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緑内障は「幸福と感じていない」ことと関連、特に男性で顕著

 国内7県の地域住民を対象とした研究で、自己申告による緑内障の既往歴がある人は、主観的に「幸福と感じていない」割合が高いという結果が示された。この緑内障で幸福と感じていない割合が高い傾向は、特に40~59歳の男性で顕著だったという。これは慶應義塾大学医学部眼科学教室と国立がん研究センターなどとの共同研究による結果であり、「BMJ Open Ophthalmology」に2月19日掲載された。 これまでの研究で、ドライアイや老眼と幸福度の低さとの関連が報告されている。緑内障は、眼圧(目の硬さ)が高い状態が続くことなどにより視神経が障害され、徐々に視野の障害が広がる病気だ。緑内障患者は、テレビの視聴や読書などの楽しみが減少し、転倒リスクが高まるなど、日常生活に悪影響を及ぼし、視覚関連QOLが大きく損なわれる可能性がある。 そこで著者らは、2011~2016年に開始された次世代多目的コホート研究「JPHC-NEXT」のデータを用いて、自己申告による緑内障の既往歴と幸福度との関連を解析した。対象は、国内7県(岩手、秋田、長野、茨城、高知、愛媛、長崎)の計16市町村の地域住民(40〜74歳)のうち、がん、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、糖尿病、うつ病の既往歴のある人などを除外した、計9万2,397人。質問紙により緑内障の既往歴(医師の診断)を調べた。全体的に幸せな状態かどうかの質問に関する4つの選択肢(幸せでない、どちらとも言えない、幸せ、大変幸せ)のうち、「幸せでない」または「どちらとも言えない」と回答した人を「幸福と感じていない」とした。 その結果、緑内障の既往歴のある人は1,733人(1.9%)であり、男性が635人(1.6%)、女性が1,098人(2.1%)だった。緑内障の既往歴がある人は、緑内障の既往歴がない人と比べて年齢が有意に高かった(平均63.0±8.3対57.5±9.6歳)。 年齢のほか、地域、教育レベル、世帯収入、喫煙、飲酒量、身体活動の差を調整した上で、男性における「幸福と感じていない」のオッズを解析した結果、緑内障の既往歴がある人の方が、緑内障の既往歴がない人よりも有意に高かった(オッズ比1.26、95%信頼区間1.05~1.51)。女性でも、「幸福と感じていない」割合と緑内障の既往歴が関連する傾向にあったが、関連は有意ではなかった(同1.05、0.90~1.23)。 さらに、年齢層を分けて解析すると、「幸福と感じていない」割合と緑内障の既往歴との関連が最も強かったのは40〜59歳の男性であることが明らかとなった(同1.40、1.04~1.88)。一方、60〜74歳の男性(同1.20、0.96~1.51)、40〜59歳の女性(同1.21、0.92~1.59)、60〜74歳の女性(同0.99、0.83~1.20)では、有意な関連は認められなかった。 以上から著者らは、「特に男性において、緑内障の既往歴は幸福と感じていない割合と関連する」と結論。性別や年齢層で差があったことの背景として、社会的に求められる役割や雇用状況、視野の障害による仕事への支障などの可能性を挙げている。また、緑内障は日本の中途失明の原因として最も多い病気だが、「診断と治療を早い段階で行えば、進行速度を遅らせ、機能障害を最小限に抑えることができる」と述べている。

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洗脳事件の謎解き【Dr. 中島の 新・徒然草】(527)

五百二十七の段 洗脳事件の謎解き今年はいつもより暑いですね。そろそろ熱中症の患者さんが運ばれてくる時期になりました。何と言っても、自分自身が熱中症にならないよう気を付けなくてはなりません。さて、先日は私が卒業した兵庫県立神戸高等学校の同窓会がありました。われわれの学年は29回生なので、大抵が4月29日の昭和の日にあります。6年前の前回が「まさかの還暦同窓会」というタイトルでしたが、今回は「前期高齢者突入記念同窓会」と名付けられていました。久しぶりに集まった200人だか300人だか。高校時代と変わらぬ顔の人もいれば、言われてもわからないほど変化している人もいます。前期高齢者が揃ったら盛り上がるのは病気談義。心筋梗塞、脳梗塞、労作性狭心症、直腸がん、転移性脳腫瘍と病気のオンパレードです。もはや高血圧や糖尿病などはデフォ扱い。皆にコメントを求められる立場なので、適当に答えておきました。逆に私に対して医学的アドバイスをしてくる人もいましたが、上手に相槌を打つことができたのは日頃の外来修業のおかげかもしれません。さて、面白かったのは小学校、中学校、高等学校と12年間同じ学校に通いながら、初対面としか思えない人がいたことです。普通はどこかに接点がありそうなのですが。本当に知らない顔だったので、仮に彼女の名前を白内 佳織(しらない・かおり)さんとでもしておきましょう。果たして1回もクラスが一緒にならなかったのでしょうか?中島「じゃあちょっと確認してみよう。小学校1年生の時の担任は春山先生」白内「私は夏川先生だから別のクラスね」中島「2年生の時は秋原先生という女の先生だったけど、途中から産休になってピンチヒッターで来たのが誰だったかな」白内「冬谷先生よ。だったら一緒の担任じゃない!」なんと彼女とは私と同じクラスだったことがあるみたいです。それでも思い出せません。中島「3年生は東山先生だけど」白内「私も東山先生よ!」中島「あれえ、同じクラスだったかな?」この調子で12年間を振り返ると、なんと小学校で3回、中学校で1回、同じクラスになっていたことがわかりました。それでも何も思い出さないのです。で、ここからが本番!中島「じゃあ、小学校3年生の時のあの洗脳事件を覚えているか?」白内「もちろんよ、放課後にクラス全員が学級委員長に言われて、教室に残されたやつでしょ!」中島「あれは衝撃やったなあ」白内「人にしゃべってはいけないと思ったから、今まで黙っていたけど……」中島「僕もや。人に言っても信じてもらえなさそうやし」事件といっても、誰かが死んだとか誘拐されたとかいうようなシリアスな話ではありません。席に立たされて学級委員長に言われるがままクラスメートを罵倒したり、それができなくて泣き出したり……今になってみれば「あれは何だったんだ?」としか思えないのですが、当時の小学校3年生にとっては十分に大事件でした。ようやくあの事件を語り合うことのできる相手に出会うことができたわけです。実際に事件の内容を話してみると、彼女と私の記憶はピタリと一致しました。中島「やっぱり同じ時に同じ教室にいたのか。ようやく確信できたぞ!」白内「私は習い事があったから、委員長を突き飛ばして先に帰ったのよ。あの後、どうなったの?」中島「僕はなかなか洗脳が解けなくて、ずっといたけどな」ここに至ってようやく親しみを感じた次第です。もちろん同窓会のことなので、他にも大勢の人と世間話をしました。でも、高校時代の記憶がいろいろとよみがえってきたのは翌日になってから。「あの時あんなことがあったけど覚えているか?」みたいな話をもっとできたら良かったのですが。次の同窓会は、おそらく古希になってから。できれば元気に出席したいものです。ということで最後に1句昭和の日 答え合わせの 同窓会

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約90%の心血管疾患患者はナトリウムを摂取し過ぎ

 心血管疾患の治療にはナトリウムの摂取を控えることが重要であるが、ほとんどの心血管疾患患者は摂取量を制限できていないようだ。新たな研究で、心血管疾患患者は概して、推奨されている1日当たりのナトリウム摂取量の2倍以上を摂取していることが明らかになった。ナトリウムは、人間の健康に不可欠ではあるが、過剰摂取は血圧を上昇させ、血管にダメージを与え、心臓の働きを悪くする上に、体液の貯留を引き起こして心不全などの症状を悪化させ得ると研究グループは指摘している。米Piedmont Athens Regional病院のElsie Kodjoe氏らによるこの研究結果は、米国心臓病学会(ACC 24、4月6〜8日、米アトランタ)で発表された。 米国の食事ガイドラインでは、心血管疾患患者ではナトリウムの摂取量を1日1,500mg(食塩相当量3.81g)に、健康な人でもナトリウム摂取量を1日2,300mg(食塩相当量5.84g)未満に制限することを推奨している。 この研究では、2009年から2018年の間に国民健康栄養調査(NHANES)に参加した、心血管疾患(脳卒中、心筋梗塞、心不全、冠動脈疾患、狭心症)患者3,170人の食事データの分析が行われた。対象者は24時間の間に摂取した全てのものを報告していた。 その結果、対象者の89%が1日当たりの推奨量を上回る、1日当たり平均3,096mgのナトリウムを摂取しており、この値は、米疾病対策センター(CDC)が以前に報告した全国の平均摂取量(3,400mg/日)をわずかに下回るに過ぎなかった。収入-貧困比(IPR)の増加は1日当たり46mgのナトリウム摂取量の増加と有意に関連していたが、この関連は年齢、性別、人種、教育レベルで調整すると有意ではなくなった。 これらの結果についてKodjoe氏は、「心血管疾患患者の摂取量と全国平均との間でナトリウム摂取量の差が比較的小さかった。このことは、心血管疾患患者は一般の人と比べて摂取量を積極的に制限しているわけではないこと、また、心血管疾患患者に対して推奨されている摂取量の2倍以上を摂取していることを示唆している」と話している。 Kodjoe氏は、「スーパーマーケットで売られている食品やテイクアウトの食事に含まれるナトリウム量を推定するのは困難だ」と指摘する。さらに同氏は、「ナトリウム量を示す食品ラベルは、その量を推測する助けにはなる。しかし、低ナトリウム食の遵守は、遵守に対する強い動機があるはずの心血管疾患患者にとってさえも極めて困難だ」と話す。そして、「心血管疾患患者が食事療法のガイドラインを守りやすくするためには、一般の人々が食事中のナトリウムの量を推定できるような、より実用的な方法を見つける必要がある」と主張している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

4.

