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世界中で43秒に1人が自殺により死亡

 自殺リスクに関する新たな世界的評価において、世界中で43秒に1人が自殺により死亡していることが明らかになった。2021年の統計では、自殺による死亡者数は男性の方が女性に比べて多かったが、死亡には至らない自殺未遂の発生率は女性の方が男性よりはるかに高かったという。米ワシントン大学医学部健康指標評価研究所(IHME)のプロジェクト責任者であるEmily Rosenblad氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Public Health」に2月19日掲載された。 今回の研究でRosenblad氏らは、世界疾病負担研究(GBD 2021)の推定データを基に、1990年から2021年までの間の204の国と地域での自殺による死亡数、および年齢調整死亡率を分析し、経時的推移や年齢・性別・地域ごとの違いなどを評価した。GBD 2021では、自殺の手段を、「銃器によるもの」と「その他の特定された手段によるもの」に分類している。本研究では、自殺による死亡時の平均年齢、自殺未遂の発生率(死亡と比較した場合)、および銃器を用いた自殺による年齢調整死亡率(10万人当たり)も推定した。 その結果、2021年には世界で74万6,000人(95%不確実性区間〔UI〕69万2,000〜80万)が自殺により死亡したと推定された。これは、約43秒ごとに1人が自殺により死亡していることに相当するという。死亡者の内訳は、男性51万9,000人(同48万5,000〜55万6,000)、女性22万7,000人(同20万〜25万5,000)であり、この年における自殺の年齢調整死亡率は、男性の方が女性より2倍以上高かった(男性:12.8人、女性5.4人)。 自殺による年齢調整死亡率は、1990年の14.9人から2021年には9.0人へと経時的に39.5%低下していた。低下率は、男性の方が女性よりも低かった(男性33.5%、女性50.3%)。地域別に見て年齢調整死亡率の大幅な改善が認められたのは東アジアであり、1990年の21.1人から2021年には7.2人へと65.7%減少していた。2021年に自殺による年齢調整死亡率が最も高かったのは、東ヨーロッパ(19.2人)、サハラ以南アフリカ南部(16.1人)、サハラ以南アフリカ中央部(14.4人)だった。 自殺による死亡時の平均年齢は、1990年の42.6歳から2021年の47.0歳へと徐々に上昇していた。男女別に見ると、男性では1990年が43.0歳、2021年が47.0歳、女性では41.9歳と46.9歳だった。 2021年の自殺による死亡者数のうち、男性で9.7%、女性で2.9%が銃器を用いた自殺によるものだった。銃器を用いた自殺による年齢調整死亡率が最も高かった国は、米国(6.19人)、ウルグアイ(3.61人)、ベネズエラ(3.04人)だった。Rosenblad氏は、「男性は銃など、より暴力的で致死率の高い自殺方法を選ぶ傾向があるのに対し、女性は中毒や過剰摂取など、生存率が高い致命的ではない手段を選ぶ傾向が認められた」とIHMEのニュースリリース中で述べている。 2021年の自殺未遂の発生率と死亡率の比率(incidence-mortality ratio;IMR)を計算し、医療的処置を要するが死亡には至らなかった自殺未遂の発生頻度を評価した。その結果、女性のIMRは14.47件、男性のIMRは4.27件と女性の方がはるかに高く、この傾向は世界の21地域全てで共通していたことが示された。 健康指標評価研究所教授で上級研究員のMohsen Naghavi氏は、「自殺率の低下に向けた進展は喜ばしいが、一部の国や集団は依然として自殺の影響を他よりも大きく受け続けているのは明らかだ」と述べている。同氏はまた、「自殺に対する偏見やメンタルヘルス支援システムを受ける際の障壁をなくすことは、特に精神疾患や物質使用障害を持つ人にとって依然として重要な対策だ」と述べている。

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非糖尿病者では間歇スキャン式血糖測定の値が高値となる

 糖尿病ではない人が間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を行った場合、測定値が高値を示す傾向のあることが報告された。英バース大学のJavier Gonzalez氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Clinical Nutrition」に2月26日掲載された。 isCGMは指先穿刺を必要とせずに血糖値をリアルタイムで確認できるため、「糖尿病患者の人生を変え得る機器」といったアピールとともに普及してきている。しかし、新たな研究によると、健康な人の場合、血糖自己測定のゴールドスタンダードである指先穿刺による測定(SMBG)に比べてisCGMは、高値を示すことが多いようだ。論文の上席著者であるGonzalez氏は、「isCGMは糖尿病患者にとって素晴らしいツールだ。糖尿病患者の場合、たとえ測定結果が完璧に正確ではないとしても、全く測定しないよりは良い。しかし、健康な人が用いると、不必要な食事制限や不適切な食事選択につながる可能性がある。血糖値を正確に評価したいのであれば、依然として従来の方法が最適だ」と話している。 isCGMは、腕に貼ったパッチを介して血糖値を連続的に測定し、その測定結果をスマートフォンなどのデバイスに送信するシステム。このisCGMは、もともとは糖尿病患者の血糖管理をサポートする目的で開発された。ところが現在このデバイスは、糖尿病でない人の健康管理にも用いられ始めている。例えば、さまざまな食品を摂取後に、血糖値がどのように変化するかを知るために使われたりしている。 この研究では、15人の健康なボランティアに、果物を丸ごとそのまま食べてもらったり、スムージーにして飲んだりしてもらい、その後の血糖変動をisCGMで測定し、SMBGでの測定値と比較した。その結果、スムージーの血糖上昇指数(GI)はSMBGでは53(低GI)と判定されたのに対して、isCGMでは69(中GI)と示され、SMBGより30%過大評価された。また、果物を丸ごと食べた場合、SMBGではやはり低GIであることが示されたが、isCGMでは中GIまたは高GIと判定された。この結果から研究者らは、果物を丸ごと食べると血糖値が急上昇するかもしれないと誤解した健康な人が、果物を避けるようになる可能性があるとしている。 また、isCGMは血糖値が140mg/dL以上になっている時間の長さを約3.8倍、過大に評価することも明らかになった。食品を摂取する前の血糖値などの影響を調整してもなお、約2倍に過大評価していた。 Gonzalez氏は「isCGMは、血液中のブドウ糖である血糖の濃度を直接測定するのではなく細胞を取り囲む液体中に含まれているブドウ糖の濃度を測定するため、不正確になる可能性がある。血流の変化、血糖の体内での分布速度の影響などによりタイムラグが発生することもあって、実際の血糖値と不一致が生じ得る」と解説している。 なお、この研究は、英国を拠点にスムージーの製造・販売を展開しているInnocent Drinks社の資金提供により実施された。

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切除不能進行胃がんに対するPD-L1抗体sugemalimab+化学療法の有用性(解説:上村直実氏)

 食道胃接合部腺がんを含む手術不能な進行胃がんに対する第1選択の薬物療法とは、従来、5-FUを代表とするフッ化ピリミジン系薬剤とシスプラチンなどのプラチナ系薬剤の併用療法が標準化学治療となっていた。最近、細胞増殖に関わるHER2遺伝子の有無により、HER2陽性胃がんに対しては抗HER2抗体であるトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を追加した3剤併用レジメンが第1選択の標準治療として推奨されており、さらに免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を追加した4剤併用療法の有用性も報告されている。一方、胃がんの80%を占めるHER2陰性胃がんに対しては、標準化学療法にICIであるPD-1(programmed cell death-1)抗体薬であるニボルマブ(同:オプジーボ)やペムブロリズマブ(同:キイトルーダ)を加えた3剤併用療法が第1選択の標準治療レジメンとして確立し、さらにHER2陰性かつClaudin(CLDN)18.2陽性胃がんに対してはCLDN18.2を標的とした抗体薬(ゾルベツキシマブ)も承認されている。このように、手術不能進行胃がんに対する薬物療法が劇的に変化している。 未治療の切除不能な局所進行または転移を有する胃・食道胃接合部腺がんの治療に対して、PD-L1の複合発現スコア(CPS)が5以上の高値を示すアジア人の患者を対象として、標準化学療法単独とPD-L1抗体薬であるsugemalimabの併用を比較した海外無作為化試験が施行された結果、sugemalimab併用の全生存率(OS)中央値15.6ヵ月がプラセボ群の12.6ヵ月に比べて有意に延長していた。とくにCPSが10以上の高値を示す症例のOSはさらに延長していた(2025年2月のJAMAオンライン)。 ICIに関しては、2018年にノーベル賞を受賞した京都大学の本庶 佑博士と米国テキサス大学のジェームズ・P・アリソン博士がそれぞれに発見したPD-1遺伝子とCTLA-4(細胞殺傷性Tリンパ球抗原4)に対する抗体に続いて今回報告されたPD-L1の抗体薬が開発されている。それぞれのICIは異なる機序を有しており、ほかにも新たなICIが次々と開発されつつあるのが現状である。 ICIに関する課題も判明しつつある。すなわちICIが有効性を示す患者もいる一方、効果のない患者もあり、さらに重篤な副作用の出現を認める症例も報告されていることから、今回使用された腫瘍細胞のPD-L1の発現量を示すCPSなど、実際の治療に対する反応性を予測するバイオマーカーの確立が急務であろう。なお、2024年に日本胃学会はバイオマーカーとしてHER2、PD-L1、MSI/MMR、CLDN18の4検査を同時に実施することを推奨している。 今後、切除不能胃がんに対する1次治療にICIを含むレジメンが一般的になるものと思われる。わが国において胃がんに対して使用されるICIはニボルマブやペムブロリズマブなどのPD-1抗体が主流であるが、今回の報告から近いうちにPD-L1抗体も臨床の現場に現れると思われる。

