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僧帽弁閉鎖不全症を伴う心不全、経カテーテル修復術の追加は有効か/NEJM

 中等症~重症の機能性僧帽弁閉鎖不全症を有する心不全で薬物療法を受けている患者では、MitraClipデバイスを用いた経カテーテル僧帽弁修復術を追加することにより、薬物療法単独と比較して24ヵ月後の心不全による初回または再入院と心血管死の複合の発生率が改善し、12ヵ月後の健康状態が良好であることが、ドイツ・シャリテ大学のStefan D. Anker氏らRESHAPE-HF2 Investigatorsが実施した「RESHAPE-HF2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年8月31日号に掲載された。国際的な医師主導型無作為化対照比較試験 RESHAPE-HF2試験は、9ヵ国30施設で実施した医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2015年3月~2023年10月に参加者のスクリーニングを行った(Abbott Laboratoriesの助成を受けた)。 ガイドライン推奨の治療を行っても心不全の症状および徴候があり、グレード3+または4+の機能性僧帽弁閉鎖不全症を有し、左室駆出率が20~50%で、血漿中のナトリウム利尿ペプチド濃度の上昇(BNP濃度≧300pg/mLまたはNT-proBNP濃度≧1,000pg/mL)を認める患者を対象とした。 被験者を、経カテーテル僧帽弁修復術+薬物療法を行う群(デバイス群)または薬物療法のみを行う群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは3項目で、(1)24ヵ月間の心不全による初回または再入院と心血管死の複合の発生率、(2)24ヵ月間の心不全による初回または再入院の発生率、(3)カンザスシティ心筋症質問票総合サマリー(KCCQ-OS、0~100点、点数が高いほど健康状態が良好)スコアのベースラインから12ヵ月の時点までの変化量であった。3項目とも有意に改善 505例が登録され、デバイス群に250例、対照群に255例が無作為化された。ベースラインの全体の平均(±SD)年齢は70(±10)歳、20%が女性で、35%が非虚血性心筋症、29%が心臓再同期療法デバイスを装着していた。左室駆出率中央値は31%(四分位範囲[IQR]:25~37)、KCCQ-OSスコア中央値は43点(IQR:26~63)だった。 24ヵ月の時点で、心不全による初回または再入院と心血管死の複合の発生率は、対照群が100人年当たり58.9件であったのに対し、デバイス群は37.0件と有意に低かった(率比:0.64、95%信頼区間[CI]:0.48~0.85、p=0.002)。 24ヵ月時の心不全による初回または再入院の発生率は、対照群が100人年当たり46.6件だったのに対し、デバイス群は26.9件であり有意に低率だった(率比:0.59、95%CI:0.42~0.82、p=0.002)。 また、12ヵ月後のKCCQ-OSスコアの平均値の変化量は、対照群では8.0(±24.5)点の上昇であったのに比べ、デバイス群は21.6(±26.9)点上昇しており有意に良好だった(平均群間差:10.9点、95%CI:6.8~15.0、p<0.001)。手技に関連した有害事象は4件 12ヵ月の時点で、僧帽弁閉鎖不全症がグレード2+以下の患者の割合(デバイス群90.4% vs.対照群36.1%、p<0.001)、およびNYHA心機能分類クラスI/IIの心不全の患者の割合(74.5% vs.58.5%、p<0.001)は、いずれもデバイス群で高かった。 全死因死亡(デバイス群22.3% vs.対照群29.6%)、心血管系の原因による死亡(17.8% vs.20.4%)には両群間で差がなかったが、心血管系以外の原因による死亡(4.5% vs.9.3%、p=0.04)、予期せぬMitraClip留置(2.0% vs.6.5%、p=0.004)、すべての予期せぬ経カテーテル僧帽弁修復術(2.0% vs.10.0%、p<0.001)はデバイス群で少なかった。 デバイス群では、手技に関連した有害事象が4件(1.6%)報告された。内訳は、血腫が2件、心嚢液貯留が1件、右房穿孔が1件(デバイス留置終了後に開胸手術)であった。 著者は、「機能性僧房弁閉鎖不全症が未治療のままであると、心不全の増悪や不良な予後につながる心臓の構造や機能の変化を引き起こす可能性があるため、今回の試験の知見は重要である」と述べ、「ガイドラインに準拠した薬物療法と併用した経カテーテル僧帽弁修復術が、心不全による入院を1件予防するための治療必要数(number needed to treat)はわずか5.1件であった」としている。

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腎ドナーの死亡リスク、過去最低に

 腎臓提供者(ドナー)が死亡するリスクは、これまでになく低下していることが新たな研究で明らかになった。腎ドナーの死亡率はすでに10年前から低かったが、現在では、さらにその半分以下になっていることが示されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部Center for Surgical and Transplant Applied Research Quantitative CoreのAllan Massie氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月28日掲載された。 臓器調達・移植ネットワークによれば、毎年およそ6,000人の米国人が腎臓の提供を志願している。Massie氏らは今回、1993年から2022年までの生体腎ドナーに関するデータを用いて、腎臓提供後90日以内のドナー死亡率を算出した。データは1993~2002年、2003~2012年、2013~2022年の3つの期間に分類して解析した。 研究対象期間中に16万4,593人が腎臓を提供しており、36人が提供後90日以内に死亡していた(ドナー1万人当たり2.2人の死亡)。期間別に死亡数と死亡率(ドナー1万人当たりの死亡数)を比較すると、1993〜2002年では13人(1万人当たり3.0人)、2003〜2012年では18人(1万人当たり2.9人)であったのが、2013〜2022年には5人(1万人当たり0.9人)と、統計学的に有意に減少したことが明らかになった。さらに、男性では女性よりも、また、提供前に高血圧の既往があった人ではなかった人よりも、腎臓提供後90日以内の死亡率が統計学的に有意に高かったが、年齢、人種/民族と死亡リスクとの間に有意な関連は認められなかった。 Massie氏は、「腎臓提供が安全であることは分かっていたが、今回の調査結果は、ドナーが死亡することは極めてまれであり、その処置はかつてないほど安全なことを示唆している」と話す。 Massie氏は、このような死亡率改善の背景には、手術方法の向上があるとの見方を示す。同氏によると、1990年代以降、手術方法は劇的に変化したという。例えば、以前は腎臓の摘出には6〜8インチ(約15〜20cm)の切開が必要だったが、現在では、より侵襲性の低い腹腔鏡手術による臓器の摘出が主流となり、切開創はかなり小さくなったと同氏は説明する。また研究グループは、医師によるドナー希望者の健康状態の確認や手術後のドナーに対するケアの向上も、死亡率低下に寄与しているとしている。 NYUグロスマン医学部の外科副部長であるDorry Segev氏は、「これらの結果は、腎臓提供の可能性があるドナーにリスクを知らせるために使用されている現行のガイドラインを、過去10年弱の間に成し遂げられた安全性の向上を反映した内容に更新する必要があることを示している」と述べている。 一方、2009年に従兄弟に自身の腎臓を提供した経験を持つ、論文の共著者でNYUグロスマン医学部のMacey Levan氏は、「腎ドナーとして、またこの分野の専門家として、進歩を目の当たりにするのは心強いことだ」とNYUのニュースリリースの中で述べている。