不安定プラーク、至適薬物療法+予防的PCI追加で予後改善/Lancet

 冠動脈に血流を阻害しない不安定プラークを有する患者において、予防的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の追加は至適薬物療法のみと比較し、高リスクの不安定プラークに起因する主要有害心血管イベントが減少したことを、韓国・蔚山大学のSeung-Jung Park氏らが、韓国、日本、台湾およびニュージーランドの計15施設で実施した医師主導の無作為化非盲検比較試験「PREVENT試験」の結果を報告した。著者は、「PREVENT試験は不安定プラークに対する局所治療の効果を示した最初の大規模臨床試験であり、今回の知見はPCIの適応を、血流を阻害しない高リスクの不安定プラークに拡大することを支持するものである」とまとめている。急性冠症候群や心臓死は不安定プラークの破裂および血栓症によって引き起こされることが多く、その多くは冠血流を阻害しない。不安定プラークに対するPCIによる予防的治療の安全性と心臓有害事象の減少に対する有効性は不明であった。Lancet誌オンライン版2024年4月8日号掲載の報告。狭窄率>50%、FFR>0.80の不安定プラークを有する患者が対象 研究グループは、心臓カテーテル検査を受けた18歳以上の安定冠動脈疾患または急性冠症候群の患者のうち、造影上の狭窄率>50%、冠血流予備量比(FFR)>0.80の病変を有し不安定プラークが確認された患者を対象とした。Webシステム(置換ブロック法、ブロックサイズ4または6)により糖尿病の有無および非標的血管への同時PCIの有無で層別化し、PCI+至適薬物療法群(PCI併用群)または至適薬物療法単独群(薬物療法群)に1対1の割合で無作為に割り付け、最後の登録患者が無作為化後2年に達するまで毎年追跡調査を行った。 不安定プラークは、(1)最小内腔面積<4.0mm2、(2)プラーク負荷>70%(血管内超音波検査)、(3)脂質に富むプラーク(近赤外分光法、4mm以内の最大脂質コア負荷指数が>315)、(4)TCFA(thin-cap fibroatheroma)(高周波血管内超音波検査または光干渉断層法)の4つの特徴のうち2つ以上を満たすプラークと定義された。 主要アウトカムは、2年間の心臓死・標的血管の心筋梗塞・虚血による標的血管血行再建術・不安定狭心症または進行性狭心症による入院の複合とした。ITT集団で評価し、初発までの期間はKaplan-Meier法で算出し、log-rank検定で比較した。PCI併用群で薬物療法群より2年複合イベントが有意に減少 2015年9月23日~2021年9月29日に、5,627例がスクリーニングされ、適格基準を満たした1,606例がPCI併用群(803例)または薬物療法群(803例)に無作為化された。1,177例(73%)が男性、429例(27%)が女性で、1,556例(97%)が2年間の追跡を完了した(PCI併用群780例、薬物療法群776例)。 主要アウトカムの2年複合イベントは、PCI併用群で3例(0.4%)、薬物療法群で27例(3.4%)に発生し、絶対群間差は-3.0%(95%信頼区間[CI]:-4.4~-1.8、p=0.0003)であった。予防的PCIの効果は、主要アウトカムの各要素において一貫していた。 重篤な臨床的有害事象は、PCI併用群と薬物療法群で差はなかった。2年以内の死亡は4例(0.5%)vs.10例(1.3%)であり(絶対群間差:-0.8%、95%CI:-1.7~0.2)、心筋梗塞は9例(1.1%)vs.13例(1.7%)であった(-0.5%、95%CI:-1.7~0.6)。

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難治性狭心症、冠静脈洞へのデバイス留置で症状改善/Lancet

 冠静脈洞狭窄デバイス(coronary-sinus reducer:CSR)は、狭心症患者の心筋血流を改善しなかったが、狭心症エピソード数を減少した。英国・Imperial College Healthcare NHS TrustのMichael J. Foley氏らが、英国の6施設で実施した医師主導の無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ORBITA-COSMIC試験」の結果を報告した。CSRは、心筋血流を改善することにより、安定冠動脈疾患患者の狭心症を軽減することが示唆されていた。著者は、「今回の結果は、CSRが安定冠動脈疾患患者に対するさらなる抗狭心症治療の選択肢となりうるエビデンスを提供するものである」としている。Lancet誌2024年4月20日号掲載の報告。処置後6ヵ月間追跡、心筋血流と狭心症エピソード数を比較 研究グループは、抗狭心症治療(薬物療法、経皮的冠動脈インターベンション、冠動脈バイパス術など)のさらなる選択肢がない、18歳以上の狭心症、心外膜冠動脈疾患、虚血を有する患者を登録し、心臓MRによる定量的な心筋灌流マッピング(アデノシン負荷時および安静時)、症状およびQOLに関する質問(シアトル狭心症質問票、EQ-5D-5Lなど)、トレッドミル運動負荷試験を行った。その後、2週間の症状評価期にスマートフォンの専用アプリ(ORBITA-app)を用いた症状報告を完遂した患者を、CSR群と対照群に1対1の割合に無作為に割り付け追跡評価した。 二重盲検下で、CSR群ではCSR(商品名:Neovasc Reducer、Shockwave Medical)の植込み術を行い、対照群では患者に少なくとも15分間(CSRの植込みに要するおおよその時間)心臓カテーテルの検査台の上で鎮静状態を保持させた。処置後は、6ヵ月間の二重盲検下追跡調査期に、ORBITA-appで患者に日々の症状を報告してもらった。 主要アウトカムは、登録時にアデノシン負荷灌流心臓MRスキャンで虚血と判定されたセグメントにおける心筋血流、症状の主要アウトカムは1日の狭心症エピソード数とし、ITT解析を行った。CSR群で狭心症エピソード数が減少 2021年5月26日~2023年6月28日に447例がスクリーニングされ、61例が登録された。このうち51例(男性44例[86%]、女性7例[14%])がCSR群(25例)およびプラセボ群(26例)に無作為化され、CSR群の1例(無作為化手順の途中でデバイス塞栓事象が発現し適切な管理のため盲検を解除)を除く50例がITT解析に組み入れられた。 登録時の虚血セグメントは、画像化された800セグメント中454セグメント(57%)で、虚血セグメントにおける負荷心筋血流量の中央値は1.08mL/分/g(四分位範囲[IQR]:0.77~1.41)であった。 虚血セグメントにおいて、対照群と比較しCSR群で心筋血流量の改善は示されなかった(群間差:0.06mL/分/g、95%信用区間[CrI]:-0.09~0.20]、有益性の確率:78.8%)。一方、報告された1日の狭心症エピソード数は、対照群と比較してCSR群で減少した(オッズ比:1.40、95%CrI:1.08~1.83、有益性の確率:99.4%)。 安全性については、CSR群でデバイス塞栓イベントが2件発生し、両群とも急性冠症候群イベントおよび死亡の発生は報告されなかった。

6.

