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第219回 マラリア薬が世界の数百万人もの女性疾患を治療しうる

マラリア薬が世界の数百万人もの女性疾患を治療しうる植物のヨモギ(artemisia)から単離され、抗マラリア作用を有することでよく知られる化合物群アルテミシニン(artemisinins)の多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)治療効果がマウス/ラットやヒトへの投与試験で判明しました1,2)。世界の数百万人もの女性が被るPCOSは女性の最も一般的な内分泌疾患の1つで、男性ホルモン過剰(高アンドロゲン血症)、排卵を乏しくするかなくならせる卵巣不調、多嚢胞性卵巣を特徴とします。濾胞異形成や排卵/内分泌/代謝障害などのPCOSの病変の数々にアンドロゲン過剰が寄与することが知られています。また、PCOS女性から生まれた女児はPCOSになりやすく、出生前に過剰なアンドロゲンと共に過ごした雌マウスにはPCOS様病態が生じることが示されており、PCOSの影響は子にも及ぶようです3)。よってPCOSを制するにはアンドロゲン過剰を制する必要があります。薬によるPCOSの治療といえば今のところもっぱら個々の症状の手当てを目指すもので、PCOSのすべての病態を相手しうる薬はほとんどありません。経口避妊薬がPCOS成人女性のアンドロゲン過剰や不規則な月経周期の手当てとして推奨されていますが、不妊や多嚢胞性卵巣病変の改善は見込めません。また、経口避妊薬は血栓症などの副作用の心配があります。PCOS女性の多くは肥満などの代謝障害を呈します。中国の上海の復旦大学のチームによる先立つ研究で、アルテミシニン化合物がエネルギー消費を増やして肥満を防ぐ効果を有することが示されています。PCOS発生に代謝経路不調がどうやら寄与しうることとアルテミシニン化合物の代謝恒常性促進作用にヒントを得た同チームのさらなる検討のかいあって、アルテミシニン化合物のPCOS治療効果が今回新たに判明しました。アンドロゲン生成を増やすことが知られるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やインスリンの動物への投与でPCOSを模す病態が生じることがわかっています。hCGはミトコンドリアプロテアーゼLONP1とアンドロゲン生成の始まりを触媒する酵素CYP11A1の相互作用を妨げてCYP11A1を増やし、アンドロゲン生成を促してPCOSを起こします。アルテミシニンはLONP1とCYP11A1の仲を取り持ってCYP11A1分解を促し、卵巣でのアンドロゲン生成を阻止することを復旦大学のチームは今回新たに突き止めました。PCOSを模すマウスやラットにアルテミシニンの一種であるアルテメテルを投与したところ、血清のテストステロン上昇が抑制され、不規則な発情周期が正常化し、多嚢胞卵巣が減り、不妊病態が改善しました。検討はさらに少人数の臨床試験へと進みます。マラリア治療に実際に使われているアルテミシニンの一種であるdihydroartemisininをPCOS女性19例に投与したところ、マウスやラットでの結果と同様に血中のテストステロンが減り、多嚢胞卵巣病態が改善しました。19例中12例はいつもの生理周期を取り戻しました。長期投与の効果や経過改善を最大限にするための投与手段の最適化がさらなる検討で必要ですが4)、今回の結果によるとアルテミシニンはPCOS治療手段として有望なようです。参考1)Liu Y , et al. Science. 2024;384:eadk5382.2)Antimalarial compounds show promise to relieve polycystic ovary syndrome / Eurekalert 3)Risal S, et al. Nat Med. 2019;25:1894-1904.4)Stener-Victorin E. Science. 2024;384:1174-1175.

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CKD-MBD治療の新たな方向性が議論/日本透析医学会

 日本透析医学会による『慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療ガイドライン』の改訂に向けたポイントについて、2024年6月9日、同学会学術集会・総会のシンポジウム「CKD-MBDガイドライン 新時代」にて発表があった。 講演冒頭に濱野 高行氏(名古屋市立大学病院 腎臓内科・人工透析部)が改訂方針について、「CKD-MBDの個別化医療を目指して、さまざまなデータを解析して検討を積み重ねてきた。新しいガイドラインでは、患者の背景に合わせた診療の実現へつなげるためのユーザーフレンドリーな内容になるよう努めていきたい」とコメント。続いて、6人の医師が今後の改訂のポイントに関して解説した。保存期CKD-MBDにおけるプラクティスポイントとは 保存期CKD-MBDについて、藤崎 毅一郎氏(飯塚病院 腎臓内科)から低カルシウム血症・高リン血症のプラクティスポイントに関する提案があった。低カルシウム血症では、「まずは補正カルシウム値を確認。その後、低カルシウム血症を誘発する薬剤の確認やintact PTH(iPTH)、リン、マグネシウムを測定し、二次性副甲状腺機能亢進症の確認を行ったうえで、カルシウム製剤または活性型ビタミンD製剤の投与を検討すること」とし、高リン血症に関しても補正カルシウム値の確認を行ったうえで、「低い場合にはカルシウム含有リン吸着薬、正常であれば鉄欠乏の有無を考慮したうえで鉄含有、非含有リン吸着薬の投与を検討すること」とコメントした。最後にガイドラインの改訂に向けて、「実臨床に則したプラクティスポイントの作成を目指して検討を続けていく」と述べた。血清カルシウム、リンの管理目標値の上限は、より厳格な管理へ 血液透析患者における血清カルシウム、リンの管理目標値について、後藤 俊介氏(神戸大学医学部附属病院 腎臓内科 腎・血液浄化センター)から提案があった。理事会へ提出された素案によると、血清カルシウムの下限は8.4mg/dL以上のまま、上限に関しては9.5mg/dL未満、血清リンに関しても下限は3.5mg/dL以上のまま、上限は5.5mg/dL未満が管理目標値として検討されている。同氏は、血清カルシウム、リンの管理について、「カルシミメティクスや骨粗鬆症治療薬によってカルシウムが下がりやすい環境にもあるため、低カルシウム血症には注意すること。血清リンに関しては年齢や栄養状態をよく考慮して検討すること。原疾患が糖尿病、動脈硬化性疾患の既往がある場合には目標値の上限を下げて管理することも検討する必要がある」とコメント。また、「CKD-MBDにそれほど関心がない先生方にとっても、フローチャートなどを使って診療の手助けになるものを示していくことが大切である」と述べた。患者の背景に応じたリン低下薬の選択を 前回のガイドライン以降、多くのリン低下薬が登場し、患者に合わせた薬剤選択の重要性が注目されている。山田 俊輔氏(九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科)からは、患者特性に基づくリン低下薬の選択について提案があった。リン低下薬を選択する際の切り口として、「リン低下だけでなく薬剤による多面的な効果、便秘などの消化器症状、PPIやH2ブロッカーなど胃酸分泌抑制薬による影響、服薬錠数や医療経済など、リン低下薬の特性だけでなく患者背景に合わせて使い分けることが大切である」と改訂に向けたポイントを述べた。プラクティスポイントとして、リン低下薬選択に関するアプローチの仕方を示した「一覧表」の紹介もあった。同氏は一覧表に関して、「基本的には患者と相談してリン低下薬を選択していくことになるが、どうやって患者に合わせて使い分けていくべきか、視覚的にわかりやすいツールがあれば判断しやすいのではないか」とコメントした。PTHの管理・治療の個別化へ向けて 血液透析患者における副甲状腺機能の評価と管理について、駒場 大峰氏(東海大学医学部 腎内分泌代謝内科学)からPTHの管理を中心に提案があった。同氏は、「PTH管理においても治療の個別化が必要である」とし、管理目標値としてiPTH 240pg/mL以下の範囲で症例ごとに個別化すること、とコメントした。具体的には、骨折リスクの高い症例(高齢・女性・低BMI・骨代謝マーカー上昇)では管理目標値を低く設定する、カルシミメティクスを使用する場合にはiPTHの下限値を設けない、活性型ビタミンD製剤を単独で使用する場合は高カルシウム血症を避けるため下限値を60pg/mLとすることなどであった。内科的治療に関しては、PTHが管理目標値より高い場合には、血清カルシウム値や患者背景に基づいて活性型ビタミンD製剤、カルシミメティクスによって管理を検討すること、血清カルシウム値が管理目標値内にあって腫大腺や65歳以上、心血管石灰化、心不全リスク、骨折リスク、高リン血症を有するなど、1つでも該当する場合にはカルシミメティクスの使用や併用をより積極的に考慮することなどを挙げた。また、内科的治療に抵抗する重度の二次性副甲状腺機能亢進症の場合には副甲状腺摘出術の適応となるが、こちらも症例ごとに検討していく必要があると述べた。透析患者における骨折リスクの評価・管理のポイントとは CKD-MBDにおける骨折リスクへの介入について、谷口 正智氏(福岡腎臓内科クリニック)からプラクティスポイントに関する解説があった。評価・管理のポイントとして、「脆弱性骨折の有無や骨密度検査および血清ALP値による骨代謝の評価を行い、骨折リスクが高い場合には、運動、転倒防止、栄養状態の改善、禁煙指導を実施したうえで、カルシミメティクスの投与を優先してPTHを低く管理することが重要である」とコメント。同氏は、それでも骨密度の改善が得られない、または骨代謝マーカーの亢進が認められる場合には、骨粗鬆症治療薬の投与を検討するよう提案した。また、透析・保存期CKD患者に対する骨粗鬆症治療薬の選択に関しては、使用制限や投与における注意点が薬剤別にまとめられた表を作成し、CKD患者においてリスクの高い骨粗鬆症治療薬もあるため、ヒートマップを活用する形で警鐘を鳴らしていくことなども必要であると述べた。腹膜透析におけるCKD-MBDの管理目標値とは 腹膜透析患者におけるMBDについて、長谷川 毅氏(昭和大学 統括研究推進センター研究推進部門/医学部内科学講座腎臓内科学部門)からガイドライン改訂に向けたポイントに関する解説があった。同氏は「リン低下薬に関しては十分なシステマティック・レビュー、メタ解析による報告がないため、血液透析患者での推奨に準拠すること。CKD-MBDの管理目標値に関しては、生命予後の観点から、リン、カルシウムを目標値内でも低めの値、残腎機能保護、血液透析への移行防止のために、リン、PTHを目標値内でも低めの値を目標とすること」と提案。また、プラクティスポイントとして、残腎機能のある症例でカルシミメティクスを使用することでリンの管理が難しくなる可能性があること、腹膜透析液のカルシウム濃度は血清カルシウム値、PTH値をみて選択することを挙げた。

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アルツハイマー病のアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有用性〜メタ解析