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調剤の外部委託の実証事業、委託範囲はどこまで?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第138回

調剤の外部委託に関する実証事業が行われました。調剤の外部委託については、2年前の2022年頃から本格的に議論されてきました。今回の実証事業は国家戦略特別区域(特区)の特例で、7月から大阪市で事業の受付が行われました。その結果、今回は日本調剤で実施されることが決まり、8月28~29日の2日間実施されました。今回の特区での取り組みには複数の大手チェーンが参加しており、フェーズ1と称してさまざまな地域での実証事業が行われる予定になっています。実証事業においては、すべての調剤業務が委託可能というわけではなく、「錠剤の一包化」のみとされています。また、委託先として、本来は同一法人内に限定しないとしていますが、今回の実証事業では同一法人内での委託に限定されました。実施した日本調剤の2薬局は、地図で見てみると12km離れた場所にあり、車で30分ほどの距離にあるようです。2日間の実証事業は、慢性疾患で4日以上の薬の余裕がある10人程度の患者さんから同意を得て実施されました。調剤された医薬品は車で委託元の薬局に運ばれ、患者さんの手元に渡ったとのことです。現在、医薬品医療機器等法の施行規則において、「薬局開設者は、調剤の求めがあった場合には、その薬局で調剤に従事する薬剤師にその薬局で調剤させなければならない」と定められています。医薬品を借りに行くことはあっても、他の薬局に調剤を委託することはできず、一部であっても調剤の外部委託は違反になってしまいます。「調剤の外部委託!」というと、大手薬局チェーンが飲食店のセントラルキッチンのような最新の機械がどっさりと設置されているセントラル調剤室を設け、町の薬局や薬剤師が脅かされるのでは…と不安に思う声も聞こえてきそうですが、大事なのはそもそもなぜ調剤を外部委託する必要があるのか? という点です。その目的は、「薬剤師が対人業務に注力できるようにすること」であり、そのための「対物業務の効率化」です。これらのことを実施するための外部委託であることを忘れてはならないと思います。ただし、大切な注意点として「外部委託を行うことにより、患者の医療安全(医薬品の安全使用)や医薬品アクセスが脅かされてはならない」ともあります。今回の実証事業のレポートなどをみても、手順書の整備や薬局間の連絡など、やっぱり手間がかかるなぁという印象もあり、中小薬局での委託はちょっと難しいかも…という気がします。しかし、あくまでも規制が緩和され、手段が増えて対人業務を行う時間が増えると考えると、少し前向きに考えられるかもしれません。一包化などの作業を再確認する機会にもなりそうです。今回の実証事業に関しては、日本薬剤師会や大阪府薬剤師会などは反対の意思を示しているようです。対人業務を頑張ると言ったことと、調剤を外部委託することは別ということでしょうか。このねじれはいつものことですが、現場からするとどうにかしてほしいなぁと思うところです。

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英語で「脳神経は正常です」は?【1分★医療英語】第149回

第149回 英語で「脳神経は正常です」は?《例文1》Although the patient presented with mild dizziness, her cranial nerves were grossly intact on initial evaluation.(患者は軽度のめまいの訴えがありましたが、初回の診察では脳神経の明らかな異常は見られませんでした)《例文2》The cranial nerves were not intact on neurological exam, as the patient showed facial asymmetry.(神経学的検査において、患者は顔面の非対称性を示したため、脳神経に異常が見られました)《解説》今回は脳神経に関する単語の解説です。救急外来などでは、身体検査で脳神経系を評価する場面がしばしばあるかと思います。「正常な脳神経所見」はどのように伝えればよいでしょうか。医療英語では、I~XIIの12の脳神経のことを“cranial nerve”と呼びます。副詞の“grossly”は単語としては「甚だしく/著しく」といった意味ですが、これを“intact”(=「損なわれていない/完全な」という意味の形容詞)と組み合わせて“grossly intact”とすると、「(脳神経が)異常なし/正常である」という意味になります。この“grossly intact”は“Cranial nerves are (were) grossly intact.”(脳神経所見は正常です)というお決まりのフレーズとして、カルテでも口頭のプレゼンでも頻用されます。ただ、“grossly”という単語は基本的に脳神経所見に限って使われる単語であり、ほかの身体所見ではあまり使われないので注意してください。なぜ脳神経のみがこの表現なのかは明らかではないのですが、米国の医療現場で広く使われているのでそのまま覚えてしまいましょう。一方、“intact”のほうは、ほかの部位の正常所見を示す際にも使われます。直訳すれば、“physically and functionally complete.”(身体的、機能的に完璧である)という意味になりますが、実際にカルテに記載されている例を挙げると、“Skin is moist and intact.”(皮膚は湿潤、損傷なし)や、“Extraocular movements is intact.”(眼球運動は正常)といった使われ方をしています。講師紹介

