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マバカムテンの適正使用に関するステートメントを公表/日本循環器学会

 日本循環器学会が閉塞性肥大型心筋症治療薬マバカムテンの適正使用に関するステートメント(第1版、2025年)を作成し、4月24日に同学会ホームページで公表した。マバカムテン(商品名:カムザイオス)は3月27日にブリストル マイヤーズ スクイブが製造販売承認を取得しており、年内の国内販売が見込まれている。 肥大型心筋症におけるマバカムテンの位置付けは、2025年3月に発刊された『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』の治療フローチャート(p.130)や推奨表(閉塞性肥大型心筋症の圧較差軽減のための治療薬の推奨とエビデンスレベル、p.131)にも、対象患者や処方目的などが明記されているが、投与対象者の選定や用量調整、中止/休薬の基準に注意を要することから、ステートメントにてマバカムテンを導入できる施設要件と医師要件が示された。<マバカムテンを安全に導入するための体制>1.施設要件以下の条件を満たす施設で導入および維持量が決定するまで管理を行うこと(1)日本循環器学会認定循環器研修施設(2)心臓超音波検査を専門とする循環器専門医が在籍する施設(日本心エコー図学会認定心エコー図専門医もしくは日本超音波医学会認定超音波専門医を持つ循環器専門医が在籍することが好ましい)で、心臓超音波検査を4週おきに行い、肥大型心筋症評価に必要な検査(左室駆出率および安静時およびバルサルバ負荷時の圧較差)を適切に実施できること(3)年間20例以上の肥大型心筋症患者を診療している施設(4)カムザイオスカプセル E-Learningを受講した医師が在籍していること2.医師要件以下の条件を満たす医師により導入および維持量が決定するまでの管理を行うこと(1)最新の診断基準に則り診断された肥大型心筋症患者を継続的に5例/年以上診療している医師(2)循環器専門医の資格を有していること(3)カムザイオスカプセル E-Learningを受講していること維持量が決定し、病状の安定している患者への継続処方については、患者さんの利便性を考慮して、後方病院(循環器研修関連施設もしくは循環器専門医資格を有する医師の在籍するクリニック、処方する医師はカムザイオスカプセル E-Learningを受講済みであることは必須)でも可である。また、増量中の処方も、通院が頻回になるため、後方病院(前記)でも可とする。しかし、増量、減量、中止の判断に重要な心エコー検査は、循環器研修施設で行う。維持量の変更もあるために、導入した施設は、可能なら定期的モニタリングと臨床経過の追跡調査が可能な状態を維持すること。

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スマートウォッチが運動療法を後押しして糖尿病コントロールを改善

 糖尿病患者にとってスマートウォッチが、運動療法のための力強いサポートツールとなり得ることを示すデータが報告された。英ランカスター大学のCeu Mateus氏らが、診断から間もない2型糖尿病患者を対象に行ったランダム化比較試験の結果であり、詳細は「BMJ Open」に3月26日掲載された。 この研究により、スマートウォッチを介して運動を奨励したり、患者が実際に行った運動についてフィードバックしたりすることで、運動療法を開始・継続しやすくなることが明らかになった。さらに、血糖値や血圧の管理も良好になる可能性が示唆された。Mateus氏は、「糖尿病の治療にとって重要な非薬物療法を継続できていない2型糖尿病患者が少なくないが、われわれの研究結果はスマートウォッチを用いることで、そのような臨床課題を改善できる可能性を示している」と述べている。 この研究では、英国およびカナダから募集された、2型糖尿病と診断後5~24カ月でメトホルミン以外の血糖降下薬が処方されていない、40~75歳の患者125人(平均年齢55±9歳、女性48%)を、ランダムに半数ずつの2群に割り付け。そのうち1群のみ、スマートフォンの健康アプリと連動しているスマートウォッチを装着して生活してもらった。両群ともに、参加者のニーズに応じて、運動の専門家によるオンラインサポートを受けることができた。 健康アプリは、参加者の身体活動量を計測しつつ、運動を促すようなガイド機能を有していた。具体的には、参加者の運動量を徐々に増やしていき、6カ月以内に週当たり150分の中~高強度運動が達成されるようにプログラムされていた。この仕組みについて、論文の筆頭著者である英バーミンガム大学のKatie Hesketh氏は、「ジムに行かなくてもできる有酸素運動や筋力トレーニングなど、さまざまなトレーニングを提供できるようにした。目指したことは、2型糖尿病患者が日常生活の一部として運動を続けられることであり、それにより結果として心身の健康を改善することだった」と解説している。 解析の結果、スマートウォッチを利用した群では、運動療法を開始していた患者が対照群の10倍以上(オッズ比〔OR〕10.4〔95%信頼区間3.4~32.1〕)であり、運動を継続していた人も6カ月時点で約7倍(OR7.1〔同3.2~15.7〕)、12カ月時点で約3倍(OR2.9〔1.2~7.4〕)だった。さらに、スマートウォッチを利用した群ではHbA1cや収縮期血圧の改善傾向が顕著だった。 Hesketh氏は、「2型糖尿病と診断されて間もない患者がスマートウォッチというウェアラブル技術を利用することで、居ながらにして個別化された運動プログラムを継続できるようになり、多くの健康上のメリットを享受できることが明らかになった」と結論付けている。これらの結果に基づき研究者らは、スマートウォッチを利用した運動プログラムが、2型糖尿病患者の疾患コントロールの改善ももたらし得るかを検証することを目的とした、より大規模な臨床試験を計画している。

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患者ナビゲーション導入でリスクを有する患者の大腸内視鏡検査受診率がアップ

 患者に対する個別サポートが、大腸がんリスクを有する患者の大腸内視鏡検査受診率を高めるのに役立つことが新たな研究で示唆された。免疫学的便潜血検査(FIT検査)によるスクリーニングで大腸がんリスクが判明した後に大腸内視鏡検査を受けた人の割合は、患者ナビゲーターが割り当てられた人の方が、単に検査結果を知らされただけの人よりも高かったという。米アリゾナ大学がんセンター人口科学副所長のGloria Coronado氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に4月1日掲載された。 患者ナビゲーションとは、米国の複雑な医療制度の中で患者が円滑かつ適切に医療を受けられるように支援する制度のことであり、その役割を担う人は患者ナビゲーターと呼ばれる。米疾病対策センター(CDC)による地域予防サービスガイド(Guide to Community Preventive Services)では、患者ナビゲーションの導入が推奨されている。しかし、患者ナビゲーションが、大腸がんリスクを有する人における大腸内視鏡検査の受診率向上に寄与しているのかどうかは不明である。 大腸がん検診では、毎年のFIT検査か、10年ごとの大腸内視鏡検査を選択することができる。大腸内視鏡検査は侵襲的な検査であり、準備として強力な下剤を服用する必要があるため、多くの人がFIT検査を選択する。しかし、便の中に血液やがんの遺伝物質が見つかった場合には、ただちに大腸内視鏡検査を受ける必要がある。Coronado氏は、患者がフォローアップの大腸内視鏡検査を遅らせた場合、大腸がんで死亡するリスクが7倍高くなると指摘する。Coronado氏は、「FIT検査で異常が確認された患者は、大腸がんの発症リスクやがんが進行してから発見されるリスクが高まる。そのため、できるだけ早く大腸内視鏡検査を受けることが重要だ」と話す。 Coronado氏らは今回、FIT検査の結果が陽性だった患者を対象に、患者ナビゲーターを割り当てることで大腸内視鏡検査の受診率が向上するのかを調査した。対象として、米ワシントン州西部で32カ所のクリニックを運営する連邦政府認定医療センターであるシーマーコミュニティーヘルスセンターの50〜75歳の患者985人が登録された。対象者は、患者ナビゲーターを割り当てられる群(患者ナビゲーション群)と、検査結果だけを知らされる通常ケア群にランダムに割り付けられた。 患者ナビゲーターは、FIT検査で陽性と判定された患者が大腸内視鏡検査を受けるようにするために、平日の午前8時から午後6時の間に最大で6回、患者に連絡を取ることを試みた。12回試みても連絡が取れなかった患者には、フォローアップの手紙を送付した。通常ケア群に対しては、最大2回の電話と大腸内視鏡検査の予約を促す手紙の送付という従来の方法が取られた。 967人を対象にITT解析が行われた(患者ナビゲーション群479人、通常ケア群488人)。このうち、フォローアップの大腸内視鏡検査を受けた患者の割合は、患者ナビゲーション群で55.1%、通常ケア群で42.1%であり、患者ナビゲーション群の方が高かった(リスク差13.0%、95%信頼区間6.5〜19.4)。また、患者ナビゲーション群では、通常ケア群に比べて大腸内視鏡検査を受けるまでの期間も平均27日短縮された。 こうした結果を受けてCoronado氏は、「本研究により、患者ナビゲーターがFIT検査で異常が認められた患者を支援することでフォローアップの大腸内視鏡検査の受診率が向上し、検査を受けるまでの時間も短縮されることが明らかになった。このプロセスを通じてのガイダンスにより、がんが早期発見され、患者の生存率が向上する可能性がある」と述べている。また同氏は、「患者ナビゲーションを標準化することで、クリニックは患者に検査結果を通知し、大腸内視鏡検査の重要性を理解できるように支援する手順を確立できる」と話している。

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C. difficileはICUの環境表面からも伝播する