 最近のランダム化比較試験(RCT)において、アルツハイマー病患者の行動障害(アジテーション)のマネジメントに対するブレクスピプラゾールの有用性が示唆されている。しかし、その有効性および安全性は、まだ明らかとなっていない。ブラジル・Federal University of CearaのGabriel Marinheiro氏らは、アジテーションを有するアルツハイマー病患者を対象にブレクスピプラゾールとプラセボを比較したRCTのメタ解析を実施した。Neurological Sciences誌オンライン版2024年5月20日号の報告。 アジテーションを有するアルツハイマー病患者を対象にブレクスピプラゾールとプラセボを比較したRCTを、PubMed、Embase、Cochrane Libraryよりシステマティックに検索し、メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・3件(1,048例)の研究をメタ解析に含めた。・アジテーションを有するアルツハイマー病患者に対するブレクスピプラゾール治療は、12週間にわたり、いずれの用量(MD:−3.05、95%信頼区間[CI]:−5.12〜−0.98、p<0.01、I2=19%)および2mg(MD:−4.36、95%CI:−7.02〜−1.70、p<0.01、I2=0%)においても、コーエンマンスフィールド行動異常評価尺度(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)総スコアの有意な改善を示した。・同様に、アジテーションに関連する臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコアにおいても、ベネフィットが認められた(MD:−0.20、95%CI:−0.36〜−0.05、p<0.01、I2=35%)。・治療中に発生した少なくとも1つの有害事象の発生率(RR:1.14、95%CI:0.95〜1.37、p=0.16、I2=45%)および全死亡率(RR:1.99、95%CI:0.37〜10.84、p=0.42、I2=0%)は、両群間で有意な差は認められなかった。・ブレクスピプラゾール治療により、いずれの用量においても、シンプソンアンガス評価尺度(Simpson-Angus Scale)の有意な増加が認められた(MD:0.47、95%CI:0.28〜0.66、p<0.01)。 著者らは、「アルツハイマー病患者のアジテーション治療において、ブレクスピプラゾールの有用性が示唆された。ブレクスピプラゾールの長期的な効果を確認するためには、さらなる研究が求められる」としている。

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お酒の種類と血圧の関係

 アルコールの摂取量が血圧と強い正の相関関係を示すことが報告されているが、アルコールの種類が血圧に及ぼす影響についてのデータは十分ではなく、赤ワインは女性において血圧を低下させる可能性、ビールは血管内皮機能に有益な効果を有する可能性が指摘されている。デンマーク・University of Southern DenmarkのGorm Boje Jensen氏らによる10万人以上を対象とした大規模研究の結果、アルコール摂取量は用量依存的に血圧の上昇と関連しており、その影響はアルコールの種類によらず同様であった。The American Journal of Medicine誌オンライン版2024年5月14日号の報告より。 アルコールの種類と摂取量はアンケートにより収集された。参加者は赤ワイン、白ワイン、ビール、スピリッツ、デザートワインの週当たりの摂取量を報告。アルコールの週当たりの総摂取量に応じ、7群に層別化された(0/1~2/3~7/8~14/15~21/22~34/35杯以上、1杯のアルコール量は約12gとして評価)。血圧はデジタル自動血圧計で測定され、週当たりのアルコール摂取量と血圧の関係の評価には、多変量線形回帰モデルを使用。年齢・性別により層別化され、関連する交絡因子が調整された。各アルコールの種類別の評価については、他の種類のアルコールについて調整済みのモデルで解析された。 主な結果は以下のとおり。・Copenhagen General Population Studyから、2003年11月25日~2015年4月28日に20〜100歳の10万4,467人が登録された。・8.0%(8,402人) がまったくアルコールを飲まなかったのに対し、2.6%(2,767人)が週に35杯以上のアルコールを摂取していた。・73.7%(7万6,943人)が週に2種類以上のアルコールを摂取していたのに対し、12.6%(1万2,093人)は赤ワインのみ、4.5%(4,288人)はビールのみ、1.9%(1,815人)は白ワインのみ、1.0%(926人)はスピリッツとデザートワインのみを摂取していた。・週当たりのアルコール総摂取量と収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の間には用量反応関係が認められた(p<0.001)。・アルコール摂取量が多いグループ(週 35 杯以上)と少ないグループ(週1~2杯)の間で、SBPは11mmHg、DBPは7mmHgの差(crude difference)が確認された。・アルコールの種類がSBPとDBPに与える影響についてみると、系統的な差異は確認されなかった。赤ワイン、白ワイン、ビールの週当たり1杯の摂取により、SBPは0.15~0.17 mmHg、DBPは0.08~0.15 mmHg高くなった。・年齢と性別で層別化した結果、女性と60歳未満では影響がわずかに大きかった。

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造血幹細胞移植後GVHDにROCK2阻害薬ベルモスジル発売開始/Meiji Seikaファルマ

 2024年5月、Meiji Seikaファルマは造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病(GVHD)に対する新薬、選択的ROCK2阻害薬ベルモスジル(商品名:レズロック)を発売開始した。本薬剤はKadmon(現サノフィ)が開発したもので米国では2021年に発売されており、今回国内治験が終了し、保険承認、販売開始に至った。6月6日には慢性GVHDと本薬剤についてのプレスセミナーが行われ、北海道大学大学院 血液内科の豊嶋 崇徳氏が「造血幹細胞移植の最新動向と移植後の健康問題」と題した講演を行った。 「造血幹細胞移植には、患者自身の細胞を使う自家移植と、血縁者や白血球の型が合う他人の細胞を使う同種移植があり、近年では自家移植が年間約2,000件超の一方で、同種移植は4,000件弱と倍近く行われている。この背景には、骨髄バンク・さい帯血バンクなどが充実したことや、以前は移植不適とされたHLA(ヒト白血球抗原)が半合致の人からも新たなGVHD予防法の開発によって移植できるようになったことがある。 造血幹細胞移植は化学療法不応の造血器腫瘍、とくに急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病の患者にとって「最後の砦」といえるもので、実際に約30~40%の患者が移植後に治癒に至るという強力な治療法だ。しかし、同種移植後の患者にとってしばしば問題になるのが、ドナー由来の免疫細胞が患者の体を非自己と認識して攻撃することで発症するGVHDだ。移植後数ヵ月内に生じる急性GVHDと3ヵ月~2年程度で発症する慢性GVHDがあり、全身に炎症や組織の線維化など膠原病と同様の症状が出て、患者のQOLを著しく落とす。GVHD予防のため移植後に免疫抑制剤を投与するが、完全に防ぐことはできず、移植後患者の約3分の1が発症する。全身症状に苦しみ、社会復帰も叶わず、「移植などしなければよかった」と訴える患者さんに、対峙するわれわれもつらい状況だった。 慢性GVHDの第1選択は副腎皮質ステロイドによる治療だが、効果があるのは半数程度で、長年ステロイド耐性の慢性GVHD患者には承認された薬剤がない状況だった。しかし、ここ数年で状況が変わった。2021年にBTK/ITK阻害薬イブルチニブ(商品名:イムブルビカ)、2023年にはJAK1/2阻害薬ルキソリチニブ(商品名:ジャカビ)が慢性GVHD薬として承認された。いずれも他疾患の治療薬として開発されたものの転用だ。そして今回ROCK2阻害薬ベルモスジルが加わった。3剤はそれぞれ作用機序が異なり、1剤で効果がなくても他剤を試すことができる。患者にとって選択肢が増えたことは喜ばしい。 ベルモスジルの承認根拠となった国内試験ME3208-2は慢性GVHD 患者21例を対象としたもので、全奏効率85.7%(すべて部分奏効)と高い効果を示した。慢性GVHDは全身に症状が出るため完全奏効例はなかったものの、臓器別では口腔症状や皮膚症状に高い有効性を認めた。重篤な副作用がほとんどなく、とくにほかの免疫抑制剤で頻繁にみられる血球減少、感染症が少ないことが評価できる」。 講演後の質疑応答では、ベルモスジルの1次治療からの投与や小児への適用、先行する2剤との使い分けや併用効果などについて質問が出た。豊嶋氏は「どれもあり得る選択だろうが、まずは臨床現場で使いながら患者ごとの最適な治療法をディスカッションし、今後の開発や承認につなげたい」とした。

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EGFR-TKI治療後の再発NSCLC、ivonescimab追加でPFSが改善/JAMA

 上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療後に病勢が進行したEGFR変異陽性の局所進行または転移のある非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、化学療法単独と比較してivonescimab(抗プログラム細胞死-1[PD-1])/血管内皮細胞増殖因子[VEGF]二重特異性抗体)+化学療法は、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、安全性プロファイルは忍容可能であることが、中国・中山大学がんセンターのWenfeng Fang氏らHARMONi-A Study Investigatorsが実施した「HARMONi-A試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年5月31日号で報告された。上乗せ効果を評価する中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 HARMONi-A試験は、中国の55施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2022年1~11月に参加者を登録した(Akeso Biopharmaの助成を受けた)。 年齢18~75歳で、EGFR-TKI療法後に病勢が進行したEGFR変異陽性の局所進行または転移のあるNSCLC(AJCC病期分類[第8版]のStageIIIB、IIIC、IV)の患者322例を登録した。 これらの患者を、ivonescimab+化学療法(ペメトレキセド+カルボプラチン)を受ける群に161例(年齢中央値59.6歳[範囲:32.3~74.9]、女性52.2%)、プラセボ+化学療法を受ける群に161例(59.4歳[36.2~74.2]、50.9%)を無作為に割り付けた。試験薬の投与は3週ごとに4サイクル行い、引き続き維持療法としてそれぞれivonescimab+ペメトレキセド、プラセボ+ペメトレキセドを投与した。 主要評価項目は、独立画像審査委員会(IRRC)の評価によるITT集団におけるPFSとした。今回は、予定されていた初回中間解析の結果を報告した。奏効率も良好 データカットオフ日(2023年3月10日)の時点での追跡期間中央値は7.89ヵ月であった。IRRCの評価によるPFS中央値は、プラセボ群が4.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.2~5.6)であったのに対し、ivonescimab群は7.1ヵ月(5.9~8.7)と有意に延長した(群間差:2.3ヵ月、ハザード比[HR]:0.46[95%CI:0.34~0.62]、p<0.001)。 事前に規定されたサブグループ解析では、大部分のサブグループにおいてプラセボ群よりもivonescimab群でPFSに関する有益性が示され、たとえば第3世代EGFR-TKIの投与中に病勢が進行した患者のHRは0.48(95%CI:0.35~0.66)、脳転移を有する患者では同0.40(0.22~0.73)といずれも良好だった。 また、IRRC評価による奏効率は、プラセボ群の35.4%(95%CI:28.0~43.3)に対し、ivonescimab群は50.6%(42.6~58.6)と有意に高率であった(群間差:15.6%、95%CI:5.3~26.0、p=0.006)。OSのデータは未成熟 全生存期間(OS)のデータは初回中間解析時には未成熟で、データカットオフ日の時点で69例(21.4%)が死亡した(ivonescimab群32例[19.9%]、プラセボ群37例[23%])。 試験期間中の治療関連有害事象は、ivonescimab群で99例(61.5%)、プラセボ群で79例(49.1%)に発現し、化学療法関連の有害事象が最も多かった。Grade3以上の免疫関連有害事象は、ivonescimab群で10例(6.2%)、プラセボ群で4例(2.5%)に、Grade3以上のVEGF関連の有害事象は、それぞれ5例(3.1%)および4例(2.5%)に認めた。 著者は、「ivonescimab+化学療法は、TKI抵抗性の患者における新たな治療選択肢となる可能性がある」とし、「VEGF阻害薬ベバシズマブはNSCLC患者における脳転移の進行を遅延または予防する可能性があることから、本試験の脳転移患者におけるPFSの改善は、二重特異性抗体ivonescimabによるVEGFの阻害または抗PD-1/VEGFの複合的な効果に起因する可能性がある」と指摘している。 現在、NSCLCの治療においてivonescimab単剤と併用療法を比較する複数の第III相試験が進行中だという。

