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食道がんの術前化学療法前のZn濃度、早期再発に影響

 国立がん研究センター中央病院の久保 祐人氏らは、術前化学療法を受ける食道がん患者において、術前の血清亜鉛(Zn)低値が食道がんの早期再発に悪影響を及ぼすことを明らかにし、術前にZnが欠乏している食道がん患者にはZn補給を行う必要があることを示唆した。Annals of Gastroenterological Surgery誌2024年7月号掲載の報告。 本研究では、2017年8月~2021年2月に術前化学療法後に完全切除(R0切除)が施行された食道がん患者185例を対象に、術前の血清Zn値と臨床転帰の関係を遡及調査した。 主な結果は以下のとおり・対象患者は術前の血清Zn濃度の平均に基づき、低Zn群(64μg/dL未満)と高Zn群(64μg/dL以上)に分けられた。・低Zn群では全生存期間(OS)が有意に短く、低Zn群と高Zn群の2年OS率は76.2% vs.83.3%(p=0.044)だった。・ノンレスポンダー(Grade1a以下)の低Znは、無再発生存期間(RFS)の短縮と有意に関連し、低Zn群と高Zn群の術後2年RFS率は39.6% vs.64.1%(p=0.032)であった。・多変量解析の結果、術前栄養指標のうちBMIと血清Zn濃度の低さが、ノンレスポンダーのRFS悪化の独立した危険因子であることが明らかになった。・レスポンダーと比較し、ノンレスポンダーには男性とパフォーマンスステータス1以上が有意に多く、レスポンダーでは血清Zn濃度に差はなかった。 研究者らは「術前血清Zn濃度は食道がん手術後の早期再発の予測マーカーとして役立つ可能性がある」としている。

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低脂肪食がうつ病リスクに及ぼす影響〜メタ解析

 低脂肪食がうつ病リスクに及ぼす影響を調査するため、イラン・Shahid Sadoughi University of Medical SciencesのSepideh Soltani氏らは、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Nutrition Reviews誌オンライン版2024年6月19日号の報告。 2023年6月7日までに公表されたRCTをPubMed、ISI Web of Science、Scopus、CENTRALデータベースより検索し、低脂肪食(脂肪摂取量がエネルギー摂取量の30%以下)がうつ病スコアに及ぼす影響を調査した試験を特定した。低脂肪食がうつ病リスクに及ぼす影響のプールされた効果(Hedges g)を推定するため、ランダム効果メタ解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・10件のRCT(5万846例)を分析に含めた。・低脂肪食と通常食との比較において、うつ病スコアに有意な違いは認められなかった(Hedges g=−0.11[95%信頼区間[CI]:−0.25〜0.03]、p=0.12、I2=70.7%[95%CI:44〜85])。・タンパク質含有量が摂取カロリーの15〜20%の場合、低脂肪食(5件、Hedges g=−0.21[95%CI:−0.24〜−0.01]、p=0.04、I2=0%)と通常食(3件、Hedges g=−0.28[95%CI:−0.51〜−0.05]、p=0.01、I2=0%)のいずれにおいても、有意な改善が認められた。・感度分析では、ベースラインでうつ病でない患者において、低脂肪食介入後にうつ病スコアの改善が認められた。 著者らは、「メンタルヘルスが良好な参加者を対象とした研究において、低脂肪食はうつ病スコアに対し、わずかに有益である可能性が示唆された。うつ病スコアの改善には、食事中の脂肪量を調整するよりも、タンパク質を十分に摂取したほうがよいと考えられるが、この効果が長期間持続するかは不明である」としている。

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進行期古典的ホジキンリンパ腫の1次治療、BrECADDが有効/Lancet

 進行期の古典的ホジキンリンパ腫の成人患者に対する1次治療において、ブレオマイシン+エトポシド+ドキソルビシン+シクロホスファミド+ビンクリスチン+プロカルバジン+prednisone(eBEACOPP)療法と比較して、2サイクル施行後のPET所見に基づくbrentuximab vedotin+エトポシド+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ダカルバジン+デキサメタゾン(BrECADD)療法は、忍容性が高く、無増悪生存(PFS)率を有意に改善することが、ドイツ・ケルン大学のPeter Borchmann氏らAustralasian Leukaemia and Lymphoma Groupが実施した「HD21試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年7月3日号に掲載された。9ヵ国233施設の無作為化第III相試験 HD21試験は、欧州7ヵ国とオーストラリア、ニュージーランドの合計9ヵ国233施設で実施した非盲検無作為化第III相試験であり、2016年7月~2020年8月に患者を登録した(Takeda Oncologyの助成を受けた)。 新規に診断された進行期の古典的ホジキンリンパ腫(Ann Arbor病期分類のStageIII/IV、B症状を呈するStageII、リスク因子として大きな縦隔病変および節外病変のいずれか、または両方を有する)で、60歳以下の成人患者1,482例(ITT集団)を登録し、BrECADD群に742例、eBEACOPP群に740例を無作為に割り付けた。 両群とも試験薬を21日間隔で投与した。2サイクル(PET-2)および最終サイクルの終了後にPETまたはCTによる奏効の評価を行い、PET-2の所見に基づきその後のサイクル数を決定した。 主要評価項目は、(1)担当医評価による忍容性(投与開始から終了後30日までの治療関連疾患の発生)、および(2)有効性(PFS)に関するBrECADD群のeBEACOPP群に対する非劣性とし、非劣性マージンを6%に設定した。治療関連疾患は、有害事象共通用語規準(CTCAE)のGrade3/4の急性非血液学的臓器毒性、およびGrade4の急性血液毒性と定義した。PFSの優越性を確認 ベースラインの全体の年齢中央値は31歳(四分位範囲[IQR]:24~42)、644例(44%)が女性で、1,352例(91%)が白人であった。 1つ以上の治療関連疾患が発生した患者は、eBEACOPP群が732例中430例(59%)であったのに対し、BrECADD群では738例中312例(42%)と有意に少なかった(相対リスク:0.72、95%信頼区間[CI]:0.65~0.80、p<0.0001)。 PFSの中間解析で、BrECADD群の非劣性が確認されたため優越性の検定を行った。追跡期間中央値48ヵ月の時点における4年PFS率は、eBEACOPP群が90.9%(95%CI:88.7~93.1)であったのと比較して、BrECADD群は94.3%(92.6~96.1)と有意に良好だった(ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.45~0.97、p=0.035)。 また、4年全生存率は、BrECADD群が98.6%(95%CI:97.7~99.5)、eBEACOPP群は98.2%(97.2~99.3)であった。血液学的治療関連疾患が有意に少ない 血液学的治療関連疾患は、eBEACOPP群では732例中382例(52%)で発現したのに対し、BrECADD群では738例中231例(31%)と有意に少なかった(p<0.0001)。これは、赤血球輸血(52% vs.24%)および血小板輸血(34% vs.17%)がBrECADD群で少なかったことに反映されている。Grade3以上の感染症の発生(19% vs.20%)は両群で同程度であった。 ホジキンリンパ腫による死亡は、BrECADD群で3例、eBEACOPP群で1例に認めた。治療関連死はeBEACOPP群で3例にみられた。また、2次がんは、BrECADD群で742例中19例(3%)、eBEACOPP群で740例中13例(2%)に発生した。 著者は、「この第III相試験の結果に基づき、BrECADDは新規に診断された進行期古典的ホジキンリンパ腫の成人患者に対する標準的な治療選択肢となることが期待される」としている。

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tisotumab vedotin、再発子宮頸がんの2次・3次治療に有効/NEJM

