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治療の選択肢の提示【医療訴訟の争点】第1回

症例肝細胞がん患者に対する治療法(肝切除 or シスプラチンの肝動注化学療法[ Transhepatic Arterial Infusion:TAI])の選択について、“どこまで説明をすべきか”という「説明義務違反」が争われた東京地裁平成26年11月27日判決(診療時は平成18年)を紹介する。争点は多岐にわたるが、治療法の選択肢の説明の点に絞ることとする。<登場人物>患者77歳・女性平成7年以降、肥満症、高血圧症で継続的に被告病院を受診し、血液検査を実施していた。原告患者の子被告大学附属病院、担当医(消化器内科医)事案の概要は以下の通りである。平成18年6月被告病院での血液検査で、γ-GTP高値を指摘された。受診時、左季肋部痛と心窩部圧痛の訴えあり。7月被告病院にて腹部エコー検査と腹部造影CT検査を受け、肝左葉S3に径約14×7cmの巨大腫瘍を認め、肝細胞がんの疑いとなった。8月8日被告病院におけるカンファレンスにて、シスプラチンのTAIが最適と判断され、治療法につき患者と家族に説明がなされた。8月9日消化器内科にてシスプラチンのTAI施行。治療時の腫瘍径は17cmであった。8月15日腹部造影CT検査にて、腫瘍径の増大(20×11cm)がみられた。8月18日消化器内科から消化器外科へ院内紹介され、肝切除術を行う方針となった。9月4日肝切除術施行。11月22日腹部造影CT検査にて、残肝に門脈腫瘍栓を伴う多発再発巣がみられた。以降、他院にて放射線療法や肝動脈化学塞栓術(TACE)を受けるも、平成19年4月27日に死亡した。実際の裁判結果裁判所は、治療の選択肢の説明義務違反につき、シスプラチンのTAIは確立した治療法ではなく、臨床的にも本件のような巨大な肝細胞がんに対する奏効率は低いこと、直ちに肝切除を実施する治療方針も十分に採り得たことなどを指摘した。そして裁判所は、医師らは「治療方針を説明した際、直ちに肝切除するという治療方針も採り得ることを説明すべき義務を負っていた…(中略)シスプラチンのTAIを施行するとその作用によって肝切除を行うまでに4~6週間の間隔を空けなければならないことについても説明すべき義務を負っていた」として、この点を説明していなかったことに対して、説明義務違反(慰謝料200万円)を認めた。なお、“直ちに肝切除をしなかったことが注意義務違反に当たるか”については、裁判所は、「腫瘍径の大きさなどからすれば、平成18年7月31日の時点で肝内転移や門脈侵襲を起こしていた可能性が相当高く…(中略)同日の時点で直ちに肝切除を行うという方針を採っても、その後早期に再発することが予想され、肝切除による予後の改善はほとんど期待し難いものと判断される状況にあった」と指摘し、「早期に肝切除をすること自体にどれほどの意義があったかについては疑問を持たざるを得ない」として注意義務違反はないと判断した。注意ポイント解説本件は、肝切除やシスプラチンのTAIといった複数の治療選択肢があった。当時、一般的に肝切除が行われていた一方で、シスプラチンのTAIは有効性を示すエビデンスが乏しく、診療ガイドラインや学会編集の診療マニュアルでも積極的に推奨されているものではなかった。このような中、直ちに肝切除するという治療法の選択肢が説明されておらず、また、シスプラチンのTAIを施行すると肝切除を行うまでに4~6週間の間隔を空ける必要がある、という医師の提示した治療法に付随する制約の説明もされていなかった。このため、これらの説明がなされていた場合には、患者が肝切除を選択することも合理的と考えられたことから、治療法の選択に関する患者の自己決定権を奪ったと判断された。治療法の有効性や安全性は時代と共に評価が変化しうるが、選択可能な治療法が複数存在する場合(とくに、一般的に行われている治療法と異なる治療法を勧める場合や、ガイドラインなどにおける治療法判断のアルゴリズムの当てはめに疑義が生じうる場合)においては、患者が、医師が最適と判断した治療法とは別の治療法を希望する可能性があることから、別の治療法についても患者に提示し、それぞれの治療法のメリットとデメリットなどを説明することが必要である。医療者の視点医師は最新の治療法に関する知識を常時アップデートする必要があります。また、限られた勤務時間の中で十分な説明を行うことは難儀です。しかし、複数の治療選択肢がある以上、医師は各治療法の特徴を熟知した上で、推奨する治療法以外についても患者に説明をしなければならないことを再認識しましょう。昨今では、医療者でなくても各種ガイドラインに容易にアクセス可能となりました。医師が推奨した治療方針とガイドラインとの間で齟齬がある場合、トラブルに繋がる可能性がある点にも留意しましょう。Take home message複数の治療選択肢が存在する症例では、各治療法のメリットやデメリットを患者に提示する必要がある。キーワード説明義務違反とは…患者の自己決定権の尊重の見地から、医師は、患者に対し、“治療方法などについて患者が自己決定するための情報(患者の状態、考え得る治療の選択肢とそのメリット・デメリット等)を説明する義務”を負う。医師がこの説明義務を怠った場合には、患者の自己決定権を侵害したものとして、これにより生じた損害を賠償する責任を負うこととなる。なお、医師の説明義務違反が問われる多くは上記のような“治療法の選択に関する説明”であるが、このほかにも“療養方法の指導としての説明”や“治療等が終了した場合の説明”の適否が争われることもあるので、この点も注意を要する。

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時間感覚をイメージする【国試のトリセツ】第44回

§4 実臨床リアリティ時間感覚をイメージするQuestion〈109A35〉45歳の女性。腹痛を主訴に来院した。昨日の昼食後から心窩部痛が出現し、上腹部不快感と悪心とを伴っていた。今朝には痛みが下腹部にも広がり徐々に増強し、歩くと腹壁に響くようになったため受診した。妊娠の可能性はないという。体温37.8℃。脈拍92/分、整。血圧112/70mmHg。呼吸数18/分。腹部は平坦で、右下腹部に圧痛と反跳痛とを認める。腸雑音は低下している。肝・脾を触知しない。尿所見蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)。血液所見赤血球471万、Hb14.5g/dL、Ht42%、白血球14,800、血小板32万。血液生化学所見総ビリルビン1.3mg/dL、AST15IU/L、ALT15IU/L、ALP154IU/L(基準115~359)、γ-GTP10IU/L(基準8~50)、アミラーゼ35IU/L(基準37~160)、尿素窒素22mg/dL、クレアチニン0.6mg/dL、血糖112mg/dL。CRP3.4mg/dL。腹部超音波検査は腸管ガスにて所見は不明瞭であった。腹部単純CT((A)、(B)、(C))を次に示す。治療として最も適切なのはどれか。画像を拡大する画像を拡大する(a)胆嚢摘出術(b)虫垂切除術(c)右付属器摘出術(d)体外衝撃波結石破砕術(e)経皮経肝胆嚢ドレナージ