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退院後1週間で再入院。どうしたら防げた?【こんなときどうする?高齢者診療】第11回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2025年2月に扱ったテーマ「診療連携とケア移行」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。ケア移行は、患者を異なる医療・ケア環境へ移る際に、適切な引き継ぎと支援を行うプロセスです。入院・外来・在宅・介護施設など、さまざまな場面で発生します。しかし、ケア移行が適切に行われないと、再入院のリスクが高まり、QOLの低下につながることも少なくありません。とくに高齢患者にとっては、途切れのないサポートが不可欠であるにもかかわらず、致命的な悪化を生じてしまうことは残念ながら少なくありません。今回はケースを通じてシームレスなケア移行を実現するための工夫や受け入れ側の視点を考えてみましょう。78歳女性 心不全。入院期間2週間 → 退院後は自宅療養、外来フォロー予定ケア移行時の問題点処方変更:退院時に変更された薬を患者が自己判断で中断診療継続の途絶(Discontinuity of Care):退院時に外来診察の予約が取れていなかった情報共有不足:患者・家族が心不全悪化の兆候(体重増加など)を認識していなかった 結果として、退院後1週間で心不全が増悪し、再入院となった。ケア移行で陥りがちな3つの落とし穴このケースには、すべてのケア移行に共通する3つのピットフォールが含まれています。順番に見ていきましょう。1.情報共有の不足このケースでは、処方が変更された意図や新しい服薬スケジュールが十分に伝わっていなかったために、患者は服薬を中断してしまいました。情報共有の不足が、医療者と患者・患者と家族の間で起きています。情報共有は、医療者-医療者、医療者-患者、患者-家族などすべての関係において重要です。2.診療継続の途絶(Discontinuity of Care)診察や訪問の予約といったケアプランの調整は、ミスが起きやすいポイントです。こうした調整不足をなくすために、担当者、次のケア提供者(例:外来医・訪問看護・在宅医療など)を明示し退院前に予約記録を皆が確認できる体制が必要です。3.適切な経過観察の欠如このケースでは「こういう症状が出たら症状の悪化が考えられるので、医療者・ケア提供者に連絡しましょう」というような患者・家族への情報共有・教育ができていませんでした。異変があっても、適切なタイミングで受診できなかったことが、再入院を引き起こすきっかけになった可能性があります。チェックリストやハンドアウトなども活用し、患者・家族が自主的に動けるようなフォローアッププランはどのような移行であっても不可欠です。ピットフォールを防ぐ介入のポイントケア移行がうまくいかない理由として、(1)情報共有の不足、(2)移行先の環境を十分に考慮できていないケアプランが挙げられます。このようなケア移行の難しさはアメリカでも認識されており、National Transitions of Care Coalitionが介入のための7つのポイントを作成しています1)。今回はその中から、とくに重要な4つを紹介します。1.薬:ケア移行は、薬剤整理の絶好のタイミング!ケア移行は薬剤整理のタイミングとしてとても適しています。ここで重要なのが「安全・確実に服用を続けられる」ようにすること。移行期には新たな情報や薬・フォローアップの予定と情報量に、患者・家族ともに打ちのめされている場合も少なくありません。そのような状態を考慮し、経済的背景や心理社会面での困難といった社会的決定要因(SDOH)の評価と、それに応じた本人・家族への教育が欠かせません。2.ケア移行計画:異なる環境でも適切なケアが継続できる計画を作成するよいケア移行計画は、ケア提供者のレベルが異なっても必要なケアが継続できるものです。例えば、病院から介護施設への移行した場合、施設の介護士と看護師、またそのほかの職員も協働してケアを提供することになります。介護士と看護師それぞれに依頼したい内容を分けるなど、移行先で実施可能な計画を作成できるとよいですね。そのためできることとしては、計画や実行の責任者を明確に(誰が何を、どこで、いつ、どのように)すること、作成した計画をタイムリーに共有することが重要です。3.患者と家族のエンパワメント:ケア移行に主体的に参加できるよう支援患者と家族に正しい情報と知識を共有しましょう。知識の共有は、患者と家族がケア移行に主体的に参加し、正解がない中で最善を選ぶ手助けになります。そして、ケア移行後にセルフマネジメントができるよう具体的な方法はもちろん、「なぜこの治療が必要なのか?」を患者や家族が理解できるよう説明する、家族も巻き込んで、フォローアップの重要性を共有し実行できるようサポートすることも医療者の重要な役割です。4.コミュニケーション促進:関係者全員がスムーズに連携できる手段を整える関係者全員のコミュニケーションが円滑になる手段を整えることも重要です。医療者間は共通のカルテやレポートなどを使い、情報のヌケ、モレ、ズレがないようにするのが理想です。やりとりのツールは電話やメールなど、何が使いやすいのかを検討します。残りの3つは、ケア移行の組織的改善の方策が示されています。ケアの継続性の確保、ケア移行の標準化、ケア移行の効率と質の評価について、それぞれ具体的な行動や知見が挙げられていますので、ぜひ参考資料をご覧になってみてください。ケア移行の改善、どこから手をつける?いかがでしたか?最後に、医師の皆さんが今日からできるケア移行改善アクションをひとつご紹介します。それは入院時から退院を視野にいれたサマリを作成することです。これによりさまざまなことを前もって準備・調整しやすくなります。たとえば退院時に介護保険を申請する可能性を予想できていたら、承認までの期間を見積もって早めに申請することができます。自分の仕事の中でできることを探してケア移行をよりよいものにしていきましょう! ケア移行のティップスと多職種連携の落とし穴をオンラインサロンでオンラインサロンメンバー限定の講義では、メンバーの悩みを例により実臨床に即したケア移行のコツを解説しています。また、酒井郁子氏(千葉大学大学院看護学研究院附属病院専門職連携教育研究センター長)を迎えた対談動画では、アメリカ型チーム医療とイギリス型専門職連携の違いという、多職種連携がうまくいかない根本の原因に迫ります。参考1)NTOCC, 2022 Recised Care Transitions Bundle; Seven Essential Elements Categories.

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第256回  “撤退戦”が始まっていることに気付かない人々(後編)  長崎大病院全病床の1割以上に当たる98床削減、国も「病床1床減らせば410万円」の補助金用意、“撤退戦”本格化の兆し

メジャーで通用しなければ撤退・帰国の日本人投手、病床が埋まらなければ再編・病床削減という“撤退戦”必至の病院こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBの東京シリーズ、シカゴ・カブス対ロサンゼルス・ドジャース、すごかったですね。個人的には、山本 由伸投手が好投した開幕戦よりも、佐々木 朗希投手がよれよれになりながらも、3回をなんとか1失点でしのいだ第2戦を興味深く観戦しました(もちろんテレビで)。160キロ近いスピードは出ていましたが、制球が悪く四球を連発、盗塁も2つ決められていました。それでも試合を壊さなかったのはさすがと言えるでしょう。スプリットがコントロールできない、投球フォームを盗まれるなど、多くの課題が浮き彫りになった佐々木投手ですが、逆に言えばファンは今後それらの課題克服の過程を見ることができるわけです。米国開幕3戦目の3月30日(日本時間)に予定されている米国初登板が楽しみです。一方で、今季からMLBに渡った何人かの投手の不調も伝わって来ています。中日ドラゴンズからワシントン・ナショナルズに移籍した小笠原 慎之介投手はオープン戦で打ち込まれ、防御率11.25でマイナー降格が決まっています。また、阪神タイガースからフィラデルフィア・フィリーズとマイナー契約を結んだ青柳 晃洋投手も、招待選手としてメジャーキャンプに参加しましたが、オープン戦は防御率12.00と、やはりマイナーが確定しています。ちなみに、2年前から米国で挑戦を続ける藤浪 晋太郎投手も、マイナー契約の招待選手としてシアトル・マリナーズのメジャーキャンプに参加していましたが、オープン戦の防御率5.40、制球の悪さは相変わらずでマイナー行きとなりました。日本で“そこそこ”の選手が、ただのあこがれだけでMLBに行ってもまったく通用しないということがよくわかります。この3人、昨年の上沢 直之投手のように日本に出戻る(撤退する)ことになるのでしょうか。今年のMLBはそのあたりにも注目です。さて、前回は人口減少が続き、病床が埋まらなくなれば再編や病床削減という“撤退戦”に入らなければならないのに、そうした状況に気付かない人々について、「首長や行政の人間はなぜ財政的に大赤字になることが見えているのに、立派な病院を作りたがるのでしょうか」と書きました。しかし、最前線の現場では、変化の兆しも見え始めているようです。今回はそうした動きについて書いてみたいと思います。資材や人件費の高騰を背景に各地で相次ぐ新病院の計画中止2月25日付の中国新聞によると、2月21日、広島県三次市の福岡 誠志市長は市立三次中央病院を現地で建て替え、2029年春の開院を目指す計画について、建築単価の高騰や現病院の収支悪化などを理由に「一時立ち止まり、事業の再構築を検討せざるを得ない」と明らかにしました。2025年5月を目処に基本設計を終える予定でしたが、計画は中断に至りました。また、3月6日付のNHK・青森 NEWS WEBによれば、青森県下北半島のむつ市にあるむつ総合病院で計画されていた新病棟の建設は、総事業費が当初の2倍以上に膨らんだことから計画をいったん白紙にした上で、現在の病棟の改修も含めて再検討することになりました。むつ総合病院を運営する「下北医療センター」の管理者を務めるむつ市の山本 知也市長が同日、会見を開いて明らかにしたもので、山本市長は3月に予定していた病棟の建設工事の入札を中止したことを報告、「資材の高騰などに伴って総事業費がこの3年で2倍以上のおよそ415億円に膨らみ、新たな財源を確保できないため」とその理由を説明したとのことです。さらに、3月7日付の奈良新聞によると、奈良県大和高田市の堀内 大造市長は3月6日、建物の老朽化が課題となっている市立病院について、JR高田駅東側にある県産業会館の場所を活用した新築移転計画を断念すると発表しました。施政方針で堀内市長は「市の将来の財政見通しで、物価高騰や人件費の上昇が予想され、一般会計において今後厳しい状況が見込まれる」とし、「市立病院の新築移転は大変困難であると判断した」と語ったとのことです。長崎大学病院は4月1日から一般病床を827床から729床へ98床削減2、3月には、都道府県、市町村で新年度予算を審議する議会が開かれます。病院建設計画がある自治体ではそのための予算措置が議案になるため、こうした報道が続出したものと考えられます。こうした報道から、建設費や機器・備品・システム費の高騰を背景に、前回も書いた順天堂大学の埼玉新病院建設断念と同じ状況が、病院の規模は違いますが全国各地で起こっていることがわかります。闇雲に突っ走らず、計画を中断し再考するという点は評価できます。建設費等の高騰は、自治体の首長に病院建設の再考を迫る、いいきっかけになったと言えるでしょう。とはいうものの、各地の老朽化した古い病院、病棟はそのままとなるので、これからの医療提供体制を考えると、より大胆で効率的な(かつ安上がりで済む)病院再編計画が必要になって来るでしょう。再編・リストラでは、今月はこんな報道もありました。3月13日付の長崎新聞の報道によると、長崎市にある長崎大学病院が、4月1日から一般病床を現在の827床から1割強の98床削減し、729床に再編すると発表しました。長崎大学病院の入院延べ患者数は2019年度が約27万6,000人でしたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で急激に減り、2023年度は約25万人に留まっていました。病床稼働率も2019年度の86.35%から2023年度は78.27%に低下していました。同紙によれば、全国42の国立大学病院で昨年までの過去10年間で一度に病床を100床規模で削減したケースはないとのことです。長崎大学病院は大学病院の大規模病床削減の先駆けになるわけです。国は病床削減した病院に1床につき410万円補助へ贅沢な大病院計画は中止する、大学病院でも大規模な病床削減を敢行する……など、医療機関の“撤退戦”が本格化しそうな2025年ですが、国もそうした状況を後押しする施策を用意しています。2024年度厚生労働省補正予算で決定した「医療施設等経営強化緊急支援事業」の中の「病床数適正化支援事業」がそれです。「効率的な医療提供体制の確保を図るため、医療需要の急激な変化を受けて病床数の適正化を進める医療機関に対し、診療体制の変更等による職員の雇用等の様々な課題に際して生じる負担について支援を行う」もので、期日(2024年度中が原則だが、2025年9月末日までになる模様)内に病床数(一般病床、療養病床及び精神病床) の削減を行う病院又は診療所に対し、削減した病床1床につき410万4,000円が交付される、というものです。国の予算では428億円が計上されています。単純に割れば、1万床分になります。同種の補助金としては、すでに地域医療介護総合確保基金の中の「病床機能再編支援交付金」があります。こちらは制度区分にもよりますが1床あたり200万円程度なので、410万円はその倍額です。各都道府県では2024年度分は申請を締め切ったようですが、知人の医療コンサルタントは「各都道府県ともかなりの申し込みが来ているようだ」と話していました。こうした補助金が、地域の医療機関の“撤退戦”や病床削減の呼び水となれば、国は2024年度だけでなく、2025年度以降も同じ規模の補助金を用意して、さらなる削減を進めることになるでしょう。ただ、こうした“店じまい”補助金はいつまでも続くとは限らないので、“早い者勝ち”になる可能性もあります。今回、「病床数適正化支援事業」の申請ができなかった病院も、次年度に向け、早めに病床削減計画を立てておいたほうがいいかもしれません。

