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熱中症【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第4回

今回は「熱中症」についてです。夏場では熱中症はCommonな疾患で、さまざまな原因によって生じます。地球温暖化も相まって、熱中症は気象の影響による死亡の中で最も多いという報告があり1)、すべてのかかりつけ医にとって必修の疾患と言えるでしょう。私も救命センターで働いていると、熱中症患者の搬送や受診が年々増えていることを実感しています。熱中症の診療を若手医師に教える機会は多いのですが、しばしば「言葉の定義や治療方法があやふやだな」と感じることがあります。これは自分が研修医のときに上級医に言われたことでもありますが、系統立てて熱中症を勉強した経験が少ないことが影響しているのではないかと思います。今回は熱中症の定義や臨床像を整理し、かかりつけ医が熱中症患者を診る際のポイントや対処法をお伝えし、さらに帰宅時に「暑い中で作業する時は水分をしっかり取ってね」と指導する「しっかり」がどの程度かを解説します。熱中症の診断熱中症の診断で重要なのは「病歴の聴取」です。熱中症以外の疾患を見落とさないために、どんな場所で何をしていたか、随伴症状がないか、など聞ける範囲でしっかりと聴取しましょう。私が以前経験した苦い症例を挙げます。公園で遊んでいた母親と2人の子供が救急外来を受診。トリアージには一言「熱中症」と記載があり、体温は3人とも37.5℃程度であった。救急外来が混雑しており、3人ともぐったりしていたため、すぐに冷たい点滴を施行した。子供はすぐに元気になったが、母親はガタガタ震え、体温は39℃になり、嘔吐し始めた。よくよく聞くと、公園に着いたあたりから母親は倦怠感を感じて木陰で休んでいたとのことで、実は胃腸炎であった。この母親は運動性(労作性)熱中症にアンカリング(先に与えられた数字や情報を基に検討を始めることにより、その後の意思決定に影響を及ぼすこと)され、病歴をしっかりと聴取できていませんでした。熱中症診断の難しさを再確認した反省症例です。なお、古典的(非労作性)熱中症では、認知症や意識障害などにより病歴聴取が困難なことが多く、高温の環境から離れられなかった理由(図1)をしっかりと調べる必要があります2)。図1 熱中症と鑑別が必要な疾患例画像を拡大する熱中症の治療古典的熱中症は死亡率が高く、ほとんどの症例が総合病院に搬送されるため、ここからは、一般外来でもよく出会う運動性熱中症を中心にお話しします。目の前に熱中症患者がいた場合、まず現場で対応できるかどうかの判断が求められます。つまり、総合病院に搬送すべきかどうかという判断です。III度熱中症でジャパン・コーマ・スケール(JCS)2以上(見当識障害があり場所、日付、周囲の状況が正確に言えない)であれば、すぐに総合病院に搬送すべきです。JCS2程度であっても急性腎不全や横紋筋融解症など早期加療が必要な疾患を合併する可能性は高くなります。I度熱中症とII度熱中症の違いは、JCS0かJCS1かの違い、つまり意識清明か、見当識障害はないがぼーっとしているかの違いです。両方とも高温の環境から涼しい環境に移し、経口補水液を摂取させることが重要な治療です。ただし、II度熱中症で加療を開始して30分経っても意識が清明にならない場合は総合病院への搬送を検討しましょう3)。I度熱中症でも失神した場合はしっかりと鑑別を行い、病院での検査が必要になることがあるため搬送を検討します。熱痙攣(こむら返り)が収まらない場合は痛みで満足に水分摂取ができないことがあり、その際も搬送を検討します。私は熱痙攣が治まらず満足な水分摂取が困難な場合、生理食塩水の点滴と除痛目的のアセトアミノフェンを投与します。脱水による急性腎不全を合併していることがあるためNSAIDsの使用は控えます。また、報告は限られますが、芍薬甘草湯は熱中症に伴うこむら返りに効果があるという報告があり、頑張って1包(2.5g)を服薬してもらっています4)。これらの処置により1時間ほどで症状が改善することがしばしばあります。基本的にII度熱中症までは体温中枢が働いていて深部体温の上昇は軽度であるため、体表面の冷却が推奨されます。