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1 疾患概要■ 概念・定義2009年にクリーフストラらが9番染色体長腕サブテロメア欠失を持つ複数の症例について、重度から中等度の知的障害、筋緊張低下、てんかんに加え、特徴的な顔貌など、共通する臨床症状があることを報告した。その論文の中で、共通欠失領域に位置していたEHMT1遺伝子が責任遺伝子である可能性を疑い、同様の症状を示しながら9番染色体長腕サブテロメア欠失がない患者を調べたところ、EHMT1遺伝子の病的なバリアントが認められたため、EHMT1の機能喪失が原因であることを明らかにした。これにより、EHMT1遺伝子を含む9番染色体長腕サブテロメア欠失と、EHMT1遺伝子の病的バリアントによって引き起こされる病態をクリーフストラ症候群と称するようになった。■ 疫学正確な疾患頻度は明らかでないが、厚生労働省・山本研究班による複数施設での定点観測では、1万人~1万5,000人に1人と推測され、わが国には推定数千人の患者が存在すると考えられている。■ 病因9番染色体長腕末端から約1-Mbに位置するEHMT1を含む9番染色体長腕の部分欠失による場合と、EHMT1の機能喪失変異による場合がある。染色体欠失による場合の多くはサブテロメア欠失であるが、その切断端は多様であり、欠失サイズもさまざまである。基本的に染色体欠失も遺伝子の機能喪失変異も突然変異によって生じるが、サブテロメア欠失の場合は、他の染色体サブテロメア領域との不均衡転座によっても生じる可能性があり、その場合は両親のどちらかが均衡転座保因者の可能性があるため、次の妊娠時に同じ染色体異常が繰り返されたり、反復流産の原因となることがある。■ 症状知的障害、筋緊張低下、小頭症、先天性心疾患(とくに円錐幹の欠陥)、てんかん(約30%)、および特徴的顔貌(癒合したアーチ型の眉、眼間解離、短鼻、開いた口、および突出した舌など)を示す。その他、先天性心疾患(全患者の50%)、腎泌尿器奇形(全患者の10~30%)、睡眠障害や常同行為などの行動異常、外性器異常、難聴などが認められることがある。■ 予後合併症によるが、一般的に生命予後が不良であるという報告はない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)染色体異常の場合、マイクロアレイ染色体検査などで9番染色体長腕サブテロメア領域のEHMT1遺伝子を含んだ欠失を確認することにより診断される(図)。遺伝子変異の場合、ターゲット解析、網羅的解析に関わらず、EHMT1の機能喪失変異を確認することにより診断される。図 9番染色体長腕サブテロメア欠失の確認画像を拡大するUCSC genome browserにより、3例のクリーフストラ症候群自験例の欠失範囲を表示した。全例欠失範囲内にEHMT1遺伝子(赤丸)を含む。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)根本的な治療法はない。てんかんに対しては、発作型に合わせた治療が必要である。神経発達症に由来する多動や行動障害に対しては、環境調整や必要に応じた薬物療法を要することがある。 4 今後の展望疾患概念が明らかになってきたばかりであり、疾患特性の理解や治療法の開発はこれからである。5 主たる診療科小児の場合は小児科遺伝学的検査の場合は遺伝診療科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常症候群を示す小児から成人の診断・診療体制の構築」研究班ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報クリーフストラ症候群日本家族会(患者とその家族および支援者の会)1)Kleefstra T, et al. J Med Genet. 2009;46:598-606.2)Kleefstra T, et al. Am J Hum Genet. 2012;91:73-82.3)Yang Q, et al. Front Neurol. 2024;15:1340458.4)今泉太一、山本俊至. 脳と発達.2024;56:270-272.公開履歴初回2024年08月15日