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肺炎改善に対するエビデンスの確実性は低い。コクランレビューが示す胸部理学療法の効果【論文から学ぶ看護の新常識】第8回

肺炎改善に対するエビデンスの確実性は低い。コクランレビューが示す胸部理学療法の効果成人肺炎に対する胸部理学療法についてのコクランレビューは、2010年に初めて発表され、2013年に更新された。新たに2件の研究を追加し再分析を行ったアップデート版が、The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2022年9月6日号に掲載された。コクランレビュー:成人の肺炎に対する胸部理学療法本アップデートでは、2013年の結果に新たに2件の研究(540例)を追加し、合計8件のランダム化比較試験(RCT)、974例を分析対象とした。以下の5種類の胸部理学療法を検討した。1)従来の胸部理学療法、2)オステオパシー徒手療法(OMT;脊柱抑制、肋骨挙上、筋膜リリースを含む)、3)アクティブサイクル呼吸法(呼吸コントロール、胸郭拡張運動、強制呼気技術を含む)、4)呼気陽圧療法(PEP)、5)高頻度胸壁振動法(HFCWO)。主要評価項目として、死亡率、治癒率、入院期間、発熱期間、抗生物質使用期間、ICU滞在期間、人工呼吸期間、副作用を設定した。いずれもエビデンスの確実性は非常に低いが、以下の通りの結果となった。死亡率:従来の胸部理学療法(無介入との比較)、OMT(プラセボとの比較)、HFCWO(無介入との比較)は、いずれも死亡率を改善する可能性はほとんどない。治癒率:従来の胸部理学療法とアクティブサイクル呼吸法(無介入との比較)は、治癒率改善にほとんど影響を与えない可能性がある。OMTは、治癒率を改善する可能性がある(リスク比[RR]:1.59、95%信頼区間[CI]:1.01~2.51)。入院期間:OMT、従来の胸部理学療法、アクティブサイクル呼吸法は、入院期間にほとんど影響を与えない可能性がある。PEP(無介入との比較)は、入院期間を平均1.4日短縮する可能性がある(平均差[MD]:−1.4日、95%CI:−2.77~−0.03)。発熱期間:従来の胸部理学療法、OMTは、発熱期間にほとんど影響を与えない可能性がある。PEPは、発熱期間を0.7日短縮する可能性がある(MD:−0.7日、95%CI:−1.36~−0.04)。抗生物質使用期間:OMTとアクティブサイクル呼吸法は、いずれも抗生物質の使用期間にほとんど影響を与えない可能性がある。集中治療室(ICU)の滞在期間:HFCWO+気管支鏡肺胞洗浄(気管支鏡肺胞洗浄単独との比較)では、ICU滞在期間を3.8日短縮する可能性がある(MD:−3.8日、95%CI:−5.00~−2.60)。人工呼吸期間:HFCWO+気管支鏡肺胞洗浄は、人工呼吸期間を3日短縮する可能性がある(MD:−3日、95%CI:−3.68~−2.32)。副作用:1件の試験では、2名の参加者にOMT後一過性の筋肉の圧痛が発生した。別の試験では、3件の重篤な有害事象によりOMT後に早期に試験から除外された。1件の試験では、PEPでの有害事象は報告されなかった。主要な結論に変更はなかった。現在のエビデンスでは、胸部理学療法が成人肺炎患者の死亡率や治癒率を改善する効果については非常に不確かである。一部の理学療法は入院期間、発熱期間、ICU滞在期間、および人工呼吸期間をわずかに短縮する可能性がある。しかし、これらの結果は確実性の非常に低いエビデンスに基づいており、さらなる検証が求められる。成人肺炎患者に対する胸部理学療法の今回のレビューでは、死亡率や治癒率への効果は不確実という結果でした。一部の手法では、入院日数やICU滞在期間、発熱期間を短縮する可能性が示唆されましたが、いずれもエビデンスの確実性は低く、さらなる大規模研究が必要です。その一方で、胸部理学療法の効果がないと証明されたわけではありません(統計上、効果があるかどうかがわからないが正確な捉え方です)。看護師としては、胸部理学療法単独の効果に過度な期待を寄せるのではなく、体位管理や呼吸訓練、早期離床などの多角的なケアを組み合わせて行うことが重要です。現場では個々の患者さんに応じたケアが最優先になります。とくに、患者さんの全身状態を見極めながら、呼吸介助や痰の排出を促す方法を取り入れるなど、個々の状況に合わせたプランを立案しましょう。また効果の根拠が限られるからこそ、他職種とも連携を図り、安全性を担保しながら最適なケアを提供する姿勢が求められます。実践する際は、患者さんの負担やリスクを常に評価し、無理のない範囲で効果的に行う方法を検討することが大切です。今後も新たな知見を確認しながら柔軟にケア介入を考えていきましょう。論文はこちらChen X, et al. Cochrane Database of Syst Rev. 2022;9(9): CD006338.

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ビタミンBが影響を及ぼす神経精神疾患〜メタ解析

 最近、食事や栄養が身体的および精神的な健康にどのような影響を及ぼすかが、注目されている。多くの研究において、ビタミンBが神経精神疾患に潜在的な影響を及ぼすことが示唆されているが、ビタミンBと神経精神疾患との関連における因果関係は不明である。中国・Shaoxing Seventh People's HospitalのMengfei Ye氏らは、ビタミンBと神経精神疾患との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)メタ解析を実施した。Neuroscience and Biobehavioral Reviews誌2025年3月号の報告。 本MRメタ解析は、これまでのMR研究、UK Biobank、FinnGenのデータを用いて行った。ビタミンB(VB6、VB12、葉酸)と神経精神疾患との関連を調査した。 主な内容は以下のとおり。・MR分析では、複雑かつ多面的な関連性が示唆された。・VB6は、アルツハイマー病の予防に有効であったが、うつ病および心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスク上昇の可能性が示唆された。・VB12は、自閉スペクトラム症(ASD)の予防に有効であったが、双極症リスクを上昇させる可能性が示唆された。・葉酸は、アルツハイマー病および知的障害に対する予防効果が示唆された。・メタ解析では、ビタミンBは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの特定の神経精神疾患の予防に有効であるが、不安症や他の精神疾患のリスク因子である可能性が示唆された。・サブグループ解析では、VB6は、てんかんおよび統合失調症の予防に有効であるが、躁病リスク上昇と関連していた。・VB12は、知的障害およびASDの予防に有効であるが、統合失調症および双極症のリスク上昇と関連していた。・葉酸は、統合失調症、アルツハイマー病、知的障害の予防に有効である可能性が示唆された。 著者らは「これらの知見は、ビタミンBのメンタルヘルスに対する影響は複雑であり、さまざまな神経精神疾患に対して異なる影響を及ぼすことが示唆された。このような複雑な関連は、神経精神疾患に対する新たな治療法の開発において、パーソナライズされた治療サプリメントの重要性を示している」と結んでいる。

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高齢NSCLCへのICI、2次治療への移行率と治療成績(NEJ057)/日本臨床腫瘍学会

 高齢の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療後の2次治療への移行率や、2次治療の有効性に関する報告は乏しい。そこで、75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)1)において、ICIによる治療後の2次治療への移行率および2次治療の治療成績が検討された。山口 央氏(埼玉医科大学国際医療センター)が、第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で本結果を報告した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで2018年12月~2021年3月に治療を開始した患者(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子を有する患者は除外)・評価項目:全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、安全性など 今回は、ICI+化学療法またはICI単剤で治療を開始したNSCLC患者を対象として解析された。主な結果は以下のとおり。・解析対象患者(779例)の内訳は、ICI+化学療法群354例、ICI単剤群425例であった。・全身状態はICI+化学療法群のほうが良好な傾向にあった。ECOG PS0/1/2以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が137/199/17/1例、ICI単剤群が100/223/102/0例であった。・PD-L1発現はICI単剤群のほうが高発現の傾向にあった。PD-L1 1%未満/1~49%/50%以上/不明の例数は、ICI+化学療法群が111/129/75/39例、ICI単剤群が12/111/297/5例であった。・データカットオフ時点(2021年12月31日)において、病勢進行はICI+化学療法群82%、ICI単剤群77%に認められ、Best Supportive Care(BSC)以外の2次治療への移行率はそれぞれ39.3%、23.8%であった。各群の2次治療の内訳は以下のとおり。-プラチナ併用化学療法:5%、13%-単剤化学療法:39%、16%-ICI単剤:3%、1%-その他:1%未満、1%未満-BSC:52%、69%・2次治療のレジメンは、ICI+化学療法群ではドセタキセル(52例)、S-1(32例)、ドセタキセル+ラムシルマブ(23例)が多く、ICI単剤群ではS-1(21例)、カルボプラチン+ペメトレキセド(18例)、カルボプラチン+nab-パクリタキセル(18例)が多かった。・2次治療のPFS中央値、奏効割合は以下のとおり。 <ICI+化学療法群> プラチナ併用化学療法:2.5ヵ月、13% 単剤化学療法:3.7ヵ月、11% <ICI単剤群> プラチナ併用化学療法:5.3ヵ月、26% 単剤化学療法:3.7ヵ月、13%

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パーキンソン病患者数、30年後には約2倍か/BMJ

 パーキンソン病の患者数は、2050年には2021年の2.1倍となる2,520万人に達し、この増加傾向は世界疾病負担研究(Global Burden of Disease:GBD)の地域分類で規定する東アジア地域の、社会人口統計学的指数(SDI)が中程度の国の男性でより顕著になると予測されることを、中国・首都医科大学のDongning Su氏らがGBD 2021のデータを解析し報告した。著者は、「パーキンソン病は、2050年までに患者とその家族、介護者、地域、そして社会にとって大きな公衆衛生上の課題となると予測され、今回の結果はヘルスリサーチの推進、政策決定への情報提供およびリソース配分の一助となるだろう」とまとめている。BMJ誌2025年3月5日号掲載の報告。1990~2021年の195の国・地域のデータを解析 研究グループは、GBD 2021から1990~2021年の195の国と地域におけるパーキンソン病の年齢、性別、暦年および地域別の有病率データを用い、2022~50年のパーキンソン病の年齢・性別有病率を推計した。予測有病率の時間的傾向を調べるため平均年間変化率を算出し、2021~50年の間の人口増、高齢化、有病率の変化がパーキンソン病患者数の変化に与える相対的な影響を分解分析で評価した。また、曝露レベルと有病率比を用い、パーキンソン病の修正可能なリスク因子に関する人口寄与割合(PAF)と潜在的影響割合(PIF)を推定した。 GBD 2021では、パーキンソン病は安静時振戦、無動、筋強剛および姿勢反射障害の4つの主要症状のうち2つ以上を有することと定義された。2021年から112%増加、寄与要因は高齢化が89% 2050年には、世界のパーキンソン病患者数は2,520万人(95%不確実性区間[UI]:2,170万~3,010万)となり、2021年から112%(95%UI:71~152)増加すると予測された。患者数増加に最も寄与する要因は高齢化(89%)であり、次いで人口増(20%)、有病率の変化(3%)と予測された。 2050年におけるパーキンソン病の有病率は、2021年から76%(95%UI:56~125)増加し10万人当たり267例(95%UI:230~320)、年齢標準化有病率は2021年から55%(50~60)増加し10万人当たり216例(168~281)になると予測された。 最も大きな増加を示すと予測されたのはSDI分類で中程度(五分位の中央)の国で、全年齢有病率が144%(95%UI:87~183)増加、年齢標準化有病率が91%(82~101)増加すると予測された。 GBDの地域分類では、2050年のパーキンソン病患者数は東アジアが1,090万人(95%UI:900万~1,330万)で最も多く、2021年からの増加率が最も高いのはサハラ以南のアフリカ西部で292%(95%UI:266~362)増加すると予測された。 年齢層では、80歳以上で最も増加する(196%、95%UI:143~235)と予測された。また、パーキンソン病の年齢標準化有病率の男女比は、世界全体で2021年の1.46から2050年には1.64に増すと予測された。

