サイト内検索

検索結果 合計:413件 表示位置:1 - 20

1.

推奨通りの脂質低下療法で何万もの脳卒中や心筋梗塞を回避可能か

 スタチンなどの脂質低下薬の使用が推奨される米国の患者数と実際にそれを使用している患者数との間には大きなギャップがあり、毎年何万人もの人が、脂質低下薬を服用していれば発症せずに済んだ可能性のある心筋梗塞や脳卒中を発症していることが、新たな研究で明らかにされた。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院疫学教授のCaleb Alexander氏らによるこの研究結果は、「Journal of General Internal Medicine」に6月30日掲載された。 Alexander氏らは、まず、米国国民健康栄養調査(NHANES)に2013年から2020年にかけて参加した40〜75歳までの米国成人4,980人のデータを解析した。このサンプルは、同じ年齢層の米国成人約1億3100万人を代表するように統計学的に重み付けされた。解析では、米国およびヨーロッパの脂質低下療法(LLT)に関する薬物治療ガイドラインが完全に実施された場合に、治療状況やアウトカムがどの程度改善されるかが予測された。解析は、米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)ガイドライン(2018年米国ガイドライン)、欧州心臓病学会(ESC)/欧州動脈硬化学会(EAS)ガイドライン(2019年EUガイドライン)、LDLコレステロール(LDL-C)低下のための非スタチン療法の役割に関するACC専門家決定方針(2022年米国決定方針)の3種類に基づいて行われた。 研究参加者の心血管リスクは、2018年米国ガイドラインを用いて、以下の順序で評価された;1)アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の有無、2)重度の原発性高コレステロール血症(LDL-Cが190mg/dL以上)、3)糖尿病で、LDL-Cが70~189mg/dL、4)現在LLTを実施中、5)糖尿病およびASCVDを伴わず、LDL-Cが70~189mg/dL。最後の項目については、Pooled Cohort Equations(PCE)を用いて10年間のASCVD発症リスクを推定し、低リスク、ボーダーラインリスク、中リスク、高リスクに分類した。また、臨床的心血管疾患(冠動脈疾患、狭心症、心筋梗塞、脳卒中などの自己申告)の既往が確認された者は「二次予防コホート」、それ以外は「一次予防コホート」と定義された。2019年EUガイドラインおよび2022年米国決定方針についても、2018年米国ガイドラインと同様の手法で層別化とリスク分類を行った。 NHANESの一次予防コホートに該当する1億1630万人のうち、現在LLTを受けている患者は23%であった。これに対し、LLTの適応基準を満たす患者(以下、適応患者)の割合は、2018年米国ガイドラインで47%、2019年EUガイドラインでは87%、2022年米国決定方針では47%と推定され、実施率は推奨に基づく想定を大きく下回っていることが示された。薬剤別に見ると、スタチンでは適応患者(適応率100%)のうち66%が治療を受けていたのに対し、エゼチミブでは適応患者(適応率31~74%)の4%のみが使用など、全ての治療法において、実施率は適応患者数を大きく下回っていた。 また、2018年米国ガイドライン通りにLLTが実施されていれば回避できたと推定される1年当たりの心血管系の有害イベント数は、冠動脈疾患による死亡で3万9,196件、非致死的な心筋梗塞で9万6,330件、冠動脈血行再建術で8万7,559件、脳卒中で6万5,063件に上った。さらに、ガイドラインごとに推定値に差はあるが、スタチン適応の患者全てが同薬を使用すれば平均LDL-C値は急激に低下し、心筋梗塞や脳卒中のリスクは最大で27%低下する可能性や、LLTでこれらのアウトカムを予防すれば、米国の医療費を年間253億~317億ドル(1ドル146円換算で3兆6900億~4兆6300億円)節約できる可能性のあることも示唆された。 研究グループは、患者教育およびスクリーニング方法の改善により、必要な人が確実にスタチンを使用できる体制の構築が重要であると強調している。

2.

心臓発作から回復後にしてはいけないこと

 心臓発作から回復した後に、座位行動の時間が長いほど発作再発や死亡リスクが高く、座位行動を運動または睡眠に置き換えることでそのリスクが抑制される可能性のあることが明らかになった。米コロンビア大学医療センターのKeith Diaz氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に5月19日掲載された。 この研究は、2016~2020年に急性冠症候群(心筋梗塞や不安定狭心症)の症状のために同センター救急外来で治療を受けた成人患者を対象に実施された。退院後30日間にわたり、手首装着型の加速度計を用いて、座位行動や身体活動、および睡眠の時間を測定。また退院1年後に、電話調査や医療記録、死亡記録によって転帰が確認された。解析対象者数は609人(平均年齢62歳〔範囲21~96〕、男性52%)で、1日の座位時間は平均13.6±1.8時間だった。 1年間の追跡で8.2%の患者に何らかのイベント(急性冠症候群の再発または新たな心血管疾患の発症および死亡)の発生が確認された。対象者全体を座位行動時間の三分位に基づき3群に分け、第1三分位群(座位行動時間が短い下位3分の1)を基準にイベント発生リスクを比較すると、第3三分位群(座位行動時間が長い上位3分の1)の人は約2.6倍リスクが高かった。詳しくは、第2三分位群がハザード比(HR)0.95(95%信頼区間0.37~2.40)、第3三分位群がHR2.58(同1.11~6.03)であって、座位行動時間が長いほどハイリスクとなる傾向が示された(傾向性P値=0.011)。 統計学的手法を駆使した検討により、30分間の座位行動をやめて中~高強度の身体活動をしたとすると、イベントリスクが61%低下することが分かった(HR0.39〔0.16~0.96〕)。また、軽度の身体活動に置き換えた場合にも、リスクが51%低下(HR0.49〔0.32~0.75〕)すると計算された。さらに、睡眠に置き換えた場合にも、14%のリスク低下(HR0.86〔0.78~0.95〕)が予測された。 Diaz氏はこの研究の背景として、「現在の治療ガイドラインは、心臓発作後の患者に対して、運動を奨励することに重点を置いている。それに対してわれわれは、座位時間の長さそのものが、心血管リスクを押し上げる可能性があるのではないかと考えた」と語っている。そして得られた結果を基に、「心臓発作を経験した後になにもマラソンを始めることはなく、座る時間を減らし体を動かしたり睡眠を少し増やしたりするだけで大きな違いが生まれるようだ」と総括。「この結果を基に、医療専門家が、より柔軟で個別化されたアプローチを採用するように変化していくのではないか」と付け加えている。 同氏はまた、座位行動を睡眠に置き換えることでもリスクが低下する可能性が示されたことについて、「この結果には驚いた。睡眠は心身の回復に欠かせず、心臓発作のような深刻な健康問題の後には特に重要となるのではないか」と推察している。

3.

日本人中年女性、歩数を増やしても心血管リスクは同じ?

 毎日の歩数と心血管イベントの関連の研究において、中年世代の男女別のデータは少ない。今回、金沢大学の竹治 泰明氏らが7万人以上のコホート研究で解析した結果、男性では歩数が最も多い群(1万歩/日以上)は最も少ない群(4,000歩/日未満)と比べて心血管疾患リスクが大幅に低かったが、女性では関連がみられなかった。この結果は中年男性の心血管疾患リスク軽減のためには毎日1万歩歩くべきという推奨を支持しているが、男女における最適な歩数目標を確立するには大規模な男女別のデータ分析が必要と述べている。Journal of the American Heart Association誌オンライン版2025年5月23日号に掲載。 本研究では、KenCoMヘルスケアデータベース(KenCoMスマートフォンアプリからの歩数データと、健康診断記録および日本の健康保険請求データを組み込んだもの)を用いて、毎日の歩数に関連する心血管イベントリスクの男女差を評価した。KenCoMアプリを用いて参加者を募集・登録し、2016年1月~2021年9月にデータベースに登録した。主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、狭心症、心不全、心房細動を含む複合心血管イベントの5年間の累積発生率とし、イベント発生率を歩数の五分位(第1群:4,000歩/日未満、第2群:4,000~5,999歩/日、第3群:6,000~7,999歩/日、第4群:8,000~9,999歩/日、第5群:10,000歩/日以上)で比較した。 主な結果は以下のとおり。・本研究には7万3,975人(男性5万5,612人、女性1万8,363人)が参加し、平均年齢は44.1±10.1歳であった。・全体では、5年心血管イベントの調整後リスクは第1群と比較して第5群で有意に低かった(調整後ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.77~0.98、p=0.02)。・男女別では、男性では第1群と比較して第5群で心血管イベントの調整後リスクが有意に低かった(調整後HR:0.82、95%CI:0.72~0.94、p=0.004)が、女性ではこの効果は認められなかった。 著者らは本試験の限界として、対象集団が健康アプリユーザーに限定されているため調査結果の一般化が制限される可能性があること、デバイスを携帯していないときの身体活動を過小評価する可能性があること、歩数データを必ずしも連日収集されたわけではないこと、運動中の身体活動強度データやスマートフォンの携帯時間はデータセットに収集されていなかったことを挙げている。

4.