 院内感染は、想像されているよりもはるかに容易に病院内で広がるようだ。新たな研究で、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile、現名:Clostridioides difficile〔クロストリジオイデス・ディフィシル〕)の伝播について、集中治療室(ICU)の環境表面や医療従事者(HCP)の手指から採取したサンプルも含めて調べた結果、患者から採取したサンプルのみを用いた場合と比べて3倍以上多くの伝播事例が確認されたという。C. difficileは、大腸炎や下痢などを引き起こす院内感染症の原因菌として知られている。米ユタ大学の疫学者で感染症専門医であるMichael Rubin氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に4月4日掲載された。 米疾病対策センター(CDC)によると、C. difficile感染症は、強力な抗菌薬の使用により腸内細菌のバランスが乱れた人に生じることが多いという。この日和見細菌は、腸内に侵入して健康な細菌を駆逐することで下痢、腹痛、発熱を引き起こす。C. difficileは、ストレスに耐えるために芽胞と呼ばれる極めて頑丈な細胞構造を形成するため消毒薬にも耐性を示し、人間の体外でも長期間生存できると研究グループは説明する。米国でのC. difficile感染症の致死率は約6%であるという。 C. difficileの感染力は極めて強いが、医療施設内での伝播の仕方については明らかになっていない。ただ、過去の研究で、患者間の直接感染はまれであることは示唆されていた。そこでRubin氏らは、病院内でのC. difficile感染経路を追跡するため、2つのICU入室患者177人の脇の下、股間、肛門周辺または便から最大3点のサンプルを採取した。また、ICUの3種類の環境表面(患者が触れる表面、HCPが触れる表面、トイレの表面)、患者をケアしたHCPの手指もしくは手袋、ドアノブや電気のスイッチなどの共有部分の表面からもサンプルを採取した。サンプルは、occupant stayと呼ばれるICU入室期間を単位として採取された。Occupant stayは、1)同意が得られた患者の体表面、環境表面、およびHCPの手指のサンプルを採取、2)患者の同意が得られず、環境表面とHCPの手指サンプルのみを採取、3)患者不在の空室期間中に環境表面とHCPの手指サンプルを採取、の3タイプに分類された。これらのサンプルからの分離株に対してゲノム解析を行い、ゲノム間の遺伝的類似性に基づいて伝播クラスターを特定した。伝播クラスターは、分離株間の単一ヌクレオチド変異(SNV)が2個以下である場合と定義された。 177人の対象患者における278件のICU入室から計7,000点のサンプルが採取された。このうち161点のサンプルから178株のC. difficileが検出された。これは、287件のoccupant stayのうちの35件に関連し、278件のICU入室のうち25件に相当していた。さらに、分離株間のSNVが2個以下という基準に基づき、287件のoccupant stayのうち22件(7.7%)が関与する7つの伝播クラスターが同定された。このうちの2つ(28.5%)には異なる患者由来の分離株が含まれており、患者間の伝播が示唆された。別の2つのクラスターには、異なるoccupant stayにおける環境表面や医師の手指由来の分離株と、患者由来の分離株が含まれていた。残りの3つには、複数のoccupant stayにおける環境表面由来の分離株が含まれていた。これらの結果は、7つの伝播クラスターのうちの5つ(71.4%)は、環境表面やHCPの手指のサンプルを採取していなければ見逃されていた可能性があることを意味する。 論文の筆頭著者であるユタ大学保健学部疫学研究准教授のLindsay Keegan氏は、「本研究で確認された患者間でのC. difficileの伝播の程度は、これまでの研究とほぼ同じだった。しかし、この研究で判明した知見は、環境表面間および環境表面と患者の間でのC. difficileの伝播が、これまで考えられてきたよりもはるかに多く起こっているということだ」と話している。 Rubin氏は、「目に見えないところで多くのことが起こっている。それを無視すれば、患者を不必要なリスクにさらしてしまう可能性がある」と警鐘を鳴らしている。また同氏は、「本研究結果を受けて、HCPが感染予防策をより重視し、可能な限りそれを遵守するようになることを期待している」と話し、徹底した手洗いに加えて、手袋やガウンなどの個人用保護具使用の重要性を強調している。

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ペットは家族や友人と同程度に生活満足度を高める

 ペットの猫や犬が皿洗いやWi-Fiの修理をしてくれることはないが、家族や友人がもたらすのと同程度の幸福感を飼い主にもたらすようだ。新たな研究で、ペットを飼うことで得られる生活満足度は、友人や家族と定期的に会うことで得られる満足度と同程度であることが明らかにされた。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのMichael Gmeiner氏と英ケント大学経済学分野のAdelina Gschwandtner氏によるこの研究結果は、「Social Indicators Research」に3月31日掲載された。 ペットを飼うことで生活満足度が向上することは過去の研究で示唆されているが、ペットを飼うと幸せになるという因果関係があるのか、あるいは単に生活満足度の高い人がペットを飼う傾向にあるのかは明確になっていない。 Gschwandtner氏らは今回、操作変数法と呼ばれる統計手法を用いて、両者の因果関係を検討した。操作変数法は、因果関係に影響を与える交絡因子を調整するために、原因には関係しているが結果には直接影響しない第三の変数(操作変数)を用いて因果関係を推定する手法である。Gschwandtner氏は、「この手法では、ペットとの相関はあるが、生活満足度とは相関しない第3の変数を見つける必要がある」と説明する。本研究では、「旅行中の近隣住民の家を見守る頻度はどの程度か」という操作変数が用いられた。解析には、英国の大規模な家庭調査であるUK Household Longitudinal Study(UKHLS)の一部として実施されているパネル調査のデータが用いられた。このデータには、769人を対象とした2,617件の調査データが含まれていた。 操作変数法により、孤独感や抑うつ症状への対処手段としてペットを飼っている可能性や、精神的特性などの交絡因子の影響を調整した結果、ペットを飼うことが生活満足度の向上につながる可能性のあることが示唆された。さらに、さまざまな要因が生活満足度に与える影響の大きさを金銭的な価値で評価する手法を用いて、ペットを飼うことの効果を金額に換算したところ、年間7万ポンド(1ポンド188円換算で1316万円)に上ると推定された。研究グループによると、この効果は、友人や家族と定期的に会うことで得られる効果と同程度であるという。 Gschwandtner氏は、「この金額が算出されたときには、とても驚いた。ペットが大好きな私にとっても、これは大金だと感じた」とCNNに対して語っている。同氏は、「とはいえ、ほとんどの人がペットを自分の友達や家族のような存在と見なしていることを考えると、この金額は妥当だろう。もしペットが本当にそうした存在であるなら、毎日ペットと一緒に過ごすことに、週に一度、友人や家族と話すことと同じくらいの価値があっても不思議ではない」と述べている。 Gschwandtner氏は、「本研究結果は、ペットを飼うことが、人間関係から得られるのと同様の感情的ベネフィットをもたらす可能性があることを示唆している」との見方を示している。その上で、政策立案者は、例えば、ペット飼育を制限する住宅規制を改正するなどして、人々がペットを飼いやすくするべきだと主張している。 ただし、ペットが人間関係に完全に取って代わり得るということに全ての専門家が同意しているわけではない。米タフツ大学で人と動物との関係について研究を進めているMegan Mueller氏は、「社会的支援と感情的支援は、人間とペットの関係において非常に重要な要素であり、人間同士の社会的つながりから得られるのと同じ種類の支援であることは分かっている。確かに動物は人間と強力な形でつながっている。それでも、人間と同じではない」と述べている。

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新型コロナ後遺症としての勃起不全が調査で明らかに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した患者では、回復後も長期にわたりその後遺症に悩まされるケースがある。その後遺症の中には男性における勃起不全(ED)も含まれるが、後遺症としてのEDの有病率とそれに関連する根本的要因が示唆されたという。横浜市立大学附属病院感染制御部の加藤英明氏らが行った研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に2月21日掲載された。 COVID-19感染後のEDは、急性期における炎症性サイトカインや低酸素症による血管内皮障害が原因で進行する。また、身体的・精神的なストレスもEDに影響する。ワクチン接種や早期治療は、この感染症の後遺症の発症率を低下させる可能性はあるが、EDの発症を防ぐための予防策については不明である。加藤氏らは、COVID-19感染後のEDの有病率とその根本的な要因を明らかにするために感染患者を対象とした症例対照研究を実施した。 本研究は、2021年4月から9月の間に国内でCOVID-19と診断後入院した成人患者を対象とした包括的な長期観察研究(CORES II)の二次解析として実施された。対象は、1年目および2年目の調査を完了した日本人男性609人(年齢中央値56歳)とした。EDの有無については、被験者の自覚に基づき「COVID-19感染後に現れた症状で、感染前にはなかった症状を選んでください」という質問により決定された。被験者のQOLと精神状態は、それぞれEQ-5D-5L質問票とHospital Anxiety Depression Scale(HADS)質問票に被験者自身で回答してもらい評価を行った。連続変数、カテゴリ変数の比較にはそれぞれ、両側U検定、フィッシャーの正確確率検定を用いた。 対象609人のうち、116人(19.0%)がEDであった。EDのあった被験者(ED群)ではEDのなかった被験者(非ED群)と比べて、1年目2年目ともに、「回復の主観的認識」が低く(P<0.001)、「息切れ」、「疲労」のスコアが有意に高かった(各P<0.001)。HADSスコアをみると、ED群では抑うつ症状を示すHADS-Dスコアが、1年目2年目ともに有意に高くなっていた(P<0.001)。 次にCOVID-19感染前と1年目、2年目のEQ-5D-5Lスコアの変化を調べた。その結果、ED群は非ED群と比較し、痛み/不快感が2年目(P=0.003)で、不安/抑うつが1年目(P=0.033)、2年目(P=0.002)で有意に高くなっていた。 また、後遺症を分類する探索的なクラスター分析を行った結果、1年目の調査ではEDは睡眠障害と同じサブグループに分類された。 研究グループは本研究について、「EDと睡眠障害の関連は報告されており、我々の研究でも、1年目の調査結果からEDと睡眠障害の関連が示唆された。また、EDを有する被験者では抑うつ症状を示すスコアが高かったことから、COVID-19の後遺症としてEDを示す男性には睡眠障害やうつ病に対する支援療法が必要なのではないか」と述べた。 本研究の限界については、患者の自己申告に基づく後ろ向き解析であるため、想起バイアスの影響を受けている可能性があること、EDの重症度スコアやEDの性質や性交渉への影響については評価していないことなどを挙げている。

