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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その3)【だから子供の自己肯定感も自殺率も世界最悪なんだ!じゃあどうすればいいの?(ブラック教育文化)】Part 1

今回のキーワード学習指導要領同年齢同学年(学級固定化)教育の平等教育の公平人権意識異年齢教育前回(その2)、ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」のいくつかのシーンを通して、同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートがはびこる学校での生徒と教師のそれぞれの心理を解き明かしました。このような日本の学校教育の危うさを踏まえると、実はこの映画は、日本の社会問題でもある、以下の3つの現象の謎を解くための大きなヒントになりそうです。不登校の生徒数が過去最多を更新し続ける現象子供の自己肯定感が世界で最低レベルである現象1)子供の自殺率が世界でトップレベルである現象2)今回(その3)、引き続きこの映画のいくつかのシーンを通して、教師たちも不安で受け身になってしまった原因に迫ります。それを踏まえて、これからの子供が学校を楽しむ、そして人生を楽しんでいくためにどう学校制度を改革すればいいのかを一緒に考えていきましょう。なお、この映画はドキュメンタリーであり、実在する人物が登場していますが、この記事で教師個人を批判する意図はまったくありません。あくまでその教師たちすら巻き込む文化としての日本の学校教育の危うさを批判しています。そもそもなんで先生も不安で受け身になってしまったの?―「ブラック教育文化」あるさりげないワンカットでは、1年生の子供たちが自分の大きなランドセルを棚に無理やり押し込もうとする様子が映し出されます。彼らがこれから画一的な学校教育という枠組みに無理やり押し込まれる姿に重なり、痛烈な皮肉のように見えてしまいます。そして、先生たちもまたその枠組みに押し込まれていたのでした。教師たちの心理は、生徒たちと同じように、やることが多すぎて実は不安で楽しめない、やることを変えられなくて実は受け身で選べないということがわかりました。それでは、なぜ生徒たちだけでなく、教師もそうなってしまっているのでしょうか?そのわけは、戦後に学力の地域差をなくすという「教育の平等」の名のもと、学習指導要領、検定教科書、同年齢同学年(学級固定化)の教育政策が徹底されたからです。そして、教師が生徒を高度に管理するようになったからです。しかし、同時にそれは、教師も教師同士で管理される側になってしまったのでした。昭和までは、学校で生徒をコントロールするため、教師による体罰をはじめとしてさまざまな懲戒権が当たり前のように行使され、社会で受け入れられていました。そして、この記事で何度も登場する同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートも学校教育として根付いていったのでした。これを名付けるなら、「ブラック教育文化」です。このネーミングは、ブラック校則にちなんでいるわけですが、実は、日本の学校にはただ「ブラック校則」があるのでなく、その根っことなる「ブラック教育文化」が潜んでいたと言えます。しかし、時代は変わりました。令和では、情報化とあいまって個人主義の価値観が完全に広がり、人権意識が高まりました。映画では、ある先生が「(クラス全員が)チームとして一体になれ」と力説していましたが、もはや令和の社会ではそうする必要も、そうする価値も置かれなくなりました。そうしたい人だけがそうすればいいだけで、そうしたくない人を巻き込む(強制する)のは、やってはいけないことと認識されるようになったのです。こうして、ようやく人権意識が世界基準に追い付いたのです。この変化によって、体罰だけでなく、同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートを使うという手段も、社会ではアウトになりました。たとえば、学習塾、習いごと、スポーツチームなどでは、ビジネスだけに人権意識には敏感です。テレビやネットでも、人権侵害の話題はすぐにニュースになります。近所の人から怒鳴られるようなことがあれば、すぐに警察に通報するご時世です。家庭でも、少子化であることもあり、子供は大切にされています。ところが学校に限り、指導という建前のもと、少なくとも教師たちは同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートの手段はセーフだと思い込んでいるのでした。そして、その事実が、この映画で世界に発信され、明るみになってしまいました。これは、人権意識が、学校外(社会)では高まっているのに学校内では高まっていないというギャップがあるという現実です。そのギャップが開けば開くほど、子供は学校に行きたがらなくなり、自己肯定感が下がり、そして自殺率が増えていくわけです。これが、この記事の冒頭で触れた謎の答えです。逆に、昭和までは体罰などのもっと激しい人権侵害があったのに、このギャップがなかったことで、それが「当たり前」のように受け止められました。そのため、不登校は目立たず、子供の自己肯定感は問題にされず、子供の自殺率は低かったのでした。簡単に言えば、学校の外と比べて、相対的に中での自分の人権が尊重されていないために、それらの手段が「当たり前」ではなく「異常であり苦痛である」と認識するようになったのでした。これは、同僚、友人、知人などの身近な周りの人たちと比べて、自分が経済的、人間関係的に恵まれていないと不満を抱く心理(相対的貧困、相対的剥奪)と似ています。実際の研究では、令和の時代において、小学校での同調圧力が高ければ高いほど、自己肯定感は低下することがわかっています3)。なお、文化進化の視点から見た学校(学歴社会)の歴史の詳細については、関連記事1をご覧ください。また、生徒や教師が受け身である原因は、「ブラック教育文化」だけでなく、さらにその根っこには日本人ならではの「直系家族の文化」の影響が考えられます。この詳細については、関連記事2をご覧ください。次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その3)【だから子供の自己肯定感も自殺率も世界最悪なんだ!じゃあどうすればいいの?(ブラック教育文化)】Part 2

じゃあどうすればいいの?今後、「ブラック教育文化」で硬直化した学校は、不登校でますます生徒は減り続け、メンタルダウンや就職敬遠でますます教師も減り続けるでしょう。もはや、学級崩壊ならぬ「学校崩壊」です。それでは、この「ブラック教育文化」をホワイトにしていくために、どうすればいいのでしょうか?最後に、抜本的な改革案を、大きく2つ挙げてみましょう。(1)生活指導を減らす1つ目は、生活指導を減らすことです。生活指導は、従来から生徒を管理するという裏の目的があったこともあり、令和の時代には明らかにやりすぎています。生徒だけでなく、先生にとっても負担であり、その多くが合理的な理由のないものであることをすでにご説明しました。結局、それでも生徒たちに何とかやらせるために、先生たちは同調圧力、モラルハラスメント、スケープゴートという不適切な手段を使わざるをえませんでした。ただ、よくよく考えると、そうでもしなければできないことは、もはや最初からしない方がいいです。たとえば、給食当番や掃除当番などエッセンシャルな役割や、生徒たちが喜ぶ修学旅行などの行事は残します。一方で、運動会や音楽会などの行事を縮小化し、入学式、卒業式、始業式、終業式などの儀式を簡素化または廃止します。そもそも、世界的に見て、このような儀式を仰々しくやっている国は他にありません。何度も座ったり立ったりして礼をさせられるのは、信仰心(同調圧力)を高めることを目的とした宗教儀式と同じです。だからこそ、それを明らかにしたこの映画が海外から興味深く見られるのです。すでに、コロナ禍をきっかけに、行事は簡素化されましたが、もとに戻っている学校もあるようです。東京の一部の地域では、スペースの確保を理由に、上靴が廃止されました。いかにも学校らしい理由付けですが、とくに理由付けをしなくても上靴は廃止するべきです。よほど山奥の学校で、土足で土や泥を校舎に運んでしまうという問題があれば別ですが、現在日本のほとんどの通学路は舗装されており、上靴を履き替える合理的な理由はなくなっています。そうすることで、同じ靴を履くという同調の心理や、靴をきれいに揃えるかどうかの同調圧力を根本からなくすことができます。また、髪型や服装などを制限する校則は廃止します。このような校則は、昭和に同調圧力を高めるために利用されていたのですが、令和では、明らかな人権侵害です。世界でこんなことをしている国は、どこかの独裁国家ぐらいです。不適切であることを私たちが発信し続ける必要もあります。すでに、そう発信し続けるNPO団体もあります。理想的には、企業に社員が相談できるハラスメントの窓口があるのと同じように、学校に生徒や教師が相談できる人権擁護の窓口が設置されるべきでしょう。つまり、生徒や教師を監視する学校を今度は社会が監視する必要があります。(2)授業や行事を選べるようにする2つ目は、自分のレベルに合ったレベル分けの授業ややりたい行事を選べるようにすることです。逆に言えば、自分のレベルに合わない授業ややりたくない行事には参加しなくていいということです。まず、授業について、その1でもご説明しましたが、画一的な一斉授業のために、できる生徒は先に進めず、できない生徒は置いていかれていました。しかし、現在、学力の地域差が改善され、もはや「教育の平等」を図ることは一定の役目を終えました。今こそ、「教育の公平」にシフトチェンジする時です。たとえば、学習指導要領の達成目標を緩和させ、1人1人の生徒のレベルにあった授業を保護者と相談しながら選んでもらうことです。委員会活動やクラブ活動と同じです。すでに算数はレベル分けが行われている学校が多いです。次はやはり英語です。英語は、語学力だけに個人差(遺伝の違い)や家庭環境の違いの影響が大きく反映されるために、画一的に授業が進められないことから、すでに授業時間数を増やすことへの慎重論が出てしまっています。しかし逆に言えば、だからこそレベル分けが必要なのです。学習塾や習いごとでは当たり前のやり方です。むしろ、これらの教育ビジネスが日本でとくに盛んになってしまっているのは、それだけ学校の教育が機能していない証であると言えます。レベル分けをして、学校がもっと機能的になれば、必然的に学習塾に行く必要がなくなるので、これまで家計を圧迫していた教育費を減らせるでしょう。次に、行事についてですが、 運動会、音楽会などで事前に練習をする取り組みをしたいのなら、希望の生徒をまず募ることです。これは、修学旅行についても言えます。強制参加とせず、参加しない権利を尊重することです。さらに、同年齢同学年の縛りを緩和させ、小学校に入学させる年齢を6歳±1歳として幅を持たせること(異年齢教育)です。その後に、生徒のレベルに合わせて、レベル分けの授業を受けることで、早く進級する場合もあればなかなか進級しない場合も出てきます。さらに、小学校を早く卒業する生徒と遅れて卒業する生徒が出てきます。つまり、入学、進級(学年)、卒業の時期をすべて選ぶようにするのです。これは「教育の公平」のために必要なことです。もちろん、保護者と相談しながら、あえて早く進級しないという選択をすることも可能です。重要なことは、学ぶ内容やスピードを学校から押し付けられるのではなく、生徒が自分で納得して選ぶことです。こうして、進学・進級が流動的になり、生徒の年齢と学年・学級が固定化されないため、同調圧力が弱まり、必然的に入学式や卒業式などさまざまな儀式が簡素化されるでしょう。なお、教育の平等と公平の詳細については、関連記事3のページの後半をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その3)【だから子供の自己肯定感も自殺率も世界最悪なんだ!じゃあどうすればいいの?(ブラック教育文化)】Part 3