入院させてほしい【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第6回

入院させてほしいPointプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をACSCsという。ACSCsによる入院の割合は、プライマリ・ケアの効果を測る指標の1つとされている。病診連携、多職種連携でACSCsによる入院を減らそう!受け手側は、紹介側の事情も理解して、診療にあたろう!症例80歳女性。体がだるい、入院させてほしい…とA病院ERを受診。肝硬変、肝細胞がん、2型糖尿病、パーキンソン病などでA病院消化器内科、内分泌内科、神経内科を受診していたが、3科への通院が困難となってきたため、2週間前にB診療所に紹介となっていた。採血検査でカリウム7.1mEq/Lと高値を認めたこともあり、幸いバイタルサインや心電図に異常はなかったが、指導医・本人・家族と相談のうえ、入院となった。内服薬を確認すると、消化器内科からの処方が診療所からも継続されていたが、内容としてはスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されており、そこにここ数日毎日のバナナ摂取が重なったことによるもののようだった。おさえておきたい基本のアプローチプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をAmbulatory Care Sensitive Conditions(ACSCs)という。ACSCsは以下のように大きく3つに分類される。1:悪化や再燃を防ぐことのできる慢性疾患(chronic ACSCs)2:早期介入により重症化を防ぐことのできる急性期疾患(acute ACSCs)3:予防接種等の処置により発症自体を防ぐことのできる疾患(vaccine preventable ACSCs)2010年度におけるイギリスからの報告によると、chronic ACSCsにおいて最も入院が多かった疾患はCOPD、acute ACSCsで多かった疾患は尿路感染症、vaccine preventable ACSCsで多かった疾患は肺炎であった1)。実際に、高齢者がプライマリ・ケア医に継続的に診てもらっていると不必要な入院が減るのではないかとBarkerらは、イギリスの高齢者23万472例の一次・二次診療データに基づき、プライマリ・ケアの継続性とACSCsでの入院数との関連を評価した。ケアが継続的であると、高齢者において糖尿病、喘息、狭心症、てんかんを含むACSCsによる入院数が少なかったという研究結果が2017年に発表された。継続的なケアが、患者-医師間の信頼関係を促進し、健康問題と適切なケアのよりよい理解につながる可能性がある。かかりつけ医がいないと救急車利用も増えてしまう。ホラ、あの○○先生がかかりつけ医だと、多すぎず少なすぎず、タイミングも重症度も的確な紹介がされてきているでしょ?(あなたの地域の素晴らしいかかりつけ医の先生の顔を思い出してみましょう)。またFreudらは、ドイツの地域拠点病院における入院患者のなかで、ACSCsと判断された104事例をとりあげ、紹介元の家庭医にこの入院は防ぎえたかというテーマでインタビューを行うという質的研究を行った。この研究を通じてプライマリ・ケアの実践現場や政策への提案として、意見を提示している(表)。地域のリソースと救急サービスのリンクの重要性、入院となった責任はプライマリ・ケアだけでなく、病院なども含めたすべてのセクターにあるという合意形成の重要性、医療者への異文化コミュニケーションスキル教育の重要性など、ERの第一線で働く方への提言も盛り込まれており、ぜひ一読いただきたい。ACSCsは高齢者や小児に多く、これらの提言はドイツだけでなく、世界でも高齢者の割合がトップの日本にも意味のある提言であり、これらを意識した医師の活躍が、限られた医療資源を有効に活用するためにも重要であると思われる。表 プライマリ・ケア実践現場と政策への提言<プライマリ・ケア実践チームへの提言>患者の社会的背景、服薬アドヒアランス、セルフマネジメント能力などを評価し、ACSCsによる入院のリスクの高い患者を同定すること処方を定期的に見直すこと(何をなぜ使用しているのか?)。アドヒアランス向上のために、読みやすい内服スケジュールとし、治療プランを患者・介護者と共有すること入院のリスクの高い患者は定期的に症状や治療アドヒアランスの電話などを行ってモニタリングすること患者および介護者にセルフマネジメントについて教育すること(症状悪化時の対応ができるように、助けとなるプライマリ・ケア資源をタイミングよく利用できるようになるなど)患者に必要なソーシャルサポートシステム(家族・友人・ご近所など)や地域リソースを探索することヘルステクノロジーシステムの導入(モニタリングのためのリコールシステム、地域のリソースや救急サービスのリンク、プライマリ・ケアと病院や時間外ケアとのカルテ情報の共有など)各部署とのコミュニケーションを強化する(かかりつけ医と時間外対応してくれる外部医師間、入退院支援、診断が不確定な場合に相談しやすい環境づくりなど)<政策・マネジメントへの提言>入院となった責任はプライマリ・ケア、セカンダリ・ケア、病院、地域、患者といったすべてのセクターにあるという合意を形成すべきであるACSCsによる入院はケアの質の低さを反映するものでなく、地理的条件や複雑な要因が関係していることを検討しなければならないACSCsに関するデータ集積でエキスパートオピニオンではなく、エビデンスデータに基づいた改善がなされるであろう医療者教育において異文化コミュニケーションスキル教育が重視されるだろう落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls紹介側(かかりつけ医)を、責めない!前に挙げた症例のような患者を診た際には、「なぜスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されているんだ!」とついつい、かかりつけ医を責めたくなってしまうだろう! 忙しいなかで、そう思いたくなるのも無理はない。でも、「なんで○○した?」、「なんで△△なんだ?」、「なんで□□になるんだよ」などと「なんで(why)」で質問攻めにすると、ホラあなたの後輩は泣きだしたでしょ? 立場が違う人が安易に相手を責めてはいけない。後医は名医なんだから。前医を責めるのは医師である前に人間として未熟なことを露呈するだけなのである。まずは紹介側の事情をくみ取るように努力しよう。この症例でも、病院から紹介になったばかりで、関係性もあまりできていないなかでの高カリウム血症であった。元々継続的に診療していたら、血清カリウム値の推移や、腎機能、食事の状況など把握して、カリウム製剤や利尿薬を調節できたかもしれない。また紹介医を責めると後々コミュニケーションが取りにくくなってしまい、地域のケアの向上からは遠ざかってしまう。自分が紹介側になった気持ちになって、診療しよう。Pointかかりつけ医の事情を理解し、診療しよう!起きうるリスクを想定しよう!さらにかかりつけ医の視点で考えていきたい。この方の場合はまだフォロー歴が短いこともあって困難だったが、前医からの採血データの推移の情報や、食事摂取量や内容の変化でカリウム値の推移も予測可能だったかもしれない。糖尿病におけるsick dayの説明は患者にされていると思うが、リスクを想定し、かつ対処できるよう行動しよう。いつもより体調不良があるけど、なかなかすぐには受診してもらえないときには、電話を入れたり、家族への説明をしたり、デイケア利用中の患者なら、デイケア職員への声掛けも有効だろう! そうすることで不要な入院も避けられるし、患者家族からの信頼感アップも間違いなし!!「ERでは関係ない」と思わないで、患者の生活背景を聞き出し、患者のサポートシステム(デイケア・デイサービスなど)への連絡もできるようになると、かっこいい。かかりつけ医のみならず、施設職員への情報提供書も書ける視野の広い医師になろう。Point「かかりつけ医の先生とデイケアにも、今回の受診経過と注意点のお手紙を書いておきますね!」かかりつけ医だけに頑張らせない!入院のリスクの高い患者は、身体的問題だけでなく、心理的・社会的問題も併存している場合も少なくない。そんな場合は、かかりつけ医のみでできることは限られている。患者に必要なソーシャルサポートシステムや地域リソースを患者や家族に教えてあげて、かかりつけ医に情報提供し、多職種を巻き込んでもらうようにしよう! これまでのかかりつけ医と家族の二人三脚の頑張りにねぎらいの言葉をかけつつ(頑張っているかかりつけ医と家族を褒め倒そう!)、多くの地域のリソースを勧めることで、家族の負担も減り、ケアの質もあがるのだ。「そんな助けがあるって知らなかった」という家族がなんと多いことか。医師中心のヒエラルキー的コミュニケーションでなく、患者を中心とした風通しのよい多職種チームが形成できるように、お互いを尊重したコミュニケーション能力が必要だ! 図のようにご家族はじめこれだけの多職種の協力で患者の在宅生活が成り立っているのだ。図 永平寺町における在宅生活を支えるサービス画像を拡大するPoint多職種チームでよりよいケアを提供しよう!ワンポイントレッスン医療者における異文化コミュニケーションについてERはまさに迅速で的確な診断・治療という医療が求められる。患者を中心とした多職種(みなさんはどれだけの職種が浮かぶだろうか?)のなかで、医師が当然医療におけるエキスパートだ。しかし、病気の悪化、怪我・事故は患者の生活の現場で起きている。生活に目を向けることで、診断につながることは多い。ERも忙しいだろうが、「患者さんの生活を普段支えている人たち、これから支えてくれるようになる人たちは誰だろう?」なんて想像してほしい。ERから帰宅した後の生活をどう支えていけばよいかまで考えられれば、あなたは超一流!職能や権限の異なる職種間では誤解や利害対立も生じやすいので、患者を支える多職種が風通しのよい関係を築くことが大事だ。医療者における異文化コミュニケーション、つまり多職種連携、チーム医療は、無駄なER受診を減らすためにも他人ごとではないのだ。病気や怪我さえ治せば、ハイ終わり…なんて考えだけではまだまだだ。もし多職種カンファレンスに参加する機会があれば、積極的に参加して自ら視野を広げよう。ACSCsへの適切な介入とは? ─少しでも防げる入院を減らすために─入院を防ぐためには、単一のアプローチではなかなか成果が出にくく、複数の組み合わせたアプローチが有効といわれている2)。具体的には、患者ニーズ評価、投薬調整、患者教育、タイムリーな外来予約の手配などだ。たとえば投薬調整に関しては、Mayo Clinic Care Transitions programにおいても、皆さんご存じの“STOP/STARTS criteria”を活用している。なかでもオピオイドと抗コリン薬が再入院のリスクとして高く、重点的に介入されている3)。複数の介入となると、なかなか忙しくて一期一会であるERで自分1人で頑張ろうと思っても、入院回避という結果を出すまでは難しいかもしれない。そこで先にもあげたように多職種連携・Team Based Approachが必要だ4)。それらの連携にはMSW(medical social worker)さんに一役買ってもらおう。たとえば、ERから患者が帰宅するとき、患者と地域の資源(図)をつないでもらおう! MSWと連絡とったことのないあなた、この機会に連絡先を確認しておこうね!ACSCsでの心不全の場合は、専門医やかかりつけ医といった医師間の連携はじめ、緩和ケアチームや急性期ケアチーム、栄養士、薬剤師、心臓リハビリ、そして生活の現場を支える職種(地域サポートチーム、社会サービス)との協働も必要になってくる。またACSCsにはCOPDなども多く、具体的な介入も提言されている。有症状の慢性肺疾患には、散歩などの毎日の有酸素トレーニング30分、椅子からの立ち上がりや階段昇降、水筒を使っての上肢の運動などのレジスタンストレーニングなどが有効とされている。家でのトレーニングが、病院などでの介入よりも有効との報告もある。「家の力」ってすごいよね。理学療法士なども介入してくれるとより安心! 禁煙できていない人には、禁煙アドバイスをすることも忘れずに。ERで対応してくれたあなたの一言は、患者に強く響くかもしれない。もちろん禁煙外来につなぐのも一手だ! ニコチン補充療法は1.82倍、バレニクリンは2.88倍、プラセボ群より有効だ5)。勉強するための推奨文献Barker I, et al. BMJ. 2017:84:356-364.Freud T, et al. Ann Fam Med. 2013;11:363-370.藤沼康樹. 高齢者のAmbulatory care-sensitive conditionsと家庭医. 2013岡田唯男 編. 予防医療のすべて 中山書店. 2018.参考 1) Bardsley M, et al. BMJ Open. 2013;3:e002007. 2) Kripalani S, et al. Ann Rev Med. 2014;65:471-485. 3) Takahashi PY, et al. Mayo Clin Proc. 2020;95:2253-2262. 4) Tingley J, et al. Heart Failure Clin. 2015;11:371-378. 5) Kwoh EJ, Mayo Clin Proc. 2018;93:1131-1138. 執筆

5.

