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そして父になる(続編・その3)【どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?(育てるスキル)】Part 1

今回のキーワード「人育て」(人材育成)足場作り(スカフォルディング)仕掛け(ギミック)お手本(モデリング)ルール作り(オペラント条件づけ)理由づけ(合理性)お目付役(客観性)ほどほど度(介入レベル)前回(続編・その2)では、映画「そして父になる」を通して、子育ての正解とは、厳し過ぎず、自由過ぎず、ほどほどに子育てをする、つまり非認知能力をまず育んだ上で、認知能力を自ら高めることを促す、自律的な子育てであることが分かりました。そして、その根拠を、行動遺伝学による研究と進化心理学による解釈から導きました。それでは、実際に、どう「ほどほどに」子育てをすればいいのでしょうか?核家族化、少子化、一人親、ワンオペなど、現代の家庭環境が急激に変化し続ける最中、私たちは、本来の「ほどほどに」という子育てのあり方を見失ってしまいそうです。この答えを探るために、今回(続編・その3)は、引き続き、この映画を取り上げます。前回にご説明した、良い能力を促し悪い「能力」を抑えるという2つの家庭環境の機能を踏まえて、自律的に子どもを育てるスキルをご紹介します。さらに、そこから「人育て」(人材育成)のヒントを一緒に考えてみましょう。なお、この記事の中の家庭環境の機能とは、発達心理学の家族機能のいわゆる父性に当たります。母性と父性による家族機能の詳細については、関連記事1をご覧ください。どう認知能力を自ら高めることを促す?-良い能力を促す取り組み1つ目の家庭環境の機能とは、言語理解を主とする認知能力を促すことでした。その2では、この機能を、現代社会に望ましいながらも癖になりにくい(嗜癖性が弱い)能力を促進する文化的な「アゴニスト」(刺激薬)であるとご説明しました。それでは、この良い能力をどう促しましょうか? ここから、大きく3つの取り組みを挙げてみましょう。(1)足場作り映画のラストシーン。野々宮家の慶多が父親の良多に「スパイダーマンってクモだって知ってた?」と尋ねます。良多は「ううん、初めて知った」と優しく答えます。子どもの取り違え騒動を経て、彼が変わったのが見て取れるシーンです。一般的な知識なので、おそらく彼は知っていたでしょう。でも知らないと敢えて答えたのです。一方で、かつての良多だったら、「もちろん知ってるよ。クモってのはな・・・」と授業が始まったでしょう。1つ目の取り組みは、足場作りです(スカフォルディング)。足場とは、もともと建物を作る時の作業のために簡易的に組まれた足を置ける板などのスペースです。この足場と同じように、子どもが何か新しいことを知ろうとしたり、少し難しいことにチャレンジしようとするときに、その動機を高める親の関わりです。ここで、一方的にどんどん教え込んだり、先回りして教えてしまったら、その2でご説明した厳格な家庭環境になります。逆にまったく教えなかったら、その2でご説明した放任的な家庭環境になります。そうではなくて、「ほどほどに」教えるのです。たとえば、 幼児はよく「なんで?」と質問します。この時に、すぐに答えを言わないことです。そして、必ずしもきちんと答えないことです。分からないふりをして、「なんでだろう」「なんでだと思う?」と質問に質問で返します。ヒントをさりげなく言ったり、わざと間違えてツッコませることもします。また、子どもが学校から帰った時に、「今日は何を勉強した?」と聞かないことです。代わりに、「今日は何を質問した?」と聞くのです。「何が気になった?」「何をもっと知りたいと思った?」でもいいでしょう。これは、答えを見つけるのではなく、疑問を見つける働きかけです。結果よりもプロセスに重きを置く自発性(非認知能力)が育まれるでしょう。なお、良い結果を褒めたり、ご褒美をあげることは、さらに動機を高めると信じている親は多いです。しかし、ここには、ある落とし穴があります。実際の心理実験において、まず、絵を描くのが好きな子どもたちを、上手に描いたら賞状をあげるグループと何もしないグループに分けます、そして、絵を描かせます。すると、賞状をもらったグループの子どもは、何もしなかったグループの子どもよりも、その後にただ絵を描く時に、その時間が短くなったという結果が出ています。ご褒美がなければもうやらないと心変わりしていった訳です。つまり、何かをする楽しさやおもしろさ(内発的動機づけ)が、報酬(外発的動機づけ)によって削がれてしまう訳です(アンダーマイニング現象)。このことから、子どもが楽しんで何かをしている時は、出来栄え(結果)だけを極端に褒めたり、ご褒美を毎回あげたりするのは望ましくないことが分かります。そうされた子どもは、出来栄えを褒められることやご褒美をもらうことばかりにとらわれてしまうからです。出来栄えを褒めたりご褒美をあげるのは時々(ほどほど)にして、まずは「頑張ってるね」とその頑張り(プロセス)を褒めたり、「楽しいね」と共感することが良いでしょう。褒めるスキルの詳細については、関連記事2をご覧ください。似たように、子どもが本好きだからと言って、本をどんどん買い与えたり、読み聞かせをしつこくやると、本のありがたみや読み聞かせを聞く喜びが削がれたり、言いなりになりたくないという反抗の心理を煽るリスクがあります(心理的リアクタンス)。やはり、もったいぶるくらい(ほどほど)が効果的でしょう。また、子どもへの声かけとして「宿題は?」「勉強しなさい」と頻繁にプレッシャーをかけることは、今からやろうとしたり、やりたいと思っていた子どもの気持ちを削いでしまうリスクがあります。反抗期だととくにです。「人育て」(人材育成)においても、まったく同じことが言えます。好きで仕事に入れ込んでいるだけなのに、報酬が上乗せされたり、報酬ばかりをチラつかす職場環境は、逆に報酬がなければやらないという考え方に部下を仕向けてしまうリスクがあります。また、さらに教えてあげようと好意的に迫ってくる上司がいる職場は、部下から煙たく思われてしまいます。報酬や指導は適度に(ほどほどに)して、本人の成長やチームプレイ(人間関係)も評価することが効果的でしょう。ほどほどであることは、育つ側だけでなく、育てる側もストレスを減らし、自分の仕事に専念できるでしょう。次のページへ >>

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そして父になる(続編・その3)【どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?(育てるスキル)】Part 2