新しい「日本人のつくり方」とは?ラストシーンで、その1で登場した1年生の女子は、音楽会の本番に臨む直前、他のメンバーから「私たちは心臓のかけらで、みんなが揃ったらこんな形(両手でハート形をつくる)になる。で、1人こんなふうにずれたら、もう心臓はできない」と言われて、「私たちは過酷な楽器だよ」という名言を残します。まさに従来の「日本人」がつくられる瞬間を見ているようでした。微笑ましく見える一方で、やはり危うさもはらんでいます。それだけに、彼女の将来の行方も気になります。この映画は、「外国から見た日本の小学校とは」という視点で、海外の関係者や私たちに改めて学校教育のあり方を考えさせてくれました。それは、海外の学校としてはまだやり足りないと気付かされ、日本の学校としてはもうやりすぎだと気付かされるというギャップです。この映画をきっかけに、私たち一人ひとりが学校教育のあり方について情報発信をどんどんしていけば、小学校をより良くしようという社会的なムーブメントを起こせるはずです。その時こそ、新しい「日本人のつくり方」が見えてくるでしょう。それは、生徒たちそして先生たちが、日本人の本来の良さである規律、協調性、忍耐力を保ちつつ、同時に不安や受け身にならず、もっと学校を楽しみ、もっと自分の学び方そして生き方を選ぶことです。それは、映画で先生たちが繰り返し強調していた「自分らしさ」(アイデンティティ)と「自主性」(勤勉性)を真の意味で育むことでしょう。なお、今回は、小学校の教育改革についてまとめました。中学校の教育改革については、関連記事4をご覧ください。1)「高校生の生活と意識に関する調査」における国際比較、文部科学省、20172)こどもの自殺の状況と対策p.54:厚生労働省、20243)小学校段階における同調圧力に対する自己肯定感の影響と居場所感について:松井柚子・高平小百合、日本教育心理学会、2020<< 前のページへ■関連記事映画「バッド・ジーニアス」【学歴社会を引っくり返す⁉(カンニング教育革命)】Part 2映画「クワイエットルームにようこそ」(その4)【だから家族のつながりにとらわれてたんだ!だから人権意識が乏しかったんだ!(直系家族病)】Part 4映画「バッド・ジーニアス」【学歴社会を引っくり返す⁉(カンニング教育革命)】Part 3映画「かがみの孤城」(その3)【この城が答えだったんだ!(不登校への学校改革「かがみの孤城プロジェクト」)】Part 3

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高血圧患者、CVD死亡リスクがとくに高い年齢層は?/東北医科薬科大

 高血圧は、心血管疾患(CVD)のリスクとなることは知られている。では、そのリスクは、日本人ではどの程度の血圧(BP)分類や年齢から発生するのであろうか。東北医科薬科大学医学部公衆衛生学・衛生学教室の佐藤 倫広氏らの研究グループは、このテーマについてEPOCH-JAPAN研究における7万人の10年追跡データを用いて、現在用いられているBP分類とCVD死亡リスクの関連を検討した。その結果、高血圧とCVD死亡リスクは関連があり、その傾向はとくに非高齢者で顕著だった。この研究はHypertension Research誌オンライン版に2025年2月20日に公開された。40~64歳の高血圧患者でCVD死亡リスク上昇が顕著 研究グループは、わが国で実施された10のコホート研究データを統合し、7万570例(平均年齢59.1歳、女性57.1%)を対象としたデータを解析した。追跡期間は平均9.9年で、降圧治療の有無で層別化し、最新のBP分類とCVD死亡リスクとの関連を検討した。BP分類は、日本高血圧学会ガイドライン(2019年)に従った。 主な結果は以下のとおり。・約10年間の追跡期間中に2,304例のCVD死亡が発生した。・Coxモデルにより、CVD死亡リスクはBP分類が高くなるとともに段階的に増大することが示され、この関連は40~64歳の高血圧未治療者でとくに顕著であった。・高血圧未治療のI度高血圧群(診察室:140~159かつ/または90~99mmHg、家庭:135~144かつ/または85~89mmHg)がCVD死亡に対する最も高い集団寄与危険割合(PAF)を示した。・治療を受けた患者を高血圧群に含めると、高血圧群のCVD死亡に対するPAFは41.1%だった。・同様のパターンがCVDサブタイプの死亡リスクでも観察され、高血圧症では脳内出血のPAFがとくに高かった。 研究グループでは、「これらの結果は、高血圧の早期予防と管理の重要性を示唆する」と述べている。

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不眠症が泌尿器、生殖器系疾患に及ぼす影響

 不眠症が、さまざまな泌尿器系および生殖器系の疾患に及ぼす影響や因果関係は、明らかになっていない。中国・Fifth People's Hospital of Shanghai Fudan UniversityのYougen Wu氏らは、不眠症が10種類の泌尿器系および生殖器系の疾患に及ぼす影響を調査し、この関連を評価するため、メンデルランダム化(MR)研究を実施した。Translational Andrology and Urology誌2025年1月31日号の報告。 UK Biobank、23andMe、FinnGen、遺伝子コンソーシアムより、不眠症と10種類の泌尿器系および生殖器系の疾患のデータを収集した。主なMR分析として、逆分散加重アプローチを用いた。推定値のロバストを調査するため、MR-PRESSO検定(MR多面性残差和、外れ値)、最尤法、MR-Egger法、加重中央値法を用いて感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ボンフェローニ補正後、遺伝的に不眠症と診断された場合、膀胱炎および前立腺炎のリスク上昇が認められた。 【膀胱炎】オッズ比(OR):1.81、95%信頼区間(CI):1.47〜2.24、p<0.001 【前立腺炎】OR:3.53、95%CI:1.73〜7.18、p<0.001・不眠症は、前立腺がんリスクの上昇、膀胱がんリスクの低下と関連していた。 【前立腺がん】OR:1.30、95%CI:1.00〜1.67、p=0.046 【膀胱がん】OR:0.48、95%CI:0.26〜0.90、p=0.02・腎臓がん、腎結石および尿管結石、神経因性膀胱、前立腺肥大症、男性不妊症、女性不妊症との因果関係は認められなかった。 著者らは「不眠症は、膀胱炎および前立腺炎の潜在的なリスク因子であることが裏付けられた。これらの疾患リスクを軽減するためにも、不眠症は重要な治療ターゲットとなりうる」と結論付けている。

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認知症予防、どのくらいの聴力低下から補聴器を使ったほうがよいか

 難聴が中年期における認知症の予防可能な最大のリスク因子の1つであると報告され1)、注目を集めているものの、どの程度の難聴になったら認知症予防として補聴器を使うべきなのかは明らかになっていない。慶應義塾大学の西山 崇経氏らは、55歳以上の補聴器の装用経験がない難聴者のグループにおいて、聴力閾値と認知機能検査結果が負の相関関係を示し、4つの音の高さの聴力閾値の平均値が38.75dB HLを超えた場合に、認知症のリスクとなりうることを明らかにした。NPJ Aging誌2025年2月24日号掲載の報告。 本研究では、2022年9月~2023年9月までに慶應義塾大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科外来を受診した55歳以上で、両耳の4周波数(500/1,000/2,000/3,000Hz)における平均聴力閾値が25dB HLを超えた難聴者のうち、補聴器の装用経験がないグループ(未装用群)55例と3年以上にわたり補聴器装用を行っているグループ(長期装用群)62例の計117例を対象に、聴力と認知機能の関係について検討した。認知機能検査は、日本語版ミニメンタルステート検査(MMSE-J)と Symbol Digit Modalities Test(SDMT)の2種類が用いられた。 主な結果は以下のとおり。・未装用群および長期装用群の平均聴力レベル(平均±SD)は、それぞれ40.83±8.16dB HLおよび51.13±14.80dB HLであった。・未装用群において、平均聴力閾値とSDMTスコアとの間に有意な関連(p=0.01)が認められ、38.75dB HL超が認知機能に影響を及ぼすカットオフ値として同定された。・一方、長期装用群では補聴器非装用時あるいは補聴器装用時にかかわらず平均聴力閾値とSDMTスコアとの間に有意な関連は認められなかった。

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細胞免疫療法~CAR T-cell・T-cell engager~の進歩と今後の展望/日本臨床腫瘍学会