ノータッチ静脈採取法、CABGの静脈グラフト閉塞を改善/BMJ

 冠動脈バイパス術(CABG)のグラフト採取において、従来法とは異なりノータッチ静脈採取法(no-touch vein harvesting technique)は、静脈の外膜と血管周囲組織を温存し、vasa vasorum(脈管の脈管)の完全性と内皮機能を保持する。そのため、内皮傷害が最小限に抑えられ、炎症反応が軽減されてグラフトの開存性が向上すると指摘されている。中国医学科学院・北京協和医学院のMeice Tian氏らは、「PATENCY試験」の3年間の追跡調査により、従来法と比較して大伏在静脈のノータッチ静脈採取法はCABGにおける静脈グラフトの閉塞を有意に軽減し、患者アウトカムを改善することを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年4月30日号に掲載された。中国の無作為化試験の3年延長試験 PATENCY試験は、CABGにおけるノータッチ静脈採取法の3年間のアウトカムの評価を目的とする無作為化試験であり、2017年4月~2019年6月に中国の7ヵ所の心臓外科施設で患者を登録した(National High Level Hospital Clinical Research Fundingなどの助成を受けた)。今回は、3年間の延長試験の結果を報告した。 年齢18歳以上で、CABGを受ける患者2,655例(平均[±SD]年齢61±8歳、女性22%、糖尿病36%、3枝病変88.4%、左主幹部病変31.7%)を対象とした。被験者を、CABG施行中に大伏在静脈からのグラフト採取法としてノータッチ静脈採取法を行う群(1,337例)、または従来法によるグラフト採取を行う群(1,318例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、CABG後3年の時点における静脈グラフトの閉塞(CT血管造影で評価)とした。グラフトおよび患者レベルとも閉塞率が有意に良好 術後3年間に、全体の2,621例(99.4%)が臨床的なフォローアップを完了し、2,281例(86.5%)が予定されていたCT血管造影を受けた。 術後3年時のグラフトレベルの静脈グラフト閉塞の割合は、従来法群が9.0%(175/1,953グラフト)であったのに対しノータッチ静脈採取法群は5.7%(114/1,988グラフト)と有意に良好であった(オッズ比[OR]:0.62[95%信頼区間[CI]:0.48~0.80]、絶対群間リスク差:-3.2%[95%CI:-5.0~-1.4]、p<0.001)。 また、全2,655例のITT解析でも、3年後の静脈グラフト閉塞の割合は従来法群に比べノータッチ静脈採取法群で低かった(6.1%vs.9.3%、OR:0.63[95%CI:0.51~0.81]、絶対群間リスク差:-3.1%[95%CI:-4.9~-1.4]、p<0.001)。 3年後の患者レベルの静脈グラフト閉塞の割合は、従来法群の13.3%(152/1,141例)に比べノータッチ静脈採取法群は9.2%(105/1,140例)と有意差を認めた(OR:0.66[95%CI:0.51~0.86]、絶対群間リスク差:-4.11[95%CI:-6.70~-1.52]、p=0.002)。創部の皮膚感覚低下、滲出、浮腫が多い 3年後の臨床アウトカムは、非致死的心筋梗塞(ノータッチ静脈採取法群1.2%vs.従来法群2.7%、p=0.01)、再血行再建術(1.1%vs.2.2%、p=0.03)、狭心症の再発(6.2%vs.8.4%、p=0.03)、心臓関連の原因による再入院(7.1%vs.10.2%、p=0.004)の発生率がノータッチ静脈採取法群で良好であった。一方、全死因死亡(3.8%vs.3.4%、p=0.49)、心臓死(2.6%vs.2.4%、p=0.83)、脳卒中(3.7%vs.3.3%、p=0.55)の発生率には両群間に差はなかった。 退院前の脚創部合併症については、皮膚の感覚低下(23.2%vs.17.8%、p<0.001)、滲出(4.3%vs.1.9%、p<0.001)、浮腫(19.0%vs.12.9%、p<0.001)の頻度がノータッチ静脈採取法群で高かった。壊死、コンパートメント症候群などの重度合併症は発現しなかった。また、3ヵ月の時点で未治癒の脚創傷への外科的介入(10.3%vs.4.3%、p<0.001)はノータッチ静脈採取法群で多かったが、12ヵ月時には追加的外科治療の割合は両群で同程度となった。 著者は、「これらの結果により、ノータッチ静脈採取法は長期間にわたってグラフトの開存性を維持し、心筋梗塞や再血行再建術の発生を抑制することで患者アウトカムの改善をもたらすことが示された」としている。

6.

肝硬変患者において肝硬変自体はCAD発症リスクの増加に寄与しない

 冠動脈疾患(CAD)は肝硬変患者に頻発するが、肝硬変自体はCAD発症リスクの上昇と有意に関連しない可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に2024年11月21日掲載された。 CADは、慢性冠症候群(CCS)と急性冠症候群(ACS)に大別され、ACSには、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、およびST上昇型心筋梗塞(STEMI)などが含まれる。肝硬変患者でのCADの罹患率や有病率に関しては研究間でばらつきがあり、肝硬変とCADの関連は依然として不確かである。 中国医科大学附属病院のChunru Gu氏らは、これらの点を明らかにするために、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。まず、PubMed、EMBASE、およびコクランライブラリーで2023年5月17日までに発表された関連論文を検索し、基準を満たした51件の論文を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、これらの研究で報告されている肝硬変患者のCAD罹患率と有病率、およびCADの関連因子を統合して罹患率と有病率を推定した。また、適宜、オッズ比(OR)やリスク比(RR)、平均差(MD)を95%信頼区間(CI)とともに算出し、肝硬変患者と非肝硬変患者の間でCAD発症リスクを比較した。 51件の研究のうち、12件は肝硬変患者におけるCAD罹患率、39件はCAD有病率について報告していた。肝硬変患者におけるCAD、ACS、および心筋梗塞(MI)の統合罹患率は、それぞれ2.28%(95%CI 1.55〜3.01、12件の研究)、2.02%(同1.91〜2.14%、2件の研究)、1.80%(同1.18〜2.75、7件の研究)と推定された。CAD(7件の研究)、ACS(1件の研究)、MI(5件の研究)の罹患率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、いずれにおいても両者の間に有意な差は認められなかった。 肝硬変患者におけるCAD、ACS、およびMIの統合有病率は、それぞれ18.87%(95%CI 13.95〜23.79、39件の研究)、12.54%(11.89〜13.20%、1件の研究)、6.12%(3.51〜9.36%、9件の研究)と推定された。CAD(15件の研究)とMI(5件の研究)の有病率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、両者の間に有意な差は認められなかったが、ACS(1件の研究)の有病率に関しては、肝硬変患者の有病率が非肝硬変患者よりも有意に高いことが示されていた(12.54%対10.39%、P<0.01)。 肝硬変患者におけるCAD発症と有意に関連する因子としては、2件の研究のメタアナリシスから、糖尿病(RR 1.52、95%CI 1.30〜1.78、P<0.01)および高血圧(同2.14、1.13〜4.04、P=0.02)が特定された。一方、CAD有病率と有意に関連する因子としては、高齢(MD 5.68、95%CI 2.46〜8.90、P<0.01)、男性の性別(OR 2.35、95%CI 1.26〜4.36、P=0.01)、糖尿病(同2.67、1.70〜4.18、P<0.01)、高血圧(同2.39、1.23〜4.61、P=0.01)、高脂血症(同4.12、2.09〜8.13、P<0.01)、喫煙歴(同1.56、1.03〜2.38、P=0.04)、CADの家族歴(同2.18、1.22〜3.92、P=0.01)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、同1.59、1.09〜2.33、P=0.02)、C型肝炎ウイルス(HCV、同1.35、1.19〜1.54、P<0.01)が特定された。つまり、肝硬変患者においては、肝硬変ではなく、古典的に知られている心血管リスク因子、NASH、およびCHCVがCADリスクの上昇と関連があった。 著者らは、「肝硬変の高リスク集団におけるCADのスクリーニングと予防方法を明らかにするには、大規模な前向き研究が必要だ」と述べている。 なお、1人の著者が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」の編集委員であることを明らかにしている。

7.

冠動脈疾患へのPCI、FFRガイド下vs.IVUSガイド下/Lancet

 血管造影に基づく冠血流予備量比(FFR)ガイド下で血行再建の決定やステント最適化を行う包括的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)戦略は、血管内超音波(IVUS)ガイド下PCIと比較して、12ヵ月時の死亡、心筋梗塞または再血行再建術の複合アウトカムに関して非劣性が認められたことを、中国・the Second Affiliated Hospital of Zhejiang University School of MedicineのXinyang Hu氏らが、同国22施設で実施した医師主導の無作為化非盲検非劣性試験「FLAVOUR II試験」の結果で報告した。FFRガイド下での血行再建術の決定またはIVUSを用いたステント留置の最適化は、血管造影のみを用いたPCIと比較し優れた臨床的アウトカムが得られるが、血行再建の判断とステント最適化の両方を単一の手法で行った場合の臨床アウトカムの差は依然として不明であった。著者は、「今回の結果は、FFRガイド下PCIの役割と適応に関して、今後のガイドラインに影響を与えることになるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月30日号掲載の報告。1年後の死亡・心筋梗塞・再血行再建術の複合を比較 研究グループは、虚血性心疾患の疑いがあり、冠動脈造影で2.5mm以上の心外膜冠動脈に50%以上の狭窄が認められる18歳以上の患者を、血管造影によるFFRガイド下PCI群またはIVUSガイド下PCI群に1対1の割合で無作為に割り付けた。割り付けはWebベースのプログラムを用いて行い、試験実施施設および糖尿病の有無で層別化した。 両群とも、事前に規定されたPCI基準とPCI至適目標に基づいて、血行再建術の決定とステント留置の最適化が行われた。 主要アウトカムは、ITT集団における12ヵ月時点の死亡、心筋梗塞または再血行再建術の複合とし、非劣性マージンは累積発生率の群間差(絶対差)が2.5%ポイントとした。FFRガイド下はIVUSガイド下に対して非劣性 2020年5月29日~2023年9月20日に1,872例が登録された。このうち33例が同意撤回または医師の判断で登録中止となり、923例がFFRガイド下PCI群に、916例がIVUSガイド下PCI群に無作為化された。患者背景は、年齢中央値66.0歳(四分位範囲[IQR]:58.0~72.0)、男性1,248例(67.9%)、女性591例(32.1%)などであった。 FFRガイド下PCI群では標的血管990本中688本(69.5%)、IVUSガイド下PCI群では標的血管984本中797本(81.0%)で血行再建術が実施された。 追跡期間中央値12ヵ月(IQR:12~12)において、主要アウトカムのイベントは、FFRガイド下PCI群で56例、IVUSガイド下PCI群54例で確認され(6.3%vs.6.0%、絶対群間差:0.2%[片側97.5%信頼区間[CI]上限:2.4]、ハザード比[HR]:1.04[95%CI:0.71~1.51])であり、FFRガイド下PCIのIVUSガイド下PCIに対する非劣性が認められた(非劣性のp=0.022)。 全死因死亡率は、FFRガイド下PCI群1.8%、IVUSガイド下PCI群1.3%であり、群間差は確認されなかった(絶対群間差:0.4%[95%CI:-0.7~1.6]、HR:1.34[0.63~2.83]、p=0.45)。狭心症の再発率も両群とも低く、それぞれ923例中26例(2.8%)、916例中35例(3.8%)であった。

8.

週2回貼付のアルツハイマー型認知症治療薬「リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg」【最新!DI情報】第37回