 再発子宮頸がんの2次または3次治療において、化学療法と比較してtisotumab vedotin(組織因子を標的とするモノクローナル抗体と微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンEの抗体薬物複合体)は、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、新たな安全性シグナルの発現はないことが、ベルギー・Universitaire Ziekenhuizen LeuvenのIgnace Vergote氏らが実施した「innovaTV 301/ENGOT-cx12/GOG-3057試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年7月4日号で報告された。27ヵ国168施設の無作為化第III相試験 本研究は、日本を含む27ヵ国168施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、前治療後に病勢が進行した再発子宮頸がん患者におけるtisotumab vedotinの有効性と安全性の評価を目的に行われた(GenmabとSeagenの助成を受けた)。 再発または転移を有する子宮頸がんと診断され、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)performance-statusのスコアが0または1の患者502例(年齢中央値50歳[範囲:26~80]、前治療ライン数は1が61.4%、2が38.4%)を登録した。 tisotumab vedotin単剤(2.0mg/kg体重、3週ごと)の静脈内投与を受ける群に253例、担当医が選択した化学療法(トポテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ペメトレキセドのいずれか)を受ける群に249例を無作為に割り付けた。奏効率も有意に優れる 前治療薬として、全体の63.9%がベバシズマブの投与を、27.5%が抗PD-1または抗PD-L1抗体製剤の投与を受けていた。 主要評価項目であるOS中央値は、化学療法群が9.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.9~10.7)であったのに対し、tisotumab vedotin群は11.5ヵ月(9.8~14.9)と有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.54~0.89、両側p=0.004)。 12ヵ月時のOS率は、tisotumab vedotin群が48.7%(95%CI:41.0~55.8)、化学療法群は35.3%(28.0~42.7)であった。 PFS中央値は、化学療法群が2.9ヵ月(95%CI:2.6~3.1)であったのに比べ、tisotumab vedotin群は4.2ヵ月(4.0~4.4)と有意に優れた(HR:0.67、95%CI:0.54~0.82、両側p<0.001)。 また、確定された奏効の割合は、化学療法群の5.2%と比較して、tisotumab vedotin群は17.8%と有意に高率だった(オッズ比:4.0、95%CI:2.1~7.6、両側p<0.001)。毒性による投与中止は14.8% 初回投与の1日目から最終投与後30日までに有害事象が1件以上発現した患者の割合は、tisotumab vedotin群が98.4%、化学療法群は99.2%であり、Grade3以上の有害事象は、それぞれ52.0%および62.3%で発現した。tisotumab vedotin群では、14.8%の患者が毒性により投与を中止した。 とくに注目すべき有害事象では、眼イベントがtisotumab vedotin群で52.8%、化学療法群で6.3%に発現し、このうちGrade3以上はそれぞれ4.0%および0%であった。また、末梢神経障害イベントはそれぞれ38.4%および4.2%、Grade3以上は5.6%および0.4%に、出血イベントは42.0%および14.2%、Grade3以上は2.4%および2.9%に発現した。 著者は、「これらのデータを総合すると、tisotumab vedotinは、再発子宮頸がん患者の治療において化学療法よりも優先される2次または3次治療の選択肢となる可能性が示唆される」としている。

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新型コロナの抗原検査は発症から2日目以降に実施すべき

 今や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの迅速抗原検査はすっかり普及した感があるが、検査は、症状が現れてからすぐに行うべきなのだろうか。この疑問の答えとなる研究成果を、米コロラド大学ボルダー校(UCB)コンピューターサイエンス学部のCasey Middleton氏とDaniel Larremore氏が「Science Advances」に6月14日報告した。それは、検査を実施すべき時期はウイルスの種類により異なるというものだ。つまり、インフルエンザやRSウイルスの場合には発症後すぐに検査を実施すべきだが、新型コロナウイルスの場合には、発症後すぐではウイルスが検出されにくく、2日以上経過してから検査を実施するのが最適であることが明らかになったという。 Middleton氏らは、呼吸器感染症の迅速抗原検査がコミュニティー内での感染拡大に与える影響を検討するために、患者の行動(検査を受けるかどうかや隔離期間など)やオミクロン株も含めたウイルスの特性、その他の因子を統合した確率モデルを開発した。このモデルを用いて検討した結果、新型コロナウイルスの場合、発症後すぐに迅速抗原検査でテストした際の偽陰性率は最大で92%に達するが、発症から2日後の検査だと70%にまで低下すると予測された。発症から3日後だとさらに低下し、感染者の3分の1を検出できる可能性が示唆された。 この結果について研究グループは、「すでにほとんどの人が新型コロナウイルスへの曝露歴を有しているため、免疫系はウイルスに曝露するとすぐに反応できる準備ができている。そのため、最初に現れる症状は、ウイルスではなく免疫反応によるものだと考えられる。また、新型コロナウイルスの変異株は、ある程度の免疫力を持つ人に感染した場合には、オリジナル株よりも増殖スピードが遅い」と説明している。 一方、RSウイルスとインフルエンザウイルスに関しては、ウイルスの増殖スピードが非常に速いため、症状の出現後すぐに検査を実施するのがベストであることが示唆された。 Larremore氏は、最近では新型コロナウイルス、A型およびB型インフルエンザウイルス、およびRSウイルスへの感染の有無を1つの検査で同時に調べることができる「オールインワンテスト」が売り出されるようになり、また、薬局や診察室でも複数のウイルスを一度に調べるコンボテストが行われていることを踏まえ、「これは悩ましい問題だ。発症後すぐの検査だと、インフルエンザウイルスとRSウイルスについてはある程度のことが明らかになるが、新型コロナウイルスについては時期尚早だろう。だが、発症から数日後では、新型コロナウイルスの検査には最適のタイミングだが、インフルエンザウイルスとRSウイルスの検査には遅過ぎる」と話す。 また、Larremore氏は、「新型コロナウイルスの抗原検査の場合、疑陰性率が高過ぎると思うかもしれないが、抗原検査はウイルス量が多く、周囲の人にうつす可能性のある人を検出する目的で作られたものだ」と指摘。その上で、「感染者の3分の1しか検出できなくても、最も感染力の強い3分の1を診断できれば、感染を大幅に減らすことができる」と説明している。 一方、Middleton氏は、最近、米疾病対策センター(CDC)が検査と予防のガイドラインを、「仕事や社会に復帰しても安全かどうかを判断する前に、もう一度、検査をするべき」という内容に改訂したことについて、「より理にかなった内容になった」との見方を示す。同氏は、「以前の方針の『発症後5日間の隔離』は、ほとんどのケースで必要以上に長かったと思う」と話している。

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知ってますか? HeLa細胞、感動の1冊を通じて研究倫理を考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第74回

「誠に申し訳ございませんでした」一列に並んだ皆が頭を下げます。フラッシュが一斉にたかれ、シャッター音が鳴り続けます。5秒ほどたったでしょうか。一斉に頭をゆっくりと上げます。謝罪会見の冒頭です。社会の注目が集まります。謝罪側は、企業のこともあれば、行政組織のこともあれば、大学である場合もあります。大学では、しばしば研究不正が指摘され、そのたびに謝罪会見が行われます。研究活動の不正行為文部科学省のガイドラインで定義は、捏造(Fabrication)・改ざん(Falsification)・盗用(Plagiarism)の3つを特定不正行為としています1)。これらの研究内容の不正だけでなく、研究費の不正使用が問題となる場合もあります。倫理指針を逸脱した研究活動が問題となる場合もあります。倫理が重要視されるのは、「臨床研究においては、被験者の福利に対する配慮が科学的及び社会的利益よりも優先されなければならない」という臨床研究の根本的規範があるからです。医の倫理の起源は、紀元前4世紀から伝わる「ヒポクラテスの誓い」であるそうですが、これは医師が医療行為を行う際の倫理であって、研究の倫理について議論されだしたのは、ずいぶんと時間を経た後のようです。研究者の倫理が論じられる契機としては、ジェンナーによる種痘や、パスツールによる狂犬病ワクチンなどの、開発の過程での人体実験的な側面が有名で、ご存じの方も多いと思います。研究倫理に関する原則は、過去の不適切な人体実験に対応するために作られてきたともいえます。HeLa細胞の医学研究への貢献HeLa(ヒーラ)細胞という名前の細胞をご存じでしょうか。世界中の研究者に用いられ、さまざまな医学研究に寄与し続けてきた細胞です。HeLa細胞はヒト子宮頸がん由来です。不死化しており無制限に細胞分裂を繰り返す能力を持っています。細胞ががん化するのは、遺伝子に突然変異が積み重なり、細胞が不死化することが原因です。正常の細胞は自己が生まれた組織の中で、必要な役割を担って何回か分裂したあと自然に死んでいきます。この不死化したHeLa細胞は、世界中の研究者の元に届けられました。ポリオワクチンの開発に大きく寄与しました。大量培養されたHeLa細胞に、ポリオウイルスを感染させてワクチンの安全性や効果を確認したのです。がんの研究はもちろんのこと、ウイルス感染や、原爆の被爆者への影響などの研究にも貢献しました。体外受精、クローン作成、遺伝子マッピングなどの生命科学の進歩を導きました。HeLa細胞を用いた学術論文は6万本以上といわれます。その過程で生物学的な研究材料を販売するビッグビジネスを創出し、数百万ドル規模の利益をもたらしました。HeLa細胞が問いかける研究倫理ヘンリエッタ・ラックスさんを称える像(バージニア州ロアノーク)HeLa細胞の名前の由来は、その細胞を採取されたヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)さんの名前の頭文字に由来します。貧しいアフリカ系アメリカ人女性が、子宮頸がんで米国・メリーランド州のジョンズ・ホプキンス病院の人種隔離病棟に入院し、1951年に亡くなりました。問題は、その細胞の採取が本人や家族の同意を得ることなく無断で行われたことです。その家族は採取された細胞がもたらした利益とは無縁でした。彼女の夫や子供は、研究者たちが同意なしに調査しようとしたことを契機に、ヘンリエッタ・ラックスさんの身体に由来する細胞が生き続けていることを知ります。研究倫理という問題について、HeLa細胞とその科学への貢献、その家族の経験を通じて見事に描いた作品があります。レベッカ・スクルート著の『The Immortal Life of Henrietta Lacks』です。邦訳は『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』(中里 京子訳、講談社)です。文庫本として『ヒーラ細胞の数奇な運命 医学の革命と忘れ去られた黒人女性』(中里 京子訳、河出文庫)もあります。難しい学術書ではなく、感動的な人間関係を見事に描いた文学作品というべきでしょう。ストーリーの背景に、インフォームドコンセント・人種差別・科学の進歩・研究倫理という問題を織り込んでいます。タイトルに「不死:immortal」とありますが、細胞が不死化するだけでなく、永遠の家族愛が不死化していることを感じます。幼少期に母を亡くした子供たちが、知らない場所で、命を紡ぎ続けた母であるHeLa細胞と出会うシーンは涙を誘います。今年の夏も暑い毎日が続くようです。「暑い」を超えて「熱い」という気温です。寝苦しい夜となります。そんな時には、エアコンを一晩中駆動させて、読書に耽ってみてはいかがでしょうか。中高生のご子息のいる皆さまには、夏休みの宿題になっている読書感想文の素材の1冊としてもお薦めします。読書が苦手という皆さまには、映画化されていることもお伝えしましょう。書籍と同タイトルの作品を日本語字幕でPrime Videoでも視聴できます。これもお薦めです。参考文献・参考サイト1)文部科学省:研究活動の不正行為等の定義

