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influenza(インフルエンザ)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第9回

言葉の由来“influenza”という言葉は、ラテン語の“influentia”(流れ込む)から派生したものだそうです。これは“influence”(影響)という英単語の語源でもあるようです。過去の記録によれば、当時の人々は、この病気が天体の影響によって引き起こされると考えていたようで、とくに占星術の影響が強かった中世では、星々の位置が地上の出来事に影響を与えると信じられていたそうです。このため、突然広がる流行性の病気は、天体からの影響だと解釈されていたわけです。興味深いことに、18世紀ごろまでは“influenza di freddo”(寒さの影響・流れ込み)という言い方もされており、寒気が体内に「流れ込む」ことで病気が発生するとも考えられていたようです。時代が変わり、19世紀後半に病原体としてのウイルスが発見されるまで、この「天体の影響」や「寒気の流れ込み」という概念が続いていました。現代の医学では、インフルエンザはウイルス感染症であることが明らかになっていますが、その名称には中世の人々の世界観が今も残っているようです。なお、“influenza”は日本語でも「インフルエンザ」ですが、日本では古くは「地域名+かぜ」あるいは「流行性感冒」と呼ばれており、ウイルスが分離され、命名されるまでは、この病気に対する特別な名前はなかったようです。併せて覚えよう! 周辺単語抗ウイルス治療antiviral therapy混合感染concomitant infection抗原シフトantigenic shiftワクチンvaccine飛沫感染予防droplet precautionこの病気、英語で説明できますか?Influenza, commonly known as "flu", is a highly contagious respiratory illness caused by influenza viruses. It can cause mild to severe illness and, at times, can lead to death. 参考1)Michael Quinion. “Influenza”. World Wide Words. 1998-01-03.(参照2024-07-23)2)“Tis the (Flu) Season: The History of ‘Influenza”. Merriam-Webster.(参照2024-07-23)講師紹介

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「かゆみのない」世界の実現には?初期治療とアレルギー結膜炎新薬の役割

参天製薬は、5月に持続性・経眼瞼アレルギー性結膜炎治療剤「アレジオン眼瞼クリーム0.5%」(一般名:エピナスチン塩酸塩、以下アレジオンクリーム)を発売した。これを受け、7月にアレルギー疾患の現状と新薬が果たす役割をテーマとした「『かゆみのない世界』の実現を目指す“これからの”アレルギー結膜炎治療とは」と題したプレスセミナーを行った。日本人の2人に1人がアレルギー性結膜炎、もはや国民病(海老原氏)セミナーでは、順天堂大学の海老原 伸行氏が「アレルギー性結膜炎の病態と疫学、薬物治療について」と題した講演を行った。――アレルギー性疾患の有病率を見ると、アレルギー性結膜疾患が48.7%、アレルギー性鼻炎が36.5%、日本人の2人に1人は何かしらのアレルギーを持っているわけで、もはや国民病といえる。アレルギーの原因を見ると、日本人を対象としたIgE抗体価の調査1)では、39の調査項目のうちスギが58.7%と最多、ヒノキ34.2%など草木類が多いものの、ダニやハウスダストも36~7%と高い。また複数の抗原に反応する「多重抗原陽性者」も多く、7割近くが2つ以上の抗原に反応し、最大で30項目に反応した人もいた。こうした多重抗原陽性者はアレルギー症状が重症かつ罹患期間も長くなる傾向がある。アレルギー症状の中でもっとも多いのが「目のかゆみ」で、100%近い患者が自覚症状がある。かゆみは患者のQOLに大きく影響し、かゆみを筆頭としたアレルギー症状が仕事や勉強に影響を来している、というアンケート結果も多数ある。患者へのアンケートで抗アレルギー点眼薬に求めるものを聞いたところ、計86%の人が「まったく・ほとんどかゆみを感じない状態」を期待しており、薬剤への期待は大きい。現在、アレルギー性結膜炎に使える抗アレルギー薬は、ヒスタミンH1受容体拮抗薬とメディエーター遊離抑制薬があり、ヒスタミンH1受容体拮抗薬が主流だ。現在、ヒスタミンH1受容体拮抗薬の点眼薬は5剤あり、うち4剤が1日4回投与、1剤が1日2回投与となっている。ここに新たに加わったのが今回発売されたアレジオンクリームで、これだけが1日1回投与となる。投与回数が重要な理由は、点眼薬は内服薬よりもアドヒアランスが低く、投与回数が少ないほどアドヒアランスを高めやすいためだ。アレルギー疾患は初期療法が重要だが、このことがあまり知られていない。多くの患者さんは症状を自覚してから点眼をはじめるが、自覚症状の出る前、具体的には花粉飛散の2週間程度前から点眼をはじめることで症状を抑えられる、というエビデンスがある2)。ただ、自覚症状のない状況における1日4回の点眼はハードルが高い。こうした面からも投与回数が少ない薬剤は受け入れられやすいだろう。症状がなくても、用法通りに点眼することでかゆみを抑えられる(高村氏)続いて、元東京女子医科大学眼科教授・高村 悦子氏が「アレルギー性結膜炎治療の変遷」と題した講演を行った。――抗アレルギー薬が発売されるまで、アレルギー性結膜炎の治療薬はステロイドの点眼薬しかなかった。ステロイド点眼薬は眼圧上昇や感染症の悪化といった副作用があり、毎日使い続けられる薬剤を、というニーズから開発されたのが抗アレルギー点眼薬だった。しかしながら、現在でも多くの患者が「目のかゆみ」を訴えている。症状が改善しない理由の1つに、点眼薬が用法通りに使われていないことがある。1日4回投与する抗ヒスタミン点眼薬を処方された患者に対し、実際の使い方を聞いたアンケート3)では、「症状がひどいとき」は67.3%の人が規定通りの4回もしくはそれ以上の回数を点眼していたが、「症状がラクなとき」はこの割合は10.6%まで急落していた。本来、症状の有り無しにかかわらず、用法を遵守することで薬剤の有効性が上がるが、点眼薬ではこれがなかなか難しく、対症療法的に使われている実態が明らかになった。私自身、このアンケート結果を見て「投与回数に気を取られ、症状がなくても用法遵守することの重要性を患者さんにきちんと伝えていただろうか?」と反省した。以後は、発症期間中はかゆみの有無にかかわらず、用法遵守で点眼するという「プロアクティブ点眼」を積極的に啓蒙するようにしている。とはいえ、この名称では取っ付きにくいので、独自で「あらかじめ点眼」と言い換え、スライドを使って「症状がなくても、用法通りに点眼することでかゆみを抑えられる。あるいは軽くすることができる」と説明している。「あらかじめ点眼」の患者説明用スライド(高村氏作成)画像を拡大するまた、別のアンケート4)では、4回点眼よりも2回点眼の薬剤を処方された人のほうが適正使用していた比率が高く、投与回数が少ないほうがアドヒアランスが高いことが確認された。4回投与だった点眼薬に2回投与が登場し、今回発売されたアレジオンクリームではじめて投与回数が1回になった。投与時間も規定がなく、1日1回塗ればよい。とくに幼児や学童期、身体が不自由な方、認知症の高齢者など、自分での点眼が難しい人とケアする人にとって、1日1回、塗ればよいという手軽さは大きな利点となるはずだ。アレルギー性結膜炎の治療は、洗眼薬によるセルフケア、花粉飛散前の初期療法、花粉飛散時期の用法遵守の点眼の組み合わせが肝要だ。症状が発生してからの対症療法ではなく、かゆみの有無にかかわらず用法遵守で点眼する症状を予防する『あらかじめ点眼』を普及させるため、新たな薬剤に期待したい。アレジオン3製剤の比較画像を拡大する最後に、参天製薬製品開発本部の小山 真治氏が、今回の製品開発の狙いなどについて話した。「1日1回投与を実現するにあたり、効果が長期に持続するクリームという剤形を選択した。結果として幼児や高齢者といった点眼がうまくできない方のニーズも汲み取ることができた。眼瞼クリーム1本当たりの薬価は2回投与の点眼薬に比較して少し高くなるが、1日1回の塗布で使用量も限られるため、トータルの患者負担は大きくは変わらないと考えている。まぶたに塗布するクリーム状の眼薬は独自技術であり、ニーズに応じて他剤に拡大することも検討したい」と説明した。1)岡本 茂樹ほか. 2017年度日本眼科アレルギー学会アレルギー性結膜疾患実態調査. 日本眼科学会雑誌. 2022;126:625-635. 2)深川 和己ほか. 季節性アレルギー性結膜炎に対するエピナスチン塩酸塩点眼薬による初期療法の効果. アレルギー・免疫. 2015;22:1270-1280.3)深川 和己ほか. 季節性アレルギー性結膜炎患者におけるWebアンケートを用いた抗ヒスタミン点眼薬の点眼遵守状況によるQOLへの影響.アレルギーの臨床. 2019;39:29-41.4)福島 敦樹ほか. 季節性アレルギー性結膜炎患者における1日2回の抗ヒスタミン点眼薬の使用状況,自覚症状およびQOLへの影響. アレルギーの臨床. 2021;41:37-46.

