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<先週の動き>1.在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大2.2025年度専攻医募集数のシーリングは継続、シーリング逃れに対策を/厚労省3.大学病院の医師、残業時間の上限緩和申請は4割に、研究時間不足が課題/全国医学部長病院長会議4.医療訴訟の発生率、東京・大阪が高く、茨城、福島、岐阜などは低め/東邦大5.働き方改革の影響で9大学病院が医師派遣の取り止めや中止を検討/全国医学部長病院長会議6.「疲労回復」謳う美容医療、治療効果にエビデンスなし、クリニックを提訴/消費者機構日本1.在宅医療の看取り件数が急増、訪問看護も利用拡大、コロナ禍で在宅ケアが進展/慈恵医大新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、在宅医療における看取りが急増したことが、東京慈恵会医科大学の青木 拓也准教授らの研究で明らかになった。調査は、2020年4月の緊急事態宣言を境に、終末期医療の利用や自宅での看取りが急増したことを示している。病院での受診控えや面会制限が影響し、在宅でのケアが選ばれるケースが増えたと考えられる。研究チームは、厚生労働省のNDBデータベースを用いて2019~2022年にかけて在宅医療サービスの利用動向を分析。訪問診療に大きな変化はみられなかったが、往診や終末期医療は増加傾向にあった。また、訪問看護の利用件数も増加しており、とくに医療保険適用型の訪問看護費が過去10年間で5.4倍に増加していることが、共同通信の分析で明らかになった。利用者数が4倍近く増加したことに加え、1人当たりの費用も1.4倍に増えたことが、費用増加の主因とされる。医療保険適用型の増加幅は介護保険適用型を大幅に上回っており、入院患者の早期在宅復帰を促す政策や、医療保険には利用限度額がないことが背景にある。訪問看護を巡っては、精神科や難病患者を対象にした診療報酬の過剰請求が指摘されており、利益を目的にした一部事業者による制度の乱用が費用増加の一因とも考えられている。財務省はこの問題を医療財政の圧迫要因として問題視しており、今後の対策が注目される。参考1)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)2)医療保険の訪問看護費5倍 10年間、1人当たりも増加(共同通信)2.2025年度専攻医募集数のシーリングは継続、シーリング逃れに対策を/厚労省厚生労働省は、9月9日に医師専門研修部会を開き、日本専門医機構が提案した2025年度の専攻医募集に関するシーリング案を審議し、特別地域連携プログラムにおける新要件を却下する方針を決定した。この結果、2024年度と同様のシーリングを継続することになった。新要件は、医師充足率が0.7以下(小児科は0.8以下)の都道府県で医師を1年以上派遣する案だったが、地域内での医師偏在を助長する恐れがあるとの意見が相次ぎ、採用を見送った。今後、1ヵ月以内に厚生労働大臣の意見として正式に日本専門医機構に伝達する予定。一方で、「シーリング逃れ」と呼ばれる問題が引き続き指摘されている。これは、シーリング対象外のプログラムが、実際にはシーリング対象地域で長期間の研修を行う形態を指し、その実態把握と報告が求められている。また、特別地域連携プログラムに関しては、地域偏在是正の実効性を検証し、今後の改良が提案される予定。厚労省は、医師偏在是正に向けた総合的対策を2024年末までに策定する予定であり、9月5日に開いた社会保障審議会・医療部会では、医師偏在是正に向けた対策を議論し、偏在是正のために若手医師だけに負担をかけるのではなく、即戦力となる40歳以上の医師に対する施策の強化が求められている。参考1)令和7年度専攻医募集におけるシーリング案に対する厚生労働大臣からの意見案(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(同)3)2025年度プログラム募集専攻医シーリング数(案)(日本専門医機構)4)2025年度の新専門医目指す専攻医募集、「玉突き案」は却下、「シーリング逃れ」の実態を解明-医師専門研修部会(Gem Med)5)医師偏在対策の総合パッケージ策定に向け医療部会で議論スタート「若手医師による偏在対策はもう限界」、少数区域に中堅医師の派遣求める声も(日経メディカル)3.