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糖尿病合併症リスクは男性の方が高い

 男性の糖尿病患者は女性患者よりも合併症のリスクが高いことを示すデータが報告された。研究者らは、男性が女性に比べて自分自身を大切にしないことが一因ではないかと推測している。シドニー大学(オーストラリア)のAlice Gibson氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Epidemiology & Community Health」に5月16日掲載された。 糖尿病の有病率自体には男性と女性とで顕著な差はないが、合併症の罹患率は性別によって異なる可能性があり、特に心血管疾患(CVD)については男性の方がハイリスクであることが知られている。ただし、細小血管合併症のリスク差に関するエビデンスは多くない。Gibson氏らは、オーストラリアの45歳以上の地域住民を対象にした前向きコホート研究のデータを用いて、この点を検討した。 この研究では、参加登録時点で糖尿病を有していた45歳以上の成人2万5,713人(男性57%)を17万7,851人年追跡。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、BMI、野菜・果物の摂取量、喫煙・運動習慣、教育歴、保険の種類、糖尿病の家族歴、心血管疾患の既往歴、高血圧・高コレステロール血症の治療歴など)を調整したCox比例ハザードモデルにより合併症のリスクを解析した。その結果、以下のような性差が観察された。 CVDの罹患率は男性が1,000人年当たり43、女性が30で、女性に対する男性のハザード比(HR)は1.51(95%信頼区間1.43~1.59)、腎臓の合併症の罹患率は男性36、女性26でHR1.55(同1.47~1.64)、下肢の合併症は男性25、女性18でHR1.47(1.38~1.57)であり、いずれも男性が有意にハイリスクだった。 一方、眼の合併症に関しては罹患率が男性52、女性53でありHR0.94(0.89~0.98)と、女性の方がハイリスクだった。ただしこれは主に、白内障手術の施行が男性患者で少ないことの影響によるものであって〔HR0.90(0.86~0.95)〕、糖尿病網膜症のリスクは男性の方が有意に高かった〔HR1.14(1.03~1.26)〕。なお、糖尿病罹病期間(10年未満か以上か)は、合併症リスクに性差があるという本研究の結果に、実質的な影響を及ぼしていなかった。 糖尿病合併症のリスクが性別により異なる一つの理由として研究者らは、「健康リスクを抑えるためにライフスタイルを変えたり、検査を受けたり、必要な薬剤の使用を遵守する割合が、男性は女性よりも低いことが関係しているのではないか」と推測している。ただし、合併症のリスクそのものは、女性だからといって低いものではないことも、本研究の結果は示している。著者らは、「糖尿病の合併症、特にCVDや腎臓、下肢の合併症のリスクは男性の方が高いが、そのリスク自体は男女ともに高いと言える」と結論付けた上で、「糖尿病罹病期間にかかわらず男性は合併症ハイリスクであるものの、性別を問わず、糖尿病診断直後からの合併症スクリーニングと予防のための治療戦略が必要とされる」と総括している。

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末期がん患者に対する全身療法は効果なし

 化学療法、免疫療法、標的療法、ホルモン療法は、がんが進行して終末期に近い状態になったがん患者の生存率を改善しないことが、新たな研究で明らかになった。米イエール大学がんセンターのMaureen Canavan氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に5月16日掲載された。Canavan氏は、「末期がん患者に治療を施しても生存率の改善は認められなかった。がん専門医はこの研究結果を患者に説明し、治療目標に関する話し合いを見直すべきだ」と述べている。 末期がん患者に対する全身性抗がん療法(SACT)は、入院率や集中治療室の利用率の増加、ホスピスへの移行の遅れ、生活の質(QOL)の悪化、医療費の増加と関連することが示されている。米国臨床腫瘍学会(ASCO)と全国品質フォーラム(NQF)は、このことを踏まえ、末期がん患者の終末期ケアを改善するために、「死亡前14日以内に化学療法を受けた患者の数」をNQF 021と呼ぶ指標として設定した。NQF 021の対象は、化学療法以外にも免疫療法や標的療法など全ての全身療法に拡大されつつある。 Canavan氏らは、電子健康記録のデータベースを用いて、死亡前14日以内に末期がん患者に実施されたSACTと患者の全生存期間(OS)との関連を検討した。対象患者は、2015年1月1日から2019年12月31日までの間に米国の280カ所のがんクリニックでステージIVのがん(乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、腎細胞がん、尿路上皮がん)の治療を受けた18歳以上の成人患者7万8,446人(平均年齢67.3歳、女性52.2%)であった。患者は、死亡前14日以内および30日以内のSACT実施率に基づき、がん種ごとに、実施率の最も低いQ1群から最も高いQ5群の5群に分類された。 対象患者の中で最も多かったのは非小細胞肺がん患者3万4,201人(43.6%)、次いで多かったのは大腸がん患者1万5,804人(20.1%)であった。解析の結果、がん種にかかわりなく、生存率についてQ1群とQ5群の間に統計学的に有意な差は認められないことが明らかになった。 Canavan氏はイエール大学のニュースリリースの中で、「われわれは、末期がん患者に対する腫瘍学的治療が生存率の改善と関連しているのか、あるいは治療継続は無駄であり、緩和ケアや支持療法に重点を移すべき時期があるのかを調べたかった」と述べている。 研究グループは、2022年に発表した研究で、末期がん患者に対する全身療法では、抗がん薬の使用が徐々に減少しつつある一方で免疫療法の使用が増加していることを報告していた。研究グループは、「SACTの実施状況は全体的には変わっておらず、死期が近い末期がん患者の約17%が、本研究で無駄な可能性が示唆された治療を今も受けている」と述べている。 研究グループは、「医師は、追加治療がいつ無駄になるのかを見極め、終末期近くのケアの目標について患者と話し合うことで、患者により良いサポートを提供することができる」と結論付けている。一方Canavan氏は、「この情報が、がん専門医が治療を継続するのか否か、あるいは転移を有する患者を支持療法に移行させるか否かを決める際に役立つことを願っている」と述べている。

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抹茶うがいが歯周病に有効か

 抹茶には、歯周病を抑える効果があるとする研究結果を、日本大学松戸歯学部と国立感染症研究所の研究グループが発表した。実験室での実験で、抹茶には歯周病の主な原因菌であるPorphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)の増殖を抑制する効果のあることが明らかになり、人間を対象にした臨床試験でも、抹茶でうがいをした人では、口腔内のP. gingivalisの数が介入前と比べて減少することが確認された。国立感染症研究所細菌第一部口腔細菌感染症室の中尾龍馬氏らによるこの研究結果は、「Microbiology Spectrum」に5月21日掲載された。 歯周病は、細菌感染により引き起こされる歯茎の炎症性疾患で、歯を失う主な原因であるほか、糖尿病、早産、心臓病、関節リウマチ、がんとも関連することが示されている。P. gingivalisは歯周病の主な原因菌で、歯の表面に歯垢などのバイオフィルムを形成して定住し、歯周ポケットの奥深くで増殖する。 緑茶は、細菌や菌類、ウイルスと闘う力を秘めている可能性があると考えられており、その有効性を検証するための研究がこれまでに複数、実施されている。中尾氏らは今回、3種類のP. gingivalis株を含む16種類の口腔内細菌に対する抹茶溶液の有効性をin vitroで検討した。 細菌を培養して抹茶溶液に曝露させたところ、2時間以内にほぼ全ての、4時間後には全てのP. gingivalisが死滅したことが確認され、抹茶にP. gingivalisに対する抗菌作用のあることが示唆された。 次に、歯周病と診断された45人を対象にランダム化比較試験を実施した。対象者は、1)麦茶のマウスウォッシュ、2)抹茶エキス含有のマウスウォッシュ、3)炎症治療作用のあるアズレンスルホン酸ナトリウム水和物を含むマウスウォッシュのいずれかで、1日2回のうがいを1カ月間行う群にランダムに割り付けられた。 対象者から介入の前後に採取した唾液検体を比較したところ、抹茶エキス含有のマウスウォッシュでうがいをした群では、口腔内のP. gingivalisの数が有意に減少していることが明らかになった。他の2群では、このようなP. gingivalisの減少は認められなかった。 研究グループは、「本研究は、お茶に由来する化合物に抗菌作用があることを示した初めての研究ではないものの、得られた結果は、歯周病治療において抹茶が有効である可能性を裏付けるものだ」と述べている。