(2)仕掛け野々宮家には、ピアノ・ギターなどの楽器や最新の英語の音声教材が置かれ、壁に地図が貼られています。もちろん、本もたくさんあります。そんな野々宮家で暮らすようになった琉晴は、ピアノに興味を持ち、メチャクチャながらも、鍵盤を弾き続けるシーンがありました。2つ目の取り組みは、仕掛けです(ギミック)。仕掛けとは、もともと釣りや手品のように、ある目的のために巧みに工夫されて仕組まれたものです。この仕掛けと同じように、子どもが興味を抱きやってみたくなったり、逆に葛藤を抱き考えさせる親の関わりです。ここで、無理やり押し付けたり、やらせようと叱ってしまったら、やはり厳格な家庭環境になります。逆に、何もしなかったら(何もなかったら)、やはり放任的な家庭環境になります。そうではなくて、「ほどほどに」仕向けるのです。たとえば、幼児はよく「やりたいやりたい」と言います。この時、危ないことでなければなるべくやらせてみることです。料理や家事をしている時に、敢えて鼻歌を歌いながら楽しくやれば、お手伝いを仕向けることもできます。もちろん、そのために手間と時間がかかっても、ちゃんとできていなくて後で親がやり直すことになっても、自発性(非認知能力)を高めるために、敢えてやらせるのです。お手伝いは、社会経験の第一歩です。敢えてできそうな頼み事をしても良いでしょう。ここで注意点は、「ちゃんとできていない」とダメ出ししないことです。そうではなくて、「助かる」「うれしい」「ありがとう」に加えて、「〇〇ちゃんが手伝ってくれた料理はおいしいなあ」「〇〇くんがしてくれたお掃除で気持ちが良いなあ」とぼそっと(ほどほどに)言い、お手伝いを通して役に立っている感覚としての自発性を育むのです。一方で、幼児はよくけんかをします。兄弟や友達とけんかが始まると、または始まりそうになると、親としてはトラブルを起こしたくないので、つい先回りして引き離したくなります。しかし、ここも我慢です。ある程度、小競り合いになるまで泳がせて見届けます。そして、手が出たり、ケガになりそうになった時に、介入します。まったくほったらかしにする訳ではありません。この点で、野々宮家のように子どものけがに神経質にならないほうが良いでしょう。子どもは、実際の集団遊びの中、とくに葛藤場面でセルフコントロール(非認知能力)を高めています。そもそも、けんかをしなければ、仲直りの仕方が学べないです。つまり、何かトラブルが起きそうなピンチにこそ、そこに学びのチャンスがあるのです。習いごとも仕掛けの1つとしては使えます。ただし、習いごとの目的は、学習成果ではなく、学習態度であると割り切ることです。まずは、楽しんでやり続けることができるかを一番とすることです。逆に言えば、ガチガチに管理して、できるだけ多くやらせたり、無理やりにやらせないことです。無理やりやらされている限り、自分で考えて行動するという自発性は育まれません。習いごとはあくまで子どもが望んだ場合のオプションであり、豊かな発達のための刺激の1つに過ぎません。経済的な事情があれば無理してやらせることではないでしょう。お金をかけなくても、親ができることはほかにもたくさんあります。逆に言えば、「習いごとを続けろ」「勉強をしろ」と叱り飛ばすことに、ほとんど意味はなくなります。それどころか、これは、教育虐待のリスクがあることをその1ですでにご説明しました。実際の動物実験において、犬に電気ショック(罰)を与え続けると、最初は逃げるのに、やがて逃げられないことが分かると、逃げるのをあきらめてしまい、その後に逃げられる状況になっても、逃げなくなることが分かっています。同じように、人間の心理実験において、もともと解決できない問題を解かされた学生は、その後に簡単な問題を与えられても取り組もうとしなくなることが分かっています。つまり、無理難題を強いられること(外発的動機づけ)によって、自分は問題を解決することにおいて無力であると学習してしまい、やる気(内発的動機づけ)が削がれてしまう訳です(学習性無力感)。たとえば、ピアノ演奏会のシーン。慶多は練習の通りに本番でうまく弾けず、うまく弾いているほかの子に「上手だね」と感心して言います。そんな慶多に父親の良多は「悔しくないのか? もっと上手に弾きたいと思わなければ続けてても意味ないぞ」と叱ります。すると、慶多は顔をこわばらせて萎縮するばかりなのでした。この状況への効果的な仕掛けは、叱るのは必要最低限(ほどほど)にして、「うまい子もいるねえ」「でも慶多も練習頑張ったよね」「今日の演奏会は楽しかったね」と言うことです。すると、次の演奏会に向けて自らもっと練習に励むでしょう。もしも慶多が悔しがっているのなら、「悔しいね」「でもパパとママは慶多が練習してきたのをずっと見てきたよ」と言えば、自分で自分を慰めるセルフコンパッション(セルフコントロール)を高めることができるしょう。叱るスキルの詳細については、関連記事3をご覧ください。なお、日本ならではの裏メッセージ(ダブルバインド)の文化には注意が必要です。たとえば、「心配ねえ」「駄目ねえ」「無理よ」という声かけです。これは、奮起させる効果がある一方、自尊心や自信をなくさせて、やる気を削ぐリスクがあります。やはり奮起させる声かけはほどほどにして、「うまく行くよ」「大丈夫だよ」「あと少し」という受容的な声かけを織り交ぜるのが良いでしょう。「人育て」(人材育成)においても、まったく同じことが言えます。部下にダメ出ししたり叱咤激励をするのはほどほどにして、まずは部下がやる気を高める職場環境を整えることに重きを置くことが効果的でしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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そして父になる(続編・その3)【どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?(育てるスキル)】Part 3

(3)お手本自宅で電気屋を営む斎木家の父親・雄大は、慶多の目の前で、やって来る客から週末に草野球を一緒にやろうと誘われます。雄大は、冗談交じりに断っていましたが、まるで友達のように楽しそうにしゃべっています。3つ目の取り組みは、お手本です(モデリング)。お手本とは、何かを習う時に模範となるものです。このお手本と同じように、子どもにやって欲しいことをまず自分たちが目の前で実践するという親の関わりです。ここで、実践していないのにやって欲しいことを強いてしまったら、厳格な家庭環境になります。逆に、お手本になることを意識しなかったら、放任的な家庭環境になります。そうではなくて、さりげなく(ほどほどに)その背中を見せるのです。お手本(モデリング)は、発達心理学的には、模倣学習と言い換えられます。これは、琉晴が雄大と同じようにストローを噛んだり、慶多が良多と同じように首を傾けるポーズをするように、親などの身近な人のしぐさや行動の真似をついしてしまうことです。人類ならではの学習能力であり、社会脳が進化した約300万年前以降に生まれた古い能力です。つまり、約10万年前に生まれた言語的コミュニケーションによる学習よりも、この模倣という非言語的コミュニケーションによる学習のほうがより古く、より嗜癖性が強い点で、より効果的であることが分かります。一言で言えば、子どもは親の言うことを聞くとは限りませんが真似はするということです。たとえば、友達と仲良くすることについてです。口で言うよりも効果的なのは、まず親が夫婦で仲良くしている姿を子どもに見せることです。夫婦げんかをしても、その後の仲直りを目の前で見せることです。謝ることについても、まず親が子どもについ悪いことをしてしまったら、ラストシーンの良多のように素直に謝る姿勢を見せることです。逆に、かつての野々宮家のように、夫婦でギスギスしていたり、一方がもう一方の言いなりになっていたり、陰でお互いがお互いの悪口を子どもに吹き込んでいるとどうでしょうか? 友達を大切にしなさいと口先だけで言っても、何の説得力もありません。また、習いごとや勉強することについてです。口で言うよりも効果的なのは、まず親がピアノを楽しく弾いていたり、本をよく読んだり熱心に調べ物をしていることです。実際に職場に子どもを連れて行って、働いている姿を少しでも見せることです。夫婦でニュースの話題で盛り上がって意見を言い合ったり、仕事がうまく行った喜びや夢を語り合っている姿を子どもに見せることです。逆に、親がその習いごとをやった経験がなかったり、一緒にやっていなかったらどうでしょうか? 斎木家のように父親が家で昼間からごろごろしていたり、野々宮家のように仕事があまりにも忙しくてほとんど家にいなかったらどうでしょうか? 習いごとで悔しがれ、勉強しろ、夢を持てと口先だけで言っても、何の説得力もありません。なお、日本ならではの謙遜の文化には注意が必要です。たとえば、ご近所さんや知り合いから「お宅のお子さんはしっかりしてますねえ」と言われた時です。その言葉がお世辞であっても本音であっても、謙遜の文化の文脈では、渋い表情で「いえいえ、そんなことないです」と返答するのが礼儀になります。しかし、この返答を目の前で聞いた子どもはどう思うでしょうか? 子どもは謙遜の文化をよく分からず、混乱して「実は自分が駄目なんだ」と自信を失ってしまうリスクがあります。お手本(モデリング)を意識した正解の返答は、笑顔で「そう思っていただき嬉しいです」「励みにします」「ありがとうございます」です。そして、子どもには、「〇〇さんにそう言われて嬉しいね」「もっと頑張りたくなってきたね」です。もしもつい謙遜してしまったら、またはどうしても謙遜しなければならなかったら、その後は素直に子どもに謝り、事情を説明すればいいだけです。これは、謙遜の文化についての心理教育をするチャンスになります。身内の中での冗談交じりのダメ出しも注意が必要です。たとえば「パパみたいになっちゃ駄目だよ」「ママはバカだな」などです。これらは、大人同士では「実はそうじゃない」という文脈を共有していますが、子どもはこの裏メッセージ(ダブルバインド)をよく分かっていません。鵜呑みにしたり、そのまま友達に使ってしまうリスクがあります。お手本(モデリング)を意識した代わりのセリフは、「パパはそんなことするの駄目だよ」「ママはそんなバカなことしないで」と、主体を人ではなく、行動に置き換えるのが良いでしょう。「人育て」(人材育成)においても、まったく同じことが言えます。上司がしんどそうにしていたり、職場の愚痴を言ってばかりだと、どうでしょうか? いくら部下に頑張れ、自分の将来を考えろと口先だけで言っても、何の説得力もありません。上司はまず、余計なことは言わず、生き生きと仕事している背中を見せて、仕事の夢を語ることが効果的でしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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そして父になる(続編・その3)【どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?(育てるスキル)】Part 4