週2回貼付のアルツハイマー型認知症治療薬「リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg」今回は、持続放出性リバスチグミン経皮吸収型製剤「リバスチグミン(商品名:リバルエンLAパッチ25.92mg/51.84mg、製造販売元:東和薬品)」を紹介します。本剤は、わが国初の持続放出性のアルツハイマー型認知症の貼付薬であり、介護者の負担軽減やアドヒアランスの改善が期待されています。<効能・効果>軽度および中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはリバスチグミンとして1回25.92mgから開始し、原則として4週後に維持量である1回51.84mgに増量します。本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付します。原則として開始時は4日間貼付し、1枚を3~4日ごとに1回(週2回)貼り替えます。なお、貼付期間は4日間を超えないようにし、週2回行う本剤の貼り替えのタイミング(曜日)は原則固定します。<安全性>重大な副作用として、QT延長(1%未満)、狭心症、心筋梗塞、徐脈、房室ブロック、洞不全症候群、脳卒中、痙攣発作、食道破裂を伴う重度の嘔吐、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃腸出血、肝炎、失神、幻覚、激越、せん妄、錯乱、脱水(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用は、接触性皮膚炎、適用部位紅斑、適用部位そう痒感(5%以上)、食欲減退、期外収縮、悪心、嘔吐、適用部位浮腫、適用部位皮膚炎、適用部位発疹、適用部位水疱、適用部位腫脹、体重減少(1~5%未満)、貧血、不眠症、幻視、易怒性、不整脈、心房粗動、高血圧、腹痛、蕁麻疹、適用部位皮膚剥脱、適用部位湿疹、適用部位蕁麻疹、しゃっくり、耳鳴(1%未満)、尿路感染、好酸球増加症、糖尿病、血尿、疲労、肝機能検査異常など(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、軽度および中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行を遅らせる薬です。2.この薬は、皮膚から有効成分が吸収される貼り薬(パッチ剤)です。3.初めに貼り替える曜日を決めて、1週間に2回、1回1枚、同じ時間に薬を貼り替えてください。4.背中、上腕、胸のいずれかの健康な皮膚に貼ってください。5.貼る場所は毎回変え、同じ場所に貼らないでください。6.貼り忘れに気付いたときは、気付いた時点で新しい薬を貼り、次からはいつもと同じスケジュールで貼り替えてください。<ここがポイント!>アルツハイマー型認知症は、認知症の原因の約6割を占める緩徐進行性の疾患で、記憶障害や複数の認知機能障害が特徴です。この認知機能の低下は、コリン作動性神経機能の低下と関連するといわれており、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が現在の治療の中心です。日本では、これらの薬剤は内服薬と貼付薬で販売されており、通常、1日1~2回の投薬が必要です。アセチルコリンエステラーゼおよびブチリルコリンエステラーゼの阻害薬であるリバスチグミンは、2011年4月に1日1回貼付の貼付薬として承認されました。貼付薬は投薬状況が可視化されるため、内服薬に比べて介護者の負担を軽減することができます。服薬管理の負担を一層軽減するために、さらなる投薬頻度の低減が求められていました。リバルエンLAパッチは、日本初の持続放出性リバスチグミン経皮吸収型製剤であり、週2回の貼付が特徴です。従来の毎日1回の貼付薬に比べ、アドヒアランス向上が期待されます。外国人健康成人57例を対象に、本剤の51.84mg製剤を週2回(4日間と3日間の交互)またはリバスチグミン貼付薬(1日1回貼付)の18mg製剤を1日1回、上背部に11日間反復経皮投与したとき、リバスチグミン貼付薬に対する本剤の幾何平均値の比は、Cmax96-264で1.051(90%信頼区間[CI]:0.984~1.124]、Cmin96-264で1.078(0.978~1.189]、Ctau_264で1.086(1.018~1.158)およびAUC96-264で1.136(1.073~1.203)でした。このことから、51.84mg製剤の週2回投与がリバスチグミン貼付薬の18mg製剤の1日1回投与と同程度の曝露量を示すことが確認されました。軽度および中等度アルツハイマー型認知症患者を対象とした無作為化二重盲検並行群間比較試験(国内第III相試験:NDT-2101試験)において、24週時のADAS-Jcogのベースラインからの変化量の最小二乗平均値は、本剤群で-0.54(95%CI:-1.150~0.065)、リバスチグミン貼付薬群で0.30(-0.306~0.900)で、変化量の群間差は-0.84(-1.695~0.016)でした。群間差の95%CIの上限が事前に設定した非劣性限界値1.1を下回ったことから、リバスチグミン貼付薬群に対する本剤群の非劣性が検証されました。

9.

新たな冠動脈リスク予測モデルで女性のMACEリスクを4段階に層別化可能

 新たに開発された女性の冠動脈リスクスコア(COronary Risk Score in WOmen;CORSWO)は、女性の冠動脈リスクを効果的に層別化し、特に高リスクおよび非常に高リスクの検出に優れていることから、主要心血管イベント(MACE)発生の予測に有効であるとする研究結果が、「Radiology: Cardiothoracic Imaging」に2024年12月5日掲載された。 女性の冠動脈疾患(CAD)の発症は男性と比較して7~10年遅く、非典型的な症状を伴うため、女性におけるMACE発生を予測するツールが求められている。バルデブロン大学病院(スペイン)のGuillermo Romero-Farina氏らは、前向きに収集された臨床データを用いた後ろ向き解析を行い、女性でのMACE発生を予測するためのモデル(CORSWO)を構築し、その予測能を検証した。対象は、2000年から2018年の間に心電図同期SPECT(単一光子放射断層撮影)心筋血流イメージング(gSPECT MPI)を受けた2万5,943人の連続した患者の中から抽出した女性患者2,226人(平均年齢66.7±11.6歳)とし、平均4±2.7年間追跡し、MACE(不安定狭心症、非致死的な心筋梗塞、冠動脈血行再建術、心臓死)の発生を評価した。 対象者は、トレーニング群(65.6%、1,460人)と検証群(34%、766人)に分けられた。まず、トレーニング群のデータから多変量解析によりMACEの予測に有用な変数を特定し、それらを基にLASSO回帰分析と多変量Cox回帰分析を用いてMACEリスクを予測するモデルを構築した。両モデルのROC曲線下面積(AUC)はいずれも0.79であったが、後者の方が変数が少なかったため、最終的にCox回帰モデルを採用した。 次に、1)臨床的変数、2)ストレステスト変数、3)安静時gSPECT MPI変数、4)これらのモデルから得られた予測変数を用いて4つのモデルを構築し、MACE発生のハザード比(HR)を算出するとともに、その予測精度をBrierスコアにより評価した。その上でCox回帰分析により、患者ごとにMACEの年発生率を計算してZスコア(0〜24点)に換算し、リスクレベルを低(年1回未満)、中(年1~2回)、高(年3~5回)、非常に高(年5回以上)に分類した。 その結果、トレーニング群において女性でのMACE発生を予測する最良のモデルは、それぞれのモデルで特定された予測変数を全て組み込んだ4つ目のモデルであり、AUCは0.80(95%信頼区間〔CI〕0.74〜0.84)、Brierスコアは0.08であった。予測変数は、年齢>69歳、糖尿病、硝酸薬使用、心筋梗塞の既往、薬理学的テストの実施、ST低下≧1mm、SRS(安静時心血流スコアの合計)%>9.6、SSS(ストレス時心血流スコアの合計)%>6.6、SDS(SSDとSRSの差)%>5.2、EDV(拡張末期容積)指数>38mL、ESV(収縮末期容積)指数>15mLであった。 トレーニング群で得られたZスコアを検証群に適用したところ、リスクは、低(0〜3点)、中(4〜6点)、高(7〜11点)、および非常に高(>11点)の4段階に層別化された。ROC曲線とBrierスコア分析によりモデルの性能を評価し、さらにCox回帰分析を用いてリスクレベルごとにMACEの発生率を比較した。その結果、低~中リスクと比較して高~非常に高リスクの患者群(HR 5.29、95%CI 3.92〜7.16、P<0.001)で、モデルが良好な予測能を示した(AUC 0.78、95%CI 0.72〜0.80、Brierスコア0.13)。これにより、CORSWOはMACE発生の予測において有用であることが確認された。 著者らは、「CORSWOは、複数の画像検査に基づく情報を必要とするものの、MACEリスクを高リスクおよび非常に高リスクを含む4段階に高い精度で分類できる、効果的なツールである」と述べている。

10.

PCI適応を考察する。人間は本質的に保守的だが、変革を誓います!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第81回

PCIの隆盛と適切性評価の流れ循環器領域のカテーテル治療といえば、PCI(経皮的冠動脈インターベンション)が代表です。急性心筋梗塞に代表される急性冠症候群(ACS)に対して、PCIが果たした役割は大きいものがあります。PCIが考案されるまでは、血行再建術はバイパス手術だけでした。1977年に初めてバルーン血管形成術が行われ半世紀が経過しました。デバイスの進歩、治療技術の確立により、本邦では年間に約25万件のPCIが行われるまで普及しました。とくに薬物溶出性ステントの登場から普及の過程は素晴らしいものでした。最新鋭の治療法とされたPCIも、安定狭心症への適応について厳密な評価が求められる時代がやってきました。その端緒となったのがCOURAGE試験1)です。その結果を踏まえて米国では2011年以降は、適切な適応(appropriate use)のもとでのPCI施行を遵守するために検証が行われるようになりました。さらに、ORBITA試験2)やISCHEMIA試験3)も、安定狭心症へのPCI適応を厳格化すべきという課題を投げかけました。それらの結果を受けて本邦でも、PCI治療の診療報酬算定要件に虚血の証明を行うことが2019年から必須となりました。スタチンなどの薬物療法の進歩により、動脈硬化性プラークの安定化や進行抑制が可能となり、内科的治療によるリスク管理が重視されるようになりました。FFR(冠血流予備量比)を用いた生理学的評価により、病変の機能的意義がより精密に判断できるようになり、肉眼的に狭窄があるだけでは必ずしもPCIを第1選択として施行すべきでないことがわかってきました。世界的には安定狭心症に対するPCI施行数が減少しています。しかし、日本ではこのトレンドが十分に反映されているとは言い難い面があります。依然としてPCI施行数の多さが、医師の技術力や病院の評価につながるような風潮すら存在しています。人間は本質的に保守的である童話作家の新美 南吉(1913~43)の、『おじいさんのランプ』という作品をご存じでしょうか。ネタバレ気味に紹介します。老人(巳之助)が孫(東一)に自身の人生と灯油ランプにまつわる物語を語って聞かせる構成です。東一がかくれんぼをしているときに、蔵の中でランプを見つけ、それをいじっていると、巳之助がやってきて、昔、彼がランプ屋だった頃の話を語りはじめます。当時、少年だったおじいさんは、町で初めてランプを知り、その明るさに感動します。自分の村も明るくしたいという思いから、普及を目指しランプ売りとなります。「畳の上に新聞をおいて読める」と宣伝しながら、文盲であることを恥じた彼は、字を習い書物を読むことを覚えます。時代が進んで、電気によって、ランプが駆逐されるという話に彼は慌てるのです。頑強に反対しましたが、村に電気を引くことが決定します。逆恨みして、電気の導入を決めた区長の家に放火しようとするのです。その時に手元にマッチがなく、不便な火打ち石を持ってきたせいで、火がつけられず、「いざというとき役に立たねえ」と火打ち石に悪態をつくのです。その瞬間、彼はランプが役立っていた時代も終わり電気の時代が来たことを悟り、放火を思いとどまります。家に引き返して、すべてのランプに火を灯して木にぶら下げると石を投げて壊し、泣きながらランプに別れを告げるのです。ランプ屋を廃業し、町に出て本屋を始めます。おじいさんは、東一に諭して結びます。「…それでも世の中が進歩して自分の商売が役に立たなくなったらすっぱりそいつを捨てて、昔にすがりついたり時代を恨んだりしてはいけないんだ」若い時には新進の気性に富んでいた人間も、保守的になることは避けられないのです。過去の栄光に囚われるのではなく、受け入れ難い時代の変化を受け入れ、捨て難い自らの立場や利権を捨てる覚悟決めた巳之助の姿に、潔さと真の強さを感じ、思わず涙します。このストーリーに心動かされるのは、子供よりも大人ではないでしょうか。医師が新しいエビデンスを受け入れ、それに基づいて診療スタイルを変えることは決して容易ではありません。単に技術的な問題ではなく、人間の本質的な特性としての保守性が関係するからです。まず、長年にわたりPCIが最善な治療法とされてきた歴史があります。医師が自らの成功体験を否定することは難しく、PCIで良好な結果を得た過去の経験があると、それを覆すようなエビデンスが出ても、受け入れにくい傾向があります。医療の現場は経済的な要因も絡みます。PCIは比較的高額な治療法であり、病院の収益にとって重要な位置を占めます。新しいエビデンスに基づいて治療方針を抑制的な方向に変換することが、経済的インセンティブと必ずしも一致しないこともあります。しかし、医療は科学的知見に基づくべきものです。変化を促すためには、第一に医師自身が最新のエビデンスを正しく理解し、それに基づいた診療を行う意識を持つことが不可欠です。インターベンション専門医としての葛藤と誓い私は循環器内科医としてPCIを専門とし、多くの患者を治療してきました。今回、この内容の文章を執筆することには葛藤がありました。PCIを盲目的に礼賛し、症例数が増えるような方向性の文章のほうが、短期的には有利な立場も否定はできません。しかし、本当に患者の利益を最優先に考えるなら、PCIの適応を厳格に判断し、不必要な治療を避ける姿勢が必要です。教授職として後進の医療者の育成に携わる立場としても、この視点を重視すべきだと考えます。医師としてのキャリア、患者の利益、経済的側面、倫理的判断の間で葛藤しながらも、「最も患者のためになる選択は何か」を問い続けることを誓います。参考1)Boden WE, et al. N Engl J Med. 2007;356:1503-1516.2)Al-Lamee R, et al. Lancet. 2018;391:31-40.3)Maron DJ, et al. N Engl J Med. 2020;382:1395-1407.