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コーヒー・紅茶と認知症リスク、性別や血管疾患併存で違い

 コーヒーや紅茶の摂取は、認知症リスクと関連しているといわれているが、性別および血管疾患のリスク因子がどのように関連しているかは、よくわかっていない。台湾・国立台湾大学のKuan-Chu Hou氏らは、コーヒーや紅茶の摂取と認知症との関連および性別や血管疾患の併存との関連を調査するため、本研究を実施した。Journal of the Formosan Medical Association誌オンライン版2024年5月6日号の報告。 対象は3施設より募集したアルツハイマー病(AD)の高齢患者278例、血管性認知症(VaD)患者102例、対照者468例は同期間に募集した。コーヒーや紅茶の摂取頻度および量、血管疾患の併存の有無に関するデータを収集した。コーヒーや紅茶の摂取と認知症リスクとの関連性を評価するため、多項ロジスティック回帰モデルを用いた。性別および血管疾患の併存により層別化して評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・コーヒーや紅茶の摂取において、さまざまな組み合わせおよび量は、AD、VaDに対する保護効果が認められた。・1日当たり3杯以上のコーヒーまたは紅茶の摂取は、AD(調整オッズ比[aOR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.22〜0.78)およびVaD(aOR:0.42、95%CI:0.19〜0.94)に対する予防効果が認められた。・層別化分析では、多量のコーヒーおよび紅茶の摂取によるADの保護効果は、女性および高血圧症患者でより顕著であった。・コーヒーまたは紅茶の摂取は、糖尿病患者におけるVaDリスク減少と関連していた(aOR:0.23、95%CI:0.06〜0.98)。・脂質異常症は、コーヒーまたは紅茶の摂取とADおよびVaDリスクとの関連性を変化させた(各々、p for interaction<0.01)。 著者らは、「コーヒーおよび紅茶の摂取量が増加すると、ADおよびVaDリスクが低下することが示唆され、性別や高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの血管疾患の併存により違いが見られることが明らかとなった」としている。

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早期乳がん術前Dato-DXd+デュルバルマブ、33%が化学療法をスキップ可(I-SPY2.2)/ASCO2024

 70遺伝子シグネチャー(MammaPrint)で高リスクのStageII/IIIの早期乳がんの術前療法として、抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)+デュルバルマブ併用療法を4サイクル投与した第II相I-SPY2.2試験の結果、33%の患者が化学療法を行わずに手術が可能となったことを、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRebecca A. Shatsky氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。 I-SPY2.2試験は、高リスク早期乳がんの術前療法を評価する多施設共同第II相プラットフォーム連続多段階ランダム割付試験(Sequential Multiple Assignment Randomized Trials:SMART)※で、患者が最大の病理学的完全奏効(pCR)を得るための個別化医療を提供することを目的としている。ブロックAでDato-DXd+デュルバルマブを4サイクル投与し、MRIと生検でpCRが予測された場合は早期に手術を受けることができ、予測されない場合は化学療法や標的療法を行うブロックB/Cに進む。今回は、ブロックAの結果が報告された。※連続多段階ランダム割付試験:連続する多段階のランダム割り付けを通して、一連の動的治療計画を立てるためのデザイン 患者(すべてHER2-)は、免疫反応、DNA修復不全(DRD)、ホルモン受容体の状況に基づいて、(1)HR陽性/免疫陰性/DRD陰性、(2)HR陰性/免疫陰性/DRD陰性、(3)免疫陽性、(4)免疫陰性/DRD陽性、(5)HR+、(6)HR-の6つの腫瘍反応予測サブタイプ(RPS)に分類された。主要評価項目はpCRの達成であった。 主な結果は以下のとおり。・2022年9月~2023年8月に106例がブロックAに登録された。年齢中央値は50.0歳(範囲:25.0~77.0)、HR-が60.4%であった。・ブロックA終了後、33%(35例)が化学療法を受けることなく早期に手術に進むことができた。・Dato-DXd+デュルバルマブ治療後のRPS分類によるpCR率(95%信頼区間)と事前に設定された閾値は下記のとおり。 (1)HR陽性/免疫陰性/DRD陰性(25例):3%(0~7)、閾値15% (2)HR陰性/免疫陰性/DRD陰性(23例):13%(3~23)、閾値15% (3)免疫陽性(47例):65%(47~83)、閾値40% (4)免疫陰性/DRD陽性(11例):24%(4~44)、閾値40% (5)HR+(42例):18%(6~30)、閾値15% (6)HR-(64例):44%(32~56)、閾値40%・(3)の免疫陽性のサブタイプ(HR+もHR-も含む)のみが第III相試験へ進むための「卒業」の閾値に到達した。・安全性プロファイルは既知のものと同様であった。多く発現した有害事象(AE)は、悪心、口内炎、疲労、発疹、便秘、脱毛などで、Grade3以上のAEはまれであった。間質性肺疾患は1例に発現した。

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早期子宮体がんへのホルモン療法、40歳未満では全摘術と長期予後に差がない可能性/ASCO2024

 子宮体がんの罹患者が増加し、女性の出産年齢の高年齢化が進む中で、妊孕性を温存するためにホルモン療法への関心が高まっているが、長期予後に関するデータは限られている。米国のNational Cancer Database(NCDB)登録データを用いて、ホルモン療法と子宮全摘術の長期予後を比較した後ろ向き解析結果を、米国・コロンビア大学の鈴木 幸雄氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で報告した。・対象:NCDBに登録された、18~49歳、臨床病期I、Grade1~2で、1次治療としてホルモン療法あるいは子宮全摘術を受けた早期子宮体がん患者(ホルモン療法あるいは子宮全摘術前に放射線療法あるいは化学療法を受けている患者は除外)・評価項目:ホルモン療法の使用傾向(全体集団:1万5,849例)、生存期間(傾向スコアマッチングコホート:2,078例) 主な結果は以下のとおり。・2004~20年に診断され、1次治療としてホルモン療法を受けた1,187例(7.5%)、子宮全摘術を受けた1万4,662例(92.5%)の、計1万5,849例の患者が特定された。・ホルモン療法の使用は、2004年の5.2%から2020年には13.8%に増加した(p<0.0001)多変量モデルでは、年齢の若さ、診断年の新しさ、非白人、腫瘍悪性度の低さ、臨床病期早期がホルモン療法の使用と関連していた(すべてp<0.05)。・診断時の年齢、人種、診断年、臨床病期、腫瘍悪性度などを共変量とした傾向スコアマッチング後の2,078例を対象として、1次治療としてホルモン療法を受けた患者と子宮全摘術を受けた患者の予後が比較された。・2年生存率はホルモン療法群98.6% vs.子宮全摘術群99.4%、5年生存率は96.8% vs.98.5%、10年生存率は92.7% vs.96.8%で子宮全摘術群で有意に高かった(ハザード比[HR]:1.84、95%信頼区間[CI]:1.06~3.21)。・年齢別にみると、40~49歳では2年生存率は96.0% vs.100.0%、5年生存率は90.4% vs.99.4%、10年生存率は79.1% vs.97.1%で子宮全摘術群で有意に高かった(HR:4.94、95%CI:1.89~12.91)。一方で40歳未満では、2年生存率は99.2% vs.99.4%、5年生存率は98.2% vs.98.5%、10年生存率は95.6% vs.96.5%で両群の差はみられなかった。・臨床病期および腫瘍悪性度別に層別化したサブグループ解析の結果、ホルモン療法と子宮全摘術の予後に有意な差はみられなかった。 鈴木氏は、ホルモン療法の適応が不明であることや、がん特異的生存をみているわけではないことなど本研究の限界を挙げたうえで、40歳未満ではホルモン療法と子宮全摘術の10年生存率に差はみられず、一方で40~49歳ではホルモン療法の予後は不良であったとまとめている。

