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米国成人の10人に6人は炎症誘発性の食生活

 米国成人の多くが、炎症を引き起こす食生活を送っていて、そのことが、がんや心臓病、その他の深刻な健康リスクを押し上げている可能性のあることが報告された。米オハイオ州立大学のRachel Meadows氏らの研究によるもので、詳細は「Public Health Nutrition」に9月27日掲載された。論文の筆頭著者である同氏によると、「米国の成人の57%が炎症を起こしやすい食生活を送っており、その割合は男性、若年者、黒人、教育歴が短い人、収入の低い人でより高かった」という。 Meadows氏らの研究には、2005~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した20歳以上の成人3万4,547人(平均年齢47.8歳、女性51.3%)のデータが用いられた。NHANESでは、過去24時間以内に摂取したものを思い出すという方法により食習慣が把握されており、その結果に基づき、エネルギー調整食事性炎症指数(energy-adjusted dietary inflammatory index;E-DII)を算出した。 E-DIIは、n-3系脂肪酸、フラボノイド、アルコール飲料、ニンニクなど、45種類の食品や栄養素の摂取量を元に算出される。結果は-9~+8の範囲にスコア化され、0未満は炎症を抑制する食事、0超は炎症を誘発する食事であることを意味する。Meadows氏は、「食事療法に際して一般的に、果物や野菜、乳製品などの食品群の摂取量、または摂取エネルギー量、脂質・タンパク質・炭水化物摂取量に基づく指導介入が行われる。しかし、炎症という視点で評価することも重要だ」と述べている。 解析対象者のE-DIIは平均0.44(95%信頼区間0.39~0.49)と0を上回り、米国成人は全体的に炎症を誘発しやすい食生活を送っていることが示された。また、全体の57%は炎症誘発性の食生活、34%は抗炎症性の食生活であり、9%はニュートラルな食生活であることが分かった。 この結果についてMeadows氏は、食事の全体的なバランスの重要性を強調し、「果物や野菜をたくさん食べていたとしても、アルコールや赤肉を取り過ぎていれば、全体的な食生活は炎症誘発性に傾いている可能性がある。健康増進の手段として、抗炎症作用のある食品に着目してほしい」と語っている。同氏によると、「ニンニク、ショウガ、ウコン、緑茶、紅茶などが抗炎症作用を有している」という。ほかにも、全粒穀物、緑黄色野菜、サーモンなどの脂肪分の多い魚、豆類、ベリー類などが抗炎症作用のある食品とされており、これらはいずれも、健康的な食事スタイルとして知られる地中海食で、積極的に摂取される食品でもある。 抗炎症性の食生活に変えることの利点としてMeadows氏は、「糖尿病、心血管疾患、さらにはうつ病やその他の精神疾患を含む、多くの慢性疾患に良い影響を与える可能性がある」と解説。また、「慢性炎症を引き起こす要因は数多くあり、それらは全て相互に影響し合っている。睡眠に問題があることも重要な要素の一つだ。それらに対抗する手段として日々の食事を活用できる」としている。

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セマグルチドで肥満のある変形性膝関節症患者の体重減少と変形性関節炎の痛みが改善するが、副作用に関する懸念が残る(解説:名郷 直樹氏)

 BMIが30を超える肥満の変形性膝関節症患者を対象にGLP1受容体アゴニスト、セマグルチドとプラセボを比較し、68週後の体重と痛みの変化を1次アウトカムにしたランダム化比較試験である1)。 体重変化について、セマグルチド群で体重減少が10.5%多く、95%信頼区間(CI)が12.3~8.6%、痛みの改善について100点満点の痛みのスコアで14.1点、95%CIで20~8.3と改善の幅が大きいことが報告されている。 61のサイトから407例が登録されているが、1施設当たりの患者数が7例以下と少なく、施設の違いが大きな交絡因子になる可能性がある。またランダム化が偶然の影響を受けやすいかもしれない。ただ、この研究では6例を単位としたブロックランダム化を採用しており、偶然の影響に対する対応がなされてはいる。しかし、実際患者背景を見ると、女性の割合や人種構成に差があり、BMIが40以上の割合がセマグルチド群で多く、喘息患者がプラセボ群で2倍というように、かなりの違いが認められる。数百人規模の試験であるために、患者背景が十分にそろっておらず、偶然の影響による交絡因子の排除に問題がある可能性が高い。 また、論文の抄録や本文において、重大な副作用に差はないと書かれているが、セマグルチド群でがんや胆道系疾患が多い傾向にある。がんについては、消化管のがんのリスク増加は認められないというメタ分析がある2)。ただ、他のがんやがん全体に関しての研究は乏しい。今後の大規模な観察研究やメタ分析の結果によっては、がんのリスク増加が報告されるかもしれない。また胆道系疾患に関しては、リスクを増すとのメタ分析も報告されており3)、注意が必要だろう。 数百人規模の研究では、数千人、数万人単位での重要な副作用を検出することはできない。さらに一般的に言えば、有効性を評価するためのランダム化比較試験は基本的にまれな副作用を検討できないということである。第III相の治験論文において、「効果と安全性が確認された」と結論に書かれる論文が多いが、有効性が統計学的に確認されたとしても、安全性の確認は不十分であるというのが妥当な結論だろう。このことからすれば、400例という単位で体重変化や痛みに対する効果が認められたとしても、安全性にはまだ懸念があるというのが現状だと思われる。 また、この論文を実際の個別の患者に適用するに当たっては、BMI40以上が40%を占める集団に対して行われた研究であることは十分考慮すべき事項だろう。日本の肥満に対する感覚はある面異常で、BMI25でも肥満というような極端な認識があり、薬剤による無用な減量によってかえって健康を害するというリスクもあるかもしれない。軽度の肥満者に対しては、効果が小さくなる可能性は高く、その分副作用とのバランスに、より配慮すべきであることも重要な視点だろう。

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11月12日 皮膚の日【今日は何の日?】

【11月12日 皮膚の日】〔由来〕日本臨床皮膚科医会が、11月12日(いい・ひふ)の語呂合わせから1989年に制定。日本皮膚科学会と協力し、皮膚についての正しい知識の普及や皮膚科専門医療に対する理解を深めるための啓発活動を実施している。毎年この日の前後の時期に一般の方々を対象に、講演会や皮膚検診、相談会行事を全国的に展開している。関連コンテンツ事例008 蕁麻疹にダイアコート軟膏の処方で査定【斬らレセプト シーズン4】軟膏じゃなかった【Dr.デルぽんの診察室観察日記】かゆみが続く慢性掻痒【患者説明用スライド】妊娠中の魚油摂取、出生児のアトピー性皮膚炎リスクは低減する?アトピー性皮膚炎へのデュピルマブ、5年有効性・安全性は?蕁麻疹の診断後1年、がん罹患リスク49%増

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レカネマブかドナネマブか?【外来で役立つ!認知症Topics】第23回

