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患者負担を軽減する世界初の肺胞蛋白症治療薬/ノーベルファーマ

 ノーベルファーマは、世界初の肺胞蛋白症治療薬サルグラモスチム(商品名:サルグマリン吸入用250μg)について本社でプレスセミナーを開催した。 肺胞蛋白症(pulmonary alveolar proteinosis:PAP)は、酸素と二酸化炭素をガス交換する肺胞に蛋白様物質が貯留する希少疾患の総称。酸素と二酸化炭素の交換ができなくなり、うまく酸素が体に取り込めなくなるため、呼吸困難、咳や痰、発熱、体重減少などの症状がある。PAPのうち、免疫細胞の過剰産出に起因する自己免疫性PAPが90%を占め、国内に約730~770例の患者が推定されている。 従来の治療法では、全身麻酔下で老廃物を洗い出す区域肺洗浄か全肺洗浄のみであり、患者の身体的負担、治療時間、限定された専門施設など治療上の課題があった。 サルグラモスチムは、肺胞マクロファージに直接作用し、成熟を促すことで、老廃物の分解を促進する薬剤であり、患者にとって新たな治療の選択肢となる。自己免疫性肺胞蛋白症(APAP)と先天性肺胞蛋白症(CPAP)は2015年に指定難病の指定を受けている。 セミナーでは、サルグラモスチムの特徴、効果の実際、治療を受けての患者の感想などが説明された。患者を全身麻酔下の治療から解放する画期的治療法 「世界初の自己免疫性肺胞蛋白症に対する薬物療法-サルグマリン吸入療法の何処が画期的なのか?-将来の展望」をテーマに中田 光氏(新潟大学医歯学総合病院高度医療開発センター先進医療開拓分野 特任教授)が、PAPの診療、サルグラモスチムの特性と従来の治療との違い、今後の展望などを説明した。 PAPとは、老廃物がゆっくりと肺胞を埋め尽くす疾患で、年間発症200例程度あるが、呼吸器の専門医ではよく知られている疾患。肺胞腔内に溜まるサーファクタント由来の老廃物は、血漿や肺由来のタンパク質、リン脂質、コレステロールなどであり、中でもタンパク質が多く溜まることから本症の名前が付いたとされる。 APAPの病因は、患者の肺にある抗GM-CSF自己抗体であり、肺胞マクロファージの成熟を阻害することで発生するとされている。 症状としては、相当呼吸が苦しくなるというものではなく、正常に呼吸できるときとそうでないときがまばらに生じ、病状が進行すると酸素の取り込みができず呼吸が重くなり、酸素の供給量を増やしても改善されない。 今回承認されたサルグラモスチム(GM-CSF)は、顆粒状マクロファージコロニー刺激因子の人工タンパク(分子量は15,000)で、吸入器を使用して細かい霧を口腔から吸う治療薬で、吸入器から出る粒子は3~5ミクロンの大きさとなる。 薬効機序として、肺胞に到達後、一部は自己抗体に結合するほか、肺胞マクロファージ受容体にたどり着き、機能を賦活化する仕組みで、細胞表面の受容体に結合することで、細胞増殖や成熟、機能維持に効果を発揮する。 また、サルグラモスチムが画期的な治療薬であることから、画期性加算の対象となった。その理由として、既存の治療では、全身麻酔下で10~20Lの生理食塩水で肺の洗浄をするしかなかった治療から吸入だけで肺の老廃物の処理、呼吸機能の改善が期待できること、APAPで肺胞機能が改善された世界初の治療薬であること、広い安全性を有し、通常の使用量を超える量でも安全性が確認されていることが挙げられている。 最後に中田氏は、「サルグラモスチムがマクロファージや好中球などの機能を高め、生体防御に貢献している働きから緑膿菌感染症、肺MAC症、ウイルス性肺炎、肺アスペルギルス症などにも適用拡大ができる可能性がある」と展望を語り、説明を終えた。肺活量が落ちる前に積極的にGM-CSF吸入療法の使用を 「自己免疫性肺胞蛋白症の克服に向けて-GM-CSF吸入療法の重要性」をテーマに石井 晴之氏(杏林大学医学部呼吸器内科 主任教授)が、サルグラモスチムの概要や効果について説明した。 初めに自験例のAPAPの症例を示し、酸素がうまく肺に取り入れないことで予後が悪いと窒息死することを説明。最近では新型コロナウイルス感染症との鑑別診断が難しいという。『肺胞蛋白症診療ガイドライン2022』では、3段階の重症度に合わせた治療指針が示されている。 重症度(DSS)と治療は以下のとおりである。・軽症:DSS1、2/動脈血酸素分圧はPaO2≧70→治療は慎重な経過観察・中等症:DSS3/動脈血酸素分圧は70>PaO2≧60→治療は対症療法(去痰薬、鎮咳薬など)またはサルグラモスチム吸入療法・重症:DSS4/動脈血酸素分圧は60>PaO2≧50DSS5/動脈血酸素分圧は50>PaO2→治療は区域洗浄、対症療法、長期酸素療法、サルグラモスチム吸入療法 今回発売されたサルグラモスチム吸入療法では、1日250μg(1バイアル)を12回(24週間)繰り返して治療を行う(吸入は3秒周期で吸気・息止・呼気を繰り返す)。そして、その効果については、プラセボと比較し、有意に肺の酸素化の改善を示し、肺CT所見以外でもLDH、KL-6、SP-Aも有意に改善していた1)。 また、先に講演した中田氏らが実施した特定臨床研究PAGEIIにも触れ、最重症例を含めた30例について、ベースラインから24週にわたる肺胞気動脈血酸素分圧較差の変化をみたところ、サルグラモスチム吸入療法により標準偏差で平均-12.8mmHg±10.7mmHg下がったという2)。 安全面については、副作用として赤血球・白血球の増多、咳嗽、発声障害、頭痛、尿中陽性などが報告されたが重篤なものはなかった。 最後に石井氏はまとめとして「世界初の承認された薬物療法であり、重症度3~5には積極的に導入すべきであること、肺活量が落ちると効果が下がるので%VCが80%未満の拘束性換気障害を呈する前に導入すべきであること、そして患者さんには禁煙の重要性を指導すべきである」と4項目を挙げ、説明を終えた。GM-CSF吸入療法をしてわかった患者目線の吸入時のポイント APAPの患者として小林 剛志氏(日本肺胞蛋白症患者会 代表)が、「GM-CSF製剤吸入療法の経験談 未来に向けての願い」をテーマに、現在進行形の実体験を語った。 小林氏は、医療機関に勤務する臨床工学技士であり、医学の知識がある。症状は2006年ごろに運動時の息切れ、運動パフォーマンスの低下から始まり、約4ヵ月後にPAPと確定診断されたという。 当初、治療では、全身麻酔下での肺洗浄が行われていたが、2008年からGM-CSF吸入療法を開始した。途中1回の両肺洗浄(2012年)を経て、継続している。吸入治療を経験し、小林氏が気付いたこととして、吸入に際しては「毎日30分吸入」、「臥位で吸入」、「腹式呼吸→胸式呼吸の順」という3点がしっかりと吸入できると提案した。 おわりに小林氏は、患者がもつ本症への不安として「患者ならば誰でも処方してもらえるのか、治療を受けられる施設(現在12程度施設)は今後広がるのか、GM-CSF吸入療法が有効でない場合の対応などがある」と示唆し、今後の患者の願いとして薬剤の冷蔵保管、調剤の煩雑さ、吸入器具の清潔、薬価などの課題解決への期待を寄せた。

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日本人高齢入院患者のせん妄軽減に対するスボレキサントの有用性~ランダム化試験