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早期肺がん患者の術後の内臓脂肪量は手術方法に影響される

 肺がん患者では、呼吸機能の低下だけでなく、体重、筋肉量、内臓脂肪量など、いわゆる体組成の減少により予後が悪化することが複数の研究で報告されている。この度、肺がん患者に対する肺葉切除術よりも切除範囲がより小さい区域切除術後で、体組成の一つである内臓脂肪が良好に維持されるという研究結果が報告された。神奈川県立がんセンター呼吸器外科の伊坂哲哉氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に3月4日掲載された。 近年行われた2cm以下の末梢型早期肺がんに対する区域切除術と肺葉切除術を比較した大規模な臨床試験JCOG0802/ WJOG4607Lでは、区域切除術が肺葉切除術よりも全生存率(OS)を改善した。この試験では、肺がより温存された区域切除群において肺葉切除群よりも、肺がん以外の病気による死亡が少ない結果であったが、その機序については未だ解明されていない。肺がん患者の良好な予後のためには、内臓脂肪を含む体組成を維持することが重要と考えられるが、肺葉切除と区域切除後の体組成変化の違いについても未だ明らかになっていない。このような背景から、伊坂氏らは肺がん患者における肺葉切除と区域切除後の内臓脂肪の変化量を比較し、予後との関連を明らかにするために、単施設の後ろ向き研究を実施した。 本研究には、2016年1月から2018年12月までに神奈川県立がんセンターで、肺葉切除または区域切除術を受けた、ステージ0~1の再発のない原発性肺がん患者346名(肺葉切除240名、区域切除106名)が含まれた。本研究の主要目的は肺葉切除と区域切除後のCTによる内臓脂肪面積(VFA)とウエスト周囲径(WC)の長期的(術後3年までの)変化とした。 解析対象のフォローアップ期間の中央値は5.2年(範囲5.0~5.9年)だった。最大腫瘍のサイズが2cm以上だった症例の割合と、病理学的ステージは肺葉切除術群で高かった。 術後6カ月時点のVFAとWCは、肺葉切除群でそれぞれ16.4%と1.0%減少した一方、区域切除群ではそれぞれ0.1%と0.2%増加していた(t検定 各P<0.001、P=0.029)。続いて、二元配置分散分析を実施し、両群におけるVFAとWCのベースラインからの変化量を比較したところ、術後3年まで肺葉切除群のVFAとWCは区域切除群より有意に減少していた(各P<0.001、P=0.038)。年齢、性別、腫瘍サイズ、ステージなどを調整した1対1の傾向スコアマッチングを行って比較した場合も、VFAとWCは有意に肺葉切除群で減少した(各P=0.009、P=0.020)。 術後3年時点のVFAおよびWCの変化量に対するカットオフ値は、Coxの比例ハザードモデルに基づき、それぞれ-13%と-5%と決定された。術後3年時点でのVFAの変化量が-13%以上の患者は、-13%未満の患者と比較して有意にOSが良好だった(5年OS率 97.7% vs 93.4%、ログランク検定 P=0.017)。WCの変化量についても、同様に変化量が-5%以上の患者で有意に良好なOSを示した(P=0.011)。 OSに関する多変量解析では、術後3年時点でのVFA変化量が-13%未満であることが有意な予後不良因子であった(P=0.013)。また、VFAの変化量が-13%未満、WCの変化量が-5%未満に関する多変量解析では、肺葉切除が独立したリスク因子となった(各P<0.001、P=0.004)。 本研究について著者らは、「本研究から、再発のない早期肺がん患者では、肺葉切除後に生じる長期的な内臓脂肪の減少が区域切除術後では起こらないことが示唆された。また、術後3年時点でのVFA変化が-13%未満であることが、早期肺がん患者の予後不良因子であることが示されたことからも、術後の内臓脂肪減少予防の重要性が明らかになったのではないか」と述べた。 本研究の限界点については、サンプルサイズの小さい単施設の後ろ向き研究であったこと、術後3年時点でCTデータが欠落していた患者が除外されていたことなどを挙げている。

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にんにくは糖尿病のリスクを減らす【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第281回

にんにくは糖尿病のリスクを減らすにんにく摂取と糖尿病発症リスクとの関連を検討した10年間の前向きコホート研究が発表されました!2008年時点で糖尿病を有していない高齢者を登録し、その後10年間にわたって追跡し、にんにく摂取頻度と糖尿病新規発症の関連を解析…構造になっており、曝露(にんにく摂取)を基準に将来のアウトカム(糖尿病発症)を観察した前向きデザインですが、そんな研究を立案しちゃうんだ…。すごい。Du J, et al. Garlic consumption and risk of diabetes mellitus in the Chinese elderly: A population-based cohort study. Asia Pac J Clin Nutr. 2025 Apr;34(2):165-173.動物実験や細胞レベルの研究において、にんにくが血糖降下作用を示すことが確認されていますが、ヒトを対象とした疫学的研究、とくに高齢者に焦点を当てた前向き研究は少なく、その因果関係の証明は不十分です。この研究では、中国高齢者健康長寿調査(CLHLS)を用いて、にんにくの摂取頻度と糖尿病発症との関連性を検証しています。研究対象は2008~18年にかけて追跡された1,927人の中国人高齢者です。ベースライン時に糖尿病の既往がない人を対象に、にんにく摂取頻度(毎日、時々、ほとんどまたは全く摂取しない)と自己申告による糖尿病診断の有無を記録し、多変量Cox比例ハザードモデルにより解析を行いました。対象者のうち、24.1%が毎日、55.1%が時々にんにくを摂取しており、糖尿病の発症率は全体で20.08%でした。4~5人に1人が毎日にんにくを摂取しているんですね、たしかに僕もそのくらいの頻度でにんにくを食べている気もします。にんにく大好きマンです。さて、毎日摂取していた群は、にんにくをほとんど摂らない群に比べて糖尿病のリスクが42%低下していました(ハザード比:0.58、95%信頼区間[CI]:0.42~0.80)。この関連は、年齢、性別、居住地、教育、BMI、食事の多様性、喫煙・飲酒習慣、運動、婚姻状況、収入源、職業、慢性疾患の既往などの共変量で調整した後も、有意に認められました。サブグループ解析において、65~79歳、農村在住者、非飲酒者、教育水準が高くない人、経済的援助が必要な人、農業従事者では、にんにく摂取による糖尿病リスクの有意な低下が示されました。一方で、80歳以上、都市部在住者、飲酒者、教育水準が高い人、経済的自立者ではその影響は有意ではありませんでした。にんにくの糖尿病に対する効果は、インスリン分泌の促進、インスリン感受性の改善、DPP-4阻害による血糖調節、脂質代謝の改善、抗酸化・抗炎症作用などが報告されています。とくに、アリシンなどの含硫化合物はインスリンの不活化を防ぎ、炎症を抑制することでインスリン抵抗性の改善に寄与すると考えられています。また、酸化ストレスの抑制、非酵素的糖化反応の抑制といった作用もあり、糖尿病の合併症予防にもつながる可能性があります。この研究、調理方法や妥当なにんにくの量がわからないという点がリミテーションです。ただ、過去のメタアナリシスでは、にんにく摂取量1.5g/日というのがおおよその目安となっています1)。よし、明日から毎日にんにくを食べよう!1)Shabani E, et al. The effect of garlic on lipid profile and glucose parameters in diabetic patients:A systematic review and meta-analysis. Prim Care Diabetes. 2019;13(1):28-42.