アルツハイマー病治療における新たな選択肢わが国でアルツハイマー病(AD)の疾患修飾薬として認可されたレカネマブとドナネマブのどっちがいい? 今日、これがAD治療の最前線の話題かもしれない。両者は、ADの原因物質とされてきたアミロイドを標的とする抗アミロイドβモノクローナル抗体である(図1)。図1 抗アミロイドβモノクローナル抗体が作用する仕組み画像を拡大する開発中のAD治療薬:ターゲットの新潮流ところが今日では、ADの新薬開発における主流は、このアミロイド、あるいはもう一つの老舗物質のタウから、ほかのターゲットへと移ってきている。たとえば炎症や免疫、またシナプスの可塑性と神経保護などへの薬である。とはいえ、「アルツハイマー病治療薬開発のPipeline:2024」1)が指摘するように、この種の薬剤が米国食品医薬品局に承認されるまでに、うまくいっても、基礎研究を入れると13年、臨床研究で8年弱かかる。だから当面はアミロイドとタウを標的とする薬剤の効果的な使い方が臨床現場の最大課題になるだろう。歴史的にみると、本疾患の名付け親のアロイス・アルツハイマー博士は、看取ったアウグステという女性の若年性AD患者の死後、脳を剖検した。その結果、この疾患の主要な病理所見は、アミロイドを主成分とする老人斑とタウが主成分の神経原線維変化(NFT)だとした。以来、治療薬開発においてアミロイドとタウが主流にあった。なおAD脳では、老人斑が出現した後に神経原線維変化が現れる。だから理論的には、病初期にアミロイドを消滅させればNFTも生じないはずである。ところが従来の研究的治療では、アミロイドを消してもADは進行した。どうもアミロイドはこの病気の火付け役であって、ほかにも悪役達がいると考えられるようになった。だから炎症や免疫、シナプスの可塑性や神経保護等に注目する創薬へシフトしたと言うこともできる。レカネマブとドナネマブの比較ポイントさて本題のレカネマブかドナネマブかを論じるうえでのポイントは、まずは効果、そして最大の副作用ARIA(脳血管周囲の浮腫と出血)の発生率だろう。またいずれも医療機関で点滴投与するだけに、投与頻度は大きな問題である。さらに作用機序の異同に注目する人も多い。効果の指標は、図2のように症状の軽減率と病気進行を遅らせる期間に要約されるだろう。レカネマブでは軽減率27%、期間7.5ヵ月2)、またドナネマブでは28.9%、5.4ヵ月3)とされる。ほぼ互角といってよい。副作用ARIAは、レカネマブで脳の浮腫や滲出液貯留(ARIA-E)が12.6%、微小出血(ARIA-H)が17.3%認められた。ドナネマブではARIA-Eが24.0%、ARIA-Hは31.4%であった。これについてはレカネマブが優れているかもしれない。投与方法はいずれも点滴であり、前者は2週間に1度、後者は4週間に1度である。これについて多くの人はドナネマブを好むだろう。図2 効果の指標:症状の軽減率と病気進行を遅らせる期間画像を拡大するアミロイドβターゲットの違いレカネマブとドナネマブのターゲットの違いは図3のとおりだ。アミロイド、とくにアミロイドβは、初めは小さなかたまり(凝集体)だが、だんだんと大きな老人斑へと成長する。かたまりの大きさに応じて、モノマーとかオリゴマーなど「プロトフィブリル」と総称される初期の段階を経て、最終的に老人斑として沈着する。レカネマブはプロトフィブリルと、より大きなアミロイド斑とに結合するとされる。一方ドナネマブは、脳に沈着後にある程度の時間が経ち「ピログルタミル化」という修飾がなされたアミロイド斑に選択的に結合する。図3 レカネマブとドナネマブのターゲット画像を拡大するさて、アミロイドが神経細胞に対して持つ毒性は、老人斑にあるのではない。その比較的初期の段階に最も毒性が強いとされる。それならレカネマブのほうがより効果は強いのではないかと思える。ところが実際には、効果はまあ互角である。これに関しては、臨床の場では、まだ知られていない作用や効果の関与があるのかもしれない。今後のAD治療の展望終わりに、AD治療薬の開発もその普及も容易ではない。たとえば、ドネペジルに先んじて1993年にAD治療薬の嚆矢となったコリンエステラーゼ阻害薬tacrineは肝毒性のためすぐに発売後すぐに市場から消えた。また世界初の疾患修飾薬aducanumabは、2024年1月31日、製造も治験も中止になってしまった。これからのAD治療において、疾患修飾薬への一辺倒にはならないだろうと思う。実際、両方の薬剤の治験では、ドネペジルなど既存の対症療法薬も併用されたケースが多かった。既存薬は残存神経細胞にいわば「喝!」を入れ、疾患修飾薬は病気の進行に「歯止め」をかけるものだろう。だから基本方針は、対症療法と病気進行阻止の両者を併用することだろう。心配される併用による副作用だが、両薬剤の治験において、そのような副作用は聞いていない。今後は、臨床の場では、併用による相乗効果をもたらすような投与法のさじ加減が注目されるだろう。参考1)Cummings J, et al. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimers Dement (N Y) . 2024;10:e12465.2)van Dyck CH, et al. Lecanemab in Early Alzheimer's Disease. N Engl J Med. 2023;388:9-21.3)Sims JR, et al. Donanemab in Early Symptomatic Alzheimer Disease: The TRAILBLAZER-ALZ 2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;330:512-527.

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英語で「念のために」は?【1分★医療英語】第156回

第156回 英語で「念のために」は?《例文1》Let's give it another week, just to be on the safe side.(念のため、もう1週間様子を見ましょう)《例文2》I need to take an X-ray, just to be on the safe side and make sure there's no fracture.(念のため、骨折がないか確認するのにレントゲンを撮りたいと思います)《解説》“just to be on the safe side”は直訳すると「安全な側にいるようにするために」となり、「起こりうる問題を避けるために何かをする」というニュアンスを表現する言葉です。医療現場で、見逃すと致死的になる疾患などを除外するため検査を行いたいときなどによく使う表現です。「念のために」を表すほかの表現としては、“just in case”や“just to be sure”などといったフレーズがあります。安全策のために、本来行うべきことよりも過剰に検査や治療を行うことを表す表現としては、“to make sure we are not missing anything”(何か見落としがないか確認するために)や、“I’d rather be safe than sorry.”(後悔するくらいなら安全策を取るべきです)などがあります。講師紹介

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第240回 ウイルス学者が自身の乳がんを手ずから精製したウイルスで治療

50歳の女性科学者が研究室で手ずから作ったウイルスで自身の乳がんを治療し、成功しました。クロアチアのザグレブ大学のBeata Halassy氏は2016年に乳がんと診断され、その2年後の2018年にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)を再発します。さらに2020年にはかつて乳房切除したところの最初は小さかった漿液腫が直径2cmの固形腫瘍へと進展して、2回目の再発に直面しました1)。MRI/PET-CT検査で転移やリンパ節への移行は認められなかったものの、腫瘍は胸筋や皮膚に達していました。Halassy氏はその再発も手に余るTNBCであろうと覚悟し、がん細胞を死なせ、抗腫瘍免疫を促す腫瘍溶解性ウイルスに似たウイルスを腫瘍へ投与する治療をする、と彼女を診る腫瘍科医に告げました。腫瘍溶解性ウイルス治療(OVT)の経過を観察することを腫瘍科医は了承し、有害事象や腫瘍進展の際にOVTを止めて定番療法が始められるようにしました。OVTの臨床試験は進行した転移を有するがんをもっぱら対象としてきましが、転移前のがんを対象とする開発も始まっています。たとえば、転移前の乳がんのOVT込み術前治療を検討した第I/II相試験で奏効率向上効果が示唆されています2)。Halassy氏はOVTの専門家ではありませんが、ウイルスの培養や精製の経験はOVT治療の実行の自信となりました。Halassy氏はかつて研究で扱ったことがある2つのウイルスを順番に自身のがんに投与しました。その1つは小児ワクチン接種で安全なことが知られる麻疹ウイルス(MV)のエドモンストンザグレブ株です。もう1つは副作用といえばせいぜい軽いインフルエンザ様症状を引き起こすぐらいで、ヒトにほとんど無害な水疱性口内炎ウイルス(VSV)のインディアナ株です。MVは乳がんで豊富に発現する分子2つを足がかりにして細胞に侵入し、VSVはマウスでの検討で乳がん阻止効果が認められています。Halassy氏の共同研究者はHalassy氏が準備したそれらウイルスをHalassy氏の腫瘍に2ヵ月にわたって直接注射しました。幸いOVTはうまくいき、もとは2.47cm3だった腫瘍は0.91cm3へと大幅に縮小しました。硬すぎて注射針を刺すのが極めて困難だった腫瘍は、治療後にやわ(softer)になって容易に注射できるようになりました1)。また、侵襲していた胸筋や皮膚から離脱し、手術で取り除きやすくなりました。全身の副作用といえば発熱と寒気ぐらいで、深刻な副作用は認められませんでした。取り出した腫瘍を調べたところ、免疫細胞のリンパ球が腫瘍塊の45%を占めるほどにがっつり侵入しており、リンパ球と線維組織が豊富で腫瘍細胞が見当たらない部分もありました。そのような豊富な線維化は昔ながらの術前化学療法での完全寛解後にしばしば認められます。どうやらOVTは目当ての効果を発揮して免疫系の攻撃を導いたようです。取り出した腫瘍にHER2が認められたことからHalassy氏は手術後に抗HER2抗体トラスツズマブを1年間使用しました。そして手術後に再発なしで45ヵ月を過ごすことができています。数多のジャーナルが掲載拒否Halassy氏の手ずからのウイルス治療の報告は十数ものジャーナルに却下された後、今夏8月にようやくVaccines誌に掲載されました。Halassy氏の自己治療(self-experimentation)の掲載を拒否したジャーナルの倫理上の懸念は意外なことではないとの法と医学の専門家Jacob Sherkow氏の見解がNattureのニュースで紹介されています3)。掲載したら患者が定番の治療を拒んでHalassy氏のような治療を試すことを促してしまうかもしれないということが問題なのだとSherkow氏は言っています。一方、自己治療の経験が埋没しないようにする手立ても必要だとSherkow氏は考えています。Halassy氏もSherkow氏が指摘するような心配は心得ており、がんの最初の治療手段として腫瘍溶解性ウイルスを自己投与してはいけないと言っています1)。そもそも、実行には多大な科学的素養と技術を要する自身の治療を真似ようとする人はいないだろうとHalassy氏は踏んでいます。Halassy氏が望むのは、自身の経験ががんの術前治療でのOVTの使用を検討する正式な臨床試験が進展することです。いまやHalassy氏の経験から新たな道が生まれようとしています。この9月にHalassy氏は家畜のがんを腫瘍溶解性ウイルスで治療する取り組みへの資金を手に入れました3)。目指すものが自身の自己治療の経験によってまったく違うものになったとHalassy氏は言っています。参考1)Forcic D, et al. Vaccines (Basel). 2024;12:958. 2)Soliman H, et al. Clin Cancer Res. 2021;27:1012-1018.3)This scientist treated her own cancer with viruses she grew in the lab / Nature