11.

女性を悩ます第3の狭心症や循環器障害の指標とは/日本循環器協会

 日本循環器協会が主催するGo Red for Women Japan健康セミナー「赤をまとい女性の心臓病を考える2025」が、2月8日に東京大学の安田講堂で開催された。循環器疾患において、症状の違いや診断精度、治療法に対する性差がが明らかになっている昨今、日本国内でもそれらを学ぶための機会として、2024年より本イベントが始まった。本稿では、赤澤 純代氏(金沢医科大学総合内科学 臨床教授/女性総合医療センター センター長)と高橋 佐枝子氏(湘南大磯病院 副院長)の講演内容において、とくに患者に知っておいてほしい内容にフォーカスし、お届けする。循環器障害の指標となるむくみ、意識したい身体部位 まず、赤澤氏が「女性の健康と循環~むくみの鑑別と漢方~」と題し、漢方治療において重要な3本柱である気血水の“気”の生成や働き、その異常(気鬱、気逆、気虚)により生じるむくみについて解説。むくみを患者に意識してもらうことは、女性の各ライフステージの健康を考えていくうえでも重要であり、とくに更年期以降の女性の心疾患の罹患率の上昇にも影響を及ぼすことから、「たかがむくみ、されどむくみ」と強調した。むくみ改善のための血管の透過性を整えるための漢方としては、桂皮、桂枝、人参が重要で、治療薬の例として桃核承気湯の気逆への有効性などを挙げた。また、一言でむくみと言っても、その症状にはさまざまな疾患が隠れていることから、一般参加者に向けて、「スネを10秒押しても皮膚の変化が見られない場合は甲状腺機能低下症を、熱感がある場合は蜂窩織炎を、40秒以内に戻る場合は低アルブミン血症を疑う。そして、40秒以上戻らない場合には心疾患や腎疾患が発症している可能性を考慮し、一度、病院受診してほしい」と呼びかけた。このほか同氏は、舌診によりむくみや血流の悪さがわかるので舌の変化にも意識を向けること、1週間で2~3kgの体重変化がないか、などの注意すべき身体変化について啓発した。女性を悩ます第3の狭心症 続いて、高橋氏が「女性に多い微小血管狭心症」について説明した。胸痛を有する患者のうち心臓CTやカテーテル検査で狭窄や閉塞が目視できない患者が存在し、狭心症としての診断が遅れるケースが散見される。その原因が虚血性非閉塞性冠疾患(INOCA:Ischemic Non-obstructive Coronary Artery disease)の1つの微小血管狭心症である。INOCAは2020年にESCからVijay Kunadian氏ら専門家によるコンセンサスドキュメントの発表1)などをきっかけに診断方法などが提唱され、国内でも2015年に発刊された初版が『2023年JCS/CVIT/JCC ガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療』2)にアップデートされている。胸痛があり冠動脈造影にて狭窄を認めなかったのは、男性が30%だったのに対して女性は60~70%に上り、微小血管狭心症の罹患には性差があると示唆されている。同氏は「微小血管狭心症の主な症状として、典型的な狭心症症状以外にも、発作時間が長い、ニトログリセリンの効果が薄い、症状に強弱があったり倦怠感などの訴えもあり循環器系の疾患ではないと診断されることも多い」とコメント。治療法について、「微小血管の循環障害、微小血管攣縮それぞれの治療法があるが、併存している患者も含まれるため、個々の対応が重要」とも説明した。最後に同氏は「微小血管狭心症は女性に多い疾患で、症状が非典型的であるために診断がつきにくいものの確立してきている。治療に関しては患者さんごとのカスタムメイドが必要」と締めくくった。Go Red for Womenとは Go Red for Womenは、“心臓病が女性の最大の死因であることを多くの人に知ってもらう”ために、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性の循環器疾患の予防・啓発のための活動である。「教育」「疾患啓発」の2本柱を中心に、毎年2月第1週金曜日に赤い何かを身に付けるなどして啓発活動を行っている。この活動が今では世界50ヵ国以上に広がっており、国内では日本循環器協会が中心となり2024年よりこの活動がスタートした。今回は上記2名の医師による講演のほか、パネルディスカッションにはタレントの山瀬まみ氏を迎え、一般参加者を盛り上げた。なお、今年は東京会場のほかに大阪・梅田スカイビルでも2月22日に開催が予定されている。

12.

コンサルトを気持ちよくするには【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第3回

コンサルトを気持ちよくするにはPointプレゼンテーションはSNAPPSで。 コンサルト医に何をしてほしいかを明確にする。緊急性がある場合はためらわず即コンサルト。いつもコンサルト医に感謝の気持ちを忘れずに。症例70歳男性。既往に狭心症と糖尿病あり。1時間前にジムで運動中に胸部絞扼感あり。今もなんとなく胸がつらく救急外来を受診した。体温36.5℃ 血圧130/60 mmHg 心拍数58回/分 呼吸数20回/分 SpO2 99% room air じとっと冷や汗あり。当直の研修医Aは心電図をとったけど自分ではよくわからず(ホントはSTEMI!)。今日の当直の上級医は循環器内科の怖い○○先生であったので、とりあえず血液検査をしてから相談することとした。血液検査とルートを確保して15分ほど経ったところ患者さんは呼吸苦を訴え苦しみ始めた。血圧も80mmHg台へ低下、モニターも心室頻拍が数発認められるようになってきた。どうしてよいかわからずテンパりはじめ、看護師さんにも急かされて以下のようにコンサルトした。研修医 A「研修医Aです。70歳の男性が1時間ほど前にジムで運動中に胸部絞扼感があって」上級医 「心電図は?」研修医 A「STは上がってないような気がします」上級医 「ふん」研修医 A「体温36.5℃、血圧130/60mmHg、心拍数58回/分、呼吸数20回/分、SpO2 room airで99%でした。あと既往に狭心症と糖尿病があるようです。血液検査とルートは確保したのですが、先ほどから血圧も80mmHg台に下がりはじめ、モニターにも心室性頻拍のような変な脈が出てて…ちょっとって感じで…」上級医 「お前、最初っからヤバいって言って早く俺を呼べよ! グルァァァァ!」研修医 A(そういうところが怖くて呼べなかったんだよ…泣)おさえておきたい基本のアプローチプレゼンテーションはSNAPPSで!医師として生きる以上どんな診療科、どんな経験年数を積んでも他科、他病院へのコンサルトは必要である。現代医療はすべて自分1人の診察で完結できるわけではない。患者のためを思って、専門科へ適切にタイミングよく、簡潔に礼節をもってコンサルトができるようになろう。とは言ってもどうすればよいのか…わかってたら苦労しないよね。そんなときはSNAPPS(表)でコンサルト!表 SNAPPS画像を拡大するSNAPPSのうちで最も大事なのは、Aで根拠となる病歴と身体所見を述べ、自分の評価・思考過程を提示すること。ここが間違っていれば、コンサルト医が教えてくれ、次の成長につながる。自分の診断や鑑別診断を根拠ももたずに羅列するだけでは成長が望めないのだ。思考過程をきちんと開示することは、コンサルト医も指導しやすくなるんだ。落ちてはいけない・落ちたくないPitfallsコンサルト医に何をしてほしいかを明確に伝えよう医者は皆忙しい(はず)。コンサルトされる側の先生も今自分が行っている仕事の手を止めてまでコンサルトに出向くかどうかは常に気になる。長ったらしい現病歴だけのプレゼンほど、聞いていてげんなりするものはないんだ。「結局何が言いたいんだってばよ!」ってな感じで、「うーん、よくわからないけどとりあえず行くわ!」と言っていただける先生のほうが少数派であろう。明確に何をしてほしいのかを必ず伝えよう(電話で聞きたいだけなのか、診察に来てほしいのかをまず明確に伝えるべし。次に詳細な内容に入る。入院が必要だと思うので診察に来てほしい、次回の外来に回すのでよいか電話相談したい、画像の確認をしてほしい、まったくわからないので助けてほしい、などなど)。「わからないので助けてほしい」と正直に言うことは全然悪くない。「行けばいいのか、行く必要がないのか」がコンサルトされる側が一番気になるところなんだ。話を引っ張って大どんでん返し! なんて展開は推理小説ならいいが、コンサルトではいただけないんだ。Point例:虫垂炎を疑う患者さんを診ているのですが、正直自信がないので、一緒に診察していただけませんか?緊急性がある場合はためらわず即コンサルトST上昇型急性心筋梗塞、t-PA適応である発症4、5時間以内の脳梗塞、絞扼性腸閉塞、開放骨折など今後の緊急処置が必要な疾患と診断したら、即コンサルトしよう。もう少し血液検査を揃えてから、家族に話を聞いてから、もう少しカルテ書いてからなどと引っ張ってしまうと、患者の大切な時間、専門医の先生が患者に介入するまでの時間を奪ってしまう。結局専門医の先生に連絡してからも手術室やカテ室、追加のスタッフ手配など結構時間がかかってしまうんだから。このときのコンサルトのポイントは診断名からさっさと言うこと。あいまいな表現は避けること。現病歴は最低限でOK。専門医の先生に電話して緊急治療のスイッチを入れるのが先だ!専門医の先生が来られたら積極的にお手伝いをすること。電話のときに何かしておくことはありますか? と一言聞いておくのもbetter。その患者のためにできることをみんなでやろう。Point例:発症2時間ほどの脳梗塞の患者さんが来られたので、至急一緒に診察をお願いできますか?いつもコンサルト医に感謝の気持ちを忘れずに夜間のコンサルト、ましてや院外からのoncallとなると専門医の先生もつらい。だって人間だもの。理不尽にコンサルトした側が怒られることもままあるが、あなたは患者のためを思ってコンサルトしたんだ。今後その患者の診療で主役となるのは患者とともに主治医になる専門科の先生だ。患者のために専門科の先生に頭を下げることは恥ずかしいことではない。患者のためを思って堪えるところはグッと堪えよう。ただし、コンサルトしっぱなしということもよくない。コンサルト先の先生が来られたら必ず自分で直接お礼、手短なプレゼン、検査結果などの準備、患者や家族の案内などをしよう。専門科の先生、患者双方が気持ちよく診療できる、診察を受けられる環境を作ることが非常に大切だ。各科特有のキーワードをしっかり押さえておくことも大事だ。共通言語を使わずしてコンサルトはうまくいくはずもない。脳外科ならCTでの出血部位と型、出血量、midline shift、GCS(Glasgow Coma Scale)など。産科なら妊娠歴、出産歴、流産歴など。最初からできるはずもないので、コンサルトのたびにどんな情報を伝えると、専門科が判断しやすいのかその都度教えてもらって成長しよう。Point実るほど頭を垂れる稲穂かな「あーでもなくて、こーでもなくて…はい、全然わかってなくて、すみません」全然わからない症例ってあるよね。とくに社会的な背景が濃い症例は研修医には太刀打ちできない。配偶者虐待、小児虐待、高齢者虐待、高度希死念慮症例、権利意識の強いVIP患者などは、研修医や専門外の医師にとっては、その対応は至難の業だ。わからないのに無駄に時間を引っ張ってはいけないし、そうかといってうまく専門医にプレゼンできるほど評価もできない。大丈夫、上級医はそんなややこしい症例のためにいるのだから。トラブルになりやすい症例は、団体戦で臨むに限るのも本当のことなのだから。心の中で(だるまさんでぇ~す)と叫んで、手も足も出ないことを前面に出し恥も外聞もプライドも捨ててコンサルトすればいい。そのときは、正直に自分は全然わからないことを謝罪し、全力で尻尾を振るかわいい子犬のように愛くるしいまなざしでコンサルトしよう。ここまで降参や服従の意思を見せても、来てくれなければそれは男気のない〇〇医者ということ(失礼!)。ほとんどの医者は優しく、きちんと助けてくれる、または一緒に悩んでくれるから大丈夫。電話を掛けただけでコンサルト終了ではない専門医に電話をした段階で患者に対する責任は移ったと思ってはいけない。あくまでもコンサルト医が病院に到着して、患者を診て初めて責任の所在が移るんだ。電話で呼び出して、その後患者を放置して、他の患者に手をとられて、患者のことを忘れてしまうと、とんでもないことになってしまうことがある。病態は刻々変化しうるのだ。コンサルト医だってさまざまな理由で遅れてしまうこともある。コンサルト医が病院へ向かう途中で事故にでもあえば、遅くなるのは必定ではないか。風呂に入っていたら、案外急いでも時間がかかる。嫁さんに「また夜中に出ていくの。私と仕事とどっちが大事なの」なんて夫婦の修羅場にあっているかもしれない。コンサルト医が病院に到着するまでは、何が何でも初療医が患者の責任を負う必要があるんだよ。勉強するための推奨文献Wolpaw T, et al. Acad Med. 2009;84:517-524.Bothwell J, et al. Ann Emerg Med. 2020;76:e29-e35.(コンサルトする側、コンサルトされる側双方のTipsがちりばめられたgood review)林寛之 著. Dr.林の当直裏御法度-ER問題解決の極上Tips90 第2版. 三輪書店;2018.寺澤秀一 著. 話すことあり、聞くことあり-研修医当直御法度外伝. CBR;2018.増井伸高 編・著. 救急現場から専門医へ あの先生にコンサルトしよう!. 金芳堂;2021.執筆