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atypical EGFR変異陽性NSCLC、amivantamab+lazertinibの有用性は?(CHRYSALIS-2)/ASCO2024

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)に感受性を示すcommon EGFR遺伝子変異(exon19欠失変異、exon21 L858R変異)以外の、uncommon変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)患者は、common変異を有する患者と比べて予後不良である。しかし、EGFR遺伝子のuncommon変異のうち、exon20挿入変異を除いたatypical変異を有するNSCLC患者において、EGFRおよびMETを標的とする二重特異性抗体amivantamabと第3世代EGFR-TKIのlazertinibの併用療法は、有望な抗腫瘍活性を示すことが明らかになった。国際共同第I/Ib相試験「CHRYSALIS-2試験」のコホートC(未治療または2ライン以下の治療歴を有するatypical EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者が対象)の結果を、韓国・延世がんセンターのByoung Chul Cho氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で報告した。 本発表における対象患者は、未治療または2ライン以下の治療歴(第3世代EGFR-TKIによる治療歴のある患者は除外)を有するatypical EGFR遺伝子変異(exon20挿入変異、exon19欠失変異、exon21 L858R変異は除外)陽性NSCLC患者105例であった。対象患者にamivantamab(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の1サイクル目は週1回、2サイクル目以降は隔週)+lazertinib(240mg、1日1回)を投与し、有用性を検討した。主要評価項目は治験担当医師評価に基づく奏効率(ORR)、副次評価項目は奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性などとした。 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時点(2024年1月12日)における追跡期間中央値は16.1ヵ月であった。・atypical EGFR遺伝子変異のうち、主なものはexon18 G719X変異(57%)、exon21 L861X変異(26%)、exon20 S768X変異(24%)であった。・全体集団におけるORRは52%、DORは14.1ヵ月、PFS中央値は11.1ヵ月、OS中央値は未到達であった。・未治療のサブグループ(49例)におけるORRは57%、DORは20.7ヵ月、PFS中央値は19.5ヵ月、OS中央値は未到達であった。・既治療のサブグループ(56例)におけるORRは48%、DORは11.0ヵ月、PFS中央値は7.8ヵ月、OS中央値は22.8ヵ月であった。・既治療のサブグループの患者のうち、88%がEGFR-TKIによる治療歴があった。・既存の標準治療による治療を受けたatypical EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者のリアルワールドデータ(83例)と比較した結果、治療中止までの期間の中央値はリアルワールド群が3.2ヵ月であったのに対し、amivantamab+lazertinib群は14.0ヵ月であった。また、2年OS率はそれぞれ44%、79%であった。・有害事象は、EGFRまたはMET阻害に関連するGrade1/2の事象が多かった。最も多く発現した有害事象は発疹、爪囲炎(いずれも67%)であった。 Cho氏は「本試験において、amivantamab+lazertinibはatypical EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者に対し、持続的かつ臨床的意義のある抗腫瘍活性を示した。これまでのところ、amivantamabを用いた併用療法は、EGFR遺伝子のcommon変異、exon20挿入変異、atypical変異のいずれにおいても有効性を示している」とまとめた。

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進行胃・食道胃接合部がんの1次治療、tislelizumab+化学療法vs.プラセボ+化学療法/BMJ

 進行胃・食道胃接合部がんの1次治療として、抗PD-1抗体tislelizumab+化学療法は化学療法単独との比較において全生存期間(OS)の改善に優れることが示された。中国医学科学院のMiao-Zhen Qiu氏らRATIONALE-305 Investigatorsによる第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「RATIONALE-305試験」の結果で、PD-L1 TAP(tumor area positivity)スコア5%以上の患者集団および無作為化された全患者集団のいずれにおいても、OSの有意な延長が認められた。進行胃・食道胃接合部がんの1次治療として、プラチナ製剤+5-FUの併用化学療法単独では生存転帰が不良であり、抗PD-1抗体の上乗せを検討した先行研究では、一貫したOSベネフィットは示されていない。そのため、抗PD-1療法のOSベネフィットおよびPD-L1発現状況によるOSベネフィットの違いについては、なお議論の的となっていた。BMJ誌2024年5月28日号掲載の報告。PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団、無作為化全患者集団のOSを評価 RATIONALE-305試験は、2018年12月13日~2023年2月28日に、アジア、欧州、北米の146医療センターで行われた。 被験者は、全身療法未治療のHER2陰性、切除不能な局所進行または転移のある胃・食道胃接合部がんの18歳以上の患者で、PD-L1の発現状況は問わなかった。 研究グループは被験者を1対1の割合で、tislelizumab 200mg(3週ごと静脈内投与)+化学療法(治験担当医師の選択でオキサリプラチン+カペシタビン、またはシスプラチン+5-FU)を受ける群またはプラセボ+化学療法を受ける群に割り付けた。層別化因子は、試験地、PD-L1発現状況、腹膜転移の有無、および治験担当医師の化学療法選択とした。治療は、病勢進行または許容不能な毒性の発現まで続けられた。 主要評価項目はOSで、PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団および無作為化全患者集団の両方で評価が行われた。安全性は、試験治療を少なくとも1回受けた患者集団で評価した。いずれの患者集団でもOSが有意に延長 2018年12月13日~2021年2月9日に1,657例がスクリーニングを受け、うち660例が不適格(適格基準を満たしていない、同意を撤回、有害事象またはその他の理由)とされ、997例がtislelizumab+化学療法群(501例)またはプラセボ+化学療法群(496例)に無作為化された。 tislelizumab+化学療法群は化学療法群と比べて、PD-L1 TAPスコア5%以上の患者集団(中央値17.2ヵ月vs.12.6ヵ月、ハザード比[HR]:0.74[95%信頼区間[CI]:0.59~0.94]、p=0.006[中間解析時点の評価による])、無作為化全患者集団(15.0ヵ月vs.12.9ヵ月、0.80[0.70~0.92]、p=0.001[最終解析時点の評価による])の両者で、OSの統計学的に有意な延長が示された。 Grade3以上の治療関連有害事象は、tislelizumab+化学療法群では54%(268/498例)に、化学療法群では50%(246/494例)に認められた。

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肥満へのチルゼパチド、9割弱が5%以上の減量達成/JAMA

