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日本人の身体活動と認知症リスク

 一日の身体活動(PA)や中等度以上の活発な身体活動(MVPA)と認知症との関連を明らかにするため、国立がん研究センターの井平 光氏らは、大規模長期フォローアップ・プロスペクティブ研究を実施した。その結果、とくに男性において休日のMVPAレベルの高さは、認知症リスクの低下に寄与する可能性が示唆された。JAMA Network Open誌2022年3月1日号の報告。 本プロスペクティブコホート研究は、2000~03年に国内8地域で行われた多目的コホート研究(JPHC Study)の認知障害プロスペクティブ研究(Prospective Disabling Dementia Study)で収集されたデータを用いて実施された。参加対象者は、認知障害に関する利用可能なフォローアップデータを有する成人50~79歳。毎日の総PA、総MVPA、休日のMVPAのデータを収集し、データ分析は2019年2月~2021年7月に行われた。主要アウトカムは、全国介護保険制度に基づく2006~16年(確認期間)の認知障害発生率とした。毎日の総PA、総MVPA、休日のMVPAに関連する認知症リスクは、多変量調整ハザード比(aHR)を用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・参加対象者4万3,896人(平均年齢:61.0±7.5歳、女性の割合:53.9%[2万3,659人])のうち、確認期間にケアを必要とする認知症と新たに診断された人は5,010人(発生までの期間:9.5±2.8年)であった。・総PA量の最も多い群は、最も少ない群と比較し、認知症リスクが男女ともに低かった。・総MVPAおよび休日のMVPAにおいても、同様の関連が認められた。 ●総PA 【男性】aHR:0.75、95%CI:0.66~0.85、P for trend<0.001 【女性】aHR:0.75、95%CI:0.67~0.84、P for trend<0.001 ●総MVPA 【男性】aHR:0.74、95%CI:0.65~0.84、P for trend<0.001 【女性】aHR:0.74、95%CI:0.66~0.83、P for trend<0.001 ●休日のMVPA 【男性】aHR:0.59、95%CI:0.53~0.67、P for trend<0.001 【女性】aHR:0.70、95%CI:0.63~0.78、P for trend<0.001・認知症診断までの期間が7年以内の男性、8年以内の女性を除くと、これらの関連は消失した。 【男性】aHR:0.93、95%CI:0.77~1.12 【女性】aHR:0.86、95%CI:0.71~1.04・認知症診断までの期間が9年以内の人を除外した後、休日のMVPA量の最も多い群における最も少ない群と比較した認知症リスクは、男性で有意に低いままであった(aHR:0.72、95%CI:0.56~0.92、P for trend=0.004)。

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第28回 原因は1つとは限らない【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)検査で異常値をみつけたからといって今回の原因とは限らない。2)検査で異常が認められないからといって異常なしとは限らない。3)症状を説明し得るか、結論付ける前に再考を!【症例】81歳男性。意識障害自宅で反応が乏しいところを仕事から帰宅した息子が発見し救急要請。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧148/81mmHg脈拍92回/分(整)呼吸18回/分SpO295%(RA)体温36.1℃瞳孔4/3.5 +/+既往歴認知症、高血圧、脂質異常症、便秘、不眠内服薬ドネペジル塩酸塩、トリクロルメチアジド、アトルバスタチンカルシウム水和物、酸化マグネシウム、ゾルピデム酒石酸塩所見顔面の麻痺ははっきりしないが、左上肢の運動障害あり検査の異常が今回の原因とは限らない採血、心電図、X線、CTなどの検査を行い異常がみつかることは、よくあります。特に高齢者の場合にはその頻度は高く、むしろまったく検査に異常が認められないことの方が多いでしょう。しかし、異常を認めるからといって今回の主訴の要因かというとそんなことはありません。腎機能障害、肝機能障害、貧血、電解質異常、中には急を要する場合もありますが、症状とは関係なく検査の異常が認められることはよくあるものです。そのため、検査結果は常に病歴や身体所見、バイタルサインを考慮した結果の解釈が重要です。以前から数値や所見が変わっていなければ、基本的には今回の症状とは関係ないことが多いですよね。慢性腎臓病患者のCr、Hb、心筋梗塞の既往のある患者の心電図など、けっして正常値でありません。急性の変化か否かが、1つのポイントとなりますので、以前の検査結果と比較することを徹底しましょう。検査で異常が認められないから原因ではないとは限らないコロナ禍となり早2年が経過しました。抗原検査、PCRなど何回施行したか覚えていないほど、皆さんも検査の機会があったと思います。抗原陰性だからコロナではない、PCR陰性だからコロナではない、そんなことないことは皆さんもよく理解していると思います。頭痛患者で頭部CTが陰性だからクモ膜下出血ではない、肺炎疑い患者でX線所見陰性だから肺炎ではない、CRPが陰性だから重篤な病気は否定的、CO中毒疑い患者の一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)が正常値だからCO中毒ではないなど、例を挙げたらきりがありません。皆さんも自身で施行した検査結果で異常の1つや2つ、経験ありますよね?!原因が1つとは限らない今回の症例の原因、皆さんは何だと思いますか? もちろんこれだけでは原因の特定は難しいかもしれませんが、高齢男性の急性経過の意識障害で麻痺もあるとなると脳梗塞や脳出血などの脳卒中が考えやすいと思います。低血糖や大動脈解離、痙攣なども“stroke mimics”の代表であるため考えますが、例えばMRI検査を実施し、画像所見が光っていたらどうでしょうか? MRIで高信号な部分があるのであれば、「原因は脳梗塞で決まり」。それでよいのでしょうか?脳梗塞の病巣から症状が完全に説明できる場合にはOKですが、「この病巣で意識障害来すかな…」「こんな症状でるのかなぁ…」こんなことってありますよね。このような場合には必ず「こんなこともあるのだろう」と思考停止するのではなく、他に症状を説明し得る原因があるのではないかと再考する必要があります。この患者さんの場合には、脳梗塞に加え低栄養状態に伴うビタミン欠乏、ゾルピデム酒石酸塩による薬剤性などの影響も考えられました。ビタミンB1欠乏に伴うウェルニッケ脳症は他疾患に合併することはけっして珍しくありません1)。また、高齢者の場合には「くすりもりすく」と考え、常に薬剤の影響を考える必要があります。きちんと薬は飲んでいるのに…患者さんが訴える症状が、内服している薬剤によるものであると疑うのは、どんなときでしょうか?新規の薬剤が導入され、その後からの症状であれば疑うことは簡単です。また、用法、用量を誤って内服してしまった場合なども、その情報が得られれば薬剤性を疑うのは容易ですよね。意外と見落とされがちなのが、腎機能や肝機能の悪化に伴う薬効の増強や電解質異常などです。フレイルの高齢者は大抵の場合、食事摂取量が減少しています。数日の単位では大きな変化はなくても、数ヵ月の単位でみると体重も減少し、食事だけでなく水分の摂取も減少していることがほとんどです。そのような場合に、「ご飯は食べてますか?」と聞くだけでは不十分で、具体的に「何をどれだけ食べているのか」「数ヵ月、半年前と比較してどの程度食事摂取量や体重が変化したか」を確認するとよいでしょう。「ご飯は食べてます」という本人や家族の返答をそのまま鵜呑みにするのではなく、具体的に確認することをお勧めします。骨粗鬆症に対するビタミンD製剤による高Ca血症、利尿薬内服に伴う脚気心、眠剤など、ありとあらゆる薬の血中濃度が増加することに伴う、さまざまな症状が引き起こされかねません。薬の変更、追加がなくても「くすりもりすく」を常に意識しておきましょう。最後に高齢者は複数の基礎疾患を併せ持ち、多数の薬剤を内服しています。そのような患者が急性疾患に罹患すると検査の異常は複数存在するでしょう。時には検査が優先される場面もあるとは思いますが、常にその変化がいつからのものなのか、症状を説明しうるものなのか、いちいち考え検査結果を解釈するようにしましょう。1)Leon G. Clinicians Who Miss Wernicke Encephalopathy Are Frequently Called Defendants. Toxicology Rounds. Emergency Medicine News. 2019;41:p.14.

