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救急外来でのChatGPTの活用は時期尚早

 人工知能(AI)のChatGPTを病院の救急外来(ED)で活用するのは時期尚早のようだ。EDでの診断にAIを活用すると、一部の患者に不必要な放射線検査や抗菌薬の処方を求め、実際には入院治療を必要としない患者にも入院を求めるような判断を下す可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のChristopher Williams氏らによるこの研究は、「Nature Communications」に10月8日掲載された。Williams氏は、「本研究結果は、AIモデルの言うことを盲目的に信頼するべきではないという、臨床医に対する重要なメッセージだ」と話している。 この研究でWilliams氏らは、EDの臨床ノートを用いて、AIモデル(GPT-3.5 turboとGPT-4 turbo)が、入院、放射線検査、抗菌薬処方の必要性の3点についての推奨を的確に提供できるかどうかを評価した。25万1,000件以上のED受診から、それぞれのタスクにつき1万件の受診サンプルをランダムに抽出し、患者の症状や診察所見などの書かれた臨床ノートの内容をAIモデルに分析させた。モデルには、患者に入院が必要か、放射線検査が必要か、抗菌薬の処方が必要かについて、全て「はい」か「いいえ」で答えさせた。 その結果、AIモデルは全体的に、実際に必要とする以上の過剰なケアを推奨する傾向があることが明らかになった。レジデントの医師の診断精度に比べて、GPT-4 turboモデルの精度は8%、GPT-3.5 turboモデルの精度は24%低かった。 こうした結果を受けてWilliams氏は、「AIモデルは医学試験の質問に答えたり臨床記録の作成を手助けしたりすることはできるが、現時点では、EDのような複数の要素を考慮する必要がある状況に対処できるようには設計されていない」とUCSFのニュースリリースで述べている。 Williams氏は、「AIモデルのこのような過剰処方の傾向は、モデルがインターネット上でトレーニングされているという事実によって説明できるかもしれない」と話す。正規の医療アドバイスサイトは、緊急性の高い医学的質問に回答するためではなく、それに答えることのできる医師に患者を紹介するために設計されている。 またWilliams氏は、「これらのAIモデルは、たいていの場合、『医師の診察を受けてください』と答えるようになっている。これは、安全性の観点からはもっともなことだが、EDの現場では、用心し過ぎることが必ずしも適切であるわけではない。不必要な介入が患者にはかえって害となり、リソースの浪費と患者の医療費増加につながる可能性があるからだ」と述べている。 Williams氏は、AIモデルをEDで活用するには、患者の診察により得られる情報を評価するためのより優れたフレームワークが必要だとの見方を示す。そして、そのようなフレームワークの設計者は、AIモデルが重大な問題を見逃さないようにしつつ、不要な検査や費用が発生しないようにバランスを取る必要があると述べる。同氏は、「完璧な解決策はない。それでも、ChatGPTのようなモデルにはこのような傾向があることが明らかになったのだから、われわれには、AIモデルを臨床現場でどのように機能させたいかを熟考する責任がある」と話している。

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重症の新型コロナ感染者の心臓リスクは心疾患既往者のリスクと同程度

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、心筋梗塞や脳卒中、全死亡などの主要心血管イベント(MACE)リスクを高め、その程度はCOVID-19に罹患していないが心疾患の既往歴がある人のリスクとほぼ同程度であることが、米クリーブランドクリニック・ラーナー研究所心血管代謝学部長のStanley Hazen氏らによる新たな研究から明らかになった。この研究ではまた、重症度にかかわらず、COVID-19罹患は、その後3年間のMACEリスクを2倍に高めることも示されたという。この研究結果は、「Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology」に10月9日掲載された。 Hazen氏は、「この研究結果から、COVID-19は上気道感染症である一方で、さまざまな健康リスクを伴う疾患であり、心血管疾患の予防に関する計画や目標を策定する際には、COVID-19の既往歴を考慮すべきことを強く示したものだ」と述べている。 COVID-19パンデミックの初期には、新型コロナウイルスへの感染が血栓や心臓の問題のリスクを高めることが示されていた。しかし、このような高リスク状態がいつまで続くのか、どのような要因が影響するのかについては十分に解明されていないとHazen氏らは言う。 そこでHazen氏らは、2020年の2月1日から12月31日までの間に英国でCOVID-19の診断を受けた患者1万5人のデータを分析し、心血管の健康状態をCOVID-19に罹患していない21万7,730人と比較した。 その結果、COVID-19への罹患者では、重症度とは無関係に、1,003日の追跡期間にわたってMACEリスクが2倍以上に上昇することが明らかになった(ハザード比2.09、95%信頼区間1.94〜2.25、P<0.0005)。このようなリスク上昇は、COVID-19罹患により入院を要した人で顕著だった(同3.85、3.51〜4.24、P<0.0005)。また、心血管疾患の既往歴がないCOVID-19罹患者でのMACEリスクは、心血管疾患の既往はあるがCOVID-19罹患歴がない人よりも20%以上高かったことから(同1.21、1.08〜1.37、P<0.005)、COVID-19による入院が冠動脈疾患(CAD)と同等のリスク(CAD risk equivalent)をもたらすことが確認された。 さらにHazen氏らは、そのリスクの程度が血液型によって異なることも突き止めた。血液型がA型、B型、AB型の人では、O型の人と比べてCOVID-19による入院を経験した後の血栓イベント(心筋梗塞と脳卒中)のリスクが有意に高いことが示されたのだ。このことは、新型コロナウイルスへの感染後の心疾患リスクには、その人の遺伝的特徴が影響している可能性を示唆していると、Hazen氏らは指摘している。 論文の上席著者で、米南カリフォルニア大学ケック医学校ポピュレーションヘルス・公衆衛生科学および生化学・分子医学教授のHooman Allayee氏は、「われわれは、この結果を説明できる要因が他にあるかどうかを確認しようとしているところだが、実際に、特定の血液型では、生物学的な何らかのメカニズムが作用しているようだ」と話している。また同氏は、「われわれの観察の結果と、世界の人口の60%はO型以外の血液型である事実を踏まえると、われわれの研究は、個々の患者の遺伝的特徴を考慮した、より積極的な心血管リスク低減策を検討すべきかどうかという重要な問題を提起するものだ」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。 Allayee氏は、医師は新型コロナウイルスへの感染を全般的な心臓のリスクの一部としてとらえる必要があると主張する。同氏は、「現時点で疑問として残るのは、本研究結果と今後の研究結果により、心疾患の既往がない人に対する心臓の予防医療に関するガイドラインが、COVID-19の心臓への影響を考慮したものに変更されるのかということだ」と話している。

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第二の、はたまた初めての血友病B遺伝子治療fidanacogene elaparvovec(解説:長尾梓氏)

 このたび、NEJM誌にファイザーの血友病B遺伝子治療であるfidanacogene elaparvovecの第III相試験のデータが公表された。投与から最長15ヵ月まで安定した第IX因子活性の発現がみられた。同量を投与した第I/II相試験では、6年程度まで安定した第IX因子発現のデータが報告されている(学会発表のみ)。 fidanacogene elaparvovecは2023年12月にカナダ、2024年4月にFDA、同年7月にはEMAですでに承認を得ている。商品名はBeqvezだそう。元はSpark Therapeuticsによって開発が始まり、2014年にファイザーが権利を取得し開発を引き継いでいる。 血友病B遺伝子治療には、2022年11月にFDAで承認を得たのを皮切りにカナダ、EUでも承認されているetranacogene dezaparvovec(商品名:Hemgenix、製造販売:CSL Behring)があり、fidanacogene elaparvovecは世界的には第二の血友病B遺伝子治療といえる。日本では治験開始時期が異なるため、最初の遺伝子治療になる可能性が高い(「はたまた初めての」)。ちなみに、2つの遺伝子治療の値段は米国では同じだそうだ。 2つの遺伝子治療のFDAの適応症(indication)を調べてみた。fidanacogene elaparvovec:中等度~重度の血友病Bの成人において・現在、第IX因子の予防療法を使用している、または・現在、または過去に生命を脅かす出血を経験している、または・繰り返し、深刻な自然出血エピソードを経験している、かつアデノ随伴ウイルスAAVRh74varカプシドに対する中和抗体をFDA承認の検査で持っていない場合etranacogene dezaparvovec:血友病Bの成人において・現在、第IX因子の予防療法を使用している、または・現在、または過去に生命を脅かす出血を経験している、または・繰り返し深刻な自然出血エピソードを経験している場合 あくまでもFDAのindicationではあるが、AAV抗体の有無で適応が異なってくることに注意が必要である。日本人のAAV抗体陽性率は20~30%程度とされており、年齢が上がるにつれて陽性率も上がる(Kashiwakura Y, et al. Mol Ther Methods Clin Dev. 2022;27:404-414.)。これらを踏まえて、適応を検討することになるだろう。 血友病の遺伝子治療といえば、気になることとして「どれくらい持続するのか」「グルココルチコイドの使用(安全性も含む)」が挙がる。[どれくらい持続するのか] 投与後の第IX因子活性は期間などが違うので比較はできないが、参考までに提示しておくと以下のとおりとなる。「結構いい感じ」と言っても差し支えないだろう。fidanacogene elaparvovec:承認用量5×1011vg/kg投与15ヵ月時の平均FIX活性:26.9%(中央値:22.9%、範囲:1.9~119.0)etranacogene dezaparvovec:承認用量2×1013gc/kg投与3年後のFIX活性(平均±SD[中央値:範囲、症例数]):38.6 IU/dL±17.8(36.0:4.8~80.3、48)[グルココルチコイドの使用]fidanacogene elaparvovec:使用人数:45例中28例投与開始までの期間:中央値37.5日(範囲:11~123)投与期間:中央値95.0日(範囲:41~276)etranacogene dezaparvovec:使用人数:54例中9例投与開始までの期間:中央値6.1週(範囲:3.14~8.71週)投与期間:中央値74.0日(範囲:51〜130日) グルココルチコイドの使用については、実臨床において投与を受けた方の肝機能に最も注意すべき期間を示しているため、関係者は絶対に押さえておく必要がある。これを知らずに肝機能の悪化を見逃してしまうと、せっかく投与した遺伝子治療が水の泡となるかもしれず、患者負担、医療費など、さまざまな面でもったいないことになってしまう。 血友病の遺伝子治療は近々日本でも発売される見込みであるが、投与の体制がしっかり整っているとは言い難い状況である。学会を含め、全医療者で取り組む課題である。