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日本人の進行・転移胸腺腫、ステロイドが有効か

 何らかの前治療歴を有する局所進行または転移を有する胸腺腫患者において、ステロイドが抗腫瘍効果を示す可能性が示された。新潟大学の田中 知宏氏らがRespiratory Investigation誌2024年7月4日号で報告した。 国立がん研究センターにおいて、2010年1月~2021年3月にステロイド単剤(プレドニゾロンまたはデキサメタゾン)による治療を受けた局所進行または転移を有する胸腺腫患者13例を対象として、後ろ向き研究を実施した。評価項目は、奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)などとした。 主な結果は以下のとおり。・胸腺腫のWHO分類の内訳はABが3例(23%)、B1が1例(8%)、B2が5例(38%)、B3が4例(31%)であった。・対象患者は、手術、放射線療法、化学療法のうち、少なくとも1つ以上の治療歴があった。・ステロイドの初期用量は、プレドニゾロン換算で0.9mg/kg/日(範囲:0.4~1.1)であった。・ORRは53.8%(7/13例)で、SDは38.5%(5/13例)であった。・奏効までの期間の中央値は21日(範囲:6~88)であった。・PFS中央値は5.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.5~9.6)であった・OS中央値は25.3ヵ月(95%CI:7.1~推定不能)であった。・WHO分類B3の患者は良好な治療反応を示す傾向にあった(ORR:75%、PFS中央値:10.6ヵ月、OS中央値:45.0ヵ月)。 本研究結果について、著者らは「局所進行または転移を有する胸腺腫患者において、ステロイド単剤が抗腫瘍効果を示した。先行研究において、アントラサイクリンを含む化学療法でのORRは59.0%、カルボプラチン+パクリタキセルでのORRは42.9%、ペメトレキセド単剤でのORRは26.0%であったことが報告されており、ステロイド単剤は化学療法と同等の効果を示すことが示唆される。ステロイドによる治療は、手術や放射線療法、化学療法に失敗した患者にとって、有望な治療選択肢の1つになると考えられる。今後の研究では、最適な初期用量や治療期間の確立が必要である」と考察した。

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日本人高齢者におけるスタチン投与量と認知症リスク

 これまでの研究では、スタチンの使用と認知症リスク低下との関連が示唆されているが、とくに超高齢社会である日本においては、この関連性は十分に検討されていない。大阪大学の戈 三玉氏らは、65歳以上の日本人高齢者を対象にスタチン使用と認知症リスクとの関連を調査した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2024年7月1日号の報告。 2014年4月~2020年12月の17自治体におけるレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。年齢、性別、自治体、コホート参加年のデータに基づき、1症例を5対照群とマッチさせた。オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)の算出には、条件付きロジスティック回帰モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、症例群5万7,302例および対照群28万3,525例。女性の割合は、59.7%であった。・潜在的な交絡因子で調整したのち、スタチン使用は認知症(OR:0.70、95%CI:0.68〜0.73)およびアルツハイマー病(OR:0.66、95%CI:0.63〜0.69)のリスク低下との関連が認められた。・スタチン未使用者と比較した用量分析における認知症のORは、次のとおりであった。【1日当たりの総標準投与量(TSDD):1〜30】OR:1.42、95%CI:1.34〜1.50【TSDD:31〜90】OR:0.91、95%CI:0.85〜0.98【TSDD:91〜180】OR:0.63、95%CI:0.58〜0.69【TSDD:180超】OR:0.33、95%CI:0.31〜0.36 著者らは「日本人高齢者に対するスタチン使用は、認知症およびアルツハイマー病のリスク低下と関連しており、スタチンの累積投与量が少ない場合には、認知症リスクが高まるが、多い場合には認知症の保護因子となりうることが示唆された」としている。

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慢性手湿疹、デルゴシチニブ外用薬が有効/Lancet

 中等症~重症の慢性手湿疹を有し、基本的なスキンケアやコルチコステロイド外用薬では十分にコントロールできない患者の治療において、基剤を含み有効成分を含まないクリームと比較してヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬デルゴシチニブを含有するクリームは、16週の投与で高い有効性を示し、忍容性も良好であることが、カナダ・Innovaderm ResearchのRobert Bissonnette氏らtrial investigatorsが実施した2つの臨床試験(DELTA 1試験、DELTA 2試験)で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年7月18日号で報告された。同一デザインの2つの無作為化第III相試験 DELTA 1試験とDELTA 2試験は、いずれも基剤を対照とした二重盲検無作為化第III相試験であり、DELTA 1は2021年5月~2022年10月に6ヵ国53施設で、DELTA 2は2021年5月~2023年1月に7ヵ国50施設で患者を登録した(LEO Pharmaの助成を受けた)。 両試験とも、年齢18歳以上、中等症~重症の慢性手湿疹と診断され、スクリーニング時から過去1年以内にコルチコステロイド外用薬の効果が不十分か、医学的に推奨されなかった患者を対象とした。手湿疹の重症度は、Investigator's Global Assessment for Chronic Hand Eczema(IGA-CHE)の修正版(5段階:0[皮膚病変消失]、1[同ほぼ消失]、2[軽症]、3[中等症]、4[重症])に準拠した。 被験者を、デルゴシチニブ クリーム20mg/g(1日2回)を塗布する群または基剤クリームを塗布する群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、16週の時点におけるIGA-CHEに基づく治療成功とした。治療成功は、IGA-CHEスコアが0(皮膚病変消失)または1(同ほぼ消失)で、ベースラインから16週目までに少なくとも2段階の改善を達成した場合と定義した。主な副次エンドポイントもすべて有意に良好 DELTA 1試験は487例(年齢中央値44.0歳[四分位範囲:32.0~55.0]、女性306例[63%])を、DELTA 2試験は473例(44.0歳[33.0~56.0]、312例[66%])を登録した。DELTA 1試験の325例とDELTA 2試験の314例をデルゴシチニブ群に、それぞれ162例と159例を基剤群に割り付けた。 16週の時点で、治療成功を達成した患者の割合は、DELTA 1試験では基剤群が9.9%(16/162例)であったのに対しデルゴシチニブ群は19.7%(64/325例)(群間差:9.8%、95%信頼区間[CI]:3.6~16.1、p=0.0055)、DELTA 2試験では基剤群の6.9%(11/159例)に比べデルゴシチニブ群は29.1%(91/313例)(22.2%、15.8~28.5、p<0.0001)と、どちらの試験も有意に優れた。 2つの試験の双方とも、主な副次エンドポイント(4および8週時のIGA-CHEに基づく治療成功、手湿疹重症度指数[HECSI]、手湿疹症状日誌[HESD]、皮膚疾患の生活の質指標[DLQI]など)はすべて、デルゴシチニブ群で有意に良好だった。有害事象の頻度は、2試験とも両群で同程度 有害事象を報告した患者の割合は、デルゴシチニブ群がDELTA 1試験で45%(147/325例)、DELTA 2試験で46%(143/313例)、基剤群はそれぞれ51%(82/162例)および45%(71/159例)であり、2つの試験とも両群で同程度であった。 2%以上の患者に発現した最も頻度の高い有害事象は、新型コロナウイルス感染症(デルゴシチニブ群:DELTA 1試験11%、DELTA 2試験12%、基剤群:DELTA 1試験9%、DELTA 2試験13%)、鼻咽頭炎(7%、9%、7%、6%)、頭痛(3%、2%、6%、6%)であった。また、重篤な有害事象(2%、2%、2%、2%)の頻度も同程度であったが、試験薬関連の可能性がある有害事象(4%、8%、7%、7%)はDELTA 1試験ではデルゴシチニブ群で少なく、試験薬の投与中止の原因となった有害事象(1%、4%、<1%、3%)は2つの試験ともデルゴシチニブ群で少なかった。 著者は、「これらのデータは、デルゴシチニブ クリームは、治療が困難な場合が多いこの患者集団において、臨床徴候や症状の緩和のための革新的な治療選択肢となることを示唆する」「デルゴシチニブ クリームは、限られた皮膚領域に局所的に適用されるため、全身投与に伴う安全性の懸念なしに、JAK阻害薬による治療の有益性が得られる可能性がある」としている。

