後の課題としてより狭い濃度範囲でのNNC2215の働きを調べる必要があります。また、安全性の検討も必要ですし、実用化されたとしてどれくらいの値段になるかも気になるところです。NNC2215の想定どおりの働きが示されて一安心とはいえまだ先は長く、Novo NordiskはNNC2215の最適化に取り組んでいます2)。参考1)Hoeg-Jensen T, et al. Nature. 2024 October 16. [Epub ahead of print]2)Smart insulin switches itself off in response to low blood sugar / Nature

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インフルワクチンの日本人の心不全に対する影響~PARALLEL-HF試験サブ解析/日本心不全学会

 呼吸器感染症に代表されるインフルエンザ感染は、心筋へウイルスが移行する直接作用、炎症惹起性サイトカイン放出による全身反応などによって心血管障害を及ぼす。また、プラークの不安定化、炎症による心拍数の不安定化への影響なども報告されているが、海外研究であるPARADIGM-HF試験1)が検証したところによると、インフルエンザワクチン接種が心不全患者の死亡リスク低下と関連する可能性を示唆している。 そこで筒井 裕之氏(国際医療福祉大学大学院 副大学院長)らはPARADIGM-HF試験に準じて行われた国内でのPARALLEL-HF試験2)の後付けサブ解析として『国内心不全患者のインフルエンザワクチン接種と心血管イベントの関連性』について検証、10月4~6日に開催された第28回日本心不全学会学術集会のLate breaking sessionで報告した。なお、本研究はCirculation reports誌2024年9月10日号に掲載3)された。 本研究は、日本国内の左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)に対するサクビトリルバルサルタンの臨床試験であるPARALLEL-HF試験に登録された患者について、インフルエンザワクチンの接種率ならびに心血管イベントとの関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者223例のうち97例(43%)がインフルエンザワクチン接種を受けていた。・ワクチン接種群を非接種群と比較した場合の特徴として、高齢、BMI・収縮期血圧・eGFR低値があった。また、NYHA、LVEF、NT-proBNP、薬物治療について有意差はみられなかった。・ワクチン接種群の全死亡(調整ハザード比[HR])は0.83(95%信頼区間[CI]:0.41~1.68)、心肺またはインフルエンザに関連した入院/死亡は調整HRが0.80(95%CI:0.52~1.22)と低い傾向がみられた。・研究限界として、解析対象者が少数、ワクチン接種と予後との関連を解析している、ワクチンの詳細情報(種類、接種回数など)不十分などがあった。 日米欧の各診療ガイドラインでは“肺炎は心不全の増悪因子の1つ”と記されており、「日本国内では感染予防のため(クラスI、エビデンスレベルA)、米国では死亡率低下のためにreasonableである(クラスIIa、エビデンスレベルB)、欧州では心不全死亡低下のために[肺炎球菌ワクチンなども含めて]should be considered(クラスIIa、エビデンスレベルB)と推奨が記されている。接種目的は各国で異なるが欧米諸国の接種率は高い」と説明した。日本における心不全患者のインフルエンザワクチン接種率は国内の全体接種率が55.7%であることを見ても、低い傾向にあることが本研究より明らかになった。これを踏まえ、同氏は「本結果は海外のPARADIGM-HF試験のサブ解析と同様の結果を示した。現在、国内のHFrEF患者のインフルエンザワクチン接種率は不十分であるが、ワクチン接種による臨床的利益が期待できることが示された」と述べ、「ワクチン接種を推奨する医療の役割分担が不明瞭(かかりつけ医/一般内科/循環器専門医、クリニック/病院などの連携の必要性)、副反応による懸念、広報が不十分などの解決が喫緊の課題」と締めくくった。

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子供がコロナで入院すると子供も親も精神衛生に影響/国立成育医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連するスティグマは、抑うつ、不安、孤独感などの心身の苦痛を引き起こすことが世界的な問題となっている。しかし、COVID-19のスティグマと、それに関連する子供や親のメンタルヘルスへの影響を調査した研究はほとんどないのが現状である。 国立成育医療研究センター総合診療部の飯島 弘之氏らの研究グループは、COVID-19に感染した子供とその親に対して、COVID-19に関わるスティグマ(患者に対する「差別」や「偏見」)と、メンタルヘルスへの影響について調査を実施した。その結果、主観的スティグマがある子供と推定スティグマがある親は、1ヵ月後もメンタルヘルスにネガティブな影響がみられた。本研究結果は、Pediatrics International誌2024年1~12月号に掲載された。COVID-19に感染した親子は1ヵ月後も精神衛生に影響 対象は2021年11月~2022年10月までにCOVID-19に感染し、国立成育医療研究センターに入院した4~17歳の子供および0~17歳の子供の親。COVID-19に関わるスティグマとメンタルヘルス(抑うつ、不安、孤独感)に関する質問票調査を実施した。 対象者は47例の子供と111例の親で、そのうち入院中の調査では子供43例(91%)と親109例(98%)が質問票に回答し、1ヵ月後の追跡調査では、それぞれ38例(81%)と105例(95%)が回答した。 スティグマについては、隠ぺいスティグマ(ここでは覆い隠すことによって偏見や差別を回避しようとするスティグマのことを指す)と回避スティグマ(ここでは個人や集団が感染を回避しようとするスティグマのことを指す)についてそれぞれに、主観的スティグマと推定スティグマを確認するアプローチを採用した。メンタルヘルスを評価する質問として、抑うつ、不安、孤独について調査した。 主な結果は以下のとおり。【スティグマの保有】・入院中の調査では、COVID-19に感染した子供の79%、親の68%が高スティグマに該当し、1ヵ月後の調査でも、子供の66%、親の64%が高スティグマに該当していた。・推定スティグマの方が、主観的スティグマよりも、高スティグマグループの割合が高くなっていた。【メンタルヘルスへの影響】・子供の抑うつと孤独感、親の抑うつと不安は、いずれも、入院中と比べ、1ヵ月後の追跡調査で有意に低下していた。しかし、次のとおり、主観的スティグマがある子供と推定スティグマがある親においては、1ヵ月後においても、メンタルヘルスにネガティブな影響がみられた。(1)子供のスティグマと孤独感・抑うつとの関係・子供の主観的スティグマは、入院中の孤独感(平均差[MD]:2.32、95%信頼区間[CI]:0.11~4.52)と1ヵ月後の追跡調査での抑うつ(MD:2.44、95%CI:0.40~4.48)と関連していた。・推定スティグマは、メンタルヘルスとの間に有意な関係はみられなかった。(2)親のスティグマと抑うつ・不安・孤独感との関係・親の推定スティグマは、1ヵ月後の追跡調査で抑うつ、不安、孤独感と関連していた(MD:2.24[95%CI:0.58~3.89]、1.68[0.11~3.25]、1.15[0.08~2.21])。・主観的スティグマとメンタルヘルスとの間に有意な関係はみられなかった。 研究グループは、これらの調査結果から、「COVID-19に関連するスティグマは、退院後1ヵ月以上にわたって精神衛生に影響を及ぼし続けること、スティグマが精神衛生に与える影響は子供と親で異なることが示された」と結論付けている。

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