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第260回 高齢者心不全へのSGLT2阻害薬、実感した副作用対策の大変さ

「心不全パンデミック」。最近よく耳にするようになった言葉だ。超高齢化に向かって突き進む日本で、今後、心不全患者が増加し、それに対応する医療者や病床も不足してくるという未来予測を、ある種の感染症の爆発的増加になぞらえた造語である。私自身がこの造語を最初に聞いたのがいつだったかは明確に記憶していないが、もちろんこの未来予測は確実に現実のモノになっていくだろうとは思っていた。もっともこれは実感を伴ったものではなく、ある種の社会現象の1つ、もっと極論を言えば“他人事”として捉えていた。しかし、これが私自身の身近にも降ってきた。私ではなく、先日米寿を迎えた父親に、である。慢性心不全で薬物療法開始ことのきっかけは4月上旬の週半ば、母親から「お父さんの右脚の腫れが気になるので(筆者が)今度来る時、医者の予約を入れて診て貰いたい。歩くのがひどそうだ」とのLINEメッセージが届いたことだった。正直、嫌な予感がした。ちょうど1年前、父親がアテローム血栓性脳梗塞で救急搬送されたことは以前の本連載でも触れたとおり。その時の精密検査で心房細動があることもわかり、抗凝固薬の服用も開始した。父親のかかりつけ医の近傍で薬局を営む薬剤師の親族にも連絡を取った。すると「うーん、心臓じゃないか?」との意見。私も同感だった。私自身はこの翌週、父親を花見に連れて行くため帰省するつもりだったが、心臓に問題があるならば、ゆるりと構えていてはいけない。父親のかかりつけ医のクリニックはネット上で診察予約ができるので、念のため空きを確認したところ、母親のLINEメッセージを受け取った翌日の午前に父親の主治医の診察枠に空きはあった。すぐに母親に連絡を取り、「最短で明日、かかりつけ医に行けるか?」と確認。可能だということなので、すぐに予約を入れた。翌日昼前、母親からの報告の連絡を待っていると、一足先に薬剤師の親族より「慢性心不全の診断」というLINEメッセージが着信した。ついに来てしまったか。これにより父親の服用薬には新たにSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)が追加されることになった。この処方を聞いて率直に言葉に表すならば「ガーン」の一言。もちろんエンパグリフロジンをはじめとするSGLT2阻害薬が、2型糖尿病の有無にかかわらず心不全イベントを抑制するエビデンスを得ていることは知っている。しかし、その主作用の結果として頻尿になる。父親は脳梗塞を発症する前からすでに歩行がスローになり、シルバーカーを使いながら休み休み歩いていた。健常成人で徒歩10分のところでも30分ほどかかっていた。もしかしたら、もうこの時点で心不全の影響があったのかもしれない。この状態に母親が付き合うのは大変なため、脳梗塞発症前から軽量車椅子の導入を考えていたが、脳梗塞に伴う入院で一時的にADLがかなり低下したことにより、車椅子導入は現実となった。自宅内や自宅周辺は自力歩行するが、余暇や通院のための外出時は車椅子を使う。88歳の父親はやせ型だが、87歳の細腕の母親が車椅子で連れ歩くのはかなり大変である。市街地への外出時は電車・バスで移動するが、いずれも車両の入り口にはステップがあるため、乗降時は自力歩行せねばならない。母親と2人での外出時は、母親が父親を片手で介助し、もう片方の手で折り畳んだ車椅子を持ちながらの乗降となる。軽量と言っても車椅子は8kg弱ある。そんなこんなで私が頻繁に帰省するようになったが、ここに頻尿に対応したトイレ探しが加わることになった。また、SGLT2阻害薬では、その作用機序ゆえに頻度は低いものの脱水の危険性があるが、父親は積極的に水分を取りたがる気質でもない。頻尿の弊害いやはや大変なことになったと思った。そして診断が下った当日、さっそく母親はこの薬による頻尿の“洗礼”を受けることになった。かかりつけ医の受診後、親戚の薬局に処方箋を持って行き、薬を受け取った父親はさっそく1錠服用して、しばらく休んでから母親とともに帰途についたという。服用後の最初のトイレは、健常成人で徒歩12分ほどのかかりつけ医療機関の最寄り駅だったという。まあ、これは想定内だろう。そこから自宅最寄りの駅方向の電車に乗ったのだが、自宅最寄りから一つ前の駅の到着時に電車内のトイレに再び向かった。しかし、なかなか出てこなかったという。慌てた母親がトイレに向かい、どうにか父親を捕まえ、車椅子を持って無事最寄り駅で降車はできた。だが、必死だった母親は自分のバッグを電車内に置き忘れてしまい、自宅に戻って一旦父親に留守を任せた後、バッグを拾得していた駅まで往復2時間かけて取りに行く羽目になった。その後、母親からの報告では朝1回の服用で午前7時から午後1時までに計7回もトイレに行くことがわかった。なかなかである。この翌週に私は帰省したが、ぱっと見の父親にはまったく変化を感じない。まあ、当然と言えば当然である。もっとも実家で様子を見ている限り、約1時間に1回の頻度でトイレに行くことだけはわかった。問題はどうやって花見に連れて行くかだ。入念な下調べ、なんとか花見は実現私が介助できる前提ならば、多少実家から離れた桜の名所に連れて行きたい。父親が車椅子を使うようになってから初めて外出する場所の場合は、あらかじめ地図とGoogleストリートビューなどでルートや道路の傾斜状況などを調べている。こうすれば大きな想定外の事態は避けられる。ただ、花見ではやや事情が異なってくる。というのも桜の名所では花見客を見込んだ屋台や仮設トイレの設置などが行われることが多いからだ。こうした場所は曜日・時間によっても混雑度は異なる。最終的に地元に約2週間滞在し、合計4ヵ所のお花見スポットに連れて行ったが、うち3ヵ所は下見まですることになった。下見時は抜かりなくトイレの場所をチェックし、ブルーシートを広げる場所も桜の花も見えてトイレも近い、さらには屋台などにも近い場所を選定した。当然ながら、現地までの公共交通経路上にあるトイレの位置なども把握する必要がある。驚いたのは、花見の名所に設置された仮設トイレの中には、仮設多目的トイレがあるところもあった。時代の変化とはこういうところにも表れるのかと感心した。もっともこれだけでも想定外のことは起こり得る可能性がある。そのため念には念を入れ、災害用の使い捨て携帯トイレも持参した。父親は軽度認知障害もあるが、それゆえに排泄の失敗をまだ本人は自覚できるので、そのような事態になれば相当落ち込むはず。排泄トラブルは何としても避けなければならなかった。さらに連れて行く時は、時間の融通が利きやすいフリーランスの特権を生かして、混雑しにくい平日昼間ばかりを選んだ。花見に行くたびに父親は「ああ、満開だ」と大喜び。一応、こちらは4ヵ所の満開時期もすべて調べて、日ごとにどこが最適かも計算して連れて行った。父親からは「まさかお前にここまでしてもらえるとは思わなかった」と微妙な誉め言葉をかけられた。私はかなり信用がなかったらしい(笑)。花見場所で車椅子を押しながら、高校時代は陸上で国体にまで出場した父親もここまで弱るのだと何とも言えない気持ちになる。そしてこの姿は自分の未来でもある、とふと思う。治療薬の選択肢が広がることは福音だ。もっともその選択肢に伴う副作用などさまざまなデメリットは甘受せねばならない。改めて医療におけるメリットとデメリットのバランスは難しいものだとも実感している。いずれにせよ、わが家の心不全パンデミックはまだ序章に過ぎない。

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終末期の「身の置きどころのなさ」への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第100回

終末期の「身の置きどころのなさ」への対応今回は記念すべき100回ですね。先日、これまでの連載を見返す機会があったのですが、いろんな話題を扱ってきたなあと感慨深かったです。ここまで続けてこられたのも、質問や感想を下さる読者の皆さまのおかげです。どうもありがとうございます。これからも緩和ケアの臨床に役立つ話題や、知っておくとより緩和ケアに興味が湧くことを発信してまいります。今回の質問お看取りが近い患者さん、身の置きどころがない様子で苦しそうで、家族も心配しています。入院を勧めることも考えるのですが、予後が短いことは確実なので、できれば最後まで自宅で過ごさせてあげたい気持ちもあり、悩んでいます。今回は100回記念らしい、緩和ケアの実践で非常に重要なご質問を頂きました。この「終末期の身の置きどころのなさ」は、緩和ケアの教科書では「Terminal restlessness」と表現されています。多くの場合、患者はせん妄のような意識障害の状態で、じっと横になっていられないような様子です。見るからに苦しそうで、話すことのできる患者さんなら「きつい、きつい」と言っている方を多く経験しました。ご家族が心配するのも当然です。こうした状況に対して、まずは介入可能な病態や症状を検討します。と言っても、多くの場合は原疾患が進行し、日単位で亡くなりそうな状況だからこそ生じている症状なので、原因を見つけて介入したら改善した、といった成功体験はありません。ただ、見逃すと申し訳ない点、具体的には不快な身体症状(痛み、呼吸困難など)の緩和は十分か、尿閉や便秘はないか、薬剤によるせん妄が生じていないか、を改めて確認します。可逆的な要因がないことを確認し、予後が日単位であれば、薬剤の投与を考えるのが現実的な対応策です。具体的にはベンゾジアゼピンと抗精神病薬との投与を検討します。ベンゾジアゼピン単剤だとせん妄を悪化させる可能性があるため、ハロペリドールなどの抗精神病薬を併用することが多いです。病状的に内服が難しいことが大半なので、皮下もしくは静脈注で投与します。この場合のベンゾジアゼピンは深い鎮静というよりも、少しうとうとさせることで身の置きどころのない症状を和らげることを企図したものです。具体的にはミダゾラムを調節型鎮静と同じように使用します。在宅だとすぐに注射薬が準備できない場合もあるかもしれません。その際はジアゼパムやブロマゼパムの坐薬で急場をしのぐことも検討します。ひとまず緊急避難的に症状を落ち着けたうえで、ご家族と丁寧な対話をするよう心掛けましょう。お看取りが近いことの共有や、ケアの目標についてこれまでを振り返りながら考えることも大切です。身の置きどころのなさは「緩和ケア的緊急事態」です。ぜひ、対応法を復習してみてください。今回のTips今回のTips終末期の身の置きどころのなさは「緩和ケア的緊急事態」。適切に症状を緩和し、本人・家族とコミュニケーションを図りましょう。

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無症候性細菌尿と尿路感染症の区別はどうする?【とことん極める!腎盂腎炎】第15回