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投票マッチングサイトを使ってみた!【Dr. 中島の 新・徒然草】(553)

五百五十三の段 投票マッチングサイトを使ってみた!雨が降ったり止んだり、暑くなったり寒くなったり。日本の秋は何かと忙しいですね。皆さん、先日の衆院選、投票には行きましたか?私は薄曇りの秋空のもと、女房とともに投票所に行ってきました。小選挙区と比例代表の投票と最高裁の国民審査です。投票所の前で、高齢女性が候補者ポスター掲示板を見ながら娘さんに尋ねていました。母「この中から選んだらええのん?」娘「そうよ」見れば、掲示板の候補者は4人だけです。思わず私は言いそうになりました。中島「ちゃうちゃう、あと1人おるで」もちろん、口に出しては言いませんでしたけどね。というのはもう1人、ポスターのない候補者がいたからです。この候補者の選挙公報は手書きだったので、インパクトは抜群!でも、掲示板にポスターを貼る余裕がなかったのでしょうか。女房「あのポスターって自分で貼っているわけ?」中島「まさか。全部のポスターを自分で貼る人なんかいないやろ」女房「せめて投票所の前だけでも貼っておいたらよかったのに」確かに全部でなくても、投票所の前の掲示板だけでも貼っておいたら効果的だったのかもしれません。後で調べてみると、私の住んでいる選挙区の投票所は118ヵ所もありました。投票所の前の掲示板だけといっても大変ですね。さて、問題は誰に、そしてどの政党に投票するかです。世の中、便利になったもので、その疑問に答える「投票ナビ」というサイトを見つけました。いくつかの質問に答えるだけで、自分の考えとの政党別合致度がわかります。質問というのは、選択的夫婦別姓、消費税、物価対策、政治とカネ・議員歳費、マイナンバーカードと健康保険証の一体化など。それぞれの質問にいくつかの選択肢があり、順に選んでいくと、自分の考えと近い政策の政党が順位を付けて表示されます。マッチング結果を見ると、確かに自分が比例代表で投票した政党が1位になっていました。ただ、このサイトの場合はテーマ間に軽重が付いていません。やはり、自分にとって重要な問題とそうでないものがあります。ほかに探してみると、自分が大切と思う問題を複数選んだうえで回答するサイトもありました。NHKの「衆議院選挙2024 ボートマッチ」というサイトです。まず自分の選挙区を選び、次にテーマを選択します。テーマは経済・財政、安全保障、社会保障、エネルギー、少子化対策・教育など10個ほどありました。その中から、自分が重要と思うテーマをいくつでも選ぶシステムです。そして、たとえば少子化対策・教育をテーマとして選んだとしましょう。すると「少子化対策として、いま政府が最優先で取り組むべきことは、次のうちどれだと考えますか」という質問が出てきて、選択肢が6つ示されます。若者の所得向上や雇用環境の向上子育て世代に対する経済支援の強化仕事と育児の両立に向けた働き方改革保育サービスの充実教育の実質無償化回答しないこれらの選択肢の中から、自分の考えに最も近いものを1つ選ぶわけです。1つのテーマにつき2~3個の質問があるので、順に答えてみました。答え終わると、どの候補者の主張が自分に最も近いかがわかります。自分でやってみると、私が投票したのは5人の候補者うちの2番目の一致率の人でした。確かに一致率が1番目と2番目の候補者の間で迷ったので、このサイトもよくできています。とくに、テーマは選んだけれども中身がよくわからない、という場合に実用的。「イチから分かる!テーマ解説」というボタンを押すと「少子化の現状、現在の政策、必要な財源」など、それぞれについてのコンパクトな説明が出てきます。これを読んで、考える材料にすればいいわけですね。残念ながら、これらのサイトを知ったのは投票後。とはいえ、具体的な政治問題を考える良い機会にもなりました。読者の皆さま、次の選挙で活用してみてはいかがでしょうか。最後に1句秋曇り 投票がてら 散歩する

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大阪大学医学部 外科学講座消化器外科学【大学医局紹介~がん診療編】

土岐 祐一郎 氏(教授)江口 英利 氏(教授)富丸 慶人 氏(助教)三吉 範克 氏(助教)中本 蓮之助 氏(専攻医)古賀 千絢 氏(専攻医)講座の基本情報医局の特徴・基本理念大阪大学消化器外科講座は、2008年より主任教授2人で1つの教室を運営するという特殊な形態をとっています。その結果、全体で120人を超える大きな教室となりましたので、基本理念を作りみんなの心を1つにしています。ミッションは「病める人に寄り添い、託された命を守り切ることがメスを持つ我々の使命です」、そして行動指針が「技術と知識を磨き、現代医療の最後の砦になります」「新しい科学、新しい医療、新しい手術を創出します」「外科医の絆を大切にし、社会に貢献します」の3つです。この基本理念を忘れないように多様な人が集まる教室を目指してゆきます。学生と医局員の食事会を開催医局独自の取り組み・若手医師の育成方針消化器外科は、上部消化管、下部消化管、肝胆膵など広い領域の診療を担当する診療科で、これらの臓器はお互いに近接し連携して機能していますので、これらを総合的に理解し対応できることが求められます。大阪大学消化器外科講座では、多彩な消化器疾患の外科治療を総合的に理解できるよう、臓器の垣根なくカンファンレンスや合同手術を行う体制ができており、一方、日々進化する高度な専門的医療も実践できるよう、グループ編成を行って最先端医療を提供しています。がん診療では国指定の地域がん診療連携拠点病院として、また臓器移植では脳死肝移植、脳死膵移植の認定施設として本邦をリードしています。上述のような高度医療技術を身につけることも大切ですが、一方で外科基本手技とも言える虫垂炎や胆石症、ヘルニアや腸閉塞などに対する手術も消化器外科医師としてきわめて重要です。大阪大学消化器外科講座は、近畿圏の基幹病院(約50施設)との密な連携体制が誇りで、外科専門医の取得をめざす若手外科医の育成のための教育システムにとくに力を入れています。連携する病院の若手医師を対象としたハンズオンセミナーや症例検討会、手術手技のコンテストやビデオクリニックなどを頻繁に開催しています。そのような活動を通じて若手医師が集まってくれる医局となってきており、日本専門医機構の外科専攻医プログラムでは、7年連続で日本一の入局者数となっています。医局のレクリエーションとして行ったゴーカートレース医局の雰囲気・魅力大阪大学消化器外科講座は、あらゆる消化器外科疾患に対して専門性の高い医療を提供しておりますが、一方では皆でレクリエーション活動なども行い、和気あいあいとした雰囲気の教室です。医師間のコミュニケーションが活発で、知識や経験を共有し合える環境が整っている点も特徴です。また、それぞれの医師のライフ・ワーク・バランスも尊重し、医師の働き方改革への取り組みも積極的に行っています。医学生/初期研修医へのメッセージ多くの手術を含めた臨床のみならず、研究、留学などさまざまな経験ができますので、自分の可能性を確実に広げることができる医局です。どのようなキャリアプランであっても、一緒に考えてくれる先輩方や仲間がたくさんいます。皆さんと一緒に仕事ができることを楽しみにしていますので、ぜひ仲間に加わってください!医局説明会でのハンズオンの様子医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力私たちは、消化器がんに対する腹腔鏡手術やロボット手術などの低侵襲手術から拡大手術にも力を入れ、患者さんに優しい治療を目指しています。また、新規がん診断や薬物治療に関する基礎研究、再生医療、そしてAIを用いた解析やプログラミングにも注力し、次世代の医療技術の発展に貢献したいと考えています。医学生/初期研修医へのメッセージ医療は今、テクノロジーの進化により驚くべき変革が起きています。AIやロボット技術を駆使し、より精密で効果的な治療が可能になる時代です。皆さんが挑戦する新しいアイデアや発見が、未来の医療を形作る重要な一歩となります。未知の分野に果敢に挑み、自分だけのキャリアを切り拓いてください。一緒に、新しい時代の医療を創造していきましょう。学生向けロボット手術の操作シミュレーション実習入局した理由近畿大学医学部を卒業後、市中病院で2年間の初期研修を行いました。学生実習や研修医としての外科ローテーションを通じて、多くの手術症例に携わる機会があり、手術への興味がいっそう深まりました。また、周術期管理や手術技術の向上を通じて、患者の全身状態の改善に寄与できることに大きなやりがいを感じ、消化器外科への入局を決意しました。その後、市中病院で2年3ヵ月の消化器外科後期研修を経て大阪大学病院に戻り、病棟業務と大学院生としての日々の活動に従事しています。現在学んでいること大学病院では、高度進行がんに対する術前化学療法や放射線療法を含む集学的治療、ロボット支援手術、さらには肝・膵移植など、大学病院ならではの多様な症例を経験することができました。経験豊富な指導医のもとで、多くの症例を通じ、周術期管理や手術技術、知識の習得に励んでいます。食事会の様子消化器外科を選択した理由医学科5年の研究室配属プログラムで、消化器外科教室で2ヵ月間勉強させていただきました。実臨床では手術をして周術期管理をする傍らで、さまざまな学術的観点からがんについて研究をされている先生方の姿を目の当たりにし、「がん」と真っ向から向き合う姿勢に感銘を受けました。がんを診療する外科、という観点から産婦人科や泌尿器科などほかの外科も検討しましたが、他臓器とも密接に関連する消化器疾患自体の病態生理に興味があったため、消化器外科を選択しました。現在学んでいること現在は阪大病院で専攻医として学んでおります。大学病院では最新技術の導入はもちろん、臨床研究や治験も豊富で、市中病院では経験できないような症例が多く、がん診療への理解が深まるのを実感しています。また大阪大学は学術面でのサポートも手厚いので、学会などへも積極的に参加しています。日々の臨床だけでは得ることができない着眼点を吸収する良い機会になっていると思います。専攻医を対象とした真皮縫合コンテスト大阪大学大学院医学系研究科 外科系臨床医学専攻外科学講座消化器外科学住所〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2問い合わせ先ytomimaru@gesurg.med.osaka-u.ac.jptmakino@gesurg.med.osaka-u.ac.jp医局ホームページ大阪大学大学院医学系研究科 外科系臨床医学専攻外科学講座消化器外科学専門医取得実績のある学会日本外科学会日本消化器外科学会日本食道学会日本肝胆膵外科学会日本移植学会日本大腸肛門病学会日本消化器病学会日本内視鏡外科学会日本ロボット外科学会日本消化器内視鏡学会 など研修プログラムの特徴(1)高難度ながん手術をはじめ、臓器移植や再生医療などの最先端医療を実践でき、さらにはそれらの開発研究にも参加する機会があり、高度な医療技術や研究能力を得ることができます。(2)手術だけでなく内視鏡検査、化学療法など幅広い一般診療にも従事することができ、各種専門医の先生と一緒に高い技術と知識を習得できる実践的な研修を提供しています。(3)研修先や勤務先が大阪を中心とした関西エリアの主要な医療機関であり、通勤や生活面での負担が少ない環境で、充実した研修が受けられる点も大きな魅力です。