CVD患者のフレイルと「アクティブな趣味」の関係

 心血管疾患(CVD)で入院した患者のうち、入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、退院時のフレイルのリスクが低いという研究結果が発表された。一方で、入院前に趣味があったとしても、その趣味がアクティブなものでなければ、リスクの低下は見られなかったという。これは飯塚病院リハビリテーション部の横手翼氏らによる研究であり、「Progress in Rehabilitation Medicine」に2月22日掲載された。 趣味を持つことと死亡や要介護のリスク低下との関連を示す研究はこれまでに報告されており、入院中の運動不足で身体機能が低下しやすいCVD患者でも、趣味を持つことが身体機能の維持やフレイルの予防に役立つと考えられる。そこで著者らは、入院前に行っていた趣味と退院時のフレイルとの関連について、趣味の内容にも着目して検討した。 研究対象は、2019年1月~2023年6月に飯塚病院に入院し、その後自宅に退院したCVD患者のうち、入院前から日常生活の介助を要する患者などを除いた269人(平均年齢68.4±11.5歳、男性72.2%)。対象患者のCVD・手術には、心不全、心筋梗塞、狭心症、冠動脈バイパス術、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術、大動脈グラフト置換術が含まれた。 患者の状態が安定した後、入院前の趣味に関する情報を入手し、身体活動を伴う趣味(スポーツ、買い物、旅行など)を「アクティブな趣味」、それ以外の趣味(テレビ・映画鑑賞、スポーツ観戦、楽器演奏など)を「非アクティブな趣味」、趣味のない場合は「無趣味」に分類した。フレイルについては退院前日に、日本語版フレイル基準(J-CHS基準)の5項目(筋力低下、歩行速度低下、疲労感、体重減少、身体活動低下)により評価。3項目以上に該当する人を「フレイル」、1~2項目に該当する人を「プレフレイル」に分類した。 その結果、無趣味群(77人)ではプレフレイルの割合が61.4%、フレイルの割合が22.9%、非アクティブな趣味群(64人)では同順に53.2%、37.1%、アクティブな趣味群(128人)では同順に57.4%、13.9%だった。 次に、患者背景の差(年齢、性別、BMI、疾患、入院期間、就労状況、入院時の左室駆出率、入院前のフレイル)を調整して解析すると、アクティブな趣味群は、プレフレイルまたはフレイルのオッズ低下と有意に関連していることが明らかとなった(無趣味群と比較したオッズ比0.41、95%信頼区間0.17~0.90)。一方、非アクティブな趣味群ではこの関連は認められなかった(同1.56、0.52~4.64)。また、アクティブな趣味群では無趣味群と比べて、J-CHS基準の5項目のうち、歩行速度低下、疲労感、身体活動低下のオッズが有意に低かった。 以上から著者らは、「入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、趣味のない患者と比べて退院時にフレイルとなるリスクが低かった。一方で、非アクティブな趣味を持っていた患者では、リスクの低下は認められなかった」と結論。また、アクティブな趣味と疲労感の低下が関連していたことの説明の一つとして、アクティブな趣味を持つことが、入院中のリハビリテーションや理学療法への動機付けとなり、身体機能の維持に寄与する可能性があるとしている。

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薬剤コーティングバルーンでステントは不要となるか、不射之射の境地【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第71回

PCI発展の過程急性心筋梗塞や狭心症に代表される冠動脈疾患の治療では、冠動脈の流れを回復させるために冠血行再建が決定的に重要です。その方法として冠動脈バイパス手術(CABG)と、カテーテル治療である冠動脈インターベンション(PCI)があります。PCIの発展の過程は再狭窄をいかに克服するかが課題でした。再狭窄とはPCIで治療した冠動脈が再び狭くなることです。バルーンのみで病変を拡張していた時代は、再狭窄率が約50%でした。金属製ステント(BMS)が登場してからは約30%まで減少しましたが、それでも高い再狭窄率でした。再狭窄の要因は、ステント留置後に血管内の細胞が増殖しステントを覆ってしまい内腔が狭小化することです。この新生内膜の増殖抑制を治療ターゲットとして薬剤溶出ステント(DES)が開発されました。当初はステント血栓症などの問題もありましたが、DESの改良が進み再狭窄は劇的に改善されました。現在は、本邦だけでなく世界中でDESを用いたPCIが広く普及しています。「不射之射」皆さんは、「不射之射(ふしゃのしゃ)」という言葉をご存じでしょうか。小生の最も敬愛する作家である中島 敦の作品の『名人伝』に詳しく書かれています。中島 敦(1909~42年)は喘息により33歳という若さで没しています。『山月記』や『李陵』などが代表作ですが、その格調高い芸術性と引き締まった文章が魅力です。「名人伝」のあらすじを紹介します。紀元前3世紀に、中国の都で、天下第一の弓の名人を目指した紀昌(きしょう)という男がいました。伝説の弓の名人である甘蠅老師(かんようろうし)に勝負を挑みに出かけます。そこで、名人に想像を超えた境地を教えられます。弓の名人は、「弓」という道具を使わずに、「無形の弓」によって飛ぶ鳥を射落とすのです。「射之射」とは、弓で矢を射て鳥を撃ち落とすこと、 不射之射とは、矢を射ることなく射るのと同様の結果が得られることです。紀昌は、不射之射を9年かけて会得し都へ帰還します。「弓をとらない弓の名人」となった紀昌は、晩年には「弓」という道具の使い方も、名前すらも忘れてしまうという境地に到達したといいます。野球の川上 哲治氏は「打撃の神様」と言われた強打者で、日本プロ野球史上初の2,000安打を達成しました。全盛期には、ピッチャーの投げたボールが「止まって見えた」と言っていたそうです。このような境地に到達した者を名人と称賛し憧れるのが日本人です。ステントに代わる、薬剤コーティングバルーン(DCB)の登場日本におけるPCIで、注目されているコンセプトがステントレス PCIです。薬剤溶出ステント (DES) を留置するPCIは、冠動脈疾患の治療に革命をもたらし、最も行われている治療法の1つとなっています。しかし、DESは金属性のデバイスであり、その使用により冠動脈内に異物が永続的に留まるという制限があります。これを克服するために登場したのが、薬剤コーティングバルーン(DCB)です。このDCBによる治療は、金属製ステントを使用せず、バルーンに塗布されたパクリタキセルなどの薬剤を血管の壁に到達させて再狭窄を予防するものです。DCBによる、ステントレス PCI のメリットを考えてみましょう。DESを留置した後にはステント血栓症を防ぐため抗血小板薬の2剤併用(DAPT)が必要ですが、抗血小板薬1剤に比べて出血が増加します。高齢の患者では出血性の合併症が問題となります。DCBで治療すれば、抗血小板薬を減弱化することが可能となります。冠動脈CTによる評価法が普及していますが、金属製ステントがあるとノイズとなり冠動脈ステントの内部がよく見えません。PCI術後に何年か経ってから病変が進行し、CABGや2回目のPCIが必要になった場合には、既存の冠動脈ステントが治療の邪魔になる可能性があります。このような利点もありDCBの使用は増加しています。一方で、金属製ステントの効能の1つである、急性冠閉塞の予防効果がDCBでは期待できないことからリスク増加も懸念されます。DCBは、冠動脈内に異物を残さない治療を実現するもので、このコンセプトを、「leave nothing behind」と呼んでいます。欧米や諸外国においてもDCBを用いたステントレス PCIが話題として取り上げられることはありますが、日本ほど注目されている訳ではありません。日本でステントレス PCIへの議論が高まってきているのは、その背景に「不射之射」を尊ぶ東洋的思想があるように思います。ステントを用いずにPCIを完遂することが、あたかも弓矢を用いずに飛ぶ鳥を射落とすが如く捉えられているのです。冠動脈疾患の予防治療が将来さらに進化して、冠血行再建を必要とする患者がゼロとなり、CABGやPCIという道具や手技の名前を忘れてしまうという、「紀昌」の境地までに到達する日を夢みております。

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医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(2)【臨床留学通信 from NY】第58回