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第2世代抗精神病薬治療104週間の最終治療結果〜国内JUMPs試験

 CNS薬理研究所の石郷岡 純氏らは、アリピプラゾール、ブロナンセリン、パリペリドンの104週間自然主義的研究である統合失調症に対する有用な薬物治療プログラム(JUMPs)試験の最終結果を報告した。BMC Psychiatry誌2024年9月5日号の報告。 本研究は、日本のリアルワールドにおける、第2世代抗精神病薬(SGA )3剤(アリピプラゾール、ブロナンセリン、パリペリドン)の長期的な有用性を検討するためのオープンラベル多施設共同ランダム化平行群間比較試験として実施された。対象は、抗精神病薬による治療または切り替えによる治療を必要とした20歳以上の統合失調症患者。主要エンドポイントは、104週にわたる治療中止率とした。副次的エンドポイントには、寛解率、個人的・社会的機能遂行度尺度(PSP)、安全性、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、QOL(EuroQol-5 dimension[(EQ-5D])を含めた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は、合計251例(アリピプラゾール:82例、ブロナンセリン:85例、パリペリドン:84例)。・104週時点での治療中止率に、有意な差は認められなかった(p=0.2385)。【アリピプラゾール】80.5%【ブロナンセリン】81.2%【パリペリドン】71.4%・寛解率(アリピプラゾール:42.9%、ブロナンセリン:46.7%、パリペリドン:45.8%)、PANSS、安全性などのエンドポイントも、同等であった。・全体コホートでは、104週目のPSP合計スコアの改善は、ベースラインと有意な違いが認められなかったが、104週目のQOLおよびPANSS合計スコア(すべてのサブスケールを含む)は、ベースラインと比較し、有意な改善が認められた(p<0.05)。・多変量解析では、治療中止の予測因子として、単剤療法切り替え前の罹病期間の短さおよびクロルプロマジン換算量1,000mg以上が確認された。 著者らは「104週の治療中止率は、アリピプラゾール、ブロナンセリン、パリペリドンで同等であった。寛解率、安全性、QOLなどの全体的な改善傾向は、治療継続において重要なポイントであることが示唆された」と結論付けている。

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限局型小細胞肺がんへのデュルバルマブ地固め、日本人でも有効(ADRIATIC)/日本肺学会

 限局型小細胞肺がん(LD-SCLC)患者を対象とした国際共同第III相無作為化比較試験「ADRIATIC試験」の第1回中間解析において、同時化学放射線療法(cCRT)後のデュルバルマブ地固め療法が全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが報告されている1)。本試験の日本人サブグループ解析の結果について、善家 義貴氏(国立がん研究センター東病院)が第65回日本肺学会学術集会で発表した。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:I~III期(I/II期は外科手術不能の患者)でPS0/1のLD-SCLC患者のうち、cCRT後に病勢進行が認められなかった患者730例(PCIの有無は問わない)・試験群1(デュルバルマブ群):デュルバルマブ(1,500mg、cCRT後1~42日目に開始して4週ごと)を最長24ヵ月 264例(日本人19例)・試験群2(デュルバルマブ+トレメリムマブ群):デュルバルマブ(同上)+トレメリムマブ(75mg、cCRT後1~42日目に開始して4週ごと)を最長24ヵ月 200例・対照群(プラセボ群):プラセボ 266例(日本人31例)・評価項目:[主要評価項目]OS、RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS(いずれもデュルバルマブ群vs.プラセボ群)[副次評価項目]OS、RECIST v1.1に基づくBICRによるPFS(いずれもデュルバルマブ+トレメリムマブ群vs.プラセボ群)、安全性など 今回は、デュルバルマブ群とプラセボ群の比較結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・日本人集団ではデュルバルマブ群で高齢の割合が高く、65歳以上の割合はデュルバルマブ群74%、プラセボ群39%であった。cCRT時のプラチナ製剤(シスプラチン/カルボプラチン)はデュルバルマブ群、プラセボ群でそれぞれ95%/5%、87%/13%であり、放射線照射の回数(1日1回/1日2回)はそれぞれ11%/89%、0%/100%であった。・日本人集団において24ヵ月の治療を完了した割合は、デュルバルマブ群52.8%(グローバル全体のITT集団:33.5%)、プラセボ群35.5%(同:26.4%)であった。病勢進行による治療中止はそれぞれ21.1%(同:46.0%)、48.4%(同:58.1%)に認められ、デュルバルマブ群が少ない傾向にあった。・日本人集団におけるOS中央値は、デュルバルマブ群が未到達(グローバル全体のITT集団:55.9ヵ月)、プラセボ群が44.9ヵ月(同:33.4ヵ月)であった(ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.24~1.62)。・日本人集団におけるBICRによるPFS中央値は、デュルバルマブ群が44.2ヵ月(グローバル全体のITT集団:16.6ヵ月)、プラセボ群が29.4ヵ月(同:9.2ヵ月)であった(HR:1.05、95%CI:0.44~2.36)。・日本人集団における治験担当医師評価によるPFS中央値は、デュルバルマブ群が44.2ヵ月(グローバル全体のITT集団:16.1ヵ月)、プラセボ群が19.7ヵ月(同:9.2ヵ月)であった(HR:0.68、95%CI:0.28~1.51)。・日本人集団におけるGrade3/4の有害事象は、デュルバルマブ群21.1%(4/19例)、プラセボ群19.4%(6/31例)に発現した。投与中止に至った有害事象はそれぞれ21.1%(4/19例)、9.7%(3/31例)、免疫関連有害事象はそれぞれ47.4%(9/19例)、12.9%(4/31例)に発現した。・日本人集団における肺臓炎/放射線肺臓炎はデュルバルマブ群52.6%(10/19例)、プラセボ群45.2%(14/31例)に発現し、そのうち治療中止に至ったのはそれぞれ3例、2例であった。 本結果について、善家氏は「cCRT後のデュルバルマブ地固め療法は、日本人集団においても臨床的に意義のあるOSの改善を示した。BICRによるPFSは、日本人集団においてはデュルバルマブ群とプラセボ群で同様であったが、治験担当医師評価によるPFSはデュルバルマブ群で良好な傾向にあった。新たな安全性に関するシグナルは認められず、良好なベネフィット/リスクプロファイルを示した。以上の結果は、cCRT後のデュルバルマブ地固め療法が、日本人においてもLD-SCLCに対する新たな標準治療となることを支持するものである」とまとめた。