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MRD陰性寛解BCP-ALLの地固め療法、ブリナツモマブ追加でOS改善/NEJM

 測定可能残存病変(MRD)陰性の寛解を達成した前駆B細胞性急性リンパ芽球性白血病(BCP-ALL)の成人患者に対する化学療法による地固め療法にブリナツモマブ(二重特異性T細胞誘導[BiTE]抗体)を追加すると、地固め化学療法単独と比較して、3年全生存(OS)率を有意に改善し、3年無再発生存(RFS)率も有意に良好であることが、米国・メイヨー・クリニックのMark R. Litzow氏らが実施したE1910試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年7月25日号に掲載された。ブリナツモマブの上乗せ効果を評価する無作為化第III相試験 E1910試験は、MRD陰性寛解を達成したBCP-ALL成人患者に対する地固め療法におけるブリナツモマブ追加の有効性と安全性の評価を目的とする無作為化第III相試験であり、2013年12月~2019年10月にカナダ、イスラエル、米国の参加施設で患者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成を受けた)。 年齢30~70歳、BCR::ABL1遺伝子(::は融合を意味する)陰性のBCP-ALLで、導入化学療法および強化化学療法を施行後にMRD陰性の寛解(フローサイトメトリーによる評価で骨髄中の白血病細胞が0.01%未満と定義)を達成した患者を対象とした。 被験者を、地固め化学療法4サイクルに加えブリナツモマブ4サイクルを投与する群、または地固め化学療法4サイクルのみを投与する群に無作為に割り付けた。 主要評価項目はOSとした。副次評価項目はRFSなどであった。3年OS率:85% vs.68%、3年RFS率:80% vs.64% データ安全性監視委員会が3回目の中間解析の結果を審査し、これを報告するよう勧告した。登録した488例のうち、395例(81%)で血球数の完全回復の有無を問わず完全寛解が得られた。このうちMRD陰性を達成した224例(年齢中央値51歳[範囲:30~70]、女性113例[50%])を解析の対象とし、ブリナツモマブ追加群に112例、化学療法単独群に112例を割り付けた。 追跡期間中央値43ヵ月の時点における3年OS率は、化学療法単独群が68%であったのに対し、ブリナツモマブ追加群は85%と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.41、95%信頼区間[CI]:0.23~0.73、p=0.002)。また、3年RFS率は、化学療法単独群の64%と比較して、ブリナツモマブ追加群は80%と良好であった(HR:0.53、95%CI:0.32~0.87)。 年齢55歳未満の132例では、3年OS率(95% vs.70%、HR:0.16[95%CI:0.05~0.47])および3年RFS率(87% vs.70%、0.31[0.14~0.69])はいずれもブリナツモマブ追加群で優れ、年齢55歳以上の93例でも、3年OS率(70% vs.65%、0.66[0.33~1.35])および3年RFS率(69% vs.57%、0.74[0.39~1.43])ともブリナツモマブ追加群で良好であった。23%でGrade3以上の神経・精神系有害事象が発現 地固め療法中に発現した治療関連の非血液毒性の割合は、ブリナツモマブ追加群ではGrade3が43%、Grade4が14%、Grade5が2%であり、化学療法単独群ではそれぞれ36%、15%、1%であった(p=0.87)。 Grade3以上の治療関連の神経・精神系有害事象の頻度は、化学療法単独群では5%であったのに対し、ブリナツモマブ追加群では23%と有意に高率だった(p<0.001)。 著者は、「本試験はサブグループ解析のための検出力はなかったが、55歳未満の患者で有益性が高いと考えられた」とし「現在進行中の試験では、新規に診断されたBCR::ABL1陰性の病変を有する高齢患者においてブリナツモマブをより早期に使用する方法などが検討されている」と述べている。

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肥大型心筋症の管理ガイドラインを策定、米ACC、AHA

 米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)が発表した、肥大型心筋症(HCM)患者の管理に関する推奨事項が示された新しい臨床ガイドラインが、「Journal of the American College of Cardiology」に5月8日掲載された。 米メイヨー・クリニックのSteve R. Ommen氏らは、HCMの管理について臨床医を導くための推奨事項を作成するために、包括的な文献レビューを実施した。 その結果、最良の臨床ケアを提供するためには、協働意思決定が必要であることが示された。ケアを最適化するためには、適切な専門知識を有する集学的HCMセンターへの紹介が重要であるが、循環器一次医療チームが評価、治療、長期的ケアを開始することも可能である。ケアの基本には、家族歴の慎重な確認、遺伝的伝達の可能性に関するカウンセリング、遺伝子検査の選択肢が含まれる。管理の重要な要素の一つは、患者の心臓突然死のリスクを評価することである。心臓突然死のリスク因子は、HCMの小児患者と成人患者で重みや構成要素が異なる。症候性閉塞性HCM患者に対しては、現在、心筋ミオシン阻害薬が治療薬として使用可能である。これらの薬剤は、第一選択の薬物療法で十分な症状緩和が得られない患者にとって有益である。運動負荷試験は、運動忍容性を判断する際に有用である。HCMを有していても運動による健康全般への有益な効果が得られることを支持する研究結果が増えている。 Ommen氏は、「最新のデータを取り入れたこの新しいガイドラインは、HCM治療のための最新の推奨事項を臨床医に提供するものである。HCM患者が適切なケアと管理によって、正規の日常生活に戻れるというエビデンスが、より多く見られるようになった」と述べている。 なお複数人の著者が、製薬業界や医療機器業界との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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月経前症候群は食行動と関連