大学病院の医師、残業時間の上限緩和申請は4割に、研究時間不足が課題/全国医学部長病院長会議9月11日に全国医学部長病院長会議は、医師の働き方改革施行後の令和6年4月の状況について、大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果を発表した。これによると、大学病院に勤務する医師のうち、時間外労働の上限緩和を申請した医師が4割に達したことが明らかになった。これは2024年4月に導入された医師の働き方改革に伴い、年間960時間の時間外労働上限が1,860時間に引き上げられる特例措置を活用した結果で、2022年の調査時の34%から増加している。調査は全国82の大学病院を対象に行われ、約4万2,000人の医師のうち41%が特例措置を申請していることが判明した。また、医師の約56%が週平均5時間以下の研究時間しか確保できていないことが指摘され、とくに20歳代の医師では96%がこの状況にある。若手医師が診療業務に追われ、十分な研究時間が確保できていない実態が浮き彫りとなり、医療の将来に重大な影響を及ぼす可能性があると懸念されている。一方、労働時間の短縮は徐々に進んでおり、週50時間未満で勤務する医師の割合は49.6%となり、2022年の調査よりも8.1ポイント増加している。複数主治医制の導入や業務の時間内完了を進める取り組みが功を奏しているが、週60時間以上働く医師が依然として3割を超えており、とくに外科や小児科での改善が求められている。また、大学病院の給与に関しては、20歳代医師の87%、30歳代では51%が年収500万円未満であることが明らかとなり、国立病院や一般医療機関と比べて低い水準にあることが問題視されている。働き方改革を進めるためには、ICTの活用やタスクシフトの推進が求められており、診療報酬による支援が必要とされている。参考1)大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果2)医師の残業時間、4割が上限緩和申請 大学病院団体調べ(日経新聞)3)若手医師の研究時間が少なく「医療の将来に重大な影響」 医師の働き方改革で調査(産経新聞)4)週50時間未満勤務の大学病院医師49.6% 4月時点 22年7月から8.1ポイント増(CB news)4.医療訴訟の発生率、東京、大阪が高く、茨城、福島、岐阜などは低め/東邦大学東邦大学薬学部の平賀 秀明講師らの研究グループは、最高裁判所の協力を得て2005~2021年にかけて全国の地方裁判所に提訴された医事関係訴訟の都道府県別発生率を調査した結果、発生率に地域差があることを明らかにした。今後、地域ごとの医療安全対策や医療事故後の患者応対、訴訟実務における指針として活用されることが期待される。調査によると、人口100万人当たりの医事関係訴訟発生率が全国平均(6.30件/年)と比べて有意に高い地域は東京都(12.97件/年)および大阪府(10.99件/年)。逆に、発生率が有意に低い地域は茨城県(1.77件/年)、福島県(1.93件/年)、岐阜県(2.50件/年)など12地域に及ぶ。また、医療機関1,000施設当たりや医師・歯科医師1,000人当たりの発生率においても、東京と大阪が高く、茨城、福島、岐阜などでは低い傾向がみられた。この地域差の要因については、医療機関側の過誤が少ないことや、弁護士不足による訴訟へのアクセスの違いが影響している可能性が指摘され、追加解析が進められている。今後、地域ごとの実情に応じた医療訴訟対策が求められる。この研究は、2024年7月31日に『医療の質・安全学会誌』に公開された。参考1)最高裁判所の協力を得て医事関係訴訟の都道府県別発生率を調査~発生率における地域差の存在が明らかに~(東邦大学)2)東邦大学 医事関係訴訟の都道府県別発生率に地域差 東京、大阪が高く、茨城、福島、岐阜等12地域は低い(ミクスオンライン)5.