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40歳未満の2型糖尿病、合併症と死亡率は?~最長30年の前向き調査

 新たに2型糖尿病と診断された患者を前向きに最長30年間追跡した調査において、40歳未満で診断された患者は、40歳以上で診断された患者に比べて糖尿病関連合併症の発症や死亡のリスクが高く、血糖コントロールが20年にわたって不良であることが、オーストラリア・シドニー大学のBeryl Lin氏らによって明らかになった。Lancet Diabetes & Endocrinology誌オンライン版2024年10月23日号掲載の報告。 これまでの研究によって、若年成人期に発症した2型糖尿病は、β細胞機能の劣化が早く、心血管系疾患や腎症などの合併症リスクが大きいことが示唆されているが、若年成人の2型糖尿病に特化した前向きコホート研究はほとんどない。そこで研究グループは、40歳未満と40歳以上で診断された2型糖尿病患者の合併症の発症率や死亡率を比較するために調査を実施した。 本研究では、英国糖尿病前向き研究(UKPDS)の追跡調査データ(追跡期間中央値:17.5年、範囲:0.31~30.0年)を用いた。対象は、新たに2型糖尿病と診断された25~65歳の患者であった。英国の一般集団のデータを用いて標準化死亡比(SMR)を算出し、ポアソン回帰モデルを使用して診断時の年齢グループ(10歳間隔)別の糖尿病関連の合併症や死亡の発生率を分析した。 主な結果は以下のとおり。●UKPDS試験に登録された5,102例の2型糖尿病患者のうち、糖尿病関連自己抗体が陰性であった4,550例を本研究の対象とした。40歳未満群は429例(9.4%)で年齢中央値は35.1歳、40歳以上群は4,121例(90.6%)で年齢中央値は53.8歳であった。●7万4,979人年の追跡期間中に2,048例が死亡した。粗死亡率は年齢が若い40歳未満群のほうが40歳以上群よりも低かったが、一般集団と比較したSMRは40歳未満群のほうが高かった。 ・40歳未満群のSMR:3.72、95%信頼区間(CI):2.98~4.64 ・40歳以上群のSMR:1.54、95%CI:1.47~1.61●診断時の年齢グループでさらに層別化すると、24~35歳で2型糖尿病と診断された最年少グループのSMRが最も高く、診断時の年齢が上がるにつれて低下した。 ・25~35歳診断のSMR:3.85、95%CI:2.62~5.66 ・36~45歳診断のSMR:2.46、95%CI:2.13~2.84 ・46~55歳診断のSMR:1.74、95%CI:1.61~1.87 ・56~65歳診断のSMR:1.39、95%CI:1.31~1.48●どの年齢においても、糖尿病関連エンドポイント(合併症、死亡)、全死因死亡、微小血管疾患、心筋梗塞の5年発症率は診断時年齢が若いほど高かった。●40歳未満群では、追跡期間の最初の20年間の年間平均HbA1cが40歳以上群よりも高かった。●血糖コントロール目標(強化血糖コントロールまたは従来の血糖コントロール)は上記の関連に有意な影響を与えなかった。

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固形がんにMRD検査は有用か?学会がガイダンスを作成/日本治療学会

 日本治療学会は、固形がんを対象に、がん種横断的にMRD検査の最新エビデンスを集め、検査の適正利用・研究を目指すことを目的としたガイダンス「分子的残存病変(molecular residual disease:MRD)検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」(日本治療学会:編、日本臨床腫瘍学会・日本外科学会:協力)を作成し、2024年10月に学会サイト上で公開した。※MRDの概念は複数あり、Pubmedでも以下の3つの名称が混在するが、今回のガイダンスにおけるMRDは2の概念に基づくもの。 1.Minimally Residual Disease…血液腫瘍における定義(現在のMRD関連論文の4分の3を占める) 2.Molecular Residual Disease…近年のctDNAに基づく、分子レベルの残存病変 3.Measurable Residual Disease…定量的に測定可能な残存病変 MRDは、抗がん剤の投与などにより一定の治療効果が確認された後も患者の体内に残る微小なレベルのがん病変を指す。もともとは造血器腫瘍における研究が先行しており、2024年4月には米国食品医薬品局(FDA)の委員会がMRDを多発性骨髄腫の臨床開発のエンドポイントとすることを認めるなど、研究・臨床への応用が進む。固形がんにおいても、血液を用いたリキッドバイオプシー検査の臨床導入を契機に、大腸がんなどを中心にMRD評価による再発リスク層別化を検証する臨床試験が多数行われ、臨床応用や保険承認を目指す流れができつつある。今回の見解書(ガイダンス)もこのような背景から作成されたものだ。 ガイダンスは以下の構成となっている。―――――――――――――――――――・総論:ctDNA、MRDについて、MRD検査に関する国内外のガイドライン記載・各論:各領域の臨床動向(消化管、肺、乳腺、泌尿器、肝胆膵、婦人科、頭頸部、皮膚)・クリニカル・クエスチョン(CQ1~9)・参考資料――――――――――――――――――― ガイダンス公開と同時期に行われた第62回日本治療学会学術集会(10月24~26日)では、「MRDがもたらす切除可能固形がん周術期治療の近未来―切除可能固形がんにおけるMRD利用ガイダンス発刊に寄せて」と題したシンポジウムが行われ、ガイダンスの作成ワーキンググループの委員が、ガイダンスに収載されたエビデンスや各領域における検査実施や応用の現状を報告した。 MRDに関するエビデンスが蓄積してきた造血器腫瘍領域と異なり、固形がん領域におけるMRD検査の臨床応用は道半ばだ。シンポジウムではMRD検査活用に対する「賛成派」「反対派」の立場に分かれ、ディスカッションを行った。賛成派がこれまで報告された研究結果を基に有用性を示す一方で、反対派は「がん種ごとに検出率が異なり、臓器横断的に利用できるのかは疑問」「複数のアッセイがあり、精度の検証や最適化がされていない」「膵がんのような予後の悪いがんでは、MRD陰性の中にも再発ハイリスク層が存在する。MRD陰性を理由とした治療中止に本当にベネフィットはあるか」「MRDの結果だけで患者を層別化するのは、個別化医療の流れに反するのでは」といった、現時点における疑問点や課題点を挙げた。 また、各領域の報告では、がん種ごとに重要なサブタイプと判定すべき時期・検査が異なるためMRD検査の実施判定が難しい、すでに確立されたバイオマーカーがありMRD検査の必要性が薄いなど、MRD検査に対するスタンスに違いも見られた。 最後にワーキンググループ委員長を務める小林 信氏(国立がん研究センター東病院)が、ガイダンスに掲載された9つのクリニカルクエスチョン(CQ)から5つを紹介した。CQ1:術後MRD検査には、どのようなアッセイが推奨されるか?推奨1-1:MRD検査として分析的妥当性及び臨床的妥当性が示された検査を強く推奨する。→「臨床的妥当性」がキーワードで、これはMRD検査の感度・特異度や的中率、陽性患者と陰性患者の予後の比較、MRD検出から再発までの期間などにより評価される。これらの指標が適切な臨床試験で示されているアッセイの利用を「強く推奨する」。CQ2:どのような症例を対象にMRD検査を行うことが推奨されるか?推奨2-1:術後再発リスク評価を目的として、根治的切除が行われている症例を対象にMRD検査を行うことを強く推奨する。→MRD検査は、がん患者を対象に低侵襲にctDNAを解析し、再発の証拠がある前に分子的再発を特定する検査である。従って、基本的に根治的切除が行われている症例が対象となる。具体的ながん種、Stageに関しては、適切な研究により臨床的妥当性を示すことが必要である。たとえば、大腸がんに関してはCIRCULATE-JapanによるGALAXY試験によってStageを問わず陽性例の再発リスクが高いことが示されているため、根治切除後の全症例が推奨の対象となる。一方、再発サーベイランスに関しては、がん種・Stageごとのリスクを考慮し、低リスク症例に高コストのMRD検査を続けることは望ましくないだろう。CQ4:MRD検査はいつ行うことが勧められるか?推奨4-2:術後再発リスクを目的とする場合、術後補助療法開始前且つ術後2~8週を目安としたMRD検査を推奨する。→MRD検査は術後再発リスクを評価し、術後の補助療法の適用を判断することが主な目的であり、検査実施は術後2~8週間が妥当とした。この根拠は、手術直後は侵襲の影響でctDNAが高値となり、術後2週以降に標準化することだ。あとはがん種ごとのガイドラインにおける術後補助療法の開始時期から逆算し、検査を実施することになるだろう。CQ6:術後MRD陽性の患者に対して、術後補助療法は推奨されるか?術後MRD陽性の患者に対して、各がん種に応じた術後補助療法を行うことを推奨する。→MRDが消失すると予後が良い、MRD陽性例に術後補助療法を行うと予後が良い、というエビデンスが、がん種横断的に示されている。ただ、こうしたデータは再発高リスク例を対象とした後ろ向き研究が多いことには注意が必要だ。MRD陽性・再発低リスク例に対する補助療法の有用性を示したエビデンスはなく、この点はがん種ごとにガイドラインの推奨も異なり、委員間で意見の相違もあった。CQ8:術後MRD陰性の患者に対して、術後補助療法は推奨されるか?術後MRD陰性の患者に対しても、各がん種に応じた術後補助療法を行うことを考慮する。ただし腫瘍因子・患者因子などを考慮して治療強度の低いレジメンの適用や術後補助療法を行わないことも選択肢となりうる。→大腸がんを対象としたDYNAMIC試験では、MRD陰性例であっても病理学的因子の不良例は有意に予後が悪いという結果が示されるなど、MRD陰性の結果だけで術後補助療法の省略・簡略化を決めることは難しい。ただ、がん種によってはMRD陰性例における術後観察群の経過が良好という報告もあり、このような推奨となった。現在進行中の大腸がんを対象にMRD陰性例の術後補助療法の有無を比較したVEGA試験の結果などを見て、再度検討することになるだろう。「MRD検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」/日本治療学会