 中国の肥満または過体重成人を対象に行われた第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド10mgまたは15mgの週1回投与は、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある体重減少をもたらし、安全性プロファイルは許容できるものであったことを、中国・復旦大学のLin Zhao氏らが報告した。肥満は世界的な公衆衛生上の懸念事項であり、なかでも中国の肥満者の数は世界で最も多いとされる。JAMA誌オンライン版2024年5月31日号掲載の報告。10mg/15mg投与の52週時点の体重変化率、5%以上の体重減少を評価 肥満または過体重で体重に関連した疾患を有する中国成人を対象に、体重減少に対するチルゼパチド治療の有効性と安全性を評価するSURMOUNT-CN試験は、2021年9月~2022年12月に中国の29医療施設で行われた。BMI 28以上、またはBMI 24以上で少なくとも1つの体重に関連した疾患を有する、18歳以上の成人(糖尿病患者は除く)を対象とした。 研究グループは被験者を1対1対1の割合で、チルゼパチド10mgを投与する群、同15mgを投与する群、プラセボを投与する群に割り付け、全例に生活習慣の介入を行いながら週1回52週間皮下投与した。 主要エンドポイントは2つで、52週時点で評価したベースラインからの体重変化率(%)と少なくとも5%以上の体重減少とした。有効性および安全性の解析はITT集団で行われた。体重変化率、10mg群-13.6%、15m群-17.5%、プラセボ-2.3% 無作為化された被験者は210例(女性103例[49.0%]、平均年齢36.1[SD 9.1]歳、平均体重91.8[16.0]kg、平均BMI 32.3[3.8])で、チルゼパチド10mg群70例、同15mg群71例、プラセボ群69例であった。このうち201例(95.7%)が試験を完了した。 52週時点の平均体重変化率は、チルゼパチド10mg群-13.6%(95%信頼区間[CI]:-15.8~-11.4)、同15mg群-17.5%(-19.7~-15.3)、プラセボ群-2.3%であった。 チルゼパチドの両用量群ともプラセボより体重減少効果が優れており、対プラセボの推定治療群間差は10mg群が-11.3%(95%CI:-14.3~-8.3、p<0.001)、15mg群が-15.1%(-18.2~-12.1、p<0.001)であった。 5%以上の体重減少達成者は、チルゼパチド10mg群87.8%、同15mg群85.8%に対し、プラセボ群は29.3%であった(対プラセボのp<0.001)。 チルゼパチドの治療中に発現した有害事象で最も多くみられたのは消化器系イベントで、ほとんどが軽度~中程度であった。治療中止に至った有害事象はわずかであった(<5%)。

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血液検査で危険なタイプの脳卒中を判別

 脳卒中を発症すると、ニューロンは数分で死滅し始めるため、脳卒中のタイプを迅速に特定して対処することが鍵となる。その特定プロセスを早めることができる血液検査の開発についての研究成果が、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJoshua Bernstock氏らにより報告された。この血液検査により、患者の発症した脳卒中が致死率の高い主幹動脈閉塞(LVO)を伴うものであるかどうかを高い精度で判定できることが示されたという。この研究結果は、「Stroke: Vascular and Interventional Neurology」に5月17日掲載された。 LVOを伴う脳梗塞であることが分かれば、医師は機械的血栓回収療法による治療を実施できる。これは、脳梗塞の原因となっている血栓を取り除く外科的手法だ。研究論文の上席著者であるBernstock氏は同病院のニュースリリースの中で、「機械的血栓回収療法のおかげで、この手術を行わなければ死亡するか重大な障害を負っていたであろう人が、あたかも脳卒中など経験しなかったかのように完全回復することができる」と説明している。同氏は続けて、「この治療は、迅速に行えば行うほど、患者の予後も良好になる」と指摘し、「われわれが開発したこの素晴らしい検査法は、世界中でより多くの人がより迅速にこの治療を受けられるようにする可能性を秘めている」と話している。 Bernstock氏らは以前、血液中に検出される2種類のタンパク質、すなわち出血性脳卒中や外傷性脳損傷とも関連するグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)と血栓形成の指標であるDダイマーに注目した研究を実施していた。今回の研究では、脳卒中の発症が疑われる323人の患者を対象に、これらの血液ベースのバイオマーカーのレベルを脳卒中の重症度を評価する5種類の指標と組み合わせることで、LVOを伴う脳梗塞の検出精度が向上するかどうかが検討された。対象患者の脳卒中のタイプは、LVOを伴う脳梗塞が9%、LVOを伴わない脳梗塞が15%、出血性脳卒中が4%、一過性脳虚血発作が3.9%、脳卒中ではないが脳卒中に似た症状を呈するstroke mimicsが68.1%を占めていた。 その結果、GFAPとDダイマーにFAST-ED(Field Assessment Stroke Triage for Emergency Destination、救急搬送先の現場評価脳卒中トリアージ)スコアを組み合わせた場合にLVOを伴う脳梗塞の検出精度が最も高くなり、脳卒中の発症から6時間以内に検査を行った場合の特異度は93%、感度は81%であることが示された。また、この検査により出血性脳卒中患者を除外できることも明らかになった。この結果は、将来的には出血性脳卒中を見つけるためにこの検査法を活用できる可能性のあることを示唆している。 Bernstock氏は、この新しい脳卒中の検査法は、「より多くの脳卒中患者が、適切なタイミングと場所で命を回復させるための重要な治療を受けられるようにするための、革新的で利用しやすいツールになる可能性を秘めている」と語っている。さらに同氏らは、この検査法が緊急事態における出血性脳卒中の発見や除外にも役立つだけでなく、ハイテクの診断スキャンが利用できないような貧困国で特に有用になると考えている。 Bernstock氏らは今後、救急車内でのこの検査の有効性を検証する予定であるとしている。Bernstock氏は、「患者を予防から回復までの適切な治療の流れに乗せるのが早ければ早いほど、予後は良好になる。それが出血性脳卒中を除外することであれ、介入を必要とする何かを除外することであれ、われわれが開発した技術によって病院到着前の環境で行うことができるようになれば、真に革新的なものになるだろう」と述べている。