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慢性腎臓病を伴う2型糖尿病に対するセマグルチドの腎保護作用 -FLOW研究から何を学ぶ-(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? GLP-1受容体作動薬は、LEADER/SUSTAIN-6/REWINDなど2型糖尿病の大規模研究において心血管主要アウトカムのリスク軽減が報告されている。一方、これらの研究で腎イベントは副次項目として設定されており、肯定論はあるものの正確な評価はされていない。今回のFLOW研究は、セマグルチドの効果を、腎疾患イベントを主要評価項目として評価した初の腎アウトカム研究である。FLOW試験のデザインと経緯 慢性腎疾患(CKD)を有する2型糖尿病の成人を対象として、腎臓を主要評価項目とした。標準治療の補助療法として追加したセマグルチド1.0mg週1回皮下注とプラセボを比較した、無作為割り付け、二重盲検、並行群間、プラセボ対照試験のデザイン。両群のベースラインeGFRは、47mL/min/1.73m2である。複合主要評価項目は、eGFRのベースラインから持続的50%以上の低下、持続的なeGFR 15mL/min/1.73m2未満の発現、腎代替療法(透析または腎移植)の開始、腎死、心血管死、の5項目。本計画書では、事前に規定した数の主要評価項目イベントが発生した時点で中間解析を行うこととした。試験は2019年に開始、28ヵ国、387の治験実施施設で3,533人が組み入れられた。そして、経過中セマグルチドの腎アウトカムの改善効果が明確になったため、2023年10月独立データモニタリング委員会の勧告に基づき試験の早期終了が決定された。FLOW試験の主たる結果 早期終了勧告の際の中間観察期間は3.4年。主要評価項目において、セマグルチド群でのリスク低下は24%(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.66~0.88、p=0.0003)であった。この結果は、主要評価項目の中で腎に特異的な複合項目(HR:0.79、95%CI:0.66~0.94)と心血管死(HR:0.71、95%CI:0.56~0.89)においても同様であった。サブグループ解析において、セマグルチド群のHRが低い要因として、欧州地域、UACRが多い、BMIが大、糖尿病歴が長い、などが挙げられた。以上、本試験から「CKDを有する2型糖尿病患者においてセマグルチドは腎アウトカムを改善し、心血管死を抑制する」、と結論された。GLP-1受容体作動薬による腎保護の想定機序 FLOW試験は、GLP-1受容体作動薬の腎保護の作用機序を議論する研究ではない。しかし、この点は万人にとって興味の的である。GLP-1受容体作動薬には食欲抑制作用がある。その機序には、胃排出遅延作用と中枢における食欲抑制が知られている。食欲抑制は、糖負荷とNa負荷を軽減し、糖代謝や高血圧などを改善し、腎保護に寄与する。さらに腎保護作用のメカニズムには、Na利尿作用、抗酸化作用、抗炎症作用、血管拡張作用など複合的に想定される。腎臓におけるGLP-1受容体は、糸球体、近位尿細管、輸入細動脈、緻密斑(MD)などに分布する。GLP-1受容体作動薬は、近位尿細管でNHE3やNHE3-DPP4複合体の活性化を抑制しNa利尿を亢進させる。GLP-1受容体作動薬が、MDへのNa流入増加から、尿細管・糸球体フィードバック(TGF)を介して糸球体内圧低下を惹起するか否かに関しては、一定の見解は得られていない。本論文の日本での意義付けと注意点 FLOW研究の成果は、糖尿病や腎臓病専門医の日常診療にとってもインパクトは高い。日本糖尿病学会の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」において、ステップ1でGLP-1受容体作動薬が、ステップ3でCKD合併2型糖尿病ではSGLT2阻害薬と共に選択薬剤として推奨されている。また、ADA/KDIGOにおける糖尿病性腎臓病(DKD)に対する腎保護管理2022の推奨においても、GLP-1受容体作動薬はリスクに応じた追加治療としてARB/ACE阻害薬、SGLT2阻害薬、MRAと共に推奨されている(Kidney Int. 2022;102:S1-S54.)。一方、本論文を直接日本人に外挿できるか、には注意が必要である。FLOW研究は、アジア人が20%と少なく、さらにHRが低下した患者層は、BMI>30でUACR≧300であった。このことは、同剤は肥満度が高い顕性蛋白尿を有するDKDで効果が高い可能性を示唆する。さらに、本試験で使用されたセマグルチドは、注射製剤(オゼンピック)であることも注意すべきである。現在、本邦では経口セマグルチド(リベルサス)も使用可能であるが、両者は薬物動態学/薬力学の面で同一ではない。したがって、注射製剤セマグルチドで得られたFLOW試験の腎保護効果を、経口セマグルチドには直接外挿はできない。心血管イベント抑制や腎アウトカム改善を目標とするなら、経口薬ではなく注射薬を選択すべきであろう。慢性腎臓病を伴う2型糖尿病における腎保護療法の未来展望 近年、心不全治療ではファンタスティックフォー(fantastic four:ARNI、SGLT2阻害薬、β遮断薬、MRA)なる4剤の組み合わせが注目され、臨床現場で実践されている。これに追随しDiabetic Kidney Disease(DKD)治療において推奨される4種類の腎保護薬(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド型・MRA[フィネレノン]、GLP-1受容体作動薬)の組み合わせを、新たに腎臓病ファンタスティックフォー(The DKD fantastic four)とする治療アルゴリズムが一部に提唱されている(Mima A. Adv Ther. 2022;39:3488-3500.)。また、腎臓の酸素化や炎症を評価する試験(TREASURE-CKD[NCT05536804]、REMODEL[NCT04865770])が進行中であり、GLP-1受容体作動薬の作用機序の一部が解明される期待がある。今後、「GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬など早期から使用することにより、さらなる腎予後改善が望めるかもしれない」、との治療上の作業仮説も注目されつつある。この観点に立ち、将来的にはGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は、糖尿病性腎臓病の早期から開始する「Foundational drug:基礎薬」となり得るのではとの意見もある(Mark PB, et al. Lancet. 2022.400;1745-1747.)。

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第198回 医療機関の8割以上が地域包括医療病棟に転換せず、原因を調査へ/中医協