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リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療/日本臨床腫瘍学会

 キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法や二重特異性抗体など、最近の免疫治療の進歩は目覚ましく、とくに悪性リンパ腫と多発性骨髄腫に対しては生命予後を大幅に改善させている。今後もさらに治療成績が向上することが期待され、最適な治療法を選択していくためには、本邦における免疫治療の現状や課題、今後の治療法の開発状況などについてよく理解しておく必要がある。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療についてのシンポジウムが開催され、国内外の4人の演者が最新の知見や今後の展望などについて講演した。B細胞リンパ腫治療の進歩に重要な役割を果たす二重特異性抗体 「とくに、最近のCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体の出現は、B細胞リンパ腫治療に大きな進歩をもたらしている」とGrzegorz Stanislaw Nowakowski氏(Mayo Clinic)は強調する。T細胞の細胞膜上に発現するCD3とB細胞性がん細胞の膜上に発現するCD20の両者に結合し、T細胞の増殖および活性化を誘導することでCD20が発現しているがん細胞を攻撃する治療法で、最近はCD20とは異なる表面分子を標的とする、または複数の表面分子を同時に標的とする二重特異性抗体の研究開発も進行しているという。 CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体に関する臨床試験は、CAR-T細胞療法後の再発を含む再発または難治性の進行性リンパ腫を対象に実施され、約50~60%の患者に奏効し、奏効した患者の約半数が完全奏効となっていた。加えて、完全奏効した患者は、その状態が長く持続し、患者の病態や前治療の数や内容などにかかわらず、効果は一貫してみられていた。 一方で、二重特異性抗体の有害事象については、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)のリスクは高くなく、用量漸増や予防薬の前投与によって軽減することが可能となる。Nowakowski氏は、「重要なのは、CRSは管理可能であると認識することである。加えて、治療に関連する神経毒性の発生リスクも高くなく、Grade3以上の神経毒性の発現頻度は非常に低い」と述べた。 さらに、二重特異性抗体による治療のメリットは、化学療法やCAR-T細胞療法などのほかの治療法と組み合わせたり、治療の順番を調整したりすることができる点にあるとNowakowski氏は指摘する。また、特定の二重特異性抗体をCAR-T細胞療法までの橋渡しの治療としても使うことができることを示唆する研究報告もあり、治療効果をより継続したり高めたりする臨床研究が進行中であるという。 最後に、「活動性の高い低悪性度リンパ腫に対しては、化学療法を併用しない二重特異性抗体による単独治療も可能となる。このように、二重特異性抗体はモノクローナル抗体と同様に、複数の治療法で使用できる可能性がある」とNowakowski氏は付け加えた。B細胞リンパ腫に対する早期治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性 本邦においても、CD19を標的としたCAR-T細胞療法は、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)などのB細胞リンパ腫に適応となっている。CAR-T細胞療法の治療成績は、それまでの再発または難治性LBCLに対する標準治療に比べて群を抜いて高く、治療成績は劇的に改善された。今回、蒔田 真一氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)は、B細胞リンパ腫に対する早期の治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性について言及した。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、第2世代のCAR-T細胞療法であるtisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの単群試験の結果を基に、3rdライン以降の治療薬として本邦では最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解から12ヵ月以内の再発例を対象としたランダム化比較試験において、化学療法と自家幹細胞移植による標準治療を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことで、axi-celとliso-celが2ndラインとしても使用できるようになっている。 蒔田氏は、CAR-T細胞療法を早期ラインで使用することのメリットとして、まず、早期のラインではより多くのブリッジング(橋渡し)治療が可能となり、CAR-T細胞を製造している間の腫瘍進行を抑制することが可能となることを挙げる。さらに、早期ラインでは従来の細胞障害性抗がん薬への曝露が少ないことから、CAR-T細胞療法が効きやすい可能性もあるという。 このような背景の中で、未治療のLBCLに対する1stラインとしてのCAR-T細胞療法の有用性を評価するための臨床試験が現在進行している。「加えて、LBCLに対する二重特異性抗体の臨床試験なども複数進行しており、近い将来、未治療LBCLに対する治療戦略が劇的に変化する可能性がある」と蒔田氏は結んだ。CAR-T細胞療法の効果的な運用に向けて CAR-T細胞療法は、2012年に米国のフィラデルフィアで小児急性リンパ芽球性白血病への最初の使用が報告された免疫細胞療法であり、長期にわたる良好な治療成績が得られている。その後も、CD19を標的としたCAR-T細胞療法はとくに再発または難治性のLBCLの治療戦略を劇的に変化させ、その適応は広がっている。 LBCL患者の約60%は、初回のR-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)で長期生存を達成するが、再発または難治性となった場合は、化学療法や自家幹細胞移植などの2ndラインの標準治療で治癒に至る患者はわずか10%にすぎない。そのため、再発または難治性のLBCLに対する治療戦略はきわめて重要であると福島 健太郎氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は述べる。 CAR-T細胞療法を効果的に運用していくためには、まずは適切なCAR-T細胞の製造が重要となる。CAR-T細胞の製造については、製造管理や品質管理の手法が「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)」に適合する必要があるが、開発企業や医療機関によってアフェレーシス(T細胞採取)の手順や採取されたアフェレーシス産物の製造所への輸送方法などが異なっている。大阪大学ではこれを未来医療センター細胞調製施設(MTR CPC)が担当し、アフェレーシス、CD3陽性細胞率の測定、生細胞率測定、採取産物の濃縮・調整・凍結保存、製品原料の発送などを主治医、輸血部門、中央研究所、MTR CPCなどが連携して実施しているという。 CAR-T細胞療法では、アフェレーシス、製造(遺伝子改変・培養)、輸送、投与前処置など、患者からT細胞を採取してから再び患者に戻すまでの過程があり、これに要する時間(Vein to Vein Time:V2VT)は治療効果や患者の状態管理に大きく影響を与えることになる。そのため、V2VTの短縮は、CAR-T細胞療法における重要な課題となっている。そして、V2VTによっては、アフェレーシス終了後にCAR-T細胞の輸注に先立ってリンパ腫に対する治療を行う橋渡し治療を行うこともある。このように、V2VTの短縮や橋渡し治療などを患者ごとに吟味しながら、CAR-T細胞療法の治療効果を高めていくことが重要と福島氏は指摘する。 さらに、福島氏はCAR-T細胞療法後における二次性のT細胞性悪性腫瘍の発生リスクについて言及した。2024年4月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法製品の添付文書に新たなT細胞性悪性腫瘍が発生する可能性について警告を表示することを要求した。しかし、その後の新たな研究から、CAR-T細胞療法後の二次性悪性腫瘍の発生頻度は、標準治療後における発生頻度と同程度であることが示されているという。多発性骨髄腫に対する免疫療法の治療効果最大化への課題 これまで、プロテアソーム阻害薬(PI)、免疫調節薬(IMiDs)、抗CD38モノクローナル抗体製剤(抗CD38抗体)などの治療薬が登場し、多発性骨髄腫(MM)患者の生命予後はかなり改善されてきた。しかし、これらの治療を続けていても、多くの場合再発となり、予後不良の再発または難治性のMMとして、現在の重要なアンメットメディカルニーズとなっている。この問題に対処するために、最近はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)などが登場し、大いに注目されている。 CAR-T細胞療法や二重特異性抗体、ADCの標的抗原として、とくにMM患者の骨髄腫細胞に高発現しているB細胞成熟抗原(BCMA)が重要であり、BCMAを標的とした免疫療法の現状と、効果を最大限に発揮するための課題などについて、原田 武志氏(徳島大学大学院 血液・内分泌代謝内科学分野)が言及した。現状では、PI、IMiDs、抗CD38抗体による治療の後に再発または難治性となったMMに対して、BCMAを標的としたCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、ADCによる治療が有効であることを示唆する結果が複数の臨床試験によって示されている。 このように、BCMAはMMの創薬ターゲットとして注目されているが、これらの薬剤の臨床効果はMM患者にとって普遍的ではなく、治療中に低下することがあり、これが治療効果を最大化するための1つの課題と原田氏は指摘する。現在、薬剤に対する治療抵抗性のメカニズムが精力的に研究されている中で、原田氏らはBCMAを標的とした免疫療法の後には、BCMA発現のダウンレギュレーションが関与していることを明らかにしてきた。また、BCMAとそのリガンドであるB細胞活性化因子(BAFF)とB細胞の発達や自己免疫応答に関与する関連タンパク質(APRIL)との相互作用も治療抵抗性に関与している可能性もあり、MM細胞と破骨細胞におけるBAFF/APRILのBCMAへの結合は、BCMAを標的とした免疫療法の有効性に影響を与える可能性が示唆されていた。さらに、原田氏らは、APRILがBCMAへのBCMAを標的とした二重特異性抗体製剤の結合を妨害し、破骨細胞由来のAPRILはBCMAを標的とした免疫療法の治療効果を減弱させる可能性もあると考えているという。 最近は、MMに対する新たな治療概念として、腫瘍細胞のみでなく腫瘍微小循環を標的とした治療も検討されはじめている。「今後、BCMAを標的とした免疫治療の効果を最大限に発揮するためには、腫瘍細胞と腫瘍微小循環の両者に対する治療戦略が重要となる」と原田氏は結論付けた。

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HER2陽性転移乳がん、術後放射線療法でOS改善~SEERデータ

 HER2陽性転移乳がん(MBC)において、抗HER2療法の下での術後放射線療法(PORT)の役割をリアルワールドデータで検討したところ、PORTが全生存期間(OS)をさらに改善していたことがわかった。また、サブグループ解析では、局所進行(T3~4、N2~3)、Grade3、ホルモン受容体(HR)陽性、骨・内臓転移あり、乳房切除を受けた患者において、有意にベネフィットがあることが示唆された。中国・The First Affiliated Hospital of Bengbu Medical UniversityのLing-Xiao Xie氏らがBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2025年3月14日号で報告した。 本研究は、2016~20年のSEERデータベースからHER2陽性MBC女性の臨床データについて包含基準および除外基準に従って収集した。PORTが患者の生存に与える影響を評価し、サブグループ解析によりPORTからベネフィットが得られる可能性のある集団を特定した。 主な結果は以下のとおり。・SEERデータベースから計541例を解析に組み入れた。・PORT群の3年OS率は86.7%と、非PORT群の80.2%より有意に高かった(p=0.011)。・多変量解析では、黒人患者とPORTを受けた患者はOSが長く(p<0.05)、人種とPORTが独立した予後因子であることがわかった。・サブグループ解析では、乳房切除、局所進行、高悪性度、HR陽性、多臓器転移ありの患者において、PORTがOSをさらに改善することが示唆された(p<0.05)。

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非弁膜症性心房細動に対するDOAC3剤、1日の服薬回数は治療効果に影響せず?