 手術療法、抗がん剤療法、放射線療法に続くがん治療の第4の柱として、細胞免疫療法が国内外で徐々に広がりつつある。とくに、最近は通常の免疫機能などでは治癒が困難な難治性のがんに対する治療法として、キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法やT細胞誘導抗体(T-cell engager:TCE)が、一部の血液がんに対する効果的な治療法として期待されている。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、日本血液学会と日本臨床腫瘍学会の合同シンポジウムが開催され、細胞免疫療法の現状や課題、今後の展望などについて議論が交わされた。CAR-T細胞療法に残された課題に挑む CAR-T細胞療法は細胞免疫療法の1つとして、とくに一部の血液がんに対して高い治療効果を発揮している。一方で、CAR-T細胞療法にはサイトカイン放出症候群(CRS)や神経毒性のような有害事象、再発率の高さ、固形がんに対する限定的な効果、さらには高額な製造コストなどが解決すべき課題として残されている。 このような背景の中で、玉田 耕治氏(山口大学大学院医学系研究科 免疫学講座)らの研究グループは、固形がんに対する高い効果が期待できる次世代(第4世代)のCAR-T細胞の開発に取り組んでいる。固形がんに対してCAR-T細胞療法が効果を発揮するためには、腫瘍部分でのCAR-T細胞の集積と増殖が必要となる。玉田氏らは、免疫機能を調整する能力をCAR-T細胞に追加することでこの問題が解決できると考え、T細胞の生存や増殖を刺激するサイトカインであるIL-7とT細胞や樹状細胞の遊走や集積を促進するケモカインであるCCL19を同時に産生する7×19 CAR-T細胞を開発し、これをPRIME(Proliferation-inducing and migration-enhancing)CAR-T細胞と名付けた。マウスモデルを用いた研究により、7×19 CAR-T細胞は、内因性腫瘍抗原に対するエピトープ拡散を誘導することで、強力な抗がん効果を発揮することが証明された。また、がん患者の末梢血単核球細胞(PBMC)由来の7×19 CAR-T細胞の抗腫瘍効果なども確認されている。これらのことから、「PRIME CAR-T細胞は固形がんに対する画期的ながん治療法となることが期待され、近い将来、固形がんに対するCAR-T細胞の臨床研究が日本で実施される可能性がある」と玉田氏は述べた。 一方で、CAR-T細胞療法には高い製造コストがかかり、1回の投与で数千万円という高額な治療費を要することが大きな課題となり、とくに開発途上国においては治療の実現を拒む主な要因となっている。そこで、高橋 義行氏(名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学)らの研究グループは、製造コストを下げるために独自で安価なCAR-T細胞の製造法を開発した。従来、CAR-T細胞はウイルスベクターを用いた遺伝子を導入する方法で製造されてきたが、高橋氏らは非ウイルスベクターによるpiggyBacトランスポゾン法を用いてCAR-T細胞の培養を行うことに成功した。本法は酵素べクター法の1つで、ウイルスベクターを用いた方法に比べて製造方法が簡便かつ安価であり、ウイルスベクターを用いた従来の方法と同様の治療効果が期待できるという。 そして、高橋氏らは再発または難治性のCD19陽性急性リンパ性白血病患者を対象に、piggyBacトランスポゾン法にて製造したCD19標的CAR-T細胞療法の第I相試験を実施している。CD19標的CAR-T細胞1×105/kgを1回投与するコホート1(16~60歳、3例)とコホート2(1~15歳、3例)、3×105/kgの1回投与に増量するコホート3(1~60歳、3例)において、投与後28日時点で全例に完全奏効(CR)が認められ、2例が再発した。なお、本剤を投与した全例の末梢血で、piggyBac CAR-T細胞の増殖が観察されていた。 さらに、高橋氏らはタイのチュラロンコン大学からの要請を受けてCAR-T細胞療法の臨床研究を支援している。同氏らと同じ方法で製造されたCD19標的CAR-T細胞療法を受けたタイの悪性リンパ腫患者5例の全例で効果が確認され、その中の1人は投与後1ヵ月で多発していた腫瘍が消失し、1年後には寛解となっていた。 これまでの成果を踏まえ、高橋氏は、「安価な製造コストを実現することで、世界中でCAR-T細胞療法が普及することが期待される。また、日本の知的財産を活用した純日本製のCAR-T製剤が承認されれば、日本の医療費削減にもつながるのではないか」と結論した。iPS細胞技術を用いた若返りT細胞療法の開発 これまで、難治性のエプスタイン・バー(EB)ウイルス関連リンパ腫に対して、末梢血由来細胞傷害性T細胞(CTL)を体外で増殖して再び体内に戻すCTL療法が試みられてきたが、治療効果は十分ではなかった。これは、CTLが標的抗原に持続的に曝露されると疲弊してしまうためで、この問題を解決するために安藤 美樹氏(順天堂大学大学院医学研究科 血液内科学)らの研究グループは、iPS細胞技術を用いることで疲弊したT細胞を若返らせる技術を開発した。EBウイルス抗原特異的CTLからT細胞由来のiPS細胞を作製し、再びCTLに分化誘導することで若返ったCTL(rejT)となり、rejTはEBウイルス感染腫瘍を縮小することなどが確認された。さらに、EBウイルス抗原のLMP2に対するrejTをマウスに投与すると、EBウイルス関連リンパ腫に対する強い抗腫瘍効果を示しながら末梢血でセントラルメモリーT細胞として存在することが確認され、LMP2-rejTは生体内でメモリーT細胞として長期間生存することで難治性リンパ腫の再発抑制効果を維持することが示唆された。 また、安藤氏らはCARによる抗原認識とT細胞受容体(TCR)による抗原認識の両者を兼ね備え、2つの異なる受容体により効率よく腫瘍を攻撃するiPS細胞由来2抗原受容体T細胞(DRrejT)を作製した。マウスモデルによる検討では、DRrejTはEBウイルス関連リンパ腫に対して、単一標的のrejTやCARに比べて抗腫瘍効果は高く、効果が長期間持続することが示された。 加えて、小細胞肺がん(SCLC)にGD2が高発現していることに着目して、iPS細胞から分化誘導したCTL(rejT)にGD2標的CARを導入する方法でGD2-CARrejTを作製すると、SCLC対する強い抗腫瘍効果を示すとともに、末梢血由来のGD2-CAR-Tよりも有意に生存期間を延長した。 さらに、同様の方法でiPS細胞からヒトパピローマウイルス特異的rejT(HPV rejT)を誘導したところ、末梢血由来HPV CTLと比較して子宮頸がんをより強く抑制していた。しかし、患者由来のCTL作製は時間とコストがかかり実用化は難しく、他家iPS細胞を用いた場合は免疫拒絶反応などが問題となる。そこで、安藤氏らはCRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いてHLAクラスIを編集した健常人由来のHPV rejTを作製したところ、免疫拒絶反応を抑えながら子宮頸がんを強力に抑制し、長期間の生存期間延長効果も認められた。このような結果を踏まえ、現在、HLAクラスIを編集したHPV rejTの安全性を評価する医師主導第I相試験が進行しているという。 安藤氏は、「iPS細胞技術を活用することで、迅速かつ何度でも十分量のDRrejTを作ることが可能で、“Off-the-shelf”療法として大いに期待できる」と締めくくった。固形がんに対する細胞免疫療法の臨床開発状況と展望 固形がんに対する細胞免疫療法としては、CAR-T細胞療法、CAR-NK細胞療法、CARマクロファージ(CAR-M)療法、TCR-T細胞療法など、数多くの臨床試験が実施されているが、日本で承認されている治療法はまだ存在しない。 CAR-T細胞療法は、CD3ζ単独のCARが第1世代、CD3ζに副刺激分子のCD28や4-1BBを1つ足したものが第2世代、2つ足したものが第3世代と呼ばれ、とくに2010年に登場した第2世代以降のCAR-T細胞療法は、B細胞性白血病/リンパ腫に高い有効性を示してきた。さらに、サイトカイン分子によりT細胞の活性化シグナルを増強させるように設計された第4世代のCAR-T細胞療法の開発が進んでいる。 固形がんに対するCAR-T細胞療法の開発の問題点として、北野 滋久氏(がん研究会 有明病院)は、免疫抑制性の環境が形成される腫瘍微小循環(TME)による有効性と持続性の低下、高いCRSのリスク、on-target/off-tumor 毒性(OTOT)、抗体薬物複合体(ADC)やTCEとの競合などを挙げる。現在、これらの問題を解決するためにさまざまな技術開発が進められており、その一例として、第4世代のCAR-T細胞療法によるTMEの調整、CRSを回避するための抗IL-6受容体抗体や免疫抑制薬の予防的投与の研究、主要組織適合性複合体(MHC)/ペプチド複合体の標的化や三重特異性抗体などによるOTOTへの対応のような研究が進行しているという。 また、CAR-T細胞療法に続く有望な細胞免疫療法として、北野氏はTCR-T細胞療法にも注目している。TCR-T細胞療法は、患者からリンパ球を採取し、がん抗原特異的なTCRをT細胞に導入して再び患者に輸注する治療法で、がん関連抗原であるNY-ESO-1を標的とした高親和性TCRを用いた滑膜肉腫患者を対象とした第I/II相試験では、有効な成績が示されていた。CAR-T細胞療法は細胞表面の抗原を標的とするのに対して、TCR-T細胞療法の標的は細胞内タンパク質と糖鎖であり、最近ではネオアンチゲンを対象としたTCR-T細胞療法の開発も進められている。リンパ系腫瘍に対する細胞免疫療法(CAR-T、BiTE)の現状と今後の展望 CAR-Tと二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)を用いた細胞免疫療法は、B細胞リンパ腫、B細胞急性リンパ芽球性白血病、多発性骨髄腫など、さまざまな種類のリンパ系悪性腫瘍の治療に用いられている。大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)を例にとると、CD19を標的としたCAR-T細胞療法やCD20とCD3を標的としたBiTE抗体療法が臨床使用されている。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、tisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの臨床試験の結果を基に3rdライン以降の治療薬として最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解後1年以内の再発例を対象にした臨床試験において、標準治療(化学療法+自家移植)を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことを受け、axi-celとliso-celは2ndラインでの使用も認められることとなった。このような現状を踏まえ、伊豆津 宏二氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)はCAR-T細胞療法について、「再発または難治性のLBCL患者の治療にパラダイムシフトをもたらした」と述べた。さらに、今後は高リスクなLBCL患者に対する1stラインでの使用や、ほかのサブタイプによるCAR-T細胞療法の開発などが期待されるという。 加えて、伊豆津氏はCD20とCD3を標的としたBiTE抗体療法について、LBCLに対する2ndラインの有用性について検討した臨床成績、さらには現在進行中の1stラインにおける有用性を評価する臨床試験の概要についても言及した。 最後に、CAR-T細胞療法やBiTE抗体療法のようなT細胞リダイレクト療法には、有効性の長期持続が困難、抗原回避や耐性、CRSなどの有害事象、長い製造時間、高額な製造コスト、最適な治療順序の決定など、解決すべき課題が多く残されていることを伊豆津氏は指摘し、講演を締めくくった。

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デジタルアドヒアランス技術は、結核の治療アウトカムを改善するか/Lancet