 日本の女子大学生および大学院生を対象とした横断研究の結果、摂食障害傾向の有無が月経前症候群(premenstrual syndrome;PMS)と関連していることが明らかとなり、BMIの値にかかわらず、食行動がPMS症状に影響を及ぼしている可能性が示唆された。大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科の森野佐芳梨氏らによる研究であり、「BMC Women's Health」に6月7日掲載された。 PMSは、情緒不安定、イライラ、不安、倦怠感、食欲や睡眠の変化、下腹部痛、頭痛、むくみ、乳房の張りなど、さまざまな身体・精神症状を伴い、多くの女性の日常生活に支障をきたしている。PMSは、運動習慣、食事の内容や栄養摂取の状況などと関連することが報告されている。しかし、朝食の欠食、やせ願望、過食といった食行動に関する問題が深刻化している中で、食行動とPMS症状について検討した日本の研究は少ない。 著者らは今回、日本の大学に通う25歳以下の女子大学生・大学院生を対象に、インターネットを用いた質問紙調査を実施した(2022年11月から2023年9月)。食行動の評価には「EAT-26」という尺度を用い、摂食障害傾向の有無を評価した。PMSについては、計18の身体症状と精神症状について、その症状により日常生活に支障が出たかどうかを尋ねた。 有効回答の得られた対象者130人のうち、EAT-26の評価により摂食障害傾向グループに分類された人は8人(6.15%)だった。摂食障害傾向グループとそうでないグループで、平均年齢(19.6±0.7対20.1±1.6歳)、身長(158.0±4.9対159.0±5.5cm)、体重(52.3±4.2対51.7±5.6kg)、BMI(21.0±2.0対20.5±1.9kg/m2)に関して、有意差はなかった。 PMSで悩んでいる人の割合は、摂食障害傾向グループの方が、そうでないグループに比べて有意に高いことが明らかとなった(100%対59.8%)。同様に、PMSの身体症状(100%対55.7%)および精神症状(62.5%対27.1%)のどちらの割合も、摂食障害傾向グループの方が有意に高かった。 さらに、身体症状の有無と、EAT-26の下位尺度の得点との関連を比較したところ、身体症状のあるグループは、身体症状のないグループと比べて、「摂食制限」(6.8±5.4対5.2±2.6)および「過食と食への関心」(1.6±2.7対0.6±1.2)の得点が有意に高かった。 今回の研究結果について著者らは、BMIのような体組成の違いにかかわらず、女子大学生の摂食障害傾向がPMS症状に関連していたことから、従来から指摘されている栄養状態やBMIだけではなく「食行動がPMSに影響している可能性があり、PMSに対する保健指導に新たな視点が必要となる可能性がある」と述べている。また、若い世代ほど、ボディイメージやソーシャルメディアの意見に関心が高く、食行動も大きく影響を受けやすいことから、今後、より多くの集団で食行動について検討することで、PMSの改善や予防に貢献できる可能性があるとしている。

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日本の大学院生の自殺に関する実態調査

 日本の大学院の自殺に関する20年間の調査データを分析した結果から、男子学生、工学専攻、留年歴があることなどの特徴が、自殺率の高さと関連していることが明らかとなった。また、自殺の動機として多かったのは就職活動の失敗だったという。お茶の水女子大学保健管理センターの丸谷俊之氏らによる研究であり、「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に3月8日掲載された。 大学院生の自殺既遂例に関する研究報告は少ないが、大学院生はさまざまなストレスにさらされており、メンタルヘルスに関する問題を抱えやすいといえる。海外での研究では、指導教員からのプレッシャーや抑うつ症状などが自殺の要因として指摘されている。 著者らは今回、全国の国立大学の大学院生を対象として国立大学保健管理施設協議会が実施している死因に関する調査データを用いて、2002年度から2021年度までの20年間における大学院生の自殺について分析した。学歴(修士・博士)、専攻(7種類)、休学歴、留年歴などと自殺リスクとの関連や、自殺に関連する情報を詳細に検討した。 20年間の累積学生数は238万3,858人(男子171万6,590人、女子66万7,268人)であり、そのうち347人(男子292人、女子55人)が自殺していた。自殺時の平均年齢は26.2±5.1歳、年齢中央値は24.0歳だった。 男子学生は女子学生と比べ、自殺率が高かった(学生10万人当たり17.0対8.2)。性別と修士・博士課程で比較すると、修士課程の男子学生の自殺率が最も高かった(調整済み残差:6.2)。専攻別では、工学、理学、人文科学を専攻する学生は自殺リスクが高く(調整済み残差:それぞれ3.9、2.6、2.1)、医歯薬看護・健康科学、教育学、農学、社会科学を専攻する学生はリスクが低かった(調整済み残差:それぞれ-4.1、-3.1、-1.5、-0.9)。また、留年歴のある学生は留年歴のない学生より自殺率が高かった。しかし、留年歴のない男子学生の自殺リスクは、留年歴のある女子学生よりも高かった(調整済み残差:それぞれ2.9、-0.1)。 精神医学的診断が報告されていた44人の診断名は、気分障害が27人で最も多かった(うつ病19人、双極性障害2人、下位分類不明6人)。また、自殺の推定動機が報告されていた36人のうち、最も多かったのは就職活動の失敗(13人)であり、次いで学業不振(9人)、恋愛関係の問題(5人)が続いた。2020年度には、1人の日本人学生が新型コロナウイルス感染症に関連した就職活動の問題を抱えており、留学生2人はパンデミックに伴う渡航制限が影響していた。 今回の研究で就職活動の失敗が自殺の動機として最も多かったことに関して、著者らは、修士課程・博士課程ともに定員数が大幅に増やされてきた一方で、学術的なポストの数は不足しており、就職活動が困難になっていることに言及している。また、研究結果から、「大学院生における自殺の高リスク群を認識することの重要性」を指摘している。

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エフアネソクトコグ アルファ12歳未満重症血友病Aでもトライする価値あるかも(解説:長尾梓氏)

 以前こちらでも「血友病A治療は新時代へ」と紹介したエフアネソクトコグ アルファの12歳未満の臨床試験データが、NEJM誌に掲載された。日本ではすでに2023年に発売され、小児への使用制限もないため徐々に使用経験のある小児患者は増えているが、国際会議などでは小児は成人と比べて第VIII因子トラフが低いのではないか、効果が劣るのではないかと心配の声があった。 成人試験では50IU/kg週1回の定期投与で投与から約4日間は第VIII因子活性が>40%を上回り、7日目のトラフが15%(平均)であった。 本試験では同量の投与で投与から3日間は>40%を保つが、7日目のトラフは6歳未満6%、6~12歳未満は7%(どちらも平均)である。 ただ、結果として年間出血率は低く抑えられ、出血ゼロも65例88%で達成された。 ちなみに主要エンドポイントのインヒビター発現ゼロは対象が治療歴ありの患者のため、まぁそんなもんだろうなと思って眺める。 つまり、トラフは成人と比べるとやや低いが、これまでの薬剤と比較するととんでもなく高く、週2回、隔日、下手したら毎日家庭注射をしてFVIIIをできるだけ高くキープする努力をしてきた患者にとっては、週1回で同じような効果が出るかもしれないと思うと、非常に魅力的かつQOL向上に寄与する可能性がある。 ただ、年間出血率がいくら低かろうと、最近は「潜在性」の出血が起こり、それが関節の予後を悪くすることが知られているため、それを未然に防ぐことができないとまったく意味がない。ぜひ、素晴らしい薬だからといってただ処方するだけではなく、関節エコーで潜在性出血を早期に発見することを心掛けてほしい。

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ジャンクフード店の近くに住むと太る【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第262回