一般外来や院外でできることは、うちわや扇風機を使用する氷嚢を頸部、腋下、鼠経に設置する(直接では凍傷を生じることがあるので、必要に応じて間にタオルなどをはさむ)体に霧吹きで水をかけるなどがあります。氷水のプールに全身を浸して冷却するという方法が最も効果的だという報告がありますが、実行できる設備が少ないので現実的ではありません5)。霧吹きにはよく冷えた水を入れたほうがよいと思われがちですが、実はこれはお勧めできません。霧吹きによる体温降下は、水が蒸発する際に周囲の熱を奪うことで体内の熱を空気中に逃がすことができます(気化熱)。よって、常温~温かい水を使用するのがベストです。熱中症のピットフォール熱中症診療で注意しなければならないのが横紋筋融解症です。国家試験などにも出るほどメジャーな疾患ですが、診断が難しい疾患の1つでもあります。適切に治療しないと電解質異常や腎不全などを合併する恐れがあるため、早期診断・加療が必要です。熱中症の後に横紋筋融解症を合併した場合、尿がコーラ色になることがあります。これはミオグロビン尿と言われ、赤血球が尿沈渣では陰性で、尿定性では陽性になるのが特徴です。しかし、横紋筋融解症でミオグロビン尿が発現するのは19%程度であまり高くはありません6)。そこで診断基準に多く使われるのがクレアチニンキナーゼ(CK)です。多くの文献では正常値の5倍(1,000U/L)超を診断基準にしています。5,000U/L以下であれば横紋筋融解症の発症率は低いとされていますが、遅れて上がってくることもあるため注意が必要です7,8)。これらを聞くと「結局どうすればいいの?」となると思います。I度・II度熱中症であれば基本的に重症の横紋筋融解症は合併しないため、患者全員を病院に搬送して血液検査を行うというのは現実的ではありません。横紋筋融解症の治療は水分摂取が第1であり、認知症や意識レベルが低下している患者など水分摂取に懸念がある場合は積極的に病院受診を促すべきと考えます。私は患者を自宅に帰すときには、尿が出ない、尿が黒くなるなどの症状が現れた場合はすぐに病院を受診するよう指導しています。熱中症の予防最後に熱中症の予防です。環境省は熱中症の予防として、涼しい服装日陰の利用日傘・帽子の使用水分摂取を推奨しています。私も熱中症の患者さんは、水分摂取が少ないなと感じます。私が熱中症になった方に「水分を取りましたか?」と聞くと、多くの人が「取っている」と答えますが、よくよく聞くと「暑い環境で5時間働いていたのにコーヒー牛乳500mLを1本だけ」だったという経験があり、その量はさまざまです。では、よく言われる「こまめな水分摂取」とはどの程度でしょうか? 私が探した範囲では日本語で具体的に水分摂取量を記載しているものは見つかりませんでしたが、米国CDCによると、暑い環境で作業するときは水を15~20分ごとに8ounces(240mLくらい)、1時間で1Lくらいが摂取の目安となっています。この際、糖分の多いジュースなどは控えてもらいます。スポーツドリンクも糖分が多いので長時間継続的に摂取することは勧められませんが、状況に応じて活用しましょう。気温や活動の負荷によって異なりますが、最低基準としてこちらを患者へ説明してはいかがでしょうか。今回は、熱中症の診断、治療、予防について紹介しました。熱中症はCommonな病気であり、しっかりと治療し、適切に予防することが重要です。これからさらに暑くなると熱中症患者さんが増えてくるため、復習になれば幸いです。先生自身の熱中症対策もお忘れなく!熱中症の基礎知識<発熱と高体温>発熱とは体温中枢による調整によって体温が上昇することを指し、高体温は体温中枢のコントロールが破綻してしまっている状態を指します。前者の代表は感染症であり、後者は熱中症や甲状腺機能亢進症などが挙げられます。前者による体温上昇であればアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬は効果がありますが、後者は解熱鎮痛薬で体温低下は期待できず、原因を解除する必要があります9)。<運動性(労作性)熱中症と古典的(非労作性)熱中症>運動性熱中症とは読んで字のごとく、屋外や炎天下で活動して水分摂取が足りないときに生じます。