サイト内検索|page:104

検索結果 合計:33572件 表示位置:2061 - 2080

2061.

ダプトマイシン、5つの重要事項【1分間で学べる感染症】第12回

画像を拡大するTake home messageダプトマイシンは肺炎と中枢神経感染症には使用しにくい。ダプトマイシンを使用する際にはミオパチー/横紋筋融解に注意しよう。今回は、抗MRSA薬の1つであるダプトマイシンについて学んでいきましょう。バンコマイシンに続き、多くの施設でダプトマイシンを使用する場面が増加しています。それでは、ダプトマイシンを使用する際にはどのようなことに注意すればよいのでしょうか。まずは、使用が推奨されないケースを覚えることが重要です。肺炎…ダプトマイシンが肺胞の2型サーファクタントにより不活化されるため、肺の炎症に対して効果を発揮しないことが知られています。中枢神経感染症…データは不十分ですが、脳脊髄液への通過性が不良とされています。次に、ダプトマイシンを使用する際に注意すべき副作用を知りましょう。ミオパチー/横紋筋融解…腎障害・スタチン併用・肥満などがリスクとされます。ダプトマイシンを使用する際にはスタチンを一旦中断し、CK(クレアチンキナーゼ)値を週に1回はチェックするようにしましょう。好酸球性肺炎…男性・高齢・腎障害などがリスクとされますが、ダプトマイシン使用中に咳嗽や呼吸困難を来した場合は本症を疑い、速やかに中止を検討します。胸部CTで両側のすりガラス影を来すことが特徴です。中等症から重症の場合にはステロイドによる治療も検討されます。末梢血の好酸球は増加しないこともあり、一般的には気管支肺胞洗浄液による精査が推奨されます。実施が難しい場合にはダプトマイシンの中止後に改善するかどうかをみて、臨床的に本症を疑うこともあります。最後に、ダプトマイシンはバイオフィルムへの透過性がよいとされます。したがって、中心静脈カテーテル感染症やその他の人工物関連感染などにも注意が必要です。ダプトマイシンを使用する際には、適応と主な副作用に関する上記のポイントを理解しておきましょう。1)Dare RK, et al. Clin Infect Dis. 2018;67:1356-1363.2)Haste NM, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2011;55:3305-3312.3)Hirai J, et al. J Infect Chemother. 2017;23:245-249.4)Uppa P, et al. Antimicrob Resist Infect Control. 2016;5:55.5)Raad I, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2007;51:1656-1660.

2062.

第234回 これまでにない作用の統合失調症治療薬を米国が承認

これまでにない作用の統合失調症治療薬を米国が承認ここ数十年なかった新しい作用機序の統合失調症治療薬Cobenfyが米国で先月末26日に承認されました1,2)。その承認により、統合失調症患者にこれまで処方されてきた薬剤とは一味違う抗精神病薬の使用が同国で可能になります。Cobenfyは神経伝達に携わるコリン作動性受容体の1つであるムスカリン受容体を標的とします3)。それらの受容体を活性化することは幻覚や妄想などの統合失調症を特徴づける症状の源である神経伝達物質ドーパミン放出に影響することが知られています。ムスカリン伝達は認知や感情の処理に携わる脳回路を調節することも知られています。ムスカリン伝達を手入れするCobenfyはそれゆえドーパミン活性の抑制を主とする他の統合失調症治療薬に比べてよりあまねく効果があるようです。Cobenfyの道のりCobenfyの歴史は古く、その始まりは米国の製薬会社Eli Lillyが1990年代の初めにキサノメリン(xanomeline)という化合物の開発を始めたことに端を発します3)。キサノメリンはムスカリン受容体の作動薬です。もっぱらアルツハイマー病患者の記憶の改善を目指して開発が始まりましたが、統合失調症の治療の可能性も検討されていました。幸いキサノメリンはアルツハイマー病患者や統合失調症患者を募った試験で認知機能や精神症状の改善効果を示しました4,5)。しかし、どうやら消化管のムスカリン受容体活性化のせいで、キサノメリン投与群には悪心や嘔吐などの胃腸有害事象が多く生じました。たとえばアルツハイマー病患者342例が参加した試験ではキサノメリン高用量投与群の半数強(52%)が有害事象で脱落しており4)、用量依存的な有害事象はもっぱら胃腸系でした。Lillyは最終的にキサノメリンの開発から手を引くことになります。Lillyが手を引いてからしばらくしてキサノメリンの復活を図る取り組みが始まります。2009年に米国のボストンにバイオテクノロジー企業Karuna Therapeuticsを設立したAndrew Miller氏は、ムスカリン受容体作動薬と脳の外でのその働きを打ち消す化合物を組み合わせた薬なら大した胃腸障害を生じることなく認知や精神症状への有益効果を保てるのではないかと思いつきました。そこでKarunaはLillyから権利を手に入れたキサノメリンと血液脳関門(BBB)を通過しないムスカリン受容体拮抗薬であるトロスピウム(trospium)を組み合わせた薬を作りました。それがCobenfyです。Cobenfyはキサノメリンが胃腸に手出しするのをトロスピウムによって防ぎ、脳に限って作用するようにすることを目指します。その後の臨床試験は順調に進み、最終的に2つの第III相試験(EMERGENT-2とEMERGENT-3)でCobenfyの統合失調症症状改善効果がプラセボを有意に上回りました。陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の合計点がCobenfy投与群5週時点ではベースラインに比べて21点ほど低く、プラセボ群の約12点低下を10点弱ほど上回りました6)。胃腸の有害事象はプラセボに比べてどうしても多かったものの、たいていは1週間か2週間で解消しました3)。Cobenfyとプラセボ群の有害事象での脱落率は似たりよったりでどちらも5%ほどです(それぞれ6%と4%)6)。Cobenfyで心配なことCobenfyはいくつか悩ましいことがあります。いまや抗精神病薬の多くは年に数回の注射で事足りる持効性製剤をそろえていますが、Cobenfyは1日2回の服用が必要です。頻繁な投与を要する薬は続けることが困難であり、中止してしまう統合失調症患者が多いようです7)。また、Cobenfyはご多分にもれずいい値段で、1ヵ月あたりの定価は1,850ドル、1年間では2万ドル強かかります。医療経済の専門家は他の薬剤に比べてその価格が効果に見合ったものかどうかを心配しています3)。そんな心配をよそに製薬業界のアナリストのほとんどはCobenfyの需要は大きいとみており、やがて数十億ドルの年間売り上げに達すると予想しています。そういう期待を背景にしてBristol Myers Squibb(BMS)は140億ドルも払ってKaruna Therapeuticsを今春3月に手中に収めました8)。BMSは米国の患者が今月遅くにCobenfyを入手できるようにするつもりです。長期効果は有望Cobenfyの長期使用の成績は有望で、この4月に発表された52週間のEMERGENT-4試験では同剤投与患者のPANSS合計点がベースラインと比べて約33点低下しました9)。EMERGENT-4試験は上述した5週間の二重盲検第III相試験2つのいずれかを完了した患者を募って実施されています。参考1)FDA Approves Drug with New Mechanism of Action for Treatment of Schizophrenia / PRNewswire2)U.S. Food and Drug Administration Approves Bristol Myers Squibb’s COBENFY? (xanomeline and trospium chloride), a First-In-Class Muscarinic Agonist for the Treatment of Schizophrenia in Adults / BUSINESS WIRE3)Revolutionary drug for schizophrenia wins US approval / Nature 4)Bodick NC, et al. Arch Neurol. 1997;54:465-473.5)Shekhar A, et al. Am J Psychiatry. 2008;165:1033-1039.6)OBENFY U.S.:Prescribing Information7)Zacker C, et al. Clinicoecon Outcomes Res. 2024;16:567-579.8)Bristol Myers Squibb Completes Acquisition of PureTech's Founded Entity Karuna Therapeutics for $14 Billion / BUSINESS WIRE9)Bristol Myers Squibb Presents New Interim Long-Term Efficacy Data from the EMERGENT-4 Trial Evaluating KarXT in Schizophrenia at the 2024 Annual Congress of the Schizophrenia International Research Society / BUSINESS WIRE

2063.