素行の悪さと嗜好品へのハマりやすさをどう抑える?-悪い「能力」を抑える取り組み2つ目の家庭環境の機能とは、素行の悪さ(反社会的行動)と嗜好品へのハマりやすさ(物質依存)を抑えることでした。その2では、この機能を、現代社会に望ましくないながらも癖になりやすい(嗜癖性が強い)「能力」を抑制する文化的な「アンタゴニスト」(遮断薬)であるとご説明しました。それでは、この悪い「能力」をどう抑えましょうか? ここから、大きく3つの取り組みを挙げてみましょう。(1)ルール作り良多は、琉晴が野々宮家で暮らし始める初日に、流晴に野々宮家のルールのリストを紙にして渡します。そして、琉晴に「ストローは噛まない。英語の練習を毎日する。トイレは座ってする。お風呂は一人で静かに入る。テレビゲームは1日30分。パパとママと呼ぶこと」と読ませるのです。1つ目の取り組みは、ルール作りです(オペラント条件づけ)。これは、家庭内での決まりごとをはっきりさせて、やって良いことと悪いことを意識させる親の取り組みです。ここで大事なのはルールのペナルティです。ペナルティが厳し過ぎると、厳格な家庭環境になります。逆に、ルールもペナルティもはっきりしていなくて、斉木家のゆかりのようにそのつど気分に任せて怒鳴ったり叩いてしまったら、放任的な家庭環境になります。そうではなくて、適度に(ほどほどに)ペナルティを設けるのです。たとえば、素行についてです。叩く、押す・蹴る・物を投げるなどの危険行為や、大声を上げる・地団太を踏むなどの迷惑行為が見られたときは、どうしましょうか? ここで注意点は、体罰はどんな状況でも不適切です。その訳は、いくら子どもが悪いからと言って、親が体罰をしてしまったら、相手が悪い時は暴力(体罰)をして良いという悪いお手本を子どもが模倣学習してしまうからです。だからこそ、体罰禁止法ができたのです。しかし、親も人間です。つい叱った勢いで手が出てしまったら、後で謝れば良いのです。これが、良いお手本になります。素行の悪さに対して効果的なのは、まずタイムアウト(行動制限)です。自宅にいる時は、自分の部屋など決まった場所に入ることです。時間は5分程度、または落ち着いたら出てきて良いとすることです。程度が重くない場合は、イエローカード(2回目の警告でタイムアウト)、スリーノックアウト(3回目の警告でタイムアウト)の方式を取り入れ、警告することで落ち着くことを促すこともできるでしょう。なお、外にいる時は、タイムアウトが使えません。代わりに、3つの対処法があります。1つ目は、なるべく周りに人が少ない場所に移動して、一緒に遠くを見ることです。2つ目は、ゆっくり一緒に10まで数えます。3つ目は、飲み物を一杯ゆっくり飲ませることです。これは、アンガーマネジメントの取り組みです。「人育て」(人材育成)においても、まったく同じことが言えます。職場のストレスの多くは、上司のパワ-ハラスメント、部下の怠慢、同僚のいじめなどの人間関係です。これらの問題点を具体的に示し、そのペナルティを設けることが効果的でしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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そして父になる(続編・その3)【どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?(育てるスキル)】Part 5

(2)理由づけ野々宮家のルールのリストを一方的に読まされた琉晴は、納得が行きません。良多から「なんででも」「そのうち分かるようになる」といくら言われても、「なんで?」と良多に繰り返し聞き続けます。2つ目の取り組みは、理由づけです(合理性)。これは、ルールとそのペナルティがなぜ必要かを子どもにある程度納得させる親の取り組みです。ここで、野々宮家のようにこのルールが一方的過ぎると、厳格な家庭環境になります。逆に、ルールもペナルティもなく、斉木家のようにやってはいけないことを黙認していると、放任的な家庭環境になります。そうではなくて、ある程度(ほどほどに)ルールの理由を納得させるのです。たとえば、先ほどの危険行為についてです。そうすると相手はどんな気持ちになるかを考えてもらうために、逆にそうされると自分はどういう気持ちになるか考えるよう促すことです。また、迷惑行為について、幼児がよく理解できない場合は、「みんなが守っているルールだから」と伝えることができます。嗜好品やテレビゲームについてはどうでしょうか? これらに対して効果的なのは、理由づけをして制限することです。たとえば、嗜好品の栄養バランスの問題、テレビゲームによる悪影響です。そのため、親もある程度勉強してその有害性を具体的な根拠として調べておく必要があります。さらに、制限する時に、代わりのものを用意することが効果的です。そうすることで、子どもの不満を減らすことができます。たとえば、嗜好品の代わりに、果物です。テレビゲームの代わりに、親子でトランプ・将棋などの卓上ゲームやスポーツをすることです。つまり、親も制限に対して、ある程度コミットする必要があるということです。お店で「欲しい欲しい」「買って買って」と急におねだりされた時はどうでしょうか? ただ一方的に駄目と言うのではなく、「今日はこのお菓子(またはおもちゃ)を買いに来た訳ではないから」「そのお金はないから」と理由を伝え、その必要性や予算を考えさせることです。親がその時の気分で買ってあげたり買わなかったりするのでなく、「もともと決めていないものは買わない」という家族のルールを親も子どもも守る必要があることを伝えることです。それでも、子どもが駄々をこねるのであれば、先ほどのアンガーマネジメントの取り組みを行います。一方で、親が買っても良いと判断したとしても、すぐにそのまま買い与えないことです。「そこまで言うなら、じゃあ来週に来た時に買おう」と約束するのです。これを繰り返せば、子どもは駄々をこねてもすぐに買ってもらえないことを学習し、駄々をこねなくなります。これは、セルフコントロールを高め、衝動買いの癖を減らすでしょう。また、ルールが守れていたら、毎日カレンダーに一緒にシールを貼り、シールが〇個たまったら、ご褒美をあげるのも効果的です(トークンエコノミー)。そのご褒美は、親が選んだプレゼントでも良いですし、家族で外食をすることでも良いでしょう。さらに、これを発展させた、お小遣いルールも、文字と数字を理解するようになる5歳から効果的です。図1は、完全にルールが守れると、1日15円(月450円になります。もちろん、それぞれの項目やその金額を変更したり、トークン方式(換金方式)から現金方式に変更したり、お小遣いからルールのペナルティとして差し引く罰金制にするなど、年齢やその子の性格に合わせたオリジナルのお小遣いルールを作ることができます。なお、この注意点は、その項目を、習いごとや勉強などの良い能力を促すことにはあまりしないことです。その訳は、そうしてしまうと、先ほどご説明したように、やりたい気持ちが削がれる心理(アンダーマイニング現象)が出てくる可能性があるからです。するとしても、あいさつのし忘れや宿題のやり残しなど習慣化できていないものに限定して、やはり内容はなるべく悪い「能力」を抑えることに特化することです。また、年齢が低い場合、その項目数は2、3つに限定することです。その訳は、項目が多過ぎると、1つ1つの項目への意識が薄まるからです。まずは、その時の最優先の問題を項目とすることです。そして、そのルールが習慣化したら、いったんそれを項目から外して、次の問題を新たに項目に入れれば良いです。さらに、ルールが自発的に守れているなら、ルール化しないことです。その訳は、その1でもご説明しましたが、親が子どもの行動をコントロールし過ぎると、逆に子どもは自分で自分の行動をコントロールしなくなることが実際の研究で分かっているからです。よって、年齢が上がっていけば、項目を、禁止行為から家の仕事(お手伝い給料制)にシフトしていくことができるでしょう。「人育て」(人材育成)においても、まったく同じことが言えます。先ほどの人間関係の問題の実際のケースを紹介して、そのルールを課す根拠をはっきりさせることが効果的です。そして、問題が起きないのが当たり前とせず、問題が起きなかったことを敢えて全員に毎回、見える形にして知らせることです。これは、その後に問題が起きることを事前に抑止する効果があるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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そして父になる(続編・その3)【どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?(育てるスキル)】Part 6