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うつ病と心血管疾患発症の関連、女性でより顕著

 日本人400万人以上のデータを用いて、うつ病と心血管疾患(CVD)の関連を男女別に検討する研究が行われた。その結果、男女とも、うつ病の既往はCVD発症と有意に関連し、この関連は女性の方が強いことが明らかとなった。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏らによる研究であり、「JACC: Asia」2024年4月号に掲載された。 うつ病は、心筋梗塞、狭心症、脳卒中などのCVD発症リスク上昇と関連することが示されている。うつ病がCVD発症に及ぼす影響について、性別による違いを調べる研究はこれまでにも行われているものの、その明確なエビデンスは得られていない。 そこで著者らは、日本の外来・入院医療のレセプト情報データベース(JMDC Claims Database)より、2005年1月~2022年5月における健診データが利用でき、18~75歳の人のうちCVDや腎不全の既往のある人などを除いた412万5,720人(年齢中央値44歳、男性57%)を対象とする後方視的コホート研究を行った。初回健診以前にうつ病と診断されていた人を、うつ病の既往ありと定義した。CVDには心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、心房細動を含め、これらの複合を主要評価項目として男女別に解析した。 対象者のうち、うつ病の既往のあった人は男性が9万9,739人(4.2%)、女性が7万8,358人(4.5%)だった。平均追跡期間1,288±1,001日(最短1日~最長5,534日)において、CVDは男性で11万9,084件(1万人年当たり発症率140.1)、女性で6万1,797件(同111.0)発症した。 うつ病とCVD発症との関連について、年齢、BMI、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒、運動不足の影響を統計学的に調整して解析した結果、うつ病の既往のCVD発症に対するハザード比は、男性で1.39(95%信頼区間1.35~1.42)、女性では1.64(同1.59~1.70)であり、男女ともに有意な関連が認められた。この関連には性別の影響が認められ、女性の方が男性と比べて関連が強いことが明らかとなった(交互作用P<0.001)。また、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、心房細動のそれぞれとうつ病との関連、および性別の影響を解析した場合も、同様の結果が得られた(全て交互作用P<0.05)。 さらに、サブグループ解析として50歳以上と50歳未満に分けて検討した結果と、肥満の有無で分けて検討した結果のいずれにおいても、うつ病の既往とCVD発症との関連は、女性の方が強いことが明らかとなった。また、複数の感度分析を行った結果も一貫していた。 今回の研究により、うつ病とその後のCVD発症の関連は、女性の方がより顕著であることが示された。著者らは、考えられるメカニズムの一つとして、妊娠や閉経など、ホルモンが変化する重要な時期にうつ病を経験しやすいため、女性では心血管系への影響がより大きくなる可能性があると説明。一方で、男女差が生じるメカニズムの完全な解明には、さらなる研究が必要だとしている。著者らは、「うつ病とCVDの関連についての性差をよりよく理解し、うつ病の男性と女性のそれぞれに最適なケアを提供することで、心血管系の健康につながる可能性がある」と述べている。

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切除可能な局所進行非小細胞肺がんに対するニボルマブの周術期治療の効果/NEJM (解説:中島淳氏)

 外科手術は遠隔転移のない非小細胞肺がんを根治するために、最も有効な手段である。しかし、病期が進むほど術後再発率は高く、現在の国内外の肺がん診療ガイドラインでは臨床病期IIIA期に手術適応の境界線が引かれている。 手術後の成績を改善させるために補助療法が考案されてきたが、今世紀に入り術後platinum-doubletを用いた補助化学療法、そして術前補助化学療法の有効性がそれぞれメタアナリシスによって確かめられたが、いずれも比較的軽微な予後改善にとどまっていた。近年になり分子標的阻害薬や抗PD-1、抗PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害剤(ICI)が、手術不適応進行非小細胞肺がんに対する従来の化学療法を上回る有効性が示されてから、これを手術補助療法に用いる臨床研究が盛んに行われるようになった。ICIによる術後補助療法、術前補助療法の有効性はすでに多くの臨床研究で明らかにされてきたが、この論文に示された研究では、術前と術後にニボルマブを用いた「周術期」補助療法が検討された。手術を挟んだ前後に行う治療は歴史的には「サンドイッチ療法」とも称され、他部位の固形がん治療で試みられてきた。 本研究(CheckMate-77T試験)は欧米・中国・日本などの多施設共同試験である。臨床病期II-IIIB期(UICC-AJCC第8版病期分類)、切除可能な非小細胞肺がん患者461例を対象とした前向き無作為化二重盲検試験であり、プライマリエンドポイントはevent-free survival(EFS)である。試験群にはニボルマブとplatinum doublet化学療法を術前に4サイクル(3週ごと)投与、術後はニボルマブを4週ごとに、最長1年間投与した。対照群にはplatinum doublet化学療法を術前に4サイクル(3週ごと)投与、術後はプラセボを4週ごとに最長1年間投与した。 中央値25.4ヵ月の追跡調査では、EFSは試験群70.2%、対照群50.0%であり、42%のリスク低減が観察された。4サイクルの術前治療が完遂できた割合はニボルマブ群85%、対照群89%、手術施行は78%、77%、術後補助療法は62%、65%に行われ、ニボルマブ投与の忍容性が確かめられた。 術前補助療法の意義は、腫瘍量を減らして完全切除率向上が期待されること、術後療法よりも忍容性が高いこと、および切除検体による補助療法の効果判定が行えることである。ICIの高い抗腫瘍効果が期待されるが、本研究では切除症例においてニボルマブ群のpathological complete response(pCR)率は25.3%であり、対照群の4.7%と比べて有意に高値であった。本研究では、2群ともにpCRが得られた症例では得られなかった症例と比べてEFSのハザード比(HR)が0.40、0.21であった。ICIは腫瘍のPD-L1発現量が高いほど効果が高いが、サブ解析ではがん組織におけるPD-L1発現が50%以上の症例ではEFSのHRが0.26と非常に低かったが、50%未満ではHRにおいて対照群と有意差はみられなかった。 術前補助療法の負の側面としては、補助療法に伴う合併症あるいは侵襲のために一般状態が低下して耐術不能となる、あるいは術前治療が無効で手術の機会を逸する危険性がある。本研究では、術前治療後の治療継続率に関しては2群間の有意差は認められず、その点では許容される治療であると判断された。 ニボルマブの術前・術後補助療法が、進行非小細胞肺がんの外科治療成績を向上させることは、本研究で明らかにされた。同様の研究はペムブロリズマブ(抗PD-1抗体:KEYNOTE-671試験)、デュルバルマブ(抗PD-L1抗体:AEGEAN試験)などでも行われており、いずれもICIの上乗せ効果が報告されている。 本研究では従来の報告と同様に、がん組織のPD-L1発現度が高い場合には有用性が高いが、逆も真であり、実臨床に応用するためには治療開始前にPD-L1発現度を検査する必要がある。術後ニボルマブ投与の必要性についてはどうだろうか。先行研究のCheckMate-816は、ニボルマブの術前投与の有効性に関する臨床研究であり、対照群は術前にplatinum-doubletと投与、試験群にはこれにニボルマブを加えて投与するという類似した研究である。対象にはcIB期が含まれ多少異なるが、ニボルマブ群のpCRは24.0%とほぼ同等であり、EFSは31.6ヵ月(対照群20.8ヵ月)であった。あくまで参考ではあるが、大きな違いはないように思われる。とくにpCRを達成した症例の術後ニボルマブ継続投与の意義については、医療経済の観点からも重要である。今後、術後投与群・非投与群を比較した試験が必要になるかもしれない。

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寄り道編(2)未分画ヘパリンの分画【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第51回

※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事62巻4号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(2)未分画ヘパリンの分画Question未分画ヘパリンを分画すると、何になる?

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第216回 Apple Watchの「心房細動履歴プログラム」をPMDAが医療機器承認、近い将来、針を刺さず血糖値測定ができる機能も搭載される?

