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タトゥーを入れると悪性リンパ腫になりやすい

 近年、欧米では自己表現の1つとして思い思いのタトゥーを入れる人が増えてきている。ただ、以前からタトゥーの弊害として施術での感染症の罹患などが言われてきた。タトゥーの施術で使用されるインク成分への長期的曝露がもたらす健康への影響はほとんど理解されていないことから、スウェーデンのルンド大学医学部臨床検査部産業・環境医学部門のChristel Nielsen氏らの研究グループは、タトゥー施術と悪性リンパ腫全体およびリンパ腫亜型との関連を調査した。その結果、タトゥーのある人ではリンパ腫全体のリスクが高いことがわかった。EClinicalMedicine誌2024年5月21日号の報告。最初のタトゥーから2年未満の人はリンパ腫のリスクが高い Nielsen氏らの研究グループは、スウェーデン全国がん登録に登録されている20~60歳で、2007~17年の間に悪性リンパ腫と診断された症例を同定し、症例対照研究を行った。方法としては、悪性リンパ腫患者を特定し、人口統計学的に1:3の割合でマッチングされた対照サンプルとともに、タトゥー曝露(2021年の質問表調査により評価)と悪性リンパ腫との関連を検討した。解析では、多変量ロジスティック回帰を用い、タトゥーのある人における悪性リンパ腫の発生率比(IRR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万1,905例を検討し、回答率は悪性リンパ腫症例群では54%(1,398例)で、対照群では47%(4,193例)だった。うちタトゥーのある人の割合は悪性リンパ腫症例群で21%、対照群で18%だった。・タトゥーのある人はリンパ腫全体の調整後リスクが高かった(IRR=1.21、95%信頼区間[CI]:0.99~1.48)。・リンパ腫のリスクは、最初のタトゥーから指標年までの期間が2年未満の人で最も高かった(IRR=1.81、95%CI:1.03~3.20)。・リスクは中等度の曝露期間(3~10年)になると減少したが、指標年の11年以上前に最初のタトゥーを入れた人では再び増加していた(IRR=1.19、95%CI:0.94~1.50)。・タトゥーを入れた体表面の総面積が大きいほどリスクが増加するというエビデンスは、認められなかった。・タトゥー曝露に関連するリスクは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(IRR=1.30、95%CI:0.99~1.71)と濾胞性リンパ腫(IRR=1.29、95%CI:0.92~1.82)で最も高いと示唆された。

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キエジ・ファーマ・ジャパン、希少疾患に注力 脂肪萎縮症治療薬メトレレプチンを承継

 2024年7月19日、キエジ・ファーマ・ジャパン株式会社は塩野義製薬株式会社からメトレレプチン(遺伝子組み換え)皮下注用製剤の製造販売承認承継の詳細と日本における今後の事業戦略などについて記者会見を開催した。 今回のセミナーでは、キエジグループ取締役 希少疾患事業部門長 ジャコモ・キエジ氏、キエジグループ希少疾患事業部 欧州および成長市場責任者 エンリコ・ピッチニーニ氏、キエジ・ファーマ・ジャパン 代表取締役社長 中村 良和氏らがそれぞれグループの歴史や事業戦略、日本法人のビジョンや事業戦略について説明を行った。キエジグループの歴史、研究開発について 初めにジャコモ・キエジ氏がグループの概要について発表した。 キエジグループは1935年にイタリアのパルマで設立された家族経営の企業であり、現在は80ヵ国以上で医薬品を製造・販売している。2023年には収益が30億ユーロを超え、7,000人の従業員、7つの研究開発センターを持つ企業へと成長した。 キエジグループでは研究開発に力を入れており、売り上げの約25%を研究開発に投資しているが、その目的は革新的な医薬品を開発することでよりグローバルな企業に成長することで、より多くの患者さんに新しい治療を届けることができると考えている。 注力している領域はいくつかあるが、とくに希少疾患に関しては4年前に新たに希少疾患部門を立ち上げ、買収、ライセンス契約などで10製品のラインナップがあり、パイプラインも豊富である。日本では今後キエジグループのパイプラインにあるすべての製品の上市が検討されている。 「私たちは患者さん中心の事業展開をしており、日本でもその姿勢を貫きたい」とキエジ氏は述べ、発表を終えた。希少疾患部門の戦略 続いて、エンリコ・ピッチニーニ氏から希少疾患部門の事業戦略についての発表があった。 希少疾患部門は2020年の立ち上げ以降、製品数を増やす、部門の人数は現在700人を超えている。 キエジグループの希少疾患部門が重点的に取り組んでいるのは先天代謝異常、内分泌代謝疾患、希少血液などの領域であり、ファブリー病や全身性脂肪萎縮症など10以上のパイプラインがある。 キエジグループのミッションは「患者さんに貢献すること」であり、世界中のさまざまな患者団体と連携し、協力関係を結ぶことで、患者さんのニーズを迅速に聞くことに注力している。日本でもこのアプローチを踏襲する予定だ。 今後の事業戦略としては、まず中核となる事業を構築し、戦略的に周辺領域へ着実に最大化すること、可能性を最大化することでサイクルを回し、成長していきたいと考えている。具体的には新たな顧客層を拡大するだけでなく、適応症の拡大や新たな地域への参入、診断支援による早期診断支援、新たなモダリティへの支援などさまざまな角度からの施策を考えている。 「私たちの製品を本当に必要としている人がいる場所に参入していきたい」と今後の展望についてピッチニーニ氏は締めくくった。キエジ・ファーマ・ジャパンの開発戦略について 最後にキエジ・ファーマ・ジャパンの代表取締役社長である中村 良和氏が日本でのビジョンなどについて発表した。 キエジ・ファーマ・ジャパンの特徴は“量より質、少数精鋭”である。少なくともメンバー全員が10年以上の希少疾患領域での経験を持っている。規模が小さい分、迅速に動けるため希少疾患に向いている。 また、今回承継するメトレレプチンの適応は脂肪萎縮症であり、発症は100万人に1人程度、国内患者数は約100人、平均寿命は30~40歳程度と極めて稀で重篤な疾患である。非常に発見が難しく、未診断の患者さんが多く存在する可能性があるため、痩せているインスリン抵抗性の糖尿病患者さんを見かけた場合は疑ってほしい、と中村氏は語った。 今後の日本における開発戦略と現状については、市場性などを考慮して戦略を考えている。今後開発を考えている疾患は、鎌状赤血球症(異常ヘモグロビン症)、サラセミア(地中海貧血)、α-マンノシドーシス、レーベル遺伝性視神経症、ファブリー病、表皮水疱症である。このうち、いくつかの疾患は患者数が10人程度の疾患もあるが、患者さんがいるのであれば発売したい、と中村氏は熱弁した。 とくに、表皮水疱症の治療薬については、塗り薬であることと、すでに米国、欧州で承認をされているため、ベースの治療薬になるのではないかと考えて戦略を策定中である、とのことであった。 「開発中の製品についてはすべて自社販売の方針であるが、少数精鋭のため学会などを含めて活動を行っていきたい」、と述べて中村氏は発表を終えた。 なお、メトレレプチンは2024年7月24日にキエジ・ファーマ・ジャパンが製造販売承認を承継し、メトレレプチン皮下注用11.25mg「キエジ」としてキエジ・ファーマ・ジャパンが販売および情報提供活動を行う。薬価収載は8月の予定。

