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サイケデリックなうつ病治療(解説:岡村毅氏)

 少し前に、がんの「標準治療」を劣ったものと誤解し、怪しげな「民間療法」あるいは「自称最先端の治療」に騙されてしまう患者さんがいることが問題になった。標準治療とは、実は科学的根拠がある最適な治療なのだということは今では多くの人の知るところになった。同じことは精神医学でもいえる。多くのうつ病は、短期間の抗うつ薬投与と休養であっさり回復する。標準治療をお勧めする。 ただし、すべてのうつ病が医学的に治るというのは思い上がった意見だろう。治療抵抗性うつ病とは薬物治療等に反応が不良なうつ病、つまり何をやってもうまくいかないうつ病を指すが、うつ病治療学の大きな課題であった。認知行動療法やマインドフルネスといった治療技術もこれを射程に開発された。 この論文は、マジックマッシュルームなどに含まれる幻覚成分を用いた治療抵抗性うつ病の治療に関する研究の報告であるが、すでにフェーズ2まで進んでいる。抗うつ効果がはっきりある一方で、自殺念慮などの深刻な有害事象も生じている。抗うつ薬はすでに新しいものが出にくい状況であるので、臨床的には大変興味深い。 医学的にはただそれだけのことである。 しかし、マジックマッシュルームや幻覚剤というと、医学的なことに留まらず、さまざまな側副情報がくっついており、非常に危険な話題である。この記事を読んでいるのは知識がある人であろうから、ある程度ざっくばらんに書くが、あくまで私個人の意見として以下を読んでいただければと思う。 まず幻覚剤はヒッピームーブメントと結びついている。ご承知のように1960年代の米国のカウンターカルチャーであり、現代文明によって奴隷のようになった我々を解放しなければならないという心性である。気持ちとしてはなんとなくわかるが、幻覚剤を用いた宗教行事のようなことを行って、解放を目指したりしがちである。これは現代アメリカ文明がネイティブアメリカン等の先住民の虐殺の上に成り立っているという原罪意識とも結びついているかもしれない。 あの時代ならではであるが、リアリー元教授という人がハーバード大学で幻覚剤を用いて人を変えることができると主張して科学的にはめちゃくちゃな研究をし、追放された。ちなみにリアリー元教授は破天荒な人生を歩んだ人で、テレパシー、宇宙移住、ジョン・レノンとオノ・ヨーコとの活動、カルフォルニア州知事選への立候補などもしている。彼のせいで、幻覚剤を用いた治療というと、かなりイロモノになったことは事実であろう。 一方で体制側も幻覚剤を用いていた。あるいは用いていたと多くの人が信じている。悪名高きMKウルトラ計画はCIAによる洗脳研究とされる。とはいえ、自分はMKウルトラの被害者だと主張する人や、自分は宇宙人に誘拐されたなどと主張する人が米国には多数いるが、その真偽は明らかではない。 精神医学に関して言うと、精神科医ほど体制を嫌う集団はないと個人的には思っているが(なので社会から排除されるこころ病む人を支援しようという情熱が根本にあるのだが)、精神医学が体制のために使われているのだと主張する人は精神医学の「内部から」常に現れる。いわゆる反精神医学であり、上記のヒッピームーブメントの時代に大きなうねりとなった。確かに旧ソ連などでは精神医学が反体制派の弾圧に使われてしまっており、「自分たちが体制に使われてはいけない」というのは健全な批判精神であろう。とはいえ反精神医学は、精神疾患などというものはないのだとか、治療をしてはいけないとか、極端な主張に陥りがちであったことも事実だ。前述の「民間療法」や「自称最先端の治療」と大して変わらない。 以上、非常に荒っぽくまとめると幻覚剤は、現代文明からの解放や体制との戦い、体制側の洗脳、という両極端の過激な考えと結び付けられてしまい、それぞれの人にとってさまざまな感情を喚起するため、とても取扱注意なのである。 精神医学は、社会学や、文学とも強く結び付いており、社会の安定のための学問でもあるが、同時に社会を変革する(ひっくり返す)学問でもあるという独特の面白さがある。この点をわかっていただきたくていろいろと書いた。とはいえ先ほど「医学的にはただそれだけのことである」と書いたように、この研究は北米と欧州の多施設で科学的に計画されて粛々と行われている。上記のさまざまな先入観というか歴史的に帯びてしまった意味を脇に置いて、淡々と読んでいただきたいものである。

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思わぬ収穫のあった講演会【Dr. 中島の 新・徒然草】(453)

四百五十三の段 思わぬ収穫のあった講演会11月も終わりに近づいてきました。大阪の空気もずいぶん冷えています。でも、散歩なんかにはちょうどいい気温かもしれません。最初は寒くても、歩いているうちに体が温まってくるからです。さて、先週の土曜日、大阪医療センターでは法円坂フォーラムという講演会が行われました。近隣医療機関の先生方を集めて当院の宣伝を行おうというものです。役職者もできるだけ顔を見せるように、ということだったので私も出席しました。テーマは放射線治療で、関係者4人の講演がありました。実は、私自身はあまり放射線治療科には縁がありません。でも、4人の講演を聴いてみると非常に面白かったので、得した気分になりました。とくに印象に残ったところを紹介しましょう。よくご存じの先生方には当たり前のことかもしれませんが、私には新鮮でした。対象となる疾患は、子宮頸がん、舌がん、皮膚がん、前立腺がんなどです。転移性脳腫瘍や脳動静脈奇形も少しだけありました。子宮頸がんについては、進行度によって外科的治療と放射線治療のすみ分けができているそうです。放射線治療の目標としては、ターゲットとなるがんに十分な線量を当てる一方で、隣接する膀胱や大腸、小腸を保護しなくてはなりません。そのためにいろいろな工夫がされていました。組織内小線源を使う場合、コンピュータの自動計算では必ずしもいい治療計画ができるとは限らないそうです。そこで、人間が条件を変更したうえで自動計算させると、理想的な治療計画ができるのだとか。提示された症例では、当初はがんへの線量が不十分にもかかわらず、隣接臓器に余分な線量が加わっていました。そこで、(あくまでも私の理解ですが)線源を1本キャンセルした上で計算をやり直させたようです。そうすると、素人目にもピッタリの治療計画ができました。こういう裏ワザがあるのか、と感心させられた次第です。また、ある男子中学生の陰茎がんの治療には苦心したようです。がんごと陰茎を切断してしまえば完治するのかもしれないけど、そこを何とか機能を保ちつつ治してやりたいと思うのが担当医の親心。おそらく、世の中の男性全員の賛同を得られることでしょう。しかし、ターゲットは放射線治療が最も不得意とする変形しやすいもの。何とかデンタルシリコンやら病理用パラフィンやらを用いて型をとって固定してから放射線治療をしたそうです。その結果、見事にがんは消失し、本体を温存することができました。演者曰く。「苦労して作ったモールドで治療してから早や10数年、そろそろ『子供ができました』とかいう報告が欲しいですね」ということで、内容もさることながら、担当医の創意工夫に驚かされた1日でした。次回は来年3月で、テーマは整形外科だそうです。どんなマニアックな治療を披露してもらえるのか、楽しみですね。最後に1句小雪(しょうせつ)に 手作り治療を 堪能す

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学会発表を華麗にスタートさせる「ショートカットキー」【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第4回