<先週の動き>1.医療機関の8割以上が地域包括医療病棟に転換せず、原因を調査へ/中医協2.心臓移植手術の見送りが全国で16件発生、実態調査へ/厚労省3.美容医療のトラブル急増、適正診療を議論する検討会設置へ/厚労省4.精神科病院で重度褥瘡が原因で患者死亡、遺族が提訴/静岡県5.東北大学、国際卓越研究大学認定で100億円助成決定/文科省6.医学生が患者情報をSNSに投稿、大学病院が謝罪/名古屋大学1.医療機関の8割以上が地域包括医療病棟に転換せず、原因を調査へ/中医協厚生労働省は、6月14日に2024年度の診療報酬改定で新設された「地域包括医療病棟」について影響調査を実施する方針を中医協の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」に提示した。この調査は急性期病棟からの移行が難しい理由を把握し、次回の改定の検討材料とすることを目的としている。これに先立ち、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体は「地域包括医療病棟入院料への移行調査」の結果を発表した。調査結果によれば、地域包括医療病棟への転換予定は全回答病院の3.9%に過ぎず、82.0%の病院が転換しないと回答している。転換予定や検討中の病院では、急性期一般入院料1を維持できないための移行が多く報告されている。地域包括医療病棟への移行が難しい理由の1つに、施設基準の厳しさ、重症度、医療・看護必要度の基準やリハビリスタッフの配置、在宅復帰率などの基準が高く、多くの病院にとってこれらの条件を満たすのが困難となっている。また、救急搬送患者の受け入れ割合や平均在院日数などの実績基準もハードルとなっている。調査結果から、地域包括医療病棟を地域の高齢者急性期患者の受け入れ先として確保するのが難しいことが示された。2024年5月31日に発出された疑義解釈では、施設基準を一時的に満たせない場合の救済措置が明らかにされ、一定程度の救済が期待されるが、根本的な課題解決には至っていない。厚労省は、地域包括医療病棟への移行が進まない理由を明確にするための調査を行い、その結果を次回の診療報酬改定の検討材料とする方針。調査は急性期医療や救急医療の評価見直し、特定集中治療室管理料の見直し、地域包括医療病棟の新設など、8項目にわたる。2024年度の調査は10~12月に実施され、結果は翌年3月以降に報告される。地域包括医療病棟は、高齢者に対する救急医療を充実させるために設けられたが、開設には多くの課題が残されている。病棟数を増やすためには、さらなる調査と制度の見直しが必要。厚労省は、現場の声を反映した改定で地域包括医療病棟の普及を促進し、医療の質向上に寄与することを目指す。参考1)地域包括医療病棟に転換予定の医療機関は3.9%(日経ヘルスケア)2)地域包括医療病棟の施設基準、とりわけ実績基準が厳しく、「急性期一般→地域包括医療病棟」へのシフトが困難-三病院団体(Gem Med)3)地域包括医療病棟に移行困難な理由把握へ、中医協 厚労省「どう評価するかは次の改定の検討事項」(CB news)4)地域包括医療病棟入院料への移行調査(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会)5)令和6年度 第1回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省)2.心臓移植手術の見送りが全国で16件発生、実態調査へ/厚労省2023年に心臓移植手術を見送ったケースが全国で16件あったことが、日本心臓移植学会の調査で明らかになった。主な理由として医療機関の受け入れ体制の不足で、他の移植手術との重複やスタッフ不足が影響していた。東京大学医学部附属病院で15件、国立循環器病研究センターで1件の移植手術の見送りが確認され、16件中10件は後に移植を受けたが、6件は現在も待機中となっている。移植が見送られた心臓は、他の医療機関で使用されたとされている。厚生労働省は、心臓移植手術の見送り問題を受け、脳死からの臓器移植について同様のケースがないか調査を行った。調査は2023年1月~2024年3月までの665件の臓器移植手術を対象とし、7月中の報告を求めている。2023年度の脳死下での臓器提供は116件で前年より10.5%増加し、18歳未満の提供は26件だった。臓器ごとの移植希望登録者数は心臓が855人、肺603人、肝臓369人、腎臓1万4,350人とされている。提供された臓器は多くの移植に使用され、生存率や生着率も向上しているが、小腸移植の成績が低下している点が課題。同学会は、移植手術が特定の医療機関に集中している現状を問題視している。とくに東京大学医学部附属病院と国立循環器病研究センターで全体の半数近くの移植手術が行われ、負担が集中している。同学会では、受け入れ体制の不足で移植が行えない状況を改善するため、複数の医療機関で手術ができるよう制度の見直しを国に提言する方針。厚労省と同学会は、医療機関の受け入れ体制を整備し、移植手術がスムーズに行える環境作りを目指す。とくに移植を希望する患者が、手術を受けられるように医療機関の連携強化と制度改善が求められ、これにより移植待機患者の負担を軽減し、移植医療の質向上が期待できるとしている。参考1)心臓移植断念、昨年16件=受け入れ体制整わず-学会が調査(時事通信)2)心臓移植の断念は全国計16件、国立循環器病研究センターでも…患者数や手術数が特定施設に偏り(読売新聞)3)心臓移植見送り すべての臓器で同様ケース調査を要請 厚労省(NHK)4)移植見送り「体制が理由、なくさなければ」日本心臓移植学会(同)5)脳死下での臓器提供、10.5%増の116人 23年度 厚労省公表(CB news)6)臓器移植の実施状況等に関する報告書(厚労省)7)2023年度の臓器移植状況はコロナ禍前水準を回復、小腸移植の成績低下が気になる-厚労省(Gem Med)3.美容医療のトラブル急増、適正診療を議論する検討会設置へ/厚労省厚生労働省は、美容医療トラブルの急増を受け、今夏にも有識者検討会を設置し、適切な診療のあり方を議論する方針を発表した。とくに「HIFU(ハイフ)」による施術が医師以外によって行われるケースが問題視されており、厚労省は医師法違反の可能性があると通知している。HIFUは、前立腺がん治療に使用されていた技術が美容医療でも使用されるようになり、2015~2022年にかけて消費者庁には135件の事故報告があり、そのうち24件は重篤なものだった。厚労省は、医師以外の施術を禁止し、違反行為が確認された場合には刑事告発も視野に入れている。国民生活センターによると、2023年度の美容医療トラブル相談件数は6,255件で、前年度比1.6倍に増加し、そのうち健康被害に関する相談は891件に上る。とくにHIFUによる白内障や麻痺の報告があり、厚労省は6月7日に医師以外によるHIFU施術が医師法違反となることを通知した。検討会は美容医療を提供する医療機関や関係学会、法令の専門家などで構成され、自由診療が中心の美容医療の実態を把握し、質の高い安全な医療を提供するための対策を検討する。武見 敬三厚労大臣は「医師法に基づき、質が高く安全な医療を提供する方法について議論してもらう」と述べている。美容医療は、主に自由診療で行われるため、料金や診療内容の妥当性を審査する制度がなく、利用者の安全確保が課題。厚労省は、検討会の結果を基に美容医療の規制強化や適正診療の促進を図る予定であり、現場での違反行為の監視と対応も強化し、トラブルの防止を目指す。参考1)医師免許を有しない者が行った高密度焦点式超音波を用いた施術について(厚労省)2)エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故(消費者庁)3)シワやたるみとる「ハイフ」、医師以外の施術は医師法違反…厚生労働省が通知(読売新聞)4)トラブル急増の美容医療、シワやたるみを取る施術で白内障の報告も…厚労省が有識者検討会設置へ(同)5)美容医療で検討会設置へ 厚労省、適正診療促す(共同通信)4.精神科病院で重度褥瘡が原因で患者死亡、遺族が提訴/静岡県静岡県沼津市の精神科病院「ふれあい沼津ホスピタル」において、2021年に入院していた80歳の男性患者が重度の褥瘡(床ずれ)を発症し、転院後に死亡した事件で、遺族が病院に対して慰謝料を求める訴訟を提起することがわかった。男性は脳梗塞の後遺症によるせん妄症状があり、2021年10月に入院。家族の同意なしに強制的な医療保護入院へと移行され、1ヵ月後には腰部が壊死する重度の褥瘡を発症した。病院側は面会を拒否し続け、家族の不信感が募る中、11月に転院。転院先の医師は、男性の状態を「医療機関にいたとは思えないほどひどい」と述べていた中、男性は12月に急性肝不全で死亡した。男性の遺族は、病院が適切な医療措置を怠り、男性を放置したことが原因だと主張し、刑事告訴も視野に入れている。同病院を運営する医療法人は、取材に対し「係争中のため回答を控える」と述べている。同病院では、看護師による患者への暴行がたびたび報告されており、静岡県も立ち入り調査を行った。男性の遺族は「父はどんなに痛みに耐えていたのか。真実を知りたい」と訴えている。また、同病院は昨年、看護師らによる暴行事件で、加害者とされる看護師2名には罰金の略式命令が下されており、県は改善指導を行ったが、問題は根深い。同様の事件は全国各地でも報告されており、精神科病院のあり方が問われている。参考1)精神科病院で重度の床ずれ発症、転院後に患者死亡 遺族が提訴へ(毎日新聞)2)「殺される」電話で訴えた父 精神科病院で患者死亡 遺族が語る実態(同)3)入院患者に暴行か 当時の看護師と准看護師に罰金の略式命令(NHK)5.東北大学、国際卓越研究大学認定で100億円助成決定/文科省文部科学省は、6月14日に「国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議」(アドバイザリーボード)で検討されていた東北大学が国際卓越研究大学制度の認定基準を初めて満たしたと発表した。これにより東北大学は、10月以降正式に認定され、初年度には約100億円の助成金を受け取る見込み。この制度は、わが国の研究力を世界トップレベルに引き上げるために設立されたもので、政府は10兆円規模の基金を運用して支援する。アドバイザリーボードは、昨年の公募には、東京大や京都大など国立8校、私立2校が申請したが、東北大学を認定候補として選定し、検討を重ね、今回の審議で認定の基準を満たすと判断した。東北大学は、国際化と研究体制の強化を目指した具体的な計画を策定しており、教授を筆頭とする従来の講座制から、個々の研究者がテーマごとにユニットを組む体制に変更し、挑戦的な研究を推進することを目指す。また、留学生比率の大幅な増加や研究支援職員の増員など、組織改革を進めている。これらの計画が評価され、認定に至った。東北大学のように認定された大学には、最長で25年間、年数百億円の助成を受けることができる。助成金は、研究基盤の強化や若手研究者の支援に活用される。次回の公募は、大学ファンドの運用状況を勘案し、令和6年度中に開始される予定。また、6月14日付で国際卓越研究大学法に基づく基本方針が改訂され、認定要件が明確化された。参考1)国際卓越研究大学の認定等に関する有識者会議(アドバイザリーボード)による審査の結果(文科省)2)東北大学を「国際卓越研究大学」に 初の認定へ 文科省(NHK)3)東北大「卓越大」第1号 初年度助成 百数十億円(産経新聞)6.医学生が患者情報をSNSに投稿、大学病院が謝罪/名古屋大学名古屋大学医学部の学生が、大学病院での研修中に患者の個人情報を含む電子カルテの画像をSNSに投稿したことが明らかになった。投稿は2020年3月に行われ、患者2人の氏名、入院診療科名、作成日時が含まれていた。さらに、別の患者の手術中の画像も投稿されていた。名古屋大学病院によると、学生は電子カルテの閲覧権限を持ち、そのパソコン画面を撮影して複数の画像をSNSに投稿していた。投稿はすぐに削除されたが、今年5月に投稿の存在が指摘され、病院が調査を行った結果、現在も在学中の学生によるものと判明した。病院は6月3日に患者とその家族に謝罪し、今回の事態をホームページ上で公表した。また、投稿された情報の不正利用は確認されていないとしている。学生は「重大性を理解していなかった」と反省の意を示しており、病院は再発防止のため、倫理教育の徹底を図る方針。同病院の丸山 彰一病院長は「このような事態を発生させたことに深くお詫び申し上げます。学生への研修が不十分だったこともあり、個人情報保護や倫理についてより具体的な教育を強化して、再発防止に努めていきたい」と述べている。参考1)学生の不適切なSNS投稿及び個人情報の漏えいに関するお詫び(名古屋大学)2)研修中の学生が電子カルテを撮影し投稿 名古屋大学病院が謝罪(NHK)3)医学生が電子カルテ撮影、SNSに投稿 名古屋大病院で研修中、手術の写真も(中日新聞)

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女性誌「STORY」(その1)【息子を彼氏化するママ?娘にメロメロなパパ?その問題点は?(溺愛の心理)】

今回のキーワードストーカー共依存操作性空の巣症候群性的虐待モラルハラスメント母親の皆さんは、息子さんが好きすぎて「私好みになってほしい」「彼氏になってデートしてほしい」と思うことはありますか? 父親の皆さんは、娘さんにメロメロで、何でも買い与えて、いつまでも一緒にお風呂に入ってほしいと思うことはありますか? 一方で、このような関わり方に問題はないでしょうか?今回は、溺愛の心理をテーマに、時代を映す鏡の1つである女性誌「STORY」の子育てコーナーの読者アンケートを取り上げます。いつもと違い、シネマセラピーのスピンオフバージョン、「ケーススタディ・セラピー」です。彼女たちの本音を踏まえて、溺愛の問題点を掘り下げてみましょう。子供を溺愛する問題点とは?読者アンケートの中には、「子供を大切にする気持ちの何が悪いの?」というご意見もありました。いったい何が「悪い」のでしょうか?まず、親から子供への溺愛は、とくに異性間で起きやすいです。なぜなら、異性間では疑似的な恋愛関係になるからです。一方で、同性間では自分の配偶者をめぐる疑似的な恋敵の関係になるからです。これを踏まえて、まず母の息子愛、父の娘愛に分けて、その問題点をそれぞれ具体的にみてみましょう。(1)母の息子愛の問題点2023年5月号の208ページには、「『息子を彼氏化してしまうママ』の言い分」が紹介されています。ここから読み取れる母親の本音を3つご紹介します。「過剰な心配、詮索は当たり前。だって深く愛しているから」愛しているから知って当然という口実によって、交友関係をあれこれ聞き出そうとするだけでなく、持ち物チェック、携帯ののぞき見などの詮索を自己正当化しています。さすがに子供が思春期の場合は、信頼関係を損ねるため、決してお勧めできません。この発想は、典型的なストーカーの心理です。なお、父親が娘のことを詮索する場合は、「娘のインスタを必死でフォローする」など、ストーカー的であっても、あくまでルールは守ろうとする傾向があります。「成長しても今みたいに甘えてくれたら嬉しいなあ」いつまでも自分を頼りにしてほしい、世話を焼きたいと思う気持ちは、一見、愛情深く見えます。しかし、子供が思春期になって、お世話する必要がないのに無理やりお世話しようとすることは、自立を阻むため、お勧めできません。これは、典型的な共依存の心理です。なお、息子と違って娘には、単純に世話を焼くのではなく、同性モデルとして料理などのお世話の仕方を教える傾向があります。「下宿や寮生活をさせずに、できるだけ手元に置いておきたい」子供が自立のために家を出ようとすると、「私を見捨てる気なの?」などと言って、なるべく実家暮らしをするよう仕向けます。これは、操作性と呼ばれています。また、実際に子供が巣立った場合、その寂しさから、うつ状態になることを、空の巣症候群と言います。(2)父の娘愛の問題点2024年5月号の194ページには、「夫たちの『娘にメロメロ症候群』にご注意!」が紹介されています。ここから読み取れる妻の悩み、言い換えれば夫(父親)の本音を3つご紹介します。「願いをすべて叶えてあげる」これは、欲しいものを買い与えて手なずけようとする気持ちが見え隠れします。何かとプレゼントをしたがる人の心理にも通じます。プレゼントは感謝の印として本来ポジティブなものであるはずですが、やりすぎる場合は先ほどと同じ操作性という裏の心理にすり替わってしまいます。母親との違いは、母親は情緒に訴えてくるのに対して、父親は金品というモノで釣ろうとすることです。また、好かれたい気持ちが強いため、息子と違って娘には叱ることはあまりないです。「まだお風呂にも一緒に入っていて、シャンプーやリンスーもしてあげる」これは、幼児期にそうしていた習慣の延長という軽い気持ちがあるでしょう。しかし、身体的自立を終えた小学生になっても、抱っこなどの密なスキンシップ、裸を見る・見せることは、海外では性的虐待と見なされます。日本でそう認識されにくいのは、日本における性教育が子供だけでなく大人に対しても遅れているからです。「彼を連れてきた娘に、『あんな男やめとけ』と一方的だった」交友関係への口出しは、娘が大切だという気持ちからであるのはわかるのですが、「自分のものが取られる」という意識が強いようです。しかし、娘は、「もの」ではなく、自己決定する同じ人間です。親は意見を言ったり提案することはできますが、思春期、ましてや大人になっても、このような威圧的な態度を取るのは、モラルハラスメントに当たります。なお、母親の場合、父親ほどストレートではありません。息子の女友達が家に来ても表向きは愛想良く振る舞います。しかし、あとから難癖を付けたり、「帰りが遅かった」などと些細なことでその彼女の親や担任の先生に苦情を入れるなどして陰湿な傾向があります。ちなみに、このような母親と父親の子供への関わり方の違いは、男女の脳機能の違いから説明することができます。詳しくは、関連記事1をご覧ください。(3)共通する本質的な問題以上をまとめると、母親と父親に共通して、子供を溺愛する本質的な問題は、成長しても子供扱いすることで自立を阻むリスクがあることであることです。つまり、親の愛情が独善的で一方的な場合、いくら表向きに「子供のため」と言っても、その本音は「自分のため」であり、結果的に「子供のため」になっていないことになります。この状況に親自身が気付いていないこともあります。逆説的にも、大切にしすぎることは結果的に大切にしていないことになるわけです。そして、子供が思春期になった時、これが見透かされてしまうのです。なお、実際の教育心理学の研究でも、自立を促す親の子育ての姿勢がその後の子供(大学生)の心理的自立(自我の確立)を促すという結果が出ています1)。当然と言えば、当然です。逆に言えば、そうしない最悪のシナリオが、自我の拡散、つまり不登校やひきこもりであると言えるでしょう。これらの詳細については、関連記事2、関連記事3をご覧ください。1)高富莉那, 桂田恵美子. 臨床教育心理学研究 2011;37:27-32.■関連記事あなたには帰る家がある(前編)【なんで倦怠期になるの?】Part 2映画「かがみの孤城」(その1)【けっきょくなんで学校に行けないの?(不登校の心理)】Part 1サイレント・プア【ひきこもり】