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冠動脈血行再建術のガイド、QFRは支持されず/Lancet

 中等度の冠動脈狭窄を有する患者の血行再建術を決定するガイドとして、1年後の臨床アウトカム(死亡、心筋梗塞、予定外の血行再建術)に関し、定量的流量比(QFR)は心筋血流予備量比(FFR)に対して非劣性の基準を満たさず、FFRが利用可能な場合はQFRの使用は支持されないことが、デンマーク・オーフス大学のBirgitte Krogsgaard Andersen氏らが実施した「FAVOR III Europe試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2024年10月30日号で報告された。欧州11ヵ国の無作為化非劣性試験 FAVOR III Europe試験は、侵襲的冠動脈造影中に冠動脈へのプレッシャーワイヤーの留置を要するFFRに対して、これを必要としないQFRの非劣性の検証を目的とする非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2018年11月~2023年7月に欧州11ヵ国34施設で患者を登録した(Medis Medical Imaging Systemsなどの助成を受けた)。 年齢18歳以上、慢性冠症候群または安定化した急性冠症候群で、少なくとも1つの中等度の非責任病変(肉眼的評価で直径40~90%の狭窄)を有する患者を対象とした。 被験者を、QFRガイドを受ける群またはFFRガイドを受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、12ヵ月時点での死亡、心筋梗塞、予定外の血行再建術の複合とした。非劣性マージンは3.4%に設定し、主解析はITT集団で行った。死亡、心筋梗塞、予期せぬ血行再建術も多い傾向 2,000例を登録し、QFR群に1,008例、FFR群に992例を割り付けた。全体の年齢中央値は67.3歳(四分位範囲[IQR]:59.9~74.7)で、462例(23.1%)が女性であった。1,941例中1,300例(67.0%)が慢性冠症候群、641例(33.0%)が急性冠症候群であった。手技成功率はQFR群96.9%、FFR群96.4%で、全体の追跡期間中央値は365日(IQR:365~365)だった。 12ヵ月の時点で、主要エンドポイントのイベントはQFR群の67例(6.7%)、FFR群の41例(4.2%)で発生した(ハザード比[HR]:1.63、95%信頼区間[CI]:1.11~2.41)。イベント発生割合の差は2.5%(90%CI[両側]:0.9~4.2)であり、90%CIの上限値が事前に規定された非劣性マージン(3.4%)を上回っており、QFRのFFRに対する非劣性の基準は満たされなかった。 死亡は、QFR群14例(1.4%)、FFR群11例(1.1%)で発生した(HR:1.25、95%CI:0.57~2.76)。また、心筋梗塞はそれぞれ37例(3.7%)および20例(2.0%)で発生し(1.84、1.07~3.17)、予定外の冠動脈血行再建術は33例(3.3%)および24例(2.5%)で行われた(1.36、0.81~2.30)。手技関連有害事象は18例ずつに 手技関連の有害事象は各群18例(1.8%)で発現した。最も頻度の高い手技関連有害事象は手技関連心筋梗塞であり、QFR群で10例(1.0%)、FFR群で7例(0.7%)に認めた。QFR群の1例が手技関連の腎不全により死亡した。 著者は、「QFRは、最近、欧州心臓病学会(ESC)のクラス1Bの適応を得たが、本研究の知見では、FFRが使用可能な状況においては、QFRはFFRの合理的な代替法ではない可能性があり、QFRの診断能を改善するためにさらなる開発を進める必要がある」としている。

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高リスクIgA腎症へのatrasentan、重度蛋白尿を改善/NEJM