乳がん術前療法でのDato-DXd+デュルバルマブからの逐次治療、免疫反応陽性例で高いpCR率(I-SPY2.2)/ESMO2024

 StageII/IIIの高リスクHER2-乳がんの術前療法において、datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)+デュルバルマブで始める3段階の逐次治療戦略により、50%で病理学的完全奏効(pCR)を達成したことが第II相I-SPY2.2試験で示された。免疫療法に反応する免疫反応陽性サブタイプでpCR率が最も高く、標準化学療法なしで50%以上、アントラサイクリンなしで90%以上がpCRを達成した。また、ホルモン受容体(HR)・免疫反応・DNA修復欠損(DRD)がすべて陰性のサブタイプでpCR率が対照群を上回ったという。米国・Columbia University Vagelos College of Physicians and SurgeonsのMeghna S. Trivedi氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表した。本結果はNature Medicine誌オンライン版2024年9月14日号に同時掲載された。 I-SPY2.2試験は、外科的切除時のpCR達成のために術前療法を個別化・最適化することを目的とし、反応予測サブタイプ(RPS)に基づいて治療ブロックを割り当て、ブロックAでは新規薬剤を投与、ブロックBとCでは従来の標準療法を行う連続多段階ランダム割付試験である。治療は標準療法とマッチングされ、RPSは免疫療法の有用性、DRD、HRの有無、HER2の有無により分類された。 本試験の適格患者は、70遺伝子シグネチャー(MammaPrint)で高リスクのStageII/IIIのHER2-乳がんである。Dato-DXd+デュルバルマブアームにおける治療は、ブロックAではDato-DXd 6mg/kg+デュルバルマブ1,120mgを3週ごと4サイクルまで静注、ブロックBはタキサンを含む化学療法±ペムブロリズマブ、ブロックCはアントラサイクリンを含む化学療法±ペンブロリズマブとした。ブロックAまたはBの終了時にpCRが予測された患者は手術に移行し、予測されない場合はブロックB±ブロックCに進む。予測残存腫瘍量の評価のために乳房MRIと生検で治療への反応を評価し、治療方針は最終的に担当医師が決定した。主要評価項目はpCRで、以前のI-SPYデータから得られた各サブタイプの対照群と比較した。 ASCO2024ではブロックAの結果が報告され、今回はDato-DXd+デュルバルマブアーム全体の結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・2022年9月~2023年8月に106例がDato-DXd+デュルバルマブ群に無作為に割り付けられた。・年齢中央値は50.5歳で、免疫+のサブタイプが47例と最も多く、うち3分の1(17例)がHR+だった。・pCR率は、HR+/免疫-/DRD-および免疫-/DRD+のサブタイプでは対照群を上回らなかったが、すべて陰性(HR-/免疫-/DRD-)のサブタイプでは対照群を有意に上回った。・一方、pCRの達成時期をみると、pCRを達成した53例(50%)のうち、ブロックA後が25例、ブロックB後が22例、ブロックC後が6例であった。・免疫+およびトリプルネガティブのサブタイプで高いpCR率(順に79%、62%)を示し、どちらのサブタイプもこのうち54%がブロックAで達成し、92%がブロックBまでに達成した。・Dato-DXd+デュルバルマブ併用で報告された毒性プロファイルは先行研究と一致しており、全ブロックにおける免疫関連有害事象もこれまでの結果と一致していた。・高血圧既往のある70歳の参加者1例がブロックBで心停止により死亡した。

2064.

レキサルティ、AD型認知症に伴うアジテーションに対して承認/大塚

 大塚製薬は9月24日付のプレスリリースにて、同社の抗精神病薬レキサルティ(一般名:ブレクスピプラゾール)について、国内初となる「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動」の効能効果の承認を取得したことを発表した。本剤の国内における効能は、「統合失調症」、「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」に加えて、3つ目となる。 今回日本で承認取得した効能は、米国で2023年5月に「アルツハイマー型認知症に伴うアジテーション」の治療における効能として米国食品医薬品局(FDA)に承認され、その後、カナダ、フィリピン、台湾でも承認されている。国際老年精神医学会において、認知症に伴うアジテーションは、情動的な苦痛を背景要因とする攻撃的な症状と非攻撃的な症状を含み、同じ動作の反復などの活動亢進、攻撃的発言または攻撃的行動のうち、少なくとも1つ以上の症状からなり、患者の日常生活、社会生活、人間関係のいずれかに支障を来した状態とされている。 アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションの症状として、悪態をつく、言葉による攻撃、たたく(自分をたたく場合も含む)、何度も同じ行為を繰り返す、全般的な落ち着きのなさ、不満を訴える、拒絶する、唾を吐く(食事中を含む)、蹴る、人や物につかみかかる、押す、物を投げる、叫ぶ、噛む、ひっかく、自分や他人を傷つける、物を壊す・割る、徘徊する、目的なく歩き回る、不適切な着衣・脱衣、別の場所に行こうとする(室外や屋外へ出ようとする)、物を不適切に取り扱う、注目や助けを不当なほど要求し続ける、文章や質問の繰り返し、などが挙げられる。 これらの症状は、アルツハイマー型認知症の約半数で認められ、介護者の負担を重くし、認知症患者や家族、介護者の生活の質を低下させるとともに家族と同居できず介護施設へ入居せざるを得ない要因の1つとなっている。 本剤の国内フェーズ3試験では、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションを有する55~90歳の410例を対象に、ブレクスピプラゾール(1mgまたは2mgを1日1回)を10週間投与し、有効性と安全性を評価した。ブレクスピプラゾールの1mg群および2mg群は、プラセボ群と比較し、いずれも主要評価項目であるCMAI合計スコアにおいて、統計学的な有意差をもって有効性が示された。また、臨床全般印象・重症度スコア(CGI-S)など、副次評価項目においても、プラセボ群と比較してブレクスピプラゾールの1mg群および2mg群で改善が認められた。本試験において、ブレクスピプラゾールは全般的に良好な忍容性を示し、新たな安全性の懸念は認められなかった。【アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動に対する本剤の用法及び用量】 通常、成人にはブレクスピプラゾールとして1日1回0.5mgから投与を開始した後、1週間以上の間隔をあけて増量し、1日1回1mgを経口投与する。なお、忍容性に問題がなく、十分な効果が認められない場合に限り、1日1回2mgに増量することができるが、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこと。

2065.

COVID-19パンデミック前後の摂食障害患者における発達障害や性同一性障害の併発

 自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如多動症(ADHD)、性同一性障害の発生率は、とくに摂食障害の小児および青年、若年成人において上昇している。COVID-19パンデミック中に摂食障害の有病率は上昇したといわれているが、ASD、ADHD、性同一性障害の併発傾向は、これまで詳細に調査されていなかった。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のTashalee R. Brown氏らは、COVID-19パンデミック前の数年間とパンデミック中における、摂食障害の小児および青年、若年成人のASD、ADHD、性同一性障害の併発率の傾向を調査した。Frontiers in Psychiatry誌2024年8月20日号の報告。 2017〜22年に2回以上摂食障害と診断された5〜26歳の患者4万8,558例を、個人名を匿名化した多国籍電子医療記録データベース(TriNetX)より抽出した。主な予測変数は、各患者の最初の摂食障害診断年とし、2017〜19年と2020〜22年で分類した。主要アウトカム変数は、各患者の最初の摂食障害診断年の翌年におけるASD、ADHD、性同一性障害の併発を認める新規精神医学的診断の割合とした。2017〜19年と2020〜22年の主要アウトカムの比較には、傾向スコアマッチング多変量ロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は、2017〜19年の摂食障害診断患者1万7,445例(ASD:8%、ADHD:13.5%、性同一性障害:1.9%)、2020〜22年の摂食障害診断患者3万1,113例(ASD:8%、ADHD:14.6%、性同一性障害:3.2%)。・1:1の傾向スコアマッチング後、2017〜19年の摂食障害診断患者1万7,202例が、2020〜22年の患者とマッチされた。・2020〜22年の摂食障害診断患者は、2017〜19年の患者と比較し、最初の摂食障害診断後365日以内に、ASD、ADHD、性同一性障害の診断オッズ比の増加が認められた。【ASD】19%増加(aOR:1.19、95%信頼区間[CI]:1.07〜1.33)【ADHD】25%増加(aOR:1.25、95%CI:1.04〜1.49)【性同一性障害】36%増加(aOR:1.36、95%CI:1.07〜1.74) 著者らは「COVID-19パンデミック後、摂食障害患者のASD、ADHD、性同一性障害の併発率は、精神疾患の併発のベースラインレベルを調整した後でも、有意に高いことが示唆された。本結果は、COVID-19が小児から若年成人までにおける摂食障害患者のASD、ADHD、性同一性障害の発症や臨床経過に影響を及ぼした可能性を示しており、現在の理解と大きなギャップがあることが明らかとなった」としている。

2066.