13.

無症状の重症大動脈弁狭窄症に対する早期介入は有効か?―EVOLVED 無作為化臨床試験(解説:佐田政隆氏)

 大動脈弁狭窄症(AS)患者は社会の高齢化と共に急速に増えている。ASの予後は非常に不良なことが知られており、自覚症状が出現してから突然死などで死亡するまでの期間は短い。狭心症や失神では3年、息切れでは2年、うっ血性心不全では1.5~2年で亡くなるといわれている。有効な薬物療法はなく、人工弁置換術が唯一の治療法である。従来、高齢者や合併症を持った患者では、人工心肺を用いた開胸による外科的大動脈弁置換術(SAVR)に耐えられない症例が多かった。近年では、比較的低侵襲で行われる経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の治療成績が飛躍的に向上し急速に普及している。100歳を超えた成功例も数多く報告されている。 しかし、無症状で偶発的に発見されたASに対して弁置換術を施行することの予後改善効果や医療経済的価値が問題視されている。ASの病態が進行性で予後不良であることで毎回引用される、J. Ross JrとE. Braunwaldによる1968年のCirculation誌の論文は、何と57年前のものであるうえ、当時のASの主な原因は溶連菌感染症によるリウマチ熱の後遺症であるリウマチ性弁膜症であった。現在問題になっている、高齢者石灰化大動脈弁狭窄症の自然経過に関する研究は倫理的な問題からなされていない。 同じように、冠動脈疾患に対する早期のカテーテルインターベンションについても、その意義が議論されてきた。2019年に報告されたISCHEMIA試験では、中等度以上の虚血が認められた患者において、早期の侵襲的治療戦略は、薬物療法で管理する保守的治療戦略と比較し、心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症/心不全による入院、心停止後の蘇生の複合イベントのリスク抑制は認められなかったことが、医療現場に大きなインパクトを与えた。 このような状況下に行われたのが、本EVOLVED試験である。英国とオーストラリアの24施設で、224例の心筋線維化(高感度トロポニンIの上昇か、心エコー図検査で左室肥大、心臓MRI検査での遅延造影のうち1つが陽性)を伴った無症候性重症AS患者が、人工弁による早期介入(SAVRまたはTAVI)、もしくは、ガイドラインに沿った保守的管理に振り分けられ、中央値で42ヵ月観察された。主要評価項目である、心血管死と大動脈弁狭窄症に起因する予期せぬ入院では有意差がみられなかった。 注意すべき点としては、保守的管理に振り分けられても、中央値として20.2(11.4~42.0)ヵ月後に人工弁置換術に移行している。人工弁置換の55%がSAVR、45%がTAVIであった。人工弁置換術に移行した理由の72%が症状の出現、15%が緊急の入院手術のためであった。30日死亡率は0%であった。 また、無症候性の患者がエントリーされたとはいえ、フォローアップ1年後、保守的管理群でNYHA II度、III度、IV度の割合が多く、早期介入によってQOLの改善が得られたことになる。 今回の研究は、対象患者数が比較的少なく、観察期間も必ずしも十分長いとはいえない。TAVIの手術成績が向上した現在、無症候性の重症AS患者を紹介されることが多いが、どのように治療手段を選択すべきか指針を作成するための、今後の各種臨床試験の結果が待たれる。

14.

安定胸痛への冠動脈CTA管理、10年後アウトカムを改善/Lancet

 安定胸痛患者に対する冠動脈CT血管造影(CCTA)による管理は、10年後も冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の持続的な減少と関連していた。英国・エディンバラ大学のMichelle C. Williams氏らSCOT-HEART Investigatorsが、スコットランドの循環器胸痛クリニック12施設で実施した無作為化非盲検並行群間比較試験「Scottish Computed Tomography of the Heart trial:SCOT-HEART試験」の10年追跡の結果を報告した。SCOT-HEART試験についてはこれまでに、CCTA管理により5年間の冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞のリスクが約4割低下することが示されていた。著者は、「CCTAによる冠動脈アテローム性動脈硬化症の同定は、安定胸痛患者の長期的な心血管疾患予防を改善する」とまとめている。Lancet誌2025年1月25日号掲載の報告。SCOT-HEART試験10年間の解析 研究グループは、冠動脈心疾患による症候性の安定狭心症の疑いのある18~75歳の患者を、標準治療+CCTA併用群または標準治療単独群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 今回の10年間の解析は事前に規定されたもので、eDRIS(electronic Data Research and Innovation Service)を介してスコットランド公衆衛生局(Public Health Scotland)より臨床アウトカムに関する情報を入手し、必要に応じて医療記録を確認するとともに、薬剤の使用に関する情報はPrescribing Information Systemから得た。 主要アウトカムは、冠動脈心疾患死または非致死的心筋梗塞の発生、副次アウトカムは全死因死亡、心血管死、冠動脈心疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中などで、ITT解析を行った。10年後も冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞が減少 2010年11月18日~2014年9月24日に、4,146例が登録され(平均年齢57[SD 10]歳、男性2,325例[56.1%]、女性1,821例[43.9%])、2,073例が標準治療+CCTA併用群に、2,073例が標準治療単独群に割り付けられた。 追跡期間中央値10.0年(四分位範囲:9.3~11.0)において、冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生は、CCTA併用群137例(6.6%)、標準治療単独群171例(8.2%)であり、CCTA併用群における減少が維持されていた(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.63~0.99、p=0.044)。 全死因死亡、心血管死、冠動脈心疾患死および非致死的脳卒中の発生は両群間で差はなかったが(すべてp>0.05)、非致死的心筋梗塞(90例[4.3%]vs.124例[6.0%]、HR:0.72[95%CI:0.55~0.94]、p=0.017)および主要有害心血管イベント(172例[8.3%]vs.214例[10.3%]、0.80[0.65~0.97]、p=0.026)はCCTA併用群のほうが少なかった。 また、冠動脈血行再建術の施行は同程度であったが(315例[15.2%]vs.318例[15.3%]、HR:1.00[95%CI:0.86~1.17]、p=0.99)、予防的治療薬の処方はCCTA群のほうが多かった(有効なデータのある患者1,486例中831例[55.9%]vs.1485例中728例[49.0%]、オッズ比:1.17[95%CI:1.01~1.36]、p=0.034)。

15.

肥満は服薬遵守と独立した負の関連因子―国内CVD患者対象研究

 心血管疾患(CVD)患者を対象に、服薬遵守状況(アドヒアランス)を主観的指標と客観的指標で評価した研究結果が報告された。客観的指標に基づきアドヒアランス良好/不良に分けた2群間で主観的指標には有意差がないこと、および、肥満がアドヒアランス不良に独立した関連のあることなどが明らかにされている。福岡大学筑紫病院薬剤部の宮崎元康氏らの研究によるもので、詳細が「Pharmacy」に10月6日掲載された。 慢性疾患では服薬アドヒアランスが低下しやすく、そのことが予後不良リスクを高めると考えられる。しかし服薬アドヒアランスを評価する標準的な手法は確立されておらず、主観的な手法と客観的な手法がそれぞれ複数提案されている。例えば主観的評価法の一つとして国内では、12項目の質問から成るスケールが提案されている。ただし、そのスケールでの評価結果と、残薬数から客観的に評価した結果との関連性は十分検討されておらず、今回の宮崎氏らの研究は、この点の検証、およびCVD患者の服薬アドヒアランス低下に関連のある因子を明らかにするために実施された。 研究の対象は2022年6~12月に同院循環器科外来へ2回以上受診していて、残薬数に基づき客観的にアドヒアランスの評価が可能な患者のうち、研究参加協力を得られた94人。医師-患者関係の違いによる影響を除外するため、1人の医師の患者のみに限定した。 前述のように主観的な評価には12項目のスケールを採用。これは60点満点でスコアが高いほどアドヒアランスが良好と判断する。一方、客観的な評価に用いた残薬カウント法は、評価期間中の2回目の受診時の残薬数を前回の処方薬数から減算した値が、処方薬数に占める割合を算出して評価するもので、残薬がゼロであれば遵守率100%となる。本研究では100%をアドヒアランス良好、100%未満を不良と定義した。 解析対象者の主な特徴は、年齢中央値74歳(四分位範囲67~81)、男性55.3%、肥満(BMI25以上)36.2%であり、処方薬数は中央値4(同2~7)で、降圧薬(84.0%)、脂質低下薬(59.6%)、抗血栓薬(38.3%)、血糖降下薬(29.8%)などが多く処方されていた。また17.0%の患者への処方は、1包化(1回に服用する薬剤を1袋にすること)されていた。 94人のうち49人が、客観的手法である残薬カウント法により、アドヒアランス良好と判定された。アドヒアランス良好群の主観的評価スコアは中央値51点(四分位範囲44~56)であり、対してアドヒアランス不良群の主観的評価スコアは同50点(45~54)で、有意差が見られなかった(P=0.426)。 次に、残薬カウント法に基づくアドヒアランス良好群と不良群の背景因子を比較すると、単変量解析では肥満(P=0.014)と喫煙歴(P=0.043)に有意差が認められ、いずれもアドヒアランス不良群にそれらの該当者が多かった。この2項目のほかに、非有意ながら大きな群間差(P<0.1)が認められた因子(日常生活動作〔ADL〕、独居、狭心症治療薬の処方)、およびアドヒアランスの主観的評価スコアを独立変数とし、残薬カウント法によるアドヒアランス不良を従属変数として、ロジスティック回帰分析を施行。その結果、肥満のみが有意な関連因子として抽出された(オッズ比3.527〔95%信頼区間1.387~9.423〕)。喫煙歴(P=0.054)と狭心症治療薬の処方(P=0.052)の関連はわずかに有意水準未満であり、主観的評価スコアは関連が認められなかった(P=0.597)。 以上の総括として著者らは、「主観的な手法と客観的な手法による服薬アドヒアランスの評価が矛盾する結果となった。よって臨床においては双方の指標を使用したモニタリングが必要と考えられる。また、肥満は残薬カウント法で判定したアドヒアランス不良に独立した関連のある因子であり、肥満を有するCVD患者には特に入念なモニタリングが求められる」と述べている。

16.