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第120回 赤字でも耐えて事業継続を求められる国立大学病院

国立大学病院が赤字国立大学病院長会議が今年7月に発表した2023年度の決算概要(速報値)によると、全国42の国立大学病院の総収益は1兆5,657億円で、費用が1兆5,716億円と上回っています。経常損益は、2022年度の386億円の黒字から、初めて60億円の赤字に転落しました。今年度はさらに赤字が膨らむ見通しで、同会議が10月4日に緊急記者会見で発表した2024年度の収支見込みによると、235億円の赤字となっています。大学病院だけではなく、どこの病院も割とキツくなっています。赤字が大幅に拡大する原因はいくつかあります。たとえば、医薬品・材料費の増加は前年比121億円増、エネルギー価格高騰の影響により光熱水費が前年比33億円増、物価も高騰しており業務委託費や設備投資も64億円増、という状況です。そして、最も大きな負担となっているのが働き方改革による人件費の増加で、前年比343億円という大幅な増加となっています1)。2024年度診療報酬改定によるベア評価料などで108億円の増収が見込まれているものの、人件費のトータル増加額がその3倍以上となる見通しで、収益バランスが破綻しつつあります。「地域医療介護総合確保基金」の財政支援を拡大すべきではないかという意見がありますが、賛成です。経営圧縮連休中の診療を検討する大学病院も増えているようですが、人件費を削って経営圧縮を試みている中、今よりも「総労働時間」を増やす方向へのかじ取りは厳しいかもしれません。物価高騰によって医療機器の更新や維持が難しくなっています。「胃瘻ボタンを交換するほど医療機関が赤字になる」というのは有名な話ですが、診療報酬そのものが収益を上げるスキームになっていないことが一番の問題です。「国立たるもの清貧であれ」というマインドが根付いてしまうと、診療できる病院が減って、回りまわって困るのは国民ではないかと思います。医療分野は労働集約型が基本であり、人的リソースの依存度が高い一方、AIや自動化技術による労働時間の短縮や業務効率化が期待されています。医療のDX化が叫ばれていますが、医療現場ではいまだにFAXが大活躍している状況であり、人件費が削減できるほどのドラスティックなDX化が実現できるのは、ずいぶんと先になる気しかしません。行政的な縦割り構造が、重い足かせとなっています。経費を削減することで、短期的な費用圧縮にはつながるものの、長期的には組織の競争力低下や医療の質の低下を引き起こし、かえって負の影響が大きくなるかもしれません。どこの病院でも「このままだと日本の医療はどうなってしまうのだろう?」という不安が広がっています。診療・教育・研究を続けなければならない国立大学病院は一般の医療機関とは異なる特殊な費用構造を持っています。高度医療の提供、医学教育、研究開発という3つの機能を同時に担っており、これらは本質的にコストセンターとしての性質を持ちます。赤字セグメントをたくさん抱えているとしても、痛みに耐えて事業を継続しなければならないというツライ側面があります。最先端医療の研究開発や医師の育成には、短期的な収益では測れない社会的投資としての側面があります。また、医療の高度化に伴う費用増加は構造的な問題です。新しい医療技術や医薬品の開発により、治療の選択肢は広がっていますが、それらは往々にして高額なのです。2024年度の予測では、医薬品・材料費だけで121億円の増加が見込まれています。これは技術進歩に伴う不可避的なコスト上昇であり、もはや人件費削減では補いきれない規模かもしれません。コスト削減が叫ばれるさなか、「医師の働き方改革」という劇的な改革に乗り出しているため、中長期的には相当厳しい冬の時代が到来するかもしれません。参考文献・参考サイト1)国立大学附属病院長会議:2024年10月4日 令和6年度第3回記者会見を開催

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“風邪”への抗菌薬処方、医師の年齢で明確な差/東大

 日本における非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬の処方実態を調査した結果、高齢院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では抗菌薬を処方する割合が高く、とくに広域スペクトラム抗菌薬を処方する可能性が高かったことを、東京大学大学院医学系研究科の青山 龍平氏らがJAMA Network Open誌2024年10月21日号のリサーチレターで報告した。 日本では2016年より薬剤耐性(AMR)対策アクションプランなど、適切な抗菌薬処方を推し進める取り組みが行われているが、十分な成果は出ていない。そこで研究グループは、急性呼吸器感染症が不適切な抗菌薬処方を受けることが多い疾患の1つであることに注目し、非細菌性の急性呼吸器感染症に対する抗菌薬処方とそれに関連する診療所の特性を調査した。 研究グループは、電子カルテデータベースを用いて、2022年10月1日~2023年9月30日に非細菌性の急性呼吸器感染症(ICD-10のJ00~J06またはJ20~J22)と診断された外来の成人患者を抽出し、診療所の特性(院長の年齢や性別、患者数、グループ診療か単独診療か)と抗菌薬処方との関連を分析した。なお、成人のプライマリケアに従事する診療所に焦点を当てるため、耳鼻咽喉科および小児科の診療所と、研究期間中の非細菌性の急性呼吸器感染症の診療が100例未満の診療所は除外した。 主な結果は以下のとおり。・1,183軒の診療所を受診した97万7,590例(平均年齢:49.7[SD 20.1]歳、女性:56.9%)の非細菌性の急性呼吸器感染症患者を解析した。・抗菌薬は17万1,483例(17.5%)に処方され、広域スペクトラム抗菌薬は抗菌薬処方全体の88.3%を占めた。・最も多く処方されたのはクラリスロマイシン(30.7%)で、レボフロキサシン(12.2%)、セフジトレン(11.2%)、アジスロマイシン(11.1%)、セフカペン(9.2%)、アモキシシリン(7.9%)と続いた。・高齢の院長の診療所、患者数が多い診療所、単独診療の診療所では、抗菌薬の処方が有意に多かった。 【院長の年齢が60歳以上vs.45歳未満】調整オッズ比(aOR):2.14、95%信頼区間(CI):1.56~2.92、p<0.001 【患者数が年間中央値58例/日以上vs.35例/日以下】aOR:1.47、95%CI:1.11~1.96、p=0.02 【グループ診療vs.単独診療】aOR:0.71、95%CI:0.56~0.89、p=0.01・院長の性別では統計学的に有意な差は認められなかった。・広域スペクトラム抗菌薬の処方に限定した解析でも、上記すべての特性で同様の傾向が認められた。 研究グループは「患者数の多い診療所は、時間的なプレッシャーや決断疲れのために抗菌薬を過剰に処方している可能性がある」と示唆したうえで、「今回の結果は抗菌薬の適正使用に向けて、より的を絞った介入の実施に役立つだろう」とまとめた。