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15の診断名・11の内服薬―この薬は本当に必要?【こんなときどうする?高齢者診療】第5回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロン」で2024年8月に扱ったテーマ「高齢者への使用を避けたい薬」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。老年医学の型「5つのM」の3つめにあたるのが「薬」です。患者の主訴を聞くときは、必ず薬の影響を念頭に置くのが老年医学のスタンダード。どのように診療・ケアに役立つのか、症例から考えてみましょう。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)病気のデパートのような診断名の多さです。薬の数は、5剤以上で多剤併用とするポリファーマシーの基準1)をはるかに超えています。この症例を「これらの診断名は正しいのか?」、「処方されている薬は必要だったのか?」このふたつの点から整理していきましょう。初診の高齢者には、必ず薬の副作用を疑った診察を!私は高齢者の診療で、コモンな老年症候群と同時に、さまざまな訴えや症状が薬の副作用である可能性を考慮にいれて診察しています。なぜなら、老年症候群と薬の副作用で生じる症状はとても似ているからです。たとえば、認知機能低下、抑うつ、起立性低血圧、転倒、高血圧、排尿障害、便秘、パーキンソン症状など2)があります。症状が多くて覚えられないという方にもおすすめのアセスメント方法は、第2回で解説したDEEP-INを使うことです。これに沿って問診する際、とくにD(認知機能)、P(身体機能)、I(失禁)、N(栄養状態)の機能低下や症状が服用している薬と関連していないか意識的に問診することで診療が効率的になります。処方カスケードを見つけ、不要な薬を特定するさて、はっきりしない既往歴や薬があまりに多いときは処方カスケードの可能性も考えます。薬剤による副作用で出現した症状に新しく診断名がついて、対処するための処方が追加されつづける流れを処方カスケードといいます。この患者では、変形性膝関節症に対する鎮痛薬(NSAIDs)→NSAIDsによる逆流性食道炎→制酸薬といったカスケードや、NSAIDs→血圧上昇→高血圧症の診断→降圧薬(アムロジピン)→下肢のむくみ→心不全疑い→利尿薬→血中尿酸値上昇→痛風発作→痛風薬→急性腎不全という流れが考えられます。このような流れで診断名や処方薬が増えたと想定すると、カスケードが起こる前は以下の診断名で、必要だったのはこれらの処方薬ではと考えることができます。90歳男性。初診外来に15種類の診断名と、内服薬11種類を伴って来院。【診断名】2型糖尿病、心不全、高血圧、冠動脈疾患、高脂血症、心房細動、COPD、白内障、逆流性食道炎、難聴、骨粗鬆症、変形性膝関節症、爪白癬、認知症、抑うつ【服用中の薬剤】処方薬(スタチン、アムロジピン、リシノプリル、ラシックス、グリメピリド、メトホルミン、アルプラゾラム、オメプラゾール)市販薬(抗ヒスタミン薬、鎮痛薬、便秘薬)減薬の5ステップ減らせそうな薬の検討がついたら以下の5つをもとに減薬するかどうかを考えましょう。(1)中止/減量することを検討できそうな薬に注目する(2)利益と不利益を洗い出す(3)減薬が可能な状況か、できないとするとなぜか、を確認する(4)病状や併存疾患、認知・身体機能本人の大切にしていることや周辺環境をもとに優先順位を決める(第1回・5つのMを参照)(5)減薬後のフォローアップ方法を考え、調整する患者に利益をもたらす介入にするために(2)~(4)のステップはとても重要です。効果が見込めない薬でも本人の思い入れが強く、中止・減量が難しい場合もあります。またフォローアップが行える環境でないと、本当は必要な薬を中断してしまって健康を害する状況を見過ごしてしまうかもしれません。フォローアップのない介入は患者の不利益につながりかねません。どのような薬であっても、これらのプロセスを踏むことを減薬成功の鍵としてぜひ覚えておいてください! 高齢者への処方・減量の原則実際に高齢者へ処方を開始したり、減量・中止したりする際には、「Stand by, Start low, Go slow」3)に沿って進めます。Stand byまず様子をみる。不要な薬を開始しない。効果が見込めない薬を使い始めない。効果はあるが発現まで時間のかかる薬を使い始めない。Start lowより安全性が高い薬を少量、効果が期待できる最小量から使う。副作用が起こる確率が高い場合は、代替薬がないか確認する。Go slow増量する場合は、少しづつ、ゆっくりと。(*例外はあり)複数の薬を同時に開始/中止しない現場での実感として、1度に変更・増量・減量する薬は基本的に2剤以下に留めると介入の効果をモニタリングしやすく、安全に減量・中止または必要な調整が行えます。開始や増量、または中止を数日も待てない状況は意外に多くありませんから、焦らず時間をかけることもまたポイントです。つまり3つの原則は、薬を開始・増量するときにも有用です。ぜひ皆さんの診療に役立ててみてください! よりリアルな減薬のポイントはオンラインサロンでサロンでは、ふらつき・転倒・記憶力低下を主訴に来院した8剤併用中の78歳女性のケースを例に、クイズ形式で介入のポイントをディスカッションしています。高齢者によく処方される薬剤の副作用・副効果の解説に加えて、転倒につながりやすい処方の組み合わせや、アセトアミノフェンが効かないときに何を処方するのか?アメリカでの最先端をお話いただいています。参考1)Danijela Gnjidic,et al. J Clin Epidemiol. 2012;65(9):989-95.2)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 33. 2020. 丸善出版3)The 4Ms of Age Friendly Healthcare Delivery: Medications#104/Geriatric Fast Fact.上記サイトはstart low, go slow を含めた老年医学のまとめサイトです。翻訳ソフトなど用いてぜひ参照してみてください。実はオリジナルは「start low, go slow」だけなのですが、どうしても「診断して治療する」=検査・処方に走ってしまいがちな医師としての自分への自戒を込めて、stand by を追加して、反射的に処方しないことを忘れないようにしています。