 IgA腎症で重度の蛋白尿を有する患者は、腎不全の生涯リスクが高いとされる。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J.L. Heerspink氏らALIGN Study Investigatorsは「ALIGN試験」において、IgA腎症患者の治療ではプラセボと比較してエンドセリンA受容体の選択的拮抗薬atrasentanは、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある蛋白尿の減少をもたらし、有害事象の発現は両群で大きな差はないことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年10月25日号で報告された。国際的な第III相無作為化試験の中間解析 ALIGN試験は、20ヵ国133施設で実施した第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年3月~2023年4月に患者を登録した(Novartisの助成を受けた)。 年齢18歳以上、生検で証明されたIgA腎症で、尿中総蛋白排泄量が1日1g以上、推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2以上の患者を対象とした。被験者を、atrasentan(0.75mg/日)またはプラセボを132週間投与される群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、ベースラインから36週目までの24時間尿蛋白-クレアチニン比の変化率とし、患者登録開始から270例のデータを、事前に規定された中間解析において評価した。6週目には明らかな差 340例を登録し、このうち最初の270例を2つの群に135例ずつ割り付けた。270例の平均年齢は44.9歳、41.1%が女性であった。IgA腎症の平均罹患期間は5.6年、平均eGFRは58.9mL/分/1.73 m2、24時間尿蛋白-クレアチニン比中央値は1,433であり、98.5%の患者がACE阻害薬またはARBを使用していた。 ベースラインと比較した36週目の尿蛋白-クレアチニン比の幾何平均変化率は、プラセボ群が-3.1%であったのに対し、atrasentan群は-38.1%であり、幾何平均群間差は-36.1%ポイント(95%信頼区間[CI]:-44.6~-26.4)と有意差を認めた(p<0.001)。 6週目には、プラセボ群と比較して、atrasentan群における尿蛋白-クレアチニン比の減少が明らかとなり、この状態が36週目まで持続した。投与中止に至る体液貯留はなかった 36週の時点でのベースラインからの血圧の平均(±SD)変化量は、atrasentan群で収縮期が-3.94±11.90mmHg、拡張期は-4.25±8.96mmHgであり、プラセボ群ではそれぞれ2.67±12.25mmHgおよび2.25±10.70mmHgであった。また、36週目の体重の平均変化量はatrasentan群で-0.2±2.8kg、プラセボ群で-0.1±3.0kgだった。 2つの群で有害事象の発現率に大きな差はなかった(atrasentan群82.2% vs.プラセボ群84.7%)。頻度の高い有害事象は、COVID-19(20.7% vs.21.8%)、鼻咽頭炎(10.1% vs.5.9%)、末梢浮腫(8.9% vs.6.5%)であった。とくに注目すべき有害事象としては、体液貯留がatrasentan群11.2%、プラセボ群8.2%で報告されたが、試験薬の投与中止には至らなかった。また、明らかな心不全や重度の浮腫は発生しなかった。 著者は、「本試験で得られたatrasentanの有益性のデータは、対象が高リスクの患者集団(適切な支持療法にもかかわらずベースラインの尿中総蛋白排泄量が1日1g以上)で、安全性と副作用プロファイルが良好であったことを考慮すると、臨床的に意義のあるものと考えられる」としている。

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手術後の音楽療法は患者の回復を早める

 手術後には音楽を聞くことで回復が早まるかもしれない。米カリフォルニア州北部医科大学外科分野教授のEldo Frezza氏らによるシステマティックレビューとメタアナリシスで、手術後の音楽療法により患者の不安や痛みが軽減し、心拍数の増加が抑制され、鎮痛薬の使用量も少なく済むことが示唆された。この研究結果は、米国外科学会臨床会議(ACS Clinical Congress 2024、10月19〜22日、米サンフランシスコ)で発表された。 Frezza氏は、「手術後に目を覚ました患者の中には、ひどくおびえていて、自分がどこにいるのか分からない人がいる」と話す。そして、「音楽は、覚醒してから平常の状態に戻るまでの移行を円滑に進め、移行に伴うストレスを軽減するのに役立つ可能性がある」と述べている。 この研究でFrezza氏らは、3つの論文データベースを用いて、「音楽」「騒音」「手術後」「手術」「転帰」「回復」のキーワードで検索を行い、該当論文のシステマティックレビューを実施した。その後、基準を満たした35件の研究の結果を基にメタアナリシスを行い、手術後の音楽療法が患者の転帰に及ぼす影響を検討した。 痛みに対する音楽療法の効果について報告していた研究は27件で、そのうちの19件で有意な軽減が確認されていた。患者が感じる痛みを数字で評価する指標であるヌーメリックレイティングスケール(numeric rating scale;NRS)による評価では約19%の減少、視覚的アナログスケール(VAS)による評価では約7%の減少が認められた。 不安に対する音楽療法の効果については7件の研究で検討されており、そのうちの4件で有意な減少が確認されていた。不安レベルは、状態-特性不安尺度(STAI)で評価されており、音楽療法を受けることで患者の自己報告による不安レベルは2.508点、つまり約3%減少したことが示されていた。 鎮痛薬の使用量に対する音楽療法の効果については5件の研究で検討されており、そのうちの2件で使用量が有意に少ないことが示されていた。それらの結果によると、音楽療法を受けた患者のモルヒネの使用量は、音楽療法を受けなかった患者の半分以下であったという。 心拍数に対する音楽療法の効果については10件の研究で検討されており、そのうちの6件で低下が示されていた。それらの結果によると、音楽療法を受けた患者では受けなかった患者に比べて、心拍数が4.565回/分少なかった。研究グループは、この心拍数の低下は重要だと指摘する。なぜなら、健康的な心拍数を維持することで、酸素や栄養素が体全体を効率よく循環し、特に手術を受けた部位の回復が促されるからだ。一方、心拍数が100を超える頻脈は、心房細動などの異常な心拍リズムを引き起こす可能性があり、命が危機にさらされることがあると指摘している。 研究グループの一員である、カリフォルニア州北部医科大学のShehzaib Raees氏は、「この研究により、手術後の音楽療法により痛みがどの程度減ったのかを具体的に示すことはできないが、患者自身が痛みの軽減を感じていることは明らかになった。これは、実際に痛みが減るのと同じくらい重要なことだとわれわれは考えている」と話す。Frezza氏は、「あるジャンルの音楽が他のジャンルの音楽より優れているということはない。音楽は一般に心を慰め、慣れ親しんだ場所にいるような気分にさせてくれる。それが、手術後の患者にさまざまな形で役立つ可能性があるとわれわれは考えている」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第216回 マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省マイコプラズマ肺炎の感染拡大が続いている。国立感染症研究所の発表によると、10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は2.49人で、5週連続で過去最多を更新した。都道府県別では、愛知県の5.4人が最も多く、次いで福井県(5.33人)、青森県(5.0人)、東京都(4.84人)、埼玉県(4.67人)と続いている。マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ細菌による呼吸器感染症で、咳や発熱が主な症状。子供や若者に多くみられるが、大人も感染する可能性がある。厚生労働省は、咳が長引くなどの症状がある場合は医療機関を受診するよう呼びかけている。また、感染拡大防止のため、手洗い、マスク着用などの基本的な感染対策を徹底するよう促している。一方、手足口病も依然として高止まりが続いている。10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は8.06人で、警報レベル(5.0人)を超えている。手足口病は、主に乳幼児がかかるウイルス性の感染症で、発熱や口内炎、手足の発疹などが主な症状。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、接触感染。厚労省は、手足口病の流行状況を注視し、引き続き予防対策の徹底を呼びかけている。