 高齢入院患者において頻繁にみられるせん妄は、早急なマネジメントを必要とするだけでなく、認知症、施設入所、死亡率など長期的なリスクに影響を及ぼす可能性がある。せん妄は、睡眠障害と関連しているといわれており、特定の睡眠導入薬によりせん妄が軽減する可能性が示唆されている。順天堂大学の八田 耕太郎氏らは、せん妄リスクの高い高齢入院患者を対象に、せん妄軽減に対するオレキシン受容体拮抗薬スボレキサントの有用性を評価した。JAMA Network Open誌2024年8月1日号の報告。 2020年10月22日~2022年12月23日、日本の医療機関50施設において二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化臨床試験を実施した。研究対象集団は、せん妄リスクが高く、急性疾患または待機的手術のために入院した65~90歳の日本人高齢者。データ分析は、2023年1月23日~3月13日に実施した。対象患者は、入院中に最大7日間のスボレキサント15mg/日就寝前投与を行うスボレキサント群またはプラセボ投与を行う対照群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要エンドポイントであるせん妄は、入院中にDSM-Vの基準に従い診断した。両群間におけるせん妄発生の違いを分析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は203例、スボレキサント群101例(平均年齢:81.5±4.5歳、男性:52例[51.5%]、女性:49例[48.5%])、対照群102例(平均年齢:82.0±4.9歳、男性:45例[44.1%]、女性:57例[55.9%])であった。・せん妄が発生した患者は、スボレキサント群で17例(16.8%)、対照群で27例(26.5%)であった(差:−8.7%、95%信頼区間:−20.1〜2.6、p=0.13)。・有害事象は、両群間で同様であった。 著者らは「せん妄リスクの高い高齢入院患者に対するスボレキサント投与は、対照群と比較し、せん妄発生率が低かったが、統計学的に有意な差は認められなかった。今後は、とくに過活動性を伴うせん妄の軽減に対するスボレキサントの有用性を評価するために、さらなる研究が求められる」としている。

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心不全・2型糖尿病合併CKDへのフィネレノン~約1万9千例の解析/ESC2024

 米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMuthiah Vaduganathan氏らの研究グループは、左室駆出率(LVEF)40%以上の心不全(HFpEF/HFmrEF)患者を対象としてフィネレノンの有用性を検討した1試験、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者を対象としてフィネレノンの有用性を検討した2試験の計3試験のメタ解析を実施した。その結果、フィネレノンは全死亡、心不全による入院、複合腎イベントのリスクを低下させ、心・腎・代謝(CKM)症候群へのフィネレノンの有用性が示唆された。本研究結果は、8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)で発表され、Nature Medicine誌オンライン版2024年9月1日号に同時掲載された。  本研究は、フィネレノンに関するHFpEF/HFmrEF患者を対象とした1試験(FINEARTS-HF)、2型糖尿病を合併するCKD患者を対象とした2試験(FIDELIO-DKD、FIGARO-DKD)の参加者1万8,991例を対象とした。主要評価項目は心血管死、副次評価項目は全死亡、心不全による入院、複合腎イベント(eGFR 50%以上低下、腎不全、腎死)などとした。 主な結果は以下のとおり。・HFpEF/HFmrEF、2型糖尿病、CKDのうち1つのみ(すなわちHFpEF/HFmrEFのみ)を有する割合は10.4%(1,974例)、2つを有する割合は77.5%(1万4,710例)、3つを有する割合は12.1%(2,307例)であった。・主要評価項目の心血管死はプラセボ群5.0%(471例)、フィネレノン群4.4%(421例)に認められ、両群間に有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.78~1.01、p=0.076)。しかし、事前に規定された感度分析として、原因不明の死亡も含めて解析すると、フィネレノン群で有意なリスク低下がみられた(同:0.88、0.79~0.98、p=0.025)。・全死亡はプラセボ群12.0%(1,136例)、フィネレノン群11.0%(1,042例)に認められ、フィネレノン群で有意なリスク低下がみられた(HR:0.91、95%CI:0.84~0.99、p=0.027)。・心不全による入院についても、フィネレノン群で有意なリスク低下がみられた(HR:0.83、95%CI:0.75~0.92、p<0.001)。・複合腎イベントについても、フィネレノン群で有意なリスク低下がみられた(HR:0.80、95%CI:0.72~0.90、p<0.001)。

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mRNAコロナワクチン後の心筋炎、心血管合併症の頻度は低い/JAMA

 従来型の心筋炎患者と比較して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に心筋炎を発症し入院した患者は心血管合併症の頻度が高いのに対し、COVID-19のmRNAワクチン接種後に心筋炎を発症した患者は逆に心血管合併症の頻度が従来型心筋炎患者よりも低いが、心筋炎罹患者は退院後数ヵ月間、医学的管理を必要とする場合があることが、フランス・EPI-PHAREのLaura Semenzato氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月26日号で報告された。フランスのコホート研究 研究グループは、COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎および他のタイプの心筋炎に罹患後の心血管合併症の発生状況と、医療処置や薬剤処方などによる疾患管理について検討する目的でコホート研究を行った。 フランス国民健康データシステムを用いて、2020年12月27日~2022年6月30日にフランスで心筋炎により入院した12~49歳の患者4,635例のデータを収集した。 これらの患者を、ワクチン接種後心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種から7日以内、558例[12%])、COVID-19罹患後心筋炎(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2[SARS-CoV-2]感染から30日以内、298例[6%])、従来型心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種やSARS-CoV-2感染とは関連のない心筋炎、3,779例[82%])に分類した。 主要アウトカムは、初回入院から18ヵ月間における心筋心膜炎による再入院、心筋心膜炎以外の心血管イベント、全死因死亡と、これらのイベントの複合アウトカムとし、退院後の医療管理(心臓画像検査、心血管治療[β遮断薬、レニン-アンジオテンシン系作用薬]、冠動脈検査[冠動脈造影、CT検査]、トロポニン検査、ストレス検査など)についても評価を行った。再入院と他の心血管イベントにも差はない ワクチン接種後心筋炎群は、COVID-19罹患後心筋炎群および従来型心筋炎群に比べ年齢が若く(平均年齢25.9[SD 8.6]歳、31.0[10.9]歳、28.3[9.4]歳)、男性が多かった(84%、67%、79%)。 18ヵ月時の複合アウトカムの標準化発生率は、従来型心筋炎群が13.2%(497/3,779例)であったのに比べ、ワクチン接種後心筋炎群は5.7%(32/558例)と低く(重み付けハザード比[wHR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.36~0.86)、COVID-19罹患後心筋炎群は12.1%(36/298例)であり同程度だった(1.04、0.70~1.52)。 心筋心膜炎による再入院(ワクチン接種後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:wHR 0.75[95%CI:0.40~1.42]、COVID-19罹患後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:1.07[0.53~2.13])および心筋心膜炎以外の心血管イベント(0.54[0.27~1.05]、1.01[0.62~1.64])は、いずれも差を認めなかった。 全死因死亡は、ワクチン接種後心筋炎群が1例(0.2%)、COVID-19罹患後心筋炎群が4例(1.3%)、従来型心筋炎群は49例(1.3%)でみられた。医療処置、薬剤処方の頻度は従来型心筋炎群と同様 ワクチン接種後心筋炎群およびCOVID-19罹患後心筋炎群の退院から18ヵ月間の医療処置(心臓画像検査、トロポニン検査、ストレス検査)および薬剤処方の標準化された頻度は、従来型心筋炎群と同様の傾向を示した。 著者は、「これらの知見は、現時点および将来にmRNAワクチンを推奨する際に考慮すべきと考えられる」としている。

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翌日の記憶に備えて睡眠中にニューロンが「リセット」

 新しい記憶を作るためには夜間の良質な睡眠が不可欠であることが、米コーネル大学神経生物学および行動科学分野のAzahara Oliva氏らによる新たな研究で示された。日中の記憶を保存したニューロン(神経細胞)は睡眠中にリセットされるのだという。研究の詳細は、「Science」に8月15日掲載された。Oliva氏は、「このメカニズムによって脳は同じリソース、同じニューロンを翌日の新しい学習のために再利用することができる」と言う。 何かを学んだり、新しい経験をしたりすると、人間の記憶を作り出す機能に不可欠な脳領域である海馬のニューロンが活性化され、そうした出来事が記憶として保存される。ニューロンは睡眠中も同じ活動パターンを繰り返し、大脳皮質と呼ばれるより大きな脳領域へとその記憶を転送する。では、海馬の全てのニューロンを使い切ることなく新しい出来事を学び続けられるのは、どうしてなのか。Oliva氏らはその疑問を解くために、マウスを用いた実験を行った。 Oliva氏らは、マウスの海馬に電極を埋め込み、学習中と睡眠中のマウスのニューロンの活動を記録した。その結果、その日の記憶を保存したニューロンは、その記憶を大脳皮質に送り込んだ後、リセットされることが判明した。海馬は、CA1、CA2、CA3の3つの領域に分けられる。CA1領域とCA3領域については研究が進んでおり、時間と空間に関わる記憶の符号化(外部情報を記憶として保存するプロセス)に関わっていることが明らかになっているが、CA2領域については不明な点が多かった。しかしこの研究から、CA1領域とCA3領域は、CA2領域の指示により睡眠中にリセットされることが示唆された。 Oliva氏はコーネル大学のニュースリリースの中で、「われわれは、睡眠中に海馬が別の状態になることに気付いた。それは、全てが静まり返った状態だ。それまで非常に活発だったCA1領域とCA3領域が突然静かになったのだ。これは記憶のリセットであり、この状態はCA1領域とCA3領域の間に位置するCA2領域によって引き起こされていた」と説明する。 さらに、脳に存在する介在ニューロンの中の2種類のサブタイプが、並列する回路で異なる役割を果たしていることも判明した。それらの回路の1つは記憶の維持を担当し、もう1つは記憶をリセットする役割を担っているという。 Oliva氏らは、「全般的に見ると、今回の研究から得られた知見は、全ての動物の脳の健康に睡眠が極めて重要である理由の説明に役立つものである」と述べている。また、この新たな発見は、今後の研究で、記憶の固定化のメカニズムを応用することで記憶力を高めるツールを見つけ出す助けとなる可能性がある。さらに、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のようなネガティブな記憶によって引き起こされる問題や、アルツハイマー病のような記憶障害を治療する新しい方法の基礎の構築につながる可能性もある。

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AIにより自閉症の早期発見が可能?

