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過体重、肥満がさまざまな病気の危険因子になることはよく知られた事実である。しかし、その一方で肥満パラドックス1)に関する報告もあり、肥満が病気の発症、死亡に対して保護的に働く可能性を示唆する論文も散見されるが、最近では選択バイアスと交絡因子とで説明可能であるとの考えが主流である。また、健常人では体重変動が独立した心血管疾患危険因子になることはすでに報告されているが、これまでの対象とは異なり本研究においては心血管疾患を有し、LDLコレステロールが130mg/dL未満の患者を対象にしたTNT試験2,3)の事後解析に基づく臨床研究の成果として、NEJM誌2017年4月6日号に掲載された米国・ニューヨーク大学医学部Sripal Bangalore氏らの論文を取りあげコメントする。方法:アトルバスタチンを使った低比重リポタンパク(LDL)コレステロール低下の有効性と安全性を評価する新規標的治療(TNT)試験の事後解析が行われた。ベースライン時と追跡調査時に測定された体重から、個人内変動を計算した。主要エンドポイントは、全冠動脈イベント(冠動脈心疾患による死亡、非致死的心筋梗塞、心停止からの蘇生、血行再建、狭心症の複合)とし、副次的エンドポイントは、全心血管イベント(全冠動脈イベント、脳血管イベント、末梢血管疾患、心不全の複合)、死亡、心筋梗塞、脳卒中とした。結果:9,509例を対象として、危険因子、ベースライン脂質値、平均体重、体重変化で補正すると、体重変動(連続した変動測定値の平均とし、時間依存性の共変量として用いた)が1標準偏差(SD)増加するごとに、全冠動脈イベント(2,091件、ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.01~1.07、p=0.01)、全心血管イベント(2,727件、HR:1.04、95%CI:1.02~1.07、p<0.001)、死亡(487件、HR:1.09、95%CI:1.07~1.12、p<0.001)のリスク上昇に関係していた。調整後モデルでは、体重変動の最高五分位群は、最低五分位群と比較して、冠動脈イベントのリスクが64%、心血管イベントのリスクが85%、死亡リスクが124%増加し、心筋梗塞リスクも117%、脳卒中リスクも136%、新規糖尿病リスクも78%、有意に増加した。コメント:本研究は冠動脈疾患を有する患者においても、これまでの危険因子と独立して、体重変動が大きくなると死亡率および心血管疾患イベントの発生率がさらに増加することを明らかにした。心血管疾患を有する場合にベースラインからの体重変動に大きな影響を与える恐れのある心不全に起因する体液貯留が体重変動にどれほど関与しているか気になるところであるが、今回の解析対象からNYHA class IIIおよびIVの心不全症例が前もって除外されているために体液貯留の関与は無視できると考えられた。体重変動をこれまでの冠動脈疾患や死亡の危険因子とは独立したリスクファクターとして受け止め、日常の体重測定の持つ意義を真摯に受け入れ、日々の体重測定を欠かさないよう生活の中での自己健康管理法の重点測定項目として心がけることが重要である。この論文は体重継続測定の臨床意義に新しい見方を加えた意義深い論文とみることもできるのではないか。参考文献1)Uretsky S, et al. Am J Med. 2007;120:863-70.2)LaRosa JC, et al. Am J Cardiol. 2007;100:747-52.3)Waters DD, et al. Am J Cardiol. 2004;93:154-158.