無症候性細菌尿と尿路感染症の区別はどうする?Teaching point(1)無症候性細菌尿を有している患者は意外と多い(2)無症候性細菌尿は一部の例外を除けば治療不要である(3)無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別は難しいため総合内科医/総合診療医の腕の見せ所であるはじめに本連載をここまで読み進めた読者の方は、尿路感染症をマスターしつつあると思うが、そんな「尿路感染症マスター」でも無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別をすることは容易ではない。特殊なセッティングを除けば、そもそも無症状の患者の尿培養を採取することがないため、われわれは一般的に熱源精査の過程で無症候性細菌尿かどうかを判断しなければならないからである。尿路感染症は除外診断(第1回:問診参照)であるため、発熱患者が膿尿や細菌尿を呈していたとしても尿路感染症と安易に診断せず、ほかに熱源がないか病歴・身体所見をもとに検索し、場合によっては血液検査・画像検査を組み合わせて診断することが大切である。このように無症候性細菌尿と尿路感染症の区別は一筋縄ではいかないが、本項で無症候性細菌尿という概念について詳しく知り、その誤解をなくすことで、少しでも区別しやすくなっていただくことを目標とする。1.無症候性細菌尿とは無症候性細菌尿とはその名の通り、「尿路感染症の症状がないにもかかわらず細菌尿を呈している状態」である。米国感染症学会(Infectious Diseases Society of America:IDSA)のガイドライン1)では105CFU/mLの細菌数が尿から検出されることが、細菌尿の条件として挙げられている(厳密にいえば、女性の場合は2回連続で検出されなければならない)。無症候性細菌尿を有している割合(表)は加齢とともに上昇し、女性の場合、閉経前は1〜5%と低値だが、閉経後は2.8〜8.6%、70歳以上に限定すると10.8〜16%、施設入所者に至っては25〜50%と非常に高値となる。男性の場合も同様で、若年の場合は極めてまれであるが、70歳以上に限定すると3.6〜19%、施設入所者では15〜50%となり、女性とほぼ同頻度となることが知られている1)。また糖尿病があると無症候性細菌尿を呈する頻度がさらに上昇するとされている。さらに膀胱留置カテーテルを使用中の場合、細菌尿を呈する割合は1日3〜5%ずつ上昇するため、1ヵ月間留置していると細菌尿はほぼ必発となることも知られている2)。表 無症候性細菌尿を有する頻度画像を拡大するつまり「何も症状はないがもともと細菌尿を有している患者」は意外と多いのである。熱源精査を行う際はこれを踏まえ、「もともと無症候性細菌尿を有していた人が何か別の感染症に罹患している」のか「膀胱刺激徴候やCVA叩打痛のない腎盂腎炎を発症している」のか毎回頭を悩ませなければならない。とくに入院中の高齢者に関しては、尿路感染症と診断されたうちの40%程度が不適切な診断だったという研究3)もあり、ここの区別は総合内科医/総合診療医の腕の見せ所といえる。2.無症候性細菌尿と尿検査結論からいうと、尿検査で無症候性細菌尿と尿路感染症を区別することはできない。「第5回:尿検体の迅速検査」に記載があるように、尿中白血球や尿中亜硝酸塩は尿中に白血球や腸内細菌が存在すれば陽性になるため、無症候性細菌尿であっても、尿路感染症であっても同じ結果になってしまうのである。亜硝酸塩が陽性とならない細菌(腸球菌など)の存在や亜硝酸塩の偽陽性(ビリルビン高値や試験紙の空気への曝露)にも注意が必要である。「膿尿もあれば無症候性細菌尿ではなく尿路感染症を疑う」という誤解も多いが、実際はそんなことはなく、たとえば糖尿病患者では無症候性細菌尿の80%で膿尿も認めていたという報告がある4)。つまり、尿路感染症ではなくとも膿尿や細菌尿を認めることがあり、それが尿路感染症の診断を難しくしているのである。高齢者の発熱で尿中白血球と尿中亜硝酸塩が陽性のため腎盂腎炎として治療開始されたが、総合内科/総合診療科入院後に偽痛風や蜂窩織炎と診断される…というパターンは比較的よく経験する。尿検査所見に飛びつき、思考停止になってしまわないように注意したい。3.無症候性細菌尿の治療の原則無症候性細菌尿の治療は原則として必要ない。抗菌薬適正使用の観点からも「かぜに抗菌薬を投与しない」の次に重要なのが「無症候性細菌尿は治療しない」であると考えられている5)。無症候性細菌尿を治療しても尿路感染症のリスクは減らすことができず、それどころか中長期的には尿路感染症のリスクが上昇するとされている6,7)。また下痢や皮疹などの副作用のリスクは当然上昇し、耐性菌の出現にも関与することが知られている1,7)。不必要どころか害になる可能性があるため、原則として無症候性細菌尿は治療しないということをぜひ覚えていただきたい。4.無症候性細菌尿の例外的な治療適応何事も原則を知ったうえで例外を知ることが大切である。この項では無症候性細菌尿でも治療すべき状況を概説する。<妊婦>妊婦が無症候性細菌尿を有する割合は2〜15%とされており8)、治療を行うことで腎盂腎炎への進展リスクや、低出生体重児のリスクが有意に低下することがわかっている9)。このため妊婦ではスクリーニングで無症候性細菌尿があった場合、例外的に治療をすべきとされている。抗菌薬は検出された菌の感受性をもとに決定すればよいが、ST合剤を避けてアモキシシリンやセファレキシンを選択するのが望ましいと考える。治療期間は4〜7日間が推奨されている1)。治療閾値は無症候性細菌尿の定義通り、尿培養から尿路感染症の起炎菌が105CFU/mL以上検出された場合となっているが、105CFU/mL未満でも治療している施設も往々にしてあると思われるためローカルルールを確認していただきたい。なお米国予防医学専門委員会(U.S. Preventive Services Task Force:USPSTF)は、妊婦の尿培養からGroup B Streptococcus(S. agalactiae)が検出された場合、S. agalactiaeの膣内定着が示唆され、胎児への感染を予防するため例外的に104CFU/mLでも治療適応としていることに注意が必要である10)。<泌尿器科処置前>厳密にいうと、「粘膜の損傷や出血を伴うような泌尿器科処置前」である。これは無症候性細菌尿の治療というより、術前の抗菌薬予防投与と考えたほうがイメージしやすいだろう。経尿道的前立腺切除術や経尿道的膀胱腫瘍切除術などの術前にスクリーニングを行い、無症候性細菌尿がある場合は術後感染症の予防のため治療が推奨されている。抗菌薬は検出された菌の感受性をもとに、できるだけ狭域なものを選択する。治療期間は術後創部感染の予防と同様に、手術の30〜60分前に初回投与し、当日で終了すればよい1)。なお膀胱鏡検査だけの場合や、膀胱がんに対するBCG注入療法のみの場合は粘膜の損傷や出血リスクが低く、感染予防効果が乏しいため無症候性細菌尿の治療は不要と考えられる1,11)。意外かもしれないが無症候性細菌尿の治療適応はこの2つだけである。厳密にいうと「腎移植直後の無症候性細菌尿の治療」などは意見が分かれるところであるが、少なくとも腎移植後2ヵ月以上経過した患者に対する無症候性細菌尿の治療効果はないとされる12)。さすがに腎移植後2ヵ月以内に患者を外来フォローすることはほぼないと思われるため、総合内科医/総合診療医が覚えておくべきなのは上述の2つだけであるといってよいだろう。5.無症候性細菌尿と尿路感染症の区別繰り返しになるが、熱源精査の過程で発見された無症候性細菌尿と真の尿路感染症の区別は一筋縄ではいかない。とくに後期高齢者ではもともと無症候性細菌尿を有している率が高くなり、認知症などがあれば真の尿路感染症のときでも発熱以外に症状が乏しいこともあるため、両者の区別がより一層難しくなる。区別に有用な単一の検査も存在しないため、病歴・身体所見・血液検査所見・画像所見などを組み合わせ総合的な評価を行う必要があるといえる。大切なことは尿路感染症と診断する前にほかの熱源をできるだけ否定するということである。無症候性細菌尿を治療してしまう動機としては以下13)のようなものがあげられている。(1)臨床像を考慮せず検査異常を治療するという誤った考え(2)過剰な不安や警戒心という心理的要因(3)適切な意思決定を妨げる組織文化(2)や(3)に関しては状態悪化時のバックアップ体制などにも左右されると考えられるため、個人でなく科全体や病院全体で取り組んでいかなければならないテーマだといえる。1)Nicolle LE, et al. Clin Infect Dis. 2019;68:1611-1615.2)Hooton TM, et al. Clin Infect Dis. 2010;50:625-663.3)Woodford HJ, George J. J Am Geriatr Soc. 2009;57:107-114.4)Zhanel GG, et al. Clin Infect Dis. 1995;21:316-322.5)Choosing Wisely. Infectious Diseases Society of America : Five Things Physicians and Patients Should Question. 2015.(Last reviewed 2021.)6)Zalmanovici Trestioreanu A, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;4:CD009534.7)Cai T, et al. Clin Infect Dis. 55:771-777.8)Smaill FM, Vazquez JC. Cochrane Database Syst Rev. 2019;CD000490.9)Henderson JT, et al. JAMA. 2019;322:1195-1205.10)US Preventive Services Task Force. JAMA. 2019;322:1188-1194.11)Herr HW. BJU Int. 2012;110:E658-660.12)Coussement J, et al. Clin Microbiol Infect. 2021;27:398-405.13)Eyer MM, et al. J Hosp Infect. 2016;93:297-303.