 人工知能(AI)モデルにより、自閉症スペクトラム障害(ASD)を発症する可能性が高い小児を見つけ出せる可能性のあることが、カロリンスカ研究所(スウェーデン)女性・小児保健部門のKristiina Tammimies氏らによる研究で明らかになった。Tammimies氏らによると、このAIモデルは、広範な評価や臨床試験をせずに2歳以下の小児から簡単に得られる医療データを用いてASDに特有のパターンを探し出すもの。実際に、1万2,000人弱の小児のデータを用いてテストしたところ、ASD児の約80%を特定できたという。この研究結果は、「JAMA Network Open」に8月19日掲載された。 この研究でTammimies氏らは、Simons Foundation Powering Autism Research for Knowledge(SPARK)データベースの、ASDのある児とない児1万5,330人ずつ(計3万660人、平均月齢106カ月、男児63.5%)のデータセットを用いて、ASDを予測するためのAIモデルを構築した。このモデルは、対象者が24カ月未満時に親が報告した、簡単に得られる情報の中から28個の指標を選び出し、これをもとに4つの機械学習アルゴリズム(ロジスティック回帰、決定木、ランダムフォレスト、XGBoost)を用いて構築された。 テストデータを用いてそれぞれのモデルの予測能を検証したところ、最も優れているのはXGBoostモデルであることが判明した(ROC曲線下面積0.895、感度0.805、特異度0.829、陽性的中率0.897)。Tammimies氏らはこのモデルをAutMedAIと名付けた。また、予測には、児が初めて笑った月齢、初めて短文を話した月齢、偏食の問題の存在の3つの因子が強い影響を及ぼすことも判明した。別の検証コホート1万1,936人を用いて検証したところ、モデルはASD児の78.9%(8,262人)を正確にASDであると判定した。 研究グループは、ASDの早期診断は重要だと強調する。なぜなら、ASDに対する効果的な治療や介入を早く受ければ受けるほど、良好な転帰が望めるからだ。論文の筆頭著者であるカロリンスカ研究所のShyam Rajagopalan氏は、「この研究結果は、比較的限定的で容易に入手できる情報からASDの可能性がある個人を特定できることを示している点で重要だ」と話す。その上で、「この予測モデルにより早期診断と介入の条件が劇的に変化し、最終的には多くの人々とその家族の生活の質が向上する可能性がある」と話している。 研究グループは目下、考慮するパラメーターに遺伝情報を追加する可能性も含め、AIプログラムをさらに改良する作業を進めている。Tammimies氏は、「このモデルが臨床現場に導入できるほど信頼の置けるものであることを保証するためには、厳密な作業と慎重な検証が必要だ。ただし、一つ明確にしておきたいのは、われわれが目指しているのこのモデルを医療にとって価値ある診断ツールにすることであり、ASDの臨床評価に取って代わることを意図したものではないということだ」と話している。

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歯周ポケットなどの歯科健診項目は嚥下機能と関連

 75歳以上の日本人高齢者を対象に、歯科健診の結果と嚥下機能との関連を調べる縦断的研究が行われた。その結果、歯周ポケットの深さが4mm以上、硬いものが噛みにくいこと、水やお茶でむせること、口が乾くことは、将来の嚥下機能低下と関連することが明らかとなった。朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野の岩井浩明講師、友藤孝明教授らによる研究であり、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。 加齢に伴う筋肉量の減少などにより、嚥下機能は低下する。また、ストレスや抑うつなどのメンタルヘルスの問題も嚥下機能低下のリスクであるとされる。口腔の健康状態に関しては、唾液の分泌、残存歯数、歯周病菌などと嚥下機能との関連が報告されている。しかし、口腔に関するどのような要因が、嚥下機能低下につながるのかは明らかになっていない。 そこで著者らは、2018年4月から2019年3月に岐阜県内の4つの市で歯科健診を受診した75歳以上の地域住民を2020年4月から2021年3月まで追跡し、歯科健診項目と2年後の嚥下機能低下との関連を検討した。歯科医師による歯科健診として、嚥下機能、残存歯数、虫歯の有無、歯周ポケットの深さなどを評価した。反復唾液嚥下試験を行い、嚥下回数が30秒間に3回未満の場合を嚥下機能低下と判定した。また、自記式質問票を用いて、硬いものが噛みにくいか、お茶や水でむせるか、口が乾くかどうかや、喫煙習慣などについても調査した。 ベースライン時に嚥下機能が低下していた人などは除き、解析対象者は3,409人(ベースライン時の平均年齢81歳、男性42%)だった。 2年後に嚥下機能低下と判定された人は429人(13%)だった。ベースライン時と比べて2年後の方が、高血圧(61%対64%)、糖尿病(35%対38%)、運動器障害(75%対78%)、要支援・要介護認定(11%対22%)を有する人の割合は有意に高く、残存歯数20本以上の人(67%対62%)の割合は有意に低かった。一方、虫歯のある人(26%対25%)、歯周ポケット4mm以上の人(66%対68%)、硬いものが噛みにくい人(24%対25%)、お茶や水でむせる人(21%対22%)、口が乾く人(30%対32%)の割合については、有意差は認められなかった。 次に、嚥下機能低下と関連する因子を多変量ロジスティック回帰により解析した。その結果、男性(オッズ比0.772、95%信頼区間0.615~0.969)、81歳以上(同1.523、1.224~1.895)、要支援・要介護認定(同1.815、1.361~2.394)、歯周ポケット4mm以上(1.469、1.163~1.856)、硬いものが噛みにくいこと(同1.439、1.145~1.808)、お茶や水でむせること(同2.543、2.025~3.193)、口が乾くこと(同1.316、1.052~1.646)が、2年後の嚥下機能低下と有意に関連していることが明らかとなった。 今回の研究結果に関して、嚥下機能が低下すると元の状態に戻ることは困難であることから、著者らは「歯科健診を通じて、嚥下機能低下を予防するための早期スクリーニングを行うこと」の重要性を指摘している。また、「嚥下機能低下と関連する因子が見つかった人には、早期の歯科的介入が必要となる可能性がある」と述べている。

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第209回 医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省