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高リスクmHSPCに対するアビラテロン、エンザルタミド、アパルタミドの比較~日本のリアルワールドデータ

 転移を有するホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対する、アビラテロン、エンザルタミド、アパルタミドという3剤のアンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)の有効性と安全性を比較した多施設共同研究の結果、全生存期間(OS)、がん特異的生存期間(CSS)、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)までの期間について、3剤の差はみられなかった。東京慈恵会医科大学の柳澤 孝文氏らによるProstate誌オンライン版2024年10月17日号掲載の報告。 本研究では、2015年9月~2023年12月にARPI+アンドロゲン除去療法を受けたmHSPC患者668例の記録を後ろ向きに解析した。LATITUDE基準に基づいた高リスク患者を対象に、前立腺特異抗原(PSA)低下率95%および99%の達成率などのPSA反応、OS、CSS、CRPCまでの期間、有害事象(AE)の発生率が比較された。すべての群間比較において、交絡因子の影響を最小化するために傾向スコアマッチングが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・アビラテロンで治療された297例、エンザルタミドで治療された127例、アパルタミドで治療された142例が比較された。・CRPCまでの期間(p=0.13)、OS(p=0.7)、CSS(p=0.5)について3つのARPI間で差はみられなかった。・3ヵ月後のPSA低下率95%の達成率について3つのARPI間で差はみられなかったが、PSA低下率99%の達成率はアビラテロンがアパルタミドと比較して有意に優れていた(72% vs. 57%、p=0.003)。・最も発生率の高かったAEはアパルタミド治療後の皮疹(34%)だったが、3つのARPI 間で重度のAEの発生率に差はなかった。・エンザルタミドは、ほかのARPIと比較して、病勢進行以外による治療中止率が最も低かった(10%)。

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乳がんへのドセタキセルとパクリタキセル、眼科有害事象リスクに差/日本治療学会

 乳がん周術期療法におけるドセタキセルとパクリタキセルの眼科有害事象のリスクを比較した結果、ドセタキセルはパクリタキセルと比較して流涙症のリスクが有意に高かった一方で、黄斑浮腫や視神経障害などのリスクは有意差を認めなかったことを、東京大学の祝 千佳子氏が第62回日本治療学会学術集会(10月24~26日)で発表した。 タキサン系薬剤は好中球減少症や末梢神経障害などさまざまな有害事象を来すことが広く知られているが、眼科有害事象についても報告がある。しかし、ドセタキセルとパクリタキセルの間で眼科有害事象を比較した研究は乏しい。そこで研究グループは、早期乳がんの周術期療法としてドセタキセルまたはパクリタキセルを使用した群で、眼科有害事象の発現リスクに差があるかどうかを比較するために研究を実施した。 研究グループはDeSCのレセプトデータベースを用いて、2014年4月~2022年11月に周術期補助療法としてドセタキセルまたはパクリタキセルを使用した18歳以上の乳がん患者6,118例(ドセタキセル群3,950例、パクリタキセル群2,168例)を同定した。主要評価項目は流涙症、黄斑浮腫、視神経障害の発現、副次評価項目は眼科受診であった。主解析では、傾向スコアを用いたoverlap weighting法による生存時間分析を実施した。アウトカムの発生率は1万人年当たりで算出し、bootstrap法で信頼区間(CI)とp値を設定した。Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。●対象者の年齢中央値は65(四分位範囲:54~70)歳で、観察期間中央値は790(365~1,308)日であった。●Overlap weighting後のドセタキセル群およびパクリタキセル群の流涙症の発現率はそれぞれ127および79/1万人年、黄斑浮腫は92および114/1万人年、視神経障害は53および78/1万人年、眼科受診は428および404/1万人年であった。●ドセタキセル群はパクリタキセル群と比較して流涙症のリスクが有意に高かったが、黄斑浮腫、視神経障害、眼科受診のリスクは有意差を認めなかった。ドセタキセル群vs.パクリタキセル群のHRと95%CIは下記のとおり。 【流涙症】 ・主解析 HR:1.63、95%CI:1.13~2.37、p=0.010 ・65歳未満 HR:1.82、95%CI:0.82~4.02、p=0.14 ・65歳以上 HR:1.58、95%CI:1.04~2.42、p=0.033 【黄斑浮腫】 ・主解析 HR:0.81、95%CI:0.57~1.13、p=0.21 ・65歳未満 HR:0.65、95%CI:0.32~1.33、p=0.24 ・65歳以上 HR:0.86、95%CI:0.59~1.26、p=0.44 【視神経障害】 ・主解析 HR:0.67、95%CI:0.44~1.01、p=0.057 ・65歳未満 HR:0.51、95%CI:0.24~1.09、p=0.082 ・65歳以上 HR:0.73、95%CI:0.43~1.26、p=0.26 【眼科受診】 ・主解析 HR:1.09、95%CI:0.91~1.31、p=0.35 ・65歳未満 HR:1.08、95%CI:0.81~1.45、p=0.60 ・65歳以上 HR:1.09、95%CI:0.84~1.35、p=0.47 これらの結果より、祝氏は「2群間で流涙症リスクに差が生じた理由として、薬剤特性の違いが涙液中の濃度や曝露時間に影響したり、添加物の違いが関係したりしている可能性がある」と示唆したうえで、「実臨床を反映した大規模診療データベースの解析の結果、乳がん患者において周術期療法としてのドセタキセル使用はパクリタキセル使用と比較して流涙症のリスクが有意に高く、とくに65歳以上で顕著であった。ドセタキセルまたはパクリタキセルの治療選択の際は、起こりうる眼科有害事象に留意する必要がある」とまとめた。

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双極症に対する抗精神病薬と気分安定薬の投与量が再発リスクに及ぼす影響

 双極症患者は、症状や治療に苦しんでいるにもかかわらず、効果的な治療レジメンを見出すことは困難である。東フィンランド大学のJonne Lintunen氏らは、双極性障害患者における、さまざまな用量の抗精神病薬および気分安定薬に関連する再発リスク、治療の安全性を調査した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2024年10月2日号の報告。 1996〜2018年のフィンランド全国レジストリより、15〜65歳の双極症患者を特定した。対象となる抗精神病薬には、オランザピン、リスペリドン、クエチアピン、アリピプラゾール、気分安定薬には、リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、カルバマゼピンを含めた。各薬剤の時間変動用量カテゴリーは、使用量に応じて低用量、標準用量、高用量に分類した。アウトカムは、再発リスク(精神科入院)、治療の安全性(非精神科入院)のリスクとした。分析には、個人内の層別Cox回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は6万45例(平均年齢:41.7±15.8歳、女性の割合:56.4%)。・平均フォローアップ期間は8.3±5.8年。・再発リスク低下と関連していた抗精神病薬は、オランザピンの低用量および標準用量、アリピプラゾールの低用量および標準用量、リスペリドンの低用量であった。・調整ハザード比(aHR)が最も低かった薬剤は、アリピプラゾールの標準用量であった(aHR:0.68、95%信頼区間[CI]:0.57〜0.82)。・クエチアピンは、いずれの用量においても再発リスク低下との関連が認められなかった。・低用量および標準用量の気分安定薬は、再発リスク低下と関連が認められ、最も低いaHRは、リチウムの標準用量で観察された(aHR:0.61、95%CI:0.56〜0.65)。・高用量の抗精神病薬および気分安定薬は、リチウムを除き、非精神科入院リスクの増加との関連が認められた。・リチウムは、低用量(aHR:0.88、95%CI:0.84〜0.93)および標準用量(aHR:0.81、95%CI:0.74〜0.88)において、非精神科入院リスク低下と関連していた。 著者らは「双極症患者に対するリチウムおよびアリピプラゾールの標準用量は、再発リスクが最も低く、リチウムの標準用量は、非精神科入院リスクが最も低かった」と結論付けている。

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2型DM男性へのメトホルミン、子の先天奇形と関連なし/BMJ