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一次乳房再建における有害事象のリスク因子/日本乳学会

 2013年に乳房インプラントが保険収載されて以降乳房再建は増加傾向にあり、2020年には遺伝性乳がん卵巣がん症候群の予防的切除も保険収載された。一方で、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)の発生が報告され、再建後有害事象のリスク因子についても多数の報告があるが、結果は一致していない。日本乳学会班研究(枝園班)では、一次乳房再建施行患者における有害事象のリスク因子について多施設共同の後ろ向き解析を実施し、聖マリアンナ医科大学の志茂 彩華氏が結果を第32回日本乳学会学術総会で発表した。 本研究の対象は、2008年1月~2016年12月に国内12施設で一次乳房再建が施行された、診断時に20歳以上80歳未満の乳がん症例4,720例。Stage IVの患者は除外された。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、年齢中央値46(20~83)歳、65歳以上は4.1%であった。BMIは18.5~25(普通)が74.3%を占めたが、25以上の肥満患者も10%以上含まれた。喫煙歴なしが77.8%、両側性なしが84.0%、乳房手術はtotal mastectomyが35.9%、skin-sparing mastectomy(SSM)が33.8%、nipple-sparing mastectomy(NSM)が30.3%であった。再建方法は、一次一期再建としてインプラントが3.5%、自家組織が11.1%、一次二期再建が85.4%であった。腋窩手術はセンチネルが81.7%、郭清が17.2%、なしが1.1%であった。・組織型は浸潤性乳管がんが64.5%を占め、非浸潤性乳管がんが27.1%、浸潤性小葉がんが4.2%であった。pN0が79.3%を占めた一方、pN≧4の症例も4.5%含まれた。術前/術後化学療法なしがそれぞれ90.0%/77.4%で、術後ホルモン療法は62.3%が受けていた。PMRTの施行を受けていたのは7.6%であった。・有害事象が報告されたのは840例(17.8%)で、最も多かったのは乳頭乳輪(NAC)血流不全(NSM症例のうち14.9%)で、皮弁壊死が4.8%、感染が3.8%と続き、感染についてはGrade3が2.8%であった。・有害事象の転帰については、インプラント症例で感染が発生した場合75.9%で抜去もしくは入れ替えが行われていた。皮弁壊死の場合はインプラント症例の11.9%で抜去もしくは入れ替え、自家再建症例の23.1%で自家再建組織の一部もしくは全切除が行われていた。・有害事象のリスク因子について、65歳以上、BMI≧25、喫煙歴ありの症例については、多変量解析および単変量解析のいずれにおいても有意差が認められた。・連続変数によるロジスティック解析においても、年齢およびBMIが高くなるほど有害事象が増加することが明らかになった。・手術の方法と有害事象の関係について、total mastectomyと比較するとSSM、NSMはともに多変量解析および単変量解析のいずれにおいても有意にリスクが高くなり、とくにNSMで最も多いことが確認された。再建方法については、一次二期再建と比較するとインプラント、自家再建ともに一次一期再建で有意にリスクが高かった。両側性の有無や腋窩手術に関して因果関係は認められなかった。・病理結果と有害事象の関係について、単変量解析の結果、非浸潤性乳管がんと比較すると浸潤性がんでリスクが高かった。リンパ節転移の有無に関しては、pN≧4でリスクが高かった。・治療法と有害事象の関係について、単変量解析の結果、術後ホルモン療法およびPMRTありの場合にリスクが高かった。術前/術後化学療法の有無に関して因果関係は認められなかった。 志茂氏は、「重大な有害事象が起こると再手術が必要になる可能性があり、整容性の低下、患者の負担が懸念される」とし、「リスク因子を有する患者に対しては、術前の管理や術後の経過について十分に注意する必要がある」とまとめている。

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12歳未満の重症血友病A、エフアネソクトコグ アルファの有用性~XTEND-Kids試験/NEJM

 重症血友病Aの小児において、エフアネソクトコグ アルファによる週1回の定期補充療法は、投与後3日間ならびに約7日間にわたり高い第VIII因子活性を維持して効果的な出血予防効果をもたらし、有害事象はほとんどが非重篤であったことが示された。米国・ウィスコンシン医科大学のLynn Malec氏らXTEND-Kids Trial Groupが、第III相非盲検試験「XTEND-Kids試験」の結果を報告した。エフアネソクトコグ アルファは、12歳以上の重症血友病A患者において、週1回投与で前治療の第VIII因子製剤と比較し持続的な高い第VIII因子活性と優れた出血予防効果が認められていた。NEJM誌2024年7月18日号掲載の報告。12歳未満の既治療重症血友病A患者74例が対象 研究グループは、治療歴のある12歳未満の重症血友病A患者(内因性第VIII因子活性が1 IU/dL未満[1%未満]または重症血友病Aを引き起こすことが知られている遺伝子型の診断を有する患者)に、定期補充療法として週1回エフアネソクトコグ アルファ50 IU/kgを週1回、最大52週間静脈内投与した。 定期補充療法中に出血エピソードがみられた場合は、エフアネソクトコグ アルファ50 IU/kgを単回投与し、エピソードが消失しない場合は2~3日ごとに30 IU/kgまたは50 IU/kgを追加投与し、問題がなければ定期的な投与を再開した。 試験期間中に大手術を受ける患者は、術前にエフアネソクトコグ アルファ50 IU/kgの負荷投与を行い、必要に応じて2~3日ごとに30 IU/kgまたは50 IU/kgを追加投与した。 主要エンドポイントは、第VIII因子に対するインヒビター(中和抗体)の発現(0.6 BU/mL以上)、副次評価項目は年間出血率(治療を要する出血エピソードの年間発生率)、出血エピソードの治療ために投与したエフアネソクトコグ アルファの投与回数および投与量、安全性、薬物動態であった。 合計74例の男児が登録された(6歳未満38例、6~12歳未満36例)。定期補充療法でインヒビターの発現はなく、年間出血率はゼロ 第VIII因子に対するインヒビターの発現は認められなかった。 有害事象は74例中62例84%に発現し、このうち3例(4%)は治験担当医師がエフアネソクトコグ アルファと関連ありと判定した。重篤な有害事象は9例(12%)に認められたが、いずれも関連なしと判定された。 年間出血率は、中央値で0.00(四分位範囲[IQR]:0.00~1.02)、負の二項回帰モデルを用いて推定した平均値で0.61(95%信頼区間[CI]:0.42~0.90)であった。47例(64%)で治療を要する出血エピソードの発生は認められなかった。同様に、65例(88%)は自然出血のエピソード、61例(82%)は関節出血のエピソードの発生がなかった。 治療を要した出血エピソード43件のうち、41件(95%)がエフアネソクトコグ アルファの1回の投与で消失した。 エフアネソクトコグ アルファの薬物動態評価を受けた患者は37例で、平均第VIII因子活性は投与後3日間が40 IU/dL超、約7日間が10 IU/dL超であった。終末相半減期の幾何平均値は40.0時間であった。

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中等症~重症クローン病、リサンキズマブvs.ウステキヌマブ/NEJM

 中等症~重症のクローン病患者を対象としたリサンキズマブとウステキヌマブの直接比較試験において、リサンキズマブのウステキヌマブに対する、24週時の臨床的寛解の非劣性および48週時の内視鏡的寛解の優越性が認められたことが、28ヵ国187施設で実施された第IIIb相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「SEQUENCE試験」で示された。フランス・Centre Hospitalier Regional Universitaire de NancyのLaurent Peyrin-Biroulet氏らが報告した。NEJM誌2024年7月18日号掲載の報告。24週時の臨床的寛解と48週時の内視鏡的寛解を直接比較 研究グループは、18~80歳で、3ヵ月以上前に中等症~重症のクローン病と診断され、1種類以上の抗TNF-α抗体製剤で効果不十分または不耐容の患者を、リサンキズマブ群またはウステキヌマブ群に1対1の割合に無作為に割り付け、標準用量を48週間投与した。 主要エンドポイントは2つで、24週時の臨床的寛解および48週時の内視鏡的寛解であった。臨床的寛解はクローン病活動指数(CDAI、範囲:0~600、高スコアほど疾患活動性が高い)が150未満、内視鏡的寛解は簡易版クローン病内視鏡スコア(SES-CD、範囲:0~56、高スコアほど重症)が4点以下かつベースラインから2点以上低下し、個々のサブスコアに1を超えるものがないこと、と定義した。 解析対象は、24週時の臨床的寛解については24週時の評価を完了した患者または試験から離脱した患者の最初の50%、48週時の内視鏡的寛解については全例であった。 主要エンドポイントは階層的に検定し、24週時の臨床的寛解で非劣性(両群のリスク差の95%信頼区間[CI]の下限が-10%より大きい)が検証された場合に、48週時の内視鏡的寛解について両側有意水準0.05で優越性を検定した(層別Cochran-Mantel-Haenszel検定)。 また、リサンキズマブまたはウステキヌマブを少なくとも1回投与されたすべての患者を対象として安全性を評価した。リサンキズマブは2つの主要エンドポイントを達成 計527例がリサンキズマブ群(262例)、ウステキヌマブ群(265例)に無作為化され、少なくとも1回の投与を受けた。リサンキズマブ群の7例が非標準用量投与のため除外され、リサンキズマブ群255例およびウステキヌマブ群265例が有効性解析対象集団(full intention-to-treat集団)となった。それぞれ230例(90.2%)および193例(72.8%)が割り付けられた治療を完了した。 2つの主要エンドポイントはいずれも達成された。24週時の臨床的寛解率は、リサンキズマブ群58.6%(75/128例)、ウステキヌマブ群39.5%(54/137例)、補正後群間差18.4ポイント(95%CI:6.6~30.3)であり、リツキシマブ群のウステキヌマブ群に対する非劣性が示された。 48週時の内視鏡的寛解率は、リサンキズマブ群31.8%(81/255例)、ウステキヌマブ群16.2%(43/265例)であり、補正後群間差15.6ポイント(95%CI:8.4~22.9、p<0.001)で、リツキシマブ群のウステキヌマブ群に対する優越性が確認された。 有害事象、重篤な有害事象、投与中止に至った有害事象の発現率は両群で同程度であった。