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audible(オーディブル)について【Dr. 中島の 新・徒然草】(424)

四百二十四の段 audible(オーディブル)についてゴールデンウィークも、早や後半に突入。皆さん、ゆっくり休めていますか?私はインドア派なので、Amazon Kindleでもっぱら読書。でも、最近になってスマホやパソコンの画面を見ていると、目が疲れやすくなりました。というわけで、もっぱら耳を活用しております。YouTubeを聴くほかに、最近はaudibleも聴くようになりました。audibleというのはAmazonが提供する朗読サービス、いわゆるオーディオブックです。12万タイトルを月額1,500円で聴き放題。なんといっても、目を使わないので楽です。ただし、聴きたい本に限って12万タイトルに入っていなかったりします。このような場合には、別に料金を支払って購入しなくてはなりません。ちょっと残念ですね。さて、これまで私が聴いて良かった、外れのない小説を紹介しておきましょう。『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂 冬馬)先日、この欄で紹介した独ソ戦についての小説ですが、もうaudibleに収録されています。すでに活字で読んでいたので、冒頭だけ聴きました。『パッとしない子』(辻村 深月)かつての教え子だった男性アイドルが、母校を訪ねてくるという物語。楽しいというよりも怖い話です。『コンビニ人間』(村田 沙耶香)コンビニでのアルバイトと、自分の人生が一体化してしまった人の話。第155回の芥川龍之介賞受賞作ですが、難解なところがまったくなく、週刊誌の記事を読むみたいに楽しめます。『ジョーカー・ゲーム』(柳 広司)昭和12年の日本を舞台にしたスパイ小説で、第30回吉川英治文学新人賞と第62回日本推理作家協会賞を受賞しています。スピード感のあるところがいいですね。『密封 奥右筆秘帳』(上田 秀人)奥右筆(おくゆうひつ)というのは江戸幕府の役職の1つで、公文書の作成や管理をするお役人です。その役職にある立花併右衛門(たちばなへいえもん)の身にふりかかる事件を通して江戸時代を描く小説ですが、この奥右筆シリーズは聴き出したらやめられません。なんと著者の上田 秀人先生の本業は歯科医師だそうです。私はもっぱら自動車通勤の行き帰りにaudibleを聴いています。よかったら読者の皆さんも試してみてください。最後に1句春霞 小説聴きつつ 運転す

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マージャンは認知力の低下に有効【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第209回

マージャンは認知力の低下に有効photo-ACより使用麻雀(マージャン)は認知症の予防になるということで、健康麻雀と称して高齢者施設でプレイしている映像を何度か見たことがあります。しかし、「本当に医学的な根拠があるのだろうか?」という疑問をずっと持っていました。そうこうしているうちに新型コロナが流行し、接触感染の重要経路となりうる麻雀から、多くの人が離れてしまいました。さびしい限りです。Ding M, et al.Mahjong Playing and Leisure Physical Activity Alleviate Cognitive Symptoms in Older Community Residents.J Aging Phys Act. 2022 Feb 1;30(1):89-97.麻雀に限らず、頭を使う趣味というのは、認知機能の低下をある程度予防することができます。たとえば、数独やパズルなどがそうで、入院中の患者さんが、よくパズル雑誌を解いている光景を目にします。この研究は、麻雀をすることで、軽度認知障害(MCI)が予防できるかどうかを検討した論文です。MCIは、健康と病的な認知症の間にある症状のことで、「認知症の前段階」として理解されています。日本におけるMCIの有病率は、10%を超えていると考えられます。MCIを持つ高齢者187人と、持たない高齢者489人を登録しました。解析の結果、麻雀を続けている年数は、複数の共変数を補正したMCIの有病率低下と関連していることが明らかになりました(オッズ比:0.595、95%信頼区間[CI]:0.376~0.961、p=0.032)。とくに、身体的活動と麻雀は、MCIの有病率低下に複合的な効果をもたらすことがわかりました。そのため、ほどよい運動・ほどよい麻雀は、かなり認知力低下に有効だと考えられます。よぉし、明日から麻雀だ!……とはいえ、麻雀のやりすぎは痙攣のリスクになるかもしれないので1)、ほどほどに。1)An D, et al. Clinical characteristics and prognosis of mah-jong-induced epilepsy: A cohort review of 56 patients. Epilepsy Behav. 2015 Dec;53:117-9.