ジャンクフード店の近くに住むと太る私はコンビニ飯がわりと好きで、セブンイレブン、ローソン、ファミマをぐるぐる回って新商品が出ていないかチェックすることもあります。「底上げ弁当」がまだまだ多いので不満はありますが、昔と比べて味はとにかく美味しくなりました。しかし、アクセスが良すぎるのも問題かもしれません。Pineda E, et al. Food environment and obesity: a systematic review and meta-analysis.BMJ Nutrition, Prevention & Health. 2024 Apr 22;7(1):204-211.イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンからの研究で、住宅からの食料品店や飲食店の距離と肥満について調べたシステマティックレビューとメタアナリシスです。仮説では、近くにジャンクな店があるほど、肥満度は高くなるというものです。大学時代、マンションに餃子の王将の無料券が投函され、歩いて30秒くらいのところに店舗があったので、当時の血肉の80%以上は餃子の王将でできていました。思えば、あのころから緩やかに体重が増えていったのではないか…ブツブツ。いや、もちろん餃子の王将は悪くないです。1946~2022年1月までに刊行された論文を紐解き、合計103論文を対象として、スーパーマーケット、青果店、ファストフード店、レストラン、コンビニなどの距離と肥満度が調べられました。結果、マルチレベルモデル解析または空間的要因について検討していた35論文のうち26件において、高脂肪、高糖質、高塩分の食品を販売する店舗と肥満度に有意な関連が観察されました。横断的研究89論文のうち59件、縦断的研究14論文のうち7件において、ファストフード店やコンビニなどのような「健康的とはいえない」店舗と肥満の関連性が確認されました。しかし、メタアナリシスによると、ファストフード店はたしかに肥満度の上昇リスクと有意に関連していましたが(オッズ比[OR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.02~1.30、p=0.02)、コンビニについてはとくに関連は観察されませんでした。反面、青果店の密度の高さや、スーパーマーケットとの距離は、肥満度の低下と有意に関連していました(OR:0.93、95%CI:0.90~0.96、p<0.001)(OR:0.90、95%CI:0.82~0.98、p=0.02)。 とりあえず、近くに「健康的」な店舗があることが重要ですね。

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第222回 未来の診療報酬、お手本は介護?~アウトカム評価のデータ化を実現

2024年診療報酬改定から施行時期が初めて6月に後ろ倒しされたのは周知のとおりだ。これまでの4月施行では医療機関、薬局、電子カルテ・レセコンのベンダーなどの負担が大きいための措置である。すでに施行から2ヵ月が経過したが、いまもバタバタしている医療機関や薬局は多いだろう。今回の改定では、▽医師の働き方改革、▽外来医療の機能分化、▽医療機能に応じた入院医療評価、さらには▽在宅医療の評価などが行われ、全体としては医療機関の機能分化と介護との連携に重点が置かれている印象がある。医師の働き方改革は、今改定での重点課題だったが、個人的にはむしろ医療機関の機能分化推進の補助的材料に使われたと感じている。そして気の早い人は、すでに2年後や4年後の改定、さらには6年後の介護報酬との同時改定も睨みつつあるだろう。それもこれも診療報酬改定が国の目指す医療体制実現のための誘導手段であり、ある種の目指す姿が実現するとより高い次元の医療体制実現のために診療報酬を付け替える「2階に上げて梯子を外す」かのようなことが繰り返されてきたからだと言える。その意味で昨今の診療報酬改定は、医療機関や薬局という“箱”が持つ機能、実施した対人業務に報酬や加算が付く出来高払いがかなり進行してきたが、私個人は次期同時改定までにこうした流れはかなり変化していくのではないかと考え始めている。その最大の理由は今回の診療報酬改定のもう1つのテーマだった医療DXの推進である。ご承知のように紙の保険証は今年12月の廃止が確定し、マイナンバーカードを利用したマイナ保険証へと一本化される。しかも、内閣府の医療DX推進本部は、オンライン資格確認等システムを拡充し、レセプト・特定健診情報、電子処方箋情報、電子カルテ情報などを網羅した「全国医療情報プラットフォーム」の2026年本格稼働を目指している。この中で電子カルテ情報の標準化はやや手間取るかもしれないが、次期同時改定の2030年には同プラットフォームはかなり目処が付いているだろう。そうなると、もはや医療は「どんな医療行為や業務を行ったか」に留まらず、その先のアウトカムまで白日の下にさらされる可能性が高まる。これを厚生労働省(以下、厚労省)が利用しないわけはない。つまり、いずれはアウトカム評価に基づく診療報酬体系が導入される可能性がある。私が「こうした流れはかなり変化していく」と前述したのは、こういうことだ。もっとも最近までこれは個人的な予想に過ぎなかったのだが、どうやら厚労省内部にも似たような考え方をしている御仁がいることを、7月に長崎市で開催された第17回日本在宅薬学会学術大会で知った。その御仁とは薬系技官で厚労省医薬局医薬品審査管理課長の中井 清人氏である。ちなみに日本在宅薬学会は主に在宅活動を行う薬剤師向けの学会で、中井氏はあくまで薬剤師向けとして講演していた。講演内で中井氏は突如、薬剤師業務と関係がない介護報酬の科学的介護情報システム(LIFE)を利用した通称LIFE関連加算を取り上げた。同加算は2021年度介護報酬改定で導入されたもので、事業所が利用者のADL、栄養状態、口腔機能を評価したデータをLIFEに入力することで算定できる。しかも、この仕組みでは厚労省が各事業者のLIFE入力値と全国平均値の比較などをフィードバックし、事業者はそれを基に改めてPDCAサイクルを回す。半ばアウトカム評価のような様相を呈しているのだ。そもそもLIFEの導入は、医療に比べてエビデンスが乏しい介護でのエビデンス構築の意味もある。この時の講演で中井氏は「医療のほうが介護より絶対電子化が早いと思っていたのにすげえなって。介護が来たんですよ。次にどういう時代が来るか、ぜひ皆さん考えてください」と語りつつ、「どういう時代」の結論は濁した。そのうえで中井氏が引き続き紹介したのが、米・オバマケアで実現した多職種連携でのケアを33の指標で評価し、その結果で医師を含むケア担当者らの報酬が変わる「ACOプログラム」だった。ここまで来れば、「次なる時代の診療報酬体系はアウトカム評価で」と言っているようなものだ。ちなみに中井氏はキャリア官僚としては珍しく私見丸出しの講演をする。時には自身のスライド内に「以下は私見の塊」と断っていたりもする。それゆえ今回の講演も「話半分で…」と言えるかもしれないが、口にしないだけで同じことを考えているキャリア官僚は必ずいるだろう。また、介護とは違い、医療はすでにかなりのエビデンスが集積している。要はデータと解析ツールさえあれば、一定のアウトカム分析とそれに基づく評価は今でも即時に可能と言ってもよい。そんなこんなで私個人は、今後の中央社会保険医療協議会(中医協)などでの医療DX議論もこのアウトカム評価導入の視点を注視していくつもりである。

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緩和ケアのポリドクター問題【非専門医のための緩和ケアTips】第81回

第81回 緩和ケアのポリドクター問題「ポリドクター」をご存じでしょうか? 「初めて聞いた」という方も多いかもしれません。患者さんが必要以上に多くの医師にかかってしまう状況を指した言葉で、一般的になってきた「ポリファーマシー(多剤併用問題)」とも密接な関係があります。患者さんと家族を支えるため、複数の医師が関わることはしばしばありますが、関係者が増えるが故の難しさもあります。今回の質問基幹病院の通院を続けながら、私のクリニックを外来受診する患者さん。オピオイドなどの薬剤調整や治療方針の確認のたびに、病院の主治医とのやりとりが発生します。主治医との連絡がつきにくいうえ、複数の診療科を受診しており、やりとりが煩雑です。自分の裁量でどこまでしてよいのか、悩むことも多いです。肺がん治療のために大学病院の呼吸器内科に定期通院しながら、併存疾患の糖尿病のために近隣のクリニックにも通院する……。皆さんもよく見る、ありふれた光景ではないでしょうか。1人の患者さんに複数の医師が関わることで、手厚い医療が受けられるメリットがある一方、「誰が主治医機能を提供するか」という問題が生じます。現実には、「どの医師も自分が主治医だと思っていなかった」という笑えないオチもあります。診療所でかかりつけ医として関わる立場であれば、基幹病院との連携でこうしたことは生じやすいでしょう。「連携」と簡単に言っても、その実務はとても手間がかかります。なかなか連絡が取れなかったり、確認事項が出るたびに診療情報提供書を作成したりするのも大変です。私は基幹病院と診療所勤務の両方の立場を経験しましたが、この状況は構造的な問題が生み出しているので、すぐに解決するのは難しいと感じます。とくに運営母体が別の医療機関で共通のシステム基盤がなく、電話やFAXなどで対応せざるを得ない場合、状況を大きく変えることは難しいでしょう。とはいえ、嘆いてばかりいても仕方ないので、実臨床家としてできることをやっていくしかありません。私の工夫は「定期的に診療情報提供書をやり取りする」「退院時共同指導などで直接あいさつする機会をつくる」ことです。基幹病院の医師は数年で入れ替わることが多く、すぐに効果が出るわけでもありませんが、こうした小さな積み重ねが重要だと考えています。医療が高度化し、高齢化する社会にあって、患者さんに必要な医療と生活を支える機能を単一の医療機関で提供することは難しくなっています。病診連携の難しさを述べてきましたが、地域で患者さんを支えるため、複数の医師で連携して診療に当たることは今後さらに重要になるでしょう。今回のTips今回のTips「ポリドクター」のデメリットを理解し、地域の医師と上手に連携しよう!