学会発表を華麗にスタートさせる「ショートカットキー」1)書式のコピペで効率アップ2)範囲指定でスクリーンショットを撮る3)[F5]、[Shift+F5]でスムーズにプレゼンを開始するパワーポイントのスライドづくりをする際に、時間がかかり過ぎてしまうことはないでしょうか。そんな方にお勧めしたいのが、ショートカットキーの活用です。ショートカットキーをマスターすると作業効率がアップし、スライドのクオリティも高まります。まず、意外と知られていない便利なショートカットキーが、“書式”のコピー&ペーストです。“文字”のコピー&ペーストは[Ctrl]+[C]、[Ctrl]+[V]でできることはよく知られていますが、これにShiftキーを追加して、[Ctrl]+[Shift]+[C]で書式のコピー、[Ctrl]+[Shift]+[V]で書式のペーストができます〈図1〉。なおMacでは[option]+[command]+[C]で書式のコピー、[option]+[command]+[V]で書式のペーストができます。スライド内で、太字や文字の色、文字の大きさなどを統一したい時に、積極的に活用しましょう。〈図1〉画像データなど、画面の一部を切り取りたい時に便利なのが、Windowsの「切り取り&スケッチ」というツールです。[Windows]+[Shift]+[S]を同時に押すとこのツールが起動します。画面が薄暗くなり、切り取る範囲を指定してスクリーンショットを撮影することができます〈図2〉。これまでスクリーニングショットを撮った後にトリミングしていたという方は、その手間を省くことができます。Macでは[command]+[shift]+[4]がこれに対応しています。〈図2〉最後に、パワーポイントのスライドショーを開始するときに、スライドショータブから「最初から」をクリックしてスライドショーモードに切り替えている方が多いかもしれませんが、[F5]を押すと“最初から”スライドが再生され、[F5]+[Shift]を押すと“現在のスライドから”再生されます。なおMacでは[command]+[shift]+[return]で最初から、[command]+[return]で現在のスライドから開始になります。これらをマスターすると、プレゼンをスムーズに始めたり、質疑応答の最中に表示したいスライドからスライドショーを再生したりすることができるため、学会発表本番で重宝するショートカットキーです。〈図3〉講師紹介

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11月24日 いい尿の日【今日は何の日?】

【11月24日 いい尿の日】〔由来〕寒さが本格化してくる時期である11月の「いい(11)にょう(24)」(いい尿)と読む語呂合わせからクラシエ製薬株式会社が制定。寒さが増すと頻尿・夜間尿などの排尿トラブルが増えることから、その啓発や症状に合った治療を広く呼び掛けることが目的。関連コンテンツ女性の頻尿、どう尋ねるべき?【Dr.山中の攻める!問診3step】知っておきたい女性の排尿障害の診療【診療よろず相談TV】頻尿、排尿痛があるときの症状チェック【患者説明用スライド】尿が少ない・出ないときの症状チェック【患者説明用スライド】新・夜間頻尿診療ガイドラインで何が変わるか/日本排尿機能学会

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第21回 第8波で「風邪薬」が軒並み出荷調整へ

沖縄第7波と対照的第8波は北海道からスタートです。第7波で沖縄が壊滅的な医療逼迫に陥ったことが記憶に新しいと思います。夏の沖縄に観光に行って、そのまま新型コロナのホテル療養になるという災難な人もいました。第7波に大きな痛手を負った地域ほど今回流行がゆるやかな印象です。これまでの波の集団免疫が影響しているのかもしれません。また、北海道は一足早く紅葉シーズンと秋の味覚シーズンが到来しました。全国旅行支援の後押しもあって旅行客も多かったと聞いています。これが新規陽性者数の増加につながった可能性はあります。北海道第8波では、いとも簡単に1日の新規陽性者数1万人を超えてきました(図)。過去最多です。急峻なピークを描いて、そのまま収束してくれるとありがたいのですが、第6波のように二峰性の波になる可能性もあります。第6波は変異ウイルスによって波が2つに分離されたのですが、今回はBA.5が8割以上を占めているものの、BA.2.75、BF.7、BQ.1.1がじわじわと増えつつあります1)。かなり細分化されて報告されているため、個々の変異ウイルスが波を形成するには至らないかもしれませんが、すんなりと第8波が終わってくれるのかは神のみぞ知るです。インフルエンザとの同時流行があると、かなりやっかいなことになります。画像を拡大する図. 北海道の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)先日、北海道のクリニックの医師と電話でお話をしたのですが、風邪症状を治める薬剤に出荷調整がかかっており、厳しいという意見がありました。トラネキサム酸やトローチなどが出荷調整新型コロナやインフルエンザには抗ウイルス薬を使用しますが、症状の緩和のためには症状を治める薬剤を使用することが多いです。呼吸器内科医なので、血痰・喀血の患者さんにトラネキサム酸を使用することがあるのですが、ここ最近トラネキサム酸が処方しにくく、少し困っています。咽頭痛に対するトラネキサム酸自体もそこまでエビデンスがあるわけではないのですが、プライマリ・ケアでは結構頻用されることが多いです。今月から、デカリニウム(商品名:SPトローチ)の処方が厳しくなってきました。これもそんなにエビデンスがあるわけではないので、積極的に処方することは多くないのですが、こちらの製剤は抗がん剤などで口内炎や咽頭痛がしんどい患者さんが強く希望することもあります。処方してから初めて出荷調整がかかっていることを知ることもありますが、まあとにかく、風邪症状を治める薬剤が処方できない場面はよく経験されます。いやあ、この状況で第8波とインフルエンザシーズンを迎えるのはしんどいかもしれませんね。新型コロナの咽頭痛に対するデキサメタゾンに関しては、エビデンスは何とも言えませんが、個人的には強烈な咽頭痛でしんどそうな患者さんには、デキサメタゾンの単回投与を検討してもよいかなとも考えています。ただし、48時間以内の症状軽減でようやく有意差が付いたという、弱いエビデンスではありますが。参考文献・参考サイト1)(第107回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年11月17日)

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果物の摂取量が多いほどうつ病リスク低下/国立精神・神経医療研究センター

 日本のコホート研究において、野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物(リンゴ、梨、柑橘類、ブドウ、イチゴなど)の摂取が、うつ病のリスク低下と関連するかどうかを調べた結果、果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、うつ病の発症率が低かったことを、国立精神・神経医療研究センターの成田 瑞氏らの共同研究グループが発表した。Translational Psychiatry誌2022年9月26日掲載の報告。果物全体とフラボノイドが豊富な果物の両方でうつ病のオッズ比が低かった 先行研究では、野菜や果物の摂取がうつ病の予防に有意である可能性が示されており、とくにフラボノイドは脳由来神経栄養因子や酸化ストレス、神経炎症の抑制作用により抗うつ効果を持つことが示唆されていた。そこで本研究では、野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取がうつ病のリスク低下と関連するかどうかを調べた。 調査は、1990年時点で長野県南佐久郡8町村に在住の40~59歳の1万2,219人のうち、1995年と2000年に行った2回の食事調査アンケートに回答があり、かつ2014~15年にかけて実施した「こころの検診」に参加した1,204例(男性500例、女性704例)を対象とした。野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取量によって5グループに分け、摂取量が最も少ないグループを基準とした場合の、他のグループのうつ病の発症リスクとの関連を調べた。また、野菜や果物に関連する栄養素として、α-カロテン、β-カロテン、ビタミンC、ビタミンE、葉酸の平均摂取量とうつ病との関連も検討した。解析では、年齢、性別、雇用状況、飲酒量、現在の喫煙、運動習慣の影響は調整された。 野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取がうつ病のリスク低下と関連するかどうかを調べた主な結果は以下のとおり。・野菜、果物、フラボノイドの豊富な果物の摂取量が最も多いグループでは、摂取量が最も少ないグループと比較して、高齢者、女性、未就労者、非飲酒者、非喫煙者が多かった。運動習慣に差はみられなかった。・1,204例中93例が精神科医によってうつ病と診断された。・果物全体の摂取量が最も少ないグループと比較して、摂取量が最も多いグループにおけるうつ病のオッズ比は0.34(95%信頼区間[CI]:0.15~0.77、p=0.04)であった。・フラボノイドの豊富な果物の摂取量が最も少ないグループと比較して、摂取量が最も多いグループのうつ病のオッズ比は0.44(95%CI:0.20~0.97、p=0.05)であった。・フラボノイドの豊富な果物の摂取量が最も多いグループの中で、とくにイチゴの摂取によるうつ病のオッズ比は0.37(95%CI:0.18~0.79)と顕著であった。・野菜や関連栄養素の摂取量とうつ病との間には関連はみられなかった。 これらの結果より、同氏らは「果物全体とフラボノイドが豊富な果物の両方について、最も多く摂取したグループでうつ病のオッズ比が低かったことから、フラボノイド固有のメカニズムというよりも、果物が持つ抗酸化作用などの生物学的作用がうつ病の発症に対して予防的に働いた可能性が考えられる」と述べるとともに、「今後の研究では、より大きなサンプルを採用し、他の潜在的な交絡因子を調整する必要がある」とまとめた。