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臨床疑問「アジュバントを行うべきStage I 非小細胞肺がん」を考える:会員からの質問に回答【肺がんインタビュー】 第78回

第78回 臨床疑問「アジュバントを行うべきStage I 非小細胞肺がん」を考える:会員からの質問に回答出演:近畿大学医学部 外科学教室 呼吸器外科部門 主任教授 津谷 康大氏病理学的病期分類が第8版に更新され、StageI非小細胞肺がんの概念が一部変わった。新基準のStage Iの中でアジュバントに適した症例はどのようなものか。新たな臨床疑問に応える2つの臨床研究が発表された。このテーマに関するケアネット会員医師の質問について、上記研究の筆頭著者である近畿大学の津谷康大氏に回答いただいた。

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国内初の遺伝子組み換えコロナワクチン「ヌバキソビッド筋注」【下平博士のDIノート】第97回

国内初の遺伝子組み換えコロナワクチン「ヌバキソビッド筋注」今回は、「組み換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(商品名:ヌバキソビッド筋注、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、わが国で4番目の新型コロナウイルスワクチンとして承認された国内製造ワクチンです。これまでさまざまな理由により先行3剤の新型コロナワクチン接種が受けられなかった人や3回目接種の新たな選択肢として期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2022年4月19日に承認されました。接種対象は18歳以上です。なお、本剤の発症予防効果の持続期間は確立していません。<用法・用量>初回免疫1回0.5mLを2回、通常3週間の間隔をおいて筋肉内に接種します。本剤は2回接種により効果が確認されていることから、原則ほかのSARS-CoV-2に対するワクチンと混同することなく2回接種します。追加免疫1回0.5mLを筋肉内に接種します。通常、本剤2回目の接種から少なくとも6ヵ月経過した後に3回目の接種を行うことができます。<安全性>臨床試験で報告された主な副反応は、圧痛75.3%、疼痛62.2%、疲労52.9%、筋肉痛51.0%、頭痛49.9%、倦怠感41.0%、関節痛23.9%、悪心・嘔吐14.5%などでした。また、重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー(頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.このワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症を予防します。2.医師による問診や検温、診察の結果から接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。1回目に副反応が現れた場合は、2回目の接種前に医師などに伝えてください。3.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。4.合計2回を3週間の間隔で筋肉内に接種します。1回目の接種から3週間を超えた場合は、できる限り速やかに本剤の2回目の接種を受けてください。5.初回免疫の2回目接種から少なくとも6ヵ月を経過した人は3回目の接種を受けることができます。6.本剤の接種直後または接種後に、心因性反応を含む血管迷走神経反射として失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。<Shimo's eyes>わが国で4番目の新型コロナワクチンが登場しました。これまで承認されているワクチンはmRNAワクチンであるコミナティ筋注/同5~11歳用、スパイクバックス筋注と、アデノウイルスベクターワクチンであるバキスゼブリア筋注でしたが、本剤は、初の組み換えスパイクタンパクを抗原とした新型コロナワクチンです。遺伝子組み換えワクチンはすでにB型肝炎ワクチンなどで実用化されており、一般的に安全性が高く副作用が少ないといわれています。今回、国内臨床試験のデータなどをもとに有効性と安全性が確認され、特例承認ではなく通常承認の枠組みが適用されました。本剤は米国・ノババックスが開発し、わが国では武田薬品工業が技術移管を受けて製造販売と流通を担っています。本剤には、免疫の活性化を促進するサポニン由来のアジュバントMatrix-Mが添加されており、組み換えスパイクタンパクと組み合わせることで、SARS-CoV-2に対して中和抗体を作るなどB細胞の賦活化およびキラーT細胞などの細胞性免疫の賦活化が誘導されると考えられています。初回免疫について、米国とメキシコで実施された3万人規模の第III相試験では90.4%、英国で1万5,000人規模の第III相試験では89.7%の発症予防効果が確認されました。国内の日本人に対する臨床試験でも、海外におけるデータと大きく異ならない結果が得られました。副反応としては疼痛、倦怠感などが確認されましたが、ほとんどが軽度~中等度で、既存の新型コロナウイルスワクチンと比べても特別な懸念はないとされています。流通に関しては、凍結を避けた2~8℃での保存であり、通常のワクチンと同様に輸送・保管することが可能です。なお、有効期間は9ヵ月とされ、本剤の1バイアルには10回接種分の用量が充填されています。2022年4月27日、厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、本剤を予防接種法に基づく特例臨時接種で使用するワクチンとして、1~3回目接種での使用を想定し、1~2回目接種に用いたワクチンの種類にかかわらず3回目接種への使用が可能となりました。接種開始時期については5月末目途とされています。参考1)PMDA 添付文書 ヌバキソビッド筋注

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「ロナプリーブ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第81回