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こじれた風邪には…【漢方カンファレンス】第6回

こじれた風邪には…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】40代女性主訴咳嗽既往特記事項なし病歴10日前に38.2℃の発熱、咽頭痛、鼻汁、咳嗽が出現した。近医に受診してウイルス性上気道炎の診断で総合感冒薬の処方を受けた。その後も37.5℃前後の発熱が持続して、咳、痰が続き、夜も眠れなくなったため来院した。現症身長167cm、体重56kg。体温37.4℃、血圧120/75mmHg、脈拍70回/分整、呼吸数16回/分、酸素飽和度98%。咽頭発赤あり、扁桃肥大なし、後鼻漏なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。体熱感あり。胸部X線で肺炎像・胸水なし。経過初診時「???」エキス3包+「???」エキス3包分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1週間後漢方薬を内服してから、よく眠れるようになった。徐々に咳が軽減し、3日後には改善した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<冷えを確認>悪寒や体熱感がありますか?悪寒はなく、熱っぽい感じです。<軽度の悪寒を確認>(患者の首筋を紙であおぎながら)こうして風が吹いてもゾクゾクしませんか?ゾクゾクした感じはありません。<温冷刺激に対する反応を確認>のどは渇きませんか?今、温かい物と冷たい物のどちらが欲しいですか?のどは少し渇いていて、冷たい物が飲みたいです。<ほかの随伴症状を確認>のどの痛みは強いですか?頭痛はありませんか?のどの痛みは強いです。頭痛はありません。痰は多いですか?どのような痰ですか?食欲はどうですか?食べ物の味が変わっていませんか?痰は多くて、ねばっこくて黄色です。口のなかが苦い気がして、食べる量はいつもより少ないです。横になりたいほどの倦怠感はありませんか?横になりたいほどの倦怠感はありません。【診察】顔色は正常で、手足を触診しても冷えはなかった。また、脈診では、浮沈中間で、反発力は中等度(脈:浮沈間、強弱中間)であった。また、後頸部から背部を触診すると、汗を少しかいていた。また、舌をみると舌苔が厚く、腹診では腹力は中等度、両側季助部の抵抗を認めた。カンファレンス今回は、「感染後咳嗽」と診断されるようなこじれた風邪の症例ですね。外来でもしばしば経験します。今回のように肺炎などの合併も考えにくい場合には、現代医学的には対症療法を継続するくらいしか方法はありませんよね。今回の症例は、自他覚所見ともに冷えはなく、倦怠感も強くないので「陰証」とは考えにくいです。体熱感を自覚して冷たい水を好むという点からも「陽証」だと思います。病態の「陰陽」の判断が上手になりましたね。今回は「陽証」でよいですね。さらに陽証のなかでも、悪寒はないので太陽病(第4回「今回のポイント」の項参照)の時期は過ぎていると考えられます。その次は、闘病反応の程度を示す「虚実」の判定を行う必要があります。基本的に「虚実」は、脈診と腹診で反発力をみて判定するとよいよ。本症例では、脈診で、脈と腹の反発力は中等度となっていることから「虚実」は虚実中間くらいと考えてよいね。こじれている風邪や急性期を過ぎた風邪でも、冷えや倦怠感が目立つ場合は、陰証(少陰病[冷えが強く全身に及び、体力が衰えて、元気がないのが特徴]、第2回「今回のポイント」の項、第5回参照)で麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)の適応でないか、まず除外する必要があります。今回のように冷えが明らかでなく、微熱、咳嗽、咽頭痛が中心の場合には、少陽病期(本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)であることが多いですね。本症例をまとめます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒・冷えなし、冷たい飲み物を好む、体熱感あり→熱が主体(陽証)さらに脈:浮沈間、口が苦い、厚い舌苔、胸脇苦満など→少陽病(2)虚実はどうか脈:強弱中間、腹力:中等度(3)気血水の異常を考える喀痰が多い→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む微熱、湿性咳嗽、強い咽頭痛本症例は、微熱、咳嗽、口が苦い、舌苔が厚い、胸脇苦満など、少陽病の特徴が揃っていますね(今回のポイント「少陽病」の解説参照)。小柴胡湯(しょうさいことう)で治療するとよいでしょうか?小柴胡湯の適応と考えてよいでしょう。しかし、本症例のように咳嗽が主訴の場合には、小柴胡湯に鎮咳作用のある漢方薬を併用した方がより治療効果が高いです。本症例では、喀痰が多い湿性咳嗽ですので半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)と併用するとよいですね。喀痰の量が少ないか、乾性咳嗽の場合には麦門冬湯(ばくもんどうとう)を併用します。さらに小柴胡湯に桔梗(ききょう)と石膏(せっこう)を加えて鎮痛作用と抗炎症作用を強化した小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)という漢方薬があります。本症例のように咽頭痛が強く、咽頭発赤がある場合には小柴胡湯よりも、小柴胡湯加桔梗石膏を用いる方がよいです。解答・解説【解答】本症例は、少陽病・虚実間で、小柴胡湯加桔梗石膏と湿性咳嗽に用いる半夏厚朴湯を併用して治療しました。【解説】少陽病期の代表的な漢方薬が小柴胡湯です。小柴胡湯にはさまざまなバラエティのエキス製剤がありますので覚えておくと便利です(表1)。今回紹介した鎮痛作用や抗炎症作用を強化した小柴胡湯加桔梗石膏以外にも、小柴胡湯に半夏厚朴湯が組み合わされた柴朴湯(さいぼくとう)があります。こちらは1種類の漢方薬で済むのが利点です。長引く咳のため胸痛を伴うようになった場合には小柴胡湯と小陥胸湯(しょうかんきょうとう)が合わさった柴陥湯(さいかんとう)という漢方薬もあります。また、小柴胡湯と利水剤の代表である五苓散(ごれいさん)が含まれる柴苓湯(さいれいとう)は、ウイルス性腸炎で下痢が続いて、微熱がある場合などに使用可能です。また、小柴胡湯は抗炎症作用をもつ生薬「柴胡(さいこ)」が含まれるのが特徴です。柴胡が含まれる小柴胡湯と仲間の漢方薬を「柴胡剤(さいこざい)」とよびます。柴胡剤はそれぞれの特徴により、使い分けられます。そのなかでも柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)は、太陽病期の桂枝湯(けいしとう)と小柴胡湯を混ぜたような処方で、太陽病から少陽病への移行期から風邪の治り際まで適応範囲が広く、使いやすいのが特徴です。どの柴胡剤を使うべきか迷う場合には柴胡桂枝湯がよいともいわれます。今回のポイント「少陽病」の解説漢方では風邪をいくつかのステージに分類します。風邪のひき始めのように悪寒があって、脈が浮である時期を「太陽病」といいました。さらに発症からおよそ2~3日経過して、悪寒がなくなって、脈が浮でなくなってくる時期を「少陽病」とよびます(表2)。太陽病では体表面にあった闘病反応が、少陽病では、生体の内部(半表半裏)まで影響をし始めて、口が苦い、のどが乾く、ムカムカする嘔気、食欲不振などの症状が出現します。脈は表在性に触知できる浮からやや沈んだ状態に変化します。また太陽病では着目しなかった舌や腹部の所見も重要になります。舌では、舌苔が厚くなってきます(写真左)。腹診では両側季助部に指を差し込む(写真右)と抵抗感や患者の苦痛が出てきて、胸脇苦満(きょうきょうくまん)とよびます。太陽病では、発汗により治療をしましたが、少陽病では、その場で闘病反応(炎症)を鎮める治療に変わります。少陽病の代表的な漢方薬が小柴胡湯です。