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腹部CT画像の見落としの有無【医療訴訟の争点】第4回

症例腹痛を訴えて受診をする患者は珍しくなく、夜間であれば研修医などの消化器系非専門医がその診察を担当することも多い。本件では、腹痛を訴えて夜間に受診をした患者につき、撮影したCT画像の読影に見落としがあったかが争われた静岡地裁令和3年8月31日判決を紹介する。なお、争点は多岐にわたるが、本稿では画像読影の点を取り上げることとする。<登場人物>患者83歳・女性(A)夜間、自宅で腹痛を発症し、浣腸して便が出るも腹痛が収まらないため、救命救急センターを受診。既往歴はなし。原告患者の子被告総合病院(二次救急病院・地域医療支援病院)、B医師(初期臨床研修1年目)事案の概要は以下の通りである。平成27年10月24日午後9時頃自宅にて腹痛を発症。午後10時過ぎ同居している子(原告)と共に被告病院の救命救急センターを受診。午後11時55分B医師の診察。この際、Aは午後9時頃に「お腹が痛くなり、浣腸をして便が結構出た」「お腹の痛みは治らない」旨を訴えた。10月25日午前0時過ぎ腹部CT検査、血液検査および心電図検査を実施。血液検査を含め、結果は午前1時までに判明。なお、午前0時30分~6時30分までの間、電子カルテシステムがメンテナンスのため、普段と異なるシステムでの画像判読が必要であった。午前2時頃B医師は、腹部CT画像に異常がないと判断したが、C医師(初期臨床研修2年目)に相談。C医師は、同CT画像を確認し、左下腹部の圧痛の原因は便貯留による閉塞性腸炎によるものと判断したものの、緊急性はなく、帰宅可能と判断。午前2時37分B医師は帰宅を指示し、Aは被告病院から帰宅。午前7時頃Aは茶色物を嘔吐午前7時30分頃被告病院に電話し、症状を伝えるとともに再受診する旨を伝えた。C医師は、復旧した電子カルテシステムでCT画像を再度確認したところ、腹部に遊離ガス(free air)を認めたことから、消化管穿孔を疑い、D医師(外科医長)に相談し、画像読影を依頼。午前8時24分頃D医師はCT画像を確認し、胃の腹側および脾臓の前面に遊離ガスを認めたため、改めて腹部CT検査および血液検査を指示。午前8時44分頃2回目の腹部CT画像にて、腹部の遊離ガスおよび腹水の著明な増加を認めたため、D医師は大腸穿孔による急性汎発性腹膜炎からの敗血症ショック状態と判断。午前10時15分頃緊急手術を実施。開腹したところ、穿孔部位は下行結腸であり、周囲には便汁がみられ、腹腔内全体には便汁様の膿が貯留していた。穿孔部を仮縫合し閉鎖した後、腹腔内を洗浄し、口側腸管に人工肛門を造設するなどして手術を終了。10月26日午後0時52分、Aは敗血症を原因とする多臓器不全で死亡。実際の裁判結果裁判所は、以下の各点を指摘した上で、腹部CTが終わり血液検査結果の出た平成27年10月25日午前1時の時点までには、これらの検査結果等に基づき患者Aに発症した消化管穿孔を疑うべきであり「自らあるいは他の医師に依頼するなどして、緊急手術としての開腹による穿孔部への処置と腹腔内洗浄・ドレナージを実施すべき注意義務があった」として、これを行わなかったことについて注意義務違反があるとした。<判決が指摘したポイント>下部消化管穿孔は、比較的高齢者に好発するものであること患者Aが70歳を超える高齢者であったこと特発性大腸穿孔は、慢性的な便秘や排便等、発症の誘因となる動作が認められることが多いこと下部消化管穿孔は、細菌を含む糞便が腹腔内に漏れることにより細菌性腹膜炎を来し、敗血症となり、ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全に移行することがあり、一般に予後が悪いため、早期の的確な診断と手術をすべきであることCT画像上、上腹部の前腹壁直下および下行結腸周囲にも遊離ガスが認められたこと患者Aが腹痛を訴えて被告病院を受診し、排便を契機として腹痛が生じたなどの経緯を説明したことなお、病院側は、本件当日は電子カルテシステムが停止中であったため、普段使い慣れていない代替システムを用いての画像閲覧を余儀なくされたこと、代替システムで腹部CT画像を閲覧する場合の初期設定は、ガスと脂肪が同じような濃度に見えたため、遊離ガスの検出は難しかったことを主張した。これに対して裁判所は、代替システムの画像濃度値を変更すれば初期設定よりも鮮明に空気と脂肪の区別が比較的容易となること、代替システムが初期設定の状態であっても注意深く観察すればCT画像上の遊離ガスの発見は困難ではなかったこと、B医師もこの点を自認していること等を指摘し、「代替システムを用いてCT画像を読影せざるを得なかったからといって、遊離ガスの発見が困難であったとは言い難い」とした。また、病院側は、B医師は、C医師に相談しており、研修医としての能力的限界を常に自覚しながら誠実に医療に携わっていたとして、B医師に注意義務違反はない旨を主張したが、裁判所は、「過失の判断は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準によるべきであって、Bが研修医であったかどうかはこの点において考慮されるべき事情ではない」と判断した。注意ポイント解説本件では、下部消化管穿孔が一般に予後が不良であるため、早期の的確な診断と手術が求められている中で、患者Aが下部消化管穿孔の好発する高齢者であり、その誘発原因となる経過を述べていたこと、CT画像を注意深く見れば下部消化管穿孔を積極的に疑う所見である遊離ガスを認め得たことから、医療機関側の注意義務違反を認める判断がなされた。この点、本件では普段使い慣れているシステムがメンテナンス中であり、使い慣れていない代替システムを用いて読影を余儀なくされたという事情があるほか、研修医が上級医に相談しているという経緯もあり、必ずしも医師の対応に大きな問題があったとまでは言えない部分がある。しかし、医療水準が、医療機関の性格に応じて判断されるものであることからすれば、当日に代替システムを用いざるを得なかったことや、担当医が研修医であったか否かは、医療機関の行っている医療行為のレベルに直接的な関係がないため、医療水準の判断に直ちに影響することにはならない。このため、医療機関は、代替システムの利用方法の周知や、研修医と上級医の連絡・相談体制の構築についても対応していく必要がある。また、連絡・相談体制があっても、上級医が相談しにくい雰囲気を出していれば相談がなされず有名無実化するため、研修医が上級医に相談しやすい環境の醸成を含めた対応が必要である。医療者の視点救急時間帯の画像読影はとてもストレスの大きいタスクです。同じ勤務時間帯に脳、胸部、腹部などすべての領域の専門医が揃うことはほとんどありません。研修医や非専門領域の医師が協力して読影せざるを得ない場面も多くあるかと思います。そのような状況下では、どれだけ注意深く読影しても診断困難な症例に遭遇することがあると予想されます。しかしながら、裁判所や患者さんには医療者側の事情を聞き入れてもらえないことがある、という典型的な事案かと思います。このような事態を引き起こさないための取り組みとしては、(1)自身の読影能力を向上させる、(2)専門医に相談できる体制を整える、(3)救急時間帯も放射線科による読影体制を構築する、(4)画像読影AIを導入する、などが挙げられます。とくに(3)はリモートでも実施可能ですし、(4)の有用性を支持する論文も多数発表されていますので、このような診療補助ツールを駆使することもお勧めです。Take home message画像読影につき、普段使用しているシステムがメンテナンス等で使用できない場合の代替システムの使用方法について把握しておくこと、研修医等の専門性発展途上の医師と上級医の連絡・相談体制(相談しやすい環境づくりを含む)を構築しておくこともまた重要である。キーワード画像所見の見落とし画像所見の見落としがあるとされるか(読影における注意義務違反があるか)は、集団検診におけるものであるか、人間ドックにおけるものか、一定の疾患が疑われた上での精査の場面であるかによっても求められる水準が異なる。誤解を恐れずに言えば、当該画像撮影がなされた検査において、その検査に携わる一般的な医師が指摘可能な所見であったか否かにより、判断されることとなる。

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第233回 コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024

コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を生じ易いことが知られます。幸い、がん患者の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種の安全性はおおむね良好です。いまや可能な限り必要とされるがん患者のSARS-CoV-2ワクチン接種が、その本来のCOVID-19予防効果に加えて、なんとがん治療の効果向上という思わぬ恩恵ももたらしうることが、今月13~17日にスペインのバルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)での報告で示唆されました1)。報告したのは米国屈指のがん研究所であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏です。Grippin氏らは今回の報告に先立ち、mRNAワクチンがその標的抗原はどうあれ、腫瘍のPD-L1発現を増やして抗PD-L1薬などの免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を高めうることを、げっ歯類での検討で見出していました。そこでGrippin氏らはCOVID-19予防mRNAワクチンがPD-L1発現を促すことでICIが腫瘍により付け入りやすくなるのではないかと考え、StageIII/IVの進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者2,406例や転移黒色腫患者757例などの記録を使ってその仮説を検証しました。予想どおり、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種から100日以内のNSCLC患者の腫瘍では、PD-L1がより発現していました。また、5千例強(5,524例)の病理報告の検討でもSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種とPD-L1を擁する腫瘍細胞の割合の55%上昇が関連しました。SARS-CoV-2 mRNAワクチンとICI治療効果の関連も予想どおりの結果となりました。ICIが投与されたNSCLC患者群のうち、その開始100日以内にSARS-CoV-2 mRNAワクチンを接種していた患者は、そうでない患者に比べて全生存期間(OS)がより長く(それぞれ1,120日と558日)、より多くが3年間を生きて迎えることができました(3年OS率はそれぞれ57.2%と30.7%)。一方、ICI非治療の患者の生存へのSARS-COV-2 mRNAワクチン接種の影響はありませんでした。黒色腫患者でも同様の結果が得られており、ICI治療開始100日以内のSARS-COV-2 mRNAワクチン接種はOS、無転移生存期間、無増悪生存期間の改善と関連しました。SARS-COV-2 mRNAワクチンはPD-L1発現亢進と黒色腫やNSCLC患者のICI治療後の生存改善と関連したとGrippin氏らは結論しています。Grippin氏らの研究はmRNAワクチンに的を絞ったものですが、昨年9月に中国のチームが報告した解析結果では、mRNA以外のSARS-CoV-2ワクチン接種とICI治療を受けたNSCLC患者の生存改善の関連が認められています2)。不活化ワクチン2種(BBIBP-CorVとCoronaVac)を主とするSARS-CoV-2ワクチンを接種してICI治療を受けたNSCLC患者は非接種群に比べてより長生きしました。中国からの別の2つの報告でもmRNA以外のSARS-CoV-2ワクチンのICIの効果を高める作用が示唆されています。それらの1つでは抗PD-1抗体camrelizumab治療患者2,048人が検討され、BBIBP-CorV接種と全奏効率(ORR)や病勢コントロール率(DCR)が高いことが関連しました3)。ただし年齢、性別、がんの病期や種類、合併症、全身状態指標(ECOG)を一致させたBBIBP-CorV接種群530例と非接種群530例のORRやDCRの比較では有意差はありませんでした。同じ研究者らによる翌年の別の報告では、抗PD-1薬で治療された上咽頭がん患者1,537例が調べられ、CoronaVac接種とORRやDCRの向上が関連しました4)。参考1)Association of SARS-COV-2 mRNA vaccines with tumor PD-L1 expression and clinical responses to immune checkpoint blockade / ESMO Congress 20242)Qian Y, et al. Infect Agent Cancer. 2023;18:50.3)Mei Q, et al. J Immunother Cancer. 2022;10:e004157.4)Hua YJ, et al. Ann Oncol. 2023;34:121-123.