 結核治療では、治療のアドヒアランスが不良であると治療アウトカムの悪化のリスクも高まることが知られており、近年、服薬アドヒアランスを改善するためのデジタル技術の評価が進められ、WHOは条件付きでこれを推奨している。オランダ・KNCV Tuberculosis FoundationのDegu Jerene氏らは、ウェブベースのアドヒアランスプラットフォームと連携したスマートピルボックスまたは薬剤ラベルを用いたデジタルアドヒアランス技術(digital adherence technologies:DAT)は、薬剤感受性結核患者における不良な治療アウトカムを低減しないことを示した。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2025年3月11日号で報告された。4ヵ国220施設のクラスター無作為化試験 研究グループは、薬剤感受性結核患者におけるスマートピルボックスおよび薬剤ラベルに基づくDATの有益性の評価を目的に実践的なクラスター無作為化試験を行い、2021年6月~2022年7月に4ヵ国(フィリピン、南アフリカ、タンザニア、ウクライナ)の220の施設で患者を募集した(ユニットエイド[Unitaid]の助成を受けた)。 220の参加施設(クラスター)を、標準治療群(110施設)または介入群(110施設)に無作為に割り付け、ウクライナを除いて介入群をさらにスマートピルボックス群または薬剤ラベル群に1対1の割合で無作為に割り付けた。年齢18歳以上の薬剤感受性結核患者を対象とした。 ピルボックス群の施設の患者は薬剤を保管するピルボックス(薬箱)を配布され、視覚・聴覚的に服薬を促すリマインダーが発せられて、ボックスを開けるとアドヒアランスプラットフォームに信号が送信され、服薬したとみなされた。薬剤ラベル群の患者は、コードが表示されたラベルを貼った薬剤を受け取り、治療量を服薬すると、携帯電話で無料のテキストメッセージをアドヒアランスプラットフォームに送り、これをもって服薬が完了したとみなされた。標準治療群の患者は、各国のガイドラインに準拠した標準治療を受けた。 主要アウトカムは、不良な治療終了の複合アウトカムとし、治療失敗、追跡不能(連続で2ヵ月以上の治療中断)、治療開始から28日以降における多剤耐性レジメンへの切り換え、死亡と定義した。不良な治療終了、フィリピンで8.8%、ウクライナで26.7% 2万5,606例を登録した(介入群1万2,980例、標準治療群1万2,626例)。このうち2万3,483例(91.7%)(それぞれ1万2,170例、1万1,313例)をITT集団とした。ITT集団の35.0%(8,208例)が女性で、年齢中央値は南アフリカの介入群41歳、標準治療群40歳から、フィリピンのそれぞれ47歳および46歳までの範囲であった。ITT集団のうち、介入群の1万540例(86.6%)と標準治療群の9,717例(85.9%)を主要アウトカムの解析の対象とした。 主要アウトカムの発生率は、フィリピンで最も低く(8.8%)、ウクライナで最も高く(26.7%)、南アフリカ(16.0%)とタンザニア(17.1%)はその中間であった。主要アウトカムのリスクは、4つの国のいずれにおいても介入による差は生じず、補正後オッズ比はフィリピンで1.13(95%信頼区間[CI]:0.72~1.78、p=0.59)、タンザニアで1.49(0.99~2.23、p=0.056)、南アフリカで1.19(0.88~1.60、p=0.25)であり、ウクライナの補正リスク比は1.15(0.83~1.59、p=0.38)だった。PP解析では、ウクライナを除き差はない ピルボックス群で、不注意による治療状況の開示に起因する社会的問題が2件発生し、患者の脱落につながった。また、per-protocol(PP)集団の介入群における、解析からの除外の最も頻度の高い原因は、DAT開始の失敗であった(4,884件の解析からの除外のうち4,311件[88.3%])。 PP解析による主要アウトカムの発生率は、ウクライナでは介入群で低かった(14.7%vs.25.5%、補正後リスク比:0.66[95%CI:0.46~0.94])が、他の国では差を認めなかった。 著者は、「これまでに得られたエビデンスは、DATによるアドヒアランスの改善を示しているが、治療アウトカムの結果にはばらつきがみられるため、評価されたアウトカムでは検出されなかったDATの有益性が存在する可能性が示唆されている」「追加的介入として、患者のニーズに基づくトリアージ、最小限の社会的基盤による支援しか必要としないDATの使用、低コストの携帯電話の提供、標準化されたさまざまなアプローチに関する医療従事者の訓練などを導入することで、治療アウトカムに及ぼすDATの効果が改善する可能性がある」「DATの使用は、経済的評価や、患者および関係者の嗜好、計画された治療アウトカム以外の重要な患者アウトカムへの影響に関する追加的なデータを慎重に検討したうえで行うべきである」としている。

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ビタミンD補充、多発性硬化症の疾患活動性を抑制するか/JAMA

 ビタミンD欠乏は多発性硬化症(MS)のリスク因子であり、疾患活動性上昇のリスクと関連しているが、補充による有益性のデータは相反している。フランス・モンペリエ大学のEric Thouvenot氏らD-Lay MS Investigatorsは、プラセボと比較して高用量ビタミンD(コレカルシフェロール10万IU、2週ごと)は、clinically isolated syndrome(CIS)および再発寛解型MS(RRMS)の疾患活動性を有意に低下させることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月10日号に掲載された。フランス36施設の無作為化プラセボ対照第III相試験 D-Lay MS試験は、高用量コレカルシフェロール単剤療法がCIS患者の疾患活動性を抑制するか評価することを目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2013年7月~2020年12月にフランスの36のMS施設で患者を登録した(French Ministry of Healthの助成を受けた)。 年齢18~55歳、未治療、罹患期間が90日未満、血清ビタミンD濃度が100nmol/L未満で、McDonald診断基準2010年改訂版の空間的多発性の条件を満たすか、MSと一致するMRI上の2つ以上の病変を有し、脳脊髄液陽性(2つ以上のオリゴクローナルバンドの存在)の患者を対象とした。これらの患者を、コレカルシフェロール(10万IU)またはプラセボを2週ごとに24ヵ月間経口投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは疾患活動性とし、24ヵ月の追跡期間中の再発またはMRI活動性(MRI上で脳FLAIR病変または脊髄T2病変、あるいはT1強調造影病変が新たに発生、または明らかに拡大すること)で定義した。3つのMRI関連の副次アウトカムも有意に良好 316例(年齢中央値34歳[四分位範囲:28~42]、女性70%)を登録し、試験薬の投与を少なくとも1回受けた303例(95.9%)(ビタミンD群156例、プラセボ群147例)を主解析の対象とした。最終的に、288例(91.1%)が24ヵ月の試験を完了した。 疾患活動性の発現は、プラセボ群が74.1%(109例)であったのに対し、ビタミンD群は60.3%(94例)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.66[95%信頼区間[CI]:0.50~0.87]、p=0.004)。また、疾患活動性の発現までの期間中央値は、プラセボ群の224日に比べビタミンD群は432日と有意に長かった(p=0.003[log-rank検定])。 3つのMRI関連の副次アウトカムは、いずれも以下のとおり、プラセボ群に比べビタミンD群で発生率が有意に低かった。MRI活動性(ビタミンD群57.1%[89例]vs.プラセボ群65.3%[96例]、HR:0.71[95%CI:0.53~0.95]、p=0.02)、新規病変(46.2%[72例]vs.59.2%[87例]、0.61[0.44~0.84]、p=0.003)、造影病変(18.6%[29例]vs.34.0%[50例]、0.47[0.30~0.75]、p=0.001)。 一方、10項目の臨床関連の副次アウトカムはいずれも両群間に差はなく、たとえば再発についてはビタミンD群17.9%(28例)、プラセボ群21.8%(32例)であった(HR:0.69[95%CI:0.42~1.16]、p=0.16)。33件の重篤な有害事象は試験薬との関連はない 治療開始時にMcDonald診断基準2017年改訂版のRRMSの条件を満たした患者247例を対象としたサブグループ解析では、主要アウトカムはプラセボ群に比べビタミンD群で有意に良好だった(HR:0.66[95%CI:0.49~0.89]、p=0.007)。 試験期間中に、30例(ビタミンD群17例[10.9%]vs.プラセボ群13例[8.8%]、p=0.55[χ2検定])で33件の重篤な有害事象の報告があったが、いずれも高カルシウム血症を示唆するものではなく、試験薬との関連もなかった。また、腎不全および中等度・重度の高カルシウム血症(カルシウム濃度>2.88mmol/L)の報告はなかった。 著者は、「これらの結果は、追加治療としての高用量ビタミンDのパルス療法の役割の可能性を含め、さらなる検討を正当化するものである」「ビタミンDの有効性は、視神経炎を有するCIS患者とこれを有さないCIS患者で同程度であったことから、この治療の対象はすべてのCIS表現型に拡大される可能性がある」としている。

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世界中で43秒に1人が自殺により死亡

 自殺リスクに関する新たな世界的評価において、世界中で43秒に1人が自殺により死亡していることが明らかになった。2021年の統計では、自殺による死亡者数は男性の方が女性に比べて多かったが、死亡には至らない自殺未遂の発生率は女性の方が男性よりはるかに高かったという。米ワシントン大学医学部健康指標評価研究所(IHME)のプロジェクト責任者であるEmily Rosenblad氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Public Health」に2月19日掲載された。 今回の研究でRosenblad氏らは、世界疾病負担研究(GBD 2021)の推定データを基に、1990年から2021年までの間の204の国と地域での自殺による死亡数、および年齢調整死亡率を分析し、経時的推移や年齢・性別・地域ごとの違いなどを評価した。GBD 2021では、自殺の手段を、「銃器によるもの」と「その他の特定された手段によるもの」に分類している。本研究では、自殺による死亡時の平均年齢、自殺未遂の発生率(死亡と比較した場合)、および銃器を用いた自殺による年齢調整死亡率(10万人当たり)も推定した。 その結果、2021年には世界で74万6,000人(95%不確実性区間〔UI〕69万2,000〜80万)が自殺により死亡したと推定された。これは、約43秒ごとに1人が自殺により死亡していることに相当するという。死亡者の内訳は、男性51万9,000人(同48万5,000〜55万6,000)、女性22万7,000人(同20万〜25万5,000)であり、この年における自殺の年齢調整死亡率は、男性の方が女性より2倍以上高かった(男性:12.8人、女性5.4人)。 自殺による年齢調整死亡率は、1990年の14.9人から2021年には9.0人へと経時的に39.5%低下していた。低下率は、男性の方が女性よりも低かった(男性33.5%、女性50.3%)。地域別に見て年齢調整死亡率の大幅な改善が認められたのは東アジアであり、1990年の21.1人から2021年には7.2人へと65.7%減少していた。2021年に自殺による年齢調整死亡率が最も高かったのは、東ヨーロッパ(19.2人)、サハラ以南アフリカ南部(16.1人)、サハラ以南アフリカ中央部(14.4人)だった。 自殺による死亡時の平均年齢は、1990年の42.6歳から2021年の47.0歳へと徐々に上昇していた。男女別に見ると、男性では1990年が43.0歳、2021年が47.0歳、女性では41.9歳と46.9歳だった。 2021年の自殺による死亡者数のうち、男性で9.7%、女性で2.9%が銃器を用いた自殺によるものだった。銃器を用いた自殺による年齢調整死亡率が最も高かった国は、米国(6.19人)、ウルグアイ(3.61人)、ベネズエラ(3.04人)だった。Rosenblad氏は、「男性は銃など、より暴力的で致死率の高い自殺方法を選ぶ傾向があるのに対し、女性は中毒や過剰摂取など、生存率が高い致命的ではない手段を選ぶ傾向が認められた」とIHMEのニュースリリース中で述べている。 2021年の自殺未遂の発生率と死亡率の比率(incidence-mortality ratio;IMR)を計算し、医療的処置を要するが死亡には至らなかった自殺未遂の発生頻度を評価した。その結果、女性のIMRは14.47件、男性のIMRは4.27件と女性の方がはるかに高く、この傾向は世界の21地域全てで共通していたことが示された。 健康指標評価研究所教授で上級研究員のMohsen Naghavi氏は、「自殺率の低下に向けた進展は喜ばしいが、一部の国や集団は依然として自殺の影響を他よりも大きく受け続けているのは明らかだ」と述べている。同氏はまた、「自殺に対する偏見やメンタルヘルス支援システムを受ける際の障壁をなくすことは、特に精神疾患や物質使用障害を持つ人にとって依然として重要な対策だ」と述べている。