造影剤アナフィラキシーの責任は?【医療訴訟の争点】第7回

症例日常診療において、造影剤を使用する検査は多く、時にその使用が不可欠な症例もある。しかしながら、稀ではあるものの、造影剤にはアナフィラキシーショックを引き起こすことがある。今回は、造影剤アレルギーの患者に造影剤を使用したところアナフィラキシーショックが生じたことの責任等が争われた東京地裁令和4年8月25日判決を紹介する。<登場人物>患者73歳・男性不安定狭心症。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後。原告患者本人(常に両手がしびれ、身体中に痛みがあり、自力歩行ができない状態)被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成14年(2002年)11月不安定狭心症と診断され、冠動脈造影検査(CAG)にて左冠動脈前下行枝に認められた99%の狭窄に対し、PCIを受けた。平成20年(2008年)1月再び不安定狭心症と診断され、CAGにて右冠動脈に50~75%、左冠動脈前下行枝に50%、左冠動脈回旋枝に75%の狭窄が認められ、薬物治療が開始された。平成23年(2011年)1月CAGにて右冠動脈に75%、左冠動脈前下行枝に75%、左冠動脈回旋枝に75%の狭窄が認められ、PCIを受けた。平成29年(2017年)2月28日心臓超音波検査にて、心不全に伴う二次性の中等度僧帽弁閉鎖不全と診断された。3月9日CAGにて右冠動脈に75%、左冠動脈回旋枝に50%の狭窄が認められた。このとき、ヨード造影剤(商品名:イオメロン)が使用され、原告は両手の掻痒感を訴えた。被告病院の医師は、軽度のアレルギー反応があったと判断し、PCIを行うにあたってステロイド前投与を実施することとした。3月14日前日からステロイド剤を服用した上で、ヨード造影剤(イオメロン)を使用してPCIが実施された。アレルギー反応はみられなかった。令和元年(2019年)7月19日ヨード造影剤(オムニパーク)を用いて造影CT検査を実施。使用後、原告に結膜充血、両前腕の浮腫および体幹発赤が見られ、造影剤アレルギーと診断された。9月17日心臓超音波検査にて、左室駆出率が20%に低下していることが確認された。9月25日前日からステロイド剤を服用した上で、CAGのためヨード造影剤(イオメロン)が投与された(=本件投与)。その後、収縮期血圧50 mmHg台までの血圧低下、呼吸状態の悪化が出現し、アナフィラキシーショックと診断された。CAGは中止となり、集中治療室で器械による呼吸補助、昇圧剤使用等の処置が実施された。9月26日一般病棟へ移動10月3日退院実際の裁判結果本件では、(1)ヨード造影剤使用の注意義務違反、(2) ヨード造影剤使用リスクの説明義務違反等が争われた。本稿では、主として、(1) ヨード造影剤使用の注意義務違反について取り上げる。裁判所は、まず、過去の最高裁判例に照らし「医師が医薬品を使用するに当たって、当該医薬品の添付文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される」との判断基準を示した。そして、本件投与がされた令和元年9月時点のイオメロンの添付文書に「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に対しての投与は禁忌と記載されていたことを指摘した上で、原告が過去にヨード造影剤の投与により、両手の掻痒感の症状が生じていたことや、結膜充血、両前腕の浮腫および体幹発赤の症状が生じたことを指摘し、原告は投与が禁忌の「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に当たるとした。そのため、裁判所は「被告病院の医師は、令和元年9月、原告に対してヨード造影剤であるイオメロンを投与し(本件投与)、その結果、原告はアナフィラキシーショックを起こしたから、上記添付文書の記載に従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、被告病院の医師の過失が推定される」とした。上記から、過失の推定を覆す事情が認められるかが問題となるが、裁判所は、主として以下の3点を指摘し、「実際の医療の現場では、本件提言を踏まえて、過去のアレルギー反応等の症状の程度、ヨード造影剤の投与のリスク及び必要性を勘案して、事例毎にヨード造影剤の投与の可否が判断されていた」と認定した。(1)日本医学放射線学会の造影剤安全性管理委員会は、ヨード造影剤に対する中等度又は重度の急性副作用の既往がある患者に対しても、直ちに造影剤の使用が禁忌となるわけではなく、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案してヨード造影剤の投与の可否を判断する旨の提言を出していること(2)被告病院は、提言を踏まえ、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案してヨード造影剤の投与の可否を判断していたほか、急性副作用発生の危険性低減のためにステロイド前投与を行うとともに、副作用発現時への対応を整えていたこと(3)「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に対してもリスク・ベネフィットを事例毎に勘案してヨード造影剤の投与の可否を判断していた病院は、他にもあったことその上で裁判所は、「過去のアレルギー反応等の症状の程度、ヨード造影剤の投与のリスク及び必要性等の事情を勘案して原告に対して本件投与をしたことが合理的といえる場合には、上記特段の合理的理由(注:添付文書の記載に従わなかった合理的理由)があったというべき」とした。そして、投与が合理的か否かについて、以下の点を指摘し、投与の合理性を認めて過失を否定した。過去のアレルギー反応等の症状の程度は、軽度又は中等度に当たる余地があるものであったこと原告に対しては心不全の原因を精査するために本件投与をする必要があったこと被告病院の医師は、ステロイド前投与を行うことによって原告にアレルギー反応等が生じる危険性を軽減していたこと被告病院では副作用が発現した時に対応できる態勢が整っていたこと注意ポイント解説本件では、添付文書において「禁忌」とされている「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に対してヨード造影剤が投与されていた。この点、医師が医薬品を使用するに当たって添付文書に記載された使用上の注意事項に従わなかったことによって医療事故が発生した場合には、添付文書の記載に従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるとするのが判例である(最高裁平成8年1月23日判決)。このため、添付文書で禁忌とされている使用をした場合、推定された過失を否定することは一般には困難である。本件は、この過失の推定が覆っているが、このような判断に至ったのは、学会の造影剤安全性管理委員会が、ヨード造影剤に対する中等度又は重度の急性副作用の既往がある患者に対しても、直ちに造影剤の使用が禁忌となるわけではないとし、添付文書の記載どおりに禁忌となるわけではない旨の提言をしていたこと被告病院だけでなく、他の病院も、提言を踏まえ、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案して投与の可否を判断していたことという事情があり、禁忌であっても諸事情を考慮して使用されているという医療現場の実情を立証できたことが大きい。この点に関してさらに言えば、医療慣行が当然に正当化されるわけではない(医療慣行に従っていても過失とされる場合がある)ため、学会の提言を起点として、他の病院でも同様の対応をしていたことが大きな要素と考えられる。これは学会の提言に限らず、ガイドラインのような一般化・標準化されたものであっても同様と考えられる。もっとも、学会やガイドラインが、添付文書で禁忌とされている医薬品の使用について明記するケースは非常に少ないため、本判決と同様の理論で過失推定を覆すことのできる例は多くはないと思われる。そのため、多くの場合は、添付文書の記載と異なる対応を行うことに医学的合理性があること、及び、類似の規模・特性の医療機関においても同様に行っていること等をもって過失の推定を覆すべく対応することとなるが、その立証は容易ではない。したがって、添付文書の記載と異なる使用による責任が回避できるとすれば、それは必要性とリスク等を患者にきちんと説明して同意を得ている場合がほとんどと考えられる。医療者の視点われわれが日常診療で使用する医薬品には副作用がつきものです。とくにアナフィラキシーは時に致死的となるため、細心の注意が必要です。今まで使用したことがある医薬品に対してアレルギーがある場合、そのアレルギー反応がどの程度の重症度であったか、ステロイドで予防が可能であるか、などを加味して再投与を検討することもあるかと思います。「前回のアレルギーは軽症であったろうから今回も大丈夫だろう」「ステロイドの予防投与をしたから大丈夫だろう」と安易に考え、アレルギー歴のある薬剤を再投与することは、本件のようなトラブルに進展するリスクがあり要注意です。医薬品にアレルギー歴がある患者さんに対しては、そのアレルギーの重症度、どのように対処したか、再投与されたことはあるか、あった場合にアレルギーが再度みられたか、ステロイドの予防投与でアレルギーを予防できたか、等々の詳細を患者さんまたは家族からしっかりと聴取することが肝要です。そのうえで、医薬品の再投与が可能かどうかを判断することが望ましいです。Take home message「ヨード又はヨード造影剤に過敏症の既往歴のある患者」に対するヨード造影剤の使用は、学会の提言に従い、リスク・ベネフィットを事例毎に勘案し、リスク発症時の態勢等を整えた上で対応されていれば、責任を回避できる場合もある。もっとも、一般に、添付文書の記載と異なる使用による事故の責任を回避することは容易でないため、必要性とリスクについて患者に対する説明を尽くすことが重要である。キーワード医療水準と医療慣行裁判例上、医療水準と医療慣行とは区別されており、「医療水準は医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない」とされている。このため、たとえば、他の病院でも添付文書の記載と異なる使用をしているという事情があるとしても、そのことをもって添付文書の記載と異なる使用が正当化されることにはならず、正当化には医学的な裏付けが必要である。

17.