数時間以内で急激に発症し、発汗と脱水が必ず伴います。一方、古典的熱中症とは、小児や高齢者が安静時であっても高温の環境に置かれたときに生じます。毎年夏になると親がパチンコに行き子供を車に放置して熱中症で亡くなる、高齢者がクーラーをつけずに自宅にいて熱中症で亡くなるというニュースを聞くと思います。これらが古典的熱中症で、体温が急速に上がった結果、中枢神経の機能が破綻して発症します。発汗がないのが特徴であり、高度の脱水を伴わないこともあります3)。運動性熱中症は、若年~中年に多いということもあり死亡率は低く、5%未満ですが、古典的熱中症は高齢者が多く、また室内で発生することが多いため発見が遅れることもあり、死亡率は約50%と非常に高いです10)。<重症度分類>熱中症の重症度分類であるI度、II度、III度は日本救急学会の定義であり、日本オリジナルの分類です。従来から言われている熱失神(Heat syncope)、熱痙攣(Heat cramp)、熱疲労(Heat exhaustion)、熱射病(Heat stroke)では重症度のイメージがつきにくいため作成されました(図2)。ちなみに、熱痙攣は痙攣発作のことではなくこむら返りのことを指し、熱失神は立ち眩み~失神を指します。図2 日本救急学会提唱の熱中症重症度分類画像を拡大する 1)Summary of Natural Hazard Statistics for 2017 in the United States2)Epstein Y, et al. NEJM;380:2449-2459.3)Glazer JL. Am Fam Physician. 2005;71:2133-2140.4)中永 士師明. 日本東洋医学雑誌. 2013;64:177-183.5)Ito C, et al. Acute Medicine & Surgery. 2021;8:e635.6)Melli G, et al. Medicine. 2005;84:377-385.7)Stahl K, et al. J Neurol. 2020;267:8778-8782.8)Giannoglou GD, et al. Eur J Intern Med. 2007;18:90-100.9)Stitt JT. Fed Proc. 1979;38:39-43.10)Bouchama A, et al. NEJM. 2002;346:1978-1988.

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熱中症の分類【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q27

熱中症の分類Q27熱中症は、暑熱環境が原因でおこる臓器障害の総称であり、症状や体温で分類されている。国際的な分類では軽症から、熱けいれん<熱失神<熱疲労<熱射病であるが、本邦での分類は重症度に合わせてIII度に分けている。本邦での分類はそれぞれ国際的な分類のどれに該当するか?

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第4回 特別編 覚えておきたい熱中症の基本事項【救急診療の基礎知識】

覚えておきたい熱中症の基本事項7月に入り東京も連日気温が30℃を超え、40℃近い猛暑が続いています。連日熱中症による症状で救急搬送、外来受診される患者さんが後を絶ちません。熱中症に限りませんが、早期に異常を認知し、介入すること、そして、何より予防に努めることが非常に大切です。暑さに負けないために今回は熱中症の基本的事項をまとめておきましょう。●診療のPoint(1)夏場は常に熱中症を疑え!(2)非労作性熱中症は要注意! 屋内でも熱中症は起こりうる!(3)重症度を頭に入れ、危険なサインを見逃すな!熱中症の定義「熱中症とは何ですか?」と質問されて正確に答えられるでしょうか。以前は熱射病、熱痙攣、熱失神という言葉が使用されていましたが、現在は用いられません(重症度と共に後述します)。熱中症とは「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」とされ、「暑熱による諸症状を呈するもの」のうちで、他の原因疾患を除外したものと定義されています。