 非弁膜症性心房細動(NVAF)に対する第Xa因子(FXa)阻害薬の治療効果において、3剤間で安全性プロファイルが異なる可能性が示唆されており、まだ不明点は多い。そこで諏訪 道博氏(北摂総合病院循環器内科臨床検査科 部長)らがリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、アピキサバン(同:エリキュース)、エドキサバン(同:リクシアナ)の3剤の有効性と安全性を評価する目的で、薬物血漿濃度(plasma concentration:PC)と凝固活性をモニタリングして相関関係を調査した。その結果、1日1回投与のリバーロキサバンやエドキサバンの薬物PCはピークとトラフ間で大きく変動したが、凝固活性マーカーのフィブリンモノマー複合体(FMC)は、1日2回投与のアピキサバンと同様に、ピーク/トラフ間で日内変動することなく正常範囲内に維持された。本研究では3剤の時間経過での薬物PCのピークの変動も調査したが、リバーロキサバンについては経時的に蓄積する傾向がみられた。Pharmaceuticals誌2024年10月25日号掲載の報告。 この結果より研究者らは「用法が1日1回と1日2回では、ピークの血中濃度は異なる傾向にあるが、凝固能を示すFMCはピークとトラフのいずれにおいても抑制された。血栓症の既往があり二次予防目的で本剤を使用する場合、2回投与のほうがトラフは維持されるため血栓症が発生しにくいと考えられているが、DOACに関して言えば、変わらないと判断できる」としている。なお、用量の違い(標準用量と低用量)では差異は見られなかった。 本研究は多施設共同観察研究で、NVAFで直接経口抗凝固薬(DOAC[リバーロキサバン:72例、アピキサバン:71例、エドキサバン:125例])を服用している外来患者268例を対象に、薬物PCと凝固活性マーカー(フィブリノーゲン[FIB]とFMC)のピーク(服薬3時間後[服薬開始後1ヵ月後:peak 1、3~4ヵ月後:peak 2、6~12ヵ月後:peak 3の3回測定])とトラフ(服薬直前[1ヵ月後、3~4ヵ月後の2回測定])をモニタリングした。投与量は各薬剤の用量調整基準に基づいて調整された。主要評価項目は投薬開始から12ヵ月までの出血および血栓症の発生とDOACの血中濃度、副次評価項目は投薬開始から12ヵ月までの凝固活性マーカーの測定値であった。 主な結果は以下のとおり。・本研究(摂津DOAC Registry)では、出血イベントが発生した8例(リバーロキサバン3例、アピキサバン2例、エドキサバン3例)のうち、2例(リバーロキサバンとエドキサバン各1例)では薬物PCのピークは出血イベント予測のカットオフ値を下回り、出血が薬剤由来ではない可能性が示唆された。・薬物PCはピークからトラフまで大きく変動したが、凝固活性を反映するFMC値は、薬物PCの変動に関係なく正常範囲(<6.1μg/mL)内に留まっていた。・各薬剤の抗凝固作用は薬物PC、投与量、投与回数に関係なく、1日中持続することが示された。・さらに薬物PCのピークの経時的変化において、peak1~3における薬物PC上昇患者数を評価したところ、リバーロキサバン(50.9%)、アピキサバン(37.5%)、エドキサバン(31.7%)と差異が見られ、時間経過での薬物PC上昇率はエドキサバンで低かった。・経時的に薬物PCの上昇がみられた患者のうち、peak3で薬物PCがわれわれの先の試験において設定された出血予知のカットオフ値を超えた患者数は、リバーロキサバン(44.8%)、アピキサバン(22.2%)、エドキサバン(12.5%)とエドキサバンで最も低頻度で、リバーロキサバンはエドキサバンより蓄積傾向が高く、出血事象発現の可能性が高率であると予想された。 なお、本研究内容の一部は2025年3月28日~30日に横浜で開催される第89回日本循環器学会学術集会でも発表が予定されている。

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抗うつ薬は認知症患者の認知機能低下を加速させる?

 不安、抑うつ、攻撃性、不眠などの症状がある認知症患者に対しては、抗うつ薬が処方されることが多い。しかし、新たな研究で、抗うつ薬の使用は認知機能の低下速度を速める可能性があり、特に、高用量の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の使用は、重度の認知症や骨折、あらゆる原因による死亡(全死亡)のリスク上昇と関連することが明らかにされた。カロリンスカ研究所(スウェーデン)神経学分野のSara Garcia-Ptacek氏らによるこの研究結果は、「BMC Medicine」に2月25日掲載された。 この研究でGarcia-Ptacek氏らは、2007年5月から2018年10月までの間にスウェーデン認知・認知症レジストリ(Swedish Registry for Cognitive/Dementia Disorders-;SveDem)に登録された認知症患者1万8,740人(女性1万205人、平均年齢78.2歳)を対象に、抗うつ薬の使用と認知機能低下との関連を検討した。さらに、抗うつ薬のクラス、具体的な薬剤、用量ごとの重度認知症、骨折、死亡のリスクを推定した。 平均4.3年の追跡期間中に、22.8%(4,271人)が抗うつ薬を1回以上処方されていた(処方件数の総数は1万1,912件)。最も頻繁に処方されていた抗うつ薬のクラスはSSRI(64.8%)であり、そのほかは、三環系抗うつ薬(TCA、2.2%)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI、2.0%)、その他(31.0%)であった。具体的な薬剤としては、特に処方の多かったシタロプラム(SSRI)、ミルタザピン(その他)、セルトラリン(SSRI)、エスシタロプラム(SSRI)、アミトリプチリン(TCA)、ベンラファキシン(SNRI)について検討した。認知機能の変化は、ミニメンタルステート検査(MMSE)のスコア(30点満点)で評価した。 解析の結果、抗うつ薬の使用と認知機能の低下速度の加速との間に関連が認められ、抗うつ薬を使用している患者では、使用していない患者に比べてMMSEスコアが1年当たり0.30ポイント早く低下することが示唆された。薬剤別では、抗うつ薬を使用していない患者と比べて、セルトラリン(−0.25ポイント/年、95%信頼区間−0.43〜−0.06)、シタロプラム(−0.41ポイント/年、同−0.55〜−0.27)、エスシタロプラム(−0.76ポイント/年、同−1.09〜−0.44)、ミルタザピン(−0.19ポイント/年、同−0.34~−0.04)の使用者でMMSEスコアの有意な低下が認められた。抗うつ薬の使用と認知機能の低下速度の加速とのこのような関連は、特に、MMSEスコアが0~9点の重度認知症患者において顕著だった。また、SSRIの用量が多いほど、認知機能の低下速度が速く、重度認知症、骨折、死亡のリスクが高まることも示された。 Garcia-Ptacek氏は、「うつ症状は認知機能の低下速度を加速させ、生活の質(QOL)を損なう可能性があるため、治療が重要だ」と述べている。また同氏は、「本研究結果は、医師やその他の医療専門家が認知症患者に適した抗うつ薬を選択するのに役立つ可能性がある」とカロリンスカ研究所のニュースリリースで述べている。 一方、本研究結果をレビューした英バース大学生命科学分野のPrasad Nishtala氏は、「考慮すべき重要な限界点がいくつかある」とニュースリリースの中で述べている。具体的な限界点として同氏は、対象とされた認知症患者のうつ病の重症度が十分に考慮されていない点、シタロプラムやセルトラリンなどの抗うつ薬が重度の認知症患者に処方されることが多いことからチャネリング・バイアス(特定の治療などが特定の患者に選択的に処方されることにより生じるバイアス)が存在する可能性を指摘している。 さらにNishtala氏は、本研究でSSRIは認知機能の低下速度を加速させる可能性が示唆されたことに言及し、「SSRIが認知機能の低下速度を加速させる生物学的機序は明らかにされていない。こうした限界を踏まえると、本研究結果は慎重に解釈する必要があり、理想的には他の実臨床のデータを使用して再現する必要がある」との見方を示している。

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わが国への直接応用は難しいが…(解説:野間重孝氏)

 まず論文評を始めるにあたって、近年における冠動脈疾患(CAD)の危険因子に対する考え方の変化に言及する必要があるだろう。従来危険因子(risk factor)とは、高血圧・糖尿病・喫煙・脂質異常・肥満など生活習慣の改善や薬物療法によって修正可能な因子を指し、年齢・性別・家族歴などコントロールが困難な因子はリスク要因(risk marker)と呼んで区別してきた。しかし、近年になり非修正可能な因子も重要なリスク要因として考慮すべきではないかという動きが強まっている。その原因の第一には、多因子リスク評価の重要性が見直されてきたことにある。つまり、一つひとつの危険因子の影響は独立ではなく、複合的なリスク評価が重要だと考えられるようになったことが挙げられる。たとえば、年齢+男性+早発性CADの家族歴という要因が重なると、単独の要因よりもリスクが著しく上昇することが明らかになってきた。これに、予防医療の発展という要因も付け加えなければならないだろう。今回取り上げられたCACスコアのような画像診断が普及したことで、非修正可能な要素がある人こそ、より積極的な検査が必要だという認識が広まったのである。実際、ASCVDリスクスコアやSCORE2といった新しい評価法では非修正可能因子も加味されている。 今回の研究は「予測されるリスクがある患者に対して徹底的な予防治療を行えば、より良い結果が得られる」という一見当たり前のことを示したものとも捉えられるだろう。確かに表面的には当たり前の結論のように見えるが、次のような意義があると考えられる。第一は「誰に徹底治療を行うべきか」という判断基準を提示したことである。この研究では、CACスコアを用いることにより、徹底的な治療が本当に必要な患者をより正確に見極めることができた点に意義があるといえる。さらに、CACスコアが0であればリスクが低いと判断して、過剰な治療を避けられる点も重要だろう。第二には「中等度リスクと判断された患者に対しても、徹底的な治療を行うことが重要である」ことを示した点である。ややもすればリスクが見逃されやすい層に対して、より積極的な治療が必要であるというエビデンスを示したともいえる。第三には治療の個別化が挙げられるだろう。近年の医療では「全員に同じ治療」ではなく「個々のリスクに応じた治療」が求められており、CACスコアの活用によって「誰に積極治療を行うべきか」を見定めたことの重要な例として挙げられるだろう。 さて、わが国に目を転じてみて、今回の研究成果はどのように実臨床に適用されるだろうか。繰り返しになるが、本研究は徹底的な予防治療の有用性を示した点で重要な意義があるといえる。しかし、国民皆保険制度の下でわが国の「標準的治療」は相当程度高いレベルにあるといえる。さらにCADの発生率そのものの違いも挙げなければならないだろう。したがって、本研究の成果をそのまま適用することには限界があるといえる。しかし「誰に徹底的な治療を行うべきか」という判断基準の精度を上げることが重要な課題であることに変わりはない。現在わが国ではCACスコアの測定は保険収載されていない。今後CACスコアの費用対効果やリスク層別化の精度を検証し、わが国においても「無駄な治療の回避」と「適切な治療の実施」を両立させることが期待される。 最後になるが、CACスコアの限界についても一言触れておかなければならないだろう。日本人は欧米人に比べて血管が細く、CADの発生には純粋な動脈硬化の進行だけではなく、冠動脈の緊張度の変化、冠動脈攣縮(スパスム)や細動脈硬化の要素が相当程度関与するが、こうした要素の検知にはCACスコアは無力である、ということである。CACスコアをわが国で応用するためには、わが国独自のデータが必要であると考えられる。