ウェアラブルデバイスを使ってみたら……、睡眠の点数評価に一喜一憂する日々こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。皆さんは、最近流行りの健康管理機能が付いたウェアラブルデバイスを身に付けていますか? Apple Watch、Fitbit、Google Pixel Watchなどのウォッチタイプが一般的ですが、リストバンドタイプや指輪(リング)タイプも市販されています。私も人からもらった「Oura ring」というフィンランド・ŌURA社製の指輪タイプをこの半年くらい使っています。日中の心拍数とワークアウト心拍数や、夜間の安静時心拍数、心拍変動、体表温、呼吸数などを測定できます。私はもっぱら睡眠の点数を把握するのに用いています。100点満点中よく寝た日は80点くらいになるのですが、ちょっと夜更かしすると60点台に落ちてしまいます。まあ、自己管理にはそこそこ役立っているとは思うのですが、よく寝たつもりでも60点台が出ると、「寝足りないのかな」と不安になってしまう点と、久しぶりに会った友人から「あれ、結婚指輪なんてしてたっけ」とからかわれるのが玉に瑕です。なお、充電は4、5日に1回で済み、就寝中に装着していても気にならない点はウォッチタイプよりも使い勝手がいいと思います。ということで、今回はこの5月に「心房細動履歴プログラム」が医療機器承認されたApple社のApple Watchについて書いてみたいと思います。Apple Watchは、2018年に心電図測定機能を搭載して以降、ヘルスケア機能の拡充を図ってきました。今回承認された心房細動履歴プログラムは、光学式心拍センサーを用いた現在の心電図測定機能(Apple Watch ECG app)を拡充したものです。こうした機能拡充の延長線で、近い将来、「針なし」で血糖値の測定も行えるデバイスも登場しそうです。「Appleの心電図アプリケーション」、「Appleの不規則な心拍の通知機能」に次ぐ機能、米国から2年近く遅れての承認5月22日、Apple社は、同社のApple Watchに搭載された心房細動履歴プログラムが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)から医療機器プログラムとして承認され、同日から日本でも利用可能になったと発表しました。医師から心房細動と診断された22歳以上の人が対象です。なお、このプログラム、世界的には2022年9月に公開されたwatchOS9で利用可能となっており、すでに世界で160近い国・地域で利用されているとのことです。Apple Watchを使っている人はご存じだとは思いますが、Appleはこれまでに「Appleの心電図アプリケーション」(一般的名称:家庭用心電計プログラム)、「Appleの不規則な心拍の通知機能」(同:家庭用心拍数モニタプログラム)といったプログラムをApple Watch向けに開発しており、これらは日本でも管理医療機器の区分で承認され、使われています。つまり、Apple Watchは血圧計などと同様、一般向けの医療機器としてごく日常的に用いられているのです。ただ、日本での承認は米国など各国と比べると大体2年遅れというのが実情です。心房細動履歴プログラムのベースとなっている心電図測定機能(Apple Watch ECG app)がApple Watchに搭載されたのは2018年9月に公表されたApple Watch Series4からでした。Apple Watch ECG appは米国食品医薬品局(FDA)から医療機器として認可を得て、Series4発売とともに米国などではこのアプリが使用可能となりました。しかし、日本では、Apple Watch series4発売時、Apple Watch ECG appの機能は取り除かれていました。「心電図測定」「脈の不整通知」という機能が医療機器に該当するため、国内での医療機器として認可を得る必要があったからです。ようやく、Apple Watch ECG appが家庭用心電計プログラムとして日本で承認されたのは2年後の2020年9月、実際の利用は2021年1月のwatchOS7.3へのアップデートからでした。今回の心房細動履歴プログラムもこれらと同様、米国から実に2年近く遅れての承認となりました。心房細動の徴候を示した時間の推定値をApple Watchの1週間の総装着時間に対する割合として通知Apple社の資料によれば、心房細動履歴プログラムは、Apple Watchに搭載された心拍センサーによって心拍を適時モニタリングし、心房細動の兆候を判別します。iOS 17.0以降とwatchOS 10.0以降のApple Watchの利用者が使用できます。具体的には、心房細動の徴候を示した時間の推定値を、Apple Watchの1週間の総装着時間に対する割合として、1週間ごとに通知するとしています。Apple Watchは心拍を常時モニタリングしているわけではないため、心房細動の持続時間ではなく、推定値として通知するとのことです。推定値は、連動するiPhoneの「ヘルスケア」アプリに週ごとのグラフとして表示されます。運動、睡眠、体重、飲酒量といったヘルスケアアプリが収集できるデータを、推定値のグラフと同時に提示することで、心房細動のリスクとなる生活習慣の改善が容易になるとしています。ところで、FDAは5月、この「心房細動履歴」機能をMedical Device Development Tools (MDDT:医療機器開発ツール)として承認しています。FDAによれば、Apple WatchはMDDTの承認を取得したはじめてのスマートウォッチだそうです。これによって、医療機関における臨床試験においても、Apple Watchの心房細動履歴をデータとして用いることができるようになるとのことです。もし血糖値の測定もウェアラブルデバイスでできるようになれば単なる健康管理だけではなく臨床的な有用性も高まるApple Watchをはじめとするウェアラブルデバイスですが、個人的には早く血糖値の測定もできるようにならないかと思っています。私は糖尿病ではありませんが、機会があって持続血糖測定器 「Dexcom G6」を数日間装着し、自分の血糖値の動きをiPhoneでウォッチし続けたことがあります。Dexcom G6はご存じのように、腹部などの皮下に微小の針を穿刺して留置した細いセンサーで、皮下間質液のブドウ糖濃度を持続的に測定するデバイスで、ほぼリアルタイムで血糖値がiPhoneに表示されます(測定された血糖値は5分ごとに自動的にモニターもしくはスマートフォンに送信)。食後の血糖値がいかにどーんと跳ね上がるか、よく言われる「運動するなら食後30分」の妥当性などを自身で実感できます。実際、食後30分内に早足で散歩をしたら、上がった血糖値がみるみる下り始めたのには驚きました。これは、糖尿病患者や糖尿病予備軍の人の患者教育にももってこいだな、と思ったものです。ただ現在のところDexcom G6やFreeStyleリブレなどの持続血糖測定器が保険診療で使えるのはインスリン注射を1日1回以上行っている糖尿病患者のみです。微小の針が付いた医療機器のため、一般向けの医療機器としては世界のどこでも認められていないようです。「吸収分光法を使って皮膚の下にレーザー光を当てて体内の血糖値を測定するチップを開発中」との報道仮に一般向けのデバイスであるApple Watchに搭載するとしたら、「針なし」(非侵襲的に血液検査なしで)で血糖値を測る必要がありそうですが、果たしてそんなことは実現可能なのでしょうか。実際、Apple社がそうした研究をしているとの報道もあります。2023年3月23日にテクノエッジに掲載された「Apple Watchで血糖値測定はまだ数年先。センサーの小型化が課題」と題する記事は、「Apple社が Apple Watch向けに非侵襲性、つまり注射針を刺す必要がない血糖値センサーの開発に取り組んでいることは長らく噂になってきた。しかし今なお実現にはほど遠く、あと3~7年は掛かる見通し」と書いています。同記事によれば、開発中の血糖値センサーは「吸収分光法を使っており、皮膚の下にレーザー光を当てて体内の血糖値を測定するシリコンフォトニクスチップ」だそうです。ただ、このセンサー、「以前は卓上サイズの大きさだったものが、現時点でのプロトタイプはiPhoneに近いサイズになり、腕に装着できるほどになった」とのことです。センサーがiPhoneサイズということは、実際にApple Watchに搭載できるようになるにはまだまだ相当時間がかかりそうです。とはいえ、光を当てて体内の血糖値を無侵襲に測定する技術が開発中とは驚きです。なお、他の報道によれば、ウェアラブルデバイスによる血圧測定は、血糖値測定よりも先に実現しそうだとのこと。心臓病や高血圧、そして糖尿病などの生活習慣病の通常の管理に、ウェアラブルデバイスが必須となる日はそう遠くなさそうです。

