サイト内検索|page:101

検索結果 合計:34056件 表示位置:2001 - 2020

2001.

怒涛の事前準備~写真や自己PRは大切!【アラサー女医の婚活カルテ】第4回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆前回は、結婚相談所(以下、相談所)のシステムや、一般的な恋愛とは異なる驚きのルールについてご紹介しました。今回は、いよいよ相談所での婚活を始める準備に入っていきます。結構煩雑な事務手続きさあ、相談所の門を叩いて、いざ婚活道へ!……と、気持ちが急くところですが、相談所に入会後、すぐに婚活を始められるわけではありません。準備期間として、数週間~1ヵ月ほどがかかります。私の場合、活動開始に当たって、下記の書類が必要でした。(1)本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)(2)独身証明書(3)住民票(4)前年分の源泉徴収票※(5)本年分の給与明細3ヵ月分※(6)大学の卒業証明書(7)医師免許証※医局人事のため毎年勤務先が変わっていたので、前年に比べて収入が極端に落ちていないことを確認する目的で、源泉徴収票のほかに給与明細の提示も求められました。意外と面倒だったのが「(2)独身証明書」でした。マイナンバーカードを利用してコンビニで取得できる住民票と違い、独身証明書を取得するには、本籍地のある市区町村役場の窓口に赴くか、郵送で手続きを依頼する必要があります。平日多忙な医師にとって、自身で手続きするのはなかなか大変です。相談所によっては、有料の取得代行サービスがあるので、利用を検討してもよいかもしれません。プロフィール写真はプロの撮影で!事前準備の中で最も大切といえるのが、プロフィール写真の撮影です。相談所サイトの検索ページには、会員の顔写真・年齢・年収・居住地がずらっと並びます。お相手候補に自分のプロフィールの詳細を見てもらうための、いわば「入口」ですから、ベストな写真を用意することは必須です。米国の心理学者が提唱した「メラビアンの法則」というものがあります。「コミュニケーションにおいて、話し手のどのような情報に基づいて、聞き手の受ける印象は左右されているか」という結果を数値化したものです。この法則によると「話している内容」そのものの影響はわずか7%であるのに対して、表情や仕草などの「視覚情報」の影響は55%を占めるそうです。あくまで「人と人とが面と向かって話している状況」かつ「つまらなさそうな表情で『面白いね』と言うような、言葉と表情や態度が一致しない状況」における「法則」なので、そのまま婚活のプロフィール作成に適用するのは乱暴かもしれませんが、「見た目」、つまりプロフィールページで言うところの「写真」の重要性は、推して知るべしというものです。さて、その写真ですが、手持ちのものを使ってもいいのですが、私としては改めてプロのカメラマンに撮影してもらうことを強くお勧めします。多くの相談所が写真館と提携しており、入会と同時に「婚活パック」のような撮影プランを案内されます。スタジオ撮影の相場は1万円程度、ヘアメイクや衣装プロデュースの付いたプラン、屋外でのロケ撮影等を選ぶともっと高額になりますが、スマホで自撮りしたり友達や家族にシャッターを頼んだりするのとは仕上がりが段違いです。また、カメラマンに撮ってもらうのは、モデル気分を味わえて案外楽しいものです。もしかすると、「私は容姿には自信があるから、スナップ写真で十分」と言う方もいらっしゃるかもしれません。が、プロ撮影の写真が並ぶ画面で、1人だけ自撮りやスナップ写真だと、「この人、やる気がないのかな…」と思われてしまいかねません。相談所での婚活を決意したなら、ここは投資のしどころだと思います。また、婚活写真で求められるのは「個性」よりも、「清潔感」やいわゆる「女性らしさ」だそうです。「ファッションには一家言あり」という方も、ここは就活の履歴書の写真と同じようなものだと割り切って、「ブラウス+スカート」や「ワンピース」のような、王道ファッションで臨むのが無難でしょう。「個性」は、実際にお相手と会ってみた後で、小出しにしていけばよいのです。自己PR文もしっかり練って!プロフィールページに載せる自己PR文は、相談所によって、会員自身が書く「自己紹介文」か、担当者による「他己紹介文」かが異なってきます。婚活を始めた理由や、理想の夫婦像、仕事内容、趣味などを盛り込みます。基本的には、ポジティブな内容を書くと良いようです。「職場では出会いがないため、婚活を始めました」と書くよりも、「これまで仕事に邁進してきましたが、結婚した友人の話を聞くうちに、私も幸せな家庭を築きたいと思うようになりました」と書くほうが、ポジティブな印象になりますよね。特技などがあれば、さりげなく盛り込みます。ただし、本来の自分を曲げてまで、お相手に過度の期待を抱かせるのは考えものです。たとえば、私は一通りの料理はできますが、「料理は女性に任せたい」という考えの男性を避けたかったため、「健康のため自炊を心がけています。良いお相手と巡り会えたら、一緒に料理を作ってみたいです」という感じで書きました(「作ってあげる」ではなく、あくまで「一緒に作る」というスタンス)。いかがでしたか?今回は、婚活の事前準備において重要なポイントである、プロフィール写真や自己PR文について書きました。次回は、お相手への希望条件設定の際に味わった、地方在住医師ならではの苦労をご紹介します。

2002.

増える成人食物アレルギーと新規アレルゲン、「食べたい」に応えるために/日本アレルギー学会

 成人の食物アレルギーは、罹患者数が増加の一途をたどっている。しかし、疫学データの不足や病態解明が不十分であることなどから、専門診療の需要が急増している。このような背景から、成人の食物アレルギーは近年注目を集めている。そこで第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「成人の食物アレルギーアップデート」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムにおいて、矢上 晶子氏(藤田医科大学ばんたね病院 総合アレルギー科 教授)が「成人領域における食物アレルギーの新たなアレルゲン」というテーマで、新たなアレルゲンの同定方法、注目される新たなアレルゲン、アレルゲン解析後の対応について解説した。小児と異なる成人の食物アレルギー 成人の食物アレルギー診療では、患者に多様な背景が存在する。その例として、矢上氏は「食物アレルギーに困っている、誤食が心配である」「香粧品由来・職業性に発症した」「食物アレルギーの診断はついているが再び食べたい」「自己判断で食べないようにしている」といった患者の声や背景があることを紹介した。 食物アレルギーの原因検索にはプリックテストを用いる。矢上氏の所属する藤田医科大学ばんたね病院では、2021~23年に食物アレルギーの疑いでプリックテストを実施したのは945例であり、そのうち何らかの陽性反応がみられたのは約半数の489例であった。陽性例の年齢は幅広く、4~88歳まで分布していた。 原因食物としては魚介類、果物、穀物、野菜の順に多く、果物の中では桃、キウイ、りんごの順に多かった。野菜ではトマト、きゅうり、アボカドの順に多かった。プリックテストで陽性となった場合の考え方について、たとえば桃が陽性になった場合には花粉抗原を疑い、PR-10、プロフィリン、GRPなどを調べて交差反応性を検討することや、トマトではスギとの交差反応性を疑うことなどを紹介した。 近年の研究において、小児と成人では同じ食物に対するアレルギーでも、原因が異なる可能性も示されている。たとえばエビの場合、小児ではダニ感作でエビ摂取後に症状が生じることが多く、原因となる抗原はトロポミオシンが代表的であるのに対し、成人では単独感作もしくは経皮感作が多く、原因となる抗原はミオシン重鎖が代表的であることなどである。 重症の魚アレルギーのマーカーについても紹介した。魚アレルギーの患者はさまざまな抗原に感作するが、重症例ではコラーゲン感作例が多く、コラーゲン特異的IgE抗体価が高い患者ほどアレルギー症状が強いことが示唆されている。近年増加する食品コオロギとアレルギー 続いて、矢上氏は成人の食品アレルギーにおける新たなアレルゲンについて紹介した。近年、多くの新たなアレルゲンが報告されているが、そのなかでも、近年の食品コオロギの増加に伴って生じたコオロギアレルギーについて解説した。 コオロギとエビには交差反応性がある。交差抗原としては、トロポミオシンやアルギニンキナーゼなどが報告されており、EUでは「貝類、甲殻類、ダニ類にアレルギーを持つ人は摂取を避ける必要がある」と注意喚起されている。しかし、本邦ではこのような交差反応性に関する注意喚起や表示の決まりがないという問題が存在すると矢上氏は指摘した。 では、どのような対策が考えられるのだろうか。矢上氏は、本邦においてコオロギアレルギーのリスクが高い人の特徴が明らかになってきたことを紹介した。矢上氏らの研究では、ダニ感作ありでエビアレルギーを有する人は、コオロギ特異的IgE抗体価がエビトロポミオシン特異的IgE抗体価と強い相関関係にあった。つまり、ダニ感作のあるエビアレルギー(おそらく小児例)を有する人は、コオロギアレルギーのリスクが高いということである。これを踏まえて矢上氏は「すべての方にコオロギ食品を食べないように言ってはいけないが、注意喚起をしていくことは重要である」と述べた。「食べたい」に応えるために 成人では、「アレルギーにより魚類をまったく摂取しなくなったが、また食べたい」「加熱食品は摂取できるが生の食品も摂取してみたい」という声や「食物経口負荷試験や食物経口免疫療法を途中で断念した」という背景などが存在すると矢上氏は述べた。そこで、患者の「食べたい」という希望に応えるための対応を紹介した。 たとえば、香粧品由来や職業性(例:回転寿司店でのアルバイトによる経皮感作)にアレルギーを発症した場合など、経皮感作が疑われる場合には、そのアレルゲンとの接触を断つことで、抗原に対する特異的IgE抗体価が経時的に低下することが多い。そのような場合は、摂取再開が可能になることが報告されており、経験的にもわかってきていると矢上氏は述べた。また、白身魚(パンガシウス)の摂取によりアナフィラキシーが生じ、それ以来魚類をまったく摂取しなくなった1例についても紹介した。「魚をまた食べたい」と切望されたことから、矢上氏らはプリックテストや血清学的解析を実施したという。その結果、マグロとサバには特異的IgEが検出されないことが確認され、入院で経口負荷試験を実施したところ、摂取可能であることが確認できた。 以上のように、経口負荷試験などにより患者の「食べたい」という希望に応えられる可能性があるが、課題も存在すると矢上氏は指摘した。その1つとして、成人のアレルギー領域では経口負荷試験が普及していないことを挙げた。その理由として「成人で初めて食物アレルギーを発症して受診する方は、重篤な症状(アナフィラキシー)などを経験していることが多く、経口負荷試験でも同様の症状が誘発される可能性は低くない。原因の特定やどのような状態であれば食べられるかの確認には、経口負荷試験が有用であるが、現状の成人のアレルギー診療において、医療現場がそのようなリスクを負っても、外来の経口負荷試験には診療報酬がない※ことなどが挙げられる」と矢上氏は述べ、診療体制の整備にも尽力したい考えを示した。※:16歳未満の小児に対する小児食物アレルギー負荷試験(D291-2)は保険適用で、3回/年を上限に実施可能

2003.