切除不能大腸がん1次治療、ラムシルマブ併用のFOLFIRI対FOLFOXIRIはOSも同等(WJOG9216G)/ESMO2024

 転移のある未治療の大腸がん患者には、年齢や遺伝子変異の有無などに応じて多様な併用療法が使われており、最適な個別化が課題となっている。WJOG9216G/RECAST試験は同患者を対象に、現在は2次治療以降で使われている分子標的薬ラムシルマブを1次治療として用い、併用療法としてFOLFIRIとFOLFOXIRIを比較した国内ランダム化第II相試験である。すでに奏効率(ORR)および無増悪生存期間(PFS)が同等だったことが報告されているが、2024年9月13~17日に行われた欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)において、静岡県立静岡がんセンターの山崎 健太郎氏が本試験の全生存期間(OS)のデータを発表した。・試験デザイン:第II相ランダム化比較試験・対象:手術不適、化学療法未治療の局所再発/転移大腸がん、PS 0~1・試験群: アームA:ラムシルマブ+FOLFIRI(イリノテカン、ロイコボリン、5-FU)、PDまたは許容できない毒性が出るまで2週ごと継続 アームB:導入療法としてラムシルマブ+FOLFOXIRI(イリノテカン、ロイコボリン、オキサリプラチン、5-FU)を8サイクル実施後、維持療法としてラムシルマブ+5-FU+ロイコボリン、PDまたは許容できない毒性が出るまで2週ごと継続・評価項目:[主要評価項目]ORR[副次評価項目]OS、PFS、8週時点でのETS(Early Tumor Shrinkage)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・2017年6月~2020年9月に、122例が割り付けられた(アームA:59例、アームB:63例)。肝臓限局性病変(32%/19%)を除き、患者特性はバランスが取れていた。・追跡期間中央値はアームAが42.1ヵ月でアームBが40.4ヵ月、OS中央値はアームAが32.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:26.8~36.5)でアームBが28.2ヵ月(95%CI:21.9~31.2)、ハザード比[HR]1.58(95%CI:1.03~2.41、p=0.003)と、アームBが劣る結果だった。・次治療として、R0切除(A/B群で19/11%)、放射線療法(12/16%)、化学療法(98/91%)が実施された。2次治療として化学療法を受けた患者は、アームAではFOLFOX+ベバシズマブ(45%)が最多、アームBではFOLFIRI+ラムシルマブ(26%)が最多だった。・アームA/Bを合わせたバイオマーカー解析では、治療後のIL-8値が中央値より高い患者は、低い患者と比較してOSが短かった(29.3ヵ月vs.31.6ヵ月、HR:0.60、p=0.049)。また、治療前から2サイクル目にかけてヘパリン結合性上皮成長因子(HB-EGF)レベルが上昇した患者は、低下した患者と比較して全生存期間が長かった(34.3ヵ月vs.28.2ヵ月、HR:1.78、p=0.024)。 山崎氏は「WJOG9216試験では、転移のある大腸がんに対する1次治療として、FOLFOXIRI+ラムシルマブ併用療法は、FOLFIRI+ラムシルマブ併用療法と比較して、OS、ORR、PFSの観点で優位性は示されなかった」と結論付けた。

2067.

高齢NSCLCへのICI、化学療法の併用を検討すべき集団は?(NEJ057)/ESMO2024

 75歳以上の進行・再発NSCLC患者を対象とした後ろ向きコホート研究(NEJ057)において、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)+化学療法はICI単剤と比較して、全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)を改善せず、Grade3以上の免疫関連有害事象の発現を増加させたことが報告されている1)。本研究の詳細な解析が実施され、PD-L1低発現(TPS 1~49%)かつ肺免疫予後指標(LIPI:Lung Immune Prognostic Index)が中間/不良の集団では、ICI+化学療法がICI単剤と比較してPFSとOSを改善したことが報告された。本庄 統氏(札幌南三条病院 呼吸器内科)が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)において本研究結果を発表した。・試験デザイン:多施設(58施設)後ろ向きコホート研究・対象:未治療の75歳以上の進行・再発NSCLC患者のうち、ICI+化学療法、ICI単剤、プラチナダブレット、単剤化学療法のいずれかで治療を開始した1,245例(初回治療に分子標的薬を使用した患者とEGFR遺伝子変異ALK融合遺伝子を有する患者は除外)・評価項目:OS、PFS、安全性など 今回は、ICI+化学療法またはICI単剤で治療を開始したPD-L1陽性(TPS≧1%)のNSCLC患者をPD-L1高発現(TPS≧50%)、PD-L1低発現(TPS 1~49%)に分けて解析した。また、対象患者をLIPI良好(好中球/リンパ球比[NLR]≦3かつLDHが基準値上限以下)、中間(NLR>3またはLDHが基準値上限超)、不良(NLR>3かつLDHが基準値上限超)に分類した。 今回報告された主な結果は以下のとおり。・解析対象患者(600例)の内訳は、PD-L1高発現61%(364例)、PD-L1低発現39%(236例)であり、LIPI良好40%(238例)、LIPI中間/不良60%(362例)であった。・PD-L1低発現かつLIPI中間/不良の集団において、OS中央値はICI+化学療法群18.3ヵ月、ICI単剤群8.6ヵ月であり、ICI+化学療法群がOSを改善した(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.36~0.86)。・PD-L1低発現かつLIPI中間/不良の集団において、PFS中央値はICI+化学療法群7.8ヵ月、ICI単剤群3.3ヵ月であり、ICI+化学療法群がPFSも改善した(HR:0.56、95%CI:0.39~0.81)。・PD-L1低発現かつLIPI良好の集団では、ICI+化学療法群のOS(HR:1.66、95%CI:0.82~3.36)、PFS(同:1.18、0.71~1.95)の改善は認められなかった。・PD-L1高発現の集団では、LIPIによるICI+化学療法群とICI単剤群のPFS、OSの違いはみられなかった。 本研究結果について、本庄氏らの研究グループは「高齢のNSCLC患者へのICI治療において、化学療法の併用のベネフィットが得られる患者の特定にLIPIが有用である可能性が示唆された」とまとめた。

2068.

セマグルチドがHFpEF患者の心不全イベントを抑制/Lancet

 駆出率が軽度低下または保たれた心不全(HFpEF)患者の治療において、プラセボと比較してGLP-1受容体作動薬セマグルチドは、心血管死に対する効果は有意ではないものの、心血管死または心不全増悪イベントの複合エンドポイントと心不全増悪イベント単独のリスクを減少させ、忍容性も良好で重篤な有害事象の発現率は相対的に低いことが、米国・ミズーリ大学カンザスシティ校のMikhail N. Kosiborod氏らSELECT, FLOW, STEP-HFpEF, and STEP-HFpEF DM Trial Committees and Investigatorsの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年9月7日号で報告された。4試験のHFpEF患者について統合解析 研究グループは、心不全イベントに及ぼすセマグルチド(週1回、皮下投与)の効果の評価を目的に、4つの無作為化プラセボ対照比較試験(SELECT、FLOW、STEP-HFpEF、STEP-HFpEF DM)の個々の参加者のデータを用いた事後的な統合解析を行った(Novo Nordiskの助成を受けた)。 STEP-HFpEF試験とSTEP-HFpF DM試験は肥満関連のHFpEF患者、SELECT試験はアテローム性動脈硬化性心血管疾患と過体重/肥満の患者、FLOW試験は2型糖尿病と慢性腎臓病の患者を登録した。セマグルチドの用量は、SELECT試験、STEP-HFpEF試験、STEP-HFpEF DM試験が2.4mg、FLOW試験は1.0mgだった。 今回の解析では、STEP-HFpEF試験およびSTEP-HFpF DM試験の全参加者と、SELECT試験およびFLOW試験の参加者のうちHFpEFの既往歴を有する患者を対象とした。 主要エンドポイントは、心血管死または初回心不全増悪イベント(心不全による入院または緊急受診と定義)までの期間の複合とし、心血管死までの期間と初回心不全増悪イベントまでの期間の解析も行った。主要エンドポイントはセマグルチド群5.4% vs.プラセボ群7.5% 4試験に合計2万2,282例が登録され、このうち3,743例(16.8%)がHFpEFの既往を有していた。1,914例がセマグルチド群、1,829例がプラセボ群だった。HFpEF患者の年齢中央値は64歳(四分位範囲:57~71)、1,425例(38.1%)が女性、3,382例(90.4%)が白人であった。追跡期間中央値は、STEP-HFpEF試験とSTEP-HFpF DM試験が13.2ヵ月、SELECT試験が41.8ヵ月、FLOW試験が40.9ヵ月だった。 HFpEF患者における心血管死または心不全増悪イベントの複合の発生は、プラセボ群が1,829例中138例(7.5%)であったのに対し、セマグルチド群は1,914例中103例(5.4%)と有意に低率であった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.53~0.89、p=0.0045)。複合エンドポイントのイベントを1件予防するのに要する治療必要数(NNT)は、1年間で97、4年間で28だった。 セマグルチド群では、心不全増悪イベントのリスクも低かった(54例[2.8%]vs.86例[4.7%]、HR:0.59[95%CI:0.41~0.82]、p=0.0019)。一方、心血管死単独のリスクには有意な差を認めなかった(59例[3.1%]vs.67例[3.7%]、0.82[0.57~1.16]、p=0.25)。投与中止に至った消化器イベントが多かった 重篤な有害事象の発現は、プラセボ群よりもセマグルチド群で少なかった(572例[29.9%]vs.708例[38.7%])。また、重篤な有害事象により試験薬の投与中止に至った患者も、セマグルチド群のほうが少なかった(142例[7.4%]vs.175例[9.6%])。 試験薬の投与中止に至った消化器イベントは、セマグルチド群で多かった(213例[11.1%]vs.49例[2.7%])。 著者は、「これらのデータは、現時点で治療選択肢がほとんどないHFpEF患者において、セマグルチドが心血管死または心不全増悪イベントの複合を低減する有効かつ安全な治療法であることを支持する最も包括的なエビデンスをもたらすものである」としている。

2069.