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双極性障害、I型とII型の自殺リスク比較

 双極性障害(BD)は、疾病負担が大きく、自殺による死亡リスクの高い疾患である。これまで、双極性障害II型(BD-II)は、BDの軽症型とされてきたが、近年の文献では、双極性障害I型(BD-I)と同様の疾病負担と自殺傾向を有するとも報告されている。カナダ・Brain and Cognition Discovery FoundationのDonovan A. Dev氏らは、BD-IIのリスクを定量化し、BD-IとBD-IIにおける自殺リスクを評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2024年6月18日号の報告。 PRISMAガイドラインに従い、2023年6月30日までに公表された文献を、PubMed、OVID(Embase、Medline)、PsychINFOデータベースより検索した。対象文献は、事前に定義した適格基準に基づき選定した。BD-IおよびBD-IIと診断された患者の自殺リスクを比較するため、メタ解析を実施した。主な結果は以下のとおり。・8件の研究のうち、BD-IIの自殺率がBD-Iよりも高いと報告した研究が4件、有意な差がないと報告した研究が2件であった。・BD-Iの自殺率は、BD-IIよりも有意に高いと報告した研究は、2件であった。・BD-Iの自殺率に対するBD-IIのプールされたオッズ比は、1.00(95%信頼区間:0.75〜1.34)であった。 著者らは「BD-IとBD-IIの自殺リスクを報告した研究は少なく、異質性がある」としながらも「BD-IIの重症度は明らかであり、自殺リスクはBD-Iとそれほど違いはなく、BD-IIで報告される抑うつ傾向、併存疾患、ラピッドサイクルは、重大な死亡リスク因子の可能性がある」としている。

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eGFRは心臓突然死のリスク予測因子

 推算糸球体濾過値(eGFR)は、心不全患者の心臓突然死の独立予測因子であり、リスク予測において左室駆出率(LVEF)にeGFRを追加することが有用であるという研究結果が発表された。藤田医科大学ばんたね病院循環器内科の祖父江嘉洋氏らが行った前向き研究の成果であり、「ESC Heart Failure」に6月10日掲載された。 心不全患者の心臓突然死の予防において、LVEFおよびNYHA心機能分類に基づき植込み型除細動器(ICD)の適応が考慮される。ただ、軽度から中等度の慢性腎臓病(CKD)を有する患者に対するICDの有用性に関して、これまでの研究の結果は一貫していない。そこで著者らは今回、心臓突然死における腎機能の役割を検討するため、2008年1月から2015年12月に非代償性心不全で入院したNYHA分類II~III度の患者を対象として、心臓突然死の発生を追跡し、心臓突然死の予測因子を検討する前向き研究を行った。 入院中に死亡した患者や透析患者などを除外した結果、解析対象患者は1,676人だった。対象患者の平均年齢は74±13歳、男性の割合は56%で、平均LVEFは40±15%、ほとんどの患者(87%)は退院時のNYHA分類がII度だった。 追跡期間中央値25カ月(四分位範囲4~70カ月)の間に、198人(11.8%)が心臓突然死により死亡した。退院から心臓突然死までの期間の中央値は17カ月であり、退院後3カ月以内の心臓突然死が23%を占めた。心臓突然死患者は生存患者と比較して、若年、男性、糖尿病、脂質異常症、虚血性心疾患の有病割合が高い、QRS時間が長い、LVEFが低い、抗血小板薬やアミオダロンの使用率が高いといった特徴が認められた。 対象患者のうち、eGFR(mL/分/1.73m2)によるCKDステージ1(eGFR 90以上)の人は122人(7.3%)、ステージ2(eGFR 60~89)は337人(20.1%)、ステージ3(eGFR 30~59)は793人(47.3%)、ステージ4(eGFR 30未満)は424人(25.3%)だった。また、ステージ1の人のうち死因が心臓突然死だった人の割合は6%、ステージ2では33%、ステージ3は24%、ステージ4は23%だった。 患者の臨床背景を調整して多変量Cox比例ハザード回帰分析を行った結果、心臓突然死の独立予測因子として、男性(ハザード比1.61、95%信頼区間1.03~2.53)、eGFR 30未満(同1.73、1.11~2.70)、LVEF 35%以下(同2.31、1.47~3.66)が抽出された。心臓突然死の予測モデルにおいて、LVEFにeGFRを追加することで心臓突然死の予測能は有意に向上した。このeGFRの予測能は、2年間で時間依存的に低下した。 今回の研究の結論として著者らは、「NYHA分類II~III度の心不全患者において、心臓突然死の予測能はeGFR 30未満を加えることで改善した」としている。また、患者の4分の1が退院後3カ月以内に心臓突然死を発症していたことに言及し、退院後3カ月間は着用型自動除細動器(WCD)を用いた介入が有効である可能性があると述べている。

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第221回 「青カビは取ればいい」が招いた人災ー紅麹サプリ事件

3月以来、紅麹問題で揺れた小林製薬。同社は7月23日に一連の事案に関して外部の弁護士3人に依頼した事実検証委員会の調査報告書を公表するとともに、引責の形で代表取締役会長の小林 一雅氏と代表取締役社長の小林 章浩氏が代表取締役を辞任することを発表した。新たな代表取締役社長には専務取締役の山根 聡氏が昇格する。報道では創業家以外から初の社長という文字が目立つが、章浩氏は代表権こそないものの取締役補償担当として役員には残留し、一雅氏については役員から外れるものの特別顧問という形となる。私自身はこれまでの企業取材の経験から、必ずしも同族経営をネガティブなものとは見ていないが、それでもなお今回の人事には「いかにも同族経営らしい決着」と思ってしまう。一方で公表された調査報告書を読んだ率直な感想は「過度な悪意はない危機感の欠如」の一言に尽きる。紅麹は機能性表示食品?それとも特定保健用食品?まず、今回の件で同社が行政への報告までに約2ヵ月を要した理由について、「因果関係が明確な場合に限ると解釈していた」と報道されている。この点については、とりわけ医療従事者の多くは疑問を感じただろうと思う。生鮮食品による食中毒ならいざ知らず、何らかの物質や食品の摂取を通じて起こる有害事象の因果関係の特定には一定の時間を要することが少なくないからである。それゆえに医薬品には「有害事象」と「副作用・副反応」の2つの用語がある。さて、厚生労働大臣の武見 敬三氏までが「自分勝手な解釈で極めて遺憾」と評したこの解釈はなぜ生まれたのか? それが今回公表された調査報告書に記載されている。まず、機能性表示食品では、消費者庁の届出等ガイドライン1)において「届出者は、評価の結果、届出食品による健康被害の発生及び拡大のおそれがある場合は、消費者庁食品表示企画課へ速やかに報告する」と定めている。小林製薬側はこの規定を「健康被害の発生」と「健康被害の拡大のおそれ」の両方が満たされた場合に報告が必要になると解釈。ただし、どのような場合が「健康被害の発生」に該当するかが明確ではないと考えていたという。その結果、同社安全管理部が「特定保健用食品の審査等取扱い及び指導要領」2)で健康被害が生じ、行政報告が必要な場合として「当該食品に起因する危害のうち、死亡、重大な疾病等が発生するおそれがあることを示す知見を入手した場合」と規定されていることを援用し、さらに同規定の「起因する」の文言を「因果関係が明確である」と解釈。最終的に「因果関係が明確な場合に行政に報告する」との解釈を採用したという。何とも言い訳じみた…と思う人もいるかもしれないが、行政文書のわかりにくさを考えれば、このようなさまざまな文書の援用自体はありえなくはない。ただ、ここでは根本的な“ミス”が含まれている。そもそも援用した規定は特定保健用食品、いわゆるトクホのものであり、これにはヒトでの臨床試験が必要である。もっともその臨床試験の多くは数十例程度で行われ、臨床研究法の対象にもならず、この規模で起こり得る健康被害すべてが検出できるとは思わないが、臨床試験をやってもやらなくともよい機能性表示食品と比べればハードルは高く、審査も厳格である。報告書で気になったことこれ以外に報告書を読んでいて気になったことは、個人的に2点ある。1点目は医師から紅麹製品による健康被害が疑われる事例の報告を受けての初動である。1月15日に医師から紅麹製品を摂取していた患者が急性腎不全で入院し、透析治療中である旨の連絡を受けたのが第1例目。半月後の2月1日には別の病院の医師から同時に3例の報告を受けている。この間の半月については1例目を孤発症例と考えれば、無理もないかもしれない。しかし、同時3例の報告後、同社がこれら医師に面談連絡を取ったのは、第1例目の医師が2月8日、2番目の同時3例報告の医師には2月15日。結局面談が実現したのは、前者が2月29日、後者が2月22日だ。ちなみに両医師との面談日程候補期間は小林製薬側から月末を提示している。そして、これら医師に面談要請の連絡をするまでの間、同社では(1)シトリニン原因説、(2)モナコリンK原因説、(3)コンタミネーション原因説、の 3つの仮説が立てられ、分析を行う方針を決定していた。もちろん早急に原因を究明すべく仮説を立てたことには異論はないが、この仮説の絞り込みなども考えれば、より1日でも早く面談を実現すべきではなかったか? 繰り返しになるが、面談候補日を提示したのは小林製薬側である。青カビ発生は当たり前?そして最後に、これが報告書を読んで一番驚いたことだったが、検証委員会のヒアリングに対する大阪工場の現場担当者の証言だ。それによると、問題となった紅麹製品に用いられた原料ロットの製造時、乾燥工程で乾燥機が壊れて原料ロットの紅麹菌が一定時間乾燥されないまま放置されていたそう。加えて、紅麹培養タンクの蓋の内側に青カビが付着していたことを確認し、品質管理担当者に伝えたところ「青カビはある程度は混じることがある」旨を告げられたというのだ。ちなみに報告書ではこの証言について「本件問題の原因であるか否かは不明であるものの」と慎重な言い回しで記述している。この証言を読んで思い出したのが、個人的な話で恐縮だが、産婦人科医でもあった私の亡き父方の祖父とのエピソードだ。幼少期、正月に祖父宅を訪ねると、祖父はたいそう喜び、傍らの缶から切り餅を取り出し、祖母に私と祖父のために焼くように指示した。この時、5mmほどの青かびが3つほどついているのが目に入った。私が「おじいちゃん、それ…」と指さすと、祖父は座椅子のひじ掛けの下の物入れから小刀を取り出し、目の前でそれを削り取って、そのまま祖母に渡したのだ。明治生まれの極めてパターナリスティック(父権主義)な祖父に歯向かうことができず、結局、私はその餅を食べることになった。こうしたことは個人の範疇ならば、自己責任で済む。死者にムチ打つようで悪いが、この品質管理担当者は亡き祖父と同程度の認識で不特定多数の人が口にする紅麹製品を製造していたのか、とやや呆れてしまった。この問題はまだ原因究明中ではあるが、いずれにせよこの調査報告書は悪意のない危機意識が積み重なると、人の命までも奪いかねないという重大な教訓を伝えてくれていると言える。参考1)消費者庁:機能性表示食品の届出等に関するガイドライン2)消費者庁:特定保健用食品の審査等取扱い及び指導要領