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日本における妊娠中の社会的孤独と不眠症との関係

 東北大学(東北メディカル・メガバンク機構)の村上 慶子氏らは、妊娠中の女性の不眠症有病率を推定し、妊娠中の社会的孤独と不眠症との関連を調査した。その結果、妊娠中の女性における家族や友人からの社会的孤独は、不眠症リスク増加と関連していることが示唆された。Sleep Health誌オンライン版2022年10月10日号の報告。 本横断的研究は、2013~17年に東北メディカル・メガバンク機構の三世代コホート調査の一部として実施された。妊娠中の女性を宮城県の産婦人科クリニックおよび病院で募集し、調査票への回答および医療記録の提供を許可した女性1万7,586人を対象に分析を行った。不眠症の定義は、アテネ不眠尺度スコア6以上とした。社会的孤独の評価にはLubben Social Network Scale短縮版(LSNS-6)を用い、スコア12未満を社会的孤独と定義した。また、LSNS-6のサブスケールを、家族または友人関係の質の評価に用いた。妊娠中の社会的孤独と不眠症との関連の評価には、年齢、出産回数、妊娠前のBMI、妊娠に対する感情、教育、収入、就労状態、つわり、精神的苦痛で調整した後、多重ロジスティック回帰分析を用いた。家族または友人関係の影響についての分析にも、多重ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・妊娠後期の不眠症有病率は、37.3%であった。・社会的孤独が認められた女性は、そうでない女性と比較し、不眠症リスクが高かった(多変量オッズ比[OR]:1.26、95%信頼区間[CI]:1.16~1.36)。・家族関係(OR:1.40、95%CI:1.25~1.56)や友人関係(OR:1.15、95%CI:1.07~1.24)の希薄さは、不眠症リスク増加と関連していた。

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コロナワクチンで帯状疱疹リスクは上がるのか~大規模調査

 新型コロナワクチン接種後に帯状疱疹が発症した症例が報告されているが、ワクチンによって帯状疱疹リスクが増加するのかどうかは不明である。今回、新型コロナワクチン接種が帯状疱疹リスク増加と関係するかどうかについて、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のIdara Akpandak氏らが検討した。その結果、新型コロナワクチン接種後の帯状疱疹の発生率比が0.91であり、本研究では新型コロナワクチン接種と帯状疱疹リスクの増加とは関係していないことが示唆された。JAMA Network Open誌2022年11月16日号に掲載。コロナワクチンと帯状疱疹とは関係しなかった 本コホート研究では、自己対照リスク期間分析を用いて、新型コロナワクチン接種後30日目または2回目接種日までのリスク期間と、新型コロナワクチン最終接種日から60~90日のコントロール期間(リスク期間とコントロール期間の間に30日間を確保)における帯状疱疹の発症リスクを比較した。また、新型コロナワクチン接種後の帯状疱疹リスクを、パンデミック以前(2018年1月1日~2019年12月31日)もしくはパンデミック初期(2020年3月1日~11月30日)にインフルエンザワクチンを接種した2つのコホートにおけるインフルエンザワクチン接種後の帯状疱疹リスクと比較した。データは米国の医療請求データベース(Optum Labs Data Warehouse)から入手。2020年12月11日~2021年6月30日に、ファイザー製ワクチン(BNT162b2)、モデルナ製ワクチン(mRNA-1273)、ヤンセン製ワクチン(Ad26.COV2.S)のいずれかを接種した203万9,854人のデータを分析した。 新型コロナワクチン接種と帯状疱疹リスクの増加との関係を検討した主な結果は以下のとおり。・新型コロナワクチンを接種した203万9,854人の平均年齢(SD)は43.2(16.3)歳で、女性が50.6%、白人が65.9%であった。このうち、帯状疱疹と診断された1,451人が自己対照リスク期間分析の対象で、平均年齢(SD)は51.6(12.6)歳、女性が58.2%だった。・自己対照リスク期間分析において、新型コロナワクチン接種は帯状疱疹のリスク上昇と関係しなかった(発生率比[IRR]:0.91、95%信頼区間[CI]:0.82~1.01、p=0.08)。・ファイザー製ワクチン接種では帯状疱疹リスクが低下し(IRR:0.84、95%CI:0.73~0.97、p=0.02)、モデルナ製ワクチン接種は帯状疱疹リスクとの関連は認められなかった(IRR:0.96、95%CI:0.81~1.15、p=0.67)。・新型コロナワクチン接種は、パンデミック以前のインフルエンザワクチン接種と比べて帯状疱疹リスクが低かった。 - 1回目接種のハザード比(HR):0.78、95%CI:0.70~0.86、p<0.001 - 2回目接種のHR:0.79、95%CI:0.71~0.88、p<0.001また、パンデミック初期のインフルエンザ接種とは有意差が認められなかった。 - 1回目接種のHR:0.89、95%CI:0.80~1.00、p=0.05 - 2回目接種のHR:0.91、95%CI:0.81~1.02、p=0.09

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食道診療ガイドライン2022改訂、日本発エビデンスで治療戦略が大きく変更