TN乳がん術前化学療法への周術期アテゾリズマブ上乗せ、EFSを改善せず/SABCS2024

 StageII/IIIのトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対して、術前化学療法に術前・術後アテゾリズマブを上乗せした場合の有効性と安全性を評価した第III相NSABP B-59/GBG-96-GeparDouze試験の結果、術前アテゾリズマブ+化学療法→術後アテゾリズマブは、術前プラセボ+化学療法→術後プラセボと比較して、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)を有意に改善しなかったことを、米国・ピッツバーグ大学のCharles Geyer氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で発表した。<NSABP B-59/GBG-96-GeparDouze試験>・試験デザイン:第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験・対象:StageII/III、ER/PR/HER2陰性のTNBC患者・試験群:アテゾリズマブ1,200mg(3週ごと)+パクリタキセル80mg/m2(毎週)+カルボプラチンAUC5(3週ごと)を12週間→アテゾリズマブ1,200mg(3週ごと)+AC/EC療法(2または3週ごと)を8~12週間→手術→アテゾリズマブ1,200mg(3週ごと)を1年間(アテゾリズマブ群:777例)・対照群:上記のアテゾリズマブの代わりにプラセボを投与(プラセボ群:773例)・評価項目:[主要評価項目]EFS[副次評価項目]病理学的完全奏効(pCR)、全生存期間(OS)、安全性など・層別化因子:地域、腫瘍サイズ、AC/EC療法のスケジュール、リンパ節転移の有無・統計解析:主要評価項目であるEFSについて、アテゾリズマブとプラセボのハザード比(HR)0.7を検出するようにデザインされ、両側α値5%で80%の検出力を有していた。 主な結果は以下のとおり。・2017年12月~2021年5月に1,550例が1:1に無作為化された。患者プロファイルは両群でバランスがとれており、年齢中央値が49.0(22~79)歳、白人が89.9%、女性が99.9%(男性は1例)、リンパ節転移陽性が41.2%、原発腫瘍3cm超が41.3%、PD-L1陰性が63.8%、TILs ≧30%が37.6%であった。・追跡期間中央値46.9ヵ月時点の4年EFS率は、アテゾリズマブ群85.2%(95%信頼区間[CI]:82.4~87.7)、プラセボ群81.9%(95%CI:78.9~84.6)で有意差は認められなかった(HR:0.8[95%CI:0.62~1.03]、p=0.08)。・サブグループ解析では、リンパ節転移陽性の患者ではアテゾリズマブ群のほうがEFSが良好であった(p=0.039)。・pCR率は、アテゾリズマブ群63.3%(95%CI:59.9~66.7)、プラセボ群57.0%(95%CI:53.5~60.5%)で、アテゾリズマブ群で良好であった(補正後のp=0.0091)。・4年EFS率は、アテゾリズマブ群のpCR例が93%(95%CI:90.3~95)、non-pCR例が70.5%(95%CI:64.3~75.9)で、プラセボ群はそれぞれ91%(95%CI:87.8~93.4)、68.9%(95%CI:63.2~74)であった。・4年OS率は、アテゾリズマブ群90.2%(95%CI:87.7~92.3)、プラセボ群89.5%(95%CI:86.9~91.5)であった(HR:0.86[95%CI:0.62~1.19])。・試験治療下における有害事象(TEAE)はアテゾリズマブ群100%、プラセボ群99.7%に発現した。Grade3/4のTEAEは75.3%および73.4%、死亡に至ったTEAEは0.3%および0.4%であった。安全性に関する新たな懸念は認められなかった。 これらの結果より、Geyer氏は「主要評価項目の有効性基準は満たさなかったが、この結果は、術前/術後療法を受けるTNBC患者のサブセットを同定するためのバイオマーカーのトランスレーショナル研究を支持するものである」とまとめた。

2004.

更年期のホルモン補充療法、心血管疾患のリスクは?/BMJ

 経口エストロゲン・プロゲスチン療法は、虚血性心疾患および静脈血栓塞栓症のリスク増加と関連していた。一方、合成ホルモン剤tiboloneは、虚血性心疾患、脳梗塞、心筋梗塞のリスク増加と関連していたが、静脈血栓塞栓症とは関連していなかった。スウェーデン・ウプサラ大学のTherese Johansson氏らが、スウェーデン統計局、ならびに保健福祉庁の処方薬登録、全国患者登録、がん登録および死因登録のデータを用いて行った、無作為化比較試験(RCT)を模倣するtarget trialの結果を報告した。閉経後10年以上経過後または60歳を超えてからの経口エストロゲン・プロゲスチン療法開始は、心疾患、脳卒中、静脈血栓塞栓症のリスクが増加する可能性が示唆されているが、現行更年期ホルモン補充療法の心血管疾患リスクに関する研究は不足していた。BMJ誌2024年11月27日号掲載の報告。スウェーデンの50~58歳の女性約92万例を解析 研究グループは、2007年7月~2018年12月の間に毎月、対象を登録して追跡を開始し、138のネステッド試験がデザインされた。 対象は、追跡開始前に過去2年間ホルモン補充療法を行っておらず、心血管疾患やがんならびに子宮摘出術または両側卵巣摘出術の既往歴がない50~58歳の女性で、追跡開始時の処方薬の種類により8つの群(持続的経口併用療法、逐次的経口併用療法、経口エストロゲン単独療法、経口エストロゲン+レボノルゲストレル放出子宮内システム併用、tibolone、経皮併用療法、経皮エストロゲン単独療法、ホルモン補充療法を開始せず)のいずれかに分類し、主要エンドポイントの発生、死亡、転居または2年間のいずれか早い時点まで追跡した。 主要エンドポイントは、静脈血栓塞栓症、虚血性心疾患、脳梗塞、心筋梗塞であった。それぞれ個別または複合のアウトカムとして解析し、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推算した。 解析対象は、138試験において少なくとも1試験で適格基準を満たした91万9,614例で、このうちホルモン補充療法を開始した女性が7万7,512例、開始しなかった女性が84万2,102例であった。持続的経口併用療法は、虚血性心疾患および静脈血栓塞栓症のリスクが増加 追跡期間中(2年間)に、主要エンドポイントのイベントは2万4,089例に発生した。1万360例(43.0%)で虚血性心疾患、4,098例(17.0%)で脳梗塞、4,312例(17.9%)で心筋梗塞、9,196例(38.2%)で静脈血栓塞栓症が発生していた。 ITT解析の結果、tiboloneは、ホルモン補充療法を開始しなかった女性と比較して虚血性心疾患のリスク増加と関連していた(HR:1.52、95%CI:1.11~2.08)。また、tibolone(HR:1.46、95%CI:1.00~2.14)、ならびに持続的経口併用療法(1.21、1.00~1.46)は、虚血性心疾患のリスクが高かった。 持続的経口併用療法(HR:1.61、95%CI:1.35~1.92)、逐次的経口併用療法(2.00、1.61~2.49)、および経口エストロゲン単独療法(1.57、1.02~2.44)は、静脈血栓塞栓症のリスクが高かった。 追加のper protocol解析では、tiboloneは脳梗塞(HR:1.97、95%CI:1.02~3.78)および心筋梗塞(1.94、1.01~3.73)のリスク増加と関連していることが示された。

2005.

ATTR型心アミロイドーシス、CRISPR-Cas9遺伝子編集療法が有望/NEJM

 心筋症を伴うトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)患者において、nexiguran ziclumeran(nex-z)の単回投与は、血清TTR値を迅速かつ持続的に減少したことが示された。nex-zと関連がある有害事象としては一過性の注入に伴う反応が認められた。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMarianna Fontana氏らが、トランスサイレチン(TTR)遺伝子を標的とするCRISPR-Cas9を用いた遺伝子編集療法nex-zの、安全性および有効性を評価した第I相非盲検試験の結果を報告した。ATTR-CMは進行性の致死的疾患であるが、nex-zはポリニューロパチーを伴う遺伝性ATTRアミロイドーシス患者において血清TTR値を減少させたことが報告されていた。NEJM誌2024年12月12日号掲載の報告。心不全既往・併存のATTR-CM患者36例においてnex-zの安全性と有効性を評価 研究グループは、18~90歳のATTR-CM患者で、心不全による入院歴があるかまたは心不全の臨床症状があり、NYHA心機能分類I~III、NT-proBNP値≧600pg/mL(心房細動の診断がある場合は>1,000pg/mL)の患者を対象に、用量設定パートにおいてnex-zを0.7mg/kg(9例)または1mg/kg(3例)、その後の拡大パートにおいて固定用量の55mg(0.7mg/kgに相当)(24例)を、最低2時間かけて単回点滴静注した。 試験の主要目的はnex-zの安全性および薬力学(血清TTR値)の評価であり、副次エンドポイントはNT-proBNP値、高感度心筋トロポニンT値、6分間歩行距離およびNYHA心機能分類の変化などであった。 2024年8月21日時点で、36例が登録されnex-zの投与を受けた。患者背景は、50%がNYHA心機能分類III、31%が遺伝性ATTR-CMで、追跡期間中央値は18ヵ月(範囲:12~27)であった。主な副作用は注入に伴う反応、血清TTR値は28日後に89%低下 有害事象は36例中34例で報告された。主な事象(発現率15%以上)は、心不全13例(36%)、COVID-19および上気道感染が各7例(各19%)、心房細動および尿路感染が各6例(各17%)であった。治験責任医師によりnex-zと関連があると判断された有害事象は、注入に伴う反応5例(14%)およびAST増加2例(6%)であった。 重篤な有害事象は14例(39%)で報告されたが、ほとんどはATTR-CMの症状であり、nex-zと関連があると判断された重篤な有害事象は注入に伴う反応1例のみであった。 全例で血清TTR値はベースラインから急速に低下し、平均変化率は28日時で-89%(95%信頼区間[CI]:-92~-87)、12ヵ月時で-90%(-93~-87)であった。 副次エンドポイントについては、12ヵ月時におけるベースラインからの変化として、NT-proBNP値が幾何平均で1.02(95%CI:0.88~1.17)、高感度心筋トロポニンT値が同0.95(0.89~1.01)、6分間歩行距離は中央値で5m(四分位範囲:-33~49)であった。また、NYHA心機能分類は、患者の92%で改善または変化なしであった。

2006.