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英語で「追加質問」は?【1分★医療英語】第139回

第139回 英語で「追加質問」は?《例文》医師AThank you for your question. Are there any other questions about my presentation?(ご質問ありがとうございます。ほかに質問はありますか?)医師BYes, I have a follow-up question about this.(はい、これに関する追加質問があります)《解説》医療の場面に限らずとも、会話の中で質問をすることは多いですよね。そんなときに使える便利な表現があります。“follow-up question”で「追加質問」という意味を伝えることができます。たとえば、患者さんへ治療の説明をするとき。患者さんから質問が出てそれに医療者が答えた後にも、患者さんから“May I ask you a follow-up question?”(追加で質問してもいいですか?)と聞かれるかもしれません。ほかにも、医療者間でのプレゼンやカンファレンスで出た質問内容に関連し、自分も追加で質問したいときには、“I have a follow-up question.”(追加質問があります)と言うと自然に話をつなげることができます。日本語でも「フォローアップ」という言葉は使いますが、医療の現場においては「再診」や「検査結果の確認」の意味に限定して使用されることが多いのではないでしょうか。英語でも“follow-up visit”(再診)という使い方はありますが、上述のようにさらに広義の「追加」という意味全般に使うことができます。“follow-up”は1単語の名詞・形容詞として使いますが、“follow up”と間のハイフンが消えると動詞としても使えます。“Please follow up on the test result.”(この検査結果に関してフォローアップ[後日確認]しておいてください)といった感じで使われます。講師紹介

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週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位」【最新!DI情報】第19回

週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位」今回は、週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液「インスリン イコデク(遺伝子組換え)(商品名:アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/同700単位、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、世界初の週1回投与の基礎インスリン製剤であり、QOLやアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>インスリン療法が適応となる糖尿病の適応で、2024年6月24日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人では1週間に1回皮下注射します。初期は通常1回30~140単位とし、患者の状態に応じて適宜増減します。他のインスリン製剤の投与量を含めた維持量は、通常1週間あたり30~560単位ですが、必要により上記用量を超えて使用することもあります。<安全性>重大な副作用として、低血糖やアナフィラキシーショック(頻度不明)があります。低血糖は臨床的に回復した場合にも再発することがあるので、継続的な観察が必要です。とくに、本剤は週1回投与の持続性がある薬ですので、回復が遅延する恐れがあります。その他の主な副作用として、糖尿病性網膜症、体重増加(1~5%未満)、注射部位反応、空腹、浮動性めまい、悪心・嘔吐、多汗症、筋痙縮(0.2~1%未満)などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、生理的なインスリンの基礎分泌を補充する目的で使用される自己注射薬です。週1回投与する注射薬ですので、同一曜日に投与してください。2.自己判断で使用を中止したり、量を加減したりせず、医師の指示に従ってください。3.高所での作業や自動車の運転など、危険を伴う作業に従事しているときに低血糖を起こすと事故につながる恐れがありますので、とくに注意してください。4.他のインスリン製剤と併用することがあります。この薬と他のインスリン製剤を取り違えないように、毎回注射する前にラベルなどを確認してください。<ここがポイント!>本剤は、世界で初めてとなる週1回投与の基礎インスリン製剤です。従来のインスリン製剤では、1日1回もしくは2回の皮下注射が必要だったので、投与回数が大幅に減少し、患者さんの負担軽減により、生活の質やアドヒアランスの向上が期待できます。インスリン イコデクは、投与後に強力かつ可逆的にアルブミンと結合し、その後、緩徐にアルブミンから解離することで、血糖降下作用が1週間にわたって持続します。インスリン治療歴のない2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 1試験)において、主要評価項目であるHbA1cのベースラインから投与後52週までの変化量を、本剤とインスリン グラルギンで比較しています。本剤とインスリン グラルギンの変化量はそれぞれ-1.55%および-1.35%(群間差:-0.19[95%信頼区間:-0.36~-0.03]、p<0.001)であり、本剤のインスリン グラルギンに対する非劣性が確認されました(非劣性マージン:0.3%)。同様に、HbA1cのベースラインから投与後26週までの変化量について、基礎インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 2試験:インスリン デグルデクとの比較)、基礎・追加インスリン療法で治療中の2型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 4試験:インスリン グラルギンとの比較)、1型糖尿病患者を対象とした第III相国際共同試験(ONWARDS 6試験:インスリン デグルデクとの比較)において、いずれも既存の持効型インスリン製剤に対する非劣性が証明されています(非劣性マージン:0.3%)。