敗血症生存者の再入院リスクは高い

 敗血症との闘いを幸運にも生き延びたとしても、安心はできないようだ。7,000人以上の敗血症患者を対象にした研究で、退院後30日以内の敗血症の再発やその他の原因による再入院率は驚くほど高いことが明らかになった。米オーガスタ大学看護学部のPriscilla Hartley氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Critical Care」に9月1日掲載された。論文の筆頭著者であるHartley氏は、「再入院は、自宅退院または在宅医療に移行できるほど健康だと判断された患者の間でも頻発している」と指摘している。 米国立衛生研究所(NIH)によると、敗血症とは、肺炎などの命を脅かす感染症により臓器障害や組織障害が生じている状態を指す。敗血症は急速に進行することがあり、ショック状態に陥ったり臓器障害が重篤化したりすると致死的になる。実際に、敗血症患者の5人に1人は死亡するとされている。 この研究では、2008年から2019年の間に米ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで敗血症の診断を受けて入院した成人患者7,107人(平均年齢66.5歳、女性46.2%)のデータを用いて、敗血症の診断後30日以内の再入院率が調査された。患者の主な退院先は、高度看護施設(29.5%)や自宅(19.5%)、長期急性期ケア施設(13.4%)などで、在宅医療を受けている患者も多かった(24.4%)。 患者の23.6%(1,674人)が、診断後30日以内に再入院していた。これらの患者の平均再入院回数は1.6回だったが、30%近くの患者が1〜3回再入院しており、最も多いケースでは17回に上った。再入院の主な原因は感染症(敗血症の再発68.3%、嚥下性肺炎26.1%、尿路感染症14.9%、院内感染症9.4%)で、その他、急性腎不全(28.7%)、心不全(6.9%)などがあった。 再入院と関連する因子について検討したところ、退院後の環境と年齢との間に有意な関連が認められたが、性別、民族、加入保険のタイプとの間に関連は見られなかった。再入院率の高かった退院後の環境は、高度看護施設(29.6%)、在宅医療(26.9%)、自宅(15.0%)だった。 Hartley氏らは、多くの場合、患者は病院から「不適切な環境」に退院し、再感染のリスクが高まったとの見方を示している。またHartley氏は、「敗血症からの生存率を継続的に向上させたいのであれば、入院中と退院後の環境の間のギャップを埋める方法を見つけなければならない」と米国クリティカルケア看護師協会(AACN)のニュースリリースで述べている。 研究グループは、同ニュースリリースでさらに、「再入院リスクが最も高い患者を特定することで、適切な環境への退院が促される。それにより患者の回復が維持され、必要な介入や経過観察も行われるようになる」と述べている。

2070.

薬剤耐性に起因する死者数、2050年までに3900万人以上に/Lancet

 微生物に対して抗菌薬が効かなくなる薬剤耐性(antimicrobial resistance;AMR)が健康上にもたらす脅威が増大している。こうした中、AMRに対する措置を早急に講じない限り、今後25年の間にAMRに起因する世界の死者数が3900万人に上るとの予測が示された。AMRに関するグローバル研究(GRAM)プロジェクトによるこの研究結果は、「The Lancet」に9月16日掲載された。 AMRは、すでに世界規模の健康問題として広く認識されており、その影響は今後数十年でさらに大きくなると予想されている。しかし、これまでAMRの歴史的傾向を評価し、AMRが今後、世界に与える影響を詳細に予測する研究は実施されていなかった。 AMRの真の規模を初めて明らかにしたのは、2022年に発表された最初のGRAM研究である。この研究では、2019年の世界におけるAMR関連の死者数は、HIV/AIDSやマラリアによる死者数を上回り、120万人の直接的な死因になるとともに、495万人の死因にも関与していることが示唆された。 今回、報告された新たなGRAM研究では、204の国と地域のあらゆる年齢の人を対象に、22種類の病原体、84種類の病原体と薬剤の組み合わせ、および髄膜炎、血流感染症などの11種類の感染症に関連する死者数が推定された。推定は、1990年から2021年までの病院の退院データ、死因データ、抗菌薬使用調査など、さまざまな情報源からの5億2000万件の個人記録に基づいて算出された。また、得られた推定値に基づき、AMRが2022年から2050年の間に健康に与える影響についても推定された。 その結果、1990年から2021年の間に、AMRを直接原因として毎年100万人以上が死亡していたものと推定された。この間のAMRによる死亡の傾向には年齢層により大きな違いが見られ、5歳以下の子どもでは、AMRを直接原因とする死者数は59.8%、AMR関連の死者数は62.9%減少していたが、70歳以上の高齢者では同順で89.7%と81.4%増加していたと推定された。 現在の傾向に基づくと、今後数十年間でAMRによる死者数は増加の一途をたどり、2050年までにAMRを直接原因とする死者数は年間191万人に達すると予測された。これは、2021年(114万人)から67.5%の増加に相当する。同様に、2050年までにAMR関連の死者数も2021年(471万人)から74.5%増の822万人に達すると予測された。2025年から2050年までの間の累計死者数は、AMRを直接原因とする死者数が3900万人以上、AMR関連の死者数で1億6900万人以上に上ると推定された。さらに、子どものAMRによる死者数は今後も減少し続ける一方で、70歳以上での死亡者数は2050年までに146%増加する可能性があると予測された。 論文の筆頭著者である、米ワシントン大学保健指標評価研究所のMohsen Naghavi氏は、「これらの結果は、AMRが何十年にもわたって世界的な健康上の重大な脅威であり、また、この脅威が今も拡大していることを浮き彫りにしている」と話す。 一方、論文の共著者の一人であるノルウェー公衆衛生研究所のStein Emil Vollset氏は、「この問題が致命的な現実となるのを防ぐためには、ワクチン接種や新薬の開発、医療の向上、既存の抗菌薬へのアクセスの改善、そしてそれらの最も効果的な使用方法に関する指導などを含む、重篤な感染症リスクを減じるための新しい戦略が緊急に必要だ」と述べている。

2071.