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島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学(附属病院 呼吸器・化学療法内科)【大学医局紹介~がん診療編】

礒部 威 氏(教授/診療科長)津端 由佳里 氏(診療教授/副診療科長)奥野 峰苗 氏(医科医員)津田 洸旬 氏(医科医員)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴われわれの教室は、増加する呼吸器疾患と、がん医療の均てん化を推進するため、全国的に不足している呼吸器専門医・がん薬物療法専門医の育成を行ってきました。その特徴は呼吸器病学・腫瘍内科学・感染症学をベースとした、総合内科医の育成に取り組み、患者さんを疾患横断的、全人的に診療する力の養成にあります。肺がんは高齢化が進み、診断時に50%以上が75歳以上の高齢者です。高齢者は複数の慢性疾患を抱え、薬物の代謝や排泄が低下しているため、高齢者機能評価による適切な評価と介入ががん薬物療法を行う際には重要となります。教室の主要な臨床・教育・研究テーマが高齢者機能評価の普及と実践です。すでに高齢者機能評価の有用性を検討する多施設共同研究(ENSURE-GA)が終了し、現在は肺がん薬物療法時における高齢者機能評価の有用性を検討する多施設共同研究が始まったところです。また、呼吸器診療において持続可能な開発目標(SDGs)を掲げ、島根県の呼吸器診療、がん診療の基盤を整え、健康増進に寄与することを目的としたクラウドファンディングを開始しました。今後の教室の発展にご注目ください。我が医局のエースを紹介!津端はじめに自己紹介と医局の雰囲気の実際を教えてください。奥野医師10年目の奥野 峰苗です。もともと薬剤師でしたが、がんのエビデンスを作る臨床研究に興味があり、医学部に入りました。入局時は個別のキャリアプランを具体的に提案してくれ、ここなら自分の夢がかなえられる! と思い決めました。院外研修など自身のキャリアプランについてもトップダウンでなく、希望を聞いてもらえる医局だと思います。津田医師4年目の津田 洸旬です。大阪大学の人間科学部で学んでいましたが、医学こそ人間を科学する学問だ! と気が付き医学部へ入りました。研修医のころから薬物療法に興味があり、肺がん症例では診断から薬物療法、人生の最終段階まで寄り添えることにやりがいを感じました。趣味は美味しいごはんとお酒です(笑)。医局の雰囲気は一言で言うと「明るい」。若手から専門医まで在籍していて、カンファレンスは若手も発言しやすいです。津端では、当科でのがん診療/研究のやりがいはどんなところに感じていますか?奥野私はチームリーダーなのですが、一緒に考える、お互い刺激を受け合うチームを目指しています。研究は自身で立案したCQを、実際に臨床研究に結び付けることを医局がサポートしてくれます。先日、初めて国際学会(ATS)で発表してきました。語学の壁は感じましたが、今後もどんどんチャレンジしていきたいです。津端国立がん研究センターでの国内留学も終えられ、臨床試験の立案から実施、そして学会発表まで行えるよう成長できているという証拠ですね。津田肺がん診療が日進月歩であることを最前線で感じられ、とてもやりがいを感じますし、高齢者が多く併存疾患への対応にも携わることができています。診断・治療だけではなく、大学に緩和ケア病棟があって看取りまで担当できるのも当科の特色です。先輩方からサポートいただきつつ入局1年目から多施設共同試験のPIも経験でき、勉強になっています。津端それでは最後に、今後の目標と医学生/研修医の皆さんへメッセージをどうぞ!奥野さらにたくさんの臨床研究を立案することが目標です。肺がん患者さんの予後は延長し、新しい治療もたくさん出てきていますがまだまだ奥深い世界です。当科は少し迷っている方でも、サポートして一緒にやりたいことを見つけてもらえます。津田まずは専門医を取得する。そのうえで、肺がんを中心として専門性を高め、国内外の留学も目標です。がん診療、とくに肺がんは難しいという印象があるかもしれませんが、個々の症例と向き合うことで理解は深まりますし、患者さんに最期まで寄り添える、とてもやりがいのある領域です。津端今日はありがとうございました、これからも一緒に当科を盛り上げていきましょう!島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学(附属病院 呼吸器・化学療法内科)住所〒693-8501 島根県出雲市塩冶町89-1問い合わせ先koka-nai@med.shimane-u.ac.jp医局ホームページ島根大学医学部 内科学講座呼吸器・臨床腫瘍学専門医取得実績のある学会日本内科学会日本呼吸器学会日本臨床腫瘍学会日本呼吸器内視鏡学会日本結核・非結核性抗酸菌症学会日本老年医学会日本アレルギー学会日本喘息学会日本がん治療認定医機構 ほか研修プログラムの特徴(1)ガイドラインに準拠した診療スタイルを身につけることができる(2)チームによる教育・研修体制を組み、常に上級医からの指導を受けることができる(3)完全当直、待機医師制度のため、オン・オフが明確化される詳細はこちら

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発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応【1分間で学べる感染症】第5回

画像を拡大するTake home message発熱性好中球減少症に対するグラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応を7つ覚えよう。発熱性好中球減少症は対応が遅れると致死率が高いため、迅速な対応が求められます。入院中の患者の場合、基本的には緑膿菌のカバーを含めた広域抗菌薬の投与が初期治療として推奨されていますが、それに加えてグラム陽性菌に対するカバーを追加するかどうかは悩みどころです。そこで、今回はガイドラインで推奨されている以下の7つの適応を理解するようにしましょう。1)血行力学的不安定または重症敗血症の場合2)血液培養からグラム陽性菌が陽性の場合3)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌 (VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の保菌がある場合4)重症粘膜障害(フルオロキノロン系抗菌薬予防内服)の場合5)皮膚軟部組織感染症を有する場合6)カテーテル関連感染症を臨床的に疑う場合7)画像上、肺炎が存在する場合上記のうち、1)2)に関してはとくに疑問なく理解できると思います。3)に関しては、患者のこれまでの記録をカルテで確認することで、そのリスクを判断します。4)5)6)に関しては、身体診察でこれらを疑う場合には、すぐに追加を検討します。6)はカテーテル局所の発赤や腫脹、疼痛などがあれば容易に判断できますが、血液培養が陽性となるまでわからないこともあるため注意が必要です。7)に関してはMRSAによる肺炎を懸念しての推奨です。グラム陽性菌をカバーする抗菌薬の追加の適応に関しては、上記7つをまずは理解したうえで、その後のde-escalationを行うタイミングや継続の有無に関しては、その後の臨床経過や検査結果から総合的に判断しましょう。1)Freifeld AG, et al. Clin Infect Dis. 2011;52:e56-e93.