 2022年9月に「食道診療ガイドライン」が刊行された。2002年に「食道治療ガイドライン」が発刊されてから20年、前版から5年振りの改訂となる。 10月に行われた日本治療学会の北川 雄光氏(慶應義塾大学・食道治療ガイドライン検討委員会委員長)の講演「食道集学的治療のこれまで、これから」、浜本 康夫氏(慶應義塾大学・腫瘍センター)による教育講演「食道扁平上皮がんに対する薬物療法」を参考として、食道診療ガイドライン2022年版の主な変更点をまとめた。食道診療ガイドライン2022年版で大きく変更のあったCQ 食道がんは他の消化器がんと比べて薬物療法において使用できる薬剤の種類が限られており、近年まで切除可能症例については外科手術を基軸として、化学療法や放射線療法を用いた周術期治療が主に術前治療として行われてきた。しかし、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が登場し、この3年ほどのあいだに大幅に治療戦略幅が広がってきた。そこには日本発のエビデンスも大きな役割を果たしている。今回の食道診療ガイドライン2022年版の改訂において、とくに大きく変更のあったクリニカルクエスチョン(CQ)は以下のとおり。CQ8:cStageII、III食道に対して手術療法を中心とした治療を行う場合、術前化学療法、術前化学放射線療法のどちらを推奨するか?→ cStageII、III食道に対して手術療法を中心とした治療を行う場合、DCF3剤併用術前療法を強く推奨する。 切除可能局所進行食道がんの術前療法としては、日本ではシスプラチン+5-FU(CF療法)が長らく標準療法であったが、欧米においては化学放射線療法が標準療法となっている。日本と海外では術式や組織型が異なるため、海外の臨床試験の結果をそのまま受け入れるのは難しいと考えられていた。一方、CF療法にドセタキセルを加えたDCF療法が頭頸部がんなどで有望な効果を示しており、術前療法としてのCF vs. DCF vs. CF+放射線(RT)療法の3つを比較したJCOG1109(NExT)試験が計画され、今年初めに結果が報告された。 NExT試験の結果は、CF群の3年生存率62.6%に対してDCF群は72.1%と10%近く上回り、CF群とCF+RT群には統計学的な有意差は示されない、というものだった。徹底的な郭清を行う日本の外科手術においては術前の強い化学療法が有効性を示す、という治療戦略の正しさを世界に示す結果となった。DCF群では遠隔転移が少ない一方で、CF+RT群では他病死が多く、放射線治療による晩期障害が他病死につながっている可能性が指摘されている。CQ9:cStageII、III食道に術前補助療法+手術療法を行った場合、術後補助療法を推奨するか?→ 1)cStageII、IIIの食道に対して、術前化学放射線療法および手術を行い、根治切除が得られるも病理学的完全奏効が得られない場合、組織型や腫瘍細胞におけるPD-L1の発現によらず、術後ニボルマブ療法を行うことを強く推奨する。→ 2)cStageII、IIIの食道に対して、術前化学療法および手術を行い、根治切除が得られるも病理学的完全奏効が得られない場合、術後ニボルマブ療法については、現時点で推奨を決定することができない。 1)は2020年に発表されたCheckMate-577試験の結果を受けたもの。術前化学放射線療法後に切除を行った食道がんまたは胃食道接合部がんに対するニボルマブの効果を見た試験であり、主要評価項目である無病生存期間(DCF)はニボルマブ群で22.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.6~34.0)、プラセボ群で11.0ヵ月(95%CI:8.3~14.3)と、ニボルマブ群の優越性が示された。ニボルマブの有効性は組織型にも拠らないという結果だった。 2)の術前化学療法+術後のニボルマブ投与の有用性は準拠するエビデンスがない状態で、日本の標準療法が術前DCF療法であることを考えると、ここは早急にエビデンスの確立が求められる部分だ。CQ15:切除不能進行・再発食道に対して一次治療として化学療法は何を推奨するか?→ 1)切除不能進行・再発食道に対して一次治療として、ペムブロリズマブ+シスプラチン+5-FU療法を行うことを強く推奨する。→ 2)切除不能進行・再発食道に対して一次治療として、ニボルマブ+シスプラチン+5-FU療法もしくはニボルマブ+イピリムマブ療法を行うことを強く推奨するが、患者の全身状態および、PD-L1発現状況(TPS)、忍容性等を考慮する。 近年、二次化学療法においてICIの有用性が示され、一次療法においても検討が行われている。1)はKEYNOTE-590試験の結果を受けたもので、749例を対象に初回治療としてのペムブロリズマブの有効性を見た試験おいて、扁平上皮がんかつCPS>10の患者集団における全生存期間(OS)中央値は、ペムブロリズマブ群13.9ヵ月(95%CI:11.1~17.7)に対して、プラセボ群8.8ヵ月(95%CI:7.8~10.5)であり、ペムブロリズマブ併用群の優越性が示された。 2)はCheckMate-648試験の結果を受けたもので、登録患者970例はニボルマブ+化学療法群、ニボルマブ+イピリムマブ群、化学療法単独群に1:1:1で割り付けられた。ニボルマブ+化学療法群の無増悪生存期間(PFS)中央値は、TPS≧1集団において6.9ヵ月(95%CI:5.7~8.3)であり、化学療法単独群の4.4ヵ月(95%CI:2.9~5.8)を有意に上回ったが、全ランダム化集団においては有意差を認めなかった。 食道がんも他のがん種と同様に、外科手術中心の時代から化学療法に加えて放射線療法やICIも組み合わせた集学的・個別化医療の時代に突入しており、今後はロボット支援手術によるさらなる低侵襲化や合併症の軽減によって長期予後を狙うことなどに焦点が当てられている。また、食道診療ガイドライン2022版の改訂にあわせ、『食道取扱い規約』も12版に改訂されている。『食道診療ガイドライン 2022年版 第5版』編集:日本食道学会定価:3,520円(税込)発行:2022年9月B5判・176頁・図数:19枚・カラー図数:13枚

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AMI救急患者、層別化と迅速フォローでアウトカム改善/NEJM

 救急外来を受診した急性心筋梗塞患者について、臨床医の入退院の意思決定を支援するために病院ベースで開発したポイント・オブ・ケア(POC)アルゴリズムを用いて患者を層別化し、高リスク患者は入院させ、低リスク患者については外来で迅速にフォローアップをすることで、通常ケアと比較し、30日以内のあらゆる死亡および心血管系入院の複合リスクの有意な低下(補正後ハザード比[HR]:0.88)が示された。カナダ・トロント大学のD. S. Lee氏らが、10病院を対象に行ったステップウェッジクラスター無作為化試験「COACH試験」の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2022年11月5日号掲載の報告。通常ケアフェイズから介入フェイズへクロスオーバー試験 研究グループは、救急外来を受診した急性心筋梗塞の成人患者について、POCアルゴリズムの使用と外来での迅速なフォローアップがアウトカムに影響するかを検討する試験を行った。カナダ・オンタリオ州の10病院を、通常治療(対照)フェイズと介入フェイズをクロスオーバーして順次開始する無作為に割り付け、被験者にPOCアルゴリズムを使い、死亡リスクにより層別化。介入フェイズでは、低リスク患者は3日以内に退院し、標準化された外来ケアを受けた。高リスク患者は、入院した。 主要アウトカムは、30日以内の全死因死亡または心血管入院の複合アウトカム、および20ヵ月以内の同複合アウトカムだった。20ヵ月以内アウトカムも、介入フェイズでわずかだが改善 被験者数は5,452例で、対照フェイズが2,972例、介入フェイズが2,480例だった。 30日以内の全死因死亡または心血管入院の発生は、対照フェイズ430例(14.5%)に対し介入フェイズ301例(12.1%)だった(補正後HR:0.88、95%信頼区間[CI]:0.78~0.99、p=0.04)。 20ヵ月以内の主要アウトカムの累積発生率は、対照フェイズ56.2%(95%CI:54.2~58.1)、介入フェイズ54.4%(48.6~59.9)だった(補正後HR:0.95、95%CI:0.92~0.99)。 深刻な有害事象と定義した、低・中等度リスク患者の30日以内の退院後初回外来診察までの全死因死亡・入院は6件未満だった。

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エンパグリフロジン、疾患リスク進行のCKDに有用/NEJM

 疾患リスクが進行した幅広い慢性腎臓病の患者において、エンパグリフロジンはプラセボと比較し、リスクの進行や心血管系による死亡の低減に結び付くことが示された。英国・オックスフォード大学のWilliam G. Herrington氏らが、広範囲の疾患進行リスクを有する慢性腎臓病患者を対象に行ったプラセボ対照無作為化比較試験「EMPA-KIDNEY試験」の結果を報告した。NEJM誌オンライン版2022年11月4日号掲載の報告。対プラセボで、腎臓病進行と心血管死の複合アウトカムを評価 EMPA-KIDNEY試験では、推算糸球体濾過量(eGFR)が20mL/分/1.73m2~45mL/分/1.73m2未満、またはeGFR 45mL/分/1.73m2~90mL/分/1.73m2未満で尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)が200(mg/g・CRE)以上の慢性腎臓病患者を対象とした。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方にはエンパグリフロジン(10mg 1日1回)を、もう一方にはプラセボを投与した。 主要アウトカムは、腎臓病の進行(末期腎不全、eGFRが持続的に10mL/分/1.73m2未満、eGFRがベースラインから40%以上持続的に低下、腎臓病による死亡)または心血管系による死亡の複合アウトカムだった。入院リスクもエンパグリフロジン群が有意に低率 合計6,609例が無作為化を受けた。追跡期間中央値2.0年の間に、主要アウトカムの発生は、エンパグリフロジン群3,304例中432例(13.1%)、プラセボ群3,305例中558例(16.9%)だった(ハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.64~0.82、p<0.001)。 この結果は、糖尿病の有無にかかわらず、またeGFR値によるサブグループ別でも一貫していた。 原因を問わない入院の発生率も、エンパグリフロジン群がプラセボ群より低率だった(HR:0.86、95%CI:0.78~0.95、p=0.003)。一方で、心不全による入院または心血管系による死亡の複合アウトカム発生率(エンパグリフロジン群4.0%、プラセボ群4.6%)、および全死因死亡の発生率(4.5%、5.1%)は両群間で有意差はみられなかった。 重篤な有害イベントの発現頻度は、両群で同程度だった。

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いよいよRNAの薬の時代!(解説:後藤信哉氏)