(3)お目付け役良多が、新しい父親として琉晴に家族のルールを座って説明している間、新しい母親になるみどりは、離れたところで立って荷物の片付けをしながら聞いているだけで、琉晴に背を向け、何も言いません。あたかも良多が独りよがりに話を進めているように見えます。3つ目の取り組みは、お目付け役です(客観性)。これは、普段の行動に目を付ける(監視する)役職のように、いろいろな関係者の目を家庭に入れる親の取り組みです。ここで、野々宮家のように独断で細かいルールを押し付けると、厳格な家庭環境になります。逆に、斎木家のようにルールがはっきりせず、気まぐれで体罰があるだけだと、放任的な家庭環境になります。そうではなくて、民主的に(ほどほどに)ルールを作るのです。たとえば、家族会議です。少なくとも、両親がいるなら、両親が揃ってそのルールを伝えることです。さらに、祖父母・叔父叔母などの親族やママ友などを立会人として同席させることです。もしも、一人親で立ち会える親族やママ友もいない場合は、地域の保健師に立ち会いをお願いすることもできます。心療内科・精神科で心理カウンセラーが対応することもできます。このように、なるべく多くの目(お目付役)を、子どもに向けるようにすることで、子どもにルールを守らせる良い意味でのプレッシャーをかけることができます。また、お小遣いルールだけでなく、家族のルールも書面化することです。そして、そもそものルールを作る理由として、家族の目標(ビジョン)を掲げることです。たとえば、ルールの理由として「自分で生きていける大人になるため」「家族で仲良くするため」「家族で助け合うため」などです。そうすることで、ルールを守る直接の理由だけでなく、そもそもルールが存在する意味を理解させることができます。とくに、「家族で助け合う」というビジョンを掲げておくと、先ほどご紹介したお手伝い給料制において、「お金がもらえないならお手伝いはしない」という発想になるのを未然に防ぐこともできるでしょう。さらに、年齢が上がれば、家族会議で、子どもにお小遣いアップやペナルティ変更を提案させることもできます。そして、その理由や根拠を示してもらうこともできます。これは、自分自身へのお目付役(客観性)になることであり、自分の行動に自覚(責任)を持たせ、子どもを大人扱いしていく取り組みでもあります。こうして、単に親(社会)が作ったルールに従うだけの認知能力ではなく、自分で考えて自分で自分(そして社会)のルールを作っていきたいと思う非認知能力が高まるでしょう。子どもが納得した形でルールが決まると、家族会議の参加者全員が署名(承認)を入れる儀式も効果的です。この取り組みは、ものごとは話し合いによって決めるというお手本を見せることにもなります。まさに民主主義の基本であり、民主主義型という自律的な子育てを下支えするものでしょう。なお、子どもを客観視させるスキルの詳細については、関連記事4をご覧ください。もっと言えば、このお目付役の取り組みは、ルールを課される側の子どもだけでなく、ルールを課す側の親にも効果があります。複数の目が家族のルールに向けられることによって、とくに良多のように、一人の親が暴走して、独りよがりなルールを一方的につくり、教育虐待を招くリスクを避けることができます。たとえば、それは、受験勉強のために「反抗禁止」「恋愛禁止」などの過剰なルールを設けることです。「ブラック校則」ならぬ、「ブラック家庭ルール」です。これは、明らかにやり過ぎであり、子どもの権利への侵害の恐れがあります。なぜなら、思春期の子どもが、反抗するかしないか、恋愛するかしないかは本人が決めることであり、本人の権利だからです。この点で、妻(または夫)が夫(または妻)に「私の子育てに口出ししないで」と当たり前のように言うのは、かなり危うさがあります。これは、夫婦の一方だけに決定権がある状況を子どもに見せることであり、夫婦関係(人間関係)のあり方の悪いお手本となります。子どもが、友達関係においていじめ加害者になったり、いじめ黙認者になる危うさもあるでしょう。ちなみに、受験勉強のために子どもの人権をないがしろにする親の関わりは、もはや過激思想と同じくらい合理主義的でも個人主義的でもないです。これは、教育虐待のリスクがあるばかりか、統合失調症を発症させる心理社会的ストレスのリスクがあることをその2ですでにご説明しました。「人育て」(人材育成)においても、まったく同じことが言えます。先ほどの人間関係の問題の実際のケースを紹介して、そのルールを職場の全員に考えてもらい、ペナルティを決めてもらうことです。これは、同調の心理を促し、ルール遵守の心理を高める効果があるでしょう。なお、同調させるスキルの詳細については、関連記事5をご覧ください。表4に示しているように、良い能力を促す取り組みも悪い「能力」を抑える取り組みについても、年齢が上がっていくにつれて、ほどほど度(介入レベル)を弱いものにシフトさせていくことが効果的です。なぜなら、それが大人扱いをしていくことであるからです。そして、それが、親に言われて生きて行くのではなく、親に言われなくても自分で生きていける大人にさせることであるからです。なお、最初にご説明した「足場作り」で、子育てを建築工事に例えました。さらに、愛着(親に愛着を持つ「能力」)は土台、非認知能力は柱、そして認知能力は外壁に例えることができます。早期英才教育をするということは、支える柱がしっかりしていないのに、親が外壁だけ無理やり作らせているようなものです。そんな家は、環境変化(心理社会的ストレス)という地震などの災害にとても脆弱でしょう。非認知能力という柱は、太ければ太いほど、子どものメンタルという家をより丈夫でしなやかにするでしょう。そんな家が、また次の世代で、同じように丈夫でしなやかな家を造ることができるでしょう。サブタイトル“Like father, like son”とは?ラストシーンで、慶多と琉晴を中心に、野々宮家と斎木家のみんなが、笑い合って、1つの家の中に入っていく様子は、感動的です。慶多と琉晴のために、2つの真逆の家庭環境が融合し中和して、「ほどほど」の家庭環境が生まれた象徴的なシーンです。サブタイトルであり、海外向けのタイトルでもある”Like father, like son”とは、「この親にしてこの子あり」「親が親なら子も子」という意味です。それは、子育てを通して、親の認知能力も非認知能力も試されているニュアンスがあるように思えてきます。結局、子育ての正解とは、認知能力を高めることそのものではなく、子どもが人生を楽しみ幸せを感じるトータルな「能力」を育むことではないでしょうか? そして、その「幸せ」はその子どもそれぞれであり、本人が決めることであることを私たちがよく理解した時、子育ての正解は「正解がない」または「正解がたくさんある」という逆説的な正解に納得できるのではないでしょうか? そして、子育てをもっと賢く楽しめるのではないでしょうか?1)非認知能力を伸ばすコツ:中山芳一、東京書籍、20202)自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学:森口佑介、講談社現代新書、20193)子どもにおこづかいをあげよう:西村隆男、主婦の友社、2020<< 前のページへ■関連記事Mother(後編)【家族機能】ダンボ【なぜ飛ぶの? 私たちが「飛ぶ」には?(褒めるスキル)】3年B組金八先生(前編)【令和の金八先生になるには? 子どもにも大人にも使える!(叱るスキル)】Part 1ドラえもん【子どものメンタルヘルスに使えるひみつ道具は?】3年B組金八先生(続編)【令和の金八先生になるには?わがままにさせない!(同調させるスキル)】Part 1

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第90回 「患者の利便性」「医療の効率化」の御旗の下に進む医療機関の締め付け

2022年度診療報酬の改定率は、本体が0.43%増(国費約300億円)、薬価・材料価格は1.37%減となり、全体で0.94%のマイナス(国費約1,600億円)となった。前回2020年度の本体改定率は0.55%増なので、前回より低い。また全体の改定率も、薬価引き下げ分の本体への振替がなくなってから、5回連続のマイナスだ(2014年度は消費税対応を除き実質ネットマイナス)。日本医師会の中川 俊男会長は、昨年末の記者会見で「(本体の)改定率については、必ずしも満足するものではないが、厳しい国家財政の中、プラスになったことについては、率直に評価したい」と述べたが、医療界からは「コロナ以前の医療水準への回復も困難で、疲弊した医療現場の抜本的改善には程遠い」との声が上がっている。「看護の処遇改善」の対象医療機関は限定的改訂の詳細を見てみる。まず本体引上げ部分の内訳は、看護の処遇改善で0.2%増、不妊治療の保険適用で0.2%増などと、小幅なプラスだった。看護の処遇改善については10月以降、収入を3%程度(月平均12,000円相当)引き上げる仕組みを創設するというが、その他の医療従事者への配分も認めているので、看護職員への実際の引き上げ幅は低くなる。しかも、対象となるのは地域コロナ医療など一定の役割を担う医療機関(救急医療管理加算を算定する救急搬送件数が年間200台以上の医療機関および3次救急を担う医療機関)に勤務する看護職員に限定されている。これに対し、全国保険医団体連合会(保団連)は「すべての医療機関が一体となり地域を面として支えている。すべての医療従事者の抜本的な賃金引上げにつながる財源を確保すべき」と提言している。「リフィル処方箋導入」が意図する外来医療費の抑制また、反復利用できるリフィル処方箋の導入・活用促進による効率化で、本体は0.1%減とされた。中央社会保険医療協議会(中医協)の議論では、分割調剤の算定回数が増えない現状を踏まえ、日本薬剤師会常務理事の委員からリフィル処方箋の導入が提案され、支払い側委員が賛成したのだった。本来、リフィル処方箋の使用が想定されるのは慢性疾患の患者で、医師による診察やきめ細かな指導管理が必要なことから、大阪府保険医協会は「事実上、医師の診察を薬局に委ねる形となるリフィル処方箋の導入は、患者の健康確保上から極めて問題が多い」と指摘。導入された場合、患者の“利便性”と称し、オンライン診療の拡大と相まって外来医療費の抑制を図ると共に、医療関連ビジネスの収益拡大を進める狙いが見える。ましてや、コロナ禍で電話再診の増加や処方の長期化も進み、患者の病態管理が難しくなっている状況下、同会は「患者・国民のいのち・健康を守るという視点からの議論が第一」と提言している。患者の“利便性”と共に眉唾なのが、医療の“効率化”だ。大病院受診時定額負担の拡大に関し、保険給付の範囲から一定額(初診時2,000円、再診時500円)を減額する一方、同額以上を強制的に保険外併用療養費として患者から追加徴収する仕組みが検討されるなど、 制度改悪が中医協で議論されているのも憂慮すべき点だ。歯科診療所の経営の現状を見ていない改定率本体の改定率を各科別に見ると、医科の0.26%増に対し、歯科は0.29%とわずかに上回る。しかし、東京歯科保険医協会は「このような改定率は歯科の現状を見ていないばかりか、歯科軽視の結果」と指摘する。医療経済実態調査では、歯科診療所(個人)の損益率は前年度比1.2%減で、コロナ補助金を加えても医業収入の落ち込みは明らかだ。歯科材料費は前年度よりも6.8%増加し、衛生材料をはじめ院内感染防止対策に関わる資材、金銀パラジウム合金などの高騰が医院経営の重荷となっている。それに加え、飛沫による感染リスクが高い職種と言われ、医療従事者の離職や患者離れが発生。患者減はいまだに改善できず、閉院に追い込まれた医院も相次いでいる。医療の質低下や地域医療の混乱を招きかねない方針診療報酬改定の基本方針として、コロナ感染対応を重点課題に位置付けているにもかかわらず、小児の感染防止対策に係る特例(医科)は廃止。厚生労働省は、7対1看護病床の削減を進める「入院医療の評価の適正化」、DPC制度などによる「更なる包括払いの推進」、高齢者や慢性疾患患者のADL低下なども危惧される「湿布薬の処方の適正化」などを着実に進めるとしている。今回の改定率や、国が掲げる改革は、コロナ感染防止対策を弱体化させるだけでなく、医療の質の低下や地域医療の混乱・疲弊も招きかねない。概算要求で示された社会保障費の自然増約6,600億円も約4,400億円に抑えようとしているが、財源ありきの“逆算的”政策で国民の生命や健康は本当に守れるのだろうか。