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双極性障害とうつ病で異なる臨床的特徴

 中国・上海交通大学のZhiguo Wu氏らは、うつ病と診断された患者とうつ病と診断されたものの双極性障害(BP)I型およびII型であった患者における、現在のうつ病エピソードの人口統計学的および臨床学的特徴を調査した。BMC Psychiatry誌2024年5月10日号の報告。 うつ病およびうつ病と診断されたBP-I、BP-IIのDSM-IV診断を確定させるために精神疾患簡易構造化面接法(MINI)を実施した。中国の8ヵ所の精神科施設より抽出されたBP-I、BP-II、うつ病患者1,463例を対象に、人口動態、うつ症状、精神疾患の併存を比較した。診断の臨床的相関を評価するため、多項ロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・最初にうつ病と診断された患者のうち14.5%は、最終的にBPと診断された。・BP-IおよびまたはBP-II患者は、うつ病患者と比較し、若年、再発率が高い、気分変調性の併発、自殺企図、興奮、精神病的特徴、不眠症を含む精神医学的併存疾患、体重減少、身体症状などの広範な特徴を有していた。・うつ病と比較すると、BP-IよりもBP-IIのほうが、より多くの違いが観察され、異なる症状プロファイルおよび併存疾患パターンが示された。 著者らは、「本結果は、BP-IおよびBP-IIとうつ病を臨床的に鑑別し、BPのより正確な診断を行うために、重要な意味を持つであろう」としている。

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HFrEF患者へのRAS阻害薬、人種間の効果差は?/JAMA

 レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者の管理において重要であるが、黒人患者に対する効果が低いとの懸念がある。中国・杭州師範大学のLi Shen氏らは、RAS阻害薬の死亡抑制効果は黒人と非黒人で同程度であり、心不全による入院の、RAS阻害薬による相対リスクの減少効果は黒人患者で小さいものの、黒人患者は心不全による入院の発生率が高いため、絶対的な有益性は非黒人患者と変わらないことを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年5月29日号で報告された。RAS阻害薬の効果を黒人と非黒人で比較した無作為化試験のメタ解析 研究グループは、HFrEF患者におけるRAS阻害薬の心血管アウトカムに及ぼす効果を黒人患者と非黒人患者で比較する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(英国心臓財団[BHF]などの助成を受けた)。 2023年12月31日の時点で、MEDLINEおよびEmbaseのデータベースに登録された文献を検索した。対象は、HFrEFの成人患者における心血管アウトカムに及ぼすRAS阻害薬の効果を、黒人と非黒人の患者で比較した無作為化試験であった。 「系統的レビューおよびメタアナリシスのための優先的報告項目の独立の個人データ(PRISMA-IPD)」のガイドラインに準拠して個々の参加者のデータを抽出した。有効性の推定には1段階アプローチによる混合効果モデルを用いた。 主要アウトカムは、心不全による初回入院または心血管死の複合とした。心血管死、全死因死亡のHRに有意差はない 主解析は、プラセボを対照としたRAS阻害薬単剤の3件の無作為化試験について行った。参加者は8,825例で、このうち黒人は873例(9.9%)(平均年齢57.0[SD 11.0]歳、男性72.3%)、非黒人は7,952例(90.1%)(61.4[10.7]歳、82.6%)であった。非黒人の85.2%が白人、1.7%がアジア系であった。追跡期間中央値は34ヵ月だった。死亡および心不全による入院の割合は、いずれも非黒人患者に比べ黒人患者で大幅に高かった。 主要複合アウトカムの発生のプラセボ群に対するRAS阻害薬単剤群のハザード比(HR)は、黒人患者で0.84(95%信頼区間[CI]:0.69~1.03)、非黒人患者で0.73(0.67~0.79)であり、有意差を認めなかった(交互作用のp=0.14)。 心不全による初回入院の、プラセボ群に対するRAS阻害薬単剤群のHRは、非黒人患者が0.62(95%CI:0.56~0.69)であったのに対し、黒人患者では0.89(0.70~1.13)と相対リスクの減少効果が低かった(交互作用のp=0.006)。 一方、心血管死のHRは、黒人患者で0.83(95%CI:0.65~1.07)、非黒人患者で0.84(0.77~0.93)と、有意差はなかった(交互作用のp=0.99)。また、全死因死亡のHRは、それぞれ0.85(0.67~1.07)および0.87(0.80~0.96)だった(交互作用のp=0.89)。 心不全による入院と心血管死の全体の率比は、黒人患者で0.82(95%CI:0.66~1.02)、非黒人患者で0.72(0.66~0.80)であった(交互作用のp=0.27)。2剤のRAS阻害薬の試験を加えても同様の結果 基礎治療薬としてACE阻害薬を用い、これにARBを併用した2剤のRAS阻害薬の無作為化試験2件を加えた5つの試験(1万6,383例、黒人患者1,344例[8.2%]、非黒人患者1万5,039例[91.8%])の解析でも、同様の結果が得られた。 著者は、「これらの知見は、黒人患者に対する心不全治療の最適化に寄与する可能性がある」「本研究の限界として、黒人患者の症例数が少ない点が挙げられる」としている。

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T-DXd治療中の転移乳がん患者、ePROモニタリングがQOLに効果(PRO-DUCE)/ASCO2024