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OTC類似薬の保険適用除外、日薬は反対、薬経連は賛成【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第148回

2025年度は調剤報酬改定がありませんので、今年の春は少し落ち着いて新入社員の受け入れや研修などの準備ができているのではないでしょうか。しかし、2026年度の法改正や報酬改定の予兆ともとれる動きが始まっています。保険薬局経営者連合会は11日までに、日本薬剤師会が反対しているOTC類似薬の保険適用からの除外について、同連合会は「賛成」だとする提言を発表した。OTC類似薬の給付除外は「医療費の適正化を図るうえで重要な一歩」と指摘。患者が自己管理を図るようになれば「医療機関の負担を軽減」することにもつながるほか、薬剤師による健康相談や生活指導を通じて「薬剤師の専門的役割が一層強化され、地域社会における薬剤師の存在価値が高まる」とのメリットも示した。(2025年3月12日付 RISFAX)来年予定している薬機法改正の目玉の1つになるであろう「OTC類似薬の保険適用除外」をめぐっては、日本維新の会と自民党、公明党が3党合意しており、2025年末の予算編成過程までに協議体で議論を行う方針としています。要指導医薬品および一般用医薬品の1~3類の既存のリスク分類のほかにまた別の分類を設けるなどの話もあるようです。個人的にはこれ以上の分類の増加は市場の理解を得づらくなるのではないかと思うので、一般の方にわかりやすい形になってほしいなと思っています。日本薬剤師会は反対しているので、その議論も見ものかもしれません。また、日本薬剤師会は、自民党の薬剤師問題議員懇談会の総会で、薬剤師・薬局に関する課題と要望を提出しました。その要望は、以下の7点です。1.医療財源の確保2.物価・賃金上昇に対応するための必要な財源の確保3.薬局DXの推進・実現のための支援4.地域医薬品提供体制の構築・実現に向けた支援5.薬機法改正案の早期成立6.医薬品供給不足問題の早期解消7.敷地内薬局の適正化正直、職能団体の主張としてはあまりぱっとしない内容だな…という印象ですが、私が注目しているのは「4」です。地域医薬品提供体制の構築については、休日・夜間の薬局の体制整備、卸の医薬品配送体制など、個々の薬局や薬剤師だけでは取り組むことができません。地域行政や多職種との適切な連携が必要です。これらの取り組みが進んでいる地域もあると聞きますので、それらの事例を参考に、さらにこれらが充実していくことを期待しています。OTC類似薬の保険適用除外の議論が過熱しすぎて、薬剤師や薬局に係るこれらの議論が後回しに…ということがありそうな気もしますが、これらの議論の展開を楽しみにしたいと思います。

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再発を繰り返す女性の膀胱炎【日常診療アップグレード】第26回

再発を繰り返す女性の膀胱炎問題35歳女性が繰り返す頻尿と残尿感、排尿時痛のため受診した。抗菌薬を飲むとすぐにこれらの症状は改善する。2年前から膀胱炎様症状がよく起こるようになり、昨年は3回このような症状があった。妊娠はしていない。診察時には症状はない。身体所見はとくに異常を認めない。ニューキノロン系抗菌薬を7日間処方し、膀胱炎症状が出現したらすぐに内服するよう指導した。

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在宅患者がやってきた【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第4回