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NSAIDsの長期使用で認知症リスク12%低下

 新たな研究によると、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用は認知症リスクを12%低下させる関連性が認められたが、短期および中期使用では保護効果は認められなかったという。オランダ・エラスムスMC大学医療センターのIlse Vom Hofe氏らによる本研究の結果はJournal of the American Geriatrics Society誌オンライン版2025年3月4日号に掲載された。 研究者は、前向きの地域ベース研究であるロッテルダム研究から、ベースライン時に認知症のない1万1,745例を分析対象とした。NSAIDs使用データは薬局調剤記録から抽出され、参加者は非使用、短期使用(1ヵ月未満)、中期使用(1~24ヵ月)、長期使用(24ヵ月超)の4グループに分類され、定期的に認知症のスクリーニングを受けた。年齢、性別、生活習慣要因、合併症、併用薬などを調整因子として解析した。 主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間14.5年の間に、1万1,745例(平均年齢66歳、女性60%)の参加者の18%が認知症と診断された。追跡期間終了時までに参加者の81%がNSAIDsを使用した。・NSAIDs使用は、長期使用者において認知症リスクの低下(ハザード比[HR]:0.88、95%信頼区間[CI] :0.84~0.91)と関連していたが、短期使用(HR:1.04、95%CI :1.02~1.07)と中期使用(HR:1.04、95%CI:1.02~1.06)では小さなリスク増加が観察された。・NSAIDsの累積用量は、認知症リスクの低下と関連しなかった。・非アミロイドβ(Aβ)低下作用型NSAIDsの長期使用における認知症リスク低下は、Aβ低下型NSAIDsよりも大きかった(HR:0.79対0.89)。・NSAIDsの長期使用による保護効果はAPOE4(対立遺伝子)を持たない参加者(HR:0.86)では観察されたが、有する参加者(HR:1.02)では観察されなかった。・NSAIDsの長期使用と発症リスクとの関連は、全原因認知症よりもアルツハイマー型認知症においてより顕著だった(HR:0.79)。 研究者らは「当研究は、抗炎症薬が認知症の進行に対する予防効果を有する可能性を示しており、その効果は累積用量ではなく、使用期間による可能性がある。しかし、副作用のリスクを考慮すると、認知症予防のために長期的なNSAIDs治療を推奨する根拠は不十分であり、さらなる研究が必要である」とした。

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統合失調症患者の高プロラクチン血症改善にメトホルミンが有効〜メタ解析

 抗精神病薬治療は、高プロラクチン血症リスクと関連しており、月経障害、性機能障害、骨密度低下などにつながる可能性がある。ほぼすべての抗精神病薬は、プロラクチン値の上昇リスクを有しており、統合失調症患者の最大70%に影響を及ぼすと考えられる。台湾・台北医学大学のKah Kheng Goh氏らは、抗精神病薬治療中の統合失調症患者の高プロラクチン血症の軽減に対するメトホルミン治療の潜在的な役割を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2025年3月24日号の報告。 2024年1月31日までに公表された統合失調症患者におけるプロラクチン値に対するメトホルミンの効果を評価したRCTを、PubMed、CNKI、Embase、Cochrane、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。データの抽出、統合には、ランダム効果メタ解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・10件のRCT、1,046例(メトホルミン群584例、対照群[プラセボまたは未治療]462例)をメタ解析に含めた。・メトホルミン群は、対照群と比較し、プロラクチンレベルの有意な低下が認められた(SMD:−0.98、95%CI:−1.62〜−0.35、p=0.002、transformed MD:−34.88ng/mL、95%信頼区間:−57.65〜−12.46)。・サブグループ解析では、プロラクチン低下と有意に関連していた因子は、より高い投与量(1,500mg)、より短い治療期間(24週未満)、より高いBMI(25kg/m2超)、より長い罹病期間(1年超)であった。・メトホルミン群は、対照群と比較し、有害事象またはすべての原因による中止率の有意な増加は認められず、忍容性は良好であった。 著者らは「メトホルミンは、抗精神病薬誘発性高プロラクチン血症に対する治療薬としての可能性が示唆され、とくに高用量、短期治療期間、高BMI、長期罹病期間を有する統合失調症患者で良好であり、忍容性プロファイルも良好であることが明らかとなった。本調査結果は、ロバストではあるものの、異質性が高いため、慎重に解釈する必要がある。今後の研究において、治療の最適化を図るために、メトホルミンの治療反応に対する人口統計学的および臨床的因子の調査が求められる」と結論付けている。

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エサキセレノンは、高齢のコントロール不良高血圧患者にも有効(EXCITE-HTサブ解析)/日本循環器学会

 高血圧治療において、高齢者は食塩感受性の高さや低レニン活性などの特性から、一般的な降圧薬では血圧コントロールが難しいケースもある。『高血圧治療ガイドライン2019』では、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬が第一選択薬として推奨されているが、個々の患者に適した薬剤選択が重要である。このような背景のもと、自治医科大学の苅尾 七臣氏らの研究グループは、ARBまたはCa拮抗薬を投与されているコントロール不良の本態性高血圧患者を対象に、非ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)のエサキセレノンと、サイアザイド系利尿薬であるトリクロルメチアジドとの降圧効果および安全性を比較する「EXCITE-HT試験」を実施した1~3)。その結果、エサキセレノンの降圧非劣性が示された。さらに、「EXCITE-HT試験」の対象者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分け、エサキセレノンの有効性と安全性を年齢別サブ解析として検証した4)。サブ解析の結果について、2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて苅尾氏より発表された。 「EXCITE-HT試験」は、2022年12月~2023年9月に実施された多施設(54施設)無作為化非盲検並行群間比較試験である。対象者は、試験登録前に4週間以上、同一用量のARBあるいはCa拮抗薬の投与を受け、コントロール不良の20歳以上の本態性高血圧患者(早朝家庭血圧が収縮期血圧[SBP]125mmHg以上/拡張期血圧[DBP]75mmHg以上)。並存疾患として、脳血管疾患、タンパク尿陰性の慢性腎臓病(CKD)または75歳以上の患者は、SBP 135mmHg以上/DBP 85mmHg以上の患者を試験対象とした。 本サブグループ解析は、対象患者を2つの年齢群(65歳未満と65歳以上)に分類した。エサキセレノン群は、電子添文に従って2.5mg/日(並存疾患を有する場合は1.25mg/日)で開始し、12週間投与した。投与量は、治療4週後または8週後に5mg/日まで患者の状態に合わせて徐々に増量可能とした。トリクロルメチアジド群は、電子添文または高血圧治療ガイドライン(推奨用量は1mg/日以下)を参考に投与を開始し、治療4週後または8週後に患者の状態に合わせて増量した。ARBあるいはCa拮抗薬は全期間を通じて一定用量で投与され、他の降圧薬の使用は禁止された。主要評価項目は、ベースラインから試験終了時までの早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量。副次的評価項目は、就寝前の家庭血圧、診察室血圧の変化量、ならびにベースラインから12週目までの尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の変化率、およびNT-proBNP値の変化量。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者特性【65歳未満の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(137例):137.9/90.2mmHg トリクロルメチアジド群(133例):136.9/90.1mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の平均値(SBP/DBP)】 エサキセレノン群(158例):142.0/84.0mmHg トリクロルメチアジド群(157例):141.6/83.6mmHg・早朝家庭血圧は、すべてのサブグループにおいてベースラインから試験終了時までに有意に減少した。エサキセレノンはトリクロルメチアジドに対して、65歳未満では、SBPおよびDBP共に非劣性を示し、65歳以上では、SBPで優越性が認められ、DBPで非劣性を示した(非劣性マージン:SBP 3.9mmHg/DBP 2.1mmHg)。就寝前家庭血圧および診察室血圧でも同様の結果が示された。【65歳未満の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:-9.5/-5.7mmHg トリクロルメチアジド群:−8.2/−4.9mmHg 群間差:−1.3(95%信頼区間[CI]:−3.3~0.8)/−0.8(95%CI:−2.1~0.5)mmHg【65歳以上の早朝家庭血圧の最小二乗平均変化量(SBP/DBP)】 エサキセレノン群:−14.6/−7.2mmHg トリクロルメチアジド群:−11.5/−6.7mmHg 群間差:−3.0(95%CI:−4.9~−1.2)/−0.5(95%CI:−1.5~0.5)mmHg・両群でUACRおよびNT-proBNP値の有意な低下が認められた。【UACRの幾何平均による変化率】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-28.3%vs.−38.1% 65歳以上:-46.8%vs.-45.0%【NT-proBNP値の変化量】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:-14.25±78.21 vs.-4.29±102.45pg/mL 65歳以上:-47.68±317.18 vs.-13.73±81.49pg/mL・有害事象の発現率および試験薬投与中止率は両群で同程度であった。 エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 有害事象:35.1%vs.37.6% 試験薬投与中止:1例(0.3%)vs.5例(1.7%)・血清カリウム値は、65歳未満および65歳以上共に、トリクロルメチアジド群と比較して、エサキセレノン群でやや高い傾向が示された。低カリウム血症の頻度は、エサキセレノン群のほうが低かった。【低カリウム血症(<3.5mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:4.4%vs.14.0% 65歳以上:1.9%vs.9.5%【高カリウム血症(≧5.0mEq/L)】エサキセレノン群vs.トリクロルメチアジド群 65歳未満:2.2%vs.0.8% 65歳以上:1.9%vs.0.6% 苅尾氏は本結果について、「エサキセレノンはトリクロルメチアジドと比較して、患者の年齢に関わらず、血圧降下作用において非劣性を示し、血清カリウム値に与える影響も、年齢による違いは認められず、有効かつ安全な治療選択肢であることが示された。とくに高齢患者において、早朝家庭血圧を低下させる優れた効果が示された」と結論付けた。(ケアネット 古賀 公子)■参考文献はこちら1)Kario K, et al. J Clin Hypertens. 2023;25:861-867.2)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;47:2435-2446.3)Kario K, et al. Hypertens Res. 2024;48:506-518.4)Kario K, et al. Hypertens Res. 2025;48:1586-1598.そのほかのJCS2025記事はこちら