第58回:医師の働き方改革に必須なのは財源の確保、米国の医療保険制度から考える(2)前回に引き続き、医師の働き方改革と財源確保について、米国の医療保険制度から考えます。医療費削減のために米国で行われていること米国の医療費は、高い人件費や薬物などの物品を賄うため、救急外来を経由して1泊なんてするものなら、ざっと100万円ほどかかってしまうことも珍しくありません。そのため、政府保険であるMedicaid(メディケイド)、Medicare(メディケア)は、医療費削減のために不必要な薬や手技を減らすことに目を光らせ、プライベート保険もプランによってカバーする薬の範囲が変わるという仕組みです。高くて良い薬にはCo-pay(自己負担)が多くかかってしまい、自然と安い薬を使うように仕向けられます。たとえばアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)は心不全に有効な薬で、日本ではそれを高額であるにもかかわらず高血圧にも処方できるように国が承認していますが、米国では心不全の病名なしには処方できません。また循環器疾患の狭心症。心筋梗塞とは違い、致命的ではないことがほとんどですが、まれに不安定狭心症かな、とこちらが思うものであっても、負荷心筋シンチグラフィなどの事前検査をなくして外来から直接カテーテル検査・入院はできないことがあります。その際はやむを得ず、救急外来を経由して入院した体裁にすることもあります。なお医療費削減のため、カテーテル治療も簡単なものはThe Same Day Discharge(同日退院)となり、それをすることで病院にメリットがあるように金額が決まっています。そのため、カテーテル室専用のリカバリールームがあり、朝6~7時に患者さんが来て、7時過ぎにはPCI開始、その後数時間観察して、午後には退院することや、12時くらいにPCI開始であっても、夜11時までスタッフを配置してモニターして退院、なんてことがあります。予約を取るのも一苦労、プライマリケアがゲートキーパーに外来では、簡単な薬の処方のみの人は(たとえば高血圧のみ)、プロブレムが少ないためあまりお金にならず、半年後にしか予約が取れないようになっていて、3ヵ月の処方を電子的に薬局に送信し、リフィルを3回出して1年分の処方を出すことがあります。予約を取るのも一苦労です。患者によって保険がさまざまなため、医師から直接予約を取れず、大半はいちいち事務に電話などをして、うまくいって10~20分かけてなんとか予約を取る形です。医師がカルテ上3ヵ月後と言えば、どんなに受診したくても、病状が落ち着いていれば予約が取れないようになっています。プライマリケアがゲートキーパーとなり、好き勝手に循環器内科、腎臓内科、内分泌内科など専門医に受診できないようになっており、いわゆる紹介状(きちんとした手紙でなくとも1文程度でも)が必要にもなります。また、専門医を受診するには、保険にもよりますがCo-payを支払わなければなりません。私の保険の場合は50ドルほど払わなければならず、不用意に何となく気になるからという理由で患者が受診することを制限しています。インフルエンザなどで受診するUrgent Careは私の保険は75ドル。ちょっとした風邪で病院にかかることはありません。なお、いわゆる一般外来は発熱患者はお断り。その分薬局で購入できる薬は日本より充実しています。Emergency Department(救急外来)は150ドルで、簡単に受診しようとする意思を抑制しています。以前私が針刺事故未遂のようなほぼかすっていない程度で救急外来を受診した時、採血と問診で3,000ドル(約45万円)の請求書が来てたまげました。幸い職員なので医療費はかからず、問題ありませんでしたが…。1泊入院すると1万ドル前後かかってしまうとはいえ、基本的に保険から下りると思いますが、どのくらいカバーされるかはまちまちです。裏を返せば、この莫大な医療費によって医療従事者の給料が保証されていることにもなります。これらの折衷案として、日本では何ができるか、次回は私なりの提案をしたいと思います。

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心臓病患者の “ニーズ見える化”へ、クラウドファンディング開始/日本循環器協会

 日本循環器協会は、心臓病に関わる患者・家族、医療者、企業を繋ぐホームページ作成を実現させるため、3月12日にクラウドファンディング『心臓病患者さんの声を届けたい 心臓病に関わる方々を繋ぐHP作成へ』を開始した。本協会は患者と医療者が持つ双方のニーズの“見える化”を目指すことを使命とし、この取り組みを始めた。  “心臓病は複雑かつ、年齢層もさまざま。関係者も多岐にわたり、患者の悩みやニーズが共有されにくい”という循環器領域の現状を踏まえ、本協会は「#患者さんのニーズ見える化プロジェクト」の第1弾として、心臓病患者の声を集めるためのホームページ作成に動き出した。今回はこのホームページを通じて患者ニーズを集め、心臓病のより良いケアを探求する医療者や企業に情報を届けるのが狙いだ。なお、本プロジェクトは All or Nothing 方式を採用しているため、第1目標金額に満たない場合、支援金は全額、支援者へ返金となる。 「#患者さんのニーズ見える化プロジェクト」への支援はこちらから。女性に起こりやすい循環器疾患とその対処法 このほかにも、日本循環器協会は新たな取り組みとして、女性特有の循環器疾患の啓発にも注力すべく、「Go Red for Women JAPAN」(ワーキンググループ委員長 東條 美奈子氏[北里大学医療衛生学部 教授])の活動を開始した。「Go Red for Women」とは “心臓病が女性の最大の死因であることを多くの人に知ってもらう”ために、米国心臓協会(AHA)が2004年から始めた女性の循環器疾患の予防・啓発のための活動である。「教育」「疾患啓発」の2本柱を中心に、毎年2月第1週金曜日に赤い何かを身に付けるなどして啓発活動を行っている。この活動が今では世界50ヵ国以上に広がっており、日本でもこの活動のキックオフとなる公開セミナー「健康セミナー 女性のココロと心臓のはなし」を2月2日に行ったことを皮切りに、今後も国内独自のイベントを企画していく予定だという。 上述の健康セミナーにおいて、「女性のこころとからだの話」について講演した高尾 美穂氏(女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道)は、「社会的性差は解決可能も生物学的性差は縮めていくことはできない。骨格が異なることで病気にも性差が生じる。たとえば、男性には高尿酸血症、糖尿病、心筋梗塞が起こりやすい一方で、女性ではQOLに直接的に影響するような骨格筋の痛み・変化、うつ病の発症率の多さが課題として挙げられる。このように疾患にも性差があることから、双方の病態を理解し合うことが必要」と性差による疾患リスクを指摘するとともに、「女性の生殖器は期間限定であることを社会に出る前に知っておくことが必要」と、女性自身が自身の身体のことを学ぶ機会の少なさについても訴えた。 また、坂東 泰子氏(三重大学大学院医学系研究科分子生理学)は女性に多い循環器疾患として、微小血管狭心症、心筋梗塞(閉経後女性)、不整脈、たこつぼ型心筋症、肺高血圧症、心不全(高齢女性)などを挙げ、「たこつぼ型心筋症の場合、男性は外傷が影響するのに対し、女性はストレスで生じやすい。自律神経を整え、有酸素とレジスタンスの両方を兼ね備えた運動であるヨガを行うことで、ストレス軽減効果、心拍や血圧を健康に維持する効果が期待できる」と発症原因の1つを示し、その予防策を解説した。

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減量で糖尿病が寛解すると心臓病と腎臓病のリスクが下がる

 減量によって2型糖尿病が寛解すると、心臓と腎臓の状態にもメリットがもたらされる可能性のあることが明らかになった。寛解期間が限られたものであっても心臓病のリスクは40%、腎臓病のリスクは33%低下し、寛解期間がより長ければ、より大きなリスク低下につながる可能性があるという。アイルランド王立外科医学院(RCSI)のEdward Gregg氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetologia」に1月18日掲載された。同氏は、「本研究は、糖尿病の寛解と糖尿病関連合併症のリスクとの関連を検討した初の介入研究の結果であり、糖尿病の寛解を達成可能な状態にある人たちにとって心強いニュースだ」と話している。 この研究には、5,145人の2型糖尿病患者を、生活習慣への強力な介入を行う群と、教育的サポートのみを行う群に二分して合併症リスクを検討した「Look AHEAD研究」のデータが用いられた。Look AHEAD研究の参加者から、データ欠落者や減量・代謝改善手術が施行された患者、ベースライン時点で既に寛解状態にあった参加者を除外し、4,488人(平均年齢59歳、女性58%、BMI35.8、糖尿病罹病期間6年)を解析対象とした。 血糖降下薬を用いずにHbA1c6.5%未満を達成した場合を「寛解」と定義すると、12年間にわたる追跡期間中に全体の12.7%、強力な介入が行われた群では18.1%が、いずれかの時点で寛解の基準を満たしていた。寛解の達成は、糖尿病罹病期間が短く、ベースラインのHbA1cが低く、減量幅が大きい患者で高い傾向が観察された。 解析結果に影響を及ぼし得る交絡因子〔糖尿病罹病期間、ベースラインのHbA1c、血圧、心血管疾患(CVD)の既往〕を調整後、一度でも寛解に到達した患者は、その記録のない患者に比べて、慢性腎臓病(CKD)発症リスクが33%低く〔ハザード比(HR)0.67(95%信頼区間0.52~0.87)〕、複合CVDイベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、狭心症による入院)リスクは40%低かった〔HR0.60(同0.47~0.79)〕。また、寛解期間が4年以上にわたっていた患者では、CKD発症リスクは55%低く〔HR0.45(0.25~0.82)〕、CVDイベントリスクは49%低かった〔HR0.51(0.30~0.89)〕。 一方、寛解の維持が困難であるという実情も示され、研究開始から8年目まで寛解が維持されていた患者は、全体のわずか約3%、強力な介入が行われた群でも約4%にすぎなかった。ただし、寛解の維持期間が短くても、CVDイベントリスクは有意に低下することも明らかになった。具体的には、寛解期間が1年未満であっても、一度も寛解に至らなかった患者に比べてリスクが34%低かった〔HR0.66(0.46~0.94)〕。なお、寛解期間が1年未満の場合のCKD発症リスクに関しては、交絡因子未調整モデルでは有意なリスク低下が観察されたが、交絡因子調整後は非有意だった。 Gregg氏は、「われわれの研究結果は、減量や糖尿病の寛解状態を維持することの困難さを再確認させるものだ。しかしその達成が、健康上のメリットにつながることを示すものでもある」とRCSI発のリリースで述べている。

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冠攣縮性狭心症の特効薬は、ニトロではなく猫です【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第69回