在宅患者がやってきたPoint在宅患者は、外来に通院できない事情がある。外来患者よりもより医療を必要としている人達だ!在宅患者・家族は、最期まで在宅生活を送れないさまざまな事情も抱えている。患者・家族をはじめ在宅チームは、急変時に病院バックベッドの存在があるから、在宅で頑張れる!在宅医療の普及で、患者・家族、医療者もWin-Winに!症例88歳女性。肝内胆管がん、多発肝転移、リンパ節転移、骨転移あり。消化器科主治医からは「いつでも調子が悪くなったら病院に戻ってきていいよ」と言われたうえで、A病院からB診療所に紹介され、訪問診療が開始された。高齢の夫と長男の妻の3人暮らし。キーパーソンの長男は海外に単身赴任中。嫁に行った長女はよく顔を見にきてくれる。疼痛コントロールも良好であった。訪問診療開始1ヵ月後、長男の妻より「今朝から左手の力が入らない、移動も困難になっている」とB診療所に電話あり。トルーソー症候群(悪性腫瘍の凝固能亢進による脳梗塞)の可能性ありと判断された。在宅医は「今回脳梗塞が疑われるが、原病に伴うものであるため、在宅での継続加療も可能」と長男の妻に話したが、長男の妻の強い希望で、A病院に救急紹介された。A病院では頭部CT、頭部MRIが施行され、左右多発脳梗塞(トルーソー症候群)と診断された。長男の妻は仕事と介護で疲れもピークに達しており、「入院させてほしい」と強い希望があった。救急では入院主治医決定に難航した。原疾患の消化器内科か、脳梗塞の神経内科か。“大人の事情”の協議の末、今回は神経内科で入院加療となった。「最期まで在宅でと決まってなかったの? どうして救急に送ってくるんでしょうね」と救急当番の研修医はボソッと心なくつぶやいてしまった。「『これって在宅医が悪いの?』、『患者・家族が悪いの?』って、そんな視点をもつ医者はロクな医者にならないぞ」と指導医に叱られた。「『病気をみずして人をみろ』が実践できたら、入院主治医決定に迷うことはないんだけどね」と、悲しそうに指導医はつぶやいた。おさえておきたい基本のアプローチどんな患者さん達が在宅医療を受けているのだろうか?在宅患者の85%以上は要介護状態にあり、要介護1~5の患者がそれぞれ10~20%ずつ存在する。在宅患者の基礎疾患は多様であり、とくに循環器疾患・認知症・脳血管疾患を抱える患者の割合が大きい(図1)1)。治癒が期待できない患者(末期悪性腫瘍や人工呼吸器を使用している患者、遺伝性疾患や神経筋難病など)は約15%を占める。図1 疾患別の患者割合在宅医療を受けている患者達は、表1のような状況で、ぎりぎりで在宅生活を送っている実情を理解しておこう。病院に紹介されて疾患だけ治して、家にポイッと帰すだけでは、よい医療の質は保たれないのだ。「病気をみずして、人をみよ」とまさしく体現しているのだ。表1 在宅医療利用患者の生活背景事情独居老々介護在宅介護困難で、施設(グループホーム、老人ホームなど)に入所中家族は働いており、昼間の介護者不在で、ほぼ毎日デイサービス利用している上記などの理由で特養などの施設へ入所したいが、空き待ちの間、在宅医療を受けている一方、患者は在宅療養を受けたくてもなかなかそれができないのが現状なんだ。図2のように、在宅療養移行や継続の阻害要因と、在宅医療推進にあたっての課題が、厚生労働省からもあげられている2)。24時間の在宅医療提供体制や、在宅医療・介護サービス供給量の拡充だけでなく、在宅療養者のバックベッドの確保・整備や、介護する家族支援は欠かせないことが、理解できるだろう。疾病をもつ患者の生活も支えていくことは、医療全体の医療費負担の軽減にもつながるんだ。図2 在宅療養移行・継続阻害要因と在宅医療推進の課題画像を拡大するそんな状況でようやく在宅療養が受けられたが、在宅療養が継続できなくなって病院に紹介されてくるときに、「あ~、ダメだ。病院にお世話にならないといけなくなってしまったぁぁぁ」という患者・家族の思いや在宅医の忸怩たる思いを慮って、病院の受け入れ側医師は優しく温かく良医としての矜持をもって受け入れてほしい。在宅医療を選択することは、在宅で必ずしも死を選択しているわけではなく、まだ準備ができていない患者・家族もいる、在宅で死を迎えたいと思っていても気が変わる場合もある、そんな多様性を病院の受け入れ医師は知っておかないといけない。落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsまず、在宅患者は、外来に通えないという前提があることを理解しよう!訪問診療の対象にある患者は、外来通院できない患者に絞られることをまず前提として理解いただきたい。外来診療に通えない人とは、疾患の重症度が高く、多疾患併存状態も多く、通えない事情として身体的要因だけでなく社会的要因も考慮しなければならないだろう。実際に、高齢者を対象として在宅医療の有無の観点から入院患者の特徴と救急車搬送により入院となる割合の違いを明らかにすることを目的とした研究がある3)。在宅医療がある症例はない症例と比較して認知症やがんなど併存症を伴う割合や低栄養および低ADL患者である割合が高く、在院日数の長期化がみられ、介護施設へ転院となる割合が高かった。また、がんをはじめ多くの主傷病において救急車搬入により入院となる割合が高かった。この研究結果を踏まえて、外来患者よりも在宅患者のほうが救急車搬入による入院が多い実態を肝に銘じていただき、患者にも家族にも優しい対応をお願いしたい。米国では、高齢者を対象に在宅医療サービスを開始したところ、登録前の1年間と登録後で同じ患者で比較して、ERの訪問が約30%、入院が10%減少したという報告もある4)。やはり在宅医療は患者・家族、医療者にとって、Win-Winな制度と考えられるだろう。Pointなぜ在宅医療を受けているのか? という理由をまず考えてみよう!急激なADLの低下出現…在宅生活本当に続けられる!?冒頭の症例の患者は末期がんの状態であり、ADLの低下は予想されていた。しかし脳梗塞による急激なADL低下に、主介護者である長男の妻より、在宅加療継続は難しいとのお話があり、入院加療となった。長男の妻は仕事で日中介護できず、在宅生活も1ヵ月近くなっており介護疲れもあった。入院後にもカンファレンスを行い、元々入っていた訪問看護以外に訪問介護導入も可能とお話したが、実母を看取った経験も踏まえて、在宅加療を継続する自信がないとのことだった。本人の気持ちも確認したが、このまま入院でよいとのお話であった(長男の妻によると、ご本人は周囲の状況を察してあまりわがままは言えない性格とのことだった)。キーパーソンの息子も帰国したが、入院加療を続けてほしいとのお話であり、転院調整中にA病院でお亡くなりになった。在宅医療は病気だけをみていたのでは始まらない。生活背景や心理的背景も考慮して、家族も支えていかないといけない。無理矢理在宅を継続することで、長男の妻が精神的にも肉体的にも追い詰められて、本当に体を壊してもいけないのだ。また海外駐在の息子さんがいるというのも、権利意識やインフォームド・コンセントにも気を遣い、診療方針決定に大きく影響を受け、そういうことまで配慮してこそ在宅医療はうまくいくのだ。高齢者は、疾病でも外傷でも容易にADLが低下する。疾病の重症度だけで帰宅可能と判断しても、実際は帰宅後の介護負担が増加して、より危険にさらされる状況になってしまうことは珍しくない。尿路感染だけ診断して安易に帰宅させた老々介護の高齢女性が、自宅で転倒し大腿骨近位部骨折を併発して、救急車で舞い戻ってきたという事例もある。ときには患者家族と救急担当医の間で患者の押し付け合いのような現象が生じる。しかし、無理に帰宅させて病状が悪化するのでは、判断が甘いといわざるを得ない。帰宅後に病態の見落としが判明する場合もある。在宅医療を受けている患者の入院・帰宅の判断の際には、帰宅後の介護負担を十分に考慮し、メディカルソーシャルワーカーなどを通じて、ケアマネジャーや在宅主治医などと連携して、帰宅後の介護や医療提供を考慮するように心がけたい5)。Point継続しておうちで過ごせそうでしょうか? ケアマネ・在宅主治医にも相談してみましょう在宅患者・家族みんなが、最期まで在宅と考えているわけではない前述の患者も、最期まで在宅と決めて、訪問診療を開始したわけではない。退院の際に病院主治医から「困ったときは入院も考慮します」と話があり、その言葉が、患者・家族・在宅チームの安心につながっていた。在宅医療を含む自宅療養を受ける際にその患者や家族が抱える問題意識として、症状急変時の対応に不安があること、症状急変時すぐに入院できるか不安があることが、図2に示されている。他のケースでも、最期は病院でと病院主治医と約束し、在宅医療開始になった患者がいる。1人は肺がん末期で、呼吸苦や疼痛はオピオイド増量でコントロールしていたが、急激に呼吸状態が悪化し、訪問看護が呼ばれ、訪問看護からの連絡で往診のうえ、家族の希望も踏まえて紹介元の病院に紹介したが、24時間以内に亡くなった。もう1人は、肝細胞がん末期、胸水腹水貯留で、腹水除去などを在宅で行っていたが、深夜呼吸苦が増悪し、在宅酸素導入したが、家族が病院紹介を希望され、この方も24時間以内に亡くなった。結構ぎりぎり最期(死ぬ直前)まで患者も家族も在宅で頑張っているんだ。「だったら最期くらい家で看取ればいいのに」なんて冷たい言い方をしてはいけない。最後の最後につらそうにしている患者を家族が在宅で看ていられなくなってしまう気持ちもわかってあげよう。家族は医療者ではなく素人であり、死に対する免疫はないのだから。オンタリオの研究では、家で看取ると思っていても、最後は不安になって16%の人は救急車を呼ぶという6)。ぎりぎりまで在宅で患者に寄り添った家族にやさしい言葉をかけられる医療者こそ、心の通った医療者なんだ。Point病院主治医に、困ったらおいでと言われていたのですね。よくここまでおうちで頑張りましたね在宅看取りのはずなのに、どうして救急搬送してしまうのか?在宅看取りを希望していても、心配で在宅主治医や訪問看護師を呼ぶ前に119番通報してしまう家族もいるものと理解しよう。気が変わるのは仕方のないこと。むしろ絶対に気が変わったらダメなんて言ったら、在宅医療は推進できない。蘇生処置を行わない意思表示(DNAR:Do Not Attempt Resuscitation)のある終末期がん患者の臨死時に救急車要請となる理由を救急救命士への半構造的面接により検討した研究論文7)では、(1)DNARに関する社会的整備が未確立(臨死時救急車以外病院搬送手段がないなど)(2)救急車の役割に対する認識不足(蘇生処置をせずに救急搬送が可能という認識の住民や医師がいるなど)(3)看取りのための医療支援が不十分(4)介護施設での看取り体制が不十分(5)救急隊に頼れば何とかなるという認識(何かあったときは119番という住民感情があるなど)(6)在宅死を避けたい家族の思い(家族が在宅死に対する地域社会の反応を気にするなど)(7)家族の動揺(DNARの意思が揺らぐ家族など)といった7つの理由が明らかになったとしている。Pointとっさに、救急車を呼んでしまったのですね。最期にこんなにバタバタするとは想像しなかったですよね。状態が悪いのを見ているのはつらいので、無理もないですよワンポイントレッスン在宅側からの取り組み─在宅看取りの文化の醸成に向けて─在宅医療を受けていても、救急車を呼び、今まで関係のなかった病院に搬送されると、死亡判定後、警察が来て検死が始まる。警察が事情を聴きに家まで来てしまうのだ。「まさか警察が来て事情聴取を受けるなんてぇ…」と、思いがけない最期に憤りや後悔をあらわにする家族もいる。家族に後悔が残らないようにするための在宅側からの取り組みを紹介する。在宅医療を地域住民に啓発しよう2014年厚生労働省より全国1,741市町村別に在宅死の割合が発表されたが、全国平均12.8%に対し、筆者のクリニックがある永平寺町は6.7%であり、福井県下でも最下位だった。永平寺町内には福井大学医学部附属病院がそびえたち、町民の生活風景のなかに大学病院があることで、何かあれば大学病院に行けばよいとの住民感情もあっただろう。大学病院なのに町立病院のような親近感をもたれているといえばそのとおりなんだけど…。そんな状況を受け、2019年8月1日に永平寺町立在宅訪問診療所(24時間体制の在宅支援診療所)が設立された。開設の約1年前から町の福祉保健課、地域包括支援センターとともに永平寺町民に向けて、在宅医療についての説明会を約2年間にわたって計70回行い、在宅医療が何なのかの啓発活動に専念した。最期がイメージしやすいパンフレットを作成がんの末期で病院から紹介いただく患者でも、最期に向けてどのような経過を辿っていくのかイメージできず、強い不安を感じている患者・家族がほとんどだ。そこで当院ではパンフレットを作成し、タイミングをみて、パンフレットを用いながら、今後の変化について、説明している(図3)。図3 最期をイメージするためのパンフレット緩和ケア普及のための地域プロジェクトがフリーで提供している「これからの過ごし方」というパンフレットも大変参考になる8)。ほかにも、疼痛などの評価ツールなども掲載されているので、ぜひ参考にされたい(緩和ケア普及のための地域プロジェクト)。救急車を呼んでしまうと、その先には!?最期のときに焦って救急車を呼んでしまうと、救命のために心臓マッサージや気管挿管が行われ、病院で最期を迎えた場合は、警察による検死も行われることもあるとパンフレットや口頭でお伝えしている。119番をコールする前に、訪問看護か在宅医にコールを! ということで、24時間連絡可能な連絡先が記載された用紙をお渡しし、家の目立つところに掲示してもらっている。最期に呼ぶのはあわてない、あわてない…最期が近いと予測されている場合、また真夜中などにおうちで息を引き取った場合、あわてずに翌朝、当方に連絡してもらえればよいこともお伝えしている。息を引き取る瞬間にご家族や医療者がもし立ち会えなかったとしても、在宅主治医が死後24時間以内に往診し診察すれば、死亡診断書が書けるのだ。家族も夜はなるべく休んでいただくよう説明している。参考1)厚生労働省. 在宅患者の状況等に関するデータ.2)厚生労働省. 在宅医療の動向.3)たら澤邦男 ほか. 日本医療マネジメント学会雑誌. 2020;21:70-78.4)De Jonge E, Taler G. Caring. 2002;21:26-29.5)太田凡. 日本老年医学会雑誌. 2011;48:317-321.6)Kearney A, et al. Healthc Q. 2010;13:93-100.7)鈴木幸恵. 日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2015;38:121-126.8)緩和ケア普及のための地域プロジェクト(厚生労働科学研究 がん対策のための戦略研究). これからの過ごし方について.執筆

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治療ワクチンで超高齢社会を乗り越える!~医療の2050年問題解決に向けて

日本抗加齢医学会総会が2025年6月13日(金)~15日(日)の3日間、大阪国際会議場にて開催される。今回のテーマは『抗加齢医学4半世紀、頑張ろうぜ』。大会長である中神 啓徳氏(大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学講座寄附講座 教授)に本総会に込める思いや注目演題について話を聞いた。医学における2050年問題のカギは技術と心の調和日本抗加齢医学会総会は今年で25年目、四半世紀の節目を迎えます。数年前には2025年問題が国内で取り沙汰されていましたが、2025年を迎えた現在、そのさらに25年後の2050年にもさまざまな分野において問題が立ちはだかっており、“2050年問題”が話題になっています。2050年という年は、第2次ベビーブームの世代が後期高齢者となる一方で労働生産人口は少ない、“支える人と支えられる人のバランスが非常に崩れた状態”で、言い換えると、後期高齢者・要介護者・認知症患者が増加する「多死の時代」です。そのような時代を迎える前に、この2025年に向けて行われてきた政府による社会保証制度の整備、医療界での健康寿命延伸などの試みなどについて効果検証し、どういう未来が待っているのかなどを議論する機会として、本学会総会がその役割を担えればと考えています。また、生成AI技術の発展などに伴い、医学が進歩するスピードはこの十数年で目まぐるしく加速し、将来予測が不能な状況にあります。今後さらにこのスピードは加速すると考えられますが、そんなときこそ医学界において重要なのは、医療技術の進歩と心の調和であり、人間に調和するような技術が必要なのではないでしょうか。治療ワクチンの現状と展望 そのような思いを込めて活動し続けているのが、疾患予防・早期治療介入のためのワクチン開発です。もともとは高血圧症や糖尿病の治療薬となるようなワクチン開発を行っていましたが、現在はその基盤やシステム構築が確立した点を活かして、眼科(網膜症)や整形外科(脊椎関節炎)などのさまざまな領域で共同研究を始めています。そして、抗体医薬品が効果を発揮しているような分野(関節リウマチ、がんなど)ではワクチンの効果が得られやすい可能性があるとも言われ、試行錯誤しながら取り組んでいます。治療薬をワクチンにするメリットには、既存医薬品のように連日投与し続ける必要がなくなる可能性がある、遺伝子検査と組み合わせることで早期の個別化治療が可能となることが挙げられます。ワクチンによる予防医学が慢性疾患などの治療選択肢の1つとなるよう、長期の効果持続が得られるように目指しています。画像を拡大するまた、近年では老化細胞を標的としたワクチンの開発研究が世界中で進められていますが、われわれも順天堂大学の南野 徹教授らと共に取り組んでいるところです。この老化細胞にはsenescenceが影響しているのですが、このsenescenceというのは“細胞が老化した状態”のことを言い、細胞が細胞分裂を繰り返していく中で「増殖を続ける(がん細胞)」「細胞が減少(apoptosis)」とも異なる、「細胞は死なないが増殖もしない」フェーズに入る状態のことです。このような老化細胞が存在するとその周囲の細胞も巻き込まれて一緒に老化が進んでしまうため、それを除去するためのワクチンを開発しています。一方で、細胞が老化することでがん化を抑制できる可能性もあるわけで、そのような視点からも老化細胞は世界中の研究者に注目されています。画像を拡大するなお、ワクチンを将来的に実用化するうえで非常に重要な指標となるのが、生物学的年齢です。暦年齢は絶対に変わることはありませんが、本当に老化を抑制できたのかどうかの判定に必要なため、生物学的年齢に関しても併せて理解しておかねばなりません。<生物学的年齢とは>「老化」は、生活習慣・外的ストレスなどの後天的要因に影響暦年齢とは異なり、「老化」をさまざまな指標で高い精度で定量生物学的年齢は介入により改善「老化」を標的とした治療薬や予防法の開発指標として着目大会長厳選、ぜひ聴講してほしい講演今大会にはこのような社会問題やわれわれの取り組みなどを反映した会⾧企画シンポジウムを予定しております。『2050年の未来医療予想図』において、小林 宏之氏(危機管理専門家・航空評論家)が「2050年の社会における危機管理」、高山 義浩氏(沖縄県立中部病院感染症内科 副部長)が「地域医療と地域包括ケアにおける連携」と題して講演を行う予定です。2050年の世界をどのように想像しているのか、危機管理の観点からぜひお話をお伺いしたく小林氏をお招きしました。また、沖縄県において急性期在宅を推進している高山氏からは、コロナパンデミックを振り返り、地域医療の観点から将来の医療の形などについてお話を伺います。画像を拡大するそしてInvited Lecture1では、生物学的年齢についてMahdi Moqri氏やSteve Horvath氏にご講演いただき、生物学的年齢が現段階でどの程度利用可能で、今後どのような活用方法がなされていくのかなどを議論したいと考えています。画像を拡大する最後となりますが、会長特別企画では元マラソンランナーでスポーツ解説者の野口 みずき氏をお招きして参加者と一緒に走るモーニングファンラン企画や万博会場内に多数のスペシャルゲストをお迎えする音楽とパフォーマンスが融合したステージイベントなどを企画しています。この機会にぜひ、職場の皆さまやご家族と共に第25回日本抗加齢医学会総会をお楽しみください。