コロナワクチン接種後心筋炎とコロナ感染後心筋炎の18ヵ月後予後〜関心はさらに長期的予後に(解説:甲斐久史氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、COVID-19 mRNAワクチン接種と抗SARS-CoV-2ウイルス薬の普及、さらには急性期における重症化予防と重症例治療法の確立により、パンデミックの収束を迎え、いまやCOVID-19と共生する時代“Withコロナ時代”となった。今後は、感染者の10〜20%に長期間認められる罹患後症状(PCC:post-COVID-19 condition)をはじめ、未知の後遺症など長期的・超長期的影響が大きな課題となる。その1つが、COVID-19罹患後心筋炎やCOVID-19ワクチン接種後心筋炎である。 COVID-19罹患後心筋炎は、COVID-19感染者10万人当たり約150例(0.15%)に発症する。ワクチン接種後心筋炎は、mRNAワクチン接種(初回、2回目)10万回当たり1例(0.01%)に発症するが、10〜20代男性の2回目接種では発症率0.16%である。COVID-19罹患後心筋炎およびワクチン接種後心筋炎は、ほとんどが軽症であり、対症療法により軽快する。パンデミック初期には、通常の心筋炎と比較して劇症化率が高いものの、劇症化しても適切な治療により回復すると報告された。しかしながら、長期的な心筋炎再発・慢性化、心血管疾患発症や死亡のリスクについては検討が必要である。 Laura Semenzato氏らは、フランスのNational Health Dataシステムに登録された心筋炎4,635例を、ワクチン接種後心筋炎(ワクチン接種後7日以内発症)558例、COVID-19罹患後心筋炎(COVID-19発症30日以内発症)298例とその他の通常型心筋炎3,779例に分類し、退院後18ヵ月間の心筋心膜炎による再入院、その他の心血管イベント、総死亡およびそれらの複合アウトカムと医療管理状況を検討した。標準化複合アウトカム発生率は、通常型心筋炎の13.2%と比較して、ワクチン接種後心筋炎では5.3%と有意に低く、COVID-19罹患後心筋炎では12.1%と同等であった。総死亡は、ワクチン接種後心筋炎で0.3%とCOVID-19罹患後心筋炎の1.3%、通常型心筋炎の1.3%と比較して低値であったが、心筋心膜炎による再入院とその他の心血管イベントは3群間で差は無かった。また、心筋心膜炎以外による全入院は、ワクチン接種後心筋炎12.2%で、COVID-19罹患後心筋炎21.1%、通常型心筋炎19.6%より有意に低くかった。また、退院から18ヵ月後までの画像診断検査、トロポニン検査、負荷テストなどの検査や薬剤処方の頻度は、ワクチン接種後心筋炎およびCOVID-19罹患後心筋炎と通常型心筋炎で差はなかった。 本研究は、フランス全国に及ぶ大規模で悉皆性の高いデータベースに基づき、かつ18ヵ月というこれまでで最も長期間にわたる検討である。COVID-19罹患後心筋炎では、心臓MRIを用いた検討により、退院3ヵ月後の42%に心機能低下、26%に心筋炎症所見が認められたという報告や、急性期には入院を必要としない軽症例でも1年後になんらかの自覚症状が残存しているものでは、びまん性心筋浮腫所見が多くみられるという報告があり、慢性期における心不全など心血管イベント増加が危惧された。しかしながら、本研究により、少なくとも、発症18ヵ月の時点では、COVID-19罹患後心筋炎の心筋炎再発、心血管合併症発症と死亡のリスクは通常型心筋炎と同等であり、ワクチン接種後心筋炎ではさらにリスクが低いことが明らかとなった。医療処置や薬物処方については、心筋炎発症後18ヵ月間としては、わが国でも通常診療と思われる範囲内であり、各群ともに経時的に減少傾向である点に注目したい。 COVID-19パンデミックという特殊な状況下で、無症状やきわめて軽症なCOVID-19に対しても、心臓MRIや血中トロポニン検査を用いた高感度な心筋炎スクリーニングが行われた。その結果、感染急性期のみならず数ヵ月間にわたり潜在性心筋炎症、心機能障害が持続することが明らかとなっている。これらが今後、慢性心筋炎や心不全などの発症リスクとなるかについて、さらに数年、数十年といった時間軸での長期的・超長期的観察が必要となる。COVID-19罹患後心筋炎やワクチン接種後心筋炎で得られる知見の蓄積を通じて、今後、通常型心筋炎の慢性化やHFrEFや拡張型心筋症の概念、診断や治療にも大きな変化がもたらされるかもしれない。

2072.

第211回 医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会

<先週の動き>1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会医師臨床研修マッチング協議会は、2024年度の医師臨床研修マッチングの中間結果を発表した。大学病院では、順天堂大学が最も多くの1位希望者(76人)を集め1位となり、続いて東京大学(60人)、東京医科歯科大学(56人)がそれぞれ2位、3位となった。順天堂大学は充足率も181.0%でトップ、帝京大学(117.9%)、東京慈恵会医科大学(103.1%)がこれに続き、いずれも定員を大幅に超える希望者を集めている。今年度、大学病院の1位希望者数は1,699人となり、昨年度の1,757人から58人減少し、減少傾向が続いている。大学病院の定員も減少しており、2021年度の3,715人から2024年度は3,467人となった。特筆すべきは、兵庫医科大学が32位から5位へと大きく順位を上げたことや、帝京大学が32位から10位へ急上昇したことだ。一方で、九州大学や浜松医科大学など、順位を大幅に下げた大学もみられた。市中病院では虎の門病院が1位希望者数で首位を獲得し、充足率は390.5%に達した。2位は川崎市立川崎病院、3位は市立豊中病院で、都市部に位置する病院が上位を占めた。とくに東京都立広尾病院は募集定員6人に対して45人が希望し、充足率750.0%で圧倒的な人気を誇った。この結果は、都市部の市中病院の人気が根強いことを示しており、医師志望者の関心がますます都市に集中していることがうかがえる。参考1)2024年度 医師臨床研修マッチング 中間公表(医師臨床研修マッチング協議会)2)【医師臨床研修マッチング2024】中間結果ランキング マッチング中間、大学病院は順天堂が1番人気に(日経メディカル)2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府政府は2024年9月13日、新たな「高齢社会対策大綱」を閣議決定し、75歳以上の高齢者の医療費負担拡大を検討する方針を示した。現行の制度では、75歳以上の高齢者の窓口負担は原則1割、一定の所得がある場合は2割、そして「現役並みの所得」がある場合は3割とされている。今回の大綱改定では、この「現役並み所得者」の3割負担対象を拡大し、社会保障制度の持続を図る狙いがある。高齢者の医療費は急増しており、政府はその抑制に向けて制度改革を進めている。すでに2023年末に決定された「社会保障改革工程表」にも、2028年度までにこの対象範囲の見直しを含めた議論を行う方針が明記されている。また、大綱では、年齢にかかわらず、能力に応じて社会を支える「全世代型社会保障」を目指す考えが示されている。高齢者が支えられるだけでなく、状況に応じて支える側にも回る社会を築くことを目指す。高齢者の就業促進も大綱に盛り込まれ、2029年までに65歳以上の就業率を大幅に引き上げる目標が掲げられている。現行の65~69歳の就業率は52%だが、2029年には57%まで高める方針。また、60~64歳の就業率も現在の74%から79%に引き上げることが目標とされている。これにより、少子化による労働力不足や経済規模の縮小への対応を図り、同時に高齢者の社会保障費負担を抑制しようとしている。一方で、認知症や孤立した高齢者に対する支援体制の強化も大綱では重視している。身寄りのない高齢者や単身世帯が増える中、身元保証制度や地域での見守り体制の充実が求められているため、民間事業者が提供する終身サポート事業の適正運営を促し、孤立を防ぐための取り組みが進められる見込み。医療費負担の拡大により、現役世代の負担軽減を図ることが期待される一方、高齢者にはさらなる負担が求められる。政府は、高齢者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、医療や年金制度の見直しを進める方針を強調している。参考1)高齢社会対策大綱[令和6年9月13日閣議決定](内閣府)2)身寄りない人の支援 医療費3割負担の拡大検討も盛る 高齢大綱改定(朝日新聞)3)75歳医療費、負担増検討 高齢化対策指針に明記(東京新聞)4)医療費3割負担拡大「検討」 高齢社会大綱6年ぶり改定(日経新聞)3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省2023年に行われた脳死者からの臓器移植で、509人の患者が医療機関の態勢が整わないことを理由に移植手術を受けられなかったことが、厚生労働省の初めての調査で明らかになった。移植を担当する医療機関の人員不足や集中治療室(ICU)の満床などが主な理由。この調査では、脳死者から提供された臓器のうち、複数の医療機関が移植を辞退したために成立しなかったケースが192件あり、心臓6件、肺25件、肝臓9件、膵臓45件、腎臓8件、小腸99件の移植ができなかった。辞退の理由として多かったのは「ドナーの医学的な理由」(2,195人)、「体格・年齢差」(573人)、院内態勢の不備(509人)が挙げられた。臓器移植を希望する患者が、医療機関を複数登録できるようにするなど、移植辞退を減らすための新たな仕組みも検討されている。移植希望者が手術を受けられなかった問題を受け、厚労省は今後、医療機関の受け入れ体制を強化する方針。日本臓器移植ネットワークによると、国内の移植待機期間は心臓で平均3年半、腎臓では14年9ヵ月と長期化している。臓器提供数を増やす取り組みが進められる一方で、医療機関の対応力不足が移植の実施を阻んでいる現状が浮き彫りとなった。参考1)臓器移植断念2023年に25施設、人員・病床不足が理由…厚労省が初の調査結果発表(読売新聞)2)臓器移植 去年509人が手術を希望するも不成立 医療機関の態勢整わず 厚労省が初調査(テレビ朝日)3)臓器移植、延べ3,706人の手術見送り 受け入れ態勢整わず 厚労省(毎日新聞)4)脳死からの提供臓器、2割が移植辞退 医学的理由や院内体制など理由(朝日新聞)4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省厚生労働省は、2023年度に全88の特定機能病院に対して行った立入検査の結果、77病院に「医薬品や医療機器の安全管理体制」や「事故報告書の作成・提出」などに関して若干の改善が必要であることがわかった。9月20日に公表された報告によれば、指摘を受けた病院では、今後の改善状況については、次年度の立入検査で確認される予定。特定機能病院は国内最高水準の医療を提供する施設であるが、過去に発生した医療事故を受け、医療安全管理体制の強化が進められてきた。2023年度の立入検査では、88病院中77病院(87.5%)において改善指摘が行われ、とくに「医薬品、医療機器の安全管理体制の確保」に関する指摘が多くみられた。指摘は主に口頭で行われ、書面で「検討を要する事項」として通知された病院は6件に止まった。特定機能病院は重要な役割を担う施設であるため、多くの病院で医療安全管理の徹底や院内感染対策の強化が求められている。そのため医療法に基づく検査では、施設の安全基準や適切な人員配置が確認され、問題がある場合は翌年度の立入検査で改善状況がチェックされる仕組みとなっている。2023年度の検査では。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に縮小されていたが、24年度は通常通り全施設に対して実施された。今回の検査結果を受けて、医療機関はさらなる安全管理体制の強化に向けた取り組みが求められており、特定機能病院の質の向上が期待されている。参考1)特定機能病院に対する立入検査結果について(令和5年度)(厚労省)2)すべての特定機能病院で立入検査実施、「医薬品、医療機器の安全管理体制」や「事故等報告書の作成・提出」に若干の問題あり-厚労省(Gem Med)3)特定機能病院の9割弱に指摘事項、立ち入り検査で「不適切な事項」は該当なし 23年度(CB news)5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協四病院団体協議会は2024年9月25日に開催された総合部会で、深刻な経営不振に陥っている病院への特例的な財政支援を国に求める方針を発表した。日本病院会の相澤 孝夫会長は、病院経営定期調査の中間報告を基に、病院の収益減少とコスト増加による減収減益が顕著であり、とくに建築費の高騰により改修や設備投資が困難な状況にあることを指摘した。調査によれば、2024年6月時点で病院の医業収益は前年同月比で減少しており、医業費用は増加、結果として多くの病院が赤字となっている。経常赤字病院の割合は、2023年度の約22.7%から2024年度には51.0%と大幅に増加した。また、診療報酬改定やコロナ関連の補助金減少が収益減少に拍車をかけ、給与費や物価の上昇によりさらなるコスト増が経営を圧迫している。この状況を受け、記者会見で相澤会長は「このままでは来年にはさらに厳しい状況が予測され、地域医療が立ち行かなくなる恐れがある」として、2024年度中の診療報酬改定も含めた支援策を求めた。11月には調査結果の最終報告を国に提出し、財政支援の要望を行う方針。また、9月27日に総務省が発表した2023年度の地方公営企業等決算では、全国681の病院事業は2,055億円の赤字を計上し、4年ぶりに赤字に転落したことが明らかになっており、新型コロナウイルス感染症関連の補助金が減少し、人件費や薬剤費の高騰が大きな影響を与えていることがうかがえた。これにより累積欠損金が1兆6,974億円に達するなど、地域医療の維持のためには、政府に早急な対応が必要となってきている。参考1)四病協、中間年改定含む財政支援要請へ 日病相澤氏「病院は深刻な経営不振」(CB news)2)病院経営は減収・減益の危機的な状況、期中の診療報酬対応も含めた病院経営支援を国に強く要請へ-四病協(Gem Med)3)2024年度 病院経営定期調査-中間報告-(3病院団体)4)公立病院事業4年ぶり赤字 2023年度、コロナ補助金減少や人件費高騰影響(産経新聞)5)令和5年度地方公営企業等決算の概要(総務省)6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省精神科訪問看護において一部の事業者が患者の状態に関係なく訪問回数を増やし、診療報酬を不適切に請求している問題を受け、厚生労働省は実態調査を行い、仕組みを見直す方針を固めた。訪問看護サービス最大手の「ファーストナース」などが不正な運用をしていると指摘されており、同社の訪問看護ステーションでは患者の必要度にかかわらず週3回の訪問を指示し、利益確保を優先していたことが明らかになった。厚労省は、2024年度に科学研究費を活用し、訪問看護の実態を把握する特別調査を実施する予定。訪問看護の役割や訪問回数の適正化、連携体制などを詳細に調査し、2026年度の診療報酬改定に反映させる考えだ。過剰な訪問を是正し、適切な支援を行うための新しい基準が検討される一方で、真面目に運営している事業者が評価される仕組みも求められている。ファーストナースの内部資料や元社員の証言によると、経営陣は売上増加を最優先とし、訪問回数や時間を操作して診療報酬を最大限に引き出すよう指示していた。また、社員には「ロレックスキャンペーン」など高額報酬を餌に、売上増を奨励していたという。今後、厚労省は、調査結果を基に訪問看護ステーションの基準を見直し、報酬体系の適正化を図る予定。過剰請求の是正と同時に、利用者の状態に応じた適切な支援が評価される仕組みが期待される。参考1)精神科の訪問看護、見直しへ 過剰請求受け、厚労省が実態調査(東京新聞)2)精神科訪問看護 見直し方針に期待と要望「良質な事業者評価を」(山陰中央新報)3)「ロレックスぐらいは買える!!」精神科の訪問看護最大手が社内LINEでハッパをかけた「売り上げ最大化」(共同通信)