外来の診察室での患者さんとのやり取りです。中川「本当に長い時間お待たせして申し訳ございません」患者「調子が良かったので、待ち時間もまったく気になりませんでした」中川「前回の診察からお身体の具合はいかがでした?」患者「1回もニトロを使いませんでした、調子は良かったです」明るい表情で答えてくれます。冠攣縮性狭心症と診断されている40代の男性です。狭心症は、冠動脈の血流が低下し心筋に十分な血液が供給されなくなる病気です。通常の狭心症の原因は、動脈硬化性のプラークによって冠動脈に狭窄が生じることです。冠攣縮性狭心症では、胸痛のない非発作時には狭窄はありませんが、発作時にだけ冠動脈が痙攣するように縮み上がり狭窄を生じることで誘発されます。冠攣縮性狭心症は、狭心症としての胸痛発作だけでなく、急性冠症候群・突然死・不安定狭心症・心室頻拍/心室細動などの致死的不整脈や原因不明の心不全などにも関与している注意を要する病態です。虚血性心疾患の発症頻度は欧米人に多く、日本人では少ないとされています。しかし、冠攣縮性狭心症は日本人でより発症率が高いことが知られています。冠攣縮性狭心症では自覚症状に特徴があり、胸痛発作は深夜から早朝にかけてピークを有する日内変動がみられます。狭心症発作の特効薬としてニトログリセリンの舌下錠が有名です。ニトログリセリンは、冠動脈の拡張による酸素供給の増加と、静脈拡張による前負荷軽減と動脈拡張による後負荷軽減の両面から酸素消費を抑制し、狭心症の治療効果を発揮します。この患者さんも、2~3日に1回ほどの頻度で深夜から早朝に胸痛発作があり、ニトログリセリンの使用に頼っている状態でした。難治性の冠攣縮性狭心症の患者として対応に苦慮していました。それが、この1ヵ月余り発作が1度もなく、ニトログリセリンの使用もないというのです。中川「発作が起こらなくなって良かったですね」患者「本当にありがたいことです」患者さんも嬉しそうです。中川「調子が良くなったのは何が理由だと思いますか?」患者「普段の内服薬も同じですし、生活もとくに変わったと意識することはないですね」中川「何年間も発作が続いていたのに良かったですね」急に思い当たったことがあったのか、大声で患者さんが話しはじめます。患者「猫を飼いはじめたんです。妻が仕事帰りに寒さに震える子猫を見つけて、連れて帰ってきたんです。手のひらに乗るほど小さかったんです」この時点で私の外来診察は予定よりも相当遅れていました。10時の診察予約時間が、今は11時を過ぎています。調子が良いと言ってくれているのだから、早々に診察を終了する方向にもっていくこともできました。予定よりも遅れるほど、「待たせて申し訳ないので丁寧に診療しなきゃ!」と考えてしまい、さらに診察時間が長時間化して、その後の患者さんたちを一層待たせてしまうということがあります。私は、これを「負のスパイラル現象」と名付けています。ここから、診察とは名ばかりの猫談義を患者さんと私のあいだで続けてしまいました。要約は以下です。保護した子猫は弱々しく、放っておくことはできません。妻と一緒にスマホで対応を調べて頑張ったそうです。猫を温め、猫用ミルクをスポイトで与え、ティッシュでお尻をポンポンと刺激して排泄を促すなど尽くしたのです。毎日毎晩続けた甲斐があって、今では元気に家の中を走り回るまでになったそうです。可愛くてたまらないと語ってくれました。患者「先生、子猫を見てくれませんか」中川「ぜひとも!」スマホに保存された幾枚もの写真や動画を一緒に拝見させていただきました。さらに外来が遅れるのですが、今さらやめられません。閲覧を堪能するに値する美猫ぶりです。診察とうそぶきながら猫動画を楽しみました。さらに待つことになった患者さんにお詫び申し上げます。その日の晩に、家の猫を撫でながら考えました。この患者さんの冠攣縮性狭心症の症状が改善したことと、患者さんが子猫を招き入れたことの因果関係についてです。偶然かもしれませんが、私には偶然とは思えませんでした。もし子猫をレスキューしていなければ同様の発作が持続していたように思われます。精神的な情動ストレスは、冠攣縮性狭心症のリスクを高める要素の1つとなるからです。たとえば、過呼吸、不安や緊張、過労、睡眠不足などは、冠攣縮性狭心症の発作増悪の可能性を高めます。そのため、治療に当たっては、ストレスを避けて規則正しい生活を送ることが重要とされています。セラピーキャットとは、猫たちとの触れ合いを通じて人に癒しを施すことです。この患者さんが子猫と出会い触れ合うことで、猫から「癒し」というお返しをいただいたのです。「小医は病を治し、中医は人を治し、大医は国を治す」これは中国の古い言葉で、優れた医師は病気だけでなく国までも治すことができるという趣旨です。このような大事は私にはできるはずもありません。循環器内科医として心臓血管疾患に立ち向かう小医としての役目だけで精一杯です。しかし、この子猫は、患者さんの心に癒しを与えて「人」を治し、さらに冠攣縮性狭心症の発作を抑えて「病」を治したのです。すでに中医の域に到達しています。世間は空前の猫ブームです。テレビや雑誌、ネットや新聞で猫を見ない日はありません。猫に関連した商品が飛ぶように売れる経済効果から「ネコノミクス」という言葉も使われるほど、猫は注目されています。猫がもたらす幸せは、経済界から医療領域まで波及するようです。猫が大医として「国」を治す日も近いかもしれません。膝の上に乗ったわが家の愛猫レオが、大きなアクビをしました。猫は期待されることを望まないようです。では床に就くことにします。おやすみなさい。

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ED治療薬、心臓病の薬との組み合わせは危険な場合も

 心疾患の治療目的で硝酸薬を使用中の男性が、バイアグラ(一般名シルデナフィルクエン酸塩)やシアリス(一般名タダラフィル)といった勃起障害(ED)治療薬を併用すると、死亡リスクや心筋梗塞、心不全などのリスクが高まる可能性が、新たな研究で示された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のDaniel Peter Andersson氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」1月23日号に掲載された。Andersson氏は「医師が、心血管疾患のある男性からED治療薬の処方を求められることが増えつつある」とした上で、「硝酸薬を使用している患者がED治療薬を併用することで、ネガティブな健康アウトカムのリスクが高まる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。 バイアグラやシアリスなどのED治療薬はPDE5阻害薬と呼ばれ、動脈を広げて陰茎への血流を増加させる働きがある。また、硝酸薬にも血管を拡張する作用があり、狭心症による胸痛の治療や心不全の症状を緩和するために使用される。 PDE5阻害薬と硝酸薬はいずれも血圧低下の原因となり得るため、ガイドラインでは、これらを併用すべきではないとの推奨が示されている。それにもかかわらず、実際にはPDE5阻害薬と硝酸薬の両方が処方されている患者の数は増加しつつある。しかし、これらを併用した場合にどのような影響があるのかについてのリアルワールド(実臨床)のデータはほとんどない。 Andersson氏らは、2006年から2013年の間に心筋梗塞を発症するか血行再建術を受け、硝酸薬が最大18カ月の間隔を空けて2回以上処方されていた18歳以上の患者6万1,487人(平均年齢69.5±12.2歳)を選び出し、その医療記録を分析した。硝酸薬の2回目の処方前6カ月間にPDE5阻害薬が処方されていた患者は除外された。対象者のうち5,710人(9%)にはED治療薬としてPDE5阻害薬も処方されていた。追跡期間中央値は5.9年だった。 解析の結果、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方されていた男性では、硝酸薬のみが処方されていた男性に比べて、全死亡リスクが39%、心血管疾患による死亡リスクが34%、心血管疾患以外の原因による死亡リスクが40%、心筋梗塞リスクが72%、心不全リスクが67%、冠動脈血行再建術を受けるリスクが95%、主要心血管イベントの発生リスクが70%高いことが示された。ただし、硝酸薬とPDE5阻害薬の両方が処方された男性でも、PDE5阻害薬の使用開始から28日以内では、死亡や心筋梗塞、心不全といったイベントの発生数は少なく、即時性の高いリスクは低~中程度であることが示されたとAndersson氏らは説明している。 Andersson氏は、「われわれの目標は、硝酸薬による治療を受けている患者にPDE5阻害薬を処方する前に、患者中心の視点で慎重に考慮する必要性を明確に示すことだ」と米国心臓病学会(ACC)のニュースリリースで述べている。その上で、「ED治療薬が心血管疾患のある男性に与える影響は現時点では不明瞭だが、今回の結果は、この影響に関するさらなる研究を正当化するものだ」としている。 一方、米ベイラー大学心臓病学教授のGlenn Levine氏は付随論評で「体調管理が行き届いている軽度の狭心症の男性であれば、ED治療薬はそれなりに安全だ。しかし、硝酸薬の継続的な処方が必要な状態でED治療薬を併用するのは、賢明とは言えない」との見解を示している。同氏は、「EDと冠動脈疾患の組み合わせは高頻度に見られる不幸な組み合わせだ。しかし、適切な予防策とケアを行うことで、これらは何年にもわたって共存できる」と述べている。