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第259回 脳老化を遅らせうる薬やサプリメント13種を同定

脳老化を遅らせうる薬やサプリメント13種を同定脳がとりわけ早く老化することと7つの遺伝子がどうやら強く関連し、それらの影響を抑制しうる薬やサプリメントが見出されました。生まれてからどれだけの月日が過ぎたかを示す実年齢とMRI写真を人工知能(AI)技術で解析して推定しうる脳年齢の乖離、すなわち脳年齢のぶれ(brain age gap)は、脳がどれだけ健康かを示す指標として有望視されています。中国の浙江大学のZhengxing Huang氏とそのチームは、脳年齢のぶれを指標にして脳老化の原因となりうる遺伝子を見つけ、それら遺伝子を標的として抗老化作用を発揮しうる薬やサプリメント13種を同定しました1)。Huang氏らはUK Biobankの3万人弱(2万9,097人)のMRI情報を利用してAI技術の一種である深層学習の最新版7つをまず比較し、それらの1つの3D-ViTが脳年齢をより正確に推定しうることを確認しました。3D-ViTが同定しうる脳年齢加速兆候はレンズ核と内包後脚にとくに表れやすく、脳年齢のぶれが大きくなるほど被験者の認知機能検査の点数も低下しました。レンズ核は注意や作業記憶などの認知機能に携わり、内包後脚は大脳皮質の種々の領域と繋がっています。続いて脳年齢のぶれと関連する遺伝子を探したところ、手出しできそうな64の遺伝子が見つかり、それらのうちの7つは脳の老化の原因として最も確からしいと示唆されました。先立つ臨床試験を調べたところ、薬やサプリメントの13種がそれら7つの遺伝子の相手をして抗老化作用を発揮しうることが判明しました。ビタミンD不足へのサプリメントのコレカルシフェロール、ステロイド性抗炎症薬のヒドロコルチゾン、非ステロイド性抗炎症薬のジクロフェナク、オメガ3脂肪酸のドコサヘキサエン酸(doconexent)、ホルモン補充療法として使われるエストラジオールやテストステロン、子宮頸管熟化薬のprasterone、降圧薬のmecamylamine、赤ワインの有益成分として知られるレスベラトロール、免疫抑制に使われるシロリムス、禁煙で使われるニコチンがそれら13種に含まれます2)。特筆すべきことに、サプリメントとして売られているケルセチンと白血病治療に使われる経口薬ダサチニブも含まれます。ダサチニブとケルセチンといえば、その組み合わせで老化細胞を除去しうることが知られており、軽度認知障害があってアルツハイマー病を生じる恐れが大きい高齢者12例が参加したSTAMINAという名称の予備調査(pilot study)では有望な結果が得られています。結果はこの2月にeBioMedicine誌に掲載され、ダサチニブとケルセチンが安全に投与しうることが示されました3)。また、遂行機能や認知機能の改善が示唆されました。結果は有望ですが、あくまでも極少人数の試験結果であって、たまたま良い結果が得られただけかもしれません。その結果の確かさや老化細胞除去治療の可能性のさらなる検討が必要と著者は言っています4)。参考1)Yi F, et al. Sci Adv. 2025 Mar 14;11:eadr3757.2)The 13 drugs and supplements that could slow brain ageing / NewScientist 3)Millar CL, et al. eBioMedicine. 2025;113:105612. 4)Pilot study hints at treatment that may improve cognition in older adults at risk for Alzheimer’s disease / Eurekalert

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老後を健康に過ごすには足の健康から始めよう/科研・楽天

 科研製薬は、足に関わる生活習慣の改善を目的に、楽天モバイルとの共同プロジェクト「満足プロジェクト」で業務提携契約を締結した。このプロジェクトは、楽天モバイルの健康寿命延伸サポートサービス「楽天シニア」(現在300万ダウンロード/約7割が50代以上)を通じ、足のお悩みを把握すると同時に、足の健康に関する正しい情報を提供することで、健康満足度の向上に貢献することを目指すものである。両社は、このプロジェクト発足について、3月14日に都内でメディアセミナーを開催し、高齢者の運動器障害の観点からロコモティブシンドローム(以下「ロコモ」と略す)についての概要と足の悩みの観点から巻爪、白癬などの診療と満足プロジェクトの概要が紹介された。また、科研製薬では、2025年3月27日に医療従事者向けのウェブサイト「KAKEN Medical Pro」を開設し、各製品情報に加え、足の健康を守るための「足」の疾患に関連する情報も発信し、医療従事者をサポートする。ロコモサインで早期にロコモを察知 「『満足』はロコモ対策の必要条件だ」をテーマに大江 隆史氏(NTT東日本関東病院 院長/ロコモチャレンジ!推進協議会 委員長)が、高齢者の運動器障害の原因となるロコモとその判定方法、約2万人のロコモに関するアンケート結果の概要について説明した。 「『ロコモ』とは、運動器の障害により、移動機能が低下した状態で、進行すると要介護になる危険が高いもの」と定義されている。ロコモが進展することで、生活活動や移動制限を受け、さらに疼痛や柔軟性の低下、筋力低下を来し、骨粗鬆症や変形性関節症、サルコペニアなどにいたるとされる。 そのために早くロコモに気付くことが重要となるが、ロコモの評価には、「立ち上がりテスト」「2ステップテスト」「ロコモ25」の3つテストの総合でロコモ度1~3で判定する。また、最近の研究からロコモになる前の最初の兆候も明らかになっている。とくに活動性について、「階段の昇降」「急ぎ足で歩く」「休まず歩き続ける」「スポーツや踊り」の1つにでも困難の自覚があれば、「ロコモサイン」として、早期の診療介入が望まれるという。 では、実際「ロコモ」はどの程度認知されているのであろうか。2024年12月~2025年1月にかけて楽天シニアアプリ登録者などで行われたアンケート結果を説明した(回答数1万9,299人)。 主な結果は以下のとおりだった。・「ロコモという言葉の認知度について」は、「はい」が50.2%、「いいえ」が48.9%だった。・「1日の歩数について」は、4,000~6,000歩が33.9%、8,000歩以上が26.3%、6,000~8,000歩が17.7%の順だった。・6,000歩以上歩く人では年齢によるロコモ度の差がなくなっていた。・「筋トレなどのやや強めの運動を1週間に合計どれくらいしているか」では、20分未満が67.2%、20分以上1時間未満が14.5%、2時間以上が7.7%の順で多かった。・やや強めの運動を1週間に1時間20分以上する人では年齢によるロコモ度の差がなくなっていた。爪は小さな運動器 「皮膚(爪)と足の健康との関係」をテーマに高山 かおる氏(川口総合病院 皮膚科 主任部長/足育研究会 代表理事)が、爪や足の皮膚からくる歩行障害や足爪に関するアンケート結果を説明した。 高齢者では、歩行障害、摂食障害、認知障害の順で活動が阻害される。歩行障害では、とくに爪の役割は重要だという。爪には、「指先の感覚を敏感にする」、「指先の保護」、「力のバランスをとる」という3つの働きがある。そして、足のトラブルは、皮膚と爪に表われ、日本臨床皮膚科学会の調査では、6人に1人が足爪に水虫が、7人に1人に足に水虫が、13人の1人に水虫があると報告されている。足爪のトラブルと転倒の関係では、足に何らかの問題があると、過去1年間に転倒しているリスクが高いこと、母趾爪甲の変形や肥厚は下肢機能低下をもたらすなどの報告がある。 つまずいたときに、姿勢制御の機能として、足底の触圧覚と足趾(と爪)による底面把持力により、転倒をしないように制御することから、爪に異常があると踏ん張りができないことから「爪は小さな運動器」とも言うことができる。 続いて「足爪の健康の意識調査」について、2024年9~10月にかけて楽天シニアアプリ登録者などに行われたアンケート結果を説明した(回答数2万984人)。 主な結果は以下のとおりだった。・「現在の爪の状態について」(複数回答)は、「異常なし」が50%、「水虫または過去に既往がある」が15%、「爪の肥厚またはボロボロと欠けた」が14%の順で多かった。・「アプリのコラム読後、医療機関へ受診しようと思ったか」では、「受診しない」が51%、「爪水虫に感染したら受診」が34%、「すぐ受診したい」が9%の順で多かった。・受診者または受診希望者に「なぜ治療したいか」(複数回答)では、「爪をきれいにしたい」が29%、「家族にうつさないため」が26%、「他の部位への感染を防ぐため」が24%の順で多く、「転倒リスク軽減のため」も9%でみられた。・「水虫が治ったら何をしたいか」では、「隠さずに足を出す」が21%、「いろんな人と交流したい」が20%、「履きたい靴を履きたい」が16%の順で多かった。・「健康記事のどの項目に1番興味を持ったか」では、「足爪の健康が健康寿命のカギ」が26%、「足爪、きれいに洗えていますか」が22%、「爪水虫はカビの1種」が14%の順で多かった。 おわりに高山氏は、「足爪を治療し、手入れすることで、きちんと歩く機能を維持し、健康寿命を延伸してもらいたい」と思いを語り、レクチャ-終えた。 この後のパネルディスカッションでは、足の健康啓発にこうしたアプリの利活用、複数の診療科連携による下肢機能維持などの提案がなされた。また、将来的に爪の画像を送ることでできるリモート診断やAI診断の可能性、集積されたビックデータを活用した健康指導なども期待したいと展望が語られた。 今回、科研製薬と楽天モバイルが提供する「満足プロジェクト」では、セミナー開催や「楽天シニア」内でのコラム掲載などを通じ、「歩く健康」をテーマとした足に関するさまざまな疾患の啓発活動のほか、今後、足に関する情報発信を強化するとともに、協働で健康寿命の延伸を目的とした実証事業なども実現するとしている。

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