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非糖尿病者では間歇スキャン式血糖測定の値が高値となる

 糖尿病ではない人が間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を行った場合、測定値が高値を示す傾向のあることが報告された。英バース大学のJavier Gonzalez氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Clinical Nutrition」に2月26日掲載された。 isCGMは指先穿刺を必要とせずに血糖値をリアルタイムで確認できるため、「糖尿病患者の人生を変え得る機器」といったアピールとともに普及してきている。しかし、新たな研究によると、健康な人の場合、血糖自己測定のゴールドスタンダードである指先穿刺による測定(SMBG)に比べてisCGMは、高値を示すことが多いようだ。論文の上席著者であるGonzalez氏は、「isCGMは糖尿病患者にとって素晴らしいツールだ。糖尿病患者の場合、たとえ測定結果が完璧に正確ではないとしても、全く測定しないよりは良い。しかし、健康な人が用いると、不必要な食事制限や不適切な食事選択につながる可能性がある。血糖値を正確に評価したいのであれば、依然として従来の方法が最適だ」と話している。 isCGMは、腕に貼ったパッチを介して血糖値を連続的に測定し、その測定結果をスマートフォンなどのデバイスに送信するシステム。このisCGMは、もともとは糖尿病患者の血糖管理をサポートする目的で開発された。ところが現在このデバイスは、糖尿病でない人の健康管理にも用いられ始めている。例えば、さまざまな食品を摂取後に、血糖値がどのように変化するかを知るために使われたりしている。 この研究では、15人の健康なボランティアに、果物を丸ごとそのまま食べてもらったり、スムージーにして飲んだりしてもらい、その後の血糖変動をisCGMで測定し、SMBGでの測定値と比較した。その結果、スムージーの血糖上昇指数(GI)はSMBGでは53(低GI)と判定されたのに対して、isCGMでは69(中GI)と示され、SMBGより30%過大評価された。また、果物を丸ごと食べた場合、SMBGではやはり低GIであることが示されたが、isCGMでは中GIまたは高GIと判定された。この結果から研究者らは、果物を丸ごと食べると血糖値が急上昇するかもしれないと誤解した健康な人が、果物を避けるようになる可能性があるとしている。 また、isCGMは血糖値が140mg/dL以上になっている時間の長さを約3.8倍、過大に評価することも明らかになった。食品を摂取する前の血糖値などの影響を調整してもなお、約2倍に過大評価していた。 Gonzalez氏は「isCGMは、血液中のブドウ糖である血糖の濃度を直接測定するのではなく細胞を取り囲む液体中に含まれているブドウ糖の濃度を測定するため、不正確になる可能性がある。血流の変化、血糖の体内での分布速度の影響などによりタイムラグが発生することもあって、実際の血糖値と不一致が生じ得る」と解説している。 なお、この研究は、英国を拠点にスムージーの製造・販売を展開しているInnocent Drinks社の資金提供により実施された。

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切除不能進行胃がんに対するPD-L1抗体sugemalimab+化学療法の有用性(解説:上村直実氏)

 食道胃接合部腺がんを含む手術不能な進行胃がんに対する第1選択の薬物療法とは、従来、5-FUを代表とするフッ化ピリミジン系薬剤とシスプラチンなどのプラチナ系薬剤の併用療法が標準化学治療となっていた。最近、細胞増殖に関わるHER2遺伝子の有無により、HER2陽性胃がんに対しては抗HER2抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加した3剤併用レジメンが第1選択の標準治療として推奨されており、さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を追加した4剤併用療法の有用性も報告されている。一方、胃がんの80%を占めるHER2陰性胃がんに対しては、標準化学療法にICIであるPD-1(programmed cell death-1)抗体薬であるニボルマブ(同:オプジーボ)やペムブロリズマブ(同:キイトルーダ)を加えた3剤併用療法が第1選択の標準治療レジメンとして確立し、さらにHER2陰性かつClaudin(CLDN)18.2陽性胃がんに対してはCLDN18.2を標的とした抗体薬(ゾルベツキシマブ)も承認されている。このように、手術不能進行胃がんに対する薬物療法が劇的に変化している。 未治療の切除不能な局所進行または転移を有する胃・食道胃接合部腺がんの治療に対して、PD-L1の複合発現スコア(CPS)が5以上の高値を示すアジア人の患者を対象として、標準化学療法単独とPD-L1抗体薬であるsugemalimabの併用を比較した海外無作為化試験が施行された結果、sugemalimab併用の全生存率(OS)中央値15.6ヵ月がプラセボ群の12.6ヵ月に比べて有意に延長していた。とくにCPSが10以上の高値を示す症例のOSはさらに延長していた(2025年2月のJAMAオンライン)。 ICIに関しては、2018年にノーベル賞を受賞した京都大学の本庶 佑博士と米国テキサス大学のジェームズ・P・アリソン博士がそれぞれに発見したPD-1遺伝子とCTLA-4(細胞殺傷性Tリンパ球抗原4)に対する抗体に続いて今回報告されたPD-L1の抗体薬が開発されている。それぞれのICIは異なる機序を有しており、ほかにも新たなICIが次々と開発されつつあるのが現状である。 ICIに関する課題も判明しつつある。すなわちICIが有効性を示す患者もいる一方、効果のない患者もあり、さらに重篤な副作用の出現を認める症例も報告されていることから、今回使用された腫瘍細胞のPD-L1の発現量を示すCPSなど、実際の治療に対する反応性を予測するバイオマーカーの確立が急務であろう。なお、2024年に日本胃学会はバイオマーカーとしてHER2、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18の4検査を同時に実施することを推奨している。 今後、切除不能胃がんに対する1次治療にICIを含むレジメンが一般的になるものと思われる。わが国において胃がんに対して使用されるICIはニボルマブやペムブロリズマブなどのPD-1抗体が主流であるが、今回の報告から近いうちにPD-L1抗体も臨床の現場に現れると思われる。

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退院後1週間で再入院。どうしたら防げた?【こんなときどうする?高齢者診療】第11回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2025年2月に扱ったテーマ「診療連携とケア移行」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。ケア移行は、患者を異なる医療・ケア環境へ移る際に、適切な引き継ぎと支援を行うプロセスです。入院・外来・在宅・介護施設など、さまざまな場面で発生します。しかし、ケア移行が適切に行われないと、再入院のリスクが高まり、QOLの低下につながることも少なくありません。とくに高齢患者にとっては、途切れのないサポートが不可欠であるにもかかわらず、致命的な悪化を生じてしまうことは残念ながら少なくありません。今回はケースを通じてシームレスなケア移行を実現するための工夫や受け入れ側の視点を考えてみましょう。78歳女性 心不全。入院期間2週間 → 退院後は自宅療養、外来フォロー予定ケア移行時の問題点処方変更:退院時に変更された薬を患者が自己判断で中断診療継続の途絶(Discontinuity of Care):退院時に外来診察の予約が取れていなかった情報共有不足:患者・家族が心不全悪化の兆候(体重増加など)を認識していなかった 結果として、退院後1週間で心不全が増悪し、再入院となった。ケア移行で陥りがちな3つの落とし穴このケースには、すべてのケア移行に共通する3つのピットフォールが含まれています。順番に見ていきましょう。1.情報共有の不足このケースでは、処方が変更された意図や新しい服薬スケジュールが十分に伝わっていなかったために、患者は服薬を中断してしまいました。情報共有の不足が、医療者と患者・患者と家族の間で起きています。情報共有は、医療者-医療者、医療者-患者、患者-家族などすべての関係において重要です。2.診療継続の途絶(Discontinuity of Care)診察や訪問の予約といったケアプランの調整は、ミスが起きやすいポイントです。こうした調整不足をなくすために、担当者、次のケア提供者(例:外来医・訪問看護・在宅医療など)を明示し退院前に予約記録を皆が確認できる体制が必要です。3.適切な経過観察の欠如このケースでは「こういう症状が出たら症状の悪化が考えられるので、医療者・ケア提供者に連絡しましょう」というような患者・家族への情報共有・教育ができていませんでした。異変があっても、適切なタイミングで受診できなかったことが、再入院を引き起こすきっかけになった可能性があります。チェックリストやハンドアウトなども活用し、患者・家族が自主的に動けるようなフォローアッププランはどのような移行であっても不可欠です。ピットフォールを防ぐ介入のポイントケア移行がうまくいかない理由として、(1)情報共有の不足、(2)移行先の環境を十分に考慮できていないケアプランが挙げられます。このようなケア移行の難しさはアメリカでも認識されており、National Transitions of Care Coalitionが介入のための7つのポイントを作成しています1)。今回はその中から、とくに重要な4つを紹介します。1.薬:ケア移行は、薬剤整理の絶好のタイミング!ケア移行は薬剤整理のタイミングとしてとても適しています。ここで重要なのが「安全・確実に服用を続けられる」ようにすること。移行期には新たな情報や薬・フォローアップの予定と情報量に、患者・家族ともに打ちのめされている場合も少なくありません。そのような状態を考慮し、経済的背景や心理社会面での困難といった社会的決定要因(SDOH)の評価と、それに応じた本人・家族への教育が欠かせません。2.ケア移行計画:異なる環境でも適切なケアが継続できる計画を作成するよいケア移行計画は、ケア提供者のレベルが異なっても必要なケアが継続できるものです。例えば、病院から介護施設への移行した場合、施設の介護士と看護師、またそのほかの職員も協働してケアを提供することになります。介護士と看護師それぞれに依頼したい内容を分けるなど、移行先で実施可能な計画を作成できるとよいですね。そのためできることとしては、計画や実行の責任者を明確に(誰が何を、どこで、いつ、どのように)すること、作成した計画をタイムリーに共有することが重要です。3.患者と家族のエンパワメント:ケア移行に主体的に参加できるよう支援患者と家族に正しい情報と知識を共有しましょう。知識の共有は、患者と家族がケア移行に主体的に参加し、正解がない中で最善を選ぶ手助けになります。そして、ケア移行後にセルフマネジメントができるよう具体的な方法はもちろん、「なぜこの治療が必要なのか?」を患者や家族が理解できるよう説明する、家族も巻き込んで、フォローアップの重要性を共有し実行できるようサポートすることも医療者の重要な役割です。4.コミュニケーション促進:関係者全員がスムーズに連携できる手段を整える関係者全員のコミュニケーションが円滑になる手段を整えることも重要です。医療者間は共通のカルテやレポートなどを使い、情報のヌケ、モレ、ズレがないようにするのが理想です。やりとりのツールは電話やメールなど、何が使いやすいのかを検討します。残りの3つは、ケア移行の組織的改善の方策が示されています。ケアの継続性の確保、ケア移行の標準化、ケア移行の効率と質の評価について、それぞれ具体的な行動や知見が挙げられていますので、ぜひ参考資料をご覧になってみてください。ケア移行の改善、どこから手をつける?いかがでしたか?最後に、医師の皆さんが今日からできるケア移行改善アクションをひとつご紹介します。それは入院時から退院を視野にいれたサマリを作成することです。これによりさまざまなことを前もって準備・調整しやすくなります。たとえば退院時に介護保険を申請する可能性を予想できていたら、承認までの期間を見積もって早めに申請することができます。自分の仕事の中でできることを探してケア移行をよりよいものにしていきましょう! ケア移行のティップスと多職種連携の落とし穴をオンラインサロンでオンラインサロンメンバー限定の講義では、メンバーの悩みを例により実臨床に即したケア移行のコツを解説しています。また、酒井郁子氏(千葉大学大学院看護学研究院附属病院専門職連携教育研究センター長)を迎えた対談動画では、アメリカ型チーム医療とイギリス型専門職連携の違いという、多職種連携がうまくいかない根本の原因に迫ります。参考1)NTOCC, 2022 Recised Care Transitions Bundle; Seven Essential Elements Categories.