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EGFR陽性NSCLCへのamivantamab+lazertinib、耐性変異の内訳は?(MARIPOSA)/ESMO2024

 EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者の1次治療において、EGFRおよびMETを標的とする二重特異性抗体amivantamabと第3世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のlazertinibの併用療法は、オシメルチニブ単剤と比較して無増悪生存期間(PFS)を改善したことが国際共同第III相無作為化比較試験「MARIPOSA試験」で報告されている1)。EGFR-TKIに対する耐性変異の主なものは、EGFR遺伝子変異やMET遺伝子増幅であるが、amivantamab+lazertinibの耐性変異に関する詳細は明らかになっていなかった。そこで、MARIPOSA試験におけるamivantamab+lazertinibの耐性変異に関する解析が実施された。フランス・パリ・サクレー大学のBenjamin Besse氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で本結果を発表した。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性の進行・転移NSCLC患者・試験群1(ami+laz群):amivantamab(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の1サイクル目は週1回、2サイクル目以降は隔週)+lazertinib(240mg、1日1回) 429例・試験群2(laz群)lazertinib(240mg、1日1回) 216例・対照群(osi群):オシメルチニブ(80mg、1日1回) 429例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定に基づくPFS(ami+laz群vs.osi群)[副次評価項目]全生存期間など 今回は、ami+laz群とosi群の試験治療終了となった患者を対象として、耐性変異の発現率を比較した結果が報告された。報告された主な結果は以下のとおり。・試験治療終了時の血中循環腫瘍DNA(ctDNA)が得られたのは、ami+laz群119例、osi群155例であり、それぞれ113例、140例が対象となった。・EGFR遺伝子変異(C795S、L718X、G724X)による耐性獲得は、ami+laz群0.9%、osi群7.9%に認められ、MET遺伝子増幅による耐性獲得は、それぞれ4.4%、13.6%に認められた。いずれもami+laz群で有意に少なかった(それぞれp=0.014、0.017)・その他の耐性獲得変異の発現率は以下のとおりであった(ami+laz群、osi群の順に記載)。 HER2遺伝子増幅:7.1% vs.3.6% RAS/RAF遺伝子変異:9.7% vs.12.1% PI3K遺伝子変異:8.0% vs.8.6% 細胞周期関連遺伝子変異※1:13.3% vs.8.6% TP53/RB1遺伝子異常(欠失変異)※2:0.9% vs.2.9% ※1:CCNE1、CDKN2A、CDK4、CDK6、CCND2遺伝子 ※2:小細胞肺がん(SCLC)への形質転換と関連があるとされる遺伝子変異・2つ以上の耐性メカニズムに関する遺伝子変異は、ami+laz群27.8%、osi群42.6%にみられた。 Besse氏は、本結果について「ctDNAの解析において、amivantamab+lazertinib併用療法はEGFR遺伝子変異やMET遺伝子増幅による耐性獲得を減少させ、その他の耐性獲得変異の有意な増加はみられないことが示された。amivantamab+lazertinib併用療法は、SCLCへの形質転換と関連するTP53/RB1遺伝子異常(欠失変異)の発現率が低く、2つ以上の耐性メカニズムに関する遺伝子変異も少ない傾向にあった」とまとめた。

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T-DXdによる遅発期・延長期の悪心・嘔吐抑制にオランザピン6日間併用が有効(ERICA)/ESMO2024

 HER2陽性/低発現の転移乳がんへのトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)治療による遅発期および延長期の悪心・嘔吐を、オランザピン6日間投与と5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾンの併用が抑制する可能性が、日本で実施された多施設無作為化二重盲検プラセボ対照第II相比較試験(ERICA)で示唆された。昭和大学の酒井 瞳氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表し、Annals of Oncology誌オンライン版に同時掲載された。・対象:T-DXd治療を予定しているHER2陽性/低発現の転移/再発乳がん患者・試験群:T-DXd投与1~6日目にオランザピン5mg(1日1回)を5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾン(1日目に6.6mg静脈内投与または8mg経口投与)と併用・対照群:オランザピンの代わりにプラセボを投与・評価項目:[主要評価項目]遅発期(T-DXd投与後24~120時間)の完全奏効(嘔吐なし、レスキュー治療なし)割合[副次評価項目]急性期(0~24時間)/延長期(120~504時間)の完全奏効割合、急性期・遅発期・延長期の完全制御(嘔吐なし、レスキュー治療なし、悪心なし/軽度)割合、急性期・遅発期・延長期の総制御(嘔吐なし、レスキュー治療なし、悪心なし)割合、急性期・遅発期・延長期の悪心なし割合、1日毎の完全奏効割合、PRO-CTCAEによる患者報告症状、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2021年11月~2023年9月に国内43施設で168例が登録され、162例(オランザピン群80例、プラセボ群82例)がプロトコールに組み入れられた。・遅発期の完全奏効割合は、オランザピン群(70.0%)がプラセボ群(56.1%)より有意に高く(p=0.047)、主要評価項目を達成した。・副次評価項目のすべての項目において、遅発期および延長期でオランザピン群のほうが高かった。・1日毎の完全奏効割合および悪心なし割合も、21日間の観察期間を通してオランザピンのほうが高かった。・初回の悪心発現までの期間中央値はオランザピン群6.5日/プラセボ群3.0日、悪心発現患者における悪心期間中央値はオランザピン群4.0日/プラセボ群8.0日、レスキュー治療を実施した患者割合はオランザピン群38.8%/プラセボ群56.6%だった。・PRO-CTCAEによる患者自身の評価では、食欲不振がオランザピン群で少なかった。・有害事象はオランザピンの以前の報告と同様で、新たな安全性シグナルはみられなかった(傾眠:オランザピン群25.0%/プラセボ群10.8%、高血糖:オランザピン群7.5%/プラセボ群0%)。 これらの結果から、酒井氏は「オランザピンをベースとした3剤併用療法は、T-DXd治療により引き起こされる遅発期および延長期の悪心・嘔吐を抑制する有効な制吐療法と思われる」とまとめた。