第240回 消費者向け「遺伝子検査」を受けて思わず動揺!その分析結果とは

消費者向け(Direct-to-Consumer:DTC)遺伝子検査について目にしたことがある医療者も少なくないだろうと思う。私もこれまでネット上で目にはしていたが、眉唾モノとの印象が強く、完全無視を決め込んでいた。しかし、ある取材でこれを受けなければならなくなった。編集者が「早い・安い」で申し込んだ検査キットが届いたのは、今から約1ヵ月前。検査キットと言っても唾液採取のための容器とその補助装備、さらにID・パスワードが書かれた紙が入っていただけだ。まず、そのID・パスワードで検査会社のウェブサイトにアクセスし、個人情報や生活習慣、飲酒・喫煙歴、両親の出身地、自分と親の既往歴などについての簡単なアンケートに回答する。そのうえで同封されていた容器に自分の唾液を充填し、ポストに投函。翌日には検体が無事届いたとのメールが入り、それから1週間で自分のメールアドレスに検査結果終了の案内メールが届いた。体質分析の結果早速アクセスしてみた。200項目超の体質の項目を見る。大まかな項目は以下のとおり。基礎代謝量…高  肥満リスク…低  筋肉の発達能力…高短距離疾走能力…低  有酸素運動適合性…低  運動による減量効果…高アルコール代謝…普通  酒豪遺伝子(意味不明だが)…普通  二日酔い…低アルコール消費量…多  アルコール依存症リスク…中  ワインの好み…赤肌の光沢…低  肌のしわ…多  AGA発症リスク…低まあ、基礎代謝に関しては高いのかどうかわからないが、かつて幼少期の娘からは「お父さんと一緒に寝ていると、お布団の中がコタツを最強にした感じで、冬でも汗をかく」と言われたことがある。体質では「登山家遺伝子」なる項目もあり、そこは“高所登山家タイプ”となっていた。体質の食習慣に関する評価項目では、なぜか芽キャベツと甘いものは好まないとの評価だった(私は仕事場近くの焼き鳥・焼きとん屋に行き、野菜串焼きに芽キャベツがあると喜んで注文し、ムシャムシャ食べてしまうのだが…)。飲酒については、実生活と明確に異なるのは、私の好みのワインは「白」という点だ。肌については自覚がある。男性型脱毛症(AGA)の発症は確かに今のところその兆しはない。しかし、ここまで来ると、大きなお世話と言いたくもなる。いずれにせよ当たらずとも遠からずというか、当たっていると言えるものもあれば、明らかに違うと言えるものもある。ただ、自分の体のことはわかっているようで、わかっていない部分もあるので何とも言えない。性格分析の結果そして性格についても分析があり、同じ項目について事前アンケートの結果と検査結果が並列で記載がある。こちらもアンケート結果と検査結果がほぼ同一のものもあれば違うものもある。どちらかといえばほぼ同一のものがほとんどである。そして「総合性格タイプ」は、持ち前のタフな精神力で、自分の好奇心に従って未知の世界へどんどん飛び込んでいける“サバイバルYouTuber”タイプとの評価である。まあ、当たっていると言えなくもないが、同時にYouTuberと一緒にされるのもなんだかなという感じである。165疾患のリスク、その結果は…さてこの検査の本丸、というか受ける人の多くが気にするであろうと考えられるのが疾患リスクである。私の受けた検査では、「予防」なる大項目があり、さらに一般疾患と各種がんの合計165疾患についてリスクが表示されている。このリスク表示、疾患ごとにオッズ比のような数値と大、中、小の3段階の定性的表現で発症リスクが示してあった。がんの項目を見ていくと、ほとんど問題はなさそうである。が、後半にスクロールしている手が止まった。多発性骨髄腫の発症リスクが「大」とある。思わず「はあ?」と声が漏れてしまった。一瞬動揺してしまうと同時に、検査結果を見る当事者をそういう心理状況に置く結果通知をラーメン店の券売機にある「小」「並」「大」にも似たざっくりした表現で示された腹立たしさも入り混じった何とも言えない不快感である。さて当然のことながら多発性骨髄腫を知らぬわけはない。化学療法が奏功しやすい血液がんの中でも難治で知られるがんである。少なくとも数年前の5年相対生存率は50%未満だ。ちなみにこれ以外でも一般疾患では、痛風、狭心症、そしてなぜか慢性C型肝炎もリスク大と判定された(というか、C型肝炎に未感染であることはたまたま最近行ったある検査で判明している)。だが、やはり多発性骨髄腫のリスク大のインパクトが一番大きい。発症するとかなりの痛みを伴うことや激烈な化学療法が必要になること、そして治癒もコントロールも難しいことがわかっているからだ。もっともDTC遺伝子検査は、正確に言えば遺伝子そのものを調べているわけではなく、「一塩基多型(SNP、スニップ)」と疾患に関する相関を調べた研究を基にリスク判定しているため、各種固形がんや遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)のような発症や増悪に関与する遺伝子変異の検査に比べれば、当たるも八卦当たらぬも八卦の域であることは私自身も百も承知である。ただ、実はちょっとだけ安堵感もあった。血液内科専門医の皆さんならご存じのように、昨今、この疾患では新薬開発が活発で治療選択肢も増えているからだ。治療法によっては5年相対生存率も60%近くまで伸びている。そんなこんなで日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン2023」に記載された多発性骨髄腫のパートを改めて通読してみた。私にとってこれはこれで改めて知識の整理ができる利点もあった。ただ、ガイドラインで示されている治療の実際は、やはり文字で読んでいるだけでもきつそうである。とはいえ、今後本当に多発性骨髄腫を発症したとしても「あの時、ああいう結果が出てたしな」という感じで受け止められると考えれば、この検査が自分にとって無意味だったとまでは言えない。神社でおみくじを引いて、「凶」と出た直後にケガをしたら、「おみくじは凶だったし」と自分を納得させようとすることとどこか似ている。一部の専門家がDTC遺伝子検査の持つ不確実性を踏まえ、「占い」と評してしまうのはそうしたところにも起因しているのかもしれない。ただし、私のように割り切れる人はどれだけいるだろうか? 気弱な人、生真面目な人ならばそうは簡単に割り切れない危険性は十分にある。そのように考えると、まったく科学的根拠がないわけではないとはいえ、ただ唾液を投函してこのような結果が示されるという今の在り方は、もう少し改善することも必要なのではないかとも考え始めている。

18.

寄り道編(14)狭心症治療薬の歴史【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第63回

 ※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事64巻2号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(14)狭心症治療薬の歴史Questionニトログリセリンからダイナマイトを開発したことを後悔したアルフレッド・ノーベルが晩年に処方された薬は?

19.

第243回 ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連

ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連勃起不全(ED)薬としてよく知られるタダラフィルやシルデナフィル使用と死亡、心血管疾患、認知症の減少との関連がテキサス大学医学部(UTMB)のチームの研究で示されました1,2)。タダラフィルとシルデナフィルはどちらもPDE5阻害薬であり、血流改善・血圧低下・内皮機能向上・抗炎症作用により心血管の調子をよくすると考えられています。それら成分は肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療にも使われ、タダラフィルは前立腺肥大症に伴う下部尿路症状の治療薬としても発売されています。UTMBのDietrich Jehle氏らの今回の研究は世界中の2億7,500万例超の臨床情報を集めるTriNetXに収載の米国男性5千万例の記録を出発点としています。それら5千万例から、ED診断後のタダラフィルかシルデナフィル処方、または下部尿路症状診断後のタダラフィル処方があった40歳以上の男性が同定されました。3年間の経過を比較したところ、タダラフィルかシルデナフィルが処方されたED患者は、非処方患者に比べて死亡、心血管疾患、認知症の発生率が低いことが示されました。具体的には50万例強の解析で以下のような結果が得られており、血中でより長く活性を保つタダラフィルがシルデナフィルに比べて一枚上手でした。全死亡率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは24%低下心臓発作発生率タダラフィルは27%低下、シルデナフィルは17%低下脳卒中発生率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは22%低下静脈血栓塞栓症(VTE)発生率タダラフィルは21%低下、シルデナフィルは20%低下認知症発生率タダラフィルは32%低下、シルデナフィルは25%低下下部尿路症状患者のタダラフィル使用は一層有益でした。40歳以上の下部尿路症状患者100万例超のうち、タダラフィル使用群の死亡、心臓発作、脳卒中、VTE、認知症の発生率はそれぞれ56%、37%、35%、32%、55%低くて済んでいました。やはり米国のED男性を調べた別の観察試験3,4)でもPDE5阻害薬やタダラフィルと死亡や心血管疾患の減少の関連が示されています。今春2月にClinical Cardiology誌に結果が掲載されたその1つ3)ではEDと診断されてタダラフィルが処方された男性8千例強(8,156例)とPDE5阻害薬非処方の2万例強(2万1,012例)が比較され、タダラフィル使用群の心血管転帰(心血管死、心筋梗塞、冠動脈血行再建、不安定狭心症、心不全、脳卒中)の発生率がPDE5阻害薬非使用群に比べて19%低いことが示されました。また、タダラフィル使用患者の死亡率は44%低くて済んでいました。タダラフィルと心血管転帰の発生率低下の関連は用量依存的らしく、同剤の使用量が上位4分の1の患者は心血管転帰の発生率が最小でした。有望ですがあくまでもレトロスペクティブ試験の結果であり、次の課題として男性と女性の両方でのプラセボ対照無作為化試験が必要だと著者は言っています3)。参考1)Jehle DVK, et al. Am J Med. 2024 Nov 10. [Epub ahead of print]2)Study finds erectile dysfunction medications associated with significant reductions in deaths, cardiovascular disease, dementia / The University of Texas Medical Branch 3)Kloner RA, et al. Clin Cardiol. 2024;47:e24234.4)Kloner RA, et al. J Sex Med. 2023;1:38-48.

20.

冠動脈にワイヤーを入れて行う心筋虚血評価は、もうちょっと簡単にならないのか?(解説:山地杏平氏)

 QFR(Quantitative Flow Ratio、定量的冠血流比)とFFR(Fractional Flow Reserve、冠血流予備量比)の有効性と安全性を比較したFAVOR III Europe試験が、2024年のTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)で発表され、Lancet誌に掲載されました。 FFRは、圧測定ワイヤーを狭窄遠位まで進め、最大充血を得るために薬剤投与が必要な侵襲的な検査です。一方で、QFRは冠動脈造影の画像をもとに冠動脈の3次元モデルを再構築し、数値解析を行うことで心筋虚血の程度を推定します。FAVOR III China試験などで、QFRが一般的な冠動脈造影検査のみの評価よりも優れていることが示され、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインにおいてQFRはクラス1Bとして推奨されています。 本試験では、複合エンドポイントである死亡、心筋梗塞、緊急血行再建の発生率はQFR群で6.7%、FFR群で4.2%と報告され、QFR群でのイベント発生率がFFR群より高く、ハザード比は1.63(95%信頼区間:1.11~2.41)でした。イベント発生率の差は、非劣性マージンである3.4%を超えており、FFRが利用可能な場合にはQFRは推奨されないことが示唆されました。 イベント内訳を見ると、死亡は1.4% vs.1.1%、心筋梗塞は3.7% vs.2.0%、緊急血行再建は3.3% vs.2.5%と、一貫してQFR群での発生率が高い傾向でした。また、本試験の症例の約3分の2が安定狭心症であり、残り3分の1が非ST上昇型急性冠症候群またはST上昇型心筋梗塞の残枝でしたが、サブグループ解析ではいずれの群でもQFR群でイベント発生率が高いという結果でした。 FAME試験やFAME 2試験では、中等度の動脈硬化病変に対してFFRを用いた心筋虚血の評価後にPCIを行うことが有効とされています。しかし、FLOWER-MI試験などで示されたように、心筋梗塞の非責任病変においてFFRによる虚血評価が困難であることが示唆されており、適応疾患によって今回の試験結果が変わる可能性もありましたが、そういうわけではないようです。 また、QFR群では54.5%に治療が行われ、FFR群では45.8%に治療が行われました。治療が施されたことで周術期心筋梗塞のリスクが高まる可能性が懸念されますが、治療の影響を除外した1ヵ月以降のランドマーク解析においても、QFR群でイベントが多い傾向が続いていました。 本研究では残念ながらQFRはFFRより劣性であることが示されましたが、実際のところQFRで治療が行われた症例でイベントが多かったのか、それとも逆にFFRで治療が行われなかった症例でイベントが少なかったのかは興味があるところであり、今後の報告が期待されます。 QFR評価は手動での調整が必要であり、トレーニングを受けた評価者でも観察者間および観察者内の測定誤差が問題となる可能性が指摘されています。まだまだ発展途上の技術と考えられ、ソフトウェアの改善により今後の精度向上が期待されます。さらにはFAST III試験やALL-RISE試験など、同様の試験の結果も待たれます。

検索結果 合計:413件 表示位置:1 - 20