わが国では毎年7~8月に熱中症の発生率が多く、「今そこにある危機」と認識し、熱中症の症状を頭に入れ意識しておく必要があるのです。熱中症の死亡率本邦の年間発症数は約40万人、そのうち8.7%(約3万5,000人)が入院、0.13%(約520名)が死亡しています。この数値は現在も大きな変化はなく、2016年の死亡者数は621名で65歳以上が79.2%という結果でした(厚生労働省 人口動態統計)。2018年は2017年より暑く、熱中症患者は増加することが予想されます。熱中症を軽視してはいけません。労作性vs.非労作性熱中症と聞くと炎天下の中、スポーツや仕事をしている最中に引き起こされるイメージが強いですが、それだけではありません。熱中症は、「労作性熱中症」と「非労作性熱中症」に分類(表1)され、屋内でも発生します。そして、この非労作性熱中症が厄介なのです。画像を拡大する労作性熱中症の患者背景としては若年男性のスポーツ、中壮年男性の労働(建設業、製造業、運送業、とくに日給制のような短い雇用期間の方)、非労作性熱中症では独居の高齢者が典型的です。労作性熱中症の場合には、若く、集団で活動していることが多く、基礎疾患もなく早期に発見、介入できるため予後は良好ですが、非労作性熱中症は、自宅で発生することが多く、発見が遅れ、また心疾患などの基礎疾患、利尿薬などの内服薬などの影響から治療に難渋することがあるわけです。実際、救急医学会の熱中症実態調査において、熱中症の死亡の危険因子は、(1)高齢、(2)屋内発症、(3)非労作性熱中症でした1)。重症度に影響するばかりでなく、再発防止手段にも影響します。意識して対応しましょう。熱中症の重症度以前、熱中症は、熱射病、熱痙攣、熱失神などの呼び名がありましたが、現在は重症度を理解しやすいように表2のように分類されています1)。I度は必ずしも体温は上がりません。症状で判断します。II度は頭痛や嘔吐、倦怠感に加え、深部体温の上昇を認めます。III度は、意識障害、臓器障害を認め、早急な対応が必要になります。画像を拡大する熱中症を疑うことは、病歴から難しくありませんが、重症度の判断は初期評価をきちんと行わなければ見誤ります。とくに重篤化しやすい、非労作性熱中症の高齢者には注意が必要です。意識が普段と同様か否か、腎前性腎障害に代表される臓器障害を認めていないかを評価しましょう。熱中症の治療治療の原則、「安静」「環境改善」「塩分+水分の補給」は絶対です。重症度や経口摂取の可否を評価し、細胞外液の点滴の適応を判断します。高齢者がぐったりしている、十分な飲水が困難な場合には、点滴を選択したほうがよいでしょう。また、点滴が必要と評価した患者では、採血や血液ガスも検査・評価し、臓器障害の有無も併せて確認しましょう。熱中症II度以上は、体温調節中枢が正常に機能していない状態です。皮膚や筋肉の血管拡張、血流増加、多量の発汗によって循環血液量減少性ショックへと陥ります。急速な輸液に加え、高体温が持続すると多臓器不全(意識障害、痙攣、急性腎障害、DIC etc.)を伴い、輸液だけでなく呼吸管理や透析などの全身管理が必要となることもあります。初期対応としては以下の2点を意識し、速やかに対応しましょう。(1)目標体温深部体温*が39℃を超える高体温の持続は予後不良因子であり、38℃台になるまでは積極的な冷却処置を行いましょう。*深部体温中枢温を正確に反映する部位は腋窩温でも皮膚温でもありません。最も好ましいのは深部体温(膀胱温、直腸温、食道温)です。救急外来など初療時には、直腸温を測定するか、温度センサー付きバルーンカテーテルを利用し、膀胱温を測定するとよいでしょう。健康な人の体温の平均値は、腋窩温36.4℃に対して直腸温37.5℃と約1℃異なると言われていますが、高体温で発汗している場合や測定方法によって、腋窩温や皮膚温は容易に変化します(正しく測定できません)。熱中症、とくに重症度が高いと判断した症例では、深部体温を測定する意識をもちましょう。(2)冷却方法体表冷却法が一般的です。気化熱を利用します。ぬるま湯(40〜45℃)を霧吹きを用いて体表にかけ、扇風機などで扇ぐとよいでしょう。本当に熱中症か?!熱中症は環境因子だけでも十分起こりえますが、普段であれば自己対応(環境を変える、水分・塩分を摂取する)ができずに発生した可能性があります。