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認知症の急速な進行に関する原因調査

 急速進行性認知症(RPD)は、1~2年以内に急速な認知機能低下が認められ認知症を発症する臨床症候群である。RPDの評価に関する進歩は著しく、その有病率は時間とともに変化する可能性がある。ギリシャ・Attikon University HospitalのPetros Stamatelos氏らは、RPD診断の近年の進歩を考慮し、以前の結果と比較したRPD原因となる疾患の頻度を推定した。Alzheimer Disease and Associated Disorders誌2021年10~12月号の報告。 5年間でRPDの疑いによりAttikon University Hospitalに紹介された患者47例を対象に、医療記録をレトロスペクティブに検討した。 主な結果は以下のとおり。・最も頻度の高い原因は、神経変性疾患(38%)であり、次いでプリオン病(19%)、自己免疫性脳炎(17%)であった。・自己免疫性脳炎の頻度は、以前の結果よりも増加していたが、他の2次的原因については有意な減少が認められた。・認知症発症までの平均期間は、神経変性疾患で9ヵ月、非神経変性疾患で5ヵ月であった。・すべての患者における主な臨床所見は、記憶障害(66%)、行動と感情の障害(48%)であった。 著者らは「神経変性疾患は、RPDの最も一般的な原因であり、非神経変性疾患よりも進行スピードは遅いようである。新たな診断方法の誕生により、自己免疫性脳炎の診断が可能となった。RPDの原因疾患の発見率が増加することにより、これまで一般的であった2次的原因は、1次的原因として診断されるようになっていると考えられる」としている。

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NSCLCの新たなドライバー遺伝子CLIP1-LTK発見

 国立がん研究センター東病院が中心に進める肺がんの遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Asia」が、非小細胞肺がん(NSCLC)の新しいドライバー遺伝子「CLIP1-LTK融合遺伝子」を世界で初めて発見した。また、このドライバー遺伝子変異には、治療薬としてALK-TKIのロルラチニブが有効である可能性が示されている。 試験結果は、Nature誌2021年11月14日号に掲載され、第62回日本肺学会学術集会では、国立がん研究センター東病院の松本慎吾氏により発表された。さらなるドライバー遺伝子の発見と治療薬の開発が求められるNSCLC NSCLCでは、ドライバー遺伝子が相次いで発見されるととも、それに対応する分子標的薬が登場することで治療成績が著しく向上している。  とはいえ、50〜60%のNSCLCではドライバー遺伝子が存在しない。そのため、新たなドライバー遺伝子の発見と治療薬の開発が求められている。  そのような中、CLIP1-LTK融合遺伝子は、新たなドライバー遺伝子を検索するためLC-SCRUM-Asiaが行った、既知のドライバー遺伝子陰性のNSCLC対象の全RNAシークエンス検査により世界で初めて発見された。CLIP1-LTK融合遺伝子の頻度は0.4%、他ドライバー遺伝子とは相互排他的 CLIP1-LTKはLC-SCRUM-Asiaがスクリーニングした542例中2例で検出された。発現頻度は0.4%である。 検出例はすべて腺がんで、既知のドライバー遺伝子とは相互排他的に認められた。 基礎的検討の結果、CLIP1-LTK融合タンパクはLTKキナーゼの恒常的な活性化を引き起こすドライバー遺伝子であることが明らかになった。CLIP1-LTKはアクショナブル、治療薬はロルラチニブか LTK遺伝子はALK遺伝子と相同性が高いため、ALKキナーゼ阻害薬の多くはLTKキナーゼを阻害すると報告されている。このことから、7種のALK阻害薬の効果を細胞実験で検討した。 その結果、とくにロルラチニブのキナーゼ活性抑制が明らかとなった。また、ロルラチニブの抗腫瘍効果は動物実験でも示されている。 これら基礎研究の結果に基づき、CLIP1-LTK陽性のNSCLC患者にロルラチニブを投与したところ、著名な効果を示した。 LC-SCRUM-Asiaでは今後、CLIP1-LTKのスクリーニングと治療薬の有効性を検証する臨床試験を計画中である。

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新型コロナ感染リスク、ワクチン未接種者は接種者の4倍!?

 米国の大手ドラッグストアであるCVSヘルスに所属するYing Tabak氏らは、新型コロナ感染に対するワクチン有効性を推定するにあたり、時間経過による変化がみられるのかなどを評価するため、診断陰性例コントロール試験を実施。その結果、ワクチン未接種者はワクチン接種者よりも感染リスクが最大で4倍も高いことが明らかになった。JAMA Network Open誌2021年12月22日号のリサーチレターに掲載された。 本研究は全米の新型コロナ検査のデータベースを使用し、2021年5月1日~8月7日の期間にドラッグストアのPCR検査で症候性の新型コロナ感染症が確認されたの特有の患者発生率を評価した。新型コロナ関連の症状(CDCの定義に準拠)、ワクチン接種状況、時期、投与回数について、鼻咽頭スワブを収集する前にスクリーニング質問票に自己報告してもらった。分析には、BNT162b2(ファイザー製)、mRNA-1273(モデルナ製)、およびJNJ-78436735(J&J製)のワクチンを使用した。また、米国での昨年7~8月のデルタ変異株の流行を考慮して、最後のワクチン接種からの経時的な症候性新型コロナ感染に対し、ワクチン接種の有効性を検査実施者の年齢、地域、暦月で調整して推定した。 主な結果は以下のとおり。・全米4,094ヵ所で検査を受けた18歳以上の症候性患者は123万7,097例だった。そのうち女性は73万2,850例(59.2%)、男性は50万3,303例(40.7%)、性別不明は944例(0.1%)だった。・年齢中央値(IQR)は37歳(28~51)だった。・民族の割合はアジア人が8万8,178例(7.1%)、黒人/アフリカ系アメリカ人が16万8,639(13.6%)、ヒスパニック系が22万1,521例(17.9%)、白人が 66万1,459例(53.5%)だった。また、アラスカ先住民、アメリカインディアン、太平洋諸島民、詳細不明として識別された人は9万7,300例(7.9%)だった。・計64万5,604例(52.2%)はワクチン未接種たった。・ワクチン接種者59万1,493例(47.8%)のうち、33万5,341例(27.1%)がファイザー製を、20万7,250例(16.8%)がモデルナ製を、4万8,902例(4.0%)がJ&J製を接種していた。・ワクチンの接種状況は、新型コロナの感染低下と関連していた。・mRNAワクチン(ファイザー製/モデルナ製)を接種した人は、観察時間のすべての時点で発生率が最も低く、ワクチン未接種者で最も高かった。・ワクチン未接種者の感染リスクについて、各ワクチンを接種した人と比較したところ、モデルナ製よりも412%、ファイザー製よりも287%、J&J製よりも159%も高かった。・研究期間中に観察された発生率は、ワクチン未接種者では24.8%だった。各接種者での割合はJ&J製が15.6%、ファイザー製が8.6%、モデルナ製が6.0%だった。・ワクチン未接種者の新型コロナ感染リスクの大きさは、米国でのデルタ変異の有病率の増加と並行して7月と8月にさらに増加したが、ワクチン接種完了者に限定した場合の傾向は、ほぼ横ばいだった。・多変量解析の結果、mRNAワクチンを2回完了した人の調整済みの推定されるワクチン有効性は、2週間後にピークに達し、モデルナ製では96.3%(95%信頼区間[CI]:95.6~96.9)、ファイザー製は92.4%(同:91.7~93.1)だった。・また、有効性は徐々に低下し、接種2~3ヵ月時点において、モデルナ製は86.8%(同:86.2~87.4)、ファイザー製は78.6%(同:78.0~79.2)であり、6ヵ月時点では、モデルナ製が74.2%(同:71.6~76.6)、ファイザー製が66%(同:64.2~68.0)と低下した。・一方、J&J製は接種2週間時点でも有効性は50%超だった。 研究者らは、「本結果は全米における最大の新型コロナ検査のデータセットであり、また、ほかの研究結果1)などと一致している」としている。