帯状疱疹ワクチン、65歳を対象に定期接種化を了承/厚労省

 12月18日に開催された第65回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会において、帯状疱疹を予防接種法のB類疾病に位置付けるとし、帯状疱疹ワクチンの定期接種化が了承された。 2025年4月1日より、原則65歳を対象に定期接種が開始される見込み。高齢者肺炎球菌ワクチンと同様に、5年間の経過措置として、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳時に接種する機会を設ける方針だ。また、60歳以上65歳未満の者であっても、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害を有する者として厚生労働省令で定める者も対象となる。帯状疱疹にかかったことのある者についても定期接種の対象となる。 使用するワクチンは、乾燥弱毒生水痘ワクチン(商品名:ビケン)、または乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス筋注用)となる。 接種方法については以下のとおり。【乾燥弱毒生水痘ワクチンを用いる場合】 0.5mLを1回皮下に注射する。【乾燥組換え帯状疱疹ワクチンを用いる場合】 1回0.5mLを2ヵ月以上7ヵ月未満の間隔を置いて2回筋肉内に接種する。ただし、疾病または治療により免疫不全、免疫機能が低下している、もしくは低下する可能性がある者については、医師が早期の接種が必要と判断した場合、1回0.5mLを1ヵ月以上の間隔を置いて2回筋肉内に接種する。 ※接種方法の注意点として、帯状疱疹ワクチンの交互接種は認められない。同時接種については、医師がとくに必要と認めた場合に行うことができる。乾燥弱毒生水痘ワクチンとそれ以外の注射生ワクチンの接種間隔は27日の間隔を置くこととする。 定期接種化に関して、使用ワクチンの1つに定められた「シングリックス筋注用」を生産するグラクソ・スミスクラインは、同日にステートメントを発表した。 ステートメントによると、日本人成人の90%以上は、帯状疱疹の原因となるウイルスがすでに体内に潜んでいるとされ、50歳を過ぎると帯状疱疹の発症が増え始め、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するという。また、高血圧・糖尿病・リウマチ・腎不全といった基礎疾患がある人は、帯状疱疹の発症リスクが高くなるという報告もあるという。今回の了承について、「さらに多くの人々が帯状疱疹のリスクから守られることに寄与する大きな一歩」としてワクチンの供給に貢献することを示した。

2007.

38種類の抗うつ薬と自殺リスク、小児に対するブラックボックス警告はいまだに有効か

 米国食品医薬品局(FDA)は、研究スポンサーを有する独自の臨床試験のデータに基づき承認を行うが、抗うつ薬については、小児や若年成人における自殺リスク増加に関するブラックボックス警告が、いまだに維持されたままである。米国・Larned State HospitalのAndy Roger Eugene氏は、抗うつ薬のブラックボックス警告が、現在でも有益であるかを評価するため、最近の医薬品安全性データを用いて検討を行った。Frontiers in Psychiatry誌2024年11月1日号の報告。 2017〜23年の米国FDAの有害事象報告システム(FAERS)より、市販後の抗うつ薬有害事象データを収集した。症例対非症例法および交絡因子で調整したのち、ロジスティック回帰分析を用いて検討を行った。調整因子には、性別、年齢層、医薬品使用目的(主薬、副薬、相互作用、併用薬)、初回報告年、抗うつ薬と年齢層の相互作用を含めた。本分析で使用した年齢層は、8〜17歳(小児)、18〜24歳(若年成人)、25〜64歳(成人)、65〜112歳(高齢者)とした。 主な結果は以下のとおり。・多変量解析では、fluoxetineにおいて、25〜64歳の成人患者と比較し、小児、若年成人では自殺リスクの増加との関連が認められたが、高齢者では認められなかった。【小児】調整報告オッズ比(aROR):7.38、95%信頼区間[CI]:6.02〜9.05【若年成人】aROR:3.49、95%CI:2.65〜4.59【高齢者】aROR:0.76、95%CI:0.53〜1.09・fluoxetineと比較し、esketamineは、小児における自殺傾向が最も高かったが、若年成人ではリスク低下と関連し、高齢者では有意な差が認められなかった。【小児】aROR:3.20、95%CI:2.25〜4.54【若年成人】aROR:0.59、95%CI:0.41〜0.84【高齢者】aROR:0.77、95%CI:0.48〜1.23・国別の結果では、米国と比較し、スロバキア、インド、カナダの自殺傾向リスクが最も低かった。・研究対象集団全体では、自殺傾向リスクの低下と関連していた抗うつ薬は、desvenlafaxine(aROR:0.61、95%CI:0.46〜0.81)とvilazodone(aROR:0.56、95%CI:0.32〜0.99)のみであった。 著者らは「米国において、小児や若年成人に抗うつ薬を使用する際の自殺リスク増加に関するブラックボックス警告は、現在においても有効であることが示唆された。しかし、米国と比較し、他の15ヵ国では自殺傾向リスクが有意に低く、16ヵ国において38種類の抗うつ薬使用とリチウムによる自殺傾向の報告リスクが高かった」と結論付けている。

2008.

温水洗浄便座を使用する?しない?その理由は/医師1,000人アンケート

 友人同士でも腹を割って話しにくいであろう話題の1つがトイレや排泄に関することではないだろうか。今回、CareNet.comでは医師のトイレ事情として、温水洗浄便座の使用有無や温水洗浄便座が影響する疾患の認知度などを探るべく、『温水洗浄便座の使用について』と題し、会員医師1,021人にアンケートを実施した。その結果、医師の温水洗浄便座の使用率は約8割で、年齢を重ねるほど使用率が高い傾向にあることが明らかになった。6割が自宅・外出先を問わず使用 まず、使用場所について聞いたところ、「自宅・外出先問わずどちらも使用する」は61%、「自宅では使用するが外出先では使用しない」が17%、「自宅では使用しないが外出先では使用する」が1%、「どちらも使用しない」が20%であった。また、年代別にみると50~60代の医師の使用率が高く、「自宅・外出先問わずどちらも使用する」との回答が7割超で、「自宅では使用するが外出先では使用しない」まで合わせると8割強にまでのぼり、温水洗浄便座が生活になくてはならないものになっているようだ。実際に温水洗浄便座の使用に対して以下のようなコメントが寄せられていた。・排便後の清拭習慣はなかなか変えられないため(50代、内科)・排便後の局所の清潔が保たれる。排便後の掻痒がない(50代、外科/乳腺外科)・排便の調子が使うほうが良い(50代、内科)・清潔保持のため(60代、循環器内科/心臓血管外科)・清潔な便座であれば外出時でも使用します(60代、内科)・森林資源の保全に間接的に寄与するかもしれない(60代、神経内科)・痔があるから(60代、消化器科)・外出先ではノズル洗浄をしてから使用する。ノロウイルス感染を危惧はするが、トイレットペーパーの使用回数を減らしたいため(60代、整形外科) 一方で、使用しないと回答した医師の意見には以下のようなものが挙げられた。・尿路感染症などが心配(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・肛門環境が悪くなるから(40代、内科)・便がお尻に飛び散る気がして心配になるから(40代、腎臓内科)・清潔ではないから(50代、消化器科)・膣炎や膀胱炎のリスクがある(60代、内科)使用者は患者にも勧める?温水洗浄便座が便失禁につながる報告も 温水洗浄便座の使用自体は肛門疾患、とくに裂肛を有する場合に勧められる1)。では実際に、痔の症状を訴える患者に対して勧めるかを聞いたところ、「毎回勧めている」は12%、「症状(裂肛など)や併存疾患を考慮して勧めている」は34%と、約半数の医師が患者に勧めていた。興味深いことに、50代以上の医師で患者に勧めている傾向が大きいことから、自身が利用しその有用性を認めた上で患者に話している可能性が考えられる。 一方で、温水洗浄便座の使用によって引き起こされる疾患も存在し、その1つが便失禁である2,3)。これについての認知度を調査したところ、「知っている」と回答したのは15%で、「聞いたことはあるが詳細は知らない」まで含めると約半数の医師が便失禁リスクになることを認識していた。これに関して、消化器科医の回答割合も同等であり、専門・非専門を問わず詳細まで知っている医師は少ないようだ。なお、温水洗浄便座の頻回使用や長時間使用が肛門のかゆみを引き起こす『温水洗浄便座症候群』の原因にもなることから、TOTO社はウォシュレットの使用説明書4)において「約10~20秒を目安にご使用ください」と注意喚起している。 このほか、温水洗浄便座使用に対する患者へのアドバイス経験の有無、患者や自身のトイレに関するエピソードのアンケート結果を公開している。アンケートの詳細は以下にて公開中『温水洗浄便座、医師の利用率は?』

2009.