 生命機能を担うタンパク質の構造と機能はDNA配列により規定される。細胞におけるタンパク質の産生はDNA配列に基づいたRNAの配列の影響を受ける。分子生物学の黎明期に医学教育を受けた筆者には、ゲノム編集などのDNAを標的とする治療の論理を理解できても、低分子干渉RNAを薬にするとは想像したこともなかった。本研究は生命体に関する分子生物学的研究の進展が新規技術による革新的治療法を生み出す可能性を示唆した画期的研究である。 心筋梗塞の発症とLDLコレステロールの関係が深いことは広く知られている。スタチン、PCSK9阻害薬などLDLコレステロールを十分に低下させる治療は広く普及した。それでも冠動脈疾患の再発を完全に予防できているわけではない。本研究では冠動脈疾患のリスク因子としてLDLコレステロールよりも複雑なリポ蛋白(a)を治療標的とした。 水に溶けない脂質の研究はタンパク質よりも難しい。遠心分離した血液サンプルを用いて比重からタンパク質と結合した脂質を分類してきた。リポ蛋白(a)はLDLによく似ているがアポ蛋白としてapo(a)が結合している。本研究では低分子干渉RNAにてapo(a)の産生を制御し、結果としてリポ蛋白(a)を低下させようとの発想である。高度な生命科学技術の複合として開発された治療法といえる。 革新的技術により開発された薬剤であっても古典的なランダム化比較試験による臨床評価が必要というのが現在の薬剤開発のルールである。本研究は用量設定試験として281例が登録された。小規模試験であるがサロゲートエンドポイントであるリポ蛋白(a)はいずれの用量でも劇的に低下した。この低分子干渉RNA製剤によるリポ蛋白(a)低下作用は証明されたとせざるを得ない。少数例のランダム化比較試験であっても、NEJM誌に採択されるほど本研究は革新的である。薬剤として臨床使用されるためにはリポ蛋白(a)低下により冠動脈イベントなどの臨床イベントを低下させることを示さなければならない。しかし、汎用性のある方法なので今後、他の疾病に応用される可能性が高いと思う。

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第136回 出揃った「かかりつけ医」の制度案、医療機関が手上げして患者が自分で選択する方式が浮上(前編)

熱を帯びる「かかりつけ医」制度化の議論こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は実家のある愛知県に中央自動車道をすっ飛ばして行ってきました。大きな目的は父親のマイナンバーカード交付申請と、マイナポイントを受け取る決済サービスを持っているかの確認。そして90歳の老人に運転免許の更新をあきらめさせることです。交付申請自体は、近所の携帯電話ショップが無料で代行(業者に補助金が入ります)してくれたので、簡単でした。ただ、実際にカードが交付されたら今度は町役場で暗証番号等の登録をしなければなりません。90歳の老人に英数字混合の暗証番号の設定や、マイナポイントの申請は相当ハードルが高い作業に思えます。運転免許更新の意向を翻すことも不調に終わりました。年内にもう1度くらいは実家に帰る必要がありそうです。さて、2023年度の予算編成が目前に迫り、11月に入って「かかりつけ医」の制度化に関する議論が今まで以上に熱を帯びてきています。日本医師会、財務省、日本病院会、健康保険組合連合会、全世代型社会保障構築会議がそれぞれの案を公表、まさに百花繚乱です。かかりつけ医制度化の方針は岸田政権も踏襲今回のかかりつけ医の制度化の議論の発端は、昨年4月15日財務省主計局が、社会保障制度の見直しについて議論する財政制度等審議会・財政制度分科会(分科会長=榊原 定征・前経団連会長)において、社会保障制度の改革についての考え方を示し、この中で診療所における「かかりつけ医機能」の制度化を提言したことです。同分科会は、「複数の慢性疾患を抱える患者が増加する超高齢化社会において、患者がその状態に合った医療を受けるためにも、有事を含め国民が必要な時に必要な医療にアクセスできるようにするためにも、緩やかなゲートキーパー機能を備えた『かかりつけ医』の推進は不可欠である」と言い切りました(「第59回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる? “家庭医構想”というパンドラの匣」参照)。同年10月に岸田政権が発足するとその方針も踏襲されました。今年5月25日に公表された財務省の財政制度等審議会の「春の建議」では、「かかりつけ医機能を持つ医療機関」を認定する仕組みを設けて、「利用希望者による事前登録・医療情報登録」を促すなどの段階的な取り組みを進めていくべきであると、さらに踏み込んだ提言が行われています。こうした議論が進む中、患者の「登録制」や、英国のGP制度のような報酬の人頭払い制などの導入を何としても回避したい日本医師会は、4月20日に中川 俊男前会長が、かかりつけ医の今後のあり方にとして『国民の信頼に応えるかかりつけ医として』を取りまとめて公表、制度化を牽制しています(「第108回 「かかりつけ医」の制度化めぐり、日本医師会と財務省の攻防本格化」参照)。医療機関の役割分担や連携を進め、地域全体でカバーする仕組みを日医提言さらに日医は、前政権下での抽象的な提言だけでは不十分と感じたためか、松本 吉郎新会長下で改めて「かかりつけ機能」のあり方の検討に入りました。そして、先ごろ、11月2日に「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」を公表、医療機関の役割分担や連携を進め、地域全体で「かかりつけ医機能」をカバーする仕組みを提言しました1)。この案は、2013年8月に公表した日医と四病院団体協議会との合同提言や、各都道府県が運営する「医療機能情報提供制度」で定義されている「かかりつけ医機能」がベースとなっており、とくに新味はありません。国民にわかりやすくかかりつけ医機能を示すための方策について、「医療機能情報提供制度」における「かかりつけ医機能」を、国民の期待に応えることができる内容に改めた上で公表していく、としています。しかし、そもそも「医療機能情報提供制度」の存在自体を知る国民は少数です。そのためか、一読してもむしろわかりにくいと感じましたが、皆さんいかがでしょうか。なお、松本氏は記者会見で、「かかりつけ医は患者が選ぶものである」と強調、財務省が求めるかかりつけ医の認定制度、事前登録、包括払いの拡大に反対する姿勢を改めて示しました。財務省、かかりつけ医の認定制度や事前登録の仕組みには振れずその財務省は11月7日に財政制度等審議会・財政制度分科会を開き、地域の診療所や中小病院がカバーする「かかりつけ医機能」を明確化・法制化し、それらを発揮するための制度の整備を改めて主張しました2)。ただし、今回はかかりつけ医の認定制度や事前登録の仕組みについては触れませんでした。5月に公表した「春の建議」から若干後退した印象です。しかし、効果的で効率的な医療提供体制の実現を医療制度改革の最重要課題と位置付け、その一環として「かかりつけ医機能」を明確化・法制化する必要性を強調している点は変わりありません。この時の同分科会では、日医と四病院団体協議会との合同提言における「かかりつけ医機能」のイメージが医療関係者の間でおおむね共有されてきた、という見方を示しており、なんとなく日医への歩み寄りの気配も感じられる内容でした。うがった見方をすれば、「第125回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」で書いたような、裏でなんらかの“手打ち”が行われていたのかもしれません。医師1人だけを患者が自分の「かかりつけ医」として登録する健保連案「かかりつけ医機能」についてはこの他、日本病院会、健康保険組合連合会も11月に入ってから提言を行っています。日本病院会は11月2日、「かかりつけ医機能」を規定する医療法施行規則の見直しを求める提言を厚生労働省に提出しました3)。この提言ではかかりつけ医機能は「病院も含めた医療機関」の機能と考えるべきだとし、医療法施行規則で掲げている「日常的な医学管理・重症化予防」など8項目の基準が不明確かつ基準が適切ではないと指摘、「かかりつけ医機能」の基準を、1)診療時間内外を問わず地域住民に自院で対応、もしくは他の医療機関と連携して対応、2)特定の領域に偏らない広範囲にわたる全人的医療を行う、3)総合的な医学的管理を行う、の3つに切り替えるよう求めました。そして、自主的に届け出た医療機関が「かかりつけ医機能」を果たすことにより、円滑な地域医療連携体制の構築が可能となる、としました。一方、医療費を支払う側の代表とも言える健康保険組合連合会は11月8日に英国のGP制度にも若干似た「かかりつけ医」の制度案を提言しています4)。「幅広い診療・相談」への対応など一定の機能を整備している医療機関を認定し、それらの医療機関の医師1人だけを患者が自分の「かかりつけ医」として任意で登録する、という内容です。医療機関の認定方法や診療報酬の評価については今後の検討課題としました。全世代型社会保障構築会議、「医療機関、患者それぞれの手上げ方式」を提案こうしたさまざまな提案がなされた後、“トリ”を飾る形で登場したのが、政府の全世代型社会保障構築会議(座長・清家 篤日本赤十字社社長)での提案です5)。11日に開かれた同会議では、会議内でかかりつけ医について議論していたチームから、 かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けた論点の報告を受けました。同チームは「医療機関、患者それぞれの手上げ方式とすべきではないか」と提言しました。政府の組織が登録を義務化せず、医療機関や患者にそれぞれ判断を委ねる「手上げ方式」を新たに提案したことで、かかりつけ医の制度化の議論は、新しい局面に入ったと言えるでしょう。(この項続く)参考1)「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」を公表/日医オンライン2)財政制度分科会(令和4年11月7日開催)資料一覧/財務省3)「かかりつけ医機能」に関する提言/一般社団法人 日本病院会4)「かかりつけ医」の制度・環境の整備について/健康保険組合連合会5)全世代型社会保障構築会議(第8回)資料/内閣官房