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家族から「どうしても死に目に会いたい」と言われたら…【非専門医のための緩和ケアTips】第80回

第80回 家族から「どうしても死に目に会いたい」と言われたら…家族からよく出る要望として、「死に目に会いたい」というものがあります。とはいえ、家族が遠方に住んでいたり、予想より早いタイミングで看取りになったりなど、実現が難しい場合もあります。われわれ医療者はこうした要望にどう応えればよいのでしょうか?今回の質問訪問診療で診ている患者さん。お看取りが近くなってきたので、家族に説明していた時のことです。「県外に住む家族がいるので、その家族が着くまで命を持たせることができませんか?」と質問されました。「死に目に会いたい」というのですが、在宅でずっと心肺蘇生するのも現実的ではありません。こうした患者さんは容態が悪くなったら救急搬送するしかないのでしょうか?「お看取りの際は、できるだけ家族と一緒に過ごせるように」というのは、多くの医療者が大切にしていることでしょう。とくに緩和ケアに関わる医療者はこうした要望に応えたくなる“本能”を持つ方が多いように思います。ただ、私は「死に目に会わせる」ことを必ずしもケアの目標とする必要はない、と考えています。私は救急診療に当たっていた時期もあります。心肺停止状態で運ばれてきた患者さんの家族に救命が難しいことを説明する際、「今から病院に向かうので、到着まで心肺蘇生を継続してほしい」と頼まれるケースがあり、こうした場合にはできる限り要望に応えていました。一方、ご質問や緩和ケアでは、治癒困難な疾患により看取りとなる状況が大半でしょう。患者さんが呼吸停止に至った状況では、蘇生行為は無益であることが予想されます。そのような状況で、ご家族の「死に目に会いたい」という要望に応えるにはどうすればよいでしょうか? 私自身、緩和ケアの専門医になってからも「家族の要望で、フルコード(心肺停止時に心肺蘇生を含めさまざまな治療をする方針)でお願いします」と申し送りを受けることがありました。しかし、こうしたケースでも、ご家族とゆっくり話すと状況が変わることもあります。「なかなかそばにいてあげられなかったので、最後くらい一緒にいないとかわいそう」といった家族の気持ちを一通り聞いたうえで、「病状を考えると延命は難しいと思います」「できるだけ早く、病状を共有するようにします」と伝えます。そして「看取り時にご家族と会える可能性が高まるよう、できることを取り組んでいきます」とお話しすると、たいてい納得してもらえます。「家族が死に目に会えるか」は、医療者の対応だけで解決する問題ではありません。家族にも遠方に住んでいる、仕事を休めないといったさまざまな事情を抱えています。医療者としてできることに誠実に取り組むのは当然ですが、結果的に「死に目に会えなかった」としても、医療者が全責任を負う必要はないでしょう。それはそれでその患者さんとご家族の生活であり、人生です。少しドライかもしれませんが、患者さんと距離の近い看護師の方などから「最期にご家族に会わせてあげられなかった。十分なケアではなかった」と後悔する声を聞くことがあります。そうした方には、このような私の考えを伝えています。皆さんはどう考えますか?今回のTips今回のTips「死に目に会いたい」は、希望であって義務ではない。医療者として背負わなくてよいこともある。

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昔話「うらしまたろう」(その2)【隠された陰謀とは?そして精神医学的に解釈するなら?(シン浦島太郎)】Part 1

今回のキーワード伝承の心理原田病(急性びまん性ぶどう膜炎)ウラシマ効果モラハラ気質ストックホルム症候群中毒(嗜癖)ひきこもりブリーフセラピー前回(その1)は、浦島太郎の3つの謎を紐解きました。それは、おじいさんにならなければならなかった理由、乙姫が開けてはいけない玉手箱をわざわざ渡した理由、そして帰ってきたら数百年経っていた理由でした。さらに、このストーリーには隠された陰謀がありそうです。それは何でしょうか?前回に引き続き、今回(その2)も浦島太郎を取り上げます。そして、伝承の心理の視点で、現代の精神医学的な解釈に挑戦してみましょう。浦島太郎に隠された陰謀とは?この根拠は、丹後国風土記(713~715年)のすぐあとに書かれた正史である日本書紀(720年)と万葉集(732年前後)です。これらは、同じ8世紀の歴史書であるにもかかわらず、浦島太郎のストーリーのディテールに食い違いがあります。最後に、その違いを3つ挙げ、その陰謀に迫ってみましょう。(1)浦島太郎を体制側の使者にすり替えた前回(その1)に、丹後国風土記に書かれた「雄略天皇の御代」(5世紀)は、船出した時期ではなく帰ってきた時期、つまり丹後国が衰退した時期の隠喩であることを説明しました。にもかかわらず、日本書紀ではわざわざ船出の時期が「雄略22年(西暦478年)7月」とさらに限定して書かれています。なぜ付け加えたのでしょうか?なんと、この「雄略22年(西暦478年)7月」は、ちょうど雄略天皇(大和政権)が宋(中国)に使者を送った時期でした。そしてこの時は、日本書紀で「豊受大神を伊勢に遷座させた」(丹後の神を丹後から追い出した)時期ともされました。つまり、あえてこの時期をピンポイントで限定したのは、その1で説明した丹後国風土記のミスリードを利用して、反体制側(地方王権)の浦島太郎を体制側(中央政権)の使者にすり替えるという正史の陰謀であったことが示唆されます。ちなみに、昔話「桃太郎」も、もともとは吉備国の伝説で、登場する鬼は実は反体制側の地域王権であったという説があります1)。(2)浦島太郎を体制側の舞台にすり替えたもともと浦島太郎の舞台は「丹後国(京都)」であったのに、万葉集では「住吉(大阪)」になっています。なぜ変えたのでしょうか?大阪は、大和政権の拠点である奈良盆地から一番近い海です。つまり、反体制側の浦島太郎を体制側の舞台にすり替えるという正史の陰謀であったことが示唆されます。こうして、浦島太郎の舞台が曖昧となり、日本全国、不特定多数に広がってしまったのでした。(3)浦島太郎を体制側の老人神にすり替えたもともと浦島太郎のラストは老人にならなかったのに、万葉集では「若々しかった肌はしわだらけ、黒かった髪も真っ白になり、息も絶え絶えでついに死んでしまった」と書かれ、老人になっています。なぜ書き足したのでしょうか?老人は、大和政権の成り立ちを伝える「海幸山幸伝説」に登場する「塩筒老翁」(老人神)を連想します。つまり、反体制側の浦島太郎を体制側の老人神にすり替えるという正史の陰謀であったことが示唆されます。それが、やがて御伽草子で仙人のイメージに変わっていったのでした。次のページへ >>