「ストレス食い」の悪影響、ココアで軽減の可能性

 ストレスから、ついクッキーやポテトチップス、アイスクリームなどの脂肪分の多い食べ物に手が伸びてしまう人は、ココアを飲むことで健康を守ることができるかもしれない。新たな研究で、脂肪分の多い食事を取るときに、フラバノールが豊富に含まれているココアを一緒に飲むことで、脂肪が身体に与える影響、とりわけ血管に与える影響の一部を打ち消すことができる可能性が示されたという。英バーミンガム大学のRosalind Baynham氏らによるこの研究の詳細は、「Food & Function」11月18日号に掲載された。 Baynham氏は、「フラバノールは、ベリー類や未加工のココア、さまざまな果物や野菜、お茶、ナッツ類に含まれている化合物の一種だ。フラバノールは健康に有益で、特に血圧を調節して心血管の健康を守ることが知られている」と説明している。フラバノールは、フラボノイド系化合物に分類されるポリフェノールの一種。緑茶の成分として知られるカテキン、エピカテキン、エピガロカテキンなどが、代表的なフラバノールに含まれる。 Baynham氏らは今回の研究で、18〜45歳の健康な成人23人(平均年齢21.57±4.11歳、男性11人、女性12人)に、バタークロワッサン2個(1個67g)、チェダーチーズ1切れ半(37.5g)、牛乳250mLの朝食を取ってもらった。さらに、この朝食に加えてフラバノール含有量の多いココア(1サービングあたりエピカテキン150mg、総フラバノール695mg)を飲む群と、フラバノール含有量が少ないココア(1サービングあたりエピカテキン6.0mg未満、総フラバノール5.6mg)を飲む群のいずれかにランダムに割り付けた。その後、参加者にストレスのかかる数学のテストを課し、血管機能と心臓の活動のモニタリングを行った。Baynham氏は、「このストレステストは、日常生活で遭遇するストレスと同様、心拍数と血圧の有意な上昇を誘発したことが確認された」とバーミンガム大学のニュースリリースの中で述べている。 その結果、低フラバノールのココアと一緒に脂肪分の多い食品で構成された朝食を取った人では、テストによってストレスがかかると血管機能が低下し、この機能低下はテストから90分後まで続いていることが確認された。一方、高フラバノールのココアはこのような血管機能の低下を抑えることが示された。高フラバノールのココアを飲んだ人では、低フラバノールのココアを飲んだ人と比べて、ストレステストから30分後と90分後の時点で測定した血管機能が有意に高いことが確認された。 論文の上席著者であるバーミンガム大学栄養科学のCatarina Rendeiro氏は、「この研究で、フラバノールが豊富に含まれる食品を飲んだり食べたりすることが、不健康な食品の選択によって血管系にもたらされる悪影響の一部を軽減する方法になり得ることが示された。このことは、われわれがストレスフルな時期に何を食べ、飲むべきかについて、より多くの情報に基づき判断するのに役立つ」と話している。 Baynham氏らは、加工度ができるだけ低いココアパウダーを探すか、緑茶や紅茶を飲むことを勧めている。ガイドラインでは、1日に400〜600mgのフラバノールの摂取を推奨している。これは、紅茶か緑茶を2杯飲むか、ベリー類やリンゴに純度の高いココアを組み合わせることで達成できる。 共著者でバーミンガム大学生物心理学教授のJet Veldhuijzen van Zanten氏は、「現代人の生活はストレスが多い。ストレスが人々の健康や経済活動に及ぼす影響については、すでに良く知られている。したがって、ストレスの症状から身を守るためにわれわれが変えられることがあるなら、どんなことでも有益だ」と話す。その上で同氏は、「ストレスを感じるとついおやつに手が伸びてしまう人や、プレッシャーのかかる仕事や時間がないことを理由にインスタント食品に頼りがちな人では、こうした小さな変化を取り入れることで大きな違いが生まれる可能性がある」と話している。

2010.

“Real-world”での高齢者に対するRSVワクチンの効果(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 60歳以上の高齢者に対する呼吸器合胞体ウイルス(RSV:Respiratory Syncytial Virus)に対するワクチンの薬事承認を可能にした第III相臨床試験の結果に関しては以前の論評で議論した(CLEAR!ジャーナル四天王-1775)。今回は実臨床の現場で得られたデータを基に高齢者に対するRSVワクチンの“Real-world”での効果(入院、救急外来受診予防効果)を検証し、高齢者に対するRSVワクチン接種を今後も積極的に推し進めるべき根拠が提出されたかどうかについて考察する。RSVのウイルス学的特徴 RSVは本邦において5類感染症に分類されるParamyxovirus科のPneumovirus属に属するウイルスである。RSVはエンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示すネガティブ・センス一本鎖RNAウイルスで、11個の遺伝子をコードする約1万5,000個の塩基からなる。自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。ヒトRSVの始祖は1766年頃に分岐し、2000年以降に下記に述べる複数のA型ならびにB型に分類される亜型が形成された(IASR. 国立感染症研究所. 2022;43:84-85.)。A型、B型を特徴付けるものはRSVの膜表面に存在する糖蛋白(G蛋白)の違いである。G蛋白は宿主細胞との接着に関与し、宿主の免疫に直接さらされるためRSVウイルスを形成する構造の中で最も遺伝子変異を生じやすく、A型、B型には約20種以上の亜型が報告されている(A型:NA1、NA2b、ON1など、B型:BA7、BA8、BA9、BA10など)。しかしながら、A型とB型ならびにそれらの亜型によって病原性が明確に異なることはなく、A型、B型が年の単位で交互に流行すると報告されている。G蛋白によって宿主細胞と接着したRSVは、次項で述べるF蛋白(1,345個のアミノ酸で構成)を介して宿主細胞と融合し細胞内に侵入する。 新生児においては母親と同程度のRSV抗体(母体からのIgG移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し生後7ヵ月で新生児のRSV抗体は消失する。すなわち、RSV液性抗体の持続期間は約6ヵ月と考えなければならない。これ以降に認められるRSV抗体は生後に起こった新規感染に起因する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、ヒトは生涯を通じてRSVの再感染を繰り返し、血液RSV抗体価は再感染に依存して上昇・下降を繰り返す。新生児の現状を鑑みると、RSV抗体が有意に存在する生後6ヵ月以内の新生児において新規のRSV感染は、より重篤な呼吸器病変を発現する場合があることが知られている。すなわち、RSVに対するワクチン接種によって形成されるRSV液性免疫は即座に感染防御を意味するものではなく、RSVを標的としたワクチン接種がより重篤な呼吸器病変を誘発する可能性があることを念頭に置く必要がある。以上の事実は、RSVワクチン接種を今後励行するか否かは、その予防効果を確実に検証した臨床試験の結果を踏まえて決定する必要があることを意味する。RSVワクチンの薬事承認 RSVに対するワクチンの開発は1960年代から始まり、不活化ワクチンの生成が最初に試みられた。しかしながら、不活化ワクチンは“抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)”を高頻度に発現し、臨床的に使用できるものではなかった。それ以降、RSVの蛋白構造ならびに遺伝子解析が進められ、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的作用を有する膜融合蛋白(F蛋白:Fusion protein、コロナウイルスのS蛋白に相当)を標的にすることが有効な薬物作成に重要であることが示された。実際には、宿主の細胞膜と融合していない安定した3次元構造を有する膜融合前F蛋白(Prefusion F protein)が標的とされた。まず初めに膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えモノクローナル抗体(mAb)であるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のリスクを有する新生児、乳児のRSV感染に伴う下気道病変の重症化阻止薬として使用されている。 新型コロナ発生に伴い高度の蛋白・遺伝子工学技術を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、Protein-based vaccine(Subunit vaccine)とGene-based vaccineが存在する。これらの技術がRSVワクチンの作成にも適用され、遺伝子組み換え膜融合前F蛋白を抗原として作成されたProtein-based vaccineである、グラクソ・スミスクライン(GSK)のアレックスビー筋注用(A型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチン)とファイザーのアブリスボ筋注用(A型、B型両方のF蛋白を添加した2価ワクチン)が存在する。一方、Gene-based vaccineとしてはModernaのmRESVIA(mRNA-1345、A型、B型のF蛋白の差を考慮しない1価ワクチン)が存在する。 GSKのアレックスビーは60歳以上の高齢者を対象としたRSV予防ワクチンとして世界に先駆け2023年5月に米国FDA、2023年9月に本邦厚生労働省の薬事承認を受けた。2024年11月、本邦におけるアレックスビーの適用が種々の重症化リスク(慢性肺疾患、慢性心血管疾患、慢性腎臓病または慢性肝疾患、糖尿病、神経疾患または神経筋疾患、肥満など)を有する50~59歳の成人にまで拡大された。一方、ファイザーのアブリスボは母子ならびに高齢者用のRSVワクチンとして2023年8月に米国FDAの薬事承認を受けた。本邦におけるアブリスボの薬事承認は2024年1月であり、適用は母子(妊娠28~36週に母体に接種)に限られ高齢者は適用外とされた。これは、アブリスボが高齢者に対して効果がないという意味ではなく、アレックスビーとの臨床的すみ分けを意図した日本独自の政治的判断である。ModernaのmRESVIA(mRNA-1345)は、2024年5月に高齢者用RSVワクチンとして米国FDAの薬事承認を受けたが本邦では現在申請中である。 以上より、2024年12月現在、本邦のRSV感染症にあっては、母子に対してはファイザーのアブリスボ、60歳以上の高齢者あるいは50歳以上で重症化リスクを有する成人に対してはGSKのアレックスビーを使用しなければならない。高齢者RSV感染に対するワクチンの予防効果―主たる臨床試験の結果Protein-based vaccineの第III相試験 60歳以上の高齢者を対象としたGSKのアレックスビーに関する国際共同第III相試験(AReSVi-006 Study)は2万4,966例を対象として追跡期間が6.7ヵ月(中央値)で施行された(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。ワクチンのRSV下気道感染全体に対する予防効果は82.6%であり、A型、B型に対する予防効果に明確な差を認めなかった。COPD、喘息、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患などの基礎疾患を有する高齢者に対する下気道感染予防効果は94.6%と高値であった。ワクチン接種により、RSVに対する中和抗体(液性免疫)ならびにCD4陽性T細胞性免疫が発現する。しかしながら、アレックスビー接種後の液性免疫、細胞性免疫の持続期間に関する正確な情報は提示されていない。有害事象はワクチン群の71.6%に認められたが、注射部位を中心とする局所副反応が中心であった。本邦では適用外であるが、60歳以上の高齢者を対象としたファイザーのアブリスボに関する治験結果も報告されており、予防効果はGSKのアレックスビーとほぼ同等であった(国際共同第III相試験:C3671008試験、2024年1月18日ファイザー発表)。Gene-based vaccineの第III相試験 高齢者を対象としたGene-based vaccineであるModernaのmRESVIA(mRNA-1345)に関する国際共同第III相試験は、3万5,541例を対象とし、追跡期間3.7ヵ月(中央値)で施行された。RSV関連下気道感染に対する予防効果は83.7%であり、基礎疾患の有無、RSVの亜型(A型、B型)によって予防効果に明確な差を認めなかった(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。以上の結果は、Gene-based vaccineの予防効果はProtein-based vaccineと質的・量的に同等であり、mRESVIAは本邦においても来年度には厚労省の薬事承認が得られるものと期待される。Real-worldでの観察結果 綿密に計画された第III相試験ではなく、ワクチン承認後の最初のRSV流行シーズンでの60歳以上の高齢者を対象とした“Real-world”でのRSVワクチン予防効果に関する報告が米国から提出された(Payne AB, et al. Lancet. 2024;404:1547-1559.)。この検討は、米国8州の電子カルテネットワークVISION(Virtual SARS-CoV-2, Influenza, and Other respiratory viruses Network)を用いて施行された(対象の集積は2023年10月1日~2024年3月31日の6ヵ月)。解析対象は試験期間中にVISIONによって抽出された入院症例(3万6,706例)あるいは救急外来を受診した症例(3万7,842例)であった。入院症例のうちGSKのアレックスビー、ファイザーのアブリスボを接種していた人の割合はおのおの7%、2%であった。救急外来を受診した症例にあっては、アレックスビーを接種していた人が7%、アブリスボを接種していた人が1%であった。 免疫正常者の入院者数は2万8,271例で、RSV関連入院に対するワクチンの予防効果は80%、RSV感染による重篤な転帰(ICU入院、死亡)に対するワクチンの予防効果は81%であり、重症化もワクチン接種によって明確に軽減できることが示された。免疫正常者のRSV関連救急外来受診者数は3万6,521例で、ワクチン接種の予防効果は77%であった。免疫不全患者のRSV感染による入院者数は8,435例で、免疫不全症例におけるRSV感染関連入院に対するワクチンの予防効果は73%であった。以上の結果はワクチンの種類によって影響されなかった。すなわち、第III相試験ならびにReal-worldでの観察結果は高齢者に対するRSVワクチン接種の有効性を証明した。数十年前に作成されたRSV不活化ワクチン接種時に高頻度に認められた“抗体依存性感染増強”を中心とする重篤な副反応は、現在のProtein-based vaccine、Gene-based vaccineでは発生しないことが実臨床の場で確認された。 成人におけるRSVワクチン接種の今後の課題として、以下が挙げられる。1)ワクチン接種後のIgG由来の液性免疫動態ならびにT細胞由来の細胞性免疫動態の時間的推移を確実にする必要がある。この解析を介してRSVワクチンの至適接種回数を決定できる(年2回、年1回、2年に1回など)。米国CDCは成人に対するRSVワクチンは毎年接種する必要はないとの見解を示しているが、ワクチン接種後の液性免疫、細胞性免疫の持続期間が確実にならない限り、米国CDCの推奨が正しいとは結論できない。2)ワクチン作成の本体を担うF蛋白に関して、その遺伝子変異の状況をもっと詳細にモニターするシステムを構築する必要がある。これによって今後のRSV流行時に、今年度までに作成されたワクチンをそのまま適用できるか否かを決定できる。3)ワクチン接種時期はその年の流行直前が理想的である。しかしながら、本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、成人データは確実性に乏しい。今後、RSV感染症に関する流行情報を、成人を含めた広範囲な対象で収集する本邦独自のサーベイランス・システムの構築が必要である。この情報を基に、高齢者におけるワクチン接種の正しい時期を決定する必要がある。4)小児では迅速抗原検査がRSV感染の診断に有用であるが、成人では感染に伴うウイルス量が少なく迅速抗原検査の感度が低い(単独PCR検査の10~20%)。すなわち、現状では成人におけるRSV感染の簡易確定診断が難しく、RSVワクチン接種の対象となる成人を抽出するのに支障を来す。たとえば、ワクチン接種前数ヵ月以内の感染者に対してはワクチン接種を避けるべきである。5)本邦ではRSVワクチン接種の対象が50歳以上(ただし、感染による重症化リスクを有する)まで引き下げられたが、米国CDCは今年になって、本邦の考えとは逆にRSVワクチン接種の対象を75歳以上あるいは60~74歳で重症化リスクを有する高齢者に引き上げた。米国CDCの考えは、医学的側面に加え医療経済的側面を考慮した変更と考えられる。従来の対象者選択基準が正しいのか、米国CDCの新たな選択基準が正しいのか、今後の“Real-world”での観察結果が待たれる。