第81回 「ロナプリーブ」の名称の由来は?販売名ロナプリーブ®注射液セット 300ロナプリーブ®注射液セット 1332一般名(和名[命名法])カシリビマブ(遺伝子組換え)(JAN)イムデビマブ(遺伝子組換え)(JAN)効能又は効果SARS-CoV-2による感染症及びその発症抑制用法及び用量通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、カシリビマブ(遺伝子組換え)及びイムデビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ600mgを併用により単回点滴静注又は単回皮下注射する。警告内容とその理由<SARS-CoV-2による感染症の発症抑制>SARS-CoV-2による感染症の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤はワクチンに置き換わるものではない。禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1 本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者※本内容は2022年5月2日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2022年1月改訂(第3版)医薬品インタビューフォーム「ロナプリーブ®注射液セット 300/ロナプリーブ®注射液セット 1332」2)PLUS CHUGAI:製品・安全性

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オピオイドの投与量、どのくらいまで増やしてよい?【非専門医のための緩和ケアTips】第27回

第27回 オピオイドの投与量、どのくらいまで増やしてよい?基本原則を押さえれば、そんなに難しくないオピオイドの調整。といっても、やはり難しく感じる時はあります。どの分野も「その難しさを知って、やっと一人前」という側面はありますからね。今回はオピオイドの投与量についての質問をいただきました。今日の質問大学病院から紹介された頭頸部がんの患者さん、訪問診療で在宅緩和ケアを担当しています。難治性がん疼痛のようで、経口モルヒネ換算で1日に300mgもオピオイドを使っています。こんなに高用量のオピオイドが必要な患者さんを担当したことがないのですが、オピオイドはどのくらいの量まで使うものなのでしょうか。緩和ケアが診療の中心となった10年以上前、私も同じように感じたことがありました。経口モルヒネ換算で300mg/日というと、確かに多く感じますよね。それでも患者さんが痛みを訴える場合、どのくらいの量まで増やしてよいのでしょうか?緩和ケアを学び始めた頃に、驚いたことの1つが、「オピオイドには最大投与量がない」ということでした。通常の鎮痛剤であれば「NSAIDsなら1日3錠まで」といった具合に、1日の最大投与量があり、それ以上増やしても鎮痛効果は期待できません。このことを天井効果と呼びます。一方、オピオイドは「副作用で増量が難しい」といった状況でない限り、鎮痛効果が確認できる間は投与量を増量します。増量幅は患者さんごとに異なり、最大量はありません。これがオピオイドと非オピオイドの大きな違いです。びっくりしませんか? 当時、痛み止めといえばNSAIDsしか知らなかった私にとっては衝撃でした。では、患者さんが「痛い」と言う限り、とりあえずオピオイドを増量すればよいのでしょうか? 当然、そんな訳はありません。通常、多くの患者に鎮痛効果が期待できる量のオピオイドを使っても、痛みが残存する場合、それなりの理由があるはずです。本当にオピオイドが不十分という場合もあるでしょうが、気を付けなければならないのは「そのほかの原因」が潜んでいる場合です。例を挙げると、腸管閉塞などでオピオイドが吸収できていない急な痛み(突出痛)に対するレスキューがうまく調整できていない神経の痛みなど、オピオイドの効果が乏しいタイプの痛みであるこういった状況でオピオイドをどんどん増やすのは、ちょっとまずいのはわかりますよね。投与量の限界はないと言いながら、ある程度の量で効果がない時にはその原因をきちんと考える必要があります。では、どの程度の投与量から、この「見直し」作業が必要になるでしょうか? 目安となるのは緩和ケアの研修会で示されていたもので、ここでは「経口モルヒネ換算で120mg/日を超えたら、評価を見直すことや、専門家と相談すること」を勧めています。対応に困ったらがん拠点病院の緩和ケア担当部門に問い合わせしてみましょう。今回のTips今回のTipsオピオイドに最大投与量はないため、適切に増量しよう。増量しても鎮痛効果が不十分な時には原因を考え、評価を見直そう。

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ドイツでの引っ越し【空手家心臓外科医のドイツ見聞録】第13回

日本での新年度が始まりました。あちこちで引っ越しのトラックをみかけ、フレッシュな空気に溢れているのを感じます。日本では「引っ越し」は業者にお願いすることが多いですが、倹約家(ケチ)の多いドイツでは、友人などに手伝ってもらい、自分の力で引っ越しをすることが珍しくありません。2018年の夏、大きな心臓センターがある小さな街に住んでいた私は、次のチャンスを求めてドイツの北の果てへ移ることになりました。金がないくせに、ドイツのその辺の事情すらもよくわかっていなかった私は、複数の引っ越し業者に見積もりを出すも「もっと安く済ませる方法はないものか」と思案しておりました。当時の私は、旧東ドイツ出身で日本文化に興味を持っているオジさんと週1のペースで会っていてドイツ語を習っていました(いわゆる“タンデムパートナー”というやつです)。このオジさんに「もっと安上がりな引っ越し方法はないものか」と相談したところ、「ケンタさん。私はトラックの運転免許を持っています」とカタコトの日本語でアピールされました。初めは言ってることがわからず、「いや、それは知らんけど!」ともう1度引っ越しを安く済ませる方法を探しているんだよ…と話したところ、ニコニコしながら財布から免許証を取り出しみせつけてくるオジさん。どうやら彼は「引っ越しの手伝いをやってやる」と言ってくれているのでした。「いや~いくら何でも2人で引っ越しは無理でしょ…」と話したのですが、本人はヤル気に溢れていて、断る事もできそうにありませんでした。ドイツの人助けのハードルの高さはどのくらいその足でレンタカー屋さんにいき、画像のトラックを貸りることになりました。正直、ドン引きしました…こんなでかいトラックを人生で借りる日が来るなんて夢にも思っていなかったです。「冷蔵庫やら洗濯機やら…大きい荷物は2人でどうしたらいいんだろう…」と考えていたら、このオジさん、搬入のときには親戚を連れてきてくれました。搬出に関しては、500km(大阪-東京くらいの距離)離れた街のネット掲示板で大学生の日雇いのバイトを募集して、「現地集合、その場で報酬を支払う」という手配をしてくれていたのでした。「誰も集まらなかったらどうするつもりだったの?」と聞くと、「そんなの、その場で近所の人に頼んだら、誰か助けてくれるよ」と笑っていました。意外と人助けの敷居の低いドイツでは、こんなアクロバットな引っ越しは珍しくないそうです。おかげで何とか無事に引っ越すことができましたが、かなりハードな行程であったため、2日ほど腰痛で動けなくなってしまいました。「次はちゃんとお金を払って業者にお願いしよう…」と思いました。