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冠動脈CT血管造影による冠血流予備量比は安定狭心症の3年転帰を予測

 安定狭心症患者において冠動脈CT血管造影から得た冠血流予備量比(FFR)は、3年間の全死亡または非致死的心筋梗塞のリスクを予測するという研究結果が、「Radiology」9月号に掲載された。 南デンマーク大学病院(デンマーク)のKristian T. Madsen氏らは、新規発症の安定狭心症の患者において、冠動脈CT血管造影から得られたFFR検査の結果による3年間の臨床転帰の予測能を評価した。解析対象は、デンマークの3 施設で2015年12月~2017年10月に登録され、30%以上の冠動脈狭窄を1カ所以上有し、冠動脈CT血管造影によるFFR検査の結果を取得できた連続症例900人(平均年齢64.4歳、男性65%)であった。 冠動脈CT血管造影から得られた狭窄部から遠位部2cmまでのFFR値が0.80以下の場合を異常と判定した。主要エンドポイントは全死亡と自然発症の非致死的心筋梗塞の複合、副次エンドポイントは心血管死亡と自然発症の非致死的心筋梗塞の複合とした。全ての対象者はFFR検査後3年間または死亡まで追跡された。エンドポイントの発生率は1標本の二項モデルにより推定し、FFRが正常だった群と異常だった群との間で相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、カイ二乗検定またはフィッシャーの直接確率検定を用いて比較した。 ベースライン時の冠動脈CT血管造影によるFFRは、対象者のうち377人が異常、523人が正常であった。追跡の結果、主要エンドポイントはFFR異常群の6.6%、正常群の2.1%で発生した(RR 3.1、95%CI 1.6~6.3、P<0.001)。副次エンドポイントはFFR異常群の5.0%、正常群の0.6%で発生した(RR 8.8、95%CI評価不能、P=0.001)。 こうしたFFR異常群におけるリスク上昇は、狭窄の重症度(50%以上または50%未満)と冠動脈石灰化(CAC)スコア(400以上または400未満)で調整後も認められた(主要エンドポイントの調整RR 2.5、95%CI 1.2~5.2、P=0.02、副次エンドポイントの調整RR 8.0、95%CI 2.1~30.2、P=0.002)。さらに、CACスコア高値(400以上)のサブグループ解析を実施したところ、主要エンドポイントはFFR異常群の9.0%、正常群の2.2%で発生し(RR 4.1、95%CI 1.4~11.8、P=0.001)、副次エンドポイントはFFR異常群の6.6%、正常群の0.5%で発生した(RR 12.0、95%CI評価不能、P=0.01)。 冠動脈CT血管造影によるFFRの予後予測能を評価したところ、ベースライン時のリスク変数(糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙)、CACスコア、狭窄の重症度にFFRを追加することにより、主要エンドポイントと副次エンドポイントの診断能が向上した〔ROC曲線下面積はそれぞれ0.62から0.74(P<0.001)、0.66から0.81(P=0.02)〕。 Madsen氏は、「本研究から、CACスコアの高い患者における冠動脈CT血管造影によるFFRの予後予測の可能性を示すエビデンスが示された。患者のベースラインリスクやCACにより測定された冠動脈疾患の程度にかかわらず、冠動脈CT血管造影によるFFRの結果が正常であれば予後良好である」と述べている。 なお、複数人の著者が医療機器企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例【見落とさない!がんの心毒性】第27回

※本症例は、実臨床のエピソードに基づく架空のモデル症例です。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別70代・男性主訴ECG異常、NT-proBNP高値既往歴高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴(+)、飲酒歴(-)家族歴父親:大腸がん、母親:狭心症現病歴X-9年の人間ドック受診時にPSA上昇を指摘されたため精査目的で泌尿器科を受診、前立腺生検を施行した。初回ならびに2回目(X-7年)の生検では陰性であったが、X-5年のドック検査でPSAがさらに上昇したことからMRI検査ならびに3回目の生検を施行し、前立腺がんと診断された。がん治療はアンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy:ADT)と放射線の併用療法が選択された。X-5年3月から同年12月まで第一世代抗アンドロゲン薬が投与され、X-5年4月からX-4年6月までGnRHアゴニストが併用された。さらに、放射線療法(78Gy)をX-5年10~12月まで施行された。その結果、PSAは正常化した。がん治療終了後に心臓CT検査を施行したが、冠動脈に有意な狭窄は認めなかった。その後、泌尿器科の定期的な受診とかかりつけ医で生活習慣病の治療を受けており、引き続き年1回の人間ドックは当院を受診していた。X年に受診した人間ドックで運動負荷試験陽性(図1)、NT-pro BNP高値を指摘された。胸痛などの自覚症状は認めなかったが糖尿病などのリスク因子を有しており、虚血性心疾患の合併を疑い、精査加療目的で循環器内科を紹介し受診された。(図1)X年の人間ドックでの運動負荷心電図試験(マスターダブル負荷)画像を拡大するX年に受診した人間ドック時運動負荷心電図ではV4-V6でST低下を認め、NT-proBNP 152pg/mLの上昇を認めた。本例は、前立腺がん治療終了後に心臓CT検査が施行されるも、冠動脈に有意狭窄は認められず、前年までの運動負荷心電図所見の異常はなかった。心電図変化は比較的軽く、自覚症状も認めなかったが、高齢かつ複数の動脈硬化危険因子を有していたこと、ADTを施行されていたことから心血管疾患の合併を疑い精査を行った。循環器専門病院で施行した冠動脈造影検査では左冠動脈#7に75~90%狭窄を認めたため、同部位に冠動脈形成術(ステント留置術)を施行した。【問題】本症例の治療に際して注意する点として、適切な答えを選択せよ。a.前立腺がん症例の多くは、治療前より高齢、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの心血管リスクを複数有している事が多く、がん治療を施行する際には心血管毒性に対する注意が必要である。b.ADTの施行後は肥満症、糖尿病、脂質異常症を来すことがあり、その後の動脈硬化症や冠動脈疾患の発症に注意が必要である。c.症候性冠動脈疾患の既往を有する症例に対し、ADTを施行する際には、心血管リスクの有無を考慮したがん治療薬の選択が重要である。d.ADTにおける筋肉系合併症としてはサルコペニア・運動耐容能の低下、骨関連合併症としては骨粗鬆症・骨折などを認めることがあるので注意を要する。e.すべて正しい1)Studer UE, et al. J Clin Oncol. 2006;24:1868–1876.2)Calais da Silva FE, et al. Eur Urol. 2009;55:1269–1277.3)Weiner AB, et al. Cancer. 2021;127:2895-2904.4)Klimis H, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2023;5:70-81.5)Narayan V, et al. J Am Coll Cardiol CardioOnc. 2021;3:737-741.6)Chen DY, et al. Prostate. 2021;81:902-912.7)Okwuosa TM, et al. Circulation. 2021;14:e000082.8)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022;432:4229-4361.講師紹介

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週末の寝だめ、健康への影響は?

 睡眠不足は心血管疾患(CVD)の発生や認知機能の低下、うつ病などさまざまな疾患のリスクとなる。週末のキャッチアップ睡眠は、週末に長時間の睡眠をとることで平日の睡眠不足を補うものであるが、このキャッチアップ睡眠がCVD発生のリスク因子である肥満、高血圧などの発生リスクを低下させたことが報告されている。そこで中国・南京医科大学のHong Zhu氏らの研究グループは週末のキャッチアップ睡眠とCVDの関連を検討した。その結果、平日の睡眠時間が6時間未満の集団において、週末のキャッチアップ睡眠が2時間以上であると、CVD発生のリスクが低下した。本研究結果は、Sleep Health誌オンライン版2023年11月23日号で報告された。 本研究は、2017~18年に実施された米国の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)に参加した20歳以上の3,400例を対象とし、週末のキャッチアップ睡眠とCVDの関連を検討した。週末のキャッチアップ睡眠は、週末の睡眠時間が平日より1時間以上長いことと定義した。 主な結果は以下のとおり。・対象3,400例(男性:1,650例、女性:1,750例)のうち、333例(9.8%)がCVDを有していた。・CVDを有している参加者は、CVDを有さない参加者と比べて週末のキャッチアップ睡眠時間が短かった(p<0.01)。・週末のキャッチアップ睡眠がある参加者は、キャッチアップ睡眠のない参加者と比べてCVDの有病率が低かった(p<0.01)。・多変量解析において、週末のキャッチアップ時間は狭心症(p=0.04)、脳卒中(p<0.01)、冠動脈性心疾患(p=0.01)の有病率と関連していた。・平日の睡眠時間が6時間未満の集団では、週末のキャッチアップ睡眠がCVDの有病率の低下と関連し(p<0.01)、この集団において週末のキャッチアップ睡眠時間とCVDの有病率の関連を検討した結果、週末のキャッチアップ睡眠時間が2時間以上であるとCVDの有病率が低下した(p=0.01)。