2074.

lupus(全身性エリテマトーデス)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第12回

言葉の由来“lupus”は自己免疫疾患の1つであるSLE(systemic lupus erythematosus:全身性エリテマトーデス)の別名として知られています。この病名は、ラテン語で「オオカミ」を意味する“lupus”に由来しています。“lupus”(ループス)という言葉が医学的に使用された起源は、中世欧州にさかのぼります。12世紀に活躍したイタリアの医師、ルッジェーロ・フルガルドが、下肢の皮膚病変を「オオカミに噛まれたような」と表現した、という記録が残っています。当時、欧州ではオオカミは身近な存在であり、オオカミに襲われた人の傷痕と、SLEの皮膚症状が類似していたことから、このような表現が用いられたと考えられています。1850年ごろから“lupus erythematosus”という言葉で顔面の蝶形紅斑が定義されるようになり、さらにその後、近代医学の父であるウィリアム・オスラー医師が皮膚の病変を全身性の症状と関連付けたことで、病気の理解がより深まりました。1971年に米国リウマチ学会が提唱した分類基準で、“systemic lupus erythematosus”(全身性エリテマトーデス)という病名が正式に採用され、現在の疾患概念が確立されました。併せて覚えよう! 周辺単語蝶形紅斑malar rash光線過敏症photosensitivity多発関節炎polyarthritis心膜炎pericarditis胸水pleural effusionこの病気、英語で説明できますか?Lupus is an autoimmune disease where the immune system attacks healthy tissues, leading to inflammation and damage in various parts of the body, including the skin, joints, kidneys, and heart. Symptoms can range from mild to severe and may include fatigue, joint pain, skin rashes, and fever.講師紹介

2075.

インフルワクチンがCVD患者の予後を改善~メタ解析

 心血管疾患患者では、インフルエンザワクチンの接種は全死亡、心血管死および脳卒中の低下と関連していることが、米国・Lehigh Valley Heart and Vascular Institute のRahul Gupta氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかになった。Cardiology in Review誌2024年9・10月号掲載の報告。 これまでの研究により、インフルエンザの予防接種を受けた高齢者では急性心筋梗塞のリスクが下がる可能性1)や、急性冠症候群治療中のインフルエンザワクチン接種によって心血管転帰が改善する可能性2)が報告されるなど、インフルエンザワクチン接種による心保護効果が示唆されている。そこで研究グループは、心血管疾患患者におけるインフルエンザワクチン接種による心血管系疾患の予防効果に関するエビデンスを深めるために、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 研究グループは、インフルエンザワクチン接種の心血管転帰を評価した試験を同定するため、系統的な文献検索を行った。DerSimonian and Laird固定効果モデルおよびランダム効果モデルを用いて、すべての臨床的エンドポイントについてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。●合計74万5,001例の患者を対象とした15件の研究が解析に含まれた。●インフルエンザワクチンを接種した群では、プラセボを接種した群と比較して、全死亡、心血管死および脳卒中のORが有意に低かった。 ・全死亡のOR:0.74、95%CI:0.64~0.86 ・心血管死のOR:0.73、95%CI:0.59~0.92 ・脳卒中のOR:0.71、95%CI:0.57~0.89●心筋梗塞と心不全による入院では有意な差は認められなかった。 ・心筋梗塞のOR:0.91、95%CI:0.69~1.21 ・心不全による入院のOR:1.06、95%CI:0.85~1.31

2076.

国内初の造血器腫瘍遺伝子パネル検査ヘムサイトの承認取得/大塚

 大塚製薬は2024年9月20日、同社と国立がん研究センターが共同設計し、国立がん研究センター、九州大学、京都大学、名古屋医療センター、東京大学医科学研究所附属先端医療研究センター、慶應義塾大学医学部との共同研究コンソーシアムにて開発した造血器腫瘍遺伝子パネル検査ヘムサイトについて、国内における製造販売承認を取得したと発表。今後、保険適用の手続きを行い、発売に向けた準備を進める。 がん遺伝子パネル検査は、固形腫瘍を対象としたものがすでに保険適用されているが、造血器腫瘍では製造販売承認されたものはなく、保険診療下でのがんゲノム医療が実施できていない。同製品は、厚生労働省から先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、国内で初めて製造販売承認された造血器腫瘍および類縁疾患を対象とした遺伝子パネル検査で、体外診断用医薬品「ヘムサイト診断薬」と医療機器プログラム「ヘムサイト解析プログラム」により構成されている。 近年、世界保健機関(WHO)などが提唱する造血器腫瘍の診断・治療指針では、ゲノム情報に基づいた診療が推奨され、ゲノム情報を用いずに適切な診断・治療を行うことが困難になりつつある。国内においても、日本血液学会から造血器腫瘍ゲノム検査ガイドラインが発行され、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など疾患・ステージごとに遺伝子パネル検査推奨度が提示されている。同製品は、ガイドラインにある造血器腫瘍の遺伝子異常が網羅的に検査できるように設計されており、遺伝子異常による診断、治療法選択、予後予測が可能になることが期待される。

2077.