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昔話「うらしまたろう」(その2)【隠された陰謀とは?そして精神医学的に解釈するなら?(シン浦島太郎)】Part 2

伝承の心理とは?浦島太郎とは、昔話でありファンタジーであり伝説であり、そしてもともと史実であったことがわかりました。これらはまとめて伝承と呼ばれます。そして、伝承される内容は、その時代のその社会(文化)によって、より適応的な意味づけや解釈がされ、変化していくことがわかります。これは、伝承の心理と呼べるでしょう。先ほどの陰謀論にしても、それは丹後国の視点です。大和政権の視点からは、浦島太郎の新たな伝承が、当時の社会をまとめていくイデオロギーとして機能していたわけです。妖怪の言い伝えにしても、たとえば「座敷わらし」は実は認知症の症状であったり、「一目小僧」は奇形児の特徴であったりと、単なる作り話ではなく、精神障害や身体障害を含む人間の生き様から由来していることがわかります。なお、座敷わらしの起源の詳細については、関連記事1をご覧ください。そして、進化心理学的に考えれば、人類がそもそも伝承を好む理由は、その社会(集団)の生存と生殖の適応度を上げるためです。原始の時代から、私たちは毎晩キャンプファイヤーを囲んで、集まった部族の誰かの話に耳を傾けてきました。その適応行動が、現代ではテレビなどのメディアを見ることに取って代わっただけです。この起源の詳細については、伝承を噂話に言い換えた関連記事2をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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昔話「うらしまたろう」(その2)【隠された陰謀とは?そして精神医学的に解釈するなら?(シン浦島太郎)】Part 3

シン浦島太郎とは?伝承の心理の視点から、現代の社会構造や価値観によって、浦島太郎のストーリーはどう解釈できるでしょうか?たとえば、日本眼科学会から医学的な解釈として、実は浦島太郎は「原田病」(急性びまん性ぶどう膜炎)という免疫疾患にかかったという指摘がされています2)。これは、発病すると視力が落ち難聴となり白髪やシワが増えていき、どんどん老け込んでいくという特徴があります。また、物理学的な解釈として、実は浦島太郎は宇宙旅行に連れ出されて、帰ってきたら自分よりも地球の時間が速く進んでいたというストーリーもあります。この現象は、相対性理論の「ウラシマ効果」と呼ばれています。最後に、精神医学的な解釈として、現代版の浦島太郎、名づけて「シン浦島太郎」を3つのポイントに分けて物語ってみましょう。(1)乙姫は実はモラハラ気質であった現代に生きる浦島太郎さんは、人権意識がとても高い若者です。亀に誘われて竜宮城を訪ねたのはいいものの、乙姫に「四季の部屋」に案内されるなどして引き留められ、なかなか帰らせてくれません。やっとのことで自宅に帰ってみたら、思っていた以上に月日が過ぎ去っていました。しかも、お土産の玉手箱を開けると、中から謎の薬品が噴射され、体に著しい異変が起こりました。浦島太郎さんは、乙姫は説明義務を怠ったと憤ります。また、逆恨みから放射性物質を仕掛けていたのではないかとおびえます。あの乙姫ならやりかねません。よくよく考えると、亀は助けてもらった恩返しと言っておきながら、一方的で強引でした。竜宮城からは自由に出ることはできず、あの手この手で理由をつけられて拉致監禁されていました。乙姫はモラハラ気質で、自分はストックホルム症候群(詳細は関連記事3を参照)に陥っていたことに浦島太郎さんは気付きます。これは、乙姫だからといって決して許されることではありません。浦島太郎さんは、すぐにSNSで竜宮城での乙姫による拉致監禁、玉手箱による甚大な健康被害を世間に注意喚起します。二度と自分のような被害者が出ないようにと願いました。そして、当局に竜宮城と乙姫を刑事告訴して、損害賠償請求しました。これから長い戦いになりそうです。(2)竜宮城は実は中毒の刺激だらけだった現代に生きる浦島太郎くんは、退屈な毎日を送る若者です。ある日、亀から竜宮城という名のテーマパークの永久パスポートをもらいました。そこは、病みつきになりそうなメニューが食べ放題。お酒飲み放題。アトラクション乗り放題。ゲームし放題。連日、歌とダンスとパレードのお祭りが続き、なんと宿泊し放題。さらに、キャストの乙姫たちから心地良い言葉かけやスキンシップなどのおもてなしも。浦島太郎くんはすっかり入り浸ってしまい、月日が過ぎるのを忘れてしまいます。ふと気付くと、不摂生から太ってしまい、動くと息切れがするようになってしまいました。頭はぼんやりして、ぶつぶつと独り言を言っていました。体も心もボロボロで、彼はお土産の玉手箱を開ける前に、すでにおじいさんのようになっていたのでした。浦島太郎くんは、中毒(嗜癖)の刺激(詳細は関連記事4を参照)にさらされすぎて、生活習慣病や認知機能低下など心身ともに後遺障害がみられているようです。(3)玉手箱は実は未来を映し出す鏡だった現代に生きる浦島太郎は、長年ひきこもりになっている若者です。竜宮城と名づけた自分の部屋で好きなゲームをし続け、乙姫と皮肉った親に身の回りの世話をさせてきました。しかし、ふとこのままでいいのかと焦ってもいました。ある日、ネット検索をしていると、「玉手箱」という亀のマークのアプリに目が留まります。気になってクリックすると、「30年後の自分」と名乗る生成AIが出てきました。その自分は、確かに老けていますが、顔も声も自分に似ています。そして、「自分で竜宮城を立てたよ」「本当の乙姫と一緒になれたよ」「こうなるための自分の強みは何だったと思う?」「まず何をしたと思う?」と語りかけてきます。浦島太郎は、ブリーフセラピー(詳細は関連記事5を参照)を受けたことで、理想の未来を垣間見て、むしろ気持ちは若返っているようです。1)「よみがえる浦島伝説」P31:坂田千鶴子、新潮社、20012)「第109 回 日本眼科学会総会 特別講演II 眼疾患発症の外因と内因」P907:大野重昭、日本眼科学会、2005<< 前のページへ■関連記事ペコロスの母に会いに行く【認知症】NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(中編)【そもそもなんで私たちは噂好きなの?じゃあこれから情報にどうする?(メディアリテラシー)】Part 1美女と野獣【実はモラハラしていた!? なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】映画「チャーリーとチョコレート工場」【夢の国は「中毒」の国!?その「悪夢」とは?(嗜癖症)】Part 2東京タラレバ娘【ブリーフセラピーとは?】

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大ヒット書籍の著者に聞く、医師ならではのAIツールの「使いこなし」