 父親の精子形成期におけるメトホルミンの使用は、子の臓器特異的奇形を含む先天奇形とは関連しないことが、ノルウェーおよび台湾の一般住民を対象とした全国規模のコホート研究において示された。国立台湾大学のLin-Chieh Meng氏らが報告した。先行研究では、父親のメトホルミン使用と子の先天奇形のリスクとの関連が示されていた。著者は、「今回の研究の結果、メトホルミンは子供をもうける予定のある2型糖尿病男性において、血糖管理のための最初の経口薬として適切であると考えられる」とまとめている。BMJ誌2024年10月16日号掲載の報告。ノルウェー62万例、台湾256万例の子供と父親のデータを解析 研究グループは、ノルウェーの出生登録、処方箋データベース、患者登録および医療費償還払いデータベース、ならびに台湾の出生証明書申請データベース、国民健康保険データベースおよび母子保健データベースを用いた。ノルウェーのコホートでは2010~21年まで、台湾のコホートでは2004~18年までに単胎妊娠で出生した子供のうち、精子形成期(妊娠の3ヵ月前)の父親のデータがある子供それぞれ61万9,389例および256万3,812例を特定した。 主要アウトカムは、先天奇形、副次アウトカムは臓器特異的奇形で、欧州先天奇形サーベイランス(EUROCAT)のガイドラインに従って分類し、父親のメトホルミン使用と子の先天奇形リスクとの関連について解析した。 相対リスクは、補正前解析、父親が2型糖尿病と診断されている集団に限定した解析、ならびに糖尿病の重症度やその他の交絡因子を補正するため父親が2型糖尿病の集団に限定し、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いた解析により推定した。また、遺伝的因子とライフスタイル因子を考慮するために、兄弟姉妹のマッチング比較を行った。さらに、ノルウェーと台湾のデータの相対リスク推定値を、ランダム効果メタ解析を用いて統合した。父親が2型糖尿病の交絡因子補正後解析では、メトホルミン服用と先天奇形に関連なし ノルウェーのコホートでは、61万9,389例のうち2,075例(0.3%)、台湾のコホートでは256万3,812例のうち1万5,276例(0.6%)の子供の父親が、精子形成期にメトホルミンを使用していた。 先天奇形は、ノルウェーのコホートでは、父親が精子形成期にメトホルミンを使用していなかった子供で2万4,041例(3.9%)、使用していた子供で104例(5.0%)に認められ、台湾のコホートではそれぞれ7万9,278例(3.1%)および512例(3.4%)であった。 補正前解析では、父親のメトホルミン使用は先天奇形のリスク増加と関連していた(補正前相対リスクはノルウェーで1.29[95%信頼区間[CI]:1.07~1.55]、台湾で1.08[0.99~1.17])。 しかし、この関連は交絡因子の補正に従い減弱した。2型糖尿病の父親に限定した解析での相対リスクは、ノルウェーで1.20(95%CI:0.94~1.53)、台湾で0.93(0.80~1.07)、2型糖尿病の父親限定の傾向スコアオーバーラップ重み付け法による解析ではそれぞれ0.98(0.72~1.33)、0.87(0.74~1.02)で、プール推定値は0.89(0.77~1.03)であった。 臓器特異的奇形は、父親のメトホルミン使用と関連していなかった。これらの所見は、兄弟姉妹をマッチさせた比較や感度分析においても一貫していた。

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新規3剤配合降圧薬GMRx2、2剤併用より有効/Lancet

 テルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの新規3剤配合降圧薬GMRx2は、2剤併用薬と比較して臨床的に意義のある降圧をもたらし、忍容性も良好であった。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のAnthony Rodgers氏らが、オーストラリア、チェコ、ニュージーランド、ポーランド、スリランカ、英国および米国の83施設で実施した無作為化二重盲検実薬対照比較試験の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「GMRx2は血圧管理の新たな治療選択肢であり、臨床診療における血圧コントロールの大きな改善をもたらす可能性がある」とまとめている。Lancet誌2024年10月19日号掲載の報告。GMRx2と、各成分2剤併用の計4群を比較 研究グループは、未治療または降圧薬を1~3剤投与されている18歳以上の高血圧患者を登録した。適格基準は、スクリーニングの収縮期血圧が未治療で140~179mmHg、降圧薬1剤で130~170mmHg、2剤で120~160mmHg、3剤で110~150mmHgであった。 4週間の導入期に、治療薬をGMRx2の半量(テルミサルタン20mg、アムロジピン2.5mg、インダパミド1.25mg)に切り替えた。その後、GMRx2半量投与継続群、テルミサルタン20mg+アムロジピン2.5mg群、テルミサルタン20mg+インダパミド1.25mg群、またはアムロジピン2.5mg+インダパミド1.25mg群に2対1対1対1の割合で無作為に割り付け、6週間投与した。6週目の来院時に臨床的な禁忌がない限り、すべての群で用量を2倍に増量し、さらに6週間投与した。 有効性の主要アウトカムは、自宅にて座位で測定した収縮期血圧のベースラインから12週時までの平均変化量、副次アウトカムは6週時および12週時における診察室血圧と家庭血圧のベースラインからの変化量、血圧コントロール達成率などであった。安全性の主要アウトカムはベースラインから12週時までの有害事象による治療中止とした。12週時のSBP平均変化量、血圧コントロール達成率ともGMRx2群が優れる 2021年7月9日~2023年9月1日に、2,244例が導入期に登録され、このうち1,385例が4群に無作為に割り付けられた(GMRx2群551例、テルミサルタン+インダパミド群276例、テルミサルタン+アムロジピン群282例、アムロジピン+インダパミド群276例)。患者背景は、平均(±SD)年齢59±11歳、女性712例(51%)、男性673例(48.6%)、無作為化された患者のスクリーニング時の平均血圧は142/85mmHgであった。GMRx2半量の導入期後、無作為化時の平均血圧は医療機関で133/81mmHg、家庭で129/78mmHgであった。 12週時の家庭収縮期血圧平均値はGMRx2群が126mmHgであり、各2剤併用群より有意に低かった。主要アウトカムであるベースラインから12週時までの収縮期血圧の平均変化量の群間差は、対テルミサルタン+インダパミド群で-2.5mmHg(95%信頼区間[CI]:-3.7~-1.3、p<0.0001)、対テルミサルタン+アムロジピン群で-5.4mmHg(-6.8~-4.1、p<0.0001)、対アムロジピン+インダパミド群で-4.4mmHg(-5.8~-3.1、p<0.0001)であった。 同様に、医療機関で測定した収縮期血圧/拡張期血圧の変化量の差はそれぞれ-4.3/-3.5mmHg、-5.6/-3.7mmHg、-6.3/-4.5mmHgであった(いずれもp<0.001)。 12週時の140/90mmHg未満の血圧コントロール達成率はGMRx2群74%、テルミサルタン+インダパミド群61%、テルミサルタン+アムロジピン群61%、アムロジピン+インダパミド群53%であり、GMRx2群で有意に高値であった。 有害事象による治療中止はGMRx2群で11例(2%)、テルミサルタン+インダパミド群で4例(1%)、テルミサルタン+アムロジピン群で3例(1%)、アムロジピン+インダパミド群で4例(1%)にみられたが、いずれも統計学的有意差はなかった。

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「永遠の化学物質」PFASが睡眠障害を引き起こす可能性も

 血液中の「永遠の化学物質」とも呼ばれる有機フッ素化合物の「PFAS」が、若年成人の睡眠障害と関連していることが、米南カリフォルニア大学(USC)のグループによる研究で示された。PFASは有機フッ素化合物のペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称で、この研究からはPFASのうち4種類の物質の血中濃度が睡眠障害と関連していることが明らかになった。詳細は、「Environmental Advances」10月号に掲載された。 PFASは、テフロン加工された調理器具やシャンプーなど、さまざまな製品に使用されているが、何十年もの間、環境中に残留する可能性がある。また、食品や水と一緒に体内に摂取される可能性も考えられる。研究グループによると、米国人の大多数において、血中のPFAS濃度は検出可能レベルであるという。 この研究は、USCの別の研究で数年前に血液採取を受けた19~24歳の男女136人(試験開始時の平均年齢19.45歳)を対象に実施された。研究参加者は睡眠時間と睡眠の質に関する情報も提供しており、136人中76人は追跡調査も受けていた。対象者の7種類のPFASの血中濃度を測定し、「低」から「高」までの3つのカテゴリーに分けた。 その結果、7種類のPFASのうち、4種類(PFDA、PFHxS、PFOA、PFOS)が睡眠障害に関連していることが明らかになった。具体的には、ベースラインからPFDA濃度のカテゴリーが1段階上がることは、毎晩の睡眠時間の平均0.39時間の短縮と関連していた。また、追跡調査の結果からは、PFHxSとPFOAの濃度のカテゴリーが1段階上がることは、平均で0.39時間と0.32時間の睡眠時間の短縮と関連していた。一方、PFOS濃度のカテゴリーが1段階上がることは、睡眠障害スコアの2.99点の増加、睡眠関連障害スコアの3.35点の増加と関連していた。 論文の筆頭著者で、USCケック医学校のShiwen Li氏は、「われわれが検出した血液中のPFASは、おそらく出生後の曝露によるものだが、出生前の胎児期の曝露に起因している可能性もある」と述べている。 研究グループは、これら4種類のPFASについて分析するため、化学物質と疾患、遺伝子発現の変化の関連についての研究をまとめたデータベースを使用し、PFASの影響を受ける遺伝子と睡眠障害に関与する遺伝子の重複を調べた。 その結果、600を超える遺伝子候補のうち、PFASによって活性化される7つの遺伝子候補が睡眠に影響を与えると推定された。その一つは、コルチゾールというホルモンの産生を助ける免疫系のタンパク質(HSD11B1)をコードする遺伝子だった。コルチゾールは睡眠覚醒リズムの調節で重要な役割を果たしている。また、カテプシンBをコードする遺伝子もPFASの睡眠への影響に関与していることが示された。カテプシンBは、記憶力や思考能力に関係し、アルツハイマー病患者の脳に存在するアミロイドβの生成に関与することが示唆されている。一方で、アルツハイマー病自体も睡眠障害に関連している。 Li氏は、「睡眠の質はほとんど全ての人に関わる問題だ。そのため、今回の研究で示された睡眠に対するPFASの影響には政策的な対応を考慮する必要がある」と話す。また、同氏は、「長期的に見ると、質の悪い睡眠は神経学的な問題や行動面の問題、2型糖尿病、アルツハイマー病などに関連していることが指摘されている」と同大学のニュースリリースで付け加えている。