つまり、熱中症に陥った原因をきちんと検索する必要があります。とくに非労作性熱中症の場合には、尿路感染症や肺炎などの感染症などが引き金となっているかもしれません。また、薬剤やクリーゼなども熱中症様症状をとることがあります。これらの鑑別は病歴をきちんと把握すればおおよそ可能です。明らかに部屋が暑かった、当日の朝までは普段どおりであったなどの病歴がわかれば、感染症や薬剤の影響は考えづらいでしょう。それに対して、数日前から体調の変化があった場合には、感染症などの影響も考え対応する必要があります。発熱か高体温か判断できず、とりあえず血液培養を2セット提出するのは簡単ですが、それ以上に病歴聴取や身体所見を評価することのほうが大切です。プロカルシトニンも鑑別には役立たないため提出は不要でしょう。熱中症の予防熱中症は予防可能です。起こしてしまった人へは、治療だけでなく正しい熱中症の知識、そして周囲の方への啓発・指導を含め、ポイントを絞って熱中症を起こさないために必要なことを伝えましょう。「また熱中症の患者か!?」と思うのではなく、チャンスだと思い、再発予防に努めましょう。熱中症の基本的事項を伝授熱中症の初期症状、非労作性熱中症に関して伝えましょう。症状が熱中症によるものであることを知っておかないと対応できません。また、熱中症は屋外で起こるものと思っていると、非労作性熱中症に陥ります。高齢の方からは「風通しがいいのでクーラーは使用していません(設置していません)」、「クーラーは嫌いでね」という台詞をよく聞きますが、必要性をきちんと説明し、理解してもらうことが大切です。●熱中症の発生リスク評価を伝授猛暑が続いていますが、どの程度危険なのかを認識しなければ、「大丈夫だろう」と軽視してしまいます。朝のニュースをテレビやスマホで確認するのもよいですが、暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:WBGT)を確認する癖をもっておきましょう。熱中症の発生に関与する因子は気温だけではなく、湿度、風速、日射輻射です。とくに湿度は大きく影響し、これらを実際に計測し算出して出てきた数値がWBGTです。細かなことは割愛しますが、WBGT>28℃になると熱中症が急増し危険と判断します(表3)。画像を拡大する●環境省の熱中症予防情報を伝授環境省熱中症予防情報サイトでは、WBGT(暑さ指数)を都道府県、地点別に確認できます。本稿執筆時の7月19日10時現在の東京都(都道府県)、東京(地点)のWBGT値は31.9℃(危険)と赤表示され、一目で熱中症のリスクが高いことがわかります。3日間の予測も併せて確認できるため、熱中症を予防する立場にある学校の教師や職場の管理者は必ず確認しておく必要があります。朝のニュースなどで危険性は日々報道されていますが、それでもなお発生しているのが熱中症です。願わくは、自ら確認し意識しておくことが必要と考えます。「熱中症の危険がある」ということを事前に意識して対応すれば、体調の変化に対する対応も迅速に行えるでしょう。●熱中症? と思った際の対応を伝授こむら返りや頭痛、倦怠感などを自覚し、環境因子から熱中症? と判断した場合には、速やかに環境を改善し(日陰や店舗内など涼しい場所へ移動)、水分だけでなく塩分を摂取するように勧めましょう。症状が改善しない場合や、自身で水分・塩分の摂取が困難な場合には、時間経過で改善することも多いですが、症状の増悪、一人暮らしで経過を診ることができる家族がいない場合には、病院へ受診するように指示したほうがよいでしょう。屋内外のリスクを見極め夏を過ごす7月は熱中症予防強化月間の重点取組期間です(厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」)。まだまだ暑い日が続きます。日頃の体調管理を行いつつ、屋外でのスポーツや作業をする場合には、リスクを評価し、予防に努め、屋内で過ごす場合には、温度・湿度を意識した環境の設定を行い、夏を乗り切りましょう!1)日本救急医学会熱中症に関する委員会. 熱中症の実態調査-日本救急医学会Heatstroke STUDY 2012最終報告-.日救急医会誌. 2014;25:846-862.