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小児のPTSDに対する心理療法でトラウマの影響が軽減

 小児および青年における心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対するトラウマ関連のネガティブな影響の評価の重要性が、これまでの研究で示唆されている。PTSDの認知モデルでは、治療メカニズムがこれらの評価の軽減に有用であるといわれている。英国・イースト・アングリア大学のCharlotte Smith氏らは、PTSDに対する心理療法が、小児および青年のトラウマ関連のネガティブな評価をどの程度軽減するかを調査するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Behaviour Research and Therapy誌2024年11月号の報告。 2022年12月11〜12日に、4つのデータベース(PsycINFO、Medline Complete、CINAHL Complete、PTSDpubs)より検索を行った。バイアスリスクを評価するため、ROB-2評価ツールを用いた。 主な結果は以下のとおり。・本レビューには、13研究、小児および青年937例を含めた。・ランダム効果モデルを用いたメタ解析では、現在の治療法がトラウマ関連の評価に及ぼす影響は、統合エフェクトサイズが中程度であることが示唆された(g=−0.67、95%信頼区間:−0.86〜−0.48)。・研究間の異質性は中程度であり(I2=44.4%)、これらの結果を解釈するうえで、信頼性は向上した。 著者らは「レビューに含まれた試験のすべてが、バイアスリスクが低いと分類されなかったことに留意する必要はあるが、本結果は、小児および青年のPTSDに対する心理療法は、トラウマ関連のネガティブな評価を有意に軽減することを示唆している」としている。

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安定CAD併存の重症AS、TAVIとPCIの同時施行は有益か/NEJM

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を施行する冠動脈疾患(CAD)患者に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行は保存的治療と比較し、追跡期間中央値2年の時点で全死因死亡、心筋梗塞、緊急血行再建の複合リスクが低いことが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院RigshospitaletのJacob Lonborg氏らNOTION-3 Study Groupによる国際非盲検無作為化優越性試験「NOTION-3試験」で示された。安定CADで重症大動脈弁狭窄症(AS)を有する患者において、TAVIに加えてPCIを施行するベネフィットは、依然として明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年8月31日号掲載の報告。PCI施行vs.保存的治療で主要有害心イベントの発生を評価 研究グループは、重症ASで、少なくとも1つの冠動脈狭窄(冠血流予備量比[FFR]0.80以下または径狭窄率90%以上)を有する患者を、TAVIに加えてPCIを施行する群または保存的治療を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要エンドポイントは主要有害心イベントで、全死因死亡、心筋梗塞または緊急血行再建の複合と定義した。安全性については、出血イベントおよび手術の合併症などを評価した。追跡期間中央値2年、主要エンドポイントのハザード比は0.71で有意に低下 2017年9月~2022年10月に、12病院で合計455例が無作為化された(PCI群227例、保存的治療群228例)。患者の年齢中央値は82歳(四分位範囲[IQR]:78~85)、STS-PROM(Society of Thoracic Surgeons-Procedural Risk of Mortality)スコア(スケール:0~100%、高スコアほど術後30日以内の死亡リスクが高いことを示す)の中央値は3%(IQR:2~4)であった。 追跡期間中央値2年(IQR:1~4)の時点で、主要有害心イベント(主要エンドポイント)の発生は、PCI群60例(26%)、保存的治療群81例(36%)であった(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.51~0.99、p=0.04)。 出血イベントは、PCI群で64例(28%)、保存的治療群で45例(20%)に発現した(HR:1.51、95%CI:1.03~2.22)。PCI群では、PCI施行関連合併症が7例(3%)報告された。

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転移を有する去勢抵抗性前立腺がんへのカボザンチニブ+アテゾリズマブ、OS最終結果(CONTACT-02)/ESMO2024

 新規ホルモン療法による1回の治療歴があり、転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対し、カボザンチニブ+アテゾリズマブ併用療法は、2剤目の新規ホルモン療法と比較して全生存期間(OS)について良好な傾向がみられたものの(ハザード比[HR]:0.89)、統計学的有意差は確認されなかった。米国・ユタ大学のNeeraj Agarwal氏が、日本を含む国際共同第III相CONTACT-02試験のOS最終解析結果を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で報告した。 本試験については、主要評価項目の1つである無増悪生存期間(PFS)について、2剤目の新規ホルモン療法群と比較してカボザンチニブ+アテゾリズマブ群で有意に延長したことがすでに報告されている(HR:0.65、95%信頼区間[CI]:0.50~0.84、p=0.0007)。・対象:1剤の新規ホルモン療法後に進行した、測定可能な骨盤外の軟部組織転移を有するmCRPC患者(≧18歳、ECOG PS 0~1、mCRPCに対するドセタキセルの使用は許容) ・試験群(カボザンチニブ+アテゾリズマブ群):カボザンチニブ(1日1回、40mg)+アテゾリズマブ(3週ごと、1,200mg) 289例・対照群(2剤目の新規ホルモン療法群):アビラテロン(1日1回、100mg)+プレドニゾン(1日2回、5mg)またはエンザルタミド(1日1回、160mg) 286例・評価項目:[主要評価項目]PFS ITT集団(無作為化された最初の400例)における盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS、ITT集団におけるOS[副次評価項目]BICRによる奏効率(ORR)[その他の重要な評価項目]化学療法開始および症候性骨関連事象発生までの期間、QOL、安全性など・層別化因子:肝転移の有無、mCRPCに対するドセタキセル使用の有無など 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点における患者背景は両群でバランスがとれており、年齢中央値はともに71歳、アジア太平洋地域の症例は約20%ずつ含まれ、骨転移はカボザンチニブ+アテゾリズマブ群79% vs.2剤目の新規ホルモン療法群76%、内臓転移は38% vs.41%、肝転移はともに23%に認められた。1剤目の新規ホルモン療法の治療期間中央値は12.4ヵ月vs.11.9ヵ月であった。・追跡期間中央値24.0ヵ月におけるOS中央値は、カボザンチニブ+アテゾリズマブ群14.8ヵ月vs.2剤目の新規ホルモン療法群15.0ヵ月で、統計学的有意差はみられなかった(HR:0.89、95%CI:0.72~1.10、p=0.30)。・OSのサブグループ解析の結果、肝転移あり(HR:0.68、95%CI:0.47~1.00、p=0.051)および骨転移ありの症例(HR:0.79、95%CI:0.63~1.00、p=0.046)において、カボザンチニブ+アテゾリズマブ群で良好な傾向がみられた。・化学療法開始までの期間はカボザンチニブ+アテゾリズマブ群19.6ヵ月vs.2剤目の新規ホルモン療法群10.4ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.45~0.77)、EORTC QLQ-C30スコア低下までの期間は4.1ヵ月vs.4.2ヵ月(HR:1.19、95%CI:0.94~1.51)、症候性骨関連事象発生までの期間は24.0ヵ月vs.17.3ヵ月(HR:0.73、95%CI:0.44~1.20)であった。・Grade3以上のTEAE(治療中に発現した有害事象)は、カボザンチニブ+アテゾリズマブ群56% vs.2剤目の新規ホルモン療法群26%で発現した。カボザンチニブ+アテゾリズマブ群で多くみられたのは、高血圧(8%)、貧血(8%)、疲労(6%)、下痢(5%)であった。・治療関連有害事象(TRAE)によりすべての治療が中止となったのは、カボザンチニブ+アテゾリズマブ群5% vs.2剤目の新規ホルモン療法群2%であった。・次治療として全身療法を受けた症例は、カボザンチニブ+アテゾリズマブ群132例 vs.2剤目の新規ホルモン療法群149例で、化学療法が74% vs.87%、新規ホルモン療法が33% vs.5%であった。 ディスカッサントを務めた米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRana McKay氏は、同試験はOSに有意差はみられなかったものの、PFSにおけるベネフィットが確認されたポジティブ試験とし、とくに肝転移を有する患者への治療はアンメットニーズとなっており、新しい治療法が必要とされているとコメントした。