<先週の動き>1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省厚生労働省は2024年9月5日、医師の地域・診療科偏在を是正するために「医師偏在対策推進本部」を設置し、9月5日に初会合を開催した。武見 敬三厚労相は冒頭で、「医師偏在の解消なしには、国民皆保険制度の維持は困難だ」と述べ、医師偏在問題に対する強い危機感を示した。本部は年末までに、経済的インセンティブや規制的手法を含む総合的な対策パッケージを策定する予定。会合では、主に「医師確保計画の深化」「医師の育成と配置」「実効的な医師配置」の3つの柱に基づき議論が進められた。とくに、医師少数区域での医師確保を目指し、若手医師や医学生に対する地域医療への理解促進や研修制度の見直しなどが検討されている。また、外来医師が多い都市部での新規開業を制限するため、規制的手法も導入される可能性がある。さらに、美容医療への若手医師の流出を抑えるため、公的保険診療の経験をクリニック開業の条件とする案も議論された。とくに美容外科などの分野で若手医師が急増している現状を踏まえ、保険外診療のみに依存する医療機関の乱立を防ぐ狙いがある。対策推進本部では、地方の医療機関への財政支援や医師が少ない地域への医師派遣制度の強化なども進める予定。都道府県が策定する医師確保計画に基づき、地域ごとの医師の需給バランスを見極めながら対策を推進する。今後、さらに具体的な議論が進み、年末には法改正も視野に入れた包括的な対策が発表される見通し。参考1)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案 主な論点(同)3)美容クリニック開業に規制案 公的医療の経験必要に(日経新聞)4)外来医師多数区域における新規開業への規制的手法などを議論 厚生労働省「医師偏在対策推進本部」が始動(日経メディカル)5)医師偏在「もはや待ったなし」 厚労省、是正に向け部局横断会議(毎日新聞)2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府2024年9月2日に政府は、認知症施策の基本計画案を発表した。計画の中心には「認知症になっても希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という新たな認知症観が据えられ、その浸透を進めることが重点目標とされた。これにより、認知症の人を「支える対象」とする従来の考え方から、共に支え合う社会を目指す方針へと転換する。また、この計画は、認知症基本法に基づく初めての施策であり、2029年度までを計画期間とし、5年ごとに見直しを行う予定。計画案では、認知症になった後も、できることややりたいことがあるという前提を掲げ、偏見の解消を目指す。「ピアサポート活動」を推進し、認知症当事者が支え合う仕組みや、学校現場での教育活動なども盛り込まれた。また、当事者の意思を尊重し、地域での生活を支えることが重要視されている。さらに、重点目標として「当事者の意思尊重」「地域での安心した生活」「新技術の活用」が挙げられ、認知症の人が他者と支え合いながら住み慣れた地域で暮らせる社会を目指す。具体的な施策として、若年性認知症の人の就労支援強化や地域のバリアフリー化推進、認知症サポーターの養成などが含まれている。計画は今月下旬にも閣議決定され、各自治体においても地域の実情に応じた計画の策定が進められる。これにより、認知症の人々が、社会の一員として共に生きるための施策が強化される見通し。参考1)認知症施策推進基本計画[案](内閣府)2)「認知症でも自分らしく」 政府重点目標、基本計画案(日経新聞)3)希望を持って生きる「新しい認知症観」 基本計画案を了承(毎日新聞)4)「新しい認知症観」で社会参画促す 認知症基本計画 閣議決定へ(朝日新聞)5)認知症施策推進基本計画案、当事者らの参画を強調 認知症カフェなどでの交流促す 政府(CB news)6)「新しい認知症観」を明示 国の基本計画固まる(福祉新聞)3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省厚生労働省は、2022年に実施した国民健康・栄養調査の結果を公表した。これによると、20歳以上の喫煙率は14.8%と過去最低を記録した。前回の2019年の調査結果の16.7%を下回り、2003年以降の最低値を更新したが、政府が「健康日本21(第2次)」で掲げた目標の12%には届いていない。男女別の喫煙率は、男性が24.8%、女性が6.2%で、いずれも過去最低だった。とくに男性では30代が35.8%、女性は40代が10.5%と高い傾向がみられた。喫煙者のうち、たばこを止めたいと考えている人は全体の25%で、男性では21.7%、女性では36.1%が禁煙を希望している。今後、厚労省は、喫煙を止めたい人への治療支援をさらに充実させる方針を示している。また、「受動喫煙の機会がある」と答えた人の割合も減少しており、とくに飲食店や遊技場では規制強化により半減し、それぞれ14.8%、8.3%となった。一方、路上や職場での受動喫煙は依然として高く、路上では23.6%、職場では18.7%と報告されている。この調査は2022年11~12月にかけて、全国約2,900世帯を対象に実施された。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年と2021年の調査は中止され、今回は3年ぶりの調査となった。厚労省は今後も、規制強化と禁煙支援の充実を進めることで、喫煙率のさらなる低下を目指す考えを強調している。参考1)令和4年「国民健康・栄養調査」の結果(厚労省)2)喫煙率14.8%、過去最低 国民健康・栄養調査(日経新聞)3)「喫煙率」14.8% 厚労省2022年の調査 2003年以降で最も低く(NHK)4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省9月3日に厚生労働省は「医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料」を事務連絡で発出した。2024年10月から導入される「医療DX推進体制整備加算」では、マイナンバーカードによる保険証(マイナ保険証)の利用率に基づき、医療機関が算定する新たな評価制度がスタートする。資料によれば、この加算の算定基準となるマイナ保険証の利用率が、翌月に適用されることを明確にした。医療機関は、毎月中旬に社会保険診療報酬支払基金からメールで通知される利用率を基に、翌月1日から加算の算定が可能になる。この加算は、マイナ保険証利用率に応じて3区分に分類され、医療機関ごとの利用率が基準値を満たしている場合、施設基準の再届け出は不要とされる。ただし、利用率が基準に満たない場合は加算が算定できないことも示されている。さらに、利用率は2~5ヵ月前までの期間で「最も高い数値」を選択して算定できる柔軟な対応が可能となる。医療DX推進体制整備加算は、診療情報や処方箋情報の電子化、患者の医療情報の共有を促進する取り組みであり、医療の質と効率を高めることを目指す。2024年10月からの基準値は、最も高い加算(11点)を受けるためには15%以上の利用率を求め、来年1月以降は30%以上が必要となる。その他の区分も利用率に応じた基準が設けられている。さらに、今回の加算見直しでは、利用率の基準を確認できる仕組みが強化され、支払基金のポータルサイトを通じて、医療機関が確認できるようになっている。2025年4月以降の利用率基準も今後の状況を踏まえて再評価される予定であり、今後も医療機関の対応が重要視される。参考1)医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)(厚労省)2)通知のマイナ利用率、翌月に適用 DX加算で医療課(MEDIFAX)3)医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率は「自院に最も有利な数値」を複数月から選択適用可能な点など再確認-厚労省(Gem Med)5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省2025年に向けて地域の病床機能の再編や地域ごとの医療体制を整備するために取り組んできた地域医療構想を見直すために、厚生労働省は、新たに2040年に向けて立ち上げた「新たな地域医療構想に関する検討会」で、2040年に向けた新たな地域医療構想の方向性を示した。とくに85歳以上高齢者の救急医療や在宅医療の需要増加に対応するため、現行の二次医療圏よりも小規模な地域単位での医療提供体制を強化することが求められている。日本病院会も、二次医療圏の見直しを提言し、今後意見書を提出する予定。新たな地域医療構想の議論では、現行の考え方を継続する部分と新しい要素を組み込む部分を区別しながら進めるべきという意見が出されている。各都道府県が策定するガイドラインについて、国は細部を厳格に定めず、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められている。9月5日に開かれた社会保障審議会医療部会では、市立病院の再編や経営支援、在宅医療や外来医療を含む包括的な地域医療体制の整備が提案された。また、現行の病床機能報告制度や病床数の不足が指摘されている回復期病床の見直しも求められている。精神科医療の組み込みやかかりつけ医機能報告制度に関する議論も進められ、これらを踏まえた新たな医療構想の実現が目指されている。2040年には後期高齢者の増加に伴い、介護・福祉との連携も重要視され、内科系の急性期医療や救急医療の需要が高まることが予想されている。とくに85歳以上の救急搬送件数は、2020年から2040年にかけて75%増加する見通しであり、ADL(活動能力)の低下を防ぐため、早期のリハビリ提供が重要になる。加えて、在宅医療の需要も同時期に62%増加すると予想され、24時間対応の体制構築やオンライン診療の活用が課題とされた。新たな地域医療構想では、入院医療だけでなく外来医療や在宅医療も対象とし、長期的に地域における医療提供体制を見直す方針が示された。また、医療圏を越えて一定の症例や医師の集約を進め、高度医療の提供体制を強化することも検討されている。過疎地域では医療機能の維持が重要視され、医師の派遣やICTの活用を通じて地域の医療提供力を高めることが求められている。今後、年末までに具体的な対策が取りまとめられ、2025年度からの実施を目指す。参考1)新たな地域医療構想の検討状況について(厚労省)2)2040年ごろを見据えた新しい地域医療構想の方針を提示 医療圏より小さい範囲で在宅医療の提供体制の検討を(日経メディカル)3)新たな地域医療構想、「2次医療圏」見直しを 日病(MEDIFAX)4)新たな地域医療構想論議、「現行の考え方を延長する部分」と「新たな考え方を組み込む部分」を区分けして進めよ-社保審・医療部会(Gem Med)6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府政府は、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担について、3割負担の対象範囲を拡大する方針を検討している。これは、2024年に改定予定の「高齢社会対策大綱」に盛り込まれ、高齢化に伴う医療費の膨張に対応するための措置として進められる。現在、75歳以上の高齢者は原則1割自己負担だが、一定の所得がある場合は2割、さらに現役並みの所得がある場合には3割を負担している。今回の改定では、この3割負担の適用範囲が広がる可能性がある。政府は2023年12月に決定した社会保障改革の工程表で、この負担増を検討課題として挙げており、2028年度までに「現役並み所得」の判断基準を見直す計画を示している。医療費の膨張を抑制するため、負担を増やす一方で、負担増に対する国民の反発も懸念され、今後の議論は難航する可能性がある。さらに、内閣府は、高齢者の就労を促進するための「在職老齢年金制度」の見直しも提言。具体的には、働く高齢者が一定以上の所得を得た場合に年金受給額を減らす現行の制度を見直し、就労を支援する方向での改革を進めるとされている。また、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の引き上げなど、私的年金制度の拡充も検討中であり、これらも大綱に含まれる予定。この改定案は、2024年内に閣議決定される見通しで、今後のわが国の高齢社会に対応する医療制度の持続性を高めるための重要な議論となる。参考1)高齢社会対策大綱の策定のための検討会 報告書[案](内閣府)2)75歳以上医療費、3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱(日経新聞)3)政府が75歳以上の医療費3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱案に明記、制度持続狙い(産経新聞)