EGFR exon19挿入変異NSCLCへのEGFR-TKI、第1~3世代の効果は?/WCLC2024

 EGFR遺伝子exon19挿入変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、第2世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が有効であることが示唆された。EGFR-TKIの登場により、主要なEGFR遺伝子変異(exon21 L858R、exon19欠失変異)を有するNSCLC患者の予後は改善している。しかし、uncommon変異を有するNSCLC患者に対するEGFR-TKIの有効性はさまざまであり、希少変異であるexon19挿入変異に対する有効性は明らかになっていなかった。そこで、上原 悠治氏、泉 大樹氏(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)らの研究グループは、遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Asia」において、NSCLC患者のEGFR遺伝子exon19挿入変異の発現割合およびEGFR-TKIの有効性を検討した。本研究結果は、2024年9月7~10日に米国・サンディエゴで開催された世界肺がん学会(WCLC2024)において発表された。 研究グループは、遺伝子スクリーニングプロジェクト「LC-SCRUM-Asia」の対象となったNSCLC患者1万6,204例について、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析によりEGFR遺伝子exon19挿入変異を有する割合を調べた。また、EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者の共変異の割合も検討した。さらに、EGFR遺伝子exon19挿入変異(K745_E746insIPVAIK)またはexon19欠失変異(E746_A750)を導入したEGFR分子を発現するBa/F3細胞モデルを用いて、EGFR-TKIへの感受性を検討した。また、AlphaFoldとOpenFoldを用いた立体構造予測により、EGFR exon19挿入変異体とEGFR-TKIとの結合状態を予測した。最後に、EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者における第1~3世代EGFR-TKIの臨床的有効性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析が可能であった1万5,226例中3,269例(21%)にEGFR遺伝子変異が認められ、そのうちexon19挿入変異が認められた患者は13例であった(0.1%)。EGFR遺伝子exon19挿入変異の内訳は、K745_E746insIPVAIKが12例、 K745_E746insVPVAIKが1例であった。・主要なEGFR遺伝子変異を有するNSCLC患者とEGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者の背景には違いがみられなかった。・EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者における主な共変異は、TP53遺伝子変異(62%)、EGFR遺伝子増幅(15%)、CDKN2B遺伝子増幅(8%)、PIK3CA遺伝子変異(8%)、FGFR遺伝子変異(8%)であった。・Ba/F3細胞モデルを用いた解析では、EGFR遺伝子exon19挿入変異(K745_E746insIPVAIK)を導入したEGFR分子を発現する細胞株のEGFR-TKIに対する感受性は、第2世代EGFR-TKIが最も高かった(IC50の範囲:0.57~0.95pM)。第1世代EGFR-TKI、第3世代EGFR-TKI、EGFR exon20挿入変異体への活性を示すEGFR-TKIのIC50は、それぞれ61~158nM、13.8nM、1.78~21.3nMであった。・立体構造予測においても、第2世代EGFR-TKIのアファチニブがEGFR exon19挿入変異体のcavityに入り込み、結合すると予測された。・EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者13例中12例がEGFR-TKIによる治療を受けた。無増悪生存期間(PFS)中央値は7.2ヵ月(95%信頼区間:6.0~推定不能)、全生存期間(OS)中央値は20.1ヵ月(同:16.3~推定不能)であった。・細胞株と立体構造予測の知見に基づいて、EGFR-TKIの世代別に抗腫瘍効果を比較したところ、第2世代EGFR-TKIが最も高い奏効割合を示した。【PFS中央値】 第1世代(2例):8.7ヵ月 第2世代(5例):14.7ヵ月 第3世代(5例):4.4ヵ月【OS中央値】 第1世代(2例):25.5ヵ月 第2世代(5例):未到達 第3世代(5例):15.9ヵ月【奏効】 第1世代(2例):PR 1例、SD 1例 第2世代(5例):PR 4例、SD 1例 第3世代(5例):SD 3例、PD 2例 以上の結果について、研究グループは「細胞株、立体構造予測、大規模臨床データベースのすべての結果が一致し、EGFR遺伝子exon19挿入変異を有するNSCLC患者に対して、第2世代EGFR-TKIが最も有効であることが示唆された」とまとめた。

2078.

学校健診の留意点「検診項目追加は事前に打ち合わせを」/日医

 日本医師会常任理事の渡辺 弘司氏が、9月25日の定例記者会見で、文部科学大臣へ「学校保健の更なる充実のための提言と要望」を提出し、文部科学省と日本医師会の共同で「学校健康診断実施上の留意点」を作成したことを報告した。文部科学大臣への提言・要望 「学校保健の更なる充実のための提言と要望」では、将来を担う子供たちの健康を増進する学校保健の重要性を踏まえ、下記の3点について検討を要望した。1.学校健康診断のあり方に関する検討-現在実施されている健診項目は社会的状況に見合ったものとなっているか2.健康教育の推進-学習指導要領と解説の整理、管理職を含む関係教員の研修機会の充実、学校医などの外部講師の活用に係る予算の確保3.教師の働き方改革推進と教育の質向上-学校現場の教職員の処遇や定数の大幅な改善、教員養成系大学の教職員や国・地方自治体において教育行政に携わる公務員など教育に関わる人員の抜本的拡充、必要なインフラ整備 文部科学大臣からは、「学校健康診断については、時代に合わせた見直しは必要。関係省庁と連携しながら対応していくとともに、実施する側の負担軽減も図っていく必要がある」と言及があったという。学校健康診断の留意点 2024年6月に小学校で行われた健康診断において、医師が本人や保護者の同意を得ずに児童の下半身を視診していたことが大きく報道された。学校と学校医との間で共通理解が十分ではなく、学校から児童・生徒および保護者への事前の説明が不足していたことなどから、児童・生徒のプライバシーや心情への配慮が欠けていた状況を踏まえ、日本医師会と文部科学省の共同で「学校健康診断実施上の留意点」のリーフレットを作成した。 リーフレットでは、学校健康診断の目的や役割、留意すべき事項を改めて示すとともに、学校医に対して下記5点の徹底を求めている。1. 学校健康診断を行うに当たっては、その意義・目的を理解するとともに、学校の意向を十分考慮したものとすること2. 診察方法や児童・生徒などのプライバシー・心情への配慮について事前に学校と確認すること3. かかりつけ医の診療と学校医の健康診断の違いを理解すること(学校健康診断では、学校医は普段診ていない子供を学校の中でスクリーニングする)4. 法令に定めのない検査の項目を追加する場合には、その実施の目的、検査方法などについて事前に学校と十分打合せを行うこと5. 健康診断結果に基づき学校が行う事後措置について医療面から指導すること 渡辺氏は「リーフレットによって、2025年度の学校健康診断の実施に向けて学校医と学校の共通理解が深まり、より円滑に健康診断が行われることを強く期待する。リーフレット配布をきっかけに出てくる学校健康診断に対するさまざまな意見を関係者で共有し、児童・生徒の健康のために学校検診をより良いものとしたい」とまとめた。

2079.