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熱射病で意識不明となった高校生を脳震盪と誤診したケース

救急医療最終判決判例時報 1534号89-104頁概要校内のマラソン大会中に意識不明のまま転倒しているところを発見された16歳高校生。頭部CTスキャンでは明かな異常所見がなかったため、顔面打撲、脳震盪などの診断で入院による経過観察が行われた。当初から意識障害があり、不穏状態が強く、鎮静薬の投与や四肢の抑制が行われた。入院から約3時間後に体温が40℃となり、意識障害も継続し、解熱薬、マンニトールなどが投与された。ところが病態は一向に改善せず、入院から約16時間後に施行した血液検査で高度の肝障害、腎障害が判明した。ただちに集中治療が行われたが、多臓器不全が進行し、入院から約20時間後に死亡確認となった。詳細な経過患者情報学校恒例のマラソン大会(15km走)に参加した16歳男性経過1987年10月30日13:30マラソンスタート(気温18℃、曇り、湿度85%)。14:45スタートから約11.5km地点で、意識不明のまま転倒しているところを発見され、救急室に運び込まれた。外傷として顔面打撲、口唇、前歯、舌、前胸部などの傷害があり、両手で防御することなくバッタリ倒れたような状況であった。診察した学校医は赤っぽい顔で上気していた生徒を診て脱水症を疑い、酸素投与、リンゲル500mLの点滴を行ったが、意識状態は不安定であった。15:41脳神経外科病院に搬送され入院となる(搬送時体動が激しかったためジアゼパム(商品名:セルシン1A)使用)。頭部・胸部X線写真、頭部CTスキャンでは異常所見なし。当時担当医は手術中であったため、学校医により転倒時に受傷した口唇、口腔内の縫合処置が行われた(鎮静目的で合計セルシン®4A使用)。18:30意識レベル3-3-9度方式で100、体動が激しかったため四肢が抑制された。血圧98(触診)、脈拍118、体温40℃。学校の教諭に対し「見た目ほど重症ではない、命に別状はない」と説明した。19:00スルピリン(同:メチロン)2A筋注。クーリング施行。下痢が始まる。21:00血圧116(触診)、体動が著明であったが、痛覚反応や発語はなし。マンニトール250mL点滴静注。10月31日00:00体温38.3℃のためメチロン®1A筋注、このときまでに大量の水様便あり。03:00体温38.0℃、四肢冷感あり。体動は消失し、外観上は入眠中とみられた。このときまでに1,700mLの排尿あり。引き続きマンニトール250mL点滴静注。その後排尿なくなる。06:00血圧測定不能、四肢の冷感は著明で、痛覚反応なし。血糖を測定したところ測定不能(40以下)であったため、50%ブドウ糖100mL投与。さらにカルニゲン®(製造中止)投与により、血圧104(触診)、脈拍102となった。06:40脈拍触知不能のため、ドパミン(同:セミニート(急性循環不全改善薬))投与。その後血圧74/32mmHg、脈拍142、体温38.3℃。08:00意識レベル3-3-9度方式で100-200、血糖値68のため50%ブドウ糖40mL静注。このときはじめて生化学検査用の採血を行い、大至急で依頼。09:00集中治療室でモニターを装着、中心静脈ライン挿入、CVP 2cmH2O。10:00採血結果:BUN 38.3、Cre 5.5、尿酸18.0、GOT 901、GPT 821、ALP 656、LDH 2,914、血液ガスpH7.079、HCO3 13.9、BE -16.9、pO2 32.0という著しい代謝性アシドーシス、低酸素血症が確認されたため、ただちに気管内挿管、人工呼吸器による間欠的陽圧呼吸実施、メイロン®200mL投与などが行われた10:50心停止となり、蘇生開始、エピネフリン(同:ボスミン)心腔内投与などを試みるが効果なし。11:27急性心不全として死亡確認となる。当事者の主張患者側(原告)の主張1.診察・検査における過失学校医や教諭から詳細な事情聴取を行わず、しかも意識障害がみられた患者に対し血液一般検査、血液ガス検査などを実施せず、単純な脳震盪という診断を維持し続け、熱射病と診断できなかった2.治療行為における過失脱水状態にある患者にマンニトールを投与し、医原性脱水による末梢循環不全、低血圧性ショックを起こして死亡した。そして、看護師は十分な観察を行わず、担当医師も電話で薬剤の投与を指示するだけで十分な診察を行わなかった3.