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モルヌピラビル、新型コロナの入院・死亡リスクを低減/NEJM

 重症化リスクがあるワクチン未接種の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)成人患者について、モルヌピラビルによる早期治療(発症後5日以内に開始)は、入院または死亡リスクを低減することが、コロンビア・IMAT OncomedicaのAngelica Jayk Bernal氏らによる第III相プラセボ対照無作為化二重盲検試験で示された。試験は約1,400例を対象に行われ、29日間の入院または死亡の発生リスクは中間解析で-6.8ポイント差、全解析で-3.0ポイント差であったという。モルヌピラビルはSARS-CoV-2に対し活性を示す、経口小分子抗ウイルスプロドラッグである。NEJM誌オンライン版2021年12月16日号掲載の報告。発症後5日以内に治療開始、800mgを1日2回、5日間投与 研究グループは、検査によりCOVID-19が確認され、重症化リスクが少なくとも1つあるワクチン未接種の軽症~中等症の成人患者を対象に、症状発症後5日以内に開始したモルヌピラビルによる治療の有効性と完全性を検証した。 被験者は無作為に2群に割り付けられ、一方にはモルヌピラビル800mgを1日2回5日間投与し、もう一方にはプラセボを投与した。 主要有効性エンドポイントは、29日時点での入院または死亡の発生。主要安全性エンドポイントは、有害事象の発現頻度とした。 目標登録患者数1,550例の50%が29日間の追跡を受けた時点で、事前に規定した中間解析を行った。対プラセボの入院/死亡リスク、中間解析で-6.8ポイント差 被験者1,433例が無作為化を受け、716例がモルヌピラビル群に、717例がプラセボ群に割り付けられた。両群のベースライン特性は、性別の偏り(女性がモルヌピラビル群のほうが多く、中間解析では7.6ポイント差、全解析では4.7ポイント差)を除けば類似していた。 中間解析(15ヵ国78地点で775例が登録)では、モルヌピラビル群の優越性が示された。29日間のあらゆる入院または死亡のリスクは、モルヌピラビル群(385例中28例、7.3%)がプラセボ群(377例中53例、14.1%)よりも有意に低下した(群間差:-6.8ポイント、95%信頼区間[CI]:-11.3~-2.4、p=0.001)。 無作為化を受けた全被験者を対象とした解析でも、29日間の入院または死亡の発生率は、プラセボ群(699例中68例、9.7%)よりも、モルヌピラビル群(709例中48例、6.8%)が低率だった(群間差:-3.0ポイント、95%CI:-5.9~-0.1)。 サブグループ解析は全体解析とほぼ一貫した結果だったが、SARS-CoV-2感染既往者や、ベースラインウイルス量が低値の感染者、糖尿病患者などでは、推定群間差がプラセボ群で良好だった。 29日間の死亡は、プラセボ群9例、モルヌピラビル群1例だった。有害事象の発生率は、それぞれ33.0%(701例中231例)、30.4%(710例中216例)だった。

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高齢AF患者、リバーロキサバンvs.アピキサバン/JAMA

 65歳以上の心房細動患者に対し、リバーロキサバンはアピキサバンに比べて、主要な虚血性または出血性イベントリスクを有意に増大することが、米国・ヴァンダービルト大学のWayne A. Ray氏らが米国のメディケア加入者約58万例について行った後ろ向きコホート試験の結果、示された。リバーロキサバンとアピキサバンは、心房細動患者の虚血性脳卒中予防のために最も頻繁に処方される経口抗凝固薬だが、有効性の比較については不明であった。JAMA誌2021年12月21日号掲載の報告。脳卒中、全身性塞栓症、脳内出血、その他頭蓋内出血などの発生を両群で比較 研究グループは、65歳以上のメディケア加入者のコンピュータ登録および医療費請求の情報を用いて、後ろ向きコホート試験を行った。2013年1月~2018年11月に、心房細動でリバーロキサバンまたはアピキサバンの治療を開始した総計58万1,451例を、2018年11月30日まで最長4年間追跡した。 主要アウトカムは、主要な虚血性イベント(脳卒中、全身性塞栓症)と出血性イベント(脳内出血、その他頭蓋内出血、致死的頭蓋外出血)の複合とした。副次アウトカムは、非致死的頭蓋外出血と総死亡(追跡期間中の致死的虚血性/出血性イベントまたはその他の原因による死亡)だった。 発生率、ハザード比(HR)および率差(RD)を、ベースラインの併存疾患について傾向スコアの逆数を重み付けした解析法(IPTW)で補正して算出し比較検討した。低用量服用者でも、リバーロキサバン群で主要アウトカム発生1.3倍 被験者の平均年齢は77.0歳、女性は50.2%、リバーロキサバンまたはアピキサバンの低用量服用者は23.1%で、延べ追跡期間は47万4,605人年だった(追跡期間中央値:174日[IQR:62~397])。 補正後主要アウトカム発生率は、リバーロキサバン群の16.1件/1,000人年に対し、アピキサバン群は13.4件/1,000人年と低率だった(RD:2.7[95%信頼区間[CI]:1.9~3.5]、HR:1.18[1.12~1.24])。 また、リバーロキサバン群はアピキサバン群よりも、主要虚血性イベント(8.6 vs.7.6件/1,000人年、RD:1.1[95%CI:0.5~1.7]、HR:1.12[95%CI:1.04~1.20])、主要出血性イベント(7.5 vs.5.9件/1,000人年、RD:1.6[1.1~2.1]、HR:1.26[1.16~1.36])の発生率がいずれも高率だった。致死的頭蓋外出血は1.4 vs.1.0件/1,000人年(RD:0.4[0.2~0.7]、HR:1.41[1.18~1.70])だった。 非致死的頭蓋外出血(39.7 vs.18.5/1,000人年、RD:21.1[95%CI:20.0~22.3]、HR:2.07[95%CI:1.99~2.15])、致死的虚血性/出血性イベント(4.5 vs.3.3/1,000人年、RD:1.2[0.8~1.6]、HR:1.34[1.21~1.48])、総死亡(44.2 vs.41.0/1,000人年、RD:3.1[1.8~4.5]、HR:1.06[1.02~1.09])のいずれの発生率も、リバーロキサバン群がアピキサバン群に比べ高率だった。 なお、低用量服用者(27.4 vs.21.0/1,000人年、RD:6.4[95%CI:4.1~8.7]、HR:1.28[1.16~1.40])と標準用量服用者(13.2 vs.11.4/1,000人年、RD:1.8[1.0~2.6]、HR:1.13[1.06~1.21])を別にみた場合も、主要アウトカム発生はリバーロキサバン群がアピキサバン群に比べ高率だった。

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男性乳がんの予後不良因子は?

 男性乳がんは稀な疾患であるものの、近年増加傾向がみられている。認知度の低さなどから進行期になってから診断されるケースが多く、生存に寄与する因子や適切な治療戦略については明確になっていない部分が多い。韓国・忠北大学校病院のSungmin Park氏らは、国民健康保険データベースを用いた男性乳がん患者の転帰に関する後ろ向き解析結果を、Journal of Breast Cancer誌オンライン版2021年12月24日号に報告した。 本研究では、韓国の健康保険データベースを使用して、該当の請求コードをもつ男性乳がん患者を特定、男性乳がんの発生率、生存転帰、およびその予後因子が評価された。最初の請求から1年以内の手術と放射線療法の種類を含む、医療記録と死亡記録がレビューされた。その他、経済状況(≧20パーセンタイル、<20パーセンタイル)、地域(都市部、地方)、チャールソン併存疾患指数(0、1、≧2)、およびBRCA1/2(乳がん遺伝子)テストの実施について情報が収集された。 主な結果は以下のとおり。・2005~16年の間に、新たに男性乳がんと診断された患者838例が特定された。・男性乳がんの診断が最も多かった年齢層は70~74歳で、60〜64歳、65〜69歳が続いた。・患者の約80%が診断後に乳がんの外科手術を受け、50%以上が化学療法、約68%がタモキシフェンの投与を受けており、トラスツズマブは2008年以降約9%が投与を受けていた。・追跡期間中央値約5年間(1,769日)において、268例の死亡が確認され、5年生存率は73.7%だった。・65歳以上の男性は65歳未満の男性よりも全生存期間が短かった(ハザード比:2.454、95%信頼区間:1.909~3.154、p<0.001)。そのほか、併存疾患2つ以上、外科的治療なし、タモキシフェンの投与なし、低所得が、予後不良と関連していた。・多変量解析の結果、予後不良に関連する最も重要な因子は、併存疾患2つ以上だった(HR:4.439、95%CI:2.084~9.453、p=0.001)。