参考1)全数把握疾患、報告数、累積報告数、都道府県別(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎が5週連続で過去最多 手足口病も高止まり 感染研(CB news)3)マイコプラズマ肺炎が猛威=感染者、4週連続で過去最多更新-厚労省「手洗い、マスク着用を」(時事通信)2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省2026年度から始まる新たな地域医療構想に向け、厚生労働省は病院機能報告制度の具体化を進めている。11月8日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、地域ごとに整備する4つの機能と広域的な機能を担う大学病院本院の機能が提示された。地域ごとの機能は、(1)高齢者救急等機能、(2)在宅医療連携機能、(3)急性期拠点機能、(4)専門等機能(リハビリや専門性の高い医療など)となっており、1つの医療機関が複数の機能を併せ持つこともあり得るとされた。広域的な機能を担う大学病院本院は、「医育および広域診療機能」として、医師派遣、医師の卒前・卒後教育、移植や3次救急などの広域医療を担っていくこととされた。急性期拠点機能については、全国の2次救急医療機関(3,194施設)の半数以上が、救急車の受け入れが23年度に500件未満だったことから、手術や救急など医療資源を多く要する症例を集約化し、医療の質を確保するため、報告できる病院数を地域ごとに設定する方針となった。検討会では、機能の名称や定義が分かりにくいという意見や、高齢者救急等機能と急性期拠点機能の役割分担、2次救急病院の分類などについて議論があった。厚労省は、これらの意見を踏まえ、名称や定義を明確化し、2025年度中に新たな地域医療構想の策定ガイドラインを示す予定。参考1)第11回新たな地域医療構想等に関する検討会[資料](厚労省)2)医療機関機能4プラス1案示す、検討継続 厚労省「複数報告」も想定(CB news)3)新地域医療構想で報告する病院機能、高齢者救急等/在宅医療連携/急性期拠点/専門等/医育・広域診療等としてはどうか-新地域医療構想検討会(Gem Med)3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省厚生労働省は10月30日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足の解消に向け、外科医療の集約化・重点化を検討課題として提案した。背景には、外科医の増加がほかの診療科に比べて緩慢であること、時間外・休日労働の割合が高いことなど、外科医の労働環境の厳しさが挙げられている。検討会では、外科医の減少に対する学会の取り組みとして、日本消化器外科学会と日本脳神経外科学会からヒアリングが行われ、両学会からは、症例数の多い施設ほど治療成績が向上する傾向があること、救急対応など地域医療の均てん化が必要な領域もあることなどが報告された。構成員からは、集約化の必要性や、地域や領域に応じた対応の必要性などが指摘された。一方、集約化によって医師の都市部集中が加速する可能性や、地域での専門医育成の難しさなどが課題として挙げられた。厚労省では、これらの意見を踏まえ、新たな地域医療構想等に関する検討会に報告し、医師偏在対策の総合的な対策パッケージ策定に向けて検討を進める方針。参考1)第7回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科の集約化・重点化は医師偏在対策で「喫緊の課題」、厚労省が提案(日経メディカル)3)急性期病院の集約化・重点化、「病院経営の維持、医療の質の確保」等に加え「医師の診療科偏在の是正」も期待できる-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研国立がん研究センターなどが、2023年12月に実施したアンケート調査によるとオンラインでがん情報を入手する際に困難を感じているがん患者が45%に上ることが明らかになった。この調査は、インターネット上で約1,000人のがん患者を対象に行われ、オンラインでの情報収集における課題や情報源、情報活用について尋ねたもの。回答者の45%が「オンラインでがん関連情報を得る際に困難を感じたことがある」と回答し、そのうち5%は「常に困難を感じている/感じていた」と回答した。困難を感じた理由としては、「自分に合った情報をみつけることができない」「さまざまな情報が分散して掲載されている」「専門用語が多い」といった点が挙げられた。情報の入手元としては、検索エンジンが94%と最も多く、次いで動画共有サービスが30%、SNSが17%となった。この調査結果を受け、国立がん研究センターや全国がん患者団体連合会などは、「がん情報の均てん化を目指す会」を立ち上げた。同会は、アンケート調査の結果を踏まえて、患者が理解しやすい情報発信の必要性や、科学的根拠に基づかない情報への対応など、3つの課題と提言をまとめた。情報源に関する課題では、専門用語を避け、患者が理解しやすい情報発信が求められるとともに、信頼できる情報源の活用を促進するべきだと提言している。情報へのリーチに関する課題では、患者が適切な情報にアクセスできるよう、信頼できる情報を集めたポータルサイトの作成や、優良なWebサイト同士の相互リンクによる誘導強化を提言している。情報の活用に関する課題では、医師やがん相談支援センターによるサポート体制を強化し、患者が情報の意味を理解し、自分の状況に合わせて解釈できるよう支援するとともに、患者向けオンラインユーザーガイドを作成し、情報活用力を高めるための普及啓発を行うべきだと提言している。同会は今後、これらの提言を基に、具体的な対策を検討していく。参考1)がん情報のネットでの収集 半数近くが「困難」経験 患者調査で判明(朝日新聞)2)がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~(がん情報の均てん化を目指す会)5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省厚生労働省が11月5日に発表した人口動態統計によると、2024年上半期(1~6月)の出生数は、前年同期比6.3%減の32万9,998人だった。このペースで推移すると、2024年の年間出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新する可能性が高まっている。出生数の減少は8年連続で、少子化に歯止めがかからない深刻な状況。背景には、未婚化・晩婚化の進行に加え、コロナ禍で結婚や出産を控える人が増えたことが挙げられる。出生数の減少は、労働力人口の減少や消費の冷え込みなど、経済への影響も懸念され、また、医療や年金などの社会保障制度の維持も困難になる可能性がある。政府は、少子化対策として児童手当や育児休業給付の拡充などを進めているが、今後、抜本的な対策が求められている。参考1)人口動態統計(厚労省)2)24年上半期の出生数は33万人 初の70万人割れか 人口動態統計(毎日新聞)3)ことし上半期の出生数 約33万人 年間70万人下回るペースで減少(NHK)4)今年上半期の出生数は33万人届かず 過去最低だった去年を下回る見込み 厚労省発表(テレビ朝日)6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院会計検査院は11月6日、2023年度の決算検査報告を公表し、新型コロナウイルス対策の交付金や補助金を巡り、医療機関による不正受給など、計648億円の国費の不適切な取り扱いを指摘した。報告書によると、コロナ禍で医療体制を整備するために支払われた国の補助金において、約21億円が過大に交付されていた。中には虚偽の申請や制度の理解不足によるものなど、悪質なケースも含まれていた。具体的な事例として、空き病床とコロナ診療で休止した病床を重複申請するなどした病床確保料の過大請求、トイレや洗濯機置き場を診察室としてカウントするなどした発熱外来の補助金の不正受給、オペレーターの勤務時間を水増しするなどしたワクチン接種コールセンター業務の不正請求、納入されていない設備を納入したと虚偽報告などした救急・小児科医療機関の補助金不正受給などが挙げられている。会計検査院は、事業者側の制度理解不足や行政側の審査の甘さを指摘し、再発防止を求めている。また、コロナ交付金については、総額18兆3,000億円のうち約2割の約3兆2,000億円が不要になっていたことも判明した。使途に制限がないことから、「イカのモニュメント」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」など、コロナ対策などとの関連性が不明瞭な事業に交付金が使われたケースもあり、批判が出ている。会計検査院は、自由度の高い交付金事業は、効果検証を行い国民に情報提供する必要があると指摘している。参考1)公金648億円余りが不適切取り扱いと指摘 会計検査院(NHK)2)コロナ医療支援21億円過大 トイレも「診察室」扱いで申請(日経新聞)3)今村洋史・元衆院議員の病院、新型コロナ診療体制の補助金1.6億円を不当申請…「考え甘かった」(読売新聞)