2011.

「クリスマス咳嗽」の理由【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第271回

「クリスマス咳嗽」の理由クリスマスの時期になると、呼吸器内科では喘息や気管支炎の増悪で来院する人が多くなります。年末年始にかけて受診できないと困りますので、早めの軽症の状態で受診しようという理由もあるでしょうが。今日紹介するのは、まさにクリスマス咳嗽の典型ともいえる症例。Carsin A, et al.When Christmas decoration goes hand in hand with bronchial aspiration…Respir Med Case Rep. 2017 Sep 29;22:266-267.2歳2ヵ月の女児が、クリスマスの2日前に、急性の咳嗽と喘鳴を起こしました。かかりつけ医を受診したところ、両側に喘鳴があることを発見し、既往歴として喘息があったことも踏まえ、喘息の急性増悪として対応しました。吸入サルブタモールと経口プレドニゾロンで治療を行いました。しかし、治療開始3週間後も、臨床状態は変わらずの状態。ほかに何か原因があるのではないかと疑い、胸部単純X線検査が行われました。すると、なんと、左主気管支に異物が存在していました。「これは…アレだよね?」というのは誰しもわかるX線写真です。これは…LED電球です!両親によると、そういえばクリスマスツリーの装飾に使っていたLED電球が1つなくなっていたそうです。なんと、女児はLED電球を誤嚥していたのです。―――というわけで、全身麻酔のもと、気管支鏡によってLEDは無事除去されました。クリスマスの時期に誤嚥を起こすと、時期的にも喘息や気管支炎と誤診されやすいので注意が必要、と当該論文の著者は述べています。とくに今回は、喘息の既往があったため、初期治療として吸入β2刺激薬と経口ステロイドが処方されてしまいました。確かにLEDは小さいので、誤嚥しやすいと思います。中国でも右主気管支にLEDを誤嚥した事例が報告されています1)。皆さんも、お子さんのクリスマス咳嗽にはご注意を!1)Lau CT, et al. A light bulb moment: an unusual cause of foreign body aspiration in children. BMJ Case Rep. 2015:2015:bcr2015211452.

2012.