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ASCO2024 レポート 乳がん

レポーター紹介2024年5月31日~6月4日まで5日間にわたり、ASCO2024がハイブリッド形式で開催された。昨年も人が戻ってきている感じはあったが、会場の雰囲気はコロナ流行前と変わりなくなっていた。一方、日本からの参加者は若干少なかったように思われる。これは航空運賃の高騰に加えて、円安の影響が大きいと思われる(今回私が行ったときは1ドル160円!! 奮発した150ドルのステーキがなんと24,000円に…。来年は費用面で行けない可能性も出てきました…)。さて、本題に戻ると、今回のASCOのテーマは“The Art and Science of Cancer Care:From Comfort to Cure”であった。乳がんの演題は日本の臨床に大きなインパクトを与えるものが大きく、とくにPlenary sessionの前に1演題のためだけに独立して行われたセッションで発表されたDESTINY-Breast06試験は早朝7:30のセッションにもかかわらず、満席であった。日本からは乳がんのオーラルが2演題あり、日本の実力も垣間見ることとなった。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。DESTINY-Breast06試験トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)は日本で開発が開始され、現在グローバルで最も使われている抗体薬物複合体(ADC)の1つと言っても過言ではない。乳がんではHER2陽性乳がんで開発され、現在はHER2低発現乳がんにおける2次化学療法としてのエビデンスに基づいて適応拡大されている。20年近く乳がんの世界で用いられてきたサブタイプの概念を大きく変えることになった薬剤である。T-DXdのHER2低発現乳がんの1次化学療法としての有効性を検証したのがDESTINY-Breast06(DB-06)試験である。この試験では、ホルモン受容体陽性HER2低発現の乳がんにおいて、T-DXdの主治医選択化学療法に対する無増悪生存期間(PFS)における優越性が検証された。この試験のもう1つの大きな特徴は、HER2超低発現(ultra-low)の乳がんに対する有効性についても探索的に検討したことである。HER2超低発現とは、これまで免疫組織化学染色においてHER2 0と診断されてきた腫瘍のうち、わずかでもHER2染色があるものを指す。本試験では866例(うちHER2低発現713例、超低発現が152例)の患者がT-DXdと主治医選択治療(TPC)に1:1に割り付けられた。主要評価項目はHER2低発現におけるPFSで13.2ヵ月 vs. 8.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.51~0.74、p<0.0001)とT-DXd群の優越性が示された。ITT集団においても同様の傾向であった。HER2超低発現の集団については探索的項目であるが、PFSは13.2ヵ月 vs.8.3ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.50~1.21)とHER2低発現の集団と遜色ない結果であった。一方、全生存期間(OS)についてはHER2低発現でHR:0.83、HER2超低発現でHR:0.75であり、いずれも有意差はつかなかった。有害事象は既知のとおりであるが、薬剤性肺障害(ILD)はany gradeで11.3%であった。2次化学療法の試験であるDESTINY-Breast 04試験ではOSの優越性も示されているため、OSの優越性が示されていない状況で毒性の強い薬剤をより早いラインで使うかどうかは議論が必要であろう。また、HER2超低発現の病理評価の標準化についても課題が残される。postMONARCH試験こちらも待望の試験である。日本国内で使えるCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブのbeyond PD(progressive disease)を証明した初の試験である。これまでMAINTAIN試験で(phase2ではあるが)、CDK4/6阻害薬の治療後のribociclibの有効性が示されていたが、ribociclibは日本国内では未承認なため、エビデンスを活用することができなかった。postMONARCH試験では、転移乳がん、もしくは術後治療としてホルモン療法(転移乳がんはAI剤)とCDK4/6阻害薬を使用後にPDもしくは再発となった368例の患者を対象に、フルベストラント+アベマシクリブ/プラセボに1:1に割り付けられた。術後CDK4/6阻害薬後の再発が適格となっていたが残念ながら全体で2例のみであり、プラクティスへの参考にはならなかった。前治療のCDK4/6阻害薬はパルボシクリブが60%と最も多く、ついでribociclibで、アベマシクリブは両群とも8%含まれた。主要評価項目は主治医判断のPFSで、6.0ヵ月 vs. 5.3ヵ月(HR:0.73、95%CI :0.57~0.95、p=0.02)とアベマシクリブ群で良好であった。盲検化PFSが副次評価項目に設定されていたが、面白いことに12.9ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.55、95%CI:0.39~0.77、p=0.0004)と主治医判断よりも良い結果となった。有害事象はこれまでの臨床試験と変わりはなかった。この試験の結果をもって、自信を持ってホルモン療法の2次治療としてフルベストラント+アベマシクリブを実施できるようになったと言える。JBCRG-06/EMERALD試験さて、日本からの試験も紹介する。研究代表者である神奈川県立がんセンターの山下 年成先生が口演された。本試験はHER2陽性転移乳がんの初回治療として、標準治療であるトラスツズマブ+ペルツズマブ+タキサン(HPT)療法に対して、トラスツズマブ+ペルツズマブ+エリブリン療法が非劣性であることを証明した。446例の患者が登録され、1:1に割り付けられた。ホルモン受容体は60%が陽性であり、PSは80%以上が0であった。初発StageIVが60%を占めていた。主要評価項目のPFSはHPT群12.9ヵ月 vs.エリブリン群14.0ヵ月(HR:0.95、95%CI:0.76~1.19、p=0.6817)で非劣性マージンの1.33を下回り、エリブリン群の非劣性が示された。化学療法併用期間の中央値はエリブリン群が28.1週、HPT群は約20週であり、エリブリン群で長かった。OSもHR:1.09(95%CI:0.76~1.58、p=0.7258)と両群間の差を認めなかった。毒性については末梢神経障害がエリブリン群で61.2% vs. HPT群で52.8%(G3に限ると9.8% vs.4.1%)と、エリブリン群で多かった。治療期間が長いことの影響があると思われるが、less toxic newと言ってよいかどうかは悩ましいところである。HER2陽性乳がんにおけるエリブリン併用療法は1つの標準治療になったと言えるが、実臨床での使用はタキサンアレルギーの症例などに限られるかもしれない。ER低発現乳がんにおける術後ホルモン療法こちらはデータベースを使った後ろ向き研究であり臨床試験ではないが、実臨床の疑問に重要なものであるため取り上げる。米国のがんデータベースからStageI~IIIでER 1~10%の症例を抽出し、術後ホルモン療法の実施率と予後を検討したものである。データベースから7,018例の対象症例が抽出され、42%の症例が術後ホルモン療法を省略されていた。ホルモン療法実施群と非実施群におけるOSは3年OSが92.3% vs.89.1%であり、HR:1.25、95%CI:1.05~1.48、p=0.01と実施群で良い傾向にあった。後ろ向き研究ではあるが、ER低発現であっても術後ホルモン療法に意義がある可能性が提示されたことは、今後の術後治療の選択にとって重要な情報である。PRO-DUCE試験最後に日本からのもう1つの口演であるPRO-DUCE試験を紹介する。これは治療薬の臨床試験ではなく、ePROが患者のQOLに影響するかを検証した試験である。関西医科大学の木川 雄一郎先生によって発表された。本試験はT-DXdによる治療を受ける患者を対象として、ePRO+SpO2/体温の介入が通常ケアと比較してQOLに影響するかを比較した。主要評価項目はベースラインから治療開始24週後のEORTC QLQ-C30を用いたglobal health scoreの変化であり、ePRO群では-2.4、通常ケア群では-10.4であり、両群間の差は8.0(90%CI:0.2~15.8、p=0.091)と統計学的に有意にePRO群で良好であった。その他の項目では倦怠感はePRO群で良好であったが、悪心/嘔吐は両群間の差は認めなかった。この研究は日本から乳がんにおいてePROが有効であることを示した初の試験である。ePROは世界的にも必須のものとなっており、今後の発展が期待される。