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歯科受診で介護コストが抑制される可能性

 歯科を受診することが、その後の要介護リスク低下や累積介護費の抑制につながる可能性を示唆するデータが報告された。特に予防目的での歯科受診による抑制効果が顕著だという。東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の竹内研時氏、木内桜氏らの研究グループによる論文が、「The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences」に8月5日掲載された。 超高齢社会の進展を背景に増大する介護費への対策が、喫緊の社会的課題となっている。介護費増大の要因として脳卒中や心血管疾患、認知機能低下などが挙げられるが、それらのリスク因子として、歯周病や咀嚼機能の低下といった歯科で治療可能な状態の関与を示唆する研究報告が増えている。このことから、適切な歯科治療によって要介護リスクが低下し、介護コストが抑制される可能性が考えられるが、そのような視点での検証作業はまだ行われていない。これを背景として竹内氏らは、全国の自治体が参加して行われている「日本老年学的評価研究(JAGES)」のデータを用いた研究を行った。 JAGESは、2010年に自立して生活している高齢者を対象とする長期コホート研究としてスタート。今回の研究では、調査実施前6カ月間の歯科受診状況、および2018年まで(最大91カ月)の介護保険利用状況を確認し得た、8,429人のデータを解析に用いた。ベースライン時の平均年齢は73.7±6.0歳で、男性が46.1%であり、過去6カ月以内の歯科受診状況は、予防目的での受診ありが35.9%、治療目的での受診ありが52.4%、予防か治療いずれかの目的での受診ありが56.3%だった。 約8年の追跡期間中に1,487人(17.6%)が介護保険の利用を開始し、1,093人(13.0%)が死亡していた。介護保険の利用期間の全体平均は4.5±13.2カ月であり、累積介護費の全体平均は4,877.0米ドルだった。 追跡期間中に介護保険を利用した群と利用しなかった群のベースラインの特徴を比較すると、前者は高齢で女性や配偶者なしの人が多く、BMIが低い、歩行時間が短い、教育歴が短い、低収入などの傾向があり、また、医科の健診を受けていない人が多く、過去6カ月以内に歯科を受診していない人が多い傾向が見られた。 介護保険の平均利用期間は、過去6カ月以内に治療目的で受診していた群はそうでない群より短く、過去6カ月以内に予防か治療いずれかの目的で受診していた群もそうでない群より短かった。過去6カ月以内に予防目的で受診していた群もそうでない群よりも短かった。介護費用に関しては、これら3通りの比較でいずれも、歯科受診をしていた群の方が有意に少なかった。 交絡因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙習慣、歩行時間、婚姻状況、収入、教育歴、歯数、地域、基礎疾患〔糖尿病、高血圧、脳卒中、心臓病、がん、うつ状態〕)を調整後、ベースラインから過去6カ月以内に予防か治療いずれかの目的で受診していた群は、そうでない群よりも追跡期間中の介護保険利用が有意に少なかった(オッズ比〔OR〕0.86〔95%信頼区間0.76~0.98〕)。予防目的のみ、または治療目的のみの受診の有無での比較では、介護保険利用率に有意差が見られなかった。 次に、介護保険を利用した人において、ベースラインから過去6カ月以内の歯科受診の有無により累積介護費が異なるのかを、相対コスト比(RCR)を算出して検討。その結果、予防目的で受診していた群はRCR0.82(95%信頼区間0.71~0.95)と、要介護状態になったとしても介護費が有意に少ないことが分かった。治療目的のみ、または予防か治療いずれかの目的での受診の有無での比較では、RCRに有意差は認められなかった。 続いて、歯科受診の有無別に予測される累積介護費を算出。すると、予防目的での受診により累積介護費が-1,089.9米ドル(95%信頼区間-1,888.5~-291.2)と、有意に少なくなることが予測された。また、予防か治療いずれかの目的での受診では、-980.6米ドル(同-1,835.7~-125.5)の有意な減少が見込まれた。治療目的での受診では有意差は認められないものの、-806.7米ドル(同-1,647.4~34.0)の減少が見込まれた。 以上一連の結果を基に著者らは、「歯科受診、特に予防目的での受診は、累積介護費の低下と関連していた。歯科受診を通して口腔の健康を維持することで、介護費を抑制できる可能性がある」と結論付けている。

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映画「路上のソリスト」(その2)【「不幸」になる権利はあるの?私たちはどうすればいいの?(ホームレスの自由権)】Part 1

今回のキーワード浮浪の罪医療保護入院アイデンティティ幸せの押し付け保護法益友情前回(その1)に、映画「路上のソリスト」を通して、ホームレスが保護を拒む原因は、認知機能の低下によって、自由がなくなること、清潔にしなければならないこと、そして先々のことを考えなければならないことがすべてストレスになるからであることがわかりました。今回(その2)は、このホームレスの心理を踏まえて、法的、そして人道的な観点から、ホームレスが保護を拒む権利、つまりホームレスの自由権について掘り下げます。そして、精神医療はどこまでその「自由」に介入すべきか、私たちはどうすればいいかという難題に挑戦してみましょう。ホームレスを強制的に保護できないわけは?なかなか話が通じないナサニエルを見て、ロペスは支援センターのスタッフに「統合失調症だろ?」「彼を救うには、拘束して強制的に薬を飲ませるべきだ」と訴えます。薬を飲めばナサニエルは話が通じるようになるとロペスは考えていたのでした。実際のところ、どうなんでしょうか?ここから、ホームレスを強制的に保護できない理由を、法的な観点と人道的な観点の2つに分けて考えてみましょう。(1)法的な観点ー違法であるから支援センターのスタッフは、ロペスに「身に差し迫った危険がないと、薬の服用を強制することはできない」と毅然として答えます。まず法的な観点として、自傷他害のおそれがなければ、強制的な治療や入院は違法であるからです。もちろん日本では、ホームレスとして路上で生活すること自体、軽犯罪法の浮浪の罪に当たる可能性があります。しかし、精神障害による認知機能の低下が疑われる場合、「働く能力がありながら」というこの罪の要件を満たしていないことになり、罪には問えません。また、日本には家族等の同意による医療保護入院という制度はありますが、ホームレスのように家族と疎遠である場合は同意は得られないでしょう。そもそも、ナサニエルは、未治療の期間が長いため、薬物治療によって認知機能が劇的に改善する可能性は極めて低いです。前回(その1)に、ナサニエルは自由を得るためにホームレス生活の不自由さに納得していると説明しましたが、これはもはや彼の生き方、アイデンティティであると言えます。つまり、彼は「ホームレスとしてのアイデンティティ」が固まっているため、ロペスの目論見通りにはならないということです。つまり、ホームレスは、精神障害であると同時に、生き方の問題になっていることがわかります。これは、彼らの自由権です。本来人間は、他人に害を与えない限り自由に生きていく権利があります。だからこそ、ホームレスを強制的に保護することが違法なのです。なお、薬物治療には鎮静効果があり、認知機能は劇的に改善しなくても、大人しくはなります。よって、本人が望んでいなくても自傷他害のおそれがある場合に限っては、強制的な治療が合法になるのです。もちろん、冒頭でも触れたように、衛生上や臭いの問題、さらには治安の問題もあるため、彼らの存在が社会にとって迷惑だという厳しい意見はあるでしょう。しかし、騒乱罪や風俗犯罪ほど社会秩序が乱れるという具体的で明らかな不利益が起きているわけではないです。よって、保護法益(法によって守られる利益)としても弱いため、強制的な保護、言い換えれば排除することはやはり違法です。ただし、映画では、「町を一掃する」という名目で、ロサンゼルスのホームレスたちが、彼らの持ち物から「窃盗」の罪で次々と逮捕されるシーンがありました。これは、ホームレスのたまり場が、違法薬物の売買などを蔓延させ、殺人を頻繁に招いている深刻な場合です。これは、非人道的ではありますが、明らかな不利益が起きているため、違法とまでは言えなくなります。次のページへ >>

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映画「路上のソリスト」(その2)【「不幸」になる権利はあるの?私たちはどうすればいいの?(ホームレスの自由権)】Part 2