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英語で「薬の変更」は?【1分★医療英語】第26回

第26回 英語で「薬の変更」は?Am I still supposed to take this medication?(まだこの薬を飲み続けるのですか?)No. Actually, I will switch you over to another one.(いいえ、別のお薬に変更します)《例文1》医師Your liver enzymes are getting better. I will switch over you to this medication.(肝酵素の値が良くなっていますね。こちらの薬に変更しましょう)患者I see, Doc.(わかりました、先生)《例文2》I will have to switch you over to PO meds before discharge.(退院前に経口薬に変更しないといけません)《解説》この表現は知らないとまず出てこないと思います。「薬を変更する」という意味ではさまざまな表現がありますが、この“switch you over to~”は「具体的にどのような変更をするのか」を言いたいときによく使われる言い回しです。《例文2》のように静脈注射薬から経口内服薬に変更したり、薬Aから薬Bに変更したりする場合に便利な表現です。臨床現場で薬を変更するときには理由があることがほとんどですので、理由も含めて患者さんに説明ができるとさらに良いでしょう。多数の薬を見直すときや、具体的な内容に触れずに薬の変更を伝えるときは、“adjust”を使うと便利です。薬について患者さんと話す機会は多いので、ぜひ身に付けて実際の会話で使ってみてください。講師紹介

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ワクチン接種者、オミクロンへの中和能が低下してもT細胞免疫は維持

 感染力の高いオミクロン株の出現や、新型コロナの既感染者またはワクチン接種者の中和能の低下がみられることから、新たな変異株への免疫防御力を推定するために細胞性免疫の研究が重要である。イタリア・サンタルチア財団Istituto di Ricovero e Cura a Carattere ScientificoのLorenzo De Marco氏らが、新型コロナに対して感染またはワクチンによる免疫を持つ人を対象にオミクロン株に対するT細胞応答性を調べた結果、スパイクタンパク質の変異にもかかわらず、オミクロン株が免疫系の細胞成分によって認識されることがわかった。すなわち、重症化予防効果は持続する可能性が示唆された。JAMA Network Open誌2022年4月22日号に掲載。 本研究は、2021年12月20~21日に、Istituto di Ricovero e Cura a Carattere Scientificoで、ボランティアの医療従事者と科学者を対象に実施されたコホート研究である。採取直後の血液サンプルからリンパ球を分離し、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に対する応答を調べた。主要アウトカムとして、オミクロンBA.1株のスパイクタンパク質の変異領域に対するT細胞応答性、ペプチドライブラリーを用いた刺激によるスパイクタンパク質に対するT細胞免疫を調べた。 主な結果は以下のとおり。・新型コロナワクチン接種者もしくは新型コロナ既感染者の計61人が登録され、平均年齢41.62歳(範囲:21~62歳)、女性は38人(62%)だった。・オミクロン株の変異領域をカバーするペプチドに応答するCD4陽性T細胞頻度の中央値は0.039%(範囲:0~2.356%)で、武漢株の同じ領域に特異的なCD4陽性T細胞の0.109%(同:0~2.376%)と比べ64%減少した。・CD8陽性T細胞では、中央値0.02%(範囲:0~0.689%)の細胞で変異スパイク領域を認識し、同等の非変異領域に0.039%(同:0~3.57%)の細胞で応答したのに対し49%減少した。・しかしながら、完全長のタンパク質のペプチドライブラリーに対する全体的な応答性は、ほぼ維持されていた(推定87%)。・ワクチン接種歴や感染歴の異なるグループ間で、免疫認識の減少に有意な差はみられなかった。

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アキレス腱断裂のアウトカム、手術vs.保存的治療/NEJM

 急性アキレス腱断裂に対する手術治療(直視下または低侵襲手術)は、保存的治療との比較において、12ヵ月後のアウトカム改善について有意差が示されなかった。ノルウェー・オスロ大学病院のStale B. Myhrvold氏らが、500例超を対象に行った多施設共同無作為化比較試験の結果を報告した。NEJM誌2022年4月14日号掲載の報告。12ヵ月後のAchilles' tendon Total Rupture Score変化を評価 研究グループは、4ヵ所の医療センターを通じて、急性アキレス腱断裂の診断を受けた18~60歳を対象に試験を行い、保存的治療、直視下手術、低侵襲手術の効果を比較した。 主要アウトカムは、12ヵ月時点のAchilles' tendon Total Rupture Score(ATRS、0~100でスコアが高いほど状態が良好)のベースラインからの変化だった。副次アウトカムは、再断裂発生率などだった。ATRSは3群とも約15~17ポイント改善 被験者計554例が無作為化を受け、うち526例を対象に最終解析を行った。 ATRSの平均変化量は、保存的治療群が-17.0ポイント、直視下手術群が-16.0ポイント、低侵襲手術群が-14.7ポイントで、有意な差はなかった(p=0.57)。ペアワイズ比較法でも群間差は示されなかった。 身体能力と自己報告による身体機能の、ベースラインからの変化量も、3群で同等だった。 腱再断裂発生率は保存的治療群が6.2%と、直視下手術/低侵襲手術群の各0.6%より高率だった。神経損傷は、低侵襲手術群で9例(5.2%)、直視下手術群では5例(2.8%)、保存的治療群では1例(0.6%)だった。

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BTK阻害薬、治療歴ある免疫性血小板減少症に効果/NEJM