電子処方箋発行時の電子署名、必要な準備や認証方法は?/厚労省

 電子処方箋が2023年1月から開始された。患者のリアルタイムな処方・調剤結果情報が確認できるとともに、システムチェックによる重複薬や併用禁忌薬の投薬回避が可能になることなどが期待されている。薬局の電子処方箋システムの導入が先行し、その多くの薬局で紙の処方箋も含めて調剤結果情報の登録がされ、これら情報の活用はされつつある。一方、より安心・安全な医療となるメリットはすべての医療機関が導入することで最大化されるが、病院や診療所の導入率はまだ低い。今回は、電子処方箋の現状とメリット、電子処方箋発行時に必要となる電子署名、電子署名も関係する医療DX推進体制整備加算などについて、厚生労働省電子処方箋サービス推進室の長嶋 賢太氏に話を聞いた。電子処方箋の現状とメリット 2024年9月16日現在、全国3万2,220施設(15.3%)で電子処方箋の運用が開始されており、薬局は46.5%である一方、病院は2.0%、診療所は4.8%である。この現状に対し、長嶋氏は「電子処方箋システムを導入していない医療機関の処方箋も含めて、薬局でその調剤結果情報を電子処方箋管理サービスに登録・蓄積いただいており、その情報の利活用は進んできている。一方で、2025年3月までにおおむねすべての医療機関・薬局に対して普及させるのが目標なので、その高い目標に対して考えるとまだまだと考えている」と率直に感想を語った。そのうえで、「電子処方箋管理サービスに登録された処方・調剤の情報を活用し、処方箋を発行する際に薬剤の重複や飲み合わせを自動的にチェックすることでリスク回避ができ、蓄積された薬剤情報をもとに治療方針や処方を考慮できるというメリットがある。導入率が低い病院においては、これまで患者さんの入院時に服用薬を聞き取ったりお薬手帳などで確認したりしていたが、薬剤情報がデータとして一括的かつ効率的に確認できるのでとくにメリットは大きいと考える。実際に、緑内障患者に併用禁忌薬が処方されそうなところを回避できたなど多くの事例が寄せられている。能登半島における災害時など、普段診察しない患者に対応する際、処方・調剤の参照により、的確な治療へと反映できたとの声もある」と実臨床でのメリットを示した。電子処方箋発行時に必要となる電子署名 医師が処方箋を発行する際には記名押印または署名しなければならないが、電子処方箋では紙のような対応ができないため、電子署名を付すことになる。署名方式としては、大きく分けて以下の2種類がある。―――――――――――――――――――(1)ローカル署名:HPKIカードをICカードリーダーに毎回かざし、原則パスワード入力のうえでHPKIカードの中の電子証明書を用いて電子署名を付与する方法(2)リモート署名:1日1回本人認証を行い、クラウドで管理されている電子証明書を呼び出し、その後は自動で電子署名を付与する方法――――――――――――――――――― 長嶋氏は、「ローカル署名では、つねにHPKIカードが手元にある必要があるが、リモート署名では原則として1日1回本人認証を行うことで電子署名が可能となる。本人認証は現在、マイナンバーカード、スマートフォンによる生体認証、HPKIカードのいずれかによって行う。HPKIカードを取得またはクラウドで管理されている電子証明書(HPKIセカンド電子証明書)を利用可能にするには、医師の場合は日本医師会電子認証センターまたは一般財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS)といったHPKIの認証局に直接発行申請を行うか、マイナポータル経由で前述のHPKIの認証局に申請する。いずれの申請からもHPKIカードの発行やHPKIセカンド証明書の活用は可能となるが、本人認証方式としてマイナンバーカードを活用するにはマイナポータル経由からの申請が必要となる。このマイナポータル経由で日本医師会に申請した場合、日本医師会の非会員では通常5,500円かかっていた費用が当面の間は無料である。また、マイナポータル経由からは住民票の添付が不要など、必要書類が簡略化されるなどのメリットがある。申請手順も公開しているので、ぜひ活用のうえで対応いただきたい。また、現在は世界的なICカード不足でHPKIカードの発行が遅れるという問題があるが、リモート署名ではHPKIカードがなくてもマイナンバーカードやスマートフォンによる生体認証を用いて本人認証し、電子署名を行うことができるうえにローカル署名のような手間がない」と、選択肢が広がった電子署名の方法を解説した。 なお、医師個人のマイナンバーカードを用いるとなると個人情報の流出が懸念されるが、閉域的なネットワーク環境で氏名や住所情報などを含まない最低限の情報のやり取りしか行わないこと、またその情報も暗号化され、サービス提供側しか知らない復号鍵がないと戻せないことから、 「個人情報流出の心配はない」とのこと。導入をためらう要因と補助の拡充、医療DX推進体制整備加算など 医療機関が電子署名の導入をためらう要因として、電子カルテシステムなど既存システムの改修費用やカードリーダーの購入費用など、導入にかかる費用負担の重さが挙げられる。これまでも電子処方箋の基本機能部分の導入に対する社会保険診療報酬支払基金からの補助金はあったが、長嶋氏はさらに「2023年12月に実装したマイナンバーカードによる電子署名対応などの追加機能※に対しても補助金が拡充された。これらの社会保険診療報酬支払基金からの補助金と都道府県からの助成金を併せて受給することで、導入費用に対する支援の割合は最大で病院が1/2、診療所が3/4となる」とし、また「医療DX推進体制整備加算が2024年6月に創設され、10月よりさらに増点される予定である。医療DX推進体制整備加算を算定する場合は、電子処方箋の運用を2025年3月末まで(経過措置)に開始している必要がある。電子署名ができないと電子処方箋が発行できないため、まずは電子署名の申請を行ってほしい」と語った。なお、電子処方箋のシステムを導入する前であっても電子署名の申請は可能である。※追加機能:リフィル処方箋、口頭同意による重複投薬等チェック結果閲覧、マイナンバーカードによる電子署名対応、処方箋ID検索今後の医療の展望 最後に、今後の医療の展望について長嶋氏は、「これまで、医療機関や薬局間で薬剤情報が十分に共有されていないという問題点があった。電子処方箋が普及して網羅的なリアルタイム性のある薬剤情報が共有されることで、患者さんの医療の質の向上につながると期待している。薬剤情報によって医師や薬剤師の皆さんが患者さんの状況を把握して医療に生かせるとともに、重複していた薬剤を削減することで医療費の削減にもつながり、それを他の医療費や医療リソースに補填していくことができる」と期待を寄せ、「現状では電子署名は電子処方箋の発行時のみに用いられるが、今後の医療DX推進とともに必要となるケースは増えると考えられる」とまとめた。

2080.

新規非複雑病変へのDCB、DESに非劣性示せず/Lancet

 標的血管径を問わず新規の非複雑病変を有する患者において、薬剤コーティングバルーン(DCB)血管形成術とレスキューステント留置を併用する治療戦略は、計画された薬剤溶出性ステント(DES)留置と比較し、2年後のデバイス指向複合エンドポイント(DoCE)に関して非劣性を示さなかった。中国・第四軍医大学のChao Gao氏らREC-CAGEFREE I Investigatorsが、同国43施設で実施した医師主導の無作為化非盲検非劣性試験「REC-CAGEFREE I試験」の結果を報告した。新規冠動脈病変を有する患者に対するDCB血管形成術の長期的な影響はわかっていない。Lancet誌2024年9月14日号掲載の報告。2年時のDoCE(心血管死、標的血管心筋梗塞、標的病変再血行再建術)を比較 研究グループは、急性冠症候群または慢性冠症候群で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を必要とする18歳以上の患者で、標的血管径を問わず新規の非複雑病変を有する患者を登録し、標的病変の前拡張が成功した患者を、パクリタキセルコーティングバルーンを用いたDCB血管形成術(レスキューステントオプション付き)群と第2世代のシロリムス溶出ステントを留置するDES群に、1対1の割合で無作為に割り付け、1ヵ月、3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月および24ヵ月後に追跡評価した。 割り付けに関しては、患者および治験責任医師は盲検化されなかったが、独立した臨床事象判定委員会(CEC)の委員および解析を行った統計学者は盲検化された。 主要アウトカムは、ITT集団(無作為化されたすべての患者)における24ヵ月時のDoCE(心血管死、標的血管心筋梗塞、臨床的・生理学的に適応とされた標的病変再血行再建術)で、非劣性マージンは絶対群間リスク差の片側95%信頼区間(CI)上限が2.68%未満とした。安全性についても、ITT集団で評価した。DoCE発生率はDCB群6.4%、DES群3.4%、DCBの非劣性は認められず 2021年2月5日~2022年5月1日に2,902例が登録され、前拡張に成功した2,272例が無作為化された(ITT集団:DCB群1,133例[50%]、DES群1,139例[50%])。DCB群の1,133例中106例(9.4%)は、DCBによる血管形成術が不十分でレスキューDESを受けた(ITT集団ではDCB群に含まれる)。 計2,272例の患者背景は、年齢中央値62歳(四分位範囲[IQR]:54~69)、男性1,574例(69.3%)、女性698例(30.7%)であった。 データカットオフ(2024年5月1日)時点で、追跡期間中央値は734日(IQR:731~739)であった。 24ヵ月時のDoCEは、DCB群で72例(6.4%)、DES群で38例(3.4%)に発生し、累積イベント発生率の群間リスク差は3.04%であった(片側95%CI:4.52[非劣性のp=0.65]、両側95%CI:1.27~4.81[p=0.0008])。 インターベンション中の急性血管閉塞は、DCB群では発生しなかったが、DES群では1例(0.1%)に認められた。周術期心筋梗塞はDCB群で10例(0.9%)、DES群で9例(0.8%)発生した。 本試験は、現在、延長追跡試験が進行中である。

検索結果 合計:33572件 表示位置:2061 - 2080