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切除不能大腸がん肝転移に対する肝移植の有効性(TransMet)/ASCO2024

 切除不能な肝転移のある大腸がん(uCLM)に対する現在の標準療法は化学療法(CT)だが、近年肝移植(LT)が有望な結果を示している。こうした背景からLT+CTの併用療法をCT単独と比較した初のランダム化試験TransMetが実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、フランス・パリ・サクレー大学のRene Adam氏が本試験の中間解析結果を報告し、LT+CT併用療法が生存率を改善するとの結果に話題が集まった。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:65歳以下、PS 0-1、化学療法で3ヵ月以上、部分奏効もしくは安定が得られている。CEAが80mg/mlもしくはベースラインより50%以上の減少、血小板8万超、白血球2,500超のuCLM患者・試験群(LT+CT群):LT+CT併用、最終CTから2ヵ月以内にLT実施・対照群(CT群):CT単独・評価項目:[主要評価項目]5年全生存率(5年OS率)[副次評価項目]3年OS率、3・5年時点の無増悪生存期間(PFS)、再発率 主な結果は以下のとおり。・2016年2月~21年7月、94例(年齢中央値54歳、四分位範囲:47~59)がCT+LT群(47例)、CT群(47例)に1:1でランダムに割り当てられた。CT+LT群の36例が適格となった(病勢進行のため9例脱落)。・ITT解析の5年OS率はCT+LT群で57%、CT単独群で13%だった(p=0.0003、ハザード比[HR]:0.37、95%信頼区間[CI]:0.21~0.65)。プロトコル解析の5年OS率は73%と9%だった(p=0.0001、HR:0.16、95%CI:0.07~0.33)。・PFSの中央値はCT+LT群で17.4ヵ月 、CT単独群6.4ヵ月(HR:0.34、95%CI:0.20~0.58)だった。・CT+LT群のうち、26/36例(72%)が再発した。再発箇所は肺(14例)が多く、12/26例(46%)がオプションで手術または局所アブレーションによる治療を受けた。15/36例(42%)が最終的に無病生存だった。・CT群は37/38例(97%)が病勢進行し、新たなレジメンでCTが行われた。最終的に1/38例(3%)が無病生存だった。 Adam氏は「LTとCTを併用すると、CT単独の場合と比較して、特定のuCLM患者の生存率が大幅に改善した。これらの結果により、肝転移大腸がんの治療戦略を変える可能性のある新しい標準オプションとしてLTを検証する必要性が示唆される」とした。 この発表と結果を受け、消化器がんを専門とする相澤病院・がん集学治療センター化学療法科の中村 将人氏はケアネットの運営する医療系キュレーションサイトDoctors’Picks(医師限定)に下記コメントを寄せた。 「発表後のディスカッションでは、選択された症例のうち40%は不適格であったこと、LT+C群の47例中9例で病勢進行により肝移植が行われなかったことから、症例選択の難しさが指摘されていた。また、肝移植を行った症例の68%で術後に化学療法が行なわれたことが情報として追加された。unanswered questionsとして症例選択の難しさや術後の化学療法について、免疫抑制剤の使用や合併症の管理が挙げられていた。私の見解としては、本試験は大腸がんの肝限局転移に対してLT+CT併用 がCT単独に比して予後を改善したというclinical changeになり得る発表だ。ただし、『肝限局なら肝移植が有効』という結論や5年OS率の57%(ITT解析)、73%(プロトコル解析)という数字だけでなく、どのような適格基準で、どのような患者選択のプロセスがあったのかはきちんと理解しておく必要がある。また、肝移植後の8%に再肝移植が行われたことや1例(3%)の術後死亡例もあったこと、術後合併症や免疫抑制剤の調整、有害事象の管理が必要であること、68%の症例で術後に化学療法が行われたこと、72%の症例で再発を認めたことも知っておく必要がある。 また、私が疑問に思ったのが、CT群では47例中7例で腫瘍が縮小し切除が行われたのに対し、LT+CT群では1例も腫瘍縮小から切除された症例がおらず、病勢進行以外は全例肝移植が行われたことだ。患者背景のバランスは取れており、LT+CT群でも肝移植ではなく肝切除にいけた症例はなかったのか。この点も今後の追加解析や論文化される時に明らかにされるだろう」

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導入化学療法後の転移HER2-乳がん、ペムブロリズマブ維持療法で効果持続

 転移のあるHER2-炎症性乳がんおよび炎症性乳がんではないトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者において、導入化学療法後、ペムブロリズマブ単剤での維持療法で治療効果が持続したことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター/ハワイ大学の岩瀬 俊明氏らによる第II相試験で示された。さらにバイオマーカー試験で、ベースライン時にT細胞クローナリティーが高い患者では、ペムブロリズマブ維持療法により病勢コントロール期間の延長がみられた。Clinical Cancer Research誌2024年6月3日号に掲載。 本試験では、3サイクル以上の化学療法で完全奏効、部分奏効、病勢安定(SD)を達成したHER2-乳がん患者を対象に、PD-L1発現の有無にかかわらずペムブロリズマブ200mgを2年間、もしくは進行/忍容できない毒性発現まで3週ごとに投与した。評価項目は、4ヵ月病勢コントロール率(DCR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間、血中反応バイオマーカーなどであった。 主な結果は以下のとおり。・43例中11例が転移のあるHER2-炎症性乳がん、32例が炎症性乳がん以外のTNBCであった。・4ヵ月DCRは58.1%(95%信頼区間:43.4~72.9)、全患者のPFS中央値は4.8ヵ月(同:3.0~7.1)であった。・毒性プロファイルは以前のペムブロリズマブ単剤療法試験と同様であった。・ベースライン時にT細胞クローナリティーが高い患者は低い患者よりもペムブロリズマブ治療でのPFSが長かった(10.4ヵ月vs.3.6ヵ月、p=0.04)。・SDを達成した患者は達成しなかった患者よりT細胞クローナリティーが治療中に有意に増加した(平均増加率:20% vs.5.9%、p=0.04)。

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くも膜下出血の発症リスクが上がる/下がる薬は?

 オランダ・ユトレヒト大学医療センターのJos P. Kanning氏らは、動脈瘤によるくも膜下出血(aSAH:aneurysmal subarachnoid hemorrhage)の発症リスクを下げるとされる処方薬として、5剤(リシノプリル[商品名:ロンゲスほか]、アムロジピン[同:アムロジンほか]、シンバスタチン[同:リポバスほか]、メトホルミン[同:メトグルコほか]、タムスロシン[同:ハルナールほか])を明らかにした。一方で、aSAHの発症に関連している可能性がある薬剤についても示唆した。Neurology誌オンライン版2024年6月25日号掲載の報告。 研究者らは、処方薬とaSAH発症リスクとの関連性を体系的に調査するため、drug-wide association study(DWAS)を実施。Secure Anonymised Information Linkage(SAIL)データバンクの1982年1月1日以前に生まれた患者を研究対象とし、ICD-9およびICD-10を用いて2000~20年までの全aSAH症例を抽出した。さらに、各症例を年齢、性別で9つの対照群と無作為にマッチングさせ、さらに症例と対照の観察期間を比較できるようデータベースへの登録年を基にマッチングさせた。本研究集団の2%超に処方された薬剤を調査し、インデックス日(aSAH発生)前で、処方に関連する曝露期間を重複しないように3つ定義付けした(現在:インデックス日から3ヵ月以内、最近:インデックス日から3〜12ヵ月、過去:インデックス日から12ヵ月より前)。また、年齢、性別のほか、交絡因子の調整のためaSAHと薬物曝露に関連するであろう変数として、既知のaSAHリスク因子(喫煙状況、高血圧の有無、飲酒、BMI)についてコントロールし、インデックス日以前の1年間のヘルスケアの利用(かかりつけ医への来院数など)も評価した。 主な結果は以下のとおり。・aSAH群4,879例(平均年齢±SD:61.4±15.4歳、女性:61.2%)と対照群4万3,911例を照合した。・aSAH症例群は対照群よりもかかりつけ医の受診回数が多く(平均受診回数:23回vs.19回)、インデックス日以前の喫煙率(37% vs.21%)や高血圧症の既往(42% vs.37%)も高かった。・本研究中に特定された2,023種類の薬剤のうち、205種類(10.1%)が共通して処方されていた。・二項ロジスティック回帰分析でボンフェローニ補正を用いたところ、現在服用中でaSAH発症リスクが低下した薬剤は、リシノプリル(オッズ比[OR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.44~0.90)、アムロジピン(OR:0.82、95%CI:0.65~1.04)であった。ただし、両者とも服用が「最近」の場合には、aSAH発症リスクが上昇(リシノプリルのOR:1.30[95%CI:0.61~2.78]、アムロジピンのOR:1.61[95%CI:1.04~2.48])し、リシノプリルとアムロジピンで同様の傾向が見られた。・シンバスタチン(OR:0.78、95%CI:0.64~0.96)、メトホルミン(OR:0.58、95%CI:0.43~0.78)、タムスロシン(OR:0.55、95%CI:0.32~0.93)を現在服用中の場合でも、aSAH発症リスクの低下が認められた。・対照的に、ワルファリン(商品名:ワーファリンほか、OR:1.35、95%CI:1.02~1.79)、ベンラファキシン(同:イフェクサー、OR:1.67、95%CI:1.01~2.75)、プロクロルペラジン(同:ノバミン、OR:2.15、95%CI:1.45~3.18)、Co-codamol*(OR:1.31、95%CI:1.10~1.56)を現在服用中の場合、aSAH発症リスクの増加が認められた。*アセトアミノフェン・コデインリン酸塩、国内未承認

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糖尿病とがんの相互関連性、最新の知見は?/日本糖尿病学会