働き方改革の影響で9大学病院が医師派遣の取り止めや中止を検討/全国医学部長病院長会議2024年4月に始まった医師の働き方改革により、全国9つの大学病院が他の医療機関への医師派遣を取りやめ、または中止を検討していることが明らかになった。この調査は、全国医学部長病院長会議が82の大学病院を対象に実施したアンケート結果から判明したもので、働き方改革に伴う時間外労働の制限が影響を及ぼしている。調査結果によると、82の大学病院のうち、9つの病院が派遣中止や検討をしており、24の病院では勤務体制の見直しが進められている。具体的には、勤務間インターバルの導入などにより、医師の負担軽減を図る取り組みが行われている。一方、53の病院では現時点でとくに派遣に関する変更はないとされている。働き方改革により、医師の労働時間は減少傾向にあるが、とくに若手医師は診療業務、教授クラスの医師は研究業務に影響が出ている。若手医師の78%が診療時間の増加を感じており、教授の66%が研究時間の減少を挙げている。これにより、研究の遅れや診療体制の見直しが必要となっている。全国医学部長病院長会議の相良 博典会長は、「大学病院は地域医療にとって重要な存在であり、派遣中止が広がれば医療崩壊のリスクが高まる」と懸念を表明。今後、国に対して待遇の改善や医師確保に向けた対策を求めていく考えを示している。医師派遣の中止や制限が進むことで、地域医療に大きな影響を与える可能性があり、早急な対応が求められている。参考1)大学病院の医師の働き方改革に関するアンケート調査結果(全国医学部長病院長会議)2)全国9大学病院 ほかの医療機関への医師派遣 取りやめ 中止検討(NHK)3)医師派遣の取りやめ・中止検討、大学病院1割超で 4月時点 AJMC調査(CB news)6.「疲労回復」謳う美容医療、治療効果にエビデンスなし、クリニックを提訴/消費者機構日本特定適格消費者団体「消費者機構日本」は9月10日、東京都渋谷区のクリニック「サカイクリニック62」を相手取り、同クリニックが提供する自由診療に関するインターネット広告の表示が景品表示法における「優良誤認表示」に該当するとして、広告の停止を求める訴訟を東京地裁に起こした。クリニックは「疲労回復」や「アンチエイジング」などの効能を謳ったが、これらの効果には医学的なエビデンスがなく、厚生労働省も安全性に関する注意喚起を行っていた。提訴の対象となったのは、点滴や温熱療法など8種類の治療法に関する広告で、これらに関する効果を裏付ける客観的な医学的証拠がないことが問題視された。とくに「エクソソーム点滴療法」などの治療法は、その安全性が確認されていないとされており、消費者団体は「このままの状態が続くことが患者の利益を損なう」と指摘している。この訴訟は、医療機関による広告が景品表示法違反に問われた初のケースとなる。自由診療は保険診療とは異なり、高額で提供されることが多く、効能のエビデンスが不十分なまま提供される治療が広がっている現状がある。今回の訴訟は、こうした問題を是正し、消費者の利益を保護する狙いがある。また、訴訟に至るまでの経緯として、消費者機構日本が、4月にクリニックへ広告の削除を要請したものの、クリニック側のウェブサイトの改修対応などが遅れたこと、そして、当初「来年に改訂予定」として広告の表示を続けていたが、最終的には削除作業を進めていることを公表した。今回のケースは、自由診療分野における医療広告の規制が緩く、消費者保護が不十分であることを示しているとされ、今後も消費者機構日本は、同様の訴訟を展開し、他の医療機関に対しても適切な表示を促す姿勢を示している。参考1)再生医療・免疫療法と称する自由診療行為を行う医療社団法人サカイクリニック62(渋谷区)に対し、インターネット上の広告表示が優良誤認表示に該当するとして差止請求訴訟を提起しました(消費者機構日本)2)医療広告で「疲労回復」効能なし 消費者団体が東京・渋谷のクリニック提訴(産経新聞)3)「アンチエイジング」「睡眠の質改善」…自社サイトで優良誤認表示にあたる表現があるとしてクリニック側を提訴 原告「自由診療分野はやりたい放題」(TBS)4)「自由診療は野放しになっている」 “ネット広告”が「優良誤認表示」に該当するとして、消費者団体が医療クリニックに差し止め請求(弁護士JPニュース)