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第256回  “撤退戦”が始まっていることに気付かない人々(後編)  長崎大病院全病床の1割以上に当たる98床削減、国も「病床1床減らせば410万円」の補助金用意、“撤退戦”本格化の兆し

メジャーで通用しなければ撤退・帰国の日本人投手、病床が埋まらなければ再編・病床削減という“撤退戦”必至の病院こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBの東京シリーズ、シカゴ・カブス対ロサンゼルス・ドジャース、すごかったですね。個人的には、山本 由伸投手が好投した開幕戦よりも、佐々木 朗希投手がよれよれになりながらも、3回をなんとか1失点でしのいだ第2戦を興味深く観戦しました(もちろんテレビで)。160キロ近いスピードは出ていましたが、制球が悪く四球を連発、盗塁も2つ決められていました。それでも試合を壊さなかったのはさすがと言えるでしょう。スプリットがコントロールできない、投球フォームを盗まれるなど、多くの課題が浮き彫りになった佐々木投手ですが、逆に言えばファンは今後それらの課題克服の過程を見ることができるわけです。米国開幕3戦目の3月30日(日本時間)に予定されている米国初登板が楽しみです。一方で、今季からMLBに渡った何人かの投手の不調も伝わって来ています。中日ドラゴンズからワシントン・ナショナルズに移籍した小笠原 慎之介投手はオープン戦で打ち込まれ、防御率11.25でマイナー降格が決まっています。また、阪神タイガースからフィラデルフィア・フィリーズとマイナー契約を結んだ青柳 晃洋投手も、招待選手としてメジャーキャンプに参加しましたが、オープン戦は防御率12.00と、やはりマイナーが確定しています。ちなみに、2年前から米国で挑戦を続ける藤浪 晋太郎投手も、マイナー契約の招待選手としてシアトル・マリナーズのメジャーキャンプに参加していましたが、オープン戦の防御率5.40、制球の悪さは相変わらずでマイナー行きとなりました。日本で“そこそこ”の選手が、ただのあこがれだけでMLBに行ってもまったく通用しないということがよくわかります。この3人、昨年の上沢 直之投手のように日本に出戻る(撤退する)ことになるのでしょうか。今年のMLBはそのあたりにも注目です。さて、前回は人口減少が続き、病床が埋まらなくなれば再編や病床削減という“撤退戦”に入らなければならないのに、そうした状況に気付かない人々について、「首長や行政の人間はなぜ財政的に大赤字になることが見えているのに、立派な病院を作りたがるのでしょうか」と書きました。しかし、最前線の現場では、変化の兆しも見え始めているようです。今回はそうした動きについて書いてみたいと思います。資材や人件費の高騰を背景に各地で相次ぐ新病院の計画中止2月25日付の中国新聞によると、2月21日、広島県三次市の福岡 誠志市長は市立三次中央病院を現地で建て替え、2029年春の開院を目指す計画について、建築単価の高騰や現病院の収支悪化などを理由に「一時立ち止まり、事業の再構築を検討せざるを得ない」と明らかにしました。2025年5月を目処に基本設計を終える予定でしたが、計画は中断に至りました。また、3月6日付のNHK・青森 NEWS WEBによれば、青森県下北半島のむつ市にあるむつ総合病院で計画されていた新病棟の建設は、総事業費が当初の2倍以上に膨らんだことから計画をいったん白紙にした上で、現在の病棟の改修も含めて再検討することになりました。むつ総合病院を運営する「下北医療センター」の管理者を務めるむつ市の山本 知也市長が同日、会見を開いて明らかにしたもので、山本市長は3月に予定していた病棟の建設工事の入札を中止したことを報告、「資材の高騰などに伴って総事業費がこの3年で2倍以上のおよそ415億円に膨らみ、新たな財源を確保できないため」とその理由を説明したとのことです。さらに、3月7日付の奈良新聞によると、奈良県大和高田市の堀内 大造市長は3月6日、建物の老朽化が課題となっている市立病院について、JR高田駅東側にある県産業会館の場所を活用した新築移転計画を断念すると発表しました。施政方針で堀内市長は「市の将来の財政見通しで、物価高騰や人件費の上昇が予想され、一般会計において今後厳しい状況が見込まれる」とし、「市立病院の新築移転は大変困難であると判断した」と語ったとのことです。長崎大学病院は4月1日から一般病床を827床から729床へ98床削減2、3月には、都道府県、市町村で新年度予算を審議する議会が開かれます。病院建設計画がある自治体ではそのための予算措置が議案になるため、こうした報道が続出したものと考えられます。こうした報道から、建設費や機器・備品・システム費の高騰を背景に、前回も書いた順天堂大学の埼玉新病院建設断念と同じ状況が、病院の規模は違いますが全国各地で起こっていることがわかります。闇雲に突っ走らず、計画を中断し再考するという点は評価できます。建設費等の高騰は、自治体の首長に病院建設の再考を迫る、いいきっかけになったと言えるでしょう。とはいうものの、各地の老朽化した古い病院、病棟はそのままとなるので、これからの医療提供体制を考えると、より大胆で効率的な(かつ安上がりで済む)病院再編計画が必要になって来るでしょう。再編・リストラでは、今月はこんな報道もありました。3月13日付の長崎新聞の報道によると、長崎市にある長崎大学病院が、4月1日から一般病床を現在の827床から1割強の98床削減し、729床に再編すると発表しました。長崎大学病院の入院延べ患者数は2019年度が約27万6,000人でしたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で急激に減り、2023年度は約25万人に留まっていました。病床稼働率も2019年度の86.35%から2023年度は78.27%に低下していました。同紙によれば、全国42の国立大学病院で昨年までの過去10年間で一度に病床を100床規模で削減したケースはないとのことです。長崎大学病院は大学病院の大規模病床削減の先駆けになるわけです。国は病床削減した病院に1床につき410万円補助へ贅沢な大病院計画は中止する、大学病院でも大規模な病床削減を敢行する……など、医療機関の“撤退戦”が本格化しそうな2025年ですが、国もそうした状況を後押しする施策を用意しています。2024年度厚生労働省補正予算で決定した「医療施設等経営強化緊急支援事業」の中の「病床数適正化支援事業」がそれです。「効率的な医療提供体制の確保を図るため、医療需要の急激な変化を受けて病床数の適正化を進める医療機関に対し、診療体制の変更等による職員の雇用等の様々な課題に際して生じる負担について支援を行う」もので、期日(2024年度中が原則だが、2025年9月末日までになる模様)内に病床数(一般病床、療養病床及び精神病床) の削減を行う病院又は診療所に対し、削減した病床1床につき410万4,000円が交付される、というものです。国の予算では428億円が計上されています。単純に割れば、1万床分になります。同種の補助金としては、すでに地域医療介護総合確保基金の中の「病床機能再編支援交付金」があります。こちらは制度区分にもよりますが1床あたり200万円程度なので、410万円はその倍額です。各都道府県では2024年度分は申請を締め切ったようですが、知人の医療コンサルタントは「各都道府県ともかなりの申し込みが来ているようだ」と話していました。こうした補助金が、地域の医療機関の“撤退戦”や病床削減の呼び水となれば、国は2024年度だけでなく、2025年度以降も同じ規模の補助金を用意して、さらなる削減を進めることになるでしょう。ただ、こうした“店じまい”補助金はいつまでも続くとは限らないので、“早い者勝ち”になる可能性もあります。今回、「病床数適正化支援事業」の申請ができなかった病院も、次年度に向け、早めに病床削減計画を立てておいたほうがいいかもしれません。

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肺炎改善に対するエビデンスの確実性は低い。コクランレビューが示す胸部理学療法の効果【論文から学ぶ看護の新常識】第8回