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アトピー性皮膚炎の湿疹とかゆみ、臨床で推奨される測定手法は?

 臨床において、アトピー性皮膚炎患者の湿疹コントロールおよびかゆみの強度測定に推奨される手法は何か。イスラエル・ラビン医療センターのYael A. Leshem氏らHarmonising Outcome Measures for Eczema in Clinical Practice(HOME-CP)イニシアチブが、システマティックレビューを介して入手した測定手法についてエビデンスレビューを行った。 結果、湿疹の長期コントロールの測定には、Recap of Atopic Eczema(RECAP)とAtopic Dermatitis Control Tool(ADCT)が、かゆみ強度の測定には、かゆみに関するPatient-Reported Outcomes Measurement Information System(PROMIS)質問票に基づく、かゆみの数値評価スケール(NRS-itch)でみた24時間ピーク値および1週間ピーク値と1週間平均値が推奨される、とのコンセンサスステートメントを発表した。 「臨床医と患者は、これらの十分に検証され、迅速に実行でき、使いやすい手法を診療所に持ち込み、ニーズに最適な手法を選択することを推奨する。今回の評価は、患者と臨床医の出会いに取って代わるものではなく、実臨床での研究およびヘルスケアの改善に資するものである」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年10月12日号掲載の報告。 臨床でのアウトカムを測定することは、患者のケア、質の改善および実臨床のエビデンスジェネレーションに役立つ可能性がある。HOME-CPイニシアチブは、臨床でアトピー性皮膚炎を測定するための、有効かつ実現可能な手段のリストを作成している。これまでの研究で、湿疹症状と長期的なコントロールが、臨床診療で測定すべき最も重要な領域であることが確認されている。 湿疹コントロールとかゆみ強度を測定するための利用可能な手法をシステマティックレビューにより特定し、HOME VIIIバーチャルオンラインミーティング(2020年10月6日と9日)においてコンセンサス(合意形成)プロセスを開催した。検討では、臨床で最適な手法を選択するために実行可能性(feasibility)の側面に力点が置かれた。反対者が30%未満の場合、その手法がコンセンサスを得られたとした。 主な結果は以下のとおり。・湿疹コントロールの手法は7つが特定された。そのうち、コンセンサスを得たのはRECAP(反対者3/63例[5%])とADCT(7/69例[10%])であった。・1つの質問による患者の総合評価は、支持を集めはしたが、現時点で利用可能な手法はコンセンスを得るには至らなかった。・かゆみの強度の測定手法は6つが特定された。そのうち、3つの手法が推奨のコンセンサスを得た。・3つの手法は、かゆみのPROMIS質問票に基づく、NRS-itchの24時間ピーク値(11/63例[17%])、1週間ピーク値(14/63例[22%])、1週間平均値(16/59例[27%])であった。

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頭痛患者におけるドライアイのリスク~メタ解析

 中国・大連医科大学のShuyi Liu氏らは、頭痛がドライアイのリスクに影響を及ぼすかどうか明らかにするためメタ解析を実施した。その結果、頭痛はドライアイの独立したリスク因子であることが示唆され、とくに片頭痛患者においては頭痛とドライアイのリスクに強い関連が認められた。Annals of Medicine誌2022年12月号の報告。 PubMed、Web of Science、Cochrane Library、EMBASEのデータベースより、関連文献の検索を行った。すべての原因による頭痛に対するドライアイのオッズ比(OR)を算出するため、ソフトウェアStataを用いた。異質性の因子の調査には、サブグループ解析と感度分析を実施した。出版バイアスの評価には、Funnel plotとEgger's testを用いた。 主な結果は以下のとおり。・11件の研究(コホート研究:1件、ケースコントロール研究:4件、横断的研究:6件)より357万5,957例をメタ解析に含めた。・プール分析では、すべての原因による頭痛は、ドライアイのリスクの高さと関連していることが認められた(OR:1.586、95%信頼区間[CI]:1.409~1.785、I2=89.3%、p<0.001)。・頭痛のサブタイプ別においても、各頭痛タイプはドライアイのリスクの高さと関連していた。 ●片頭痛(OR:1.503、95%CI:1.369~1.650、I2=81.8%、p<0.001) ●緊張型頭痛(OR:1.610、95%CI:1.585~1.635、p<0.001) ●群発頭痛(OR:2.120、95%CI:1.104~4.073、p=0.024)・ケースコントロール研究におけるドライアイのリスクは、横断的研究およびコホート研究における同リスクよりもわずかに高かった。 ●ケースコントロール研究(OR:1.707、95%CI:1.291~2.258、I2=85.0%、p<0.001) ●横断的研究(OR:1.600、95%CI:1.590~1.610、I2=0.0%、p<0.001) ●コホート研究(OR:1.440、95%CI:1.096~1.893、p=0.009)・地域別のサブグループ解析では、米国、欧州、アジア、オセアニアにおけるすべての原因による頭痛は、ドライアイのリスクの高さと関連が認められた。

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William Osler先生とJ-OSLER、内科専門研修を考えてみた【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第54回