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うつ病診断歴が双極性障害のアウトカムに及ぼす影響

 双極性障害は、うつ病エピソードから発症することが多く、初期にはうつ病と診断されることが少なくない。杏林大学の櫻井 準氏らは、双極性障害患者における過去のうつ病診断歴が臨床アウトカムに及ぼす影響を調査するため、本研究を行った。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2024年7月2日号の報告。 2005年1月〜2020年10月のJMDCの医療保険請求データを用いて、日本で双極性障害と新たに診断された18〜64歳の患者データを分析した。双極性障害と診断された月を、インデックス月と定義した。過去のうつ病診断歴およびその期間(1年以上、1年未満)により層別化し、精神科入院、すべての原因による入院、死亡率を評価した。ハザード比(HR)、p値の推定には、Cox比例ハザードモデルを用い、潜在的な交絡因子で調整し、ログランク検定によりサポートした。 主な結果は以下のとおり。・分析対象患者5,595例のうち、うつ病診断歴を有していた患者は2,460例、うつ病診断期間1年以上は1,049例、1年未満は1,411例であった。・うつ病歴があった患者となかった患者の比較における、各HRは次のとおりであった。【精神科入院】HR:0.92、95%信頼区間[CI]:0.78〜1.08、p=0.30【すべての原因による入院】HR:0.87、95%CI:0.78〜0.98、p=0.017【死亡率】HR:0.61、95%CI:0.33〜1.12、p=0.11・うつ病歴が1年以上と1年未満の比較における、各HRは次のとおりであった。【精神科入院】HR:0.89、95%CI:0.67〜1.19、p=0.43【すべての原因による入院】HR:0.85、95%CI:0.71〜1.00、p=0.052【死亡率】HR:0.25、95%CI:0.07〜0.89、p=0.03 著者らは「うつ病診断歴およびその期間は、双極性障害診断後の精神科入院リスクを高めることはなく、入院率や死亡率の低下と相関している可能性が示唆された」としている。

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日本女性の平均寿命87.14歳は世界1位、男女とも前年より寿命延長/厚労省

 厚生労働省は、7月26日に令和5年の簡易生命表の概況を発表した。これによると男性の平均寿命は81.09歳、女性の平均寿命は87.14歳となり、3年ぶりに前年を上回った。 前年と比較して男性は0.04年、女は0.05年上回ったほか、平均寿命の男女差は6.05年で前年より0.02年延長した。 65歳の死因別死亡確率(主要死因)について、男性では肺炎6.18%(前年6.13%)、老衰8.85%(前年8.31%)が前年に比べ死亡確率が上昇し、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患は前年に比べ低下した。女性では肺炎4.44%(前年4.34%)、老衰20.77%(前年19.79%)が前年に比べ死亡確率が上昇し、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患は前年に比べ低下した。【平均寿命の年次推移】( )内は男女差令和3年 男性81.47歳 女性87.57歳(6.10年)令和4年 男性81.05歳 女性87.09歳(6.03年)令和5年 男性81.09歳 女性87.14歳(6.05年)【死因別死亡確率(主要死因)上位3つ】・65歳 男性:悪性新生物[腫瘍](25.87%)、心疾患(14.24%)、老衰(8.85%) 女性:老衰(20.77%)、悪性新生物[腫瘍](17.53%)、心疾患(15.95%)・75歳 男性:悪性新生物[腫瘍](22.26%)、心疾患(14.41%)、老衰(10.36%) 女性:老衰(22.22%)、心疾患(16.38%)、悪性新生物[腫瘍](15.37%)・90歳 男性:老衰(17.91%)、心疾患(15.94%)、悪性新生物[腫瘍](14.43%) 女性:老衰(18.79%)、心疾患(15.86%)、悪性新生物[腫瘍](14.15%)【平均寿命の国際比較】※入手可能な資料より算出、〔 〕は最高と最低の差 男性の最高:スイス(82.3歳)/男性の最低:コンゴ民主共和国(56.5歳)〔25.8歳〕  女性の最高:日本(87.14歳)/女性の最低:コンゴ民主共和国(59.7歳)〔27.44歳〕

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免疫不全患者に対するCOVID-19の曝露前発症抑制、sipavibart承認申請/AZ

 アストラゼネカは、2024年7月26日付のプレスリリースで、免疫不全患者に対するCOVID-19の曝露前発症抑制を目的として開発を進めている長時間作用型モノクローナル抗体sipavibartについて、製造販売承認を厚生労働省に申請したと発表した。 本申請は、第III相SUPERNOVA試験の結果に基づく。SUPERNOVA試験は、COVID-19の発症抑制を目的としてsipavibartの安全性および有効性を対照(チキサゲビマブ/シルガビマブまたはプラセボ)と比較評価する大規模な第III相、国際共同、無作為化、二重盲検比較試験であり、免疫不全患者を対象にCOVID-19に対する有効性データを提供する唯一の試験である。本試験は、SARS-CoV-2のすべての変異株によって引き起こされる症候性COVID-19発症の相対リスクの減少、F456L変異を有さないSARS-CoV-2変異株によって引き起こされる症候性COVID-19発症の相対リスクの減少の2つの主要評価項目を達成した。また、本試験では、試験期間中に感染者において複数の異なるSARS-CoV-2変異株が確認されるという、変異株が進化し続ける状況において、sipavibartの潜在的な有用性が示された。 SUPERNOVA試験の対象となった免疫不全患者集団には、血液がん患者、臓器移植レシピエント、透析を要する末期腎不全患者、B細胞枯渇療法を受けてから1年以内の患者、免疫抑制薬を使用中の患者が含まれている。

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ニボルマブ承認から10年、がん治療はどう変わったか/小野・BMS