2024年6月に発売された、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚 篤司氏による『医師による医師のためのChatGPT入門:臨床がはかどる魔法のプロンプト』(医学書院)が評判になっている。CareNet.comが同時期に行った会員向け生成AI使用状況のアンケートでは、使用経験のある医師は約2割という結果だった。「AIで医師の仕事が大きく変わることは必至」という大塚氏に、執筆の動機や生成AIの上手な使い方について聞いた。使っている医師は約2割、一般よりも慎重か――CareNet.comのアンケートでは、生成AIを「現在使用している」と回答した医師は約20%でした。本の出版後、多くの医療者から感想を頂きましたが、そこで得た私の体感とも大きく外れてはいません。一般ビジネスパーソンを対象にした同様のアンケートでは4割超が使っている、といった結果もあるので、医師はまだ使用に慎重な面もあるのでしょう。使わない理由として「使いこなすのが難しそう」という意見が多かったようですが、生成AIはそこまで難しいものではありません。「AI」という言葉の響きから、プログラミングのような専門知識が必要だと思って敬遠する人が多いのかもしれませんが、そんなことはまったくない。「情報が正しいかどうか信頼できない」という意見もありますが、確かに生成AIが登場した当初のChatGPT 3.5ではハルシネーション(もっともらしいうそ)が問題視されていましたが、最近はそれを抑える使い方も出ており、間違った情報自体も減ってきている。初期のころの印象に引っ張られて使わないでいるのは、本当にもったいないと思います。まずは論文の翻訳・要約から――医師という職業特性を踏まえ、AIツールを使うべき場面は?最初はインプット部分、具体的には論文を読む場面でしょう。私自身、今では論文を最初から読むことはほとんどありません。まずChatGPTに論文の内容を翻訳・要約してもらい、それを読んでから気になる箇所を原文で確認したり、ChatGPTに詳しく聞いたりして、内容を深く理解しています。原文に目を通すのは、最終的に内容が間違っていないかを確認する程度。ガイドラインもPDFで読み込ませておけば、ChatGPTに質問するだけで該当箇所を示してくれるので調べる時間が節約できます。「どんな場面で使えばいいのかわからない」という方は、まずはGoogle検索をする場面で代わりにChatGPTに聞いてみるとよいでしょう。私は昨年からPythonのプログラミングを学びはじめたのですが、この学習にもChatGPTが大いに役立っています。自分で画像診断システムをつくろうとしているのですが、これも生成AI登場前では考えられなかったことです。アウトプット部分では、生成AIは文書の下書きが上手なので、定型的な文書、紹介状や症例報告などの下書きを任せています。文書の校正なども得意です。もちろん患者情報などは入力しませんが、入力することでできることも多いはず。医療においてAIをどこまでどう使うのか。できることが急速に増えているのに比してグレーゾーンが広いので、ルールづくりの議論を進める必要があるでしょう。まずはChatGPT、ツールによって得意分野はさまざま――ChatGPT以外にもさまざまなツールがありますが、どう使い分けているのでしょうか?私は、ほぼすべての生成AIツールを一度は課金して使っています。少し込み入ったことをするには無料版だと限界がありますし、フル機能で使ってみないとツールの良し悪しを判断できないからです。「とりあえず使ってみたい」という方は、マルチに使えるChatGPTの有料版から始めるとよいのではないでしょうか。一方、日本語の精度はClaudeが優れているので、より自然できれいな日本語の文章を作成したい場合はこちらがお勧めです。GeminiはGoogleが提供するツールの裏で動いているため、Google AI StudioのようなGoogleのサービスと相性が良い、という特徴があります。最近注目しているのが、テキストから動画を生成できるGen-3 Alphaです。動画はプロンプト(AIへの指示や質問)が同じでも毎回異なる結果が出力され、思いどおりのアウトプットを得るのが難しい面もありますが、そこが面白さでもあります。医療の仕事は「正確性」が求められるので、正確さを求められない生成AIの動画の用途を模索していたのですが、最近「使えるかも」と感じたのが「教育」分野です。たとえば、以前「ヘリオトロープ疹」の動画を作成してみました。ヘリオトロープ疹は、上まぶたに紫色の皮疹が出る疾患で、ヘリオトロープの花の色に似ていることから名付けられました。これを学生の記憶に残りやすいよう、ヘリオトロープ疹とヘリオトロープの花を組み合わせた動画にしました。バラの花と組み合わせた「バラ疹」にもトライしました。正確性よりも印象に残るイメージを生成するという点で、AIは有効なツールになりうる印象です。大塚氏が生成AIで作成した「バラ疹」のイメージ動画AIで激変する医師の仕事、自ら変化を生み出すために――医療者向けに生成AI使いこなしの書籍を執筆した動機は?学内やSNSでAIの使い方について聞かれることが増え、まとめる価値があるのではと考えました。日々変わるAIツールを本というメディアで伝える難しさはありましたが、基本的なことは網羅できたと思います。また、医師としての危機感も出版の動機です。AI技術を使えば、電子カルテに入力された情報から自動的に診断を行うシステムを簡単につくることができます。そうなると、どの科でも、医師免許と処方箋を書く権限がある医師が1人いれば、病院を運営できる未来が来るかもしれません。もちろん、AIがすべての医師の仕事を代替することは難しいでしょうが、AI技術の進化によって、医師の働き方が大きく変わることは間違いありません。大事なのは、その変化を“医療者自身”が生み出すこと。医療者以外が医療のAI開発に取り組めば、「AIを使って、いかに医療費や医師を削減するか」という視点ばかりになる危険性があります。だからこそ、医療者自らがAIツールを使い、その可能性と限界を知ることが重要です。AIツールを使いこなすことで、医師はより創造的な仕事に集中できるようになるはず。AIとより良く共存し、人間にしかできない医療を創造するために、医療者自らがAI技術に対する理解を深める必要がある。この本にはそうしたメッセージも込めました。大好評の書籍はこちら(ケアネット 杉崎 真名)

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日本の精神科ガイドライン著者におけるCOI分析

 臨床診療ガイドライン(CPG)は、エビデンスに基づく標準的な患者ケアを提供するために、必要不可欠である。しかし、CPGの著者に対する金銭的な利益相反(COI)により、著者への信頼性が損なわれる可能性がある。東北大学の村山 安寿氏らは、日本の精神科CPGの著者におけるCOIの範囲および規模を調査するため、本研究を実施した。BMJ Open誌2024年6月21日号の報告。 製薬会社より開示された支払い金額を横断的に分析し、日本の双極性障害/うつ病のCPGの著者に対し2016〜20年に支払われた講演謝礼、コンサルティング料、執筆謝礼などを評価した。 主な結果は以下のとおり。・5年間に著者の93.3%に対し支払いが行われており、その総額は400万米ドル超であることが判明した。・著者1人当たりの支払額中央値は5万1,403米ドル(IQR:9,982〜11万1,567)であり、CPG委員長を含む少数の著者に集中していることが顕著であった。・CPGでCOIを開示した著者は、ごく一部に過ぎなかった。・多額の支払いは、CPGに掲載されている新規抗うつ薬や睡眠薬を製造販売している製薬会社でなされた。 著者らは「日本の双極性障害/うつ病CPGの著者のうち、93%以上が製薬会社からの支払いを受けていることが明らかとなった。国際的なCOIマネジメント基準から逸脱していると考えられ、日本の精神科CPGに対する厳格なCOIポリシーの必要性が示唆された」としている。

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HR+/HER2-進行乳がん1次治療、リアルワールドでのパルボシクリブ+フルベストラント/+AIの効果/日本乳学会

 HR+/HER2-進行乳がん1次治療におけるパルボシクリブ+フルベストラントとパルボシクリブ+アロマターゼ阻害薬(AI)の効果をリアルワールドデータ(RWD)で評価した結果、ほぼ同様な傾向であったことを京都大学の増田 慎三氏が第32回日本乳学会学術総会で発表した。後治療の検討から、増田氏は「後治療におけるホルモン療法の期間を伸ばす工夫が今後大切」とした。 HR+/HER2-進行乳がんにおいてパルボシクリブと内分泌療法の併用療法が内分泌療法単独と比較して無増悪生存期間(PFS)を有意に延長することは第III相試験において示されているが、実臨床下でフルベストラント併用とAI併用を別々に評価した研究はほとんどない。本研究では、HR+/HER2-進行乳がんに1次または2次治療としてパルボシクリブ+内分泌療法を行った際の実臨床下での有用性を評価した国内20施設の多施設観察研究のデータから、1次治療として登録された420例のうち、術後補助療法終了から再発までの期間(TFI)が12ヵ月以上、および初診時Stage IVの症例を解析対象とした。併用した内分泌療法別に、患者背景、実臨床下でのPFS(rwPFS)、全生存期間(OS)、化学療法開始までの期間(CFS)、後治療の内訳を評価した。 主な結果は以下のとおり。・1次治療でパルボシクリブ+フルベストラントおよびパルボシクリブ+AIで治療された症例は、それぞれ74例および118例であった。患者背景に大きな違いはなかったが、閉経前/閉経周辺期の患者割合がフルベストラント併用群27.0%、AI併用群 6.8%とフルベストラント併用群で多かった。・rwPFS中央値は、フルベストラント併用群 で33.57ヵ月(95%信頼区間[CI]:23.37~50.43)、AI群で34.10ヵ月(同:25.63~44.53)とほぼ同様で、第II相試験であるPARSIFAL試験、PARSIFAL-LONG試験の再現性が認められた。・CFS中央値についても、フルベストラント併用群43.90ヵ月(同:32.57~NE)、AI群42.53ヵ月(同:33.6~NE)で同様の傾向がみられた。・OS中央値はどちらも未達で、今後、長期フォローアップによるデータの更新を予定している。・TFIが12ヵ月以上の再発症例と初診時StageIVの症例、また閉経状況によらず、rwPFS、CFS、OSはおおむね同じ傾向であった。・後治療の内訳は、フルベストラント併用群、AI併用群の順に、化学療法が34.1%および29.5%、内分泌療法単独が19.5%および26.2%、内分泌療法+CDK4/6阻害薬が17.1%および34.4%、内分泌療法+エベロリムスが26.8%および4.9%であった。1次逐次治療で内分泌療法±分子標的治療を選択された患者群の治療期間中央値は、フルベストラント併用群3.0ヵ月、AI併用群4.5ヵ月であった。 増田氏は「HR+/HER2-進行再発乳がん治療において、ホルモン感受性が期待できると考えられる集団の1次治療において、日本人におけるReal world evidence studyから、パルボシクリブ+フルベストラントとパルボシクリブ+AIは共に有用な選択肢であることが示唆された」と結論した。

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日本人で増加傾向の口腔がん、その最大要因とはー診療ガイドライン改訂