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第77回 ポアソン分布とは?【統計のそこが知りたい!】

第77回 ポアソン分布とは?ポアソン分布(Poisson distribution)は、まれな事象が起こる回数の確率分布を表す確率分布です。たとえば、1ヵ月間当たりの交通事故の発生件数や国道1km当たりのレストラン数などがポアソン分布に従うことがあります。では、身のまわりでよくある確率の問題で考えてみましょう。(1)ある交差点で1ヵ月間に起きる交通事故の死者数が平均1.2人であるとき、1ヵ月間の死者の数が0人である確率は?(2)国道200km当たりのレストラン数は10軒であるとき、国道1km当たりのレストラン数が1軒以上ある確率は?これらのテーマは、時間(たとえば1日当たり)、距離(たとえば1km当たり)などある一定区間の中で、偶然起こる事象の確率を考える問題です。ポアソン分布は、このように一定の長さの期間や距離において、ごくまれに起こる事象の数の分布です。前回第76回「二項分布とは?」で解説した二項分布と違って、nは必要ありません。たとえば交差点での交通事故の件数は極めてまれですが、その対象となる運転者や通行人のnはとても大きく、日々変化するなどで決められないのが通常です。このように、ポアソン分布は起こる確率の低い事象に対する分布であり、別名「少数の法則」とも呼ばれています。■ポアソン分布における確率分布と確率の求め方(1)の事例でポアソン分布を作成し、ポアソン分布を用いて確率分布を求めてみましょう。二項分布では、ある事象の起こる確率をP、この事象の試行回数をn回としてX回起こる確率を求めました。しかし、この(1)の事例ではPやnはわかりません。わかっているのは平均の1.2人のみです。この例では二項分布は適用できません。この問題を解決してくれるのがポアソン分布です。ある事象における平均値をmとします。この事象がX回起こる確率をP(X)で表すと、ポアソン分布におけるP(X)は次の公式によって求められます。ただ、この式の計算は煩雑なので、Excel関数によって計算してみましょう。算出された確率分布(表1)とそのグラフ(図1)を示します。表1 ポアソンの確率分布(左)図1 ポアソンの確率分布グラフ(右)画像を拡大するポアソン分布を用いて(1)の事例の確率を求めます。ある交差点で1ヵ月間に起きる交通事故の死者数が平均1.2人であるとき、1ヵ月間の死者の数が0人である確率は、上記の確率分布表より、0.3012(約30%)となります。それでは次にある交差点で1ヵ月間に起こる事故の件数が2、3、4、5件として、ポアソン分布のグラフを作成してみましょう(件数のことを“μ”と呼びます。この場合μ=2、3、4、5件となります)表2 ポアソンの確率分布の比較表(左)図2 ポアソンの確率分布の比較グラフ(右)画像を拡大する事故の件数(μ)が大きくなるほどグラフは右側へスライドし、右に裾を引いているグラフがだんだん左右対称に近付いていることがわかります。ポアソン分布はμが大きくなるにつれて、正規分布に近付いていきます。■二項分布とポアソン分布の比較前回第76回で適用したコイントスの事例をポアソン分布で計算してみましょう。「オモテの出る確率が0.5のコインを3回投げたとき、オモテが2回以上出る確率は?」でした。ポアソン分布は平均値を用いますので、この事例における平均値をまず算出します。平均値はn×Pで求められますので、平均値=n×P=3×0.5=1.5となります。Excel関数より下記のようになります。X=2の場合 =POISSON(X,m,0)→POISSON(2,1,5,0)→0.2510X=3の場合 =POISSON(X,m,0)→POISSON(3,1,5,0)→0.1255以上からオモテが2回以上の確率は、0.2510+0.1255=0.3765となり、二項分布における確率は0.5で、ポアソン分布の0.3765と異なる値となりました。ポアソン分布は別名「少数の法則」というように確率が低い事象についての確率分布ですので、50%の確率がある事象については、ポアソン分布を当てはめることに無理があったということになります。医療の領域でポアソン分布は、疫学調査における疾患発生率の推定にも用いられます。たとえば、ある地域におけるある疾患の発生数が、1年間平均で10例だった場合、その疾患の発生数はポアソン分布に従うことがあります。このとき、ポアソン分布の式を使って、ある年にその疾患にかかる人数が5例以下である確率を求めることができます。■二項分布とポアソン分布を使い分けるときの注意点二項分布とポアソン分布は、いずれも離散確率分布ですが、使い分けには以下のような注意点があります。まず、二項分布は、試行回数が固定された独立な試行で成功確率が一定の場合に適用されます。一方、ポアソン分布は、時間や面積などの連続的な空間において、単位時間当たりや単位面積当たりに発生する現象のような、成功回数がまれである(平均値が小さい)場合に適用されます。つまり、二項分布は、離散的な試行で確率を求める場合に適しており、ポアソン分布は、連続的な現象で発生回数がまれな場合に適しています。また、ポアソン分布は、平均値が大きくなると正規分布に近付くため、平均値が大きい場合には正規分布を用いることが一般的です。たとえば、ある病院において、手術中に合併症が生じる確率が0.1%(成功率が99.9%)であるとして、その手術を10回実施する場合、二項分布を用いて、2回以上合併症が生じる確率を求めることができます。一方、ある病院における1日当たりの入院患者数が、平均で5人である場合、ポアソン分布を用いて、ある日に入院患者が3人来る確率を求めることができます。以上のように、二項分布とポアソン分布は、適用する現象が異なるため、使い分けには注意が必要です。次回は「4種類あるエラーバー」について解説します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第56回 正規分布とは?第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?第58回 標準正規分布とは?

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9月9日 救急の日【今日は何の日?】

【9月9日 救急の日】〔由来〕暦の語呂合わせから救急業務および救急医療に対する国民の正しい理解と認識を深め、救急医療関係者の意識高揚を図ることを目的に1982(昭和57)年に厚生省(現厚生労働省)が制定。この日を含む1週間を「救急医療週間」として消防庁、厚生労働省、都道府県・市町村などの協力のもと、全国各地で各種行事を開催している。関連コンテンツいざというとき役立つ!救急処置おさらい帳困ったときに慌てない! 救急診療の基礎知識患者が訴えるこの「めまい」症状は危険なサインか!? 【Dr.山中の攻める!問診3step】創部の洗浄【一目でわかる診療ビフォーアフター】脳卒中の症状はFASTでチェック【患者説明用スライド】

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バーベキュー後の腹痛・下痢【日常診療アップグレード】第12回

バーベキュー後の腹痛・下痢問題28歳男性。7日前に友人とバーベキューパーティーをした。2日前から頭痛と38.5℃の発熱あり。昨日から右下腹部痛が出現し、本日から水様便(8回/日)となっている。血液内科に通院し、悪性リンパ腫の化学療法を外来で受けている。38.5℃の発熱以外のバイタルサインに異常を認めない。右下腹部に圧痛はあるが振動を与えても痛みの誘発はない。便のグラム染色でらせん桿菌を認めた。アジスロマイシンを投与した。