 治療歴のある免疫性血小板減少症に対し、経口ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬rilzabrutinibの有効性と安全性が、第I-II相の国際非盲検用量設定試験で確認された。評価した全用量で血小板反応性が認められ、毒性効果は報告されたがいずれも低グレードだった。米国・マサチューセッツ総合病院のDavid J. Kuter氏らによる検討で、NEJM誌2022年4月14日号で発表された。rilzabrutinibは、マクロファージ(Fcγ受容体)を介した血小板破壊の抑制と病原性自己抗体産生の抑制という2つの作用機序によって、免疫性血小板減少症の患者の血小板数を増加させる可能性が示唆されていた。用量漸増法を用いて4用量について安全性と血小板反応性を評価 治療歴のある免疫性血小板減少症患者に対するrilzabrutinib治療の評価は適応的デザイン法にて行われ、個人内用量漸増法を用いてrilzabrutinibを24週間経口投与した。 開始用量は4段階で、200mgを1日1回、400mgを1日1回、300mgを1日2回、400mgを1日2回とした。 主要エンドポイントは、安全性と血小板反応性。血小板反応性は、血小板数が少なくとも2回連続で50×103/mm3以上、かつレスキュー薬なしでベースラインから20×103/mm3以上増加と定義した。血小板反応性は全体で40%、血小板数50×103/mm3以上到達まで11.5日 試験には60例が登録され、ベースラインの血小板数中央値は15×103/mm3、罹病期間中央値は6.3年、これまでに受けた免疫性血小板減少症治療の中央値は4種類だった。 治療関連の有害イベントは、いずれもGrade1または2で一過性だった。Grade2以上の治療関連出血または血栓イベントは報告されなかった。 治療期間中央値167.5日(範囲:4~293)時点で、主要エンドポイントの血小板反応性が認められたのは、全体では24/60例(40%)であり、rilzabrutinibの最高用量開始群では18/45例(40%)だった。 また、最初に血小板数50×103/mm3以上に到達するまでの期間中央値は、11.5日だった。主要血小板反応性が認められた患者において、血小板数50×103/mm3以上の週が占めた割合は平均65%だった。

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最新の薬剤情報追加の糖尿病治療ガイド2022-23/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎)は、『糖尿病治療ガイド2022-2023』を発行した。本ガイドは、日本糖尿病学会が総力を挙げて編集・執筆したガイドブックで、コンパクトな1冊ながら、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までがわかりやすくまとめれている。内科医はもとより、他の診療科の医師、コメディカルスタッフなどにも好評で、現在広く活用されている。 今回の改訂では、イメグリミンや経口GLP-1受容体作動薬の追加など、2022年3月現在の最新の内容がアップデートされた。 制作した「糖尿病治療ガイド」編集委員会は、「本ガイドが、日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と期待を寄せている。主な改訂点・イメグリミンや経口GLP-1受容体作動薬の追加など、2022年3月現在の最新の薬剤情報にアップデート・かかりつけ医から糖尿病や腎臓の専門医・専門医療機関への紹介基準を、図を用いて明確に解説・上記だけでなく、低血糖時におけるグルカゴン点鼻粉末剤(バクスミー)の使用、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)設立の動きなど、内容全体をアップデート・「2型糖尿病の血糖降下薬の特徴」など図のアップデート・コラムなどを追加・改訂主な目次1.糖尿病:疾患の考え方2.診断3.治療4.食事療法5.運動療法6.薬物療法7.糖尿病合併症とその対策8.低血糖およびシックデイ9.ライフステージごとの糖尿病10.専門医に依頼すべきポイント11.病態やライフステージに基づいた治療の実例(31症例)付録・索引

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日本人精神疾患患者における第2世代抗精神病薬治療後のHbA1cの閾値下変化

 第2世代抗精神病薬(SGA)の種類により糖尿病発症リスクが異なることは、いくつかの研究で報告されている。しかし、HbA1cの閾値下の変化に焦点を当てた研究は、ほとんどない。北海道大学の澤頭 亮氏らは、6種類のSGAのうち、いずれかを使用している日本人患者を対象に、HbA1cの閾値下およびBMIの変化について調査を行った。その結果、糖尿病リスクの高い患者に対しては、ブロナンセリン治療が最も有用な治療法である可能性が示唆された。The Journal of Clinical Psychiatry誌2022年3月30日号の報告。 本研究は、統合失調症患者に対し、日本の血糖モニタリングガイドラインに基づいてフォローアップ調査を実施したプロスペクティブコホート研究である。2013年4月~2015年3月の期間に、ベースライン時およびSGA治療開始3ヵ月後の時点で、患者の人口統計学的データ、薬歴、血液検査値、体重測定値を収集した。対象は、ICD-10に基づく統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害の患者378例。抗精神病薬による治療開始から3ヵ月後のHbA1cの閾値下およびBMIの変化を比較するため、多変量回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ブロナンセリン開始3ヵ月後のHbA1cの閾値下の変化は、オランザピンと比較し、有意に低かった(B=-0.17、95%CI:-0.31~-0.04)。・ブロナンセリン(B=-0.93、95%CI:-1.74~-0.12)およびアリピプラゾール(B=-0.71、95%CI:-1.30~-0.12)開始3ヵ月後のBMIの変化は、オランザピンと比較し、それぞれ有意に低かった。

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第106回 お薦めしません!医療素人とのTwitter応酬合戦、その全貌がコレ