第242回 今話題の“直美“、美容外科学会や消費者が見限るのは時間の問題か

実は最近、複数のメディア関係の友人・知人から、同じことを聞かれた。それは「直美(ちょくび)ってやっぱり問題なんですか?」というもの。すでにご存じの方も多いと思うが、直美は医師の初期研修2年間を終了後、そのまま自由診療の美容医療に進む医師のことである。こうしたことを聞かれることが増えたのは、おそらく今年6月に厚生労働省が「美容医療の適切な実施に関する検討会」をスタートさせ、先ごろ報告書がまとまったからだろう。検討会が設置された背景には、自由診療で行われる美容医療の需要が近年増加するとともに不適切な行為によるトラブルの相談件数も増加しているからだと言われる。国内の美容医療に関わる医師数日本美容外科学会による全国美容医療実態調査1)によると、回答医療機関で行われた非外科的手技も含む美容医療の施術回数は2019年が123万回に対し、2022年は372万2,000回。回答医療機関数に違いはあるものの、単純比較では3年間で3倍強まで増加している。このうちの外科的手技は2019年が19万回、2022年が85万8,000回。こちらは4倍以上の増加だ。そもそも美容医療で外科的と非外科的な手技の違いは馴染みのない人にはわかりにくいかもしれないが、非外科的手技に含まれるものの代表格は、脱毛、ボツリヌス菌毒素注入(通称:ボトックス注射)、セルライト治療などである。この3つは非外科的と分類されてはいるが、実際のところ、非侵襲的手技とは言い難い。2022年調査の施術回数のうち、この3つの施術回数合計は152万2,000回。これに外科的手技の回数を併せれば、全国で行われている美容医療施術の実に半数以上が侵襲を伴う手技と言える。一方、美容医療に従事する医師数について、前述の検討会資料では診療科として「美容外科」「形成外科」「皮膚科」に従事する診療所の医師数の推移を医師・歯科医師・薬剤師統計に基づき示しているが、その中でも一番典型と言える美容外科の医師数は2008年を1とすると、2022年は3.2とこちらもかなり増加している。そして同統計による医師の年齢階級別割合は、診療所勤務医師全体は30代までの医師の割合が10%未満にもかかわらず、美容外科診療所に限定すると50%超、20代だけでも10%以上を占めているのだ。しかも、10年前の2012年の同データでは美容外科診療所勤務医師に占める30代までの割合は30%台。これらから直美が多いことがうかがえる。美容医療に関する相談件数もうなぎのぼり、その問題点そして国民生活センターと全国の消費生活センターなどをオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベース「全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)」に2024年3月31日までに登録された美容医療に関する相談件数は、2018年が1,741件、医療サービス全体の相談件数に占める割合が29.8%だったが、2022年にはそれぞれ5,507件、57.8%にまで急増している。美容医療に従事する医師からは批判もあると思うが、これらのデータを総合すれば、美容医療のニーズと施術増加の中で直美も増加し、その中で相談件数、いわばクレームも増加していると一般的には受け止められる。ただ、もちろんこれは非常に雑駁な捉え方で、相談件数増加の背景には、近年の消費者の権利意識の向上なども影響しているだろうし、相談のすべてが美容医療の提供側に問題があるとも言い切れないだろう。そのうえでも私見ながら直美の増加は大きな問題を内包していると、私は問い合わせを受けたメディア関係者には伝えている。その問題とは主に手技とコミュニケーション能力の2点である。経験値が物を言う手技とコミュ力まず、前述のように美容医療では、外科を除く他の診療科と比べ、成否が習熟度に依存する侵襲を伴う施術が多い。一般論で言えば、美容医療の中でも直美とそうでない医師では、施術の完成度の高さ、看過できないミスの頻度は異なるだろう。そして、頭でわかっていても納得しがたいことではあるが、医療も人が行う以上、常にミスが生じる可能性はある。しかも、美容医療は世間が思っている以上に施術のミスが不可逆的な結果、最悪は死を招くことがあるのは一部で報じられている通りだ。問題はミスが生じた時のリカバリー力である。これは才能で解決できるようなものではなく、習熟度、いわば場数が物を言う。このことはなにも美容医療に限ったことではないことは多くの人がご存じだろう。この点でとりわけ直美は問題を起こしがちになるだろう。ちなみに日本美容外科学会が規定する専門医制度では、専門医として認定する前提として▽申請時点で連続して3年以上の正会員▽形成外科専門医を有している▽申請時に4年間の形成外科専門医研修終了時から3年を経過している、とかなり厳格な定めがある。言ってしまえば、美容医療の本流医師は直美なぞ求めていないと言ってよい。もう1つのコミュニケーションだが、とくに美容医療では通常の医療よりもきめ細かなコミュニケーションが必要と考えられる。なぜならば、通常の医療と美容医療では最終目標が異なるからだ。通常の医療の最終目標は、「医学的な救命・治癒・寛解」である。多くの場合、これらには一定程度明確な指標がある。これに対して美容医療は「施術を受ける人の満足」が最終目標である。そして美容医療に限らずどのような医療にも限界はある。だが、おおむね消費者の医療に対する期待は高い。医師は常に消費者・患者の期待値を医療の現実・限界にまで引き落とすコミュニケーションが求められる。その中にあって美容医療は、ヒトの飽くなき欲望の1つである「美の追求」の実現が前提のため、施術を受ける側の期待値と医療の現実との乖離は、通常の医療に比べ、かなり大きいはずである。この期待値コントロールのコミュニケーションを間違えば、医学的には成功の範疇に入る施術でも患者からは失敗と評され、トラブルになってしまう。だからこそ熟練度の高いコミュニケーション能力が求められる。手技と比べれば、才能が解決する余地はあるかもしれないが、やはりこれとて場数である。私が前述のメディア関係者の友人・知人に伝えた内容はざっとこのような感じである。さて前述の厚生労働省の検討会だが、11月28日には報告書を公表している。この中では直美についても議論にのぼったようだが、報告書では「本検討会においては、医師の偏在是正の観点から臨床研修修了直後であるなど若手の医師が美容医療の領域に流れていること等の諸課題について指摘されたところ、かかる問題については、本検討会の議論の対象ではないものの、引き続き、厚生労働省において別途必要な検討をしていく必要がある」と記述されている。これを受けて厚生労働省はどう動くのか? せっかく“鉄が熱くなった”のだから、引き続き議論を進めてほしいと思うのだが。参考1)厚生労働省:資料1 美容医療に関する現状について

2013.

ブータンの緩和ケアを見てきました【非専門医のための緩和ケアTips】第90回

ブータンの緩和ケアを見てきました最近は国際保健に関心のある医学生が増え、学会でも学生時代から海外で活動した発表を目にする機会があります。私自身、国際経験は多くないのですが、今年になってブータンに行く機会があり、この経験を紹介します。今回の質問学生時代にアジアのさまざまな国を旅行するのが趣味でした。訪問診療をする一方で、海外の医療にも関心を持っています。日本のように制度が整っている国ばかりではないと思うのですが、何か経験はありますか?先日、緩和ケアの指導医としてブータンに行ってきました。文化や医療システムがまったく異なる環境でさまざまなことを経験したので、そんな海外の緩和ケア事情をお伝えしたいと思います。まず、ブータンに行った経緯ですが、APHN(Asia Pacific Hospice Palliative Care Network:アジア太平洋ホスピス緩和ケアネットワーク)という団体があり、アジア各国で緩和ケアにおける研究や教育、普及啓発、ネットワーク構築に取り組んでいます。私は数年前からこの団体の活動に参加しています。この団体の取り組みでユニークなものとして、緩和ケアの体制づくりに取り組む国への支援があります。さまざまな国から指導者を派遣し、レクチャーやベッドサイドでの教育を支援するのです。今回、私はこのプログラムに参加するかたちでブータンを訪問しました。ブータンは人口約80万人、九州程度の広さの国です。以前、ブータンの国王が来日した際、「世界一の幸福度の高い国」として話題になりました。そんなブータンにおける緩和ケア事情とは、どのようなものなのでしょうか?ブータンの医療事情は、日本と比較すれば厳しい面が多くあります。心臓カテーテル検査や放射線治療を国内で実施できず、必要な患者は国外の医療機関に紹介する必要があります。実際、私が訪問診療に同行した患者は、インドでPET-CTや放射線治療を受けていました。一方で、緩和ケアについては提供体制を構築中であり、数年前に女性医師がシンガポールに1年間の研修に行き、ブータンに戻ってさまざまな体制をつくろうとしている状況です。私が参加したプログラムもこの部分を支援するためのものでした。今回のプログラムは、月~金曜日の5日間、午前中は講義とグループワークの座学、午後は訪問診療と急性期医療機関でのベッドサイドティーチングというスケジュールでした。会話はすべて英語で、私は「せん妄」と「がんに関連した大量出血の対応」のテーマで講義をしました。40人程度の受講生は医師、看護師、薬剤師などで、皆が真剣に話を聞いてくれました。質疑応答ではお互いの経験に基づく実践的な質問があり、私も日本で経験した大量出血を起こしたがん患者さんの例などをお話ししました。同じ症状や病態に対しても、医療体制や文化が異なるとアプローチが異なるのは興味深いことでした。私の講義中に多くの時間を割いたのが、「倫理的検討」をテーマにしたグループワークでした。実際に訪問診療を行い、その患者の情報を「臨床倫理の4分割」という方法を使って整理し、発表するのです。臨床倫理の4分割は日本でもよく用いられている手法で、倫理的な問題に直面した際、「医学的側面・患者の意向・周辺の状況・QOL」の4つの要素を整理しながら議論します。私たちが担当した患者は、「将来的には生まれ故郷のインドに戻りたい」という思いがありました。それを踏まえ、「家族内で終末期に関する話し合いをどのように促すか」というテーマで議論をしました。こうした複雑な内容の議論を英語で行うのはハードルが高かったのですが、良い経験になりました。ブータンは仏教国で、行政もゾンと呼ばれる寺院で行われます。訪問診療に行った際の患者の自宅でも、ベッドが日本でいうところの仏壇のようなつくりで、まるで祭壇の前に横たわっているようでした。ホテルの前にも有名な寺院があり、早朝から多くの参拝者が熱心に祈りを捧げていました。このように生活の中に宗教が文化として定着している光景は見たことがなく、緩和ケア医である私にとって非常に新鮮で大きな経験となりました。このような日常と異なる環境や文化、人々に触れることは緩和ケア医としてはもちろん、医療者としても非常に大切なことだと思います。ちなみにブータンの方々は英語が非常に堪能で、議論の際は私のほうが拙い英語で申し訳ない思いでした。それでも、お互いの考えを確認し合いながら学びを深めていく作業によって、大変さに見合うだけの絆ができたように感じました。今回のTips今回のTipsそれぞれの国で異なる緩和ケア事情を学んでみるのも楽しいですよ。世界の医療事情・ブータン/外務省

2014.

Staphylococcus saprophyticusによる膀胱炎【1分間で学べる感染症】第17回

画像を拡大するTake home messageStaphylococcus saprophyticusは膀胱炎の原因菌として重要!Staphylococcus saprophyticus(S. saprophyticus)は、聞き慣れない方も多いと思いますが、膀胱炎の原因菌として、とくに若年女性を診るときに重要な菌の1つです。今回は、このS. saprophyticusに関して一緒に学んでいきましょう。歴史的背景S. saprophyticusは、もともとは尿培養から検出された場合でもコンタミネーションと考えられていました。しかし、1960年代からとくに若年女性においてこの菌が頻繁に検出されることが認識され、膀胱炎における大腸菌以外の主要な病原菌として注目されるようになりました。微生物学的特徴S. saprophyticusはグラム陽性球菌であり、コアグラーゼ陰性、非溶血性です。古典的には、ノボビオシンに対する耐性があることが、ほかのコアグラーゼ陰性菌と区別するための重要な特徴とされてきました。もう1つの重要な特徴がウレアーゼ産生で、この特性によって腎結石および尿管結石を形成しやすいとされています。病原因子S. saprophyticusの病原因子としては、表面関連タンパク質による尿路上皮細胞への粘着やヘマグルチニン、ヘモリシンなどの産生が知られています。これらの機序により尿路において病原性を示し、尿路感染症を引き起こします。臨床症状若年女性の膀胱炎や尿路結石で多くの報告があります。まれですが、腎盂腎炎、尿道炎、副睾丸炎、前立腺炎の報告もあります。性的に活発な若年女性では、膀胱炎の原因菌として大腸菌に続いて2番目であるとも報告されています。薬剤感受性一般的にはST合剤に優れた感受性を示すとされています。そのほか、アモキシシリン/クラブラン酸塩、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、バンコマイシンなどの感受性も報告されていますが、これらの耐性増加も報告されており、感受性試験が推奨されます。S. saprophyticusは、若年女性における膀胱炎の重要な原因菌です。尿グラム染色でグラム陽性球菌が確認された際には鑑別の1つとして本菌を考慮するようにしましょう。1)Raz R, et al. Clin Infect Dis. 2005;40:896-898.2)Widerstrom M, et al. J Clin Microbiol. 2007;45:1561-1564.3)Marrie TJ, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1982;22:395-397.4)Olsen RC, et al. AIM Clinical Cases. 2024;3:e230613.