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併診依頼後のフォローは必要?【医療訴訟の争点】第2回

症例総合病院においては、他診療科に併診(コンサルテーション)依頼を出すことがあるが、その進捗状況や結果を確認し、精査が滞らないようにする義務が争われた横浜地裁令和3年12月15日判決(併診依頼時は平成18年)を紹介する。争点は多岐にわたるが、併診依頼の進捗確認・精査の点に絞ることとする。<登場人物>患者66歳(併診依頼時)・男性平成13年右鼠径部脂肪摘出術(複数の腫瘤摘出)原告患者の妻・子被告総合病院の泌尿器科医(併診依頼元医師)同病院の消化器内科医(併診依頼先医師)事案の概要は以下の通りである。平成18年7月排尿困難を主訴に被告病院の泌尿器科を受診。右腹部に腫瘤を触知。8月3日腹部CT検査。骨盤腔内の後腹膜部と腸間膜部に脂肪肉腫と考えられる腫瘤を確認。8月11日CT結果を踏まえ、泌尿器科医は、消化器内科に併診依頼。9月4日消化器内科にて大腸内視鏡検査を実施。9月19日消化器内科医が、消化器内科では一度終診とする旨の返書。平成20年3月5日右陰嚢部の腫瘤を自覚し、被告病院泌尿器科受診。腹部エコー検査にて、右精索部にゴルフボール大の腫瘤を2個確認。3月11日右高位精巣摘除術実施。病理検査の結果、摘出された腫瘤病変は脱分化型脂肪肉腫と診断。4月22日他院にて、大網、腸間膜、後腹膜腫瘍摘出術実施。病理検査の結果、脱分化型脂肪肉腫と診断。平成21年7月14日他院にて、脂肪肉腫の切除を目的とする開腹手術を受けるも、開腹時に脂肪肉腫の腹膜播種が確認されたため根治不能と判断され、バイパス術を受けて手術終了。平成22年6月15日脂肪肉腫に起因した腎不全が直接死因となり、死亡。実際の裁判結果裁判所は、「併診対象となった事象の性質や、併診結果が併診元の方針に与える影響の程度等によっては、併診元において、報告返書の到着を待つのみでは足りない場合があるというべき」とした上で、(1)腸間膜部の腫瘤が比較的稀少な疾患で、その精査を行うべき診療科が消化器内科であることが確立していたとは言えず、その後の検査、治療の方針の検討を併診先の医師に委ねる状況にあったとは言い難いこと(2)泌尿器科医自身が、消化器内科の併診結果を泌尿器科での治療方針にも影響し得る重要事項と位置付け、腸間膜部腫瘤の良悪性の鑑別を優先させる趣旨で併診依頼を作成していたこと(3)脂肪肉腫は、早期の発見・治療が求められる疾患であり、泌尿器科医もその認識があったことの事情を指摘し、併診依頼をした泌尿器科医は「本件腸間膜部腫瘤の精査が滞らないように配慮すべき注意義務を負っていた」として、腸間膜部腫瘤の関係で何らの措置が講じられていなかったことに対し、注意義務違反を認めた。なお、併診依頼先の消化器内科医師の責任については、裁判所は、「本件併診願が作成された当時、MRI検査や生検によって、腸間膜部腫瘤の精査を速やかに行う必要があった」としつつも、「注意義務があると言えるためには、腸間膜部の腫瘤の精査を行うべき診療科が消化器内科であることが臨床医学の実践として確立しているか、または被告病院における診療体制として確立していることが必要」とし、当時、腸間膜部の腫瘤の精査を行うべき診療科が消化器内科であることが確立していたとは認められないとし、消化器内科医師に腸間膜部腫瘤の精査を実施すべき注意義務を否定した。注意ポイント解説本件は、泌尿器科医が、消化器内科の併診結果を泌尿器科での治療方針にも影響し得る重要事項と位置付け、腸間膜部腫瘤の良悪性の鑑別を優先させる趣旨で「下腹部触診にて腫瘤触れCTを撮ったところ、直径5cm程度の腸間膜の腫瘍があるようでした。お忙しいところ恐縮ですが、御高診よろしくお願い申し上げます」「内科の予定がついたら当科の予定を組みたいと存じます」として併診を依頼した事案であった。また、泌尿器科医は腸間膜部腫瘤が早期の発見・治療が求められる疾患である可能性を認識していた。そのような事情があるにもかかわらず、消化器内科では、本件腸間膜部腫瘤そのものの精査は消化器内科の診療領域には属さないと考え、併診依頼をした腸間膜部腫瘤の精査とは直接関連する検査とは言えない大腸内視鏡検査が行われたのみであった。そして、その後、約1年半の期間、患者の腹部を精査する検査が行われなかった。本件は、具体的に腸間膜の腫瘍を指摘した上での併診依頼がなされたものの、併診依頼先の消化器内科が診療領域外と判断し、依頼の趣旨に沿う検査がなされなかった。そして、当時の「臨床医学の実践」として、腸間膜部腫瘤の精査は消化器内科に委ねることが確立していたとも言えなかったため、併診依頼先の消化器内科医の注意義務が否定された一方で、併診依頼元の泌尿器科医に、併診依頼をした腸間膜部腫瘤の精査が滞らないように配慮すべき注意義務が認められた。どの診療科が精査・治療を行うかについて確立していない症状・所見・疾患については、併診依頼元の医師としては、依頼先がきちんと精査をすることを期待して併診依頼している。しかし、併診依頼先の医師としては、自らの診療対象外と認識している場合や、ピンポイントの検査のみで十分と考えている場合もある。その場合、併診依頼先で行われた検査が、併診依頼元の医師が鑑別等を期待した疾患の精査として不十分な場合もありうる。このような場合、併診依頼元の医師に、然るべき精査・治療が行われるようフォロー対応する義務があることを認めた判決であった。他方、精査・治療対象の疾患について、併診依頼先の診療科において精査・治療することが「臨床医学の実践」として確立している場合は、併診依頼先において然るべき精査・治療を行う義務があることとなる。なお、精査・鑑別対象の疾患について、併診依頼先の診療科に関する文献に記載があるということだけでは、併診依頼先において精査・治療を行うべきとは言えない点に注意を要する。医療者の視点昨今では、専門分野が細分化されているため、自身の専門分野以外の疾患については、他科コンサルト/併診依頼する場合が多いです。そのような場合、つい併診依頼元の医師は「こちらの患者さんはコンサルトしたからもう大丈夫」と思いがちです。また、併診依頼先の医師においては、「主科は併診依頼元の医師だから、自分の科の領域の検査のみ行えれば十分」と考えがちです。お互いに診療を相手任せにしてしまうことで、患者さんに不利益が生じるリスクがあります。本件は腸間膜部腫瘤という稀な疾患ですが、自身が担当した患者さんについては、コンサルトした後も経過をフォローする必要があります。また、コンサルトを受けた場合においても、自身の診療によって患者さんが抱えていた問題が解決したかどうか等、確認することが重要です。Take home message対象の症状・所見・疾患の精査・治療を自らの診療科で行えない場合において、他の診療科に併診を依頼するとき、併診依頼先の診療科において然るべき精査・治療が行われるようフォローする必要がある。キーワード臨床医学の実践とは医師の責任の根拠となる注意義務違反(過失)は、「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」を基準に判断される。この「臨床医学の実践における医療水準」は、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等によって違いがありうるものであるが、大まかに言えば「診療当時、類似の規模・特性の医療機関において行われていること」が医療水準となる。このため、文献に記載があるからと言ってもそれが当然に「臨床医学の実践における医療水準」となるものではない。また、診療ガイドラインも、各ガイドラインの目的・性格、成立過程や普及の程度、記載されている具体的な診療方法のエビデンスレベルや推奨度等にそれぞれ違いがあるため、あくまで策定当時の「臨床医学の実践における医療水準」を判断する際のひとつの資料と位置付けられるものである(ガイドラインの記載内容が、当然に「臨床医学の実践における医療水準」となるものではない)。

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第223回 マイクロRNA除去でマウスが性転換

マイクロRNA除去でマウスが性転換小ぶりなRNA配列であるマイクロRNA(miRNA)一揃いを省くことで、マウスの生物学的な性をオスからメスにすっかり変えることができました1,2)。それらのmiRNAはmiR-17~92群と呼ばれ、6つのmiRNA遺伝子で構成されます。miRNAはタンパク質のアミノ酸配列を指定するものではなく、遺伝子発現を調節する役割を担います。性染色体がXYのマウスのmiR-17~92群を省いたところ、精巣は作られず、代わりにメスの証である卵巣が生じました。その仕組みを調べるべくmiR-17~92群を備える野生型マウスとmiR-17~92群を欠くマウスの細胞組成を比較したところ、精子発達を支えるセルトリ細胞の分化がmiR-17~92群を欠くマウスでは減少していました。miR-17~92群はセルトリ細胞の分化に携わっているようです。さらに研究を進めたところ、miR-17~92群を省くとセルトリ細胞の発生が妨げられることには、精巣の発達に不可欠なタンパク質である性決定領域Y(SRY)の抑制が寄与していると示唆されました。性染色体がXYの胚ではいつもどおりならSRY遺伝子が発現し、精巣発達に不可欠な転写因子SOX9が活性化されることで生殖腺は精巣になっていきます。一方、SRY遺伝子がない性染色体XXの胚では卵巣が作られます。性染色体がXYの動物での精巣の発達には、ちょうどよい時期でのSRY遺伝子発現を必要とすることが先立つ研究で示されています。しかしmiR-17~92群を省いた胚の精巣ではSRY遺伝子の発現が半日(12時間)ほど後ろ倒しになっており、SRYも減少していました。また、セルトリ細胞の前駆細胞にSOX9が見当たりませんでした。そのようなタンパク質発現の変化が相まって、最終的にマウスの性転換を引き起こしたようです。今回の研究には携わっていないThe Francis Crick Instituteの卵巣発達学者Roberta Migale氏は、miR-17~92群を省いて生じた変化は目を見張るものであり、性の完全転換はまったく驚くべきことだと言っています3)。Migale氏によると、miR-17~92群は進化で振り落とされずよく残っており、今回の研究で示されたような性決定の仕組みはヒトにもありそうです。これまで何十年も性決定研究の的といえばタンパク質の基になる遺伝子であり、タンパク質の基ではないmiRNAのような非コード因子の性決定への寄与はわからないままでした。今回の発見を契機に性発達疾患の臨床研究で非コード因子に目が向けられるようになることをMigale氏は望んでいます。今後の課題としてmiR-17~92群がSRY遺伝子の発現をどう調節しているかを調べる必要があります。SRY遺伝子はmiR-17~92群の標的とみなされておらず、miR-17~92群の欠如は何らかの仲介によってSRY遺伝子発現を遅らせるようです。ちなみにmiR-17~92群を省くと数百もの遺伝子発現が乱れます1)。miR-17~92群の働きの正確な把握はかなりの技術が必要だろう、と今回の研究を率いたスペインのグラナダ大学のFrancisco Barrionuevo氏は言っています3)。参考1)Hurtad A, et al. Nat Commun. 2024;15:3809.2)Scientists made mice with Y chromosomes female by deleting just 6 tiny molecules / Live Science3)Deleting a MicroRNA Cluster Reversed Biological Sex in Mice / The Scientist

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外科「電気メスの基本手技」【臨床実習を味わうケアネット動画Café】第2回

動画解説臨床研修サポートプログラムの研修医のための外科ベーシックより、本間崇浩先生の「電気メスの基本手技」を鑑賞します。電気メスの各設定で生肉を切ってみる。有害事象を起こさないためにデバイスの仕組みもしっかり勉強して臨みましょう!