先日、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対するドラッグ・リポジショニングで注目された抗インフルエンザ薬ファビピラビルの「内情」について書いたが、その直後、私がTwitterであるツイートをしたことがきっかけで自ら「素人」と言ってはばからない人と応酬となった。Twitterをやっている人は分かると思うが、何も知らない、あるいはやや狂信的とも言っていい人とやり取りをするのは疲れるもの。私も大概は無視するのだが、あまりに誤った情報だと何かは返したくなる。その結果が今回の事態だが、医療知識のない人とやり取りをするというのは、こういうものなのだという参考事例として今回紹介したい。さて、きっかけとなった私のツイートは、本連載第104回でも触れた塩野義製薬が開発中の新型コロナの3CLプロテアーゼ阻害薬の催奇形性に関するもの。この薬に期待を寄せる人は未だ十分に有効性を示せていないイベルメクチンとファビピラビルに期待を寄せる人たちと一部と重なる。しかし、以前も触れたように動物実験でイベルメクチンは最高推奨用量の0.2倍、アビガンは臨床曝露量同程度以下で催奇形性が認められている。そうしたことをこの人たちは知らないのだろうか? という疑問を投げかけるツイートだった。ツイートした当初はほとんど反応はなかったが、それから1週間後にある人からリプライ(返信)が付いた。匿名アカウントで年齢・性別も分からないので、この人をAさんとしておこう。端的に言えばファビピラビル推しの人である。リプライの大意は「ファビピラビルの投与期間中避妊すれば問題ないし、やはり新型コロナの適応を持つバリシチニブだって催奇形性はある。またファビピラビルは米軍、台湾、日本では備蓄もされているし、海外では承認製造されている」。まあ、よくありがちな反応である。ちなみにバリシチニブに催奇形性があることは承知しているし、Aさんが言う米軍、台湾、日本での備蓄は抗インフルエンザ薬での適応であり、情報を混同している。そこでバリシチニブは催奇形性があるとはいえ、ラットで臨床用量の2.3倍、ウサギで6.3倍と、ファビピラビルはそれと比べてかなり低用量で認められ、この点で安全性は低いこと、新型コロナに対するファビピラビルはカナダ、クウェートでの二重盲検試験で有効性は確認されていないと指摘する引用ツイートを送った。過去の経験上、こうした1回目の反応後に相手が沈黙して終わりなのだが、返信があった。曰く「ファビピラビルの製造国は増えてますよ」という。この話はごく一部の国のジェネリック企業が臨床研究用などで製造していることなのだが、事細かに説明するのも面倒だったので「そうした国はいずれも日米欧3極と比べて医薬品の承認審査の厳格さを欠く国々。代表例がタイで、タイは保健省の一存で重症患者にアビガンを用いようとしているものの、エビデンスはなく、日本が真似すべきではない」という趣旨で引用リツイートをした。なお、私はAさんとのやり取りをほぼ引用リツイートで行っている。これはTwitterの性格上、単純なリプライ(返信)にすると、当事者以外のフォロワーなどに可視化されにくいからである。しかし、また返信があった。「海外では、主要国でもアビガン暫定承認と治験、備蓄が進められてます。アメリカでも製造されています」(ツイート内にカナダなどいくつかの事例のツイートを引用)引用ツイートのうち、カナダの出典を辿って思わず笑ってしまった。これはカナダで新型コロナの効能を謳ったファビピラビルの違反広告事例を紹介しているもの。どんな薬がどんな違反広告をしたかが表になっているのだが、「保存などが簡便で、新型コロナへの効果が期待されている」と謳った違反広告内容の紹介をカナダが公式にファビピラビルを評価したと勘違いしているらしい。私は大声を上げて爆笑してしまった。さらに引用ではイギリス、ドイツなども挙げているのだが、前者は単純に医師主導治験の話。後者は新型コロナの治療薬に関して「承認済み」「承認審査中」「臨床研究中」の区分で列挙し、ファビピラビルは単に臨床研究が行われている分類。ところが、Aさんは現地当局が承認審査プロセスに入っていると誤読している。いやはや、何とも言えない反応である。なので私はそうした内容やAさんが製造国が増えていると言っているものは、ファビピラビルの特許失効を受け、第三世界の一部ジェネリック企業が抗インフルエンザ薬としてや臨床研究用に供給するため細々と製造しているだけで、新型コロナ治療薬としての承認国は増加しておらず、承認に足るだけの十分なデータは未だ存在しない旨を返信した。これでやり取りも終わるだろうと思った。というのもこうしたやや長めのやり取りは過去にも経験があるが、それも3~4往復で終わることがほとんど。しかしAさんはめげずに「日本でアビガンは、利権で抑えられたと思いますよ」と、あるツイートを引用しながら返信を寄せてきた。でました、利権という名の陰謀論。ちなみにAさんが引用してきたツイートは、ワクチン否定派の中ではそれなりに有名な在米日本人のツイートで、先日、本連載でも触れたノババックスの組み換えタンパクワクチンの承認について「みんなアメリカでは承認されていないのは知っているかな?」という内容。アメリカで未承認は事実だが、それはアメリカでの申請が日本から2ヵ月遅れの今年2月であるからと考えれば説明がつく。また、すでに欧州連合(EU)では承認済みだ。この辺で止めておこうとも思ったのだが、引用先のツイートが申請時期のことやEUでの承認に触れずに、さも日本だけが暴走しているとの誤解を意図的に誘発しているかのような悪質さを感じたので、あえてAさん宛にその旨を返した。するとさらに返信(またかよ)。「未接種以外の治験してますか?」という。要は日本国内でノババックス製ワクチンを3回目のブースター接種に使おうとする動きがあることへの疑念らしい。もっともここで明確にファビピラビルから「ゴールポスト」が動いてきた。というか、ずっと「ゴールポスト」ずらしが続いてきているとも言えるが。確かにmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンを接種済みの人へのブースター接種に関する企業治験データはない。しかし、イギリスからはすでにファイザー製ワクチンやアストラゼネカ製ワクチンの接種者に対するブースター接種の臨床研究が報告されており、数字だけを見ると同一種のブースター接種よりも抗体価はやや低いものの、明らかにブースター効果は見て取れる。