第54回 William Osler先生とJ-OSLER、内科専門研修を考えてみたオスラー先生の格言ウイリアム・オスラー(William Osler)の名前を耳にしたことはあると思います。カナダ生まれの医学者・内科医・教育者です(1849~1919)。ペンシルベニア大学、ジョンズ・ホプキンス大学、オックスフォード大学などで教授を務め、カナダ、米国、英国の医学の発展に多大な貢献をしました。遺伝性出血性末梢血管拡張症であるオスラー病や、感染性心内膜炎でみられる指趾掌蹠の有痛性結節であるオスラー結節などに名前を残しているように研究者としても一流でした。何よりも医学教育に情熱をそそぎ、彼の思想は今も医療の現場で受け継がれています。日本の名医・日野原 重明も感銘を受け、「医学の中にヒューマニズムを取り戻し、人間を全人的に診る」というオスラー先生の姿勢を世に広めるため「日本オスラー協会」を発足させています。『The Principles and Practice of Medicine』(医学の原理と実際)など名著だけでなく、100年後の今も受け継がれる数々の格言も有名です。Listen to your patient, he is telling you the diagnosis.患者の言葉に耳を傾けよ、患者はあなたに診断を告げている。これは、オスラー先生の言葉のなかでも小生が最も感銘を受けた一文です。循環器内科医として狭心症・心筋梗塞を診断するにあたり、心電図や採血でのトロポニン上昇も大切ですが、なによりも病歴聴取が一番重要と日々感じているからです。今日の医学教育の父として世界にその名を馳せたオスラー先生ですが、日本中の大学病院や研修指定病院で毎日のように彼の名前が叫ばれていることをご存じでしょうか。それは、ウイリアム・オスラーではなくジェイ・オスラー(J-OSLER)です。J-OSLERをめぐる専攻医と指導医のリアルJ-OSLERについて説明しましょう。2013年に厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」から、専門医制度改革が必要であると報告されました。日本専門医機構が中心となり、各領域の専門医制度は再整備されることとなりました。日本内科学会でも「新・内科専門医制度」を整備することとなり、具現化するために導入されたシステムがJ-OSLERです。正式には以下の文言による造語です。「Online system for Standardized Log of Evaluation and Registration of specialty training System」を直訳すれば「専門研修の標準化を図るためオンラインで研修実績の登録と評価ができるシステム」で、この頭文字がOSLERです。そこに日本を意味するJが冠されてJ-OSLERとなっています。高名なオスラー先生を意識した素晴らしいネーミングです。このJ-OSLERをめぐる現場での苦労を紹介させていただきます。J-OSLERを実際に使用するのは、初期研修を修了して内科専門研修プログラムを選択した卒後3年次から5年次の医師が中心です。彼らを専攻医と呼称します。新内科専門医制度において研修履歴や実績を登録し審査を受ける仕組みが導入されました。具体的には専攻医はJ-OSLERを用いて症例登録と病歴要約が義務付けられています。症例登録は、一言でいうと症例の概要と省察を含むサマリーで56分野から160症例以上を登録します。指導医の評価を受け、修正に応じて承認を得る必要があります。これは、1例を入力するのに数十分ほど要します。症例登録した中から29症例について病歴要約を作成します。これは症例の詳細なサマリーで、学会発表での症例報告のような丁寧さと緻密さが要求され、A4判2ページほどの分量となります。病歴要約は、まず指導医と研修プログラム統括責任者が1次評価を行います。さらに専攻医の所属外の施設の査読委員が2次評価を行います。1次・2次評価ともに29症例ごとに、Accept(受理)、Revision(要修正)、Reject(要差し替え)の3段階で評価されます。全症例がAccept(受理)となるまで修正を繰り返します。1例の入力には短くても半日ほどの作業への集中が必要となります。症例登録は全分野をカバーしての量の面で、病歴要約は緻密な記載を求められる質の面で、それぞれ大変な作業となります。えらいこっちゃ!?事務作業に注力する余りベッドサイド診療が…新専門医制度にあわせて導入されたJ-OSLERの評判は、専攻医と指導医の双方から必ずしもいいわけではありません。たしかに、質の高い内科専門医を育成することは、社会がより高い水準で医療の恩恵を受けるために重要なことです。J-OSLERによる症例登録と病歴要約は、専攻医が個々の症例の理解を深め、さらには研修制度の標準化にも寄与することに異論はありません。一方で、J-OSLERの登録と評価における専攻医の負担も軽視できないレベルと感じます。専攻医は日常臨床業務だけでも大変です。この専門研修期間中に複数の施設での勤務が求められるために、勤務先の入職・退職と住居の転入・転出を繰り返して行うこととなり、手続きだけも多くの時間を要します。女性医師においては出産や育児などのライフイベントとも重複する時期となります。昨今、働き方改革が声高に論じられる中、専攻医だけでなく指導医にとっても、システム入力が困難と感じる場面があることは事実です。オスラー先生の格言を紹介します。Fifteen minutes at the bedside is better than three hours at the desk.3時間机で勉強するよりもベッドサイドの15分が勝る。J-OSLERの症例登録・病歴要約により机でレポートを書く時間が増えたことは皮肉といえます。机上の事務作業に注力する余りベッドサイド診療が疎かになりかねない現状はJ-OSLER本来の意義からも望ましいことでは無いように思います。高邁な理念のもとに導入されたJ-OSLERを揶揄するつもりはありません。しかしウィリアム・オスラーは「えらい」先生なのですが、ジェイ・オスラーは「えらいこっちゃ」というのが本音です。新専門医制度による研修が開始され数年しか経過していません。課題もこれから明らかになってくるのでしょう。よりよい新専門医制度となるよう制度が洗練されていくことを期待しております。今回は、日本内科学会に直訴状を提出する気構えで気合をいれて書かせていただきました。

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やっと見えてきた薬局の電子処方箋の流れ【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第100回

2023年1月から電子処方箋管理サービスが始まります。7月と10月にオンライン説明会が行われましたが、皆さんは参加しましたか?電子処方箋管理サービスは、地域の医療機関・薬局間で情報を共有し、服薬中の医薬品との相互作用やアレルギー情報の管理に有効活用することで、最適な薬物療法の提供が可能になるなどのメリットがあります。導入の準備を着々と進めている薬局もあれば、まだ様子見という薬局もあると思います。運用開始に先立ち、地域を限定したモデル事業が行われています。対象は、山形県、福島県、千葉県、広島県の4県で、2022年10月31日から約1年間行われます。モデル事業の結果から課題を検討・改善して運用開始!というわけではなく、モデル事業と本運用がほぼ同時並行で行われるのは不思議な感じがします。これまで薬局で必要な作業がなかなか見えてこなくてちょっとドキドキしていましたが、ようやく具体的な情報が出てくるようになってきました。まず、厚生労働省が2022年10月11日に公表した「電子処方箋導入に向けた準備作業の手引き(1.1版)」では、電子処方箋の導入に向けた運用の準備を、図やイラストを多く用いてわかりやすく解説しています。「電子処方箋管理サービスの運用について」という通知も2022年10月28日に出され、サービスの仕組みや意義、運用方法などが周知されています。既存の通知では、実施機関が社会保険診療報酬支払基金となっていましたが、2023年1月からはこれに国民健康保険中央会が加わるという記載もあり、各方面の整備が整ってきた雰囲気がします。なお、この通知発出に伴い、2016年に厚労省が作成した「電子処方せんの運用ガイドライン」は廃止されます。今回発出された通知では、電子処方箋管理サービスの薬局でのプロセスは以下のようになっています。1.薬局は、オンライン資格確認により確認した患者の被保険者番号・記号などをキーとして、電子処方箋管理サービスに当該患者の電子処方箋を要求する。2.電子処方箋管理サービスから送信された処方箋の内容が適切であるか確認するため、処方・調剤情報を参照し(同意が得られている場合)、重複投薬や併用禁忌の有無の確認を行う。3.必要に応じて疑義照会し、調剤、服薬指導、薬剤交付を行う。4.医師に確認した内容などの必要事項を含めて調剤結果を作成する。5.安全管理ガイドラインに基づき、調剤済み電子処方箋を適切に管理・保存する。あまりないとは思いますが、分割調剤では電子処方箋の控え(おそらくコピー)に手書きで次回の調剤の日程を記載するなどして案内し、その調剤結果を作成して電子処方箋管理サービスに送付します。紙の処方箋の場合も処方・調剤結果を電子処方箋管理サービスに登録電子処方箋の発行対象は、マイナンバーカードと保険証を連携させている患者さんが原則です。そうではない患者さんでは、医療機関で受け取った引き換え番号を、薬局で調剤を受ける際に伝える必要があります。また、電子処方箋は、医療機関・薬局・患者さんのすべてが対応と同意をすることが必要です。もし1つでも欠けて紙の処方箋で対応する場合であっても、重複投薬や併用禁忌の確認を行うには、患者さんの処方・調剤情報はできる限り完全なものであることが望ましいため、その処方・調剤結果を電子処方箋管理サービスに登録することが求められています。マイナ保険証や電子処方箋、電子お薬手帳、オンライン服薬指導など、薬局を取り巻く環境だけでなく薬局業務そのものにおいて電子化が加速しています。準備が進まず焦っている薬局もあるかもしれませんが、個人的にはあまり焦らなくてもいいのではないかと思っています。補助金の詳細だってまだ出ていませんし、一斉に処方箋がオンラインに切り替わるわけではないでしょう。大きく遅れないように情報収集を行いつつ、どのくらいのスピード感で広がっていくのか楽しみにしたいと思います。

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お薦めのマニュアル本を紹介します【非専門医のための緩和ケアTips】第40回