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撤回論文がメタ解析やガイドラインに及ぼす影響/BMJ

 撤回された臨床試験論文は、エビデンスの統合、臨床診療ガイドライン、エビデンスに基づく臨床診療を含むエビデンスエコシステムに大きな影響を与えることを、中国・Second Military Medical UniversityのChang Xu氏らが、前方引用検索に基づく後ろ向きコホート研究「VITALITY Study I」の結果で示した。エビデンスに基づく医療において、信頼できる意思決定は、信頼できるエビデンスエコシステムの確立に依存し、エビデンスの生成と統合はこのようなエコシステムの確立に重要な要素である。過去10年間で問題のある研究や撤回された研究の数が増加しており、科学研究のデータや結論の信頼性に対し深刻な懸念が高まっている。著者は、「エビデンスを生成、統合および利用する者はこの問題に注意する必要があり、このような潜在的な汚染(contamination)を容易に特定し是正できる実現可能なアプローチが必要である」とまとめている。BMJ誌2025年4月23日号掲載報告。Retraction Watchで撤回論文を特定、医療のエビデンスエコシステムに与える影響を検証 研究グループは、2024年11月5日にRetraction Watchデータベースを用いて何らかの理由で撤回されたヒトを対象とした無作為化比較試験を検索した。その後、Google ScholarおよびScopusを用いて前方引用検索を行い、撤回された臨床試験論文を定量的に組み込んだエビデンス統合研究(2024年11月21日時点)を特定した。 2つの研究者グループが独立してデータを抽出し、撤回された論文を除外した後にメタ解析の結果を更新した。 統合効果の方向性および/またはp値の有意性が変化したメタ解析の割合を推定するとともに、一般化線形混合モデルを用い組み入れられた研究数と影響との関連をオッズ比および95%信頼区間(CI)で示した。また、歪められたエビデンスが臨床診療ガイドラインに与える影響についても、引用文献検索に基づいて調査した。撤回論文で結論が歪められたエビデンスをガイドラインで利用 検索の結果、撤回された臨床試験論文1,330件と、それらを定量的に統合していたシステマティックレビュー847件が特定され、再現可能なメタ解析は合計3,902件であった。 クラスタリング効果を考慮した後、撤回された臨床試験論文を除外すると、統合効果の方向性の変化が8.4%(95%CI:6.8~10.1)、統計学的有意性の変化が16.0%(14.2~17.9)、方向性と有意性の両方の変化が3.9%(2.5~5.2)、効果量の50%以上の変化が15.7%(13.5~17.9)認められた。 組み入れられた研究数と結果への影響の間には明らかな非線形の相関が認められ、研究数が少ないほど影響が大きいことが示された(例:研究数が10件vs.20件以上で、方向性の変化のオッズ比は2.63[95%CI:1.29~5.38]、p<0.001)。 撤回された臨床試験論文によって結論が歪められていた68件のシステマティックレビューのエビデンスが、157のガイドラインで用いられていた。

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術後二次治癒創の治癒期間、局所陰圧閉鎖療法vs.通常治療/Lancet

 糖尿病などの合併症があり、下肢の術後二次治癒創(SWHSI)を有する患者において、局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)が標準的な被覆材(ドレッシング)と比較して創傷治癒までの期間を短縮するという明らかなエビデンスは確認されなかった。英国・ヨーク大学のCatherine Arundel氏らが、国民保健サービス(NHS)の29施設で実施したプラグマティックな無作為化非盲検並行群間比較試験「SWHSI-2試験」の結果を報告した。SWHSIは治療管理およびコスト面で大きな課題を抱えており、有効性の比較を基にしたエビデンスがないにもかかわらず、治療法としてNPWTが用いられることが増えている。著者は、「本研究の結果は、SWHSIの治癒促進のためにNPWTを使用することを支持しないものであった」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年4月15日号掲載の報告。評価者盲検で創傷治癒までの期間を比較 研究グループは、16歳以上で急性SWHSI(術後6週未満に生じた創傷または創傷離開)を有し、NPWT適応と判断された患者(すなわち、デブリドマンを要しない生存組織または薄膜層が80%以上)を、中央ウェブベースシステムによりNPWT群または通常治療群に、創傷部位、創傷面積および施設で層別化して1対1の割合で無作為に割り付け12ヵ月間追跡した。 患者ならびに臨床および研究チームは非盲検であったが、盲検化された評価者が創傷部の写真を評価しアウトカムを確認した。 主要アウトカムは、創傷治癒までの期間(無作為化から完全上皮化までの日数)で、Kaplan-Meier法およびCox比例ハザードモデルを用いてITT解析を行った。NPWTは通常治療と比較し創傷治癒までの期間を短縮せず 2019年5月15日~2023年1月13日に、SWHSIを有する患者686例がNPWT群(349例)または通常治療群(337例)に無作為化され、全患者が主要解析に組み込まれた。 患者の多くは、糖尿病患者(549例、80.0%)、SWHSIが1ヵ所(622例、90.7%)、創傷部位が足または下肢(620例、90.4%)であり、血管手術後の発生であった(619例、90.2%)。 創傷治癒までの期間の中央値は、NPWT群187日(95%信頼区間[CI]:169~226)、通常治療群195日(95%CI:158~213)であり、NPWTが通常治療と比較し創傷治癒までの期間を短縮する明確なエビデンスは得られなかった(ハザード比:1.08、95%CI:0.88~1.32、p=0.47)。 有害事象は448件報告され、そのうち重篤な事象は14件(NPWT群9例、通常治療群5例)で、124件は治療に関連している可能性があると判断された。 試験内経済分析の結果、NPWTは通常治療と比較して費用対効果が高いとは認められなかった。

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アトピー性皮膚炎へのレブリキズマブ、5月1日から在宅自己注射が可能に/リリー

 日本イーライリリーは、アトピー性皮膚炎治療薬の抗ヒトIL-13モノクローナル抗体製剤レブリキズマブ(商品名:イブグリース皮下注250mgオートインジェクター/同シリンジ)について、厚生労働省の告示を受け、2025年5月1日より在宅自己注射の対象薬剤となったことを発表した。 レブリキズマブは2024年5月に発売され、既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に使用される皮下投与製剤。これまで、初回以降2週間隔(4週以降は患者の状態に応じて4週間隔も可能)で通院のうえ院内での皮下投与が必要であった。在宅自己注射の対象薬剤となったことに伴い、医師が妥当と判断した患者については、十分な説明およびトレーニングを受けたうえで在宅での自己注射が可能となる。

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黄斑部の厚さが術後せん妄リスクの評価に有効か

 「目は心の窓」と言われるが、目は術後せん妄リスクのある高齢患者を見つけるのにも役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。網膜の中心部にある黄斑部が厚い高齢者は、術後せん妄の発症リスクが約60%高いことが示されたという。同済大学(中国)医学部教授のYuan Shen氏らによるこの研究の詳細は、「General Psychiatry」に4月1日掲載された。Shen氏は、「本研究結果は、黄斑部の厚みを非侵襲的なマーカーとして、麻酔および手術後にせん妄を発症しやすい高齢者を特定できる可能性があることを示唆している」と話している。 米国医師会(AMA)によると、高齢患者の約26%が術後せん妄を発症する。米ミシガン州の内科医Amit Ghose氏は、2023年にAMAに発表された記事の中で、4時間に及ぶ心臓手術後に術後せん妄に襲われた自身の経験を振り返った。Ghose氏は、目を覚ましたときには頭が混乱しており、「私は、『なぜ私はランシングで患者の診察をしていないのだろう』と自問した」と回想する。同氏は、家族の質問に正しく答えることができず、オピオイド系鎮痛薬はせん妄状態を悪化させただけだった。症状が治まるまで数日かかったという。 研究グループは、術後せん妄を発症した患者は、入院期間が長くなり、退院後も自宅でのサポートが必要になる可能性が高いと説明する。また、認知機能低下や認知症のリスクも高まる。しかし残念ながら、術後せん妄のリスクがある人を特定するための簡便な検査は存在しない。ただ、過去の研究で、視力障害が術後せん妄の独立したリスク因子であることや、網膜の厚さが認知障害やアルツハイマー病のリスクと関連していることが示されている。網膜は目の奥にある細胞層で、角膜と水晶体を経由して入ってきた光を電気信号に変換し、視神経を通して脳に送る役割を果たしている。 今回、Shen氏らは、全身麻酔下で膝関節や股関節の置換手術、腎臓や前立腺の手術を受ける予定の65歳以上の患者169人(平均年齢71.15歳)を対象に、網膜の厚さと術後せん妄の発症リスクとの関係を検討した。手術の前に、光干渉断層撮影(OCT)により対象者の目の黄斑部の厚さと網膜神経線維層(RNFL)の厚さを測定した。また術後3日間は、せん妄のスクリーニングや診断に用いられるツールであるConfusion Assessment Method(CAM)とCAM-severity(CAM-S)を用いてせん妄の有無とその重症度の評価を行った。 手術後に40人(24%)がせん妄を発症した。術後せん妄を発症した患者では、発症しなかった患者に比べて黄斑部の厚さが有意に厚いことが明らかになった(厚さの平均値は283.35μm対273.84μm、P=0.013)。また、術前に右目黄斑部の厚さが厚いことは、術後せん妄の発症リスクの増加(調整オッズ比1.593、95%信頼区間〔CI〕1.093〜2.322、P=0.015)、およびせん妄の重症度の上昇(CAM-Sスコアの調整平均差0.256、95%CI 0.037〜0.476、P=0.022)と関連することも示された。 この研究では、黄斑部の厚みの増加と術後せん妄リスクとの間の直接的な因果関係を証明することはできない。それでも研究グループは、「本研究で得た知見は、より大規模な研究でさらに検討する価値があるほど強力であり、せん妄の術前検査につながる可能性がある」と述べている。 なお、米国老年医学会(AGS)によると、術後せん妄は予防可能だという。AGSは予防のための有効な手段として、毎日複数回歩かせること、時間と居場所を思い出させること、夜間に中断なく眠れるようにすること、水分補給を徹底させること、眼鏡や補聴器を持たせること、カテーテルの使用を避けることなどを挙げている。