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CRP・LDL・リポ蛋白(a)測定、30年後のCVDを予測/NEJM

 健康な米国人女性の高感度C反応性蛋白(CRP)値、LDLコレステロール値、リポ蛋白(a)値の単回組み合わせ測定が、その後30年間の心血管イベントの発症を予測したことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul M. Ridker氏らによる検討で示された。高感度CRP値、LDLコレステロール値、リポ蛋白(a)値は、5年・10年の心血管リスクの予測に寄与し、薬理学的介入法を明確にすることが知られている。より若い時期での介入はリスク軽減にとって重要となるため、女性の長期にわたる心血管リスクを予測するこれらのバイオマーカーの有用性について、さらなる情報が必要とされていた。NEJM誌オンライン版2024年8月31日号掲載の報告。健康な米国人女性2.8万人を対象に追跡評価 研究グループは、健康な米国人女性2万7,939人を対象に、ベースラインで高感度CRP値、LDLコレステロール値、リポ蛋白(a)値を測定し、その後30年間追跡した。 主要エンドポイントは、初発の主要有害心血管イベント(心筋梗塞、冠動脈血行再建、脳卒中または心血管死の複合)。各バイオマーカー五分位値の補正後ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出し、年齢および競合リスクを補正した30年間累積発生率曲線を描出し評価した。リスクへの影響、単独よりも3つを組み合わせた場合に最も大きい ベースラインの被験者の平均年齢は54.7歳。追跡した30年間に3,662件の初回主要心血管イベントが発生した。 高感度CRP値、LDLコレステロール値、リポ蛋白(a)値の、ベースラインでの五分位値の高値はすべて、30年間のリスクを予測した。上位五分位値と下位五分位値を比較した主要エンドポイントの共変量補正後HRは、高感度CRP値については1.70(95%CI:1.52~1.90)、LDLコレステロール値は1.36(95%CI:1.23~1.52)、リポ蛋白(a)値は1.33(95%CI:1.21~1.47)であった。 冠動脈性心疾患と脳卒中に関する結果は、主要エンドポイントに関する結果に一致していた。 各バイオマーカーは、全体リスクに対して独立した寄与を示した。3つのバイオマーカーすべてを組み込んだモデルで、最も大きなリスクの差異が認められた。 著者は、「これらのデータは、アテローム性動脈硬化イベントの1次予防戦略について、従来の10年推定リスクよりも先を見据えて取り組む必要性を強く支持するものである」と述べている。

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週末の寝だめは心臓病リスクを低下させるか?

 ウィークデーの睡眠不足を週末に補う「キャッチアップ睡眠」は、心臓病のリスクを最大20%低下させる可能性のあることが、UKバイオバンク参加者9万人以上を対象にした研究で明らかになった。阜外病院(中国)の循環器専門家であるYanjun Song氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表された。 睡眠不足に悩まされている人は、休みの日の朝、普段より遅くまで寝て睡眠負債の影響を取り除こうとするものだ。しかし、このようなキャッチアップ睡眠が心臓の健康に役立つのかどうかについては明らかになっていない。 Song氏らは今回、UKバイオバンク参加者9万903人のデータを用いて、週末のキャッチアップ睡眠と心臓病との関連を検討した。参加者の睡眠に関するデータは活動量計で測定されていた。対象者は、キャッチアップ睡眠の時間の長さに応じて、最も少ないQ1(−16.05〜−0.26時間)から最も多いQ4(1.28〜16.06時間)までの4群に分類された(Q1群:2万2,475人、Q2群:2万2,901人、Q3群:2万2,692人、Q4群:2万2,695人)。夜間の睡眠時間が7時間未満と報告した場合を「睡眠負債あり」と見なしたところ、21.8%(1万9,816人)がこれに該当した。さらに、入院記録と死亡レジストリを用いて、虚血性心疾患、心不全、心房細動などさまざまな心臓病の診断歴についても調べた。追跡期間の中央値は約14年だった。 解析の結果、Q4群ではQ1群に比べて心臓病の発症リスクが19%低いことが明らかになった。睡眠負債ありに分類された人を対象にしたサブグループ解析でも、Q4群ではQ1群に比べて心臓病の発症リスクが20%低いことが示された。 こうした結果を受けてSong氏は、「十分なキャッチアップ睡眠は心臓病のリスク低下につながる。また、この関連性は、日常的に睡眠負債を抱えている人の間ではさらに顕著になる」と結論付けている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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フレイル女性では台所で過ごす時間が長いほど食生活が健康的

 高齢の日本人女性を対象に行われた研究から、台所で過ごす時間が長いほど健康的な食生活を送っていて、この関連はフレイルの場合により顕著であることが分かった。高崎健康福祉大学、および、お茶の水女子大学に所属する佐藤清香氏らが行った横断研究の結果であり、詳細は「Journal of Nutrition Education and Behavior」に7月20日掲載された。 フレイルは、「加齢により心身が老い衰えた状態」であり、健康な状態と要介護状態の中間のこと。フレイルを早期に発見して栄養不良や運動不足に気を付けることで、フレイルが改善される可能性がある。フレイルの初期には、台所で行われる調理作業の支障の発生という変化が生じやすいことが報告されており、調理に手を掛けられなくなることは栄養の偏りにつながる可能性がある。また、台所での作業は身体活動の良い機会でもある。そのため、台所で過ごす時間の減少を見いだすことは、フレイルの進行抑止につながる可能性がある。これらを背景として佐藤氏らは、高齢女性が台所で過ごす時間と健康的な食事を取る頻度との関係を調査し、その関係にフレイルが及ぼす影響を検討した。 2023年1月に、調査会社の登録者パネルを用いたオンライン調査を行い、国内に居住している65歳以上の女性600人(平均年齢73.8±5.7歳)から回答を得た。食生活については、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度を質問して、それが1日2回以上の場合を「健康的」と判定した。なお、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が高いほど「日本人の食事摂取基準」に示されている栄養素量を満たしていることが多いと報告されており、また「健康日本21(第三次)」でも「ほぼ毎日主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上摂取する人の割合を令和14年度までに50%とする」という目標が掲げられている。 フレイルの判定は、市町村の介護予防事業対象者の抽出に用いられている25項目の質問から成る基本チェックリストを用いた。その結果、21.2%がフレイル、34.0%がプレフレイルと判定された。主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上摂取する頻度については「ほぼ毎日」が77.5%を占めていたが、フレイルの有無別に比較すると、健常群では84.8%であるのに対して、プレフレイル群では77.0%、フレイル群では63.8%と少なかった(P<0.001)。台所で過ごす時間(P=0.02)や台所の使用頻度(P=0.004)についても、健常、プレフレイル、フレイルの順に低値となるという関連が認められた。なお、台所で過ごす時間は「1日2時間」が最も多く選択され(44.8%)、台所の使用頻度は「毎日」が最多(95.0%)だった。 次に、1日に2回以上主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を摂取する頻度を従属変数として、フレイルの判定および1日に台所で過ごす時間との関連を検討した。結果に影響を及ぼし得る、年齢、BMI、婚姻状況、独居/同居、就労状況、介護サービス利用状況の影響は調整した。 解析の結果、健常であること(b=0.61〔95%信頼区間0.34~0.89〕)と台所で過ごす時間が長いこと(b=0.38〔同0.23~0.53〕)はともに、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度の高さと有意な関連が認められた。また、フレイルと台所で過ごす時間の交互作用が認められた(b=-0.10〔-0.17~-0.035〕)。これは、フレイルまたはプレフレイルの人において、台所で過ごす時間が長いほど主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が高いという関連が、より強いことを示している。 著者らは、台所で過ごす時間が減少する背景因子が調査されていないことや、横断研究であるため台所で過ごす時間が長いことと健康的な食生活の因果関係は分からないことなどを限界として挙げた上で、「高齢女性、特にフレイルの女性に対して、料理や盛り付け、後片付けなどのために台所で過ごす時間を増やすという推奨が、健康的な食生活につながり、フレイルの進行抑制につながる可能性があるのではないか」と総括している。