2015.

SGLT2阻害薬はがん発症を減らすか~日本の大規模疫学データ

 近年、SGLT2阻害薬は実験レベルでさまざまながん種に対する抗腫瘍効果が示唆されている。臨床においても、無作為化試験や観察研究などでSGLT2阻害薬とがん発症リスクとの関係が検討されているが結論は出ておらず、一般的にがん発症率が低いことを考慮すると大規模な疫学コホートでの検討が必要となる。今回、東京大学/国立保健医療科学院の鈴木 裕太氏らが全国規模の疫学データベースを用いて、SGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬を処方された患者におけるがん発症率を調べた結果、SGLT2阻害薬のほうががん発症リスクが低く、とくに大腸がんの発症リスクが低いことがわかった。Diabetes & Metabolism誌2024年11月号に掲載。 大規模疫学データベースにおいて、新規でSGLT2阻害薬またはDPP-4阻害薬を処方された糖尿病患者を解析した。主要評価項目はがん発生率とし、傾向スコアマッチングアルゴリズムを用いて、SGLT2阻害薬群とDPP-4阻害薬群におけるがん発症率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・2万6,823例を1:2(SGLT2阻害薬群8,941例、DPP-4阻害薬群1万7,882例)に傾向スコアマッチングした。平均追跡期間2.0±1.6年の間に1,076例ががんを発症した。・SGLT2阻害薬投与はがんリスク低下と関連し(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.70~0.91)、とくに大腸がんリスクの低下と関連していた(HR:0.71、95%CI:0.50~0.998)。・この結果は、オーバーラップ重み付け解析(HR:0.79、95%CI:0.66~0.94)、治療の逆確率重み付け解析(HR:0.75、95%CI:0.65~0.86)、導入期間の設定(HR:0.78(95%CI:0.65~0.93)を含む種々の感度解析で一貫していた。・がん発症リスクはそれぞれのSGLT2阻害薬で同程度であった。 この全国のリアルワールドデータを用いた検討結果から、著者らは「糖尿病患者におけるがん発症抑制においてはDPP-4阻害薬よりSGLT2阻害薬のほうが有利である可能性が示された」としている。

2016.

統合失調症発症後20年間における抗精神病薬使用の変化

 統合失調症に対する抗精神病薬の短期的な治療は、有益であることが証明されている。しかし、抗精神病薬の長期的な治療に関しては議論の余地が残っており、自然主義的な研究は不十分である。デンマーク・Mental Health Center CopenhagenのHelene Gjervig Hansen氏らは、初回エピソード統合失調症患者における20年後の抗精神病薬使用状況の変化を調査するため、本研究を実施した。Psychological Medicine誌オンライン版2024年11月18日号の報告。 本研究は、初回エピソード統合失調症患者496例を含むデンマークOPUS試験(1998~2000年)の一部である。対象患者には、20年にわたり4回の再評価を行った。主要アウトカムは、投薬日数、クロザピン使用歴、精神科入院、雇用とした。 主な結果は以下のとおり。・20年間のフォローアップ期間中に、71%の患者が脱落した。・フォローアップが継続可能であった143例のうち、20年目に抗精神病薬を必要としない精神症状寛解が51例(36%)で認められた。・これらの患者群では、20年間の投薬日数が最も少なかった(平均:339±538日)。・使用された抗精神病薬に関する登録ベース分析では、416例のデータが入手可能であった。・20年間のフォローアップ調査において抗精神病薬治療を継続していた患者120例は、抗精神病薬を中止した患者296例よりも、治療日数の長さ(平均日数:5,405±1,857日vs. 1,434±1,819日、p=0.00)、クロザピン使用歴を有する(25% vs.7.8%、p=0.00)において、有意な差が認められた。・さらに、治療を中止した患者は、20年間フォローアップ期間中の就業率が有意に高かった(28.4% vs.12.5%、p=0.00) 著者らは「脱落率が高いため、本研究結果は過大評価されている可能性がある」としながらも「初回エピソード統合失調症患者の36%において、抗精神病薬治療を中止した精神症状寛解を達成していた。また、脱落のない登録ベース分析では、70%の患者が抗精神病薬を中止していた。抗精神病薬治療を継続している患者は、アウトカムが最も不良であり、より重度であることが示唆された」と結論付けている。

2017.

導入療法後に病勢進行のないHR+/HER2+転移乳がん1次治療、パルボシクリブ追加でPFS改善(PATINA)/SABCS2024

 導入療法後に病勢進行のないホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陽性(HER2+)転移乳がん患者における1次治療として、抗HER2療法と内分泌療法へのパルボシクリブの追加は無増悪生存期間(PFS)を統計学的に有意に改善した。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のOtto Metzger氏が、第III相無作為化非盲検PATINA試験の結果をサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で発表した。・対象:HR+/HER2+転移乳がん患者(6~8サイクルの導入化学療法+トラスツズマブ±ペルツズマブ後に病勢進行なし)・試験群:パルボシクリブ125mgを1日1回経口投与(3週間)+トラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法(パルボシクリブ追加群、261例)・対照群:トラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法(抗HER2療法+内分泌療法群、257例)・評価項目:[主要評価項目]治験責任医師評価によるPFS[重要な副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性など・層別化因子:ペルツズマブ投与の有無、術後(術前)補助療法としての抗HER2療法の有無、導入療法への反応(CR/PR vs.SD)、内分泌療法の種類(フルベストラントvs.アロマターゼ阻害薬[AI]) 主な結果は以下のとおり。・患者登録は2017年6月~2021年7月に行われた。・ベースラインの患者特性は、年齢中央値がパルボシクリブ追加群53.5歳vs.抗HER2療法+内分泌療法群53.0歳、導入療法のサイクル数中央値がともに6、ペルツズマブ投与ありが96.9% vs.97.7%、術後(術前)補助療法としての抗HER2療法ありが72.8% vs.70.8%、導入療法への反応はCR/PRが68.6% vs.68.5%、内分泌療法の種類はAIが90.8% vs.91.1%であった。・治験責任医師評価によるPFS中央値は(データカットオフ:2024年10月15日)、パルボシクリブ追加群44.3ヵ月vs.抗HER2療法+内分泌療法群29.1ヵ月で、パルボシクリブ追加群における有意な改善がみられた(ハザード比[HR]:0.74、95%信頼区間[CI]:0.58~0.94、片側p=0.0074)。・PFSのサブグループ解析では、ペルツズマブ投与や術後(術前)補助療法としての抗HER2療法歴の有無、導入療法への反応や内分泌療法の種類によらず、パルボシクリブ追加群で良好であった。・奏効率(ORR)はパルボシクリブ追加群29.9% vs.抗HER2療法+内分泌療法群22.2%(p=0.046)、臨床的有用率(CBR)は89.3% vs.81.3%(p=0.01)でいずれもパルボシクリブ追加群で良好であった。・OS中央値(中間解析)はパルボシクリブ追加群NE vs.抗HER2療法+内分泌療法群77ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.6~1.24)、3年OS率は87.0% vs.84.7%、5年OS率は74.3% vs.69.8%であった。・パルボシクリブ追加群で最も多くみられた有害事象はGrade3の好中球減少症(63.2%)で、Grade2および3の疲労、口内炎、下痢も多くみられた。Grade4の有害事象発現率はパルボシクリブ追加群12.3% vs.抗HER2療法+内分泌療法群8.9%で有意差はなく(p=0.21)、治療関連の死亡は両群ともに報告されていない。 Metzger氏は同療法について、HR+/HER2+転移乳がん患者に対する新たな標準治療となる可能性があると結んでいる。

2018.

慢性心血管系薬のアドヒアランス不良、リマインドメッセージでは改善せず/JAMA

 心血管系薬剤のリフィル処方を先延ばしにする患者にリマインダーのテキストメッセージを送っても、薬局の処方データに基づく服薬アドヒアランスの改善や、12ヵ月時の臨床イベントの減少は得られなかった。米国・Kaiser Permanente ColoradoのP. Michael Ho氏らが、プラグマティックな無作為化非盲検試験において示した。患者の行動変容にテキストメッセージが用いられるようになってきているが、これまで厳密な検証は行われていないことが多かった。著者は、「服薬アドヒアランスの不良には、複数の要因が関与していると考えられることから、今後の介入ではアドヒアランスに影響を与える複数の要因に対処するよう取り組む必要があるだろう」とまとめている。JAMA誌オンライン版2024年12月2日号掲載の報告。服薬アドヒアランスが不十分な患者を4群に無作為化、1年後のPDCを比較 研究グループは、米国の3つの医療システム(Denver Health and Hospital Authority、Veterans Administration (VA) Eastern Colorado Health Care System、UCHealth's University of Colorado Hospital)において、1つ以上の心血管関連疾患(高血圧症、脂質異常症、糖尿病、冠動脈疾患[CAD]、心房細動)の診断を有し、その治療のために1種類以上の薬剤が処方されている18歳以上90歳未満の成人患者を特定した。対象となる心血管系薬剤のリフィル処方に7日以上間隔が空いた患者を、次の4群に無作為に割り付けた。(1)一般的リマインダー群(処方間隔が空いた場合に処方を促すテキストメッセージを送信)、(2)行動ナッジ群(行動ナッジを組み込んだリマインダーメッセージを送信)、(3)行動ナッジ+チャットボット群(行動ナッジを組み込んだリマインダーメッセージに、服薬アドヒアランスの一般的な障壁を評価するチャットボットを追加)、(4)通常ケア群(テキストメッセージを送信しない)。 主要アウトカムは、無作為化後12ヵ月間における処方日数の割合(proportion of days covered:PDC)で定義したリフィルアドヒアランスであった。いずれのメッセージを送っても、送らない場合と差はなし 2019年10月~2022年4月に9,501例が無作為化され、2023年4月11日まで追跡した。このうち追跡データがない232例を除外した9,269例が解析対象となった。平均年齢は60歳、女性が47%(4,351例)、黒人が16%(1,517例)、ヒスパニック系が49%(4,564例)であり、4群の患者背景はほぼ同等であった。 12ヵ月時の平均PDCは、一般的リマインダー群62.0%、行動ナッジ群62.3%、行動ナッジ+チャットボット群63.0%、通常ケア群60.6%であった(p=0.06)。 通常ケア群との補正後絶対差は、一般的リマインダー群2.2(95%信頼区間:0.3~4.2、p=0.02)、行動ナッジ群2.0(0.1~3.9、p=0.04)、行動ナッジ+チャットボット群2.3(0.4~4.2、p=0.02)であったが、多重比較の調整後はいずれも統計学的有意差は認められなかった。 副次アウトカムである救急外来受診、入院および死亡の臨床イベントまでの期間についても、群間で差はなかった。

2019.