第40回 お薦めのマニュアル本を紹介しますここ数年で緩和ケアに関連した書籍が一気に増えました。これに併せて「どの本が自分に合うのかわからない」という声も聞きます。日本語で書かれた緩和ケアの本はほぼすべて目を通している私が、お薦めの「緩和ケア本」をご紹介します。今日の質問私は診療所で働いており、訪問診療で緩和ケアを必要とする場面が多いため、本を読んで勉強したいのですが、本が多過ぎて選べません。お薦めを教えてください。メ在宅での緩和ケアは多職種連携がより重要となるため、医師はもとより、看護師やリハビリスタッフも、ある程度の共通知識を持っておきたいものです。こんなケースでは、次の2点が重要です。1)多くの分野での現場対応を網羅症状緩和のような比較的緊急性の高い対応が求められる場面での、具体的な処方内容や注意点について記載されていることが大切です。多職種のスタッフが何冊も専門書を読むのは現実的ではないので、1冊で多くの分野を網羅していることも重要でしょう。2)持ち歩けるサイズ感在宅医療に従事される方であれば、診療所にいない時間のほうが多いでしょう。最近では電子版が出ているものも多いですが、やはり本の使いやすさもありますよね。ちょっとした時間にぱっと確認するためには、あまりかさばらないサイズが良いでしょう。そうした観点から、以下の本を推薦します。『緩和ケア ポケットマニュアル 改訂2版』(宇井 睦人著、南山堂)出版社サイト電子版サイトサイズ感的には一番扱いやすく、タイトルどおりポケットに入るサイズです。オピオイドなど、症状緩和に重要な薬剤の具体的な投与量も記載されており、慣れない薬を処方する際に現場で確認するのにぴったりです。『緩和ケアレジデントマニュアル 第2版』(森田 達也ほか監修、医学書院)出版社サイト電子版サイトおなじみ「レジデントマニュアル」シリーズの緩和ケア版です。このシリーズらしい網羅性の高さで、緩和ケアの教科書にあるトピックはほぼ網羅されています。ポケットに入れるには少し厚いので、カバンを持ち歩く方に。『がん治療医が本当に知りたかった緩和ケアのレシピ』(蓮尾 英明編集、倉田 宝保監修、メジカルビュー)出版社サイト電子版サイトまず、カバーデザインがかっこいい!がん患者のケアについて、痒い所に手が届く記載が多いのが特徴です。たとえば食事の工夫やリハビリテーション、コミュニケーションといったトピックについては、私も勉強になりました。「緩和ケアのマニュアル本」という観点で、ここ数年で発売された3冊をご紹介しました。初学者であればぱっと目を通してみて、ある程度経験のある方は確認用に手元に置いておくと便利ですよ。今回のTips今回のTips緩和ケアについてまず何か1冊! なら、手軽に使えるマニュアル本がお薦め。

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英語で「湿布」は?【1分★医療英語】第55回

第55回 英語で「湿布」は?I twisted my ankle.(足をくじいてしまいました)Place this patch on the painful area.(痛むところに、この湿布を貼ってください)《例文1》Apply the patch to a clean, dry, and hairless skin area.(清潔で乾いた毛の少ない部分に湿布を貼ってください)《例文2》Remove the patch after 24 hours and choose a difference place to apply the new patch.(24時間したらパッチを取り外し、別の場所に新しいパッチを貼ってください)《解説》「湿布(貼付剤)」は“patch”(または“transdermal patch”:経皮貼付剤)といいます。日本語でも「パッチ剤」と呼ぶこともありますよね。冷湿布や温湿布を指す場合には“cold compress / hot compress”と表現します。冷または温のジェル状のものを“compress”(当てる=圧縮する、押し付ける)する、というわけで、こちらは薬剤が入っていない場合がほとんどです。アルツハイマー型認知症の経皮吸収型製薬である“rivastigmine”(リバスチグミン)パッチなどの場合には、前のものを剥がし忘れたまま複数のパッチを貼ってしまうことのないよう、《例文2》のようにパッチを取り外すことの説明を加えるとよいでしょう。また、合成オピオイドである“fentanyl transdermal patch”(フェンタニルパッチ)を誤ってペットや子供が触ってしまう事故を避けるために、“Promptly dispose of used patches by folding them in half with the sticky sides together.”(使用後のパッチは、粘着面を内側にして半分に折り、即座に処分してください)と伝えることも大切です。講師紹介

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SOAPの未来【知って得する!?医療略語】第24回

第24回 SOAPの未来最近、SOAPの入力に変化が出てきたと聞きました!そうなんです。SOAPデータを活用する研究が盛んになっています。2017年の話です。病院の外来勤務を終えて、院内の図書室で気になった医学雑誌をコピーして電車に乗り込みました。そこには電子カルテのSOAPに関する記事が載っており、「データの構造化」や「自然言語処理」といったSOAPをAI技術で処理することなどが書かれていました。SOAPとは皆さんがご存じの通り「S(subjective):主観的情報」「O(objective):客観的情報」「A(assessment):評価」「P(plan):計画(治療)」、それぞれの頭文字を取ったもので、カルテ記録の記入方法の一つです。その記事によれば、このSOAP記事の内容をプログラム処理できれば、退院サマリーが半自動で作成されたり、患者や家族への病状説明書、各種書類作成が可能となったり、医師の業務が大幅に削減されることが記載されていました。ITの素人である筆者でしたが、カルテのSOAPデータの自然言語処理が出来たら、その先にいろいろな可能性があることを感じたのを今でも覚えています。ただ、その雑誌記事の中で今後の課題として、カルテが標準化されたフォーム、いわゆる構造化された記載である必要性や、書かれた略語や英語表記の統一化のほか、表記の揺れの適正化などが挙げられていました。医療略語の未来その記事を読んだのをきっかけに、目的ははっきりしていませんでしたが、なんとなくカルテで使用される略語を手帳に書き留めるようになりました。そしてエクセルに記録するようになりました。しかし、略語を手帳に記載しただけでは、エクセル入力の際に何の意味の略語か分かりませんでした。どの診療科で使用され、どの文脈でその略語が使用されたかまでのメモを取らないと、その略語の日本語訳や基になった英語表記を調べることができないのです。また、同じ略語でも診療科が異なると、略語の日本語の意味が異なるのです。そこで、この診療科で使用される場合には、この意味を持っているというように、診療科と略語の意味の情報をタグ付けし、略語自体もカテゴリー分けして属性情報を載せるようにしました。そんな試行錯誤をしていくうちに略語数が3,000語を超えると、より網羅的に収集したい気持ちになり、各種ガイドライン、論文からも収集を開始し、少しずつデータベースは大きくなっていきました。これが医療略語アプリ『ポケットブレイン』の始まりでした。しかし、悩ましいのは略語が使用されていても、その和訳が存在しない用語を時々見かけては悩まされることもありました。さらに悩ましかったのは、ガイドラインごとに和訳が異なることもあり、どのガイドラインの和訳が正しいのか、判断に迷うことも多々ありました。また、和訳を表示する時に、くびを「頚」「頸」のどちらで記載するのが適切か、あるいはユーザーが検索するとき、どちらで検索されるだろうかなど、言語的な課題にもぶつかりました。本連載の中で、筆者は英字略語の頻用や多用を避けるように訴えてきましたが、その必要がなくなるかもしれません。それは英字略語で入力すると、日本語和訳の変換候補が表示され、適切な略語を選ぶとSOAP記事が作成されることも可能になってきたからです。これならば、入力の際に略語を使用していても、記事はしっかり日本語で表記されます。ただし、そこで重要なのは日本語の病名を統一しておくことです。いわゆる病名の標準化です。SOAPの記録をコンピュータが背後でリアルタイムに分析できる未来には、診断のリコメンド、鑑別すべき疾患の提示、実施すべき検査のリコメンドなど、より臨床に踏み込んだサポートが実現されるかもしれません。筆者は医療者の負担軽減になるシステムは、医療者に余裕を与え、患者により安全で正確な医療の提供につながると考えます。そして、医療者が必要なものは、現場で働いている医療者こそが知っています。医療者に必要なものは医療者が創るのが一番だと思います。コンピュータなどのハードの性能は、大きな進化を遂げています。今後、医療者のワークフローに馴染む形でシステムが開発されることを願います。

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