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事例007 医療情報取得加算の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説今回は同月内に初診料を2回算定して査定された事例です。1回目は簡単な処置のため、即日治癒宣言をしたことがカルテに記入されており、患者が任意に中止した場合にあたらないため、同月内であっても初診料を算定しました。マイナ保険証を毎回利用されています。情報アクセスへの同意を確認して 「A005注15 医療情報取得加算2」(以下「同加算」)をそれぞれに算定しました。初診料の査定はなかったものの同加算2が1回分、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。査定の理由を調べるために計算担当に尋ねました。すると、2回目受診が再診料の場合は同加算4を算定できるために、2回目の初診料でも算定可能と考え、入力時にエラーも出なかったために算定されたものでした。しかしながら、「同加算1または2について同一の保険医療機関において同一月に同一の患者について、他の疾患で初診料を2回算定した場合、同加算は2回以上算定できない」との疑義解釈(その1 問13)が発出されています。事務的点数で1点とはいえ査定には変わりありません。計算担当者には、同一項目に対して2回以上算定できない項目であることを告げ、レセプトチェックシステムを設定して査定対策としました。なお、令和6年12月から紙の保険証が発行されなくなり、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行します。その準備に、同年10月には医療機関別のマイナ保険証利用率に応じて「A000注16 医療DX推進体制整備加算」が充実されます。同年12月には同加算はマイナ保険証を利用しない場合の1点のみに改正され、令和7年8月には後期高齢者用の紙の保険証も有効期限が切れてマイナ保険証に切り替わります。受付時の混乱を最小限にするために、窓口の対応手順の見直しが必要となるでしょう。

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75歳以上=高齢者は正しい?高齢者総合機能評価に基づく診療・ケアガイドライン

 2017年より日本老年学会・日本老年医学会の合同ワーキンググループが再検討・提言していた「高齢者」の定義が7年の時を経て、現行の65歳以上から“75歳以上を高齢者”とする動きにシフトしていく1)。しかし、患者を一概に年齢だけで判断し、治療時の判断基準にしてはいけない。その理由はこれと同時に発刊された『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』が明らかにしている。今回、ガイドライン(GL)作成代表者である秋下 雅弘氏(東京都健康長寿医療センター センター長)に本書の利用タイミングや活用方法について話を聞いた。いつ、どこで、誰がCGAする? 本GLの使い方(p.X)にも「明確な年齢上の区分は設けない。高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)の最もよい対象は老年疾患や老年症候群を抱えて日常生活機能が低下した方であるが、必ずしも65歳以上とは限らない」と記載がある。同氏は「75歳以上が高齢者という定義を念頭に置きつつも、個々の生物学的年齢で判断することが重要。そのためにも機能低下がみられる成人の場合、75歳未満であっても本GLに掲載されている機能評価を使ってもらいたい」と個別化医療の観点から説明した。 CGAとは、疾患の評価に加えて日常生活活動度(ADL、基本的ADL・手段的ADL)、認知機能、気分・意欲・QOL、療養環境や社会的背景などを構成要素とし、評価/スクリーニングツールを使って系統的に評価する手法のことである。医療者であれば患者と接する際におのずと頭の中で意識していた内容が、構成要素として整理されたものだ。これを作成した目的について、同氏は「高齢者の状態に適した個別化医療やケアの提供のために利用するのはもちろん、高齢者の医療・ケアに関わる医師、医療者や介護福祉関係者が、多職種協働する際の共通言語となるように」と述べ、医療と介護福祉に携わる全職域が本GLの利用対象者であることを説明した。<CGAの構成要素とその主なツール>(1)スクリーニング(p.8~11)  CGA7、基本チェックリストなど(2)日常生活活動度(p.13~18)  ・基本的ADL:Barthel Index  ・手段的ADL:Lawton’s IADL、老研式活動能力指標(3)認知機能(p.19~26)  ・MMSE(Mini-Mental State Examination)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、DASC-21、ABC認知症スケールなど(4)気分・意欲・QOL(p.27~35)  ・GDS(Geriatric Depression Scale)、意欲の指標(Vitality Index)  ・QOL:Short From(SF)-8など(5)社会的背景(p.36~47)  ・要介護認定、家族関係、自宅環境、財産、地域医療福祉資源など 患者へCGAの介入をするタイミングは、職種によって異なる。同氏は「医師であれば、初診時、入院時、退院前、病状の変化時など日常的に実施してほしい。看護師は入院、退院支援、訪問看護の導入、高齢者施設の入所・入居に際して、その他の専門職は療養環境の変化時に、薬剤師は処方見直しに際して実施してほしい」とし、「現場で利用する→多職種共通の言語になる→高齢者に最適な医療提供ができる→それぞれの診療科でも利用価値が高まるというように、臨床でのCGAのメリットを実感してもらいたい」と強調した。 その一方で、今回の改訂までに21年もの年月を要した経緯について、「実際のところ、高齢者一人ひとりを評価するには手間がかかり、マンパワーが必要なゆえ、現場に広がらなかった。CGAを行う場所も確保できなかった」と説明。現時点でも外来での診療報酬加算がなく、CGAを実践してもそれに対する評価がされないことから、CGA実践のハードルの高さは否めないという。疾患ごとの有用性 とはいえ、昨今ではさまざまなガイドラインがMinds診療ガイドライン作成マニュアルに則り作成されているが、それらを高齢者に対して有効活用するためには、目の前の患者の身体・精神機能が高齢者あるいは高齢者に準ずるのかどうかをCGAできちんと判断したうえで、治療にあたることが求められるようになるだろう。p.50 からは高齢者が罹患しやすい疾患や症候群の管理について、各論が記載されている(1.フレイル/低栄養 2.認知症 3.ポリファーマシー 4.Multimorbidity 5.糖尿病 6.高血圧、心疾患 7.[誤嚥性]肺炎 8.骨折 9.外科手術[周術期] 10.悪性腫瘍)が、たとえば糖尿病の場合、研究報告の結果のみならず、本邦の『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』との整合性も考慮し、高齢糖尿病患者の管理にCGAを用いることを提案する(エビデンスの強さ:D、推奨度:2)となっている。悪性腫瘍については、疾患管理において唯一、エビデンスの強さA、推奨度1で合意されている。この領域ではCGAをgeriatric assessment(GA)と称し、診断と並行して行うアセスメントツールとして用いているため、他の疾患領域と比較し、生存効果、有害事象、QOL、入院に関する結果が見いだされている。 方や、(誤嚥性)肺炎に至っては、“CGAの有用性はFRQ(future research question)とし今後の研究に期待する”と記されており、以前より老年疾患として注目のある領域でも有用性の違いが生じていた。 このような課題を残しての次回改訂について、同氏は「エビデンスがないRCTを中心にシステマティックレビューを行ったこともあるが、LIFE(介護保険データ)が集積されるとFRQという次のステップにいけるのではないか」とコメント。さらに、同氏の専門領域であるポリファーマシーについても、「薬剤師は当然ながら、ほとんどの医師にもポリファーマシーが認識されるようになった。しかし、患者さんにポリファーマシーの重要性が届いているかは疑問が残るため、医療費適正化も踏まえて医療従事者へのCGAの啓発を行っていきたい」と締めくくった。

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ヘルスリテラシー世界最低国の日本、向上のカギは「がん教育」