死亡との因果関係病院搬入時には熱射病が不可逆的段階まで達していなかったのに、診察、検査、治療が不適切、不十分であったため、熱射病が改善されず、低血糖症を併発し、脱水症も伴って末梢循環不全のショック状態となって死亡した病院側(被告)の主張1.診察・検査における過失学校医は意識障害の原因が脳内の病変にあると診断して当院に転医させたのであるから、その診断を信頼して脳神経外科医の立場から診察、検査、経過観察を行ったので、診察・検査を怠ったわけではない。また、学校医が合計4Aのセルシン®を使用したので、意識障害の原因を鑑別することがきわめて困難であった2.治療行為における過失マンニトールは頭部外傷患者にもっとも一般的に使用される薬剤であり、本件でCTの異常がなく、嘔吐もなかったというだけでは脳内の異常を確認することはできないため、マンニトールの投与に落ち度はない3.死亡との因果関係搬入後しばらくは熱射病と診断できなかったが、輸液、解熱薬、クーリングなどの措置を施し、結果的には熱射病の治療を行っていた。さらに来院時にはすでに不可逆的段階まで病状が悪化しており、救命するに至らなかった裁判所の判断1. 診察・検査における過失転倒時からの詳細な事情聴取、諸検査の実施およびバイタルサインなどについての綿密な経過観察などにより、熱射病および脱水を疑うべきであったのに、容易に脳震盪によるものと即断した過失がある。2. 治療行為における過失病院側は搬送直後から輸液、解熱薬の投与、クーリングなどを施行し、結果的には熱射病の治療義務を尽くしたと主張するが、熱射病に対する措置や対策としては不十分である。さらに多量の水様便と十分な利尿があったのにマンニトールを漫然と使用したため、脱水状態を進展させ深刻なショック状態を引き起こした。さらに、夜間の全身状態の観察が不十分であり、ショック状態に陥ってからの対処が不適切であった。3. 死亡との因果関係病院側は、患者が搬送されてきた時点で、すでに熱射病が不可逆的状態にまで進行していたと主張するが、当初は血圧低下傾向もなく、乏尿もなく、呼吸状態に異常はなく、熱射病により多臓器障害が深刻な段階に進んでいるとはいえなかったため、適切な対策を講ずれば救命された可能性は高かった。8,602万円の請求に対し、6,102万円の支払命令考察まずこのケースの背景を説明すると、亡くなった患者は将来医師になることを目指していた高校生であり、その父親は現役の医師でした。そのため、患者側からはかなり専門的な内容の主張がくり返され、判決ではそのほとんどが採用されるに至りました。本件で何よりも大事なのは、脱水症や熱射病といった一見身近に感じるような病気でも、判断を誤ると生命に関わる重大な危機に陥ってしまうということだと思います。担当された先生はご専門が脳神経外科ということもあって、頭部CTで頭蓋内病変がなかったということで「少なくとも生命の危険はない」と判断し、それ以上の検索を行わずに「経過観察」し続けたのではないかと思います。しかも、前医(学校医)が投与したセルシン®を過大評価してしまい、CTで頭蓋内病変がないのならば意識が悪いのはセルシン®の影響だろうと判断しました。もちろん、搬入直後の評価であればそのような判断でも誤りではないと思いますが、「脳震盪」程度の影響で、セルシン®を合計4Aも使用しなければならないほどの不穏状態になったり、40℃を越える高熱を発することは考えにくいと思います。この時点で、「CTでは脳内病変がなかったが、この意識障害は普通ではない」という考えにたどりつけば、内科的疾患を疑って尿検査や血液検査を行っていたと思います。しかも、頭部CTで異常がないにもかかわらず、意識障害や不穏を頭蓋内病変によるものと考えて強力な利尿作用のあるマンニトールを使用するのであれば、少なくとも電解質や腎機能をチェックして脱水がないことを確認するべきであっと思います。ただし、今回の施設は脳神経外科単科病院であり、緊急で血液検査を行うには外注に出すしかなかったため、入院時に血液生化学検査をスクリーニングしたり、容態がおかしい時にすぐに検査をすることができなかったという不利な点もありました。とはいうものの、救急指定を受けた病院である以上、当然施行するべき診察・検査を怠ったと認定されてもやむを得ない事例であったと思います。本件から得られる重要な教訓は、「救急外来で意識障害と40℃を超える発熱をみた場合には、熱射病も鑑別診断の一つにおき、頭部CTや血液一般生化学検査を行う」という、基本的事項の再確認だと思います。救急医療

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