肺炎改善に対するエビデンスの確実性は低い。コクランレビューが示す胸部理学療法の効果成人肺炎に対する胸部理学療法についてのコクランレビューは、2010年に初めて発表され、2013年に更新された。新たに2件の研究を追加し再分析を行ったアップデート版が、The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2022年9月6日号に掲載された。コクランレビュー:成人の肺炎に対する胸部理学療法本アップデートでは、2013年の結果に新たに2件の研究(540例)を追加し、合計8件のランダム化比較試験(RCT)、974例を分析対象とした。以下の5種類の胸部理学療法を検討した。1)従来の胸部理学療法、2)オステオパシー徒手療法(OMT;脊柱抑制、肋骨挙上、筋膜リリースを含む)、3)アクティブサイクル呼吸法(呼吸コントロール、胸郭拡張運動、強制呼気技術を含む)、4)呼気陽圧療法(PEP)、5)高頻度胸壁振動法(HFCWO)。主要評価項目として、死亡率、治癒率、入院期間、発熱期間、抗生物質使用期間、ICU滞在期間、人工呼吸期間、副作用を設定した。いずれもエビデンスの確実性は非常に低いが、以下の通りの結果となった。死亡率:従来の胸部理学療法(無介入との比較)、OMT(プラセボとの比較)、HFCWO(無介入との比較)は、いずれも死亡率を改善する可能性はほとんどない。治癒率:従来の胸部理学療法とアクティブサイクル呼吸法(無介入との比較)は、治癒率改善にほとんど影響を与えない可能性がある。OMTは、治癒率を改善する可能性がある(リスク比[RR]:1.59、95%信頼区間[CI]:1.01~2.51)。入院期間:OMT、従来の胸部理学療法、アクティブサイクル呼吸法は、入院期間にほとんど影響を与えない可能性がある。PEP(無介入との比較)は、入院期間を平均1.4日短縮する可能性がある(平均差[MD]:−1.4日、95%CI:−2.77~−0.03)。発熱期間:従来の胸部理学療法、OMTは、発熱期間にほとんど影響を与えない可能性がある。PEPは、発熱期間を0.7日短縮する可能性がある(MD:−0.7日、95%CI:−1.36~−0.04)。抗生物質使用期間:OMTとアクティブサイクル呼吸法は、いずれも抗生物質の使用期間にほとんど影響を与えない可能性がある。集中治療室(ICU)の滞在期間:HFCWO+気管支鏡肺胞洗浄(気管支鏡肺胞洗浄単独との比較)では、ICU滞在期間を3.8日短縮する可能性がある(MD:−3.8日、95%CI:−5.00~−2.60)。人工呼吸期間:HFCWO+気管支鏡肺胞洗浄は、人工呼吸期間を3日短縮する可能性がある(MD:−3日、95%CI:−3.68~−2.32)。副作用:1件の試験では、2名の参加者にOMT後一過性の筋肉の圧痛が発生した。別の試験では、3件の重篤な有害事象によりOMT後に早期に試験から除外された。1件の試験では、PEPでの有害事象は報告されなかった。主要な結論に変更はなかった。現在のエビデンスでは、胸部理学療法が成人肺炎患者の死亡率や治癒率を改善する効果については非常に不確かである。一部の理学療法は入院期間、発熱期間、ICU滞在期間、および人工呼吸期間をわずかに短縮する可能性がある。しかし、これらの結果は確実性の非常に低いエビデンスに基づいており、さらなる検証が求められる。成人肺炎患者に対する胸部理学療法の今回のレビューでは、死亡率や治癒率への効果は不確実という結果でした。一部の手法では、入院日数やICU滞在期間、発熱期間を短縮する可能性が示唆されましたが、いずれもエビデンスの確実性は低く、さらなる大規模研究が必要です。その一方で、胸部理学療法の効果がないと証明されたわけではありません(統計上、効果があるかどうかがわからないが正確な捉え方です)。看護師としては、胸部理学療法単独の効果に過度な期待を寄せるのではなく、体位管理や呼吸訓練、早期離床などの多角的なケアを組み合わせて行うことが重要です。現場では個々の患者さんに応じたケアが最優先になります。とくに、患者さんの全身状態を見極めながら、呼吸介助や痰の排出を促す方法を取り入れるなど、個々の状況に合わせたプランを立案しましょう。また効果の根拠が限られるからこそ、他職種とも連携を図り、安全性を担保しながら最適なケアを提供する姿勢が求められます。実践する際は、患者さんの負担やリスクを常に評価し、無理のない範囲で効果的に行う方法を検討することが大切です。今後も新たな知見を確認しながら柔軟にケア介入を考えていきましょう。論文はこちらChen X, et al. Cochrane Database of Syst Rev. 2022;9(9): CD006338.

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ビタミンBが影響を及ぼす神経精神疾患〜メタ解析

 最近、食事や栄養が身体的および精神的な健康にどのような影響を及ぼすかが、注目されている。多くの研究において、ビタミンBが神経精神疾患に潜在的な影響を及ぼすことが示唆されているが、ビタミンBと神経精神疾患との関連における因果関係は不明である。中国・Shaoxing Seventh People's HospitalのMengfei Ye氏らは、ビタミンBと神経精神疾患との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)メタ解析を実施した。Neuroscience and Biobehavioral Reviews誌2025年3月号の報告。 本MRメタ解析は、これまでのMR研究、UK Biobank、FinnGenのデータを用いて行った。ビタミンB(VB6、VB12、葉酸)と神経精神疾患との関連を調査した。 主な内容は以下のとおり。・MR分析では、複雑かつ多面的な関連性が示唆された。・VB6は、アルツハイマー病の予防に有効であったが、うつ病および心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスク上昇の可能性が示唆された。・VB12は、自閉スペクトラム症(ASD)の予防に有効であったが、双極症リスクを上昇させる可能性が示唆された。・葉酸は、アルツハイマー病および知的障害に対する予防効果が示唆された。・メタ解析では、ビタミンBは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの特定の神経精神疾患の予防に有効であるが、不安症や他の精神疾患のリスク因子である可能性が示唆された。・サブグループ解析では、VB6は、てんかんおよび統合失調症の予防に有効であるが、躁病リスク上昇と関連していた。・VB12は、知的障害およびASDの予防に有効であるが、統合失調症および双極症のリスク上昇と関連していた。・葉酸は、統合失調症、アルツハイマー病、知的障害の予防に有効である可能性が示唆された。 著者らは「これらの知見は、ビタミンBのメンタルヘルスに対する影響は複雑であり、さまざまな神経精神疾患に対して異なる影響を及ぼすことが示唆された。このような複雑な関連は、神経精神疾患に対する新たな治療法の開発において、パーソナライズされた治療サプリメントの重要性を示している」と結んでいる。

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高齢NSCLCへのICI、2次治療への移行率と治療成績(NEJ057)/日本臨床腫瘍学会

 高齢の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療後の2次治療への移行率や、2次治療の有効性に関する報告は乏しい。そこで、75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)1)において、ICIによる治療後の2次治療への移行率および2次治療の治療成績が検討された。山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)が、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で本結果を報告した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで2018年12月~2021年3月に治療を開始した患者(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子を有する患者は除外)・評価項目:全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、安全性など 今回は、ICI+化学療法またはICI単剤で治療を開始したNSCLC患者を対象として解析された。主な結果は以下のとおり。・解析対象患者(779例)の内訳は、ICI+化学療法群354例、ICI単剤群425例であった。・全身状態はICI+化学療法群のほうが良好な傾向にあった。ECOG PS0/1/2以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が137/199/17/1例、ICI単剤群が100/223/102/0例であった。・PD-L1発現はICI単剤群のほうが高発現の傾向にあった。PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が111/129/75/39例、ICI単剤群が12/111/297/5例であった。・データカットオフ時点(2021年12月31日)において、病勢進行はICI+化学療法群82%、ICI単剤群77%に認められ、Best Supportive Care(BSC)以外の2次治療への移行率はそれぞれ39.3%、23.8%であった。各群の2次治療の内訳は以下のとおり。-プラチナ併用化学療法:5%、13%-単剤化学療法:39%、16%-ICI単剤:3%、1%-その他:1%未満、1%未満-BSC:52%、69%・2次治療のレジメンは、ICI+化学療法群ではドセタキセル(52例)、S-1(32例)、ドセタキセル+ラムシルマブ(23例)が多く、ICI単剤群ではS-1(21例)、カルボプラチン+ペメトレキセド(18例)、カルボプラチン+nab-パクリタキセル(18例)が多かった。・2次治療のPFS中央値、奏効割合は以下のとおり。 <ICI+化学療法群> プラチナ併用化学療法:2.5ヵ月、13% 単剤化学療法:3.7ヵ月、11% <ICI単剤群> プラチナ併用化学療法:5.3ヵ月、26% 単剤化学療法:3.7ヵ月、13%

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パーキンソン病患者数、30年後には約2倍か/BMJ

 パーキンソン病の患者数は、2050年には2021年の2.1倍となる2,520万人に達し、この増加傾向は世界疾病負担研究(Global Burden of Disease:GBD)の地域分類で規定する東アジア地域の、社会人口統計学的指数(SDI)が中程度の国の男性でより顕著になると予測されることを、中国・首都医科大学のDongning Su氏らがGBD 2021のデータを解析し報告した。著者は、「パーキンソン病は、2050年までに患者とその家族、介護者、地域、そして社会にとって大きな公衆衛生上の課題となると予測され、今回の結果はヘルスリサーチの推進、政策決定への情報提供およびリソース配分の一助となるだろう」とまとめている。BMJ誌2025年3月5日号掲載の報告。1990~2021年の195の国・地域のデータを解析 研究グループは、GBD 2021から1990~2021年の195の国と地域におけるパーキンソン病の年齢、性別、暦年および地域別の有病率データを用い、2022~50年のパーキンソン病の年齢・性別有病率を推計した。予測有病率の時間的傾向を調べるため平均年間変化率を算出し、2021~50年の間の人口増、高齢化、有病率の変化がパーキンソン病患者数の変化に与える相対的な影響を分解分析で評価した。また、曝露レベルと有病率比を用い、パーキンソン病の修正可能なリスク因子に関する人口寄与割合(PAF)と潜在的影響割合(PIF)を推定した。 GBD 2021では、パーキンソン病は安静時振戦、無動、筋強剛および姿勢反射障害の4つの主要症状のうち2つ以上を有することと定義された。2021年から112%増加、寄与要因は高齢化が89% 2050年には、世界のパーキンソン病患者数は2,520万人(95%不確実性区間[UI]:2,170万~3,010万)となり、2021年から112%(95%UI:71~152)増加すると予測された。患者数増加に最も寄与する要因は高齢化(89%)であり、次いで人口増(20%)、有病率の変化(3%)と予測された。 2050年におけるパーキンソン病の有病率は、2021年から76%(95%UI:56~125)増加し10万人当たり267例(95%UI:230~320)、年齢標準化有病率は2021年から55%(50~60)増加し10万人当たり216例(168~281)になると予測された。 最も大きな増加を示すと予測されたのはSDI分類で中程度(五分位の中央)の国で、全年齢有病率が144%(95%UI:87~183)増加、年齢標準化有病率が91%(82~101)増加すると予測された。 GBDの地域分類では、2050年のパーキンソン病患者数は東アジアが1,090万人(95%UI:900万~1,330万)で最も多く、2021年からの増加率が最も高いのはサハラ以南のアフリカ西部で292%(95%UI:266~362)増加すると予測された。 年齢層では、80歳以上で最も増加する(196%、95%UI:143~235)と予測された。また、パーキンソン病の年齢標準化有病率の男女比は、世界全体で2021年の1.46から2050年には1.64に増すと予測された。