 現在、小・中・高等学校で子供たちが「がんの授業」を受けていること、そしてその授業を医師などの医療者が担当する可能性があることをご存じだろうか。 2024年8月27日、厚生労働省プロジェクト「がん対策推進企業アクション」メディアセミナーで、中川 恵一氏(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「がん教育の意味」をテーマに、ヘルスリテラシーから考えるがん教育、授業の効果、医療者による授業などについて解説した。ヘルスリテラシーの欠如と学校がん教育 ヘルスリテラシーとは「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力」を指すが、先進国以外も含む調査において、日本のヘルスリテラシーは最低レベルであることが報告されている1)。 がんはヘルスリテラシーを高めることでコントロールできる側面があるが、日本においては、予防につながる生活習慣の理解や早期発見のためのがん検診受診率などに課題が多い。また、受動喫煙対策やワクチン接種など、がん対策の遅れの背景にも、ヘルスリテラシーの欠如があるという。 中川氏は、がん予防に関わる費用を他国と比較した場合、日本では教育や情報提供に占める割合が少ないことを示したうえで、今後国民のヘルスリテラシーを向上させうる「学校がん教育」への期待を語った。がん教育の効果の検証 がん教育は、教育カリキュラムの基準となる学習指導要領に2017年から明記されており、全国の小・中・高等学校で授業が始まっている。がん教育の一般認知度はまだ高いとはいえない状況だが、子供が授業で学んだことを親と話したり、がんについて学ぶ授業があることを親が知ったりすることで、大人のヘルスリテラシー向上も期待されている。 実際に、香川県の中学校におけるがん教育授業開始後に、町内の大腸がん検診受診率が向上したという報告もある。また、授業を受けた子供の知識やリテラシーが向上したことも報告されている2)。ただし、授業を受けた子供の成人後の検診受診意向の変化などについてはまだ調査が不十分であり3)、がん教育の長期的な効果の検証が求められる。高知県では、がん教育授業を受けた卒業生を対象に、子宮頸がんワクチン接種の有無などを含む行動変容について今後調査する予定である。医療者のがん教育参画への期待 がん教育をより効果的なものとするために、医療者やがんサバイバーなど、外部講師の授業への参画が期待されている。しかし、令和5年度の調査4)では、がん教育授業を実施した学校のうち、外部講師が授業を実施した割合は中学校で16.4%、高等学校で11.3%にとどまっており、この向上が課題の1つとなっている。 中川氏は「がん教育は、(死のイメージが強い)がんを題材とすることで、子供たちが命の大切さや死について考える大事な機会になる」としたうえで、医療者やがんサバイバーなどの参画の重要性を語った。さらに、学校医はがん検診受診促進やがんの緩和ケアに関わる機会もあるため、外部講師としての活動も期待されると述べた。 東京都で多くのがん教育授業を実施している南谷 優成氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 助教)は、医学生にも授業を担当してもらっているという。授業を行うことは、患者教育やヘルスコミュニケーションについて学ぶ機会となるため、医療者にもメリットがあると語った。また、授業のインパクトを残すことは重要であり、そのためにも学校の教師ではなく外部講師が授業を実施する意義があると述べた。 高いヘルスリテラシーを持つ医療者ががん教育に参画することで、国民全体のヘルスリテラシーのさらなる向上が期待される。

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日本の野菜中心の食習慣がMASLD患者の肝線維化リスクを低減

 日本の日常的な食習慣が代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)および肝線維症に及ぼす影響を調査した横断研究の結果、野菜中心の食習慣がMASLD患者の肝線維化リスクの低減と関連していたことが、弘前大学の笹田 貴史氏らによって明らかになった。Nutrients誌2024年8月28日号掲載の報告。 MASLDの発症・進行には、食習慣が大きく関与している。これまで、日本食、地中海食、西洋食などの国民的食習慣とMASLDの関連について多くの研究がなされているが、国内の同一地域における食習慣の違いがMASLDの発症・進行にどの程度影響するかを疫学的に検討した研究は乏しい。そこで研究グループは、日本の日常的な食習慣がMASLDと肝線維症の予防に有効であるという仮説を立て、日本の農村地域の一般住民におけるMASLDの発症と肝線維症への進行に対する食習慣の影響を調査した。 対象は、青森県弘前市岩木地区の「岩木健康増進プロジェクト」に参加した20歳以上の成人であった。データは2018年5月26日~6月4日に収集された。合計1,056人(20~88歳)が本研究に参加した。脂肪性肝疾患の診断に影響を与える因子を有する参加者は除外された結果、解析には727人が含まれた。参加者は、毎日の食物摂取量に基づいて、米の摂取量が多いグループ(米摂取群)、野菜やキノコ類の摂取量が多いグループ(野菜摂取群)、魚介類の摂取量が多いグループ(魚介類摂取群)、洋菓子やアイスクリームの摂取量が多いグループ(甘味摂取群)に分類された。 主な結果は以下のとおり。・220例がMASLDの診断基準を満たした。4つの食習慣群におけるMASLD患者の割合に有意差はなく、食習慣はMASLDの有意なリスク因子とは特定されなかった。・MASLDと診断された参加者の94例(42.7%)に肝線維化が認められた。・MASLD集団における単変量解析では、野菜摂取群は米摂取群よりも肝線維化が有意に少なかった(野菜摂取群vs.米摂取群のオッズ比[OR]:0.42、95%信頼区間[CI]:0.19~0.92、p=0.030)。米摂取群と魚介類摂取群および甘味摂取群の間に有意差は認められなかった。・多変量解析では、肝線維症のリスク因子として、BMI≧(OR:1.83、95%CI:1.01〜3.32、p=0.047)およびインスリン抵抗性(HOMA-IR)≧(OR:3.18、95%CI:1.74〜5.80、p<0.001)が特定された一方で、野菜摂取群であることは有意な低リスク因子であった(OR:0.38、95%CI:0.16〜0.88、p=0.023)。・肝線維化の抑制に関連する食品および栄養素を調査する多変量解析により、ニンジン、カボチャ、ダイコン、カブが重要な食品であることが判明した。これらの食品をさらに分析したところ、抗酸化作用を有するα-トコフェロールの高摂取が肝線維症の有意な低リスク因子であることが明らかになった(OR:0.74、95%CI:0.56〜0.99、p=0.039)。 研究グループは「これらの知見は、日本の野菜中心の食習慣がMASLD患者の肝線維化を抑制し、予後を改善する可能性を示唆するものである」とまとめた。

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初発乳がんへの遺伝子検査でPARP阻害薬の適応となる患者の割合

 乳がん患者の5~10%が、乳がん感受性遺伝子における生殖細胞系列病的バリアントまたはその可能性が高い病的バリアントと関連することが報告されており、局所療法と全身療法の推奨を変える可能性がある。今回、カナダ・McGill大学のZoulikha Rezoug氏らが、新たに浸潤性乳がんと診断された女性を対象に調査したところ、乳がん感受性遺伝子における生殖細胞系列病的バリアントまたはその可能性が高い病的バリアントを保持する患者の割合は7.3%であった。また、BRCA1/2またはPALB2病的バリアントを保持する患者は5.3%で、その3分の1がPARP阻害薬の適応であったという。JAMA Network Open誌2014年9月3日号に掲載。 この横断研究では、2019年9月~2022年4月にカナダ・モントリオールの3施設で初発の浸潤性乳がんと診断されたすべての女性に遺伝カウンセリングと遺伝子検査が提案され、3遺伝子(BRCA1、BRCA2、PALB2)の1次パネル(必須)と、14遺伝子(ATM、BARD1、BRIP1、CDH1、CHEK2、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、PTEN、RAD51C、RAD51D、STK11、TP53)の2次パネル(任意)が提案された。本研究に紹介される6ヵ月前までに初めて浸潤性乳がんの診断を受けた18歳以上の女性を適格とし、2023年11月~2024年6月のデータを解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,017例中、適格だった805例に遺伝カウンセリングと検査が提案され、うち729例(90.6%)が検査を受けた。乳がん診断時の年齢中央値は53歳(範囲:23~91歳)、65.4%が白人もしくは欧州系であった。・53例(7.3%)に54の生殖細胞系列病的バリアントまたはその可能性の高い病的バリアントが同定され、39例(5.3%)が1次パネルの3遺伝子(BRCA1、BRCA2、PALB2)で、15例(2.1%)が2次パネルの14遺伝子中の6遺伝子(ATM、BARD1、BRIP1、CHEK2、RAD51D、STK11)であった。・多変量解析では、BRCA1/BRCA2/PALB2病的バリアント陽性に独立して関連する臨床的因子として、診断時年齢40歳未満(オッズ比[OR]:6.83、95%信頼区間[CI]:2.22~20.90)、トリプルネガティブ乳がん(OR:3.19、95%CI:1.20~8.43)、高悪性度(OR:1.68、95%CI:1.05~2.70)、卵巣がんの家族歴あり(OR:9.75、95%CI:2.65~35.85)が挙げられた。・BRCA1/BRCA2/PALB2病的バリアント陽性の39例のうち13例(33.3%)がPARP阻害薬の適応であった。