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急性肝障害の発現率、194種類の薬剤で比較

 実臨床における重度の薬剤誘発性急性肝障害の発現率に関するデータは少ない。そこで、米国・ペンシルベニア大学のJessie Torgersen氏らの研究チームは、肝毒性が疑われる194種類の薬剤について、重度の急性肝障害の発現率を調査した。その結果、1万人年当たり10件以上の重度の急性肝障害が認められた薬剤は7種類であった。また、重度の急性肝障害の発現率が高い薬剤には、抗菌薬が多かった。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年6月24日号で報告された。 研究チームは、米国退役軍人のデータを用いて後ろ向きコホート研究を実施した。本研究には、2000年10月1日~2021年9月30日の期間のデータを用いた。対象は、肝臓疾患や胆道疾患の既往歴がない患者789万9,888例とした。外来で処方される薬剤のうち、過去に薬剤誘発性肝障害が報告されている194種類について、1万人年当たりの重度の急性肝障害の発現率を調査した。主要評価項目は、薬物治療開始後に発現した入院を要する重度の急性肝障害の発現率とした。 主な結果は以下のとおり。・重度の急性肝障害が1万人年当たり10件以上発現した薬剤は7種類であった。薬剤の種類および1万人年当たりの発現率(95%信頼区間[CI])は以下のとおり。 スタブジン(販売中止):86.4件(27.7~269.7) エルロチニブ:19.7件(7.4~53.0) レナリドミド:13.7件(6.4~28.9) クロルプロマジン:12.0件(4.5~32.3) メトロニダゾール:11.8件(7.4~18.7) プロクロルペラジン:11.6件(7.4~18.2) イソニアジド:10.5件(5.8~19.2)・重度の急性肝障害が1万人年当たり5.0~9.9件以上発現した薬剤は10種類であった。薬剤の種類および1万人年当たりの発現率(95%CI)は以下のとおり。 モキシフロキサシン:9.3件(5.6~15.4) アザチオプリン:7.7件(3.7~16.4) レボフロキサシン:7.2件(4.6~11.1) クラリスロマイシン:6.7件(3.3~13.5) ケトコナゾール:6.1件(2.0~19.0) フルコナゾール:6.0件(3.4~10.4) カプトプリル:5.8件(2.7~12.2) アモキシシリン・クラブラン酸:5.4件(3.7~7.9) スルファメトキサゾール:5.1件(3.5~7.3) シプロフロキサシン:5.1件(3.5~7.4)・以上の17種類のうち11種類は、既存のケースレポートに基づく急性肝障害の発現リスク分類において、最上位に含まれていない薬剤であった。・17種類のうち11種類を抗菌薬・抗レトロウイルス薬が占めた。

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未治療の急性期統合失調症患者におけるビリルビン値と代謝パラメータとの関連

 酸化システムは、統合失調症発症に重要な影響を及ぼす。統合失調症患者のさまざまなエピソードにおいて、高ビリルビン血症と精神病理や糖脂質代謝との間に、一貫性のない関連が認められている。中国・安徽医科大学のYinghan Tian氏らは、急性期エピソードおよび薬物治療未治療の統合失調症患者を対象に、これらの関連性を調査した。BMC Psychiatry誌2024年5月29日号の報告。 安徽医科大学附属巣湖病院の電子カルテシステムより抽出した5年間(2017年5月〜2022年5月)のデータを用いて、レトロスペクティブ研究を実施した。地元の医療スクリーニングセンターより同期間の健康対象者データを抽出した。対象者のビリルビン濃度(総ビリルビン[TB]、抱合ビリルビン[CB]、非抱合ビリルビン[UCB])、糖脂質代謝パラメータ、簡易精神症状評価尺度(BPRS)スコアを収集した。 主な結果は以下のとおり。・特定された1,468件の症例記録をスクリーニング後、急性期エピソードおよび薬物治療未治療の統合失調症患者(AEDF群)89例および対照群100例を対象に、分析を行った。・AEDF群は、対照群と比較し、CBレベルが高く、HDLコレステロール(HDL-C)を除く糖脂質代謝パラメータのレベルが低かった(各々、p<0.001)。・バイナリロジスティック回帰分析により、AEDF群のビリルビンレベルの高さと独立して関連が認められた因子は、次のとおりであった(各々、p<0.05)。●BPRS総スコア、抵抗サブスケールスコアの高さ●HDL-Cレベルの高さ●総コレステロール、トリグリセライドレベルの低さ 著者らは、「急性期エピソードおよび薬物治療未治療の統合失調症患者では、ビリルビンレベルが上昇しており、ビリルビンレベルが高いほど、精神病理がより重篤で、糖脂質代謝が比較的最適化されていることが示唆された。臨床現場では、この患者集団のビリルビン値を定期的にモニタリングすべきである」としている。

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EGFR陽性NSCLCの1次治療、amivantamab+lazertinibがPFS延長/NEJM

 未治療の上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療において、標準治療であるオシメルチニブ(第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬[TKI])と比較して、amivantamab(EGFRと間葉上皮転換因子[MET]を標的とする二重特異性抗体)+lazertinib(活性化EGFR変異とT790M変異を標的とする第3世代EGFR-TKI)の併用療法は、無増悪生存期間(PFS)が有意に長く、安全性のデータは既報の第I、II相試験と一致することが、韓国・延世大学校医科大学のByoung C. Cho氏らMARIPOSA Investigatorsが実施した「MARIPOSA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年6月26日号に掲載された。実薬対照の国際的な無作為化第III相試験 MARIPOSA試験は、amivantamab+lazertinib併用療法の有効性と安全性の評価を目的とする日本を含む国際的な無作為化第III相試験であり、2020年11月~2022年5月に参加者の無作為化を行った(Janssen Research and Developmentの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、未治療の局所進行または転移を有するEGFR遺伝子変異陽性(exon19欠失またはL858R)NSCLC患者1,074例を登録し、amivantamab+lazertinib群(非盲検)に429例(年齢中央値64歳、女性64%)、オシメルチニブ群(盲検)に429例(63歳、59%)、lazertinib群(盲検)に216例を無作為に割り付けた。 主要評価項目は、オシメルチニブ群との比較におけるamivantamab+lazertinib群のPFSとし、盲検下独立中央判定による評価が行われた。中間解析でのOSは評価不能 全体の追跡期間中央値は22.0ヵ月で、投与期間中央値はamivantamab+lazertinib群18.5ヵ月、オシメルチニブ群18.0ヵ月であった。 PFS中央値は、オシメルチニブ群が16.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.8~18.5)であったのに対し、amivantamab+lazertinib群は23.7ヵ月(19.1~27.7)と有意に長かった(病勢進行または死亡のハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.58~0.85、p<0.001)。lazertinib群のPFS中央値は18.5ヵ月(95%CI:14.8~20.1)だった。 また、奏効率は、amivantamab+lazertinib群が86%(95%CI:83~89)、オシメルチニブ群は85%(81~88)であった。奏効期間中央値は、それぞれ25.8ヵ月(95%CI:20.1~評価不能)および16.8ヵ月(14.8~18.5)だった。 一方、予定された中間解析における全生存期間(OS)中央値は両群とも未到達であり、死亡のHRは0.80(95%CI:0.61~1.05)であった。EGFR阻害関連の有害事象が多い 主な有害事象はEGFR阻害関連の毒性作用であり、爪囲炎がamivantamab+lazertinib群の68%、オシメルチニブ群の28%で、皮疹がそれぞれ62%および31%で発現した。注入に伴う反応(infusion-related reaction)は、amivantamab+lazertinib群の63%に認め、その大部分はサイクル1の1日目に発生した。 Grade3以上の有害事象は、amivantamab+lazertinib群が75%、オシメルチニブ群が43%で発現し、重篤な有害事象はそれぞれ49%および33%で発現した。治療関連有害事象によるすべての試験薬の投与中止は、amivantamab+lazertinib群が10%、オシメルチニブ群は3%に認め、死亡の原因となった有害事象はそれぞれ34例(8%)および31例(7%)で発現した。 著者は、「amivantamabをlazertinibと併用する科学的根拠は、オシメルチニブに対する腫瘍の耐性機序への積極的な対処法となることであった。この併用療法には、化学療法を後の治療ラインに温存できるという利点もある」と述べ、また「治療関連有害事象によるすべての試験薬の投与中止の頻度は低く、ほとんどの患者が治療を継続できることが示唆された」としている。