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)で治療中のHER2+転移乳がん患者において、通常ケアに加え、電子患者報告アウトカム(ePRO)モニタリングを実施することにより、24週目のglobal QOLスコアのベースラインからの変化が良好だったことが、わが国で実施されたPRO-DUCE試験で示された。関西医科大学の木川 雄一郎氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。 ePROモニタリングは、まず患者が自身のスマートフォンなどのデバイスを用いて「ヒビログ」アプリから、体温・SpO2を毎日、PRO-CTCAE症状を週1回報告する。報告された症状が事前に設定した閾値を超えた場合、医師をはじめとした医療従事者に警告通知メールが送信されePROが評価される。さらに必要に応じて72時間以内に電話相談を実施するという流れである。木川氏らは、T-DXd投与中の乳がん患者におけるePROモニタリングのQOLへの効果を、多施設共同無作為化非盲検群間比較探索研究で評価した。・対象:T-DXdの投与対象となるHER2+転移乳がん患者・試験群:通常ケア+ePROモニタリング・対照群:通常ケア・評価項目:[主要評価項目]EORTC QLQ-C30に基づくglobal QOLスコアのベースラインから24週目の変化[副次評価項目]各ドメインにおけるベースラインから24週目/追跡期間終了時までの変化、がん関連の疲労、EORTC QLQ-C30における悪化までの期間、ePROのアドヒアランスなど 主な結果は以下のとおり。・2021年3月~2023年1月に日本の38病院で登録された111例をePROモニタリング群(56例)と通常ケア群(55例)に割り付けた。QOL解析の対象はそれぞれ54例と52例であった。・24週目のglobal QOLスコアのベースラインからの変化は、ePROモニタリング群が通常ケア群より有意に良好だった(平均差:8.0、90%信頼区間[CI]:0.2~15.8、p=0.091、探索的研究のためαエラー<0.10で有意と設定)。・24週目の疲労はePROモニタリング群で有意に改善したが(平均差:-8.4、95%CI:-16.1~-0.6)、悪心/嘔吐では差がなかった(平均差:0.5、95%CI:-6.2~7.1)。・24週目の役割機能、認知機能、社会機能はePROモニタリング群で良好で、それぞれの平均差は10.0(95%CI:1.1~18.9)、6.3(同:1.1~11.5)、10.9(同:3.9~18.0)であった。・global QOLスコアの臨床的に意義のある悪化までの期間の中央値は、ePROモニタリング群で3.9ヵ月、通常ケア群で3.0ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.73、95%CI:0.45~1.17)。認知機能については、ePROモニタリング群16.3ヵ月、通常ケア群6.3ヵ月と有意に延長した(HR:0.41、95%CI:0.24~0.71)。 木川氏は「本試験の結果から、T-DXd投与中のHER2+転移乳がん患者において、ePROモニタリングによりQOLを維持・改善する可能性が示唆される」と期待を示した。

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賞金がかかると減量達成率が向上する

 男性を対象とした研究から、金銭的なインセンティブがあると減量目標の達成率が有意に向上するという結果が報告された。第31回欧州肥満学会(ECO2024、5月12~15日、イタリア・ベニス)で英スターリング大学のPat Hoddinott氏らが発表し、同14日に「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に論文が掲載された。 この研究におけるインセンティブは、設定された減量目標を達成した場合に、最大400ポンド(約8万円)を受け取れるというもの。研究に参加して減量に成功したNevil Chesterfieldさん(68歳)は、「私にとって研究参加は大変有意義だった。もちろん金銭的インセンティブは重要だったが、大学の研究に参加するということに価値があると思えたし、将来の医療政策に役立てるために行うという研究趣旨の説明にも真剣さを感じた」と語っている。 この研究は、肥満(BMI30以上)の男性585人(平均年齢50.7±13.3歳、BMI37.7±5.7)を対象として実施された。参加者は無作為に3群に分けられ、1群は単に体重を減らすように指示した対照群とし、他の2群には減量をサポートするためのテキストメッセージを毎日送信した。さらにそのうちの1群には、テキストメッセージの送信に加え、3カ月後に5%の減量を達成したら50ポンド、6カ月後に10%の減量を達成したら150ポンド、12カ月後にもその体重を維持していたら200ポンドを支給することとした。 12カ月間の追跡調査を完了したのは426人(73%)だった。体重変化率は、対照群は-1.3±5.5%、テキストメッセージのみの群は-2.7±6.3%、インセンティブあり群は-4.8±6.1%だった。対照群を基準として体重変化率の差を比較すると、インセンティブあり群は平均差(MD)-3.2%(97.5%信頼区間-4.6〜-1.9)で有意差があった(P<0.001)。一方、テキストメッセージのみの群はMD-1.4%(同-2.9~0.0)だった(P=0.05)。 インセンティブあり群に割り付けられていたCiaran Gibsonさん(35歳)は、「これまで何年も、食事と運動による減量や減量後の体重維持に苦労してきた。この研究に参加することで、目標達成のモチベーション維持というメリットを得られるのではないかと期待した。参加によって実際に自分の体重減少に責任を感じ続けることができ、より健康的なBMIになれたことに満足している」と話している。 もちろん、肥満者の減量を促すために400ポンドを支給するという手法に眉をひそめる人もいるだろう。論文の共著者の1人である英クイーンズ大学ベルファストのFrank Kee氏もそのような見解に同意を示しつつ、「過体重や肥満に起因する巨額の医療コストを勘案した場合、このような介入の減量効果が長続きするのであれば、長期的には元が取れると考えている。われわれは現在、肥満対策という課題について、医療経済的な視点で詳細な検討を重ねているところだ」と述べている。

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世界の平均寿命、2050年までに4年以上の延長を予測/Lancet

 今後30年間に世界の平均寿命(出生時平均余命)は男性では5年近く、女性で4年以上延長することが予測されるとの最新の分析結果を、世界疾病負担研究(GBD)の研究者らが、「The Lancet」5月18日号に発表した。こうした平均寿命の延長は、一般的に平均寿命が短い国々で顕著だという。研究グループは、「このような変化は、心臓病や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に加え、感染症や出産、栄養に関連するさまざまな健康問題の予防と発見、治療の改善をもたらした公衆衛生対策によるところが大きい」と説明している。 米ワシントン大学保健指標・評価研究所(IHME)所長のChristopher Murray氏らは、204の国と地域、21のGBD地域、7つのスーパーリージョン(GBDが疫学的類似性と地理的近接性に基づき設定した地域区分)、および世界全体の2022年から2050年までの原因別死亡率、損失生存年数(YLL)、障害生存年数(YLD)、障害調整生存年数(DALY)、平均寿命、および健康寿命(HALE)を予測した。 その結果、世界全体で平均寿命は2022年から2050年にかけて73.6歳から78.2歳へ延びると予測された。男女別に見ると、男性では71.1歳から76.0歳へ4.9年の増加、女性では76.2歳から80.5歳へ4.2歳の増加であった。また、同期間に健康な状態で生きる年数(HALE)は、男性では62.6歳から66.0歳へ、女性では64.7歳から67.5歳へ延びると予測された。さらに、全体的な平均寿命の延長に加え、地域間の平均寿命の格差が縮小することも予測された。Murray氏はこの点について、「サブサハラ(サハラ砂漠以南)のアフリカ地域で最大の平均寿命の延長が予測されており、高所得地域と低所得地域の間の健康格差が縮小傾向にあることを示している」とIHMEのニュースリリースの中で説明している。 一方で、平均寿命に影響を与える疾患に変化が起きていることも明らかになった。今後、平均寿命の長さには、感染症よりも心臓病や糖尿病、がん、肺疾患などの慢性疾患が与える影響の方が強まることが予測されたのだ。そのため、肥満や高血圧、偏った食事、運動不足、喫煙などのリスク因子が次世代の病気や寿命に最も大きな影響を与えることになる。 Murray氏は、「これらの増加しつつある代謝や食事のリスク因子、特に高血糖や高BMI、高血圧などの行動要因および生活習慣要因に関連するリスク因子に先手を打つことは、世界の人々の健康の未来に影響を与える絶好の機会となる」と話す。 なお、米国立保健統計センター(NCHS)の最近の報告書によれば、米国における平均寿命は2021年から2022年までの1年間に76.4歳から77.5歳に延びた。新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、米国で平均寿命が延びたのはこの年が初めてだが、パンデミック前の平均寿命である78.8歳を下回った状態が続いているとNCHSは指摘している。

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