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第79回 p値は小さいほど相関は強いといえるのか?【統計のそこが知りたい!】

第79回 p値は小さいほど相関は強いといえるのか?p値とは何だったでしょうか。p値とは“probability”(確率)の頭文字です。pの値は0~1の間の値です。p値は小さくなればなるほど誤る確率は低くなり、母集団において効果がある(違いがある)という結論の確からしさが高まります。p値と統計学が定めた基準の値(有意水準という)を比較し、p値<有意水準であれば帰無仮説を棄却し、対立仮説を採択します。p値は、母集団について主張したいことが成立するかを判断するときに誤る確率です。「p値<0.05」の場合は、「母集団について主張したいことを誤る確率が5%未満である」を意味します。このことを「有意差がある/有意である」と言います。有意差があった場合の解釈の仕方(結論)は、標本調査や実験データで相関分析を行った結果として相関がみられた(関連性があった)は、母集団についてもいえる(関連性があるといえる)となります。今回は、p値と相関の強さとの違いについて解説します。■仮説検定の非対称性統計的仮説検定で最初にすることは、帰無仮説と対立仮説を立てることでした。日常習慣として「1週間に運動をしている時間」と「血圧」との間には相関(負の相関)があるといえます。しかし、検定ではあえて「相関はない」という帰無仮説を立てて、それをデータで棄却しようとする方法をとります。帰無仮説が棄却された場合は、対立仮説が正しいとするのですが、問題はその対立仮説の確率が評価されないことにあります。統計的仮説検定は、帰無仮説を棄却することだけにあります。一方で、帰無仮説が棄却できなかった場合は、2つの事柄(運動と血圧)には相関がまったくみられなかった(相関係数=0)と積極的に証明できたわけではありません。帰無仮説が棄却できなかった場合は「結論は保留」、つまり「有意差はなかった」、あるいは「相関があったかどうかはわからなかった」というのが結果の正しい解釈です。このことを「仮説検定の非対称性」と言います。つまり、「有意差が出なかった」=「相関がみられなかった」と解釈することはできないのです。「有意差が出なかった」=「疑陽性の確率が高い(αエラー)」=「相関があるということがわからなかった」ということなのです。■p値は、小さければ小さいほど相関は強いといえるのか?p値が、小さければ小さいほど相関は強いとはいえません。つまり、p値が小さいことを理由にして、強い相関があったと結論付けることはできません。以下の2つの事例で考えてみましょう。(1)標本調査において相関係数が0.1、p=0.001(2)標本調査において相関係数が0.7、p=0.657このとき、(1)が「相関が強い」、(2)が「相関が弱い」といえるでしょうか。この場合、いえないというのが結論です。その理由としてp値は相関係数の大小だけでなく、データの数に依存するからです。このp値がデータ数に依存する、という性質はt検定などと一緒です。t検定では、2群の差の大きさだけでなく、データの数にも依存してp値が変わります。そのような背景があるため、相関係数が強いことと相関係数の検定が有意であることは、切り離して考える必要があります。p値は信頼度の強さの指標であって、相関の強さの指標ではありません。単一のp値もしくは統計的有意性は、その結果の大きさや重要性の大きさを測るものではないのです。値が非常に小さければ、それだけで何かが証明されるわけではなく、p値は5%程度でもいいから、きちんと計画された追試がいくつか行われて、一貫して同じ結果が得られるほうが重要だというわけです。p値は目安ですので統計的には、次のようにおおまかな範囲を*印の数で示すことがあります。[* ]0.01≦p<0.05[** ]0.001≦p<0.01[***]p<0.001また、p≧0.05を有意でないという意味でn.s.(not significant)と書くことがあります。このようにp値の情報にも限界がありますので、臨床試験論文を読むときには、p値だけではなく、主要エンドポイントに臨床的意義があるかないかもあわせて確認してください。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定 セクション10第4回 ギモンを解決! 一問一答質問1 p値は小さければ小さいほど差がある(よく効いた)といえるのか?「統計のそこが知りたい!」第33回 p=0.05は有意差あり? なし?

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事例011 狭心症にアピキサバン(エリキュース)錠で査定【斬らレセプト シーズン4】

解説狭心症などの疾患でフォロー中の患者に投与していたアピキサバン(商品名:エリキュース錠)がC事由(医学的理由による不適当)で査定になりました。査定理由を調べるために添付文書を参照しました。効能・効果には、「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」、「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制」と記載されています。今回の事例をみると、レセプトに記載された病名のみでは、全身性塞栓症や深部静脈血栓塞栓を発症しているもしくは発症抑制が必要な状態にあることが読み取れません。したがって、保険適用が認められていない「予防的投与ではないか」とみなされ、C事由を適用されて査定になったものと推測できます。アピキサバンは経口抗凝固薬です。血液検査などにて発症抑制が必要な状態にあって、アピキサバンの錠剤投与が必要と判断された場合、レセプトに原疾患のみならず経口抗凝固薬を必要とする病名が必須となります。査定対策として、レセプトチェックシステムに傷病名の確認を促すように設定を見直しました。

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再発・転移子宮頸がんへのtisotumab vedotin、日本人でも有望な結果/日本治療学会

 再発・転移子宮頸がんに対する新規ADC・tisotumab vedotinは、担当医師の選択による化学療法と比較して全生存率を有意に改善したことが昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO2023)で報告された。この国際共同第III相ランダム化非盲検試験innovaTV 301の日本人のサブグループの解析結果を、第62回日本治療学会学術集会(10月24~26日)において久留米大学の西尾 真氏が発表した。・対象:再発・転移子宮頸がん患者(化学療法+ベバシズマブ、抗PD-(L)1療法後に病勢進行)・試験群:tisotumab vedotin(2.0mg/kg、3週ごと:TV群)対照群:医師選択の化学療法(トポテカン、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカン、ペメトレキセド:CT群)・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・全体集団502例中、日本人は101例(TV群50例、CT群51例)だった。日本人サブグループは年齢中央値50歳、92%が転移、63%がベバシズマブ、9%が抗PD-(L)1療法を受けていた。2023年7月24日のデータカットオフ時点における追跡期間の中央値は13.7ヵ月だった。【OS】(中央値)全体:TV群11.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.8~14.9)、CT群9.5ヵ月(95%CI:7.9~10.7)日本人:TV群15.0ヵ月(95%CI:9.7~NE)、CT群8.5ヵ月(95%CI:6.8~10.6)(ハザード比)全体:0.70(95%CI:0.54~0.89)日本人:0.45(95%CI:0.27~0.77)【PFS】(中央値)全体:TV群4.2ヵ月(95%CI:4.0~4.4)、CT群2.9ヵ月(95%CI:2.6~3.1)日本人:TV群4.0ヵ月(95%CI:3.0~4.4)、CT群2.0ヵ月(95%CI:1.5~3.0)(ハザード比)全体:0.67(95%CI:0.54~0.82)日本人:0.63(95%CI:0.42~0.95)【ORR】全体:TV群17.8%、CT群5.2%日本人:TV群24%、CT群2%・日本人サブグループにおける主な治療関連有害事象は、TV群では結膜炎(47%[Grade3以上0%])、悪心(39%[0%])、末梢感覚神経障害(37%[2%])、CT群では悪心(42%[6%])、貧血(42%[21%])、好中球減少症(24%[20%])、好中球数減少(24%[12%])であった。 西野氏は「innovaTV 301試験の日本人サブグループの解析結果は全体集団と一致しており、TVはCTと比較してすべての評価項目で有意な改善をもたらし、安全性プロファイルも同等だった。TVは再発転移子宮頸がんの日本人患者において、化学療法後の次療法として有望だろう」とまとめた。 この結果を受け、tisotumab vedotinは2次または3次治療の再発または転移を有する子宮頸がんを適応として、日本における承認申請が行われている。

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「医療費が負担だった」8割、がん患者が感じている経済的不安/日本治療学会

 「いくらかかるかわからない」「費用が心配で高い治療を受け入れられない」。がん治療にかかる費用は病院の会計窓口で聞くまでわからないというケースも少なくないだろう。NPO法人キャンサーネットジャパンは、がん患者が感じている、がん治療への経済的負担についてのアンケート結果を第62回日本治療学会学術集会で発表した。 調査対象は20歳以上の日本のがん治療経験者、調査期間は2024年8月8日~9月1日で、1,117名から回答を得ている。事前に備えをしていても負担感が強い、がん医療費 61%の治療経験者はがんになる前から治療費の備えをしていた。それにもかかわらず、約8割(78%)が、がん治療中に医療費が負担だと感じていた。 また、がん治療にかかった医療費が「予想していたよりも多い」と回答したのは69%、負担感は同居人数が多くなるほど高くなる傾向が見られた。 がん治療中に「経済的負担が原因であきらめた事柄があるか」という質問に対して23%が「ある」と回答。なかには「治療費が払えないと思い、抗がん剤と放射線治療を断った」という意見もみられる。経済的な相談は看護師・医師ではなく、家族やソーシャルワーカーに 診断時や治療中に「経済的なことについて相談したい」と思った回答者は44%、そのうち実際に相談したのは52%で、半数は相談していない。 相談しなかった理由は「経済的なことなのでためらった」「誰に相談してよいのかわからなかった」が主なものであった。 一方、相談した相手は、家族・親族、ソーシャルワーカーが多く、看護師・医師は少なかった。医療者からの費用説明は3割にとどまる 医療者から費用について説明があったかを尋ねた。「あった」と回答したのは治療前では30%、治療中は23%にとどまる。 「説明は十分だったか」という質問に対して、治療前については56%、治療中については57%が「十分だった」と回答している。 検査・治療にかかる費用や治療期間の見通しに関する事前説明、相談しやすい環境の整備、医療費支援や制度など情報提供の充実、といったことが患者の不安を小さくし、治療への意欲向上につながると考えられる。

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