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現代の血管インターベンション治療のレベルを無視しているのではないか(解説:野間重孝氏)

 この論文(ORBITA-2試験)の評価には、まず2017年に同グループによってLancet誌に発表されたORBITA試験について知っておく必要がある。同論文はジャーナル四天王で紹介されたのでお読みになった方も多いかと思う(「PCIで運動時間が改善するか?プラセボとのDBT:ORBITA試験/Lancet」)。また、奇縁にもその論文評を評者らが担当していた(下地 顕一郎君との共著)(「ORBITA試験:冷静な判断を求む」)。その関係から、以下前回の論文評と内容に一部重複する部分も見られると思うがご容赦願いたい。 ORBITA試験は至適薬物治療を受けている重症一枝病変の安定狭心症患者200例を対象とし、PCIが行われた群とプラセボ手術が行われた群とに分け、運動時間増加量を無作為化二重盲検試験で比較検討した試験である。この結果は大きな議論の対象となった。両群で運動時間増加量に差が認められなかったからである。つまり、少し乱暴な言い方をすれば、PCIなどやってもやらなくても同じだという結果が出されたのである。これを受けてLancet誌同号のeditorialで「薬物療法に対して不応な症例ですらPCIは無益」で「すべてのガイドラインでPCIを格下げすべきである」といった感情的な議論がなされ、これに対しこの論文の筆頭著者だったAl-Lameeが反論するといった、一種のドタバタ喜劇が演じられるという一幕もあった。 こうした議論のそもそもの背景には、2007年にNEJM誌に発表されたCOURAGE試験があった。この試験により、安定狭心症に対するPCIは薬物療法に比して心筋梗塞や死亡の発生率を減らすことができないことが示されたのである。以後、PCIはもっぱら症状の改善を目的として行われるようになっていた。ところがORBITA試験は、PCIでは肝心の症状の改善すら明確には望めないと断じたのである。 ただし、こうした結果を重症虚血症例にまで拡大適応してはならないことは、他ならぬCOURAGE試験のサブ解析によって示された。サブ解析については紙面の関係から深入りしないが、これはORBITA試験についてもいえることで、この試験では重症虚血例は除外されていた。 ORBITA試験の研究グループは、今回大きく視点を変えてPCI単独の効果の検討を試みた。抗狭心症薬による治療をほぼ受けておらず、かつ客観的虚血が認められる安定狭心症の患者に対してPCIを施行し、PCIにより狭心症症状スコアが有意に改善することを無作為化検定で証明したのである。発想の転換というか、「では薬物の影響を極力排除した場合、PCIは本当に単独で症状改善効果を期待できるのか?」という設問を立てたもので、PCIに対して疫学的観点から評価を与えたものといえるだろう。しかし、ORBITA試験の結果との関係を論じるとなると、難しいものがあるのが事実である。PCIが単独で症状改善効果を持つとして、ではなぜ薬物治療下では追加的な効果が期待できないのか? この疑問には何も答えていないからである。 本試験の問題点としてまず指摘されるのは、前回と同様に、重症患者が試験対象から除外されていることだろう。論文中には明記されてはいないが、血小板機能阻害薬とスタチン以外のすべての薬剤を中止することが医学的にも倫理的にも許容される安定狭心症とはどの程度の重症度であるかは、臨床に携わる医師ならば誰でもわかることである。 しかし、そうした除外規定を容認するとしても残るのが、症状を主要エンドポイントに据えたことであると思う。PCIを実際に施行されたグループでは、複数ある狭窄を含めてすべてを完全に治療されたのである。それでもプラセボ群と大きな差がついたとはいえ、無視できない数の患者が症状を訴えているのである。 こうした現象を評者はよく狭心症・心筋梗塞と脳虚血の違いを例にとって説明している。脳虚血発作の症状は傷害部位によって特徴的かつ明確であり、また発症時期も明らかである。それに対して虚血性心疾患の場合は、心筋梗塞の場合といえども症状は必ずしも典型的なものとは限らず、また発症時期も明らかにすることは難しい。心筋梗塞の治療成績の検討にdoor-to-balloon timeが用いられ、onset-to-balloon timeが用いられないのはonset timeが明確に決められないからである。狭心症についてはさらに難しい。狭心症状はある意味、大変に主観的なものなのである。虚血の発生を客観的に明示できる方法を用いない限り、この種の研究には常に限界が付きまとうのである。これはORBITA試験についてもいえることで、運動時間といっても息切れの発生や動悸の発生で運動を止めているのか、明確なST-T変化によって運動を止めているのかで意味はまったく異なってくる。両論文には、少なくとも明確なST-T変化が見られるまで続行したという、はっきりした記述は見られない。 PCIはすでに成熟した治療法である。一時は確かに業績欲しさに不必要なPCIが行われた嘆かわしい時期があったことは事実であるが、それは過去のことである。現在、冠動脈の形態は造影CTで無侵襲で見ることができ、虚血の評価はMRIだけでなく、最近はFFR-CTなどの技術も実用化している。ワイヤを冠動脈内に入れれば病変形態は冠動脈エコーにより観察できるし、OCTを用いれば石灰化の厚さ・形態、粥腫の安定性の評価も可能である。さらに、治療の必要性についてはFFR/iFRにより的確に判断できる。評者は、当たり前のことであってもきちんと証明することには常に価値があると、日頃より発言してきた。その意味からこの研究を評価するかと聞かれたとするなら、残念ながら現代の技術レベルを無視した研究には、どれだけ多くの人が関わり手間をかけたとしても、評価することはできないとお答えするしかない。この論文評を書いている2023年現在、PCIの効果をこうした疫学的手法から検討しようという時代は終わっているとしかいえないと考えるからである。

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パルスフィールドアブレーションは心房細動治療のゲームチェンジャーになりうるか(解説:高月誠司氏)

 日本では2024年に、新しい不整脈に対するアブレーション法として3種類のパルスフィールドアブレーションが導入される。ADVENT試験は、心房細動に対して従来の高周波カテーテルアブレーションとパルスフィールドアブレーションを比較した初めてのランダム化比較試験で、ほぼ同等の治療成績であった。 組織に500~1,000V/cmの高電圧のパルスを与えると、細胞には小さな穴が瞬間的に多数形成され、閾値以上のエネルギーでパルスを与えると細胞が壊死する。この閾値は組織ごとに異なり、心筋細胞は周囲の食道や神経組織よりも閾値が低く、選択的なアブレーションが可能で、合併症が少なくなることが期待されている。また、肺静脈隔離のdurabilityが高い、つまり遠隔期の肺静脈の再伝導が少ないことが報告されており、心房細動アブレーションのゲームチェンジャーとして大いに期待されている。ただし、心房粗動の治療として、右房の三尖弁輪下大静脈間の解剖学的峡部でパルスをかけると、その心外膜側の右冠動脈で冠動脈スパズムが誘発されることも知られている。静注のニトログリセリンの前投与はこれを予防しうるということだが、冠攣縮性狭心症が多い本邦では冠動脈スパズムに対して十分な注意が必要であろう。

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狭心症薬非服用の安定狭心症、PCIは有効か?/NEJM

 抗狭心症薬による治療をほぼ受けていない、またはまったく受けていない、客観的虚血を認める安定狭心症の患者において、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)はプラセボ処置と比較して、狭心症症状スコアを有意に改善し、狭心症関連の健康状態を良好とすることが示された。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのChristopher A. Rajkumar氏らが、301例を対象に行った二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。PCIは、安定狭心症の症状軽減を目的に施行される頻度が高いが、抗狭心症薬治療を受けていない患者への有効性については明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2023年11月11日号掲載の報告。 施行後12週間追跡し、対プラセボの狭心症症状スコアを比較 試験は、研究者主導にて英国の14施設で行われた。被験者はすべての抗狭心症薬の服用を中止し、無作為化前の2週間は症状評価期間とされた。その後、被験者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け、一方にはPCIを、もう一方にはプラセボ処置を施行し、12週間追跡した。 主要エンドポイントは狭心症症状スコアで、特定の日に発生した狭心症エピソードの回数、その日に処方された抗狭心症薬の数、臨床イベント(許容できない狭心症のための非盲検化や急性冠症候群の発生もしくは死亡)を基に算出された。スコア範囲は0~79点で、高いほど狭心症関連の健康状態の悪化を示した。狭心症症状の平均スコア、PCI群2.9、プラセボ群5.6で有意差 2018年11月12日~2023年6月17日に、最終的に301例が無作為化された(PCI群151例、プラセボ群150例)。平均年齢(±SD)は64±9歳で、男性は79%だった。 虚血を認めたのは、1ヵ所が242例(80%)、2ヵ所が52例(17%)、3ヵ所が7例(2%)だった。 標的血管において、血流予備量比(FFR)の中央値は0.63(四分位範囲[IQR]:0.49~0.75)、瞬時拡張期冠内圧比(iFR)の中央値は0.78(IQR:0.55~0.87)だった。 追跡期間12週時の狭心症症状の平均スコアは、PCI群2.9、プラセボ群5.6だった(オッズ比:2.21、95%信頼区間:1.41~3.47、p<0.001)。 プラセボ群の1例が、許容できない狭心症のため非盲検化となった。急性冠症候群は、PCI群4例、プラセボ群6例で発生した。