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リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療/日本臨床腫瘍学会

 キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法や二重特異性抗体など、最近の免疫治療の進歩は目覚ましく、とくに悪性リンパ腫と多発性骨髄腫に対しては生命予後を大幅に改善させている。今後もさらに治療成績が向上することが期待され、最適な治療法を選択していくためには、本邦における免疫治療の現状や課題、今後の治療法の開発状況などについてよく理解しておく必要がある。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療についてのシンポジウムが開催され、国内外の4人の演者が最新の知見や今後の展望などについて講演した。B細胞リンパ腫治療の進歩に重要な役割を果たす二重特異性抗体 「とくに、最近のCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体の出現は、B細胞リンパ腫治療に大きな進歩をもたらしている」とGrzegorz Stanislaw Nowakowski氏(Mayo Clinic)は強調する。T細胞の細胞膜上に発現するCD3とB細胞性がん細胞の膜上に発現するCD20の両者に結合し、T細胞の増殖および活性化を誘導することでCD20が発現しているがん細胞を攻撃する治療法で、最近はCD20とは異なる表面分子を標的とする、または複数の表面分子を同時に標的とする二重特異性抗体の研究開発も進行しているという。 CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体に関する臨床試験は、CAR-T細胞療法後の再発を含む再発または難治性の進行性リンパ腫を対象に実施され、約50~60%の患者に奏効し、奏効した患者の約半数が完全奏効となっていた。加えて、完全奏効した患者は、その状態が長く持続し、患者の病態や前治療の数や内容などにかかわらず、効果は一貫してみられていた。 一方で、二重特異性抗体の有害事象については、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)のリスクは高くなく、用量漸増や予防薬の前投与によって軽減することが可能となる。Nowakowski氏は、「重要なのは、CRSは管理可能であると認識することである。加えて、治療に関連する神経毒性の発生リスクも高くなく、Grade3以上の神経毒性の発現頻度は非常に低い」と述べた。 さらに、二重特異性抗体による治療のメリットは、化学療法やCAR-T細胞療法などのほかの治療法と組み合わせたり、治療の順番を調整したりすることができる点にあるとNowakowski氏は指摘する。また、特定の二重特異性抗体をCAR-T細胞療法までの橋渡しの治療としても使うことができることを示唆する研究報告もあり、治療効果をより継続したり高めたりする臨床研究が進行中であるという。 最後に、「活動性の高い低悪性度リンパ腫に対しては、化学療法を併用しない二重特異性抗体による単独治療も可能となる。このように、二重特異性抗体はモノクローナル抗体と同様に、複数の治療法で使用できる可能性がある」とNowakowski氏は付け加えた。B細胞リンパ腫に対する早期治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性 本邦においても、CD19を標的としたCAR-T細胞療法は、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)などのB細胞リンパ腫に適応となっている。CAR-T細胞療法の治療成績は、それまでの再発または難治性LBCLに対する標準治療に比べて群を抜いて高く、治療成績は劇的に改善された。今回、蒔田 真一氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)は、B細胞リンパ腫に対する早期の治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性について言及した。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、第2世代のCAR-T細胞療法であるtisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの単群試験の結果を基に、3rdライン以降の治療薬として本邦では最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解から12ヵ月以内の再発例を対象としたランダム化比較試験において、化学療法と自家幹細胞移植による標準治療を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことで、axi-celとliso-celが2ndラインとしても使用できるようになっている。 蒔田氏は、CAR-T細胞療法を早期ラインで使用することのメリットとして、まず、早期のラインではより多くのブリッジング(橋渡し)治療が可能となり、CAR-T細胞を製造している間の腫瘍進行を抑制することが可能となることを挙げる。さらに、早期ラインでは従来の細胞障害性抗がん薬への曝露が少ないことから、CAR-T細胞療法が効きやすい可能性もあるという。 このような背景の中で、未治療のLBCLに対する1stラインとしてのCAR-T細胞療法の有用性を評価するための臨床試験が現在進行している。「加えて、LBCLに対する二重特異性抗体の臨床試験なども複数進行しており、近い将来、未治療LBCLに対する治療戦略が劇的に変化する可能性がある」と蒔田氏は結んだ。CAR-T細胞療法の効果的な運用に向けて CAR-T細胞療法は、2012年に米国のフィラデルフィアで小児急性リンパ芽球性白血病への最初の使用が報告された免疫細胞療法であり、長期にわたる良好な治療成績が得られている。その後も、CD19を標的としたCAR-T細胞療法はとくに再発または難治性のLBCLの治療戦略を劇的に変化させ、その適応は広がっている。 LBCL患者の約60%は、初回のR-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)で長期生存を達成するが、再発または難治性となった場合は、化学療法や自家幹細胞移植などの2ndラインの標準治療で治癒に至る患者はわずか10%にすぎない。そのため、再発または難治性のLBCLに対する治療戦略はきわめて重要であると福島 健太郎氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は述べる。 CAR-T細胞療法を効果的に運用していくためには、まずは適切なCAR-T細胞の製造が重要となる。CAR-T細胞の製造については、製造管理や品質管理の手法が「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)」に適合する必要があるが、開発企業や医療機関によってアフェレーシス(T細胞採取)の手順や採取されたアフェレーシス産物の製造所への輸送方法などが異なっている。大阪大学ではこれを未来医療センター細胞調製施設(MTR CPC)が担当し、アフェレーシス、CD3陽性細胞率の測定、生細胞率測定、採取産物の濃縮・調整・凍結保存、製品原料の発送などを主治医、輸血部門、中央研究所、MTR CPCなどが連携して実施しているという。 CAR-T細胞療法では、アフェレーシス、製造(遺伝子改変・培養)、輸送、投与前処置など、患者からT細胞を採取してから再び患者に戻すまでの過程があり、これに要する時間(Vein to Vein Time:V2VT)は治療効果や患者の状態管理に大きく影響を与えることになる。そのため、V2VTの短縮は、CAR-T細胞療法における重要な課題となっている。そして、V2VTによっては、アフェレーシス終了後にCAR-T細胞の輸注に先立ってリンパ腫に対する治療を行う橋渡し治療を行うこともある。このように、V2VTの短縮や橋渡し治療などを患者ごとに吟味しながら、CAR-T細胞療法の治療効果を高めていくことが重要と福島氏は指摘する。 さらに、福島氏はCAR-T細胞療法後における二次性のT細胞性悪性腫瘍の発生リスクについて言及した。2024年4月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法製品の添付文書に新たなT細胞性悪性腫瘍が発生する可能性について警告を表示することを要求した。しかし、その後の新たな研究から、CAR-T細胞療法後の二次性悪性腫瘍の発生頻度は、標準治療後における発生頻度と同程度であることが示されているという。多発性骨髄腫に対する免疫療法の治療効果最大化への課題 これまで、プロテアソーム阻害薬(PI)、免疫調節薬(IMiDs)、抗CD38モノクローナル抗体製剤(抗CD38抗体)などの治療薬が登場し、多発性骨髄腫(MM)患者の生命予後はかなり改善されてきた。しかし、これらの治療を続けていても、多くの場合再発となり、予後不良の再発または難治性のMMとして、現在の重要なアンメットメディカルニーズとなっている。この問題に対処するために、最近はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)などが登場し、大いに注目されている。 CAR-T細胞療法や二重特異性抗体、ADCの標的抗原として、とくにMM患者の骨髄腫細胞に高発現しているB細胞成熟抗原(BCMA)が重要であり、BCMAを標的とした免疫療法の現状と、効果を最大限に発揮するための課題などについて、原田 武志氏(徳島大学大学院 血液・内分泌代謝内科学分野)が言及した。現状では、PI、IMiDs、抗CD38抗体による治療の後に再発または難治性となったMMに対して、BCMAを標的としたCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、ADCによる治療が有効であることを示唆する結果が複数の臨床試験によって示されている。 このように、BCMAはMMの創薬ターゲットとして注目されているが、これらの薬剤の臨床効果はMM患者にとって普遍的ではなく、治療中に低下することがあり、これが治療効果を最大化するための1つの課題と原田氏は指摘する。現在、薬剤に対する治療抵抗性のメカニズムが精力的に研究されている中で、原田氏らはBCMAを標的とした免疫療法の後には、BCMA発現のダウンレギュレーションが関与していることを明らかにしてきた。また、BCMAとそのリガンドであるB細胞活性化因子(BAFF)とB細胞の発達や自己免疫応答に関与する関連タンパク質(APRIL)との相互作用も治療抵抗性に関与している可能性もあり、MM細胞と破骨細胞におけるBAFF/APRILのBCMAへの結合は、BCMAを標的とした免疫療法の有効性に影響を与える可能性が示唆されていた。さらに、原田氏らは、APRILがBCMAへのBCMAを標的とした二重特異性抗体製剤の結合を妨害し、破骨細胞由来のAPRILはBCMAを標的とした免疫療法の治療効果を減弱させる可能性もあると考えているという。 最近は、MMに対する新たな治療概念として、腫瘍細胞のみでなく腫瘍微小循環を標的とした治療も検討されはじめている。「今後、BCMAを標的とした免疫治療の効果を最大限に発揮するためには、腫瘍細胞と腫瘍微小循環の両者に対する治療戦略が重要となる」と原田氏は結論付けた。

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