というか、ノババックス製ワクチンに一定の有効性と安全性が認められているならば、原理的に考えてもブースターとしての使用がそれほど大きな問題になるとは思われない。イギリスの臨床研究内容をツイートの140字という文字数制限内で説明するのは無理なので、後者の原理的には問題なしの話で引用リツイートを返した。ややうんざりしていたので、ついでに「そろそろつぎはぎであれこれ指摘するの止めたほうが良いですよ。どれも根拠薄弱なものばかりです」と付け加えた。本当はもっと過激な言葉が出そうだったのだが、最近、ある真面目な医師の実名アカウントが過激な物言いでアカウント凍結にあったのを目にしていたので極力丁寧な言い回しに止めた。しかし、返信は止まない(笑)。またもや別のツイートを引用しながら、新型コロナへのファビピラビル投与事例のメタアナリシスで有意な効果が認められた、との返信である。しかし、その中身は観察研究もどきやかなり設定の違うRCTを無理やりプールしているもの。溜息しか出ない。ということで指摘のメタアナリシスは「なんちゃってメタアナリシス」だとの指摘で返した。また、返信が返ってきた。曰く「二重盲検しか認めないんですね」と。加えてAさんはファイザー製ワクチンの治験で、一部の治験受託機関の管理が甘く、盲検が被験者にばれていた可能性がある事案が明らかになったことを付記してきた。これはBMJ誌でも紹介された話だ。この事案は記事を読んだ人もいるだろうが、問題となった受託機関が担当したのは4万例を超える同ワクチン被験者のうち1,000人程度で、かつ盲検がケースによって見れていた可能性があるに過ぎないというもの。このこと自体がワクチンの有効性や安全性に影響を与える可能性は低い。私は引用ツイートでさらに以下のような趣旨を返した。「二重盲検しか認めないのは原則として当然です。それが現時点で最も科学的に信頼度の高い試験方法です。それを否定するなら、抗インフルエンザ薬としてのアビガンも存在意義を失いますが、それで良いんですか? 二重盲検の結果として科学的に疑義が生じた場合は都度検討すれば良い話です」とにかく相手は止めない。もっとも徐々に返信までの時間は空いてきている。これも過去の経験からだが、こちらの返信に対する相手の反応までの時間が徐々に長くなるというのは、その間にネットサーフィンで反論材料を探し回っている時だ。しばらくして「レムデシビルは、二重盲検結果で承認されてましたか?」との返信。おいおい。レムデシビルの特例承認の根拠となったACCT-1試験は明確に二重盲検試験だ。その旨を指摘するついでに「これは添付文書にですら書いてある情報ですよ。ちゃんと調べてますか?」と追加して引用リツイートした。というか、調べていないことは明らかだろう。まあ、これでそろそろ止むだろうと思った私が甘かった。さらにAさんから返信。「WHOから、指摘ありましたよね」と。ああ、でました。それね。要は一時期、WHOが非常に粗い設定だった「SOLIDARITY試験」に基づき推奨しない見解を出した件だ。この見解は専門家からも批判され、当事者のギリアド社ですら公式に反論をリリースしたほど。後にデータが蓄積されたことでWHOも見解を修正している。私はさらに返信した。「また、きちんと調べずにモノを言うんですか? 承認後にWHOはよりレベルの低い『SOLIDARITY試験』に基づき推奨しない見解を出し、専門家からも批判されました。しかし、後のデータ蓄積などで、この見解は修正されています。あれこれ言う前に勉強すべきです」もうこれで何か返信があっても反応しないと一旦は決めた。しかし、このツイートにある方から「いいね」が付いた。相互フォローとなっていて面識もあるS先生からだ。医師の世界で知らない者はいないと言ってもいいパワフルな人だ。いや、ご多忙中なのに見ていたんだ。恥ずかしい。となると、もはや相手が黙るまで止めるわけにはいかない(笑)。そしてやはり返信があった。「そのようですね」とWHOの見解修正に関する別の人のツイートを引用。珍しくおとなしくなったと思いながらも、「ワクチンに関してどう思われますか?」と、どこかのTVが報じた国内での新型コロナワクチン接種後の死亡者数について触れた動画を引用してきた。次なる「ゴールポスト」変更の地雷付きだ。これにまともに付き合っていたら持たない。なんせ多くの方がご存じのようにアビガン問題と違って、ワクチン否定派の陰謀論は、まるで底なしのガラクタ箱のように、意味のない重箱の隅つつきの事案が次々と登場するだけだから。私もAさんのツイートにイライラしていたので、次のような趣旨で返した。「いい加減、ヒトに聞いたり、誰かのツイートを都合よく切り貼りするのではなく、自分で英語論文などの原典を調べたりすればいいんじゃないですか? どうやらこれまでのやり取りを見ていると英語論文などの原典に当たっていませんよね? 英語も十分に読めているようではない感じですが」腹立ちまぎれにこの辺で勉強したほうが良いですよ、と大学受験生向け英単語参考書のリンクでも貼ろうと思ったがさすがにやめておいた。するとまた返信。もういい加減にしてくれ!アメリカで裁判所の求めに応じてファイザー社が新型コロナワクチンに関する一部の文書を公開した一件を送ってきた。私もこの情報はすでにちらちら眺めていたが、はっきり言って目新しい情報はほとんどない。一部のワクチン否定派がまさに重箱の隅を突いてフレームアップしているだけである。そして私がきちんと勉強せよと言ったことに対するネット民にありがちな反応、「素人ですが、何か?」と付け加えてあった。これに対して以下のような趣旨の引用ツイートをした。「素人だから誤った情報を流布することが倫理的に許されるわけではありません。公開アカウントで発信するなら物事の事実関係は確認すべきです。カナダのアビガン違反広告の件を公的にアビガンの効能を認めたかのように発信したことをはじめ誤った情報をツイートしてますよね」なぜかこの時は一連のやり取りの中で最も多い「いいね」が付く。また、S先生も。あー、やっぱりまだ止められないんだなと思ってしまった。しかし、これでAさんからの返信は打ち止め。ここでほぼ丸2日間の応酬が終わった。しかし、このことを通じて改めて思ったのは、何かを固く信じている人ほど、さまざまな情報をあれこれ都合よく引用するという現実。コロナ禍が続く限り、こうしたことも永久機関のように続くのかと思うとうんざりである。

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