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重症インフルエンザに抗ウイルス薬は有効か/Lancet

 重症インフルエンザの治療に最適な抗ウイルス薬は未だ不明とされる。中国・蘭州大学のYa Gao氏らは、重症インフルエンザの入院患者において、標準治療やプラセボと比較してオセルタミビルおよびペラミビルは、入院期間を短縮する可能性があるものの、エビデンスの確実性は低いことを示した。研究の成果は、Lancet誌2024年8月24日号で報告された。WHO診療ガイドライン改訂のためのネットワークメタ解析 研究グループは、世界保健機関(WHO)のインフルエンザ診療ガイドラインの改訂を支援するために、重症インフルエンザ患者の治療における抗ウイルス薬の有用性を評価する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(WHOの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、2023年9月20日までに発表された論文を検索した。対象は、インフルエンザが疑われるか、検査で確認された入院患者を登録し、直接作用型抗インフルエンザウイルス薬をプラセボ、標準治療(各施設のプロトコールに準拠またはプライマリケア医の裁量による)、あるいは他の抗ウイルス薬と比較した無作為化対照比較試験であった。 注目すべき主要アウトカムとして、症状改善までの期間、入院期間、死亡率のほか、侵襲的機械換気への移行、機械換気の期間、退院先、抗ウイルス薬耐性の発現、有害事象、治療関連有害事象、重篤な有害事象などの評価を行った。 頻度論に基づく変量効果モデルを用いたネットワークメタ解析でエビデンスを要約し、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチによりエビデンスの確実性を評価した。死亡率に対する効果、エビデンスの確実性は「非常に低」 8件の試験(1,424例、平均年齢の幅36~60歳、男性の割合の幅43~78%)が系統的レビューの対象となり、このうち6件をネットワークメタ解析に含めた。 季節性インフルエンザおよび人獣共通インフルエンザにおけるオセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルの死亡率に対する効果に関しては、プラセボまたは標準治療と比較した場合、どの薬剤も有効性に差はなく、エビデンスの確実性は「非常に低(very low)」であった。また、オセルタミビルとペラミビル、オセルタミビルとザナミビル、ペラミビルとザナミビルの比較でも、死亡率に対する有効性に差を認めず、エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」だった。 季節性インフルエンザによる入院期間は、プラセボまたは標準治療に比べオセルタミビル(平均群間差:-1.63日、95%信頼区間[CI]:-2.81~-0.45)およびペラミビル(-1.73日、-3.33~-0.13)で短縮したが、いずれもエビデンスの確実性は「低(low)」だった。 また、症状改善までの期間については、標準治療と比較してオセルタミビル(平均群間差:0.34日、95%CI:-0.86~1.54、エビデンスの確実性「低」)およびペラミビル(-0.05日、-0.69~0.59、エビデンスの確実性「低」)で差がほとんどないか、差を認めなかった。有害事象、重篤な有害事象の頻度も3剤で有意差なし 有害事象および重篤な有害事象の頻度には、オセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルで有意な差はなく、エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」であった。 機械換気への移行、機械換気の期間、抗ウイルス薬耐性の発現、治療関連有害事象ではネットワークメタ解析を行うことはできなかったが、ペアワイズメタ解析は可能であり、機械換気への移行、抗ウイルス薬耐性の発現、治療関連有害事象に関してはザナミビルに対するオセルタミビルのリスク比は1.20~2.89の範囲であった(エビデンスの確実性はいずれも「非常に低」)。退院先を評価した試験はなかった。 著者は、「これらの知見は、重症インフルエンザ患者の治療における抗ウイルス薬の効果に関する不確実性を強調するものであるが、抗ウイルス薬の使用をある程度正当化する」「重症インフルエンザ患者における抗ウイルス薬の臨床的有用性、安全性、抗ウイルス薬耐性への影響について知るためには、より多くの臨床試験が必要である」としている。

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SGLT2阻害薬による長期治療、2型DMの認知症予防に有効/BMJ

 年齢40~69歳の2型糖尿病患者の治療において、DPP-4阻害薬と比較してSGLT-2阻害薬は認知症の予防効果が高く、治療期間が長いほど大きな有益性をもたらす可能性が、韓国・Seoul National University Bundang HospitalのAnna Shin氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年8月28日号に掲載された。傾向スコアマッチング法を用いた韓国のコホート研究 研究グループは、中高年の2型糖尿病患者における認知症リスクと、SGLT-2阻害薬およびDPP-4阻害薬との関連を比較する目的で住民ベースのコホート研究を行った(韓国保健産業振興院[KHIDI]の助成を受けた)。 解析には、2013~21年の韓国の国民健康保険サービスのデータを用いた。対象は、SGLT-2阻害薬またはDPP-4阻害薬の投与を開始した40~69歳の2型糖尿病患者で、傾向スコアでマッチさせた11万885組(22万1,770例、平均年齢61.9歳、男性55.7%)であった。 主要アウトカムは、認知症の新規発症とし、副次アウトカムは、薬物療法を要する認知症および認知症の個々の型(アルツハイマー病、血管性認知症など)とした。アルツハイマー病、血管性認知症のリスクもSGLT-2阻害薬で低い 平均追跡期間670(SD 650)日において、11万885組のうち1,172例が新規に認知症と診断された。As treated解析による100人年当たりの認知症発症率は、SGLT-2阻害薬群が0.22、DPP-4阻害薬群は0.35であり、ハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.58~0.73)とSGLT-2阻害薬群でリスクが低かった。 また、100人年当たりの薬物療法を要する認知症の発症率は、SGLT-2阻害薬群0.12、DPP-4阻害薬群0.21(HR:0.54、95%CI:0.46~0.63)、100人年当たりのアルツハイマー病の発症率はそれぞれ0.17および0.28(0.61、0.53~0.69)、100人年当たりの血管性認知症の発症率は0.02および0.04(0.48、0.33~0.70)といずれもSGLT-2阻害薬群で良好だった。今後、無作為化対照比較試験が必要 性器感染症のHRは2.67(95%CI:2.57~2.77)、変形性関節症のHRは0.97(0.95~0.98)、白内障手術のHRは0.92(0.89~0.96)であった。白内障手術によって測定された残余交絡を補正すると、認知症のHRは0.70(0.62~0.80)となった。 治療期間が2年以内の場合の認知症のHRは0.57(95%CI:0.46~0.70)であったのに対し、2年以上の場合は0.52(0.41~0.66)であり、治療期間が長いほうがSGLT-2阻害薬群の有益性が高い可能性が示唆された。 著者は、「本研究は観察研究であるため、残余交絡や打ち切りが起こりやすく、効果量が過大評価された可能性がある」と指摘したうえで「これらの知見は、今後の無作為化対照比較試験の必要性を強調するものである」としている。

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ADHDとASDを鑑別する多遺伝子リスクスコア、統合失調症との関連は?

 統合失調症は、臨床的にも遺伝学的にも特殊な疾患であり、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)とも遺伝的因子が類似している。最近、ADHDとASDを鑑別するゲノムワイド関連研究(GWAS)が実施されている。岐阜大学の蔵満 彩結実氏らは、ASDとADHDを鑑別する多遺伝子リスクスコア(PRS)が、統合失調症患者の認知障害や皮質構造の変化と関連しているかを調査した。European Child & Adolescent Psychiatry誌オンライン版2024年8月7日号の報告。 GWASデータ(ASD:9,315例、ADHD:1万1,964例)に基づき、統合失調症患者168例におけるASDとADHDを鑑別するPRS(ADHD高リスクでASD低リスク)を算出した。言語理解(VC)、知覚統合(PO)、ワーキングメモリー(WM)、処理速度(PS)などの認知機能は、WAIS-IIIを用いて評価した(145例)。34の両側脳領域の表面積および皮質厚は、FreeSurferを用いて調べた(126例)。PRSと統合失調症患者の認知機能および皮質構造との関連性を調査した。 主な結果は以下のとおり。・ADHD高リスクを示す高PRSは、4つの認知領域のうち、WMの障害と関連が認められた(β=−0.21、p=0.012)。・ASD高リスクを示す低PRSは、統合失調症患者の次の脳領域の表面績の減少と関連が認められた。【左内側眼窩前頭皮質】β=0.21、p=0.000829【左嗅内皮質】β=0.21、p=0.025【左中心後回】β=0.18、p=0.00752【右紡錘状皮質】β=0.17、p=0.00664【左紡錘状皮質】β=0.17、p=0.00777・高PRSは、左右の横側頭葉における皮質厚の減少と関連していた(左:β=−0.17、p=0.039、右:β=−0.17、p=0.045)。 著者らは、「ADHDとASDを鑑別するPRSは、統合失調症患者の皮質構造および認知機能と関連していることが明らかとなった。これらの知見は、統合失調症の異質性は、統合失調症以外の神経発達および精神疾患に関連する遺伝的因子が部分的に関与している可能性があることを示唆している」としている。

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