 『口腔診療ガイドライン2023年版 第4版』が昨年11月に4年ぶりに改訂された。口腔がんは歯科医も治療を担う希少がんだが、口腔がんを口内炎などと見間違われるケースは稀ではないという。そこで今回、日本口腔腫瘍学会学術委員会『口腔診療ガイドライン』改定委員会の委員長を務めた栗田 浩氏(信州大学医学部歯科口腔外科学 教授)に口腔がんの疫学や鑑別診断などについて話を聞いた。 本ガイドライン(以下、GL)では、日常的に出くわす臨床疑問に対してClinical Question(CQ)を設定、可能な限りのエビデンスを集め、GRADEアプローチに準じ推奨を提案している。希少がんであるがゆえ、少ないエビデンスから検証を行っていることもあり、FRQ(future research question)やBQ(background question)はなく、すべてがCQだ。同氏は「アナログな手法ではあるが、システマティック・レビューで明らかになっているCQの “隙間を埋める”ように、明らかにされていない部分のCQを作成し、全部で60個を掲載した」と作成経緯を説明した。口腔がん、日本人で多い発生部位やその要因 口腔がんとは、顎口腔領域に発生する悪性腫瘍の総称である。病理組織学的に口腔がんの90%以上は扁平上皮がんであり、そのほかには小唾液腺に由来する腺系がんや肉腫、悪性リンパ腫、転移性がんなどがあるが、本GLでは最も頻度が高い口腔粘膜原発の扁平上皮がんを「口腔がん」として記している。 口腔がんの好発年齢は50歳以降で加齢とともに増加し、男女比3:2と男性に多いのが特徴である。これまで国内罹患数は年間5,000~8,000人で推移していたが、近年の罹患数は年間1万人と増加傾向にあるという。これについて栗田氏は「もともと世界的にはインドや欧州での罹患率が高いが、日本人で増えてきているのは高齢化が進んでいることが要因」とコメントした。部位別発生率については、2020年の口腔がん登録*の結果によると、舌(47.1%)、下顎歯肉(18.4%)、上顎歯肉(11.9%)、頬粘膜(8.6%)、口底(6.6%)、硬口蓋(2.6%)、下顎骨中心性(1.7%)、下唇(0.8%)で、初診時の頸部リンパ節の転移頻度は25%、遠隔転移は1%ほどである。*日本口腔外科学会および日本口腔腫瘍学会研修施設における調査。扁平上皮がん以外も含む。 また、口腔がんの場合、口腔以外の部位にがんが発生(重複がん)することがあり、重複がんの好発部位と発生頻度は上部消化管がんや肺がんが多く、11.0~16.2%に認められる。これはfield cancerizationの概念1,2)で口腔と咽頭、食道は同一の発がん環境にあると考えられているためである(CQ1、p.80)。 これまで、全国がん登録を含め口腔がんの統計は口腔・咽頭を合算した罹患数の集計になっていたため、口腔がん単独としては信頼性の高いデータは得られていなかった。同氏は「咽頭がんと口腔がんでは性質が異なるので別個の疾患として捉えることが重要」と、口腔がんと咽頭がんは別物であることを強調し、「本GLに記されている罹患率は口腔がん登録のものを記しているため、全国がん登録の罹患状況とは異なる。その点に注意して本GLを手に取ってもらいたい。今後、口腔がんに特化したデータの収集を行うためにも口腔がん登録が厳正に進むことを期待する」と説明した。口腔がんが疑われる例、現在の治療法 口腔がんが生じやすい部位や状態は、舌がん、歯肉がん、頬粘膜がんの順に発生しやすく、鑑別に挙げられる疾患として口内炎、歯肉炎、入れ歯による傷などがある。「もし、口内炎であれば通常は3~4日、長くても2週間で治る。この期間に治らない場合や入れ歯が合わないなどの原因をなくしても改善しない場合、そして、白板症、紅板症のような前がん病変が疑われる場合は歯科や口腔外科へ紹介してほしい。またステロイド含有製剤の長期投与はカンジダなど別疾患の原因となる可能性もあり避けてほしい」と話した。 口腔がんの治療は主に外科療法で、口腔を含む頭頸部がんにも多くの薬剤が承認されているが、薬物療法のみで根治が得られることは稀である。再発リスク因子(頸部リンパ節節外進展やその他リスク因子)がある場合には、術後化学放射線療法や術後放射線療法を行うことが提案されている(CQ33、p.146)。外科手術や放射線療法の適応がない切除不能な進行がんや再発がんにおいては、第1選択薬としてペムブロリズマブ/白金製剤/5-FUなどが投与されるため、がん専門医と連携し有害事象への対応が求められる。口腔がんの予防・早期発見、まずは口腔内チェックから 口腔がんの主な危険因子(CQ2~4、p.81~85)として喫煙や飲酒、合わない入れ歯による慢性的な刺激、そしてウイルス感染(ヒトパピローマウイルス[HPV]やヒト免疫不全ウイルス[HIV]など)が挙げられるが、「いずれも科学的根拠が乏しい。早期発見が最も重要であり、50歳を過ぎたら定期的な口腔内チェックが重要になる」と強調した。 現在、口腔以外の疾患で入院している患者では周術期などの口腔機能管理(口腔ケア、栄養アセスメントの観点からの口腔内チェックなど)が行われており、その際に口腔がんが発見されるケースもある。健康で病院受診をしていない人の場合には、近年では各歯科医師会主導の集団検診や人間ドックのオプションとして選択することがリスク回避の場として推奨される。同氏は「歯周病検診は口腔機能をチェックするために、口腔がん検診は生活習慣病の一貫として受けてほしい。口腔がん検診は目に見えるため容易に行えるほか、前がん病変、口腔扁平苔癬、鉄欠乏性貧血、梅毒による前がん状態などの発見にもつながる」と説明した。 最後に同氏は「口腔がんは簡単に見つけられるのに、発見機会が少ないがゆえに発見された時点で進行がんになっていることが多い。進行がんでは顔貌が変化する、食事は取りづらい、しゃべることが困難になるなど、人間の尊厳が奪われ、末期は悲惨な状況の患者が多い。そのような患者を一人でも減らすためにも早期発見が非常に重要」とし、「診察時に患者の話し方に違和感を覚えたり、食事量の低下がみられたりする場合には、患者の口腔変化を疑ってほしい」と締めくくった。

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卵巣がんリスク、卵巣子宮内膜症/深部子宮内膜症では9.7倍/JAMA

 卵巣がんのリスクは、卵巣子宮内膜症や深部子宮内膜症を有する女性で顕著に高いことを、米国・ユタ大学のMollie E. Barnard氏らが、ユタ州住民データベース(Utah Population Database:UPDB)を用いたコホート研究の結果を報告した。子宮内膜症は卵巣がんのリスク増加と関連しているが、子宮内膜症のサブタイプと卵巣がんの組織型との関連は十分に明らかになっていなかった。著者は、「卵巣子宮内膜症ならびに深部子宮内膜症を有する女性は、卵巣がんのリスクと予防に関するカウンセリングによって恩恵を受ける可能性がある。スクリーニングと予防研究の対象として重要な集団となるだろう」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年7月17日号掲載の報告。1,100万人以上の住民データベースを用い子宮内膜症と卵巣がんのリスクを解析 研究グループは、ユタ州の1,100万人以上の情報を含むUPDBを用い、1992~2019年に子宮内膜症と診断された18~55歳の女性7万8,893例を同定し、出生年と出生地(ユタ州/それ以外)に関して1対5の割合でマッチさせた子宮内膜症を有していない女性37万9,043例(対照群)から成るコホートを構築した。 主要アウトカムは卵巣がんで、子宮内膜症の各サブタイプと卵巣がんの組織型との関連について、ロバスト分散推定によるCox比例ハザードモデルを用い、対照群に対する症例群の補正後ハザード比(aHR)とその95%信頼区間(CI)を算出するとともに、一般化線形モデルを用いて1万人当たりの補正後リスク差(aRD)を推定した。 子宮内膜症は、電子健康記録を用いて腹膜病変、卵巣子宮内膜症、深部子宮内膜症、卵巣子宮内膜症と深部子宮内膜症の併存、またはその他の5つに分類した。 また、卵巣がんについては、I型卵巣がん(類内膜がん、明細胞がん、粘液性がん、低異型度漿液性がん)、およびII型卵巣がん(高異型度漿液性がん)に分類した。子宮内膜症群では卵巣がんのリスクは4.2倍 解析対象は、初期コホートからベースライン時点でがん罹患歴のある症例、死亡、両側卵巣摘出およびindex date以前に卵巣がん診断歴のある症例を除外した45万906例(子宮内膜症群7万8,476例、対照群37万2,430例)で、子宮内膜症群の初回診断時の平均年齢は36歳(SD 10)であった。 子宮内膜症群は対照群と比較して、卵巣がんのリスクが高く(aHR:4.20[95%CI:3.59~4.91]、aRD:9.90[95%CI:7.22~12.57])、中でもI型卵巣がんのリスクが高かった(7.48[5.80~9.65]、7.53[5.46~9.61])。 子宮内膜症のサブタイプ別では、深部子宮内膜症および/または卵巣子宮内膜症を有する女性で卵巣がんのリスクが高く、全卵巣がん(aHR:9.66[95%CI:7.77~12.00]、aRD:26.71[95%CI:20.01~33.41])、I型卵巣がん(18.96[13.78~26.08]、19.57[13.80~25.35])、およびII型卵巣がん(3.72[2.31~5.98]、2.42[-0.01~4.85])であった。