(2)人道的な観点―逆に非人道的になるから支援センターのスタッフは、ロペスに「診断は役に立たない」「必要ないのは、彼を病人扱いする人間だ」とも答えます。そして、「友情を裏切るのは、彼の唯一のものを壊す」とやんわり忠告します。もう1つの人道的な観点として、本人が望んでいないので、保護することは逆に非人道的になるからです。もちろん、炊き出しなどの食料の支給はホームレスたちが望んでいることなので、人道的で望ましいです。そして、施設に入所させるなど決まった場所に住まわせることや、定期的に入浴させて清潔にさせることなどは、粘り強く説得して、彼らが納得するのであれば、人道的で望ましいです。しかし、それでも彼らが望まないのであれば、非人道的になってしまい、望ましくないことになります。よくよく考えると、日本国憲法でも定められている「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とは、本人が選ぶ権利であって、社会が押し付ける義務ではないです。つまり、人道的かどうかは、私たちが望ましいと思うかどうかではなく、彼らが望んでいるかどうかであるということです。これは、医療関係者としても、非常に悩ましい問題です。ロペスは「ナサニエルは精神障害によってホームレスとなり不幸だ」と考えました。しかし、これはあくまでロペスのような社会適応をしている多数派の解釈にすぎません。ここから、幸せか不幸かは、社会(多数派)で受け入れられているか、常に多数決で決められてしまう危うさがあることがわかります。つまり、精神障害者が何を幸せと思うかは、最終的には本人が決めることであり、その自由に精神医療が介入することは、「幸せの押し付け」であり、逆に非人道的になってしまうということです。そもそも、ナサニエルは、ホームレスとして日々一生懸命に生きています。一方、ロペスは、社会的には成功していますが、いつも記事の締め切りに追われて疲れきっていました。よくよく考えると、どちらが幸せか、何を持って幸せか、わからなくなってきます。なお、健康か病気かという線引きも多数決で決められてしまう危うさについては、身体完全性違和という特殊な状態を解説した関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「路上のソリスト」(その2)【「不幸」になる権利はあるの?私たちはどうすればいいの?(ホームレスの自由権)】Part 3

ホームレスにどうしたらいいの?ロペスは、「助けてるつもりだった」「でも、助けようとしていた本人に敵意を持たれてる」と悩み、元妻に打ち明けます。すると、彼女は「必要な時にそばにいる友達でいて」と助言するのです。このセリフはまさに、ロペスとナサニエルの関係だけでなく、ロペスと元妻の関係もほのめかしているようです。ラストシーンでは、ロペスは仲直りの印として、ナサニエルと握手します。この握手は、ナサニエルが「自分の手は汚いから」と握手を拒んだ最初のシーンとは対照的で感動的です。ナサニエルは、いろいろあったけどロペスなら自分を受け入れてくると思えるようになったのでした。つまり、ホームレスへの最善の対応は、本人が困っていると決めつけて干渉するのではなく、困っていても関係ないと無関心になるのでもなく、本人が困っていると言ってきたらできることを支援することでしょう。これは、家族でもなく、他人でもなく、友達の関係です。そんな社会になることを願うという、この映画のメッセージのように思えてきます。このように自由権の視点で考えると、もちろんホームレスが増えていく社会は危ういわけですが、逆にホームレスがまったくいない社会も危ういように思えてきます。「路上のソリスト」とは?ロペスは、離婚して一人寂しく暮らしていました。そして、インターネットの普及によって、彼が勤務する新聞社にはリストラの波が押し寄せていました。「ソリスト」とは独奏者という意味で、もちろんナサニエルを指しています。同時に実は、もう1人の「路上のソリスト」として、人生の路頭に迷う孤独なロペスでもあることを暗示しているようです。そんななか、2人は出会うのです。ラストシーンでは、ベートーベンのコンサートを、ナサニエルの姉、ナサニエル、ロペス、そしてロペスの元妻が横並びで一緒に聴いています。ナサニエルが路上からアパート暮らしをするようになり、疎遠だった姉に助けを求めるようになったのと同じように、ロペスが元妻とよりを戻すことをほのめかしているように見えます。ロペスがナサニエルの人生に影響を与えたのと同じように、ナサニエルもまたロペスの人生に影響を与えたのでした。この映画は、ナサニエルの物語であると同時に、ナサニエルと深くかかわることで変わっていったロペスの物語でもあります。テーマは、ホームレス問題であると同時に友情でもあります。最後のロペスによるナレーションで、「統合失調症は友達ができると社会性が増すという論文がある」と紹介され、締めくくられます。これは、統合失調症であるナサニエルだけでなく、そうではないロペスにも当てはまるという、この映画のもう1つのメッセージでしょう。1)「ホームレス消滅」p.60、p.219、p.240、p.250、p.256:村田らむ、幻冬舎新書、20202)「ルポ路上生活」pp152-154、pp160-162:國友公司、彩図社、20233)「ホームレス収容所で暮らしてみた~台東寮218日貧困共同生活~」p.10、p.45:川上武志、彩図社、2021<< 前のページへ■関連記事映画「路上のソリスト」(その1)【それが幸せ?なんで保護されたくないの?(ホームレスの心理)】Part 1ドキュメンタリー「WHOLE」(前編)【なんで自分の足を切り落としたいの!?(身体完全性違和)】Part 1

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Jmedmook94 今日の診療に活かせる 喘息・COPDポイント解説

今日から目の前の患者さんに活かせる!プライマリ・ケア医やジェネラリストの先生方が“今日の診療”において一歩ステップアップすることを目的とした、キュート先生こと田中 希宇人先生の著書がついに完成!喘息、COPDそれぞれについては国内外のガイドラインや治療の手引きなど数々の指針がありますが、何を参考にすれば? という若い先生の声も聞かれます。本書は、「今日から目の前の患者さんに活かせる」というコンセプトのもと、喘息とCOPDのポイントを1冊にまとめました。病態から診察、治療についてのキュート先生のわかりやすい解説に加え、長尾 大志先生、倉原 優先生、中島 啓先生など日本を代表する呼吸器内科の専門家が実臨床でのコツを伝授。キュート先生の質問に各先生が答えるQ&Aも必読です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するJmedmook94 今日の診療に活かせる 喘息・COPDポイント解説定価4,180円(税込)判型B5判頁数176頁発行2024年10月編著田中希宇人(日本鋼管病院呼吸器内科診療部長)ご購入はこちらご購入はこちら電子版でご購入の場合はこちら電子版でご購入の場合はこちら

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第236回 麻酔薬を巡る2つのトピック(後編) プロポフォール使用の配信番組で麻酔科学会声明、芸人への検査は麻酔不要の「経鼻内視鏡」の不可解