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心が折れそうな時の心の薬、アガペー【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第43回

第43回 心が折れそうな時の心の薬、アガペー人生は、失敗や挫折の連続です。誰もが味わう経験ですが、その苦痛はけっして小さくありません。当科の若手医師が、苦労して英文の論文を仕上げ投稿しました。最初の投稿作業を完了した時には、自信に満ちた様子でした。査読者のレビューを経て、採択に向けて良い返事があるものと確信しているのでしょう。編集部からの返事を待ちわびています。結果はリジェクト(不採択)でした。内容としては決して悪いものではなく、解析法や英文のレベルも十分です。投稿先を変更して挑戦するも、何と6回続けてリジェクトでした。前向きに挑戦する気持ちも失われ、心が折れていく様子が傍目にも明らかでした。自信喪失です。論文を修正して内容を高める作業を応援することは勿論ですが、「頑張れ!」と励まし続けるだけでは解決しません。この挫折感を容認し、共有することも大切です。風邪をひいたときに身体をいたわるように、失敗や挫折を経験した時には、ゆっくり心をいたわる必要があります。シェル・シルヴァスタインの「おおきな木」という絵本をご存知でしょうか。1本のリンゴの木が1人の人間に限りない愛を捧げる美しくも悲しい物語です。日本を代表する作家である村上春樹が翻訳していることでも知られています。原題名は『The Giving Tree』といいます。困った時だけやって来て、リンゴの木に「~をくれるかい」と要求ばかりする坊やに、身を犠牲にして尽くす木は、「きは それで うれしかった」と応えるのです。大好きな坊やに、りんごを与え、枝を与え、切り株になっても見返りを求めない大きな木のお話です。ひたすら少年に尽くす木の姿が、心に余韻を残します。一読をおすすめします。立ち読みで完読できます(本屋さんごめんなさい)。古代ギリシャでいう「愛」の形の1つとして、アガペー(agape)があります。アガペーは、新約聖書の中でのイエス・キリストの受難と復活に象徴的に示される無条件的絶対愛です。自分が与えるということ、たとえ相手が何かをしてくれなくても、ひたすら自分が与えるのがアガペーです。親が子供を愛する気持ちは当然と思いますが、賢く勉強のできる優秀な子供をかわいいという気持ちと、バカな子ほどかわいいという気持ち、この一見矛盾する両方が存在します。バカな子を思う気持ちがアガペーに近く、優秀な子を尊ぶ気持ちがフィリア(philia)でしょうか。失敗や挫折に直面している者には、アガペーの愛情で接することが肝要です。7回目の論文投稿です。なんと見事に素晴らしいジャーナルに採択されました。七転八起ならぬ、六転七起です。苦労のすえに得られた成果への賛辞である、「Congratulations!」に相応しい快挙です。この連絡を受けた若手医師は、弱った生け花が水切りを受けたかのように瞬時に元気を回復しました。小生にとっても、我がことのように嬉しく、その喜びを共有させていただきました。短期間での成果が求められ、成功するまで長い気持ちで待つことができない世の中になっています。こんな時代だからこそ、挫折に苦しむ者を大きなアガペーで容認していきたいですね。

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第90回 新型コロナウイルスはヒトに感染することで弱体化する?国立遺伝研の研究で考えた「ヒト-ウイルス」生態系

デルタ株はワクチン接種によってではなく、ヒトに感染したことで収束かこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。年始年末は大学の先輩の住む長野県原村の別荘を訪ねた後、中央線で実家のある愛知に帰り、正月明け、大学時代の友人が住む浜松で新幹線を途中下車、一杯飲んで帰って来ました。原村と実家は例年以上に厳寒で、寒さが苦手な私にはとても堪えました。さて、浜松の友人は、同じ大学の理学部で生物学を学んだ生物学者(専門は発生学)です。卒業後米国に留学し、長年ニワトリの足の発生を研究、15年ほど前に日本に帰ってきました。浜松駅前の焼鳥屋で雑談する中、昨年夏のコロナのデルタ株による感染拡大が突然収束した理由について興味深い話をしてくれました。曰く、「変異株が次々現れても、流行は必ずピークを迎え、収束していくのが不思議だと思っていたが、秋頃、国立遺伝研究所の発表で『デルタ株はゲノムの変異を修復する酵素の変化が起こり、修復能力が低下して死滅し、収束したのでは』という説が報道されていた。マスクなどの感染予防やワクチン接種ではなく、むしろヒトに感染することで弱体化した、という説だが、説得力もあってなるほどと思ったよ」。というわけで、今回は、誰もデルタ株収束の理由を明快に説明してくれませんので、この説について少し考えてみたいと思います(年末にあった、アデュカヌマブ未承認や診療報酬改定率のニュースはまた別の機会に)。ゲノムのエラーを修復する「nsp14」に関わる遺伝子が変化、修復不全に帰京してからニュースを調べてみると、この研究に関する報道を見つけました。それは、国立遺伝学研究所と新潟大のチームが2021年10月に開かれた日本人類遺伝学会で発表した研究成果です。ウイルスは増殖する際にゲノムを複製しますが、時々ミスが起きてエラーが生じます。このエラーが積み重なると、やがて増殖できなくなります。このエラーを修復するのが「nsp14」と呼ばれる酵素で、これが正常に働けばエラーは修復されて増殖は続き、感染の流行も続く、というわけです。10月31日付の中日新聞等の報道によれば、国立遺伝学研究所と新潟大の研究チームは国内で検出した新型コロナのゲノムデータを分析しました。その結果、第5波では、nsp14の酵素活性に関わる遺伝子が変化したウイルスの割合が感染拡大とともに増え、ピークの前から収束までの間は、感染者のほぼすべてを占めていた、とのことです。2020年秋から21年3月頃まで続いた第3波でも、同様の傾向が確認できたそうです。さらに、nsp14の遺伝子が変化したウイルスではエラーの修復が不十分となるため、新型コロナウイルスのゲノムの変異が通常の10〜20倍あったそうです。研究チームは、人間の体内でウイルスに変異を起こして壊す「APOBEC:apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide-like」という酵素がnsp14の遺伝子を変化させた、と推測しています。ヒトの身体の中にウイルスが侵入すると、危険信号ともいえるサイトカインというタンパク質が放出されます。このサイトカインによって誘導される酵素の一つがAPOBECです。APOBECが侵入してきたウイルスのnsp14の遺伝子に変化をもたらし、ゲノム複製時のエラーの修復が不十分となってウイルス増殖を阻害したのではないか、というのが研究チームの仮説です。なお、日本人をはじめとしたアジア・オセアニアにAPOBECの活性が強い人が多いそうです。友人は最後に、「RNAウイルスであるコロナウイルスは大型のウイルスで、そのRNAポリメラーゼは“高性能”なポリメラーゼ。“高性能”とは、複製のミスがあればそれを修復する酵素活性を含んでいる、ということ。だから、あまり突然変異は起こらない。この仮説のように、修復の酵素活性に関係するnsp14の変化で修復ができなくなれば、ウイルスのゲノム情報は複製の度にボロボロに壊れていき、最後には増殖できなくなる。感染が拡大しても3〜4ヵ月で収束するのはそのせいかもね。ただ、現場の医師があまりこの仮説に食いついていないのが気になる。ひょっとしたら内容をきちんと理解できていない可能性もある」と話していました。カンジキウサギとオオヤマネコの個体数変動この仮説は、動物生態学(アニマル・エコロジー)の立場からも、とても理解しやすいと思います。すべての生物は適当な環境下にあれば絶えず数を増やす方向に働きます。しかし、繁殖能力をフルに発揮すれば、たちまち数が増え過ぎて“人口爆発”を起こします。そんな時、生き残った個体を殺すような「外力」が働き、今度は数が減少に転じます。ここで言う「外力」とは、食糧不足であったり、外敵の登場であったり、個体同士の争いであったりとさまざまで、各要素の消長によって個体の数のバランスが保たれていく、というのが生態学の一つのセオリーです。ちなみに、昔の生態学の教科書には、カナダの森林に住むカンジキウサギとオオヤマネコの個体数変動のグラフが必ず載っています。カンジキウサギが増えると、それを食べるオオヤマネコが増え、それに伴いカンジキウサギが減る。カンジキウサギが減れば、エサが減るのでオオヤマネコが減る……、というグラフで、その変動は約10年周期で繰り返されるそうです。今改めて見てみると、そのグラフの振幅の波は、さながらコロナの患者数の波のようでもあります。「ヒト-ウイルス」生態系がうまく働けば……ウイルスは厳密には生物とは言えず、動物生態学のセオリーが当てはまるかどうかはわかりませんが、仮にヒトもウイルスもそうした生態系の中に組み込まれた要素である、と考えれば、コロナの感染爆発の突然の収束にも納得がいきます。コロナウイルスはヒトに感染し健康上の害を及ぼしますが、逆にヒトは感染することによってコロナウイルスに対して増殖を抑制するような遺伝子的な「外力」を与えているわけです。人類全体としては、感染を避けるのではなく、むしろどんどん感染することでウイルスを弱らせることができるのだとしたら、それこそ“エコ”なことではないでしょうか。なにしろ、無用なモノや技術を使わないで済むのですから。マスクや手洗いといった目先の物理的な感染防御策や、ワクチンといった薬物(科学技術)による防御策ではなく、「ヒト-ウイルス」という何億年もかけて築き上げられてきた生態系のシステムによって、新型コロナウイルスは自然と弱毒化や増殖不能に向かうかもしれない……。久しぶりに旧友と会ったおかげで、そんな楽観論が頭の中をぐるぐる廻り、昨年よりもお酒が美味しく飲めた年始でした。