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アラート付き血糖モニタリングにより糖尿病患者の交通事故が軽減か

 インスリン治療を受けている糖尿病患者では、治療に起因する低血糖症が起こることがある。低血糖症が車の運転時に起こった場合、意識障害などから交通事故につながりかねない。この度、インスリン治療を受けている糖尿病患者で、アラート付きの持続血糖モニタリングシステム(CGM)の装着により、運転中の低血糖の発生率が低下するという研究結果が報告された。名古屋大学大学院医学系研究科糖尿病・内分泌内科学の前田龍太郎氏らが行った研究によるもので、詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」に2月28日掲載された。 2014年の実態調査では、糖尿病治療中の患者の52%が日常生活で低血糖を経験し、そのうちの10%で運転中に低血糖エピソードを生じ、結果としてその2%が交通事故にあった、と報告されている。無自覚の低血糖を加味すれば、運転中の低血糖エピソードの頻度はさらに高い可能性があり、切迫した低血糖を予測してドライバーに警告できる信頼性の高いシステムが必要とされていた。このような背景から、研究グループは、インスリン治療を受けているドライバーを対象に、低血糖アラート機能付きのCGMの有用性を評価する単施設の非盲検ランダム化クロスオーバー試験を実施した。 対象には、2021年7月6日から2023年2月27日の間に名古屋大学医学部附属病院でインスリン治療を受け、週3回以上車を運転する成人の糖尿病患者30名が含まれた。30名の参加者は、アラート機能付きCGM群(アラート群)、アラート機能なしCGM群(非アラート群)に1対1で割り付けられた。参加者は、4週の試験期間の後、8週間おいて、群を入れ替えて再度4週間の試験期間に組み入れられた。CGMは皮膚に貼り付けるパッチ式を採用し、期間中の低血糖警告の閾値は80mg/dL(4.4mmol/L)と設定された。主要評価項目は血糖値が基準値(70mg/dL〔3.9mmol/L〕)を下回っていた時間(TBR)の割合とした。 最終的にCGMの解析に含まれた参加者は27名(平均年齢;61.9±12.6歳、女性;8名)だった。27名には、1型糖尿病8名(30%)、2型糖尿病13名(50%)、その他6名(20%)が含まれた。 2つの試験期間を統合して解析した結果、試験全体でのTBRはアラート群(中央値2.0%〔四分位範囲1.0~7.0〕)と非アラート群(同2.0%〔1.0~6.5〕)で有意な差はみられなかった(P=0.169)。しかし、事前に規定された1型糖尿病のサブグループ解析では、非アラート群と比較したアラート群のTBRは有意に減少していた(群間差-4.4%〔95%信頼区間-8.7~-0.1〕、P=0.047)。また、車を運転するときの低血糖エピソードの発生率は、非アラート群(33%)と比較し、アラート群(19%)で有意な減少が認められた(P=0.041)。 本研究の結果について、研究グループは、「今回のCGMはアラートの閾値が80mg/dL(4.4mmol/L)に設定されており、参加者は血糖が基準値以下(<70mg/dL〔<3.9mmol/L〕)になる前にブドウ糖摂取などの予防的措置をとることができた。今回示された結果は、低血糖アラート機能を備えたCGMが、インスリン治療を受けているドライバーの安全性をさらに高め、糖尿病患者の運転制限の緩和に役立つ可能性があることを示唆している」と述べた。 なお、本研究の限界については、CGMで測定した皮下組織中のグルコース濃度は、近似しているが血糖値と同一のものでないこと、CGMの使用により意識が変わり、血糖管理がより慎重になった可能性があったことなどを挙げている。

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通院あれこれ【Dr. 中島の 新・徒然草】(578)

五百七十八の段 通院あれこれ大阪では爽やかな日々が続いています。暑からず寒からず、花粉の飛散もみられません。家の外は深緑、青空、白い雲!思わず携帯の待ち受け画面用に写真を撮りました。さて、今日もいろいろな患者さんがやって来る脳外科外来。それぞれに人生ドラマがあり、世の中の広さを感じます。まずは80代の男性患者さん。以前はお一人で通院していたのですが、徐々に足腰が弱り、道に迷うことしきり。そのため、3年ほど前から社会人になったばかりのお孫さんが付き添うようになりました。しかしこの付き添い、双方ともに大変なようです。患者さんご本人は、孫娘にあれこれ指図されるのがどうにも気に入りません。一方でお孫さんも、お祖父さんが言うことを聞いてくれないので、イライラしてしまいます。たとえばこの患者さん、お風呂に入るのを極端に嫌がり、1週間に1度入ればいいほうなのだとか。歯磨きもしないため、外来の前日には、お孫さんにガミガミ言われながら何とか入浴し、当日朝に歯を磨いたそうです。そんな二人を前に、私は真面目な顔で患者さんに言いました。中島「『老いては孫に従え』ですよ。お経にも書いてあるでしょう」この患者さんは熱心な仏教徒です。もちろん、そんなこと、お経のどこにも書かれていません。ただのギャグのつもりでした。しかし、この患者さん、真顔でこう返してきたのです。患者「先生、それは知っています。だから孫娘の言うことはできるだけ守っているんです」するとすかさずお孫さんが「お祖父ちゃん、嘘ばっかり。私の言うことを何も聞かないじゃないの!」と言い、思わず私も笑ってしまいました。とにかく3ヵ月に1度、私の外来に歩いて来ることを目標にしているのだとか。この点については、お二人の意見は一致していました。次に紹介したいのは、超高齢のご夫婦です。なんと、二人の年齢を合わせると194歳!私はいつも「もう少し頑張ったら、夫婦合わせて200歳になりますね!」と励ましています。最近は100歳を超える方も多いそうですが、このご夫婦のように合計200歳近くになっても歩いて外来通院している例は、きわめて珍しいことでしょう。実はこのご夫婦のかかりつけ医である○○先生は、私もよく知っているのです。そのためでしょうか、奥さんがふと言い出しました。奥さん「そうだ、中島先生。○○先生も誘って一緒に食事に行きましょうよ」私は「それもいいですねえ」と適当に受け流していたのですが、奥さんは引き下がりません。奥さん「本気ですよ。○○先生にも都合を聞いておきますからね。近々、行きましょう」ここまで言われたら、もう冗談では済まされません。思わず「確かに……生きているうちに行かないとな」と口にしてしまったのです。すると横にいた看護師さんに「先生、それは洒落になりませんよ」と突っ込まれてしまいました。頭の中で思ったことが全部口から出てしまう私の悪癖、何とかしないといけませんね。そして最後に、60代の男性患者さんのお話です。この方は3ヵ月に一度、薬をもらうために外来に来ることになっていますが、体調が良いときにはほとんど顔を見せません。私は長い間この方を担当していますが、前半はお父さんが代わりに来ていました。「倅は仕事が忙しくて」と言いながら。お父さんが亡くなった後は、奥さんが代理です。「主人は自分の調子が良かったら病院に興味がないみたいなんです」と呆れながら。そんな患者さんが久しぶりに外来に現れたので「これは何かあったな」と思っていたところ、案の定、1週間ほど前に痙攣発作を起こしたとのこと。「先生、薬をサボっていたら痙攣が起こってしまいました。やっぱり飲まないといけませんね」と、今回ばかりは反省している様子です。私はここぞとばかり説教しました。中島「薬を飲んでいるから発作が起きないんです。勝手にやめたらだめですよ」さすがに患者さんは神妙な顔で頷いています。中島「せっかく診察に来たのだから、血液検査もしておきましょう。こればかりは奥さんが代理というわけにいきませんから」ちょうど良い機会なので、抗痙攣薬の血中濃度や副作用の有無をチェックします。それにしてもこの患者さんの場合、ご本人が顔を見せないときは「きっと体調が良いんだな」と好意的に受け止めるしかありませんね。こうしてみると、患者さんの人生は本当にいろいろ。外来診療は健康上の問題解決がメインですが、患者さんたちが明るく楽しく前向きに生きていくためのお手伝い、という側面もあるのではないかと思います。最後に1句深緑の 外来通院 それぞれに

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