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脳を使ってしゃべることができる未来が来る(解説:岡村毅氏)

 ブレイン・コンピュータ・インターフェースが注目を集めている。映画「マトリックス」などでも扱われており、ご存じの方も多いだろう。イーロン・マスク氏も「ニューラリンク」という会社を立ち上げている。 この論文は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者の脳の表面に電極を設置し、口を動かして発語しようとする電気活動を検出し、それを音声化することに成功したというものである。 米国・カリフォルニア大学のYoutubeで動画を見ることができるが、衝撃的そして感動的である。 2つの点からコメントする。 1つはALSの患者にとって福音となるという点である。 ALSは、運動神経の変性により、徐々に体が動かなくなり、呼吸や発語もできなくなるという疾患である。患者は考えることはできる、しかし、話そうとしても、話すために体を動かす神経系が障害を受けている。今この瞬間にも、考えたり、悩んだり、喜んだりすることはできる、しかし体はまったく動かないという状態の人がいることに思いをはせなければならない。 意識清明なのに体が動かないこと、コミュニケーションが困難であること、不本意な身体介護を受けなければならない可能性などのため、ALSの患者はしばしば耐え難い苦痛を持つ。このためALSはいわゆる「安楽死」の文脈で出てくる。社会的には安楽死が許されうるのは(1)耐えがたい肉体的苦痛、(2)死期が迫っている、(3)苦痛緩和が尽くされ代替手段がない、(4)患者の意思表示、の4つとされている(抜粋、1995年横浜地裁)。日本では「安楽死」などとお茶を濁して言うが、海外では、医師による自殺幇助(Physician-assisted suicide:PAS)が実際に行われてきた。近年はPASと積極的安楽死も含めて許容する国や地域が広がっていることを医療者は知っておくべきだろう。なお、映画監督のジャンリュック・ゴダール氏も2022年にPASで旅立った。 覚悟を持ってスイスなどの海外に渡り、自らの人生を終わらせる人のことがしばしば報道されるが、ALSの患者が多い。この問題では、「自らの人生を自己決定することは人権」という主張と、「これを許すと社会が弱い人を死に追いやる滑り坂になる」という主張が真っ向から対立している。これについて私は立場を表明しない。 ただ、医療者としては希望を語りたいものだ。本研究のように、しゃべれるようになる未来が見えてきた。あるいは最近もアクセプタンス&コミットメントセラピーという心理療法が効果的だという結果1)も出ている。ALSに関しては、対立の前提も常に変わり続ける。 2つ目は、心の中が見られてしまうのではないか、という危惧についてである。 心の中が見られているのではないか(厳密には自己と他者の境界があいまいになっているのではないか、筒抜けになっていないか)というのは、統合失調症の古典的症状である。この研究から、そのような危惧を持つ向きもあるかもしれない。 しかし、本研究は、話そうとして口周りを動かそうとする脳神経の動きを検出しているに過ぎない。SF映画のように脳の中から「概念」を検出しているのではないことに注意しよう。これを読んでいる人が生きているうちは、そのような荒唐無稽なことはできないだろう。あなたの考えや思考がもし外に取り出せたら、それはもはやあなたではない。単に口の動きを脳内から外の世界に出すことが可能になりつつあるのが人類の現在地だ。

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片頭痛?危険な頭痛?

患者さん、それは…片頭痛 ですよ!片頭痛は「前兆の有無」「慢性か否か」「片頭痛の疑い」「片頭痛に関連する周期性症候群」で分類・診断されます。以下のような症状はありませんか?□悪心・嘔吐□光・音に過敏□何度も起こる(反復性)□においに過敏□日常動作で悪化する□4時間以上続く□過去6ヵ月以内に新たな/異なる頭痛はない◆その頭痛、片頭痛ではない!?・50歳以上ではじめて起こった頭痛は片頭痛ではありません・突然、頭痛が出現し1分以内に最高の痛みとなった場合は、くも膜下出血の可能性があります・いつも決まった時間に起こり、涙や鼻水を伴う頭痛は群発頭痛の疑いが…出典:頭痛の診療ガイドライン2021、プライマリ・ケア外来診断目利き術50監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2021 CareNet,Inc. All rights reserved.

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9月23日 網膜の日【今日は何の日?】

【9月23日 網膜の日】〔由来〕秋分を境に夜の出歩きが困難になることと国際網膜協会が9月最終日曜日を中心に「世界網膜の日」としたことに由来し、2017(平成29)年に日本網膜色素変性症協会が制定。遺伝性難病の「網膜色素変性症」の社会啓発と治療やケアに役立てる情報の提供などさまざまな活動を実施している。関連コンテンツ目が見えにくいときの症状チェック【患者説明用スライド】第2回 眼科の手技 その1【一般内科医が知っておきたい他科の基本処置】iPhoneを使った眼科検査の精度はいかに?遺伝性網膜変性症、CRISPR-Cas9遺伝子治療が有望/NEJM

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特異的IgE検査【日常診療アップグレード】第13回

特異的IgE検査問題32歳男性。食物アレルギーの検査を希望して来院した。3年前にサバを食べて皮疹が出たことがある。その後はサバを食べても皮疹が出ることはない。既往に特記すべきことなし。現在、内服している薬はない。この患者に特異的IgE検査(小麦、卵白、ソバ、マグロ、サバ、エビ、カニ、牛肉、キウイ、スギなど39アレルゲン)をオーダーした。

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