石破首相の知見は要職を降りてから「アップデートされていない」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党、衆院選で大敗しちゃいましたね。テレビに映る石破 茂首相の虚ろな目を見て、せっかくチャンスをもらったのに、総裁選前に自信満々で話していた自身の主張を次々反古にするなど、迷走するリーダーの姿を国民に見せてしまったことも大きな敗因ではないかと感じました。石破首相が誕生した直後、10月5日付の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」は「イシバノミクスはあるか」というタイトルで、今後の経済施策について予想するとともに、石破首相の欠点を鋭く突いていました。同記事は、石破首相が主導する経済政策「イシバノミクス」はないと断言、その理由を「党内非主流派に長く身を置」き、「首相の知見が要職を降りてから『アップデートされていない』ためだ、と霞が関の官僚はみている」と書いています。自ら得意と公言する安保政策(アジア版NATO構想など)ですら非現実的なのに、専門ではない経済・金融政策で新しい施策を打ち出せるわけがない、というわけです。実際、石破首相は、社会保障政策についても深く語ることはなく、やはり「アップデートされていない」感(言い換えれば勉強不足)を強く感じます。今回の総選挙で、紙の健康保険証存続を公約に挙げる立憲民主党が大躍進したことで、社会保障政策の最重要課題の一つである医療DX推進にも暗雲が垂れこめそうです。石破首相(あるいは新首相?)にはその点はぜひアップデートし、自らの頭の中身をDXしていただきたいと思います。配信されたバラエティ番組を麻酔科学会が強く非難さて今回も前回に引き続き、麻酔薬のトピックを取り上げます。日本麻酔科学会が「アナペイン注 7.5mg/mL」の製造所追加の承認取得をホームページで会員に伝えた同じ10月16日、同学会は別件で興味深い理事長声明を出しました。「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」1)と題されたその声明は、「10月14日配信開始の番組において、内視鏡クリニックを舞台にプロポフォールが使用され、何らかの外科的処置を必要としない人物を意図的に朦朧状態にするという内容が含まれていることを知り、深い憂慮を抱いております」と、配信されたバラエティ番組で芸能人に対して安易にプロポフォールが使われたことを強く非難しました。このトピックについては、ケアネットの「ニュース批評」、「現場から木曜日」でも倉原 優氏が「第119回 『エンタメ番組でプロポフォール静注』を観た感想」でプロポフォールの内視鏡時の使用の問題点について言及、「日本麻酔科学会が書いているように『麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切』の一言に尽きます」と書かれていますが、私も実際に配信番組を観て“あること”に気付いたので、若干の補足コメントをしてみたいと思います。「地上波では放送できない企画」をテーマに芸人らが過激な企画に出演まず、経緯を簡単におさらいしておきます。麻酔科学会が問題視したのは、Amazonプライム・ビデオで10月14日から配信が始まった「KILLAH KUTS(キラーカッツ)」という番組の中の1エピソード、「EPISODE2 麻酔ダイイングメッセージ」です。同番組は、「水曜日のダウンタウン」の演出担当として知られる藤井 健太郎氏が手掛け、「地上波では放送できない企画」をテーマに、芸人らが過激な企画に挑むのが売りだそうです。このエピソードでは、「死ぬ瞬間の薄れゆく意識を、麻酔を使えば再現できる」として、みなみかわ、お見送り芸人しんいち、ラランド、モグライダーといった人気芸人らが、被害者役と刑事役に分かれ、病院を訪れた被害者役が院内で事件に巻き込まれ、殺されてしまう、という設定のコントを演じます。被害者役が殺されると、その瞬間、医師が麻酔薬の投与を開始。意識が薄れるなか、被害者役はメモに犯人の情報を残し(いわゆるダイイングメッセージですね)、後から来た刑事役がそれを読んで推理するという設定です。番組を観てみると、被害者役の芸人たち(どちらかというとボケ役が担当)は麻酔薬の投与直後からメモを書き始めるのですが、ほとんどの芸人が犯人の情報を正確に記述することができず、ほどなくして眠りに落ちていました。「麻酔を行う」必然的な理由、エクスキューズを一応は用意制作側も、何らかの非難が起こること(あるいは炎上すること)を想定していたのでしょう。健常人に「麻酔を行う」必然的な理由、エクスキューズを一応は用意していました。番組冒頭でまず、「当番組における麻酔の投与は胃カメラ検査を目的とし、医師による監修のもと安全性に配慮した上で通常の検査で行われる方法と同様に実施しております」というテロップが流れます。さらに番組内では「今回使用するのは、人間ドッグなどで用いられ、注入開始からおよそ1分ほどで意識を失う麻酔。ちなみに、ダイイングメッセージのくだりを終えた後は、実際に胃カメラ検査を実施。あくまで今回のロケは、検査のついでにロケを行わせていただきました」というナレーションも入っています。さらに司会の伊集院 光には番組内で、「あくまで胃カメラ検査をするついでに、麻酔がかかるならこういうこともやってみよう(ということ)。麻酔を悪ふざけとか遊びに使うなんてありえない」とも言わせています。学会は「厳格なガイドラインに従って静脈麻酔薬を適切に管理し、いかなる場合にも不適切な使用を避けるよう強く要請」10月17日付「Smart FLASH」の報道によれば、このエピソードは当初は7日から配信予定でしたが、6日にはAmazonプライム・ビデオの公式Xにて「諸事情により配信日が延期となりました」と発表、ようやく14日に配信されたとのことです。しかし、冒頭で書いたように日本麻酔科学会は配信からわずか2日後の10月16日、理事長名で「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」と題する声明を出しました。麻酔科学会は、マイケル・ジャクソンの死亡事故も例に挙げながら、「プロポフォールをはじめとする静脈麻酔薬は、本来、手術や検査時の鎮静を目的に、医師の厳重な管理のもとで使用されるものです。特に、これらの薬剤は呼吸抑制のリスクを伴うため、必ず人工呼吸管理が可能な環境で使用される必要があります。(中略)適切な医療管理が行われない場合、生命に危険を及ぼす可能性があります。したがって、このような麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切であり、日本麻酔科学会として断じて容認できるものではありません」と強く非難、「麻酔科医ならびに関連する医療従事者には、厳格なガイドラインに従って静脈麻酔薬を適切に管理し、いかなる場合にも不適切な使用を避けるよう強く要請いたします」としています。内視鏡検査時のプロポフォール使用については安全性に疑問も配信番組では「麻酔薬」と言っているのみで「プロポフォール」という単語は出てこないので、番組内の麻酔薬がプロポフォールであると麻酔科学会がどう確定したかは不明です。ひょっとしたら、協力した埼玉市の医療機関(実名で出てきます)に問い合わせたのかもしれません。プロポフォールは、手術時の全身麻酔や術後管理時の鎮静効果が高いことなどメリットも多く、使いやすい麻酔薬との評価がある一方で、ベンゾジアゼピン系薬剤よりも舌が落ち込んだり、血圧が低下したりするような作用が強く、管理は比較的難しいとされています。また、ICUの小児への使用に関連して、2014年に東京女子医大で重大な事故も起こっています(「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」参照)。そうしたことも、麻酔科学会が配信番組をあえて非難した理由の一つかもしれません。実際、倉原氏が指摘しているように、内視鏡検査時のプロポフォール使用はなかなか難しい問題もあるようです。日本麻酔科学会の「内視鏡治療における鎮静に関するガイドライン」ではその使用が認められている一方で、「プロポフォールによる鎮静が内視鏡室で非麻酔科医によって安全に行えるかどうかは、日本の医療現場や教育体制、現行の医療制度では明言できない」と記載されているとのことです。倉原氏は、「欧米と比較して非麻酔科医によるプロポフォール使用の教育システムが整っていないという指摘があります」と書かれています。使われていた内視鏡は経鼻内視鏡、プロポフォールによる静脈麻酔は必要だったのか?もう1点、この配信番組を観て驚いたのは、使われていた内視鏡が経鼻内視鏡だった点です。最初の“被害者”であるモグライダーのともしげに麻酔がかけられた後、経鼻内視鏡が挿入される場面があります(ほかの“被害者”ではその場面はなし)。咽頭反射が起こらないため通常の内視鏡検査よりも格段にラクな検査です。多くの医療機関で麻酔薬なしか、リドカインによる鼻腔麻酔などで行われている経鼻内視鏡の検査を行うのであれば、そもそもプロポフォールによる静脈麻酔は必要がなかったはずです。番組で伊集院 光は「麻酔を悪ふざけとか遊びに使うなんてありえない」と語っていますが、内視鏡検査が「経鼻」であったことだけでも、「悪ふざけとか遊び」であったと言えるのではないでしょうか。プロポフォールを打たれた芸人たちは、厳重な安全管理の下で麻酔をされたとは言え、不要、あるいは過剰とも言える医療を施されたわけで、その意味では本当の“被害者”だったわけです。それにしても、一番の問題は、この番組がコントとして全然面白くなかったことです。テレビ局のコンプライアンスが厳しくなり、地上波のバラエティ番組では作りたいものが作れない、と芸人がボヤいたりしています。「KILLAH KUTS」も「地上波では放送できない企画」がテーマだそうです。しかし、「コンプライアンスを守らない=過激=面白い」とはなりません。番組視聴のためにわざわざ入会したAmazonプライムの会費を返して欲しいとすら思った一件でした。参考1)静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について/日本麻酔科学会

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亜鉛欠乏でコロナ重症化リスクが上昇か/順天堂大

 亜鉛は免疫機能に重要な役割を果たす微量元素であり、亜鉛欠乏が免疫系を弱体化させる可能性があることが知られている。順天堂大学の松元 直美氏らの研究チームは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者における血清亜鉛濃度とCOVID-19の重症度との関連を調査したところ、患者の40%近くが血清亜鉛欠乏状態であり、血清亜鉛濃度が低いほど、COVID-19の重症度が高いことが判明した。本研究は、International Journal of General Medicine誌2024年10月16日号に掲載された。 本研究では、2020年4月~2021年8月にCOVID-19で入院した467例(18歳以上)を対象に、入院時の血清亜鉛濃度を測定した。血清亜鉛濃度が60μg/dL未満を欠乏、≧60~<80μg/dLを境界欠乏、80μg/dL以上を正常とした。COVID-19の重症度は、WHOの基準に基づき、軽症、中等症、重症の3段階に分類した。多変量ロジスティック回帰分析を使用し、血清亜鉛欠乏とCOVID-19の重症度の関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象者の平均年齢(SD)は、重症例(n=40)が68.1(13.0)歳、軽症/中等症例(n=427)が58.8(18.3)歳であった。性別は、重症例では男性72.5%、軽症/中等症例では男性64.6%であった。・血清亜鉛濃度の平均値(SD)は、重症例では51.9(13.9)μg/dL、軽症/中等症例では63.2(12.3)μg/dLであった。・血清亜鉛欠乏(<60μg/dL)の割合は、女性で39.5%、男性で36.4%であった。さらに、境界欠乏(≧60~<80μg/dL)は、女性で54.3%、男性で57.0%だった。・血清亜鉛欠乏は、境界欠乏および正常(≧60μg/dL)と比較して、COVID-19の重症化と有意に関連していた(調整オッズ比:3.60、95%信頼区間:1.60~8.13、p<0.01)。・COVID-19の重症度の上昇は血清亜鉛濃度の上昇と逆相関しており、血清亜鉛濃度が低いほどCOVID-19の重症度が高かった(傾向のp<0.01)。 本研究により、血清亜鉛濃度がCOVID-19の重症度と有意に関連することが示された。血清亜鉛濃度が低い患者はとくに重症化リスクが高いため、COVID-19の治療において血清亜鉛濃度を考慮することの重要性が示唆されている。

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