進行・再発子宮体がんの新たな治療選択肢/AZ

 アストラゼネカは、2024年12月13日に「イミフィンジ・リムパーザ適応拡大メディアセミナー ~進行・再発子宮体がん治療における免疫チェックポイント阻害剤・PARP阻害剤の新たな可能性~」と題したメディアセミナーを開催した。 進行・再発子宮体がんにおける新たな治療選択肢として、イミフィンジ(一般名:デュルバルマブ)は「進行・再発の子宮体」、リムパーザ(一般名:オラパリブ)は「ミスマッチ修復機能正常(pMMR)の進行・再発の子宮体におけるデュルバルマブ(遺伝子組換え)を含む化学療法後の維持療法」をそれぞれ効能または効果として、本年11月22日に厚生労働省より承認を取得している。 セミナーでは、東京慈恵会医科大学産婦人科学講座 主任教授の岡本 愛光氏、同じく講師/診療医長の西川 忠曉氏が、進行・再発子宮体がん治療における現状と課題、デュルバルマブとオラパリブの臨床成績のポイントについて語った。進行・再発子宮体がん治療における現状と課題 岡本氏からは、子宮体がん治療における現状と課題が述べられた。子宮体がんの発生は40代後半から増加し50〜60代をピークとし、日本では年間約1万7,800例が診断され約2,800例が死亡している。組織型の分類では約8割が類内膜がんであり、早期の場合は比較的予後は良好であるが進行期は予後不良、5年生存率についてはStageIVで21.0%と推定されている。子宮体がんとミスマッチ修復 子宮体がんの分類は、分子遺伝学分類が行われるようになってきている。WHO分類(第5版)では、類内膜がんをPOLE-ultramutated、MMR-deficient、p53-mutant、非特異的分子プロファイル(NSMP)に区分する、分子遺伝学的分類が採用されている。 ミスマッチ修復(MMR)については、状態により免疫療法の反応性が異なるといわれており、海外のガイドラインでは、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を検討している子宮体がん患者に対してMMR欠損の検査を推奨している。 MMR機能はDNA複製の際に生じる相補的ではない塩基対合(ミスマッチ)を修復するものであり、MMR機能が低下した状態をMMR deficient(dMMR)、機能が保たれた状態をMMR proficient(pMMR)と表現している。dMMR細胞では腫瘍変異負荷(TMB)が高くICIが奏効しやすいといわれているが、pMMR細胞ではICIの効果は限定的であるとの報告がある。DUO-E試験における臨床成績 子宮体がん治療の第1選択は手術療法であるが、再発リスクが中・高リスク群では術後補助療法が行われる。ICIは、進行・再発例であり化学療法で増悪した症例に使用されるため1次治療で用いることはできなかったが、デュルバルマブとオラパリブの適応拡大により1次治療としての選択肢が増えたことになる。 西川氏は、新たに診断された進行または再発子宮体がん患者を対象とし、デュルバルマブおよびオラパリブの有用性を検討したDUO-E試験について解説した1)。本試験は、白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法群(カルボプラチン+パクリタキセル:TC群)、化学療法(TC)とデュルバルマブ併用療法の後、デュルバルマブとオラパリブによる維持療法を行うDUO-E Triplet群、デュルバルマブによる維持療法を行うDUO-E Doublet群の3群で比較検討された。 患者背景について、アジア人が約3割であった。西川氏は、組織型では多くの試験で除外されることが多いがん肉腫が約5%程度含まれており、再発例は約半分、ICIが奏効しやすいとされるdMMRは約2割であった、とコメントした。 主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、TC群9.6ヵ月に対し、DUO-E Triplet群15.1ヵ月(ハザード比[HR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.43~0.69、p<0.0001)、DUO-E Doublet群10.2ヵ月(HR:0.71、95%CI:0.57~0.89、p=0.003)と優越性が検証された。 サブグループ解析ではMMR状態別のPFSについて検討が行われ、pMMR集団では、DUO-E Triplet群はTC群と比較してHRが0.57(95%CI:0.44~0.73)、DUO-E Doublet群はTC群と比較してHRが0.77(0.60~0.97)であり、DUO-E Doublet群と比較したDUO-E Triplet群のHRは0.76(0.59~0.99)であった。 dMMR集団では、DUO-E Triplet群はTC群と比較してHRが0.41(95%CI:0.21~0.75)、DUO-E Doublet群はTC群と比較してHRが0.42(0.22~0.80)であり、DUO-E Doublet群と比較したDUO-E Triplet群のHRは0.97(0.49~1.98)であった。本解析に対し西川氏は、「ICIが効きやすいdMMR集団ではオラパリブを併用しなくても有効性が認められた」とコメントした。 また、安全性に関して、Grade3以上の有害事象の発現率は、全試験期間ではDUO-E Triplet群67.2%、DUO-E Doublet群54.9%、TC群56.4%であり、維持療法期ではDUO-E Triplet群41.1%、DUO-E Doublet群16.4%、TC群16.6%であった。同氏は「新たな有害事象はなかったが、これまでと同様にICIによる免疫関連有害事象(irAE)やオラパリブの骨髄抑制による好中球減少症などに注意が必要だ」と付け加えた。本結果の意義と今後の展望 最後に西川氏は、「これまでの薬物療法では予後が悪かった進行・再発の子宮体がんにおいて、患者の免疫原性が活発なタイミングである1次治療にICIが使えることに意義がある。今回の適応拡大は、進行・再発の子宮体がんの1次治療における初めてのICIやPARP阻害薬を用いた複合免疫療法によるパラダイムシフトの始まりであり、それに伴い2次治療戦略の再検討も必要ではないか。分子遺伝学分類に基づく治療戦略をどのように組み立て、患者へ最大限のメリットを届けるか、という課題に向き合っていきたい」と締めくくった。

2020.

複雑CAD併存の重症AS、FFRガイド下PCI+TAVI vs.SAVR+CABG/Lancet

 重症大動脈弁狭窄症(AS)に複雑冠動脈疾患(CAD)を併存する患者において、血流予備量比(FFR)ガイド下経皮的冠動脈インターベンション(PCI)+経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は、外科的大動脈弁置換術(SAVR)+冠動脈バイパス術(CABG)に対して非劣性であることが示された。カナダ・マギル大学ヘルスセンターのElvin Kedhi氏らTCW study groupが、初となる経皮的治療と外科治療を比較した国際多施設共同前向き非盲検無作為化非劣性検証試験「TCW試験」の結果を報告した。重症AS患者では、閉塞性CADを併存していることが多い(~50%)。ESC/EACTSガイドラインでは、SAVR+CABGが推奨されている。一方、FFRガイド下PCIおよびTAVIが有効な治療選択肢となりうることも示されていた。Lancet誌オンライン版2024年12月4日号掲載の報告。治療後1年時点の複合エンドポイントを評価 TCW試験は、欧州の18施設(オランダ6、スペイン2、フランス2、ポーランド2、オーストリア1、チェコ1、ドイツ1、ギリシャ1、ポルトガル1、スロバキア1)で行われた。被験者は、70歳以上の重症ASかつ複雑CADで、on-site Heart Teamにより経皮的または外科的手術が施行可能と判断された患者。施設層別無作為化置換ブロックサイズ法を用いたコンピュータ生成シーケンス法により、1対1の割合で無作為にFFRガイド下PCI+TAVI群またはSAVR+CABG群に割り付けられた。 主要エンドポイントは、治療後1年時点の全死因死亡、心筋梗塞、障害を伴う脳卒中、臨床的に推奨される標的血管の血行再建、弁の再置換、生命を脅かすまたは障害を伴う出血の複合であった。 試験は、非劣性(マージン15%)を検定し、非劣性が検証された場合は優越性を検定した。主要解析および安全性解析は、ITT集団を対象として行った。群間リスク差-18.5、FFRガイド下PCI+TAVIの非劣性が検証 2018年5月31日~2023年6月30日に、172例が登録された(91例がFFRガイド下PCI+TAVI群、81例がSAVR+CABG群)。平均年齢は76.5歳(SD 3.9)、男性が118例(69%)、女性が54例(31%)であった。心リスク因子は両群間でバランスが取れており、SYNTAXスコアの中央値は12.0(四分位範囲:9.0~17.0)で、44/157例(28%)のみが中~高スコアを有し、128/169例(76%)が多枝CAD(2枝以上)を呈していた。 主要複合エンドポイントのアウトカムについて、FFRガイド下PCI+TAVI群(4/91例[4%])はSAVR+CABG群(17/77例[23%])に比べて良好な結果を示し(群間リスク差:-18.5[90%信頼区間[CI]:-27.8~-9.7])、非劣性が検証された(非劣性のp<0.001)。 FFRガイド下PCI+TAVI群のSAVR+CABG群に対する優越性も検証された(ハザード比:0.17[95%CI:0.06~0.51]、優越性のp<0.001)。主に全死因死亡(0/91例[0%]vs.7/77例[10%]、p=0.0025)、生命を脅かす出血(2/91例[2%]vs.9/77例[12%]、p=0.010)によるところが大きかった。

検索結果 合計:34056件 表示位置:2001 - 2020