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脳卒中後の血圧コントロール不良、看護師電話管理で改善/JAMA

 コントロール不良の高血圧で主に低所得の黒人およびヒスパニックの脳卒中生存者では、家庭血圧遠隔モニタリング(HBPTM)単独と比較して、電話を用いた看護師による患者管理(NCM)をHBPTMに追加することで、1年後の収縮期血圧(SBP)が有意に低下し、2年後の脳卒中の再発には差がないことが、米国・ニューヨーク大学ランゴーン医療センターのGbenga Ogedegbe氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2024年7月2日号で報告された。ニューヨーク市8施設で無作為化試験 本研究は、ニューヨーク市の合計8つの脳卒中センターと外来診療施設で実施した臨床ベースの無作為化試験であり、2014年4月~2017年12月に参加者を登録した(米国国立神経疾患・脳卒中研究所[NINDS]の助成を受けた)。 年齢18歳以上、中等度以下の機能障害(修正Rankin尺度≦3)を有し、退院後1ヵ月以上が経過した脳卒中で、コントロール不良の高血圧(スクリーニング受診時に3回測定したSBPの平均値が≧130mmHg)を呈する黒人またはヒスパニックの患者450例を登録した。HBPTM+NCM群に224例、HBPTM単独群に226例を無作為に割り付けた。 両群の患者に遠隔モニタリング機能を備えた自動家庭血圧測定器が支給され、患者は週に12回、12ヵ月間にわたり測定結果を医師に送信した。HBPTM単独群には、米国国立衛生研究所(NIH)が作成した脳卒中と高血圧管理に関する冊子が配布され、HBPTM+NCM群は、患者管理の訓練を受けた看護師から、カウンセリングのための電話を12ヵ月間に20回受けた。 主要アウトカムは、12ヵ月の時点におけるSBPの変化量および24ヵ月時の脳卒中の再発とした。SBP変化量の群間差-8.1mmHg ベースラインの全体の平均(SD)年齢は61.7(11.0)歳、51%(231例)が黒人、44%(200例)が女性で、31%(137例)が3つ以上の併存疾患を有し、72%(情報が得られた324例中234例)が世帯年収2万5,000ドル未満であった。 SBPは両群とも有意に改善した。HBPTM単独群では、ベースラインの147.1mmHgから12ヵ月時には141.3mmHgへと5.8mmHg(95%信頼区間[CI]:3.7~7.9)低下したのに対し、HBPTM+NCM群は、148.3mmHgから133.2mmHgへと15.1mmHg(13.0~17.2)低下し、変化量の群間差は-8.1mmHg(95%CI:-11.2~-5.0)とHBPTM+NCM群で有意に良好であった(p<0.001)。 24ヵ月時までに、脳卒中の再発は、HBPTM+NCM群が9例(4.0%)、HBPTM単独群も9例(4.0%)で発生した(p>0.99)。再発例の3分の2は虚血性だった。130/80mmHg未満、140/90mmHg未満の達成はNCM追加群で良好 血圧コントロールは経時的に改善し、130/80mmHg未満の達成(p<0.001)および140/90mmHg未満の達成(p=0.002)はいずれも、HBPTM単独群に比べHBPTM+NCM群で有意に優れた。 また、血圧遠隔モニタリング装置を含む患者1例当たりの費用は、NCM+HBPTM群が1,594.03ドル、HBPTM単独群は938.77ドルであった。 著者は、「併存疾患の多い低所得の黒人およびヒスパニックの脳卒中生存者の管理では、NCMで強化した遠隔医療プログラムが有効であることが示唆されるが、長期的な臨床アウトカム、費用対効果、一般化可能性、およびその標準治療としての普及について解明するにはさらなる研究を要する」としている。

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特定の前立腺肥大症治療薬がレビー小体型認知症の予防に有効か

 特定の前立腺肥大症治療薬が、レビー小体型認知症のリスク低下に役立つ可能性のあることが新たな研究で示唆された。米アイオワ大学内科学分野のJacob Simmering氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に6月19日掲載された。Simmering氏は、「レビー小体型認知症は、神経変性により生じる認知症としてはアルツハイマー病に次いで多いが、現時点では予防や治療のための薬剤がないため、今回の結果には心が躍った。既存の薬剤がこの衰弱性疾患の予防に有効であることが確認されれば、その影響を大幅に軽減できる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 米国立老化研究所(NIA)によれば、米国でのレビー小体型認知症の患者数は100万人以上に上るという。レビー小体型認知症は、高度にリン酸化したα-シヌクレインと呼ばれるタンパク質が脳の神経細胞に凝集・沈着して形成されるレビー小体が原因で発症するとされている。レビー小体型認知症では、思考力や記憶力、運動機能が障害されるほか、幻視が生じる可能性もあり、実際に、80%以上の患者では実在しないものが見えるという。 前立腺肥大症の治療では、排尿障害を改善する治療薬として、前立腺と膀胱の筋肉を弛緩させる作用のあるα1受容体遮断薬のテラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンが用いられている。研究グループによると、これらの薬剤にはまた、脳細胞のエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)の産生に重要な酵素を活性化する作用もあり、過去の研究では、パーキンソン病においてこれらの薬剤が神経保護作用を有する可能性が示唆されているという。今回の研究では、パーキンソン病と密接に関連するレビー小体型認知症でもα1受容体遮断薬が同様の効果を示すのかが検討された。 Simmering氏らは、Merative Marketscanデータベースから、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性12万6,313人と、ATP産生を増大させない別の2種類の前立腺肥大症治療薬、すなわちα1受容体遮断薬のタムスロシンと5α-還元酵素阻害薬(5ARI)を使用している男性を抽出し(タムスロシン:24万2,716人、5ARI:13万872人)、レビー小体型認知症の発症リスクを比較した。 その結果、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性でのレビー小体型認知症の発症リスクは、タムスロシンを使用している男性よりも40%(ハザード比0.60、95%信頼区間0.50〜0.71)、5ARIを使用している男性よりも27%(同0.73、0.57〜0.93)低いことが明らかになった。 こうした結果を受けてSimmering氏は、「テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンの使用とレビー小体型認知症の発症リスク低下との関連を明らかにするためには、さらなる研究で長期にわたって追跡する必要がある。それでも、これらの薬剤が、高齢化に伴い多くの人が罹患する可能性のあるレビー小体型認知症に対して予防効果を持つことは期待しても良いように思う」と述べている。 研究グループは、本研究には男性しか参加していないことに触れ、「この結果が女性にも当てはまるのかどうかは不明だ」としている。NIAによると、レビー小体型認知症は女性よりも男性の方が罹患率がわずかに高いという。また、レビー小体型認知症は診断が難しいため、本研究では、全てのレビー小体型認知症の発症者が対象に含まれていなかった可能性があることにも言及している。