 本邦初の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ニボルマブ。2014年7月4日に製造販売承認を取得してから、早くも10年が経過した。ICIによるがん免疫療法は、どれだけ社会に認知されているのだろうか。また、ICIはがん治療においてどのようなインパクトを与えたのだろうか。小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、これらの疑問に答えるべく「免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法のいまとこれから」と題し、2024年7月24日にメディアセミナーを実施した。ICIは医師には定着も、患者さんへのさらなる情報発信が必要 小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、がん免疫療法に対する医師・患者さんの現状評価を把握することを目的として、がん治療に関わる医師100人とがん患者さん900人を対象にアンケート調査を実施した。本調査の結果について、高井 信治氏(小野薬品工業 メディカルアフェアーズ統括部長)が紹介した。 アンケート調査の結果、医師の90.0%は「ICIはがん治療の選択肢としての地位を築いた」と回答し、ICIによるがん免疫療法が実臨床に定着したことが示された。また、87.0%が「さらなる発展を期待したい治療法である」と回答し、ICIへの期待の高さがうかがわれた。 しかし、ICIによる治療を受けたことがないがん患者さんでは「複数のがん免疫療法を知っている」と回答したのは2.9%、「知っているがん免疫療法がある」と回答したのは9.6%に留まり、「名前を聞いたことがある」と回答した50.6%を含めても、がん免疫療法の認知率は63.0%であった。また、この集団(がん免疫療法を認知しているICI未経験の患者さん)に対し、がん免疫療法について知っていることを聞いたところ、「医学的に効果が認められているがん免疫療法には、抗がん剤治療などとは異なる副作用がある」と回答した割合は26.3%に留まり、免疫関連有害事象(irAE)に関する認知や理解が低いことが示唆された。このことから、がん患者さんや一般生活者の方々への正しいがん免疫療法の認知、理解促進に向けてさらなる情報発信が必要であると考えられた。 がん免疫療法の正しい理解促進に向けて、小野薬品工業では患者さん向けの啓発サイト「ONO ONCOLOGY」の充実を図るほか、ブリストル・マイヤーズ スクイブと共同で、臨床試験結果の論文を平易な言葉で要約する「プレーン・ランゲージ・サマリー」を公表している。【アンケート調査の概要】<調査実施期間>2024年6月21~28日<調査対象>医師:ICI適応がん腫いずれかに関連する診療科で全身化学療法によるがん治療経験のある医師(病床数200床以上)100人患者さん:(1)20~70代のICIによるがん治療を受けたことのある200人、(2)20~70代のICI適応のがん腫ではあるがICIによる治療は受けたことのない700人ICIの登場により患者さんへの説明は大きく変わった 続いて「免疫チェックポイント阻害薬ががん治療に与えたインパクト」というテーマで林 秀敏氏(近畿大学医学部 内科学腫瘍内科部門 主任教授)がICI登場後のがん治療の変化を紹介した。 林氏が専門とする肺がんの場合、ICIの登場前は進行期の患者さんの5年生存率は5%未満であったが、ICIの登場後は20%程度に改善していると述べた。ICIの登場前は、進行期の患者さんへ「長生きするチャンスはありますが、治るというのは難しいです」と伝えていたという。ところが、ICIの登場後は治癒に近い形で長期生存が得られる患者さんも存在するようになり、「高い効果がみられるのは2割程度です」との前置きは必要としつつも、患者さんへ大きな希望を持たせることができるようになったと語った。 また、ICIの登場により希少がんの治療薬開発状況も変化している。ICIの登場前は、希少がんに対する治療薬の開発は非常に困難であった。しかし、ICIの登場により希少がんや原発不明がんに対する治療薬の開発が可能となった。実際に、林氏らの研究チームは、原発不明がんに対するニボルマブの有効性を検討する医師主導治験(NivoCUP試験)を実施し、その結果をもとにニボルマブは原発不明がんに対する適応を取得している。この反響は非常に大きかったという。「本試験の結果がYahoo!ニュースのトップに掲載され、近畿大学に行けばICIによる治療を受けられるのかという電話が数多くかかってきたことを覚えています。原発不明がんの患者さんは日本中にいて、治療薬の開発を求めていたことを実感しました」と林氏は述べた。なお、原発不明がんに対してICIの保険適用が得られているのは、日本におけるニボルマブのみである。irAEの伝え方は? アンケート調査結果では、がん免疫療法を認知していてもICIによる治療を受けたことのない患者さんでは、irAEに関する理解が不十分であることが示唆された。そこでセミナー終了後、ICIによる治療を実施する際の患者さんへの説明方法を林氏へ聞いた。 アンケート調査結果を踏まえて、irAEをどう伝えるべきかを聞いたところ、林氏は「irAEは頻度が少ないのに種類が多いため、患者さんへの教育にも限界があります。では、どこまで伝えるのが適切かというのはすごく難しいと感じます。患者さんによって理解度は異なりますし、複雑な伝え方をしてしまうと理解できず、びっくりさせて不安を与えるだけになってしまいます」と話した。そこで、実際にどのように伝えているかを聞いたところ「私はシンプルに伝えています。38℃以上の熱があったらとりあえず連絡をください、下痢が止まらなかったら連絡をくださいという形で、できるだけシンプルに伝えています。100%の説明にならなくてもよいと思います。100%で説明して理解されないよりも、50%で伝えて理解できるほうがよいと思っています」と述べた。ただし、この伝え方が必ずしも正解とは限らないとも述べ、患者さんへの説明用アプリなどの開発とその活用への期待も語った。

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中等~重症の潰瘍性大腸炎、リサンキズマブの導入・維持療法が有効/JAMA

 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎患者において、IL-23p19阻害薬リサンキズマブは寛解導入療法および維持療法として、プラセボと比較し臨床的寛解率を改善することが示された。ベルギー・リエージュ大学病院のEdouard Louis氏らINSPIRE and COMMAND Study Groupが、第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「INSPIRE試験」および「COMMAND試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2024年7月22日号掲載の報告。導入療法、2用量の皮下投与による維持療法の有効性と安全性をプラセボと比較 導入療法試験「INSPIRE試験」は、2020年11月5日~2022年8月4日(最終追跡日2023年5月16日)に41ヵ国261施設で実施された。 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎を有し、1種類以上の従来の治療、先進治療、またはその両方に不耐容または効果不十分で、リサンキズマブの前治療歴がない患者977例を、リサンキズマブ(1,200mg)群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、0週、4週および8週に静脈内投与した。 主要アウトカムは、12週時の臨床的寛解(Adapted Mayoスコアの排便回数サブスコアが1以下でベースラインを超えない、血便スコアが0、内視鏡所見サブスコアが1以下で易出血性の所見がない)であった。 維持療法試験「COMMAND試験」は、2018年8月28日~2022年3月30日(最終追跡日2023年4月11日)に37ヵ国238施設で実施された。 維持療法試験では、導入療法試験において12週時に臨床的改善(Adapted Mayoスコアがベースラインから2ポイント以上かつ30%以上低下し、さらに血便スコアが1以下または1以上低下)を達成した適格患者584例を、リサンキズマブ180mg群、360mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、8週ごとに52週にわたり皮下投与した。 維持療法試験の主要アウトカムは、52週時の臨床的寛解であった。リサンキズマブ群の臨床的寛解率は導入療法で20.3%、維持療法で37.6~40.2% 導入療法試験の解析対象は975例(年齢42.1[SD 13.8]歳、973例中586例[60.1%]が男性、677例[69.6%]が白人)で、12週時の臨床的寛解率はリサンキズマブ群20.3%(132/650例)、プラセボ群6.2%(20/325例)であった(補正後群間差:14.0%、95%信頼区間[CI]:10.0~18.0、p<0.001)。 維持療法試験の解析対象は548例(年齢40.9[SD 14.0 ]歳、男性313例[57.1%]、白人407例[74.3%])で、52週時の臨床的寛解率は、リサンキズマブ180mg群40.2%(72/179例)、リサンキズマブ360mg群37.6%(70/186例)、プラセボ群25.1%(46/183例)であった。リサンキズマブ180mg群とプラセボ群の補正後群間差は16.3%(97.5%CI:6.1~26.6、p<0.001)、リサンキズマブ360mg群とプラセボ群の補正後群間差は14.2%(4.0~24.5、p=0.002)であった。 導入療法試験における主な有害事象は、リサンキズマブ群がCOVID-19(4.8%)、貧血(3.4%)、プラセボ群が潰瘍性大腸炎(10.2%)、貧血(6.5%)で、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ2.3%および10.2%であった。 維持療法試験における主な有害事象は、潰瘍性大腸炎(リサンキズマブ180mg群13.0%、360mg群13.8%、プラセボ群14.8%)およびCOVID-19(180mg群8.8%、360mg群13.3%、プラセボ群11.7%)で、重篤な有害事象の発現は180mg群5.2%、360mg群5.1%、プラセボ群8.2%であった。 著者は、追跡期間が短期であったことから、「52週間の追跡期間を超えた有益性を確認するためには、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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