 近年、糖尿病とがんの相互関連性が着目されており、国内外で研究が進められている。日本では、2013年に日本糖尿病学会と日本学会による糖尿病とがんに関する委員会から、医師・医療者・国民へ最初の提言がなされた。糖尿病は全がん、大腸がん、肝がん、膵がんの発症リスク増加と関連するとされている。5月17~19日に開催された第67回日本糖尿病学会年次学術集会で、シンポジウム11「糖尿病とがんをつなぐ『腫瘍糖尿病学』の新展開」において、能登 洋氏(聖路加国際病院内分泌代謝科)が「糖尿病とがんの関係 2024 update」をテーマに講演を行った。講演の主な内容は以下のとおり。糖尿病患者はがん死リスクが高い 日本での2011~20年における糖尿病患者の死因は、多い順に、がん(38.9%)、感染症(17.0%)、血管障害(10.9%)となっている1)。糖尿病患者のがん死リスクは一般人よりも高く、糖尿病により発がん・がん死リスクが増加する可能性が注目されている。糖尿病を有するがん患者は生命予後・術後予後が不良であることがメタ解析で示されている。能登氏によると、糖尿病とがんはさまざまな要因を介して相互関連しているという。 糖尿病に伴うがんリスクの倍増率に関する研究によると、糖尿病がある人では、ない人と比べて、がん死リスクは1.3倍、がん発症リスクは1.2倍増加していることが示されており2)、能登氏は、がんは糖尿病の「合併症」とまでは位置付けられないが、関連疾患、併発疾患としては無視できないと述べた。糖尿病に伴う発がんリスクのがん種別では、海外のデータによると、リスクが高い順に、肝がん(糖尿病がない人と比べて2.2倍)、膵がん(2.1倍)、子宮がん(1.6倍)、胆嚢がん(1.6倍)、腎がん(1.3倍)、大腸がん(1.3倍)などが並んでいる2)。国内のデータによると、肝がん(2.0倍)、膵がん(1.9倍)、大腸がん(1.4倍)となっており3)、主に消化器系の発がんリスクが有意に高いことが判明した。 また能登氏は、上記の海外のデータにおいて、糖尿病を有する男性の前立腺がんの発症率は通常の0.8倍となっており、前立腺がんにはなりにくいことを興味深い点として挙げた。これは、糖尿病の場合はテストステロンが低くなることと関連しているという。糖尿病患者のがん発症メカニズム 現在想定されている糖尿病により発がんリスクが高まる機序について、能登氏は解説した。高血糖と高インスリン血症という主な2つの因子が、正常細胞をがん化し、がん細胞を増殖させていくと考えられている。また、高血糖により血中酸化ストレスが増加すると、染色体にダメージを与え、正常細胞ががん化する。さらに、高血糖自体が細胞増殖のエネルギーとなり、がん化した細胞の増殖が促進される。また、インスリンは直接的に発がんプロモーションに関与する。IGF-1という成長因子を介して間接的にも発がんを促進すると考えられている。さらに最近の研究によると、mTOR経路ががんに関わってくる遺伝子を促進したり、あるいは、正常細胞は発がん細胞を抑制しようとする細胞競合という機能を持っているが、インスリンによって細胞競合機能が抑制されてしまうことで、がん細胞が増殖しやすくなったりすることが判明した。また、糖尿病や肥満は全身的な炎症が慢性的に存在する。この炎症が、発がん・がんの増殖により拍車をかけることが考えられるという。最近では、さまざまな糖尿病治療薬が、発がん・がんの増殖に対して関連しているという仮説もあり、研究が進められている。 能登氏は、高血糖と高インスリン血症はどちらが発がんに影響しているかについて、以下の研究を取り上げて解説した。米国の研究によると、糖尿病患者は、糖尿病の発症から5~10年後に発がん倍率が1.3倍のピークを迎え、その後は低下するという。インスリン分泌能をC-ペプチドに置き替えてみると、発がん倍率とほぼパラレルな推移が認められる。一方、HbA1cで示される高血糖は、10~15年後にピークに達する。そのため、発がんへの影響は、高インスリン血症のほうが主体であることが推測されている4)。 一般的に欧米人よりもアジア人のほうがやせ型の人が多く、肥満度が低い。肥満は高インスリン血症を引き起こすため、肥満のほうが、発がんリスクが高くなると考えられている。しかし、能登氏らが実施したアジア人を対象とした調査によると、アジア人糖尿病患者の発がんリスクは低いだろうという予想に反して、男女共に、欧米人よりもアジア人のほうが発がんとがん死リスクが高いという結果になった5)。高血糖と高インスリン血症のがんへの影響は人種によっても変化する可能性がリアルワールドデータにより示唆された。 能登氏はここで、データ解釈上の注意点があることを指摘した。糖尿病患者は高齢・肥満によりがん発症リスクが高まるという交絡因子があるが、これは解析時に調整することができる。一方、糖尿病患者は日頃から検査を受けることが多いため、がん発見率も高まる。この「発見バイアス」は考慮しなければならない。実際のがん発症リスクは、前述の数値よりも低いであろうという。また、がん患者は糖尿病になりやすく、実は膵がんを先に発症し、それが糖尿病を引き起こしていたが先に糖尿病が診断されたという因果の逆転も考えられる。その点に気を付けて解釈をしなければならない。血糖変動幅を小さくすれば、がんリスクは低下するか? 高血糖ががんのリスク因子であるならば、血糖コントロールをよくすれば、がんのリスクは低くなるのかということについて、海外での心血管疾患に関するメタ解析の副次結果が提示された。発がんリスク、がん死リスクのいずれも、厳格な血糖管理をしても、がんのリスクは下がらないということが示唆された6)。また、能登氏らが実施した日本人を対象としたHbA1cと発がんリスクに関する研究によると、HbA1cが5.5~6.4%を基準値として、それよりも血糖コントロールが悪くても、発がんリスクはほとんど変わらなかった7)。 さらに踏み込んで、HbA1c変動と発がんリスクに関するデータでは、HbA1cの変動幅が大きい人ほどがんリスクが高まることが判明した8)。また、アジア人を対象とした海外のデータでも、発がんリスク・がん死リスクともに、HbA1c変動幅が大きいほうが、リスクが高くなることが明らかとなった9)。 ただし、観察研究で関連性が示されても、バイアス残存などのため因果関係にあるとは限らない。また、因果関係にあっても、是正・予防によりリスクが低下するとは限らないという。現時点では、HbA1cの変動幅はがんリスク評価マーカーとして活用するのが妥当で、Time in Range(TIR)もリスク評価マーカーとして有用かもしれない。がんと糖尿病に共通するリスク因子:食事と運動 能登氏は、がんと糖尿病に共通してリスクを上昇させる食事例として、赤肉・加工肉の過剰摂取、高Glycemic index(GI)食摂取を挙げ、逆にリスクを下げる食事例として、野菜、果物、食物繊維、全粒(未精白)穀物、魚をカロリーやバランスの管理をしたうえで摂取することを挙げた。 糖質制限・低炭水化物食には、以下のような功罪があるため慎重に行う必要がある。・血糖コントロール・減量に有効だが、1~2年で効果消失する。・糖尿病発症リスクは変わらない(J-カーブ示唆)。・さらに、極端な食事制限を長期間続けると、総死亡・がん罹患/死亡・心血管死亡が増加することも報告されている。 ある日本の観察研究によると、運動量とがんに関しては、運動量が多いグループほどがんリスクが低下することがわかっているため10)、運動ががんの予防につながる可能性があると能登氏は述べた。ただし、ベースラインにおいて、元々身体的な制限があるため運動できない人や、逆に元から健康志向が強い人が含まれるといった交絡因子が含まれることも考慮しなければならないという。 最近では、国内でも保険適用による減量手術がある。食事・運動を介さずに手術で劇的に短期間で減量した場合も、糖尿病とがんのリスクを劇的に減少させることが報告されている11)。体重を減らすことが非常に重要であることを示すデータとなっている。糖尿病治療薬はがんリスクに影響するか? 高インスリン血症はがんのリスク因子となるが、インスリンを治療薬として使用する場合は、がん死リスク・発がんリスク共に変化がないことがわかっているという12)。インスリンにより血糖値が劇的に下がるため、リスクが相殺されて、リスクがプラスにもマイナスにもならないのではないかと推察されている。そのほかの糖尿病治療薬とがんリスクについては、エビデンスは限定的だが、メトホルミンはがんリスクを低下させる可能性がある。ピオグリタゾンは、投与された患者で膀胱がんの発生リスクが増加する可能性が完全には否定できないので、膀胱がん治療中の患者には投与を避けることと添付文書に明記されている。 日常診療では、糖尿病とがんに関する日本糖尿病学会と日本学会による医師・医療者への提言を参照のうえ、性別・年齢に応じて適切に科学的に根拠のあるがんのスクリーニングを患者に受診するよう促す必要がある。がん患者における糖尿病 能登氏は最後に、日本での糖尿病を有するがん患者の割合を述べた。糖尿病を有するのは、全がん患者の20.7%、男性では21.8%、女性では19.4%。肝がん患者の32.1%、膵がん患者の31.7%が、糖尿病を合併している13)。なお、日本の一般成人の糖尿病有病率は15%程度である。 また、韓国で実施されたコホート研究によると、がんの既往がない人と比べて、がんの既往のある人・現在がんに罹患している人は、がん全般で糖尿病発症リスクが35%高まることが示された14)。とりわけ膵がんでは5.15倍に跳ね上がる。デンマークで実施されたコホート研究も韓国のデータと同様に、膵がんの糖尿病リスクが5倍となっている15)。 能登氏は今後の課題として、がんに伴う糖尿病リスク増加機序と経過の究明や、最適な治療法・コントロール目標値・医療者連携の確立を挙げ、研究を進めていきたいとまとめた16)。■参考1)中村二郎ほか. 糖尿病. 2024;67:106-128.2)Ling S, et al. Diabetes Care. 2020;43:2313-2322.3)春日雅人ほか. 糖尿病. 2013;56:374-390.4)Hu Y, et al. J Natl Cancer Inst. 2021;113:381-389.5)Noto H, et al. J Diabetes Investig. 2012;3:24-33.6)Johnson JA, et al. Diabetologia. 2011;54:25-31.7)Kobayashi D, Endocr Connect. 2018;7:1457-1463.8)Saito Y, et al. Cancer J. 2019;25:237-240.9)Mao D, et al. Lancet Reg Health West Pac. 2021;18:100315.10)Inoue M, et al. Am J Epidemiol. 2008;168:391-403.11)Adams TD, et al. N Engl J Med. 2007;357:753-761.12)ORIGIN Trial Investigators. N Engl J Med. 2012;367:319-328.13)Saito E, et al. J Diabetes Investig . 2020;11:1159-1162.14)Hwangbo Y, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1099-1105.15)Sylow L, et al. Diabetes Care. 2022;45:e105-e106.16)後藤温ほか. 糖尿病. 2023;66: 705-714.

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ストレスチェックで、その後の精神疾患による長期休職が予測できるか

 労働安全衛生法の改正に伴い、2015年より50人以上の労働者がいる事業所では、ストレスチェックの実施が義務化された。京都大学の川村 孝氏らは、ストレスチェックプログラムを用いた従業員の精神疾患による長期病欠の予測可能性を検討した。Journal of Occupational and Environmental Medicine誌2024年5月1日号の報告。 対象は、2016〜18年に精神疾患の長期病欠を取得した大学職員。対象者と性別、年齢、職種が一致した職場に出勤している大学職員を対照群に割り当てた。57項目の質問票より得られたデータの分析には多変量回帰分析を用い、最終的に予測モデルを開発した。2019年に検証を行った。 主な結果は以下のとおり。・本研究には、22大学(国立大学:19、私立大学:3)が参加し、2016〜19年度まで各年度で約4万500人(15万7,498人年)が参加した。・病欠を取得した職員は723人(10万人年当たり459.1人)、精神疾患により死亡した職員は605人(83.7%)であった。そのうち、病欠前2年以内にストレスチェックに回答した205人(33.9%、自殺者2人含む)を対象に割り付けた。・多変量回帰では、次の6項目が予測因子と特定され、これらを予測モデルに含めた。【職場の方針に自分の意見を反映できる】オッズ比(OR):0.652、95%信頼区間(CI):0.868〜0.490【イライラしたことがある】OR:0.559、95%CI:0.400〜0.783【非常に疲れを感じたことがある】OR:1.799、95%CI:1.334〜2.426【落ち着かないことがある】OR:1.580、95%CI:1.154〜2.163【悲しいことがある】OR:1.590、95%CI:1.148〜2.202【家庭生活に満足している】OR:0.627、95%CI:0.829〜0.475・受信者動作特性曲線下面積(AUC)は、0.768(95%CI:0.723〜0.813)であった。・本結果は、検証サンプルでも同様であった。 著者らは「予測モデルのパフォーマンスは中程度であり、ストレスチェックプログラムのさらなる改良が求められる」としている。

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