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普遍的なうつ病予防~メタ解析レビュー

 うつ病は、心身に影響を及ぼす、非常に蔓延している、しばしば慢性的に経過、治療困難、認知機能や社会的および経済的負荷が非常に大きいといった特徴を有する疾患である。がんなどの非感染性疾患では、治療ではなく予防に焦点が置かれるようになっていることを考えると、うつ病予防は、優先すべき公衆衛生上の課題であろう。オーストリア・ディーキン大学のErin Hoare氏らは、うつ病に対する普遍的に提供される予防的介入についてのメタ解析文献の包括的なシステマティックレビューを実施した。Journal of Psychiatric Research誌2021年12月号の報告。 2021年3月18日にEBSCOHostを介してアクセスした各データベース(Allied and Complementary Medicine Database、CINAHL Complete、Global Health、Health Source: Nursing/Academic Edition、MEDLINE Complete、APA PsychArticles)より検索を行った。検索キーワードは、うつ病、予防、トライアルスタディデザインとした。2人独立したレビュアーが文献スクリーニングを実施し、3人目が不一致性を是正した。適格基準は、うつ病予防(うつ病発症率の低下)に対する普遍的な介入研究を調査したメタ解析とした。 主な結果は以下のとおり。・心理的介入に関するメタ解析6件、学校ベースのメタ解析2件、eHealthに関するメタ解析1件を包括的レビューに含めた。・特定されたすべての調査結果の質は高く、とくに1件は非常に高いものであった。・うつ病予防に対する身体活動の影響を調査した以前のメタ解析レビューは、8件のメタ解析に含まれていた。・予防的介入が成功する主な因子は、学校、地域社会、職場環境で提供される心理社会的介入の利用であった。・学校ベースおよびeHealthによる介入は、うつ病予防に対し一定程度の有用性が認められた。・身体活動は、うつ病予防に効果的であることが、メタ解析より示唆された。・普遍的な予防を一貫して定義することはできなかった。 著者らは「納得度の高いエビデンスによる推奨事項が広まる前に、うつ病予防に対する適切に設定されたランダム化比較試験を実施する必要がある」としている。

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片頭痛に対する抗CGRP抗体の有効性と忍容性

 反復性および慢性片頭痛の予防には、いくつかの薬剤が利用可能である。どの治療を、どのタイミングで選択するかを決定することは簡単ではなく、一般的な有効性、忍容性、重篤な有害事象の可能性、併存疾患、コストなどさまざまな因子に基づいて検討される。ベルギー・ブリュッセル自由大学のFenne Vandervorst氏らは、新たに片頭痛予防の選択肢の1つとして加わったカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)またはその受容体に対するモノクローナル抗体の有効性、忍容性について検討を行った。The Journal of Headache and Pain誌2021年10月25日号の報告。 新規片頭痛予防薬である抗CGRPモノクローナル抗体に関するランダム化プラセボ対照試験のエビデンスを収集した。これら薬剤の反復性および慢性片頭痛の予防に対する有効性、有効性に対するロバスト性について、評価した。 主な結果は以下のとおり。・抗CGRPモノクローナル抗体は、これまで使用されていた予防薬と同等以上の効果が認められた。・抗CGRPモノクローナル抗体の有効性に対するロバスト性は、各薬剤において多くの患者を含むいくつかのランダム化比較試験により実証されている。・抗CGRPモノクローナル抗体は、優れた忍容性および長期的な安全性データが示され、副作用プロファイルに対しこれまでの治療薬よりも良好な結果が得られており、片頭痛予防に新たな付加価値をもたらすものと考えられる。 著者らは「ヘルスケアの政策立案者は、片頭痛予防に抗CGRPモノクローナル抗体を推奨するうえで、これらのデータのほか、より長期的の安全性やコストに関する追加データを用いてバランスをとっていくことが重要である」としている。

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オメガ3サプリメントにうつ病予防効果はあるのか?/JAMA

 米国の50歳以上のうつ病リスクを有する集団において、海洋由来オメガ3脂肪酸(オメガ3)サプリメントの長期投与によりプラセボと比較し、うつ病または抑うつ症状の新規発症や再発リスクがわずかではあるが統計学的に有意に増加した一方で、気分スコアには差がないという複雑な結果となった。米国・マサチューセッツ総合病院のOlivia I. Okereke氏らが「VITAL-DEP試験」の結果を報告した。 オメガ3サプリメントは、うつ病の治療に用いられているが、一般成人のうつ病予防効果は不明であった。著者は、「今回の知見は、一般成人においてうつ病予防にオメガ3サプリメントの使用は支持されないことを示している」と結論づけている。なお、本研究は、米国の成人(男性50歳以上、女性55歳以上)2万5,871人を対象に、ビタミンD3とオメガ3脂肪酸の心血管疾患およびがんの一次予防効果を評価する無作為化臨床試験「VITAL試験」の補助的な試験で、ビタミンD3の結果はすでに報告されている。JAMA誌2021年12月21日号掲載の報告。うつ病イベントのリスクと、長期の気分スコアの変化を評価 研究グループは、2011年11月~2014年3月の期間に、うつ病の新規発症リスクを有する(うつ病の既往歴がない)1万6,657例と、うつ病の再発リスクがある(うつ病の既往歴はあるが、過去2年間は治療を受けていない)1,696例を、2×2ファクトリアルデザインにより、オメガ3群(エイコサペンタエン酸465mg、ドコサヘキサエン酸375mgを含む魚油1g/日)、ビタミンD3群(2,000IU/日)、オメガ3+ビタミンD3群、またはプラセボ群に無作為に割り付け、2017年12月31日まで投与した。 主要評価項目は、うつ病イベント(うつ病または臨床的に重要な抑うつ症状)のリスク(初発例と再発例の合計)、ならびに気分スコアの変化とした。うつ病イベントは、うつ病の診断、治療(投薬またはカウンセリング)、または定期的なアンケートでの臨床的に重要な抑うつ症状存在(8項目の患者の健康に関する質問票[PHQ-8]抑うつ尺度スコア≧10)の新規自己申告とした。また、気分スコアの変化はPHQ-8を用いて年6回のアンケートで確認し(範囲0~24、スコアが高いほど症状が重度)、臨床的に意義のある最小変化量は0.5点とした。オメガ3群、うつ病イベントリスクがハザード比1.13と有意に高い 1万8,353例(平均年齢67.5[SD 7.1]歳、女性49.2%)が無作為化され(オメガ3群9,171例、プラセボ群9,182例)、90.3%が試験を完遂した(試験終了時の生存者の93.5%)。治療期間中央値は5.3年であった。 オメガ3とビタミンDの交互作用検定の結果、交互作用は認められなかった(交互作用のp=0.14)。うつ病イベントのリスクは、オメガ3群(651件、13.9/1,000人年)がプラセボ群(583件、12.3/1,000人年)より有意に高かった(ハザード比 [HR]:1.13、95%信頼区間[CI]:1.01~1.26、p=0.03)。PHQ-8スコア変化量の平均差は0.03点(95%CI:-0.01~0.07、p=0.19)で、長期的な気分スコアの変化においてはオメガ3群とプラセボ群で有意差は認められなかった。 重篤または主な有害事象の発現率は、オメガ3群vs.プラセボ群で主要心血管イベント2.7% vs.2.9%、全死因死亡3.3% vs.3.1%、自殺0.02% vs.0.01%、消化管出血2.6% vs.2.7%、あざになりやすい24.8% vs.25.1%、胃不快感/胃痛35.2% vs.35.1%であった。

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