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ニルマトレルビル・リトナビル、曝露後予防の効果なし/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の家庭内接触者を対象に、ニルマトレルビル・リトナビルの曝露後予防の有効性および安全性を検討した第II/III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、ニルマトレルビル・リトナビルの5日間または10日間投与はいずれも、症候性COVID-19発症リスクの有意な低下が認められなかった。米国・PfizerのJennifer Hammond氏らが報告した。COVID-19治療薬の臨床試験では、これまで曝露後予防の有効性は示されていなかった。NEJM誌2024年7月18日号掲載の報告。COVID-19家庭内接触後96時間以内で無症状かつ迅速抗原検査陰性の成人が対象 研究グループは、無作為化前96時間以内にCOVID-19患者と家庭内接触があり、無症状かつSARS-CoV-2迅速抗原検査陰性の成人を、ニルマトレルビル・リトナビル(ニルマトレルビル300mg、リトナビル100mg)の5日間投与群、10日間投与群、またはプラセボ群(5日間または10日間投与)に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインでRT-PCR検査が陰性であった参加者(解析対象集団)における、14日目までの症候性COVID-19の発症(RT-PCR検査または迅速抗原検査でSARS-CoV-2感染を確認)であった。 2021年9月9日~2022年4月12日に、計2,736例が5日間投与群921例、10日間投与群917例、およびプラセボ群898例に無作為化された。症候性COVID-19発症率にプラセボ群と有意差認められず 投与14日目までのRT-PCR検査または迅速抗原検査でSARS-CoV-2感染が確認された症候性COVID-19の発症率は、5日間投与群2.6%(22/844例)、10日間投与群2.4%(20/830例)、プラセボ群3.9%(33/840例)であった。 プラセボ群に対する相対リスクの減少は、5日間投与群で29.8%(95%信頼区間[CI]:-16.7~57.8、p=0.17)、10日間投与群で35.5%(-11.5~62.7、p=0.12)であり、統計学的な有意差は認められなかった。 有害事象の発現率は、5日間投与群23.9%(218/912例)、10日間投与群23.3%(212/911例)、プラセボ群21.7%(195/898例)で、いずれも同程度であった。最も発現率が高かった有害事象は味覚障害で、それぞれ5.9%、6.8%、0.7%であった。 なお著者は、ニルマトレルビル・リトナビルの独特の味による盲検化への影響、COVID-19患者に関する診断や治療に関する詳細なデータの不足、家庭内の他の家族の影響などを本研究の限界として挙げている。

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ベンゾジアゼピン系薬剤は認知症リスクを上げるか

 ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が認知症リスクを増加させる可能性は低いが、脳の構造に長期にわたってかすかな影響を及ぼす可能性のあることが、新たな研究で報告された。認知機能の正常なオランダの成人5,400人以上を対象にしたこの研究では、同薬剤の使用と認知症リスクの増加との間に関連性は認められなかったという。研究グループは、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用による認知症リスクの増加を報告した過去の2件のメタアナリシスとは逆の結果であると述べている。エラスムス大学医療センター(オランダ)のFrank Wolters氏らによるこの研究の詳細は、「BMC Medicine」に7月2日掲載された。 ベンゾジアゼピン系薬剤は、脳の活動を抑制する神経伝達物質GABAの放出を促進して神経系の活動を低下させる薬剤で、催眠作用、抗不安作用、抗けいれん作用、筋弛緩作用を有する。今回の研究では、オランダの成人5,443人(平均年齢70.6歳、女性57.4%)を対象に、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が認知機能にもたらす長期的な影響について検討した。Wolters氏らは、1991年からベースライン(2005〜2008年)までの調剤薬に関する記録を調べ、また、処方されたベンゾジアゼピン系薬剤が抗不安薬であるか鎮静催眠薬であるのかも確認した。さらに、脳MRI検査を繰り返し受けていた4,836人を対象に、神経変性マーカーとベンゾジアゼピン系薬剤の使用との関連も検討した。 5,443人のうち2,697人(49.5%)が、ベースライン以前の15年間のいずれかの時点でベンゾジアゼピン系薬剤を使用していた(1,263人〔46.8%〕は抗不安薬、530人〔19.7%〕は鎮静催眠薬、904人〔33.5%〕はその両方を使用)。平均11.2年に及ぶ追跡期間中に726人(13.3%)が認知症を発症していた。 解析の結果、累積用量にかかわりなく、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用により、使用しない場合と比べて認知症の発症リスクは有意に増加しないことが示された(ハザード比1.06、95%信頼区間0.90〜1.25)。種類別に見ると、同リスクは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の使用の方がベンゾジアゼピン系鎮静催眠薬の使用よりも幾分か高かったが、いずれも統計学的に有意ではなかった(抗不安薬:同1.17、0.96〜1.41、鎮静催眠薬:同0.92、0.70〜1.21)。 一方、脳MRI画像の検討からは、ベンゾジアゼピン系薬剤の現在の使用は、横断的には海馬、扁桃体、視床の体積の減少(萎縮)、縦断的には海馬の加速度的な萎縮、および海馬ほどではないが扁桃体の萎縮と有意に関連することが示された。 こうした結果を受けてWolters氏らは、「これらの結果は、ベンゾジアゼピン系薬剤の長期処方に注意を促す現在のガイドラインを支持するものだ」と結論付けている。 研究グループは、「ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が脳の健康に及ぼす潜在的影響について調査するためには、さらなる研究が必要だ」と話している。

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感謝の気持ちは寿命を延ばす

 感謝の気持ちを持つことは長生きの秘訣となる可能性が、新たな研究で示唆された。Nurses’ Health Study(NHS)に参加した4万9,000人以上の女性を対象にしたこの研究では、感謝の気持ちを測定する質問票での得点が高かった女性では、低かった女性に比べてあらゆる原因による死亡(全死亡)のリスクが9%低いことが明らかになったという。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のYing Chen氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Psychiatry」に7月3日掲載された。 Chen氏は、「感謝の気持ちを持つことで精神的苦痛が軽減する一方で、感情的ウェルビーイングと社会的ウェルビーイングは向上する可能性のあることは、過去の研究で示唆されている。しかし、感謝の気持ちと身体的健康との関連について分かっていることは少ない」と話している。 今回の研究では、NHS参加女性4万9,275人(ベースライン時の平均年齢79歳)を対象に、感謝の気持ちと全死亡および原因別死亡との関連が検討された。対象女性は2016年に、感謝の気持ちを評価する質問票に回答していた。この質問票は、「私の人生には、ありがたいと思うものがとても多い」や「感謝の気持ちを感じるものをリストアップすると大変長くなる」などの6項目の質問に、1(全く同意しない)から7(強く同意する)で回答する内容だった。対象者の死亡(全死亡、原因別死亡)については2019年12月まで追跡された。 平均3.07年にわたる追跡期間中に4,608人の死亡が確認された。最も多かった死因は心血管疾患(1,364人)であり、そのほかの死因は、呼吸器疾患、がん、神経変性疾患などだった。質問票の回答を総計したスコアに応じて対象者を高・中・低の3群に分け、ベースライン時の社会人口学的特性や社会・宗教的参加、メンタルヘルスなどを調整して解析した結果、高スコア群では低スコア群に比べて全死亡リスクが9%低いことが明らかになった(ハザード比0.91、95%信頼区間0.84〜0.99)。また、死因別に解析したところ、心血管疾患による死亡と感謝の気持ちは逆相関の関係にあり、高スコア群では低スコア群に比べて同死亡リスクが15%有意に低い(同0.85、0.73〜0.995)ことが示された。そのほかの死因(がん、呼吸器疾患、神経変性疾患、感染症、外傷、その他)でもリスク低下は認められたが、統計学的に有意ではなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、「これらの結果に基づくと、人は感謝の気持ちを抱くものに心を傾けることで、健康を改善できる可能性がある」と述べている。またChen氏は、「先行研究では、週に数回、感謝していることを書き出したり話し合ったりするなど、意図的に感謝の気持ちを育む方法があることが示されている。健康的な老化の促進は公衆衛生の優先事項である。今後の研究で、長寿を増進する心理的資源としての感謝の気持ちに対する理解が深まることを期待している」と述べている。

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