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自宅の改造が脳卒中患者の自立を助け生存率を高める

 シャワーを浴びる、階段を上るなどの日常的な動作は、脳卒中発症後に後遺症の残った人にとっては危険を伴い得る。しかし、階段に手すりを設置したり、つまずき防止のためにスロープを設置したりといった安全対策を講じることで、多くの人が自立した生活を送れるようになり、早期死亡リスクを低下させられることが新たな研究で確認された。米ワシントン大学公衆衛生研究所のSusan Stark氏らによるこの研究結果は、「Archives of Physical Medicine and Rehabilitation」に5月18日掲載された。 脳卒中患者の8人に1人は退院後1年以内に死亡する。Stark氏は、「脳卒中患者にとって、数週間の入院中のリハビリを経て自宅に戻る移行期は重要だ。自宅の環境は、設備が整った施設とは違って、困難に満ちた場所に見えるだろう」と話す。脳卒中後には筋肉が衰えているため、例えば、洗濯かごからシャツを取り出すなどの簡単な作業にも労力を要する。また、バランス感覚に障害が生じていれば、トイレの使用が困難になり、階段の上り下りは障害物コースのように感じられるかもしれない。このような困難があると、友人や隣人とも疎遠になりがちになり、それが今度は抑うつの原因となる。 Stark氏らは今回の研究で、脳卒中後の患者のコミュニティーへの参加移行プログラム(Community Participation Transition after Stroke;COMPASS)の安全性と有効性を検討した。COMPASSでは、作業療法士が脳卒中患者の自宅を訪問し、高さの低いトイレや手すりのない階段など、自宅の中で患者にとって障害となるものを探し出し、患者の個々のニーズに対応して改造する。また、利用しやすい交通手段を見つけるなど、問題を解決する方法を患者に教えたりもする。 対象者は、入院中にリハビリを受け、退院後は自宅で自立した生活を送ることになっていた50歳以上の脳卒中患者183人。これらの患者は、自宅の改造と作業療法士によりセルフマネジメントの訓練を自宅で4回受ける介入群(85人)と、脳卒中に関する教育を自宅で4回受ける対照群(98人)にランダムに割り付けられた。 その結果、研究期間中に対照群では10人が死亡したのに対し、介入群で死亡した人はいなかったことが明らかになった。また、高度看護施設に入居した対象者の数も、対照群での19人に対し介入群では8人と少なかった。 2021年に脳卒中を発症したDonna Jonesさんは、本研究への参加を通してバランス感覚を取り戻し、自立した生活を送るための新たなスキルを学んだ。また、自宅の改造により、自立した生活を送ることに対する自信を得たという。Jonesさんは、「改造された浴室は、自分の人生が正しい方向に向かっているという希望を与えてくれる。私に授けられた実用的なツールとサービスは、私の新たな人生の基盤になっている。私はこれまでとは違う人生を歩んでいて、それをとても気に入っている」と話す。 Stark氏は、「もっと多くの人を対象にこの介入の効果を検証する必要があり、保険会社を納得させるためには、住宅の改造に関連するコストと改造により節約されるコストを明確にしなければならない。現状では、このコストをカバーできる制度はない」と話す。同氏はさらに、「このプログラムを実施するための最大の障壁は、住宅改造費用を保険会社に払い戻させることだ。500ドル(1ドル160円換算で8万円)の住宅改造で病院や高度看護施設を利用せずに済むのなら、私には何の問題もないように思われる」と付け加えている。

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脂質低下薬が糖尿病網膜症の進行を抑制する可能性

 脂質低下薬のフェノフィブラートが、糖尿病による目の合併症を抑制することを示唆するデータが報告された。網膜症の進行、それによる治療を要するリスクが、プラセボに比べて27%低下するという。英オックスフォード大学人口保健研究所のDavid Preiss氏らが米国糖尿病学会年次学術集会(ADA2024、6月21~24日、オーランド)で発表するとともに、論文が「NEJM Evidence」に6月21日掲載された。 Preiss氏は、「糖尿病網膜症は依然として視力喪失の主要な原因であり、その進行を抑えるために、広く利用可能なシンプルな戦略を必要としている」と解説。また本研究の結果について、「フェノフィブラートは糖尿病網膜症の患者に対して、有益な追加効果をもたらす可能性があることを示唆している」としている。なお、糖尿病網膜症は、高血糖の持続により眼球の奥の血管がダメージを受けることで発症し、血管から血液成分が漏れ出したりすることによって視野が欠けたり視力が低下して、最終的には失明することもある病気。一方、脂質低下薬であるフェノフィブラートは、糖尿病患者の心血管イベント抑制を主要評価項目として検証した複数の臨床試験で、網膜症を抑制するという副次的な効果を有することが示唆されている。 この研究は、英スコットランドの12歳以上の糖尿病患者を対象に実施されている糖尿病眼スクリーニングプログラムのデータを用いて行われた。眼科的治療を要さない初期の糖尿病網膜症、または黄斑症(網膜の中でも視力にとって特に重要な黄斑に異常が生じる病気)を有する成人糖尿病患者1,151人を無作為に2群に分け、1群をフェノフィブラート群、他の1群をプラセボ群とした。投与量は145mg/日で、腎機能が低下している場合は隔日投与とし、糖尿病網膜症や黄斑症の進行またはそれらの治療(レーザー光凝固、硝子体内注射、硝子体切除術)で構成される複合エンドポイントの発生率を比較した。 中央値4.0年の追跡で、フェノフィブラート群では576人のうち131人(22.7%)、プラセボ群では575人のうち168人(29.2%)にエンドポイントが発生し、前者の方が27%低リスクであることが示された(ハザード比〔HR〕0.73〔95%信頼区間0.58~0.91〕、P=0.006)。評価項目を個別に見ると、網膜症または黄斑症が進行した患者数は、フェノフィブラート群が185人(32.1%)、プラセボ群が231人(40.2%)、治療を要した患者数は同順に17人(3.0%)、28人(4.9%)だった。視力や生活の質(QOL)の群間差は非有意だった。 介入期間中の平均推定糸球体濾過率は、フェノフィブラート群の方がプラセボ群より7.9mL/分/1.73m2(95%信頼区間6.8~9.1)低値だった。重篤な有害事象は、フェノフィブラート群の208人(36.1%)、プラセボ群の204人(35.5%)で発生した。 研究者らは、「フェノフィブラートが健康に及ぼす長期的な影響をより深く理解するため、今後も研究参加者を継続的に追跡する予定」と述べている。

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心筋梗塞の後追いをする脳卒中治療―カテーテルインターベンション時代に備えたほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞の原因が冠動脈の閉塞血栓とわかった後、各種の線溶薬が開発された。30日以内の心血管死亡率の減少を明確に示したストレプトキナーゼにはフィブリン選択性がなかった。線溶を担うプラスミンは強力かつ汎用的なタンパク質分解酵素である。血栓となっているフィブリンのみならず、全身循環するフィブリノーゲンも分解してしまった。循環器でもフィブリン選択性の高いt-PAは、ストレプトキナーゼより出血リスクが少ない可能性のある薬剤として期待された。t-PAの分子を改変して、持続投与不要とする分子などが多数開発された。しかし、線溶薬による血栓溶解はいつ起こるかわからない。冠動脈造影に通暁していた循環器内科医は、速やかに自らの手で確実に再灌流できる冠動脈インターベンションに治療の基本をシフトした。再灌流時に心室頻拍などの致命的イベントが起こるため、搬送中のt-PAも推奨されない。心筋梗塞治療では、特殊な場合以外にはt-PAなどの線溶薬の需要はほぼなくなった。 脳梗塞の発症メカニズムは心筋梗塞に類似している。脳血管の血栓性閉塞による急性虚血が病態である。早期の再灌流が予後を改善することも心筋梗塞に類似している。しかし、循環器医がはるか以前から冠動脈造影を日常的に行っていたのと異なり、心臓ほど動かない脳の血管の形態はMRIなどにて体外から評価可能であった。循環器医が日常的冠動脈造影からPCIに移行できたほど容易に、脳卒中治療は血管内治療に移っていない。本研究では古典的な線溶薬t-PAであるアルテプラーゼと、分子を改変したreteplaseの有効性と安全性が比較された。確かに両者に差はあった。しかし、循環器の世界にて心筋梗塞治療の変遷を見てきた筆者からすると、有効性指標の到達率は両方とも70%程度であり、両方とも数%に頭蓋内出血を起こしている。歴史的プロセスはまだまだ必要かもしれないが、自らの治療中に症状が消失し、出血も少ない血管インターベンションに移行するのは必然だと思う。過去の先例があるので、経過は早いかもしれない。脳卒中の専門医であれば血管インターベンション医になるほうがよいと私は思う。

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