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肝臓と腎臓の慢性疾患の併存で心臓病リスクが上昇する

 狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患(IHD)のリスク抑制には、肝臓と腎臓の病気の予防が肝腎であることを示唆する研究結果が報告された。代謝異常関連脂肪性肝疾患(MAFLD)と慢性腎臓病(CKD)が併存している人は、既知のリスク因子の影響を調整してもIHD発症リスクが有意に高いという。札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座の宮森大輔氏、田中希尚氏、古橋眞人氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に7月8日掲載された。 MAFLDとCKDはどちらも近年、国内で患者数の増加が指摘されている慢性疾患。MAFLDは、脂肪肝とともに過体重/肥満、糖尿病もしくはその他の代謝異常(血糖や血清脂質、血圧の異常など)が生じている状態で、最近では動脈硬化性疾患の新たなリスク因子と位置付けられている。一方、CKDは腎機能の低下を主徴とする疾患だが、腎不全のリスクというだけでなく、動脈硬化性疾患のリスクとしても重視されている。肝臓と腎臓はともに生体の恒常性維持に重要な役割を担っており、動脈硬化性疾患に関しても、MAFLDとCKDが存在した場合にはリスクがより上昇する可能性がある。ただし、そのような視点での研究はこれまで報告されていない。古橋氏らの研究グループは、健診受診者のデータを用いた縦断的解析により、この点を検討した。 解析対象は、2006年に渓仁会円山クリニック(札幌市)で定期健診を受けた人のうち、2016年までに1回以上、再度健診を受けていて追跡が可能であり、ベースライン時(2006年)にIHDの既往がなく、解析データに欠落のない1万4,141人(平均年齢48±9歳、男性65.0%)。このうち、ベースライン時点でMAFLDは4,581人(32.4%)、CKDは990人(7.0%)に認められ、両者併存は448人(3.2%)だった。 平均6.9年(範囲1~10年)の追跡で、479人がIHDを発症。1,000人年当たりの発症率は、男性6.3、女性2.4だった。IHD発症リスクとの関連の解析に際しては、年齢と性別の影響を調整する「モデル1」、モデル1に現喫煙とIHDの家族歴を追加する「モデル2」、モデル2に過体重/肥満(BMI23以上)、糖尿病、脂質異常症、高血圧を追加する「モデル3」という3通りで検討した。なお、モデル3で追加した調整因子は、一般的にIHD発症に対して調整される必要があるが、MAFLDの診断基準と重複していることにより多重共線性の懸念(有意な関連を有意でないと判定してしまうこと)があるため、最後に追加した。 ベースライン時点でMAFLDとCKDがともにない群を基準とすると、MAFLDのみ単独で有していた群のIHD発症リスクは、モデル1〔ハザード比(HR)1.42〕とモデル2(HR1.40)では有意な関連が示された。ただし、モデル3では非有意となった。ベースライン時点でCKDのみを有していた群は、全てのモデルで関連が非有意だった。それに対して、MAFLDとCKDの併発群は、モデル1〔HR2.16(95%信頼区間1.50~3.10)〕、モデル2〔HR2.20(同1.53~3.16)〕、モデル3〔HR1.51(1.02~2.22)〕の全てで、IHD発症リスクが高いことが示された。 なお、性別の違いは上記の結果に影響を及ぼしていなかった(モデル3での交互作用P=0.086)。また、モデル3において、MAFLDの有無、およびCKDの有無で比較した場合は、いずれもIHDリスクに有意差がなかった。 続いて、IHDリスクの予測に最も適したモデルはどれかを、赤池情報量規準(AIC)という指標で検討した。AICは値が小さいほど解析に適合していることを意味するが、モデル1から順に、8585、8200、8171であり、モデル3が最適という結果だった。 次に、IHDの古典的なリスク因子(年齢、性別、現喫煙、IHDの家族歴)にMAFLDとCKDの併存を追加した場合のIHD発症予測能への影響をROC解析で検討。すると、古典的リスク因子によるAUCは0.678であるのに対して、MAFLDとCKDの併存を加えると0.687となり、予測能が有意に上昇することが分かった(P<0.019)。 著者らは本研究の限界点として、食事・運動習慣やがんの既往などが交絡因子に含まれていないこと、脂肪肝の重症度が考慮されていないことなどを挙げている。その上で、「日本人一般集団においてMAFLDとCKDの併存は、それらが単独で存在している場合よりもIHD発症リスクが高いことが示された」と結論付け、「MAFLD、CKD、IHDの相互の関連の理解を進めることが、IHDの新たな予防戦略につながるのではないか」と述べている。

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STEMI、中医薬tongxinluoの上乗せで臨床転帰改善/JAMA

 中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのYuejin Yang氏らは、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)におけるガイドライン準拠治療への上乗せ補助療法として、中国伝統医薬(中医薬)のTongxinluo(複数の植物・昆虫の粉末・抽出物からなる)は30日時点および1年時点の両方の臨床アウトカムを有意に改善したことを、大規模無作為化二重盲検プラセボ対照試験「China Tongxinluo Study for Myocardial Protection in Patients With Acute Myocardial Infarction(CTS-AMI)試験」の結果で報告した。Tongxinluoは有効成分と正確な作用機序は不明なままだが、潜在的に心臓を保護する作用があることが示唆されている。中国では1996年に最初に狭心症と虚血性脳卒中について承認されており、心筋梗塞についてはin vitro試験、動物実験および小規模のヒト試験で有望であることが示されていた。しかし、これまで大規模無作為化試験では厳密には評価されていなかった。JAMA誌2023年10月24・31日合併号掲載の報告。対プラセボの大規模無作為化試験でMACCE発生を評価 CTS-AMI試験は2019年5月~2020年12月に、中国の124病院から発症後24時間以内のSTEMI患者を登録して行われた。最終フォローアップは、2021年12月15日。 患者は1対1の割合で無作為化され、STEMIのガイドライン準拠治療に加えて、Tongxinluoまたはプラセボの経口投与を12ヵ月間受けた(無作為化後の負荷用量2.08g、その後の維持用量1.04g、1日3回)。 主要エンドポイントは、30日主要有害心脳血管イベント(MACCE)で、心臓死、心筋梗塞の再発、緊急冠動脈血行再建術、脳卒中の複合であった。MACCEのフォローアップは3ヵ月ごとに1年時点まで行われた。 3,797例が無作為化を受け、3,777例(Tongxinluo群1,889例、プラセボ群1,888例、平均年齢61歳、男性76.9%)が主要解析に含まれた。30日時点、1年時点ともMACCEに関するTongxinluo群の相対リスク0.64 30日MACCEは、Tongxinluo群64例(3.4%)vs.プラセボ群99例(5.2%)で発生した(相対リスク[RR]:0.64[95%信頼区間[CI]:0.47~0.88]、群間リスク差[RD]:-1.8%[95%CI:-3.2~-0.6])。 30日MACCEの個々のエンドポイントの発生も、心臓死(56例[3.0%]vs.80例[4.2%]、RR:0.70[95%CI:0.50~0.99]、RD:-1.2%[95%CI:-2.5~-0.1])を含めて、プラセボ群よりもTongxinluo群で有意に低かった。 1年時点でも、MACCE(100例[5.3%]vs.157例[8.3%]、ハザード比[HR]:0.64[95%CI:0.49~0.82]、RD:-3.0%[95%CI:-4.6~-1.4])および心臓死(85例[4.5%]vs.116例[6.1%]、HR:0.73[0.55~0.97]、RD:-1.6%[-3.1~-0.2])の発生は、Tongxinluo群がプラセボ群よりも依然として低かった。 30日脳卒中、30日および1年時点の大出血、1年全死因死亡、ステント内塞栓症(<24時間、1~30日間、1~12ヵ月間)など、その他の副次エンドポイントでは有意差はみられなかった。 薬物有害反応(ADR)は、Tongxinluo群がプラセボ群よりも有意に多く(40例[2.1%]vs.21例[1.1%]、p=0.02)、主に消化管症状であった。 今回の結果を踏まえて著者は、「STEMIにおけるTongxinluoの作用機序を確認するため、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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